(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(54)【発明の名称】産業粉塵から揮発性成分を除去する方法及び有価物含有生成物
(51)【国際特許分類】
C22B 7/02 20060101AFI20230915BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230915BHJP
C22B 13/02 20060101ALI20230915BHJP
C22B 17/02 20060101ALI20230915BHJP
C22B 19/00 20060101ALI20230915BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20230915BHJP
C22B 26/10 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
C22B7/02 A
C22B1/02
C22B13/02
C22B17/02
C22B19/00
C22B15/00
C22B26/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515565
(86)(22)【出願日】2021-09-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2021074842
(87)【国際公開番号】W WO2022053568
(87)【国際公開日】2022-03-17
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521026725
【氏名又は名称】モンタンユニヴァーシタット レオーベン
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アントレコヴィッチ、ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】シュタインレヒナー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】アウアー、マイケル
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA06
4K001AA09
4K001AA20
4K001AA30
4K001AA34
4K001AA35
4K001BA14
4K001CA11
(57)【要約】
産業粉塵から有価物生成物を製造する方法が記載される。方法は、i)少なくとも1つの有価物と揮発性成分の第1の濃度を有する産業粉塵を、600℃以上の動作温度を有する加熱装置に提供すること、ii)加熱装置によって産業粉塵を再処理することであって、再処理することが、iia)産業粉塵を20℃/minの速度で加熱すること、iib)加熱装置によって産業粉塵を900℃~1200℃の範囲、特に1000℃~1100℃の範囲の処理温度で30分以上熱処理すること、iic)再処理中の酸化条件を制御及び/又は調節すること、を含み、
再処理することは、産業粉塵から揮発性成分を少なくとも部分的に除去すること、及びiii)有価物生成物を提供すること、を含む。さらに、再生処理された有価物生成物が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業粉塵から有価物生成物を製造する方法であって、
前記方法は、
加熱装置を600℃以上の動作温度に予熱することと、少なくとも1つの有価物と揮発性成分の第1の濃度を有する前記産業粉塵を、600℃以上の動作温度を有する前記予熱された加熱装置に提供することと、
前記加熱装置によって前記産業粉塵を再処理することであって、前記再処理することが、
前記産業粉塵を毎分20℃以上の速度で加熱することと、
前記加熱装置によって前記産業粉塵を900℃~1200℃の範囲、特に1000℃~1100℃の範囲の処理温度で30分以上熱処理することと、前記再処理中の酸化条件を制御及び/又は調節することと、を含み、
前記再処理することは、前記産業粉塵から前記揮発性成分を少なくとも部分的に除去することと、前記有価物生成物を提供することと、を包含する、方法。
【請求項2】
前記有価物生成物が、少なくとも1つの有価物と、前記揮発性成分の前記第1の濃度より低い前記揮発性成分の第2の濃度とを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記揮発性成分がハロゲン、特にフッ素及び/又は塩素を有する、ならびに/あるいは前記揮発性成分が金属を有する、特に前記金属が、鉛、カドミウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムからなる群からの少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有価物が、金属酸化物、特に酸化亜鉛及び/又は酸化銅を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記産業粉塵が、実質的に粉塵粒子の形態であり、特に金属抽出及び金属加工から出る粉塵粒子の形態である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉塵粒子が、製鋼所粉塵、又は銅産業からの粉塵、
特に、電気アーク炉粉塵、鋳物工場からの粉塵、統合製鋼ルートからの粉塵、焼結工場からの粉塵からなる群からの少なくとも1つの粉塵を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記産業粉塵を提供することは、前記産業粉塵の前記粉塵粒子を凝集させることをさらに含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記再処理することが、バッチ式で、特に前記凝集した産業粉塵を装入することによって実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記産業粉塵を提供することは、前記産業粉塵、特に前記凝集した産業粉塵を乾燥させることをさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理することは、加熱された雰囲気中の水蒸気を、0.1bar以上の水蒸気分圧が存在するように