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特表2023-540382心筋梗塞の処置のための治療方法および治療薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】心筋梗塞の処置のための治療方法および治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230914BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/138 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/616 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/4365 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230914BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P9/10
A61K31/167
A61K31/165
A61K31/138
A61K31/353
A61K38/43
A61K31/616
A61K31/4365
A61K31/519
C07K16/28 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515854
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 AU2021051049
(87)【国際公開番号】W WO2022051814
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】2020903245
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522031607
【氏名又は名称】インプリシット・バイオサイエンス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMPLICIT BIOSCIENCE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100218268
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジーゲラー,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】レッドリック,ギャリー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084DC21
4C084DC22
4C084NA05
4C084ZA401
4C084ZA402
4C084ZA542
4C084ZC202
4C084ZC432
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085CC21
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086CB08
4C086CB26
4C086CB29
4C086DA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA40
4C086ZA54
4C086ZC20
4C086ZC43
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA18
4C206FA19
4C206FA21
4C206GA01
4C206GA09
4C206GA22
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA40
4C206ZC43
4C206ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、一般に、心筋梗塞のを処置するための方法および薬に関する。特に、本開示は、心筋梗塞を処置するためのCD14アンタゴニスト抗体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における心筋梗塞(MI)を処置する方法であって、有効量のCD14アンタゴニスト抗体を対象に投与することを含む、投与することからなる、または、投与することから実質的になる、方法。
【請求項2】
MI後72時間以内に対象にCD14アンタゴニスト抗体を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MI後12、18、24、36、または48時間以内に対象にCD14アンタゴニスト抗体を投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1回、2回、3回またはそれ以上の回数で対象にCD14アンタゴニスト抗体を投与する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
CD14アンタゴニスト抗体を全身投与する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
MIがST上昇型急性MI(STEMI)である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
MIが非ST上昇型MI(NSTEMI)である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
CD14アンタゴニスト抗体が以下から選択される、請求項1から7のいずれかに記載の方法:
(i)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSFGNSFMH(配列番号7)(3C10 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RAANLES(配列番号8)(3C10 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSYEDPWT(配列番号9)(3C10 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SYAMS(配列番号10)(3C10 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列SISSGGTTYYPDNVKG(配列番号11)(3C10 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GYYDYHY(配列番号12)(3C10 H-CDR3)を含む;
(ii)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここでL-CDR1は配列RASESVDSYVNSFLH(配列番号13)(28C5 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RASNLQS(配列番号14)(28C5 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSNEDPTT(配列番号15)(28C5 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここでH-CDR1は配列SDSAWN(配列番号16)(28C5 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列YISYSGSTSYNPSLKS(配列番号17)(28C5 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GLRFAY(配列番号18)(28C5 H-CDR3)を含む;
(iii)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSYVNSFLH(配列番号13)(IC14 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RASNLQS(配列番号14)(IC14 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSNEDPYT(配列番号27)(IC14 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SDSAWN(配列番号16)(IC14 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列YISYSGSTSYNPSLKS(配列番号17)(IC14 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GLRFAY(配列番号18)(IC14 H-CDR3)を含む; および、
(iv)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASQDIKNYLN(配列番号19)(18E12 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列YTSRLHS(配列番号20)(18E12 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QRGDTLPWT(配列番号21)(18E12 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列NYDIS(配列番号22)(18E12 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列VIWTSGGTNYNSAFMS(配列番号23)(18E12 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GDGNFYLYNFDY(配列番号24)(18E12 H-CDR3)を含む。
【請求項9】
CD14アンタゴニスト抗体が以下から選択される、請求項1から8のいずれかに記載の方法:
(i)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSFGNSFMHWYQQKAGQPPKSSIYRAANLESGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYFCQQSYEDPWTFGGGTKLGNQ(配列番号1)(3C10 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LVKPGGSLKLSCVASGFTFSSYAMSWVRQTPEKRLEWVASISSGGTTYYPDNVKGRFTISRDNARNILYLQMSSLRSEDTAMYYCARGYYDYHYWGQGTTLTVSS(配列番号2)(3C10 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン;
(ii)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYCCQQSNEDPTTFGGGTKLEIK(配列番号3)(28C5 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSA(配列番号4)(28C5 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン;
(iii)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIK(配列番号25)(IC14 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSS(配列番号26)(IC14 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン; および、
(iv)以下を含む抗体:
配列QTPSSLSASLGDRVTISCRASQDIKNYLNWYQQPGGTVKVLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQRGDTLPWTFGGGTKLEIK(配列番号5)(18E12 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLTNYDISWIRQPPGKGLEWLGVIWTSGGTNYNSAFMSRLSITKDNSESQVFLKMNGLQTDDTGIYYCVRGDGNFYLYNFDYWGQGTTLTVSS(配列番号6)(18E12 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン。
【請求項10】
CD14アンタゴニスト抗体がヒト化またはキメラ化されている、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
CD14アンタゴニスト抗体が以下を含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法:
アミノ酸配列DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号28)を含む軽鎖; および、
アミノ酸配列DVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号29)を含む重鎖。
【請求項12】
CD14アンタゴニスト抗体が補助薬と併用して投与される、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
CD14アンタゴニスト抗体と補助薬とが同時または順次投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
補助薬が、線維素溶解薬、βブロッカー、高強度スタチン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬および抗血小板薬から選択される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
線維素溶解薬が、ストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(例えばテネクテプラーゼ、レテプラーゼ、またはアルテプラーゼ)から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
βブロッカーが、アセブトロール、アテノロール、イソプロロール、メトプロロール、ナドロール、ネビボロールおよびプロプラノロールから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
抗血小板薬が、アスピリン、P2Y12阻害薬(例えばチクロピジン、クロピドグレル、チカグレロル、またはプラスグレル)および糖タンパク質IIb/IIIa受容体アンタゴニストから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
PCIが対象に施される、請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
CD14アンタゴニスト抗体がPCIから72時間以内に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ヒト対象における心筋梗塞(MI)を処置するための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年9月10日に出願された、発明の名称を「心筋梗塞の処置のための治療方法および治療薬(Therapeutic methods and agents for the treatment of myocardial infarction)」とする豪州仮特許出願第2020903245号に対する優先権を主張するものであり、当該内容は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、一般に、心筋梗塞を処置するための方法および薬に関する。特に、本開示は、心筋梗塞を処置するためのCD14アンタゴニスト抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
心臓病と特に心筋梗塞(MI)は世界中で重大な死因であり疾病となっている。例えば、米国においては、年間約100万件の心筋梗塞が発生し、およそ30万から40万人の人々が亡くなっている。MIで亡くならなかった人でも、長期にわたる心臓ダメージを負うこともあり、平均寿命や生活の質を低下させる。
【0004】
MIは、虚血の結果生じる、心臓の筋肉あるいは心筋の組織死(すなわち梗塞)のことをいう。心筋梗塞は心臓への血液供給量が心筋の酸素要求を満たさないときに起きる。これは、典型的には、例えば不安定動脈硬化性プラークの破裂と血餅形成に続く、冠動脈の閉塞(または封鎖)により起こる。その他のあまり一般的でない原因に、冠動脈塞栓症、コカインによる虚血、冠動脈解離および冠動脈攣縮を含む。
【0005】
MIは処置目的により非ST上昇型MI(NSTEMI)とST上昇型急性MI(STEMI)の2つのカテゴリに分類することができる。STEMIは最も一般的には血栓が形成され心外膜冠動脈が完全に閉塞したときに起こる。最も重度かつ生命を脅かし、速やかに診断と処置を要する一刻を争う状態である。STEMIに対しては、経皮的冠動脈インターベンション(PCI; 例えば血管形成術やステント留置術)や線維素溶解薬(例えばストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA; 例えばテネクテプラーゼ、レテプラーゼ、アルテプラーゼ))や場合によっては冠動脈バイパス移植手術による緊急再灌流が施される。NSTEMIに対しては、再灌流は経皮的インターベンションや冠動脈バイパス移植手術によりなされ、線維素溶解療法は用いられない。すべてのMI患者に対し典型的には、βブロッカー、高強度スタチン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬および/または抗血小板薬(例えばアスピリン、および/またはチクロピジン、クロピドグレル、チカグレロル、プラスグレルのようなP2Y12阻害薬)による処置が施される。
【0006】
これらの医療行為にも関わらず、多くのMI患者が心臓に恒久的な損傷を抱えている。心筋傷害は、早期の好中球侵入(early neutrophil ingress)とそれに続く単球/マクロファージ浸潤を含む持続的な炎症カスケードの活性化を誘発する。MIから3-5日の間に、線維芽細胞の活性化と進行性の損傷部の線維化を伴い、炎症から修復へ移行する。経時的に、心室形状の変化、心臓壁の薄化、虚血性僧帽弁閉鎖不全症とさらなる心筋細胞の減少を伴う病態変化が起きる。MI後の損傷組織(scar tissue)と心室リモデリングの発生は、患者の不整脈および心不全の生涯的リスクを引き上げる。実際に、MI生存者の少なくとも5%-10%はMIから12箇月以内に死亡しており、50%近くが同じ年のうちに入院を必要としている。MIを患う患者の全体的な予後は、MI後の心筋損傷の範囲に依る。早期のPCIあるいは線維素溶解療法を受けた患者は良好な経過が見られることがあるものの、心筋損傷と有害な線維化をより低下させ、良好な予後を得るために、MIを処置するためのさらなる薬や方法が求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一つには、Cluster of Differentiation 14(CD14)を例えば抗CD14アンタゴニスト抗体の投与によりターゲティングすることでMIによる心臓ダメージを減少または改善することができるという、驚くべき事実に基づく。特に、最も重篤な型のMIであるSTEMI後のCD14アンタゴニスト抗体の投与が、抗体を投与しなかった場合と比較して、心臓の収縮機能、収縮特性、および血行動態機能を改善し(例えば、一回拍出量、心拍出量、駆出率、一回仕事量、およびdV/dt maxを増加させ、dV/dt minを減少させ)、梗塞サイズを低下させ、線維化を減少させたことが本開示において初めて示された。心臓の効率および機能を著しく改善したことをあらわす、複数のMIパラメータにおけるこのあきらかな改善は、CD14のターゲティングはMIの梗塞サイズまたは収縮特性の悪化を防止または回復する効果がないことを示すこれまでの知見を考慮すると、どの薬および特に抗CD14薬に対しても驚くべきものである。(例えば、Arslan et al. Impact of CD14 deficiency on ischemia reperfusion injury, Immunotherapy@Brisbane 2017, Brisbane, Australia, 10-12 May 2017を参照のこと).
