(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】放射線不透過性治療用化合物の制御放出を有する液体塞栓組成物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 33/06 20060101AFI20230915BHJP
【FI】
A61L33/06 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514815
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(85)【翻訳文提出日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 US2021048907
(87)【国際公開番号】W WO2022051530
(87)【国際公開日】2022-03-10
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519205257
【氏名又は名称】ブラックスワン バスキュラー,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BlackSwan Vascular,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】パイ,サレシュ・エス.
(72)【発明者】
【氏名】サーシェン,スコット・アール
(72)【発明者】
【氏名】ハキミメール,ドルナ
(72)【発明者】
【氏名】バガオイサン,セルソ・ジェイ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC10
4C081BA16
4C081BB02
4C081BB03
4C081BB06
4C081CA051
4C081CE02
4C081CG06
(57)【要約】
本明細書に含まれる本発明の様々な実施形態は、一時的に放射線不透過性の液体塞栓組成物及び血管に塞栓形成するために使用される方法を提供し、かつ/又は所望の場合に治療薬の制御放出を提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管に塞栓形成することができる塞栓組成物であって、
塞栓物質と、1つ以上の対象化合物と、を含み、前記対象化合物のうちの少なくとも1つは、前記塞栓組成物から拡散し、経時的に前記塞栓組成物の放射線不透過性を減少させることができる放射線不透過剤である、塞栓組成物。
【請求項2】
前記塞栓組成物が、実質的に液体から実質的に固体への相変化を受ける、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項3】
前記塞栓組成物の前記放射線不透過性は、前記塞栓組成物が任意の画像診断手順の間に感知可能なアーチファクトを提示しない程度まで経時的に減少し得る、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項4】
前記画像診断手順が、コンピュータ断層撮影又は磁気共鳴画像法である、請求項3に記載の塞栓組成物。
【請求項5】
前記塞栓組成物中の少なくとも1つの対象化合物が治療薬である、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項6】
前記放射線不透過剤は、水性媒体又は血液中で前記塞栓組成物から拡散することができる、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項7】
前記治療薬が、制御された様式で前記塞栓組成物から放出される、請求項5に記載の塞栓組成物。
【請求項8】
前記対象化合物が、生体適合性分解性担体の内側に捕捉又は隔離される、請求項5に記載の塞栓組成物。
【請求項9】
前記対象化合物を捕捉又は隔離する前記生体適合性分解性担体が、マイクロスフェア、ナノスフェア、ミセル、デンドリマー、リポソーム又は脂質ナノ粒子である、請求項8に記載の塞栓組成物。
【請求項10】
前記生体適合性分解性担体が、加水分解又は酵素分解などの生物学的手段を介して溶解又は分解可能である、請求項8に記載の塞栓組成物。
【請求項11】
前記1つ以上の対象化合物が、前記塞栓物質に化学的に結合さている、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項12】
前記対象化合物が、静電結合、共有結合、双極子-双極子引力、イオン結合、金属結合又は水素結合を介して、前記塞栓物質に化学的に結合されている、請求項11に記載の塞栓組成物。
【請求項13】
前記化学結合が、物理的又は生物学的メカニズムによって破壊され得る、請求項11に記載の塞栓組成物。
【請求項14】
前記対象化合物が、前記塞栓組成物中に直接分散されている、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項15】
いくつかの対象化合物が生体適合性分解性担体内に捕捉され、いくつかの対象化合物が前記塞栓組成物中に直接分散されている、請求項1に記載の塞栓組成物。
【請求項16】
血管に塞栓形成することができる本発明の液体塞栓組成物の使用方法であって、
カテーテルベースのデバイス及び方法を介して生体内の血管にアクセスすることと、
塞栓形成される標的血管又はその近傍に送達カテーテルを挿入することと、
塞栓物質及び1つ以上の対象化合物を含む実質的に液体の塞栓組成物を前記標的血管に注入することと、
前記標的血管の永続的な塞栓形成を維持しながら、前記実質的に固体の塞栓組成物から前記血管又は周囲の組織へと経時的に前記対象化合物を制御された様式で放出することと、を含む、使用方法。
【請求項17】
少なくとも1つの対象化合物が、放射線不透過剤である、請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
前記放射線不透過剤が、数時間、数日、数か月、又は数年の期間にわたって、前記塞栓組成物から制御された様式で放出され得る、請求項17に記載の使用方法。
【請求項19】
少なくとも1つの他の対象化合物が、治療薬である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記治療薬が、ある期間にわたって制御された様式で放出される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記期間が、数時間、数日、数か月、又は数年であると定義される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記塞栓組成物が、請求項1に記載の塞栓組成物である、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記実質的に液体の塞栓組成物が、前記実質的に固化した塞栓組成物内に永続的に捕捉される少なくとも1つの対象化合物と、前記実質的に固化した塞栓組成物から拡散することができる少なくとも1つの対象化合物と、を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記実質的に固体の塞栓組成物内に永続的に捕捉される前記対象化合物が、放射線不透過剤である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記放射線不透過剤が、タンタルである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記塞栓物質が、エチレンビニルアルコールである、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記塞栓物質が、エチレンビニルアルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項28】
前記放射線不透過剤が、タンタルである、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年9月4日に出願された米国仮特許出願第63/074,924号の利益を主張し、この出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
カテーテル塞栓形成は、身体の領域への血流を防止するための技術又はデバイスを採用する、一般的な低侵襲性外科的技法である。これらの塞栓デバイスは、血管動脈瘤、動静脈奇形(arteriovenous malformations、AVM)、静脈又は動脈出血、血管内動脈瘤修復(endovascular aneurysm repair、EVAR)との関連におけるエンドリーク、及び多血性腫瘍などの多くの衰弱性又は生命を脅かす病状を治療するために使用される。例えば、動脈瘤の予防的処置のために使用される塞栓デバイスは、その後の破裂及び制御されない出血を防止するために、標的脈管構造内に埋め込まれる。出血の場合、デバイスベースの塞栓形成は、他の手段によってアクセス不可能であり得る損傷した血管からの出血を管理するために使用され得る。塞栓形成デバイスはまた、腫瘍塊に供給する血管を閉塞することによって外科的切除に備えて腫瘍塊を準備するために使用され得る。
【0003】