制御及び/又は調節することをさらに包含する、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理することは、前記加熱装置の少なくとも一部によって、特に少なくとも一時的に回転させることによって前記産業粉塵を混合することをさらに含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化条件を前記制御及び/又は調節することは、燃焼空気比が超化学量論的、特に1.1~1.5の範囲、さらに特に1.3~1.4の範囲になるように酸化剤、特に酸素及び/又は空気を供給することを含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記産業粉塵が前記少なくとも1つの有価物の第1の濃度を有し、前記再処理することは、前記再処理された有価物生成物が前記第1の濃度より高い少なくとも1つの有価物の第2の濃度を有するように、前記有価物を濃縮することをさらに含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記再処理することは、
不揮発性成分、特にフッ化カルシウム若しくは塩化カルシウムとのハロゲン及び/又は金属の化学反応を少なくとも部分的に防止すること、ならびに/あるいは
揮発性成分、特にフッ化鉛とのハロゲン及び/又は金属の化学反応を促進すること、をさらに含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、以下の特徴、
前記産業粉塵から、塩素、鉛、及びカドミウムからなる群からの少なくとも1つを90%、特に95%、又はそれ以上除去すること、
前記産業粉塵からフッ素及び/又はカリウムを80%、特に85%以上除去すること、前記産業粉塵からナトリウムを45%、特に50%、又はそれ以上除去すること、のうちの少なくとも1つを包含する、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記産業粉塵を加熱することは、毎分30℃以上、特に毎分50℃以上の速度で、さらに特に毎分100℃以上の速度で、さらに特に150℃/min以上の速度で実行される、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記加熱装置によって前記産業粉塵を熱処理することは、60分以上、特に120分以上、さらに特に180分以上実行される、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
金属酸化物、特に酸化亜鉛及び/又は酸化銅を提供する方法であって、
請求項1から17のいずれか1項に記載の方法、ならびに/あるいは対応する製造された有価物生成物を使用することと、
高純度の金属酸化物及び/又は二次金属酸化物を提供するために、前記有価物生成物をさらに再処理することと、を包含する方法。
【請求項19】
前記有価物生成物を前記さらに再処理することが電気分解なしで行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
有価物生成物であって、産業粉塵、特に製鋼所粉塵から製造され、かつ酸化亜鉛、特に少なくとも10重量パーセントの亜鉛と、以下の特徴、0.2重量パーセント以下のフッ素濃度、2重量パーセント以下のハロゲン濃度、1重量パーセント以下の鉛濃度、0.05重量パーセント以下のカドミウム濃度、5重量パーセント以下の揮発性成分の濃度のうちの少なくとも1つと、を有する、有価物生成物。
【請求項21】
前記有価物生成物は、実質的に凝集して存在する粉塵粒子を有する、請求項20に記載の有価物生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業粉塵から有価物生成物を製造する方法に関する。さらに、本発明は、産業粉塵を再処理する(Aufbereiten)ことにより得られる有価物生成物に関する。
【0002】
したがって、本発明は、産業粉塵を再処理する技術分野に関連し得る。特に、本発明は、産業粉塵から揮発性成分を除去し、それにより有価物生成物を得る技術分野に関連し得る。
【背景技術】
【0003】
例えば、(例えば製鋼所における)金属の生産又は加工からの産業粉塵は、望ましい、かつ回収可能な有価物を含有することが多いが、望ましくない金属(化合物の形で、及び/又は元素で)や揮発性成分(例えばハロゲン化合物)を含む望ましくない残渣も含有する。しかし、再処理された有価物生成物を得るために産業粉塵を安上りに加工し、これを再び原料源として用いることができるようにすることは、依然として技術的課題となっている。これをハロゲン汚染された製鋼所粉塵から有価物である酸化亜鉛が採取される従来技術の一例を挙げて以下に説明する。
【0004】
製鋼所粉塵を適切なプロセスで再処理することによる主生成物は、ほぼ100%を鉱石から採取される亜鉛精鉱の代用又は補足として用いることができる、いわゆる二次酸化亜鉛である。酸化亜鉛の割合が高いこのリサイクル生成物における鉛の割合、及びハロゲン汚染、あるいは他の揮発性成分の濃度により、(主に、いわゆるウェルツ法が適用される)従来の方法では一次亜鉛産業での置換率が10~15%に制限される。ウェルツ酸化物(これは妨害物質で負荷された酸化亜鉛である)は、一般に洗浄されるにもかかわらず、ハロゲンの残留含有量(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)若しくはハロゲン化合物、及び他の揮発性化合物を除去するために、亜鉛産業の焙焼工程への装入が避けられない。この理由は、亜鉛電解採取において、塩素が電極の腐食の増進と、健康を危険にさらす可能性のある塩素ガスの発生を結果としてもたらすからである。電解液中のフッ素の欠点は、カソードの表面にあるアルミニウム酸化物層の攻撃と溶解にある。これは、精錬された亜鉛のカソードへの高い貼着傾向、それと結びついたダウンタイム、及びそれに伴う亜鉛損失、ならびに高いカソード摩耗を結果としてもたらす。
【0005】
