(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】操作されたAAVベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20230920BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20230920BHJP
C07K 14/015 20060101ALI20230920BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230920BHJP
C07K 14/165 20060101ALI20230920BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20230920BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230920BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230920BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20230920BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20230920BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230920BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230920BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20230920BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230920BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230920BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230920BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20230920BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230920BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/35 ZNA
C07K14/015
C12N7/01
C07K14/165
C12N15/50
C12N15/13
C07K16/00
C12N7/02
C07K1/14
A61K35/76
A61K48/00
A61P35/00
A61P33/00
A61P31/12
A61P31/04
A61K39/00 H
A61K39/12
C12N5/10
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514770
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(85)【翻訳文提出日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2021074987
(87)【国際公開番号】W WO2022053642
(87)【国際公開日】2022-03-17
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519022126
【氏名又は名称】ルートビヒ-マキシミリアンズ-ウニベルジテート ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】スティリアノス ミヒャラキス
(72)【発明者】
【氏名】レーナ ツォベル
(72)【発明者】
【氏名】ザブリーナ バブツカ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ビール
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマン アンマー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA95X
4B065AB01
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4B065CA45
4C084AA13
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4C087ZB37
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA01
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA31
4H045FA74
4H045GA15
(57)【要約】
本発明は、ウイルスタンパク質(VP)VP1、VP2、および/またはVP3の中の約75~400個のアミノ酸からなるインサート(このインサートは、免疫原性タンパク質またはその一部である、および/または結合ドメイン(標的抗原に対して特異的な抗原結合ドメインなど)を含むタンパク質である)を、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むアデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)に関する。本発明は、前記AAVまたはAAVLPを含む医薬組成物と、治療に用いるための、特にワクチンとして使用するための、疾患の治療または予防に用いるための、および/または遺伝子療法で使用するための、医薬組成物、またはAAV、またはAAVLPにも関する。本発明のAAV又はAAVLPを作製する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、場合によりそのインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)。
【請求項2】
(a)VR-VIIIの頂部が、それぞれ配列番号1、2、3、6、7、8、9、または10のアミノ酸配列を持つAAV 1、2、3、6、7、8、9、または10のVP1のアミノ酸585~592(I-585~I-592)に、配列番号4のアミノ酸配列を持つAAV 4のVP1のアミノ酸583~589に、または配列番号5のアミノ酸配列を持つAAV 5のVP1のアミノ酸574~580に対応する、および/または(b)VR-IVの頂部が、それぞれ配列番号1、2、3、6、7、8、9、または10のアミノ酸配列のAAV 1、2、3、6、7、8、9、または10のVP1のアミノ酸450~460(I-450~I-460)に、配列番号4のアミノ酸配列を持つAAV 4のVP1のアミノ酸445~455(I-445~I-455)に、または配列番号5のアミノ酸配列を持つAAV 5のVP1のアミノ酸439~449(I-439~I-449)に対応する、請求項1に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項3】
AAV血清型1(AAV1)、2(AAV2)、8(AAV8)、または9(AAV9)に由来し、好ましくは、
(a)前記挿入部位が、配列番号2のアミノ酸配列を持つAAV2 VP1のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV2 I-587)、または588と589の間(AAV2 I-588)、および/または453と454の間(AAV2 I-453)、好ましくはAAV2 I-587、またはAAV2 I-588、またはAAV2 I-453、より好ましくはAAV2 I-587またはAAV2 I-588にある;
(b)前記挿入部位が、配列番号1のアミノ酸配列を持つアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV1 I-587)、588と589の間(AAV1 I-588)、または589と590の間(AAV1 I-589)、および/または454と455の間(AAV1 I-454)、455と456の間(AAV1 I-455)、または456と457の間(AAV1 I-456)にある;
(c)前記挿入部位が、配列番号8のアミノ酸配列を持つAAV8 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV8 I-588)、または589と590の間(AAV8 I-589)、および/または455と456の間(I-455)、456と457の間(I-456)、または457と458の間(I-457)にある、または
(d)前記挿入部位が、配列番号9のアミノ酸配列を持つAAV9 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV9 I-588)、または589と590の間(AAV9 I-589)、および/または454と455の間(I-454)、455と456の間(I-455)、または456と457の間(I-456)にある、請求項1または2に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項4】
約60個のVPからなるカプシドを持ち、前記VPが、
(a)VP3;
(b)VP1とVP3;または
(c)比が1:1:10であることが好ましいVP1、VP2、およびVP3タンパク質である、請求項1~3のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項5】
ITRが隣接したゲノムを含み、感染性であり、好ましくはITRが隣接した前記ゲノムが導入遺伝子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項6】
前記インサートが、(a)免疫原性タンパク質またはその一部、および/または(b)結合ドメインを含むタンパク質である、請求項1~5のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項7】
前記インサートが免疫原性タンパク質またはその一部であり、
(a)前記AAVが、ITRが隣接したゲノムを含み、感染性であり、場合により、ITRが隣接した前記ゲノムが、さらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子を含む;
(b)免疫原性タンパク質またはその一部がVR-VIIIの頂部とVR-IVの頂部の位置に挿入され、VR-VIIIの頂部の位置に挿入された前記免疫原性タンパク質またはその一部と、VR-IVの頂部の位置に挿入された前記免疫原性タンパク質またはその一部は、同じであるか異なっており;および/または
(c)前記AAVまたはAAVLPが、少なくとも約75~300個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成され、前記異なるインサートは、それぞれが免疫原性タンパク質またはその一部であり、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分であるか、同じタンパク質からの異なる免疫原性部分であるかのいずれかである、請求項6に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項8】
前記免疫原性タンパク質またはその一部が、ウイルス、細菌、または寄生虫のタンパク質またはその一部である、および/または前記免疫原性タンパク質またはその一部が腫瘍抗原である、請求項6または7に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項9】
前記免疫原性タンパク質またはその一部が、
(a)コロナウイルススパイク(S)タンパク質の一部である;
(b)SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部であり、好ましくはSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の前記一部が、SARS-CoV-2 Sタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)またはその一部を含む;および/または
(c)配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69、好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列を含むSARS-CoV-2 Sタンパク質の一部である、請求項8に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項10】
前記インサートが、結合ドメインを含むタンパク質であり、前記AAVが、ITRが隣接したゲノムを含み、感染性であり、ITRが隣接した前記ゲノムが導入遺伝子を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項11】
前記インサートが、抗原結合ドメインを含むタンパク質であり、好ましくは抗原結合ドメインを含む前記タンパク質が、単一ドメイン抗体(sdAb)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、または抗体模倣体である、請求項1~6と請求項10のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLPを含み、医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤をさらに含む医薬組成物。
【請求項13】
前記インサートが免疫原性タンパク質またはその一部である、ワクチンとして利用するための、請求項1~10のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項14】
(a)ウイルス、細菌、または寄生虫によって誘導される疾患の治療または予防に利用され、前記免疫原性タンパク質またはその一部が、前記ウイルス、細菌、または寄生虫それぞれの免疫原性タンパク質である、請求項1~10のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP、または(b)がんの治療または予防に利用され、前記免疫原性タンパク質または前記その一部が腫瘍抗原またはその一部である、請求項1~10のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項15】
療法、好ましくは遺伝子療法で利用するための、請求項10または11に記載のAAVまたはAAVLP。
【請求項16】
AAVまたはAAVLPを作製する方法であって、
(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただし前記cap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中にある約75~400個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードしており、場合により前記インサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している);
(ii)前記AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程;および
(iii)前記AAVまたはAAVLPを精製する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスタンパク質(VP)VP1、VP2、および/またはVP3の中の約75~400個のアミノ酸からなるインサート(このインサートは、免疫原性タンパク質またはその一部である、および/または結合ドメイン(標的抗原に対して特異的な抗原結合ドメインなど)を含むタンパク質である)を、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むアデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)に関する。本発明は、前記AAVまたはAAVLPを含む医薬組成物と、治療に用いるための、特にワクチンとして使用するための、疾患の治療または予防に用いるための、および/または遺伝子療法で使用するための、医薬組成物、またはAAV、またはAAVLPにも関する。本発明のAAV又はAAVLPを作製する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターはヒトに遺伝子を効率的かつ長期にわたって導入するのに非常に適した送達系であることが証明されている(Li, C., Samulski, R. J., Nat Rev Genet, 2020, 21: 255-272)。AAVは、パルボウイルス科とデペンドウイルス属に属する非病原性ウイルスであり、アデノウイルス、パピローマウイルス、またはヘルペスウイルスの存在下でだけ複製される。AAVは約5 kbの一本鎖DNAゲノムを有する(Trapani et al., Progress in retinal and eye research, 2014, Volume 43: 108-128)。
【0003】
AAVは、大動物モデル、非ヒト霊長類、およびヒトでの多数の臨床試験で導入遺伝子の安全性と長期発現が広範囲にわたって調べられてきた。
【0004】
AAVは、構造上はエンベロープのない小さい(25 nm)ウイルスであり、20面体のカプシドを有する。AAVのカプシドは、典型的には、60個の個別の構造ウイルスタンパク質(VP)、特に5個のVP1タンパク質、5個のVP2タンパク質、および50個のVP3タンパク質からなる。カプシドは、2つの逆方向末端反復(ITR)の間に2つの遺伝子RepとCapを含む約4.7 kbの一本鎖DNAゲノムを含有する。Repは、ウイルスゲノムの複製とパッケージングに不可欠な多くの非構造Repタンパク質をコードしている。Capは、選択的スプライシングと別々の開始コドンの使用によって構造タンパク質VP1タンパク質、VP2タンパク質、およびVP3タンパク質を約1:1:10の比で生成させるオープンリーディングフレーム(ORF)を含有する。3つのVP(VP1、VP2、およびVP3)のすべてが1つの共通配列を共有しており、VP1だけがそのN末端に独自配列(約138個のアミノ酸)を含有する。したがってVPタンパク質の中の位置は、典型的にはVP1に対して与えられる。それに加え、第2の+1だけフレームシフトしたORFが、非構造アセンブリ活性化タンパク質(AAP)を産生し、それが、カプシド構造そのものには関与せずに3つのVPを20面体カプシド構造に組み立てるのを容易にするシャペロンとして機能する。明確に異なる抗AAV抗体プロファイルを持つ多くの天然のAAV配列のバリアントが存在する(したがって血清型と名づける)(Gao et al., Curr Gene Ther., 2005, 5(3): 285-297)。これら多数の血清型は、そのカプシドタンパク質の組成と構造が異なるため、異なるタイプの細胞に形質導入する効率(すなわち指向性(tropism))が異なる(Srivastava, A., Curr Opin Virol., 2016, 21: 75-80)。組み換えAAV(rAAV)はより高い力価で製造して精製することができるため、臨床での使用(遺伝子療法またはワクチン接種など)が簡単である。
【0005】
組み換えAAVは、Cap配列とRep配列、AAV逆方向末端反復(ITR)が隣接したゲノム、およびAAVの複製に必要とされるアデノウイルスヘルパー配列をコードするDNAプラスミドをHEK293細胞またはHEK293由来細胞などの細胞系(例えばHEK293細胞)にトランスフェクトした後に作製することができる(Grimm et al., Human Gene Therapy, 1998, 9:18: 2745-2760)。空のAAV粒子(AAVLP)は、AAV ITRが隣接したゲノムプラスミドを製造中に除外するとき、同様にして作製することができる(Gao et al., Mol Ther Methods Clin Dev. 2014; 1(9))。
【0006】