現代の治療的塞栓形成は、金属コイル、血管プラグ、バルーン、被覆ステント、ポリマーマイクロスフェアなどの固体の物理的形態のデバイス、並びに液体として体内に注入され、血液、水、又は他の生理学的液体と接触すると相転移を介して標的生体構造又はその付近でin situで実質的に固化する、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したN-ブチル-2-シアノアクリレート(N-BCA)及びポリ(エチレン-コ-ビニル系アルコール)コポリマーのようなデバイスを含む多種多様なデバイスを用いて達成される。この様々なデバイスにより、医師は、ブロックされる血管のサイズ及び程度、並びにデバイスが送達されるカテーテルの先端に対してより近位又はより遠位のいずれかにある血管をブロックする必要性に応じて、患者ごとに各手順を調整することができる。コイル、プラグ、及びバルーンなどのいくつかの固体デバイスは、固有の物理的サイズ制限(すなわち、固体デバイスが単に、より遠位の血管に到達することができない)に起因して、より近位の血管留置に役立ち、したがって、より離散的又は局所的留置に使用される傾向がある。代表的には個々のミクロンサイズのビーズであるポリマーマイクロスフェアなどの、他の固体デバイスは、より小さいサイズのために脈管構造中をより遠位に移動することができ、意図される処置部位に近位の位置での血流中への注入後に流れ方向を使用してインプラントされる。したがって、医師は、ビーズが最終的に標的生体構造に塞栓形成する位置を完全に制御することができない。一方、液体塞栓デバイスは、より制御された送達及び改善された遠位浸透に役立つが、これは、液体として血管床内により深く流れ、それによって解剖学的構造のより広い部分を治療する能力によるものである。液体塞栓デバイスはまた、塞栓塊が、典型的には、送達カテーテル先端から形成及び前進させられ、医師が手順を通して塞栓剤の制御を維持することを可能にするため、ポリマーマイクロスフェアよりも信頼性の高いものとすることができる。上述したように、塞栓形成は、所望の治療効果を得るために、組み合わせて使用される固体及び液体塞栓形成デバイスを用いて、所与の患者の必要性に合わせて調整されることが多い。
【0004】
典型的な塞栓形成手順は、透視ガイダンス下でのガイドカテーテル、ガイドシース及び/又は送達カテーテル(例えば、マイクロカテーテル)の使用などの標準的なカテーテル法技術及び機器を使用して、これらの塞栓デバイスを標的脈管構造内に配置することによって行われる。透視ガイダンスによるこれらの塞栓デバイスの正確な配置及びリアルタイム監視は、これらのデバイスが典型的に放射線不透過性であり、この放射線不透過性が、医師操作者がインプラントの配置をより安全に制御し、非標的血管の塞栓形成を制限/防止することを可能にするため、実現可能である。放射線不透過性は、金属コイル又は塞栓プラグの場合のように、塞栓デバイス自体の固有の特性であってもよく、又は放射線不透過性は、デバイスの周囲若しくは内部に分散された放射線不透過性要素を使用して、デバイス上に付与されてもよい。後者の例は、Onyx(登録商標)Liquid Embolic System(Medtronic plc、Ireland)であり、Onyx(登録商標)Liquid Embolic Systemは、放射線不透過性要素として沈殿ポリマー溶液内に分散された微粒子化タンタル粒子を利用する。塞栓剤が標的脈管構造内に沈殿すると、微粒子化タンタル粒子は、塞栓塊の位置が塞栓形成手順中にインターベンション医師によってリアルタイムで蛍光透視法によって注意深く監視され得るように、in situで形成される塞栓塊内に保持される。別の例では、PHIL(商標)(Terumo Corp.、Japan)と呼ばれる沈殿ポリマー液体塞栓システムは、沈殿ポリマーに共有結合された放射線不透過性ヨウ素を利用して、液体塞栓懸濁液及び沈殿した塞栓に放射線不透過性を提供する。これらのタイプの塞栓システムは、概して、塞栓塊に一貫したレベルの放射線不透過性を付与し、放射線不透過性成分は、塞栓構造内に永続的に組み込まれる。
【0005】
米国特許第5,667,767号及び同第5,695,480号は、水に不溶性である造影剤の分散相を組成物内に含むことによって放射線不透過性にされた沈殿塞栓組成物を開示している。同様に、米国特許第9,456,823号、同第10,232,089号及び同第10,124,090号は、in situで沈殿するように処方され、そして粒子状造影剤の分散相の使用によって放射線不透過性にされる組成物を開示する。粒子状造影剤は、水に可溶性又は不溶性であるとして開示されている。
【0006】
これらの塞栓デバイスは、必要とする患者を処置するために重要な利点を提供するが、これらのデバイスの放射線不透過性要素の存在は、処置手順が完了した後に長く持続する望ましくない影響を導入する恐れがある。例えば、血管系における永続的な放射線不透過性インプラントの存在は、患者の健康状態を判定するための診断目的に必要とされ得る、後続の医療撮像手順(例えば、コーンビームコンピュータ断層撮影及び磁気共鳴画像法)を妨害し得る。更に、これらの永続的な放射線不透過性インプラントは、放射線不透過性材料の存在を説明するために放射線の照射量及び照射量分布を変更する必要があり得る後続の定位放射線治療の計画を妨げる恐れがある。
【0007】
塞栓形成は、時として、化学塞栓形成として知られる手順において化学療法と組み合わされることもある。例えば、従来の経動脈的化学塞栓術(transarterial chemoembolization、TACE)は、腫瘍に化学療法薬を注入した後に腫瘍に供給する血管が閉塞され得る場合に実施される。この技術は、高濃度の化学療法剤の循環血液での消散を防止することによって、その化学療法剤を腫瘍内に捕捉する。TACEは、手術不可能な肝臓癌又は肝細胞癌を処置するために最も頻繁に使用されるが、癌が身体の他の領域に転移した患者においても使用され得る。TACEは、単独の治療として、又は手術、アブレーション、標準的な化学療法若しくは放射線療法を含む他の腫瘍学的方法と組み合わせて使用され得る。一例では、TACEは、肝臓の腫瘍に主要な血液供給を提供する肝動脈内に配置されたカテーテルを使用して化学療法剤を腫瘍に直接送達する。塞栓形成は、化学療法剤が腫瘍部位の周囲から洗い流されないようにし、それをより効果的にすると同時に、腫瘍の血液供給に直接注入されることによる全身性副作用も低減する。TACEの別のバージョンは、薬剤溶出ビーズベースのTACE又はDEB-TACEであり、非分解性又は分解性薬剤溶出ビーズが、血管塞栓形成及び薬剤送達の両方を組み合わせるために使用される塞栓システムとして使用される。DEB-TACEでは、前述のポリマーマイクロスフェアなどの小粒子に化学療法剤を付加し、腫瘍に供給する動脈に注入し、それによって腫瘍の血液供給を遮断し、周囲組織から栄養及び酸素を奪う。先に述べたように、非薬剤溶出ポリマーマイクロスフェアと同様に、薬剤溶出ビーズ及びマイクロスフェアは、医師操作者が塞栓形成の最終的な位置に対して制限された制御しか有しない薬剤溶出ビーズ及びマイクロスフェアの流れに誘導された配置によって同じく不利になる。これは、ビーズ又はマイクロスフェア塞栓形成が非標的血管において不注意に生じ、ここで、塞栓形成の効果が、化学療法剤の潜在的な有害な効果によって更に悪化する場合、明白かつ有意な安全性の懸念を提示する。
【0008】
米国特許出願第20180353522号は、抗癌剤及び絹-エラスチン様タンパク質ポリマーを含む液体塞栓システムを開示しており、組成物は、対象への投与前は液体であるが、対象への投与時にヒドロゲルに変わる。同第9,999,676号は、アルブミンが陰イオン性ポリマーにアミド結合され、続いて架橋されるアルブミン-陰イオン性ポリマー結合体を含むマイクロビーズの使用を介して、抗癌剤に対する改善された吸着力を有する生分解性マイクロビーズを開示する。同第8,940,334号は、抗癌剤としてネモルビシン塩酸塩が結合したスルホン酸変性N-Filハイドロゲルポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)に基づくマイクロスフェアを開示している。
【0009】
薬物取り込みのメカニズムは、薬物溶出ビーズ及びマイクロスフェアの場合に使用することができる医薬品有効成分(active pharmaceutical ingredients、API)を制限する。マイクロスフェアは、イオン交換法又は膨潤プロセスのいずれかを使用し、その後、薬物とイオン化側鎖との相互作用が続く。したがって、典型的には、荷電した低分子量薬物のみを組み込むことができる。前述したように、これらのデバイスの別の制限は、これらのデバイスの有限の(物理的な)サイズであり、このサイズは、腫瘍に供給する血管の毛細血管レベルまで浸透するデバイスの能力を制限する。DMSOのような有機溶媒の使用はまた、TACEのための液体塞栓システムの使用を制限してきた。投与時の沈殿プロセス中のDMSO溶媒の消散は、選択されたAPIの治療ペイロード全体のバースト放出を増強し、急性局所毒性を増幅し、より一過性の又は限定された治療効果をもたらす。更に、栄養動脈の塞栓形成と並行した腫瘍への治療薬の注入は、動脈が閉塞され、その後の腫瘍へのアクセスが次第に遮断されるので、局所化学療法を行うことができる回数を制限する。1回のボーラス投与でAPIを送達することはまた、局所又は全身毒性効果も増幅する。
