IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2023-540800リフォールディングされたヒト血清アルブミン及びその抗腫瘍ための使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-26
(54)【発明の名称】リフォールディングされたヒト血清アルブミン及びその抗腫瘍ための使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/765 20060101AFI20230919BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230919BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230919BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20230919BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230919BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20230919BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
C07K14/765 ZNA
C12P21/02 A
C07K1/34
A61P35/00
A61K38/38
A61K39/00 H
A61K39/39
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516078
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(85)【翻訳文提出日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 US2021049816
(87)【国際公開番号】W WO2022056233
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】63/077,585
(32)【優先日】2020-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】リャン, チーミン
(72)【発明者】
【氏名】シエ, ジェンジェル
(72)【発明者】
【氏名】チェン, チュンシュアン
(72)【発明者】
【氏名】リャン, シュウメイ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B064
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA36
4B064AG24
4B064CA10
4B064CC15
4B064CE06
4B064CE10
4B064DA01
4B064DA14
4C084AA01
4C084AA02
4C084DA36
4C084NA14
4C084ZB262
4C085AA03
4C085AA38
4C085BB01
4C085CC01
4C085FF24
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA70
4H045EA20
4H045EA51
4H045FA71
4H045GA01
4H045GA10
4H045GA22
(57)【要約】
リフォールディングされたヒト血清アルブミン(rfHSA)及びその抗腫瘍での使用が開示される。前記rfHSAは、ナイーブヒト血清アルブミンの一次アミノ酸配列を含み、溶液中のrfHSAが繊維状ではなく楕円形であり、ナイーブHASが球状である。前記rfHSAは、対象のがん又は腫瘍を治療するために使用される。前記rfHSAは、腫瘍サンプルにおけるインテグリンβ1又はセリン/スレオニンプロテインキナーゼAkt及び細胞外シグナル調節キナーゼ1/2 (ERK1/2)に関するがん細胞の存在を検出するための試薬、又はがん細胞サンプルにおけるAkt及びERK1/2のリン酸化を阻害するための試薬としても使用することができる。rfHSAで処理したがん細胞の細胞溶解物、前記がん細胞溶解物を含むワクチン組成物、それらの使用も開示される。rfHSAの製造方法も開示される。
【選択図】図14C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リフォールディングされたヒト血清アルブミン(rfHSA)分子であって、
前記rfHSA分子は、ナイーブヒト血清アルブミン(ナイーブHSA)分子の一次アミノ酸配列を含み、溶液中の前記rfHSA分子は、繊維状ではなく楕円形であり、前記ナイーブHSA分子は、球状である、リフォールディングされたヒト血清アルブミン(rfHSA)分子。
【請求項2】
(i)C124-C168及びC169-C177;
(ii)C567-C75及びC62-C361;
(iii)C487-C360及びC361-C62;並びに
(iv)それらの任意の組み合わせ;
からなる群より選択される2つ以上の分子内ジスルフィド架橋を欠いている、請求項1に記載のrfHSA分子。
【請求項3】
分子内ジスルフィド架橋C124-C168、C169-C177、C567-C75、C62-C361及びC487-C360を欠いている、請求項1に記載のrfHSA分子。
【請求項4】
非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に、質量電荷比(m/z)が4559、5729及び7223の質量スペクトルフラグメントイオンを欠いており、前記m/zが4559、5729及び7223のフラグメントイオンは、ナイーブHSAのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に存在する、請求項1に記載のrfHSA分子。
【請求項5】
非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後にペプチド断片を産生し、産生した断片は、配列番号2、3、4及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む1つ以上のペプチド断片を欠いており、欠いている1つの前記ペプチド断片は、前記ナイーブHSA分子のトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に存在する、請求項1に記載のrfHSA分子。
【請求項6】
非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に、ペプチド断片を産生し、産生した断片は、配列番号2、3及び4のアミノ酸配列をそれぞれ含むペプチド断片を欠いており、欠いている前記ペプチド断片は、前記ナイーブHSA分子のトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に存在する、請求項1に記載のrfHSA分子。
【請求項7】
対象のがんを治療するための医薬品の製造における請求項1から6のいずれか1項に記載のrfHSA分子の使用。
