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特表2023-540246ウイルス感染を予防および処置するための化合物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ウイルス感染を予防および処置するための化合物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20230914BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A61K31/575
A61P31/12
A61K31/353
A61K31/351
A61K31/7048
A61K31/047
A61P43/00 121
A61P31/22
A61P31/14
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513791
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 US2021047935
(87)【国際公開番号】W WO2022047147
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】63/071,564
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521007665
【氏名又は名称】アージル・バイオテック・ホールディング・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Arjil Biotech Holding Company Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】ウー,イェー ビー
(72)【発明者】
【氏名】ロ,ジャー-メン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ホイ-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】リン,ペイ-シン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】チュウ,ウェイ-チョン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,グアン-ジョン
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086BA08
4C086DA11
4C086EA11
4C086GA02
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA13
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB33
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、抗ウイルス化合物に関する。本開示は、ウイルスのシステインプロテアーゼおよび/または細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド、特に SARS-COV-2および肝炎Bウイルス(HBV)を阻害することを介してウイルス感染を予防および/または処置する方法を含む。また、いずれかの化合物、その薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を含む、ウイルス感染を予防および/または処置するための組成物/医薬組成物、および前記化合物の使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染を阻害する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の化合物またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を含む医薬組成物を投与することを含み、ここで、該化合物は、
式I:
【化1】
の構造を有するウゴニンJおよびその誘導体、
式II:
【化2】
の構造を有するウゴニンNおよびその誘導体、
式III:
【化3】
の構造を有する6-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシヘキサ-3,5-ジエン-2-オンおよびその誘導体、
式IV:
【化4】
の構造を有する2-[(E)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エテニル]-6-ヒドロキシピラン-4-オンおよびその誘導体、
式V:
【化5】
の構造を有するデヒドロエブリコ酸およびその誘導体、
式VI:
【化6】
の構造を有する3-O-メチルケンフェロールおよびその誘導体、
式VII:
【化7】
の構造を有するケンフェロール-3-O-(3,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシドおよびその誘導体、
式VIII:
【化8】
の構造を有するケンフェロール-3-O-(2,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシドおよびその誘導体、
式IX:
【化9】
の構造を有するデヒドロスルフュレン酸およびその誘導体、
式X:
【化10】
の構造を有するスルフュレン酸およびその誘導体、
式XI:
【化11】
の構造を有するベルシスポン酸Dおよびその誘導体、
式XII:
【化12】
の構造を有するトランス-p-メント-6-エン-2,8-ジオールおよびその誘導体、
式XIII:
【化13】
の構造を有するアントシンKおよびその誘導体、
ならびにこれらの混合物からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
対象に、請求項1に規定する二つまたはそれ以上の化合物の組合せ物を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物が、ウゴニンJ、ウゴニンN、6-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシヘキサ-3,5-ジエン-2-オン、2-[(E)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エテニル]-6-ヒドロキシピラン-4-オン、デヒドロエブリコ酸、3-O-メチルケンフェロール、ケンフェロール-3-O-(3,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド、ケンフェロール-3-O-(2,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド、デヒドロスルフュレン酸、スルフュレン酸、ベルシスポン酸Dおよびトランス-p-メント-6-エン-2,8-ジオール、およびアントシンKからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
化合物が、ウゴニンJ、ウゴニンN、6-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシヘキサ-3,5-ジエン-2-オン、2-[(E)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エテニル]-6-ヒドロキシピラン-4-オン、デヒドロエブリコ酸、3-O-メチルケンフェロール、ケンフェロール-3-O-(3,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド、ケンフェロール-3-O-(2,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド、オバトジオリド、デヒドロスルフュレン酸、スルフュレン酸、ベルシスポン酸Dおよびトランス-p-メント-6-エン-2,8-ジオール、およびアントシンKからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、またはD型肝炎ウイルスである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス(HBV)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ウイルスが、単純ヘルペスウイルス(HSV)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスが、コロナウイルスである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、およびSARS-COV-2からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
