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特表2023-540901患者と人工呼吸器との非同期の自動検出及び解決のための人工呼吸器の気道圧力と流量における心原性アーチファクトの推定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】患者と人工呼吸器との非同期の自動検出及び解決のための人工呼吸器の気道圧力と流量における心原性アーチファクトの推定
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20230920BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
A61M16/00 315
A61B5/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513223
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(85)【翻訳文提出日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2021073236
(87)【国際公開番号】W WO2022048929
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】63/074,550
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】デ シルヴァ イカロ ガルシア アラウホ
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS04
4C038ST09
(57)【要約】
患者と人工呼吸器との非同期(PVA)の発生を識別する方法は、人工呼吸器によって測定された複数の呼吸属性信号から生成された心原性指数を使用することを含む。この方法は、PVAの発生を識別するために、人工呼吸器の波形から抽出された心原性指数及び他の特徴を使用するようにトレーニングされた機械学習モデルを含む制御器によって人工呼吸器において実施されることができる。上記制御器を備えた人工呼吸器は、人工呼吸器の設定が調整されるように、PVAが発生したことをリアルタイムで介護者に警告することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者と人工呼吸器との非同期(PVA)の発生を識別する方法において、前記方法は、
1つ以上のセンサによって、人工呼吸器から呼吸補助を受けている患者の複数の呼吸属性信号を測定するステップ、
制御器によって、前記複数の呼吸属性信号から心原性指数を生成するステップ、及び
前記制御器によって、少なくとも前記心原性指数を分析し、前記分析に基づいて、PVAが発生したかどうかを決定するステップ
を有する、方法。
【請求項2】
前記分析するステップは、
前記心原性指数を、PVAの発生を示す複数の既定の条件と比較するステップ、及び
前記心原性指数が、PVAの発生を示す前記複数の既定の条件を満たす場合、PVAが発生したという決定を行うステップ
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の呼吸属性信号は、時間領域で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の呼吸属性信号は、流量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の呼吸属性信号は、気道圧力を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記心原性指数を生成するステップは、
複数の標準化された呼吸信号を生成するために、前記複数の呼吸属性信号を標準化するステップ、
累積の呼吸信号を生成するために、各々の前記標準化された呼吸信号からの所与のx軸値のデータ値が、他の全ての標準化された呼吸信号からの同じ所与のx軸値の対応するデータ値に加えられるように、前記複数の標準化された呼吸信号を合計するステップ、
前記累積の呼吸信号のパワースペクトルを生成するステップ、
既定の心原性周波数範囲内にある前記パワースペクトルのパワー分布値を正規化するステップ、及び
前記正規化されたパワー分布値を前記既定の周波数範囲から時間領域の信号に変換することによって、再構成される心原性信号を生成するステップ
を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の呼吸属性信号は、圧力波形データを含む圧力波形信号と、流量波形データを含む流量波形信号とを含み、
前記複数の標準化された呼吸信号は、標準化された圧力波形信号と、標準化された流量波形信号とを含む、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記心原性周波数範囲の下限は1.2Hzであり、前記心原性周波数範囲の上限は20Hzである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記パワースペクトルの前記パワー分布値を正規化するステップは、
第1ナイキストゾーンに含まれる前記パワー分布値の全ての合計を得るステップ、及び
前記心原性周波数範囲内にある各々のパワー分布値を、前記第1ナイキストゾーン内にある前記パワー分布値の全ての合計で除算するステップ
をさらに有し、前記第1のナイキストゾーンの下限は0Hzである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記第1ナイキストゾーンの上限は、前記心原性周波数範囲の上限である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の呼吸属性信号は、フォトプレチスモグラム(PPG)信号を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記PVAは、誤動作のPVA又はミストリガのPVAの一方である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記心原性指数が、PVAの発生を示す前記複数の既定の条件を満たす場合、PVAが発生したという前記決定を行うように、機械学習モデルをトレーニングするステップ
