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特表2023-540164電極表面近傍の溶液のpHの電子制御
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電極表面近傍の溶液のpHの電子制御
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20230914BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01N27/26 361F
G01N27/416 353Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503165
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 US2021042031
(87)【国際公開番号】W WO2022016087
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】16/932,096
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】カブシ,サム
(72)【発明者】
【氏名】フォミナ,ナデズダ
(72)【発明者】
【氏名】アーマッド,ハビブ
(72)【発明者】
【氏名】マルニアク,オータム
(72)【発明者】
【氏名】ラング,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ラグナサン,アシュウィン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヨン・シク
(72)【発明者】
【氏名】ダルビッシュ,アルミン
(72)【発明者】
【氏名】パパゲオルギオウ,エフティミオス
(57)【要約】
電極およびpH感知素子を含むフィードバック電極セットのマルチサイトアレイを含むpHまたはイオン勾配を制御するためのデバイスおよび方法。上記電極は参照電極、対電極、および作用電極を含むことができる。上記デバイスおよび方法は、作用電極のそれぞれに印加する電流および/または電圧の量を繰り返し選択し、選択された電流および/または電圧の量を作用電極のそれぞれに印加して作用電極近傍の溶液のpHを変化させ、感知素子のシグナル出力を測定する。マルチサイトアレイは、フィードバック電極セットおよび非フィードバック電極セットを含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極のアレイ上の溶液のpHを制御するためのデバイスであって、前記デバイスが、
支持体と、
1つまたは複数のフィードバック制御電極セットを含む、電極のアレイと
を含み、前記フィードバック制御電極セットがそれぞれ、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含む、1つまたは複数のサブセット
を含み、
前記1つもしくは複数の参照電極のうちの1つの参照電極および/または前記1つもしくは複数の対電極のうちの1つの対電極が、前記1つまたは複数のサブセットのうちの少なくとも1つと電気的に連結されており、
前記デバイスが、
a)前記連結された感知素子のシグナル出力と目標感知値との差を最小限にするように、前記1つまたは複数の作用電極のうちの少なくとも1つに印加する電流および/または電圧のそれぞれの量を選択するステップと、
b)選択された前記電流および/または電圧のそれぞれの量を前記1つまたは複数の作用電極のうちの前記少なくとも1つに印加して、それぞれの作用電極の近傍の溶液のpHを変化させるステップと、
c)前記連結された感知素子の前記シグナル出力を測定するステップと
を繰り返し実施するように構成されている、デバイス。
【請求項2】
前記参照電極のうちの1つまたは複数が感知素子でもある、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記溶液が、キノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の酸化還元活性種を含有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスが、プロセッサを含む、またはプロセッサと通信的に連結されており、印加する電流および/または電圧の量を選択するステップが、前記感知素子の前記シグナル出力を含む入力を使用してアルゴリズムを実行するステップを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
1つもしくは複数の前記作用電極、1つもしくは複数の前記参照電極、1つもしくは複数の前記対電極、および/または1つもしくは複数の前記感知素子が、スイッチマトリックスモジュールと電気的に連結されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
1つもしくは複数の前記参照電極および/または1つもしくは複数の前記対電極が、2つ以上の前記サブセットと電気的に連結されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記電極のアレイが、1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットをさらに含み、
前記フィードバック非制御電極セットがそれぞれ、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
1つまたは複数の作用電極
を含み、
それぞれのフィードバック非制御電極セットの前記1つもしくは複数の参照電極のそれぞれ、および/またはそれぞれのフィードバック非制御電極セットの前記1つもしくは複数の対電極のそれぞれが、それぞれのフィードバック非制御電極セットの作用電極のうちの少なくとも1つと電気的に連結されており、
前記1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットのそれぞれが、pH感知素子を含まず、
(i)全ての前記フィードバック制御電極セットが前記デバイスの1つのセクション内に含まれており、全ての前記フィードバック非制御電極セットが前記デバイスの物理的に分離した第2のセクション内に配置されている、または(ii)1つまたは複数の前記フィードバック制御電極セットが、2つ以上の前記フィードバック非制御電極セット間に散在しており、
前記フィードバック制御電極セットのうちの少なくとも1つが、前記フィードバック非制御電極セットのうちの少なくとも1つと電気的に連結されており、連結された前記フィードバック制御電極セットのうちの少なくとも1つが、前記少なくとも1つの連結されたフィードバック制御電極セットの前記1つまたは複数の作用電極に印加された、選択された前記電流および/または電圧の量を、それぞれの連結された少なくとも1つのフィードバック非制御電極セットの1つまたは複数の前記作用電極にも印加するように構成されている、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
フィードバック制御電極セットを含むデバイスを用いて溶液のpHを制御する方法であって、前記フィードバック制御電極セットが、(1)1つまたは複数の参照電極、(2)1つまたは複数の対電極、および(3)1つまたは複数のサブセットを含み、前記1つまたは複数のサブセットがそれぞれ、作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含み、前記1つもしくは複数の参照電極のうちの1つの参照電極および/または前記1つもしくは複数の対電極のうちの1つの対電極が、1つまたは複数の前記サブセットと電気的に連結されており、
前記方法が、
b)目標pHを有する溶液中の感知素子からの1つまたは複数のシグナル出力に基づき、感知素子の目標感知値を選択するステップと、
c)下記:
i)前記感知素子のシグナル出力と前記目標感知値との差を最小限にするように、前記フィードバック制御電極セットの前記作用電極のうちの少なくとも1つに印加する電流および/または電圧のそれぞれの量を選択する工程、
ii)選択された前記電流および/または電圧のそれぞれの量を、前記フィードバック制御電極セットの前記作用電極のうちの前記少なくとも1つに印加して、前記フィードバック制御電極セットのそれぞれの作用電極の近傍の溶液のpHを変化させる工程、および
iii)前記感知素子の前記シグナル出力を測定する工程
を繰り返し実施するステップとを含む、方法。
【請求項9】
前記溶液が、水および/または1つもしくは複数の酸化還元活性種を含み、印加された前記電流および/または電圧が、前記水および/または前記1つもしくは複数の酸化還元活性種の電気化学的反応により水素イオンを電気化学的に生成および/または消費する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つまたは複数の酸化還元活性種が、キノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記感知素子の前記シグナル出力を、pHを前記感知素子のシグナル出力値と相関付ける所定の校正データと比較することによって、前記溶液のpHを測定するステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
使用されたデバイスが、2つ以上の前記フィードバック制御電極セットのアレイを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも2つの前記フィードバック制御電極セットがそれぞれ、独立した目標pH値、ならびに/または選択された前記電流および/もしくは電圧の量を印加する独立した一時的プログラムを用いて個々に制御される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記フィードバック制御電極セットが、スイッチマトリックスモジュールと電気的に連結されており、フィードバック制御電極セットのそれぞれの制御をスイッチマトリックスモジュールにより実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの前記参照電極および/または少なくとも1つの前記対電極が、2つ以上の前記サブセットと電気的に連結されている、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
使用されたデバイスが、1つまたは複数の前記フィードバック制御電極セットおよび1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットのアレイを含み、1つまたは複数の前記フィードバック非制御電極セットが、1つまたは複数の前記フィードバック制御電極セットと電気的に連結されており、前記1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットがそれぞれ、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
1つまたは複数の作用電極
を含み、
それぞれのフィードバック非制御電極セットの前記1つもしくは複数の参照電極のそれぞれ、および/またはそれぞれのフィードバック非制御電極セットの前記1つもしくは複数の対電極のそれぞれが、それぞれのフィードバック非制御電極セットの前記1つまたは複数の作用電極のうちの少なくとも1つと電気的に連結されており、
前記1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットのそれぞれが、pH感知素子を含まず、
選択された前記電流および/または電圧のそれぞれの量を印加する前記ステップが、連結された前記フィードバック制御電極セットの1つまたは複数の前記作用電極に、選択された前記電流および/または電圧の量を印加するステップと、連結された前記フィードバック非制御電極セットの1つまたは複数の前記作用電極に、同一の電流および/または電圧のそれぞれの量を印加して、連結された前記フィードバック非制御電極セットの前記作用電極の近傍の溶液のpHを変化させるステップとを含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項17】
使用されたデバイスが、2つ以上の連結された前記フィードバック制御電極セットのアレイを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも2つの連結された前記フィードバック制御電極セットがそれぞれ、独立した目標pH値、ならびに/または連結された前記フィードバック制御電極セットの1つもしくは複数のそれぞれの作用電極、および連結された前記フィードバック非制御電極セットの1つもしくは複数のそれぞれの作用電極に対して選択された電流および/もしくは電圧の量を印加するための独立した一時的プログラムを用いて個々に制御される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1つまたは複数のフィードバック制御電極セットの前記参照電極および/または前記対電極が、2つ以上のフィードバック制御電極セットのサブセット、および/または2つ以上のフィードバック非制御電極セットの作用電極と電気的に連結されている、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
連結された前記フィードバック非制御電極セットの前記1つまたは複数の作用電極が、連結された前記フィードバック制御電極の前記1つまたは複数の作用電極と類似の形状および設計を有する、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の参照
[0001]本出願は、現在は2019年8月13日に付与された米国特許第10,379,080号である2015年7月6日に出願された米国特許出願第14/792,576号の分割出願である、2018年12月20日に出願された米国特許出願第16/227,466号の一部係属出願である、2020年7月17日に出願された米国特許出願第16/932,096号の優先権の利益を主張する。上記参照の開示のそれぞれの全体の内容は、本明細書に参照により権利が放棄されることなくここに援用される。
【0002】
[0002]本発明は、生体分子の診断方法における使用のためのバイオセンサーデバイスに関する。本発明はまた、水溶液中の気泡の存在を検出する方法、および、それに対応するデバイスおよびシステム、ならびにスライドで測定されたデータの処理のうちの少なくともいくつかが、スライド上に位置したコンピュータープロセッサにより、またはスライドの本体に接続された周辺部品上のプロセッサ、もしくはスライドに無線的に連結されたプロセッサにより実施されるライフサイエンス実験を実施するためのガラススライドにも関する。本発明は、電流を用いて溶液のpHを調節するための溶液中での電気化学的反応、特に酸化還元反応の使用にも関する。本発明は、生体バッファー中での使用に適しており、生体バッファー中のpH調節を容易とするのに使用可能な生体バッファー、特に電気化学的活性剤にも関する。さらに、本発明は、電極表面付近にpH濃度勾配を生じさせる方法にも関する。本発明は、バイオセンサーにおける生体分子間の相互作用の調節、電極表面付近のpH勾配の制御における精度、正確性、および信頼性を改良するための統合された電子システムを使用する方法、上記バイオセンサーにおいて生体分子間の相互作用を調節するためにpHを制御する方法、バイオセンサーを用いた生体分子の診断方法、および上記バイオセンサーを改良する方法に利用することができる。
【背景技術】
【0003】
[0003]最近、予測医療、予防医療、そして特に感度および特異度等のより忠実な診断検査を要する個別化医療に対する関心が高まっている。多重測定プラットホーム、例えば、研究において現在使用されているタンパク質アレイは、近未来のための診断技術として有望視されている。これらの検査サンプルは、血液、血清、唾液、生体の細胞、尿、または他の生体分子等のヒトの体液であってもよいが、さらに牛乳、ベビーフードまたは水等の消費財であってもよい。この分野内では核酸、タンパク質、およびさらに小分子等の生体分子を対象とした低コストの多重検査の需要が高まっている。そのような検査において必要とされる感度および特異度は、困難な課題なくしては達成されない。これらの検査を統合された電子機器と組み合わせ、かつ相補型金属酸化物半導体(CMOS)技術を用いることで、いくつかの課題に対する解決策が提供されてきた。
【0004】
[0004]検出アッセイにおける二つの主な制限は、感度および交差反応性を含む。これらのファクターの両方は最小検出可能濃度、そしてそれによる診断エラー率に影響する。上記試験における感度は通常、標識検出精度、プローブ-分析物ペア(例えば抗体-抗原ペア)に関連するファクター、および表面(図1で示されている通り)上のプローブ分子(例えばプローブ抗体)の有効密度により限定されている。生体サンプル中の他の分子は、プローブ分子(例えば一次抗体)と結合することにより、または検査サイト(図2で示されている通り)の表面への分析物の物理吸着により最小検出可能濃度にも影響を与える可能性がある。検出剤(例えば二次抗体)も、表面に物理吸着してバックグラウンドシグナル(図2で示されている通り)の上昇を引き起こす可能性がある。交差反応性およびバックグラウンド問題の解決は、新たな検査アッセイの開発において多大な時間を要する可能性があり、全体的な検査コストおよび複雑性を高める。アッセイは通常、最適な試薬および条件を探索することにより、そしてさらに最も効果のあるプローブ分子(例えば抗体)を製造することにより最適化される。これは、開発が長期にわたり、場合によっては検査を実施できず、製造コストが高くつくことになる。例えば、通常ELISAアッセイの開発は、分析開発の一環として正しい抗体を探索するのに何人かの科学者が一年よりも長い期間取り組むことを要する。タンパク質の交差反応性はそのような努力の失敗の原因となるおそれがある。
【0005】
[0005]複数のサイト検査プラットホームを提供するバイオセンサーは、アッセイ開発における上述の制限のいくつかに対して解決策を提供すると考えられていた。US特許出願公開であるUS2011/0091870およびUS2012/0115236(その内容はそれらの全体において参照することにより本開示に組み込まれる)には、そのような異なる反応条件に付すためにプローブ分子への生体分子分析物(例えばタンパク質)の結合を調節することができる複数のサイトを有するバイオセンサーが記載されている。例えば、4つのサイトを有するバイオセンサーにおいて検出されたシグナルも例えば4つのいくつかの成分を有していてもよい。これらの4つの項は、対象とするバイオマーカーの濃度、一次抗体(プローブ分子)サイトと非特異的に結合してバイオマーカーと結合するのを防ぐサンプル中の干渉分析物の濃度、サンドイッチを形成して誤りのシグナルを生成するサンプル中の干渉分析物の濃度、そして最後に表面に物理吸着し、誤りのシグナルを生成するサンプル中の干渉分析物の濃度に対応し得る。さらにそれぞれの項は、分子親和性、および物質移動等の他のアッセイ条件と相関関係にある結合効率ファクターaijとも比例関係にある。各サイトでの条件を別々に制御することにより、別のサイトは別の効率ファクターを有していてもよい。
【0006】
[0006]異なるサイトでの結合効率ファクターに大きな変化を生じさせる分析条件の高精度かつ正確な制御は、対象とする生体分子分析物の検出システムとしてのバイオセンサーの性能において重要である。US2014/0008244(その内容はその全体において参照することにより本開示に組み込まれる)において、バイオセンサーおよび方法は、
複数の検査サイトのアレイを有するバイオセンサーにおける検査サイト間の結合効率に大きな変化を生じさせるCMOS、電極アレイ、またはTFTベースのセットアップを用いて容易に統合され得ることが記載されている。対象とする生体分子分析物を正確に測定するためには、バイオセンサーは高度の信頼性および再現性を要する。バイオセンサーの繰り返し使用による局所的なpHの調節のばらつき、および以降の測定間でのばらつきは、バイオセンサーによる対象とする生体分子分析物の測定精度を低減するおそれがある。
【0007】
[0007]さらに、pHは生体分子間の結合相互作用、酵素的活性、官能基の保護/脱保護等の化学修飾、化学/生化学反応速度、およびpH感受性レポーター分子の視覚化のために重要な役割を担うファクターである。pHは、多様なプロセスに対する万能的なスイッチまたはコントローラとして作用し得るため、pHの高精度な制御、特に複数の条件を並行して制御することは、多くの用途において大きな可能性を提示し得る。そのためバイオセンサーのマルチサイトアレイの各サイトにおけるpHの調節は正確に制御される必要があり、そのようなpH調節におけるばらつきは補正される必要がある。したがって、マルチサイトアレイ検査サイトのそれぞれでpHが正確に、確実に、かつ再現可能な方法で制御が可能なバイオセンサーの需要が存在する。
【0008】
[0008]pHを測定し、制御する一般的な方法は当該技術分野で公知である。(Durst et al.,“Hydrogen-Ion Activity,”(水素イオンの活性)Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology(カーク・オスマー化学技術百科事典),pp.1~15(2009))。現在、通常は、バッファー溶液全体を目標pHと交換する、または溶液に対して酸または塩基を添加することにより、サンプルのpHを変化させている。このプロセスは時間を要し、誤差を招きやすく、また多くの場合において、サンプルを大きく希釈することになる。仮にサンプル容量が小さい、または分析または反応の経路の間において複数回のpH変更が必要である場合、現在商用化されている技術は良い解決策を提供することができない。したがって、時間的かつ空間的に柔軟な目標値および最小限の希釈ファクターでpHを制御できる技術的な解決策は、多様な研究および工業用途に利益をもたらし得る。
【0009】
[0009]電極表面と接触している溶液の積極的なpH制御は、タンパク質-タンパク質相互作用、等電点電気泳動、電気泳動、化学プロセスとバイオ化学プロセスとの組合せによるpH検討、DNA変性および復元、酵素的プロセスの制御、細胞操作において、高空間的かつ時間的な解決策で化学反応を加速または阻害するための方法として、またはpHが変数として関与する他のプロセスにおける潜在用途を有する。例えば、US2014/0008244には、対象とする生体サンプルの結合相互作用を調節することを目的とした、バイオセンサーの電極付近のpHまたはイオン濃度勾配を調節可能なバイオセンサーが記載されている。別の例において、US2014/0274760(本明細書にその全体において参照することにより組み込まれる)には、精度、信頼性、および再現性の上昇した改良型バイオセンサーが記載されている。
【0010】
[0010]表面に付着した電気化学物質を通じて溶液の特性を制御する試みも記載されている。キノンテザー(quinone tether)の還元、および後続のラクトン化を経由して改質金電極表面から電気化学的に誘発されたビオチンの放出が実証されている(Hodneland et al.,“Biomolecular surfaces that release ligands under electrochemical control,”(電気化学的制御下で配位子を放出する生体分子表面)J. Am. Chem. Soc.122, pp.4235~36(2000))。表面から溶液への抗体の自己集合および放出の電気化学的制御は、n-デカンチオール-ベンゾキノンの還元および酸化により達成された(Artzy-Schnirman et al., Nano Lett.8, pp.3398~3403(2008))。電気活性材料の3D層からのプロトンの放出は、Frasconiらにより、金ナノ粒子およびチオアニリンで構成された材料を用いて実証された(Frasconi et al.,“Electrochemically Stimulated pH Changes:A Route To Control Chemical Reactivity,”(電気化学的刺激によるpH変化:化学反応性を制御するルート)J. Am. Chem. Soc.132(6), pp.2029~36(2010))。チオアニリン基の電気化学的酸化は、電極表面から拡散したプロトンを周囲の溶液中に生じさせることで、それ自体のpHを変化させている。
【0011】
[0011]生物学的ソリューションにおける電気化学的pH調節は、系の複雑な性質に起因する大きな課題を提示する。その制限は、pH変化を制限するバッファー成分の存在、使用可能な共溶媒の制限、アミンおよびチオール等の強力な求核剤の存在、およびDNA塩基、アスコルビン酸およびグルタチオン等の電気化学的に活性な干渉成分の存在を含む。
【0012】
[0012]キノンは、電気化学的に活性な分子の中で、最も広く検討された群のうちの一つである(その全体において参照することにより組み込まれるThomas Finley, “Quinones,”(キノン)Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology(カーク・オスマー化学技術百科事典),1~35(2005)を参照。また、Chambers, J. Q. Chem. Quinonoid Compd. 1974, Pt. 2:737~91; Chambers, J. Q. Chem. Quinonoid Compd. 1988, 2:719~57; Evans, D. H. Encycl. Electrochem. Elem. 1978, 12: 1~259も参照)。ハイドロキノン/ベンゾキノンの変換は、電極表面でのプロトン勾配を生じさせるモデルシステムとして使用されている。(Cannan et al., Electrochem. Communications 2002,4:886~92)。パラハイドロキノンとアントラキノンとの組合せは、DNA合成の第1の工程として、有機溶液のpHを酸性化するために使用され、有機塩基は、酸性のpHを電極表面に限定するために溶液に対して添加された(Maurer, PLOS One 2006, l:e34)。しかし、それらのシステムは、ペプチド、タンパク質、およびグルタチオン等の、生体系内に存在することの多い求核剤に対するベンゾキノン(ハイドロキノン酸化の生成物)の反応性のため、さらには非置換アントラキノンの水への不十分な溶解性のため、生物学的ソリューションでの使用に採用することができない(Amaro et al., Chem Res Toxicol 1996, 9(3):623~629)。
【0013】
