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特表2023-540546機能的近赤外分光法による耳鳴りの特徴づけ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】機能的近赤外分光法による耳鳴りの特徴づけ
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20230915BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
A61B10/00 J
A61B10/00 E
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514997
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(85)【翻訳文提出日】2023-05-08
(86)【国際出願番号】 AU2021051030
(87)【国際公開番号】W WO2022047546
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】2020903177
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519044955
【氏名又は名称】ザ・バイオニクス・インスティテュート・オブ・オーストラリア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】メールナーズ・ショシュタリアン
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ファロン
(72)【発明者】
【氏名】コレット・マッカイ
(72)【発明者】
【氏名】シュレヤシ・ダッタ
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KL07
4C038VB02
4C038VC02
(57)【要約】
本開示は、機能的近赤外分光法(fNIRS)を使用して被験者の耳鳴りを特徴付ける方法を開示する。該方法は、処理装置において、被験者の脳の1つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含むデータを受信することを含む。前記受信したデータは、前記プロセッサ装置を使用して、前記受信したデータの1つ以上の特徴を含む1つ以上の特徴量をモデルに入力することによって処理される。前記モデルは、前記1つ以上の特徴量に基づいて、前記被験者の耳鳴りの少なくとも1つの特徴を示す1つ以上の分類結果を提供するように構成される。本開示はまた、前記開示された方法を適用するシステムを開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的近赤外分光法(fNIRS)を使用して被験者の耳鳴りを特徴付ける方法であって、
プロセッサ装置において、被験者の脳の1つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含むデータを受信する工程と、
前記プロセッサ装置を使用して受信したデータを処理する工程であって、
前記受信したデータの1つ以上の特徴を含む1つ以上の特徴量をモデルに入力することを含み、
前記モデルが前記1つ以上の特徴量に基づいて、前記被験者の耳鳴りの少なくとも1つの特徴を示す1つ以上の分類結果を提供するように構成される工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記分類結果は、前記被験者における耳鳴りの有無を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分類結果は、前記被験者の耳鳴りの重症度評価を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記重症度評価は、耳鳴りを微度ないし軽度の耳鳴り、または中等度ないし重度の耳鳴りに分類することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記モデルは、耳鳴りの音の大きさの定量化をさらに提供することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記モデルは、耳鳴りにより生じるうるささの定量化をさらに提供することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記特徴量は、情報利得を用いて抽出されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記モデルは、学習済みモデルを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記モデルは、耳鳴りの特徴の主観的尺度にマッピングされた前の1つ以上の特徴量に基づいて、人工知能(AI)アルゴリズムを用いて訓練されたことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記モデルは、ナイーブベイズ、K-最近傍(KNN)、規則帰納、人工ニューラルネットワーク(ANN)およびマルチレベル階層分類からなる群から選択される分類アルゴリズムを使用して分類結果を提供することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
耳鳴りを処置するための治療法を適用する工程と、前記受信したデータの前記処理によって、前記治療法を適用した結果として、耳鳴りの1つ以上の特徴の変化を検出する工程とをさらに含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
各fNIRS信号の品質を決定することと、前記受信したデータを処理する前に、品質が不十分な信号を除去することとを含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
各fNIRS信号の品質は、信号利得のレベルおよび心臓信号成分のレベルの1つ以上に基づいて決定されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記脳の1つ以上の領域は、前頭部、左側頭部、右側頭部、および後頭部皮質領域のうちの1つ以上を含むことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
fNIRS信号は、前記被験者の脳の前頭部、左側頭部、右側頭部および後頭部皮質領域の各々から測定されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記fNIRS信号は、各チャネルが光源-検出器光源-検出器によって画成されるマルチチャネルfNIRSシステムを使用して測定された複数の信号を含むことを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記fNIRS信号は、前記被験者の脳の前記領域の各々の上に配置される複数のチャネルからの信号を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのfNIRS信号は、頭皮および/または頭蓋骨を含む前記被験者の頭部の少なくとも1つの表層からの全身性信号を示すことを特徴とする請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記fNIRSシステムは連続波fNIRSシステムを含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記fNIRS信号は、前記被験者の脳内のオキシヘモグロビン(OHb)濃度の変化を示す信号を含むことを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記fNIRS信号は、前記被験者の脳内のデオキシヘモグロビン(HHb)濃度の変化を示す信号を含むことを特徴とする請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記受信したデータは、前記被験者が安静状態にあるときに該被験者の脳の2つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む安静時のデータを含み、前記データの処理は、前記安静時のデータに基づいて、前記被験者の脳の少なくとも2つの領域間の少なくとも1つの安静時の機能結合尺度を決定することをさらに含むことを特徴とする請求項1から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記安静時のデータは、前記被験者に刺激を供給する前に得られたfNIRS信号を含むことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記安静時のデータは、約6分間の期間内に得られたfNIRS信号を含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記安静時の機能結合尺度は、
前記被験者の脳の少なくとも1つの領域をシード領域として選択することと、