をさらに有する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
制御器、
人工呼吸器から患者の気道内に空気を供給するように構成される流入経路、
前記患者の気道から吐き出された空気を受け取るように構成される流出経路、及び
前記人工呼吸器から呼吸補助を受けている患者の複数の患者呼吸属性に関するデータを測定するように構成される複数のセンサ
を有する前記人工呼吸器において、
前記制御器は、前記複数のセンサによって測定されたデータを受信するように構成され、
前記制御器は、前記複数のセンサによって測定された前記データに基づいて、心原性指数を生成し、少なくとも前記心原性指数を分析して、PVAが発生したかどうかを決定するように構成される、人工呼吸器。
【請求項15】
前記制御器は、機械学習モデルを有する、
前記機械学習モデルは、PVAの発生を示す条件を認識するようにトレーニングされ、
前記機械学習モデルは、少なくとも前記心原性指数を用いて、PVAが発生したかどうかを決定するようにトレーニングされる、請求項14に記載の人工呼吸器。
【請求項16】
前記制御器は、前記機械学習モデルが、PVAが発生したことを決定する場合、非同期検出の通知を発するように構成される、請求項15に記載の人工呼吸器。
【請求項17】
前記機械学習モデルは、誤動作のPVA及びミストリガのPVAを識別するようにトレーニングされる、請求項15に記載の人工呼吸器。
【請求項18】
前記機械学習モデルは、誤動作のPVAとミストリガのPVAとを区別するようにトレーニングされる、請求項15に記載の人工呼吸器。
【請求項19】
前記心原性指数を生成することは、
複数の標準化された呼吸信号を生成するために、前記複数の呼吸属性信号を標準化し、
累積の呼吸信号を生成するために、各々の前記標準化された呼吸信号からの所与のx軸値のデータ値が、他の全ての標準化された呼吸信号からの同じ所与のx軸値の対応するデータ値に加えられるように、前記複数の標準化された呼吸信号を合計し、
前記累積の呼吸信号のパワースペクトルを生成し、
既定の心原性周波数範囲内にある前記パワースペクトルのパワー分布値を正規化し、及び
前記正規化されたパワー分布値を前記既定の周波数範囲から時間領域の信号に変換することによって、再構成される心原性信号を生成する
ことを有する、請求項14に記載の人工呼吸器。
【請求項20】
前記複数の呼吸属性信号は、圧力波形データを含む圧力波形信号と、流量波形データを含む流量波形信号とを含み、
前記複数の標準化された呼吸信号は、標準化された圧力波形信号と、標準化された流量波形信号とを含む、
請求項19に記載の人工呼吸器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、米国特許法第119条の下、2020年9月4日に出願された米国仮特許出願第63/074,550号の優先権を主張し、その内容は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
開示された概念は、患者と人工呼吸器との非同期(PVA)を検出するための方法に関し、特に、PVAを識別及び解決するために、PVAを示す非気道因子を検出するための方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
毎年、米国中の集中治療室(ICU)において、約800,000人の患者が換気療法の補助を受けている。機械換気は、通例、患者が適切な換気又は酸素化、及び故にガス交換を自力で維持することができないときに開始される。人工呼吸器は、の生命にかかわる重要な補助を患者に提供するように設計されているが、複雑な患者の条件に合わせて人工呼吸器の設定を操作及び調整する方法を学ぶことは、最も経験豊富な集中治療医及び呼吸療法士でさえも困難な作業である。人工呼吸器の最適な設定を識別するための重要な要素は、患者と人工呼吸器との非同期(PVA)の回避である。PVAは、人工呼吸器と患者とが互いに位相がずれて又は相反して動作するときに発生する。PVAは、機械換気される患者の88%にも存在すると推定される。PVAの発生は、機械換気される患者の転帰及び生活の質に影響を及ぼす可能性がある。科学文献に報告されたPVAに関連する潜在的リスクの幾つかは、とりわけ、換気の持続時間の3倍増、気管切開率の8倍増及びICU滞在期間の2倍増である。
【0004】
PVAによって生じ得るリスク転帰の大幅な増大を考慮すると、PVAの迅速な検出が重要である。しかしながら、PVAを検出するための現在の主要な方法は、介護者が人工呼吸器の波形を手動で分析することからなり、これはPVAのリアルタイムの検出には適していない。従って、PVAを検出するための方法及びシステムには改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、本発明の目的は、一実施形態において、人工呼吸器から呼吸補助を受けている患者の複数の呼吸属性信号を測定し、これら複数の呼吸属性信号から心原性指数を生成し、及びPVAが発生したかどうかを決定するために前記心原性指数を分析することによって、患者と人工呼吸器との非同期(PVA)の発生を識別する方法を提供することである。
【0006】
別の実施形態において、人工呼吸器は、制御器、空気を前記人工呼吸器から患者の気道に供給するように構成される流入経路、患者の気道から吐き出された空気を受け取るように構成される流出経路、及び患者の呼吸属性に関するデータを測定するように構成される複数のセンサを有し、ここで、制御器は、前記複数のセンサによって測定されたデータを受信し、前記複数のセンサによって測定されたデータに基づいて心原性指数を生成し、PVAが発生したかどうかを決定するために前記心原性指数を分析するように構成される。
【0007】
構成物の関連する要素の動作方法及び機能、並びに製造部品と製造の経済性との組み合わせと同じく、本開示のこれら及び他の目的、特徴並びに特性は、付随する図面を参照して、以下の説明及び添付の請求項を考慮するとより明白となり、これらの全てが本明細書を形成している。様々な図面において、同様の参照番号は対応する部品を示している。しかしながら、これら図面は単に例証及び説明を目的とするものであり、本発明の境界を規定するものとは意図されないことは明白に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、誤動作のPVAの発生を示すための波形のグラフを示す。
