(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(54)【発明の名称】極めて高いメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 10/06 20060101AFI20230913BHJP
C08F 4/654 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C08F10/06
C08F4/654
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515638
(86)(22)【出願日】2021-09-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 US2021049547
(87)【国際公開番号】W WO2022056053
(87)【国際公開日】2022-03-17
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590001706
【氏名又は名称】ダブリュー・アール・グレース・アンド・カンパニー-コーン
【氏名又は名称原語表記】W R GRACE & CO-CONN
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ファン・エグモント,ヤン
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA03P
4J100CA01
4J100DA04
4J100DA42
4J128AA01
4J128AB01
4J128AC05
4J128BA00A
4J128BA01B
4J128BB00A
4J128BB01B
4J128BC15B
4J128CA16A
4J128CB44A
4J128EA01
4J128EB04
4J128EC01
4J128GA01
4J128GA05
4J128GA06
4J128GA21
4J128GB02
(57)【要約】
極めて高いメルトフローレートを有するオレフィンポリマーが製造される。オレフィンポリマーを使用してメルトブローン繊維及びメルトブローンウェブを製造することができ、次いで、これらを防護服に組み込むことができる。ポリオレフィンポリマーは、チーグラー・ナッタ触媒を使用して製造され、高いメルトフローレートを得るために過酸化物を使用する必要はない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、
ポリプロピレンポリマーを含み、前記ポリプロピレンポリマーは、約900g/10分を超えるメルトフローレートを有し、前記ポリプロピレンポリマーは、約3を超え約13未満の分子量分布を有し、前記ポリプロピレンポリマーは、いかなる過酸化物を含まない、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレンポリマーが、約1000g/10分~約7000g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリプロピレンポリマーが、約1400g/10分を超える、例えば約1800g/10分を超える、例えば約2200g/10分を超えるメルトフローレートを有する、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記ポリプロピレンポリマーが、100,000g/mol未満の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリプロピレンポリマーが、10,000g/mol未満の数平均分子量を有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記ポリプロピレンポリマーが、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンランダムコポリマー、又はポリプロピレンブロックコポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記ポリプロピレンポリマーが、約6.0重量%未満、例えば約5重量%未満、例えば約4重量%未満、例えば約3重量%未満、例えば約2.5重量%未満のキシレン可溶分含量を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記ポリプロピレンポリマーが、約2重量%未満のキシレン可溶分含量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記ポリプロピレンポリマーがチーグラー・ナッタ触媒されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記ポリプロピレンポリマーが、内部電子供与体を含むチーグラー・ナッタ触媒の存在下で触媒されており、前記内部電子供与体が、置換フェニレンジエステル又はフタレート化合物を含む、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記ポリプロピレンポリマーが、前記組成物中に、約70重量%を超える量、例えば約80重量%を超える量、例えば約90重量%を超える量、例えば約95重量%を超える量で存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記ポリプロピレンポリマーが、より低いメルトフローレートを有する少なくとも1種の他のポリマーと組み合わされた加工助剤を含み、前記ポリプロピレンポリマーは、約50重量%未満の量、例えば約20重量%未満の量、例えば約10重量%未満の量で前記組成物中に含まれる、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記ポリプロピレンポリマーが、ワックス、潤滑剤、離型剤又は流動助剤を含む、請求項12に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記ポリプロピレンポリマーがチーグラー・ナッタ触媒の存在下で触媒されており、前記チーグラー・ナッタ触媒が、固体触媒成分、選択性制御剤、及び任意選択的に活性制限剤を含み、前記固体触媒成分が、マグネシウム部分、チタン部分、及び内部電子供与体を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項15】
前記固体触媒成分が、有機ケイ素化合物及びエポキシ化合物を更に含む、請求項14に記載のポリマー組成物。
【請求項16】
前記選択性制御剤が有機ケイ素化合物を含む、請求項14又は15に記載のポリマー組成物。
【請求項17】
前記選択性制御剤が、プロピルトリエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、又はそれらの混合物を含み、活性制限剤と組み合わせて使用される、請求項16に記載のポリマー組成物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載のポリマー組成物から作製された繊維であって、前記繊維は、約5ミクロン未満の直径を有する、繊維。
【請求項19】
不織布メルトブローン繊維から構成されたメルトブローンウェブであって、前記メルトブローン繊維が、請求項1~17のいずれか一項に記載のポリマー組成物から製造される、メルトブローンウェブ。
【請求項20】
ポリプロピレンポリマーを製造するプロセスであって、チーグラー・ナッタ触媒の存在下でプロピレンモノマーを重合することを含み、前記チーグラー・ナッタ触媒が、固体触媒成分、選択性制御剤、及び任意選択的に活性制限剤を含み、前記固体触媒成分が、マグネシウム部分、チタン部分及び内部電子供与体を含み、前記選択性制御剤が有機ケイ素化合物を含み、約900g/10分を超えるメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーが形成され、前記ポリプロピレンポリマーを形成するプロセス中に過酸化物が使用されない、プロセス。
【請求項21】
前記固体触媒成分が、有機ケイ素化合物及びエポキシ化合物を更に含む、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記内部電子供与体が置換フェニレンジエステル又はフタレート化合物を含む、請求項20又は21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記選択性制御剤が有機ケイ素化合物を含み、約1000g/10分を超えるメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーが形成される、請求項20~22のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記ポリプロピレンポリマーが、約4.5%未満、例えば約2%未満のキシレン可溶分含量を有するポリプロピレンホモポリマーである、請求項20~23のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
重合中のH2/C3モル比が約0.1~約0.3である、請求項20~24のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項26】
共触媒及び外部電子供与体を約1.5~約15のモル比で重合反応器に供給する、請求項20~25のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項27】
重合中の反応器温度が約65℃~約95℃である、請求項20~26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
メルトフローレートを増加させるために温度を上昇させる、請求項20に記載のプロセス。
【請求項29】
得られるポリマーが、コモノマーとしてエチレン又はブチレンを含有するポリプロピレンランダムコポリマー又はポリプロピレンブロックコポリマーである、請求項20~28のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項30】
前記ポリプロピレンポリマーのメルトフローレートを増加させるためにプロピレン分圧を減少させる、請求項20に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2020年9月9日に出願された米国仮特許出願第63/075,861号に基づき、その優先権を主張し、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンポリマーは、多数の多様な用途及び分野で使用される。ポリオレフィンポリマーは、例えば、容易に加工することができる熱可塑性ポリマーである。ポリオレフィンポリマーはまた、リサイクル及び再利用することができる。ポリオレフィンポリマーは、石油化学物質から得られ、豊富に利用可能であるエチレン及びアルファ-オレフィンなどの炭化水素から形成される。
