(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】バルブを有するパイプラインの密閉性を監視し、漏れを検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/24 20060101AFI20230920BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20230920BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01M3/24 A
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512790
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-10
(86)【国際出願番号】 RU2020000638
(87)【国際公開番号】W WO2022050864
(87)【国際公開日】2022-03-10
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518312460
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“ロスエネルゴアトム”
(71)【出願人】
【識別番号】523060909
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ ニュークリア ユニバーシティ メフィ(モスクワ エンジニアリング フィジックス インスティチュート)
(71)【出願人】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】アビドバ, エレナ・アレクサンドロフナ
(72)【発明者】
【氏名】シネルシチコフ, パベル ウラジミロビッチ
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
2G067
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G064AA01
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G067AA11
2G067BB40
2G067DD13
(57)【要約】
【課題】パイプラインに設けたバルブの密閉性を監視し、漏れを検出する精度と効率を改善するとともに、運用を継続可能か評価する。
【解決手段】パイプラインの長さ方向に沿ったバルブの下流側と上流側の2つの測定箇所において、広い超音波帯域に亘って、音響信号を測定する。得られた2つの超音波信号をデジタル化し、得られた2つのデジタル信号から2つの信号スペクトルを求める。信号スペクトルごとに、15,000~90,000Hzの帯域内で最大の振幅値を取得し、信号スペクトルごとにその最大振幅値を用いて振幅値を除算する。上記帯域を区分した区間ごとに正規化スペクトルの振幅値の差を求めて、振幅値の差を合計した差分値を決定する。この差分値を用いて、パイプラインの漏れを検出し、パイプラインの運用を継続できるか評価する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプラインの長さ方向に沿った2つの測定箇所で音響信号を測定し、得られた音響信号を処理することによって、バルブを有するパイプラインの密閉性を監視し、漏れを検出する方法であって、
前記音響信号の測定は、パイプラインの長さ方向に沿ったバルブの上流側と下流側との2つの測定箇所において、広い超音波帯域に亘って、実行し、
パイプラインの長さ方向に沿ったバルブの上流側と下流側との2つの測定箇所において測定した超音波信号をアナログ-デジタル変換器で処理し、
得られた値に基づいて、フーリエ変換を用いて、2つの測定箇所に対応する2つの信号スペクトルを作成し、
作成した信号スペクトルのうち、15,000から90,000Hzの範囲を選択し、
信号スペクトルごとに、当該範囲内での最大の振幅値を選択し、
前記範囲内の信号スペクトルの振幅値を最大の振幅値で除算し、
2つの測定箇所に対応する正規化スペクトルの差分値を次式で決定し、
【数1】
ここでS
1iおよびS
2iは、バルブの上流側および下流側の正規化スペクトルの振幅値であり、iおよびnは、正規化スペクトルの振幅値に対応する周波数区間を表す番号であり、
決定した差分値Sが-100未満である場合には漏れは無いとし、差分値Sが-100から100の範囲内である場合には軽度の漏れが有るとし、差分値Sが100を超える場合には重大な漏れが有るとする
ことを特徴とするバルブを有するパイプラインの密閉性を監視し、漏れを検出する方法。
【請求項2】
アコースティックエミッションセンサーを使用して超音波信号を測定する
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブを有するパイプラインの密閉性を監視し、漏れを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、技術的診断の分野、特にパイプラインの密閉性を監視する方法に関し、パイプラインの密閉性を検査し、原子力発電所のパイプラインにおける漏れの検出に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の機器の技術診断において最も重要な業務の1つは、冷却材の漏れを検出することである。現在、内部および外部漏れを監視する超音波法が最も広く使用されている。内部漏れは遮断バルブの密閉性の喪失に関連し、外部漏れは構造物の損傷した外壁からの冷却材の漏れに関連する。既存のアプローチは、稼働中の機器のアコースティックエミッション解析と、1組の測定チャネルの相関関数の計算と、に基づくものである。ただし、このアプローチでは、漏れを定量的に評価するための客観的なパラメーターを得ることができず、また、場合によっては、稼働中の機器からのバックグラウンドノイズに関する主観的判断や官能的知覚に基づいて、漏れの有無が決定されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ソ連国特許発明第1283566号明細書
