(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】免疫原性コロナウイルス融合タンパク質および関連方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230915BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230915BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230915BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230915BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230915BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230915BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230915BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230915BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20230915BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230915BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20230915BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230915BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230915BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230915BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230915BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230915BHJP
C07K 14/165 20060101ALN20230915BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20230915BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/215
A61K38/02
A61K9/51
A61K31/7088
A61K35/12
A61K35/76
A61P31/14
A61P37/04
C07K14/165
C07K14/195
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513740
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-18
(86)【国際出願番号】 US2021047885
(87)【国際公開番号】W WO2022047116
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523066473
【氏名又は名称】シーズィー バイオハブ エスエフ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(71)【出願人】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】パウエル アビゲイル イー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェイデンバッカー ペイトン アンダース-ベナー
(72)【発明者】
【氏名】フリードランド ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】サニヤル ムリンモイ
(72)【発明者】
【氏名】キム ピーター エス.
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG32
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4B064CC24
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4C084AA07
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4H045AA11
4H045AA20
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4H045DA86
4H045EA22
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA23
(57)【要約】
フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列に連結された、SARS-CoV-2などのコロナウイルスのスパイクタンパク質のエクトドメインのアミノ酸配列を含む融合タンパク質を提供する。コロナウイルスのスパイクタンパク質のエクトドメインの三量体が表面に露出しているそのような融合タンパク質を含むナノ粒子も提供する。前記融合タンパク質をコードする核酸およびベクター、そのような核酸およびベクターを含有する細胞、前記融合タンパク質、ナノ粒子、またはベクターを含む免疫原性組成物、ならびに対応する方法およびキットも提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列と、
フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列と
の融合タンパク質であって、
該スパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列がSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14またはSEQ ID NO:15に対して少なくとも90%の配列同一性を持つ配列である、
前記融合タンパク質。
【請求項2】
コロナウイルスがSARS-CoV-2である、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項3】
コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列が、少なくともヘプタッドリピート2(HR2)のアミノ酸配列のC末端欠失を含む、請求項1または2記載の融合タンパク質。
【請求項4】
コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列が、フューリン認識部位を排除する変異を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項5】
コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列が、スパイクタンパク質を融合前コンフォメーションで安定化する1つまたは複数の変異を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項6】
フェリチンサブユニットポリペプチドがピロリ菌(Helicobacter pylori)フェリチンサブユニットポリペプチドである、請求項1~5のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項7】
フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:2に対して少なくとも90%の配列同一性を持つ配列である、請求項1~6のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項8】
フェリチンサブユニットポリペプチドが、1つまたは複数の人工的グリコシル化部位を含有する、請求項1~7のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項9】
コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列が、リンカーアミノ酸配列によって、フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列に連結されている、請求項1~8のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項10】
融合タンパク質のアミノ酸配列が、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:33またはSEQ ID NO:34に対して少なくとも90%の配列同一性を持つ配列である、請求項1~9のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項記載の融合タンパク質のオリゴマーを含む、ナノ粒子。
【請求項12】
コロナウイルスのスパイクタンパク質のエクトドメインの表面露出三量体を含む、請求項11記載のナノ粒子。
【請求項13】
コロナウイルスのスパイクタンパク質のエクトドメインの表面露出三量体を8つ含む、請求項12記載のナノ粒子。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項記載の融合タンパク質をコードする、核酸。
【請求項15】
DNAまたはRNAである、請求項14記載の核酸。
【請求項16】
請求項14または15記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項17】
請求項14または15記載の核酸または請求項14記載のベクターを含む、細胞。
【請求項18】
請求項1~9のいずれか一項記載の融合タンパク質、請求項10~12のいずれか一項記載のナノ粒子、請求項13もしくは14記載の核酸、または請求項15記載のベクターを含む、免疫原性組成物。
【請求項19】
請求項1~9のいずれか一項記載の2種以上の異なる融合タンパク質、請求項10~12のいずれか一項記載の2種以上の異なるナノ粒子、請求項13もしくは14記載の2種以上の異なる核酸、または請求項15記載の2種以上の異なるベクターを含む、免疫原性組成物。
【請求項20】
1つまたは複数のアジュバントをさらに含む、請求項18または19記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
1つまたは複数のアジュバントがアラムを含む、請求項18~20のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項22】
凍結乾燥されている、請求項18または20記載の免疫原性組成物。
【請求項23】
請求項18~22のいずれか一項記載の免疫原性組成物と、
該免疫原性組成物を投与するためのデバイス、および
賦形剤
のうちの1つまたは複数と
を含む、キット。
【請求項24】
請求項18~22のいずれか一項記載の免疫原性組成物を対象に投与する工程を含む、対象における免疫応答を誘導する方法。
【請求項25】
免疫原性組成物が、コロナウイルスに対する防御免疫応答を対象において誘発することができる量で投与される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
防御免疫応答が、対象における、コロナウイルスに対する中和抗体の産生を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
対象がヒトである、請求項24~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
請求項14もしくは15記載の核酸または請求項15記載のベクターを細胞に導入する工程;
前記融合タンパク質の発現が可能な条件下で該細胞をインキュベートする工程;および
該融合タンパク質を単離する工程
を含む、該融合タンパク質を製造する方法。
【請求項29】
請求項14もしくは15記載の核酸または請求項15記載のベクターを細胞に導入する工程;
前記融合タンパク質の発現と前記ナノ粒子の自己集合とが可能な条件下で該細胞をインキュベートする工程;および
該ナノ粒子を単離する工程
を含む、ナノ粒子を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
コロナウイルス(CoV)は、普通感冒から、より重症な疾患、例えば中東呼吸器症候群(MERS)や重症急性呼吸器症候群(SARS)まで、さまざまなヒト疾病を引き起こす大きなウイルス科である。コロナウイルスは人畜共通感染性である。すなわち、コロナウイルスは動物とヒトの間で伝染しうる。コロナウイルスは、十分に分離した直径80~160nmの花弁状糖タンパク質「スパイク」でウイルス粒子の表面が覆われていて、それらがビリオンから突き出しているために、ビリオンの周りに特徴的な王冠(crown)、すなわちコロナ(corona)を有する、大きな一本鎖エンベロープRNAウイルスである。スパイク糖タンパク質は、ビリオンの外側エンベロープ上に位置するクラスIウイルス融合タンパク質である。スパイクタンパク質は、宿主細胞受容体と相互作用することによって、ウイルス感染に重要な役割を果たす。
【0002】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、呼吸器疾病の一つ、いわゆるコロナウイルス病2019(COVID-19)を引き起こすコロナウイルスの株である。SARS-CoV-2は世界中に伝播していて、既に1600万例を超えるCOVID-19例と60万例を超える死亡をもたらしている。SARS-CoV-2は、エンドソームまたは形質膜融合によって真核細胞に侵入することができる。どちらの経路でも、ビリオン表面上のスパイクが膜結合型タンパク質であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合して、宿主細胞の膜への付着と宿主細胞への侵入を媒介する。SARS-CoV-2は感染性が高く、人々の間では主に濃厚接触によっておよび呼吸器飛沫を介して伝播する。SARS-CoV-2の長期抑制には、世界中で広く利用可能にすることができる有効なワクチンが必要になる。
【発明の概要】
【0003】
概要
この文書において使用される「発明(invention)」、「本発明(the invention)」、「この発明(this invention)」、および「本発明(the present invention)」という用語は、本特許出願および後述する請求項の内容のすべてを広く指すものとする。これらの用語を含む陳述は、本明細書記載の内容を限定するとも、後述する請求項の意味または範囲を限定するとも、理解すべきでない。包含される本発明の態様は請求項によって規定されるのであって、この概要によって規定されるのではない。この概要は、本発明のさまざまな局面の大まかな全体像であり、本文書および添付の図面において説明し例証する概念の一部を紹介するものである。この概要は、請求項記載の内容の重要な特徴または不可欠な特徴を特定しようとするものではなく、請求項記載の内容の範囲を決定するために単独でされるべきものでもない。内容は、明細書全体の適当な部分、いずれかのまたはすべての図面、および各請求項を参照して理解されるべきである。本発明の例示的態様のいくつかを以下に述べる。
【0004】
本開示記載の本発明の態様には、コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列とフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列との融合タンパク質が含まれる。いくつかの例示的態様において、スパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14またはSEQ ID NO:15に対して少なくとも90%の配列同一性を持つ、スパイクタンパク質のエクトドメインの人工的に改変されたアミノ酸配列である。いくつかの例示的態様において、コロナウイルスはSARS-CoV-2である。いくつかの例示的態様において、コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、少なくともヘプタッドリピート2(heptad repeat 2:HR2)のアミノ酸配列のC末端欠失を含む。いくつかの例示的態様において、コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、フューリン認識部位を排除する変異を含む。いくつかの例示的態様において、コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、スパイクタンパク質を融合前コンフォメーションで安定化する1つまたは複数の変異を含む。フェリチンサブユニットポリペプチドはピロリ菌(Helicobacter pylori)フェリチンサブユニットポリペプチドであることができる。いくつかの例示的態様において、フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2に対して少なくとも90%の配列同一性を持つ配列である。いくつかの例示的態様において、フェリチンサブユニットポリペプチドは、1つまたは複数の(すなわち少なくとも1つの)人工的グリコシル化部位を含む。いくつかの例示的態様において、コロナウイルスのスパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、リンカーアミノ酸配列によって、フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列に連結されている。いくつかの例示的態様において、融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、またはSEQ ID NO:18、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:33またはSEQ ID NO:34に対して少なくとも90%の配列同一性を持つ配列である。
【0005】
本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様による融合タンパク質のオリゴマーを含むナノ粒子も含まれる。本発明の態様によるナノ粒子は、コロナウイルスのスパイクタンパク質のエクトドメインの表面露出三量体を含む。いくつかの例示的態様において、各ナノ粒子は、コロナウイルスのスパイクタンパク質のエクトドメインの表面露出三量体を8つ含む。本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様による融合タンパク質をコードする核酸も含まれる。本発明の態様による核酸はDNAまたはRNAであることができる。本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様による核酸を含むベクターも含まれる。本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様による核酸または本発明の態様によるベクターを含む細胞も含まれる。本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様による融合タンパク質を製造する方法も含まれる。融合タンパク質を製造する方法は、本発明の態様による核酸または本発明の態様によるベクターを細胞に導入する工程、前記融合タンパク質の発現が可能な条件下で前記細胞をインキュベートする工程、および前記融合タンパク質を単離する工程を含むことができる。本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様によるナノ粒子を製造する方法も含まれる。ナノ粒子を製造する方法は、本発明の態様による核酸または本発明の態様によるベクターを細胞に導入する工程、本発明の態様による融合タンパク質の発現および前記ナノ粒子の自己集合が可能な条件下で前記細胞をインキュベートする工程、および前記ナノ粒子を単離する工程を含むことができる。
【0006】
本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様による融合タンパク質、本発明の態様によるナノ粒子、本発明の態様による核酸、または本発明の態様によるベクターを含む免疫原性組成物も含まれる。いくつかの例示的態様において、免疫原性組成物は、本発明の態様による2種以上の異なる融合タンパク質、本発明の態様による2種以上の異なるナノ粒子、本発明の態様による2種以上の異なる核酸、または本発明の態様による2種以上の異なるベクターを含む。免疫原性組成物は、1つまたは複数(すなわち少なくとも1つ)のアジュバントをさらに含むことができ、そのアジュバントはアラム(alum)を含みうる。いくつかの例示的態様において、免疫原性組成物は凍結乾燥される。本開示記載の本発明の態様には、本発明の態様のうちの1つまたは複数による免疫原性組成物と、前記免疫原性組成物を投与するためのデバイスおよび賦形剤のうちの1つまたは複数とを含むキットも含まれる。
【0007】
本開示記載の本発明の態様には、対象における免疫応答を誘導する方法であって、本発明の態様による免疫原性組成物を前記対象に投与する工程を含む方法も含まれる。そのような方法では、コロナウイルスに対する防御免疫応答を対象において誘発することができる量で、免疫原性組成物を投与することができる。免疫応答は、対象における、コロナウイルスに対する中和抗体の産生を含むことができる。本発明の態様による対象における免疫応答を誘導する方法において、対象はヒトであることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示は以下の図を含む。これらの図は本組成物および方法の一定の態様および/または特徴を図解し、本組成物および方法の説明を補足しようとするものである。これらの図は、その旨を明示する記載がある場合を除き、本組成物および方法の範囲を限定するものではない。
【0009】
【
図1】
図1Aは、本開示に一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原ポリペプチドコンストラクトの概略図である。
図1Bは、低温電子顕微鏡法(クライオEM)によって決定されたスパイク三量体の構造とX線結晶解析によって決定されたピロリ菌フェリチンナノ粒子の構造とに基づく、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原ポリペプチドの三次元構造の概略図である。
【
図2】
図2Aは、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の発現および特徴付けの結果を図解する、ウェスタンブロットの写真画像である。
図2Bは、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の発現および特徴付けの結果を図解するSDS-PAGEゲルの写真画像である。
【
図3】
図3は、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の、多角度光散乱法と組み合わされた分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-MALS)の結果を図解する線プロットを表す。
【
図4】
図4は、本開示の一定の局面による、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による、ヒトACE2、精製SARS-CoV-2反応性モノクローナル抗体CR3022、CB6およびCOVA-2-15、ならびにエボラウイルス反応性モノクローナル抗体ADI-15731(陰性対照として)に対するSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の結合解析の結果を図解する線プロットを表す。
【
図5】
図5Aは、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクΔC-フェリチン融合タンパク質ナノ粒子の代表的モーション補正クライオEM顕微鏡像および参照像なしでの2Dクラス平均(reference-free 2D class average)を表す。
図5Bの上図は、本開示の一定の局面による、2つの異なる視点での、SARS-CoV-2スパイクΔC-フェリチン融合タンパク質ナノ粒子の再構築されたクライオEMマップを表す。下図は、本開示の一定の局面による、上図よりも低い等高線レベルで表示された、クライオEMマップにドッキングされたSARS-CoV-2スパイクΔC-フェリチン融合タンパク質の原子モデルの2つの異なる面を表す。
【
図6】
図6は、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置されたマウスから初回免疫処置後21日目に採取した血清のELISA結合解析の結果を図解するドットプロットを表す。抗原がX軸上に示されている。SARS-CoV-2 RBDタンパク質(左側のグラフ)およびSARS-CoV-2スパイクタンパク質(右側のグラフ)に対する血清の結合を解析した。グラフ上に示す各点は、1匹の動物からの2つのテクニカルレプリケートELISA曲線からの平均log
10EC50値を表す。各バーは、10匹の動物の平均log
10EC50値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。統計的比較は、クラスカル・ウォリスANOVAとそれに続くダンの多重比較を使って行った。p値はいずれも以下のとおりに表されている:*=p≦0.05、**=p≦0.01、***=p≦0.001、****=p≦0.0001。
【
図7】
図7は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置されたマウスから初回免疫処置後21日目に採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。抗原がX軸上に示されている。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。各点は、4つのレプリケートから導き出した1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。4つのレプリケートを作製するために、各実験を異なる日に2回行い、それらの日のそれぞれに二重の実験を行った。次に、作成されたこの4つの正規化希釈度曲線を編集することで、各動物について各IC50値を得た。グラフバー上の各点は各群10匹の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。統計的比較は、クラスカル・ウォリスANOVAとそれに続くダンの多重比較を使って行った。p値はいずれも以下のとおりに表されている:*=p≦0.05、**=p≦0.01、***=p≦0.001、****=p≦0.0001。
【
図8】
図8は、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置されたマウスから初回免疫処置後28日目に採取した血清のELISA結合解析の結果を図解するドットプロットを表す。抗原がX軸上に示されている。SARS-CoV-2 RBDタンパク質(左側のグラフ)およびSARS-CoV-2スパイクタンパク質(右側のグラフ)に対する血清の結合を解析した。グラフ上の各点は、1匹の動物からの2つのテクニカルレプリケートELISA曲線からの平均log
10EC50値を表す。バーは、10匹の動物の平均を表し、エラーバーは標準偏差を表す。統計的比較は、クラスカル・ウォリスANOVAとそれに続くダンの多重比較を使って行った。p値はいずれも以下のとおりに表されている:*=p≦0.05、**=p≦0.01、***=p≦0.001、****=p≦0.0001。
【
図9】
図9は、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置されたマウスから初回免疫処置後28日目に採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。抗原がX軸上に示されている。中和特性は、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。グラフに示す各点は、4つのレプリケートから導き出した1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。4つのレプリケートを作製するために、各実験を異なる日に2回行い、それらの日のそれぞれに二重の実験を行った。次に、作成されたこの4つの正規化希釈度曲線を編集することで、各動物について各IC50値を得た。バーは各群10匹の平均log
10IC50を表し、エラーバーは標準偏差を表す。統計的比較は、クラスカル・ウォリスANOVAとそれに続くダンの多重比較を使って行った。p値はいずれも以下のとおりに表されている:*=p≦0.05、**=p≦0.01、***=p≦0.001、****=p≦0.0001。
【
図10】
図10は、本開示の一定の局面による、2回のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清のIgG1、IgG2aおよびIgG2bサブクラス応答(X軸上に示す)のELISA結合解析の結果を図解するドットプロットである。抗原を各パネルの上に示す。グラフ上の各点は1匹の動物からのlog
10EC50値を表し、各水平バーは10匹の群の平均log
10EC50力価を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図11】
図11Aは、本開示の一定の局面による、2回のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清のELISA結合解析によって決定されたIgG2a/IgG1 EC50の比を図解するドットプロットを表す。抗原がX軸上に示されている。グラフ上の各点は1匹の動物からの比の値を表し、各水平バーは10匹の群の平均比を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
図11Bは、本開示の一定の局面による、2回のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清のELISA結合解析によって決定されたIgG2b/IgG1 EC50の比を図解するドットプロットを表す。抗原がX軸上に示されている。グラフ上の各点は1匹の動物からの比の値を表し、各水平バーは10匹の群の平均比を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図12】
図12は、本開示の一定の局面による、2回のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清中のIgMのレベルを評価するELISAによる結合解析の結果を図解する線プロットを表す。抗原を各パネルの上に示す。各点は、用量応答関連曲線とフィットさせた各動物からの実験的デュプリケートを表す(各群n=10匹のマウス)。エラーバーは各点についての標準偏差を表す。
【
図13】
図13Aは、異なる用量(X軸上に示す)の本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の投与後、28日目に実験マウスから採取した血清の、中和特性を図解するドットプロットを表す。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。各水平バーは各群10匹の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
