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特表2023-540511トライボロジー用途のためのドープDLC
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】トライボロジー用途のためのドープDLC
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
C23C14/06 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514781
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(85)【翻訳文提出日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2021074364
(87)【国際公開番号】W WO2022049246
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】20194394.1
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514052276
【氏名又は名称】アイエイチアイ イオンボンド アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル コルク,ヘリット ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ドルチンコフ,イヴァイロ シメオノフ
(72)【発明者】
【氏名】コーレナーティー,ダヴィト
(72)【発明者】
【氏名】フルクマンス,アントニウス ペトリュス アルノルドゥス
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA34
4K029BB10
4K029BC02
4K029CA03
4K029CA13
4K029DB05
4K029DB14
4K029DD06
4K029EA01
4K029FA04
4K029FA05
4K029FA07
(57)【要約】
本発明は、非水素化遷移金属ドープダイヤモンドライクカーボン(DLC)に関し、非水素化DLCは、元素の周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属を含む。少なくとも1つの遷移金属の一部は、マトリックスとしての非水素化DLC中に少なくとも1つの遷移金属の炭化物の形態で存在し、別の部分は金属滴として存在する。非水素化遷移金属ドープDLCは、35GPa以上、好ましくは40GPa以上の押込み硬度を有する。ドープDLCは、金属滴の存在に起因して、材料のコーティングが表面に適用されたときの表面の耐摩耗性の改善及び/又は摩擦の低減において非常に効果的である。更に、本発明は、本発明による非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングを堆積させるためのカソードアーク放電堆積法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水素化遷移金属ドープダイヤモンドライクカーボン(DLC)であって、前記非水素化DLCは、元素の周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属を含み、前記少なくとも1つの遷移金属の一部は、マトリックスとしての前記非水素化DLC中に、前記少なくとも1つの遷移金属の炭化物の形態で存在し、
前記非水素化遷移金属ドープDLCは、35GPa以上、好ましくは40GPa以上の硬度を有し、前記硬度は、研磨された硬化基材上に堆積された前記非水素化遷移金属ドープDLCの膜で測定され、押込み深さは前記膜の厚さの10%未満であり、
前記少なくとも1つの遷移金属の別の部分は、前記遷移金属滴として前記金属の形態で存在することを特徴とする、
非水素化遷移金属ドープダイヤモンドライクカーボン(DLC)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの遷移金属の前記炭化物の一部が、マトリックスとしての前記非水素化DLC中にアイランドとして存在し、前記アイランドが、好ましくは最大2nmのサイズを有する、請求項1に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
【請求項3】
前記遷移金属の前記金属滴が、1μm未満、好ましくは0.1~100nm、より好ましくは0.5~40nmの直径を有する、請求項1又は2に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
【請求項4】
前記少なくとも1つの遷移金属の含有量が0.1~5at.%の範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
【請求項5】
前記硬度が40GPa~60GPaの範囲内である、請求項1~4のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
【請求項6】
60%以上、好ましくは80%以上の炭素原子のsp分率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
【請求項7】
前記少なくとも1つの遷移金属の含有量が1at.%~5at.%の範囲である、請求項1~6のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
【請求項8】
基材上に設けられた、請求項1~7のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCの少なくとも1つの層を含む層システム。
【請求項9】
前記非水素化遷移金属ドープDLCの層が、50nm~3μmの範囲の厚さを有する、請求項8に記載の層システム。
【請求項10】
表面に前記非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングを適用することによって、前記表面の耐摩耗性を改善し及び/又は摩擦を低減するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCの使用。
【請求項11】
前記コーティングが、0.5μm~3μmの範囲の厚さを有する、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングを堆積する方法であって、前記方法がカソードアーク放電堆積法であり、前記カソードアーク放電において、直流電流がパルス電流で重畳され、前記パルス電流が、10kHz~100kHzの範囲内のパルス周波数を有し、前記少なくとも1つの遷移金属でドープされた炭素ターゲットが、前記カソードアーク放電におけるターゲットとして使用され、前記ターゲットがカソードに直接接続され、前記パルス電流の各パルスが、前記カソードで測定して5V/μsを超える速度で電圧の上昇を誘発し、前記パルス電流の各パルスが、30μs未満のアクティブパルス幅を有し、好ましくは前記ピーク電流が200Aより高い、請求項1~7のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングを堆積する方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法によって得ることができる、請求項1~7のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCのコーティング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水素化遷移金属ドープダイヤモンドライクカーボン(Diamond-Like Carbon:DLC)、表面の摩擦を低減するためのその使用、及び基材上に設けられたそのコーティングを含む層システムに関する。更に、本発明は、本発明による非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングを堆積させる方法に関し、該方法は、カソードアーク放電堆積法である。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、アモルファスカーボンの準安定形態である。DLC膜は、科学技術において広範な用途を見出している。J.Robertsonは、Materials Science and Engineering R 37,2002,129-281において、材料及びその用途の包括的な概要を提供している。Robertsonによって報告されているように、DLCの水素化形態と非水素化形態とを区別する必要がある。DLCの分類の別の基準は、sp結合の割合である。非水素化材料の場合、sp結合の割合が高度に達する場合、この材料は、一般に、四面体アモルファス炭素として示され、ta-Cと略される。
S.Xu et al.は、Philosophical Magazine Part B,76:3,351-361において、室温でのシリコン上のフィルタ付きカソード真空アーク技術によるta-C膜の堆積を報告している。高いsp結合分率(約80%以上)が得られた。7.5~12GPaの範囲の圧縮応力及び20~55GPaの硬度が見られた。最大硬度は、電子エネルギー損失分光法(EELS)によって決定される最高のsp分率と一致することが分かった。
ドープされた炭素コーティングも開発されている。A.Abou Gharam et al.はSurface and Coatings Technology 206(2011),1905-1912において、アルミニウムに対するW-DLCの高温トライボロジー挙動を研究している。W-DLCコーティングは、物理蒸着(PVD)システムを使用して堆積させた。水素化DLCにWを添加すると、400℃~500℃の温度範囲で摩擦係数が低下した。問題は、例えばWによる水素化DLCのドーピングがスパッタリングによって原子レベルで起こることである。非水素化DLC(ta-C)は、水素化DLCよりも多くの潤滑剤に対する良好な濡れ性及び良好な温度安定性を有する。