【0008】
MI発生時に、ダメージ関連分子パターン(DAMP)分子が損傷心筋細胞から放出され、常在炎症性マクロファージが血中を循環する白血球(主に好中球)を引き寄せる。損傷細胞や壊死細胞のファイゴサイトーシスが起こり、これらの好中球がアポトーシスしていくことにより、組織修復フェイズへと入っていく。CD14は、循環中や浸潤性の単球やマクロファージを含む様々な細胞においてDAMP駆動炎症を促進する数多くのパターン認識受容体にとって重要な補因子である。理論に拘束されるわけでないが、CD14ターゲティングによるMIに関連する過剰な炎症の減少、その後の損傷、線維症、心臓リモデリングの緩和が提案される。本開示のいくつかの実施態様においては、急性期にだけCD14がターゲティングされる(つまりMI後72-96時間以内)。理論に拘束されるわけでないが、そのようにターゲティングすることにより、急性期の炎症性の「M1」単球/マクロファージの影響を減少させる一方、その後のフェイズに修復性かつ抗炎症性の「M2」単球/マクロファージを組織修復において機能させることが提案される。
【0009】
従って、一態様において、対象における心筋梗塞(MI)を処置する方法であって、有効量のCD14アンタゴニスト抗体を対象に投与することを含む、投与することからなる、または、投与することから実質的になる、方法が提供される。別の態様において、MIを処置するための医薬の製造のためのCD14アンタゴニスト抗体の使用が提供される。
【0010】
いくつかの実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体は、MI後またはMI診断後72時間以内(例えばMI後またはMI診断後12、18、24、36、または48時間以内)に対象に投与される。いくつかの例では、CD14アンタゴニスト抗体は、1、2、3回またはそれ以上の投与回数で対象に投与される。一実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体は全身投与される。
【0011】
いくつかの実施形態では、MIはST上昇型急性MI(STEMI)である。別の実施態様では、MIは非ST上昇型MI(NSTEMI)である。
【0012】
1つの例では、CD14アンタゴニスト抗体は以下から選択される:
【0013】
(i)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSFGNSFMH(配列番号7)(3C10 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RAANLES(配列番号8)(3C10 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSYEDPWT(配列番号9)(3C10 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SYAMS(配列番号10)(3C10 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列SISSGGTTYYPDNVKG(配列番号11)(3C10 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GYYDYHY(配列番号12)(3C10 H-CDR3)を含む;
【0014】
(ii)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSYVNSFLH(配列番号13)(28C5 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RASNLQS(配列番号14)(28C5 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSNEDPTT(配列番号15)(28C5 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SDSAWN(配列番号16)(28C5 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列YISYSGSTSYNPSLKS(配列番号17)(28C5 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GLRFAY(配列番号18)(28C5 H-CDR3)を含む;
【0015】
(iii)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSYVNSFLH(配列番号13)(IC14 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RASNLQS(配列番号14)(IC14 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSNEDPYT(配列番号27)(IC14 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SDSAWN(配列番号16)(IC14 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列YISYSGSTSYNPSLKS(配列番号17)(IC14 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GLRFAY(配列番号18)(IC14 H-CDR3)を含む;
【0016】
(iv)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASQDIKNYLN(配列番号19)(18E12 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列YTSRLHS(配列番号20)(18E12 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QRGDTLPWT(配列番号21)(18E12 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列NYDIS(配列番号22)(18E12 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列VIWTSGGTNYNSAFMS(配列番号23)(18E12 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GDGNFYLYNFDY(配列番号24)(18E12 H-CDR3)を含む。
【0017】
特定の例では、CD14アンタゴニスト抗体は以下から選択される:
【0018】
(i)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSFGNSFMHWYQQKAGQPPKSSIYRAANLESGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYFCQQSYEDPWTFGGGTKLGNQ(配列番号1)(3C10 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LVKPGGSLKLSCVASGFTFSSYAMSWVRQTPEKRLEWVASISSGGTTYYPDNVKGRFTISRDNARNILYLQMSSLRSEDTAMYYCARGYYDYHYWGQGTTLTVSS(配列番号2)(3C10 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン;
【0019】
(ii)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYCCQQSNEDPTTFGGGTKLEIK(配列番号3)(28C5 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSA(配列番号4)(28C5 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン;
【0020】
(iii)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIK(配列番号25)(IC14 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSS(配列番号26)(IC14 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン;
【0021】
(iv)以下を含む抗体:
配列QTPSSLSASLGDRVTISCRASQDIKNYLNWYQQPGGTVKVLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQRGDTLPWTFGGGTKLEIK(配列番号5)(18E12 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLTNYDISWIRQPPGKGLEWLGVIWTSGGTNYNSAFMSRLSITKDNSESQVFLKMNGLQTDDTGIYYCVRGDGNFYLYNFDYWGQGTTLTVSS(配列番号6)(18E12 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン。
【0022】
いくつかの実施態様では、CD14アンタゴニスト抗体はヒト化またはキメラ化されている。
【0023】
特定の例では、CD14アンタゴニスト抗体は以下を含む: アミノ酸配列DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号28)を含む軽鎖; および、
アミノ酸配列DVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号29)を含む重鎖。
【0024】
特定の実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体はIC14である。
【0025】
CD14アンタゴニスト抗体は、補助薬と組み合わせて(例えば、同時または順次)投与されてもよいし、製剤化されてもよい。補助薬は、例えば、線維素溶解薬、βブロッカー、高強度スタチン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、および抗血小板薬から選択されてもよい。いくつかの例では、線維素溶解薬は、ストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼ、および組織プラスミノーゲン活性化因子(例えばテネクテプラーゼ、レテプラーゼ、またはアルテプラーゼ)から選択される。さらなる例では、βブロッカーは、アセブトロール、アテノロール、イソプロロール(isoprolol)、メトプロロール、ナドロール、ネビボロール、およびプロプラノロールから選択される。またさらなる例では、抗血小板薬は、アスピリン、P2Y12阻害薬(例えばチクロピジン、クロピドグレル、チカグレロル、またはプラスグレル)、糖タンパク質IIb/IIIa受容体アンタゴニストから選択される。
【0026】
いくつかの実施形態では、PCIが対象に施される。このような例では、CD14アンタゴニスト抗体は、例えば、PCIから72時間以内に投与されうる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本開示の実施形態は、非限定的な例として、以下の図を参照して、本明細書に記載される。
【0028】
図1図1は、術後7日目における収縮機能の心エコー評価のグラフである。(A)面積変化(B)駆出率、*p<0.05、平均 ±SE。
【0029】
図2図2は、LPSおよびIFNγで刺激されたiPSC由来M0(M0)からのIL-1β、TNFα、IL-6およびIL-8レベルのグラフである。培養は、IC14抗体およびアイソタイプコントロール抗体を0.01から1 μg/mlの濃度で行った。IL-1β、TNFα、IL-6およびIL-8の転写レベル(M1)は、qPCRで測定された。各mRNAの任意単位はβアクチンで標準化され、M0細胞との相対発現量をプロットした。(A)IL-1β、(B)TNFα、(C)IL-6、(D)IL-8。
【0030】
図3図3は、術後7日目における収縮機能の心エコー評価のグラフである。面積変化(A)および駆出率(B)。*p<0.05、**p<0.01、***P<0.001。平均 ± SEM。(群: A: アイソタイプ、B: 抗CD14抗体3回投与、C: 生理食塩水、D: 抗CD14抗体2回投与)。
【0031】
図4図4は、術後7日目における収縮機能の心エコー評価のグラフであり、コントロール群(A: アイソタイプ + C: 生理食塩水、)および抗CD14抗体群(B: 抗CD14抗体3回投与+D: 抗CD14抗体2回投与)を並べたものである。
【0032】
図5図5は、術後7日目における一回拍出量(A)および心拍出量(B)の心エコー評価のグラフである。*p<0.05、**p<0.01、***P<0.001。平均 ± SEM。(群: A: アイソタイプ、B: 抗CD14抗体3回投与、C: 生理食塩水、D: 抗CD14抗体2回投与)。
【0033】
図6図6は、術後7日目における左心室の血行動態評価および動脈圧のグラフである。(群: A: アイソタイプ、B: 抗CD14抗体3回投与、C: 生理食塩水、D: 抗CD14抗体2回投与)。Tx=処置群(すなわち、B+D)。*p<0.05、**p<0.01、***P<0.001。平均 ± SEM。
【0034】
図7図7は、術後7日目における代表的な左心室(LV)の圧-容積ループ(pressure-volume loops)のグラフである。各ループは、心臓の1周期全体を通しての容積および圧の測定値を示している。(A)アイソタイプコントロール群の代表的圧-容積ループ(B)抗CD14抗体3回投与群の代表的圧-容積ループ(C)生理食塩水コントロール群の代表的圧-容積ループ(D)抗CD14抗体2回投与群の代表的圧-容積ループ。
【0035】
図8図8は、術後7日目における心室中部の明視野観察から測定された非損傷面積(A)および損傷サイズ(B)のグラフである。*p<0.05。平均 ± SEM。(群: A: アイソタイプ、B: 抗CD14抗体3回投与、C: 生理食塩水、D: 抗CD14抗体2回投与)。
【0036】
図9図9は、ピクロシリウスレッド(Pic Red)で染色された心臓の左心室スライドを示しており、コラーゲンが濃灰色で表され、心筋は薄灰色で示されている。(A)アイソタイプコントロール群。(B)抗CD14抗体3回投与。(C)生理食塩水コントロール群。(D)抗CD14抗体2回投与。
【0037】
図10図10は、心室中部の免疫蛍光染色された分画から測定されたCD68陽性率のグラフである。平均 ± SEM。(A)各群のCD68陽性率。(B)A+C群対B+D群CD68陽性率。(群: A: アイソタイプ、B: 抗CD14抗体3回投与、C: 生理食塩水、D: 抗CD14抗体2回投与)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
1.定義
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者の通常の理解と同じ意味を有する。本明細書に記載の方法または材料と類似または同等のいかなる方法および材料も本発明の実施および試験に使用することができるが、好ましい方法および材料を記載する。本発明では、以下の用語が下記のように定義される。
【0039】
本明細書において、冠詞「a」および「an」は1つまたは1つよりも多い(すなわち、少なくとも1つ)冠詞の文法上の対象を指すために用いられる。例示の目的で「要素(an element)」は1つの要素または1つよりも多い要素を意味する。
【0040】
本明細書において使用される「および/または」は、関連して記載されている1つ以上の項目のあらゆる可能な組み合わせを指し、かつ含み、また、代替(または)で解釈する場合には組み合わせの欠如を意味する。
【0041】
「活性薬」および「治療薬」の用語は本明細書では互換的に使用され、疾患または障害の少なくとも1つの症状を予防、減少または改善する薬物のことをいう。
【0042】
「同時投与」または「同時に投与する」または「同時投与する」などの用語は、2以上の薬を含む単一組成物を投与すること、または別々の組成物として各薬を投与すること、および/または単一組成物としてすべての薬を投与した場合と同等の効果的な結果を得るに十分短い期間内で、それぞれ別経路で同時期または同時にまたは順次投与することを意味する。「同時に」とは、薬が実質的に同じ時に、望ましくは同じ製剤で一緒に投与されることを意味する。「同時期」とは、薬が時間的に近いうちに投与されることを意味し、例えば1つの薬が別の薬の約1分から約1日前後以内に投与されることを意味する。同時期はいずれの期間であってもよい。しかし、同時投与されない場合には、薬は約1分から約8時間以内、好適には約1時間から約4時間以内に投与されることが多い。同時期に投与される場合、薬は好適には対象の同じ部位に投与される。「同じ部位」の用語は、正確な位置を含むが、約0.5から約15センチメートル以内、好適には約0.5から約5センチメートル以内としうる。本明細書において使用される「別々に」の用語は、薬が間隔を空けて、例えば約1日から数週間または数ヶ月の間隔で投与されることを意味する。薬は、いずれの順序で投与されてもよい。本明細書で使用される「順次」という用語は、薬が順番に、例えば、分、時間、日または週の間隔で投与されることを意味する。適切な場合、薬は規則的な繰り返しサイクルで投与される。
【0043】