【請求項8】
前記がんは、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、食道がん、腎臓がん、肝臓がん、喉頭がん、肺がん、メラノーマがん、口腔がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、皮膚がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がんからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
腫瘍細胞又は腫瘍サンプルにおけるインテグリンβ1又はセリン/スレオニンプロテインキナーゼAkt及び細胞外シグナル調節キナーゼ1/2(ERK1/2)に関連するがん細胞の存在を検出するための試薬の製造における、請求項1から6のいずれか1項に記載のrfHSA分子の使用。
【請求項10】
がん細胞を含むサンプルにおけるAkt及びERK1/2のリン酸化を阻害するための試薬の製造における、請求項1から6のいずれか1項に記載のrfHSA分子の使用。
【請求項11】
腫瘍サンプルにおけるインテグリンβ1又はAkt及びERK1/2に関連するがん細胞の存在を検出するための請求項1に記載のrfHSA分子を含む、キット。
【請求項12】
前記使用の前に、前記対象からの腫瘍サンプルにおけるAkt及びERK1/2に関連するがん細胞の存在を検出するためのrfHSAを含むキットの使用をさらに含む、請求項7に記載の使用。
【請求項13】
請求項1に記載のrfHSA分子で処理したがん細胞の細胞溶解物。
【請求項14】
前記がん細胞は、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、食道がん、腎臓がん、肝臓がん、喉頭がん、肺がん、メラノーマがん、口腔がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、皮膚がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項13に記載の細胞溶解物。
【請求項15】
請求項13に記載の細胞溶解物を含む、ワクチン組成物。
【請求項16】
アジュバントをさらに含む、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
対象の腫瘍を治療し、又は対象の腫瘍の増殖を阻害するための医薬品の製造における請求項15に記載のワクチン組成物の使用。
【請求項18】
請求項1に記載のrfHSA分子の製造方法であって、
ヒト血清アルブミン(HSA)を洗浄剤含有緩衝液に溶解して洗浄剤処理HSA溶液を得るステップ(a)と、
前記洗浄剤処理HSA溶液を超音波処理して超音波処理した洗浄剤処理HSA溶液を得るステップ(b)と、
前記超音波処理した洗浄剤処理HSA溶液を分子量が10,000から600,000ダルトン(Da)のサイズ排除クロマトグラフィーカラムにかけるステップ(c)と、
前記洗浄剤を含む溶出剤で前記カラムを溶出するステップ(d)と、
前記洗浄剤処理HSAを含むカラム溶出画分を収集するステップ(e)と、
前記カラム溶出画分をプールしてプールされたカラム溶出液を得るステップ(f)と、
分子量カットオフ(MWCO)が12,000-14,000Daの透析膜を用いて前記プールされたカラム溶出液を、洗浄剤を含まない透析液に対して透析するステップ(g)と、
透析膜溶出液を収集するステップ(h)と、
前記透析膜溶出液を濃縮し、前記洗浄剤を含まない透析液に対して透析して濃縮透析膜溶出液を得るステップ(i)と、
濃縮と透析ステップ(i)を繰り返し、請求項1に記載のrfHSAを含む最終濃縮透析膜溶出液を得るステップであって、前記最終濃縮透析膜溶出液が洗浄剤を含まないか又はほとんど含まないステップ(j)と、
を含む、製造方法。
【請求項19】
溶出ステップ(d)における前記溶出剤中の洗浄剤の濃度が、溶解ステップ(a)における前記緩衝液中の洗浄剤の濃度よりも低い、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
透析ステップ(g)の実行は、
洗浄剤を含まない透析液を、洗浄剤を含まない新鮮な透析液で少なくとも2又は3回交換するステップ(g')をさらに含む、請求項18に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍活性を有するリフォールディングされたヒト血清アルブミンに関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第8357652及び9226951号には、Aktシグナル伝達経路を調節することによって多くの種類の癌細胞においてアポトーシスを引き起こすことができる繊維状ヒト血清アルブミンが開示されており、その内容は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。ナイーブヒト血清アルブミンから繊維状ヒト血清アルブミンが形成されることは実証できたが、これらの2つのアルブミンを分離して、各生産バッチにおける繊維状ヒト血清アルブミンの純度及び一貫性を検証することは、そこに開示された方法によって実行可能ではなかった。繊維状タンパク質はより抗原性があることが知られているため、繊維状ヒト血清アルブミンは一部の被験者にとってより抗原性が高く、臨床使用中に望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
一態様において、本発明は、ナイーブヒト血清アルブミン(ナイーブHSA)の一次アミノ酸配列を含み、溶液中のrfHSA分子が楕円形であり、繊維状ではなく、前記ナイーブHSAが球状であるリフォールディングされたヒト血清アルブミン(rfHSA)分子に関する。
【0004】
別の態様において、本発明は、対象におけるがん又は腫瘍を治療するための医薬品の製造における本発明のrfHSA分子、医薬組成物、又はワクチン組成物の使用に関する。
【0005】
別の態様において、本発明は、腫瘍細胞又は腫瘍サンプルにおけるインテグリンβ1又はセリン/スレオニンプロテインキナーゼAkt及び細胞外シグナル調節キナーゼ1/2(ERK1/2)に関連するがん細胞の存在を検出するための試薬の製造における本発明のrfHSA分子の使用に関する。
【0006】
別の態様において、本発明は、がん細胞を含むサンプルにおけるAkt及びERK1/2のリン酸化を阻害するための試薬の製造における本発明のrfHSA分子の使用に関する。
【0007】
別の態様において、本発明は、腫瘍サンプルにおけるインテグリンβ1又はAkt及びERK1/2に関するがん細胞の存在を検出するための本発明のrfHSA分子を含むキットに関する。
【0008】
さらなる態様において、本発明は、本発明のrfHSA分子で処理したがん細胞の細胞溶解物に関する。
【0009】
さらなる態様において、本発明は、本発明の細胞溶解物を含むワクチン組成物に関する。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、
ヒト血清アルブミン(HSA)を洗浄剤含有緩衝液に溶解して洗浄剤処理HSA溶液を得るステップ(a)と、
