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特表2023-540023CEAを認識するキメラ抗原受容体(CAR)発現細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(54)【発明の名称】CEAを認識するキメラ抗原受容体(CAR)発現細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230913BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230913BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230913BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230913BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230913BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230913BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20230913BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20230913BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/86 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/47
A61K35/12
A61K35/17
A61K35/545
A61K35/51
A61P35/00
A61K39/00 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513273
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2021073363
(87)【国際公開番号】W WO2022043312
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】20192398.4
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20205693.3
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509305088
【氏名又は名称】シャリテ-ウニベルジテーツメディツィン ベルリン
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ペーハー,ガブリエレ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C085AA02
4C085BB01
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087MA55
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、組換え核酸発現構築物を含む遺伝子改変細胞に関し、この組換え核酸発現構築物は、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域と、チェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域と、免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域とを含む。更なる態様において、本発明は、遺伝子改変細胞に関し、この細胞は、好ましくはT細胞又はNK細胞、好ましくは細胞傷害性Tリンパ球である。本発明は、更に、膜結合型CEAタンパク質を優先的に認識し、腫瘍組織の近傍でチェックポイント阻害分子及び/又は免疫刺激性インターロイキンを発現する、本発明の抗CEA CAR-T細胞又は抗CEA CAR-NK細胞に関する。本発明は、更に、CEAを発現する病原性細胞、好ましくは癌細胞、より好ましくは固形悪性腫瘍の癌細胞の存在と関連する医学的障害の治療における上記細胞の医学的使用を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CARをコードする組換え核酸発現構築物を含む、遺伝子改変細胞であって、前記構築物は、以下:
(a)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域であって、前記CARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
(b)チェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域と、
(c)免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域と、
を含む、遺伝子改変細胞。
【請求項2】
前記細胞外抗原結合ドメインは、不溶型の前記癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する、請求項1に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項3】
前記CARをコードする前記第一核酸配列領域は、以下:
(d)CEAタンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインをコードする核酸配列であって、前記抗原結合ドメインは、抗体又は抗体断片を含む、核酸配列と、
(e)膜貫通ドメインをコードする核酸配列と、
(f)細胞内共刺激ドメインをコードする核酸配列と、
を含む、請求項1又は2に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項4】
前記CARをコードする前記第一核酸配列領域は少なくとも、プロモーター又はプロモーター/エンハンサー組み合わせにより恒常的に発現する、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項5】
前記プロモーター又はプロモーター/エンハンサー組み合わせは、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、EF1アルファプロモーター(例えば、EF1アルファSプロモーター)、PGKプロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーター、GAGプロモーター、及びUBCプロモーター、より好ましくは、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項6】
前記CARをコードする前記第一核酸配列領域及び前記チェックポイント阻害分子をコードする前記第二核酸配列領域は少なくとも、前記CAR及び前記チェックポイント阻害分子のポリペプチド配列のコーディング領域を含む多シストロン性mRNAをコードするように構成されており、ポリペプチド切断部位を含むアミノ酸配列は、前記CARポリペプチドと前記チェックポイント阻害分子ポリペプチドとの間に配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞構築物。
【請求項7】
前記ポリペプチド切断部位は、P2A、T2A、E2A、及びF2Aからなる群より選択される、請求項6に記載の遺伝子改変細胞構築物。
【請求項8】
前記第二核酸配列領域がコードする前記チェックポイント阻害分子は、免疫チェックポイントタンパク質を阻害及び/又は遮断する、ドミナントネガティブポリペプチド及び/又は抗体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項9】
前記チェックポイント阻害分子は、ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチド又はPD1抗体である、請求項8に記載の遺伝子改変細胞構築物。
【請求項10】
免疫刺激性サイトカインをコードする前記第三核酸配列領域は、1つ以上のプロモーターと作動性に連結された1つ以上の免疫刺激性サイトカインをコードする核酸配列を含み、前記サイトカインのうち少なくとも1つは、IL-15、IL-15RA、IL-2、IL-7、IL-12、IL-21、IFNガンマ、及びIFNベータからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項11】
前記免疫刺激性サイトカインをコードする前記第三核酸配列領域は、1つ以上の構成的プロモーター、好ましくはNFATプロモーターと作動性に連結されており、前記免疫刺激性サイトカインは、腫瘍組織内及び/又は腫瘍組織近傍の、免疫細胞の活性、生存度、及び/又は個数を維持又は向上させる、請求項10に記載の遺伝子改変細胞構築物。
【請求項12】
前記組換え核酸発現構築物は、任意選択で、ケモカイン受容体をコードする追加の核酸配列領域を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項13】
前記ケモカイン受容体は、細胞が腫瘍細胞に遊走するのを可能にし、前記ケモカイン受容体は、好ましくはC-Cケモカイン受容体4型(CCR4)である、請求項12に記載の遺伝子改変細胞構築物。
【請求項14】
前記構築物は、任意選択で、自殺遺伝子、好ましくは単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードする更なる核酸配列領域を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項15】
CARをコードする組換え核酸発現構築物を含み、前記CARは、以下:
CARシグナル配列と、
CEAを特異的に認識するCARの抗原結合ドメインと、
CARの免疫グロブリン重鎖細胞外定常領域と、
膜貫通ドメインを含むCD28シグナル伝達ドメインと、
CD3ゼータシグナル伝達ドメインと、
を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項16】
CARをコードする組換え核酸発現構築物を含み、前記CARは、以下:
配列番号14に記載の、CARシグナル配列、又は配列番号14と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
配列番号15及び配列番号19に記載の、CEAを特異的に認識するCARの抗原結合ドメイン、又は配列番号15及び配列番号19と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
配列番号23に記載の、CARの免疫グロブリン重鎖細胞外定常領域、又は配列番号23と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
配列番号24に記載の、CD28シグナル伝達ドメイン、又は配列番号24と少なくとも80%配列同一性を持つ配列であって、前記CD28シグナル伝達ドメインは、配列番号25に記載の、膜貫通ドメイン、又は配列番号25と少なくとも80%配列同一性を持つ配列を含む、配列と、
配列番号26に記載の、CD3ゼータシグナル伝達ドメイン、又は配列番号26と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
を含む、請求項15に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項17】
前記チェックポイント阻害分子は、以下:
(a)ドミナントネガティブ切断型のチェックポイントタンパク質を含み、
(b)前記チェックポイントタンパク質は、前記CARポリペプチドから前記チェックポイント阻害分子を切り離すためのポリペプチド切断部位に隣接して位置する、
請求項1~16のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項18】
前記ドミナントネガティブ切断型のチェックポイントタンパク質は、配列番号28に記載のドミナントネガティブ切断型PD1、又は配列番号28と少なくとも80%配列同一性を持つ配列であり、前記切断部位は、P2A、T2A、E2A、及びF2Aからなる群より選択される、請求項17に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項19】
前記免疫刺激性サイトカインは、以下:
(a)シグナル配列と、
(b)N末端IL15RAポリペプチドと、
(c)連結ループ配列と、
(d)IL-15ポリペプチドと、
を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項20】
前記免疫刺激性サイトカインは、以下:
(a)配列番号29に記載のシグナル配列、又は配列番号29と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
(b)配列番号30に記載のN末端IL15RAポリペプチド、又は配列番号30と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
(c)配列番号31に記載の連結ループ配列、又は配列番号31と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
(d)配列番号32に記載のIL-15ポリペプチド、又は配列番号32と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
を含む、請求項19に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項21】
前記キメラ抗原受容体(CAR)は、前記可溶型よりも前記膜結合型のCEAに優先的に結合する、請求項2に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項22】
前記組換え核酸発現構築物は、以下:
好ましくは請求項15又は16に記載の、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を特異的に認識する細胞外抗原結合ドメインを含むCARと、
好ましくは請求項17又は18に記載の、チェックポイント阻害分子ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチドと、
好ましくは請求項19又は20に記載の、シグナル配列、N末端IL15RAポリペプチド、連結ループ配列、及びIL-15ポリペプチドを含む免疫刺激性サイトカインと、
をコードする核酸配列領域を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項23】
前記細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)、好ましくはiPSC株ND50039、NK-92細胞及びYT細胞を含む不死化免疫細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK T細胞、サイトカイン誘導型キラー細胞(CIK)、Tリンパ球から選択され、前記Tリンパ球は好ましくはCD4又はCD8 T細胞、より好ましくは細胞傷害性Tリンパ球又はヘルパーT細胞又は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である、請求項1~22のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項24】
前記細胞は、免疫細胞である、請求項22に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項25】
前記細胞は、T細胞又はNK細胞である、請求項22に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項26】
前記細胞は、iPSC株ND50039である、請求項22に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項27】
前記細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)由来の免疫細胞である、請求項23に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項28】
前記免疫細胞は、免疫細胞に分化する前に前記組換え核酸構築物で遺伝子改変されたiPSCに由来する、請求項23に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項29】
前記免疫細胞は、ヒト末梢血又はヒト臍帯結に由来する、請求項23に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項30】
CEAを発現する病原性細胞の存在と関連する医学的障害の治療に使用される、請求項1~29のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項31】
前記医学的障害は、CEAを発現する癌細胞、例えば、固形悪性腫瘍の癌細胞、より好ましくは、乳癌、膵癌、結腸癌、直腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、胃癌、及び卵巣癌の癌細胞、より好ましくは、CEA陽性の転移性腫瘍細胞を含む、請求項30に記載の使用のための遺伝子改変細胞。
【請求項32】
CEAを発現する固形悪性腫瘍の癌細胞の存在と関連する医学的障害の治療における医薬として使用される、請求項1~31のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項33】
前記遺伝子改変細胞は、前記細胞が送達される患者に関して同種免疫細胞である、請求項29~31のいずれか一項に記載の使用のための遺伝子改変細胞。
【請求項34】
前記遺伝子改変細胞は、前記細胞が送達される患者に関して自家免疫細胞である、請求項29~31のいずれか一項に記載の使用のための遺伝子改変細胞。
【請求項35】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする組換え核酸発現構築物であって、前記構築物は、以下:
(a)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域であって、前記CARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
(b)チェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域と、
(c)免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域と、
を含む、組換え核酸発現構築物。
【請求項36】
前記構築物は、以下:
(a)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域であって、前記CARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
(b)請求項17又は18に記載のチェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域と、
(c)請求項19又は20に記載の免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域と、
を含む、請求項35に記載の組換え核酸発現構築物。
【請求項37】
前記構築物は、以下:
(a)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域であって、前記CARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
(b)チェックポイント阻害分子ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチドをコードする第二核酸配列領域であって、前記チェックポイント阻害分子はポリペプチド切断部位P2Aに隣接して位置する、第二核酸配列領域と、
(c)IL-15RAペプチド及び/又はIL-15ペプチド、シグナル配列、連結ループ配列を含む、免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域であって、前記免疫刺激性サイトカインは1つ以上のプロモーターと作動性に連結される、第三核酸配列領域と、
を含む、請求項36に記載の組換え核酸発現構築物。
【請求項38】
請求項35~37のいずれか1項に記載の核酸構築物をin vitroで細胞に送達する又は移入することを含む、請求項1~33のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞を生成する方法。
【請求項39】
レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アルファウイルスベクター、化学的形質移入、電気穿孔法、又はmRNA形質移入を含む1種以上の遺伝子移入技法を用いる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
請求項35~37のいずれか一項に記載の組換え核酸発現構築物がコードする、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチド。
【請求項41】
請求項1~33のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞と、薬学上許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項42】
治療用細胞産物の形態で調製された、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
前記治療用細胞産物は、請求項1~34のいずれか一項に記載の遺伝子改変免疫細胞を含み、前記免疫細胞は、iPS細胞由来のNK細胞であり、前記iPS細胞、好ましくはiPS細胞株ND50039は、請求項35から37のいずれか一項に記載の組換え核酸発現構築物を用いて電気穿孔法及び/又は化学的形質移入により遺伝子改変されており、前記構築物は、ヒトCEAを特異的に認識するCARの細胞外抗原結合ドメインと、CD28シグナル伝達ドメインと、自殺遺伝子単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼと、P2Aと、ドミナントネガティブ切断型PD1と、IL-15とを含み、IL-15は、IL-15RAペプチド及び/又はIL-15ペプチドと、シグナル配列と、連結ループ配列とを含む、請求項41又は42に記載の医薬組成物。
【請求項44】
前記遺伝子改変NK細胞は、前記細胞を受け取る患者に関して同種ヒトNK細胞であり、前記NK細胞は、請求項30~32のいずれか一項に記載の医学的障害の治療に用いるために患者に投与される、請求項43に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え核酸発現構築物を含む遺伝子改変細胞に関し、この組換え核酸発現構築物は、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域と、チェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域と、免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域とを含む。更なる態様において、本発明は、遺伝子改変細胞に関し、この細胞は、好ましくはT細胞又はNK細胞、好ましくは細胞傷害性Tリンパ球である。本発明は、更に、膜結合型CEAタンパク質を優先的に認識し、腫瘍組織の近傍でチェックポイント阻害分子及び/又は免疫刺激性インターロイキンを発現する、本発明の抗CEA CAR-T細胞又は抗CEA CAR-NK細胞に関する。本発明は、更に、CEAを発現する病原性細胞、好ましくは癌細胞、より好ましくは固形悪性腫瘍の癌細胞の存在と関連する医学的障害の治療における上記細胞の医学的使用を含む。
【背景技術】
【0002】
癌細胞の脆弱性を標的とすること、これは、個人特化型癌治療の目的であり、「パーソナル医薬」又は「標的療法」としても知られる。養子T細胞免疫療法は、有望な抗腫瘍治療と目されている。キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞は、抗原抗体認識を通じて腫瘍抗原に結合することにより、腫瘍細胞を排除する。こうしたキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞は、抗原提示のプロセスを経ることなく、また主要組織適合遺伝子複合体(MHC)による制限を受けることなく、腫瘍細胞を直接認識する。CAR-T細胞治療薬を用いて、有望な遺伝子治療概念が血液学及び腫瘍学に導入されてきた。
【0003】
CAR-T療法は、期待の持てる抗腫瘍効果及び血液系CD19+悪性腫瘍の高い完全寛解率を明らかにした。研究者らは、多発性腫瘍関連抗原、例えば、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、カルボン酸アンヒドラーゼIX(CAIX)、癌胎児性抗原(CEA)、ジシアロガングリオシド(GD2)、及びインターロイキン(IL)-13受容体アルファ2(IL-13Rα2)を標的とすることにより、固形腫瘍にCAR-T療法を応用してきた。
【0004】
CAR技術の利点は、研究施設においてex vivoで、患者の自家T細胞又はドナー同種T細胞に、一方では腫瘍細胞に対する特異性を持ち、他方では腫瘍細胞が認識されたときにT細胞の活性化に介在する、組換え表面分子を用いて、遺伝子操作が加えられるという事実に基づく。この表面分子のプロトタイプは、細胞外部分に、腫瘍細胞の抗原認識用の抗体、好ましくはscFv単鎖抗体を有し、細胞内部分に、T細胞活性化用シグナル鎖、好ましくはT細胞受容体(TCR)のCD3ζ鎖を有する。膜貫通ドメインは、細胞膜にこの分子を係留する。表面分子は、一方が抗体(断片)で、他方がT細胞シグナル伝達単位で構成されているため、「キメラ抗原受容体」(CAR)と称する。したがって、CARは、天然のT細胞受容体(TCR)とは対照的に、抗体によってその標的抗原を認識し、HLA(ヒト白血球抗原)複合体とは無関係である、組換え表面受容体である。それぞれのCARの遺伝情報は、これまでのところ殆どが、レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターを用いてex vivoで形質導入することにより、患者の又はドナーのT細胞に導入されており、次いで、このT細胞が、表面でCARを発現する。CAR-T細胞は、患者に再輸血され、癌細胞がその表面で形成した特異的抗原に結合する。「第一世代」CARは、一次T細胞活性化用のシグナル伝達鎖、通常はCD3ζシグナル伝達鎖を有し、「第二世代」CARは、CD3ζ鎖を、共刺激単位、好ましくはCD28ファミリー由来のものと一緒に用いて、持続T細胞活性化をもたらす。
