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特表2023-5400462’-フコシルラクトースを含む脳心血管疾患改善用食品組成物及び脳心血管疾患予防又は治療用薬学組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(54)【発明の名称】2’-フコシルラクトースを含む脳心血管疾患改善用食品組成物及び脳心血管疾患予防又は治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20230913BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20230913BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230913BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230913BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230913BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230913BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20230913BHJP
【FI】
A23L33/125
A61K31/702
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P9/10
A23L29/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513554
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 KR2021006498
(87)【国際公開番号】W WO2022055073
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0117862
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0117861
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0061963
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517399125
【氏名又は名称】アドヴァンスド プロテイン テクノロジーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Advanced Protein Technologies Corp.
【住所又は居所原語表記】147, Gwanggyo-ro, Yeongtong-gu, Suwon-si, Gyeonggi-do 16229, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】シン,チョル ス
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ソン ミン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヨン ハ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,オク ソン
【テーマコード(参考)】
4B018
4B041
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB06
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD31
4B018ME14
4B041LC10
4B041LD10
4B041LK11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA45
4C086ZA54
(57)【要約】
本発明は、血栓の生成に起因する様々な脳心血管疾患の改善、予防又は治療に効果がある2’-フコシルラクトース含有食品組成物及び薬学組成物に関し、本発明の2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose,2’-FL)は、血小板に対するアゴニストであるコラーゲン及びCRP(collagen-related peptide)に対して拮抗(阻害)作用を示し、血小板の異常作用による血栓の生成を抑制するために利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose;2’-FL)を含む、血栓に起因する脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項2】
前記血栓は、
血小板による血液凝固に起因して発生したことを特徴とする、請求項1に記載の脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項3】
前記血小板による血液凝固は、
血小板に対するアゴニスト(agonist;作用物質)であるCRP(collagen-related peptide)又はコラーゲン(collagen)の作用によって発生したことを特徴とする、請求項2に記載の脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項4】
