(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】CXCR4及びIL-10を共発現する間葉系幹細胞並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20230915BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20230915BHJP
C12N 15/24 20060101ALI20230915BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230915BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230915BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230915BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230915BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230915BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230915BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230915BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230915BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230915BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N15/19 ZNA
C12N15/24
C12N15/113 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
A61K35/28
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P37/06
A61P19/02
A61P1/04
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515394
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2021074612
(87)【国際公開番号】W WO2022049306
(87)【国際公開日】2022-03-10
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518158123
【氏名又は名称】フンダシオン インスティチュート デ インベスティガシオン サニタリア フンダシオン ヒメネス ディアス
(71)【出願人】
【識別番号】522289264
【氏名又は名称】セントロ デ インベスティガシオネス エネルゲティカス メディオ アムビエンタレス イ テクノロジカス オー.エー.,エム.ピー.
(71)【出願人】
【識別番号】522289275
【氏名又は名称】コンソルシオ セントロ デ インベスティガシオン ビオメディカ エン レッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルバス-サルセド ロザリオ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア-オルモ ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア-アランス マリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】エルナンド ロドリゲス ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】ブエレン ロンセロ フアン アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ヤニェス ゴンサレス ロサ マリア
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス ガルシア マリア
(72)【発明者】
【氏名】ロペス サンタラ メルセデス
(72)【発明者】
【氏名】ガリン フェレイラ マリーナ インマクラダ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA96
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB15
(57)【要約】
本発明は、ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)及びインターロイキンIL-10を安定に共発現するために、組込み発現ベクターが形質導入されていることを特徴とする間葉系幹細胞(MSC)に関する。さらに、本発明は、特に炎症性及び/又は自己免疫性疾患の治療における、医薬品としての、上記MSCの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.プロモーターと、
b.ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列と、
c.インターロイキンIL-10をコードする配列と、
を含む、DNA発現カセット。
【請求項2】
前記ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列は配列番号1であり、前記インターロイキンIL-10をコードする配列は配列番号3であることを特徴とする、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項3】
導入遺伝子発現を増大するための調節要素を更に含む、請求項1又は2に記載の発現カセット。
【請求項4】
前記調節要素が、ウッドチャック肝炎ウイルス調節要素(WPRE)RNA輸出シグナル配列又はその機能的変異体若しくはフラグメントである、請求項1~3のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項5】
前記ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列と前記インターロイキンIL-10をコードする配列との間に、自己触媒ペプチドをコードする配列を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記自己触媒ペプチドは、E2A、好ましくは配列番号2である、請求項1~5のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項7】
前記プロモーターは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター配列又はその機能的ホモログ若しくは変異体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項8】
5’から3’への順で、
a.ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター配列又はその機能的ホモログ若しくは変異体と、
b.前記ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列と、
c.前記自己触媒ペプチドE2Aをコードする配列と、
d.インターロイキンIL-10をコードする配列と、
e.ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)と、
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項9】
5’から3’への順で、
a.ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター配列又はその機能的ホモログ若しくは変異体と、
b.前記ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列番号1と、
c.前記自己触媒ペプチドE2Aをコードする配列番号2と、
d.インターロイキンIL-10をコードする配列番号3と、
e.ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)と、
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の発現カセットを含む組換え遺伝子送達組込みベクター。
【請求項11】
レンチウイルスベクターであることを特徴とする、請求項10に記載の組換え遺伝子送達組込みベクター。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の発現カセット、又は請求項10若しくは11に記載の組換え遺伝子送達組込みベクターを含む細胞。
【請求項13】
骨髄、胎盤、臍帯、羊膜、月経血、末梢血、唾液腺、皮膚及び包皮、滑液、羊水、子宮内膜、脂肪組織、臍帯血、及び/又は歯組織に由来する間葉系幹細胞であることを特徴とする、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
請求項10若しくは11に記載の組換え遺伝子送達組込みベクター、又は請求項12若しくは13に記載の細胞と、任意選択で、薬学的に許容される添加剤又は担体とを含む医薬組成物。