図13Bは、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の投与後、さまざまな時点(X軸上に示す)で実験マウスから採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。各水平バーは各群5匹の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図14】
図14は、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原(各パネルの上に示す)での初回免疫処置後、さまざまな時点(X軸上に示す)で実験マウスから採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。各水平バーは各群5匹の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図15】
図15Aは、1μgまたは10μg(X軸上に示す)の本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の単回投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。初回免疫処置の3週間後に血清を収集した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のアジュバントとして、各パネルの上に示すとおり、500μgのAlhydrogel(登録商標)および20μgのCpG、または10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAのいずれかを使用した。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。各水平バーは各群10匹または20匹(表示のとおり)の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
図15Bは、1μgまたは10μg(X軸上に示す)の本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の1回(「21日目」)または2回(「28日目」)の投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のアジュバントとして500μgのAlhydrogel(登録商標)および20μgのCpG、AddaVax(商標)、または10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAのいずれか(X軸上に示す)を使用した。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。各水平バーは各群10匹の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図16】
図16は、本開示の一定の局面による2種のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原(表示のとおり)の2回投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。実験マウスに投与されるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のアジュバントとして、10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAを使用した。初回免疫処置後、21日目、28日目および56日目(X軸上に示す)に、血清を収集した。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。Y軸はアッセイの定量限界(1:100の血清希釈度)に設定し、それ未満の中和活性を持つ試料はLOQに設定した。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。各水平バーは各群5匹の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図17】
図17Aは、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の代表的サイズ排除クロマトグラフィートレースを表す。
図17Bは、本開示の一定の局面に従って発現され精製されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の相対量の比較を図解する棒グラフを表す。
【
図18】
図18は、コンフォメーショナルモノクローナル抗体(conformational monoclonal antibody)およびACE2受容体に対する本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の結合を試験する、Octet(登録商標)システム(Sartorius、ドイツ・ゲッチンゲン)でのバイオレイヤー干渉法(BLI)によって作成されたプロットを表す。モノクローナル抗体と、Fcフラグメントに融合されたACE2受容体を、バイオセンサー表面に固定化し、SARS CoV-2スパイクタンパク質抗原を溶解した状態で含有するウェル中に、それらのセンサーを移動させ、次に抗原を含有しないウェルに移動させた。抗体およびACE2に対するSARS CoV-2スパイクタンパク質抗原の会合および解離は、センサーと溶液の間の内側面と外側面から反射して分光測光器に戻る光波の間の光学干渉の変化をもたらす。干渉の変化をY軸上にプロットして、結合と解離を示すために使用した。それゆえに、nmシフト(Y軸上にプロット)の変化の大きさが、結合の代替物として使用され、ここでは、類似する結合パートナーについては、より大きな変化がより多くの結合を反映する。
【
図19】
図19は、本開示の一定の局面による2種のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原(表示のとおり)の2回投与で免疫処置された実験マウスから採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。実験マウスに投与されるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のアジュバントとして、500μgのアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)および20μgのCpG(InvivoGen)を使用した。初回免疫処置後、21日目および42日目(X軸上に示す)に、血清を収集した。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。表示の時点における異なる群についてIC50値を中和価として示す。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。群間の差の有意性をスチューデントt検定によって計算したところ、プロットに示すとおり、有意でない(NS)とわかった。各水平バーは各群10匹の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【
図20】
図20は、本開示の一定の局面による凍結乾燥(「Lyo1」、「Lyo2」および「Lyo3」)スパイクHexaProΔCタンパク質抗原試料および凍結(「凍結」)スパイクHexaProΔCタンパク質抗原試料のUVスペクトルを表す。
【
図21】
図21は、左側のパネルでは、本開示の一定の局面による凍結乾燥(「Lyo」)スパイクHexaProΔCタンパク質抗原試料および凍結(「凍結」)スパイクHexaProΔCタンパク質抗原試料の走査蛍光定量解析の結果を図解する線プロットを表す。
【
図22】
図22は、本開示の一定の局面による凍結乾燥(「Lyo1」、「Lyo2」および「Lyo3」)試料および凍結(「凍結」)試料からのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の、コンフォメーショナルモノクローナル抗体およびACE2受容体に対する結合を試験するためのOctet(登録商標)システムでのBLIによって作成されたプロットを表す。モノクローナル抗体と、Fcフラグメントに融合されたACE2受容体を、バイオセンサー表面に固定化し、凍結し融解した(「凍結」)SARS CoV-2スパイクタンパク質抗原または凍結乾燥し再構成した(「Lyo1」~「Lyo3」)SARS CoV-2スパイクタンパク質抗原のいずれかを溶解した状態で含有しているウェルに、それらのセンサーを移動させ、次に抗原を含有しないウェルに移動させた。抗体およびACE2に対するSARS CoV-2スパイクタンパク質抗原の会合および解離は、センサーと溶液の間の内側面と外側面から反射して分光測光器に戻る光波の間の光学干渉の変化をもたらす。干渉の変化をY軸上にプロットして、結合と解離を示すために使用した。
【
図23】
図23は、本開示の一定の局面による凍結乾燥試料および凍結試料(X軸上に表示、それぞれ3つのマウス群)からのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置された実験マウスの群から採取した血清のSARS-CoV-2 RBDタンパク質の結合(本開示の他の項で説明するようにELISAによって測定し、Y軸上にEC50値として示す)を図解するドットプロットを表す。各点は、1匹の動物からのlog
10EC50値を表す。力価の統計差をスチューデントt検定によって解析したところ、プロットに示すとおり、有意でない(NS)とわかった。
【
図24】
図24は、本開示の一定の局面による凍結乾燥試料および凍結試料(X軸上に示す、それぞれ3つのマウス群)からのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置された実験マウスから採取した血清の中和特性を図解するドットプロットを表す。中和特性は、本開示の一定の局面による、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。表示の時点における異なる群についてIC50値を中和価として示す。各点は、1匹の動物からのlog
10IC50値を表す。
【
図25】
図25は、コンフォメーショナルモノクローナル抗体CB6およびACE2受容体に対する凍結乾燥SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原試料の結合を試験するOctet(登録商標)システムでのBLIによって作成されたプロットを表す。1%、5%または10%スクロース(表示のとおり)を含む10mM重炭酸アンモニウムpH7.8中でSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の試料を凍結乾燥し、10%スクロースを含む10mM重炭酸アンモニウムpH7.8(「AB凍結」)または10%スクロースを含むPBS(「PBS」)中でSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の試料を凍結させた。モノクローナル抗体と、Fcフラグメントに融合されたACE2受容体を、バイオセンサー表面に固定化し、タンパク質抗原を溶解した状態で含有するウェル中に、それらのセンサーを移動させ、次に抗原を含有しないウェルに移動させた。抗体およびACE2に対するSARS CoV-2スパイクタンパク質抗原の会合および解離は、センサーと溶液の間の内側面と外側面から反射して分光測光器に戻る光波の間の光学干渉の変化をもたらす。干渉の変化をY軸上にプロットして、結合と解離を示すために使用した。それゆえに、nmシフト(Y軸上にプロット)の変化の大きさが、結合の代替物として使用され、ここでは、類似する結合パートナーについては、より大きな変化がより多くの結合を反映する。
【
図26】
図26は、揮発性重炭酸アンモニウム緩衝液中で凍結乾燥されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の特性を試験するサイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱法(SEC-MALS)の結果を図解するプロットを表す。タンパク質を再構成後すぐ(「1日目」)に、および室温で4日間貯蔵した後(「4日目」)に、試験した。
【
図27】
図27は、本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイク融合タンパク質ナノ粒子における操作されたグリコシル化部位の一の概略図である。フェリチンドメインは白色で示されている。操作されたグリコシル化部位においてアスパラギン残基に変異させたリジン残基は黒い球で示されている。操作されたグリコシル化部位においてスレオニン残基に変異させたグルタミン酸残基は灰色の球で示されている。黒い三角形は3回対称軸を表す。
【
図28】
図28は、コンフォメーショナルモノクローナル抗体およびACE2受容体に対する本開示の一定の局面によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の結合を試験するためのOctet(登録商標)システムでのBLIによって作成されたプロットを表す。モノクローナル抗体と、Fcフラグメントに融合されたACE2受容体を、バイオセンサー表面に固定化し、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を溶解した状態で含有するウェル中に、それらのセンサーを移動させ、次に抗原を含有しないウェルに移動させた。抗体およびACE2に対するSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の会合および解離は、センサーと溶液の間の内側面と外側面から反射して分光測光器に戻る光波の間の光学干渉の変化をもたらす。干渉の変化をY軸上にプロットして、結合と解離を示すために使用した。それゆえに、nmシフト(Y軸上にプロット)の変化の大きさが、結合の代替物として使用され、ここでは、類似する結合パートナーについては、より大きな変化がより多くの結合を反映する。プロットの表示は次のとおりである:「オリジナル」-スパイクHexaProΔCフェリチン;「D614G」-スパイクHexaProΔCフェリチンD614G;「B.1.1.7」-スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.1.7;「B.1.351」-スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.351;「LA」-スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.429;「P1」-スパイクHexaProΔCフェリチンP1。
【
図29】
図29は、本開示の一定の局面による6種のシュードウイルスのパネルに対するSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の中和活性(SARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルス中和アッセイを使って決定)の「ヒートマップ」を表す。SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を、各「ヒートマップ」のx軸上に列挙し、次のとおりに表示する:「オリジナル」-スパイクHexaProΔCフェリチン;「D614G」-スパイクHexaProΔCフェリチンD614G;「B.1.1.7」-スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.1.7;「B.1.351」-スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.351;「LA」-スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.429;「P1」-スパイクHexaProΔCフェリチンP1。試験したシュードウイルスは各ヒートマップのy軸にプロットされており、SARS-CoV-2 Wuhan(武漢)-1株(「WT」と記す)、D614G、B.1.429、B1.1.7、P1およびB.1.351に基づく。ヒートマップの各値は、特定シュードタイプウイルスに対する、同じSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置されたマウスからのプール血清のlog
10IC50値である。
【
図30A】
図30Aは、本開示の一定の局面に従ってスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)およびアラムで免疫処置されたマウス5匹の群における中和応答の試験を図解する棒グラフである。表示の時点における異なる群についてIC50値を中和価として示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の時点について平均IC50値をバーの下に示す。
【
図30B】
図30Bは、本開示の一定の局面に従ってスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)およびアラムで免疫処置し、初回免疫処置の21日後にブーストしたマウス5匹の群における中和応答の試験を図解する棒グラフである。表示の時点における異なる群についてIC50値を中和価として示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の時点について平均IC50値をバーの下に示す。
【
図31A】
図31Aは、本開示の一定の局面に従って、アラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス10匹の群における、野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体(バーの上に表示)に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の時点について平均IC50値をバーの下に示す。
【
図31B】
図31Bは、本開示の一定の局面に従って、アラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置し、初回免疫処置の21日後にブーストしたマウス10匹の群における、野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体(バーの上に表示)に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の時点について平均IC50値をバーの下に示す。
【
図32A】
図32Aは、本開示の一定の局面に従って、アラムおよびCpGをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス10匹の群における、野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体(バーの上に表示)に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。平均IC50値をバーの下に示す。
【
図32B】
図32Bは、本開示の一定の局面に従って、アラムおよびCpGをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置し、初回免疫処置の21日後にブーストしたマウス10匹の群における、野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体(バーの上に表示)に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。平均IC50値をバーの下に示す。
【
図33】
図33は、本開示の一定の局面に従って、x軸上に示す異なる用量のアラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス5匹の群における、野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体(バーの上に表示)に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。プロットの上に示すように、各アラム用量につき1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の時点における異なる群について中和価として平均IC50値を示す。
【
図34A】
図34Aは、本開示の一定の局面に従って、異なる量のアラム(x軸上に示す)を単独でまたは20μgのCpGと組み合わせて(x軸の下に示す)アジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス5匹の群における野生型SARS-CoV-2に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。各アラム用量につき1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした(x軸の下に示すとおり)。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の群および時点のそれぞれについてプール試料の異なる群についての中和価として平均IC50値を示す。
【
図34B】
図34Bは、本開示の一定の局面に従って、異なる量のアラム(x軸上に示す)を単独でまたは20μgのCpGと組み合わせて(x軸の下に示す)アジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス5匹の群における、SARS-CoV-2のB.1.421変異体に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。各アラム用量につき1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした(x軸の下に示すとおり)。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の群および時点のそれぞれについてプール試料の異なる群についての中和価として平均IC50値を示す。
【
図34C】
図34Cは、本開示の一定の局面に従って、異なる量のアラム(x軸上に示す)を単独でまたは20μgのCpGと組み合わせて(x軸の下に示す)アジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス5匹の群における、SARS-CoV-2のB.1.1.7.変異体に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。各アラム用量につき1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした(x軸の下に示すとおり)。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の群および時点のそれぞれについてプール試料の異なる群についての中和価として平均IC50値を示す。
【
図34D】
図34Dは、本開示の一定の局面に従って、異なる量のアラム(x軸上に示す)を単独でまたは20μgのCpGと組み合わせて(x軸の下に示す)アジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス5匹の群における、SARS-CoV-2のB.1.351変異体に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。各アラム用量につき1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした(x軸の下に示すとおり)。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の群および時点のそれぞれについてプール試料の異なる群についての中和価として平均IC50値を示す。
【
図34E】
図34Eは、本開示の一定の局面に従って、異なる量のアラム(x軸上に示す)を単独でまたは20μgのCpGと組み合わせて(x軸の下に示す)アジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス5匹の群における、SARS-CoV-2のB.1.617.2変異体に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。各アラム用量につき1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした(x軸の下に示すとおり)。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の群および時点のそれぞれについてプール試料の異なる群についての中和価として平均IC50値を示す。
【
図34F】
図34Fは、本開示の一定の局面に従って、異なる量のアラム(x軸上に示す)を単独でまたは20μgのCpGと組み合わせて(x軸の下に示す)アジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウス5匹の群における、SARS-CoV-2のP.1変異体に対する中和応答の試験を図解する棒グラフである。各アラム用量につき1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした(x軸の下に示すとおり)。異なる群について中和価としてIC50値を示す。各点は個々のマウスからの血清試料を表す。表示の群および時点のそれぞれについてプール試料の異なる群についての中和価として平均IC50値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本発明者らは、SARS-CoV-2スパイクエクトドメインの各バージョンをその表面にディスプレイするナノ粒子へと自己集合する、SARS-CoV-2スパイクエクトドメインポリペプチドとフェリチンとの融合タンパク質(「SARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質」)を設計し、作製し、特徴付けた。SARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質のいくつかのバージョンは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の完全長エクトドメインを含有する。別のバージョンは、C末端欠失(一例として70アミノ酸のC末端欠失)を有するSARS-CoV-2スパイクタンパク質エクトドメインを含有する。本発明者らは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質アミノ酸配列におけるC末端欠失が、結果として生じる融合タンパク質の哺乳動物細胞における発現をかなり改良することを、発見した。本発明者らは、ナノ粒子の表面での、SARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質の各バージョンにおけるスパイクドメインの、ネイティブ様コンフォメーションへの適正なフォールディングを、クライオEM、サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱法(SEC-MALS)、ならびにACE2受容体および/または1種もしくは複数種のスパイク特異的モノクローナル抗体に対するSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質の結合を測定するバイオレイヤー干渉法(BLI)によって確認した。本発明者らは、実験動物におけるSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質の免疫原性を、他のSARS-CoV-2 融合タンパク質抗原との比較を含めて試験した。SARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質によるマウスの単回免疫処置後に、レンチウイルスCoV-2シュードウイルスアッセイを使って決定したところ、本発明者らは、ヒト回復期血漿に見られるものと同等かそれを上回る中和抗体量を観察した。対照的に、SARS-CoV-2スパイクのCoV-2受容体結合ドメイン(RBD)または単離されたスパイク三量体のいずれかによる1回の免疫処置で誘発される中和抗体応答は、それよりはるかに弱かった。本発明者らは、免疫原として使用したSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質に対して実験動物において生成した抗体のSARS-CoV-2ウイルス中和特性も試験した。本発明者らは、予想外にも、ナノ粒子に自己集合することができるSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質が、実験動物において、他のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原と比べて有意に強い抗原特異的な中和抗体応答を誘発することを発見した。本発明者らは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質エクトドメインアミノ酸配列中にC末端欠失を有するSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質(「C末端欠失」)が、試験したすべての抗原の中で最も高い中和抗体応答を実験動物において誘発することを、さらに発見した。SARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質が哺乳動物細胞における生産後にナノ粒子に自己集合する能力を持つこと、達成される発現レベルはSARS-CoV-2スパイクタンパク質のエクトドメインの発現レベルに匹敵すること、および強化された免疫応答がSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質によって誘発されることから、SARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質(SARS-CoV-2スパイクタンパク質エクトドメインアミノ酸配列中にC末端欠失を有するスパイク-フェリチン融合タンパク質を含む)は、SARS-CoV-2に対するサブユニットワクチンまたは核酸ワクチンにおいて使用することができると、本発明者らは認識した。
【0011】
本発明者らは、C末端欠失と2つ以上のプロリン置換とを持つ数種のSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質を試験して、C末端欠失と6個のプロリン置換とを持つSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質が、C末端欠失と2つのプロリン置換とを持つSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質と同等に免疫原性であることを発見した。さらにまた、C末端欠失と6個のプロリン置換とを持つSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質の発現および精製収率は、C末端欠失と6個未満のプロリン置換を持つSARS-CoV-2スパイクフェリチン融合タンパク質の場合よりも、予想外に著しく高かった。本発明者らは、C末端欠失と6個のプロリン置換とを持つSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質を数バージョン作製し、試験した。これらのバージョンは、コロナウイルススパイクタンパク質の天然に存在する変異体に基づき、実験動物に投与したところ、高い中和活性を持つ抗体を誘発した。本発明者らは、凍結乾燥後に再構成したSARS-CoV-2スパイク-フェリチン融合タンパク質がその構造と免疫原性を保っていることを見いだした。さらにまた、本発明者らは、フェリチンドメインを免疫系から遮蔽し、フェリチンドメインに対する免疫応答を減少させる(よって、本発明者らが案出した抗SARS-CoV-2ワクチンに対する非生産的な免疫応答を最小限に抑える)ために、フェリチンドメイン中に人工的グリコシル化部位を持つSARS-CoV-2スパイクフェリチン融合タンパク質抗原を、工学的に作製した。