【0010】
本明細書に開示される発明は、API又は他の治療薬などの対象化合物を液体塞栓システム内に組み込み、塞栓形成を達成することに加えて、当該治療薬を所望の解剖学的位置に、所望の解剖学的位置で、又は所望の解剖学的位置内に制御された持続的な様式で送達する組成物及びこの組成物を使用する方法を提供する。
【0011】
上記の多数の制限に基づいて、当技術分野では、送達中に塞栓剤の厳密な監視を容易にするのに十分な放射線不透過性を有し、標的血管への安全なインプランテーションを可能にするが、この放射線不透過性(radipoacity)が一過性である、一般的な送達システム(例えば、マイクロカテーテル)を通して送達及びインプラントすることができる液体塞栓システムが必要とされている。すなわち、手術後の画像診断(例えば、コーンビームCT及び/又はMRI)の品質改善を可能にし、従来の塞栓剤によってもたらされる撮像妨害物を低減又は除去することによって、潜在的により安全な後続介入手順も可能にするために、インプラントされた塞栓塊が、その放射線不透過性をインプランテーション後に経時的に部分的又は完全に消散させることが望ましいであろう。この「一時的不透過性」の品質は、本明細書に開示される発明の主題である。更に、血管に塞栓形成する能力を、現在使用されている液体塞栓(タンデムTACE又はDEB-TACE技術に対して)の形態のAPI又は他の対象化合物若しくは対象治療薬と組み合わせることが望ましい。「一時的不透過性」を提供する能力に加えて、本開示の発明はまた、API又は他の対象化合物若しくは対象治療薬を組み込み、API又は他の対象化合物若しくは対象治療薬を所望の標的位置に制御された持続的な様式で放出することができる。本明細書に開示される本発明の実施形態は、これらの独特の機能性(すなわち、一時的不透過性及び/又は制御された薬物放出)が、所望の臨床結果に応じて、個別に又は互いに組み合わせて、所与の液体塞栓剤にどのように付与され得るかを説明する。
【発明の概要】
【0012】
本発明のデバイス及び方法は、血液又は他の水溶液と接触すると、実質的に液体の状態から実質的に固体の状態に変化することが可能であり、「対象化合物」も組み込む塞栓物質を含む液体塞栓デバイス又はシステムである。この対象化合物は、液体塞栓デバイスに更なる機能性(例えば、介入手順の間の蛍光透視可視化を可能にする一時的な放射線不透過性)を提供する目的のために、及び/又は制御されかつ持続された様式で液体塞栓から放出されることが意図される治療機能を付与するために、組み込まれ得る。
【0013】
一実施例では、液体塞栓システムは、熱応答性ポリマー等のゲル化に起因して、インプランテーション時に液体から固体に遷移するポリマーから構成されてもよい。別の例では、液体塞栓システムは、血液又は水溶液と接触すると沈殿する有機溶媒に溶解したポリマーから構成されてもよい。後者の例は、例えば、DMSO溶媒に溶解されたEVOHポリマーからなる液体塞栓システムであり得る。
【0014】
記載したように、対象化合物は、患者に治療を提供する任意の治療薬を含み得る。この薬剤は、種々のAPI又は薬物と、放射性物質(例えば、イットリウム90)と、他の放射性医薬品と、タンパク質、ペプチド、遺伝子、又は任意の他の薬学的活性成分を含む生物製剤と、を含んでもよいが、これらに限定されない。対象化合物は更に、液体塞栓に複数の望ましい機能を付与する治療薬と放射線不透過剤との組み合わせから構成されてもよい。本発明の実施形態は、当該治療薬及び/又は放射線不透過剤が溶出又は消散する時間枠が、可変若しくは同一であってもよく、かつ/又は概して、標的臨床結果若しくは手順のために所望されるようにカスタマイズされてもよいことを想定する。例えば、放射線不透過性が手術後1か月の期間にわたって消散又は消失することが望ましい場合がある一方で、制御された様式でより持続的な期間(例えば、3~6か月以上)にわたってAPIを放出することが望ましい場合もある。あるいは、塞栓剤の放射線不透過性を維持する一方で、APIのみが手術後に消散することが望ましい場合があり得る。
【0015】
対象化合物は、種々の形態で、そして種々の技術を使用して、液体塞栓システム内に組み込まれ得る。一例では、対象化合物は、混合、粉砕、スピニング、噴霧乾燥などの一般に利用可能な技術を使用して液体塞栓剤と物理的に混合される。この例では、対象化合物は、本質的に水性媒体に完全に若しくは部分的に可溶性であるか、又は微粒子化、PEG化などの種々の技術を使用して可溶性若しくは部分的に可溶性にされており、液体塞栓システムからの対象化合物の放出は、その溶解速度及び実質的に固化した塞栓から拡散し得る速度によって本質的に制御される。
【0016】
別の例では、対象化合物は、塞栓ポリマーに化学的に結合される。このシナリオでは、対象化合物と塞栓ポリマーとの間の化学結合は、加水分解又は酵素分解などの様々なメカニズムを介して破壊され得る。これは、このような結合が破壊される速度及び実質的に固化した塞栓塊からの対象化合物の拡散速度によって制御される、塞栓塊からの対象化合物の放出の比率で対象化合物の放出を生じる。
【0017】
別の例において、対象化合物は、担体内に物理的に封入される。対象化合物の担体への封入は、液体塞栓システムと混合する前に行われ得るか、又は例えば乳化技術を使用して液体塞栓内で行われ得る。担体は、様々な物理的形態であり得る。例えば、担体は、マイクロスフェア若しくはナノスフェア、ミセル、デンドリマー、リポソーム又は脂質ナノ粒子の形態であり得る。このシナリオでは、塞栓塊からの対象化合物の放出速度は、担体の溶解又は分解速度、及び実質的に固化した塞栓塊からの対象化合物の拡散速度によって制御される。
【0018】
別の例では、担体中への物理的封入よりもむしろ、対象化合物が担体に物理的又は化学的に結合され得ることが本明細書において想定される。物理的結合の例は、担体の表面上に(例えば、コア-シェル構造内で)対象化合物を適用することである。化学結合の例は、担体の表面を修飾して、それが対象化合物と化学結合を形成できるようにすることである。担体は、マイクロスフェア、ナノスフェア、ミセル、デンドリマー、リポソーム又は脂質ナノ粒子を含む様々な物理的形態であり得る。このシナリオにおいて、塞栓塊からの対象化合物の放出の比率は、担体への化学結合が破壊される速度、及び/又は対象化合物を放出する担体の溶解又は分解の速度によって制御される。
【0019】
本明細書中に記載される本発明はまた、塞栓塊からの対象化合物の放出速度を制御するために使用され得るいくつかのメカニズム(例えば、塞栓塊の透過性を調節して、塞栓塊から周囲環境への対象化合物の拡散を妨げるか又は促進する)を想定する。一実施形態では、塞栓塊の透過性を調整するために、様々な添加剤(例えば、細孔形成剤)を液体塞栓製剤に添加することができる。例えば、対象化合物の拡散は、液体塞栓システム内に溶解又は懸濁された水溶性細孔形成剤の存在によって可能にされ、促進されてもよく、細孔形成剤は、埋め込み後に対象化合物が実質的に固体の塞栓塊から溶出又は消散するためのチャネル及び経路を形成する。
【0020】
この組成物の液体塞栓の性能を更に改善するために使用され得る他のメカニズムとしては、液体塞栓物質内の対象化合物の分散を容易にし得る乳化剤又は懸濁剤が挙げられる。別の例では、増粘剤を使用して液体塞栓の粘度を調整し、その安全かつ制御された送達を容易にすることができる。更に別の例では、添加剤を液体塞栓に添加して、液体にチキソトロピー性を付与することができる。
【0021】
前述したように、本発明のデバイス及び方法は、一時的放射線不透過性などの臨床用途に最適化された様々な機能を提供することを目的としている。このシナリオでは、対象化合物は放射線不透過剤である。本明細書中に記載される実施形態を使用して、塞栓形成手順の間に、液体塞栓組成物が標的脈管構造に注入され、実質的に液体の塞栓は、放射線不透過剤を捕捉する実質的に固体の状態への相変化を受け、現在行われているように、放射線不透過剤が塞栓塊内に分散されたままである血液の流れを妨げることが想定される。しかし、塞栓形成手順の完了後、放射線不透過剤は、実質的に固体の塞栓塊からゆっくりと予測可能に消散、溶出、又は拡散し、患者の身体から排出され得る。放射線不透過剤の外向き拡散又は消散の結果として、塞栓塊は、経時的にその放射線不透過性の一部又は全部を失うことがある。放射線不透過剤の放出速度は、放射線不透過剤のバースト放出、ゼロ次放出、一次放出、遅延バースト放出、遅延ゼロ次放出、遅延一次放出、又はそれらの組み合わせを含む動態を有することができる。
【0022】
同様に、別の例では、液体塞栓組成物に含まれる対象化合物は、治療薬であってもよく、組成物は、TACE手順などを行うために使用されることができる。1つのそのようなシナリオにおいて、組成物は、腫瘍に栄養を与える標的脈管構造に注入され、液体塞栓物質は、治療薬を捕捉する実質的に固体の状態への相変化を受け、同時に、血流を妨げるか、又は血管に効果的に塞栓形成する。最初に、選択された治療薬の全て又は大部分は、塞栓塊内に分散されたままであるが、その後、塞栓塊から出て、インプランテーション後に腫瘍内にゆっくりと予測可能に拡散して、その治療利益を発揮する。塞栓塊の存在は、治療薬が作用部位から容易に洗い流され得ないことを確実にし、それによってその濃度を治療レベルより上に維持する。対象の放射線不透過性化合物について述べたように、対象化合物としての治療薬の放出速度は、バースト放出、ゼロ次放出、一次放出、遅延バースト放出、遅延ゼロ次放出、遅延一次放出、又はそれらの組み合わせを含む動態を有することもできる。