Z.Wang et al.,International Journal of Hydrogen Energy 42(2016),5783-5792は、ステンレス鋼基材上にWドープ炭素を堆積させた。彼らは、-60Vのバイアス電圧を有する近接場不平衡マグネトロンスパッタリングイオンプレーティング(CFUBMSIP)システムを使用した。CFUBMSIPシステムは、1つのタングステン(W)ターゲット、2つのグラファイトターゲットを備え、薄いCrシード層及び薄い中間MCx層(MはCr及びWである)の堆積のために、1つのクロム(Cr)ターゲットを備えた。
K.Hou et al.は、ステンレス鋼基材上にニオブ(Nb)ドープ非晶質炭素(a-C)膜を堆積させた。上述の科学論文のZ.Wang et al.と同様に、彼らはCFUBMSIPシステムを使用した。バイアス電圧は-100Vであった。CFUBMSIPシステムは、1つのNbターゲット、2つの黒鉛ターゲット、及び1つのチタンターゲットを備えていた。炭化ニオブは、a-Cマトリックスに埋め込まれていると主張されており、純粋なニオブの存在が報告されている。スーパーセル内の1つのNb原子を仮定した模擬第一原理計算は、約58%のsp分率を示唆するシミュレーション結果を与えた。XPSデータのフィッティングから、最大54%のsp分率が導出された。しかしながら、54%の最大sp分率が、Nbカソードのカソード電流が0に維持されたフィルムについて得られたので、Nbはターゲットからスパッタリングされなかった。しかしながら、Nbドープa-C膜のラマン結果は、より低いsp分率を示唆している。特に、A.C.FerrariのDiamond and Related Materials 11(2002),1053-1061の教示を考慮すると、約2.5のI/I比がこれを示唆している。K.Hou et al.による論文には硬度データは報告されていない。
D.Zhang et al.(Carbon 145(2019),333-344)は、銀(Ag)でドープされた非晶質炭素膜、又はCFUBMSIPシステムを使用してAg及びクロムで膜を共ドープした。彼らは、ドーパントの割合が高いほど、硬度及び黒鉛化が低くなることを見出した。それらは、かなり高い硬度値を示すシミュレートされた硬度を報告している。純粋なCの場合、それらのシミュレーションは56GPaのシミュレートされた硬度を示す。しかしながら、それらの測定は、2.40GPa~3.37GPaの全てのドープCコーティングの圧縮応力を示した。
M.Andersson et al.(Vacuum 86(2012),1408-1416)は、マグネトロンスパッタリングされた非晶質Cr-C膜を堆積させ、特性評価した。彼らは、元素ターゲットからの非反応性DCマグネトロンスパッタリングを使用した。フィルムは、結晶子の存在なしでX線非晶質であることが分かった。彼らは、約15at.%(すなわち原子%)のCrドーパントレベルに対して6.9GPaの硬度を報告しており、約75at.%Crで10.6GPaまで増加する。
Y.Lin及びS.ZhangのJ.Nanosci.Nanotechnol.16(2016),12720-12725)は、黒鉛状炭素(GLC)膜の特性に対するCr添加の効果を研究した。該膜は、不均衡なマグネトロンスパッタリングによって堆積される。彼らは、純粋なCについては10.4GPaの硬度、CrでドープされたGLC膜については最大17.4GPaの硬度を報告している。ドーパントレベルは明示的に述べられていないが、0.1kWから0.3kWに増加するCrターゲット出力及び0から5kWに増加する炭素については、かなり低いドーパントレベルが予想され得る。
A.Amanov et al.(Tribology International 62(2013),49-57)は、不均衡なマグネトロンスパッタリング(UBMS)を用いてCrドープ及び非ドープDLC膜を堆積させた。彼らは、CrドープDLCについては22.47GPaの硬度、非ドープDLCについては10.75GPaの硬度を報告している。
A.Ya.Kolpakov et al.(Nanotechnologies in Russia,5(2010),160-164は、パルス真空アーク法を用いて、窒素、タングステン又はアルミニウムでドープされたta-Cコーティングを堆積させる。タングステン等のドーパントのレベルは言及されておらず、複合グラファイト系カソード中のWの量も言及されていない。パルス真空アーク法におけるパルスの繰り返し周波数は2.5Hzであった。ドープされた炭素コーティングは、構造が非晶質であり、結晶性不純物を含まないと記載されている。Wドープ膜については、最大20GPa未満のマイクロ硬度HVが見出された。純粋なW滴の証拠は見出されていない。ta-Cを生成するためのアーク放電の使用は、DCアーク放電を使用するR.H.Horsfall,Proc.Soc.Vacuum Coaters(1998),60-85によっても記載されている。ta-Cを生成するためのパルス放電は、V.N.Inkin et al.,Diamond and Related Materials 13(2004),1474-1479にも記載されている。
要約すると、未荷電粒子を濾過するためのフィルタを除く不均衡なマグネトロンスパッタリングでは、純粋なCの硬度はかなり低く、これまでに20GPaの範囲で報告されているが、実質的なレベルのドーパントの添加、典型的には10at.%以上の範囲では、A.Amanov et al.による上述の科学論文のように、約22.5GPaの硬度までの炭化物のより高い割合によって引き起こされる硬度の増加を示す。
上述したように、DLC膜は、科学技術において様々な用途を見出している。非晶質炭素膜はまた、高分子電解質膜(PEM)又はプロトン交換膜(PEM)燃料電池(PEMFC)におけるバイポーラプレート(BBP)の保護コーティングとしていくつかの研究者によって研究された。BPPは、PEMFC及びPEMFCスタックにおいて重要な機能を有する。例えば、それらはPEMFCスタック内の個々のセルを分離し、燃料ガスを分配し、それらを分離し、集電体として機能し、熱及び水の除去を容易にし、他の構成要素の機械的支持を提供し、FCスタックのバックボーンとして機能する。
例えば、上述の科学論文において、Z.Wang et al.は、オーステナイト系ステンレス鋼基材上にCFUBMSIPによってWドープ炭素を堆積させ、界面接触抵抗(ICR)及び耐食性を研究した。彼らは、Wのドーパントレベルが2.54at.%~24.41at.%で耐食性を増加させることを観察した。彼らは、2.54及び8.56at.%について最良の結果を得た。それらは、腐食保護を酸化タングステン層の形成に帰する。
D.Zhang et al.は、上記科学論文において、Ag及びCrでドープされた非晶質炭素(a-C)膜が同時に低いICRを達成することを見出した。更に、彼らの試験は、4.89at.%のAg及び12.37at.%のCrのドーパントレベルを有する金属BPP上のコーティングとして使用された場合、腐食が少なく、外方拡散が少ない寿命改善を示した。
P.Yi et al.のInternational Journal of Hydrogen Energy 44(2019),6813-6843において、PEMFCに使用される金属BPPのための炭素系コーティングの総説を提供している。遷移金属炭化物(TMC)コーティングも、この総説論文で言及されている。
DLCコーティングはまた、摩擦を低減し、耐摩耗性を改善するために業界での用途が見出されている。一般に、水素化ダイヤモンドライクカーボン(a-C:H)がこの目的のために適用されてきた。水素化ダイヤモンドライクカーボンの使用の制限は、硬度が20~35GPaの範囲であり、適用温度が約300℃に制限されることである。更なる制限は、低摩擦が水の存在に依存することである。温度安定性を改善するために、Wのような4d、5d又は6d遷移金属元素を水素化DLCに添加する。水素化DLCにW、Ta、Vのような容易に酸化する遷移元素を添加することの更なる効果は、金属が酸素と反応し、より高温で潤滑性を付加することである。A.Abou Gharam et al.による上記の科学論文では、水素化DLCへのWの添加は、400~500℃の温度範囲で摩擦係数の低下をもたらすことが示されている。問題は、水素化DLCへのWのようなドーパントの添加が、スパッタリングによって原子レベルでのみ行われることである。
物理的及び化学的蒸着コーティング(PVD及びプラズマ支援化学蒸着を含むCVD、PACVD)及び誘導体は、基材の性能を高めるために使用される。性能の改善は、例えば耐摩耗性の改善、又は摩擦の低減に向けられ得る。コーティングの特性を調整するために、追加の元素でコーティングをドープすることができ、組成、テクスチャ、内部応力レベルを変更することができる。一般に、ドープされたコーティングは、過去20年間に広く適用されてきた。遷移金属ドープ水素化DLC(a-C:H:Me)の性能に関して多くの実験が行われており、概要については、S.Yazawa et al.,Lubricants 2(2014),90-112を参照されたい。遷移金属の添加の有益な効果は、一般にW及びMoのような元素が良好な潤滑特性を有する硫化物を形成することである。燃料と接触している元素及び潤滑剤と接触している元素の両方について、これらは硫黄を含有し得るので、これは役割を果たし得る。更に、Wは、モリブデンジチオカーバメート(MODTC)で潤滑された接点の摩擦係数に有益な効果を有することが示されている。異なる潤滑剤に対するDLC層に組み込まれたタングステンの有益な効果についての参考文献は、B.Vengudusamy et al.,Tribology International 54(2012),68-76に与えられている。国際公開第2014/000994号には、有機金属前駆体を用いてWを水素化ダイヤモンドライクカーボンコーティングにする方法が記載されている。これを適用する主な理由は、プロセス中の堆積速度を増加させるためであった。
上記の全ての方法において、遷移金属元素は原子レベルでプラズマ相にあり、原子は主に単一原子として表面に到達する。上記の実験には炭素の平行流が存在するので、遷移金属はa-C:Hコーティングに原子的に組み込まれ、それによって遷移金属は炭素に結合し、炭化物を形成する。例えば、水素化DLC(a-C:H)に組み込まれたTiの詳細な説明は、W.J.Meng et al.,J.of Appl.Phys._88,(2000),2415-2422で与えられる。