前記脳心血管疾患は、
血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項5】
2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose;2’-FL)を含む、血栓に起因する脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記血栓は、
血小板による血液凝固に起因して発生したことを特徴とする、請求項1に記載の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【請求項7】
前記血小板による血液凝固は、
血小板に対するアゴニスト(agonist;作用物質)であるCRP(collagen-related peptide)又はコラーゲン(collagen)の作用によって発生したことを特徴とする、請求項2に記載の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【請求項8】
前記脳心血管疾患は、
血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2’-フコシルラクトースを含む、血栓生成に起因する脳心血管疾患の改善、予防又は治療用組成物に関し、より具体的には、血栓の生成に起因する様々な脳心血管疾患、例えば、血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中などの改善に効果がある、2’-フコシルラクトース含有食品組成物及び2’-フコシルラクトース含有薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活及び生活様式の西欧化、そして老人人口の増加に伴い、血行障害が原因とされる脳心血管系疾患の発病が大きく増加しており、2018年の死亡原因統計資料によれば、10大死亡原因のうち、心臓疾患、脳血管疾患、高血圧性疾患がそれぞれ、2位、4位、10位を占めるほどに深刻な社会問題となっている。
【0003】
血行に関与する因子は、血球細胞と血液凝固因子とに大別でき、血管損傷による出血を防止するための血小板の癒着、プラーク形成による止血作用、及び病態生理的状態において異常に過度な血小板活性による血栓生成及び血管閉塞は、血管疾患を引き起こす主要病症要因である。
【0004】
このため、血栓を除去したり血栓の生成を抑制したりできる食品の持続摂取又は薬品の投与が必要であるが、既存の血行改善に関連する医薬品は、胃腸障害、血圧上昇などの副作用があり、服用に困難があった。そこで、副作用が少なく人体に安全な、血栓の生成を抑制して血行障害を根本的に改善できる製品の開発が必要である。
【0005】
一方、ヒトの母乳には200余種以上の独特の構造を有するオリゴ糖(human milk oligosaccharides,HMO)が、他の哺乳類の乳汁に比べて非常に高い濃度(5~15g/L)で存在する。HMOは、腸内乳酸菌の生育を助けるプレバイオティク(prebiotic)効果、病原菌感染予防、免疫システム調節及び頭脳発達のように、乳児の成長と頭脳発達及び健康に肯定的影響を及ぼすなど、様々な生物学的活性を提供することが報告されている。
【0006】
HMOは、D-グルコース(Glc)、D-ガラクトース(Gal)、N-アセチルグルコサミン(N-acetylglucosamine,GlcNAc)、L-フコース(L-fucose,Fuc)及びシアル酸(sialic acid)[Sia;N-acetyl neuraminic acid(Neu5Ac)]で構成されている。HMOの構造は非常に多様で複雑なため、異なる残基とグルコシル結合を有する200個程度の異性質体が互いに異なる重合度(DP 3~20)で存在し得る。ただし、構造的複雑性にもかかわらず、HMOはいくつかの共通した構造を有する。大部分のHMOは還元末端にラクトース(Galβ1-4Glc)残基を有する。ラクトースのGalは、α-(2,3)-とα-(2,6)-結合によってそれぞれ3-シアリルラクトース(3-sialyllactose)又は6-シアリルラクトース(6-sialyllactose)の形態でシアル化されるか、α-(1,2)-とα-(1,3)-結合によってそれぞれ2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose,2-FL)又は3-フコシルラクトース(3-fucosyllactose,3-FL)の形態でフコシル化(fucosylation)され得る。
【0007】
約200個の異なる複合オリゴ糖が母乳から発見されたが、含有量の最も多いオリゴ糖を3つ含めて137個がフコシル化され、その比率は略77%であり、残りのオリゴ糖は、シアル化されたもの(39個)が殆どであり、約28%に該当する。このうち、特に、2’-フコシルラクトース及び3-フコシルラクトースは、先に言及した様々な生物学的活性に関与する主要HMOとして報告されている。
【0008】
本発明では、ヒトの母乳に由来するものであって安全性が検証されたHMOを用いて、血栓に起因する脳心血管疾患の改善、予防又は治療に利用可能な素材を開発しようとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、HMOを用いて、血栓の生成に起因する様々な脳心血管疾患、例えば、血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中の改善に効果がある食品組成物及び予防又は治療に効果がある薬学組成物を開発して提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose;2’-FL)を含む、血栓に起因する脳心血管疾患改善用食品組成物を提供する。