AAVカプシドは、その構造の完全さと主要な機能を失うことなく(サイズが約34個のアミノ酸までの)ペプチドの挿入を特定の表面露出位置で許容する(例えばWO 2012/031760 A1、WO 2998/1145401 A2とEP 3 527 223、WO 2016/054554 A1参照)。VPは9つのいわゆる可変領域(VR)を持ち、そのうちのVR-IV、VR-V、およびVR-VIIIの形態のループが突起の頂部に位置する。AAV2の既知の挿入部位は、I-587(例えばAAV2 VP1のアミノ酸残基アスパラギン(N)587とアルギニン(R)588の間への挿入)とI-453(例えばAAV2 VP1のアミノ酸残基グリシン(G)453とトレオニン(T)454の間への挿入)である。AAVカプシドに対するこのように操作は、AAVの指向性を変化させるためと、AAVを天然のAAV血清型が通常感染するのとは異なる特定のタイプの細胞にリダイレクトするために探索されてきた(Buning, H and Srivastava, A., Mol Ther Methods Clin Dev., 2019, 12: 248-265)。したがってAAVカプシドの表面露出位置に挿入される小さなペプチドを用いてAAVの指向性が変えられてきた。あるいはより大きなペプチドがカプシドタンパク質のN末端に導入されたが、その結果としてVP3の発現が喪失し、感染性が低下する可能性がある(Warrington et al., Journal of Virology (2004), 78(12): 6595-6609)。したがって大きなインサートを導入し、おそらくはAAVを潜在的な標的細胞のタイプにリダイレクトする新たな戦略の必要性が残されたままである。
【0007】
2019年12月、新たな高病原性コロナウイルスが中国の武漢市でアウトブレイクを引き起こし、世界中の他の国々に急速に広がった。コロナウイルスは、コロナウイルス科に属するプラス鎖一本鎖RNAウイルスである。これらのウイルスは大半が動物(鳥類と哺乳類が含まれる)に感染する。ヒトでは、コロナウイルスは典型的には穏やかな呼吸器感染症を引き起こす。2003年以来、すでに2つの高病原性ヒトコロナウイルス、すなわち重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)と中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が、罹患率と死亡率の高い世界的なエピデミーにつながっている。両方のエンデミックは、コロナウイルス科の中のベータコロナウイルス属に属する人獣共通コロナウイルスによって引き起こされた。
【0008】
SARS-CoVおよびMERS-CoVと同様、新たなSARS-CoV-2はベータコロナウイルス属に属する。Zhouら(Cell Discovery (2020) 6:14)が報告しているように、SARS-CoV-2はヌクレオチド配列がSARS-CoVと最もよく一致する(79.7%)。具体的には、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質とヌクレオカプシドタンパク質は2つの進化的に保存された領域であり、SARS-CoVと比べると配列がそれぞれ96%と89.6%一致する。スパイクタンパク質は、SARS-CoV-2とSARS-CoVの間で配列の保存が最低であることが報告された(配列が77%一致)一方で、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は、MERS-CoVのスパイクタンパク質と配列が31.9%一致するだけである。Sタンパク質は最も露出しているタンパク質であり、SARS-CoV Sタンパク質に対する抗体応答がSARS-CoV感染から保護することが、マウスモデルにおいて示されている。
【0009】
いくつかの国内研究グループと国際研究グループが、疾患、特にCovid-19の予防と治療のための新たなワクチンの開発に取り組んでいるものの、感染性疾患を予防または治療するための有効なワクチン(HIVまたはがんのワクチンなど)の開発は困難なままである。したがって感染性疾患(Covid-19や、他のコロナウイルスを媒介とする疾患、および/または人獣共通疾患)またはがんを予防および/または治療することのできる有効な治療用および/または予防用ワクチンを開発するための新たな戦略が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
AAVカプシドは、60個の個別の構造ウイルスタンパク質(VP)、すなわち5個のVP1タンパク質、5個のVP2タンパク質、および50個のVP3タンパク質からなる。したがって、免疫原性タンパク質またはその一部を構造タンパク質VP1、VP2、およびVP3(特にVP3)の中に挿入することにより、カプシドの反復構造を理由としてその免疫原性タンパク質またはその一部は完全なAAVカプシドの表面に複数回提示されることになろう。こうすることで高密度の免疫原性タンパク質が提供され、ウイルス(SARS-CoV-2など)の出現が模倣され、表面にウイルス構造タンパク質(例えばスパイクタンパク質)が規則的に繰り返して提示される。この土台技術を活用して標的とする分子、すなわち結合ドメイン(例えば抗体由来のタンパク質または抗体模倣体などの中の抗原結合ドメイン)を含むタンパク質を結合ペアの一方の結合ユニットとして挿入することにより、その結合ペアの他方の結合ユニット(抗原)に結合させることもできる。
【0011】
本発明は、大きい免疫原性タンパク質またはその一部(感染性媒体の主要な抗原部分またはその免疫原性部分など)をAAVカプシドの表面露出位置に挿入し、ワクチンとしてのAAVベクターを別用途化することに関する。特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)は、カプシドVP配列の中にコードされる長さが変化する免疫原性アミノ酸配列のための担体ビヒクルへと、したがってサブユニットワクチンのための担体へと変換される。これらワクチンは、ワクチンの例外的に強い抗原特性が理由で、免疫化に使用して免疫応答(抗体応答が含まれる)を誘導し、疾患を治療または予防すること、または抗体の生成/誘導のための研究ツールとして利用することができる。
【0012】
インサートは、AAV2 VP2のI-587またはI-453の位置で、または3つのVP(VP1、VP2、およびVP3)すべてが共有する共通配列の中の挿入を許容する他の任意の表面露出位置で、AAVカプシドの60個の建築ブロックそれぞれの中に挿入されるため、単一のAAV粒子の表面に60回提示される。本明細書で実証したように、可変領域VIII(VR-VIII)および/または可変領域IV(VR-IV)の頂部にある表面露出位置は、驚くべきことに、大きな挿入物を許容する。2つの挿入部位(1つはVR-VIIIの頂部、1つはVR-IVの頂部(例えばそれぞれAAVのI-587とI-453))に同時に挿入する場合、免疫原性配列が単一のAAV粒子の表面に120回提示されるか、2つの異なる免疫原性配列が単一のAAV粒子の表面にそれぞれ60回提示される。この反復構造により、他のタンパク質(結合ドメイン(抗体由来のタンパク質または抗体模倣体などの中の例えば抗原結合ドメイン)を含むタンパク質/標的分子など)もVR-VIIIおよび/またはVR-IVの頂部の位置に挿入してAAVを変更標的に向かわせ、すなわちリダイレクトし、そのことによって変化した細胞指向性を与えることができる。
【0013】
1つの側面では、本発明は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、場合によりそのインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)に関する。インサートとして、それぞれの長さを持つ任意のタンパク質が可能であり、特にインサートとして、免疫原性タンパク質またはその一部、および/または結合ドメインを含むタンパク質が可能である。
【0014】
ある実施形態では、本発明は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸(好ましくは約75~300個のアミノ酸)からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、そのインサートは免疫原性タンパク質またはその一部であり、場合によりそのインサートの片側または両側に、1個以上のアミノ酸、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)に関する。
【0015】
ある実施形態では、本発明は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、そのインサートは結合ドメインを含むタンパク質であり、場合によりそのインサートの片側または両側に、1個以上のアミノ酸、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)に関する。ある実施形態では、結合ドメインを含む前記タンパク質は、受容体結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、または抗原結合ドメインであり、好ましくは抗原結合ドメインを含むタンパク質である。
【0016】
VR-VIIIの頂部は、VP1のアミノ酸585~592(I-585~I-592)に対応し、より具体的には、配列番号1のアミノ酸配列を持つVP1 AAV1、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2、配列番号3のアミノ酸配列を持つVP1 AAV3、配列番号6のアミノ酸配列を持つVP1 AAV6、配列番号7のアミノ酸配列を持つVP1 AAV7、配列番号8のアミノ酸配列を持つVP1 AAV8、配列番号9のアミノ酸配列を持つVP1 AAV9、または配列番号10のアミノ酸配列を持つVP1 AAV10のほぼアミノ酸585~592(I-585~I-592)に対応するか、配列番号4のアミノ酸配列を持つVP1 AAV4のほぼアミノ酸583~589に対応するか、配列番号5のアミノ酸配列を持つVP1 AAV5のほぼアミノ酸574~580に対応する。あるいはVR-VIIIの頂部は、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2のQ584に対応する保存されたグルタミンの下流8個のアミノ酸と定義することができる。
【0017】
VR-IVの頂部は、VP1のアミノ酸450~460(I-450~I-460)に対応し、より具体的には、配列番号1のアミノ酸配列のVP1 AAV1、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2、配列番号3のアミノ酸配列を持つVP1 AAV3、配列番号6のアミノ酸配列を持つVP1 AAV6、配列番号7のアミノ酸配列を持つVP1 AAV7、配列番号8のアミノ酸配列を持つVP1 AAV8、配列番号9のアミノ酸配列を持つVP1 AAV9、または配列番号10のアミノ酸配列を持つVP1 AAV10のほぼアミノ酸450~460(I-450~I-460)に対応するか、配列番号4のアミノ酸配列を持つVP1 AAV4のほぼアミノ酸445~455(I-445~I-455)に対応するか、配列番号5のアミノ酸配列を持つVP1 AAV5のほぼアミノ酸439~449(I-439~I-449)に対応する。あるいはVR-IVの頂部は、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2のF462に対応する保存されたフェニルアラニンの上流12個のアミノ酸から5個のアミノ酸までと定義することができる。
【0018】
AAVまたはAAVLPは、AAV血清型1(AAV1)、2(AAV2)、8(AAV8)、または9(AAV9)に由来することが好ましい。一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV2に由来し、挿入部位は、配列番号2のアミノ酸配列を持つAAV2 VP1のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV2 I-587)、または588と589の間(AAV2 I-588)、および/または452と453の間(AAV2 I-452)、453と454の間(AAV2 I-453)、または454と455の間(AAV2 I-454)にあり、好ましくはAAV2 I-587 、またはAAV2 I-588、またはAAV2 I-453にあり、より好ましくはAAV2 I-587またはAAV2 I-588にある。
【0019】
別の一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV1に由来し、挿入部位は、配列番号1のアミノ酸配列を持つアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV1 I-587)、588と589の間(AAV1 I-588)、または589と590の間(AAV1 I-589)、および/または454と455の間(AAV1 I-454)、455と456の間(AAV1 I-455)、または456と457の間(AAV1 I-456)にある。別の一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV8に由来し、挿入部位は、配列番号8のアミノ酸配列を持つAAV8 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV8 I-588)、または589と590の間(AAV8 I-589)、または509と591の間(AAV8 I-590)、および/または455と456の間(I-455)、456と457の間(I-456)、または457と458の間(I-457)にある。さらに別の一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV9に由来し、挿入部位は、配列番号9のアミノ酸配列を持つAAV8 VP1のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV9 I-587)、または588と589の間(AAV9 I-588)、または589と590の間(AAV9 I-589)、および/または454と455の間(I-454)、455と456の間(I-455)、または456と457の間(I-456)にある。
【0020】
ある実施形態では、AAVまたはAAVLPは、ウイルスタンパク質の中の約75~300個のアミノ酸からなるインサート、好ましくは約75~260個のアミノ酸からなるインサート、より好ましくは約75~250個のアミノ酸からなるインサート、より一層好ましくは約80~220個のアミノ酸からなるインサートを含む。リンカーは、存在する場合には、免疫原性タンパク質またはその一部のN末端側に1~7個のアミノ酸、好ましくは1~3個のアミノ酸、より好ましくは3個のアミノ酸を含むこと、および/またはC末端側に1~3個のアミノ酸、好ましくは2~3個のアミノ酸を含むことができる。
【0021】
ある実施形態では、AAVまたはAAVLPは、ITRが隣接したゲノムを含むAAVであり、好ましくは感染性である。ITRが隣接したゲノムは、導入遺伝子(さらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子など)を含むことができる。別のある実施形態では、AAVまたはAAVLPは、ITRが隣接したゲノムを含まないAAVLPである。いくつかの実施形態では、インサートは免疫原性タンパク質またはその一部であり、その免疫原性タンパク質またはその一部は、VR-VIIIの頂部とVR-IVの頂部に挿入され、VR-VIIIの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部と、VR-IVの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部は、同じであるか異なっている;および/またはAAVまたはAAVLPは、少なくとも約75~400個のアミノ酸(好ましくは約75~300個のアミノ酸)からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成され、それらの異なるインサートは、それぞれが免疫原性タンパク質またはその一部であり、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分であるか、同じタンパク質からの異なる免疫原性部分であるかのいずれかである。
【0022】
カプシドを形成するAAV VPとして、VP1、VP2、およびVP3が可能であり、1:1:10の比であることが好ましい。カプシドは、VP1とVP3だけ、またはVP3だけで形成することもできる。したがってカプシドを形成するAAV VPとして、VP1とVP3、またはVP3も可能である。あらゆるバリアントにおいて、AAVまたはAAVLPは約60個のVPからなるカプシドを持つことが好ましい。
【0023】
ある実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPは、挿入された免疫原性タンパク質またはその一部に対して免疫原性である。ある実施形態では、その免疫原性タンパク質またはその一部として、ウイルス、細菌、または寄生虫のタンパク質またはその一部が可能である。ウイルスタンパク質の場合には、その免疫原性タンパク質またはその一部は、AAVタンパク質またはその一部である。一実施形態では、その免疫原性タンパク質またはその一部は、コロナウイルススパイク(S)タンパク質の一部(SARS-CoV-2 Sタンパク質の一部など)である。コロナウイルスSタンパク質のその一部は、コロナウイルスSタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)またはその一部(SARS-CoV-2 Sタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)またはその一部など)、好ましくは受容体結合モチーフ(RBM)を含む部分を含むことができる。一実施形態では、SARS-CoV-2 Sタンパク質のその一部は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69、好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列を含むか、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69、好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列と少なくとも90%配列が一致したアミノ酸配列を含む。他の実施形態では、その免疫原性タンパク質またはその一部は、腫瘍抗原である。
【0024】
ある実施形態では、インサートは、結合ドメイン(抗原結合ドメイン、例えば単一ドメイン抗体(sdAb)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、または抗体模倣体(アンチカリンなど)など)を含むタンパク質である。AAVまたはAAVLPは、好ましくはITRが隣接したゲノムを含むAAVであり、感染性であり、ITRが隣接したそのゲノムは導入遺伝子を含むことができる。
【0025】
さらに別の1つの側面では、本発明は、本発明によるAAVまたはAAVLPを含み、好ましくは医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤をさらに含む医薬組成物に関する。
【0026】
さらに別の1つの側面では、本発明は、治療に利用するための本発明のAAVまたはAAVLP、または本発明の医薬組成物に関する。
【0027】
さらに別の1つの側面では、本発明は、本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物に関するものであり、インサートは、ワクチンとして使用するための免疫原性タンパク質またはその一部である。
【0028】
