IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クローズド・ジョイント・ストック・カンパニー “バイオキャド”の特許一覧

特表2023-540085SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン
<>
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図1
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図2
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図3
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図4
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図5
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図6
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図7
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図8
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図9
  • 特表-SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2に対するAAV5に基づくワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/40 20060101AFI20230913BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230913BHJP
   C07K 14/165 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230913BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230913BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230913BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C12N15/40 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C07K14/165
C12N7/01
A61K35/76
A61P31/14
A61P37/04
A61K39/215
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514019
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 RU2021050279
(87)【国際公開番号】W WO2022045935
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】2020128658
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516261966
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー “バイオキャド”
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】プロコフィエフ,アレクサンドル・ブラディミロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルショビッチ,パベル・ミカイロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ストレルコワ,アンナ・ニコラエブナ
(72)【発明者】
【氏名】スプリナ,ナタリア・アレクサンドロブナ
(72)【発明者】
【氏名】コンディンスカイア,ディアナ・アレクサンドロブナ
(72)【発明者】
【氏名】イアコフレフ,パベル・アンドリービッチ
(72)【発明者】
【氏名】モロゾフ,ドミトリー・バレンチノビッチ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA71
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA50
4H045EA31
(57)【要約】
本出願は、生物工学、免疫学、ウイルス学、遺伝学および分子生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、SARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス2)のS糖タンパク質の単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)、SARS-CoV-2のRBD-Sをコードする核酸、それに基づく発現カセットおよびベクター、およびSARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための組換えAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づくウイルス、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するためのAAV5に基づくワクチン、ならびにSARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するためのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列によって表される、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)。
【請求項2】
請求項1に記載のSARS-CoV-2のS糖タンパク質の単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする単離された核酸。
【請求項3】
前記核酸がDNAである、請求項2に記載の単離された核酸。
【請求項4】
配列番号2のヌクレオチド配列である、請求項2に記載の単離された核酸。
【請求項5】
コドンを最適化されたヌクレオチド配列である、請求項2に記載の単離された核酸。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸を含む発現カセット。
【請求項7】
5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
CMV(サイトメガロウイルス)エンハンサー;
CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター;
hBG1遺伝子(ヘモグロビンサブユニットガンマ1遺伝子)のイントロン;
請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル)
右側の(第2の)ITR
を含む、請求項6に記載の発現カセット。
【請求項8】
配列番号3の核酸を含む、請求項7に記載の発現カセット。
【請求項9】
請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸または請求項6から8のいずれか一項に記載のカセットを含む発現ベクター。
【請求項10】
SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための単離された組換えAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づくウイルスであって、カプシドならびに請求項6から8のいずれか一項に記載の発現カセットを含む、ウイルス。
【請求項11】
前記カプシドが、AAV5タンパク質VP1を含む、請求項10に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項12】
前記カプシドが、配列番号4のアミノ酸配列を有するAAVタンパク質VP1を含む、請求項11に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項13】
前記カプシドが、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含む、請求項10に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項14】
前記カプシドが、配列番号5(S2AおよびT711S)のアミノ酸配列を有するAAVタンパク質VP1を含む、請求項13に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項15】
前記カプシドが、配列番号4のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含み、前記発現カセットが、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
CMV(サイトメガロウイルス)エンハンサー;
CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター;
hBG1遺伝子(ヘモグロビンサブユニットガンマ1遺伝子)のイントロン;
請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル)
右側の(第2の)ITR
を含む、請求項10から13のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項16】
前記カプシドが、配列番号4のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1を含み、前記発現カセットが、配列番号3の核酸を含む、請求項15に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項17】
1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1が、配列番号5(S2AおよびT711S)のアミノ酸配列である、請求項15または16のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項18】
請求項10から17のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルスを1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項19】
SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するための、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための、請求項10から17のいずれか一項に記載の組換えAAV5に基づくウイルスまたは請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項22】
SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するための、請求項10から17のいずれか一項に記載の組換えAAV5に基づくウイルスまたは請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項23】
請求項10から17のいずれか一項に記載の組換えAAV5に基づくウイルスを有効量で含む、SARS-CoV-2関連コロナウイルス感染を防止するためのワクチン。