【0011】
本発明の脳心血管疾患改善用食品組成物において、前記血栓は、好ましくは、血小板による血液凝固に起因して発生したものであってよい。
【0012】
本発明の脳心血管疾患改善用食品組成物において、前記血小板による血液凝固は、好ましくは、血小板に対するアゴニスト(agonist;作用物質)であるCRP(collagen-related peptide)又はコラーゲン(collagen)の作用によって発生したものであってよい。
【0013】
本発明の脳心血管疾患改善用食品組成物において、前記脳心血管疾患は、好ましくは、血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中から選ばれるいずれか一つであってよい。
【0014】
また、本発明は、2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose;2’-FL)を含む、血栓に起因する脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物を提供する。
【0015】
本発明の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物において、前記血栓は、好ましくは、血小板による血液凝固に起因して発生したものであってよい。
【0016】
本発明の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物において、前記血小板による血液凝固は、好ましくは、血小板に対するアゴニスト(agonist;作用物質)であるCRP(collagen-related peptide)又はコラーゲン(collagen)の作用によって発生したものであってよい。
【0017】
本発明の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物において、前記脳心血管疾患は、好ましくは、血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中から選ばれるいずれか一つであってよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の2’-フコシルラクトースは、血小板に対するアゴニスト(agonist;作用物質)であるCRP、コラーゲンに対して拮抗(阻害)作用を示し、血小板の異常作用による血栓の生成を抑制するために利用可能であることが本発明から確認された。したがって、本発明の2’-フコシルラクトースを持続的に摂取又は投与すると、血栓の生成に起因する脳心血管疾患、例えば、血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中などの改善が可能になるであろう。
【0019】
一方、本発明の2’-フコシルラクトースは、血小板に対するアゴニストであるCRP、コラーゲンに対してのみ拮抗(阻害)作用を示し、緊急な状況で止血のために用いられるトロンビンに対しては阻害作用がないことが確認された。トロンビンに対して阻害作用がないことは臨床的に非常に重要な意味を有する。事故などによって出血が発生した場合には止血のためにトロンビンを緊急に投入するからである。本発明の2’-フコシルラクトースがCRP、コラーゲンの他にトロンビンに対しても阻害効果があったとすれば、事故の発生時にトロンビンの投与によっても止血ができないはずであるが、もしそうだとすれば、2’-フコシルラクトースを持続して投与することは危険であり得る。しかしながら、驚くべきことに、本発明の2’-フコシルラクトースは、トロンビンの作用を阻害することがなく、よって、平常時に持続投与されても、事故の発生時のトロンビン投与による止血の誘導には何ら問題もない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実験で使用したフラクトオリゴ糖(fructooligosaccharide,FOS)、2’-フコシルラクトース及び3-フコシルラクトースの構造を示す。
図2】HMOの血小板凝集抑制効果を示す。
図3】HMOの血小板活性化抑制機序を確認したものである。
図4】HMOの細胞毒性をCCKアッセイで測定した結果である。
図5】動物モデルにおけるHMOの血栓症抑制効能を確認した結果である。
図6】動物モデルにおけるHMOの止血作用効能を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、2’-フコシルラクトースを含む、血栓に起因する脳心血管疾患改善用食品組成物を提供する。また、本発明は、2’-フコシルラクトースを含む、血栓に起因する脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物を提供する。このとき、前記脳心血管疾患は、好ましくは、血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中から選ばれるいずれか一つであってよい。
【0022】
本発明の脳心血管疾患改善用食品組成物及び脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物において、前記血栓は、好ましくは、血小板による血液凝固に起因して発生したものであってよい。このとき、前記血小板による血液凝固は、好ましくは、血小板に対するアゴニストであるCRP又はコラーゲンの作用によって発生したものであってよい。