コロナウイルスが、SARS-COV-2である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
化合物が、ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害するのに有効である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
化合物が、細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を阻害するのに有効である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの追加の抗ウイルス治療物質をさらに投与することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害することを介してウイルス感染を処置または予防する方法であって、それを必要とする対象に、請求項1に規定する化合物またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を含む組成物/医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項15】
化合物が、細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を阻害するのに有効である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ウイルス感染を処置または予防するための組合せ物/組成物/医薬組成物であって、請求項1に規定する化合物、またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を、ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害するのに有効な量で、薬学的に許容できる担体と組み合わせて含む、組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項17】
ウイルス感染を処置または予防するための組合せ物/組成物/医薬組成物であって、請求項1に規定する化合物、またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を、細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を阻害するのに有効な量で含む、組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項18】
ウイルスが、RNA依存性ウイルスである、請求項16または17に記載の組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項19】
RNA依存性ウイルスが、コロナウイルスである、請求項18に記載の組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項20】
コロナウイルスが、SARS、MERSまたはSARS-CoV-2である、請求項19に記載の組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項21】
コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項19に記載の組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項22】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、またはD型肝炎ウイルスである、請求項16または17に記載の組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項23】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス(HBV)である、請求項22に記載の組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項24】
ウイルスが、単純ヘルペスウイルス(HSV)である、請求項16または17に記載の組合せ物/組成物/医薬組成物。
【請求項25】
ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害することを介してウイルス感染を予防または処置するための医薬を製造するための、請求項1に規定する化合物、その薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物の使用。
【請求項26】
細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を阻害することを介してウイルス感染を予防または処置するための医薬を製造するための、請求項1に規定する化合物、その薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物の使用。
【請求項27】
ウイルスが、RNA依存性ウイルスである、請求項25または26に記載の使用。
【請求項28】
RNA依存性ウイルスが、コロナウイルスである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
コロナウイルスが、SARS、MERSまたはSARS-CoV-2である、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、またはD型肝炎ウイルスである、請求項25または26に記載の使用。
【請求項32】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス(HBV)である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
ウイルスが、単純ヘルペスウイルス(HSV)である、請求項25または26に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年8月28日出願の米国仮特許出願63/071,564の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、ウイルス感染、特に、コロナウイルスまたは肝炎ウイルスによって引き起こされる疾患を予防および処置するための抗-ウイルス化合物群および方法ならびに組合せ物/組成物/医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ウイルスは、タンパク質の被膜の中に遺伝物質が入ったものであり、生きている正常な細胞に侵入し、その細胞を使って、自分と同じような他のウイルスを増殖し産生し、それによりインフルエンザや疣贅などの身近な感染症の原因になったり、天然痘や後天性免疫不全症候群(AIDS)などの重篤な疾患を引き起こす。
【0004】
例えば、肝炎ウイルスは、A型、B型、C型、D型およびE型の五つの異なる型とともに、X型およびG型がある。A型およびE型ウイルス肝炎は、有害な水や食品を摂取することで誘発される。しかし、B型、C型およびD型ウイルス肝炎は、感染した体液との非経口的な接触によって引き起こされる。また、C型およびD型肝炎ウイルス感染症も増加しており、有効な処置が求められている。
【0005】
B型肝炎ウイルス(HBV)は、ヒトに急性および慢性のウイルス肝炎を引き起こす。HBV感染は、肝硬変や肝細胞癌(HCC)を含む重度の肝臓疾患を伴うことが多い[1]。世界におけるHBV感染の罹患率は非常に高い。25年以上に亙り効果的なワクチンが入手できているにもかかわらず、約3億5000万人が慢性的に感染している。HBV保有者におけるHCCの相対リスクは、非保有者と比較して約100倍増加する[2]。
【0006】
インターフェロンアルファまたはウイルスの逆転写酵素を阻害するヌクレオシド(ヌクレオチド)類似体などの、現在承認されている抗HBV薬は、副作用や薬物耐性が出現するため、増大しつつあるHBV感染患者は使用できない[3]。
【0007】
そのため、治療効果を改善するためには、ウイルスのライフサイクルにおける他の段階を妨害することを目的とする、有効かつ安全であり、価格が許容できる抗HBV薬の探索が必要である。
【0008】
HBVは、3.2kbのウイルスゲノムを保護するヌクレオカプシドからなる小型DNAウイルスである[4]。HBVのヌクレオカプシドは、B型肝炎表面抗原(HBsAg)からなるエンベロープに包まれている。HBsAgは、三つの同相の開始コドン(in-phase start codons)を有する一つの読み取り枠内にコードされている。MHBsAgは、Sドメインからの55アミノ酸(aa)伸長を有し、それはpre-S2ドメインと称される。LHBsAgは、pre-S2ドメインから伸長するさらなる108-aa領域を有し、pre-S1ドメインを構成する。最近、ナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)が、HBV受容体として同定された[5, 6]。感染されていない肝細胞へのHBVの侵入は、長い間、抗ウイルス介入の潜在的な標的として提案されてきた[7]。他方で、HepG2.2.15細胞はHBVの全ゲノムを包含しており、それは、HBVの複製、組み立ておよび分泌の研究に広く用いられてきた。