前記シード領域からのシードfNIRS信号を、前記被験者の脳の少なくとも1つの他の領域からの少なくとも1つのfNIRS信号と相関させることとを含むシード分析法によって決定されることを特徴とする請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記シードfNIRS信号は、前記シード領域からの複数のfNIRS信号の平均を含むことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記被験者の脳の側頭皮質は前記シード領域として選択されることを特徴とする請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記側頭皮質シード領域からの前記シードfNIRS信号は、前記被験者の脳の前頭皮質領域および/または後頭皮質領域からの少なくとも1つのfNIRS信号と相関することを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記被験者の脳の左側頭皮質および右側頭皮質の両方は、それぞれ左シード領域と右シード領域として選択されることを特徴とする請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記受信したデータは、前記被験者に供給された少なくとも1つの刺激に起因する前記被験者の脳の少なくとも1つの領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む誘発反応データを含み、前記1つ以上の特徴量は、前記誘発反応データの1つ以上の特徴を含むことを特徴とする請求項1から29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記特徴量は、誘発反応データの1つ以上の振幅を含むことを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの刺激は聴覚刺激を含むことを特徴とする請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記聴覚刺激はピンクノイズを含むことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記聴覚刺激は、約65dBの音圧レベルで提供されることを特徴とする請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1つの刺激は視覚刺激を含むことを特徴とする請求項30から34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記視覚刺激は、前記被験者の強い皮質反応を喚起するように構成されることを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記視覚刺激は、白黒の市松模様の表示を含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記市松模様は、セクタに分割された同心円状のリングを含む放射状構成を含み、隣接するセクタは反対色であることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記視覚刺激は、約7.5Hzの時間周波数で前記市松模様を反転させることを含むことを特徴とする請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
少なくとも1つの刺激は、前記被験者に順番に供給される複数の個別の刺激を含むことを特徴とする請求項30から39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
複数の聴覚刺激および複数の視覚刺激は、実質的にランダムな順序で前記被験者に供給されることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
各刺激は約15秒の継続期間を有することを特徴とする請求項30から41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
各刺激が供給された後に、刺激が供給されない休止期間が続くことを特徴とする請求項30から42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
各休止期間は、約20秒から約30秒の継続時間を有することを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記誘発反応データは、少なくとも1つの刺激の供給中に記録されたfNIRS信号を含むことを特徴とする請求項30から44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記誘発反応データは、各刺激の供給中および供給後に記録されたfNIRS信号を含むことを特徴とする請求項45に記載の方法。
【請求項47】
プロセッサ装置に請求項1から46のいずれか1項に記載の方法を実行させるように構成された命令を含むことを特徴とする非一時的な機械可読記憶媒体。
【請求項48】
機能的近赤外分光法(fNIRS)を使用して被験者の耳鳴りを特徴付けるシステムであって、
被験者の脳の1つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含むデータを受信する工程と、
前記受信したデータを処理する工程であって、
前記受信したデータの1つ以上の特徴を含む1つ以上の特徴量をモデルに入力することを含み、
前記モデルが前記1つ以上の特徴量に基づいて、前記被験者の耳鳴りの少なくとも1つの特徴を示す1つ以上の分類結果を提供するように構成される工程とを実行するように構成されたプロセッサ装置を含むことを特徴とするシステム。
【請求項49】
前記受信したデータは、前記被験者が安静状態にあるときに該被験者の脳の2つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む安静時のデータを含み、前記データの処理は、前記安静時のデータに基づいて、前記被験者の脳の少なくとも2つの領域間の少なくとも1つの安静時の機能結合尺度を決定することをさらに含むことを特徴とする請求項48に記載のシステム。
【請求項50】
前記受信したデータは、前記被験者に供給された少なくとも1つの刺激に起因する前記被験者の脳の少なくとも1つの領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む誘発反応データを含み、前記1つ以上の特徴量は、前記誘発反応データの1つ以上の特徴を含むことを特徴とする請求項48または49に記載のシステム。
【請求項51】
前記モデルは、人工知能(AI)アルゴリズムを用いて訓練された学習済みモデルであることを特徴とする請求項48から50のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項52】
前記被験者の脳の少なくとも2つの領域における皮質活動レベルを測定するように構成されたfNIRSシステムをさらに含むことを特徴とする請求項48から51のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項53】
少なくとも1つの刺激は聴覚刺激を含むことを特徴とする請求項48から52のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項54】
前記聴覚刺激を前記被験者に供給するように構成された聴覚刺激装置をさらに含むことを特徴とする請求項53に記載のシステム。
【請求項55】
少なくとも1つの刺激は視覚刺激を含むことを特徴とする請求項48から54のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項56】
前記視覚刺激を前記被験者に供給するように構成された視覚刺激装置をさらに含むことを特徴とすることを特徴とする請求項55に記載のシステム。
【請求項57】
前記fNIRSシステムは、各チャネルが光源-検出器の対によって画成されるマルチチャネルfNIRSシステムを含むことを特徴とする請求項48から56のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項58】
前記被験者の脳の前頭部、左側頭部、右側頭部、および後頭部領域の各々の上に配置されるように構成された1つ以上のチャネルを含むことを特徴とする請求項57に記載のシステム。
【請求項59】
少なくとも1つの分類結果を表示するように構成されたディスプレイをさらに含むことを特徴とする請求項48から58のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項60】
ユーザー入力モジュールをさらに含むことを特徴とする請求項48から59のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耳鳴りを特徴付けるための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
耳鳴りは、外部に存在しない不要な音が耳の中で聞こえることを特徴とする症状である。慢性耳鳴りは、成人の6~20%に影響を及ぼし、彼らの生活の質に重大な影響を及ぼし得る有害な健康状態である。耳鳴りに罹患している成人の約20%は、うつ病、認知機能障害およびストレスのような関連症状とともに、重度の耳鳴りを経験する。
【0003】
耳鳴りは有病率が高いにもかかわらず、現在、耳鳴りを評価するために臨床的に使用される客観的なテストは存在しない。一般に、耳鳴りの臨床的評価は、個体からの主観的なフィードバックに依存しており、不正確である可能性がある。
【0004】
本明細書に含まれる文書、操作、材料、装置、物品などに関するいかなる議論は、これらの事項のいずれかまたはすべてが、本願の各請求項の優先日以前に存在したという理由から、これらの事項のいずれかまたはすべてが従来技術の基礎の一部を形成するか、もしくは本発明の関連分野に共通する一般的な知識であると認めるべきではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、機能的近赤外分光法(fNIRS)を使用して被験者の耳鳴りを特徴付ける方法であって、
プロセッサ装置において、被験者の脳の1つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含むデータを受信する工程と、
前記プロセッサ装置を使用して受信したデータを処理する工程であって、
前記受信したデータの1つ以上の特徴を含む1つ以上の特徴量をモデルに入力することを含み、
前記モデルが前記1つ以上の特徴量に基づいて、前記被験者の耳鳴りの少なくとも1つの特徴を示す1つ以上の分類結果を提供するように構成される工程とを含む方法が提供される。
【0006】