【0012】
上記の発見に基づき、本発明者らは、さまざまな態様のコロナウイルススパイク-フェリチン融合タンパク質、そのような融合タンパク質で構成されるナノ粒子、コロナウイルススパイク-フェリチン融合タンパク質をコードする核酸、核酸コンストラクトおよびベクター、ならびにコロナウイルススパイク-フェリチン融合タンパク質の製造および使用に関係する細胞、組成物、キットおよび方法を案出した。本開示にはそれらが記載されている。コロナウイルススパイク-フェリチン融合タンパク質のナノ粒子の製造には、単一の発現プラスミドしか必要ない。コロナウイルススパイク-フェリチン融合タンパク質の発現と精製は、可溶性タンパク質のための標準的プロトコールを使って実行し、スケール変更することができ、精製された融合タンパク質は均一なナノ粒子集団に自己集合する。対照的に、別々の構成要素から組み立てられるナノ粒子の場合は、構成要素を個別に作製し、精製後コンジュゲーション工程においてそれらをコンジュゲートする必要があり、それによって収率が激しく低下し、不均一なナノ粒子集団が作製される可能性がある。本発明者らが案出して本開示に記載するコロナウイルススパイク-フェリチン融合タンパク質ならびに関連する核酸、核酸コンストラクト、ベクター、細胞、組成物、キットおよび方法は、限定するわけではないが、タンパク質または核酸に基づく免疫原性組成物(ワクチン)の開発および製造などといったさまざまな応用に、そしてまたコロナウイルス感染に対する免疫応答の誘導、ならびに限定するわけではないがSARS-CoV-2感染を含むコロナウイルス感染の予防または処置に、役立つ。本発明者らが得た実験結果により、コロナウイルススパイクタンパク質エクトドメインをディスプレイするスパイク-フェリチン融合タンパク質のナノ粒子は、対象において、臨床上適切な量の中和抗体を高い信頼性で誘発できることが実証された。したがって、コロナウイルススパイク-フェリチン融合タンパク質およびそのような融合タンパク質をコードする核コンストラクトは、コロナウイルス感染からの防御を誘導するためのワクチン、例えば単回投与ワクチンとして、使用することができる。
【0013】
用語および概念
いくつかの用語および概念を以下に述べる。これらは、本文書の残りの部分および添付の図面と共に、本発明のさまざまな態様の理解を容易にしようとするものである。これらの用語および概念は、本発明の分野において許容されている慣行ならびに本文書および/または添付の図面全体を通して提供される説明に基づいて、さらに明確にされ、理解されうる。他にもいくつかの用語が、この文書の他の項および添付の図面において明示的にまたは暗示的に定義される場合があり、それらは、本発明の分野において許容されている慣行、本文書および/または添付の図面全体を通して提供される説明に基づいて使用され、理解されうる。明示的に定義されない用語も、本発明の分野において許容されている慣行に基づいて定義され、理解され、本文書および/または添付の図面との関連において解釈されうる。
【0014】
文脈上別段の要求がある場合を除き、単数形は複数を包含するものとし、複数形は単数を包含するものとする。一般に、本明細書に記載する細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学ならびにタンパク質および核酸化学に関連して使用される学術用語およびその技法は、周知でよく使用されているものである。公知の方法および技法は、別段の表示がある場合を除き、一般に、周知の従来法に従って実施され、さまざまな一般的参考文献およびより具体的な参考文献に記載されているように実施される。本開示記載の実験手順および実験技法は、周知でよく使用されているものである。
【0015】
本明細書において使用する用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、特に注記がある場合を除き、1つまたは複数を指すことができる。
【0016】
「または」という用語の使用は、代替的選択肢だけを指すと明示的に示されている場合または代替的選択肢が相互に排他的である場合を除き、「および/または」を意味するために使用される。ただし本開示は、代替的選択肢だけを指す定義も、「および/または」を指す定義もサポートする。本明細書において使用する場合、「別の(another)」とは、少なくとももう一つの、またはそれ以上の、を意味することができる。
【0017】
本明細書において使用する「約」および「およそ」という用語は、測定の性質または精度を考慮した上で、測定される量の許容される誤差の程度を、一般に意味するものとする。例示的な誤差の程度は、所与の値または値の範囲の20%(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。「約X」または「およそX」という場合、それはいずれも、少なくとも値X、0.95X、0.96X、0.97X、0.98X、0.99X、1.01X、1.02X、1.03X、1.04Xおよび1.05Xを、具体的に示す。したがって「約X」または「およそX」という表現は、例えば「0.98X」というクレーム限定を教示し、その記載上の裏付けを提供しようとするものである。あるいは、生物系において「約」および「およそ」という用語は、所与の値の一桁以内、好ましくは5分の1~5倍以内、より好ましくは2分の1~2倍以内である値を意味しうる。本明細書において与えられる数量は、別段の言明がある場合を除き、概数である。つまり、わざわざ言明されていなくても、「約」または「およそ」という用語を推定することができる。「約」が数値範囲の冒頭に適用された場合、それはその範囲の両端に適用される。
【0018】
「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために、相互可換的に使用される。この用語は、天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーならびに1つ(または複数)のアミノ酸残基が天然に存在する対応アミノ酸の人工的化学模倣体であるアミノ酸ポリマーに適用される。これらの用語は、アミノ酸残基が共有ペプチド結合によって連結されている、完全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含する。
【0019】
「単離された」または「精製された」ポリペプチドもしくはタンパク質またはポリペプチドもしくはタンパク質の生物学的に活性な部分は、当該ポリペプチドまたはタンパク質がその天然環境に見いだされるときに、通常はそれに付随しまたはそれと相互作用している構成要素を、実質的または本質的に含まない。したがって、単離または精製されたポリペプチドまたはタンパク質は、組換え技法によって生産された場合には他の細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には化学前駆体その他の化学物質を実質的に含まない。細胞物質を実質的に含まないタンパク質としては、夾雑タンパク質が(総タンパク質の)約30%、20%、10%、5%、1%、0.5%または0.1%未満であるタンパク質調製物が挙げられる。本発明のタンパク質またはその生物学的に活性な部分が組換え生産される場合、最適には、培養培地は、(濃度で)約30%、20%、10%、5%、1%、0.5%または0.1%未満の化学前駆体または非関心対象タンパク質化学物質に相当する。
【0020】
「アミノ酸」という用語は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に組み込まれうる任意の単量体単位を指す。アミノ酸には、天然に存在するα-アミノ酸およびそれらの立体異性体、ならびに非天然(天然には存在しない)アミノ酸およびそれらの立体異性体が含まれる。所与のアミノ酸の「立体異性体」とは、同じ分子式および分子内結合を有するが、結合および原子の三次元配置が異なる異性体(例えばL-アミノ酸と対応するD-アミノ酸)を指す。
【0021】
天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされているもの、および後から修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸およびO-ホスホセリンである。天然に存在するα-アミノ酸としては、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、フェニルアラニン(Phe)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、アスパラギン(Asn)、プロリン(Pro)、グルタミン(Gln)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、バリン(Val)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。天然に存在するα-アミノ酸の立体異性体としては、D-アラニン(D-Ala)、D-システイン(D-Cys)、D-アスパラギン酸(D-Asp)、D-グルタミン酸(D-Glu)、D-フェニルアラニン(D-Phe)、D-ヒスチジン(D-His)、D-イソロイシン(D-Ile)、D-アルギニン(D-Arg)、D-リジン(D-Lys)、D-ロイシン(D-Leu)、D-メチオニン(D-Met)、D-アスパラギン(D-Asn)、D-プロリン(D-Pro)、D-グルタミン(D-Gln)、D-セリン(D-Ser)、D-スレオニン(D-Thr)、D-バリン(D-Val)、D-トリプトファン(D-Trp)、D-チロシン(D-Tyr)、およびそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0022】
非天然(天然には存在しない)アミノ酸としては、天然に存在するアミノ酸と類似する様式で機能する、L-立体配置またはD-立体配置にあるアミノ酸類似体、アミノ酸模倣体、合成アミノ酸、N置換グリシンおよびN-メチルアミノ酸が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。例えば「アミノ酸類似体」は、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造(すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基に結合した炭素)を有するが、修飾された側鎖基または修飾されたペプチド主鎖を有する非天然アミノ酸、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムであることができる。「アミノ酸模倣体」とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化学化合物を指す。アミノ酸は、一般に公知の三文字記号によって、またはIUPAC-IUB生化学命名委員会の勧告による一文字記号によって言及されうる。
【0023】
「保存的に改変された変異体」という表現および関連する表現は、アミノ酸配列にも、アミノ酸配列をコードする核酸配列にも適用しうる。核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列またはタンパク質配列における置換、欠失または付加であって、コードされている配列中の単一のアミノ酸またはごく一部のアミノ酸を変化させ、付加し、または欠失させるものは、その変化が化学的に類似するアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらす場合には、「保存的に改変された変異体」である。機能的に類似するアミノ酸を与える保存的置換表は、当技術分野において周知である。そのような保存的に改変された変異体は、多型変異体、種間ホモログおよび本発明のアレルに加えられ、それらを除外するものではない。以下の8つの群は、それぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含んでいる。
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)。
【0024】
「核酸」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」という用語ならびに関連する用語および表現は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそれらのポリマーを指す。本開示において述べる核酸配列は、限定するわけではないが一本鎖型、二本鎖型、ヘアピン、ステム-ループ構造などを含めて、あらゆる形態の核酸を包含する。RNA配列が望まれる場合、それに対応するDNA配列も記載され、その場合、ウリジンはチミジンとして表される。DNA配列が望まれる場合、それに対応するRNA配列も記載され、その場合、チミジンはウリジンとして表される。別段の具体的限定がある場合を除き、「核酸」という用語ならびに関連する用語および表現は、リファレンス核酸と類似する特性を有し天然に存在するヌクレオチドと同様に代謝される天然ヌクレオチドの公知の類似体を含有する核酸を包含する。核酸配列はデオキシリボ核酸とリボ核酸との組合せを含むことができる。そのようなデオキシリボ核酸およびリボ核酸には、天然に存在する分子と合成類似体とが、どちらも含まれる。別段の表示がある場合を除き、特定の核酸配列は、明示的に示された配列だけでなく、縮重コドン置換体、アレル、オルソログ、SNPおよび相補配列も、暗示的に包含する。縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作製することによって達成されうる。
【0025】
核酸配列またはアミノ酸配列の説明に関連して使用される「同一性」、「実質的同一性」、「類似性」、「実質的類似性」、「相同性」という用語ならびに関連する用語および表現は、リファレンス配列に対して少なくとも60%の配列同一性を有する配列を指す。例えば標準的パラメータを使用するBLASTなどの、核酸またはアミノ酸配列を比較するためのプログラムを使ったリファレンス配列との比較で、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性が、例として挙げられる。配列比較では、通例、一つの配列がリファレンス配列としての役割を果たし、被検配列がそれと比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合は、テスト配列とリファレンス配列がコンピュータに入力され、必要であれば部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルト(標準的)プログラムパラメータを使用すること、または代替パラメータを指定することができる。次に配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づき、リファレンス配列に対して、被検配列の配列同一性パーセントを計算する。「比較ウインドウ」は、連続する位置の数(20~600、通常は約50~約200、より一般的には約100~約150)のうちのいずれか一つのセグメントであって、そのセグメント内で、配列が、同じ連続する位置の数のリファレンス配列と、それら2つの配列を最適にアラインメントした後に比較されうるものへの言及を包含する。比較のために配列をアライメントする方法は周知である。比較のための配列の最適なアライメントは、例えばSmith and Waterman,1981の局所相同性(local homology)アルゴリズム、Needleman and Wunsch,1970の相同性アライメント(homology alignment)アルゴリズム、Pearson and Lipman,1988の類似性検索法(search for similarity method)、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装(例えばBLAST)、または手作業によるアライメントと目視検査によって、実行されうる。
【0026】
配列同一性パーセントおよび配列類似性パーセントを決定するのに適したアルゴリズムとしては、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムが挙げられ、それらは、それぞれAltschul et al.,1990およびAltschul et al.,1977に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)ウェブサイトで公的に利用可能である。このアルゴリズムでは、まず、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントしたときに、何らかの正の値を持つ閾スコアTとマッチするか、またはそれを満たす、クエリ配列中の長さWの短いワードを同定することによって、高スコアリング配列ペア(high scoring sequence pair)(HSP)を同定する。Tは近隣ワードスコア閾(neighborhood word score threshold)と呼ばれる。これらの初期近隣ワードヒットは、それらを含有するさらに長いHSPを見いだすための検索を開始するためのシードとしての役割を果たす。次に、このワードヒットは、累積アラインメントスコアを増加させることができる限り、各配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合は、パラメータM(マッチ残基のペアに対する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基に対するペナルティスコア;常に<0)を使って算出される。アミノ酸配列の場合はスコアリングマトリックスを使って累積スコアを算出する。各方向へのワードヒットの伸長は、累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下したとき、または累積スコアが1つまたは複数の減点残基アラインメント(negative-scoring residue alignment)によってゼロ以下になったとき、またはどちらかの配列の末端に到達したときに、停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXはアラインメントの感度および速さを決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、デフォルト値として、ワードサイズ(W)28、期待値(E)10、M=1、N=-2および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルト値として、ワードサイズ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング行列を使用する(Henikoff and Henikoff,1989)。BLASTアルゴリズムは2つの配列間の類似性の統計解析も行う(Karlin and Altschul,1993)。BLASTアルゴリズムによって与えられる類似性の尺度の一つは、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間でマッチが偶然に起こる確率の指標を与える最小和確率(smallest sum probability)(P(N))である。例えば、テスト核酸とリファレンス核酸との比較における最小和確率が約0.01未満、より好ましくは約10-5未満、最も好ましくは約10-20未満である場合、その核酸はリファレンス配列と類似しているとみなされる。
【0027】
「抗体」という用語および関連する用語は、別の分子の特定の空間的および極性的構成に結合する免疫グロブリンまたはそのフラグメントを指す。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3、IgG4、IgMなど、さまざまなクラスおよびアイソタイプが含まれる。抗体は、モノクローナル抗体または組換え抗体であることができ、実験技法によって、例えば連続ハイブリッド細胞株を調製して分泌されたタンパク質を収集することによって、または結合に必要なアミノ酸配列を少なくともコードするヌクレオチド配列またはその変異導入バージョンをクローニングし発現させることによって、調製することができる。「抗体」という用語は、天然、人工的に改変および人工的に作製された抗体の形態、例えばヒト化、ヒト、単鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異型、グラフトおよびインビトロ精製抗体ならびにそれらのフラグメントなどを包含する。「抗体」という用語には、限定するわけではないが免疫グロブリン部分を含有する融合タンパク質などといった、複合材料型も含まれる。「抗体」は、非四元型(non-quaternary)抗体構造(例えばラクダ科抗体およびラクダ科抗体誘導体)も指す。抗体フラグメントとしては、Fab、FvおよびF(ab')2、Fab'、scFv、Fd、dAb、Fcなどを挙げることができる。抗体は、特定結合部位に特異的な結合活性を保っている単鎖抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または他の任意の抗体誘導体であってもよい。加えて、免疫グロブリンまたはそれらのフラグメントの凝集体、ポリマーおよびコンジュゲートを、適宜、使用することもできる。
【0028】
「中和抗体」という表現は、ウイルスなどの感染性物質の生活環の1つまたは複数の部分を中和または阻害することによって、それら感染性物質が細胞に感染しないようにすることができる抗体を指しうる。本開示との関連において、中和抗体は、限定するわけではないがSARS-CoV-2などのコロナウイルスが、宿主細胞においてその生活環を完遂するのを防ぐことができる。ウイルス、例えばコロナウイルスの生活環は、宿主細胞へのウイルスの付着で始まり、新たに形成されたウイルスの、宿主細胞からの出芽で終わる。この生活環には、限定するわけではないが、細胞への付着、細胞への侵入、ウイルス膜と宿主細胞膜の融合、細胞質へのウイルスリボヌクレオタンパク質の放出、新しいウイルス粒子の形成および宿主細胞膜からのウイルス粒子の出芽という各段階が含まれる。
【0029】
本開示との関連において使用される場合、「免疫原性」という用語および関連する用語は、タンパク質、ポリペプチドであるか、またはタンパク質もしくはポリペプチドの一領域であることができる抗原の、その特異的抗原に対する免疫応答を、対象において誘発する能力を指す。本開示との関連において、免疫応答とは、抗原に対する体液性および/または細胞性免疫応答の、対象における発達である。「体液性免疫応答」とは、分泌(IgA)またはIgG分子を含む抗体分子によって媒介される免疫応答を指し、一方、「細胞性免疫応答」はTリンパ球および/または他の白血球によって媒介されるものである。細胞性免疫の一つの重要な局面は、細胞溶解性T細胞(cytolytic T-cell:「CTL」)による抗原特異的応答を伴う。CTLは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によってコードされていて細胞の表面に発現するタンパク質と会合して提示されるペプチド抗原に対して特異性を有する。CTLは、細胞内微生物の破壊またはそのような微生物に感染した細胞の溶解を誘導し、促進するのに役立つ。細胞性免疫のもう一つの局面にはヘルパーT細胞による抗原特異的応答が関与する。ヘルパーT細胞は、その表面にMHC分子と会合したペプチド抗原をディスプレイしている細胞に対する非特異的エフェクター細胞の機能を刺激し、その活性を集中させるのを助けるように作用する。細胞性免疫応答は、CD4+T細胞およびCD8+T細胞由来のものを含む、活性化T細胞および/または他の白血球によって産生されるサイトカイン、ケモカインその他同様の分子の産生も指す。したがって免疫原性組成物は、CTLを刺激し、および/またはヘルパーT細胞の産生もしくは活性化を刺激することができる。ケモカインおよび/またはサイトカインの産生も刺激されうる。免疫原性組成物は抗体媒介性免疫応答も誘発しうる。免疫原性組成物は、対象への投与時に以下の効果のうちの1つまたは複数を含みうる:B細胞による抗体の産生;ならびに/またはサプレッサーT細胞、細胞傷害性T細胞、もしくはヘルパーT細胞および/もしくは免疫原性組成物中に存在する抗原タンパク質を特異的に指向するT細胞の活性化。対象において誘発される免疫応答は、コロナウイルス、例えばSARS-CoV-2などのウイルスの感染性を中和し、および/または抗体-補体もしくは抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を媒介して、免疫処置された対象にウイルス感染からの防御を提供するのに役立ちうる。免疫原性組成物によって誘発される免疫応答のさまざまな局面は、標準的アッセイを使って決定することができ、本開示にはそれらの一部を記載する。
【0030】
本開示記載の免疫原性組成物は「ワクチン」ということもできる。免疫原性組成物またはワクチンは、抗原であって、投与したときに対象においてそれらに対する免疫応答を誘発するものを含有しうる。例えば、本開示記載のいくつかの免疫原性組成物またはワクチンは、コロナウイルススパイクタンパク質抗原、例えばSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原であって、投与したときに対象においてそれらに対する免疫応答を誘発することができるものを含有する。免疫原性組成物は、そのような抗原をコードする核酸配列も含有しうる。例えば、本開示記載のいくつかの免疫原性組成物またはワクチンは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原などのコロナウイルススパイクタンパク質抗原をコードする核酸配列を含有する。抗原コード核酸配列を含有する免疫原性組成物は、「核酸ワクチン」と記載しまたは呼ぶことができる。「核酸ワクチン」という表現ならびに関連する用語および表現は、裸のDNAワクチン、例えばプラスミドワクチン、ならびにウイルスベクターに含まれおよび/またはウイルス粒子として送達されるウイルスベクターに基づく核酸ワクチンを包含する。
【0031】
「抗原」という用語は、対象の免疫系を刺激して抗原特異的免疫応答を生じさせることができる1つまたは複数のエピトープ(線状、コンフォメーショナル、またはその両方)を含有する分子、例えばポリペプチドを指す。ポリペプチドエピトープは、約7~15アミノ酸、例えば9、10、12または15アミノ酸を含みうる。例えば「コロナウイルススパイクタンパク質抗原」という表現は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質などのコロナウイルススパイクタンパク質のポリペプチドを指しうる。「抗原」という用語は、「免疫原」という用語と相互可換的にも使用されうる。
【0032】
「ウイルス」は複数の意味でも単数の意味でも使用される。「ビリオン」は単一のウイルスを指す。例えば「コロナウイルスビリオン」という表現はコロナウイルス粒子を指す。
【0033】
コロナウイルスは、哺乳類および鳥類において疾患を引き起こす一群の一本鎖エンベロープRNAウイルスである。コロナウイルス宿主には、コウモリ、ブタ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウサギ、ニワトリおよびシチメンチョウが含まれる。ヒトでは、コロナウイルスは中~重度の気道感染を引き起こす。コロナウイルスはリスク因子が著しくさまざまである。感染した対象の30%超を死亡させうるものもある。ヒトコロナウイルスの例をいくつか挙げる:ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E);ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV);ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63、ニューヘブンコロナウイルス);ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、これは感染したマウスから派生したもので、2005年1月に香港の2人の患者に初めて発見された;中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、これは新型コロナウイルス2012およびHCoV-EMCとしても知られている;および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、これは2019-nCoVまたは「新型コロナウイルス2019」としても知られている(Wu et al.,2020)。ヒトでは、SARS-CoV-2はCOVID-19と呼ばれるコロナウイルス疾患を引き起こし、重い症状と死亡の原因になりうる。
【0034】
スパイクタンパク質(または「Sタンパク質」)は、コロナウイルスビリオンとその宿主細胞の間の受容体結合および膜融合を媒介することができるコロナウイルス表面タンパク質である。コロナウイルスビリオンの表面上の特徴的スパイクはスパイクタンパク質のホモ三量体のエクトドメインによって形成される。コロナウイルススパイクタンパク質は高度にグリコシル化され、さまざまなバージョンが21~35のN-グリコシル化部位を含有している。他のヒト病原性エンベロープRNAウイルス上に見いだされる三量体糖タンパク質と比較して、コロナウイルススパイクタンパク質はかなり大きく、全部で三量体あたり700kDa近くになる。コロナウイルススパイクタンパク質のエクトドメインは、宿主細胞表面上の受容体の結合を担うS1と呼ばれるN末端ドメインと、融合を担うC末端のS2ドメインとを含有している。SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1ドメインは宿主細胞のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合することができる。SARS-CoV-2スパイクタンパク質S1ドメインのうち、ACE2を認識する領域は、受容体結合ドメイン(RBD)と呼ばれる25kDaのドメインである(Walls et al.,2020)。独立したポリペプチドとして発現された場合、RBDは、ACE2に結合することができる機能的に折り畳まれたドメインを形成することができる。さまざまなコロナウイルスでは、スパイクタンパク質が、ビリオンの集合およびエキソサイトーシス中に切断される場合も切断されない場合もある。大半のアルファコロナウイルスとベータコロナウイルスSARS-CoVでは、ビリオンが切断されていないスパイクタンパク質を保持するが、SARS-CoV-2を含むいくつかのベータコロナウイルスのビリオンおよび公知のガンマコロナウイルスでは、スパイクタンパク質がS1ドメインとS2ドメインの間で切断された状態で見いだされる。これらのビリオンにおいて、スパイクタンパク質は典型的には、ゴルジ体に常在する(Golgi-resident)宿主プロテアーゼであるフューリンによって切断される。したがって、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の天然に存在するまたは「野生型」のアミノ酸配列(これは最初のウイルスSARS-CoV-2分離株、Wuhan-Hu-1の配列であるとみなされている)は、S1ドメインとS2ドメインの間にフューリン切断部位を含有している。コロナウイルススパイクタンパク質のS2ドメインは、2つのヘプタッドリピートHR1およびHR2を含有し、それらは、融合プロセスに関与するコイルドコイルの形成に特有の反復ヘプタペプチドを含有する。COVID-19患者からの血清を解析すると、抗体がスパイクタンパク質に対して誘発されること、そして抗体は宿主細胞へのウイルスの侵入を阻害できることが実証される(Brouwer et al.,2020)。SARS-CoV-2スパイクタンパク質の最初のクライオEM構造はWrapp et al.,2020に記載されている。
