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  • 特表-凍結乾燥生ボルデテラワクチン 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】凍結乾燥生ボルデテラワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/10 20060101AFI20230915BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230915BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230915BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230915BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230915BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
A61K39/10
A61K9/19
A61K47/26
A61K47/18
A61P37/04
A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023510359
(86)(22)【出願日】2021-08-15
(85)【翻訳文提出日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 US2021046055
(87)【国際公開番号】W WO2022036298
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/066,020
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523048343
【氏名又は名称】イリアド バイオテクノロジーズ,リミテッド ライアビリティ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ILiAD Biotechnologies,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ターレン,マルセル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076CC06
4C076CC32
4C076DD51
4C076DD67Q
4C076EE38
4C076FF36
4C076GG08
4C085AA03
4C085BA17
4C085CC07
4C085DD84
4C085EE01
4C085EE07
(57)【要約】
-20℃~22.5℃の温度で保存したとき、少なくとも2年間安定であり、生ワクチンとして使用されるのに十分な細菌の生存率及び効力を示す凍結乾燥ボルデテラ属細菌の製剤が、0.4~1.6のOD600の培養物からボルデテラ属細菌を収集すること;収集したボルデテラ属細菌を、5~65重量%の凍結保護糖を含み、2~35℃の温度を有する凍結乾燥バッファーと混合すること(収集したボルデテラ属細菌の凍結乾燥バッファーに対する比は体積で5:1~1:5である);ボルデテラ属細菌と凍結乾燥バッファーの混合物を凍結乾燥すること(収集ステップと凍結乾燥ステップの間の保持時間は48時間未満である);及び凍結乾燥したボルデテラ属細菌を回収集めることによって製造される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱毒化生ボルデテラ属細菌を含む凍結乾燥ワクチンを作る方法であって、
0.4~1.6のOD600の培養物からボルデテラ属細菌を収集するステップ;
前記収集したボルデテラ属細菌を、5~65重量%の凍結保護糖を含み、2~35℃の温度を有する凍結乾燥バッファーと混合し、そこにおいて前記収集したボルデテラ属細菌の凍結乾燥バッファーに対する比が体積で5:1~1:5であるステップ;
前記ボルデテラ属細菌と前記凍結乾燥バッファーの前記混合物を凍結冷凍し、そこにおいて前記収集ステップと凍結乾燥ステップの間の保持時間が48時間未満であるステップ;及び
前記凍結乾燥したボルデテラ属細菌を集めるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記ボルデテラ属細菌が百日咳菌の株である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記百日咳菌の株がBPZE株である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記BPZE株がBPZE1である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ボルデテラ属細菌が、0.4~1.0のOD600の培養物に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ボルデテラ属細菌が、1.0未満のOD600の培養物に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記凍結保護糖がスクロースである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記凍結乾燥バッファーが栄養基質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記栄養基質がグルタミン酸塩である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記収集ステップと凍結乾燥ステップの間の保持時間が36時間未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記凍結乾燥ステップが結晶化前保持ステップを含み、そこにおいて前記ボルデテラ属細菌と前記凍結乾燥バッファーの前記混合物が、さらなる冷却の前に、前記混合物の結晶化温度より0.1~10℃高い温度で0.5~10時間保持される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記収集したボルデテラ属細菌を、1.0~30.0のOD600に濃縮するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
以下のステップ:
0.4~1.6のOD600の培養物からボルデテラ属細菌を収集するステップ;
前記収集した培養物からのボルデテラ属細菌を1.0~30.0のOD600に濃縮するステップ;
前記濃縮したボルデテラ属細菌を、5~65重量%の凍結保護糖を含み、2~35℃の温度の凍結乾燥バッファーと混合し、そこにおいて前記濃縮ボルデテラ属細菌の凍結乾燥バッファーに対する比が体積で5:1~1:5であるステップ;
前記ボルデテラ属細菌と前記凍結乾燥バッファーの前記混合物を凍結乾燥し、そこにおいて前記収集ステップと凍結乾燥ステップの間の保持時間が48時間未満であるステップ;及び
前記凍結乾燥したボルデテラ属細菌を集めるステップ
を含む方法に従って製造される弱毒化生ボルデテラ属細菌を含む凍結乾燥ワクチン製品。
【請求項14】
22.5℃で保存したとき、少なくとも2年の有効期間を有し、前記凍結乾燥ステップ後に、前記製品中の少なくとも20%の前記細菌が生存している、請求項12に記載の凍結乾燥ワクチン製品。
【請求項15】
