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特表2023-540373インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230914BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230914BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20230914BHJP
   C07K 16/10 20060101ALN20230914BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A61K39/395 S
A61P31/16
A23L33/18
C07K16/10 ZNA
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515629
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(85)【翻訳文提出日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 KR2021012191
(87)【国際公開番号】W WO2022055243
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】63/075,456
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】10-2021-0119473
(32)【優先日】2021-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
3.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523037495
【氏名又は名称】ノヴェルジェン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NOVELGEN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】(Suwon World Cup Stadium, Uman-dong) 4F, 310, World cup-ro, Paldal-gu, Suwon-si, Gyeonggi-do 16230 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】キム, タイ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】オ, クァン ジ
(72)【発明者】
【氏名】リ, グン ソプ
(72)【発明者】
【氏名】リ, ヨン ジュン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD20
4B018ME14
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085CC21
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA29
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明はインフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物に関し、より詳細には、配列番号1で表される重鎖CDR1(VH CDR1)、配列番号2で表されるVH CDR2および配列番号3で表されるVH CDR3、配列番号4で表される軽鎖CDR1(VL CDR1)、配列番号5で表されるVL CDR2および配列番号6で表されるVL CDR3を含む抗体またはその断片を含むことにより、インフルエンザAウイルスに対して優れた抗ウイルス効果を示し、インフルエンザAウイルスによって引き起こされる疾患の予防、治療または改善効果を示す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表される重鎖CDR1(VH CDR1)、配列番号2で表されるVH CDR2および配列番号3で表されるVH CDR3、配列番号4で表される軽鎖CDR1(VL CDR1)、配列番号5で表されるVL CDR2および配列番号6で表されるVL CDR3を含む抗体またはその断片を含む、インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物。
【請求項2】
前記抗体またはその断片は、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項3】
前記抗体またはその断片は、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項4】
前記断片は、配列番号9のアミノ酸配列を含むscFvである、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項5】
前記インフルエンザAウイルスは、インフルエンザAウイルスH1サブタイプ、インフルエンザAウイルスH2サブタイプ、インフルエンザAウイルスH5サブタイプおよびインフルエンザAウイルスH6サブタイプ、インフルエンザAウイルスH3サブタイプ、インフルエンザAウイルスH4サブタイプ、インフルエンザAウイルスH14サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項6】
前記インフルエンザAウイルスは、インフルエンザAウイルスN1サブタイプ、インフルエンザAウイルスN2サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項7】
前記インフルエンザAウイルスは、H1N1サブタイプ、H3N2サブタイプ、およびこれらの変異体の少なくとも1つである、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項8】
前記インフルエンザAウイルスは、オセルタミビル耐性インフルエンザAウイルスである、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項10】
前記インフルエンザAウイルス感染症の治療用である、請求項9に記載の薬学組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症の予防または改善用食品組成物。
【請求項12】
前記インフルエンザAウイルス感染症の改善用である、請求項11に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に「フルー(the flu)」として知られているインフルエンザは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる伝染性発熱性呼吸器疾患である。A型及びB型のインフルエンザウイルスは人々に広がり、毎年季節性インフルエンザの流行を引き起こす。世界保健機構(WHO)によると、インフルエンザウイルスの伝染により約300万~500万の重症患者が発生し、約290,000~650,000人が死亡する。WHOは高リスク群に対して毎年インフルエンザに対する予防接種を勧めており、ワクチンは一般的に3~4種類のインフルエンザに有効である。しかし、ウイルスの急速な進化により、1年間にわたって作られたワクチンは翌年には有効でない可能性がある。インフルエンザA及びBウイルスのゲノムは、抗原連続変異(antigenic drift)と抗原不連続変異(antigenic shift)の2通りに突然変異が起こり得る。そのため、従来のワクチンや抗ウイルス剤はウイルスに対して低い抗ウイルス効果を示す。したがって、インフルエンザウイルスのゲノムに突然変異が起こった場合でも優れた抗ウイルス効果を示す物質の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物を提供することを目的とする。