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の「野生型」アミノ酸配列-SEQ ID NO:1
【0035】
タンパク質またはポリペプチドの「ドメイン」とは、そのタンパク質またはポリペプチドのうち、構造的特性および/または機能的特性によって画定される一領域を指す。例示的な機能的特性としては、酵素活性および/または別のタンパク質もしくは非タンパク質実体に結合する能力または結合される能力が含まれる。例えばコロナウイルススパイクタンパク質はS1ドメインとS2ドメインを含有する。
【0036】
「オリゴマー」という用語および関連する用語は、ポリペプチドまたはタンパク質に関連して使用される場合、2つ以上のポリペプチドまたはタンパク質単量体によって形成される複合体を指し、前記単量体は「サブユニット」または「鎖」ということもできる。例えば三量体は3つのポリペプチドサブユニットによって形成されるオリゴマーである。
【0037】
「融合タンパク質」、「融合ポリペプチド」という用語および関連する用語は、人工ポリペプチド分子または操作されたポリペプチド分子を含むポリペプチド分子であって、事前に別々のポリペプチド分子に見いだされていた2つ以上のアミノ酸配列を含み、それら2つ以上のアミノ酸配列が融合タンパク質アミノ酸配列に接合または連結されて単一のポリペプチドを形成しているものに関する。例えば融合タンパク質は、ペプチド結合によって一つに連結されることで単一のタンパク質を作っている少なくとも2つの無関係なタンパク質からのアミノ酸配列を含有する操作された組換えタンパク質であることができる。この分脈において、タンパク質は、それらのアミノ酸配列が、それぞれの天然環境において、例えば細胞の内部において、ペプチド結合によって一つに連結した状態では通常見いだされないのであれば、無関係であるとみなされる。例えば本開示は、無関係なタンパク質であるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列とフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列とを含む融合タンパク質を記載する。融合タンパク質のアミノ酸配列は、転写および翻訳されて単一のポリペプチドを生じさせるように「インフレーム」に連結された、対応する核酸配列によってコードされる。融合タンパク質のアミノ酸配列は連続しているか、または1つもしくは複数のスペーサー、リンカーもしくはヒンジ配列によって分離されていてもよい。融合タンパク質は、例えばシグナル配列、タグ配列および/またはリンカー配列などの追加のアミノ酸配列を含むことができる。
【0038】
フェリチンは、無機物コア(mineralized core)に水和鉄イオンおよびプロトンを出し入れすることにより、多核Fe(III)
2O
3形成の速度と場所を制御するように働く、動物、細菌および植物に見いだされる球状タンパク質である。球状のフェリチンは、およそ17~20kDaの分子量を有するポリペプチドである単量体サブユニットタンパク質(単量体フェリチンサブユニットともいう)でできている。そのような単量体フェリチンサブユニットの配列の一例はSEQ ID NO:2で表される。各単量体フェリチンサブユニットは、4本逆平行ヘリックスモチーフを含むヘリックス束のトポロジーを有し、5番目の短いヘリックス(c末端ヘリックス)が4ヘリックス束の長軸に対してほぼ垂直に位置している。慣例上、これらのヘリックスはそれぞれN末端から順に「A、B、CおよびDならびにE」と表示される。N末端配列は、キャプシド三回軸に隣接して位置し、表面に向かって伸びており、一方、Eヘリックスは4回軸にまとまっていて、C末端が粒子コア中に伸びている。このパッキングの結果として、キャプシド表面には2つの穴が作り出される。これらの穴の一方または両方が、水和鉄がキャプシド内におよびキャプシド外に拡散する点になると予想される。これらの単量体フェリチンサブユニットタンパク質は、産生後に自己集合して、球状のフェリチンタンパク質になる。したがって球状のフェリチンは24個の単量体フェリチンサブユニットタンパク質を含み、432対称性を有するキャプシド様構造を有する。
N末端の最初の5アミノ酸が欠失しているピロリ菌フェリチンサブユニットのアミノ酸配列-SEQ ID NO:2
【0039】
「個体」、「対象」および「患者」という用語は、非ヒト動物またはヒトを指すために、本開示では相互可換的に使用することができる。対象の例としては、ヒトおよび非ヒト霊長類を含む他の霊長類、例えばチンパンジーおよび他の類人猿、ならびにサル種;農用動物、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、アザラシ(seals)、ヤギおよびウマ;家畜、例えばイヌおよびネコ;齧歯類を含む実験動物、例えばマウス、ラットおよびモルモット;家禽、野鳥および猟鳥を含む鳥類、例えばニワトリ、シチメンチョウおよび他のキジ目の鳥、アヒル、ガチョウなどが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。個体、対象および患者という用語それ自体は、特定の年齢、性別、人種または臨床状態を表さない。したがって、雌雄を問わず、任意の年齢の対象が、本開示によってカバーされ、これには高齢者、成人、小児、乳幼児(baby、infant、toddler)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。同様に、本発明の方法は、例えばコーカソイド(白人)、アフリカ系アメリカ人(黒人)、アメリカ先住民、ハワイ先住民、ヒスパニック系、ラテン系アメリカ人、アジア人、欧州人を含む任意の人種に応用することができる。感染した対象とは、コロナウイルスなどの感染性生物、例えばSARS-CoV-2に感染していることが既知の対象である。
【0040】
「投与する」または「投与」という用語は、本開示記載の組成物の対象への投与という分脈(および関連する用語および表現)において使用される場合には、体外に存在する物質(例えば本開示記載の免疫原性組成物)を対象内に物理的に送達する行為を指す。投与は、粘膜、皮内、静脈内、筋肉内、皮下送達および/または他の任意の公知の物理的送達方法によることができる。投与は、医療従事者による対象への投与または自己投与などの直接的投与と、本開示記載の組成物を処方する行為であってもよい間接的投与とを包含する。
【0041】
「グリコシル化」という用語ならびに関連する用語および表現は、ポリペプチドまたはタンパク質分子の一定のアミノ酸に炭水化物部分(「グリカン」ともいう)を付加する、タンパク質およびポリペプチドの翻訳後修飾のプロセスおよび/または結果を指す。N結合型グリコシル化では、炭水化物部分がアスパラギンに付加される。O結合型グリコシル化では、炭水化物部分がセリンまたはスレオニンに付加される。炭水化物部分の取り付けはコンセンサスアミノ酸配列(「コンセンサス配列」)の認識を必要とする。
【0042】
融合タンパク質およびナノ粒子
本開示では、コロナウイルスのスパイクタンパク質(「コロナウイルススパイクタンパク質」)のアミノ酸配列とフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列とを含む融合タンパク質が提供され、それらは本発明の態様に含まれる。本発明の態様による融合タンパク質に含まれるコロナウイルススパイクタンパク質アミノ酸配列は、「スパイクポリペプチド」、「スパイクタンパク質ドメイン」または「スパイクドメイン」ということもでき、一方、フェリチンサブユニットポリペプチドアミノ酸配列は、「フェリチンアミノ酸配列」、「フェリチン」、「フェリチンドメイン」または「フェリチンポリペプチド」ということができる。上記アミノ酸配列に加えて、本発明の態様による融合タンパク質は、限定するわけではないが、例えばスパイクドメインおよびフェリチンドメイン以外のポリペプチドドメインのアミノ酸配列、リンカー配列、シグナル配列、タグなどといった、他のアミノ酸配列を含むことができる。それら他のアミノ酸配列のいくつは本開示の他の項に記載する。
【0043】
本発明の態様による融合タンパク質に含まれるコロナウイルススパイクタンパク質のアミノ酸配列は、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルスまたはデルタコロナウイルスなど、任意のコロナウイルスからのスパイクタンパク質配列であることができる。本開示記載の融合タンパク質のいくつかの態様は、ヒトに感染することができるコロナウイルス(「ヒトコロナウイルス」)の、例えば限定するわけではないがヒトベータコロナウイルスの、例えばSARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2の、スパイクタンパク質のアミノ酸配列を含む。本開示記載の融合タンパク質のいくつかの態様は、非ヒト動物に感染することができるコロナウイルスの、例えば限定するわけではないが、BatCoV RaTG13、コウモリSARSr-CoV ZXC21、コウモリSARSr-CoV ZC45、BatSARSr-CoV WIV1、または例えばZhang et al.,2020に記載の他のコロナウイルスの、スパイクタンパク質のアミノ酸配列を含む。コロナウイルススパイクタンパク質配列は、スパイクタンパク質の完全または部分アミノ酸配列、スパイクタンパク質のフラグメントのアミノ酸配列、または天然に存在する変異体および人工的に作製した変異体を含むスパイクタンパク質の変異体のアミノ酸配列であってよいと、理解されるべきである。スパイクタンパク質アミノ酸配列の例示的変異体のいくつかは、天然に循環しているSARS-CoV-2変異体に見いだされる変異体、例えば限定するわけではないが、変異体D614G、B.1.1.7(「アルファ変異体」としても公知である)、B.1.429(「LA変異体」としても公知である)、P1(「ガンマ変異体」としても公知である)およびB.1.351(「ベータ変異体」としても公知である)、またはB.1.617.2(「デルタ変異体」としても公知である)である。
【0044】
融合タンパク質のいくつかの態様は、コロナウイルススパイクタンパク質またはその一部分の天然に存在する(または「野生型」)アミノ酸配列を含有しうる。そのような野生型配列の限定でない例のいくつかは、コロナウイルススパイクタンパク質のS1ドメインの野生型アミノ酸配列;コロナウイルススパイクタンパク質のRBDドメインの野生型アミノ酸配列;または1つもしくは複数のC末端、N末端もしくは中央部分が欠失しているコロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。一例は、HR2アミノ酸配列を包含するC末端欠失を持つコロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列の他のいくつかの例は、天然に存在するSARS-CoV-2株に見いだされる、SEQ ID NO:1と比較した場合の変異を含有する配列であり、これを「変異体」ということもできる。そのような例の一つは、SARS-CoV-2変異体系統B.1.1.7においてSARS-CoV-2 VUI 202012/01株に見いだされるように、(SEQ ID NO:1に関して)残基69~70および残基144の欠失を有する、コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。もう一つの例は、SARS-CoV-2変異体D614Gに見いだされるように、(SEQ ID NO:1に関して)残基614にD→G置換を有する、コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。もう一つの例は、SARS-CoV-2変異体B.1.429に見いだされるように、(SEQ ID NO:1に関して)置換S13I、W152C、L452RおよびD614Gを有する、コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。別の一例は、SARS-CoV-2変異体P1に見いだされるように、(SEQ ID NO:1に関して)置換L18F、T20N、P26S、D138Y、R190S、K417T、E484K、N501Y、D614G、H655Y、T1027Iを有する、コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。さらに別の一例は、SARS-CoV-2変異体B.1.351に見いだされるように、(SEQ ID NO:1に関して)置換L18F、D80A、D215G、242-244 del、R246I、K417N、E484K、N501Y、D614G、A701Vを有する、コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。もう一つの例は、SARS-CoV-2変異体B.1.1.7に見いだされるように、(SEQ ID NO:1に関して)残基69~70および残基144の欠失と(SEQ ID NO:1に関して)置換N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118Hとを有する、コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。もう一つの例は、SARS-CoV-2変異体B.1.617.2に見いだされるように、(SEQ ID NO:1に関して)残基156~157の欠失と(SEQ ID NO:1に関して)置換T19R、G142D、R158G、L452R、T478K、D614G、P681RおよびD950Nとを有する、コロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列である。さらなる一例は、コロナウイルススパイクタンパク質内のHR2アミノ酸配列の前に数残基(例えば1~5)の欠失を有する、他の天然に存在する株の配列を含む。コロナウイルススパイクタンパク質の上記アミノ酸配列の特徴のいくつかを表1に要約する。本開示によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のいくつかの例には、限定するわけではないが上で述べ、上で要約したものを含むコロナウイルススパイクタンパク質の野生型アミノ酸配列のさまざまな特徴および変異が、さまざまな組合せおよび副組合せで見いだされうると理解すべきである。
【0045】
(表1)コロナウイルススパイクタンパク質のアミノ酸配列に見いだされる例示的特徴(SEQ ID NO:1に関して)
【0046】
融合タンパク質のいくつかの態様は、コロナウイルススパイクタンパク質またはその一部分の人工的に改変されたアミノ酸配列を含有しうる。いくつかの非限定的な例では、人工的に改変されたアミノ酸配列は、コロナウイルススパイクタンパク質配列の野生型アミノ酸配列の1つまたは複数の特徴、例えば限定するわけではないが、本開示で述べるものを含有しうる。いくつかの例示的な態様では、コロナウイルススパイクタンパク質配列の野生型アミノ酸配列の特徴を、天然に存在する配列には見いだされない形で組み合わせうる。例えば、コロナウイルススパイクタンパク質またはその一部分の人工的に改変されたアミノ酸配列は、2つ以上の天然に循環しているSARS-CoV-2変異体、例えば限定するわけではないが変異体D614G、B.1.1.7、B.1.429、B.1.351、P1およびB.1.617.2のそれぞれからの1つまたは複数の特徴を含みうる。そのような人工的に改変された配列の他のいくつかの非限定的な例は、コロナウイルススパイクタンパク質のS1ドメインの人工的に改変されたアミノ酸配列;コロナウイルススパイクタンパク質のRBDドメインの人工的に改変されたアミノ酸配列;または1つもしくは複数のC末端、N末端または中央部分が欠失しているコロナウイルススパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列、例えばHR2アミノ酸配列を包含するC末端欠失を持つコロナウイルススパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列である。融合タンパク質のいくつかの例示的な態様は、S2ドメイン中にHR2アミノ酸配列を包含するC末端欠失を持つ、天然に存在するまたは人工的に改変された、コロナウイルススパイクタンパク質アミノ酸配列を含有する。例えばコロナウイルススパイクタンパク質アミノ酸配列は、HR2アミノ酸配列の欠失を含有するか、またはS2ドメインのC末端アミノ酸のうちの70個以下、60個以下もしくは50個以下、例えば50~70個の欠失を含有しうる。コロナウイルススパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、野生型配列と比較してさまざまなアミノ酸改変を含有しうる。例えばコロナウイルススパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、グリコシル化部位を除去または付加する変異を含有しうる。別の一例において、コロナウイルススパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、フューリン認識部位などのプロテアーゼ認識部位を除去する1つまたは複数の変異を含有しうる。別の一例において、コロナウイルススパイクタンパク質の人工的に改変されたアミノ酸配列は、スパイクドメインのコンフォメーションに影響を及ぼす1つまたは複数の変異、例えばスパイクドメインを融合前コンフォメーションで安定化する変異を含有しうる。野生型SARS-CoV-2スパイクタンパク質配列のいくつかの例示的な改変は、例えばAmanat et al.,2020およびHhsieh et al.,2020に記載されている。Amanat et al.,2020に記載のSEQ ID NO:3は、フューリン切断部位PRAR配列がアラニンに変異していて(SEQ ID NO:1および3の残基667)、SEQ ID NO:1の残基968および969にプロリン置換を持つ、人工的に改変されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質配列である。Hhsieh et al.,2020に記載のSEQ ID NO:14は、6つのプロリン置換F817P、A892P、A899P、A942P(いずれもSEQ ID NO:1に関する表記)ならびにSEQ ID NO:1の残基968および969におけるプロリン置換を持つ、人工的に改変されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質配列(「HexaPro」)である。
人工的に改変されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質配列-SEQ ID NO:3;PRARフューリン切断部位のアラニンへの変異とプロリン置換はボールド体で示されている
人工的に改変されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質配列「HexaPro」-SEQ ID NO:14;プロリン置換はボールド体で示されている
【0047】
いくつかの態様では、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質アミノ酸配列の野生型または人工的に改変されたアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列である。いくつかの態様では、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列が、野生型のSARS-CoV-2スパイクタンパク質アミノ酸配列または人工的に改変されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質アミノ酸配列のアミノ酸配列の一部分に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列である。場合により、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質は、1つまたは複数のアミノ酸残基置換を含む保存的に改変された変異体スパイクタンパク質である。場合により、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質は、タンパク質のC末端、N末端および/または中央部分に1つまたは複数のアミノ酸残基の欠失を含む。場合により、欠失は1つまたは複数の連続アミノ酸残基を含みうる。場合により、欠失は1つまたは複数の非連続アミノ酸残基を含みうる。場合により、スパイクタンパク質は、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸残基の欠失を含みうる。場合により、スパイクタンパク質は、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100個のアミノ酸残基の欠失、例えば10~15、15~30、25~50、10~50または50~100個のアミノ酸残基の欠失を含みうる。例えば、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1の残基15~1146、SEQ ID NO:1の残基15~1213またはSEQ ID NO:1の残基1~1146に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列でありうる。いくつかの態様において、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列である。いくつかの態様において、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:4に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列である。いくつかの態様において、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:14に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列である。いくつかの態様において、本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:15に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列である。
人工的に改変された部分SARS-CoV-2スパイクタンパク質配列-SEQ ID NO:4
人工的に改変された部分SARS-CoV-2スパイクタンパク質配列-SEQ ID NO:15
【0048】
本発明の態様による融合タンパク質はフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列(「フェリチンアミノ酸配列」)を含む。フェリチンアミノ酸配列は、全長単一フェリチンポリペプチドのアミノ酸配列、または単量体フェリチンサブユニットのオリゴマーへの自己集合を指示することができるフェリチンアミノ酸配列の任意の部分であることができる。フェリチンアミノ酸配列を含む融合タンパク質は例えば米国特許第7,097,841号に記載されている。単量体フェリチンサブユニットがオリゴマーまたはナノ粒子に自己集合することができる限り、任意のフェリチンタンパク質の単量体フェリチンサブユニットのアミノ酸配列またはその部分を使って、本開示の融合タンパク質を製造することができる。フェリチンタンパク質のアミノ酸配列は、オリゴマーまたはナノ粒子に自己集合する能力に影響を及ぼすことなく、変化させることができる。そのような変化には、アミノ酸残基の挿入、アミノ酸残基の欠失、またはアミノ酸残基の置換が含まれる。例えば、本発明の態様による融合タンパク質に含まれる単量体フェリチンサブユニットの配列は、哺乳動物フェリチンアミノ酸配列に由来しうるが、当該哺乳動物フェリチンアミノ酸配列が由来する種の哺乳動物対象に免疫原として投与された場合に、その哺乳動物の天然フェリチンタンパク質と反応する抗体の産生をもたらさないように、天然に存在する配列とは十分に相違しうる。フェリチンアミノ酸配列は、細菌フェリチンタンパク質、植物フェリチンタンパク質、藻類フェリチンタンパク質、昆虫フェリチンタンパク質、真菌フェリチンタンパク質、および/または哺乳動物フェリチンタンパク質に由来しうる。本開示の融合タンパク質のいくつかの態様において、フェリチンアミノ酸配列はピロリ菌(H.pylori)に由来する。例えば本明細書において提供される融合タンパク質に含まれるフェリチンアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列であるか、またはそのような配列に由来しうる。上で述べたように、本発明の態様による融合タンパク質は、ピロリ菌のフェリチンサブユニットポリペプチドの完全長配列を含む必要はない。ピロリ菌フェリチンサブユニットポリペプチドのうち、単量体フェリチンサブユニットのオリゴマーへの自己集合を指示するアミノ酸配列を含有する部分または領域を、使用することができる。そのような領域の一例は、ピロリ菌フェリチンタンパク質のアミノ酸配列のアミノ酸5~168に位置する。Zhang,2011には、より多くの領域が記載されている。
【0049】
本発明の態様による融合タンパク質に含まれるフェリチンアミノ酸配列は、コンセンサスグリコシル化配列を作製するためにフェリチンアミノ酸配列中に人工的変異を挿入することによって操作された人工的グリコシル化部位、例えば人工的な(操作された)N-グリコシル化部位を含みうる。例えば人工的N-グリコシル化部位は、フェリチン核酸配列にコンセンサス配列N-X-S/T(ここでXはPであることはできない)を導入することによって作製されうる。コンセンサスグリコシル化配列は、フェリチンアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の人工的置換によって作製することができる。例えばSEQ ID NO:2における人工的N-グリコシル化部位は、SEQ ID NO:2の75番目に対応する位置におけるK→Nと、SEQ ID NO:2の75番目に対応する位置におけるE→Tという、2つのアミノ酸置換を導入することによって作製することができる。別の一例において、SEQ ID NO:2における人工的N-グリコシル化部位は、SEQ ID NO:2の67番目に対応する位置におけるT→Nと、SEQ ID NO:2の69番目に対応する位置におけるI→Tという、2つのアミノ酸置換を導入することによって作製することができる。さらに別の一例において、SEQ ID NO:2における人工的N-グリコシル化部位は、SEQ ID NO:2の74番目に対応する位置におけるH→Nと、SEQ ID NO:2の76番目に対応する位置におけるF→Tという、2つのアミノ酸置換を導入することによって作製することができる。もう一つの例において、SEQ ID NO:2における人工的N-グリコシル化部位は、SEQ ID NO:2の143番目に対応する位置におけるE→Nと、SEQ ID NO:2の145番目に対応する位置におけるH→Tという、2つのアミノ酸置換を導入することによって作製することができる。
【0050】
本発明による融合タンパク質の態様は、フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列のうちの少なくとも25個の連続アミノ酸、少なくとも50個の連続アミノ酸、少なくとも75個の連続アミノ酸、少なくとも100個の連続アミノ酸、または少なくとも150個の連続アミノ酸に連結されたSARS-CoV-2などのコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列(例えばSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14またはSEQ ID NO:15に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列)を含む。本発明による融合タンパク質の態様において、フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列はコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列の後に(すなわちスパイクタンパク質アミノ酸配列に対して下流またはC末端側に)位置する。フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列が存在するため、本発明の態様による融合タンパク質はナノ粒子へと集合する。これについては本開示の他の項でさらに詳しく説明する。融合タンパク質のいくつかの態様において、コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、ピロリ菌のフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列のうちの少なくとも25個の連続アミノ酸、少なくとも50個の連続アミノ酸、少なくとも75個の連続アミノ酸、少なくとも100個の連続アミノ酸または少なくとも150個の連続アミノ酸に連結される。本発明の態様による融合タンパク質に含まれるピロリ菌のフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有することができる。本発明の態様による融合タンパク質に含まれるピロリ菌のフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列は、オリゴマーまたはナノ粒子に自己集合する融合タンパク質をもたらす。
【0051】
本発明による融合タンパク質のいくつかの態様では、コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列とフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列とが「リンカー」アミノ酸配列によって連結される。ペプチドリンカーは、例えば2~5、2~10、2~20、2~30、2~40、2~50もしくは2~60アミノ酸長またはそれ以上、例えば2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、10アミノ酸、15アミノ酸、25アミノ酸、35アミノ酸、45アミノ酸、50アミノ酸または60アミノ酸でありうる。長さに依存して、リンカー配列は、らせん、βストランド、コイル/ベンドおよびターンなど、二次構造においてさまざまなコンフォメーションをとりうる。場合により、リンカー配列は、伸びたコンフォメーションを有し、隣接するタンパク質ドメインと相互作用しない独立ドメインとして機能しうる。リンカー配列は剛性または可撓性でありうる。可撓性リンカー配列は、融合タンパク質のドメインがとりうる配向の範囲を増加させうる。剛性リンカーは、ドメイン間の距離を固定された状態に保ち、それらの独立した機能を助けるために使用することができる。融合タンパク質用のリンカー配列は例えばChen et al.,2013に記載されている。いくつかの態様において、リンカーは、アミノ酸配列SGG、GSG、GG、GSGG(SEQ ID NO:5)、NGTGGSG(SEQ ID NO:6)、G、もしくはGGGGS(SEQ ID NO:7)であるか、またはそれを含む。融合タンパク質の例示的一態様では、SEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:4に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つスパイクタンパク質アミノ酸配列が、SEQ ID NO:2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列に、アミノ酸配列SGG、GSG、GG、GSGG(SEQ ID NO:5)、NGTGGSG(SEQ ID NO:6)、G、またはGGGGS(SEQ ID NO:7)を持つまたは含むリンカーによって連結される。