[0013]電気化学的な飛行時間測定は、電極上で生じたHイオンが外へ拡散していくことを実証している(Slowinska et al., “An electrochemical time-of-flight technique with galvanostatic generation and potentiometric sensing,”(定電流発電および電位差感知を用いた電気化学的飛行時間法)J. Electroanal. Chem. Vol. 554~555, pp. 61~69 (2003); Eisen et al., “Determination of the capacitance of solid-state potentiometric sensors: An electrochemical time-of-flight method,”(固相電位差センサー容量の測定:電気化学的飛行時間法) Anal. Chem. 78(18), pp. 6356~63 (2006))。また、電極表面の開回路電位は、溶液中のH濃度、つまり溶液のpH等の溶液中のイオン濃度の関数であることも示されている。(Yin et al., “Study of indium tin oxide thin film for separative extended gate ISFET,”(分離拡張ゲートISFET用の酸化インジウムスズ薄膜の検討)Mat. Chem . Phys. 70(1), pp. 12~16 (2001))。同様に、電気化学種の酸化還元反応速度もpH依存性がある(Quan et al., “Voltammetry of quinones in unbuffered aqueous solution: reassessing the roles of proton transfer and hydrogen bonding in the aqueous electrochemistry of quinones,” (バッファーでないキノン水溶液のボルタンメトリー:キノンの水性電気化学におけるプロトン移動と水素結合の役割の再評価) J. Am. Chem. Soc. 129(42), pp. 12847~56 (2007))。pHの感知精度を改良するための新規のpH感受性コーティングの組み込みにより電極のpH感受性を改良する取り組みも行われてきた。(Ge et al., “pH-sensing properties of poly(aniline) ultrathin films self-assembled on indium-tin oxide,”(酸化インジウムスズ上に自己集合したポリアニリン超薄膜のpH感知特性)Anal. Chem. 79(4), pp. 1401~10 (2007))。
【0014】
[0014]多くのライフサイエンス用途(プロテオミクス、ゲノミクス、マイクロ流体力学、細胞培養等)は、実験を実施するための基材としてガラススライドを使用する。ガラススライドの例は、タンパク質マイクロアレイ、ライセートアレイ、DNAマイクロアレイおよび細胞培養プラットホームを含む。タンパク質マイクロアレイの一つの使用は、健常者または対照被験者からの対応物質と比較した特定の症状を有する患者由来の生体物質(例えば、血液血清)の分析である。生体物質は、多くの(多くの場合、数千の)ヒトのタンパク質を含有するマイクロアレイに対して適用される。疾患に罹患した物質(diseased substances)中の抗体は、マイクロアレイ中の特定の抗原と反応する(結合する)可能性があることにより、症状特有のバイオマーカーとしての抗原を特定する。タンパク質検出に加え、比色検出法、化学発光検出法および蛍光検出法等の他のタイプの検出法もガラススライドを用いて実施できる。
【0015】
[0015]実験は、通常、対象物質を水または水を含有する液体と組み合わせた水性条件下で実施され、スライド上に載せて分析される。多くの場合において、気泡(空気または他の気体から形成される)の存在は、実験の障害となり、結果に悪い影響を及ぼす。悪い影響の一つの例は、気泡が試験溶液の乾燥を引き起こす場合である。これは、対象物質(例えば、生体分子分析物)が、生体分子分析物と相互作用すると想定された分子と結合できていない偽性の結合イベントを生じ得る。別の例は、気泡が試験溶液の有効流速を変化させ、その流速が実験の一環として測定される場合である。したがって、実験結果を正しく解釈できるように、気泡を検出し、それらの存在の示唆を出力することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
[0016]気泡を検出する一つの方法は、顕微鏡下で各スライドを人の手で確認することである。しかし、顕微鏡法は通常、視野がスライドの小さなエリアに限定されており、スライドの全体の確認には多大な時間を要することから、必ずしも実用的ではない。さらに、顕微鏡下のスライドを照らすための光の使用は、対象物質に対して破壊的な影響を与える場合がある。
【0017】
[0017]米国特許第10,379,080号(本開示によって、その全体において参照することにより組み込まれる)に記載されている電子的なpH制御は、これらの課題のいくつかのための解決策を提供することができる。同様のpH制御スキームは、多様な設計フォーマット、特にアレイフォーマットで使用し、同一のサンプル溶液で同時に高多重の独立した測定および反応を実施することができる。電極のそれぞれ付近の微環境を局所的に制御する電極アレイを使用する場合、別のサイト間の「クロストーク」または「ブリードオーバー」が懸念される。この課題は個々のサイト間の間隔を空けることで、またはバルク溶液に添加されるバッファー試薬を用いるかのいずれかによって対処される。前者のアプローチはアレイ(サイズの大きいデバイス)の密度の低下をもたらし、後者のアプローチは、電気化学的反応の速度がバルク溶液のバッファー能力を上回るのに十分高いことを要する。実際上、比較的高い電圧または電流を印加すること、または、比較的高濃度である電気活性分子を用いることを意味する。これらの測定値は、反応システムの他の成分も関与する副反応に繋がりかねない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
[0018]本開示は、上述の課題の多くを解決する閉ループ制御を提供する。個々に対処可能な電極の高密度アレイにおける閉ループのいくつかの実施態様が本開示に記載される。アレイフォーマットにおける電極表面付近のpHまたはイオン勾配を調節するためのデバイスおよび方法が本明細書に開示される。上記デバイスは、1つまたは複数の作用電極、ある例では電極であってもよいpH感知素子、対電極、および参照電極を含んでいてもよい。個々の作用電極のそれぞれは、オンデマンドフォーマット内の表面の近傍の小さな物理的空間内において、電気化学的にpH変化を誘発することができる。対電極および参照電極は、複数の作用素子および感知素子により共有されていてもよい。pH調節試薬は、電気化学的に酸化または還元されることで、表面からナノメートル~マイクロメートルの距離を包含するpH調節ゾーンを生じさせる。作用電極の電気的な出力パラメータは、より高速かつ高精度なpH制御を達成するための感知素子からのフィードバックに基づいて調節することができる。
【0019】
[0019]本明細書に開示されているいくつかの態様は、アレイベースのpH制御、アレイベースのpH制御を含むデバイス、およびその使用方法を含む。ある例では、マルチ電極アレイは、作用電極、参照電極、対電極、および感知素子で構成されるフィードバック制御電極セットを含む。参照電極および対電極は、電極の複数のセットにより共有されていてもよい。ある例では、セットのそれぞれは、少なくとも独立的に制御される、作用電極および感知素子を有する。ある例では、電極のセットのそれぞれは、一時的なばらつきを有する特定のpH条件のためにプログラムが構築されていてもよい。アレイにおける電極の数は、1から何億に及んでいてもよい。ある例では、上記アレイは、単層デバイスまたは多層デバイス中に含まれる。上記デバイスは、相補型金属酸化物半導体(CMOS)、薄膜トランジスタ(TFT)等を含む、またはそれらを除く多くの製作スキームを有していてもよい。
【0020】
[0020]ある態様では、デバイスは、単一のデバイス中に電極アレイを含んでいてもよい。上記デバイスは、フィードバック制御電極セットの一つの単一のセクション、またはフィードバック制御電極セットの複数のセクションを含んでいてもよい。フィードバック制御電極セットは、作用電極、参照電極、および対電極、および電極であってもよい感知素子を含むものであってもよい。参照電極および対電極は、複数の電極セットにより共有されていてもよい。フィードバック制御電極セットを含むセクションは、フィードバック制御セクションであってもよい。このセクションは、目標pH値を達成するために要求される電気的なパラメータを特定するために使用してもよい。上記目標pH値は、経時的に異なっていてもよく、および/または、経時的に変化させることができ、またはフィードバック制御電極セット間で異なっていてもよい。ある例では、各種pH条件は単一のデバイス内の電極アレイを用いて同時に試験され、および/または提供されるものであってもよい。上記デバイスは、感知素子を含まない電極セット、および/またはフィードバック制御電極セットでない電極セットをさらに含んでいてもよい。フィードバック制御電極セットでない電極セットを含むセクションは、フィードバック非制御セクションであってもよい。フィードバック制御セクションの使用により特定される電気的なパラメータは、フィードバック非制御セクションに適用することができる。フィードバック非制御電極セットは、任意で参照電極、および対電極と共に、作用電極としての少なくとも一つの電極を有していてもよい。
【0021】
[0021]ある例では、上記デバイスは、反応工程の複数のラウンドでpH値を変化させるために使用してもよく、それらのいくつかは、アレイ内の特定的に選択された電極に明確なpH値を割り当てることを要する。反応工程の複数ラウンドに関する反応の非限定的な例には、ペプチドおよび核酸等のポリマーのライブラリ配列の作成が含まれる。ある例では、上記デバイスは、1つまたは複数のエリアのpHを連続的におよび/または1回または複数回視覚化させるのに使用してもよい。
【0022】
[0022]ある態様では、フィードバック制御電極セットは、基材の全体に分布しており、1つまたは複数のそれぞれがフィードバック非制御電極セットに取り囲まれている。ある例では、フィードバック非制御電極セットは、フィードバック非制御電極セット間および/または経時的に様々な目標pH値を有する。ある例では、フィードバック制御電極セットの使用により特定された電気的パラメータは、その影響が存在する場合に、それを克服するために隣り合う電極からフィードバック非制御電極セットへの印加前に変化させてもよい。適用された電気的パラメータは、各種pH値からの影響を平均化することにより変化させることができる。ある例では、この構成は、近接した電極セットからのpH制御の影響を最小限にとどめ得る。
【0023】
[0023]ある態様では、本明細書には閉ループpH制御、閉ループpH制御を含むデバイス、およびその使用方法が開示されている。ある例では、閉ループpH制御は、本明細書に開示されているいかなるアレイのフィードバック制御電極セットをも含む。ある例では、アレイベースのpH制御は、閉ループpH制御または閉ループpH制御を含むデバイスを含む。ある例では、閉ループpH制御は、pHを電気化学的に調節する。閉ループpH制御は、感知素子、作用電極、対電極、および参照電極を含んでいてもよい。ある例では、感知素子は、感知素子が安定である、および/またはpHが安定した溶液中に存置されている場合等、特に限定されないが、参照電極として使用される。対電極および参照電極は複数の作用電極および/または感知素子のために共有されていてもよい。ある例では、外部の対電極および/または参照電極を使用してもよい。ある例では、パターン化オンチップ対電極(patterned on-chip counter electrode)および/または参照電極を使用してもよい。ある例では外部の対電極、および/またはオンチップ対電極、および/または参照電極を使用してもよい。ある例では、対電極は作用電極周りに配置される。ある例では、対電極の作用電極周りへの配置は、pH制御の正確性を改良し得る。
【0024】
[0024]溶液は、デバイスおよび/または閉ループpH制御と接触していてもよい。ある例では、溶液中にpH調節試薬が存在する。pH感知素子は、溶液の初期pH値を測定するように構成してもよい。溶液の初期pH値は、作用電極に印加するための電流または電圧の量を算出するために使用してもよい。電流または電圧を作用電極に印加する場合、pH調節試薬の電気化学的酸化および/または還元が起こり得る。酸化および/または還元は局所的なpH変化を誘発し得る。局所的なpH変化は、プロトンの生成または消費の間の平衡、およびバッファー溶液のバッファー能力を通じて起こり得る。ある例では、pH変化はバッファーでない溶液において起こり得る。ある例では、局所的なpH変化は、電極の表面から数nm~数mmの短い垂直距離でpH調節ゾーンを生じさせる。ある例では、pH調節ゾーンは、pH依存性の化学反応/生化学反応が起きることを可能とする。ある例では、溶液中のpH依存性反応はpH調節ゾーン内でのみ起きる。調節ゾーンの大きさは、溶液のバッファー能力に依存するものであってもよい。ある例では、強いバッファー溶液中の方が、弱いバッファー溶液中または非バッファー溶液中よりも調節ゾーンが小さい。ある例では、pH感知素子はpHの調節の間の実際のpHをモニターする。ある例では、電気的な出力は、pH感知素子が実際のpHをモニターする場合、閉ループ制御を通じて連続的に行われる。pHのモニターおよび調節を同時に行うことは、pHのより高速および/または高精度な制御を可能とし得る。
【0025】
[0025]作用電極および感知素子は多様な形状および大きさを有していてもよい。ある例では、形状および大きさは、用途および/またはアレイフォーマットの要件に依存する。ある例では、作用電極および感知素子はスライドのデザインに沿って配置される。ある例では、作用電極および感知素子は互いに接触している。ある例では、感知素子は作用電極から物理的に分離している。ある例では、感知素子は隙間により作用電極から物理的に分離している。ある例では、上記隙間は1nmから100ミクロンであってもよい。ある例では、絶縁層が感知素子と作用電極との間に配置される。ある例では、対電極は作用電極を少なくとも部分的に取り囲む。ある例では、対電極は、作用電極が非バッファー溶液と接触するように構成されている、または、非バッファー溶液と接触している場合に作用電極を少なくとも部分的に取り囲む。
【0026】
[0026]ある例では、感知素子は、pH感受性材料で被覆された電極を含む。ある例では、感知素子は半導体ベースの電気的な部品を含む。ある例では、感知素子は、電界効果トランジスタを含む。ある例では、感知素子はポリマー半導体を含む。
【0027】
[0027]これらの閉ループ制御およびこれらを含むデバイスは、複数の検査サイトのアレイを有するバイオセンサーにおける検査サイト間の結合効率に大きな変化を生じさせるため、例えばCMOS、電極アレイ、またはTFTベースのバイオセンサーと統合可能な方法において使用してもよい。ある例では、電流の印加は、バイオセンサー等のアレイの電極表面付近のpHまたはイオン濃度を調節する方法を提供する。ある例では、アレイは、プローブ生体分子と対象とする生体分子分析物との間の生体分子間の相互作用を調節するために使用される。
【0028】
[0028]本明細書に開示されているアレイベースのpH制御およびデバイスは、
- 生体分子間の結合相互作用を制御および/またはモニターするステップ、
- 酵素的活性を制御し、および/または酵素的活性のオン/オフをスイッチングするステップ、
- 表面改質のために化学を制御するステップ、
- 分子を化学修飾するステップ、
- ブロッキングおよびデブロッキングの繰り返し工程、およびコンジュゲートを通じてポリマー構造を組み立てるステップ、
- 化学反応速度を制御および/またはモニターするステップ、および/または
- pH感受性レポーター分子を視覚化するステップ
を含む多様な用途に使用してもよい。
【0029】
[0029]実施形態例によれば、1つまたは複数の下記態様1から52が提供される。
[0030]態様1は、電極のアレイ上の溶液のpHを制御するためのデバイスであって、上記デバイスが、支持体と、1つまたは複数のフィードバック制御電極セットを含む、電極のアレイとを含み、上記フィードバック制御電極セットがそれぞれ、1つまたは複数の参照電極、1つまたは複数の対電極、および作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含む1つまたは複数のサブセットを含み、参照電極および/または対電極が、少なくとも1つのサブセットと電気的に連結されており、
上記デバイスが、
a)感知素子のシグナル出力と目標感知値との差を最小限にするように、それぞれの作用電極に印加する電流および/または電圧の量を選択するステップと、
b)選択された電流および/または電圧の量をそれぞれの作用電極に印加して、作用電極の近傍の溶液のpHを変化させるステップと、
c)感知素子のシグナル出力を測定するステップと
を繰り返し実施するように構成されている、デバイスである。
【0030】
[0031]態様2は、1つまたは複数の参照電極および1つまたは複数の対電極が、プロセッサを通じて少なくとも一つのサブセットと電気的に連結されている、態様1のデバイスである。
【0031】
[0032]態様3は、支持体がガラススライド、プラスチック板、ケイ素ウェハ、ガラスウェハ、石英ウェハ、柔軟なプラスチックシート、ポリマー層、紙、またはそれらの混合物を含む、態様1から2のいずれか一つのデバイスである。
【0032】
[0033]態様4は、1つまたは複数の作用電極、参照電極、対電極、および/または感知素子が独立して、金属酸化物、ガラス状炭素、グラフェン、金属、導電性ポリマー、塩化銀、飽和カロメル、およびそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、態様1から3のいずれか一つのデバイスである。
【0033】
[0034]態様5は、1つまたは複数の作用電極、参照電極、対電極、および/または感知素子が独立して金電極、銀電極、白金電極、通常水素電極、水銀滴電極、またはそれらの組合せを含む、態様1から4のいずれか一つのデバイスである。
【0034】
[0035]態様6は、感知素子が、電界効果トランジスタ、ポリマー半導体、金属電極、無機電極、有機電極、もしくはpH感受性コーティング材料、またはそれらの組合せを含む、態様1から5のいずれか一つのデバイスである。
【0035】
[0036]態様7は、pH感受性コーティング材料がポリアニリン、ポリピロール、酸化イリジウム、酸化インジウムスズ、イオン選択性ポリマー、またはそれらの組合せを含む、態様6のデバイスである。
【0036】
[0037]態様8は、参照電極のうちの1つまたは複数が感知素子でもある、態様1から7のいずれか一つのデバイスである。
[0038]態様9は、溶液がバッファー溶液、バッファーされていない溶液、水性溶液、有機溶液、またはそれらの混合物である、態様1から8のいずれか一つのデバイスである。
【0037】
[0039]態様10は、溶液がキノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の酸化還元活性種を含有する、態様1から9のいずれか一つのデバイスである。
【0038】
[0040]態様11は、作用電極に印加された、選択された電流および/または電圧が定電流的に、または定電圧的に印加される、態様1から10のいずれか一つのデバイスである。
【0039】
[0041]態様12は、デバイスが、プロセッサを含む、またはプロセッサと通信的に連結されており、印加する電流および/または電圧の量を選択するステップが、感知素子のシグナル出力を含む入力を使用してアルゴリズムを適用するステップを含む、態様1から11のいずれか一つのデバイスである。
【0040】
[0042]態様13は、作用電極、参照電極、対電極、および/または感知素子が、スイッチマトリックスモジュールと電気的に連結されている、態様1から12のいずれか一つのデバイスである。
【0041】
[0043]態様14は、スイッチマトリックスモジュールが相補型金属酸化物半導体(CMOS)および/または薄膜トランジスタ(TFT)を含む、態様13のデバイスである。
[0044]態様15は、フィードバック制御電極セットが物理的な結合を通じてデバイスと電気的に連結されている、態様1から14のいずれか一つのデバイスである。
【0042】
[0045]態様16は、少なくとも一つの参照電極および/または少なくとも一つの対電極が複数のサブセットと電気的に連結されている、態様1から15のいずれか一つのデバイスである。
【0043】
[0046]態様17は、電極のアレイが、1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットをさらに含み、上記フィードバック非制御電極セットが、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
1つまたは複数の作用電極
を含み、
フィードバック非制御電極セットの参照電極、および/またはフィードバック非制御電極セットの対電極が、フィードバック非制御電極セットの作用電極の少なくとも1つと電気的に連結されており、
上記1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットが、pH感知素子を含まず、
(i)1つまたは複数のフィードバック制御電極セットの全てがデバイスの1つのセクション内に含まれており、1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットの全てがデバイスの物理的に分離した第2のセクション内に配置されている、または
(ii)1つまたは複数のフィードバック制御電極セットが、2つ以上のフィードバック非制御電極セット間に散在しており、フィードバック制御電極セットのうちの1つまたは複数が、フィードバック非制御電極セットの1つまたは複数と電気的に連結されており、
連結された電極セットが、連結されたフィードバック制御電極セットの1つまたは複数の作用電極に印加された、選択された電流および/または電圧の量を、連結されたフィードバック非制御電極セットの1つまたは複数の作用電極にも印加するように構成されている、態様1から16のいずれか一つのデバイスである。
【0044】
[0047]態様18は、溶液のpHを制御する方法であって、上記方法が、
a)1つまたは複数の参照電極、1つまたは複数の対電極、および作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含む1つまたは複数のサブセットを含み、参照電極および/または対電極が、少なくとも1つのサブセットと電気的に連結されているフィードバック制御電極セットを含むデバイスを得るステップと、
b)目標pHを有する溶液中の感知素子からの1つまたは複数のシグナル出力に基づき、感知素子の目標感知値を選択するステップと、
c)下記:
i)感知素子のシグナル出力と目標感知値との差を最小限にするように、作用電極のそれぞれに印加する電流および/または電圧の量を選択する工程、
ii)選択された電流および/または電圧の量を、作用電極のそれぞれに印加して、作用電極の近傍の溶液のpHを変化させる工程、および
iii)感知素子のシグナル出力を測定する工程
を繰り返し実施するステップと
を含む方法である。
【0045】
[0048]態様19は、溶液が、水および/または1つもしくは複数の酸化還元活性種を含み、作用電極に印加された電流および/または電圧が、水および/または上記1つもしくは複数の酸化還元活性種の電気化学的反応により水素イオンを電気化学的に生成および/または消費する、態様18の方法である。
【0046】
[0049]態様20は、溶液がバッファー溶液、バッファーされていない溶液、水性溶液、有機溶液、またはそれらの混合物である、態様18から19のいずれか一つの方法である。
【0047】
[0050]態様21は、1つまたは複数の酸化還元活性種がキノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、態様19から20の方法である。
【0048】
[0051]態様22は、1つまたは複数の作用電極、参照電極、対電極、および/または感知素子が独立して、金属酸化物、ガラス状炭素、グラフェン、金属、導電性ポリマー、塩化銀、飽和カロメル、およびそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、態様18から21のいずれか一つの方法である。
【0049】
[0052]態様23は、1つまたは複数の作用電極、参照電極、対電極、および/または感知素子が独立して金電極、銀電極、白金電極、通常水素電極、水銀滴電極、またはそれらの組合せを含む、態様18から22のいずれか一つの方法である。
【0050】
[0053]態様24は、感知素子が、電界効果トランジスタ、ポリマー半導体、金属電極、無機電極、有機電極、pH感受性コーティング材料、またはそれらの組合せを含む、態様18から23のいずれか一つの方法である。
【0051】
[0054]態様25は、pH感受性コーティング材料がポリアニリン、ポリピロール、酸化イリジウム、酸化インジウムスズ、イオン選択性ポリマー、またはそれらの組合せを含む、態様24の方法である。
【0052】
[0055]態様26は、感知素子のシグナル出力を、pHを感知素子のシグナル出力値と相関付ける所定の校正データと比較することによって、溶液のpHを測定するステップを含む、態様18から25のいずれか一つの方法である。
【0053】
[0056]態様27は、作用電極に印加された、選択された電流および/または電圧が定電流的に、または定電圧的に印加される、態様18から26のいずれか一つの方法である。
[0057]態様28は、得られたデバイスが2つ以上のフィードバック制御電極セットのアレイを含む、態様18から27のいずれか一つの方法である。
【0054】
[0058]態様29は、少なくとも2つのフィードバック制御電極セットがそれぞれ、独立した目標pH値、ならびに/または選択された電流および/もしくは電圧の量を印加する独立した一時的プログラムを用いて個々に制御される、態様18から28のいずれか一つの方法である。
【0055】
[0059]態様30は、フィードバック制御電極セットが、スイッチマトリックスモジュールと電気的に連結されており、フィードバック制御電極セットのそれぞれの制御をスイッチマトリックスモジュールにより実施する、態様18から29のいずれか一つの方法である。
【0056】
[0060]態様31は、スイッチマトリックスモジュールが相補型金属酸化物半導体(CMOS)および/または薄膜トランジスタ(TFT)を含む、態様30の方法である。