【請求項15】
医薬用である、請求項10若しくは11に記載の遺伝子送達組込みベクター、又は請求項12若しくは13に記載の細胞。
【請求項16】
炎症性疾患の治療における、請求項15、10若しくは11に記載の遺伝子送達組込みベクター、又は請求項12若しくは13に記載の細胞。
【請求項17】
移植片対宿主病(GvHD)、敗血症、関節リウマチ又は炎症性腸疾患の治療における、請求項15、16、10若しくは11に記載の遺伝子送達組込みベクター、又は請求項12若しくは13に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療分野に関する。特に、本発明は、ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)及びインターロイキンIL-10を安定に共発現するために、組込み発現ベクターが形質導入されていることを特徴とする間葉系幹細胞(MSC)に関する。さらに、本発明は、特に炎症性疾患及び/又は自己免疫性疾患の治療における、医薬品としての、上記MSCの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
MSCは、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、及び樹状細胞を含む、活性化リンパ系細胞に対して免疫調節作用を有する多能性成体間質細胞である。MSCは炎症部位に対してホーミングする能力を示し、そこで、MSCは炎症性反応を調節し、傷ついた組織の修復に貢献することができる。
【0003】
動物モデルにおいて、MSCは、再生医療においてだけでなく、炎症性疾患モデル及び自己免疫性疾患モデルにおいてもその有効性が証明されている。MSCは、第I/II相臨床試験にて、異なる疾患、なかでも、例えば、ステロイド抵抗性移植片対宿主病(GVHD)、重症全身性エリテマトーデス、肛門周囲複雑瘻孔、変形性膝関節症又は慢性完全麻痺において、安全性プロファイルを証明し、臨床的有用性の予備的証拠を示してきた。動物モデル及び初期段階の臨床試験において得られた結果にもかかわらず、3つの第III相臨床試験のみでしか、MSCの治療有効性は標準的な治療に対する統計的な有意性を示していない。これには、肛門周囲複雑瘻孔(NCT00475410)、小児のステロイド不応性GVHD(NCT02336230)及び慢性進行性虚血性心不全(NCT01768702)の治療が含まれる。
【0004】
MSCの治療有効性を低減させ得るパラメータの中で、これらの細胞のex vivoでの増殖が、MSCにおいて観察されるホーミング受容体の中程度の発現を低減させ、さらにこれらの細胞における老化を誘発することが示されてきたことは言及に値する。
【0005】
したがって、本発明は、特に、炎症部位へのMSCの遊走を改善し、さらに、免疫抑制性サイトカイン及び抗炎症性サイトカインを分泌することにより、MSCの治療有効性を改善すること、そして、標準的な非改変MSCの治療有効性を増強することに焦点を当てている。
【発明の概要】
【0006】
上記に説明したように、本発明は、特に、標準的な非改変MSCと比較して、炎症部位へのMSCの遊走を強化し、免疫抑制性サイトカイン及び抗炎症性サイトカインの放出を強化することにより、MSCの治療的有効性を改善することに焦点を当てている。
【0007】
そうするために、本発明の発明者らは、ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)及びインターロイキンIL-10を共発現する組込み発現ベクターを形質導入したMSCを用いた。
【0008】
特に、CXCR4及びIL-10についてコードするレンチウイルスベクターを、本発明の文脈において構築した。この発現ベクターを、MSCを形質導入するために用い、そしてCXCR4及びIL-10の両方を安定な方法で共発現させた。
【0009】
実施例2.1は、CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCが、局所炎症のマウスモデルにおいて抗炎症特性を発揮することを示す。それにもかかわらず、これらの細胞は、WT MSCと比較して、抗移植片対宿主病(GvHD)特性の強化を示さない(実施例2.2)。CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCと比較して、CXCR4-IL10配列を保持するレンチウイルスベクターを形質導入したMSC(実施例2.3)は、WT MSCと比較して、強化されたin vitro免疫調節特性(実施例2.4及び実施例2.5)及び局所的なin vivo抗炎症作用(実施例2.3~実施例2.6)を発揮しただけでなく、驚くべきことに、本発明の実施例2.7に示されるように、有意な抗GvHD作用も発現した。
【0010】
実際、本発明に含まれるin vitro実験は、これらの分子の安定な共発現が、SDF-1へのMSCの遊走を効率的に強化し、これらの細胞の免疫抑制特性を改善させたことを示す。さらに、CXCR4及びIL10を異所的に発現するMSCの、炎症パッドへの優先的なホーミングが、局所パッド炎症が誘発されたマウスモデルにおいて証明された。まとめると、これらの結果は、ヒトMSCにおける特異的なホーミング分子及び抗炎症性分子、例えばCXCR4及びIL10の安定な共発現が、WT MSCと比較した、これらの細胞における抗炎症能の強化を与えることを証明する。CXCR4及びIL10を共発現する組込み発現ベクターを形質導入したこの新世代のMSCの使用は、炎症性疾患及び/又は自己免疫性疾患の治療のための臨床細胞療法に有意な影響を有するであろう。
【0011】
結果として、要するに、本明細書において、CXCR4及びIL-10の両方を共発現する組込み発現ベクターを形質導入したMSCの、特に炎症性疾患及び/又は自己免疫性疾患の治療における、医薬品としての使用が提案される。
【0012】
そこで、本発明の第1の実施の形態は、a)プロモーターと、b)ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列と、c)インターロイキンIL-10をコードする配列とを順に含むDNA配列を含む発現カセット(以下、本発明の発現カセット)に関する。好ましい実施の形態において、発現カセットは、導入遺伝子発現を増大するための調節要素を更に含む。好ましい実施の形態において、調節要素は、ウッドチャック肝炎ウイルス調節要素(WPRE)RNA輸出シグナル配列又はその機能的変異体若しくはフラグメントである。好ましい実施の形態において、発現カセットは、ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列とインターロイキンIL-10をコードする配列との間に、自己触媒ペプチドをコードする配列を更に含む。好ましい実施の形態において、自己触媒ペプチドは、E2Aである。好ましい実施の形態において、プロモーターは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター配列又はその機能的ホモログ若しくは変異体である。好ましい実施の形態において、発現カセットは、5’から3’への順で、a)ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター配列又はその機能的ホモログ若しくは変異体と、b)ケモカイン受容体タイプ4(CXCR4)をコードする配列と、c)自己触媒ペプチドE2Aをコードする配列と、d)インターロイキンIL-10をコードする配列と、d)ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)とを含む。
【0013】
好ましい実施の形態において、発現カセットは、ヒト遺伝子CXCR4(配列番号1)及びIL10(配列番号3)の非天然コドン最適化配列を含む。好ましい実施の形態において、自己触媒ペプチドE2Aをコードする配列が、配列番号2であり、これは、両分子(CXCR4及びIL10)の共発現を容易にするために用いられる。
【0014】
本発明の第2の実施の形態は、上記で定義した発現カセットを含む組換え遺伝子送達ベクター(以下、本発明の組換え遺伝子送達ベクター)に関する。好ましい実施の形態において、組換え遺伝子送達ベクターは、レンチウイルスベクターである。好ましい実施の形態において、本発明のベクターは、宿主染色体に永久的に組み込まれる組込みベクターである。
【0015】
本発明の第3の実施の形態は、本発明の発現カセット又は組換え遺伝子送達ベクターを含む細胞(以下、本発明の細胞)に関する。好ましい実施の形態において、細胞は、骨髄、胎盤、臍帯、羊膜、月経血、末梢血、唾液腺、皮膚及び包皮、滑液、羊水、子宮内膜、脂肪組織、臍帯血、及び/又は歯組織に由来するMSCである。
【0016】
本発明の第4の実施の形態は、本発明の組換え遺伝子送達ベクター又は細胞と、任意選択で、薬学的に許容される添加剤又は担体とを含む医薬組成物に関する。
【0017】
本発明の第5の実施の形態は、医薬品として使用される本発明の遺伝子送達ベクター又は細胞に関する。好ましい実施の形態において、本発明は、炎症性疾患及び/又は自己免疫性疾患、例えば移植片対宿主病(GvHD)、敗血症又は関節リウマチの治療において使用される本発明の遺伝子送達ベクター又は細胞に関する。代替で、この実施の形態は、炎症性疾患及び/又は自己免疫性疾患、例えば移植片対宿主病(GvHD)、敗血症又は関節リウマチを治療する方法であって、本発明の遺伝子送達ベクター若しくは細胞、又はこれらを含む医薬組成物の、治療上有効な投与量又は量を患者に投与することを含む、方法に関する。
