(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】車両装置の操舵を制御する方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230914BHJP
B62D 9/00 20060101ALI20230914BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230914BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D9/00
B62D113:00
B62D101:00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511861
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(85)【翻訳文提出日】2023-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2020073631
(87)【国際公開番号】W WO2022042818
(87)【国際公開日】2022-03-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ビルカ,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィリアムソン,レベッカ
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA24
3D232DA61
3D232EB04
3D232EB11
3D232EC22
3D232FF05
3D232GG15
(57)【要約】
本開示は、車両装置の操舵を制御する方法に関する。この方法は、車輪速度差をもって個別に制御可能な電気機械を動作させることで得られる第1の電力利用値が、旋回操作中にパワーステアリングシステムで得られる第2の電力利用値以上であれば、個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方によって車輪速度差を与え、かつパワーステアリングシステムの動作能力を低下させることによって、旋回操作中に車両装置の操舵を制御している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両装置の操舵を制御する方法であって、前記車両装置は、前記車両装置の左側及び右側に配置された一対の操舵可能な車輪を操舵制御するパワーステアリングシステムを備え、前記操舵可能な車輪のそれぞれは、前記車両装置を推進するために個別に制御可能な電気機械を備え、前記方法は、
旋回操作中に前記車両装置を動作させるために必要な操舵角を決定するステップ(S1)と、
前記個別に制御可能な電気機械に関し、前記必要な操舵角を得るために必要な車輪速度差を決定するステップ(S2)と、
前記車輪速度差をもって前記個別に制御可能な電気機械を動作させることによって得られる前記車両装置の第1の電力利用値を決定するステップ(S3)と、
前記操舵角を得るために前記パワーステアリングシステムを動作させることによって得られる前記車両装置の第2の電力利用値を決定するステップ(S4)と、
前記第1の電力利用値と前記第2の電力利用値とを比較するステップ(S5)と、
前記第1の電力利用値が前記第2の電力利用値以上であれば、前記個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を使用して前記車輪速度差を与え、かつ前記パワーステアリングシステムの動作能力を低下させることで、前記旋回操作中に前記車両装置の操舵を制御するステップ(S6)と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記パワーステアリングシステムは、その動作能力を低下させるステップ中に非アクティブ化される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を制御することによって、前記必要な操舵角で前記旋回操作を行うことができるか否かを決定するステップと、
前記個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を使用して前記必要な操舵角で前記車両を動作させることができるとき、前記第1の電力利用値が前記第2の電力利用値よりも大きいと決定するステップと、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記個別に制御可能な電気機械が電源に電気的に接続され、
前記第1の電力利用値を決定するステップは、
前記電源の現在の充電状態レベルを示す信号を受信するステップと、
前記現在の充電状態レベルに基づいて、前記旋回操作中に前記個別に制御される電気機械の少なくとも一方によって回生される電力レベルを決定するステップと、
前記回生可能な電力レベルで少なくとも部分的に前記第1の電力利用値を決定するステップと、
を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記現在の充電状態レベルが所定の閾値レベルを下回っている場合、前記個別に制御される電気機械の少なくとも一方を動作させて電力を回生することによって、前記車両装置の操舵が制御される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記旋回操作中の減速度を示す信号を受信するステップと、
前記車両が前記旋回操作中に減速する場合、前記少なくとも一方の電気機械を動作させて電力を回生するステップと、
を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記個別に制御される電気機械の一方を動作させて電力を回生し、かつ前記個別に制御される電気機械の他方を動作させて前記旋回操作中に車輪速度を増加させることによって、前記車両の操舵が制御される、
請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記旋回操作中に前記車両装置を動作させるための所要の加速度レベルを決定するステップと、
前記操舵可能な車輪のそれぞれの車輪摩擦値であって、前記車輪と路面との間の摩擦値である車輪摩擦値を決定するステップと、
前記所要の加速度レベル及び前記車輪摩擦値に基づいて前記車輪速度差を制御するステップと、
を更に含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記所要の加速度レベルは、アクセルペダルの位置を示す入力信号に基づいて決定される、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記所要の加速度レベルは、所要の車速及び近付いている道路の曲線に基づいて決定される、
請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記旋回操作中の所要の車速を決定するステップと、
前記旋回操作中に前記車両を前記所要の車速で操舵するための車輪速度差を決定するステップと、
前記車輪速度差と前記個別に制御可能な電気機械によって得られる利用可能な最大車輪速度差とを比較するステップと、
前記個別に制御可能な電気機械によって車輪速度差を与え、かつ前記パワーステアリングシステムをアクティブ化することによって、前記旋回操作中に前記車両装置の操舵を制御して、所要の操舵半径及び車速を得るステップと、