それにもかかわらず、一次精鉱を二次酸化亜鉛で置き換えることが望ましい。精鉱により一次亜鉛製造に持ち込まれる大量の鉄の積荷は沈殿残渣の割合を増加させ、これについては今日まで経済的な再処理方法が存在せず、したがってこれを高いコストと環境規制のもとで保管しなければならない。生産される亜鉛1トン当たり、1トンの鉄残渣、主にジャロサイトが生じる。したがって、亜鉛採取時に、もともと低い鉄含有量で二次酸化亜鉛の割合を増加させることが有利である。廃棄する代わりに、理想的には、鉄合金が製鋼所での利用に、ハロゲン含有物質が化学産業での利用に、及び建材産業での利用に供給されるゼロ・ウェイスト・プロセスが目指される。これは、ウェルツプロセスで保管される残留物質の65%を超える割合と比較して非常に大きい改善である。
【0006】
電気アーク炉粉塵(electric arc furnace dust、EAFD)の場合、不純物は、溶けた鋼スクラップから、及び一部はスラグフォーマから出る。表面コーティング、ラッカー、及びプラスチック画分は、製鋼所粉塵にハロゲンが入り込む一般的な源である。そこでの支配的なプロセス温度で、塩素とフッ素は鉛、カリウム、又はナトリウムとの化合物として揮発し、酸化カドミウム、とりわけ酸化亜鉛などの他の揮発性元素と一緒に粉塵に集まる。EAFDをリサイクルする際の主生成物は、粉塵に含有されるZnOである。これは通常、炭素で還元することによりZnに変換され、1000℃~1100℃のプロセス温度で蒸発する(Znの沸点は907℃である)。ガス状亜鉛の高い酸素親和性により、排気システムにおいて、Znから、リサイクルプロセスの生成物でもあるZnOへの即時の発熱再酸化が起こる。製鋼所粉塵中に存在するハロゲン化合物の大部分は蒸気圧が高く、それどころか一部はプロセス温度より低い沸点であるため、これらも蒸発し、生成物(ZnO)に集まり、これを汚染する。この生成物は、鉱石から採取される亜鉛精鉱の代用としてほぼ100%が一次亜鉛産業で使用される。しかし、ハロゲン担持量と鉛濃度により、一次亜鉛製造における置換率は10~15%に制限される。一方では、酸化物の冷却作用により、焙煎装置での使用が望ましく、他方では、含有されるハロゲン化合物が望ましくないケーキングを結果としてもたらす可能性がある。
【0007】
それにもかかわらず、一次精鉱を二次ZnOに置き換えることが望ましい。焙煎工程の負担を軽減するために、ウェルツキルン(Waelzrohr)などの一般的なリサイクルプロセスからの汚染された二次ZnOは、手間のかかる後続のソーダ洗浄プロセスを受ける。その場合、非常に低い塩素含有量とアルカリ含有量を達成できるが、この方法では鉛とフッ素を除去することができない。その他に、汚染されたZnOを熱処理する変形形態がある。しかし、これらは多大なエネルギー消費と多大な亜鉛損失という点で不利であり、一次亜鉛生産のために効率的に浸出できる酸化亜鉛を提供できるようにするために処理後に粉砕する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、有価物含有産業粉塵から揮発性成分を効率的かつロバストに除去することを可能にする方法を提供することである。
【0009】
上記課題は、独立請求項に記載の主題により解決される。好ましい実施形態は、従属請求項から明らかになる。
【0010】
本発明の一態様によれば、(加熱装置内の)産業粉塵から有価物生成物を製造する方法(若しくは対応する、加熱装置を動作させる方法)が記載される。方法は、
i)少なくとも1つの有価物(例えば金属酸化物、特に酸化亜鉛)と揮発性成分(例えば有価物でないハロゲン及び金属)の第1の濃度を有する(粉塵粒子としての、又は凝集した粉塵粒子としての)産業粉塵を、600℃以上(特に700℃以上、さらに特に800℃以上)の動作温度を有する加熱装置に提供することと、
ii)(予熱された)加熱装置によって産業粉塵を再処理することと、を包含し、再処理することは、
iia)(例えば加熱装置によって)産業粉塵を20℃/min以上(特に30℃以上、さらに特に50℃以上、さらに特に100℃以上、さらに特に150℃以上)の速度(若しくは可能な限り高い上昇速度)で(極めて迅速に)加熱すること、
iib)加熱装置によって産業粉塵を900℃~1200℃の範囲、特に1000℃~1100℃の範囲の処理温度で30分以上(特に60分以上、さらに特に120分以上)(的確に)熱処理すること、ならびに(同時に)
iic)再処理中の酸化条件を(例えば空気/酸素の供給を制御/調節することによって)(的確に)制御及び/又は調節すること、を含む。これらの再処理段階は、産業粉塵の揮発性成分が(少なくとも部分的に)除去されるように実行される。方法は、iii)有価物生成物を提供することをさらに包含する。
【0011】
上記の再処理することにより得られる有価物生成物は、殊に少なくとも1つの有価物と、揮発性成分の第1の濃度より(大幅に)低い揮発性成分の第2の濃度とを有することによって得られる(揮発性成分は、大幅に減損若しくは(実質的に)除去されたのに対して、有価物は残り、特に濃縮すらされ得る)。
【0012】
これに関連して、「提供する」という用語は、加熱装置への/内への産業粉塵のあらゆる付加を表すことができる。これに関連して、「粉塵」という用語は、固体粒子の形態のあらゆる材料を表すことができる。粒子は、様々なサイズを有することができ、かつ様々な出所であり得る。一例では、粒子は、ガス、特に空気中に一定期間浮遊したままであり得る。別の例では、粉塵は、ミリメートル範囲のサイズ、特にマイクロメートル範囲のサイズの粒子を有し得る。
【0013】
産業粉塵は、方法の出発物質である抽出物であり、方法の生成物は有価物生成物である。本明細書の範囲内で、「産業粉塵」という用語は、特に、製造業において粉塵の形態の、実質的に廃棄物として生じる抽出物を表すことができる。例えば、金属製造業又は金属加工業では、金属含有粉塵が生成され得る、若しくは生成屑として生じる。例示的な例では、産業粉塵は、製鋼所(例えば、スクラップを溶かすための電気アーク炉)でのプロセス時に、いわゆる製鋼所粉塵として生じ得る。
【0014】
方法を反復的に実行する場合、使用される産業粉塵自体も、方法のその前の実行からの有価物生成物であり得るか、又はそのような有価物生成物をベースとし得る。
【0015】
産業粉塵は、1つ又は複数の源からの数種類の粉塵を含有し得るか、又はそれらからなり得る。産業粉塵は、例えば粉末状で、粉塵粒子として、又は塊状で、凝集した粉塵粒子として、例えばペレットとして存在し得る。
【0016】
産業粉塵は、少なくとも1つの有価物(例えば、好ましくは望ましい若しくは経済的に関連のある金属酸化物、特に酸化亜鉛)と、第1の濃度の不純物とを含有する。
【0017】
