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特表2023-54049240~120KEVエネルギーを伴う電子用の高DQE直接検出イメージセンサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】40~120KEVエネルギーを伴う電子用の高DQE直接検出イメージセンサ
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20230915BHJP
   H01J 37/26 20060101ALI20230915BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/26
H01J37/22 501A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514148
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 US2021043156
(87)【国際公開番号】W WO2022051040
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】63/073,719
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521440633
【氏名又は名称】ディレクト、エレクトロン、エルピー
【氏名又は名称原語表記】DIRECT ELECTRON, LP
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン、バメス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート、ビルホーン
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA04
5C101BB03
5C101GG36
5C101GG37
5C101GG49
5C101LL04
(57)【要約】
3keV~300keVの範囲、より具体的には40keV~120keVの範囲のエネルギーで電子顕微鏡内の電子を非常に高い空間分解能及び感度で検出することによって画像を形成するための検出器が提供される。検出器は、平坦化されたモノリシックアクティブピクセルセンサ(MAPS)の前面にハンドリングウエハを結合し、後面上の基板層を部分的又は完全に除去し、非画像形成領域にハンドリング材料の外周を残すように前面からハンドリング材料を選択的に除去することによって形成される。検出器は、後面照射用の電子顕微鏡に実装されてもよい。検出器は、後面照射に起因して低エネルギーで並びにエピタキシャル層厚さの減少及び後方散乱基板材料の不存在に起因して高エネルギーで高分解能画像を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡において電離放射線を撮像するための直接検出器を形成する方法において、
CMOSイメージセンサプロセスにおいてモノリシックアクティブピクセルセンサを形成するステップであって、前記センサが、シリコン基板上に配置されるエピタキシャルシリコン層と、前記エピタキシャルシリコン層上に配置されるCMOS層とを含む、ステップと、
ハンドリングウエハ材料を前記CMOS層の前面に結合するステップと、
前記エピタキシャルシリコン層の後面を露出させるために前記シリコン基板を除去するステップと、
前記CMOS層の感知領域から前記ハンドリングウエハ材料の第1のセクションを選択的に除去し、前記感知領域の外周にわたって前記ハンドリングウエハ材料の第2のセクションを残すステップと、
を含み、
前記直接検出器は、前記第2のセクションのみと接触することによって前記透過型電子顕微鏡に実装されるように構成され、
前記直接検出器は、前記電離放射線が前記エピタキシャルシリコン層の前記後面からのみ入るように更に構成される、
方法。
【請求項2】
研削プロセスによって前記シリコン基板の第1の部分を除去するステップと、
化学エッチングによって前記シリコン基板の残りの部分を除去するステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択的化学エッチングによって前記ハンドリングウエハの前記第1のセクションを除去するステップ、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記エピタキシャルシリコン層内にフォトダイオードを形成するステップと、
前記エピタキシャルシリコン層内に浮遊拡散領域を形成するステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フォトダイオード接点、浮遊拡散接点、及びゲート接点を含むメタライゼーションパターンを前記CMOS層上に形成するステップと、
前記浮遊拡散接点を読み出し回路に接続するステップと、
を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ハンドリングウエハの前記結合の前に前記CMOS層の前記前面を平坦化するステップ、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記CMOS層の前記前面に対する前記ハンドリングウエハ材料の前記結合が、酸化物間結合によるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記エピタキシャル層が4μm~20μmの厚さに配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
電離放射線を撮像するための直接検出器であって、前記検出器が、
シリコン基板上に配置されるエピタキシャルシリコン層と、前記エピタキシャルシリコン層上に配置されるCMOS層とを含むモノリシックアクティブピクセルセンサと、
前記CMOS層の前面に結合されるハンドリングウエハと、
を備え、
前記シリコン基板は、前記エピタキシャルシリコン層の後面まで除去されており、
前記ピクセルセンサの外周に前記ハンドリングウエハの第2のセクションを残しつつ、前記ハンドリングウエハの第1のセクションが前記ピクセルセンサに対応する領域から選択的に除去される、
直接検出器。
【請求項10】