【0003】
ポリオレフィンポリマーの一種であるポリプロピレンポリマーは、一般に、プロピレンモノマーに基づく線状構造を有する。ポリプロピレンポリマーは、様々な異なる立体特異的配置を有し得る。ポリプロピレンポリマーは、例えば、アイソタクチック、シンジオタクチック、及びアタクチックであり得る。アイソタクチックポリプロピレンは、おそらく最も一般的な形態であり、高度に結晶性であり得る。生成され得るポリプロピレンポリマーとしては、ホモポリマー、変性ポリプロピレンポリマー、及びポリプロピレンターポリマーを含むポリプロピレンコポリマーが挙げられる。ポリプロピレンを変性するか、又はプロピレンを他のモノマーと共重合することによって、特定の用途に所望の特性を有する様々な異なるポリマーを生成することができる。
【0004】
現在、非常に高いメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーが特に求められ、必要とされている。ポリマーのメルトフローレートは、一般に、特定の温度及び負荷で一定期間にわたって流れる溶融ポリマーの量を示す。より高いメルトフローレートは、ポリマーが、特に押出成形中、射出成形中、並びに繊維及びフィルムの形成中に容易に加工され得ることを示し得る。高メルトフローレートポリプロピレンポリマーは、メルトブローンウェブを製造するのに特によく適している。メルトブロー不織布ウェブは、一般に、溶融繊維として複数の微細な、通常は円形の染料毛細管を通して押し出される溶融熱可塑性ポリマーから形成される。繊維が形成されると、繊維は、繊維を減衰させて繊維の直径を減少させる空気などの高速ガスと接触する。次に、メルトブローン繊維は集束面上に堆積され、ランダムに分散したメルトブローン繊維のウェブを形成する。メルトブローン繊維は、連続であっても不連続であってもよい。メルトブローンウェブは、濾過用途での使用に特に適している。
【0005】
例えば、メルトブローンウェブは、着用者の鼻及び口を覆うように設計されたフェースマスクに組み込むことができる。フェースマスクに組み込まれる場合、メルトブローンウェブは、ウイルスなどの微生物及び他の汚染物質の通過を防止することによって着用者を保護するのに非常に適している。コロナウイルスパンデミックに起因して、フェースマスクは、現在、医療専門家だけでなく、オフィスワーカー、工業労働者、学生、及び事実上全ての公共の場所における消費者によっても着用されている。
【0006】
従来、メルトブローンウェブの製造に使用するための高いメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーを製造するために、ポリマーはメタロセン触媒を使用して形成されるか、あるいはポリマーは過酸化物分解に供された。シングルサイト触媒とも呼ばれるメタロセン触媒を使用する場合、重合プロセスは比較的遅く、原料利用率が低いという点でいくらかやや非効率的であり得る。更に、ポリマーを製造するためにチーグラー・ナッタ触媒の使用とメタロセン触媒の使用との間で装置を移行させることは、時間がかかり、費用がかかる可能性がある。更に、メタロセン触媒は、反応器の操作性の問題を受けやすい可能性があり、公知の活性制限剤と適合しない。メタロセン触媒はまた、原料不純物に対して敏感であり得る。
【0007】
高メルトフロー高速ポリプロピレンポリマーを製造するための過酸化物分解技術もまた、様々な欠点を有する。例えば、過酸化物は高価であり得る。更に、プロセス中の過酸化物供給は、高メルトフローレートポリマーの安定した製造を達成するのに十分な過酸化物が供給されるように注意深く制御されなければならない。加えて、未反応の過酸化物が最終材料中に残留する可能性があり、これが経時的な劣化を引き起こす。最後に、過酸化物分解は、環境規制に準拠するために熱酸化プロセスによって除去される必要があり得る望ましくない揮発性物質をもたらし得る。
【0008】
上記に鑑みて、高メルトフローレートポリプロピレンポリマーを製造するより効率的なプロセスが現在必要とされている。メルトブローンウェブを含むあらゆる異なる種類の物品を製造するために使用することができる高メルトフローレートポリプロピレンポリマーを含有するポリプロピレンポリマー組成物も必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、一般に、高メルトフローレートポリオレフィンポリマーを製造するプロセス、及びそのプロセスによって製造されるポリマーに関する。高メルトフローレートポリオレフィンポリマーは、多数の多様な用途に使用することができる。例えば、高メルトフローレートポリマーは、メルトブローン繊維などの極めて微細な繊維を製造するのに特によく適している。これに関して、本開示はまた、ポリマーから作製された繊維、及び繊維から作製された不織布ウェブに関する。一態様では、本開示の高メルトフローレートポリマーを使用してメルトブローンウェブを製造することができ、メルトブローンウェブは、次いで、空中浮遊の微生物及び汚染物質に対する保護を提供するためにフェースマスクに組み込まれる。
【0010】
例えば、一実施形態では、本開示は、ポリプロピレンポリマーを含むポリマー組成物に関する。ポリプロピレンポリマーは、約900g/10分を超える、例えば約1000g/10分を超える、例えば約1400g/10分を超える、例えば約1800g/10分を超える、例えば約2200g/10分を超えるメルトフローレートを有する。ポリプロピレンポリマーのメルトフローレートは、一般に、約9000g/10分未満、例えば約7000g/10分未満、例えば約4000g/10分未満であり得る。ポリプロピレンポリマーは、約2.5を超える、例えば約3~約13、例えば約3.5~約12の分子量分布を有する。更に、ポリプロピレンポリマーはいかなる過酸化物も含まない。一態様では、ポリプロピレンポリマーはポリプロピレンホモポリマーである。
【0011】
本開示のポリプロピレンポリマーは、非常に高いメルトフローレートを有するだけでなく、制御された量のキシレン可溶分含量を有することもできる。例えば、ポリプロピレンポリマーは、約6重量%~約2重量%(これらの間の0.1%の全ての増分を含む)のキシレン可溶分含量を有することができる。一態様では、キシレン可溶分は、約6%未満、例えば約4%未満、例えば約3.5%未満、例えば約3%未満、例えば約2.5%未満、例えば約2%未満である。より低いキシレン可溶分含量は、加工上の利点を提供することができ、より高い量は、より柔らかい感触を有する不織布を製造することができる。
【0012】
本開示のポリプロピレンポリマーは、約100,000g/mol未満、例えば約80,000g/mol未満、一般に約20,000g/mol超、例えば約40,000g/mol超の重量平均分子量(Mw)を有することができる。本開示のポリプロピレンポリマーは、約10,000g/mol未満の数平均分子量(Mn)を有することができる。
【0013】
本開示によれば、ポリプロピレンポリマーは、チーグラー・ナッタ触媒され得るか、又は言い換えれば、チーグラー・ナッタ触媒の存在下で製造され得る。一態様では、チーグラー・ナッタ触媒は、置換フェニレンジエステルを含む内部電子供与体を含むことができる。
【0014】
チーグラー・ナッタ触媒は、固体触媒成分、選択性制御剤、及び任意選択的に活性制限剤を含むことができる。固体触媒成分は、マグネシウム部分、チタン部分、及び内部電子供与体の組み合わせを含むことができる。内部電子供与体は、上記のようなものであってもよく、又はフタレート化合物であってもよい。一態様では、選択性制御剤は有機ケイ素化合物を含む。例えば、選択性制御剤は、プロピルトリエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、又はそれらの混合物を含むことができる。一態様では、活性制限剤(ALA)は、ミリスチン酸イソプロピル又は吉草酸ペンチル(PV)を含む。
【0015】
一態様では、メルトフローレートを増加させ、重量平均分子量を減少させ、分子量分布を減少させるために、反応器温度を上昇させることができる。上記の特性は、メルトブローンウェブの製造中の繊維ブローイングプロセスを容易にすることができる。このプロセスから製造されるポリマーは、超低デニール及び/又はより高い加工速度で繊維を製造することができる。更に、このポリマーから作製された不織布ウェブは、寸法安定性であり、製造及び取扱い中にネッキングを示さない。
【0016】
一態様では、固体触媒成分は、有機ケイ素化合物及び/又はエポキシ化合物を更に含むことができる。更に別の態様では、固体触媒成分は有機リン化合物を含むことができる。
【0017】
上記のように、本開示のポリマー組成物は、繊維及びフィルムを製造するのに特によく適している。本開示に従って、約5ミクロン未満、例えば約2ミクロン未満、例えば約1ミクロン未満、例えば約0.5ミクロン未満の直径を有する繊維、例えばメルトブローン繊維を製造することができる。メルトブローンウェブは、繊維から作製することができる。メルトブローンウェブは、フェースマスクを含む全てのあらゆる種類の製品を構成するために使用することができる。
【0018】
本開示はまた、オレフィンポリマーを製造するプロセスに関する。このプロセスは、チーグラー・ナッタ触媒の存在下でプロピレンモノマーを重合することを含む。触媒は、固体触媒成分、選択性制御剤、及び任意選択的に活性制限剤を含むことができる。固体触媒成分は、マグネシウム部分、チタン部分、及び内部電子供与体を含むことができる。選択性制御剤は、有機ケイ素化合物を含むことができる。このプロセスは、約900g/10分を超えるメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーを製造することができる。更に、このプロセスは、ポリマーの形成中に過酸化物を使用せずに実施することができる。
【0019】
一態様では、反応器中の他の成分に対する水素比は比較的高くてもよい。水素比を増加させると、製造されるポリマーのメルトフローレートを増加させることができる。キシレン可溶分は、存在する外部電子供与体の量、すなわち選択性制御剤及び活性制限剤の両方の量を変えることによって制御される。キシレン可溶分が少なくメルトフローが高い場合、より多くの外部電子供与体を反応器に供給することができる。一態様では、外部電子供与体混合物は、吉草酸ペンチルとプロピルトリエトキシシランとの混合物を約50:50~約70:30のモル比で含むことができる。反応器温度は、72℃以上、例えば80℃~90℃であり得る。
【0020】
メルトフローレートが増加するにつれて過去に典型的に遭遇した1つの問題は、樹脂粉末中のより高い微細レベルが生じることである。しかしながら、本開示に従って製造されたポリマーは、約8重量%未満、例えば約7重量%未満、例えば約6重量%未満の量で微粉を含有することができる。
【0021】
