(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】ナノスケールの温度計測
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/58 20100101AFI20230915BHJP
G01Q 30/02 20100101ALI20230915BHJP
G01K 11/12 20210101ALI20230915BHJP
【FI】
G01Q60/58
G01Q30/02
G01K11/12 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577613
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(85)【翻訳文提出日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 IB2021055791
(87)【国際公開番号】W WO2022029522
(87)【国際公開日】2022-02-10
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522488524
【氏名又は名称】キューナミ・アクチエンゲゼルシャフト
(71)【出願人】
【識別番号】503466808
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】ミュンシュ・マチュー
(72)【発明者】
【氏名】マレティンスキー・パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ファヴァーロ・デ・オリヴェイラ・フェリペ
(72)【発明者】
【氏名】タノ・ラナ
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ロベール-フィリップ・イザベル
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056VF11
2F056VF16
2F056VF17
2F056VF20
(57)【要約】
【課題】広い温度範囲にわたってナノメートルの空間分解能で高い熱感度を達成できる、マイクロスケールの体積でロバストな単一ダイヤモンドセンサープローブを提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも200ナノメートルの横断寸法を持つダイヤモンド検知プローブ(1)と、
100ナノメートル未満、10ナノメートル未満、又は1ナノメートル未満の曲率半径(R)を持つ検知先端(2)と、
複数の色中心(5)とを備える。色中心(5)の発光計数率は温度に敏感な特徴を示す。ダイヤモンド検知プローブ(1)は、少なくとも200ナノメートルの横断寸法を持ち、取り付け構造(6)によって検出器システム(13)に接続されている。熱隔離障壁(3)は、検知プローブ(1)を前記検出器システム(13)から熱を隔てている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率半径(R)が100ナノメートル未満、又は10ナノメートル未満、又は1ナノメートル未満の感知先端(2)と、発光回数が温度感受性を示す複数の色中心(5)を持つダイヤモンド検知プローブ(1)であって、
前記ダイヤモンド検知プローブが前記色中心から放出された光を光学的に案内するように構成されていて、
前記ダイヤモンド検知プローブが、少なくとも200ナノメートルの横断方向の寸法を持つ、ダイヤモンド検知プローブを備えるナノスケール温度検出器がさらに、
検出器システム(13)に接続可能な取り付け構造(6)と、
前記検知プローブ(1)を前記検出器システム(13)から熱的に隔てる熱隔離障壁(3)と
を備える、ナノスケールの温度検出器。
【請求項2】
複数の色中心(5)は、電子スピン共鳴スペクトルが温度感受性を示して、好ましくはその基底電子的スピン状態の温度依存性ゼロ磁場分裂を示すNV(窒素空孔)欠陥である、請求項1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項3】
前記色中心(5)は前記検知プローブ(1)全体に分布されている、請求項1又は2に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項4】
前記色中心(5)は、先端から1マイクロメートルを超えない分離距離を置いた領域に局在されている、請求項1又は2に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項5】
前記検知プローブは100ppmまでの色中心を備えている、請求項1から4のいずれか一項に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項6】
