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特表2023-540194三フッ化ビスマスを使用したN,N-分岐スルファモイルフッ化化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】三フッ化ビスマスを使用したN,N-分岐スルファモイルフッ化化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 303/34 20060101AFI20230914BHJP
   C07C 307/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C07C303/34
C07C307/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512282
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 IB2021057654
(87)【国際公開番号】W WO2022038561
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】63/068,495
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521500812
【氏名又は名称】エスイーエス ホールディングス ピーティーイー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SES Holdings Pte. Ltd.
【住所又は居所原語表記】1 Robinson Road,18-00 AIA Tower,Singapore,Singapore 048542
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】ラージェーンドラ ピー. シン
(72)【発明者】
【氏名】チーチャオ フー
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン シェイマン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC30
4H006AD11
4H006BB11
4H006BB12
4H006BC10
4H006BE62
(57)【要約】
三フッ化ビスマスと、式 X-SO2NR2を有するN, N-分岐スルファモイル非フッ化ハロゲン化合物とを接触させて、式 F-S(O)2-NR2を有するN, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を製造する方法である。ここで、 Xは塩素(Cl)、臭素( Br)、またはヨウ素( I)であり、各Rは、独立して、 1~ 12個の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキル、フルオロアルキル、アルケニル、フルオロアルケニル、アルキニル、またはフルオロアルキニルである。N, N-分岐スルファモイル非フッ化ハロゲン化化合物をフッ素化するために、この方法が使用される。この方法は非水系であり、生成物の純度が非常に高く、目的物を定量的に単離することができる。このようにして製造されたN, N-分岐スルファモイルフッ化物化合物は、リチウム電池やキャパシタなどの電気化学デバイスにおける電解質溶媒や添加剤、生物分野など、様々な用途に応用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルファモイルフッ化化合物F-SO2-NR2および副産物としてのBiX3を含む混合物を生成するのに十分な条件下で式X-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイル非フッ化ハロゲン化合物をBiF3と接触させる工程を備え、
Xは、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)であり、
各Rは、独立して、直鎖、分岐、または環状のアルキル、フルオロアルキル、アルケニル、フルオロアルキニル、アルキニルあるいはフルオロアルキニルである、
式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の製造方法。
【請求項2】
前記 N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物および副産物としてのBiX3を生成するのに十分な条件が、前記混合物を加熱する工程と混合する工程とを含む、
請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項3】
前記加熱する工程が、前記混合物を20℃以上200℃以下の範囲内の温度で加熱することを含む、
請求項2に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項4】
前記加熱する工程が、