さらに別の1つの側面では、本発明は、ウイルス、細菌、または寄生虫によって誘導される疾患の治療または予防に利用され、インサートが、前記ウイルス、細菌、または寄生虫それぞれの免疫原性タンパク質またはその一部である、本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物に関する。一実施形態では、疾患はコロナウイルス呼吸器症候群であり、免疫原性タンパク質またはその一部はコロナウイルススパイク(S)タンパク質の一部である。ある実施形態では、疾患はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)であり、免疫原性タンパク質またはその一部はSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部である。特別な1つの側面では、本発明によるAAVまたはAAVLPの中の免疫原性タンパク質またはその一部はSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部を含み、AAVまたはAAVLPは、SARS-CoV-2に対する免疫応答を誘導するのに利用される。本発明に従って利用するためのAAVまたはAAVLPのある実施形態では、SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の前記一部、好ましくはSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の前記一部は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69、好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列を含むか、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69、好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列と少なくとも90%配列が一致したアミノ酸配列を含む。当業者は、SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質またはその一部が、細胞受容体に結合するウイルス侵入タンパク質であり、したがって結合ドメイン、より具体的には受容体結合ドメインを含む結合タンパク質でもあることがわかるであろう。Sタンパク質は細胞受容体ACE-2に結合する。したがってインサートとして、免疫原性タンパク質またはその一部と、結合ドメインを含むタンパク質も可能である。
【0029】
さらに別の1つの側面では、本発明は、がんの治療または予防に利用するための、本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物に関するものであり、免疫原性タンパク質またはその一部は、腫瘍抗原またはその一部である。当業者は、あるウイルス免疫原性タンパク質が腫瘍抗原(HCVまたはHPVに由来する抗原)としても機能できることがわかるであろう。
【0030】
さらに別の1つの側面では、本発明は、遺伝子療法で利用するための、本発明のAAVまたはAAVLP、または本発明による医薬組成物に関するものであり、その中のインサートは、結合ドメイン(抗原結合ドメイン、例えば単一ドメイン抗体(sdAb)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、または抗体模倣体など)を含むタンパク質である。AAVまたはAAVLPは、ITRが隣接したゲノムを含むAAVであることが好ましく、感染性であり、より好ましくは、ITRが隣接したゲノムは導入遺伝子を含む。
【0031】
本発明に従って使用するためのAAVまたはAAVLPは、鼻腔内粘膜、舌下、経口、口腔、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下の経路を通じて投与することができる。一実施形態では、AAVまたはAAVLPは、鼻腔内、経口、および/または粘膜の経路を通じた吸入によって投与することができる。
【0032】
さらに別の1つの側面では、本発明は、AAVまたはAAVLPを作製する方法に関するものであり、この方法は、(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただし前記cap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸(好ましくは約75~300個のアミノ酸)からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードしており、場合により前記インサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している);(ii)前記AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程;および(iii)前記AAVまたはAAVLPを精製する工程を含む。ある実施形態では、この方法は、前記AAVまたはAAVLPを含む医薬組成物を製造するため、(iv)医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤を添加してAAVまたはAAVLPを製剤化して医薬組成物にする工程をさらに含む。インサートとして、それぞれの長さを持つ任意のタンパク質が可能であり、特にインサートとして、免疫原性タンパク質またはその一部、および/または結合ドメインを含むタンパク質が可能である。
【0033】
ITRが隣接したゲノムは導入遺伝子をさらに含むことができる。特にインサートが免疫原性タンパク質またはその一部である場合、ITRが隣接したゲノムは、さらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子をさらに含むことができる。別のある実施形態では、AAVまたはAAVLPは、ITRが隣接したゲノムを含まないAAVLPである。カプシドを形成するAAV VPとして、VP1、VP2、およびVP3が可能であり、1:1:10の比であることが好ましい。カプシドは、VP1とVP3だけ、またはVPによって形成することもできる。したがってカプシドを形成するAAV VPとして、VP1とVP3も可能である、またはVP3が可能である。あらゆるバリアントにおいて、AAVまたはAAVLPは約60個のVPからなるカプシドを持つことが好ましい。免疫原性タンパク質またはその一部、および/または結合ドメインと挿入部位を含むタンパク質として、本発明によるAAVまたはAAVLPに関して本明細書に開示されているものが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】AAVカプシドおよびAAVウイルスタンパク質の構造モデルと、cap ORFの模式図。(A)VP1、VP2、およびVP3を含むORFリーディングフレームの模式図。インサートを含む代表的な挿入部位の位置I-587が下部に示されている。(B~C)(C)AAV2 WTの公開されている構造(データベース:タンパク質データバンク(PDB)/ID:6ih9)に基づき、(B)インサートとしてI-587の位置にSARS-CoV-2のSタンパク質ドメインを含むAAV2(HtW2_S1.1)のVP3のRobetta(https://robetta.bakerlab.org/)を利用した、既知の構造からのRobettaを利用した比較構造モデリングを、Chimeraソフトウエア(https://www.cgl.ucsf.edu/chimera)を利用して同じ向きで処理した。AAVのVP部分は灰色に、Sタンパク質部分は黒色に塗られている。(D~E)RoseTTAFold(https://robetta.bakerlab.org/)を利用して(D)インサートとしてI-587の位置にSARS-CoV-2のSタンパク質ドメインを含むAAV2(HtW2_S1.1)のVP3を(E)AAV2 WTの公開されている構造(データベース:タンパク質データバンク(PDB)/ID:6ih9)と比較した配列情報からの比較構造モデリングを、Chimeraソフトウエア(3)を利用して同じ向きで処理した。AAVのVP部分は灰色に、Sタンパク質部分は黒色に塗られている。(F~G)RoseTTAFoldを利用したHtW2_S1.1の対応する60量体カプシド構造の配列情報に基づく比較構造モデリングが、2つの異なる角度(F)と(G)でそれぞれ示されている。AAVのVP部分は灰色に、Sタンパク質部分は黒色に塗られている。したがって大きい200個超のアミノ酸Sタンパク質の挿入が主要な巨大カプシド構造を損なうことはなかった。(F、G)の中のスケール棒は100オングストロームを表わす。
【0035】
【
図2】AAVベクターのAAVxアフィニティ精製クロマトグラフィ。(A-C)(A)AAV2 WT粒子と、(B)ITRが隣接したsc-CMV-eGFP発現カセットを有するpTransgeneプラスミドの存在下で生成したHtW2_S1.1粒子(=充満AAV粒子)のほか、(C)pTransgeneプラスミドの不在下で生成したHtW2_S1.1粒子(=空AAV粒子;AAVLP)の溶離を示すクロマトグラムである。HtW2_S1.1充満粒子とHtW2_S1.1空粒子がAAVxアフィニティ精製カラムに結合し、溶離プロセスの開始後、似ているがわずかに遅れて溶離する(x軸に溶離バッファのml値によって示されている)。
【0036】
【
図3】ヒーラ細胞へのAAVベクターの形質導入アッセイ。(A)AAV2 WTとともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFP(行1)、またはリンカーアミノ酸が隣接したRBD(配列番号11)を含むSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質の部分を含む202個のアミノ酸からなる挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.1(行2~4)をMOI 1,000で形質導入してから24時間後(左図)と48時間後(右図)のヒーラ細胞培養物からの代表的な明視野・落射蛍光画像。行3と4の画像は、HtW2_S1.1とともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをそれぞれMOI 500と250で形質導入した後のHtW2_S1.1形質導入ヒーラ細胞培養物の代表的な画像を示す。スケール棒は400 μmを表わす。(B)AAV2 WTとともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 1,000で(上方の図)、またはリンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクRBDの部分を含む202個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.1とともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 1,000、500、および250で形質導入してから48時間後のヒーラ細胞培養物の中でCountess II FL自動化細胞カウンタを用いて測定したeGFP陽性細胞の割合(単位は%)を示すグラフ。200個超のアミノ酸という大きな挿入にもかかわらず、HtW2_S1.1は、非常に低いMOI 250でさえ、ヒト細胞に感染して形質導入する能力を相変わらず保持していた。
【0037】
【
図4】ヒーラ細胞へのHtW2_S1.1ベクターの形質導入アッセイ。(A)RBD(配列番号11)を含むSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質の部分を含む202個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.1とともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 250(上の行)またはMOI 500(下の行)で形質導入してから、24時間後(左図)と48時間後(右図)の天然の(左列、- ACE2)ヒーラ細胞培養物またはACE2形質導入(右列、+ACE2)ヒーラ細胞培養物からの代表的な落射蛍光画像。スケール棒は400 μmを表わす。(B)リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクRBDの部分を含む202個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.1とともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 250と500で形質導入してから48時間後の天然のヒーラ細胞培養物またはACE2形質導入ヒーラ細胞培養物の中でCountess II FL自動化細胞カウンタを用いて測定したeGFP陽性細胞の割合(単位は%)を示すグラフ。一元配置分散分析、シダック多重比較検定:**、p<0.01;***、p<0.001。
【0038】
【
図5】HEK293T細胞へのHtW2_S1.2ベクターの形質導入アッセイ。(A)リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質の部分(配列番号69)を含む211個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.2とともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 250(上の行)、MOI 500(中央の行)、またはMOI 1000(下の行)で形質導入してから48時間後(右図)の天然の(左列、-ACE2)HEK293T細胞培養物または安定なACE2を過剰発現している(右列、+ACE2)HEK293T細胞培養物からの代表的な落射蛍光画像。スケール棒は200 μmを表わす。(B)リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクRBDの部分を含む206個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.2とともにパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 250、500、および1000で形質導入してから48時間後の天然のHEK293T細胞培養物、または安定なACE2を過剰発現しているHEK293T細胞培養物の中でCountess II FL自動化細胞カウンタを用いて測定したeGFP陽性細胞の割合(単位は%)を示すグラフ。一元配置分散分析、シダック多重比較検定:***、p<0.001;****、p<0.0001。
【0039】
【
図6】HtWカプシドに対する液性応答。(A)ウサギ(12週齢の雌)における免疫化スキーム(B)HtWカプシドの免疫原性を、示されているAAV空カプシドで免疫化したウサギからの血清中でELISAによって評価した。SARS-CoV-2野生型RBDに対するIgGエンドポイント力価が示されている。ウサギを野生型AAV空カプシド(AAV2 WT、AAV9 WT)またはHtW空カプシド(HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、またはHtW9_S1.1)で免疫化した。(C)ウサギ血清を、空AAVカプシドを用いた第1(採血1)、第2(採血2)、および第3(採血3)ブースター注射の10日後に回収し、抗原としてSARS-Cov-2 RBDを用いてELISAによって分析した。SARS-CoV-2 RBD特異的なIgG抗体とIgM抗体のエンドポイント力価が示されている。
【0040】
【
図7】HtWカプシドに対して誘導されたウサギ血清のドットブロット分析を利用した分析。(A)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜の表面にスポット状にし、示されている抗体または血清で染色したAAVベクターのドットブロットアッセイの模式的表現。(B)各AAVベクターの作製に使用したカプシドと、(C~F)に示されているブロットの各ドットの上のスポット状のAAVベクターの量(全ベクターのゲノム)を示すピペット操作スキーム。(C)1:500の希釈度のウサギモノクローナル抗SARS-CoV-2スパイクS1市販抗体で標識したドットブロット。(D)HtW2_S1.1空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW2_S1.1)の1:10000希釈液で標識したドットブロット。(E)HtW2_S1.2空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW2_S1.2)の1:10000希釈液で標識したドットブロット。(F)HtW9_S1.1空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW9_S1.1)の1:10000希釈液で標識したドットブロット。
【0041】
【
図8】PVDF膜の表面にスポット状にし、Comirnatyを接種したヒト個体とHtw9_S1.1を接種したウサギからの血清で染色したAAVベクターのドットブロットアッセイ。(A)各AAVベクターの作製に使用したカプシドと、(B~C)に示されているブロットの各ドットの上のスポット状のAAVベクターの量(全ベクターのゲノム)を示すピペット操作スキーム。(B)Comirnaty(BNT162b2、Biontech/Pfizer)を用いた2回目のワクチン接種の1週間後に患者から回収した血清の1:500希釈液で標識したドットブロット。(C)剥がした後、空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW9_S1.1)の1:10000希釈液で再標識した同じドットブロット。
【0042】
【
図9】HtWで免疫化したウサギからの血清の中和効率。(A)HtW9_S1.1で免疫化したウサギの血清を用いた、ACE2を安定に発現しているHEK293T細胞(HEK293T+ACE2)への形質導入効率に関する中和アッセイ。sc-CMV-eGFPゲノムを有するHtW2_S1.1またはHtW2_S1.2ベクターを、異なる希釈度(1:1000、1:5000、1:10000)のαHtW9_S1.1血清とともに37℃であらかじめインキュベートし、250のMOIでHEK293T+ACE2細胞に形質導入するのに使用した。形質導入してから48時間後の落射蛍光顕微鏡法の画像が示されている。(B)形質導入の48時間後、細胞を回収し、Countess II FL自動化細胞カウンタを用いてeGFP陽性細胞の割合を分析した。示されている希釈度のαHtW9_S1.1とともにあらかじめインキュベートしたHtW2_S1.1またはHtW2_S1.2を用いた形質導入の後のeGFP陽性細胞の割合が、それぞれのベクターを用いた、だが血清の不在下での対応する対照形質導入に規格化して示されている。
【0043】
【
図10】血清型AAV2(A)、AAV9(B)、AAV1(C)、およびAAV8(D)のAAVウイルスタンパク質(VP)の構造モデル。(A~D)アミノ酸585~592に対応する可変領域VIIIの頂部と、アミノ酸450~460に対応する可変領域IVの頂部が黒色で強調され、(A)AAV2 WT(PDB 6ih9)のアミノ酸585~592(配列番号17)とアミノ酸450~460(配列番号16)に印が付けられ、(B)AAV9 WT(3ux1)のアミノ酸585~592(配列番号19)とアミノ酸450~460(配列番号18)に印が付けられ、(C)AAV1 WT(6jcr)のアミノ酸585-592(配列番号21)とアミノ酸450~460(配列番号20)に印が付けられ、(D)AAV8 WT(2qa0)のアミノ酸585~592(配列番号23)とアミノ酸450~460(配列番号22)に印が付けられたAAV2、AAV9、AAV8、およびAAV9のVP3の比較構造モデリング(https://robetta.bakerlab.org/)を、Chimeraソフトウエアを用いて処理した。
【0044】
【
図11】配列番号1、配列番号2、配列番号8、および配列番号9のアミノ酸配列をそれぞれ持つAAV1、AAV2、AAV8、およびAAV9 VP1のCap配列の多重配列アラインメント。配列はClustal O(1.2.4)を用いてアラインメントした。影を付けた領域は、VR-IV(I-450~I-460)の中とVR-VIII(I-585~I-592)の中の挿入部位を示す。
【0045】
【
図12】配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、および配列番号10のアミノ酸配列をそれぞれ持つAAV1-10 VP1のCap配列の多重配列アラインメント。配列はClustal O(1.2.4)を利用してアラインメントさせた。
【0046】
【
図13】リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質を含む202個のアミノ酸(配列番号13)の挿入を有する、AAV2-Repタンパク質とAAV2-CAPタンパク質を発現させるpHtW2_S1.1(AAV2)のベクトルマップ。
【0047】
【
図14】リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質を含む211個のアミノ酸(配列番号70)の挿入を有する、AAV2-Repタンパク質とAAV2-CAPタンパク質を発現させるpHtW2_S1.2(AAV2)のベクトルマップ。
【0048】
【
図15】リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質を含む202個のアミノ酸(配列番号14)の挿入を有する、AAV2-Repタンパク質とAAV2-CAPタンパク質を発現させるpHtW9_S1.1(AAV9)のベクトルマップ。
【0049】
【