【0023】
本発明の脳心血管疾患改善用食品組成物及び脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物において、本発明の2’-フコシルラクトースは、好ましくは、血小板に対するアゴニストであるCRP又はコラーゲンの血小板に対するアゴニスト作用を阻害するものであってよい。すなわち、本発明の2’-フコシルラクトースは、「GPVI(Glycoprotein VI;a glycoprotein receptor for collagen)を媒介とした血小板凝集シグナル伝達経路」に作用して血小板の活性化を抑制するものと推論できる。
【0024】
上記の本発明の脳心血管疾患改善用食品組成物及び脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物において、前記2’-フコシルラクトースは、好ましくは、血小板に対するアゴニストであるトロンビンの血小板に対するアゴニスト作用に対しては阻害しないものであってよい。すなわち、本発明の2’-フコシルラクトースは、「GPCR(G-protein coupled receptor)シグナル伝達経路を媒介とした血小板活性化」に対しては抑制効果を示さないものと推論できる。
【0025】
健康な人の血液は血管中で凝固することがないが、血管の損傷、血液の停滞、凝固性が高くなった場合などの原因により、その発生局所では血が固まった塊、すなわち「血栓」が生成されてしまう。
【0026】
血栓の生成には血球の一つである血小板が関与するが、血小板は、骨髄内に存在していた大きな細胞から細胞質が分かれて出た直径2~3μmの細胞片であり、血液の凝固に重要な役割を担う。
【0027】
出血の抑制という正常な過程において上記のような血液凝固作用は生存に必須であるが、出血以外の別の原因による血栓生成、又は出血による正常の過程であっても過剰の血栓が生成されると、その箇所の血管を狭めたり又は塞いで血の流れを妨害したり止まらせたりしてしまう。このような異常な血栓の生成は、血の流れ、すなわち血行を妨害する要素として作用し、血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中などの様々な脳心血管疾患を誘発することがある。
【0028】
血小板による血液凝固はアゴニストによって誘導されるが、血小板に対するアゴニストとしては、CRP、コラーゲン、トロンビン(thrombin)、トロンボキサンA2類似体(thromboxane A2analogue,U46619)などがある。CRP、コラーゲンは、GPVIを媒介とした血小板凝集シグナル伝達経路において血小板凝集に重要な役割を担う。また、トロンビン、トロンボキサンA2類似体は、GPCRシグナル伝達経路を媒介とした血小板凝集に重要な役割を担う。
【0029】
下記の本発明の実験では、前記4種のアゴニストを対象にして、HMOである2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトースと陽性対照物質としてのFOSの拮抗(阻害)作用の有無を確認してみた。ところが意外にも、2’-フコシルラクトースのみが、4種のアゴニストのうちCRP、コラーゲンに対してのみ拮抗作用を示すことが確認できた。2’-フコシルラクトースと非常に類似する構造を有する3-フコシルラクトースは、拮抗効果を示さなかった。また、2’-フコシルラクトースは、アゴニストの中でもCRP、コラーゲンに対してのみ拮抗作用が確認され、トロンビンに対しては拮抗作用がないことが確認された。
【0030】
トロンビンに対して阻害作用がないことは臨床的に非常に重要な意味を有する。事故などによって出血が発生した場合には止血のためにトロンビンを緊急に投入するからである。本発明の2’-フコシルラクトースがCRP、コラーゲンの他にトロンビンに対しても阻害効果があったとすれば、事故発生時にロンビンの投与によっても止血ができないはずであるが、もしそうだとすれば、日常生活で2’-フコシルラクトースを持続して摂取することは非常に危険であり得る。しかしながら、驚くべきことに、本発明の2’-フコシルラクトースはトロンビンの作用を阻害することがなく、よって、平常時に持続摂取しても、事故の発生時のトロンビン投与による止血の誘導には何ら問題もない。
【0031】
また、動物モデルにおいて頚動脈血栓症抑制及び止血作用に関連した実験を行ったところ、本発明の2’-フコシルラクトースが濃度依存的に頚動脈血栓症抑制効果を示した。このことから、既存血栓治療剤であるアスピリンと肩を並べるほどの効能であることが確認された。また、既存合成医薬品の副作用である止血作用には影響を及ぼさないことが確認され、これにより、既存血栓治療剤であるアスピリンの副作用を克服できるような効能を有することが確認された。したがって、このような2’-フコシルラクトースは、血行改善健康機能食品や治療素材として生体内利用が可能であることも確認できた。
【0032】
一方、本発明の食品組成物は、その剤形に特に限定されるものではなく、例えば、肉類、穀類、カフェイン飲料、一般飲料、チョコレート、パン類、スナック食品類、菓子類、ピザ、ジェリー、麺類、ガム類、アイスクリーム類、アルコール性飲料、酒、ビタミン複合剤及びその他の丸、錠、顆粒などの健康補助食品類から選ばれるいずれか一つであってよい。
【0033】