機能的近赤外分光法(fNIRS、光トモグラフィーとも呼ばれる)は、脳の皮質領域におけるヘモグロビン(Hb)濃度の変化を測定するために使用され得る非侵襲性の光学イメージング技術である。皮質脳活動は、これらの測定値から推測することができる。fNIRS信号は、被験者の脳内のオキシヘモグロビン(OHb)濃度の変化を示す信号および/またはデオキシヘモグロビン(HHb)濃度の変化を示す信号を含み得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、fNIRS信号は、前頭部、左側頭部、右側頭部および後頭部皮質領域のうちの1つ以上を含む被験者の脳領域における活動を示し得る。いくつかの実施形態では、被験者の脳領域は、被験者の脳の前頭部、左側頭部、右側頭部および後頭部皮質領域の各々を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、分類結果は、被験者における耳鳴りの有無を含み得る。追加的にまたは代替的に、分類結果は、被験者の耳鳴りの重症度評価を含み得る。いくつかの実施形態では、重症度評価は、耳鳴りを微度ないし軽度の耳鳴り、または中等度ないし重度の耳鳴りに分類することができる。他の実施形態では、重症度評価はより多くのカテゴリから選択され得る。例えば、可能な評価は、微度の耳鳴り、軽度の耳鳴り、中等度の耳鳴りおよび重度の耳鳴り、または他のカテゴリを含み得る。いくつかの実施形態では、重症度評価は、一連の重症度から選択され得る。例えば、重症度評価は、数値尺度で表すことができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、上記モデルは、耳鳴りの音の大きさおよび/または耳鳴りにより生じるうるささの定量化(例えば、被験者が知覚するように)をさらに提供することができる。音の大きさおよび/またはうるささの定量化の提供は、例えば、被験者の生活の質に対する耳鳴りの影響を評価する際に有用であり得る。音の大きさおよび/またはうるささの定量化は、耳鳴りの治療法の開発や、そのような治療法の相対的な成功を評価するためのパラメータを定義する際にも有用であり得る。
【0010】
特徴量は、1つまたは複数の方法を使用して、受信データから抽出することができる。いくつかの実施形態では、特徴量は、情報利得を用いて、受信データから抽出される。情報利得は、最も関連性の高い分類情報を用いてチャネルおよびOHb/HHbの特徴の識別を可能にする、データにおけるエントロピーの尺度である。例えば、情報利得は、分類における特徴の重みまたは重要度に基づいて、これらの特徴にランク付けすることによって、最も関連性の高い特徴を選択するために使用され得る。他の実施形態では、代替の特徴選択方法が使用可能である。特徴量は、例えば、ジニ指数、SVM(Support Vector Machine、サポートベクターマシン)重み、ラッパー法、または他の適切な方法(例えば、異なるエントロピー法)の1つまたは複数を使用して抽出され得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、モデルはアルゴリズムを含み得る。いくつかの実施形態では、モデルは、学習済みモデルを含み得る。モデルは、例えば、前の1つ以上の特徴量に基づいて人工知能(AI)アルゴリズムを用いて訓練され得る。上記前の1つ以上の特徴量は、耳鳴りの特徴の主観的尺度にマッピングされている場合がある。
【0012】
このモデルは、分類アルゴリズムを使用して分類結果を提供することができる。分類アルゴリズムは、例えば、ナイーブベイズ、K-最近傍(KNN)、規則帰納および人工ニューラルネットワーク(ANN)からなる群から選択され得る。他の実施形態では、代替の分類アルゴリズムまたはカスタマイズされたアルゴリズムが使用され得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、分類アルゴリズムは、各レベルにおいてバイナリ分類器を使用したマルチレベル階層分類であり得る。この分類方法は、各コンポーネントバイナリ分類モジュールに最も関連性の高い特徴を選択するときの柔軟性を向上させるため、単一レベルの分類器と比較して利点を提供することができる。また、単一レベルのマルチクラス分類と比較して、この方法は改善された分類性能を提供することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、この方法は、耳鳴りを処置するための治療法を適用する工程と、受信したデータの処理によって、治療法を適用した結果として、耳鳴りの1つ以上の特徴の変化を検出する工程とをさらに含み得る。治療法を適用した結果として検出された変化は、適用された治療法の有効性などを評価するために使用され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、モデルは、耳鳴りを治療するために提案された治療法が被験者の耳鳴りを治療するのに有効であるか否かを示す予後尺度を提供するように構成され得る。一例として、このモデルは、被験者の耳鳴りの治療として人工内耳移植が有効であるか否かを示す予後尺度を提供するように構成され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、この方法は、各fNIRS信号の品質を決定することと、受信したデータを処理する前に、品質が不十分な信号を除去することを含み得る。各fNIRS信号の品質は、例えば、信号利得のレベルに基づいて決定することができる。高い利得を有するチャネルは、検出された光強度が不十分であることを示す場合がある。代替的にまたは追加的に、各fNIRS信号の品質は、(fNIRS装置の記録オプトードと被験者の頭皮との接触度合いを示す指標として)心臓信号成分のレベルに基づいて決定され得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、受信したデータを処理する前に、信号品質を改善するために、fNIRS信号に前処理工程を実施し得る。いくつかの実施形態では、受信したデータを処理する前に、アルゴリズム(例えば、動き低減アルゴリズム)を使用して、fNIRS信号からモーションアーチファクトを検出して除去することができる。追加的にまたは代替的に、最大閾値を超えるモーションアーチファクトを含む信号は、品質が不十分であると判定され、受信したデータを処理する前に除去され得る。
【0018】
本明細書のいずれかの態様において、fNIRS信号は、被験者の脳の1つ以上の領域における皮質活動レベルを測定するfNIRSシステムを使用して得られた複数の信号を含み得る。fNIRSシステムは、マルチチャネルfNIRSシステムを含み得る。各チャネルは、光源-検出器の対によって画成され得る。fNIRSシステムは、連続波fNIRSシステムを含み得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、fNIRS信号は、被験者の脳の各領域の上に配置される複数のチャネルからの信号を含み得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのfNIRS信号は、頭皮および/または頭蓋骨を含む被験者の頭部の少なくとも1つの表層からの全身性信号を示し得る。このようなシステム信号は、例えば、不要なアーチファクトまたは雑音を除去するために、受信したデータの前処理に使用され得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、受信したデータは、安静時のデータを含み得る。安静時のデータは、被験者が安静状態にあるときの該被験者の脳の2つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含み得る。このような実施形態では、データを処理することは、安静時のデータに基づいて、被験者の脳の少なくとも2つの領域間の少なくとも1つの安静時の機能結合尺度を決定することをさらに含み得る。安静時の機能結合は、異なる神経集団間の協調レベルの尺度(またはこの協調レベルを示すもの)である。1つ以上の特徴量は、少なくとも1つの安静時の機能結合尺度の1つ以上の特徴を含み得る。
【0021】
安静時のデータは、被験者に刺激(例えば、聴覚または視覚刺激)が供給されていない期間中、または何らかの刺激(例えば、聴覚または視覚刺激)が被験者に供給される前に得られたfNIRS信号を含み得る。一例では、安静時のデータは、約6分間の期間において取得されたfNIRS信号を含む。他の実施形態では、安静時のデータは、より短いかまたはより長い継続期間を有する期間において取得することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、安静時の機能結合尺度は、シード分析法を使用して安静時のデータから決定することができる。シード分析法は、被験者の脳の少なくとも1つの領域をシード領域として選択することと、シード領域からのシードfNIRS信号を、被験者の脳の少なくとも1つの他の領域からの少なくとも1つのfNIRS信号と相関させることとを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、被験者の脳の側頭皮質がシード領域として選択され得る。他の実施形態では、被験者の脳の他の領域がシード領域として選択され得る。シード領域からのシードfNIRS信号は、被験者の脳の他の領域からの少なくとも1つのfNIRS信号と相関させることができる。例えば、シードfNIRS信号は、被験者の脳の前頭皮質領域、後頭皮質領域、および/または対側の側頭部、または被験者の脳の他の領域と相関させることができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、2つ以上のシード領域が選択され得る。例えば、左右側の安静時の機能結合尺度の各々を決定するために、被験者の脳の左右側のシード領域が選択され得る。いくつかのこのような実施形態では、被験者の脳の左側および右側の側頭皮質の両方が、それぞれ左側および右側のシード領域として選択される。
【0024】
いくつかの実施形態では、シードfNIRS信号は、シード領域からの複数のfNIRS信号の平均を含み得る。シードfNIRS信号は、被験者の脳の別の領域におけるチャネルで得られた値と相関させることができる。各チャネルとの相関は、個別的に評価されてもよく、(例えば、領域全体にわたって)平均化して評価されてもよい。相関は、OHb濃度測定値を含むfNIRS信号および/またはHHb濃度測定値を含むfNIRS信号に対して実施され得る。
【0025】