図2図2は、ミストリガのPVAの発生を示すための波形のグラフを示す。
図3図3は、気道圧力波形とPPG信号との間の関連を示すために、人工呼吸器の気道圧力波形及びフォトプレチスモグラム(PPG)信号の両方を含むグラフを示す。
図4図4は、開示された概念の例示的な実施形態による、人工呼吸器の波形から心原性指数を計算するための方法のステップを含むフローチャートである。
図5A図5Aは、図4のフローチャートに示される方法のステップに対応する波形のグラフを示す。
図5B図5Bは、図4のフローチャートに示される方法のステップに対応する波形のグラフを示す。
図5C図5Cは、図4のフローチャートに示される方法のステップに対応する波形のグラフを示す。
図5D図5Dは、図4のフローチャートに示される方法のステップに対応する波形のグラフを示す。
図6図6は、開示された概念の例示的な実施形態による、人工呼吸器のPPG波形から心原性指数を計算するための方法のステップを含むフローチャートである。
図7A図7Aは、図6のフローチャートに示される方法のステップに対応する波形のグラフを示す。
図7B図7Bは、図6のフローチャートに示される方法のステップに対応する波形のグラフを示す。
図7C図7Cは、図6のフローチャートに示される方法のステップに対応する波形のグラフを示す。
図8図8は、図4及び図6のフローチャートに示される手段の何れかを用いて、人工呼吸器が使用されている間に、人工呼吸器の設定を動的に評価及び調整する処理のフローチャートである。
図9図9は、開示された概念の例示的な実施形態による、PVAを検出するための機械学習モデルを含む人工呼吸器の概略図である。
図10図10は、開示された概念の例示的な実施形態による、人工呼吸器の波形においてPVAを検出するために機械学習モデルをトレーニングするための方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
明細書において、特に文脈上はっきりと述べていない限り、複数あると述べていなくても、それらが複数あることを含む。
【0010】
明細書において、2つ以上の部品又は構成要素が"結合される"と述べることは、連動している限り、これらの部品が直接的に又は間接的、すなわち1つ以上の中間部品若しくは構成要素を介しての何れかにより接合される又は共に動作することを意味する。
【0011】
明細書において、"数字"は、1又は2以上の整数(すなわち複数)を意味する。
【0012】
明細書において、"制御器"は、データ(例えばソフトウェアのルーチン及び/又はそのようなルーチンにより使用される情報)を記憶、抽出、実行及び処理することができる(関連する記憶部分及び/又は記憶部を含む)多数のプログラム可能なアナログ及び/又はデジタルデバイスを意味し、限定ではないが、FPGA(field programmable gate array)、CPLD(complex programmable logic device)、PSOC(programmable system on a chip)、特定用途向け集積回路(ASIC)、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルロジックコントローラ又は他の如何なる適切な処理装置又は処理機器を含む。前記メモリ部は、例えば、限定ではないが、RAM、ROM、EPROM、EEPROM及びFLASH等の、コンピュータの内部記憶領域のような、データ及びプログラムコードの記憶用の記憶レジスタ、すなわち、非一時的機械可読媒体を提供する様々な種類の内部及び/又は外部の記憶媒体の何れか1つ又はそれ以上とすることができ、揮発性メモリ又は不揮発性メモリとすることができる。
【0013】
明細書において、"機械学習モデル"は、そうするよう明確にプログラムされることなく予測又は決定を行うために、"訓練データ"として知られる、サンプルデータに基づいて、数理モデルを開発及び構築するソフトウェアシステムを意味し、限定ではないが、訓練データのセットからパターンを認識するようにトレーニングされ、その後、他のデータセットにある訓練データセットからパターンを認識するためのアルゴリズムを開発するソフトウェアシステムを意味する。
【0014】
明細書において、"心原性アーチファクト"は、心臓からの機械的活動及びその拍動血流による気道圧力及び流量波形の歪みを意味する。
【0015】
明細書において、"心原性指数"は、ある期間及びサンプルの収集にわたる人工呼吸器の圧力及び流量波形の両方に存在する心原性アーチファクトの量を示す尺度、例えば信号を意味する。
【0016】
明細書における方向の表現、例えば、限定ではないが、頂部、底部、左、右、上、下、前、後、及びそれらの派生語は、図示される要素の向きに関連し、特に明瞭に言わない限り、請求項を制限しない。
【0017】
開示された概念は、様々な特定の例示的な実施形態に関連して本明細書でより詳細に説明されるように、機械換気を受けている患者のPVAの自動検出及び解決のための方法並びにシステムを提供する。特定の患者の必要性に応じて、人工呼吸器は、補助モード又は強制モードの何れかに設定される。補助モードにおいて、人工呼吸器は、知覚される吸気努力を患者から検出すると、患者の気道に呼吸を提供するように設定される。吸気努力を検出する1つの方法は、患者のベースラインの食道圧力を設定し、そのベースラインの食道圧力からの如何なる増加も吸気努力として分類されるように、患者の進行中の食道圧力を監視することである。強制モードにおいて、人工呼吸器は、既定の一定間隔で呼吸を提供するように設定される。
【0018】
開示された概念は、人工呼吸器が補助モードに設定されるときに発生し得る2つの特定の種類のPVA、つまり誤動作(auto triggering)及びミストリガ(ineffective triggering)の検出及び解決に取り組む。誤動作は、患者が吸気の努力をしていないのに、それに関係なく人工呼吸器が呼吸を送出するときに発生する。ミストリガは、患者が吸気の努力を行っているのに、人工呼吸器が呼吸を送出しないときに発生する。
【0019】
