(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】平版印刷版原版および使用方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/004 20060101AFI20230920BHJP
B41N 1/14 20060101ALI20230920BHJP
B41C 1/10 20060101ALI20230920BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20230920BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G03F7/004 501
B41N1/14
B41C1/10
G03F7/004 505
G03F7/027
G03F7/00 503
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514095
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-04-19
(86)【国際出願番号】 US2021046599
(87)【国際公開番号】W WO2022051095
(87)【国際公開日】2022-03-10
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 靖
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昌道
(72)【発明者】
【氏名】油野 丸
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー・マーク・ヤトヴィン
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB13
2H084CC05
2H114AA04
2H114AA23
2H114DA04
2H114DA51
2H114GA09
2H114GA23
2H196AA06
2H196BA05
2H196BA06
2H196CA03
2H196CA05
2H225AC37
2H225AD20
2H225AM04P
2H225AM13P
2H225AM26P
2H225AM32N
2H225AM36P
2H225AM66P
2H225AM86P
2H225AM94P
2H225AN02P
2H225AN10P
2H225AN11P
2H225AN38P
2H225AN56P
2H225AN66P
2H225AN68P
2H225AN92P
2H225AP01N
2H225BA01P
2H225BA12P
2H225BA17P
2H225BA18P
2H225BA33P
2H225CB01
2H225CC01
2H225CC13
2H225CD09
(57)【要約】
平版印刷版原版は、IR吸収剤と、分子量1500以下のオゾン遮断材料とを含む赤外線感受性画像記録層を有し、オゾン遮断材料は、構造(I)、(II)、または(III):
[化1]
(式中、Rは炭素数14~30の炭化水素であり、mは1または2であり、nは2~6であり、mとnとの和は3より大きく8未満であり、Aは、R基もOH基も含まない多価有機部分であり、m+nの価数を有する);
[化2]
(式中、R
1およびR
2は、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3である);
R
3C(=O)NR
4R
5 (III)
(式中、R
3は、炭素数16~30の炭素-炭素鎖内にC=C結合を有するアルケニルであり、R
4およびR
5は、水素または炭素数1~4の非置換アルキルである)
を有する。このようなオゾン遮断材料は、オゾンによって劣化し得る赤外線感受性染料を保護し、それによって画像形成感度を改善するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に配置された1つ以上の赤外線感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、
前記平版印刷版原版は、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも1つに、1つ以上の赤外線吸収剤とオゾン遮断材料とをさらに含み、前記オゾン遮断材料は、分子量が1500以下であり、以下の構造(I)、(II)、または(III):
【化1】
(式中、Rは炭素数14~30の炭化水素基であり、mは1または2であり、nは2~6であり、mとnとの和は3より大きく8未満であり、Aは、R基もOH基も含まない多価有機部分であり、Aは、mとnとの和に等しい価数を有する);
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である);ならびに
R
3C(=O)NR
4R
5 (III)
(式中、R
3は、炭素数16~30の炭素-炭素鎖内に少なくとも1つのC=C二重結合を含むアルケニル基であり、R
4およびR
5は、独立して、水素原子または炭素数1~4の非置換アルキル基である)
で表される、平版印刷版原版。
【請求項2】
前記1つ以上の赤外線吸収剤および前記オゾン遮断材料が、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも最も外側の赤外線感受性画像記録層中に位置する、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
ネガ型赤外線感受性画像記録層を含むネガ型平版印刷版原版であり、前記1つ以上の赤外線吸収剤および前記オゾン遮断材料が、少なくとも前記ネガ型赤外線感受性画像記録層中に位置する、請求項1または2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が最外層である、請求項3に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、
a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分、および
b)フリーラジカルを発生させることができる開始剤組成物
をさらに含み、
前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、a)、b)、前記1つ以上の赤外線吸収剤、および構造(I)、(II)、または(III)の前記オゾン遮断材料とは異なる1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料を場合によりさらに含む、請求項3または4に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記非フリーラジカル重合性ポリマー材料が粒子形態で存在する、請求項5に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記Rの炭化水素基が直鎖または分岐鎖アルキル基である、請求項1から6のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記オゾン遮断材料が、以下の材料:
ソルビトールモノステアレート、ソルビトールモノパルミテート、ソルビトールモノミリステート、ソルビトールモノベヘネート、ソルビトールジステアレート、ソルビトールジパルミテート、ソルビトールジミリステート、ソルビトールジベヘネート、オレアミド、エルカミド、および以下の構造(II):
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である)で表される化合物
のうちの1つ以上を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
前記1つ以上の赤外線吸収剤のうち少なくとも1つが、赤外線吸収シアニン染料である、請求項1から8のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項10】
前記オゾン遮断材料が、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも1つに、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち前記少なくとも1つの全固形分に基づいて、少なくとも1重量%~15重量%以下の量で存在する、請求項1から9のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項11】
前記オゾン遮断材料と前記1つ以上の赤外線吸収剤とを含むネガ型赤外線感受性画像記録層を含み、前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、赤外線に露光されない領域において、平版インキ、湿し水、または平版インキと湿し水との組み合わせを使用して機上で除去可能である、請求項1から10のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項12】
前記オゾン遮断材料が、前記ネガ型赤外線感受性画像記録層に、前記ネガ型赤外線感受性画像記録層の全固形分に基づいて、少なくとも2重量%~10重量%以下の量で存在する、請求項11に記載の平版印刷版原版。
【請求項13】
前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、
a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分、および
b)フリーラジカルを発生させることができる開始剤組成物
を含み、
前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、a)、b)、前記1つ以上の赤外線吸収剤、および構造(I)、(II)、または(III)の前記オゾン遮断材料とは異なる1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料を場合によりさらに含む、請求項11または12に記載の平版印刷版原版。
【請求項14】
前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、少なくとも2種のフリーラジカル重合性成分を含む、請求項13に記載の平版印刷版原版。
【請求項15】
前記基板が、酸化アルミニウム層と、前記酸化アルミニウム層上に配置された親水性ポリマーコーティングとを含むアルミニウム含有基板を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項16】
すべて前記少なくとも1つの赤外線感受性画像記録層の総重量に基づいて、構造(I)、(II)、または(III)の前記オゾン遮断材料が、少なくとも2重量%~10重量%以下の量で存在し、前記1つ以上の赤外線吸収剤が、少なくとも0.5重量%~30重量%以下の量で存在する、請求項1から15のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項17】
平版印刷版を提供する方法であって、
A)請求項1から16のいずれか一項に記載の平版印刷版原版を画像形成赤外線に画像様露光して、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層に露光領域および未露光領域を提供する工程と、
B)前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層における前記露光領域または前記未露光領域のいずれかを前記基板から除去する工程と
を含む、方法。
【請求項18】
前記平版印刷版原版が、前記オゾン遮断材料を含むネガ型赤外線感受性画像記録層を含むネガ型平版印刷版原版であり、前記方法が、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して、前記基板から前記ネガ型赤外線感受性画像記録層の前記未露光領域を機上で除去する工程を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記オゾン遮断材料が、以下の材料:
ソルビトールモノステアレート、ソルビトールモノパルミテート、ソルビトールモノミリステート、ソルビトールモノベヘネート、ソルビトールジステアレート、ソルビトールジパルミテート、ソルビトールジミリステート、ソルビトールジベヘネート、オレアミド、エルカミド、および以下の構造(II):
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である)で表される化合物
のうちの1つ以上を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
すべて前記少なくとも1つの赤外線感受性画像記録層の総重量に基づいて、構造(I)、(II)、または(III)の前記オゾン遮断材料が、少なくとも2重量%~10重量%以下の量で存在し、前記1つ以上の赤外線吸収剤が、少なくとも0.5重量%~30重量%以下の量で存在する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を使用して画像形成を行って、画像形成された平版印刷版を提供することができる赤外線感受性平版印刷版原版に関する。このような原版は、周囲のオゾンに感受性を示すIR染料を保護し、それによって原版の画像形成感度を改善することができる低分子量オゾン遮断材料を含む。本発明の原版は、特にネガ型であり、機上現像可能である。本発明はまた、これらの原版を使用して、適切な画像形成および現像後に平版印刷版を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成システム、例えばコンピューター・トゥ・プレート(CTP)画像形成システムは、当該技術分野において既知であり、平版印刷版原版に画像を記録するために使用される。このような原版は、典型的には親水性表面を有するアルミニウムから構成される基板を含み、この親水性表面上には1つ以上の放射感受性画像形成可能層が配置される。平版印刷では、画像領域として知られる平版インキ受容領域が、基板の親水性表面上に生成される。印刷版表面を水で湿らせて平版印刷インキを塗布すると、親水性領域は水を保持して平版印刷インキをはじき、平版インキ受容画像領域は平版印刷インキを受容して水をはじく。平版印刷インキは、おそらくブランケットローラーを使用して材料の表面に転写され、それにより画像が再生される。
【0003】
平版印刷版原版は、「ポジ型」または「ネガ型」のいずれかであると考えられる。ポジ型平版印刷版原版は、1つ以上の放射感受性層を含んで設計され、その結果、赤外線などの適切な放射に画像様露光されると、層の露光領域がアルカリ性溶液に対してより一層溶解性になり、加工中に除去されて、印刷用の平版インキを受け入れる未露光領域を残すことができる。
【0004】
対照的に、ネガ型平版印刷版原版は、放射感受性層を含んで設計され、その結果、赤外線などの適切な放射に画像様露光されると、層の露光領域は硬化して加工中の除去に耐えるようになり、一方、未露光領域は加工中に除去可能である。
【0005】
平版印刷業界の現在の技術水準では、平版印刷版原版は、通常、画像形成された原版から不要な材料を除去するための追加の加工(現像)の前に、(CTP画像形成のための)プレートセッターとして一般に知られている画像形成装置内で、レーザーを使用して赤外線などの画像形成放射に画像様露光される。
【0006】
近年、平版印刷業界では、平版印刷インキもしくは湿し水、またはその両方を使用して機上現像(「DOP」)を実施して画像記録層の未露光領域を除去することによる平版印刷版の製造において、簡素化に対する要望が高まっている。したがって、機上現像可能な平版印刷版原版の使用は、環境への影響が少ないことや、加工用化学物質、加工装置の床面積、ならびに運用および保守コストの節約を含めた多くの利点のために、印刷業界においてますます採用されている。レーザー画像形成後、機上現像可能な原版は、平版印刷機に直接取り込むことができる。
【0007】
この業界で使用されるこれらのポジ型およびネガ型の平版印刷原版の多くは、近赤外線または赤外線(典型的には、少なくとも800nmの放射を有する放射)に感受性を示すように設計されている。このような感度は、その多くが当該技術分野において既知のさまざまな赤外線感受性染料を用いて提供され得る。このような赤外線感受性染料を含有する機上現像可能な原版などのネガ型原版を設計することが、特に望ましくなってきた。有用な赤外線感受性染料は、発色団部分間にポリメチン鎖を含むシアニン染料化合物であり得る。
【0008】
しかしながら、このような赤外線感受性染料の多くは、特に該化合物が原版の1つ以上の最上層に組み込まれる場合、周囲のオゾンの存在下での攻撃または画像形成感度の低下に対して特に脆弱であることがわかった。このような原版は、このオゾンへの曝露の問題が顕著である場合、その機上耐久性を失い得ることも観察されている。これらの問題は、原版が露光され、加工(現像)され、平版印刷に使用される前に長期間貯蔵される場合に特に深刻であり得る。
【0009】
米国特許出願公開第2019/0022993号明細書(Igarashiら)は、周囲のオゾンを除去して、ネガ型平版印刷版原版に対するオゾンの影響を低減するために、特別に設計された画像形成装置(プレートセッターなど)と組み合わせて特異的に配置されたフィルタを使用することを記載している。
【0010】
周囲のオゾンによって引き起こされる問題を見出したため、画像形成感度が失われず、印刷耐久性が低下しないように、平版印刷業界のためにこの問題を解決する必要がある。さらに、オゾンフィルタを使用する米国特許出願公開第‘993号明細書に記載された特別に設計された装置は、当該技術分野に進歩をもたらしたが、原版自体を設計しなおすことによってこの問題を解決する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0022993号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明は、基板と、上記基板上に配置された1つ以上の赤外線感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、
上記平版印刷版原版は、上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも1つに、1つ以上の赤外線吸収剤とオゾン遮断材料とをさらに含み、上記オゾン遮断材料は、分子量が1500以下であり、以下の構造(I)、(II)、または(III):
【化1】
(式中、Rは炭素数14~30の炭化水素基であり、mは1または2であり、nは2~6であり、mとnとの和は3より大きく8未満であり、Aは、R基もOH基も含まない多価有機部分であり、Aは、mとnとの和に等しい価数を有する);
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である);ならびに
R
3C(=O)NR
4R
5 (III)
(式中、R
3は、炭素数16~30の炭素-炭素鎖内に少なくとも1つのC=C二重結合を含むアルケニル基であり、R
4およびR
5は、独立して、水素原子または炭素数1~4の非置換アルキル基である)
で表される、平版印刷版原版を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、平版印刷版を提供する方法であって、
A)本発明のいずれかの実施形態に記載の平版印刷版原版を画像形成赤外線に画像様露光して、上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層に露光領域および未露光領域を提供する工程と、
B)上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層における上記露光領域または上記未露光領域のいずれかを上記基板から除去する工程と
を含む、方法を提供する。
【0014】
本発明は、オゾン遮断材料を赤外線感受性画像記録層に組み込むことによって、周囲のオゾンによって引き起こされる上述の問題を克服する。赤外線感受性画像記録層中に存在するこのオゾン遮断材料は、赤外染料の優れた劣化耐性を提供し、したがって、周囲のオゾンの存在下で画像形成速度(感度)を維持する作業者の能力を改善する。本発明の特定の機構的理解に限定されるものではないが、本発明に従って使用されるオゾン遮断材料は、自己層化によって画像記録層の表面にオゾン遮断バリア層を形成するか、または赤外染料分子の周りにオゾン遮断ミセル膜を形成すると考えられる。さらに、本発明に従って使用されるオゾン遮断材料は、機上現像可能な平版印刷版原版と適合し、その結果、画像記録層中にオゾン遮断材料が存在することによって、機上現像性が悪影響を受けたり損なわれたりすることはないことがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の考察は、本発明のさまざまな実施形態を対象としており、いくつかの実施形態は特定の用途に望ましい可能性があるが、開示された実施形態は、以下に特許請求されるような本発明の範囲を限定すると解釈されたり、あるいは見なされたりするべきではない。さらに、当業者であれば、以下の開示が、いかなる特定の実施形態の考察において明示的に記載されているよりも広い用途を有することを理解するであろう。
【0016】
定義
赤外線感受性画像記録層、および本発明の実施に使用される他の層または材料のさまざまな成分を定義するために本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は、該成分を1つ以上(すなわち、複数の指示対象を含めて)含むことを意図する。
【0017】
本出願において明示的に定義されていない各用語は、当業者によって一般に受け入れられる意味を有すると理解されるべきである。ある用語の解釈がその文脈において該用語を無意味または本質的に無意味にする場合、その用語は標準的な辞書に記載の意味を有すると解釈すべきである。
【0018】
本明細書に明記するさまざまな範囲内の数値の使用は、別段の明示的な指示がない限り、記載された範囲内の最小値および最大値の両方の前に「約」という語が付されたものとして近似であると見なすべきである。このように、記載された範囲の上下のわずかな変動は、その範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するのに有用であり得る。さらに、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間のすべての値、および範囲の終点を含む連続的な範囲であると意図されている。
【0019】
文脈上別段の指示がない限り、本明細書で使用される場合、「平版印刷版原版」、「原版」、および「IR感受性平版印刷版原版」という用語は、本発明の実施形態に等しく言及するものであることを意図する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「赤外線吸収剤」という用語は、電磁スペクトルの近赤外(近IR)および赤外(IR)領域の電磁放射を吸収する化合物または材料を指し、典型的には、近IRおよびIR領域に吸収極大を有する化合物または材料を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「近赤外領域」および「赤外領域」という用語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの場合、これらの用語は、少なくとも750nm、よりふさわしくは少なくとも800nm~1400nm以下の電磁スペクトルの領域を指すために使用される。
【0022】
ポリマーに関するあらゆる用語の定義を明確にするには、International Union of Pure and Applied Chemistry(国際純正応用化学連合「IUPAC」)が公表した「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl. Chem. 68,2287-2311(1996)を参照されたい。しかしながら、本明細書に明示的に記載されたあらゆる定義は、支配的であると見なすべきである。
【0023】