他の実施形態では、少なくとも1つの安静時の機能結合尺度を決定するために、追加的にまたは代替的に、他の結合分析方法が使用され得る。例えば、安静時の結合を分析する他の時間領域および/または周波数領域方法が使用され得る。一例として、安静時の機能結合は独立成分解析(ICA)を用いて決定され得る。ICAにより、脳内の複数のネットワークを解析することが可能となり、fNIRS信号から空間的に独立した多数の成分を生成する。これらの成分は、休止状態のネットワークを互いに分離し、雑音から分離することができる。別の例として、安静時の機能結合尺度は、グラフ接続分析を用いて決定され得る。グラフ接続分析では、選択されたノード間の相関が計算され、この相関はノード間のエッジで表される。ノードの接続方法および接続の強さは、群間や重症度レベルが異なる耳鳴り患者間で比較することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、受信したデータは、被験者に供給された少なくとも1つの刺激に起因する被験者の脳の少なくとも1つの領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む誘発反応データを含む。誘発反応データは、各刺激の供給中に記録されたfNIRS信号を含み得る。誘発反応データは、少なくとも1つの刺激の供給中および/または供給後に記録されたfNIRS信号を含み得る。
【0027】
このような実施形態では、1つ以上の特徴量は、誘発反応データの1つ以上の特徴を含み得る。いくつかの実施形態では、特徴量は、誘発反応データの1つ以上の振幅を含み得る。例えば、特徴量は、ピーク振幅、絶対ピーク振幅、または平均振幅を含み得る。
【0028】
代替的にまたは追加的に、特徴量は誘発反応データの代替特徴を含み得る。例えば、特徴量は、分散、曲線下面積、曲線下絶対面積、ピーク電力振幅、波形のエントロピー、波形の時間的コンテンツおよび波形のスペクトルコンテンツのうちの1つ以上を含み得る。別の例として、特徴量は、主成分分析を用いて計算された応答波形の「主成分」を含み得る。主成分分析では、1つ以上の刺激に対するすべての誘発反応が考慮され、反応の主成分が算出される。そして、これらの成分の多く(例えば、最初の10個の成分、またはデータの変動の大部分をカバーする成分)は、特徴量とすることができる。場合によっては、特徴量は事前定義された期間にわたって決定されることがある。この期間は、例えば、刺激の継続期間、聴覚刺激の開始後0秒間~5秒間、視覚刺激の開始後10秒間~15秒間、または他の適切な期間とすることができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、一般線形モデル(GLM)を使用して、誘発反応データを典型的な血行力学的反応関数のモデルと比較することができる。この比較に基づいて、反応が検出されたか否かを示す係数を生成することができる。また、この係数は誘発反応データの特徴量として機能し得る。追加的にまたは代替的に、誘発反応データの特徴量をモデルの血行力学的反応の対応する特徴と比較して、誘発反応データと典型的な血行力学的反応との相関を決定することができる。
【0030】
少なくとも1つの刺激は、聴覚刺激を含み得る。いくつかの実施形態では、聴覚刺激はピンクノイズを含み得る。いくつかの実施形態では、聴覚刺激は約65dBの音圧レベルで提供され得る。追加的にまたは代替的に、他の形態の聴覚刺激が使用され得る。
【0031】
少なくとも1つの刺激は視覚刺激を含み得る。視覚刺激は、被験者の強い皮質反応を喚起するように構成され得る。いくつかの実施形態では、視覚刺激は、例えば白黒パターン(市松模様など)のようなパターンの表示を含み得る。市松模様は、セクタに分割された同心円状のリングを含む放射状構成を含み得、隣接するセクタは反対色である。視覚刺激は、パターンの繰り返し反転(またはちらつき)を含み得る。パターンの反転は、約7.5Hzの時間周波数(すなわち、1秒あたり約15回の反転)で行うことができる。追加的にまたは代替的に、他の形態の視覚刺激が使用され得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激は、被験者に順番に供給される複数の個別の刺激を含み得る。少なくとも1つの刺激は、複数の聴覚刺激、複数の視覚刺激、または少なくとも1つの聴覚刺激と少なくとも1つの視覚刺激との組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、この方法は、複数の聴覚刺激および複数の視覚刺激を順番に供給することを含み得る。例えば、複数の聴覚刺激および複数の視覚刺激は交互の順序で供給され得る(例えば、1つの聴覚刺激を1つの視覚刺激と交互にしたり、1つ以上の聴覚刺激を1つ以上の視覚刺激と交互にしたりする)。あるいは、複数の聴覚刺激および複数の視覚刺激は、異なる所定の順序で、または実質的にランダムな順序で与えられ得る。いくつかの実施形態では、複数の聴覚刺激および複数の視覚刺激は、同じ刺激タイプ(例えば、視覚または聴覚)が連続して2回を超えないように、(例えば、擬似ランダムに)与えられ得る。
【0033】
各刺激は、設定された継続期間を有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、各刺激は約15秒の継続期間を有し得る。しかしながら、他の継続期間を有する刺激も使用され得る。いくつかの実施形態では、各刺激は実質的に同一の継続期間を有し得る。他の実施形態では、刺激の継続期間は変化し得る。
【0034】
各刺激の後に、刺激が供給されない休止期間が続き得る。各休止期間は、所定の継続時間を有し得る。例えば、各休止期間は、約20秒から約30秒の継続時間、またはそれ以上の継続時間を有し得る。例えば、各休止期間は、約20秒、約25秒、約30秒、またはそれ以上の継続時間を有し得る。いくつかの実施形態では、各休止期間は実質的に同一の継続期間を有し得る。他の実施形態では、休止期間の継続時間は変化し得る。いくつかの実施形態では、休止期間の継続時間はランダムに選択され得る。本開示の一態様によれば、本開示に係る方法をプロセッサ装置に実行させるように構成された命令を含む、非一時的な機械可読記憶媒体が提供される。
【0035】
本発明の別の態様によれば、機能的近赤外分光法(fNIRS)を使用して被験者の耳鳴りを特徴付けるシステムであって、
被験者の脳の1つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含むデータを受信する工程と、
前記受信したデータを処理する工程であって、
前記受信したデータの1つ以上の特徴を含む1つ以上の特徴量をモデルに入力することを含み、
前記モデルが前記1つ以上の特徴量に基づいて、前記被験者の耳鳴りの少なくとも1つの特徴を示す1つ以上の分類結果を提供するように構成される工程とを実行するように構成されたプロセッサ装置を含むシステムが提供される。
【0036】
いくつかの実施形態では、受信したデータは、被験者が安静状態にあるときの該被験者の脳の少なくとも1つにおける皮質活動を示すfNIRS信号を含む安静時のデータを含み得る。このような実施形態では、データを処理することは、安静時のデータに基づいて、被験者の脳の少なくとも2つの領域間の少なくとも1つの安静時の機能結合尺度を決定することをさらに含み得る。1つ以上の特徴量は、少なくとも1つの安静時の機能結合尺度の1つ以上の特徴を含み得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、受信したデータは、被験者に供給された少なくとも1つの刺激に起因する被験者の脳の少なくとも1つの領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む誘発反応データを含む。このような実施形態では、1つ以上の特徴量は、誘発反応データの1つ以上の特徴を含み得る。一般に、このシステムは、受信したデータの前処理、受信したデータの処理、またはその他の処理に関するものを含め、上述の実施形態で説明された方法工程のうちのいずれか1つまたは複数を実行するように構成され得る。
【0038】
このシステムは、被験者の脳の少なくとも2つの領域における皮質活動レベルを測定するように構成されたfNIRSシステムをさらに含み得る。fNIRSシステムは、マルチチャネルシステムを含み得る。例えば、fNIRSシステムは、被験者の脳の少なくとも2つの領域の各々の上に配置されるように構成された複数のチャネルを含み得る。一例では、fNIRSシステムは、被験者の脳の前頭部、左側頭部、右側頭部、および後頭部領域の各々の上に配置されるように構成された複数チャネルを含む。
【0039】
このシステムは、被験者に聴覚刺激を供給するように構成された聴覚刺激装置をさらに含み得る。このシステムは、被験者に視覚刺激を供給するように構成された視覚刺激装置をさらに含み得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、このシステムは、1つ以上の分類結果を表示するように構成されたディスプレイをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、このシステムは、ユーザー入力モジュールをさらに含み得る。
【0041】
一般に、本開示の実施形態によるプロセッサ装置は、本開示に係る処理工程を実行するための1つ以上の処理コンポーネントを含み得、安静時のデータおよび/または誘発反応データなどのデータを記憶するための1つ以上の記憶装置も含み得ることが認識されるであろう。処理コンポーネントおよび/または記憶装置は、1つの場所に配置され得、複数の場所に分散され、かつ1つ以上の通信リンクを介して相互接続され得る。
【0042】
本明細書全体を通じて、語句「~を含む(comprise)」または「~を含み(comprises)」もしくは「~を含んでいる(comprising)」などの変化形は、明記される要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップのグループを含むことを示唆するものとして理解されるが、他の要素、整数もしくはステップ、または他の要素、整数もしくはステップのグループを除外することを示唆するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
例示に過ぎないが、以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。
【0044】
図1】本開示の一実施形態による、fNIRSを使用して被験者の耳鳴りを特徴付ける方法の工程のフローチャートである。
図2】本開示の別の実施形態による、fNIRSを使用して被験者の耳鳴りを特徴付ける方法の工程のフローチャートである。
図3】本開示の実施形態による、fNIRSを使用して耳鳴りを特徴付けるためのシステムの概略図である。
図4】fNIRS試験に先立って、被験者に対して実施された純音聴力検査試験の例を示す図である。