【0023】
これらの例は排他的なものではなく、任意の数のこれらのメカニズムが、所望の機能性を達成するために、単一の塞栓組成物において組み合わせられ得ることが当業者には明らかであろう。例えば、対象化合物が放射線不透過剤と治療薬との組み合わせであり、これらの薬剤の各々が同じ若しくは異なる放出速度又は放出動態で放出される、TACE手順に使用される本発明の液体塞栓組成物を想定することができる。この例において、放射線不透過剤の放出は、塞栓塊に一時的な放射線不透過性を付与し、治療薬の制御放出は、経時的な腫瘍の縮小をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明は、添付の図面と併せて読むと、以下の詳細な説明から最もよく理解される。一般的な慣行に従って、図面の様々な特徴は縮尺通りではないことが強調される。逆に、様々な特徴の寸法は、明確にするために任意に拡大又は縮小されている。図面には、以下の図が含まれる。
【
図1A】対象化合物が液体塞栓組成物の中に分散した本発明の液体塞栓組成物のグラフィック表示を提供する。
【
図1B】塞栓組成物の中に分散した対象化合物を含む本発明の塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、対象化合物は組成物から経時的に溶解及び拡散する。
【
図1C】塞栓組成物の中に分散した対象化合物を含む本発明の塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、対象化合物は組成物から経時的に溶解及び拡散する。
【
図1D】塞栓組成物の中に分散した対象化合物を含む本発明の塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、対象化合物は組成物から経時的に溶解及び拡散する。
【
図2A】対象化合物が塞栓物質に化学的に結合した本発明の液体塞栓組成物のグラフィック表示を提供する。
【
図2B】
図2Aの液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、経時的な化学結合の切断を介した対象化合物の放出及び拡散を示す。
【
図2C】
図2Aの液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、経時的な化学結合の切断を介した対象化合物の放出及び拡散を示す。
【
図2D】
図2Aの液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、経時的な化学結合の切断を介した対象化合物の放出及び拡散を示す。
【
図3A】担体に封入された対象化合物が液体塞栓組成物の中に分散した本発明の液体塞栓組成物のグラフィック表示を提供する。
【
図3B】
図3Aの液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、経時的な担体の溶解及び分解後の対象化合物の放出及び拡散を示す。
【
図3C】
図3Aの液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、経時的な担体の溶解及び分解後の対象化合物の放出及び拡散を示す。
【
図3D】
図3Aの液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示し、経時的な担体の溶解及び分解後の対象化合物の放出及び拡散を示す。
【
図3E】同じ担体中の複数の(異なる)対象化合物が液体塞栓組成物の中に分散した本発明の液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示す。
【
図3F】異なる担体中の複数の(異なる)対象化合物が液体塞栓組成物の中に分散した本発明の液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示す。
【
図3G】
図3Fで提供される塞栓組成物中の対象化合物の放出動態のグラフィック表示を示す。
【
図3H】液体塞栓組成物の中に分散した1つの対象化合物、及び担体に封入され、更に液体塞栓組成物の中に分散した別の対象化合物を含む本発明の液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の長手方向断面図を示す。
【
図3I】
図3Hで提供される液体塞栓組成物を使用して塞栓形成された血管の、その対象化合物のうちの1つの完全放出後の長手方向断面図を示す。
【
図4A】一時的な放射線不透過性を提供する本発明の液体塞栓組成物を使用する典型的な方法を提供する。
【
図4B】一時的な放射線不透過性及び治療薬の制御放出を提供する本発明の液体塞栓組成物を使用する典型的な方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を説明する前に、本発明は、説明される特定の実施形態に限定されず、したがって、当然ながら変動し得ることを理解されたい。本発明の範囲は添付の「特許請求の範囲」によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことも理解されたい。
【0026】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値も、文脈が別途明確に指示しない限り、下限の単位の10分の1まで、具体的に開示されることが理解される。記載された範囲内の任意の記載された値又は介在値と、その記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在値との間のそれぞれのより小さい範囲は、本発明内に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、範囲内に含まれても除外されてもよく、より小さい範囲内に限界のいずれかが含まれるか、いずれも含まれないか、又は両方が含まれる各範囲もまた、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界に従うことを条件として本発明内に包含される。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれか又は両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0027】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似又は等価な任意の方法及び材料が、本発明の実施又は試験において使用され得るが、いくつかの潜在的かつ好ましい方法及び材料が、ここで記載される。本明細書で言及される全ての刊行物は、刊行物の引用に関わる方法及び/又は材料を開示及び記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。本開示は、矛盾がある限り、組み込まれた刊行物の任意の開示に優先することが理解される。
【0028】
本明細書及び添付の「特許請求の範囲」で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「化合物(a compound)」への言及は、複数のそのような化合物を含み、「ポリマー(the polymer)」への言及は、1つ以上のポリマー及び当業者に知られているその等価物への言及を含むなどである。
【0029】
本明細書において考察される刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によってそのような刊行物に先行する権利を与えられないという承認として解釈されるべきではない。更に、提供される刊行物の日付は、独立して確認される必要があり得る実際の刊行日とは異なり得る。
【0030】
図1A~
図1Dは、対象化合物102を含有する本発明の液体塞栓組成物の一実施形態のグラフィック表示であり、実質的に液体の塞栓組成物100から実質的に固体の塞栓組成物100’への相変化又は転移、並びに溶解度及び拡散による実質的に固体の組成物100’中の対象化合物102の濃度の減少を示す。
図1Aは、実質的に液体の状態であり、血管管腔103への注入の準備ができている本発明の塞栓組成物100を示す。
図1Aにおいて、実質的に液体の塞栓組成物100は、破線で示されており、対象化合物102が組み込まれた塞栓物質101を含む。
図1Bは、管腔103及び血管壁104を有する血管の長手方向断面図を示す。
図1Bにおいて、先に
図1Aに示した実質的に液体の塞栓組成物100は、血管管腔103に注入された後、実質的に固体の塞栓組成物100’(実線で示す)に変化し、それによって血管に塞栓形成するか又は血管を閉塞する。加えて、
図1Bに示される実質的に固体の塞栓組成物100’は、塞栓形成又は閉塞された血管セグメント内の対象化合物102を取り囲み、捕捉する。
図1Cは、