【0052】
本開示記載の融合タンパク質は、タンパク質の単離に役立つドメインまたは配列を含みうる。いくつかの態様において、ポリペプチドは、例えばAviTag(商標)、Mycタグ、ポリヒスチジンタグ(8XHisタグなど)、アルブミン結合タンパク質、アルカリホスファターゼ、AU1エピトープ、AU5エピトープ、ビオチンカルボキシキャリアタンパク質(BCCP)、またはFLAGエピトープなどといった、アフィニティタグを含む。いくつかの態様において、アフィニティタグはタンパク質の単離に役立つ。例えばKimple et al.,2013を参照されたい。いくつかの態様において、ポリペプチドまたはタンパク質は、分泌を促進しタンパク質の単離を容易にする、タンパク質の単離に役立つシグナル配列、例えば変異型インターロイキン-2シグナルペプチド配列を含む。例えばLow et al.,2013を参照されたい。いくつかの態様において、融合タンパク質は、融合タンパク質を単離した後のシグナルペプチドまたはアフィニティ精製タグの除去になかんずく役立ちうる、プロテアーゼ認識部位、例えばTEVプロテアーゼ切断部位を含みうる。
【0053】
本開示記載の融合タンパク質のいくつかの態様は、コロナウイルスシグナル配列を、例えば発現後に細胞からの融合タンパク質の分泌を容易にするために、含みうる。例えばいくつかの態様では、コロナウイルススパイクタンパク質アミノ酸配列の前にネイティブコロナウイルスシグナル配列を配置しうる。例示的態様では、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14またはSEQ ID NO:15に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つスパイクタンパク質アミノ酸配列の前に、ネイティブコロナウイルスシグナル配列
(「シグナル配列」という場合もある)が配置される。シグナル配列はスパイクタンパク質アミノ酸配列の直前に配置されていてもよいし、シグナル配列とスパイクタンパク質アミノ酸配列の間にリンカーまたはスペーサー配列があってもよい。本発明の態様による融合タンパク質のアミノ酸配列のいくつかの例は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:33またはSEQ ID NO:34に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列である。本発明の態様による融合タンパク質のアミノ酸配列のいくつかの例は、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:12、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:13、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:18、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:21、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:22、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:23、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:24、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:25、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:26、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:27、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:28、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:29、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:30、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:31)を持たないSEQ ID NO:33またはN末端シグナル配列(SEQ ID NO:32)を持たないSEQ ID NO:34に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つ配列である。
【0054】
本開示では、コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列とフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列とを含む融合タンパク質を含むナノ粒子が提供され、それらは本発明の態様に含まれる。本発明の態様による融合タンパク質がフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列を含むという事実ゆえに、それらはオリゴマーへと自己集合することができる。そのような自己集合の結果生じるオリゴマー構造または超分子は、ナノ粒子と呼ばれる。本発明の例示的一態様は、本開示記載の融合タンパク質のオリゴマーを含むナノ粒子である。
【0055】
本発明の態様によるナノ粒子は24個の融合タンパク質サブユニットを含有し、432対称性を有することができる。本発明の態様によるナノ粒子は、その表面上にスパイクタンパク質の少なくとも一部分を三量体としてディスプレイする。言い換えると、本発明の態様によるナノ粒子は、コロナウイルススパイクタンパク質の表面露出三量体を含む。ナノ粒子はコロナウイルススパイクタンパク質の表面露出三量体を8つ含むことができる。ナノ粒子を対象に投与すると、コロナウイルススパイクタンパク質三量体の表面露出三量体は、対象の免疫系にアクセスすることができ、よってコロナウイルススパイクタンパク質に対する免疫応答を誘発することができる。フェリチンアミノ酸配列を組み込んだ融合タンパク質で構成される免疫原性ナノ粒子は、例えば米国特許第9,441,19号および同第10,137,190号、Kanekiyo et al.,2013、Kanekiyo et al.,2015、ならびにHe et al.,2016に記載されている。
【0056】
核酸、ベクター、細胞、および関連する方法
本開示では、本発明の態様による融合タンパク質をコードする核酸が提供され、それらは本発明の態様に含まれ、本開示の他の項において説明される。本発明の態様による核酸は、コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列(「コロナウイルススパイクタンパク質」)とフェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列(単に「フェリチン」という場合もある)との融合タンパク質をコードする。本発明の態様による核酸はDNAまたはRNAであることができる。本開示記載の核酸は、本発明の態様による融合タンパク質およびナノ粒子を製造するために使用することができる。例えば、限定するわけではないがSARS-CoV-2などのコロナウイルスに対する免疫原性組成物またはワクチンとして使用される融合タンパク質またはナノ粒子を作製するために、本開示記載の核酸を、本発明の態様による融合タンパク質およびナノ粒子を製造するために使用することができる。別の一例において、限定するわけではないがSARS-CoV-2を含むコロナウイルスに対する防御免疫応答を対象において誘発するために、本開示記載の核酸は核酸ワクチンとして使用することができ、これは、本発明の態様による融合タンパク質およびナノ粒子を対象において産生させる目的で、対象に投与される。本発明の態様による核酸を使用する方法については、本開示の他の項で説明する。
【0057】
本開示記載の融合タンパク質をコードする核酸の態様は、フェリチンサブユニットポリペプチドのアミノ酸配列のうちの少なくとも25個の連続アミノ酸、少なくとも50個の連続アミノ酸、少なくとも75個の連続アミノ酸、少なくとも100個の連続アミノ酸または少なくとも150個の連続アミノ酸に連結された、SARS-CoV-2などのコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列(例えばSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14またはSEQ ID NO:15に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列)を含む融合タンパク質をコードする。本開示記載の融合タンパク質をコードする核酸のいくつかの態様は、SARS-CoV-2などのコロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列(例えばSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14またはSEQ ID NO:15に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列)が、ピロリ菌のフェリチンサブユニットポリペプチドのうちの、例えばSEQ ID NO:2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列のうちの、少なくとも25個の連続アミノ酸、少なくとも50個の連続アミノ酸、少なくとも75個の連続アミノ酸、少なくとも100個の連続アミノ酸または少なくとも150個の連続アミノ酸に連結されている融合タンパク質をコードする。本開示記載の核酸のいくつかの例は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:12、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:13、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:16、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:17、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:18、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:21、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:22、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:23、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:24、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:25、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:26、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:27、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:28、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:29、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:30、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:31)を持たないSEQ ID NO:33、またはN末端シグナル配列(SEQ ID NO:32)を持たないSEQ ID NO:34に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する融合タンパク質をコードする。
【0058】
本開示では、本明細書において提供される核酸配列を含む核酸コンストラクトが提供され、それらは本発明の態様に含まれる。核酸コンストラクトのいくつかの態様は、本発明の態様による融合タンパク質をコードする精製された核酸分子である。例えば核酸コンストラクトは、本発明の一態様による融合タンパク質をコードする核酸に機能的に連結されたプロモーターを含む操作された(組換え)DNA核酸配列であることができる。核酸配列は、別の核酸配列と機能的な関係にある場合に、「機能的に連結」されているという。プロモーターは、転写開始位置の上流および/または下流に位置していて、転写を開始するためのRNAポリメラーゼおよび他のタンパク質の認識および結合に関与する領域または配列である。プロモーターは一般に、転写開始部位に対して比較的固定された位置にある場合に機能する、1つまたは複数の核酸配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび転写因子の基本的相互作用に必要なコア要素を含有し、上流エレメントおよび応答エレメントを含有しうる。本発明の態様による核酸コンストラクトに含まれるプロモーターは、真核または原核プロモーターであることができる。いくつかの態様において、プロモーターは誘導性プロモーターである。いくつかの態様において、プロモーターは構成的プロモーターである。本発明の態様による核酸コンストラクトに含まれるプロモーターは、関心対象の宿主細胞または宿主生物における、本開示記載の融合タンパク質をコードする核酸配列の発現を、指示または駆動することができる。本発明の態様による核酸コンストラクトを調製するために、核酸は、適正な配向および適宜適正な読み枠の核酸配列が得られるように操作されうる。この目標に向けて、アダプターまたはリンカーを使って核酸フラグメントを連結してもよく、または都合のよい制限部位を用意し、不必要な核酸配列を除去し、制限部位を除去するなどのために、他の操作が必要になりうる。この目的のために、インビトロ変異導入、プライマー修復、制限切断、アニーリング、トランジションおよびトランスバージョンなどの再置換が必要になりうる。
【0059】
本発明の態様による核酸は、その核酸がコードする融合タンパク質を関心対象の宿主細胞または生物内で発現させるための発現カセットに含まれうる。いくつかの態様において、本発明の態様による核酸は、関心対象の宿主細胞または生物における発現のためにコドン最適化されうる。発現カセットは、本発明の一態様による融合タンパク質をコードする核酸に機能的に連結された5'および3'調節配列を含むことができる。発現カセットは、他のポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列も含むことができる。発現カセットは、さまざまな核酸配列をその発現カセットに挿入するために、および/またはその発現カセットを他の核酸、例えばベクターに挿入するために、複数の制限部位および/または組換え部位を含むことができる。発現カセットは、例えば限定するわけではないが、転写開始部位(transcriptional initiation start site)、オペレーター、アクチベーター、エンハンサー、他の調節要素、リボソーム結合部位、開始コドン、終結シグナルなど、さまざまな調節領域または調節配列を含むことができる。発現カセットに含まれる例示的な調節配列は、プロモーター、転写調節領域および/または翻訳終結領域であり、これらは宿主細胞もしくは宿主生物にとって内在性もしくは異種であるか、または互いに異種でありうる。この文脈において「異種」とは、宿主細胞または宿主生物に起源を持たない核酸配列、またはそれが宿主細胞もしくは宿主生物中に存在するときの形態からは実質的に改変されている核酸配列を意味する。発現カセットは、その発現カセットを含有する宿主細胞を選択するために、1つまたは複数の選択可能マーカー遺伝子も含むことができる。マーカー遺伝子としては、抗生物質耐性を付与する遺伝子、例えばハイグロマイシン耐性、アンピシリン耐性、ゲンタマイシン耐性、ネオマイシン耐性などを付与する遺伝子が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。選択可能マーカーは他にも公知であり、いずれも使用することができる。例示的な発現カセットは、5'から3'に向かって順に、関心対象の宿主細胞または宿主生物において機能的な、転写および翻訳開始領域(プロモーターを含む)、本開示記載の融合タンパク質をコードする核酸配列、ならびに転写および翻訳終結領域を含むことができる。
【0060】
本発明の態様には、本発明の態様による核酸または核酸コンストラクトを含むベクターも含まれる。そのようなベクターは、そのベクターに含まれている核酸配列の転写を指示し調節する必要な機能的要素を含むことができる。これらの機能的要素としては、プロモーター、プロモーターの上流または下流にある領域、例えばプロモーターの転写活性を調節しうるエンハンサー、複製起点、プロモーターの近傍にインサートをクローニングしやすくするための適当な制限部位、ベクターを含有する細胞またはインサートを含有するベクターを選択するのに役立ちうる抗生物質耐性遺伝子または他のマーカー、RNAスプライスジャンクション、転写終結領域、または挿入された遺伝子もしくはハイブリッドの発現を容易にするのに役立ちうる他の任意の領域が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。ベクターは例えばプラスミドであることができる。
【0061】
本発明の態様によるベクターは、細菌発現ベクターなどの細菌ベクターであることができる。例えば数ある大腸菌(E.coli)発現ベクターのうちの一つに基づくベクターは、本発明の態様による核酸の発現に役立ちうる。本発明の態様による核酸の発現に適した他の細菌宿主には、枯草菌(Bacillus subtilis)などの桿菌、および他の腸内細菌科、例えばサルモネラ属(Salmonella)、セナチア属(Senatia)およびさまざまなシュードモナス属(Pseudomonas)の種などがある。これらの原核宿主でも適切な発現ベクターを使用することができ、それらは典型的にはその宿主細胞に適合する発現制御配列(例えば複製起点)を含有するだろう。細菌発現ベクターには、例えばラクトースプロモーター系、トリプトファン(Trp)プロモーター系、ベータ-ラクタマーゼプロモーター系、またはファージラムダ由来のプロモーター系など、多種多様な周知のプロモーターを使用することができる。
【0062】
真核細胞、例えば限定するわけではないが酵母細胞、哺乳動物細胞および昆虫細胞は、重要な翻訳後修飾、例えばフォールディングおよびシステインペアリング、複合糖質構造の付加、および活性タンパク質の分泌に有利な環境下での、タンパク質の発現も可能にする。したがって、酵母細胞、哺乳動物細胞および昆虫細胞における本開示記載の核酸の発現に有用なベクターも考えられ、それらは本発明の態様に含まれる。本発明の態様によるベクターは、酵母細胞、例えば限定するわけではないがピキア・パストリス(Pichia pastoris)またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の細胞などにおける、本発明の態様による核酸の発現に適した酵母発現ベクターであることができる。真核細胞において使用される発現ベクターは、転写の終結に必要な配列を含有しうる。これらの領域は、mRNAの非翻訳部分にポリアデニル化セグメントとして転写される。したがって、真核発現ベクターに含まれる転写単位は、ポリアデニル化領域を含有しうる。この領域の利益の一つは、転写単位がmRNAのように処理され輸送される可能性を、それが増加させることである。3'非翻訳領域は転写終結部位も含む。真核細胞用の発現ベクターは、エンハンサーなどの発現制御配列と、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位などの必要な情報処理部位とを含むことができる。
【0063】
本発明の態様による発現ベクターは、テトラサイクリン誘導性プロモーターまたはグルココルチコイド誘導性プロモーターなどの誘導性プロモーターの制御下に本開示記載の核酸を含むこともできる。本発明の核酸は、特異的細胞、組織または器官における核酸の発現を促進するために、組織特異的プロモーターの制御を受けることもできる。任意の調節可能プロモーター、例えばメタロチオネインプロモーター、熱ショックプロモーター、および他の調節可能プロモーターも想定される。さらにまた、Cre-loxP誘導系や、Flpリコンビナーゼ誘導性プロモーター系も、使用することができる。
【0064】
いくつかの態様では、宿主細胞または宿主生物への送達のために、本発明の態様による融合タンパク質をコードする核酸をウイルスベクターに組み入れてもよい。したがって本発明の態様によるベクターには、本開示記載の融合タンパク質をコードする核酸を分解させることなく細胞内に輸送し、かつそれが送達される細胞における核酸の発現をもたらすプロモーターを含む、ウイルスベクターが含まれる。適切なウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターが挙げられる。そのようなベクターを構築し使用する方法は周知である。典型的には、ウイルスベクターは、非構造初期遺伝子、構造後期遺伝子、RNAポリメラーゼIII転写産物、複製およびキャプシド形成に必要な末端逆位反復配列、ならびにウイルスゲノムの転写および複製を制御するためのプロモーターを含有する。ベクターとして工学的に操作される場合、ウイルスは典型的には、初期遺伝子の1つまたは複数が除去されており、除去されたウイルスDNAの代わりに遺伝子または遺伝子/プロモーターカセットがウイルスゲノムに挿入される。除去された初期遺伝子の必要な機能は、典型的には、それら初期遺伝子の遺伝子産物をトランスに発現させるように操作された細胞株によって供給される。
【0065】
例えばポックスウイルスファミリーの組換えウイルスは、本発明の態様による核酸分子を宿主細胞または宿主生物に送達するためのベクターとして使用することができる。それらには、ワクシニアウイルスおよび鳥ポックスウイルス、例えば鶏痘ウイルスおよびカナリア痘ウイルスが含まれる。組換えポックスウイルスを生産するための方法は公知である。組換えポックスウイルスの代表例には、ALVAC、TROVACおよびNYVACがある。別の一例では、本発明の態様による核酸分子を宿主細胞または宿主生物に送達するために、アデノウイルスベクターを使用することができる。もう一つの例では、本発明の態様による核酸分子を宿主細胞または宿主生物に送達するために、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系を使用することができる。もう一つの例では、本発明の態様による核酸分子を宿主細胞または宿主生物に送達するために、レトロウイルスベクターを使用することができる。レトロウイルスベクターの例としては、マウスマロニー(Maloney)白血病ウイルス(MMLV)およびベクターとしてのMMLVの望ましい特性を発現するレトロウイルスに基づくベクターが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。さらに別の一例では、本発明の態様による核酸分子を宿主細胞または宿主生物に送達するために、アデノウイルスキメラベクターなどの分子コンジュゲートベクター(molecular conjugate vector)を使用することができる。限定するわけではないが、シンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびベネズエラウマ脳炎ウイルスなどといった、アルファウイルス属のメンバーに由来するベクターも、本発明の態様による核酸分子を宿主細胞または宿主生物に送達するために使用することができる。
【0066】
本開示では、本発明の態様による核酸、核酸コンストラクトまたはベクターを含む細胞が提供され、それらは本発明の態様に含まれる。そのような細胞は「宿主細胞」(「host cells」または単数形で「host cell」)と呼ぶことができる。一部の宿主細胞は本開示記載の融合タンパク質を生産することができ、一方、他の宿主細胞は、本発明の態様による核酸、DNAコンストラクトまたはベクターを生産または維持するために使用しうる。宿主細胞はインビトロ、エクスビボまたはインビボ宿主細胞であることができる。宿主細胞のいずれかの集団および1つまたは複数の宿主細胞を含む培養細胞も、本発明の態様に含まれる。宿主細胞は例えば細菌細胞を含む原核細胞であることができる。あるいは細胞は真核細胞であることもできる。原核宿主細胞の例は、大腸菌、シュードモナス属、バチルス属(Bacillus)またはストレプトミセス属(Streptomyces)の細胞である。真核細胞の例は、酵母細胞(例えばサッカロミセス(Saccharomyces)酵母またはピキア(Pichia)、カンジダ(Candida)、ハンゼヌラ(Hansenula)およびトルロプシス(Torulopsis)などのメチロトローフ酵母の細胞);動物細胞、例えばCHO、R1.1、B-WおよびLM細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(例えば、COS1、COS7、BSC1、BSC40およびBMT10)、昆虫細胞(例えばSf9)、ヒト細胞(例えばヒト胎児腎臓細胞、例えばHEK293、またはHeLa細胞)である。
【0067】
宿主細胞(つまり本発明の態様による核酸、核酸コンストラクトまたはベクターを含む細胞)を製造または作製する方法も、本発明の態様に含まれる。本発明の態様による核酸、核酸コンストラクトまたはベクターは、宿主細胞のタイプに依存してさまざまである周知の方法によって、宿主細胞中に移入または導入することができる。細胞への核酸、核酸コンストラクトまたはベクターの導入に関連して使用される「導入する」および関連する用語または語句は、細胞外から細胞内への核酸配列のトランスロケーション(translocation)を指す。場合により、導入するとは、細胞外から真核細胞の核内への核酸のトランスロケーションを指す。そのような移動の方法は種々考えられ、例えばエレクトロポレーション、ナノ粒子送達、ウイルス送達、ナノワイヤまたはナノチューブとの接触、受容体媒介内在化、細胞透過性ペプチドによるトランスロケーション、リポソームが媒介するトランスロケーション、DEAEデキストラン、リポフェクタミン、リン酸カルシウム、または核酸を原核細胞宿主もしくは真核細胞宿主中に導入するための現在公知のもしくは将来特定される任意の方法が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。標的ヌクレアーゼ系(例えばRNA誘導型ヌクレアーゼ(CRISPR-Cas9)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)またはmegaTAL(MT)も、核酸を細胞中に導入するために使用することができる。
【0068】
本開示記載の融合タンパク質およびナノ粒子を製造しまたは作製する方法も、本発明の態様に含まれる。融合タンパク質またはナノ粒子を製造する例示的方法は、本発明の態様による核酸、本発明の態様による核酸コンストラクト、または本発明の態様によるベクターを細胞に導入する工程を含むことができる。導入する工程は、本開示の他の項で説明するように実行され、そのような工程の結果として、前記核酸、核酸コンストラクトまたはベクターを含む細胞(これを「宿主細胞」と呼ぶことができる)が作製される。融合タンパク質を製造する例示的方法は、融合タンパク質の発現が可能な条件下で宿主細胞をインキュベートする工程を含むことができる。ナノ粒子を製造する例示的方法は、融合タンパク質の発現とナノ粒子の自己集合とが可能な条件下で宿主細胞をインキュベートする工程を含むことができる。宿主細胞における発現後に、さまざまな精製方法を使って融合タンパク質またはナノ粒子を単離または精製することができる。いくつかの態様では、融合タンパク質を宿主細胞から単離し、インビトロでナノ粒子へと自己集合させることができる。
【0069】
本開示記載の融合タンパク質およびナノ粒子を製造または作製するプロセスを例証する一例では、本発明の態様による融合タンパク質をコードする核酸または核酸コンストラクトが、プラスミドまたは他のベクターに導入され、次にそれを使って、生細胞が形質転換される。例えば、本発明の一態様による融合タンパク質をコードする核酸は、必要な調節領域、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリA部位および他の配列を提供する発現ベクターに、正しい配向で挿入される。誘導性プロモーターまたは組織特異的プロモーターの制御下で融合タンパク質を発現させることが望ましい場合もある。次に発現ベクターを、さまざまな方法、例えばリポフェクションまたはエレクトロポレーションを使って生細胞中にトランスフェクトすることで、融合タンパク質を発現する宿主細胞を作製しうる。融合タンパク質を発現する細胞は、適当な抗生物質選択または他の方法によって選択し、培養しうる。市販のバイオリアクターで細胞を成長させることにより、融合タンパク質の生産量を増しうる。融合タンパク質が、宿主細胞によって発現されたら、標準的な手順、例えば透析、濾過およびクロマトグラフィーによって、それを単離(精製)しうる。融合タンパク質を単離するために細胞を溶解する工程を含めることができる。したがって、本発明の一態様による融合タンパク質を製造または作製する方法は、ベクターを含む細胞を融合タンパク質の発現が可能な条件下で培養する工程、細胞を収穫する工程および/または培養細胞から培地を収穫する工程、ならびに細胞および/または培養培地から融合タンパク質を単離する工程のうちの1つまたは複数を含みうる。本開示記載の融合タンパク質の製造に関係する組成物、方法およびキットは、本発明の態様の範囲内に含まれる。
【0070】
免疫原性組成物およびキット
本開示記載の融合タンパク質、本開示記載のナノ粒子、本開示記載の核酸、本開示記載の核酸コンストラクト、または本開示記載のベクターのいずれかを含有する免疫原性組成物は、本発明の態様に含まれる。本発明の態様による免疫原性組成物は「ワクチン」と呼ぶこともできる。免疫原性組成物は、本発明による融合タンパク質、ナノ粒子、核酸、核酸コンストラクトまたはベクターと、薬学的に許容される担体(賦形剤)とを含有しうる。免疫原性組成物は、本発明の態様による融合タンパク質、ナノ粒子、核酸、核酸コンストラクトまたはベクターとアジュバントとを含有しうる。免疫原性組成物は、本発明の態様による融合タンパク質、ナノ粒子、核酸、核酸コンストラクトまたはベクターと、他の構成要素、例えば限定するわけではないが、希釈剤、可溶化剤、乳化剤または保存剤とを含有しうる。本発明による免疫原性組成物は、水溶液などの溶液、水性懸濁液などの懸濁液であるか、または乾燥型、例えば凍結乾燥型で存在しうる。本発明の態様による融合タンパク質、ナノ粒子、核酸、核酸コンストラクトまたはベクターの他に、免疫原性組成物に含まれる構成要素(または成分)のいくつかについては、本開示の他の項でさらに詳しく説明する。