前記洗浄剤処理HSA溶液を超音波処理して超音波処理した洗浄剤処理HSA溶液を得るステップ(b)と、
前記超音波処理した洗浄剤処理HSA溶液を分子量が10,000から600,000ダルトン(Da)のサイズ排除クロマトグラフィーカラムにかけるステップ(c)と、
前記洗浄剤を含む溶出剤で前記カラムを溶出するステップ(d)と、
前記洗浄剤処理HSAを含むカラム溶出画分を収集するステップ(e)と、
前記カラム溶出画分をプールしてプールされたカラム溶出液を得るステップ(f)と、
分子量カットオフ(MWCO)が12,000-14,000Daの透析膜を用いて前記プールされたカラム溶出液を、洗浄剤を含まない透析液に対して透析するステップ(g)と、
透析膜溶出液を収集するステップ(h)と、
前記透析膜溶出液を濃縮し、前記洗浄剤を含まない透析液に対して透析して濃縮透析膜溶出液を得るステップ(i)と、
濃縮と透析ステップ(i)を繰り返し、本発明のrfHSAを含む最終濃縮透析膜溶出液を得るステップ(j)と、
を含み、ステップ(j)における前記最終濃縮透析膜溶出液が洗浄剤を含まないか又はほとんど含まない、本発明のrfHSA分子の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1A及び図1Bは、それぞれ生物学的小角X線散乱により分析された溶液における(A)rfHSA及び(B)ナイーブHSAの構造を示すドッキングモデルである。図1Aは、SUPCOMBによる1e78.pdb結晶構造とrfHSAエンベロープのモデルドッキングであり、rfHSAの形状が楕円形であることを示す。図1(B)は、SUPCOMBによる1e78.pdb結晶構造とナイーブHSAエンベロープのモデルドッキングであり、ナイーブHSAの形状が球状であることを示す。
【0012】
図2図2A及び図2Bは、それぞれ還元条件下でのタンパク質限定分解後に液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS-MS)により分析された(A)ナイーブHSA(球状HSA又はgHSA)及び(B)rfHSAの質量スペクトルである。
【0013】
図3図3A及び図3Bは、それぞれ非還元条件下での限定的なタンパク質分解後にLC-MS-MSにより分析された(A)ナイーブHSA及び(B)rfHSAの質量スペクトルである。
【0014】
図4A】質量電荷比(m/z)4559の質量スペクトルフラグメントイオンに対応する41個のアミノ酸ペプチド(ナイーブHSAに存在するが、rfHSAに存在しない)の配列(配列番号2)を示す。
【0015】
図4B】ナイーブHSA(配列番号1)並びに分子内ジスルフィド架橋Cys124-Cys168及びCys169-Cys177の配列を示す。
【0016】
図5A】m/z5729の質量スペクトルフラグメントイオンに対応する53個のアミノ酸ポリペプチド(ナイーブHSAに存在するが、rfHSAに存在しない)の配列(配列番号3)を示す。
【0017】
図5B】ナイーブHSA(配列番号1)並びに分子内ジスルフィド架橋Cys62-Cys361及びCys75-Cys567の配列を示す。
【0018】
図6A】m/z7223の質量スペクトルフラグメントイオンに対応する65個のアミノ酸ポリペプチド(ナイーブHSAに存在するが、rfHSAに存在しない)の配列(配列番号4)を示す。
【0019】
図6B】ナイーブHSA(配列番号1)並びに分子内ジスルフィド架橋Cys62-Cys361及びCys360-Cys487を示す。
【0020】
図7】様々ながん細胞に対するrfHSAの細胞毒性効果を示す。
【0021】
図8】臨床的に関連する卵巣がん細胞型に対するrfHSAの細胞毒性効果を示す。
【0022】
図9A】卵巣がん細胞担持マウスに対する治療レジメンを示す模式図である。
【0023】
図9B】対照群(左図)及びrfHSA治療群(右図)の腫瘍サイズを示す一連の蛍光画像である。Ms1、Ms2、Ms3は、それぞれマウス1、2及び3を示す。
【0024】
図9C】卵巣がん細胞担持マウスの体重(左図)及び生物発光イメージング(BLI)レベル(右図)を示す一対のグラフである。
【0025】
図10】ヒト膵臓がん細胞株BxPC-3、MIA PaCa-2及びPANC-1に対するrfHSAの細胞毒性効果を示すグラフである。
【0026】
図11】rfHSAがAkt及びERKのリン酸化を阻害し、rfHSAの阻害効果がBxPC-3における抗インテグリン抗体によって逆転されることを示すウエスタンブロットの画像である。
【0027】
図12】rfHSAが正常細胞であるヒト初代末梢血単核細胞の生存率に影響を与えないことを示すグラフである。
【0028】
図13】B16F10メラノーマ細胞に対するrfHSAの細胞毒性効果を示す棒グラフである。
【0029】
図14A】マウスのワクチン接種レジメン及びメラノーマがん細胞チャレンジを示す模式図である。rfHSA処理B16F10メラノーマ細胞の溶解物で前記マウスをワクチン接種した。
【0030】
図14B図14Aにおけるマウスの腫瘍サイズを示すグラフである。
【0031】
図14C図14Aにおけるマウスの生存率を示すグラフである。
【0032】
図14D図14Aにおける無腫瘍マウスの割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
【0034】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含む本文書が優先する。
【0035】
「球状」という用語は、球又はボールの形をしている球形を意味する。
【0036】
「楕円形」という用語は、卵の一般的な形態、形又は輪郭(卵形)を持つことを意味する。
【0037】
「繊維状」という用語は、フィブリルに関することを意味する。フィブリルは、小さい又は細い繊維又はフィラメント、又は糸状の構造若しくはフィラメントである。フィラメントは、非常に細い糸又は糸状の構造である。
【0038】
「ポリペプチド又はペプチド断片」という用語は、アミノ末端又はカルボキシ末端の欠失を有するが、残りのアミノ酸配列が推定される天然配列(例えば、完全長cDNA配列から)の対応する位置と同一であるポリペプチド又はペプチドを指す。断片は、典型的には、少なくとも5、6、8又は10アミノ酸長、好ましくは少なくとも14アミノ酸長、より好ましくは少なくとも20アミノ酸長、通常は少なくとも50アミノ酸長、さらにより好ましくは少なくとも70アミノ酸長である。
【0039】
rfHSAは、追加の活性剤及び薬学的に許容される担体、ビヒクル、賦形剤、又は補助剤と共に医薬組成物に含めることができる。
【0040】
「薬学的に許容される担体」という用語は、薬学的投与に適合する、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。補助的な活性化合物も組成物に組み込むことができる。
【0041】
医薬組成物は、その意図する投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例には、非経口(例えば、静脈内、皮内、皮下)、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、腹腔内、動脈内、筋肉内、病巣内、及び直腸投与が含まれる。