前記凍結乾燥ステップ後に、前記集めた凍結乾燥菌が、百日咳菌の病原性株による対象の気道の感染を予防する、又は抑えることができる、請求項12に記載の凍結乾燥ワクチン製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月14日に出願された米国仮特許出願第63/066,020号に対する優先権を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
該当なし
【0003】
本発明は全体として、微生物学、ワクチン、及び凍結乾燥の分野に関し、より詳細には、ボルデテラ属細菌を凍結乾燥するための方法及びそのような方法に従って製造された凍結乾燥製剤に関する。
【背景技術】
【0004】
BPZE1は、弱毒生百日咳菌株であり、百日咳(パーツシス)ワクチンに使用するために以前に開発された。米国特許第9,180,178号を参照。このワクチン株は、遺伝子操作で(genetically)皮膚壊死毒素を除去し、気管細胞毒をバックグラウンドレベルまで低減し、百日咳毒素を不活化することによって構築された。ヒト以外の霊長類モデルでは、BPZE1の単回経鼻投与が、最近臨床的に単離された非常に病原性の強い百日咳菌株への曝露(challenge)後に、百日咳疾患と感染の両方に対して強力な防御をもたらすことが見出された。現在BPZE1は臨床開発中であり、既に2つの第I相試験が成功裡に完了しており、成人ボランティアにおいてワクチンが安全であり、ヒト鼻腔に一過性の定着が可能で、且つ百日咳菌抗原に対する抗体反応を誘導できることが示されている。これらの以前の研究で使用されたBPZE1の液体製剤は、細菌の生存を維持するために-70℃で保存する必要がある。ほとんどのポイントオブケア施設は超低温冷凍庫を備えていないので、この要件はBPZE1をベースとするワクチンの今後の商業化の妨げとなっている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書において記載されるのは、-20℃~22.5℃の温度で保存したときに少なくとも2年間安定であり、生ワクチンとして使用するのに十分な細菌の生存率及び効力を示す凍結乾燥ボルデテラ属細菌の製剤及び製剤を製造する方法である。本明細書に記載の研究以前には、生物学的分子、特に生菌の凍結乾燥を成功させることは、いくつかの理由から困難な試みであるので、そのような凍結乾燥製剤を製造できうるかどうかさえ不明であった。第1に、細菌の培養に使用される成分が、凍結乾燥した場合でも細菌分子を不安定にする可能性がある。第2に、細菌の生存が、空気/液体界面と溶液/氷界面における相互作用によって凍結乾燥プロセスで損なわれる可能性がある。第3に、細菌の凝集(aggregation)/凝集(clumping)がしばしば起こり、機能又は生存率の低下につながる。第4に、結晶(氷)の形成が細菌を殺傷する可能性がある。そして、第5に、脱水がタンパク質の構造及び活性を不安定にする可能性がある。
【0006】
また、ボルデテラをベースとする(例えばBPZE1をベースとする)ワクチンの大規模な凍結乾燥には、さらなる課題もある。例えば、ボルデテラ属の種は上皮細胞への結合を可能にする多数の病原因子を産生するが、これらの因子はまた、バイオリアクター内で高細胞密度に増殖させたとき、細菌を互いに付着させ、それにより凝集及びバイオフィルム形成に起因する機能/生存率の低下がより悪くなる。凝集又はバイオフィルム形成は不均一な生成物をもたらす可能性があり、その結果、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)ステップでフィルター上の生成物が著しく失われることにつながる。凝集はバイオリアクター内の撹拌を増やすことによって回避できるが、それに伴う剪断応力の増加は生存率の低下を招きうる。また、収集ステップから凍結乾燥開始までの時間が長くなるにつれて、失われる生存率も大きくなる。収集、濃縮、製剤化、及びその後の凍結乾燥バイアルへの充填に20時より長くかかりうる大規模な製造の場合、一般に生存率の著しい低下が生じる。さらに、ボルデテラ属などのグラム陰性菌は特に、凍結乾燥プロセスの凍結ステップ中に生存率が低下しやすい。特にBPZE1は、その親である野生型株よりも細胞壁が薄く、変異(変異した百日咳毒素遺伝子(ptx)を有し、皮膚壊死遺伝子(dnt)を欠失し、細菌が凍結乾燥に耐える能力に影響を及ぼしうるネイティブのボルデテラ属ampG遺伝子を置換した異種ampG遺伝子を有する。米国特許第9,180,178号を参照。
【0007】
したがって、本明細書に記載されるのは、活性薬剤として弱毒化生ボルデテラ属細菌を含む凍結乾燥ワクチンを製造する方法である。その方法は、0.4~1.6のOD600の培養物からボルデテラ属細菌を収集するステップ;収集したボルデテラ属細菌を、5~65重量%の凍結保護糖を含み、2~35℃の温度を有する凍結乾燥バッファーと混合し、そこにおいて収集したボルデテラ属細菌の凍結乾燥バッファーに対する比が体積で5:1~1:5であるステップ;ボルデテラ属細菌と凍結乾燥バッファーの混合物を凍結冷凍し、そこにおいて収集ステップと凍結乾燥ステップとの間の保持時間が48時間未満(例えば36時間未満)であるステップ;及び凍結乾燥したボルデテラ属細菌を集めるステップを含むことができる。ボルデテラ属細菌は、BPZE株などの百日咳菌株(例えばBPZE1)でありうる。本方法のいくつかの変形形態では、ボルデテラ属細菌は、0.4~1.0、又は1.0未満のOD600の培養物に由来する。凍結保護糖はスクロースであることができ、凍結乾燥バッファーはグルタミン酸塩などの栄養基質を含むことができる。
【0008】
凍結乾燥ステップは結晶化前保持ステップを含むことができ、そこにおいてボルデテラ属細菌と凍結乾燥バッファーの混合物は、さらに冷却される前に、混合物の結晶化温度より0.1~10℃高い温度で0.5~10時間保持される。本発明の方法はまた、収集したボルデテラ属細菌を1.0~30.0のOD600にまで濃縮するステップを特徴としてもつことができる。
【0009】
また本明細書に記載されているのは、上記及び本明細書の他の場所に記載の方法に従って製造された弱毒化生ボルデテラ属細菌を含む凍結乾燥ワクチン製品である。凍結乾燥ワクチン製品は、22.5℃で保存したとき、少なくとも2年の有効期間を有することができ、凍結乾燥ステップ後も製品中の少なくとも20%の細胞が生存可能な状態で維持される。さらに、ワクチン製品中の集められた凍結乾燥菌は、百日咳菌の病原性株による対象(例えば、ヒトやマウスなどの哺乳類の対象)の気道の感染を予防する、又は抑える能力を特徴としてもちうる。
【0010】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似又は同等の方法及び材料が、本発明の実施又は試験に使用できるが、好適な方法及び材料を以下に説明する。本明細書で言及されている刊行物、特許、及び特許出願はすべて、その全体が参照により組み込まれる。矛盾が生じた場合は、定義を含め本明細書が優先されることになる。さらに、以下で論じる特定の実施例は例示のみであり、限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、BPZE1の液体製剤と比較した凍結乾燥ボルデテラ属細菌(百日咳菌のBPZE1株)製剤の遺伝子座のPCR解析を示すゲルの一連の写真である。液体BPZE1製剤の2つのロット(レーン1及び2)並びに凍結乾燥BPZE1製剤の2つのロット(レーン3及び4)の大腸菌(パネルA)、百日咳菌ampG(パネルB)及び百日咳菌dntフランキング領域(パネルC)並びにBPSM野生型対照(レーン5)。