本開示の他の特色及び態様は、以下でより詳細に考察される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
当業者にとって最良の形態を含む本発明の完全かつ実施可能な開示は、添付の図面を参照することを含む本明細書の残りの部分においてより詳細に記載される。
【
図1】本開示のポリマー組成物から作製され得るフェースマスクの斜視図である。
【
図2】以下の実施例で得られた結果のいくつかのグラフ表示であり、メルトフローレートとH2/C3モル比との関係を示す。
【
図3】以下の実施例で得られた結果のいくつかのグラフ表示であり、メルトフローレートとキシレン可溶分との関係を示す。
【
図4】以下の実施例で得られた結果の一部のグラフ表示であり、微粉とメルトフローレートとの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義及び試験手順
メルトフローレート(Melt flow rate、MFR)は、本明細書で使用される場合、プロピレン系ポリマーについて2.16kgの重量で230℃でASTM D1238試験法に従って測定される。メルトフローレートは、ペレット形態で、又は反応器粉末で測定することができる。反応器粉末を測定するとき、2000ppmのCYANOX2246酸化防止剤(メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール))2000ppmのIRGAFOS168酸化防止剤(トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)、及び1000ppmの酸捕捉剤ZnOを含む安定化パッケージを添加することができる。
【0024】
高メルトフローレートポリマーの場合、試験ダイオリフィスは以下に示すようにより小さくてもよい:
【0025】
【0026】
【0027】
ポリプロピレンポリマーの計算:
【0028】
【0029】
粒径は、ふるい試験を用いて測定することができる。ふるい試験は、Rotex Global社から市販されているGRADEX粒径分析計で行う。重量分率に基づく平均粒径は、GRADEX粒径分析計から得られる粒径分布から決定される。
【0030】
微粉は、GRADEX 120メッシュ(125ミクロン)を通過するポリマー粒子の重量分率として定義される。
【0031】
キシレン可溶分(Xylene solubles、XS)は、ポリプロピレンランダムコポリマー樹脂の試料を高温キシレンに溶解し、溶液を25℃に冷却した後に溶液中に残る樹脂の重量パーセントとして定義される。これは、60分の沈殿時間を使用するASTM D5492-06による重量XS法とも呼ばれ、本明細書では「湿式法」とも呼ばれる。
【0032】
上述のASTM D5492-06法は、キシレン可溶部分を決定するために適合され得る。一般に、手順は、2gの試料を秤量すること、及び24/40の継手を備えた400mLフラスコ中で200mLのo-キシレンに試料を溶解することからなる。フラスコを水冷冷却器に接続し、内容物を撹拌し、窒素(N2)下で加熱還流し、次いで、更に30分間還流を維持する。次いで、溶液を25℃の温度制御された水浴中で60分間冷却して、キシレン不溶性画分の結晶化を可能にする。溶液が冷却され、不溶性画分が溶液から沈殿すると、キシレン不溶部分(XI)からのキシレン可溶性部分(XS)の分離は、25ミクロン濾紙を通して濾過することによって達成される。100mLの濾液を予め秤量したアルミニウムパンに収集し、o-キシレンをこの100mLの濾液から窒素流下で蒸発させる。溶媒が蒸発したら、パン及び内容物を100℃の真空オーブンに30分間又は乾燥するまで入れる。次いで、パンを室温まで冷却し、秤量する。キシレン可溶部分は、XS(重量%)=[(m3-m2)*2/m1]*100として計算され、式中、m1は使用される試料の元の重量であり、m2は空のアルミニウムパンの重量であり、m3はパン及び残留物の重量である(本明細書及び本開示の他の箇所のアスタリスク*は、識別された用語又は値が乗算されることを示す)。
【0033】
XSはまた、以下のようなViscotek法に従って測定することができる。0.4gのポリマーを、130℃で60分間撹拌しながら20mLのキシレンに溶解する。次いで、溶液を25℃に冷却し、60分後、不溶性ポリマー画分を濾別する。得られた濾液を、THF移動相を1.0mL/分で流すViscotek ViscoGEL H-100-3078カラムを使用するフローインジェクションポリマー分析によって分析する。カラムを、45℃で動作する光散乱の粘度計及び屈折計検出器を備えたViscotek Model 302 Triple Detector Arrayに結合する。機器較正を、Viscotek PolyCAL(商標)ポリスチレン標準で維持する。二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)グレードのDow 5D98などのポリプロピレン(PP)ホモポリマーを参照材料として使用して、Viscotek機器及び試料調製手順が一貫した結果を提供することを確実にする。5D98などの参照ポリプロピレンホモポリマーについての値は、最初に、上記で識別されたASTM法を使用する試験から導出される。
【0034】
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)(「MWD」とも呼ばれる)及びより高い平均分子量(Mz及びMz+1)は、ポリプロピレンのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析法に従ってGPCによって測定される。ポリマーは、IR5 MCT(テルル化カドミウム水銀高感度、熱電冷却IR検出器)、Polymer Charの四細管粘度計、Wyattの8角MALLS、及び3つのAgilent Plgel Olexis(13um)を備えた、Polymer Char High Temperature GPCで分析する。オーブン温度を150℃に設定する。溶媒は、約200ppmの2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を含有する窒素パージされた1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)である。流速は1.0mL/分であり、注入量は200plであった。2mg/mLの試料濃度は、試料をN2パージ及び予熱したTCB(200ppmのBHTを含有)に、穏やかに撹拌しながら160℃で2時間溶解することによって調製する。
【0035】
GPCカラムセットは、20種の狭い分子量分布のポリスチレン標準を実行することによって較正される。標準の分子量(MW)は266~12,000,000g/molの範囲であり、標準は6つの「カクテル」混合物に含有されていた。各標準混合物は、個々の分子量間に少なくとも10年間の分離を有する。ポリスチレン標準は、1,000,000g/mol以上の分子量については20mLの溶媒中0.005gで、1,000,000g/mol未満の分子量については20mLの溶媒中0.001gで調製される。ポリスチレン標準を撹拌しながら160℃で60分間溶解する。狭い標準混合物が最初に実行され、分解の影響を最小限に抑えるために、分子量が最も高い成分の順で実行する。対数分子量較正は、溶出体積の関数として4次多項式フィットを使用して生成される。同等のポリプロピレン分子量は、報告されているポリプロピレン(Th.G.Scholte,N.L.J.Meijerink,H.M.Schoffeleers,and A.M.G.Brands,J.Appl.Polym.Sci.,29,3763-3782(1984))及びポリスチレン(E.P.Otocka,R.J.Roe,N.Y.Hellman,P.M.Muglia,Macromolecules,4,507(1971))のMark-Houwink係数を使用して次の式を使用して計算され、
【0036】
【数1】
式中、MppはPP相当のMWであり、MPSはPS相当のMWであり、logK、並びにPP及びPSのMark-Houwink係数の値を以下に列挙する。
【0037】
【0038】
(詳細な説明)
当業者は、本考察が例示的な実施形態の説明のみであり、本開示のより広い態様を限定することを意図するものではないことを理解するであろう。
【0039】
一般に、本開示は、高メルトフローレートポリオレフィンポリマー、特に、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンランダムコポリマー及びポリプロピレンブロックコポリマーを含むポリプロピレンポリマーを製造するプロセスに関する。本開示のプロセスにより、シングルサイト触媒を使用する必要なく、及び/又は任意の過酸化物を使用する必要なく、約900g/10分を超える、例えば約1200g/10分を超える、例えば約1500g/10分を超える、例えば約1800g/10分を超える、例えば約2200g/10分を超えるメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーを製造することができる。メルトフローレートは、最大約7000g/10分であり得る。したがって、本開示のプロセスは、非常に高いメルトフローレートのポリプロピレンポリマーの非常に効率的な方法での製造を可能にする。本開示はまた、本プロセスから作製されるポリオレフィンポリマーに関する。
【0040】
非常に高いメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーなどのポリオレフィンポリマーは、様々な異なる物品及び製品を製造するための様々な異なる用途での使用によく適している。高メルトフローレートポリマー一般に、非常に小さな寸法の押出又は成形プロセスにおいてさえも、ポリマーを加工しやすくする優れた流動特性を有する。例えば、高メルトフローレートポリオレフィンポリマーは、小さな繊維及び薄膜を形成するのに非常に適している。例えば、本開示に従って作製されたポリオレフィンポリマーは、メルトブローン繊維及びメルトブローン不織布ウェブを形成するのに特によく適している。そのような繊維は、連続であっても不連続であってもよく、約5ミクロン未満、例えば約3ミクロン未満、例えば約2ミクロン未満、例えば約1ミクロン未満の繊維直径を有することができる。この繊維から作製されたメルトブローン不織布ウェブは、優れた濾過特性を有し、バリア層として使用するのによく適している。例えば、本開示に従って作製されたメルトブローンウェブは、流体、空中浮遊の汚染物質、及びウイルスなどの微生物に対する優れたバリアを作製することができる。その結果、本開示に従って作製されたメルトブローンウェブは、保護衣類及び衣服への組み込みに特によく適している。
【0041】
例えば、