上記を考慮して、改善された温度安定性及び多くの潤滑剤に対するより良好な濡れ性を有するトライボロジカルコーティング、すなわち摩擦を低減し、耐摩耗性を改善するコーティングに対する需要が存在した。
要約すると、燃料電池におけるBPPのコーティングとして優れた特性を有し、更に優れたトライボロジー特性を有するコーティング材料を提供することに対し、産業界において大きな関心が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/000994号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Robertson,Materials Science and Engineering R 37,2002,129-281
【非特許文献2】S.Xu et al.Philosophical Magazine Part B,76:3,351-361
【非特許文献3】A.Abou Gharam et al.Surface and Coatings Technology 206(2011),1905-1912
【非特許文献4】Z.Wang et al.,International Journal of Hydrogen Energy 42(2016),5783-5792
【非特許文献5】K.Hou et al
【非特許文献6】A.C.Ferrari.Diamond and Related Materials 11(2002),1053-1061
【非特許文献7】D.Zhang et al.(Carbon 145(2019),333-344)
【非特許文献8】M.Andersson et al.(Vacuum 86(2012),1408-1416)
【非特許文献9】Y.Lin及びS.Zhang.J.Nanosci.Nanotechnol.16(2016),12720-12725)
【非特許文献10】A.Amanov et al.(Tribology International 62(2013),49-57)
【非特許文献11】A.Ya.Kolpakov et al.(Nanotechnologies in Russia,5(2010),160-164
【非特許文献12】R.H.Horsfall,Proc.Soc.Vacuum Coaters(1998),60-85
【非特許文献13】V.N.Inkin et al.,Diamond and Related Materials 13(2004),1474-1479
【非特許文献14】P.Yi et al.International Journal of Hydrogen Energy 44(2019),6813-6843
【非特許文献15】S.Yazawa et al.,Lubricants 2(2014),90-112
【非特許文献16】B.Vengudusamy et al.,Tribology International 54(2012),68-76
【非特許文献17】W.J.Meng et al.,J.of Appl.Phys._88,(2000),2415-2422
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
非水素化遷移金属ドープDLC
本出願は、請求項1に定義されるような非水素化遷移金属ドープダイヤモンドライクカーボン(DLC)を提供することによってこれらの必要性を満たす。したがって、非水素化DLCは、元素周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属を含み、少なくとも1つの遷移金属の一部は、マトリックスとしての非水素化DLC中に、少なくとも1つの遷移金属の炭化物の形態で存在する。非水素化遷移金属ドープDLCは、35GPa以上、好ましくは40GPa以上の硬度を有し、硬度は、膜の厚さの10%未満の押込み深さで、研磨された基材上に堆積された非水素化遷移金属ドープDLCの膜で測定されることを特徴とする。更に、非水素化遷移金属ドープDLCは、少なくとも1つの遷移金属の別の部分が、遷移金属滴として金属の形態で存在することを特徴とする。
本出願では、簡潔にするために、請求項1に定義される本発明による非水素化遷移金属ドープDLCを「本発明によるドープDLC」と称することがある。本発明によるドープDLC中に存在する第4d族、第5d族及び第6d族から選択される遷移金属は、本明細書では簡単にするために「遷移金属」と呼ばれることもあり、「TM」と略されることもある。
請求項1のプレアンブルは、非晶質WCが観察されたZ.Wang et al.による科学論文、及びNbC相が観察されたK.Hou et al.による科学論文を考慮して定式化されている。しかしながら、Z.Wang et al.のWドープ炭素膜及びK.Hou et al.のNbドープ炭素膜は、35GPa未満の硬度を有する。
硬度が35GPa未満である場合、コーティングは柔らかすぎる。
例えば、本発明によるドープDLCの硬度は、40~60GPaの範囲内とすることができる。本発明によるドープDLCの硬度は、より好ましくは≧45GPaである。
本発明によるドープDLCの硬度は、本出願ではGPaとして示される。硬度は、膜厚の10%未満の押込み深さで平坦な研磨硬化基材上に堆積された非水素化遷移金属ドープDLCの膜上のビッカース正四角錐圧子のナノ押込みによって測定される。平坦に研磨された硬化基材は、0.01μmの表面粗さRa及び0.25μmのRzを有する。使用した平坦に研磨された硬化基材の硬度は、83.6HRa(ロックウェル硬度A、HRA)、62、1HRc(ロックウェル硬度C、HRC)及び747HV10(荷重10kgfでのビッカース硬度)であった。硬度の測定の詳細は、本出願の「発明を実施するための形態」のセクションに記載されている。
本発明によるドープDLCは、Z.Wang et al.及びK.Hou et al.等の文献から公知のBPPコーティングよりもはるかに高い硬度を有し、これは典型的には60%を超えるより高い割合のsp結合によって引き起こされる。非水素化DLCでは、硬度はsp分率、すなわちsp、sp及びspハイブリダイゼーション状態、すなわちsp、sp及びsp結合炭素の材料中の炭素原子の合計に関してsp結合状態で存在する炭素原子の部分と相関する。本発明によるドープDLCは、典型的には60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上のsp分率を有する。
その高いsp分率のために、本発明によるドープDLCは、ta-C、すなわち四面体アモルファス炭素として表すことができる。
本発明によるドープDLCは、その高い硬度のために、及びそれが非水素化DLCであるために、それが適用される表面の摩擦を低減し、及び/又は耐摩耗性を改善するコーティングとして優れている。
ラマン分光法を使用して、炭素原子のsp分率及び遷移金属(単・複数)の炭化物の存在、すなわち本発明によるドープDLC中のTM-C結合の存在を評価することができる。例えば、TMがWである場合、TM-C結合の存在は、532nmの励起波長に対して80~150cm-1の範囲のピークによってラマンスペクトルにおいて検出することができる。sp分率に関して、用いた励起波長に対するラマン分光におけるGピークの位置、及びDピークの強度(I)とGピークの強度(IG)との比、すなわちI/Iからsp分率を推定することができる。これは、A.C.Ferrariによって前述の科学論文に記載され、その論文の図2に示されている。ここで用いたラマン励起波長は532nmであった。本発明によるドープDLCのサンプルでは、Gピークの位置は典型的には1,605cm-1であり、この励起波長では60%を超える炭素原子のsp分率を指す。
本発明において、本発明によるドープDLC及び材料のコーティングの組成分析は、好ましくは、電子プローブマイクロ分析(EPMA)によって行われる。特に、本発明によるドープDLC中の少なくとも1つの遷移金属の含有量は、EPMAによって決定することができる。
本発明によるドープDLCが「非水素化」として指定される場合、これは、堆積中に水素が意図的に添加されない、特に材料の堆積中に有意な量の水素が添加されないことを意味する。しかしながら、システム内の水蒸気から来る水素の一部が存在し得、本発明によるドープDLCに組み込まれ得る。したがって、このような水素源により、本発明による「非水素化」ドープDLCは、特に、例えば、材料が高い生産性で堆積され、堆積チャンバの短いポンピング時間及び短い加熱時間で堆積される場合、システム内の水蒸気から生じる、1at.%未満の水素含有量を有し得る。
水素について上述したのと同じ理由で、システム内の水蒸気及び微量空気に由来する少量の酸素、並びにシステム内の微量空気及び不活性ガス雰囲気に由来する少量のアルゴンが存在し得、本発明によるドープDLCに組み込まれ得る。したがって、このような酸素及びアルゴン源により、本発明による非水素化ドープDLCは、特に、例えば、材料が高い生産性で堆積され、堆積チャンバの短いポンピング及び短い加熱時間で堆積される場合、システム内の水蒸気、微量空気及び不活性ガス雰囲気に由来する、1at.%未満の酸素含有量及び1at.%未満のアルゴン含有量を有し得る。好ましくは、酸素含有量は0.5at.%未満であり、アルゴン含有量は0.5at.%未満である。最も好ましくは、酸素含有量は0.1at.%未満及びアルゴン含有量は0.1at.%未満である。
本発明によるドープDLCは、少なくとも1つの遷移金属でドープされる。遷移金属は、元素の周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される。したがって、少なくとも1つの遷移金属は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)からなる群から選択される。本発明で使用される上記の遷移金属は全て、炭化物を形成することができる。したがって、それらは全て、本発明で必要とされるように、マトリックスとして非水素化DLC中に炭化物の形態で存在することができる。
少なくとも一つの遷移金属の含有量は、特に限定されないが、好ましい実施形態によれば、非水素化遷移金属ドープDLCについて、0.1~5at.%の範囲である。好ましい実施形態によれば、本発明によるドープDLC中の少なくとも1つの遷移金属の含有量は、0.2~2.5at.%、より好ましくは0.3~2.0at.%、最も好ましくは0.5~1.5at.%又は1~5at.%、より好ましくは2~4at.%である。