【0005】
これらの世代のCARを用いた或る研究では、IL-13Rα2 CAR-T細胞の複数回輸液で治療した一例の神経膠芽細胞腫の完全退縮を含む何らかの有効性が観察されたものの、CAR-T細胞療法の総合成績は、特に固形腫瘍の場合に、多数の研究において十分なものではなかった。CAR-T療法の別の重大懸念は、サイトカイン放出症候群の有害事象及びオンターゲット/オフ腫瘍効果である。CAR-T療法は、神経性副作用、例えば、会話障害、振戦、せん妄、及びてんかん発作も引き起こす可能性がある。したがって、より安全かつより有効な治療の創出を目的としてCARを再設計することは、CAR-T細胞療法の安全性及び有効性を改善するために必要である。
【0006】
固形腫瘍の治療において有効なCAR-T細胞戦略にとって重要な側面がいくつか存在する。固形腫瘍の抗原のうちCAR-T細胞療法が標的とするのは、CEA、EGFR、EGFRvIII、GD2、HER2、IL13Rα2、PSCA、CEA、Tn-MUC1、及びPSMAである。これらの抗原は全て、正常組織に比べて腫瘍で過剰発現する及び/又は増幅されるものの、それらのタンパク質発現は、明らかに腫瘍細胞に限定されるというのではない。例外は、EGFRvIIIであり、これはEGFRのエキソン2-7の欠失を特徴とする神経膠芽細胞腫に共通の発癌性再配置である。したがって、多くのB細胞悪性腫瘍で発現するB細胞限定抗原であるCD19とは対照的に、固形腫瘍の抗原標的は、毒性について相当の懸念を生じさせ、このことが、CAR-T細胞療法におけるそれらの有用性を制限する可能性がある。すなわち、選択された抗原の腫瘍特異性は、有効かつ安全なCAR-T細胞戦略のためのCAR設計において1つの重要な側面である。
【0007】
十分に確立された別の側面は、個々の治療薬に対する腫瘍耐性である。なぜなら、腫瘍の大半は、不均一性であるからである。単一薬剤感受性経路を長期間標的とすることは、最終的に、薬剤耐性腫瘍の再発及びエスケープバリアントを招く可能性がある。獲得耐性又は内在耐性パターンが、CAR-T細胞療法後に観察されている。CD19 CAR-T細胞療法は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)を含むB細胞悪性腫瘍の患者の70%~90%で、持続した臨床的寛解を示したものの、最近の臨床試験の追跡調査データは、共通する耐性機構を示し、そのような耐性に含まれるCD19抗原の喪失及び/又は下方制御は、治療後に再発した患者の70%に上る。固形腫瘍にCAR-T細胞を用いた初期の臨床知見では、抗原漏出の同様な耐性機構が観察されている。腫瘍特異的抗原を標的とすることを他の抗腫瘍戦略と組み合わせる合理的な設計が、有効な疾病管理に必要となるという強力な証拠が存在する。
【0008】
免疫抑制腫瘍微小環境は、CARを用いる有効な免疫療法にとって別の課題である。ほとんどの血液悪性腫瘍とは異なり、抗腫瘍免疫を妨害し、養子T細胞療法を制限する局所免疫抑制経路は存在しない。固形腫瘍は、腫瘍成長、血管新生、及び転移を支援する複数の細胞型により、強力に浸潤して、治療応答を制御することがある。腫瘍細胞自身に加えて、免疫細胞、例えば、制御性T細胞及び骨髄系抑制細胞が、固形腫瘍において、IL-4、IL-10、VEGF、及びTGFβをはじめとする局所的サイトカイン、ケモカイン、及び成長因子の産生を誘導する。同様に、PD-1及びCTLA-4を含む免疫チェックポイント経路が、腫瘍において高度に活性化されることで、抗腫瘍免疫が減弱する場合もある。腫瘍の微小環境が、免疫療法に対する反応及び耐性を制御し、CAR-T細胞療法の有効性を制限する可能性があるという強力な証拠が存在する。
【0009】
癌胎児性抗原(CEA)は、免疫グロブリンスーパーファミリーの膜貫通糖タンパク質である。CEAは、血液中で可溶型であるとともに、主に腫瘍細胞で、細胞膜と結合することもわかっている。細胞表面糖タンパク質として、このタンパク質は、細胞接着、細胞内シグナル伝達、及び腫瘍進行に関与している。可溶型のCEAは、固形腫瘍、特に悪性腫瘍、例えば、胃腸癌用の臨床バイオマーカーとして使用され、細胞接着分子としてのその役割を通じて腫瘍の発達を促進する可能性がある。CEAは、腫瘍進行を促進し、結腸直腸癌細胞の治療耐性を誘導することにより、癌遺伝子としての役割も果たす。また、コードされるタンパク質は、分化、アポトーシス、及び細胞極性を調節することができる。現在、CEA高度陽性腫瘍幹細胞の根治療法は存在しない。
【0010】
固形癌の代替治療選択肢としては、現在のところ、一般に、手術による腫瘍除去、化学療法、インターロイキン、チェックポイント阻害剤、表面タンパク質に対する特異的抗体が挙げられる。CEA陽性腫瘍疾患については、複数の臨床試験が進行中である。固形腫瘍に対するCAR-T療法は、これまでのところ、存在しない。
【0011】
多くの研究施設で、そのようなCAR併用を機能させること及び上記の技術的困難を解消することが長く試みられてきているが、成功していない。本発明者らの知る限り、有効な免疫刺激性サイトカイン及びチェックポイント阻害分子と組み合わせた同等な機能性の抗CEA CAR構築物は、以前に記載されたことがなく、本発明の医学的適応に関連する抗CEA抗体研究で現在利用可能なものはない。
【0012】
CAR-T療法の主な懸念は、大量の活性化T細胞が介在する激しい抗腫瘍応答と関連した「サイトカインストーム」の危険である(非特許文献1)。副作用には、高熱、低血圧、及び/又は臓器不全が含まれる可能性があり、死亡に繋がる可能性がある。CAR-NK細胞が産生するサイトカインは、CAR-T細胞とは異なり、有害なサイトカイン介在型反応のリスクを低減する。
【0013】
したがって、CAR免疫療法の改善には、複雑な技術的課題及び生物学的課題を克服することが必要である。本発明は、CARベクター設計及び次世代の固形腫瘍用CARの開発において注意を必要とする3つの最も困難な領域、いわゆる(1)腫瘍特異的抗原を標的とすること、(2)腫瘍抗原の不均一性及び逃避、並びに(3)免疫抑制腫瘍微小環境に対処する。以下に記載される本発明は、この課題の解決策に関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Sadelain et al., Cancer Discov 3:388-98, 2013
【発明の概要】
【0015】
従来技術に照らして、本発明の基礎となる技術課題は、癌の免疫療法の新規戦略を提供することである。詳細には、本発明の基礎となる課題は、腫瘍が免疫療法から逃避することを回避する一方で、対象において腫瘍組織を指向する標的免疫応答を局所刺激する適切な手段を提供することである。本発明の基礎となる更なる課題は、チェックポイント阻害剤用の及び免疫応答を刺激する手段の提供であり、この手段は、望まない副作用のレベルを低下させつつ、標的腫瘍組織で有効な局所的効果を提供するものである。
【0016】
この課題は、独立請求項の特徴により解決される。本発明の好ましい実施の形態は、従属請求項により提供される。
【0017】
したがって、本発明は、CARをコードする組換え核酸発現構築物を含む、遺伝子改変細胞であって、上記構築物は、以下:
(a)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域であって、上記CARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
(b)チェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域と、
(c)免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域と、
を含む、遺伝子改変細胞に関する。
【0018】
したがって、本発明は、組換え核酸構築物を発現する遺伝子改変細胞に関し、この組換え核酸構築物は、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識するキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域を含む。
【0019】
遺伝子改変細胞は、好ましくは、CAR-T細胞産物又はCAR-NK細胞産物であり、これは、ヒトT細胞又はNK細胞に、境界明瞭癌、固形癌、及び液体癌に対する高い細胞傷害性活性を与え、その一方で腫瘍に囲まれた組織内の非病原性細胞、例えば乳房細胞、膵臓細胞、肺細胞、結腸細胞、又は肝細胞、並びに血液系細胞は温存する。
【0020】
好適な実施の形態において、全てのT細胞、B細胞、NK細胞は、同様に温存される。これは、本発明のCAR-T細胞産物が、これらの細胞に対してほとんど又は全く活性を示さないためである。
【0021】
本発明は、更に、新規キメラ抗原受容体(CAR)に関し、この受容体は、癌細胞の抗原CEAを認識する(好ましくは、特異的に認識する)。好適な実施の形態において、抗CEA CARを発現する遺伝子改変細胞は、癌細胞のCEA抗原CEAを認識し、抗原CEAを保有する癌細胞を溶解させる、免疫細胞である。したがって、本発明は、医療用に設計及び製造された、高度治療用医薬品等の細胞産物に関し、この細胞産物は、癌治療に使用可能な次世代CEA-CARで形質導入された免疫細胞を含む。
【0022】
本発明は、悪性疾患の効率的及び特異的治療手段を提供する。
【0023】
好適な実施の形態において、免疫細胞は、T細胞である。他の実施の形態において、免疫細胞は、人工T細胞受容体、例えば、キメラ抗原受容体を含むT細胞(CAR-T)であり、このT細胞受容体は、腫瘍抗原に特異的に結合する(Lee, DW et al., Clin Cancer Res; 2012; 18(10); 2780-90)。好適な実施の形態において、免疫細胞は、NK細胞である。他の実施の形態において、免疫細胞は、人工NK細胞受容体、例えば、キメラ抗原受容体を含むNK細胞(CAR-NK)であり、このNK細胞受容体は、腫瘍抗原に特異的に結合する。
【0024】
本発明は、抗腫瘍免疫応答に関与する細胞を刺激し、それにより抗腫瘍免疫応答を局所的に活性化、支援、及び/又は強化することを可能にする。本発明は、移植されたCAR-T細胞又はCAR-NK細胞で組換え核酸発現構築物が発現することを介して、適切な標的指向剤なしでのサイトカインの全身投与に固有の顕著な副作用を回避しつつ、1種以上の免疫刺激性サイトカインが、有効かつ治療上適切な用量で投与されることを可能にする。したがって、本発明は、炎症領域に、好ましくは腫瘍組織に及び腫瘍組織の近傍に、免疫調節シグナル、好ましくは、免疫刺激シグナルを局所送達する標的指向剤として及び/又はビヒクルとしてのCAR-T細胞又はCAR-NK細胞の使用に関する。
【0025】
免疫療法の開発及び医学的使用の成功を決定的に制限しているものは、腫瘍が、免疫抑制腫瘍微小環境を確立することにより、腫瘍細胞に対する天然の免疫応答から逃避する及び/又はその免疫応答を抑制する能力である。この現象は、腫瘍介在型免疫抑制として知られており、制御性表現型を提示する腫瘍に存在する免疫細胞及びチェックポイントタンパク質(例えば、制御性T細胞及び単球由来抑制細胞)による抗炎症性サイトカインの分泌により介在される部分が大きい。したがって、本発明は、腫瘍微小環境を改変する手段を提供し、その環境を炎症促進性にして、腫瘍に存在する免疫細胞の活性化並びに外部免疫細胞の動員及び活性化を促進し、そうすることで、腫瘍に対する免疫系の幅広い活性化を促進し及び/又は抗腫瘍免疫療法の治療有効性を向上させる。
【0026】
一実施の形態において、本明細書に記載される組換え核酸発現構築物は、腫瘍微小環境を改変して免疫療法に有利かつ貢献するようにする目的で、ヒト細胞に投与することができる。
【0027】
本発明は、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞を、免疫応答を刺激する免疫調節性エフェクターの送達用細胞ビヒクルとして使用し、そうすることにより、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞を腫瘍領域に誘導する独特の腫瘍抗原標的指向効果を利用することで、適切な免疫応答の刺激及びチェックポイントタンパク質の阻害に基づく局所治療効果を発揮させ、この場合の免疫応答は、好ましくは、宿主(対象)の天然の免疫応答に関するものであり、それにより、免疫治療薬、例えば、キメラ抗体、養子免疫治療薬、抗腫瘍ワクチン、及び/又はチェックポイント阻害剤の効力及び治療効果を向上させる。本発明は、更に、本明細書で記載されるとおり、CARを発現する遺伝子改変細胞産物を任意選択でスイッチオフする、すなわち上記細胞を安全に臨床使用するための手段を提供する。この安全特性は、幾つかの実施の形態において、誘導性自殺遺伝子により、実現可能である。
【0028】
驚くべきことに、本明細書に記載されるとおりに、CAR、1種以上の免疫刺激サイトカイン(複数の場合もある)、及び/又はチェックポイント阻害分子をコードする核酸配列領域を含む組換え核酸発現構築物で改変されたCAR-T細胞は、上記サイトカイン及びチェックポイント阻害分子の予想外に良好な発現及び分泌を、in vitro及びin vivoの両方で示す。当業者には、これらの特定サイトカイン及びチェックポイント阻害分子が、十分な量で発現し、細胞から十分な量で排出されて、自然応答及び/又は免疫療法いずれかに基づいて、所望の局所免疫応答を誘導する又は向上させる可能性があるとは、予想できなかっただろう。
【0029】
本発明は、免疫エフェクター及びヘルパー細胞を誘引し、免疫活性化を誘導し、免疫記憶細胞の成熟を促進し、及び/又は抑制性及び/又は制御性免疫細胞の出現及び持続を抑制する目的での、本明細書に記載されるCAR-T細胞又はCAR-NK細胞を介した、腫瘍における免疫活性化サイトカイン及び/又はチェックポイント阻害分子の組み合わせの発現も包含する。
【0030】
一実施の形態において、自然及び適応免疫応答、エフェクター、ヘルパー、及び/又は抗原提示細胞をはじめとする免疫応答の様々な部門の活性化を促進する目的で、腫瘍抗原を標的とするCAR、免疫刺激サイトカイン(複数の場合もある)、及び/又はチェックポイント阻害分子の組み合わせが使用される。
【0031】
他方で、サイトカイン、例えば、IL-2、IL-7、IL-15、及びIL-21は、腫瘍細胞に対する特異的応答を開始する細胞傷害性リンパ球、例えば、T細胞及びNK細胞を、特異的に活性化する。同様に、IL-15は、細胞傷害性リンパ球を活性化するが、単球及びヘルパー細胞も活性化する。
【0032】
詳細には、本発明の基礎となる課題は、免疫療法から逃避する腫瘍を減らしながら、対象において腫瘍組織を指向させた標的免疫応答を局所刺激する適切な手段を提供する。本発明の基礎となる更なる課題は、望まない副作用のレベルを低下させながら、標的腫瘍組織で有効な局所効果を提供するチェックポイント阻害剤及び免疫応答刺激の手段の提供である。
【0033】
したがって、腫瘍特異的CAR、免疫刺激性サイトカイン、及びチェックポイント阻害分子の組み合わせは、天然の免疫応答で見られるとおりの又はそれを超える、相乗効果、免疫寛容腫瘍微小環境、及び/又は腫瘍逃避率の低さをもたらす。本発明は、治療有効性及び腫瘍退縮率を上昇させる。
【0034】
天然の免疫応答が、併用CAR-T細胞又はCAR-NK細胞アプローチを用いて向上した様式で、事実上、正確に反映される又は同様に作用することが可能であるというのは、驚くべき結果であった。したがって、本発明は、腫瘍特異的CAR、免疫刺激サイトカイン(複数の場合もある)、及びチェックポイント阻害分子をコードする導入遺伝子の組み合わせをCAR-T細胞に提供することにより、局所的により有効かつ安全な抗腫瘍応答を得ることが可能であるという驚くべき知見に基づいている。この組み合わせは、免疫刺激因子の独特の局所発現及び分泌を招き、この局所発現及び分泌が、腫瘍患者にサイトカインを全身で適用した場合にしばしば観察される全身性毒性を誘導することなく、複数部門の免疫応答を含む局所抗腫瘍応答を招く。
【0035】
一実施の形態において、本発明の組換え核酸発現構築物は、追加の配列領域を含み、この配列を別名第四配列領域と呼ぶが、これは、ケモカイン受容体、例えば、ケモカイン受容体CCR4をコードする。好ましくは、ケモカイン受容体は、腫瘍細胞への細胞遊走を可能にする。
【0036】
ケモカイン受容体は、ケモカインと呼ばれる或る種のサイトカインと相互作用する、細胞の表面で発現し、提示されるサイトカイン受容体である。ケモカインは、小サイトカイン、すなわち細胞が分泌するシグナル伝達タンパク質のファミリーであり、それらは、典型的には、ケモカイン産生細胞に向かう、又はその細胞から離れる、反応性細胞の指向型走化作用を誘導する。それらは、走化性サイトカインと称することが多い。したがって、ケモカイン受容体の発現は、本発明のCAR発現細胞が標的細胞に向かう細胞遊走又は運動能を向上させる更なる利点と関連する。
【0037】
CCR4(別名C-Cケモカイン受容体4型又はCD194)は、Gタンパク質結合受容体ファミリーに属し、CCケモカインであるCCL2(MCP-1)、CCL4(MIP-1)、CCL5(RANTES)、CCL17(TARC)、及びCCL22(マクロファージ由来ケモカイン)の受容体である。例えば、CCL2は、単球、T細胞、及び樹状細胞を、炎症部位に動員し、CCL4は、ナチュラルキラー細胞、単球、及び様々な他の免疫細胞の走化性因子であり、CCL5は、T細胞、好酸球、及び好塩基球にとって走化性であるとともに、白血球を炎症部位に動員する。したがって、CCR4の発現は、本発明のCARを発現する遺伝子改変細胞の腫瘍組織への動員及び/又は遊走の向上を可能にする。
【0038】
当業者が他のケモカイン受容体(例えば、CCR1~CCR11のうちの1種以上)を考慮することも可能であり、改変細胞の特異的遊走特性を向上させる目的で、腫瘍の種類及びCARの抗原特異性に基づいて選択することが可能である。
【0039】
そのうえさらに、実施例で示すとおりこの特定のCAR-T細胞組み合わせの独自の性質は、腫瘍組織へと誘導し、その中へ生着させるものであり、治療効果のための免疫応答を維持する目的で、治療用腫瘍特異的CAR、免疫刺激サイトカイン(immune stimulator cytokine)因子、及びチェックポイント阻害分子の発現維持を招く。
【0040】
一実施の形態において、CARをコードする第一核酸配列領域は、以下:
(d)CEAタンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインをコードする核酸配列であって、上記抗原結合ドメインは、抗体又は抗体断片を含む、核酸配列と、
(e)膜貫通ドメインをコードする核酸配列と、
(f)細胞内共刺激ドメインをコードする核酸配列と、
を含む。
【0041】
代替実施の形態において、本発明は、本発明の細胞及び構築物を、代替抗原に指向させることを想起しており、例えば、CARをコードする第一核酸配列領域のいずれかが細胞外抗原結合ドメインをコードする核酸配列を含み、この場合、抗原結合ドメインは、以下からなる群より選択される癌関連抗原に結合する:葉酸受容体アルファ(FRa)、ERBB2(Her2/neu)、EphA2、IL-13Ra2、上皮成長因子受容体(EGFR)、メソテリン、TSHR、CD19、CD123、CD22、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、TnAg、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、インターロイキン-11受容体a(IL-11Ra)、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、血小板由来成長因子受容体ベータ(PDGFR-ベータ)、SSEA-4、CD20、MUC1、NCAM、Prostase、PAP、ELF2M、エフリンB2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gp100、bcr-abl、チロシナーゼ、フコシルGM1、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、葉酸受容体ベータ、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-1a、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE A1、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、プロステイン(prostein)、サバイビン、テロメラーゼ、PCTA-1/ガレクチン8、MelanA/MART1、Ras変異体、hTERT、肉腫転位置切断点(sarcoma translocation breakpoints)、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、サイクリンB1、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、及びIGLL1。
【0042】
好適な実施の形態において、CAR構築物の抗原結合ドメインは、CEAを認識し、上記構築物を発現する対応する免疫細胞、好ましくはCAR-T細胞又はCAR-NK細胞の産物は、ヒトT細胞又はヒトNK細胞に、CEA陽性病原性細胞に対して高い細胞傷害性活性を与える。
【0043】
CARをコードする第一核酸配列領域の更なる実施の形態を、以下に提供する。本明細書に記載されるCARの抗原結合ドメインをコードする核酸のいずれかにおいて、CARの抗原結合ドメインは、ヒンジ領域により、膜貫通ドメインに連結されている。本明細書に記載される膜貫通ドメインをコードする核酸のいずれかにおいて、膜貫通ドメインは、T細胞受容体のアルファ、ベータ、又はゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及びCD154からなる群より選択されるタンパク質を含む。本明細書に記載されるCARの細胞内シグナル伝達ドメインをコードする核酸のいずれかにおいて、細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激シグナル伝達ドメインを含み、共刺激シグナル伝達ドメインは、機能性シグナル伝達ドメインを含み、機能性シグナル伝達ドメインは、MHCクラスI分子、TNF受容体タンパク質、免疫グロブリン様タンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ性活性化分子(SLAMタンパク質)、活性化NK細胞受容体、BTLA、Tollリガンド受容体、OX40、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、4-1BB(CD137)、B7-H3、CDS、ICAM-1、ICOS(CD278)、GITR、BAFFR、LIGHT、HVEM(LIGHTR)、KIRDS2、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、NKp44、NKp30、NKp46、CD19、CD4、CD8アルファ、CD8ベータ、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Rアルファ、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、NKG2D、NKG2C、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、CD19aからなる群より選択されるタンパク質から得られる。
【0044】
本発明の免疫療法アプローチの好適な実施の形態において、患者由来T細胞又はNK細胞は、好ましくはレトロウイルスにより、形質導入されて、本明細書に記載される人工免疫受容体を発現し、細胞外抗体由来抗原認識部分で構成され、膜貫通部分と融合され、細胞内シグナル伝達ドメインが続いている。したがって、本明細書に記載される構築物は、抗腫瘍細胞溶解能力を持つ形質導入T細胞又はNK細胞を与える。
【0045】
初めて、抗CEA CAR-T細胞によって、本明細書に記載される実施例で示されるとおり、腫瘍微小環境中で腫瘍細胞を標的とすることが可能になる。当業者には驚くべきことに及び予想外に、抗CEA CAR-T細胞は、可溶型ではなく腫瘍細胞膜に結合した固形型のCEAを優先的に認識する。
【0046】
本明細書に記載される腫瘍抗原特異的CAR-T細胞、例えば、抗CEA CAR-T細胞又はCAR-NK細胞は、好適な実施の形態において、他の治療法に適格ではない固形腫瘍患者の治療に応用可能である。より詳細には、本発明の実施の形態は、以下の患者集団の治療に関する:
i)多剤耐性のある患者、
ii)同種幹細胞移植に適格ではない患者、
iii)更なる化学療法を排除する合併症のある患者、
iv)固形癌及び/又は液体癌に罹患している患者、
v)化学療法に耐えられない高齢患者、
vi)進行性疾患であり、複数の他の標準治療計画に失敗した後でさえ、CARは、救援療法に適用可能である、
vii)標的腫瘍細胞上の抗原密度が低く、抗体が失敗する可能性のある場合でさえ、これは適用可能である、及び/又は、
viii)これは、抗体の症例でない単剤療法として適用可能である、
ix)これは、1種以上の抗癌療法、抗癌薬、又は移植と併用して適用可能である。
【0047】
本明細書に記載される抗CEA CARは、抗腫瘍有効性に必要な高い結合活性を、T細胞又はNK細胞に与える。本発明は、他の組織に対して、類を見ない低いオフターゲット反応性を有する。
【0048】
以下の実施例で実証されるとおり、in vitro同時培養系において、抗CEA CAR-T細胞は、CEA発現ヒト腫瘍細胞株に接触させることで活性化する。次いで、こうしたT細胞は、高レベルの細胞傷害性活性を持つエフェクター表現型を生じさせる。
【0049】
さらに、CEA陰性細胞である選択した標的細胞株に対する細胞傷害性アッセイにより、選択的細胞性細胞傷害性が、CEA陽性の細胞株においてのみ得られることが示される。
【0050】
驚くべきことに、ジャーカット細胞における、抗CEA CAR、免疫刺激性サイトカインIL-15、及びPD-1に対するチェックポイント阻害剤の組み合わせ発現は、相乗効果を示す(実施例参照)。当業者なら、本明細書に記載される組み合わせの相加効果を予想できても、実施例に示すとおりの相乗効果は予想できないだろう。この相乗効果は、予想外のものであり、本発明の特別な技術特長を表すものである。
【0051】
そのため、本発明のCARは、本明細書に記載される病態の治療に向けた驚くべきかつ有益なアプローチを表す。抗CEACARの採用は、固形腫瘍又は液体腫瘍、より好ましくはCEA陽性の腫瘍の治療に向けた有望なアプローチとして、以前に試みられたことも記載されたこともなかった。最小限の(存在しないのではなかったとしても)望まない副作用は、マーカーの選択性を理由とするものであるが、これもまた、本発明の有益かつ驚くべき態様を表す。特に、他の固形又は液体腫瘍治療に対する耐性が生じてしまった患者において、本発明は、悪性腫瘍の根絶に向けた非常に有望なアプローチとなる。