2’-フコシルラクトースは、食品中に0.01~99重量%の割合で添加して配合されてよいが、例えば、健康補助食品組成物に含まれる2’-フコシルラクトースの濃度は、1,600mgで製造される錠を基準にして、好ましくは100~1,000mg含まれてよく、1日1回、長期摂取することが好ましい。
【0034】
一方、本発明の薬学組成物は、2’-フコシルラクトースの他に、薬剤学的に使用可能な担体、希釈剤又は賦形剤をさらに含んでよい。使用可能な担体、賦形剤又は希釈剤には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、オキシ安息香酸メチル、オキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油があり、それらは1種以上用いられてよい。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤又は防腐剤などがさらに含まれてよい。
【0035】
一方、本発明薬学組成物の剤形は使用方法によって好ましい形態で製造されてよく、特に、哺乳動物に投与された後に活性成分の迅速、持続又は遅延した放出を提供できるように、当業界に公知の方法を採択して剤形化することが良い。具体的な剤形の例には、硬膏剤(PLASTERS)、顆粒剤(GRANULES)、ローション剤(LOTIONS)、リニメント剤(LINIMENTS)、レモネード剤(LEMONADES)、芳香水剤(AROMATIC WATERS)、散剤(POWDERS)、シロップ剤(SYRUPS)、眼軟膏剤(OPHTALMIC OINTMENTS)、液剤(LIQUIDS AND SOLUTIONS)、エアロゾル剤(AEROSOLS)、エキス剤(EXTRACTS)、エリキシル剤(ELIXIRS)、軟膏剤(OINTMENTS)、流動エキス剤(FLUIDEXTRACTS)、乳剤(EMULSIONS)、懸濁剤(SUSPENSIONS)、煎剤(DECOCTIONS)、浸剤(INFUSIONS)、点眼剤(OPHTHALMIC SOLUTIONS)、錠剤(TABLETS)、坐剤(SUPPOSITORIES)、注射剤(INJECTIONS)、酒精剤(SPIRITS)、カタプラズマ剤(CATAPLASMA)、カプセル剤(CAPSULES)、クリーム剤(CREAMS)、トローチ剤(TROCHES)、チンキ剤(TINCTURES)、パスタ剤(PASTES)、丸剤(PILLS)、軟質又は硬質のゼラチンカプセルから選ばれるいずれか一つであってよい。
【0036】
一方、本発明薬学組成物の投与量は、投与方法、服用者の年齢、性別及び体重、及び疾患の重症度などを考慮して決定することが良い。例えば、本発明の薬学組成物は、2’-フコシルラクトースを基準にして、好ましくは、1日24~40mg/kg(体重)で1回投与可能である。ただし、この投与量は例示のための一例に過ぎず、服用者の状態に基づいて医師の処方によって変化可能である。
【0037】
以下、本発明の内容について、下記の実施例及び実験例を用いてより詳細に説明する。ただし、本発明の権利範囲が下記の実施例及び実験例に限定されるものではなく、それと等価の技術的思想の変形も含む。
【0038】
[実施例1:HMOによる選択的血小板凝集抑制効果確認]
(1)実験目的
HMOを活用して血行改善戦略素材としての可能性を調べた。そのために、本実験では、HMOのうち2’-フコシルラクトース及び3-フコシルラクトースと、陽性対照物質としてFOSを用いて、血小板活性抑制機序及びさらには血小板作用に起因する血行障害の改善に対する効能を確認しようとした。
【0039】
(2)実験材料及び方法
<1>材料
ヒトトロンビン(Human thrombin)、トロンボキサンA2類似体(U46619)、PGE1、及び全ての試薬はシグマ(St.Louis,MO)から購入した。D-Phe-Pro-Arg-クロロメチルケトン(PPACK)は、EMD Millipore(Billerica,MA)から購入した。エクワインテンドンコラーゲン(Equine tendon collagen)(type I)はChrono-log(Havertown,PA)から、CRP(Collagen-related peptide)はDr.Richard Farndale(Department of Biochemistry,University of Cambridge,UK)から購入して本実験に使用した。フィコエリトリン(PE)接合アイソタイプコントロールIgG(Phycoerythrin(PE)-conjugated isotype control IgGs)、PE抗マウスCD62P(P-セレクチン)抗体、及びPE抗マウスαIIbβ3(JON/A)抗体は、Biolegend(San Diego,CA)から購入した。2’-フコシルラクトース及び3-フコシルラクトースは、(株)エーピーテクノロジーで生産した素材を使用した。
【0040】
<2>血小板分離方法
マウス(6~8週齢)の血小板は、クエン酸塩-デキストロース溶液(ACD,sigma)が前処理された注射器を用いてマウスの腹部静脈から採血した。血小板が豊富な血漿(platelet-rich plasma,PRP)を得るために、室温で20分間300×gで遠心分離した後、赤血球から分離された血漿に0.5μM PGE1を添加して4分間700×gで再遠心分離した。沈殿した血小板を、10% ACDを含有しているHEPES-Tyrode緩衝液(5mM HEPES/NaOH、pH7.3、5mMブドウ糖、136mM NaCl、12mM NaHCO、2.7mM KCl)で洗浄した後、5分間700×gで再遠心分離した。沈殿した血小板をHEPES-Tyrodeバッファで3×10cells/mLの濃度に調整し、本実験に使用した。