「アンタゴニスト抗体」なる用語は、最も広い意味で用いられ、抗体が結合する抗原(例えばCD14)の生物学的活性を阻害または低下させる抗体を含む。例えば、アンタゴニスト抗体は、部分的にまたは完全にレセプター(例えばCD14)とリガンド(例えばDAMPまたはPAMP)の相互作用をブロックしてもよく、またはレセプターの立体構造変化またはダウンレギュレーションにより実際的に相互作用を低下させてもよい。つまり、CD14アンタゴニスト抗体は、CD14に結合し、わずかであってもToll様受容体(TLR)シグナル経路(例えばTLR4シグナル経路)およびTRIF(TIR-domain-containing adapter-inducing IFN-β)経路のような下流経路の活性化、またはCD14リガンド(例えばDAMPまたはPAMP)によるCD14結合に対する細胞応答誘発(例えば炎症性サイトカインを含む炎症性メディエータの生産)を含む、CD14アゴニスト活性をブロック、阻害、中和、拮抗、抑制、低下、または減少(有意なものも含む)する抗体を包含する。他の例では、抗体は二価であり、およびCD14ならびに別の抗原に結合する。
【0044】
本明細書における「抗体」なる用語は、最も広い意味で使用され、具体的には自然に存在する抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、抗体フラグメント、または所望の免疫相互作用を持っているいかなる抗原結合分子をも包含する。自然に存在する「抗体」は、ジスルフィド結合により相互結合された少なくとも2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリンをその範囲に包含する。重鎖それぞれは重鎖可変領域(本明細書ではVHと略記する)と重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は特異的なCHドメイン(例えばCH1、CH2、CH3)を有する。軽鎖それぞれは軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記する)と軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメインCLで構成される。VHおよびVL領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域に散在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分化することができる。VHとVLそれぞれはN末端からC末端の順番で並ぶFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の3つのCDRと4つのFRから構成される。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体システムの第一成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を担いうる。抗体は、どのアイソタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)、サブクラス、またはその改変体(例えばL234AおよびL235Aの二重変異の入ったIgG1アイソタイプ(IgG1-LALA))でもよい。抗体は、どの種のものであっても、キメラ、ヒト化またはヒト抗体でもよい。他の実施形態では、抗体は、第一の定常領域ドメイン(CH1)を欠くが重鎖はそのまま保持され、かつ抗原結合ドメインを介して抗原に結合することができる重鎖抗体多量体(例えばラクダ科動物抗体)である。抗体モジュラー認識ドメイン(MRD)融合体の重鎖および軽鎖の可変領域は、目的抗原と相互作用する機能性結合ドメインを含むことになる。
【0045】
本明細書で使用される「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(VL)、重鎖の可変ドメイン(VH))は、抗原への抗体の結合に直接的に関わる軽鎖および重鎖の対のそれぞれを意味する。可変軽鎖および重鎖ドメインは、同様の一般構造を持ち、各ドメインは4つのFRを含み、その配列は広範に保存され、3つのCDRまたは「超可変領域」により結合されている。FRはβシート立体構造をとり、CDRはβシート構造と結合するループを形成する場合がある。各鎖内のCDRはFRにより三次元構造で保持され、もう一方の鎖のCDRとともに抗原結合サイトを形成する。
【0046】
本明細書で使用される「抗原結合部位」なる用語は、一般に抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基のことをいい、一般にCDRのアミノ酸残基を含む。つまり、「CDR」または「相補性決定領域」(「超可変領域」とも称する)は、本明細書では互換的に使用され、抗原結合サイトの形成に寄与する三次元ループ構造を形成する抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸配列のことをいう。重鎖および軽鎖の各可変領域に3つのCDRが存在し、それぞれ「CDR1」、「CDR2」、「CDR3」と表される。本明細書で使用される「CDRセット」の用語は、抗原に結合する1つの可変領域内に存在する3つのCDRの群のことをいう。前述のCDRの正確な境界は異なる体系によりそれぞれ定義されてきた。Kabat(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987) and (1991))が記載した体系では、抗体のいかなる可変領域にも適用可能な明確な残基番号付けシステムが提示されただけでなく、3つのCDRを定義する的確な残基境界も提示された。これらCDRは「Kabat CDRs」と呼ばれうる。Chothiaと共同研究者(Chothia and Lesk, 1987. J. Mol. Biol. 196: 901-917; Chothia et al., 1989. Nature 342: 877-883)は、Kabat CDRs内の特定のサブ部分は、アミノ酸配列レベルで大きな多様性を持つにも関わらず、ほぼ同一のペプチド骨格構造を採用していることを発見した。上述のサブ部分は「L1」、「L2」および「L3」、または「H1」、「H2」および「H3」と表され、「L」および「H」は軽鎖および重鎖領域にそれぞれ対応する。上述の領域は「Chothia CDRs」と呼ばれることがあり、Kabat CDRsと重複する境界を有する。Kabat CDRsと重複するCDRsを定義する他の境界は、Padlan(1995. FASEB J. 9: 133-139)およびMacCallum (1996. J. Mol. Biol. 262(5): 732-745)によって、説明されている。さらに他のCDR境界定義は上述の体系のいずれかに厳密に従うものではないがKabat CDRsと重複すると思われる。特定の残基もしくは残基群あるいはCDRs全体でさえも抗原結合に大きな影響は与えないだろうという予測もしくは実験的発見に照らして、それらの定義は短くなったり長くなったりすることはありうる。
【0047】
本明細書で使用される「フレームワーク領域」または「FR」は、可変領域からCDRを引いた残りの配列のことをいう。従って、抗体の軽鎖および重鎖の可変ドメインはN末端からC末端にかけて、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。CDRとFRはKabat, E. A.ら著のSequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)の標準的な定義および/または「超可変ループ」の残基によって典型的には決定される。
【0048】
本明細書で使用される「軽鎖可変領域」(「VL」)および「重鎖可変領域」(「VH」)の用語は、各抗体において多様な一次アミノ酸配列が存在する領域または軽鎖および重鎖それぞれのN末端部位にあるドメインのことをいう。抗体の可変領域は典型的には軽鎖と重鎖のN末端ドメインから成り、それらの可変領域は一緒に折りたたまれ、三次元構造の抗原結合サイトを形成する。VHおよびVLのいくつかのサブタイプで類似構造に基づいているものは、例えばKabatデータベースに規定されているように定義される。
【0049】
「キメラ抗体」の用語は、一の種由来の重鎖および軽鎖の可変領域配列、および別の種由来の定常領域配列を含む抗体のことをいい、例えばマウスの重鎖および軽鎖の可変領域にヒトの定常領域がリンクしているものである。
【0050】
非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」した形態はキメラ抗体であり、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含む。大部分において、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であって、そのレシピエントの超可変領域の残基が非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、望ましい特異性、アフィニティおよび能力を持ったマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの超可変領域の残基に置き換えられている抗体である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)が対応する非ヒト残基に置き換えられている。つまり、ヒト化抗体のFRおよびCDRは正確に親(すなわちドナー)配列と対応する必要はなく、例えば、ドナー抗体のCDRまたはコンセンサスフレームワークは、その部位ではCDRまたはFRがドナー抗体またはコンセンサスレームワークに一致しないような少なくとも一のアミノ酸残基の置換、挿入および/または欠損による変異が起きていてもよい。しかしながら、このような変異は広範には起こらず、抗原結合に関わる「キー残基」を一般に避ける。ヒト化抗体残基の、通常少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%、およびさらにまた好ましくは少なくとも95%がその親FRおよびCDR配列と対応する。本明細書において「コンセンサスフレームワーク」の用語は、コンセンサス免疫グロブリン配列の中のフレームワーク領域のことをいう。本明細書において「コンセンサス免疫グロブリン配列」の用語は、関連する免疫グロブリン配列のファミリー内でもっとも頻繁に見られるアミノ酸(またはヌクレオチド)から形成される配列のことをいう(例えばWinnaker, From Genes to Clones (Verlagsgesellschaft, Weinheim, 1987)のこと)。「コンセンサス免疫グロブリン配列」は、従って、「コンセンサスフレームワーク領域」および/または「コンセンサスCDR」を含む。免疫グロブリンファミリー内において、コンセンサス配列の各位置は、そのファミリーでその位置に最も高い頻度で存在するアミノ酸によって占められる。2種のアミノ酸が同じ頻度で見られる場合は、どちらををコンセンサス配列に含めてもよい。一般にヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、その可変ドメインにおける、すべてのまたは実質的にすべての超可変ループが、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、かつすべてまたは実質的にすべてのFRが、ヒト免疫グロブリン配列である。ヒト化抗体は一般に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンの一部分をさらに含んでもよい。さらなる詳細はJonesら(1986. Nature 321:522-525)、Riechmannら(1988. Nature 332:323-329)およびPresta (1992. Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596)を参照されたい。ヒト化抗体は、IgM、IgG、IgD、IgDおよびIgEを含むあらゆるクラスの免疫グロブリンから選択でき、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4に制限されないあらゆるアイソタイプから選択できる。ヒト化抗体は、1つ以上のクラスまたはアイソタイプの配列を含んでもよく、特定の定常ドメインが当技術分野で周知の技術を用いて望ましいエフェクター機能を最適化するために選択されてもよい。本明細書では「キー残基」なる用語は、抗体(特にヒト化抗体)の結合特異性および/またはアフィニティに対し大きく影響する可変領域内の所定の残基のことをいう。キー残基は、以下の1つ以上を含むが、それだけに限定されない: CDRに隣接する残基、潜在的グリコシル化部位(N-またはO-グリコシル化部位のいずれでもよい)、希少残基、抗原と相互作用可能な残基、CDRと相互作用可能な残基、カノニカル残基、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の間のコンタクト残基、バーニアゾーン内の残基、およびChothiaの定義における重鎖可変領域CDR1とKabatの定義における最初の重鎖フレームワークの間で重複する領域における残基。
【0051】
本明細書のおいて用いられる「バーニア」ゾーンとは、FooteおよびWinter(1992. J. Mol. Biol. 224: 487-499)に記載されるように、CDR構造を調整し、抗原への適合の微調整をしうるフレームワーク残基のサブセットのことをいう。バーニアゾーン残基はCDRの基層を形成し、CDRの構造および抗体のアフィニティに影響を与えることがある。
【0052】
本明細書では「カノニカル」の用語は、Chothiaら((1987. J. Mol. Biol. 196: 901-917; 1992. J. Mol. Biol. 227: 799-817)、ともに本明細書において参照により援用)により定義されているように、特定のカノニカルCDR構造を規定するCDRまたはフレームワーク内の残基のことをいう。Chothiaらによると、多くの抗体のCDRの必須部分は、アミノ酸配列レベルでは大いに多様であるにもかかわらず、ほとんど同一のペプチド骨格構造をとる。各カノニカル構造はループを形成するアミノ酸残基の連続セグメントに関して、主に1組のペプチド骨格ねじれ角を特定する。
【0053】
本明細書で使用される「ドナー」および「ドナー抗体」の用語は、1つ以上のCDRを「アクセプター抗体」に供給する抗体のことをいう。いくつかの実施形態では、ドナー抗体は、FRの取得元または由来元の抗体とは異なる種由来の抗体である。ヒト化抗体について、「ドナー抗体」の用語は1つ以上のCDRを提供する非ヒト抗体のことをいう。
【0054】
本明細書で使用される「アクセプター」および「アクセプター抗体」なる用語は、FRの1つ以上のアミノ酸配列の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または100%を提供する抗体のことをいう。いくつかの実施形態では、「アクセプター」なる用語は、定常領域を提供する抗体アミノ酸配列のことをいう。他の実施形態では、「アクセプター」なる用語は、FRおよび定常領域の1つ以上を提供する抗体アミノ酸配列のことをいう。具体的な実施形態では、「アクセプター」なる用語は、FRの1つ以上のアミノ酸配列の少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または100%を提供するヒト抗体アミノ酸配列のことをいう。この実施形態によると、アクセプターは、ヒト抗体の1つ以上の特定位置に存在しないアミノ酸残基を少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、または少なくとも10個含みうる。アクセプターフレームワーク領域および/またはアクセプター定常領域は、例えば生殖細胞系列抗体遺伝子、成熟抗体遺伝子、機能性抗体(例えば当技術分野で周知の抗体、開発中の抗体、市販されている抗体)から入手または取得しうる。
【0055】
本明細書において使用される「ヒト抗体」なる用語は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域をもつ抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えばランダムまたは部位特異的突然変異誘発によりin vitroで導入される突然変異または体細胞突然変異によりin vivoで導入される突然変異)を、例えばCDR、特にCDR3に含みうる。一方、本明細書において使用される「ヒト抗体」なる用語は、例えばマウスのような別のほ乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列をヒトフレームワーク配列に移植した抗体を含まない。
【0056】
「重鎖可変領域CDR1」および「H-CDR1」なる用語は互換的に使用され、「重鎖可変領域CDR2」および「H-CDR2」、「重鎖可変領域CDR3」および「H-CDR3」、「軽鎖可変領域CDR1」および「L-CDR1」、「軽鎖可変領域CDR2」および「L-CDR2」、「軽鎖可変領域CDR3」および「L-CDR3」についても同様である。本明細書では、相補性決定領域(「CDR」)は、他に指定がない限り、Kabatの定義に従って定義する。Kabatの定義は、抗体内の残基を番号付けする標準であり、典型的にはCDR領域を同定するために用いられる(Kabat et al., (1991), 5th edition, NIH publication No. 91-3242)。
【0057】