【0071】
免疫原性組成物のいくつかの態様は、本開示の他の項で説明する1種または複数種の融合タンパク質または融合タンパク質をコードする核酸を含有する。例えば免疫原性組成物は、本開示の他の項で説明する2種以上、3種以上、4種以上、5種以上などの異なる融合タンパク質を含有しうる。別の一例において、免疫原性組成物は、本開示の他の項で説明する2種以上、3種以上、4種以上、5種以上などの異なる融合タンパク質をコードする核酸を含有しうる。2種以上、3種以上、4種以上、5種以上などの異なる融合物をコードする核酸は、同じ核酸コンストラクト、例えばベクターに含まれていても、異なる核酸コンストラクトに含まれていてもよい。例えば免疫原性組成物は、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:12、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:13、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:18、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:21、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:22、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:23、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:24、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:25、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:26、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:27、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:28、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:29、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:8)を持たないSEQ ID NO:30、N末端シグナル配列(SEQ ID NO:31)を持たないSEQ ID NO:33またはN末端シグナル配列(SEQ ID NO:32)を持たないSEQ ID NO:34に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する融合タンパク質、またはその融合タンパク質をコードする核酸のうちの、1種または複数種、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上などを含有することができる。
【0072】
本発明の態様による免疫原性組成物は、薬学的に許容される担体または賦形剤を含むことができる。薬学的に許容される担体または賦形剤は、生物学的にも他の点でも望ましくないものではない材料、つまり、望ましくない生物学的効果を引き起こさず、またはそれを含有する薬学的組成物の他の構成要素と有害な相互作用をすることなく、対象に投与することができる材料である。担体または賦形剤は、典型的には、その担体または賦形剤を含む組成物の他の成分の分解が最小限に抑えられ、対象における有害副作用(アレルギー性副作用など)が最小限に抑えられるように選択される。薬学的に許容される水性担体の例としては、無菌水、食塩水、リンゲル液のような緩衝溶液、グリセロール溶液、エタノール、デキストロース溶液、尿膜腔液、または前記の組合せが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。水性担体のpHは一般的には約5~約8または約7~7.5である。担体はpHを制御する緩衝剤を含みうる。無菌性、pH、等張性および安定性を保証するそのような水性担体の調製は、確立されたプロトコールに従って達成される。非水性担体の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。別の例示的担体は、徐放性調製物、例えば固形疎水性ポリマーの半透過性マトリックスである。別の例示的担体は、例えば限定するわけではないが、フィルム、リポソームまたはマイクロカプセルなどといった造形品の形態にあるマトリックスである。例えば投与経路および投与される組成物の濃度に依存して、一定の担体が、より好ましい場合がある。
【0073】
本発明の態様による免疫原性組成物はアジュバントを含むことができる。化学的アジュバントの例をいくつか挙げると、リン酸アルミニウム、塩化ベンザルコニウム(benzyalkonium chloride)、ウベニメクス、QS21、水酸化アルミニウム(アラム、水酸化アルミニウム湿ゲル懸濁液、例えばAlhydrogel(登録商標)(Croda International、英国))、サポニン(例えばQuil-A(登録商標)(Croda International、英国))、スクアレン(例えばAddaVax(商標))がある。いわゆる「遺伝子」アジュバントの例をいくつか挙げると、IL-2遺伝子またはそのフラグメント、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)遺伝子またはそのフラグメント、IL-18遺伝子またはそのフラグメント、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21(CCL21)遺伝子またはそのフラグメント、IL-6遺伝子またはそのフラグメント、CpG、LPS、TLRアゴニスト(例えばモノホスホリルリピドA(MPLA))、および他の免疫刺激遺伝子がある。タンパク質アジュバントの例をいくつか挙げると、IL-2またはそのフラグメント、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはそのフラグメント、IL-18またはそのフラグメント、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21(CCL21)またはそのフラグメント、IL-6またはそのフラグメント、CpG、LPS、TLRアゴニストおよび他の免疫刺激性サイトカインまたはそれらのフラグメントがある。リピドアジュバントの例をいくつか挙げると、カチオン性リポソーム、N3(カチオン性脂質)、MPLA、Quil-A(登録商標)およびAddaVax(商標)がある。別の例示的アジュバントとして、コレラ毒素、エンテロトキシン、Fms様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt-3L)、ブピバカイン、マーカインおよびレバミソールが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、免疫原性組成物はQuil-A(登録商標)を含む。いくつかの態様において、免疫原性組成物はアラムを含む。いくつかの態様において、免疫原性組成物はCpGを含む。2種以上のアジュバントを本発明の態様による免疫原性組成物に含めてもよい。例えばいくつかの態様において、免疫原性組成物はアラムとCpGとを含むことができる。
【0074】
本発明の態様による免疫原性組成物は、一般に、投与に使用される用量および濃度で対象にとって無毒性または最小限の毒性であるように処方される。いくつかの態様において、免疫原性組成物の製剤は、製剤を等張性にするために、適当な量の薬学的に許容される塩を含みうる。いくつかの態様において、免疫原性組成物の製剤は、例えばpH、オスモル濃度、粘度、透明度、色、等張性、匂い、無菌性、安定性、溶解または放出速度、組成物の吸着または浸透を改変し、維持し、または保存するための構成要素を含みうる。免疫原性組成物の製剤は、以下の構成要素のうちの1つまたは複数を含みうる:アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなど);抗微生物剤;酸化防止剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウムなど);緩衝剤(ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩または他の有機酸など);増量剤(マンニトールまたはグリシンなど);キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など);複合体化剤(complexing agent)(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンなど);充填剤;単糖、二糖および他の炭水化物(例えばグルコース、マンノースまたはデキストリン);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなど);着色剤、香味料および希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);低分子量ポリペプチド;塩形成対イオン(例えばナトリウム);保存剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸または過酸化水素など);溶媒(グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);懸濁化剤;界面活性剤または湿潤剤(例えばプルロニック、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート、例えばポリソルベート20、ポリソルベート80、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパール(tyloxapal));安定性強化剤(スクロースまたはソルビトールなど);張性増強剤(ハロゲン化アルカリ金属、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトール ソルビトール);および/または送達媒体。
【0075】
いくつかの態様では、免疫原性組成物を、乾燥型(すなわち脱水型)として、例えば凍結乾燥型として、調製することができる。そのような製剤は「凍結乾燥されている」または「凍結乾燥物」ということができる。凍結乾燥は、冷凍-乾燥のプロセスであって、そのプロセス中に溶媒は液状製剤から除去される。凍結乾燥プロセスは、冷凍および乾燥の同時または逐次的工程を1回または複数回含みうる。本発明の態様による免疫原性組成物は、不揮発性または揮発性緩衝剤を含む水溶液中で凍結乾燥することができる。適切な不揮発性緩衝剤の非限定的な例は、PBS、トリス-HCl、HEPESまたはL-ヒスチジン緩衝剤である。適切な揮発性緩衝剤の非限定的な例は、重炭酸アンモニウム、アンモニア/酢酸またはN-エチルモルホリン/酢酸緩衝剤である。本発明の態様による凍結乾燥免疫原性組成物は、適当な担体または賦形剤を含むことができる。そのような適当な賦形剤としては、冷凍保存剤(cryo-preservative)、増量剤、界面活性剤またはそれらの組合せを挙げることができるが、それらに限定されるわけではない。例示的な賦形剤として、ポリオール、二糖または多糖、例えばマンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロースおよび/またはデキストラン40などのうちの1つまたは複数が挙げられる。場合により、冷凍保存剤はスクロースおよび/またはトレハロースでありうる。場合により、増量剤はグリシンまたはマンニトールである。一例において、界面活性剤はポリソルベート、例えばポリソルベート-20および/またはポリソルベート-80などでありうる。本発明の態様による凍結乾燥免疫原性組成物は、例えばケーキ状または粉末状であることができる。凍結乾燥免疫原性組成物は、使用に先立って担体または賦形剤(例えば水または緩衝溶液)中で再水和/可溶化/再構成されうる。免疫原性組成物のいくつかの態様は、スクロースを含む水または緩衝溶液に再構成される。
【0076】
本発明の態様による免疫原性組成物は対象への投与前に無菌であることができる。滅菌は滅菌濾過膜での濾過によって達成することができる。免疫原性組成物が凍結乾燥される場合、滅菌は凍結乾燥および再構成の前または後に行うことができる。免疫原性組成物は、バイアルまたはバッグなどの無菌容器中に、溶液、懸濁液、ゲル、エマルション、固形物として、または脱水もしくは凍結乾燥粉末として、貯蔵することができる。
【0077】
本開示記載の免疫原性組成物を含むキットも、本発明の態様に含まれる。例えばキットは、免疫原性組成物と、それを貯蔵するための容器、例えばバッグまたはバイアルとを含みうる。そのような容器は、無菌アクセスポートを有してよく、例えば皮下注射針で突き刺すことができる栓を有するバッグまたはバイアルでありうる。別の一例において、キットは、凍結乾燥されたまたは濃縮された形態の免疫原性組成物と、希釈剤とを含みうる。そのようなキットでは、希釈剤は、本開示の他の項で説明するように、薬学的に許容される担体または賦形剤であってもよい。そのようなキットに含めうる希釈剤の例は、食塩水、緩衝食塩水、水またはスクロースである。別の一例において、キットは免疫原性組成物とその免疫原性組成物を投与するためのデバイスとを含みうる。組成物を投与するためのデバイスは、注射または経口投与用のシリンジ(例えばキットは、液状免疫原性組成物が予め充填されたシリンジでありうる)、マイクロニードルデバイス、例えばマイクロニードルパッチ、吸入器、またはネブライザーでありうる。いくつかの態様において、キットは、単回投与として投与された場合に対象におけるコロナウイルスに対する防御免疫応答を誘発することができる、所定の量の免疫原性組成物を含有しうる。いくつかの態様において、キットは、対象におけるコロナウイルスに対する防御免疫応答を誘発することができる、複数回分の所定の量の免疫原性組成物を含有しうる。例えばキットは、免疫原性組成物を含有する複数のバイアル、シリンジまたはマイクロニードルパッチを含有しうる。
【0078】
免疫応答を誘導する方法
本開示記載の免疫原性組成物を対象に投与することによって対象におけるコロナウイルスに対する免疫応答を誘導または誘発する方法は、本発明の態様に含まれる。そのような方法の態様では、コロナウイルスに対する防御免疫応答を対象において誘導または誘発することができる量で、免疫原性組成物が投与される。対象におけるコロナウイルスに対する防御免疫応答は、対象における抗コロナウイルス中和抗体の産生を含みうる。対象においてコロナウイルスに対する防御免疫応答を誘導または誘発することができる免疫原性組成物の量は、「有効量」または「免疫有効量」と記載することができ、1回の投与として、または2回以上の投与として投与されうる。有効量および投与スケジュールは実験的に決定されうる。
【0079】
本開示記載の免疫原性組成物の投与に関する投薬量範囲は、所望の効果を生じるのに十分なもの、すなわちSARS-CoV-2などのコロナウイルスに対する防御免疫応答を誘発するものである。投薬量は、例えば不要な交差反応、アナフィラキシー反応などの実質的有害副作用を引き起こすほど多量であってはならない。一般に、投薬量は、年齢、体調、性別、医学状態、投与経路、またはレジメンに他の薬物が含まれるかどうかによって変動しうる。何らかの禁忌がある場合、医療従事者は投薬量を調節することができる。投薬量はさまざまであることができ、薬剤は、プライムおよびブーストパラダイム(prime and boost paradigm)を含めて、1日または数日にわたる1回または複数回の毎日の投与で投与することができる。
【0080】
対象においてコロナウイルスに対する防御免疫応答を誘導または誘発する方法に関連して使用される場合、本開示記載の免疫原性組成物は、限定するわけではないが、経口投与、非経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、噴霧化/吸入による投与、または気管支鏡を介した設置を含む、いくつかの投与経路のいずれかによって投与することができる。免疫原性組成物は、経口吸入、鼻腔吸入または鼻腔内粘膜投与によって投与することができる。吸入薬による本開示記載の免疫原性組成物の投与は、噴霧または飛沫機序による送達で、例えばエアロゾルの形態で、鼻または口から行うことができる。投与の形態は、対象におけるコロナウイルスに対する防御免疫応答が最適化されるように選ばれうる。
【0081】
免疫原性組成物が本発明の態様による核酸、核酸コンストラクトまたはベクターを含んでいる場合(そのような組成物は「核酸免疫原性組成物」または「核酸ワクチン」と呼びうる)、提供される方法では、免疫原性組成物を対象の細胞中に導入することができる。核酸送達技術の例としては、「裸のDNA」、促進(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介)送達、およびカチオン性脂質複合体またはリポソームが挙げられる。核酸は、例えば米国特許第5,204,253号に記載されているようにバリスティック送達(ballistic delivery)または圧力を使って投与することができる(例えば米国特許第5,922,687号参照)。いくつかの例では、本発明の態様による核酸、核酸コンストラクトまたはベクターでもっぱらまたはほとんど構成された粒子を、対象に投与することができる。いくつかの例では、本発明の態様による核酸、核酸コンストラクトまたはベクターを、対象への投与のために、金粒子などの粒子に付着させることができる。免疫原性組成物がウイルスベクターを含む場合は、そのウイルスベクターを、対象から得た細胞(自家細胞)中に導入し、その細胞を対象に投与することができる。いくつかの態様では、本発明の態様による核酸、核酸コンストラクトまたはベクターを含む免疫原性組成物を、注射もしくはエレクトロポレーション、または注射とエレクトロポレーションとの組合せによって投与することができる。
【0082】
本開示記載の方法との関連において、対象は、健康であって、コロナウイルス感染(coronavirus invention)のリスクが一般大衆より高くない対象でありうる。場合により、対象はコロナウイルス感染を発症するリスクが高い対象であってもよいので、例えば対象は感染を起こす素因があるか、または深刻な形態のコロナウイルス病、例えばCOVID-19を発症する素因を持ちうる(例えば65歳超の人、喘息または他の慢性呼吸器疾患を持つ人、低年齢小児、妊婦、遺伝的素因を持つ人、免疫系が損なわれている人は、深刻な形態のCOVID-19を発症する素因を持ちうる)。対象は、現にコロナウイルス感染している対象であってもよく、感染の症状を1つまたは複数有しうる。現にコロナウイルス感染している対象は、症状または診断検査の結果に基づいて、コロナウイルス感染と診断されていてもよい。
【0083】
本発明の態様による方法は予防目的にも治療目的にも有用である。対象におけるコロナウイルス感染を処置または防止する方法であって、コロナウイルスに感染した対象またはコロナウイルス感染を起こしやすい対象に、有効量の本開示記載の免疫原性組成物を投与する工程を含む方法も、本発明の態様に含まれる。本発明の態様による方法では、免疫原性組成物を単独で、または1つもしくは複数の治療剤と組み合わせて、例えばコロナウイルス感染またはコロナウイルス病を処置するための抗ウイルス化合物と組み合わせて、使用することができる。予防的使用の場合は、コロナウイルス感染の発生前に(例えば感染の徴候が明白になる前に)または発生初期に(例えば感染の最初の徴候および症状を認めたときに)、有効量の本開示記載の免疫原性組成物を対象に投与することができる。予防的投与は、コロナウイルス感染の症状が発現する数日前~数年前に行うことができる。予防的投与は、例えばコロナウイルス感染の素因を有すると同定された対象の防止処置において使用することができる。治療的処置は、感染の診断または発症後に治療有効量の本開示記載の免疫原性組成物を対象に投与する工程を伴う。
【0084】
本発明の態様との関連において、「処置」、「処置する」、「処置すること」という用語ならびに関連する用語および表現は、対象における免疫応答を誘発することによって、コロナウイルス感染の効果のうちの1つもしくは複数、またはコロナウイルス感染の1つもしくは複数の症状を低減することを指す。したがって開示される方法では、処置とは、確立したコロナウイルス感染またはコロナウイルス感染の症状の重症度の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の低減を指すことができる。例えば、コロナウイルス感染を処置するための方法は、対照と比較して対象におけるコロナウイルス感染の1つまたは複数の症状に10%の低減があれば、処置であるとみなされる。したがって低減は、ネイティブレベルまたは対照レベルと比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、または10%~100%にある任意の低減率であることができる。処置は、コロナウイルス感染もしくはコロナウイルス病またはコロナウイルス感染もしくはコロナウイルス病の症状の治癒または完全な消失を、必ずしも指さないと理解される。
【0085】
本発明の態様に関連して、コロナウイルス感染またはコロナウイルス病を「防止する」、「防止すること」、コロナウイルス感染またはコロナウイルス病の「防止」という用語ならびに関連する用語および表現は、例えば対象がコロナウイルス感染の1つまたは複数の症状を示し始める前またはそれとほぼ同時に免疫原性組成物を投与し、それが感染の1つまたは複数の症状の発生もしくは増悪を阻害しもしくは遅延させ、またはその再発を遅延させる行為を指す。本開示において使用する場合、減少させる、低減するまたは阻害するとは、対照レベルと比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の変化を含む。例えば本開示に記載の方法は、コロナウイルスに曝露した対象であって、本開示記載の免疫原性組成物が投与された対象において、感染を減少させるための組成物を投与されずにコロナウイルスに曝露した対照対象と比較して、コロナウイルス感染または感染の症状の発生、増悪または再発の約10%の低減があるなら、コロナウイルス感染の防止を達成するとみなすことができる。したがって、コロナウイルス感染の発生、増悪または再発の低減は、対照対象と比較して、約10、20、30、40、50、60、70、80、90もしくは100%、またはそれらの間にある任意の低減量であることができる。
【実施例】
【0086】
以下の実施例は例示のために提供されるのであって、本願請求項に係る発明を限定しようとするものではない。
【0087】
実施例1:材料および方法
A. DNAコンストラクト
SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするコンストラクト(「RBDコンストラクト」)はAmanat et al.(2020)に記載されている。SARS-CoV-2スパイク受容体RBDは、SARS-CoV-2 Wuhan-Hu-1のアミノ酸残基319~541にまたがる。このRBDコンストラクトは、ネイティブシグナルペプチド(アミノ酸1~14)をコードする核酸配列、それに続いてSARS-CoV-2 Wuhan-Hu-1ゲノム配列(GenBankリファレンス番号MN9089473)の残基319~541をコードする配列、そしてC末端にヘキサヒスチジンタグをコードする配列を含有する。
【0088】
フューリン部位(RRAR)がアラニンに変異していて、スパイク三量体を融合前コンフォメーションで安定化する2つのプロリン変異(K986PおよびV987P)を持つ、完全長型およびC末端切断型(ΔC)のSARS-CoV-2スパイクタンパク質エクトドメインコンストラクトを、スパイクタンパク質の残基1~1213をコードするSARS-CoV-2 Wuhan-Hu-1ゲノム配列(GenBank MN9089473)からの核酸配列を含有する同じくAmanat et al.(2020)記載の完全長スパイクタンパク質コンストラクトから調製した。スパイクタンパク質の残基1213をコードする核酸配列に続けて、GCN4三量体化ドメインおよびヘキサヒスチジン(hexahisitine)タグをコードする核酸配列を付加した。上記のコンストラクト(「FLスパイク三量体」)を、ヘプタッドリピート2(HR2)が欠失した切断型SARS-CoV-2スパイクタンパク質エクトドメインをコードするコンストラクトの基礎として使用した。スパイクタンパク質の残基1~1137をコードする配列だけのΔC SARS-CoV-2スパイクタンパク質エクトドメイン(「スパイクΔC三量体」)をコードするコンストラクトを含めた。上記のコンストラクトを、HiFi PCR(タカラ)と、それに続くEcoRI/XhoI制限部位を使ったInFusionクローニングとによって、pADD2哺乳類発現ベクターに移した。上記発現ベクターから完全長スパイクタンパク質エクトドメイン(残基1~1213)またはΔCスパイクタンパク質エクトドメイン(残基1~1143)のいずれかをコードする配列をPCR増幅し、次に、それらのコンストラクトをSGGリンカーとそれに続くピロリ菌フェリチン配列(残基5~168)とをコードするアンプリコンにアニールさせるスティッチングPCR(stitching PCR)を行うことにより、完全長スパイクフェリチン(「FLスパイクフェリチン」)コンストラクトおよびΔCスパイクフェリチン(「スパイクΔCフェリチン」)コンストラクトをクローニングした。結果として生じたアンプリコンを、次に、InFusionにより、EcoRI/XhoI制限部位を使って、pADD2哺乳類発現ベクターに挿入した。最終配列はサンガーシーケンシングを使って確認した。
【0089】
上述のコンストラクトを
図1に模式的に図解する。これらのコンストラクトによってコードされるアミノ酸配列を、SEQ ID NO:7~11として、以下に示す。ここでは、SARS-CoV-2スパイクシグナルペプチド配列がボールド体/下線付きフォントで示され、ヘキサヒスチジンタグ配列がボールド体で示され、Ser/Glyリンカーには下線が付され、GCN4三量体化ドメインはイタリック体で示され、ピロリ菌フェリチン配列はイタリック体かつ下線付きで示されている。
RBD-SEQ ID NO:9
FLスパイク三量体-SEQ ID NO:10
ΔCスパイク三量体(「スパイクΔC三量体」)-SEQ ID NO:11
FLスパイクフェリチン融合タンパク質(「FLスパイクフェリチン」)-SEQ ID NO:12
ΔCスパイクフェリチン融合タンパク質(「スパイクΔCフェリチン」)-SEQ ID NO:13
【0090】
SARS-CoV-2反応性モノクローナル抗体CR3022、CB6およびCOVA-2-15の可変重鎖および可変軽鎖配列を、ヒト発現のためにコドン最適化し、遺伝子ブロックフラグメントとしてIntegrated DNA Technologies(IDT)に注文した。フラグメントをPCR増幅し、VRC01からの重鎖または軽鎖Fc配列のいずれかを含有する直線化CMV/R発現ベクターに、InFusionを使って挿入した。
【0091】
AddgeneプラスミドからACE2(残基1~615)をPCR増幅し、それを、TEV-GSGG(SEQ ID NO:12)リンカーで隔てられたヒトFcドメインにスティッチングPCR工程を使って融合することによって、Fcタグに融合された可溶性ヒトACE2を構築した。次に、hACE2-Fcを、InFusion(登録商標)クローニングシステムにより、EcoRI/XhoI切断部位を使って、pADD2哺乳類発現ベクターに挿入した。
【0092】
クローニングしたプラスミドはすべてサンガーシーケンシングを使って配列を確認した。配列確認に続いて、プラスミドをStellar Cells(タカラ)に形質転換し、LB/カルベニシリン培養中で一晩成長させた。ただし、CMV/R mAbプラスミドは例外で、LB/カナマイシン培養中で成長させた。哺乳動物細胞トランスフェクション用に、Macherey Nagel Maxi Prepカラムを使って、プラスミドを調製した。溶出したDNAは、トランスフェクションに先立って、バイオセーフティフード中、0.22μmフィルタを使って濾過した。
【0093】
B. SARS-CoV-2抗原の発現および精製
タンパク質はすべてExpi293F細胞で発現させた。Expi293F細胞は、66%Freestyle/33%Expi培地(ThermoFisher)を使って培養し、TriForestポリカーボネートバッフル付き振とうフラスコ中、8%CO2下、37℃で成長させた。細胞のトランスフェクションはおよそ3~4×106細胞/mLの密度で行った。568μgのマキシプレップDNA(maxi-prepped DNA)を113mLの培養培地に加え(トランスフェクト細胞1リットルあたり)、次に1.48mLのFectoPro(Polyplus)を加えることによって、トランスフェクション混合物を作った。その混合物を室温で10分間インキュベートしてから、細胞に加えた。細胞をD-グルコース(最終濃度0.04g/L)および2-プロピルペンタン酸(バルプロ酸)(最終濃度3mM)で直ちにブーストした。トランスフェクションの3~5日後に、培養物を7,000×gで15分間遠心することによって、細胞を収穫した。0.22μmフィルタを使って上清を濾過した。
【0094】
RBD、FLスパイク三量体およびΔCスパイク三量体ポリペプチド抗原は、HisPur(商標)Ni-NTA樹脂(ThermoFisher)を使って精製した。精製に先立って、樹脂をおよそ10カラム体積の洗浄緩衝液(10mMイミダゾール/1×PBS)で3回洗浄した。細胞上清を10mMイミダゾール/1×PBSで1:1に希釈し、希釈した細胞上清に樹脂を加え、次にそれを遠心しながら4℃でインキュベートした。樹脂/上清混合物を、重力流精製のために、ガラス製クロマトグラフィーカラムに加えた。カラム中の樹脂を10mMイミダゾール/1×PBSで洗浄し、タンパク質を250mMイミダゾール/1×PBSで溶出させた。カラム溶出物を遠心濃縮器(RBDの場合は10kDaカットオフ、三量体コンストラクトの場合は100kDaカットオフ)を使って濃縮し、次にAKTA Pureシステム(Cytiva)でのサイズ排除クロマトグラフィーを行った。RBDはS200を使って精製した。FLスパイク三量体およびΔCスパイク三量体はS6で精製した。精製に先立ってカラムを1×PBSで前平衡化した。
【0095】
FLスパイクフェリチンナノ粒子およびΔCスパイクフェリチンナノ粒子の単離には、アニオン交換クロマトグラフィーを使用し、続いてSRT(登録商標)SEC-1000カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーを行った。簡単に述べると、AKTA Flux Sカラム(Cytiva)を使ってExpi293F上清を濃縮した。次に、100kDa分子量カットオフ(MWCO)の透析チューブを用いる4℃で一晩の透析により、緩衝液を20mMトリスpH8.0に変えた。透析された上清を0.22μmフィルタで濾過し、20mMトリスpH8.0中で平衡化したHiTrap(登録商標)Qアニオン交換カラムにローディングした。0→1M NaCl勾配を使ってスパイクナノ粒子を溶出させた。以下にさらに述べるように、まず、CR3022によるウェスタンブロット解析を使って、タンパク質含有画分を同定した。タンパク質含有画分をプールし、100kDa MWCOのAmicon(登録商標)スピンフィルタを使って濃縮し、次に、1×PBSで平衡化したSRT(登録商標)SEC-1000SECカラムを用いるAKTA Pureシステム(Cytiva)で精製した。A280シグナル、およびGelCode(商標)Blue Stain試薬(ThermoFisher)で染色した4-20%Mini-PROTEAN(登録商標)TGX(商標)タンパク質ゲルでのSDS-PAGE解析に基づいて、画分をプールした。免疫処置に先立って、試料に10%グリセロールを補足し、0.22μmフィルタで濾過し、急速凍結し、使用時まで-20℃で貯蔵した。