【請求項24】
請求項10から17のいずれか一項に記載の組換えAAV5に基づくウイルスを有効量で含む、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項25】
SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するための方法であって、
請求項10から17のいずれか一項に記載の組換えAAV5に基づくウイルス;
請求項18に記載の組成物;
または請求項24に記載のワクチン;
を哺乳類生物に有効量で投与する工程を含む、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導する方法。
【請求項26】
SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための方法であって、
請求項10から17のいずれか一項に記載の組換えAAV5に基づくウイルス;
請求項18に記載の組成物;
または請求項23に記載のワクチン;
を哺乳類生物に有効量で投与する工程を含む、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、生物工学、免疫学、ウイルス学、遺伝学および分子生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、SARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス2)のS糖タンパク質の単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)、SARS-CoV-2のRBD-Sをコードする核酸、それに基づく発現カセットおよびベクター、およびSARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための組換えAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づくウイルス、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するためのAAV5に基づくワクチン、ならびにSARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)は、ベータコロナウイルス属のサルベコウイルス亜属のメンバーである。
SARS-CoV-2は、肺炎患者から採られた試料の分析の結果、2019年12月に同定された。2019年12月31日、世界保健機構は、これまで未知の病原体に起因するウイルス性肺炎のいくつかの症例を通知した。ウイルスの完全ゲノムは、中国において初めて解読された。
【0003】
SARS-CoV-2を含めたコロナウイルスは、急性呼吸器疾患を一般に引き起こす。このファミリーは、重症急性呼吸器症候群および中東呼吸器症候群をそれぞれ引き起こすSARS-CoVおよびMERS-CoVも含む。
【0004】
SARS-CoV-2は、進行中のCOVID-19汎発流行病に関与している。2020年1月、世界保健機構は、SARS-CoV-2の大発生を国際的に懸念される公衆衛生上の非常事態と宣言し、2020年3月11日、疾患の世界的な広がりを汎発流行病と特徴付けた。
【0005】
GenBankデータベース、Wu F.、Severe acute respiratory syndrome coronavirus2 isolate Wuhan-Hu-1、complete genome、2020年、GenBank:MN908947.3(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/MN908947)およびFan Wuら、A new coronavirus associated with human respiratory disease in China、2020年、Nature、579号、265~269頁(https://www.nature.com/articles/s41586-0020-2008-3)による論文は、SARS-CoV-2ゲノムに関する情報を提供する。
【0006】
特許文献CN110951756(B)は、SARS-CoV-2抗原ペプチドをコードしているヌクレオチド酸配列を開示し、これらヌクレオチド酸配列を使用して適切な免疫応答を誘導できることを提示し;それらは、SARS-CoV-2に対するワクチンに使用されることになると期待されている。
【0007】
特許文献CN110974950Bは、SARS-CoV-2感染を防止するためのワクチンを開示し、そのワクチンは、SARS-CoV-2抗原ペプチドをコードしている核酸配列を含むAd5アデノウイルスベクターを含む。
【0008】
特許文献RU2720614 C1(ロシア連邦保健省の名誉会員N.F.ガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センター)は、組換えアデノウイルス血清型5および/またはSARS-CoV-2のSタンパク質遺伝子を含む26個の粒子に基づいたワクチンを開示している。
【0009】
本出願の出願日時点で、SARS-CoV-2症例は、23,000,000件超に達し、SARS-CoV-2死は、800,000人超に達している。さらに、COVID-19汎発流行病は、本出願の出願日においてなお継続している。したがって、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に起因する疾患の防止および処置に有効な手段が世界的な急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の著者らは、SARS-CoV-2の糖タンパク質Sの単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)を開発し、そのドメインは、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導による哺乳動物の有効な免疫のための抗原として使用され、その事実は、SARS-CoV-2関連疾患の防止に寄与することになる。本発明の著者らは、哺乳類生物へ前記抗原を送達するための手段、特に、前記抗原をコードしている核酸を含む発現ベクター、前記抗原をコードしている核酸を含む組換えAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づくウイルス、前記物体(object)を含むワクチンならびにSARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するためのその使用の方法も開発した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列によって表される、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)に関する。
【0012】
一側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列によって表される、SARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス2)のS糖タンパク質の単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)に関する。
【0013】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする単離された核酸に関する。
一部の態様において、単離された核酸は、DNAである。
【0014】
一部の態様において、単離された核酸は、配列番号2のヌクレオチド配列である。
一部の態様において、単離された核酸は、コドンを最適化されたヌクレオチド配列である。
【0015】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つを含む発現カセットに関する。
【0016】
一部の態様において、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
CMV(サイトメガロウイルス)エンハンサー;
CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター;
hBG1遺伝子(ヘモグロビンサブユニットガンマ1遺伝子)のイントロン;
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つ
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル)
右側の(第2の)ITRを含む。
【0017】
一部の態様において、発現カセットは、配列番号3の核酸を含む。
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つまたは前記発現カセットのいずれか1つを含む発現ベクターに関する。
【0018】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための単離された組換えAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づくウイルスに関し、そのウイルスは、カプシドならびに前記発現カセットのいずれかを含む。
【0019】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列を有するAAVタンパク質VP1を含むカプシドを有する。
【0020】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
【0021】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号5(S2AおよびT711S)のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
【0022】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
CMV(サイトメガロウイルス)エンハンサー;
CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター;
hBG1遺伝子(ヘモグロビンサブユニットガンマ1遺伝子)のイントロン;
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つ
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル)
右側の(第2の)ITRを含む。
【0023】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3の核酸を含む。
【0024】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、AAV5タンパク質VP1は、配列番号5(S2AおよびT711S)のアミノ酸配列である。
【0025】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための医薬組成物に関し、その医薬組成物は、前記AAV5に基づく組換えウイルスのいずれかを1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて含む。
【0026】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するための医薬組成物に関し、その医薬組成物は、前記AAV5に基づく組換えウイルスのいずれかを1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて含む。