前記検知プローブは、ダイヤモンド保持構造(4)に接続されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項7】
前記検知プローブ(1)が、あるいは前記検知プローブ(1)及び前記ダイヤモンド保持構造(4)が、単結晶ダイヤモンド材料で形成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項8】
検知プローブ(1)の形状は、
鋭い頂点を持つ円錐形又はピラミッド形、
好ましくは最大横断寸法が200ナノメートルから500ナノメートルの間であり、
側壁の傾斜角が0°から45°、好ましくは5°から30°の間である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項9】
熱隔離障壁(3)は、厚みの減少、又は幅の減少、又はフォノニック構造、又は同位体変調ダイヤモンド構造、又は多孔質構造、又は格子構造のような、熱伝導を妨げる構造を持つダイヤモンド保持構造(4)と同じ単結晶ダイヤモンド材料で構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項10】
前記熱隔離障壁(3)は、水晶又は低密度材料のような低熱伝導性の材料からなる、請求項1から8のいずれか一項に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項11】
ダイヤモンド結晶を所望の形状に成形し、NV中心を含むセンサープローブを製造し、ダイヤモンドホストから前記形状を解放するため、リソグラフィと、一般に「プラズマエッチング」として普通知られているドライエッチングの一連のステップを備える、請求項1から10に記載のナノスケール温度検出器を製造する方法。
【請求項12】
請求項1から11に記載のナノスケール温度検出器を備えた検出器システムであって、
前記色中心(5)を励起するように構成された光学励起源(9a)と、
マイクロ波を前記色中心(5)に向けるように構成されたマイクロ波源(10)と、
熱源試料(8)に関して前記検知プローブを位置する取り付け構造(6)と、
前記色中心(5)から放出された光を計測可能な光学検出器(9b)と
をさらに備える、検出器システム。
【請求項13】
前記光学励起源(9a)は、レーザー、もしくは575nm未満の波長に、典型的には515nm又は532nmに調整可能なLEDである、請求項12に記載の検出器システム。
【請求項14】
前記光学検出器(9b)は、走査型原子間力顕微鏡(AFM)に統合された共焦点顕微鏡9である、請求項12又は13に記載の検出器システム。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のナノスケール温度検出器及び検出器システムを用いた方法が、
- センサー先端(2)を熱源(8a)の表面に近接又は接触させて移動可能に配置するステップと、
- 基底電子的スピン状態を分極すべく、光学励起源(9a)によって生成された1つ又はそれより多い光学的パルスを色中心(5)に適用するステップと、
- スピン集団を変えるべく、複数のマイクロ波パルス又は連続マイクロ波のいずれかを検知プローブ(1)の色中心(5)に適用するステップと、
- 色中心(5)のスピン状態に依存する蛍光率を計測するステップと、
- 計測されたスピン状態依存の発光計数率に基づいて、熱源の温度を決定するステップと
を備える、前記ナノスケール温度検出器及び検出器システムを用いた方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い空間分解能の温度計測に関する。
【背景技術】
【0002】
高い空間分解能の温度計測、特にナノスケールの温度計測は、非常に多くの技術分野で応用されている。それらの技術分野には中でも、マイクロエレクトロニクス、熱アシスト磁気記録、材料科学では、特に熱電材料、熱界面とダイオードに関連する分野が含まれ、さらに、熱光起電力、フォトニック装置、サーモプラズモニクスを含むナノフォトニクスが含まれ、そして生物学では熱発生や温熱療法の決定や代謝亢進活動の検出が含まれている。
【0003】
現在、ナノスケールの分解能での温度計測に最も一般的に使用されている技術は、
(i)典型的な空間分解能が10から500ナノメートル(nm)、時間分解能が0.1から50ミリ秒(ms)で、数ミリケルビン(mK)の熱的不確実性を決定可能な走査型熱顕微鏡(SThM)であり、
(ii)約500nmの典型的な空間分解能、約100ナノ秒(ns)の時間分解能を備え、約100mKの温度変化の計測に適した熱反射率、もしくは