図1を参照すると、本開示のメルトブローンウェブを使用して作製することができるフェースマスク10の一実施形態が示されている。フェースマスク10は、ストラップ14及び16に取り付けられた本体部分12を含む。ストラップ14及び16は、着用者の鼻及び口の上に本体部分12を維持するために、使用者の耳の周りに延びるように設計されている。本体部分12は、本開示のメルトブローンウェブから作製することができる。例えば、本体部分12は、メルトブローン材料の単一層から作製することができる。あるいは、本開示のメルトブローンウェブは、本体部分12を形成するために使用されるいくつかの層のうちの1つとすることができる。例えば、一態様では、本体部分12は、2つの外側層の間に配置された本開示のメルトブローン層を含むことができる。
【0042】
ポリプロピレンホモポリマーであり得る本開示のポリプロピレンポリマーは、チーグラー・ナッタ触媒を使用して製造される。触媒は、一般に、選択性制御剤と組み合わせた固体触媒成分を含む。任意選択的に、触媒は、活性制限剤も含むことができる。触媒は、共触媒を用いて重合中に活性化される。固体触媒成分はまた、特定の用途に応じて変化し得る。一般に、本開示の固体触媒成分は、マグネシウム部分、チタン部分、及び内部電子供与体を含む。一態様では、固体触媒成分は、任意選択的に、有機リン化合物、有機ケイ素化合物、及びエポキシ化合物を含むことができる。内部電子供与体は、フタレート化合物又は置換フェニレンジエステルを含むことができる。
【0043】
本開示に従って使用される選択性制御剤は、有機ケイ素化合物である。選択性制御剤の使用は、非常に高いメルトフローレートのポリマーの製造を容易にすると同時に、高いかさ密度、低い微粉、及び良好な操作性を有するポリマー製品も製造すると考えられる。一態様では、有機ケイ素化合物は、吉草酸ペンチルなどの活性制限剤と共に使用することができる。選択性制御剤及び活性制限剤は両方とも外部電子供与体とみなすことができ、混合外部電子供与体を形成する。活性制限剤対選択性制御剤のモル比は、約40:60~約80:20、例えば約50:50~約70:30であってよい。混合外部電子供与体を使用して、キシレン可溶分含量を、特により多量の混合外部電子供与体を添加することによって反応器内のより高い水素比で制御することができる。
【0044】
一態様では、ポリマーを製造するプロセスは、気相反応器中で実施することができる。本プロセスに従って使用される触媒は、過去のプロセスと比較して比較的低い水素分圧で依然として動作しながら、高メルトフローレートポリマーを製造することが見出された。例えば、一態様では、反応器内の水素分圧は、60psi未満、例えば約58psi未満に維持することができる。同様に、プロセス中のプロピレン分圧を低下させると、製造されるポリマーのメルトフローレートを増加させることができる。
【0045】
反応器温度はまた、ポリマーの製造を最適化するために制御及び操作することができる。例えば、一態様では、反応器温度は、約68℃~約75℃であり得る。あるいは、より高い温度を使用することができる。例えば、別の実施形態では、反応器温度は、約75℃超、例えば約80℃超、例えば約85℃超、例えば約90℃超、一般に約95℃未満であり得る。より高い反応器温度は、水素応答を増加させることができ、したがって、より低い温度で反応器を動作させることと比較して、より低い水素濃度でより高いメルトフローレートを有するポリマーの製造を可能にする。
【0046】
一態様では、反応器中の他の成分に対する水素比は比較的高くてもよい。上記のように、キシレン可溶分は、存在する外部電子供与体の量、すなわち選択性制御剤及び活性制限剤の両方の量を変えることによって制御される。キシレン可溶分が少なくメルトフローが高い場合、より多くの外部電子供与体を反応器に供給することができる。外部電子供与体の存在下で高い水素濃度を組み合わせること、及び以下に記載されるような特定の触媒系を使用することにより、極めて高いメルトフローレートを有するポリマーが製造されることが見出された。
【0047】
本開示のプロセスにより、一般に約900g/10分を超えるメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーを製造することができる。例えば、ポリマーのメルトフローレートは、約900g/10分~約9000g/10分、例えば約900g/10分~約7000g/10分であり得、その間の5g/10分の全ての増分を含む。特定の態様では、ポリプロピレンポリマーのメルトフローレートは、約1000g/10分超、例えば約1200g/10分超、例えば約1400g/10分超、例えば約1800g/10分超、例えば約2200g/10分超であり得る。ポリプロピレンポリマーは、ポリプロピレンホモポリマーであり得る。ポリプロピレンランダムコポリマー及びポリプロピレンブロックコポリマーを含むポリプロピレンコポリマーもまた、本プロセスにより形成され得る。コモノマーは、エチレン又はブチレンを含むことができる。
【0048】
チーグラー・ナッタ触媒系を使用することにより、一般に約2.5を超える分子量分布を有するポリプロピレンポリマーを形成することができる。分子量分布は、一般に、約3超、例えば約3.5超、例えば約4超、例えば約4.5超、一般に約13未満、例えば約12未満、例えば約10未満であり得る。約3~約10の分子量分布を維持することは、不織布ウェブを製造するときに様々な利点を提供し得る。例えば、分子量分布を上記範囲内に維持することにより、寸法安定性を有し、製造及び操作時にネックにならないウェブを製造することができる。
【0049】
本開示に従って作製されるポリプロピレンポリマーは、一般に、制御されたキシレン可溶分含量を有する。例えば、ポリプロピレンポリマーは、約6%未満、例えば約4.5%未満、例えば約4%未満、例えば約3.5%未満、例えば約3%未満、例えば約2.5%未満、例えば約2%未満のキシレン可溶分含量を有することができる。キシレン可溶分含量は、約3重量%超、例えば約4重量%超であり得る。
【0050】
ポリプロピレンポリマーはまた、比較的低い分子量を有することができる。GPCから決定される分子量は、例えば、約100,000g/mol未満、例えば約80,000g/mol未満、例えば約70,000g/mol未満、及び約10,000g/mol超、例えば約20,000g/mol超、例えば約30,000g/mol超、例えば約40,000g/mol超であり得る。
【0051】
上記のように、ポリプロピレンポリマーはチーグラー・ナッタ触媒される。触媒は、特定の用途に応じて変化し得る固体触媒成分を含むことができる。
【0052】
固体触媒成分は、(i)マグネシウム、(ii)周期表IV~VIII族の元素の遷移金属化合物、(iii)ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、並びに/又は(i)及び/若しくは(ii)のアルコキシド、並びに(iv)(i)、(ii)、及び(iii)の組み合わせを含み得る。好適な触媒成分の非限定的な例としては、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、及びマグネシウム、マンガン、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、ジルコニウム、ハフニウム、及びそれらの組み合わせのアルコキシドが挙げられる。
【0053】
一実施形態では、触媒成分の調製は、混合マグネシウム及びチタンアルコキシドのハロゲン化を含む。
【0054】
様々な実施形態では、触媒成分は、マグネシウム部分化合物(MagMo)、混合マグネシウムチタン化合物(MagTi)、又は安息香酸含有塩化マグネシウム化合物(BenMag)である。一実施形態では、触媒前駆体は、マグネシウム部分(「MagMo」)前駆体である。MagMo前駆体は、マグネシウム部分を含む。好適なマグネシウム部分の非限定的な例としては、無水塩化マグネシウム及び/又はそのアルコール付加物、マグネシウムアルコキシド若しくはアリールオキシド、混合マグネシウムアルコキシハライド、及び/又はカルボキシル化マグネシウムジアルコキシド又はアリールオキシドが挙げられる。一実施形態では、MagMo前駆体は、マグネシウムジ(C1~4)アルコキシドである。更なる実施形態では、MagMo前駆体は、ジエトキシマグネシウムである。
【0055】
別の実施形態では、触媒成分は、混合マグネシウム/チタン化合物(「MagTi」)である。「MagTi前駆体」は、式MgdTi(ORe)fXgを有し、式中、Reは、1~14個の炭素原子を有する脂肪族若しくは芳香族炭化水素ラジカル、又はCOR’であり、R’は、1~14個の炭素原子を有する脂肪族若しくは芳香族炭化水素ラジカルであり、各ORe基は、同じであるか、又は異なり、Xは、独立して、塩素、臭素、又はヨウ素、好ましくは塩素であり、dは、0.5~56、又は2~4であり、fは、2~116、又は5~15であり、gは、0.5~116、又は1~3である。前駆体は、その調製に使用される反応混合物からアルコールを除去する制御された沈殿によって調製される。一実施形態では、反応媒体は、芳香族液体、特に塩素化芳香族化合物、最も特にクロロベンゼンと、アルカノール、特にエタノールとの混合物を含む。好適なハロゲン化剤としては、四臭化チタン、四塩化チタン又は三塩化チタン、特に四塩化チタンが挙げられる。ハロゲン化に使用される溶液からアルカノールを除去すると固体の前駆体が沈殿し、これは特に望ましい形状及び表面積を有する。更に、得られた前駆体は、粒子サイズが特に均一である。
【0056】
別の実施形態では、触媒前駆体は、安息香酸含有塩化マグネシウム材料(「BenMag」)である。本明細書で使用される場合、「安息香酸含有塩化マグネシウム」(「BenMag」)は、安息香酸内部電子供与体を含有する触媒(すなわち、ハロゲン化触媒成分)であり得る。BenMag材料は、ハロゲン化チタンなどのチタン部分も含み得る。安息香酸内部供与体は不安定であり、触媒及び/又は触媒合成中に他の電子供与体によって置き換えられることができる。好適な安息香酸基の非限定的な例としては、安息香酸エチル、安息香酸メチル、p-メトキシ安息香酸エチル、p-エトキシ安息香酸メチル、p-エトキシ安息香酸エチル、p-クロロベンゾエートが挙げられる。一実施形態では、ベンゾエート基はエチルベンゾエートである。一実施形態では、BenMag触媒成分は、安息香酸化合物の存在下で、任意の触媒成分(すなわち、MagMo前駆体又はMagTi前駆体)のハロゲン化の生成物であり得る。
【0057】
別の実施形態では、固体触媒成分は、マグネシウム部分、チタン部分、エポキシ化合物、有機ケイ素化合物、及び内部電子供与体から形成することができる。一実施形態では、有機リン化合物を固体触媒成分に組み込むこともできる。例えば、一実施形態では、ハロゲン化物含有マグネシウム化合物は、エポキシ化合物、有機リン化合物、及び炭化水素溶媒を含む混合物中に溶解することができる。得られた溶液を、有機ケイ素化合物の存在下でチタン化合物で処理し、任意選択的に内部電子供与体で処理して、固体沈殿物を形成することができる。次いで、固体沈殿物を更なる量のチタン化合物で処理することができる。触媒を形成するために使用されるチタン化合物は、以下の化学式を有することができる:
Ti(OR)gX4-g
式中、各Rは、独立して、C1~C4アルキルであり、Xは、Br、Cl、又はIであり、gは、0、1、2、3、又は4である。
【0058】
いくつかの実施形態では、有機ケイ素は、モノマー化合物又はポリマー化合物である。有機ケイ素化合物は、-Si-O-Si-基を1分子中又は他の分子間に含んでいてもよい。有機ケイ素化合物の他の例示的な例としては、ポリジアルキルシロキサン及び/又はテトラアルコキシシランが挙げられる。そのような化合物は、単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。有機ケイ素化合物は、アルミニウムアルコキシド及び内部電子供与体と組み合わせて使用することができる。
【0059】
上記で言及したアルミニウムアルコキシドは、式AI(OR’)3を有するものであってもよく、式中、各R’は、個々に、20個までの炭素原子を有する炭化水素である。これは、各R’が個々にメチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、ネオ-ペンチルなどである場合を含み得る。
【0060】
ハロゲン化物含有マグネシウム化合物の例としては、例えば、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、及びフッ化マグネシウムが挙げられる。一実施形態では、ハロゲン化物含有マグネシウム化合物は塩化マグネシウムである。
【0061】
エポキシ化合物の例としては、以下の式のグリシジル含有化合物が挙げられるが、これらに限定されない:
【0062】
【化1】
式中、「a」は1、2、3、4、又は5であり、XはF、Cl、Br、I、又はメチルであり、R
aは、H、アルキル、アリール、又はシクリルである。一実施形態では、アルキルエポキシドはエピクロロヒドリンである。いくつかの実施形態では、エポキシ化合物は、ハロアルキルエポキシド又は非ハロアルキルエポキシドである。
【0063】
いくつかの実施形態によれば、エポキシ化合物は、エチレンオキシド;プロピレンオキシド;1,2-エポキシブタン;2,3-エポキシブタン;1,2-エポキシヘキサン;1,2-エポキシオクタン;1,2-エポキシデカン;1,2-エポキシドデカン;1,2-エポキシテトラデカン;1,2-エポキシヘキサデカン;1,2-エポキシオクタデカン;7,8-エポキシ-2-メチルオクタデカン;2-ビニルオキシラン;2-メチル-2-ビニルオキシラン;1,2-エポキシ-5-ヘキセン;1,2-エポキシ-7-オクテン;1-フェニル-2,3-エポキシプロパン;1-(1-ナフチル)-2,3-エポキシプロパン;1-シクロヘキシル-3,4-エポキシブタン;1,3-ブタジエンジオキシド;1,2,7,8-ジエポキシオクタン;シクロペンテンオキシド;シクロオクテンオキシド;α-ピネンオキシド;2,3-エポキシノルボルナン;リモネンオキシド;シクロデカンエポキシド;2,3,5,6-ジエポキシノルボルナン;スチレンオキシド;3-メチルスチレンオキシド;1,2-エポキシブチルベンゼン;1,2-エポキシオクチルベンゼン;スチルベンオキシド;3-ビニルスチレンオキシド;1-(1-メチル-1,2-エポキシエチル)-3-(1-メチルビニルベンゼン);1,4-ビス(1,2-エポキシプロピル)ベンゼン;1,3-ビス(1,2-エポキシ-1-メチルエチル)ベンゼン;1,4-ビス(1,2-エポキシ-1-メチルエチル)ベンゼン;エピフルオロヒドリン;エピクロロヒドリン;エピブロモヒドリン;ヘキサフルオロプロピレンオキシド;1,2-エポキシ-4-フルオロブタン;1-(2,3-エポキシプロピル)-4-フルオロベンゼン;1-(3,4-エポキシブチル)-2-フルオロベンゼン; 1-(2,3-エポキシプロピル)-4-クロロベンゼン;1-(3,4-エポキシブチル)-3-クロロベンゼン;4-フルオロ-1,2-シクロヘキセンオキシド;6-クロロ-2,3-エポキシビシクロ[2.2.1]ヘプタン;4-フルオロスチレンオキシド;1-(1,2-エポキシプロピル)-3-トリフルオロベンゼン;3-アセチル-1,2-エポキシプロパン;4-ベンゾイル-1,2-エポキシブタン;4-(4-ベンゾイル)フェニル-1,2-エポキシブタン;4,4’-ビス(3,4-エポキシブチル)ベンゾフェノン;3,4-エポキシ-1-シクロヘキサノン;2,3-エポキシ-5-オキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン;3-アセチルスチレンオキシド;4-(1,2-エポキシプロピル)ベンゾフェノン;グリシジルメチルエーテル;ブチルグリシジルエーテル;2-エチルヘキシルグリシジルエーテル;アリルグリシジルエーテル;エチル3,4-エポキシブチルエーテル;グリシジルフェニルエーテル;グリシジル4-tert-ブチルフェニルエーテル;グリシジル4-クロロフェニルエーテル;グリシジル4-メトキシフェニルエーテル;グリシジル2-フェニルフェニルエーテル;グリシジル1-ナフチルエーテル;グリシジル2-フェニルフェニルエーテル;グリシジル1-ナフチルエーテル;グリシジル4-インドリルエーテル;グリシジルN-メチル-α-キノロン-4-イルエーテル;エチレングリコールジグリシジルエーテル;1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル;1,2-ジグリシジルオキシベンゼン;2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン;トリス(4-グリシジルオキシフェニル)メタン;ポリ(オキシプロピレン)トリオールトリグリシジルエーテル;フェノールノボラックのグリシジルエーテル;1,2-エポキシ-4-メトキシシクロヘキサン;2,3-エポキシ-5,6-ジメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプタン;4-メトキシスチレンオキシド;1-(1,2-エポキシブチル)-2-フェノキシベンゼン;グリシジルホルメート;グリシジルアセテート;2,3-エポキシブチルアセテート;グリシジルブチレート;グリシジルベンゾエート;ジグリシジルテレフタレート;ポリ(グリシジルアクリレート);ポリ(グリシジルメタクリレート);グリシジルアクリレートと別のモノマーとのコポリマー;グリシジルメタクリレートと別のモノマーとのコポリマー;1,2-エポキシ-4-メトキシカルボニルシクロヘキサン;2.3-エポキシ-5-ブトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプタン;エチル4-(1,2-エポキシエチル)ベンゾエート;メチル3-(1,2-エポキシブチル)ベンゾエート;メチル3-(1,2-エポキシブチル)-5-フェニルベンゾエートN,N-グリシジル-メチルアセトアミド;N,N-エチルグリシジルプロピオンアミド;N,N-グリシジルメチルベンズアミド;N-(4,5-エポキシペンチル)-N-メチル-ベンズアミド;N,N-ジグリシルアニリン;ビス(4-ジグリシジルアミノフェニル)メタン;ポリ(N,N-グリシジルメチルアクリルアミド);1,2-エポキシ-3-(ジフェニルカルバモイル)シクロヘキサン;2.3-エポキシ-6-(ジメチルカルバモイル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン;2-(ジメチルカルバモイル)スチレンオキシド;4-(1,2-エポキシブチル)-4’-(ジメチルカルバモイル)ビフェニル;4-シアノ-1,2-エポキシブタン;1-(3-シアノフェニル)-2,3-エポキシブタン;2-シアノスチレンオキシド;及び6-シアノ-1-(1,2-エポキシ-2-フェニルエチル)ナフタレンからなる群から選択される。
【0064】
有機リン化合物としては、例えば、酸トリアルキルリン酸エステル等のリン酸エステルを用いることができる。そのような化合物は、次式で表すことができる:
【0065】
【化2】
式中、R
1、R
2、及びR
3は、各々独立して、メチル、エチル及び直鎖又は分岐鎖(C
3~C
10)アルキル基からなる群から選択される。一実施形態では、トリアルキルリン酸エステルは、トリブチルリン酸エステルである。
【0066】
更に別の実施形態では、実質的に球状のMgCl2-nEtOH付加物は、噴霧結晶化プロセスによって形成することができる。このプロセスでは、nが1~6であるMgCl2-nROH溶融物は、容器の上部に20~80℃の温度で不活性ガスを実施しながら容器の内側で噴霧される。溶融物液滴は、不活性ガスが-50~20℃の温度で導入される結晶化領域に移され、溶融物液滴を球形状の非凝集化固体粒子に結晶化する。球状のMgCl2粒子は、次いで、所望のサイズに分類される。望ましくないサイズの粒子は、リサイクルすることができる。触媒合成のための好ましい実施形態では、球状のMgCl2前駆体は、約15~150ミクロン、好ましくは20~100ミクロン、最も好ましくは35~85ミクロンの間の平均粒径(Malvern d50)である。
【0067】
触媒成分は、ハロゲン化によって固体触媒に変換することができる。ハロゲン化は、内部電子供与体の存在下で触媒成分をハロゲン化剤と接触させることを含む。ハロゲン化は、触媒成分中に存在するマグネシウム部分を、チタン部分(チタンハロゲン化物など)が堆積されているハロゲン化マグネシウム担体へと変換する。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、ハロゲン化中、内部電子供与体は、(1)マグネシウム系担体上のチタンの位置を調節し、(2)マグネシウム及びチタン部分の、それぞれのハロゲン化物への変換を促進し、(3)変換中にハロゲン化マグネシウム担体の微結晶サイズを調節すると考えられる。したがって、内部電子供与体の提供は、立体選択性が向上した触媒組成物をもたらす。
【0068】
一実施形態では、ハロゲン化剤は、式Ti(ORe)fXhを有するハロゲン化チタンであり、式中、Re及びXが、上記のように定義され、fは、0~3の整数であり、hは、1~4の整数であり、f+hは、4である。一実施形態では、ハロゲン化剤はTiCl4である。更なる実施形態では、ハロゲン化は、塩素化又は非塩素化芳香族液体、例えばジクロロベンゼン、o-クロロトルエン、クロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、又はキシレンの存在下で行われる。更に別の実施形態では、ハロゲン化は、ハロゲン化剤と塩素化芳香族液体との混合物であって、40~60体積パーセントのハロゲン化剤、例えばTiCl4を含む混合物の使用によって行われる。
【0069】