抗原結合は、完全抗体の「フラグメント」または「抗原結合フラグメント」により実施されうる。本明細書では、両用語は互換的に使用される。ある抗体の「抗体フラグメント」なる用語に包含される結合フラグメントの例には、VL、VH、CLおよびCH1ドメインから構成される1価フラグメントであるFabフラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によりリンクされた2個のFabフラグメントを含む2価フラグメントであるF(ab')2フラグメント、VHドメインとCH1ドメインから構成されるFdフラグメント; 抗体の片腕のVL領域とVH領域から構成されるFvフラグメント; VHドメインから構成されるシングルドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward et al., 1989. Nature 341:544-546); および単離された相補性決定領域(CDR)が、包含される。
【0058】
「単鎖可変領域フラグメント(scFV)」はVL領域およびVH領域の対が一価の分子を形成した単一タンパク鎖である(単鎖Fv(scFv)として知られる。例えばBird et al., 1988. Science 242:423-426; およびHuston et al., 1988. Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照)。VLおよびVHの2つのドメインは別の遺伝子にコードされるが、組換え技術を用いて1つにすることができ、人工ペプチドリンカーがそれらドメインを単一タンパク鎖へ作り変えることができる。このような単一タンパク鎖は、1つ以上の抗原結合部分を含む。上述の抗体フラグメントは当業者の知る従来技術を用いることにより得ることができ、そのフラグメントは完全抗体と同様にして有用性を検査される。
【0059】
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」および略称「MAb」および「mAb」なる用語は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体のことをいい、つまり、少量存在しうる自然発生的な変異を除いて、集団を構成する個別の抗体が同一であることをいう。モノクローナル抗体は、特異性が高く、単一の抗原に対するものである。さらに、典型的には様々な決定基(エピトープ)に対する様々な抗体を含むポリクローナル抗体の調製物とは対照的に、各mAbは単一の抗原決定基に対するものである。「モノクローナル」という修飾語は特定の方法による抗体の生産を要求するものと解釈されない。モノクローナル抗体は例えば、ハイブリドーマを含む単一クローンの抗体産生細胞により生産しうる。「ハイブリドーマ」なる用語は、一般に、腫瘍性リンパ球と、親細胞が持つ特異的な免疫を発現する抗原刺激を受けたB細胞またはT細胞とを細胞融合させて得られたものをいう。
【0060】
目的抗原(例えばCD14)に「結合する」抗体とは、十分なアフィニティを持ってその抗原に結合し、その抗原を発現する細胞や組織を標的とする治療薬として有用であって、他のタンパク質と顕著に交差反応しない抗体である。このような実施形態では、非標的タンパク質への抗体結合の程度は、例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫沈降法または放射性免疫沈降法(RIA)によって決定されるその特定の標的タンパク質への、抗体、オリゴペプチドまたは他の有機物の結合のおよそ10%未満である。そのため、CD14に拮抗する抗体は、好適には、炎症性サイトカイン/ケモカインを含む炎症性メディエータの生産を阻害または減少させる。標的分子への抗体結合に関して、「特異的結合」または「特異的に結合する」または特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド標的上のエピトープに「特異的である」という用語は、測定可能な程度に非特異的相互作用とは異なる結合を意味する。特異的結合は測定可能で、例えば、分子の結合を、一般に結合活性を持たない類似構造分子であるコントロール分子の結合と比較することで決定される。例えば、特異的結合は、標的に類似するコントロール分子、例えば過剰の非標識標的との競合により決定できる。この場合、特異的結合は、標識された標的とプローブの結合が、過剰な非標識標的により競合的に阻害される場合に示される。抗体が結合する抗原の特異的領域は典型的には「エピトープ」と呼ばれる。「エピトープ」なる用語は、広範には、抗体またはT細胞レセプターに特異的に認識されるか、あるいはある分子と相互作用する、抗原上の部位を含む。一般に、エピトープは、アミノ酸、糖鎖または糖側鎖のような活性な表面分子群であり、一般に特異的な三次元構造特性や荷電特性を持つ。当業者には理解できるように、実際的には、抗体が特異的に結合するものはいずれもエピトープとされる。
【0061】
本明細書において、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む」および「含んでいる」なる用語は、記載された手順、要素、手順群、または要素群の包括を示すが、他の手順、要素、手順群、または要素群を排除するものでないと解される。つまり、「含む」等の用語の使用は、記載された要素が必要または必須であるが、他の要素は任意であり、存在してもしなくてもよいことを示す。「からなる」の使用は、「からなる」に続くものを含み、限定されることを意味する。つまり、「からなる」なるフレーズは、記載された要素が必要または必須であり、他の要素が存在しないことを示す。「から実質的になる」の使用は、このフレーズの後に列挙されたあらゆる要素を含むこと意味し、列挙された要素について本開示で特定される活性または作用を妨げない、またはこれに寄与しない、他の要素に限定される。つまり、「から実質的になる」のフレーズは、列挙された要素が必要または必須であるが、他の要素は任意選択的であり、列挙された要素の活性または作用に影響するかどうかにより存在してもしなくてもよいことを示す。
【0062】
疾患または状態を処置するという文脈において、「有効量」とは、単回投与またはシリーズの一部として、処置または予防を必要とする個体への、その状態の症状発生の予防、そのような症状の抑制、および/または既存の症状の処置に有効な量の、薬物または組成物の投与量を意味する。有効量は、処置される個体の年齢、健康状態、身体状態および疾患の症状が明らかであるかどうか、処置される個体の分類群、組成物の製剤、医療状況の評価、およびその他の関連因子によって変化する。最適な投与スケジュールは、対象の体への薬物蓄積の測定から算出できる。最適な投与量は、個々の対象における相対力価により変化し、一般的には、in vitroおよびin vivoの動物モデルで有効とされたEC50値に基づいて推定される。当業者であれば容易に、最適投与量、投与方法および反復率を決定できる。その量は通常の試験で決定できる比較的広い範囲に収まることが期待される。
【0063】
収縮機能(または心室機能)に関する「増加する」または「増加」などの用語は、抗CD14アンタゴニスト抗体の投与後のMI対象の、抗体を投与していないMI対象と比較した、少なくとも小さいが測定可能な収縮機能における増加のことをいう。典型的には、その増加は統計的に有意な増加である。いくつかの実施形態では、収縮機能は、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%またはそれ以上増加する。逆に、収縮機能不全(または心室機能不全)に関する「減少する」、「減少」、「低下する」または「低下」などの用語は、抗CD14アンタゴニスト抗体の投与後のMI対象の、抗体を投与していない対象と比較した、少なくとも小さいが測定可能な収縮機能不全の減少または低下のことをいう。典型的には、その減少は統計的に有意な減少である。いくつかの実施形態では、収縮機能は、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、またはそれ以上減少する。収縮機能(または機能不全)は、当業者の知るいずれの方法でも測定することができる。1つの例では、収縮機能は、心エコー検査により評価され、1つ以上の二次元または三次元パラメータ(例えば、拡張末期面積、収縮末期面積、面積変化、長軸分画短縮率(longitudinal fractional shortening)、拡張末期容積、収縮末期容積、拍出量、心拍出量、および/または駆出率) が、収縮機能の指標として、後述の実施例で示されるように使用される。
【0064】
「単離された」とは、本来の状態において通常不随している構成要素から、実質的にまたは本質的に遊離している物質をいう。
【0065】
本明細書では「リガンド」なる用語は、受容体に結合できるあらゆる分子のことをいう。
【0066】
「心筋梗塞」またはMIとは、虚血により心臓筋肉または心筋の組織が死ぬこと(すなわち梗塞)をいう。MIは当業者であれば、the Fourth Universal Definition of Myocardial Infarction (Thygesen et al. 2018, Circulation, 138: e618-e651)に記載されているような認められている基準に基づいて診断できる。例えば、MIは、臨床環境において、急性心筋虚血の証拠(例えば、心電図または、労作時または安静時の胸部、上肢、下顎、または上腹部の不快感、または呼吸困難もしくは疲労感などの虚血に相当するような虚血症状の存在)とともに、急性心筋傷害の存在が心臓バイオマーカーの異常(例えば、心筋トロポニンI(cTnI)および心筋トロポニンT(cTnT)であり、心筋傷害は血中cTnレベルが基準範囲上限値(URL)である99パーセンタイル値を上回って増加した状態と定義される)が検出されると診断される。
【0067】
MIは病因と状況に基づく型に分類される; 1型: 主要な冠動脈イベント(例えば、プラークの破裂、びらんまたは亀裂; 冠動脈解離)に起因する虚血により自然に生じたMI; 2型: 酸素要求量の増加(例えば、高血圧)、または酸素供給量の減少(例えば、冠動脈攣縮または塞栓症、不整脈、低血圧など)による虚血; 3型: 予期せぬ心臓突然死に関する; 4a型: 経皮的冠動脈インターベンションに関する(心筋梗塞の徴候および症状がありcTn値が99パーセンタイルURL値の5倍を上回る); 4b型: 確認されたステント血栓症に関する; 5型: 冠動脈バイパス術に関する(心筋梗塞の徴候および症状が認められ,cTn値が99パーセンタイルURL値の10倍を上回る)
【0068】
MIはまた、心電図上のST上昇またはQ波の有無のそれぞれにより、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST上昇型心筋梗塞(non-STEMI)に分類されうる。
【0069】
期間に関する「MI後」なる用語は、MIの最初の症状(例えば、胸の圧迫感または苦しさ; 胸、背中、顎および上半身の他の領域の痛み; 息切れ)の開始後の期間を意味する。従って、例えば、「MI後12時間」とは、MI症状の発症から12時間後のことをいう。
【0070】
期間に関する「MI診断後」なる用語は、病院または他の医療施設における医師などによるMIの診断後の期間を意味する。従って、例えば、「MI診断後12時間」とは、MIの診断の12時間後を意味する。
【0071】
「薬学上許容される担体」とは、生物学的あるいはその他の観点から望ましい材料で構成された薬品賦形剤を意味し、すなわち、その材料は、いかなるまたは実質的な有害反応を引き起こすことなく、選択した活性薬とともに対象に投与される。担体は、希釈剤、界面活性剤、着色剤、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、保存剤、トランスフェクション剤などの賦形剤および他の添加剤を含みうる。
【0072】
同様に、本明細書において提供される化合物の「薬学的に許容される」塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体は、生物学的あるいはその他の観点から望ましい、塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体である。
【0073】
「ポリヌクレオチド」、「遺伝物質」、「遺伝型」、「核酸」および「ヌクレオチド配列」なる用語は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、合成物および混合ポリマー、センスおよびアンチセンス鎖の両方を含み、化学的または生化学的に修飾されてもよく、当業者が容易に理解するような非自然または誘導体化されたヌクレオチド塩基を含んでもよい。
【0074】
「炎症性メディエータ」なる用語は、炎症に有利な免疫調節物質を意味する。このような物質には、ケモカイン、インターロイキン(IL)、リンホカイン、および腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカイン、ならびに成長因子が含まれる。具体的な実施形態では、炎症性メディエータは、「炎症性サイトカイン」である。典型的には、炎症性サイトカインには、IL-1α、IL-1β、IL-6、およびTNF-αが含まれ、初期反応に大きく関与する。他の炎症性メディエータには、LIF、IFN-γ、IFN-β、IFN-α、OSM、CNTF、TGF-β、GM-CSF、TWEAK、IL-11、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-8、IL-16、IL-22、IL-23、IL-31およびIL-32がある(Tato et al. Cell 132:900; Cell 132:500,Cell 132:324 )。炎症性メディエータは、内因性発熱物質(IL-1、IL-6、IL-17、TNF-α)として作用し、マクロファージ及び間葉系細胞(線維芽細胞、上皮細胞及び内皮細胞を含む)の両方による二次メディエータおよび炎症性サイトカインの合成を増加させ、急性期タンパク質の生成を刺激し、または炎症細胞を引き寄せうる。具体的な実施形態では、「炎症性サイトカイン」なる用語は、TNF-α、IL-1α、IL-6、IFN-β、IL-1β、IL-8、IL-17およびIL-18に関する。
【0075】
本明細書では、CD14アンタゴニスト抗体の「単回投与」とは、MI後に対象が抗体を1回のみ、例えば、1回のボーラス注射または1回の持続注入で、投与されることを意味する。対象がさらなるMIになる場合、対象は、そのさらなるMIに対し、抗体を単回投与されうる。従って、単回投与とは、MIの各場面に対して、対象が抗体の1回分の投与のみを受けることを意味する。
【0076】
本明細書において使用される「全身投与」、「全身に投与された」または「全身投与された」なる用語は、中枢神経系を除いて、対象内に薬を導入することをいう。全身投与は、脊椎または脳への直接投与以外のいかなる経路での投与をも包含する。そうであるから、頭蓋注射または注入だけでなく、くも膜下腔内投与または硬膜外投与が、「全身投与」、「全身に投与された」または「全身投与された」なる用語の範囲内にないことは明白である。本明細書において記載される薬(例えば、抗体)または医薬組成物は、許容されるいかなる形態でも全身投与することができる。例えば、錠剤、液体、カプセル、粉末など; 静脈、腹腔内、筋肉内、皮下または非経口注射; 経皮拡散または経皮電気泳動; およびミニポンプまたは他の植込徐放装置または徐放製剤が挙げられる。いくつかの実施形態では、全身投与は、腹腔内、静脈内、皮下、および鼻腔内投与からなる群から選択される経路およびこれらの組み合わせにより実施される。
【0077】
本明細書では、「対象」、「患者」、「個体」なる用語は、互換的に使用され、MIのあらゆる対象、特に脊椎動物対象、さらに特にはほ乳類対象(例えば、ヒト)のことをいう。
【0078】
本明細書において使用される、「処置」および「処置すること」などの用語は、処置を必要とする対象、すなわちMIを有する対象に、薬理的および/または生理的な望ましい効果を与えることをいう。「処置」とは、MIの1つ以上の症状または影響(例えば、結果)の改善または予防を意味する。特定の例では、処置は、心臓筋肉(例えば、心筋)の損傷を、改善または予防する(例えば、梗塞サイズを限定する、線維化を限定または予防する)こと、および/または心機能(例えば収縮機能、収縮特性または血行動態機能など)の低下を改善または予防することを含む。「処置」、「処置する」または「処置すること」とは、必ずしもMIのいずれかまたはすべての症状または影響を元に戻すまたは予防することを意味しない。例えば、対象は最終的に1つ以上の症状または影響を被ることもあるが、処置前と比較して、その症状または影響の数および/または重症度が減少し、および/または、心臓の機能が改善し、または生活の質が改善する。
【0079】
本明細書に記載された各実施形態は、特段の記載がない限り、いずれの実施形態にも準用して適用する。
【0080】
2.CD14アンタゴニスト抗体
本開示は、対象におけるMIを処置するための、CD14アンタゴニスト抗体を含む、方法、使用および組成物について提供する。本開示はまた、MIを処置するための、CD14アンタゴニスト抗体を含む、方法、使用および組成について提供する。
【0081】