【0004】
本発明は、インフルエンザAウイルス感染症の予防または治療用薬学組成物を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、インフルエンザAウイルス感染症の予防または改善用食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.配列番号1で表される重鎖CDR1(VH CDR1)、配列番号2で表されるVH CDR2および配列番号3で表されるVH CDR3、配列番号4で表される軽鎖CDR1(VL CDR1)、配列番号5で表されるVL CDR2および配列番号6で表されるVL CDR3を含む抗体またはその断片を含む、インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物。
【0007】
2.前記項目1において、前記抗体またはその断片は、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、抗ウイルス用組成物。
【0008】
3.前記項目1において、前記抗体またはその断片は、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、抗ウイルス用組成物。
【0009】
4.前記項目1において、前記断片は、配列番号9のアミノ酸配列を含むscFvである、抗ウイルス用組成物。
【0010】
5.前記項目1において、前記インフルエンザAウイルスは、インフルエンザAウイルスH1サブタイプ、インフルエンザAウイルスH2サブタイプ、インフルエンザAウイルスH5サブタイプおよびインフルエンザAウイルスH6サブタイプ、インフルエンザAウイルスH3サブタイプ、インフルエンザAウイルスH4サブタイプ、インフルエンザAウイルスH14サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つである、抗ウイルス用組成物。
【0011】
6.前記項目1において、前記インフルエンザAウイルスは、インフルエンザAウイルスN1サブタイプ、インフルエンザAウイルスN2サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つである、抗ウイルス用組成物。
【0012】
7.前記項目1において、前記インフルエンザAウイルスは、H1N1サブタイプ、H3N2サブタイプ、およびこれらの変異体の少なくとも1つである、抗ウイルス用組成物。
【0013】
8.前記項目1において、前記インフルエンザAウイルスは、オセルタミビル耐性インフルエンザAウイルスである、抗ウイルス用組成物。
【0014】
9.前記項目1~8のいずれかに記載の組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症の予防または治療用薬学組成物。
【0015】
10.前記項目9において、インフルエンザAウイルス感染症の治療用薬学組成物。
【0016】
11.前記項目1~8のいずれかに記載の組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症の予防または改善用食品組成物。
【0017】
12.前記項目11において、インフルエンザAウイルス感染症の改善用食品組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明の抗ウイルス用組成物に含まれる抗体またはその断片は、ウイルスに感染した細胞内に浸透することができ、インフルエンザAウイルスRNAに結合してそれを分解することができる。
【0019】
本発明の抗ウイルス用組成物は、インフルエンザAウイルスに特異的に結合し、それを加水分解することによってインフルエンザAウイルスに対して優れた抗ウイルス効果を示し、インフルエンザAウイルス感染症の予防、治療または改善効果を示すことができる。
【0020】
本発明の抗ウイルス用組成物は、様々なサブタイプのインフルエンザAウイルスまたはその変異体に対して優れた抗ウイルス効果を示すことができる。
【0021】
本発明の抗ウイルス用組成物は、オセルタミビル耐性インフルエンザAウイルスに対して優れた抗ウイルス効果を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、一実施形態による抗体またはその断片の配列を示す。
図2図2は、一実施形態による抗体断片を製造するための組換えベクターの一部の構造を示す。
図3図3は、一実施形態による抗体断片の細胞内浸透活性を示す。
図4図4は、一実施形態による抗体断片のウイルスRNA(NA及びNP)加水分解活性を示す。
図5図5は、MTT分析により一実施形態による抗体断片の細胞内毒性を確認した結果を示す。
図6図6は、インフルエンザAウイルス菌株(H1N1/PR8、H3N2/X-31およびH1N1/H275Y)に対する3D8 scFv前処理の抗ウイルス効果(細胞生存率)を試験するための概略図および試験結果を示す(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
図7図7は、インフルエンザAウイルス菌株(H1N1/PR8、H3N2/X-31およびH1N1/H275Y)に対する3D8 scFv後処理の抗ウイルス効果(細胞生存率)を試験するための概略図および試験結果を示す(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
図8図8は、H1N1/PR8菌株に対する3D8 scFv前/後処理の抗ウイルス効果(ウイルスRNA/タンパク質発現レベル)の試験結果を示す。
図9図9は、H3N2/X-31菌株に対する3D8 scFv前/後処理の抗ウイルス効果(ウイルスRNA/タンパク質発現レベル)の試験結果を示す。
図10図10は、H1N1/H275Y菌株に対する3D8 scFv前/後処理の抗ウイルス効果(ウイルスRNA/タンパク質発現レベル)の試験結果を示す。
図11図11は、3D8 scFvが前処理された後、インフルエンザウイルスに感染した細胞からウイルスタンパク質HAを検出した結果を示す(核:DAPI(青)、3D8 scFv:Alexa flour 488(緑)、ウイルスHA:TRITC(赤))。
図12図12は、インフルエンザウイルスに感染した細胞に3D8 scFvが後処理された後、ウイルスタンパク質HAを検出した結果を示す(核:DAPI(青)、3D8 scFv:Alexa flour 488(緑)、ウイルスHA:TRITC(赤))。
図13図13は、生体内抗ウイルス活性試験のためのマウス内3D8 scFv処理およびH1N1/H275Y感染プロトコルの概略図を示す。
図14図14は、一実施形態による抗体断片の生体内薬理学的特性を評価した結果を示す。
図15図15は、一実施形態による抗体断片の生体内薬理学的特性を評価した結果を示す。
図16図16は、インフルエンザウイルス感染マウスの生存率を示す。
図17図17は、インフルエンザウイルス感染マウスの平均体重を示す。
図18図18は、インフルエンザウイルス感染マウスの肺の形態学的な比較および肺病変スコアを示す。
図19図19は、インフルエンザウイルス感染マウスの肺切片の組織病理学的な比較および顕微鏡的な肺病変スコアを示す。
図20図20は、インフルエンザウイルス感染マウスのウイルスRNA(HA、NP)およびIFN-βの発現をqRT-PCRで分析した結果を示す。
図21図21は、プラークアッセイ(plaque assay)によるインフルエンザウイルス感染マウスのウイルス力価を示す。
図22図22は、インフルエンザウイルス感染マウスの肺におけるウイルスタンパク質HAの減少程度を確認した結果を示す(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
図23図23は、一実施形態による抗体断片の作用機序の提案モデルを図式化したものである。図23(A)は、インフルエンザウイルスの複製経路を示し、図23(B)は、一実施形態による抗体断片の細胞浸透メカニズムを示す。図23(C)は、細胞質における一実施形態による抗体断片によるインフルエンザAウイルスRNAの加水分解メカニズムを示す。