図16】AAVカプシドとAAVウイルスタンパク質の構造モデル。(A~B)RoseTTAFold(https://robetta.bakerlab.org/)に基づく、インサートとしてI-587の位置に抗GFP scFv抗体フラグメント(配列番号73)を含むAAV2(AAV2-aGFP) のVP3のタンパク質構造の新規な予測(A)。AAV2-aGFPの対応する予想される60量体カプシド構造が(B)に示されている。AAVのVP部分は灰色に、抗GFP scFv部分は黒色に塗られている。したがって大きい200個超のアミノ酸抗GFP scFvは主要な巨大カプシド構造を損なわなかった。(B)の中のスケール棒は100オングストロームを表わす。
【発明を実施するための形態】
【0050】
「含む」または「含んでいる」という用語は、「含有しているが、それに限定されない」ことを意味する。この用語は、列挙するものの数に制限がなく、記載されているあらゆる特徴、要素、整数、抗体、または成分の存在を明確にしているが、1つ以上の他の特徴、要素、整数、抗体、成分、またはこれらのグループの存在または追加を排除しないことが想定されている。したがって「含んでいる」という用語には、より限定的な用語である「からなる」と「主に…からなる」が包含される。「含んでいる」という用語は、個別に「からなる」という用語で置き換えることができる。配列に関して「のアミノ酸配列を持つ」と「のアミノ酸配列を含む」という表現は交換可能に使用され、「のアミノ酸配列からなる」実施形態を包含することができる。「1つの」という用語は、本明細書では複数を含むことができ、したがって1つが含まれるがそれに限定されない。「約」という用語は、本明細書では、指定された値の±10%を意味する。
【0051】
「発現カセット」という用語は、本明細書では、発現を制御する調節配列(プロモータなど)の制御下にある少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸単位を意味する。発現カセットは転写終了シグナルも含むことが好ましい。
【0052】
「タンパク質」という用語は「アミノ酸配列」または「ポリペプチド」と交換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを意味する。これらの用語には、反応(非限定的な例に、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、糖化、またはタンパク質プロセシングが含まれる)を通じて翻訳後修飾されるタンパク質も含まれる。修飾と変化(例えばアミノ酸配列の置換、欠失、または挿入)は、ポリペプチドの構造内で、その分子がその生物学的機能活性を維持した状態で実現することができる。例えばあるアミノ酸配列の置換は、ポリペプチドまたはその元になる核酸コード配列において実現することができ、同じ特性を持つタンパク質を得ることができる。「タンパク質」という用語は、典型的には、二次構造と三次構造を典型的に持つ30個超またはそれよりも多い数のアミノ酸を持つ配列を意味する。「ペプチド」という用語は、典型的には長さが30個までのアミノ酸を持つ配列を意味する。典型的にはペプチドは、一次アミノ酸配列によって特徴づけられる。「免疫原性」という用語は、本明細書では、ある物質を受け入れた対象の身体に抗原特異的応答を引き起こすことのできるその物質を意味する。このような免疫応答には、液性および/または細胞媒介免疫応答が含まれる。
【0053】
「免疫原性タンパク質またはその一部」という用語は、本明細書では、例えば病原体または腫瘍細胞の抗原性タンパク質または免疫原性タンパク質(ウイルス構造タンパク質または腫瘍抗原など)またはその免疫原性部分を意味する。免疫原性タンパク質の免疫原性部分は、典型的には、その免疫原性タンパク質の1つ以上のドメインを含む(膜貫通タンパク質の場合には、典型的には免疫原性タンパク質のエクトドメインの1つ以上のドメイン)。しかし本発明には、免疫原性部分が、あるドメインの免疫原性部(ウイルス侵入タンパク質の受容体結合ドメイン、または腫瘍抗原のリガンド結合ドメインなど)だけを含む場合も包含される。免疫原性タンパク質またはその一部は、本明細書では、その免疫原性タンパク質を発現している病原体または腫瘍細胞に対するサブユニットワクチンとして機能する可能性がある。免疫原性タンパク質またはその一部は、本明細書では、前記免疫原性タンパク質またはその一部を含む60個までのウイルスタンパク質を含むAAVまたはAAVLPの例外的に強力な抗原特性が理由で、ワクチン接種後に抗体を誘起するか生成させるワクチンまたは抗原としても機能する可能性がある。
【0054】
「サブユニットワクチン」という用語は、本明細書では、病原体(ウイルス、細菌、または寄生虫)の全体ではなく部分だけを含み、腫瘍抗原の文脈でも使用することができる。これらワクチンは不可欠な抗原だけを含有していて病原体または腫瘍細胞を構成する他の分子をすべて含有することはないため、副作用が一般により少ない。DTaPワクチンの百日咳成分はサブユニットワクチンの一例である。
【0055】
「ドメイン」という用語は、本明細書では、三次構造を持つ1つの折り畳まれたタンパク質構造を意味し、このタンパク質の残部とは独立である。一般に、ドメインはタンパク質の別々の機能的特性に責任があり、多くの場合、機能または免疫原性を喪失することなく他のタンパク質に付加すること、または移すことができる。
【0056】
「インサート」という用語は、本明細書では、少なくとも1個のアミノ酸またはヌクレオチドをアミノ酸またはヌクレオチドの配列に、置換ではなく挿入することを意味する。本発明の文脈では、この用語は主にアミノ酸配列の文脈で用いられる。インサートは、2個のアミノ酸の間に導入すること、または一連のアミノ酸と置き換えることができ、その結果として全体として伸長したアミノ酸配列になる。本発明によれば、インサートは、少なくとも約75個のアミノ酸、好ましくは約75~400個のアミノ酸、より好ましくは約75~300個のアミノ酸を有する。得られたタンパク質は、起源がVPとは異なるインサートを持つキメラタンパク質である。したがって本発明によるAAVまたはAAVLPの中の「インサート」は、N末端とC末端の位置が本明細書で特定される侵入部位の位置でウイルスタンパク質(VP)に融合した約75~400個のアミノ酸、より好ましくは約75~300個のアミノ酸のタンパク質またはポリペプチドである。インサートの片側または両側に1個以上のアミノ酸を含むリンカーを隣接させることができる。
【0057】
「導入遺伝子」という用語は、別の生物のゲノムに人工的に導入された遺伝子を意味する。導入遺伝子は異種遺伝子と呼ぶこともできる。AAVの場合には、導入遺伝子は、典型的には、pTransgeneプラスミドなどの中のゲノムの2つのITRの間に位置する。
【0058】
「結合ドメインを含むタンパク質」は、本明細書では、結合ペアの1つの結合ユニット(標的抗原に対して特異的な抗原結合ドメインを含むタンパク質(例えば抗体由来のタンパク質、または抗体模倣体)など)を意味する。結合ドメインとして、受容体結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、または抗原結合ドメイン(抗原認識ドメインとも呼ばれる)が可能である。したがってある結合ドメインを含むタンパク質、すなわち結合ペアの一方の結合ユニットが、ある結合ドメインを含むそのタンパク質にとっての結合パートナー、すなわち結合ペアの他方の結合ユニット(例えば受容体またはリガンドまたは抗原)を表面に発現している標的細胞に対するAAVまたはAAVLPの指向性を決定する。適切な結合ペアの非限定的な例は、抗原結合ドメインとその抗原(例えば単一ドメイン抗体(sdAb)、一本鎖可変フラグメント(scFv)とその抗原または抗体模倣体(アンチカリンとその抗原など))、受容体結合ドメインを含むタンパク質と受容体(例えばコロナウイルススパイク(S)タンパク質とACE受容体;抗体Fc領域(例えばscFc)とFc受容体)、およびリガンド結合ドメインとリガンド(例えばPD-1とPD-L1)である。
【0059】
「指向性」または「細胞指向性」という用語は、本明細書では、ウイルスがあるタイプの細胞に遺伝子導入する能力を意味する。したがってさまざまな指向性を持つAAVまたはAAVLPは、異なるタイプの細胞(例えば異なるタイプの網膜細胞)に遺伝子導入する能力を持つ。AAVまたはAAVLPの指向性は組み換え技術(遺伝子操作)によって変えることができ、その結果として変更標的に向かうAAVまたはAAVLPになる、すなわちAAVまたはAAVLPは、天然のAAV血清型が通常は感染するタイプ以外の特定のタイプの細胞にリダイレクトされる。AAV粒子の表面に提示されたAAVカプシドの表面露出位置に挿入される小さなペプチドを利用してAAVの指向性が変更されてきたが、本発明によれば指向性のこの変化は、ウイルスタンパク質の中の約75~400個、好ましくは75~300個のアミノ酸からなるインサートによって実現することができ、このインサートは、例えば抗体由来のタンパク質(sdAbまたは一本鎖Fvまたは抗体模倣体(アンチカリンなど)など)の中の結合ドメイン(抗体結合ドメインなど)を含むタンパク質である。
ウイルスタンパク質の中にタンパク質またはその一部からなるインサートを含むAAVまたはAAVLP
【0060】
本発明は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の少なくとも約75個のアミノ酸(約75~400個、好ましくは約75~300個のアミノ酸)からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、場合によりそのインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)に関する。インサートとして、任意のタンパク質またはその一部が可能である。ある実施形態では、インサートは、(a)免疫原性タンパク質またはその一部、および/または(b)結合ドメインを含むタンパク質である。VR-VIIIの頂部に挿入されたインサートと、VR-IVの頂部に挿入されたインサートは、同じでも異なっていてもよい。ある実施形態では、VR-VIIIの頂部に挿入された第1のインサートとVR-IVの頂部に挿入された第2のインサートは異なる。他の実施形態、または追加の実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPは、少なくとも約75~400個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成することもできる。インサートを含む前記2つ以上のウイルスタンパク質それぞれの中のインサートは、タンパク質またはその一部であり、(a)免疫原性タンパク質またはその一部と、(b)結合ドメインを含むタンパク質からなるグループから選択されることが好ましい。好ましい実施形態では、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)のそれぞれは、VPのVR-VIIIまたはVR-IVの頂部にある挿入部位の位置にインサートを含む。
【0061】
したがってある実施形態では、本発明は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の少なくとも約75個のアミノ酸(約75~400個、好ましくは約75~300個のアミノ酸)からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、そのインサートは、免疫原性タンパク質またはその一部であり、場合によりそのインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)に関する。VR-VIIIの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部と、VR-IVの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部は、同じでも異なっていてもよい。ただし異なるは、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質からの異なる免疫原性部分が可能である。異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分は、病原体の場合には、同じ病原体(同じ細菌、同じウイルス、または同じ寄生虫など)に由来する。ある実施形態では、VR-VIIIの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部と、VR-IVの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部は、異なる(異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質からの異なる免疫原性部分など)。他の実施形態、または追加の実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPは、少なくとも約75~400個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成することもできる。それら異なるインサートは、それぞれ、免疫原性タンパク質またはその一部であり、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分であるか、同じタンパク質からの異なる免疫原性部分であるかのいずれかである。好ましい実施形態では、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)のそれぞれは、VPのVR-VIIIまたはVR-IVの頂部にある挿入部位の位置にインサートを含む。
【0062】
本発明は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の少なくとも約75個のアミノ酸(約75~400個、好ましくは約75~300個のアミノ酸)からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、そのインサートは、結合ドメインを含むタンパク質であり、場合によりそのインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)にも関する。ある実施形態では、結合ドメインを含むタンパク質は、受容体結合ドメイン、リガンド結合ドメイン、または抗原結合ドメインを含むタンパク質、好ましくは抗原結合ドメインを含むタンパク質である。VR-VIIIの頂部に挿入された結合ドメイン含有タンパク質と、VR-IVの頂部に挿入された結合ドメイン含有タンパク質は、同じでも異なっていてもよい。ただし異なるは、異なる結合特異性(例えば異なる抗原結合特異性)を持つ結合ドメインを含むタンパク質を意味する。あるいはインサートの1つだけを、結合ドメイン含有タンパク質にすることができる。他の実施形態、または追加の実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPは、少なくとも約75~400個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成することもできる。それら異なるインサートは、それぞれ、好ましくは異なる結合特異性を持つ結合ドメインを含むタンパク質にすること、またはそれらインサートの少なくとも1つが結合ドメインを含むタンパク質であることが可能である。好ましい実施形態では、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)のそれぞれは、VPのVR-VIIIまたはVR-IVの頂部にある挿入部位(i)の位置にインサートを含む。
【0063】
AAVのVP3領域(したがってVP1とVP2も)は、すべての血清型に共通するよく保存された領域、すなわちコア8本鎖β-バレル(βB-βI)と小さなα-ヘリックスを含有する。β-鎖の間に挿入されたループ領域は、β-鎖HとIの間の明確なHIループ、β-鎖DとEの間のDEループ、およびこれらループの頂部を形成する9つの可変領域(VR)からなる。これらのVRはカプシドの表面に見いだされ、AAVのライフサイクルで特定の機能的役割(受容体結合、遺伝子導入、および抗原特異性が含まれる)と関連づけることができる(Drouin and Agbandje-McKenna, Future Virol., 2013, 8(12):1183-1199)。
【0064】
少なくとも13種類の異なるヒトおよび非ヒト霊長類AAV血清型(AAV1~AAV13)がこれまでにシークエンシングされている。AAVは、抗原活性と配列比較に基づいて6つの遺伝子群(クレードA~f)と2つのクローン単離体(AAV4とAAV5)に分類される。AAV血清型は、比較するとほぼ65~99%しか配列が一致していないが、構造は95~99%とよく一致する(重ね合わせ可能なCα位置の割合)(Drouin and Agbandje-McKenna, Future Virol., 2013, 8(12):1183-1199)。
【0065】
構造の一致度が大きいため、当業者は、AAV VP1配列に関してVR-VIIまたはVR-IVの頂部を容易に決定することができる。AAVの構造タンパク質の構造データと3D図は、大きな生物分子の三次元構造データに関するオープンアクセスのデータベースであるタンパク質データバンクの中の大半の血清型から入手できる(https://www.rcsb.org/)。例えばAAV 1、2、5、8、および9の構造は、以下のID番号6ih9(AAV2)、6jcr(AAV1)、6jct(AAV5)、2qa0(AAV8)、3ux1(AAV9)で見つけることができる。あるいは所与の配列の3D構造は、既知の構造に基づくタンパク質構造予測サービス、例えばRobettaタンパク質構造予測サービス(https://robetta.bakerlab.org/)、または配列情報からのタンパク質構造の予測をディープラーニングで改良したことに基づくより最近利用可能になったモデリングサービス、例えばRoseTTAFoldタンパク質構造予測サービス(https://robetta.bakerlab.org/)を利用した比較構造モデリングを利用して生成させることができる。VR-VIIIとVR-IVの頂部は、VR-VIIIとVR-IVの最も外側の先端にあるアミノ酸と、その上流と下流の約2~5個のアミノ酸を同定することによって同定することができる。
【0066】
本発明によるAAVまたはAAVLPは、任意のAAV血清型に由来するものが可能である。AAVの非限定的な例に含まれるのは、AAV 1型(AAV-1)、AAV 2型(AAV-2)、AAV 3型(AAV-3)、AAV 3B型(AAV-3B)、AAV 4型(AAV-4)、AAV 5型(AAV-5)、AAV 6型(AAV-6)、AAV 7型(AAV-7)、AAV 8型(AAV-8)、AAV 9型(AAV9)、AAV 10型(AAV10)、AAV11、AAV12、AAV13、rh10、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、およびヒツジAAVである。「霊長類AAV」は霊長類に感染するAAVを意味し、「非霊長類AAV」は非霊長類哺乳類に感染するAAVを意味し、「ウシAAV」はウシ哺乳類に感染するAAVを意味する、などである。AAVまたはAAVLPは、AAV血清型1(AAV1)、2(AAV2)、3(AAV3)、4(AAV4)、5(AAV5)、6(AAV6)、7(AAV7)8(AAV8)、9(AAV9)、または10(AAV10)に由来することが好ましく、1(AAV1)、2(AAV2)、8(AAV8)、または9(AAV9)に由来することがより好ましい。これらAAVの対応する挿入部位は、上に記載したようにAAV1~AAV10および/またはそれぞれの3D構造に関して本明細書に開示されている特定の挿入部位から移すことができる。
【0067】
VPと略される「ウイルスタンパク質」という用語は、本明細書では、ウイルスタンパク質VP1、VP2、およびVP3を意味し、これらは相互作用してカプシドを形成するため、AAV構造タンパク質である。ウイルスタンパク質はカプシドタンパク質と呼ぶこともできる。AAVカプシドは、3つの反復単量体VP1、VP2、およびVP3が1:1:10の化学量論比になったエンベロープなしの二十面体60量体である。この二十面体カプシドは直径が約260 Åである。3つの構造タンパク質VP1、VP2、およびVP3は、単一のcap遺伝子を含むcap ORFから、P40プロモータを用い、選択的スプライシングと、VP2のための代替非標準的ACG翻訳開始コドンの使用によって生成し、VP3の長さと同じC末端を共有する3つの別々のタンパク質生成物になる(
図1A)。単独のVP3、またはVP1とVP3からなるカプシドを組み立て、ゲノムとともにパッケージすることができる。しかしVP3だけの粒子は、cap ORFのVP1に特有の領域の中にコードされているPLA2ドメインが不在であるため非感染性である。