ここでは産業粉塵の内容物は有価物として理解されるべきであり、これを原料として利用することが目指される。有価物の他に、産業粉塵は、ここでは不純物と呼ばれる他の内容物も含有する。これらの不純物は、場合によっては有価物の利用を困難にする可能性がある。経済的及び技術的に有意義な利用を可能にするために、産業粉塵中の有価物を富化すること、若しくは不純物を少なくとも部分的に除去することが目指される。有価物生成物は、少なくとも1つの有価物を含有し、複数の異なる有価物を含有することもできる。
【0018】
本発明による方法によって、産業粉塵の不純物が少なくとも部分的に除去される。この方法は、少なくとも1つの有価物を有する有価物生成物を提供することを可能にする。有価物生成物は、産業粉塵中の不純物(場合によっては揮発性成分)の第1の濃度と比べて(場合によっては大幅に)低い不純物(場合によっては揮発性成分)の第2の濃度を有する。第2の濃度は0か、又は実質的に0であり得る。不純物は大幅に減損されるか、若しくは場合によっては除去されるのに対して、有価物は残り、特に濃縮すらされる。
【0019】
本発明によれば、産業粉塵が、まず600℃以上の動作温度を有する加熱装置に提供される。産業粉塵は、例えば粉塵として、又は凝集後に凝集物として提供され得る。提供は、産業粉塵が加熱装置の加熱作用を利用できるようにすること、例えば産業粉塵を加熱装置に入れることを含む。すなわち加熱装置は、産業粉塵が供給されるときに既に600℃以上に予熱されている。動作温度は、好ましくは700℃以上、特に好ましくは800℃以上である。
【0020】
本明細書の範囲内で、「加熱装置」という用語は、特に、材料、特に産業粉塵を加熱するのに適したあらゆる装置と理解することができる。このために、加熱装置は、材料を導入することができ、次いで熱処理を行うことができる空洞を有することができる。加熱装置内の温度は特に制御可能若しくは調節可能である。それに加えて、例えば酸化プロセスによって、熱が(例えばバーナによって)生成される場合、空気及び/又は酸素などの酸化剤の供給が管理可能であり得る。加熱されるべき材料が導入されるときに、加熱装置が既に加熱されていてもよい。それに加えて、上記の加熱装置を用いて、特に、例えば少なくとも150℃/minの特に迅速な加熱を実現することができる。一例では、加熱装置は冶金処理ユニットであってもよい。例示的な例では、加熱装置は耐火性で回転可能な容器である。他の実施形態は、例えば、バーナ側と排気側を1つにしたトップ・ブロウン・ロータリ・コンバータ(上吹き転炉:TBRC)又は短ドラム炉(KTO)、あるいは火炎加熱と排気ガスの排気口とを向かい合わせて分離するウェルツキルンを含む。
【0021】
提供の後、加熱装置によって、例えば加熱装置内で再処理が行われる。再処理することは、加熱装置によって、例えば加熱装置内で行うことができる産業粉塵を加熱することを含む。これは、少なくとも20℃/min、好ましくは30℃/min、特に好ましくは少なくとも50℃/min、特に好ましくは少なくとも100℃/min、全く特に好ましくは少なくとも150℃/minの速度で行われる。この加熱は、極めて迅速であり、加熱時の上昇速度は可能な限り高く選択される。本発明によれば、再処理することは、加熱装置によって(例えば加熱装置内で)900℃~1200℃(好ましくは1000℃~1100℃)の温度範囲の処理温度で少なくとも30分(好ましくは少なくとも60分、特に好ましくは少なくとも120分、全く特に好ましくは150分)間処理することを含む。
【0022】
再処理中に酸化条件が設定される。すなわち、産業粉塵は、再処理時に酸化条件にさらされる。酸化条件の設定は、好ましくは的確に行われる。酸化条件は、制御及び/又は調節され得る。すなわち、還元条件が存在しないように設定され、場合によっては加熱装置内の酸化条件の発現の仕方が調節及び/又は制御される。これは、例えば、酸化剤(例えば空気及び/又は酸素など)の供給を制御及び/又は調節することによって、あるいは熱源として用いられるバーナ(これに加えて、又はこれに代えて、電気加熱装置を選択することもできる)への空気及び/又は酸素の供給を制御及び/又は調節することによって行うことができる。
【0023】
本明細書の範囲内で、「有価物生成物」という用語は、本発明による方法段階の適用により上記の産業粉塵から得られる生成物を表す。有価物生成物は、粉塵として存在することができるが、好ましくは有価物生成物は、粉塵粒子の凝集物として存在することもできる。有価物生成物は、例えば、酸化亜鉛又は酸化銅などの金属酸化物であり得る少なくとも1つの有価物が存在することを特徴とする。有価物生成物は、産業粉塵に比べて不純物の濃度が大幅に低減されていることを特徴とする。特に、ハロゲン及び/又は望ましくない金属の割合を大幅に減らすことができる。好ましい例では、有価物生成物中の有価物の濃度を、供給される産業粉塵と比べて高くすることができる。
【0024】
不純物は、産業粉塵の揮発性成分であり得る。本明細書の範囲内で、「揮発性成分」という用語は、特に、(場合によっては1つ又は複数の化学反応の後)特定の温度が存在するときに、蒸発によって気相に遷移する産業粉塵の成分を表すことができる。一例では、特定の温度を、産業粉塵の融解温度未満に定義することができる。別の例では、特定の温度は、例えば1500℃未満であり得る。揮発性成分は、例えば、塩素又はフッ素のハロゲン化合物であり得、例えば、フッ化鉛は1293℃で揮発し、又は塩化鉛は950℃で揮発する。
【0025】
例示的な実施形態によれば、本発明は、加熱装置内で、少なくとも以下の段階
-産業粉塵を600℃以上で導入する段階、
-(少なくとも)20℃/min以上の速度で加熱する段階、及び
-900℃~1200℃の範囲で(少なくとも)30min間熱処理する段階であって、酸化条件が制御及び/又は調節される、段階と、を含む具体的な再処理プロセスが実行される場合に、有価物含有産業粉塵から揮発性成分を(少なくとも部分的に)除去することが効率的かつロバストに可能にされるという考えに基づき得る。
【0026】
産業粉塵から不純物、例えば望ましくない揮発性成分であって、産業粉塵の価値を大幅に低下させるか、若しくはこれらを使えなくする揮発性成分などの不純物を選択的に揮発させる多数の試みが従来技術において既になされた。しかし、これらの試みはすべて失敗に終わった。現在、産業粉塵から揮発性成分を効率的かつロバストに、かつその際、経済的に除去することを可能にする熱プロセスは知られていない。