図2図2は、百日咳毒素(PTX)S1サブユニットをコードするDNAの定量PCR(q-PCR)増幅の結果を示すグラフである。液体BPZE1製剤(BPZE1 液体)、凍結乾燥BPZE1製剤(BPZE1 lyo)、BPSM及びBPSMをスパイクした凍結乾燥BPZE1(スパイク添加(Spiked))のS1サブユニット遺伝子の結果が示されている。
図3図3は、-70℃での2年間の保存にわたる様々な時点での液体BPZE1製剤の微生物学的安定性(単位CFUで測定)を示すグラフである。液体BPZE1製剤の、10CFU/投与量(中間の線(middle line)、低投与量)、10CFU/投与量(一番上の線、中間の投与量(middle dose))及び10CFU/投与量(一番下の線、高投与量)での結果を示す。
図4図4は、凍結乾燥BPZE1製剤の微生物学的安定性(単位CFUで測定)を経時的に示すグラフである。10CFU/投与量の凍結乾燥BPZE1製剤は、-20℃±10℃(一番上の線)、5℃±3℃(中間の線)及び22.5℃±2.5℃(一番下の線)で2年間保存され、CFUは示された時点で定量された。点線及び実線は、下記の表1に示される規格の上限及び下限を表す。
図5図5は、10CFUの液体BPZE1製剤(黒色の棒)又は再溶解された凍結乾燥BPZE1製剤(灰色の棒)を鼻腔内投与し、その3時間後(0日目)、1日後又は3日後に犠牲にした(sacrificed)BALB/cマウスにおける、液体製剤と比較した凍結乾燥BPZE1製剤の生体内定着の動態を示す一連のグラフである。グラフAは、液体BPZE1製剤のCFU数と、凍結乾燥直後に再溶解して投与した再溶解凍結乾燥BPZE1製剤のCFU数との比較を示す。グラフBは、液体BPZE1製剤のCFU数と、-20℃±10℃(薄い灰色の棒)、5℃±3℃(濃淡中間の灰色(medium gray)の棒)又は22.5℃±2.5℃(濃い灰色の棒)で保存した6か月後に再溶解した凍結乾燥BPZE1製剤のCFU数との比較を示す。グラフCは、液体BPZE1製剤のCFU数と、-20℃±10℃(薄い灰色の棒)、5℃±3℃(濃淡中間の灰色の棒)又は22.5℃±2.5℃(濃い灰色の棒)で保存した24か月後に再溶解した凍結乾燥BPZE1製剤のCFU数との比較を示す。結果は平均値+/-SEMで表される。*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.005;ns、有意ではない。
図6図6は、10CFUの液体BPZE1製剤(黒色の棒)若しくは再溶解された凍結乾燥BPZE1製剤(灰色の棒)、又は模擬対照(mock control)としてPBS(白色の棒)を鼻腔内投与し、次いで4週間後に10CFUの百日咳菌病原性株(BPSM)を鼻腔内に曝露したBALB/cマウスにおける、液体製剤と比較した凍結乾燥BPZE1製剤の効力を示す一連のグラフである。肺に存在するCFUは、曝露後3時間(D0)及び7日(D7)に定量した。グラフAは、液体BPZE1製剤の効力と、凍結乾燥直後に再溶解して投与した再溶解凍結乾燥BPZE1製剤の効力との比較を示す。グラフBは、液体BPZE1製剤の効力と、-20℃±10℃(薄い灰色の棒)、5℃±3℃(濃淡中間の灰色の棒)、又は22.5℃±2.5℃(濃い灰色の棒)で保存した6か月後に再溶解した凍結乾燥BPZE1製剤の効力との比較を示す。グラフCは、液体BPZE1製剤の効力と、-20℃±10℃(薄い灰色の棒)、5℃±3℃(濃淡中間の灰色の棒)、又は22.5℃±2.5℃(濃い灰色の棒)で保存した24か月後に再溶解したで保存した凍結乾燥BPZE1製剤の効力との比較を示す。結果は平均値+/-SEMで表される。*、p<0.005。
図7図7は、後述の実施例の項で説明される、異なる方法を使用して凍結乾燥した後の3回の異なるGMPランのCFU数の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、-20℃~22.5℃の温度で保存したときに少なくとも2年間安定であり、生ワクチンとして使用するのに十分な細菌の生存率及び効力を示す、活性薬剤として弱毒化生ボルデテラ属細菌を含有する凍結乾燥製剤が記載される。また、これらの凍結乾燥製剤を製造する方法が記載される。以下に説明する実施形態は、これらの製剤及び方法の代表的な例を示す。それでもなお、これらの実施形態の説明から、本発明の他の態様を、以下に示す説明に基づいて行うこと及び/又は実施することができる。
【0013】
ワクチンとしての使用に適した弱毒化生ボルデテラ属細菌を含有する凍結乾燥製剤を製造する一般的な方法。
弱毒化生ボルデテラ属細菌を含有する凍結乾燥製剤は、適切な増殖期に培養物からボルデテラ属細菌を収集し、任意選択で収集したボルデテラ属細菌を培養物から濃縮し、濃縮したボルデテラ属細菌を、凍結保護糖を含有する凍結乾燥バッファーと混合し、次いでボルデテラ属細菌と凍結乾燥バッファーの混合物を凍結乾燥することによって製造される。
【0014】
ボルデテラ属細菌
本明細書に記載の組成物及び方法で使用されるボルデテラ属細菌は、ボルデテラ属の任意の好適な種又は菌株であることができる。ボルデテラ属の種としては、百日咳菌(ボルデテラ・パーツシス)、パラ百日咳菌(ボルデテラ・パラパーツシス)、及び気管支敗血症菌(ボルデテラ・ブロンキセプチカ)などが挙げられる。好ましいボルデテラ属細菌は、感染症(例えば百日咳)に対するワクチンとしての活性を示したもの、又は他の有益な予防若しくは治療効果(例えば、炎症の軽減若しくはアレルギーの治療)を有するものである。百日咳や他の感染症に伴う病理病態を予防若しくは軽減するのに有効であるか、又は他の有益な予防若しくは治療効果を有する多数の弱毒化生百日咳菌株が作製されてきており、本明細書に記載の方法及び組成物での使用に好ましい。それらには、BPZE1(米国特許第9,180,178号に記載に記載され、且つ2006年3月9日にフランス、パリのCollection Nationale de Cultures de MicroorganismesにCNCM I-3585で寄託)やそのバリアント、例えば、繊維状赤血球凝集素繊維状赤血球凝集素(FHA)のN末端断片及び異種エピトープ又は抗原性タンパク質若しくはタンパク質断片を含むハイブリッドタンパク質を発現するように改変されたBPZE1(米国特許第9,528,086号に記載)や、BPAL10(米国特許第10/369,207号に記載に記載され、且つ2015年10月23日に国立標準研究所(National Measurement Institute)、1/153 Bertie Street、ポート・メルボルン、ビクトリア、オーストラリア 3207に受託番号V15/032164で寄託)やBPZE1AS(国際公開第2020049133号に記載に記載され、且つ2018年9月4日にCollection Nationale de Cultures de Microorganismesに受託番号CNCM 1-5348で寄託)などのアデニル酸シクラーゼ欠損BPZE株、BPZE1-P(米国特許第11,065,276号に記載に記載され、且つ2016年12月12日にCollection Nationale de Cultures de Microorganismsに受託番号CNCM-I-5150で寄託)などのパータクチン欠損BPZE株、BPZE1f3(米国特許出願第16/848,793号に記載に記載され、且つ2017年10月11日にCollection Nationale de Cultures de Microorganismsに受託番号CNCM I-5247で寄託)などのFim2-及びFim3-産生BPZE株などの様々なBPZE株が含まれる。