を更に含む、請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記旋回操作中の前記車両装置の所要の減速度レベルを決定するステップと、
前記個別に制御可能な電気機械によって得ることができる利用可能な最大減速度レベルを決定するステップと、
前記利用可能な最大減速度レベルが前記所要の減速度レベルと比較して小さければ、前記旋回操作中に前記車両装置のサービスブレーキをかけるステップと、
を更に含む、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記車速が所定の速度閾値レベルを上回っていれば、前記個別に制御可能な電気機械によって前記車輪速度差を与え、かつ前記パワーステアリングシステムの動作能力を低下させるによって、前記車両装置の操舵が制御される、
請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記パワーステアリングシステムは、油圧制御式のステアリングシステム、空気圧制御式のステアリングシステム、又はステアバイワイヤステアリングシステムの1つである、
請求項1~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
車両装置の左側及び右側に配置された一対の操舵可能な車輪と、前記一対の操舵可能な車輪の操舵制御のためのパワーステアリングシステムと、を備えた車両装置に接続された制御ユニットであって、前記操舵可能な車輪のそれぞれは、前記車両装置を推進するために個別に制御可能な電気機械を備え、前記制御ユニットは、前記一対の操舵可能な車輪及び前記パワーステアリングシステムに電気的に接続可能であって、前制御ユニットは、
旋回操作中に前記車両装置を動作させるために必要な操舵角を決定し、
前記個別に制御可能な電気機械に関し、前記必要な操舵角を得るために必要な車輪速度差を決定し、
前記車輪速度差をもって前記個別に制御可能な電気機械を動作させて得られる前記車両装置の第1の電力利用値を決定し、
前記操舵角を得るために前記パワーステアリングシステムを動作させて得られる前記車両装置の第2の電力利用値を決定するステップと、
前記第1の電力利用値と前記第2の電力利用値とを比較して、前記第1の電力利用値が前記第2の電力利用値以上であれば、前記個別に制御可能な電気機械に前記車輪速度差を与えることを示す制御信号を送信し、前記パワーステアリングシステムに制御信号を送信して前記パワーステアリングシステムの動作能力を低下させるように構成された、
制御ユニット。
【請求項16】
プログラムがコンピュータで実行されたとき、請求項1~14のいずれか1つに記載のステップを実行するプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム。
【請求項17】
プログラム手段がコンピュータで実行されたとき、請求項1~14のいずれか1つに記載のステップを実行するプログラム手段を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両装置(a vehicle arrangement)の操舵を制御する方法に関する。本開示はまた、そのような車両装置に接続可能な制御ユニットに関する。この方法及び制御ユニットは、車両、好ましくは電気車両、より好ましくは電気式フロントアクスル推進車両に適用可能である。電気機械はまた、例えば、操舵プッシャー又はタグアクスルに配置することができる。電気機械を使用したトラックについてこの方法及び制御ユニットを主に説明するが、他のタイプの車両にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
車両分野、特に一般的にトラックと呼ばれる小型車両、中型車両及び大型車両において、車両の様々な制御機能に関して継続的な開発が行われている。特に、制御機能は、車両のドライバビリティ、ドライバーの快適性、及び操作中の安全性を向上させることを目的としている。
【0003】
一般的に常に改善されている1つの制御機能は、車両の操舵である。この特定の技術分野では、自律ステアリングシステム、ステアバイワイヤシステムなどに関して継続的な開発が行われている。特に、これらのタイプのステアリングシステムは、車両を制御して所要の道路湾曲部を追従させるという問題に絶えず取り組んでいる。自律ステアリングシステムは、例えば、車両の前方に検知された湾曲部にその操舵の基礎を置いている。ステアバイワイヤシステムは、人間のオペレータ又は自律機能のいずれかからの入力にその操舵の基礎を置いている。
【0004】
特定の問題の1つは、一部のステアリング動作システムに関し、車両の消費電力が比較的高いということである。他の問題は、ステアリングシステムの故障により、ステアリングシステムが意図した通りに機能しないため、例えば、車両衝突による交通事故のリスクが高まることである。
【0005】
従って、車両の操舵動作を更に改善してエネルギー消費を低減するとともに、操舵の冗長性を改善することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、上述した不具合を少なくとも部分的に克服する方法を説明することである。これは、請求項1に記載の方法によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様によれば、車両装置の操舵を制御する方法が提供される。車両装置は、車両装置の左側及び右側に配置された一対の操舵可能な車輪を操舵制御するパワーステアリングシステムを備えている。それぞれの操舵可能な車輪は、車両装置を推進させるために個別に制御可能な電気機械を備えている。この方法は、旋回操作中に車両装置を動作させるために必要な操舵角を決定するステップと、個別に制御可能な電気機械に関し、必要な操舵角を得るために必要な車輪速度差(a differential wheel speed)を決定するステップと、車輪速度差をもって個別に制御可能な電気機械を動作させることによって得られる車両装置の第1の電力利用値(a first power utilization value)を決定するステップと、操舵角を得るためにパワーステアリングシステムを動作させることによって得られる車両装置の第2の電力利用値(a second power utilization value)を決定するステップと、第1の電力利用値と第2の電力利用値とを比較するステップと、第1の電力利用値が第2の電力利用値以上であれば、個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を使用して車輪速度差を与え、かつパワーステアリングシステムの動作能力を低下させることによって、旋回操作中に車両装置の操舵を制御するステップと、を含んでいる。
【0008】
「車両装置」という用語は、操舵可能な車輪を有する完全な車両の任意の一部であると解釈すべきである。従って、車両装置は、例えば、車両のキャブ(そのようなキャブがある場合)を含む牽引車両、被牽引車両、及び/又は操舵可能な車輪を備えたドーリーに関連付けることができる。このため、操舵可能な車輪は、例えば、操舵可能なフロントアクスルに配置することができる。操舵可能な車輪はまた、車両のいわゆるプッシャーアクスルやタグアクスルに配置することもできる。しかしながら、本開示の車両装置は、操舵可能な機械的なアクスルをまったく使用する必要がなく、個別に制御可能な電気機械が、機械的なアクスル/シャフトを使用せずに操舵可能な車輪に結合できることを容易に理解すべきである。