【0009】
感染期におけるHBVの肝細胞への付着は、長い間、抗ウイルス介入の潜在的な標的として提案されてきた。HBV粒子に特異的に結合する分子は、ウイルスの付着を妨害し、その結果、その後の感染を減少または阻止すると考えられている[8]。
【0010】
ヒトHBVの初期感染事象については、完全な複製サイクルを支持する細胞培養システムがないため、その知見は限られている。現在までに、2種類の細胞型がHBVに感染しやすいことが示されている。1つはヒト肝癌細胞株HepaRGであり、これは、ジメチルスルホキシド(DMSO)によって誘導される分化の後に感染可能となり[7,9]、もう1つの細胞型は正常ヒト初代肝細胞であり、これは、HBVに容易に感染されるが[10,11]、インビトロでの細胞の寿命が限られていることや、安定した供給源がないことから、今後の応用には大きな制限があると考えられる。
【0011】
さらに、単純ヘルペスウイルス(HSV)もまた、タンパク質被覆層内に包まれているDNAゲノムからなる。1型および2型単純ヘルペスウイルス(HSV-1およびHSV-2)は、歯肉口内炎、咽頭炎、口唇ヘルペス、脳炎、眼や性器の感染など、ヒトの疾患の原因物質である[12]。ヘルペスウイルス感染は、一般に、軽度または無症状の初期段階があり、その後、ウイルスは非複製の潜伏状態または臨床的に検出不可能なレベルでの複製で持続する[13]。HSV-1の初感染は、口および/または喉に最も関連しており、歯肉口内炎および咽頭炎を引き起こす。口咽頭の初感染から回復した後も、個体は三叉神経節にHSVのDNAを生涯にわたって保持し、口唇ヘルペスの発作を繰り返すことがある。また、研究では、ヘルペスウイルスファミリーのいくつかのメンバーと歯周病との間に関連性がある可能性も明らかにされている[14]。ヒトヘルペスウイルスは、歯周炎の病巣に比較的高い確率で存在する可能性がある[15]。HSVは、臨床上の付着喪失(アタッチメントロス)の観点から、歯周病の重症度と関連している[16]。ウイルス性歯肉感染は、宿主の防御機構を損い、それによって病原性口腔細菌の異常増殖の段階に到達させる可能性がある[15, 17]。
【0012】
HSVは、一般に、粘膜、皮膚、眼および神経系を攻撃し、幅広い種類の細胞に感染することができる[18]。ヒト歯肉粘膜の器官培養物は、HSV-1およびHSV-2に感染され得る[19]。さらに、インビトロで培養されたヒト歯肉ケラチン生成細胞や歯肉線維芽細胞は、HSVの増殖を維持させる[20,21]。HSV-1はウイルスチミジンキナーゼをコードしており、これが、アシクロビルを、HSV DNAポリメラーゼの鎖状ターミネーター基質であるアシクロビル三リン酸に間接的に代謝することでウイルスのDNA複製を停止させる[22]。しかし、5~30%の症例においてHSVはアシクロビルに対する耐性が報告されている[23])。アシクロビル耐性のHSV-1株は、免疫不全の患者で頻繁に発生し、重篤な合併症を引き起こすことがある[24]。ワクチンが存在しないため、局所用殺菌剤が、HSVの伝染を予防するための重要な戦略であると考えられる。
【0013】
世界保健機関(WHO)によると、2002年11月1日から2003年6月18日までの重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生により、29か国以上で801人が死亡し、世界中で8465の可能性のある症例をもたらした[25]。SARSは、ポジティブセンスの一本鎖RNAを含むエンベロープ型βコロナウイルスであり、約30kbのゲノムサイズを有し、ここで、読み取り枠(ORF)1aおよび1bは、pp1aおよびpp1abといった二つのそれぞれのポリタンパク質(pps)をコードしている[26, 27]。そのライフサイクルを完成させるためには、複製とタンパク質分解の成功が必要となる[28]。実際、これらのウイルスによりコードされたタンパク質分解タンパク質のコンセンサス機能は、すべてのコロナウイルスに見出され、特にパップリン様プロテアーゼ(papline-like protease, PLpro)とキモトリプシン様プロテアーゼ(chymotrypsin-like protease, 3CLpro)がある[28]。pp1aとpp1abのタンパク質分解処理において、PLproと3CLproはそれぞれ最初の3個の部位と残りの11個の位置を切断し、合計16個の非構造タンパク質(nsp1-16)を得る[26, 27]。したがって、3CLproの阻害は、抗SARS薬の発見と開発における分子的アプローチとみなされている[25, 29]。
【0014】
SARS-COV-2は、中国武漢の重症肺炎患者において確認されて以来、急速に拡散した新型コロナウイルス(COVID-19と命名)であり、2020年2月17日現在、世界25カ国で報告され、研究室レベルで確認された患者は約72000人、死者は1775人に達している[30]。悲惨なことに、ヒトコロナウイルスの治療薬やワクチンはまだ承認されていない[31]。SARS-CoV-2の現在の発生と、SARSとMERS(別のβコロナウイルス)の治療経験に関して、多くの研究では、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびインフルエンザ感染に使われている既存の抗ウイルス物質を、SARS-COV-2の処置または介入に使う可能性を広く調査している[31, 32]。一方、SARS-CoV-2は、SARSやMERSと同様にエンベロープ型ポジティブセンス一本鎖RNAβコロナウイルスであることが特徴となっている[31]。コロナウイルスの特徴と一致して、SARS-CoV-2ゲノムは、構造タンパク質(例えば、スパイク糖タンパク質)、非構造タンパク質(例えば、3CLpro、PLpro、ヘリカーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼ)、およびアクセサリータンパク質をコードする。SARS-COV-2、SARSおよびMERSの利用可能なゲノム配列では、タンパク質分解部位およびタンパク質分解酵素が高レベルに保存されていることが見出され、そのため、SARS-COV-2の処置のためにSARSおよびMERSプロテアーゼ阻害物質を転用することは検討する価値がある[33]。3CLproはSARSにおいて極めて重要な役割を果たしており、SARS-COV-2のPLproに代わってSARS-COV-2の3CLproを標的にしてそのライフサイクルを遮断することにより、プロテアーゼ阻害にアプローチすることは合理的である[25, 29, 33]。
【0015】
現在、アルコール依存症を処置する薬物として承認されているジスルフィラムは、細胞培養においてMERSやSARSのPLproを阻害することが報告されているが、まだ臨床的な評価はされていない[31]。さらに、SARS-CoV-2患者におけるHIVプロテアーゼ阻害物質(ロピナビルおよびリトナビル)の臨床試験も開始されたが、HIVおよびβコロナウイルスプロテアーゼはそれぞれ、アスパラギンプロテアーゼファミリーおよびシステインプロテアーゼファミリーに属すため、SARS-CoV-2のプロテアーゼを効果的に阻害できるかどうかは不明である[31, 34]。他方で、HIV治療に承認されているRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害物質のヌクレオチドアナログであるレムデシビル(RDV)は、現在、SARS-CoV-2患者において臨床試験が行われており、2020年4月に完了予定であり;HCV治療の初期段階の臨床研究におけるRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害物質の別のヌクレオチドアナログであるガリデシビルは、前臨床研究において、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)に対する広域スペクトルの抗ウイルス活性を示している[34, 35]。しかし、ヌクレオシドアナログは、まだ人知を超えた毒性を誘発する可能性があると予想される[36]。
【0016】
ヒトコロナウイルス感染を予防または処置する抗ウイルス薬はまだ見出されていない。特にSARS-COV-2に対する安全な抗コロナウイルス療法の探索と開発が急務である。
【0017】
依然として、新しい抗ウイルス療法や医薬を開発することが望まれる。
【発明の概要】
【0018】
本発明において、いくつかのトリテルペン類が、ウイルス感染、特にB型肝炎ウイルス(HBV)感染および/または単純ヘルペスウイルス(HSV)感染および/またはコロナウイルス感染、特にSARS-COV-2感染の阻害に有効であることが予想外に見出された。