【0027】
しかし、今では、広範で集中的な研究の過程で、産業粉塵からの揮発性成分を効率的かつロバストに除去できないという技術的偏見を本発明による方法によって克服できるということが驚くべきことに発見された。
【0028】
成功裏の進展、及びそれに伴う産業粉塵からの不純物、特に揮発性成分の達成可能な最大の抽出率のためには、最初の数分間の温度管理、しかし、その後の熱処理も決定的に重要である。それにより、不純物、特に揮発性成分が産業粉塵に含有される他の化合物と反応して不揮発性化合物になる時間が与えられないことを保証することができる。記載されるプロセス温度で揮発しない新たな化合物の形成がそれにより効率的に防止若しくは阻止される。
【0029】
特定の理論に束縛されるつもりではないが、現在、従来の温度プロファイルでは、揮発性成分間の化学反応により、常に不揮発性成分が形成されるということが出発点となる。例えば、2533℃の高沸点を有するフッ化カルシウムが形成され得る。しかしこれとは異なり、本発明による条件は、不揮発性成分になる化学反応を阻止し、その代わりに、揮発性成分になる化学反応、例えば沸点が1293℃にすぎないフッ化鉛になる酸化鉛とフッ化カルシウムの反応を促進する。同様に、本発明による条件を正確に適用するだけで、揮発性成分が反応して別の揮発性成分になり、及びごくわずかな程度しか不揮発性成分にならないか、又はならないと思われる。
【0030】
記載される方法が産業粉塵から有価物への環境に優しいリサイクルを可能にするのに対して、従来、これらの産業粉塵は手間をかけて、かつ環境にあまり優しくない仕方で再処理されるか、又は直ちにコストをかけて廃棄するしかなかった。
【0031】
採取された有価物、例えば酸化亜鉛は、一次精鉱の代用品として用いられ、柔軟な使用可能性を提供できる。高純度の酸化亜鉛の場合、高品質の酸化亜鉛の経済的に関連のある市場、例えばタイヤ産業、セラミックス製造、化学産業などで直接使用できるようにすることが可能である。
【0032】
要約すれば、記載される方法は、これまでの方法より効率的で、エネルギー最適化され、さらに資源節約的であると言え、したがって、より環境に優しい代替策であり得る。
【0033】
一実施例によれば、不純物は、揮発性成分を含む。一実施例では、揮発性成分は、ハロゲン、特にフッ素及び/又は塩素を元素ではなく、主に化合物の形で含む。これに加えて、又はこれに代えて、揮発性成分は、望ましくない若しくは経済的に関連のない金属、特に化合物の形の、そして元素ではない金属、さらに特に鉛、カドミウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムからなる群の金属を含む。これには、産業粉塵の価値を大幅に低下させる望ましくない成分を的確に除去できるという利点がある。
【0034】
別の実施例によれば、有価物は金属酸化物(特に酸化亜鉛及び/又は酸化銅)を含む。これには、産業粉塵廃棄物が産業関連の材料の原料庫になり得るという利点がある。産業粉塵、特に金属製造又は金属加工からの粉塵は、プロセス内在的に、多数の金属、若しくは金属酸化物などの金属化合物を含み、これらは、例えば二次/高純度金属、若しくは金属酸化物などの金属化合物を生産するために有利な有価物であり得る。
【0035】
別の実施例によれば、産業粉塵は、少なくとも実質的に、粉塵粒子の形態で、特に金属製造又は金属加工から出る粉塵粒子の形態で存在する。
【0036】
別の例示的な実施形態によれば、粉塵粒子は製鋼所粉塵(「Steel mill dust」)又は銅産業からの粉塵を含む。特に、電気アーク炉粉塵(「electric arc furnace dust」、EAFD)、鋳物工場からの粉塵、統合製鋼ルートからの粉塵、焼結工場からの粉塵からなる群からの少なくとも1つの粉塵を含む。これは、様々な産業的に関連のある生産プロセスからの粉塵粒子を効率的に再処理できるという利点を提供することができる。
【0037】
別の実施例によれば、産業粉塵を提供することは、産業粉塵の粉塵粒子を凝集させることを含む。それによって、粉塵散乱(Verstaubung)が大幅に阻止され得るので、本発明による方法をさらに効率的に実行することができる。一例では、粉塵粒子の凝集をペレット化として(例えば、ペレット化皿によって)実行することができる。別の例では、強制ミキサを用いることにより凝集を可能にすることができる。凝集物の必要なグリーン強度のための添加剤として、水で十分であり得る。例えば、既に存在するハロゲンは、水と結合して必要な結合力をもたらすことができる。
【0038】
別の実施例によれば、本発明による方法は、不連続的に、若しくはバッチ式で(特に凝集した産業粉塵を装入することによって)実行される。これは、必要な熱処理が的確に、かつロバストに行われるという利点を有し得る。
【0039】
従来は、望ましい経済性を達成するために有価物生成物を製造する方法を常に連続的に行わなければならないということを出発点とするのに対して、今回の場合、驚くべきことに、正反対、すなわち不連続なプロセスが望ましい結果をもたらすことができるということがわかった。好ましい例では、産業粉塵が凝集され、それにより凝集物を装入物(Chargen)として再処理に供給することができる。次に、本発明による有価物生成物を製造する方法は、各バッチに望ましい必要な条件が満たされることを確保するためにバッチ式で行うことができる。
【0040】
別の実施例によれば、産業粉塵を提供することは、特に凝集した産業粉塵を乾燥させることを含む。それによって、水蒸気が過度に急速に逃げることによる破裂が回避されるので、方法をさらに効率的に実行することができる。一例では、乾燥温度は、105~350℃、特に200~300℃の範囲である。一例では、必要な乾燥の継続時間は24~72時間、特に40~60時間である。
【0041】
別の実施例によれば、熱処理は、少なくとも0.1barの水蒸気分圧が存在するように加熱された雰囲気中で水蒸気を制御及び/又は調節することを含む。分圧は、(理想的な)ガス混合物中の単一成分又は画分の分圧を表すことができる。その場合、制御及び/又は調節は、例えば、産業粉塵の水分によって、又はバーナを使用する場合、バーナに供給される燃料、酸化剤など物質の種類、若しくはそれらの量の比率に関して行われる。加熱された雰囲気中での水蒸気の制御及び/又は調節は、加熱容器内の圧力条件及び/又は温度条件及び/又は容積条件を制御及び/又は調節することによっても行うことができる。