本明細書で使用される場合、「ポリマー」という用語は、多くの小さな反応性モノマーを連結して同じ化学組成の繰り返し単位を形成することによって形成された、比較的大きな分子量を有する化合物をいうために使用される。これらのポリマー鎖は、通常、ランダムな様式でコイル状構造を形成する。溶媒の選択により、ポリマーは、鎖長が成長するにつれて不溶性になり、溶媒中に分散したポリマー粒子になり得る。これらの粒子分散液は、非常に安定であり得、本発明における使用について記載される赤外線感受性画像形成可能層において有用であり得る。本発明において、別段の指示がない限り、「ポリマー」という用語は、非架橋材料を指す。したがって、架橋ポリマー粒子は、非架橋ポリマー粒子とは異なり、この差異は、非架橋ポリマー粒子が、溶媒和特性が良好な特定の有機溶媒に溶解し得るのに対して、架橋ポリマー粒子は、ポリマー鎖が強い共有結合によって連結されているため、有機溶媒に膨潤し得るが溶解しないという点におけるものである。
【0024】
「コポリマー」という用語は、ポリマー鎖に沿って配置された2つ以上の異なる反復単位、すなわち繰り返し単位から構成されるポリマーを指す。
【0025】
「骨格」という用語は、複数のペンダント基が結合することができるポリマー中の原子の鎖を指す。このような骨格の一例は、1つ以上のエチレン性不飽和重合性モノマーの重合から得られる「全炭素」骨格である。
【0026】
本明細書で使用される場合、「エチレン性不飽和重合性モノマー」という用語は、フリーラジカルまたは酸触媒重合反応および条件を使用して重合可能な1つ以上のエチレン性不飽和(-C=C-)結合を含む化合物を指す。この用語は、該条件下で重合可能ではない不飽和-C=C-結合のみを有する化合物を指すことを意図するものではない。
【0027】
別段の指示がない限り、「重量%」という用語は、組成物、配合物、または層の全固形分に基づく成分または材料の量を指す。別段の指示がない限り、パーセンテージは、乾燥層、または配合物もしくは組成物の全固形分のいずれについても同じであり得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「層」または「コーティング」という用語は、1つの配置された層もしくは塗布された層、またはいくつかの連続して配置された層もしくは塗布された層の組み合わせからなり得る。層が赤外線感受性であり、ネガ型であると考えられる場合、この層は、(「赤外線吸収剤」について上述したように)赤外線に感受性であるとともに、平版印刷版の形成においてネガ型である。層が赤外線感受性であり、ポジ型であると考えられる場合、この層は、(「赤外線吸収剤」について上述したように)赤外線に感受性であるとともに、平版印刷版の形成においてポジ型である。
【0029】
使用
本発明による平版印刷版原版は、1つ以上の赤外線感受性画像記録層に存在するポジ型またはネガ型のいずれかの画像形成用の化学構造から平版印刷版を提供するのに有用である。これらの平版印刷版は、印刷操作中において平版印刷に有用である。平版印刷版は、本発明による機上または機外加工を使用して製造され得る。平版印刷版原版は、以下に記載する構造および成分を用いて製造される。
【0030】
平版印刷版原版
本発明による原版は、以下に記載するような1つ以上の赤外線感受性画像記録組成物を(以下に記載するような)適切な基板に適切に塗布して、1つ以上の赤外線感受性画像記録層を基板上に形成することによって形成され得る。以下の具体的な項目で定義するように、これらの組成物および層、ならびに得られる平版印刷版原版は、ネガ型原版またはポジ型原版のいずれかであるように設計され得る。これらの原版はすべて、基板の存在を必要とする。
【0031】
基板:
本発明による原版を製造するために使用される基板は、一般に、親水性の画像形成側表面を有するか、または塗布された赤外線感受性画像記録層よりも親水性である表面を少なくとも有する。基板は、一般に、平版印刷版原版を製造するために従来使用されている原料アルミニウムまたは適切なアルミニウム合金から構成され得るアルミニウム含有支持体を含む。
【0032】
アルミニウム含有基板は、当該技術分野において既知の技術、例えば物理的(機械的)粒状化、電気化学的粒状化、または化学的粒状化によるある種の粗面化を使用して処理され得、続いて1種以上の陽極酸化処理が行われる。各陽極酸化処理は、典型的には、リン酸または硫酸のいずれかと従来の条件とを使用して行われ、アルミニウム含有支持体上に所望の親水性酸化アルミニウム(または陽極酸化物)層を形成する。1つの酸化アルミニウム(陽極酸化物)層が存在してもよく、またはさまざまな深さおよび形状の細孔開口部を有する複数の細孔を有する複数の酸化アルミニウム層が存在してもよい。したがって、このようなプロセスは、以下に記載するように提供され得る赤外線感受性画像記録層の下に1つ以上の陽極酸化物層を提供する。このような細孔および細孔幅を制御するプロセスの考察は、例えば、米国特許出願公開第2013/0052582号明細書(Hayashi)、第2014/0326151号明細書(Nambaら)、および第2018/0250925号明細書(Merkaら)、ならびに米国特許第4,566,952号明細書(Sprintschuikら)、第8,789,464号明細書(Tagawaら)、第8,783,179号明細書(Kurokawaら)、および第8,978,555号明細書(Kurokawaら)、ならびに欧州特許第2,353,882号明細書(Tagawaら)に記載されている。2種の連続的な陽極酸化処理を提供して、改善された基板中に異なる酸化アルミニウム層を提供することについての教示は、例えば、米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(Merkaら)に記載されている。
【0033】
アルミニウム支持体の硫酸陽極酸化は、一般に、少なくとも1g/m2~5g/m2以下、より典型的には少なくとも3g/m2~4g/m2以下の表面上のアルミニウム(陽極)酸化物重量(被覆量)を与える。リン酸陽極酸化は、一般に、少なくとも0.5g/m2~5g/m2以下、より典型的には少なくとも1g/m2~3g/m2以下の表面上のアルミニウム(陽極)酸化物重量を与える。
【0034】
陽極酸化アルミニウム含有支持体は、既知の陽極処理後プロセス、例えばポリ(ビニルホスホン酸)(PVPA)、ビニルホスホン酸コポリマー、ポリ[(メタ)アクリル酸]もしくはそのアルカリ金属塩、または(メタ)アクリル酸コポリマーもしくはそのアルカリ金属塩、リン酸塩とフッ化物塩との混合物、またはケイ酸ナトリウムなどの1つ以上の親水性物質の水溶液を使用する後処理を使用して、陽極酸化物細孔を封止するために、またはその表面を親水化するために、またはその両方のためにさらに処理され得る。後処理プロセス材料はまた、処理された表面と該表面上の赤外線露光領域との間の接着を強化するために不飽和二重結合を含み得る。このような不飽和二重結合は、低分子量材料中に提供され得、またはポリマーの側鎖中に存在し得る。有用な後処理プロセスとしては、すすぎ有りで基板を浸漬すること、すすぎ無しで基板を浸漬すること、および押出コーティングなどのさまざまなコーティング技術が挙げられる。
【0035】
いくつかの実施形態では、親水性層は2つの成分を含む:(1)1つ以上のエチレン性不飽和重合性基、少なくとも1つがリン原子に直接結合している1つ以上の-OM基、および2000ダルトン/モル未満または1500ダルトン/モル未満の分子量を有するものとして以下のように定義され、ここで、Mが水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す、化合物;ならびに(2)それぞれが少なくとも(a)アミド基を含む繰り返し単位と、b)リン原子に直接結合している-OM’基を含む繰り返し単位とを含み、ここで、M’が水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウムイオンである、1つ以上の親水性ポリマー。MおよびM’は、所与の親水性層配合物中で同じまたは異なる原子であり得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、親水性層は、1つ以上の親水性ポリマーを含み、その各々は、少なくとも(a)アミド基を含む繰り返し単位と、(b)リン原子に直接結合している-OM’基を含む繰り返し単位とを含み、ここで、M’は、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウムイオンである。MおよびM’は、所与の親水性層配合物中で同じまたは異なる原子であり得る。このような親水性層配合物には、リン酸などの無機酸が添加され得る。
【0037】
陽極酸化アルミニウム含有基板は、アルカリ性または酸性の細孔拡大溶液で処理して、柱状細孔を含む陽極酸化物層を提供し得る。いくつかの実施形態では、処理されたアルミニウム含有基板は、粒状化、陽極酸化、および後処理されたアルミニウム含有支持体上に直接配置された親水性層を含み得、このような親水性層は、カルボン酸側鎖を有する非架橋親水性ポリマーを含み得る。
【0038】
基板の厚みは変えることができるが、印刷による摩耗に耐えるのに十分であり、印刷版に沿わせるのに十分な薄さでなければならない。有用な実施形態としては、少なくとも100μm~700μm以下の厚みを有する処理されたアルミニウム箔が挙げられる。基板の裏面(非画像形成面)は、原版の取り扱いおよび「感触」を改善するために帯電防止剤、滑り層、または艶消し層でコーティングされ得る。
【0039】
基板は、赤外線感受性画像記録層配合物、および場合により親水性保護層配合物で適切にコーティングされたシート材料の連続ロール(または連続ウェブ)として形成され得、続いてサイズに合わせて細長く切るか、もしくは切断(またはその両方)して、四隅が直角の形状または形態を有する(したがって、典型的には正方形または長方形の形状または形態の)個々の平版印刷版原版を提供し得る。典型的には、切断された個々の原版は、平面的な、またはほぼ平坦な長方形の形状を有する。
【0040】
ネガ型平版印刷原版
本発明によるネガ型平版印刷版原版は、以下の成分および材料を使用して構築することができる。典型的には、これらの原版のそれぞれは、(上記のような)基板を有し、基板上には、赤外線画像形成と、画像記録層の未露光領域の除去を容易にするための適切な加工とに適した化学構造を含むネガ型赤外線感受性画像記録層が配置されている。ある種のネガ型平版印刷版原版の場合、1つのネガ型赤外線感受性画像記録層が基板上に存在する。
【0041】
本発明による赤外線感受性画像記録層組成物(および該組成物から製造される赤外線感受性画像記録層)は、該用語が平版印刷の技術分野において知られているように「ネガ型」になるように設計される。さらに、赤外線感受性画像記録層は、露光後の平版印刷版原版に機上現像性を提供するために、例えば、湿し水、平版印刷インキ、またはこれら2つの組み合わせを使用した現像を可能にするために、成分の特定の組み合わせで設計され得る。
【0042】
赤外線画像記録層:
原版は、以下に記載するような1つ以上の赤外線感受性組成物を(上記のような)適切な基板に適切に塗布して、1つ以上の赤外線感受性画像記録層を該基板上に形成することによって形成され得、該赤外線感受性画像記録層のそれぞれは、一般にネガ型である。一般に、少なくとも1つの赤外線感受性画像記録層は、以下に定義する1つ以上のオゾン遮断材料、1つ以上の赤外線吸収剤、ネガ型原版については、a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分、およびb)ネガ型赤外線感受性画像記録層の画像形成赤外線への露光時にフリーラジカルを与える開始剤組成物を必須成分として含み、場合により、a)、b)、赤外線吸収剤、およびオゾン遮断材料のすべてとは異なる1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料を含む。これらの必須成分および任意成分はすべて、以下でより詳細に説明される。このような赤外線感受性画像記録層は、一般に原版の最外層であり得る。
【0043】
1つ以上の赤外線感受性画像記録層の必須成分は、分子量が少なくとも200~1500以下、よりふさわしくは少なくとも250~1200以下であるオゾン遮断材料である。異なる部類の化合物からのこのようなオゾン遮断材料の2つ以上の組み合わせも使用され得る。
【0044】
より具体的には、有用なオゾン遮断材料のそれぞれは、以下の構造(I)、(II)、または(III):
【化3】