[0061]態様32は、フィードバック制御電極セットが物理的な結合を通じてデバイスと電気的に連結されている、態様18から31のいずれか一つの方法である。
【0057】
[0062]態様33は、少なくとも一つの参照電極および/または少なくとも一つの対電極が複数のサブセットと電気的に連結されている、態様18から32のいずれか一つの方法である。
【0058】
[0063]態様34は、得られたデバイスが態様1から16のいずれか一つのデバイスである、態様18から33のいずれか一つの方法である。
[0064]態様35は、溶液のpHを制御する方法であって、上記方法が、
a)デバイスを得るステップであって、上記デバイスは、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含む1つまたは複数のサブセットを含み、参照電極および/または対電極が、少なくとも1つのサブセットと電気的に連結されている1つまたは複数のフィードバック制御電極セット、ならびに
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
1つまたは複数の作用電極を含み、フィードバック非制御電極セットの参照電極、および/またはフィードバック非制御電極セットの対電極が、フィードバック非制御電極セットの作用電極の少なくとも1つと電気的に連結されている、フィードバック制御電極と電気的に連結されている1つまたは複数のフィードバック非制御電極セット
のアレイを含み、
上記1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットが、pH感知素子を含まないステップと、
b)目標pHを有する溶液中の感知素子からの1つまたは複数のシグナル出力に基づき、感知素子の目標感知値を選択するステップと、
c)下記:
i)感知素子のシグナル出力と目標感知値との差を最小限にするように、1つまたは複数のフィードバック制御電極セットの作用電極のそれぞれに印加する電流および/または電圧の量を選択する工程、
ii)選択された電流および/または電圧の量を、1つまたは複数の連結されたフィードバック制御電極セットの作用電極のそれぞれ、および1つまたは複数の連結されたフィードバック制御電極セットに連結されたフィードバック非制御電極セットの1つまたは複数の作用電極にも印加して、作用電極の近傍の溶液のpHを変化させる工程、および
iii)感知素子のシグナル出力を測定する工程
を繰り返し実施するステップと
を含む方法である。
【0059】
[0065]態様36は、溶液が、水および/または1つもしくは複数の酸化還元活性種を含み、作用電極に印加された電流および/または電圧が、水および/または上記1つもしくは複数の酸化還元活性種の電気化学的反応により水素イオンを電気化学的に生成および/または消費する、態様35の方法である。
【0060】
[0066]態様37は、溶液がバッファー溶液、バッファーされていない溶液、水性溶液、有機溶液、またはそれらの混合物である、態様35から36のいずれか一つの方法である。
【0061】
[0067]態様38は、1つまたは複数の酸化還元活性種がキノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、態様36から37のいずれか一つの方法である。
【0062】
[0068]態様39は、1つまたは複数の作用電極、参照電極、対電極、および/または感知素子が独立して、金属酸化物、ガラス状炭素、グラフェン、金属、導電性ポリマー、塩化銀、飽和カロメル、およびそれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、態様35から38のいずれか一つの方法である。
【0063】
[0069]態様40は、1つまたは複数の作用電極、参照電極、対電極、および/または感知素子が独立して金電極、銀電極、白金電極、通常水素電極、水銀滴電極、またはそれらの組合せを含む、態様35から39のいずれか一つの方法である。
【0064】
[0070]態様41は、感知素子が、電界効果トランジスタ、ポリマー半導体、金属電極、無機電極、有機電極、pH感受性コーティング材料、またはそれらの組合せを含む、態様35から40のいずれか一つの方法である。
【0065】
[0071]態様42は、pH感受性コーティング材料がポリアニリン、ポリピロール、酸化イリジウム、酸化インジウムスズ、イオン選択性ポリマー、またはそれらの組合せを含む、態様41の方法である。
【0066】
[0072]態様43は、感知素子のシグナル出力を、pHを感知素子のシグナル出力値と相関付ける所定の校正データと比較することによって、溶液のpHを測定するステップを含む、態様35から42のいずれか一つの方法である。
【0067】
[0073]態様44は、作用電極に印加された、選択された電流および/または電圧が定電流的に、または定電圧的に印加される、態様35から43のいずれか一つの方法である。
[0074]態様45は、得られたデバイスが2つ以上のフィードバック制御電極セットのアレイを含む、態様35から44のいずれか一つの方法である。
【0068】
[0075]態様46は、少なくとも2つのフィードバック制御電極セットが、独立した目標pH値、ならびに/またはフィードバック制御電極セットの作用電極、およびフィードバック非制御電極セットの作用電極に対して選択された電流および/もしくは電圧の量を印加するための独立した一時的プログラムを用いて個々に制御される、態様45の方法である。
【0069】
[0076]態様47は、フィードバック制御電極セットが、スイッチマトリックスモジュールと電気的に連結されており、フィードバック制御電極セットのそれぞれの制御をスイッチマトリックスモジュールにより実施する、態様35から46のいずれか一つの方法である。
【0070】
[0077]態様48は、スイッチマトリックスモジュールが相補型金属酸化物半導体(CMOS)および/または薄膜トランジスタ(TFT)を含む、態様47の方法である。
[0078]態様49は、フィードバック制御電極セットおよびフィードバック非制御電極セットが物理的な結合を通じてデバイスと電気的に連結されている、態様35から48のいずれか一つの方法である。
【0071】
[0079]態様50は、1つまたは複数のフィードバック制御電極セットの参照電極および/または対電極がフィードバック制御電極セットの複数のサブセットおよび/またはフィードバック非制御電極セットの複数の作用電極と電気的に連結されている、態様35から49のいずれか一つの方法である。
【0072】
[0080]態様51は、連結されたフィードバック非制御電極セットの作用電極が、連結されたフィードバック制御電極の作用電極と類似の形状および設計を有する、態様35から50のいずれか一つの方法である。
【0073】
[0081]態様52は、得られたデバイスが態様17のデバイスである、態様35から51のいずれか一つの方法である。
[0082]本開示で使用されている通り、各種専門用語は、特定の実施態様のみを説明する目的で使用されており、実施態様を限定することは意図されていない。
【0074】
[0083]例えば、本開示で使用されている通り、例えば構造、部品、操作等の要素を修飾するために用いられる通常の語句(例えば、「第1の(first)」、「第2の(second)」、「第3の(third)」等)は、それ自体で別の要素に対するその要素のいかなる優先度または順序をも示すものではなく、むしろ単に(序数詞を使用しない場合であっても)同一の名称を有する別の要素からその要素を区別する。
【0075】
[0084]語句「連結された(coupled)」は、必ずしも直接的に接続されていない場合、また必ずしも機械的に接続されていない場合であっても、接続されたと定義される。さらに、「連結された」二つの物体は互いに統合されたものであってもよい。具体的には、構成要素が物理的に近接することにより、単一の構造に統合されることにより、または同一の材料部から形成されることにより連結されるものであってもよい。場合によっては、結合は、機械的結合、熱的結合、電気的結合、通信的な結合(例えば、有線または無線)、または化学的結合(例えば化学結合)をさらに含んでいてもよい。
【0076】
[0085]語句「ある(a)」および「ある(an)」は、本開示で明示的に要求されない場合を除き、1つまたは複数として定義される。語句「実質的に(substantially)」は、当業者により理解される通り、広く捉えられるが必ずしも特定のものの全体ではない(が特定のものを含む、例えば、実質的に90度は、90度であることを含み、また、実質的に並行は、並行であることを含む)ものとして定義される。本開示で使用されている通り、語句「およそ(approximately)」および「約(about)」は、特定のものの「10パーセント以内」で置き換えてもよい。さらに、語句「実質的に(substantially)」および「約(about)」は、パーセンテージが0.1、1、または5パーセントを含む場合は、特定のものの「あるパーセンテージ以内」で置き換えてもよく、設計、製造、または測定公差を意味すると理解してもよい。文言「および/または(and/or)」は、「および」または「または」を意味する。具体的には、A、B、および/またはCは、A単独、B単独、C単独、AとBとの組合せ、AとCとの組合せ、BとCとの組合せ、またはA、B、およびCの組合せを含む。すなわち、「および/または(and/or)」は包括的な「または」として働く。
【0077】
[0086]語句「含む(comprise)」(ならびに「comprises」および「comprising」等のcompriseの任意の形態)、「有する(have)」(ならびに「has」および「having」等のhaveの任意の形態)、「含有する(contain)」(ならびに「contains」および「containing」等のcontainの任意の形態)および「含む(include)」(ならびに「includes」および「including」等のincludeの任意の形態)は非限定的でオープンエンドであり、その範囲内に追加の工程、材料等を含んでいてもよい。つまり、1つまたは複数の要素を「含む(comprises)」、「有する(has)」、「含有する(contains)」または「含む(includes)」装置は、それらの1つまたは複数の要素を備えるが、それらの1つまたは複数の要素のみを備えるように限定されない。同様に、1つまたは複数の工程を「含む(comprises)」、「有する(has)」、「含有する(contains)」または「含む(includes)」方法は、それらの1つまたは複数の工程を備えるが、それらの1つまたは複数の工程のみを備えるように限定されない。
【0078】
[0087]いかなる製造の材料、組成物、システム、方法、および物体のいかなる態様も、いかなる記載された工程、要素、および/または特徴をも含む(comprise)/有する(have)/含む(include)よりもむしろ、任意の記載された工程、要素、および/または特徴のみからなる、または、任意の記載された工程、要素、および/または特徴のみから本質的になる。このように、任意の請求項において、語句「のみからなる(consisting of)」または「のみから本質的になる(consisting essentially of)」は、上記で挙げられたいかなるオープンエンドの連結動詞とも代替可能であり、オープンエンドの連結動詞を用いた場合に、他に可能性のあるものから所定の請求の範囲を変更する。さらに、語句「wherein」は「where」と同様に使用され得ることも理解することができる。
【0079】
[0088]さらに、特定の方法で構成されるデバイスまたはシステムは、少なくともその方法で構成されるが、具体的に記載された方法以外に他の方法で構成することもできる。一つの実施形態の1つまたは複数の特徴は、本開示または実施形態の性質上、明確に禁止されていない限り、記載も図示もされていない場合であっても、他の実施形態にも適用することができる。
【0080】
[0089]本開示の態様と関連する詳細のいくつかは上記に記載されており、その他は下記に記載されている。本開示の他の実施態様、利点、および特徴は、下記セクション:図面の簡単な説明、発明を実施するための形態、および請求の範囲等を含む出願の全体の審査後に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1】[0090]典型的な周知のELISAアッセイのステップの図である:a)ブロックされた表面上の固定化一次抗体に試料を導入してインキュベートし、b)試料を洗浄し、c)標識された二次抗体を添加する。標識の数は、標的抗原の濃度に比例する。
図2】[0091]望ましくない交差反応性の図である。目的の抗原(ひし形)以外の分子が、一次抗体または表面に結合して、不正確なシグナルを生成するか、または抗原がサンドイッチを形成するのを妨げる可能性がある。
図3】[0092]マルチサイトセンサーおよび検出されたシグナルの構成要素の図である。下部の2つの概略図は、サイトのうち2つに対応する。
図4】[0093]マルチサイトセンサーのセンサーテストサイトの構成の図である。
図5】[0094]電気化学的方法を使用した電極表面でのpH変化の概略図である。
図6】[0095]磁性マイクロ/ナノ粒子を使用して酵素をタンパク質表面に接近させた際の、酵素反応によるpH変化の図である。マイクロ/ナノキャビティは、pH変化の局所化に役立つ。
図7A】[0096]PBS単独中での酸化インジウムスズ(ITO)電極のサイクリックボルタモグラムである。pH変化が起こり得る領域は、Ag/AgCl参照電極に対して1V超の酸素発生がある領域である。
図7B】[0097]ITO電極におけるアスコルビン酸の酸化テストに関するサイクリックボルタモグラム研究の図である。約0.25Vでの電流増加は、ITO電極での酸化の開始を示す。
図8A】[0098]リン酸塩バッファー中のITO-PEG表面への1Vの印加を示す図である。1Vの印加前後のインピーダンスの変化は、PEGの変化または電極からのPEGの除去を示す。
図8B】[0099]ITO-PEG表面でのアスコルビン酸の0.5Vおよび0.75Vでの酸化を示す図である。アスコルビン酸の酸化中にインピーダンスに変化がないことは、PEG層がいかなる変化も受けないことを示す。
図9】[00100]蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質(GFP)など)のスポット(5)と、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー(3)を使用して固定化された固定化プローブ(4)とを含む生体分子界面層(10)が塗布された電極のアレイ(2)を備えた(ガラスまたはプラスチック)基板(1)の図である。
図10】[00101]溶液のpHの変化に応じた、PEGコーティングされたITOに共有結合したGFPの蛍光強度の変化を示す図である。溶液のpHは、希リン酸塩バッファーにHClを添加して調整した(pH7.4)。
図11】[00102]0.1MのNaSOを含有する希リン酸塩バッファー(pH=7.4)中での酸化還元活性分子2-メチル-1,4-ジヒドロキノンの電流駆動酸化によってもたらされる、ITO作用電極表面のpH変化を示す図である。10秒間の誘導後、電流(50マイクロアンペア)を30秒間印加すると、GFP蛍光強度の変化によって観察されたように、溶液のpHが5.5に低下した(図10が、pH値を評価するための検量線として使用される)。電流をオフにした後、pHは50秒以内に中性値に回復した。
図12】[00103]図12Aは、pH調節実験の前、その間、およびその後のGFPスポットにおける視覚的変化を示す図である。図12Aでは、スポットにわたる蛍光強度のプロファイルが示される。図12Bでは、電極に電流を印加する前(0秒)、その間(40秒)、およびその後(110秒)のGFPスポットの蛍光強度の変化が示される。
図13】[00104]透明なITO電極に連動したASICチップを有するスライドガラスを示す図である。
図14】[00105]本発明の一例示的実施形態による、気泡検出および/またはpH制御のための系のブロック図である。
図15】[00106]本発明の一例示的実施形態による、例示的電極アレイの上面図である。
図16】[00107]本発明の例示的実施形態による、様々な電極形状を示す図である。
図17】本発明の例示的実施形態による、様々な電極形状を示す図である。
図18】[00108]本発明の一例示的実施形態による、データ処理能力を有するスライドを示す図である。
図19】本発明の一例示的実施形態による、データ処理能力を有するスライドを示す図である。
図20】本発明の一例示的実施形態による、データ処理能力を有するスライドを示す図である。
図21】[00109]本発明の一例示的実施形態による、電気化学的活性剤を電極上のバルク溶液に溶解させた生物学的バッファーを含む電気化学的pH生成系を示す図解であり、pHの変化は、バルク溶液の緩衝作用により電極表面近傍に限定される。
図22-1】[00110]本発明の一例示的実施形態による、生体溶液中のpH生成に使用され得るハイドロキノンおよびベンゾキノンの構造を示す図である。
図22-2】[00110]本発明の一例示的実施形態による、生体溶液中のpH生成に使用され得るハイドロキノンおよびベンゾキノンの構造を示す図である。
図22-3】[00110]本発明の一例示的実施形態による、生体溶液中のpH生成に使用され得るハイドロキノンおよびベンゾキノンの構造を示す図である。
図23】[00111]本発明の例示的実施形態による、タンパク質の安定性に対するベンゾキノンの置換の効果を明確に示す図である。
図24】[00112]本発明の例示的実施形態による、バッファー溶液中の置換キノンの矩形波ボルタモグラム(対Ag/AgCl)を示す図である。
図25-1】[00113]置換ハイドロキノンおよびベンゾキノンの合成ステップを示す図である。
図25-2】[00113]置換ハイドロキノンおよびベンゾキノンの合成ステップを示す図である。
図26】[00114]本発明の一例示的実施形態による、電極近傍の溶液のpHを維持するために使用される開ループ波形を示す図である。
図27】[00115]本発明の例示的実施形態による、pH制御のための波形整形の例を示す図である。
図28】[00116]本発明の一例示的実施形態による、pHの関数としてのPANIコーティングされた表面の開回路電位の応答を示す図であり、60mV/pHはネルンスト限界に近い。
図29】[00117]図29Aは、本発明の一例示的実施形態による、単一のOCP VTARGETを用いた閉ループフィードバック法の使用による感知電極(SE)上で制御されたOCPを示し、図29Bは、本発明の一例示的実施形態による、定義されたOCP VTARGETの上限値および下限値を用いた閉ループフィードバックの使用によるSE上で制御されたOCPの実験結果を示す図である。
図30】[00118]、本発明の一例示的実施形態による、作用電極(WE)に電位を印加することにより感知電極(SE)によって測定された開回路電位電圧で表される、溶液のpHを制御するためのクローズドルックフィードバック法(closed look feedback method)の実験結果を示す図である。
図31】[00119]本発明の一例示的実施形態による開ループの概略図であり、A部では、制御された電流源が使用され、B部では、制御された電圧源が使用される。
図32】[00120]本発明の一例示的実施形態による、閉ループ単一制御電流源を示す図である。
図33】[00121]本発明の一例示的実施形態による、閉ループ二重制御電流源を示す図である。
図34】[00122]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた感知電極を有する閉ループ単一制御電流源を示す図である。
図35】[00123]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた感知電極を有する閉ループ二重制御電流源を示す図である。
図36】[00124]本発明の一例示的実施形態による、組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ単一制御電流源を示す図である。
図37】[00125]本発明の一例示的実施形態による、組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ二重制御電流源を示す図である。
図38】[00126]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ単一制御電流源を示す図である。
図39】[00127]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ二重制御電流源を示す図である。
図40】[00128]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた感知電極を有する閉ループ単一制御電位源を示す図である。
図41】[00129]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた感知電極を有する閉ループ二重制御電位源を示す図である。
図42】[00130]本発明の一例示的実施形態による、組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ単一制御電位源を示す図であり、フィードバック制御されたPhi1およびPhi2スイッチは、WE電位入力およびSE測定出力用である。
図43】[00131]本発明の一例示的実施形態による、組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ二重制御電位源を示す図であり、フィードバック制御されたPhi1およびPhi2スイッチは、WE電位入力およびSE測定出力用である。
図44】[00132]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ単一制御電位源を示す図であり、フィードバック制御されたPhi1およびPhi2スイッチは、WE電位入力およびSE測定出力用である。
図45】[00133]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングされた組み合わされた作用電極および感知電極を有する閉ループ二重制御電位源を示す図であり、フィードバック制御されたPhi1およびPhi2スイッチは、WE電位入力およびSE測定出力用である。
図46】[00134]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングおよびアナログコントローラアーキテクチャを有する、分離した作用電極および感知電極を有する閉ループ二重制御電流源を示す図である。
図47】[00135]本発明の一例示的実施形態による、PANIコーティングおよびデジタルコントローラアーキテクチャを有する、分離した作用電極および感知電極を有する閉ループ二重制御電流源を示す図である。また、A部では、本発明の一例示的実施形態による、閉ループフィードバック制御のためのアナログシグナル処理を有するコントローラアーキテクチャ設計が示され、B部では、本発明の一例示的実施形態による、閉ループフィードバック制御のためのデジタルシグナル処理を有するコントローラアーキテクチャ設計が示されており、このアーキテクチャは、図32~45に示されるコントローラ概略図に適用可能である。
図48】[00136]図48Aは、本発明の例示的実施形態による、pH感知用の電位電極構成(ルーティングは図示せず)を示す図である。図48Bは、本発明の例示的実施形態による、pH感知用の電位電極構成(ルーティングは図示せず)を示す図である。図48Cは、本発明の例示的実施形態による、pH感知用の電位電極構成(ルーティングは図示せず)を示す図である。図48Dは、本発明の例示的実施形態による、pH感知用の電位電極構成(ルーティングは図示せず)を示す図である。
図49】[00137]本発明の一例示的実施形態による、フィードバック制御オプションを有する多電極アレイを示す図であり、このアレイでは、固有の目標pH値および時間制御スキームのために作用電極、感知電極、参照電極、および対電極を有する各電極セットが個別に制御され、参照電極および対電極は、複数の電極セットで共有され得る。
図50】[00138]本発明の一例示的実施形態による、フィードバック制御セクションおよびフィードバック非制御セクションの両方を有する多電極アレイを示す図である。フィードバック制御セクションは、作用電極、参照電極、対電極、および感知素子から構成される1つまたは複数のフィードバック制御電極セットを含有する。参照電極および対電極は、複数の電極セットで共有され得る。各フィードバック制御セットは、独立したpH値、同一のpH値、またはそれらの組合せを目標とすることができる。各目標pH値用に、フィードバック非制御セクション中に、やはり同一の目標pH値に割り当てられている1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットがある。フィードバック非制御電極セットの作用電極の形状およびサイズが、フィードバック制御電極セットの作用電極の形状およびサイズと類似している場合、フィードバック制御セクションから得られた電気的パラメータは、フィードバック非制御セクションの作用電極に直接適用され得る。この構成は、より簡単なデバイスアーキテクチャで同一のレベルの制御を得るのに役立つ。
図51】[00139]フィードバック制御電極セットが基板全体に配置され、フィードバック非制御電極セットの間に分散している多電極アレイを示す図である。フィードバック制御電極セットは、フィードバック非制御電極セットの間に一定のパターンで配置されてもよく、かつ/またはランダムに配置されてもよい。フィードバック制御電極セットは、作用電極、参照電極、対電極、および感知素子から構成される。参照電極および対電極は、複数の電極セットで共有され得る。各フィードバック制御電極セットは、独立したpH値、同一のpH値、またはそれらの組合せを目標とすることができる。各目標pH値用に、やはり同一の目標pH値に割り当てられている1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットがある(pH結合)。この構成は、より簡単なデバイスアーキテクチャで同一またはより高いレベルの制御を得るのに役立つ。場合によっては、この構成により、フィードバック制御電極セットがそれぞれのpH結合フィードバック非制御電極セットに囲まれている場合など、異なる目標pH値を有する隣接する作用電極からの感知電極への影響を最小限にすることができる。
図52】[00140]本発明の一例示的実施形態による、閉ループ制御による酸化還元活性種(この例ではキノン)の酸化/還元を介する、溶液のpHを調節する概略図である。