【0042】
別の実施例によれば、熱処理は、産業粉塵を混合することを含む。これは、特に、産業粉塵で満たされた加熱装置の少なくとも一部を(少なくとも一時的に)回転させることによって達成することができる。これは、絶え間ない混合と材料の活性表面の増加が可能になり、それにより均一な処理が保証されるという利点を有することができる。一例では、回転数は、1~10rpm、特に2~3rpmの範囲であり得る。
【0043】
別の実施例によれば、酸化条件の設定は、酸化条件を制御及び/又は調節すること、すなわち、燃焼空気比が超化学量論的、特に1.1~1.5の範囲(さらに特に1.3~1.4の範囲)であり、その際、範囲の限界値が含まれるように燃料に酸化剤(特に酸素及び/又は空気)を供給することを含む。これは、的確に制御可能若しくは調節可能である効率的な酸化条件が存在するという利点を有することができる。
【0044】
別の実施例によれば、産業粉塵は有価物の第1の濃度を有し、再処理することは、第1の濃度より高い有価物の第2の濃度を有するように有価物を濃縮することを含む。これには、有価物生成物中で有価物が濃縮されるという利点がある。それによってこれがさらに価値の高い原料になることができる。
【0045】
別の実施例によれば、本発明による方法は(特に、加熱中及び/又は熱処理中に)、ハロゲン及び/又は金属が化学反応して不揮発性成分(例えばフッ化カルシウム)になることを(少なくとも部分的に)防止することを包含する。これに加えて、又はこれに代えて、ハロゲン及び/又は金属が化学反応して揮発性成分(例えば、フッ化鉛)になることを促進する。これは、不純物として実質的に揮発性成分のみが存在するか、若しくは新たな不揮発性物質が発生しないという利点を提供することができ、それによってこれらの不純物若しくは新たに発生する物質の蒸発が不揮発性残物なしに可能になる。
【0046】
別の実施例によれば、この方法は、以下の特徴
i)産業粉塵から、塩素、鉛、及びカドミウムからなる群の少なくとも1つの要素の含有量の少なくとも90%、特に少なくとも95%を除去すること、
II)産業粉塵からフッ素及び/又はカリウムからなる群の少なくとも1つの要素の含有量の少なくとも80%、特に少なくとも85%を除去すること、
iii)産業粉塵からナトリウムを45%(特に50%)、又はそれ以上除去すること、
のうちの少なくとも1つを包含する。
【0047】
これらの特徴は、一例では、不純物、特に揮発性成分を除去する効率を反映し、高いコストをかけることなしに産業粉塵の価値を大幅に高めることができる方法を示す。
【0048】
別の実施例によれば、産業粉塵を加熱することは、少なくとも30℃/min、好ましくは少なくとも50℃/min、特に好ましくは少なくとも100℃、全く特に好ましくは少なくとも150℃の速度で実行される。例示的な実施例では、これらのパラメータが特に効率的であることがわかった。
【0049】
別の実施例によれば、加熱装置内での産業粉塵の熱処理は、少なくとも30分、好ましくは少なくとも60分、特に好ましくは少なくとも120分、全く特に好ましくは少なくとも180分間実行される。例示的な実施例では、これらのパラメータが特に効率的であることがわかった。
【0050】
本発明の別の態様によれば、金属酸化物、特に酸化亜鉛及び/又は酸化銅を提供する方法が記載され、この方法は、i)本発明による方法に従って有価物生成物を製造すること、ならびに/あるいはこれに対応して製造された有価物生成物を使用すること、ならびにii)高純度の金属酸化物及び/又は二次金属酸化物を提供するために、有価物生成物をさらに再処理することを包含する。
【0051】
別の実施例によれば、有価物生成物をさらに再処理することは、電気分解なしで行われる。これは、エネルギーとコストを節約できるという利点を有することができる。
【0052】
本発明の別の態様によれば、産業粉塵から製造され、かつi)酸化亜鉛(特に少なくとも10重量パーセント、さらに特に少なくとも20重量パーセント、さらに特に少なくとも25重量パーセント、さらに特に少なくとも30重量パーセント)と、以下の特徴、a)0.2重量パーセント以下のフッ素濃度、b)2重量パーセント以下のハロゲン濃度、c)1重量パーセント以下の鉛濃度、d)0.05重量パーセント以下のカドミウム濃度、e)5重量パーセント以下の揮発性成分の濃度、のうちの少なくとも1つと、を有する再処理された有価物生成物が記載される。
【0053】
別の実施例によれば、再処理された有価物生成物は、(実質的に)凝集して存在する粉塵粒子を有する。この特徴は、粉塵粒子が(例えばペレットに)凝集された製造プロセスを反映することができる。これには、(過度な)粉塵散乱が有利に阻止されたという利点がある。それに加えて、例えば空気流による粉塵の移送を有利に防ぐことができる。
【0054】
別の実施例によれば、有価物生成物は、(実質的に)凝集して存在する粉塵粒子を有する。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明のいくつかの例示的実施例を詳しく説明する。
【0056】
例示的な実施形態によれば、管理された酸化条件下で的確に熱処理することによって、製鋼所粉塵からハロゲン及び他の揮発性成分を選択的に除去する方法が記載され、そのような方法によって得られ、有害な随伴元素及び化合物の大部分が取り除かれた製鋼所粉塵に、ならびに高純度の二次酸化亜鉛を製造するためのその使用が記載される。
【0057】
例示的な実施形態によれば、揮発性成分(ハロゲン化合物、鉛化合物、又は鉛)で負荷された製鋼所粉塵を、粉塵から酸化亜鉛を採取できるようにするためにハロゲン化合物の大部分及び他の揮発性成分が除去されるよう再処理することが必要であり得、一次精鉱の代用に関して、酸化亜鉛は、より多くの使用可能性を提供し、あるいは生成される酸化亜鉛が高純度の場合、高品質の酸化亜鉛にとって経済的に魅力的な市場(タイヤ産業、セラミックス、化学産業など)で直接使用することを可能にする。これは、さらに、(一次プロセスの一部である)亜鉛電解採取がなくなることにより、エネルギーに関して節約の可能性にもつながる。
【0058】
