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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】吸入器システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/13 20180101AFI20230920BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G16H20/13
A61P11/00
A61K39/395 M
A61K31/137
A61P43/00 121
A61K31/167
A61K31/58
A61K31/573
A61K31/56
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512298
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(85)【翻訳文提出日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2021073171
(87)【国際公開番号】W WO2022038275
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】2013129.8
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
(71)【出願人】
【識別番号】512297125
【氏名又は名称】ノートン (ウォーターフォード) リミテッド
【住所又は居所原語表記】Unit 301 IDA, Industrial Park, Cork Road, Waterford, Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミルトン‐エドワーズ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】サフィオーティ,ギルエルメ
(72)【発明者】
【氏名】ライヒ,マイケル
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
4C206
5L099
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE03
4C085GG10
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA08
4C086DA12
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA13
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZA59
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA14
4C206GA01
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA33
4C206NA05
4C206NA10
4C206ZA59
4C206ZC75
5L099AA25
(57)【要約】
対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するシステムを提供する。本システムは、対象者にレスキュー薬を送達する第1吸入器を備える。本システムは、通常吸入中に対象者に維持薬を送達する第2吸入器を随意的に含む。第2吸入器が本システムに含まれる場合、センサシステムは、レスキュー吸入中および/または通常吸入中の気流に関するパラメータを測定するように構成される。本システムは、特定されたレスキュー吸入の頻度を監視するように構成された処理モジュールをさらに備える。処理モジュールは、時間の関数としてパラメータを監視する。処理モジュールはさらに、時間の関数としてのパラメータが対象者の肺の状態が第1期間にわたって悪化していることを示し、特定されたレスキュー吸入の頻度が第1期間中よりも第2期間中において高く、第2期間が第1期間の後にある場合に、呼吸器疾患の増悪の警告のための出力を提供するように構成される。さらに、対象者の呼吸器疾患の増悪を警告する出力を提供する方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するシステムであって、
前記対象者にレスキュー薬を送達するための第1吸入器であって、当該第1吸入器を使用して前記対象者が行うレスキュー吸入を特定するように構成された使用特定システムを有するものと、
通常吸入中に前記対象者に維持薬を送達する随意的な第2吸入器と
を備え、
当該システムは、
前記レスキュー吸入中および/または当該システムに前記第2吸入器が含まれる場合には当該第2吸入器を使用した前記通常吸入中に気流に関するパラメータを測定するように構成されたセンサシステムと、
特定された前記レスキュー吸入の頻度を監視し、時間の関数として前記パラメータを監視し、時間の関数としての前記パラメータが、前記対象者の肺の状態が第1期間にわたって悪化していることを示し、前記特定されたレスキュー吸入の前記頻度が前記第1期間中よりも第2期間中において高く、前記第2期間が前記第1期間の後にある場合に、前記出力を提供するように構成された処理モジュールと
を備えている
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
ユーザインタフェースをさらに備え、
前記処理モジュールは、提供された前記出力に基づいて増悪警告を発するように前記ユーザインタフェースを制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記対象者が経験している呼吸器疾患の状態についての指標のユーザ入力が可能となるように構成されたユーザインタフェースをさらに備え、
前記処理モジュールは、提供された前記出力に基づいて前記指標を入力させるプロンプトを発するように前記ユーザインタフェースを制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記処理モジュールは、提供された前記出力に基づいて増悪警告を発するように前記ユーザインタフェースを制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記ユーザインタフェースを介して入力された前記指標を格納するメモリを備えている
ことを特徴とする請求項3または4に記載のシステム。
【請求項6】
前記ユーザインタフェースは、ユーザが選択可能な複数の呼吸器疾患状態オプションを提供するように構成され、
前記指標は、前記状態オプションの少なくとも1つをユーザが選択することによって画定される
ことを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記ユーザインタフェースは、選択可能なアイコン、チェックボックス、スライダおよび/またはダイヤルの形態で前記状態オプションを提供するように構成されている
ことを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記パラメータは、ピーク吸入流量、吸入量、ピーク吸入流量までの時間および吸入持続時間のうちの少なくとも1つである
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記センサシステムは、圧力センサを備え、
前記使用特定システムは、随意的にさらなる圧力センサを含み、前記圧力センサおよび前記さらなる圧力センサは、互いに同一のものか異なったものである
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記使用特定システムは、前記第1吸入器の使用前、使用中または使用後に作動するように構成された機械式スイッチを備えている
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記第1吸入器は、
薬剤リザーバと、
前記リザーバからの前記薬剤の用量を計量するように構成された用量計量アセンブリと
を備え、
前記使用特定システムは、前記用量計量アセンブリによる前記用量の計量を記録するように構成され、これにより、各計量は、前記対象者が前記第1吸入器を使用して行った前記レスキュー吸入を示すものとなっている
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記第1吸入器は、アルブテロール、ホルモテロール、ホルモテロールと組み合わせたブデソニド、アルブテロールと組み合わせたベクロメタゾン、およびアルブテロールと組み合わせたフルチカゾンから選択されるレスキュー薬を送達するように構成され、
随意的に前記第2吸入器が存在する場合、当該第2吸入器は、ブデソニド、ベクロメタゾン、フルチカゾン、およびフルチカゾンと組み合わせたサルメテロールから選択される維持薬を送達するように構成されている
ことを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供する方法であって、
第1吸入器を使用するレスキュー吸入の頻度を監視する工程と、
気流に関するパラメータであって、前記レスキュー吸入中、および/または前記対象者が第2吸入器を使用して行う維持薬の通常吸入中に感知されるものを時間の関数として監視する工程と、
時間の関数としての前記パラメータが、前記対象者の肺の状態が第1期間にわたって悪化していることを示し、前記レスキュー吸入の前記頻度が前記第1期間中よりも第2期間中において高く、前記第2期間が前記第1期間の後にある場合に、前記出力を提供する工程と
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項14】
提供された前記出力に基づいて増悪警告を発するようにユーザインタフェースを制御する工程をさらに備えている
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ユーザインタフェースを制御する工程をさらに備え、
前記ユーザインタフェースは、前記対象者が経験している呼吸器疾患の状態についての指標のユーザ入力を可能にし、提供された前記出力に基づいて前記指標を入力させるプロンプトを発するように構成されている
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ユーザインタフェースを介して入力された前記指標をメモリに格納する工程をさらに備えている
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記レスキュー薬を前記対象者に送達する前記第1吸入器を提供する工程をさらに備え、
前記1吸入器は、前記対象者が当該第1吸入器を使用して行う前記レスキュー吸入を特定するように構成された使用特定システムを有している
ことを特徴とする請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記レスキュー吸入および/または前記通常吸入中に気流に関する前記パラメータを測定するように構成されたセンサシステムを提供する工程をさらに備えている
ことを特徴とする請求項13~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
コンピュータ上で実行されたときに、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されたコンピュータプログラムコードを備えている
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項20】
対象者における呼吸器疾患の増悪を治療する方法であって、
請求項13~18のいずれか一項に記載の方法を実行する工程と、
提供された前記出力に基づいて前記呼吸器疾患を治療する工程と
を備えている
ことを特徴とする方法。
【請求項21】
前記治療する工程は、前記警告が発せられるべきとの決定の後に、前記対象者を第1治療レジメンから第2治療レジメンに移行させる工程を含み、
前記第2治療レジメンは、前記第1治療レジメンよりも呼吸器疾患の増悪のリスクが高い場合用に構成されている
ことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2治療レジメンは、生物学的製剤を投与する工程を備え、
随意的に、前記生物学的製剤は、オマリズマブ、メポリズマブ、レスリズマブ、ベンラリズマブおよびデュピルマブの1つ以上を含んでいる
ことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記治療する工程は、前記出力が予め定められた期間提供されなかったことに基づいて、前記対象者を第1治療レジメンから第3治療レジメンに移行させる工程を備え、
前記第3治療レジメンは、前記第1治療レジメンよりも呼吸器疾患の増悪のリスクが低い場合用に構成されている
ことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項24】
呼吸器疾患の増悪を診断する方法であって、
請求項13~18のいずれか一項に記載の方法を実行する工程と、
提供された前記出力に基づいて前記呼吸器疾患の増悪を診断する工程と
を備えている
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸入器システム、特に差し迫った呼吸器疾患の増悪を警告するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の多くの呼吸器疾患は、患者の症状を管理し、不可逆的な変化のリスクを低下させるために、薬剤の長期的な投与を伴う治療が生涯にわたって続く。喘息やCOPD等の病気は、今のところ治療法がない。治療には2つの形態がある。1つ目は、気道の炎症を抑え、その結果、将来の症状を制御することを目的とした治療の側面を持つ維持である。維持治療は、通常、吸入コルチコステロイドの単独投与、または長時間作用型気管支拡張剤および/またはムスカリン拮抗剤との併用によって行われる。2つ目は、喘鳴、咳、胸の圧迫感、息切れ等の急性症状を緩和するために、即効性のある気管支拡張剤を投与する治療の側面を持つレスキュー(または、リリーバー)である。喘息およびCOPD等の呼吸器疾患を患っている患者は、呼吸器疾患の症状が急激に悪化する「増悪」を起こすことがある。最悪の場合、増悪は命にかかわる。
【0003】
呼吸器疾患の増悪が迫っていることを特定できれば、行動計画が改善され、患者の状態が例えば医師との予定外の面談、入院、全身ステロイドの投与を必要とする前に、先制治療の機会を提供することができる。