【特許文献2】ロシア国実用新案第2181881号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パイプラインの漏れ座標を決定する既知の方法においては、パイプラインの長さ方向に沿った2箇所で音響信号を受信して、漏れを検出した後、受信した音響信号の相関処理を行うことによって、音響信号の到着時間の差と漏れ座標を決定する(特許文献1)。
【0005】
この方法の欠点には、監視対象となるパイプライン区間が短いことや、パイプラインを取り囲んでいる、またはパイプラインを横断する工業設備といった外部からの干渉信号が存在する場合に適用できないことである。
【0006】
本発明の技術的解決策に最も近い類似技術は、製品パイプラインの密閉性を監視し、漏れ座標を決定する方法である(特許文献2)。この方法では、製品パイプラインの長さ方向に沿った2箇所で音響信号を受信し、漏れを検出した後、得られた音響信号の相関処理を行うことによって、音響信号の到着時間の差と漏れ座標を決定する。また、得られた音響信号の相関処理に先立って、各信号から外部からの成分を除去した後、除去後の各信号のスペクトル分析を行い、持続時間が30秒を超え、かつ振幅がバックグラウンドを3~6dB超える長期スペクトル成分を信号スペクトルから分離することによって、得られたスペクトル成分に応じて漏れの有無を判断する。
【0007】
最も近い類似技術の欠点は、パイプラインの形状や、パイプライン内のサポートとジャンパーの存在が与える影響に起因して、受信した音響信号の測定精度やその後の処理精度が低いことである。
【0008】
本発明によって達成される目的は、遮断バルブを有するパイプラインの密閉性の程度を決定して、その運用を継続することができるか分析するとともに、パイプラインの漏れ検出の品質と効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の本質は、パイプラインの長さ方向に沿った2箇所での音響信号を測定し、受信した音響信号を処理することによって、バルブを有するパイプラインの密閉性を監視し、漏れを検出する方法であって、前記音響信号の測定は、パイプラインの長さ方向に沿ったバルブの上流側と下流側との2つの測定箇所において、広い超音波帯域に亘って、実行し、パイプラインの長さ方向に沿ったバルブの上流側と下流側との2つの測定箇所において測定した超音波信号をアナログ-デジタル変換器で処理し、得られた値に基づいて、フーリエ変換を用いて、2つの測定箇所に対応する2つの信号スペクトルを算出し、作成した信号スペクトルのうち、15,000~90,000Hzの範囲を選択し、信号スペクトルごとに、当該範囲内で最大の振幅値を選択し、前記範囲内の信号スペクトルの振幅値を最大の振幅値で除算し、2つの測定箇所に対応する正規化スペクトルの差分値を次式で決定し、
【0010】
【0011】
ここで、S1iおよびS2iは、バルブの上流側および下流側の正規化スペクトルの振幅値であり、iおよびnは、正規化スペクトルの振幅値に対応する周波数区間を表す番号であり、決定した差分値Sが-100未満である場合には漏れは無いとし、差分値Sが-100~100の範囲内にある場合には軽度の漏れが有るとし、信号スペクトル間の差分値Sが100を超える場合には重大な漏れが有るとする結論を下すことにある。
【0012】
また、アコースティックエミッションセンサーを用いて超音波信号を測定することも提案される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって達成される技術的成果は、診断検査の期間を短縮し、診断検査中に得られる結果に対するパイプラインの形状の影響を排除することである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】遮断バルブを監視するためのセンサーの配置を説明する図である。
【
図3】遮断バルブに漏れが有る場合の測定箇所1、2における信号スペクトルを例示するグラフである。
【
図4】遮断バルブに漏れが無い場合の測定箇所1、2における信号スペクトルを例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を用いて本発明を明らかにする。
図1は、操作方法を示すフローチャートである。
図2は、遮断バルブを監視するためのセンサーの配置を示す。
図3および
図4は、検査した2つの遮断バルブについてそれぞれ測定箇所1、2における超音波信号のスペクトルを例示する。
【0016】
提案方法は以下のように実行される。
【0017】
超音波信号を測定するためのセンサー、例えば、GT400アコースティックエミッションセンサーが、パイプライン上の遮断バルブの上流側と下流側とに取り付けられる。センサーの取り付け位置は、パイプラインの断面に関して上方または側方である。パイプラインの断面に関して下方にはセンサーを取り付けない。パイプ内に堆積物があると、音響信号が歪む恐れがあるからである。