本開示は、ヒトCD14(例えば、ヒトmCD14またはsCD14)のようなCD14に結合し、CD14へのDAMPまたはPAMPの結合をブロックする、および/またはCD14に結合し、炎症性サイトカインの産生を含む炎症性メディエータの産生をもたらすCD14アゴニスト媒介反応を阻害または減少させる、いかなるCD14アンタゴニスト抗体をも考慮している。このようなCD14アンタゴニスト抗体は、当技術分野で周知であり、何人も本開示の方法および用途に利用することができる。いくつかの実施形態では、本発明のCD14アンタゴニスト抗体は、CD14アゴニスト、好適にはDAMPまたはPAMPの、CD14への結合を阻害することで、炎症性サイトカインの産生を阻害または減少する。上述のタイプの具体例としては、CD14アンタゴニスト抗体は、ヒトCD14のアミノ酸7から14の領域の少なくとも一部分に含まれるエピトープに結合する3C10抗体(van Voohris et al., 1983. J. Exp. Med. 158: 126-145; Juan et al., 1995. J. Biol. Chem. 270(29): 17237-17242)、CD14のアミノ酸57から64の領域の少なくとも一部分に含まれるエピトープに結合するMEM-18抗体(Bazil et al., 1986. Eur. J. Immunol. 16(12):1583-1589; Juan et al., 1995. J. Biol. Chem. 270(10): 5219-5224)、LPSの結合を阻害し炎症性サイトカインの産生を抑制する4C1抗体(Adachi et al., 1999. J. Endotoxin Res. 5: 139-146; Tasaka et al., 2003. Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol.; 2003. 29(2):252-258)のほか28C5抗体および23G4抗体、そしてLPSの結合を部分的に阻害し炎症性サイトカインの産生を抑制する18E12抗体(Leturcq et al.のU.S. Patent Nos. 5,820,858、6,444,206 および7,326,569)から選択される。いくつかの実施形態では、本開示のCD14アンタゴニスト抗体は、TLR4のようなTLRへのCD14の結合を阻害し、それにより、CD14アゴニスト媒介反応をブロックする。具体的には、国際公開広報WO2002/42333で開示されるF1024抗体が挙げられる。他のCD14アンタゴニスト抗体は、単鎖抗体scFv2F9および関連するヒト-マウスキメラ抗体Hm2F9(Tang et al. 2007, Immunopharmacol Immunotoxicol 29,375-386; およびShen et al., 2014, DNA Cell Biol. 33(9): 599-604)を含む。CD14アンタゴニスト抗体のさらなる例は、抗ヒトCD14 18D11 IgGl mAb、18D11 IgGl F(ab)'2フラグメントおよびそのキメラrl8Dll抗体(IgG2/4)(例えば、Lau et al., 2013, J Immunol 191:4769-4777を参照のこと)を含む。CD14アンタゴニスト抗体に関連する上記各文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。CD14アンタゴニスト抗体は、全長の免疫グロブリン抗体または完全抗体の抗原結合フラグメントでもよく、その例として、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、抗体の片腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、VHドメインからなるシングルドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward et al., 1989. Nature 341:544-546)、および単離CDRが含まれる。好適には、CD14アンタゴニスト抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である。
【0082】
いくつかの実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体は、U.S. Pat. No. 5,820,858に開示される抗体のVHおよびVLを含む。
【0083】
(1)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSFGNSFMHWYQQKAGQPPKSSIYRAANLESGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYFCQQSYEDPWTFGGGTKLGNQ(配列番号1)(3C10 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LVKPGGSLKLSCVASGFTFSSYAMSWVRQTPEKRLEWVASISSGGTTYYPDNVKGRFTISRDNARNILYLQMSSLRSEDTAMYYCARGYYDYHYWGQGTTLTVSS(配列番号2)(3C10 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン;
【0084】
(2)以下を含む抗体:
配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYCCQQSNEDPTTFGGGTKLEIK(配列番号3)(28C5 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSA(配列番号4)(28C5 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン; および、
【0085】
(3)以下を含む抗体:
配列QTPSSLSASLGDRVTISCRASQDIKNYLN WYQQPGGTVKVLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQRGDTLPWTFGGGTKLEIK(配列番号5)(18E12 VL)を含む、からなる、または、から実質的になる、VLドメイン、および、
配列LESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLTNYDISWIRQPPGKGLEWLGVIWTSGGTNYNSAFMSRLSITKDNSESQVFLKMNGLQTDDTGIYYCVRGDGNFYLYNFDYWGQGTTLTVSS(配列番号6)(18E12 VH)を含む、からなる、または、から実質的になる、VHドメイン;
【0086】
上述の抗体および関連抗体のVLおよびVHのCDR配列を含む抗体も考慮されており、それぞれの代表的実施形態として以下が含まれる:
(1)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSFGNSFMH(配列番号7)(3C10 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RAANLES(配列番号8)(3C10 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSYEDPWT(配列番号9)(3C10 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SYAMS(配列番号10)(3C10 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列SISSGGTTYYPDNVKG(配列番号11)(3C10 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GYYDYHY(配列番号12)(3C10 H-CDR3)含む;
(2)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSYVNSFLH(配列番号13)(28C5 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RASNLQS(配列番号14)(28C5 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSNEDPTT(配列番号15)(28C5 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SDSAWN(配列番号16)(28C5 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列YISYSGSTSYNPSLKS(配列番号17)(28C5 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GLRFAY(配列番号18)(28C5 H-CDR3)含む;
(3)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASESVDSYVNSFLH(配列番号13)(IC14 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列RASNLQS(配列番号14)(IC14 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QQSNEDPYT(配列番号27)(IC14 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列SDSAWN(配列番号16)(IC14 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列YISYSGSTSYNPSLKS(配列番号17)(IC14 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GLRFAY(配列番号18)(IC14 H-CDR3)含む;
(4)以下を含む抗体:
a)L-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む抗体VLドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、L-CDR1は配列RASQDIKNYLN(配列番号19)(18E12 L-CDR1)を含み; L-CDR2は配列YTSRLHS(配列番号20)(18E12 L-CDR2)を含み; L-CDR3は配列QRGDTLPWT(配列番号21)(18E12 L-CDR3)を含む; および、
b)H-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3を含む抗体VHドメインまたはその抗原結合フラグメント、ここで、H-CDR1は配列NYDIS(配列番号22)(18E12 H-CDR1)を含み; H-CDR2は配列VIWTSGGTNYNSAFMS(配列番号23)(18E12 H-CDR2)を含み; H-CDR3は配列GDGNFYLYNFDY(配列番号24)(18E12 H-CDR3)含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体はヒト化されている。このタイプの具体例として、ヒト化CD14アンタゴニスト抗体は、好適には、あるCD14アンタゴニスト抗体(例えば、上述のCD14アンタゴニスト抗体の1つ)に対応するドナーCDRセットおよびヒトアクセプターフレームワークを含む。ヒトアクセプターフレームワークは、ヒト生殖系列アクセプターフレームワークと比較して、CDRに隣接する残基、糖鎖付加部位残基、レア残基、カノニカル残基、重鎖可変領域および軽鎖可変領域間の接触残基、バーニアゾーン内の残基、およびChothiaによって定義されるVH CDR1とKabatによって定義される第1の重鎖フレームワークとの間で重複する領域内の残基からなる群から選択されるキー残基において、少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでもよい。ヒト化モノクローナル抗体の作製技術は当業者に周知である(例えばJones et al., 1986. Nature 321: 522-525; Riechmann et al. 1988. Nature 332:323-329; Verhoeyen et al., 1988. Science 239: 1534-1536; Carter et al., 1992. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 4285-4289; Sandhu, JS., 1992. Crit. Rev. Biotech. 12: 437-462,およびSinger et al., 1993. J. Immunol. 150: 2844-2857を参照)。キメラまたはマウスモノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの重鎖可変領域および軽鎖可変領域から取得したマウスCDRをヒト抗体の対応する可変ドメインへ導入することで、ヒト化してもよい。キメラモノクローナル抗体のマウスのフレームワーク領域(FR)は、ヒトFR配列に置換されてもよい。ヒトFRへのマウスCDRの単なる導入により、ときに、抗体のアフィニティが減少したり失われたりすることもあり、マウス抗体の元のアフィニティを取り戻すためには、追加修飾が必要となることもある。エピトープへの良好な結合アフィニティを備える抗体を得るために、この追加修飾は、1つ以上のヒトFR領域内残基とマウスの対応残基の置換によって実行することができる。例として、Tempest et al. (1991. Biotechnology 9:266-271)およびVerhoeyen et al. (1988 supra)を参照されたい。一般的に、ヒトFRアミノ酸残基で、マウスの対応残基と異なっており、1つ以上のCDRアミノ酸残基と近接または接触しているものは、置換候補となりうる。
【0088】
1つの実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体は、IC14抗体(Axtelle et al., 2001. J. Endotoxin Res. 7: 310-314; およびU.S. Pat. Appl. No. 2006/0121574、これらはその全体が参照により本明細書に援用される)またはその抗原結合フラグメントである。IC14抗体はキメラ(マウス/ヒト)モノクローナル抗体であり、ヒトCD14に特異的に結合する。IC14は上記のマウス28C5由来であり、IgG4重鎖を含む(Leturcq et al.のPatent Nos. 5,820,858、6,444,206、および7,326,569、および、Leturcq et al., 1996. J. Clin. Invest. 98: 1533-1538を参照)。従って、1つの例では、CD14アンタゴニスト抗体は、上記のようにIC14の重鎖および軽鎖のCDRを含む。他の例では、CD14アンタゴニスト抗体は、VLドメインおよびVHドメインを含み、ここで、
そのVLドメインはアミノ酸配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIK(配列番号25)を含み; および、
そのVHドメインはアミノ酸配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSS(配列番号26)を含む; または、
そのVLドメインはアミノ酸配列DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIK(配列番号30)を含み; および、
そのVHドメインはアミノ酸配列DVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSS(配列番号31)を含む。
【0089】
別の例では、CD14アンタゴニスト抗体は、IC14の軽鎖および重鎖を含み、ここで、
【0090】
軽鎖はアミノ酸配列QSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号28)を含み; および、
重鎖はアミノ酸配列LQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号29)を含む; または、
軽鎖はアミノ酸配列DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDSYVNSFLHWYQQKPGQPPKLLIYRASNLQSGIPARFSGSGSRTDFTLTINPVEADDVATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号32)を含み; および、
重鎖はアミノ酸配列DVQLQQSGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNRLEWMGYISYSGSTSYNPSLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDTATYYCVRGLRFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号33)を含む。
【0091】
本明細書の方法における使用に好適なさらなるCD14アンタゴニスト抗体は、当業者に周知の方法により同定される。上記方法は一般的に、抗体が直接にCD14をアンタゴナイズできるか決定することを含む。例えば、その方法は、抗体がCD14の量またはアゴニスト活性を阻害または減少できるか決定することを含んでもよく、ここでCD14の量またはアゴニスト活性を阻害または減少する能力は、その抗体がMI処置への使用に好適でありうることを示す。いくつかの実施形態では、抗体を、CD14、またはCD14をその表面に発現する細胞、またはCD14を発現する核酸配列と、好適にはDAMPまたはPAMPのようなCD14アゴニストの存在下で、接触させ、ここでコントロールと比較した際のアゴニスト存在下でのCD14の量またはアゴニスト活性の減少は、抗体がCD14に結合し、直接にCD14をアンタゴナイズすることを示す。CD14アゴニスト活性の減少または阻害は、例えば、TLRシグナル伝達経路(例えば、TLR4シグナル伝達経路)およびTRIF経路のような下流経路の活性、または細胞応答 (例えば、炎症性サイトカインを含む炎症性メディエータの産生)の誘発の阻害または減少を含む。