本発明によるドープDLCがトライボロジーコーティングとして使用するため、すなわち表面の摩擦を低減及び/又は耐摩耗性を改善するため、特に表面の摩擦を低減するためのものである場合、含有量は好ましくは1~5at.%、より好ましくは2~4at.%の範囲である。これは、少なくとも1つの遷移金属のこのようなより高いドーパントレベルに対して、本発明によるドープDLCでは、炭化物として存在する遷移金属に対して金属滴の割合がより高くなり得、金属滴が潤滑効果を有することが分かったからである。
本発明による非水素化遷移金属ドープDLCは、好ましくは均質な材料である。これは、本発明によるドープDLCをもたらすことができる本発明のカソードアーク放電堆積法において、均質なコーティングを堆積させることができるからである。これは、少なくとも1つの遷移金属がドープされた炭素ターゲットが本発明においてカソードアーク放電におけるターゲットとして使用されるという事実に起因する。CFUBMSIP(例えば、前述の科学論文のZ.Wang及びK.Hou)を使用する文献の例は、純粋なC及び純粋な金属を有するカソードを使用しており、カソードは堆積チャンバ内で対向しているか(2つのカソードシステムの場合)、又は90度である(4つのカソードシステムの場合)。基材テーブルの回転により、遷移金属の濃度は、これらの場合、回転速度、堆積速度及び機器の配置に応じて、2~30nm程度のサイズの遷移金属含有量の層ごとの変調を示す。これは、例えば、CFUBMSIP法でTMターゲット及び2つの黒鉛ターゲットが使用される場合(例えば、前述の科学論文においてZ.Wang及びK.Houによって使用されている)、コーティングのTM含有量は、回転中にTMターゲットに面するとより高くなり、黒鉛ターゲットに面すると少し低くなるからである。本発明によるドープDLCのコーティングでは、コーティングの厚さ方向、特に2~30nm程度のサイズでの遷移金属含有量の上記ナノスケールの層ごとの変調を回避することができる。すなわち、少なくとも1つの遷移金属は、本発明によるドープDLCにおいて、コーティング全体にわたって、特にコーティングの厚さ方向に均一に(炭化物として又は金属滴として存在する場合も)分布することができる。
本発明では、炭化物の形態の少なくとも1つの遷移金属は、マトリックスとしての非水素化DLC中に存在する、すなわち、好ましくは均一に分布している。TM炭化物相又はドメインのサイズは、特に限定されない。炭化物は、下端に原子状に分布したW-C単位として、上端にアイランド、特にnm範囲のサイズを有するもの、すなわち「ナノサイズのアイランド」として存在してもよい。本明細書で使用される場合、ナノメートル範囲、すなわちナノサイズは、0.1nm~100nmのサイズを含むように定義される。好ましい実施形態によれば、TM炭化物は、ナノサイズのアイランドまで、より好ましくは最大2nmのサイズを有するナノサイズのアイランドまで原子的に分布して存在する。更により好ましくは、少なくとも1つの遷移金属の炭化物は、約0.5nm~2nmのサイズのナノサイズのアイランドとして存在する。これは、特に本発明によるドープDLC中に共有結合した遷移金属が存在し、望ましい低いICRをもたらすことを確実にするために、BPPコーティングとしての厳しい要件を満たすために有益であることが証明された。通常、非常に硬いta-Cコーティングは高いICRを有する。本発明において、遷移金属炭化物のアイランドのサイズは、透過型電子顕微鏡法(TEM)、特に明視野TEM(BFTEM)及び高角散乱環状暗視野STEM(HAADF-STEM、high angle annular dark field with spot for scanning TEM)によって決定することができる。
本発明によれば、少なくとも1つの遷移金属の別(another)の部分、好ましくは他(the other)の部分は、金属滴の形態で存在する。該滴(小滴)は、好ましくは1μm未満、好ましくは0.1~100nm、好ましくは0.5~40nmの直径を有する。本発明によるドープDLCのマトリックス中に分布し、したがって材料のコーティング中に埋め込まれたそのような小さいTM滴は、遊離遷移金属の特に有効な供給源を形成することができる。また、そのようなサイズの小滴は、そのような小滴を更に含む本発明によるドープDLCのコーティングが表面に適用される場合に、表面の摩擦を低減するのに最も効果的であることが証明された。
マトリックスとしての非水素化DLC中に、炭化物の形態で存在する遷移金属と小滴として金属の形態で存在する遷移金属とを識別するために、明視野TEM(BFTEM)及び高角散乱環状暗視野STEM(HAADF-STEM、high angle annular dark field with spot for scanning TEM)を用いた透過型電子顕微鏡(TEM)試験を本発明で実施した。ラマンスペクトルと組み合わせたBFTEM及びHAADF-STEMの組合わせは、本発明による材料中の非水素化DLCマトリックス中に存在する2つの形態の遷移金属の間の区別を可能にする。更に、金属滴のサイズは、TEM、特に本発明のBFTEM及びHAADF-STEMによって決定することができた。
更に、以下の具体的な実施形態については、3,400℃を超える融点を有するWが、本発明の好ましい実施形態による非水素化DLCマトリックス中に存在する、本発明によるカソードアーク放電堆積法において金属滴を形成することができることが示される。したがって、これは、より低い融点を有する本発明で使用するための他の上述の遷移金属についても同様に可能である。
好ましい実施形態によれば、本発明によるドープDLC中に炭化物の形態で存在する少なくとも1つの遷移金属の一部は、材料中の遷移金属の全含有量に対して、60at.%以下の量で存在することができ、より好ましくは50at.%以下、更に好ましくは40at.%以下、更に好ましくは30at.%以下、最も好ましくは20at.%以下である。本発明者らによって見出されたように、本発明によるドープDLCには、炭化物の形態(例えば、炭化物のアイランドの形態)でも金属滴の形態でもないという意味での、「遊離」遷移金属(又は隔離された遷移金属)はほとんどない。すなわち、本発明によるドープDLCの好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの遷移金属の合計≧85at.%、好ましくは≧90at.%、より好ましくは≧95at.%が、炭化物の形態(好ましくは炭化物のアイランドとして)及び/又は金属滴の形態で非水素化DLCのマトリックス中に存在する。したがって、少なくとも1つの遷移金属の残りの部分、すなわち、100%までの炭化物の形態で存在する遷移金属の量の上述の割合の差は、好ましくは遷移金属の金属滴の形態で存在することが分かった。したがって、本発明の好ましい実施形態では、上述の炭化物の形態の遷移金属の割合及び金属滴中の遷移金属の割合は、合計して、本発明によるドープDLC中に存在する遷移金属の100%になる。
層システム
本発明によるドープDLCは、基材上に提供された少なくとも1つの層を含む層システムを形成することができる。本発明によるドープDLCのコーティング及び層システムに存在する本発明によるドープDLCの1つ又は複数の層の厚さは、本発明においてSEMによって測定することができる。
基材は、基材の表面から自然酸化物を除去するために、イオン衝撃によって洗浄されてもよい。基材の上に更なる層を堆積する前の基材のイオン衝撃は、基材の上の更なる層の接着を促進する。例えば、基材は、Arエッチング、すなわちアルゴンイオン衝撃によって洗浄することができる。層システムでは、接着層を基材上に直接設けることができ、その上に本発明によるドープDLCの少なくとも1つの層を形成することができる。接着層は、例えば、金属Cr又は金属Tiの層とすることができる。層システムはまた、多層を含むことができ、多層は、本発明によるドープDLCの少なくとも1つの層を含む。好ましくは、層システムは、少なくとも1つの遷移金属の含有量が、層についてXat.%である、非水素化遷移金属ドープDLCの少なくとも1つの層の多層であり、少なくとも1つの遷移金属の含有量が、層及び/又はta-Cの少なくとも1つの層について0~0.8倍Xat.%である、非水素化遷移金属ドープDLCの少なくとも1つの層の多層である。したがって、好ましい実施形態によれば、多層には少なくとも2つの層があり、その1つはより高い遷移金属含有量を有し、その1つはより低い遷移金属含有量を有する(又は遷移金属を全く含まず、これはta-Cの層の場合である)。多層には、高遷移金属層及び低/無遷移金属層との2を超える交互層が存在してもよい。層システムはまた、接着層と、本発明によるドープDLCの単層又は上述の本発明によるドープDLCの多層若しくはそれを含む多層と、の間の遷移層を、接着金属層のランプダウン及び本発明によるドープDLC又はta-C層のランプアップによって含むことができる。
本発明による層システムが本発明によるドープDLCの単層を含む場合、層の厚さは、好ましくは50nm~3μmの範囲、好ましくは80nm~1μmの範囲である。これは、本発明によるドープDLCの各層が多層として存在する場合にも適用される。多層は、好ましくは0.1~30μm、より好ましくは0.2μm~10μmの範囲の厚さを有する。これは、基材上に存在する任意の接着層及任意の遷移層の厚さ、並びに当然のことながら基材自体の厚さを除外する。
トライボロジー用途
本発明によるドープDLCは、トライボロジーコーティングとして使用される場合、例えばA.Abou Gharam et al.による上記の科学論文に記載されているように、多くの潤滑剤に対してより良好な濡れ性及びより高い温度安定性を有することが判明した。非水素化DLCは、多くの潤滑剤による濡れ性が水素化DLCよりも優れているという追加の利点を有する(M.Kano,Tribology International 39(2006),1682-1685を参照されたい)。本発明によるドープDLCは、既に300℃で低摩擦ステッピングインを有し、更に改善された耐摩耗性を有する。したがって、本発明はまた、ドープDLCで表面をコーティングすることによって表面の摩擦を低減し、及び/又は耐摩耗性を改善するための本発明によるドープDLCの使用に関する。