(式中、Rは、炭素数が少なくとも14~30以下の炭化水素基であり、mは1または2であり、nは2~6であり、mとnとの和は3より大きく8未満であり、Aは、R基もOH基も含まない多価有機部分であり、Aは、mとnとの和に等しい価数を有する);
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である);ならびに
R
3C(=O)NR
4R
5 (III)
(式中、R
3は、炭素数16~30の炭素-炭素鎖内に少なくとも1つのC=C二重結合を含むアルケニル基であり、R
4およびR
5は、独立して、水素原子または炭素数1~4の非置換アルキル基である)
で表され得る。
【0045】
より具体的には、Rは、炭素数が少なくとも14~30以下、またさらには少なくとも16~22以下の炭化水素基であり得る。有用な炭化水素基は、各部分に水素原子および炭素原子のみを含み、直鎖もしくは分岐鎖部分、または1つ以上の縮合非芳香族環を有する環状部分を含み得る。有用な炭化水素基の例としては、直鎖または分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、直鎖または分岐鎖アルケニル基、および直鎖または分岐鎖アルキニル基が挙げられるが、これらに限定されない。特に有用な炭化水素基は、直鎖または分岐鎖アルキル基である。
【0046】
多価「A」部分は、R基とOH基とを連結するのに十分な原子価を与え、オゾン遮断材料の分子量を先に定義した特定の範囲内に維持するのに十分小さい限り、特に限定されない。多価A部分は、必須原子として炭素および水素を含む有機部分である。多価A部分はまた、ヘテロ原子、例えば酸素、硫黄、窒素、およびハロゲン原子を、それらの任意の適切な組み合わせで含み得る。
【0047】
上記のように、構造(I)、(II)、および(III)のそれぞれで表される1つ以上の化合物を含む混合オゾン遮断材料が使用され得る。
【0048】
構造(I)、(II)、または(III)に該当するいくつかの有用なオゾン遮断材料としては、単独でまたは2つ以上の組み合わせで使用され得る以下の材料が挙げられる:
ソルビトールモノステアレート、ソルビトールモノパルミテート、ソルビトールモノミリステート、ソルビトールモノベヘネート、ソルビトールジステアレート、ソルビトールジパルミテート、ソルビトールジミリステート、ソルビトールジベヘネート、オレアミド、エルカミド、および以下の構造(II):
【化5】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数が少なくとも14~22以下の非置換アルキル基(環状基、直鎖基、または分岐鎖基)であり、「o」は、1~3(または1~2)の整数である)で表される化合物。
【0049】
ほとんどの実施形態では、構造(I)、(II)、または(III)による1つ以上のオゾン遮断材料、および1つ以上の赤外線吸収剤は、少なくとも平版印刷版原版中に存在する最も外側の赤外線感受性画像記録層中に、一緒に配置される。しかしながら、少なくとも1つの赤外線吸収剤および少なくとも1つのオゾン遮断材料が最も外側の赤外線感受性画像記録層に位置する限り、赤外線吸収剤のうちの1つ以上またはオゾン遮断材料のうちの1つ以上が複数の層に位置し得る。典型的には、この最外層は、ネガ型赤外線感受性画像記録層であってもよく、または最も外側のポジ型赤外線感受性画像記録層(後述)であってもよい。
【0050】
構造(I)、(II)、または(III)による1つ以上のオゾン遮断材料は、例えば1つ以上の赤外線感受性画像記録層(ネガ型赤外線感受性画像記録層など)のうちの1つのそれぞれにおいて、すべて1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうちの1つのそれぞれの全固形分に基づいて、少なくとも1重量%または少なくとも2重量%、かつ10重量%以下または15重量%以下の量で原版中に存在し得る。ほとんどの実施形態では、これらの量は、オゾン遮断材料が1つの画像記録層中に分布しているか複数の画像記録層中に分布しているかにかかわらず、原版中のオゾン遮断材料の総量を表す。
【0051】
構造(I)、(II)、または(III)によるオゾン遮断材料は、既知の出発材料を使用して当該技術分野において既知の日常的な合成方法によって提供することができ、または実施例について以下に述べるようにさまざまな商業的供給源から得ることができる。
【0052】
さらに、少なくとも1つの赤外線感受性画像記録層は、所望の赤外線感度を提供するため、または放射を熱に変換するため、またはその両方のために1つ以上の赤外線吸収剤を含む。有用な赤外線吸収剤は、顔料または赤外線吸収染料であり得る。適切な染料は、例えば、米国特許第5,208,135号明細書(Patelら)、第6,153,356号明細書(Uranoら)、第6,309,792号明細書(Hauckら)、第6,569,603号明細書(Furukawa)、第6,797,449号明細書(Nakamuraら)、第7,018,775号明細書(Tao)、第7,368,215号明細書(Munnellyら)、第8,632,941号明細書(Balbinotら)、および米国特許出願公開第2007/056457号明細書(Iwaiら)に記載されているものである。いくつかの実施形態では、ネガ型赤外線感受性画像記録層中の少なくとも1つの赤外線吸収剤が、適切なカチオン性シアニン発色団と、テトラアリールボレートアニオン、例えばテトラフェニルボレートアニオンとを含むシアニン染料であることが有用である。このような染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載のものが挙げられる。
【0053】
低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーに結合するIR染料発色団も同様に使用することができる。さらに、IR染料カチオンも同様に使用することができ、すなわち、カチオンは、側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホ、またはホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0054】
1つ以上の赤外線吸収剤の総量は、少なくとも1つ以上のネガ型赤外線感受性画像記録層の総乾燥被覆量に基づいて、少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%、かつ15重量%以下または30重量%以下である。オゾン遮断材料について上述したように、記載された量の1つ以上の赤外線吸収剤は、1つまたは複数の赤外線感受性画像記録層中に存在し得、記載された量は原版中の総量であり得る。
【0055】
有用な赤外線吸収剤は、世界中のさまざまな商業的供給源から得ることができ、あるいは、熟練した合成化学者が行うことができるように、既知の化学合成方法および出発材料を使用して調製することができる。
【0056】
本発明による特に有用なネガ型平版印刷版原版は、構造(I)、(II)、または(III)による上述の1つ以上のオゾン遮断材料と1つ以上の赤外線吸収剤とを含み、
a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分、および
b)フリーラジカルを発生させることができる開始剤組成物
をさらに含むネガ型赤外線感受性画像記録層を含み、
ネガ型赤外線感受性画像記録層は、
先に定義したa)、b)、赤外線吸収剤、およびオゾン遮断材料とは異なる1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料を場合によりさらに含み得る。
【0057】
したがって、本発明の実施に使用されるネガ型赤外線感受性画像記録層は、a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分を含み得、その各々は、赤外線露光中にフリーラジカル開始を使用して重合し得る1つ以上のフリーラジカル重合性基を含む。いくつかの実施形態では、各分子中に同じまたは異なる数のフリーラジカル重合性基を有する、少なくとも2つのフリーラジカル重合性成分が存在する。したがって、有用なフリーラジカル重合性成分は、1つ以上の重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上の該基)を有する1つ以上のフリーラジカル重合性モノマーまたはオリゴマーを含有し得る。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーも使用され得る。オリゴマーまたはプレポリマー、例えばウレタンアクリレートおよびメタクリレート、エポキシドアクリレートおよびメタクリレート、ポリエステルアクリレートおよびメタクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびメタクリレート、ならびに不飽和ポリエステル樹脂が使用され得る。いくつかの実施形態では、フリーラジカル重合性成分はカルボキシル基を含む。
【0058】
a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分は、十分に大きい分子量を有するか、または十分な重合性基を有して、ネガ型赤外線感受性画像記録層中の他の成分のための「ポリマーバインダー」として機能する架橋性ポリマーマトリックスを提供することが可能である。このような実施形態では、別個の非フリーラジカル重合性ポリマー材料(以下に記載)は必要ではないが、所望であれば依然として存在し得る。
【0059】
有用なフリーラジカル重合性成分としては、複数(2つ以上)の重合性基を有する尿素ウレタン(メタ)アクリレートまたはウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。このような化合物の混合物を用いることができ、それぞれの化合物は、不飽和重合性基を2つ以上有し、化合物のうち一部は、3つまたは4つ以上の不飽和重合性基を有する。例えば、フリーラジカル重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとしたDESMODUR(登録商標)N100脂肪族ポリイソシアネート樹脂(Bayer Corp.、コネチカット州ミルフォード)をヒドロキシエチルアクリレートおよびペンタエリスリトールトリアクリレートと反応させることによって調製され得る。有用なフリーラジカル重合性化合物としては、Kowa Americanから入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、ならびにSartomer Company, Inc.から入手可能なSartomer SR399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer SR355(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer SR295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、およびSartomer SR415[エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]が挙げられる。
【0060】
数多くの他の有用なフリーラジカル重合性成分が当該技術分野において既知であり、Photoreactive Polymers: The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989、102~177頁、B. M. MonroeによるRadiation Curing: Science and Technology、S. P. Pappas編、Plenum、ニューヨーク、1992、399~440頁、ならびにImaging Processes and Material、J. M. Sturgeら(編)におけるA. B. CohenおよびP. Walkerによる「Polymer Imaging」、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989、226~262頁を含むかなりの文献に記載されている。例えば、有用なフリーラジカル重合性成分は、欧州特許第1,182,033 A1号明細書(Fujimakiら)の段落[0170]以降、ならびに米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、第6,569,603号明細書(Furukawa)、および第6,893,797号明細書(Munnellyら)にも記載されている。他の有用なフリーラジカル重合性成分としては、米国特許出願公開第2009/0142695号明細書(Baumannら)に記載されているものが挙げられ、これらのラジカル重合性成分は1H-テトラゾール基を含む。