【0019】
本発明は、一つの態様において、ウイルス感染を阻害する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の化合物またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を含む医薬組成物を投与することを含み、該化合物は、
式I:
【化1】
の構造を有するウゴニンJおよびその誘導体、
式II:
【化2】
の構造を有するウゴニンNおよびその誘導体、
式III:
【化3】
の構造を有する6-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシヘキサ-3,5-ジエン-2-オンおよびその誘導体、
式IV:
【化4】
の構造を有する2-[(E)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エテニル]-6-ヒドロキシピラン-4-オンおよびその誘導体、
式V:
【化5】
の構造を有するデヒドロエブリコ酸およびその誘導体、
式VI:
【化6】
の構造を有する3-O-メチルケンフェロールおよびその誘導体、
式VII:
【化7】
の構造を有するケンフェロール-3-O-(3,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシドおよびその誘導体、
式VIII:
【化8】
の構造を有するケンフェロール-3-O-(2,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシドおよびその誘導体、
式IX:
【化9】
の構造を有するデヒドロスルフュレン酸およびその誘導体、
式X:
【化10】
の構造を有するスルフュレン酸およびその誘導体、
式XI:
【化11】
の構造を有するベルシスポン酸Dおよびその誘導体、
式XII:
【化12】
の構造を有するトランス-p-メント-6-エン-2,8-ジオールおよびその誘導体、
式XIII:
【化13】
の構造を有するアントシンKおよびその誘導体、
ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法を提供する。
【0020】
本発明のいくつかの特定の例において、前記の化合物は、ウゴニンJ、ウゴニンN、(6-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシヘキサ-3,5-ジエン-2-オン)、(2-[(E)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エテニル]-6-ヒドロキシピラン-4-オン)、デヒドロエブリコ酸、3-O-メチルケンフェロール、ケンフェロール-3-O-(3,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド、ケンフェロール-3-O-(2,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド)、デヒドロスルフュレン酸、スルフュレン酸、ベルシスポン酸D、およびトランス-p-メント-6-エン-2,8-ジオール、およびアントシンKからなる群から選択される。
【0021】
本発明のいくつかの特定の例において、前記の組み合わせは、ウゴニンJ、ウゴニンN、(6-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシヘキサ-3,5-ジエン-2-オン)、(2-[(E)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エテニル]-6-ヒドロキシピラン-4-オン)、デヒドロエブリコ酸、3-O-メチルケンフェロール、ケンフェロール-3-O-(3,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド、ケンフェロール-3-O-(2,4-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド)、オバトジオリド、デヒドロスルフュレン酸、スルフュレン酸、ベルシスポン酸D、およびトランス-p-メント-6-エン-2,8-ジオール、および アントシンKからなる群から選択される二つまたはそれ以上の化合物の組み合わせである。
【0022】
さらなる一態様において、本発明は、ウイルス感染、特にコロナウイルス、例えば、SARS-COV-2を予防または処置するための組合せ物/組成物/医薬組成物であって、治療有効量の本発明に記載のいずれかの化合物、またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を、薬学的に許容できる担体と組み合わせて含む組合せ物/組成物/医薬組成物を提供する。
【0023】
さらなる一態様において、本発明は、肝炎ウイルス感染、特にHBVを予防および/または処置するための組成物/医薬組成物であって、治療有効量の本明細書に開示されているいずれかの化合物またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を、薬学的に許容できる担体と組み合わせて含む組成物/医薬組成物を提供する。
【0024】
場合により、本発明による組成物/医薬組成物は、少なくとも一つの追加の抗ウイルス治療物質を含み得る。
【0025】
さらなる一態様において、本発明は、ウイルス感染、特にコロナウイルス、例えば、SARS-COV-2を予防または処置するための医薬を製造するための、本発明に記載の化合物またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物の使用を提供する。
【0026】
本発明の一例において、ウイルスは、肝炎ウイルス、特にB型肝炎ウイルス(HBV)である。
【0027】
本発明の一例において、ウイルスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)である。
【0028】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方が、例示および説明のみであり、本発明を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
前述の要約、および以下の発明の詳細な説明は、添付の図面と合わせて読むと、よりよく理解されるであろう。本発明を説明する目的で、図面には、現在好ましいとされる実施態様が示されている。
【0030】
図面において、
【0031】
図1図1は、AR100-DS1+ARH 101-DS2(0.25p/0.6FP)の3CLproの相対活性(%)、IC50=3.065μMを示す。
【0032】
図2図2は、AR100-DS1+ARH 101-DS3(0.25p/0.6FP)の3CLproの相対活性(%)、IC50=2.934μMを示す。
【0033】
図3図3は、ARH 020-DS1-SARS-Cov-2のIC50=14.93μMを示す。
【0034】
図4図4は、ARH 020-DS2-SARS-Cov-2のIC50=6.329μMを示す。
【0035】
図5図5は、ARH 019-DS1-SARS-Cov-2のIC50=19.21μMを示す。
【0036】
図6図6は、ARH 019-DS2-SARS-Cov-2のIC50=2.487μMを示す。
【0037】
図7図7は、ARH 007-DS3-SARS-Cov-2のIC50=11.61μMを示す。
【0038】
図8図8は、ARH 007-DS4-SARS-Cov-2のIC50=18.85μMを示す。
【0039】
図9図9は、ARH 007-DS5-SARS-Cov-2のIC50=48.22μMを示す。
【0040】
図10図10は、AR101-DS2+ARH013-DS1の3CLproの相対活性(%)、およびIC50=2.409μMを示す。
【0041】
図11図11は、ARH007-DS3+ARH013-DS1の3CLproの相対活性(%)、およびIC50=18.2μMを示す。
【0042】
図12図12は、AR100-DS1+ARH007-DS3の3CLproの相対活性(%)、およびIC50=8.646μMを示す。
【0043】
図13図13は、ARH013-DS1-SARS-Cov-2=32.89μMを示す。
【0044】
図14図14は、HepG2.2.15細胞のHBsAg分泌に対する0μM、20μMおよび40μMのAR101-DS2の作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0045】
図15図15は、HepG2.2.15細胞の培地中のHBV DNAレベルに対する0μM、20μMおよび40μMのAR101-DS2の作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0046】