前記混合物を初期温度に加熱する工程と、
その後、前記混合物を前記初期温度よりも高い第2の温度に加熱する工程と、
を含む、
請求項3に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項5】
前記初期温度が80℃未満であり、前記第2の温度が100℃以上である、
請求項4に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項6】
前記混合物から前記N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を蒸留により分離することをさらに含む、
請求項3に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項7】
前記混合物を不活性有機溶媒で処理する工程と、
その後、ろ過により前記混合物から前記BiX3を除去し、前記混合物から前記N, N-分岐フッ化化合物を蒸留により分離することをさらに備える
請求項3に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項8】
前記不活性有機溶媒が少なくとも1つのアルカンを備える、
請求項6に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのアルカンがクロロアルカンまたはフルオロアルカンである、
請求項7に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項10】
前記接触させる工程および前記加熱する工程が常圧下で行われ、
前記方法は、前記混合物から前記N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を蒸留により分離することをさらに備える
請求項2に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項11】
前記 Xが塩素( Cl)である、請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項12】
前記 Xが臭素( Br)である、請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項13】
前記 Xiがヨウ素(I)である、請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項14】
前記各Rが、 -CH3、 -CH2CH3、および -CH2CH2OCH3からなる群から選択される、請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項15】
前記 N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物が、N, N-ジメチルスルファモイルフッ化物、N, N-ジエチルスルファモイルフッ化物、N-エチル -N-メチルスルファモイルフッ化物、およびN-エチル -N-メトキシエチルスルファモイルフッ化物からなる群から選択される、
請求項14に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項16】
前記混合物から前記N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を蒸留により分離することをさらに含む、
請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項17】
前記混合物を溶媒で処理する工程と、
その後、ろ過により前記混合物から前記BiX3を除去し、前記混合物から前記N, N-分岐フッ化化合物を蒸留により分離することをさらに備える
請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項18】
前記溶媒は、無水ヘキサンまたはジクロロメタンであることを備える、請求項17に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項19】
前記接触させる工程が常圧下で行われ、
前記方法は、前記混合物から前記N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を蒸留により分離することをさらに備える
請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項20】
前記N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の収率が少なくとも70%である、
請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【請求項21】
前記N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の収率が少なくとも90%である、