【0042】
本明細書で使用される「対象」は、ヒト及びヒト以外の動物を指す。
【0043】
本明細書で使用される用語「ナイーブヒト血清アルブミン」と「球状ヒト血清アルブミン」は、交換可能である。
【0044】
アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)モチーフは、細胞接着モチーフである。それはもともと、細胞接着を媒介するフィブロネクチン内の配列として同定された。インテグリンとして知られる膜タンパク質のファミリーは、RGDモチーフを介してこれらの細胞接着分子の受容体として機能する。
【0045】
「Akt」という用語は、「セリン/スレオニンプロテインキナーゼAkt(プロテインキナーゼB)」を指す。Aktシグナル伝達経路又はPI3K-Aktシグナル伝達経路は、細胞外シグナルに応答して生存と成長を促進するシグナル伝達経路である。関連する重要なタンパク質は、PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)及びAkt(プロテインキナーゼB)である。
【0046】
本発明のrfHSA分子を含む組成物は、身体からの急速な排出に対して有効成分を保護する担体を用いて調製することができる(例えば、インプラントやマイクロカプセル化された送達システムを含む制御放出製剤)。エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。このような製剤の調製方法は、当業者には明らかである。これらの材料は、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に入手することもできる。リポソーム懸濁液(細胞特異的抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞を標的とするリポソームを含む)も、薬学的に許容される担体として使用することができる。
【0047】
投与を容易にし、投与量を均一にするために、経口又は非経口組成物を投与単位形態で製剤化することが有利である。本明細書で使用される投与単位形態は、治療される対象の単位投与量として適した物理的に別個の単位を指す。各単位は、必要な薬学的担体と所望の治療効果を生み出すように計算された所定量の活性化合物を含む。
【0048】
このような化合物の毒性(例えば、LD50(集団の50%の致死量))と治療効果(例えば、ED50(集団の50%の治療有効量))は、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。有毒な副作用を示す化合物を使用することができるが、感染していない細胞への潜在的な損傷を最小限に抑え、副作用を軽減するために、このような化合物を患部組織の部位を標的とする送達システムを設計するように注意する必要がある。
【0049】
細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトへの使用に適切な投与量範囲を策定するために使用することができる。このような化合物の投与量は、好ましくは、毒性がほとんど又は全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使用される投与形態及び利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化することができる。本開示の方法で使用される任意の化合物について、治療有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。投与量は、細胞培養で決定されるIC50(即ち、症状の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて確定することができる。このような情報は、ヒトに対する有用な投与量をより正確に決定するために使用することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0050】
「治療」又は「処置」という用語は、疾患を治癒、軽減、緩和、解決又は改善する目的で、それを必要とする対象に有効量の治療薬を投与することを指す。このような対象は、任意の適切な診断方法からの結果に基づいて、ヘルスケアの専門家によって特定することができる。
【0051】
「有効量」は、処置される対象に治療的効果を与えるために必要とされる活性薬剤の量を指す。当業者によって認識されるように、投与の経路、添加剤の使用、及び他の治療との併用の可能性に応じて、有効な投与量は変化するだろう。
【0052】
「化学療法剤」という用語は、がんの治療に有用であることが知られている薬理学的薬剤を指す。
【0053】
米国保健福祉省食品医薬品局によって出版されている「成人の健康なボランティアの治療学についての臨床試験における安全開始用量を推定する、産業界、及び審査官のためのガイダンス(Guidance for Industry and Reviewers Estimating the Safe Starting Dose in Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers)」は、「治療有効量」が以下の式からの計算によって得ることができることを開示している。
【0054】
HED=動物用量(mg/kg)×(動物体重(kg)/ヒト体重(kg))0.33
【0055】
以下に示される研究で使用されるマウスの体重は、16~22gの範囲である。
【0056】
略語
ナイーブヒト血清アルブミン:ナイーブHSA
球状ヒト血清アルブミン:gHSA
リフォールディングされたヒト血清アルブミン:rfHSA
アルギニン-グリシン-アスパラギン酸:RGD
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析:LC-MS-MS
質量電荷比:m/z
生物発光イメージング:BLI
室温:RT
【0057】
配列表:ナイーブヒト血清アルブミン(配列番号1)
LVRPEVDVMCTAFHDNEETFLKAAFTECCQAADKAA CLLPK(配列番号2;41aa)
KGEEAFCTEKLTAVTCLKDGFLTHLSKDCNEASEDAVCTKAYCEHPDAAACCK(配列番号3;53aa)
VTKCCTESLVNRRPCFSALEVDETYVPKLAKTYETTLEKCCAAADPHECYAKTCVADESAENCDK(配列番号4;65aa)
【0058】
本発明は、抗がん性リフォールディングされたヒト血清アルブミン(rfHSA)、その使用方法及び使用方法を提供する。rfHSAは、ナイーブHSAと同じ一次配列を含む単量体である。rfHSAの調製に使用される方法には、純度検証の容易さ、生産の一貫性、スケールアップの実現可能性などの利点がある。
【0059】
