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特表2023-540300走る陰極軌跡のための捕捉部を有する真空遮断器
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  • 特表-走る陰極軌跡のための捕捉部を有する真空遮断器 図1A
  • 特表-走る陰極軌跡のための捕捉部を有する真空遮断器 図1B
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  • 特表-走る陰極軌跡のための捕捉部を有する真空遮断器 図3
  • 特表-走る陰極軌跡のための捕捉部を有する真空遮断器 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】走る陰極軌跡のための捕捉部を有する真空遮断器
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/662 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
H01H33/662 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514460
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2021025373
(87)【国際公開番号】W WO2022069075
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】17/038,387
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518042280
【氏名又は名称】イートン インテリジェント パワー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Eaton Intelligent Power Limited
【住所又は居所原語表記】30 Pembroke Road, Dublin 4 D04 Y0C2, Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】100196449
【弁理士】
【氏名又は名称】湯澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】リー、ワンペイ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、シン
(57)【要約】

走る陰極軌跡を捕捉するための構造を有する真空遮断器が開示される。遮断器は、第1の電極アセンブリと、第2の電極アセンブリと、を含み、これらのうちの少なくとも1つは、可動である。遮断器はまた、長手方向軸を有する側壁を含む。1つ以上のトレンチ構造が、電極アセンブリの少なくとも1つに形成されている。各トレンチ構造は、走る陰極軌跡を捕捉して、走る陰極軌跡が側壁に接近するのを防止するために、長手方向軸に平行な方向において他方の電極アセンブリに面する開口部を有する。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空遮断器であって、
第1の電極を含む第1の電極アセンブリと、
第2の電極を含む第2の電極アセンブリと、
長手方向軸を有する側壁と、
前記第1の電極アセンブリに形成された第1のトレンチ構造であって、前記第1のトレンチ構造は、アーク放電中に前記第1の電極アセンブリの縁部に沿って走ることからアークを捕捉するために、前記長手方向軸に平行な方向において前記第2の電極アセンブリに面する開口部を有する、第1のトレンチ構造と、を備える、真空遮断器。
【請求項2】
前記第1のトレンチ構造が、前記第1の電極に形成されている、請求項1に記載の真空遮断器。
【請求項3】
前記第1の電極アセンブリが、可動電極アセンブリであり、前記第1の電極を取り囲むベローズシールドを備え、
前記第1のトレンチ構造が、前記ベローズシールドに形成されている、
請求項1に記載の真空遮断器。
【請求項4】
前記第1の電極アセンブリに接続された第1の接触子と、