(iii)約500nmの典型的な空間分解能、約200ナノ秒(ns)の時間分解能を備え、約100mKの熱的不確実性を決定できるラマン散乱である。これらの異なるアプローチには、さまざまな不利な点がある。いくつかの例を挙げると、計測中の真空の必要性、非定量的計測、計測結果に影響する計測装置と試料のトポグラフィーとの間のクロストーク、限られた動的温度範囲と実験の複雑さなどである。
【0004】
SThMの感度範囲は、基本的にプローブの種類と計測試料材料の熱伝導率に依存する。特に、材料が金属で見られるような高い熱伝導率を持っている場合は特にそうである。
【0005】
熱反射率は、相対温度、つまり温度差を決定する非常に正確な方法であるが、計測された試料のポイントの実際の絶対温度を決定するにはあまり適していない。
【0006】
ラマン分光法では、空間分解能は回折によって制限され、回折は照明光の波長に依存する。分解能はそのため通常500nmの範囲に制限される。
【0007】
近年、ワイドバンドギャップ半導体の色中心、特にダイヤモンドの窒素空孔(NV)中心電子スピンに基づくナノスケール温度計測が、これらの制限を潜在的に克服できる代替手段として調査されてきている。ダイヤモンドベースの色中心の温度計測は、高感度で定量的な温度計測が可能であり、ナノメートルの分解能範囲で、特に約100Kから約600Kの広い温度範囲にわたって、従来の温度計測方法よりも大きな利点がある。
さらなる利点として、ダイヤモンドは化学的に不活性で無毒であるため、生物系や化学反応への応用が可能である。
【0008】
単結晶合成ダイヤモンド、特に同位体濃縮ダイヤモンドは、室温で既知の固体の中で最も高い熱伝導率を持つことが知られている。
1kW/(m*K)から3kW/(m*K)以上の非常に高い熱伝導率と低い熱容量により、ダイヤモンドは熱伝導率の高い金属を含むほぼ全ての試料材料の温度計測に適している。これは、一般的に使用されるシリコンベースの検知プローブよりも大きく有利である。SThMは、金属材料や単結晶半導体の計測には適していない。プローブの熱伝導率は、ターゲット試料材料の熱伝導率に匹敵するか、それより劣ることさえある。
【0009】
現在までに、ダイヤモンドベースの色中心の温度計測の利点から恩恵を受けるいくつかのアプローチが開示されている。
【0010】
特許文献1(WO2014051886)は、ダイヤモンドナノ柱であるアウトカップリング構造を有するダイヤモンド検知プローブ、及び検知プローブの検知表面から40nm未満内に位置する色中心を開示する。
【0011】
特許文献2(US20160018269)は、発熱細胞内プロセスを計測するのに適した、mK温度不確実性までのナノスケール温度計測用のダイヤモンドのNV色中心を利用する方法を開示している。
【0012】
上記の引用文献は、単一のダイヤモンドナノ結晶、又は柱状のダイヤモンドナノ構造をセンサーとして使用している。
【0013】
特許文献3(EP3376245)は、スピン欠陥を有するマイクロスケールプローブに基づくセンサー装置を開示している。センサー装置は、スピン欠陥から500マイクロメートル未満の距離に配置されたマイクロ波アンテナをさらに備える。特許文献3に示されている実施形態は、主に磁力計測への応用に関するものである。
【0014】
熱伝導率が非常に高いため、より大きなダイヤモンド熱プローブは、ナノスケールの温度計測には適していないと考えられている。立方マイクロメートル(μm3)スケールで単一のダイヤモンド検出プローブを使用するアプローチは、これまで追求されていない。マイクロスケールの体積では、ダイヤモンドの熱伝導により温度が急速に平衡化される。走査型プローブ内では、直径約200nmの平らな端面を持つ円柱で構成される典型的な先端形状を考えると、空間分解能が低下する。さらに、より大きな単一のダイヤモンドプローブは強力なヒートシンクとして機能するため、温度の定量的評価は非常に困難である。
【0015】
マイクロスケールの単結晶ダイヤモンドセンサープローブは、金属などの導電性の高い試料材料を高感度で計測する能力、堅牢性、容易に拡張可能な生産など、大きな利点を提供する。しかしながら、これらの利点から利益を得るには、単一のダイヤモンドのより大きな体積に起因する熱放散の重大な問題を克服しなければならない。今日知られているアプローチや技術のいずれも、この問題に対する満足のいく解決策を提供していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2014/051886号
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/018269号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3376245号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Halbertal et al., Nanoscale Thermal Imaging of Dissipation in Quantum Systems, Nature 539, 407