前記エピタキシャル層は、厚さが約4μm~20μmである、請求項9に記載の直接検出器。
【請求項11】
前記モノリシックアクティブピクセルセンサは、
前記エピタキシャルシリコン層内の空乏領域と、
前記空乏領域内のフォトダイオードと、
前記フォトダイオード上のピン層と、
前記エピタキシャルシリコン層内の浮遊拡散領域と、
を更に含む、請求項9に記載の直接検出器。
【請求項12】
前記エピタキシャル層がp型シリコン層であり、
前記フォトダイオードが、空乏領域に埋め込まれたn型フォトダイオードであり、
前記ピン層がp++型シリコンであり、
前記浮遊拡散領域がn型シリコン材料である、
請求項11に記載の直接検出器。
【請求項13】
前記CMOS層は、
フォトダイオード接点、浮遊拡散領域接点、及びゲート接点を含む、前記CMOS層の前記前面上のメタライゼーションパターンと、
前記浮遊拡散領域接点に接続された読み出し回路と、
を含む、請求項11に記載の直接検出器。
【請求項14】
前記直接検出器は、電離放射線が前記エピタキシャルシリコン層の前記後面から前記検出器に入るような向きで透過型電子顕微鏡に実装されるように構成される、請求項9に記載の直接検出器。
【請求項15】
透過型電子顕微鏡における電離放射線の検出方法において、
CMOS層とシリコン基板との間に配置されるエピタキシャル層を含むモノリシックアクティブピクセルセンサを用意するステップであって、前記モノリシックアクティブ検出器が、前記CMOS層の前面に結合されるハンドリングウエハを更に含み、前記エピタキシャルシリコン層の後面を露出させるために前記シリコン基板が除去され、前記ハンドリングウエハの第1のセクションが、前記CMOS層の感知領域から、前記ハンドリングウエハの第2のセクションを前記感知領域の外周にわたって残しつつ、選択的に除去される、ステップと、
前記透過型電子顕微鏡に前記検出器を実装するステップと、
前記電離放射線が前記エピタキシャルシリコン層の前記後面から前記検出器に入るように前記検出器を方向付けるステップと、
前記電離放射線を表わす信号を前記検出器から読み出すステップと、
を含む方法。
【請求項16】
前記電離放射線が40keV~120keVのエネルギーを有する電子である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電離放射線が0keV~100keVのエネルギーを有する電子である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記電離放射線が0keV~300keVのエネルギーを有する電子である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記電離放射線が0keV~30keVのエネルギーを有する電子である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記電離放射線が100keVのエネルギーを有する電子である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願との相互参照】
【0001】
この出願は、その全体が参照により本願に組み入れられる2020年9月2日に出願された米国仮出願第63/073,719号の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、3keV~300keVの範囲のエネルギーを伴う電子、より具体的には40keV~120keVの範囲の電子の高検出量子効率(高DQE)撮像のための直接検出センサ及びカメラシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
電子顕微鏡で電子を検出して画像を形成するために現在使用されるデバイスは、40keV~120keVのエネルギー範囲で高い空間分解能及び感度を提供しない。直接検出デバイス(DDD(登録商標))及び介在するシンチレータを使用せずに電子を検出する他の検出器は、120keVを超えるエネルギーで良好に機能する。これらのシステムは、電子計数を使用することによって、理論的限界に近い感度及び分解能の指標である検出量子効率(DQE)を達成する。或いは、シンチレータを使用する検出器は、光の分解能を制限するぼけ及び拡散散乱を被り、DQEが制限される。しかしながら、直接検出器は低エネルギーではあまり機能しないため、120keV未満の電子の検出は、これまでシンチレータベースの検出器に依存してきた。
【0004】
顕微鏡法における電子の直接検出には、2種類の検出器技術が使用される。第1の技術は、広く採用されており、試料を撮像(クライオEM)しながら極低温に保持する生物学的用途にほぼ排他的に使用される。これらは、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサ製造プロセスを使用して製造されたモノリシックアクティブピクセルセンサ(MAPS)である。そのようなセンサの概略断面が図1に概略的に示される。これらのセンサは、厚さ約1mmのシリコンウエハ110上に構築され、その上に厚さ5μm-30μmの低濃度にドープされたエピタキシャルp型シリコン層(epi)120が成長される。次いで、回路130がCMOSイメージセンサ製造プロセスを使用してエピ層120上に構築される又はエピ層内に構築される。n型フォトダイオード121が空乏領域122内に形成され、その上にp++ピン層123がある。エピタキシャル材料はp型シリコンである。基板110はp型シリコン基板である。浮遊拡散領域FDはn型領域である。フォトダイオードはソースのように作用し、浮遊拡散はMOSトランジスタのドレインのように作用する。メタライゼーションパターンが、フォトダイオードのp++領域へのソース接点、浮遊拡散領域へのドレイン接点132、及び転送ゲート134接点を形成する。電子は、デバイスを貫通するときにシリコンと相互作用し、収集されて読み出し回路140により読み出される信号電荷を生成する。図2に示されるように、各入射電子212は、検出器を通じて横切って散乱するにつれて雲痕跡を成す多くの二次電子216を生成する。エピ層220内の相互作用は、収集される電荷を生成するため、関心の対象である。入射電子の一部は、エピ層内又はエピ層下の材料のいずれかにおいて大きな角度で散乱を受ける可能性があり、これは後方散乱と呼ばれ、その結果、電子の入口点から遠い位置(後方散乱電子214によって示されるように、図2)に二次電荷を堆積させ、それによって画質を低下させる。この影響を最小限に抑えるために、図2に示されるように、基板ウエハの一部を除去して後方散乱の量を減らすことができる。図2では、エピ層220が約10μmの厚さに製造されており、基板層は約1mm~約20μmの厚さまで薄くされている。入射電子エネルギーは300keVである。