【0004】
したがって、差し迫った呼吸器疾患の増悪を警告するための改善された方法が本技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
このような状況に鑑みて、本開示は、対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するシステムを提供する。
【0006】
例示的なシステムは、対象者にレスキュー薬を送達する第1吸入器を備える。第1吸入器は、当該第1吸入器を使用して対象者が行ったレスキュー吸入を特定するように構成された使用特定システムを有する。
【0007】
例示的なシステムは、通常吸入中に対象者に維持薬を送達する随意的な第2吸入器をさらに備えていてもよい。
【0008】
システムにセンサシステムが含まれる場合、それは、レスキュー吸入中および/または第2吸入器を使用した通常吸入中の気流に関するパラメータを測定するように構成される。
【0009】
例示的なシステムは、特定されたレスキュー吸入の頻度を監視するように構成された処理モジュールをさらに備える。処理モジュールはまた、時間の関数としてパラメータを監視する。
【0010】
処理モジュールは、時間の関数としてのパラメータが対象者の肺の状態が第1期間にわたって悪化していることを示し、レスキュー吸入の頻度が第1期間中よりも第2期間中において高く、第2期間が第1期間の後にある場合に、呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するようにさらに構成される。
【0011】
レスキュー吸入の回数、およびレスキュー吸入中および/または通常吸入中の気流に関するパラメータの両方を使用することで、例えば、これらの要素のどちらかを無視したシステムよりも、呼吸器疾患の増悪を予測するためのより正確な警告システムとなる。
【0012】
さらに、対象者の吸入器の使用状況を経時的に解析した結果、パラメータの変化で示される肺の状態の悪化は、増悪前のレスキュー薬の使用頻度の増加の後に起こる傾向があることを発見した。この知見は、差し迫った呼吸器疾患の増悪の警告をより信頼できるものにするために、本システムで利用される。
【0013】
時間の関数としてのパラメータの変化によって示される対象者の肺の状態の悪化は、第2期間中も継続する可能性があることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
続いて、添付図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明するが、これらは限定を意図するものではない。
【0015】
図1図1は、一実施例に係るシステムのブロック図を示す。
図2図2は、別の実施例に係るシステムを示す。
図3図3は、吸入器使用時の流量を時間に対して示したグラフである。
図4図4は、一実施例に係る吸入器の外観の正面図および背面図を示す。
図5図5は、図4に示す吸入器の上部キャップの最上面を示す。
図6図6は、図4に示す吸入器とユーザ機器とのペアリングを模式的に示す。
図7図7は、一実施例に係る方法のフローチャートである。
図8図8は、レスキュー薬吸入のタイムラインを示す。
図9図9は、COPDを患っている対象者のピーク吸入流量、吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対して示したグラフである。
図10図10は、喘息を患っている対象者のピーク吸入流量、吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対して示したグラフである。
図11図11は、喘息を患っている対象者の吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対して示したグラフである。
図12図12は、COPDを患っている対象者の吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対して示したグラフである。
図13図13は、吸入器の正面斜視図を示す。
図14図14は、図13に示す吸入器の断面内部透視図を示す。
図15図15は、図13に示す例示的な吸入器の分解斜視図である。
図16図16は、図13に示す吸入器の上部キャップおよび電子モジュールの分解斜視図である。
図17図17は、図13に示す例示的な吸入器を通る気流量を圧力に対して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明および特定の実施例は、装置、システムおよび方法の例示的な実施形態を示す一方で、説明のみを意図したものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。本発明の装置、システムおよび方法のこれらおよびその他の特徴、側面および利点は、以下の説明、添付の請求項および添付の図面からよりよく理解されるであろう。図面は単なる概略図であり、縮尺どおりに描かれていないことを理解されたい。また、同一または類似の部分を示すために、図面中で同じ参照番号が使用されていることも理解されたい。
【0017】
喘息およびCOPDは、気道の慢性炎症性疾患である。どちらも、気流障害および気管支痙攣等のさまざまな症状が繰り返し起こることが特徴である。症状には、喘鳴、咳、胸の圧迫感および息切れが含まれる。
【0018】
この症状は、誘因を避けること、および薬剤(特に吸入薬)を使用することによって管理される。薬剤には、吸入コルチコステロイド(ICS)および気管支拡張剤がある。
【0019】
吸入コルチコステロイド(ICS)は、呼吸器疾患の長期制御に使用されるステロイドホルモン剤であり、気道の炎症を抑えることで機能する。例えば、ブデソニド、ベクロメタゾン(ジプロピオン酸塩)、フルチカゾン(プロピオン酸塩またはフロ酸塩)、モメタゾン(フロ酸塩)、シクレソニド、デキサメタゾン(ナトリウム)等がある。括弧内は、好ましい塩またはエステルの形態を示す。特にブデソニド、ベクロメタゾンおよびフルチカゾン、とりわけブデソニド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾンおよびフロ酸フルチカゾンについて言及すべきである。
【0020】
気管支拡張剤は、その種類によって気道の異なる受容体を標的とする。よく使われる2つは、β-アゴニストおよび抗コリン剤である。
【0021】
β-アドレナリンアゴニスト(または「β-アゴニスト」)は、平滑筋を弛緩させるβ-アドレナリン受容体に作用し、気管支を拡張させる。β-アドレナリンアゴニスト(または「β-アゴニスト」)は、作用時間によって分類される傾向がある。長時間作用型β-アゴニスト(LABA)の例としては、ホルモテロール(フマル酸塩)、サルメテロール(キシナホ酸塩)、インダカテロール(マレイン酸塩)、バンブテロール(塩酸塩)、クレンブテロール(塩酸塩)、オロダテロール(塩酸塩)、カルモテロール(塩酸塩)、ツロブテロール(塩酸塩)、およびビランテロール(トリフェニルアセテート)がある。短時間作用型β-アゴニスト(SABA)の例としては、アルブテロール(硫酸塩)、およびテルブタリン(硫酸塩)がある。特に、ホルモテロール、サルメテロール、インダカテロール、およびビランテロール、とりわけフマル酸ホルモテロール、キシナホ酸サルメテロール、マレイン酸インダカテロール、およびトリフェニル酢酸ビランテロールについて言及すべきである。
【0022】
通常、(しばしば「レスキュー(救助)」薬または「リリーバー(緩和)」薬と呼ばれる)短時間作用型の気管支拡張剤は、急性の気管支収縮を速やかに緩和し、長時間作用型の気管支拡張剤は、長期にわたる症状の制御や予防を助ける。ただし、即効性の長時間作用型気管支拡張剤の中には、例えばホルモテロール(フマル酸塩)のようにレスキュー薬として使用できるものもある。このように、レスキュー薬は、急性の気管支収縮を緩和する。レスキュー薬は、必要に応じて服用される(pro re nata)。レスキュー薬は、例えばICS-ホルモテロール(フマル酸塩)、典型的には、ブデソニド-ホルモテロール(フマル酸塩)またはベクロメタゾン(ジプロピオン酸塩)-ホルモテロール(フマル酸塩)の組み合わせ製品の形態をとることもある。したがって、レスキュー薬は、好ましくはSABAまたは速効性LABAであり、より好ましくはアルブテロール(硫酸塩)またはフォルモテロール(フマル酸塩)であり、最も好ましくはアルブテロール(硫酸塩)である。
【0023】
抗コリン剤(または抗ムスカリン剤)は、神経細胞内のアセチルコリン受容体を選択的にブロックすることにより、神経伝達物質のアセチルコリンをブロックする。局所使用において、抗コリン剤は主に気道に存在するMムスカリン受容体に作用して平滑筋を弛緩させ、気管支拡張作用をもたらす。長時間作用型ムスカリン拮抗剤(LAMA)の例としては、チオトロピウム(臭化物)、オキシトロピウム(臭化物)、アクリジニウム(臭化物)、ウメクリジニウム(臭化物)、イプラトロピウム(臭化物)、グリコピロニウム(臭化物)、オキシブチニン(塩酸塩または臭化水素酸塩)、トルテロジン(酒石酸塩)、トルスピウム(塩化物)、ソリフェナシン(コハク酸塩)、フェソテロジン(フマル酸塩)、ダリフェナシン(臭化水素酸塩)がある。特に、チオトロピウム、アクリジニウム、ウメクリジニウム、およびグリコピロニウム、とりわけチオトロピウム臭化物、アクリジニウム臭化物、ウメクリジニウム臭化物、およびグリコピロニウム臭化物について言及すべきである。
【0024】
吸入によって送達されるこれらの医薬品の調製・配合において、乾燥粉末吸入器(DPI)、加圧式定量吸入器(pMDI)、ネブライザーのような多くのアプローチがとられてきた。
【0025】
GINA(Global Initiative for Asthma)ガイドラインによると、喘息の治療には段階的なアプローチがとられる。軽度の喘息であるステップ1では、アルブテロール硫酸塩等のSABAを必要に応じて投与する。必要に応じて低用量ICS-ホルモテロールを投与したり、SABAを服用するたびに低用量ICSを投与したりすることもある。ステップ2では、通常の低用量ICSをSABAと並行して投与するか、必要に応じて低用量ICS-ホルモテロールを投与する。ステップ3では、LABAを追加する。ステップ4では、投与量を増やし、ステップ5では、抗コリン剤や低用量の経口コルチコステロイド剤等の追加治療を行う。このように、それぞれのステップは、呼吸器疾患の急性の重症度に応じてそれぞれ設定された治療レジメンとみなされる。
【0026】
COPDは、世界的な主要な死因の1つである。それは、慢性気管支炎、肺気腫、さらには小気道を含む異質な長期疾患である。COPD患者の病理学的変化は、主に気道、肺実質および肺血管系に局在する。表面上、これらの変化は、肺の健康的なガス吸収能力およびガス排出能力を低下させる。
【0027】
気管支炎は、気管支の炎症が長期間続くという特徴がある。一般的な症状としては、喘鳴、息切れ、咳および痰があり、これらはいずれも不快感が強く、患者の生活の質にとって有害である。また、肺気腫は長期にわたる気管支の炎症と関係しており、炎症反応によって肺組織が破壊され、気道が徐々に狭くなる。やがて、肺組織は、自然な弾力性を失い、肥大化する。そのため、ガス交換の効率が低下し、呼吸した空気が肺の中に滞留することが多くなる。その結果、局所的な低酸素状態が生じ、1回の吸入で患者の血流に送り込まれる酸素の量が減少する。そのため、患者は、息切れや呼吸困難を経験する。
【0028】
COPDの患者は、すべてとは言えないが、さまざまな症状を日常的に経験する。重症度はさまざまな要因によって特定されるが、最も一般的には疾患の進行と相関する。これらの症状は、その重症度とは無関係に、安定したCOPDの状態を示しており、この疾患はさまざまな薬剤の投与によって維持・管理される。治療法はさまざまだが、多くの場合、吸入気管支拡張剤、抗コリン剤、長時間作用型および短時間作用型のβ-アゴニスト、コルチコステロイドが使用される。これらの薬剤は、単剤治療または併用治療として投与される。
【0029】
患者は、GOLDガイドライン(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease, Inc.)に定義されたカテゴリーを使用して、COPDの重症度によって分類される。カテゴリーはA~Dにラベル付けされ、推奨される第1選択の治療法はカテゴリーによって異なる。患者群Aには、必要に応じた短時間作用型のムスカリン拮抗剤(SAMA)、または必要に応じた短時間作用型のβ-アゴニスト(SABA)が推奨される。患者群Bには、長時間作用型のムスカリン拮抗薬(LAMA)、または長時間作用型のβ-アゴニスト(LABA)が推奨される。患者群Cには、吸入コルチコステロイド(ICS)+LABA、またはLAMAが推奨される。患者群Dには、ICS+LABAおよび/またはLAMAが推奨される。
【0030】
喘息およびCOPD等の呼吸器疾患を患っている患者は、日々の体調の変化に加え、周期的な増悪に悩まされる。増悪とは、追加的な治療、すなわち維持治療を超えた治療を必要とする呼吸器症状の急激な悪化を意味する。
【0031】
喘息における中等度の増悪に対する追加的な治療は、SABAの反復投与、経口コルチコステロイドおよび/またはコントロールフロー酸素である(後者は入院が必要)。重度の増悪では、抗コリン剤(典型的には臭化イプラトロピウム)、霧状SABA、または硫酸マグネシウムの静脈内投与が追加される。
【0032】
COPDにおける中等度の増悪に対する追加的な治療は、SABA、経口コルチコステロイドおよび/または抗生物質の反復投与である。重度の増悪では、コントロールフロー酸素および/または呼吸補助が追加される(いずれも入院が必要)。
【0033】
本開示中の増悪には、中等度の増悪および重度の増悪の両方の意味が含まれる。
【0034】
対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するシステムを提供する。本システムは、対象者にレスキュー薬を送達する第1吸入器を備える。レスキュー薬は、例えば、薬剤の吸入時に気管支や細気管支を急速に拡張させることにより呼吸器症状の悪化を治療するのに適している場合がある。第1吸入器は、当該第1吸入器を使用して対象者が行うレスキュー吸入を特定するように構成された使用特定システムを有する。本システムは、通常吸入中に対象者に維持用薬剤を送達する第2吸入器を随意的に備える。センサシステムは、レスキュー吸入中および/または通常吸入中(本システムが第2吸入器を備える場合)の気流に関するパラメータを測定するように構成される。