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、広い温度範囲にわたってナノメートルの空間分解能で高い熱感度を達成できる、マイクロスケールの体積でロバストな単一ダイヤモンドセンサープローブを提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、過度の熱放散の問題に対する解決策を提供し、先行技術の欠点及び制限を克服する、マイクロスケールの体積を有する単一のダイヤモンド熱センサープローブを提供することである。
【0020】
本明細書で使用されるマイクロスケール体積は、10-3μm3と20μm3の間、例えば10-3μm3と1μm3の間に含まれる体積を示してよい。例えば、1μm3から10μm3の間、又は最大20μm3など、より大きな体積での実現も可能であり、場合によっては有利となる。
【0021】
特に、本発明は、金属などの高熱伝導性材料の温度をナノメートル範囲の空間分解能で確実に計測する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、これらの目的は、添付の特許請求の範囲、特に請求項1対象によって達成され、他の基本的な特徴の中で、マイクロスケールの単一ダイヤモンド検知プローブの一部である尖った検知先端と、熱隔離障壁とを開示する。
【0023】
熱隔離障壁は、ダイヤモンドセンサープローブを検出器システムから熱的に隔てるように配置されている。それは、走査プローブ、ダイヤモンド保持構造、又は取り付け構造の一部を形成してよい。それはまた、それら部品間の接続領域であってもよい。
【0024】
熱隔離障壁は、検出システムへの熱拡散を低減又は防止するように構成されているため、試料熱源と検出システムの間の温度交換が最小限に抑えられる。単一のダイヤモンドプローブは、その環境から熱的に切り離されているため、ヒートシンクとしての効果が制限されている。従って、試料熱源の温度と熱計測システムとの間の平衡は回避される。この熱隔離により、試料から最小限の熱しか抽出されないため、温度計測は侵襲性が最小限に抑えられる。この熱隔離はまた、最大限の定量的計測をもたらす。
【0025】
単一ダイヤモンドプローブは、曲率半径Rが400nmから100nm、好ましくは100nm未満、理想的には高空間分解能の適用の場合は10nmから1nmの鋭い検知先端を備えている。検知プローブは、そのため、100nm未満、好ましくは10nm未満、理想的には約1nmの空間分解能で計測するように装備される。
【0026】
請求項1に開示され、さらに請求項8に記載されているように、そのマイクロスケールの体積とその好ましい形状に基づいて、ダイヤモンド検知プローブは、最新技術と比較して優れたロバスト性を備えている。サイズと形状が大きいため、最新技術で使用されている壊れやすいナノピン又はナノカラムの検知先端構造の必要性が克服される。
【0027】
有利には、その検知先端を備えるマイクロスケール検知プローブは、マイクロスケールプローブ内に位置する検知先端と発光色中心との間の直接的で遮るもののない熱接続を提供する、単一のダイヤモンド結晶から作られる。プローブは、ダイヤモンド材料の高い熱伝導率と低い熱容量の恩恵を受け、検知先端と温度センサー、つまり色中心の間で効率的な熱的なつながりを提供する。この配置により、優れた熱感度での計測が可能になる。
【0028】
さらに、単一のダイヤモンドセンサープローブの体積が大きいほど、検知する色中心からの集光効率が向上し、色中心の数が多くなり、温度感度が向上するため、さらに小さな温度差を検出できる。
【0029】
有利には、マイクロスケール検知プローブは複数の色中心を含み、それらの温度依存性蛍光の強度はそれらの数に比例して増強される。プローブの感度は1/(N)1/2に比例する。Nは信号に寄与するNV中心の数である。要するに、色中心の数が多いほど、検知プローブによって送信される試料温度の温度固有の光信号が強化される。
【0030】
さらなる利点として、複数の色中心は、検知先端から離れて定めた領域に配置可能なので、その領域内の色中心の密度は、感度情報、特に熱の不確実性をさらに改善する。その領域の幅が狭いと、走査プローブ全体の温度勾配から生じる不確実性も減少する。
【0031】
検知プローブの全体的な好ましい形状は、円錐形又は角錐(ピラミッド)形であり、光を出力窓に向けて光学的に導ける形状である。この光学的な案内は、収集効率を向上させ、収集光学系に向かって放出される光子の数を増加させる。これは、熱感度を改善するのに役立つ。
【0032】
ダイヤモンドは非常に耐熱性が高く、約100Kから約600Kの範囲の温度で動作可能なことが知られていて、センサープローブに非常に広い動作温度範囲を提供する。