【0005】
MAPS検出器は、200keV以上の電子エネルギーで非常によく機能し、ほぼ理想的なDQEを達成する。高エネルギー一次電子は、二次電子が検出器のエピ層を通過するときに、比較的小さく局所的な二次電子の雲を生成する。二次電子雲の限られたサイズは、各一次電子からの信号が多くのピクセルにわたって拡散しないようにする。更に、検出器が十分に薄ければ、高エネルギー一次電子は、後方散乱が最小限に抑えられるように、後続の材料において高角度で散乱する可能性が低い。
【0006】
しかしながら、MAPS検出器の性能は、一次電子エネルギーが100keVである図3に示されるようなより低いエネルギーでの電子散乱の増大に起因して、より低い電子エネルギーで劇的に低下する。この低いエネルギーは、3つの問題を引き起こす。第一に、低エネルギー一次電子312は、エピ層320内に多くの二次電子を生成する傾向があり、それにより、より少ない一次電子でピクセルを飽和させる。第二に、低エネルギー一次電子及びそれらの結果として生じる二次電子雲痕跡316は、多くのピクセルにわたって散乱する傾向があり、それにより、図3における相互作用体積のサイズを図2に示されるものと比較することによって示されるように、検出器の点広がり関数を拡大させて検出器の分解能を低下させる。第三に、低エネルギー一次電子は、エピ層の下の任意の材料との相互作用時に高角度で散乱する傾向があり、その結果、より多くの後方散乱電子314をもたらす。これらの後方散乱電子314は、一次電子の当初の入射点から遠く離れた二次事象の検出を引き起こす。後方散乱は、変調伝達関数(MTF)によって測定される分解能を低下させ、余分なフォールスポジティブを追加することによってノイズを増大させる。
【0007】
電子顕微鏡において電子を直接検出するために用いられる検出器の第2のタイプは、図4に示されるハイブリッドピクセル検出器(HPD)である。ハイブリッドピクセル検出器は、高DQEで、対象の電子エネルギー範囲の電子撮像をもたらす。これらのデバイスは、一次電子を吸収して二次電子の雲を生成するアルミニウム検出器層430と、相互作用の数及び位置を読み出す読み出し回路層440との間の混成である。2つの層は、検出器層430と読み出しピクセル446との間の接続を形成するインジウム又は同様の金属「バンプ」442を含むバンプボンディングと呼ばれるプロセスを通じて互いに電気的に接続される。アルミニウム検出器層430とp型シリコン層444との間に電圧445が印加される。図4に示されるように、p型シリコン層444は、衝突する一次電子ビーム412によって生成される電子/正孔外乱を捕捉し、また、電流が、半田バンプ442を通じて読み出し回路層440に運ばれる。一次電子が感度の高い体積を完全に通過できるようにする電子顕微鏡で使用される最新のMAPS検出器とは異なり、HPDは、比較的厚い検出器層で一次電子を停止させようとする。これらの検出器の層の寸法が一般にMAPS検出器の場合よりも約10倍大きいことに留意されたい。
【0008】
ハイブリッドピクセル検出器は、入射電子を検出器層内で停止させることができるより低い電子エネルギー(すなわち、120keV以下)で最も良く機能するが、二次電荷雲の体積が増大し、一次電子が停止される前に検出層を完全に貫通する可能性があるため、エネルギーが増大されるにつれて性能が低下し、それによってその全エネルギーよりも少なく堆積する。近年、検出層に関してシリコン以外の高Z材料(より高い原子番号、例えば、ゲルマニウム(Ge)、ヒ化ガリウム(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、及びテルル化カドミウム亜鉛(CZT))を使用することにより、高エネルギー電子(すなわち、200keV以上)に関するHPDの性能を向上させる努力がなされてきた。
【0009】
HPDには2つの重大な制限があり、これらはクライオEMなどの撮像方法における有用性を制限する。第一に、これらのセンサにおいて、複数のピクセルにわたって広がる検出事象を考慮することは困難である。大きな(すなわち、幅>50μm)ピクセルの使用は、一次電子が複数のピクセルにわたってエネルギーを蓄積する可能性を減らすが、特に一次電子が2つのピクセル間の境界付近でセンサと相互作用する場合には可能なままである。読み出し回路が必要とする空間を受け入れるために、HPDにも大きなピクセルが必要である。第二に、HPDにおける大きなピクセルの使用は、ピクセルアレイの全体的なサイズ(ピクセルの総数)を厳しく制限する。HPDの大きなアレイは、より小さなデバイスをタイリングすることを必要とし、ある時点で、アレイが大きくなりすぎて電子顕微鏡法に実用的ではない。現在の世代のHPDは約0.5メガピクセル~1.0メガピクセルに制限されるが、MAP検出器は最大67メガピクセルのサイズを達成する。
【0010】
200keV及び300keVで使用されるMAPSセンサは、より低いエネルギーで試験されているが、DQEは十分に高くはない。同じことが、シンチレータ結合CCD及びCMOSシステムにも当てはまる。HPDは、対象のエネルギー範囲で有望であることが示されているが、それらのピクセルサイズに起因して、4メガピクセルの視野を与えるために側面に100mm程度のアレイが必要であり、電子顕微鏡のスペースの制約及び製造コストの両方に起因して実用的ではない。
【0011】
高品質の検出器が不足しているにもかかわらず、生命科学及び材料科学の両方の研究のために60kV~120kVの範囲内で電子顕微鏡を動作させることに大きな関心が寄せられている。
【0012】
電子顕微鏡検出器の後面照射は、基板を除去することなく使用されてきた。例えば、一連のレンズ電極又はシンチレータを使用して、電子が基板に到達する前に電子を減速させた。(例えば、米国特許出願公開第2010/0123082号明細書)。
【0013】