【0015】
ボルデテラ属細菌の凍結乾燥前処理
弱毒化生ボルデテラ属細菌を含む凍結乾燥ワクチン製品を製造する方法は、まず培養し、次いでバイオリアクターからボルデテラ属細菌を収集することから始まる。好適な培地及び培養条件については、後述の実施例の項で説明する。培養した細菌の収集は標準的な方法で行われる。初期の研究から予想外にも、BPZE1のようなボルデテラ属細菌は培養中に特に凝集(aggregation)/凝集(clumping)しやすいことが示されたので、この凝集/凝集による生存率の低下を避けるため、培養物のOD600が、0.4~1.6;0.5~1.5、0.6~1.4、0.7~1.3、0.8~1.2、0.9~1.1、1.0、又は1.0未満(例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、若しくは0.9)に達したときに収集することが好ましい。ボルデテラ属細菌を収集した後、それらは任意選択で(例えば、最終的なCFU/投与量要件を満たすように)濃縮する、且つ/又は、ダイアフィルトレーションに供して減塩する若しくバッファー交換することができる。例えば、収集したボルデテラ属細菌は、混合ステップの前に、1.0~30.0(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30+/-0、0.1、0.2、0.3、0.4、又は0.5)のOD600に濃縮することができる。収集及び濃縮/ダイアフィルトレーション(実施の場合)の後、細菌は好適な凍結乾燥バッファーと混合される。細菌と混合するとき、凍結乾燥バッファーは一般に、2~35℃(例えば、4~30℃、8~25℃、10~20℃、又は4+/-1、2、若しくは3℃)の温度である。好適な凍結保護剤が、5~65%(例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、又は60+/-0、1、2、3、4、又は5%)の重量比で、凍結乾燥バッファーに含まれる(又は混合ステップで添加される)。様々な凍結保護物質の比較に基づいて、凍結保護糖(特にスクロース)が好ましい。混合物中のボルデテラ属細菌の凍結乾燥バッファーに対する比は、体積で、5:1~1:5(例えば、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、4:1~1:4、3:1~1:3、又は2:1~1:2)である。収集から凍結乾燥開始までの時間は、生存率の著しい低下を避けるために48時間未満(例えば、44時間、40時間、36時間、32時間、28時間、24時間、20時間、又は16時間未満)であるべきである。
【0016】
凍結乾燥
次いで、調製した細菌と凍結乾燥バッファーの混合物を、凍結乾燥容器(例えば、ガラスバイアル)に分注し、5×10~1×1010(例えば、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、2×10、又は3×10+/-10、20、30、40、又は50%)CFUの細菌をいれる。次いで、充填された容器は凍結乾燥器に入れられ、凍結乾燥過程が開始される。一次乾燥は、好適な圧力(例えば、50~250マイクロバール又は100+/-0、10、20、30、40、50、60、70、80、若しくは90マイクロバール)で-40~0℃(例えば34℃)の範囲で行うことができる。典型的には、この一次乾燥ステップは、ピラニ計とキャパシタンスマノメータの示度が収束し、昇華が終わったことを示すまで続けられる。一次乾燥の後には、例えば一次乾燥温度から、+20~+40℃(例えば、+30+/-0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10℃)の二次乾燥温度まで、数時間(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、又は18時間)かけて昇温し、続いて、弁をコンデンサーチャンバーに閉じた後に圧力上昇が10マイクロバール未満に増加する(生成物が乾燥していたことを示す)まで、温度を二次乾燥温度で保持することができる。次いで、容器に栓をし(stoppered)、(例えば+4℃に)冷却し、アンロードし(unloaded)、次いで(例えばアルミキャップで)キャップをする。
【0017】
大規模生産の場合、凍結乾燥ステップは、バイアル間の生存率を下げる(reduce vial-to-vial viability)ための結晶化前保持ステップを含むことが好ましい。氷結晶の形成は、塩を含めて凍結乾燥バッファーの溶解成分のモル濃度が上がることを意味する。高い塩濃度は、百日咳菌若しくは他の細菌、酵母、真菌、又はウイルスの外膜を損傷する可能性が高く、その結果高い塩濃度が存在するフェーズの時間は、可能な限り短くすべきである。ガラス製バイアルは加熱/冷却の熱の伝わりが非常に悪く、典型的に3点のみで凍結冷燥器の棚に接触するので、凍結中この伝導性の悪さは、あるバイアルの液体が結晶形成を開始することになるバイアルもあれば、液体がより長く液体のままであることになるバイアルもあるようなバイアルの不均一な冷却につながる。実施例の項で後述されるように、凍結乾燥バッファーを非常にゆっくり冷却すると、ガラス転移温度(Tg’)を上回る特定の温度でバイアル内の氷結晶の形成が急激に起こった。この特定の温度(結晶化点)で保持すると、ほとんどのバイアルは互いに数分以内に急激な結晶形成を示した。一方、冷却ステップが保持期間の対象とならなかった場合、様々なバイアルの間での氷結晶の形成が1時間を超えて異なることがあり、バイアル間で生存率に大きな差が生じる。
【0018】
Tg’への凍結前の結晶化前保持ステップの導入は以下の通りである。所与の凍結乾燥バッファーの結晶化温度は、バッファーをゆっくりと冷やし、結晶化の開始が起こる温度を記録することによって求められる。結晶化前保持ステップは、凍結乾燥器の棚を通過する冷却液の温度のばらつきに応じて、結晶化点から0.1~数(例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8)℃高い温度で、凍結乾燥器の大きさに応じて、30分~数(例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8)時間の保持ステップと定義することができる。
【実施例
【0019】
実施例1- 材料及び方法
【0020】
細菌株及び増殖条件
【0021】
病原性百日咳菌BPSM(Menozzi et al.,Infect Immun 1994,62:769-778)を、100μg/mlストレプトマイシンを含有し、1%グリセロール及び10%脱脂羊血を補充したボルデー・ジャング(BG)寒天上で37℃にて記載(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65)の通りに培養した。増殖後、プレートをスクレイピングし、それらをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に所望の密度で再懸濁することによって細菌を収集した。BPZE1ワクチン株(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65)ワーキングセルバンク(Working Cell Bank)(WCB)を完全合成Thijs培地(Thalen et al.,Biologicals 2006,34:213-220)で撹拌下にて培養した。20%(体積/体積)の86%グリセロールを加え、クライオバイアルに1.5mLアリコートを充填した後、記載(Thorstensson et al.,PLoS ONE 2014;9,e83449;及びJahnmatz et al.,Lancet Infect Dis 2020,20:1290-1301)の通りに、さらなる使用まで-70℃でWCBを保存した。
