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特表2023-540919多能性幹細胞から角膜内皮細胞様細胞を分化させる方法
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  • 特表-多能性幹細胞から角膜内皮細胞様細胞を分化させる方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から角膜内皮細胞様細胞を分化させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20230920BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20230920BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20230920BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N5/10
C12N1/00 G
C12N5/079
A61P27/02
A61K35/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513751
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 FI2021050588
(87)【国際公開番号】W WO2022049328
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】20205857
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521438799
【氏名又は名称】ステムサイト オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】グロンルース ピリー
(72)【発明者】
【氏名】スコットマン ヘリ
(72)【発明者】
【氏名】イルマリネン タニヤ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、多能性幹細胞からの角膜内皮細胞(CEC)様細胞の分化に関する。本発明は、この分化方法によって得ることができるCEC様細胞、その使用及びそれを含む調製物にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から角膜内皮細胞(CEC)様細胞を生成する方法であって、
a)少なくとも1種のトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)阻害剤、少なくとも1種のウイングレス関連組込み部位(Wnt)活性化剤及びレチノイン酸の存在下で前記多能性幹細胞を培養する工程と、
b)工程a)からの細胞を、少なくとも1種のTGF-β阻害剤及び少なくとも1種のWnt活性化剤の存在下であるが、レチノイン酸の不存在下又は漸減濃度のレチノイン酸の存在下で培養する工程と
を含み、これによりCEC様細胞を生成する方法。
【請求項2】
前記TGF-β阻害剤がSB431542及びSB505124からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Wnt活性化剤がグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤及びR-スポンジンファミリーのタンパク質からなる群から選択される請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記GSK3阻害剤がCHIR99021である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記レチノイン酸が全トランス型レチノイン酸(ATRA)である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)の継続時間が3~10日、好ましくは3~5日である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)の継続時間が1~20日、好ましくは1~10日である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
SB431542又はSB505124の濃度が約1μM~約100μM、好ましくは約1~約30μM、より好ましくは約5μM~約15μM、さらにより好ましくは約10μMである請求項2に記載の方法。
【請求項9】
CHIR99021の濃度が、約1μM~約15μM、好ましくは約1μM~約10μM、より好ましくは約1μM~約5μM、さらにより好ましくは約4μMである請求項4に記載の方法。
【請求項10】
工程a)におけるレチノイン酸の濃度が約10μMである請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
レチノイン酸の濃度が、工程b)において0~1μMの濃度に徐々に減少する請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞及び胚性幹細胞からなる群から選択されるが、ただしヒト胚性幹細胞が使用される場合、前記方法はヒト胚の破壊を伴わない請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ニドゲン、プロテオグリカン、及びE-カドヘリン、並びにそれらのアイソフォーム、断片及びペプチド配列からなる群から選択される1種以上のECMタンパク質でコーティングされた細胞培養基材上で培養される請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ECMタンパク質がラミニン-521である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記CEC様細胞が、密着帯1(ZO-1)、ATPアーゼNa+/K+輸送サブユニットα1(ATP1A1)、溶質輸送体ファミリー4メンバー(SLC4A4)、CD166、アクアポリン1(AQP1)、ペアード様ホメオドメイン2(PITX2)、及びフォークヘッドボックスC1(FOXC1)からなる群から選択される1種以上のマーカーを発現する請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の方法によって得ることができるCEC様細胞。
【請求項17】
ヒトCEC様細胞である請求項16に記載のCEC様細胞。
【請求項18】
多能性幹細胞からCEC様細胞を誘導するための、TGF-β阻害剤、Wnt活性化剤及びレチノイン酸の組合せの使用。
【請求項19】
角膜内皮機能不全の治療に使用するため、又は薬物開発に使用するための請求項16又は請求項17に記載のCEC様細胞。
【請求項20】
請求項16又は請求項17に記載のCEC様細胞と、溶液、担体、アジュバント及び/又は賦形剤、好ましくは薬学的に許容できる溶液、担体、アジュバント及び/又は賦形剤とを含む調製物。
【請求項21】
前記CEC様細胞が細胞単層として提供される請求項20に記載の調製物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞からの角膜内皮細胞(CEC)様細胞の分化に関する。本発明は、この分化方法によって得ることができるCEC様細胞、その治療的使用、及びそれを含む調製物にも関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト角膜内皮は、角膜の最も内側の薄い細胞層である。これは、角膜から流体をポンピングすることによって視力を明瞭に保つ。ヒトの眼において角膜内皮自体を再生できないため、損傷した角膜内皮は、失明及び疼痛の両方の原因となる角膜の腫脹をもたらす。現在、唯一の臨床的に関連する処置は角膜移植であるが、これは屍体ドナーを必要とする。残念ながら、ドナー角膜の大量の不足がある。