【0018】
本発明の目的のために、以下の用語が定義される:
「含む(comprising)」は、語「含む」の前にある(follows)全てのものを含むが、これに限定されないことを意味する。したがって、用語「含む」の使用は、列挙された要素が必要であるか、又は必須であるが、他の要素は任意選択であり、存在してもしなくてもよいことを示す。
「のみからなる(consisting of)」は、語句「のみからなる」の前にある(follows)全てのものを「含み、これに限定される」ことを意味する。したがって、語句「のみからなる」は、列挙された要素が必要であるか、又は必須であり、かつ他の要素が何ら存在し得ないことを示す。
「薬学的に許容される添加剤又は担体」は、本発明の医薬組成物において任意選択で含まれてよい、患者に有意な有害毒性学的作用を引き起こさない添加剤を示す。
本発明において「治療上有効な投与量又は量」は、細胞又は医薬組成物が上述のように投与され、炎症性疾患又は自己免疫性疾患を有する対象においてポジティブな治療応答をもたらす場合の状況を指す。正確な必要量は、対象の種、年齢、及び一般的な状態、治療される状態の重症度、投与様式等に応じて、対象毎に変わるであろう。全ての個々のケースにおける適切な「有効」量は、本明細書中に提供される情報に基づいて、日常的な実験を用いて当業者によって決定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】局所炎症のモデルマウスにおける、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCのin vivo有効性の証拠を示す図である。WT-MSCと比較して、CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCの抗炎症作用の強化が観察される。
【
図2】GVHDモデルマウスにおける、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCのin vivo有効性の欠如を示す図である。A)生存曲線、B)重量及びC)臨床スコア。
【
図3】(A)CXCR4及びIL-10を共発現するために用いたDNAバイシストロン性レンチウイルスベクターのデザイン。WT-MSCと比較した、CXCR4/IL10-MSCにおける、(B)CXCR4のレベル、(C)IL-10分泌、及び(D)細胞当たりベクターコピー数(VCN/細胞)。N.D.検出不能。
【
図4】DNA PGK-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSCのin vitro特性評価を示す図である。A)WT-MSCと比較したCXCR4/IL10-MSCの免疫表現型。B)WT-MSCと比較したCXCR4/IL10-MSCの骨組織への分化能。C)WT-MSCと比較したCXCR4/IL10-MSCの脂肪組織への分化能。
【
図5】WT-MSCと比較した、DNA PGK-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSCの遊走能の強化を示す図である。A)SDF-1に応答したWT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCの遊走能の代表的な写真。B)SDF-1に応答したWT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCの遊走能の定量化。
【
図6】DNA PG-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSCの、in vitro免疫抑制能の強化を示す図である。A)MSCのin vitro免疫抑制活性を評価するために用いた実験系のスキーム。B)CXCR4/IL10-MSCは、WT-MSCよりも改善された免疫抑制能を示した。
【
図7】局所炎症のモデルマウスにおけるDNA PGK-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSCのin vivo有効性の強化を示す図である。A)WT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCのin vivo抗炎症作用を評価するために用いた実験系のスキーム。B)WT-MSCと比較した、PGK-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSCの抗炎症作用の強化。
【
図8】WT-MSCと比較した、DNA PGK-CXCR4-IL10 LVを形質導入したMSCの抗GvHDの強化:GvHD臨床徴候の分析を示す図である。A)WT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCのin vivo抗GVHDを評価するために用いた実験システムのスキーム。B)異なる実験群を比較するGVHDスコア。
【
図9】WT-MSCと比較した、DNA PGK-CXCR4-IL10 LVを形質導入したMSCの抗GvHDの強化を示す図である。A)GVHDヒト化マウスモデルにおける、異種ドナー白血球の増殖の低減を示すレシピエントマウスの末梢血中のヒトCD45
+細胞のフローサイトメトリ分析。B)GVHDヒト化マウスモデルにおける脾臓中のヒトCD45
+細胞のフローサイトメトリ分析であり、これにより、この免疫器官における異種ドナー白血球の浸潤の低減が確認される。
【
図10】WT-MSCと比較した、DNA PGK-CXCR4-IL10 LVを形質導入したMSCの抗GvHDの強化:IFN-g又はIL10を発現するドナーリンパ球の浸潤の分析を示す図である。A)CXCR4-IL10-MSCを注入したNSGマウスの脾臓中の、GVHD疾患に関与するINFg分泌ヒトT細胞の含有量の低減。B)CXCR4-IL10-MSCで処理したGVHDを有するNSGマウスの脾臓中のIL10分泌ヒトT細胞の含有量の増大。
【
図11】WT-MSCと比較した、DNA PGK-CXCR4-IL10 LVを形質導入したMSCの抗GvHDの強化:qPCRによるレシピエントマウスにおけるヒト因子の定量化を示す図である。A)WT-MSC又はCXCR4/IL10-MSCで処理したNSGの脾臓中の炎症誘発性因子(IFNg、IL-17及びIL-22)の分析。B)WT-MSC又はCXCR4/IL10-MSCで処理したNSGの脾臓中の抗炎症性因子(IL-5又はFoxP3)の分析。
【
図12】ヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入したNSGマウスにおける重量及びGVHD臨床スコアの推移を示す図である。(A)0日目の重量を100%に相当すると仮定した、経時的なパーセンテージとして示した重量の推移。(B)異なる移植群における経時的に決定した疾患の臨床スコア。総合的なGVHDスコアを、重量減少、姿勢、活動性、髪質、皮膚の完全性、及び下痢の存在に関して、評価した。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図13】ヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入したNSGマウスにおける、移植後3週間での末梢血中の循環ヒト細胞のフローサイトメトリ分析を示す図である。(A)循環ヒトCD45
+細胞のパーセンテージ。(B)循環ヒトCD3
+T細胞のパーセンテージ。(C)ヒトCD4
+、CD8
+又はCD4
+CD8
+T細胞としてのCD3
+T細胞の特性評価。各バーは、平均±SEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図14】ヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入したNSGマウスにおける循環ヒトCD4
+及びCD8
+T細胞(ナイーブ、エフェクター及びメモリーT細胞)の表現型特性評価を示す図である。(A)CD4
+T細胞におけるエフェクターT/ナイーブT細胞比。(B)CD8
+T細胞におけるエフェクターT/ナイーブT細胞比。各バーは平均±SEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図15】NSGマウスにヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入した後3週間での末梢血中の循環ヒトT細胞における活性化マーカーのフローサイトメトリによる分析を示す図である。CD3
+CD45
+として標識化したT細胞の活性化プロファイル。各バーは、2つの異なるドナーからのMNCを用いた2つの異なる実験からのデータの平均±SEMを表す(n=10匹~12匹のマウス/群)。
*p<0.05。
【
図16】ヒト単核細胞を有し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入したNSGマウスの3週間後の末梢血中の循環ヒトCD3
+T細胞における疲弊マーカーの分析を示す図である。CD3
+CD45
+ヒトT細胞の阻害プロファイル。
【
図17】ヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入した後3週間でのNSG移植マウスの血清中のGVHDに関与するヒトサイトカイン及び成長因子のレベルを示す図である。各バーは平均±SEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図18】ヒト単核細胞を有し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入したNSGマウスの移植後3週間での脾臓におけるヒト造血細胞のフローサイトメトリによる分析を示す図である。CD3