【0033】
ダイヤモンド材料固有の化学的不活性に基づいて、センサープローブは局所的な化学環境の変化にも強く、ナノスケールの化学反応の研究において特に重要である。ダイヤモンド材料は無毒であるため、熱検出システムは生物系の熱分析にも適している。
【0034】
有利なことに、ダイヤモンド検知プローブは、熱隔離障壁を介してセンサープローブに接続された取り付けシステムによって試料熱源に近接して配置される。効率的な定量的熱検知を可能にするために、センサー先端は、試料熱源の表面に触れるか、近接するように配置される。つまり、試料熱源の表面から10nm未満である。
【0035】
さらに、検知先端と試料熱源の表面との間の近接と接触との少なくとも一方を決定するため、ダイヤモンド保持構造は、試料熱源の性質に依存して、一般に知られている方法に従って、接触モード、非接触モード、又はタッピングモードで使用してよい。このようにして、センサー先端の位置を地形や計測対象の表面のタイプに合わせて調整できる。したがって、計測中のセンサー先端と前記試料表面との間の距離の望ましくない変化を回避できる。この制御された配置により、センサープローブの不正確な操作の結果としての試料熱源又は検知プローブの破損も防ぐ。
【0036】
当技術分野で知られていることに関して、本発明は、優れたロバスト性と周囲温度での満たされていない熱感度及び優れた空間分解能とを組み合わせるという利点を提供する。さらに、開示されたダイヤモンドセンサープローブは、金属などの熱伝導率の高い試料材料を定量的に計測できる。これらの利点は、NVスピン中心の優れた温度感度と、検出器システムから熱的に隔てられたマイクロスケール単結晶ダイヤモンドの非常に高い熱伝導率を組み合わせることによって実現される。
【0037】
本発明の例示的な実施形態は、以下の説明に開示され、図面によって示されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、走査センサープローブの概略図を示し、(A)は、取付構造6に接続された走査型センサープローブ1を示し、(B)は、走査センサー先端2の詳細図である。
【
図2】
図2は、走査センサープローブ1におけるセンサー色中心5の可能な位置を概略的に示し、(A)色中心5の集合はセンサー先端2から離れた位置にあり、(B)色中心5はセンサープローブ1の全体積にわたって分布し、(C)1つ又は複数の色中心5がセンサープローブ1に配置されている。
【
図3】
図3は、温度計測システム全体の概略図である。
【
図4】
図4は、利用可能なナノスケール熱画像装置の室温での性能概要であって、非特許文献1から引用した図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1を参照すると、この好ましい実施形態の概略図は、ナノスケール温度検出器の基本要素を示している。それら基本要素には、
走査センサー先端2の役割をする鋭い頂点を特徴とする、マイクロスケール体積を持って、好ましくは単結晶ダイヤモンドプローブである走査検知プローブ1と、
走査プローブ1内に配置された複数のセンサー色中心5と、
取り付けシステム6と、
上述の検知プローブ1を検出器システムから隔てる熱隔離障壁3と
が含まれている。
好ましい実施形態では、温度検出器は、ダイヤモンド保持構造4をさらに備え、これは、好ましくは、走査センサープローブ1を形成する同じダイヤモンド単結晶の一部である。
ダイヤモンド保持構造4は、基本的に、取り付け構造6への接続の役割をする。
【0040】
試料熱源に関して、走査センサーは、接触、非接触、又はタッピングモードで配置できる。試料熱源は、試料ステージ12上に提示される。走査センサーの位置決めは、既知の水晶音叉方式を採用することが好ましい。その既知の方法では、ダイヤモンドから試料までの距離は圧電効果に基づいていて、(ナノメートルよりもう一段精度が高い)サブナノメートルの精度で達成される。
【0041】
代替的に、ダイヤモンド保持構造を使用して、片持ち梁に依拠する既知の位置決め方法と同様に位置決めを制御できる。
【0042】
100nm未満、10nm未満、又は1nm未満の所望の空間分解能を達成するには、走査センサー先端2の曲率半径Rは、100nm未満、又は10nm未満、又は1nm未満である。
【0043】
試料熱源8の表面温度は、検知プローブ1内に位置する光学的に励起された色中心5によって検知される。それら色中心5の集合体は、
図2B及び
図2Cにそれぞれ示されるように、検知プローブの頂点に近接して配置されるか、もしくは好ましい1実施形態では、
図2Aに示されるように、走査プローブ1のセンサー先端2からのある分離距離を置いて配置される。このような分離距離は、0nmから1μmの範囲である。
【0044】