【0035】
レスキュー薬は、本明細書で定義した通りであり、典型的には、SABAまたはホルモテロール(フマル酸塩)等の速効性LABAである。レスキュー薬は、例えばICS-ホルモテロール(フマル酸塩)の組み合わせ製品、典型的にはブデソニド-ホルモテロール(フマル酸塩)の形態であってもよい。このようなアプローチは、「MART」(維持・レスキュー治療)と呼ばれる。しかしながら、レスキュー薬は出力の提供に関して決定力のある存在であるため、レスキュー薬が存在することは、それが本発明の意味における第1吸入器であることを示す。そのため、それは、レスキュー薬およびレスキュー・維持併用薬の両方をカバーする。一方、第2吸入器が存在する場合、それは、治療の維持側面のみにおいて使用され、レスキューの目的には使用されない。大きな違いは、第1吸入器は必要に応じて使用されるのに対し、第2吸入器は予め定められた時間に使用することが意図されている点である。
【0036】
非限定的な例では、第1吸入器は、アルブテロール(硫酸塩)、ホルモテロール(フマル酸塩)、ブデソニドとホルモテロール(フマル酸塩)の組み合わせ、ベクロメタゾン(ジプロピオン酸塩)とアルブテロール(硫酸塩)の組み合わせ、およびフルチカゾン(プロピオン酸塩またはフロ酸塩)とアルブテロール(硫酸塩)の組み合わせから選択したレスキュー薬を送達するように構成される。
【0037】
代替的または追加的に、第2吸入器は、本システムに含まれる場合に、ブデソニド、ベクロメタゾン(ジプロピオン酸塩)、フルチカゾン(プロピオン酸塩またはフロ酸塩)、およびフルチカゾン(プロピオン酸塩またはフロ酸塩)とサルメテロール(キシナホ酸塩)の組み合わせから選択した維持薬を送達するように構成される。
【0038】
本システムは、特定されたレスキュー吸入の頻度を監視するように構成された処理モジュールをさらに備える。処理モジュールは、時間の関数としてパラメータを監視する。処理モジュールは、時間の関数としてのパラメータが対象者の肺の状態が第1期間にわたって悪化していることを示し、特定されたレスキュー吸入の頻度が第1期間中よりも第2期間中において高く、第2期間が第1期間の後にある場合に、呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するようにさらに構成される。
【0039】
さらに、対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供する方法を提供する。本システムに関して議論された任意の好ましい実施形態は本方法に適用されてもよく、その逆もまた然りである。
【0040】
喘息およびCOPDの増悪等の呼吸器疾患の差し迫った増悪のリスクを、さまざまな対象者関連要因および環境要因を監視することによって評価する試みがなされている。どのような要因を考慮し、どのような要因を無視するかという課題がある。リスク判定への影響が最小限またはごく僅かである要因を無視することで、例えば、処理リソース、バッテリ電力、メモリ要件等のコンピュータリソースの消費が少なくなり、より効率的にリスクを判定することができるかもしれない。より重要なのは、差し迫った呼吸器疾患の増悪を判定する精度を向上させる必要性である。より正確にリスクを判定することができれば、より効果的な警告システムを構築し、対象者に適切な臨床的介入を行うことができる。
【0041】
本発明者らは、後述する臨床試験に参加した対象者の吸入器使用パターンを詳細に解析した結果、パラメータの変化で示される肺の状態の悪化は、増悪前のレスキュー薬の使用頻度の増加の後に起こる傾向があることを発見した。この知見は、差し迫った呼吸器疾患の増悪の警告をより信頼できるものにするために、本システムで利用される。
【0042】
時間の関数としてのパラメータの変化によって示される対象者の肺の状態の悪化は、第2期間中も継続する可能性があることに留意されたい。
【0043】
このため、非限定的な例では、処理モジュールは、時間の関数としてのパラメータが第1期間および第2期間にわたって対象者の肺の状態が悪化することを示し、特定されたレスキュー吸入の頻度が第1期間中よりも第2期間中において高い場合に、呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するように構成される。
【0044】
特定された第1/レスキュー吸入器の使用頻度は、例えば、1日あたりのレスキュー吸入器の使用回数、言い換えれば、毎日のレスキュー吸入器の使用回数に対応していてもよい。
【0045】
第1期間は、適切な診断価値のある時間に対するパラメータデータを収集するのに必要な期間に応じて選定することができる。サンプル期間が短すぎると、信頼できる増悪予測のための十分な吸入データを収集することができない可能性があり、サンプル期間が長すぎると、平均化効果により、診断的または予測的に重要な短期間の傾向を区別することができなくなる可能性がある。第1期間は、例えば、2日~60日間(例えば、5日~55日間)とすることができる。
【0046】
同様の考え方が、第2期間の選定にも適用される。第2期間は、例えば、2日~70日間(例えば、5日~65日間)とすることができる。
【0047】
一実施形態において、本システムは、ユーザインタフェースを備え、処理モジュールは、当該処理モジュールが提供する呼吸器疾患の増悪の警告のための出力に基づいて増悪警告を発するようにユーザインタフェースを制御するように構成される。
【0048】
ユーザインタフェースは、例えば、対象者が経験している呼吸器疾患の状態を示す指標のユーザ入力が可能となるように構成されていてもよい。この非限定的な例では、処理モジュールは、当該処理モジュールが提供する呼吸器疾患の増悪の警告のための出力に基づいて、指標を入力させるプロンプトを発するようにユーザインタフェースを制御するように構成される。
【0049】
このように、吸入器の使用データは、対象者からの入力によって補完されてもよい。ユーザ入力された指標は、吸入器の使用データに基づく警告出力を確認または検証する情報を提供することがある。
【0050】
さらに、この指標のユーザ入力を促すアプローチは、例えば、吸入器の使用とは無関係に指標の入力を日常的に促す場合と比較して、対象者の負担を軽減することができる。これにより、指標の入力を求められたときに対象者がそれに応じて入力を行う可能性が高くなる。したがって、この例示的なシステムによって、対象者の呼吸器疾患の改善された監視が可能になるかもしれない。
【0051】
処理モジュールは、例えば、当該処理モジュールが提供する出力に基づいて、増悪警告、および指標を入力させるプロンプトを発するようにユーザインタフェースを制御するように構成されていてもよい。
【0052】
このように、ユーザインタフェースは、指標のユーザ入力と、プロンプトおよび/または増悪警告を発することが可能となるように構成されていてもよい。
【0053】
ユーザインタフェースは、例えば、指標のユーザ入力が可能となるように構成された第1ユーザインタフェースと、処理モジュールによって制御されたときにプロンプトを出力するように構成された第2ユーザインタフェースとを備える。
【0054】
例えば、第1および第2ユーザインタフェースは、同一のユーザ機器に含まれていてもよい。
【0055】
非限定的な例では、ユーザインタフェースはタッチスクリーンを備える。この例では、第2ユーザインタフェースはタッチスクリーンのディスプレイを構成し、第1ユーザインタフェースはタッチスクリーンのタッチ入力システムを構成する。タッチスクリーンは、ユーザ入力およびプロンプトが容易であるため、パラメータおよびレスキュー薬の使用頻度によって示される症状の悪化に対象者が苦しんでいる場合に特に有効である。
【0056】
タッチスクリーンを介して発せられるプロンプトの代わりに、またはこれに加えて、第2ユーザインタフェースは、処理モジュールによって制御されたときに可聴プロンプトを発するラウドスピーカを備えていてもよい。
【0057】
一実施形態において、ユーザインタフェース(例えば、第1ユーザインタフェース)は、ユーザが選択可能な複数の呼吸器疾患状態オプションを提供するように構成される。この場合、指標は、ユーザが少なくとも1つの状態オプションを選択することによって画定される。
【0058】
ユーザインタフェースは、例えば、短いアンケートに回答させるポップアップ通知リンクを介して指標を提供するようにユーザまたは対象者に促すことができる。
【0059】
非限定的な例では、ユーザインタフェースは、その回答が指標となる質問で構成されたアンケートを表示する。ユーザ(例えば、対象者またはその医療従事者)は、ユーザインタフェースを使用して質問に対する回答を入力することができる。
【0060】
一実施形態において、本システムは、ユーザインタフェースを介して入力された指標のそれぞれを格納するためのメモリ(例えば、処理モジュールに含まれるメモリ)を備える。指標は、例えば、対象者とその医療従事者との間の対話を支援するために、後で参照されてもよい。この手法では、対話の目的のために、呼吸器疾患の過去の状態についての対象者の記憶を頼りにしなくてもよい。
【0061】
対象者の負担を最小限に抑えるために、アンケートは、比較的短くてもよい(すなわち、質問数は比較的少なくてもよい)。とは言うものの、質問の数および本質は、対象者の臨床状態(これには、例えば、対象者が増悪を経験する可能性が含まれる)を確実に評価することが可能となるようなものであってもよい。
【0062】
6点/6問のアンケートの形式で指標を入力させるのは、特に、レスキュー薬の使用頻度およびパラメータで示されるように、十分な臨床情報が必要であることと、(症状が悪化しているかもしれない)対象者に過度の負担をかけないようにすることとのバランスを考慮してのことである。
【0063】
より一般的には、アンケートの目的は、比較的迅速に回答されるいくつかのタイムリーな質問によって、対象者の(呼吸器疾患に関する)健康状態を「その瞬間に」把握するために、そのときの、または比較的最近(例えば、直近の24時間以内)の指標を確認することである。アンケートは、対象者の現地語に翻訳されてもよい。
【0064】
従来のコントロールアンケート、とりわけ喘息用のACQ/T(Asthma Control Questionnaire / Test)や、COPD用のCAT(COPD Assessment Test)は、患者に過去の症状を思い出させることに重点を置く傾向にある。思い出しバイアス、および現在ではなく過去に重点を置くことは、予測分析の目的において、その価値に悪影響を及ぼすかもしれない。
【0065】
このようなアンケートの非限定的な例を以下に示す。対象者は、各質問に対して次の状態オプションを選択することができる:いつも(5)、ほとんど(4)、ときどき(3)、少し(2)、なし(1)。
息切れの頻度、または程度は?
咳の頻度、または程度は?
喘鳴の頻度、または程度は?
胸の圧迫感の頻度、または程度は?
夜間症状/睡眠への影響の頻度、または程度は?
職場、学校または家における活動制限の頻度、または程度は?
【0066】
別のアンケートの例を以下に示す。
いつもより呼吸器系の症状が強いですか(はい/いいえ)? もしそうなら、
胸の圧迫感または息切れが増えましたか(はい/いいえ)?
咳が増えましたか(はい/いいえ)?
喘鳴が増えましたか(はい/いいえ)?
睡眠に影響が出ていますか(はい/いいえ)?
家/職場/学校での活動が制限されていますか(はい/いいえ)?
【0067】
さらに別のアンケートの例を以下に示す。
以下の症状が増えましたか?
胸の圧迫感または息切れ(はい/いいえ)
咳(はい/いいえ)
喘鳴(はい/いいえ)
よく眠れていますか?(はい/いいえ)
日常生活に何らかの制限を受けていますか?(はい/いいえ)
感染症またはアレルゲン(例えば、猫、花粉)にかかったことがありますか?(はい/いいえ)
【0068】
さらに別のアンケートの例を以下に示す。
あてはまるものがありますか?
胸の圧迫感または息切れが多くなった(はい/いいえ)
咳が多くなった(はい/いいえ)
喘鳴が多くなった(はい/いいえ)
よく眠れていますか?(はい/いいえ)
家/職場/学校での活動を制限していますか?(はい/いいえ)
感染症にかかったことがありますか?(はい/いいえ)
はいの場合、抗生物質やステロイドを服用しましたか?(はい/いいえ)
最近、アレルゲン(例えば、猫、花粉)にかかりましたか?(はい/いいえ)
(オプション)直近の病院不安抑うつ尺度(HADS)のスコアは?
【0069】
質問に対する回答は、例えば、スコアを計算するために使用され、そのスコアは、対象者が経験している呼吸器疾患の状態の指標に含まれるか、またはそれに対応する。
【0070】
より一般的には、本システムに含まれるメモリは、一実施形態において、ユーザインタフェースを介して入力された指標(例えば、アンケートへの回答および/またはスコア)を格納するように構成される。このため、格納された指標は、患者と医療従事者の対話のために後で参照することができる。
【0071】
一実施形態において、ユーザインタフェースは、選択可能なアイコン(例えば、絵文字タイプのアイコン)、チェックボックス、スライダおよび/またはダイヤルの形態で状態オプションを提供するように構成される。このようにして、ユーザインタフェースは、対象者が経験している呼吸器疾患の状態についての指標を入力するための、明快かつ直感的な方法を提供してもよい。このような直感的な入力は、対象者自身が指標を入力する場合に特に有益であり、なぜなら、比較的容易なユーザ入力であれば対象者の呼吸器疾患の悪化によって妨げられることはないからである。
【0072】
対象者が経験している呼吸器疾患の状態についての指標を、例えば、その対象者が主観的にユーザ入力できるようにするために、任意の適切なユーザインタフェースを採用することができる。例えば、ユーザインタフェースは、ユーザ機器のユーザインタフェースを備えていてもよいし、ユーザ機器のユーザインタフェースからなっていてもよい。ユーザ機器は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末および/またはスマートフォンであってもよい。ユーザ機器がスマートフォンである場合、ユーザインタフェースは、前述したように、スマートフォンのタッチスクリーンに対応していてもよい。
【0073】
いくつかの非限定的な例において、本システムは、ユーザが指標の入力を選択したときに、ユーザインタフェースを介した指標の入力が可能となるようにさらに構成されていてもよい。このため、ユーザ(例えば、対象者)は、指標を入力するためにプロンプトを待つ必要がない。
【0074】