前記第2の電極アセンブリに接続され、前記第1の接触子に面して位置付けられている第2の接触子と、を更に備え、
前記第1のトレンチ構造が、前記第1の接触子の周囲に放射状に位置付けられている、
請求項1に記載の真空遮断器。
【請求項5】
前記第1のトレンチ構造が、前記第1の接触子の周囲に同心円状に配置された複数のトレンチを含む、請求項4に記載の真空遮断器。
【請求項6】
前記第1の電極アセンブリが、陰極を含む、請求項1に記載の真空遮断器。
【請求項7】
前記第1の接触子及び前記第2の接触子の各々が、
タングステン、又は
タングステン-銅、タングステン-炭化タングステン-銅(W-WC-Cu)、若しくはタングステン-銀(W-Ag)の複合材から本質的になる、請求項4に記載の真空遮断器。
【請求項8】
前記第1の接触子及び前記第2の接触子の各々が、高沸点及び高最小アーク電流を有する材料から本質的になる、請求項4に記載の真空遮断器。
【請求項9】
前記第2の電極アセンブリに形成された第2のトレンチ構造を更に備え、前記第2のトレンチ構造がまた、前記長手方向軸に平行な前記方向において前記第1の電極アセンブリに面する開口部を有する、請求項1に記載の真空遮断器。
【請求項10】
前記真空遮断器が、前記電極アセンブリ間のすき間と、前記第1の電極アセンブリ及び前記第2の電極アセンブリを保持する真空外囲器の内壁との間に位置付けられた任意のシールドを含まない、請求項1に記載の真空遮断器。
【請求項11】
ハイブリッド直流(DC)スイッチであって、
DC遮断器と、
請求項1~10のいずれか一項に記載の真空遮断器と、を備える、ハイブリッド直流(DC)スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究の記述
本発明は、The United States Department of Energyによって授与された契約番号第DE-AR0001111号の下で、米国政府の支援によってなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
本特許文献は、真空スイッチと呼ばれることもある真空遮断器に関する。このような真空遮断器は、ハイブリッド直流(direct current、DC)スイッチング用途、及び他の用途において使用され得る。
【0003】
真空遮断器は、典型的には、電流の流れを遮断するために使用される。真空遮断器は、対向する接触面を有する一対の同軸状に整列した分離可能な電極アセンブリを取り囲む、略円筒形の真空外囲器を含む。接触面は、閉鎖回路位置で互いに当接し、回路を開放するように分離される。各電極アセンブリは、少なくともアーク接触子と、真空外囲器の外側に延在し、電気回路に接続する電極と、真空外囲器の一部を形成するシールカップと、を含む。
【0004】
アークは、典型的には、接触子に通電しているときに、接触子を開放回路位置まで離れる方向に移動させたときに、接触面の間のすき間に形成される。アークは、電流が遮断されるまで継続する。真空アークと接触面との間の相互作用は、接触子の浸食と、接触子材料の金属蒸気、液滴、固体粒子、並びに/又は液体及び固体の両方を含有するしぶきの形態の浸食生成物と、をもたらす。これらの導電性浸食生成物の堆積によって引き起こされる劣化からセラミック絶縁体の絶縁耐力を保護するために、典型的には、一方又は両方の電極の周囲に保護シールドが使用され、接触子すき間から直接視線で見えるセラミックの内壁の少なくとも一部分を覆う。少なくとも1つのこのようなシールドは、真空遮断器の用途の大部分に必要であり、特に、AC(交流)負荷又は故障電流の遮断の場合など、遮断される電流の大きさが大きく、アーク放電の持続時間が長いときに必要である。
【0005】
しかしながら、シールドの使用は、電極の直径を制限し、遮断器のサイズを増大させ、遮断器の誘電及び通電能力を制限する場合がある。これは、ハイブリッドDCスイッチング用途において特に望ましくない場合がある。更に、低アーク放電負荷ハイブリッドDCスイッチング用途では、真空遮断器の金属構成要素の浸食は、主に、走る陰極軌跡の形態で起こり、それらがセラミックの内壁に非常に接近して遮断器の誘電劣化を引き起こすリスクがある。
【0006】