【0009】
パワーステアリングシステムは、操舵可能な車輪を転舵させるように配置された、車両のステアリングシステムとして解釈されるべきである。以下でも説明するように、パワーステアリングシステムは、油圧制御式のステアリングシステム、空気圧制御式のステアリングシステム、又はステアバイワイヤステアリングシステムであってもよい。従って、パワーステアリングシステムは、車両のオペレータ、即ち、車両のドライバーによって制御されるか、又は自律制御によって制御することができる。
【0010】
また、個別に制御可能な電気機械の車輪速度差は、個別に制御可能な電気機械の一方が個別に制御可能な電気機械の他方と比較して異なる速度で動作することであると解釈すべきである。車輪速度差は、速度制御及び/又はトルク制御に基づいて得ることができる。車輪速度差は、個別に制御可能な電気機械の計算された/決定された車輪トルク差であるか、又は一対の車輪間の車輪スリップの差であってもよい。また、車輪速度差は、一方の車輪のみを制御することによって、又は両方の車輪を制御することによって得ることができる。これについては、詳細な説明に関連して以下でより詳細に説明する。従って、個別に制御可能な電気機械を異なる速度で動作させると、車両は旋回操作を行うようになる。
【0011】
さらにまた、「電力利用値」という用語は、旋回操作中に車両が必要とする全電力に対する利用率であると解釈すべきである。従って、より高い電力利用は、より低いエネルギー消費に対応する。個別に制御可能な電気機械によって車両の操舵を制御する場合、パワーステアリングシステムの動作能力を低下させると、パワーステアリングシステムに関連付けられた様々な機能を休止させることができる。これによって、エネルギー消費を低減することができ、第1の電力利用値を高めることができる。第1の電力利用値を高めるための様々な代替案、並びに第1の電力利用値が第2の電力利用値よりも大きいことを決定する実施形態について以下説明する。
【0012】
「パワーステアリングシステムの動作能力を低下させる」という用語は、パワーステアリングシステムが車両の操舵に大きく貢献するのではなく、その代わりに個別に制御可能な電気機械の動作によって主に処理されることであると解釈すべきである。例示的な実施形態によれば、パワーステアリングシステムは、その動作能力を低下させるステップ中に非アクティブ化することができる。これによって、パワーステアリングシステムが完全に休止する。
【0013】
また、個別に制御可能な電気機械は、車両を推進させるための電動モータとして、又は電力を生み出す発電機としてそれぞれ動作できると容易に理解されるべきである。電気機械が個別に制御されるので、車両の走行モードは、電気機械の一方を電動モータとして動作させる一方、電気機械の他方を発電機として動作させることができる。
【0014】
上述した方法の利点は、車両装置の操舵機能の改善された冗長性が達成されることである。詳細には、この方法は、三重の冗長性を可能にする。即ち、パワーステアリングシステム、個別に制御可能な電気機械の一方、又は個別に制御可能な電気機械の両方によって操舵を制御することができる。従って、個別に制御可能な電気機械、並びにパワーステアリングシステムの1つが故障しても、適切な操舵を行うことができる。
【0015】
さらなる利点は、車両装置の操舵が最もエネルギー効率のよい方法で動作することである。本開示の発明者らは、第1の電力利用値と第2の電力利用値とを比較することで、エネルギー/電力消費の全体的な削減が達成されることを認識した。発明者らはまた、個別に制御可能な電気機械を使用して操舵を制御するとき、例えば、パワーステアリングシステムと関連付けられた油圧システム、空気圧システムなどの様々な制御機能を少なくとも部分的に非アクティブ化できることを思いがけなく認識した。これによって、車両装置の操舵は、個別に制御可能な電気機械を使用してより広範囲に制御され、パワーステアリングシステムを使用する頻度を少なくすることができる。
【0016】
例示的な実施形態によれば、この方法は、個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を制御することで、車両が必要な操舵角で旋回操作を行うことができるか否かを決定するステップと、個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を使用して必要な操舵角で車両を動作できるとき、第1の電力利用値が第2の電力利用値よりも大きいと決定するステップと、を更に含んでいる。
【0017】
大部分の動作シナリオでは、パワーステアリングシステムを使用した動作と比較して、個別に制御される電気機械の動作によって操舵を制御する方が有利であることが認識された。従って、この例示的な実施形態では、個別に制御される電気機械のみを使用して道路湾曲部に対処できるとき、第1の電力利用値が第2の電力利用値よりも大きいと決定される。
【0018】
例示的な実施形態によれば、個別に制御可能な電気機械は、電源に電気的に接続することができる。第1の電力利用値を決定するステップは、電源の現在の充電状態レベルを示す信号を受信するステップと、現在の充電状態レベルに基づいて、旋回操作中に個別に制御される電気機械の少なくとも一方によって回生可能な電力レベルを決定するステップと、回生可能な電力レベルで少なくとも部分的に第1の電力利用値を決定するステップと、含んでいる。
【0019】
電源は、例えば、バッテリーであってもよい。車両を動作させるときに電力を回生することによって、電力利用が低下していると決定することができる。従って、電力が回生されるにつれて、車両装置の全体的なエネルギー消費が減少する。このため、電力回生は、エネルギー消費の低減、即ち、第1の電力利用値の増加に寄与するパラメータとすることができる。
【0020】
例示的な実施形態によれば、現在の充電状態レベルが所定の閾値レベルを下回る場合、個別に制御される電気機械の少なくとも一方を動作させて電力を回生することによって、車両装置の操舵を制御することができる。従って、これによって、電源を電力によって充電することができる。
【0021】
例示的な実施形態によれば、この方法は、旋回操作中に減速度を示す信号を受信するステップと、旋回操作中に車両が減速するときに電気機械の少なくとも一方を動作させて電力を回生するステップと、を更に含んでいてもよい。
【0022】
従って、減速度レベルは、旋回操作中に電力回生レベルに設定することができる。次に、電力回生レベルは、第1の電力利用値を決定するパラメータとして使用することができる。一般的に、電力回生レベルが増加すると、電力利用値が増加する。
【0023】
例示的な実施形態によれば、個別に制御される電気機械の一方を動作させて電力を回生し、かつ個別に制御される電気機械の他方を動作させて旋回操作中の車輪速度を増加させることによって、車両の操舵を制御することができる。これによって、旋回操作中に、電気機械によって推進されるだけでなく、他の電気機械で電力を回生するように車両を制御することができる。
【0024】
例示的な実施形態によれば、この方法は、旋回操作中に車両装置を動作させるために所要の加速度レベルを決定するステップと、操舵可能な車輪のそれぞれの車輪摩擦値、及び車輪と路面との間の摩擦値である車輪摩擦値を決定するステップと、所要の加速度レベル及び車輪摩擦値に基づいて車輪速度差を制御するステップと、を更に含んでいてもよい。
【0025】