図1は、誤動作のPVAの発生を明示するために、患者の気道圧力波形1を、同時に起こる患者の食道圧力波形2と共に示すグラフである。食道圧力波形2におけるプラトー領域3は、患者の吸気努力を示す。気道圧力波形1は、人工呼吸器が患者に呼吸を供給することによって生じる、時間変化する患者の気道圧力を示す。人工呼吸器が意図された方法で動作するとき、人工呼吸器の波形1における増加勾配4は、プラトー領域3の終わりと一致すべきであり、これは、患者の吸気努力の終わりを検出した結果として、人工呼吸器が患者に呼吸を供給していることを示す。x軸の10秒の符号辺りの強調表示は、人工呼吸器の波形1における誤動作のPVAのピーク6である。ピーク6は、患者が、吸気努力の終わりではなく、未だ吸気努力の最中であったときに、人工呼吸器が患者に呼吸を供給したので、誤動作のPVAと分類される。プラトー領域3'は、他のプラトー領域3よりもより明白な圧力変動があり、これは、表向きは誤動作のPVAが原因であり、過敏な人工呼吸器の設定によって誤動作のPVAが発生した可能性を示す。
【0020】
図2は、ミストリガのPVA発生を明示するために、患者の気道圧力波形11を、同時も起こる患者の食道圧力波形12と共に示すグラフである。食道圧力波形12のドーム状領域13は、患者のベースラインの食道圧力14からの明示される増大を持ち、患者の吸気努力を示す。気道圧力波形11は、人工呼吸器が患者に呼吸を供給することによって生じる、時間変化する患者の気道圧力を示す。人工呼吸器が意図された方法で動作するとき、人工呼吸器の波形11における鮫ひれ(sharkfin)波形15の初期の増加勾配の開始は、ドーム状領域13の初期の増加勾配の開始と一致し、これは、患者の吸気努力の開始を検出した結果として、人工呼吸器が患者に呼吸を供給していることを示す。x軸の13秒の符号辺りの強調表示は、ドーム状領域16と一致する、気道圧力波形11におけるミストリガのPVAの区間17が存在する。区間17は、ドーム状領域16が、吸気努力の開始を示すために、13秒の符号辺りの患者のベースラインの食道圧力14から増大していること示したとしても、区間17の気道圧力波形17において大幅な増大が無く、これが、人工呼吸器が推奨される呼吸を患者に送出しなかったことを示すので、ミストリガのPVAと分類される。ドーム状領域16は、他のドーム状領域13よりも著しく小さい振幅を持ち、これは、表向きはミストリガのPVAが原因であり、過敏な人工呼吸器の設定によってミストリガのPVAが発生した可能性を示す。
【0021】
事例証拠は、(1)人工呼吸器の気道圧力波形に存在する心原性振動は、しばしば人工呼吸器による呼吸の送出を誘発し、これら振動が大部分の誤動作の非同期の原因となること、及び(2)人工呼吸器の気道圧力波形のデータにおける有意の心原性成分の存在は、しばしばミストリガの誤検出をもたらすか、又はミストリガの識別を極めて困難にすることを示唆している。図3は、(PPG信号の形式の)心原性信号と、人工呼吸器の気道圧力信号との間の関連を示すために、人工呼吸器の波形21を、パルスオキシメータによって生成される同時に起こるフォトプレチスモグラム(PPG)信号22と共に示すグラフである。PPG信号は、人工呼吸器において入手可能ではなく、故に、PPG信号22は、パルスオキシメータによって提供される理由が理解される。人工呼吸器の波形21は、人工呼吸器が患者に呼吸を供給することによって生じる、時間変化する患者の気道圧力を示す。PPG信号22を人工呼吸器の波形21と同時に表示することは、人工呼吸器の波形21における大幅な減少と、PPG信号22におけるピークとの同期を強調表示し、これは、心原性アーチファクトと人工呼吸器ベースの気道圧力の変化との間の関連を示唆している。
【0022】
技術者は通例、心原性アーチファクトをノイズとみなし、気道圧力波形の任意の処理の前にそれを取り除こうとする。本開示は、心原性アーチファクトがあることによって、かなりの数の非同期事象が発生するので、心原性アーチファクトは、ノイズではなく、関心のある信号として扱われるべきであると仮定する。加えて、(1)関心のある人工呼吸器の信号と心原性信号との間にかなりの重複がある、及び(2)人工呼吸器の信号と心原性相互作用とに関連する身体の条件は、非定常性が高いので、関心のある人工呼吸器の信号と心原性信号との間にある前記重複を検出するための如何なる方策も、頻繁な更新を必要とするので、人工呼吸器の波形から心原性アーチファクトを取り除く処理は難しい。従って、本開示の目的は、人工呼吸器の波形に存在する心原性成分を、これらの波形の個別の成分として計算し、心原性指数を使用してPVAを検出及び解決することができるように、個別の成分を心原性指数で定量化するためのアルゴリズムを提供することである。心原性アーチファクトを人工呼吸器の波形の別個の成分として計算することは、PVAを識別するための従来技術のシステム及び方法に対する改善を示す。
【0023】
図4は、人工呼吸器の気道圧力及び流量波形に存在する心原性アーチファクトから心原性指数を計算するための方法100のフローチャートである。方法100のステップに対応する波形が図5A図5Dに示される。101において、人工呼吸器の圧力波形を構成するデータ点は、以下の式(1)
【数1】
を用いて標準化される。ここで、tは、時間であり、nは、1≦i≦n、Py(t)が、人工呼吸器の圧力波形のi番目のデータ点の値であるような、圧力波形におけるデータ点の総数であり、
【数2】
は、n個の圧力波形のy値の平均であり、σPy(t)は、n個の圧力波形のy値の標準偏差であり、及びzPy(ti)は、Py(t)の標準化された値である。加えて、zPy(t)は、標準化された圧力波形の関数を示す。典型的な人工呼吸器の圧力波形において、x軸の単位は秒であり、y軸の単位はcmHOである。この標準化された圧力波形において、x軸の単位は、秒ではなくサンプル番号であり、y軸は単位なしである。図5Aを参照すると、例示的な標準化された圧力波形121のグラフが示される。
【0024】
102において、人工呼吸器の流量波形を構成するデータ点は、以下の式(2)
【数3】
を用いて標準化される。ここで、tは、時間であり、nは、1≦i≦n、Q(t)が、人工呼吸器の流量波形のi番目のデータ点の値であるような、圧力波形におけるデータ点の総数であり、
【数4】
は、n個の流量波形のy値の平均であり、σQ(t)は、n個の流量波形の標準偏差であり、及びzQ(ti)は、Qy(t)の標準化された値である。加えて、zQ(t)は、標準化された流量波形の関数を示す。典型的な人工呼吸器の流量波形において、x軸の単位は秒であり、y軸の単位はL/分である。この標準化された流量波形において、x軸の単位は、秒ではなくサンプル番号であり、y軸の単位は単位なしである。図5Bを参照すると、例示的な標準化された流量波形122のグラフが示される。