図24図24は、ヘマグルチニン(hemagglutinin、HA)によって定義された16種のインフルエンザAウイルスサブタイプを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明は、配列番号1で表される重鎖CDR1(VH CDR1)、配列番号2で表されるVH CDR2および配列番号3で表されるVH CDR3、配列番号4で表される軽鎖CDR1(VL CDR1)、配列番号5で表されるVL CDR2および配列番号6で表されるVL CDR3を含む抗体またはその断片を含む、インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス用組成物を提供する。
【0025】
用語「相補性決定領域(complementarity determining region, CDR)」とは、抗原の認識に関与する領域であり、この領域の配列の変化によって抗体の抗原に対する特異性が決定される。本明細書において、「VH CDR」とは重鎖可変領域に存在する重鎖相補性決定領域を意味し、「VL CDR」とは軽鎖可変領域に存在する軽鎖相補性決定領域を意味する。
【0026】
用語「可変領域」とは、抗原に特異的に結合する機能を果たしながら配列の変異を示す領域を意味する。可変領域にはCDR1、CDR2およびCDR3が存在する。前記CDRの間にはフレームワーク領域(framework region, FR)部分が存在し、これはCDRを支持する役割を果たすことができる。フレームワーク領域とは無関係に、CDRは抗体またはその断片が特定の機能を発揮できるようにする重要な領域であり得る。
【0027】
抗体またはその断片は、配列番号1で表される重鎖CDR1(VH CDR1)、配列番号2で表されるVH CDR2および配列番号3で表されるVH CDR3を含む重鎖可変領域;並びに、配列番号4で表される軽鎖CDR1(VL CDR1)、配列番号5で表されるVL CDR2および配列番号6で表されるVL CDR3を含む軽鎖可変領域を含むことができる。
【0028】
抗体またはその断片は、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含むことができる。一実施形態によると、抗体またはその断片は、配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含むことができる。
【0029】
抗体またはその断片は、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことができる。一実施形態によると、抗体またはその断片は、配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含むことができる。
【0030】
抗体の断片は、一本鎖抗体、Fv、scFv、di-scFv、Fab、Fab’、F(ab’)、Fd、LC、dAb、CDR、scFv-Fc、およびダイアボディ(diabody)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0031】
抗体の断片は、配列番号9のアミノ酸配列を含むことができる。一実施形態によると、抗体の断片は、配列番号9のアミノ酸配列からなるものであってもよい。一実施形態によると、抗体の断片は、配列番号9のアミノ酸配列からなるscFvであってもよい。
【0032】
抗体またはその断片は、ヒト化抗体またはその断片;若しくは、キメラ抗体またはその断片であってもよい。ヒト化抗体は、当業界で公知の方法で製造することができる。
【0033】
実施形態によると、抗体の断片は、配列番号9のscFvのCDR配列を含むヒト化scFvであってもよい。
【0034】
本発明の抗体またはその断片は、ウイルスが感染した宿主細胞の細胞質に浸透することができる。抗体またはその断片の細胞質への浸透効果は、カベオラ依存的エンドサイトーシス(Caveolae mediated endocytosis)によるものとみることができる。
【0035】
本発明の抗体またはその断片は、インフルエンザAウイルスの核酸に特異的に結合することができる。具体的には、本発明の抗体またはその断片は、インフルエンザAウイルスのRNAに特異的に結合することができる。本発明の抗体またはその断片は、ヌクレアーゼ活性を有し、ウイルスのRNAおよびDNAを分解することができる。
【0036】
本発明の抗体またはその断片は、インフルエンザAウイルスに感染した宿主の細胞質へ浸透することができ、感染した細胞からネイキッドウイルスRNA(naked viral RNA)を除去することにより、ウイルスの遺伝子の複製量の低下およびウイルスタンパク質の低下を誘導し、ウイルス治療の効果を持つことができる。
【0037】
インフルエンザAウイルスは、表面抗原で、ヘマグルチニン(hemagglutinin、HA)サブタイプとノイラミニダーゼ(neuraminidase, NA)サブタイプ、またはこれらの変異体に分けることができる。
【0038】
前記変異体は、インフルエンザAウイルスサブタイプの突然変異体であってもよく、例えば、インフルエンザAウイルスのヘマグルチニン及び/又はノイラミニダーゼに突然変異が生じたものであってもよい。
【0039】
具体的には、前記変異体はインフルエンザAウイルスサブタイプの突然変異体であり、インフルエンザAウイルスのノイラミニダーゼに突然変異が発生して、オセルタミビル(oseltamivir、タミフル)耐性が示されたものであってもよい。例えば、前記変異体はH1N1/H275Yであってもよい。H1N1/H275Yは、H1N1/pdm09から生じたタンパク質変異である。
【0040】
タミフルの作用機序は、H1N1のノイラミニダーゼのスパイクタンパク質を抑制して拡散を防止することであるが、H1N1のノイラミニダーゼのH275Yアミノ酸変異が発生したH1N1/H275Yは、ノイラミニダーゼとタミフルとの結合力が非常に弱く、タミフルの抵抗性が示される。ヘマグルチニンは宿主細胞の表面を認識し、細胞内に浸透する役割を果たすことができる。また、細胞内で様々な炎症反応を引き起こし、自身を複製する役割を果たすことができる。
【0041】
インフルエンザAウイルスは、ヘマグルチニンによって定義された様々な種類のサブタイプまたはこれらの変異体であってもよい。
【0042】
ヘマグルチニンによって定義されたサブタイプは、H1サブタイプ、H2サブタイプ、H3サブタイプ、H4サブタイプ、H5サブタイプ、H6サブタイプ、H7サブタイプ、H8サブタイプ、H9サブタイプ、H10サブタイプ、H11サブタイプ、H12サブタイプ、H13サブタイプ、H14サブタイプ、H15サブタイプ、およびH16サブタイプであってもよい(図24)。インフルエンザAウイルスH1、H2およびH3サブタイプが、主にヒトに病気を引き起こす。
【0043】
インフルエンザAウイルスは、H1ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H2ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H3ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H4ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H5ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H6ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H6ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H7ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H8ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H9ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H10ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H11ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H12ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H13ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H14ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H15ヘマグルチニンを含むサブタイプ、H16ヘマグルチニンを含むサブタイプ、及び/又はこれらの変異体であってもよい。