図1Bに示される濃度と比較して低減された濃度の捕捉された対象化合物102を示す。
図1Bから
図1Cへの遷移に示されるような濃度の減少は、実質的に固体の塞栓組成物100’を透過する媒体(図示せず)の存在下での対象化合物102の溶解及び/又は拡散によって引き起こされ得る。媒体(図示せず)は、血液、血漿、水などの生理学的媒体であってもよい。時間の更なる進行は、最終的に、
図1Dに描写されるように、実質的に固体の塞栓組成物100’からの対象化合物102の完全溶解及び/又は拡散をもたらし、塞栓又は閉塞された血管管腔103のみを残し得る。本明細書で提供される図は、正確な縮尺で描かれておらず、例示目的及び明確さのためだけに拡大されていることは、当業者には明らかであろう。例えば、
図1A~
図1Cに示される対象化合物102は、実質的により小さい(すなわち、ミクロンサイズ又は潜在的にナノサイズである)可能性が高いことが想定される。
【0031】
一実施形態では、
図1Bに示される対象化合物102は、放射線不透過剤である。放射線不透過剤(すなわち、対象化合物102)の存在の結果として、
図1Bに示される実質的に固体の塞栓組成物100’は、高度に放射線不透過性であり得る一方で、
図1Cに示される実質的に固体の塞栓組成物100’は、放射線不透過性が低いが、透視診断法の下で依然として可視であり得る。放射線不透過性の低減は、塞栓組成物100’からの放射線不透過剤の溶解及び/又は拡散に対応し得る。
図1Dは、放射線不透過剤が塞栓組成物100’から完全に溶解及び/又は拡散した後の実質的に固体の塞栓組成物100’を描写する。放射線不透過性の臨床的に有意な減少は、放射線不透過剤の全て又は大部分さえも実質的に固体の塞栓組成物100’から拡散することを必ずしも必要としないことが、当業者に明白であるはずである。放射線不透過性の臨床的に有用な減少の閾値は、特定の医療手順の臨床的要件によって決定され得、その閾値に達するために必要とされる放射線不透過剤の拡散の量は、可変であり得、そして所定の組成物において使用される放射線不透過剤の特性に依存し得る。例えば、放射線不透過性の高い薬剤は、放射線不透過性の臨床的に有意な低減を得るために、放射線不透過剤の90%超が塞栓塊又は実質的に固体の塞栓組成物100’から拡散することを必要とし得るが、放射線不透過性の低い薬剤は、放射線不透過性の臨床的に有意な低減を得るために、放射線不透過剤の50%のみが塞栓塊又は実質的に固体の塞栓組成物100’から拡散することを必要とし得る。同様に、臨床的に有意な初期放射線不透過性(すなわち、手順時に所望の臨床的又は手順結果を達成するために十分な放射線不透過性を有する)の閾値は、医療手順及び塞栓の部位に応じて変動し得る。例えば、神経脈管構造を治療するために使用される実質的に液体の塞栓組成物100は、頭蓋を通して撮像するときに妥当な信号を達成するために、より高い放射線不透過性が必要であり得るが、末梢血管動静脈奇形を治療するために使用される実質的に液体の塞栓組成物100は、使用時に放射線不透過性が実質的により少なくてすむ場合がある。
【0032】
別の実施形態において、
図1Bに示される対象化合物102は、治療薬である。
図1Dは、治療薬の全てが実質的に固体の組成物100’から拡散した後の実質的に固体の塞栓組成物100’を示す。異なる治療薬は、異なる治療効力を有し、したがって、臨床的に有意な治療結果に到達するために、治療薬の必要量は、選択された治療薬の効力及び生理化学的特性に依存することが、当業者に明らかであるはずである。
【0033】
本発明の実質的に液体の塞栓組成物100の例示的な組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解され、かつ当技術分野で周知の放射線不透過剤としての微粒子化タンタルと混合された塞栓物質エチレンビニルアルコール(EVOH)を含むことができる。EVOHは、DMSOに可溶で水溶液に不溶であるエチレンとビニルアルコールモノマーとのランダムコポリマーであり、エチレン対ビニルアルコールの比を変化させると、EVOHポリマーの物理的及び化学的特性が変化する。水溶液中に導入されると、DMSOは水性媒体中に急速に拡散し、EVOHを沈殿させて放射線不透過性タンタル粒子の周りの凝集性塞栓塊にする。この塊は、EVOHコポリマー中のエチレンのモル%、放射線不透過性タンタル粒子のサイズ、EVOH/DMSO液体塞栓溶液の粘度などが挙げられるがこれらに限定されないいくつかのパラメータに基づく放射線不透過剤に対する透過性を有する。
【0034】
一般に、EVOHコポリマー中のエチレン含有量が多いほど、沈殿後により強靭な塞栓塊が得られるが、EVOHコポリマー中のエチレン含有量が少ないほど、沈殿後により緩く、よりゲル状の塞栓塊が得られる。エチレンの好ましいモル百分率は、25~29モル%、29~34モル%、34~42モル%、42~46モル%、46~50モル%、及び50モル%超を含み得る。DMSOに対するEVOHの比は、ある範囲の粘度を有する溶液を製造するために変化させることができ、以下の粘度(40℃で測定)の溶液を有することが好ましい:7センチストークス(cSt)未満、7~9cSt、9~11cSt、11~13cSt、13~15cSt、15~17cSt、17~19cSt、19~21cSt、21~23cSt、23~25cSt、25~27cSt、27~29cSt、29~31cSt、31~33cSt、33~35cSt、又は35cSt超。例示的な組成物は、好ましくは水中で有限かつ低い飽和溶解度を有する、分散した1つ又は複数の対象化合物102を更に含むことができる。飽和溶解度とは、固体の対象化合物102が、37℃に保持された対象化合物102の水溶液に添加されてもよく、より多くの固体の対象化合物102の添加が、溶液の液相に溶解した対象化合物102の濃度の正味の増加を引き起こさないことを意味する。
【0035】
実質的に固体の塞栓組成物100’中の対象化合物102が放射線不透過剤である一実施形態では、選択された放射線不透過剤は、以下の化合物:バリウム、バリウム塩、ビスマス、次サリチル酸ビスマス、次没食子酸ビスマス銅(bismuth subgallate copper)、銀、ヨウ化カリウム、ヨード、ヨウ素酸カルシウム、プラチナ、タンタル、チタン、タングステン、及びジルコニウムから選択され得るが、これらに限定されない。好ましい放射線不透過剤には、ヨウ素酸銀、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸亜鉛脱水物、ヨウ素酸アンモニウム、ヨウ素酸マグネシウム、ヨウ化カリウム、及びヨウ素酸ナトリウムなどのヨウ素酸塩が含まれ得る。有限かつ低い溶解度を有する放射線不透過剤は、0.01mg/mL~約20mg/mLの範囲の飽和水溶解度を有する化合物を含む。より好ましい溶解度値は、0.01mg~約10mg/mLの範囲である。最も好ましい化合物は、0.01mg~約5mg/mLの範囲の飽和溶解度値を有するものである。
【0036】
前述のEVOH/DMSO/タンタル液体塞栓組成物100において、放射線不透過性タンタル粒子が、塞栓塊又は実質的に固体の塞栓組成物100’から効果的に拡散又は溶解され得る放射線不透過剤から構成される対象化合物102で置き換えられた場合、溶解及び/又は拡散の速度は、放射線不透過剤に対する実質的に固体の塞栓組成物100’の透過性及び放射線不透過剤の飽和水溶解度によって制御され得る。放射線不透過剤に対する実質的に固体の塞栓組成物100’の透過性が高く、放射線不透過剤の飽和水溶解度も高い場合、放射線不透過剤は、水性媒体に急速に溶解し、実質的に固体の塞栓組成物100’から急速に拡散し、放射線不透過性を急速に低下させる。一方、放射線不透過剤に対する実質的に固体の塞栓組成物100’の透過性が低いが、放射線不透過剤の飽和水溶解度が高い場合、放射線不透過剤は、水性媒体中に急速に溶解し、実質的に固体の塞栓組成物100’からゆっくりと拡散し、適度な速度で放射線不透過性を低下させる。あるいは、放射線不透過剤に対する実質的に固体の塞栓組成物100’の透過性が高いが、放射線不透過剤の飽和水溶解度が低い場合、放射線不透過剤は、水性媒体中にゆっくりと溶解し、次いで、実質的に固体の塞栓組成物100’から急速に拡散し、適度な速度で放射線不透過性を減少させる。更に別の代替形態では、放射線不透過剤に対する実質的に固体の塞栓組成物100’の透過性が低く、放射線不透過剤の飽和水溶解度も低い場合、放射線不透過剤は、水性媒体中にゆっくりと溶解し、次いで、実質的に固体の塞栓組成物100’からゆっくりと拡散し、放射線不透過性を低い速度で減少させる。「迅速な」、「中程度の」、及び「低い」という用語は相対的なものであり、実質的に固体の塞栓組成物100’の放射線不透過性の変化速度を決めるパラメータは、実質的に液体の塞栓組成物100の特定の臨床用途に適した実質的に固体の塞栓組成物100’の放射線不透過性の所望の又は目標とされた又は指定された変化速度を得るように調整又は修正され得ることは、当業者には明らかであろう。実質的に液体の塞栓組成物100の沈殿速度、有機溶媒の水性媒体への拡散速度、並びに放射線不透過剤の溶解及び拡散速度も、必ずしも同じ時間スケールではないことも、当業者には明らかであろう。例えば、実質的に液体の塞栓組成物100の沈殿は、秒の時間スケールで生じ得るが、実質的に固体の塞栓組成物100’からのDMSOの完全な拡散は、数十分の時間スケールで生じ得、実質的に固体の塞栓組成物100’からの放射線不透過剤の溶解及び拡散は、数日、数週、数か月、又は数年の時間スケールで生じ得るか、あるいは永続的に一定のままであるように設計され得る。