【0025】
標準化された圧力波形121及び標準化された流量波形122は、標準化された圧力波形121上のx座標xのデータ点が、標準化された流量波形122上のx座標xのデータ点と同じサンプル番号(又は元の人工呼吸器の波形に対し同じ時点)からである、及び逆もまた同様であるような、同じ時間の患者の気道データを示す。開示された概念から逸脱することなく、人工呼吸器の流量波形を構成するデータ点が、102ではなく101で標準化されること、及び人工呼吸器の圧力波形を構成するデータ点が、101ではなく102で標準化されることは理解される。
【0026】
103において、標準化された波形zPy(t)及びzQ(t)が合計され、標準化された累積波形z(t)を生成する。標準化された波形zPy(t)及びzQ(t)と同様に、標準化された累積波形のx軸の単位は、サンプル番号であり、y軸は単位なしである。zPy(t)及びzQ(t)の合計は、心原性信号は圧力波形及び流量波形間で同期されるが、他のノイズ供給源は同期されないという前提で、圧力波形及び流量波形間で同期される生理学的信号を強調する。従って、累積波形z(t)は、圧力波形zPy(t)又は流量波形zQ(t)の何れかを単独で行うよりもより強い心原性成分をもたらすはずである。
【0027】
104において、累積波形z(t)のパワースペクトルP(f)は、ヘルツで測定される周波数を用いて、z(t)の高速フーリエ変換を行うことにより計算される。図5Cを参照すると、標準化された累積波形の例示的なパワースペクトル123が示され、この標準化された累積波形は、標準化された圧力波形121及び標準化された流量波形122を合計することによって生成される。同時に起こるPPG信号に基づいて人工呼吸器の圧力及び流量設定が微調整された遡及的臨床データセットによる経験的結果は、心原性信号のパワーは、1.2Hzから20Hzの周波数範囲における累積の人工呼吸器の圧力-流量波形の最も一般的な成分であることを提示している。1.2Hzから20Hzの周波数領域は、図5Cにおいて線124で示される。より多くの患者から及び/又は異なるモデルの人工呼吸器を用いて集められたデータセットは、1.2Hzから20Hzの領域以外の周波数領域で優勢である心原性信号を示す。心原性信号が、所定の条件の組に対し、1.2Hzから20Hzの領域以外の周波数領域で優勢であることが実際に分かった場合、心原性信号が実際に優勢である周波数領域の下方の周波数境界及び上方の周波数境界は、ステップ105及び106において、夫々1.2Hz及び20Hzの周波数境界に置き換えられるべきであり(本明細書でさらに詳細に説明される)、それを行うことは、開示された概念の範囲内であると理解される。
【0028】
105において、1.2Hzから20Hzの周波数領域におけるP(f)の標準化されたパワー分布値は、以下の式(3)
【数5】
を用いて、これらの分布値を0と1との間に留めるために正規化される。ここで、fは、ヘルツで測定され、P(f)は、P(f)における周波数fの分布値であり、F/2は、P(f)の第1ナイキストゾーンの上限であり、P(fnormは、0と1との間に留められた正規化された値である。式
【数6】
は、P(f)に存在する全てのパワー、すなわち、心原性信号のパワーと全ての非心原性信号のパワーとの両方の合計に関数的に等しい。実際には、F/2は、心原性の周波数範囲の上限、すなわち、20Hzであり、パワースペクトルP(f)の0Hzから1.2Hzの周波数範囲は、心原性信号に影響されない人工呼吸器の波形の成分から主に構成されることを意味する。開示された概念の範囲から逸脱することなく、心原性信号成分から主に構成される周波数領域と非心原性信号成分から主に構成される周波数領域との間のデリネータ(delineator)として、1.2Hzより少し低い又は少し高い周波数が使用されることが理解される。開示された概念の範囲から逸脱することなく、心原性周波数範囲の上限及びF/2は、20Hzよりも少し低い又は少し高くてもよいことも理解される。開示された概念の範囲から逸脱することなく、例えば、(外部の又は得られた心拍数測定値に基づく)高調波スペクトル解析又は自己回帰モデリングのような技術を用いて、心原性信号のパワーが代替的に推定され得ることがさらに理解される。
【0029】
106において、105において計算された、1.2Hzから20Hz領域におけるP(f)の正規化された分布値にのみ逆高速フーリエ変換を行うことによって、標準化された心原性信号の形式の心原性指数が再構成される。図5Dを参照すると、1.2Hzから20Hzの領域におけるパワースペクトル123の正規化された分布値から再構成された例示的な標準化された心原性信号125のグラフが示され、標準化された圧力波形121及び流量波形122と同じ尺度のx軸上にプロットされる。105において、1.2Hzから20Hzの領域におけるP(f)の分布値を正規化することは、標準化された心原性信号の値が常に0と1の絶対値との間に留められるので、標準化された心原性信号を心原性指数として使用することを容易にすることが理解される。標準化された心原性信号125は、この標準化された心原性信号波形125上のx座標xのデータ点が、標準化された圧力波形121上のx座標xのデータ点及び標準化された流量波形122上のx座標xのデータ点と同じ時点又は同じサンプル番号に対応する及び逆もまた同様であるように、組み合わされた標準化された圧力波形121及び流量波形122の抽出された心原性成分を示す。
【0030】
PPG信号を生成する能力を持つ人工呼吸器が利用可能である又は利用可能となる限り、開示された概念の範囲から逸脱することなく、心原性信号のパワーが、人工呼吸器が供給するPPG信号から直接(すなわち、人工呼吸器の気道圧力及び流量波形から心原性信号のデータを抽出するために方法100のステップ101から105を行わずに)推定されることができる。図6を参照すると、開示された概念の追加の限定ではない例示的な実施形態において、人工呼吸器がPPG信号を生成することができるのであれば、方法100の代わりに方法150を用いて、心原性指数が計算されることができる。図6は、方法150のフローチャートであり、図7Aから7Cは、方法150のステップに関連する波形のグラフを示す。