【0027】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための前記組換えAAV5に基づくウイルスまたは前記医薬組成物のいずれかの使用に関する。
【0028】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するための前記組換えAAV5に基づくウイルスまたは前記医薬組成物のいずれかの使用に関する。
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するためのワクチンに関し、そのワクチンは、有効量で前記組換えAAV5に基づくウイルスのいずれかを含む。
【0029】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するためのワクチンに関し、そのワクチンは、有効量で前記組換えAAV5に基づくウイルスのいずれかを含む。
【0030】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導する方法に関し、その方法は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するために前記組換えAAV5に基づくウイルス、前記組成物または前記ワクチンのいずれか1つを有効量で哺乳類生物に投与する工程を含む。
【0031】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止する方法に関し、その方法は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するために前記組換えAAV5に基づくウイルス、前記組成物または前記ワクチンのいずれか1つを有効量で哺乳類生物に投与する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)のRBD-S遺伝子配列を含む発現カセットを含むAAVベクターを作製することを意図するプラスミドpAAV RBD-Sの概念図である。リーダーペプチドは、標的タンパク質の分泌を可能にするペプチドである。RBD-Sは、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の組換え受容体結合ドメインである。AmpRは、アンピシリンに対する抵抗性を提供するベータラクタマーゼ遺伝子である。pUCオリジンは、細菌のpUC複製起点である。ITRは、逆位末端反復である。CMVエンハンサーは、サイトメガロウイルスエンハンサーである。CMVプロモーターは、サイトメガロウイルス初期遺伝子のプロモーターである。ポリAは、mRNAの安定性を増大させるためのポリアデニル化シグナル配列である。HBGイントロンは、ヒトベータグロビンイントロンである。
図2図2は、ウイルス性AAV5-RBD-S産物による細胞形質導入3日後のCHO-K1-S細胞培養中のRBD-Sタンパク質の濃度を示すグラフである。
図3図3は、AAV5-RBD-S産物による免疫化(1×1011 VG/マウスで筋肉内注射;注射容積200μL)後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフである。図3は、研究における各動物の個体スコアを示す図である。VGは、ウイルスゲノムである。
図4図4は、AAV5-RBD-S産物による免疫化(1×1011 VG/マウスで筋肉内注射;注射容積200μL)後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフである。図4は、平均値±標準偏差(n=8)を示す図である。VGは、ウイルスゲノムである。
図5図5は、AAV5-RBD-S産物による免疫化(4×1011 VG/マウスで筋肉内注射;注射容積200μL)後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフである。図5は、研究における各動物の個体スコアを示す図である。VGは、ウイルスゲノムである。
図6図6は、AAV5-RBD-S産物による免疫化(4×1011 VG/マウスで筋肉内注射;注射容積200μL)後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフである。図6は、平均値±標準偏差(n=8)を示す図である。VGは、ウイルスゲノムである。
図7図7は、AAV5産物による免疫化後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフであり、ゲノムは、RBD-S遺伝子を含む発現カセットを含有しない(空のAAV5カプシドを含む産物)。8.6×1010個CP/マウスで筋肉内注射;注射容積200μL。グラフは、研究における各動物の個体スコアを示す。CPは、ウイルス性カプシドである。
図8図8は、精製した組換えRBD-Sタンパク質産物による免疫化(20μg/マウスで筋肉内注射)後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフである。図8は、研究における各動物の個体スコアを示す図である。
図9図9は、精製した組換えRBD-Sタンパク質産物による免疫化(20μg/マウスで筋肉内注射)後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフである。図9は、平均値±標準偏差(n=7)を示す図である。
図10図10は、対照のAAVを含まない産物による免疫化後の研究動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を示すグラフである。グラフは、研究における各動物の個体スコアを示す。定義および一般的な方法 別段の規定がない限り、本明細書に使用される全ての技術および科学的用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0033】
さらに、文脈によって必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形の用語を含むものとする。一般に、本明細書に記載される細胞培養、分子生物学、免疫学、細菌学、遺伝学、分析化学、有機合成化学、医および薬学化学ならびにタンパク質および核酸のハイブリダイゼーションおよび化学の本分類および方法は、当業者によって周知であり、当業者において広く使用されている。酵素反応および精製方法は、当業者に一般的な製造業者のガイドラインにしたがって、または本明細書に記載されるように実行される。
【0034】
「単離されている」とは、天然の状態から改変または取り出されていることを意味する。例えば、動物において天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されていない」が、その天然の状態の共存材料から部分的もしくは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、「単離されている」。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができ、または例えば、遺伝子修飾された細胞などの非天然の環境で存在することができる。
【0035】
用語「天然に存在する」、「生来の」または「野生型」は、人工的に作製されたものとは別の、天然に見出すことができるものについて記載するために使用される。例えば、天然の供給源から単離することができ、実験室において人によって意図的に修飾されていない生物(ウイルスを含める)に存在するタンパク質またはヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0036】
用語「ゲノム」とは、生物の完全な遺伝物質のことを指す。
本説明および後に続く特許請求の範囲に使用される通り、文脈によって指図されない限り、単語「含む(include)」および「含む(comprise)」、または「有する(having)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含む(comprises)」、もしくは「含む(comprising)」などその変形物は、記載される整数または整数の群を内包することを意味するが、他の任意の整数または整数の群を除外することを意味しないと理解されよう。
タンパク質(ペプチド)
本説明に使用される用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、互換的に使用され、それらは、ペプチド結合によって共有結合で連結されているアミノ酸残基からなる化合物のことを指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を含みうるアミノ酸の最大数にはいかなる制約もない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに接続された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本説明に使用される通り、本用語は、例えば、ペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとして当業者に一般に称される短鎖と多くの型があるタンパク質として当業者に一般に称されるより長い鎖の両方のことを指す。「ポリペプチド」は、とりわけ、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質を含む。ポリペプチドは、天然のペプチド、組換えペプチド、合成ペプチドまたはその組合せを含む。
核酸分子
本説明において互換的に使用される用語「核酸」、「核配列」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」および「ヌクレオチド配列」は、修飾されているもしくはされていない、核酸の断片もしくは領域を決定する、非天然のヌクレオチドを含有するもしくはしない、および二本鎖DNAもしくはRNA、一本鎖DNAもしくはRNA、または前記DNAの転写産物のいずれかであるヌクレオチドの正確な配列を意味する。
【0037】
当業者は、核酸が、単量体「ヌクレオチド」に加水分解されうるポリヌクレオチドであるという一般的な知見を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解されうる。本説明に使用される通り、ポリヌクレオチドは、非限定的な例として、通常のクローン技術およびPCR、等を使用する組換え手段、すなわち組換えライブラリまたは細胞ゲノム由来核酸配列のクローニング、を含めた当業者に利用可能な任意の手段ならびに合成手段によって得られる全ての核酸配列を非限定的な例として含む。
【0038】
本発明は、天然の染色体環境、すなわち天然の状態のヌクレオチド配列に関するものではない点にもここで注目すべきである。本発明の配列は、単離および/または精製されている、すなわち、例えばコピーによって、直接もしくは間接的に試料採取され、その環境は少なくとも部分的に修飾されている。したがって、組換え遺伝学、例えば、宿主細胞の手段によって得られる、または化学合成によって得られる単離された核酸も、ここで言及されるべきである。
【0039】
特に明記しない限り、用語ヌクレオチド配列は、その相補体を包含する。したがって、特定の配列を有する核酸は、その相補配列を持つその相補鎖を包含するものと理解されるべきである。
【0040】
用語「形質転換」、「トランスフェクション」および「形質導入」とは、核酸が、細胞もしくは宿主生物へ導入される任意の方法または手段のことを指し、同じ意味を伝えるために互換的に使用されうる。そのような方法には、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、感染、PEG融合、等があるが、これに限定されない。
アデノ随伴ウイルス(AAV)