代替的または追加的に、処理モジュールは、予め定められた期間(例えば、7日間)中に対象者の状態の悪化がトリガされたことを示すフラグ(これには、出力が含まれる)がなかったことに基づいて、プロンプトを発するように構成されていてもよい。
【0075】
このことは、以下のa)および/またはb)および/またはc)において役に立つかもしれない。
a)使用特定システム(使用および/または吸入パラメータ)をなくした患者が症状を抱えていないことを確認すること。
b)患者の状態が良好(例えば、前述のアンケートに対する回答がすべて「いいえ」)である場合に、指標、レスキュー吸入器の使用、および吸入パラメータのデータが互いに整合しているかどうかを補足すること。
c)患者が回復しているかどうか、および患者がいつ回復したのかを捕捉すること。
【0076】
処理モジュールは、ここで説明する処理モジュールの機能を実行するためにハードウェアおよび/またはソフトウェアを使用して構成される汎用プロセッサ、特殊目的プロセッサ、DSP、マイクロコントローラ、集積回路および/または同種のものを含んでいてもよい。処理モジュールは、吸入器、ユーザ機器および/またはサーバに部分的または全体的に含まれていてもよい。
【0077】
処理モジュールは、電源、メモリおよび/または電池を含んでいてもよい。
【0078】
非限定的な例では、処理モジュールの少なくとも一部は、ユーザ機器に含まれる第1処理モジュールに含まれる。別の非限定的な例では、処理モジュールは、ユーザ機器に含まれない。処理モジュール(または少なくとも処理モジュールの一部)は、例えば、サーバ(例えば、リモートサーバ)に備えられる。例えば、処理モジュールは、第1および/または第2吸入器、ユーザ機器および/またはリモートサーバを任意に組み合わせたものに実装されてもよい。このように、処理モジュールに関連して説明した機能または処理の任意の組み合わせは、第1および/または第2吸入器、ユーザ機器および/またはサーバにある処理モジュールによって実行されてもよい。例えば、第1吸入器にある使用特定システムは、第1吸入器における使用情報(例えば、使用者による吸入器の使用または操作(例えば、マウスピースのカバーを開けること、および/またはスイッチを作動させること)および/または吸入器の使用中の気流に関するパラメータ)を捕捉してもよく、一方、吸入器、ユーザ機器および/またはサーバを任意に組み合わせたものに設けられた処理モジュールは、吸入器の使用中の気流に関するパラメータに基づいて吸入パラメータを特定し、および/またはレスキュー吸入器の使用および/または吸入パラメータに関連した通知(例えば、前述の出力)を行うことを決定してもよい。
【0079】
使用特定システムは、例えば、対象者によって行われるレスキュー薬の吸入を検出するためのセンサ、および/または第1吸入器の使用前、使用中または使用後に作動するように構成された機械式スイッチを含んでいてもよい。このようにして、使用特定システムは、第1吸入器の使用(または使用しようとしたこと)のそれぞれを記録することができる。
【0080】
第1吸入器は、例えば、ユーザが吸入を行うマウスピースと、マウスピースカバーとを備えていてもよい。このような例では、機械式スイッチは、マウスピースカバーが動かされてマウスピースが露出したときに作動するように構成されていてもよい。
【0081】
非限定的な例では、第1吸入器は、薬剤リザーバと、リザーバからの薬剤の用量を計量するように構成された用量計量アセンブリとを備える。この特定の例では、使用特定システムは、用量計量アセンブリによる用量の計量を記録するように構成される。これにより、各計量は、対象者が第1吸入器を使用して行ったレスキュー吸入を示す。
【0082】
特定の例では、使用特定システムは、対象者による第1吸入器の使用中の気流に関するパラメータを特定するために、機械式スイッチと組み合わせてセンサを使用する。
【0083】
このようなセンサは、例えば、圧力センサ(例えば、絶対圧センサまたは差圧センサ)を備えていてもよい。
【0084】
センサシステムは、対象者が第1吸入器を使用して行うレスキュー薬のレスキュー吸入中、および/またはこれがシステムに含まれる場合には対象者が第2吸入器を使用して行う維持薬の通常吸入中に、パラメータを感知するように構成される。
【0085】
吸入中の気流に関するパラメータは、対象者の肺の状態を示すものとして利用することができる。
【0086】
気流に関する任意の適切なパラメータを考慮することができる。非限定的な例では、パラメータは、ピーク吸入流量、吸入量、ピーク吸入流量までの時間および吸入持続時間の少なくとも1つである。パラメータは、吸入量および/またはピーク吸入流量であることが望ましい。
【0087】
例えば、吸入量を介して測定された肺状態の悪化は、増悪の効果的な早期警告となる可能性がある。吸入量は、ピーク吸入流量のような他のタイプのパラメータの変化よりも早期に、および/または大きく変化(例えば、経時変化)することが観察されている。
【0088】
使用特定システムは、例えば、センサシステムに含まれるものと同一の、またはこれとは異なる圧力センサをさらに備えていてもよい。
【0089】
さらに、対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供する方法が提供される。本方法は、レスキュー吸入器を使用したレスキュー吸入の頻度を監視する工程と、時間の関数として気流に関するパラメータを監視する工程とを備え、パラメータは、レスキュー吸入中および/または対象者が行う維持薬の通常吸入中に感知される。時間の関数としてのパラメータが対象者の肺の状態が第1期間にわたって悪化していることを示し、レスキュー吸入の頻度が第1期間中よりも第2期間中において高く、第2期間が第1期間の後にある場合に、呼吸器疾患の増悪の警告のための出力が提供される。
【0090】
一実施形態において、本方法は、提供された呼吸器疾患の増悪の警告のための出力に基づいて、増悪警告を発するようにユーザインタフェースを制御する工程をさらに備える。
【0091】
代替的または追加的に、本方法は、ユーザインタフェースを制御する工程を含み、ユーザインタフェースは、対象者が経験している呼吸器疾患の状態についての指標のユーザ入力を可能にし、提供された出力に基づいて指標を入力させるプロンプトを発するように構成されている。
【0092】
本方法は、例えば、ユーザインタフェースを介して入力された指標をメモリに格納する工程をさらに含んでいてもよい。格納された指標は、前述したように、対象者と医療従事者との対話のために参照されることがある。
【0093】
コンピュータプログラムも提供され、コンピュータプログラムは、コンピュータ上で実行されたときに本方法を実行するように構成されたコンピュータプログラムコードを含んでいる。一例として、コンピュータコードは、部分的または全体的にユーザ機器に含まれていてもよい(例えば、ユーザ機器に含まれるモバイルアプリケーションとして)。
【0094】
本明細書でシステムに関して説明した実施形態は、方法およびコンピュータプログラムに適用することができる。また、方法およびコンピュータプログラムに関して説明した実施形態は、システムに適用することができる。
【0095】
対象者における呼吸器疾患の増悪を治療する方法がさらに提供され、本方法は、上で定義したような方法を実行する工程と、呼吸器疾患の増悪の警告のための出力が提供されたことに基づいて呼吸器疾患を治療する工程とを備える。
【0096】
治療は、既存の治療を修正する工程を備えていてもよい。既存の治療は、第1治療レジメンを含んでいてもよく、呼吸器疾患の既存の治療を修正する工程は、提供された出力に基づいて第1治療レジメンから第2治療レジメンに変更する工程を備えていてもよく、第2治療レジメンは、第1治療レジメンよりも呼吸器疾患の増悪のリスクが高い場合用に構成されている。
【0097】
出力の決定は、適切な臨床的介入が対象者にもたらされるように、より効果的な警告システムの構築を容易にするかもしれない。より信頼性の高い増悪の警告は、急性リスクのある対象者への介入の指針となる可能性がある。特に、介入は、第2治療レジメンを実施することを含んでいてもよい。これには、例えば、GINAまたはGOLDガイドラインで規定されるより高いステップへと対象者を移行させることが含まれる。このような先制的な介入は、第2治療レジメンへの移行を正当化させるために対象者が増悪に苦しんだり、関連するリスクにさらされたりする必要がないことを意味するかもしれない。
【0098】
一実施形態において、第2治療レジメンは、対象者への生物学的製剤の投与を含む。生物学的製剤が比較的高価であることは、対象者の治療を生物学的製剤の投与を含む段階に進めるには、慎重な検討と正当な理由が必要とされる傾向にあることを意味する。本開示に係るシステムおよび方法は、出力に関して、生物学的製剤の投与を正当化するための信頼できる指標を提供するであろう。例えば、出力が提供された回数が予め定められた回数に達した場合に、生物学的製剤の投与が定量的に正当化され、それに応じて生物学的製剤が投与されてもよい。
【0099】
より一般的には、生物学的製剤は、オマリズマブ、メポリズマブ、レスリズマブ、ベンラリズマブ、およびデュピルマブの1つ以上を含んでいてもよい。
【0100】
呼吸器疾患の既存の治療を修正する工程は、出力が予め定められた期間なされなかったことに基づいて、第1治療レジメンから第3治療レジメンに変更する工程を備えていてもよい。第3治療レジメンは、第1治療レジメンよりも呼吸器疾患の増悪のリスクが低い場合用に構成されていてもよい。
【0101】
つまり、対象者を監視する予め定められた期間(例えば、6ヶ月~12ヶ月間)中には、パラメータの時間変化によって示される対象者の肺の状態の悪化は起こらないかもしれないし、起こったとしても、それは、レスキュー吸入器の使用頻度の増加の後ではないかもしれない。この場合、予め定められた期間中に出力は提供されない。したがって、第3治療レジメンは、第1治療レジメンよりも呼吸器疾患の増悪のリスクが低い場合用に構成されていてもよい。
【0102】
この場合、見込み決定の精度を高めることは、既存の治療レジメンのダウングレードや省略を正当化するための指針として使用されてもよい。特に、対象者は、第1治療レジメンから、第1治療レジメンよりも呼吸器疾患の増悪のリスクが低い場合用に構成された第3治療レジメンに移行される場合がある。これには、例えば、GINAまたはGOLDガイドラインで規定されるより低いステップへと対象者を移行させることが含まれる。
【0103】
したがって、本開示に係るシステムおよび方法は、対象者の回復を監視するために使用することができ、例えば、経口ステロイドまたは他の薬剤の中止を正当化するために使用されてもよい。このことは、病院/医療施設での再入院のリスクを軽減するのに役立つかもしれない。
【0104】
図1は、一実施形態に係るシステム10のブロック図である。システム10は、第1吸入器100および処理モジュール14を備える。第1吸入器100は、SABA等のレスキュー薬を対象者に送達するために使用することができる。SABAには、例えばアルブテロールが含まれる。第1吸入器100は、センサシステム12Aおよび使用特定システム12Bを含むことができる。
【0105】
システム10は、例えば、代替的に「吸入器アセンブリ」と呼ばれることもある。
【0106】
第1吸入器は、例えば、代替的に「レスキュー吸入器」と呼ばれることもある。
【0107】
図1には示されていないが、本システムは、対象者に維持薬を送達するための第2吸入器を含んでいてもよい。第2吸入器は、例えば、代替的に「維持吸入器」または「調節吸入器」と呼ばれることもある。
【0108】
レスキュー吸入は、第1吸入器100に含まれる使用特定システム12Bによって特定される。
【0109】
センサシステム12Aは、パラメータを測定するように構成されていてもよい。センサシステム12Aは、1つ以上のセンサ(例えば、1つ以上の圧力センサ、温度センサ、湿度センサ、方位センサ、音響センサおよび/または光学センサ等)を備えていてもよい。圧力センサは、気圧センサ(例えば大気圧センサ)、差圧センサ、絶対圧センサおよび/または同種のセンサを含んでいてもよい。センサには、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)および/またはナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)技術を採用することができる。
【0110】
対象者による吸入中の気流は、関連する圧力変化を測定することによって監視することができるため、圧力センサは、パラメータの測定に特に適しているかもしれない。図3および図13~17を参照してより詳細に説明されるように、圧力センサは、例えば、吸入中に対象者によって空気および薬剤が引き込まれる流路内に設置されてもよいし、当該流路に流体連通して設置されてもよい。パラメータを測定する別の方法(例えば、適切な流量センサの使用)があることは当業者には明らかであろう。
【0111】
代替的または追加的に、センサシステム12Aは、差圧センサで構成されていてもよい。差圧センサは、例えば、対象者が吸入する通気路のある区間にわたる圧力差を測定するためのデュアルポート型のセンサを備えていてもよい。代替的に、シングルポートゲージ型のセンサを使用してもよい。後者は、通気路の吸入時および無流時の圧力差を測定することで作動する。測定値の差は、吸入に伴う圧力の低下に相当する。
【0112】
図1には示されていないが、システム10は、通常吸入中に対象者に維持薬を送達するための第2吸入器をさらに備えていてもよい。第2吸入器は、第1吸入器100のセンサシステム12Aおよび/または使用特定システム12Bとは異なるセンサシステム12Aおよび/または使用特定システム12Bを含んでいてもよい。第2吸入器のセンサシステム12Aは、通常吸入中にパラメータを測定するように構成されていてもよい。例えば、センサシステム12Aは、維持薬吸入中のパラメータを測定するために、さらなる圧力センサ(例えば、さらなるMEMS圧力センサまたはさらなるMEMS圧力センサ等)を含んでいてもよい。
【0113】
このように、レスキュー薬および維持薬の一方または両方の吸入は、対象者の肺の状態(例えば、対象者の肺機能および/または肺の健康)に関する情報を収集するために使用することができる。
【0114】
第1吸入器および第2吸入器の両方を使用する場合は、通常吸入とレスキュー薬吸入の両方を監視することによって得られる追加的な吸入データによって、差し迫った増悪を予測する精度が向上する場合がある。
【0115】