図16図16は、HuS-E/2細胞のHBsAg分泌に対する0μM、20μMおよび40μMのAR101-DS2の作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0047】
図17図17は、HuS-E/2細胞のHBV mRNA発現レベルに対する0μM、20μMおよび40μMのAR101-DS2の作用を示す。
【0048】
図18図18は、NTCPに対する0μM、10μM、20μMおよび100μMのAR101-DS3の阻害作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0049】
図19図19は、NTCPに対する0μM、10μM、20μMおよび100μMのAR101-DS4の阻害作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0050】
図20図20は、Hus-E/2 細胞のHBsAg 分泌に対する0μM、40μMおよび80μMのAR101-DS1+AR101-DS3の作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0051】
図21図21は、Hus-E/2細胞のHBV mRNA発現レベルに対する0μM、40μMおよび80μMのAR101-DS1+AR101-DS3の作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0052】
図22図22は、Hus-E/2細胞のHBsAg分泌に対する0μM、40μMおよび80μMのAR101-DS1+AR101-DS4の作用を示す(*、P<0.05; **、P<0.01; ***、P<0.001)。
【0053】
図23図23は、Hus-E/2細胞のHBV mRNA発現レベルに対する0μM、40μMおよび80μMのAR101-DS1+AR101-DS4の作用を示す(*、P<0.05;**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0054】
本発明の詳細な説明
以上のような本発明の概要を、以下の実施例の実施態様を参照しながらさらに説明する。ただし、本発明の内容は、以下の実施態様にのみ限定されるものであり、上述した本発明の内容に基づく全ての発明が本発明の範囲に属すると理解すべきである。
【0055】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0056】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに指示しない限り、複数の参照語を含む。したがって、例えば、「試料」への言及は、当業者に知られている複数のそのような試料およびその等価物を含む。
【0057】
本発明において、ハイスループットのタンパク質分解処理阻害に対する予想薬物の作用を評価するために、先行研究で用いられたものと同様に、標識蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)対の合成ペプチドを採用し、ここで、FRET標識ペプチドの切断時に消光した蛍光体が放出されてリアルタイムでモニターできる蛍光信号を発生する(Chen et al., 2005; Jean et al., 1995; Jo et al., 2020)。本明細書に開示されている化合物のいずれかまたはその混合物が、システインプロテアーゼ、特に、SARS-CoV-2の3CLproの阻害に有効であることが、本発明において確認された。
【0058】
本発明は、ウイルス感染を予防および/または処置する方法であって、それを必要とする対象に、化合物またはその薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を投与することを含み、該化合物は、
式I:
【化14】
の構造を有するウゴニンJおよびその誘導体、
式II:
【化15】
の構造を有するウゴニンNおよびその誘導体、
式III:
【化16】
の構造を有する6-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-4-ヒドロキシヘキサ-3,5-ジエン-2-オンおよびその誘導体、
式IV:
【化17】
の構造を有する2-[(E)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エテニル]-6-ヒドロキシピラン-4-オンおよびその誘導体、
式V:
【化18】
の構造を有するデヒドロエブリコ酸およびその誘導体、
式VI:
【化19】
の構造を有する3-O-メチルケンフェロールおよびその誘導体、
式VII:
【化20】
の構造を有するケンフェロール-3-O-(3,4-O-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド)およびその誘導体、
式VIII:
【化21】
の構造を有するケンフェロール-3-O-(2,4-O-ジアセチル-アルファ-L-ラムノピラノシド)およびその誘導体、
式IX:
【化22】
の構造を有するデヒドロスルフュレン酸およびその誘導体、
式X:
【化23】
の構造を有するスルフュレン酸およびその誘導体、
式XI:
【化24】
の構造を有するベルシスポン酸Dおよびその誘導体、
式XII:
【化25】
の構造を有するトランス-p-メント-6-エン-2,8-ジオールおよびその誘導体、
式XIII:
【化26】
の構造を有するアントシンKおよびその誘導体、
およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法を提供する。
【0059】
本発明はまた、ウイルス感染、特に、コロナウイルス、例えば、SARS-COV-2を予防および/または処置するための組合せ物/組成物/医薬組成物であって、治療有効量の本発明に記載の化合物および薬学的に許容できる担体を含む組合せ物/組成物/医薬組成物を提供する。
【0060】
本明細書で使用する用語「ウイルス」とは、生物の生きている細胞内でのみ複製する小さな感染性物質であり、動物や植物から細菌や古細菌を含む微生物に至るまで、全ての種類の生命体に感染し得る、あらゆるウイルスを意味する。例示的なウイルスには、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、エンテロウイルス、ロタウイルス、デングウイルス、ポックスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス、レトロウイルス、コロナウイルスまたはノロウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
本明細書で使用する用語「肝炎ウイルス」とは、肝炎、特に、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D型肝炎ウイルス(HDV)を引き起こすウイルスを意味する。
【0062】
本明細書で使用する用語「コロナウイルス」とは、オルトコロナウイルス亜科(subfamily Orthocoronavirinae)、コロナウイルス科(family Coronaviridae)、ニドウイルス目(order Nidovirales)、およびリボウイルス域(realm Riboviria)のコロナウイルスであり、ポジティブセンス一本鎖RNAゲノムおよびらせん対称のヌクレオカプシドを有するエンベロープウイルスである。それらは、表面から突き出た特徴的な棍棒状のスパイクを有し、電子顕微鏡写真において作成された画像は太陽のコロナを連想させるものであり、それが名前の由来となった。コロナウイルスは、ヒトを含む哺乳動物や鳥類に疾患を引き起こすものである。ヒトにおいて、コロナウイルスは、一般的な風邪、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、およびSARS-COV-2を含む気道感染を引き起こすものである。
【0063】
本明細書で使用する用語「システインプロテアーゼ」とは、チオールプロテアーゼを意味するものであり、タンパク質を分解する酵素であり、触媒三残基または二残基(duad)の求核性システインチオールに関する共通の触媒メカニズムを共有する。ウイルスのシステインプロテアーゼの一例として、SARS-COV-2 3CLproがある。
【0064】
本明細書で使用する用語「処置する」または「処置」とは、疾患、疾患の症状もしくは状態、または疾患の進行に苦しんでいる対象に、疾患、疾患の症状もしくは状態、疾患により誘発される身体障害、または疾患の進行を治療、治癒、軽減、緩和、変更、回復、改善、または影響を与える目的で、一つまたはそれ以上の活性物質を含む組成物を適用または投与することを意味する。
【0065】
本明細書で使用する用語「予防する(prevent)」「予防(prevention)」または「予防(preventing)」とは、ウイルス感染、その1つまたはそれ以上の症状、対象におけるコロナウイルス感染に関連する、それによって増強される、またはそれを増強させる呼吸器状態の再発、発症、または進展の予防を意味する。