例えば、材料科学において、低エネルギー電子の使用は、ノックオン損傷を制限し、グラフェンの構造の効果的な研究を可能にする。(Bachmatiuk A,Zhao J,Gorantla SM,Martinez IGG,Wiedermann J,Lee C,Eckert J,Rummeli MH,「Low voltage transmission electron microscopy of graphene」、Small 11(5):515-42(2015)を参照されたい。)
【0014】
ライフサイエンスでは、効果的で低コストの100kVクライオEM機器の推進が高まっている。このようなシステムの高分解能の可能性を実証するために、最近、ノーベル賞受賞者のRichard Hendersonによるピアレビュー論文が発表された。しかしながら、この論文は、「現在、多数のピクセル(>4×10)を有する適切な高速高効率検出器の欠如は、最終的に達成可能な分解能とcryoEM用の100keV透過型電子顕微鏡の実用性の両方に対する主な制限である。」と断定した(Naydenova K,McMullan G,Peet MJ,Lee Y,Edwards PC,Chen S,Leahy E,Scotcher S,Henderson R,&Russo CJ,「100keVでのCryoEM:実証と展望」、IUCrJ 6(6):1086-1098(2019)、及びHand E,「We need a people’s cryo-EM.Scientists hope to bring revolutionary microscope to the masses」、Science(2020)、www.sciencemag.orgで入手可能)
【0015】
したがって、本開示の目的は、3keV~300keVの範囲のエネルギーを伴う電子、より具体的には40keV~120keVの範囲の電子の高DQE撮像のための直接検出センサ及びカメラシステムのためのデバイス、システム及び方法を提供して、多数のピクセル及び高い画像分解能を伴う高速で高効率の検出器の必要性を満たすことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第第2010/0123082号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Bachmatiuk A,Zhao J,Gorantla SM,Martinez IGG,Wiedermann J,Lee C,Eckert J,Rummeli MH,「Low voltage transmission electron microscopy of graphene」、Small 11(5):515-42(2015)
【非特許文献2】Naydenova K,McMullan G,Peet MJ,Lee Y,Edwards PC,Chen S,Leahy E,Scotcher S,Henderson R,&Russo CJ,「100keVでのCryoEM:実証と展望」、IUCrJ 6(6):1086-1098(2019)、及びHand E,「We need a people’s cryo-EM.Scientists hope to bring revolutionary microscope to the masses」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本開示は、3keV~300keVの範囲のエネルギーを伴う電子、より具体的には40keV~120keVの範囲の電子の高DQE撮像のための直接検出センサ及びカメラシステムについて記載する。科学的には興味深いが、これまで使用することが困難であった電子ビームエネルギーで、電子顕微鏡内の電子を高分解能且つ広い視野で撮像することができるカメラが提供される。また、システムは、大量且つ低コストで製造するのに実用的なアプローチを表わす。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一実施形態によれば、透過型電子顕微鏡において電離放射線を撮像するための直接検出器を形成する方法が記載され、該方法は、CMOSイメージセンサプロセスにおいてモノリシックアクティブピクセルセンサを形成するステップであって、センサが、シリコン基板上に配置されるエピタキシャルシリコン層と、エピタキシャルシリコン層上に配置されるCMOS層とを含む、ステップと、ハンドリングウエハ材料をCMOS層の前面に結合するステップと、エピタキシャルシリコン層の後面を露出させるためにシリコン基板を除去するステップと、CMOS層の感知領域からハンドリングウエハ材料の第1のセクションを選択的に除去し、感知領域の外周にわたってハンドリングウエハ材料の第2のセクションを残すステップとを含み、直接検出器は、第2のセクションのみと接触することによって透過型電子顕微鏡に実装されるように構成され、直接検出器は、電離放射線がエピタキシャルシリコン層の後面からのみ入るように更に構成される。
【0020】
他の実施形態によれば、電離放射線を撮像するための直接検出器が記載され、該検出器は、シリコン基板上に配置されるエピタキシャルシリコン層と、エピタキシャルシリコン層上に配置されるCMOS層とを含むモノリシックアクティブピクセルセンサと、CMOS層の前面に結合されるハンドリングウエハとを備え、シリコン基板は、エピタキシャルシリコン層の後面まで除去されており、センサの外周にハンドリングウエハの第2のセクションを残しつつ、ハンドリングウエハの第1のセクションがピクセルセンサに対応する領域から選択的に除去される。
【0021】
一実施形態によれば、透過型電子顕微鏡における電離放射線の検出方法において、該方法は、CMOS層とシリコン基板との間に配置されるエピタキシャル層を含むモノリシックアクティブピクセルセンサを用意するステップであって、モノリシックアクティブ検出器を用意するステップが、CMOS層の前面を平坦化するステップと、ハンドリングウエハをCMOS層の前面に結合するステップと、エピタキシャルシリコン層の後面を露出させるためにシリコン基板を除去するステップと、ハンドリングウエハの第1のセクションをCMOS層の感知領域から選択的に除去するステップと、ハンドリングウエハの第2のセクションを感知領域の外周にわたって残すステップとを含む、ステップと、透過型電子顕微鏡に検出器を実装するステップと、電離放射線がエピタキシャルシリコン層の後面から検出器に入るように検出器を方向付けるステップと、電離放射線を表わす信号を検出器から読み出すステップとを含む。
【0022】