【0096】
C. Expi上清のウェスタンブロット解析
トランスフェクションの3日後にExpi293F上清を収集し、7,000×gで15分間遠心することによって収穫し、0.22μmフィルタで濾過した。試料をSDS-PAGE Laemmliローディング緩衝液(Bio-Rad)で希釈し、95℃で煮沸し、4-20%Mini-PROTEAN(登録商標)TGXタンパク質ゲル(Bio-Rad)上、250Vで泳動させた。Trans-Blot(登録商標)Turbo(商標)転写システム(Bio-Rad)を使ってタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。ブロットを5%ミルク/PBST中でブロックし、ブロットのブロッキング後に、PBSTで洗浄した。内製の一次抗体(CR3022、原液濃度5μM)を、PBST中、1:10,000で加えた。ブロットをPBSTで洗浄し、二次ウサギ抗ヒトIgG H&L HRP(abcam ab6759)を、PBST中、1:50,000の希釈度で加えた。Pierce(商標)ECLウェスタンブロッティング基質(ThermoFisher)を使ってブロットを呈色させ、GE Healthcare Life Sciencesイメージャーで撮像した。
【0097】
D. 精製mAbおよびマウス血清による酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
SARS-CoV-2抗原によるELISA結合は、MaxiSorp(商標)96ウェルプレート(ThermoFisher)上に、4℃において一晩、1×PBS中、2μg/mLで抗原をコーティングすることによって行った。コーティング後に、プレートをPBSTで3回洗浄し、ChonBlock(商標)ブロッキング/希釈ELISA緩衝液(Chondrex)を使って4℃で一晩ブロッキングした。緩衝液を用手除去し、プレートをPBSTで3回洗浄した。マウス血清試料、精製モノクローナル抗体およびhACE2-Fcを、希釈緩衝液で、1:50血清希釈液または10μg/mLのいずれかから開始して連続希釈し、次に、被覆プレートに室温で1時間加えた。プレートをPBSTで3回洗浄した。マウス血清ELISAの場合、HRPヤギ抗マウス(BioLegend 405306)を、室温において1時間、希釈緩衝液中、1:10,000の希釈度で加えた。精製mAbおよびhACE2-Fcの場合は、Direct-Blot HRP抗ヒトIgG1 Fc抗体を、室温において1時間、希釈剤中、1:10,000の希釈度で加えた。二次抗体と共にインキュベートした後、ELISAプレートをPBSTで6回洗浄した。1-Step(商標)Turbo TMB基質(Pierce)を使ってプレートを6分間呈色させ、2M硫酸でクエンチした。BioTekプレートリーダーを使って450nmにおける吸光度を読み取った。
【0098】
E. マウスの免疫処置
Balb/CマウスはJackson Laboratories(メイン州バーハーバー)から調達した。動物はすべて、公衆衛生局の実験動物の人道的管理と使用に関する規範(Public Health Service Policy for‘Humane Care and Use of Laboratory Animals')に従い、スタンフォード大学動物実験管理委員会(Stanford University Administrative Panel on Laboratory Animal Care)(APLAC)によって承認されたプロトコールを守って維持された。10μgのSARS-Cov-2スパイクタンパク質免疫原(または別段の記載があるもの)を、1×PBSで希釈したアジュバントとしての10μgのQuil-A(登録商標)アジュバント(InVivogen、カリフォルニア州サンディエゴ)および10μgのモノホスホリルリピドA(InVivogen、カリフォルニア州サンディエゴ)(MPLA)と共に皮下注射することによって、6~8週齢雌Balb/Cマウスを免疫処置した。免疫原とアジュバントの組合せのリストを表2に掲載する。
【0099】
(表2)マウスの免疫処置に使用した免疫原とアジュバントの組合せ
【0100】
F. SARS-CoV-2シュードタイプレンチウイルスの生産およびウイルス中和アッセイ
SARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスは、リン酸カルシウムトランスフェクション試薬を使って、HEK293T細胞中で生産した。トランスフェクションの前日に、600万個の細胞を、10cmプレート中のD10培地(DMEM+添加剤:10%FBS、L-グルタミン酸、ペニシリン、ストレプトマイシンおよび10mM HEPES)に播種した。ウイルス生産には、Crawford et al.,2020に記載されているように、レンチウイルスパッケージングベクター(pHAGE_Luc2_IRES_ZsGreen)、SARS-CoV-2スパイクベクター(「FLスパイク」)およびレンチウイルスヘルパープラスミド(HDM-Hgpm2、HDM-Tat1bおよびpRC-CMV_Rev1b)を含む5プラスミド系(five-plasmid system)を使用した。スパイクベクターは、SARS-CoV-2のWuhan-Hu-1株の完全長野生型スパイク配列を含有した。プラスミドは、最終体積を500μLにして、以下の比で濾過滅菌水に加えた:10μgのpHAGE_Luc2_IRS_ZsGreen、3.4μgのFLスパイク、2.2μgのHDM-Hgpm2、2.2μgのHDM-Tat1b、2.2μgのpRC-CMV_Rev1b。最終体積が1mLになるまで、HEPES緩衝食塩水(2×、pH7.0)を、この混合物に滴下した。トランスフェクション複合体を形成させるために、溶液を穏やかに撹拌しながら、100μLの2.5M CaCl2を滴下した。トランスフェクション反応をRTで20分間インキュベートしてから、プレーティングされた細胞にゆっくり滴下した。トランスフェクションの24時間後に培養培地を取り除き、新鮮なD10培地で置き換えた。トランスフェクションの72時間後に、300×gで5分間遠心することによってウイルス上清を収穫し、次に0.45μmフィルタで濾過した。ウイルスストックを小分けし、さらなる使用まで-80℃で貯蔵した。
【0101】
ウイルス中和アッセイにおいて感染に使用した標的細胞は、SARS-CoV-2受容体ACE2を安定に過剰発現させるHeLa細胞株から得た。この細胞株の生産はRogers et al.,2020に詳述されている。感染の前日にACE2/HeLa細胞を1ウェルあたり5,000細胞でプレーティングした。マウス血清を56℃で30分間熱非働化し、D10培地で希釈し、ウイルスと共に37℃で1時間インキュベートした。阻害剤/ウイルス希釈物に先立って、ポリブレンを5μg/mLの最終濃度で加えた。インキュベーション後に培地を細胞から取り除き、等体積の阻害剤/ウイルス希釈液で置き換え、37℃でおよそ48時間インキュベートした。感染力のリードアウトはルシフェラーゼレベルを測定することによって行った。BriteLite(商標)アッセイリードアウト溶液(パーキンエルマー)を加えることによって細胞を溶解し、BioTekプレートリーダーを使ってルミネセンス値を測定した。細胞のみの6ウェル(感染力0%)およびウイルスのみの6ウェル(感染力100%)を平均することによって各プレートを正規化した。正規化された値をPrismにおいて3パラメータ非線形回帰阻害剤曲線でフィッティングすることでIC50値を得た。
【0102】
G. クライオEMデータ取得
ΔCスパイクフェリチンナノ粒子とFLスパイクフェリチンナノ粒子の両方について、精製後に、試料を0.4mg/mL前後の最終濃度まで希釈した。各試料のうち3μLを、連続炭素をコーティングしたグロー放電200メッシュR2/1Quantifoil(登録商標)グリッドに塗布した。それらのグリッドを2秒間ブロッティングし、4℃および湿度100%においてVitrobot(商標)Mark IV(Thermo Fisher Scientific)を使って、液体エタン中で素早く凍結(cryocool)させた。200kVで作動するTalos(商標)Arctica(商標)クライオ電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific)を使って試料をスクリーニングした。次に、どちらの試料についても、300kVで作動するTitan Krios(商標)クライオ電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific)において、GIFエネルギーフィルタ(Gatan)を使って、130,000倍の倍率(1ピクセルあたり1.06Åの校正済みサンプリングに相当する)で、試料を撮像した。顕微鏡像は、Gatan K2 Summit(登録商標)直接電子検出器を使ってEPUソフトウェア(Thermo Fisher Scientific)によって記録され、各像は、露光時間(exposure time)6秒および露光率(exposure rate)1Å2あたり1秒あたり7.8電子の個別フレーム30枚で構成された。合計3,684のムービースタック(movie stack)が収集された。
【0103】
H. 単粒子画像処理および3D再構築
まず、画像処理のために、すべてのムービースタックをRELION(REgularised LIkelihood OptimisatioNの略)ソフトウェアにインポートした。MotionCor2を使ってモーション補正を行い、CTFFIND4を使ってコントラスト伝達関数(CTF)を決定した(Rohou et al.,2015)。EMAN2のNeuralNet オプションを使ってすべての粒子をオートピック(autopick)することで、選択された3,540の顕微鏡像から152,734の粒子を得た。次に、粒子座標をRELIONソフトウェアにインポートし、数ラウンドの2Dクラス分類によって、低品質の2Dクラス平均を除去した。cryoSPARCプラットフォームにおいて、八面体対称性を適用し、アブイニシオ再構築(ab-initio reconstruction)オプションを使って、初期モデルを構築した。最終3D精密化は、62,837粒子を使って、八面体対称性を適用してまたは適用せずに行い、X-ÅマップおよびX-Åマップをそれぞれ得た。最終マップの解像度は0.143のフーリエシェルコリレーション曲線の基準で見積もった。カリフォルニア大学サンフランシスコ校Chimeraソフトウェアパッケージでディスプレイされた最終3Dマップにガウシアンローパスフィルタを適用した。
【0104】
実施例2:SARS-CoV-2抗原の発現および特徴付け
実施例1記載のコンストラクトがコードするSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を実施例1で述べたように発現させ、特徴付けた。特徴付けの結果を
図2A、
図2Bおよび
図3に図解する。
図2Aに図解するように、Expi293F細胞上清のウェスタンブロット解析は、異なるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原間で発現レベルが異なることを示した。
図2Aに示すウェスタンブロットを作成するために、上清を非還元性SDSローディング緩衝液中で煮沸し、分離のために10%ゲルで泳動し、ニトロセルロース膜に転写し、内製した組換え抗SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質S1モノクローナル抗体(mAb)でブロッティングした。
図2Bに図解するように、精製SARS-CoV-2 RBD(予想MW25.9kDa)、FLスパイク三量体(予想単量体MW138.3kDa)、ΔCスパイク三量体(予想単量体MW129.3kDa)、FLスパイクフェリチン(予想単量体MW151.9kDa)およびΔCスパイクフェリチン(予想単量体MW143.8kDa)のSDS-PAGE解析は、上記SARS-CoV-2抗原の分子量を予想どおり示した。SDS-PAGEについては、試料を非還元性SDSローディング緩衝液中で煮沸し、分離のために10%ゲルで泳動し、クーマシー色素によって可視化した。実験動物の免疫処置に先立ち、多角度光散乱(SEC-MALS)解析と組み合わされた分析用サイズ排除クロマトグラフィーを使って、SARS-CoV-2抗原調製物の純度、均一性およびサイズを確認した。SEC-MALS解析の結果を
図3に図解する。RBD抗原はS200カラムで解析し、他の4つの抗原はSRT-1000カラムで解析した。試料からの編集済みUVシグナル、光散乱シグナルおよび屈折率シグナルを使用し、ASTRAソフトウェア解析を使って、各調製物について推定分子量および流体力学的半径を算出した。重要なことに、この解析により、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原はいずれも安定に多量体化していること、および単量体型に解離していないことが確認された。各精製タンパク質についてのUV、光散乱および屈折率の測定値を使って、本発明者らは、各抗原について推定分子量および流体力学的半径を算出した。加えて、この解析により、精製試料は本質的に均一であり、これらの条件下では凝集傾向を示さないことが確認された。SARS-CoV-2 RBDに結合するSARS1モノクローナル抗体CR3022を使ったウェスタンブロットによるExpi上清からの発現レベルの評価により、HR2領域を包含するC末端欠失は、スパイク三量体の発現レベルの強化をもたらし、スパイクフェリチン融合タンパク質の発現にはさらに大きな強化をもたらすことが実証された。
【0105】
実施例3:SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のELISA結合解析
ELISAを使って、ヒトACE2、COVID-19精製モノクローナル抗体(CR3022、CB6、COVA2-15)およびCOVID-19患者血清(ADI-15731)に対するSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の結合を比較した。ELISAのために、各SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を、等価な濃度で、疎水性プレーティング(hydrophobically plate)した。
図4に図解するELISA結合曲線は、互いに同等な結合レベルによって決定されるとおり、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原がACE2結合部位およびモノクローナル抗体エピトープをどちらも同様に提示することを示した。
【0106】
実施例4:SARS-CoV-2スパイク-フェリチンタンパク質のクライオEM解析
SARS-CoV-2スパイク-フェリチンタンパク質のクライオEM解析を行って、
図5に図解する結果を得た。クライオEM解析の結果によれば、SARS-CoV-2スパイク-フェリチンタンパク質は、コロナウイルスのスパイクタンパク質の表面露出三量体を含むナノ粒子を形成した。FLスパイクフェリチンとΔCスパイクフェリチンのクライオEM生画像はどちらも、ナノ粒子の適正な形成と表面上のスパイク三量体のディスプレイを示す、明確な密度をアポフェリチン粒子の周囲に示した。2Dクラス平均は、アポフェリチンの外側にスパイク三量体の密度をさらに示したが、スパイクタンパク質密度は、そのフレキシビリティゆえに不鮮明である。ΔCスパイクフェリチン粒子の生画像および2Dクラス平均はFLスパイクフェリチン粒子よりも良かったので、さらなるデータ収集および画像処理には前者を選んだ。単粒子解析を使って、八面体対称性を適用して、また適用せずに、ΔCスパイクフェリチン複合体の三次元(3D)構造を決定した。2つのクライオEMマップは非常に似ており、相互相関係数は0.9857であった。クライオEM解析により、スパイク三量体は、ナノ粒子の表面上で折り畳まれたコンフォメーションで提示されることが確認された。
【0107】
実施例5:SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の免疫原性
SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の免疫原性解析を行った。その実験結果を
図6~9に図解する。マウスの群を、10μgの各SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原、アジュバントとしての10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAで免疫処置し、初回免疫処置を「0日目」に行った。初回免疫処置後「21日目」および「28日目」にマウスから採血し、「21日目」に免疫原をブースト投与した。免疫処置マウスから21日目および28日目に採取した血清をELISAおよびルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイによって解析した。シュードタイプウイルスを使った中和は研究室の現場ではウイルス阻害を評価する一般的方法である。
【0108】
ELISAを使って、SARS-CoV-2 RBDタンパク質およびSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する血清の結合を評価した。21日目(
図6)および28日目(
図8)に採取した血清のELISA結合解析は、5つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原がいずれも、SARS-CoV-2 RBDおよび完全長スパイクタンパク質に対する抗体を誘発することを示した。ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って、SARS-CoV-2の血清中和を評価した。21日目(
図7)および28日目(
図9)に採取した血清のSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイの結果は、SARS-CoV-2抗原のそれぞれが、SARS-CoV-2シュードタイプレンチウイルスを中和することができるスパイク指向性抗体を誘発することを示した。ただし、ΔCスパイクフェリチン融合タンパク質は、試験したすべての抗原の中で最も高い中和抗体応答を実験動物において誘発した。SARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイは、21日目に採取した血清で行い、比較には20の回復期COVID-19患者血漿試料のセット(「回復期COVID-19血漿」、
図7では「CCP」として示す)を使用した。この比較は、ΔCスパイクフェリチン融合タンパク質による免疫処置が回復期COVID-19血漿と比較して少なくとも2倍大きな中和抗体価を誘発することを示した。
【0109】
実施例6:SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原による免疫処置後の免疫グロブリン特異的応答
Quil-A(登録商標)/MPLAをアジュバントとするSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原による免疫処置後の実験動物(マウス)における免疫グロブリン特異的応答を、ELISAを使って評価した。その実験結果を
図10~12に図解する。
図10は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原FLスパイクフェリチン(「S-Fer」)、スパイクΔCフェリチン(「SΔC-Fer」)、FLスパイク三量体(「S-GCN4」)、スパイクΔC三量体(「SΔC-GCN4」)およびRBDを2回投与することで免疫処置した実験マウスから採取した血清の、IgG1、IgG2aおよびIgG2bサブクラス応答のELISA結合解析の結果を図解している。用量10μgの抗原を2回投与した。2回目は最初の投与後、21日目に投与した。これらの実験により、Quil-A(登録商標)およびMPLAをアジュバントとするSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の2回の投与による免疫処置は、ロバストなIgG1応答およびIgG2応答につながり、IgM応答のレベルは最小であることが明らかになった。
【0110】
図10に図解する実験結果により、異なるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原群の間にさまざまなIgGサブクラス比での幅広いIgG応答が実証された。
図11Aにさらに図解するように、スパイクΔCフェリチンおよびFLスパイク三量体は、IgG1応答と比較して、より高いIgG2a応答を誘発し、FLスパイクフェリチンおよびスパイクΔC三量体群は、ほぼ釣り合ったレベルのIgG2aおよびIgG1応答を誘発し、RBDはIgG2a応答より実質的に大きいIgG1応答を誘発した。
図11Bにさらに図解するように、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原は、1未満のIgG2b/IgG1での応答を誘発し、IgG1応答と比較してIgG2b応答の方が低いことを示した。ELISAを使って、実験動物におけるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原特異的IgM価も決定した。その結果を
図12に図解する。IgGと比較して低レベルのIgMが検出された。
【0111】
実施例7:SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原による免疫処置後の安定な中和抗体応答
SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原FLスパイクフェリチン(「S-Fer」)、スパイクΔCフェリチン(「SΔC-Fer」)、FLスパイク三量体(「S-GCN4」)、スパイクΔC三量体(「SΔC-GCN4」)、およびRBDによる免疫処置後の中和抗体応答を、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。その結果を
図13A、
図13Bおよび
図14に図解する。なかんずく、これらの実験結果は、スパイクΔCフェリチンによる免疫処置が、用量依存的中和抗体応答につながり、免疫処置後、20週までは安定な中和抗体レベルを誘発することを示した。
【0112】
図13Aは、10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAをアジュバントとする0.1μg、1μgまたは10μgのスパイクΔCフェリチンの皮下投与後、28日目に実験マウスから採取した血清の中和特性を図解している。
図13Bは、10μgのQuil-A(登録商標)をアジュバントとする20μgのスパイクΔCフェリチンの皮下投与後、2週~6週で、中和抗体応答が実験動物において増加したこと、および中和抗体応答が、スパイクΔCフェリチン投与後、20週までにわたって安定なままであることを図解している。
図14は、10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAをアジュバントとする総体積100μL中の用量10μgのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を2回皮下投与した後の実験マウスにおける、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原に対する中和抗体応答の寿命を図解している。2回目は、1回目の投与後、21日目に投与した。最初の投与後、4週目、9週目および15週目に収集した血清から、中和抗体レベルを評価した。
【0113】
実施例8:アジュバントおよび投与条件のスクリーニング
スパイクΔCフェリチンによる免疫処置に関してアジュバントおよび投与条件のスクリーニングを行った。その結果を
図15Aおよび15Bに図解する。実験動物から収集した血清の中和特性を、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。
図15Aは、スパイクΔCフェリチンによる単回投与免疫処置についてのアジュバントおよび投与条件の比較を図解している。実験マウスに、500μgのAlhydrogel(登録商標)および20μgのCpG、または10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAのどちらかをアジュバントとするスパイクΔCフェリチンを1μgまたは10μgの単回用量で皮下投与した。免疫処置後3週目に血清を収集した。
図15Bは、スパイクΔCフェリチンによる1回および2回投与免疫処置についてのアジュバントおよび投与条件の比較を図解している。実験マウスに、500μgのAlhydrogel(登録商標)および20μgのCpG、AddaVax(商標)、または10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAのいずれかをアジュバントとするスパイクΔCフェリチンを、1μgまたは10μgの1回目(初回またはプライム)用量で、皮下投与した。初回免疫処置後、21日目に血清を収集し、その時点で、500μgのAlhydrogel(登録商標)および20μgのCpG、AddaVax(商標)、または10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAのいずれかをアジュバントとするスパイクΔCフェリチンを、1μgまたは10μgの2回目(ブースト)用量で、実験マウスに皮下投与した。プライム用量とブースト用量は各実験動物群では同一とした。初回免疫処置後、28日目にも血清を収集した。
図15Bに図解する結果から、試験したアジュバント条件はいずれも、スパイクΔCフェリチンによる免疫処置後に定量可能な中和抗体レベルを誘発し、1回投与後は、500μgのAlhydrogel(登録商標)および20μgのCpGが最もロバストな応答を誘発し、2回投与後は、10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLAが最もロバストな応答を誘発することが明らかになった。
【0114】
実施例9:2種の異なるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原によって誘発される中和抗体応答の比較
2種の異なるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原、スパイクΔCフェリチン(「SΔC-Fer McLellan」)とスパイクHexaProΔCフェリチン(「SΔC-FerHexaPro」)によって誘発される中和抗体応答の比較を行った。その結果を
図16に図解する。実施例1およびHsieh et al.,2020に記載の手順と実質的に類似する手順を使って、スパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)を発現させ、精製した。実施例1記載の手順に実質的に類似する手順を使って、10μgのQuil-A(登録商標)および10μgのMPLをアジュバントとする10μgのスパイクΔCフェリチンまたはスパイクHexaProΔCフェリチンの2回の投与で、実験マウスを免疫処置した。2回目(ブースト)は初回免疫処置後、21日目に投与した。初回免疫処置後、21日目、28日目および56日目に血清を収集した。実験マウスから収集した血清の中和特性を、ルシフェラーゼに基づくSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルスアッセイを使って評価した。スパイクΔCフェリチンおよびスパイクHexaProΔCフェリチンによって誘発される中和抗体応答の比較により、スパイクHexaProΔCフェリチンはスパイクΔCフェリチンよりも免疫原性が高いことが明らかになった。HexaPro SARS-CoV-2スパイクタンパク質配列(SEQ ID NO:14)に基づくSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を以下に示す。SARS-CoV-2スパイクシグナルペプチド配列はボールド体/下線付きフォントで示され、ヘキサヒスチジンタグ配列はボールド体で示され、Ser/Glyリンカー領域には下線が付され、GCN4三量体化ドメイン配列はイタリック体で示され、ピロリ菌フェリチン配列はイタリック体かつ下線付きで示されている。
スパイクHexaProΔCフェリチン(「HexaProΔCフェリチン」)-SEQ ID NO:16
スパイクHexaProΔCフェリチン変異体(「HexaProΔCフェリチン変異体」)-SEQ ID NO:17
スパイクHexaProフェリチン(「HexaProフェリチン」)-SEQ ID NO:18
スパイクHexaPro GCN4(「HexaPro GCN4」)-SEQ ID NO:19
スパイクHexaProΔC GCN4(「HexaProΔC GCN4」)-SEQ ID NO:20
【0115】
実施例10:3種の異なるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の発現および精製収率の比較
以下のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の発現および精製収率を比較した:ΔCスパイクフェリチン融合タンパク質(「スパイクΔCフェリチン」、SEQ ID NO:13、
図17B~19では「Krammer」と記す)、ΔCスパイクフェリチン融合タンパク質変異体(「スパイクΔCフェリチン変異体」、SEQ ID NO:21、
図17B~19では「McLellan」と記す)、およびスパイクHexaProΔCフェリチン(「HexaProΔCフェリチン」、SEQ ID NO:16、
図17B~19では「HexaPro」と記す)。その結果を
図17Aおよび
図17Bに図解する。ΔCスパイクフェリチン融合タンパク質変異体のアミノ酸配列(SEQ ID NO:14)を以下に示す。SARS-CoV-2スパイクシグナルペプチド配列はボールド体/下線付きフォントで示され、Ser/Glyリンカー領域には下線が付され、ピロリ菌フェリチン配列はイタリック体かつ下線付きで示されている。
ΔCスパイクフェリチン融合タンパク質変異体(「スパイクΔCフェリチン変異体」)-SEQ ID NO:21
【0116】
実施例1およびHsieh et al.,2020に記載の手順に基づく手順を使って、上記3つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のそれぞれを発現させ、精製した。各SARS-CoV-2スパイクタンパク質につき二重に実施した発現は、2:1の比で混合したFreestyle(商標)発現培地とExpi293(商標)発現培地(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)を含有する培地中で培養し、FectPRO(登録商標)試薬(Polyplus transfection、ニューヨーク州ニューヨーク)を使って製造者の指示に従ってトランスフェクトしたExpi293F細胞において行った。4~5日間の培養後に、遠心と濾過によって、培養培地を清澄化した。清澄化した培地を20mMトリスpH8.0緩衝液で希釈し、低イオン強度緩衝液(緩衝液A、10mMトリス、pH8.0)で前平衡化したHiTrap Q(登録商標)HP(Cytiva、マサチューセッツ州マールバラ)カラムに試料ポンプでローディングした。カラムを5カラム体積の緩衝液Aで洗浄し、緩衝液B(10mMトリス、pH8.0、1M NaCl)の勾配を適用した。5~25%緩衝液Bで溶出したフラクションを収集し、遠心濃縮器(Amicon(登録商標)、MilliporeSigma、マサチューセッツ州バーリントン)、100kDaカットオフ)を使って20倍に濃縮した。その結果生じた濃縮物をPBSで10倍希釈し、遠心濃縮器で再び濃縮した。さらなる精製には、AKTA(商標)pure FPLC(Cytiva、マサチューセッツ州マールバラ)システムをSRT1000ゲル濾過カラムと共に使用した。