【0031】
151において、PPG信号における個々の心拍は、ゼロ交差、しきい値化又は連続する信号において個々のデータを検出するのに適した他の如何なる技術も用いて識別される。そのような技術は、しばしば、信号マスク、例えばゼロ交差マスクの使用を用いる。簡潔にするために、ステップ151は、マスクの適用に関しては後で論じられるが、"マスク"という言葉の使用は、限定を意味せず、信号マスクを用いない、PPG信号において個々の心拍を検出するための技術の使用を排除しないことが理解される。図7Aは、理論上の人工呼吸器が供給するPPG信号171、及びゼロ交差マスクを用いてPPG信号171をフィルタリングすることによって生じたゼロ交差PPG信号172のグラフである。ゼロ交差PPG信号172における各ピークは、PPG信号171における個々の心拍の開始を識別する。
【0032】
152において、信号マスクを適用する(又は他の適切な技術を用いる)ことによってPPG信号において個々の心拍が識別された後、マスク-フィルタリングされたPPG信号は、他の非PPGの人工呼吸器の波形、例えば、限定ではないが、気道圧力及び流量波形と相互相関される。呼気相は、吸気相よりも人工呼吸器の構造による破損が少ないので、マスク-フィルタリングされたPPG信号を、特に非PPGの人工呼吸器の波形の呼気相と相互相関させることが好ましい。図7B及び図7Cは、ゼロ交差PPG信号172を、標準化された気道圧力波形173及び流量波形174の呼気相と相互相関させることによって生じ、時間シフト181だけゼロ交差PPG信号172を遅らせた、相互相関されたPPG信号182、183のグラフを示す。時間シフト181は、ゼロ交差PPG信号172の第1のピーク191に関連する、相互相関されたPPG信号182、183の第1のピーク192、193を観察することによって理解することができる。第1のピーク192、193は、時間シフト181だけ第1のピーク191からオフセットされ、相互相関されるPPG信号182、183の全ての後続するn番目のピークも同様に、ゼロ交差PPG信号172の対応するn番目のピークから時間シフト181だけオフセットされることが理解される。ゼロ交差PPG信号172のピークと同様に、相互相関されるPPG信号182、183のピーク(例えば、第1のピーク192、193)は、個々の心拍の開始を示す。
【0033】
153において、PPG信号における心原性データと、他の非PPGの人工呼吸器の波形(すなわち、気道圧力又は流量波形)の少なくとも一方との間の関連性を決定することによって、心原性指数が生成される。第1の限定ではない例において、非PPGの波形の呼吸送出領域及び非呼吸送出領域が識別され、この呼吸送出領域からの値を、近くにある非呼吸送出領域からの値と比較することによって生成される信号対雑音比(SNR)が、心原性指数として使用され得る。最初に、人工呼吸器が患者に呼吸を送出している時間間隔に対応する非PPGの波形における呼吸送出間隔が識別される。各々の呼吸送出間隔の直前の心拍が、関心のある心拍とみなされ、この関心のある心拍に対応する非PPGの波形の間隔が、関心のある間隔とみなされる。例えば、相互相関されるPPG信号182、183のような、相互相関されるPPG信号における各心拍の開始は、理論的に無限小である限りなく小さい時間間隔に及ぶピークによって示されるので、非PPG信号における関心のある間隔について言及するとき、この関心のある間隔がどの程度の時間の長さに及ぶかについての決定が行われなければならないことが理解される。50ミリ秒の間隔は、意味のある心原性指数を生成するのに十分なデータを生じさせるために、十分な持続時間であると提言されるが、開示された概念の範囲から逸脱することなく、より長い又はより短い時間間隔が使用され得ることが理解される。図7Bを参照すると共に、SNRを計算するために使用される非PPGの波形の限定ではない例として気道圧力波形173を使用する場合、相互相関されるPPG信号182上のピーク195は、(外発的に決定される)気道圧力波形173の呼吸送出間隔に対応し、相互相関されるPPG信号182上のピーク196は、ピーク195に対する関心のある心拍の開始を示す。因みに、ピーク195に関連付けられる間隔の間に送出される呼吸はPVAである。気道圧力波形173がピーク196と一致する場所で始まる気道圧力波形173の50ミリ秒(又は他の選択される時間期間)の間隔197が、関心のある間隔である。
【0034】
SNRは、(1)関心のある間隔における非PPG信号値の歪みの範囲を、(2)心拍と一致せず、前記関心のある間隔に極めて接近している領域における非PPG信号の値と比較することによって決定される。図7Bを再び参照すると、気道圧力波形173の領域198は、心拍と一致しない関心のある間隔(間隔197)に近い領域である。気道圧力波形173の例示的なSNRは、間隔197(関心のある間隔)における気道圧力値の歪みの範囲を、領域198(心拍と一致しない関心のある間隔に近い領域)における気道圧力値と比較することによって決定される。
【0035】
関心のある間隔における非PPG信号の歪みの範囲は、正しく供給される人工呼吸器が送出する呼吸の発生の前よりも、PVAの発生の直前の方が大幅に大きい。従って、非PPG信号のPVAに関連する領域に対し計算されたSNRは、正しく供給される人工呼吸器が送出する呼吸に関連する非PPG信号の領域に対し計算されたSNRから容易に認識可能である。この認識可能性は、SNRを、PVAを検出するための心原性指数として使用するのに適したものにする。
【0036】
153において心原性指数が計算される方法の別の限定ではない例において、前の限定ではない例において説明した種類とは異なる別の種類のSNRが決定され、心原性指数として使用されることができる。最初に、PPG信号の優位周波数スペクトル及びその高調波が、例えばスペクトル解析により決定される。次いで、選択された非PPG信号の人工呼吸器の波形(例えば、気道圧力波形又は流量波形)に対し、この波形の各領域に存在する非PPGの優位周波数成分に対する、PPGの優位周波数成分の比を得ることによって、非PPG波形の異なる領域についてSNRを計算することができる。他の周波数成分に対する、PPGの優位周波数成分の比は、正しく供給される人工呼吸器が送出する呼吸の発生の前よりも、PVAの発生の前の方が大幅に大きい。非PPG波形のPVAに関連する領域に対し計算されたSNRは、正しく供給される人工呼吸器が送出する呼吸に関連する非PPG波形の領域に対し計算されたSNRから容易に認識可能であり、この認識可能性は、SNRを、PVAを検出するための心原性指数として使用するのに適したものにする。