前述の段落は、一般的な導入として提供されており、以下の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。記載された実施形態は、更なる利点と共に、添付図面と併せて解釈される以下の詳細な説明を参照することによって最も良く理解され得る。
【0023】
本発明のより完全な理解及びその付随する利点の多くは、添付図面に関連して考慮されるときに以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるため、容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】モノリシックアクティブピクセルセンサの概略断面図である。
図2】入射一次電子によって生成される電荷雲を示す薄くされたMAPSセンサである。
図3】100keVでの二次電子雲サイズに関する一次電子エネルギー準位効果を示す。
図4】ハイブリッドピクセル検出器の概略断面図を示す。
図5】シリコンウエハのエピ層内に作製された電子検出器を示す。
図6】電子検出器上に結合されたシリコンハンドリングウエハを示す。
図7】エピ層の後面を露出させたままの当初の基板シリコンを除去した後の電子検出器と、機械的支持を行なうハンドリングウエハとを示す。
図8】ハンドリングウエハ材料の選択的除去後の電子検出器を示す。
図9】一次電子ビームに対する電子検出器後面配向を示す。
図10A】電子計数モードにおいて100kVで動作するTEMで挿入された選択領域(SA)開口部を伴うビームストップの画像を示す。
図10B】電子計数モードにおいて100kVで動作するTEMで挿入された選択領域(SA)開口部を伴うビームストップの画像を示す。画像全体に関する「A」、及びビームストップの端部の拡大表示の「B」。
図11A】100kVクライオEM用プロトタイプセンサのMTF及びDQEを示すグラフである。
図11B】100kVでのプロトタイプセンサのDQEを300kVでの従来のセンサと比較するグラフである。
図12A】3.5オングストロームにおけるThonリングを示すプロトタイプセンサの100kVでの分解能評価を示す。
図12B】プロトタイプセンサ上に電子計数モードで低線量クライオEM条件下で収集された線格子レプリカグリッドの画像のフーリエ変換を示す。
図13A】最終画像から切り取られた領域を示す、プロトタイプセンサによって100kVで収集されたマウス重鎖アポフェリチンの低温EM顕微鏡写真を示す。
図13B図13Aの画像のフーリエ変換を示す。
図13C】約4Å分解能までのThonリングアウトを示す回転平均パワースペクトルを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で使用される「1つの(a)」又は「1つの(an)」という用語は、1つ又は複数として定義される。本明細書で使用される「複数」という用語は、2つ又は3つ以上として定義される。本明細書で使用される「他の」という用語は、少なくとも第2又はそれ以上として定義される。本明細書で使用される「含む(including)」及び/又は「有する(having)」という用語は、備える(comprising)(すなわち、オープン言語)として定義される。この文書の全体にわたって、「1つの実施形態」、「特定の実施形態」、「一実施形態」、「実施」、「一例」又は同様の用語への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、又は特性が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、この明細書全体の様々な箇所におけるそのような語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すとは限らない。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、限定することなく、1つ以上の実施形態において任意の適切な態様で組み合わせることができる。
【0026】
本開示の検出器における感知層は、上面付近に留まるため(後面照射(BSI)MAPSデバイスに起因する)、センサは低エネルギー電子(すなわち、1keV~60keV)に関して良好に機能し、また、センサが十分に薄いため、高エネルギー電子(すなわち、120keV~300keV)に関しても良好に機能する。したがって、初めて、電子顕微鏡法で一般的に使用される電子エネルギーの全範囲に対して感度が良いMAPS検出器が記載される。
【0027】
可視光子及び紫外光子の検出には、後面薄化及び後面照射が使用されており、また、約25keV未満のエネルギーの電子を検出するための薄化及び後面照射MAPSセンサが試験されている。これらのセンサは、一次ビーム電子がエピ層の厚さを超えて貫通しないため、ハンドリングウエハ材料の除去を必要としない。しかしながら、これらのセンサは、ハンドリングウエハ材料からの後方散乱に起因して、より高い電子エネルギーではうまく機能しない。
【0028】
高DQEは、電子顕微鏡法で用いる電子検出器において重要である。現在のシンチレータ結合CCD又はCMOSセンサ及び現在の直接検出MAPSセンサは、十分なDQEを提供しない。
【0029】
電子顕微鏡で電子を検出するための他の要件は、現在の顕微鏡設計に適合する物理的サイズである少なくとも4メガピクセルを伴う大きな視野に関するものである。他の懸念は、変換コスト及び総所有コスト(TCO)を最小限に抑えることである。HPDセンサは、高DQEを提供するが、これらのデバイスに必要なピクセルが大きいため、これらの他の要件を実際に満たすことができない。大型デバイスには幾つかの欠点があり、2つの最も重要な点は、それらのデバイスが現在設計されているように顕微鏡に容易に適合せず、また、それらのデバイスがより高価であることである。2つの要因がコストを推し進め、第1に、シリコンウエハに適合するデバイスがより少なく、第2に、面積が増大するにつれてデバイス当たりの歩留まりが低下する。ハイブリダイゼーションステップもコストを追加する。
【0030】
本開示は、基板シリコンの全て又は本質的に全てが除去されるとともに一次ビーム電子がエピ-真空界面に入射するように電子ビーム内で配向されるエピシリコン内にモノリシックアクティブピクセルセンサが作り込まれることについて記載する。
【0031】
以下、デバイス製造について説明する。
【0032】