【0052】
本発明による癌は、ヒトで見つかる全ての種類の癌又は新生物又は悪性腫瘍を指す。幾つかの実施の形態において、本発明のCAR構築物が、固形腫瘍及び/又は液体腫瘍、すなわち、白血病又はリンパ腫の治療に使用可能であることは、有利である。当該技術分野の現状では、CAR構築物は、固形腫瘍又は液体腫瘍いずれかの治療に使用可能である。幾つかの実施の形態において、遺伝子改変細胞は、医薬品として使用され、この場合、上記免疫細胞で治療しようとする障害は、本明細書に記載される癌の群、好ましくは、乳癌、膵腫瘍、結腸癌、及び急性骨髄性白血病からなる群より選択される。
【0053】
一実施の形態において、第一核酸配列領域がコードするCARの細胞外抗原結合ドメインは、CEAを特異的に認識する。
【0054】
CEA発現細胞の例は、当業者に既知であり、癌又は他の病原性細胞を更にスクリーニングすることにより同定可能である。CEAを発現する細胞株は、好ましくはMC-38、HaCaT、CAPAN-2、SCLC-21H、及び/又は、胃腸管から単離される細胞である。
【0055】
CARに使用するのに適したCEA認識ドメインの例を、本明細書に更に記載する。一実施の形態において、CEA認識ドメインは、配列表に提供されるものである。
【0056】
一実施の形態において、CARをコードする第一核酸配列領域は少なくとも、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせにより恒常的に発現し、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーは、好ましくは、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、EF1アルファプロモーター(例えば、EF1アルファSプロモーター)、PGKプロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーター、GAGプロモーター、及びUBCプロモーター、より好ましくは脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターからなる群より選択される。
【0057】
好適な実施の形態において、プロモーター領域は、構成的プロモーター領域、例えば、本明細書に記載される伸長因子1アルファ(EF1a)プロモーター領域を含む。CARは、構成的プロモーター領域を含むプロモーター領域に作動性に連結されている。対象の体内での腫瘍に対するCAR-T細胞又はCAR-NK細胞の有益な腫瘍抗原特異性を理由に、全身投与後又は局所投与後、1種以上の免疫応答刺激サイトカインの発現のため構成的プロモーターを使用することが好ましい。
【0058】
一実施の形態において、CARをコードする第一核酸配列領域及びチェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域は少なくとも、CAR及びチェックポイント阻害分子のポリペプチド配列のコーディング領域を含む多シストロン性mRNAをコードするように構成されており、ポリペプチド切断部位を含むアミノ酸配列が、CARポリペプチドとチェックポイント阻害分子ポリペプチドとの間に配置されている。
【0059】
幾つかの実施の形態において、ポリペプチド切断部位は、P2A、T2A、E2A、及びF2Aからなる群より選択される。
【0060】
一実施の形態において、CARをコードする第一核酸配列領域及びチェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域は少なくとも、CAR及びチェックポイント阻害分子のポリペプチド配列のコーディング領域を含む多シストロン性mRNAをコードするように構成されており、ポリペプチド切断部位P2Aを含むアミノ酸配列が、CARポリペプチドとチェックポイント阻害分子ポリペプチドとの間に配置されている。
【0061】
好適な実施の形態において、第二核酸配列領域がコードするチェックポイント阻害分子は、免疫チェックポイントタンパク質を阻害及び/又は遮断する、ドミナントネガティブポリペプチド及び/又は抗体であり、このチェックポイント阻害分子は、好ましくは、ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチド又はPD1抗体である。
【0062】
通常、潜在的に癌性の細胞は、免疫系により破壊される。全ての癌細胞は、自身を周囲の細胞と区別する変化を起こし、最も明白な変化は、阻害を受けずに増殖する能力である。癌細胞は、正規の免疫系制御を回避する機構を利用する。チェックポイントタンパク質は、免疫系と連通することにより機能することが示されてきており、これにより潜在的癌性細胞は、破壊されなくなる。細胞が癌性であるとシグナル伝達する他の分子が存在する可能性はあるが、十分なチェックポイントタンパク質が細胞表面に存在する場合、免疫系は、癌性シグナルを見落とす可能性がある。
【0063】
癌治療の標的として研究されてきたリガンド受容体相互作用は、膜貫通プログラム細胞死1タンパク質(PD-1、CD279としても知られる)とそのリガンドであるPD-1リガンド1(PD-L1)との間の相互作用である。正常な生理機能において、細胞表面のPD-L1は、免疫細胞の表面のPD1に結合し、このことが、免疫細胞の活性を阻害する。癌細胞表面のPD-L1の上方制御がT細胞を阻害することにより、癌細胞が宿主免疫系を逃れることを可能にしているように思われ、T細胞は、それがなければ腫瘍細胞を攻撃できたかもしれない。PD-1又はPD-L1いずれかに結合し、したがって相互作用を遮断する抗体は、T細胞が腫瘍を攻撃することを可能にする可能性がある。
【0064】
チェックポイント阻害剤(免疫チェックポイントモジュレーター、すなわちCPMとしても知られる)は、チェックポイントタンパク質の有効性を低下させるように設計される。チェックポイント阻害剤は、様々な作用機序を有することができるが、有効な場合には、免疫系に、癌細胞の表面の他の分子を認識させる。
【0065】
好適な実施の形態において、本明細書に記載される遺伝子改変CAR-T細胞又はCAR-NK細胞の医学的使用は、チェックポイント阻害剤、好ましくはPD-L1及び/又はPD-1阻害剤を、上記CAR及び免疫刺激性サイトカインと組み合わせて、遺伝子導入して発現させることを特徴とする。
【0066】
好適な実施の形態において、チェックポイント阻害分子は、ドミナントネガティブ切断型のPD-1(dnPD1opt)である。DnPD1optは、天然型のPD-1に結合し、したがって、PD-1タンパク質を遮断する。
【0067】
一実施の形態において、免疫刺激性サイトカイン(免疫刺激サイトカイン、又は免疫応答刺激サイトカインとも称する)をコードする第三核酸配列領域は、1つ以上のプロモーターと作動的に連結された1つ以上の免疫応答刺激サイトカインをコードする核酸配列を含み、上記サイトカインのうち少なくとも1つは、IL-15、IL-15RA、IL-2、IL-7、IL-12、IL-21、IFNガンマ、及びIFNベータからなる群より選択される。免疫応答を刺激するサイトカインは、当業者に既知であり、確立された常用アッセイにより、評価する及び/又は特定することができる。
【0068】
本発明は、幾つかの実施の形態において、本明細書に記載される細胞中のサイトカイン、チェックポイント阻害分子、及び腫瘍特異的CAR導入遺伝子の組み合わせを包含し、特に、本明細書に開示される上記サイトカインの任意の与えられる特定の組み合わせ、好ましくは、IL-15、IL-15RA、IL-2、IL-7、IL-12、IL-21、IFNガンマ、IFNベータ、CD28のうち1種以上について任意の与えられる特定の組み合わせを包含する。
【0069】
少なくとも1種の免疫刺激サイトカインにより定義される本発明で記載されるCAR-T細胞又はCAR-NK細胞、並びに本明細書に記載されるとおりの同種CAR-T細胞又はCAR-NK細胞構築物のex vivo産生と、同種CAR-T細胞又はCAR-NK細胞産物の患者への移入、好ましくは、他の抗腫瘍免疫療法と組み合わせての移入とを含む腫瘍治療方法は、自然免疫系によるか併用免疫療法によるかのいずれかで、抗腫瘍免疫応答において局所免疫系を刺激するという驚くべきかつ有益な概念に結びついている。実施例で示すとおりの遺伝子導入免疫刺激サイトカインをコードするCAR-T細胞が、抗腫瘍応答の刺激において有効な抗腫瘍アジュバントとして使用可能であることは、予想外だった。しかしながら、遺伝子導入免疫刺激性サイトカイン及びチェックポイント阻害分子を更にコードするCAR-T細胞又はCAR-NK細胞を使用して、局所抗腫瘍免疫応答を後押しすることは、本発明の特別な技術特長となっている。
【0070】
好適な実施の形態において、本明細書に記載される遺伝子改変間葉系幹細胞は、免疫応答刺激サイトカインがIL-15であることを特徴とする。
【0071】
インターロイキン15(IL-15)は、IL-2との構造類似性を持つサイトカインである。IL-2と同様、IL-15も、IL-2/IL-15受容体ベータ鎖(CD122)及び共通ガンマ鎖(ガンマ-C、CD132)で構成される複合体を通じて結合し、シグナル伝達する。IL-15は、ナチュラルキラー細胞の細胞増殖を誘導する。ナチュラルキラー細胞は、自然免疫系の細胞であり、その主な役割は、ウイルス感染細胞又は癌性細胞を殺傷することである。IL-15は、前臨床モデルにおいて、CD8+T細胞の抗腫瘍免疫を向上させることが、示されている(Klebanoff CA, et al.Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101 (7): 1969-74)。
【0072】
本発明は、本明細書に記載されるCAR-T細胞における免疫刺激性サイトカインの発現を介して、驚くべきかつ有利な抗腫瘍効果を可能にする。CAR-T細胞による本明細書に記載される刺激性サイトカインの発現は、抗腫瘍免疫応答を支援し、腫瘍の寸法及び/又は成長の低減を招き、当該技術分野で既知であるそのようなサイトカインの全身投与により生じる副作用の明確な低減及び/又はそのような副作用の回避を示す。副作用、例えば、悪心及び嘔吐、口又は舌の痛み、下痢、眠気、アレルギー反応、発熱又は悪寒、蕁麻疹、掻痒、頭痛、咳嗽、息切れ、又は顔面、舌、若しくは喉の腫脹等が、本明細書に記載されるCAR-T細胞又はCAR-NK細胞を利用した療法により回避される可能性がある。
【0073】
したがって、本発明は、局所(又は局所に限定された)腫瘍特異的効果を可能にすることにより、サイトカイン療法の副作用を低減する手段及びサイトカインと免疫療法の併用を提供し、この効果は、好ましくは細胞の全身投与により達成されるが、適切な組織特異的条件下、上記サイトカイン及びチェックポイント阻害剤を含み、発現するCAR-T細胞又はCAR-NK細胞を使用する細胞療法を介して、組織特異的様式で発揮される。
【0074】
したがって、本発明は、本明細書に記載される医薬として使用される遺伝子改変細胞に関し、この細胞において、外来性核酸は、1つ以上のプロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせと作動性に連結された1つ以上の免疫刺激サイトカインをコードする領域を含み、この細胞において、サイトカインは、IL-15、IL-7、IL-12、IL-2、IL-21、IFNガンマ、及びIFNベータからなる群より選択される。
【0075】
本発明は、外来性核酸分子を含む遺伝子改変細胞にも関し、この外来性核酸分子は、CARをコードする領域と、T細胞増殖及び/又は分化(及び/又は記憶細胞への成熟及び腫瘍介在型免疫抑制の回避)を誘導する免疫刺激性分子(複数の場合もある)と、免疫抑制環境を阻害するチェックポイント阻害分子とを含み、両方ともプロモーター又はプロモーター/エンハンサー組み合わせと作動性に連結されている。
【0076】
T細胞増殖及び/又は分化を誘導する免疫刺激性分子は、本明細書に記載されるサイトカインであることも、サイトカインとチェックポイント阻害分子との組み合わせであることも可能である。固形又は液体腫瘍細胞が適切にサイトカインにより誘引され、記憶表現型を指向することを確実にするため、組み合わせであることが好適である場合がある。
【0077】
驚くべきことに、本明細書に記載される遺伝子導入免疫刺激性サイトカイン及びチェックポイント阻害分子で改変されたCAR-T細胞は、上記サイトカイン及びチェックポイント阻害剤の予想外に良好な発現及び分泌を示す。こうした特定のサイトカイン及びチェックポイント阻害剤が、十分な量で発現し、十分な量で細胞から排出されて、自然応答及び/又は免疫療法いずれかに基づいて、所望の局所免疫応答を誘導する又は向上させることができるとは、当業者には予想できなかっただろう。
【0078】
1つの好適な実施の形態において、免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域は、1つ以上の構成的プロモーター、好ましくはヒトプロモーター、より好ましくはNFATプロモーターに作動性に連結される。
【0079】
1つの好適な実施の形態において、ヒトプロモーターは、NF-kBプロモーターである。
【0080】
「腫瘍特異的」プロモーター、すなわち炎症性又は「癌様」条件下で優先的に発現する又は誘導されるプロモーターの使用は、望まない全身性効果の低減に関して、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞の動員シグナルとの併用に相乗効果を示すことができる。本発明のCAR-T細胞又はCAR-NK細胞は、炎症組織、特に腫瘍組織に向かって遊走し、そうすることにより、患者の体内で、コードされたサイトカイン又はチェックポイント阻害剤が全身発現することを回避する有効な手段を提供する。炎症条件下で優先的に発現する、又は腫瘍組織に存在するものであるサイトカインの発現用プロモーターを使用することで、相乗的様式で全身発現の低減が更に向上し、そうすることにより、本明細書に記載されるサイトカインのT細胞又はNK細胞を利用した投与様式の驚くべき利益がもたらされる。
【0081】
1つの好適な実施の形態において、本明細書に記載される遺伝子改変細胞は、組換え核酸発現構築物を含み、この組換え核酸発現構築物は、本明細書に記載される免疫応答刺激サイトカインをコードする1つ以上の核酸配列を更に含み、上記免疫応答刺激サイトカインは、以下:
(a)シグナル配列、好ましくは配列番号29に記載の配列、又は配列番号29と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
(b)N末端IL15RAポリペプチド、好ましくは配列番号30に記載の配列、又は配列番号30と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
(c)連結ループ配列(linking loop sequence)、好ましくは配列番号31に記載の配列、又は配列番号31と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
(d)IL-15ポリペプチド、好ましくは配列番号32に記載の配列、又は配列番号32と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
を含む。
【0082】
本明細書に記載される核酸のいずれかにおいて、プロモーター領域は、免疫エフェクター細胞活性化の際(a)の発現を誘導するヌクレオチド配列を含む。一実施の形態において、構成的プロモーター領域は、免疫エフェクター細胞活性化の際に誘導される遺伝子のプロモーターを含む。一実施の形態において、構成的プロモーター領域は、活性化T細胞の核内因子(NFAT)プロモーター、NF-kBプロモーター、IL-15プロモーター、又はIL-15受容体(IL-15R)プロモーターを含む。一実施の形態において、活性化条件的制御領域は、転写モジュレーター用、例えば、免疫エフェクター細胞活性化の際に遺伝子発現を誘導する転写因子用の結合部位を1つ以上含む。一実施の形態において、活性化条件的プロモーター領域は、1つ以上のNFAT結合部位を含む。
【0083】
本明細書に中記載される免疫応答刺激サイトカイン又はその部分は、明白に開示される又は配列式を通じて開示されるヒト化配列と少なくとも70%、80%、好ましくは90%、又は95%の配列同一性を持つ配列も包含する。
【0084】
好適な実施の形態において、本明細書に列挙される免疫応答刺激サイトカイン配列と70%以上の配列同一性を持つ配列バリアントは、IL-15アゴニスト活性を維持し、本明細書に言及される特定配列と結合する免疫応答刺激と本質的に同じ又は同様な機能特性を持つ、すなわち、PD-1結合は、親和性、特異性、及び結合様式に関して、本質的に同じ又は同様である。
【0085】
1つの好適な実施の形態において、CARをコードする組換え核酸発現構築物は、以下:
CARシグナル配列、好ましくは配列番号14に記載の配列、又は配列番号14と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
CEAを特異的に認識するCARの抗原結合ドメイン、好ましくは配列番号15及び配列番号19に記載の配列、又は配列番号15及び19と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
CARの免疫グロブリン重鎖細胞外定常領域、好ましくは配列番号23に記載の配列、又は配列番号23と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
CD28シグナル伝達ドメイン、好ましくは配列番号24に記載の配列、又は配列番号24と少なくとも80%配列同一性を持つ配列であって、CD28シグナル伝達ドメインは、膜貫通ドメイン、好ましくは配列番号25に記載の配列、又は配列番号25と少なくとも80%配列同一性を持つ配列を含む、配列と、
CD3ゼータシグナル伝達ドメイン、好ましくは配列番号26に記載の配列、又は配列番号26と少なくとも80%配列同一性を持つ配列と、
を含む。
【0086】
好適な実施の形態において、配列番号15~配列番号23の特定CAR配列と70%以上の配列同一性を持つ配列バリアントは、CEA認識を維持し、配列番号15~配列番号22の特定CAR配列を持つVHドメイン及びVLドメインと本質的に同じ又は同様な機能特性を持つ、すなわち、CEA認識は、親和性、特異性、及びエピトープ結合様式に関して、本質的に同じ又は同様である。
【0087】
そのうえさらに、軽鎖断片及び重鎖断片の順序は、抗原結合断片の所望の立体配置に応じて反転させることができる。
【0088】
さらに、幾つか実施の形態において、重鎖と軽鎖の間のリンカー配列を、常用技能を用いて改変することができる。
【0089】
さらに、CARをコードする核酸配列は、CARの発現を改善する目的で、コドン最適化されたものである。こうした改変は、T細胞又はNK細胞での十分な表面発現を可能にし、それでいて適切な抗原結合又は認識を維持する。高親和性及び高結合活性は、CAR-T細胞及びCAR-NK細胞が、CEA表面発現の高い、中間、又は低い腫瘍標的細胞を、i)認識すること、ii)そのような細胞に対して活性化され、それらを殺傷することを可能にする。
【0090】
本明細書に記載される抗CEA CAR-T細胞産物及び抗CEA CAR-NK細胞産物は、独特な特性を特徴とする。
【0091】
本明細書に記載される抗CEA CARは、高い親和性を有し、T細胞及び/又はNK細胞に対する高い特異性及び結合活性を与える。こうした特性は、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞が、CEA表面発現の高い及び低い腫瘍標的細胞を、i)認識すること、ii)そのような細胞に対して活性化されること、並びにiii)殺傷することを可能にする。
【0092】
腫瘍細胞の表面で発現したCEA抗原の数は、蛍光色素をカップリングさせた抗CEA抗体をQuantibriteビーズ(BD製)と併用して用いることにより、定量可能である。腫瘍細胞の表面で発現したCEA抗原の定量に適用される好適な方法は、「蛍光活性化細胞選別/細胞分析」(FACS)である。ビーズの蛍光強度は、細胞に結合した蛍光抗体の数と正確に相関し、これが、細胞上のCEA分子数の尺度である。
【0093】
本明細書に記載されるVH断片及びVL断片は、CAR中で複数の立体配置にアレンジすることができ、それでもなお標的エピトープに対する高い特異性及び高い親和性を維持する。幾つかの実施の形態において、CARは、VH-VL立体配置又はVL-VH立体配置で構成することができ、そこにリンカー、ヒンジ、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及び/又は活性化ドメインの多様性があり、それでもなおその有効性を維持する。本発明のこの驚くべき特長は、CEAを指向するCARの設計により大きな柔軟性をもたらし、それにより、何かしら更なる開発が必要とされる又は望まれる場合に、本明細書に記載されるVHドメイン及びVLドメインに基づいて、CAR構造を更に改変及び/又は最適化することを可能にする。
【0094】
本明細書に記載されるCAR又はその部分は、明白に開示される又は配列式を通じて開示されるヒト化配列と少なくとも70%、80%、好ましくは90%の配列同一性を持つ配列も包含する。
【0095】
好適な実施の形態において、本明細書に列挙される特定のVH配列及びVL配列と70%以上の配列同一性を持つ配列バリアントは、CEA認識を維持し、本明細書に言及される特定配列を持つVHドメイン及びVLドメインと本質的に同じ又は同様な機能特性を持つ、すなわち、CEA認識は、親和性、特異性、及びエピトープ結合様式に関して、本質的に同じ又は同様である。
【0096】
更なる実施の形態において、本発明は、1つ以上のリンカードメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、及びシグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドに関する。一実施の形態において、CARは、細胞内ドメインを含み、このドメインは、共刺激ドメイン及びシグナル伝達(活性化)ドメインを含む。
【0097】
シグナル伝達ドメインの交換は、強力で迅速なエフェクター期(CD28共刺激ドメイン)、又はT細胞記憶集団により確保されるとおりの長期間再発制御(4-1BBシグナル伝達ドメイン)いずれかの要求に応じるものである。本明細書に実証されるとおり、様々なシグナル伝達ドメインを、複数の立体配置で交換することができ、それにより、有利な結合特性を失うことなく、CARにその設計に関する柔軟性がもたらされる。
【0098】
リンカードメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインとして採用される(代替構成要素を付加することによる)バリアントのおかげで、各種構成要素が、当業者の要求に応じて交換可能であり、しかもCEA認識特性は維持することができ、そのため所望の生物学的効果が維持されることが、明らかになる。
【0099】
幾つかの実施の形態において、特に、CD3ゼータ発現を欠く免疫細胞の状況において、CD3ゼータが存在しないことが可能である。
【0100】
1つの好適な実施の形態において、組換え核酸発現構築物を含む遺伝子改変細胞は、更に、先行請求項のいずれか1項に記載のチェックポイント阻害分子をコードする1つ以上の核酸配列を含み、上記チェックポイント阻害分子は、以下を含む:
ドミナントネガティブ切断型のチェックポイントタンパク質、好ましくは配列番号28に記載のドミナントネガティブ切断型PD1、又は配列番号28と少なくとも80%配列同一性を持つ配列、
上記チェックポイントタンパク質は、CARポリペプチドからチェックポイント阻害分子を切り離すポリペプチド切断部位に隣接して位置し、上記切断部位は、好ましくは、P2A、T2A、E2A、及びF2Aからなる群より選択される。
【0101】
好適な実施の形態において、組換え核酸発現構築物は、更に、本明細書に記載されるチェックポイント阻害分子をコードする1つ以上の核酸配列を含み、上記チェックポイント阻害分子は、
配列番号28に記載のドミナントネガティブ切断型PD1、又は配列番号28と少なくとも80%配列同一性を持つ配列、
を含み、
上記チェックポイントタンパク質は、CARポリペプチドからチェックポイント阻害分子を切り離すポリペプチド切断部位P2Aに隣接して位置する。
【0102】
好適な実施の形態において、組換え核酸発現構築物は、以下をコードする核酸配列領域を含む:
ヒトCEAを特異的に認識するCARと、
チェックポイント阻害分子ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチドと、
免疫刺激性サイトカインであって、この免疫刺激性サイトカインは、シグナル配列、N末端IL15RAポリペプチド、連結ループ配列、及びIL-15ポリペプチドを含み、この免疫刺激性サイトカインは、1つ以上のプロモーターと作動性に連結されている、免疫刺激性サイトカインと、
ポリペプチド切断部位P2A。
【0103】
一実施の形態において、免疫刺激性サイトカインは、本明細書に記載される免疫刺激性サイトカインを含み、これは、IL-15ペプチド及び/又はIL-15RAペプチドと、シグナル配列と、連結ループ配列とを含む。好適な配列は、本明細書に開示される。
【0104】
一実施の形態において、免疫刺激性サイトカインは、本明細書に記載される免疫刺激性サイトカインを含み、これは、IL-15ペプチド及び/又はIL-15RAペプチドを含む。好適な配列は、本明細書に開示される。
【0105】
通常、潜在的に癌性である細胞は、免疫系により破壊される。全ての癌細胞は、自身を周囲の細胞と区別する変化を起こし、最も明白な変化は、阻害を受けずに増殖する能力である。癌細胞は、正規の免疫系制御を回避する機構を利用する。チェックポイントタンパク質は、免疫系と連通することにより機能することが示されてきており、これにより潜在的癌性細胞は、破壊されなくなる。細胞が癌性であるとシグナル伝達する他の分子が存在する可能性はあるが、十分なチェックポイントタンパク質が細胞表面に存在する場合、免疫系は、癌性シグナルを見落とす可能性がある。
【0106】
本明細書に記載されるチェックポイント阻害分子又はその部分は、明白に開示される又は配列式を通じて開示されるヒト化配列と少なくとも70%、80%、好ましくは90%の配列同一性を持つ配列も包含する。
【0107】
好適な実施の形態において、本明細書に列挙されるドミナントネガティブ切断型PD1配列と70%以上の配列同一性を持つ配列バリアントは、PD-1結合を維持し、本明細書に言及される特定配列と結合するPD-1タンパク質と本質的に同じ又は同様な機能特性を持つ、すなわち、PD-1結合は、親和性、特異性、及び結合様式に関して、本質的に同じ又は同様である。
【0108】