少なくとも1つの遷移金属の一部が小滴として金属形態で本発明によるドープDLC中に存在するため、摩擦を低減する効果は特に顕著である。特に、本発明によるドープDLCに関して1~5at.%の範囲内等、少なくとも1つの遷移金属の含有量がより高い場合、及び、炭化物の形態で存在する部分と比較して金属滴の形態で存在する少なくとも1つの遷移金属の部分の割合が高い場合、金属滴は摩擦を更に低減するであろう。これは、金属遷移金属滴が材料のマトリックス内に埋め込まれ、潤滑効果を有する遊離遷移金属の供給源を形成することができるためである。
理解されるように、特許請求の範囲に記載の層システム、特に、0.5~3μmの範囲の厚さの本発明によるDLCの単層を有し、基材と本発明によるDLC層との間に接着層を任意に有するシステムは、耐摩耗性を改善し、及び/又は基材の表面の摩擦を低減するために非常に有用であることが証明された。
堆積方法
「ta-C」と表記することができ、典型的には60%を超えるsp分率を有する、請求項1に記載の≧35GPa、好ましくは≧40GPaという高い硬度を有する非水素化DLCは、高いプラズマ密度、言い換えれば高いイオン化度が存在する場合にのみ生成され得る。したがって、本発明によるドープDLCは、Z.Wang et al.及びK.Hou et al.によって採用されているような標準的な不均衡なマグネトロンスパッタリング法では得ることができない。標準的な不均衡なマグネトロンスパッタリングの場合、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)とは異なり、イオン化度が低すぎる。
本発明は更に、元素周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属を含む非水素化DLCのコーティングを堆積させる方法を提供する。方法は、カソードアーク放電堆積法である。カソードアーク放電では、直流電流(DC)にパルス電流が重畳される。パルス電流は、10kHz~100kHzの範囲のパルス周波数を有する。少なくとも1つの遷移金属がドープされた炭素ターゲットは、カソードアーク放電におけるターゲットとして使用される。ターゲットはカソードに直接接続される。パルス電流の各パルスは、カソードで測定して5V/μsを超える速度で電圧の上昇を誘発する。パルス電流の各パルスは、30μs未満のアクティブパルス幅を有する。この方法では、蒸発したターゲット材料のイオン化度は100%に近い。
ターゲットのドーパントレベルは、0.5at.%~10.0at.%、好ましくは1.0at.%~8at.%の範囲、より好ましくは1.0at.%~6at.%の範囲、より好ましくは0.5at.%~2.5at.%の範囲の、元素周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属であり得る。少なくとも1つの遷移金属は、タングステン(W)等の上述の遷移金属であってもよい。本発明者らは、電子プローブマイクロ分析(EPMA)を使用して、ドーパントとしてターゲット中に存在する遷移金属の約60%が本発明によるドープDLCに見られることを見出した。例えば、ターゲット中の8at.%のWドーパントは、本発明によるドープDLCのコーティング中の5at.%を与え、ターゲット中の2at.%のWはコーティング中の1.2at.%を与える。
カソードアーク放電堆積は、カソードとして機能するか又はカソードに接続されたターゲットとアノードとの間に電気アークを発生させる物理蒸着(PVD)技術である。電気アークは、アークが存在する領域内のターゲットの表面で材料を蒸発させる。蒸発したターゲット材料は、ターゲット材料のコーティングを基材上に形成するように基材上に堆積される。A.Anders,in the textbook“Cathodic ARCs”,Springer,2008,ISBN 978-0-387-79107-4は、カソードアーク放電堆積への詳細な導入を提供している。
カソードアークと標準的な不均衡なマグネトロンスパッタリングとの違いは、アーク放電では不均衡なマグネトロン放電よりも堆積される原子のイオン化がはるかに高いことである。DCアーク中の炭素(C)のイオン化は、A.Anders in“Cathodic ARCs”,Springer(2008),ISBN 978-0-387-79107-4,paragraph 4.3 on pages 194-195に記載されており、200Aのアーク電流についても既に100%が単一に(singly)イオン化されており、より高い電流では部分的に二重に(double)イオン化されている。マグネトロンスパッタリングによる炭素のイオン化ははるかに低く、Cスパッタリングの典型的な値は5%の範囲である。sp分率がより高いta-Cは、サブプランテーションプロセスによるものであるとLifschitz et al.(Physical Review B,Vol.41,No.15,pp.10468-10480)によって記載されている。炭素原子は、成長膜の表面を典型的には3原子層の深さまで貫通するのに十分に高いエネルギーに到達している。この深さにおいて、注入された原子は高圧を受け、高圧のためにsp結合が形成される。標準的な(不均衡な)マグネトロン(非HIPIMS)では、平均エネルギーは、イオン化度が低いために低すぎ、ほとんどのC原子のためのサブプランテーションを有することができない。
本カソードアーク放電堆積法では、パルス電流を重畳させた直流電流を供給することにより、カソードアーク放電を発生又は給電する。このような電流の重畳を採用することにより、カソードアーク放電プロセスにおけるターゲット材料のマクロ粒子、すなわち少なくとも1つの遷移金属でドープされた炭素のマクロ粒子の発生を大幅に低減することができる。更に、ターゲット表面に鋭い縁部を有する比較的深いクレータの発生を最小限に抑えることができる。特に、直流電流に重畳されたパルスは、電気アークを複数のアークに分割し、第1のアークのクレータから飛び出し、このプロセスにおける蒸発によってエッジを丸め、したがって、鋭いエッジを有するクレータ、特に深いクレータの形成を回避する。そのような鋭い縁部は、ターゲット材料のマクロ粒子としてターゲットから放出され得、したがって、形成されるコーティングの品質に影響を及ぼす。本方法では、パルス電流のパルスは高い立ち上がり速度を有する。したがって、複数のアークへの分割は、特に短い時間内に生じる。
したがって、高品質のコーティングを達成することができる。また、このようなマクロ粒子の形成を抑制することができるため、堆積方法においてマクロ粒子フィルタを用いる必要がなく、大幅に簡易化することができる。
ターゲットは、カソードに直接接続され、すなわち、ターゲットとカソードとの間に中間層又は構造が存在しない。
パルス電流は、10kHz~100kHzの範囲、好ましくは20kHz~90kHzの範囲、より好ましくは30kHz~80kHzの範囲、更により好ましくは40kHz~70kHzの範囲のパルス周波数を有する。10kHz~100kHzの範囲のパルス周波数を選択することにより、ターゲット材料のマクロ粒子の形成を特に効率的かつ確実に抑制することができる。
製造用途では、カソードアーク放電堆積プロセスは、複数のカソードを備えた堆積チャンバ、特に真空チャンバ内で実行することができる。例えば、同時に堆積しているカソードのバンクがある場合、アークパルスは、一度に1つのパルスのみが発生するように、異なるアーク源間に設定された遅延と同期させることができ、バイアス電圧電源の過負荷を回避する。
“Production of highly ionized species in high-current pulsed cathodic arcs”(R.Sangines,A.M.Israel,I.S.Falconer,D.R.McKenzie,and M.M.M.Bilek,Applied Physics Letters 96,221501[2010])では、図2に、600μsのかなり長いパルス及び800Aのピーク電流でのAlのパルスアーク堆積において、二重イオン化Alが形成されるが、40μs後に既にその最大値に達することが示されている。それはその後急速に減少し、単一にイオン化されたAlが残る。アークは、ほぼ増分60Aごとに連続的に分割されている。アークは互いに反発し合っている。100μs後に二重イオン化が大幅に減少したという事実は、その期間後、プラズマがDCアークに似ていることを意味する。
より高いイオン化が発生し、中性点と再結合して標準DCアーク条件に戻らない、レジームに留まるために、本方法は、全てのアークが依然として互いに近く、パルス電流の各パルスのアクティブパルス幅が比較的短く保たれるように、高いパルス電圧上昇速度を使用する。アーク電圧が依然として上昇する最大時間は30μs未満である。
直流電流に重畳されるパルス電流の各パルスは、5V/μsを超える速度によりカソードで測定される電圧、すなわちアーク放電電圧の上昇を誘発する。電圧は、カソードとアノードとの間で測定され得る。アノードは接地電位であり得る。
ターゲットが直接接続されているカソードでこのような高い電圧上昇速度を引き起こすパルスを使用することにより、特に高いプラズマ強度、プラズマ密度及びプラズマ温度を有するプラズマの生成が可能になる。このような高密度プラズマを発生させることにより、ターゲットの表面に溶融遷移金属の小滴が形成される。更に、高密度プラズマは、小滴サイズを縮小するように、ターゲット表面から放出されたより大きなサイズの遷移金属滴がターゲットからコーティングされる基材へのそれらの移動中により小さなサイズの小滴に分解されることを確実にする。したがって、コーティングの品質を更に向上させることができる。特に、このようなより小さいサイズの小滴をコーティングに組み込むことにより、コーティングの導電性を大幅に高めることができ、これは、例えば、燃料電池又はエレクトロライザーのバイポーラプレート上のコーティングに特に有益である。更に、小滴は、コーティングの摩擦低減特性を改善することができる。ターゲットから基材への小滴の移送中に高密度プラズマによって小滴サイズが縮小されるため、コーティングに大きなサイズの小滴が取り込まれることを回避することができ、したがって滑らかで均一な表面構造を有するコーティングを得ることができる。