車輪と路面との間の車輪摩擦値は、例えば、車輪制動システムなどに関連して配置されたセンサ又は同様な装置によって決定することができる。従って、車輪摩擦値は、望ましくは、旋回操作中に個別に制御される電気機械を動作させるときの操舵能力を決定するために使用されるパラメータである。
【0026】
特に、それぞれの車輪の電気機械トルクを推定することによって、車輪摩擦値を推定することができる。これによって、車輪力を決定することができる。車輪速度及び車速を推定することによって、車輪スリップを決定することができる。そして、車輪スリップ及び車輪力を使用して、摩擦レベルを決定することができる。
【0027】
代替案として、車輪スリップを制限値に設定することができ、これによって、摩擦レベルを決定する必要がなくなる。そのような場合、所定のスリップレベルを超えるスリップ値を生成しないように、印加トルクが設定される。
【0028】
例示的な実施形態によれば、所要の加速度レベルは、アクセルペダルの位置を示す入力信号に基づいて決定することができる。しかしながら、他の例示的な実施形態によれば、所要の加速度レベルは、所要の車速及び近付いている道路経路に基づいて決定することができる。
【0029】
例示的な実施形態によれば、この方法は、旋回操作中の所要の車速を決定するステップと、旋回操作中に所要の車速で車両を操舵するための車輪速度差を決定するステップと、車輪速度差と個別に制御可能な電気機械によって得られる利用可能な最大車輪速度差とを比較するステップと、個別に制御可能な電気機械によって車輪速度差を与え、かつパワーステアリングシステムをアクティブ化することによって、旋回操作中に車両装置の操舵を制御して所要の操舵半径及び車速を得るステップと、を更に含んでいてもよい。
【0030】
これによって、個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方、並びにパワーステアリングシステムを動作させることによって、旋回操作を制御することができる。この走行シナリオは、個別に制御可能な電気機械だけでは車両を湾曲部で意図する通りに動作させることができない動作状態にとって有益である。
【0031】
例示的な実施形態によれば、この方法は、旋回操作中の車両装置の所要の減速度レベルを決定するステップと、個別に制御可能な電気機械によって得られる利用可能な最大減速度レベルを決定するステップと、利用可能な最大減速度レベルが所要の減速度レベルと比較して小さい場合、旋回操作中に車両装置のサービスブレーキをかけるステップと、を更に含んでいてもよい。
【0032】
従って、個別に制御可能な電気機械が制動支援なしで車速を十分減速できないと決定された場合、旋回操作中にサービスブレーキを使用することによって、システムのさらなる冗長化となる。この走行シナリオはまた、電源の充電状態レベルが所定の閾値レベルを超えている場合にも有益となることができる。
【0033】
例示的な実施形態によれば、車速が所定の速度閾値レベルを超えている場合、個別に制御可能な電気機械によって車輪速度差を与え、かつパワーステアリングシステムの動作能力を低下させることによって、車両装置の操舵を制御することができる。従って、車速は、第1の電力利用値が第2の電力利用値よりも大きいと決定するためのパラメータとして使用することができる。
【0034】
例示的な実施形態によれば、パワーステアリングシステムは、油圧制御式のステアリングシステム、空気圧制御式のステアリングシステム、又はステアバイワイヤステアリングシステムの1つとすることができる。
【0035】
第2の態様によれば、車両装置の左側及び右側に配置された一対の操舵可能な車輪と、一対の操舵可能な車輪を操舵制御するパワーステアリングシステムと、を備えた車両装置に接続可能な制御ユニットが提供される。それぞれの操舵可能な車輪は、車両装置を推進させるために個別に制御可能な電気機械を備えている。制御ユニットは、一対の操舵可能な車輪及びパワーステアリングシステムに電気的に接続されている。この制御ユニットは、旋回操作中に車両装置を動作させるために必要な操舵角を決定し、個別に制御可能な電気機械に関し、必要な操舵角を得るために必要な車輪速度差を決定し、車輪速度差をもって個別に制御可能な電気機械を動作させることによって得られる車両装置の第1の電力利用値を決定し、操舵角を得るためにパワーステアリングシステムを動作させることによって得られる車両装置の第2の電力利用値を決定し、第1の電力利用値と第2の電力利用値とを比較し、第1の電力利用値が第2の電力利用値以上であれば、個別に制御可能な電気機械に対して、車輪速度差を与えることを示す制御信号を送信するとともに、パワーステアリングシステムに制御信号を送信してその動作能力を低下させるように構成されている。
【0036】
制御ユニットは、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ、又は他のプログラマブルデバイスを含んでいてもよい。制御ユニットはまた、又はその代わりに、特定用途向け集積回路、プログラマブルゲートアレイ若しくはプログラマブルアレイロジック、プログラマブルロジックデバイス、又はデジタルシグナルプロセッサを含んでいてもよい。制御ユニットが上述したマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、又はプログラマブルデジタルシグナルプロセッサなどのプログラマブルデバイスを含む場合、プロセッサは、プログラマブルデバイスの動作を制御するコンピュータ実行可能コードを更に含んでいてもよい。
【0037】
第2の態様の効果及び特徴は、第1の態様に関連して上述したものと大部分類似している。従って、第1の態様のそれぞれの実施形態は、第2の態様の特徴と組み合わせることができる。
【0038】
第3の態様によれば、プログラムがコンピュータで実行されたとき、第1の態様に関連して上述した実施形態の任意の1つのステップを実行するプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムが提供される。
【0039】
第4の態様によれば、プログラム手段がコンピュータで実行されたとき、第1の態様に関連して上述した実施形態の任意の1つのステップを実行するプログラム手段を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体が提供される。
【0040】
第3及び第4の態様の効果及び特徴は、第1の態様に関連して上述したものと大部分類似している。
【0041】
添付の特許請求の範囲、及び以下の説明を検討すれば、さらなる特徴及び利点が明らかになるであろう。当業者であれば、本開示の範囲から逸脱することなく、異なる特徴を組み合わせて、以下に説明される実施形態以外の実施形態を生み出せることを理解するであろう。
【0042】
上述、並びに追加の目的、特徴及び利点は、以下の例示的かつ非限定的な例示的な実施形態の詳細な説明を通してより理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】トラックの形態をとる車両の例示的な実施形態を示す側面図である。
【
図2】例示的な実施形態による、旋回操作を受ける
図1の車両を上方から示す概略図である。
【
図3】道路の湾曲部に進入する前の
図1の車両を示す図である。
【
図4a】例示的な実施形態による、操舵可能な前輪の1つを示す異なる図である。
【
図4b】例示的な実施形態による、操舵可能な前輪の1つを示す異なる図である。
【