図5図3のシステム内のマルチチャネルfNIRSシステムにおける光源-検出器チャネルのレイアウトの詳細を示す図である。
図6図2の方法に従ってデータを取得するための例示的なfNIRS試験セッションのタイムラインを示す図である。
図7】前頭部チャネルを有する側頭シードと後頭部チャネルを有する側頭シードとの間の安静時の機能結合尺度の比較を示す図である。
図8A】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したOHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図8B】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したOHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図8C】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したOHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図8D】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したOHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図8E】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したHHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図8F】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したHHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図8G】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したHHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図8H】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したHHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図9A】楔部および上後頭回上の後頭部チャネルから記録されたOHbおよびHHb視覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図9B】楔部および上後頭回上の後頭部チャネルから記録されたOHbおよびHHb視覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図10A】関心のある聴覚領域および視覚領域にわたって平均化された、群平均化したOHbおよびHHb聴覚および視覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図10B】関心のある聴覚領域および視覚領域にわたって平均化された、群平均化したOHbおよびHHb聴覚および視覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図11】耳鳴りの継続時間に伴うOHb由来の側頭-前頭部結合の変化(パネルA)と、音の大きさの主観的評価に伴うHHb由来の側頭-後頭部結合の変化(パネルB)を示す図である。
図12】人工内耳のスイッチを入れたり切ったりするときの、15秒間の視覚刺激に対する人工内耳の装用者2人の代表的な視覚誘発反応を示す図である。
図13】被験者の人工内耳のスイッチを切ったときの右シードの側頭-前頭部結合と、人工内耳のスイッチを入れたり切ったりしたときの音量感覚の変化を示す図である。
図14】楔部と上後頭回上の後頭部チャネルから記録されたOHb視覚誘発反応を示す図である。
図15A】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したHHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図15B】左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したHHb fNIRS聴覚誘発反応をそれぞれ示す図である。
図16A】視覚誘発反応の特徴量として10~15秒にわたる絶対曲線下面積を用いた、耳鳴り被験者からのチャネル24 fNIRSデータと対照者からのチャネル24 fNIRSデータとの比較を示す図である。
図16B】聴覚誘発反応の特徴量として0~5秒にわたる平均振幅を用いた、耳鳴り被験者からのチャネル11 fNIRSデータと対照者からのチャネル11 fNIRSデータとの比較を示す図である。
図16C】視覚誘発反応の特徴量として0~15秒にわたる絶対ピーク振幅を用いた、耳鳴り被験者からのチャネル24 fNIRSデータと対照者からのチャネル24 fNIRSデータとの比較を示す図である。
図16D】視覚誘発反応の特徴量として0~15秒にわたるエポックの分散を用いた、耳鳴り被験者からのチャネル21 fNIRSデータと対照者からのチャネル21 fNIRSデータとの比較を示す図である。
図16E】聴覚誘発反応の特徴量として0~15秒にわたる最大電力を用いた、耳鳴り被験者からのチャネル34 fNIRSデータと対照者からのチャネル34 fNIRSデータとの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本開示の実施形態による、機能的近赤外分光法(fNIRS)を使用して被験者の耳鳴りを特徴付ける方法について説明する。
【0046】
図1のフローチャート100を参照して、本開示の一実施形態による被験者の耳鳴りを特徴付ける方法が示される。この方法は、プロセッサ装置130においてデータ110を受信することを含む。受信したデータ110は、被験者の脳の1つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む。
【0047】
fNIRS信号は、被験者の脳の皮質領域におけるデオキシヘモグロビン(HHb)濃度および/またはオキシヘモグロビン(OHb)濃度の変化を示す信号を含み得る。測定された領域における皮質脳活動は、これらの測定値から推測することができる。
【0048】
fNIRS信号は、フィルタリング、ダウンサンプリング、または別の方法による前処理が行われ得る。いくつかの実施形態では、fNIRS信号は、品質が不十分な信号を除去するために前処理され得る。例えば、受信したデータをさらに処理する前に、各信号の品質が決定され、品質が不十分な信号がデータから除去され得る。代替的にまたは追加的に、受信したデータをさらに処理する前に、(例えば、動きまたは他の干渉に起因する)fNIRS信号内の望ましくないアーチファクトが信号からフィルタリングされ得る。これについては、以下の実施例1においてさらに詳細に説明する。別の実施形態、例えば、AIアルゴリズムを使用した実施形態では、品質が不十分な信号および/または望ましくないアーチファクトを信号内に残すことができ、アルゴリズムはこれらの信号/アーチファクトからのデータを無視するように訓練される。
【0049】
そして、受信したデータ110から抽出された1つ以上の特徴を含む1つ以上の特徴量150がモデル160に入力される。
【0050】
モデル160は、学習済みモデルを含み得る。例えば、モデル160は、耳鳴りの特徴の主観的尺度にマッピングされた前の1つ以上の特徴量に基づいて、人工知能(AI)アルゴリズムを用いて訓練され得る。モデル160は、1つ以上の特徴量160に基づいて、被験者の耳鳴りの少なくとも1つの特徴を示す1つ以上の分類結果170を提供するように構成され得る。分類結果170は、例えば、被験者における耳鳴りの有無、被験者の耳鳴りの重症度、耳鳴りの音の大きさの定量化、および/または耳鳴りにより生じるうるささの定量化を含み得る。分類結果は、ナイーブベイズ、K-最近傍(KNN)、規則帰納、人工ニューラルネットワーク(ANN)、またはマルチレベル階層分類などの適切な分類アルゴリズムを使用して決定することができる。
【0051】
図2に示すように、データは、プロセッサ装置130において受信された、安静時のデータ111および/または誘発反応データ112を含み得る。
【0052】
安静時のデータ111は、被験者が安静状態にあるときの該被験者の脳の2つ以上の領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む。安静時のデータ111に基づいて(任意の前処理工程が行われた後)、少なくとも1つの安静時の機能結合尺度140が被験者の脳の少なくとも2つの領域間で決定される。安静時の機能結合尺度140は、例えば、シード分析法(以下でさらに詳細に説明する)を使用して決定することができるが、必要に応じて結合を決定するための他の方法も使用可能である。
【0053】
誘発反応データ112は、被験者に供給された少なくとも1つの刺激に起因する被験者の脳の少なくとも1つの領域における皮質活動を示すfNIRS信号を含む。この方法は、被験者に少なくとも1つの刺激を供給する工程と、誘発反応データ112を記録する工程とを含み得る。誘発反応データ112は、刺激の供給中および/または供給後に記録されたfNIRS信号に対応し得る。
【0054】
1つ以上の特徴量150は、安静時の機能結合尺度140の1つ以上の特徴および/または誘発反応データ112の1つ以上の特徴を含み得る。
【0055】
誘発反応データ112の1つ以上の特徴量150は、事前定義された期間にわたるピーク振幅、絶対ピーク振幅、または平均振幅を含み得る。代替的にまたは追加的に、特徴量150は、分散、曲線下面積、曲線下絶対面積、ピーク電力振幅、波形のエントロピー、波形の時間的コンテンツ、波形のスペクトルコンテンツ、応答波形の「主成分」(例えば、主成分分析を用いて計算される)、または誘発反応データ112の他の特徴のうちの1つ以上を含み得る。聴覚および視覚誘発反応データ112の特徴量は、モデル160および使用する分類アルゴリズムによって異なることがある。例えば、図16A図16Eは、聴覚誘発反応データまたは視覚誘発反応データの各チャネルからのfNIRSデータから抽出された特徴量の比較の様々な例を示す。各図示例において、選択された特徴量とチャネルとの組み合わせは、耳鳴り被験者の誘発反応と対照被験者の誘発反応との間の全体の群間差を示すことができる。モデル320は、チャネル、特徴量、および分類アルゴリズムの最適な組み合わせを決定して、分類結果を提供する。