本文献は、上述の課題のうちの少なくともいくつかに対処する方法及びシステムを説明する。
【発明の概要】
【0007】
様々な実施形態では、真空遮断器は、第1の電極を含む第1の電極アセンブリと、第2の電極を含む第2の電極アセンブリと、を含む。真空遮断器はまた、長手方向軸を有する側壁を含み得る。第1のトレンチ構造は、第1の電極アセンブリに形成されている。第1のトレンチ構造は、アーク放電中に第1の電極アセンブリの縁部に沿って走ることからアークを捕捉するために、長手方向軸に平行な方向において第2の電極アセンブリに面する開口部を有する。
【0008】
いくつかの実施形態では、第1のトレンチ構造は、第1の電極に直接形成されている。他の実施形態では、第1の電極アセンブリは、第1の電極を取り囲むベローズシールドを備える可動アセンブリであり、第1のトレンチ構造は、ベローズシールドに形成されている。
【0009】
様々な実施形態では、真空遮断器はまた、第1の電極アセンブリに接続された第1の接触子と、第2の電極アセンブリに接続され、第1の接触子に面して位置付けられている第2の接触子と、を含む。第1のトレンチ構造は、第1の接触子の周囲に放射状に位置付けられ得る。追加の選択肢として、第1のトレンチ構造は、第1の接触子の周囲に同心円状に配置された複数のトレンチを含み得る。
【0010】
任意選択で、第1の電極アセンブリは、陰極を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1の接触子及び第2の接触子の各々は、高沸点及び高最小アーク電流を有する材料から本質的になる。例えば、接触子は、(a)タングステン、又は(b)タングステン-銅、タングステン-炭化タングステン-銅(W-WC-Cu)、若しくはタングステン-銀(W-Ag)の複合材から本質的になり得る。
【0012】
任意選択で、遮断器はまた、第2の電極アセンブリに形成された第2のトレンチ構造を含み、第2のトレンチ構造はまた、長手方向軸に平行な方向において第1の電極アセンブリに面する(すなわち、電極アセンブリ間のすき間に面する)開口部を有する。
【0013】
様々な実施形態では、真空遮断器は、電極アセンブリの接触点と、第1及び第2の電極アセンブリを保持する真空外囲器のセラミック部分の内壁との間に位置付けられた任意のシールドを含まなくてもよい。
【0014】
任意選択で、真空遮断器は、DC遮断器も含むハイブリッド直流(DC)スイッチの構成要素であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】従来技術に存在し得るような、真空遮断器の例示的な構成要素を示す。図1Aは、フローティングシールドを有する真空遮断器を示し、図1Bは、固定シールドを有する真空遮断器を示す。
図1B】従来技術に存在し得るような、真空遮断器の例示的な構成要素を示す。図1Aは、フローティングシールドを有する真空遮断器を示し、図1Bは、固定シールドを有する真空遮断器を示す。
図2A】陰極軌跡が真空遮断器の銅電極の表面上をどのように跡を付け得るかを示す写真である。
図2B】フローティングシールドアセンブリのステンレス鋼部分上に形成された陰極軌跡と、セラミック本体の内壁上の対応する金属堆積物と、を示す写真である。
図3】真空遮断器における走る陰極軌跡を捕捉するための例示的な構造を示す。
図4】ハイブリッドブレーカの例示的な構成要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用されるとき、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、及び「その(the)」は、文脈が別途明確に示さない限り、複数のものへの言及が含まれる。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で使用するとき、用語「備える(comprising)」は、限定するものではないが、「含む(including)」ことを意味する。
【0017】