図4c】例示的な実施形態による、操舵可能な前輪の1つを示す異なる図である。
【
図5】例示的な実施形態による、ステアリングシステムの概略図である。
【
図6】例示的な実施形態による、ステアリングシステムを制御する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
ここで、例示的な実施形態が示されている添付の図面を参照し、以下、本開示をより完全に説明する。しかしながら、本開示は、多くの異なる形態で具現化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、徹底性及び完全性のために提供される。説明の全体を通して、同様な符号は同様な要素を指している。
【0045】
特に
図1を参照すると、トラックの形態をとる車両1が示されている。車両1は、制御ユニット20と、ステアリングシステム500と、を備えている。しかしながら、ステアリングシステム500は、制御ユニットとして配置されていてもよいことを理解されたい。従って、そのような場合には、分離されていない制御ユニット20は不必要である。車両1は、車両のフロントアクスル102の左側及び右側に夫々配置された一対の操舵可能な車輪104,106を備えている。従って、フロントアクスル102は、車両1の最前部に位置するアクスルである。
図1に示す車両1はまた、第1のリヤアクスル112に結合された一対の第1の後輪108,110と、第2のリヤアクスル118に結合された一対の第2の後輪114,116と、を備えている。第1のリヤアクスル112は、車両1の前後方向に見て、第2のリヤアクスル118の前方に配置されている。
図2を参照して後述するように、一対の第1の後輪108,110、及び/又は一対の第2の後輪114,116はまた、操舵可能な車輪として配置することができる。また、図示するように、車両1は、パワーステアリングシステム30を備えている。パワーステアリングシステム30は、操舵可能な車輪を操舵制御する冗長ステアリングシステムとして配置されていることが望ましい。
図1は、ステアリングホイールを含むパワーステアリングシステム30を示しているが、その代わりに、パワーステアリングシステム30は、ステアバイワイヤシステムなどの一部を形成していてもよい。
【0046】
車両1をより詳細に説明するために、
図2及び
図3を参照する。詳細には、
図2は、旋回操作中に車両1及びその車輪に作用する力の例示的な実施形態を示し、
図3は、旋回操作を開始する前、即ち、道路湾曲部に到達する前の車両1を示している。
【0047】
図2から始めると、例示的な実施形態による旋回操作を受ける、上方から見た
図1の車両1の概略図を示している。従って、一対の操舵可能な車輪104,106は、転舵して操舵角δになっている。操舵角δは、
図2において、左側の操舵可能な車輪104及び右側の操舵可能な車輪106が同一に示されている簡略化されたものであって、車両1の前後軸に対する車輪の角度である。車両は、vで示される車速で動作されている。操舵可能な車輪104,106はまた、個別に制御可能な電気機械103,106を夫々備えている。上述したように、一対の第1の後輪108,110、及び/又は一対の第2の後輪114,116はまた、操舵可能な車輪として配置されていてもよい。
図2において、一対の第2の後輪114,116は、操舵可能に図示されており、これによって、個別に制御可能な電気機械103,105を夫々備えている。従って、第1のリヤアクスル112は、操舵可能なプッシャーアクスルとして配置することができ、第2のリヤアクスル118は、操舵可能なタグアクスルとして配置することができる。しかしながら、簡単にするため、以下では操舵可能な前輪を使用した操舵についてのみ説明する。また、
図2では、パワーステアリングシステムは、電動パワーステアリングシステム1000として示されている。
【0048】
図2にも示されているように、個別に制御可能な電気機械103,105は、電力を受けるために電源200に接続されている。電源200はまた、個別に制御可能な電気機械103,105に電力を伝達するように配置されている。このため、電源200は、車両のバッテリーとして配置されることが望ましい。従って、個別に制御可能な電気機械103,105は、車両1を推進するとともに、以下でさらに詳細に説明するように、車両1の操舵を制御するように配置されている。
【0049】
車両1は、上述したように、フロントアクスル102に配置された一対の操舵可能な車輪104,106と、第1のリヤアクスル112に結合された一対の第1の後輪108,110と、第2のリヤアクスル118に結合された一対の第2の後輪114,116と、を備えている。フロントアクスル102は、車両の重心202から距離l1離れた部位に配置され、第1のリヤアクスル112は、車両の重心202から距離l2離れた部位に配置され、第2のリヤアクスル118は、車両の重心202から距離l3離れた部位に配置されている。重心202は、車両が旋回操作中にその周りを回転する車両1の位置である。重心202はまた、車両1に影響を与える総合力(total global forces)を表すことができる車両1の位置でもある。以下において、x軸は車両1の前後方向に延びる軸であり、y軸は車両1の左右方向に延び、z軸は車両1の上下方向に延びている。旋回操作中、車両1の重心202にはトルクMzが作用する。また、車両には、グローバル縦力Fx及びグローバル横力Fyが作用している。
【0050】
また、フロントアクスル102の操舵可能な車輪104,106が操舵角δになると、左側の操舵可能な車輪104には縦力Fx、104及び横力Fy,104が作用する一方、右側の操舵可能な車輪106には、縦力Fx,106及び横力Fy,106が作用する。左側及び右側の操舵可能な車輪104,106の横力の合計は、前輪の横力として表すことができる。例えば、車両を推進するか、又は車両を制動するときに前輪の縦力の合計が増加/減少する一方、前輪の力の差を使用して操舵角を制御することができる。操舵角δは、個別に制御される電気機械の一方を制御するか、又は個別に制御される電気機械の両方を制御して車輪速度差を得ることで得ることができる。
【0051】
さらに、一対の第1の後輪108,110には、横力F
y,108及びF
y,110が夫々作用し、一対の第2の後輪114,116には、横力F
y,114及びF
y,116が夫々作用する。
図2の例示的な実施形態では、一対の第1の後輪108,110及び一対の第2の後輪114,116の縦力は0に設定、即ち、それぞれの車輪が推進又は制動を受けていない。
【0052】
ここで、道路の湾曲部302に進入する前の車両、即ち、旋回操作が行われる前の車両を示す
図3を参照する。
図3から理解できるように、車両1は、現在、車速vで真っ直ぐ前方に走行している。従って、湾曲部302に進入する前には、操舵角δは0である。湾曲部はr
roadで示す半径を有している。これによって、車両は、適切なセンサによって前方の道路の湾曲部を検知することができる。例示的な実施形態によれば、車両は、前方の道路、即ち、近付いている旋回操作を検知するように配置された経路コントローラ(
図5参照)を備えていてもよい。しかしながら、以下で説明するシステム及び方法はまた、旋回操作中、即ち、旋回操作が行われるときに実装されるようにしてもよい。また、旋回操作は、
図3に示すように、道路湾曲部に必ずしも関連している必要がない。それどころか、旋回操作はまた、例えば、車両の車線変更動作に関連していてもよい。
【0053】