癌治療の標的として研究されてきたリガンド受容体相互作用は、膜貫通プログラム細胞死1タンパク質(PD-1、CD279としても知られる)とそのリガンドであるPD-1リガンド1(PD-L1)との間の相互作用である。正常な生理機能において、細胞表面のPD-L1は、免疫細胞の表面のPD1に結合し、このことが、免疫細胞の活性を阻害する。癌細胞表面のPD-L1の上方制御がT細胞を阻害することにより、癌細胞が宿主免疫系を逃れることを可能にしているように思われ、T細胞は、それがなければ腫瘍細胞を攻撃できたかもしれない。PD-1又はPD-L1いずれかに結合することで相互作用を遮断する抗体は、T細胞が腫瘍を攻撃することを可能にする可能性がある。好適な実施の形態において、チェックポイント阻害分子は、PD-1に結合することによりPD-1を遮断するドミナントネガティブ切断型PD-1ポリペプチドである。
【0109】
チェックポイント阻害剤(免疫チェックポイントモジュレーター、すなわちCPMとしても知られる)は、チェックポイントタンパク質の有効性を低下させるように設計される。チェックポイント阻害剤は、様々な作用機序を有する可能性があるが、有効な場合には、免疫系に、癌細胞の表面の他の分子を認識させる。
【0110】
T細胞増殖及び/又は分化を誘導する免疫刺激サイトカインを発現するCAR-T細胞を、チェックポイント阻害剤と一緒に組み合わせて投与すると、所望の抗癌効果に関して、相乗効果がもたらされる。サイトカイン又は他の免疫刺激因子は、癌組織に対するT細胞反応の局所的向上をもたらし、一方で、チェックポイント阻害剤も、T細胞が、癌性組織をより有効に攻撃及び破壊できるようにする。これら2種の作用剤の効果は、相乗様式で組み合わされ、これら2種を単独で考慮した場合の合計より大きい技術効果をもたらす。
【0111】
「即納型」同種又は自家CAR-T細胞又はCAR-NK細胞、好ましくはCAR-NK細胞の使用に関して、本発明者らは、今までのCAR発現細胞よりも同種性の低いCEA発現CAR-T細胞又はCAR-NK細胞を操作する方法を開発した。
【0112】
好適な実施の形態において、遺伝子改変細胞は、該細胞が送達される患者に関して、同種の細胞である。
【0113】
好適な実施の形態において、遺伝子改変細胞は、該細胞が送達される患者に関して、同種のT細胞、NK細胞、又はTreg細胞である。
【0114】
好適な実施の形態において、遺伝子改変細胞は、該細胞が送達される患者に関して、自家細胞である。
【0115】
好適な実施の形態において、遺伝子改変細胞は、該細胞が送達される患者に関して、自家NK細胞である。
【0116】
別の実施の形態において、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞は、更に、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞の選択的破壊を可能にするそれら細胞の死を誘発する、免疫抑制自虐(defeating)タンパク質及び/又は誘導性自殺遺伝子を1つ以上含む。場合によっては、操作されたT細胞は投与後何年間も伝播及び持続が可能であることから、投与されたT細胞の選択的削除を可能にする安全機構を提供することが望ましい場合がある。したがって、本発明の方法は、幾つかの実施の形態において、T細胞を、組換え自殺遺伝子で形質転換することを含むことができる。この組換え自殺遺伝子は、こうしたT細胞が対象に投与された後の直接毒性及び/又は制御不能な増殖のリスクを低下させるのに使用される。自殺遺伝子は、in vivoでの形質転換細胞の選択的削除を可能にする。詳細には、自殺遺伝子は、無毒プロドラッグを細胞傷害性薬に変換する、又は毒性遺伝子発現産物を発現させる能力を有する。言い換えると、「自殺遺伝子」は、好ましくは、或る産物をコードする核酸であり、この産物が、それ自身で又は他の化合物の存在下で、細胞死を引き起こす。一実施の形態において、自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼである。
【0117】
1つの好適な実施の形態において、キメラ抗原受容体(CAR)は、好ましくは、可溶型よりも膜結合型のCEAを認識する。
【0118】
CEAタンパク質は、哺乳類、好ましくは、ヒトにおいて、可溶型及び固体型で存在する。腫瘍細胞膜では、固体型のみが見られる一方で、可溶型は、内皮細胞活性化及び血管新生において役割を果たす。多くの研究者が、腫瘍細胞膜に結合したCEAのみを認識する抗原結合ドメインを持つCARを作り出そうと努力してきたが、これまで全く成功しなかった。当業者には、この特定の抗CEA CARが、好ましくは、腫瘍膜のCEAを標的とする一方で、可溶型のCEAを見逃すことは、予想できなかっただろう。当業者には、この特定の抗CEA CARが、免疫刺激性サイトカイン及び/又はチェックポイント阻害分子と組み合わされて十分な量で発現し、十分な量で細胞から放出されて、免疫療法に基づき、所望の局所免疫応答を誘導し又は向上させ、固形腫瘍及び液体腫瘍のCEA陽性病原性細胞、好ましくは固形腫瘍細胞だけを標的とすることができるとは、更に予想できなかっただろう。これら2種のCEA型を識別する本明細書に記載される抗CEA CARの開発は、本発明の他に例を見ない技術的に複雑な解決法である。
【0119】
一実施の形態において、細胞は、免疫細胞であり、好ましくは、人工多能性幹細胞(iPSC)、好ましくはiPSC株ND50039、NK-92細胞及びYT細胞を含む不死化免疫細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞を含む初代免疫細胞、サイトカイン誘導型キラー細胞(CIK)、Tリンパ球からなる群より選択され、このTリンパ球は、好ましくは、CD4又はCD8 T細胞、より好ましくは細胞傷害性Tリンパ球又はヘルパーT細胞又は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である。
【0120】
本発明の更なる態様は、本明細書に記載される組換え核酸発現構築物又はCARを含む遺伝子改変細胞に関し、この細胞は、iPSC株ND50039である。
【0121】
免疫細胞は、好ましくは、T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、B細胞、樹状細胞、顆粒球、自然リンパ球細胞(ILC)、巨核球、単球/マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK-92、YT細胞、MCF-7、ジャーカット細胞、MC32A細胞、HEK293細胞、血小板、赤血球(RBC)、及び/又は胸腺細胞から選択される。
【0122】
養子細胞移入は、T細胞に基づく細胞傷害性反応を用いて癌細胞を攻撃する。患者の癌に対して天然に又は遺伝子操作された反応性を有するT細胞は、in vitroで生成されて、次いで、癌患者に戻される。自家腫瘍浸潤リンパ球が、転移性黒色腫の患者の有効な治療として使用されてきた。これは、患者の腫瘍とともに見つかるT細胞を採取し、これを訓練して癌性細胞を攻撃させることにより、達成可能である。こうしたT細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)と称することができる。そのようなT細胞は、高濃度のIL-2、抗CD3、及びアロ反応性フィーダー細胞を用いて、刺激してin vitroで増殖させることができる。従来は、こうしたT細胞を、次いで、患者に戻し、それらの抗癌活性を更に後押しするためにIL-2を合わせて外部から投与する。
【0123】
したがって、本発明は、本明細書に記載されるCAR-T細胞の投与と併用した養子細胞移入を包含する。免疫細胞(例えば、CAR-T)の前に遺伝子改変T細胞を投与することで、適切なケモカインが発現することにより、養子細胞移入中に投与されるCAR-T及び他の免疫エフェクター細胞の化学誘引が向上することが、本発明に包含される。刺激サイトカインの発現は、T細胞の活性化を局所でのみ、好ましくは腫瘍内で又は腫瘍の近傍でのみ向上させることになり、続いて、記憶エフェクター細胞表現型を招いて、そうすることにより、治療の治療効果を延長する。
【0124】
本発明は、更に、本明細書に記載されるCAR-T細胞の投与と併用した養子細胞移入を含む。遺伝子改変CAR-NK細胞の投与により、主要組織適合性クラスI又はII非依存的様式で腫瘍形質転換細胞の溶解が引き起こされることが、本発明に包含される。NK細胞は、腫瘍形質転換細胞を直接溶解させることができ、自然免疫応答と適応免疫応答との間の架橋として作用することで適応免疫細胞による腫瘍の認識及び破壊を向上させることもできる。T細胞が腫瘍細胞を溶解させる機構は、特異的T細胞受容体による、主要組織適合性クラスI又はIIの状況で提示される腫瘍抗原の認識が必要であるが、この機構とは異なり、NK細胞は、腫瘍抗原に対する事前感作なしで、腫瘍細胞を殺傷することができる。NK細胞は、新規の形質転換細胞に対する防御の最前線として作用する。NK細胞は、受容体介在型細胞傷害性を通じて腫瘍標的を殺傷する。このプロセスは、腫瘍表面抗原に結合した腫瘍特異的抗体の存在に依存する。
【0125】
CAR-NK細胞産物のこの特長は、同種細胞の状況における移植片対宿主病のリスクを低減することを可能にする。CAR-NK細胞産物は、好ましくは、同種性の「即納型」製品として使用することが可能である。本発明の意義において、抗原結合ドメインを持たないCAR構築物は、抗原認識領域を柔軟に交換することが可能なプラットフォーム技術として特に適している。
【0126】
しかしながら、細胞は、目的の患者とは異なる対象から得ることも可能であり、したがって、同種とみなされる。本明細書に使用される場合、細胞又はその前駆細胞が、同じ種の別の対象に由来するならば、その細胞は、対象に関して「同種」である。本明細書に使用される場合、細胞又はその前駆細胞が、同じ対象に由来するならば、その細胞は、対象に関して「自家」である。好適な実施の形態において、免疫細胞は、医学的治療の対象に対して自家である。
【0127】
好適な実施の形態において、本明細書に記載される核酸分子又はベクターを含む、及び/又は本明細書に記載されるCARを発現する、遺伝子改変免疫細胞は、それが、CD4+T細胞及び/又はCD8+T細胞、好ましくは、CD4+T細胞とCD8+T細胞との混合物であることを特徴とする。こうしたT細胞集団、好ましくはCD4+形質転換細胞及びCD8+形質転換細胞の両方を含む組成物は、各種固形腫瘍及び液体腫瘍、例えば、結腸直腸癌に対して、好ましくは、それらの細胞及び/又は本明細書に記載される関連病態に対して、特に有効な細胞溶解活性を示す。
【0128】
好適な実施の形態において、本明細書に記載される核酸分子又はベクターを含む、及び/又は本明細書に記載されるCARを発現する、遺伝子改変免疫細胞は、CD4+T細胞及びCD8+T細胞であり、好ましくは1:10~10:1の比、より好ましくは5:1~1:5、2:1~1:2又は1:1の比にある。上記の比、好ましくは1:1のCD4+/CD8+比の本明細書に記載されるCARを発現するCEA指向型改変CAR-T細胞の投与は、本明細書に言及される疾患の治療中、有益な特徴を招き、例えば、こうした比にあることで、改善された治療反応及び低下した毒性を招く。
【0129】
本発明の更なる驚くべき態様は、本明細書に開示されるCARの改善された安定性である。CARポリペプチドは、適切な条件下、結合親和性を何ら損失させることなく、容易に長期間貯蔵することができる。
【0130】
一実施の形態において、免疫細胞は、ヒト末梢血、ヒト臍帯血、又は人工多能性幹細胞(iPSC)に由来する。
【0131】
一実施の形態において、免疫細胞は、iPS細胞株ND50039に由来する。
【0132】
一実施の形態において、遺伝子改変免疫細胞は、免疫細胞に分化する前に本明細書に記載される組換え核酸構築物で遺伝子改変されたiPSCに由来する。
【0133】
一実施の形態において、遺伝子改変免疫細胞は、本明細書に記載される組換え核酸発現構築物を用いて電気穿孔法により又は化学的形質導入により遺伝子改変された、iPSC細胞又はiPSC株ND50039に由来し、この細胞は、以下:
(a)ヒトCEAを特異的に認識する、本明細書に記載されるCARと、
(b)本明細書に記載されるチェックポイント阻害分子ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチドと、
(c)IL15ペプチド及び/又はIL-15RAペプチド、シグナル配列、連結ループ配列を含む、本明細書に記載される免疫刺激性サイトカインと、
(d)ポリペプチド切断部位P2Aと、
を含み、
(e)上記遺伝子改変iPSC株ND50039又は遺伝子改変iPS細胞は、分化してNK細胞又はT細胞になる。
【0134】
本明細書に記載されるCAR導入遺伝子を添加された自家細胞又は同種細胞の移植は、実行可能である。例えば、自家細胞移植後に患者に再導入して戻された場合、本明細書に記載される本発明のCARで改変されたT細胞は、腫瘍細胞を認識及び殺傷することができる。CIK細胞は、他のT細胞に比べて向上した細胞傷害性活性を有することができ、したがって、本発明の好適な実施の形態の免疫細胞となる。当業者には当然のことながら、他の細胞も、本明細書に記載されるCARを持つ免疫エフェクター細胞として使用することができる。詳細には、免疫エフェクター細胞には、NK細胞、NK T細胞、好中球、及びマクロファージも含まれる。免疫エフェクター細胞には、エフェクター細胞の前駆細胞も含まれ、この場合、そのような前駆細胞は、in vivo又はin vitroでCAR-Tエフェクター細胞へと分化するように誘導することができる。前駆細胞は、定義された培養条件下、免疫エフェクター細胞になるiPS細胞であることが可能である。
【0135】
実施の形態において、前駆iPS細胞株ND50039は、定義された培養条件下で培養されて、免疫エフェクター細胞になる。
【0136】
一実施の形態において、免疫応答刺激サイトカインは、腫瘍組織内及び/又は腫瘍組織近傍で、免疫細胞の活性、生存、及び/又は個数を維持する又は向上させる。
【0137】
本発明は、本明細書に記載されるCAR-T細胞又はCAR-NK細胞の投与と併用した養子細胞移入を包含する。本発明に包含されるのは、免疫細胞(例えばCAR-T)の前に遺伝子改変CAR-T細胞又はCAR-NK細胞を投与することで、適切なケモカインが発現することにより、養子細胞移入中に投与されるCAR-T及び他の免疫エフェクター細胞の化学誘引が向上することである。刺激サイトカインの発現は、T細胞の活性化を局所でのみ、好ましくは腫瘍内で又は腫瘍近傍でのみ向上させることになり、続いて、記憶エフェクター細胞表現型を招いて、そうすることにより、治療の治療効果を延長する。
【0138】
一実施の形態において、遺伝子改変細胞は、CEAを発現する病原性細胞、好ましくは癌細胞、より好ましくは固形及び/又は液体悪性腫瘍の癌細胞、好ましくは固形癌、より好ましくは結腸癌、直腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、膵癌、胃癌、及び卵巣癌の癌細胞、より好ましくはCEA陽性の転移性腫瘍細胞の存在と関連した、医学的障害の治療における医薬として使用されることになる。
【0139】
本発明による遺伝子改変細胞を用いた治療は、幾つかの実施の形態においては1種以上の抗癌治療又は医薬と組み合わせることができ、そのような抗癌治療又は医薬は、好ましくは、抗体療法、ワクチン、腫瘍溶解性ウイルス療法、化学療法、放射線療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法、遺伝子治療、ホルモン療法、レーザー光療法、免疫抑制、又は移植の群から選択される。
【0140】
本発明の更なる態様は、組換え核酸発現構築物がコードするキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドに関する。
【0141】
好適な実施の形態において、CARポリペプチドは、本明細書に記載される組換え核酸発現構築物によりコードされ、該構築物は、CARシグナル配列、CEAを特異的に認識するCARの抗原結合ドメイン、CARの免疫グロブリン重鎖細胞外定常領域、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む。
【0142】
好適な実施の形態において、CD3ゼータシグナル伝達ドメインは、CARポリペプチドに存在しないことが可能であり、特にCD3ゼータ発現を欠く免疫細胞の状況においてそうである。
【0143】
好適な実施の形態において、CARをコードする組換え核酸発現構築物は、更にポリペプチドを含み、ポリペプチドは、以下:
シグナル配列、N末端IL-15RAポリペプチド、連結ループ配列、及びIL-15ポリペプチドを含む、免疫刺激性サイトカインIL-15ポリペプチドと、
CARポリペプチドからチェックポイント阻害分子を切り離すためのポリペプチド切断部位P2Aに隣接して位置する、チェックポイント阻害分子ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチドと、
を含む。
【0144】
本発明の更なる態様は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする組換え核酸発現構築物であって、上記構築物は、以下:
(a)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域であって、上記CARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
(b)チェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域と、
(c)免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域と、
を含む、組換え核酸発現構築物に関する。
【0145】
一実施の形態において、組換え核酸発現構築物は、核酸構築物と呼ばれる、又はそう呼ぶことができる。幾つかの実施の形態において、上記構築物は、プロモーターあり又はなしで提供することができる。当業者なら、意図する用途に応じて、適切なプロモーターを同定する、及び/又は適切なプロモーターを持つ構築物を生成させることができる。
【0146】
好適な実施の形態において、組換え核酸発現構築物は、以下:
本明細書に記載されるキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域であって、このCARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
本明細書に記載されるチェックポイント阻害分子をコードする第二核酸配列領域であって、このチェックポイント阻害分子は、本明細書に記載されるポリペプチド切断部位に隣接して位置する、第二核酸配列領域と、
本明細書に記載される免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域、
を含む。
【0147】
好ましい実施の形態において、組換え核酸発現構築物は、以下:
キメラ抗原受容体(本明細書に記載されるCAR)をコードする第一核酸配列領域であって、このCARは、癌胎児性抗原(CEA)タンパク質を認識する細胞外抗原結合ドメインを含む、第一核酸配列領域と、
本明細書に記載されるチェックポイント阻害分子ドミナントネガティブ切断型PD1ポリペプチドをコードする第二核酸配列領域であって、チェックポイント阻害分子はポリペプチド切断部位P2Aに隣接して位置する、第二核酸配列領域と、
IL-15RAペプチド及び/又はIL-15ペプチド、シグナル配列、連結ループ配列を含む、本明細書に記載される免疫刺激性サイトカインをコードする第三核酸配列領域であって、免疫刺激性サイトカインは本明細書に記載される1つ以上のプロモーターと作動性に連結される、第三核酸配列領域と、
を含む。
【0148】
一実施の形態において、免疫刺激性サイトカインは、本明細書に記載される免疫刺激性サイトカインを含み、この免疫刺激性サイトカインは、IL-15ペプチド及び/又はIL-15RAペプチドと、シグナル配列と、連結ループ配列とを含む。好適な配列は、本明細書に開示される。
【0149】
一実施の形態において、免疫刺激性サイトカインは、本明細書に記載される免疫刺激性サイトカインを含み、この免疫刺激性サイトカインは、IL-15ペプチド及び/又はIL-15RAペプチドを含む。好適な配列は、本明細書に開示される。
【0150】
一実施の形態において、本明細書に記載される組換え核酸発現構築物は、ヒト細胞に投与することができる。したがって、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第一核酸配列領域を含む組換え核酸発現構築物及び該構築物を発現する相当する免疫細胞、好ましくはCAR-T細胞又はCAR-NK細胞に関し、この構築物は、ヒトT細胞又はNK細胞に、境界明瞭腫瘍、固形腫瘍、又は液体腫瘍に対する高い細胞傷害性活性を与える一方で、腫瘍に取り囲まれた組織内の非病原性細胞、例えば、膵臓細胞、肺細胞、結腸細胞、又は肝細胞を見逃す。
【0151】
本発明は、免疫エフェクター及びヘルパー細胞を誘引し、免疫活性化を誘導し、記憶免疫細胞の成熟を促進し、及び/又は抑制性及び/又は制御性免疫細胞の出現及び持続を抑制する目的で、本明細書に記載されるCAR-T細胞又はCAR-NK細胞を介して、腫瘍において免疫活性化サイトカイン及び/又はチェックポイント阻害分子の組み合わせを発現させることも包含する。
【0152】
一実施の形態において、本発明は、上記細胞が破壊されることを可能にする免疫刺激及び/又は免疫抑制自虐遺伝子及び/又は誘導性自殺遺伝子を2つ以上発現する同種抗CEA CAR発現T細胞又はNK細胞を提供する。自殺遺伝子とは、限定ではなく例として、アルファヘルペスウイルス(HHV1-3)のチミジンキナーゼ、細菌遺伝子シトシンデアミナーゼ(これは、5-フルオロシトシンを毒性の高い化合物5-フルオロウラシルに変換することができる)、及び誘導性カスパーゼ-9又はカスパーゼ-8をコードするものである。誘導性カスパーゼ-9は、特別な二量体化の化学誘導因子(CID)により活性化することができる。自殺遺伝子は、細胞表面で発現し、その細胞を治療用モノクローナル抗体感受性にすることができる、ポリペプチドであることも可能である。自殺遺伝子発現は、例えば、ヒト細胞に適応したドキシサイクリンにより誘導可能である。
【0153】
好適な実施の形態において、発現系は、好ましくはベクターの形態、例えば、ウイルスベクター、プラスミド、又はトランスポゾンベクター、好ましくはスリーピングビューティーベクターの形態にあり、ヒトT細胞の並外れて高い形質導入率を達成することができる。形質導入系は、CAR構築物のモジュール設計により様々である、すなわち、当業者が本発明を実行する場合の要求及び優先事項に応じて、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルスベクター、及びトランスポゾンが利用可能である。好適な実施の形態において、本発明のアデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターが、細胞、好ましくは増殖免疫細胞、休止免疫細胞への遺伝子移入に、及び遺伝子治療用途に用いられる。
【0154】
本発明の更なる態様において、本発明は、単離された核酸分子、好ましくはベクターの形態、例えば、ウイルスベクター又はトランスポゾンベクター、好ましくは、スリーピングビューティーベクターの形態で単離された核酸分子に関し、核酸分子は、以下からなる群より選択される:
a)以下のヌクレオチド配列を含む核酸分子、
本明細書に記載されるCARのいずれかの実施の形態に従うキメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドをコードするもの
細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインをコードするもの、
ただし、細胞外抗原結合ドメインは、配列番号2、配列番号3、配列番号13のうち少なくとも1つの配列によりコードされる、及び/又は、
b)以下のヌクレオチド配列を含む核酸分子、
本明細書に記載されるCARのいずれかの実施の形態に従って、チェックポイント阻害分子をコードするもの、ただし、細胞外チェックポイント阻害分子は、配列番号7、配列番号13のうち少なくとも1つの配列によりコードされる、及び/又は、
免疫刺激性サイトカインをコードするもの、ただし、免疫刺激性サイトカインは、配列番号10~配列番号12、配列番号13のうち少なくとも1つの配列によりコードされる、
c)a)及びb)に従うヌクレオチド配列と相補的である、核酸分子;
d)a)又はb)又はc)に従うヌクレオチド配列と機能的に類似/等価であるのに十分な配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、好ましくはa)又はb)又はc)に従うヌクレオチド配列と少なくとも70%の配列同一性を有する、核酸分子;
e)遺伝暗号の結果として、a)~d)に従うヌクレオチド配列に縮重する、核酸分子;及び/又は、
f)a)~e)のヌクレオチド配列に従う核酸分子であって、欠失、付加、置換、転位、反転、及び/又は挿入により改変されており、a)~e)に従うヌクレオチド配列と機能的に類似/等価である、核酸分子。
【0155】
「に縮重する(又は、「~へと縮重する」)」という用語は、核酸分子のヌクレオチド配列においては異なっているが、遺伝暗号に従って、翻訳後のヌクレオチド配列のアミノ酸タンパク質産物には違いがもたらされないことを指す。
【0156】
本発明は、更に、遺伝子改変細胞の生成法に関し、本方法は、本明細書に記載されるCARをコードする核酸構築物を送達する又は移入することを含み、本方法は、1種以上の遺伝子移入技法とともに利用することが可能であり、そのような技法として、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アルファウイルスベクター、化学的形質移入、電気穿孔法、及びmRNA形質移入が挙げられ、好ましくはアデノ随伴ウイルスベクターである。
【0157】
現在、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、in vivoでの遺伝子移入に最も安全かつ最も効率的なプロファイルをもたらす遺伝子移入ベクターとして認識されている。AAV2及びAAV8をはじめとする複数のAAV血清型が、効率的にヒト細胞を標的とするのに使用されてきており、治療用導入遺伝子の長期発現が記録されている。AAV血清型の群には、とりわけ、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、及びRhlOが含まれる。
【0158】
CEACAR用の遺伝情報/核酸分子の移入は、CRISPR/Cas及びTALENを介した標的細胞株への挿入も挙げられ、標的細胞は、好ましくはTリンパ球、ナチュラルキラー細胞、及び人工多能性幹細胞(iPS)である。一実施の形態において、iPS細胞株は、ND50039である。CEA CAR用の遺伝情報/核酸分子を、該CARを発現する細胞に移入するのに適切な方法は全て、本発明に包含され、当業者が本発明を実行する場合に適切な方法を選択することができる。例えば、T細胞を形質転換する複数の方法が、当該技術分野で既知であり、そのような方法として、任意の与えられるウイルス系遺伝子移入法、例えば、改変レトロウイルス科(Retroviridae)に基づくもの、及び非ウイルス法、例えば、DNA系トランスポゾン、並びに電気穿孔法によるDNA又はRNAの直接移入が挙げられる。化学的形質移入を用いて任意の細胞型に遺伝情報/核酸分子を移入する適切な方法も、当業者に既知である。一実施の形態において、遺伝情報/核酸分子は、iPS細胞に、好ましくはiPS細胞株ND50039に、電気穿孔法により移入される。