好ましい実施形態では、それらセンサー色中心5は、ダイヤモンド格子中の窒素空孔(NV)点欠陥である。そのNV中心(複数)の1つの特性は光ルミネセンスである。NV中心は、可視光、特に黄緑色レーザー光又は波長が575nm未満、典型的には515nm又は532nmのLED光によって光学的に励起される。このような光は、検出器システムの一部を形成する光学励起源9aによって放出される。
緩和すると、励起されたNV中心5は、検出器システム13に備わる光学検出器9bによって検出できる赤色蛍光を放出する。
さらに、NV中心のスピンサブ準位は、光学的に検出された磁気共鳴(ODMR)スペクトルを構成する前記スピンサブ準位と共鳴しているときに前記NV中心から放出される光子の数に影響を与える近くのアンテナから放出されるマイクロ波場を使用して操作できる。重要なことに、これらのNV中心のODMRスペクトルは、温度に敏感な特徴、特に、蛍光ベースの温度計測を可能にする温度依存のゼロフィールド分割を示す。
【0045】
温度に敏感なNV中心5(複数)は、センサープローブ1の単結晶ダイヤモンド材料を介してセンサー先端2に直接つながっている。このダイヤモンドリンクは、先端2からセンサーNV中心5へのすばやい熱伝導を保証する。センサープローブは、最大100ppmの色中心(複数)を備える。ここで、ppm、又は「100万分の1(パーツパーミリオン)」は、NV中心とダイヤモンド格子内の炭素原子数との比率を指す。典型的には、10-3μm3から1μm3のおおよその体積のセンサープローブ1は、最大3000個のセンサーNV中心5を備えている。
【0046】
センサープローブは自己較正温度計測が可能である。これは、NV中心の電子スピン共鳴線のゼロフィールド分割D0がよく知られた温度依存性を持ち、これは全てのNV中心で同一であり、較正を必要としないという事実によるものである。特に、D02.87GHzは室温で、dD0/dT(チルダ)-78kHz/Kである。電場と磁場との少なくとも一方、歪みなどのさらなる外乱がD0に影響を与える可能性がある。ただし、これらの影響はよく理解されているため、その影響は計測された温度変化から切り離せる。
【0047】
マイクロスケールダイヤモンドセンサープローブ1は、好ましくは光学窓7に向かって、色中心5によって放出された光を導くのに適した幾何学的形状を持つ。この幾何学的形状は、少なくとも200nmの横方向の寸法と、センサ先端2を構成する鋭い頂点とを備える。
【0048】
一実施形態では、上述の幾何学的形状は、円錐、角錐、又は適切な分岐形状である。その円錐形、角錐形、又は同様の形状は、200nmから500nmの間の最小横寸法と、1°から45°の間、好ましくは5°から30°の間の側壁の傾斜角を持ってよい。選択的に、形状を断ち切ってよい。好ましい形状は、センサー先端2から光学窓7まで広がるもので、この広がりが熱伝導の補強に適している。
【0049】
代替の実施形態では、センサー先端2は放物線形状を持つ。その形状は、例えば先端付近など、局所的に放物線であってもよい。
【0050】
その熱感度に関して、マイクロスケール容量センサープローブ1は、最新技術で知られているダイヤモンドベースの熱センサーよりも優れている。室温で、本発明に記載のセンサーは、低いK/(Hz)1/2からmK/(Hz)1/2の範囲の熱感度値を達成できる。現在、最も感度の高いシングルNV中心ベースのダイヤモンド熱プローブは、同じ温度条件下で約65mK/Hz1/2の感度に到達可能である。
【0051】
熱感度に対する空間分解能をプロットした
図4のグラフ表示からわかるように、マイクロスケールセンサープローブ1は、室温で70mK/Hz
1/2未満の値を持つ低mK/Hz
1/2の範囲、理想的には10mK/Hz
1/2未満の値で、空間分解能は100nm以下を持つDC熱感度を併せ持つので、現在利用可能な熱及び空間高分解能技術と比較して非常に優れている。
【0052】
熱隔離障壁3は、走査プローブ2を検出器システムから熱から切り離す働きをする。熱隔離障壁3は、走査プローブ1の単結晶の一部を形成してよく、それによって、ダイヤモンドの熱伝導性を妨げる構造的特徴の、画定された1区域を構成する。
【0053】
代替的に、熱隔離障壁3は、ダイヤモンド結合構造4の一部を形成してよい。
【0054】
代替の1実施形態では、熱隔離障壁3は、取り付け構造6の一部を形成してよい。
【0055】
熱障壁3は、構造的特徴によって提供されてもよく、それは、多孔質構造でもよい。例えば、エッチングされた穴、グリッド構造、フォノニック構造、同位体的に変調されたダイヤモンド構造、又は、熱隔離障壁3の区間を通る熱伝導を減少させる他の構造修正でよい。
【0056】