【0022】
BPZE1の発酵
【0023】
1.5mlの量のWCBを、28.5mlのThijs培地(Thalen et al.,Biologicals 2006,34:213-220)が入った三角フラスコに接種した。0.5LのThijs培地が入った2L容の三角フラスコからなる第2の前培養物を、OD600が0.1になるように接種し、次に、それをそれぞれ0.5LのThijs培地が入った5×2Lフラスコの接種源として使用した。5つの培養物をプールし、20LのThijs培地を含む50Lバイオリアクター(Sartorius、50L SUB)に加え、バイオリアクターが0.1のOD600で始動するようにした。発酵は35℃で、スパージャーから供給される圧縮空気を用いて溶存酸素を20%に、0.2M乳酸を使用してpHをpH7.5に制御した。培養及び培地フラスコ、容器、チューブ、フィルター、コネクター、並びにバイオリアクターなどの製品接触材料はすべて単回使用であった。目標OD600である1.1~1.4に達した後、8Lの培養物の試料を0.3バールの最大膜間圧力で中空糸タンジェンシャルフロー濾過(TFF;750kDA mPES膜1400cm、Spectrum)を用いて、指定のOD600に濃縮及び/又はダイアフィルトレーションした。
【0024】
BPZE1の凍結乾燥
【0025】
初期の培養と凍結乾燥の開発により、凍結乾燥バッファーと小規模での凍結乾燥サイクルがもたらされた。すべての大規模培養では、+4℃に冷却した凍結乾燥バッファーを、主要凍結保護剤として100g/Lのスクロースを用いて、細菌懸濁液に1:1の比で添加した。次いで、得られた製剤化混合物を13mmのブロモブチル凍結乾燥ストッパー付きDIN 2Rバイアルに充填し、ピラニ計とキャパシタンスマノメータの示度が収束し、昇華が終わったことを示すまで、-34℃、100マイクロバールで一次乾燥することからなる保存的な(conservative)サイクルを用いて凍結乾燥した。一次乾燥の後、-34℃から+30℃まで12時間で昇温し、続いてコンデンサーチャンバーへのバルブを閉じた後に圧力上昇が10マイクロバール未満に増加し、製品が乾燥したことを示すまで温度を30℃に保持した。栓をした後、バイアルをアンロードするまで+4℃に冷却し、続いてアルミキャップでバイアルをキャップした。
【0026】
プレートカウント
【0027】
コロニー形成単位(CFU)の計数は、15%の羊血を補充したボルデー・ジャング寒天プレートに製剤サンプルの1、2及び5回の10倍希釈液をプレーティングすることによって行った。希釈液はすべて、3連でプレーティングし、その結果平均して9枚のプレートをカウントして1つの結果を得た。凍結乾燥後の製剤の規格(specification)を0.2~4.0×10CFU/mlに設定した。
【0028】
原薬(drug substance)及び製剤の微生物安全性試験
黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス)、緑膿菌(シュードモナス・エルギノーザ)及び胆汁酸抵抗性生物が存在しないことを米国薬局方、試験62(USP<62>)(米国薬局方、USP42-NF37、2019)に従って試験し、原薬と製剤の純度をともにUSP<61>に従って試験した。すべてのランが、両USP安全性試験に適合していた。
【0029】
マウスにおける定着及び効力アッセイ
【0030】
BALB/cマウスはCharles Riversから購入し、特定の病原体を含まない条件下において動物施設で飼育した。定着アッセイでは、様々なBPZE1懸濁液を20μlあたり10CFUに希釈し、6週齢のBALB/cマウスに経鼻投与した。感染の3時間後、24時間後又は3日後にマウスを犠牲にし、記載(Solans et al.,Mucosal Immunol 2018,11:1753-1762)の通りに鼻由来のホモジネート(nasal homogenates)を調製し、次いでBG血液寒天培地プレートに10倍連続希釈でプレーティングし、37℃で3~5日間インキュベートして、CFU計数によって定着を定量した。様々なBPZE1製剤の効力を決定するために、記載(Debrie et al.,Vaccine 2018,36:1345-1352)の通りに、6週齢の野生(wild)BALB/cマウスに10CFUのBPZE1を鼻腔内接種するか、又はPBSを鼻腔内投与した。4週間後、マウスに10CFUの病原性BPSMを鼻腔内曝露した。曝露後3時間及び7日目に、肺の定着を判定した。
【0031】
遺伝的安定性アッセイ
【0032】
様々なBPZE1調製物(preparations)の遺伝的安定性を、記載(Feunou et al.,Vaccine 2008,26:5722-5727)の通りに、dnt及びampG遺伝子を標的としたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって評価した。百日咳毒素(PT)S1サブユニット遺伝子ptxAを、PTを不活性化するために導入された2つのコドン変化の逆戻りがないことを定量PCR(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65)で解析した。約1010CFUのBPZE1調製物を遠心分離で収集し、RNaseAとプロテイナーゼKが入ったバッファーB1(キアゲン、#19060)に懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。次いで、細菌を溶解バッファー中で50℃にて30分間溶解し、キアゲンgenomic-tip100/Gカラムに載せた。
【0033】
メーカー推奨の洗浄と溶出の後、DNAをイソプロパノール(CarloErba)で沈殿させ、5,000×gで15分間遠心分離し、氷冷70%エタノールで洗浄し、10分間空気乾燥し、100μlの再蒸留水に再懸濁した。NanoDrop2000c分光光度計を使用してDNA濃度を測定した。1μlの10ゲノムコピーに相当するBPZE1、BPSM、又はBPSMをスパイクしたBPZE1 DNAを、96ウェルのLightCycler480プレート中で、0.5μMのプライマー対が入った19μlのLightCycler480 SYBR GreenIマスターミックスと混合した。プレートを専用のプラスチックフィルムで密封し、LightCycler 480に移し、95℃で15分間インキュベートし、続いて95℃で15秒間変性、68℃で8秒間アニーリング、72℃で18秒間伸長のサイクルを1~40回行った。次いで、LightCycler480ソフトウェア リリース1.5.0を使用してデータを解析した。10コピーのゲノムの中から、1つの起こりうる逆戻り(one potential reversion)を検出できるアッセイの感度を調節するために、10コピーのBPSM DNAを10コピーのBPZE1 DNAを混ぜた。プライマーはすべてEurogentec(リエージュ、ベルギー)から購入した。
【0034】
実施例2- 結果
【0035】
BPZE1製剤の開発
【0036】