+細胞、CD19
+細胞、CD56
+細胞、CD14
+細胞及びCD15
+細胞として分布した循環ヒトCD45
+細胞のパーセンテージ。各バーは、平均±SEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図19】脾臓におけるT細胞部分母集団の表現型特性評価を示す図である。(A)CD3
+CD45
+細胞の母集団内のヒトCD4
+T細胞、CD8
+T細胞又は二重陽性T細胞の分布。(B)CD4
+T細胞母集団内のナイーブ、エフェクター及びメモリー部分母集団の分布。(C)CD8
+T細胞母集団内のナイーブ、エフェクター及びメモリー部分母集団の分布。各バーは平均±SEMを表す。
【
図20】NSGマウスにヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入した後3週間での脾臓におけるヒトT細胞における活性化プロファイルのフローサイトメトリによる分析を示す図である。(A)CD3
+CD45
+標識化T細胞の活性化プロファイル。(B)CD4
+T細胞部分母集団の活性化プロファイル。(C)CD8
+T細胞部分母集団の活性化プロファイル。各バーは、平均±SEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図21】NSGマウスにヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入した後3週間での脾臓におけるヒトT細胞における疲弊プロファイルのフローサイトメトリによる分析を示す図である。(A)CD3
+CD45
+T細胞の阻害プロファイル。(B)CD4
+T細胞部分母集団の阻害プロファイル。(C)CD8
+T細胞部分母集団の活性化プロファイル。各バーは平均±SEMを表す。
*p<0.05。
【
図22】脾臓におけるヒトCD19
+B細胞部分母集団(ナイーブB細胞CD24
-CD38
-CD27
-;移行期B細胞CD24
低/+CD38
+CD27
-;メモリーB細胞及びプラズマ細胞CD24
低/+CD38
+CD27
+)の表現型特性評価を示す図である。各バーは平均±SEMを表す。
*p<0.05。
【
図23】ヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入した後3週間でのNSGマウスの脾臓における制御性B細胞に対するヒトB細胞分極のフローサイトメトリ分析を示す。(A)各群の代表的なフローサイトメトリ分析及びIL10
+移行期B細胞パーセンテージのグラフ表示。(B)各群の代表的なフローサイトメトリ分析及びIL10
+メモリーB細胞パーセンテージのグラフ表示。各バーは、平均±SEMを表す。
*p<0.05。
【
図24】ヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入したNSGマウスの肺における病理組織学的分析を示す図である。(A)H/E染色(左)、ヒト抗CD3免疫組織化学染色(中央)、及びヒト抗CD8免疫組織化学染色(右)の代表的な画像。(B)肺中の浸潤CD3
+T細胞の定量化。(C)肺中の浸潤CD8
+T細胞の定量化。各バーは平均±SEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図25】ヒト単核細胞を移植し、WT又はCXCR4/IL10-MSCを注入したNSGマウスの肝臓における病理組織学的分析を示す図である。(A)H/E染色(左)、ヒト抗CD3免疫組織化学染色(中央)、及びヒト抗CD8免疫組織化学染色(右)の代表的な画像。(B)肝臓中の浸潤CD3
+T細胞の定量化。(C)肝臓中の浸潤CD8
+T細胞の定量化。各バーは平均±SEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図26】DSS誘発大腸炎に関する実験デザインを示す図である。異なる濃度のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を、7日間適宜に、飲料水中2.5%~3%の範囲で用いた。5日目にWT又はCXCR4/IL10-MSCの単回投与量(3×10
6細胞/マウス)を腹腔内注入した。長期評価のために、飲料水中DSSの7日間サイクルでの再誘発試験を12週間後に行った。
【
図27】WT-MSC又はCXCR4/IL10-MSCの腹腔内投与後のマウスのDSS誘発大腸炎の状態を示す図である。疾患活動性指標(DAI)(A)、体重の倍率変化(B)及び生存率(C)。DSSを用いた処理後10日目の結腸組織の代表的な画像(倍率4×及び10×)(D)。健康、n=14;DSS、n=26;DSS+WT-MSC、n=21;及びDSS+CXCR4/IL10-MSC、n=26。データは、疾患活動性指標及び体重の倍率変化の平均及び標準誤差により、0日目を基準として経時的にパーセンテージにより表す。生存率はパーセンテージにより表す。有意性は、マン-ホイットニーのU検定及びロングランク検定によって分析し、
*p<0.05及び
****p<0.0001 DSS対健康;$ p<0.05 DSS+WT-MSC対DSS;& p<0.05及び&& p<0.01 DSS+CXCR4/IL10-MSC対DSS及び# p<0.05 DSS+CXCR4/IL10-MSC対DSS+WT-MSCにより表した。結果は、5つの独立した実験に対応する。
【
図28】WT-MSC又はCXCR4/IL10-MSCの投与の3ヶ月後のマウスのDSS誘発大腸炎の状態を示す図である。疾患活動性指標(DAI)(A)、体重の倍率変化(B)及び生存率(C)。健康、n=10;DSS、n=15;DSS+WT-MSC、n=15;及びDSS+sCXCR4-IL10-MSC、n=15。データは、疾患活動性指標及び体重の倍率変化の平均及び標準誤差により、0日目を基準として経時的なパーセントにより表す。生存率はパーセンテージにより表す。有意性は、マン-ホイットニーのU検定及びロングランク検定によって分析し、
**p<0.01及び
****p<0.0001 DSS対健康、& p<0.05 DSS+CXCR4/IL10-MSC対DSS及び# p<0.05及び## p<0.01 DSS+CXCR4/IL10-MSC対DSS+WT-MSCにより表した。結果は3つの独立した実験に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を、その保護範囲を限定する意図なしに、以下の実施例によって例示する。
【実施例】
【0021】
実施例1.材料及び方法
実施例1.1.脂肪組織由来MSC(Ad-MSC)の生成及び増殖
脂肪組織試料を、インフォームドコンセント後、健康なドナーから外科的切除により得た。脂肪組織を脱凝集し、最終濃度2mg/mlでコラゲナーゼA(Serva、独国)を用いて、37℃で4時間消化した。消化した試料を100μmのナイロンフィルタ(BD Bioscience、米国)を通して濾過し、10分間遠心分離した。細胞ペレットを、5%血小板溶解液(Cook medical、米国)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)及び1ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Peprotech、米国)を追加したα-MEM(Gibco、米国)中で再懸濁した。培養フラスコ(Corning、米国)中、10000細胞/cm2の濃度で細胞を播種し、37℃で培養した。Ad-MSCの増殖のために、細胞培地を2日~4日毎に交換し、付着した細胞を、ほぼコンフルエント(70%~90%)に達した時点で0.25%トリプシン/EDTA(Sigma-Aldrich、米国)を用いて連続継代した。in vitro及びin vivo調査のために、Ad-MSCは4継代~8継代で用いた。
【0022】
実施例1.2.WT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCの特性評価
WT-MSC、及びCXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSC(CXCR4/IL10-MSC)を、Mesenchymal cell kit(Immunostep、スペイン国)に記載されるようにフローサイトメトリ(Fortessa、BD Bioscience、米国)により免疫表現型的に特性評価した。これらの調査に含まれるモノクローナル抗ヒト抗体は、以下のものであった:CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166、CD45、CD19、HLA-DR、CD14及びCD34。データはFlowJoバージョンX(FlowJo LLC、米国)を用いて分析した。
【0023】
Ad-MSCの骨形成及び脂肪形成分化能を、それぞれNH-OsteoDiff及びNH-AdipoDiff Media(Miltenyi Biotec、独国)を用いて、メーカーのプロトコルに従って決定した。アルカリフォスファターゼの沈着を、Fast BCIP/NCP(Sigma-Aldrich)を用いた染色後に見て、光学顕微鏡(Nikon、独国)を用いて脂質滴を見た。
【0024】
実施例1.3.DNA CXCR4/IL10レンチウイルスベクターの構築