反応混合物は、ハロゲン化中に加熱することができる。触媒成分及びハロゲン化剤は、約10℃未満、例えば約0℃未満、例えば約-10℃未満、例えば約-20℃未満、例えば約-30℃未満の温度で最初に接触される。初期温度は、一般に、約-50℃より高く、例えば約-40℃より高い。次いで、混合物は、0.1~10.0℃./分の速度で、又は1.0~5.0℃/分の速度で加熱される。内部電子供与体は、ハロゲン化剤と触媒成分との間の最初の接触期間の後に、後で添加され得る。ハロゲン化の温度は、20℃~150℃。(又はそれらの間の任意の値若しくは部分範囲)、あるいは0℃~120℃である。ハロゲン化は、内部電子供与体が実質的に存在しない状態で5~60分、又は10~50分の期間にわたって継続され得る。
【0070】
触媒成分、ハロゲン化剤、及び内部電子供与体の接触の仕方は変化し得る。一実施形態では、触媒成分は、最初に、ハロゲン化剤及び塩素化芳香族化合物を含有する混合物と接触される。得られた混合物を撹拌し、必要に応じて加熱することができる。次に、前駆体を単離又は回収することなく、内部電子供与体を同じ反応混合物に添加する。前述のプロセスは、自動プロセス制御によって制御される様々な成分を添加して、単一の反応器内で行われ得る。
【0071】
一実施形態では、触媒成分は、ハロゲン化剤と反応する前に内部電子供与体と接触される。
【0072】
触媒成分と内部電子供与体との接触時間は、少なくとも-30℃、又は少なくとも-20℃、又は少なくとも10℃、最大150℃、最大120℃、又は最大115℃、又は最大110℃の温度で、少なくとも10分、又は少なくとも15分、又は少なくとも20分、又は少なくとも1時間ある。
【0073】
一実施形態では、触媒成分、内部電子供与体、及びハロゲン化剤は、同時に又は実質的に同時に添加される。
【0074】
ハロゲン化手順は、必要に応じて1回、2回、3回、又はそれ以上繰り返すことができる。一実施形態では、得られた固体材料は、反応混合物から回収され、少なくとも約10分間、又は少なくとも約15分間、又は少なくとも約20分間、及び最大約10時間、又は最大約45分、又は最大約30分で、少なくとも約-20℃又は少なくとも約0℃、又は少なくとも約10℃から最大約150℃、又は最大約120℃、又は最大約115℃の温度で塩素化芳香族化合物中のハロゲン化剤の混合物と同じ(又は異なる)内部電子供与体成分が存在しない状態(又は存在下)で1回以上接触される。
【0075】
前述のハロゲン化手順の後、得られた固体触媒組成物は、例えば、湿性フィルタケーキを生成するため、濾過により最終プロセスで用いられる反応媒体から分離される。次いで、湿性フィルタケーキをすすぎ液体希釈剤で洗浄して未反応のTiCl4を除去することができ、必要に応じて、残留液体を除去するために乾燥させてもよい。典型的には、得られた固体触媒組成物は、イソペンタン、イソオクタン、イソヘキサン、ヘキサン、ペンタン、又はオクタンなどの脂肪族炭化水素などの液体炭化水素である「洗浄液体」で1回以上洗浄される。次いで、固体触媒組成物は、分離及び乾燥され、又は炭化水素、特に更なる貯蔵若しくは使用のために鉱油などの比較的重質の炭化水素中でスラリー化され得る。
【0076】
一実施形態では、得られる固体触媒組成物は、総固形分重量に基づいて約1.0重量パーセント~約6.0重量パーセント、又は約1.5重量パーセント~約4.5重量パーセント、又は約2.0重量パーセント~約3.5重量パーセントのチタン含有量を有する。固体触媒組成物中のチタン対マグネシウムの重量比は、好適には約1:3~約1:160、又は約1:4~約1:50、又は約1:6~1:30である。一実施形態では、内部電子供与体は、約0.005:1~約1:1、又は約0.01:1~約0.4:1の内部電子供与体対マグネシウムのモル比で触媒組成物中に存在し得る。重量パーセントは、触媒組成物の総重量に基づく。
【0077】
触媒組成物は、固体触媒組成物の単離の前又は後に、以下の手順の1つ以上によって更に処理されてもよい。所望であれば、固体触媒組成物を更なる量のハロゲン化チタン化合物と接触(ハロゲン化)させてもよい。これは、メタセシス条件下で、フタロイルジクロリド又はベンゾイルクロリドなどの酸塩化物と交換されてもよいし、水洗又は洗浄、熱処理してもよいし、又はエージングしてもよい。前述の更なる手順は、任意の順序で組み合わせられてもよく、別々に使用されてもよく、又は全く使用されなくてもよい。
【0078】
上記のように、触媒組成物は、マグネシウム部分、チタン部分、及び内部電子供与体の組み合わせを含み得る。触媒組成物は、触媒成分及び内部電子供与体を内部電子供与体が組み込まれたマグネシウム部分とチタン部分との組み合わせに変換する前述のハロゲン化手順によって、生成される。触媒組成物が形成される触媒成分は、マグネシウム部分前駆体、混合マグネシウム/チタン前駆体、ベンゾエート含有塩化マグネシウム前駆体、マグネシウム、チタン、エポキシ、及びリン前駆体、又は球状前駆体を含む、上述の触媒前駆体のいずれかであり得る。
【0079】
様々な異なる種類の内部電子供与体が固体触媒成分に組み込まれてもよい。一実施形態では、内部電子供与体は、フェニレン置換ジエステルなどのアリールジエステルである。一実施形態では、内部電子供与体は、以下の化学構造を有し得る:
【化3】
【0080】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、各々1~20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、このヒドロカルビル基は、分岐鎖若しくは直鎖構造を有するか又は7~15個の炭素原子を有するシクロアルキル基を含み、E1及びE2は、同じであっても異なっていてもよく、1~20個の炭素原子を有するアルキル、1~20個の炭素原子を有する置換アルキル、1~20個の炭素原子を有するアリール、1~20個の炭素原子を有する置換アリール、又は1~20個の炭素原子を有し、任意選択的にヘテロ原子を含んでいてもよい不活性官能基からなる群から選択され、X1及びX2は、各々O、S、アルキル基、又はNR5であり、R5は、1~20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であるか、又は水素である。
【0081】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル」及び「炭化水素」という用語は、分岐状若しくは非分岐状、飽和若しくは不飽和の、環式、多環式、縮合、又は非環式種、並びにそれらの組み合わせを含む、水素及び炭素原子のみを含有する置換基を指す。ヒドロカルビル基の非限定的な例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、及びアルキニル基が挙げられる。
【0082】
本明細書で使用される場合、「置換ヒドロカルビル」及び「置換炭化水素」という用語は、1つ以上の非ヒドロカルビル置換基により置換されたヒドロカルビル基を指す。非ヒドロカルビル置換基の非限定的な例は、ヘテロ原子である。本明細書で使用される場合、「ヘテロ原子」とは、炭素又は水素以外の原子を指す。ヘテロ原子は、周期表のIV、V、VI、及びVII族からの非炭素原子であり得る。ヘテロ原子の非限定的な例としては、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、N、O、P、B、S、及びSiが挙げられる。置換ヒドロカルビル基はまた、ハロヒドロカルビル基及びケイ素含有ヒドロカルビル基を含む。本明細書で使用される場合、「ハロヒドロカルビル」基という用語は、1つ以上のハロゲン原子により置換されたヒドロカルビル基を指す。本明細書で使用される場合、「ケイ素含有ヒドロカルビル基」という用語は、1つ以上のケイ素原子により置換されたヒドロカルビル基である。ケイ素原子は、炭素鎖中にあってもよく、又はなくてもよい。
【0083】
一態様では、置換フェニレンジエステルは以下の構造(I)を有する:
【0084】
【0085】
一実施形態では、構造(I)は、イソプロピル基であるR1及びR3を含む。R2、R4、及びR5~R14の各々は、水素である。
【0086】
一実施形態では、構造(I)は、R1、R5、及びR10の各々をメチル基として含み、R3は、t-ブチル基である。R2、R4、R6~R9及びR11~R14の各々は、水素である。
【0087】
一実施形態では、構造(I)は、R1、R7、及びR12の各々をメチル基として含み、R3はt-ブチル基である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0088】
一実施形態では、構造(I)は、R1をメチル基として含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、エチル基である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0089】
一実施形態では、構造(I)は、R1、R5、R7、R9、R10、R12、及びR14の各々をメチル基として含み、R3はt-ブチル基である。R2、R4、R6、R8、R11、及びR13の各々は、水素である。
【0090】
一実施形態では、構造(I)は、R1をメチル基として含み、R3はt-ブチル基である。R5、R7、R9、R10、R12、及びR14の各々は、i-プロピル基である。R2、R4、R6、R8、R11、及びR13の各々は、水素である。
【0091】
一実施形態では、置換フェニレン芳香族ジエステルは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,536,372号に詳細に記載されているR1~R14の各々の代替物を含む、構造(II)~(V)からなる群から選択される構造を有する。
【0092】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、エトキシ基である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0093】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、フッ素原子である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0094】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、塩素原子である。R2、R4、R5、R6、R8,R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0095】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、臭素原子である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0096】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、ヨウ素原子である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0097】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R6、R7、R11、及びR12の各々は、塩素原子である。R2、R4、R5、R8、R9、R10、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0098】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R6、R8、R11、及びR13の各々は、塩素原子である。R2、R4、R5、R7、R9、R10、R12、及びR14の各々は、水素である。