この文書では、そのような「第1の」及び「第2の」という用語が名詞を修正するために使用される場合、そのような使用は、単に1つの項目を別の項目と区別することを意図するものであり、具体的に記載されない限り、連続的な順序を必要とするものではない。数値に関連して使用されるとき、用語「約(about)」及び「およそ(approximately)」は、数値に近いが正確には数字ではない値を含むことが意図される。例えば、いくつかの実施形態では、用語「およそ」は、値の+/-10パーセント以内の値を含み得る。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「上部」及び「底部」、「上側」及び「下側」、又は「上方」及び「下方」などは、絶対的な向きを有することを意図するものではなく、代わりに、互いに対する様々な構成要素の相対的位置を説明することを意図する。例えば、第1の構成要素は「上側」構成要素であってもよく、第2の構成要素は、構成要素が一部であるデバイスが第1の方向に配向されているときに「下側」構成要素であってもよい。構成要素の相対的な配向は逆であってもよく、又は構成要素を含む構造の向きが変更される場合には、構成要素が同じ平面上にあってもよい。図面は、縮尺とおりではない。特許請求の範囲は、そのような構成要素を含むデバイスの全ての配向を含むことを意図する。
【0019】
「中電圧」(Medium voltage、MV)システムは、約600V~約1000kVの電圧を扱うように定格された電気システムを含む。いくつかの規格は、MVを、600V~約69kVの電圧範囲を含むものと定義する。(NECA/NEMA600-2003を参照)。他の規格は、1kV、1.5kV、又は2.4kVの下限と、35kV、38kV、65kV、又は69kVの上限とを有する範囲を含む。(例えば、MVを1kV~35kVと定義するIEC60038、ANSI/IEEE1585-200、及びIEEE Std.1623-2004を参照)。別段の記載がある場合を除き、本文書では、「中電圧」という用語は、およそ1kV~およそ100kVの電圧範囲、並びにその範囲内の全ての可能な部分範囲を含むことを意図する。
【0020】
図1A及び図1Bは、従来技術に存在し得るような、真空遮断器としても知られる例示的な真空スイッチの断面図を示す。真空遮断器100は、電流の流れを遮断するのを助けるために真空が存在するハウジングとして機能する真空外囲器150を含む。真空外囲器150は、典型的には円筒形であり、図1A及び図1Bに示される図は、円筒の断面である。固定接触子101は、真空外囲器150内に部分的にある。可動接触子102も真空外囲器150内に部分的にある。可動接触子102は、固定接触子101と電気的に接触する閉位置と、固定接触子101から離間した開位置との間で(例えば、図1A及び図1Bの視点から上下に)移動可能である。真空外囲器150は、第1及び第2の反対側にある端部151、152を含む。真空外囲器150の内部は、典型的には、セラミックなどの高い絶縁耐力を有する絶縁材で形成された側壁160を含む。
【0021】
図1A及び図1Bの例では、真空遮断器100は、固定接触子101及び固定接触子101に電気的に接続された1つ以上の電極を含む固定電極アセンブリ103と、可動接触子102及び可動接触子102に電気的に接続された1つ以上の電極を含む可動電極アセンブリ104と、を含む。電極アセンブリ103、104は、それらの対応する接触子101、102から、真空外囲器150の第1の端部151又は真空外囲器150の第2の端部152のいずれかに向かって延在している。DCの方向性のある電流の流れにおいては、電極アセンブリ103、104の一方は真空遮断器の陽極として機能し、他方は陰極として機能し、ACの双方向性電流においては、陰極及び陽極として交互に機能する。
【0022】
典型的なAC用途では、真空遮断器は、1ミリ秒超の持続時間にわたる1キロアンペア(kA)超の範囲のアーク放電負荷を有し得る。真空外囲器150の側壁160のセラミック絶縁体部分の絶縁耐力を、この強いアーク放電負荷による金属蒸気及びしぶきの堆積によって引き起こされる劣化から保護するために、少なくとも1つのセラミック保護シールドが必要である。シールドは、ステンレス鋼、銅、Cu-Cr粉末冶金片及び2つのステンレス鋼端部のアセンブリ、又は任意の他の材料で形成されてもよい。図1Aは、真空遮断器のいずれの端部にも電気的に取り付けられていない電気的フローティングシールド175を有する一例を示す。このようなフローティングシールドは、接触子間の電気応力を均一に分布させることができ、したがって、真空遮断器の内側及び外側の電圧分布を最適に整形することができる。しかしながら、フローティングシールド175を側壁160の絶縁セラミックに取り付けると、真空遮断器の製造が困難になり、製造コストが増大する。したがって、図1Bに示されるような、電気的に固定されたシールドを有する真空遮断器が設計及び製造されることが多く、セラミック保護シールド176は、真空遮断器の一端部に機械的及び電気的の両方で固定される(この場合、固定端子を含む端部151)。