レンチウイルスバックボーン及びPGKプロモーターを含むフラグメント(7362bp)を、その制限部位がそれぞれ5’末端及び3’末端におけるブランク(blanking)FANCA導入遺伝子である、AgeI及びSacII制限酵素(New England Biolabs、米国)を用いたpCCL.PGK.FANCA.Wpre*プラスミド(9087bp)の同時消化により得た。導入遺伝子を含まない消化されたレンチウイルスバックボーンを、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up kit(Macherey-Nagel、独国)を用いてアガロースゲルから精製した。ヒトCXCR4及びIL10のコドン最適化配列を含むフラグメントを、mRNA合成のために用いたpUC57プラスミドをテンプレートとするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得た。各プラスミドのPCRは、5’末端におけるAgeI及びSacII制限部位、並びに、CXCR4又はIL10導入遺伝子の最初又は最後の20bpを含む2つの特異的プライマーを用いて行った。増幅は、Herculase II Fusion Enzymeのプロトコル(Agilent、米国)に従って、ターゲットサイズに応じて、ジメチルスルホキシド(DMSO)を使用せず、アニーリング温度用の58℃に安定させて、行った。PCR生成物をAgeI及びSacIIを用いて同時消化し、さらにNucleoSpin Gel and PCR Clean-up kitを用いてカラムにより精製した。
【0025】
消化したレンチウイルスバックボーン及び目的のフラグメントを、ターゲット:ベクター比を5:1に維持しつつ、T4 DNA Ligase(New England Biolabs)を用いてライゲーションした。ライゲーションした生成物をStable3細菌に導入し、pCCL.PKG-CXCR4-IL10.Wpre*プラスミドを得た。
【0026】
実施例1.4.レンチウイルスベクターの生成
本作業で用いた全ての自己不活性化HIV-1由来ベクターは、HEK293T細胞における第二世代パッケージングシステムにより生成し、VSV-G偽型ウイルスを得た。前日に150mm径のプレート中に総量12×106個の細胞をプレーティングした。遺伝子導入を、150mm径のプレート中で70%~80%コンフルエントの細胞に対して、上述のCaCl2DNA沈殿法に従って行った。簡潔には、遺伝子導入の1時間前に、培地を、10%HyClone(GE Healthcare、米国)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む新鮮なDMEM-Glutamaxに交換した。導入遺伝子、ウイルスゲノム及びパッケージング構築物を含む3つのプラスミドの等分子混合物を新たに調製した。各プレートのHEK293T細胞に、22.5μgの遺伝子導入プラスミド、12μgの、異種VSVgエンベロープを保持するpMD2.VSVgエンベローププラスミド(PlasmidFactory、独国)、及び27.5μgの、gag-pol-revウイルス遺伝子を保持するpCMVdR8.74パッケージングプラスミド(PlasmidFactory)を遺伝子導入した。これらのプラスミド混合物を最終体積3.8mlの超純水H2O中に調製し、450μlの2.5M CaCl2を慎重に添加した。室温で5分のインキュベーション後、3.8mlの2×ハンクス平衡生理食塩水(HBS)バッファー(100mM HEPES(Gibco)、281mM NaCl、1.5mM Na2HPO4、pH=7.13)を一滴ずつ添加し、Ca2+沈殿を形成させた。この溶液を、HEK293T細胞に添加し、これらの沈殿を統合した。5時間後、沈殿物を含む培地を新鮮な培地と交換した。遺伝子導入後48時間で上清を回収した。これらを採取し、0.22μm孔径のフィルタ(Millipore、Merck KGaA、独国)を用いて濾過し、20000rpm、4℃で2時間の超遠心分離により濃縮した。その後、ウイルスペレットをDMEM中に、4℃で少なくとも1時間懸濁し、遠沈して細胞の残骸を捨て、100μlのアリコート中-80℃で保存した。
【0027】
実施例1.5.Ad-MSCの形質導入
付着したMSCの形質導入、及び懸濁液中のMSCの形質導入という2つの異なる戦略を行って、ヒトAd-MSCを形質導入した。実験のこのセットでは、形質導入の有効性を増大させることを目的として、形質導入プロセス中に形質導入エンハンサー(TE)を添加した。
【0028】
実施例1.6.CXCR4及びIL-10タンパク質の共発現
Ad-MSCの細胞表面上でのCXCR4の発現を、PE結合抗ヒトCXCR4抗体を用いた4℃で30分の標識化後(Biolegend、米国)、フローサイトメトリにより決定した。Ad-MSCにより分泌されるIL10レベルを、human IL10 Quantikine ELISA Kit(R&D System、米国)を用いて、培養細胞の上清中で測定した。
【0029】
プロテアーゼ阻害剤混合物(Merck Millipore、独国)を含むRIPAバッファー(ThermoFisher Scientific、米国)を用いて、Ad-MSCから総タンパク質抽出物を分離した。20マイクログラムの各細胞溶解物を4%~12%ポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad、米国)中で分解し、PVDF膜(Bio-Rad)に移した。膜を、0.1% Tween-20 PBS中の5%(v/v)無脂肪乾燥乳を用いて遮断した。遮断液中に希釈したウサギモノクローナル抗ヒトCXCR4抗体(Abcam、英国)と共にインキュベートすることにより、試料をイムノブロットした。マウス抗ヒトビンキュリン(Abcam)を、負荷コントロールとして用いた。ブロットを、ChemiDoc MP System及びImageLabソフトウェア(Bio-Rad)を用いたClarity Western ECL基質(Bio-Rad)を用いて可視化した。
【0030】
実施例1.7.細胞遊走アッセイ
遊走アッセイを、8μm孔のポリカーボネート膜インサート(Costar、ケンブリッジ、MA)を備えたトランスウェルにおいて行った。5×103個のAd-MSCをトランスウェルアセンブリの上方インサートチャンバ内に配置した。下方チャンバに、最終濃度100ng/mlのマウス又はヒトSDF-1(Peprotech、米国)を収容した。インキュベーション後24時間で、膜の上部を綿棒で優しく掻き落として、非遊走細胞を除去し、PBSを用いて洗浄した。3.7%~4%ホルマリンを用いて4℃で一晩膜を固定し、ヘマトキシリンを用いて室温で4時間染色した。遊走細胞の数を、Nikon Eclipse E400顕微鏡(10×)(Nikon、英国)の下で、ウェル毎に4つのランダムな領域のスコアリングによって決定し、Leica DFC420カメラ(Leica、英国)を用いて写真を得た。
【0031】
実施例1.8.in vitro免疫抑制アッセイ
末梢血単核細胞(MNC)を、インフォームドコンセント後、健康なドナーから得たヘパリン化末梢血試料からFicoll-Paque PLUS(GE Healthcare Bioscience、スウェーデン国)の密度勾配により得た。共培養の前に、MNCを、細胞内蛍光染料CFSE(カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル、Molecular Probe、米国)を用いて、上述のプロトコルに従ってマーキングした。WT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCを、5×104個の細胞/ウェルの濃度で24ウェルプレートにプレーティングした。24時間後、5×105個のMNCを、各ウェルに10μg/mLのフィトヘマグルチニン(PHA)(Sigma-Aldrich)の存在下で加え、T細胞増殖を誘発した。3日間のインキュベーション後、培養ウェルから採取した細胞をフローサイトメトリによって細胞増殖について分析した。データは、ModFit LT(商標)(Verity Software House、米国)を用いて分析した。
【0032】
実施例1.9.分泌されたサイトカイン及び因子の定量化
WT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCを、6ウェルプレートに1×105個の細胞/ウェルの濃度で播種した。4時間の遺伝子導入後、上清を回収し、分泌されたPGE2及びTGFβ1をELISA(R&D System、米国)により定量化した。分泌されたIL-6、IFNγ及びTNFαを、LEGENDplex(商標)Human Th Cytokine Panel(Biolegend、米国)を用いて、メーカーのプロトコルに従ってフローサイトメトリにより定量化した。
【0033】
実施例1.10.遺伝子発現分析
WT-MSC及びCXCR4/IL10-MSCからのRNAを、RNAeasy(商標)Plus Mini Kitを用いて分離し、RETROscript(ThermoFisher Scientific、ウォルサム、米国)を用いて逆転写した。FastStart Universal SYBR Green Masterマスターミックス(Roche、インディアナポリス、米国)と、ヒトインターロイキン及び異なる因子用の特異的プライマーとを用いた定量的リアルタイムPCR(qPCR)を、cDNAについて行った。qPCRを、7500 fast real-time PCR system(ThermoFisher Scientific)において実行した。結果を、2-ΔΔCt法に従って、ヒトGAPDH発現及びコントロール試料の発現に対して正規化した。