百日咳菌は、互いの結合だけでなく、上皮細胞への結合を可能にする多数の病原因子を産生し、バイオフィルム形成する能力をもつ。バイオリアクターにおいて、バイオフィルム形成は細菌の凝集を招き、したがって本質的に不均一な(inherently inhomogenous)ワクチン製剤につながる。バイオリアクター内の凝集は、撹拌を増すことによって回避できるが、発酵中又は限外濾過中に剪断応力が強すぎると、細胞の損傷につながり、凍結乾燥後の生存率が低くなる。6枚羽根ラシュトンインペラーを使用して400RPMで運転した、8Lの培地を入れた20L容バイオリアクターでは、凍結乾燥後の生存率は45%を超えなかった一方で、3枚羽根マリンインペラーを使用して150RPMで運転した、20Lの培地を入れた50L容バイオリアクターでは、同様の条件下で最大65%の凍結乾燥後の生存率を示した(データは示さず)。
【0037】
8Lのバイオリアクタースケールでは、0.5の懸濁液OD600では凝集がほとんど見られなかったが、>1.0のOD600と比較して凍結乾燥後の生存率が不良であった。したがって、それ以降の培養物はすべて、1.1~1.6のOD600で収集した。これらのOD600は、培地基質がすべて消費されるよりもかなり前の、最大OD600の約50~80%に相当し、その結果細菌は、凍結乾燥後に高い生存率をもたらす生理的状態にあった。収集から凍結までの期間の間の細胞代謝を凍結乾燥器の棚で止めるためには、冷たい凍結乾燥バッファーの添加が好適であることが見出された。
【0038】
バイオリアクター及びTFFの形状(geometry)が凍結乾燥後の生存率に及ぼす影響を最小限に抑えるため、50L容のバイオリアクターはすべて、発酵中、且つ限外濾過中は同じ保存的な条件で稼働させ、凝集を避けつつ剪断応力を最小限するよう折衷した。
【0039】
凍結乾燥バッファーの開発
【0040】
製剤の製造方法の開発は、凍結乾燥バッファー及び適合する(matching)凍結乾燥サイクルを含む凍結乾燥製剤を開発すること、並びに開発した方法がBPZE1製剤の生物学的活性を阻害しないことの検証から構成された。製剤が、マウス防御アッセイにおいて、肺の細菌負荷を少なくとも2桁減少させる能力を維持することが特に重要である。対象となる製剤の特性(attributes)を表1に示す。
【0041】
【0042】
凍結乾燥バッファーの製剤は、5~10%のスクロース又はトレハロースを含有する、一般的に使用される凍結保護剤に基づいており、ヒドロキシエチルスターチ(HES)やグルタミン酸ナトリウム(MSG)などの他の凍結保護剤と組み合わせられることもあった。単一の細菌懸濁液を使用して、表2に示される製剤をすべて生成した。製剤はすべて、目標の2.5%未満の残留含水率(RMC)及び目標の35℃を超えるガラス転移温度(Tg)を示した。スクロースは単独で使用したとき、凍結保護剤としてトレハロースよりも優れているようであった。HES又はMSGを、トレハロース又はスクロースに加えても生存率は上がらなかった。スクロース及びトレハロースを用いた反復実験は、絶対生存割合(absolute survival percentage)が実験間で異なるものの、同様の結果を示した。したがって、10%スクロースをさらなる開発には選択した。
【0043】
HES、ヒドロキシエチルスターチ;RMC、残留含水率;Tg、ガラス転移温度
生存率は、バイアルの凍結乾燥前と後の内容物(content)を比較したCFUの百分率割合で表される。
【0044】
すべて同じタイプのバイオリアクターで実施した様々なラン(run)の概要を表3に示す。凍結乾燥バッファーへの培養物の直接希釈、培養物の濃縮及びダイアフィルトレーション、それに続く凍結乾燥バッファーでの希釈及び培養物の濃縮、それに続く凍結乾燥バッファーでの希釈などの製造方法を示している。濃縮細菌懸濁液を洗浄するために、NaClもTrisも含まないThijs培地やThijsサプリメントを含まないものを含む様々なダイアフィルトレーションバッファーが試みられ、様々な成功を収めた。BPZE1原薬をダイアフィルトレーションする主な理由は、1.66g/LのNaCl及び0.765g/LのTrisという培地からくる塩分を減らすことであった。これらの塩が存在すると、無塩よりも凍結乾燥サイクルが遅くなったからである。しかし、濃縮及びダイアフィルトレーションされたすべての原薬において、ある程度の凝集観察された(表3)。
【0045】
)ラン1は<50本のバイアルを充填し、凍結乾燥を<6時間の保持時間で開始した。
)ラン2は<700本バイアルを充填し、凍結乾燥を<16時間の保持時間で開始した。
)ラン3~7を、製剤1つにつき2000~7000本のバイアルに収集し、凍結乾燥し、24~36時間の保持時間の後に凍結乾燥を開始した。
)直接希釈:凍結乾燥バッファーによる培養物の1:1希釈。
)濃縮及びダイアフィルトレーション:培養物の濃縮と、それに続くダイアフィルトレーション及び凍結乾燥バッファーによる1:1希釈。
)濃度:培養物の濃縮と、それに続く凍結乾燥バッファーによる1:1希釈。
【0046】
Thijs培地は化学的に定義されており、一般的に安全と見なされる成分で構成されている。したがって、品質の観点から、BPZE1製剤からそれらの成分を除去する必要はない。凍結乾燥バッファーで直接希釈した培養物(表3、ラン1a及び6b)、又は濃縮し、次に凍結乾燥バッファーで希釈した培養物(表3、ラン7)は、収集直後及び充填直前に凝集の兆候を少しも示さなかった。製剤のCFU目標を達成するために、培養物を5.0のOD600まで濃縮し、続いて細菌懸濁液を冷たい凍結乾燥バッファー(表3、ラン7)で1:1希釈した。
【0047】
収集から凍結乾燥開始までの保持時間は凍結乾燥の前後両方の細菌の生存率に大きな影響を与えた。第1のランでは、凍結乾燥バッファーによる培養物の1:1直接希釈を使用して、64%の高い凍結乾燥後生存率が示され(表3、ラン1a)、一方でダイアフィルトレーションした培養物は46%及び47%の生存率が示された(表3、ラン1b及びラン2)。これらの製剤は、収集及び製剤化後16時間以内に凍結乾燥したが、それ以降のすべてのランは、収集後26~32時間に凍結乾燥した。ラン6b及び7では、製剤化直後及び+4℃で48時間保存した後に、製剤中の細菌の生存率について試験した。どちらの製剤もCFUが約半数減少し、それはラン6b及び7でそれぞれ18及び23%という比較的低い生存率を説明する(表3)。したがって、凍結乾燥前の保存期間は、凍結乾燥後の生存率に対して大きな影響があった。そうでなければ、ラン1aとラン7の間の生存率はもっと類似していたと思われるからである。
【0048】
液体BPZE1製剤と凍結乾燥BPZE1製剤の遺伝的比較
【0049】
凍結乾燥製剤を、-70℃で保存した液体製剤と比較して、BPZE1を生成するために百日咳菌ゲノムに導入された変異、特にdnt遺伝子の欠失、百日咳菌ampG遺伝子の大腸菌ampG遺伝子による置換、PT S1サブユニット遺伝子における2つの変異コドンの存在が保存されているかを確認した。最初の2つの遺伝子改変は、Feunou et al.,Vaccine 2008,26:5722-5727に記載されているようにPCRで検証した。大腸菌ampG遺伝子の存在は、大腸菌ampG遺伝子の内部断片に対応する402bp断片の増幅によって検出した。2つの凍結乾燥BPZE1製剤及び2つの液体BPZE1製剤対照は予想される402bp断片を生じたが、これはBPSM対照試料(図1A)では見られなかった。逆に、百日咳菌ampG遺伝子に対応する659bpの断片がBPSMの対照試料では増幅されたが、BPZE1製剤のいずれでも増幅されず(図1B)、液体BPZE1製剤と凍結乾燥BPZE1製剤はともに百日咳菌のampGを欠く一方で、大腸菌のampGを含有することが示された。dnt遺伝子の欠失は、その欠失dnt遺伝子に隣接するプライマーを用いたPCRから得られた1,511bpの断片の増幅によって示された。2つの凍結乾燥BPZE1製剤及び2つの液体BPZE1製剤対照では、予想される1,511bpが得られたが、それはBPSM対照試料では見られなかった(図1C)。