【0092】
上述の方法は、in vivo、ex vivoまたはin vitroで実施されてもよい。特に、抗体とCD14またはCD14をその表面に発現する細胞(例えば、免疫細胞)の接触工程は、in vivo、ex vivoまたはin vitroで実施されてもよい。これらの方法は細胞ベースまたは細胞フリーの系で実施されてもよい。例えば、その方法は、CD14をその表面に発現する細胞を抗体と接触させ、抗体と細胞との接触がCD14の量またはアゴニスト活性の減少を導くか決定する工程を含む。このような細胞ベースアッセイにおいて、CD14および/または抗体は、ホスト細胞に内在しているものでもよく、ホスト細胞または組織に導入されてもよく、発現コンストラクトまたはベクターの発現を起こすまたは許容することによりホスト細胞または組織に導入されてもよく、細胞の内在性遺伝子からの発現の刺激または活性化によりホスト細胞に導入されてもよい。このような細胞ベースの方法において、CD14の活性量は、薬が、細胞のCD14量を(例えば、細胞におけるCD14発現の調節または細胞内のCD14タンパク質の不安定化を介して)変化させたか、または細胞のCD14アゴニスト活性を変化させたかを決定するために、抗体の存在下または非存在下で評価されうる。抗体存在下での、より低いCD14アゴニスト活性または細胞表面のCD14量の減少の存在は、その抗体が、本開示に従う使用において、好適なCD14のアンタゴニストであることを示す。
【0093】
いくつかの実施形態では、抗体が、他の細胞構成要素に対し、実質的なまたは検出可能な結合を欠くか、好適には、CD14の結合パートナー、例えば分泌される(例えば、MD2)、または細胞膜上に位置する(例えば、TLR4)CD14の結合パートナーとの結合を欠くかをさらに決定し、それにより、その抗体がCD14の特異的なアンタゴニストであると決定する。このタイプの非限定的な例では、抗体をDAMPまたはPAMPのようなCD14アゴニストの存在下で以下と接触させる: (1)CD14をその表面に発現する野生型細胞(例えば、マクロファージのような免疫細胞)および(2)CD14ネガティブ細胞(例えば、(1)と同様だがCD14遺伝子の機能を失っている免疫細胞)。もし、抗体が野生型細胞のCD14アゴニスト活性を阻害するが、CD14ネガティブ細胞ではそうでない場合、これは抗体がCD14に特異的なアンタゴニストであることを示す。このタイプの細胞は、通例の手順または動物を用いることで作製しうる。
【0094】
他の例では、潜在的なCD14アンタゴニスト抗体は、例えば動物モデルのようなin vivoで評価される。このようなin vivoモデルにおいては、抗体の効果は、循環器(例えば、血液)または心臓、または肺、肝臓、腎臓または脳のような他の臓器で評価されうる。特定の例では、MIモデルが抗体活性の評価に使用される。
【0095】
例示的なCD14のアンタゴニスト抗体は、抗体非存在下と比較して、CD14活性またはレベルを、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%または少なくとも85%、またはそれ以上減少させる効果がある。いくつかの例では、その抗体存在下ではCD14アゴニスト活性またはレベルが検出できないような、CD14アゴニスト活性またはレベルの減少であることもある。このような減少は、試験されたサンプルで、または例えば動物モデルで方法が実施された場合に、見られうる。
【0096】
好ましくは、抗体は、上述のようなCD14の特異的なアンタゴニストである。しかしながら、これは、CD14の特異的なアンタゴニストが、標的外アンタゴニスト活性を全く持たないことを意味しない。この点に関して、CD14の特異的アンタゴニストは、CD14でない細胞構成要素の活性、シグナル伝達または発現のアンタゴニズムが、CD14の活性、シグナル伝達または発現に対するその薬の直接結合および効果の15%未満、10%未満、5%未満、1%未満、または0.1%未満であるように、他の細胞構成要素への直接結合または効果が無視できる程度であるか、または小さくてよい。
【0097】
CD14のレベルまたは量は、CD14遺伝子の発現を評価することにより測定される。遺伝子発現は、mRNAの生産またはレベル、またはタンパク質の生産またはレベルを見ることにより評価される。mRNAおよびタンパク質のような発現物質は、当業者の知る方法により、同定または定量されうる。このような方法は、目的mRNAを特異的に識別するハイブリダイゼーションを使用してもよい。例えば、このような方法は、PCRまたはリアルタイムPCRによるアプローチを含んでもよい。目的タンパク質を同定または定量する方法は、そのタンパク質に結合する抗体の使用を含みうる。例えば、このような方法は、ウェスタンブロッティングを含みうる。CD14遺伝子の発現調節は、抗体の存在下または非存在下で比較しうる。したがって、抗体の非存在下で見られるレベルと比較してCD14遺伝子の発現を減少させる抗体が同定されうる。このような抗体は、本開示に従った好適なCD14のアンタゴニストでありうる。
【0098】
本開示に従う使用に好適なアンタゴニスト抗体を同定する方法は、CD14のアゴニスト活性を評価することでありうる。例えば、このような方法は、末梢血単核細胞を用いて実施されうる。このような細胞は、例えばLPSによる刺激に応答してIL-1α、IL-6、TNF-α、IFN-β、IL-1β、IL-17、およびIL-8のようなサイトカインを産生する。従って方法は、末梢血単核細胞と抗体または溶媒とを組み合わせること、およびLPSを添加することを含む。細胞は、次いで、サイトカインのような炎症性メディエータの産生に必要な相当の時間(例えば、24時間)の間インキュベートされうる。その期間内に細胞で産生されるIL-1α、IL-6、TNF-α、IFN-β、IL-1β、IL-17、およびIL-8のようなサイトカインのレベルは、その後、評価することができる。もし抗体が抗CD14特性を有していると、溶媒処理された細胞と比較して、そのようなサイトカインの産生は減少する。
【0099】
3.補助薬およびインターベンション
CD14アンタゴニスト抗体は、単独で、または他の活性薬(「補助薬ともいう」)、またはMIの処置に有用な薬およびインターベンションのような、他のインターベンションと組み合わせて投与される。
【0100】
本開示の目的に好適な補助薬には、例えば、線維素溶解薬、βブロッカー、高強度スタチン(例えば、アトルバスタチンまたはロスバスタチン)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬および抗血小板薬が含まれる。
【0101】
1つの例では、補助薬は、βブロッカー(またはβアドレナリン受容体アンタゴニスト)である。好適なβブロッカーは、非選択的またはβ-1選択的なものである。非選択的な薬は、β-1およびβ-2受容体の両方に結合し、両受容体を介してアンタゴナイズ効果を誘導する。非選択的なβブロッカーの非限定的な例として、プロプラノロール、カルベジロール、ソタロール、ラベタロールが含まる。β-1受容体選択的ブロッカーは、β-1受容体にのみ結合し、例えば、アテノロール、ビソプロロール(bisoprolol)、メトプロロールおよびエスモロールを含む。
【0102】
他の例では、補助薬は、例えば、ストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼまたは組織プラスミノーゲン活性化因子(例えばテネクテプラーゼ、レテプラーゼ、またはアルテプラーゼ)のような線維素溶解薬である。
【0103】
さらなる例では、補助薬は、アスピリン、P2Y12阻害薬(例えばチクロピジン、クロピドグレル、チカグレロル、またはプラスグレル)または糖タンパク質IIb/IIIa受容体アンタゴニストのような抗血小板薬である。
【0104】
別の例では、補助薬はACE阻害薬である。ACE阻害薬の非限定的な例には、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリルおよびトランドラプリルが含まれる。
【0105】
別の例では、抗体の投与は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI; 冠動脈血管形成術とも知られる)または、冠動脈バイパス術(CABG)のようなインターベンションと組み合わせて実施される。好ましくは、PCIはMI症状発生の12-24時間以内に行われる。
【0106】
組み合わせ治療が望まれる場合、CD14アンタゴニスト抗体は別々に、同時に、または順次、1つ以上の補助薬またはインターベンションとともに投与される。いくつかの実施形態では、両タイプの薬を含む単一組成物または医薬製剤を、例えば全身投与により、投与することで、または、2つの別々の組成物または製剤であって1つがCD14アンタゴニスト抗体を含みもう1つが補助薬であるものを同時に投与することで、実施されうる。別の実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体を用いる処置は、数分から数時間または数日または数週間の間隔を取り、補助薬処置に先行または後続して実施されうる。
【0107】
いくつかの状況では、抗体と補助薬は互いの投与からおよそ1-12時間以内に、またはおよそ2-6時間以内に投与される。他の状況では、処置の期間を大きく伸ばすことが望ましい場合もあり、それぞれの投与間で1日以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7または8日)経過させることが望ましい場合もある。CD14アンタゴニスト抗体と別に補助薬が投与される実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体の投与で使用された方法とは異なる方法で補助薬が投与されうると解される。対象にインターベンション(例えば、PCI)が施される場合の実施形態では、抗体はPCIから72時間以内に、例えばインターベンションから12、24、36、または48時間の時または以内に対象に投与される。
【0108】
2つ以上の薬が、対象に「一緒に」または「同時に」投与される場合、それらは単一組成物に含まれ同時に投与されてもよく、または、別々の組成物に含まれ同時に投与されてもよく、または、別々の組成物に含まれ別々の時間に投与されてもよい。
【0109】
4.組成物
本明細書に記載されるCD14アンタゴニスト抗体の使用は、単独または補助薬と組み合わせて、MIを処置できる。CD14アンタゴニスト抗体および任意選択的な補助薬は、それぞれ単体で、または薬学上許容される担体とともに投与できる。
【0110】
CD14アンタゴニスト抗体は、特にタンパク質活性薬に関して当業者に周知であるように、医薬組成物を形成するため、1つ以上の薬学上許容される担体、安定剤、賦形剤(ビヒクル)を用いて従来の方法で製造できる。担体は組成物の他の成分と適合性があり、レシピエント(例えば、患者)に対して有害でないという意味で「許容可能」である。好適な担体は、典型的には、生理食塩水、または、グリセロールまたはプロピレングリコールのようなエタノールポリオールを含む。
【0111】
抗体は、中性または塩形態で製剤化されてもよい。薬学上許容できる塩には、塩酸またはリン酸のような無機酸、または、酢酸、シュウ酸、酒石酸およびマレイン酸のような有機酸で形成される酸付加塩 (遊離アミノ基を持つ)が含まれる。遊離カルボキシル基で形成される塩には、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-(エチルアミノ)エタノール、ヒスチジンおよびプロカインのような有機塩基から得られてもよい。
【0112】
組成物は、静脈、筋肉内、皮下投与または腹腔内投与を含む全身投与用に好適に製剤化することができ、好ましくはレシピエントの血液と等張の抗体の滅菌水溶液を好都合に含む。このような製剤は典型的には、固体活性成分を、塩化ナトリウム、グリシン等のような生理的適合性のある物質を含み、生理条件に適合するpH緩衝能を有する水に溶解させて水溶液を得て、その溶液を無菌化することにより調製する。上記は、単位用量または複数用量用容器に、例えばアンプルまたはバイアルに封して、調製することができる。
【0113】
組成物には、例えばポリエチレングリコール、タンパク質、糖類(例えばトレハロース)、アミノ酸、無機酸およびこれらの混合物のような安定剤を入れてもよい。安定剤は適切な濃度およびpHで水溶液に添加される。水溶液のpHは、5.0-9.0の範囲内に、好ましくは6-8の範囲内に、調整される。抗体を製剤化するにあたり、抗吸着薬を使用してもよい。他の好適な添加物には、典型的には、アスコルビン酸のような抗酸化物質が含まれる。組成物は放出調整製剤として製剤化されてもよく、それはタンパク質をまとめるまたは吸収するポリマーを使用してなされうる。放出調整製剤に対する適切なポリマーは、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレン酢酸ビニル、およびメチルセルロースを含む。放出調整の他の可能な方法は、抗体を、ポリエステル、ポリアミノ酸、ハイドロゲル、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル共重合体のような高分子材料の粒子への組み込みである。あるいは、上記の薬をポリマー粒子に組み込む代わりに、例えば、コアセルベーション技術または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えばヒドロキシメチルセルロース、またはゼラチンマイクロカプセルおよびポリメチルメタクリレートマイクロカプセルに、上記物質をそれぞれ封入すること、またはコロイド型ドラッグデリバリーシステム、例えばリポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセルに封入すること、またはマクロエマルジョンに封入することができる。
【0114】
CD14アンタゴニスト抗体および任意選択的な補助薬は、エアロゾルの形態で気道へ直接投与してもよい。エアロゾルでの使用では、溶液または懸濁液である本発明の阻害薬は、好適な噴霧剤、例えばプロパン、ブタンまたはイソブタンのような炭化水素噴霧剤と、従来のアジュバントとともに加圧エアロゾル容器に、パッケージしてもよい。本発明の物質は、噴霧吸入器または噴霧器のような非加圧方式で投与されてもよい。
【0115】
当業者は、製剤が使用目的すなわち投与経路に従って通常にデザインされているものと認識できると思われる。
【0116】
5.処置方法
本開示は、MI対象の処置をするための治療方法を提供する。いくつかの例では、MIはSTEMIである。他の例では、MIはNSTEMIである。さらなる例では、MIは1型、2型、3型、4a型、4b型または5型のMIである。
【0117】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、対象がMIであるか、および、特にNSTEMIまたはSTEMIであるか、および/または1型、2型、3型、4a型、4b型または5型のMIであるかの評価を含み、対象がMI(任意選択的に上記の型の1つの)であることに基づいて、治療が進められる。
【0118】
本明細書で考慮されていることは、それゆえ、対象にCD14アンタゴニスト抗体を投与すること、および、任意選択的に、補助薬を投与すること、またはインターベンション(例えば、PCI)を実施することにより、対象におけるMIを処置する方法である。CD14アンタゴニスト抗体および任意選択的な補助薬(合わせて本明細書では「治療薬」という)は、対象において意図する目的を達成するため例えば、1つ以上の症状またはMIの結果の減少または予防、例えば心筋損傷の減少または予防、および/または心機能損失の減少または予防(例えば、収縮不全の減少または予防)のために、対象に「有効量」で投与される。患者に投与される治療薬の用量は、対象において有益な応答を得るために十分な量であるべきである。いくつかの例では、抗体の投与(任意選択的に補助薬とともに)は、抗体を投与しなかった場合と比べて収縮不全(または心室不全)の減少(すなわち、抗体を投与しなかった場合と比べて収縮機能または心室機能の上昇) に至る。
【0119】
投与される治療薬の量または頻度は、処置対象の診断(例えば、MIの型または現れている症状)、年齢、性別、体重、および全般的な健康状態を包括して判断される。この点について、的確な治療薬の投与量は医師の判断による。当業者は、通常の試験により、CD14アンタゴニスト抗体および本明細書に記載される任意選択的な補助薬の効果的で無毒な量を決定できる。特定の例では、対象に投与されるCD14アンタゴニスト抗体の量は、0.1 mg/kgから50 mg/kgの間、0.5 mg/kgから40 mg/kgの間、2 mg/kgから20 mg/kgの間、または5 mg/kgから10 mg/kgの間である。特定の例では、対象に投与されるCD14アンタゴニスト抗体の量は、(約)0.2、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50 mg/kgである。
【0120】
CD14アンタゴニスト抗体は、対象に対し、単回投与または複数回投与で投与されてもよい。特定の実施形態では、CD14アンタゴニスト抗体は単回投与で(例えば、単回のボーラス注射または単回の持続注入で)投与される。CD14アンタゴニスト抗体が複数回投与で投与される実施形態では、好ましくは3回以下の投与であり、それぞれ約6時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、または72時間以内に投与される。特定の実施形態では、1、2、3回だけ、CD14アンタゴニスト抗体が投与される。
【0121】