好ましくは、パルスによって誘起されるカソードで測定される電圧の上昇速度は、8V/μs超、より好ましくは10V/μs超、更により好ましくは12V/μs超、更により好ましくは14V/μs超、更により好ましくは16V/μs超である。
直流電流に重畳されるパルス電流の各パルスは、30μs未満のアクティブパルス幅を有する。パルスのアクティブパルス幅は、パルスによって誘導されるアーク電流がまだ減衰していない時間として定義される。パルスによって誘導されたアーク電流は、カソードで測定される。パルスによって誘導されるアーク電流は、パルスを供給するパルス電源がオフに切り替えられると減衰を開始し得る。30μs未満のそのような比較的短い時間の後にパルスを遮断することによって、アーク分割が、アーク間の距離がより大きく、プラズマ密度がほぼDCアークプラズマ密度に低下するレジームに入ることを確実に回避することができる。
パルス電流のパルスは、1μs以上30μs未満、好ましくは2μs~20μsの範囲、より好ましくは4μs~10μsの範囲のアクティブパルス幅を有することができる。特に好ましくは、パルス電流のパルスは、5μsのアクティブパルス幅を有することができる。
直流電流は、50A~1000Aの範囲、好ましくは100A~800Aの範囲、より好ましくは200A~600Aの範囲、更により好ましくは250A~500Aの範囲であり得る。50A~1000Aの範囲内の直流を選択することにより、ターゲット表面での溶融遷移金属の小滴の形成を更に促進することができる。
パルス電流で重畳される直流電流のピーク電流は、200Aより大きくてもよい。カソードでは、パルス電流で重畳された直流電流が測定される。200Aを超えるピーク電流を選択することにより、特に効率的な方法でターゲットから基材への小滴の移動中に高密度プラズマによって小滴サイズを縮小することができる。
パルス電流のパルスは、20μs~200μsの範囲、好ましくは40μs~150μsの範囲、より好ましくは60μs~120μsの範囲のパルスセパレーションを有することができる。特に好ましくは、パルス電流のパルスは、80μsのパルスセパレーションを有することができる。
本発明の方法は、50℃~180℃の範囲、好ましくは70℃~150℃の範囲の堆積温度で実施することができる。堆積温度は、コーティングされる基材で測定される。特に好ましくは、堆積温度は70℃~150℃に維持される。堆積温度が150℃を超えないように制御することにより、コーティングのヤング率及び硬度が著しく低下しないことを特に確実に保証することができる。
カソードアーク放電堆積プロセスにおいて基材にバイアスを印加することができる。バイアスは、10V~100Vの範囲、好ましくは20V~80Vの範囲、より好ましくは40V~60Vの範囲であってもよい。特に好ましくは、バイアスは50Vであってもよい。
カソードアーク放電堆積プロセスにおけるバックグラウンド圧力は、1x10-5mbar~5x10-4mbarの範囲、好ましくは2x10-5mbar~1x10-4mbarの範囲、より好ましくは4x10-5mbar~6x10-5mbarの範囲であり得る。特に好ましくは、カソードアーク放電堆積プロセスにおけるバックグラウンド圧力は5x10-5mbarであり得る。
カソードアーク放電堆積プロセスは、不活性ガスを含む雰囲気中で行ってもよい。より具体的には、カソードアーク放電堆積プロセスは、アルゴン(Ar)又は窒素(N)を含む雰囲気中で行われてもよい。特に、カソードアーク放電堆積プロセスは、そのようなガスが導入された堆積チャンバ内で実行されてもよい。不活性ガス、特にArのバックグラウンド圧力は、1x10-4mbar~9x10-4mbarの範囲、好ましくは2x10-4mbar~8x10-4mbarの範囲、より好ましくは4x10-4mbar~6x10-4mbarの範囲であり得る。特に好ましくは、不活性ガス、特にArのバックグラウンド圧力は5x10-4mbarであり得る。このような雰囲気でカソードアーク放電堆積プロセスを行うことにより、電気アークの点弧を容易にすることができる。
コーティングを堆積する前に、コーティングされる基材は、Ar又は金属イオンを使用して、例えばイオンエッチングによって洗浄されてもよい。
コーティングは、基材の表面上に直接堆積されてもよく、すなわち、この表面とコーティングとの間に中間層が存在しなくてもよい。あるいは、コーティングをその上に堆積させる前に、コーティングされる基材の表面上に初期接着層を設けてもよい。初期接着層は、例えば、金属クロム(Cr)層又は金属チタン(Ti)層であってもよい。初期接着層を適用する方法は限定されず、例えば、スパッタリングを含む任意のCVD又はPVD法を使用することができる。
直流電流及びパルス電流の特性、堆積温度、基材バイアス、ガス雰囲気及び圧力等の堆積パラメータは、カソードアーク放電堆積プロセス中に少なくとも実質的に一定に保たれ得る。
いくつかの実施形態では、パルス電流は、20kHz~90kHzの範囲のパルス周波数を有することができる。ターゲットのドーパントレベルは、0.5at.%~10.0at.%の範囲内であってもよい。パルス電流の各パルスは、カソードで測定して8V/μsを超える速度で電圧の上昇を誘発することができる。パルス電流の各パルスは、2μs~20μsの範囲のアクティブパルス幅を有することができる。ピーク電流は、200Aより大きくてもよい。パルス電流のパルスは、20μs~200μsの範囲のパルスセパレーションを有することができる。方法は、50℃~180℃の範囲の堆積温度で実施することができる。カソードアーク放電堆積プロセスでは、10V~100Vの範囲のバイアスを基材に印加することができる。カソードアーク放電堆積プロセスにおけるバックグラウンド圧力は、1x10-5mbar~5x10-4mbarの範囲であり得る。
本発明の方法によって堆積されたコーティングは、本発明によるドープDLCのコーティングである。本発明の方法によって堆積されたコーティングは、上述の特徴、特性及び特徴を有し得る。
本発明者らは、ターゲット中のタングステン等の遷移金属の含有量が高いほど、本発明によるドープDLCのコーティング中に金属滴として比較的多く見られることを見出した。これは、アークによって引き起こされる影響下で、溶融遷移金属の大きな粒子がアークトラックに沿って分離するターゲット表面と同様によく理解される。このような遷移金属粒子にアークが当たると、10V/μsを超える高い電圧上昇速度に起因する高密度プラズマによって小滴が放出され、より小さなサイズの小滴に分裂する一方で、金属滴はターゲットからコーティングされる基材に移動して、小滴サイズを縮小する。金属滴としてターゲット表面上に隔離されるW等の遷移金属の割合は、ターゲットのドーパントレベルに線形よりも比例する。このようにして、本発明によるドープDLC中の炭化物の形態で存在する遷移金属及び金属滴として存在する遷移金属の相対的割合を調整することができる。図8は、8at.%にWのアークに曝されるターゲットの一例を示す。ターゲット表面に小さなクレータを見ることができる。白色の小滴はWである。
本発明は更に、本発明の方法によって得ることができる非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングを提供する。
実施形態
以下では、本発明の具体的な実施形態を要約する。
(1)非水素化遷移金属ドープダイヤモンドライクカーボン(DLC)であって、非水素化金属ドープDLCが、元素の周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属を含み、少なくとも1つの遷移金属の一部が、マトリックスとしての非水素化DLC中で少なくとも1つの遷移金属の炭化物の形態で存在し、非水素化遷移金属ドープDLCが、35GPa以上、好ましくは40GPa以上の硬度を有する、非水素化遷移金属ドープダイヤモンドライクカーボン(DLC)。硬度は、研磨された基材上に堆積された非水素化遷移金属ドープDLCの膜上で、膜の厚さの10%未満の押込み深さで測定され得る。
(2)少なくとも1つの遷移金属の炭化物の少なくとも一部が、マトリックスとしての非水素化DLC中にアイランドとして存在する、項目(1)に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(3)アイランドが2nm以下のサイズを有する、項目(2)に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(4)非水素化DLCが、四面体アモルファスカーボン、すなわちta-Cである、項目(1)~(3)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(5)少なくとも1つの遷移金属の別の一部が、遷移金属の小滴として金属の形態で存在する、項目(1)~(4)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(6)遷移金属の小滴が、1μm未満、好ましくは0.1~100nm、好ましくは0.5~40nmの直径を有する、項目(5)に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(7)合計で少なくとも85at.%、好ましくは少なくとも90at.%の少なくとも1つの遷移金属が、炭化物の形態で、好ましくは炭化物のアイランドとして、及び/又は金属滴の形態で、非水素化DLCのマトリックス中に存在する、項目(5)又は(6)に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(8)炭素原子のsp分率が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上である、項目(1)~(7)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(9)遷移金属が、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群から選択され、好ましくはタングステンである、項目(1)~(8)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(10)少なくとも1つの遷移金属の含有量が、非水素化遷移金属ドープDLCについて、0.1~5at.%の範囲であり、好ましくは0.2~2.5at.%の範囲、より好ましくは0.3~2.0at.%の範囲、最も好ましくは0.5~1.5at.%の範囲である、項目(1)~(9)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(11)硬度が40GPa~60GPaの範囲内である、(1)~(10)のいずれか1つに記載の非水素化遷移金属ドープDLC。