【0159】
さらに、CAR構築物のシグナル伝達構成要素は、3段階クローン手順において交換されており、この手順は、当業者による、臨床応用可能な抗CEA CARのモジュール式構築物、及びテーラーメード構築物を可能にする。
【0160】
本発明は、更に、本明細書に記載される病態の治療法に関し、本方法は、典型的には、該治療を必要とする患者に、CAR又は該CARを発現する免疫細胞を治療上有効量で投与することを含む。
【0161】
本発明は、本明細書に記載されるCAR構築物を用いた、効率的な固形又は液体腫瘍治療の技術的解決策を提供し、このCAR構築物は、腫瘍特異的抗原を選択的に認識する抗原結合ドメインを持ち、免疫細胞、特にT細胞及びNK細胞を活発に刺激し、効率的なチェックポイント阻害剤により免疫刺激腫瘍微小環境を賦活する。
【0162】
本発明は、更に、本明細書に記載される本発明に従う遺伝子改変細胞と、薬学上許容される担体とを含む医薬組成物に関する。本明細書に記載される組成物は、患者に、皮下投与、皮内投与、腫瘍内投与、節内投与、髄内投与、筋肉内投与、静脈内注射若しくはリンパ内注射、又は腹腔内投与により投与することができる。
【0163】
幾つかの実施の形態において、薬学上許容される担体は、例えば、治療用細胞産物の形態で調製される。
【0164】
一実施の形態において、医薬組成物の治療用細胞産物は、本明細書に記載される医学的障害の治療及び/又は予防に使用するためのものである。
【0165】
一実施の形態において、医薬組成物は、1種以上の抗癌治療又は医薬の前、後、及び/又はそれと併用して、患者に投与することができ、そのような治療又は医薬として、抗体療法、ワクチン、腫瘍溶解性ウイルス療法、化学療法、放射線療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法、遺伝子治療、ホルモン療法、レーザー光療法、B細胞焼灼療法(ablative therapy)、T細胞焼灼療法(ablative therapy)免疫抑制、末梢血幹細胞移植、又は骨髄幹細胞移植が挙げられる。
【0166】
好適な実施の形態において、本発明に従う遺伝子改変細胞又は遺伝子改変細胞に由来する細胞株は、癌、癌転移及び/又は自己免疫と関連した障害、好ましくは、CEAを発現する病原性細胞の存在と関連した障害を、治療、改変、又は予防するのに使用することができる。
【0167】
発明の詳細な説明
免疫系の重要な機能は、腫瘍を認識し排除することである。腫瘍抗原は、腫瘍細胞で特異的に発現して非病原性細胞では見つからないものであるか、異常発現する、例えば、非病原性細胞で見つかるレベルより少なくとも2倍高く発現するかのいずれかである。腫瘍細胞で特異的に見つかる抗原は、免疫系にとって異物に見える可能性があり、そのような抗原の存在は、形質転換した腫瘍細胞への免疫細胞の攻撃を引き起こす可能性がある。一部の抗原は、発癌性ウイルス、例えば、ヒトパピローマウイルスに由来する。ヒトパピローマウイルスは、子宮頸癌を引き起こす。異常発現タンパク質の1つの例は、チロシナーゼと呼ばれる酵素であり、これは、大量に発現した場合、或る種の皮膚細胞(例えば、メラニン細胞)を、黒色腫と呼ばれる腫瘍に変換する。腫瘍抗原源として可能性のある別のものは、通常は細胞の増殖及び生存の調節に重要であるが、癌遺伝子と呼ばれる分子に変異するタンパク質であり、この分子が癌を引き起こす場合が多い。しかしながら、自然免疫応答が腫瘍の排除に失敗することが多く、治療的介入は、至急必要とされている。
【0168】
腫瘍に対する免疫系の主な反応は、キラーT細胞、場合によってはヘルパーT細胞の助けを借りて異常細胞を破壊することである。腫瘍抗原は、ウイルス抗原と同様なやり方で、MHCクラスI分子に提示される。これにより、キラーT細胞は、腫瘍細胞を異常と認識することが可能になる。NK細胞も、同様なやり方で腫瘍細胞を殺傷し、特に、腫瘍細胞が、正常な場合よりも少ないMHCクラスI分子をその表面に有する場合にそうである。これは、腫瘍の共通現象である。一部の腫瘍細胞は、例えば、サイトカインTGF-βを分泌することにより、免疫応答を阻害する産物の放出も行う。TGF-βは、マクロファージ及びリンパ球の活性を抑制する。サイトカイン誘導型キラー細胞(CIK)は、T様及びNK様表現型のハイブリッドを呈する免疫エフェクター細胞のグループである。これらの細胞は、ヒト末梢血(PBMC)又は臍帯血由来の単核球を、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)、抗CD3抗体、組換えヒトインターロイキン(IL-)1、及び組換えヒトインターロイキン(IL)-2とともにex vivoでインキュベートすることにより、産生される。
【0169】
したがって、本発明は、本明細書に記載されるとおり、遺伝子改変免疫細胞、例えば、Tリンパ球、サイトカイン誘導型キラー細胞(CIK)、NK細胞において、腫瘍抗原、例えばCEAを指向させたキメラ抗原受容体(CAR)、チェックポイント阻害分子、及び免疫刺激性サイトカイン、例えばIL-15を同時発現させることにより、抗腫瘍免疫応答を可能にする及び/又は向上させる手段を提供する。
【0170】
免疫療法とは、本発明の文脈において、癌の治療に免疫系を利用する任意の治療薬を包含すると理解されるべきである。免疫療法は、癌細胞が、免疫系により検出することが可能な微妙に異なる分子を、その表面に有するという事実を利用する。こうした分子は、癌抗原として知られ、最も一般的にはタンパク質であるが、炭水化物、脂質、及びリポタンパク質等の分子も含む。免疫療法は、こうした抗原を標的として使用することにより、腫瘍細胞の攻撃において免疫系を誘発する又は向上させる。さらに、本発明は、例外的に、本明細書に記載されるCARを、免疫刺激性サイトカインと組み合わせてT細胞及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞の活性化及び増殖を誘導し、チェックポイント阻害分子と組み合わせて免疫系の内在性抗腫瘍活性を向上させる。
【0171】
免疫療法には、特に制限なく、細胞療法及び抗体療法が包含される。細胞療法は、典型的には、患者の血液又は腫瘍から単離された免疫細胞の投与が関与する。治療しようとする腫瘍を指向する免疫細胞が、活性化され、培養され、患者に戻されて、そこで、免疫細胞は、癌を攻撃する。このようにして使用することができる細胞型としては、特に制限なく、ナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性型キラー細胞、細胞傷害性T細胞、及び樹状細胞がある。樹状細胞療法は、樹状細胞に腫瘍抗原を提示させることにより、抗腫瘍反応を誘発する。樹状細胞は、リンパ球に対して抗原を提示し、このことが、リンパ球を活性化し、リンパ球を刺激して抗原を提示する他の細胞を殺傷させる。
【0172】
抗体とは、免疫系が産生する、細胞表面の標的抗原に結合するタンパク質である。癌抗原に結合するものは、癌治療に使用することができる。細胞表面受容体は、抗体療法の一般的な標的であり、そのような受容体として、例えば、CD19、CD44、CD20、CD274、及びCD279が挙げられる。いったん癌抗原に結合すると、抗体は、抗体依存性細胞性細胞傷害を誘導する、補体系を活性化する、又は受容体がそのリガンドと相互作用するのを阻止することができ、これらは全て、細胞死を招くことができる。複数の抗体が癌治療に承認されており、そのような抗体として、アレムツズマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、オファツムマブ、及びリツキシマブが挙げられる。
【0173】
抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)は、標的の細胞表面に結合するために抗体を必要とする、免疫系による攻撃の機構である。抗体は、結合領域(Fab)及びFc領域で形成され、免疫細胞は、Fc表面受容体を介して、Fc領域を検出することができる。Fc受容体は、ナチュラルキラー細胞をはじめとする多くの免疫系細胞で見つかる。ナチュラルキラー細胞が抗体をまとった細胞に遭遇すると、抗体のFc領域がナチュラルキラー細胞のFc受容体と相互作用し、パーフォリン及びグランザイムBの放出を招く。これら2種の化学物質は、腫瘍細胞でプログラム細胞死(アポトーシス)を起こす。有効な抗体として、リツキシマブ、オファツムマブ、及びアレムツズマブが挙げられる。
【0174】
補体系には、抗体が細胞表面に結合した後、細胞死を引き起こすことができる血液タンパク質が含まれる。一般に、補体系は、外来性病原体を扱うが、癌においては治療用抗体で活性化させることができる。抗体がIgG1のFc領域を有する限り、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体であれば、補体系の引き金を引くことができる。補体は、膜侵襲複合体の活性化(補体依存性細胞傷害として知られる);抗体依存性細胞性細胞傷害の向上;及びCR3依存性細胞性細胞傷害により、細胞死を招くことができる。補体依存性細胞傷害は、抗体が癌細胞表面に結合し、C1複合体がこれらの抗体に結合し、続いてタンパク質孔が癌細胞膜に形成されると、生じる。
【0175】
本発明のCARは、免疫刺激導入遺伝子サイトカイン及び内在性抗腫瘍活性賦活(boosting)チェックポイント阻害分子との組み合わせに由来するそれらの独自の特性を通じて、本明細書に記載される免疫療法を可能にする及び/又は向上させることができる。
【0176】
キメラ抗原受容体
本発明によれば、キメラ抗原受容体(CAR)は、標的抗原に結合する抗体又は抗体断片を含む細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを含む。CARは、通常、抗体に由来する細胞外エクトドメイン(extracellularectodomain)(抗原結合ドメイン)及びT細胞のシグナル伝達タンパク質に由来するシグナル伝達モジュールを含むエンドドメインを含むと記載される。
【0177】
好ましい一実施の形態において、エクトドメインは、好ましくは、単鎖可変断片(scFv)として構成される免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖からできた可変領域を含む。そのscFvは、好ましくは、柔軟性を与え、かつアンカー型膜貫通部を通じて細胞内シグナル伝達ドメインへとシグナルを伝達するヒンジ領域に結合される。該膜貫通ドメインは、好ましくはCD8a又はCD28に由来する。第一世代のCARにおいては、シグナル伝達ドメインは、TCR複合体のゼータ鎖からなる。用語「世代」とは、細胞内シグナル伝達ドメインの構造に対するものである。第二世代のCARは、CD28又は4-1BBに由来する単一の共刺激ドメインを備えている。第三世代のCARは、既に2個の共刺激ドメイン、例えばCD28、4-1BB、ICOS又はOX40、CD3ζを含む。本発明は、好ましくは第二世代のCAR又は第三世代のCARに関する。
【0178】
様々な実施の形態において、免疫エフェクター細胞の細胞傷害性をB細胞に再方向付け(redirect:リダイレクト)する遺伝子操作された受容体が提供される。これらの遺伝子操作された受容体を、本明細書においてはキメラ抗原受容体(CAR)と呼称した。CARは、所望の抗原(例えば、CEA)についての抗体に基づく特異性と、T細胞受容体活性化細胞内ドメインとを兼ね備える分子であり、特異的抗CEA細胞免疫活性を示すキメラタンパク質が生成される。本明細書において使用する場合、用語「キメラ」は、異なる起源からの異なるタンパク質又はDNAの部分から構成されることを説明している。
【0179】
本明細書において企図されるCARは、CEA、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメイン、又は細胞内シグナル伝達ドメインに結合する細胞外ドメイン(結合ドメイン又は抗原結合ドメインとも呼ばれる)を含む。CARの抗CEA抗原結合ドメインが、CEAと標的細胞の表面上で嵌り合うことで、CARのクラスター形成がもたらされ、CARを含む細胞に活性化刺激が伝えられる。CARの主要な特性は、CARが免疫エフェクター細胞の特異性を再方向付けする能力であり、それにより増殖、サイトカイン産生、食作用、又は標的抗原発現細胞の細胞死を主要組織適合複合体(MHC)とは独立して媒介し得る分子の産生が惹起され、こうしてモノクローナル抗体、可溶性リガンド、又は細胞特異的補助受容体の細胞特異的標的化能が活用される。
【0180】
様々な実施の形態において、CARは、ヒト化CEA特異的結合ドメインを含む細胞外結合ドメイン、膜貫通ドメイン、1個以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。特定の実施の形態において、CARは、ヒト化抗CEA抗体又はその抗原結合断片を含む細胞外結合ドメイン、1個以上のスペーサードメイン、膜貫通ドメイン、1個以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。「細胞外抗原結合ドメイン」又は「細胞外結合ドメイン」は、互換的に使用され、関心対象となる標的抗原、すなわちCEAに特異的に結合する能力をCARに与える。該結合ドメインは、天然源、合成源、半合成源、又は組換え源のいずれかから誘導され得る。好ましくは、scFvドメインである。
【0181】
「特異的結合」は、結合及び結合特異性の試験に使用することができる様々な実験手順を、当業者であれば明らかに認識するものと当業者には解釈されるべきである。平衡会合定数又は平衡解離定数の測定方法は当該技術分野で知られている。幾つかの交差反応又はバックグラウンド結合は、多くのタンパク質間相互作用において不可避である場合があり、これは、CAR及びエピトープの間の結合の「特異性」から減じられるべきではない。「特異的結合」は、抗CEA抗体又はその抗原結合断片(又はそれを含むCAR)のCEAへの、バックグラウンド結合よりも大きな結合親和性での結合を説明している。用語「~に対して指向する(directed against)」は、用語「特異性」を考慮する場合に、抗体及びエピトープの間の相互作用の理解において適用することもできる。
【0182】
「抗原(Ag)」は、動物における抗体の産生又はT細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、又は物質を指す。特定の実施の形態において、標的抗原は、CEAポリペプチドのエピトープである。「エピトープ」とは、結合性作用物質が結合する抗原の領域を指す。エピトープは、タンパク質の三次折り畳みにより並置される隣接アミノ酸又は非隣接アミノ酸の両方から形成され得る。
【0183】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメイン及びVLドメインを含み、その際、これらのドメインは、単独のポリペプチド鎖で、どちらか一方の向き(例えば、VL-VH又はVH-VL)で存在する。一般的に、scFvポリペプチドは、scFvが抗原結合のために望ましい構造を形成可能にするVHドメイン及びVLドメインの間のポリペプチドリンカーを更に含む。好ましい実施の形態において、本明細書において企図されるCARは、scFvであり、かつマウス、ヒト又はヒト化されたscFvであり得る抗原特異的結合ドメインを含む。単鎖抗体は、所望の標的に特異的なハイブリドーマのV領域遺伝子からクローニングすることができる。
【0184】
特定の実施の形態において、該抗原特異的結合ドメインは、ヒトCEAポリペプチドに結合するヒト化されたscFvである。本明細書において企図される抗CEA CARを構築するのに好適な可変重鎖の実例としては、限定されるものではないが、配列番号19に記載されるアミノ酸配列が挙げられる。本明細書において企図される抗CEA CARを構築するのに好適な可変軽鎖の実例としては、限定されるものではないが、配列番号15に記載されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0185】
抗体及び抗体断片
CARは、好ましくはCEAポリペプチドに結合する抗体又は抗体断片を含む細胞外抗原結合ドメインを含む。したがって、本発明の抗体又は抗体断片としては、限定されるものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体、単鎖断片(scFv)、単鎖可変断片(ssFv)、単一ドメイン抗体(例えば、ナノボディ由来のVHH断片)、Fab断片、F(ab')2断片、Fab発現ライブラリーにより生成される断片、抗イディオタイプ抗体、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片又はその組合せが挙げられ、ただし、それらは、好ましくは本明細書に記載される対応するCDR、又はVH及びVL領域を含む本明細書に記載されるCARと同程度の結合特性を保持する。またダイアボディ、トリアボディ、四価抗体、及びペプタボディ(peptabodies)等のミニ抗体及び多価抗体が、本発明の方法において使用され得る。本発明の免疫グロブリン分子は、任意のクラス(すなわちIgG、IgE、IgM、IgD、及びIgA)又はサブクラス免疫のグロブリン分子であり得る。したがって、本明細書において使用する場合、抗体という用語は、全長抗体の改変により生成されたか、又は組換えDNA法を使用して新たに合成されたかのいずれかである、本発明のCARにより含まれる抗体及び抗体断片を包含する。
【0186】
本明細書において使用する場合、「抗体」は、一般に、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる1種以上のポリペプチドからなるタンパク質を指す。用語「抗体」が使用される場合、用語「抗体断片」も指すとみなされ得る。知られている免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、ε、及びμ定常領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖はκ又はλに分類される。重鎖はγ、μ、α、δ、又はεに分類され、これらはまた、それぞれ、免疫グロブリンクラスであるIgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEを規定する。基本的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体又は二量体を含むことが知られている。各四量体は、2対の同一のポリペプチド鎖から構成され、各対が1本の「軽」(L)鎖(約25 kD)及び1本の「重」(H)鎖(約50 kD~70 kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識を担う、約100アミノ酸~110アミノ酸以上の可変領域を規定する。用語「可変軽鎖」及び「可変重鎖」は、それぞれ軽鎖及び重鎖のこれらの可変領域を指す。任意に、抗体又は抗体の免疫学的部分は、他のタンパク質と化学的にコンジュゲートされ得るか、又は他のタンパク質との融合タンパク質として発現され得る。
【0187】
本発明のCARは、哺乳動物、特にヒトのタンパク質標的に対して結合することを目的とする。使用されるタンパク質名は、マウス又はヒトバージョンのタンパク質のいずれかに対応し得る。
【0188】
本開示による結合ドメインポリペプチド及びCARタンパク質の親和性は、従来技術を使用して、例えば、競合ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)により、又は標識されたリガンドを使用した若しくはBiacore等の表面プラズモン共鳴デバイスを使用した結合会合アッセイ、若しくは置換アッセイにより容易に決定され得る。
【0189】
本発明の抗体の1つ以上のCDR又は該抗体に由来する1つ以上のCDRを含むヒト化抗体は、当該技術分野で既知の任意の方法を用いて作製することができる。例えば、4つの一般的工程を用いてモノクローナル抗体をヒト化することができる。これらの工程は、(1)出発抗体の軽鎖及び重鎖可変ドメインのヌクレオチド及び予測アミノ酸配列を決定すること、(2)ヒト化抗体を設計すること、すなわちどの抗体フレームワーク領域をヒト化プロセスに使用するかを決定すること、(3)実際のヒト化方法論/技法、並びに(4)ヒト化抗体の形質移入及び発現である。例えば米国特許第4,816,567号、同第5,807,715号、同第5,866,692号、同第6,331,415号、同第5,530,101号、同第5,693,761号、同第5,693,762号、同第5,585,089号、同第6,180,370号、同第5,225,539号、同第6,548,640号を参照のこと。
【0190】
ヒト化抗体という用語は、免疫グロブリンのフレームワーク領域の少なくとも一部及び任意にCDR領域又は結合に関与する他の領域の一部がヒト免疫グロブリン配列に由来するか、又はヒト免疫グロブリン配列に適合されていることを意味する。ヒト化、キメラ又は部分ヒト化バージョンのマウスモノクローナル抗体は、H鎖及びL鎖をコードするマウス及び/又はヒトゲノムDNA配列、又はH鎖及びL鎖をコードするcDNAクローンから逸脱して、例えば組換えDNA技術を用いて作製することができる。マウス抗体のヒト化形態は、組換えDNA法により非ヒト抗体のCDR領域をヒト定常領域に連結することによって生成することができる(Queen et al., 1989、国際公開第90/07861号)。代替的には、本発明の方法に使用されるモノクローナル抗体はヒトモノクローナル抗体であってもよい。ヒト抗体は例えばファージディスプレイ法(国際公開第91/17271号、国際公開第92/01047号)を用いて得ることができる。
【0191】
本明細書において使用する場合、ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する特定のキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はその断片(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、又は抗体の他の抗原結合部分配列(subsequences)等)である非ヒト(例えばネズミ、ラクダ、ラマ、サメ)抗体の形態も指す。
【0192】
本明細書において使用する場合、ヒト抗体若しくはヒト化抗体又はヒト抗体断片若しくはヒト化抗体断片は、ヒトによって産生される抗体に対応するアミノ酸配列を有し、及び/又は当該技術分野で既知の若しくは本明細書に開示されるヒト抗体を作製する技法のいずれかを用いて作製された抗体を意味する。ヒト抗体又はその断片は競合的結合実験又は別の形で、特定のマウス抗体と同じエピトープ特異性を有するように選択することができる。本発明のヒト化抗体は驚くべきことに、マウス抗体とかなりの程度まで共通の有用な機能特性を有する。ヒトポリクローナル抗体は免疫原(immunogenic agent)で免疫化したヒトから血清の形態で得ることもできる。任意に、かかるポリクローナル抗体は、アミロイド原線維及び/又は非線維性ポリペプチド若しくはその断片を親和性試薬として使用した親和性精製によって濃縮することができる。モノクローナル抗体は国際公開第99/60846号に記載の技法に従って血清から得ることができる。
【0193】
可変領域及びCDR
抗体の可変領域は、単独又は組合せでの抗体軽鎖の可変領域又は抗体重鎖の可変領域を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域は各々、超可変領域としても知られる3つの相補性決定領域(CDR)によって接続した4つのフレームワーク領域(FR)からなる。各鎖におけるCDRは、FRによってごく接近して結び付けられ、他の鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。
【0194】
CDRを決定するのに利用可能な多数の技法、例えば、種間配列変異性に基づくアプローチ(すなわち、Kabat et al. Sequences of Proteinsof Immunological Interest, (5th ed., 1991, National Institutes of Health,Bethesda Md.))、及び抗原抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Al-Lazikani et al.(1997) J. Molec. Biol. 273:927-948)がある。代替的手法としては、IMGT(国際免疫遺伝学(international ImMunoGeneTics))情報システムが挙げられる(Marie-Paule Lefranc)。Kabat定義は、配列多様性に基づいており、最も一般的に使用される方法である。Chothia定義は、構造ループ領域の位置に基づいており、ここで、AbM定義は、2つの間の折衷案であり、Oxford Molecular社のAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される(www.bioinf.org.uk:Dr. Andrew C.R. Martinのグループを参照のこと)。本明細書において使用する場合、CDRは、1つ以上の手法により、又はこれらの手法の組合せにより定義されるCDRを指すことができる。
【0195】
幾つかの実施の形態において、本発明は、CARに組み込まれる抗体又はその断片を提供し、該抗体又はその断片は、本発明の抗体の少なくとも1つのCDR、少なくとも2つ、少なくとも3つ又はそれ以上のCDRと実質的に同一の少なくとも1つのCDR、少なくとも2つ、少なくとも3つ又はそれ以上のCDRを含む。他の実施の形態は、本発明の抗体の又は本発明の抗体に由来する少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのCDRと実質的に同一の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのCDRを有する抗体を含む。幾つかの実施の形態において、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのCDRは、本発明の抗体の少なくとも1つ、2つ又は3つのCDRと少なくとも約70%、75%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一である。本発明の目的上、活性の程度は上記抗体と比較して異なる(より大きい又は小さい)場合があるが、結合特異性及び/又は全体活性は概して保持されることが理解される。
【0196】
CARの追加的構成要素