【0061】
a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分は、一般に、すべてネガ型赤外線感受性画像記録層の総乾燥被覆量に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、かつ50重量%以下または70重量%以下の量で存在する。
【0062】
有用なフリーラジカル重合性成分は、世界中のさまざまな商業的供給源から得ることができ、または既知の出発材料および熟練した合成化学者によって行われる合成方法を使用して容易に調製することができる。
【0063】
さらに、本発明は、ネガ型赤外線感受性画像記録層中に存在するb)開始剤組成物を利用し得る。このような開始剤組成物は、1つ以上の有機ハロゲン化合物、例えばトリハロアリル化合物;ハロメチルトリアジン;ビス(トリハロメチル)トリアジン;ならびにオニウム塩、例えばヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、およびアンモニウム塩を含み得、これらの多くは当該技術分野において既知である。例えば、オニウム塩以外の代表的な化合物は、このような化合物を記載した多数の引用文献を含めて米国特許出願公開第2005/0170282号明細書(Innoら、米国特許第‘282号明細書)の[0087]~[0102]および米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、ならびに特開2002/107916号公報および国際公開第2019/179995号明細書に記載されている。
【0064】
有用なオニウム塩は、例えば、前述の米国特許第‘282号明細書の[0103]~[0109]に記載されている。例えば、有用なオニウム塩は、分子中に少なくとも1つのオニウムカチオンと、適切なアニオンとを含む。オニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジフェニルジアゾニウム、これらの化合物のベンゼン環に1つ以上の置換基を導入して得られる化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。適切な置換基としては、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、クロロ、ブロモ、フルオロ、およびニトロ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
オニウム塩中のアニオンの例としては、ハロゲンアニオン、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3
-、および例えば米国特許第7,524,614号明細書(Taoら)に記載されているホウ素アニオン(例えば、テトラアリールボレートアニオン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
代表的な有用なヨードニウム塩は、米国特許第7,524,614号明細書(上記)の第6~7欄に記載されており、ここで、ヨードニウムカチオンは、列挙されたさまざまな一価置換基「X」および「Y」、またはそれぞれフェニル基を有する縮合炭素環もしくは複素環を含み得る。
【0067】
有用なオニウム塩は、共有結合によって結合した少なくとも2つのオニウムイオンを分子中に有する多価オニウム塩であり得る。多価オニウム塩の中でも、分子中に少なくとも2つのオニウムイオンを有するものが有用であり、分子中にスルホニウムまたはヨードニウムカチオンを有するものが有用である。
【0068】
また、特開2002-082429号公報[または米国特許出願公開第2002-0051934号明細書(Ippeiら)]の段落[0033]~[0038]に記載のオニウム塩や、米国特許第7,524,614号明細書(上記)の第6~7欄に記載のホウ酸ヨードニウム錯体も用いられ得る。
【0069】
代表的なホウ酸ヨードニウム塩は、例えば、米国特許第7,524,614号明細書(上記)の第8欄に列挙されている。このようなホウ酸ヨードニウム塩は、以下の構造:
B+(R1)(R2)(R3)(R4)-
で表されるボレートアニオンを含み得、式中、R1、R2、R3、およびR4は、独立して、それぞれホウ素原子に結合した置換もしくは非置換のアルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、もしくは複素環基を表すか、またはR1、R2、R3、およびR4のうち2つ以上が一緒に結合して、ホウ素原子と一緒に複素環を形成することができ、このような複素環は、それぞれ最大7個の炭素、窒素、酸素、または硫黄原子を有する。例えば、テトラフェニルボレートを含むテトラアリールボレートアニオン、およびトリフェニルアルキルボレート化合物などのトリアリールアルキルボレートが有用である。
【0070】
いくつかの実施形態では、オニウム塩の組み合わせ、例えば、米国特許出願公開第2017/0217149号明細書(Hayashiら)に化合物Aおよび化合物Bとして記載されている化合物の組み合わせが開始剤組成物の一部として使用され得る。
【0071】
b)開始剤組成物は複数の成分を有し得るため、当業者の知識、および以下に示す実施例を含む本明細書に提供される代表的な教示に基づいて、ネガ型赤外線感受性画像記録層中のb)開始剤組成物のさまざまな成分の有用な量または乾燥被覆量は、当業者には容易に明らかであろう。有用なb)開始剤組成物材料は、世界中の商業的供給源から容易に入手することができ、または既知の出発材料および熟練した合成化学者によって行われる合成方法を使用して容易に調製することができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、場合によっては、ただし望ましくは、ネガ型赤外線感受性画像記録層は、1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料(またはポリマーバインダー)をさらに含み、その各々は、もし存在すればポリマー材料をフリーラジカル重合可能にする官能基を有しない。したがって、このような非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、上記のa)1つ以上のフリーラジカル重合性成分とは異なり、そして上記のb)、赤外線吸収剤、およびオゾン遮断材料のすべてとは異なる材料である。
【0073】
有用な非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、一般に、ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって決定される重量平均分子量(Mw)が、少なくとも2,000または少なくとも2万であり、かつ30万以下または50万以下である。
【0074】
このような非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマー、例えば米国特許第6,899,994号明細書(Huangら)に記載されているものを含めて、当該技術分野において既知のポリマーバインダー材料から選択され得る。他の有用なポリマーバインダーは、例えば国際公開第2015-156065号明細書(Kamiyaら)に記載されているように、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2種以上の繰り返し単位を含む。このようなポリマーバインダーのいくつかは、例えば米国特許第7,261,998号明細書(Hayashiら)に記載されているようなペンダントシアノ基を有する繰り返し単位をさらに含み得る。
【0075】
このようなポリマーバインダーはまた、複数(少なくとも2つ)のウレタン部分を含む骨格と、ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基とを有し得る。
【0076】
いくつかの有用な非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、粒子形態、すなわち離散粒子(非凝集粒子)の形態で存在し得る。このような離散粒子は、少なくとも10nm~1500nm以下、または典型的には少なくとも80nm~600nm以下の平均粒径を有し得、一般にネガ型赤外線感受性画像記録層中に均一に分布する。これらの材料のいくつかは、粒子形態で存在し得、少なくとも50nm~400nm以下の平均粒径を有し得る。平均粒径は、電子走査顕微鏡画像における粒子の測定、および設定された数の測定値を平均することを含む、さまざまな既知の方法およびナノ粒子測定装置を使用して決定することができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、ネガ型赤外線感受性画像記録層の平均乾燥厚み(t)未満の平均粒径を有する粒子の形態で存在し得る。マイクロメートル(μm)単位の平均乾燥厚み(t)は、以下の式:
t=w/r
によって計算され、式中、wは、ネガ型赤外線感受性画像記録層のg/m2単位の乾燥コーティング被覆量であり、rは、1g/cm3である。
【0078】
1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、ネガ型赤外線感受性画像記録層の総乾燥被覆量に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、かつ50重量%以下または70重量%以下の量で存在し得る。
【0079】
有用な非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、さまざまな商業的供給源から得ることができ、または例えば上記の刊行物に記載されているように、また熟練したポリマー化学者に知られているように、既知の手順および出発材料を使用して調製することができる。
【0080】
ネガ型赤外線感受性画像記録層は、場合により架橋ポリマー粒子を含み得、このような材料は、例えば、米国特許第9,366,962号明細書(Hayakawaら)、第8,383,319号明細書(Huangら)、および第8,105,751号明細書(Endoら)に記載されているように、少なくとも2μmまたは少なくとも4μm~20μm以下の平均粒径を有する。このような架橋ポリマー粒子は、親水性保護層(後述)が存在する場合は該親水性保護層に、またはネガ型赤外線感受性画像記録層と、親水性保護層が存在する場合は、これらの両方に存在し得る。
【0081】
ネガ型赤外線感受性画像記録層はまた、さまざまな他の場合により添加される添加物を従来の量で含み得、これらとしては、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、コーティング性もしくは他の特性のための界面活性剤、粘度上昇剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、現像助剤、レオロジー調整剤、もしくはそれらの組み合わせ、または平版印刷コーティング技術で一般的に使用される任意の他の添加物が挙げられるが、これらに限定されない。ネガ型赤外線感受性画像記録層はまた、米国特許第7,429,445号明細書(Munnellyら)に記載されているように、分子量が一般に250を超えるリン酸(メタ)アクリレートを含み得る。
【0082】
さらに、ネガ型赤外線感受性画像記録層は、望ましくないラジカル反応を防止または適度にするために、1つ以上の適切な連鎖移動剤、酸化防止剤、または安定剤を場合により含み得る。この目的のための適切な酸化防止剤および阻害剤は、例えば、欧州特許第2,735,903 B1号明細書(Wernerら)の[0144]~[0149]、および米国特許第7,189,494号明細書(Munnellyら)の第7~9欄に記載されている。
【0083】
ネガ型赤外線感受性画像記録層の有用な乾燥被覆量は、以下に記載する。