【0018】
音響信号は広い超音波帯域に亘って測定される。得られた超音波信号は、アナログ-デジタル変換器を用いて処理され、得られた値に基づいて、フーリエ変換を用いて、測定箇所に対応する2つの信号スペクトルが構成される。
【0019】
構成した信号スペクトルから15,000から90,000Hzの範囲を切り出す。この範囲よりも低い周波数では、パイプライン固有の振動が現れるからであり、この範囲よりも高い周波数では、音響センサーの動作特性に起因する偽のピークが現れるからである。
【0020】
次に、この範囲内で、両方の信号スペクトルで最大の振幅値をそれぞれ取得し、指定された周波数範囲内で、信号スペクトルの振幅値を最大の振幅値で除算する。
【0021】
遮断バルブの上流側と下流側の信号のスペクトルの差分値は、次式によって決定される。
【0022】
【0023】
ここで、S1iおよびS2iはそれぞれ遮断バルブの上流側および下流側の信号スペクトルの振幅値である。iおよびnは信号スペクトルの周波数範囲内における区間を表す番号である。
【0024】
得られた値に基づいて、信号スペクトル間の差分値Sが-100未満である場合には、漏れは無いと結論する。信号スペクトル間の差分値Sが-100から100までの範囲内ならば軽度の漏れが存在し、信号スペクトル間の差分値Sが100を超える場合には重大な漏れが存在すると結論付ける。
【0025】
説明した方法は、ノヴォヴォロネジ原子力発電所において、バイパスおよび再循環ラインの給水システムのバルブを検査するときに使用された。
【0026】
図1に示すように、特許請求の範囲に記載された方法を実施するためのスキームでは、配設されたバルブの上流側で音響信号を測定するとともに(ステップ1.1)、下流側でも音響信号を測定する(ステップ1.2)。
図2は、各測定箇所の位置を示す図である。数1および2は測定箇所の番号を示す。矢印は流体の移動方向を表している。
【0027】
アコースティックセンサーGT400を用いて得られた信号を解析した。バルブ3の上流側の測定箇所1および下流側の測定箇所2の2箇所で測定を行った。
【0028】
監視対象の遮断ハルブ(バルブ3)は、8MPaの圧力と160℃の温度の下で水流を遮断するように設計されている。
【0029】
測定箇所1および2で音響信号を測定した後、遮断バルブ3の上流側で測定した信号と(セクション2.1)、下流側で測定した信号と(セクション2.2)をデジタル化する。そして、配設された遮断バルブ3の上流側および下流側で測定し、デジタル化した信号のスペクトルを算出する(
図1のステップ3.1および3.2)。スペクトル計算に際しては、高速フーリエ変換のサイズを1684とし、ハーン重み関数および75%の平均化を用いた。
【0030】
その後、バルブ3の上流側の測定箇所1および下流側の測定箇所2で測定し、デジタル化した信号(
図1のステップ4.1および4.2)のスペクトルのうち、20,000~80,000Hzの範囲を選択する。信号スペクトルごとに、当該範囲内で最大の振幅値を特定する。
【0031】
次に、バルブ3の上流側の信号スペクトル(ステップ6.1)および下流側の信号スペクトル(ステップ6.2)を最大振幅値で除算(正規化)した後、遮断バルブの上流側の正規化スペクトルと、遮断バルブの下流側の正規化スペクトルと、の振幅差を求める。更に、遮断バルブの上流側と下流側との間の正規化スペクトルの振幅差を合計する。
【0032】
遮断バルブ3の上流側と下流側との間の正規化スペクトルの差分値は次の式のように合計する:
【0033】
【0034】
ここで、S1iおよびS2iは、遮断バルブの上流側および下流側の正規化スペクトルの振幅値である。i、nは、正規化スペクトルの振幅値に対応する周波数区間を表す番号である。
【0035】
得られた正規化スペクトルの差分値Sを用いて、次のような条件から遮断バルブの状態を特定した。すなわち、差分値Sが-100未満ならば「漏れなし」とし、-100から100までの範囲内であれば「軽度の漏れがある」とし、100を超える場合には「重大な漏れがある」と結論する。
【0036】
図3および
図4は、2台の監視対象の遮断バルブの測定箇所における超音波信号スペクトルを示す。
図3では、漏れの有る遮断バルブの上流側および下流側の正規化スペクトルが併記されており、
図4では、漏れの無い遮断バルブの上流側および下流側のスペクトルが併記されている。前者では正規化スペクトルの振幅差の合計値がS=759であるのに対して、後者では正規化スペクトルの振幅差の合計値がS=-680になっている。このため、前者の遮断バルブには重大な漏れがあり、後者の遮断バルブには漏れは無いと結論付けることができる。
【0037】
提案された方法は、原子力発電所だけでなく、企業や機械製造設備におけるパイプラインの密閉性の監視や、熱電力工学その他の産業に使用することができる。
【0038】
提案された方法を使用すれば、遮断バルブを有するパイプラインの密閉性の高さを判断することができるので、パイプラインの運用を継続することが可能かを分析することができるとともに、パイプラインの漏れ検出の質と効率とを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本開示に係るバルブを備えたパイプラインの密閉性を監視し、漏れを検出する方法は、技術的診断の分野、特に、原子力発電所のパイプラインの密閉性の検査およびパイプラインにおける漏れの検出方法として有用である。
【符号の説明】
【0040】
1、2…測定箇所、3…遮断バルブ
【国際調査報告】