【0099】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R2、R4及びR5~R14の各々は、フッ素原子である。
【0100】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、トリフルオロメチル基である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0101】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、エトキシカルボニル基である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11,R13、及びR14の各々は、水素である。
【0102】
一実施形態では、R1はメチル基であり、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、エトキシ基である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0103】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3はt-ブチル基である。R7及びR12の各々は、ジエチルアミノ基である。R2、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R13、及びR14の各々は、水素である。
【0104】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含み、R3は2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル基である。R2、R4及びR5~R14の各々は、水素である。
【0105】
一実施形態では、構造(I)は、R1及びR3を含み、これらの各々は、sec-ブチル基である。R2、R4及びR5~R14の各々は、水素である。
【0106】
一実施形態では、構造(I)は、各々メチル基であるR1及びR4を含む。R2、R3、R5~R9及びR10~R14の各々は、水素である。
【0107】
一実施形態では、構造(I)は、メチル基であるR1を含む。R4はi-プロピル基である。R2、R3、R5~R9及びR10~R14の各々は、水素である。
【0108】
一実施形態では、構造(I)は、R1、R3、及びR4を含み、これらの各々はi-プロピル基である。R2、R5~R9及びR10~R14の各々は、水素である。
【0109】
別の態様では、内部電子供与体はフタレート化合物であり得る。例えば、フタレート化合物は、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジアミル、フタル酸ジイソアミル、フタル酸メチルブチル、フタル酸エチルブチル、又はフタル酸エチルプロピルであり得る。
【0110】
上記の固体触媒成分に加えて、本開示の触媒系はまた、共触媒を含むことができる。共触媒は、アルミニウム、リチウム、亜鉛、スズ、カドミウム、ベリリウム、マグネシウムの水素化物、アルキル、又はアリール、及びそれらの組み合わせを含み得る。一実施形態では、共触媒は、式R3Alで表されるヒドロカルビルアルミニウム共触媒であり、式中、各Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、又はヒドリドラジカルであり、少なくとも1つのRは、ヒドロカルビルラジカルであり、2つ又は3つのRラジカルは、環式ラジカルに接合され、ヘテロ環式構造を形成することができ、各Rは、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロカルビルラジカルである各Rは、1~20個の炭素原子、好ましくは1~10個の炭素原子を有する。更なる実施形態では、各アルキルラジカルは、直鎖又は分岐鎖であり得、そのようなヒドロカルビルラジカルは、混合ラジカルであり得、すなわち、ラジカルは、アルキル、アリール、及び/又はシクロアルキル基を含有し得る。好適なラジカルの非限定的な例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、n-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、2-エチルヘキシル、5,5-ジメチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、イソデシル、n-ウンデシル、n-デシルである。
【0111】
好適なヒドロカルビルアルミニウム化合物の非限定的な例は、次のとおりである:トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジ-n-ヘキシルアルミニウム、二水素化イソブチルアルミニウム、二水素化n-ヘキシルアルミニウム、ジイソブチルヘキシルアルミニウム、イソブチルジヘキシルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリ-n-デシルアルミニウム、トリ-n-ドデシルアルミニウム。一実施形態では、共触媒は、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、及び水素化ジ-n-ヘキシルアルミニウムから選択される。
【0112】
一実施形態では、共触媒は、トリエチルアルミニウムである。アルミニウム対チタンのモル比は、約5:1~約500:1、又は約10:1~約200:1、又は約15:1~約150:1、又は約20:1~約100:1である。別の実施形態では、アルミニウム対チタンのモル比は、約45:1である。
【0113】
例えば、好適な触媒組成物としては、固体触媒成分、共触媒、及び2つ以上の異なる成分の混合外部電子供与体(mixed external electron donor、M-EED)であり得る外部電子供与体を挙げることができる。好適な外部電子供与体又は「外部供与体」としては、1つ以上の活性制限剤(ALA)及び/又は1つ以上の選択性制御剤(SCA)が挙げられる。本明細書で使用される場合、「外部供与体」は、触媒性能を改変するプロ触媒形成とは関係なく添加される成分、又は成分の混合物を含む組成物である。本明細書で使用される場合、「活性制限剤」は、触媒の存在下で重合温度が閾値温度(例えば、約95℃超の温度)を上回って上昇するにつれて触媒活性を低下させる組成物である。「選択性制御剤」は、ポリマーのタクチシティを改善する組成物であり、改善されたタクチシティは、一般に、増加したタクチシティ若しくは減少したキシレン可溶分、又はこれらの両方を意味すると理解される。上記定義は相互に排他的ではなく、単一の化合物が、例えば、活性制限剤及び選択性制御剤の両方として分類され得ることが理解されるべきである。
【0114】
本開示に従った選択性制御剤は、一般に有機ケイ素化合物である。例えば、一態様では、選択性制御剤はアルコキシシランであり得る。
【0115】
一実施形態では、アルコキシシランは、一般式:SiRm(OR’)4-m(I)を有し得、式中、Rは、独立して、出現ごとに、水素、あるいは任意選択的に1つ以上の14、15、16、若しくは17族のヘテロ原子を含有する1つ以上の置換基により置換されたヒドロカルビル又はアミノ基であり、当該R’は、水素及びハロゲンを除く最大20個の原子を含有し、R’は、C1~4アルキル基であり、mは、0、1、2、又は3である。一実施形態では、Rは、C6~12アリール、アルキル若しくはアラルキル、C3~12シクロアルキル、C3~12分岐鎖アルキル、又はC3~12環式若しくは非環式アミノ基であり、R’はC1~4アルキルであり、mは、1又は2である。一実施形態では、例えば、第2の選択性制御剤はn-プロピルトリエトキシシランを含むことができる。使用可能な他の選択性制御剤としては、プロピルトリエトキシシラン又はジイソブチルジメトキシシランを挙げることができる。
【0116】
一実施形態では、触媒系は、活性制限剤(ALA)を含むことができる。ALAは、重合反応器の不具合を抑制又はそうでなければ防止し、重合プロセスの継続を確実にする。典型的には、チーグラー・ナッタ触媒の活性は、反応器温度が上昇するにつれて増加する。チーグラー・ナッタ触媒はまた、典型的には、生成されたポリマーの融点温度近くで高い活性を維持する。発熱重合反応によって発生した熱は、凝集物を形成するポリマー粒子を生じさせる可能性があり、最終的にポリマー生成プロセスの継続を中断することにつながる場合がある。ALAは、高温で触媒活性を低下させ、それによって、反応器の不具合を防止し、粒子の凝集を低減(又は防止)し、重合プロセスの継続を確実にする。
【0117】
活性制限剤はカルボン酸エステルであってもよい。脂肪族カルボン酸エステルは、C4~C30脂肪族酸エステルであり得、モノ又はポリ(2つ以上)のエステルであり得、直鎖又は分岐鎖であり得、飽和又は不飽和であり得、及びそれらの任意の組み合わせであり得る。C4~C30脂肪族酸エステルはまた、1つ以上の14、15、又は16族のヘテロ原子を含有する置換基により置換され得る。好適なC4~C30脂肪族酸エステルの非限定的な例としては、脂肪族C4~30モノカルボン酸のC1~20アルキルエステル、脂肪族C8~20モノカルボン酸のC1~20アルキルエステル、脂肪族C4~20モノカルボン酸及びジカルボン酸のC1~4アリルモノ及びジエステル、脂肪族C8~20モノカルボン酸及びジカルボン酸のC1~4アルキルエステル、並びにC2~100(ポリ)グリコール又はC2~100(ポリ)グリコールエーテルのC4~20モノ又はポリカルボキシレート誘導体が挙げられる。更なる実施形態では、C4~C30脂肪族酸エステルは、ラウレート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、オレエート、セバケート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノ又はジアセテート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノ又はジミリステート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノ又はジラウレート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノ又はジオレエート、グリセリルトリ(アセテート)、C2~40脂肪族カルボン酸のグリセリルトリ-エステル、及びそれらの混合物であり得る。更なる実施形態では、C4~C30脂肪族エステルは、イソプロピルミリステート又はジ-n-ブチルセバケートである。