【0050】
PT S1遺伝子の2つの変異コドンの存在を検証するために、10コピーの変異遺伝子のうち1コピーの野生型遺伝子を検出できる定量PCR法を開発した。この目的のために、10コピーのBPZE1 DNA、及び10コピーのBPSM DNAをスパイクした10コピーのBPZE1 DNAを、BPSM又はBPZE1に特異的なオリゴヌクレオチドを使用したqPCRに供した。10コピーのBPSM DNAを対照とした。陽性(positivity)の閾値はqPCRの35サイクルに設定した。凍結乾燥BPZE1製剤及び液体BPZE1製剤は識別不可能な増幅パターンを示した。すなわち、BPSM特異的プライマーでは増幅は観察されなかったが、BPZE1特異的プライマーを使用した場合、増幅産物が12.21~13.32のCp値で検出された。対照的に、BPSM DNAはBPSM特異的プライマーで増幅されたが、BPZE1特異的プライマーでは増幅されず、一方で、スパイクされたBPZE1 DNAは両方のプライマー対で増幅された(図2)。これらの結果は、BPZE1がコドンの改変を保ち、1/10より高い頻度では逆戻りしなかったことを示している。
【0051】
微生物学的安定性
【0052】
-70℃で保存した液体BPZE1製剤の安定性を、10(低投与量)、10(中投与量)、及び10CFU/投与量(高投与量)の3つの異なる製剤で-70℃にて2年間保存して追跡した。図3に示されるように、-70℃で保存した液体BPZE1製剤は、試験した各投与量で最低2年間安定であった。
【0053】
10CFU/投与量で製剤化した凍結乾燥BPZE1製剤の微生物学的安定性を、-20℃±10℃、5℃±3℃及び22.5℃±2.5℃で試験した。図4に示されるように、試験したすべての温度において、10CFU/投与量の凍結乾燥BPZE1製剤はCFU規格を満たし、22.5℃±2.5℃で少なくとも2年保存したときでさえも適合した。-20℃±10℃又は5℃±3℃で保存した製剤ではCFUの減少が見られなかったが、22.5℃±2.5℃で保存した製剤では、保存の最初の数か月の間は生存率に若干の減少が見られたが、その後少なくとも2年までは安定した状態を維持した。それでもなお、その場合でさえCFU数は規格内にとどまった。培養物を濃縮し、凍結乾燥バッファーで希釈することによって得られたラン7の安定性データは、凍結乾燥バッファーを加える前の濃縮ステップに起因してCFU数がより高かったにもかかわらず、ラン6のデータと同様であった。
【0054】
生物学的安定性
【0055】
凍結乾燥BPZE1製剤の生物学的安定性を、生体内定着アッセイ及び効力アッセイという2つの異なるマウスアッセイで評価した。これらのアッセイのそれぞれにおいて、様々な温度で保存したBPZE1製剤の性能を、-70℃で保存したBPZE1の元の液体製剤の性能と比較した。
【0056】
生体内定着の動態を定量するために、マウスに、様々な温度で保存した凍結乾燥BPZE1製剤を再溶解したもの又は液体BPZE1製剤対照の約10CFUを鼻腔内に接種した。投与の3時間後、1日後及び3日後にマウスを犠牲にし、鼻由来のホモジネートに存在するCFUをカウントした。まず、液体製剤と凍結乾燥直後の凍結乾燥製剤を比較することによって、凍結乾燥及び凍結乾燥バッファーの組成の影響を調べた。図5Aに示されるように、液体製剤と凍結乾燥製剤の間に統計的に有意な差がなかったので、両製剤ともマウス鼻腔に等しく定着した。次いで、凍結乾燥製剤を-20℃±10℃、5℃±3℃又は22.5℃±2.5℃で2年間保存し、保存の6か月(図5B)及び24か月(図5C)後の定着の動態を評価し、液体製剤の定着の動態と比較した。6か月の保存後、-20℃±10℃で保存した物質は、他の温度で保存した物質に比べて、0日目の付着がわずかによく、投与1日後より早く定着し、この差は投与3日後には検出されなくなった(図5B)。しかし、24か月の保存後、5℃±3℃及び22.5℃±2.5℃で保存した凍結乾燥製剤は、-20℃±10℃で保存した製剤に比べて、0日目の付着がわずかに少なく、投与1日後と3日後の定着もわずかに遅かった(図5C)。
【0057】
様々な温度で保存した後のBPZE1製剤の効力を評価するために、10CFUの再溶解した凍結乾燥BPZE1製剤又はBPZE1液体製剤コントロールでマウスを鼻腔内免疫し(immunized)、続いて病原性BPSMを鼻腔内曝露した。BPSM曝露の3時間後又は7日後にマウスを犠牲にして、肺の細菌量を評価した。まず、液体製剤を凍結乾燥直後に試験した凍結乾燥製剤と比較した。両製剤はマウスを同等に防御し、肺のCFUは曝露後0日目(3時間)と7日目との間に2桁減少し、一方でワクチン非接種のマウスの肺では細胞量は0日目と7日目の間に増加した(図6A)。試験したすべての温度で凍結乾燥製剤を6か月間保存しても、ワクチンの効力に影響はなく、曝露の7日後、ワクチン非接種のマウスは、感染後3時間よりも約10倍多くのBPSM細菌を肺に保菌した一方で、ワクチン接種マウスはすべて、ワクチン非接種の対照と比較して、肺のCFUが約100倍減少していた(図6B)。液体BPZE1製剤で免疫したマウスと凍結乾燥BPZE1製剤で免疫したものとの間に統計的な差は見られず、保存温度の影響も検出できなかった。したがって、5℃±3℃又は22.5℃±2.5℃で保存した凍結乾燥BPZE1製剤は、-20℃±10℃で保存した製剤と比較して、0日目の付着がわずかに低く、1日目のマウス鼻腔への定着が遅いにもかかわらず、6か月間保存したとき、凍結乾燥製剤のBPSM曝露に対する防御をもたらす能力に影響はなかった。
【0058】
24か月の保存後、5℃±3℃又は22.5℃±2.5℃で保存した凍結乾燥製剤は、-20℃±10℃で保存した凍結乾燥製剤と比較して、わずかではあるが、有意な効力の低下を示した(図6C)。しかし、ワクチン非接種マウスと比較して、5℃±3℃又は22.5℃±2.5℃で保存した製剤を受けたマウスは、やはり肺の細菌量のほぼ1000倍の減少を示した。
【0059】
まとめると、これらのデータは、凍結乾燥BPZE1製剤を-20℃±10℃と22.5℃±2.5℃の間で少なくとも2年間保存した後、凍結乾燥BPZE1は、鼻腔に定着する能力及び病原性百日咳菌曝露からマウスを防御する能力を規格の範囲内で維持したしたことを示す。
【0060】
考察
【0061】
以前の研究において、BPZE1の単回経鼻投与が、百日咳菌曝露に対する防御をもたらすことがマウス(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65;及びSolans et al.,Mucosal Immunol 2018,11:1753-1762)並びに非ヒト霊長類(Locht,et al.,J Infect Dis 2017,216:117-124)で示され、IFN-γ受容体KOマウスやMyD88欠損マウスなどの重度の免疫不全動物でさえも安全であることが見出された。BPZE1は、2つの第1相治験において、ヒトにおいても安全で、且つ免疫原性があることが示された。
【0062】
これまでの前臨床試験及び臨床試験はいずれもBPZE1の液体製剤で行われてきており、その製剤は、10CFU/ml、10CFU/ml及び10CFU/mlで少なくとも2年間安定な温度、≦-70℃で保存しなければならなかった(図3)。しかし、-70℃での保存は、さらなる臨床及び商業開発には不向きである。本明細書において、-20℃±10℃、5℃±3℃又は22.5℃±2.5℃で少なくとも2年間安定な凍結乾燥BPZ1製剤が得られることが記載される。