【0023】
シールドは有用であるが、シールドは、接触子の角部において高電場をもたらし、特に固定シールドの場合には、電場が巻き付くシールドの先端において更なる高電場をもたらす場合がある。シールドはまた、シールドが真空外囲器内の空間を取るので、電極の直径を制限する。
【0024】
一対の電気接点間のすき間の単位長さ当たりの絶縁耐力が非常に高いので、真空遮断器は、DCスイッチング用途に必要な超高速動作に独自に適合することが分かっている。これを、アーク放電の消滅直後のその速い誘電回復強度(及び寿命にわたるその低い接触抵抗の最小限の劣化)と組み合わせると、真空遮断器は、ハイブリッドDCスイッチング方式における機械的スイッチとして好ましい選択になりつつある。
【0025】
このようなハイブリッドDCスイッチング用途では、真空遮断器は、非常に小さい高周波電流を遮断するか、又は単に電流の流れを整流するかのいずれかを要求される。真空遮断器によって経験されるアーク放電負荷は、1桁又は2桁のアンペア程度であり、持続時間は、数十マイクロ秒程度又はそれ未満にすぎない。これらのハイブリッドDCスイッチは、多くの場合、船舶又は航空車両などの閉鎖空間で使用されることが意図されるので、真空遮断器の単位体積当たりの高い通電能力を有することが望ましい。この新たに見出された、高い誘電要求及び高い通電要求と低アーク放電負荷要求との組合せは、特に製造コストが考慮される場合、真空遮断器が上述のセラミック保護シールドを有さないことを非常に望ましいものにする。
【0026】
しかしながら、シールドを排除する場合、セラミック円筒体160の内壁は、制限されているが依然として有限のアーク放電において生成される金属蒸気の堆積から依然として保護される必要がある。重度のAC遮断の場合の高強度アーク放電による接触子の直接蒸発とは異なり、ハイブリッドスイッチにおけるこの低電流制限アーク放電の場合、金属蒸気発生の主なメカニズムは、陰極軌跡によるものであり、陰極軌跡は、陰極の開放接触子上に形成され、陰極の面に沿って走り、走る真空アークの陰極端部によって内壁に向かって下降する、陰極スポットと呼ばれることもある浅いクレータの集合体であり、セラミック内壁の誘電劣化の主なリスクは、セラミック壁に非常に接近して走る陰極軌跡からの金属蒸気のフラッシングである。陰極軌跡がセラミック壁に接近して走る可能性は、セラミック円筒体の内径が許す限り大きな電極が、電極の、したがって真空遮断器の通電能力を最大にする要望のために設計されるときに増大する。図2Aは、アーク放電CuW接触面で開始され、その縁部を越えて走り下り、銅電極の表面に沿って跡が付けられた陰極軌跡201を示す写真であり、図2Bは、フローティングシールドアセンブリのステンレス鋼部分上に形成された陰極軌跡201と、近くの陰極軌跡からのアーク放電活動から生じた可能性が高い、セラミック円筒体203の他の白色で清浄な内壁上の金属フラッシング202のスポットとを示す写真である。
【0027】
これに対処するために、本発明者らは、真空遮断器の電極に沿った陰極軌跡の走りを捕捉するための手段が可能であり、ハイブリッドDCスイッチング用途において特に有用であることを見出した。これは、接触子の外径縁部とセラミック円筒体の内壁との間の径方向位置において、電極自体又はベローズシールド上のいずれかの電極アセンブリの一部分に機械加工又は形成された1つ以上のトレンチによって達成される。トレンチの開口部は、接触面からセラミック円筒体の内壁への陰極軌跡の径方向運動を効果的に停止又は実質的に低減するために、電極間に存在する空間に面していてもよい。
【0028】