(12)基材上に設けられた、項目(1)~(11)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCの少なくとも1つの層を含む層システム。
(13)層が均質層である、項目(12)に記載の層システム。
(14)層の厚さが、50nm~3μmの範囲内である、項目(12)又は(13)に記載の層システム。
(15)少なくとも1つの遷移金属の含有量が、該層についてXat.%である、非水素化遷移金属ドープDLCの少なくとも1つの層と、
少なくとも1つの遷移金属の含有量が、該層及び/又はta-Cの少なくとも1つの層について0~0.8倍Xat.%である、非水素化遷移金属ドープDLCの少なくとも1つの層と
を有する多層である、項目(12)~(14)のいずれか一項に記載の層システム。
(16)多層が、0.1μm~30μmの範囲、好ましくは0.2μm~10μmの範囲の厚さを有する、項目(15)に記載の層システム。
(17)基材上に接着層が直接設けられ、その上に非水素化遷移金属ドープDLCの少なくとも一層が形成されている、項目(12)~(16)のいずれか一項に記載の層システム。
(18)基材が金属基材である、項目(12)~(17)のいずれか一項に記載の層システム。
(19)金属基材が、ステンレス鋼基材、チタン基材又はアルミニウム基材である、項目(12)~(18)のいずれか一項に記載の層システム。
(20)金属基材が、ステンレス鋼基材である、項目(19)に記載の層システム。
(21)金属基材がチタン基材である、項目(19)に記載の層システム。
(22)表面に非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングを適用することにより、表面の耐摩耗性を向上させ、及び/又は摩擦を低減させるための、項目(1)~(11)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCの使用。
(23)非水素化遷移金属ドープDLCが、1at.%~5at.%の範囲内の少なくとも1つの遷移金属の含有量を有する、項目(22)に記載の使用。
(24)コーティングが0.5μm~3μmの範囲の厚さを有する、項目(22)又は(23)に記載の使用。
(25)元素の周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属を含む非水素化DLCのコーティングを堆積させる方法であって、方法が、カソードアーク放電堆積法であり、カソードアーク放電において、直流電流がパルス電流で重畳され、パルス電流が、10kHz~100kHzの範囲内のパルス周波数を有し、少なくとも1つの遷移金属でドープされた炭素ターゲットが、カソードアーク放電におけるターゲットとして使用され、ターゲットがカソードに直接接続され、パルス電流の各パルスが、カソードで測定して5V/μsを超える速度で電圧の上昇を誘発し、パルス電流の各パルスが、30μs未満のアクティブパルス幅を有する、方法。
(26)ピーク電流が、200Aよりも大きい、項目(25)に記載の方法。
(27)コーティングが、項目(1)~(11)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCのコーティングである、項目(25)又は(26)に記載の方法。
(28)項目(25)又は(26)に記載の方法によって得ることができる、項目(1)~(11)のいずれか一項に記載の非水素化遷移金属ドープDLCのコーティング。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態による堆積方法を実施するためのカソードアーク放電堆積装置を示す断面図である。
図2】本発明によるドープDLCのコーティングの具体例のラマンスペクトルを示す図である。試料は、以下のように異なるドーパントレベル、すなわち遷移金属、すなわちWの含有量を有していた:B1:0at.%(参考用);B2:0.3at.%;B3:0.6at.%;B4:1.4at.%;B5:1.4at.%。ラマン励起波長は、50cm-1エッジフィルタを用いて532nmであった。
図3】本発明によるドープDLCの具体例による、1.4at.%のW濃度を有する80nmのWドープta-Cの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。Si膜を有するウェハ窓が見え、その上にドープされたta-Cが堆積される。暗色の丸はWである。
図4】本発明によるドープDLCの一例による、1.4at.%のWをドープしたta-CのHAADF-STEMモードにおける高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)写真である。フォーカシングにより、20nmのスラブのみが突起として観察される。
図5】本発明によるドープDLCの具体例による、20nmのSi上の80nmの5at.%のWドープta-CのHR-TEM明視野である。暗色の丸はW滴である。
図6】本発明によるドープDLCの具体例による、暗視野モードでの80nmの5at.%のWドープta-CのTEM顕微鏡写真である。輝点は、ta-Cマトリックスに埋め込まれた純粋なW滴である。
図7】本発明によるドープDLCの具体例による、5at.%のWドープta-CのHAADF-STEM写真である。顕微鏡写真を暗視野モードで撮影すると、Wは白色を示す。
図8】本発明によるカソードアーク放電堆積法における使用後の8at.%のWを含むグラファイトターゲットのSEM画像である。白色の小滴はWである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
堆積方法
以下では、本発明の実施形態による元素の周期表の第4d族、第5d族及び第6d族から選択される少なくとも1つの遷移金属を含む非水素化DLCのコーティングを堆積する方法を、図1を参照して説明する。
本実施形態では、方法は、図1に示すようなカソードアーク放電堆積装置2を使用して実施される。装置2は、堆積チャンバ11と、アノード4と、ターゲット6と、カソード7と、アノード4及びカソード7と電気的に接続された電流源8とを備える。カソード7は、銅(Cu)等の金属で形成されてもよい。例えば、カソード7は、金属板、例えばCu板であってもよい。カソード7は、冷却されていてもよく、例えば水冷されていてもよい。アノード4は、堆積チャンバ11の壁と一体である。アノード4は、堆積チャンバ11の壁の一部を形成してもよい。アノード4は、堆積チャンバ11の壁と同じ材料、例えば鋼等の金属で作製され得る。アノード4は、図1に断面で示されている実質的に環状の形状を有する。例えば、アノード4は、実質的に環状の金属板、例えば実質的に環状の鋼プレートであってもよい。特に、アノード4は、実質的に環状の平坦な金属プレート等の実質的に環状の平坦なプレートであってもよい。アノード4及びカソード7は、カソード7からターゲット6に向かう方向に対して実質的に垂直な平面内に配置される(図1参照)。カソード7は、実質的に環状のアノード4の中央開口部内に配置される。
ターゲット6は、カソード7に直接接続され、すなわち、ターゲット6とカソード7との間に中間層又は構造が存在しない。特に、ターゲット6の表面、例えば裏面は、カソード7、例えばカソード7の本体と接触、例えば完全に接触してもよい。ターゲット6は、例えばボルト接続(図示せず)によってカソード7に取り付けられてもよい。ターゲット6は、例えば、ターゲット6の裏面とカソード本体との間の直接接触によって、カソード7に直接電気的に接続される。
電流源8は、ターゲット6とアノード4との間に電気アークを発生させるために、パルス電流で重畳される直流電流を供給するように構成される。電気アークは、アークが存在する領域内のターゲット6の表面10で材料を蒸発させる。蒸発したターゲット材料12(図1参照)は、ターゲット6から基材14に移り、その上にターゲット材料のコーティングを形成するように基材14上に堆積される。
アノード4、ターゲット6、カソード7及び基材14は、堆積チャンバ11内に形成された空間内に配置されている。堆積チャンバ11は、真空チャンバ、例えば超高真空(UHV)チャンバであってもよい。アノード4は、堆積チャンバ11の壁と一体であり、堆積チャンバの壁と接続されている、すなわち電気的に接続されている。電流源8は、堆積チャンバ11の壁を介してアノード4と電気的に接続されている(図1参照)。特に、堆積チャンバ11の壁は、金属等の導電性材料で作製することができ、したがって電流源8とアノード4との間の電気的接続を確立する。他の実施形態では、複数のカソード7が堆積チャンバ11内に配置されてもよい。
堆積チャンバ11内のバックグラウンド圧力は、5x10-5mbarであり得る。本実施形態のカソードアーク放電堆積プロセスは、堆積チャンバ11内の雰囲気が不活性ガス、特にArを含む雰囲気で行われ得る。例えば、堆積チャンバ11内のArの圧力は、5x10-4mbarであり得る。
本実施形態では、ターゲット6は、タングステン(W)がドープされたカーボンターゲットである。したがって、Wを含む非水素化DLCのコーティングが堆積プロセスによって基材14上に形成される。ターゲット6のドーパントレベルは、0.5at.%~8.0at.%のWの範囲内である。
電流源8によって供給される重畳電流は、以下の特性を有する。50Aの直流電流に、10kHz~100kHzの範囲のパルス周波数を有するパルス電流が重畳される。パルス電流のパルスは、5μsのアクティブパルス幅及び80μsのパルス間隔を有する。パルス電流が重畳された直流電流のピーク電流は200Aより大きい。直流電流及びパルス電流は、カソード7において測定される。
パルス電流の各パルスは、5V/μsを超える速度でカソード7で測定される電圧、すなわちアーク放電電圧の上昇を誘発する。電圧は、カソード7とアノード4との間で測定される。アノード4は接地電位である。