各吸入は、吸入が行われていないときと比較して、気流路内の圧力を減少させる場合がある。圧力が最も低くなる点は、ピーク吸入流量に対応するかもしれない。センサシステム12Aは、吸入においてこの点を検出してもよい。ピーク吸入流量は、吸入ごとに異なり、対象者の臨床状態によっても異なる場合がある。例えば、対象者が増悪に近づいている場合は、通常よりも低いピーク吸入流量が記録されるかもしれない。
【0116】
各吸入に関連した圧力変化は、代替的または追加的に吸入量を決定するために使用されてもよい。これは、例えば、センサシステム12Aによって測定された吸入中の圧力変化を使用して最初に吸入期間中の流量を特定し、そこから総吸入量を導き出すことによって実現されてもよい。例えば、対象者が増悪に近づいている場合は、対象者の吸入能力が低下している可能性があるため、通常よりも少ない吸入量が記録されるかもしれない。
【0117】
各吸入に関連した圧力変化は、代替的または追加的に吸入持続時間を決定するために使用されてもよい。例えば、吸入の開始と同時に圧力センサ12Aで測定された最初の圧力低下から、吸入が行われていないことに対応する圧力に戻るまでの時間が記録されてもよい。例えば、対象者が増悪に近づいている場合は、対象者の吸入能力が低下している可能性があるため、通常よりも短い吸入持続時間が記録されるかもしれない。
【0118】
一実施形態において、パラメータは、例えば、ピーク吸入流量、吸入量および/または吸入持続時間の代わりに、またはこれらに加えて、ピーク吸入流量までの時間を含む。このピーク吸入流量までの時間パラメータとして、例えば、吸入の開始と同時にセンサシステム12Aで測定された最初の圧力低下から、圧力がピーク流量に対応する最小値に達するまで時間が記録されてもよい。増悪のリスクが高い対象者は、ピーク吸入流量に到達するまでに通常よりも長い時間を要するかもしれない。
【0119】
非限定的な例において、第1および/または第2吸入器は、正常な吸入の場合、吸入開始後の約0.5秒の間にそれぞれの薬剤が投薬されるように構成されていてもよい。0.5秒経過後(例えば、約1.5秒後)にのみピーク吸入流量に達する対象者の吸入は、差し迫った増悪を部分的に示している可能性がある。
【0120】
使用特定システム12Bは、対象者による吸入(例えば、吸入器がレスキュー吸入器である場合は対象者によるレスキュー吸入のそれぞれ、吸入器が維持吸入器である場合は対象者による維持吸入のそれぞれ)を記録するように構成されている。非限定的な例において、第1吸入器100は、薬剤リザーバ(図1には示されていない)と、リザーバからのレスキュー薬の用量を計量するように構成された用量計量アセンブリ(図1には示されていない)とを備えていてもよい。使用特定システム12Bは、用量計量アセンブリによる用量の計量を記録するように構成されていてもよく、これにより各計量は、対象者が第1吸入器100を使用して行ったレスキュー吸入を示す。したがって、吸入器100は、対象者が吸入を行う前に用量計量アセンブリを介して用量を計量する必要があるので、レスキュー薬のレスキュー吸入の回数を監視するように構成されていてもよい。計量のための構成の非限定的な一例について、図13~16を参照しながらより詳細に説明する。
【0121】
代替的または追加的に、使用特定システム12Bは、異なった様式で、および/または当業者にとって自明な追加的または代替的なフィードバックに基づいて、各吸入を記録してもよい。例えば、使用特定システム12Bは、センサシステム12Aからのフィードバックがユーザによる吸入が発生したことを示す場合(例えば、圧力測定値または流量が吸入の成功に関する予め定められた閾値を超えた場合)に、対象者による吸入を記録するように構成されていてもよい。さらに、いくつかの例では、使用特定システム12Bは、吸入前、吸入中または吸入後に第1吸入器100のスイッチまたは外部機器(例えば、スマートフォンのタッチスクリーン)のユーザ入力が対象者によって手動で作動されると、吸入を記録するように構成されていてもよい。
【0122】
各吸入を記録するために、例えば、使用特定システム12Bにセンサ(例えば、圧力センサ)が含まれていてもよい。このような例では、使用特定システム12Bおよびセンサシステム12Aは、それぞれのセンサ(例えば、圧力センサ)を採用してもよいし、使用特定機能および吸入パラメータ感知機能の両方を実現するように構成された共通のセンサ(例えば、共通の圧力センサ)を採用してもよい。
【0123】
センサが使用特定システム12Bに含まれる場合、センサは、例えば、図3および図13~16を参照してより詳細に説明されるように、用量計量アセンブリによって計量された用量がユーザによって吸入されたことを確認する、またはその程度を評価するために使用されてもよい。
【0124】
一実施形態において、センサシステム12Aおよび/または使用特定システム12Bは、音響センサを含む。この実施形態の音響センサは、対象者が吸入器のそれぞれを通じて吸入を行う際に発生するノイズを感知するように構成されている。音響センサは、例えばマイクを含んでいてもよい。
【0125】
非限定的な例では、吸入器のそれぞれは、対象者が機器を通じて吸入を行うときに回転するように配置されたカプセルを備えていてもよく、カプセルの回転は、音響センサによって検出されるノイズを生じさせる。こうして、カプセルの回転は、使用および/または吸入パラメータのデータを導き出すために、適切に解釈可能なノイズ(例えば、ガラガラ音)を生じさせることができる。
【0126】
例えば、音響データを解釈するためのアルゴリズムを使用して、吸入中の気流に関連した使用データ(音響センサが使用特定システム12Bに含まれる場合)および/またはパラメータ(音響センサがセンサシステム12Aに含まれる場合)を特定してもよい。
【0127】
例えば、Colthorpeらが「ブリーズハラーへの電子機器を追加:患者のニーズに応える」(呼吸に関する薬剤送達 2018、71~79ページ)に記載したアルゴリズムを使用することができる。生じた音が検出されると、アルゴリズムは、生の音響データを処理して、使用および/または吸入パラメータのデータを生成することができる。
【0128】
システム10は、ユーザインタフェース13をさらに備える。ユーザインタフェース13は、例えば、前述したように、増悪警告を発するように、および/または対象者が経験している呼吸器疾患の状態についての指標を対象者に入力させるプロンプトを発するように制御されてもよい。この目的のために、任意の適切なユーザインタフェース13(例えば、スマートフォンのタッチスクリーン)を採用することができる。
【0129】
システム10に含まれる処理モジュール14は、特定されたレスキュー吸入の頻度を監視し、時間の関数として吸入パラメータを監視する。センサシステム12Aと処理モジュール14との間の矢印、および使用特定システム12Bと処理モジュール14との間の矢印によって図1に模式的に示すように、処理モジュール14は、使用特定システム12Bおよびセンサシステム12Aから、特定されたレスキュー吸入およびパラメータのデータをそれぞれ受信してもよい。
【0130】
処理モジュールは、図9~12を参照してより詳細に説明するように、時間の関数としてのパラメータが第1期間にわたって対象者の肺の状態が悪化していることを示し、特定されたレスキュー吸入の頻度が第1期間中よりも第2期間中において高く、第2期間が第1期間の後にある場合に、呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するようにさらに構成される。
【0131】
非限定的な例において、処理モジュール14は、第1および/または第2吸入器とは別に用意されていてもよく、この場合、処理モジュール14は、第1および/または第2吸入器のセンサシステム12Aおよび使用特定システム12Bから送信される特定されたレスキュー吸入およびパラメータのデータを受信する。このような外部処理ユニット(例えば、外部機器の処理ユニット)でデータを処理することにより、吸入器の電池寿命を有利に維持することができる。
【0132】
代替の非限定的な例では、処理モジュール14は、例えば、第1および/または第2吸入器のメイン筐体または上部キャップ(図1には示されていない)内に収容された、第1および/または第2吸入器と一体化された部分であってもよい。このような例では、第1および/または第2吸入器内に実装された処理のみによって出力が提供されるので、外部機器との接続をあてにしなくてもよい。第1および/または第2吸入器は、例えば、出力を提供する処理モジュール14に基づいて対象者に増悪の警告を行うための適切なユーザインタフェース(例えば、ライト、スクリーン、ラウドスピーカ等)を含んでいてもよい。こうして、第1および/または第2吸入器は、例えば、増悪のリスクを軽減または除去するための先制的な措置をとるように、対象者に促すことができる。
【0133】
処理モジュール14の機能のいくつかを第1および/または第2吸入器に含まれる内部処理ユニットによって実行するとともに、処理モジュールの他の機能(例えば、出力の提供)を外部処理ユニットによって実行することも考えられる。
【0134】
より一般的には、システム10は、例えば、処理モジュール14によって提供される出力に基づいて、増悪警告を対象者および/または医療従事者(例えば、臨床医等)に伝達するように構成された通信モジュール(図1には示されていない)を含んでいてもよい。その後、対象者および/または臨床医は、対象者が増悪を経験するリスクを軽減するために適切な措置をとることができる。例えば、処理モジュールにスマートフォンの処理ユニットが含まれている場合は、処理モジュールの出力に基づく増悪警告を医療従事者に伝達するために、スマートフォンの通信機能(例えば、SMS、メール、Bluetooth(登録商標)等)を利用することができる。
【0135】
図2は、対象者における呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するシステム10の非限定的な例を示す。出力に基づく増悪警告は、対象者、介護者および/または医療従事者に提供されてもよい。
【0136】
この例のシステム10は、第1吸入器100、外部機器15(例えば、モバイル機器)、パブリックおよび/またはプライベートネットワーク16(例えば、インターネット、クラウドネットワーク等)、および個人データ格納機器17を含む。外部機器15は、例えば、スマートフォン、パーソナルコンピュータ、ラップトップ、無線対応メディア機器、メディアストリーミング機器、タブレット機器、ウェアラブル機器、Wi-Fiまたは無線通信対応テレビ、またはその他の適切なインターネットプロトコル対応機器を含んでいてもよい。例えば、外部機器15は、Wi-Fi通信リンク、Wi-MAX通信リンク、Bluetooth(登録商標)またBluetooth(登録商標)スマート通信リンク、近距離無線通信(NFC)リンク、セルラー通信リンク、テレビホワイトスペース(TVWS)通信リンク、またはこれらの任意の組み合わせを介してRF信号を送受信するように構成されていてもよい。外部機器15は、パブリックおよび/またはプライベートネットワーク16を介して個人データ格納機器17にデータを転送することができる。
【0137】
第1吸入器100は、外部機器15にデータを転送するための通信回路(例えば、Bluetooth(登録商標)ラジオ等)を含んでいてもよい。このデータには、前述のレスキュー吸入および吸入パラメータのデータを含めることができる。
【0138】
第1吸入器100は、例えば、外部機器15からデータ(例えば、プログラム命令、オペレーティングシステムの変更、投与量情報、警告または通知、肯定応答等)を受信してもよい。
【0139】
外部機器15は、処理モジュール14の少なくとも一部を含み、これによりレスキュー吸入およびパラメータのデータを処理および分析してもよい。例えば、外部機器15は、呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するようにデータを処理し、ブロック18Aで表されるように、その情報を個人データ格納機器17に提供し、そこに遠隔記憶させてもよい。
【0140】
いくつかの非限定的な例において、外部機器15は、ブロック18Bで表されるように、無吸入イベント、低吸入イベント、良吸入イベント、過剰吸入イベントおよび/または呼気イベントを識別するためにデータを処理することもできる。また、外部機器15は、ブロック18Cで表されるように、使用不足イベント、過剰使用イベントおよび最適使用イベントを識別するためにデータを処理することもできる。外部機器15は、例えば、データを処理して、送達された用量および/または残りの用量の数を推定し、エラー状態(例えば、用量計量アセンブリによって計量された薬剤の用量の吸入に対象者が失敗したことを示すタイムスタンプエラーフラグに関するもの等)を識別するためにデータを処理してもよい。外部機器15は、ディスプレイと、ディスプレイ上でGUIにより使用パラメータを視覚的に示すためのソフトウェアとを含んでいてもよい。使用パラメータは、リアルタイムデータに基づいて将来の増悪リスクを予測するために格納される場合がある個人向けデータとして格納されてもよい。
【0141】
個人データ格納機器17に格納されるように図示されているが、いくつかの例では、ブロック18Aによって表されるような呼吸器疾患の増悪の警告のための出力の処理、ブロック18Bによって表されるような無吸入イベント、低吸入イベント、良吸入イベント、過剰吸入イベントおよび/または呼気イベント、および/またはブロック18Cによって表されるような使用不足イベント、過剰使用イベントおよび最適使用イベントの全部または一部は、外部機器15に格納されてもよい。
【0142】
図3は、非限定的な例による吸入器100の使用中の時間19Bに対する流量19Aのグラフである。この例の使用特定システム12Bは、吸入器100のマウスピースカバーが開けられたときに作動するスイッチの形態を有する機械的に作動するスイッチを備えている。マウスピースカバーは、グラフの点20で開けられる。この例では、使用特定システム12Bおよびセンサシステム12Aはいずれも、圧力センサを備えている。
【0143】
マウスピースカバーが開けられると、使用特定システム12Bが省エネスリープモードから復帰し、新たな吸入イベントが記録される。また、吸入イベントには、吸入器100がスリープモードから復帰してからの経過時間(例えば、ミリ秒単位)に対応する開時間が割り当てられる。点22は、キャップが閉じられたとき、または点20から60秒が経過したときに対応する。点22で検出は終了する。
【0144】