パルボウイルス科ファミリーのウイルスは、小さいDNAを含有する動物ウイルスである。パルボウイルス科ファミリーは、2つの亜科:メンバーが脊椎動物を感染させるパルボウイルス亜科およびメンバーが昆虫を感染させるデンソウイルス亜科に分けることができる。2006年までに、11個の血清型のアデノ随伴ウイルスが記載されている[Mori,S.ら、2004年、「Two novel adeno-associated viruses from cynomolgus monkey:pseudotyping characterization of capsid protein」、Virology、Т.330(2):375~83頁]。公知の全ての血清型は、複数の組織型由来の細胞を感染させることができる。組織特異性は、カプシドタンパク質の血清型によって決定され;したがって、アデノ随伴ウイルスに基づくベクターは、所望の血清型を割り当てることによって構築される。パルボウイルス科のパルボウイルスおよび他のメンバーに関するさらなる情報は、文献[Kenneth I.Berns、「Parvoviridae:The Viruses and Their Replication」、Fields Virology(第3版1996年)の第69章]に記載されている。
【0041】
公知のAAV血清型の全てのゲノム構成は、非常によく似ている。AAVのゲノムは、長さ約5000ヌクレオチド(nt)未満の直鎖状、一本鎖DNA分子である。逆位末端反復(ITR)は、非構造タンパク質(Rep)および構造タンパク質(Cap)の複製の固有のコードヌクレオチド配列を挟んでいる。Cap遺伝子は、カプシドを形成するVPタンパク質(VP1、VP2およびVP3)をコードする。末端145ヌクレオチドは自己相補的であり、T字ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖が形成されうるように組織化される。そのようなヘアピン構造は、ウイルスDNAの複製の複製起点として機能し、細胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての機能を果たす。哺乳動物細胞において野生型AAV(wtAAV)感染後に、Rep遺伝子(例えばRep78およびRep52)は、それぞれP5プロモーターおよびP19プロモーターを使用して発現され、両方のRepタンパク質は、ウイルスゲノムの複製において特定の機能を有する。Repオープンリーディングフレーム(Rep ORF)におけるスプライシング事象は、実際に4種類のRepタンパク質(例えばRep78、Rep68、Rep52およびRep40)の発現をもたらす。しかしながら、Rep78およびRep52タンパク質をコードしているスプライスされていないmRNAが、哺乳動物細胞におけるAAVベクターの作製には充分であることが示されている。
ベクター
本明細書では用語「ベクター」とは、連結された別の核酸を輸送する能力がある核酸分子を意味する。
【0042】
ウイルス力価への言及において使用される用語「感染単位(iu)」、「感染性粒子」または「複製単位」とは、例えば、McLaughlinら、J.Virol.(1988年)62:1963~1973頁に記載されている複製中心アッセイとしても公知である感染中心アッセイによって測定される感染性組換えAAVベクター粒子の数のことを指す。
【0043】
コード配列および調節配列などの核酸配列に関する用語「異種」は、通常では一緒に接続されていない、および/または特定の細胞と通常関連していない配列を示す。したがって、核酸構築物またはベクターの「異種」領域は、天然には他の分子と関連して見出されない別の核酸分子内にあるまたはそれに付加されている核酸の断片である。例えば、核酸構築物の異種領域は、天然にはコード配列と関連して見出されない配列に挟まれるコード配列を含みうる。異種コード配列の別の例は、コード配列自体が天然に見出されない構築物である(例えば生来の遺伝子と異なるコドンを有する合成配列)。
【0044】
本説明に使用される、用語「発現」は、プロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
使用
用語「予防」または「防止」等は、疾患、障害もしくは感染の病徴の発症を減速または防止することを意味する。
【0045】
本発明に使用される用語「免疫応答の誘導」とは、免疫応答の活性の特異的制御またはそれに対する効果のことを指し、免疫応答の活性化、免疫応答の刺激、免疫応答の増強を含む。
【0046】
本発明に使用される用語「特異的免疫」とは、免疫応答の誘導後に疾患に対する免疫がある状態のことを指す。
用語「障害」は、本発明による処置から利益を得ることになるあらゆる症状を意味する。これは、慢性および急性障害または疾患を含み、哺乳動物を当該の障害に罹りやすくする病的症状を含める。
【0047】
「疾患」とは、動物がホメオスタシスを維持することができない動物の健康状態であり、その疾患が改善されない場合、動物の健康はその後悪化し続ける。
本説明において用語「対象」、「患者」、「個体」、等は、互換的に使用され、本説明に記載される方法に適する任意の動物のことを指す。特定の非限定的な態様において、対象、患者または個体は、ヒトである。前記対象は、任意の年齢の男性または女性のいずれでもよい。
【0048】
「治療上有効な量」または「有効量」とは、防止される疾患の1つまたは複数の病徴をある程度軽減することになる投与される治療的薬剤の量のことを指す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
ペプチド性抗原
一側面において、本発明は、アミノ酸配列
【0050】
【化1】
【0051】
によって表される、SARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス2)のS糖タンパク質の単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)に関する。
SARS-CoV-2の前記RBD-Sは、SARS-CoV-2の全長S糖タンパク質から得られ、それについてはGenBankデータベース、Wu F.、Severe acute respiratory syndrome coronavirus2 isolate Wuhan-Hu-1、complete genome、2020年、GenBank:MN908947.3(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/MN908947)およびFan Wuら、A new coronavirus associated with human respiratory disease in China、2020年、Nature、579号、265~269頁(https://www.nature.com/articles/s41586-0020-2008-3)に記載されており、以下のアミノ酸配列:
【0052】
【化2】
【0053】
を有する。
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD-S)は、この糖タンパク質の構造の分析に基づいてSARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記配列から選択され(実施例1を参照のこと)、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の受容体結合ドメインは、以下のアミノ酸配列
【0054】
【化3】
【0055】
を有する。
次に、配列番号7のアミノ酸配列に点アミノ酸置換C272Sを導入して、SARS-CoV-2のRBD-Sタンパク質のさらなる安定性が得られ、それにより配列番号1のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2のS糖タンパク質の組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)が作製される。
核酸
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする単離された核酸に関する。
【0056】
「単離された」核酸分子は、少なくとも1つの核酸分子-不純物から同定、分離されるものであり、ヌクレアーゼ核酸の天然の供給源において、前者は、一般に結合している。単離された核酸分子は、天然の条件下で見出される形態または組と異なっている。したがって、単離された核酸分子は、天然の条件下で細胞内に存在する核酸分子とは異なる。しかしながら、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子が天然の条件下の細胞における局在化と異なる染色体局在化を有する場合、ヌクレアーゼが通常発現される細胞内に位置する核酸分子を含んでいる。
【0057】
一部の態様において、単離された核酸は、DNAである。
一部の態様において、単離された核酸は、ヌクレオチド配列
【0058】
【化4】
【0059】
である。
一部の態様において、単離された核酸は、コドンを最適化されたヌクレオチド配列である。
発現カセット。発現ベクター。
【0060】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つを含む発現カセットに関する。
【0061】
本明細書では用語「発現カセット」とは、適切な設定において、前記発現カセット中に含まれる対象のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの発現を誘発する能力があるDNA断片のことを特に指す。宿主細胞に導入された場合、発現カセットは、とりわけ、対象のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドをRNAへと転写するための細胞機構に関与する能力があり、その後、RNAは、一般にさらにプロセッシングされ、最終的に対象のポリペプチドに翻訳される。発現カセットは、発現ベクターに含有されてもよい。
【0062】
本発明の発現カセットは、要素としてプロモーターを含む。本明細書では用語「プロモーター」とは、プロモーターが作動的に連結されているポリヌクレオチドの転写を促進するDNA要素のことを特に指す。プロモーターは、プロモーター/エンハンサー要素の部分をさらに形成しうる。「プロモーター」と「エンハンサー」要素の間の物理的境界は、必ずしも明確ではないが、用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼおよび/または任意の関連因子が結合し、転写が開始される核酸分子上の部位のことを一般に指す。エンハンサーは、一時的および空間的にプロモーター活性を強化する。多くのプロモーターは、多様な細胞型において転写活性があることが当業者に公知である。プロモーターは、2つのクラス、構成的に機能するものおよび誘導または抑制解除によって調節されるもの、に分けることができる。両方のクラスが、タンパク質発現に適している。真核生物細胞、特に哺乳動物細胞におけるポリペプチドの高レベル産生に使用されるプロモーターは、多様な細胞型において強力であり、好ましくは活性であるべきである。多くの細胞型において発現を駆動する能力がある強力な構成的プロモーターは、当業者に周知であり、したがって、本明細書においてそれについて詳細に記載する必要はない。本発明の考えによると、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを使用することが好ましい。ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)の前初期(IE)領域から得られるプロモーターまたはプロモーター/エンハンサーは、本発明の発現カセットにおけるプロモーターとして特に適している。ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)の前初期(IE)領域ならびにそこから得られた機能的発現誘導断片および/または機能的発現増進断片は、例えば、欧州特許第0173177号および欧州特許第0323997号に記載されており、また当業者にはよく知られている。したがって、hCMVの前初期(IE)領域のいくつかの断片が、プロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーとして使用されうる。本発明の一態様によると、ヒトCMVプロモーターが、本発明の発現カセットに使用される。