【0056】
いくつかの実施形態では、この方法は、耳鳴りを処置するための治療法を適用し、この治療法を適用した結果として、耳鳴りの1つ以上の特徴の以降の変化を検出するコンテキストにおいて使用することができる。いくつかの実施形態では、モデル160は、耳鳴りを治療するために提案された治療法が被験者の耳鳴りを治療するのに有効であるか否かを示す予後尺度を提供するように構成され得る。例えば、人工内耳移植が耳鳴りの症状を緩和する可能性があるか否かについての予後尺度を導き出すための方法の使用は、実施例2に記述される。
【0057】
図3は、本開示の実施形態による、fNIRSを使用して被験者の耳鳴りを特徴付けるためのシステムの概略図を示す。このシステムは、被験者の皮質脳活動を示すfNIRS信号を含む、安静時のデータおよび/または誘発反応データを含むデータを受信するように構成されたプロセッサ装置310を含む。プロセッサ装置310は、安静時のデータを処理して、該安静時のデータに基づいて被験者の脳の少なくとも2つの領域間の少なくとも1つの安静時の機能結合尺度を決定するように構成される。
【0058】
プロセッサ装置310は、少なくとも1つの安静時の機能結合尺度の1つ以上の特徴量および/または誘発反応データの1つ以上の特徴量をモデル320に入力するようにさらに構成される。モデル320は、1つ以上の特徴量に基づいて、被験者の耳鳴りの少なくとも1つの特徴を示す1つ以上の分類結果を提供するように構成される。モデル320は、学習済みモデルまたは他のモデルであり得る。例えば、モデル320は、人工知能(AI)アルゴリズムを用いて訓練され得る。
【0059】
再び図3を参照すると、fNIRS信号は、被験者の脳の少なくとも2つの領域における皮質活動レベルを測定するように構成されたfNIRSシステム330を使用して取得することができる。図3に示すように、プロセッサ装置310は、fNIRSシステム330からfNIRS信号を含むデータを直接受信することができる。代替的にまたは追加的に、まず、fNIRS信号データが受信され、中間データ収集装置に格納され、次にプロセッサ装置によって受信され得る。
【0060】
fNIRSシステム330は、各fNIRSチャネルが光源-検出器の対によって画成されるマルチチャネルfNIRSシステムを含み得る。1つの代表的なfNIRSチャネルは、図3において光源331および検出器332によって図示される。いくつかの実施形態では、fNIRSシステム330は、被験者の脳の各領域の上に配置されるように構成された複数のチャネルを含み得る。そのような一実施形態では、図5に示され、かつ以下の実施例1でより詳細に説明されるように、fNIRSシステム330は、前頭部、左側頭部、右側頭部、および後頭部領域の各々の上に配置されるように構成された複数のチャネルを含む。
【0061】
プロセッサ装置310は、fNIRSシステム330の動作を直接または間接的に制御することができる。例えば、プロセッサ装置310は、fNIRSシステムの各光源331を制御するための光出力モジュールと、fNIRSシステム330の各検出器332からfNIRS信号を受信するためのデータ入力モジュールとを含み得る。あるいは、fNIRSシステム330は、プロセッサ装置310から離れて配置されたfNIRS制御装置によって制御され得る。
【0062】
受信したデータが誘発反応データを含む実施形態では、システム300は、少なくとも1つの刺激を被験者に供給するための少なくとも1つの刺激装置を含み得る。例えば、少なくとも1つの刺激は、少なくとも1つの聴覚刺激および/または少なくとも1つの視覚刺激を含み得る。したがって、このシステムは、それぞれの聴覚刺激および/または視覚刺激を被験者に供給するように構成された聴覚刺激装置340および/または視覚刺激装置350を含み得る。
【0063】
図3の破線によって示すように、聴覚刺激装置340および視覚刺激装置350は、プロセッサ装置310によって直接または間接的に制御され得る。例えば、プロセッサ装置310は、聴覚刺激装置340に聴覚刺激を供給させるように構成された音声刺激出力モジュール、および/または視覚刺激装置350に視覚刺激を供給させるように構成された視覚刺激出力モジュールを含み得る。あるいは、聴覚刺激装置340および/または視覚刺激装置350は、(一緒にまたは独立して)プロセッサ装置310とは異なる1つ以上のコントローラによって、手動でまたは別の方法で制御され得る。
【0064】
任意選択で、システム300は、ディスプレイ360をさらに含み得る。ディスプレイ360は、少なくとも1つの分類結果を表示するように構成され得る。いくつかの実施形態では、ディスプレイ360(または代替ディスプレイ)は、fNIRSシステム330の動作に関連する情報を表示するように構成され得る。他の実施形態では、視覚刺激装置350は、少なくとも1つの分類結果および/またはfNIRSシステム330の動作に関連する情報を表示するディスプレイとして動作することができる。システム300は、ユーザーとシステム300との対話を容易にするための1つ以上のユーザー入力モジュール370も含み得る。
【0065】
実施例1
【0066】
慢性的な自覚的耳鳴りを患う被験者25人(このうち23人が両側性耳鳴りを経験していた)、および耳鳴り、神経学的または聴覚障害の既往歴のない健康な成人21人を本研究に募集した。3人の健康な被験者からのデータを除外した。これは、2人が長髪で信号品質が低かったため、1人が技術的な問題のためであった。各被験者は、1つの試験セッションに参加した。
【0067】
図4は、fNIRSテストの開始に先立ち、聴力閾値を評価するために、すべての被験者に対して0.25kHz、0.5kHz、1kHz、3kHz、4kHz、6kHzおよび8kHzの周波数で実施された純音聴力検査試験の結果を示す。各耳の周波数全体で平均化された聴力閾値は、群間で有意差は見られなかった。耳鳴り被験者群と非耳鳴り被験者群の平均年齢に有意差は見られなかった。
【0068】
耳鳴り障害度問診票(Tinnitus Handicap Inventory、THI)を用いて、各被験者の耳鳴りの重症度を評価した。THIは、知覚される耳鳴りの重症度を0~100のスケールで定量化する、25項目を含むテストである。スコアの範囲は異なる重症度レベルに関連付けられる(例えば、0~16は軽度の耳鳴り、58~76は重度の耳鳴り)。また、各記録に先立って、耳鳴りを患う参加者は、耳鳴りの音の大きさとうるささを1~10のスケールで評価するよう求めた。人口統計学的データおよび臨床データを、以下の表1に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
760nmおよび850nmで動作するマルチチャネル連続波fNIRSシステム500(NIRScout、NIRx Medical Technologies LLC)を使用して、データを収集した。図5は、被験者の頭部に対するチャネル位置のモンタージュを示す。各被験者について、合計16個の光源510(斜交平行線マーカー)および合計16個の検出器520(黒いマーカー)の各々を、各被験者の頭部400のナジオン401およびイニオン402に対して配置することにより、被験者の脳の前頭部、側頭部および後頭部皮質領域に対応する、被験者の頭部400の領域の上に配置した。白いマーカーは、本研究では利用されなかった潜在的な光源/検出器の位置を示す。光源510-検出器520の対の各々は、それぞれfNIRSチャネル530、531を画成する。
【0071】
ICBM-152頭部モデルを使用し、かつチャネル位置に対応するMNI座標のエクスポートを可能にするNIRSiteソフトウェア(NIRxMedical Technologies LLC)を用いて、光源510-検出器520を配置した。次いで、「AtlasViewer」と名付けられたオープンソース系のMatlabスクリプトにおいてこれらの座標を使用して、各チャネル位置に対応する脳領域を特定し、特に聴覚皮質および視覚皮質が覆われていることを確認した。
【0072】
ほとんどの光源-検出器の対のうち光源510および検出器520は、30mm離れて配置され、36個の「長い」チャネル530(図5において光源510と検出器520との間の黒い接続線で示され)を形成した。4つの皮質領域(前頭部、左右側頭部および後頭部)の各々において、光源を検出器から11mm離れて配置することにより、1つの「短い」チャネル531(図5においてアスタリスクで示される)を画成した。この短いチャネル531は、より深い皮質信号の検出を妨害し得る、被験者の頭部(頭皮や頭蓋骨を含む)の表層からの全身性信号を検出して記録するように構成された。短いチャネルからの記録を使用して、長いチャネルから受信したfNIRS信号から全身アーチファクトを除去した。
【0073】
各チャネル530、531に、以下の番号を割り当てた。前頭部-チャネル番号1、2、3、4、5、6、7、8、26、27、28、29;左側頭部-チャネル番号9、10、11、13、14、16、17、18;右側頭部-チャネル番号30、31、32、34、35、37、38、39;後頭部-チャネル番号19、20、21、22、23、24、25、40、41、42。
【0074】
各側頭部チャネルで覆われる、推定された解剖学的領域を以下の表2に示した。後頭部上のチャネルは楔部と上後頭回を覆った。
【0075】
【表2】
【0076】
この研究では、すべての長いチャネル530からの特徴を使用することにより、特徴抽出アルゴリズムが最も関連性の高いチャネルを選択することは可能となり、誘発反応は主に関連する解剖学的領域から得られた(例えば、聴覚反応特徴が聴覚チャネルから得られた)。しかしながら、この方法の他の実施形態では、より少数のチャネル530を使用してもよく、これにより、簡略化された試験設定の使用および/またはより速い計算時間が可能となり得る。あるいは、いくつかの実施形態では、より多数のチャネルが使用され得る。
【0077】
遮音ブース内において、プレゼンテーションソフトウェア(Neurobehavioral Systems、米国)を使用して、複数の個別の聴覚刺激を、聴力検査用の耳挿入型イヤホン(ER-3A耳挿入型イヤホン、E-A-RTONETM 165 GOLD、米国)によってバイノーラル方式で各被験者に供給した。各聴覚刺激は15秒間のピンクノイズセグメントで構成され、Norsonic騒音計(Norsonic SA、Norway)を用いて校正され、65dBの音圧レベル(SPL)で供給された。ピンクノイズの電力は、信号周波数に反比例し、異なるオクターブに電力が同じであった(つまり、周波数が2倍になった)。これは、人間の聴覚系が音を知覚する場合と同様である。