図53】[00141]本発明の一例示的実施形態による、酸化インジウムスズ電極上の1mMリン酸塩バッファー中のキノンの酸化/還元を介する溶液のpH変化の例を示す図である。pH値は、表面にパターン化された事前校正酸化イリジウム感知電極によって決定された。閉ループ制御により、目標pH値を正確かつ迅速に達成した。
図54】[00142]図54Aは、本発明の一例示的実施形態による、外部対電極および参照電極を有するpH制御デバイスの設定を示す図である。図54Bは、本発明の一例示的実施形態による、基板上に対電極および参照電極を有するpH制御デバイスの設定を示す図である。デバイスは、個々に制御される1つまたは複数の作用電極および感知素子を有し得る。
図55】[00143]図55Aは、本発明の一例示的実施形態による、pH制御電極設計の例を示す図である。図55Bは、本発明の一例示的実施形態による、pH制御電極設計の例を示す図である。図55Cは、本発明の一例示的実施形態による、pH制御電極設計の例を示す図である。図54Dは、本発明の一例示的実施形態による、pH制御電極設計の例を示す図である。作用電極および感知電極は、用途に応じて様々な種類の形状およびサイズを有し得る(図Aおよび図B)。感知電極は、作用電極と同一平面上に配置してもよく(図C)、または中間に絶縁層を設けて作用電極の上に配置してもよい(図D)。対電極は、作用電極の周囲にパターン化することができ、これにより拡散効果が最小限に抑えられ、より明確な物理空間内でpHを制御するのに役立つ(図E)。
【発明を実施するための形態】
【0082】
[00144]本開示は、pHの電子的な制御に関連する問題に対処するための閉ループ制御を提供する。個々に対処可能な電極の高密度アレイにおける閉ループのいくつかの実施態様が本開示に記載されている。アレイフォーマットにおける電極表面付近のpHまたはイオン勾配を調節するためのデバイスおよび方法が本明細書に開示されている。個々の作用電極のそれぞれは、オンデマンドフォーマット内の表面の近傍の小さな物理的空間内において、電気化学的にpH変化を誘発することができる。電気的な構成は、1つまたは複数の作用電極、感知電極等のpH感知素子、対電極、および参照電極で構成されていてもよい。対電極および参照電極は、複数の作用電極および感知素子により共有されていてもよい。pH調節試薬は、電気化学的に酸化または還元されることで、表面からナノメートル~マイクロメートルの距離を包含するpH調節ゾーンを生じさせる。作用電極の電気的な出力パラメータは、より高速かつ高精度なpH制御を達成するための感知素子からのフィードバックに基づいて調節することができる。
【0083】
[00145]マルチサイトアレイにおけるpHまたはイオン濃度勾配を変動させることを目的とした、
支持体と、
1つまたは複数のフィードバック制御電極セットを含む、電極のアレイとを含むデバイスであって、
上記フィードバック制御電極セットが、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含む1つまたは複数のサブセットを含み、
上記参照電極および/または対電極が、少なくとも1つのサブセットと電気的に連結されている、デバイスが提供される。
上記デバイスは、下記:
a)感知素子のシグナル出力と目標感知値との差を最小限にするように、それぞれの作用電極に印加する電流および/または電圧の量を選択するステップと、
b)選択された電流および/または電圧の量をそれぞれの作用電極に印加して、作用電極の近傍の溶液のpHを変化させるステップと、
c)感知素子のシグナル出力を測定するステップと
を繰り返し実施するように構成されている。
【0084】
[00146]上記デバイスは、1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットをさらに含み、上記フィードバック非制御電極セットが、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
1つまたは複数の作用電極
を含み、
参照電極、および/または対電極が、少なくとも1つの作用電極と電気的に連結されており、
上記1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットが、pH感知素子を含まず、
1つまたは複数のフィードバック制御電極セットの全てがデバイスの1つのセクション内に含まれており、1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットの全てがデバイスの物理的に分離した第2のセクション内に配置されている、または
1つまたは複数のフィードバック制御電極セットが、2つ以上のフィードバック非制御電極セット間に散在しており、
1つまたは複数のフィードバック制御電極セットが、1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットと電気的に連結されており、
連結された1つまたは複数のフィードバック制御電極セットおよび1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットが、
フィードバック制御電極セットの1つまたは複数の作用電極に印加された、選択された電流および/または電圧の量を、連結されたフィードバック非制御電極セットの1つまたは複数の作用電極にも印加するように構成されているデバイスである。
【0085】
[00147]さらに本明細書には、
溶液のpHを制御する方法であって、上記方法が、
a)1つまたは複数の参照電極、1つまたは複数の対電極、および作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含む1つまたは複数のサブセットを含み、参照電極および/または対電極が、少なくとも1つのサブセットと電気的に連結されているフィードバック制御電極セットを含むデバイスを得るステップと、
b)目標pHを有する溶液中の感知素子からの1つまたは複数のシグナル出力に基づき、感知素子の目標感知値を選択するステップと、
c)下記:
i)感知素子のシグナル出力と目標感知値との差を最小限にするように、作用電極のそれぞれに印加する電流および/または電圧の量を選択する工程、
ii)選択された電流および/または電圧の量を、作用電極のそれぞれに印加して、作用電極の近傍の溶液のpHを変化させる工程、および
iii)感知素子のシグナル出力を測定する工程
を繰り返し実施するステップと
を含む方法が開示されている。
【0086】
[00148]さらに本明細書には、
溶液のpHを制御する方法であって、上記方法が、
a)デバイスを得るステップであって、上記デバイスは、
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
作用電極と電気的に連結されているpH感知素子を含む1つまたは複数のサブセットを含み、参照電極および/または対電極が、少なくとも1つのサブセットと電気的に連結されている1つまたは複数のフィードバック制御電極セット、ならびに
1つまたは複数の参照電極、
1つまたは複数の対電極、および
1つまたは複数の作用電極を含み、参照電極、および/または対電極が、作用電極の少なくとも1つと電気的に連結されているフィードバック制御電極と電気的に連結されている1つまたは複数のフィードバック非制御電極セット
のアレイを含み、
上記1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットが、pH感知素子を含まないステップと、
b)目標pHを有する溶液中の感知素子からの1つまたは複数のシグナル出力に基づき、感知素子の目標感知値を選択するステップと、
c)下記:
i)感知素子のシグナル出力と目標感知値との差を最小限にするように、1つまたは複数のフィードバック制御電極セット作用電極のそれぞれに印加する電流および/または電圧の量を選択する工程、
ii)選択された電流および/または電圧の量を、1つまたは複数の連結されたフィードバック制御電極セットの作用電極のそれぞれ、および1つまたは複数の連結されたフィードバック制御電極セットに連結されたフィードバック非制御電極セットの1つまたは複数の作用電極にも印加して、作用電極の近傍の溶液のpHを変化させる工程、および
iii)感知素子のシグナル出力を測定する工程
を繰り返し実施するステップと
を含む方法が開示されている。
【0087】
[00149]上記方法は上述のデバイスを利用するものであってもよい。
[00150]上述の方法において、および上述のデバイスの使用により、化合物のライブラリを作成するためのバイオセンサーもしくはリアクター等のマルチサイトアレイ、または化合物を大量に高速で生産するためのリアクターの内部等の各種作用電極サイトにおいて局所的なpHまたはイオン濃度勾配を実現させることができる。非限定的な例として、電極において、特にバイオセンサーのマルチサイトアレイのサブセット上の生体分子の界面層における生体分子のプローブ等のプローブの近傍における局所的なpHおよび/またはイオン濃度勾配の多様性は、生体サンプルから検査されるプローブと分析物との結合効率を調節することを可能とする。対象分析物は、プローブと結合した場合に、例えば標識された二次抗体等の検出物質を使用して検出することができる。マルチサイトアレイのサブセットにおける結合効率の調節は、対象分析物を正確に測定する方法を提供する。
【0088】
[00151]別の非限定的な例としては、デバイスおよび方法は、反応工程の複数のラウンドでpH値を変化させるために使用することができ、それらのいくつかは、アレイ内の特定的に選択された電極に明確なpH値を割り当てることを要する。反応工程の複数ラウンドに関する反応の非限定的な例には、ペプチドおよび核酸等のポリマーのライブラリアレイの作成が含まれる。
【0089】
[00152]さらに別の非限定的な例としては、デバイスおよび方法は、1つまたは複数のエリアのpHを連続的に、または1回または複数回視覚化させるのに使用してもよい。
[00153]上記デバイスは、フィードバック制御電極セットのマルチサイトアレイを含むことが好ましい。上記マルチサイトアレイは、多くの異なる検査サイト、反応サイト、または異なるフィードバック制御電極セットサイトにおいてpHを変動させるための他の方法を含むことが好ましい。各サイトは、(生体分子の)プローブを使用した(生体分子の)分析物の検出を通じて生体サンプルから(生体分子の)分析物の分析を実施するためのサイトを表し得る。フィードバック制御電極セットのそれぞれにおける各サイトにおける分析条件は、(生体分子の)分析物を正確に測定するために(生体分子の)分析物の濃度を測定することを可能とする複数の方程式および複数の未知数を導く多様なシグナルの一群を得るために変更してもよい。各サイトはまた、異なるpH要件を有する1つまたは複数の異なる工程を要する異なる化学反応を実施するためのサイトを表し得る。フィードバック制御電極セットのそれぞれにおける各サイトにおける分析条件は、タンパク質ライブラリ、核酸ライブラリ、または有機化合物ライブラリ等の化学物質のライブラリの作成につながる多様な化学反応の生成物の一群を得るために変更してもよい。
【0090】
[00154]可視化、分析物の濃度の検査などのために、得られた多様なシグナルにおける複数の未知数はそれぞれ、結合効率係数αijに比例する項、および検査サイトで検出された生体試料結合中の各種分子の濃度を含む。複数の未知数を含む複数の方程式は、例えば、以下のように表すことができる。
【0091】
【数1】
【0092】
(式中、Canは、目標生体分子分析物濃度に対応し、Cj1、Cj2、Cj3は、分子の全濃度に対応し、バックグラウンドシグナルにおいて異なる項目をもたらし、その複数の等式の集合から、目標生体分子分析物の濃度が決定され得る)。
【0093】
[00155]フィードバック制御電極セットの数、および各フィードバック制御電極セット内のサイトの数は、必要に応じて変えることができる。これらの分析条件のいくつかは、例えば温度、せん断応力、および圧力などのパラメータを含む。例えば、生体分子プローブと生体試料中の目的の分析物が相互作用する、または反応が起こる溶液の温度は、検査サイトの電磁熱を利用して変えることができる。生体分子プローブと目的の分析物の相互作用または反応のための別の重要な条件は、pHまたはイオン濃度である。本明細書に記載の方法およびデバイスは、例えば生体分子プローブ近傍の結合効率または反応物近傍の反応速度に影響を与えるために、サイトの局所環境において、このpHまたはイオン濃度を調節する。
【0094】
[00156]本明細書に開示されるデバイスの非限定例として、マルチサイトアレイの各サイトは、1つまたは複数の電極および/またはpHセンサーが配置される支持体を含むことができる。生体分子プローブまたは反応物は、同様に表面上に固定化または結合され得る。このようにプローブまたは反応物を固体表面または支持体に固定化することは、分析方法に必要なプローブまたは反応物の量を減らすことを助け、また検出/反応領域を局限して正確な測定を行い、および/または異なる反応サイトへのブリードを減少させる。プローブおよび/または反応物は、(図3、4、および52に示す)シリコン、ガラス、金属および半導体材料などの支持体および/または電極の固体表面に付着させることができる。
【0095】
[00157]プローブおよび/または反応物は、(図4に示す)生体分子界面層内の支持体および/または電極上に付着または固定化することができる。生体分子層は、固定化ポリマーの層、好ましくはシラン固定化ポリエチレングリコール(PEG)を含むことができる。表面固定化ポリエチレングリコール(PEG)は、生体分子分析物および/または反応物の表面への非特異的吸着を防止するために使用され得る。表面固定化PEGの少なくとも一部は、コンジュゲート可能なN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、マレイミド、アルキン、アジド、ストレプトアビジンまたはビオチンなどの末端官能基を含むことが可能である。プローブおよび/または反応物は、表面固定化PEGとコンジュゲートすることにより、固定化され得る。pHを変化させるために使用される方法は、例えば固体支持体の表面へのPEGの共有結合、または(図5に示す)プローブもしくは反応物をPEGにコンジュゲートしたリンカーを損なわないことが重要である。本明細書に記載のpHまたはイオン濃度を調節する方法は、プローブおよび/または反応物の環境におけるpH/イオン濃度変化に影響を与えながら、これらの表面化学を保護することができる。
【0096】
[00158]好適な生体分子プローブは、目的の分析物が特定の親和性を有する、炭水化物、タンパク質、糖タンパク質、グリココンジュゲート、核酸、細胞、またはリガンドであり得る。このようなプローブは、例えば、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、オリゴヌクレオチド、DNAオリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチド、脂質、細胞表面の糖タンパク質および糖脂質と結合するレクチン、糖、アゴニスト、またはアンタゴニストであり得る。具体的な例としては、生体分子プローブは、例えば生体試料中に存在する抗原と相互作用するタンパク質抗体であり、抗原は目的の生体分子分析物である。
【0097】
[00159]本明細書に記載の分析方法において、生体試料中の目的の分析物は、例えばタンパク質、例えば抗原もしくは酵素またはペプチド、細胞全体、細胞膜の成分、核酸、例えば、DNAもしくはRNA、またはDNAオリゴヌクレオチド、もしくはRNAオリゴヌクレオチドであり得る。
【0098】
[00160]好適な反応物は、非限定例として、炭水化物、タンパク質、糖タンパク質、グリココンジュゲート、核酸、ヌクレオチド、アミノ酸、またはさらなる反応物が反応して所望の生成物または中間体を生成し得る別の有機化学前駆体であり得る。このような反応物質は、非限定例として、ペプチド、オリゴヌクレオチド、DNAオリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチド、脂質、または糖であり得る。
【0099】
[00161]本明細書で提供されるデバイスを含むバイオセンサーは、生体試料中の目的の生体分子分析物を決定するための分析方法で使用することができ、この分析物は、例えば、タンパク質、例えば抗原もしくは酵素またはペプチド、細胞全体、細胞膜の成分、核酸、例えば、DNAもしくはRNA、またはDNAオリゴヌクレオチド、もしくはRNAオリゴヌクレオチドであり得る。
【0100】
[00162]このような方法では、マルチサイトアレイバイオセンサーにおける種々の検査サイトにおいて、局所的なpHまたはイオン濃度勾配を得ることができる。作用電極、特に生体分子界面層の(生体分子)プローブの近傍における、局所的なpHおよび/またはイオン濃度勾配の、バイオセンサーのマルチサイトアレイのサブセットにわたる変動は、(生体分子)プローブと生体試料からの検査すべき分析物との結合効率を調節することを可能にする。目的の分析物は、(生体分子)プローブに結合すると、次に、例えば標識された二次抗体などの検出剤を用いて検出され得る。マルチサイトアレイのサブセットにおける結合効率の調節は、このような目的の分析物の正確な測定を実現する。
【0101】
[00163]本明細書で提供されるデバイスを含む反応容器は、化合物のライブラリを製造するための分析方法において使用することができ、化合物は、例えばタンパク質、例えばペプチド、または核酸、例えば、DNAもしくはRNA、DNAオリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチド、またはタンパク質と核酸のコンジュゲート、または有機化合物、例えばポリマーまたは医薬であり得る。
【0102】
[00164]このような方法では、マルチサイトアレイにおける種々のサイトにおいて、局所的なpHまたはイオン濃度勾配を得ることができる。作用電極、特に生体分子界面層中の(生体分子)プローブまたは表面に結合した反応物の近傍における、局所的なpHおよび/またはイオン濃度勾配の、マルチサイトアレイのサブセットにわたる変動は、(生体分子)プローブと生体試料からの検査すべき分析物との結合効率の調節または反応物の反応速度の調節を行うことを可能にする。いくつかの場合において、目的の分析物は、(生体分子)プローブに結合していれば、次に、例えば標識二次抗体などの検出剤を用いて検出することができる。マルチサイトアレイのサブセットにおける結合効率の調節は、このような目的の分析物の正確な測定を実現する。いくつかの場合において、作用電極の近傍で促進される反応から生成される目的の生成物は、さらなる反応によって表面から放出され得る。
【0103】
[00165]電極はそれぞれ、例えば金属酸化物、ガラス状炭素、グラフェン、金属、金、銀、白金、導電性ポリマー、塩化銀、通常水素、水銀滴、飽和カロメル、またはこれらの組合せなどの、デバイスの意図する目的に適した任意の電極であってよい。バイオセンサーの場合、電極は、酸化インジウムスズ(ITO)、金、銀電極、またはそれらの組合せを含み得る。好ましい実施形態では、本明細書に記載の方法におけるバイオセンサーの電極は、酸化インジウムスズ(ITO)電極である。
【0104】
[00166]pH感知素子は、pHを感知するのに適した任意の素子であってよく、例えば、電界効果トランジスタ、ポリマー半導体、金属電極、無機電極、有機電極、およびポリアニリン、ポリピロール、酸化イリジウム、酸化インジウムスズ、イオン選択性ポリマーを含むpH感受性被覆材料を含む1つまたは複数の電気部品の組合せによって形成され得る。いくつかの場合において、各サイトのpHは、pH感受性蛍光タンパク質の蛍光強度によって決定される。
【0105】
[00167]作用電極に接触する溶液は、デバイスの意図された目的に適した任意の溶液、例えば、バッファー溶液、非バッファー溶液、水溶液、有機溶液、またはそれらの混合物であってよい。いくつかの場合において、溶液は、1つまたは複数の酸化還元活性種を含有する。酸化還元活性種は、キノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せなどの、デバイスの意図された目的に適した任意の種であってよい。溶液は、水、バッファー阻害剤、プローブ、標的、反応物、懸濁粒子、レポーティング分子、酵素、基質、細胞、ウイルス、溶媒、共溶媒、触媒などを含むことができる。いくつかの場合において、溶液は生物学的試料である。いくつかの場合において、溶液は、緑色蛍光タンパク質(GFP)などのpH感受性蛍光タンパク質を含有する。いくつかの場合において、溶媒または共溶媒は、水、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、および/またはN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)である。いくつかの場合において、溶液は、リン酸塩バッファーなどのバッファーを含有する。いくつかの場合において、溶液は、電解質、例えば塩、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、または塩化カリウムを含有する。いくつかの場合における溶液中の水の量は、0.0001重量%~100重量%、例えば、0.001、0.01、0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、99.9重量%、またはその任意の範囲もしくは百分率もしくはそれらの間であってよい。
【0106】
[00168]支持体は、デバイスの意図された目的に適した任意の支持体、例えば、パターン化された電極を有し得る材料であってよい。表面は、ガラススライド、プラスチック基板、シリコンウエハ、ガラスウエハ、石英ウエハ、軟質プラスチックシート、ポリマー層、紙、またはそれらの混合物などの材料であってよい。支持体は、その上またはその中に、1つまたは複数の電極、センサー、電磁石、1つまたは複数の固定化検出剤、プローブ、反応物、酵素、細胞、触媒、細胞、ウイルス、基質、レポーティング分子(reporting molecule)等を有する界面層を含有し得る。いくつかの場合において、表面は、緑色蛍光タンパク質(GFP)などのpH感受性蛍光タンパク質をその上に固定化したものである。いくつかの場合において、支持体はPEGでコーティングされている。表面およびその上または中に含有される物は、異なる標的または生成物の検出を容易にするために、サイトごとに異なっていてもよい。
【0107】
[00169]生体分子分析物は、任意の好適な検出方法を用いて検出され得る。そのような分析物の既知の検出方法は、発光、蛍光、比色法、電気化学的方法、インピーダンス測定、または磁気誘導測定を含む。このような方法の多くでは、分析物が固定化生体分子プローブに結合し、例えば、固定化プローブに結合した、分析物に特異的に結合する二次標識プローブなどの検出剤が導入される。この検出剤または二次標識プローブは、例えば発光または蛍光などの検出可能なシグナルを生じさせることができる。
【0108】
[00170]生体分子プローブの検出および化学反応などの分析法では、生体分子プローブまたは反応物を取り囲む溶液のpHが、プローブおよび分析物の間の結合/活性または反応速度に大きく影響することが知られている。また、他のイオンの濃度もまた、結合/活性/反応に大きな影響を与えることがある。本明細書では、作用電極に近いプローブまたは反応物の近傍のpHおよび/またはイオン濃度を調節するデバイスおよび方法が提供される。作用電極近傍のpHの調節はまた、プローブまたは意図された反応物以外の他の分子に対する分析物および反応物の非特異的相互作用、および溶液中の他の分子とプローブ、分析物、または反応物との相互作用にも影響を与え得る。しかしながら、pHまたはイオン濃度の調節は、生体分子プローブまたは反応物をマルチサイトアレイのあるサイトで固体支持体に固定化するような表面化学のいずれをも損なわないように制御され得る。本明細書に記載のpHまたはイオン濃度を調節する方法は、プローブまたは反応物の環境におけるpH/イオン濃度変化に影響を与えながら、これらの表面化学を保護することができる。
【0109】
[00171]本明細書に記載の方法を実施する際に、表面化学の適合性を考慮することができる。pH変化は、水素イオンまたはヒドロキシルイオン濃度の変化によって引き起こされる。図5に示す通り、電極-液体、電極-クロスリンカー、クロスリンカー-タンパク質、およびタンパク質-タンパク質界面で行われる様々な化学反応も、固体表面近傍で起こるpH変化がその上のプローブまたは反応物に到達するための障害となり得る。これらはイオンの拡散障壁として作用し、プローブ、分析物、および反応物周辺のpH変化を阻害し得る。本明細書に記載されたpHまたはイオン濃度を調節するこれらの方法は、水素またはヒドロキシルイオン濃度の変化を最大化し、表面化学によって課された拡散の障害を克服できるようにすることに役立つ。
【0110】
[00172]別の重要な観点は、固体界面と接触している溶液のバッファー能である。バッファー作用は、界面でのpH変化が、そこから離れて固定化されているプローブまたは反応物に決して到達しない程度に大きくてよい。この距離は、固体界面の上に堆積された界面層に基づいて変化し得る。そのような界面層は、300nm以下、好ましくは1~150nm、さらに好ましくは5~100nmの厚さを有していてもよい。そのため、固体界面と界面層内のプローブまたは反応物との間の距離は、0.1~300nmの間であり得る。電極界面のpH変化を拡張して相互作用するプローブ-分析物ペアまたは反応物に到達させる、溶液中または表面上のバッファー阻害剤の使用は、プローブおよび/または反応物の近傍のpHまたはイオン濃度の調節に寄与し得る。
【0111】
[00173]以下は、固液界面におけるpH/イオン濃度を調節するための方法の例である。これらの方法は、1)電気化学的酸化/還元時に目的のイオン(例えば、H、Mg、OH)を生成する溶液に電気化学的活性種を添加することによる、電極表面でのイオンの電気化学的生成;2)酵素を目的のサイトに近づけ、酵素と反応した酵素基質からそのような目的のイオンを放出させること;3)例えば、溶液(例えばリン酸塩)中のイオン拡散速度を選択的に低下させるポリマーを混合することによる、バッファー阻害剤の導入を含む。米国特許第7,948,015号は、小さな局所的なpH変化を測定することを目的とする用途(例えば、DNA配列決定)のための、このような阻害剤の使用を記載している。しかしながら、pHを局所的に調節する方法において、局所的なpH変化を電極-液体界面からさらに遠ざけるために、同様の阻害剤を使用することができ;4)静電気力による電極表面近傍の既存イオンの再分配ができる。
【0112】