【0063】
一部の態様において、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
CMV(サイトメガロウイルス)エンハンサー;
CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター;
hBG1遺伝子(ヘモグロビンサブユニットガンマ1遺伝子)のイントロン;
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つ
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル)
右側の(第2の)ITRを含む。
【0064】
一部の態様において、左側の(第1の)ITR(逆位末端反復)は、以下の核酸配列:
【0065】
【化5】
【0066】
を有する。
一部の態様において、CMV(サイトメガロウイルス)エンハンサーは、以下の核酸配列:
【0067】
【化6】
【0068】
を有する。
一部の態様において、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーターは、以下の核酸配列:
【0069】
【化7】
【0070】
を有する。
一部の態様において、hBG1(ヘモグロビンサブユニットガンマ1)遺伝子のイントロンは、以下の核酸配列:
【0071】
【化8】
【0072】
を有する。
一部の態様において、hGH1(ヒト成長ホルモン1遺伝子)ポリアデニル化シグナルは、以下の核酸配列:
【0073】
【化9】
【0074】
を有する。
一部の態様において、右側の(第2の)ITRは、以下の核酸配列:
【0075】
【化10】
【0076】
を有する。
一部の態様において、発現カセットは、ヌクレオチド配列:
【0077】
【化11】
【0078】
の核酸を含む。
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つまたは前記発現カセットのいずれか1つを含む発現ベクターに関する。
【0079】
一部の態様において、ベクターは、プラスミド、すなわち、追加のDNA区分がライゲートされうるDNAの環状二本鎖部分である。
一部の態様において、ベクターはウイルスベクターであり、追加のDNA区分は、ウイルスゲノムにライゲートされうる。
【0080】
一部の態様において、ベクターは、導入される宿主細胞中で自己複製する能力がある(例えば複製の細菌複製起点部位を有する細菌ベクターおよびエピソーム性哺乳動物ベクター)。さらなる態様において、ベクター(例えば非エピソーム性哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入すると宿主細胞のゲノムに組み込まれる場合があり、それによって宿主遺伝子とともに複製される。さらに、特定のベクターは、作動的に連結された遺伝子の発現を指令する能力がある。本明細書においてそのようなベクターは、「組換え発現ベクター」(または、単に「発現ベクター」)と称される。
【0081】
発現ベクターには、プラスミド、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスなどの植物ウイルス、コスミド、YAC、EBV由来エピソーム、等がある。DNA分子は、ベクター内の転写および翻訳制御配列が、DNAの転写ならびに翻訳を調節するという意図した機能を果たすようにベクターにライゲートされうる。発現ベクターおよび発現制御配列は、使用される発現宿主細胞と適合するように選択されうる。DNA分子は、標準的な方法(例えば相補的制限部位のライゲーション、または制限部位が存在しない場合平滑末端ライゲーション)によって発現ベクターに導入されうる。
【0082】
組換え発現ベクターは、宿主細胞からの対象とするタンパク質の分泌を促進するリーダーペプチド(またはシグナルペプチド)をコードすることもできる。対象のタンパク質の遺伝子は、シグナルペプチドが対象のタンパク質のアミノ末端にインフレームで連結されるようにベクターにクローニングされうる。リーダーペプチド(またはシグナルペプチド)は、免疫グロブリンのリーダーペプチドでも異種リーダーペプチド(すなわち、非免疫グロブリンタンパク質のリーダーペプチド)でもよい。
【0083】
本発明に記載のSARS-CoV-2のRBD-S遺伝子に加えて、本発明に記載のベクターの組換え発現は、宿主細胞においてSARS-CoV-2のRBD-S遺伝子の発現を制御する調節配列を保有してもよい。調節配列の選択を含めた発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現のレベル、その他などの因子によって決まりうることは、当業技術者によって理解されよう。哺乳動物における発現宿主細胞にとって好ましい制御配列には、レトロウイルスLTR、サイトメガロウイルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサーなど)、シミアンウイルス40(SV40)(SV40プロモーター/エンハンサーなど)、アデノウイルス[例えば主要後期プロモータアデノウイルス(AdMLP)]、ポリオーマウイルスから得られるプロモーターおよび/またはエンハンサーなど哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を確実にするウイルス要素、ならびに生来の免疫グロブリンプロモーターもしくはアクチンプロモーターなどの強力な哺乳動物プロモーターがある。
【0084】
用語「制御配列」とは、特定の宿主生物において作動的に連結されたコード配列を発現するために必要なDNA配列のことを指す。原核生物に適する制御配列には、例えばプロモーター、任意選択でオペレーター配列およびリボソーム結合部位がある。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが公知である。
【0085】
本説明に使用される用語「プロモーター」または「転写調節配列」または「調節配列」とは、1つもしくは複数のコード配列の転写を制御し、コード配列の転写開始部位からの転写の方向と比較して読み込みの方向に対して上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、および転写因子結合部位、リプレッサーおよび活性化タンパク質結合部位を含むがこれに限定されない他の任意のDNA配列、ならびに前記プロモーターにより転写のレベルを直接もしくは間接的に調節する当業者に公知の他の任意のヌクレオチド配列の存在によって構造的に同定される核酸断片のことを指す。「構成的」プロモーターは、典型的な生理的および発生的条件下でほとんどの組織において活性があるプロモーターである。「誘導可能な」プロモーターは、例えば化学誘導物質の影響下で、生理的または発生的に調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の型の組織または細胞においてのみ活性がある。
【0086】
本明細書では用語「エンハンサー(複数)」または「エンハンサー(単数)」は、組換え産物をコードするDNA配列の隣に位置するDNA配列のことを指す場合がある。エンハンサー要素は、プロモーター要素から5’方向に一般に位置し、またはコードDNA配列[例えば、組換え産物(単数)もしくは産物(複数)に転写または翻訳されるDNA配列]の下流もしくは中に位置することができる。それ故、エンハンサー要素は、組換え産物をコードするDNA配列の100塩基対、200塩基対もしくは300塩基対以上上流または前記配列の下流に位置することができる。エンハンサー要素は、DNA配列から発現される組換え産物の量を単一のプロモーター要素と関連する発現レベルより高く増大させうる。複数のエンハンサー要素が、当分野の技術者に容易に利用可能である。
【0087】
上記遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞におけるベクターの複製を調節する配列(例えば複製の複製起点)および選択可能なマーカー遺伝子など、追加の配列を保有してもよい。選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(例えば米国特許第4,399,216号、第4,634,665号および第5,179,017号を参照のこと)。例えば、選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞にG418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの薬剤に対する抵抗性を一般に付与する。例えば、選択可能なマーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅中のdhfr宿主細胞に使用する)、neo遺伝子(G418選択用)およびグルタミン酸合成酵素遺伝子がある。
【0088】
本説明に使用される用語「発現制御配列」とは、ライゲートされるコード配列の発現およびプロセッシングを達成するために必要なポリヌクレオチド配列のことを指す。発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列;スプライシングおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNAプロセッシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強させる配列(すなわち、コザック共通配列);タンパク質安定性を増強させる配列;必要に応じて、タンパク質分泌を増強させる配列がある。そのような制御配列の性質は、宿主生物に応じて異なり;原核生物において、そのような制御配列は、リボソーム結合部位のプロモーターおよび転写終結配列を一般に含み;真核生物において、一般に、そのような制御配列は、プロモーターおよび転写終結配列を含む。用語「制御配列」は、その存在が発現およびプロセッシングに必須である全ての成分を少なくとも含むことが意図され、その存在が有利である追加の成分、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列を含むこともできる。
【0089】
本明細書では、用語「作動的に連結される」とは、機能的に関係してポリヌクレオチド(またはポリペプチド)要素を連結することを指す。核酸が、別の核酸配列と機能的に関係した状態で存在する場合、「作動的に連結されている」。例えば、転写調節配列が、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、それは、前記コード配列に作動的に連結されている。用語「作動的に連結される」は、連結されるDNA配列が一般に連続しており、2つのタンパク質コード領域を接続する必要がある場合には、同様に連続しており、読み枠内に存在することを意味する。
【0090】
本発明の一態様において、「発現ベクター」は、対象の1つもしくは複数のポリヌクレオチド配列、対象の遺伝子、またはパルボウイルス配列もしくは逆位末端反復(ITR)配列に挟まれている「導入遺伝子」を含むベクターに関する。
【0091】
本発明のカセットまたはベクターのいずれも、アデノ随伴ウイルスの非構造タンパク質(Rep)および構造タンパク質(Cap)をコードしている遺伝子のヌクレオチド配列を含まない。
AAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルス
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するおよび/またはSARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための単離された組換えAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づくウイルスに関し、そのウイルスは、カプシドならびに前記発現カセットのいずれかを含む。
【0092】
この説明に使用される用語「AAVに基づく組換えウイルス」(または「AAVに基づくウイルス様粒子」、もしくは「AAV組換えウイルス株」、または「AAV組換えベクター」、もしくは「rAAVベクター」)とは、AAVカプシドで封入される上記発現カセット(または上記発現ベクター)のことを指す。
【0093】
Cap遺伝子は、様々な選択的産物の中でも特に、3種のカプシドタンパク質(VP1、VP2およびVP3)をコードしている。VP1、VP2およびVP3は、比1:1:10で存在して、正二十面体のカプシドを形成する[Xie Q.ら、The atomic structure of adeno-associated virus(AAV-2)、a vector for human gene therapy.Proc Natl Acad Sci USA、2002年;99:10405~10410頁]。これら遺伝子の転写は、1つのプロモーター、p40から開始する。対応するタンパク質(VP1、VP2およびVP3)の分子量は、それぞれ87、72および62kDaである。3つのタンパク質全てが、1つのmRNAから翻訳される。転写後、mRNA前駆体は、2つの異なる様式でスプライスされる場合があり、より長いまたはより短いイントロンのいずれかが切り出されて、様々なヌクレオチド長のmRNAが形成される。
【0094】
AAV(rAAV)に基づく組換えウイルスの作製において、ITRに挟まれる発現カセットは、AAVカプシドにパッケージングされる。AAVの複製に必要とされる遺伝子は、上述の通りカセットに含まれない。
【0095】
発現カセットDNAは、長さおよそ3000ヌクレオチドの一本鎖DNA分子(ssDNA)の形態でウイルスカプシドにパッケージングされる。細胞が、ウイルスに感染すると、一本鎖DNAは、二本鎖DNA(dsDNA)の形態に変換される。dsDNAは、存在する遺伝子(単数)または遺伝子(複数)をRNAへと転写する細胞のタンパク質によってのみ使用されうる。
【0096】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、アミノ酸配列
【0097】
【化12】
【0098】
を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有する。
【0099】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、以下のアミノ酸配列:
【0100】
【化13】
【0101】
を有するAAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有する。
【0102】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、以下のアミノ酸配列
【0103】
【化14】
【0104】
を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP1、VP2およびVP3を含むカプシドを有する。
【0105】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列を持つVP1、配列番号14のアミノ酸配列を持つVP2および配列番号15のアミノ酸配列を持つVP3タンパク質を含むカプシドを有する。
【0106】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
【0107】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、野生型AAV5 VP1(配列番号4)のS2AおよびT711Sの位置にアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、アミノ酸配列
【0108】
【化15】
【0109】
を有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号14のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有する。
【0110】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、野生型AAV5 VP2(配列番号14)のT575Sの位置にアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有し、アミノ酸配列
【0111】
【化16】
【0112】
を有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号15のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有する。
【0113】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、野生型AAV5 VP3(配列番号15)のT519Sの位置にアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有し、アミノ酸配列
【0114】
【化17】
【0115】
を有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異がある配列番号4のアミノ酸配列のVP1、1つまたは複数の点突然変異がある配列番号14のアミノ酸配列のVP2および1つまたは複数の点突然変異がある配列番号15のアミノ酸配列のVP3タンパク質を含むカプシドを有する。
【0116】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号5のアミノ酸配列のVP1、配列番号16のアミノ酸配列のVP2および配列番号17のアミノ酸配列のVP3タンパク質を含むカプシドを有する。
【0117】
熟語「より多くの点突然変異」とは、2、3、4、5、6、7、8、9または10点の置換のことを指す。
特に好ましい態様は、天然に保存的である置換(突然変異)、すなわち側鎖において接続されるアミノ酸のファミリー内で起こる置換を含む。特に、アミノ酸は、4つのファミリーに一般に分けられる:(1)酸性アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸である;(2)塩基性アミノ酸は、リジン、アルギニン、ヒスチジンである;(3)非極性アミノ酸は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンである、(4)非荷電極性アミノ酸は、グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシンである。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、芳香族アミノ酸に分類される場合もある。例えば、イソロイシンもしくはバリンの代わりにロイシン、グルタミン酸の代わりにアスパラギン酸、セリンの代わりにトレオニンの単独の置換、または構造的に関連するアミノ酸に対するアミノ酸の類似の保存的置換が、生物学的活性に対して大きな効果がないであろうことは、合理的に予測可能である。例えば、対象のポリペプチドは、分子の所望の機能が無傷のままである限り、約5~10個まで保存的または非保存的アミノ酸置換を含みうる。
【0118】
アミノ酸置換を使用するAAV5タンパク質VP1、VP2またはVP3の配列内の点突然変異による態様は、別のアミノ酸残基によるAAV5タンパク質VP1、VP2またはVP3内の少なくとも1つのアミノ酸残基の置換である。
【0119】
保存的置換は、表Aにおいて「好ましい置換」に示される。
【0120】
【表1】
【0121】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
CMV(サイトメガロウイルス)エンハンサー;
CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター;
hBG1遺伝子(ヘモグロビンサブユニットガンマ1遺伝子)のイントロン;
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つ
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITRを含む。
【0122】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列を持つVP1、配列番号14のアミノ酸配列を持つVP2および配列番号15のアミノ酸配列を持つVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
CMVエンハンサー;
CMVプロモーター;
hBG1遺伝子(ヘモグロビンサブユニットガンマ1遺伝子)のイントロン;
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つ
hGH1ポリアデニル化シグナル;
右側のITRを含む。
【0123】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異がある配列番号4のアミノ酸配列のVP1、1つまたは複数の点突然変異がある配列番号14のアミノ酸配列のVP2および1つまたは複数の点突然変異がある配列番号15のアミノ酸配列のVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
CMVエンハンサー;
CMVプロモーター;
hBG1遺伝子のイントロン;
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つ
hGH1ポリアデニル化シグナル;
右側のITRを含む。
【0124】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号5のアミノ酸配列を持つVP1、配列番号16のアミノ酸配列を持つVP2および配列番号17のアミノ酸配列を持つVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
CMVエンハンサー;
CMVプロモーター;
hBG1遺伝子のイントロン;
SARS-CoV-2のS糖タンパク質の前記単離された組換え受容体結合ドメイン(RBD-S)をコードする前記核酸のいずれか1つ
hGH1ポリアデニル化シグナル;
右側のITRを含む。
【0125】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3の核酸を含む。
【0126】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号4のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、AAV5タンパク質VP1は、配列番号5(S2AおよびT711S)のアミノ酸配列である。
【0127】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号4のアミノ酸配列を持つVP1、配列番号14のアミノ酸配列を持つVP2および配列番号15のアミノ酸配列を持つVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3の核酸を含む。