【0084】
保護層:
本発明は、最外層としてネガ型赤外線感受性画像記録層を有する平版印刷版原版に最も有用であるが、本発明による原版は、赤外線感受性画像記録層上に配置された保護層を用いて設計され得る。保護層は、典型的には親水性であるが、疎水性であるか、またはPCT特許出願公開第2019/243036 A1号明細書に記載されているような疎水性成分を含むこともできる。このような原版では、赤外線感受性画像記録層中のオゾン遮断材料は、特に保護層が赤外線感受性画像記録層を周囲のオゾンから適切に保護しない原版について、依然として有益であり得る。一方、主なバインダーとしてポリビニルアルコールを含み、酸素バリア層として機能して下層のフリーラジカル架橋性組成物における酸素阻害を低減する典型的な保護層は、ある程度のオゾン遮断能力を有し得、本発明の構造(I)、(II)、または(III)によるオゾン遮断材料の一部を含み得る。
【0085】
しかしながら、本発明による赤外線感受性画像記録層を保護する目的では、本発明による構造(I)、(II)、または(III)のオゾン遮断材料の使用は、従来の酸素遮断親水性層よりも有利である。これは、特に平版インキ、湿し水、または平版インキと湿し水の両方を使用した機上現像用に設計された平版印刷版原版について、後者が望ましくない影響を有し得るという点によるものである。潜在的な望ましくない影響としては、インキの巻き取りが遅いこと、湿し水の汚染、および親水性保護層と赤外線感受性画像記録層との間の制御されない混合による画像耐久性の低下が挙げられる。
【0086】
ネガ型平版印刷版原版の製造:
本発明によるネガ型平版印刷版原版は、以下の様式で提供され得る。1つ以上のオゾン遮断材料および1つ以上の赤外線吸収剤、ならびに上記した他の添加物などの上記の成分を含み、適切な溶媒に溶解または分散した赤外線感受性画像記録層配合物は、いずれかの適切な装置および手順、例えばスピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティング、または押出ホッパーコーティングを使用して、上記のような適切なアルミニウム含有基板の親水性表面に塗布され得る。このような配合物は、適切な基板上に噴霧することによって塗布することもできる。典型的には、赤外線感受性画像記録層配合物が適切な湿潤被覆量で塗布されると、該配合物は当該技術分野において既知の適切な様式で乾燥され、以下に記載するように所望の乾燥被覆量を与える。
【0087】
本発明によるこのような原版を製造するのに適した溶媒は、水および/または1つ以上の有機溶媒から構成され得る。有用な有機溶媒の例としては、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフラン、および当該技術分野において容易に知られている他のものが挙げられる。
【0088】
適切に乾燥させた後、基板上の少なくとも1つ以上の赤外線感受性画像記録層のそれぞれの乾燥被覆量は、一般に、少なくとも0.1g/m2または少なくとも0.4g/m2、かつ2g/m2以下または4g/m2以下であるが、所望であれば他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0089】
上述のように、いくつかの実施形態では、既知のコーティングおよび乾燥条件、装置、および手順を使用して、適切な保護層配合物(上述)が乾燥した赤外線感受性画像記録層に塗布され得る。
【0090】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果は、赤外線感受性画像記録層および場合により保護層を有する赤外線感受性平版印刷版原版材料の連続放射感受性ウェブ(またはロール)である。このような連続放射感受性ウェブは、使用のために適切なサイズの原版に細長く切るかまたは切断され得る。
【0091】
ポジ型平版印刷版原版
本発明によるポジ型平版印刷版原版は、親水性表面を有する適切な基板上に配置された1つ以上の赤外線感受性画像記録層を含み得る。このような原版は、場合により含まれる非放射感受性の下層とともに1つの赤外線感受性画像記録層を有し得、または場合により含まれる下層および中間層とともに2つ以上の赤外線感受性画像記録層(最も内側および最も外側の赤外線感受性層または「インキ受容性」層として知られることもある)を有し得る。このような赤外線感受性画像記録層は、典型的には、本明細書で定義する近赤外放射への露光に対して「感受性」であり、このような露光により、該層の露光領域は適切な加工溶液に対してより可溶性または分散性になり、その結果、該領域の化学材料は、加工(現像)中に容易に除去され得る。
【0092】
このような原版のためのさまざまな赤外線感受性画像記録層の化学組成および有用な成分、ならびにこのような原版を製造するための材料および手段は、ポジ型平版印刷版原版の組成および形成に関して、米国特許第8,088,549号明細書(Levanonら)、第8,530,143号明細書(Levanonら)、および第8,936,899号明細書(Hauckら)、ならびに米国特許出願公開第2012/0270152号明細書(Hauckら)および第2017/0068164号明細書(Huangら)を含むがこれらに限定されないかなりの特許文献から周知である。
【0093】
画像形成(露光)条件
使用中、本発明の赤外線感受性平版印刷版原版は、1つ以上の赤外線感受性画像記録層中に存在する1つ以上の赤外線吸収剤に応じて、適切な赤外線源に露光され得る。いくつかの実施形態では、平版印刷版原版は、少なくとも750nm~1400nm以下、または少なくとも800nm~1250nm以下の範囲内のかなりの赤外線を放射する1つ以上のレーザーで画像形成して、1つ以上の赤外線感受性画像記録層に露光領域と未露光領域とを作り出し得る。このような赤外線放射レーザーは、コンピューティング装置または他のデジタル情報源によって供給されるデジタル情報に応答して、このような画像形成に使用され得る。レーザー画像形成は、当該技術分野において既知の適切な様式でデジタル制御され得る。
【0094】
したがって、画像形成は、赤外線生成レーザーまたはこのようなレーザーのアレイからの画像形成赤外線または露光用赤外線を使用して実施され得る。画像形成はまた、所望であれば同時に複数の赤外(または近IR)波長の画像形成放射を使用して実施され得る。原版を露光するために使用される1種以上のレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性およびメンテナンスが少ないことに起因して、通常は1種以上のダイオードレーザーであるが、他のレーザー、例えばガスまたは固体レーザーも使用され得る。赤外線画像形成のための出力、強度、および露光時間の組み合わせは、当業者には容易に明らかであろう。
【0095】
赤外線画像形成装置は、赤外線感受性平版印刷版原版がドラムの内側または外側円筒面に取り付けられたフラットベッドレコーダまたはドラムレコーダとして構成され得る。有用な画像形成装置の一例は、約830nmの波長の放射を放出するレーザーダイオードを含む、型番KODAK(登録商標)Trendsetterプレートセッター(Eastman Kodak Company)およびNEC AMZISetter Xシリーズ(NEC Corporation、日本)として入手可能である。他の適切な画像形成装置としては、810nmの波長で動作するScreen PlateRite 4300シリーズもしくは8600シリーズプレートセッター(Screen USA(イリノイ州シカゴ)から入手可能)、またはPanasonic Corporation(日本)製のサーマルCTPプレートセッターが挙げられる。
【0096】
赤外線画像形成源が使用される場合、画像形成エネルギー強度は、1つ以上の赤外線感受性画像記録層の感度に応じて、少なくとも30mJ/cm2~500mJ/cm2以下、典型的には少なくとも50mJ/cm2~300mJ/cm2以下であり得る。
【0097】
本発明によるポジ型平版印刷版原版およびネガ型平版印刷版原版の両方は、この教示を使用して画像形成を行うことができ、当業者であれば、それぞれの種類の原版について適切な画像形成装置およびエネルギーを理解するであろう。
【0098】
加工(現像)および印刷
上述のように画像様露光した後、赤外線感受性画像記録層中に露光領域と未露光領域とを有する露光した赤外線感受性平版印刷版原版を機外または機上のいずれかで加工して、露光したネガ型赤外線感受性平版印刷版原版については未露光領域(および存在する場合は、該領域上の保護層)を除去し得、また、露光したポジ型赤外線感受性平版印刷版原版については1つ以上の層の露光領域を除去し得る。
【0099】
この加工の後、また平版印刷中、露出した親水性基板表面はインキをはじくが、残っている露光(または未露光)領域は平版印刷インキを受け入れる。
【0100】
機外現像および印刷:
ポジ型原版およびネガ型原版の両方の加工は、同じまたは異なる加工溶液(現像剤)を1回または複数回連続して塗布する際に(処理または現像工程において)、いずれかの適切な現像剤を使用して機外で実施され得る。このような1回以上の連続的な加工処理は、赤外線感受性画像記録層の未露光領域(露光されたネガ型原版の場合)または露光領域(露光されたポジ型原版の場合)のいずれかを除去して、基板の最も外側にある親水性表面を露出させるのに十分であるが、基板上に残ることになる領域のうちかなりの量を除去するのには不十分な長さの時間にわたって実施され得る。
【0101】
このような機外加工の前に、露光された原版に「予熱」プロセスを施して、ネガ型赤外線感受性画像記録層の露光領域をさらに硬化させ得る。このような場合により行われる予熱は、一般に少なくとも60℃~180℃以下の温度で、いずれかの既知のプロセスおよび装置を使用して実施され得る。
【0102】
上記の場合により行われる予熱に続いて、または予熱の代わりに、露光された原版を洗浄して(すすいで)、親水性オーバーコートが存在する場合はそれを除去し得る。このような場合により行われる洗浄(またはすすぎ)は、いずれかの適切な水溶液(例えば、水または界面活性剤の水溶液)を使用して、適切な温度で、当業者には容易に明らかであろう適切な時間にわたって実施され得る。
【0103】
機外での加工溶液による1種以上の連続処理は、「手動」現像として知られるものを使用して、または1つ以上の加工ステーションを使用した自動現像装置(加工装置)による加工を使用して実施され得る。「手動」現像の場合、加工は、画像様露光した原版全体を、加工溶液を十分に含浸させたスポンジまたは綿パッドで擦ることによって(後述)、あるいは画像様露光した原版を、撹拌下で少なくとも10秒間~60秒間以下(特に、少なくとも20秒間~40秒間以下)にわたって加工溶液を含むタンクまたはトレイに浸漬することによって行われ得る。自動現像装置の使用は周知であり、一般に、加工溶液を現像タンク内に圧送すること、または加工溶液をスプレーノズルから噴射することを含む。この装置はまた、適切な機械的摩擦機構(例えば、1つ以上のブラシ、ローラー、またはスキージ)および適切な数の搬送ローラーを含み得る。手動加工は、何らかの種類の加工装置の使用ほど望ましくない。
【0104】
有用な現像剤は、通常の水または配合された水溶液であり得る。使用される特定の現像剤は、画像形成された原版の種類に基づいて当業者によって選択され得る。したがって、画像形成されたポジ型原版は、画像形成されたネガ型原版を加工するために使用されるものとは異なる加工溶液を用いて現像され得る。両方の種類の原版に有用ないくつかの加工溶液が、例えば、米国特許第62/964,207号明細書(Wernerらによって2020年1月22日に出願)に記載されている。
【0105】
場合によっては、水性加工溶液を機外で使用して、未露光領域を除去することによって画像形成された原版を現像し、また、画像形成および現像(加工)されたネガ型原版の印刷面全体にわたって保護層またはコーティングを提供することができる。この実施形態では、水溶液は、平版印刷版上の平版画像を汚染または損傷から(例えば、酸化、指紋、埃、または傷から)保護する(または「ガム引きする」)ことができるガムのように作用する。
【0106】
上記の機外加工および場合により行われる乾燥の後、得られた平版印刷版は、さらなる溶液または液体と接触することなく印刷機に取り付けられ得る。場合により、UVまたは可視放射への全面露光またはフラッド露光を伴って、または伴わずに、平版印刷版にさらに焼き付けを行う。