いくつかの例では、CD14アンタゴニスト抗体は、MI後またはMI診断後4日以内に対象に投与される。1つの例では、CD14アンタゴニスト抗体は、MI後またはMI診断後6、8、10、12、18、24、36、48、60、72、84、または96時間以内に対象に投与される。例えば、CD14アンタゴニスト抗体は、MI後またはMI診断後6、8、10、12、18、24、36、48、60、72、84、または96時間以内に対象に単回投与される。別の例では、CD14アンタゴニスト抗体は、対象に対し、MI後またはMI診断後6、8、10、12、18、24、36、48、60、72、84、または96時間以内に、2回以上投与される。例えば、1回目の投与は、MI後またはMI診断後24時間以内に行われ、2回目の投与はそこから24-48時間後に行われる。
【0122】
特定の例では、CD14アンタゴニスト抗体は、対象に対し、MI後2から96時間、4から96時間、6から96時間、2から72時間、4から72時間、6から72時間、2から48時間、4から48時間、6から48時間、2から24時間、4から24時間、6から24時間、2から18時間、4から18時間、6から18時間、2から12時間、4から12時間または6から12時間の間に投与される。
【0123】
対象がPCIのようなインターベンションを受ける場合は、CD14アンタゴニスト抗体は、PCIの時に、および/またはPCIの後に、例えばPCIから6、8、10、12、18、24、36、48、60、72、84または96時間以内に投与される。
【0124】
本発明が容易に理解され実行に移されるために、特定の好ましい実施形態を、以下の非限定的な例により記載する。
【実施例
【0125】
実施例1
STEMI後の抗CD14処置の効果の評価(実験1)
実験は、STEMIから7日間における、マウス心臓に対する抗CD14アンタゴニスト抗体の2つの異なる投与手順の効果を評価するために実施された。実験に使用された活性薬はbiG53 F(Ab’)2抗体であり、これは、現在ヒトの試験で使用されている抗ヒトCD14モノクローナル抗体IC14(国際出願番号PCT/US2020/043619)において見られるものと類似の用量依存的様式で、機能的にPAMP依存性サイトカインの生産を阻害する。端的には、STEMI手術の直前に心エコーを実施し、結紮による心室閉塞を55分行った。再灌流は術後1時間に結紮を解除し行われた。マウスには、再灌流の直前(静脈内投与(i.v.))および/または手術後24時間(腹腔内投与(i.p.))に、5 μg/g体重(すなわち、約150 μg/30gマウス)の量のbiG53 F(Ab')2の量を、単回投与または2回投与が行われるように投与した。実験では、以下のマウス群を対象とした:
コントロール: I/R、1時間後にビヒクルI.V.+24時間後にビヒクルI.P.(n=8)
単回投与: I/R、1時間後に抗CD14 I.V.、24時間後にビヒクルI.P.(n=8)
2回投与: I/R、1時間後に抗CD14 I.V.+24時間後に抗CD14 I.P.(n=8)
【0126】
本実験のプライマリーエンドポイントは、STEMI手術から7日後の心エコーによる収縮機能評価試験であった。循環中の炎症性マーカーおよび心筋線維症の組織検査およびCD68+細胞の浸潤も調査された。
【0127】
A.方法
ランダム化と盲検化
本実験はランダム化され盲検化された実験であった。
【0128】
心筋梗塞手術
全部で33匹の雄の野生型マウスC57B16(2バッチ、それぞれn=15およびn=18)が、8.5-9.5 WOAで虚血再灌流手術を受けた。端的には、マウスは、手術部位の剃毛および挿管をする前に、ケタミン(80-100 mg/kg)、キシラジン(10-20 mg/kg)およびアトロピン(1-2 mg/kg)の混合物で麻酔された。マウスは滅菌された加熱パッド上で人工呼吸(1分間あたり100-140呼吸、0.2-0.3 ml)をされ、手術部位(左胸)は、滅菌器具で開胸する前に、滅菌したブピバカイン(2 mg/kg)を皮下投与することで準備をした。左冠状動脈前下行枝の結紮に7-0の滅菌縫合糸が使用された。左心耳から約2mm下で滅菌ループを用いて可逆的に結び、6-0プロレン縫合糸で外科的閉鎖(内肋間筋、外皮)を行った。
【0129】
マウスは、人工呼吸中の間、心電図(ECG)と直腸温を観察するための保温バイタルサインモニタリングステーションに移された。マウスはそこで抜管され、自発呼吸を再開し、リカバリーケージに戻された(地面の半分は、温度の行動的自動調整を促すよう加熱された)。左冠状動脈前下行枝の閉塞から55分後、回復中のマウスは1時間後の再灌流(結紮解除)直前にbiG53 F(Ab’)2またはビヒクルのI.V.注射を受けた。
【0130】
2匹のマウスが手術からの回復前に死んだ。残りのすべてのマウスは、術後最初の5日間は一日に2、3回モニタリングされた。残りのすべてのマウスは24時間以内に十分に回復した(通常行動の再開、痛み/不快感モニタリングの基準値復帰) (n=31、手術したマウスの94%)。
【0131】
24時間時点での心エコーによるSTEMIモデルスクリーニング: 相対組織変位(Relative tissue displacement)
術後24時間で、31匹の生存したマウスすべてが、リスク領域評価のための心エコーを受けた。端的には、マウスはイソフルラン麻酔(導入: 室内空気中3-4.5%、維持: 室内空気中1-2%)を受け、加温連結されたECGプラットフォームに置かれた。Vevo(登録商標)2100システム(Visualsonics、Fujifilm、Canada)を使用した超高周波超音波プローブ(MS-550D)により、ゲートあり(EKG)およびゲートなしの傍胸骨長軸シネループを得た。すべてのマウスが期待したように回復した。解析は製造業者のVevoLABソフトウェアを用いてなされ、長軸方向の相対橈側組織変位(relative radial tissue displacement)が活性か不活性かを識別した。相対組織変位が不活性/ゼロの場合は、虚血領域/梗塞サイズの厳密なサロゲートになり、小さな/不規則な梗塞を持つマウスを除外するために使われた(例えば、冠動脈の結紮または側副枝形成の失敗に起因)。
【0132】
左心室の組織変位が45 + 10%のマウスのみが、実験に使用された(n=13、バッチ1; n=13バッチ2)。全部で26匹(84%)の外科的に回復したマウスが、実験のすべての評価に使用された(群A: n=10; 群B: n=8; 群C: n=8)。追加の所定の除外基準が本実験に適用されたが(すなわち、技術的に不十分であるデータ)、除外を必要とする追加データはなかった。
【0133】
7日目における収縮機能の心電図解析
左心室心電図イメージングが、上述のように左傍胸骨長軸ループを得るために実施された。左心室拡張末期および収縮末期領域が、心内膜を境界にトレースされた。これらの領域から、拡張末期、収縮末期、および一回拍出量; 心拍出量および駆出率がソフトウェア(VevoLAB 3.2.5, Visualsonics, Fujifilm, Canada)内の式に基づき計算された。
【0134】
7日目における解剖 術後7日目の心エコーに続き、マウスはケタミン、キシラジンおよびアトロピンで麻酔され、心臓穿刺および安楽死が実施された(頸椎脱臼)。平均1.1 ± 0.1mlの全血が各マウスから採取され、全体解剖が実施された。
【0135】
組織回収(7日目の)および組織診断
心臓全体を摘出し、手術用顕微鏡(ZEISS OPMI Pico, Carl Zeiss Meditec AG, Germany)を用いて撮像し、4腔に切り分けた。左心室(LV)の長さを測定し、10 %中性緩衝ホルマリンで固定するため、長軸方向の中間点において横方向に切断した。
【0136】
48-72時間の固定後、各LVをパラフィンワックスに包埋し切片化した。端的には、ブロックは、組織の全方面に切り取られ、5x4 μmの切片が5枚のスライドにかけて収集された。ブロックを再び250 μmで切り取り、5x4 μm切片を最初の切片に並べて収集した(同じ5枚のスライドにかけて)。上記の250 μm切り取りおよび5x4 μmの切片作成を、組織がなくなるか、または各スライドで5枚の切片が収集されるまで繰り返した。
【0137】
マッソントリクローム染色を、明視野観察の前に、各LVに対して1枚のスライドに実施した。暗視野観察の前に、CD68(Abcam、Ab125212)およびトロポニンI(Invitrogen、MA5-12960)に対する抗体およびDAPIを用いて、各LVからの別のスライドに、免疫蛍光染色を実施した。すべての明視野観察は各LVに対して同一の設定を用いて実施し、かつ、すべての暗視野観察は各LVに対して同一の設定を用いて実施した。
【0138】
マッソントリクローム染色および免疫蛍光画像の解析は、自動化(マクロ)されたアプローチで実施された。端的には、マッソントリクローム染色解析において、解剖学的に同等の心室中部の切片(乳頭筋の位置)を赤および青のチャンネルで分け、赤/青の領域(陰性)と青のみの領域(陽性)の境界を示すことにより解析した。陽性の閾値は0-100または0-130に設定し、全組織の閾値は0-230に設定した。
【0139】
免疫蛍光(CD68+細胞)解析では、細胞の境界化をDAPIによる核染色(チャンネル1)で行い、平均強度閾値0-750でCD68抗体(チャンネル2)および閾値150で組織全体のトロポニンT(チャンネル3)の共局在解析を実施した。
【0140】
B.結果
心筋梗塞の正確な評価: 虚血後最初の24時間
術後の心電図
この予備試験に含まれた全26匹のマウスで、心筋梗塞手術後にST上昇/異常が確認された。心電図記録では、各群間で形態の類似が示された。
【0141】
相対心臓壁変位(relative wall displacement)の心エコー評価
各心臓(左心室)の梗塞が成功したことは、24時間後の相対組織変位の心エコー評価で再確認した。相対組織変位の解析は、マウスの3つの群間で違いを示さなかった(それぞれ、44 ± 5、47 ± 4、44 ± 4; 平均 ± SD、p>0.05)。
【0142】
心筋梗塞の亜急性評価: 虚血後7日目
左心室の容積および機能の心エコー評価
STEMI術後7日目の心エコーでは、心拍数は群間で同程度であった(表1、p>0.05)。2回投与群では、心エコーによる左心室面積変化(LVAC; 21 ±4 vs. コントロール16 ± 3 %、p<0.05)および長軸分画短縮率(8.3 ± 1.4 vs. コントロール6.4 ± 1.1 %、p<0.05)により評価すると、収縮機能が改善した(図1および表1)。単回投与群では、有意ではない、あるいは中程度の変化が観察された(p>0.05)。
【0143】
2回投与群では、有意ではないが、駆出率が数値としては6 %増加し(29 ± 7 vs. コントロール23 ± 5、p>0.05)、収縮機能において、相対的に25%程度増加している傾向は、LVACで見られた30%程度の相対的改善と対応している。
【表1】
*p<0.05 コントロール群と2回投与群間。NSD - 有意差なし
【0144】
解剖のバイオメトリクス
解剖時の臓器の重量測定パラメータはすべて、群間で同様であった(表2)。コントロール群のマウス1匹が解剖時に心房血栓症であることが認められ、それは典型的にマウスSTEMIモデルの心臓損傷で観察されるものであった(処置群ではいずれの群にも存在しなかった)。
【0145】
血清分析
各群からの代表的サンプルが、マルチプレックスアッセイ(R & D Systems, Mulitplex Tool)で分析され、続くELISA分析における分析範囲を設定した。マルチプレックスアッセイは検出限界未満の値はいずれも取得しなかった(不検出; N.D.)。TNF-αおよびIL-1β(Invitrogen, 88-7013-22)用の好感度ELISAキットが、検出下限である約2 pg/ml(製造者推奨下限は8 pg/ml)へ延長した検量線とともにその後使用された。高感度ELISAの範囲と補間用検量線の適切な設定にもかかわらず、両分析のすべてのサンプル値は検出限界を下回った。
【0146】
組織診断
各群のマウスの心室中部におけるマッソントリクローム明視野イメージングは、線維化面積(総面積に対する割合として)の半定量分析をするために、間質のパッチの線維化の可視化および非線維化組織とこの領域の識別が実施された。各群で線維化が観察された一方、群間での線維化割合に統計的差異はなかった(表2)。
【表2】
平均 ± SD. NSD - 有意差なし
【0147】
心室中部の切片の免疫蛍光イメージングは、CD68+細胞を可視化し、総細胞の割合としてCD68+細胞の半定量分析を提供するために実施された。有意な梗塞近傍のCD68+細胞の浸潤が心筋で観察された一方、群間での差異はなかった(表3)。
【表3】
平均 ± SD. NSD - 有意差なし
【0148】
C.考察
経皮的冠動脈インターベンション(再灌流)をしたSTEMIは、急性期/亜急性期において、過剰な心臓の炎症および心筋細胞の働きの喪失を誘発する。これにより、心不全の発症につながる線維化および心筋リモデリングの進行が引き起こされる。
【0149】
STEMIの急性期から亜急性期に、大きな二相性炎症反応が病変をきたし、その後修復される。これまでの研究では、「鈍い(blunt)」薬物でこの炎症を抑制することに焦点があてられてきた。しかし、これらの抗炎症薬は、損傷回復や組織修復に関する活動を含むすべての白血球の活動を非選択的に抑制することにより、修復プロセスを妨害する可能性がある。従って、(抗炎症薬による修復はあるものの)ダメージを与える細胞やプロセスを選択的に阻害するインターベンションは、急性障害や、STEMI後の心不全に付随する心臓リモデリングと機能損失の程度を軽減できる場合がある。
【0150】
ダメージ関連分子パターン(DAMP)分子が、急性STEMIの間、損傷を受けた心筋細胞から放出され、常在炎症性マクロファージが血中を循環する白血球(主に好中球)を引き寄せる。損傷細胞や壊死細胞のファイゴサイトーシスが起こり、これらの好中球はアポトーシスしていくことにより、組織修復フェイズへと入っていく。CD14は、様々な細胞においてDAMP駆動炎症を引き起こす数多くのパターン認識受容体の重要な補因子である。CD14の阻害は、炎症性サイトカインを減少させるが、抗炎症性サイトカインは減少させない。
【0151】
本実験は、CD14への作用が、急性期のSTEMI関連炎症における適切な治療標的になりうるか決定するために実施された。短期間のCD14阻害が、心筋梗塞に付随する過剰な炎症を減少し、その後のマウスの心臓の損傷、線維化およびリモデリングを緩和しうるという仮説であった。本実験は、CD14へのターゲティングが、実際にMIに対しての治療効果を有することを示した。
【0152】
心エコー-抗CD14の2回投与治療で、左心室面積の変化および長軸分画短縮率の両方で、30%程度の有意な改善が、高い信頼で認められた。すべてのデータ取得と分析は、ブラインドで実施され、再現性のある観察者間相関を業界標準で有していた(傾き=1.0-1.1、相関係数=0.94)。加えて、拡張末期と心臓全重の相関関係は、上記の知見をさらに裏付けるものであった(相関係数=0.9)。
【0153】
血清分析および組織診断-炎症性サイトカインは、7日目エンドポイントのマルチプレックスまたは高感度ELISAアッセイのどちらでも検出されなかった。これはおそらく、M1様特性を持つタンパク分解性マクロファージの時間的に位相性の急性浸潤およびマウスの心筋梗塞後最初の1-3日における炎症性サイトカインの随伴的な放出(心筋梗塞後4-14日の亜急性「回復期」には減少する)に関連するものと思われる。
【0154】
7日目の心筋梗塞マウスの心臓において、循環中の炎症性バイオマーカーはなかったが、CD68+細胞の顕著な浸潤が観察された。これが示唆するのは、これらのマクロファージが、主にM2様特性を持っており、損傷心筋の回復に関わっているということである。これはまた、抗CD14処置の2回投与手法はM2様マクロファージの浸潤を阻害しないということを示唆する。
【0155】
全体的には、本実験は、抗CD14抗体処置をしたマウスにおいてのSTEMI後の亜急性心筋保護のin vivoでの初めての証拠を提示する。この心臓保護効果(7日目で収縮期機能を維持)は、2回投与群(再灌流時および再灌流後24時間の両方に5 μg/gの抗CD14抗体を投与)で最も明確に観察され、単回投与群ではより低い程度に観察された。
【0156】
実施例2
M1/M2への分化におけるCD14の効果の評価
以前の実験では、抗CD14処置はMI後のM2様マクロファージの浸潤を阻害しないと示された。M1への分化に対するCD14ターゲティングの効果をさらに評価するため、ヒトCD14に特異的な臨床グレードの抗体であるIC14のM1分化経路をブロックする能力を評価する実験がiPSC由来のマクロファージで行われた。
【0157】
A.材料と方法
健康なドナーからの人工多能性幹細胞(iPSC)は、the Board of Governors Regenerative Medicine Institute, Cedars-Sinai Medical CenterのiPSCコアから入手した。iPSCは、Yanagimachiらのプロトコル(PLoS One, 2013 8, 1-9)に従い、M0マクロファージに分化させた。端的には、iPSCを5つの連続した培養ステップで36日間にわたり処理した。最初にBMP4を用いて原始線条様細胞に誘導し、次にVEGF、SCFおよびbasic FGFを用いてKDR+CD34+血液血管芽細胞様細胞を発生させ、続いて造血サイトカインを用いて造血細胞を発生させ、それらをFIT-3リガンド、GM-CSFおよびM-CSFで単球系列へと分化、さらにM-CSF、IFN-γ、IL-4を用いて、M0マクロファージへと分化させた。
【0158】