代替的に、熱隔離障壁3は、走査プローブを取り付け構造に接続しているが熱伝導を防ぐ異なる材料から構成されてもよい。そのような材料は、多孔性ポリマー、セラミック、その他の多孔性材料などの低密度材料であってもよい。それはまた、伝導を遮断し、走査センサープローブ1と取付構造6との間の接続区間として機能するのに十分な強度を有する任意の他の材料であってもよい。
【0057】
熱隔離障壁3はさらに、様々な同位体濃度を有するダイヤモンド材料、石英、ポリマー、硬化性樹脂、又は接着剤から構成されてもよい。
【0058】
より大きなマイクロメートルサイズと、好ましい単純な形状のため、ダイヤモンドセンサープローブ1の製造は容易に拡張可能である。検知プローブは、リソグラフィ及び(一般に「プラズマエッチング」として普通知られている)ドライエッチングの一連の手順によって、ダイヤモンド結晶を所望の形状に成形し、NV中心を含むセンサープローブを製造し、ダイヤモンドホストから形状を解放して製造できる。
【0059】
好ましい1実施形態では、熱検知プローブ1は、
図3に示されるように、検出器システム13に接続される。前記検出器システムは、光励起源9aと、マイクロ波源10と、任意にマイクロ波源10を備えた取り付け構造6と、光検出器9bとを備える。光励起9a及び検出器9bの両方は、対物レンズ9cを持つ共焦点顕微鏡9の一部である。マイクロ波源は、マイクロ波送達システム10a及びマイクロ波アンテナ10bを備える。好ましくは、このシステムは、試料ステージ12及び試料コース位置決め構造11をさらに備える。
【0060】
光励起源9aは、色中心5を励起するように構成されている。好ましい1実施形態では、光励起源9aは、センサーNV色中心5の電子スピンをそれらの基底状態から励起状態に励起するのに適した、青又は緑のレーザー光又は575nm未満のLED光で、典型的には532nmの緑のレーザー光である。
【0061】
マイクロ波10は、連続波又はパルス波のマイクロ波放射を色中心に向けるように構成され、これにより、基底状態及び励起状態内のサブ準位のスピン数が変化する。マイクロ波周波数を掃引してスピン共鳴周波数を検出し、ODMRスペクトルを生成する。
【0062】
先端と試料の間の相対位置を変更するコース位置決め構造11を使用して、試料熱源8の関心領域を特定可能である。次に、試料又は先端ステージ12を使用して、試料熱源8に対して走査センサープローブ1を走査する。試料コース位置決め11及び試料ステージ12の移動モードは手動でもよいが、システムが計測モードにあるときは、好ましくは自動化する。計測中、センサー先端は、光励起源9aと、光検出源9bと、対物レンズ9と、走査センサープローブ1との間の位置合わせを確実にするために、光検出経路に対して静止したままである。
【0063】
一実施形態では、取り付け構造6は固定され、対物レンズ9cは可動である。
【0064】
代替の1実施形態では、取り付け構造6は可動であり、対物レンズ9cは固定されている。
【0065】
一実施形態では、マイクロ波源10は、複数のマイクロ波パルスを色中心に適用する。
【0066】
代替の1実施形態では、マイクロ波源10は連続マイクロ波を色中心に適用する。
【0067】
光検出器9bは、センサー色中心5によって放射される光を検出し、定量化できる。NV中心ベースのプローブ1の場合、光学検出器9bは、600nmから800nmの範囲の発光波長を最適に計測できなければならない。好ましい1実施形態では、光励起源9aと、光検出器9bと、対物レンズ9cとは、走査型原子間力顕微鏡(AFM)に統合された共焦点顕微鏡9を構成する。
【0068】
本発明で請求されるナノスケール温度検出器及び検出器システムは、試料熱源8の表面温度を決定とマッピングとの少なくとも一方を行う方法で使用できる。この方法は、
- センサー先端2を熱源8aの表面に近接又は接触させて移動可能に配置するステップと、
- 基底電子的スピン状態を分極すべく、光励起源9によって生成された1つ又はそれより多い光学的パルスを色中心5に適用するステップと、
- スピン集団を変えるべく、複数のマイクロ波パルス又は連続マイクロ波のいずれかを検知プローブ1の色中心5に適用するステップと、
- 色中心5のスピン状態に依存する蛍光率を計測するステップと、
- 計測されたスピン状態依存の発光計数率に基づいて、熱源の温度を決定するステップと
を含む複数のステップを備える。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率半径(R)が100ナノメートル未満、又は10ナノメートル未満、又は1ナノメートル未満の感知先端(2)と、発光回数が温度感受性を示す複数の色中心(5)を持つダイヤモンド検知プローブ(1)であって、
前記ダイヤモンド検知プローブが前記色中心から放出された光を光学的に案内するように構成されていて、
前記ダイヤモンド検知プローブが、少なくとも200ナノメートルの横断方向の寸法を持つ、ダイヤモンド検知プローブを備えるナノスケール温度検出器がさらに、