生物学小角X線散乱は、rfHSAがナイーブHSAの球状ではなく、楕円形であることを示している(図1)。限定的なタンパク質分解とそれに続く液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS-MS)分析によって証明されるように、rfHSAはナイーブHSAの17個の分子内ジスルフィド結合のうち少なくとも3個がrfHSAで破壊されているという点で、ナイーブHSAと区別できる。非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後のrfHSAのLC-MS-MS分析は、いくつかの主要なフラグメントイオン、特にm/z4559、5729及び7223のフラグメントイオンが存在しないことを示している(図2-3)。
【0060】
m/z4559のフラグメントイオンに対応するLVRPEVDVMC($1)TAFHDNEETFLKAAFTEC($1)C($2)QAADKAAC($2)LLPK(配列番号2)の配列を有する41個のアミノ酸(aa)ペプチドは、ナイーブHSAに存在するが、rfHSAに存在しない。この41aaペプチドは、システイン124をシステイン168に、システイン169をHSAのシステイン177に結合させることによって形成される(図4)。
【0061】
m/z5729のフラグメントイオンに対応するKGEEAFC($1)TEKLTAVTC($1)LKDGFLTHLSKDC($2)NEASEDAVCTKAYCEHPDAAAC($2)CK(配列番号3)の配列を有する53個のアミノ酸ポリペプチドは、ナイーブHSAに存在するが、rfHSAに存在しない。この53aaペプチドは、システイン567をシステイン75に、システイン62をシステイン361に結合させることによって形成される(図5)。
【0062】
VTKCCTESLVNRRPC($1)FSALEVDETYVPKLAKTYETTLEKC($1)C($2)AAADPHECYAKTCVADESAENC($2)DK(配列番号4)の配列を有するm/z7223のフラグメントイオンに対応する65個のアミノ酸ポリペプチドは、ナイーブHSAに存在するが、rfHSAに存在しない。この65aaは、システイン487をシステイン360に、システイン361をシステイン62に結合させることによって形成される(図6)。
【0063】
ナイーブHSAは、繊維状ヒト血清アルブミン(HSA)を作成するプロセス中にSDSが徹底的に(できれば<0.18mgのSDS/mgのrfHSAのレベルまで)除去された後、予想外にrfHSAに変換された。繊維状HSAの製造方法は、米国特許第5,111,112号に開示されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0064】
本発明の一実施形態において、rfHSAは、ナイーブHSAを1%SDS溶液に溶解させ、SUPERDEX(登録商標)-200ゲル濾過カラムに通過させ、25mMのTris-HCl(pH8.0)、1mMのEDTA、0.1MのNaCl及び0.05%SDSを含む透析液で溶出することによって調製された。透析液で透析した後、透析チューブ内の溶出液を収集し、濃縮し、再度透析液に対して透析した。同じ手順を数回繰り返して、SDSをできるだけ徹底的に除去した。繊維状HSAとは異なり、rfHSAは繊維形態を形成しないことが分かった。
【0065】
rfHSAは、様々ながん細胞に対して細胞毒性効果を有し、その効力が繊維状HSAとほぼ同じである。繊維状HSAの代わりにrfHSAを抗がん剤として使用する利点は、rfHSAが繊維状タンパク質ではないことである。繊維状HSAは一部の対象にとってより抗原性が高く、臨床使用中に望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。さらに、rfHSAの純度と一貫性は、繊維状HSAよりも検証可能である。
【0066】
一実施形態において、rfHSAは、腎臓がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、肝臓がん、メラノーマ、又は卵巣がんを治療するために使用される(図7)。
【0067】
臨床的に関連する卵巣がん細胞(TOV21G、KURAMOCHI、OVSAHO)、膵臓がん細胞(BxPC3、MIA-paca2及びPanc1)及びメラノーマ(B16F10)がん細胞に対するrfHSAの細胞毒性効果及びIC50は、それぞれ図8、10及び13に示される。図9は、卵巣がんを有するマウスに対するrfHSAのインビボ抗癌効果を示す。
【0068】
rfHSAは、膵臓がん細胞(BxPC3)においてインテグリン依存的にAkt及びERKのリン酸化を阻害する(図11)。rfHSAは細胞表面のインテグリンなどの受容体に結合するが、球状血清アルブミンは結合できないため、血清アルブミンの構造を球状からリフォールディング状態に変化させることで、タンパク質が正常細胞よりも多くのインテグリンα5β1を発現する癌細胞を選択的に標的にすることが可能になったと考えられている。
【0069】
正常細胞(ヒト末梢血単核細胞)をrfHSA(0~1.6μM)で24~72時間処理した。正常細胞の生存率に対する影響はほとんど検出されなかった(図12)。
【0070】
rfHSAで処理したがん細胞の溶解物は、がん患者のワクチンとして使用することができる。前記がん細胞は、B16F10メラノーマであり得る。
【0071】
rfHSAタンパク質、変異体、誘導体、オルソログ、又はがんを治療するためのヒト血清アルブミンと実質的に同一性を有する他のタンパク質は、疾患の重症度及びがん細胞に対する所望の細胞毒性に応じて選択することができる。
【0072】
がん細胞に対する細胞毒性を高めるために、RGDモチーフ又はそれ以上の分子量を持つタンパク質が選択される。RGDモチーフはインテグリンのリガンドである。リフォールディングされたタンパク質は、インテグリン/Aktシグナル伝達経路の調節を介して細胞死を誘導することが示されている。rVP1-S200やFN-S200などのRGDモチーフを持つリフォールディングされたタンパク質は、ウシ血清アルブミンなどのRGDモチーフを持たないタンパク質よりも細胞毒性が高いことが分かっている。
【0073】
一態様において、本発明は、ナイーブヒト血清アルブミン(ナイーブHSA)の一次アミノ酸配列を含むリフォールディングされたヒト血清アルブミン(rfHSA)を提供し、溶液中の前記rfHSAは繊維状ではなく楕円形であり、前記ナイーブはHSA球状である。
【0074】
一実施形態において、本発明のrfHSAは、(i)C124-C168及びC169-C177、(ii)C567-C75及びC62-C361、(iii)C487-C360及びC361-C62、並びに(iv)それらの任意の組み合わせからなる群より選択される2つ以上の分子内ジスルフィド架橋を欠いている。
【0075】
別の実施形態において、本発明のrfHSAは、分子内ジスルフィド架橋C124-C168、C169-C177、C567-C75、C62-C361及びC487-C360を欠いている。
【0076】
別の実施形態において、本発明のrfHSAは、非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解(limited trypsin proteolysis)後に、ナイーブHASに存在する質量電荷比(m/z)4559、5729及び7223の質量スペクトルフラグメントイオンを欠いている。