【0003】
角膜内皮細胞(CEC)様細胞を多能性幹細胞から分化させる試みがなされている。例えば、Zhangら(Stem Cells Dev. 2014;23(12):1340-54)は、最初にヒト胚性幹細胞(hESC)を角膜実質細胞と共培養して眼周囲間葉系前駆体(POMP)を得ることによって、hESCからCEC様細胞を誘導した。次いで、CEC様細胞は、未規定の(明確ではない)水晶体上皮細胞馴化培地を用いてPOMPから誘導された。McCabeら(PLoS One. 2015;10(12):e0145266)もhESCを使用し、最初にTGFβシグナル伝達遮断薬(SB431542)及びノギンによるSmad二重阻害(Dual Smad inhibition)を使用し、続いて血小板由来増殖因子B(PDGF-BB)、Dickkopf-related protein 2(DKK-2)及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を使用することによるWnt阻害を使用することによってCEC様細胞を生成して、化学的により明確な方法を使用して2段階生成手順を創出することによってCEC様細胞を分化させた。Wagonerら、Biol Open. 2018;7(5):1-10は、わずかに改変されたMcCabeのプロトコルを使用することによって、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からCEC様細胞を誘導した。Zhao及びAfshari(Invest Ophthalmol Vis Sci. 2016;57(15):6878-84)は、SB431542及びLDN193189並びにWnt阻害剤IWP2による最初のSmad二重阻害を含む3工程法によってCEC様細胞を分化させて、眼野幹細胞を生成した。次いで、彼らはCHIR99021を使用して眼神経堤幹細胞を生成し、最後の工程で、彼らはSB431542及びROCK阻害剤H-1125を使用して、CEC様細胞を分化させた。米国特許第9,347,042号明細書では、Shimmuraらは、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、TGFb2、インスリン及びY-27632を誘導剤として使用することによって、接着培養物中のhiPSC由来神経堤幹細胞からのCEC様細胞の分化を実証したが、米国特許第10,501,725号明細書では、Shimmuraらは、N2サプリメント、上皮増殖因子(EGF)、bFGF、ATRA、BIO及びY-27632を使用することによって、懸濁培養物中で同じことを実証した。
【0004】
既存の分化方法にもかかわらず、CEC様細胞を再現可能な様式で大量に生成するための迅速かつ単純なプロトコルが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9,347,042号明細書
【特許文献2】米国特許第10,501,725号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhangら、Stem Cells Dev. 2014;23(12):1340-54
【非特許文献2】McCabeら、PLoS One. 2015;10(12):e0145266
【非特許文献3】Wagonerら、Biol Open. 2018;7(5):1-10
【非特許文献4】Zhao及びAfshari、Invest Ophthalmol Vis Sci. 2016;57(15):6878-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、既存の分化プロトコルに関連する課題を克服するために、多能性幹細胞から角膜内皮細胞(CEC)様細胞を迅速かつ単純に生成する方法を提供することである。この目的は、独立請求項に記載される内容によって特徴付けられる方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、多能性幹細胞からCEC様細胞を生成する方法であって、a)少なくとも1種の形質転換増殖因子β(TGF-β)阻害剤、少なくとも1種のウイングレス関連組込み部位(Wingless-related integration site、Wnt)活性化剤及びレチノイン酸の存在下で多能性幹細胞を培養する工程と、b)工程a)からの細胞を、少なくとも1種のTGF-β阻害剤及び少なくとも1種のWnt活性化剤の存在下であるが、レチノイン酸の不存在下又は減少濃度のレチノイン酸の存在下で培養する工程とを含み、これによりCEC様細胞を生成する方法を提供する。いくつかの実施形態では、TGF-β阻害剤は、SB431542及びSB505124からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、Wnt活性化剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤及びR-スポンジンファミリーのタンパク質からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、GSK3阻害剤はCHIR99021である。
【0009】
加えて、本発明は、当該分化方法によって得ることができるCEC様細胞を提供する。
【0010】
多能性幹細胞からCEC様細胞を誘導するための、TGF-β阻害剤、Wnt活性化剤及びレチノイン酸の組合せの使用も提供される。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、角膜内皮機能不全の治療に使用するための、又は薬物開発に使用するための当該CEC様細胞を提供する。
【0012】
本発明のCEC様細胞と、溶液、担体、アジュバント及び/又は賦形剤、好ましくは薬学的に許容できる溶液、担体、アジュバント及び/又は賦形剤とを含む調製物、例えば医薬調製物も提供される。
【0013】
本発明のさらなる態様、実施形態、客体、詳細及び利点は、以下の図面、詳細な説明及び実施例に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付の図面は、開示される主題のいくつかの実施形態を示し、本明細書とともに、開示される分化誘導方法の原理を説明する役割を果たす。
【0015】
図1図1は、培養の最初の3日間のRAあり又はなしの12日目におけるhPSC-CEC細胞の形態の位相差光学顕微鏡画像を示す。黒い矢印は、ポンピング活性を示す、細胞単層に存在するドーム構造を示す。対応する結果は、Regea08/017 hESC株を用いて得られた。画像はニコン(Nikon) Eclipse TE2000-Sで4倍及び10倍の倍率で撮影された。
図2図2は、培養の最初の3日間のRAあり又はなしの、hPSC-CEC分化プロトコルの12日目におけるZO-1、Na+/K+-ATPアーゼ及びCD166の発現の免疫蛍光画像を示す。対応する結果は、Regea08/017 hESC株を用いて得られた。画像はオリンパス(Olympus) IX51で10倍の倍率を用いて撮影された。
図3図3は、培養された初代ヒト角膜内皮細胞におけるNa+/K+-ATPアーゼの発現の免疫蛍光画像を示す。対応する結果は、22歳のドナーの角膜から得られた。画像はオリンパス IX51で10倍の倍率を用いて撮影された。