【0128】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異がある配列番号4のアミノ酸配列のVP1、1つまたは複数の点突然変異がある配列番号14のアミノ酸配列のVP2および1つまたは複数の点突然変異がある配列番号15のアミノ酸配列のVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3の核酸を含む。
【0129】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号5のアミノ酸配列を持つVP1、配列番号16のアミノ酸配列を持つVP2および配列番号17のアミノ酸配列を持つVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3の核酸を含む。
医薬組成物/ワクチン
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための医薬組成物に関し、その医薬組成物は、前記AAV5に基づく組換えウイルスのいずれかを1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて含む。
【0130】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するための医薬組成物に関し、その医薬組成物は、前記AAV5に基づく組換えウイルスのいずれかを1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて含む。
【0131】
特定の態様において、本発明は、薬学的に許容可能な担体または他の医薬品、アジュバント、希釈剤、等の中に本発明のAAV5に基づく組換えウイルスを含む医薬組成物に関する。注射の場合、担体は、一般に液状担体になる。他の投与方法の場合、担体は、個体、または無菌の発熱性物質を含まない水もしくは無菌の発熱性物質を含まないリン酸緩衝食塩水などの液体のいずれかでありうる。吸入投与の場合、担体は、呼吸に適しており、好ましくは固体または液体粒状形態である。注射媒体としては、安定化剤、塩もしくは生理食塩水などの注射溶液に一般的な添加物、および/または緩衝剤を含有する水を使用することが好ましい。
【0132】
「医薬組成物」は、本発明の上記AAV5に基づく組換えウイルスおよび充填材、溶媒、希釈剤、担体、助剤、分配剤、送達剤、保存剤、安定化剤、乳化剤、懸濁化剤、増粘剤、長期送達制御剤などの薬学的に許容可能であり、薬理学的に適合する賦形剤からなる群から選択される成分を少なくとも1つ含む組成物を意味し、その選択および割合は、投与の型および経路ならびに投薬量によって決まる。本発明の医薬組成物およびその調製の方法は、当業技術者にとって確実に明らかであろう。医薬組成物は、GMP(医薬品製造品質管理基準)要件に準拠して、好ましくは製造されるべきである。組成物は、緩衝組成物、等張化剤、安定化剤および可溶化剤を含んでもよい。
【0133】
「薬学的に許容可能」とは、生物学的または他の負の副作用がない材料を意味し、例えば、その材料は、いかなる望ましくない生物学的効果も引き起こさずに対象に投与されうる。したがって、そのような医薬組成物は、例えば、ex vivoでの細胞のトランスフェクションまたは本発明のAAV5に基づく組換えウイルスの対象へのin vivo直接投与に使用されうる。
【0134】
用語「賦形剤」は、本発明の上記成分以外のあらゆる成分について記載するために本明細書に使用される。これらは、製剤に必要な物理化学的特性を得るために医薬品製造に使用される無機または有機の天然の物質である。
【0135】
「安定化剤」とは、活性薬剤の物理および/または化学的安定性を提供する賦形剤もしくは2つ以上の賦形剤の混合物のことを指す。
用語「緩衝液」、「緩衝組成物」、「緩衝剤」とは、酸塩基コンジュゲート成分の作用によるpH変化に抵抗する能力があり、rAAV5ベクター産物がpH変化に抵抗することを可能にする溶液のことを指す。一般に、医薬組成物は、pH4.0~8.0を好ましくは有する。使用されうる緩衝液の例には、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、等の緩衝液があるが、これに限定されない。
【0136】
活性薬剤が、指定された貯蔵寿命の間、保存温度、例えば、2~8℃でその物理的安定性および/もしくは化学的安定性ならびに/または生物学的活性を保持する場合、医薬組成物は「安定である」。好ましくは、活性薬剤は、物理および化学的安定性の両方、ならびに生物学的活性を保持する。貯蔵期間は、加速または自然劣化条件における安定性試験の結果に基づいて調整される。
【0137】
本発明の医薬組成物は、単一の単位用量もしくは複数の単一の単位用量の形態で即時製剤の形態で製造、包装、または広く販売されうる。本明細書では用語「単一の単位用量」とは、予め定めた分量の活性成分を含有する医薬組成物の個別の分量のことを指す。活性成分の分量は、対象において投与される活性成分の用量、またはそのような用量の簡便な部分、例えば、そのような用量の半分または1/3に一般に等しい。
【0138】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するためのワクチンに関し、そのワクチンは、有効量で前記組換えAAV5に基づくウイルスのいずれかを含む。
【0139】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するためのワクチンに関し、そのワクチンは、有効量で前記組換えAAV5に基づくウイルスのいずれかを含む。
【0140】
用語「ワクチン」とは、防御免疫を付与する病原体に対する免疫応答を誘導するために使用される病原体から得られる抗原を含む免疫原性組成物のことを指す(例えば、病原体に起因する感染から対象を保護するおよび/または病原体による感染に起因する疾患もしくは症状の重症度を減少させる免疫)。防御免疫には、抗体の産生および/または細胞媒介性応答がありうる。
【0141】
文脈に応じて、用語「ワクチン」は、防御免疫を獲得するために脊椎動物に投与される抗原懸濁液または溶液のことを指す場合もある。
ワクチンは、AAV5に基づく組換えウイルスを含み、好ましくは、そのウイルスは、生物学的に有効な量でワクチン中に存在する。組換えウイルスの「生物学的に有効な」量とは、細胞において感染(または形質導入)および異種核酸配列の発現を生じるのに十分な量である。ウイルスが、細胞にin vivoで投与される(例えば、ウイルスが、下記の通り対象に投与される)場合、ウイルスベクターの「生物学的に有効な」量とは、標的細胞において異種核酸配列の形質導入および発現を生じるのに十分な量である。
【0142】
医薬組成物に関する定義および説明の全ては、ワクチンにも適用するものとする。
使用
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するための前記組換えAAV5に基づくウイルスまたは前記医薬組成物のいずれかの使用に関する。
【0143】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するための前記組換えAAV5に基づくウイルスまたは前記医薬組成物のいずれかの使用に関する。
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導する方法に関し、その方法は、SARS-CoV-2に特異的な免疫を誘導するために前記組換えAAV5に基づくウイルス、前記組成物または前記ワクチンのいずれか1つを、有効量で哺乳類生物に投与する工程を含む。
【0144】
一側面において、本発明は、SARS-CoV-2関連コロナウイルス感染を防止する方法に関し、その方法は、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染を防止するために前記組換えAAV5に基づくウイルス、前記組成物または前記ワクチンのいずれか1つを、有効量で哺乳類生物に投与する工程を含む。
【0145】
当業者に認識されているAAV5に基づく組換えウイルスを投与する任意の方法が、本発明の上記のAAV5に基づく組換えウイルスに適切に使用されうる。
投与の典型的な様式には、局所適用、鼻腔内、吸入、経粘膜、経皮、腸内(例えば口腔、直腸)、非経口(例えば静脈内、皮下、真皮内、筋肉内)投与および組織または器官直接注射がある。
【0146】
注射可能薬物は、液体の溶液もしくは懸濁液のいずれか、注射前に液体中に溶液もしくは懸濁液を調製するのに適切な固体形態、またはエマルジョンとして従来通りの形態で調製されうる。別法として、全身的ではなく局所的様式、例えばデポ剤または持続放出製剤で本発明の前記AAV5に基づく組換えウイルスを投与することができる。
【0147】
AAV5に基づく組換えウイルスは、有効量で生物に導入される。好ましくは、AAV5に基づく組換えウイルスは、生物学的に有効な量で生物に導入される。組換えウイルスの「生物学的に有効な」量は、細胞において異種核酸配列の感染(または、形質導入)および発現を引き起こすのに十分な量である。ウイルスが、in vivoで細胞に投与される(例えば、下記の通り、ウイルスが対象に投与される)場合、ウイルスベクターの「生物学的に有効な」量は、標的細胞において異種核酸配列の形質導入および発現を引き起こすのに十分な量である。
【0148】
本発明の前記AAV5に基づく組換えウイルスの投薬量は、投与の様式、特定のウイルスベクターによって決まることになり、それらは通常の様式で決定されうる。治療的効果を達成するための典型的な用量は、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016の形質導入単位またはより高い、好ましくは約10~1013の形質導入単位、さらにより好ましくは1012の形質導入単位のウイルス性力価である。
【0149】
本発明の前記AAV5に基づく組換えウイルスを投与するための細胞は、上皮細胞(例えば皮膚、呼吸器および腸上皮細胞)、肝細胞、筋細胞、膵臓細胞(島細胞を含む)、肝細胞、脾臓細胞、線維芽細胞、内皮細胞、等を含むがこれに限定されない任意の型の細胞でありうる。
【0150】
上記AAV5に基づく組換えウイルスは、ヒト生殖系細胞の遺伝的完全性を修飾するために使用されない。
【実施例
【0151】
以下の例は、本発明のより良い理解のために提供される。これら例は、単なる例示を目的としており、いかなる様式でも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでない。
本明細書に引用される刊行物、特許および特許出願の全ては、参照により本明細書に組み込まれる。前述の発明は、明快な理解のために例示および例によっていくらか詳細に記載されるが、特定の変更および修飾が、添付の態様の精神または範囲を逸脱することなくそれに行われうることは、本発明の教示に照らして当分野の技術者にとって容易に明らかになろう。
【0152】
材料および一般的な方法
組換えDNA技術
DNA操作は、Sambrook J.ら、Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989年に記載される標準的な技術によって実施された。分子生物学的試薬を、製造業者の指示にしたがって使用した。簡潔には、プラスミドDNAを作製して、プラスミドが細胞集団中で失われないように抗生物質の選択圧下で成長させた大腸菌(E.coli)細胞においてさらに操作した。市販のキットを使用して細胞からプラスミドDNAを単離し、濃度を測定し、制限酵素処理またはPCR増幅によるクローニングに使用した。DNA断片を、リガーゼを使用して互いにライゲートし、細菌細胞を形質転換して、クローンを選択し、さらに作製した。得られた遺伝的構築物の全てを、制限パターンおよび完全なサンガー配列決定によって確認した。
【0153】
遺伝子合成
所望の遺伝子区分を、化学合成によって作ったオリゴヌクレオチドから調製した。固有の制限部位に挟まれた長さ300~1000bpの遺伝子区分を、オリゴヌクレオチドを互いの上で復元することによって採取し、その後隣接プライマーからPCR増幅した。結果として、所望のものを含む断片の混合物が作製された。断片を、中間ベクターの制限部位にクローニングし、その後、サブクローニングした断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。