【0044】
インフルエンザAウイルスは、ヘマグルチニン(hemagglutinin、HA)によって定義された16種のサブタイプの中でH1サブタイプを除く残りの15種のサブタイプの少なくとも1つであってもよい。
【0045】
例えば、本発明の抗体またはその断片は、インフルエンザAウイルスH1サブタイプ、インフルエンザAウイルスH2サブタイプ、インフルエンザAウイルスH5サブタイプおよびインフルエンザAウイルスH6サブタイプ、インフルエンザAウイルスH3サブタイプ、インフルエンザAウイルスH4サブタイプ、インフルエンザAウイルスH14サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つに対する抗ウイルス効果を示すことができる。一実施形態によると、本発明の抗体またはその断片は、インフルエンザAウイルスH1サブタイプ、インフルエンザAウイルスH3サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つに対する抗ウイルス効果を示すことができる。
【0046】
また、インフルエンザAウイルスは、ノイラミニダーゼ(Neuraminidase、NA)によって定義された様々な種類のサブタイプおよびこれらの変異体であってもよい。
【0047】
ノイラミニダーゼは、宿主細胞内で増殖したウイルスが細胞膜を突き抜けるように「ハサミ」の働きをする酵素であり、ウイルス拡散の重要な役割を果たすことができる。
【0048】
例えば、インフルエンザAウイルスは、インフルエンザAウイルスN1サブタイプ、N2サブタイプ、N3サブタイプ、N4サブタイプ、N5サブタイプ、N6サブタイプ、N7サブタイプ、N8サブタイプ、N9サブタイプ、およびこれらの変異体であってもよい。
【0049】
インフルエンザAウイルスは、N1ノイラミニダーゼを含むサブタイプ、N2ノイラミニダーゼを含むサブタイプ、およびこれらの変異体であってもよい。
【0050】
一実施形態によると、本発明の抗体またはその断片は、インフルエンザAウイルスN1サブタイプ、インフルエンザAウイルスN2サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つに対して抗ウイルス効果を示すことができる。
【0051】
一実施形態によると、本発明の抗体またはその断片は、H1N1サブタイプ、H3N2サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つに対して抗ウイルス効果を示す。例えば、本発明の抗体またはその断片は、H1N1/PR8、H3N2/X-31、H1N1/H275Yウイルス菌株に対して抗ウイルス効果を示すことができる。
【0052】
また、本発明は前述の抗ウイルス用組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0053】
抗ウイルス用組成物、抗体またはその断片、インフルエンザAウイルスについては、前述の通りであるので具体的な説明を省略する。
【0054】
特に、本発明は前述の抗ウイルス用組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症を治療できる薬学組成物を提供する。
【0055】
用語「予防」とは、ウイルスによって引き起こされる疾患を抑制するか、または疾患の発症を遅らせるすべての行為を意味する。
【0056】
用語「治療」とは、ウイルスによって引き起こされる疾患の症状を改善または有益に変化させるすべての行為を意味する。
【0057】
インフルエンザAウイルスは、ヘマグルチニン(hemagglutinin、HA)によって定義されたサブタイプまたはこれらの変異体であってもよい。ヘマグルチニン(hemagglutinin、HA)によって定義されたサブタイプは、H1サブタイプ、H2サブタイプ、H3サブタイプ、H4サブタイプ、H5サブタイプ、H6サブタイプ、H7サブタイプ、H8サブタイプ、H9サブタイプ、H10サブタイプ、H11サブタイプ、H12サブタイプ、H13サブタイプ、H14サブタイプ、H15サブタイプ、およびH16サブタイプであってもよい(図24)。また、インフルエンザAウイルスは、ノイラミニダーゼ(Neuraminidase、NA)によって定義された様々な種類のサブタイプおよびこれらの変異体であってもよい。例えば、インフルエンザAウイルスは、インフルエンザAウイルスN1サブタイプ、N2サブタイプ、N3サブタイプ、N4サブタイプ、N5サブタイプ、N6サブタイプ、N7サブタイプ、N8サブタイプ、N9サブタイプ、およびこれらの変異体であってもよい。
【0058】
一実施形態によると、インフルエンザAウイルスは、H1N1サブタイプ、H3N2サブタイプ、およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0059】
インフルエンザAウイルスの感染症は、発熱、嘔吐、下痢、倦怠感、咳、呼吸困難、肺炎、頭痛、筋肉痛、痰、咽頭炎、インフルエンザ、風邪、胸痛(pain/pressure in the chest)、めまい症(sudden dizziness)を含むものであってもよいが、ウイルス感染によって引き起こされる疾患であれば、これらに限定されない。
【0060】
インフルエンザAウイルスの感染症は、インフルエンザA臨床症状を示す疾患であれば制限されない。
【0061】
本発明の薬学組成物は、疾患の予防および治療のために、単独でまたは手術、薬物治療および生物学的応答調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【0062】
薬学組成物は、インフルエンザAウイルス感染に効果のある追加成分を含むことができ、追加成分は、化合物、天然物、タンパク質、ペプチド、核酸などを含むウイルス感染への効果が知られているあらゆる成分であってもよい。
【0063】
薬学組成物は、さらに組成物の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤および希釈剤を含むことができる。担体、賦形剤および希釈剤は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、でん粉、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムまたは鉱物油などであってもよい。
【0064】
本発明の薬学組成物は、通常の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型製剤、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態で製剤化することができ、この製剤化は、薬剤学の分野で通常使用される方法によって行うことができる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤をさらに使用して調製することができる。