例示的な実施例によれば、本発明の課題は、例えば電気アーク炉内で鋼スクラップが溶けたときに発生する酸化亜鉛含有製鋼所粉塵からハロゲン化合物及び他の揮発性成分が取り除かれる方法を提供することである。したがって、このように処理された製鋼所粉塵が高純度の二次酸化亜鉛を生成するための出発点となることが確保される。したがって、二次酸化亜鉛の使用量が増加したとしても、精鉱と比べて一次亜鉛製造で発生する鉄残渣の割合を劇的に減らすことができるか、あるいはこれに代えて、製鋼所粉塵を再処理する場合の価値創出が著しく向上する。これは、リサイクル生成物である酸化亜鉛を、高品質の酸化亜鉛の市場ではるかに高い価格で販売できることにより生じる。新規の方法によって生成物の品質が向上した場合、新規の方法は、これまでの方法より効率的であり、エネルギー最適化され、かつ資源節約的でもあり、したがってより環境に優しい代替手段である。
【0059】
例示的な実施例によれば、この方法は、以下の、i)産業粉塵を凝集させる段階、ii)乾燥させる段階、iii)管理された酸化条件下で的確に熱処理する段階を包含する。処理の終わりには、製鋼所粉塵(若しくは提供された産業粉塵)から>90%の塩素、鉛、カドミウムが除去され、>80%のフッ素が除去され、カリウム及びナトリウム含有量が大幅に(例えば少なくとも50%)減少する。その場合、中心的な側面は、酸化条件により、製鋼所粉塵に含まれる酸化亜鉛が固体材料中にほぼ完全に残り、それに伴い、不純物を除去することによって有価金属の濃度が増加するということである。したがって、ハロゲン化合物及び他の揮発性化合物の大部分が取り除かれた製鋼所粉塵を出発生成物として、通常のリサイクルプロセスで質的により高価値の二次酸化亜鉛を製造するために、あるいは、具体的に記載されるこの熱処理段階に合わせて調整された次の還元方法段階で質的に極めて高価値の酸化亜鉛を製造するために使用することができる。
【0060】
例示的な実施例によれば、以下の、i)有価物(特に酸化亜鉛)の生成物品質が向上する、ii)生成された有価物の適用範囲が、一次冶金のみならず高品質金属も含む、iii)一次金属製造における沈殿残渣の割合を減らすことができる、iv)的確な排気ガス誘導と冷却により、プロセス設備を(ハロゲンによる高い負荷による)腐食から保護することができる、v)分離され、濃縮されたハロゲン残渣は、対応する(産業)用途(化学産業におけるさらなる再処理、例えば塩化鉛による鉛化合物の採取)のための原料として再び利用できる、vi)金属酸化物を採取するための直後の還元段階への高温での装入によって、エネルギー消費量を少なく抑えることができる、vii)上述のプロセスが小規模設備(例えば10,000トン/年の生産)でも実行できるのに対して、従来技術からのウェルツキルンの使用は、約100,000トン/年の最小トン数でのみ可能である、という利点を達成することができる。
【0061】
発明の2つの例示的な実施例を以下に詳しく説明する。
【0062】
実施例1
(第1の)方法段階において、結果としての過剰な粉塵散乱を防ぐために凝集が行われる。その場合、ペレット化皿によるペレット化と強制ミキサを用いた凝集の両方が可能である。凝集物の必要なグリーン強度のための添加剤として、水で十分である。製鋼所粉塵に含有されるハロゲン化合物は、水と結合して必要な結合力をもたらす。提供された製鋼所粉塵は、塩素とフッ素を含むハロゲン化合物と、鉛とカドミウムを含む他の揮発性成分を含有する。粉塵は、特に電気アーク炉粉塵(EAFD)であるが、例えば鋳物工場からの粉塵、二次冶金を含む統合製鋼ルートからの粉塵、焼結工場からの粉塵、銅産業からの粉塵などの同様の残留物質でもある。
【0063】
電気アーク炉ルートからの高亜鉛含有量の製鋼所粉塵の典型的な組成が以下の表1にまとめられる。
表1:高亜鉛含有量の製鋼所粉塵の典型的な組成
【表1】
【0064】
次の方法段階では、水蒸気が過度に急速に逃げることによる後の破裂を回避するために、粉塵凝集物を徹底的に乾燥させる。乾燥温度は105~350℃(特に200~300℃)の範囲である。必要な乾燥継続時間は24~72時間、通常は40~60時間であるが、重量定数に達するまでである。
【0065】
次の方法段階では、生成された粉塵凝集物が加熱装置(例えば冶金処理ユニット)に装入され、揮発性成分を選択的に揮発させるために、管理された酸化条件下で的確な熱処理が行われる。加熱装置として、耐火性に内張りされた回転容器が用いられる。その際、火炎加熱の位置及び排気ガス誘導は副次的な役割を果たす。火炎加熱と排気ガスの排気口とを向かい合わせて分離するウェルツキルンと同様に、バーナ側と排気側を1つにしたトップ・ブロウン・ロータリ・コンバータ(TBRC)又は短ドラム炉(KTO)も考えられる。プロセス温度は900~1200℃(特に1000~1100℃)である。製鋼所粉塵からハロゲン化合物及び他の揮発性成分の大部分を除去するのに必要な処理継続時間は2~3時間(好ましくは1.5時間)であり得る。
【0066】
容器の回転運動によって、絶え間ない混合と送入される材料の活性表面の増加がもたらされ、それにより凝集物の均一な処理が保証される。その場合、回転数は、1~10rpm(特に2~3rpm)の範囲で変動し得る。
【0067】
火炎加熱は、ガスを燃焼させるために純粋な酸素又は空気を利用するバーナによって行われる。管理された酸化条件は、酸素/空気の制御及び/又は調節された供給によって達成される。その場合、燃焼空気比λは、存在する粉塵の組成に応じて、1.1~1.5(特に1.3~1.4)である。
【0068】
加熱段階では、(どの時点でも)150℃/minの加熱速度が予定されることが好ましい。これにより、製鋼所粉塵中のハロゲン化合物及びその他の揮発性成分に、送入物中の他の化合物と反応する(特に不揮発性成分になる)ための時間が与えられないことが保証される。それにより、指定されたプロセス温度で揮発しない可能性のある化合物の形成が効果的に防がれる。記載される温度管理が(特に記載された雰囲気組成も)処理時間のこの段階で守られない場合、ハロゲン及び他の揮発性成分の効率的な除去は不可能である。
【0069】
この例として、フッ化カルシウム又は塩化カルシウムの形成の可能性を挙げることができ、これは、記載されたものとは異なる(特に過度に遅い)加熱速度の場合に生じる。フッ素は、支配的な条件下でナトリウム、カリウム、又は鉛と結合して揮発する傾向があるのに対して、フッ化カルシウムの蒸発による除去は不可能である。処理された製鋼所粉塵中にそのようなシナリオで残るフッ素含有量は、そのようなプロセス段階の生成された生成物の達成可能な品質の低下につながる。