【0077】
別の実施形態において、本発明のrfHSAは、非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に、質量電荷比(m/z)4559、5729及び7223の質量スペクトルフラグメントイオンを欠いている。前記m/z4559、5729及び7223のフラグメントイオンは、ナイーブHASのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に存在する。
【0078】
別の実施形態において、本発明のrfHSAは、非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後にペプチド断片を産生する。産生された断片は、配列番号2、3、4及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される1つ以上のペプチド断片を欠いている。欠いている1つ以上のペプチド断片は、ナイーブHSAのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に存在する。
【0079】
別の実施形態において、本発明のrfHSAは、非還元条件下でのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後にペプチド断片を産生する。産生された断片は、配列番号2、3及び4のアミノ酸配列を含むペプチド断片を欠いている。欠いている配列番号2、3及び4のアミノ酸配列を含むペプチド断片は、ナイーブHSAのトリプシンによる限定的なタンパク質分解後に存在する。
【0080】
本発明は、本発明のrfHSA、及び薬学的に許容される担体、賦形剤又はビヒクルを含む医薬組成物も提供する。
【0081】
本発明は、本発明のrfHSAで処理されたがん細胞の細胞溶解物をさらに提供する。
【0082】
本発明は、rfHSA処理がん細胞の溶解物を含むワクチン組成物をさらに提供する。前記ワクチン組成物は、アジュバントをさらに含んでもよい。
【0083】
前記がん細胞は、がん由来細胞株であってもよい。一実施形態において、前記がん由来細胞株は、前記対象のがんと同じがん又は前記対象のがんと同じタイプに由来する。
【0084】
本発明は、対象のがん又は腫瘍を治療するための医薬品の製造における本発明のrfHSA、医薬組成物又はワクチン組成物の使用をさらに提供する。
【0085】
一実施形態において、前記がん細胞は、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、食道がん、腎臓がん、肝臓がん、喉頭がん、肺がん、メラノーマがん、口腔がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、皮膚がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん細胞からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0086】
本発明は、腫瘍細胞又は腫瘍サンプルにおけるインテグリンβ1又はセリン/スレオニンプロテインキナーゼAkt及び細胞外シグナル調節キナーゼ1/2(ERK1/2)に関連するがん細胞の存在を検出するか、或いはがん細胞を含むサンプルにおけるAkt及びERK1/2のリン酸化を阻害するための試薬の製造における本発明のrfHSAの使用をさらに提供する。
【0087】
本発明は、腫瘍サンプルにおけるインテグリンβ1又はAkt及びERK1/2に関連するがん細胞の存在を検出するための、本発明のrfHSAを含むキットをさらに提供する。
【0088】
別の実施形態において、対象のがん又は腫瘍を治療するための医薬品の製造に本発明のrfHSAを使用する前に、前記使用は、前記対象からの腫瘍サンプルにおけるAkt及びERK1/2に関連するがん細胞の存在を検出するための本発明のrfHSAfを含むキットの使用をさらに含んでもよい。
【0089】
本発明のrfHSAの製造方法は、上記のステップ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)及び(j)を含む。
【0090】
一実施形態において、溶出ステップ(d)における溶出剤中の洗浄剤の濃度は、溶解ステップ(a)における緩衝液中の洗浄剤の濃度よりも低い。
【0091】
別の実施形態において、透析ステップ(g)は、洗浄剤を含まない新鮮な透析液で洗浄剤を含まない透析液を2回又は3回交換するステップ(g')をさらに含んでもよい。
【0092】
別の実施形態において、前記洗浄剤は、SDSであってもよい。
【0093】
別の実施形態において、前記サイズ排除クロマトグラフィーカラムは、分子量70kDa以上のタンパク質を分離するためのポアサイズを有する。
【0094】
別の実施形態において、前記洗浄剤を含まない透析液は、リン酸緩衝生理食塩水である。
【0095】
本発明の方法によれば、本発明の方法における繰り返しステップは洗浄剤を徹底的に除去し、最終濃縮透析膜溶出液は検出可能な繊維形態のヒト血清アルブミンを含まない。
【0096】
本発明は、対象のがん又は腫瘍の治療方法をさらに提供する。前記方法は、前記対象に治療有効量の本発明のrfHSA、前記医薬組成物又は前記ワクチン組成物を投与することを含む。
【0097】
前記対象に前記ワクチン組成物を投与する前に、前記治療方法は、本発明のrfHSAを用いて前記対象と同じがん又は組織タイプに由来するがん細胞株を治療するステップをさらに含んでもよい。
【0098】
実施例
【0099】
材料と方法
【0100】
rfHSAの調製
20mgの臨床グレードのヒト血清アルブミンを1%SDS(w/v)を含む10mlのPBSに溶解した。溶液を5分間超音波処理し、その後、溶出液(25mMのTris-HCl(pH8.0)、1mMのEDTA、0.1MのNaCl及び0.05%SDS)で事前に平衡化したSUPERDEXTM-200に添加した。カラムを1ml/分の速度で溶出し、ヒト血清アルブミンを含む画分C3からC7をプールした。次にプールされた画分をCELLU-SEP(登録商標)T4/名目(MWCO:12,000~14,000Da)透析膜を用いてPBSで透析した。新しいPBS緩衝液を室温(RT)で2時間ごとに3回交換した。透析液で透析した後、透析チューブ内の溶出液を収集し、濃縮し、再度透析液で透析した。同じ手順を数回繰り返して、SDSをできるだけ徹底的に除去し、本発明のrfHSAを得た。繊維状ヒト血清アルブミンとは異なり、rfHSAは繊維形態を形成しないことが分かった。
【0101】
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)