【0065】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、この固形製剤は少なくとも1つ以上の賦形剤、例えばでん粉、炭酸カルシウム(Calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調製する。また、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの潤滑剤も使用される。経口投与のための液状製剤としては、懸濁液、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられるが、よく用いられる単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどを用いることができる。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを用いることができる。
【0066】
また、本発明は前述の抗ウイルス用組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0067】
抗ウイルス用組成物、抗体またはその断片、インフルエンザAウイルスおよび疾患については前述の通りであるので、具体的な説明を省略する。
【0068】
特に、本発明は前述の抗ウイルス用組成物を含むインフルエンザAウイルス感染症を改善できる食品組成物を提供する。
【0069】
用語「改善」とは、ウイルスによって引き起こされる疾患の症状を軽減するすべての行為を意味する。
【0070】
食品組成物は他の食品または食品成分と共に使用することができ、通常の方法に従って適切に使用することができる。
【0071】
食品組成物に含まれる有効成分の混合量は、その使用目的(予防または改善用)によって適宜決定することができる。
【0072】
食品組成物の種類は特に制限されず、例えば肉、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料およびビタミン複合剤などであってもよい。
【0073】
食品組成物は通常の食品のように、有効成分の他に、香味剤または天然炭水化物などの追加の成分をさらに含むことができる。天然炭水化物はブドウ糖、果糖などのモノサッカライド;マルトース、スクロースなどのジサッカライド;およびデキストリン、シクロデキストリンなどのポリサッカライド;キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールであってもよい。甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物などの天然甘味剤;およびサッカリン、アスパルテームなどの合成甘味剤などを使用することができる。
【0074】
前記の他に、本発明の健康食品は、様々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有することができる。その他に、天然のフルーツジュース、フルーツジュース飲料および野菜飲料の製造のための果肉を含有することができる。
【0075】
また、本発明は前述の抗ウイルス用組成物を対象体に投与するステップを含むインフルエンザAウイルス感染症の予防または治療方法を提供する。特に、本発明は前述の抗ウイルス用組成物を対象体に投与するステップを含むインフルエンザAウイルス感染症の治療方法を提供する。
【0076】
対象体は、ヒト及び/又はヒトを除いた動物であってもよく、具体的には発明の薬物等を用いた治療によって有益な効果を示すことができる哺乳動物である。
【0077】
対象体には、インフルエンザAウイルス感染症の症状(例えば、発熱、倦怠感、咳、呼吸困難、肺炎、痰、咽頭炎、インフルエンザ、風邪など)を有するか、またはそのような症状を有する危険性がある対象体がすべて含まれ得る。インフルエンザAウイルスについては前述の通りであるので、具体的な説明を省略する。
【0078】
インフルエンザAウイルス感染症を予防または治療するのに有効な量とは、治療を必要とする対象体において所望の効果を達成できる量、または治療を必要とする対象体に客観的または主観的な利点を提供できる量を意味する。
【0079】
インフルエンザAウイルス感染症を予防または治療するのに有効な量は、単一または多重用量であってもよい。インフルエンザAウイルス感染症を予防または治療するのに有効な量は、本発明の薬物を単独で提供する場合の量であってもよいが、1以上の他の組成物(例えば、他の呼吸器疾患治療剤など)と組み合わせて提供される場合の量であってもよい。
【0080】
本明細書に記載の数値は、特に断りのない限り、均等範囲まで含むものと解釈されるべきである。
【0081】
また、本発明はインフルエンザAウイルス感染症の予防または治療のための前述の抗ウイルス用組成物を含む薬学組成物の使用を提供する。
【0082】
特に、本発明は、インフルエンザAウイルス感染症の治療のための前述の抗ウイルス用組成物を含む薬学組成物の使用を提供する。
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明することとする。
【0084】
1.実験材料:細胞株およびウイルス
MDCK細胞は、5%ウシ胎児血清(Gibco、Cergy Pontois、France)、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン(Hyclone、Logan、UT、USA)を含むイーグル最小必須培地(Eagle's minimal essential medium、EMEM)で保存した。HeLaとVero細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's medium、DMEM)で培養し、A549細胞は、MDCK培養培地と同じ血清を含有するRPMI 1640培地(Roswell park Memorial Institute 1640 培地;Hyclone)で培養した。細胞株は、韓国細胞株銀行から購入し、37℃、5%COで維持した。インフルエンザ菌株A/Puerto Rico/8/34(H1N1/PR8)およびA/X-31(H3N2/X-31)は、Kweon教授(成均館大学、韓国)により提供された。また、パンデミック(Pandemic)H1N1/H275Y NA突然変異ウイルス(A/Korea/2785/2009pdm:NCCP 42017;オセルタミビル耐性(Oseltamivir-resistant))を国家病原体資源バンクから入手した。H1N1/H275Yは、H1N1/pdm09から発生した変異体である。37℃で3日間、9日目になった孵化卵の尿膜嚢でウイルスを増殖させた。尿膜液を回収し、密度勾配遠心分離を用いて除去した。ウイルス力価は、プラークアッセイを用いて決定した。
【0085】
2.抗体の断片の発現および精製
大腸菌(E.coli)BL21細胞をホスト(host)として用いて、下記表1の配列番号9のアミノ酸配列を有するscFvを産生した(図1参照)。下記表1に、scFv関連の配列(scFv配列;そのVH、VL、CDR配列;及びその遺伝子配列)を示す。具体的には、37℃の100μg/mlのアンピシリンと20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB(Luria-Bertani)培地でpIg20-3D8プラスミド形質転換した大腸菌(BL21[DE3]pLysE)菌株を用いて抗体断片(3D8 scFv)を発現させ(図2参照)、1mMのイソプロピル1-チオール-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)を添加して26℃で18時間誘導した。細胞培養上層液を4℃で5,200xgで20分間遠心分離して得た後、0.22μmフィルターを通過させた。IgG Sepharose 6 fast flow(GE Healthcare、Malborough、MA、USA)アフィニティーカラムを用いて上清液から3D8 scFvを精製した。カラムを10bed体積のPBS(pH7.4)で洗浄し、次いで10bed体積の5mMの酢酸アンモニウム(pH5.0)で洗浄した。次に、0.1Mの酢酸(pH3.4)で3D8 scFvを溶出した。溶出した画分を0.1体積の1M Tris-HCl(pH9.0)で中和した。精製された3D8 scFvの濃度は、280nmにおける吸光係数に基づいて決定した。タンパク質を12%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析し、クーマシーブルー染色で検出した。