或る特定の実施の形態において、本明細書において企図されるCARは、様々なドメインの間に、分子の適切な間隔及び立体構造のために追加されるリンカー残基、例えば、VH及びVLドメインを連結し、2つのサブ結合ドメインの相互作用と両立するスペーサー機能を提供するアミノ酸配列を含むリンカーを含み得るため、得られるポリペプチドは、同一の軽鎖及び重鎖可変領域を含む抗体と同一の標的分子に対する特異的な結合親和性を保持する。本明細書において企図されるCARは、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ以上のリンカーを含み得る。特定の実施の形態において、リンカーの長さは、約1アミノ酸~約25アミノ酸、約5アミノ酸~約20アミノ酸、若しくは約10アミノ酸~約20アミノ酸、又は任意の中間の長さのアミノ酸である。リンカーの実例としては、グリシンポリマー、グリシン-セリンポリマー、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び当該技術分野において既知の他の可動性リンカー、例えば、Whitlowリンカーが挙げられる。グリシンポリマー及びグリシン-セリンポリマーは、相対的に不定形であり、したがって、本明細書に記載されるCAR等の融合タンパク質のドメイン間の中立的なテザーとして機能することができ得る。特定の実施の形態において、CARの結合ドメインの後に1つ以上の「スペーサー」又は「スペーサーポリペプチド」が続き、これらは、抗原結合ドメインをエフェクター細胞表面から遠ざけて、適切な細胞間接触、抗原結合、及び活性化を可能にする領域を指す。或る特定の実施の形態において、スペーサードメインは、限定されるものではないが、1つ以上の重鎖定常領域、例えば、CH2及びCH3が挙げられる、免疫グロブリンの一部である。スペーサードメインは、天然に存在する免疫グロブリンヒンジ領域又は改変された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含み得る。一実施の形態において、スペーサードメインは、IgG1又はIgG4のCH2及びCH3ドメインを含む。一実施の形態において、このようなスペーサー/ヒンジ領域のFc結合ドメインは、マクロファージ及び他の自然免疫細胞上に発現されるFc受容体へのCARの結合を防止するように変異される。
【0197】
幾つかの実施の形態において、CARの結合ドメインの後に1つ以上の「ヒンジドメイン」が続き、これは、抗原結合ドメインをエフェクター細胞表面から離して配置して、適切な細胞間接触、抗原結合、及び活性化を可能にすることに関与する。CARは、結合ドメインと膜貫通ドメイン(TM)との間に1つ以上のヒンジドメインを含み得る。ヒンジドメインは、天然源、合成源、半合成源、又は組換え源のいずれかに由来し得る。ヒンジドメインは、天然に存在する免疫グロブリンヒンジ領域又は改変された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含み得る。本明細書に記載されるCARに使用するのに好適な例示的なヒンジドメインとしては、1型膜タンパク質、例えば、CD8α、CD4、CD28、PD1、CD 152、及びCD7の細胞外領域に由来するヒンジ領域が挙げられ、これは、これらの分子由来の野生型ヒンジ領域であってもよく、改変されてもよい。別の実施の形態において、ヒンジドメインは、PD1、CD 152、又はCD8αのヒンジ領域を含む。
【0198】
「膜貫通ドメイン」は、細胞外結合部分及び細胞内シグナル伝達ドメインを融合し、CARを免疫エフェクター細胞の形質膜に固定するCARの一部である。TMドメインは、天然源、合成源、半合成源、又は組換え源のいずれかに由来し得る。TMドメインは、T細胞受容体であるCD3s、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、及びPD1のα、β、又はζ鎖に由来し得る。一実施の形態において、本明細書において企図されるCARは、CD8α又はCD28に由来するTMドメインを含む。
【0199】
特定の実施の形態において、本明細書において企図されるCARは、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、ヒトCEAポリペプチドへの有効な抗CEA CAR結合の情報を免疫エフェクター細胞の内部に伝達して、エフェクター細胞機能、例えば、活性化、サイトカイン産生、増殖、及びCARに結合した標的細胞への細胞傷害性因子の放出、又はCARの細胞外ドメインへの抗原結合により誘発される他の細胞応答を含む細胞傷害活性の誘発に関与するCARの一部を指す。用語「エフェクター機能」は、免疫エフェクター細胞の特殊な機能を指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性又はサイトカインの分泌を含む活性の補助であり得る。したがって、用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター機能シグナルを伝達し、特殊な機能を実行するように細胞に指示するタンパク質の一部を指す。本明細書において企図されるCARは、CAR受容体を発現するT細胞の効力、増殖、及び/又は記憶形成を増強する1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書において使用する場合、用語「共刺激シグナル伝達ドメイン」は、共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメインを指す。共刺激分子は、抗原に結合する際に、Tリンパ球の効率的な活性化及び機能に必要とされる第2のシグナルを提供する、抗原受容体又はFc受容体以外の細胞表面分子である。共刺激分子は、更に、有効な免疫応答に寄与する抗原受容体又はそのリガンドではない、細胞表面分子である。共刺激分子として、MHCクラスI分子、BTLA及びTollリガンド受容体、OX40、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、並びに4-1BB(CD137)が挙げられる。そのような共刺激分子の更なる例として挙げられるのは、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、NKp44、NKp30、NKp46、CD160、CD19、CD4、CD8アルファ、CD8ベータ、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Rアルファ、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、NKG2D、NKG2C、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD26)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、CD19a、及びCD83に特異的に結合するリガンドであるが、これらに限定されない。
【0200】
共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激分子の細胞内部分であることが可能である。一実施の形態において、CARは、共刺激ドメイン及びシグナル伝達(活性化)ドメインを含む細胞内ドメインを含む。したがって、CAR構築物は、天然のT細胞受容体複合体の細胞内シグナル伝達ドメイン(CD3ζ)及び第2のシグナルを提供して、完全なT細胞活性化を刺激する1つ以上の共刺激ドメインを含み得る。共刺激ドメインは、CAR-T細胞のサイトカイン産生を増加させ、T細胞の複製及びT細胞の持続性を促進すると考えられている。また共刺激ドメインは、CAR-T細胞の消耗を潜在的に防止し、T細胞の抗腫瘍活性を増加させ、患者におけるCAR-T細胞の生存を増強することも示された。非限定的な例として、4-1BB共刺激ドメインを有するCAR構築物は、前臨床研究において、緩徐な持続する増殖及びエフェクター機能、持続性の増加、並びにT細胞サブセット組成における豊富な記憶中心細胞(TCM)に関連付けられた。4-1BBは腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーに属し、主に抗原活性化CD4及びCD8 T細胞上で発現される、invivoで誘導性の糖タンパク質受容体である。非限定的な例としてのCD28は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーに属している。これは、休止及び活性化CD4及びCD8 T細胞上で恒常的に発現しており、PI3K-AKTシグナル伝達経路を刺激することによりT細胞活性化において決定的な役割を果たす。一実施の形態において、細胞内ドメインは、4-1BB及びCD28共刺激ドメインの両方を含む。他の共刺激ドメインとしては、CD3ζシグナル伝達(活性化)ドメインと組み合わせることができるICOS及びOX40が挙げられる。
【0201】
本明細書に記載されるサイトカインは、本明細書に指名されるサイトカインに相当する任意の哺乳類サイトカインに関連することができる。好ましくは、サイトカインは、ヒトサイトカイン、又はマウスサイトカインに関連する。癌免疫療法は、免疫系を刺激して、腫瘍を拒絶及び破壊しようと試みる。当初、免疫療法の治療は、本明細書に記載されるとおり、「インターロイキン」等のサイトカインの投与が含まれた。
【0202】
チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントモジュレーターとしても知られるが、これらは、チェックポイントタンパク質の有効性を低下させるように設計される。チェックポイント阻害剤は、様々な作用機序を有する可能性があるが、有効な場合には、免疫系に、癌細胞の表面の他の分子を認識させる。免疫応答のチェックポイント阻害剤は、以下からなる群より選択される:PD1、PD-L1、CTLA4、TIM3、CEACAM(例えば、CEACAM-1、CEACAM-3、及び/又はCEACAM-5)、LAG3、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4、CD80、CD86、B7-H3(CD276)、B7-H4(VTCN1)、HVEM(TNFRSF14又はCD270)、KIR、A2aR、MHCクラスI、MHCクラスII、GAL9、アデノシン、及びTGFRベータ。
【0203】
ポリペプチド
「ペプチド」、「ポリペプチド」、「ポリペプチド断片」、及び「タンパク質」は、特に明記しない限り、互換的に使用され、通常の意味に従って、すなわち、アミノ酸の配列として使用される。ポリペプチドは、特定の長さに限定されず、例えば、それらは全長タンパク質配列又は全長タンパク質の断片を含み得て、ポリペプチドの翻訳後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化等、並びに当該技術分野において既知の天然に存在する他の修飾及び天然に存在しない他の修飾の両方を含み得る。
【0204】
様々な実施の形態において、本明細書において企図されるCARポリペプチドは、翻訳時又は翻訳後にタンパク質の移送を指示するシグナル(又はリーダー)配列をタンパク質のN末端に含む。ポリペプチドは、種々のよく知られた組換え技術及び/又は合成技術のいずれかを使用して調製され得る。本明細書において企図されるポリペプチドは、具体的には、本開示のCAR、又は本明細書において開示されるCARからの欠失、それへの付加、及び/又はそれの1つ以上のアミノ酸の置換を有する配列を包含する。
【0205】
本明細書において使用される場合、「単離ペプチド」又は「単離ポリペプチド」等は、細胞環境から、及び細胞の他の成分との会合からの、ペプチド又はポリペプチド分子のin vitroでの単離及び/又は精製を指し、すなわち、それは、in vivoでの物質と著しく会合していない。同様に、「単離細胞」は、組織又は器官からin vivoで得られた細胞を指し、細胞外マトリックスを実質的に含まない。
【0206】
核酸
本明細書において使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」又は「核酸分子」は、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムRNA(gRNA)、プラス鎖RNA(RNA(+))、マイナス鎖RNA(RNA(-))、ゲノムDNA(gDNA)、相補的DNA(cDNA)、又は組換えDNAを指す。ポリヌクレオチドは、単鎖及び二本鎖ポリヌクレオチドを含む。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、本明細書に記載される参照配列のいずれかに対する少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するポリヌクレオチド又はバリアントを含み、ここで、該バリアントは、通常、参照配列の少なくとも1つの生物活性を保持する。様々な例示的実施の形態において、本発明は、部分的に、発現ベクター、ウイルスベクター、及び導入プラスミドを含むポリヌクレオチド、並びに組成物、並びにそれを含む細胞を企図する。ポリヌクレオチドは、当該技術分野において既知かつ利用可能な種々の確立されている技術のいずれかを使用して調製、操作、及び/又は発現され得る。所望のポリペプチドを発現させるために、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が適切なベクターに挿入され得る。ベクターの例は、プラスミド、自己複製配列、及び転移因子である。更なる例示的なベクターとしては、限定されるものではないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、又はP1由来の人工染色体(PAC)等の人工染色体、ラムダファージ又はM13ファージ等のバクテリオファージ、及び動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして有用な動物ウイルスのカテゴリーの例としては、限定されるものではないが、レトロウイルス(レンチウイルスが含まれる)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、及びパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。発現ベクターの例は、哺乳動物細胞での発現のためのpClneoベクター(Promega社);哺乳動物細胞でのレンチウイルスにより媒介される遺伝子移入及び発現のためのpLenti4/V5-DEST(商標)、pLenti6/V5-DEST(商標)、及びpLenti6.2/V5-GW/lacZ(Invitrogen社)である。特定の実施の形態において、本明細書において開示されるキメラタンパク質のコード配列は、哺乳動物細胞におけるキメラタンパク質の発現のためのかかる発現ベクターにライゲーションされ得る。発現ベクターに存在する「調節エレメント」又は「制御配列」は、宿主細胞のタンパク質と相互作用して、転写及び翻訳を実行する、ベクターの非翻訳領域、すなわち、複製開始点、選択カセット、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(シャイン・ダルガーノ配列又はコザック配列)、イントロン、ポリアデニル化配列、5'及び3'非翻訳領域である。かかるエレメントは、それらの強さ及び特異性が異なり得る。利用されるベクターシステム及び宿主に応じて、任意の数の好適な転写及び翻訳エレメント(ユビキタスプロモーター及び誘導性プロモーターが挙げられる)が使用され得る。
【0207】
ベクター
特定の実施の形態において、細胞(例えば、T細胞等の免疫エフェクター細胞)は、CARをコードする、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、例えば、レンチウイルスベクターで形質導入される。例えば、免疫エフェクター細胞は、形質導入細胞がCAR介在型細胞傷害反応を誘発できるように、CEAポリペプチドに結合するヒト化抗CEA抗体又は抗原結合断片を、膜貫通及び細胞内シグナル伝達ドメインとともに含む、CARをコードするベクターで形質導入される。
【0208】
幾つかの実施の形態において、本発明の特定の利点は、本発明の組換え核酸構築物の遺伝子移入にAAVを使用することであり、AAVが、invivoで高い安全性及び形質導入効率を有することを理由とする。AAVのバリアント、例えば、AAV及びカプシドバリアントは、所望のすなわち治療効果を提供し、それにより様々な疾患を治療するポリヌクレオチド及び/又はタンパク質を提供する又は移入することができる。例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74、又はAAV-2i8、及びそれらのバリアント、並びにAAVカプシドバリアント(例えば4-1)は、細胞、組織、及び臓器を治療する治療用遺伝子を提供するのに有用なベクターである。ベクターゲノム(ウイルス又はAAV)(カプシド形成する(encapside and encapsidate))を含有する本発明の組換えウイルス及びAAVベクターは、シス又はトランスで機能する追加因子を含有する。AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74、若しくはAAV-2i8 AAVカプシド配列を含む群から選択され、又はAAV1、AAV2、AAV3カプシドバリアント、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74、若しくはAAV-2i8が含まれる。
【0209】
レトロウイルスは、遺伝子送達の一般的なツールである。特定の実施の形態において、レトロウイルスは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを細胞に送達するために使用される。本明細書において使用される場合、用語「レトロウイルス」は、そのゲノムRNAを線状二本鎖DNAコピーに逆転写し、その後、宿主ゲノムにそのゲノムDNAを共有結合的に組み込むRNAウイルスを指す。一旦ウイルスが宿主ゲノムに組み込まれると、それは「プロウイルス」と称される。プロウイルスは、RNAポリメラーゼIIのテンプレートとして機能し、新たなウイルス粒子を生成するために必要とされる構造タンパク質及び酵素をコードするRNA分子の発現を指示する。
【0210】
特定の実施の形態に使用するのに好適な例示的レトロウイルスとしては、限定されるものではないが、以下が挙げられる:モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、及びラウス肉腫ウイルス(RSV)、及びレンチウイルス。本明細書において使用される場合、用語「レンチウイルス」は、複合レトロウイルスの一群(又は一属)を指す。例示的なレンチウイルスは、限定されるものではないが、以下が挙げられる:HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV 1型及びHIV 2型が挙げられる)、ビスナ・マエディウイルス(VMV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)。一実施の形態において、HIVベースのベクター骨格(すなわち、HIVシス作用配列エレメント)が好ましい。特定の実施の形態において、CARを含むポリヌクレオチドを細胞に送達するためにレンチウイルスが使用される。
【0211】
本明細書において使用される用語「ベクター」は、別の核酸分子を導入又は運搬することができる核酸分子を指す。導入される核酸は、一般に、ベクター核酸分子に連結、例えば、挿入される。ベクターは、細胞において自律複製を指示する配列を含み得るか、又は宿主細胞DNAへの組込みを可能にするのに十分な配列を含み得る。有用なベクターとしては、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミド又はRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌人工染色体、及びウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとしては、例えば、複製欠損レトロウイルス及びレンチウイルスが挙げられる。本発明の更なる実施の形態において、CEA CARをコードする核酸のCrispR/Cas及びTALENにより媒介される挿入が用いられ得る。CrispR/Cas及びTALENにより媒介される挿入のための適切なベクターは、当業者に既知である。
【0212】
当業者に明白であるように、用語「ウイルスベクター」は、通常、核酸分子の導入又は細胞のゲノムへの組込みを促進するウイルス由来の核酸エレメントを含む核酸分子(例えば、導入プラスミド)、又は核酸の導入を媒介するウイルス粒子のいずれかを指すために広く使用される。ウイルス粒子は、通常、核酸(複数の場合もある)に加えて、様々なウイルス成分及び場合により、宿主細胞成分も含む。
【0213】
ウイルスベクターという用語は、細胞に核酸を導入することができるウイルス若しくはウイルス粒子又は導入された核酸自体のいずれかを指し得る。ウイルスベクター及び導入プラスミドは、主にウイルスに由来する構造的及び/又は機能的な遺伝的エレメントを含有する。用語「レトロウイルスベクター」は、主にレトロウイルスに由来する構造的及び機能的な遺伝的エレメント又はその一部を含有するウイルスベクター又はプラスミドを指す。
【0214】
したがって、好ましい実施の形態において、本発明は、CARをコードする発現ベクターで細胞を形質移入する方法に関する。例えば、幾つかの実施の形態において、ベクターは、追加の配列、例えば、CARの発現を促進する配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリAシグナル、及び/又は1つ以上のイントロンを含む。好ましい実施の形態において、CARをコードする配列は、トランスポゾン配列と隣接しており、その結果、トランスポザーゼの存在が、形質移入された細胞のゲノムにコード配列が組み込まれるのを可能にする。
【0215】
好適な実施の形態において、本発明は、したがって、電気穿孔法を用いて、CARをコードする発現ベクターで細胞に形質移入する方法に関する。電気穿孔法は、物理的方法であり、これは、細胞に電気ショックを与えることにより、細胞膜に孔を生じさせる。こうした孔は、細胞中への物質の拡散の増大を可能にする。この増大した透過性が、より容易な形質移入を可能にする。
【0216】
ソノポレーションは、細胞膜を刺激するのに超音波を使用する以外は、電気穿孔法と類似している。超音波も、細胞を取り囲む流体に乱流を生じさせ、これが、膜を横断する拡散率を上昇させる。
【0217】
好適な実施の形態において、本発明は、したがって、化学的形質移入を用いて、CARをコードする発現ベクターで細胞に形質移入する方法に関する。化学的形質移入は、リン酸カルシウム形質移入を指し、これは、当業者に既知である。リン酸カルシウム形質移入は、DNAに結合したリン酸カルシウムを使用する(A Watson and D Latchman,''Gene Delivery into Neuronal Cells by Calcium Phosphate-Mediated Transfection'',Methods, Volume 10, Issue 3, December 1996, Pages 289-291)。遺伝子治療において、治療用ポリヌクレオチドの形質移入用作用剤として、リン酸カルシウム粒子を使用することが示唆されてきた。米国特許第5,460,831号を参照。DNA又はRNAを粒子核に結合させて標的細胞に送達することで、治療タンパク質の発現をもたらす。
【0218】
幾つかの実施の形態において、遺伝的に形質転換された細胞は、CARをコードする配列の形質移入された細胞のゲノムへの組込みを促進するトランスポザーゼにより更に形質移入される。幾つかの実施の形態において、トランスポザーゼは、DNA発現ベクターとして提供される。しかしながら、好ましい実施の形態において、トランスポザーゼは、トランスポザーゼの長期的発現が遺伝子導入細胞で発生しないように、発現可能なRNA又はタンパク質として提供される。例えば、幾つかの実施の形態において、トランスポザーゼは、mRNA(例えば、キャップ及びポリA尾部を含むmRNA)として提供される。任意のトランスポザーゼシステムが、本発明の実施の形態に従って使用され得る。しかしながら、幾つかの実施の形態において、トランスポザーゼは、サケ科型Tel様トランスポザーゼ(SB)である。例えば、トランスポザーゼは、いわゆる「スリーピングビューティー」トランスポザーゼであり得る(例えば、引用することにより本明細書の一部をなす米国特許第6,489,458号を参照のこと)。幾つかの実施の形態において、トランスポザーゼは、増加した酵素活性を有する遺伝子操作された酵素である。トランスポザーゼの幾つかの具体例としては、限定されるものではないが、SB 10、SB 11、又はSB100Xトランスポザーゼが挙げられる(例えば、引用することにより本明細書の一部をなす、Mates et al, 2009, Nat Genet. 41(6):753-61又は米国特許第9228180号を参照のこと)。例えば、方法は、SB 10、SB 11、又はSB 100XトランスポザーゼをコードするmRNAと共に細胞をエレクトロポレーションすることを含み得る。
【0219】
配列バリアント:
例えば%配列同一性によって規定され、本発明の類似の結合特性を維持する特許請求される核酸、タンパク質、抗体、抗体断片及び/又はCARの配列バリアントも本発明の範囲内に含まれる。代替配列を示すが、提示される特定の配列と本質的に同じ標的特異性等の結合特性を維持するこのようなバリアントは機能的類似体として、又は機能的に類似しているとして既知である。
【0220】
配列同一性は、配列アラインメントを行った場合の同一のヌクレオチド又はアミノ酸のパーセンテージに関する。
【0221】
本明細書において使用される場合、「配列同一性」という記載は、ヌクレオチド単位ベース又はアミノ酸単位ベースで比較ウインドウにわたって配列が同一である程度を指す。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアラインメントした配列を比較ウインドウにわたって比較すること、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)又は同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、Cys、及びMet)が両方の配列に見出される位置の数を決定して、一致した位置の数を得ること、一致した位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数(すなわち、ウインドウサイズ)で割ること、及び結果に100を乗じて、配列同一性のパーセンテージを得ることにより計算され得る。本明細書に記載される参照配列のいずれかに対する少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド及びポリペプチドが含まれ、ここで、ポリペプチドバリアントは、通常、参照ポリペプチドの少なくとも1つの生物活性を保持する。
【0222】