【0041】
<3>血小板凝集分析方法
3×10cells/mLの濃度でHEPES-Tyrodeバッファに含まれたマウス血小板を、37℃で15分間ビークル(蒸留水)、1,000μMのFOS、3-フコシルラクトース、及び様々な濃度(300~1,000μM)の2’-フコシルラクトースで前処理した後、血小板凝集計でCRP、コラーゲン、トロンビン、トロンボキサンA2類似体で活性化させた。血小板凝集は、37℃の血小板凝集計(Chronolog Corp,Havertown,PA)で1,000rpmの速度で血小板凝集を誘導して測定した。
【0042】
<4>フローサイトメトリー(Flow cytometry)分析
血小板活性のバイオマーカーとして知られた血小板P-セレクチン(selectin)及びαIIbβ3の活性度は、フローサイトメトリー(Gallios,Beckman Coulter)を用いて測定した。マウス血小板は37℃で15分間ビークル(蒸留水)、1,000μMのFOS、3-フコシルラクトース、及び様々な濃度(300~1,000μM)の2’-フコシルラクトースで前処理し、血小板活性のためにマウス血小板は37℃で5分間0.15μg/ml CRPで処理した後、P-セレクチン及びαIIbβ3抗体を用いて活性度を測定した。
【0043】
<5>統計処理
統計分析は、GraphPad Prism 5を用いて資料分析を実施した。統計的有意性は、多重集団のANOVA、多重集団の比較のためのダネット検定(Dunnett’s test for comparisons of multiple group)、2集団の比較のためのスチューデントt-検定(Student’s t-test for comparisons of two groups)で分析した。0.05よりも低いP値は有意な結果と見なした。
【0044】
(3)実験結果
<1>HMOによる血小板凝集抑制効能確認
HMOが血小板機能に及ぼす影響を確認するために、まず、血小板凝集に対する効能を調べた。
【0045】
その結果は、図2の通りであった。図2のグラフにおいて、横軸の「光透過度(light transmission)」は、光透過が増加して血小板凝集が多く起きたとのことを示す尺度である。これは、もともと血小板は浮遊細胞(floating cell)として浮遊しているが、血小板アゴニストによって活性化されると血小板形態の変化及び凝集が起きて光の透過度が増加するという原理を利用したものである。図2のグラフにおいて、横軸の「時間(秒)(time(sec))」は、通常、血小板の完全な凝集に300秒(sec)程度かかり、よって、その時間の間に血小板の凝集程度を測定している。
【0046】
本実験結果では、HMOのうち2’-フコシルラクトースによって前処理された血小板が、対照群(vehicle)の蒸留水(distilled water)によって前処理された血小板と比較して、血小板アゴニストのうちCRP(0.15μg/ml)及びコラーゲン(0.5μg/ml)(図2のA)及び図2のB))によって誘導された血小板凝集において濃度依存的に有意に血小板凝集を阻害することが確認された。FOSと3-フコシルラクトースによって前処理された血小板では、CRPとコラーゲンによる血小板凝集を有意に抑制できないことを確認した。また、2’-FLによって前処理された血小板においてトロンビン(0.025U/ml)及びトロンボキサンA2類似体(3μM)(図2のC)及び図2のD))によって誘導された血小板凝集抑制効能は、対照群に比べて有意差が観察されなかった。すなわち、トロンビンとトロンボキサンA2類似体によって誘導された血小板凝集に対しては、2’-フコシルラクトースが抑制効能を示さないことが見られた。
【0047】
このような結果は、HMOのうち、2’-フコシルラクトースのみが、GPVIを媒介とした血小板凝集シグナル伝達経路において選択的な血小板凝集に重要な役割を担うということを示唆する。これに対し、2’-フコシルラクトースは、GPCRシグナル伝達経路を通じて血小板凝集反応を活性化させるトロンビンとトロンボキサンA2類似体に対する抑制効能はないことが推論できた。
【0048】
<2>HMOによる血小板活性化抑制機序確認
HMOによる血小板活性化抑制機序を確認した。血小板活性化において正のフィードバックのサイクル(positive feedback cycle)を誘導する主要過程中に血小板活性バイオマーカーとして用いられる血小板のα-顆粒(granule)のP-セレクチン及びαIIbβ3インテグリン活性化調節機序に対するHMOの効能を、フローサイトメトリー分析を用いて分析した。
【0049】
先の血小板凝集抑制実験において、HMOのうち2’-フコシルラクトースのみが、GPVIを媒介とした血小板凝集シグナル伝達経路において選択的に血小板凝集に重要な役割を担うことが確認されたため、本血小板活性化実験ではCRPのみを用いて活性化効能抑制実験を行った。
【0050】
血小板は、37℃で15分間ビークル(蒸留水)又はFOS、2’-フコシルラクトース及び3-フコシルラクトースで前処理し、0.15μg/ml CRPで、37℃で5分間活性化させた後、P-セレクチン及びαIIbβ3抗体を用いて血小板活性度を測定した。
【0051】