【0086】
【表1】

【0087】
3.抗体断片の細胞浸透活性の分析
まず、3D8 scFvの抗ウイルス効果の重要な前提条件となる細胞浸透活性を確認した。A549、HeLa、VeroおよびMDCK細胞(2×10)を8ウェルチャンバースライド(Nunc Lab-Tek)で培養した。細胞に3μMの3D8 scFvを処理し、37℃で5%COで24時間インキュベートした。次に、スライドをPBSで2回洗浄し、25℃の冷却メタノールに15分間固定した。細胞内染色パーマ洗浄バッファー(Intracellular Staining Perm wash buffer(BioLegend、San Diego、CA、USA))を用いてサンプルを5分間透過化した。1%BSA(in PBST)で1時間ブロックした後、サンプルをモノクローナルマウス抗3D8 scFv抗体(1:1000希釈;AbClon、Seoul、Korea)と共に4℃で24時間インキュベートした。次いで、サンプルをヤギ抗マウスIgG Alexa Fluor 488二次抗体(1:1000希釈;Abcam、Cambridge、MA、USA)と共に25℃で1時間インキュベートし、スライドをDAPI(Vectashield、Burlingame、CA、USA)を含む退色防止封入剤(Antifade Mounting Medium)に取り付けた。その後、Zeiss LSM 700共焦点顕微鏡を用いてサンプルを可視化した。核はDAPI染色(青)で検出し、3D8 scFvはAlexa flour 488 蛍光(fluorescent)染料(緑)でコンジュゲートされた抗体で可視化された。3D8 scFvは、処理後24時間以内にすべての細胞株の細胞質から検出された(図3)。
【0088】
4.抗体断片のウイルスRNAの分解活性
H1N1/PR8で全RNAを分離し、ウイルスcDNAを合成した。NAおよびNPに相当する配列をPCRを用いて増幅し(表2)、T7およびSP6プロモーターを保持するベクターであるpGEM-T Easy(Promega、Madison、WI、USA)にクローニングした。NA(Neuraminidase)およびNP(核タンパク質(Nucleoprotein))RNAは、HiScribe T7試験管内転写キット(New England BioLabs、Ipswich、MA、USA)を用いて合成し、37℃で0.1mMのMgClを含むTBSで3D8 scFv精製タンパク質(0.5μg)と共に1時間インキュベートした。10Xローディングバッファー(Takara、Otsu、Shinga、Japan)を添加して反応を終了し、1%アガロースゲル電気泳動で分析し、エチジウムブロミド(ethidium bromide)で染色した。分析の結果、3D8 scFv処理によってウイルスRNAが分解されたことを確認した(図4)。
【0089】
【表2】
【0090】
5.抗体断片の細胞毒性の分析
MDCK細胞(2×10)を96ウェルプレートで培養した。細胞を3D8 scFv(1~10μM)で処理し、48時間の間、5%COと共に37℃で培養した。その後、10μlのMTT溶液を添加し、細胞を37℃、5%COで4時間インキュベートした。形成されたホルマザン結晶をDMSOで溶解し、ELISAマイクロプレートリーダー(TECAN、Mannedorf、Switzerland)を用いて595nmにおける各ウェルの吸光度を読み取った。
【0091】
MDCK細胞に異なる濃度の3D8 scFv(0~10μM)を処理して細胞毒性を確認した。すべての濃度で5%未満の最小細胞毒性が観察された。これは実験が行われた濃度で3D8 scFvの毒性が最小に維持されたことを示す(図5)。
【0092】
6.抗体断片のインフルエンザAウイルス感染細胞の生存率増加効果
MDCK細胞(2×10)を96ウェルプレートで培養し、以下のように処理した。(i)3D8 scFv前処理:37℃、5%COでMDCK細胞に3D8 scFv(3、5、7μM)を24時間処理した後、3D8 scFvで処理した細胞を37℃で1時間、MEMフリー培地で独立して3つのインフルエンザウイルス菌株(H1N1/PR8、H3N2/X-31およびH1N1/H275Y)(MOI=0.1)で感染させた。その後、感染培地を除去し、細胞をトシルフェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)処理したトリプシン(1μg/ml)を含有する血清非添加MEMフリー培地(1%BSA)中で37℃、5%COで48時間培養した(図6の上側)。(ii)3D8 scFv後処理:MDCK細胞を37℃で1時間、MEMフリー培地で独立して3つのインフルエンザウイルス菌株(H1N1/PR8、H3N2/X-31およびH1N1/H275Y)(MOI=0.1)で感染させた後、感染培地を除去した。培地を3D8 scFv(3、5、7μM)およびTPCK処理したトリプシン(1μg/ml)を含むMEMフリー培地(1%BSA)で交換した後、37℃、5%COで47時間培養した(図7の上側)。その後、10μlのMTT溶液を各ウェルに添加し、細胞を37℃、5%COで4時間インキュベートした。形成されたホルマザン結晶をDMSOで溶解し、ELISAマイクロプレートリーダーを用いて595nmにおける吸光度を測定した。ちなみに、3種類のウイルス(MOI=0.1)のそれぞれに感染した細胞に異なる濃度のオセルタミビル(oseltamivir)を処理した場合、H1N1/H275Y感染細胞は薬物耐性表現型を示したが、H1N1/PR8およびH3N2/X-31感染細胞はそうではなかった。
【0093】
(i)3D8 scFvが前処理された場合、H1N1/PR8感染細胞における3D8 scFv非処理群(0μM)の生存率は66.8%であるのに対し、5μMの3D8 scFvで前処理した群の生存率は約88.3%であった(図6のH1N1/PR8(Pre))。また、H3N2/X-31感染細胞における3D8 scFv非処理群(0μM)の生存率は約54.5%であるのに対し、3μMの3D8 scFvで前処理した群の生存率は約74.4%であった(図6のH3N2/X-31(Pre))。H1N1/H275Y感染細胞における3D8 scFv非処理群(0μM)の生存率は約55.6%であるのに対し、全ての3D8 scFv処理群の生存率は約85%であった(図6のH1N1/H275Y(Pre))。(ii)3D8 scFvが後処理された場合、H1N1/PR8感染細胞における3D8 scFv非処理群(0μM)の生存率は63.2%であるのに対し、5μMの3D8 scFvで後処理した群の生存率は86.9%であった(図7のH1N1/PR8(Post))。また、H3N2/X-31感染細胞における3D8 scFv非処理群(0μM)の生存率は約62.7%であるのに対し、5μMの3D8 scFvで後処理した群の生存率は84.4%であった(図7のH3N2/X-31(Post))。H1N1/H275Y感染細胞における3D8 scFv非処理群(0μM)の生存率は約58.4%であるのに対し、全ての3D8 scFv処理群の生存率は約77.4%であった(図7のH1N1/H275Y(Post))。
【0094】
試験管内ウイルス感染の前または後における3D8 scFvの処理は、ウイルス感染細胞の生存力を20%まで増加させた。
【0095】
7.抗体断片のウイルスRNA/タンパク質(protein)発現減少効果
(1)qRT-PCRを用いたウイルスRNAの発現の測定