【0034】
実施例1.11.LPS誘発炎症パッドモデル
FVB/NJマウスを、CIEMAT(マドリッド、スペイン国)にある動物施設(登録番号ES280790000183)において飼育した。マウスは、FELASAの手順に従って病原体に関して定期的にスクリーニングし、水及び餌を自由に与えた。全ての実験手順は、スペイン国及び欧州の規則(スペイン国RD53/2013及び法律6/2013、欧州指令2010/63/UE)に従って行った。手順は、承認されたバイオセーフティ及び生命倫理ガイドラインに従って、CIEMAT動物実験倫理委員会により承認された。FVB/NJマウスを鎮静化させ、30μlのPBS中の40μgの大腸菌LPSを右パッドに単回注射して与えた。同様に、コントロールとして、30μLのPBSを左パッドに注射した。Ad-MSC遺伝子導入の4時間後、5×105個のWT-MSC又はCXCR4/IL10-MSCを、尾静脈を介して静脈内注入した。パッドの炎症を、LPS投与後24時間、48時間、72時間にデジタルノギスを用いて厚さを測定することにより決定した。実験の最後に、マウスをCO2吸入により屠殺した。末梢血細胞を採取し、ヘマトロジーアナライザAbacus(Diatron、米国)を用いてマウスの血液学的パラメータを分析した。
【0035】
実施例1.12.NSGマウスにおける移植片対宿主病(GvHD)のヒト化マウスモデル
モデルを確立するために、NSGマウスに2Gyで照射し、翌日、これらに5×106個のヒトMNCを移植した。3日後、100万個のWT-MSC又はCXCR4/IL10-MSCを静脈内に注入した。動物は毎日重量を測定し、重量減少、猫背、毛の乱れ、下痢等のGVHDの可能性のある症状について監視した。GVHDの重症度は、0(GVHDなし)~8(重症のGVHD)で段階分けした。動物は、これらが安楽死GVHD基準(20%を超える重量減少又は6.5以上のスコア)を示した時点で、人道的に屠殺した。
【0036】
実施例1.13.統計分析
統計分析は、Graph Pad Prism 7.0ソフトウェア(Graph Pad Software、米国)を用いて行った。in vitro試験のデータは平均±標準偏差(SD)として、in vivo試験においては平均±平均の標準誤差(SEM)として、表した。正規分布はシャピロ-ウィルク検定により分析した。3つの群以上を比較するために、正規分布についてはパラメトリック検定(一元配置ANOVA)、非正規分布についてはノンパラメトリック検定(クラスカル-ウォリス検定)を用いた。平均を比較するための適切な事後分析を行った。p値<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0037】
実施例1.14.GVHDマウスモデルにおける病理組織学的分析
肺及び肝臓を外科的に摘出し、一晩ホルマリンを用いて固定した。固定後、組織試料を標準的な方法で処理し、ブロックの生成のためにパラフィン中に包埋した。組織の形態を評価するために、パラフィンブロックの3μm~5μmの切片を、ミクロトームを用いて作成し、標準的な手法を用いてヘマトキシリン-エオシン染色を行った。先に確立したGVHD段階分けシステムに従った組織の解釈。
【0038】
実施例1.15.GVHDマウスモデルにおける免疫組織化学的分析
試料の入ったスライドを、標準的なプロトコルに従って脱パラフィン化し、再水和した。肺及び肝臓の試料を、ヒトCD3及びCD8を用いて標識化した。CD3標識化試料の抗原賦活化を、クエン酸ナトリウムバッファー(1.8mMクエン酸一水和物及び8.2mMクエン酸三ナトリウム二水和物;pH6)を用いて、圧力釜(Dako、Agilent Technologies)を用いて行った。CD8を用いて染色した試料の賦活化のために、Tris-EDTAバッファー(抗原賦活液緩衝液pH9;Dako)及び同じ圧力釜を用いた。内因性ペルオキシダーゼを、メタノール中に溶解させた0.2%過酸化水素を用いて10分間阻害した。非特異的エピトープを、PBS中に溶解させた10%ウマ血清を用いて、37℃で30分間遮断した。一次抗体を、阻害溶液中に希釈して4℃で一晩インキュベートした。ビオチンと結合した二次抗体を、遮断溶液中に希釈して室温で1時間インキュベートした。シグナルを増幅するために、ビオチン-アビジン-ペルオキシダーゼシステム(VECTASTAIN elite ABC HRP kit、Vector Laboratories)を用い、室温で30分インキュベートした。ペルオキシダーゼ基質としてジアミノベンジジンを用いてシグナルを可視化した(DAB Kit、Vector Laboratories)。最後に、ヘマトキシリンを用いて試料を対比染色し、標準的な手順を用いて脱水し、マウント接着剤(CV Mount、Leica Biosystems)を用いてマウントした。画像を光学顕微鏡(Olympus BX41)及びデジタルカメラ(Olympus DP21)を用いて撮影した。各試料におけるマーキングのパーセンテージの分析を、ImageJプログラムを用いて行った。
【0039】
実施例1.16.デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎の誘発及び評価
異なる濃度のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS;36000MW~50000MW、MP Biomedicals、アーバイン CA 米国)を、飲料水中2.5%~3%の範囲で7日間自由に用いた。5日目に天然又はCXCR4/IL-10改変MSC(3×106個の細胞/マウス)の単回投与量を腹腔内注入した。
【0040】
長期評価のため、飲料水中DSSの7日サイクルでの再誘発試験を行った(
図26)。
【0041】
大腸炎スコア又は疾患活動性指標(DAI)を、以下のように定義した:(1)体重減少(0:低減なし、1:1%~5%、2:5%~10%、3:10%~20%、4:20%を超える重量減少、及び5:生存なし)、(2)便の硬さ(0:正常な便、1:緩い便、2:水様下痢、3:血を伴う水様下痢、及び4:生存なし)、及び(3)一般的な身体活動(0:正常、1~2:中程度の活動、3:活動なし、及び4:生存なし)。体重の倍率変化を、DSS処理開始直前の0日目の初期体重を基準として、定義された時点での体重の差によって計算し、パーセントとして表した。
【0042】
大腸炎スコアを、結腸の組織学的分析によっても評価した。結腸を外科的に摘出し、一晩ホルマリンを用いて固定した。48時間後に、1cmの結腸組織を切り取り、パラフィン中に包埋し、ヘマトキシリン/エオシンを用いて染色した。切片を、光学顕微鏡を用いて、浸潤単核細胞、及び腸上皮及び粘膜下層の構造の分析について検査した。
【0043】
実施例2.結果
明確にするために、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCを基準とした、実施例2.1及び実施例2.2において提供された結果は、CXCR4及びIL10を共発現する組込み発現ベクターをMSCに形質導入した場合に(実施例2.3~実施例2.7)、これらの結果がいかに改善されたかを示すための比較実施例としてのみ含まれていることに留意頂きたい。
【0044】
実施例2.1.バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCは、有意な局所抗炎症作用を示す
LPSにより誘発された局所炎症モデルのモデルマウスにおいて、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCのin vivo有効性を検証した。WT-MSC及びCXCR4-IL10-RNA-MSCの両方が、有意な抗炎症作用を示すことができたが、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCはWT-MSCと比較して有意により有効であった。
図1を参照すれば、これには局所炎症のモデルマウスにおけるバイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCのin vivo有効性の分析が示されている。WT-MSCと比較した、CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCの抗炎症作用の強化が観察される。
【0045】
実施例2.2.移植片対宿主病マウスモデルにおける、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCのin vivo有効性の欠如
また、移植片対宿主病マウスモデルにおける、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCのin vivo有効性を検証した。C57Bl/6ドナーマウスからのBM細胞を、あらかじめ11Gyの致死線量で照射したB6D2F1レシピエントマウスに移植することにより、ハプロタイプ一致造血移植のマウスモデルを導いた。全てのレシピエントに10×10
6個のBMドナー細胞を静脈内注射した。移植片対宿主病(GVHD)を誘発するために、レシピエントに総数2x10
8個のドナー脾細胞も与えた。GVHD誘発後1日で、マウスに、生理食塩水(GVHD群)、WT-MSC又はmRNA遺伝子導入MSC(1×10
6個)を、尾静脈を介して投与した。移植したレシピエントを、重量減少、猫背、毛の乱れ、及び下痢等のGVHDの症状について毎日観察した。GVHDの重症度は、0(GVHDなし)~8(重症のGVHD)で段階分けした。動物は、これらが安楽死GVHD基準(20%を超える重量減少又は6.5以上のスコア)を示したときに、人道的に屠殺した。