図4図4は、OCT3/4(POU5F1)発現の欠如を示す、本発明の方法によって産生されたCEC様細胞の免疫蛍光画像を示す。画像上の明るいスポットは、二次抗体凝集体の残渣であり、細胞と関連しない。対応する結果は、Regea08/017 hESC株を用いて得られた。画像は、オリンパス IX51で10倍の倍率を用いて撮影された。
図5図5は、分化の6日間のOCT3/4(POU5F1)発現の欠如並びにPITX2、FOXC1、SLC4A4及びAQP1発現の増加を示す、qPCR分析から得られた結果を示す。技術的誤差のために、AQP1は0日目の試料では欠けている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、多能性幹細胞から角膜内皮細胞(CEC)様細胞を生成する方法を提供する。当該方法によって得ることができるCEC様細胞、このCEC様細胞を含む調製物、及びその様々な使用も提供される。
【0017】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の表現「a」、「an」及び「the」は、1つ又は複数を意味する。従って、単数の名詞は、特段の記載がない限り、対応する複数の名詞の意味も有する。
【0018】
簡潔に述べると、本発明は、3つの分化誘導剤、すなわちTGF-b阻害剤、Wnt活性化剤及びレチノイン酸を下記のスケジュールで使用することに基づく。
【0019】
細胞
本明細書で使用する場合、用語「多能性幹細胞」(PSC)は、胚外組織を含まない、ヒト又は動物の体のすべての細胞型に分化する潜在能力を有するあらゆる幹細胞を指す。これらの幹細胞には、胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性細胞(iPSC)の両方が含まれる。従って、本発明における使用に適した細胞は、iPSC及びESCから選択される幹細胞を含む。従って、本発明における使用に適した細胞には、iPSC及びESCから選択される幹細胞が含まれる。この用語は、ヒト白血球抗原(HLA)改変PSC等の遺伝子改変PSCも包含する。従って、遺伝子改変されたiPSC及びESCを含む遺伝子改変PSCは、本発明のいくつかの実施形態において用いられてもよい。
【0020】
ヒト多能性幹細胞(hPSC)が好ましく、それらには、ヒトiPSC(hiPSC)及びヒトESC(hESC)が含まれる。ESC、とりわけhESCは、培養中に無限の増殖が可能であり、従って、故障や欠陥のあるヒト組織の代替となる細胞及び組織を供給することができるため、治療上非常に興味深い。しかしながら、ヒト胚性幹細胞から角膜内皮細胞を製造することは、倫理的な課題に直面する可能性がある。本発明の一実施形態によれば、当該方法自体又はあらゆる関連する行為が、ヒト胚の破壊を伴わないという但し書きの下、ヒト胚性幹細胞が使用されてもよい。
【0021】
一般にiPS細胞又はiPSCと略される人工多能性幹細胞は、非多能性細胞、典型的には成体の体細胞から、当該技術分野で周知の手段及び方法によって特定の遺伝子の強制的な発現を誘導することにより、人工的に誘導される一種の多能性幹細胞である。iPS細胞を使用する利点は、胚細胞を一切使用する必要がないため、倫理的な問題を回避できることである。さらなる利点は、iPSC技術を採用することで、免疫拒絶反応の問題がない患者特異的な細胞の生成が可能になることである。それゆえ、本発明の一実施形態によれば、iPS細胞の使用が好ましい。臨床用途では、hiPS細胞が好ましい。
【0022】
人工多能性幹細胞は、多くの側面において、胚性幹細胞等の天然の多能性幹細胞と類似している。例示的な側面としては、特定の幹細胞遺伝子及びタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫(テラトーマ)形成、生存可能なキメラ形成、並びに効力及び分化能等が挙げられるが、天然の多能性幹細胞との関係の全容はまだ評価されているところである。人工多能性細胞は、典型的には、成体の皮膚細胞、血液細胞、胃又は肝臓から作られるが、他の代替物も可能である場合がある。当業者は、研究及び治療目的のためのiPS細胞の可能性を熟知している。
【0023】
多能性マーカーの非限定的な例としては、当該技術分野において周知のように、POUクラス5ホメオボックス1(POU5F1、OCT3/4)が挙げられる。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「初代角膜内皮細胞」(CEC)は、角膜の内表面上の細胞の単層である角膜内皮の細胞を指す。CECは、角膜ホメオスタシスにおいていくつかの不可欠な役割を果たし、角膜の水和及び透明性の調節に特化している。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「CEC様細胞」は、PSCからの分化によって得られることができ、初代CECの本質的な特徴を有する細胞を指す。従って、用語「hPSC-CEC」は、本明細書で使用する場合、本発明の分化誘導方法によってヒト多能性幹細胞から分化したCEC様細胞を指す。
【0026】
初代CEC及び本発明のCEC様細胞は、主に六角形の頂端表面及び不規則な基底面を有する均一なサイズの細胞の単層を形成する能力を特徴とする。密着結合は六角形を形成し維持する役割を果たし、角膜の相対的な脱水を維持するのに必要である。実際、初代CEC及び本CEC様細胞は、密着帯1(zonula occludens-1、ZO-1)等の密着結合タンパク質の発現を特徴とする。
【0027】
加えて、初代CEC及び本発明のCEC様細胞は、角膜と眼房水との間にイオン勾配を作り出す異なるタイプの酵素ポンプを備え、間質からの水の持続的な抽出に関与する。角膜内皮ポンプマーカーの非限定的な例としては、ATPアーゼNa+/K+輸送サブユニットα1(ATP1A1)及び溶質輸送体ファミリー4メンバー4(SLC4A4)が挙げられる。
【0028】
さらなるCECマーカーとしては、CD166及びアクアポリン1(AQP1)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、PSCからのCEC様細胞の分化は、神経堤細胞(NCC)特異的マーカーの出現によって判断されるように、NCCを介して達成されるが、PSCがNCCに分化し、次いでCEC様細胞にさらに分化した時点を正確に特定することは困難である可能性がある。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「神経堤細胞」(NCC)は、胚性外胚葉胚葉から生じ、次いで多様な細胞系譜を生じる脊椎動物に特有の細胞の一過性群を指す。神経堤は、頭蓋神経堤、体幹神経堤、迷走神経堤及び仙骨神経堤、並びに心臓神経堤を含む、4つの主要機能ドメインに分割することができる。角膜発達中、頭蓋NCCは角膜内皮及び間質を生じる。
【0031】
NCC特異的マーカーは、当該技術分野において周知である。頭蓋NCCに特異的なマーカーの非限定的な例としては、AP2α、AP2β及び神経成長因子受容体(NGFR、p75)が挙げられる。加えて、Pax6の低発現又は発現の不存在は、頭蓋NCCにおいて特徴的である。
【0032】
さらに、後期NCC及び初期CECにおいて生じる眼周囲間葉マーカーの非限定的な例としては、ペアード様ホメオドメイン2(paired like homeodomain 2、PITX2)及びフォークヘッドボックスC1(FOXC1)が挙げられる。
【0033】
上記に従って、本発明の生成方法によって得ることができるCEC様細胞は、少なくとも1つの密着結合マーカー、少なくとも1つのポンプマーカー及び少なくとも1つのCECマーカーを発現する。いくつかの実施形態では、CEC様細胞は、ZO-1、ATP1A1、SLC4A4、CD166、AQP1、PITX2及びFOXC1からなる群から選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0034】