【0070】
支配的な温度が900~1200℃(特に1000~1100℃)の場合、粉塵中に含有される、特に、存在するハロゲン化合物だけではない、揮発性化合物の産業粉塵からの揮発が即座に始まる。
【0071】
したがって、プロセスの第1段階では、カドミウム、鉛、及び塩素といった元素の濃度の還元が行われるが、存在するフッ素化合物が不揮発性フッ化カルシウムにほとんど変換されることなしに、ナトリウム、カリウム、及びフッ素含有量も減少する。
【0072】
酸化カドミウムの他に、鉛は、一部が酸化鉛として蒸発するが、ガス状酸化鉛が他のフッ化物と反応することにより塩化鉛、及び形成される可能性のあるフッ化鉛としても蒸発する。
【0073】
急速な加熱速度に伴い、フッ素導出を再び増加させることができる追加プロセスも起こる。既に存在している可能性のあるフッ化カルシウムは、ガス状酸化鉛と反応して再びフッ化鉛と酸化カルシウムになり、それによって効率的な揮発が可能である。しかしこれは、加熱速度が高く、反応容器内の雰囲気条件が設定/管理された場合にのみ起こり、それによって酸化鉛の早期の蒸発が防がれる。言い換えれば、次式の熱反応ウィンドウで決定的に重要な反応物が欠落するのを防ぐことが重要である。
CaF2(s)+PbO(g)=PbF2(g)+CaO(s)
【0074】
ナトリウム及びカリウム含有量、ならびに塩素及びフッ素含有量の低下は、主に、製鋼所粉塵中に存在する鉛、ナトリウム、カリウムを含むハロゲン化合物がさらに蒸発することに起因する。処理の第2段階では、化合物、例えばフッ素とともに、ナトリウム及びカリウムなどが、低い蒸気圧で定常的に、しかしゆっくりと揮発する(例えばフィルタハウス)。
【0075】
処理の終わりには、当初の産業粉塵に対して、製鋼所粉塵中の>90%の塩素、鉛、及びカドミウムが除去され、>80%のフッ素が除去され、カリウム及びナトリウム含有量が大幅に(例えば50%超)減少する。
【0076】
その際、酸化条件に基づき、製鋼所粉塵に含有される酸化亜鉛がほぼ完全に固体材料中に残り、これに伴い、この固体材料中の有価金属の濃度が高くなるということも不可欠である。
【0077】
したがって、ハロゲンの大部分が除去された製鋼所粉塵を、一般的なリサイクルプロセスで二次酸化亜鉛を製造するための、又は新たに開発され、これに前置された段階に合わせて調整された方法段階で、質的に高価値の酸化亜鉛を製造するための出発生成物として使用することができる。
【0078】
実施例2
出発点として、100%スクラップを使用する建設用鋼材を製造する電気アーク炉の運転からの製鋼所粉塵と、約20%スクラップを使用するLD転炉の運転からの製鋼所粉塵が用いられる。以下に記載される処理及び測定スキームに従って、2つの試験を行った。1つの試験を電気アーク炉粉塵のみを用いて、第2の試験を混合粉塵(電気アーク炉粉塵80%+LD粉塵20%)を用いて行った。以下の表2及び表3は、試験に使用された粉塵の組成を示す。
表2:ハロゲン及び他の揮発性成分の除去するために使用される電気アーク炉粉塵の組成
【表2】
表3:ハロゲン及び他の揮発性成分を除去するために使用される混合粉塵の組成
【表3】
【0079】
ペレット化皿を用いて粉塵を凝集させた。凝集のためのグリーン強度を達成するための添加剤として水を加えて混合した。ハロゲンの高い含有量は、水と結合して必要な結合力、したがって十分なグリーン強度をもたらす。酸化カルシウムの水和は補助的に作用する。
【0080】
ペレット化の終了後、凝集物を乾燥させた。乾燥を200℃で48時間行った。
【0081】
乾燥後、TBRCとして形成され、耐火性に内張りされた回転する冶金容器でのペレットの使用を行った。制御及び/又は調節されたO2供給によって、プロセス中の管理される酸化条件ももたらすCH4/O2バーナによって的確な熱処理のためのエネルギー入力を行った。その際、処理は40kgのバッチで行われた。
【0082】
管理された酸化条件下での的確な熱処理中に選択されたプロセスパラメータを以下の表4に一覧化する。
表4:選択されたプロセスパラメータ
【表4】
【0083】
処理中、恒久的に設置された炉雰囲気の温度測定の他に、ばら物中の支配的な温度も規則的間隔で点検した。10minのサンプリング間隔で、管理された酸化条件下での的確な熱処理の範囲内で、製鋼所粉塵からのハロゲン及び他の揮発性成分の除去(例えばフィルタハウスによる)のプロセス進捗が絶えずに監視される。
【0084】
処理の完了後、処理された粉塵凝集体を炉から取り出し、室温まで冷却するために鋼鋳型に移した。完全な冷却後、最終分析のためにサンプル採取を行った。測定の結果は以下の表5から読み取ることができる。
表5:的確な熱処理及び管理された酸化条件を用いて製鋼所粉塵からハロゲン及び他の揮発性成分を除去した結果。
【表5】
【0085】
測定結果から、どちらの場合も亜鉛含有量が著しく増加することが見て取れる。これは、ハロゲン及び他の揮発性成分が除去されることに起因する。
【0086】
これに対して、管理された酸化条件下での的確な熱処理によって、塩素及びフッ素含有量をはるかに低下させることができる。その他に、鉛、カドミウム、カリウム、ナトリウムといった元素の著しい除去が示される。
【0087】
したがって、本発明による、管理された酸化条件下での的確な熱処理によって製鋼所粉塵からハロゲン及び他の揮発性成分を除去する方法を用いて、製鋼所粉塵及び他の金属含有粉塵から、殊にCl、F、Cd、Pb、K及びNaなどの不純物の大部分を取り除くことが可能である。これらの元素は、現在確立されている製鋼所粉塵リサイクル法での酸化亜鉛の低品質の主な原因である。したがって、製鋼所粉塵から高純度の酸化亜鉛を得ること、そしてそれにより一方で、一次亜鉛産業の残留物質負荷を劇的に減少させること、他方で、高品質の酸化亜鉛の市場(タイヤ産業、セラミックス、化学産業など)における可能な適用によって追加的な価値の引き上げを獲得することが可能である。
【0088】
補足的に、「有する」は、他の要素又は段階を除外するものではなく、単数形が複数を除外するものではないことに言及しておく。さらに、上記の実施例の1つを参照して説明された特徴又は段階を上記の他の実施例の別の特徴又は段階と組み合わせて使用することもできるということに言及しておく。
【国際調査報告】