その結果は図3の通りであった。血小板活性化が起きると、血小板活性シグナルによってα-顆粒中のP-セレクチンが血小板細胞外に放出されながら血小板活性をより高める。血小板-血小板凝集に重要なαIIbβ3の活性増加は、αIIbβ3とフィブリノゲン(fibrinogen)に対する結合を増加させ、血小板-血小板凝集を更に促進する。そこで、血小板活性の尺度としてP-セレクチン曝露レベル(exposure level)とaIIbβ3活性化レベル(activation level)を、フローサイトメトリーを用いて測定した。グラフにおいてピークが左側に移動するほど血小板活性によるP-セレクチン曝露レベルとaIIbβ3活性化レベルが減ったことを意味し、2’-フコシルラクトースが濃度依存的に血小板活性を抑制する効能があることを意味する。
【0052】
対照群(vehicle)と比較して、HMOのうち2’-フコシルラクトースのみが前処理された血小板において濃度依存的にマウス血小板α-顆粒のP-セレクチン(図3のA))及び血小板αIIbβ3インテグリン(図3のB))活性化を顕著に抑制することが確認された。このような結果は、2’-フコシルラクトースが、顆粒分泌とαIIbβ3インテグリン活性化抑制によって血小板活性化を選択的に抑制することを示唆する。
【0053】
[実験例1:HMOの細胞毒性テスト]
本実験例では、HMOの細胞毒性をCCKアッセイ(Oh,Y.C.;Jeong,Y.H.;Pak,M.E.;Go,Y.,Banhasasim-Tang Attenuates Lipopolysaccharide-Induced Cognitive Impairment by Suppressing Neuroinflammation in Mice.Nutrients 2020,12,(7))によって測定した。血小板に対する細胞毒性を測定できるプロトコルが確立されていないため、HepG2細胞にHMO(2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース)を濃度依存的に前処理した。24時間後に細胞計数キット溶液(Cell counting kit solution)(Dojindo Molecular Technologies,Inc.)を各ウェルに処理して1時間さらに培養した後、マイクロプレートリーダーを用いて450nmの波長で吸光度を測定した。
【0054】
HMOをHepG2細胞に前処理して細胞生存度(cell viability)を測定した結果、図4に示すように、HMO(2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース)の処理によるHepG2の細胞死滅は確認されておらず、このことから、HMOは細胞毒性がないものと結論付けることができた。
【0055】
[実施例2:HMOによる血行改善関連血小板活性(in vivo)効能確認]
【0056】
(1)実験目的
頚動脈結紮血栓動物モデルにおいてHMOの血行改善効能を評価しようとした。また、これを経口投与した後に(ex vivo)血小板の凝集及び活性効能を確認しようとした
【0057】
(2)実験動物準備及び実験方法
<1>実験動物準備
実験に用いられた雄C57BL/6(6~8週齢)マウスは、(株)トゥヨルバイオテックから購買し、1週間の一般飼料給与下に23±1℃及び56%相対湿度条件で馴化させた後に実験に使用した。下記において、動物実験は、韓国漢医学研究院実験動物倫理委員会で承認された動物実験計画書プロトコルにしたがって行われた(承認番号:20-058)。
【0058】
<2>FeClを用いた血栓症動物モデル作製及び血流量測定
血栓症誘導マウスモデルを作るためにFeCl(10%)を用いた。マウスは、7日間、2’-フコシルラクトース(500、1,000mg/kg BW)、3-フコシルラクトース(1,000mg/kg BW)又はASA(100mg/kg BW)を経口投与し、最後の投与2時間後に2%イソフルランでマウスを麻酔した後、マウスの左側頚動脈を分離し、FeCl(10%)で濡らしたフィルター用紙(直径2mm)を用いて頚動脈上に2分間載せて血栓症を誘導した。血流量は、血液流量計(AD計測器、血流量計)を用いて測定した。
【0059】
<3>尾部采血時間(Tail bleeding time)動物モデル作製及び止血作用測定
血栓症による止血作用を測定するために尾部采血時間アッセイ(tail bleeding time assay)を実施した。マウスは、1日1回、7日間2’-フコシルラクトース(500、1,000mg/kg BW)、3-フコシルラクトース(1,000mg/kg BW)又はASA(100mg/kg BW)を経口投与し、最後の投与2時間後に2%イソフルランでマウスを麻酔した。その後、剃刀の刃を用いてマウス尾を5mm切断し、45mLのPBSが入った50mLコニカルチューブに尾部を入れて固定させた後、出血時間及び出血量を測定した。具体的な過程及び写真は、図6の(A)に示した。血中血流の損失量は、45mLのPBSで収集された血中ヘモグロビン含有量を測定して定量化した。このとき、体温は暖房パッドを用いて37℃を保たせた。
【0060】
<4>統計処理
統計分析は、GraphPad Prism 5を用いて資料分析を実施した。統計的有意性は、多重集団のANOVA、多重集団の比較のためのダネット検定(Dunnett’s test for comparisons of multiple group)、2集団の比較のためのスチューデントt-検定(Student’s t-test for comparisons of two groups)で分析した。0.05よりも低いP値は有意な結果と見なした。
【0061】
(3)実験結果
<1>頚動脈血栓症動物モデルにおけるHMOによる血栓症生成抑制効能確認