図5は、CMOSイメージセンサプロセスで一般に使用されるであろう標準的なエピウエハ上のモノリシックアクティブピクセルセンサの製造を示す。明確にするために、CMOS回路層530、10μmエピタキシャル層520、及び基板層510が挿入図に示される。
【0033】
デバイス製造に続いて、CMOS上端面が、平坦化された後、図6に示されるように二次ハンドリングウエハ650に結合される。酸化物-酸化物結合などの結合が用いられてもよい。挿入図に示されるように、CMOS層630、10μmエピタキシャル層620及び基板層610は所定の位置に留まる。
【0034】
ハンドルウエハが適所に配置されると、基板シリコンは、例えば、研削、それに続く化学機械研磨及び/又は化学エッチングなどのプロセスを使用して、エピ-基板結合部又はその付近まで部分的又は完全に除去され、図7に示す構造が得られる。挿入図は、基板層が除去され、ハンドリング層750、CMOS層730、及び10μmエピタキシャル層720が残っていることを示している。場合によっては、基板シリコンの除去後に薄いパッシベーション層を表面に付加することができる。
【0035】
図8は、ピクセルのアレイに隣接する領域からハンドリングウエハが選択的に除去され、強度のためにデバイス外周に材料852を残す次のステップを示す。材料852の厚さがdとして示されており、厚さdは、1ミクロン~800ミクロンの範囲内の任意の厚さであってもよい。研削とそれに続く選択的化学エッチングなどのプロセスを使用することができる。CMOS層830及び10μmエピタキシャル層820を示す挿入図に示されるように、ハンドルウエハをピクセルアレイの背後から完全に除去することができ、又は、付加的な剛性を与えるために何らかの材料を残すことができる。機械的強度と電子後方散乱の程度との間のトレードオフが行なわれる。
【0036】
デバイスは、図9に示されるように、エピ層920が露出した側から一次ビーム電子912がデバイスに入るように、実装構造を外周に沿って残りのハンドルウエハ材料に取り付けることによって実装され、次いでカメラシステムに設置される。エピ層920で生成された二次電子は、CMOS回路層930に入るときに密なグループを形成する。厚さ0~約20μmのハンドリングウエハ950内の後方散乱電子916は、フォトダイオードによってピックアップされることなくデバイスから出る。
【0037】
本開示は、後方散乱を大幅に低減するために、活性領域の背後からのハンドリングウエハ除去と組み合わせて、基板が除去された時点で後面照射(BSI)を伴うMAPS検出器を使用する。これは、電子の検出のためのBSI MAPSデバイスの背後のウエハ除去の最初の既知の実施である。
【0038】
電子顕微鏡法における従来のMAPS検出器は、後方散乱を低減するために基板材料の一部が除去された前面照明(FSI)を使用する。これらの従来の検出器は、厚さが30μm程度である。本開示のBSI MAPS検出器は、約10μm~約30μmの減少した厚さを伴う高分解能低エネルギー(<120keV)電子撮像をもたらす。
【0039】
40keV~120keVの電子を検出するためのHPDも提案されている。これらの検出器において、電子は、それらを吸収するのに十分な厚さに設計される検出層に入る。光生成電子-正孔対が印加された電界によって分離され、結果として生じる電流パルスが、隣接するバンプ結合読み出しCMOS回路によって検出される。これは、モノリシックであり且つ一般に入射電子が完全に吸収されることなくセンサを通過することを要するMAPS検出器のアーキテクチャとは異なる。
【0040】
再び図2及び図9を参照すると、顕微鏡電子(212,912)は、前面からCMOS層230又は後面920のいずれかを通じてデバイスに入ることができる。電子は、エピタキシャルシリコン領域920内のシリコンと相互作用し、伝導帯電子を生成する。光子とは異なり、顕微鏡電子は、はるかに多くのエネルギーを運び、それぞれの入射電子ごとに多くの伝導帯電子を生成する。生成される伝導帯電子の数は、系(例えば、顕微鏡電子)の入射エネルギーを含む多くの要因に依存する。
【0041】
MAPS検出器のFSIは、一次ビームエネルギーが約200keV未満に低下すると、過度の電子散乱及び後方散乱を来し、高DQEをもたらす。高DQEを達成する本開示の検出器を形成するために、BSI及びハンドリングウエハの除去が使用される。機械的完全性は、デバイスの非画像形成領域に材料を残す選択的ハンドリングウエハ除去技術を使用することによって維持される。デバイスは、このより堅牢な外周領域を通じて実装されて冷却される。本開示の検出器は、高いピクセル密度を有し、高DQEで40keV~120keVにおいて撮像するための広い視野を達成する実用的な方法をもたらし、より高い一次ビームエネルギーで現在使用されているMAPS検出器と同様の製造コストを有する。
【0042】
更に、本開示の検出器の感知層は上面付近に留まるため(それがBSI MAPSであるため)、センサが低エネルギー電子(すなわち、1keV~60keV)に関して良好に機能し、また、センサは、十分に薄いため、高エネルギー電子(すなわち、60keV~300keV)に関しても良好に機能する。したがって、初めて、電子顕微鏡法で一般的に使用される電子エネルギーの全範囲に対して感度が良いMAPS検出器が記載される。
【0043】
最後に、HPDと比較して、本開示の検出器の小さなピクセルは、単一のシリコンウエハ上に複数のデバイスを形成することができるため、電子顕微鏡のスペース制約内で大きなピクセルアレイを可能にし、製造コストを最小にする。
【0044】
100kVでの従来の直接検出センサに伴う最も重要な問題のうちの2つは、(1)センサの感知層内の100kVの一次電子の散乱の増大による低分解能、及び、(2)100keVの一次電子の後方散乱による高いバックグラウンドノイズであった。電界放出銃を備えたThermo Fisher Talos TEMに100kVカメラを設置して、該カメラを100kV動作用に整列させて、検出器を試験した。図10Aは、100kVで動作するThermo Fisher Talos TEM上に設置された本開示の検出器によって検出されたビームストップの選択領域(SA)開口部の画像を示す。この画像は、鮮明なエッジ(ビームストップのエッジで目立ったぼやけがない)と、わずか0.05%の後方散乱(後方散乱に起因してのみ存在し得るビームストップ下の相対カウント数に基づく)とを有する。図10Bは、ビームストップの端部の拡大図である。
【0045】