請求項1に記載の式F-SO2-NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2020年8月21日に出願された「SYNTHESIS OF N,N-BRANCHED SULFAMOYL FLUORIDE COMPOUNDS USING BISMUTH TRIFLUORIDE」と題する米国仮特許出願第63/068,495号に基づく優先権を主張するものであり、その全ての内容が本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、一般に、分岐スルファモイルフッ化化合物の製造方法に関する。特に、本開示は、三フッ化ビスマスを使用したN, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を製造する方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
分子にフッ素を組み込むと、その分子の物理的性質および化学的性質が有意に変化する。フッ素含有化合物の中には、電気化学的安定性が高く、電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学的エネルギー貯蔵デバイスや生物学の分野において実用的なものもある。
【0004】
N-(フルオロスルホニル)ジメチルアミン(FSO2NMe2)化合物は、リチウムイオン電池の溶剤や添加剤として提案されている(中国特許第1 289 765A号)。しかし、今日では、FSO2NMe2は、大量に市販されているわけではない。
【0005】
FSO2NMe2は、 1930年代に N-クロロスルホニルジメチルアミン(ClSO2NMe2)とフッ化カリウム、フッ化ナトリウム、あるいはフッ化亜鉛を水中で反応(メタセシス反応)させることで初めて調製された(フランス特許番号 FR 806 383; ドイツ特許番号 DE 667 544; 米国特許番号 2,130,038)。しかし、この方法は水系法であり、該方法により得られるFSO2NMe2の収量は少なかった。
【0006】
FSO2NMe2は、五フッ化アンチモン(SbF5)の存在下におけるClSO2NMe2と三フッ化アンチモン(SbF3)の反応( Heap, R., Saunders, B. C., Journal of Chemical Society (Resumed), 1948, 1313-1316)、およびClSO2NMe2と無水フッ化水素(HF)を 80℃~ 90℃で反応させることによっても調製されている(ドイツ特許第DE 1 943 233(1971))。しかし、これらの反応により得られた生成物は、塩化物で汚染されており、リチウム電池への使用には適していない。
【0007】
FSO2NMe2は、 N, N-ジメチルアミノスルファミド(Me2NSO2NH2)とフルオロスルホニルイソシアネート(FSO2N= C= O)を 80℃で反応させることによっても調製されている(Appel, R.; Montenarh, M., Chemische Berichte, 1977, 110, 2368-2373)。しかし、該反応においては、様々な副生成物が検出された。
【0008】
一般に、フッ化スルフリル(SO2F2)と第 2級アミンとの反応は、以下に示す4つの例が知られている。この4つの既知の反応では、冷媒(または触媒)が用いられる。
【0009】
1.SO2F2と第二級アミンとの反応は、 1948年に初めて行われた(Emeleus, H. J., Wood, J. F., Journal of the Chemical Society (Resumed), 1948, 2183-2188)。本稿では、エチルエーテル中の SO2F2の冷却(-78℃)溶液にジエチルアミン( Et2NH)を滴下することで生成物であるFSO2NEt2を得ているが、その収率は 35%であった。
【0010】
2. SO2F2とピペリジン(HN(CH2)5)との反応は、 1982年に実施された(Padma, D. K., Subrahmanya Bhat, V., Vasudeva Murthy, A. R., Journal of Fluorine Chemistry, 1982, 20, 425-437)。 SO2F2をエーテル中のピペリジンに-196℃で添加し、その後、加温した。使用するピペリジンの量に応じて、 FSO2N(CH2)5またはSO2(N(CH2)5)2のいずれかが得られた。しかし、副生成物から目的の化合物を分離することは困難であることがわかった。
【0011】
3.さらに 2つの第 2級アミンとSO2F2を常温、常圧条件下で反応させる方法は、Dongと Sharplessによる特許出願(国際特許出願公開番号WO2015/188120)に記載されている。この公開公報では、ジアリルアミンとジプロパルギルアミンを、当量の活性化剤の存在下でSO2F2と溶媒中で反応させる。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタンなどが特に記載されていた。 DongとSharplessは、公開公報において、「活性化アミンを pH8の緩衝液中においても反応させることができる」と主張しているが、活性化アミンについての実施例は示されておらず、それ以上の詳細な説明は行われていなかった。