上に列挙したもの等の細胞型特異的マーカーの存在は、定量的PCR(qPCR)、免疫蛍光及びフローサイトメトリー、例えば蛍光活性化セルソーティング(FACS)を含むがこれらに限定されない、この目的に適した任意の利用可能な技術によって定量化されてもよい。
【0035】
分化誘導方法及び誘導剤
当該分化方法では、まず、PSCが、TGF-b阻害剤、Wnt活性化剤及びレチノイン酸(RA)の存在下で培養され、次いで、TGF-β阻害剤及びWnt活性化剤のみの存在下で、又はRAの濃度を下げて培養される。
【0036】
本発明の方法の第1の工程では、PSCが、TGF-β阻害剤、Wnt活性化剤及びレチノイン酸の存在下で、好ましくはCEC様細胞の出現を可能にする期間培養される。
【0037】
いかなる理論又は作用機序にも限定されるものではないが、本発明につながる実験は、分化誘導剤としてのSB431542及びCHIR99021がNCCマーカーの出現に寄与することを示した。上記出現の正確なタイミングは、用いられるTGF-β阻害剤及びWnt活性化剤種並びに細胞培養培地中のその濃度等の異なる変数に依存してもよいことを理解されたい。
【0038】
いくつかの実施形態では、培養培地が、TGF-β阻害剤及びWnt活性化剤として、それぞれ約10μMのSB431542及び約4μMのCHIR99021を含有した場合、NCCマーカーは、分化誘導方法の3日目付近に出現した。
【0039】
次いで、レチノイン酸は、5日目以降に、眼周囲間葉マーカー(例えば、PITX2及びFOXC1)について陽性であるCEC様細胞及び間葉様領域の形成に寄与した。さらに、RAは、細胞におけるバリア特性及びポンピング活性を示すドーム様構造の形成を誘導した。これらの特徴は、細胞がRAの不存在下で(すなわち、SB431542及びCHIR99021のみの存在下で)培養された場合に存在しなかった。
【0040】
いくつかの実施形態では、PSCは、TGF-β阻害剤、Wnt活性化剤及びRAの存在下で約3日~約10日、好ましくは約3日~約5日培養される。いくつかの実施形態では、PSCは、SB431542、CHIR99021及びRAの存在下で約3日~約10日、好ましくは約3日~約5日培養される。RAへの長すぎる曝露は、空胞上での形成及び脂肪細胞様細胞の出現をもたらし、この両方の特徴は回避されるべきである。それゆえ、RAは、当該分化方法の開始から3~10日後、好ましくは3~7日後に培地から排除される(引き上げられる)か、又はその濃度が減少される。次いで、細胞は、TGF-β阻害剤(好ましくはSB431542)及びWnt活性化剤(CHIR99021)の存在下で、RAなしで、又は減少したRA濃度で、さらに約1~約20日間以上培養される。いくつかの実施形態では、上記細胞は、TGF-β阻害剤及びWnt活性化剤に約3週間より長く曝露された場合には悪影響を呈し始める。
【0041】
いくつかの実施形態では、RAは、RAを含有する培養培地をRAを含有しない培養培地に単に置き換えることによって、少なくとも1種のTGF-β阻害剤(例えば、SB431542)及び少なくとも1種のWnt活性化剤(例えば、CHIR99021)を含有する培養培地からすべて一度に排除される。いくつかの代替的な実施形態では、RAは培養培地から徐々に、例えば2~5工程で排除され、各工程において、指定量のRAを含有する培養培地は、より少量のRAを含有する培養培地と交換される。各工程の継続時間は、例えば、1~3日間で変わってもよい。言い換えれば、上記細胞は、さらに低いRA濃度を有する又はRAを含まない次の培養培地に培養培地を交換する前に、減少したRA濃度を含有する各培養培地中で1~3日間培養されてもよい。RAは、すべて一度に又は徐々に、完全に又は大きく低下した濃度まで、例えばRAの初期濃度から10倍減少した濃度(すなわち、RAの濃度は、その初期濃度の10分の1に低下する)まで排除されてもよいことも理解されたい。例示的な実施形態では、本発明の方法の工程a)は、(少なくとも1種のTGF-β阻害剤、例えばSB431542、及び少なくとも1種のWnt活性化剤、例えばCHIR99021に加えて)10μMのRAを含む培養培地中でPCSを3日間培養することを含み、続いて、RAの濃度が次の1~3日間5μMに低下され、さらに続いてRAを完全に除去される工程b)が行われる。別の例示的な実施形態では、本発明の方法の工程a)は、(少なくとも1種のTGF-β阻害剤、例えばSB431542、及び少なくとも1種のWnt活性化剤、例えばCHIR99021に加えて)10μMのRAを含む培養培地中でPCSを3日間培養することを含み、続いて、RAの濃度が最初に次の1~3日間5μMに、次いで当該分化方法の残りの継続時間中1μMに低下される工程b)が行われる。
【0042】
特に、本発明の方法は、好ましくは、インスリン、EGF、bFGF、ノギン、PDGF、DKK-2、例えばH-1125等のROCK(Rho-associated kinase、Rho関連キナーゼ)阻害剤、及びIWP2等のWnt阻害剤などの、CEC様細胞の分化について以前に示唆されたいくつかの薬剤の不存在下で行われる。
【0043】
【表1】
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明の分化誘導方法は、接着培養として、すなわち、天然抽出細胞外マトリクス(ECM)タンパク質及び組換えECMタンパク質の両方を含む1種以上の細胞外マトリクス(ECM)タンパク質でコーティングされた細胞培養ボトル又は細胞培養プレート等の基材上で行われる。適切なECMタンパク質としては、ラミニン、コラーゲン(例えば、IV型コラーゲン)、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ニドゲン、プロテオグリカン、及びE-カドヘリン、並びにそれらのアイソフォーム、断片及びペプチド配列が挙げられるが、これらに限定されない。このECMアイソフォームの非限定的な例としては、ラミニン-511、ラミニン-521、ラミニン-322及びラミニン-411等のラミニンアイソフォームが挙げられ、上記断片の非限定的な例としては、上記ヒトラミニンアイソフォームのE8断片が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、細胞培養基材は、例えば、約0.5μg/cm~約1.5μg/cm以上の濃度範囲で、ラミニン-521でコーティングされる。いくつかの他の実施形態では、細胞培養基材は、例えば、それぞれ5μg/cm及び0.75μg/cmの濃度で、IV型コラーゲン及びラミニン-521の混合物でコーティングされる。
【0045】
臨床的に受け入れられるために、当該CEC様細胞は、初代CECのものに対応する、明瞭な視覚に重要な機能的特徴を保有しなければならない。従って、CEC様細胞は、角膜実質から流体をポンピングすることによって視力を明瞭に保つのに充分なポンピング活性を有していなければならない。加えて、CEC様細胞は、漏出しない密着結合の結果として充分なバリア特性を有していなければならない。実施例に示すように、本発明の分化誘導方法により生成されたCEC様細胞は、これらの要件の両方を満たす。
【0046】
さらに、安全性の理由から、より具体的には奇形腫又は他の腫瘍の形成のリスクを回避するために、臨床的に使用される分化細胞集団中に幹細胞が残っていないことが重要である。実際に、これは、免疫蛍光染色(図4)及びqPCR(図5)の両方においてOCT3/4(POU5F1)の欠如によって実証されるように、本発明の方法によって生成されたCEC様細胞に当てはまる。
【0047】
TGF-ベータ(TGF-β)阻害剤