ここで、例示的な実施形態による左側の操舵可能な車輪104の異なる図を示す、
図4a~
図4cを参照する。詳細には、
図4aは左側の操舵可能な車輪104の側面図であり、
図4bは左側の操舵可能な車輪104の背面図であり、
図4cは旋回操作中の左側の操舵可能な車輪104の上面図である。
【0054】
左側の操舵可能な車輪104の側面図である
図4aから始める。左側の操舵可能な車輪104の垂直軸404からの操舵軸402の角度変位として示される、車両1の前後方向において測定されるサスペンションキャスター角γが車輪104に設けられるように、車輪104のサスペンション(図示せず)が配置されている。路面401と操舵軸402との交点と、路面401と垂直軸404との交点との間の距離は、t
mとして示されている。車輪のサスペンションによって、車輪104と路面401との間の接地面406の力の作用点(a point of force application)は、路面401と垂直軸404との交点から前後方向にわずかにオフセットした位置にある。このオフセットをt
pとする。従って、接地面は、地面と接触するタイヤの領域である。車輪104と路面401との間の接地面406の力の作用点は、サスペンションキャスター角度γに依存している。
【0055】
左側の操舵可能な車輪104の背面図である
図4bを参照する。図から理解できるように、有効車輪半径Rは、フロントアクスル102と路面401との間との距離として示され、車輪104は、傾きがτとして示される傾斜したキングピン軸408によってサスペンションに結合されている。従って、車輪104は、旋回操作中にキングピン軸408の周りを回転する。また、車輪104と路面401との間の接地面408の力の作用点は、垂直軸404と路面401との間の交点に位置している。車両1,特に操舵可能な車輪104,106には、正の車輪サスペンションスクラブ半径r
sが設けられている。車輪サスペンションスクラブ半径r
sは、接地面406の力の作用点と、キングピン軸408と路面401との間の交点403との間の距離として定義される。正の車輪サスペンションスクラブ半径r
sは、
図4bに示す前後方向で見て、キングピン軸408と路面401との間の交点が垂直軸404の内側に位置するときに生成される。例えば、左側の操舵可能な車輪104における個別に制御可能な電気機械103が減速すると、正のスクラブ半径r
sによって、車輪がキングピン軸408の周りを回転し、車両を左に転舵させる。これによって、追加の操舵トルクM
steerを生み出すことができる。
【0056】
上方から見た、結合された左右の前輪の簡略図である
図4cを参照する。
図4cでは、個別に制御可能な左側の電気機械103及び右側の電気機械105の車輪速度差が与えられて、車両を左に転舵させる。特に、左側の車輪の車輪速度と比較して右側の車輪の車輪速度を増加させることで、車両を左に転舵させる。図から理解できるように、車両1は、
図3に関連して上述した半径r
roadを有する道路湾曲部で動作される。従って、操舵可能な車輪104は、操舵角δを有している。しかしながら、操舵可能な車輪104は、操舵角δに対してα方向に速度vで走行する。この角度αをスリップ角αと呼ぶ。
【0057】
旋回操作のために操舵可能な車輪のスリップ角を決定することによって、前輪の横力を決定することができる。特に、前輪の横力は、操舵可能な車輪のコーナリング剛性及びスリップ角に基づいて決定することができる。従って、スリップ角は、車輪の角度位置と車輪の実際の運動角度方向との間の差を定義する角度であると理解されるべきである。例えば、操舵可能な車輪が前後軸に対して15°で操舵されているが、操舵可能な車輪の実際の運動が同じ前後軸に対して12°であれば、スリップ角は3°となる。一方、タイヤのコーナリング剛性は、操舵可能な車輪の横方向の剛性である。コーナリング剛性は、スリップ角(又はサイドスリップ角)とタイヤの横力との間の係数(a factor)として定義されるタイヤパラメータである。コーナリング剛性は、所定の垂直荷重で所定のタイヤについて、小さなスリップ角に対して一定であると見做すことができる。
【0058】
以上の説明によって、特定の道路湾曲部で車両を動作させるために必要な操舵角を決定し、そのように必要な操舵角と実際の操舵角と比較することによって、車両の運動を制御することができる。また、旋回操作中に車両を動作させる最も電力効率がよいモードを決定するために、第1の電力利用値が第2の電力利用値と比較される。より詳細には、第1の電力利用値は、個別に制御可能な電気機械を制御することによって旋回操作中に車両を動作させる電力効率を定義する値である一方、第2の電力利用値は、パワーステアリングシステムを制御することによって旋回操作中に車両を動作させる電力効率を定義する値である。
【0059】
上述したパラメータは、特に断りのない限り、これ以上の詳細な説明を行わない。車輪速度、ひいては車輪トルクは、縦力Fx,104及びFx,106と車輪半径Rとの間の差である、必要な縦力差ΔFxを決定することによって決定することができる。
【0060】
非限定的な例によれば、個別に制御可能な電気機械が十分な操舵トルクM
steerを生み出して、車両が旋回操作中に湾曲部を十分追従できる場合、第1の電力利用値は第2の電力利用値よりも大きいと決定することができる。従って、操舵トルクM
steerは、必要な操舵角を得るために十分である。必要な操舵トルクM
steerは、以下のように決定することができる。ここで、F
y,104及びF
y,106は、操舵可能な車輪104,106の前輪の横力、t=t
m+t
pである。
【数1】
【0061】
式(1)は、以下のように書き換えることができる。ここで、C
αはタイヤの横剛性、F
y,i=C
α・αは前輪の横力、vは前後方向の車速、ωは旋回操作中の車両の回転速度である。
【数2】
【0062】
また、回転中心202における車両のグローバルトルクM
zは、以下のように決定することができる。ここで、ΔF
x=F
x,104-F
x,106、F
x,108=F
x,110=F
x,114=F
x,116=0、β=0、wは車両のトラック幅、βは車両のサイドスリップ角である。
【数3】
これによって、速度が車両の縦軸と同一の方向を向いていると仮定される。
【0063】
さらに、操舵可能な車輪のスリップ角は、以下のように決定することができる。
【数4】
ここで、定常状態の場合には、以下の通りである。
【数5】
【0064】
さらに、r
roadを以下のように仮定する。
【数6】
すると、以下の式を導くことができる。
【数7】
【0065】
これによって、操舵可能な車輪の車輪トルク差は、有効車輪半径Rに基づいて決定することができる。
【0066】
上述したものは、制御配分を割り当てることによって制御することができ、これによって、以下の式を定式化することができる。
【数8】
ここで、以下のように行列及びベクトルが定義されるとともに、Rは有効半径、Tはそれぞれの車輪の車輪トルクである。
【数9】
【0067】
パワーステアリングシステムが非アクティブ化されていれば、操舵角δは、実際の操舵角値、即ち、δactualに設定することができる。従って、操舵操作中、操舵アクチュエータの能力は、実際の操舵角に実質的に制限される。
【0068】
ここで、例示的な実施形態によるステアリングシステム500を示す、
図5を参照する。