【0012】
4.また、ジメチルアミンと気体のフッ化スルフリルを反応させて DSFを合成する方法も報告されている。この方法では、Me2SO2F + Me2NH2F + SO2(NMe2)2のような混合物が形成され、これらの混合物を目的物から分離させることが困難である。このような欠点があるため、DSFのスケールアップは経済的ではない。
【0013】
従って、高純度のN, N-ジメチルスルファモイルフッ化物およびその誘導体などの高純度のN, N-ジアルキルスルファモイルフッ化化合物を、特に商業規模で、比較的安全で経済的かつ高収率で製造する方法が求められている。
【発明の概要】
【0014】
一実施形態において、本開示は、式F-SO2NR2を有する N, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を製造する方法に関するものであり、この方法は、式X-SO2NR2を有する N, N-分岐スルファモイル非フッ化ハロゲン化合物と、フッ化ビスマス(BiF3)とを、スルファモイルフッ化化合物F-SO2NR2および副生成物としてのBiX3を含む混合物を製造するのに十分な条件下で接触させることを含む。ここで、Xは、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)であり、各Rは、それぞれ独立した直鎖、分岐または環状のアルキル、フルオロアルキル、アルケニル、フルオロアルキニル、アルキニル、またはフルオロアルキニルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の一態様において、本開示は、三フッ化ビスマス(BiF3)と、式 X-SO2NR2( II)を有するN, N-分岐スルファモイル非フッ化ハロゲン化合物とを接触させて、N, N-分岐スルファモイル非フッ化化合物をフッ素化することで、N, N-ジメチルスルファモイルフッ化物(DMSF)およびその誘導体を製造する方法、特に、式F-S(O)2-NR2 (I)を有するN, N-分岐スルファモイルフッ化化合物を製造する方法に関する。ここで、Xは、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)であり、各Rは、それぞれ独立した1~ 12個の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキル、フルオロアルキル、アルケニル、フルオロアルケニル、アルキニル、またはフルオロアルキニルである。この方法は非水系法であり、生成物の純度が非常に高く、目的物を定量的な収量で単離することができる。このようにして製造されたN, N-分岐スルファモイルフッ化化合物は、リチウム電池やキャパシタなどの電気化学デバイスの電解質溶媒や添加剤、生物分野などにおいて、様々な用途で活用できる。
【0016】
一例として、BiF3を用いた N, N-分岐スルファモイル塩化物のフッ素化反応を以下に示す。
【0017】
【化1】
【0018】
本開示の一実施形態では、反応の副産物として生成されるBiX3は、 BiF3に戻すことができる。例えば、後述の式IIにおける Xが Clである場合は、BiCl3が副産物として生成されるが、このBiCl3と NaOHを反応させてBi2O3を単離し、次いでフッ化水素水(HF)で処理することによってBiF3へ戻すことができる。BiX3を BiF3に戻す方法に関するその他の例については、以下で説明する。
【0019】
なお、本開示における「アルキル」とは、1~ 12個、典型的には1~ 6個の炭素原子を有する一価の飽和直鎖状炭化水素部分または3~ 12個、典型的には3~ 6個の炭素原子を有する一価の飽和分枝状炭化水素部分をいう。アルキル基は、アルコキシド(すなわち、「-ORa(ここで、Raはアルキルを指す。)」)および/または所定の反応条件下において保護されている他の官能基(複数可)、あるいは非反応性である他の官能基(複数可)により任意に置換されていてもよい。代表的なアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、2-プロピル、tert-ブチル、ペンチルなどが挙げられるが、本開示における「アルキル基」は、これらに限定されない。
【0020】
また、本開示における「アルケニル」とは、少なくとも1つの炭素 -炭素二重結合を含む、2~ 12個、典型的には2~ 6個の炭素原子を有する一価の直鎖状炭化水素部分または3~ 12個、典型的には3~ 6個の炭素原子を有する一価の分枝状炭化水素部分をいう。アルケニル基は、所定の反応条件下において1つ以上の保護されている官能基、あるいは非反応性である官能基で任意に置換することができる。代表的なアルケニル基としては、ビニル、プロペニル、ブテニルなどが挙げられるが、本開示における「アルケニル基」は、これらに限定されない。
【0021】