血小板は、血管が損傷すると活性化されて損傷部位に凝集することによって血管損傷による部位の出血を止めるが、病的/病理生理的段階では血栓を起こし、この時、血小板活性が最も重要な役割を担う。
【0062】
血栓症誘導マウスモデルにおける血栓症生成抑制効能を確認した結果、図5に示すように、対照群(vehicle)において頚動脈閉塞時間が平均7.47分間、低濃度(500mg/kg BW)2’-フコシルラクトース投与群では平均11.79分間、高濃度(1,000mg/kg BW)2’-フコシルラクトース投与群では平均14.52分間であり、頚動脈閉塞時間が有意に増加した。一方、高濃度(1,000mg/kg BW)の3-フコシルラクトースを経口投与したマウスでは頚動脈閉塞時間が8.18分間であり、対照群と有意な差がなかった。また、高濃度(1,000mg/kg BW)の2’-フコシルラクトース投与群における頚動脈閉塞時間は、陽性対照群(ASAと表記)であるアスピリン(Aspirin)(100mg/kg BW)処理群の18.05分間と比較して、略同等なレベルに頚動脈閉塞時間を延長させることが確認された。
【0063】
<2>頚動脈血栓症動物モデルにおけるHMOによる止血効能確認
血管が損傷すると血小板が活性化されて損傷部位に凝集及び付着することにより、血管損傷による出血を抑止する止血作用を果たす。上記において頚動脈血栓症において濃度依存的に抑制効能を示した2’-フコシルラクトースが止血作用にどのような影響を与えるかを確認した。
【0064】
血栓症誘導マウスモデルの尾部切断後に出血時間及び出血量を測定した結果、図6の(B)のように、高濃度3-フコシルラクトース及び低・高濃度2’-フコシルラクトース投与群のマウス尾部出血時間は、対照群と比較して統計的に有意な差が見られなかった。また、切断部位から採取した血液とヘモグロビン含有量を対照群と比較定量化した結果、図6の(C)のように、HMOを食べさせたマウスにおける血流の損失量は、対照群と有意な差がなかった。ただし、7日間100mg/kg BWのASAを経口投与した時、2’-フコシルラクトース及び対照群に比べて、出血時間及びヘモグロビン含有量が遥かに増加した。このような結果から、HMOが生体内止血作用に有意な影響を与えることがなく、よって、既存血栓治療剤であるアスピリンの副作用を克服できる治療素材として利用可能な効能があることが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-02-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose;2’-FL)を含む、血栓に起因する脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項2】
前記血栓は、
血小板による血液凝固に起因して発生したことを特徴とする、請求項1に記載の脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項3】
前記血小板による血液凝固は、
血小板に対するアゴニスト(agonist;作用物質)であるCRP(collagen-related peptide)又はコラーゲン(collagen)の作用によって発生したことを特徴とする、請求項2に記載の脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項4】
前記脳心血管疾患は、
血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の脳心血管疾患改善用食品組成物。
【請求項5】
2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose;2’-FL)を含む、血栓に起因する脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記血栓は、
血小板による血液凝固に起因して発生したことを特徴とする、請求項に記載の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【請求項7】
前記血小板による血液凝固は、
血小板に対するアゴニスト(agonist;作用物質)であるCRP(collagen-related peptide)又はコラーゲン(collagen)の作用によって発生したことを特徴とする、請求項に記載の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【請求項8】
前記脳心血管疾患は、
血行障害、動脈硬化、血栓症、高血圧、心筋梗塞、狭心症及び脳卒中から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項に記載の脳心血管疾患予防用又は治療用薬学組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
その結果は、図2の通りであった。図2のグラフにおいて、縦軸の「光透過度(light transmission)」は、光透過が増加して血小板凝集が多く起きたとのことを示す尺度である。これは、もともと血小板は浮遊細胞(floating cell)として浮遊しているが、血小板アゴニストによって活性化されると血小板形態の変化及び凝集が起きて光の透過度が増加するという原理を利用したものである。図2のグラフにおいて、横軸の「時間(秒)(time(sec))」は、通常、血小板の完全な凝集に300秒(sec)程度かかり、よって、その時間の間に血小板の凝集程度を測定している。
【国際調査報告】