図5において理解できるように、ステアリングシステム500は、アクチュエータ制御モジュール502と、車両モーション制御モジュール504と、交通状況コントローラ506と、を備えている。アクチュエータ制御モジュール502は、電気機械制御モジュール508と、パワーステアリングシステムコントローラ512と、を備えている。車両モーション制御モジュール504は、モーションコントローラ514と、利用比較コントローラ515と、アクチュエータコーディネータモジュール516と、を備えている。最後に、交通状況コントローラ506は、経路コントローラ518と、車両安定性制御モジュール520と、モーション要求モジュール522と、を備えている。
【0069】
図5に例示されたシステム500の動作中、経路コントローラ518は、車両1が接近する経路を検知して、その経路を維持するために必要な操舵角δ
pathをモーション要求モジュール522へと送信する。この信号は、経路の湾曲部に基づいており、一部の実装では車速に基づいている。また、車両安定性制御モジュール520は、近付いている経路における車両の最大許容回転速度(a maximum allowable rotational velocity)をモーション要求モジュール522へと送信する。モーション要求モジュール522は、受信した信号を評価して、必要な操舵角δ
ref、必要な回転速度ω
req、及び必要な車両の縦加速度a
x,reqをモーションコントローラ514へと送信する。
【0070】
モーションコントローラ514は、受信したパラメータを評価して、車両の縦力Fx、車両の横力Fy、車両のグローバルトルクMz、並びに上述した追加操舵トルクMsteerを含むベクトルを送信する。その後、利用比較コントローラ515は、旋回操作中に個別に制御可能な電気機械を使用して操舵を制御することによる車両1の電力利用が、パワーステアリングシステムを使用して操舵を制御することによる電力利用と比較して良好であるか否かを決定する。従って、個別に制御可能な電気機械を動作させることで得られる車両装置の第1の電力利用値は、パワーステアリングシステムを動作させることで得られる車両装置の第2の電力利用値と比較されて操舵角が得られる。
【0071】
個別に制御可能な電気機械103,105の少なくとも一方が、旋回操作中に電源への電力を回生できることを決定することができる。そのような場合、利用比較コントローラ515は、第1の電力利用値が第2の電力利用値よりも大きいと決定することができる。望ましくは、電源200の充電状態レベルは、電力を受け取ることができるようなレベルでなければならない。他の代替案によれば、個別に制御可能な電気機械が単独で車両を十分制御して旋回操作中に必要な操舵角を得ることができれば、利用比較コントローラ515は、第1の電力利用値が第2の電力利用値よりも大きいと決定することができる。そのような場合、パワーステアリングシステムの動作能力は、望ましくは非アクティブ化されるなど低下され、例えば、油圧システム、空気圧システム、又はパワーステアリングシステムに接続された電気システムなどの制御システムが非アクティブ化され、これによって、車両全体の電力利用を向上させることができる。
【0072】
利用比較コントローラ515は、旋回操作中に車両の操舵を制御する最良のオプションに関する情報を有する信号をアクチュエータコーディネーターモジュール516へと送信する。利用比較コントローラ515から受信した信号に基づいて、アクチュエータコーディネーターモジュール516は、電気機械制御モジュール508、及び/又はパワーステアリングシステムコントローラ512の1つ以上へと信号を送信する。詳細には、アクチュエータコーディネーターモジュール516は、信号を受信して、個別に制御可能な電気機械、及び/又はパワーステアリングシステムを使用して車両の操舵を制御することを決定する。第1の電力利用値が第2の電力利用値以上であれば、アクチュエータコーディネーターモジュール516は、電気機械制御モジュール508に制御信号を送信して、個別に制御可能な電気機械103,105を使用して車両1の操舵を制御する。しかしながら、第2の電力利用値が第1の電力利用値よりも大きければ、アクチュエータコーディネーターモジュール516は、パワーステアリングシステムコントローラ512へと制御信号を送信して、パワーステアリングを使用して車両1の操舵を制御する。個別に制御可能な電気機械103,105が単独で旋回操作中に必要な操舵角を得ることができない動作状態の場合には、アクチュエータコーディネーターモジュール516は、電気機械制御モジュール508並びにパワーステアリングシステムコントローラ512へと制御信号を送信することができる。これによって、旋回操作中の車両1の操舵が、個別に制御可能な電気機械103,105、並びにパワーステアリングシステムによって制御される。個別に制御可能な電気機械を使用して操舵を制御するとき、ステアリングシステムの最適化は、上述したように、実際の操舵角に対応する操舵角に制限されることが望ましい。従って、パワーステアリングシステムの動作能力が低下し、望ましくは非アクティブ化されて操舵角を制御できなくなる。
【0073】
要約するために、例示的な実施形態によるステアリングシステム500を制御する方法のフローチャートである
図6を参照する。動作中、旋回操作中に車両を動作させるために必要な操舵角δ
reqが決定される(S1)。個別に制御可能な電気機械に関し、必要な操舵角δ
reqを得るために必要な車輪速度差が決定される(S2)。必要な操舵角δ
reqは、例えば、経路フォロワー又はステアリングホイールを回転させるオペレータから受信した信号に基づいて予め決定することができる。車輪速度差をもって個別に制御可能な電気機械を動作させて得られる車両装置1の第1の電力利用値が決定される(S3)。第1の電力利用値を決定するための様々なオプションは、上述されている。個別に制御可能な電気機械103,105を使用して操舵を制御することが電力効率がよいか否かを決定するために、パワーステアリングシステムを動作させて得られる車両装置の第2の電力利用値も決定される(S4)。
【0074】
その後、第1及び第2の電力利用値が互いに比較される。第1の電力利用値が第2の電力利用値以上であれば、個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方によって車輪速度差を与え、かつパワーステアリングシステムの動作能力を低下させることによって、旋回操作中に車両装置1の操舵が制御される(S6)。しかしながら、第2の電力利用値が第1の電力利用値よりも大きければ、パワーステアリングシステムを単独で、又は個別に制御可能な電気機械103,105と組み合わせることによって、旋回操作中に車両装置1の操舵が制御される(S7)。
【0075】
本開示は、上述及び図示の実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で、多くの変更及び修正を行うことができることを認識するであろう。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両装置の操舵を制御する方法であって、前記車両装置は、前記車両装置の左側及び右側に配置された一対の操舵可能な車輪を操舵制御するパワーステアリングシステムを備え、前記操舵可能な車輪のそれぞれは、前記車両装置を推進するために個別に制御可能な電気機械を備え、前記方法は、
旋回操作中に前記車両装置を動作させるために必要な操舵角を決定するステップ(S1)と、
前記個別に制御可能な電気機械に関し、前記必要な操舵角を得るために必要な車輪速度差を決定するステップ(S2)と、