本明細書で使用する場合、「TGF-β阻害剤」は、機能的に、トランスフォーミング増殖因子β1を阻害できる物質を指す。トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)は、病気の状態及び正常な状態での成長、分化、遊走、細胞の生存、接着等、多くの生物学的活動に関与する多面的サイトカインの大規模なスーパーファミリーのメンバーである。このスーパーファミリーでは30種近いメンバーが同定されている。これらは2つの主要な枝、TGFβ/Activin/Nodal及びBMP/GDF(Bone Morphogenetic Protein(骨形成タンパク質)/Growth and Differentiation Factor(成長分化因子))、に分類されると考えられている。これらは非常に多様で、しばしば補完的な機能を持っている。胚の発生過程で短期間しか発現しないものや、限られた種類の細胞でしか発現しないもの(例えば、抗ミュラー管ホルモン、AMH、インヒビン)もあれば、胚形成の間及び成体の組織において広く発現するもの(例えば、TGFβ1、BMP4)もある。TGF-β1は、細胞外マトリクス(線維化因子)の合成における強力な制御因子であり、創傷治癒にも関与している。
【0048】
化学的、構造的に見て、適切なTGF-β阻害機能は、タンパク質及び低分子有機化合物の中に見出されてもよい。当業者であれば、生物学的マトリクスからタンパク質を単離する手段、又は組換え技術によってタンパク質を生成する手段を知っている。TGF-β阻害活性を示す化合物は、スクリーニングによって見つけられてもよい。好ましくは、TGF-β阻害剤は、比較的低いモル質量を有する有機分子、例えば、800g/モル未満、好ましくは500g/モル未満のモル質量を有する低分子である。一般的な構造として、好適な低モル質量のTGF-β阻害剤である式Iは、以下のように記述されてもよい。
【化1】
上記式I中、RはC~C脂肪族アルキル基、カルボン酸、アミドを表し、RはC~C脂肪族アルキルを表し、R及びRはヘテロ原子、O又はNを含む脂肪族アルキルを表し、これらは互いに連結して5員又は6員のヘテロ環を形成してもよい。
【0049】
典型的な構造は、2個の酸素原子を有するヘテロ環を含み、一般式IIの低分子と呼べる場合である。
【化2】
上記式II中、Rは、C~C脂肪族アルキル基、芳香族カルボン酸又はアミドを表し、Rは、C~C脂肪族アルキルを表す。
【0050】
このようなTGF-β阻害剤の1つの非限定的な例は、SB431542としても知られている4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミドであり、これは、複数の供給元から市販されており、トランスフォーミング増殖因子-βI型受容体(ALK5)、ALK4及びALK7の選択的阻害剤として販売されている。特異的なTGF阻害剤の別の非限定的な例は、SB505124としても知られている2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩水和物である。
【0051】
しかしながら、TGF-β阻害活性を示すか、又はTGF阻害剤として市販されている他の小分子も、本発明の文脈において同様に好適である可能性がある。化学合成又は組換え生産によって得られる物質から上記TGF-β阻害剤を選択する場合、規定培地を提供することができる。これは、ゼノフリー及び無血清(セラムフリー)の条件の要件にも適合する。
【0052】
当業者であれば、当該技術分野で容易に利用可能な様々な方法を用いて、所与の薬剤がTGF-β阻害活性を有するか否か、及び当該方法における使用に適しているか否かを容易に判断することができる。
【0053】
いくつかの好ましい実施形態では、誘導培地中のSB431542等のTGF-β阻害剤の濃度は、約1μM~約100μM、好ましくは約1~約30μM、より好ましくは約5μM~約15μM、さらにより好ましくは約10μMである。
【0054】
Wnt活性化剤
癌原遺伝子のWnt(ウイングレス関連組み込み部位)ファミリーは、少なくとも16種の公知のメンバーから構成されており、これらのメンバーは、発癌、並びに細胞運命及び胚発生の制御等のいくつかの他の発生プロセスに関与する分泌シグナル伝達タンパク質をコードしている。本明細書で使用する場合、用語「Wnt活性化剤」は、Wntシグナル伝達経路を活性化することができる物質を指す。タンパク質及び低分子のWnt活性化剤の両方が当該技術分野で公知である。
【0055】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤は、本発明で使用するための好ましいWnt活性化剤の例示的なクラスである。複数の提供元から市販されているCHIR99021は、GSK3の最も選択的な阻害剤であり、従って、本発明で使用するための特に好ましいWnt活性化剤である。さらなるGSK3阻害剤としては、SB-216763、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、LY2090314及び塩化リチウムが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらはすべて市販されている。いくつかの好ましい実施形態では、分化培地中のCHIR99021等のGSK3阻害剤の量は、約1μM~約15μM、好ましくは約1μM~約10μM、より好ましくは約1μM~約5μM、さらにより好ましくは約4μMである。
【0056】
本発明における使用に適していると考えられるWnt活性化剤の別のクラスは、R-スポンジンタンパク質ファミリーであり、その4つのメンバーは、R-スポンジン-1、R-スポンジン-2、R-スポンジン-3及びR-スポンジン-4として指定され、古典的なWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の分泌されたアゴニストである。
【0057】
いくつかの実施形態では、Wnt活性化剤はR-スポンジン-1である。好ましい濃度範囲としては、約100ng/ml~約2μg/ml、約500ng/ml~約2μg/ml、好ましくは約1μg/mlが挙げられる。
【0058】
RS-246204は、低分子のR-スポンジン-1代用物であり、これも本発明における使用に適していることが想定される。好ましい濃度範囲としては、約6.25μM~約200μM、及び約25μM~約50μMが挙げられる。
【0059】
当業者は、当該技術分野で容易に利用できる様々な方法を用いて、所与の薬剤がWnt活性化特性を有するか否か、及び当該方法における使用に適しているか否かを容易に判断することができる。化合物は、Wnt活性化剤として作用する能力について、例えば、市販の試験キット、Enzo(エンゾ)から入手可能なLEADING LIGHT(登録商標) Wntレポーターアッセイスターターキットによって試験することができる。
【0060】
レチノイン酸
本明細書で使用する場合、用語「レチノイン酸」(RA)は、主要な全トランス型レチノイン酸(ATRA;表現を簡単にするために一般にレチノイン酸と称される)を含むレチノイン酸のすべての異性体、及びその少数の異性体、例えば9-cis-レチノイン酸、11-cis-レチノイン酸及び13-cis-レチノイン酸を包含する。いくつかの実施形態では、用いられるレチノイン酸はATRAである。
【0061】
ATRAは、異なる組のデヒドロゲナーゼによって触媒される2つの連続した酵素反応によって誘導されるビタミンA1(全トランス型レチノール)の代謝産物である。ATRAは、細胞増殖、分化、及び器官形成において重要な役割を果たす。
【0062】
いくつかの実施形態では、RA、好ましくはATRAは、約1μM~約20μM、好ましくは約10μMの範囲の濃度で本発明の方法の工程a)において使用されるのに対して、RA、好ましくはATRAは、0~約1μMの範囲の濃度で本発明の方法の工程b)において使用される。上記で説明したように、工程a)で使用されるRAの濃度は、工程b)で使用されるRAの濃度まで徐々に又は一度に低下されてもよい。