【0066】
本明細書で使用する用語「対象」とは、ヒトまたは非ヒト動物、例えば伴侶動物(例えばイヌ、ネコなど)、家畜(例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、または実験動物(例えばラット、マウス、モルモットなど)を含む。
【0067】
本明細書で使用する用語「治療有効量」とは、そのような量の医薬品を投与されていない対応する対象と比較して、疾患、障害または副作用の処置、治癒、予防または改善の効果、または疾患もしくは障害の進行速度の減少をもたらす医薬品の量を意味する。また、この用語は、正常な生理学的機能を向上させるのに有効な量もその範囲に含む。
【0068】
治療に使用するために、治療有効量の化合物は、投与のための医薬組成物として製剤化される。したがって、本発明はさらに、治療有効量の本明細書に開示されているいずれかの化合物またはこれらの混合物、および一つまたはそれ以上の薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物を提供する。
【0069】
送達および吸収の目的のために、本発明による治療有効量の活性成分は、薬学的に許容できる担体とともに適当な形態で医薬組成物に配合され得る。投与経路に基づいて、本発明の医薬組成物は、好ましくは、総重量に対して0.1重量%~100重量%の活性成分を含む。
【0070】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容できる担体」とは、製剤の他の成分と適合し、医薬組成物を投与される対象に対して劇的に変化しないという意味で許容できる担体(複数可)、希釈剤(複数可)または賦形剤(複数可)を意味する。本発明において、医薬製剤の要件に応じて、当該分野で一般的に知られているか、または使用されているいずれかの担体、希釈剤または賦形剤が使用され得る。前記担体は、活性成分に対する希釈剤、ビヒクル、賦形剤、またはマトリックスであり得る。適切な賦形剤のいくつかの例として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルボース、マンノース、デンプン、アラビヤゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩類、トラガカントゴム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロースがある。組成物はさらに、滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油;湿潤剤;乳化剤および懸濁化剤;防腐剤、例えばメチルおよびプロピル ヒドロキシベンゾエート;甘味剤;および風味剤を含み得る。
【0071】
本発明の組成物は、患者への投与後、活性成分を速やかに、継続的に、または遅延して放出する効果を提供できる。本発明によれば、医薬組成物は、経口、直腸、経鼻、局所、膣、または非経腸の経路(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、および腹腔内)、経皮法、坐薬法、および鼻腔内法を含むがこれらに限定されない、いずれかの適切な経路による投与に適合させてもよい。
【0072】
非経腸投与に関しては、好ましくは無菌水溶液の形態で使用され、該無菌水溶液はその溶液が血液に対して等張となるのに十分な塩類またはグルコースなどの他の物質を含んでいてもよい。水溶液は、必要に応じて適切に緩衝化(好ましくはpH値3~9)されていてもよい。無菌条件下での適切な非経腸組成物の調製は、当業者によく知られている標準的な薬学的技術で達成され得る。
【0073】
本発明の特定の一例において、医薬組成物は、経口投与用に製剤化される。そのような製剤は、薬学の技術分野で知られている任意の方法によって調製され得る。本発明によれば、前記組成物の形態は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ、パケット(packet)、口内錠、エリクサー(elixer)、懸濁液、ローション、溶液、シロップ、軟ゼラチンカプセルおよび硬ゼラチンカプセル、坐薬、無菌注射液、および包装散剤であり得る。
【0074】
本発明において、前記の方法および組成物/医薬組成物は、ウイルス、特に、RNA依存性ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害することを介してウイルス感染を処置するのに有効である。したがって、本発明はまた、ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害することを介してウイルス感染を処置および/または予防するための方法および組成物/医薬組成物であって、本明細書に開示されている化合物またはまたはその薬学的に許容できる塩を使用することを含む方法および組成物/医薬組成物を提供する。
【0075】
応答性のある例示的ウイルスには、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、ロタウイルス、デングウイルス、ポックスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス感染、アレナウイルス感染、麻疹ウイルス、コロナウイルスまたはノロウイルスが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、ウイルスは、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルスまたはSARS-CoV-2を含む肝炎ウイルスである。
【0076】
別の態様において、本発明は、ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害することを介してRNA依存性ウイルス感染を処置または予防する方法を提供する。ウイルスの一例として、RNA依存性ウイルス、例えば、SARS、MERSおよびSARS-COV-2;特に、SARS-COV-2がある。
【0077】
さらなる一態様において、本発明は、ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害することを介してウイルス感染を処置および/または予防するための組成物/医薬組成物であって、本明細書に開示されているいずれかの化合物、その薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を含む組成物/医薬組成物を提供する。場合によって、該組成物/医薬組成物は、少なくとも一つの追加の抗ウイルス治療物質を含み得る。
【0078】
さらなる一態様において、本発明は、細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を阻害することを介してウイルス感染を処置および/または予防するための組成物/医薬組成物であって、本明細書に開示されている化合物、その薬学的に許容できる塩、またはこれらの混合物を含む組成物/医薬組成物を提供する。場合により、該組成物/医薬組成物は、少なくとも一つの追加の抗ウイルス治療物質を含み得る。
【0079】
さらなる一態様において、本発明は、ウイルスのシステインプロテアーゼを阻害することを介してウイルス感染を処置または予防するための医薬を製造するための、本明細書に開示されているいずれかの化合物の使用を提供する。
【0080】
さらなる一態様において、本発明は、細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を阻害することを介してウイルス感染を処置または予防するための医薬を製造するための、本明細書に開示されているいずれかの化合物の使用を提供する。
【0081】
別の態様において、本発明は、細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)を阻害することを介してDNA依存性ウイルス感染を処置または予防する方法を提供する。ウイルスの一例として、DNA依存性ウイルス、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)およびD型肝炎ウイルス(HDV)がある。
【0082】
本発明は、限定ではなく実証の目的で提供される以下の例によってさらに説明される。
【実施例
【0083】
材料および方法
【0084】
I. SARS-CoV-2 3CLproでのFRETプロテアーゼアッセイ
【0085】