[00174]本明細書に記載のpHまたはイオン濃度を調節する方法の一実施形態では、マルチサイトアレイのサイトで電気化学的活性剤を溶液に添加し、サイトはプローブ、検出剤または反応剤を含む電気化学的活性剤を酸化または還元する界面層を有している。電気化学活性剤は、1nM~100mMの濃度で添加してもよく、好ましくは10nM~10mMの濃度、より好ましくは100nM~5mMの濃度で添加してもよい。電気化学活性剤は、-2V~+2V(対Ag/AgCl参照電極)の範囲の電極電位で電気酸化または電気還元されてもよい。好ましくは、電極電位は-IV~+1Vの範囲であり、さらに好ましくは、電極電位は-0.5V~+0.5Vの範囲である。酸化還元反応の駆動に必要な電圧は、電極表面に生じたpHをモニターするためにリアルタイムフィードバック法として利用することができる。
【0113】
[00175]本明細書で提供されるデバイスは、各検査サイトでのpHを調節するために、溶液中のマルチサイトのこのようなアレイを含み得る。いくつかの場合において、このアレイは、生体試料中の目的の生体分子分析物の存在および濃度を決定するため、または多段階化学反応を促進するために使用される。このような使用において、デバイスは、リン酸塩バッファー、好ましくは0.1mM~100mMの濃度を有する希釈リン酸塩バッファーを含む溶液に接触し得る。好ましい実施形態では、希釈リン酸塩バッファーのpHは、5~8、好ましくは7~8、より好ましくは7~7.5である。
【0114】
[00176]1つまたは複数の作用電極における電気化学的反応による本明細書に記載のデバイス上のpHまたはイオン濃度の調節は、定電流モードまたは定電位モードで行われ得る。さらに、pHを調節するための方法において、任意のタイプの電気パルスがデバイスの電極上に印加され得る。このようなパルスは、アニーリングパルス(annealing pulse)の形態であることができ、パルス周波数、パルス幅、およびパルス形状によって変化することができる。アニーリングパルスでは、非共有結合分子がデバイスから除去されるようにpHを変化させるために十分な電圧が印加される。このようなアニーリングパルスは、非共有結合性物質を除去するために試料または反応物溶液との最初の接触後に基板を洗浄する必要性を排除または低減する。別の利点は、アニーリングパルスが、単純な洗浄よりも、デバイスからそのような非共有結合物質を除去するために効率的であり得ることである。pHを調節するための好ましいパルス幅は、1ナノ秒~60分の範囲である。
【0115】
[00177]溶液は、例えば硫酸ナトリウムなどの1つまたは複数の電解質、または他の任意の好適な強電解質をさらに含み得る。好ましくは、電解質は、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはカリウム、臭化ナトリウムまたはカリウム、ヨウ化ナトリウムまたはカリウム、過塩素酸ナトリウムまたはカリウム、硝酸ナトリウムまたはカリウム、臭化テトラアルキルアンモニウムおよびヨウ化テトラアルキルアンモニウムから選択される。バッファー阻害剤もまた、溶液に使用することができる。好適なバッファー阻害剤は、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ビニルピロドン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(4-ビニルピリジン)およびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリドから選択されてもよい。米国特許出願第13/543,300号に記載されたpHを調節する方法で使用する場合、水溶液は、好ましくは、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)およびそれらの混合物からなる群から選択される水混和性有機共溶媒をも含む。
【0116】
[00178]好適な電気化学的活性剤は、塩酸ドーパミン、アスコルビン酸、フェノールおよび誘導体、ベンゾキノンおよび誘導体、例えば、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン、2,3,5,6-テトラヒドロキシ-1,4-ベンゾキノンおよび2,6-ジクロロキノン-4-クロロイミド;ナフトキノンおよび誘導体、例えば、ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、および1,4-ナフトキノン-2-スルホン酸カリウム;および9,10-アントラキノンおよび誘導体、例えば、アントラキノン-2-カルボン酸ナトリウム、9,10-アントラキノン-2,6-ジスルホン酸カリウムを含む。好ましくは、水溶液中の電気化学活性剤の濃度は、1nM~100mMである。
【0117】
[00179]溶液中のpHまたはイオン濃度を調節する方法の別の実施形態では、酵素が界面層または磁性粒子に固定化される。界面層または磁性粒子はまた、その中またはその上に1つまたは複数の固定化生体分子プローブまたは反応物を有し得る。次に、酵素基質がマルチサイトアレイ内の特定のサイトで溶液に添加され、そのサイトは界面層を有し、酵素基質を酵素的に酸化する。
【0118】
[00180]界面層中または磁性マイクロ粒子もしくはナノ粒子への固定化に適した酵素は、例えば、オキシダーゼ、ウレアーゼ、またはデヒドロゲナーゼを含む。このような固定化オキシダーゼは、例えば、(図6に示す通り)グルコースとしての酵素基質を有するグルコースオキシダーゼであってよい。固定化酵素および酵素基質の添加量は、マルチサイトアレイの異なるサイトにおいて、マルチサイトアレイにおいてpHまたはイオン濃度勾配を与えるように変化させてよい。
【0119】
[00181]あるいは、酵素は、上記の方法のように固体表面に固定化され、界面層または磁性マイクロもしくはナノ粒子に固定化されるのではなく、マルチサイトアレイのサイトにおける溶液に添加される。電気分解により、酵素は電極表面で酸化還元反応を起こし、局所的なpHを不安定にさせる。
【0120】
[00182]これらの実施形態のそれぞれにおいて、pHまたはイオン濃度は、溶液にバッファー阻害剤を添加することによってさらに調節され得る。このようなバッファー阻害剤の添加は、目的の生成イオンをプローブ、反応物、検出剤の位置まで拡散させることを補助するか、またはその添加がそのような生成イオンと緩衝塩との相互作用を阻害するかのいずれかである。あるいは、本明細書に記載のpHまたはイオン濃度を調節する方法において、バッファー阻害剤は、電気化学活性剤または固定化酵素の非存在下で、そのサイトの溶液に添加される。このような実施形態では、バッファー阻害剤は、溶液に添加され、サイト内の作用電極で生じるHイオンまたはOHイオンの拡散を促進するか、またはHイオンまたはOHイオンと緩衝塩との間の相互作用を阻害する。
【0121】
[00183]好適なバッファー阻害剤は、ポリ(塩酸アリルアミン)、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(4-ビニルピリジン)およびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩から選択される可溶性ポリマーを含む。添加されるバッファー阻害剤の量は、マルチサイトアレイにpHまたはイオン濃度勾配を与えるように、マルチサイトアレイのサブセットのそれぞれの異なるサイトで変化させることができる。
【0122】
[00184]サイトのマルチサイトアレイ内のpHを調節する方法がバイオセンサーまたはリアクターで使用される場合、各サイトでのpHの調節の正確性、信頼性、および再現性が重要である。しかし、各サイトにおけるpHの調節は、その後の使用で変わり得る。試料中の目的の分析物の量を正確に決定するために、または上述のデバイスおよび方法を用いて反応条件を正確に調製するために、各サイトにおけるpHが正確に調節または制御される必要がある。本明細書で提供されるデバイスは、各サイトのpHを正確に決定し、制御することを可能にする。
【0123】
[00185]pHセンサーは、ある電極に、その電極(作用電極)がマルチサイトアレイ内の特定のサイトでpH調節を行うと、pHを感知させる。一実施例では、蛍光タンパク質の蛍光強度がセンサーによって使用される。蛍光強度は、pHの調節により変化し得る。蛍光タンパク質の蛍光強度の変化は、pHの変化に比例し得る(例えば、pHと蛍光強度の間に線形関係がある場合)。したがって、図10にも示す通り、蛍光タンパク質の蛍光強度とpHとを相関させることにより、任意の時間における各位置のpH値を容易に求めることができる。pHと蛍光強度の相関の正確な校正は、デバイスの使用前または使用中に実行され得る。好ましくは、蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、およびシアン蛍光タンパク質から選択される。より好ましくは、蛍光タンパク質は、固定化された緑色蛍光タンパク質(GFP)である。代替的な実施形態では、pH感受性蛍光タンパク質の代わりに、pH感受性色素が使用されてもよい。別の代替的な実施形態では、pH感受性結合タンパク質が使用されてもよい。
【0124】
[00186]サイトのマルチサイトアレイにおいて、pHセンサーは、電極によっても覆われた領域と電極で覆われていない領域とを表面上で覆うことができる。pHセンサーによって覆われる電極は、作用電極または対電極のいずれかである。好ましくは、pHセンサーは、図12Aに示す通り、各スポットが1つのサイトと電極で覆われていない領域のみと重なる、明確なスポットにおいて表面上に適用される。電極で覆われていない領域上にpHセンサーの存在は、pHが電極によって調節されていないときにpHセンサー出力の決定を可能にする。このpHセンサー出力は、電極によるpHの調節を停止した後、pHセンサー出力が元の強度に戻るかどうかを判断する際の基準および対照として使用することができる。したがって、電極上または電極近傍に配置されていないpHセンサーは、シグナル正規化のための内部基準として使用することができる。
【0125】
[00187]校正がデバイスの使用中に実施される場合、マルチサイトアレイ内の1つまたは複数のサイトは、pH相関に対するpHセンサー出力の校正に特化させることができる。pHが電極(作用電極)によってそのようなサイトでもはや調節されないとき、pHセンサー出力は、電極を通して電流が印加される前のその強度に戻ることができる。
【0126】
[00188]デバイスは、1つまたは複数の対電極と1つまたは複数の作用電極を含む。デバイスにおいて、1つまたは複数の電極は、マルチサイトアレイ内に配置することができ、マルチサイトアレイの各サイトは、作用電極および/または対電極を含むことができる。電極は、デバイスの意図された目的に適した任意の電極、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、金、または銀電極であってよい。好ましい実施形態では、デバイスの電極は、酸化インジウムスズ(ITO)電極である。代替実施形態では、作用電極は酸化インジウムスズ電極であり、対電極は酸化インジウム電極、金電極、白金電極、銀電極、および炭素電極から選択される。
【0127】
[00189]デバイスの電極は、pHを調節するため、もしくは感知電極として、またはその両方として使用することができる。デバイスまたはデバイスを使用するバイオセンサーにおいて、1つまたは複数の電極は、ポゴピンを介して電子板に、z軸接着剤を介してホイル上のチップに、または基板上のチップに接続することができる。電子板またはチップは、プリント電池、基板に結合された小型電池、基板上のコイルを用いた磁気結合電力伝送、または基板上のコイルを用いたRF結合電力伝送によって電力を供給することができる。
【0128】
[00190]以下の説明は、特定の実施形態の例示であり、一般的な知識から理解されるように、説明の範囲内での変更が可能である。図9は、基板(1)、例えばガラスまたはプラスチックを含む、デバイスの一部の側面図を示す。1つまたは複数の電極(2)が基板(1)上を覆っており、基板(1)は生体分子界面層(10)でも覆われている。生体分子界面層(10)は、固定化PEG(3)、固定化プローブ(4)、および緑色蛍光タンパク質スポット(5)の形態での固定化pH感受性蛍光タンパク質を含む。GFPスポット(5)は、電極(2)および電極で覆われていない領域と重なっている。電極(2)およびGFPスポット(5)は、デバイス上に複数の検査サイトをもたらすように、マルチサイトアレイ内に配置される。
【0129】
[00191]発光分子自体の位置を直接制御することにより、発光分子により生成される発光シグナルの位置を制御することができる。この位置の制御は、例えば、発光分子を固定化することを含む。ただし、pH感受性発光分子で電極近傍の溶液のpHを制御する機能を組み込むことで、浮動性発光分子により生成される発光シグナルの位置を制御することも可能である。
【0130】
[00192]図14は、本発明の例示的実施形態による、pHを制御するための例示的システム100を示す。図14に示す例では、システム100は、目的物質を含有する検査溶液が置かれる領域11を含むスライド30と、制御ユニット12と、電源14とを含む。スライド30は、任意の電気的絶縁材料から形成されてもよい。例えば、ガラスは、この目的のために、かつ基板として機能するために、典型的に使用され、その上に領域11、制御ユニット12および電源14が形成されるであろう。ガラスは、例えば、二酸化ケイ素(SiO)から形成され得、場合によっては添加物が共に使用される。あるいは、他の種類のケイ酸塩ガラスが使用されてもよい。
【0131】
[00193]領域11は、pHを制御するために使用される電極のアレイを含む。例示的実施形態では、領域11の電極の少なくともいくつかは、検査溶液のpHレベルを検出するために使用される。(例えば、前述した米国特許出願第13/543,300号は、バイオセンサーにおけるpH調節のための電極の使用を記載しており、この調節は、本明細書で論じられる電極を用いて行われ得る)。
【0132】
[00194]図15は、一組の列電極X01~X12が互いから規則的に間隔を空けて配置されている、例示的な電極アレイの上面図である。一組の列電極Y01~Y09もまた、規則的に間隔を空けて配置され、例えばガラスの介在層によって列電極X01~X12から分離されている。各電極は、pH調節に使用するための1つまたは複数の接触パッド31、32を含む。パッドの形状は可変であり、例示的実施形態では、実質的に正方形である。図16は、例示的な正方形パッドの拡大図である。図17は、パッドが互いにかみ合った構造を形成し、したがって枠形状である、代替的実施形態を示す。
【0133】
[00195]図14に示される例では、制御ユニット12は、電極アレイ11に電気的に接続され、アレイ11を制御してpH調節を実行する。制御ユニット12は、例えば、マイクロプロセッサまたは特定用途向け集積回路(ASIC)であってよい。例示的実施形態では、制御ユニット12は、例えばポゴピンを用いて、スライド30に着脱可能に接続される電子回路板上に配置される。制御ユニット12は、例えばチップオンガラスプロセスを使用して、硬質ガラス基板に直接接合されたパッケージ化チップ内に位置することができる。代替の例示的実施形態では、スライド30は、軟質ホイル型基板で形成され、制御ユニット12は、Z軸接着剤を使用して、特定の液晶ディスプレイにおいてチップが接着される態様と同様の態様で、スライド30に接着されて、チップオンホイルを形成する。制御ユニット12は、例えば、本明細書に記載のpH調節技術を実装するプログラムコードを含む非一時的コンピューター可読記憶媒体を含むことができる。pH調節に加えて、制御ユニット12は、電極が他のタイプの感知を行うよう、または気泡検出などの他の感知構造、もしくはバイオセンサーの技術分野で公知である他の感知もしくは制御を制御するよう、制御することができる。
【0134】
[00196]例示的実施形態では、制御ユニット12は、指定された電極に入力パルスを印加させる制御シグナルを送信する。静電容量および/またはpH値は、いくつかの場合において、入力パルスに対する電極の応答に基づいて、制御ユニット12で測定され得る。静電容量の測定は、自己静電容量(例えば、単一電極)または相互静電容量(例えば、2つの電極間)の測定値を利用するタッチスクリーンディスプレイの技術分野において公知である。いくつかの場合において、気泡検出もサポートするために、制御ユニット12は、生命科学実験において静電容量を測定する典型的な制御ユニットの静電容量検出範囲よりも大きい静電容量検出範囲を有する。制御シグナルは、pH調節のための入力パルスを適用するために使用され得る。pH調節のための制御シグナルは、例えば、pH調節のために設計されたあらかじめ定義されたプログラムシーケンスに従って、制御ユニット12によって開始され得る。あるいは、pH調節のための制御シグナルは、例えばデータ処理ユニット50からのコマンドに応答して、外部的に開始される。一実施例では、制御ユニット12は、測定値をアナログ形式からデジタル形式に変換することおよび/または測定値をフィルタリングすることを含む、測定された静電容量値および/またはpH値に対して予備シグナル処理を実行するハードウェアおよび/またはソフトウェアコンポーネントを含む。一実施例では、処理された測定値は、次に、生データとしてデータ取得ユニット40に出力される。
【0135】
[00197]電源14は、制御ユニット12および電極アレイ11に電力を供給する。例えば、例示的実施形態では、電源14は、コイン電池またはプリント電池などの電池である。一例示的実施形態では、スライド30は、1回限りの使用のために設計され、使い捨てであり、したがって、電池は、例えば1回の測定に十分である小さなエネルギー容量を備え、電池は、例えばガラス表面に接着または粘着されて、スライドに永久的に取り付けられる。スライド30が再利用可能である例示的実施形態では、電池は、再充電可能またはユーザーが交換可能であり得る。他の形態の電力供給が代替的に使用されてもよい。一例示的実施形態では、電力は、外部電源(例えば、データ収集ユニット40)とスライド内の1つまたは複数の共振コイルとの間の磁気的連結を介してワイヤレスで供給される。磁気的連結の代替として、ただしワイヤレス電力転送も使用して、外部電源は、無線周波数(RF)シグナルを使用して共振コイルに連結することができる。さらに別の例示的実施形態では、スライド30は、データ取得ユニット40への有線接続を介して電力を受け取る。
【0136】
[00198]一例では、データ取得ユニット40は、スライド30と通信して、制御ユニット12から測定された静電容量値および/またはpH値を生データの形で受信するデバイスである。例えば、一例では、データ取得ユニット40は、スライド30内の対応するインターフェースへの有線通信インターフェース20を含む。一例示的実施形態では、生データは、制御ユニット12から並列に出力される。例えば、例示的実施形態では、制御ユニット12は複数の出力チャネルを含み、1つの行または1つの列からのデータは対応するチャネルに出力される。この実施形態では、インターフェース20は、例えば、パラレルデータをデータ処理ユニット50への送信に適した形式に変換する。この変換は、汎用非同期送受信回路(UART)または他の従来のデータ変換装置を使用したパラレル-シリアル変換を含むことができる。代替的実施形態では、インターフェース20は、例えばRFシグナルを使用して、スライド30と無線で通信を行う。
【0137】
[00199]例示的実施形態では、データ処理ユニット50は、データ取得ユニット40の出力インターフェース22から、例えばUARTの送信部分から、生データを受信する。出力インターフェース22は、ユニバーサルシリアルバス(USB)インターフェースなどの有線シリアルインターフェースであってよい。あるいは、出力インターフェース22は、無線、例えば、BluetoothまたはWiFiインターフェースであってもよい。一例では、インターフェースは、Bluetooth Low Energy(LE)インターフェースである。データ処理ユニット50は、例えば、デスクトップ、ラップトップまたはタブレットの形態の汎用コンピューターであってよく、例えば、プロセッサと、生データをさらに処理するための命令を記憶するメモリとを含む。例えば、例示的実施形態では、さらなる処理は、生データをあらかじめ定義されたスケールに正規化することと、正規化されたデータを使用して、表示デバイス60での表示のために二次元または三次元グラフなどの出力画像を生成することとを含む。データ処理ユニット50がラップトップまたはタブレットである場合、表示デバイス60は、単一ユニットとしてデータ処理ユニット50の筐体に統合されていてもよい。表示デバイス60は、例えばデータ処理ユニット50がデスクトップである場合、代替的に、外部に接続されてもよい。出力画像は、データの経時的変化を示す動画を形成するために結合されてもよい。一実施形態では、測定された静電容量値および/またはpH値を表す出力画像は、他の測定データに対応する追加の出力画像と一緒に表示される。例えば、出力画像および追加の出力画像は、同じ表示画面の異なる部分に表示されてもよいし、表示画面の同じ部分にオーバーレイ(スーパーインポーズ)表示されてもよい。
【0138】
[00200]例示的実施形態では、データ処理ユニット50はまた、pH調節のためのコマンドを制御ユニット12に発行するようにも構成される。コマンドは、例えば、データ処理ユニット50のプロセッサが検査溶液のpHレベルを調整すべきであると判断したときに、自動的に生成され得る。代替的にまたは追加的に、コマンドは、ユーザー開始によるものであってもよい。
【0139】
[00201]例示的実施形態によれば、スライド30は、1つまたは複数の電極層がガラス基板の上に配置されている層状構造を含んでもよい。層状構造は、例えば、2つ以上の層が別々に形成され、次に、例えば接着剤または結合を用いて一緒にラミネートされる、ラミネート技術を用いて形成され得る。あるいは、層状構造は、半導体デバイス製造の技術分野において公知である技術を使用して、単一ユニットとしてモノリシックに形成され得る。層状構造は、例えばSiO(酸化物とも呼ばれる)で形成された1つまたは複数の不動態化層を含んでもよい。ただし、不動態化層の組成およびサイズは、例えば、SiOの原子層からSiOの数マイクロメートルまで変化し、低圧化学気相成長(LPCVD)またはプラズマ強化化学気相成長(PECVD)等の様々な技術を用いて形成され得ると理解されよう。窒化ケイ素(Si)は、別の例示的不動態化材料である。積層構造がラミネーションを使用して形成される場合、不動態化層は、ラミネートされる薄膜として形成され得る。
【0140】
[00202]pH調節を行う1つの方法は、検査溶液を集めるチャネルを形成するように、隣接する電極のパッドを分離することである。チャネルは、検査溶液が電極と接触することを可能にするので、溶液のpHレベルは、隣接する電極の間に電流を送ることによって調整され得る。例示的実施形態によれば、電極は、任意の好適な導電性材料で形成することができるが、ITOは透明で比較的無色であり、光学測定を伴う実験に適しているので、好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)である。これにより、図13に示す通り、測定領域11全体を透明にすることができる。酸化物層が、電極を覆う不動態化層として使用されてもよい。pH調節がチャネルを用いて実行される場合、例示的実施形態では、酸化物層はチャネルを完全には充填しないが、代わりに、電極の側部は露出したままであり、検査溶液との接触が可能である。
【0141】
[00203]pH測定の結果は、表示デバイス60で表示するための出力であってよい。例示的実施形態によれば、生データ値は、二次元テーブルの形式で表示される。各テーブルエントリは、対応する電極パッドから得られたpH測定値に対応する。生データは、三次元グラフ、例えば、x値およびy値が電極位置に対応し、z値がpH測定値に対応する三次元メッシュとして表示されてもよい。視覚的認識を容易にするために、例示的実施形態では、グラフは、例えばグラデーション方式、例えばpHの変化に応じて色が徐々に変化するグレースケール方式またはヒートマップを使用して、色分けされてもよい。別の実施形態では、色分けは、pH値が色の変化を用いて表される二次元グラフ上のpH位置を示すために使用される。生データの表示に対して代替的にまたは追加的に、例示的実施形態によるデータ処理ユニット60は、あらかじめ定められた尺度に正規化することによって生データを処理する。上述したグラフは、単独で、または実験の対象である他のパラメータ、例えば静電容量値および流量からの追加値と共に、表示され得る。一実施形態では、追加値は、例えば異なる配色を用いてpH値の上に重ねて、同じグラフ上に表示される。
【0142】
[00204]有利には、pH値のグラフ表示により、ユーザーは、特定の場所としてのpHを迅速に決定し、pHに対応して好適な是正措置を講じることができる。ユーザーは、例えば、特定のpH値の位置に関連しないそれらの(実験によって測定された1つまたは複数のパラメータに対応する)追加値を維持する一方、特定のpH値の位置に関連する値を廃棄することを決定してもよい。あるいは、所望の範囲外のpH値が多く、そのため追加値が全体として信頼できないので、ユーザーはデータのセット全体を破棄することを決定することもできる。
【0143】
[00205]例示的実施形態によれば、pH値は追加の測定データに重ねられ、この追加データは、測定領域の物理的構成を表すレイアウトデータと関連付けて記憶される。レイアウトデータは、画像(例えば、測定領域のスキャン画像)またはテキスト(例えば、アレイを作製するために使用されるマイクロアレイスポッター用の構成ファイル、またはGenePix Array List(GAL)ファイル)の形式で電子ファイル内に格納され得る。追加測定データは、画像またはテキスト(例えば、GALファイルに格納された静電容量測定値、または測定領域のスキャン画像上にグレースケールでレンダリングされた静電容量測定値)であってもよい。
【0144】
[00206]pH値が重ね合わされる例示的実施形態によれば、合成表示を生成することができ、この表示は、アレイ内の対応する位置に追加の測定値に重ね合わされたpH値と一緒にアレイのグラフ表現を表示する。重ね合わせは、テキストオンテキスト、テキストオンイメージ、イメージオンイメージとしてレンダリングされ得る。テキストオンテキストの例は、アレイの半分の位置にpH値を表示し、もう半分の位置に追加の測定データを表示するものである。テキストオンイメージの例は、ヒートマップを用いてpHを表示する一方、追加の測定データをヒートマップ上に数値で表示するものである。イメージオンイメージの例は、ヒートマップでpHを表示する一方、三次元メッシュを使用して追加の測定データを表現するものである。重ね合わせ表示する前に、あるいは重ね合わせ表示に関連して、重ね合わせデータを電子レイアウトファイルに格納することができる。
【0145】