【0063】
レチノイン酸は、様々な供給源から市販されている。
【0064】
細胞培養培地
本発明の方法及びその様々な実施形態では、基本的に、幹細胞の分化に適した任意の細胞培養培地が、本発明の分化誘導剤を補充する基礎培地として使用されてもよい。本明細書で使用する場合、用語「基礎培地」は、当該技術分野で周知のように、アミノ酸、グルコース、並びにカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及びリン酸アニオン等のイオンを含む成分から構成される細胞培養培地を指す。本発明の方法における使用に適した市販の基礎培地の非限定的な例としては、ノックアウトダルベッコ変法イーグル培地(KO-DMEM)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI1640、F-10、F-12、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)及びその任意の組み合わせが挙げられる。
【0065】
分化誘導剤に加えて、基礎培地は、抗生物質、L-グルタミン、及び血清、血清アルブミン又は血清代替物、好ましくは規定の血清代替物を含む、事実上あらゆる細胞培養培地において使用される成分を補充されてもよい。当該技術分野で一般的なさらなる補充物質も、それが角膜内皮以外の組織へのPSCの分化を導くことが公知である場合を除き、適用されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用される誘導培地は、誘導剤、基礎培地、抗生物質、L-グルタミン、及び規定血清代替物以外の成分を含有しない。
【0066】
使用時又は使用準備が整っているとき、本発明の細胞培養培地は、上述した適切な必須サプリメントを含んでいる。しかしながら、当該分野での一般的な慣行によれば、培地の材料は、上記成分を含む濃縮物として提供されてもよいし、提供される指示に従って実験室で使用する前に適切な組み合わせを調製するためのバイアルのセットとして提供されてもよい。多くの場合、培養培地は使用直前に希釈して最終組成物に調製される。それゆえ、そのような即時調製に使用するのに適した任意のストック溶液又は調製キットが当該方法で使用する細胞培養培地を得るために使用されてもよいことが理解される。
【0067】
臨床的により良く受け入れられるために、当該方法及びその様々な実施形態で使用するすべての培養培地は、好ましくは実質的にゼノフリー、実質的に無血清、又は実質的に規定のものであり、より好ましくはこれらの組み合わせであり、最も好ましくは同時に実質的にゼノフリー、実質的に無血清、及び実質的に規定のものである。本明細書では、「実質的に」は、意図しない痕跡は無関係であることを意味し、臨床又は実験室の規則の下で、ゼノフリー、無血清、又は規定のものとして考えられ、受け入れられているものは、ここにも適用される。
【0068】
本明細書で使用する場合、用語「ゼノフリー」は、異物や外来成分が含まれていないことを意味する。従って、ヒトの細胞培養の場合は、用語「ゼノフリー」は、ヒト以外の動物成分を含まない状態を指す。言い換えれば、ヒトでの使用のための角膜細胞を製造するためにゼノフリーの条件が望まれる場合、あらゆる細胞培養培地のすべての成分は、ヒト又は組換え体由来のものでなければならない。
【0069】
伝統的に、血清、特にウシ胎仔血清(FBS)は、真核細胞のインビトロ細胞培養のための必須の成長及び生存成分を提供する細胞培養において価値を見出されてきた。FBSは、食肉用に飼育された牛の食肉処理場で採取された血液から製造される。「無血清」は、培養培地が動物性又はヒト性の血清を含まないことを示す。
【0070】
規定培地(限定培地)は、未規定の(不明確な)培地、例えば、培養細胞から回収した使用済みの培地であって、培養細胞によって培地中に分泌された代謝産物、増殖因子及び細胞外マトリクスタンパク質を含有する培地を指す「馴化培地」を使用することに矛盾がある場合に価値を見出される。未規定の培地は、生物学的な自然の変動により、かなりの相違点を帯びる可能性がある。細胞培養における未規定の成分は、例えば、創薬及び毒性研究における細胞モデル実験の再現性を損なう。従って、「規定培地」又は「規定の培養培地」は、培地がすべて既知の量の材料を有する組成物を指す。
【0071】
典型的には、細胞培養のために培養培地に通常添加される血清は、既知の量の血清成分、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、及び場合によっては特定の増殖因子(例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子又は血小板由来増殖因子)で置き換えられる。
【0072】
合成培地(既知組成培地)は、化学成分がすべて既知である成長培地である。合成培地は、動物由来の成分を全く含まず、最も純粋で一貫性のある細胞培養環境を意味する。当然のこととして、合成培地は、ウシ胎仔血清も、ウシ血清アルブミンも、ヒト血清アルブミンも含むことができない。というのも、これらの産物は、ウシ又はヒトの供給元に由来し、アルブミン及び脂質の複雑な混合物を含有するからである。
【0073】
合成培地は、ウシ血清アルブミン(BSA)又はヒト血清アルブミン(HSA)が、化学的に明確な組換え体(アルブミンに関連する脂質を欠く)又はBSA/HSAの機能の一部を再現できるポリマーであるポリビニルアルコール等の合成化学物質のいずれかに置き換えられている点で、無血清培地とは異なる。
【0074】
いくつかの実施形態では、細胞培養培地は、血清代替製剤を含む。1つの例は、本発明の文脈で適用可能なゼノフリーの血清代替物を記述した、参考として本明細書に組み込まれるRajalaら、2010に記載されている。適切な血清代替物のさらなる非限定的な例としては、どちらもLife Technologies(ライフ・テクノロジーズ)から市販されているKnockOut(商標) Serum Replacement(Ko-SR)及びゼノフリーバージョンのKnockOut(商標) SR XenoFree CTS(商標)が挙げられる。
【0075】
治療的使用及び医薬組成物
本発明は、必要とする対象において角膜内皮機能不全を治療する方法も提供する。この方法は、有効量の本発明に従って生成されたCEC様細胞を上記対象に眼内移植する工程を含む。
【0076】
上記に従って、本発明は、角膜内皮機能不全を治療することにおいて使用のための、本発明に従って生成されたCEC様細胞も提供する。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、あらゆる哺乳動物、好ましくはヒトを指す。
【0078】
本明細書で使用する場合、用語「治療」又は「治療する(こと)」は、角膜内皮機能不全の改善、軽減、阻害又は治癒を含んでもよい目的で、眼内移植による対象への本発明のCEC様細胞の投与を含む。
【0079】
本明細書で使用する場合、用語「角膜内皮機能不全」は、角膜内皮細胞に影響を及ぼす任意の障害又は状態を指す。このような障害又は状態の非限定的な例としては、フックス角膜内皮ジストロフィー、水疱性角膜症、先天性遺伝性内皮ジストロフィー、後部多形性ジストロフィー(posterior polymorphous dystrophy)、虹彩角膜内皮症候群、角膜浮腫、角膜白斑、角膜内皮炎症、化学熱傷及び外科的又は他の外傷が挙げられる。これらの障害及び状態の主な治療は、正常なドナー組織による異常な角膜層の置換である。
【0080】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、角膜内皮機能不全の有害な影響が最低でも改善されるCEC様細胞の量を指す。