【0037】
本発明の実質的に液体の塞栓組成物100の例示的な組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解されたエチレンビニルアルコール(EVOH)の溶液を含み得る。この例示的な組成物は、好ましくは水中で有限かつ低い飽和溶解度を有する1つ又は複数の治療薬を含む分散した対象化合物102を更に含むことができる。当該治療薬(単数又は複数)は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗生物質、植物アルカロイド及びホルモン剤などの抗新生物薬、抗血管新生化合物、並びに放射性物質(例えばイットリウム90)、又は放射性ヨウ素のような他の放射性医薬品を含んでもよいが、これらに限定されない。好ましい治療薬には、パクリタキセル若しくはイリノテカンなどの植物アルカロイド、又はドキソルビシン、テトラサイクリン、イダルビシン及びマイトマイシンなどのアントラサイクリン抗生物質(anthrocycline antibiotics)が含まれ得る。有限かつ低い溶解度を有する治療薬には、溶質1部に必要とされる溶媒の部分が30~約10000の範囲である化合物を含む。より好ましい溶解度値は、100~約10000の範囲である。最も好ましい化合物は、100~約1000の範囲の溶解度値を有するものである。前述したように、水性媒体中に導入されると、EVOHは治療薬の周囲に沈殿して、実質的に固体の塞栓組成物100’を形成する。実質的に固体の塞栓組成物100’は、EVOHコポリマー中のエチレンのモル%、治療薬のサイズ、EVOH/DMSO溶液の粘度などを含むがこれらに限定されないいくつかのパラメータに基づく放射線不透過剤に対する透過性を有する。
【0038】
図2A~
図2Dは、本発明の液体塞栓組成物の別の実施形態のグラフィック表示である。
図2Aは、化学結合203を介して対象化合物202に結合された、破線によって表される塞栓物質201を含む実質的に液体の塞栓組成物200を示す。
図2Bは、管腔204及び血管壁205を有する血管の長手方向断面図を示す。
図2Bにおいて、先に
図2Aに示した実質的に液体の塞栓組成物200は、血管管腔204に注入された後、実質的に固体の塞栓組成物200’(実線で示す)に変化し、それによって血管に塞栓形成するか又は血管を閉塞する。
図2Bにおいて、対象化合物202は、実質的に液体の状態200から実質的に固体の状態200’への塞栓組成物の固化を通して変化しないままである。
【0039】
図2Cは、対象化合物202を実質的に固体の塞栓組成物200’に結合する化学結合203が(例えば、加水分解又は酵素分解などによって)破壊又は切断された後の、
図2Bと同じ実質的に固体の塞栓組成物200’を示す。結果として、対象化合物202は、実質的に固体の塞栓組成物200’から自由に溶解及び/又は拡散し、血流又は隣接する組織(図示せず)に入り、治療効果を提供し、その後、身体から排出される。
図2Dは、対象化合物202が完全に枯渇した実質的に固体の塞栓組成物200’を示しており、塞栓物質201は、塞栓形成された血管セグメントの閉塞を維持し続ける。化学結合203は、静電結合、共有結合、双極子-双極子引力、イオン結合、金属結合又は水素結合を含むがこれらに限定されない様々な形態であり得る。先に述べたように、化学結合203の破壊又は切断は、加水分解、光分解などの様々なメカニズムを通じて、又は溶解若しくは酵素分解などの生物学的プロセスを通じて、又はそれらの組み合わせを通じて起こり得、実質的に固体の塞栓組成物200’への血液又は他の生物学的流体(図示せず)の浸透によって主に引き起こされ得る。本明細書で提供される図は、正確な縮尺で描かれておらず、例示目的及び明確さのためだけに拡大されていることは、当業者には明らかであろう。例えば、
図2A~
図2Cに示される対象化合物202及び結合203は、実質的により小さい(すなわち、ミクロンサイズ、ナノサイズ、又は更に小さい)可能性が高いことが想定される。
【0040】
一実施形態では、
図2Aに示される対象化合物202は、化学結合203を介して塞栓物質201に化学的に結合された放射線不透過剤である。化学的に結合された放射線不透過剤(すなわち、対象化合物202)の存在の結果として、
図2Bに示される実質的に固体の塞栓組成物200’は、血管管腔204内への送達及びインプランテーション後、高度に放射線不透過性であり得る。時間の経過とともに、
図2Bに示される実質的に固体の塞栓組成物200’は、化学結合203が破壊又は切断された
図2Cに示されるものになる。
図2Cに示すように、未結合の対象化合物202(すなわち、この例では放射線不透過剤)は、
図1Bで前述したものと同様の方法で実質的に固体の塞栓組成物200’内に捕捉されて示されている。実際には、破壊又は切断された(すなわち、加水分解、酵素分解などによって)化学結合203の数は、必ずしも一度に全て起こるわけではなく、代わりに、時間とともに破壊又は切断され得る。いずれにしても、化学結合203が破壊又は切断されると、放射線不透過剤は、実質的に固体の塞栓組成物200’から自由に溶解及び/又は拡散し、放射線不透過性の低減、又はより広範には一過性の放射線不透過性をもたらすことが予想される。最後に、
図2Dは、放射線不透過剤が実質的に固体の塞栓組成物200’から完全に溶解及び/又は拡散して、実質的に又は完全に放射線透過性の塞栓物質201のみを残した後の、血管管腔204内にインプラントされた実質的に固体の塞栓組成物200’を示す。放射線不透過性の臨床的に有意な低減は、インプラントを将来の画像診断又は治療手順に対して非閉塞性にするために、放射線不透過剤の全て又は更に大部分が、実質的に固体の塞栓組成物200’から拡散することを必ずしも必要としないことが、当業者に明白であるはずである。
【0041】
別の実施形態では、
図2Aに示される対象化合物202は、医薬品有効成分(API)などの治療薬である。化学結合203が分解するにつれて、治療薬(すなわち、対象化合物202)は、実質的に固体の塞栓組成物200’から放出され、その意図された標的部位(例えば、癌性腫瘍の内側-図示せず)に拡散することができる。治療薬202の放出速度は、生物学的流体が実質的に固化した塞栓組成物200’を透過することができる速度及び容易さ、並びに化学結合203の分解速度に依存する。例えば、高透過性の実質的に固体の塞栓組成物200’は、低透過性の実質的に固体の塞栓組成物200’と比較して、治療薬202のより高い放出速度をもたらすことができる。この実施形態において、治療薬(単数又は複数)は、好ましくは、水への有限かつ低い飽和溶解度を有する。当該治療薬(単数又は複数)は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗生物質、植物アルカロイド及びホルモン剤などの抗新生物薬、抗血管新生化合物、並びに放射性物質(例えばイットリウム90)、又は放射性ヨウ素のような他の放射性医薬品を含んでもよいが、これらに限定されない。好ましい治療薬には、パクリタキセル若しくはイリノテカンなどの植物アルカロイド、又はドキソルビシン、テトラサイクリン、イダルビシン及びマイトマイシンなどのアントラサイクリン抗生物質が含まれ得る。有限かつ低い溶解度を有する治療薬には、溶質1部に必要とされる溶媒の部分が30~約10000の範囲である化合物を含む。より好ましい溶解度値は、100~約10000の範囲である。最も好ましい化合物は、100~約1000の範囲の溶解度値を有するものである。
【0042】
図2A~
図2Dに示す本発明の更に別の実施形態では、対象化合物202は、1つ以上の放射線不透過剤と1つ以上の治療薬との組み合わせから構成されてもよく、それぞれが同様の又は異なる化学結合203を介して塞栓物質201に結合している。放射線不透過剤(複数可)及び/又は治療薬(複数可)の組み合わせが使用されるシナリオでは、薬剤のそれぞれの放出速度は、互いに対して類似であり得るか又は異なり得る。放射線不透過剤治療薬は、異なる方法を使用して、実質的に固体の塞栓組成物200’内に封入又は分散されることができる。例えば、放射線不透過剤は、
図1Bに示されるように、実質的に固体の塞栓組成物200’内に物理的に捕捉され得、治療薬は、
図2Bに示されるように、化学結合203を介して塞栓物質201に結合され得る。
【0043】
図3A~
図3Dは、本発明の実質的に液体の塞栓組成物の一実施形態のグラフィック表示である。
図3Aは、実質的に液体の形態であり、血管管腔304への注入の準備ができている本発明の塞栓組成物300を示す。
図3Aにおいて、実質的に液体の塞栓組成物300が破線で示されており、生体適合性担体303内に対象化合物302が封入された塞栓物質301を含む。担体303は、実質的に液体の塞栓組成物300内で実質的に不溶性である。
図3B~
図3Dは、管腔304及び血管壁305を有する血管の長手方向断面図を示す。この図において、先に