【0068】
当業者は、提供されたある配列を持ち、VP2およびVP3(特にVP3)と共通する配列の中の挿入部位も指定するVP1タンパク質のアミノ酸位置に対応する特定の挿入部位が提供されることがわかるであろう。VP3の開始部はAAV1(配列番号1)、AAV2(配列番号2)、AAV3(配列番号3)、AAV6(配列番号6)、およびAAV9(配列番号9)についてはVP1のアミノ酸位置M203に対応し、AAV8(配列番号8)とAAV10(配列番号10)についてはVP1のアミノ酸位置M204に対応し、AAV4(配列番号4)についてはVP1のアミノ酸位置M197に、AAV5(配列番号5)についてはVP1のアミノ酸位置M193に対応する。AAV7については、VP3の開始部はVP1(配列番号7)の位置204に対応することを指摘する(AAV7 VP3は普通でないGTG開始コドンを使用する、EP 1 456 419 B1の段落[29]参照)。AAV3は、本明細書では、AAV3AとAAV3Bを含む。AAV3のcapタンパク質に関して提供されている配列番号3のアミノ酸配列はAAV3Bに関係する。しかしAAV3Aを本発明の文脈で同様に用いることができ、当業者はそれぞれの組み込み部位を同定することができよう。
【0069】
「挿入部位」という用語は、本明細書では、アミノ酸配列の中でアミノ酸位置によって規定される位置を意味し、ポリペプチドインサートを互いに隣り合った2個のアミノ酸の間に導入できることを含む。しかし当業者は、ポリペプチドインサートを、互いに直接隣り合ってはいない2個のアミノ酸の間に導入してもよく、その結果としてVR-VIIIまたはVR-IVの頂部内で短鎖アミノ酸(2、3、4、5個、またはより多数のアミノ酸、好ましくは2、3、または4個のアミノ酸)の置換が起こることがわかるであろう。インサートは隣り合った2個のアミノ酸の間に挿入されることが好ましい。本明細書では、挿入部位(I)を例えばI-587またはAAV2 I-587と呼ぶことができる。これは、それぞれのアミノ酸位置によって規定されるVR-VIIIの頂部内のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間、すなわちアミノ酸位置587と次のアミノ酸の間の挿入部位を意味する。
【0070】
AAVと略される「アデノ随伴ウイルス」は、本明細書では、DNAゲノムとともにパッケージされた天然または組み換えのAAVの組み立てられたカプシドを意味する。原初(または天然)のAAVは一本鎖DNAパルボウイルスである。本発明の文脈では、AAVは組み換えAAV(rAAV)、すなわち遺伝子操作されたAAVであり、その中には、改変されたカプシドタンパク質を含むもの、および/または異種ポリヌクレオチド配列を含むものが含まれる。rAAVは、一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムまたは二本鎖DNA(dsDNA)ゲノムを含有する粒子として作製することができる。ssDNAゲノムまたはdsDNAゲノムとともにパッケージされるrAAVは、完全AAV(またはrAAV)粒子と呼ぶこともできる。ssDNAゲノムは、ゲノムに5'(5' ITR)と3'(3' ITR)の位置で隣接する2つの機能的逆方向末端反復(ITR)配列を特徴とし、dsDNAゲノムは、(5'末端または3'末端いずれかの位置にある)1つの機能的ITRと、末端分離部位(trs)をカバーする欠失を持つ第2の変異したITRを特徴とし、その結果として二本鎖の、または自己相補的なDNAゲノム(scDNA)になる。単一のssDNAゲノムとdsDNAゲノムの両方とも、本明細書ではITRが隣接したゲノムと呼ぶ。典型的には、ITRが隣接したゲノムを含むこのようなAAV(またはrAAV)は感染性だが、上に説明したように、VP3だけのカプシドの場合、AAV(またはrAAV)は非感染性である可能性もある。
【0071】
AAVLPと略される「アデノ随伴ウイルス様粒子」は、本明細書では、ITRが隣接したゲノム(ssDNAゲノムまたはdsDNAゲノム)とともにパッケージされていない組み立てられたカプシドを意味する。AAVLPはいくつかのDNAをパッケージすることができるが、ゲノムは含まない(そのゲノム(ssDNAまたはdsDNA)は5' ITRと3' ITRを特徴とする)。したがってAAVLPは非感染性である。実施例では、AAVLPは、ITRが隣接した発現カセットを有するpTransgeneプラスミドの不在下で作製される。
【0072】
「逆方向末端反復」(ITR)という用語は、本明細書では、ヘアピン構造を形成して逆方向末端反復として機能する(すなわち望む機能(複製、ウイルスのパッケージング、組み込み、および/またはプロウイルス救出)を媒介する)任意のウイルス末端反復または合成配列を含む意味する。ITRとして、AAV ITR配列または非AAV ITR配列(他のパルボウイルス(例えばイヌパルボウイルス(CPV)、マウスパルボウイルス(MVM)、ヒトパルボウイルスB-19)の配列)、または適切な他の任意のウイルス配列が可能である。例えばSV40複製の起点として機能するSV40ヘアピンをITRとして使用することができる。ITR配列は、切断、置換、欠失、挿入、および/または付加によってさらに改変することができる。さらに、ITRは、アメリカ合衆国特許第5,478,745号に記載されているように、一部または全体が合成されていること(「二重D配列など」)が可能である。「AAV末端反復」または「AAV ITR」は任意のAAVからのものが可能であり、その非限定的な例に含まれるのは、血清型1、2、3、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または13、または他の任意のAAVである。AAV末端反復は、その末端反復が、望む機能(例えば複製、ウイルスのパッケージング、組み込み、および/またはプロウイルス救出など)を、ゲノムの救出、複製、およびパッケージングに関与するあらゆる要素を含んでいて長さが約145個のヌクレオチドのAAVゲノムの領域に対して媒介する限り、天然の末端反復配列を持つ必要はない(例えば天然のAAV ITR配列は、挿入、欠失、切断、および/またはミスセンス変異によって変化していてもよい)。したがってITRは、本明細書では、少なくともゲノムのパッケージングに必要とされるシス要素を意味する。
【0073】
本明細書においてAAVの文脈で用いられる「ゲノム」という用語は、5'と3'の逆方向末端反復(ITR)を含むDNA配列を意味する。典型的には、ゲノムは一本鎖DNAゲノム(ssDNAゲノム)である。しかし変異したITRを用いると、ゲノムは、パッケージされてもいる二本鎖DNA(dsDNAゲノム)または自己相補的DNAゲノムも可能である。自然界では、AAVゲノムはrep遺伝子とcap遺伝子を含む。組み換えAAVの文脈では、ゲノムは、ITRが隣接した導入遺伝子をコードしている(導入遺伝子をコードする発現カセットを含む)ことがしばしばあり、rep遺伝子とcap遺伝子はトランスで提供される。本明細書では、ゲノムはコード配列(導入遺伝子、またはrep遺伝子および/またはcap遺伝子)を含むことができる。あるいはゲノムは、免疫刺激効果を持つ非コード配列(CpGモチーフなど)を含むことができる。また、ssDNA自身が免疫刺激効果を持つことができる。
【0074】
AAVカプシドは、その構造の完全さと主要な機能を失うことなく、特定の表面露出位置に小さなペプチドの挿入を許すことが知られている。AAV2で最も一般に用いられる挿入部位はI-587(例えばAAV2 VP1のアミノ酸残基アスパラギン(N)587とアルギニン(R)588の間への挿入)とI-453(例えばAAV2 VP1のアミノ酸残基グリシン(G)453とトレオニン(T)454の間への挿入)である。AAVカプシドに対するこのような操作は、AAVの指向性を変化させてそのAAVを天然のAAV血清型が通常は感染するのとは異なる特定のタイプの細胞にリダイレクトさせるために探索されてきた(Buning, H and Srivastava, A., Mol Ther Methods Clin Dev., 2019, 12: 248-265)。
【0075】
本発明は、約75個以上のアミノ酸(例えば75~400個のアミノ酸、または75~300個のアミノ酸)を含む大きな免疫原性タンパク質またはその一部(感染媒体の主要抗原性部分、または免疫原性ドメインまたはその一部など)をAAVカプシドの表面露出位置に挿入することによって以前のこれらの応用を拡張し、ワクチンとしてのAAVベクターを別用途化する。特にアデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)は、カプシドVP配列の中にコードされる長さがさまざまな免疫原性アミノ酸配列のための担体ビヒクルへと、したがってサブユニットワクチンの担体へと変換される。3つのVP(VP1、VP2、およびVP3)すべてが共有する共通部分内の例えばI-587またはI-453、または他の任意の挿入許容表面露出位置にこのように挿入することにより、免疫原性タンパク質またはその一部がAAVカプシドの60個の建築ブロックのそれぞれの中に挿入され、したがって単一のAAV粒子の表面に60回提示される。本明細書で実証されているように、驚くべきことに大きな挿入を許容する表面露出位置は、可変領域VIII(VR-VIII)および/または可変領域IV(VR-IV)の頂部に位置する。2つの挿入部位(すなわち1つはVR-VIIIの頂部、1つはVR-IVの頂部(例えばAAV2のそれぞれI-587とI-453))に同時に挿入する場合には、免疫原性タンパク質またはその一部は単一のAAV粒子の表面に120回提示される。あるいは1つの免疫原性タンパク質またはその一部をVR-VIIIの頂部の挿入部位に、別の免疫原性タンパク質またはその一部をVR-IVの頂部の頂部の挿入部位に同時に挿入する場合には、これら2つの免疫原性タンパク質またはその一部は単一のAAV粒子の表面にそれぞれ60回提示される。それぞれのVPは、VR-VIIIまたはVR-IVの頂部にインサートを含むことが好ましい。異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質を使用する場合には、各ウイルスタンパク質の中の異なる挿入部位を使用することができる。AAV2のI-587への挿入により、AAV2の指向性を規定している天然の硫酸ヘパランプロテオグリカン(HSPG)結合部位が中断される(Opie et al., J Virol., 2003, 77:6995-7006; Kern et al., J Virol., 2003, 77:11072-11081)。したがって本発明によるAAVまたはAAVLPの中のインサートはビリオンの指向性も変化させ(
図4と5)、挿入されたタンパク質またはその一部の最適な露出をその配列によって決まる生物学的特徴に従って容易にする可能性があり、そのことによって例えば免疫原性配列のより強い免疫応答の誘導を容易にする可能性がある。
【0076】
本発明は、約75個以上のアミノ酸(例えば75~400個のアミノ酸、または75~300個のアミノ酸)を含むタンパク質(ここではタンパク質として、任意のタンパク質、特に結合ドメイン(抗原結合ドメインなど)を含むタンパク質(例えばsdAbまたはscFvまたは抗体模倣体(アンチカリンなど))が可能である)をAAVカプシドの表面露出位置に挿入することによって以前のこれらの応用をさらに拡張し、AAVベクターを変更標的に向かわせる。特にアデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)は、カプシドVP配列内にコードされている前記結合ドメインを含むタンパク質とともに、変化した細胞指向性を持つビヒクルへと、したがって例えば遺伝子療法のためのビヒクルへと変換される。3つのVP(VP1、VP2、およびVP3)すべてが共有する共通部分内の例えばI-587またはI-453、または他の任意の挿入許容表面露出位置に挿入することにより、前記結合ドメインを含むタンパク質はAAVカプシドの60個の建築ブロックのそれぞれの中に挿入され、したがって単一のAAV粒子の表面に60回提示される。本明細書で実証されているように、大きな挿入を驚くべきことに許容する表面露出位置は、可変領域VIII(VR-VIII)および/または可変領域IV(VR-IV)の頂部に位置する。2つの挿入部位(すなわち1つはVR-VIIIの頂部、1つはVR-IVの頂部(例えばAAV2のそれぞれI-587とI-453))に同時に挿入する場合には、結合ドメインを含む免疫原性タンパク質は単一のAAV粒子の表面に120回提示される。あるいは1つのタンパク質(結合ドメインを含む第1のタンパク質(例えば第1のsdAbまたはscFv)など)をVR-VIIIの頂部の挿入部位に、別のタンパク質(結合ドメインを含む第2のタンパク質(例えば第2のsdAbまたはscFv)など)をVR-IVの頂部の頂部の挿入部位に同時に挿入する場合には、これら2つのタンパク質は単一のAAV粒子の表面にそれぞれ60回提示される。それぞれのVPは、VR-VIIIまたはVR-IVの頂部にインサートを含むことが好ましい。上に説明したように、本発明によるAAVまたはAAVLPは、少なくとも約75~300個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成することもでき、その場合には、第1のインサートは、結合ドメイン(抗原結合ドメインなど)を含む第1のタンパク質(例えば第1のsdAbまたはscFv)であり、第2のインサートは、結合ドメインを含むさらなるタンパク質(抗原結合ドメインを含むさらなるタンパク質(例えば第2のsdAbまたはscFv)など)が可能である。あるいは第2のタンパク質として免疫原性タンパク質またはその一部が可能である。当業者は、インサートとして、VR-VIIIおよび/またはVR-IVの頂部、好ましくはVR-VIIIまたはVR-IVの頂部に位置する2つ以上の結合ドメインを含むタンパク質(すなわち二重特異性タンパク質)が可能であることがさらにわかるであろう。これらの実施形態は、インサートが免疫原性タンパク質またはその一部(ウイルスタンパク質(例えばコロナウイルススパイク(S)タンパク質またはその一部)、または腫瘍抗原など)である実施形態とさらに組み合わせることができる。当業者は、ある実施形態では、結合ドメインを含むタンパク質も免疫原性タンパク質またはその一部であることと、その逆も同様であることがさらにわかるであろう。例えばウイルス侵入タンパク質の受容体結合ドメイン(コロナウイルススパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメインなど)は、結合ドメインを含むタンパク質のほか、免疫原性タンパク質またはその一部である。異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質(VP)を使用する場合には、各ウイルスタンパク質の異なる挿入部位を利用することができる。
【0077】
一実施形態では、VR-VIIIの頂部は、配列番号1のアミノ酸配列を持つVP1 AAV1、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2、配列番号3のアミノ酸配列を持つVP1 AAV3、配列番号6のアミノ酸配列を持つVP1 AAV6、配列番号7のアミノ酸配列を持つVP1 AAV7、配列番号8のアミノ酸配列を持つVP1 AAV8、配列番号9のアミノ酸配列を持つVP1 AAV9、または配列番号10のアミノ酸配列を持つVP1 AAV10のほぼアミノ酸585~592(I-585~I-592)に対応するか、配列番号4のアミノ酸配列を持つVP1 AAV4のほぼアミノ酸583~589(I-583~I-589)に対応するか、配列番号5のアミノ酸配列を持つVP1 AAV5のほぼアミノ酸574~580(I-574~I-580)に対応する。あるいはVR-VIIIの頂部は、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2のQ584に対応する保存されたグルタミンの下流の8個のアミノ酸として定義することができる。
【0078】
VR-IVの頂部は、配列番号1のアミノ酸配列を持つVP1 AAV1、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2、配列番号3のアミノ酸配列を持つVP1 AAV3、配列番号6のアミノ酸配列を持つVP1 AAV6、配列番号7のアミノ酸配列を持つVP1 AAV7、配列番号8のアミノ酸配列を持つVP1 AAV8、配列番号9のアミノ酸配列を持つVP1 AAV9、または配列番号10のアミノ酸配列を持つVP1 AAV10のほぼアミノ酸450~460(I-450~I-460)に対応するか、配列番号4のアミノ酸配列を持つVP1 AAV4のほぼアミノ酸445~455(I-445~I-455)に対応するか、配列番号5のアミノ酸配列を持つVP1 AAV5のほぼアミノ酸439~449(I-439~I-449)に対応する。あるいはVR-IVの頂部は、配列番号2のアミノ酸配列を持つVP1 AAV2のF462に対応する保存されたフェニルアラニンの上流12個のアミノ酸から5個のアミノ酸までとして定義することができる。
【0079】
AAV1~AAV10について、VR-VIIIおよび/またはVR-IVの頂部にある適切な挿入部位が、下記の表1(VR-VIII)と表2(VR-IV)にさらに開示されている。
【表1】
【表2】
【0080】
AAVまたはAAVLPは、AAV血清型1(AAV1)、2(AAV2)、3(AAV3)、4(AAV4)、5(AAV5)、6(AAV6)、7(AAV7)8(AAV8)、9(AAV9)、または10(AAV10)に由来することが好ましく、1(AAV1)、2(AAV2)、8(AAV8)、または9(AAV9)に由来することがより好ましい。一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV2に由来し、挿入部位は、配列番号2のアミノ酸配列を持つAAV2 VP1のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV2 I-587)、または588と589の間(AAV2 I-588)、および/または453と454の間(AAV2 I-453)、454~455の間(AAV2 I-454)、または455~456の間(AAV2 I-455)、好ましくはAAV2 I-587またはAAV2 I-588またはAAV2 I-453、より好ましくはAAV2 I-587またはAAV2 I-588である。別の一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV1に由来し、挿入部位は、配列番号1のアミノ酸配列を持つAAV1 VP1のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV1 I-587)、588と589の間(AAV1 I-588)、または589と590の間(AAV1 I-589)、および/または454と455の間(AAV1 I-454)、455と456の間(AAV1 I-455)、または456と457の間(AAV1 I-456)である。別の一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV8に由来し、挿入部位は、配列番号8のアミノ酸配列を持つAAV8 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV8 I-588)、または589と590の間(AAV8 I-589)、および/または455と456の間(I-455)、456と457の間(I-456)、または457と458の間(I-457)である。さらに別の一実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAV9に由来し、挿入部位は、配列番号9のアミノ酸配列のAAV9 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV9 I-588)、または589と590の間(AAV9 I-589)、および/または454と455の間(I-454)、455と456の間(I-455)、または456と457の間(I-456)である。
【0081】