【0037】
方法100は、例えば、方法200及び300の説明に関して、本開示全体を通して心原性指数を計算するための手段として参照され、開示された概念の範囲から逸脱することなく、PPGを提供することが可能である任意の人工呼吸器に対し、方法100の代わりに、方法150が用いられ得ることが理解される。加えて、方法150に関して説明したPPGの分析は、例えば、限定ではないが、心電図のような心拍情報を含む他の如何なる生理学的信号(生理学的信号が人工呼吸器で入手可能である限り)を用いて実行されることもできる。さらに、本開示全体を通して、特に方法100のステップを行うことに関して、呼吸属性が言及され、方法100の代わりに方法150が行われる場合、PPGデータ(又は心拍情報を含む他の如何なる生理学的信号のデータ)を含むように、呼吸属性が読み取られるべきであることが理解される。
【0038】
心原性指数の有用性は、患者の呼吸治療の有効性を最大にするために、人工呼吸器の設定を動的に評価及び調整する進行中の処理において、どのように使用されるかにある。図8は、人工呼吸器の設定の動的な評価及び調整の上記処理200のフローチャートである。処理200は、例示的な実施形態において、患者に呼吸療法を送出する人工呼吸器に含まれる制御器によって実行される。201において、最初の人工呼吸器の設定が介護者によって選択される。202において、患者の呼吸属性が人工呼吸器によって測定される。202において測定される呼吸属性の例は、それに限定されないが、気道圧力及び気道流量を含む。203において、202において測定された呼吸属性に基づいて、方法100を用いて(又は、PPGデータが人工呼吸器で入手可能である場合、方法150を用いて)、心原性指数が計算される。例示的な実施形態において、心原性指数は、人工呼吸器に含まれる制御器によってこの人工呼吸器が使用されている間は、連続して計算され、任意の所与の瞬間における心原性指数が前の15秒の患者の呼吸特徴データを反映するように、15秒の呼吸毎のローリングベースで計算される。開示された概念から逸脱することなく、15秒未満又は15秒より長い時間の期間のローリングベースで心原性指数が計算され得ることが理解される。図10に関して本明細書により詳細に説明されると共に、204及び205に示されるように、例示的な実施形態において、制御器に含まれる機械学習モデルが、心原性指数を含む、202で測定された呼吸属性から生成された複数の呼吸特徴を分析して、ミストリガ又は誤動作が発生したかどうかを決定する。204及び205において、機械学習モデルが、PVAが発生したと決定する場合、206において、制御器が、非同期検出の通知を発する。例えば、限定ではないが、制御器は、PVAが発生したことを介護者に警告するために、トーンを鳴らす、書かれたメッセージを人工呼吸器のスクリーン上に送出する、又はそれらの組み合わせを行うことができる。PVAが検出されない場合、処理200は202に戻ることが理解される。
【0039】
206において非同期検出の通知が発せられた後、処理は207に続き、ここで、制御器が、事前にプログラムされた推奨される調整を人工呼吸器の設定に送出するか、又は介護者が、人工呼吸器の設定に行う必要がある調整に関して介護者自身で決定することができる。207において、前記調整が制御器によって推奨された、又は介護者によって決定された後、処理は208に進み、ここで、207で決定された調整に従って人工呼吸器の設定が調整される。その後、処理は202に戻る。方法100は、人工呼吸器を使用する時間期間全体にわたり連続して実行され得ることが理解される。
【0040】
方法100は、PVAの発生を識別するために心原性アーチファクトを使用しない、PVAを識別するための既存の方法に対する改善を示す。人工呼吸器により送出される呼吸又はそれが無いことをPVAと分類するために心原性アーチファクトを使用することは、人工呼吸器によって発せられる、PVAの発生の略リアルタイムの通知を可能にし、呼吸療法士、集中治療医又は他の介護者が呼吸毎にPVAの発生を手動で決定する必要性を減らす又は取り除く。従って、PVAの再発を防止するため、並びに検出されないPVAが長期間持続することによってしばしば生じる患者の不快感及び他の望ましくない帰結を最小限に抑えるために、人工呼吸器の設定をより適時に調整することができる。加えて、方法100の使用は、患者の呼吸療法に調整を行うことによって生じる長期的な傾向(最大76時間の尺度で)をより有意に監視することを容易にし、介護者は、人工呼吸器の設定に対する調整が非同期の傾向にどのように影響するかをより良く理解することを可能にする。
【0041】
限定ではない例示的な実施形態において、処理200、特にステップ204から205を実施するために、人工呼吸器の制御器が機械学習モデルを実行するように、機械学習モデルが、方法100を用いて、人工呼吸器の波形データから計算される心原性指数を使用するようにトレーニングされる。PVAを検出するために人工呼吸器の波形に存在する心原性アーチファクトを使用するように機械学習モデルをトレーニングすることは、PVAを識別するための従来技術のシステム及び方法に対する別の改善を示す。
【0042】
図9は、開示された概念の上記限定ではない例示的な実施形態による、例示的な人工呼吸器30の簡略化された概略図である。人工呼吸器30は、ユーザインターフェース32からの入力を受理し、ユーザインターフェース32に出力を送信する制御器31を含む。例示的な実施形態において、図9に示されるように、機械学習モデル33は、制御器31に組み込まれるソフトウェアである。ユーザインターフェース32は、画面を含み、介護者がユーザインターフェース32に含まれる入力機構を介して、人工呼吸器30の設定を選択するよう制御器31に指示することを可能にし、制御器31からの出力、例えば、患者の呼吸活動の波形も表示する。人工呼吸器30によって生成され、患者の気道41に供給される空気流は、流入経路を介して人工呼吸器30を出て、患者の気道41を介して吐き出された空気は、流出経路を介して人工呼吸器に戻される。人工呼吸器30は、気道圧力、流量及び/又は他の呼吸属性を測定するように構成された複数の流入センサ34又は流出センサ35を含むことができる。流入センサ34及び流出センサ35は、制御器31がセンサ34、35によって測定されたデータを監視及び分析することを可能にするために、制御器31と直接又は間接的に通信していることが理解される。