さらに、本開示における「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素 -炭素三重結合を含む、2~ 12個、典型的には2~ 6個の炭素原子を有する一価の直鎖状炭化水素部分、または3~ 12個、典型的には3~ 6個の炭素原子を有する一価の分枝状炭化水素部分をいう。アルキニル基は、所定の反応条件下において1つ以上の保護されている官能基、あるいは非反応性である官能基で任意に置換することができる。代表的なアルキニル基としては、エチニル、プロピニル、ブチニルなどが挙げられるが、本開示における「アルキニル基」は、これらに限定されない。
【0022】
加えて、本開示における「シクロアルキル」とは、飽和状態の非芳香族、すなわち、3~ 10個の環炭素を有する一価の単環式炭化水素部分または二環式炭化水素部分をいう。なお、このシクロアルキルの環構造内の1、 2、あるいは3個の置換基は、所定の反応条件下において保護されている置換基、あるいは非反応性である置換基に任意に置換することができる。
【0023】
最後に、本開示における「シクロアルケニル」とは、非芳香族、すなわち、環構造内に少なくとも1つの炭素 -炭素二重結合を有する3~ 10個の環炭素を有する一価の単環式炭化水素部分または二環式炭化水素部分をいう。なお、このシクロアルキルの環構造内に存在する1、 2、あるいは3個の置換基は、所定の反応条件下において保護されている置換基、あるいは非反応性である置換基に任意に置換することができる。
【0024】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、「処理」、「接触」および「反応」という用語は、適切な条件下で2種類以上の試薬を添加あるいは混合し、その「処理」、「接触」、および「反応」により得られる生成物および/または目的物を生成する場合に使用される。ただし、上記生成物および/または目的物を生成する反応においては、2種類の試薬を配合することにより上記生成物が直接得られるとは限らないこと、すなわち、最終的に目的物となる混合物中に、1つ以上の中間体が生成される可能性があることを理解されたい。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、「無水」という用語は、約1重量%以下の水、典型的には約0.5重量%以下の水、多くの場合は約0.1重量%以下の水、より多くの場合は約0.01重量%以下の水、および最も多くの場合は約0.001重量%以下の水しか含まない場合に使用される。また、この定義の中で、「実質的に無水」という用語は、約0.1重量%以下の水、典型的には約0.01重量%以下の水、および多くの場合は約0.001重量%以下の水しか含まない場合に使用される。
【0026】
本開示において、「約」という用語は、対応する数値と共に使用されるとき、数値の±20%、典型的には数値の±10%、多く場合は数値の±5%、および最も多くの場合は数値の±2%を意味する。なお、一実施形態において、「約」という用語は、数値そのものを意味することもあり得る。
【0027】
上述のように、本開示の一態様は、上述のN, N-分岐スルファモイルフッ化物を製造することに関する、上記[背景技術]の欄で議論された課題を1つ以上克服することを目的とする。一実施形態において、本開示の方法は、フッ素化試薬として三フッ化ビスマスを使用する。また、一実施形態において、本開示の方法によれば、使用済みのビスマス試薬を再利用することで、三フッ化ビスマスを再生させることができる。
【0028】
本開示の一態様は、式I( F-SO2-NR2)を有するフッ素化化合物を生成するのに十分な条件下で、式II( X-SO2-NR2)を有するN, N-分岐スルファモイル非フッ素化ハロゲン化合物をBiF3と接触させることにより、式I( F-SO2-NR2)を有するN, N-分岐スルファモイルフッ素化化合物を製造する方法を提供する。
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
通常は、このような方法では、副産物としてBiX3も生成される。式Iおよび IIの化合物において、Xおよび各 Rは、上述で定義したとおりの官能基であり得る。
【0032】
通常、このような方法は、上述のフッ素化化合物(I)および副生成物としてBiX3を生成するのに十分な条件下で、N, N-分岐スルファモイル非フッ素化ハロゲン化合物(II)と BiF3とを接触させることを備える。上記参照により本明細書に組み込まれている上記および/または関連文献に記載されているように、BiX3副産物を再利用することにより、BiF3を再生することができる。
【0033】
フッ素化化合物(I)を製造するのに十分な条件は、かなり広範囲に設定することができる。例えば、その温度範囲は、約0℃から約 50℃、約 20℃から約 70℃、約 20℃から約 90℃、および約20℃から約 110℃であってもよい。なお、反応物および/または反応容器の初期温度によっては、それらを適切な温度条件に設定するために、反応容器内の反応物(つまり、「混合物」)を加熱あるいは冷却することが必要になる場合がある。この場合、別の温度や圧力(圧力を常圧以上に加圧あるいは常圧以下に減圧することを含む。)を、満足のいく結果が得られる温度や反応時間とともに使用することができる。