定量的評価を生成するために、プロトタイプ検出器のMTF 1152及びDQE 1154を計算した(図11A)。また、理論最大MTF 1156及び理論最大DQE 1158も検出器の密接な応答を理論曲線と比較するためにプロットされる。
【0046】
検出器のMTFは、対象物から画像に特定の分解能でコントラストを伝達する能力の測定値であり、すなわち、MTFは、元の対象物のコントラストが検出器によってどれだけ維持されるかを決定する。実際には、MTFは、検出器上で直線(「ナイフ」)エッジの1つ以上の画像を取得し、ライン拡散関数(すなわち、画像内のエッジにおけるぼけの量)を計算し、フーリエ変換を使用して計算された実空間ライン拡散関数を周波数空間に変換することによって決定される。MTFは、逆ナイキスト限界における空間周波数に対する正規化変調としてグラフ化される。定義により、空間周波数0でのMTFの値は1であるが、検出器内の長距離散乱の存在下では、これは空間周波数の増大とともに急速に低下し得る。
【0047】
MTFは、挿入されたビームストップの8つの画像を使用して計算され、次いで、ピクセルあたり52.3個の電子の総検出露光量が5017個の生フレームにわたって拡散される(フレームあたり0.01個の電子のフレームあたりの露光量をもたらす)電子計数モードで収集された。各画像を独立して処理し(例えば、Ruskin,Yu,&Grigorieff,J Struct Biol 184:385-393(2013)、「FindDQE v.1.06」を参照されたい)、次いで、得られたMTF曲線を平均して最終MTF曲線を生成した。
【0048】
DQEは、入力信号対雑音比(S/N)inの二乗に対する出力信号対雑音比(S/N)outの二乗の比として定義され、入射電子が記録される品質の指標を与える。完全な検出器は、ゼロ空間周波数(DQI(0))で1のDQEを有し、これを達成するためには、全ての入射電子が等しい重みで検出されなければならない。実際の検出器のDQEは、実際には入射電子が異なる重みで記録されるという事実を反映して、常に1よりも小さい。(DQE(0))を幾つかのステップで計算した。
【0049】
最初に、空の試料領域から収集された生の積分モードフレームから検出された各事象の総積分強度のヒストグラムをプロットした。センサの中央の256×256の関心領域から合計3,664,451の事象を分析した。ヒストグラムを、カーブフィッティング関数を使用してランドー分布にフィッティングされた。(例えば、Landau,J Phys USSR 8:201(1944)参照;scipy.optimize.curve_fit function,SciPy.org,Release 1.5.2,July 23,2020、docs.scipy.orgで入手可能)。検出器によって見逃された入射電子の割合は、フィッティングLandau曲線下の積分面積を使用して、検出器の計数閾値未満であると推定された。これは、入射電子の2.69%が検出器によって見逃されたことを意味し、この割合の電子は、センサの感知層に殆どエネルギーを蓄積せず、したがってセンサのノイズレベルを下回った。したがって、近似Landau曲線は、入射100keV電子の97.3%がセンサによって検出されたことを意味する。
【0050】
第2に、ビームストップ下で検出された事象の総数をセンサの照射領域と比較した。外周TEM及びカメラ機器での拡散散乱を減らすために、このデータは、照射面積がセンサよりも小さくなるように挿入されたTEMのSA開口部で収集された。ビームストップ下の256×256領域は1,981個の検出事象を有し、同じデータ内の照射領域内の256×256領域は3,664,451個の検出事象を有していた。これらの値の比は、100keVの一次電子の0.054%がカメラ内で後方散乱されて誤った第2の検出をもたらすことを意味する。
【0051】
したがって、センサ上の検出された曝露率は、それぞれミス電子及び後方散乱電子を説明するために、97.3%で除算し、[100%-0.054%]で乗算することによって調整された。最終的な較正された露光速度は、フレームごとにピクセル当たり53.7個の電子であった。
【0052】
最後に、ノイズビニング法を用いてDQE(0)を算出した。(例えば、McMullan,Chen,Henderson,&Faruqi,Ultramicroscopy 109:1126-1143(2009)参照)。
【0053】
最終的なDQE曲線は、DQE(0)にMTF二乗を掛けることによって計算した。ノイズパワースペクトル(NPS)は、同時計数損失がない場合に電子計数MAPS検出器における全ての空間周波数に関して1であるため、影響を及ぼさないことに留意されたい。(例えば、Li,Zheng,Egami,Agard,&Cheng,J Struct Biol 184:251-260(2013)参照)。
【0054】
図11Bは、100kV(線1162)のクライオEMのプロトタイプセンサの性能が、最大DQE(線1166)に関して、300kVでの従来の検出器(Gatan K 2-Summit)の性能と密接に一致することを示す。300kVでの従来の検出器のDQE(線1164)は、McMullan,Faruqi,Clare,&Henderson,Ultramicroscopy 147:156-163(2014)から得られた。この結果は、プロトタイプのセンサの100kVでの高性能を明確に示している。
【0055】
コントラスト伝達関数(CTF)は、フーリエ空間で表わされるTEMにおける撮像プロセスの数学的記述である。プロトタイプセンサを使用した100kVでの低線量クライオEM条件下での炭素膜の画像は、最大約3.5オングストロームの分解能でのThonリングを示し、これを図12Aに示す。検出されたパワースペクトル1260のフーリエ変換がCTFモデル1262と比較され、適合1264の品質が図12Bに示される。
【0056】
図13Aは、凍結水和アポフェリチン(標準的な低温EM試料)の画像が、DQE曲線から予想されるように、高いコントラスト及び高い分解能を示すことを示す。顕微鏡の公称倍率は73,000倍であり、1.37Å/ピクセルのサンプリングが得られた。総曝露量は約40e-/Å2であった。図13Bは、CTFモデル1362と比較して、検出されたパワースペクトル1360のフーリエ変換を示す。適合1364の品質が示される。図13Cは、約4の分解能までのThonリングアウトを示す回転平均パワースペクトルを例示する。