【0043】
図10は、開示された概念の例示的な実施形態による、心原性指数を用いてミストリガ又は誤動作のPVAを検出するために、機械学習モデル、例えば、図9に示されるモデル33をトレーニングするために使用される方法300のフローチャートである。301において、訓練データセットが集められる。1つの限定ではない例示的な実施形態において、訓練データセットは、患者の呼吸努力をシミュレートする実験室の人工呼吸器からだけでなく、数名の患者の人工呼吸器の波形データからも集められる。別の限定ではない例示的な実施形態において、訓練データセットは、患者の人工呼吸器の波形データだけから集められる。機械学習モデルをトレーニングするためにデータが使用される患者が多いほど、機械学習モデルがより正確であることが理解される。少なくとも20人の患者からのデータを使用することが好ましいかもしれないが、データが収集されるべき患者の必須の最小数はない。開示された概念の範囲から逸脱することなく、異なる呼吸量のデータが各患者から収集され得ることも理解される。例えば、限定ではないが、ある患者の100回の呼吸の呼吸データが使用されるのに対し、別の患者の45回の呼吸の呼吸データが使用されてもよい。
【0044】
302において、訓練データセットの患者の人工呼吸器の波形に呼吸セグメント化が行われ、ここで、患者の波形は、手動で分析され、任意の観察されたPVAをラベル付けるだけでなく、各波形にわたって吸気の開始及び呼気の開始を示すためにラベル付けられる(呼吸が送出された時間を識別する人工呼吸器のフラグが利用可能である場合、このステップは省略されることができる)。呼吸のラベル付けは、好ましくは専門家によって行われる。専門家の限定ではない例は、集中治療医、呼吸療法士及び麻酔科医を含む。2人以上の専門家が、PVAが発生したことに同意する場合にのみ、知覚されたPVAをPVAとしてラベル付けることが好ましい。シミュレートするプログラムは呼吸セグメント化情報を提供することができるので、実験室でシミュレートされた患者の呼吸努力に対し、呼吸セグメント化が行われる必要がないことが理解される。303において、肺機能を推定するため又は人工呼吸器のセンサをパージするために使用される強制呼吸(補助モードの換気という状況において誤動作及びミストリガのPVAが生じるため)、並びに患者の呼吸ではなく、人工呼吸器のセンサに起因する他の如何なる信号も手動で取り除くことによって、訓練セットの患者の人工呼吸器の波形に対してアーチファクト及び品質のチェックが行われる。
【0045】
304において、訓練データセットに対して特徴抽出が行われ、ここで、非同期事象を分類するために使用される幾つかの特徴は、呼吸から全てのデータを収集し、これらデータを小さな値のベクトルにマッピングすることによって、各呼吸に対し計算される。心原性指数は、方法100又は方法150を用いて、304で抽出される1つのそのような特徴である。304で抽出され得る他の特徴は、例えば、限定ではないが、(誤動作のPVAを分類するために使用される)吸気の持続時間と呼気の持続時間との間の比、(誤動作のPVAを分類するためにも使用される)吸気相の開始時の推定される患者の吸気努力、及び(ミストリガのPVAを分類するために使用される)呼気相中の推定される患者の強制される努力の平均気道圧力の勾配を含む。304で抽出される前記特徴の幾つかは、誤動作又はミストリガの何れかの検出に特有であるが、心原性指数は、誤動作及びミストリガの両方の分類に使用される特徴として抽出される。実験室での試験において、誤動作及びミストリガの出来事を分類するために使用される他の特徴に加えて、心原性指数を使用することは、心原性指数が分類特徴として使用されなかった試験と比較して、機械学習モデルの有効性を増大させた。
【0046】
305において、分類器のトレーニングが行われ、機械学習モデルは、生の人工呼吸器の波形データにおいてPVAを識別するための学習を目的として、誤動作のPVA及びミストリガのPVAの両方を示すパターンを検出するために、抽出された特徴と共に、セグメント化された呼吸及びラベル付けられたPVAを分析することができるような訓練データセットを供給される。最初のステップとして、相互検証が行われてもよく、ここで、訓練セットのデータが複数のグループに分割され。これらグループの幾つかのグループからのデータが、パターン認識で機械学習モデルをトレーニングするために使用されるのに対し、他のグループの生の人工呼吸器データが、機械学習モデルのパターン認識能力を試験するために使用され、この処理は、トレーニングのグループと試験のグループとを切り替えながら複数回繰り返される。相互検証の初期段階において、機械学習モデルをトレーニングするために患者データのみを使用し、次いで、後の段階において、実験室の人工呼吸器のシミュレートしたデータでトレーニングデータを強化することが好ましい場合がある(シミュレートしたデータが使用される場合)。306において、検証が行われ、ここで、訓練セットに使用されなかった試験データは、PVAの発生を分析するために機械学習モデル供給され、機械学習モデルの性能が手動で評価される。
【0047】
請求項において、括弧の間に置かれる如何なる参照記号もその請求項を限定すると解釈されるべきではない。"有する"又は"含む"という言葉は、請求項に挙げられる以外の素子又はステップの存在を排除するものではない。幾つかの手段を列挙している装置の請求項において、これらの手段の幾つかは、ハードウェアの同一のアイテムにより具現化されてもよい。要素が複数あると述べていなくても、その要素が複数あることを排除しない。幾つかの手段を列挙している如何なる装置の請求項において、これらの手段の幾つかは、ハードウェアの1つの同じアイテムによって具現化されてもよい。幾つかの要素が互いに異なる従属請求項に挙げられているという単なる事実は、これらの要素が組み合わせて使用されることができないことを示していない。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
【国際調査報告】