【0078】
複数の視覚刺激を、円形の市松模様が時間周波数7.5Hzで反転する(1秒あたり15回反転する)という反転表示として各被験者に供給した。この模様は、視力の良い人で強い皮質反応を引き起こす。これらの画像は、本質的に放射状で、リングで構成され、複数のセクタに分割され、かつ隣り合うセクタが反対色(黒と白)であるものであった。
【0079】
図6は、fNIRS試験セッションの例示的なタイムラインを示す。この試験セッションは、3つの記録セッション611、612、613を含み、短い休憩621、622をこれらの間に入れた。この例では、休憩の継続時間は3~5分間としたが、他の継続時間も使用可能であった。
【0080】
第1の記録セッション611は、6分間の安静時の記録を含んでいた。この記録において、目を閉じてじっと座って、眠らないように被験者に指示した。このセッション611において、被験者に聴覚または視覚刺激を供給しなかった。
【0081】
第2の記録セッション612および第3の記録セッション613は、それぞれ一連の誘発反応記録を含んでいた。これらの記録セッション612、613において、複数の15秒間の刺激630を被験者に順番に供給した。この例では、個別の聴覚刺激と視覚刺激を、同じ刺激タイプが連続して2回を超えないように、ランダムな順序で供給した。しかしながら、刺激のその他の配置も使用可能であった。
【0082】
各刺激630の後に、非刺激の間隔期間640が続いた。この例では、ランダムに選択された非刺激間隔は20秒または25秒であった。他の実施形態では、非刺激間隔の代替継続期間も使用可能であった。一般に、各非刺激期間640の継続期間を、いかなる誘発反応が収まり、皮質活動がベースラインに戻るのに十分な時間を与えるように選択し得る。図6では、点線は刺激供給パターンの繰り返しを示す。この例では、各刺激タイプ(すなわち、聴覚または視覚)を合計10回繰り返した(2回目の記録で6回、3回目の記録で4回、2回の記録の間に休憩を入れた)が、他の例ではその他の刺激数も使用可能であった。総記録時間(休憩時を除いた)は約20分であった。
【0083】
この例では、fNIRSデータをサンプリングレート7.8125Hzで記録した。しかしながら、他の適切なサンプリングレートも使用可能であった。各記録セッションにおいて、データ(すなわち、fNIRS信号からのもの)を連続的に記録した。誘発反応記録セッション612、613では、連続的なデータ記録を、後で各刺激630の供給時間と相関させ、各誘発反応に対応するデータ部分を抽出した。
【0084】
データ処理をMatlab 2019 A(Mathworks、米国)で実行した。「NIRS Brain AnalyzIR」ツールボックスとカスタム作成されたMatlabスクリプトを使用して、fNIRS信号の前処理を行った。以下の基準に準拠して、信号品質が低いチャネルを選択して、さらなる分析から除外した。まず、利得が7を超え、検出された光の強度が不十分であったことを示したチャネルを除外した。各実験に先立って実行された較正手順において、NIRx装置を使用して、上記利得を算出した。また、760nmおよび850nmにて2つの検出信号を0.2~2.5Hzでバンドパスフィルタリングすることによって算出されたSCI(scalp coupling index)を用いて、チャネルの心臓信号成分を確認した(22)。これにより、オプトード(検出器)と頭皮との接触度合いを示す指標を提供した。皮膚との接触が良好なオプトードからの信号は、主に心拍数データを含むため、相関性が高い。SCI値が0.75未満のチャネルを除外した。平均して、13%のチャネルを除外した。
【0085】
残りのチャネルについて、以下の前処理工程を行った。安静時の記録では、各チャネルからのフィルタリングされていなかった原信号を1Hzにダウンサンプリングし、光学濃度に変換した。誘発反応記録では、光学濃度への変換を元のサンプリングレートで行った。NIRSツールボックスの関数ntbxSSR.m(パラメータtaskが0に設定)を用いて、短チャネル補正を光学濃度データに適用した。最も近い短チャネルの一部を減算することにより、各長チャネルにおける補正された光学濃度を算出した。この減算により、頭皮から測定された変動と、全身反応や呼吸などの全体的な変動という2つの干渉源を取り除いた。次いで、修正されたランバート・ベールの法則(Beer-Lambert law)を使用して、酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン(それぞれOHbおよびHHb)の濃度変化を推定した。
【0086】
シード分析法を使用して、安静時の機能結合を確認した。シード分析では、シードとして皮質領域を選択して、シード領域と他の脳領域との間の相関関係を求めることによって、他の領域との結合を確認した。この例では、シードチャネルとして、頭の両側の側頭皮質の上の2つのチャネルを使用した。左側のチャネル9、10および右側のチャネル30、31が上側頭回とヘシュル回を覆ったと推定した(表2に示した)。次いで、両側では、2つのチャネルからの信号を平均化して、それぞれ左シードおよび右シードとした。白色化相関(NIRSツールボックス関数nirs.sFC.ar_corr.m)を用いて、シードチャネルと他のチャネルとの相関を計算した(27)。これは、低速の血行動態信号、心拍数や呼吸のような全身生理学的ノイズ(系列相関)、および異常なノイズ構造を導入する可能性のあるモーションアーチファクトに起因する偽相関に対するfNIRSの感度を解決するロバストな相関方法である。次いで、関心のある前頭部および後頭部(ROI)を含むチャネルについて得られた値を統計分析のために平均化した。前頭部ROIは、上前頭回、内側前頭回、上前頭回、内側眼窩、および中前頭回上のチャネル(チャネル1、3、4、5、6、7、8、26、27、28、29)を含んでいた。選択された後頭部ROIは、楔部および上後頭回(チャネル20、21、23、24、25、41、42)を覆った。白色化相関はOHb信号とHHb信号の両方に由来し、群間で比較した。
【0087】
誘発反応を分析するために、関数「WaveletFilter」(外れ値閾値が3に設定)を使用して、モーションアーチファクトを除去した。ゼロ位相8次バターワース(Butterworth)ハイパス(0.01Hz)およびローパス(0.12Hz)フィルタをそれぞれ適用することにより、信号を0.01~0.12Hzでバンドパスフィルタリングした。次いで、修正されたランバート・ベールの法則を用いて、OHbおよびHHb濃度を推定した。各チャネルについて、ベースライン平均値を減算することで線形トレンドとベースライン修正エポックを除去する「EpochExtraction」関数を使用して、OHb信号およびHHb信号を、刺激オンセットに対してt=5からt=30秒までエポックした。外れ値検出機能に基づいて、振幅がエポック平均値よりも2.5標準偏差大きいエポックを除外した。聴覚および視覚反応を記録する各条件について、0~5秒(聴覚反応)および10~15秒(視覚)の時間枠にわたってOHbおよびHHb活性化の平均値を算出した。統計解析のために、視覚誘発反応を後頭部チャネルで平均化し、聴覚反応を左右側頭部チャネルで別々に平均化した。
【0088】
安静時からの特徴と、異なる皮質領域の上のfNIRSチャネルからの誘発反応信号とを組み合わせるために、特徴選択および分類器を含む機械学習法を使用した。これらのアルゴリズムに入力された特徴は、上述の聴覚および視覚反応振幅、前頭部および後頭部結合尺度を含んでいた。ここで、すべてのチャネルからの特徴を個々の入力として使用する(ROIにわたって平均化しない)ことによって、特徴選択アルゴリズムは群を最もよく区別するチャネルを自動的に選択できるようになった。OHbおよびHHb由来の特徴を使用した。情報利得を使用して、分類における特徴の重みまたは重要度に基づいて、これらの特徴にランク付けすることによって、最も関連性の高い特徴を選択した。情報利得は、最も関連性の高い分類情報を用いてチャネルおよび/OHb/HHbの特徴の識別を可能にする、データにおけるエントロピーの尺度である。
【0089】
次いで、選択された特徴を4つの異なる分類方法で使用して、被験者を対照者または耳鳴りを経験している者に分類した。また、分類器を使用して、耳鳴りの重症度に基づいて被験者を区別した。被験者が患った耳鳴りを、微度/軽度ないし中等度/重度の耳鳴り(THI評価に基づく)に分類した。後述の分析において、それぞれのサンプルのサイズを大きくするために、データを2つのグループのみに分類したが、他の例では、より多くのカテゴリも使用可能であった。例えば、重症度の分類は、個別の評価として、微度、軽度、中等度および重度の耳鳴りを含み得る。他の例では、被験者をより多くの群に分類するために、別の重症度評価も使用可能であった。
【0090】
評価された4つの分類器は、ナイーブベイズ、K-最近傍(KNN)、規則帰納、および人工ニューラルネットワーク(ANN)であった。他の例では、マルチレベル階層分類などの他の適切な分類アルゴリズムも使用可能である。これらのアルゴリズムの性能を評価するために、10倍交差検証を用いた。この検証方法は、データセットをランダムに10個のサブセットに分割した。1つのサブセットを試験用に保管し、残りの9つを訓練に用いた。このプロセスを、上記10個のサブセット全体で繰り返し(1回につき10個のサブセットの1個を試験のために使用)、分類器の平均感度(真陽性率)、特異性(真陰性率)および精度を算出した。分類精度または予測性能を、サンプルの総数に対する正しく予測されたサンプルの数として計算した。
【0091】
図7は、前頭部チャネルを有する側頭シードと後頭部チャネルを有する側頭シードとの間の結合尺度の差異を示す。前頭部OHb信号を有する、左シードと右シードとの間の結合尺度は、耳鳴り群でより高く、右シードの差は有意になった。HHb信号から得られた右シードの後頭部結合値は、耳鳴群で有意に高かった。これは、左シードの結合では見つからなかった。
【0092】