【0063】
BPZE1プロセス開発を開始する前に、表1に示されるように、いくつかの製品の目標特性を策定した。凍結乾燥後の生存率は、第1相試験で使用された液体BPZE1製剤の生存率であったことから、凍結乾燥後の生存率は20%を目標とした[11、12]。凍結乾燥BPZE1製剤の目標は、+4℃での少なくとも2年間の保存期間にわたってCFU数を0.2~4×10CFU/mlに維持すべきであるとした。
【0064】
生きている生物の凍結乾燥後の生存率は、凍結乾燥サイクル、凍結乾燥バッファー、及び凍結乾燥前の生物の生理的状態に依存する。これらのパラメーターは互いに依存している可能性が高い。しかし、BPZE1の凍結乾燥後の生存率は、培養条件及び収集条件にも依存し、特に剪断応力及び収集時光学密度(harvest optical density)が凍結乾燥後の生存率に大きな影響を与えることが明らかになった。
【0065】
収集から凍結乾燥開始までの液体細菌懸濁液の保持時間の決定的な重要性も、実際の製造ランの間に明らかになった。収集後16時間以内に凍結乾燥を開始する第1のランでは、46~64%の菌の生存率が得られた一方で、26時間~32時間の保持時間では、結果的に生存率は約20%に低下した。細菌懸濁液の収集、濃縮及び製剤化、並びに特に1バッチにつき>20万本のバイアルの充填には24~48時間かかる可能性が高いので、24時間~48時間の保持時間の後に生存率を評価することが大規模生産において特に重要である。
【0066】
凍結乾燥製剤のRMCは一貫して、一般的に5℃以下での長期安定性と相容れる2.5%未満であった。しかし、温度と凍結乾燥後の生存率との間の関係は、凍結乾燥製品に残っている水が再び移動可能になり、生存率の低下が加速される温度であるTgによって決まる。凍結乾燥製剤の+22.5±2.5℃での2年間の安定性によって確認されたように、製剤を、周囲温度ではあるものの、制御はされた温度に比較的短時間(数時間から数日間)曝すことは、製剤に大きな影響を与えないため、ロジスティクス及びサプライチェーンの理由から、目標Tgを≧35℃に設定した。
【0067】
凍結乾燥BPZE1製品の製造方法は、弱毒化BPZE1ワクチンの重要な分子特性、すなわち、百日咳菌ampG遺伝子の大腸菌ampG遺伝子による置換、特定のPCRによって評価されるdnt遺伝子の欠失、及び10ゲノム相当のなかから1つの推定される逆戻りを検出することが可能なqPCR法によって評価される、遺伝子操作で不活性化されたPTをもたらすPT S1サブユニット遺伝子の改変に影響を及ぼさなかった。
【0068】
RMC及びTgは一般的に予想される安定性の指標となるが、リアルタイム安定性に代わるものはない。そこで、凍結乾燥BPZE1製剤を、-20℃±10℃、5℃±3℃及び22.5℃±2.5℃でのリアルタイム安定性試験に供した。直接希釈によって、且つ濃縮及びダイアフィルトレーションによって製造した凍結乾燥BPZE1製剤は、-20℃±10℃、5℃±3℃及び22.5℃±2.5℃で保存したとき、保存中にCFU数が0.2~4×10CFU/mlの規格を下回らなかったので、少なくとも24か月の期間にわたって保存しても製剤は安定であった。
【0069】
PBS中に5%スクロースを含有し、-70℃で保存した液体製剤を使用して、液体及び凍結乾燥製剤の付着及び定着の動態をマウスで評価した。第1b相臨床試験では、PBSが気道の塩分濃度と比較して高張性であるにもかかわらず、液体製剤は>80%の対象での定着をもたらしたことが示された。液体製剤中のPBS+5%スクロースからThijs培地の低浸透圧+10%スクロースへの塩分の減少はマウス鼻腔への付着にも定着にも影響しなかった。さらに、3つの異なる温度で最大24か月の保存まで、生体内定着の動態及び防御効力を評価した。+5℃±3℃又は+22.5℃±2.5℃での2年間の保存は、付着及び定着の速度をわずかではあるが有意に低下させたようであったが、それはワクチンの効力に最小限の影響しか与えなかった。試験温度のいずれかで24か月間保存された凍結乾燥BPZE1製剤が、引き続き防御をもたらした、すなわち、曝露の7日後に、非接種対照と比較して100倍を超える細胞量の減少を示したからである。
【0070】
ガラス製バイアルは、典型的にガラスの底と凍結冷燥器の棚の接触が3点に限られているため、加熱/冷却の熱の伝わりが非常に悪い。凍結中この伝導性の悪さは、バイアルの不均一な冷却につながり、すなわち、あるバイアルの液体が結晶形成を開始することになるバイアルもあれば、液体がより長く液体のままであることになるバイアルもある。特に大型の凍結乾燥器では、これらの不均一な加熱/冷却熱移動の問題により、最初のバイアルと最後のバイアルの間に比較的大きな時間の差が生じる可能性がある。
【0071】
氷結晶の形成開始からTg’、すなわち水が移動しなくなる温度に達するまでの時間の差が、凍結乾燥が完了した後の細菌の生存率に影響を与えるという仮説が立てられた。氷結晶の形成は、塩を含めて凍結乾燥バッファーの溶解成分のモル濃度が上がることを意味する。高い塩濃度は、百日咳菌若しくは他の細菌、酵母、真菌、又はウイルスの外膜を損傷する可能性が高く、その結果高い塩濃度が存在するフェーズの時間は、可能な限り短くすべきである。小規模での研究により、使用した凍結乾燥バッファーの場合、非常にゆっくり冷却すると、結晶化点である-5.8℃でバイアル内の氷結晶の形成が急激に起こり、ほとんどのバイアルは数分以内に急激な結晶形成を示し、一方で通常は、最初のバイアルと最後のバイアルの間の氷結晶の形成には1時間以上かかりうることが示された。
【0072】
Tg’はこの製剤の場合-34℃にしか達しないが、バイアル内の結晶形成が-5.8℃でほぼ同時に始まることは、結晶化前の開始点はすべてのバイアルで同じであるので、バイアル間の均一性が高くなることを意味する。例として、図7では、製造規模の凍結乾燥機で凍結乾燥を行った3回のラン(GMPラン1、2及び3)を比較する。GMPラン1及び2のバイアルは、1℃/分の勾配を用いて周囲温度から-50℃まで冷やした。GMPラン3のバイアルは、周囲温度から-5℃まで1℃/分の速度で冷やし、1.5時間保持し、続いて1℃/分の速度で-50℃に凍結した。GMPラン1、2及び3のCFU数を図7で比較すると、GMPラン2及び1の最高CFU数と最低CFU数との間には、それぞれ3倍~ほぼ6倍の差が示されている。GMPラン3では、最も高いバイアルと最も低いバイアル間の差は2倍未満である。各バッチの最高CFU数を100%として正規化して、同じ情報を表5に示す。
【0073】
Tg’への凍結前の結晶化前保持ステップの導入は以下の通りである。所与の凍結乾燥バッファーの結晶化温度は、バッファーをゆっくりと冷やし、結晶化の開始が起こる温度を記録することによって求められる。結晶化前保持ステップは、凍結乾燥器の棚を通過する冷却液の温度のばらつきに応じて、結晶化温度より0.1℃~数度高い温度で、凍結乾燥器の大きさに応じて、30分~数時間の保持ステップと定義することができる。
【0074】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて説明してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって画定される本発明の範囲を説明することを意図し、限定することを意図しないことを理解すべきである。他の態様、利点、及び変更は、以下のクレームの範囲内にある。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】