このような電流の重畳を採用することにより、カソードアーク放電プロセスにおけるターゲット材料のマクロ粒子の発生を大幅に低減することができる。更に、ターゲット表面上のクレータの発生を最小限に抑えることができる。更に、小さいサイズの溶融W滴がコーティングに組み込まれ、したがってコーティングの導電性及び摩擦低減特性を高めることを確実にすることができる。したがって、基材14上に特に高品質のコーティングを提供することができる。
直流電流に重畳されたパルスは、上に詳述したように、電気アークを複数のアークに分割させる。本実施形態では、この分割によって得られる各単一アークの電流、すなわちアーク電流は、例えば約60Aであり得る。ピーク電流において、アークの総数は、例えば、5つ又は6つであってもよい。アーク電流が高いレベルで維持されると、パルス誘起アーク分割によって得られたアークは互いに反発し合い、プラズマ特性はDCアークと同様になる。したがって、アクティブパルス幅は短く、すなわち30μs未満に保たれる。本実施形態では、上記で詳述したように、アクティブパルス幅は5μsである。
本実施形態では、カソードアーク放電堆積プロセスは、70℃~150℃の範囲の堆積温度で行われる。堆積温度は、基材14において測定される。更に、基材14に50Vのバイアスを印加する。
直流電流及びパルス電流の特性、堆積温度、基材バイアス、ガス雰囲気及び圧力等の堆積パラメータは、本実施形態のカソードアーク放電堆積プロセス中に実質的に一定に保たれる。
コーティングを堆積する前に、基材14は、例えばArエッチングによって洗浄されてもよい。コーティングは、基材14の表面に直接堆積されてもよい。あるいは、コーティングをその上に堆積させる前に、基材14の表面に初期接着層を設けてもよい。初期接着層は、例えば、金属クロム(Cr)層又は金属チタン(Ti)層であってもよい。
初期接着層からドープされた炭素層まで、金属堆積速度の急激な遷移又はランプダウン及びドープされた炭素堆積速度のランプアップを有することができる。
【実施例
【0008】
本発明を例として更に説明するが、当然のことながらこれを限定的な意味で解釈してはならない。
コーティングは、Wがドープされた炭素ターゲット上でカソードアーク放電を行うことによって堆積される。アーク放電は、パルスを重畳したDCアークであった。サンプルは、50AのDCアーク電流、5μsの幅のパルス、80μsのパルス間隔、及び200Aより高いアークピーク電流で重畳して調製した。0.5~5at.%のWのドーパントレベルが適用されている。堆積温度は70℃~150℃の間に維持される。基材に印加するバイアスエネルギー電圧は50Vであった。バックグラウンド圧力は、典型的には5x10-5mbarであった。適切なアーク弧点を行うために、少量のArがチャンバ内に許容され、典型的には5x10-4mbarのAr圧力になる。
コーティングされる生成物、すなわち基材は、堆積前にArエッチング、すなわちアルゴンイオン衝撃によって洗浄される。金属Cr又は金属Tiのような初期接着層の追加は、多数のサンプルに適用されているが、接着層のないコーティングも生成されている。
堆積工程中にパラメータのいずれも変更することなくta-Cコーティングを堆積させた。これは、圧力、ガス雰囲気、バイアス電圧及び基材温度等の条件が、堆積プロセス中に一定に保たれたことを意味する。
分析
組成分析
コーティングの組成分析は、5keVの加速電圧、200nAの電流、及び試料当たり10個の試験プローブを用いて、電子プローブマイクロ分析EPMAによって行った。詳細に検討した組成を表1に示す。

硬度
硬度は、押込み硬度HITであり、ダイヤモンド圧子を用いて、ISO14577(すなわち、2015年7月15日のISO14577-1:2015、2015年7月15日のISO14577-2:2015、及び2016年11月1日のISO14577-4:2016の英語版)に準拠した微小硬度計(Fischerscope H100)を用いて、平坦に研磨された硬化基材上でのナノ押込みによって測定されている。使用されるダイヤモンド圧子はビッカース形状を有する。すなわち、圧子は、水平面に対して22゜の平面を有する四角錐ベースの形状を有するダイヤモンドであり、言い換えれば、ダイヤモンドピラミッドの軸と一方の面(ビッカースピラミッド)との間の角度が68゜である正方形の底面を有する直交ピラミッドとして成形される。硬度はGPaで表される。基材の粗さRaは0.06μm未満であった。具体的には、基材(試験板)の表面粗さRaは0.01μm、Rzは0.25μmであった。使用した平坦に研磨された硬化基材の硬度は、83.6HRa(ロックウェル硬度A、HRA)、62、1HRc(ロックウェル硬度C、HRC)及び747HV10(荷重10kgfでのビッカース硬度)であった。試験板、すなわち平坦に研磨された硬化基材のサイズは、15x6mmであった。圧子の荷重及び試験板上に堆積したコーティングの膜厚は、押込み深さがコーティング厚さの10%未満となるように選択した。測定は、試料当たり10点(測定されるコーティング表面に均一に分布)を採取し、測定した10個の硬度押込み値HITの平均値を用いる(単位はGPa)。GPaでの押込み硬度HITとビッカース硬度(Hv)との関係は、
Hv=94、53HITである。
ラマン試験
ラマン試験は、腐食工程の前後及び異なるドーパント含有量を有する試料に対して行った。ラマン励起波長は532nmであった。Gピークの位置は1605cm-1にあり、この励起波長では60%を超えるsp分率を指し示している。80~150cm-1には、WC結合を表すピークが見えるようになる。純粋なta-C試料及び0.3at.%のWを有するものは、このピークを示さない。0.6at.%のW及び1.4at.%のWでは可視であり、より高いW含有量ではより強い。ラマンは、WC結合がWC結晶子を指し示しているか、又は個々のW原子とCとの間の結合を指し示しているかどうかの情報を提供しない。腐食工程後のコーティングの試験では、酸化前後のラマンスペクトルに実質的な差は見られなかった。
試料のTEM検討
TEM検討は、200kVのビーム電圧で、明視野TEM(BFTEM)及び高角散乱環状暗視野STEM(HAADF-STEM、high angle annular dark field with spot for scanning TEM)で行った。サンプルは、上部に厚さ20nmのSi層を有するシリコン(Si)ウェハからなり、1x1mmでSiがエッチング除去された。このようにして、窓が存在する。Si箔の上部に、それぞれ0.3、0.6及び1.4at.%のWでドープされた80nmのta-Cを堆積させた。Si箔は、ドープされたta-C膜の圧縮応力の影響下で大部分が破損したが、窓の隅に乱されていない箔を見つけることができた。観察は、Si箔上に堆積した本発明によるドープDLCのコーティングの側から行った。
BFTEM及びHAADF-STEMイメージングの組合わせは、W滴と炭素クラスタとの識別を可能にした。
80nm膜中にW滴が同定された。図3は、BFTEMで観察された1.4at.%のWでドープされたコーティングを示す。小さな黒点は、EDX分析によって確認されるようにW滴である。図3では、W滴サイズは2~40nmの範囲である。他のサンプルでは、100nmまでの小滴が観察された。
図4では、1.4at.%のWでドープされた同じサンプルのHAADF-STEM画像を示す。Wのサブnmクラスタが認識可能であった(HAADF-STEMでは、Wは白色として現れる)。HRTEMの焦点により、80nmの総膜厚ではなく、約20nmの厚さを有するスロットのみが観察されたことを理解されるべきである。厚いコーティング中のこのような粒子の正確な測定は不可能であるが、粗測定により~0.5nmのクラスタサイズが得られた。Wは格子間隔0.34nmのbcc構造を有する。WCは、通常、格子定数0.29及び0.28nmの六角形の分布を有する。したがって、クラスタは、10個までの範囲のかなり限られた数のW原子で構成される。
アイランド及び小滴が球形であると仮定して、金属滴中に見えるWの量及びWCアイランド中に見える量の半定量分析を行った。0.6at.%のWでドープされた本発明によるドープDLCのコーティングでは、50%のWがWCアイランドに起因し、50%のWが金属滴中にあることが分かった。1.4at.%のWがドープされた膜では、約30%のWがWCアイランドに起因し、70%が金属W滴に起因し得る。これは、小滴の量がターゲット中のWの割合と共に線形よりも増加するという予想と一致している。
ラマンスペクトルにおけるWCの非常に明確な存在は、僅か1.4at.%のWでもあり、より小さい結晶子はWCである。定量分析は、ほとんど「遊離」Wがないことを示した。
本発明によるドープDLCのコーティングのトライボロジー特性を研究するために、コーティングを上記のように堆積させ、今度は、WドープDLCについて、5at.%の遷移金属の例としてWの含有量を実現した。
HR-TEM及びTEMを介して、5at.%のWをドープした試料についてW滴の存在を確認することができた。サンプルの典型的なTEM顕微鏡写真を図5及び図6に示す。図5の明視野HR-TEM像では純粋なW粒子は黒く見え、暗視野モードで撮影した図5のTEM顕微鏡写真では純粋なW粒子は輝点として見える。このサンプルで観察された最大粒径は250nm未満であった。粒子をEDXによって分析し、それらがW滴であることを示した。
図7に、5at.%のWでドープされたサンプルのHAADF-STEM画像を示す。Wのサブnmクラスタが認識可能であった(HAADF-STEMでは、Wは白色として現れる)。HRTEMの焦点により、80nmの総膜厚ではなく、約20nmの厚さを有するスロットのみが観察され得たことに留意されるべきである。更に、ラマンスペクトルにおけるWCの存在は、上で詳述したように確認された。したがって、WのサブnmクラスタがWCであることは明らかである。
したがって、本発明によるドープDLCは、トライボロジー用途のためにA.Abou Gharam et al.によって使用されるような従来技術で使用される遷移金属ドープ水素化DLCよりもはるかに高い硬度を有することが示されている。更に、遷移金属の小滴は、小さいサイズを有するように示され、マトリックスとして非水素化DLCに組み込まれ、その結果、潤滑効果を有する遷移金属の小滴を更に含む滑らかで均一な表面構造を有するコーティングを得ることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】