ある実施形態では、AAVまたはAAVLPは、ウイルスタンパク質の中に約75~400個のアミノ酸からなるインサート、好ましくは約75~350個のアミノ酸、約75~300個のアミノ酸、約75~260個のアミノ酸、約75~250個のアミノ酸、または約80~220個のアミノ酸からなるインサートを含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、AAVまたはAAVLPは、約75~390個、約75~380個、約75~370個、約75~360個、約75~350個、約75~340個、約75~330個、約75~320個、約75~310個、約75~300個、約75~290個、約75~280個、約75~270個、約75~260個、約75~250個、約75~240個、約75~230個、約75~220個のアミノ酸、好ましくは約80~390個、約80~380個、約80~370個、約80~360個、約80~350個、約80~340個、約80~330個、約80~320個、約80~310個、約80~300個、約80~290個、約80~280個、約80~270個、約80~260個、約80~250個、約80~240個、約80~230個、約80~220個のアミノ酸からなるインサートを含む。一実施形態では、インサートは、約90~390個、約90~380個、約90~370個、約90~360個、約90~350個、約90~340個、約90~330個、約90~320個、約90~310個、約90~300個、約90~290個、約90~280個、約90~270個、約90~260個、約90~250個、約90~240個、約90~230個、約90~220個のアミノ酸、好ましくは約100~390個、約100~380個、約100~370個、約100~360個、約100~350個、約100~340個、約100~330個、約100~320個、約100~310個、約100~300個、約100~290個、約100~280個、約100~270個、約100~260個、約100~250個、約100~240個、約100~230個、約100~220個のアミノ酸を持つ。最も好ましくは、約75~300個のアミノ酸、75~260個のアミノ酸、約75~250個のアミノ酸、または約80~220個のアミノ酸。
【0083】
インサートは、片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択される1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接することが可能である。リンカーの各アミノ酸は、独立に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択され、好ましくはA(Ala)、G(Gly)、S(Ser)からなるグループから選択される。当業者は、リンカーが、存在する場合には、小さなアミノ酸を含むことがわかるであろう。好ましい一実施形態では、リンカーはAおよび/またはGを含み、好ましくは、リンカーはAおよび/またはGからなる。インサートは、独立に、インサートのN末端側および/またはC末端側にリンカーを含む。したがって一実施形態では、リンカーは、免疫原性タンパク質またはその一部、または結合ドメインを含むタンパク質のN末端側に約1~7個のアミノ酸、好ましくは約1~3個のアミノ酸、より好ましくは約3個のアミノ酸を含む、および/またはC末端側に約1~7個のアミノ酸、好ましくは約1~3個のアミノ酸、より好ましくは約2~3個のアミノ酸を含む。一実施形態では、リンカーは、インサートのN末端側に約1~7個のアミノ酸を含む、および/またはC末端側に約1~7個のアミノ酸を含む。さらなる一実施形態では、リンカーは、N末端側に約2~3個のアミノ酸を含む、および/またはC末端側に約2~3個のアミノ酸を含む。この文脈では、約という用語は、±1個のアミノ酸を意味する。特別な一実施形態では、リンカーは、インサートのN末端側に1、2、3、4、5、6、または7個のアミノ酸を含む、および/またはC末端側に1、2、3、4、5、6、または7個のアミノ酸を含む、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0084】
ある実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAVであり、ITRが隣接したゲノムを含む。ある実施形態では、本発明のAAVは、ITRが隣接したゲノムを含み、好ましくは感染性である。ITRが隣接したゲノムは導入遺伝子を含むことができる。例えばITRが隣接したゲノムは、免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子を含むことができる。特にインサートが免疫原性タンパク質またはその一部である場合には、導入遺伝子はさらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードすることができる。あるいはITRが隣接したゲノムは、ウイルスタンパク質(VP)(そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に約75~400個のアミノ酸からなるインサートを含む)をコードするcap遺伝子を含むことができる。ゲノムは、免疫刺激効果を持つ非コード配列(CpGモチーフなど)も含むことができる。また、ssDNA自身が免疫刺激効果を持つことができる。他の実施形態では、AAVまたはAAVLPはAAVLPであり、ITRが隣接したゲノムを含まない。当業者は、AAVLPが感染性でないことがわかるであろう。カプシドを形成するAAV VPとして、VP1、VP2、およびVP3が可能であり、1:1:10の比であることが好ましい。カプシドは、VP1とVP3だけ、またはVP3によって形成することもできる。したがってカプシドを形成するAAV VPとして、VP1とVP3、またはVP3が可能である。しかしVP3だけの粒子は、cap ORFのVP1だけの領域の中にコードされているPLA2ドメインが不在であるため非感染性である。あらゆるバリアントにおいて、AAVまたはAAVLPは約60個のVPからなるカプシドを持つことが好ましい。
【0085】
(インサートが免疫原性タンパク質またはその一部である実施形態のための)本発明によるAAVまたはAAVLPは、挿入された免疫原性タンパク質またはその一部にとって免疫原性である。免疫原性タンパク質またはその一部として、任意の免疫原性タンパク質とその免疫原性部分が可能である。ある実施形態では、免疫原性タンパク質またはその一部として、ウイルス、細菌、または寄生虫のタンパク質またはその一部が可能である。しかし本発明は、免疫原性タンパク質が哺乳類(特にヒト)のタンパク質またはその一部である実施形態も包含する。このようなAAVまたはAAVLPは、哺乳類またはヒトの抗原またはエピトープ(特に抗体を生成させるのが難しい標的抗原)に対する抗体を生成させるのに使用できる。
【0086】
ウイルス、細菌、または寄生虫を起源とする適切な代表的な免疫原性タンパク質の非限定的な例は、結核(ヒト型結核菌)については、例えば脂肪酸シンターゼfas;ガラクトフラノシルトランスフェラーゼglfT2、またはイソニアジド誘導性遺伝子タンパク質iniB;インフルエンザ(インフルエンザウイルスA、B、またはCで、亜型を含む)については;例えばヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP);デング熱(デングウイルス;DENV1-4)については、例えばエンベロープタンパク質E、特にEのエクトドメインIII(EDIII)、黄熱病(YFV)については、例えばエンベロープタンパク質E、特にEのエクトドメインIII(EDIII);西ナイル熱(WNV)については、例えばエンベロープタンパク質E、特にEのエクトドメインIII(EDIII);先天性ジカ症候群(ジカウイルス(ZIKV))については、例えばエンベロープタンパク質E、特にEのエクトドメインIII(EDIII);マラリア(熱帯熱マラリア原虫)については、例えばスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、赤血球膜タンパク質1(PfEMP1)、頂端膜抗原1(AMA1)、メロゾイト表面タンパク質1(MSP1)、メロゾイト表面タンパク質2(MSP2)、赤血球結合抗原-175(EBA175))、トロンビスポンジン関連匿名タンパク質(TRAP)、肝細胞期抗原1と3(LSA1-LSA3)、PfROM1、PfROM3、PfROM4、およびPfROM6;AIDS(HIV)については、例えばenv gp160、nef p27、gag p55、またはpol;百日咳(百日咳菌)については、例えば百日咳毒素(PT)、繊維状ヘマグルチニン(FHA)、パータクチン(PRN)、および線毛(FIM 2/3);肺炎については:呼吸器多核体ウイルス(RSV)、例えば融合(F)糖タンパク質;そしてトキソプラズマ脳炎(トキソプラズマ)については、例えば頂端膜抗原1(AMA1);エノラーゼ2(ENO2);高密度顆粒タンパク質GRA1、GRA2、GRA4、GRA6、GRA8、GRA14、GRA15、GRA10、GRA12、GRA16、およびGRA24;熱ショックタンパク質HSP70;ミクロネームタンパク質MIC1、MIC3、MIC4、MIC5、MIC13;ロンボイドプロテアーゼROM1、ROM4、ROM5;ロプトリータンパク質ROP2、ROP5、ROP16、ROP17、ROP18、ROP38;ロプトリー・ネックタンパク質RON2、RON4、RON5;表面抗原タンパク質SAG1、SAG3、SAG5Dである。
【0087】
当業者は、ウイルスタンパク質の場合に免疫原性タンパク質またはその一部がAAVタンパク質またはその一部でないことを理解すると考えられる。したがって免疫原性タンパク質またはその一部として異種ウイルスタンパク質またはその一部が可能である。「異種」という用語は、本明細書では、タンパク質またはタンパク質断片が、異なる宿主生物/ウイルスからのものであることを意味する。
【0088】
ある実施形態では、免疫原性タンパク質またはその一部は、コロナウイルスタンパク質またはその一部である。適切なコロナウイルスタンパク質は、(配列番号15のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)コロナウイルススパイク(S)タンパク質またはその一部、(配列番号52のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)コロナウイルスエンベロープタンパク質(Eタンパク質)またはその一部、(配列番号53のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)膜糖タンパク質(Mタンパク質)またはその一部、(配列番号51のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)ヌクレオカプシドリンタンパク質(Nタンパク質)またはその一部、または(配列番号68のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)ORF1abポリペプチド(レプリカーゼ複合体)またはその一部であり、好ましくはSタンパク質の一部(特に配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69のいずれか1つのアミノ酸配列を持つ部分)、Eタンパク質、Mタンパク質、Nタンパク質の一部(特に配列番号51のアミノ酸179~419または212~411)、またはORF1abポリタンパク質(レプリカーゼ複合体)の一部(特に配列番号62、63、64、65、66、または67のいずれか1つのアミノ酸配列を持つ部分、または少なくとも配列番号54、55、56、57、58、59、60、または61の1つの配列を含む、配列番号68の75~300個のアミノ酸の任意の部分)である。免疫原性タンパク質は、コロナウイルスSタンパク質の一部で、S1ドメイン、S2ドメイン、または受容体結合ドメインを含む部分、好ましくはコロナウイルスSタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)を含む部分であることが好ましい。免疫原性タンパク質がSARS-CoV-2に由来し、免疫原性タンパク質がSARS-CoV-2タンパク質の一部(RBD(配列番号15のアミノ酸319~529)またはその一部を含む部分など)であることがより好ましい。RBDは、コアと受容体結合モチーフ(RBM;配列番号15のアミノ酸437~507)を含む(Shang et al, Nature, 2020, 581(7807): 221-224と追補)。追加のT細胞エピトープはアミノ酸300と333の間であることが同定されているため、SARS-CoV-2タンパク質の免疫原性部分は、配列番号15のアミノ酸300~507(配列番号38)または配列番号15のアミノ酸300~505(配列番号69)を持つことができる。したがっていくつかの実施形態では、免疫原性タンパク質またはその一部は、RBM(好ましくは配列番号11、12、36、37、38、または69のアミノ酸配列)を含むSARS-CoV-2タンパク質の一部である。一実施形態では、SARS-CoV Sタンパク質の一部は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69のアミノ酸配列(好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列)を含むか、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69のアミノ酸配列(好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列)と少なくとも約90%一致するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、SARS-CoV Sタンパク質の免疫原性部分は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69のアミノ酸配列(好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列)と少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%以上、好ましくは100%一致する配列を持つアミノ酸配列を含む。例えば配列番号69のアミノ酸配列を持つタンパク質は、配列番号38のアミノ酸1~206を含み、したがって配列番号38と約99%配列が一致する。一実施形態では、SARS-CoV Sタンパク質の免疫原性部分は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69(好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69)の少なくとも75個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むか、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69(好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69)のアミノ酸配列の少なくとも75個のアミノ酸と少なくとも約90%一致するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、SARS-CoV Sタンパク質の免疫原性部分は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69(好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69)のアミノ酸配列の少なくとも75個、少なくとも80個、少なくとも100個、少なくとも125個、少なくとも150個、少なくとも190個、または少なくとも195個の少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、好ましくは100%を含む。一実施形態では、SARS-CoV Sタンパク質の免疫原性部分は、配列番号12のアミノ酸配列の少なくとも200個、少なくとも225個、または少なくとも253個のアミノ酸の少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、好ましくは100%を持つアミノ酸配列を含むか、配列番号11のアミノ酸配列の少なくとも175個、少なくとも190個、または少なくとも196個のアミノ酸と少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、好ましくは100%を持つアミノ酸配列を含むか、配列番号69のアミノ酸配列の少なくとも175個、少なくとも200個、または少なくとも205個のアミノ酸と少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、好ましくは100%を持つアミノ酸配列を含む。
【0089】
ある実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPは、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸(好ましくは75~300個のアミノ酸)からなるインサートを可変領域VIII(VR-VIII)の頂部と可変領域IV(VR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、そのインサートは、免疫原性タンパク質またはその一部であり、可変領域VIIIの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部と可変領域IVの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部は同じでも異なっていてもよい。ただし異なるは、異なるタンパク質からの異なる免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質からの異なる免疫原性部分を意味する。異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分は、病原体の場合には、同じ病原体(同じ細菌、同じウイルス、または同じ寄生虫など)に由来することが好ましい。ある実施形態では、VR-VIIIの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部とVR-IVの頂部に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部は異なる(異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質からの異なる免疫原性部分など)。したがってAAVまたはAAVLPは、VR-VIIIの頂部にある挿入部位の位置に、第1の免疫原性タンパク質またはその一部である第1のインサートを、VR-IVの頂部にある挿入部位の位置に、第2の免疫原性タンパク質またはその一部である第2の(またはさらなる)インサートを含むことができる。他の実施形態または追加の実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPは、少なくとも約75~400個のアミノ酸(好ましくは少なくとも約75~300個のアミノ酸)からなる異なるインサートを含む2つ以上(好ましくは2つ)のウイルスタンパク質によって形成することもでき、それら異なるインサートは、それぞれ、免疫原性タンパク質またはその一部であり、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分であるか、同じタンパク質からの異なる免疫原性部分であるかのいずれかである。したがって、同じ挿入部位または異なる挿入部位に位置する少なくとも約75~300個のアミノ酸からなる第1と第2の(またはさらなる)インサートを含む2つ以上(好ましくは2つ)のウイルスタンパク質によって形成されるAAVまたはAAVLP(ただし第1のインサートは第1の免疫原性タンパク質またはその一部であり、第2の(またはさらなる)インサートは第2の免疫原性タンパク質またはその一部である)。さらに別の実施形態では、AAVは、ITRが隣接していてさらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子を含むゲノムを含む。その免疫原性タンパク質またはその一部は、VR-VIIIおよび/またはVR-IVの頂部にある挿入部位の位置に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部と同じでも異なっていてもよい。また、この文脈では、異なるは、異なるタンパク質からの異なる免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質からの異なる免疫原性部分を意味する。これらの実施形態は組み合わせることができ、したがってAAVは、VR-VIIIとVR-IVの頂部の位置に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部、および/または異なる免疫原性タンパク質またはその一部をコードするゲノムを含むこと、および/または異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成することができる。これら実施形態はさらに、インサートが結合ドメインを含むタンパク質(抗体または抗体フラグメントなど)である実施形態と組み合わせることができる。