遺伝暗号の縮重の結果として、本明細書に記載されるポリペプチドをコードする多くのヌクレオチド配列が存在することが当業者には理解されるであろう。これらのポリヌクレオチドの一部は、任意のネイティブ遺伝子のヌクレオチド配列に対して最小の相同性又は配列同一性を保有する。それにもかかわらず、コドン使用頻度の差異によって変動するポリヌクレオチドは本発明によって具体的に企図される。記載の配列同一性に該当する欠失、置換及び配列中の他の変化も本発明に包含される。
【0223】
置換によって生じ得るタンパク質配列修飾も本発明の範囲内に含まれる。本明細書で規定される置換はタンパク質のアミノ酸配列に対して行われる修飾であり、1つ以上のアミノ酸が同じ数の(異なる)アミノ酸で置き換えられ、一次タンパク質とは異なるアミノ酸配列を含有するタンパク質が生じる。好ましくはタンパク質の機能が顕著に変更されることがない置換が行われ得る。付加と同様、置換は天然又は人為的なものであり得る。タンパク質の機能を顕著に変更することなくアミノ酸置換を行うことができることは当該技術分野で既知である。これは修飾が同様の特性の別のアミノ酸への1つのアミノ酸の置換である「保存的」アミノ酸置換に関する場合に特に当てはまる。かかる「保存」アミノ酸はサイズ、電荷、極性及び立体構造のために、タンパク質の構造及び機能に顕著に影響を及ぼすことなく置換され得る天然又は合成アミノ酸であり得る。多くのアミノ酸がタンパク質の機能に有害な影響を及ぼすことなく保存的アミノ酸によって置換され得ることが多い。
【0224】
概して、非極性アミノ酸Gly、Ala、Val、Ile及びLeu、非極性芳香族アミノ酸Phe、Trp及びTyr、中性極性アミノ酸Ser、Thr、Cys、Gln、Asn及びMet、正電荷アミノ酸Lys、Arg及びHis、負電荷アミノ酸Asp及びGluが保存的アミノ酸群である。このリストは包括的なものではない。例えばAla、Gly、Ser、場合によってCysは異なる群に属するにもかかわらず互いに置き換えることができることが既知である。
【0225】
置換バリアントでは、抗体分子中の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、異なる残基がその位置に挿入されている。置換変異導入に最も興味深い部位として超可変領域が挙げられるが、フレームワークの変更も企図される。かかる置換により生物活性の変化が生じる場合、真下の表で「例示的置換」と称されるか、又はアミノ酸クラスに関連して下記で更に説明されるより大きな変化が導入される可能性があり、生成物がスクリーニングされる。
【0226】
潜在的アミノ酸置換:
【表1】
【0227】
抗体の生物学的特性の実質的修飾は、(a)置換領域における、例えばシート若しくは螺旋構造としてのポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の電荷若しくは疎水性、又は(c)側鎖の大きさの維持に対する影響が顕著に異なる置換を選択することによって達成される。
【0228】
保存的アミノ酸置換は天然のアミノ酸に限定されず、合成アミノ酸も含む。一般に使用される合成アミノ酸は、中性非極性類似体である様々な鎖長のωアミノ酸及びシクロヘキシルアラニン、中性非極性類似体であるシトルリン及びメチオニンスルホキシド、芳香族中性類似体であるフェニルグリシン、負電荷類似体であるシステイン酸、並びに正電荷アミノ酸類似体であるオルニチンである。天然のアミノ酸と同様、このリストは包括的なものではなく、当該技術分野で既知の置換の例示にすぎない。
【0229】
遺伝子改変細胞及び免疫細胞
特定の実施の形態において、本発明は、病態の治療に使用される、本明細書において企図されるCARを発現するように遺伝子改変された細胞を企図する。本明細書で使用される場合、用語「遺伝子操作された」又は「遺伝子改変された」は、細胞の遺伝子材料全体へのDNA又はRNA形態の外部遺伝子材料の付加を指す。「遺伝子改変細胞」、「遺伝子改変免疫細胞」、「改変細胞」、及び「リダイレクト細胞(redirectedcells)」という用語は、同義で使用される。本明細書に使用される場合、「遺伝子治療」という用語は、遺伝子の発現を回復させる、補正する、若しくは変更する、又は治療用ポリペプチド、例えば、CARの発現を目的として、細胞中の全遺伝子材料にDNA又はRNA形態の外部遺伝子材料を永久的又は一時的に導入することを指す。特定の実施の形態において、本明細書に企図されるCARは、関心対象の標的抗原、例えば、CEAポリペプチドに免疫エフェクター細胞の特異性を向け直すために、免疫エフェクター細胞に導入され、免疫エフェクター細胞で発現する。
【0230】
「免疫細胞」又は「免疫エフェクター細胞」とは、1種以上のエフェクター機能(例えば、細胞傷害性細胞殺傷活性、サイトカイン分泌、ADCC及び/又はCDCの誘導)を有する、免疫系の任意の細胞である。免疫エフェクター細胞は、iPSC(人工多能性幹細胞)から分化することも可能であれば、ヒト末梢血及び/又はヒト臍帯血に由来することも可能である。
【0231】
iPSC細胞株は、公的供給機関及び細胞保存機関、例えば、NINDS Human Cell and DataRepository(https://stemcells.nindsgenetics.org/)から入手することも可能である。例えば、公開利用可能なiPCS細胞を、iPS細胞株NDS00159;NDS00249;NDS00250、NDS00251、NDS00252、NDS00253、NDS00254、NDS00255、NDS00256、NDS00257、NDS00258、NDS00259、NDS00260、NDS00261、NDS00262、NDS00263、ND50039の群から選択することができる。一実施の形態において、iPS細胞株NDS00159が使用される。
【0232】
本発明の免疫エフェクター細胞は、自家/自原性(autogeneic)(「自己」)又は非自家(「非自己」、例えば、同種、同系、又は異種)であり得る。本明細書で使用される場合、「自家」は、同一の対象由来の細胞を指し、本発明の好ましい実施の形態である。本明細書で使用される場合、「同種」は、比較される細胞と遺伝的に異なる同一の種の細胞を指す。
【0233】
本明細書で使用される場合、「同系」は、比較される細胞と遺伝的に同一である異なる対象の細胞を指す。本明細書で使用される場合、「異種」は、比較される細胞と異なる種の細胞を指す。好ましい実施の形態において、本発明の細胞は、自家又は同種である。本明細書において企図されるCARとともに使用される例示的な免疫エフェクター細胞としては、Tリンパ球が挙げられる。用語「T細胞」又は「Tリンパ球」は、当該技術分野において認められており、胸腺細胞、未成熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、休止Tリンパ球、サイトカイン誘導性キラー細胞(CIK細胞)、又は活性化Tリンパ球を包含することを意図する。サイトカイン誘導性キラー(CIK)細胞は、通常、CD3及びCD56陽性の非主要組織適合複合体(MHC)拘束性ナチュラルキラー(NK)様Tリンパ球である。T細胞は、Tヘルパー(Th;CD4+T細胞)細胞、例えば、Tヘルパー1(Th1)又はTヘルパー2(Th2)細胞であり得る。T細胞は、細胞傷害性T細胞(CTL;CD8+T細胞)、CD4+CD8+T細胞、CD4 CD8 T細胞、又は任意の他のサブセットのT細胞であり得る。
【0234】
本明細書に使用される場合、「不死化」は、無限回数の細胞周期で再生することが通常はないと思われる細胞集団としての不死化細胞を指す。変異により、不死細胞は、正常な細胞老化を回避し、その代わりに細胞増殖を行い続ける。この変異は、自然発生することも可能であれば、UV光、遺伝子操作、又はウイルス、毒素、若しくは細菌が細胞に進入することにより誘導することも可能である。したがって、この細胞は、実験目的、治療目的、又は医学的目的で、長期間にわたりin vitroで培養することが可能である。上記不死化免疫細胞として、K13、αβT細胞、γδT細胞、NK細胞、NK T細胞、NK-92及びYT細胞、幹細胞、又は幹細胞由来細胞が挙げられ、幹細胞由来細胞には、上記の免疫系の細胞、好ましくはNK T細胞、NK-92細胞、YT細胞、及びNK細胞が含まれる。不死化T細胞株は、その溶解機能を保持し得る。
【0235】
特定の実施の形態に使用するのに好適なT細胞の他の例示的集団としては、ナイーブT細胞及び記憶T細胞、並びに幹細胞様記憶細胞TSCMが挙げられる。
【0236】
例えば、自家細胞移植後に患者に再導入される場合、本明細書に記載される本発明のCARで改変されたT細胞は、腫瘍細胞を認識して、殺傷し得る。CIK細胞は、他のT細胞と比較して増強された細胞傷害活性を有し得るため、本発明の免疫細胞の好ましい実施の形態に相当する。
【0237】
当業者によって理解されるように、その他の細胞もまた、本明細書に記載されるCARとともに免疫エフェクター細胞として使用され得る。特に、免疫エフェクター細胞としては、NK細胞、NK T細胞、好中球、及びマクロファージも挙げられる。免疫エフェクター細胞としては、エフェクター細胞の前駆細胞も挙げられ、ここで、そのような前駆細胞を、in vivo又はin vitroで免疫エフェクター細胞に分化させるように誘導することができる。前駆細胞は、定義された培養条件下、免疫エフェクター細胞になるiPSCであることが可能である。本発明は、本明細書において企図されるCAR発現免疫エフェクター細胞を作製する方法を提供する。一実施の形態において、この方法は、免疫エフェクター細胞が本明細書に記載される1つ以上のCARを発現するように、個体から分離された免疫エフェクター細胞を形質移入又は形質導入することを含む。或る特定の実施の形態において、免疫エフェクター細胞は、個体から分離され、in vitroで更に操作せずに遺伝子改変される。そのような細胞を、その後に個体に直接再投与することができる。更なる実施の形態においては、免疫エフェクター細胞を、最初にin vitroで活性化及び刺激して増殖させた後に、CARを発現するように遺伝子改変する。これに関して、免疫エフェクター細胞は、遺伝子改変(すなわち、本明細書において企図されるCARを発現するように形質導入又は形質移入)する前及び/又はその後に培養され得る。
【0238】
特定の実施の形態において、本明細書に記載される免疫エフェクター細胞のin vitroでの操作又は遺伝子改変の前に、細胞供給源が対象から取得される。特定の実施の形態において、CAR改変免疫エフェクター細胞は、T細胞を含む。T細胞は、限定されるものではないが、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍が挙げられる多数の供給源から取得され得る。或る特定の実施の形態において、T細胞は、対象から採取された血液単位から、当業者に既知の任意の数の技術、例えば、沈降、例えば、FICOLL(商標)分離、抗体コンジュゲートビーズベースの方法、例えば、MACS(商標)分離(Miltenyi社)を使用して取得され得る。一実施の形態において、個体の循環血液由来の細胞がアフェレーシスにより取得される。アフェレーシス生成物は、通常、T細胞、単球、顆粒球、B細胞が含まれるリンパ球、他の有核白血球、赤血球、及び血小板を含有する。一実施の形態において、アフェレーシスにより採取された細胞は、血漿分画を除去するために、及びその後の処理のために細胞を適切な緩衝液又は培地中に入れるために洗浄され得る。細胞は、PBS又はカルシウム、マグネシウム、及び全てではないが、ほとんどの他の二価カチオンを欠く別の好適な溶液で洗浄され得る。当業者により認められるように、洗浄工程は、当業者に既知の方法により、例えば、半自動フロースルー遠心分離機を使用することにより達成され得る。例えば、Cobe 2991細胞処理装置、Baxter CytoMate等である。洗浄後、細胞は、種々の生体適合性の緩衝剤又は緩衝剤を含有する若しくは含有しない他の生理食塩液中に再懸濁され得る。或る特定の実施の形態において、アフェレーシス試料の望ましくない成分は、細胞が直接再懸濁された培養培地中で除去され得る。
【0239】
或る特定の実施の形態において、T細胞は、赤血球を溶解すること、及び例えば、PERCOLL(商標)勾配遠心分離により単球を除去することにより末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。T細胞の特定の亜集団が、ポジティブ又はネガティブセレクション技術により更に単離され得る。本明細書において使用される1つの方法は、負に選択される細胞に存在する細胞表面マーカーに対して指向されたモノクローナル抗体カクテルを使用するネガティブ磁気免疫付着又はフローサイトメトリーによる細胞選別及び/又は細胞選択である。
【0240】
PBMCは、本明細書において企図される方法を使用して、CARを発現するように直接遺伝子改変され得る。或る特定の実施の形態において、PBMCの単離後にTリンパ球が更に単離され、或る特定の実施の形態において、細胞傷害性及びヘルパーTリンパ球の両方が、遺伝子改変及び/又は増殖の前又は後のいずれかに、ナイーブ、記憶、及びエフェクターT細胞亜集団に選別され得る。CD8+細胞は、標準的方法を使用することにより取得され得る。幾つかの実施の形態において、CD8+細胞は、ナイーブ、中心記憶、及びエフェクター細胞に、これらの種類のCD8+細胞の各々に関連する細胞表面抗原を同定することにより更に選別される。
【0241】
幾つかの実施の形態において、本発明の免疫細胞、例えば、本明細書に記載されるT細胞又はNK細胞は、当業者に既知の方法を用いて、人工多能性幹細胞(iPSC)から得ることができる。CAR-T細胞の生成に認められているアプローチは、成熟循環T細胞の遺伝子改変及び増殖に依存する。そのようなプロセスは、自家T細胞を利用し、内在性TCR発現及びMHC不適合性を通じた拒絶を通じて同種T細胞による移植片対宿主(GvHD)病のリスクを低減する。代替法として、多能性幹細胞、例えば人工多能性幹細胞由来の改変T細胞の直接in vitro分化により、遺伝子改変して本発明のCARを発現させることが可能な細胞の本質的に無制限の原料が提供される。幾つかの実施の形態において、いわゆるマスターiPSC株を維持することができ、これが、均一な細胞産物を一貫して繰り返し製造するための再生可能な原料となる。幾つかの実施の形態において、所望の免疫細胞、好ましくはT細胞又はNK細胞への増殖及び分化の前に、マスターiPSC細胞株をCARコード核酸で形質転換することが企図される。
【0242】
一実施の形態において、所望の免疫細胞、好ましくはT細胞又はNK細胞への増殖及び分化の前に、マスターiPSC細胞株ND50039をCARコード核酸構築物で形質転換することが企図される。iPSCをCARコード核酸で改変し、続いて患者への投与用に増殖及びT細胞へと分化させることができるように、Tリンパ球を、例えば、iPSCから、又は先に遺伝子改変されたiPSCから生成させることができる。
【0243】
iPSCをCARコード核酸構築物で改変させ、続いて患者への投与用に増殖及びNK細胞へと分化させることができるように、NK細胞もまた、先に遺伝子改変されたiPSCから生成させることができる。適切な免疫細胞、例えば、T細胞又はNK細胞への分化は、投与前にCARコード核酸での形質転換及び増殖、したがって、CARコード核酸構築物での形質転換及び適切な免疫細胞、例えば、T細胞及びNK細胞の増殖を行う前にiPSCから行うことも可能である。iPSCの増殖、遺伝子改変、及び投与のため細胞を増殖させて適切な数にすることの全ての可能な組み合わせが、本発明において企図される。
【0244】
T細胞又はNK細胞等の免疫エフェクター細胞は、既知の方法を使用した単離後に遺伝子改変され得るか、又は免疫エフェクター細胞は、遺伝子改変前にin vitroで活性化されて、増やされ得る(又は前駆細胞の場合に分化され得る)。特定の実施の形態において、T細胞又はNK細胞等の免疫エフェクター細胞は、本明細書において企図されるキメラ抗原受容体で遺伝子改変され(例えば、CARをコードする核酸を含むウイルスベクターで形質導入される)、次いで、in vitroで活性化され、増やされる。各種の実施の形態において、T細胞は、例えば、米国特許第6,352,694号、同第6,534,055号、同第6,905,680号、同第6,692,964号、同第5,858,358号、同第6,887,466号、同第6,905,681号、同第7,144,575号、同第7,067,318号、同第7,172,869号、同第7,232,566号、同第7,175,843号、同第5,883,223号、同第6,905,874号、同第6,797,514号、同第6,867,041号、及び米国特許出願公開第20060121005号に記載の方法を使用して、CARを発現するように遺伝子改変される前又は後に活性化されて、増やされ得る。
【0245】
更なる実施の形態において、例えば、1、2、3、4、5種以上の異なる発現ベクターの混合物を、ドナー免疫エフェクター細胞群の遺伝子改変に使用することができ、ここで、各ベクターは、本明細書において企図される異なるキメラ抗原受容体タンパク質をコードする。得られた改変免疫エフェクター細胞は、改変細胞の混合集団を形成し、ここで、改変細胞の一部が2種以上の異なるCARタンパク質を発現する。
【0246】
一実施の形態において、本発明は、CEAタンパク質を標的とする、遺伝子改変マウス、ヒト、又はヒト化CARタンパク質を発現する免疫エフェクター細胞の貯蔵法を提供し、本方法は、解凍した際に細胞が生存したままであるように、免疫エフェクター細胞を凍結保存することを含む。CARタンパク質を発現する免疫エフェクター細胞の画分を、当該技術分野で既知である方法により凍結保存して、B細胞、T細胞、NK細胞、樹状細胞(DC)、細胞傷害性誘導キラー細胞(CIK)関連病態に罹患した患者の将来の治療のため、そのような細胞の永久的原料を提供することができる。必要な時に、凍結保存された形質転換免疫エフェクター細胞を解凍し、成長させ、増殖させてそのような細胞を増やすことができる。
【0247】
組成物及び製剤
本明細書において企図される組成物は、本明細書において企図される1種以上のポリペプチド、ポリヌクレオチド、これらを含むベクター、遺伝子改変免疫エフェクター細胞等を含み得る。組成物としては、限定されるものではないが、医薬組成物が挙げられる。「医薬組成物」は、単独で又は1種以上の他の治療モダリティと組み合わせて細胞又は動物に投与するために、薬学的に許容されるか、又は生理学的に許容される溶液に製剤化された組成物を指す。必要に応じて、本発明の組成物は、他の作用物質、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、低分子、化学療法薬、プロドラッグ、薬物、抗体、又は他の様々な薬学的活性作用物質等とも組み合わせて投与され得ることも理解されるであろう。組成物に含まれてもよい他の成分への制限は実質的にないが、追加の作用物質が、意図される治療を送達する組成物の能力に悪影響を与えないこととする。
【0248】
語句「薬学的に許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、又は他の問題若しくは合併症を伴わずにヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに好適であり、妥当な利益/リスク比に見合う化合物、物質、組成物、及び/又は剤形を指すために本明細書において用いられる。
【0249】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤」としては、限定されるものではないが、ヒト又は飼育動物での使用が許容可能であるとアメリカ食品医薬品局(United States Food and Drug Administration)により認められている、任意の補助剤、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、防腐剤、色素/着色剤、調味料、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、等張剤、溶媒、界面活性剤、又は乳化剤が挙げられる。例示的な薬学的に許容される担体としては、限定されるものではないが、糖、例えば、ラクトース、グルコース、及びスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン;セルロース及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロース;トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター、蝋、動物性及び植物性脂肪、パラフィン、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、酸化亜鉛;油、例えば、落花生油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及び大豆油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張食塩水;リンガー液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;並びに医薬製剤に用いられる任意の他の適合可能な物質が挙げられる。
【0250】
AAVベクター、レンチウイルスベクター、及び/又は他の成分、作用剤、薬物、生物製剤(タンパク質)、例えば、薬学上許容される担体又は賦形剤を、医薬組成物に組み込むことが可能である。そのような医薬組成物は、in vivo又はex vivoで対象に投与及び送達するのに特に有用である。
【0251】
特定の実施の形態において、本発明の組成物は、本明細書において企図される量のCAR発言免疫エフェクター細胞を含む。本明細書で使用される場合、用語「量」は、臨床結果を含む、有益な又は所望の予防結果又は治療結果を達成するための、遺伝子改変治療細胞、例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞の「効果的な量」又は「有効量」を指す。
【0252】
「予防上有効量」は、所望の予防結果を達成するのに有効な遺伝子改変治療細胞の量を指す。予防用量は、疾患の早期段階の前に又は早期段階で対象に使用されるため、予防上有効量は、典型的には、治療上有効量未満であるが、必ずしも治療上有効量未満ではない。予防上という用語は、必ずしも特定の医学的障害の完全な阻止又は防止を指すわけではない。予防上という用語は、或る特定の医学的障害を発症するリスク又はその症状が悪化するリスクの低減も指す。
【0253】
遺伝子改変免疫細胞の「治療上有効量」は、個体の病態、年齢、性別、及び体重、並びに幹細胞及び前駆細胞が個体において所望の反応を誘発する能力等の因子により異なり得る。また治療上有効量は、治療上有益な効果がウイルス又は形質導入された治療細胞の任意の毒性又は有害作用を上回るものでもある。用語「治療上有効量」は、対象(例えば、患者)を「治療」するのに有効な量を包含する。治療量が示される場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、年齢、体重、腫瘍サイズ、感染又は転移の程度、及び患者(対象)の状態の個体差を考慮して医師により決定され得る。一般に、本明細書に記載されるT細胞又はCIK細胞又はNK細胞を含む医薬組成物は、102個細胞/kg体重~1010個細胞/kg体重、好ましくは105個細胞/kg体重~107個細胞/kg体重の投与量(それらの範囲内の全ての整数値が含まれる)で投与され得ると述べることができる。細胞数は、組成物が意図される最終的な用途及びそれに含まれる細胞の種類に依存する。本明細書において提供される用途では、細胞は、一般に1リットル以下の容量であり、500 mL以下、更には250 mL又は100 mL以下であり得る。したがって、所望の細胞密度は、典型的には、106個細胞/mlより高く、一般に、107個細胞/mLより高く、一般に、108個細胞/mL以上である。臨床的に関連する数の免疫細胞は、累積的に105個細胞、106個細胞、107個細胞、108個細胞、109個細胞、1010個細胞、1011個細胞、又は1012個細胞に等しいか、又はそれを超える複数回注入に分割され得る。本発明の幾つかの態様において、特に全ての注入される細胞が特定の標的抗原に対して再方向付けされている場合、より少数の細胞が投与され得る。CAR発現細胞組成物は、これらの範囲内の投与量で複数回投与され得る。細胞は、治療を受けている患者に対して同種、同系、異種、又は自家であり得る。
【0254】
一般に、本明細書に記載されるように活性化され、増やされた細胞を含む組成物は、免疫不全状態である個体において生じる疾患の治療及び予防において利用され得る。詳細には、本明細書に企図されるCAR改変T細胞を含む組成物は、癌、より好ましくは、固形悪性腫瘍及び液体悪性腫瘍、より好ましくは、直腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、膵癌、胃癌、及び卵巣癌、より好ましくはCEA陽性の転移性腫瘍細胞の治療に使用される。本発明のCAR改変T細胞は、単独でも、担体、希釈剤、賦形剤、及び/又は他の成分と組み合わせた医薬組成物としても投与することができ、他の成分は、例えば、インターロイキン又は他の免疫応答刺激サイトカイン、例えばIL-15及び/又はチェックポイント阻害分子、例えばPD1ポリペプチド若しくはPD1抗体、又は細胞集団である。特定の実施の形態において、本明細書において企図される医薬組成物は、1種以上の薬学的又は生理学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤と組み合わされたいくらかの量の遺伝子改変T細胞を含む。
【0255】
T細胞又はNK細胞又はCIK細胞等のCAR発現免疫エフェクター細胞集団を含む本発明の医薬組成物は、緩衝剤、例えば、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水等;炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、スクロース、又はデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はアミノ酸、例えば、グリシン;酸化防止剤;キレート剤、例えば、EDTA又はグルタチオン;補助剤(例えば、水酸化アルミニウム);及び防腐剤を含み得る。本発明の組成物は、好ましくは非経口投与、例えば、血管内(静脈内又は動脈内)、腹腔内、又は筋肉内投与用に製剤化される。
【0256】
液体医薬組成物(それらが溶液、懸濁液等の形態であるかに関わらず)は以下の1つ以上を含み得る:滅菌希釈剤、例えば注射用水、食塩水、好ましくは生理食塩水、リンガー液、等張塩化ナトリウム、溶媒若しくは懸濁媒として働くことができる合成モノグリセリド若しくはジグリセリド等の不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の溶媒;ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩等の緩衝剤、及び塩化ナトリウム又はデキストロース等の等張化剤。非経口調製物は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、又は複数回投与バイアルに封入することができる。注射用医薬組成物は無菌であるのが好ましい。