図3Aに示した実質的に液体の塞栓組成物300は、血管管腔304に注入された後、実質的に固体の塞栓組成物300’(実線で示す)に変化し、それによって血管に塞栓形成するか又は血管を閉塞する。加えて、
図3Bに示される実質的に固体の塞栓組成物300’は、塞栓形成又は閉塞された血管セグメント内に対象化合物302を封入する担体303を取り囲み、捕捉する。
図3Cは、実質的に固体の塞栓組成物300’に浸透する媒体(図示せず)及び/又は酵素の存在下での担体303の溶解、分解又は拡散の結果としての、実質的に固体の塞栓組成物300’内の担体103の数の減少を示す。媒体(図示せず)は、血液、血漿、水などの生理学的媒体であってもよい。1つのシナリオでは、担体303は実質的に分解され、次いで、対象化合物302は、実質的に固体の塞栓組成物300’から自由に溶解及び/又は拡散する。担体303が実質的に固体の塞栓組成物300’を単に拡散させることも可能である。このシナリオでは、担体303は、癌性腫瘍(図示せず)内などの意図された標的部位で対象化合物302を放出することができる。時間の更なる進行は、最終的に、全て又は大部分の残存担体303、並びに
図3Dに描写されるような実質的に固体の塞栓組成物300’から放出される対象化合物302の全て又は大部分の完全溶解、分解、及び/又は拡散をもたらし、血管管腔304内に塞栓物質301のみを残し得る。本明細書で提供される図は、正確な縮尺で描かれておらず、例示目的及び明確さのためだけに拡大されていることは、当業者には明らかであろう。例えば、
図3A~
図3Cに示される担体303及び/又は対象化合物302は、実質的により小さい(すなわち、ミクロンサイズ又は潜在的にナノサイズである)可能性が高いことが想定される。
【0044】
図3Bの実質的に固体の塞栓組成物300’に組み込まれた担体303の、
図3Cに示されるものへの減少率は、サイズ、化学組成、溶解度、及び加水分解又は他の生物学的プロセス(例えば、酵素分解)による分解に対する担体303の感受性に依存する。担体303を形成するために使用され得る材料の例としては、任意の飽和又は不飽和炭化水素、エステル、アミド又はエーテル結合からなるポリマー、多糖類などのアルゴポリマー(argo-polymers)、アルブミンなどのタンパク質、アルギン酸塩及びセルロースなどの天然ポリマー、合成ポリエステル及びそれらのコポリマー、ポリウレタン、バイオセラミック、バイオガラス、ポリ(アミドアミン)などのデンドリマー、トリグリセリドなどの脂質、並びに極性油、水素化ホスファチジルコリンなどのリン脂質、極性又は非イオン性界面活性剤、並びにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
実質的に固体の塞栓組成物300’中の担体303の体積分率が、対象化合物302の放出速度に影響を及ぼし得ることは、当業者には明らかであろう。例えば、担体303のより高い体積分率では、担体303の溶解、分解及び/又は拡散の際に相互接続された多孔質構造を生成することができ、実質的に固体の塞栓組成物300’の内部へのより容易な液体アクセスを可能にし、その結果、対象化合物302のより高い放出速度をもたらす。実質的に固体の塞栓組成物300’内の担体303の好ましい体積分率は、1~80v/v%、又は好ましくは5~50v/v%、更により好ましくは5~30v/v%であり得る。
【0046】
担体303は、エマルジョン、ミセル、デンドリマー、マイクロスフェア、ナノスフェア、脂質ナノ粒子、及びリポソーム、又は当技術分野で一般に知られているそれらの組み合わせの形態であり得るが、これらに限定されない。担体303のサイズは、塞栓組成物300及び300’の物理的特性に影響を及ぼし得る。例えば、より大きなサイズの担体303は、実質的に液体の塞栓組成物300の注入性の低下をもたらし得るか、又は担体303を含有する実質的に液体の塞栓組成物300が血管の毛細血管レベルまで浸透する能力に悪影響を及ぼし得る。担体303の好ましいサイズは、0.1~100μm若しくは0.1~30μmの範囲であり得るか、又はより好ましいシナリオでは、それらは0.1~5μmのサイズ範囲内に入り得る。
【0047】
実質的に液体の塞栓組成物300を生成するために、当業者に知られている様々な方法がある。例えば、対象化合物302は、実質的に液体の塞栓組成物300と混合する前に、最初に担体内に封入することができる。あるいは、担体303及び対象化合物302は、実質的に液体の塞栓組成物300に直接添加され得、例えば、当該分野で公知の油中水型エマルジョン技術(図示せず)を使用して、混合プロセスの間に最終形状をとり得る。更に別の実施形態では、対象化合物302はまた、最初に担体303内に封入され、最終形状に形成され、患者(図示せず)への液体塞栓の投与中に実質的に液体の塞栓組成物300と混合され得る。
【0048】
一実施形態では、
図3Aに示される対象化合物302は、放射線不透過剤である。
図3Bに示されるように、標的管腔内で固化すると、放射線不透過剤(すなわち、対象化合物302)の存在に起因して、実質的に固体の塞栓組成物300’は、高度に放射線不透過性であり得る。
図3Cに示される実質的に固体の塞栓組成物300’は、放射線不透過剤の溶解及び外向き拡散の結果として、
図3Bに示される実質的に固体の塞栓組成物300’よりも放射線不透過性が低くてもよい。
図3Dは、放射線不透過剤302が完全に拡散して、血管管腔304内に放射線透過性の塞栓物質301のみを残した後の実質的に固体の塞栓組成物300’を示す。
【0049】
別の実施形態では、
図3Aに示される対象化合物302は、医薬品有効成分(API)などの治療薬である。担体303は、溶解又は分解して治療薬(すなわち、対象化合物302)を放出し、実質的に固体の塞栓組成物300’から拡散することができる。担体303が、治療薬をその意図された標的部位に運ぶ実質的に固体の塞栓組成物300’から拡散して、その後、治療薬を放出することも可能である(例えば、癌性腫瘍-図示せず)。この実施形態では、当該治療薬(単数又は複数)は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗生物質、植物アルカロイド及びホルモン剤などの抗新生物薬、抗血管新生化合物、並びに放射性物質(例えばイットリウム90)、又は放射性ヨウ素のような他の放射性医薬品を含んでもよいが、これらに限定されない。好ましい治療薬には、パクリタキセル若しくはイリノテカンなどの植物アルカロイド、又はドキソルビシン、テトラサイクリン、イダルビシン及びマイトマイシンなどのアントラサイクリン抗生物質が含まれ得る。
【0050】
図3E~
図3Fは、管腔304及び血管壁305を有する血管の長手方向断面図を示す。具体的には、
図3Eは、それぞれが担体303内に封入され、管腔304に塞栓形成するように示される実質的に固体の塞栓組成物300’内に分散されている複数の対象化合物302a及び302bを有する本発明の一実施形態を示す。対象化合物302bに対する対象化合物302aの選択及び比率は、所望の臨床結果に従って決定され得る。対象化合物302a対302bの相対濃度、担体303の選択、そのサイズ及び化学組成、並びに実質的に固体の塞栓組成物300’の透過性は、実質的に固体の塞栓組成物300’からの対象化合物302a及び302bの放出速度を決定する。例えば、対象化合物302a及び対象化合物302bが同様の濃度であるシナリオでは、両方の対象化合物が同様の速度で放出される可能性が高いことが予想される(図示せず)。
【0051】
図3Eに示す実施形態の一例では、対象化合物302aは放射線不透過剤であり、対象化合物302bは医薬品有効成分(API)などの治療薬である。放射線不透過剤及び治療薬の濃度は、所望の放射線不透過性、放射線不透過剤の放射線濃度に基づいて、並びに所望の治療結果及び治療薬の効力を考慮して決定することができる。例えば、放射線不透過剤及び治療薬は、実質的に固体の塞栓組成物300’中に2:1の比率で存在することができる(図示せず)。
【0052】
図3Fは、対象化合物302が、それぞれが固有の又は異なる担体303a及び303b内に封入され、実質的に固体の塞栓組成物300’内に分散されている対象化合物302aと別の対象化合物302bとの組み合わせである、本発明の一実施形態を示す。このシナリオでは、対象化合物302a及び302bの選択及び濃度、並びに対応する担体303a及び303bの選択及びサイズは、所望の臨床結果に従って決定することができる。例えば、担体303a及び303bの組成は、対象化合物302aについての所望の放出プロファイル及び対象化合物302bについての所望の放出プロファイル、並びに対象化合物302a及び302bのそれぞれの選択された担体との化学的適合性に基づいて選択され得る。例えば、対象化合物302aは親水性分子であり得、そして対象化合物302bは親油性分子であり得、各々は、それぞれ適合性担体303a及び303bを必要とする。
【0053】
図3Fに示す本発明の実施形態の更に別の例では、対象化合物302aは治療薬であり、対象化合物302bは医薬品有効成分(API)などの放射線不透過剤である。担体303a及び303bはそれぞれ、対象の化合物302a及び302bのそれぞれについて所望の放出プロファイルを生成するために、様々な又は異なる組成物から製造され得る。例えば、治療薬を数ヶ月又はおそらく数年にわたって放出し、放射線不透過剤を数日、数週間又は数ヶ月にわたって放出することが望ましい場合がある。