【0081】
治療に使用するためのCEC様細胞は、同種異系又は自己由来のいずれかであってもよい。
【0082】
本発明のCEC様細胞の移植のための量及びレジメンは、眼疾患、特に角膜内皮機能不全を治療する臨床分野の当業者によって容易に決定することができる。概して、投薬は、治療される対象の年齢、性別及び全身健康状態;もしあれば、同時治療の種類;問題の疾患又は状態の重症度及びタイプ;疾患の原因因子、並びに個々の医師によって調整されるべきである他の変数等の考慮事項に応じて変動することになる。
【0083】
移植のために、CEC様細胞は医薬調製物で提供される。本明細書で使用する場合、用語「医薬調製物」は、CEC様細胞並びに1つ以上の生理学的に許容できる成分、例えば、溶液、担体、アジュバント及び/又は賦形剤、の調製物を広く指す。好ましくは、上記成分は無菌である。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「生理学的に許容できる」及び「薬学的に許容できる」は交換可能であり、毒性、著しい刺激及び/又はアレルギー反応等の過度の有害な副作用なしに、対象、好ましくはヒト対象に投与するのに適した材料を指す。言い換えると、効果/リスク比は妥当でなければならない。さらに、生理学的に許容できる成分は、CEC様細胞を害してはならない。
【0085】
いくつかの実施形態では、CEC様細胞は、生理学的に許容できる溶液で提供される。適切な溶液としては、リン酸緩衝生理食塩水及びリンゲル液等の他の等張水性緩衝溶液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
好ましくは前眼房への直接の眼内注射による移植のために、CEC様細胞は、生理学的に許容できる溶液中の懸濁液として提供される。懸濁液中の細胞の密度は、所望に応じて変動してもよいが、典型的には、約1×10~約5×10細胞/mlである。いくつかの実施形態では、懸濁液は、微粒子、マイクロビーズ、ゲル様マトリクス等の担体を含んでもよい。
【0087】
いくつかの実施形態では、CEC様細胞は、CEC様細胞の単層として提供される。単層は、約1000細胞/mm~約6000細胞/mm、好ましくは約2000細胞/mm~約5000細胞/mm、好ましくは約3000細胞/mm~約4000細胞/mmの範囲の細胞密度を有してもよい。いくつかの実施形態では、上記単層は、生理学的に許容できる担体膜上に提供される。通常、担体膜上にCEC様細胞の単層を含む医薬調製物は、細胞の生存率を維持しそれらが乾燥するのを防ぐために、生理学的に許容できる溶液も含む。
【0088】
担体膜は、CEC様細胞を支持することができ、透明であり、そうでなくとも眼内移植に適している限り、特に限定されない。適切な担体膜の非限定的な例としては、フィブリンベースのマトリクス、内皮脱細胞化(endothelium-decellularized)角膜ボタン、脱細胞化デスメ膜、ヒト又は非ヒト動物由来の新鮮な角膜実質ディスク、脱細胞化羊膜、魚鱗由来の足場、コラーゲン、ゼラチン、絹フィブロイン、セルロース等から調製された膜、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)等の合成ポリマー材料、半合成ヒドロゲルゼラチン-メタクリロイル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ポリカプロラクトン等の生分解性ポリマー材料、及び鉱物系ヒドロキシアパタイトが挙げられる。
【0089】
いくつかの実施形態では、担体膜は、眼内移植に使用される最終担体膜の所望の横方向寸法に対応する横方向寸法を有する。言い換えれば、担体膜のサイズ及び形状は、使用前に膜を切断又は別様にサイズ変更することなくそのまま使用されることが意図される担体膜のサイズ及び形状に対応してもよい。いくつかの他の実施形態では、担体膜の横方向寸法は、使用される最終担体膜の横方向寸法よりも大きくてもよい。そのような実施形態では、膜のサイズ及び形状は、限定されないが例えば生検パンチ又はトレフィンによる切断及び穿孔を含む、当該技術分野で利用可能な任意の好適な技術によって、使用前に所望のサイズ及び形状に調整される。典型的には、担体膜は、約5mm~約10mm、好ましくは約7.5mm~約8mmの直径を有する円形の形状を有する。いくつかの実施形態では、担体膜の最終的なサイズ及び形状は、ヒト角膜のものに対応する。通常、担体膜の厚さは、約100μm未満であり、好ましくは約5μm~約50μmの範囲にある。
【0090】
薬物開発及び基礎研究における使用
本発明は、薬物開発及び基礎研究にも適用されてもよい。例えば、本発明に従って生成されたCEC様細胞は、例えば、候補化合物によって影響を受ける生体分子相互作用及び経路を含む、候補化合物の生物学的及び薬理学的効果を研究することによって、その候補化合物の作用についての機構的洞察を得るために用いられてもよい。当該細胞は、機構的研究に加えて、例えば薬物スクリーニング又は毒物学的研究において用いられてもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、薬物開発の目的は、CEC様細胞に対する薬理学的効果の有無について候補化合物を特定することであってもよい。薬理学的効果の存在又は不存在は、対照細胞、例えば、対照化合物と接触させたCEC様細胞又は何らの試験化合物とも接触させていないCEC様細胞、における対応する効果と比較した、マーカー発現、形態、ポンピング活性、生存率、増殖速度、及びタンパク質、サイトカイン又は細胞外マトリクス成分の分泌の変化を含むがこれらに限定されない様々な読み取り値に基づいて判定されてもよい。
【0092】
当業者によって容易に理解されるように、用いられる読み取り値は、存在又は不存在が判定される対象である薬理学的効果に依存する。判定される薬理学的効果は、所望の薬理学的効果又は有害効果であってもよい。従って、CEC様細胞は、所望の薬理学的効果についてのスクリーニングにおいてだけでなく、有害な薬理学的効果又は任意の副作用、例えば毒性についてのスクリーニングにおいても使用されてもよい。
【0093】
従って、本発明は、本発明のCEC様細胞と、例えば上記の目的のための、細胞適合性溶液、担体、アジュバント及び/又は賦形剤等の1種以上の追加の成分とを含む調製物を提供する。いくつかの実施形態では、この担体は上記の担体膜であり、CEC様細胞は担体膜上に提供される。本明細書で使用する場合、用語「細胞適合性」は、細胞に著しい有害作用を及ぼすことなく生細胞を維持するのに使用するのに適した成分を広く指す。
【実施例
【0094】
実験部
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されることが意図されているわけではない。
【0095】
材料及び方法
細胞
胚性幹細胞(hESC)株Regea08/017を、Skottman、In Vitro Cell Dev Biol Anim. 2010;46(3-4):206-9によって記載され特徴付けられたように誘導した。
【0096】
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を、CytoTune(商標)-iPS2.0 Sendai Reprogramming Kitを製造者の指示に従って使用して、末梢血単核球から生成した。
【0097】
ヒト初代CECは、臨床使用に適さない提供された角膜から得た。
【0098】
研究のための余剰ヒト胚由来のhESC株の使用(R05116)並びに患者及び健康な自発的なドナーを含む眼科研究のためのhiPSC株の産生(R16116)に関するピルカンマー(Pirkanmaa)病院地域の倫理委員会からの適切な声明の下で、すべての細胞実験を実施した。さらには、Regea組織バンクとともに、Tampere University(タンペレ大学)は、移植に適さないヒトドナー角膜の研究使用について倫理的承認(R11134)を得ている。