【0257】
特定の実施の形態において、本明細書において企図される組成物は、有効量のCAR発現免疫エフェクター細胞を、単独で又は1つ以上の治療剤と組み合わせて含む。したがって、CAR発現免疫エフェクター細胞組成物は、単独で又は放射線療法、化学療法、移植、免疫療法、ホルモン療法、光線力学的療法のような他の既知の癌の治療と組み合わせて投与され得る。組成物はまた、抗生物質と組み合わせて投与され得る。かかる治療剤は、本明細書に記載される特定の病態、例えば、特定の癌の標準的な治療として当該技術分野において認められていてもよい。企図される例示的な治療剤としては、サイトカイン、成長因子、ステロイド、NSAID、DMARD、抗炎症薬、化学療法薬、放射線療法、治療用抗体、又は他の活性作用物質及び補助作用物質が挙げられる。
【0258】
混合免疫療法は、併発治療、同時治療、又は合同治療を包含し、CARをコードする核酸構築物を発現する遺伝子改変免疫細胞を、免疫治療薬、例えば、チェックポイント阻害剤及び/又は免疫刺激性サイトカインと組み合わせて投与することを含み、このため治療は、互いが数分以内に、同じ時間に、同じ日に、同じ週に、又は同じ月に、行われる場合がある。1種以上の上記遺伝子改変免疫細胞と別の免疫治療薬を含む合剤も、単回投与又は投薬量で各種成分を同時投与する目的で使用することができる。
【0259】
本明細書に使用される場合、「腫瘍微小環境」という用語は、任意の所定の腫瘍が存在する細胞環境を指し、その環境には、腫瘍間質、周辺血管、免疫細胞、線維芽細胞、他の細胞、シグナル伝達分子、及びECMが含まれる。
【0260】
治療法
本明細書に企図される遺伝子改変免疫エフェクター細胞は、CEAを発現する病原性細胞の存在と関連した医学的障害の治療に使用される養子免疫療法の改善された方法を提供し、医学的障害として、免疫調節性病態並びに血液悪性腫瘍及び固形悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【0261】
本明細書に使用される場合、「CEAを発現する病原性細胞の存在と関連した医学的障害」は、CEAの発現、好ましくは細胞表面でのCEAの提示を示す疾患の病態生理に細胞が関与している病態、例えば、癌又は自己免疫疾患等を指す。CEAの発現は、当業者に既知の様々な方法により、例えば、患者から細胞を単離し、CEA転写物を指向するプライマーを用いたPCRにより細胞を評価すること、抗CEA抗体で免疫染色すること、又はフローサイトメトリーによる分析により、特定することができる。そのような病原性細胞は、典型的には、病原性成熟B細胞及び/又は記憶B細胞及び/又は病原性T細胞及び/又はT濾胞性ヘルパー細胞及び/又は腫瘍幹細胞及び/又は固形腫瘍細胞及び/又は液体腫瘍細胞及び/又は転移性癌細胞及び/又はNK細胞及び/又はCIK細胞及び/又は樹状細胞であることが可能である。
【0262】
「癌」とは、本明細書に使用される場合、異常細胞の制御不能な成長を特徴とする疾患である。癌は、任意の種類の癌性成長又は発癌性プロセス、転移性組織又は悪性形質転換細胞、組織、若しくは臓器を指し、組織病理学的種類又は侵襲段階を問わない。癌細胞は、局所的に伝播することもあれば、血流又はリンパ系を介して身体の他の部分に伝播することもある。身体の他の部分に伝播する癌細胞は、「転移性細胞」又は「転移性腫瘍細胞」と呼ばれる。本明細書に使用される「腫瘍」及び「癌」という用語は、同義で使用され、例えば、どちらの用語も、固形及び液体の、例えば、全身又は循環腫瘍、前悪性及び悪性の癌及び腫瘍を含む。液体癌の例として、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(acute myeloid Leukemia (acute myelogenous leukemia)(AML)、慢性骨髄癌、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及び骨髄腫が挙げられるが、これらに限定されない。固形腫瘍の例としては、肝臓、肺、乳房、リンパ系、消化器(例えば、結腸)、泌尿生殖器(例えば、腎臓、尿路上皮細胞)、前立腺、及び咽喉の、肉腫、腺癌、及び癌等の腫瘍を含む悪性臓器系がある。で治療可能な乳癌の例としては、非浸潤性乳管癌(DCIS)、非浸潤性小葉癌(LCIS)、浸潤性腺管癌(IDC)(浸潤性腺管癌には管状癌、髄様癌、粘液癌、乳頭癌、及び篩状癌が含まれる)、浸潤性小葉癌(ILC)、炎症性乳癌、男性乳癌、乳頭パジェット病、乳房の葉状腫瘍、再発性及び/又は転移性乳癌がある。腺癌として、最も悪性の腫瘍、例えば、結腸癌、直腸癌、腎細胞癌、肝臓癌、非小細胞肺癌、小腸癌、及び食道癌が挙げられる。或る種の形態において、癌は、黒色腫、例えば、進行期黒色腫である。癌の転移性病変もまた、本発明の方法及び組成物で治療又は予防することができる。治療可能な他の種類の癌の例としては、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚若しくは眼内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門癌、胃癌、精巣癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性若しくは急性白血病、小児の固形腫瘍、リンパ性リンパ腫、膀胱癌、腎臓若しくは尿管癌、腎盂腎癌、中枢神経系(CNS)新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、環境型癌の合併を含むアスベスト誘導型T細胞リンパ腫、及び癌を含む事物がある。転移性癌、例えば、PD-L1を発現する転移性癌の治療(Iwai et al. (2005) Int. Immunol. 17: 133-144)は、本発明に記載される阻害分子を用いて行うことができる。
【0263】
「癌関連抗原」又は「腫瘍抗原」は、完全に又は断片(例えばMHC/ペプチド)としてのいずれかで、癌細胞表面で相互交換可能に発現し、薬物は、癌細胞を優先的に標的とする。に有用な分子(通常は、タンパク質、炭水化物、又は脂質)。腫瘍抗原は、特定の過剰増殖疾患で一般的に見つかる抗原を指す。1つの態様において、本発明の過剰増殖疾患の抗原は、原発性又は転移性の、黒色腫、胸腺腫、リンパ腫、肉腫、肺癌、肝臓癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、子宮癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓及び乳癌等の癌に由来するもの、前立腺癌、卵巣癌、膵癌等の腺癌等である。ある特定の実施の形態において、腫瘍抗原は、正常細胞及び癌細胞の両方で発現するマーカー、例えば、B細胞のCD19のような細胞系譜のマーカーである。ある特定の実施の形態において、腫瘍抗原は、癌細胞において、正常細胞に比べて過剰発現し、例えば、正常細胞に比べて1倍過剰発現、2倍過剰発現、3倍過剰発現、又はそれより多く過剰発現する。細胞表面の分子。ある特定の形態において、腫瘍抗原は、癌細胞で不適切に合成される細胞表面分子、例えば、正常細胞で発現する分子と比べた場合に欠失、付加、又は変異を有する分子である。ある特定の実施の形態において、腫瘍抗原は、癌細胞の細胞表面で、完全又は断片(例えば、MHC/ペプチド)として排他的に発現し、正常細胞の表面では合成も発現もしない。ある特定の実施の形態において、本発明のCARは、MHC提示ペプチドに結合する抗原結合ドメイン(例えば、抗体又は抗体断片)を含有するCARを含む。通常、内在性タンパク質に由来するペプチドは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子のポケットに収まり、CD8+Tリンパ球のT細胞受容体(TCR)により認識される。クラスI MHC複合体は、全ての有核細胞で恒常的に発現する。癌では、ウイルス及び/又は腫瘍特異的ペプチド/MHC複合体は、免疫療法の細胞表面標的の独自クラスとなっている。TCR様抗体は、ヒト白血球抗原(HLA)-A1又はHLA-A2と関連したウイルス又は腫瘍抗原のペプチドを標的とすると記載されている(例えば、Sastryet al., J Virol. 2011 85 (5) : 1935-1942、Sergeevaet al, Blood, 2011 117 (16): 4262-4272、Verma et al., JImmunol 2010 184 (4): 2156-2165、Willemsen et al., Gene Ther 2001 8 (21 ): 1601-1608、Dao etal., Sci Transl Med 2013 5 (176): 176ra33、Tassev et al.,Cancer Gene Ther 2012 19 (2): 84-100を参照)。例えば、TCR様抗体は、ヒトscFvファージディスプレイライブラリー等のライブラリーを検索することにより、特定することができる。
【0264】
特定の実施の形態において、本明細書に企図されるCAR改変T細胞を含む組成物は、癌の治療に使用され、癌として、固形悪性腫瘍、例えば、直腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、膵癌、胃癌、卵巣癌、及びCEA陽性の転移性腫瘍細胞等、又は血液悪性腫瘍、例えば、急性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫(NHL)、例えば、白血病性腫瘍細胞転移の有無を問わず、B細胞NHL若しくはT細胞非ホジキンリンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0265】
本明細書で使用される場合、「治療」又は「治療すること」は、疾患又は病態の症状又は病理に対する任意の有益な又は所望の効果を含み、治療されている疾患又は病態の1つ以上の測定可能なマーカーにおけるわずかな減少でさえ含み得る。治療は、任意に、疾患若しくは病態の症状の低減若しくは改善、又は疾患若しくは病態の進行の遅延を含み得る。「治療」は、必ずしも疾患若しくは病態又はそれらの随伴症状の完全な根絶又は治癒を意味するわけではない。
【0266】
本明細書で使用される場合、「予防」及び同様の語、例えば、「予防した」、「予防すること」、又は「予防上」等は、疾患又は病態の発症又は再発を予防するか、阻害するか、又はその可能性を低減する手法を意味する。これは、疾患若しくは病態の発症若しくは再発を遅延させること、又は疾患若しくは病態の症状の発症若しくは再発を遅延させることも指す。本明細書で使用される場合、「予防」及び同様の語は、疾患又は病態の強度、影響、症状、及び/又は負荷を、疾患又は病態の発症又は再発前に低減することも含む。
【0267】
一実施の形態において、癌関連病態の治療を必要としている対象における癌関連病態の治療法は、本明細書に企図される遺伝子改変免疫エフェクター細胞を含む組成物を、有効量、例えば、治療上有効量で投与することを含む。投与の量及び回数は、患者の状態、並びに患者の疾患の種類及び重症度等の要因によって決定されるが、適切な投与量は臨床試験によって決定される場合がある。
【0268】
本明細書において企図される組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、服用、輸液、インプラント、又は移植を含む、任意の手頃な方法で実施され得る。好ましい実施の形態において、組成物は非経口的に投与される。本明細書において使用される「非経口投与」及び「非経口的に投与」という語句は、経腸投与及び局所投与以外の、通常は注射による投与様式を指し、限定されるものではないが、血管内、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、被膜内、眼窩内、腫瘍内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、及び胸骨内の注射及び注入を含む。一実施の形態において、本明細書において企図される組成物は、腫瘍、リンパ節、又は感染部位への直接的な注射によって対象に投与される。
【0269】
配列
本発明の好適な核酸配列:
【表2】
【表2-1】
【0270】
本発明の好適な核酸配列:
【表3】
【0271】
図面
本明細書に開示される図面を通じて、本発明を例として実証する。提供される図面は、特定の非限定的実施形態を表しており、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0272】
図1】CEA CAR形質導入YT細胞のMCF-7細胞に対する細胞傷害性を示す図である。
図2】ドミナントネガティブPD1(dnPD1opt)によるチェックポイント阻害が、NFATプロモーター活性の改善を招くことを示す図である。
図3】IL-15スーパーアゴニスト(15R15)の活性をIL-2又はIL-15と比較した図である。
図4】抗CEA CAR発現ジャーカット細胞のNF-kBプロモーター活性が、標的細胞(MCF-7)をどのように刺激するかを、チェックポイント阻害(dnPD1opt)又はIL-15スーパーアゴニスト(15R15)あり又はなしで示す図である。
図5】CEA CAR誘導型YT細胞のMC32A細胞に対する細胞傷害性を示す図である。
図6】CEA発現腫瘍細胞株MCF-7で刺激した際のIL-15スーパーアゴニストの特異的放出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0273】
図面の詳細な説明:
図1:CEA CAR形質導入YT細胞のMCF-7細胞に対する細胞傷害性:YT細胞に、CEA CAR構築物をdnPD1opt及び15R15とともにコードするレンチウイルス(YT CEA CAR 15R15)又は空ベクター(YT対照構築物)で形質導入した。次いで、YT CEA CAR 15R15細胞又はYT対照構築物を、MCF-7細胞を含有する96ウェルプレートの二つ組ウェルに加え、非特異的細胞傷害性シグナル(エトポシド10 μg/ml)を、更なるウェルに加えた。18時間後、細胞傷害性を特定した。
【0274】
図2:ドミナントネガティブPD1(dnPD1opt)によるチェックポイント阻害が、NFATプロモーター活性の改善を招く:NFATプロモーター制御下でGFPを発現するジャーカット細胞に、dentPD1opt発現レンチウイルスベクター又は対照ベクターで形質導入した。次いで、1日早く、96ウェルプレートの二つ組ウェル中で、細胞を、PD-L1(U251-PD-L1)を高レベルで発現する細胞株に接触させた。96ウェルプレートには、TCR連結増殖シグナル(フィトヘマグルチニン:PHA)のレベルを増加させながら添加しておいた。GFP発現細胞の数を、フローサイトメトリーにより特定した。
【0275】
図3:IL-15スーパーアゴニスト(15R15)の活性をIL-2又はIL-15と比較:IL-15導入遺伝子15R15又は空プラスミドを、一過性形質移入後にHEK293細胞で発現させ、形質移入から2日後に収集した。上清を、Hek-Blue IL-2レポーター細胞株を用いるバイオアッセイで、製造元(Invivogen)の説明書どおりに、IL-2/IL-15特異的活性について二重試験した。
【0276】
図4:抗CEA CAR発現ジャーカット細胞のNF-kBプロモーター活性が、標的細胞(MCF-7)をどのように刺激するかを、チェックポイント阻害(dnPD1opt)若しくはIL-15スーパーアゴニスト(15R15)あり又はなしで示す:NF-kBプロモーター制御下でGFPを発現するジャーカット細胞に、以下をコードするレンチウイルスベクターで形質導入した:(1)dnPD1opt及び15R15と組み合わせたCEA-CAR構築物(Jurkat-CEA-CAR-dnPD1opt-IL15R15)、(2)dnPD1optと組み合わせたCEA-CAR構築物(Jurkat-CEA-CAR-dnPD1opt)、(3)CEA-CAR構築物(Jurkat CEA-CAR)、又は(4)空レンチウイルスベクター(空ベクター)。形質導入したジャーカット細胞を、MCF-7標的細胞に移した。1日後、陽性細胞をフローサイトメトリーにより分析した。
【0277】
図5:CEA CAR誘導型YT細胞のMC32A細胞に対する細胞傷害性:CEA CAR形質導入scBW431/26-hFcz YT細胞のCEA陽性MC32A細胞に対する細胞傷害性を、培地中可溶性CEAタンパク質の不在下又は存在下で、6時間クロム放出アッセイで分析した。標的細胞の細胞溶解は、標準偏差と合わせて求めた。
【0278】
図6:CEA発現腫瘍細胞株MCF-7で刺激した際のIL-15スーパーアゴニストの特異的放出:CEA発現細胞を、様々な比のレスポンダー細胞、すなわち(A)MCF-7細胞に対するCEA CARYT及び(B)MCF7細胞に対するCEA CAR、又は対照ベクターを発現する同数のレスポンダー細胞(空CAR)と混合した。18時間後、上清を収集し、IL15活性の量を、IL-2/IL-15レポーター細胞株により特定した。
【実施例
【0279】
本発明を、本明細書に開示される実施例を通じて実証する。提供される実施例は、特定の実施形態を表すものであって、本発明の範囲を限定することを意図しない。実施例は、非限定的例示及び本発明を実行するための技術的支援を提供するものと解釈されるべきである。
【0280】
既知のレンチウイルス遺伝子移入方法を用いて、抗CEA CAR、チェックポイント阻害剤、ドミナントネガティブ切断型PD-1タンパク質、免疫賦活性サイトカイン、IL-15遺伝子導入15R15、又はそれらの組み合わせをコードするレンチウイルスベクターを、免疫細胞株に導入する。このようにして改変した細胞株は、CEA陽性癌細胞株MCF-7を溶解させるが、一方、免疫細胞株YTは、抗CEA CARで改変されず、癌細胞株MCF-7を十分に溶解させることができない(実施例1、図1)。更なる実施例は、以下を示す:
PD-1チェックポイント阻害の成功(実施例2、図2)、
IL-15スーパーアゴニストの高い活性(実施例3、図3)、
抗CEA CAR、PD-1チェックポイント阻害、及びIL-15スーパーアゴニストの組み合わせの相乗効果(実施例4、図4)、
可溶性CEAタンパク質の存在とは無関係の、細胞膜結合CEAタンパク質への抗CEA CARの結合(実施例5、図5)。
【0281】
Dullら(1998)に従って、記載される高安全性第三世代プラスミド系を用いてレンチウイルスのパッケージ化、生成、及び細胞形質導入を行った。細胞形質移入は、ポリエチレンイミンを用いて、製造元(Polyplus)の指示書に従って行った。
【0282】
Hek293T細胞及びMC32A細胞は、10%熱不活化FCS及びペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEMで培養した。ジャーカット細胞は、10%熱不活化FCS及びペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMIで培養した。YT細胞は、10%熱不活化FCS、ペニシリン/ストレプトマイシン、及び10 IU/mlのIL-2を含有するRPMIで培養した。GFPは、FACS-Caliburを用いてフローサイトメトリーにより測定した。細胞傷害性は、クリスタルバイオレットアッセイ又はクロム放出アッセイにより、標準手順に従って特定した。
【0283】
実施例1:YT細胞が抗CEA CAR構築物で形質導入されている場合の、YT細胞のMCF-7細胞に対する細胞傷害性
この実施例は、空レンチウイルスベクターで(YT対照構築物)、又はCEAに結合するキメラ抗原受容体(CAR)、チェックポイント阻害剤dnPD1opt、及び/又は免疫刺激性サイトカイン15R15をコードする核酸配列領域を含むレンチウイルスベクターで(YT CEA CAR15R15)形質導入したYT細胞を用いた実験結果を示す(図1)。次いで、YT CEA CAR 15R15細胞又はYT対照構築物細胞を、MCF-7細胞を含有する96ウェルプレートに二つ組で加え、非特異的細胞傷害性シグナル(エトポシド10 μg/ml)を、更なるウェルに加えた。18時間後、細胞傷害性を特定した。CARのDNA配列を、既知のレンチウイルス遺伝子移入方法を用いて、免疫細胞株YTに移入した。このようにして改変した細胞株は、CEA陽性癌細胞株MCF-7を溶解させる。CARで改変されていない免疫細胞株YTは、癌細胞株MCF-7を十分に溶解させることがない(図1)。
【0284】
実施例2:ドミナントネガティブPD1(dnPD1opt)によるチェックポイント阻害は、NFATプロモーター活性の改善を招く
この実施例は、ドミナントネガティブ切断型のPD-1であるdntPD1optを通じたチェックポイントタンパク質PD-1の阻害が成功したことを示す実験に関する(図2)。ジャーカット細胞は、NFATプロモーターの制御下でGFPを発現する。ジャーカット細胞に、対照レンチウイルスベクター又はチェックポイント阻害剤(dntPD1opt)をコードするレンチウイルスベクターで形質導入した。1日前に、これらの細胞を、96ウェルプレート中、二つ組で、高濃度のPD-L1を発現する細胞株(U251-PD-L1)及び濃度上昇させながらTCR介在型T細胞刺激、フィトヘマグルチニン(PHA)と接触させた。GFP発現細胞の数をフローサイトメトリーで特定したところ、この数は、陰性対照に比べてdntPD1opt発現ジャーカット細胞の方が多かった。このことは、生物学的に関連するレベルで、チェックポイントタンパク質PD-1の阻害に成功したことを実証する。
【0285】
実施例3:IL-15スーパーアゴニスト(15R15)の活性をIL-2又はIL-15と比較する
この実施例は、IL-15導入遺伝子15R15のスーパーアゴニスト活性を証明する実験に関する(図3)。IL-15導入遺伝子15R15又は空プラスミドを、一過性形質移入後にHEK293細胞で発現させ、形質移入から2日後に収集した。上清を、Hek-Blue IL-2レポーター細胞株を用いるバイオアッセイで、製造元(Invivogen)の説明書どおりに、IL-2/IL-15特異的活性について2回試験した。OD260を測定した。これは、生物学的に関連するレベルで、IL-15導入遺伝子15R15のスーパーアゴニスト活性が、陰性対照、IL-2、及びIL-15よりも高いことの証明に成功している。
【0286】
実施例4:抗CEA CAR発現ジャーカット細胞のNF-kBプロモーター活性が、標的細胞(MCF-7)をどのように刺激するかを、チェックポイント阻害(dnPD1opt)若しくはIL-15スーパーアゴニスト(15R15)あり又はなしで示す
この実施例は、抗CEA CAR、チェックポイント阻害剤dnPD1opt、及びIL-15導入遺伝子15R15を発現するジャーカット細胞が、MCF-7標的細胞に曝露させた場合に、NF-kBプロモーター活性を示すことに成功したことを示す実験に関する(図4)。NF-kBプロモーター制御下でのGFP発現を、以下をコードするレンチウイルスベクターで形質導入したジャーカット細胞において特定した:(1)チェックポイント阻害剤dntPD1opt及びIL-15導入遺伝子15R15と組み合わせた抗CEA CAR構築物(Jurkat-CEA-CAR-dnPD1opt-IL15R15)又は(2)チェックポイント阻害剤dntPD1optと組み合わせた抗CEA CAR構築物(Jurkat-CEA-CAR-dnPD1opt)、(3)抗CEA-CAR(Jurkat CEA-CAR)又は(4)空レンチウイルスベクター(空ベクター)。形質導入したジャーカット細胞を、MCF-7標的細胞に移した。1日後、GFP陽性細胞を、フローサイトメトリーにより特定した。Jurkat-CEA-CAR-dnPD1opt-IL15R15の組み合わせは、非常に高レベルで、及びJurkat-CEA-CAR-dnPD1opt、Jurkat CEA-CAR、空ベクター試料よりも高いGFP発現を示す。Jurkat-CEA-CAR-dnPD1opt-IL15R15のGFP発現レベルは、相加効果よりも高く、したがって、本発明で記載される組み合わせに相乗効果があることを証明する。
【0287】
実施例5:抗CEA CAR誘導型YT細胞のMC32A細胞に対する細胞傷害性
この実施例は、抗CEA CARによる細胞膜結合型CEAタンパク質の認識が、可溶性CEAタンパク質の存在とは無関係であることを示す実験である(図5)。抗CEA CAR形質導入scBW431/26-hFcz YT細胞のCEA陽性MC32A細胞に対する細胞傷害性を、6時間クロム放出アッセイで、培地中に可溶性CEAタンパク質が存在しない場合又は存在する場合で分析した。標的細胞の細胞溶解を、標準偏差とともに求めた。抗CEA CARをコードするレンチウイルスベクターで形質導入したscBW431/26-hFczYT細胞の、MC32A細胞に対する細胞傷害性活性は、可溶性CEAタンパク質が培地に添加されたか否かにかかわらず、同等のレベルを維持する。
【0288】
実施例6:CEA発現腫瘍細胞株MCF-7で刺激した際のIL-15スーパーアゴニストの特異的放出
CEA発現細胞を、様々な比のレスポンダー細胞、すなわち(A)MCF-7細胞に対するCEA CARYT及び(B)MCF7細胞に対するCEA CAR、又は対照ベクターを発現する同数のレスポンダー細胞(空CAR)と混合した。18時間後、上清を収集し、IL15活性の量を、IL-2/IL-15レポーター細胞株により特定した。図から特定することが可能なとおり、CEA-CAR発現細胞は、CEA発現MCF7細胞とともにインキュベートした後、用量依存的反応を誘導する。
【0289】
参照文献
Kreye, J., et al Humancerebrospinal fluid monoclonal N-methyl-D-aspartate receptor autoantibodies aresufficient for encephalitis pathogenesis. Brain 139, 2641-2652 (2016).
【0290】
図面訳
図1
% MaximumCytotoxicity (Etoposide) 最大細胞傷害性%(エトポシド)
YT controlconstruct YT対照構築物

図2
dnPD1opt transduction dnPD1opt形質導入
Control Transduction 対照形質導入

図3
Undiluted 希釈せず
1:4 dilution 1:4希釈
Control Supernatant 対照上清
15R15 Supernatant 15R15上清

図4
% activaed (GFP) 活性化%(GFP)
Empty vector 空ベクター

図5
Lyse 溶解
w/o soluble CEAprotein 可溶性CEAタンパク質なし
Soluble CEA protein 可溶性CEAタンパク質

図6
CAR NK on MCF-7 CAR MCF-7に対するCAR NK
U/ml IL2 equvalent IL2等価物のU/ml
Ratio Effector:Target エフェクター:標的の比
Control (Empty CAR) 対照(空CAR)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2023540023000001.app
【国際調査報告】