マウスピースカバーが開けられると、使用特定システム12Bは、圧力センサを使用して検出された空気圧の変化を探す。空気圧変化の開始は、吸入イベント時刻24として記録される。空気圧の変化が最大となる点が、ピーク吸入流量26に対応する。センサシステム12Aは、ピーク吸入流量26を、100mL/分の単位で測定される空気の流量として記録し、この空気の流量は空気圧変化から変換されたものである。したがって、この非限定的な例では、100mL/分の単位のピーク吸入流量の数値がパラメータに含まれる。
【0145】
ピーク吸入流量までの時間28は、ピーク吸入流量26に達するのに要するミリ秒単位の時間に相当する。吸入持続時間30は、吸入全体のミリ秒単位の持続時間に相当する。グラフの下の面積32は、ミリリットル単位の吸入量に相当する。
【0146】
図4は、非限定的な例に係る吸入器100(例えば、第1および/または第2吸入器)の外観の正面図および背面図である。吸入器100は、上部キャップ102、メイン筐体104、マウスピース106、マウスピースカバー108および通気口126を備えている。マウスピースカバー108は、開閉してマウスピース106および通気口126を露出させることができるように、メイン筐体104にヒンジで固定されていてもよい。図示された吸入器100は、機械式の用量カウンタ111も備えており、その用量カウントは、(使用前に吸入器100に含まれていた用量の総数、および使用特定システム12Bによって特定された使用量に基づいて)処理モジュールが特定した残りの用量の数を確認するために使用することができる。
【0147】
図4に示す非限定的な例では、吸入器100にはバーコード42が印刷されている。この例では、バーコード42は、上部キャップ102の最上面に印刷されたクイックリファレンスコード(QRコード(登録商標))である。使用特定システム12Bおよび/またはセンサシステム12Aは、例えば、電子モジュール(図4では見えない)の構成要素として、少なくとも一部が上部キャップ102内に配置されていてもよい。吸入器100の電子モジュールについては、図13~16を参照してより詳細に説明する。
【0148】
QRコードは、図4に示す吸入器100の上部キャップ102を真上から見た図である図5において、よりはっきりと見ることができる。QRコード42は、処理モジュール14の少なくとも一部を構成するユーザ機器40が適切な光学リーダ(例えば、QRコードを読み取るためのカメラ等)を備えた例において、吸入器100のそれぞれを処理モジュール14とペアリングするための容易な方法を提供することができる。図6は、ユーザ機器40(この特定の例ではスマートフォン)に含まれるカメラを使用して、ユーザが吸入器100と処理モジュール14をペアリングしている様子を示している。
【0149】
非限定的な他の例において、処理モジュール14は、例えば、ユーザ機器40のユーザインタフェース13(例えば、タッチスクリーン)を介した英数字キーのマニュアル入力によって、吸入器100のそれぞれとペアリングされてもよい。
【0150】
このようなバーコード42(例えば、QRコード)は、吸入器100の薬剤のそれぞれに割り当てられた識別子を含んでいてもよい。
[表A]
【0151】
より一般的には、処理モジュール14は、例えば、処理モジュール14と吸入器100のそれぞれとのペアリングが成功した後に、ある時点で前述のプロンプトが発せられる可能性があることをユーザに通知するために、ユーザインタフェース13を制御するように構成されていてもよい。例えば、ユーザインタフェース13は、「簡単なアンケートが届きましたら、正直に回答してください」というメッセージを発するように制御されてもよい。
【0152】
図7は、一実施例に係る方法50のフローチャートである。方法50は、対象者の呼吸器疾患の増悪を警告するための出力を提供するためのものである。方法50は、レスキュー吸入器を使用したレスキュー吸入の頻度を監視する工程52と、時間の関数として気流に関するパラメータを監視する工程54とを備え、パラメータは、レスキュー吸入中および/または対象者が行う維持薬の通常吸入中に感知される。時間の関数としてのパラメータが対象者の肺の状態が第1期間にわたって悪化していることを示し、レスキュー吸入の頻度が第1期間中よりも第2期間中において高く、第2期間が第1期間の後にある場合は、ステップ56において呼吸器疾患の増悪を警告するための出力が提供される。
【0153】
図7には示されていないが、方法50は、提供された呼吸器疾患の増悪を警告するための出力に基づいて増悪警告を発するようにユーザインタフェースを制御する工程をさらに備えていてもよい。
【0154】
代替的または追加的に、方法50は、ユーザインタフェースを制御する工程を備え、ユーザインタフェースは、対象者が経験している呼吸器疾患の状態についての指標のユーザ入力を可能にし、提供された出力に基づいて指標を入力させるプロンプトを発するように構成される。
【0155】
図7には示されていないが、方法50は、例えば、先に説明したように、ユーザインタフェースを介して入力された指標をメモリに格納する工程をさらに備えていてもよい。
【0156】
また、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されたときに前述の方法50を実行するように構成されたコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムも提供される。好ましい実施形態において、コンピュータプログラムは、ユーザ機器40(例えば、タブレットコンピュータ、スマートフォン等のモバイル機器)用のアプリの形態をとる。
【0157】
喘息増悪の確率に影響を与える要因を評価するために、臨床試験が行われた。以下のものは、説明的かつ非限定的な例と考えるべきである。
【0158】
この12週間の非盲検試験では、Tevaファーマシューティカルインダストリー社から販売されているProAirデジヘラーを使用して投与されるアルブテロールを利用したが、この試験の結果は、より一般的に、他のタイプの機器を使用して投与される他のレスキュー薬に適用することもできる。
【0159】
試験のために、増悪傾向のある18歳以上の喘息患者が集められた。患者は、必要に応じてProAirデジヘラーを使用した(硫酸塩としてのアルブテロール90mcgをラクトース輸送体とともに4時間ごとに1~2回吸入)。
【0160】
デジヘラーの電子モジュールは、各使用(すなわち、各吸入)と、吸入のそれぞれの最中の気流に関するパラメータ(ピーク吸入流量、吸入量、ピーク流量までの時間および吸入持続時間)を記録した。差し迫った増悪を予測するモデルを構築するために、吸入器からデータがダウンロードされ、臨床データとともに機械学習アルゴリズムにかけられた。
【0161】
この例における臨床的喘息増悪(CAE)の診断は、米国胸部疾患学会/欧州呼吸器学会の声明(H.K.Reddelら、Am J Respir Crit Care Med誌、2009年、180巻(1)、59-99頁)に基づいていた。これには、「重度CAE」および「中等度CAE」の両方が含まれる。
【0162】
重症CAEは、少なくとも3日間の経口ステロイド(プレドニゾンまたは同等品)および入院を必要とする喘息の悪化を伴うCAEと定義される。中等度CAEでは、少なくとも3日間の経口ステロイド(プレドニゾンまたは同等品)または入院が必要となる。
【0163】
本試験の目的および主な評価項目は、デジヘラーによって把握されたCAEが起こる前のアルブテロールの使用パターンおよび使用量を、単独で、または他の試験データ(例えば、吸入時の気流に関するパラメータ、身体活動、睡眠等)と組み合わせて調査することであった。本試験は、センサを内蔵した吸入パラメータの測定が可能なレスキュー薬用吸入器の使用に由来してCAEを予測するためのモデルを構築する、成功した初めての試みである。
【0164】
図8に示す3つのタイムラインは、3人の異なった患者の吸入パターンを彼らのデジヘラーによって記録したものである。最も上のタイムラインには、問題の患者が1回ずつ吸入したことが示されている。最も下のタイムラインには、問題の患者がセッションにつき2回以上連続して吸入したことが示されている。ここでいう「セッション」は、吸入の間隔が60秒以内である一連の吸入を意味する。真ん中のタイムラインには、問題の患者がさまざまなパターンで吸入したことが示されている。このように、デジヘラーは、レスキュー吸入回数を記録するだけでなく、使用パターンを記録するように構成されている。
【0165】
360名の患者がデジヘラーから1回以上の有効な吸入を行ったことがわかった。これら360名の患者を解析の対象とした。これらのうち、64名の患者が計78回のCAEを経験した。
【0166】
COPD増悪の予測に影響を与える要因をより深く理解するために、さらなる臨床試験が行われた。以下のものは、説明的かつ非限定的な例と考えるべきである。
【0167】
この12週間の多施設非盲検試験では、Tevaファーマシューティカルインダストリー社から販売されているProAirデジヘラーを使用して投与されたアルブテロールを利用したが、この試験の結果は、より一般的に、他のタイプの機器を使用して投与される他のレスキュー薬に適用することもできる。
【0168】
デジヘラーは、総吸入回数、最大吸入流量、最大吸入流量までの時間、吸入量および吸入持続時間を記録することができた。試験終了後、デジヘラーの電子モジュールからデータをダウンロードした。
【0169】
急性COPD増悪(AECOPD)を本試験の主要効果指標とした。本試験では、AECOPDは、「重度AECOPD」または「中等度AECOPD」のいずれかの発生を意味する。本試験では、「軽度AECOPD」を指標として使用しない。
【0170】
重度AECOPDは、全身性コルチコステロイド(SCS、ベースラインを上回る少なくとも10mgのプレドニゾンに相当するもの)および/または全身性抗生物質による治療を必要とする呼吸器症状の少なくとも2日間の連続した悪化、およびAECOPDによる入院を伴うイベントと定義される。
【0171】
中等度AECOPDは、SCS(ベースラインを上回る少なくとも10mgのプレドニゾンに相当するもの)および/または全身性抗生物質による治療、およびAECOPDのための予定外の対応(例えば、電話、外来診療、急ぎの外来または救急外来等)を必要とする呼吸器症状の少なくとも2日間の連続した悪化を伴うが、入院の必要はないイベントと定義される。
【0172】
試験のために、40歳以上のCOPD患者が集められた。患者は、必要に応じてProAirデジヘラーを使用した(硫酸塩としてのアルブテロール90mcgをラクトース輸送体とともに4時間ごとに1~2回吸入)。
【0173】
選択基準(患者がSABAに加えてLABA、ICS/LABA、LAMAまたはLABA/LAMAのいずれか1つ以上を服用し、スクリーニング前の過去12ヶ月の間に中等度または重度のAECOPDのエピソードを少なくとも1回経験していることが必要)は、デジヘラーによるアルブテロールの適切な使用を証明することができること、および、試験期間中、他のすべてのレスキュー用または維持用SABAまたは短時間作用型抗ムスカリン剤を中止し、それらを試験により提供されるデジヘラーに置き換える意思があること、である。
【0174】
試験への参加の妨げとなるような臨床的に重要な病状(治療中または未治療)があるとの治験責任医師の見解が示された患者(COPD以外の他の交絡する基礎肺疾患がある者、5半減期または通院から1ヶ月以内のいずれか長い方の期間内に治験薬を使用した者、うっ血性心不全であった者、妊娠中または授乳中であったか、試験中に妊娠する予定であった者)は、試験から除外された。
【0175】
約100名の患者からなる2つの集団に、身体活動(1日の総歩数、TDS)を測定するために足首に、または、睡眠障害(睡眠障害指数、SDI)を測定するために手首に、加速度計を装着することを義務付けた。
【0176】
レスキュー薬の使用に関する一般的な関心要因は以下の通りである。
AECOPDのピークの前の数日間における総吸入回数
AECOPDのピークの前にアルブテロールの使用が増加した日数、および
AECOPDの前の24時間以内にアルブテロールを使用した回数
【0177】
約400人の患者が登録された。この結果、評価可能な366名の患者が試験を完了した。336回の有効なデジヘラーの吸入が記録された。これに関する詳細は、表1に示す通りである。
[表1]
【0178】
試験を完了した患者のうち98名がAECOPDイベントを発症し、デジヘラーを使用した。計121件の中等度/重度AECOPDイベントが記録された。さらなる詳細を表2に示す。
[表2]
【0179】
試験を完了した366名の患者のうち、30名(8%)の患者は吸入器を全く使用せず、268名(73%)は1日あたりの平均吸入回数が5回までであり、11名(3%)は1日あたりの平均吸入回数が10回以上であった。
【0180】
図9は、COPDを患っている対象者のピーク吸入流量、吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対してグラフ化したものである。図9の上のグラフは、時間に対するピーク吸入流量のグラフである。これは、試験の最初の40~50日の間にピーク吸入流量が減少したことを示している。また、試験40日目頃から試験50日目頃にかけて吸入量の減少が特に顕著であり(図9の真ん中のグラフ)、これに続く試験50日目頃以降はレスキュー吸入器の使用頻度が増加した(図9の下のグラフ)。この場合における吸入器の使用頻度の増加は、診断されたCOPD増悪60が発生する試験65日目頃にかけてピーク吸入流量および吸入量が継続的に減少することと一致する。
【0181】
図9から明らかなように、ピーク吸入流量および吸入量の減少によって示される試験50日目頃までの第1期間における対象者の肺の状態の悪化に続いて、試験50日目頃から試験65日目頃までの第2期間においてレスキュー吸入器の使用頻度が増加した。第2期間中は、第1期間中よりもレスキュー吸入器の使用頻度が高い。
【0182】
図10は、喘息を患っている対象者の吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対してグラフ化したものである。図10の上のグラフは、時間に対するピーク吸入流量のグラフである。これは、特に試験の最初の5日間において、ピーク吸入流量が著しく減少したことを示している。また、試験1日目頃から試験5日目頃にかけて吸入量の減少が顕著であり(図10の真ん中のグラフ)、これに続く試験5日目頃以降はレスキュー吸入器の使用頻度が増加した(図10の下のグラフ)。この場合における吸入器の使用頻度の増加は、診断された喘息増悪62が発生する試験65日目頃にかけてピーク吸入流量および吸入量が継続的に減少することと一致する。
【0183】