ナイーブHSA及びrfHSAタンパク質は、LTQ Orbitrap XL(THERMO FISHER SCIENTIFICTM、マサチューセッツ州)を用いて高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)により分析及び検証された。簡単に言えば、タンパク質をトリプシンで限定的にタンパク質分解し、或いは還元剤であるトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP;20mM)で処理した後、遊離スルフヒドリル基を過剰のヨードアセトアミド(IAA)でアルキル化し、トリプシンで限定的にタンパク質分解した。得られたペプチドを高速液体クロマトグラフィーで分離し、溶出したペプチドをナノスプレーイオン化によりイオン化し、オンライン結合LTQ Orbitrap XL質量分析計により分析し、上位5つの衝突誘起解離(CID)法により60,000解像度でサーベイスキャンを行い、イオントラップにおいて通常のスキャン速度でフラグメントイオンを検出した。
【0102】
細胞生存は、MTT比色アッセイによって決定された。指数関数的に増殖する細胞を、10%FBSを含む培地で96ウェルプレートに播種し、24時間インキュベートした。無血清培地中、37℃で、一連の濃度のタンパク質を用いて細胞を16時間処理した。処理した後、MTT溶液を各ウェル(0.5mg/ml)に加え、その後、4時間インキュベートした。生細胞の数はホルマザンの産生に正比例し、イソプロパノールで溶解した後、ELISAプレートリーダーを用いて570 nmの分光測光法により測定することができる。
【0103】
ウエスタンブロッティングで調べたAkt及びERKのリン酸化に対するrfHSAの影響
細胞を異なる濃度のrfHSAの有無にかかわらず処理した。がんサンプルの細胞抽出物(40~60μg)を、示されるように2つのSDS-ポリアクリルアミドゲルにロードした。ゲル電気泳動後、ゲル上のタンパク質を2枚のPVDF膜に転写した。2枚の膜上のタンパク質を分子量に従って切断し、チョップドブロット(chopped blot)を作成した。染色に使用される抗体を示すために各チョップドブロットを標識した。5%脱脂乳を用いてチョップドブロットをRTで1時間ブロックし、1xトリス緩衝生理食塩水とTWEEN(登録商標)20(TBST)で十分に洗浄し、それぞれの一次抗体を用いて4℃で一晩処理した。チョップドブロットを1×TBSTで十分に洗浄し、ペルオキシダーゼ標識二次抗体で室温で1時間処理し、次いで1×TBSTで十分に洗浄した。化学発光(ECL)を増強するために前記ブロットをペルオキシダーゼ基質で処理した。その後、BIOMAX(登録商標)MLフィルム上でKODAK(登録商標)医療用X線プロセッサーを使用してブロットを検出し、スキャンしてコンピューターでまとめて完成グラフを作成した。
【0104】
B16F10ワクチン接種実験
rfHSA誘導免疫原性細胞死(ICD)全細胞溶解物(TCL)については、B16F10メラノーマ細胞を1.5μMのrfHSAで24時間処理してICDを誘導した。かき取り、遠心分離、PBSで2回洗浄した後、1mLあたり1×10のB16F10をPBSに懸濁し、凍結融解を4回繰り返した。遠心分離後、上清を収集し、ワクチン接種のために保存した。ワクチン接種のために、C57BL/6マウスにB16F10細胞からの100μlのrfHSA誘導ICD TCLを左側腹部に皮下注射した(プライム群(prime group)として2週間に1回、ブースト群(boost group)として週に1回で2週間)。最後のワクチン接種の1週間後、右側腹部に1×10個の同じ生B16F10細胞を皮下注射した。腫瘍形成をモニターした。腫瘍体積を所定の日に直ちに記録し、算式:体積=(長さ×幅×π)/6に従って計算した。生がん細胞を注射した後の32日目に安楽死させた。生存率と無腫瘍マウスの数を記録した。安楽死後の所定の日に腫瘍重量を直ちに記録した。
【0105】
結果
【0106】
生物学的小角X線散乱に示されるように、rfHSAは楕円形を示し、ナイーブHSAは溶液中で球状を示す。
【0107】
小角X線散乱を用いてrfHSA及びナイーブHASの構造を分析した。図1A及び図1Bは、SUPCOMBプログラム(M.Kozin&D.Svergun"Automated matching of high-andlow-resolution structural models"J Appl Cryst.2001,34:33-41)を用いた1e78.pdb結晶構造、rfHSAエンベロープ及びナイーブHSAエンベロープモデルドッキングを示す。結果は、rfHSAの形状がナイーブHSAの形状と異なることを示している。rfHSAの形状は、ナイーブHSAのような球状ではなく、楕円形である。
【0108】
非還元条件下での限定的なタンパク質分解後の液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析によりrfHSAはナイーブHSAと異なることを示している。
【0109】
上記のように製造されたタンパク質は、rfHSAとナイーブHSAの混合物ではなく、主にrfHSAである。
【0110】
トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP;20mM)を用いてジスルフィド架橋を還元した後、ヨードアセトアミドで遊離スルフヒドリル基をアルキル化する還元条件下で、トリプシンによる限定的なタンパク質分解(50μg/mlで1分間)後のrfHSA質量スペクトルは、ナイーブHSAのものと同様であることが見出された(図2A~B)。
【0111】
非還元条件下で、トリプシンによる限定的タンパク質分解後のrfHSA質量スペクトルは、ナイーブHSAのものとは異なり、特にm/z4559、5729及び7223の3つの主要なフラグメントイオンを欠いていた(図3A-B)。rfHSAにおけるこの3つの主要なフラグメントイオンの欠如は、rfHSAがナイーブHSAと区別可能であり、本発明のrfHSAの調製バッチにナイーブHSAがほとんど又は完全にないことを示している。ナイーブHSAの本来の構造は、主に17個の分子内ジスルフィド架橋によって保持される。還元条件下で、トリプシンによる限定的なタンパク質分解後のrfHSA質量スペクトルは、ナイーブHASと同様に、m/z3030の親イオン及びいくつかのフラグメントイオン、特にm/z2706、2259、2044及び1148のフラグメントイオンを示している。非還元条件で現れるナイーブHSAの3つの主要なフラグメントイオンm/z4559、5729及び7223は、質量電荷比が3030よりも高く、ジスルフィド結合を有するペプチドフラグメントイオンである可能性が最も高い。
【0112】
rfHSAには、システイン124をシステイン168に、システイン169をシステイン177に結合させるジスルフィド架橋がない。
【0113】
ナイーブHSAのトリプシン消化物を分離し、分取液体クロマトグラフィーで分画した。質量分析シーケンシングによりm/z4559のフラグメントイオンに対応するペプチド配列を確認した。結果として、m/z4559のフラグメントイオンは、LVRPEVDVMC($1)TAFHDNEETFLKAAFTEC($1)C($2)QAADKAAC($2)LLPK(配列番号2)のアミノ酸配列を有する41アミノ酸ペプチドであることを示している。ナイーブHSAのアミノ酸配列の検索により、このペプチドは、システイン124をシステイン168に、システイン169をシステイン177に結合させるジスルフィド架橋によって形成されることが明らかになった(図4A及び図4B)。m/z4559のフラグメントイオンがナイーブHSAに存在し、rfHSAに存在しないため、この結果は、rfHSAには、システイン124をシステイン168に、システイン169をシステイン177に結合させるジスルフィド架橋がないことを示している。