【0034】
一実施形態において、本開示に係る反応時間は、約0.1時間から約24時間、またはそれ以上であってもよい。ここで、温度条件および反応時間は、収率に大きな影響を及ぼし得ることに留意されたい。例えば、常圧下110℃において 15時間にわたり反応させることで良好な結果(例えば、93%超の収率)が得られる。とはいえ、この反応は室温下でも起こり得る。しかし、室温下で24時間反応させたとしても、その収率は5%未満になることがある。一実施形態では、混合物を混合(例えば、攪拌による)することが、混合物全体にわたって可能な限り確実に反応を完了させることができるため、望ましい。したがって、反応容器内の反応物を加熱することおよび適切に混合することで、反応を完全に完了させることができるとともに、より高い収率で目的物を得ることができるため、望ましい。
【0035】
一実施形態、例えば、大規模生産を伴う実施形態(例えば、20g超、 100g超、 200g超、 500g超、あるいは1000g超の量の N, N-分岐スルファモイル非フッ素化物を出発物質とする生産)において、混合物を異なる温度で2段階以上加熱することにより、目的の反応生成物を汚染する分解生成物を最小限にするか排除することができる。例えば、大規模生産において混合物をあまりにも早く高温に加熱すると、発熱性である反応があまりにも早く進行し、それによって過剰な熱が発生して、目的の反応生成物を汚染する不要な分解生成物が混合物中に形成されるおそれがある。混合物を段階的に加熱する場合、一実施形態では、まず比較的低い温度(初期温度)の熱を加えることから混合物の加熱は開始され、その後、例えば、段階的にあるいは徐々に、混合物に加える熱の温度を上昇させる。混合物を段階的に加熱していく場合は、最初の加熱段階において混合物に比較的低い温度(初期温度)を加えて既定の時間加熱し、その後は、加熱時間を適宜設定して、最初の加熱段階の少なくとも次の加熱段階の設定温度(第2の温度)まで昇温して混合物の加熱を行ってもよい。一実施形態では、最初の初期温度での加熱段階における加熱時間は、次の第2の温度、あるいはそれ以降の温度での加熱段階の総加熱時間よりも短く設定することができる。
【0036】
検証により、高熱が発生する発熱反応が進んでいる間に、適度な熱(例えば、約80℃未満の温度で加熱し、約65℃未満の温度で開始する)を加えることで、良好な結果、すなわち、不要な分解副産物を最小限に抑えることが分かっている。一般に、どれほどの時間、温度を約80℃以下に維持するべきかは、使用される出発物質の量や設定温度(複数化)により異なる。また、約15℃以下あるいは約10℃以下より小さい温度で段階的に昇温を行い、約3時間以上にわたり3段階以上の加熱を行うと、約1000g~ 2000g以上の量のN, N-分岐スルファモイル非フッ化物を出発物質とする製造において、特に優れた結果が得られることが検証により示されている。一例では、2000gの N, N-分岐スルファモイル非フッ化物を出発物質とした製造において、以下の段階的な加熱設定を採用することにより優れた結果が得られた。すなわち、50℃で 1時間、 60℃で 1時間、 70℃で 1時間、 80℃で 1時間、 90℃で 1時間、および90℃超(例えば、100℃~ 110℃)で適当な追加時間段階的に加熱を行うことにより、優れた結果が得られた。
【0037】
一実施形態において、本開示における収率は、典型的には、約70%から約 99%の範囲内であり、約80%より大きく、約90%より大きく、約95%より大きく、あるいは約98%より大きい。一実施形態において、式Iを有する目的物の純度は、典型的には、約90%から約 99.99%の範囲内にある。一例では、DMSFは、 19Fおよび 1H核磁気共鳴分光法(NMR)に基づき、99.8%超で単離されている。一実施形態では、最高純度のN, N-分岐スルファモイルフッ化生成物を得るために、1回以上の蒸留と晶析が必要とされる場合がある。
【0038】
本開示の合成は無水性であるため、目的物の純度を99%より高くすることができる。対照的に、ほとんどの公知のDMSF合成プロセスでは、かなりの副産物を伴い、例えばリチウム金属電池にそのDMSFを使用する場合には、そのDMSFに含まれている多くの水分を使用前に除去する必要がある。本開示における製造工程は、非常に簡潔である。一実施形態では、任意のハロゲン化物不純物を除去するために、2度目の蒸留工程が必要となり得るだけである。また、本工程は、無水性であり、イオン性ハロゲン化物の不純物を含まない。一実施形態では、水分を除去するために2%~ 3%のモレキュラーシーブが使用される。一例では、モレキュラーシーブによる乾燥後、DMSFの水分含有量は5ppm未満である。この低含水量は、キログラムオーダーサイズの合成においても実現されている。
【0039】