図10から明らかなように、ピーク吸入流量および吸入量の減少によって示される試験5日目頃までの第1期間における対象者の肺の状態の悪化に続いて、試験5日目頃から試験65日目頃までの第2期間においてレスキュー吸入器の使用頻度が増加した。第2期間中は、第1期間中よりもレスキュー吸入器の使用頻度が高い。
【0184】
図11は、喘息を患っている対象者の吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対してグラフ化したものである。図11の上のグラフは、時間に対する吸入量のグラフである。これは、試験30日目から試験40日目の間で吸入量が著しく減少したことを示している。これに続いて、試験40日目頃から試験70日目頃にかけて、レスキュー吸入器の使用頻度が増加した(図11の下のグラフ)。
【0185】
この対象者には正式な増悪の診断はなされなかったが、これらのデータは、試験70日目頃に喘息増悪が起こったことを示唆している。このように、図11は、第1期間(試験30日目~試験40日目)にわたって対象者の肺の状態が悪化したことを示す時間の関数としてのパラメータ(この場合は吸入量)、および特定されたレスキュー吸入の頻度が第2期間(試験40日目~試験70日目頃)において第1期間中よりも高いことに基づいた、喘息増悪の識別を示している。
【0186】
図12は、COPDを患っている対象者の吸入量およびレスキュー吸入回数を時間に対してグラフ化したものである。図12の上のグラフは、時間に対する吸入量のグラフである。これは、試験1日目から試験20日目の間で吸入量が著しく減少したことを示している。これに続いて、試験20日目頃から試験40日目頃にかけて、レスキュー吸入器の使用頻度が増加した(図12の下のグラフ)。
【0187】
図11と同様、この対象者には正式な増悪の診断はなされなかったが、これらのデータは、試験40日目頃にCOPD増悪が起こったことを示唆している。このように、図12は、第1期間(試験1日目から試験20日目)にわたって対象者の肺の状態が悪化したことを示す時間の関数としてのパラメータ(この場合は吸入量)、および特定されたレスキュー吸入の頻度が第2期間(試験20日目頃から試験40日目頃)において第1期間中よりも高いことに基づいた、COPD増悪の識別を示している。
【0188】
図13~16は、システム10に含まれる吸入器100の非限定的な例を示す。
【0189】
図13は、非限定的な例に係る吸入器100の正面斜視図である。吸入器100は、例えば、呼吸作動型の吸入器であってもよい。吸入器100は、上部キャップ102、メイン筐体104、マウスピース106、マウスピースカバー108、電子モジュール120および通気口126を含んでいてもよい。マウスピースカバー108は、開閉してマウスピース106および通気口126を露出させることができるように、メイン筐体104にヒンジで固定されていてもよい。ヒンジ式の接続が図示されているが、マウスピースカバー106は、他のタイプの接続によって吸入器100に接続されていてもよい。また、電子モジュール120は、メイン筐体104の上部にある上部キャップ102内に収容されるように図示されているが、電子モジュール120は、吸入器100のメイン筐体104に一体化および/または収容されていてもよい。
【0190】
電子モジュール120は、例えば、前述の使用特定システム12Bおよび送信モジュール14を含んでいてもよい。例えば、電子モジュール120は、使用特定システム12Bおよび/または送信モジュール14の機能を実行するように構成されたプロセッサ、メモリを含んでいてもよい。電子モジュール120は、本明細書に記載されるように、吸入器使用情報を特定するように構成された1つ以上のスイッチ、1つ以上のセンサ、1つ以上のスライダ、および/または他の器具もしくは測定機器を含んでいてもよい。電子モジュール120は、送信モジュール14の送信機能を実行するように構成されたトランシーバおよび/または他の通信チップまたは回路を含んでいてもよい。
【0191】
図14は、例示的な吸入器100の断面内部透視図である。吸入器100は、メイン筐体104の内部に薬剤リザーバ110および用量送達機構を含んでいてもよい。例えば、吸入器100は、薬剤リザーバ110(例えば、ホッパー)、ベローズ112、ベローズスプリング114、ヨーク(図示されない)、投薬カップ116、投薬チャンバ117、解砕器121および流路119を含むことができる。ベローズ112、ベローズスプリング114、ヨーク、投薬カップ116、投薬チャンバ117および解砕器121を組み合わせたものとして図示されているが、用量送達機構は、説明した構成要素のサブセットを含んでいてもよく、および/または、吸入器100は、異なる用量送達機構(例えば、吸入器の種類、薬剤の種類等に基づく)を含んでいてもよい。例えば、いくつかの例では、薬剤はブリスターストリップに含まれていてもよく、1つ以上のホイール、レバー、および/またはアクチュエータを含むことがある用量送達機構は、ブリスターストリップを前進させ、薬剤の用量を含んだ新しいブリスターを開き、その薬剤の用量を投薬チャンバおよび/またはユーザによる吸入のためのマウスピースにおいて使用可能とするように構成されている。
【0192】
マウスピースカバー108が閉位置から開位置に動かされると、吸入器100の用量送達機構は、薬剤の用量を準備してもよい。図14の図示された例では、マウスピースカバー108が閉位置から開位置に動かされることによって、ベローズ112が圧縮され、薬剤リザーバ110から投薬カップ116に薬剤の用量が送達される。その後、対象者は、薬剤の用量を受け取るために、マウスピース106を通して吸入することができる。
【0193】
対象者の吸入により発生する気流は、投薬カップ116内の薬剤の凝集体を破壊することによる薬剤の用量のエアロゾル化を解砕器121に行わせるかもしれない。解砕器121は、流路119を通る気流が特定の速度に達するか当該速度を超える場合、あるいは特定の範囲内にある場合に薬剤をエアロゾル化するように構成されていてもよい。エアロゾル化されると、薬剤の用量は、投薬カップ116から投薬チャンバ117内へと移動し、流路119を通り、マウスピース106から対象者へと到達する。流路119を通る気流が特定の速度に達しないか当該速度を超えない場合、あるいは特定の範囲内にない場合、薬剤は、投薬カップ116内に留まることがある。投薬カップ116内の薬剤が解砕器121によってエアロゾル化されなかった場合は、その後にマウスピースカバー108が開かれても、薬剤リザーバ110から次の薬剤の用量が送達されないかもしれない。すなわち、薬剤の単一用量は、その用量が解砕器121によってエアロゾル化されるまで投薬カップ内に留まるかもしれない。薬剤の用量が送達されると、投薬確認が投薬確認情報として吸入器100におけるメモリに格納されてもよい。
【0194】
対象者がマウスピース106を通して吸入すると、空気が通気口に入り、対象者への薬剤の送達のための空気の流れが形成される。流路119は、投薬チャンバ117からマウスピース106の端部まで延びており、投薬チャンバ117とマウスピース106の内部部分を含んでいてもよい。投薬カップ116は、投薬チャンバ117内に存在していてもよいし、投薬チャンバ117に隣接して存在していてもよい。さらに、吸入器100は、薬剤リザーバ110内の薬剤の総用量数に初期設定され、マウスピースカバー108が閉位置から開位置に動かされるたびに1ずつ減少するように構成された用量カウンタ111を含んでいてもよい。
【0195】
上部キャップ102は、メイン筐体104に取り付けることができる。例えば、上部キャップ102は、メイン筐体104の凹部とかみ合う1つ以上のクリップを使用してメイン筐体104に取り付けられてもよい。上部キャップ102は、例えば、接続されたときにメイン筐体104の一部と重なり、例えば、上部キャップ102とメイン筐体104の間に実質的に気密シールが存在するようになっていてもよい。
【0196】
図15は、電子モジュール120を露出させるために上部キャップ102が取り外された、例示的な吸入器100の分解斜視図である。図15に示すように、メイン筐体104の上面は、1つ以上(例えば、2つ)のオリフィス146を含んでいてもよい。オリフィス146の1つは、スライダ140を受け入れるように構成されていてもよい。例えば、上部キャップ102がメイン筐体104に取り付けられているとき、スライダ140は、いずれかのオリフィス146を通ってメイン筐体104の上面から突出していてもよい。
【0197】
図16は、例示的な吸入器100の上部キャップ102および電子モジュール120の分解斜視図である。図16に示すように、スライダ140は、アーム142、ストッパ144および遠位端145を形成することができる。遠位端145は、スライダ140の底部であってもよい。スライダ140の遠位端145は、(例えば、マウスピースカバー108が閉位置または部分的に開かられた位置にあるときに、)メイン筐体104内に存在するヨークに接するように構成されていてもよい。遠位端145は、ヨークが任意の径方向にあるときにヨークの上面に接するように構成されていてもよい。例えば、ヨークの上面は、複数の開口部(図示せず)を含んでいてもよく、スライダ140の遠位端145は、例えば、開口部の1つがスライダ140と一直線になっているかどうかにかかわらず、ヨークの上面に接するように構成されていてもよい。
【0198】
上部キャップ102は、スライダスプリング146およびスライダ140を受け入れるように構成されたスライダガイド148を含んでいてもよい。スライダスプリング146は、スライダガイド148内に存在していてもよい。スライダスプリング146は、上部キャップ102の内面に係合してもよく、また、スライダ140の上部(例えば、近接端)に係合(例えば、接触)してもよい。スライダ140がスライダガイド148内に設置されると、スライダスプリング146は、スライダ140の頂部と上部キャップ102の内面との間で部分的に圧縮されてもよい。例えば、スライダスプリング146は、マウスピースカバー108が閉じられたときに、スライダ140の遠位端145がヨークに接触したままになるように構成されていてもよい。スライダ145の遠位端はまた、マウスピースカバー108が開閉されている間、ヨークに接触したままであってもよい。スライダ140のストッパ144は、例えば、マウスピースカバー108の開閉またはその逆を通してスライダ140がスライダガイド148内に保持されるように、スライダガイド148のストッパに係合してもよい。ストッパ144およびスライダガイド148は、スライダ140の垂直方向(例えば、軸方向)の移動を制限するように構成されていてもよい。この制限は、ヨークの垂直方向の移動における制限よりも小さくてもよい。したがって、マウスピースカバー108が完全に開いた位置まで動かされると、ヨークはマウスピース106に向かって垂直方向に移動し続けるが、ストッパ144は、スライダ140の遠位端145がもはやヨークに接触しなくなるようにスライダ140の垂直移動を停止させてもよい。
【0199】
より一般的には、ヨークは、マウスピースカバー108に機械的に接続され、マウスピースカバー108が閉位置から開けられにつれてベローズスプリング114を圧縮するように動き、その後、マウスピースカバーが完全に開位置に達すると、圧縮したベローズスプリング114を解放し、それによってベローズ112が投薬リザーバ110から投薬カップ116に用量を送達させるように構成されていてもよい。ヨークは、マウスピースカバー108が閉位置にあるときに、スライダ140に接触していてもよい。スライダ140は、マウスピースカバー108が閉位置から開けられるにつれてヨークによって移動させられ、マウスピースカバー108が全開位置に達したときにヨークから離れるように配置されていてもよい。マウスピースカバー108を開くと薬剤の用量の計量が行われるため、この配置は、前述の用量計量アセンブリの非限定的な例とみなすことができる。
【0200】
用量計量中のスライダ140の動きは、スライダ140をスイッチ130に係合させ、これを作動させることができる。スイッチ130は、用量計量を記録するために電子モジュール120をトリガすることができる。したがって、スライダ140およびスイッチ130は、電子モジュール120とともに、前述の使用特定システム12Bに含まれるものとみなすことができる。この例において、スライダ140は、それによって使用特定システム12Bが用量計量アセンブリによる用量の計量を記録するように構成される手段とみなされ、それによる各計量は対象者が吸入器100を使用して行った吸入の指標である。
【0201】
スライダ140によるスイッチ130の作動は、例えば、電子モジュール120を第1電力状態から第2電力状態に移行させ、電子モジュール120にマウスピース106からの対象者による吸入を感知させてもよい。
【0202】
電子モジュール120は、プリント回路基板(PCB)アセンブリ122、スイッチ130、電源(例えば、電池126)および/または電池ホルダ124を含んでいてもよい。PCBアセンブリ122は、表面実装された構成要素(例えば、センサシステム128、無線通信回路129、スイッチ130、または1つ以上の発光ダイオード(LED)等の1つ以上のインジケータ(図示せず))を含んでいてもよい。電子モジュール120は、コントローラ(例えば、プロセッサ)および/またはメモリを含んでいてもよい。コントローラおよび/またはメモリは、PCB122の物理的に分かれた構成要素であってもよい。代替的に、コントローラおよびメモリは、PCB122に実装された別のチップセットの一部であってもよく、例えば、無線通信回路129は、電子モジュール120のコントローラおよび/またはメモリを含んでいてもよい。電子モジュール120のコントローラは、マイクロコントローラ、プログラマブルロジック機器(PLD)、マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または任意の適切な処理機器や制御回路を含んでいてもよい。
【0203】
コントローラは、メモリから情報を読み出したり、メモリにデータを格納したりすることができる。メモリは、任意のタイプの適切なメモリ(例えば、取り外し不能メモリおよび/または取り外し可能メモリ)を含んでいてもよい。取り外し不能なメモリは、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、ハードディスクまたは他のタイプのメモリ格納機器を含んでいてもよい。取り外し可能メモリは、SIMカード、メモリスティック、SDメモリカード等を含んでいてもよい。メモリは、コントローラに内蔵されていてもよい。コントローラは、電子モジュール120内に物理的に配置されていないメモリ(例えば、サーバまたはスマートフォン)からデータを読み出したり、そのメモリにデータを格納したりすることもできる。