ED-FRETプラットフォームの確立は、Joら(2020)によって提供されたプロトコルに従う。簡単に言うと、DABCYLおよびEDANSを末端に有するカスタムタンパク質分解蛍光性ペプチドであるDABCYL-TSAVLQSGFRKMG-EDANS(Genomics, Taiwan)は、SARS-CoV-2の3CLproによって認識できるコンセンサスnsp4/nsp5切断配列を含む。このペプチドを蒸留水に溶解し、SARS-CoV-2の3CLproとインキュベートする。スペクトルを基礎とする蛍光の測定は、TECAN提供のSPARK(登録商標)マルチモードマイクロプレートリーダーで決定する。タンパク質分解活性は、37℃で時間の関数としてのペプチド加水分解時のEDANSの蛍光強度によって測定した(それぞれ、λ励起=340nm、λ放出=490nm、バンド幅=9、15nm)。アッセイ前、試験薬物の発光波長を340nm励起で検査して、EDANSの発光スペクトルと重ならないように確保する。
【0086】
アッセイは、黒色96ウェルマイクロプレート(Greiner)で、0.25μM SARS-CoV-2の3CLproおよび0.6μM カスタマイズIQF基質ペプチドを含むアッセイ緩衝液(50mM Tris pH6.5)100μL中で測定を三回行った。
【0087】
II. SARS-CoV-2の3CLproでのリアルタイムFRETプロテアーゼアッセイおよび用量反応曲線分析。
【0088】
IQFペプチド基質の添加に先立ち、0.25μM SARS-CoV-2の3CLproをアッセイ緩衝液中で指示濃度(0~100μM)の目的化合物と37℃で1時間インキュベートした(SC-HM100、Sheng Ching Enterprise Co. Ltd)。その後、TECAN SPARK(登録商標)マルチモードマイクロプレートリーダーでRFUを検出する直前に、黒色96ウェルマイクロタイタープレート内の混合物に6μM IQFペプチド基質を添加した。タンパク質活性アッセイで使用したものとは異なり、測定パラメータに小さな変更を加えた。実行中、ゲイン値80で1.5分の間隔で検出サイクルを10回行った。蛍光強度の変化は、その終了値から条件の初期値を差し引くことで算出した。その後、条件ごとの蛍光強度の変化を、各アッセイプレートにおける陰性対照(ビヒクルのみ)の変化に対して正規化した。各薬物について、0~100μMの用量反応点を、GraphPad Prism 7.03(GraphPadソフトウェア)で提供された正規化用量反応モデルに当てはめた。ここで、
【数1】
【0089】
III. Arjil薬物の存在下での阻害アッセイ
【0090】
予想のArjil(アージル社)薬物13種類を、SARS-CoV-2の3CLproと共に37℃で1時間プレインキュベートする。SARS-CoV-2の3CLproに対する明白な阻害活性を種々の濃度でさらに調査し、GraphPad Prism 7.03(GraphPad Software, San Diego, CA, USA)を用いてIC50値を特徴付けた。予想のArjil薬物13種類を下の表に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0091】
予想結果
【0092】
SARS-CoV-2の3CLproに関する知識と配列に基づき、Arjil社提供の3CLpro阻害薬の効果をインビトロで評価し、SARS-CoV-2処置における治療可能性を決定した。ヒトSARS-CoV-2感染を処置する薬物またはワクチンはまだ承認されていないため、SARS-CoV-2に対抗する広域スペクトルの抗ウイルス物質の開発が重要かつ緊急の課題となっている。ED-FRET技術とそのワークフローの導入により、研究室において確実かつ高処理(ハイスループット)に薬物を発見できる。他方、Arjilが提案し提供した13のテストからのSARS-CoV-2の3CLpro阻害物質の同定は、臨床評価における推定治療用量のガイドラインとして機能し、将来の特許出願を促し、抗ウイルスライブラリーの構築に貢献する。
13のテストは次の通り:
1. AR100-DS1+AR101-DS2;
2. AR100-DS1+AR101-DS3;
3. ARH 020-DS1 (リアルタイム);
4. ARH 020-DS2 (リアルタイム);
5. ARH 019-DS1 (リアルタイム);
6. ARH 019-DS2 (リアルタイム);
7. ARH 007-DS3 (リアルタイム);
8. ARH 007-DS4 (リアルタイム);
9. ARH 007-DS5 (リアルタイム);
10. AR101-DS2+ARH013-DS1;
11. ARH007-DS3+ARH013-DS1
12. AR100-DS1+ARH007-DS3;および
13. ARH 013-DS1(リアルタイム)。
【0093】
IV. HepG2.2.15細胞
【0094】
連続したHBV増殖は、HBVゲノムのadw2サブタイプを安定的にトランスフェクトしたHepG2.2.15細胞(RRID:CVCL_L855)において達成できる。HepG2.2.15細胞は、無制限の供給と一定の品質のために使用し、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS;Thermo)+100単位のペニシリンおよび100 X gのストレプトマイシン/ml(いずれもInvitrogen製)を補充したダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM;Invitrogen)で保持した。
【0095】
V. HuS-E/2細胞
【0096】
HBV感染には、長期間の培養後でも初代肝細胞の特徴を保持するHuS-E/2細胞を利用する。HBV感染について、HuS-E/2細胞を2%DMSOで7日間分化させ、ウイルス粒子を採取してHuS-E/2細胞に感染し複製させることは、我々の以前の研究[38]で述べたとおりである。これらの細胞は、HBV株感染性のアッセイや、抗HBV物質のスクリーニングに有用である。
【0097】
VI. HBV粒子の採取
【0098】
薬物処理したHepG2.2.15細胞の培地を4℃で10分間1,000 X gで遠心分離して清澄化し、次に、上清を20%スクロースクッション(20%スクロース、20mM HEPES、pH7.4、0.1%ウシ血清アルブミン[BSA])上に重ね、4℃で3時間197,000 X gで遠心してHBV粒子をペレットし、次に、100倍濃縮してHBV DNAを検出する。
【0099】
VII. DNAおよびRNAの分離、逆転写およびリアルタイムPCR
【0100】
ゲノムDNA分離キット(Nexttec Biotechnologie, Germany)を用いて全DNAを抽出する。全RNAは、TRIzol(登録商標)試薬(Invitrogen)を用いて培養細胞から分離する。RNAテンプレート、AMV逆転写酵素(Roche)、およびオリゴdTプライマーを用いて逆転写を行う。産物を、特定の遺伝子のプライマーセットとSYBR Green PCR Master Mix(Bio-Rad)を用いて、リアルタイムPCRにかける。HBVコア、HBsAg、cccDNAおよびGAPDHに使用したプライマーセットは記載されている[3]。結果を、iCycler iQリアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)を用いて分析する。プラスミドp1.3HBclは10倍希釈(2*104-2*109コピー/ml)で調製し、並行PCR反応において標準曲線を作成する。
【0101】
VIII. 酵素-結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
【0102】
HBsAg ELISAキット(General Biologicals Corp.)を用いて、提案されたプロトコルでB型肝炎表面抗原(HBsAg)を検出する。
【0103】
IX. PreS1-NTCPプルダウンアッセイ
【0104】
組換え融合タンパク質の発現と精製、およびGSTプルダウンアッセイは、前述したように実施した[40]。簡単に説明すると、大腸菌BL21(DE3)におけるGST融合タンパク質の発現を0.5mM イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドで誘導し、次に、細菌細胞を1%トリトンX-100(PBST)含有PBS中で4℃で超音波処理により溶解し、4℃で10分間、13,800gで遠心分離することによって可溶性と不溶性の画分に分離した。GSTプルダウンアッセイを行うために、GST融合タンパク質を含むバクテリアライセートの可溶性画分を、グルタチオンセファロース4Bビーズ(GE Healthcare Bio-Sciences)と4℃で3時間インキュベートし、次に、該ビーズをPBSTで3回洗浄した後、4℃でHuh7細胞溶解物および、プロテアーゼ阻害物質カクテル(1mM PMSF、10μg/mlのアプロチニン、1μg/mlのペプスタチンA、1μg/mlのロイペプチン)を含むPBST中で溶解することによって調製した過剰発現HA-NTCPと一晩インキュベートした。次に、該ビーズをPBSTで洗浄し、緩衝液試料(12.5mM Tris-HCl、pH6.8、2%SDS、20%グリセロール、0.25%ブロムフェノールブルー、5% b-メルカプトエタノール)に再懸濁し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、ウエスタンブロット分析により検査した。