図3は、これがどのように達成され得るかの様々な例を示す。図3に示されるように、真空遮断器300は、固定接触子301を含む固定電極アセンブリ303と、可動接触子302を含む可動電極アセンブリ304とを、電極自体、ベローズシールド、電極とハウジング側壁との間に位置付けられたシールカップ、及び/又は他の構成要素などの他の要素とともに含む。真空遮断器300は、開位置で示されており、電極アセンブリ303、304と接触子302、302との間に空間370が存在する。(開位置では、空間370は、接触子すき間と、接触子を取り囲む電極間の空間と、を含む。トレンチ構造311は、接触子301と可動電極アセンブリ304の外縁との間の径方向位置において、円として固定電極アセンブリ303に形成されるものとして示されている。トレンチ構造311は、固定電極アセンブリ303に機械加工されてもよく、成形によって形成されてもよく、又は他の方法で固定電極アセンブリ303の一部にされてもよい。図示のようなトレンチ構造311は、固定電極アセンブリ303、可動電極アセンブリ304、又は両方に形成されてもよい。
【0029】
追加的に又は代替的に、トレンチ構造は、2つ以上の同心トレンチ313A、313Bの形態であってもよく、これらは、図示の実施例では、可動電極アセンブリ304を取り囲むベローズシールド314に取り付けられている(ベローズをアークから保護するため)。各トレンチ構造313A、313Bは、接触子302の外縁と電極アセンブリ304の外縁との間の半方向位置において、円として可動電極アセンブリ303に形成されるものとして示されている。同心トレンチ313A、313Bは、電極アセンブリ303、304の一方又は両方に、直接(機械加工などによって)、又はベローズシールド314を介してのいずれかで形成されてもよく、ベローズシールドは、いくつかの実施形態では、対応する電極アセンブリの電極に取り付けられるダミーシールド314であるタイプのものであってもよい。
【0030】
いずれかの電極アセンブリ303、304に形成された各トレンチ構造311、313A、313Bは、真空外囲器の側壁354の長手方向軸に平行な軸方向において、他方の電極アセンブリに面する(すなわち、空間370に向かう)開口部を有する。(図3では、長手方向は垂直方向に走る。)
【0031】
図3では、各トレンチの開口部は、トレンチが形成された電極アセンブリに取り付けられた接触子の接触面と同じ平面上にないことに留意されたい。代わりに、各トレンチの開口部は、接触子の縁部よりも低い(上向き接触子の場合)か、又は高い(下向き接触子の場合)。したがって、真空遮断器が閉じられ、接触子301、302が互いに接触するとき、接触子すき間は閉じられるが、空間370は、電極アセンブリ303、304間に依然として存在することになるが、そのサイズは、接触子が接触しているので、接触子間にいかなる部分も含まないように縮小されることになる。
【0032】
少なくとも、走る陰極軌跡を捕捉するための1つ以上のトレンチが、陰極として機能する電極アセンブリの接触子の周囲に形成される。しかしながら、トレンチは、特に電流の流れの方向が逆にされ得る設備において、両方の電極アセンブリに使用され得る。
【0033】
トレンチ構造は、図3に示されるような長方形(垂直な平坦な底部を有する平行な平坦な側壁)、湾曲した底部を有する平坦な側壁(ハーフパイプ形状のような)、V字形、又は他の方法で形成されたものを含む、任意の適切な形状であってもよい。
【0034】
任意選択で、接触子のアーク浸食による金属蒸気の発生を低減することによってセラミック壁の保護を更に改善するために、いくつかの実施形態では、接触子301、302の一方又は両方が、銅又は銀又はクロムよりも高い沸点及び最小アーク電流(すなわち、アークが維持されるために存在しなければならない最小電流)を有する材料から形成されてもよい。このような材料の例は、純粋なタングステンW(「純粋」とは、実質的に純粋であり、微量不純物を許容することを意味する)、又はタングステンWと銅Cuとの複合材(W-Cu合金)、タングステンと炭化タングステン及び銅との複合材(W-WC-Cu合金)、又はタングステンと銀との複合材(W-Ag合金)であり、各場合において、W(又はW+WC)が複合材の>95重量パーセントを構成する。
【0035】