【0204】
センサシステム128は、1つ以上のセンサを含んでいてもよい。センサシステム128は、例えば、前述のセンサシステム12Aおよび使用特定システム12Bに含まれていてもよい。センサシステム128は、例えば、異なるタイプの1つ以上のセンサ(例えば、1つ以上の圧力センサ、温度センサ、湿度センサ、方位センサ、音響センサおよび/または光学センサ。ただし、これらには限定されない)を含んでいてもよい。1つ以上の圧力センサは、気圧センサ(例えば、大気圧センサ)、差圧センサ、絶対圧センサおよび/または同種のセンサを含んでいてもよい。センサには、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)および/またはナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)技術を採用することができる。センサシステム128は、電子モジュール120のコントローラに瞬時の計測値(例えば、圧力計測値)および/または一定時間にわたって集計された計測値(例えば、圧力計測値)を提供するように構成されていてもよい。図14および図15に示されるように、センサシステム128は、吸入器100の流路119の外側に存在しているが、流路119に空気圧的に結合されていてもよい。
【0205】
電子モジュール120のコントローラは、センサシステム128から測定値に対応する信号を受信してもよい。コントローラは、センサシステム128から受信した信号を使用して、1つ以上の気流メトリックスを計算または決定してもよい。気流メトリックスは、吸入器100の流路119を通る気流のプロファイルを示すものであってもよい。例えば、センサシステム128が0.3キロパスカル(kPa)の圧力変化を記録した場合、電子モジュール120は、その変化が流路119を通る約45リットル/分(Lpm)の気流量に対応すると特定してもよい。
【0206】
図17は、圧力に対する気流量のグラフである。図17に示す気流量およびプロファイルは単なる例であり、特定された気流量は、吸入器100およびその構成要素のサイズ、形状および設計に依存してもよい。
【0207】
処理モジュール14は、例えば、吸入器100がどのように使用されているか、および/またはその使用により薬剤の全用量が送達される可能性があるかどうかについての評価の一部として、センサシステム128から受信した信号および/または特定された気流メトリックスを1つ以上の閾値または範囲と比較することによって、リアルタイムで個人向けデータを生成してもよい。例えば、特定された気流メトリックスが特定の閾値未満の気流量を伴う吸入に対応する場合、処理モジュール14は、吸入器100のマウスピース106からの吸入が行われなかった、または不十分な吸入が行われたとの判定をしてもよい。特定された気流メトリックスが特定の閾値を超える気流量を伴う吸入に対応する場合、処理モジュール14は、マウスピース106からの過剰な吸入が行われたとの判定をしてもよい。特定された気流メトリックスが、特定の範囲内の気流量を伴う吸入に対応する場合、処理モジュール14は、吸入が「良好」である、すなわち薬剤の全用量が送達される可能性が高いとの判定をしてもよい。
【0208】
圧力測定値および/または計算された気流メトリックスは、吸入器100からの吸入の質または強さを示すことができる。例えば、特定の閾値または値の範囲と比較した場合、測定値および/またはメトリックスは、吸入を特定のタイプのイベント(例えば、良吸入イベント、低吸入イベント、無吸入イベントまたは過剰吸入イベント)として分類するために使用されてもよい。吸入の分類は、対象者の個人向けデータとして格納された使用パラメータであってもよい。
【0209】
無吸入イベントまたは低吸入イベントは、特定の閾値を下回る圧力測定値および/または気流メトリックス(例えば、30Lpm以下の気流量)と関連付けられてもよい。対象者がマウスピースカバー108を開けた後、測定サイクル中にマウスピース106から吸入を行わなかった場合に、無吸入イベントが発生してもよい。無吸入イベントまたは低吸入イベントは、対象者の吸入努力が、流路119を介した薬剤の適切な送達にとって不十分である場合、例えば、吸入努力により、解砕器121を作動させて投薬カップ116内の薬剤をエアロゾル化するのに十分な気流が生成されなかった場合に発生してもよい。
【0210】
中吸入イベントは、特定の範囲内にある圧力測定値および/または気流メトリックス(例えば、30Lpmよりも大きく、かつ45Lpm以下の気流量)と関連付けられてもよい。対象者がマウスピースカバー108を開けた後にマウスピース106から吸入し、対象者の吸入努力によって薬剤の用量の少なくとも一部が流路119を介して送達される場合に、中吸入イベントが発生してもよい。すなわち、吸入は、投薬カップ116から薬剤の少なくとも一部がエアロゾル化されるように、解砕器121を作動させるのに十分であってもよい。
【0211】
良吸入イベントは、低吸入イベントを上回る圧力測定値および/または気流メトリックス(例えば、45Lpmよりも大きく、かつ200Lpm以下の気流量)と関連付けられてもよい。良吸入イベントは、対象者がマウスピースカバー108を開けた後、マウスピース106から吸入を行い、対象者の吸入努力が、流路119を介した薬剤の適切な送達にとって十分である場合、例えば、吸入努力により、解砕器121を作動させて投薬カップ116内の薬剤の全用量をエアロゾル化するのに十分な気流が生成された場合に発生してもよい。
【0212】
過剰吸入イベントは、良吸入イベントを上回る圧力測定値および/または気流メトリックス(例えば、200Lpmを超える気流量)と関連付けられてもよい。過剰吸入イベントは、対象者の吸入努力が吸入器100の通常の動作パラメータを超えた場合に発生してもよい。過剰吸気イベントは、対象者の吸入努力が正常範囲内であっても、使用中に機器100が適切に位置決め、または保持されていない場合にも発生することがある。例えば、対象者がマウスピース106から吸入を行っている間に、(例えば、親指またはそれ以外の指によって)通気口が遮蔽されたり塞がれたりすると、計算された気流量は200Lpmを超えることがある。
【0213】
特定のイベントを分類するために、任意の適切な閾値または範囲が使用されてもよい。イベントの一部または全部が使用されてもよい。例えば、無吸入イベントは、45Lpm以下の気流量に関連付けられてもよく、良吸入イベントは、45Lpmよりも大きく、かつ200Lpm以下の気流量に関連付けられてもよい。そのため、場合によっては、低吸入または中吸入が全く使用されないこともある。
【0214】
圧力測定値および/または計算された気流メトリックスは、吸入器100の流路119を通る流れの向きを示すこともできる。例えば、圧力測定値が圧力の負の変化を反映している場合、その測定値は、流路109を介してマウスピース106から空気が流出していることを示しているかもしれない。圧力測定値が圧力の正の変化を反映している場合、その測定値は、流路109を介してマウスピース106に空気が流れ込んでいることを示しているかもしれない。したがって、圧力測定値および/または気流メトリックスは、対象者がマウスピース106に向かって息を吐き出しているかどうかを判定するために使用されてもよく、これは、対象者が機器100を適切に使用していないことを知らせてくれる。
【0215】
吸入器100は、肺機能メトリックスの測定を可能にするために、肺活量計またはこれと同様に作動する装置を含んでいてもよい。例えば、吸入器100は、対象者の肺活量に関するメトリックスを得るために測定を行ってもよい。肺活量計またはこれと同様に作動する装置は、対象者が吸い込んだ、および/または吐き出した空気の量を測定することができる。肺活量計またはこれと同様に作動する装置は、吸い込まれた、および/または吐き出された空気の量の変化を検出するために、圧力変換器、超音波、または水位計を使用してもよい。
【0216】
吸入器100の使用から収集された、またはそれに基づいて計算された個人向けデータ(例えば、圧力メトリックス、気流メトリックス、肺機能メトリックス、用量確認情報等)は、(例えば、部分的または全体的に)外部機器を介して、計算および/または評価されてもよい。より具体的には、電子モジュール120内の無線通信回路129は、送信機および/または受信機(例えば、トランシーバ)、および追加の回路を含んでいてもよい。
【0217】
例えば、無線通信回路129は、Bluetoothチップセット(例えば、Bluetooth Low Energyチップセット)、ZigBeeチップセット、Threadチップセット等を含んでいてもよい。このように、電子モジュール120は、個人向けデータ(例えば、圧力測定値、気流メトリックス、肺機能メトリックス、用量確認情報、および/または吸入器100の使用に関連するその他の状況)を外部の処理モジュール14(例えば、スマートフォン40に含まれる処理モジュール14)に無線で提供してもよい。個人向けデータは、使用時間および吸入器100がどのように使用されたかを示す吸入器100からのリアルタイムデータ、並びに対象者に関する個人向けデータ(例えば、対象者の肺機能および/または医療処置に関連するリアルタイムデータ)に基づく急性リスクレベルの判定を可能にするために、外部機器にリアルタイムで提供されてもよい。外部機器は、受信した情報を処理し、グラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を介して対象者に順守フィードバックを提供するソフトウェアを含んでいてもよい。グラフィカル・ユーザ・インタフェースは、システム10に含まれるユーザインタフェース13に含まれていてもよいし、これを形成してもよい。
【0218】
気流メトリックスには、吸入器100からリアルタイムで収集された個人向けデータ(例えば、吸い込み/吐き出しの平均流量、吸い込み/吐き出しのピーク流量(例えば、受け取った最大吸入流量)、吸い込み/吐き出しの量、吸い込み/吐き出しのピークまでの時間、および/または吸い込み/吐き出しの持続時間のうちの1つ以上)が含まれていてもよい。また、気流メトリックスは、流路119を通る流れの向きを示してもよい。すなわち、負の圧力変化はマウスピース106からの吸い込みに相当し、正の圧力変化はマウスピース106への吐き出しに相当してもよい。電子モジュール120は、気流メトリックスを計算する際に、環境条件が生じさせるあらゆる歪みを排除または最小化するように構成されていてもよい。例えば、電子モジュール120は、気流メトリックスを計算する前または後に、大気圧の変化を考慮するためにゼロに再設定されてもよい。1つ以上の圧力測定値および/または気流メトリックスは、タイムスタンプが押され、電子モジュール120のメモリに格納されてもよい。
【0219】
気流メトリックスに加えて、吸入器100または別の計算機器は、付加的な個人向けデータを生成するために気流メトリックスを使用してもよい。例えば、吸入器100の電子モジュール120および/または処理モジュール14のコントローラは、気流メトリックスを、医療従事者に理解される対象者の肺機能および/または肺の健康状態を示す他のメトリックス(例えば、ピーク吸気流量メトリックス、ピーク呼気流量メトリックスおよび/または1秒間努力呼気肺活量(FEV1)等)に変換してもよい。吸入器100の処理モジュール14および/または電子モジュール120は、回帰モデル等の数学モデルを使用して、対象者の肺機能および/または肺の健康状態についての測定値を決定してもよい。数学モデルは、吸入の総量とFEV1との間の相関を明らかにすることがある。数学モデルは、ピーク吸気流量とFEV1との相関を明らかにすることがある。数学モデルは、吸入の総量とピーク呼気流量との間の相関を明らかにすることがある。数学モデルは、ピーク吸気流量とピーク呼気流量との相関を明らかにすることがある。
【0220】
電池126は、PCB122の構成要素に電力を供給してもよい。電池126は、例えば、電子モジュール120に電力を供給するための任意の適切な電源(例えば、コイン電池)であってもよい。電池126は、充電式であってもよいし、非充電式であってもよい。電池126は、電池ホルダ124に収容されてもよい。電池ホルダ124は、電池126とPCB122との連続的な接触が維持されるように、および/または電池126とPCB122の構成要素とが電気的に接続されるように、PCB122に取り付けられてもよい。電池126は、電池126の寿命に影響を与える可能性のある特定の電池容量値を有していてもよい。以下でさらに説明するように、電池126からPCB122の1つ以上の構成要素への電力の分配は、吸入器100および/またはそこに収容された薬剤の耐用年数にわたって電池126が電子モジュール120に電力を供給することが保証されるように管理されてもよい。
【0221】
接続された状態で、通信回路およびメモリに電力が供給されてもよく、電子モジュール120が外部機器(例えば、スマートフォン)に「ペアリング」されてもよい。コントローラは、メモリからデータを取得し、そのデータを無線で外部機器に送信してもよい。コントローラは、現在メモリに格納されているデータの一部を取得して送信してもよい。例えば、コントローラは、どの部分が外部機器に既に送信されたのかを判別し、これまでに送信されていない部分を送信してもよい。代替的に、外部機器は、特定データ(例えば、特定の時間の後、または外部機器への最後の送信の後に、電子モジュール120によって収集されたデータ)をコントローラに要求してもよい。コントローラは、特定データがあればそれをメモリから取得し、その特定データを外部機器に送信してもよい。
【0222】
電子モジュール120のメモリに格納されたデータ(例えば、スイッチ130によって生成された信号、センサシステム128によって取得された圧力測定値および/またはPCB122のコントローラによって計算された気流メトリックス)は、吸入器100に関する使用パラメータを特定するためにデータを処理および分析することができる外部機器に送信されてもよい。さらに、モバイル機器上のモバイルアプリケーションは、電子モジュール120から受信したデータに基づいて、ユーザに対するフィードバックを発生させてもよい。例えば、モバイルアプリケーションは、日報、週報または月報の作成、エラーイベントまたはエラー通知の確認の提供、対象者への指導的なフィードバックの提供等を行ってもよい。
【0223】
図面、明細書および添付の請求項の研究から、請求項に記載された発明を実施する当業者によって、開示された実施形態に対する他の変形例が理解され、もたらされるであろう。ある手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】