【0090】
上記のすべての実施形態のための免疫原性タンパク質またはその一部として、コロナウイルスタンパク質またはその一部が可能である。適切なコロナウイルスタンパク質は、(配列番号15のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)コロナウイルススパイク(S)タンパク質またはその一部、(配列番号52のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)コロナウイルスエンベロープタンパク質(Eタンパク質)またはその一部、(配列番号53のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)膜糖タンパク質(Mタンパク質)またはその一部、(配列番号51のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)ヌクレオカプシドリンタンパク質(Nタンパク質)またはその一部、または(配列番号68のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2などに関する)ORF1abポリペプチド(レプリカーゼ複合体)またはその一部である。ある実施形態では、前記1つ以上の(または第1とさらなる)免疫原性タンパク質またはその一部の選択は、Sタンパク質の一部(特に配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69、好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69のいずれか1つのアミノ酸配列を持つ部分)、Eタンパク質、Mタンパク質、Nタンパク質の一部(特に配列番号51のアミノ酸179~419または212~411)、ORF1abポリタンパク質(レプリカーゼ複合体)の一部(特に、配列番号62、63、64、65、66、または67のいずれか1つのアミノ酸配列を持つ部分、または配列番号68の75~300個のアミノ酸のうちで配列番号54、55、56、57、58、59、60、または61の1つの配列を少なくとも含む任意の部分)、これらの任意の1つの組み合わせからなすことができる。AAVまたはAAVLPが(カプシドの中に挿入された、またはカプシドの中に挿入されていてゲノムによってコードされた)2つ以上の免疫原性タンパク質またはその一部を含む場合、第1とさらなる免疫原性タンパク質またはその一部は異なっていることが好ましい。ただし異なるは、異なるタンパク質からの異なる免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質の異なる免疫原性部分を意味する。
【0091】
好ましくは、免疫原性タンパク質はコロナウイルスSタンパク質の一部であり、S1ドメイン、S2ドメイン、または受容体結合ドメインを含み、好ましくはコロナウイルスSタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)および/または受容体結合モチーフ(RBM)を含む。より好ましくは、免疫原性タンパク質はSARS-CoV-2に由来し、免疫原性タンパク質はSARS-CoV-2タンパク質の一部であり、RBDおよび/またはRBMを含む。一実施形態では、SARS-CoV Sタンパク質の一部は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、69、またはこれらの組み合わせ(好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69)のアミノ酸配列、または配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、69、またはこれらの組み合わせ(好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69)のアミノ酸配列と少なくとも約90%一致するアミノ酸配列を含む。
【0092】
SARS-CoV-2のさまざまなSタンパク質はGenBankで入手することができ、例えばGenBankアクセッション番号(タンパク質id):MN_908947(QHD434616.1)、MN_988668(QHQ62107.1)、NC_045512(YP_009724390.1)、MN_938384.1(QHN73795.1)、MN_975262.1(QHN73810.1)、MN_985325.1(QHQ60594.1)、MN_988713.1(QHQ62877.1)、MN_994467.1(QHQ71963.1)、MN_994468.1(QHQ71973.1)、およびMN_997409.1(QHQ82464.1)などがあり、これらは100%の配列一致を示す。しかしわずかなバリエーションがSARS-CoV-2 Sタンパク質で以前に報告されている。例えば以下の置換がWrappら(Science, 2020, 367: 1260-1263)により臨床単離体F32I、H49Y、S247R、N354D、D364Y、V367F、D614G、V1129L、およびE1262Gにおいて記載されている。さらに、置換H49YとV860QがWangら(J. Med. Virol. March 13, 2020: 1-8)によって報告されている。同じ著者による公開されているSARS-CoV-2配列のさらなる相同性分析から、Sタンパク質のヌクレオチドの相同性が99.82%~100%であることと、Sタンパク質のアミノ酸相同性が99.53%~100%であることが明らかになった。しかしさらなる置換が同定されているとともに、将来同定されるであろう(N349KとE484Kなど)。複数のSARS-CoV-2細胞系譜、特に気がかりなバリアントが出現し続けており、続けてモニタされ、シークエンシングされているため、当業者は、それぞれの細胞系譜またはバリアントに関して明確にされるか割り当てられた最新の配列にアクセスする方法を知っている。
【0093】
本発明の文脈では、「と配列が少なくとも90%一致する」という表現は、特定のアミノ酸配列の少なくとも90%を持つため参照配列のアミノ酸配列(配列番号11、12、または69のアミノ酸配列など)、および/またはアミノ酸配列をコードする核酸配列と10%未満異なる可能性があるタンパク質を意味し、配列の一致は配列アラインメントによって容易に判断することができる。例えばSタンパク質からのバリアントタンパク質またはその一部は、天然起源のもの(例えば配列番号11、12、または69のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2のSタンパク質の一部の変異体バージョンまたはバリエーション)、または操作されたタンパク質(例えば部位指定変異の導入、またはクローニングによって改変された操作された糖タンパク質誘導体)、またはこれらの組み合わせが可能である。コドンの利用は種の間で異なることが知られている。したがって標的細胞の中で核酸配列を発現させるとき、核酸配列を標的細胞のコドン利用に適合させることが必要であるか、少なくとも有用である可能性がある。所与のタンパク質の誘導体を設計して構成する方法は当業者に周知である。核酸配列を標的細胞のコドン利用に適合させることはコドン最適化としても知られる。
【0094】
免疫原性タンパク質またはその一部として、別のSARS-CoV-2タンパク質またはその一部、好ましくはSARS-CoV-2 Nタンパク質またはその一部も可能である。好ましい実施形態では、SARS-CoV-2 Nタンパク質またはその一部は、配列番号51の配列の75~400個または75~300個のアミノ酸を含むか、配列番号51の75~400個または75~300個のアミノ酸と少なくとも95%一致する配列を持つ配列を含む。好ましくは、SARS-CoV-2 Nタンパク質の一部は、アミノ酸配列番号51のアミノ酸アミノ酸179~419または212~411を含むか、配列番号51の配列のアミノ酸アミノ酸179~419または212~411と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%一致する配列を持つ配列を含む。一実施形態では、SARS-CoV-2 Nタンパク質の一部は、配列番号51のアミノ酸179~419または212~411の配列と少なくとも98%~100%一致する配列を持つアミノ酸配列を持つ。ある実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPはAAVであり、免疫原性タンパク質またはその一部は、コロナウイルスタンパク質またはその一部(コロナウイルススパイク(S)タンパク質またはその一部、またはコロナウイルスEタンパク質、Mタンパク質、またはNタンパク質、またはその一部)であり、AAVはさらに、ITRが隣接していてさらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子を含むゲノムを含む(ただしそのさらなる免疫原性タンパク質またはその一部は、コロナウイルスSタンパク質、Eタンパク質、Mタンパク質、またはNタンパク質の一部からなるグループから選択される)。ある実施形態では、ITRが隣接したゲノムによってコードされるそのさらなる免疫原性タンパク質またはその一部は、本発明によるAAVのVPの中に挿入された免疫原性タンパク質またはその一部とは異なる(ただし異なるは、異なるタンパク質、または同じタンパク質の異なる部分を意味する)。一実施形態では、免疫原性タンパク質は、Sタンパク質の一部(特に、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69のいずれか1つのアミノ酸配列を含む部分)、Eタンパク質、Mタンパク質、Nタンパク質の一部(特に、配列番号51のアミノ酸179~419または212~411を含む)、ORF1abポリタンパク質(レプリカーゼ複合体)の一部(特に、配列番号62、63、64、65、66、または67のいずれか1つのアミノ酸配列、または配列番号68の75~300個のアミノ酸のうちで配列番号54、55、56、57、58、59、60、または61の1つの配列を少なくとも含む任意の部分)から選択される受容体結合ドメインを含むコロナウイルスSタンパク質の一部である。ある実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPはAAVであり、免疫原性タンパク質またはその一部は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、および50のアミノ酸配列を持つ部分からなるグループから選択されるアミノ酸配列を含むコロナウイルススパイク(S)タンパク質の一部であり、AAVはさらに、ITRが隣接していてさらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子を含むゲノムを含む(ただしそのさらなる免疫原性タンパク質またはその一部は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、52、53、62、63、64、65、66、67と、配列番号51のアミノ酸179~419または212~411からなるグループのアミノ酸配列を含む)。Nタンパク質(特に配列番号51のアミノ酸179~419または212~411を含むNタンパク質の一部)は主にT細胞応答を誘導すると見なされているため、導入遺伝子によってコードされるゲノムを宿主細胞で発現させるのに特に適している可能性がある。理論に囚われないと、VPの中に挿入されて表面に露出した免疫原性タンパク質またはその一部は主に液性免疫応答を誘導することが予想される。
【0095】
病原体に対するワクチンにとって、そのワクチンが複数の免疫原性タンパク質またはその一部、好ましくはさらなる構造タンパク質(Nタンパク質など)を標的とすることが有益である可能性がある。というのもこうすると、例えばSタンパク質の変異に起因する免疫回避のリスクが小さくなるからである。
【0096】
他の実施形態では、免疫原性タンパク質またはその一部は腫瘍抗原である。代表的な適切な腫瘍抗原の非限定的な例は、癌胎児性抗原(CEA)、上皮成長因子受容体(EGFR)、葉酸結合タンパク質(FBP)、GD2、GD3、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2、erb-B2)、黒色腫抗原A1(MAGE-A1)、メソテリン(MSLN)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、ムチン-1(MUC1)、グリピカン-3(GPC3)、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、B細胞成熟抗原(BCMA)、チロシン-プロテインキナーゼ膜貫通受容体(ROR1)、またはマイナーまたは主要組織適合複合体関連腫瘍特異的(TSA)、および腫瘍関連抗原(TAA)(BCR-ABL融合体、黒色腫関連抗原3(MAGE-A3)、糖タンパク質100(gp100)、がん/精巣抗原1(LAGE2またはNY-ESO-1)、エプスタイン-バールウイルス潜在膜タンパク質1(LMP1)、P2Xプリン受容体7(P2RX7)、ジフタミド生合成タンパク質1(DPH1)など)である。
【0097】
本発明によるAAVまたはAAVLPは土台となる1つの技術であり、それを利用して標的とする分子(例えば抗体由来のタンパク質、または抗体模倣体)を結合ペアの一方の結合ユニットとして挿入することにより、その結合ペアの他方の結合ユニット(例えば抗原)に結合させることもできる。(インサートが、結合ドメインを含むタンパク質である実施形態に関する)本発明によるAAVまたはAAVLPは、結合ドメインを含むタンパク質によって与えられる細胞指向性を持つ。結合ドメインを含むそのタンパク質は、結合ペアの一方の結合ユニット(標的抗原に対して特異的な抗原結合ドメインを含むタンパク質など)である。したがってインサートは、結合標的に対して特異的な結合ドメインを含むタンパク質であり、結合ドメインを含むそのタンパク質、すなわち結合ペアの一方の結合ユニットが、結合標的(例えばリガンドまたは受容体または抗原)を表面に発現している標的細胞、すなわち結合ペアの他方の結合ユニット(抗原結合ドメインを含むタンパク質に結合する標的抗原など)に対するAAVまたはAAVLPの指向性を決める。適切な結合ペアの非限定的な例は、抗原結合部分を含む抗体由来のタンパク質(ナノボディまたは一本鎖抗体など)と抗原、好ましくは単一ドメイン抗体(sdAb)または一本鎖可変フラグメント(scFv)、または抗体模倣体(アンチカリン、アフィボディ、アドネクチン、モノボディ、DARPin、アフィマー、またはアフィチンなど)である。適切な結合ペアの非限定的な例は、抗原結合ドメインを含むタンパク質とその抗原(例えば単一ドメイン抗体(sdAb)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、または抗体模倣体と、その抗原)、受容体結合ドメインを含むタンパク質と受容体(例えばコロナウイルススパイク(S)タンパク質とACE-2受容体;抗体Fc領域(例えばscFc)とFc受容体)、およびリガンド結合ドメインとリガンド(例えばPD-1とPD-L1)である。したがってある実施形態では、AAVの指向性は、ウイルスタンパク質の中の約75~400個、好ましくは75~300個のアミノ酸からなるインサートによって決まり、このインサートは、結合ドメインを含むタンパク質(抗原結合ドメインを含むタンパク質など)である。
【0098】
適切な標的抗原の非限定的な例は、がん細胞を標的とする腫瘍抗原(例えば癌胎児性抗原(CEA)、上皮成長因子受容体(EGFR)、葉酸結合タンパク質(FBP)、GD2、GD3、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2、erb-B2)、黒色腫抗原A1(MAGE-A1)、メソテリン(MSLN)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異性膜抗原(PSMA)、ムチン-1(MUC1)、グリピカン-3(GPC3)、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、B細胞成熟抗原(BCMA)、チロシン-プロテインキナーゼ膜貫通受容体(ROR1)、またはマイナーまたは主要組織適合性複合体関連腫瘍特異的(TSA)、および腫瘍関連抗原(TAA)(BCR-ABL融合体、黒色腫関連抗原3(MAGE-A3)、糖タンパク質100(gp100)、がん/精巣抗原1(LAGE2またはNY-ESO-1)、エプスタイン-バールウイルス潜在膜タンパク質1(LMP1)、P2Xプリン受容体7(P2RX7)、ジフタミド生合成タンパク質1(DPH1)など)および/またはAAVまたはAAVLPを変更標的である前記抗原、特に表面抗原(表面受容体など)を発現している細胞(野生型AAV血清型に感受性でない細胞、例えば内皮細胞または特定のタイプの神経細胞など)に向かわせる細胞タイプ特異的抗原である。細胞特異性を媒介する抗原標的の非限定的な例は、CD4、CD8、CD11b、CD16、CD19、CD133(プロミニン)、CD105(エンドグリン)、CD146(黒色腫細胞接着分子)、CD30、CD32、CD33、CD34、CD36、CD40、CD64、CD68、CD80、CD86、CD163、CD206、CD209、CD301、興奮性アミノ酸輸送体1、(SLC1A3)、興奮性アミノ酸輸送体2(SLC1A2)、神経/グリア抗原2(NG2)、EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様1(EMR1)、葉酸受容体1(FOLR1)、ドーパミン活性輸送体(DATまたはSLC6A3)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、小胞アセチルコリン輸送体(VAChT)、小胞阻害性アミノ酸輸送体(SLC32A1)、小胞グルタミン酸輸送体1と2(SLC17A7とSLC17A6)、またはセロトニン輸送体(SLC6A4)である。
【0099】
「抗原結合ドメインを含むタンパク質」という表現は、標的抗原に選択的に結合することのできる抗原結合部位を含んでいて特定の抗原に結合するタンパク質(抗体由来のタンパク質と抗体模倣体が含まれる)を意味する。抗体模倣体は、抗体と同様にして特定の抗原に結合するが、構造が抗体とは無関係なタンパク質である。抗原結合ドメインを含んでいて約75~400個のアミノ酸、好ましくは75~300個のアミノ酸からなるタンパク質は任意の形式が可能であり、その非限定的な例に含まれるのは、sdAb、一本鎖可変フラグメント(scFv)、アンチカリン、アフィボディ、アドネクチン、モノボディ、DARPin、アフィマー、またはアフィチンであり、好ましくはsdAbと一本鎖可変フラグメント(scFv)からなるグループから選択される抗原結合ドメイン含有抗体由来タンパク質、またはアンチカリン、アフィボディ、アドネクチン、モノボディ、DARPin、アフィマー、およびアフィチンからなるグループから選択される抗原結合ドメイン含有抗体模倣体である。単一ドメイン抗体(sdAb)はナノボディと呼ぶこともできる。当業者は、タンパク質が2つ以上の抗原結合ドメインを含むこと、したがって多重特異性、好ましくは二重特異性である(例えば2価sdAbまたは2価アンチカリンまたは他の任意の2価抗体模倣体)ことが可能であることがわかるであろう。さらに、タンパク質は、多重特異性、好ましくは二重特異性であること、すなわち2つの異なる抗原に対する特異性を持つことが可能である(例えば二重特異性sdAbまたは二重特異性アンチカリンまたは他の任意の2価抗体模倣体)。
【0100】