[00207]例示的実施形態によれば、スライド上または外部コンピューター上のプロセッサは、所望の範囲外のpH値に応答して、追加の測定データを(例えば、測定値をヌル値に置き換えることによって)自動的に無効にするように構成される。例えば、スライド上のプロセッサは、いくつかの場所のpHを検出し、そのpHがどこにあるかの指示を外部コンピューターに出力し、外部コンピューターは、指示された場所に基づいて無効化を実行することができる。これにより、ユーザーはpH値を手動で確認して、追加測定データまたは反応によって生成された生成物をその場所内に保持するかどうかを決定する手間を省くことができる。
【0146】
[00208]例示的実施形態によれば、電極は、pH検出およびpH調節に加えて、機能を実行するために使用され得る。例えば、電極は、気泡検出のために使用され得る。いくつかの例では、電極は、温度調節のために使用され得る。別の例として、静電容量測定は、溶液の誘電率を推定するために使用することができ、この誘電率は、次に、細胞の成長速度、反応生成物の生成速度、または目的の物質が生体分子に結合する速度に相関させることができる。いくつかの場合において、電極の機能が1つの機能と別の機能との間で変更され得る。
【0147】
[00209]電極が2つの層に配置された例示的実施形態が記載されている。しかし、層の数はより多くても少なくてもよい。実際、pH調節とpH測定の両方には、1つの層で十分である。さらに、全ての電極層がpH調節またはpH測定に使用される必要はない。その代わりに、従来のバイオセンサーまたはリアクターにおける電極の使用法に従って、さらなる電極層が他の目的に使用され得る。
【0148】
[00210]本発明の例示的実施形態は、測定データの処理の少なくとも一部が、処理データの表示を担当する外部コンピューターではなく、スライド自体またはスライドの本体に接続された周辺デバイス上で実行されるガラススライドに関する。このようなスライドは、本明細書においてガラス上計器(instrument-on-glass)と呼ばれる。図18図20はそれぞれ、ガラス上計器の一実施形態例を示す。
【0149】
[00211]図18は、本発明の例示的実施形態によるスライド400を示す。スライド400は、pH測定/調節領域405と、電源410と、処理回路420とを含む。領域405は、ITO(電極用)と一緒にTFT(スイッチ用)から形成され得る。あるいは、領域405は、他の金属と組み合わせたITOまたはITOのみを使用して形成され得る。電源410は、図14の電源14に類似するものであってよく、例えば磁気またはRF連結を用いて電力供給される電池または受動的電源であってもよい。
【0150】
[00212]処理回路420は、図14の制御ユニット12に類似するものであってよく、予備的なシグナル処理を実行することができる。さらに、処理回路420は、データ処理ユニット50に関して先に説明した機能の一部(例えば、pH値の正規化もしくはスケーリング、またはpH調節の制御)を実行することができる。処理回路420は、領域405から得た生データを処理するプロセッサ(例えば、1つまたは複数のCMOSチップ)を含むことができる。処理回路420は、生データを処理するためにプロセッサによって使用される、命令またはデータを記憶するメモリをさらに含むことができる。処理回路420は、生データを外部コンピューターに出力するための好適なフォーマットに配列するか、または予備的なデータ分析(例えば、pH検出および特定のpHに関連するデータの無効化)を実行するように構成され得る。プロセッサは、領域405の感知動作(例えば、アレイの駆動およびデータの読み出し)を制御し、データ圧縮を行い、予備的に処理されたデータの外部コンピューターへの有線または無線伝送を行うことができる。後処理および表示用データの出力は、外部のコンピューターで行われてもよい。
【0151】
[00213]図19は、本発明の例示的実施形態によるスライド500を示す。構成要素505、510および520は、図18の構成要素405、410および420とそれぞれ類似し、同じ機能を実行することができる。しかしながら、スライド500の本体上に配置される代わりに、電源510および処理回路520は、例えばスライド500のハードウェアインターフェースに適合する周辺回路板515上に、外部接続される。
【0152】
[00214]図20は、本発明の例示的実施形態によるスライド600を示す。構成要素605、610および620は、図18の構成要素405、410および420とそれぞれ類似し、同じ機能を果たすことができる。図20の実施形態では、電源610および処理回路は、図19と同様に、外部接続されている。ただし、回路板615は、回路板615と外部コンピューターとの間でデータおよび電力の伝送を行うためのシリアルポートコネクタを含む。具体的には、シリアルポートを用いて、測定データを外部コンピューターに転送したり、測定領域605を動作させるための電力または電源610を充電するための電力を供給したりすることができる。
【0153】
[00215]本発明の例示的実施形態は、例えば、任意の従来的メモリデバイスを含む非一時的ハードウェアコンピューター読み取り可能媒体上に提供されるコードを実行して、単独でまたは組み合わせて、本書に記載の方法のいずれかを実行し、例えば、記載されたグラフィカルユーザーインターフェースのいずれか1つまたは複数を出力することを目的とする、任意の従来的処理回路およびデバイスまたはそれらの組合せ、例えば、パーソナルコンピューター(PC)または他のワークステーションプロセッサの中央処理デバイス(CPU)を使用して実装され得る1つまたは複数のプロセッサに関する。メモリデバイスは、任意の従来的永久および/または一時メモリ回路またはその組合せを含むことができ、その非包括的リストは、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、コンパクトディスク(CD)、デジタル汎用ディスク(DVD)、フラッシュメモリ、および磁気テープを含む。
【0154】
[00216]本発明の例示的実施形態は、本明細書に記載された方法のいずれか1つまたは複数を実行するためにプロセッサによって実行可能な命令が格納された、非一時的ハードウェアコンピューター可読媒体、例えば上記のものに関する。
【0155】
[00217]本発明の例示的実施形態は、例えば、ハードウェアコンポーネントまたは機械の、本明細書に記載された方法のいずれか1つまたは複数を実行するためにプロセッサによって実行可能な命令を送信する方法に関する。
【0156】
[00218]本発明の例示的実施形態は、上述したデバイスおよび方法、例えば、コンピューター実装された方法の単独または組合せのうちの1つまたは複数に関する。
[00219]本発明の例示的実施形態は、電極近傍の溶液のpHを制御するために電子機器を使用するデバイスおよび方法と、その方法を統合電子システムで実施するためのデバイスとを提供する。好ましくは、本発明のデバイスおよび方法は、約1cmの距離の範囲内で電極を取り囲む溶液のpHを制御することができる。溶液のpHを制御するために電子機器を使用するためのデバイスおよび方法は、上記および本明細書の他の場所で説明したデバイスおよび方法による溶液のpHの検出をも含むことができる。いくつかの場合において、pH検出およびpH調節はともに、同じデバイスおよび/または方法によって実行される。
【0157】
[00220]例示的実施形態によれば、電子制御によって溶液のpHを変更する方法は、3つ以上の電極およびpH感知素子を用いて溶液に特定の量の電気入力を供給して、溶液中の水素イオンを電気化学的に生成および/または消費するステップを含む。水素イオンの生成および/または消費は、溶液中の1つまたは複数の酸化還元活性種の電気化学的反応によって達成される。好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、下記:キノン、カテコール、アミノフェノールヒドラジン、およびそれらの誘導体から選択される。より好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種はキノンである(Thomas Finley、「Quinones(キノン)」、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology(カーク・オスマー化学技術百科事典)、1~35頁(2005)を参照)。さらに好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、下記:ヒドロキノン、ベンゾキノン、ナフトキノンナフトキノンから選択される。最も好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、以下にさらに定義されるキノン誘導体である。
【0158】
[00221]好ましくは、3つ以上の電極は、対電極、作用電極、および参照電極(RE)を含む。いくつかの例示的実施形態では、感知素子は感知電極であり得る。本発明の特定の例示的実施形態では、感知電極は、作用電極としても機能することができる。本発明の特定の例示的実施形態では、3つ以上の電極は、それぞれ独立して、金属酸化物、金、ガラス状炭素、グラフェン、銀、白金、塩化銀、通常水素、水銀滴、または飽和カロメルで作製されている。本発明の特定の例示的実施形態では、溶液は、バッファー溶液、非バッファー溶液、水溶液、有機溶液、またはそれらの混合物である。本発明の特定の例示的実施形態では、電気入力の量は、特定の量の電流を供給することによって規定される。本発明の特定の例示的実施形態では、電源波形は、供給される電気入力の量に基づいて選択される。好ましくは、電源波形は、定電流波形または定電位波形である。より好ましくは、電源波形は、電気入力量を個々の溶液pH値に対応付けた所定のマップから選択される。
【0159】
[00222]本発明の例示的実施形態によれば、3つ以上の電極を用いて溶液のpHを制御する方法は、2つ以上の電極間に電気入力が印加されていない間に溶液のpHおよび/または溶液中の2つ以上の電極の開路電位(OCP)を得るステップと、pHおよび/またはOCPに基づいて電気入力の量を選択するステップと、2つ以上の電極間で溶液に電気入力量を供給して溶液のpHを変化させるステップとを含む。本発明の特定の例示的実施形態では、OCPは、溶液中の2つ以上の電極のOCPを測定することによって得られるか、または既知のまたは測定された初期pHから計算される。本発明の特定の例示的実施形態では、方法は、溶液中の2つ以上の電極のOCPに基づいて溶液のpHを決定するステップをも含む。本発明の特定の例示的実施形態では、方法は、電気入力量に基づいて電源波形を選択し、選択された電源波形に従って電気入力量が供給されるステップをも含む。
【0160】
[00223]本発明の特定の例示的実施形態では、方法は、溶液中の2つ以上の電極の測定されたOCPに基づいて、溶液のpHを決定するステップをさらに含む。本発明の特定の例示的実施形態では、電気入力の量は、決定されたpHに基づいて選択される。
【0161】
[00224]本発明の例示的実施形態によれば、感知素子、参照電極、対電極、および作用電極を用いて溶液のpHを監視する方法は、目標pH値および/または開路電位(OCP)を選択するステップと、作用電極に電気入力が印加されていない間に参照電極と感知電極との間で溶液のpHおよび/またはOCPを特性決定するステップと、下記:溶液のpHおよび/またはOCPと目標pH値および/またはOCPとの差を最小限にするように、作用電極に印加する電気入力の量を選択する工程;ならびに溶液のpHおよび/またはOCPを調整するために作用電極に電気入力の量を印加する工程を繰り返して実施するステップとを含む。
【0162】
[00225]本発明の特定の例示的実施形態では、目標pH値および/またはOCPは固定値であり、他の例示的実施形態では、目標pH値および/またはOCPは変動値である。本発明の特定の例示的実施形態では、目標pH値および/またはOCPは、上限と下限を有する範囲であるか、または単一の値である。好ましくは、目標OCPは、目標pH値に基づいて選択される。好ましくは、目標pH値は、ユーザー定義される。いくつかの実施形態では、pHは経時的に変化し、および/または異なる作用電極に対して異なる。本発明の特定の例示的実施形態では、感知電極は、作用電極としても機能することができる。本発明の特定の例示的実施形態では、感知電極と作用電極は、別個の電極である。好ましくは、感知電極と作用電極との間の距離は、0cm~1cmである。電気入力は、電流として、または電位として与えられ得る。好ましくは、電気入力の量は、作用電極に電位を印加することによって与えられる。より好ましくは、電位は、電源波形に従って与えられる。電源波形は、定電流波形または定電位波形である。さらにより好ましくは、電源波形は、電気入力量を個々の溶液pH値に対応付けた所定のマップから選択される。好ましくは、感知素子は、pH感受性コーティングで被覆された感知電極であり、感知電極およびpH感受性コーティングのOCPは、Hイオン濃度によって支配される。本発明の特定の例示的実施形態では、pH感受性コーティングは、有機材料である。本発明の他の例示的実施形態では、pH感受性コーティングは、無機材料である。好ましくは、pH感受性コーティングは、ポリアニリン、ポリピロール、および酸化イリジウムからなる群から選択される材料から作製される。
【0163】
[00226]例示的実施形態は、電気化学的パラメータの監視および/または特性決定を行い、検出されたシグナルをフィードバック制御として使用して、特定の長さの時間、所望のpH波形を発生させることを含む。記載された全ての方法は、下記の式:
【0164】
【化1】
【0165】
に基づいて、酸化時にHイオンを放出してpHを下げ、還元時にHイオンを消費してpHを上げる、酸化還元対の使用を含む。
[00227]酸化還元反応の一例は、キノン誘導体の反応である。キノンの誘導体には多くの種類があり、それぞれ固有の酸化ピークおよび還元ピークを持ち、酸化還元反応速度は溶液のpHに依存することがわかっている。電子移動係数および参照電極に対する開路電位(OCP)を含む、電極の電気化学的特性も考慮できる特性である。OCPは、溶液のpHに依存することが以前から実証されてきた。
【0166】
[00228]本発明の例示的実施形態によれば、溶液のpHを制御するためのデバイスは、コントローラ、3つ以上の電極、および1つまたは複数の酸化還元活性種を含有する溶液を含む。いくつかの実施形態では、デバイスは、溶液のpHおよび/または溶液中の2つ以上の電極間のOCPを測定して測定OCPデータを生成し、測定pHおよび/またはOCPデータをコントローラに送るように構成され得る。いくつかの実施形態では、デバイスは、pH感受性蛍光分子の蛍光を測定することによって、溶液のpHを測定するように構成され得る。いくつかの実施形態では、デバイスは、pH感知電極の使用によって溶液のpHを測定するように構成され得る。いくつかの実施形態では、デバイスは、当該分野で公知である任意の方法でpHを測定することによって、溶液のpHを測定するように構成され得る。コントローラは、以下のステップ:目標pH値および/またはOCPデータと測定pHおよび/またはOCPデータとの差、またはpH感知素子の目標出力とpH感知素子の測定出力との差に基づいて電流量または電源波形を選択するステップと、電流または電位波形に応じた電位を2つ以上の電極のうちの1つまたは複数に与えることによって、選択された電流の量を溶液に印加するステップと、OCPの別の測定および/またはpH感知素子の出力についての要求をデバイスに送信するステップとを繰り返し実施するように構成され得る。
【0167】
[00229]好ましくは、溶液中の1つまたは複数の酸化還元活性種は、溶液に印加される電流または電位によって誘発される電気化学的反応によって水素イオンを生成および/または消費する。好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、下記:キノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、およびそれらの誘導体から選択される。より好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、キノンである。(参照:Thomas Finley、「Quinones(キノン)」、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology(カーク・オスマー化学技術百科事典)、1~35頁(2005))。さらにより好ましくは、キノンは、下記:ヒドロキノン、ベンゾキノン、ナフトキノン、およびそれらの誘導体から選択される。最も好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、キノン誘導体である。本発明の特定の例示的実施形態では、溶液は、バッファー溶液、非バッファー溶液、水溶液、有機溶液、またはそれらの混合物である。本発明の特定の例示的実施形態では、電源波形は、定電流波形または定電位波形である。好ましくは、電源波形は、電気入力量を個々の溶液pH値に対応付けた所定のマップから選択される。本発明の特定の例示的実施形態では、3つ以上の電極は、金属酸化物、ガラス状炭素、グラフェン、金、銀、または白金で作製されている。好ましくは、3つ以上の電極は、参照電極、作用電極、および対電極を含み、感知素子は感知電極である。3つ以上の電極はそれぞれ、金属酸化物、金、ガラス状炭素、グラフェン、銀、白金、塩化銀、通常水素、水銀滴、または飽和カロメルで作製されている。本発明の特定の例示的実施形態では、感知電極は、作用電極としても機能することができる。好ましくは、感知電極は、pH感受性コーティングで被覆され、感知電極およびpH感受性コーティングのOCPは、Hイオン濃度によって支配される。本発明の特定の例示的実施形態では、pH感受性コーティングは、有機材料または無機材料である。好ましくは、pH感受性コーティングは、ポリアニリン、ポリピロール、および酸化イリジウムからなる群から選択される材料から作製される。
【0168】
[00230]溶液に添加され得、生体バッファー中の電気化学的pH調節に適したキノン誘導体、キノン誘導体を含む電気化学的に活性な組成物、誘導体および/または組成物の製造方法、ならびにそれらの使用もまた提供される。
【0169】
[00231]例示的実施形態によれば、電気化学的に活性な組成物は、キノン誘導体を含み、求核剤とキノン誘導体との反応性は、求核剤とキノン誘導体の由来元である非置換キノンとの反応性と比較して低下し、組成物は、組成物のpHがキノン誘導体を介して電気化学的に調節されるように構成される。より好ましくは、求核剤とキノン誘導体との反応性は、求核剤とキノン誘導体の由来元である非置換キノンとの反応性と比較して、少なくとも50%低下する。好ましくは、キノン誘導体は、
【0170】
【化2】
【0171】
からなる群から選択される化学式で定義される。上記化学式I~XIIにおいて、各R基は、独立して、H;C2n+1;Cl;F;I;Br;OM;NO;OH;OC2n+1;OC2nOH;O(C2nO)H;O(C2nO)2n+1;O(C2nO)COOH;O(C2nO)COOM;COOH;COOM;COOC2n+1;CONHC2n+1;CON(C2n+1;SOH;SOM;NH;NHC2n+1;N(C2n+1;NHC2nOH;NHC2nNH;N(C2nOH);N(C2nNH;NHCOC2n+1;NC2nCOC2n+1;NC2nCOC2nOH;NC2nCOC2nNH;NHC2nCOC2nSH;SH;SC2n+1;SC2nOH;S(C2nO)H;S(C2nO)2n+1;S(C2nO)COOH;S(C2nO)COOM;OC2nSH;O(C2nO)2nSH;O(C2nO)2nSC2n+1;C2n;C2nOC2n+1;C2nSC2n+1;C2nNHC2n+1;C2nN(C2n+1)C2n;C2nOH;C2nOC2n+1;C2nOC2nOH;C2nO(C2nO)COOH;C2nO(C2nO)COOM;C2nCOOH;C2nCOOM;C2nCOOC2n+1;C2nCONHC2n+1;C2nCONH(C2n+1;C2nSOH;C2nSOM;C2nNH;C2nN(C2n+1;C2nNHC2nOH;C2nNHC2nNH;C2nN(C2nOH);C2nN(C2nNH;C2nNHCOC2n+1;C2nNHC2nCOC2nOH;C2nNHC2nCOC2nNH;C2nNHC2nCOC2nSH;C2nSH;C2nSC2n+1;C2nSC2nOH;C2nS(C2nO)H;C2nS(C2nO)2n+1;C2nS(C2nO)2nCOOH;C2nS(C2nO)2nCOOM;糖;ペプチド;およびアミノ酸からなる群から選択され;R基の少なくとも1つは水素ではなく;Mは任意の金属カチオンまたはNH であり;nは1~10の整数であり;yは1~10の整数である。
【0172】
[00232]例示的実施形態によれば、キノン誘導体のR基の全ては互いに異なる。例示的実施形態によれば、キノン誘導体のR基のうちの2つ以上は同じである。好ましくは、組成物は、水溶液である。例示的実施形態によれば、組成物は、水性バッファー、有機溶媒、電解質、緩衝塩、生体試薬、生体分子、界面活性剤、防腐剤、凍結保護剤、1つまたは複数の反応物、触媒、酵素、補因子等およびそれらの組合せからなる群から選択される添加物をさらに含む。好ましくは、1つまたは複数の求核剤は、アミン、チオール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、およびそれらの組合せからなる群から選択される。例示的実施形態によれば、求核剤とキノン誘導体との反応性は、求核剤とキノン誘導体の由来元である非置換キノンとの反応性と比較して、以下の理由により低減される。(i)1つまたは複数のR基による求核性結合サイトの立体障害の増加;(ii)求核性結合サイトとR基の1つとの間の共有結合による求核性結合サイトの除去。好ましくは、求核剤とキノン誘導体との反応性は、(i)と(ii)の両方に起因して、求核剤とキノン誘導体の由来元である非置換キノンとの反応性と比較して低下する。
【0173】
[00233]1つまたは複数のR基を有するキノンを、R基の1つまたは複数を置換基で置換することにより修飾してキノン誘導体を提供することを含む方法もまた提供され、ここで、キノン誘導体はキノンと求核剤との反応性に比べて求核剤との反応性が低下し;置換基は、独立して、H;C2n+1;Cl;F;I;Br;OM;NO;OH;OC2n+1;OC2nOH;O(C2nO)H;O(C2nO)2n+1;O(C2nO)COOH;O(C2nO)COOM;COOH;COOM;COOC2n+1;CONHC2n+1;CON(C2n+1;SOH;SOM;NH;NHC2n+1;N(C2n+1;NHC2nOH;NHC2nNH;N(C2nOH);N(C2nNH;NHCOC2n+1;NC2nCOC2n+1;NC2nCOC2nOH;NC2nCOC2nNH;NHC2nCOC2nSH;SH;SC2n+1;SC2nOH;S(C2nO)H;S(C2nO)2n+1;S(C2nO)COOH;S(C2nO)COOM;OC2nSH;O(C2nO)2nSH;O(C2nO)2nSC2n+1;C2n;C2nOC2n+1;C2nSC2n+1;C2nNHC2n+1;C2nN(C2n+1)C2n;C2nOH;C2nOC2n+1;C2nOC2nOH;C2nO(C2nO)COOH;C2nO(C2nO)COOM;C2nCOOH;C2nCOOM;C2nCOOC2n+1;C2nCONHC2n+1;C2nCONH(C2n+1;C2nSOH;C2nSOM;C2nNH;C2nN(C2n+1;C2nNHC2nOH;C2nNHC2nNH;C2nN(C2nOH);C2nN(C2nNH;C2nNHCOC2n+1;C2nNHC2nCOC2nOH;C2nNHC2nCOC2nNH;C2nNHC2nCOC2nSH;C2nSH;C2nSC2n+1;C2nSC2nOH;C2nS(C2nO)H;C2nS(C2nO)2n+1;C2nS(C2nO)2nCOOH;C2nS(C2nO)2nCOOM;糖;ペプチド;およびアミノ酸からなる群から選択され;Mは任意の金属カチオンまたはNH であり;nは1~10の整数であり;yは1~10の整数である。例示的実施形態によれば、1つまたは複数のR基は、極性基で置換されている。好ましくは、極性基は、弧立電子対を含有する原子を有する。好ましくは、極性基は、水と水素結合を形成することが可能である。好ましくは、極性基は、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子のうちの少なくとも1つを含有する。より好ましくは、極性基は、OH、CHOH、OCH、COOH、SOH、NH、NHCl、ONa、糖、アミノ酸、およびペプチドからなる群から選択される。
【0174】
[00234](i)酢酸およびアルデヒドの存在下で出発物質をハロゲン化水素と反応させるハロゲン化物置換ステップ;(ii)ステップ(i)により生成された材料を構造R-Xの求核剤と反応させるステップ;(iii)ステップ(ii)により生成された材料を酸化剤と反応させるステップおよび(iv)ステップ(iii)により生成された材料を還元剤と反応させるステップを含む置換メチルキノンの合成方法であって、Rは、H;C2n+1;Cl;F;I;Br;OM;NO;OH;OC2n+1;OC2nOH;O(C2nO)H;O(C2nO)2n+1;O(C2nO)COOH;O(C2nO)COOM;COOH;COOM;COOC2n+1;CONHC2n+1;CON(C2n+1;SOH;SOM;NH;NHC2n+1;N(C2n+1;NHCnOH;NHC2nNH;N(C2nOH);N(C2nNH;NHCOC2n+1;NC2nCOC2n+1;NC2nCOC2nOH;NC2nCOC2nNH;NHC2nCOC2nSH;SH;SC2n+1;SC2nOH;S(C2nO)H;S(C2nO)2n+1;S(C2nO)COOH;S(C2nO)COOM;OC2nSH;O(C2nO)2nSH;O(C2nO)2nSC2n+1;C2n;C2nOC2n+1;C2nSC2n+1;C2nNHC2n+1;C2nN(C2n+1)C2n;C2nOH;C2nOC2n+1;C2nOC2nOH;C2nO(C2nO)COOH;C2nO(C2nO)COOM;C2nCOOH;C2nCOOM;C2nCOOC2n+1;C2nCONHC2n+1;C2nCONH(C2n+1;C2nSOH;C2nSOM;C2nNH;C2nN(C2n+1;C2nNHC2nOH;C2nNHC2nNH;C2nN(C2nOH);C2nN(C2nNH;C2nNHCOC2n+1;C2nNHC2nCOC2nOH;C2nNHC2nCOC2nNH;C2nNHC2nCOC2nSH;C2nSH;C2nSC2n+1;C2nSC2nOH;C2nS(C2nO)H;C2nS(C2nO)2n+1;C2nS(C2nO)2nCOOH;C2nS(C2nO)2nCOOM;糖;ペプチド;およびアミノ酸からなる群から選択され;Mは任意の金属カチオンまたはNH であり;nは1~10の整数であり;yは1~10の整数であり;XはOH、NH、NHR、SH、O、またはSのいずれかである、方法もまた提供される。