DMSFを含む例において、一般的な反応条件ではDMSFは液体、三塩化ビスマスは固体のものが使用される。これらの状態のものを用いることで、かなり簡便な大規模かつ連続的な製造工程を実施することができる。例えば、液体のDMSFと固体の三塩化ビスマスを分離するために、ろ過、蒸留、その他の分離技術を任意に組み合わせて使用することができる。一例として、DMSFと BiCl3を含む混合物を、特にヘキサン、クロロアルカン(例えば、ジクロロメタン)、および/またはフルオロアルカンなどの少なくとも1つのアルカンからなる不活性有機溶媒で処理した後、蒸留してもよい。上述のように、ハロゲン化物不純物を除去するために、液体のDMSFをさらに蒸留してもよいし、および/または不要な水を除去するために、液体のDMSFをモレキュラーシーブにより乾燥してもよい。一実施形態において、上記の反応では、DMSFと三塩化ビスマスを100℃から 150℃で接触させる連続反応として行うことで、DMSFを液体状態に、三塩化ビスマスを固体状態に保つことができる。この例において、DMSFが目的の反応生成物であるが、反応条件、分離技術(溶媒の使用を含む)、ろ過、および他の態様は、非DMSFの目的の N, N-分岐スルファモイルフッ化物合成生成物にも適用できることに留意されたい。本開示の方法を用いて合成することができる他のN, N-分岐スルファモイルフッ化生成物の例および本開示に含まれていない生成物としては、N, N-ジエチルスルファモイルフッ化物、N-エチル -N-メチルスルファモイルフッ化物、およびN-エチル -N-メトキシエチルスルファモイルフッ化物などが含まれる。
【0040】
前述の反応は、溶媒の非存在下で行われることに留意されたい。しかし、場合によっては、反応混合物中に溶媒を含むことが望ましいこともある。反応混合物に含まれ得る代表的な溶媒としては、単独または任意の組合せで、アルカン、エーテル、ハロカーボン、および芳香族溶媒などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0041】
BiF3の再生
本開示の方法を使用する利点の1つは、式 IIにおける Xが塩素である場合の反応において形成される三塩化ビスマス(BiCl3)を酸化ビスマス(III)( Bi2O3)に再生できることである。通常、三塩化ビスマスは、水中で炭酸ナトリウムを用いて90℃で 10分間処理することにより、酸化ビスマス(III)に変換することができる。水不溶性の酸化ビスマス(III)は、濾過し、水で洗浄して塩化ナトリウムを除去することによって得ることができる。単離された酸化ビスマス(III)は、無水フッ化水素またはフッ化水素酸のいずれかと反応させて、三フッ化ビスマスに再生させることができる。通常は、酸化ビスマス(III)は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)容器に取り、すべての固体が反応するまで過剰のフッ化水素酸で処理することができる。三フッ化ビスマスは水に不溶性であり、例えば60℃から 100℃の範囲内の温度で、真空中で濾過および乾燥することによって単離することができる。
【0042】
三塩化ビスマスから三フッ化ビスマスを再生するために使用することができる例示的な技術としては、例えば、Rajendra P . Singh、 Jerry Lynn Martin、および Joseph Carl Poshustaにより2013年 2月 19日に発行された、「Synthesis of bis(fluorosulfonyl)imide」と題する US 8,377,406 B1、および Greenwood、 Norman N.; Earnshaw、 Alan (1997), Chemistry of the Elements (2nd ed.) Butterworth-Heinemann, ISBN 978-08-037941-8.)を参照することができる。これらの各々の文献は、三塩化ビスマスから三フッ化ビスマスを再生することに関連する方法として、参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
三塩化ビスマスから三フッ化ビスマスを再生する工程として、上記以外の工程を使用することもできる。例えば、三塩化ビスマスを無水フッ化水素で処理して、以下のように三フッ化ビスマスおよび塩化水素(HCl)を副産物として生成することができる。
【0044】
【化4】
【0045】
以下の実施例を検討することにより、当業者は、本開示のさらなる目的、利点、および新規な特徴を理解するであろう。なお、本実施例は本開示を限定するものではない。また、本実施例では、建設的に実践に移された手順は現在形で記述されており、研究室で行われた手順が過去形に設定されている。
【実施例
【0046】
特に断りのない限り、使用した化学物質はすべて試薬用であった。本明細書で使用したN, N-ジメチルスルファモイル塩化物および三フッ化ビスマスは無水であった。実験室規模の反応操作はすべて換気の良いドラフトチャンバー内で行い、白衣、安全眼鏡、手袋などの適切な個人保護具(PPE)を着用すべきである。
【0047】
実施例1:N, N-ジメチルスルファモイルフッ化物の合成