図2は、GVHDのマウスモデルにおいて、バイシストロン性CXCR4-IL10 mRNAを遺伝子導入したMSCのin vivo有効性の分析を示す。A)生存曲線、B)重量及びC)臨床スコア。
図2Aに示されるように、WT-MSCとCXCR4-IL10 mRNA MSCとの間に、GVHDを阻害するための差は観察されなかった。
【0046】
実施例2.3.移植片対宿主病を阻害するためのWT MSCの有効性を改善するためのバイシストロン性DNA CRCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSCの生成
これらの調査において、CXCR4及びIL10遺伝子の最適化された配列が、ヒト生理的プロモーターPGKの下でバイシストロン性レンチウイルスベクター中にクローニングされたレンチウイルスベクターを作成した(
図3A)。
【0047】
異なる方法のAd-MSC形質導入及び異なる量のベクターを検証した後、改変Ad-MSC(CXCR4/IL10-MSC)の母集団を得た。このCXCR4/IL10-MSCの母集団はCXCR4を過剰発現し、約80%のMSCがCXCR4に対して陽性であった。CXCR4/IL10-MSCにより、非改変MSC(WT-MSC)と比較して、より高い濃度のIL10が分泌された。これらのCXCR4/IL10-MSCにおいて、ベクターコピー数をqPCRによって分析した(
図3B)。
【0048】
実施例2.4.WT-MSCと比較したCXCR4/IL10-MSCのin vitro特性評価
バイシストロン性PGK-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを用いて改変させたMSCを、間葉系細胞に関してISCT(国際細胞治療学会)により確立された基準に従って特性評価した。
【0049】
in vitro特性評価は、バイシストロン性レンチウイルスベクターを用いたMSCの改変が、非改変間葉系細胞(WT-MSC)と比較して、その免疫表現型(
図4A)にも、骨(
図4B)及び脂肪組織(
図4C)への分化能にも影響しないことを示した。
【0050】
実施例2.5.WT-MSCと比較したCXCR4/IL10-MSCのin vitro機能性
バイシストロン性レンチウイルスベクターを用いて改変させた間葉系細胞(CXCR4/IL10-MSC)のin vitro機能性を調査するために、まず、CXCR4のリガンドであるSDF-1に応答する、トランスウェル遊走アッセイを行った(
図5A)。このアッセイの結果は、WT-MSCと比較した、CXCR4/IL10-MSCの遊走能の強化を示した(
図5B)。
【0051】
次のin vitro機能特性評価の調査は、免疫抑制アッセイからなり、これにおいては、活性化単核細胞(MNC)の増殖を阻害するCXCR4/IL10-MSCの能力をWT-MSCと比較して評価した(
図6A)。
【0052】
既に記載したように、WT-MSCは活性化MNCの増殖を阻害する高い能力を示した。しかし、この阻害は、MSCにPGK-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入した場合に有意により高かった(
図6B)。これらの調査は、バイシストロン性レンチウイルスベクターを用いたMSCの形質導入が、WT-MSCと比較して、これらの細胞の免疫調節能力を有意に改善することを証明する。
【0053】
実施例2.6.WT-MSCと比較した、局所炎症を阻害するためのCXCR4/IL10-MSCのin vivo有効性の強化
PGK-CXCR4-IL10レンチウイルスベクターを形質導入したMSCのin vivo有効性を検証するため、LPSにより誘発した局所炎症モデルのマウスモデルにおいて、細胞を検証した。
【0054】
LPSを各マウスの右パッドに注射した。LPS注射後1日で、異なるタイプのAd-MSC(WT-MSC及びCXCR4/IL10-MSC)を静脈内注入した(n=7匹~14匹のマウス/群)。炎症を、各マウスにおけるコントロールとして左パッドを用いて、デジタルノギスを用いて肉眼で測定した(
図7A)。
【0055】
結果は、Ad-MSCの注入後24時間(LPS注射後48時間)で、Ad-MSCを与えた全てのマウスが炎症を制御した一方、LPS注射のみを与えたマウス群においては炎症が成長し続けたことを示した。
【0056】
しかし、CXCR4/IL10-MSCを与えたマウス群において、炎症の制御は統計的により高かった(
図7B)。
【0057】
実施例2.7.WT MSCと比較した、DNAバイシストロン性レンチウイルスベクターを形質導入したMSCの移植片対宿主病(GvHD)を阻害するための有効性の改善
バイシストロン性レンチウイルスベクターを形質導入したMSCの治療有効性を、移植片対宿主病(GvHD)マウスモデルにおいても、免疫不全NSGマウスへの末梢血ヒト単核細胞(MNC)の注入に基づいて検証した(
図8A)。モデルを確立するために、マウスを2Gyで照射し、翌日、これらに5×10
6個のヒトMNCを移植した。3日後、100万個のWT-MSC又はCXCR4/IL10-MSCを静脈内注入した。動物は毎日重量を測定し、GVHDの可能性のある主要な徴候について監視した(
図8B)。
【0058】
図8Bが示すように、GVHDスコアは、GVHD群だけでなく、WT-MSC群と比較しても、CXCR4/IL10-MSCを与えたNSGマウスの群において有意により良好であった。
【0059】
MNCの注入後2週間で、ヒトMNCのみを与えたマウス(GvHD群)は、疾患の兆候(重量減少、猫背)を示し始めた。そこで、この時点で、全3つの群のレシピエントマウスを屠殺し、末梢血(PB)及び脾臓(SP)中のヒトCD45
+細胞のパーセンテージを分析した。WT-MSCを与えたマウスにおいては、浸潤ヒトCD45
+細胞のパーセンテージが有意に低減されたことが見出された。それにもかかわらず、PB及び脾臓の両方において観察された低減は、CXCR4/IL10-MSCを注入したマウスにおいて有意により大きかった(
図9A及び
図9B)。
【0060】
GVHD疾患の原因となるヒトCD45
+CD3
+細胞を、GVHDヒト化マウスモデルにおいてフローサイトメトリにより分析した。注目すべきことに、CXCR4/IL10-MSCで処理したが、WT-MSCで処理しなかったNSGマウスは、GvHDコントロール群と比較して、炎症誘発性T細胞(CD3
+IFNg
+)のパーセンテージの統計的な低減を示した(
図10A)。さらに、CXCR4/IL10-MSCを与えたが、WT-MSCを用いなかった群においては、GvHDコントロール群と比較して、抗炎症性T細胞(CD3
+IL10
+)のパーセンテージにおける統計的に有意な増大が観察された(
図10B)。
【0061】
フローサイトメトリにより観察されたこれらのデータを、qPCRにより確認した。IFNg、IL-17及びIL-22等の炎症誘発性因子は、GvHDコントロール群と比較して、CXCR4/IL10-MSCを与え、WT-MSCを与えなかったマウスのケースにおいて、有意に低減された。IL-5又はFoxP3等の抗炎症因子の発現レベルの定量化は、これらの因子が、CXCR4/IL10-MSCを与えたが、WT-MSCを与えなかったマウスのケースにおいて、GvHDコントロール群を基準として統計的に増大したことを示した(
図11)。
【0062】
実施例2.8.移植片対宿主病(GvHD)のヒト化モデルにおいて検証したCXCR4/IL10-MSCのin vivo有効性
WT-MSCを基準としてCXCR4/IL10-MSCのin vivo有効性を検証するため、移植片対宿主病(GvHD)のヒト化モデルを開発した。最大の重量減少は、どのタイプのAd-MSCも与えなかったGvHD群において観察された。さらに、GvHD群において、またWT-MSCを与えた群においても観察された顕著な重量減少に比較して、CXCR4/IL10-MSCを与えた群においては、重量減少は観察されなかった(
図12A)。さらに、WT-MSCを与えた群は、非MSC処理マウスと比較して、より低いGvHDスコア(より中程度の臨床徴候)を呈した一方、GvHDスコアは、CXCR4/IL10-MSCを与えたマウスにおいて有意により低かった(
図12B)。
【0063】
移植マウスの末梢血中のヒト白血球の分析は、Ad-MSCを与えたマウスにおける有意な低減を示した(%hCD45細胞;
図13A)。それにもかかわらず、CXCR4/IL10-MSCで処理したマウスは、ヒト白血球の最も低い割合を示し、そのほとんどは全ての例でヒトCD3
+T細胞であり(
図13B)、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞又は二重陽性T細胞の間では差がなかった(
図13C)。
【0064】
ナイーブ、エフェクター及びメモリーT細胞におけるヒトCD4
+T細胞又はCD8
+T細胞の分布の分析は、CXCR4/IL10-MSCを与えたマウスにおいてエフェクター表現型を有するCD4
+T細胞及びCD8
+T細胞のパーセンテージにおける有意な低減を示した(
図14C及び
図14F)。
【0065】
マウスの末梢血中の循環ヒトT細胞の活性化プロファイルを調査した。どのタイプのAd-MSCを与えた群も、CD25
+T細胞のパーセンテージにおける増大を示し、CXCR4/IL10-MSCで処理したマウスにおいて統計的により高かった。さらに、これらの細胞はCD25
+CD4