検出器システム(13)に接続可能な取り付け構造(6)と、
前記検知プローブ(1)を前記検出器システム(13)から熱的に隔てる熱隔離障壁(3)と
を備える、ナノスケールの温度検出器。
【請求項2】
複数の色中心(5)は、電子スピン共鳴スペクトルが温度感受性を示して、好ましくはその基底電子的スピン状態の温度依存性ゼロ磁場分裂を示すNV(窒素空孔)欠陥である、請求項1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項3】
前記色中心(5)は前記検知プローブ(1)全体に分布されている、請求項
1記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項4】
前記色中心(5)は、先端から1マイクロメートルを超えない分離距離を置いた領域に局在されている、請求項
1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項5】
前記検知プローブは100ppmまでの色中心を備えている、請求項
1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項6】
前記検知プローブは、ダイヤモンド保持構成(4)に接続されている、請求項
1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項7】
前記検知プローブ(1)が
、単結晶ダイヤモンド材料で形成されている、請求項
1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項8】
前記検知プローブ(1)及び前記ダイヤモンド保持構造(4)が、単結晶ダイヤモンド材料で形成されている、請求項6に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項9】
検知プローブ(1)の形状は、
鋭い頂点を持つ円錐形又はピラミッド形、
好ましくは最大横断寸法が200ナノメートルから500ナノメートルの間であり、
側壁の傾斜角が0°から45°、好ましくは5°から30°の間である、
請求項
1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項10】
熱隔離障壁(3)は、厚みの減少、又は幅の減少、又はフォノニック構造、又は同位体変調ダイヤモンド構造、又は多孔質構造、又は格子構造のような、熱伝導を妨げる構造を持つダイヤモンド保持構造(4)と同じ単結晶ダイヤモンド材料で構成されている、請求項
6に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項11】
前記熱隔離障壁(3)は、水晶又は低密度材料のような低熱伝導性の材料からなる、請求項
1に記載のナノスケールの温度検出器。
【請求項12】
ダイヤモンド結晶を所望の形状に成形し、NV中心を含むセンサープローブを製造し、ダイヤモンドホストから前記形状を解放するため、リソグラフィと、一般に「プラズマエッチング」として普通知られているドライエッチングの一連のステップを備える、請求項
1に記載のナノスケール温度検出器を製造する方法。
【請求項13】
請求項
1に記載のナノスケール温度検出器を備えた検出器システムであって、
前記色中心(5)を励起するように構成された光学励起源(9a)と、
マイクロ波を前記色中心(5)に向けるように構成されたマイクロ波源(10)と、
熱源試料(8)に関して前記検知プローブを位置する取り付け構造(6)と、
前記色中心(5)から放出された光を計測可能な光学検出器(9b)と
をさらに備える、検出器システム。
【請求項14】
前記光学励起源(9a)は、レーザー、もしくは575nm未満の波長に、典型的には515nm又は532nmに調整可能なLEDである、請求項
13に記載の検出器システム。
【請求項15】
前記光学検出器(9b)は、走査型原子間力顕微鏡(AFM)に統合された共焦点顕微鏡9である、請求項
13に記載の検出器システム。
【請求項16】
請求項
1に記載のナノスケール温度検出器及び
請求項13に記載の検出器システムを用いた方法が、
- センサー先端(2)を熱源(8a)の表面に近接又は接触させて移動可能に配置するステップと、
- 基底電子的スピン状態を分極すべく、光学励起源(9a)によって生成された1つ又はそれより多い光学的パルスを色中心(5)に適用するステップと、
- スピン集団を変えるべく、複数のマイクロ波パルス又は連続マイクロ波のいずれかを検知プローブ(1)の色中心(5)に適用するステップと、
- 色中心(5)のスピン状態に依存する蛍光率を計測するステップと、
- 計測されたスピン状態依存の発光計数率に基づいて、熱源の温度を決定するステップと
を備える、前記ナノスケール温度検出器及び検出器システムを用いた方法。
【国際調査報告】