【0107】
印刷は、平版印刷インキおよび湿し水を適切な様式で平版印刷版の印刷面に塗布することによって行われ得る。湿し水は、露光工程および加工工程によって露出した基板の親水性表面によって取り込まれ、平版インキは、1つ以上の赤外線感受性画像記録層の残っている(露光または未露光)領域によって取り込まれる。次いで、平版インキを適切な受容材料(例えば、布、紙、金属、ガラス、またはプラスチック)に転写して、材料上に画像の所望の像を与える。所望であれば、中間「ブランケット」ローラーを使用して、平版印刷版から受容材料(例えば、用紙)に平版インキを転写することができる。
【0108】
機上現像および印刷:
ネガ型赤外線感受性画像記録層中に1つ以上のオゾン遮断材料と1つ以上の赤外線吸収剤とを含む本発明のいくつかのネガ型平版印刷版原版は、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して機上現像可能である。このような実施形態では、本発明による画像形成された(露光された)赤外線感受性平版印刷版原版を印刷機に取り付け、印刷操作を開始する。赤外線感受性画像記録層中の未露光領域は、最初の印刷された像が作られると、適切な湿し水、平版印刷インキ、または両者の組み合わせによって除去される。水性の湿し水の典型的な成分としては、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤および湿潤剤、保湿剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤、および金属イオン封鎖剤が挙げられる。湿し水の代表例は、Varn Litho Etch 142W + Varn PAR(アルコール代替物)(イリノイ州アディソンのVarn Internationalから入手可能)である。
【0109】
枚葉印刷機による典型的な印刷機の始動時には、最初に湿しローラーが係合され、取り付けられた画像形成された原版に湿し水を供給して、露光された赤外線感受性画像記録層を少なくとも未露光領域において膨潤させる。数回回転した後、インキングローラーが係合されて、平版印刷版の印刷面全体に1つ以上の平版印刷インキを供給する。典型的には、インキングローラーの係合の後5~20回転以内に印刷用紙が供給され、平版印刷を開始する。初期のプレス用紙には、未露光領域において、少しのインキまたは平版印刷版からの赤外線感受性画像記録層が付着していることがある。未露光領域からの1つ以上の赤外線感受性画像記録層の除去は、湿しローラーの係合から、平版印刷版原版の未露光領域が印刷用紙にインキを転写しなくなるまで進行し得る。
【0110】
赤外線に露光された平版印刷原版の機上現像性は、原版が赤外線感受性画像記録層中に(フリーラジカル重合性であるか否かにかかわらず)1つ以上のポリマーバインダー材料を含む場合に特に向上し、これらのポリマーバインダーの少なくとも1つは、少なくとも50nm~400nm以下の平均直径を有する粒子として存在する。
【0111】
本発明は、少なくとも以下の実施形態およびそれらの組み合わせを提供するが、当業者であれば本開示の教示から理解するであろうように、特徴の他の組み合わせも本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0112】
1.基板と、上記基板上に配置された1つ以上の赤外線感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、
上記平版印刷版原版は、上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも1つに、1つ以上の赤外線吸収剤とオゾン遮断材料とをさらに含み、上記オゾン遮断材料は、分子量が1500以下であり、以下の構造(I)、(II)、または(III):
【化6】
(式中、Rは炭素数14~30の炭化水素基であり、mは1または2であり、nは2~6であり、mとnとの和は3より大きく8未満であり、Aは、R基もOH基も含まない多価有機部分であり、Aは、mとnとの和に等しい価数を有する);
【化7】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である);ならびに
R
3C(=O)NR
4R
5 (III)
(式中、R
3は、炭素数16~30の炭素-炭素鎖内に少なくとも1つのC=C二重結合を含むアルケニル基であり、R
4およびR
5は、独立して、水素原子または炭素数1~4の非置換アルキル基である)
で表される、平版印刷版原版。
【0113】
2.上記オゾン遮断材料が、上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも最も外側の赤外線感受性画像記録層中に位置する、実施形態1に記載の平版印刷版原版。
【0114】
3.ネガ型赤外線感受性画像記録層を含むネガ型平版印刷版原版であり、上記オゾン遮断材料および上記1つ以上の赤外線吸収剤が、少なくとも上記ネガ型赤外線感受性画像記録層中に位置する、実施形態1または2に記載の平版印刷版原版。
【0115】
4.上記ネガ型赤外線感受性画像記録層が最外層である、実施形態3に記載の平版印刷版原版。
【0116】
5.上記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、
a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分、および
b)フリーラジカルを発生させることができる開始剤組成物
をさらに含み、
上記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、a)、b)、1つ以上の赤外線吸収剤、および構造(I)、(II)、または(III)の上記オゾン遮断材料とは異なる1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料を場合によりさらに含む、実施形態3または4に記載の平版印刷版原版。
【0117】
6.上記非フリーラジカル重合性ポリマー材料が粒子形態で存在する、実施形態5に記載の平版印刷版原版。
【0118】
7.上記Rの炭化水素基が直鎖または分岐鎖アルキル基である、実施形態2から6のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0119】
8.上記オゾン遮断材料が、以下の材料:
ソルビトールモノステアレート、ソルビトールモノパルミテート、ソルビトールモノミリステート、ソルビトールモノベヘネート、ソルビトールジステアレート、ソルビトールジパルミテート、ソルビトールジミリステート、ソルビトールジベヘネート、オレアミド、エルカミド、および以下の構造(II):
【化8】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である)で表される化合物
のうちの1つ以上を含む、実施形態1から7のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0120】
9.上記1つ以上の赤外線吸収剤のうち少なくとも1つが、赤外線吸収シアニン染料である、実施形態1から8のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0121】
10.上記オゾン遮断材料が、上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも1つに、上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち上記少なくとも1つの全固形分に基づいて、少なくとも1重量%~15重量%以下の量で存在する、実施形態1から9のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0122】
11.上記オゾン遮断材料と上記1つ以上の赤外線吸収剤とを含むネガ型赤外線感受性画像記録層を含み、上記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、赤外線に露光されない領域において、平版インキ、湿し水、または平版インキと湿し水との組み合わせを使用して機上で除去可能である、実施形態1から10のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0123】
12.上記オゾン遮断材料が、上記ネガ型赤外線感受性画像記録層に、上記ネガ型赤外線感受性画像記録層の全固形分に基づいて、少なくとも2重量%~10重量%以下の量で存在する、実施形態11に記載の平版印刷版原版。
【0124】
13.上記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、
a)1つ以上のフリーラジカル重合性成分、および
b)フリーラジカルを発生させることができる開始剤組成物
を含み、
上記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、a)、b)、1つ以上の赤外線吸収剤、および先に定義したオゾン遮断材料とは異なる1つ以上の非フリーラジカル重合性ポリマー材料を場合によりさらに含む、実施形態11に記載の平版印刷版原版。
【0125】
14.上記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、少なくとも2種のフリーラジカル重合性成分を含む、実施形態13に記載の平版印刷版原版。
【0126】
15.上記基板が、酸化アルミニウム層と、上記酸化アルミニウム層上に配置された親水性ポリマーコーティングとを含むアルミニウム含有基板を含む、実施形態1から14のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0127】
16.すべて上記赤外線感受性画像記録層の総重量に基づいて、構造(I)、(II)、または(III)の上記オゾン遮断材料が、少なくとも2重量%~10重量%以下の量で存在し、上記1つ以上の赤外線吸収剤が、少なくとも0.5重量%~30重量%以下の量で存在する、実施形態1から15のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0128】
17.平版印刷版を提供する方法であって、
A)実施形態1から16のいずれか1つに記載の平版印刷版原版を画像形成赤外線に画像様露光して、上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層に露光領域および未露光領域を提供する工程と、
B)上記1つ以上の赤外線感受性画像記録層における上記露光領域または上記未露光領域のいずれかを上記基板から除去する工程と
を含む、方法。
【0129】
18.上記平版印刷版原版が、上記オゾン遮断材料および上記1つ以上の赤外線吸収剤を含むネガ型赤外線感受性画像記録層を含むネガ型平版印刷版原版であり、上記方法が、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して、上記基板から上記ネガ型赤外線感受性画像記録層の上記未露光領域を機上で除去する工程を含む、実施形態17に記載の方法。
【0130】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに説明するために提供され、決して限定することを意図するものではない。別段の指示がない限り、実施例で使用される材料は、示したようなさまざまな商業的供給源から得たが、他の商業的供給源も利用可能であり得る。
【0131】
本発明の実施例および比較例
アルミニウム含有基板を、平版印刷版原版のために以下の様式で製造した。
【0132】
アルミニウム合金板(支持体)の表面に塩酸を用いて電解粗面化処理を行った。得られた粒状化したアルミニウム板を、リン酸水溶液を用いて陽極酸化処理して酸化アルミニウム層を形成した後、ポリ(アクリル酸)溶液を後処理塗布して、親水性表面を有するアルミニウム含有基板を得た。
【0133】