【0175】
[00235]例示的実施形態によれば、出発材料はジアルコキシベンゼンであり、ハロゲン化物置換ステップの結果は、オルトキノン、パラキノン、またはそれらの組合せである。好ましくは、オルトキノンまたはパラキノンの1分子当たりのハロゲン化基の数は、1、2、3、または4である。例示的実施形態によれば、出発材料はジアルコキシナフタレンであり、ハロゲン化物置換ステップの結果は、オルトナフトキノン、パラナフトキノン、またはこれらの組合せである。好ましくは、オルトナフトキノンまたはパラナフトキノンの1分子当たりのハロゲン化基の数は、1または2である。好ましくは、ハロゲン化水素は、HCl、HBr、HI、およびそれらの組合せからなる群から選択される。好ましくは、酸化剤は、硝酸アンモニウムセリウム、ヨウ素、過酸化水素、超原子価ヨウ素、ヨードベンゼンジアセテート、臭素化合物、およびそれらの組合せからなる群から選択される。好ましくは、還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ酸カリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、トリクロロシラン、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0176】
[00236]溶液中に支持体を含むバイオセンサーを提供するステップであって、該支持体は、1つまたは複数の電極と、1つまたは複数の固定化プローブを有する生体分子界面層とを含み、該溶液は、キノン誘導体を含む、ステップ;生体分子分析物を該溶液に添加するステップ;1つまたは複数の電極を用いてキノン誘導体を電気化学的に反応させて、特定の量のHイオンおよび/または特定の量のOHイオンを生成するステップであって、1つまたは複数の電極近傍の溶液のpHが、生成されるHイオンの量および/またはOHイオンの量によって制御される、ステップ;バイオセンサーからシグナルを収集ステップであって、核剤とキノン誘導体との反応性が核剤とキノン誘導体の由来元である非置換キノンとの反応性と比較して低下している、ステップを含む方法もまた提供される。
【0177】
[00237]好ましくは、1つまたは複数の電極を使用してキノン誘導体を電気化学的に反応させる前の溶液のpHは、1~14である。好ましくは、1つまたは複数の電極を使用してキノン誘導体を電気化学的に反応させた後の溶液のpHは、1~14である。好ましくは、溶液は、1つまたは複数の求核剤を含有する。好ましくは、1つまたは複数の求核剤は、アミン、チオール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、およびそれらの組合せからなる群から選択される。例示的実施形態によれば、溶液は還元型キノン誘導体を含有し、キノン誘導体を電気化学的に反応させると、還元型キノン誘導体の電気化学的酸化反応が起こり、溶液のpHをより酸性にする。好ましくは、還元型キノン誘導体の濃度は、0~1Mである。例示的実施形態によれば、溶液は酸化キノン誘導体を含有し、キノン誘導体を電気化学的に反応させると、酸化キノン誘導体の電気化学的還元反応が起こり、溶液のpHをより塩基性にする。好ましくは、酸化キノン誘導体の濃度は、0~1Mである。好ましくは、溶液は、0~1Mである濃度で提供される1つまたは複数のバッファー成分を含有する。好ましくは、1つまたは複数のバッファー成分は、有機溶媒、電解質、生体試薬、生体分子、界面活性剤、およびそれらの組合せからなる群から選択される。例示的実施形態によれば、方法は、溶液のpHを測定することをさらに含む。好ましくは、pHは連続的に測定される。好ましくは、キノン誘導体は、特定の量の電流を供給することによって電気化学的に反応させる。好ましくは、pHは、特定の量の電流を供給する前に測定される。好ましくは、電流の量は、測定されたpHに基づいて選択される。
【0178】
[00238]本明細書において、キノンは、非置換キノンとして定義される。例えば、化学構造I~XIIは、R基の全てが水素である場合、キノンを表すことになる。キノン誘導体は、本明細書において、少なくとも1つの水素が置換基で置換されていることを除いて、キノンと構造的に類似している化合物として定義される。2つ以上の水素が置換基で置換されている場合、置換基の同一性は独立に選択され得るが、固有である必要はない。本発明のキノン誘導体は、その非置換の対応物と比較して、求核剤との反応性が低下しており、キノン誘導体を含有する生体バッファーのpHを電気化学的に調節することが可能である。
【0179】
[00239]3つ以上の電極および感知電極であり得るpH感知素子を用いて溶液のpHを制御する方法であって、2つ以上の電極間に電流が印加されていない間に溶液のpHおよび/または溶液中の2つ以上の電極の開路電位(OCP)を測定するステップと、測定したpHおよび/またはOCPに基づいて電流量を選択するステップと、選択した量の電流を溶液に与え、それにより電気化学的に生成または消費する少なくとも1つの水素イオンにより溶液のpHを変化させるステップとを含む方法もまた提供される。好ましくは、水素イオンの生成および/または消費は、溶液中の1つまたは複数の酸化還元活性種の電気化学的反応によって達成される。好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、キノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せからなる群から選択される。好ましくは、1つまたは複数の酸化還元活性種は、下記:ヒドロキノン、ベンゾキノン、ナフタキノン、それらの誘導体、およびそれらの組合せから選択されるキノンである。好ましくは、3つ以上の電極は、対電極、作用電極、および参照電極を含み、好ましくは、pH感知電極である。例示的実施形態によれば、感知電極は、作用電極としても機能するように構成される。好ましくは、3つ以上の電極はそれぞれ独立して、金属酸化物、金、ガラス状炭素、グラフェン、銀、白金、塩化銀、通常水素、水銀滴、飽和カロメル、およびこれらの組合せからなる群から選択される材料で作製されている。好ましくは、溶液は、バッファー溶液、非バッファー溶液、水溶液、有機溶液、またはそれらの混合物である。好ましくは、方法は、溶液中の2つ以上の電極の測定されたOCPに基づいて、溶液のpHを決定するステップをさらに含む。好ましくは、電気波形の選択は、決定されたpHに基づいて行われる。好ましくは、方法は、電気波形を選択するステップと、電気波形を溶液に供給するステップとをさらに含む。電気波形は、定電流波形または定電位波形のいずれかである。好ましくは、電気波形は、個々の電流量を個々の電気波形に対応付けた所定のマップから選択される。
【0180】
[00240]pH感知素子、対電極、参照電極、および作用電極を含む支持体と;電気化学的活性剤とを含むバイオセンサーであって、電気化学的活性剤の酸化還元状態の変化を制御するように構成されており、下記:溶液のpHおよび/またはOCPと目標pH値および/またはOCPとの間の差を最小限にするように、作用電極に印加される電流量を選択するステップと;選択された電流の量を作用電極に印加して溶液のpHおよび/またはOCPを調整するステップと;溶液のpHおよび/またはOCPを測定するステップとを繰り返し実施するように構成されている、バイオセンサーシステムもまた提供される。好ましくは、溶液は水溶液である。好ましくは、pH感知素子は、感知電極である。例示的実施形態によれば、感知電極は、作用電極としても機能することができる。例示的実施形態によれば、感知電極および作用電極は、別個の電極であり、感知電極と作用電極との間の距離は、0cm~1cmである。好ましくは、作用電極に印加される電流量は、電気波形を印加することによって提供される。電気波形は、定電流波形または定電位波形である。好ましくは、電気波形は、個々の電流量を個々の電気波形に対応付けた所定のマップから選択される。好ましくは、感知電極は、pH感受性コーティングで被覆されている。pH感受性コーティングは、有機材料または無機材料である。好ましくは、pH感受性コーティングは、ポリアニリン、ポリピロール、酸化イリジウム、およびそれらの組合せからなる群から選択される材料から作製される。
【0181】
[00241]また、感知素子、対電極、参照電極、および作用電極を使用して溶液のpHをモニターする方法であって、溶液の目標pH値に基づいて目標pH値および/または開回路電位(OCP)を選択するステップと、作用電極に電流が印加されていない間に、感知素子を使用してpHを決定するステップおよび/または参照電極と感知電極の間の溶液のOCPを特徴付けるステップと、下記:OCPおよび/または溶液のpHと目標OCPおよび/またはpHの間の差を最小限にするように、作用電極に印加する電流の量を選択する工程、選択した量の電流を作用電極に印加して、OCPおよび/または溶液のpHを調整する工程、ならびにOCPおよび/または溶液のpHを測定する工程を繰り返し実施するステップとを含む、方法が提供される。好ましくは、溶液は水溶液である。好ましくは、目標pH値は、電気化学デルタシグマ変調器を組み込んで設定される。目標pH値は、経時的に変化する、および/または異なる作用電極間で異なる可能性がある。より好ましくは、電気化学デルタシグマ変調器の出力シグナルは、目標pH値を生成するのに必要な電荷のデジタル表示を得るためにデジタルフィルタ処理される。好ましくは、目標pH値および/またはOCPは、上限および下限を伴う範囲である。より好ましくは、目標pH値は、単一の目標値である。例示的実施形態によれば、感知電極はまた、作用電極として機能することができる。例示的実施形態によれば、感知電極および作用電極は別個の電極であり、感知電極と作用電極の間の距離は、0cm~1cmである。好ましくは、作用電極に印加される電流の量は、電気波形を印加することによって得られる。電気波形は、定電流波形または定電位波形である。好ましくは、電気波形は、それぞれの電流量をそれぞれの電気波形に対応付けられる所定のマップから選択される。好ましくは、感知電極は、pH感受性コーティングでコーティングされている。pH感受性コーティングは、有機材料または無機材料である。好ましくは、pH感受性コーティングは、ポリアニリン、ポリピロール、酸化イリジウム、およびそれらの組合せからなる群から選択される材料で作製される。
【0182】
[00242]また、コントローラ、3つ以上の電極、pH感知素子、および1種または複数の酸化還元活性種を含有する溶液を含む、pHを制御するためのデバイスであって、下記:溶液中の2つ以上の電極間のpHおよび/または開回路電位(OCP)を測定して、測定されたpHおよび/またはOCPデータを生成するステップと、コントローラを使用して、目標pH値および/またはOCPデータと測定されたpHおよび/またはOCPデータの間の差に基づく電流の量または電位波形を選択するステップと、コントローラを使用して、選択された量の電流または選択された電位波形を、3つ以上の電極のうちの1つまたは複数を介して溶液に印加するステップとを繰り返し実施するように構成されている、デバイスが提供される。好ましくは、溶液は水溶液である。好ましくは、1種または複数の酸化還元活性種は、溶液に印加された電流または電位によって誘導される電気化学的反応により、水素イオンを生成または消費する。好ましくは、1種または複数の酸化還元活性種は、下記:キノン、カテコール、アミノフェノール、ヒドラジン、それらの誘導体、およびそれらの組合せから選択される。好ましくは、1種または複数の酸化還元活性種は、下記:ハイドロキノン、ベンゾキノン、ナフタキノン、それらの誘導体、およびそれらの組合せから選択されるキノンである。好ましくは、溶液は、バッファー溶液、非バッファー水溶液、有機溶液、またはそれらの混合物である。好ましくは、電位波形は、定電流波形または定電位波形である。より好ましくは、電位波形は、それぞれの電流量をそれぞれの電位波形にマッピングする所定のマップから選択される。好ましくは、3つ以上の電極は、参照電極、作用電極、および対電極を含み、pH感知素子は、感知電極である。3つ以上の電極は、金属酸化物、金、ガラス状炭素、グラフェン、銀、白金、塩化銀、通常水素、水銀滴、飽和カロメル、およびそれらの組合せからなる群から独立して選択される材料で作製される。例示的実施形態によれば、感知電極はまた、作用電極として機能することができる。好ましくは、感知電極は、pH感受性コーティングでコーティングされている。pH感受性コーティングは、有機材料または無機材料である。好ましくは、pH感受性コーティングは、ポリアニリン、ポリピロール、酸化イリジウム、およびそれらの組合せからなる群から選択される材料で作製される。
【0183】
[00243]本発明の一例示的実施形態による、溶液中に電気化学的活性剤を有する系の図が、図21に提示される。前述した系では、電気化学的活性剤は溶液中にあるのではなく、電極表面に付着していた。図21に示すように、図21の系は、アノード電極および溶液中の電気化学的活性剤を提供し得る。電極に電流を印加することにより、電気化学的活性剤が電気化学的酸化還元反応を起こし、電極近傍の溶液のpHがより酸性になる。電気化学的活性剤を電極表面に付着させるのではなく、溶液中に有することには、多くの利点がある。例えば、電気化学的活性剤の量が表面層の密度に制限されない場合、周囲の環境により大きな変化をもたらす可能性があり、それによってデバイスの容量が増加し、新しい電気化学的活性剤は、バルク溶液からの拡散によって電極表面に供給され得るため、サイクリング能力が与えられ、普遍的な電気化学的性質があらゆる種類の電極に適用され得、これは防汚試薬または生体分子の付着などの他の表面の化学的性質を妨げない。さらに、生体溶液中のpH生成のための電気化学的活性剤としてキノンを使用するために、生体溶液での使用要件を満たすようにキノンの構造を変更することができる。生体バッファーのpH調節に役立つためには、分子が下記の要件:電子刺激による電気化学的反応によるプロトンの放出または消費、十分な水溶性、還元および酸化ポテンシャルが、溶液中の水加水分解または他の酸化還元活性種の電位よりも低くあるべきであること、電子刺激がない(すなわち、自己酸化/還元がない)場合の溶液中での安定性、求核剤への反応性が低いこと、生体試料(例えば、タンパク質、ペプチド、細胞、DNA、および酵素)との適合性を満たす必要がある。
【0184】
[00244]図22は、本発明の例示的実施形態による、水溶液中のpH調節に使用され得るキノン誘導体を示す。
[00245]上記の説明は、実例であることを意図しており、限定的なものではない。当業者は、前述の説明から、本発明は種々の形態で実施され得ること、および様々な実施形態が単独でまたは組み合わされて実行され得ることを理解することができる。したがって、本発明の実施形態は、その特定の例に関連して説明されているが、図面、明細書、および添付文書を検討した場合、当業者に他の変更が明らかとなるので、本発明の実施形態および/または方法の真の範囲は、そのように限定されるべきではない。さらに、フローチャートに示されているステップを省略してもよく、かつ/または特定のステップ順序を変更してもよく、場合によっては、図示されている複数のステップを同時に実施してもよい。
【0185】
[00246]以下は、いかなる方法でも限定することを意図しない、特定の方法を説明する例である。これらの例は、一般的な知識から理解される説明の範囲内で変更されてもよい。
【実施例1】
【0186】
電極表面でのH+またはOH-イオンの電気化学生成
[00247]使用した電極材料:電極材料は、酸化インジウムスズであった。これは、水溶液中に非常に大きな電位窓を有する半導体電極表面である。
【0187】
[00248]Hイオンを生成するための種の電気酸化
電極表面でのアスコルビン酸の酸化によりHイオンが生成され、電極表面のpHがより酸性の状態に変化した:
AH→A+2H+2e
式中、AHは、アスコルビン酸(C)である(図5に示されるように)。アスコルビン酸が酸化する電極電位は、酸化インジウムスズ材料の場合、Ag/AgCl参照電極に対して0.5V未満であった(図7に示されるように)。この電位は、水溶液中の酸素発生反応に必要な電圧よりも低かった。より高い電極電位は(例えば、リン酸塩バッファーのみのITO電極では、>1Vである)、PEG層を損傷する可能性がある(図8に示されるように)。アスコルビン酸は、表面の化学的性質の電気化学的分解を防止するための犠牲種としても作用した。
【0188】
[00249]OH-イオンを生成するための種の電気還元
ベンゾキノン(C)をハイドロキノン(C)に還元すると、-0.1VでOHイオンを生成し得る。
BQ+2e+2HO→HQ+2OH
この還元反応により、電極インターフェースのpHが上昇した。
【0189】
[00250]上記の例では、生成されるHまたはOHイオンの量は、溶液中に存在する種の濃度(nM~mMの範囲)、印加電位(-2V~+2V)、波形の種類(様々な周波数およびデューティーサイクルでのパルス波、定波、のこぎり波、正弦波、矩形波)、および種の拡散(溶液中の添加物によって変化する可能性がある)に応じる。これらのパラメータを最適化して、マルチサイトアレイに存在する各作用電極で異なるpHを得ることができる。
【実施例2】
【0190】
酵素反応を使用するpH変化
[00251]オキシダーゼ、ウレアーゼ、またはデヒドロゲナーゼなどの酵素は、反応中に水素を消費または生成することが公知である。例えば:
β-d-グルコース+O→d-グルコース-δ-ラクトン+H
d-グルコース-δ-ラクトン+HO→d-グルコネート+H
グルコースオキシダーゼの存在下でグルコースを酸化すると、Hイオンが生成され、目的のタンパク質近傍のpHを変化させるために使用される。
【実施例3】
【0191】
生体分子インターフェース層における酵素と生体分子プローブとの共固定化
[00252]酵素は、タンパク質、反応物、触媒などと共に表面で共固定化される場合、それらが近接するため、酵素反応によって生成されるHは、タンパク質結合(例えば、抗原抗体結合および非特異的結合)、反応速度などに影響を与え得る局所的なpH変化を引き起こす。
【実施例4】
【0192】
磁性マイクロ/ナノ粒子への酵素の付着
[00253]タンパク質、反応物、触媒などは、電磁石上の固体表面のマイクロ/ナノキャビティに付着する。酵素は、溶液中の磁性マイクロ/ナノ粒子に別々に結合する。下部に製造/配置した電磁石を制御することにより、局所的なpH値を制御する。酵素反応は、対応する酵素基質を導入することによって引き起こされる(図6に示されるように)。また、電気化学的に活性な酵素を使用する。pH変化はキャビティに局在し、タンパク質の相互作用、反応速度などが調節される。
【実施例5】
【0193】
緑色蛍光タンパク質(GFP)による蛍光強度によってモニタリングされるpHの電気化学的調節
[00254]使用した電極材料:電極材料は、酸化インジウムスズであった。使用した蛍光タンパク質は、電極のアレイを含むガラス基板上に固定化されたGFPである。GFPをスポットとして適用し、各スポットは、1つの電極と重なる領域および電極と重ならない領域を覆う。
【0194】
[00255]ITO作用電極表面のpH変化は、0.1MのNaSOを含有する希リン酸塩バッファー(pH=7.4)中での酸化還元活性分子2-メチル-1,4-ジヒドロキノンの電流駆動酸化によってもたらされる。10秒間の誘導後、電流(50マイクロアンペア)を30秒間印加すると、GFP蛍光強度の変化によって観察されたように、溶液のpHが5.5に低下した。図10が、pH値を評価するための検量線として使用される。電流をオフにした後、pHは50秒以内に中性値に回復した(図11および12Bに示されるように)。
【実施例6】
【0195】
求核剤との反応の防止
[00256]パラベンゾキノンおよびオルトベンゾキノン(図22の化合物2、4、6、および9)は、環の二重結合(図22の構造2の位置2、3、5、および6、図22の構造4の位置3、4、5、および6、ならびに図22の構造6の位置2および3)で求核攻撃を受けやすい。これらの位置の一部または全てに置換基を導入することで、求核攻撃の問題を軽減できる。例えば、1,4-ベンゾキノン(図22の構造2、式中、R1、R2、R3、およびR4はHである)は、タンパク質のアミノ基とマイケル付加反応を起こす(Loomisら、Phytochemistry、5、423、(1966)および米国特許第6753312(B2)号)。一方、2,5-二置換1,4-ベンゾキノン(図21の構造2、式中、R1およびR3はHであり、R2およびR4はH以外の基である)は、タンパク質の存在下ではマイケル付加反応への感受性を示さず、生物学的バッファーでの使用のためにより好適である。図23は、ベンゾキノンの存在下でのタンパク質の安定性に対する置換の効果を示す。緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光強度は、リン酸塩バッファー生理食塩水中で3種類の異なるベンゾキノンと30分間インキュベーションした後に測定した(ベンゾキノンの濃度は0.5mMであった)。蛍光強度の差は、ベンゾキノンの様々な置換が、GFPの安定性に及ぼす多様な効果を示す。GFPの蛍光強度は、その構造的完全性を示している。蛍光強度の低下は通常、その三次構造の喪失(タンパク質の変性)を示す(Yin D.X.、Zhu L.、Schimke R.T.Anal.Biochem。1996、235:195~201)。図23に示すように、GFPは二置換ベンゾキノンと30分間インキュベーションした後もその蛍光強度の100%を保持するが、非置換ベンゾキノンおよび一置換ベンゾキノンとインキュベーションすると、それぞれ25%および7%の蛍光強度の低下を引き起こす。
【実施例7】
【0196】
水溶解度の調整
[00257]芳香族化合物の水溶解度は、水素結合に関与できる孤立電子対を有する荷電基または原子を導入することによって改善され得る。このような基は、例えば、-OH、-CHOH、-OCH、-COOH、-SOH、-NH、-NHCl、-ONaである。糖類、アミノ酸、およびペプチドはまた、キノンの水溶解度を向上させることができる。ポリエチレングリコールなどの合成高分子も同様に置換基として使用することができる。
【実施例8】
【0197】
酸化還元窓の調整
[00258]キノンの還元/酸化電位は、特定の用途の必要性に合わせて調整できる。電子供与基(例えば、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシ、メトキシメチル、モルホリノメチル、アミノ、およびクロロ置換基)を導入することによって、酸化還元電位をより高い電圧に押し上げることができる。反対に、電子吸引基(例えば、ニトロ、シアノ、カルボン酸、またはカルボン酸エステル基)は、酸化還元電位をより低い電圧に押し下げる。
【0198】
[00259]一例示的実施形態では、水溶液中のハイドロキノンの酸化の機構は、電子の移動およびプロトンの移動という2つのステップを含む。電子吸引置換基および電子供与置換基を導入することは、この工程の第1ステップに対処する。ハイドロキノンの酸化電位は、ハイドロキノンのヒドロキシル基と分子内水素結合を形成できる置換基を導入することによっても下げることができる。このような水素結合は、ヒドロキシル基の水素と酸素の間の結合を弱めるため、酸化反応に対する全体的なエネルギー障壁を低下させる。このようなR基の例は、CHOH、CHOCH、モルホリノメチル、およびCOOCHである。
【0199】
[00260]同一の機構で電気化学変換を受けるが電位が異なる分子を選択する能力を有することにより、様々なpH条件に対応でき、系内の他の酸化還元活性成分が関与する望ましくない電気化学的反応を回避できる。例えば、DNA合成を伴う用途の場合、電圧をピリミジン塩基、ヌクレオシド、およびヌクレオチドの還元電位未満に保つことが好ましい(pHが約8の水溶液中のNHEに対して1V)(Steenken、S.J Am Chem Soc、1992、114:4701~09)。
【0200】
[00261]ハイドロキノンの自己酸化は、考慮すべき別の問題である。一例示的実施形態では、酸化を回避するために、分子状酸素による自発的化学酸化に対して耐性がある、電気化学的酸化電位が十分に高いキノン誘導体を使用する。
【0201】
[00262]反対に、メルカプトエタノール、グルタチオン、およびジチオトレイトールなどの還元剤が溶液中に存在する系の場合には、還元電位が十分に低いベンゾキノンを選択するべきである。このような用途の例は、DNA合成、電気泳動、および免疫検定法である。
【0202】
[00263]キノンの酸化還元電位は、溶液のpHに影響される。ハイドロキノンをより塩基性のpHで酸化する方が容易であるが、より酸性のpHはより高い酸化電位を必要とする。これは、ひるがえって、空気中の酸素による自己酸化に対するハイドロキノンの安定性に影響を及ぼす。したがって、塩基性pHで作業する必要がある場合は、より高い酸化電位を有するキノンを使用すると電気化学的系の安定性が向上する。図24は、キノンの様々な置換基に様々な酸化電位があることを示しており(図24、A~D)、したがって、キノンの置換基を変更することによって酸化電位を調整できる。
【実施例9】
【0203】
置換キノンの合成
[00264]図25に示されるスキーム1は、本発明の一例示的実施形態による置換キノンの合成の図である。
【実施例10】
【0204】
2,5-ジメチル-1,4-ハイドロキノン
【0205】
【化3】
【0206】
[00265]ジチオン酸ナトリウム(18.7g、107.3mmol、7.3当量)を20mLのHOに溶解し、分離漏斗に投入した。次に、ベンゾキノン(2g、14.7mmol、1当量)の75mLジエチルエーテル溶液を添加した。二相混合体を30分間激しく撹拌し、有機層が橙色から淡黄色に変化した。有機相をブラインで洗浄し、MgSOで乾燥させ、濃縮して白色固体(1.69g、83%)を得た。
【実施例11】
【0207】
1,4-ビス(ブロモメチル)-2,5-ジメトキシベンゼン
【0208】
【化4】
【0209】
[00266]パラホルムアルデヒド(Aldrich、4.27g、144.75mmol)およびHBr/AcOH(Fluka、33%、30mL)を、1,4-ジメトキシベンゼン(Aldrich、10.00g、72.37mmol)の氷酢酸(Fisher、50mL)撹拌溶液にゆっくりと添加した。混合物を50℃で1時間撹拌し、室温に冷却させ、次いで水(200mL)で加水分解した。白色固体をろ過して回収し、CHCl(50mL)に懸濁して、10分間還流した。室温に冷却した後、白色固体を再びろ過して回収し、水(15.75g、67%)で洗浄した。得られた化合物の化学構造およびその純度を確認するために、実験的にNMRスペクトルを取得した。NMRの結果は以下の通りであった:1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ: 6.88 (s, 2H), 4.54 (s, 4H), 3.87 (s, 6H) ppm.