【0114】
rfHSAには、システイン567をシステイン75に、システイン62をシステイン361に結合させるジスルフィド架橋がない。
【0115】
ナイーブHSAのトリプシン消化物を分離し、分取液体クロマトグラフィーで分画した。タンデム質量分析シーケンシングによりm/z5729のフラグメントイオンに対応するペプチド配列を確認した。結果として、m/z5729のフラグメントイオンは、KGEEAFC($1)TEKLTAVTC($1)LKDGFLTHLSKDC($2)NEASEDAVCTKAYCEHPDAAAC($2)CK(配列番号3)の配列を有する53アミノ酸ポリペプチドであることを示している。。ナイーブHSAのアミノ酸配列の検索により、このポリペプチドは、HSA配列のシステイン567をシステイン75に、システイン62をシステイン361に結合させるジスルフィド架橋によって形成されることが明らかになった(図5A及び図5B)。m/z5729のフラグメントイオンがナイーブHSAに存在し、rfHSAでは隠されているため、この結果は、rfHSAの大部分が、システイン567をシステイン75に、システイン62をシステイン361に結合させるジスルフィド架橋を有しないことを示している。
【0116】
rfHSAには、システイン487をシステイン360に、システイン361をシステイン62に結合させるジスルフィド架橋がない。
【0117】
ナイーブHSAのトリプシン消化物を分離し、分取液体クロマトグラフィーで分画した。タンデム質量分析シーケンシングによりm/z7223のフラグメントイオンに対応するペプチド配列を確認した。結果として、VTKCCTESLVNRRPC($1)FSALEVDETYVPKLAKTYETTLEKC($1)C($2)AAADPHECYAKTCVADESAENC($2)DK(配列番号4)の配列を有するm/z7223のフラグメントイオンは、65アミノ酸ポリペプチドであることを示している。ナイーブHSAのアミノ酸配列の検索により、このペプチドは、システイン487をシステイン360に、システイン361をシステイン62に結合させるジスルフィド架橋によって形成されることが明らかになった(図6A及び図6B)。m/z7223のフラグメントイオンがナイーブHSAに存在し、rfHSAに存在しないため、この結果は、rfHSAにはシステイン487をシステイン360に、システイン361をシステイン62に結合させるジスルフィド架橋がないことを示している。
【0118】
rfHSAは、様々ながん細胞に対して細胞毒性を有する。
【0119】
それぞれの細胞型を、無血清培養培地中で様々な濃度のrfHSAで16時間処理した。細胞生存率を、MTT細胞増殖アッセイにより調べられ、各がん細胞株の生存率に対するrfHSAのIC50を決定した。図7は、様々な癌細胞に対するrfHSAの半数阻害濃度(IC50)を示す。
【0120】
rfHSAは、臨床的に関連する卵巣がん細胞株に対して細胞毒性効果を有する。
【0121】
卵巣腺がん細胞株TOV-21G、OVSAHO及び卵巣がんKURAMOCHI細胞株に対するrfHSAの細胞毒性を調査した(図8の上図)。細胞をrfHSAで処理し、細胞生存率をMTT細胞増殖アッセイによって調べた。rfHSAの濃度に対する細胞の生存率をプロットした(図8の下図)。
【0122】
rfHSAは、インビボで卵巣がんの増殖を阻害する。
【0123】
図9は、rfHSAが腹腔内(I.P.)卵巣マウスモデルにおいて腫瘍細胞増殖を阻害するのに有効であったことを示す。緑色蛍光タンパク質とホタルルシフェラーゼ(SKOV3-GL)で事前に標識された卵巣がんSKOV3細胞をヌードマウスに腹腔内投与し、次いで、対照ビヒクル又はrfHSA(15mg/kg)を、示されるように週に1回注射した(図9A)。生物発光イメージング(BLI)及び体重の測定により、rfHSAがマウスの体重に影響を与えることなく腫瘍細胞の増殖を顕著に減少させることが明らかになった(図9B及び図9C)。
【0124】
rfHSAは、膵臓がん細胞株に対して細胞毒性効果を有する。
【0125】
図10は、rfHSAが膵臓がん細胞株BxPC3、MIA-paca2及びPanc1をそれぞれインビトロで阻害したことを示す。細胞をrfHSAで処理し、細胞生存率を上記のようにMTT細胞増殖アッセイで調べた。rfHSAの濃度に対する細胞生存率をプロットした。
【0126】
rfHSAは、膵臓がん細胞におけるAkt及びERK1/2のリン酸化をインテグリンβ1依存的に阻害する。
【0127】
図11は、抗インテグリンβ1抗体が、Akt及びERK1/2のリン酸化に対するrfHSAの阻害効果を逆転させたことを示す。BxPC3細胞を対照IgG又は抗インテグリンβ1抗体(2μg/ml)で30分間前処理し、次いでIL17B(50ng/ml)及び/又はrfHSA(0.2μM)で0.1%FBS培地中で24時間処理した。リン酸化Akt、総Akt、リン酸化ERK1/2、及び総ERK1/2の発現レベルを、ウェスタンブロットにより決定した。β-アクチンをローディング対照として使用した。ブロットは、3つの独立した実験の代表である。
【0128】
rfHSAは、正常細胞に対して細胞毒性を有しない。
【0129】
図12は、rfHSAがヒト初代末梢血単核細胞(PBMC)において細胞死を誘導しなかったことを示す。示されるように、ヒトPBMCを一連の濃度のrfHSAで24、48及び72時間処理した。細胞生存率をMTT細胞増殖アッセイによって調べ、rfHSAの濃度に対する細胞生存率をプロットした。
【0130】
rfHSAは、B16F10メラノーマがん細胞に対して細胞毒性効果を誘導する。
【0131】
B16F10メラノーマ細胞を、異なる量のrfHSAで24時間処理した。細胞を回収し、トリパンブルー染色により生細胞のパーセンテージを計数することにより細胞生存率を測定した。図13は、rfHSAが細胞生存率を用量依存的に阻害したことを示す。
【0132】
rfHSA処理B16F10細胞溶解物でのワクチン接種は、インビボで抗腫瘍免疫応答と腫瘍クリアランスを誘導する。
【0133】
がん細胞をrfHSAで24時間処理し、細胞質溶解物をマウスに接種し、1週間後に再度ブーストした。次に、このマウスに生B16F10メラノーマ細胞(1x10細胞/マウス)を注射した。図14A~14Dは、rfHSA処理B16F10細胞溶解物でのワクチン接種が、インビボで抗腫瘍免疫応答及び腫瘍クリアランスを誘導したことを示す。図14Aは、この研究の模式的な予防接種プロトコルを示す。rfHSA(1.5μM)で24時間処理した。チャレンジ後、(B)腫瘍増殖率、(C)マウス生存率、及び(D)無腫瘍転帰をモニターした。細胞質溶解物でのワクチン接種を受けたマウスの腫瘍体積と生存率から、腫瘍がはるかに少なく、生存が顕著に長くなったこと分かった。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
【配列表】
2023540800000001.app
【国際調査報告】