iPSCは、分化してできたM0細胞を96ウェルプレートに1ウェルあたり50,000個の濃度でプレーティングし、2ng/ml IFNγ (eBioscience)および1ng/ml LPS (Sigma)存在下の10% FBS含有RPMI200μLで培養することでM1系列へと分化した。60分後、IC14 (Implicit Bioscience)またはヒトIgG4コントロール抗体 (Biolegend)のいずれかを0.01~1ug/mlの範囲で添加し培養した。さらに3時間後、Trizol試薬とDirect-zol RNA MiniPrep Kit (Zymo Research)を用いたRNA抽出のために細胞を回収した。定量RTPCR(qRT-PCR)実験は、SYBR Greenを用いたOne-Step RT-PCRキットを用いて実施し、Bio-Rad iQ5 Multicolor Real-Time PCR Detection Systemsを使用して実行した。
【0159】
B.結果
M0へと分化したiPSCはLPSおよびIFNγで処理することによりM1マクロファージへとさらに誘導することができる。誘導すると、M1マクロファージは、IL-1β、TNFα、IL-6およびIL-8転写物を発現する(図2)。LPSおよびIFNβの刺激は、刺激後4時間に測定されるように転写レベルを急速に上昇させる。本実験は、M1分化はCD14依存の要素を持つと示した; 刺激の1時間後にIC14を培養に加えると、IL-1β、TNFα、IL-6およびIL-8の産生が減少した。この阻害はアイソタイプコントロール抗体では観察されず、IC14によるmCD14のブロックの直接帰結として起きたことが示された(図2)。
【0160】
C.考察
マクロファージは、炎症プロセスの開始および解消の両方で重要な役割を担っており、炎症性と抗炎症性の役割を果たす。これらの異なる反対のプロセスから、マクロファージは2つの表現型のうち1つに割り当てられるという提唱がなされた; 古典的活性化(炎症性)マクロファージ(M1と呼ぶ)、または選択的活性化(または創傷治癒性)マクロファージ(M2)である。上記の2つの反する機能状態への分類は、極度に単純化されているようではあり、状態それ自体の複雑性および極性化プロセスにおける柔軟性を反映し損ねる可能性がある。むしろ、マクロファージの極性を連続的な機能状態と考える方がより適切かもしれない。現在では、マクロファージの極性化は多機能プロセスであると受け入れられており、複数の要素が相互作用し、異なる活性状態を作り出している。上記の活性状態はそれ自体が可塑的であり、環境的影響の変化に応じて修正されうる。
【0161】
M1型およびM2型の表現型のバランス変化は、多くの疾患と関連している。例えば、癌においては、腫瘍内にM2マクロファージが存在し、M1/M2比の減少が予後不良と関連している。それに対して、炎症性疾患や自己免疫疾患は、M1/M2比の増加と関連している。
【0162】
in vivoでのマクロファージの極性化は多因子性のプロセスと考えられているが、M1分化は、炎症部で見られるサイトカインおよびTLRアゴニストによる活性を再現した2つの刺激である、IFNγおよびLPSの刺激により、in vitroにおいて再現することができる。本実験では、iPSC由来マクロファージを用いて、M1経路の分化をブロックするIC14の能力について評価した。本実験は、IC14が、M1分化プロセス中の全4つのキー炎症性メディエータであるTNFα、IL-1β、IL-6およびIL-8の産生を減少させることができると示した。M1マクロファージの発生ブロックまたは代替保護(M2)経路(alternative protective (M2) pathway)に沿った極性化の促進は、MI後の病的な炎症から保護しうる。
【0163】
実施例3
STEMI後の抗CD14処置による効果の評価(フォローアップ実験)
フォローアップ実験は、STEMIから7日目のマウスの心臓に対する、抗CD14アンタゴニスト抗体の2つのさらなる投与手順の効果を評価するために実施された。本実験で使用された抗CD14アンタゴニスト抗体は、biG53抗マウス抗CD14mAbである(すなわち、実施例1で使用されたbiG53 F(Ab’)2の完全型抗体である)。上記のマウス抗体は実施例2に記載の臨床抗体(IC14)の代表的な代替物である。端的には、STEMI手術直前に心エコーが実施され、55分間結紮による心室閉塞を実施した。再灌流は、結紮の解除により術後1時間に行われた。マウスには、biG53 mAbを7 μg/g体重で、再灌流直前(静脈内(i.v.)投与)、および/または術後8-12時間(腹腔内へのi.p.投与)、および/または術後24時間(腹腔内へのi.p.投与)のように、2回投与または3回投与された。
本実験は、以下の群のマウスを含んだ:
群1.I/R、1時間後にビヒクルI.V. + 8-12時間後にビヒクル I.P. + 24時間後にビヒクル I.P.(生理食塩水コントロール)
群2.I/R、1時間後に1x アイソタイプ I.V. + 8-12時間後にビヒクル I.P. + 24時間後にアイソタイプ I.P.(アイソタイプコントロール)
群3.I/R、1時間後に1x 抗CD14 I.V. + 8-12時間後にビヒクル I.P. + 24時間後に抗CD14 I.V. (2x 7mg/kg投与)
群4.I/R、1時間後に1x 抗CD14 I.V. + 8-12時間後に抗CD14 I.P. + 24時間後に抗CD14 I.V. (3x 7mg/kg投与)
【0164】
本実験のプライマリーエンドポイントは、STEMI手術後7日目の収縮機能の心エコー試験である。7日目に、血清の炎症性マーカー(サイトカイン)および心筋線維化およびCD68+細胞浸潤の組織検査、さらに心臓カテーテルでの血行動態測定も調査した。
【0165】
A.方法
ランダム化および盲検化
本実験はランダム化、盲検化された実験であった。
【0166】
再灌流を伴うST上昇型心筋梗塞のモデル
1時間の虚血を起こすために、左冠状動脈前下行枝の結紮が実施され、その後再灌流を行った結果、ST上昇型心筋梗塞となった。
【0167】
心電図(ECG)
3-リードECGのリードを皮膚に設置し、MI直後のST上昇を確認するため、およびカテーテルのエンドポイントに関して、最大5分間のECG追跡を記録した。
【0168】
心エコー(24時間、MI後7日目(D7))
マウスをイソフルラン(導入4.0 %、維持1.6-1.8 %)で麻酔し、Vevo2100 systems (Visualsonics, Fujifilm)を用いて、左心室(LV)収縮機能の総合的な心エコー検査を実施した。MIモデル均質性のスクリーニングのための新たなゴールドスタンダードである、プラットフォーム検証された組織変位マッピング技術により、虚血領域の均質性を確認するため、24時間の心エコーが解析された。超高周波傍胸骨長軸ループ(24時間の心臓壁変位マッピングのためのゲートありEKV)のすべての解析はオフラインで実施、検証された。
【0169】
血液サンプリングおよび分析(MI後7日目)
心臓穿刺を行い(血液採取のため)、市販のマルチプレックスイムノアッセイキット(Bio-Plex Pro, Bio-Rad Laboratories, Inc.)で血清分析を実施した。
【0170】
解剖および組織回収(MI後7日目)
総合的な解剖をすべてのマウスに対し実施し、それには、心臓、肺、腎臓、肝臓および膵臓の重量測定も含まれた。心臓の解剖を実施後、左心室の心室中部の横行環(mid-ventricular transverse ring)を組織診断し、心尖部/梗塞部の心室は将来の調査のため-20℃で保管した。
【0171】
左心室組織診断(MI後7日目)
複雑な切片化を実施し、左(中部)心室部位のレプリカを作製した。盲検化された人員により、組織を処理し、包埋し、染色し、イメージングしおよび分析した。染色プロトコルには、ヘマトキシリン・エオジン(H & E)染色、マッソントリクローム染色、ピクロシリウスレッド染色および、CD68およびトロポニンTの抗体およびDAPIを用いた蛍光染色が含まれた。
【0172】
心臓カテーテルおよび血行動態評価(MI後7日目)
マウスをイソフルラン(導入4.0 %、維持1.6-1.8 %)で麻酔し、心腔内カテーテルを右頸動脈から上行大動脈へと通し、動脈圧を測定し、左心室へと進めて、左心室の圧力とコンダクタンスを測定した。収縮末期および拡張末期の圧力-容積の関係は、肝下陥凹から腹大動脈を加圧することにより確認された。並列コンダクタンスは、心臓穿刺前の右頸静脈への高張食塩水注入(5-10 μl)を用いて補正された。血液はその後、既知容量のキャリブレーションキュベットでコンダクタンスの検量線を作成するために用いられた。血行動態分析は全体を通してオフラインで実施、検証された。
【0173】
統計分析
すべてのデータは、一元配置分散分析とテューキーの多重比較事後検定を使用してGraphPad Prism (V7.0)を用いて分析した。分散の均一性は、ブラウン・フォーサイス検定を用いて得られたすべてのパラメータに対し評価し、必要に応じてクラスカル・ウォリス(ノンパラメテリック)検定を使用した。すべてのデータは、テキスト/表の中で平均 ± SDとして表示され、比較のため図では平均 ± SEMとして表示される。
【0174】
除外基準
手術(モデル)またはエンドポイントの技術的な不十分さに関連する要素のみを、事前に除外理由として定義した。
動物: ST上昇の欠如が見られる(MI手術直後)、および/またはネガティブな相対心臓壁変位が<35または>55% (24時間時点での心エコー)
エンドポイント: 分析についての、技術的に不十分なイメージング/記録、例えば、カテーテル挿入の失敗、組織の切り出し/染色の失敗
【0175】
再灌流(処置)手術で生存しなかったマウスも分析から除外された。記: すべての死(n=9)は再灌流前に起きた、すなわち動物は処置後に通常より早くは死ななかった。
【0176】
B.結果
非盲検化
各グループは、データ収集と分析の後、非盲検化された。グループは以下の通りに識別された:
A.アイソタイプコントロール
B.抗CD14抗体3回投与
C.生理食塩水コントロール
D.抗CD14抗体2回投与
【0177】
虚血損傷の評価: 術後最初の24時間
術後の心電図
本実験に含まれる全60匹のマウス(各群あたり15匹)は、心筋梗塞手術後にST上昇が見られることが確認された。
【0178】
相対心臓壁変位の心エコー評価
各心臓(左心室)において貫壁性梗塞がうまくできたか、24時間後の心エコーによるネガティブな相対心臓壁変位の評価で再確認された。ネガティブな変位が<35または>55 %のマウスは本実験から除外された。群間で差異は認められなかった。
【0179】
術後7日目での左心室容積および機能の心電図評価
ベースライン時において、1匹のマウスで心エコー異常が観察され、手術に進まなかった。STEMI手術7日後の心エコーエンドポイントでの心拍数は群間で同様であった(データは示していない、分散分析 p=0.371)。拡張期および収縮期の左心室面積は、傍胸骨長軸において心内膜境界をトレースすることにより測定した。体積値は、左心室の形態についての二平面からの仮定に基づいて算出した。抗CD14抗体を投与したマウスおよびコントロールマウスの間の差異が、長軸分画短縮率(データは示していない)、つまりLV面積変化(心臓の収縮機能を反映)および駆出率(左心室から送り出される血液の割合を反映)で見られた(図3および図4)。これは、実施例1に記載された実験の結果を確認するものであり、両実験で、抗CD14抗体を投与したマウスにおいて、駆出率が約25%増加することが示された。また、抗CD14抗体を投与したマウスにおいて、1回拍出量(各心拍で排出される血液量を反映)および心拍出量(1分間に排出される血液量を反映)の増加が認められた(図5)。
【0180】
術後7日目の左心室の血行動態評価および動脈圧
STEMI7日目のカテーテルによる血行動態評価時の群間の心拍数は同様であった(心エコー操作直後、データは示していない、分散分析 p=0.989)。図6および7に示すように、コントロール群と抗CD14抗体投与群の間の差異が、経時的なLV容積の変化(dV/dt min; 収縮時の最大左心室駆出率を反映)、dV/dt max (弛緩時の最大LV充満率を反映)および動脈エラスタンス(Ea)(データは示していない)そして一回仕事量(大動脈圧×一回拍出量の関数)で認められた。これは、抗CD14抗体を投与されたSTEMI後のマウスの心機能がより効率的であることを示した。動脈の拡張期圧、収縮期圧または脈圧に差異は認められなかった(データは示していない)。
【0181】
手術時(D0)および術後7日目のバイオメトリクス
すべての群は、手術時(D0)の年齢は同様で、エンドポイント(D7)で同様の脛骨長であった。手術時の体重について、C群(生理食塩水コントロール群)は、B群およびD群(抗CD14抗体群; データは示していない)に比べ、4-6%少なかった。この小さいが統計的には有意な差はエンドポイント(D7)でも認められた。D群は術後7日目の体重が有意に増加した唯一の群であった(1.9 ± 2.3 % vs D0, P<0.01)。
【0182】
アイソタイプコントロールおよび抗CD14抗体群(A群、およびBおよびD群)は、解剖時同様の臓器重であった。C群は、B群および/またはD群と比べ、小さい心臓、左/右心室および腎臓重量を持つことが認められた。すべてのサイズ/容積パラメータが7日目に測定され、手術時の体重で調整された。
【0183】
術後7日目の組織診断
明視野組織診断: 解剖時に切り取られた心臓は、心室中部で切片化された。分析にあたり、損傷(傷、自由壁を含む)領域、および非損傷(離れた組織、心室中隔を含む)領域が、ピクロシリウスレッド染色された切片を用いて、切片全体、損傷および非損傷の陽性を定量化するために評価された。切片全体の陽性の差異は、C群(生理食塩水コントロール)およびD群(抗CD14抗体2回投与群)の間で認められた。非損傷領域および損傷サイズ(梗塞サイズを示す)については、A群およびC群(コントロール群)とB群およびD群(抗CD14抗体群)の間で差異が認められた(図8および9)。上記組織診断分析は、コントロールマウスと比べて、抗CD14抗体を投与されたマウスの心臓の線維化は減少したことを明白に示した(図9; 濃灰色はコラーゲン(赤に染色)を示し、薄灰色は心筋(黄色に染色)を示す)。
【0184】
免疫蛍光組織診断
左心室中部切片における、総細胞カウントとCD68+細胞カウントに差異は認められなかった(データは示していない)。しなしながら、AおよびC群(コントロール群)とD群(抗CD14抗体2回投与)における、CD68陽性率(総細胞カウントに対するCD68+細胞カウントの割合)に差異が認められ、抗CD14抗体を投与されたマウスはCD68陽性率が減少したことが示された(図10)。
【0185】
術後7日目の血清分析
各群からのサンプル(n=10)でランダム化されたサブセットは、マルチプレックス(Bio-Plex Pro Mouse Cytokine Mulitplex AssayおよびBio-Plex Pro TGF-β 3-plex Assay, Bio-Rad Laboratories)により分析された。表4は、術後7日目の血清分析結果を示している: TNFα - 腫瘍壊死因子アルファ、IL - インターロイキン、MCP - 単球走化性タンパク質、TGF - トランスフォーミング増殖因子。§ - メーカー推奨の検出限界を超えている値。F - 分散による均質性検定ができず、ノンパラメトリック分析を使用。ND - 検出なし。平均値 ± SD。どの分析でも群間に有意な差異は認められなかった。これは、相対的にタイムポイントが遅いことによると思われ、MI後最初の数日以内ではより差異が見られ、体循環より心臓組織それ自体により局在する可能性がある。
【表4】
【0186】
C.考察
本実験で、STEMI後のCD14アンタゴニスト抗体の投与は、心臓を保護することが明白に確認された。これは、2回投与および3回投与の両方の群で認められた。本実験で得られた重要な知見は以下を含む。
・アイソタイプコントロールは生理食塩水コントロールに対して、7日目時点で左心室の収縮機能に影響を与えなかった;
・抗CD14抗体の3回投与は2回投与と比べて、どの評価においても追加の効果はなかった;
・2回の抗CD14抗体処置は、アイソタイプおよび生理食塩水コントロールと比べて、7日目の左心室収縮機能(面積変化および駆出率[%])を改善に導いた;
・3回の抗CD14抗体処置は、アイソタイプコントロールと比べて、7日目の左心室収縮機能(面積変化および駆出率[%])を2回処置と同様の改善に導いた;
・2回および3回投与プロトコルは、両コントロールと比べて、7日目の一回拍出量および心拍出量を改善した;
・2回および3回投与プロトコルは、生理食塩水コントロールと比べて、7日目においての、損傷サイズ(%)、線維化およびdV/dt minimum(左心室駆出速度)を減少させ、一回仕事量(圧容積ループの領域)を増加させた;
・2回の抗CD14抗体投与は、両コントロールと比べて、7日目において、心筋CD68+細胞の浸潤を減少させた。
【0187】
本開示の明細書で引用されるすべての参照、特許、特許出願および出版物は、参照によりその全体が本願に援用される。
【0188】
本明細書におけるいかなる参照の引用も、当該参照が本願に対する「先行技術」として利用可能と認められるものと解釈されるべきでない。
【0189】
明細書を通じて、いかなる1つの実施形態または特定の特徴の収集に発明を限定することなく、発明の好ましい実施形態を記載することが目的であった。それゆえ、当業者は、本開示に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、例示された特定の実施形態に対して、様々な修正および変更を加えることができると認識すると思われる。すべてのこのような修正および変更は、添付されたクレームの範囲内に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023540382000001.app
【国際調査報告】