+リンパ球であり、これは、この群における循環制御性T細胞の存在を示唆した(
図15)。
【0066】
また、末梢血中の循環ヒトCD3
+T細胞の疲弊プロファイルを、CTLA4、PD1、TIGIT及びTIM3マーカーを用いて分析した。MNCの移植後3週間で、CTLA4に対して陽性な循環CD3
+細胞における増大が、Ad-MSCを与えた2つの群において観察され、これは、CXCR4/IL10-MSCを与えたマウスのケースにおいて有意により大きかった(
図16)。
【0067】
循環ヒトサイトカイン及びGvHD発症に関与する因子を、これらのマウスの血清において分析した。
図17が示すように、どのタイプのAd-MSCで処理した群も、GvHDコントロール群を基準として、IFNγ、IL17A、IL1α、IL8、IL12又はTNFα等の循環炎症誘発性ヒトサイトカインのレベルにおける統計的に有意な低減を呈した。さらに、Ad-MSCを与えたこれら2つの群は、IL10、TGFβ又はIL6等の循環ヒト抗炎症性因子における増大をもたらした。注目すべきことに、炎症誘発性からより抗炎症性のプロファイルへのサイトカイン分泌における変化は、CXCR4/IL10-MSCを与えたマウスにおいて、WT-MSCを与えたマウスに対して、統計的により顕著であった(
図17)。
【0068】
これらの結果は、CXCR4/IL10-MSCの注入が、WT-MSCで処理したマウスに対応する値を基準として、末梢血中の循環ヒトT細胞のパーセンテージにおける有意な低減を生じることを示した。さらに、末梢血T細胞は、WT-MSCと比較して、CXCR4/IL10-MSCの注入後に、より免疫抑制的なプロファイルを示す。
【0069】
まとめると、このデータは、CXCR4/IL10-MSCが、ヒト白血球を移植したNSG免疫不全マウスにおいて、全身レベルでの、有意な炎症環境の低減及び免疫調節環境の強化を誘発することを示す。
【0070】
脾臓において、異なるヒト造血系列間の分布を調査した:CD3+T細胞、CD19+B細胞、CD56+NK細胞、CD14+単球及びCD15+顆粒球。GvHD群における移植後3週間で脾臓において観察されたヒトCD45+細胞の約70%が、ヒトCD3+T細胞である一方(64.98±4.14%)、このパーセンテージはWT-MSCを与えた群においては低減し(59.22±4.56%)、CXCR4/IL10-MSCを与えた群においてはより顕著に低減した(48.67±3.58%)。さらに、ヒトCD19+B細胞のパーセンテージを脾臓において分析した場合、GvHD群(6.73±1.03%)又はWT-MSCを与えた群(8.99±1.53%)のいずれかと比較して、CXCR4/IL10-MSCで処理した群において、この母集団の有意な増大が検出された(14.62±1.52%)。最後に、移植マウスの脾臓におけるCD56+NK細胞、CD14+単球及びCD15+顆粒球のパーセンテージは非常に低く、異なる調査群の間で差はなかった。
【0071】
脾臓におけるCD4
+細胞、CD8
+細胞又は二重陽性細胞の間のT細胞の分布における調査群間で有意な差は見出されなかった(
図19A)。最も特徴的な部分母集団:ナイーブ、エフェクター、メモリーT細胞間で、ヒトCD4
+T細胞又はCD8
+T細胞の分布に関して、異なる調査群間で差は観察されなかった(
図19B及び
図19C)。
【0072】
脾臓において観察された活性化パターンは、末梢血において観察されたものと非常に類似していた。脾臓におけるCD25の発現に関してのみ、群間で差が見出された(
図20A)。どのタイプのAd-MSCを与えた群も、GvHD群を基準としてCD25
+T細胞のパーセンテージにおける有意な増大を示し、WT-MSCを与えた群と比較して、CXCR4/IL10-MSCを用いて処理したマウスにおいてより高かった。これらの細胞は、特にCD25
+CD4
+T細胞であり(
図20B)、脾臓におけるこれらのCD4
+T細胞の免疫調節表現型を示した。
【0073】
MNCの移植後3週間での、NSG移植マウスの脾臓における阻害受容体の分析は、AdMSCで処理しなかったマウスのGvHDコントロール群(
図21)を基準として、CXCR4/IL10-MSCで処理したマウスにおける、ヒトCD3
+T細胞における(
図23A)、及び更にCD4
+細胞又はCD8
+細胞における(それぞれ
図21B及び
図21C)、TIM3
+T細胞の有意な増大を示した。分析した他の疲弊マーカーを基準としては、群間で差は観察されなかった。
【0074】
脾臓におけるB細胞のフローサイトメトリ分析は、非MSC処理群とどのタイプのAdMSCを与えている群との間でも、ナイーブB細胞部分母集団における変化がないことを示した。しかし、抗体産生B細胞に未だ分化していなかった移行期B細胞のパーセンテージは、WT-MSCを与えた群(24.3±5.18%)、及びどのMSCも注入しなかったGvHDコントロール群(17.47±2.21%)と比較して、CXCR4/IL10-MSCを与えたマウスにおいてより高かった(34.78±7.09%)。最後に、CXCR4/IL10-MSCを与えた群においてのみ、完全に分化したB細胞のパーセンテージにおけるわずかな低減が観察された(
図22)。
【0075】
これらの結果は、WT-MSC、及びより顕著なCXCR4/IL10-MSCが、メモリーB細胞又はプラズマ細胞へのその分化を完了することなしに、B細胞母集団を移行状態に維持していたことを示唆した。
【0076】
移行期B細胞母集団におけるBreg細胞のパーセンテージは、WT-MSCを与えたマウスにおいて、より高かった(
図23A)。さらに、このパーセンテージは、CXCR4/IL10-MSCを注入したマウスにおいて統計的により高かった。同じパターンが、IL10を分泌するメモリーB細胞の母集団の間で観察された(
図23B)。
【0077】
まとめると、これらの結果は、CXCR4/IL10-MSCの注入が、WT-MSCを基準として免疫調節表現型を有するT細胞の発達を有意に促進するだけでなく、GvHDの進行に対して有益な作用を有するB細胞の発達を改善することを示唆する。
【0078】
急性ヒトGvHDの最終段階の間、ドナーエフェクターT細胞は、直接的な細胞傷害活性又は炎症性サイトカイン産生を通じて、異なる器官における組織傷害を媒介する。GvHDの病理組織学的徴候を、肺又は肝臓等のこの疾患の標的器官において分析した。肺の組織学的分析は、CXCR4/IL10-MSCを与えたマウスが、疾患のないコントロール群と同様の構造を示した他の2つの群を基準として、実質におけるヒトT細胞の浸潤の大幅な低減を呈したことを示した(
図24A)。ヒトCD3
+T細胞及びCD8
+T細胞の存在を定量化することにより、どのタイプのAd-MSCの注入も、肺における両細胞タイプのパーセンテージを低減させたことが見出された。注目すべきことに、CXCR4/IL10-MSCで処理したマウスにおいて、ヒトCD3
+細胞(
図24B)及びCD8
+細胞(
図24C)の両方について、低減はよりはるかに有意であった。
【0079】
移植マウスの肝臓の病理組織学的分析は、実質のヒトT細胞浸潤レベル、及び更に血管周囲の炎症を示し、これらは、どのタイプのAd-MSCの注入後にも大きく低減した。さらに、この炎症は、CXCR4/IL10-MSCで処理したマウスにおいては実際上存在しなかった(
図25A)。一方、Ad-MSCの投与は、肝臓におけるヒトCD3
+細胞及びCD8
+細胞の存在を有意に低減させ、この低減は、マウスにCXCR4/IL10-MSCを与えた場合に、よりはるかに有意であった(
図25B及び
図25C)。
【0080】
実施例2.9.デキストラン硫酸塩(DSS)によって誘発された炎症性腸疾患(IBD)の実験モデルにおける、CXCR4及びIL10を安定に発現するCXCR4/IL10-MSCの有効性の強化
さらに、炎症の新たな実験モデル:DSSにより誘発された炎症性腸疾患(IBD)において、CXCR4及びIL10を発現する遺伝子改変MSCのin vivo有効性を検証した。
【0081】
図26に示される実験デザイン(材料及び方法)によれば、CXCR4/IL10-MSCの単回投与量で処理した大腸炎(colitic)マウスにおける疾患活動性指標(DAI)は、MSCで処理しなかったマウス又はWT-MSCで処理したマウスのいずれかと比較して、有意により低かった(
図27A)。また、1回目の7日間のDSSサイクルの間、CXCR4/IL10-MSC処理マウスの体重減少(
図27B)及び生存率(
図2FC)を、WT-MSC処理群及び非MSC処理群と比較すると、有意な差が観察された。非MSC注入大腸炎マウスを基準として、組織学的により良好に保存された結腸形態及び白血球浸潤の減弱が、CXCR4/IL10-MSC処理大腸炎マウスにおいて観察された(
図27D)。
【0082】
大腸炎マウスにおけるCXCR4/IL10-MSCにより誘発される長期作用を調査するため、
図26に示される実験デザインに従って実験を行った。1回目のDSS処理から3ヶ月の潜伏期の後、7日間のDSSサイクルでの2回目の誘発試験を行った。注入したCXCR4/IL10-MSCは、非MSC注入大腸炎マウスを基準として、DAI(
図28A)の有意な低減、並びに体重(
図28B)及び生存率(
図28C)のそれほど顕著ではない減少を誘発した。
【0083】
これらのデータは、CXCR4/IL10-MSCが、大腸炎のDSS誘発モデルにおいてWT-MSCと比較して、免疫調節特性の増大を有することを示し、これは、これらの遺伝子改変MSCが、WT MSCと比較して、炎症性腸疾患の治療のための、より強力なMSCベースの細胞治療製品であり得ることを示す。
【配列表】
【国際調査報告】