【0099】
提供された組織の使用の書面及び口頭による説明の後に、各提供について自由かつ完全なインフォームドコンセントを受け取った。
【0100】
角膜内皮細胞(CEC)へのヒト多能性幹細胞(hPSC)の分化
胚性幹細胞(hESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)を使用してCECを生成した。簡潔には、hPSCを、ラミニン521(Biolamina(バイオラミナ))コーティングCellBind 6/12ウェルプレート(Corning(コーニング))上に10000~60000細胞/cm細胞密度で播種した。この細胞をEssential 8 Flex培地(Thermo Fisher(サーモフィッシャー))中で24時間培養した。1日目に、Essential 8 Flex培地を、10μM SB431542(Stemcell(ステムセル))、4μM CHIR99021(Stemcell)及び10μMレチノイン酸(RA、Sigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ))を補充した誘導培地と交換した。誘導培地のベースは、KO-DMEM、15%ノックアウト血清代替物、2mM GlutaMax-I、0.1mM 2-メルカプトエタノール(すべてThermo Fisher製)、1%非必須アミノ酸、50U/mlペニシリン/ストレプトマイシンからなった。4~7日目の間、RAを完全に除去するか、又はその濃度を、例えば10μM RAを3日間使用し、続いて次の1~3日間5μMに低下させ、さらに続いてこの分化方法の残りの期間中RAを完全に省略するか、若しくはRAの濃度を1μMに低下させることによって、濃度を徐々に低下させた。9日目の後、CEC様細胞は形成され、これを分析のために回収した。
【0101】
免疫細胞化学によるhPSC由来CECの特性決定
hPSC由来CECを免疫細胞化学によって分析した。簡潔には、この細胞を1%又は4%パラホルムアルデヒド(PFA、Sigma-Aldrich)で15分間固定した。次に、この細胞を0.1%Triton X-100(Sigma-Aldrich)で10分間透過処理し、続いて3%ウシ血清アルブミン(BSA)で1時間ブロッキングした。次いで、この細胞を最初に、1:400 密着帯1(ZO-1;Thermo Fisher)、1:200 α1ナトリウムカリウムATPアーゼ(Na+/K+-ATPアーゼ、Abcam(アブカム))及び1:400 CD166(BD Biosciences(ビーディー・バイオサイエンシーズ))一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。次に、この細胞をZO-1に対して1:800のロバ抗ウサギIgG二次抗体、Alexa Fluor 488(Thermo Fisher);Na+/K+-ATPアーゼ及びCD166に対して1:800のロバ抗マウスIgG二次抗体、Alexa Fluor 568(Thermo Fisher);OCT-3/4に対して1:800のロバ抗ヤギIgG二次抗体、Alexa Fluor 568(Thermo Fisher)で処理した。核を4’,6-ジアミジン-2’-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI、Vector laboratories(ベクター・ラボラトリーズ))で対比染色した。マウントした細胞の像を、蛍光顕微鏡(Olympus IX51;オリンパス、東京、日本)を用いて取り込み、画像編集ソフトウェア(Adobe photoshop CC2018;Adobe Systems(アドビシステムズ))を用いて調製した。
【0102】
位相差顕微鏡法
DS-Fi1カメラを備えた位相差光学顕微鏡Nikon Eclipse TE2000-S(ニコン、東京、日本)を使用して、細胞形態の像を取り込んだ。
【0103】
qPCR
Rneasy Minikit Plus(Qiagen(キアゲン))を用いて、未分化hPSC(d0)から、及びhCEC誘導の時間の間の3つの時間点(d3、d6及びd9)から全RNAを抽出した。各試料のRNA濃度を、NanoDrop-1000分光光度計(NanoDrop Technologies(ナノドロップ・テクノロジーズ))を使用して決定した。各RNA試料から、400ngを使用して、High-Capacity cDNA RTキット(Applied Biosystems(アプライド・バイオシステムズ))を使用してcDNAを合成した。得られたcDNA試料を、配列特異的TaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher)を用いて、OCT4(Hs00999632_g1)、PITX2(Hs01553179_m1)、AQP1(Hs01028916_m1)、SLC4A4(Hs00186798_m1)、及びFOXC1(Hs00559473_s1)についてqPCRにより分析した。すべての試料を、7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いて3回の反応として実行した。結果を7300 System SDS Software(Applied Biosystems)及びMicrosoft Excel(マイクロソフト・エクセル)(登録商標)で分析した。このソフトウェアによって与えられるサイクル閾値(CT)の値に基づいて、各遺伝子の相対的定量を、-2ΔΔCt法(Livak及びSchmittgen、2001)を適用することによって計算した。結果をGAPDH(Hs99999905_m1)に対して正規化し、未分化hPSCを較正物質として用いて、各試料における遺伝子発現の相対量を決定した。
【0104】
結果
以前の研究において、SB431542及びCHIR99021は、神経堤細胞の分化に使用され、その後、B27、PDGF-BB及びDKK2等の様々な誘導カクテルの添加が続いた(Wagonerら、2018)。本発明者らは、分化開始時に3~5日間、SB431542及びCHIR99021とともにレチノイン酸(RA)を添加することにより、角膜内皮細胞(CEC)様細胞をより簡単かつ迅速に分化させることができることを見出した。7日間の分化後、細胞の形態は多角形になり、天然の六角形の外観に近くなった。最初の3~5日間のRAの存在は、細胞単層をドーム様構造にし、これは、細胞におけるバリア特性及びポンピング活性を示す。RAを用いない細胞培養物は、これらの特徴を有さなかった(図1)。
【0105】
このCEC様細胞をさらに特徴付けるために、免疫蛍光染色を実施して、正しいタンパク質発現及び局在を検証した。この細胞を、基本的なCECマーカーである密着帯1(ZO-1)、密着結合マーカーであるNa+/K+ATPアーゼ、CECにとって重要なポンプタンパク質、及びCD166、CECに比較的特異的であることが認められている表面マーカー、について免疫染色した(図2)。ZO-1は細胞の境界に局在し、細胞が強固に接着していることを実証した(図2)。RAを用いた細胞は、Na+/K+ATPアーゼ免疫染色を比較すると、培養したヒト初代CECによく似ていた(図3)。CD166は、Na+/K+ATPアーゼと同じ領域の表面上に局在していた(図2)。
【0106】
OCT3/4(POU5F1)発現の欠如は、免疫蛍光染色(図4)及びqPCR(図5)の両方において観察され、分化細胞集団における幹細胞の不存在を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】