次いで、以下の表Iに示す成分を有し、33重量%のn-プロパノール、15重量%の2-メトキシプロパノール、45重量%の2-ブタノン、および7重量%の水を含有するコーティング溶媒に全固形分含有量5重量%で溶解または分散したネガ型赤外線感受性組成物配合物を個々にコーティングすることによって、アルミニウム含有基板の親水性表面の試料上にネガ型赤外線感受性画像記録層を形成した。各配合物のコーティングを、ワイヤ巻きコーティングバーを使用して行い、コーティングを80℃で2分間乾燥させて、1g/m2の乾燥被覆量を有するネガ型赤外線感受性画像記録層を得た。表IIに記載の原料は、1つ以上の商業的供給源から得ることができ、または既知の合成方法を使用して調製することができる。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
オゾン遮断剤6は以下のように合成される。
【0138】
磁気撹拌子を備えた500mlの三口丸底フラスコに、113g(1.0当量)のビスフェノールAジグリシジルエーテル(CAS番号1675-54-3、Sigma-Aldrichから購入)、188.8g(2.0当量)のステアリン酸(CAS番号57-11-4、Acros Organicsから購入)、53.6g(0.5当量)のテトラブチルアンモニウムブロミド(CAS番号1643-19-2、Sigma-Aldrichから購入)、75mlのトルエン、および150mlのアセトニトリルを添加し、混合物を85℃の油浴を用いて18時間加熱還流した。次いで、トルエンおよびアセトニトリルを100℃に設定した水浴中で減圧下でロータリーエバポレーターで除去した。次いで、アセトニトリル150mlを添加し80℃で加熱することによって、フラスコ内の得られた淡色固体を再溶解した。室温に冷却すると、アセトニトリル溶液から沈殿物が生じ、これを真空濾過し、乾燥させ、白色固体(145g、収率70%)として回収した。プロトンNMRより、析出した回収物は、以下の構造を有するオゾン遮断剤6を推定量95%超で含有していることがわかった。
【化9】
【0139】
平版印刷版原版の評価:
耐オゾン性(SR):
平版印刷版原版のそれぞれの試料を、オゾン濃度を1ppmに制御し、チャンバ温度を25℃に制御した市販の湿度チャンバETAC FX-430の内部で、制御された量のオゾンに曝露した。オゾン濃度を制御するために以下の装置を使用した:
オゾン源としてのKotohira携帯オゾン発生器KPO-T01、および
オゾンモニタとしてのKanomax Gasmaster型番2750。
【0140】
オゾンへの曝露時間は6時間および18時間であり、それぞれオゾンへの曝露量21,600ppm・sおよび64,800ppm・sに対応していた。単位「ppm・s」において、ppmは、体積百万分率でのオゾン濃度の単位であり、sは、時間の単位である秒の省略形である。赤外線感受性画像記録層中に残っている赤外線吸収剤(IR染料1)の量を決定するために、各原版の50cm2上にある赤外線感受性画像記録層を37.5gのγ-ブチロラクトン(BLO)で抽出し、得られたBLO溶液の吸収スペクトルを、UV-vis分光計U-2810(Hitachi High-Tech Corporation)を使用して得た。IR染料1の吸収ピークにおける吸光度(以下、Abs.)を吸収スペクトルから求めた。また、オゾンへの曝露無しの原版中のIR染料のAbs.を基準値として求めた。耐オゾン性の尺度としてのパラメータ「残存率」(SR)を、以下の式を用いて計算した。%SRが高いほど、オゾン劣化に対する原版の耐性が高い。
SR[%]=(オゾンへの曝露後のAbs.)/(オゾンへの曝露無しのAbs.)×100%
【0141】
機上現像性(DOP):
オゾンへの曝露有りまたは無しで、平版印刷版原版のそれぞれの試料を、ベタ領域において150mJ/cm2の赤外線露光エネルギーで市販のKODAK(登録商標)Magnus 800イメージセッターを使用して画像形成し、湿し水として1体積%のイソプロパノール、1体積%のNA-108W(DIC Graphics(日本)から入手可能)、および98体積%の水の混合物、S-7400のブランケット(Kinyosha(日本)から入手可能)、印刷用紙としてOKトップコート紙マットNグレード紙(Oji Paper(日本)から入手可能)、ならびにFusion G Magenta Nグレード平版インキ(DIC Graphics(日本)から入手可能)を使用して、1時間当たり9,000回転で作動する市販のRoland 200印刷機(Man Roland)に取り付けた。
【0142】
機上現像性(DOP)を、以下の手順によって評価した:最初に湿しローラーを係合させ、湿し液を供給した。3回転後、インキングローラーが係合されて、それにより平版印刷版の印刷面全体を覆うように平版印刷インキが供給された。印刷用紙は、インキングローラーの係合直後に供給した。DOPは、非画像形成領域においてそれ以上インキ転写が観察されなくなった時点での印刷された用紙の枚数であると定義した。50枚未満のDOPが望ましく、100枚を超えるDOPはこの印刷機条件には許容できない。
【0143】
印刷寿命:
オゾンへの曝露有りまたは無しで、平版印刷版原版のそれぞれの試料を、150mJ/cm2の割合で上記のようにレーザー赤外線に画像様露光した。得られた画像形成された原版試料を市販のKomori S-26印刷機に8,000rpmで取り付け、湿し水として1体積%のK701(DIC Graphics)と10体積%のイソプロパノールとの混合物水溶液、S-7400のブランケット(Kinyosha)、印刷用紙としてOKトップコート紙マットNグレード紙(Oji Paper)、およびK Magenta Nグレード平版インキ(DIC Graphics)を使用して、印刷寿命を評価した。
【0144】
平版印刷を継続して印刷された用紙の枚数を増やすと、平版印刷版の画像記録層が徐々に摩耗し、該層のインキ受容性が低下した。そのため、印刷された用紙のインキ濃度が低下した。得られた複写物のベタ領域の反射濃度が平版印刷開始時の90%まで低下したときの複写物の数として、印刷寿命を求めた。この劣化が発生したときの用紙の数が多いほど、印刷寿命は優れている。
【0145】
これらの試験の結果を以下の表IIIに示す。
【0146】
【0147】
表IIIに示す結果から、構造(I)、(II)、および(III)の本発明のオゾン遮断材料を含む本発明の実施例1、3、4、5、および6の原版は、本発明のオゾン遮断材料を含まない比較例1の原版よりも高いSRをオゾンへの曝露後に示したことがわかる。さらに、オゾンへの曝露後の本発明の実施例1、3、4、5、および6の原版の印刷寿命は、オゾンへの曝露後の比較例1の原版の印刷寿命よりも長いように見受けられた。本発明の実施例1、3、4、5、および6の画像形成された原版のDOPは、許容可能なレベルで安定しており、すなわち、50枚未満であることも観察された。
【0148】
構造(I)の本発明のオゾン遮断材料の代わりに赤外線感受性画像記録層にソルビタンモノラウレートを含む比較例2の原版は、オゾンへの曝露後に非常に低いSRおよび許容できないほど短い印刷寿命を示した。
【0149】
比較例3、4、および5の原版は、オゾンへの曝露後に比較例1の原版よりも高いSRおよび長い印刷寿命を示したが、画像形成後、これらの原版は、比較例1の画像形成された原版ならびに本発明の実施例1、3、4、5、および6の画像形成された原版よりもはるかに遅い(かつ許容できない)DOPを示した。
【0150】
したがって、上記で提供された累積データは、本発明の原版が、望ましい安定性のDOP特性を示しながら、オゾンに対する改善された耐性を示したことを実証している。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に配置された1つ以上の赤外線感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、
前記平版印刷版原版は、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも1つに、1つ以上の赤外線吸収剤とオゾン遮断材料とをさらに含み、前記オゾン遮断材料は、分子量が1500以下であり、以下の構造(I)、(II)、または(III):
【化1】
(式中、Rは炭素数14~30の炭化水素基であり、mは1または2であり、nは2~6であり、mとnとの和は3より大きく8未満であり、Aは、R基もOH基も含まない多価有機部分であり、Aは、mとnとの和に等しい価数を有する);
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である);ならびに
R
3C(=O)NR
4R
5 (III)
(式中、R
3は、炭素数16~30の炭素-炭素鎖内に少なくとも1つのC=C二重結合を含むアルケニル基であり、R
4およびR
5は、独立して、水素原子または炭素数1~4の非置換アルキル基である)
で表される、平版印刷版原版。
【請求項2】
前記1つ以上の赤外線吸収剤および前記オゾン遮断材料が、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも最も外側の赤外線感受性画像記録層中に位置する、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
ネガ型赤外線感受性画像記録層を含むネガ型平版印刷版原版であり、前記1つ以上の赤外線吸収剤および前記オゾン遮断材料が、少なくとも前記ネガ型赤外線感受性画像記録層中に位置する、請求項1または2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記オゾン遮断材料が、以下の材料:
ソルビタンモノステアレート、
ソルビタンモノパルミテート、
ソルビタンモノミリステート、
ソルビタンモノベヘネート、
ソルビタンジステアレート、
ソルビタンジパルミテート、
ソルビタンジミリステート、
ソルビタンジベヘネート、オレアミド、エルカミド、および以下の構造(II):
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、炭素数14~22のアルキル基であり、oは1~3の整数である)で表される化合物
のうちの1つ以上を含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記オゾン遮断材料が、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち少なくとも1つに、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層のうち前記少なくとも1つの全固形分に基づいて、少なくとも1重量%~15重量%以下の量で存在する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記オゾン遮断材料と前記1つ以上の赤外線吸収剤とを含むネガ型赤外線感受性画像記録層を含み、前記ネガ型赤外線感受性画像記録層が、赤外線に露光されない領域において、平版インキ、湿し水、または平版インキと湿し水との組み合わせを使用して機上で除去可能である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
すべて前記少なくとも1つの赤外線感受性画像記録層の総重量に基づいて、構造(I)、(II)、または(III)の前記オゾン遮断材料が、少なくとも2重量%~10重量%以下の量で存在し、前記1つ以上の赤外線吸収剤が、少なくとも0.5重量%~30重量%以下の量で存在する、請求項1から
6のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
平版印刷版を提供する方法であって、
A)請求項1から
7のいずれか一項に記載の平版印刷版原版を画像形成赤外線に画像様露光して、前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層に露光領域および未露光領域を提供する工程と、
B)前記1つ以上の赤外線感受性画像記録層における前記露光領域または前記未露光領域のいずれかを前記基板から除去する工程と
を含む、方法。
【請求項9】
前記平版印刷版原版が、前記オゾン遮断材料を含むネガ型赤外線感受性画像記録層を含むネガ型平版印刷版原版であり、前記方法が、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して、前記基板から前記ネガ型赤外線感受性画像記録層の前記未露光領域を機上で除去する工程を含む、請求項
8に記載の方法。
【国際調査報告】