【0118】
一実施形態では、選択性制御剤及び/又は活性制限剤は、別々に反応器内に添加され得る。別の実施形態では、選択性制御剤及び活性制限剤は、事前に一緒に混合され、次いで混合物として反応器内に添加され得る。更に、選択性制御剤及び/又は活性制限剤は、異なる方法で反応器に添加され得る。例えば、一実施形態では、選択性制御剤及び/又は活性制限剤は、流動床反応器などの反応器に直接添加され得る。あるいは、選択性制御剤及び/又は活性制限剤は、例えばサイクルループを通して供給することによって、反応器容積に間接的に添加され得る。選択性制御剤及び/又は活性制限剤は、反応器に供給される前にサイクルループ内で触媒粒子と結合され得る。
【0119】
上記のような本開示の触媒系は、オレフィン系ポリマーを製造するために使用することができる。本プロセスは、重合条件下でオレフィンを触媒系と接触させることを含む。
【0120】
1つ以上のオレフィンモノマーを重合反応器内に導入して、触媒系と反応させ、ポリマー、例えばポリマー粒子の流動床を形成することができる。オレフィンモノマーは、例えば、プロピレンであり得る。流動床反応器、撹拌ガス反応器、移動充填床反応器、マルチゾーン反応器、バルク相反応器、スラリー反応器又はそれらの組み合わせを含む任意の好適な反応器を使用することができる。好適な市販の反応器としては、UNIPOL反応器、SPHERIPOL、SPHERIZONE反応器などが挙げられる。
【0121】
本明細書で使用される場合、「重合条件」とは、触媒組成物とオレフィンとの間の重合を促進して所望のポリマーを形成するのに好適な重合反応器内の温度及び圧力パラメータである。重合プロセスは、1つ、又は2つ以上の反応器内で操作する、気相、スラリー、又はバルク重合プロセスであり得る。
【0122】
一実施形態では、重合は、気相重合によって生じる。本明細書で使用される場合、「気相重合」は、流動媒体によって流動化状態に維持されたポリマー粒子の流動床を介した触媒の存在下で、上昇流動媒体、1つ以上のモノマーを含有する流動媒体の通過である。「流動化」、「流動化された」又は「流動化する」とは、微細ポリマー粒子の床がガスの上昇流によって持ち上げられ、かき混ぜられるガス-固体接触プロセスである。
【0123】
流動化は、粒子の床の細隙を通る流体の上向きの流れが、粒子状物質の重量を上回る圧力差及び摩擦抵抗の増大を獲得した場合に粒子状物質の床で生じる。したがって、「流動床」とは、流動媒体の流れによって流動化された状態で懸濁された複数のポリマー粒子である。「流動媒体」とは、1つ以上のオレフィンガス、任意選択的に、キャリアガス(例えば、H2又はN2)、及び任意選択的に気相反応器を通って上昇する液体(例えば、炭化水素)である。
【0124】
典型的な気相重合反応器(又は気相反応器)は、容器(すなわち、反応器)、流動床、分配板、入口及び出口配管、圧縮機、循環ガス冷却器又は熱交換器、並びに生成物排出システムを含む。容器は、反応ゾーン及び速度低下ゾーンを含み、これらのそれぞれは分配板上に位置する。床は、反応ゾーンに位置する。一実施形態では、流動媒体は、プロピレンガスと、オレフィンなどの少なくとも1つの他のガス及び/又は水素若しくは窒素などのキャリアガスと、を含む。
【0125】
一実施形態では、接触は、触媒組成物を重合反応器に供給し、オレフィンを重合反応器に導入することによって生じる。一実施形態では、共触媒は、触媒組成物を重合反応器に導入する前に、触媒組成物と混合(予め混合)することができる。別の実施形態では、共触媒は、触媒組成物とは独立して重合反応器に添加される。共触媒の重合反応器への独立した導入は、触媒組成物供給物と同時に、又は実質的に同時に起こり得る。
【0126】
一実施形態では、重合プロセスは、前活性化工程を含み得る。活性化前には、触媒組成物を共触媒及び選択性制御剤及び/又は活性制限剤と接触させることを含む。続いて、得られた予備活性化触媒流を重合反応ゾーン内に導入し、重合させるオレフィンモノマーと接触させる。任意選択的に、追加の量の選択性制御剤及び/又は活性制限剤を添加してもよい。
【0127】
本プロセスは、選択性制御剤(及び任意選択的には活性制限剤)を触媒組成物と混合することを含み得る。選択性制御剤は、共触媒と錯体を形成し、触媒組成物とオレフィンとの間の接触前に触媒組成物と混合(予混合)することができる。別の実施形態では、選択性制御剤及び/又は活性制限剤は、重合反応器に独立して添加され得る。一実施形態では、選択性制御剤及び/又は活性制限剤は、サイクルループを介して反応器に供給することができる。
【0128】
上記のプロセスは、非常に高いメルトフローレートを有するポリプロピレンポリマーを製造するために使用することができる。更に、比較的少量の微粉を有し、比較的高いかさ密度を有するポリマーを製造することができる。かさ密度は、例えば、約0.30g/cc超、例えば約0.4g/cc超、例えば約0.42g/cc超、例えば約0.45g/cc超であり得る。かさ密度は、一般に約0.6g/cc未満、例えば約0.5g/cc未満、例えば約0.4g/cc未満である。
【0129】
次いで、本開示に従って作製されたポリプロピレンポリマーを、成形物品を製造するための様々なポリマー組成物に組み込むことができる。ポリマー組成物は、一般に約70重量%超の量、例えば約80重量%超の量、例えば約90重量%超の量、例えば約95重量%超の量の高メルトフローレートポリプロピレンポリマーを含有することができる。ポリマー組成物は、様々な異なる添加剤及び成分を含有することができる。例えば、ポリマー組成物は、1つ以上の酸化防止剤を含有することができる。例えば、一態様では、ポリマー組成物は、立体障害フェノール系酸化防止剤及び/又はホスファイト酸化防止剤を含有することができる。ポリマー組成物は、ステアリン酸カルシウムなどの酸捕捉剤も含有することができる。更に、ポリマー組成物は、着色剤、UV安定剤などを含有することができる。上記添加剤の各々は、一般に約0.015~約2重量%の量でポリマー組成物中に存在することができる。
【0130】
あるいは、高メルトフローレートポリプロピレンポリマーを加工助剤として使用することができる。加工助剤は、他のポリマーのメルトフロー特性を改善するための流動剤、潤滑剤、離型剤、ワックスなどであり得る。この実施形態では、本開示の高メルトフローレートポリプロピレンポリマーは、ポリマー組成物中に、約2重量%~約50重量%(これらの間の1%の全ての増分を含む)の量で存在することができる。例えば、高メルトフローレートポリプロピレンポリマーは、ポリマー組成物中に、約30重量%未満、例えば約25重量%未満、例えば約20重量%未満、例えば約10重量%未満、一般に約5重量%超の量で存在することができる。高メルトフローレートポリプロピレンポリマーと組み合わせることができるポリマーとしては、他の低メルトフローレートポリプロピレンポリマー、ポリエチレンポリマー、ポリエステルポリマーなどが挙げられる。
【0131】
本開示は、以下の実施例を参照してよりよく理解され得る。
【0132】
実施例
触媒A及び触媒Bの2つの異なる触媒を使用して、本開示に従って様々な異なる高メルトフローレートポリプロピレンホモポリマーを製造した。以下の試料番号13~18は、W.R.Grace and Company社から市販されているLYNX 1010触媒である触媒Bを使用して製造した。LYNX 1010触媒は、マグネシウム部分、チタン部分、エポキシ化合物及び有機ケイ素化合物を含有する固体触媒成分を含む。LYNX 1010触媒は、内部電子供与体としてフタレート化合物を含む。
【0133】
以下の試料番号1~12及び19~21は、同様の固体触媒成分であるが非フタレート置換フェニレンジエステル内部電子供与体を使用した触媒Aを使用して製造した。
【0134】
両方の触媒系を選択性制御剤と共に使用した。使用した選択性制御剤はプロピルトリエトキシシランであった。選択性制御剤は、活性制限剤として吉草酸ペンチルと共に使用した。選択性制御剤対活性制限剤のモル比は40:60であった。
【0135】
反応器は、サイクルガスラインに接続された圧縮器及び冷却器を備えた気相流動床で重合を行った。
【0136】
ポリプロピレン樹脂粉末を、共触媒としてトリエチルアルミニウム(TEAI)と組み合わせて上記触媒を使用して流動床反応器中で製造した。
【0137】
流動床反応器を以下の条件下で操作した:
反応器温度:実施例1~17については72℃、又は実施例18については80℃。
床重量:68~72ポンド
ガス空塔速度:1.0~1.6ft/sec
【0138】
全てのポリマーは、約0.11~約0.23の水素対モノマー比で製造した。製造されたポリマーの全ては、1.5重量%~6重量%のキシレン可溶分含量及び2.5超の分子量分布を有していた。触媒生産性は、触媒1kg当たり10~40トンの範囲であり、平均して約20トン/kgであった。極めて高いメルトフローレートポリマーは、過酸化物を使用する必要なく製造された。ポリマー粒径は、GRADEXふるい試験を用いて測定した。
【0139】
以下の試料を製造し、以下の結果を得た:
【0140】
【0141】
【0142】
上記に示したように、全ての試料は、900g/10分を超えるメルトフローレートを有し、最も高いメルトフローは8,152g/10分であった。結果を
図2~4にも示す。
図4に示されるように、プロセス中に生じた微粉の量は比較的低かった。
【0143】
上記に示したように、より高い反応器温度が有益である。試料18は80℃で製造されたが、試料1~17は72℃で製造された。実施例14と18とを比較すると、反応器温度が高いときほど分子量分布(MWD)及びMwは両方とも低く、メルトフローレートは高いが水素比はほぼ同じに維持される。
【0144】
以下の表に示すように、触媒Aを用いて、より高い反応器温度で更なる試料を作製した。
【0145】
【0146】
触媒A及びBの両方を用いて作製した材料をメルトブローンラインで評価して、表6に示す平均繊維直径を有する繊維を製造した。
【0147】
【0148】
本発明に対するこれら及び他の修正及び変更は、添付の特許請求の範囲により具体的に記載されている本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者によって実施され得る。加えて、様々な実施形態の態様は、全部又は一部において相互に交換され得ることを理解されたい。更に、当業者は、前述の説明が単なる例示によるものであり、そのような添付の特許請求の範囲に更に記載されるように本発明を限定することを意図するものではないことを理解するであろう。
【国際調査報告】