MDCK細胞(4×10)を6ウェルプレートで培養し、以下のように処理した:(i)3D8 scFv前処理:37℃、5%COでMDCK細胞に3D8 scFv(3μM)を24時間処理した後、3D8 scFvを処理した細胞を37℃で1時間、MEMフリー培地で独立して3つのインフルエンザウイルス菌株(H1N1/PR8、H3N2/X-31およびH1N1/H275Y)(MOI=0.1)で感染させた。その後、感染培地を除去し、細胞をトシルフェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)処理したトリプシン(1μg/ml)を含有するMEMフリー培地(1%BSA)中で37℃、5%COで24時間培養した。(ii)3D8 scFv後処理:MDCK細胞を37℃で1時間、MEMフリー培地で独立して3つのインフルエンザウイルス菌株(H1N1/PR8、H3N2/X-31およびH1N1/H275Y)(MOI=0.1)で感染させた後、感染培地を除去した。培地を3D8 scFv(3、5、7μM)およびTPCK処理したトリプシン(1μg/ml)を含むMEMフリー培地(1%BSA)で交換した後、37℃、5%COで24時間培養した(図8の上側)。全RNAは、製造メーカーの指針に従ってTRI試薬(MRC、Montgomery、OH、USA)を用いて分離した。RNA濃度は、分光光度計を用いて決定した。cDNAは、製造メーカーのプロトコルに従ってCellScript All-in-One 5X First Strand cDNA Synthesis Master Mix(Cell safe、Yongin、Korea)を用いて合成した。定量的リアルタイムPCRは、SYBR Premix Ex TaqおよびRotor-Gene Qシステムを用いて行った。データは、Rotor-Gene Qシリーズ・ソフトウェア・バージョン2.3.1(Qiagen、Chadstone、Victoria、Australia)を用いて分析した。遺伝子(HA及びNP)は、下記表3に示すプライマーを用いて増幅した。GAPDHは内部対照群として増幅した。
【0096】
【表3】
【0097】
3種類のインフルエンザウイルスで感染してから24時間目にウイルスRNA(HA及びNP)の発現を測定したところ、H1N1/PR8に感染した細胞において、3D8 scFvを前処理した群は、3D8 scFv非処理群と比較してウイルスのHA及びNP RNAの発現が50%以上減少し(図8のH1N1/PR8(Pre))、3D8 scFvを後処理した群は、3D8 scFv非処理群と比較してウイルスのHA及びNP RNAの発現が40%以上減少した(図8のH1N1/PR8(Post))。H3N2/X-31に感染した細胞において、3D8 scFvを前処理した群は、3D8 scFv非処理群と比較してウイルスのHA及びNP RNAの発現が40%以上減少し(図9のH3N2/X-31(Pre))、3D8 scFvを後処理した群も図3D8 scFv非処理群と比較してウイルスのHA及びNP RNAの発現が40%以上減少した(図9のH3N2/X-31(Post))。また、H1N1/H275Yに感染した細胞において、3D8 scFvを前処理した群は、3D8 scFv非処理群と比較してウイルスのHA及びNP RNAの発現が35%以上減少し(図10のH1N1/H275Y(Pre))、3D8 scFvを後処理した群も3D8 scFv非処理群と比較してウイルスのHA及びNP RNAの発現が40%以上減少した(図10のH1N1/H275Y(Post))。
【0098】
(2)免疫細胞化学(immunocytochemistry、ICC)を用いたウイルスタンパク質(proetin)の発現の測定
MDCK細胞(2×10)を8ウェルチャンバースライドで培養した。前記(1)で作成した内容と同様に、3D8 scFv処理およびウイルス感染(H1N1/PR8およびH1N1/H275Y)を行った(図8の上側)。スライドをPBSで2回洗浄し、25℃で冷却したメタノールを用いて15分間固定した。サンプルをIntracellular Staining Perm wash bufferで5分間透過化した。1%BSAを含有するPBSTで1時間ブロックした後、細胞をモノクローナルマウス抗3D8 scFv抗体またはポリクローナルウサギ抗HA抗体(1:1000希釈、Invitrogen)と共に4℃で24時間インキュベートした。その後、細胞をヤギ抗マウスIgG Alexa Fluor 488二次抗体またはヤギ抗ウサギIgG TRITC二次抗体(1:1000希釈、Abcam)とそれぞれ25℃で1時間培養した。DAPIを含むanti-fade Mounting Mediumを用いてスライドを取り付け、Zeiss LSM 700共焦点顕微鏡を用いて細胞を可視化した。
【0099】
免疫蛍光分析により、ウイルスHAタンパク質および3D8 scFvの存在を確認した。H1N1/PR8感染細胞の3D8 scFv非処理群の場合は、細胞質でウイルスHAタンパク質が検出されたのに対して(赤色シグナル)、3D8 scFv前処理群の場合は、ウイルスHAタンパク質が検出されなかった(図11のH1N1/PR8)。3D8 scFv処理群の細胞質において3D8 scFv(緑色シグナル)が見出された。H1N1/H275Y感染細胞の3D8 scFv前処理群は、3D8 scFv非処理群と比較してウイルスHAタンパク質の検出シグナルが低かった(図11のH1N1/H275Y)。また、H1N1/PR8およびH1N1/H275Y感染細胞における3D8 scFv後処理群は、3D8 scFv非処理群と比較してウイルスHAタンパク質シグナルが低かった(図12)。
【0100】
8.抗体断片の生体内(in-vivo)抗ウイルス活性試験
(1)H1N1/H275Y感染マウスにおける臨床的抗ウイルスの効果
3D8 scFvの臨床的抗ウイルスの効果を評価するために、実験用生体内(in vivo)モデルでマウスに対して実験を行った。6週齢の雄性SPF(specific pathogen-free)BALB/cマウス(DBL;体重18~20g)を標準実験室の条件で受容した。これらのマウスを8~10匹ずつ5つの群に分けた。
【0101】
各群のマウスに対して、ウイルス感染前のPBS処理;ウイルス感染後のPBS処理;ウイルス感染前の3D8 scFv処理;ウイルス感染後の3D8 scFv処理;ウイルス感染後5日間、オセルタミビルリン酸塩(Oseltamivir Phosphate)(Sigma-Aldrich、ST.Louis、MO、USA)を経口投与した。各群のマウスを、50μl致死量50%のH1N1/H275Yウイルス(5×10PFU)で鼻腔内感染させた。H1N1/H275Yでマウスを感染させた後、11日目までに臨床徴候(体重変化、咳、曲がった背中、荒い毛、群れをなして集まること(発熱)、異常な分泌物、生存など)について毎日モニターした(図13)。ちなみに、3D8 scFvを投与した後、マウスは異常な臨床徴候を示さず、組織病理学的に肺実質およびその間質には異常な変化が示されなかった(図14)。また、3D8 scFvは、投与後48時間の間、細気管支および肺胞の上皮内壁に局在することが見出された(図15)。
【0102】
PBS前処理群は25%しか生存しなかったのに対して、3D8 scFv前処理群は90%が生存した。3D8 scFv後処理群は40%が生存し、PBS後処理群はいずれも生存しなかった。オセルタミビル処理群は30%が生存した(図16)。
【0103】
体重変化の場合、PBS前処理群は、平均体重が感染0日後(0dpi)に21.1gであり、感染11日後(11dpi)に15.5gに27%減少した。3D8 scFv前処理群は、平均体重が0dpiで22.2gであり、7dpiで18.2gに約18%減少した。しかし、11dpiで平均体重が20.6gに反騰した。オセルタミビル処理群は、平均体重が0dpiで21.8g、7dpiで30%減少し、11dpiで反騰した。PBS後処理群は、平均体重が0dpiで20.8gであったが、8dpiで生存したマウスはなかった。3D8 scFv後処理群は、平均体重が0dpiで23gであり、10dpiで16gに約30%減少したが、その後、平均体重が回復した(図17)。
【0104】
これにより、3D8 scFvの処理がウイルスに感染した細胞の生存率を高め、ウイルス攻撃による初期の体重減少を迅速に回復させることを確認することができる。
【0105】
(2)インフルエンザAウイルス感染マウスの肺の形態学的分析
前記(1)の各群のマウス(5dpi)の肺組織を集めて、肉眼的な肺病変スコアの形態学的分析を行った。
【0106】