【0154】
DNA配列決定
DNA配列を、サンガー配列決定によって決定した。DNAおよびタンパク質配列を分析し、配列作成、マッピング、分析、注釈付けおよび例示のために配列データを、SnapGene Viewerの4.2またはそれ以降のバージョンで加工した。
【0155】
細胞培養の培養
実験には、HEK293(ヒト胚腎臓クローン293)およびCHO-K1-S(チャイニーズハムスター卵巣細胞)細胞系を使用した。AAVを産生するために使用される懸濁HEK293細胞を、FBSおよび抗生物質を含まない完全培養培地において37℃、5% COの標準的な条件で培養した。AAV産物の有効性を試験するために使用される付着CHO-K1-S細胞を、5% FBS、抗生物質/抗真菌剤で補充した完全DMEM/F12培地において37℃、5% COの標準的な条件で培養した。CHO-K1-S細胞は、80~90%コンフルエンスに達したら継代された。細胞生存率を、トリパンブルー染色と血球計算器またはPI染色とフローサイトメトリーのいずれかを使用して評価した。
【0156】
RBD-Sタンパク質およびRBD-Sタンパク質に対する特異的抗体のレベルの決定
細胞を形質導入した後のRBD-Sタンパク質および免疫化した後の動物の血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の含有量を、指標酵素としてホースラディッシュペルオキシダーゼを使用して酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって評価した。簡潔には、96ウェルプレートのウェルを、RBD-Sタンパク質に対する一次抗体で反応性にし、その後に試験試料を重層した。ELISAを利用してRBD-Sタンパク質に対する抗体を検出する場合、プレートをRBD-Sタンパク質で反応性にし、続いてウェルに動物の血漿を添加した。次に、試料に、ビオチンおよびHRPコンジュゲートしたストレプトアビジンで標識されたRBD-Sに対する二次抗体(タンパク質自体の分析)または研究動物の免疫グロブリンに対する二次抗体(RBD-Sに対する抗体の存在の分析)を補充した。次に、酵素反応を可視化するためにTMB溶液を添加し、反応の進行を停止させるために停止溶液を添加した。
【0157】
試験試料中のRBD-Sに対するRBD-S/抗体の濃度を決定するために、標準試料中のRBD-Sに対するRBD-S/抗体の濃度に対する溶液の光学密度の依存性を示す較正曲線をプロットし、光学密度を使用して試験試料の濃度を決定した。
【0158】
組換えAAVベクターのウイルス粒子の組み立ておよび精製
RBD-S遺伝子を含有するAAV粒子を組み立てるために、HEK293産生細胞を使用し、その中に3つのプラスミド:
RBD-S導入遺伝子発現カセットを含むAAVゲノムを含むpAAV-RBD-Sプラスミド(図1);
AAV5血清型Cap遺伝子およびAAV2血清型Rep遺伝子を発現させるためのプラスミドであり、各遺伝子が、選択的な読み枠を使用して、いくつかのタンパク質産物をコードするプラスミド;
AAVカプシドの組み立ておよびパッケージングに必要とされるAd5(アデノウイルス血清型5)遺伝子の発現のためのプラスミド
を以下の通りにトランスフェクトした。
【0159】
72時間後、細胞を溶解し、ウイルス粒子を、ろ過、クロマトグラフィーおよび超遠心分離方法を使用して精製し、濃縮した。ウイルス粒子の力価を、組換えウイルスゲノムの領域に特異的なプライマーおよび試料を用いる定量的PCRによって決定し、1mL当たりのウイルスゲノムのコピー数として表した。
【0160】
細胞培養の形質導入
細胞株を、播種密度10000細胞/cmで6ウェルプレートのウェルに予め播種し、続いてMOI 100,000vg/細胞およびMOI 500,000vg/細胞でウイルス粒子産物を添加し、3日目に、RBD-Sタンパク質含有量を、上記の通りELISAによって決定した。形質導入効率を、GFP+細胞のパーセンテージを測定することによって推定した。
【0161】
形質導入後、CHO-K1-S細胞を、TrypLEを使用して培養プレートから取り出し、PBS中で洗浄し;タンパク質発現を上記の通り分析した。
全ての測定は、3つの独立した実験で実施された。インタクト(Intact)な細胞を、陰対照として使用した。
【0162】
実験室動物におけるin vivo研究
実験を、BALB/cマウス(6~8週齢の雄および雌)で実行した。免疫化は、骨盤肢へ産物を1回筋肉内注射することによって実施された。動物の陰性対照群は、緩衝液で注射され、陽性対照群は、RBD-Sタンパク質、フロイント完全アジュバントおよび生理食塩水の混合物で注射された。
【0163】
血漿を、注射当日の産物の投与前に、次いで免疫化後14、21、27、42および56日目に採集した。
実施例1 SARS-CoV-2のRBD-S配列の選択
SARS-CoV-2のRBD-S抗原の開発は、ら、「Cryo-electron microscopy structures of the SARS-CoV spike glycoprotein reveal a prerequisite conformational state for receptor binding」、2017年、Cell Res.27、119~129頁に提供されるSARS-CoVのスパイク糖タンパク質の5WRG構造の分析を含んだ。SARS-CoVスパイク糖タンパク質の構造の分析は、免疫化のために、保存されているRBD-Sとその延長部分の両方を使用することが可能であることを示した。分析により、当該RBD-Sの長さの増大は、ほどく必要なしに安定なタンパク質立体配座を維持する可能性を増大させる二次構造を保持するため、RBD-Sタンパク質の構造の安定化に寄与すべきであることが明らかになった。さらに、RBD-Sの長さの少しの増大は、免疫化の結果に影響を及ぼすべきでない。SARS-CoVスパイク糖タンパク質の構造についての上の分析を、SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質の構造にあてはめた。さらに、SARS-CoV-2のRBD-Sタンパク質をさらに安定化するために、ドメインに最も近い、対になっていないシステインのセリンへの置換(C272S位におけるアミノ酸置換)を、SARS-CoV-2のRBD-Sタンパク質の構造に導入した。
【0164】
したがって、配列番号1の以下のアミノ酸配列を、SARS-CoV-2 RBD-S抗原として選択した。
この抗原を使用して、哺乳動物を効果的に免疫することになる(実施例5を参照のこと)。
【0165】
実施例2 組換えRBD-S遺伝子を含むAAV発現カセットを含む遺伝的構築物の組み立て
RBD-S遺伝子(配列番号1)を含む発現カセットを持つAAV5ウイルスベクターの作製を目的とする標的プラスミドpAAV-RBD-S(図1)は、CellBiolab(USA)製の元の構築物pAAV-GFP対照プラスミド(VPK-402)中にある改変緑色蛍光タンパク質の配列を、ClaI/BamHI部位でクローニングする制限酵素リガーゼ方法を使用してシグナルペプチドを含むRBD-S配列に置換することによって作製され、RBD-S配列は、5’末端からClaI制限部位および3’末端からBamHI制限部位を追加して化学合成によって生成されたオリゴヌクレオチドからde novo合成された。
【0166】
最終的なベクターは、組換えAAVゲノムの一部として遺伝子の発現および組み立てに必要な要素:
1)ウイルスカプシド内にカプシド化される配列の末端にあるITR;
2)標的遺伝子の発現のための要素(プロモーター、エンハンサー、イントロン、コザック配列、導入遺伝子、ポリアデニル化部位);
3)細菌細胞内でプラスミドDNAを産生するための細菌性複製起点および抗生物質抵抗性遺伝子
全てを含有する。
【0167】
実施例3 RBD-Sを発現するウイルス性産物の創出
標的プラスミドpAAV-RBD-S(図1)を、組換えAAVウイルス粒子を作製するために必要な残りのプラスミド(上記参照)と一緒に使用して、AAV5-RBD-S産物を作製した。バイオプロセッシングの結果、RBD-S遺伝子を含む発現カセットを含む組換えAAV5-RBD-Sウイルス粒子を得た。in vitroおよびin vivo研究に使用される精製されたAAV5-RBD-S産物は、安全であり、AAV特性を改変しない標準的な緩衝液および賦形剤を使用して調製された。精製したAAV5-RBD-S産物の濃度は、4.6×1011~1.8×1012VG/mLであった。
【0168】
実施例4 AAV5-RBD-S産物のin vitro試験
精製したAAV5-RBD-S産物を、動物研究の前にin vitroで試験した。これらの実験は、CHO-K1-S付着細胞株を使用して実行された(図2)。CHO-K1-S細胞を、6ウェルプレートのウェルに平板培養した。播種は、以下の成長培地:グルタミンで補充したDMEM/F12、グルコース含有量は4.5g/L、5%ウシ胎仔血清(FBS)中で行った。
【0169】
細胞播種密度は、10000細胞/cmであった。形質導入工程の間、予め調製した細胞を、MOI 100000vg/細胞およびMOI 500000vg/細胞で形質導入した。全ての試料は、3つ組で行われた。インタクト(Intact)な細胞を、陰対照として使用した。形質導入の成功後、CHO-K1-S細胞を培地から取り出し、リン酸緩衝液中で洗浄し、RBD-Sタンパク質の発現を、上記の通り酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって分析した。開発した産物が、細胞内へRBD-S導入遺伝子を効率的に送達し、標的タンパク質を確実に産生できることが示され、ELISAデータ(図2)によって確認される。
【0170】
実施例5 AAV5-RBD-S産物のin vivo試験
AAV5-RBD-S産物のin vivo研究には、BALB/c実験室マウスを使用した。研究には、以下の通りに異なる2用量のAAV5-RBD-S産物を使用した:低用量(1×1011VG/マウス)および高用量(4×1011VG/マウス)。AAVを含まない対照溶液およびRBD-S遺伝子を含む発現カセットを含まないAAV5産物(空のAAV5カプシド)を、陰性対照として使用した。精製した組換えRBD-Sタンパク質が、陽性対照として使用された。動物を、骨盤肢への1回筋肉内注射によって免疫した。免疫化後0、14、21、27、42および56日目に、血漿中のRBD-Sタンパク質に対する抗体の力価を、上記の通りELISAによって決定した。in vivo研究は、AAV5-RBD-S産物による免疫化が、RBD-Sに対する特異的抗体の産生をもたらすことを示した(図3図4図5および図6)。さらに、RBD-Sに対する抗体のレベルは、組換えRBD-Sタンパク質で免疫した動物群におけるそれと同程度であった(図8および図9)。同時に、RBD-Sに対する抗体の産生は、AAVを含まない対照溶液およびRBD-S遺伝子を含む発現カセットを含有しないAAV5産物(空のAAV5カプシド)で注射された動物群において観察されなかった(図7図10)。
【0171】
したがって、本発明に記載の組換えAAV5に基づくウイルスおよびそれに基づくワクチンは、SARS-CoV-2に特異的な免疫の誘導に対して高い潜在性を有し、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの感染の防止に使用されうる。さらに、AAVベクターは、長期の抗原発現を実現する能力があるので、それは、組換えタンパク質抗原に基づく伝統的な系よりも有利である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023540085000001.app
【国際調査報告】