図3Gは、
図3Fに詳述される本発明の実施形態による、複数の対象化合物の潜在的な放出動態(すなわち、時間に対する各化合物の放出パーセンテージ)のグラフ表示を示す。この図において、示される放出曲線は、例示的な実質的に固体の塞栓組成物300’についてのものであり、治療薬を封入する担体303aは、放射線不透過剤を封入する担体303bの溶解速度及び/又は分解速度と比較して、より遅い溶解速度及び/又は分解速度を有する。これは、治療薬に対して放射線不透過剤のより遅い放出、外向き拡散及び/又は消散をもたらす。
【0054】
図3Hは、複数の対象化合物302a及び302bを含む本発明の更に別の実施形態を示す。この実施形態では、対象化合物302aは、担体303内に封入され、実質的に固体の塞栓組成物300’内に分散され、一方で、対象化合物302bは、担体内に封入されることなく実質的に固体の塞栓組成物300’と物理的に混合される。
【0055】
図3Hに提供される本発明の上記実施形態の一例では、対象化合物302aは放射線不透過剤であり、対象化合物302bは活性薬剤(API)などの治療薬である。放射線不透過剤は、担体303内に封入され、実質的に固体の塞栓組成物300’内に分散される。この例では、治療薬は、実質的に固体の塞栓組成物300’内に直接分散され、拡散を介して血流及び周囲組織(図示せず)内に放出され得るが、放射線不透過剤の放出は、担体303の溶解、分解、及び/又は拡散に依存する。しかしながら、治療薬の放出はまた、
図1A~
図1Dに示されるのと同様のメカニズムでの、水性媒体中の治療薬の飽和溶解度に依存する。この例の実質的に固体の塞栓組成物300’は、2つの異なるメカニズム(図示せず)を介してではあるが、放射線不透過性を失い、治療薬を経時的に放出する。明らかではあるが、この例示的な実施形態において提供される対象化合物は、必要に応じて逆にすることができる。すなわち、放射線不透過剤は、実質的に固体の組成物300’内に分散され得、治療薬は、担体303によって封入され得る。この場合、放射線不透過剤は拡散により放出可能であり、治療薬は担体303が分解又は溶解した後に放出可能である。
【0056】
図3Hに示す本発明の実施形態の別の例では、対象化合物302aは、活性薬剤(API)などの治療薬であり、対象化合物302bは、放射線不透過剤である。放射線不透過剤は、水性媒体に実質的に溶解せず、したがって、経時的に実質的に固体の塞栓組成物300’から拡散しないように選択又は修正されてもよい。しかしながら、治療薬は、担体303内に封入され、したがって、放射線不透過剤が実質的に固体の塞栓組成物300’内に捕捉又は隔離されたままである一方で、治療薬は、担体303の溶解、分解、及び/又は拡散により、実質的に固体の塞栓組成物300’から経時的に放出される。
【0057】
図3Iは、実質的に固体の塞栓組成物300’内に分散された放射線不透過剤を含む、
図3Hの実質的に固体の塞栓組成物300’を示す。
図3Iはまた、担体303の分解及び溶解後の血流及び周囲組織(図示せず)へのその完全な放出に起因する治療薬の不在を示す。この例の実質的に固体の塞栓組成物300’は、この例のために選択された放射線不透過剤が水性媒体に実質的に溶解しないので(
図3Hの説明において先に詳述したように)、放射線不透過性を永続的に維持しながら、治療薬を経時的に放出する。
【0058】
図3Aに示すような担体303中への対象化合物302の物理的封入に加えて、対象化合物302は、化学結合(図示せず)を介して担体303に化学的に結合することができる。例えば、担体303の表面を化学的に修飾して、対象化合物302に結合させることができる。別の実施形態では、対象化合物302は、担体303と共重合することができる(図示せず)。更に別の実施形態では、対象化合物302は、例えばコア-シェル複合体(図示せず)で担体303の表面上に物理的に適用することができる。
【0059】
本明細書中に提供される本発明の全ての実施形態において、実質的に固体の塞栓組成物100’及び300’のような実質的に固化した塞栓組成物の透過性は、その封入の方法にかかわらず、対象化合物の放出速度を制御する際に重要な役割を果たす。これは、透過性塞栓組成物が、より多くの生物学的流体が組成物に入ることを可能にし、対象化合物又はその担体の溶解及び拡散を容易にするという事実に起因する。本発明の塞栓組成物の透過性は、組成物内に細孔形成剤を含めるなど、当技術分野で一般に知られている技法を使用して調整することができる。細孔形成剤は、生物学的流体中に溶解して、所望の多孔質構造を作り出すことができる。合成又は天然の塩又は糖、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、クエン酸、ベーキングパウダー、及びこれらの混合物を含むがこれらに限定されない多数の周知の細孔形成剤が存在する。
【0060】
本発明の液体塞栓組成物の実施形態のレオロジー及び注入性は、対象化合物の存在によって影響され得る。したがって、その粘度などの塞栓組成物の物理的特性を所望のレベルに調整するために、組成物内に他の薬剤を含むことが望ましい場合がある。これらの薬剤としては、増粘剤、品質改良剤、ゲル化剤、及びポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸塩、キトサン、及びそれらの混合物などの硬化剤を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0061】
本明細書では、制御放出された液体塞栓組成物の実施形態の使用方法も提供される。
図4Aは、
図1A、
図2A、及び
図3Aに示されるもののような液体塞栓組成物の使用を詳述するフロー図を提供し、液体塞栓組成物のインプランテーションが一時的放射線不透過性を有することを詳述する。この方法では、当該技術分野で周知の従来のカテーテルベースのデバイス、材料、及び介入技法を使用して、処置される血管にアクセスする、典型的な介入塞栓形成手順が提案される。必要であれば、液体塞栓組成物の送達のために選択されたカテーテル又はマイクロカテーテルを、溶媒でプライミングする。このプライミングは、代表的には、選択された塞栓組成物が重合するか、又は沈殿するか、あるいは水性媒体若しくは血液と反応する場合に行われる。例えば、EVOH/DMSO/タンタルベースの液体塞栓システムでは、液体塞栓と水性媒体又は血液との早期接触が、所望される前に沈殿反応を誘発し得るため、カテーテル又はマイクロカテーテルは、典型的には、DMSOでプライミングされる。カテーテル又はマイクロカテーテルの先端が、選択的及び亜選択的血管造影法を使用して塞栓形成される標的血管に、又はその付近に位置付けられると、本発明の液体塞栓組成物が装填されたシリンジが、カテーテル又はマイクロカテーテルの近位注入ポートに取り付けられ得る。具体的には、
図4Aでは、塞栓組成物は、放射線不透過剤である対象化合物を含む。次いで、リアルタイム透視ガイダンス下で、液体塞栓組成物は、カテーテル又はマイクロカテーテルを介して注入され、医師操作者の裁量で、標的生体構造に十分に塞栓形成する。液体塞栓組成物は、実質的に液体の形態又は相から実質的に固体の形態又は相に変化して、標的血管の管腔(単数又は複数)に塞栓形成するか又は標的血管の管腔(単数又は複数)を閉塞する。この固体塞栓塊又はインプラントは、血管(複数可)内にキャストを効果的に形成する。手順(すなわち、液体塞栓物質の注入)が完了すると、医師操作者は、次いで、送達カテーテル又はマイクロカテーテルを患者の身体から静かに後退させ、除去する。インプランテーション時及びその後、
図4Aに提供される方法において説明される実質的に固化した液体塞栓塊は、次いで、その放射線不透過性を、術後撮像アーチファクトを低減若しくは排除する、並びに/又は任意の後続の画像診断及び/若しくは介入医療手順における可視化を改善するレベルまで、部分的又は完全に消散させることができる。
【0062】
代替の実施形態において、
図4Bに提供される方法は、第2の対象化合物、すなわち、制御放出を付与する治療薬(単数又は複数)を添加することを除いて、
図4Aに提供される方法工程と同一である。
図4Bに提供される方法における対象化合物の各々は、時間とともに塞栓塊から消散又は溶出し得る。具体的には、この実施形態では、本発明の液体塞栓組成物から形成された実質的に固化したキャスト又はインプラントの放射線不透過性は、その放射線不透過性を維持するか、あるいはその放射線不透過剤を部分的若しくは完全に消散若しくは溶出させて、術後撮像アーチファクトを低減若しくは排除し、かつ/又は任意のその後の画像診断及び/若しくは介入医療手順における可視化を改善し、同時に1つ以上の治療薬を制御された様式で放出することができる。当業者には明らかであり、前述したように、複数の対象化合物を含有する特定の液体塞栓組成物は、異なる対象化合物の複数の順列(例えば、放射線不透過剤のみ、放射線不透過剤及び1つ若しくは複数のAPI、1つ若しくは複数のAPIのみ、他の放射性物質若しくは放射性医薬品又はそれらの組み合わせ)を使用して、それらの量/濃度、溶出動態及びタイミングなどを特定の臨床用途又は結果に合わせて調整して設計することができる。
【国際調査報告】