【0057】
また、本開示の実施形態は、以下の括弧書きに記載される通りであってもよい。
【0058】
(1)透過型電子顕微鏡において電離放射線を撮像するための直接検出器を形成する方法が記載され、該方法は、CMOSイメージセンサプロセスにおいてモノリシックアクティブピクセルセンサを形成するステップであって、センサが、シリコン基板上に配置されるエピタキシャルシリコン層と、エピタキシャルシリコン層上に塗布されるCMOS層とを含む、ステップと、ハンドリングウエハ材料をCMOS層の前面に結合するステップと、エピタキシャルシリコン層の後面を露出させるためにシリコン基板を除去するステップと、CMOS層の感知領域からハンドリングウエハ材料の第1のセクションを選択的に除去し、感知領域の外周にわたってハンドリングウエハ材料の第2のセクションを残すステップとを含み、直接検出器は、第2のセクションのみと接触することによって透過型電子顕微鏡に実装されるように構成され、直接検出器は、電離放射線がエピタキシャルシリコン層の後面からのみ入るように更に構成される。
【0059】
(2)研削プロセスによってシリコン基板の第1の部分を除去するステップと、化学エッチングによってシリコン基板の残りの部分を除去するステップとを更に含む、(1)の方法。
【0060】
(3)選択的化学エッチングによってハンドリングウエハの第1のセクションを除去するステップを更に含む、(1)の方法。
【0061】
(4)エピタキシャルシリコン層内にフォトダイオードを形成するステップと、エピタキシャルシリコン層内に浮遊拡散領域を形成するステップとを更に含む、(1)の方法。
【0062】
(5)フォトダイオード接点、浮遊拡散接点、及びゲート接点を含むメタライゼーションパターンをCMOS層上に形成するステップと、浮遊拡散接点を読み出し回路に接続するステップと を更に含む、(1)から(4)のいずれかの方法。
【0063】
(6)ハンドリングウエハの結合の前にCMOS層の前面を平坦化するステップを更に含む、(1)から(5)のいずれかの方法。
【0064】
(7)酸化物間結合によってCMOS層の前面に対してハンドリングウエハ材料を結合するステップを更に含む、(1)から(6)のいずれかの方法。
【0065】
(8)エピタキシャル層を4μm~20μmの厚さに配置するステップを更に含む、(1)から(7)のいずれかの方法。
【0066】
(9)電離放射線を撮像するための直接検出器であって、検出器が、シリコン基板上に配置されるエピタキシャルシリコン層と、エピタキシャルシリコン層上に配置されるCMOS層とを含むモノリシックアクティブピクセルセンサと、CMOS層の前面に結合されるハンドリングウエハとを備え、シリコン基板が、エピタキシャルシリコン層の後面まで除去されており、センサの外周にハンドリングウエハの第2のセクションを残しつつ、ハンドリングウエハの第1のセクションがピクセルセンサに対応する領域から選択的に除去される、直接検出器。
【0067】
(10)エピタキシャル層は、厚さが約4μm~20μmである、(9)の直接検出器。
【0068】
(11)モノリシックアクティブピクセルセンサは、エピタキシャルシリコン層内の空乏領域と、空乏領域内のフォトダイオードと、フォトダイオード上のピン層と、エピタキシャルシリコン層内の浮遊拡散領域とを更に含む、(9)又は(10)のいずれかの直接検出器。
【0069】
(12)エピタキシャル層がp型シリコン層であり、フォトダイオードが、空乏領域に埋め込まれたn型フォトダイオードであり、ピン層がp++型シリコンであり、浮遊拡散領域がn型シリコン材料である、(9)から(11)のいずれかの直接検出器。
【0070】
(13)CMOS層は、フォトダイオード接点、浮遊拡散領域接点、及びゲート接点を含む、CMOS層の前面上のメタライゼーションパターンと、浮遊拡散領域接点に接続された読み出し回路とを含む、(9)から(12)のいずれかの直接検出器。
【0071】
(14)直接検出器は、電離放射線がエピタキシャルシリコン層の後面から検出器に入るような向きで透過型電子顕微鏡に実装されるように構成される、(9)から(13)のいずれかの直接検出器。
【0072】
(15)透過型電子顕微鏡における電離放射線の検出方法において、CMOS層とシリコン基板との間に配置されるエピタキシャル層を含むモノリシックアクティブピクセルセンサを用意するステップであって、モノリシックアクティブ検出器を用意するステップが、CMOS層の前面を平坦化するステップと、ハンドリングウエハをCMOS層の前面に結合するステップと、エピタキシャルシリコン層の後面を露出させるためにシリコン基板を除去するステップと、ハンドリングウエハの第1のセクションをCMOS層の感知領域から選択的に除去するステップと、ハンドリングウエハの第2のセクションを感知領域の外周にわたって残すステップとを含む、ステップと、透過型電子顕微鏡に検出器を実装するステップと、電離放射線がエピタキシャルシリコン層の後面から検出器に入るように検出器を方向付けるステップと、電離放射線を表わす信号を検出器から読み出すステップとを含む、方法。
【0073】
(16)電離放射線が40keV~120keVのエネルギーを有する電子である、(15)の方法。
【0074】
(17)電離放射線が0keV~100keVのエネルギーを有する電子である、(15)の方法。
【0075】
(18)電離放射線が0keV~300keVのエネルギーを有する電子である、(15)の方法。
【0076】
(19)電離放射線が0keV~30keVのエネルギーを有する電子である、(15)の方法。
【0077】
(20)電離放射線が100keVのエネルギーを有する電子である、(15)の方法。
【0078】
以上の説明は、本発明の典型的な実施形態を開示及び記載している。当業者であれば分かるように、本発明は、その技術思想又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化されてもよい。したがって、本発明の開示は、例示を意図しているが、本発明の範囲、並びに他の特許請求の範囲を限定するものではない。本開示は、本明細書の教示内容の任意の容易に識別可能な変形を含めて、発明の主題が専心して公にされないように、前述の特許請求の範囲の用語の範囲を部分的に定義する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
【国際調査報告】