前記車輪速度差をもって前記個別に制御可能な電気機械を動作させることによって得られる前記車両装置の第1の電力利用値を決定するステップ(S3)と、
前記操舵角を得るために前記パワーステアリングシステムを動作させることによって得られる前記車両装置の第2の電力利用値を決定するステップ(S4)と、
前記第1の電力利用値と前記第2の電力利用値とを比較するステップ(S5)と、
前記第1の電力利用値が前記第2の電力利用値以上であれば、前記個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を使用して前記車輪速度差を与え、かつ前記パワーステアリングシステムの動作能力を低下させることで、前記旋回操作中に前記車両装置の操舵を制御するステップ(S6)と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記パワーステアリングシステムは、その動作能力を低下させるステップ中に非アクティブ化される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を制御することによって、前記必要な操舵角で前記旋回操作を行うことができるか否かを決定するステップと、
前記個別に制御可能な電気機械の少なくとも一方を使用して前記必要な操舵角で前記車両を動作させることができるとき、前記第1の電力利用値が前記第2の電力利用値よりも大きいと決定するステップと、
を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記個別に制御可能な電気機械が電源に電気的に接続され、
前記第1の電力利用値を決定するステップは、
前記電源の現在の充電状態レベルを示す信号を受信するステップと、
前記現在の充電状態レベルに基づいて、前記旋回操作中に前記個別に制御される電気機械の少なくとも一方によって回生される電力レベルを決定するステップと、
前記回生可能な電力レベルで少なくとも部分的に前記第1の電力利用値を決定するステップと、
を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記現在の充電状態レベルが所定の閾値レベルを下回っている場合、前記個別に制御される電気機械の少なくとも一方を動作させて電力を回生することによって、前記車両装置の操舵が制御される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記旋回操作中の減速度を示す信号を受信するステップと、
前記車両が前記旋回操作中に減速する場合、前記少なくとも一方の電気機械を動作させて電力を回生するステップと、
を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記個別に制御される電気機械の一方を動作させて電力を回生し、かつ前記個別に制御される電気機械の他方を動作させて前記旋回操作中に車輪速度を増加させることによって、前記車両の操舵が制御される、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記旋回操作中に前記車両装置を動作させるための所要の加速度レベルを決定するステップと、
前記操舵可能な車輪のそれぞれの車輪摩擦値であって、前記車輪と路面との間の摩擦値である車輪摩擦値を決定するステップと、
前記所要の加速度レベル及び前記車輪摩擦値に基づいて前記車輪速度差を制御するステップと、
を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記所要の加速度レベルは、アクセルペダルの位置を示す入力信号に基づいて決定される、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記所要の加速度レベルは、所要の車速及び近付いている道路の曲線に基づいて決定される、
請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記旋回操作中の所要の車速を決定するステップと、
前記旋回操作中に前記車両を前記所要の車速で操舵するための車輪速度差を決定するステップと、
前記車輪速度差と前記個別に制御可能な電気機械によって得られる利用可能な最大車輪速度差とを比較するステップと、
前記個別に制御可能な電気機械によって車輪速度差を与え、かつ前記パワーステアリングシステムをアクティブ化することによって、前記旋回操作中に前記車両装置の操舵を制御して、所要の操舵半径及び車速を得るステップと、
を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記旋回操作中の前記車両装置の所要の減速度レベルを決定するステップと、
前記個別に制御可能な電気機械によって得ることができる利用可能な最大減速度レベルを決定するステップと、
前記利用可能な最大減速度レベルが前記所要の減速度レベルと比較して小さければ、前記旋回操作中に前記車両装置のサービスブレーキをかけるステップと、
を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記車速が所定の速度閾値レベルを上回っていれば、前記個別に制御可能な電気機械によって前記車輪速度差を与え、かつ前記パワーステアリングシステムの動作能力を低下させるによって、前記車両装置の操舵が制御される、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記パワーステアリングシステムは、油圧制御式のステアリングシステム、空気圧制御式のステアリングシステム、又はステアバイワイヤステアリングシステムの1つである、
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
車両装置の左側及び右側に配置された一対の操舵可能な車輪と、前記一対の操舵可能な車輪の操舵制御のためのパワーステアリングシステムと、を備えた車両装置に接続された制御ユニットであって、前記操舵可能な車輪のそれぞれは、前記車両装置を推進するために個別に制御可能な電気機械を備え、前記制御ユニットは、前記一対の操舵可能な車輪及び前記パワーステアリングシステムに電気的に接続可能であって、前制御ユニットは、
旋回操作中に前記車両装置を動作させるために必要な操舵角を決定し、
前記個別に制御可能な電気機械に関し、前記必要な操舵角を得るために必要な車輪速度差を決定し、
前記車輪速度差をもって前記個別に制御可能な電気機械を動作させて得られる前記車両装置の第1の電力利用値を決定し、
前記操舵角を得るために前記パワーステアリングシステムを動作させて得られる前記車両装置の第2の電力利用値を決定するステップと、
前記第1の電力利用値と前記第2の電力利用値とを比較して、前記第1の電力利用値が前記第2の電力利用値以上であれば、前記個別に制御可能な電気機械に前記車輪速度差を与えることを示す制御信号を送信し、前記パワーステアリングシステムに制御信号を送信して前記パワーステアリングシステムの動作能力を低下させるように構成された、
制御ユニット。
【請求項16】
プログラムがコンピュータで実行されたとき、
請求項1に記載のステップを実行するプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム。
【請求項17】
プログラム手段がコンピュータで実行されたとき、
請求項1に記載のステップを実行するプログラム手段を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体。
【国際調査報告】