【0105】
X. 統計分析
【0106】
すべての値は、平均値±SEで示す。各値は、各薬物のインビトロ実験における少なくとも3回の実験の平均値である。統計的比較にはスチューデントのt検定を使用する。*は、値が対照と有意に異なっていることを示す(*, p < 0.05; **, P < 0.01; ***, P < 0.001)。
【0107】
III. 結果
【0108】
1. 阻害物質の半数阻害濃度の特徴付け
【0109】
SARS-CoV-2の3CLproに対する半数阻害濃度は、0μM~100μMの範囲の指示濃度のArjil薬物で処理することによって特徴づけた。SARS-CoV-2に対するArjil薬物/テストのIC50値は、表1のように示す。以下の図に示すように、各Arjil薬物/テストのIC50値を示す。これらをまとめると、SARS-CoV-2の3CLproに対するAR100-DS1+AR101-DS2、AR101-DS2+ARH013-DS1、AR100-DS1+ARH007-DS3およびAR100-DS1+AR101-DS3の組み合わせによる阻害効果は、COVID-19に対する治療可能性を強調している。また、ARH 020-DS2、ARH 019-DS2、およびARH 007-DS3は、SARS-CoV-2の3CLproを阻害する化合物として最も有望である。
【0110】
【表2】
【0111】
10種類の例示化合物/テスト(AR100-DS1+AR101-DS2、AR100-DS1+AR101-DS3、ARH 020-DS1、ARH 020-DS2、ARH 019-DS1、ARH 019-DS2、ARH 007-DS3、ARH 007-DS4、ARH 007-DS5、ARH101-DS2+ARH013-DS1、ARH007-DS3+ARH013-DS1、AR100-DS1+ARH007-DS3、ARH013-DS1)を図1-13に示す。
【0112】
図1に示すように、AR100-DS1+AR101-DS2は、0.25μM SARS-CoV-2の3CLproおよび0.6μM IQFペプチド基質(FP)の存在下で3.065μMというIC50値を示した。一方、SARS-CoV-2の3CLproおよび0.6μM IQFペプチド基質に対する0.25μM AR100-DS1+AR101-DS3の阻害作用を測定したところ(図2参照)、SARS-CoV-2に対するAR100-DS1+AR101-DS3のIC50値が2.934μMに位置していた。
【0113】
ARH 020-DS2、ARH 019-DS2およびARH 007-DS3のIC50値はそれぞれ、6.329μM、2.487μMおよび11.61μMであった。
【0114】
上記のことから、SARS-CoV-2の3CLproに対するAR100-DS1+AR101-DS2、AR101-DS2+ARH013-DS1、AR100-DS1+ARH007-DS3およびAR100-DS1+AR101-DS3の組み合わせは、COVID-19に対する治療可能性を強調している。また、ARH 020-DS2、ARH 019-DS2、およびARH 007-DS3は、SARS-CoV-2の3CLproを阻害する化合物として最も有望である。
【0115】
上記で引用した全ての出版物、特許、および特許文献は、個別に引用することにより本明細書に包含される。
【0116】
本発明は、様々な具体的かつ好ましい実施態様および技術を参照して説明されてきた。しかしながら、当業者であれば、本発明の精神および範囲内に留まりながら、多くの変形および修正がなされ得ることを理解するであろう。
【0117】
2. HepG2.2.15細胞のHBV分泌に対する阻害作用
【0118】
上記化合物がHBVゲノムの複製、組み立て、または分泌にいずれかの作用を及ぼすかどうかを検査するために、HBVゲノムを安定的にトランスフェクトしたHepG2.2.15細胞を用い、AR101-DS2と48時間インキュベートし、次に、培地から採取したHBsAgおよびHBV DNAをELISAおよびリアルタイムPCRにより測定した。その結果を図14および図15に示した。
【0119】
HepG2.2.15細胞のHBsAg分泌に対するAR101-DS2の作用を図14に示した(0μM、20μMおよび40μMのAR101-DS2)。HBsAgの分泌は、AR101-DS2の処理により有意に阻害された。
【0120】
培地中のHBV DNAレベルに対するAR101-DS2の作用を図15に示した(0μM、20μMおよび40μMのAR101-DS2)。20μM AR101-DS2または40μM AR101-DS2のいずれかを処理した後、DNAレベルが有意に低下したことを見出した。これらの結果は、AR101-DS2はHepG2.2.15細胞のHBVの分泌を抑制することを示している。
【0121】
3. HuS-E/2細胞のHBV感染性に対する阻害作用。
【0122】
HBV感染性と複製に対するAR101-DS2の作用を評価するために、HuS-E/2細胞にHepG2.2.15細胞由来の任意のサブタイプHBVを感染させた。HBVの感染中にAR101-DS2を培地に添加して18時間培養し、次に、感染細胞を洗浄し、新鮮な培地で48時間インキュベートし、ELISAにより培地中のHBsAgを検出し、リアルタイムPCRによりHBV mRNAを検出し、HuS-E/2細胞のHBV感染効率の指標とした。その結果を図16および図17に示した。
【0123】
HuS-E/2細胞へのHBVの侵入に対するAR101-DS2の作用を図16および図17に示した。培地中のHBsAgの分泌レベルおよびHBV mRNAの発現レベルはいずれも用量依存的に減少を示さないことを見出した。したがって、AR101-DS2は、HuS-E/2細胞へのHBVの侵入を防ぐことはできなかった。
【0124】
4. 細胞内のナトリウム-タウロコール酸共輸送ポリペプチド(NTCP)に対する阻害作用
【0125】
HBV感染の阻害に対する阻害物質の作用を評価するために、AR101-DS3またはAR101-DS4で処理した細胞から細胞溶解物を抽出した。AR101-DS3の量が増加するにつれて(0μM、10μM、20μMおよび100μM、図18を参照こと)、NTCPの量はプルダウンアッセイから用量依存的に増加した。
【0126】
同様に、AR101-DS4も、図19に示すように、プルダウンアッセイからNTCPの量の有意な減少を引き起こした。これらの結果は、阻害物質はNTCPを阻害することによって、肝炎ウイルス感染を阻害できることを示している。
【0127】
5. HuS-E/2細胞のHBV感染能力に対する阻害物質組み合わせの作用。
【0128】
複数の阻害物質を組み合わせることで、HBV感染性および複製を阻害する能力が改善するかどうかを評価するため、HuS-E/2細胞にHepG2.2.15細胞由来の任意のサブタイプHBVを感染させた。18時間のHBV感染中にAR101-DS1+AR101-DS3またはAR101-DS1+AR101-DS4を培地に添加し、次に、感染細胞を洗浄し、新鮮な培地で48時間インキュベートし、ELISAにより培地中のHBsAgを検出し、リアルタイムPCRによりHBV mRNAを検出し、HuS-E/2細胞のHBV感染効率の指標とした。
【0129】
HuS-E/2細胞へのHBVの侵入に対するAR101-DS1+AR101-DS3の作用を図20および図21に示した。培地中のHBsAgの分泌レベルおよびHBV mRNAの発現レベルの両方が用量依存的に減少を示したことを見出した。したがって、AR101-DS1+AR101-DS3は、HuS-E/2細胞へのHBV感染を予防することができた。
【0130】
同様に、HuS-E/2細胞へのHBVの侵入に対するAR101-DS1+AR101-DS4の作用を図22および図23に示した。培地中のHBsAgの分泌レベルおよびHBV mRNAの発現レベルの両方が用量依存的に減少したことを見出した。したがって、AR101-DS1+AR101-DS4は、HuS-E/2細胞へのHBV感染を予防することができた。
【0131】
発明の好ましい実施態様が本明細書で示され、説明されてきたが、そのような実施態様は例示としてのみ提供され、組み合わせて実施できることは、当業者には明らかであろう。多数の変形、変更、および置換が、本発明から逸脱することなく、当業者には起こるであろう。本発明の実施態様に対する様々な代替案が、本開示を実施する際に採用され得ることを理解するべきである。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法および構造、ならびにそれらの等価物がそれによってカバーされることが意図される。
【0132】
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図1
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【国際調査報告】