【実施例12】
【0210】
1,4-ジメトキシ-2,5-ジメトキシメチルベンゼン
【0211】
【化5】
【0212】
[00267]乾燥した丸底フラスコに、2,5-ジブロモメチル-1,4-ジメトキシ-ベンゼン(3g、9.26mmol、1.0当量)、無水KCO(25.6g、185mmol、20当量)、および乾燥メタノール(200mL)を充填した。反応混合物を30分間加熱して還流させ、次いで周囲温度に冷却し、ろ過して、濃縮して粗白色固体を得た。固体を水に再懸濁し、酢酸エチルで抽出し、MgSOで乾燥させて、濃縮した。残留物をヘキサン中で淡黄色粉末(1.2g、57%)として再結晶化した。保持係数(Rf)(50%EtOAc/ヘキサン)=0.65。
【実施例13】
【0213】
2,5-ジメトキシメチル-1,4-ベンゾキノン
【0214】
【化6】
【0215】
[00268]1,4-ジメトキシ-2,5-ジメトキシメチルベンゼン(1.2g、5.24mmol、1.0当量)のアセトニトリル(0.1M、52mL)溶液を、硝酸セリウムアンモニウム(5.8g、10.6mmol、2.02当量)の水(8mL)溶液で処理した。反応混合物をアルゴン下で、周囲温度で30分間撹拌し、次いで水で希釈して、ジクロロメタンで抽出した。結合した有機層を水で洗浄し、NaSOで乾燥させて、濃縮して橙色固体を得た。粗混合体を不活性化したシリカゲル(0~5%の酢酸エチル/ヘキサン)上でカラムクロマトグラフィーによって精製し、黄色結晶(300mg、67%)を得た。Rf(50%EtOAc/ヘキサン)=0.7;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ: ppm;UV-Vis=268nm。
【実施例14】
【0216】
2,5-ジメトキシメチル-1,4-ハイドロキノン
【0217】
【化7】
【0218】
[00269]2.5mLのEtOAc中の、実施例13の反応により得られたベンゾキノン(200mg、1.02mmol、1.0当量)を、ジチオン酸ナトリウム(1.3g、7.44mmol、7.3当量)の2mLのHO溶液で処理した。二相混合体を30分間激しく撹拌し、溶液が鮮黄色から淡黄色に変化した。混合物を水で希釈し、酢酸エチルで抽出し、MgSOで乾燥させ、濃縮して白色粉末(96mg、48%)を得た。
【実施例15】
【0219】
1,4-ジメトキシ-2,5-ジヒドロキシメチルベンゼン
【0220】
【化8】
【0221】
[00270]乾燥した丸底フラスコに、2,5-ジブロモメチル-1,4-ジメトキシ-ベンゼン(5g、15.4mmol、1.0当量)およびNaOH(77mLの1.0M溶液、77mmol、5.0当量)、12mLのH20、および38mLのTHFを充填した。反応混合物を密封し、80℃で6時間加熱した。冷却後、反応混合物を回転蒸発によって粗固体に濃縮し、ヘキサン中で白色粉末(3g、60%)に再結晶化した。Rf(80%EtOAc/ヘキサン)=0.2。
【実施例16】
【0222】
2,5-ジメトキシメチル-1,4-ベンゾキノン
【0223】
【化9】
【0224】
[00271]1,4-ジメトキシ-2,5-ジヒドロキシメチルベンゼン(1.0g、5.04mmol、1.0当量)のアセトニトリル(0.2M、25mL)溶液を、硝酸セリウムアンモニウム(5.5g、10.1mmol、2.0当量)の水(33mL)溶液で0℃で処理した。反応混合物をアルゴン下で、周囲温度で30分間撹拌し、次いでEtOAcで抽出した。結合した有機層を、NaSOで乾燥させ、濃縮して橙赤色固体を得た。粗混合体を不活性化した中性アルミナ(0~100%の酢酸エチル/ヘキサン)上でカラムクロマトグラフィーによって精製し、黄色結晶(300mg、67%)を得た。Rf(80%EtOAc/ヘキサン)=0.4;1H HMR (DMSO, 500 MHz): 6.6 (s, 2H), 5.3 (s, 2H), 4.3 (s, 4H), ppm; 13C NMR (DMSO, 125 MHz): 187.4, 149.1, 129.8, 57.0 ppm;UV-Vis=260nm。
【実施例17】
【0225】
2,5-ジヒドロキシメチル-1,4-ヒドロキノン
【0226】
【化10】
【0227】
[00272]0.6mLのEtOAc中の、実施例16の反応により得られたベンゾキノン(60mg、0.36mmol、1.0当量)を、ジチオン酸ナトリウム(453mg、2.6mmol、7.3当量)の0.7mLのHO溶液で処理した。二相混合体を30分間激しく撹拌し、溶液が鮮黄色から淡黄色に変化した。混合物を水で希釈し、酢酸エチルで抽出し、MgSOで乾燥させ、濃縮して粗固体を得て、不活性化した中性アルミナ上で、Ar下でカラムクロマトグラフィーによって精製し、白色粉末(26mg、30%)を得た。UV-Vis=297nm。
【実施例18】
【0228】
開ループ法
[00273]一例示的実施形態によれば、開ループpH制御と呼ばれる方法は、電流または電位成形(electric potential shaping)を使用して、電極近傍の溶液の所望のpHを維持することを含む。この方法は、系の電気化学成分の知識を使用しており、主な要素は、キノンの還元/酸化特性、溶液の開始pH、電極材料の電子移動係数、酸化還元分子濃度、塩濃度、ならびにバッファーの組成および濃度である。これらの全ての成分が、電気化学的反応が電極近傍のpHをどのように変化させるかに影響を与え得る。この知識を用い、実験データを組み込むことによって、一連のモデルを使用して波形を定義し、必要に応じてpHを変化させることができる。
【0229】
[00274]図26は、電極近傍の溶液のpHを、pH6.5で15分間にわたって保持するように設計された開ループ波形実験の結果を示す。ほぼ電流値3.12e-6と3.50e-6の間に伸びる段階状のトレースは、系に印加される電流(右軸)と相関する。ほぼ一直線のトレースは、電極表面近傍で観察されたpHと相関しており、これは、表面に結合した緑色蛍光タンパク質のpH依存性蛍光(左軸)を分析することによって測定される。
【0230】
[00275]図27は、溶液のpHの形成および制御に使用できる4つの異なる波形の例(A~E)を示す。黒色線は電流/電位駆動入力であり、灰色線は、得られた電極表面近傍の溶液のpH変化を経時的にプロットしたものである。
【0231】
[00276]系の関連する電気化学成分が一定のままである場合、これらの波形を使用して、複雑さを増すことなく、オンデマンドで溶液の同一のpH変化プロファイルを再現的に生成できる。この方法は、様々な電極系を使用して実行でき、例示的セットアップの概略図を図31、A~Bに示す。この方法には、最小限の2つの電極815、820が必要である。最初に、電極700近傍の溶液の開回路電位は、2つの電極815、820の間にゼロ電流を印加することによって測定することができる。この状態では、一方の電極が感知電極(SE)815として機能し、第2の電極が参照電極(RE)820として機能する。開始OCPがわかると、所望のpH変化に基づいて電流800(図31、A)または電位804(図31、B)が電極815、820に印加される。電流または電位が印加される間、一方の電極815は作用電極(WE)として機能し、第2の電極820は対電極(CE)として機能する。これは、系の状態を一定に保たなければならない点で最も単純なケースであるが、精度を向上させるためには、系の状態を継続的にフィードバックする方法が好ましい。
【実施例19】
【0232】
閉ループ法
[00277]別の例示的実施例によると、閉ループpH制御と呼ばれる方法は、開回路電位をフィードバック測定として使用して電流または電位を制御する。
【0233】
[00278]図29Aは、単一のOCP VTARGETを用いた閉ループフィードバック法を使用して感知電極(SE)上で制御されたOCPを示す。1つのセットアップ(図32に示される)では、系を駆動して電流源800から電流を印加し、SE817によって検出されたVin830が単一のOCP VTARGET値に達するまで、溶液700中のH濃度を増加させる。次いで、スイッチ802を使用して電流源800を遮断し、HイオンがSE817から拡散すると、溶液700中のH濃度が低下する。同様に、H濃度の低下がOCP VTARGET値に達するまで駆動するように系を設定でき、次いで、HイオンがSEに向かって拡散すると、H濃度が増加する(図示せず)。別のセットアップ(図33に示される)では、正の電流源800および負の電流源801を使用しているため、系はpHの変化を促進するために拡散に頼る必要がない。この系は、pHを正方向および負方向の両方で能動的に変化させることができる。このセットアップでは、系を駆動して電流源800から正電流を印加し、Vin830が単一のOCP VTARGET値に達するまでH濃度を増加させ、切り替えスイッチ803を使用して負電流源801を作用電極(WE)816に接続して負電流を印加し、セットアップを反対に駆動してH濃度を低下させる。このように、系は受動的拡散に頼らず、電子制御によってpHを能動的にモニタリングおよび調整する。
【0234】
[00279]図29Bは、SE817とRE822の間のOCPの実験データを示しており、このデータは、WE816に電流が印加されると変化する。このセットアップ(図32に示される)では、上限および下限目標は、コントローラ900を介してSE817のOCPの値にあらかじめ設定されている。フィードバックは、電位が下限を下回る場合、電流駆動pH変化を作動し、上限を超える場合、スイッチ802が電流を遮断する。データは、OCPが上限目標に達するまで上昇していることを示す。次いで、フィードバックがWE816をオフにすることにより、バルクからのバッファーが溶液700の局所pHを回復し始めると、OCPが低下する。OCPが下限目標に達すると、スイッチ802を使用して電流が再開され、OCPが再び増加する。このフィードバック機構により、溶液700の定義されたpHをWE816近傍に維持できる。別のセットアップ(図33に示される)では、フィードバックを作動してOCPを連続的に変化させることができるので、正の電流を印加して上限に達するまでOCPを能動的に増加させ、次いで反対に負の電流を印加して下限に達するまでOCPを能動的に減少させることができる。このように、系は受動的拡散に頼らず、電子制御によってpHを能動的にモニタリングおよび調整する。
【0235】
[00280]さらに、図30は、電流が印加された作用電極に隣接する感知電極で測定された開回路電位電圧の実験結果を示す。作用電極は、感知電極と共に閉ループフィードバック状態にある。感知電極によって検出された作用電極の開回路電位(OCP)は、作用電極近傍の溶液のpHに類似する。フィードバックは、感知電極の開回路電位が0.2V未満の場合にのみ、WEに電流を印加するように設定されている。次いで、フィードバックは0.19Vから0.2V(目標OCP)の間にとどめられ、作用電極の電位を0.19V未満でオンにし、0.2V超でオフにする。560秒の時間でのシフトは、バルク溶液を作用電極にピペッティングしたことによる乱れである。これにより、作用電極に印加される電流によって生成されたpH勾配が乱れ、溶液のpHが直ちにバルク溶液のpHに戻される。ピペッティングを停止した後、閉ループフィードバック系が目標OCPを回復し、次いで維持することができる。
【0236】
[00281]図32~47は、閉ループフィードバックセットアップの概略図を示し、感知電極(SE)816と参照電極(RE)822の間のOCPが、1つまたは複数のスイッチ802~803、806~810を介して電流源800~801または電位源804~805を調整するコントローラ900への入力として提供される。このようにして、系をオンおよびオフしてHイオンの電気化学生成/消費を増加または減少させ、バルク溶液からのバッファーイオンの拡散速度の増加または減少のバランスをとることができ、SE816とRE822の間の目標OCP(VTARGET)で定義された特定のpH値を達成することができる。
【実施例20】
【0237】
pH感受性コーティングの使用
[00282]閉ループpH制御法をさらに改善するために、作用電極および/または感知電極815、816、817にpH感受性コーティング840を添加することにより、改善されたpH感受性を組み込むことができる。このようなコーティングの例はPANIであり、PANIは、特別なpH感受性を有することが示されている。PANIは、水素イオンと相互作用してポリマーの伝導率を変化させる荷電基を含有する。pHの関数としてのPANIの応答は、pH検出のネルンスト限界(59mV/pH)に近い。PANIの開回路電位における変化は、Hだけでなく溶液中の他のイオンに感受性を持つ単なる裸電極表面とは異なり、Hイオンに対して非常に選択的である。図28は、pHの関数としての開回路電位(OCP)の応答を示しており、電極の表面がpH感受性PANIコーティングで覆われている。pHの関数としてのOCPの応答は、線の傾きによっておよそ60mV/pHであることが示され、これはネルンスト限界に近い。
【実施例21】
【0238】
デバイスの設計
[00283]図31は、開ループ法を利用したデバイス設計の例示的概略図を示す。A部では、制御された電流源を使用し、B部では制御された電圧源を使用する。
【0239】
[00284]閉ループ法と共に様々な設計を使用できる。図32、34、36、38、40、42、および44は、単一制御電流源800を用いた閉ループ法の様々な設計を示し、図33、35、37、39、41、43、および45~47は、二重制御電流源800、801を使用する代替設計を示す。閉ループ法はまた、PANIコーティング840を施された感知電極817を用いた設計で実行できる(図34、35、38~41、および44~47)。WEおよびSEを組み合わせて、感知電極および作用電極の両方として機能できる単一の電極815としてもよい(図36~39)。様々なスイッチ802~803、806~810を使用して、電流800~801および電圧源804~805を接続および切断する。図32、34、36、および38は、電流源800を接続および切断するための簡単なスイッチ802を示す。図40は、電圧源804を接続および切断するための類似のスイッチ806を示す。図33、44、46、および48は、正電流源800と負電流源801とを切り替えるための切り替えスイッチ803を示す。図42は、正電圧源804と負電圧源805とを切り替えるための類似の切り替えスイッチを示す。図42~45では、スイッチ808~810は、クロック位相Phi1およびPhi2と連動して動作する。スイッチ808および810は、クロック位相Phi1と連動して動作し、スイッチ809はPhi2と連動する。上記の各例では、フィードバックに基づいてコントローラ900によって制御される様々なスイッチにより、WE電位入力およびSE測定出力のさらなる制御レベルが可能となる。
【0240】
[00285]図46は、閉ループコントローラを有する系のアーキテクチャを概略的に示す。この系は、1つの目標値VTARGET907のみでpHを制御する。同一のアーキテクチャは、電流の代わりに電圧を使用してpHを調節する系を備えた電気化学セルに適用できる。一例示的実施形態では、コントローラは以下のように動作する。入力電圧(Vin)830を901でサンプリングし、902で目標電圧VTARGET907と比較し、その差を903で増幅してループフィルタ904で処理する。これをループフィルタの一部とすることもでき、例えばスイッチドキャパシタ増幅器またはスイッチドキャパシタループフィルタなどの様々な方法で実現することもできる。ループフィルタ904の一例は、比例部(P)、積分部(I)および微分部(D)を有するPIDコントローラである。ループフィルタ904の出力シグナルは、コンパレータ905によって固定閾値と比較される。コンパレータ905の出力は、正でも負でもよい。これは、デジタル表示と同等である。次いで、このデジタルシグナルは、フリップフロップまたはラッチのようにクロックモジュール906に保存される。一実施形態では、クロック908の周波数は、Hイオンの拡散時定数の逆数によって決定される周波数よりもはるかに高い。次いで、フリップフロップの出力シグナルは、WE816に正または負の単位電流を印加するかどうかを決定する。このスキームは、1つの電流源800のみを有する系、または電流源800、801の代わりに電圧源804、805を有する系にも適用することができる。この系は、「電気化学デルタシグマ変調器」として機能し、単位電流源の量子化誤差は、電気化学セルの伝達関数および電子ループフィルタ904の伝達関数によって「形成」され、クロックCLK908の周波数によって決定される広い周波数スペクトルにわたって分散される。図46に示すように、コンパレータの1ビット出力は、デジタルフィルタ909でフィルタ処理できる。これにより、pHを目標値に保つために系が電気化学セルに適用しなければならないものがデジタル表示される。
【0241】
[00286]アナログコントローラ、デジタルコントローラ、またはアナログおよびデジタルの両方のシグナル処理を使用するコントローラを使用できるという点で、コントローラアーキテクチャ設計には柔軟性がある。図47は、第2のコントローラアーキテクチャを示しており、図46との主な差異は、pHの目標値を設定する方法である。図46では、目標pH値は、アナログ電圧VTARGET907によって設定される。このVTARGET907は、デジタル-アナログ変換器(DAC)によって生成できる。図47では、入力電圧Vin830が、アナログ-デジタル変換器(ADC)911によってデジタル化され、次いで912でデジタル目標値910と比較される。前述のように、電子機器はHイオンの拡散時定数の逆数よりもはるかに高い周波数908でクロックされる。
【0242】
[00287]図47のコントローラは、特定の目標pH値を設定するために必要な電流または電圧を、閉ループ法を使用して「測定」するために使用され得る。この情報を使用して、系を特徴付け、開ループ系の刺激を導き出すことができる。これが非常に役立ち得る一例は、多数のサイトのアレイ構造であり、この構造では、1つのサイトが閉ループを使用して正しい値を「測定」するために使用され、次いでそれらの値は、開ループによって他の多くの「ミラーリング」サイトに適用される。
【0243】
[00288]図48A~48Dは、pH感知用の例示的な電極構成(ルーティングは図示せず)の図を示す。作用電極および感知電極の形状の図は、以下を含む:図48Aは、作用電極に隣接して配置された感知電極であり、図48Bは、作用電極内に配置された感知電極であり、図48Cは、単一の作用電極用の複数の感知電極であり、図48Dは、互いにかみ合った作用電極および感知電極である。PANI表面の組み込みは、閉ループpH制御の精度を向上させるのに有利である。pHをモニターするための感知電極を組み込む方法には、多くの様々なものがある。例えば、さらに別の代案では、能動的および受動的/測定ステップを切り替えることにより、作用電極および感知電極を同一にすることもできる。
【実施例22】
【0244】
pH調節
[00289]pH調節試薬、例えば、キノン誘導体、ヒドラジン誘導体、または水の可逆的な電気化学的酸化/還元は、局所領域での急速なpH変化が実証されている(Fominaら、Lab Chip 16、pp.2236~2244(2016))。pH調節の限界は、特定のpH調節試薬のpKaおよび酸化/還元電位、ならびにそれらの濃度に応じ得る。1mMリン酸塩バッファー中の酸化インジウムスズ電極での2,5-ジメチル-1,4-ハイドロキノンの酸化、および2,5-ジメチル-1,4-ベンゾキノンの還元によるオンデマンドpH調節をテストした。図53は、電極にアノード電流を印加する場合、プロトン生成がバッファー容量を上回り、溶液のpHがより酸性になり、逆もまた同様であることを示す。
【実施例23】
【0245】
多電極アレイの設計
[00290]図49は、フィードバック制御電極を含む多電極アレイの非限定的な図を示す。場合によっては制御ユニットへの接続に必要であり得る接続電極およびコンタクトパッドは、明瞭化するため図示していない。このスキームは、反応または可視化の複数のステップを実行する場合に特に役立つ。フィードバック制御セクションにおける各フィードバック制御セットは、独立したpH値、同一のpH値、またはそれらの組合せを目標とすることができる。
【0246】
[00291]図50は、フィードバック制御セクションおよびフィードバック非制御セクションを含有する単一デバイスの制御スキームの非限定的な図を示す。このスキームは、反応または可視化の複数のステップを実行する場合に特に役立つ。フィードバック制御セクションにおける各フィードバック制御セットは、独立したpH値、同一のpH値、またはそれらの組合せを目標とすることができる。各目標pH値用に、フィードバック非制御セクション中に、同一の目標pH値に割り当てられている1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットが存在し得る。フィードバック非制御電極セットの作用電極の形状およびサイズが、フィードバック制御電極セットの作用電極の形状およびサイズと類似している場合、フィードバック制御セクションから得られた電気的パラメータは、フィードバック非制御セクションの作用電極に直接適用され得る。
【0247】
[00292]図51は、フィードバック制御電極セットがフィードバック非制御電極セットの間に分散している非限定的な図を示す。各フィードバック制御電極セットは、独立したpH値、同一のpH値、またはそれらの組合せを目標とすることができる。各目標pH値用に、やはり同一の目標pH値に割り当てられている1つまたは複数のフィードバック非制御電極セットがある(pH結合)。この構成は、より簡単なデバイスアーキテクチャで同一レベルの制御またはより高いレベルの制御を得るのに役立つ可能性がある。場合によっては、この構成により、フィードバック制御電極セットがそれぞれのpH結合フィードバック非制御電極セットに囲まれている場合など、異なる目標pH値を有する隣接する作用電極からの感知電極への影響を最小限にすることができる。フィードバック制御電極セットの同一の目標pH値に割り当てられたフィードバック非制御電極セットは、同一の目標pH値に割り当てられたそれぞれのフィードバック制御電極セットに隣接して、および/または隣接せずに配置することができる。フィードバック制御電極セットは、同一の目標pH値に割り当てられたそれぞれのフィードバック非制御電極セットに対して一定のパターンで、および/またはランダムに配置されてもよい。場合によっては、フィードバック制御電極セットは、ランダムに配置されるか、または作用電極にわたって均一な溶液pHが得られるように設計された一定のパターンで配置される。場合によっては、フィードバック制御電極セットは、それぞれの作用電極で固有の溶液pHおよび/または固有の一連のpH変化を提供する点において、最大限の汎用性が得られるように設計された一定のパターンで配置される。場合によっては、フィードバック制御電極セットは、最大限のフィードバックを提供するか、または感知素子の集合体からのフィードバックを最小限にするように設計された一定のパターンで配置される。
【0248】
[00293]次の段落でさらに詳述するように、非限定的な実施例では、多電極アレイの設計は、pH結合電極セットの作用電極間の直接電気的結合によってpH結合されたpH結合電極セットを含有し、他の非限定的な実施例では、多電極アレイの設計は、プロセッサから同一の電気的パラメータを受け取るpH結合電極セットの各作用電極によってpH結合されたpH結合電極セットを含有し、他の非限定的な実施例では、多電極アレイの設計は、プロセッサから異なる電気的パラメータを受け取りながらも、同一の目標pH値を生成するように構成されたpH結合電極セットの各作用電極によってpH結合されたpH結合電極セットを含有する。
【0249】
[00294]直接電気的連結は、直接電気的連結経路においてプロセッサをバイパスする電気的連結でも、プロセッサを含まない電気的連結でもよい。場合によっては、電線を介した結合によって直接電気的結合が実現される。pH結合電極セットの作用電極が直接電気的に連結されている場合、場合によっては、フィードバック制御作用電極がプロセッサから電気的パラメータを取得し、フィードバック制御電極が直接電気的連結を介してフィードバック非制御作用電極に電気的パラメータを直接渡す。好ましくは、フィードバック非制御電極セットの作用電極の形状およびサイズは、フィードバック制御電極セットの作用電極の形状およびサイズと類似している。このようにして、pH結合電極セットの作用電極は、同一の電気的パラメータを受け取り、pH結合電極セットの作用電極を囲む溶液を同様の方法で変更することができる。
【0250】
[00295]pH結合電極セットの各作用電極がプロセッサから同一の電気的パラメータを受け取る場合、pH結合電極セットの作用電極は、好ましくは同一のサイズおよび/または形状を有し、これにより、pH結合電極セットの作用電極は、pH結合電極セットの作用電極を囲む溶液を同様の方法で変更する。場合によっては、プロセッサから電気的パラメータを受け取る場合、どのフィードバック非制御電極セットをどのフィードバック制御電極セットにpH結合するかの再割り当てを、容易に変更できる。
【0251】
[00296]pH結合電極セットの各作用電極が、プロセッサから電気的パラメータを受け取って同一の目標pH値を生成する場合、pH結合電極セットの作用電極は、互いに異なるサイズおよび/または形状を有することがある。このような場合、プロセッサは、(1)電気的パラメータをpH結合フィードバック制御電極セットの作用電極に提供して、pH結合フィードバック制御電極セットの作用電極を囲む溶液のpHを目標pH値に変更し、(2)異なるサイズおよび/または形状を有するpH結合フィードバック非制御電極セットの作用電極に変更された電気的パラメータを提供して、pH結合フィードバック非制御電極の作用電極を囲む溶液のpHを同一の目標pH値に変更することができる。場合によっては、変更された電気的パラメータは、pH結合フィードバック制御電極セットの作用電極に必要な電気的パラメータを、pH結合フィードバック非制御電極セットの作用電極に必要な電気的パラメータに相関付け、両方が同一の目標pH値を得るようにする所定の校正データに従って変更される。場合によっては、プロセッサから電気的パラメータを受け取る場合、どのフィードバック非制御電極セットをどのフィードバック制御電極セットにpH結合するかの再割り当てを、容易に変更できる。
【0252】
[00297]場合によっては、pH結合は、pH結合電極セットを含有するデバイスの同一使用中に、または使用の間に、経時的に変化する可能性がある。これは、デバイスが個々の作用電極それぞれに固有の一連のpH条件を提供して、各作用電極で固有の生成物を生成できるので、これらのpH結合電極を含有するデバイスを使用して、生成物ライブラリなどの少なくとも1つの生成物を同時に生成する場合に有利である。またこれは、感知電極の数を減らし、それに応じて本来必要である処理すべき感知素子の集合体からのフィードバックの量を減らすのに有利である。これは、pH結合電極セットを含有する同一のデバイスを、使用の間に複数の異なる目的で使用する場合にさらに有利であり得る。場合によっては、pH結合の変更は、スイッチのネットワークを介して、および/または各作用電極を個々に制御するプロセッサを介して制御される。場合によっては、pH結合および/またはpH結合の変更は、グラフィカルユーザーインターフェースからpH結合を選択することなどによってユーザー定義される。
【実施例24】
【0253】
閉ループ制御および設計
[00298]図52は、閉ループpH制御が、表面パターン化された電極でどのように機能するかを示す概略図の非限定的な図を示す。
【0254】
[00299]図54A~54Bは、外部対電極および参照電極を有する閉ループpH制御の非限定的な図(図54A)、ならびに表面パターン化されたオンチップ対電極および参照電極を有する閉ループpH制御の非限定的な例(図54B)を示す。
【0255】
[00300]図55A~54Dは、感知素子および作用電極、ならびに場合による他の構成要素の設計の非限定的な図を示す。図55Aおよび図55Bは、様々な用途に使用できるスライド設計を示す。場合によっては、クロストークまたは短絡を回避するために、感知素子は、作用電極から物理的に分離する必要がある。作用電極および感知素子が同一平面上にある必要がある場合は、作用電極と感知素子の間に1nmから100ミクロンまでの範囲の小さな間隙を使用できる(図55C)。別の可能な設計オプションは、多層スタックを構築することであり、絶縁薄層を感知素子と作用電極の間に配置できる(図55D)。対電極を作用電極の周囲にパターン化することもでき、これにより、拡散効果を最小限にすることができ、特に非バッファー溶液の場合、pH調節区域のより明確な形状でpHを制御するのに役立つことができる(図55E)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22-1】
図22-2】
図22-3】
図23
図24
図25-1】
図25-2】
図26
図27A
図27B
図27C
図27D
図27E
図28
図29
図30
図31A
図31B
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48A
図48B
図48C
図48D
図49
図50
図51
図52
図53
図54
図55
【国際調査報告】