三フッ化ビスマス(BiF3)( 2000g、 7.52モル)を 3L丸底フラスコに秤量し、N, N-ジメチルスルファモイル塩化物(2000g、 13.93モル)を室温でフラスコに添加した。同フラスコを乾燥窒素またはアルゴンラインに取り付け、次いでメカニカルスターラーに接続した。その後、オイルバスを用いて、同フラスコ内の反応混合物の温度が65℃になるように、同フラスコ内の反応混合物を攪拌しながら2時間加熱し、続いて同フラスコ内の反応混合物の温度が100℃~ 110℃になるように、同フラスコ内の反応混合物をさらに15時間加熱した。加熱後の反応混合物を冷却した後、減圧(50℃/20mmHg)下で蒸留し、N, N-ジメチルスルファモイルフッ化物を無色透明液体として95%以上の収率で製造した。生成物の同定は、19Fおよび 1H核磁気共鳴分光法(NMR)により確認した。本実施例の反応を直ちに以下に示す。
【0048】
【化5】
【0049】
実施例2:N, N-ジメチルスルファモイルフッ化物の合成
三フッ化ビスマス(BiF3)( 25g、 0.094モル)を 100mL丸底フラスコに秤量し、室温でN, N-ジメチルスルファモイル塩化物(25g、 0.174モル)をフラスコに添加した。同フラスコを乾燥窒素またはアルゴンラインに取り付け、次いでメカニカルスターラーに接続した。その後、オイルバスを用いて、同フラスコ内の反応混合物の温度が100℃~ 110℃になるように、同フラスコ内の反応混合物を15時間加熱した。その後、加熱後の反応混合物を冷却し、無水ジクロロメタン20gを加え、同反応混合物をよく撹拌した後、同反応混合物を濾過して固体のBiCl3を分離した。濾液のジクロロメタンを常圧蒸留で除去した後、減圧(50℃/ 20mmHg)下で蒸留し、N, N-ジメチルスルファモイルフッ化物を無色透明液体として94%の収率で得た。生成物の同定は、19Fおよび 1H NMRにより確認した。本実施例の反応は、実施例1において例示したものと同じである。
【0050】
実施例3:N, N-ジエチルスルファモイルフッ化物の合成
100mL丸底フラスコに三フッ化ビスマス(BiF3)( 20.8g、 0.078モル)を秤量し、N, N-ジエチルスルファモイル塩化物(25.84.1g、 0.145モル)を添加した。同フラスコを乾燥窒素またはアルゴンラインに取り付け、次いでメカニカルスターラーに接続した。その後、オイルバスを用いて、同フラスコ内の反応混合物の温度が65℃になるように、同フラスコ内の反応混合物を攪拌しながら2時間加熱し、続いて同フラスコ内の反応混合物の温度が100℃~ 110℃になるように、同フラスコ内の反応混合物をさらに15時間加熱した。加熱後の反応混合物を冷却し、減圧下で蒸留して、N, N-ジエチルスルファモイルフッ化物を無色透明液体として93%超の収率で得た。この実施例の反応を直ちに以下に示す。
【0051】
【化6】
【0052】
実施例4:N-メチル -N-エチルスルファモイルフッ化物の合成
250mL丸底フラスコに三フッ化ビスマス(BiF3)( 22.57g、 0.084モル)を秤量し、N-メチル -N-エチルスルファモイル塩化物(24.88g、 0.1581モル)を添加した。同フラスコを乾燥窒素またはアルゴンラインに取り付け、次いでメカニカルスターラーに接続した。その後、オイルバスを用いて、同フラスコ内の反応混合物の温度が70℃になるように、同フラスコ内の反応混合物を攪拌しながら2時間加熱し、続いて同フラスコ内の反応混合物の温度が110℃になるように、同フラスコ内の反応混合物をさらに15時間加熱した。加熱後の反応混合物を冷却し、減圧下で蒸留して、N-メチル -N-エチルスルファモイルフッ化物を無色透明液体として94%超の収率で得た。この実施例の反応を以下に示す。
【0053】
【化7】
【0054】
本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び追加を行うことができる。上述した様々な実施形態における各々の特徴は、他の記載された実施形態の特徴と適宜組み合わせることができ、それにより関連する新たな実施形態における多数の特徴的な組合せを提供することができる。さらに、前述では多数の別個の実施形態が説明されているが、本明細書で説明されたことは、本発明の原理の適用を単に例示するものである。さらに、本明細書の特定の方法は、特定の順序で実行されるように図示および/または説明されることがあるが、その順序は、通常の技術の範囲内であれば柔軟に変更して、本開示の態様を達成することができる。従って、この説明は、本開示の態様を達成するための方法の一例として理解されることを意図しており、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0055】
例示的な実施形態が上記に開示され、添付の図面に例示されている。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に具体的に開示されているものに対して様々な変更、省略および追加がなされ得ることは、当業者には理解されよう。
【国際調査報告】