【0117】
ゲル濾過のために、2mlループを使って2mlの試料をFPLCシステムに注入し、脱気したPBS緩衝液で前平衡化したSRT1000カラムに適用した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を含有する画分を収集し、プールし、遠心濃縮器で濃縮した。濃縮した試料にグリセロールまたはスクロースを最終濃度が10%(スクロースについては重量パーセント、グリセロールについては体積パーセント)になるように加え、次にそれを0.22μmフィルタで濾過し、液体窒素を使って0.4~0.5mg/mlで瞬間凍結した。
図17Aは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の代表的なサイズ排除クロマトグラフィートレースを示しており、プールした画分に影が付けられている。得られた各SARS-CoV-2スパイクタンパク質の相対量を、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原を含有する画分を表す影付き曲線下面積として算出した(
図17Aに図解)。
図17Bは、上述の発現および精製手順によって得られた各SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の相対量の比較を図解している。
図17Bに図解する比較により、スパイクHexaProΔCフェリチンの収率は、スパイクΔCフェリチンまたはスパイクΔCフェリチン変異体のいずれかの収率より、およそ2.5倍高いことが明らかになった。
【0118】
実施例11:3種の異なるSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の免疫原性
実施例10に記載した3つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の潜在的免疫原性を評価した。Octet(登録商標)システム(Sartorius、ドイツ・ゲッチンゲン)でのバイオレイヤー干渉法(BLI)を使って、コンフォメーショナルモノクローナル抗体(mAb)およびACE2受容体に対するSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の結合を試験した。SARS-CoV-2反応性mAb、CR3022(HC GenBank DQ168569、LC Genbank DQ168570)、CB6(HC GenBank MT470197、LC GenBank MT470196)およびCOVA-2-15(HC GenBank MT599861、LC GenBank MT599945)の可変重鎖(HC)配列および可変軽鎖(LC)配列を、IDT Codon Optimization Toolを使ってヒト発現についてコドン最適化し、遺伝子ブロックフラグメントとしてIDTに注文した。それらのフラグメントをPCRによって増幅し、In-Fusion(登録商標)クローニングシステム(タカラバイオ、日本国滋賀県)を使って、VRC01からの重鎖または軽鎖Fc配列を含有するCMV/R発現ベクターに挿入した。Addgeneプラスミド#1786からACE2(アミノ酸残基1~615をコードする配列)をPCR増幅し、スティッチングPCR工程を使って、それを、TEV-GSGG(SEQ ID NO:5)リンカーによって分離されたVRC01からのヒトFcドメインに融合することによって、Fcタグを持つ可溶性ヒトACE2を構築した。ACE2-Fcを、In-Fusion(登録商標)により、EcoRI/XhoI切断部位を使って、pADD2哺乳類発現ベクターに挿入した。精製スパイクナノ粒子に対するSARS-CoV-2 mAbおよびACE2受容体-Fc融合タンパク質をOctet Fc結合チップに100nMの濃度でローディングし、それらのチップを、Octet結合緩衝液で150nM(SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原単量体濃度)に希釈した被験SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原が入っているウェルに浸漬した。60秒間の会合後に、チップを(解離を測定するために)緩衝液だけが存在するウェルに移動させた。
図18に図解されるように、コンフォメーショナル抗体およびACE2受容体に対する3つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のそれぞれの等価な結合が観察された。上記の実験的観察結果により、上記3つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のそれぞれはエピトープを同じようにディスプレイすることが確認され、免疫原性部位の提示は試験したSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原間の配列の相違による影響を受けないことが実証された。
【0119】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原によって誘発される中和抗体応答の比較は、以下の免疫処置スキームを使って行った。各群10匹のマウスを、500μgのアラム(InvinoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)および20μgのCpG(InvivoGen)をアジュバントとする10μgの各SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の2回の投与で免疫処置した。これらの用量を、「0日目」および「21日目」に筋肉内注射によって投与し、血液試料を「0日目」(免疫処置前)、「21日目」および「42日目」に採取した。実験動物から収集した血清の中和価を、実施例1記載のSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルス中和アッセイを使って評価した。細胞の感染性は、ルシフェラーゼ酵素活性を測定することにより、48時間後に測定した。相対ルシフェラーゼ酵素活性を血清希釈度に対してプロットし、50%感染濃度(IC50)を希釈度曲線から算出した。結果を
図19に図解する。試験した3つのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原が生成した中和価に統計的差はなかった。
【0120】
実施例12:SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の凍結乾燥
凍結乾燥スパイクHexaProΔCフェリチンの実験的研究を行った。これにより、スクロースの存在下で凍結乾燥し、次に再構成されたスパイクHexaProΔCフェリチンは、その構造および免疫原性を保つことが実証された。この実験的研究の結果を
図20~26に図解する。最初の一連の研究については、実施例10に記載したようにスパイクHexaProΔCフェリチンを発現させて精製し、10%スクロースを含むPBS中で瞬間凍結した。凍結乾燥され再構成されたスパイクHexaProΔCフェリチン(「凍結乾燥試料」)を作製するために、凍結試料を凍結乾燥機(Labconco(商標)、ミズーリ州カンザスシティ)で一晩凍結乾燥し、出発時の10%スクロースを含むPBSと等体積の水に再懸濁した。
【0121】
スパイクHexaProΔCフェリチンを損失なく凍結乾燥し再構成できることを確認するために、凍結し融解したスパイクHexaProΔCフェリチン試料(「凍結試料」)と凍結乾燥試料のUV吸光度スペクトルを比較した。その結果を
図20に図解する。示差走査蛍光定量解析(結果を
図21に図解する)により、スパイクHexaProΔCフェリチンは凍結試料でも凍結乾燥試料でも同じ熱安定性を有することが確認された。凍結乾燥試料中のスパイクHexaProΔCフェリチンがそのコンフォメーショナルエピトープを保っていることを確認するために、両試料を実質的に実施例11に記載のとおり、BLIによって試験した。BLI解析の結果を
図22に図解する。BLI解析は、凍結試料と凍結乾燥試料が、コンフォメーショナル抗体およびACE受容体に同じように結合することを示し、免疫原性部位の提示は凍結乾燥と再構成とによる影響を受けないことが実証された。
【0122】
凍結乾燥し再構成したスパイクHexaProΔCフェリチンの免疫原性を、凍結し融解したスパイクHexaProΔCフェリチンの免疫原性と比較した。凍結試料および凍結乾燥試料をそれぞれマウス5匹の同一の3群に投与した(全部で6つの群)。投与に先立って、凍結乾燥試料および凍結試料を室温で1時間インキュベートした。1時間後に、10μgのタンパク質を500μgのアラムおよび20μgのCpGと混合することによって、試料を調剤した。「0日目」の筋肉内注射による免疫処置でマウスを抗原刺激し、「0日目」の抗原刺激前と、免疫処置後の「21日目」および「42日目」に、血液試料を収集した。SARS-CoV-2 RBDタンパク質に対する抗血清の結合は「21日目」に測定した。96ウェルプレートに組換えSARS-CoV-2 RBDタンパク質をコーティングし、希釈血清試料の力価をELISAによって測定した。光学密度を血清希釈度に対してプロットし、50%有効濃度(EC50)を希釈度曲線から算出した。結果を
図23に図解する。SARS-CoV-2シュードウイルス中和価は「21日目」および「42日目」に試験した。希釈したマウス血清試料を、「デルタ21-スパイク」タンパク質(C末端の21アミノ酸が欠失しているSARS-CoV-2スパイクタンパク質)およびルシフェラーゼを保持するシュードタイプSARS-CoV-2ウイルスと共に1時間インキュベートし、ACE2および膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)を発現するHeLa細胞に加えた。細胞の感染性は、ルシフェラーゼ酵素活性を測定することにより、48時間後に測定した。相対ルシフェラーゼ酵素活性を血清希釈度に対してプロットし、50%感染濃度(IC50)を希釈度曲線から算出した。結果を
図24に図解する。上記の研究により、RBD結合力価およびSARS-CoV-2 シュードウイルス中和価は、凍結ワクチン候補で免疫処置されたマウスからの血清と、凍結乾燥ワクチン候補で免疫処置されたマウスからの血清との間で、統計的に相違しないことが示された。
【0123】
スパイクHexaProΔCフェリチンは、揮発性重炭酸アンモニウム緩衝液中で凍結乾燥し、10mg/mlを上回る濃度で再懸濁することができることが、実証された。PBSなどの不揮発性緩衝液での凍結乾燥の場合は、再構成後に極めて高い塩濃度が生じるのを防ぐために、匹敵する体積の水に再懸濁することが必要になる。揮発性緩衝液の使用は、タンパク質を出発体積より小さな体積に再懸濁して、試料濃度を増加させることを可能にする。重炭酸ナトリウム緩衝液における凍結乾燥には、安定剤として1%スクロース(重量%)を使用した。1%スクロースは、凍結乾燥試料の再構成(可溶化)の容易さに基づいて選んだ。スパイクHexaProΔCフェリチンを実施例10で述べたように発現させ、精製し、10mM重炭酸アンモニウムpH7.8に対して一晩透析した。透析後に、スクロースを最終濃度が1%(重量%)になるように加えた。次に試料を液体窒素中、1mg/mlのタンパク質濃度で瞬間凍結し、一晩凍結乾燥し、およそ11mg/mlのタンパク質濃度でPBSに再懸濁した。次に再構成された試料を、コンフォメーショナル抗体CB6およびACE2受容体への結合について、BLIで試験した(結果を
図25に図解する)。試料中のスパイクHexaProΔCフェリチンナノ粒子の構造的完全性を、サイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱法(SEC-MALS)で確認した。SEC-MALS実験の結果を
図26に図解する。
図26は、揮発性重炭酸アンモニウム緩衝液中で凍結乾燥したSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の特性を試験するSEC-MALSの結果を図解している。SEC-MALS実験のために、5μgのタンパク質を再構成後すぐに、PBSにおいて平衡化したSRT SEC-1000 4.6×300mmカラムにローディングした。UVトレースと光散乱トレースの両方で検出される単一の突出したピークにより、試料中のナノ粒子は均一であり、凝集しないことが確認された。次に試料を室温で4日間貯蔵し、SEC-MALS実験を繰り返して試料を検証した。
【0124】
実施例13:操作されたグリコシル化によるフェリチンドメインの免疫原性の減少
本開示の一定の態様によるSARS-CoV-2スパイクフェリチン融合タンパク質抗原のフェリチンドメインの免疫原性を減少させるために、人工的グリコシル化部位がフェリチンドメインに装備されるようにした。本開示による融合タンパク質のフェリチンドメインは、N結合型タンパク質グリコシル化に必要な天然に存在するコンセンサス配列N-X-S/T(ここでXはPであることはできない)を含有しない。人工的グリコシル化部位をフェリチンドメイン中に構築するために、融合タンパク質ナノ粒子の3回対称軸から離れた位置を選択し、人工的グルコシル化部位をもたらす2つのアミノ酸置換を導入した。3回対称軸から離れた位置を選択することにより、SARS-CoV-2スパイク融合タンパク質抗原のスパイクタンパク質ドメイン(これは3回軸に位置する)に対する免疫応答の混乱が最小限に抑えられると考えられる。人工的グリコシル化部位を持つスパイクHexaProΔCフェリチン変異体の例をSEQ ID NO:22~25として示す。SARS-CoV-2スパイクシグナルペプチド配列はボールド体/下線付きフォントで示され、Ser/Glyリンカー領域には下線が付され、ピロリ菌フェリチン配列はイタリック体かつ下線付きで示され、フェリチンドメイン中のアミノ酸置換はイタリック体、下線付きかつボールド体で示されている。
人工的グリコシル化部位を持つスパイクHexaProΔCフェリチン変異体1(「HexaProΔC Gly1フェリチン」)-SEQ ID NO:22
人工的グリコシル化部位を持つスパイクHexaProΔCフェリチン変異体2(「HexaProΔC Gly2フェリチン」)-SEQ ID NO:23
人工的グリコシル化部位を持つスパイクHexaProΔCフェリチン変異体3(「HexaProΔC Gly3フェリチン」)-SEQ ID NO:24
人工的グリコシル化部位を持つスパイクHexaProΔCフェリチン変異体4(「HexaProΔC Gly4フェリチン」)-SEQ ID NO:25
【0125】
SEQ ID NO:22において、2つのアミノ酸置換は、SEQ ID NO:2の75番目に対応する位置でのK→N、およびSEQ ID NO:2の77番目に対応する位置でのE→Tである。SEQ ID NO:23において、2つのアミノ酸置換は、SEQ ID NO:2の67番目に対応する位置でのT→N、およびSEQ ID NO:2の69番目に対応する位置でのI→Tである。SEQ ID NO:24において、2つのアミノ酸置換は、SEQ ID NO:2の74番目に対応する位置でのH→N、およびSEQ ID NO:2の76番目に対応する位置でのF→Tである。SEQ ID NO:25において、2つのアミノ酸置換は、SEQ ID NO:2の143番目に対応する位置でのE→N、およびSEQ ID NO:2の145番目に対応する位置でのH→Tである。
図27は、SEQ ID NO:22から形成されたSARS-CoV-2スパイク融合タンパク質ナノ粒子における操作されたグリコシル化部位の位置を模式的に図解している。
【0126】
実施例14:コロナウイルススパイクタンパク質の天然に存在する変異体に基づくSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の試験
コロナウイルススパイクタンパク質の天然に存在する変異体に基づくSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の試験を行った。コロナウイルススパイクタンパク質変異体を、なかんずく、米国保険社会福祉省の疾病予防管理センターによって「懸念される変異体」とみなされた、天然に循環している5種のSARS-CoV-2変異体:D614G、B.1.1.7、B.1.429(「LA変異体」としても公知である)、P1、およびB.1.351から、研究用に選択した。これらのSARS-CoV-2スパイクタンパク質変異体に基づく融合タンパク質(「変異体SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原」)のアミノ酸配列を、SEQ ID NO:26(D614Gに基づく)、SEQ ID NO:27(B.1.1.7に基づく)、SEQ ID NO:28(B.1.351に基づく)、SEQ ID NO:29(B.1.429に基づく)、およびSEQ ID NO:30(P1に基づく)として、以下に示す。SARS-CoV-2スパイクシグナルペプチド配列はボールド体/下線付きフォントで示され、Ser/Glyリンカー領域には下線が付され、ピロリ菌フェリチン配列はイタリック体かつ下線付きで示され、SEQ ID NO:2と比較したスパイクドメイン内のアミノ酸置換(表1にも要約した)はボールド体で示され、欠失はアンダースコア記号で示されている。
スパイクHexaProΔCフェリチンD614G(「HexaProΔCフェリチンD614G」)-SEQ ID NO:26
スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.1.7(「HexaProΔCフェリチンB.1.1.7」)-SEQ ID NO:27
スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.351(「HexaProΔCフェリチンB.1.351」)-SEQ ID NO:28
スパイクHexaProΔCフェリチンB.1.429(「HexaProΔCフェリチンB.1.429」)-SEQ ID NO:29
スパイクHexaProΔCフェリチンP1(「HexaProΔCフェリチンP1」)-SEQ ID NO:30
【0127】
コロナウイルススパイクタンパク質の天然に存在する変異体に基づく上記SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の発現および精製は、実質的に、実施例10に記載したように行った。タンパク質試料を、貯蔵用に、10%スクロースを含むPBS中で瞬間凍結した。BLIを使って、コンフォメーショナルmAbおよびACE2受容体へのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の結合をチェックした。BLI実験は、実質的に、実施例11に記載したように行った。結果を
図28に要約する。コンフォメーショナル抗体およびACE2受容体に対して、スパイクHexaProΔCフェリチンと、5種の変異体SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原のそれぞれとの、等価な結合が観察された。
【0128】
変異体SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原によって誘発される中和抗体応答の試験を行った。各群5匹のマウスを、変異体SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原およびスパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)のそれぞれで免疫処置した。免疫処置は、実質的に、実施例11に記載したように行った。血液試料を「0日目」(免疫処置前)、「21日目」および「28日目」に採取した。実験動物から収集した血清の中和価を、6種のシュードウイルス(Wuhan-1、D614G、B.1.429、B1.1.7、P1、およびB.1.351)のパネルに対して、実施例1に記載のSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルス中和アッセイを使って評価した。結果を、「21日目」からのプール血清によるSARS-CoV-2スパイクシュードタイプレンチウイルス中和アッセイを使って生成させた36のIC50値、およびそれとは別の、「28日目」におけるプール血清からの36の値に要約する。結果を
図29の表に示す「ヒートマップ」として要約する。表に示される各値は、特定シュードタイプウイルスに対する、同じSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置されたマウスからのプール血清のlog
10IC50値である。
図29に要約した解析により、各ウイルス変異体に対する各SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原の中和活性の比較が可能になった。スパイクHexaProΔCフェリチンバージョンのSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原で免疫処置された動物が、試験したシュードウイルスのパネル全体で最も高い中和価を有した。
【0129】
実施例15:アジュバント試験
アジュバント含有スパイクHexaProΔCフェリチン(SEQ ID NO:16)で免疫処置されたマウスにおいてSARS-CoV-2中和応答を試験することにより、アジュバント試験を行った。結果を
図30A~34Fに図解する。
図30Aおよび
図30Bは、500μgのアラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンで免疫処置されたマウスにおける野生型SARS-CoV-2に対する中和応答の実験的試験の結果を図解している。マウス5匹の群を、500μgのアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をアジュバントとする5μgのスパイクHexaProΔCフェリチンの皮下注射によって免疫処置した。第1群(
図30A)は1回免疫処置し、第2群(
図30B)は初回免疫処置の21日後にブーストした。免疫応答をモニターするために表示の時点でマウスから採血し、次に野生型SARS-CoV-2シュードウイルス中和価を、実質的に本開示の他の項で述べるように測定した。簡単に述べると、希釈したマウス血清試料をシュードタイプSARS-CoV-2ウイルスと共に1時間インキュベートし、ACE2およびTMPRSS2を発現するHeLa細胞に加えた。細胞の感染性は、ルシフェラーゼ酵素活性を測定することにより、48時間後に測定した。相対ルシフェラーゼ酵素活性を血清希釈度に対してプロットし、50%感染濃度(IC50)を希釈度曲線から算出した。これらの実験により、アラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンによる単回投与免疫処置は、マウスにおいてSARS-CoV-2中和応答を誘発することが示された。21日目のブーストは中和応答を改良するが、アラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンによる単回投与免疫処置でも、SARS-CoV-2に対する十分な免疫応答を生成させるには足りた。
【0130】
図31Aおよび
図31Bは、500μgのアラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンで免疫処置されたマウスにおける野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体に対する中和応答の実験的試験の結果を図解している。マウス10匹の群を、500μgのアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をアジュバントとする5μgのスパイクHexaProΔCフェリチンの皮下注射によって免疫処置した。第1群(
図31A)は1回免疫処置し、第2群(
図31B)は初回免疫処置の21日後にブーストした。免疫応答をモニターするために初回免疫処置の63日後にマウスから採血した。次に、血清試料の中和価を、シュードタイプ野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体に対して、実質的に上で述べたように、および本開示の他の項で述べるように、アッセイした。これらの実験は、アラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンの単回投与で免疫処置されたマウスからの血清が野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体の両方を中和できることを示した。21日目のブーストは中和活性を増加させたが、アラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンによる単回投与免疫処置は、B.1.617.2(「デルタ変異体」)を含む試験したすべての変異体に対するSARS-CoV-2抗ウイルス応答を開始させるのに有効だった。
【0131】
図32Aおよび
図32Bは、アラムおよびCpGをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンで免疫処置されたマウスにおける野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体に対する中和応答の実験的試験の結果を図解している。マウス10匹の群を、500μgのアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)および20μgのCpG(InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をアジュバントとする5μgのスパイクHexaProΔCフェリチンの皮下注射によって免疫処置した。第1群(
図32A)は1回免疫処置し、第2群(
図32B)は初回免疫処置の21日後にブーストした。免疫応答をモニターするために初回免疫処置の63日後にマウスから採血した。次に、血清試料の中和価を、シュードタイプ野生型SARS-CoV-2変異体に対して、実質的に上で述べたように、および本開示の他の項で述べるように、アッセイした。これらの実験は、アラムおよびCpGをアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンの単回投与が、野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体の両方に対して、マウスにおける強い中和応答を誘発することを示した。21日目のブーストは中和活性を増加させた。これらの実験的試験は、アジュバントとしてアラムだけでなくCpGを含めることが、アラムだけの使用と比較して有益であることを示した。
【0132】
図33は、異なる用量のアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンで免疫処置されたマウスにおける野生型SARS-CoV-2に対する中和応答の実験的試験の結果を図解している。マウス5匹の群を、500、50または5μgのアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をアジュバントとする5μgのスパイクHexaProΔCフェリチンの皮下注射によって免疫処置した。免疫応答をモニターするために初回免疫処置後のさまざまな時点でマウスから採血した。次に、血清試料の中和価を、シュードタイプ野生型SARS-CoV-2変異体に対して、実質的に上で述べたように、および本開示の他の項で述べるように、アッセイした。これらの実験は、アラムの用量を増加させると免疫応答が改良されること、および低用量のアラムではブーストが有益であることを示した。これらの実験は、試験した最高用量のアラムをアジュバントとする単回投与スパイクHexaProΔC免疫処置(ブーストなし)によって誘導される中和応答が、時間と共に改善することも示した。試験した最高用量のアラムでは、42日目および84日目に測定された単回投与中和応答が、プライム-ブーストレジメンによって誘導される中和応答に匹敵した。このように、多量のアラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCによる単回投与免疫処置は、抗SARS-CoV-2応答を開始させるのに十分でありうる。
【0133】
図34A~34Fは、異なる用量のアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)を単独でまたは20μgのCpGと組み合わせてアジュバントとするスパイクHexaProΔCフェリチンで免疫処置されたマウスにおける野生型SARS-CoV-2およびSARS-CoV-2変異体に対する中和応答の実験的試験の結果を図解している。マウス5匹の群を、500、50または50μgのアラム(Alhydrogel(登録商標)、InvivoGen、カリフォルニア州サンディエゴ)をアジュバントとする10μgのスパイクHexaProΔCフェリチンの皮下注射によって免疫処置した。試験した各アジュバントについて、1つの群には1回の免疫処置を施し、もう一つの群は一次免疫処置の21日後にブーストした。免疫応答をモニターするために、21日目および28日目に、マウスから採血した。各群5匹のマウスからの血清試料をプールした。次に、プール血清試料の中和価を、シュードタイプ野生型SARS-CoV-2変異体に対して、実質的に上で述べたように、および本開示の他の項で述べるように、アッセイした。これらの実験は、プライム-ブーストレジメンにおいて、用量50~150μgのアラムをアジュバントとするスパイクHexaProΔCによる免疫処置が、野生型SARS-CoV-2とB.1.617.2(「デルタ変異体」)を含むSARS-CoV-2変異体との両方に対して、十分な中和応答を誘発することを示した。
【0134】
実施例16:スパイクHexaProΔCフェリチン変種
SARS-CoV-2タンパク質の異なるバージョンのシグナルペプチド配列を含むスパイクHexaProΔCフェリチンの変種が考えられる。そのうちの2例を、SEQ ID NO:33および34として、以下に示す。SARS-CoV-2スパイクシグナルペプチド配列はボールド体/下線付きフォントで示され、Ser/Glyリンカー領域には下線が付され、ピロリ菌フェリチン配列はイタリック体かつ下線付きで示されている。
スパイクHexaProΔCフェリチン変種-SEQ ID NO:33
スパイクHexaProΔCフェリチン変種-SEQ ID NO:34
【0135】
本開示記載の例および態様が例示を目的とするに過ぎないこと、そして当業者はそれを踏まえたさまざまな修飾または変更を思いつき、それらが本願の本旨および範囲内ならびに本願請求項の範囲内に含まれることは、いうまでもない。本開示において言及された刊行物、特許および特許出願はいずれも、あらゆる目的で、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0136】
【配列表】
【国際調査報告】