図8A図8Dは、左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したOHb聴覚誘発反応を示す。図8E図8Hは、左側頭皮質および右側頭皮質の上のチャネルから記録された群平均化したHHb聴覚誘発反応を示す。チャネル番号は、各グラフの上に記載される。垂直の破線は0秒と15秒での刺激のオンセットとオフセット時間を示す。聴覚反応の振幅を刺激オンセット後の最初の5秒間にわたって平均化し、対応t検定によって左右の聴覚領域で比較し、独立したサンプルt検定によって群間で比較した。この期間を選択して、平均5秒間継続した反応のライズタイムまたはオンセットをキャプチャした。左右の聴覚反応に有意差はなかった。両側で平均すると、耳鳴り群の方は聴覚反応が小さかった。この群間差は、HHb反応では見られなかった。
【0093】
図9Aおよび図9Bは、楔部および上後頭回の上の後頭部チャネルから記録されたOHbおよびHHb視覚誘発反応をそれぞれ示す。チャネル番号は、各グラフの上に記載される。縦線は0秒と15秒での刺激のオンセットとオフセット時間を示す。聴覚反応よりも、刺激オンセット後に視覚反応の方は継続時間が長かった。刺激オンセット後10~15秒間にわたって平均化された反応振幅は、対照群では有意に大きかった。
【0094】
図10Aおよび図10Bは、それぞれ関心のある聴覚領域および視覚領域(ROI)にわたって平均化された、群平均化したOHbおよびHHb聴覚および視覚反応を示す。点線は標準誤差(Standard Error of Mean、SEM)を示す。垂直の点線は0秒と15秒での刺激のオンセットとオフセット時間を示す。この図は、聴覚チャネルおよび視覚チャネルにわたって平均化された波形の視覚的比較を可能にする。聴覚反応は、刺激後に約5秒間継続した顕著なオンセットまたは立ち上がりを示した。視覚反応は、刺激後に約15秒間継続したより緩やかな立ち上がりを示し、継続時間がより長かった。
【0095】
THIスコア、年齢、耳鳴りの継続期間、4KHzおよび8KHzにおける聴力閾値、および音の大きさとうるささの主観的評価によって評価された耳鳴りの重症度に伴うfNIRS測定の変化を、多重線形回帰を用いて評価した。図11は、耳鳴りの継続時間に伴うOHb由来の側頭-前頭部結合の変化(パネルA)と、音の大きさの主観的評価に伴うHHb由来の側頭-後頭部結合の変化(パネルB)を示す。左右のシードと前頭部チャネルとの間のOHb由来の結合は、耳鳴りの継続時間に伴って増加し、右側の相関が有意に近づいた。左右のシードと後頭部チャネルとの間のHHb由来の結合は、音の大きさの主観的評価に伴って有意に増加した。
【0096】
(平均化されたROIではなく)個々のチャネルの聴覚、視覚、および安静時のfNIRSの特徴セットを、単独でまたはこれらを組み合わせて、分類器とともに使用した。特徴抽出方法として情報利得を用いることによって、特徴に重み付け(またはランク付け)を行った。様々な分類器を使用して得られた結果を以下の表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
ナイーブベイズ分類器を用いた、重みが0.45よりも高い聴覚のみの単一の特徴セットは、78.3%の精度で対照者から耳鳴り被験者を分離することができた(表3)。重み付け基準により、36個の聴覚特徴を使用した(20個のOHb由来の聴覚反応振幅および16個のHHb由来の聴覚反応振幅)。規則帰納、ナイーブベイズおよびニューラルネットワーク分類器を用いた、重みが0.56よりも高い、聴覚特徴、視覚特徴および安静時の特徴の組み合わせも70%以上の精度が得られた。使用された特徴は、19個の聴覚特徴、17個の視覚特徴および22個の安静時の結合尺度を含んでいた。これらの合計58個の特徴のうち35個はOHb信号から得られ、23個はHHb信号から得られた。選択された特徴における結合尺度は、左シード特徴よりも多くの右シード特徴を含み、側頭-前頭部特徴よりも多くの側頭-後頭部特徴を含んでいた。聴覚特徴を用いたナイーブベイズ分類器を用いて、最高の精度による対照者からの耳鳴り被験者の分類を達成した。情報利得を用いて選択された3つの条件のすべてからの特徴を用いたナイーブベイズ分類器を用いて、最高感度を達成した。人工ニューラルネットワークアルゴリズムにより、同様の感度(71.41%)および特異性(74.62%)を達成した。また、KNNを用いて、対照者から耳鳴り被験者を分類したが、その結果、精度が低下した(~60%)。
【0099】
微度/軽度(n=18)と中等度/重度(n=7)の耳鳴りを区別した分類結果を表4に示す。これらの耳鳴り被験者を分類するために、ニューラルネットワーク、KNNおよび規則誘導分類器を使用して、重みが0.45よりも高い結合尺度によって最も高い精度(75%を超える)を達成した(表4)。合計48個の特徴(23個のOHb由来の聴覚反応振幅および25個のHHb由来の聴覚反応振幅)は、右シードHHb側頭-前頭部尺度および側頭-後頭部尺度からの特徴の大部分に含まれた。ニューラルネットワーク分類器を使用することで、51.23%の低い特異性が得られたが、最も高い感度(中等度/重度の耳鳴り患者を正確に予測)と精度を達成した。
【0100】
【表4】
【0101】
この研究より、fNIRSを使用して、耳鳴りを患う被験者を対照者から区別し、耳鳴りの重症度の主観的評価に関連するfNIRSの特徴を特定できることが明らかになった。また、この研究の結果は、音の大きさやうるささなどの耳鳴りの特徴は、fNIRSを使用して個別に測定できることを示唆した。
【0102】
別の試験では、被験者の数を、慢性的な自覚的耳鳴りを患う被験者52人と、耳鳴り、神経学的または聴力障害の既往歴のない健康な成人31人に増加した。更新された研究の患者の人口統計学的背景を以下の表5に示す。患者は、年齢と聴力レベルが一致している。
【0103】
【表5】
【0104】
図14は、この拡大された被験者群の楔部と上後頭回上の後頭部チャネルから記録されたOHb視覚誘発反応データを示す。チャネル番号は、各グラフの上に記載される。縦線は0秒と15秒での刺激のオンセットとオフセット時間を示す。聴覚反応よりも、刺激オンセット後に視覚反応の方は継続時間が長かった。刺激オンセット後10~15秒間にわたって平均化された反応振幅は、対照群では有意に大きかった。このデータより、耳鳴り患者と対照者とを最もよく区別した視覚領域におけるチャネルは、チャネル24、25、41、42であったことが分かった。
【0105】
図15Aおよび図15Bは、それぞれ拡大された被験者群の左側頭部および右側頭部からの聴覚反応データを示す。チャネル番号は、各グラフの上に記載される。縦線は0秒と15秒での刺激のオンセットとオフセット時間を示す。左側頭部では、チャネル10、11、14、16、17、18は耳鳴り患者と対照者との間で有意差を示した。このうち、チャネル10と11、14と16、17と18は、同様の差異を示した。これらのチャネルの対のうち1つのみが必要になる場合がある。同じチャネルの対(または脳内の関心領域)は右側頭部でも使用可能である。しかしながら、右側頭部では、チャネル35とチャネル37は群間で有意差を示した。この左側頭部と右側頭部の差異は、耳鳴り患者によく見られる脳活動の非対称性によるものであると考えられる。
【0106】
実施例2
【0107】
人工内耳(CI)は聴覚障害者に音の感覚を与えるための装置であり、場合によっては耳鳴りを抑えることもできる。しかしながら、耳鳴りに対する人工内耳の作用機序は不明である。4~26%の症例では、人工内耳の移植後に耳鳴りが悪化したと報告されている。
【0108】
耳鳴りを経験し、耳鳴りに対する知覚(すなわち、知覚される音の大きさやうるささ)が人工内耳の装用によって変化した人工内耳移植者10人を対象とした研究を行った。人工内耳のスイッチを入れたり切ったりした状態では、安静時のデータを記録した。人工内耳のスイッチを入れたり切ったりした状態では、15秒間の視覚刺激に対する誘発反応データを記録した。聴覚反応は、人工内耳のスイッチを切った状態では記録できないため、このプロトコルに含まれなかった。
【0109】
図12は、人工内耳のスイッチを入れたり切ったりするときの、15秒間の視覚刺激に対する人工内耳の装用者2人の代表的な視覚誘発反応を示す。各人について、10個の平均化された反応の平均値(実線)と標準誤差(破線)を示す。最初の被験者(TCI008、パネルAに表示)は、人工内耳の使用により耳鳴りが完全に抑制されたと報告した。2番目の被験者(TCI009、パネルBに表示)は、人工内耳の使用により耳鳴りがより大きく聞こえるという逆の効果を経験した。この相反する効果は、視覚反応のオンセット(t=0~5s)に反映された。人工内耳が耳鳴りを抑制する場合(TCI008)、人工内耳のスイッチを入れたとき(灰色のトレース)のオンセット反応振幅は、人工内耳のスイッチを切ったとき(黒色のトレース)のオンセット反応振幅よりも小さかった。このオンセット期間において、人工内耳移植により耳鳴りが悪化した場合には、逆の効果が見られた(TCI009)。
【0110】
人工内耳のスイッチを入れた場合に得られた安静時の記録と人工内耳のスイッチを切った場合に得られた安静時の記録との比較より、人工内耳のスイッチを切った場合にfNIRSから得られたデータは能動型人工内耳が耳鳴りの症状を緩和するのに有効であるか否かを予測できることが明らかになった。
【0111】
図13は、被験者の人工内耳のスイッチを切ったときの右シードの側頭-前頭部結合と、人工内耳のスイッチを入れたり切ったりしたときの音量感覚の変化を示す。x軸の正の数は、CIのスイッチを入れたときの音量感覚の低下を表す。安静時の機能結合尺度が0.5を超えることは、人工内耳のスイッチを入れたときの耳鳴りの音の大きさの減少に関連している。この研究では、結合値が0.5未満の個体は、人工内耳の装用により耳鳴りの音の大きさの減少を経験した。しかしながら、この個体では、耳鳴り障害度問診票に基づいて測定された耳鳴りの重症度は低く(THI:8)、治療法として人工内耳移植を採用することを考えにくい。
【0112】
これらの知見に基づいて、人工内耳を受ける前に記録されたfNIRS信号は、人工内耳が耳鳴りを抑制するのに有効であるか否かについての適切な予後尺度を提供することができる。
【0113】
当業者であれば、本開示の広い一般的範囲から逸脱することなく、上述した実施形態に多くの変更および/または修正を加えることができることを理解するであろう。したがって、本実施形態は、すべての点で限定的ではなく例示的であると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
【国際調査報告】