各肺の葉に、全肺体積のおおよその百分率を反映する数字を割り当てた。すべての葉の総点は、目に見える肺炎がある全肺の百分率推定値を形成した。顕微鏡的肺病変スコアの形態学的分析のために、肺組織を10%中性緩衝ホルマリンに固定した。固定後、組織を一連のアルコール溶液とキシレンを用いて脱水し、パラフィンワックスに包埋した。各組織でセクション(5μm)を準備し、ヘマトキシリンおよびエオシン(HE)染色を行った。準備された組織スライドを盲検方式(blinded fashion)で検査し、間質性肺炎の推定重症度に対して以下のようにスコアを与えた:0、病変なし;1、軽い間質性肺炎;2、中程度の多焦点間質性肺炎;3、中程度のびまん性間質性肺炎;4、重篤な間質性肺炎。IHC(免疫組織化学(Immunohistochemistry))の形態学的分析のために、断面をNIH Image J 1.43m Program(https://imagej.nih.gov/ij)で分析して定量的データを得た。10個のフィールドをランダムに選択し、単位面積(0.25mm)当たりの陽性細胞の数を決定した。その後、平均値を計算した。
【0107】
肉眼的病変は、主に間葉、尾状葉および副葉に存在していた。病理学的には、3D8 scFv前処理群の肺は、ウイルス感染していないWT群の肺と大きくは異ならなかった。一方、PBS前処理群およびオセルタミビル(oseltamivir)処理群では、顕著な肺鬱血および黄褐色強化が観察された(図18の上側)。3D8 scFv前処理および後処理群は、PBSおよびオセルタミビル処理群と比較して肺病変の重症度スコアが有意に低かった(P<0.05)。3D8 scFv治療群の合計肺病変スコアは、3D8 scFv後処理群よりも3D8 scFv前処理群において有意に低かった(P<0.05)。オセルタミビル処理群は、PBS処理群よりも合計肺病変スコアが有意に低かった(P<0.05)(図18の下側)。
【0108】
顕微鏡的病変は、PBSおよびオセルタミビル処理群において増加した数の間質マクロファージおよびリンパ球と共に厚くなった肺胞中隔を特徴とした。3D8 scFv前処理およびWT群の肺は正常であった(図19の上側)。3D8 scFv前処理群は、他の群と比較して顕微鏡病変スコアが有意に低く(P<0.01)、3D8 scFv後処理群は、PBSおよびオセルタミビル処理群よりも顕微鏡病変スコアが有意に低かった(P<0.05)。顕微鏡的肺病変スコアは、PBS処理群とオセルタミビル処理群との間で有意な差がなかった(図19の下側)。
【0109】
(3)インフルエンザAウイルス感染マウスの肺におけるウイルスRNAおよびインターフェロンレベルの測定
マウスの肺におけるウイルスRNAおよびインターフェロンのレベルを測定した。製造メーカーの指針に従ってTRI試薬を用いて溶解したマウス肺組織(5dpi)のサンプルから全RNAを抽出した。RNA濃度は分光光度計を用いて決定した。cDNAは、製造メーカーのプロトコルに従ってCellScript All-in-One 5x First Strand cDNA Synthesis Master Mixを用いて合成した。遺伝子(HA、NPおよびIFN-β)は、前述のようにqRT-PCRを用いて表3のプライマーで増幅した。GAPDHは、内部対照群として増幅した。PBS前処理群と比較して3D8 scFv前処理群の肺におけるHA(68%)、NP(71%)およびIFN-β(51%)の減少した発現によって証明されたように、3D8 scFv前処理群の肺におけるウイルスRNAおよびIFN-βの発現が他の群と比較して減少した。3D8 scFv後処理群の肺におけるウイルスRNAの発現は35%(HA)および18%(NP)と低かった(図20)。
【0110】
(4)インフルエンザAウイルス感染マウスの肺におけるウイルス力価の確認
また、インフルエンザAウイルス感染マウスの肺におけるウイルス力価を確認した。マウスの肺組織を、TissueRuptor(Qiagen、Chadstone、Victoria、Australia)を用いて1mlのMEMフリー培地で均質化した。4℃で5分間6,000xgで遠心分離して均質液を得た。コンフルエント(Confluent) MDCK細胞を12ウェルプレートで培養した。MEMフリー培地中で組織上層液(1:1000希釈液)を37℃で1時間感染させた後、感染培地を除去した。培地をTPCK処理したトリプシン(1μg/ml)および1%アガロースを含有する1×ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's medium、DMEM)で交換した。細胞を3日間5%CO、37℃でさらにインキュベートした。細胞単層を4%ホルムアルデヒドで固定し、可視化のために0.5%クリスタルバイオレットで染色した。肺のウイルス力価は、PBS前処理群と比較して3D8 scFv前処理群において約70%減少した(図21)。肺のウイルス力価は、PBS後処理群と比較して3D8 scFv後処理群において約60%減少した(図21)。
【0111】
(5)免疫組織化学(Immunohistochemistry、IHC)を用いたウイルスタンパク質(proetin)の発現の測定
組織切片を脱パラフィン化し、再水和した後、クエン酸緩衝液(citrate buffer)を用いて95℃で20分間抗原修復を行った。スライドをTBST(TBS、0.025% Triton X-100)で洗浄し、10%ウシ胎児血清+1%BSA溶液(in TBST)を用いて2時間ブロックした。組織切片を4℃で一晩ポリクローナルウサギ抗HA抗体(1:750希釈)と共にインキュベートした。その後、組織スライドをそれぞれヤギ抗ウサギIgG TRITC二次抗体(1:1000希釈)と共に25℃で1時間インキュベートした。組織切片スライドにDAPIを含むanti-fade Mounting Mediumを入れ、カバーガラスをかぶせ、LSM 700 Zeiss共焦点顕微鏡を用いて細胞を可視化した。ウイルスHAのシグナルは、肺胞上皮細胞内層で減少し(図22の左側)、明確な陽性シグナルの数はオセルタミビル処理群と比較して3D8 scFv前処理群において有意に低かった(P<0.05)(図22の右側)。
【0112】
9.統計分析
連続データは、一元配置分散分析(a one-way analysis of variance、ANOVA)によって分析した。ANOVA分析が有意な場合(P<0.05)、ペアワイズ・テューキー(pairwise Tukey)の調整を事後的に行った。離散データは、カイ二乗検定(Chi-square)およびフィッシャーの正確確率検定(Fisher's exact test)で分析した。必要に応じて、ピアソンの相関係数(Pearson's correlation coefficient)及び/又はスピアマン順位相関係数(Spearman's rank correlation coefficient)を用いてデータ間の関係を評価した。P<0.05の値は有意なものとみなした。全ての統計分析は、生物統計解析ソフトウェア(GraphPad Prism software(GraphPad Software、San Diego、CA、USA))を用いて行った。
【0113】
前述の結果から、3D8 scFvはウイルス感染から宿主を保護する予防的な効果も示すだけでなく、ウイルス感染後の過度の炎症および潜在的な追加の病因を軽減することによって治療的な効果も示すことができることを確認した。
【0114】
本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須的特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能なことを理解できるはずである。よって、前述の実施形態は全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。
【0115】
本発明の範囲は後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
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【配列表】
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【国際調査報告】