上述したような構造では、真空遮断器300は、接触子301、302と真空外囲器の内側壁354との間に存在するいかなるシールドも有さなくてもよいが、本発明は、シールドを省略する実施形態に限定されるものではない。
【0036】
図4は、上述したような陰極軌跡捕捉部を有する真空遮断器を使用し得るハイブリッドDC回路遮断器の例示的な構成要素を示す。ハイブリッドDC回路遮断器は、様々な実施形態において、DC電力入力線から負荷への電流の送達を通過及び遮断するように構成されている。図4の例では、第1の端子411は、入力に通じてもよく、第2の端子412は、負荷に通じてもよく、又は電流の流れが反対方向にあるように要素を逆にしてもよい。システムは、DC入力411と負荷412との間に電気的に接続された真空遮断器421を含む。システムはまた、真空遮断器421と並列に電気的に接続され、また、DC入力と負荷との間に電気的に接続される、DCソリッドステート(すなわち、電子)電力遮断器431を含む、電力エレクトロニクス分岐を含む。電力エレクトロニクス分岐はまた、以下で説明されるように、電流を電力エレクトロニクス分岐に注入することによって、真空遮断器421から電流を引き離し、真空遮断器421において電流0交差を伴う低レベル高周波電流を生成することができる、過渡転流電流注入器441を含み得る。
【0037】
システムは、真空回路遮断器421及びDC電子遮断器431の入力又は出力に電気的に接続された入力端子を有する絶縁スイッチ445を含み得る。絶縁スイッチ445の出力端子は、第2の端子412に電気的に接続されるように示されている。しかしながら、いくつかの実施形態では、絶縁スイッチのいずれかの端子が、代わりに、第1の端子411に電気的に接続されてもよく、したがって、第1の端子411と電力エレクトロニクス分岐との間に位置付けられる。DC用途では、真空回路遮断器421内の電極アセンブリの一方が陽極として機能し、他方が陰極として機能し、それらの役割は、DC電流の流れの方向に応じて逆にされてもよい。
【0038】
ハイブリッド回路遮断器は、故障検出回路(接地故障センサなど)、及び遮断状態の検出時に回路の様々な構成要素を作動させるように構成された制御論理回路451を含む。遮断状態は、負荷への電流の流れを遮断するためのコマンドの受信であってもよく、又は負荷及び/又はシステムの他の構成要素の損傷を回避するために電流の遮断をトリガする故障(短絡など)状態の検出であってもよい。
【0039】
システムは、電子遮断器と並列に電気的に接続されたバリスタ433などの追加の構成要素を含み得る。バリスタ433は、電子遮断器431の両端間の電圧を制限し、遮断が発生したときに任意の残留電流を吸収するためのサージアレスタの機能を果たすことができる。システムはまた、電線と、真空回路遮断器及び電子遮断器の入力との間に電気的に接続された可変インダクタ443を含み得る。
【0040】
任意選択で、電流注入器441は、図示のように電力遮断器431の上流に位置付けられてもよく、又は電力遮断器431の下流に位置付けられてもよい。様々な実施形態では、電流注入器441は、単一方向の電流の流れを処理するために一方向性であってもよく、又はいずれかの方向の電流の流れを処理するために双方向性であってもよい。
【0041】
電子遮断器(図4の431)は、中電圧定格であるがコンパクトなサイズを有するものなど、任意の適切なソリッドステートDC回路遮断器であってよい。適切な例は、米国特許第9,103,852号(Zheng et al)に記載されており、その開示は参照により本文献に完全に組み込まれる。
【0042】
上述したようなハイブリッドDC回路用途に加えて、本文献に記載されるようなトレンチ構造を有する真空遮断器は、AC電流制限器及び他の電気機器などの他の用途に使用されてもよい。
【0043】
上記の特徴及び機能、並びに代替物は、多くの他の異なるシステム又は用途に組み合わされてもよい。様々な現在予期されない又は予期されない代替物、修正、変形、又は改善は、当業者によって行われてもよく、これらの各々はまた、開示される実施形態によって包含されることを意図している。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
【国際調査報告】