ある実施形態では、インサートは、結合ドメイン(抗原結合ドメインなど)を含むタンパク質であり、AAVまたはAAVLPは、ITRが隣接したゲノムを含むAAVであることが好ましく、感染性である。ITRが隣接したゲノムは導入遺伝子を含むことがより好ましい。本発明によるAAV(その中のインサートは結合ドメインを含むタンパク質であり、このAAVはITRが隣接したゲノムを含んでいて感染性であり、前記ゲノムは導入遺伝子を含む)は、遺伝子療法で利用するのに特に有用である。遺伝子療法では、遺伝子が特定のタイプの細胞に送達され、その発現が治療効果につながる。代表的な遺伝子療法の非限定的な例に含まれるのは、遺伝子増強、遺伝子補足、遺伝子付加、または遺伝子編集(CRISPR-Casまたは他の技術が含まれる)である。一般に、変更標的に向かう本発明によるAAVは、生体外、生体内、およびその場での遺伝子療法に適している。生体外遺伝子療法(インビトロ遺伝子療法とも呼ばれる)では、標的細胞が患者の身体から取り出され、疾患の表現型の補正を可能にする治療用遺伝子の付加によって、または他の遺伝子操作によって操作され、操作された細胞がその後患者に再び輸液される。これは特に、血液疾患(キメラ抗原受容体(CAR)に基づく技術であるCAR T細胞とCAR NK細胞などが含まれる)に適用可能である。生体内遺伝子療法では、変更標的に向かう本発明によるAAVが患者の血流または脳脊髄液の中に全身投与され、疾患標的特異的細胞に応じ、脳、脊柱管、または肝臓に入る。その場での遺伝子療法では、変更標的に向かう本発明によるAAVがその場で投与される、すなわち患者の身体の特定の臓器または領域に直接注射することによって投与される(例えば腫瘍(例えば黒色腫の場合)または適切な脳領域(例えばニューロパチーの場合))か、カテーテルの挿入によって投与される(例えば治療すべき臓器が心臓の場合)。遺伝子療法は、生体内またはその場での遺伝子療法であることが好ましい。ある実施形態では、結合ドメインを含むタンパク質は、腫瘍抗原に対して特異的な抗原結合ドメインを含むタンパク質であり、ITRが隣接したゲノムは、がんの治療に利用することが好ましい自殺遺伝子を含む。
【0101】
当業者は、コロナウイルススパイク(S)タンパク質またはその一部も結合ドメインを含む結合タンパク質であることがわかるであろう。Sタンパク質は細胞受容体ACE-2に結合する。したがってインサートとして、免疫原性タンパク質またはその一部と、結合ドメインを含むタンパク質が可能である。
【0102】
さらなる1つの側面では、本発明は、本発明によるAAVまたはAAVLPを含む医薬組成物に関するものであり、この医薬組成物は、医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤をさらに含むことが好ましい。本発明の文脈では、「賦形剤」という用語は、医薬の活性成分とともに製剤化される天然物質または合成物質を意味する。適切な賦形剤に含まれるのは、抗接着剤、結合剤、コーティング、崩壊剤、香味剤、着色剤、潤滑剤、流動促進剤、吸着剤、保存剤、および甘味剤である。賦形剤にはアジュバントも含めることができる。ある実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPを含む医薬組成物は、少なくとも1つのアジュバントと、医薬として許容可能な少なくとも1つのさらなる賦形剤をさらに含む。本発明による医薬組成物は、本発明による2つ以上のAAVまたはAAVLP、または本発明による1つ以上のAAVと1つ以上のAAVLPを含むことができる(今後は2つ以上のAAVおよび/またはAAVLPと呼ぶ)。ただし2つ以上のAAVおよび/またはAAVLPは、固定剤型(すなわち物理的に混合されている)で存在すること、および/または別々の剤型で提供することができる。2つ以上のAAVおよび/またはAAVLPのそれぞれは、VR-VIIIおよび/またはVR-IVの頂部の位置に挿入された、異なる免疫原性タンパク質またはその一部、および/または結合ドメインを含むタンパク質(ただし異なるは、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質からの異なる免疫原性部分が可能である)、または免疫原性タンパク質またはその一部と、結合ドメインを含むタンパク質、または結合ドメインを含む2つの異なるタンパク質(すなわち2つの異なる標的(抗原、リガンド、および/または受容体などに対する特異性を持つ))を含む。免疫原性タンパク質、または異なるタンパク質からの免疫原性部分は、病原体の場合には、同じ病原体(同じ細菌、同じウイルス、または同じ寄生虫)に由来することが好ましい。
【0103】
本発明の文脈では、「医薬として許容可能な」という表現は、分子と医薬組成物の他の成分であって、生理学的に許容され、典型的には哺乳類(例えばヒト)に投与されたとき望まない反応を生じさせないものを意味する。「医薬として許容可能な」という表現は、連邦または州政府の規制当局によって承認されること、またはアメリカ合衆国薬局方、または哺乳類、より特定すればヒトでの使用に関して他の一般に認められている薬局方に掲載されることも意味することができる。
【0104】
本発明の文脈では、AAVまたはAAVLP、またはそのAAVまたはAAVLPを含む医薬組成物は、鼻腔内、粘膜、舌下、経口、口腔、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下の経路、好ましくは鼻腔内粘膜、舌下、静脈内、または皮下の経路を通じた投与に適合させることができる。一実施形態では、AAVまたはAAVLP、またはそのAAVまたはAAVLPを含む医薬組成物は、鼻腔内、経口、および/または粘膜の経路を通じた吸入による投与に適合させることができる。
本発明によるAAVまたはAAVLPの治療利用
【0105】
さらなる側面では、本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物は治療用である。一実施形態では、本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物は、好ましくはヒトでワクチンとして使用するためのものである。この文脈では、インサートは、本明細書に記載されている免疫原性タンパク質またはその一部である。「ワクチン」という用語は、本明細書では、投与されたとき対象に免疫応答を誘導することのできる薬剤を意味する。ワクチンは、疾患を予防、改善、または治療できることが好ましい。本発明の文脈では、ワクチンは、例えば病原体の感染を予防するための保護用または予防用ワクチンであること、またはワクチンは、例えばがんを治療するための治療用ワクチンであることが可能である。しかし当業者は、ウイルス、細菌、または寄生虫の感染の場合には、ワクチンを、例えば疾患を、または疾患発症後の症状を改善する治療用にも使用できることがわかるであろう。本発明のAAVまたはAAVLPを含むワクチンは、そのAAVまたはAAVLPを担体として使用するサブユニットワクチンである。担体は、不活性であること、または免疫刺激を提供することによってアジュバントとして機能することが可能である(ssDNA、または抗原性エピトープと免疫原性エピトープなど)。
【0106】
1つの特別な側面では、本発明は、ウイルス、細菌、または寄生虫によって誘導される疾患の治療または予防に使用するための本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物に関するものであり、その中の免疫原性タンパク質またはその一部は、本発明によるAAVまたはAAVLPに関して上に規定したように、前記ウイルス、細菌、または寄生虫の免疫原性タンパク質である。一実施形態では、疾患はコロナウイルス呼吸器症候群であり、免疫原性タンパク質またはその一部はコロナウイルススパイク(S)タンパク質の一部である。好ましくは、疾患はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)であり、免疫原性タンパク質またはその一部はSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部である。1つの特別な側面では、本発明によるAAVまたはAAVLPの中の免疫原性タンパク質またはその一部はSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部を含み、AAVまたはAAVLPはSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘導するのに使用される。本発明に従って使用するためのAAVまたはAAVLPのある実施形態では、SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部は、SARS-CoV-2 Sタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)またはその一部(好ましくは受容体結合モチーフ(RBM)を含む一部)を含む。ある実施形態では、SARS-CoV-2 Sタンパク質のその一部は、配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69(好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69)のアミノ酸配列、または配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69(好ましくは配列番号11、12、34、35、36、37、38、42、または69)のアミノ酸配列と少なくとも90%配列が一致するアミノ酸配列を含む。
【0107】
さらなる1つの特別な側面では、本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物は、がんの治療用または予防用であり、インサートは免疫原性タンパク質またはその一部であり、その免疫原性タンパク質またはその一部は腫瘍抗原またはその一部である。その代わりに、またはそれに加えて、インサートとして、標的抗原としての腫瘍抗原に対して特異的な結合ドメイン(抗原結合ドメインなど)を含むタンパク質が可能である。免疫原性タンパク質および/または標的抗原として適切な腫瘍抗原の非限定的な例は、癌胎児性抗原(CEA)、上皮成長因子受容体(EGFR)、葉酸結合タンパク質(FBP)、GD2、GD3、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2、erb-B2)、黒色腫抗原A1(MAGE-A1)、メソテリン(MSLN)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異性膜抗原(PSMA)、ムチン-1(MUC1)、グリピカン-3(GPC3)、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、B細胞成熟抗原(BCMA)、およびチロシン-プロテインキナーゼ膜貫通受容体(ROR1)、またはマイナーまたは主要組織適合性複合体関連腫瘍特異的(TSA)、および腫瘍関連抗原(TAA)(BCR-ABL融合体、黒色腫関連抗原3(MAGE-A3)、糖タンパク質100(gp100)、がん/精巣抗原1(LAGE2またはNY-ESO-1)、エプスタイン-バールウイルス潜在膜タンパク質1(LMP1)、P2Xプリン受容体7(P2RX7)、ジフタミド生合成タンパク質1(DPH1)など)からなるグループから選択することができる。治療すべきがんとして、固形腫瘍または造血器腫瘍が可能である。治療するのに適したがんの非限定的な例として、結腸直腸がん、乳がん、肝細胞がん、神経膠腫、肺がん(特に小細胞肺がん)、卵巣がん、神経芽腫、黒色腫、頭頸部扁平上皮癌、胃がん膵臓がん、中皮腫、前立腺がん、肝細胞がん、AML、またはCMLが可能である。当業者は、あるウイルス免疫原性タンパク質が腫瘍抗原(HCVまたはHPVに由来する抗原など)としても機能できることがさらにわかるであろう。
【0108】
さらに別の側面では、本発明によるAAVまたはAAVLPまたは医薬組成物は、治療(特に遺伝子療法)で利用するためのものである。この文脈では、インサートは、結合ドメインを含むタンパク質、好ましくは抗原結合ドメイン、受容体結合ドメイン、またはリガンド結合ドメイン、より好ましくは抗原結合ドメインを含むタンパク質である。したがってAAVまたはAAVLPは変更標的に向けられる。例えば抗原結合ドメインは細胞タイプ特異的抗原(特に表面受容体などの表面抗原)に対して特異的であり、AAVまたはAAVLPを変更標的である前記細胞タイプ(野生型AAV血清型に対して感受性でない細胞(例えば内皮細胞または特定のタイプの神経細胞)など)に向かわせることができる。特別な一実施形態では、抗原結合ドメインは腫瘍抗原に対して特異的であり、AAVまたはAAVLPを、変更標的である、前記腫瘍抗原を発現している腫瘍細胞に向かわせることができる。より好ましくは、AAVまたはAAVLPはAAVであり、そのAAVはITRが隣接したゲノムを含み、感染性である。ある実施形態では、ITRが隣接したゲノムは導入遺伝子を含む。AAVの変更標的が腫瘍である場合には、導入遺伝子として自殺遺伝子も可能である。
【0109】
本発明による治療利用は、投与すべき本発明による2つ以上のAAVまたはAAVLP、または投与すべき本発明による1つ以上のAAVと1つ以上のAAVLP(今後は、投与すべき2つ以上のAAVおよび/またはAAVLPと呼ぶ)も含むことができる。ただし投与すべきその2つ以上のAAVおよび/またはAAVLPは、固定剤型(すなわち物理的に混合されている)で存在すること、および/または別々の剤型で提供することができる。これらは同時に投与すること、または異なる時点に投与することができる。ただしその2つ以上のAAVおよび/またはAAVLPは、それぞれ、VR-VIIIおよび/またはVR-IVの頂部に挿入された異なるインサート(異なる免疫原性タンパク質またはその一部、および/または結合ドメインを含むタンパク質など)を含む。免疫原性タンパク質またはその一部にとって、異なるは、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分、または同じタンパク質からの異なる免疫原性部分が可能である。異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分は、病原体の場合には、同じ病原体((同じ細菌、同じウイルス、または同じ寄生虫など)に由来すること、またはがんの場合には同じ腫瘍に由来することが好ましい。初回とブースターのワクチン接種のため、同じか、少なくとも重複する免疫原性タンパク質またはその一部を有する異なる血清型に基づく本発明によるAAVまたはAAVLP。結合ドメインを含むタンパク質については、異なるは、異なる結合特異性を持つタンパク質を意味する。
【0110】
本発明による利用のためのAAVまたはAAVLPは、鼻腔内粘膜、舌下、経口、口腔、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下の経路、好ましくは鼻腔内粘膜、舌下、静脈内、または皮下の経路を通じて投与することができる。一実施形態では、AAVまたはAAVLPは、鼻腔内、経口、および/または粘膜経路を通じた吸入によって投与することができる。
本発明によるAAVまたはAAVLPを作製する方法
【0111】
さらに別の側面では、本発明は、AAVまたはAAVLPを作製する方法に関するものであり、この方法は、(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただしcap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードし、場合によりそのインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している);(ii)AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で細胞を培養する工程;(iii)AAVまたはAAVLPを精製する工程を含む。ある実施形態では、この方法は、医薬組成物を製造する方法であり、(iv)本発明の方法の工程を含み、さらに医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤を添加してAAVまたはAAVLPを製剤化して医薬組成物にする工程を含む。当業者は、cap遺伝子とrep遺伝子が天然のAAVプロモータ(それぞれの野生型AAVプロモータなど)を含んでいてよいこと、天然のrepプロモータおよび/またはcapプロモータ(特にcapプロモータ)を異なる真核生物プロモータ、好ましくは強力な真核生物プロモータ(強力な哺乳類プロモータ、例えばCMV、RSV、またはSV40)で置き換えるか補足することにより発現レベルの調節と改善が可能であることを理解すると考えられる。本発明による方法はインビトロ法である。「真核生物プロモータ」と「哺乳類プロモータ」という用語は、本明細書では、真核生物細胞または哺乳類細胞の中で遺伝子の発現を駆動する任意のプロモータ(ウイルスプロモータが含まれる)を意味する。
【0112】
ある実施形態では、AAVまたはAAVLPを作製する方法は、(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただしcap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードし、そのインサートは、(a)免疫原性タンパク質またはその一部、および/または(b)結合ドメインを含むタンパク質であり、このインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している):(ii)AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で細胞を培養する工程;(iii)AAVまたはAAVLPを精製する工程;場合により、医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤を添加してAAVまたはAAVLPを製剤化して医薬組成物にする工程を含む。本発明による方法はインビトロ法である。
【0113】
アデノウイルスヘルパー配列は、E2A、E4、およびVAのRNAと、産生細胞(例えばHEK293細胞)がすでに発現しているのではない場合のE1A/E1Bである。場合により、さらなるプラスミドが、ITRが隣接したゲノム(導入遺伝子発現カセットを含むITRが隣接したゲノムなど)をコードする。
【0114】
ある実施形態では、cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列、および/または場合による、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列は、独立に、安定に発現させること、または一過性に発現させることができる。特別な実施形態では、本発明の方法は、(a)哺乳類細胞に、cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA分子、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA分子、および場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA分子をトランスフェクトすること(好ましくは、DNA分子はプラスミドまたは直線状DNAである);または(b)哺乳類細胞に、cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのベクター、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのベクター、および場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのベクターを用いて形質導入すること(ただしベクターは、バキュロウイルスと単純ヘルペスウイルスから選択されることが好ましいウイルスのベクターである);または(c)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列、および/または場合による、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を安定に発現している細胞、そしてトランスフェクションおよび/または形質導入により一過性に安定に発現しなかったDNA配列を提供することを含む。cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列、および/または場合による、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列は、独立に、安定に発現させること、または一過性に発現させることができる。
【0115】
具体的には、本発明によるAAVを下記のようにして調製した。AAVを作製するため、80%の集密度にしたHEK293T細胞の15枚の150-mmのペトリ皿に、ペトリ皿1枚につき20 μgのDNAを同時にトランスフェクトした。そうすることにより、pHtW2_S1.1またはpHtW9_S1.1というAAV Rep/Capプラスミドが、アデノウイルスヘルパープラスミド(例えばJ. Samulski, Chapel Hill, NC; Xiao, Li and Samulski (1998)「ヘルパーアデノウイルスの不在下での高力価組み換えアデノ随伴ウイルスベクターの作製」J. Virol. 72: 2224-2232からのpXX6)と同じモル比で、そして充満カプシドの作製の場合には、ITRが隣接したCMV-eGFPカセットを含有するpTransgeneプラスミドと同じモル量で同時にトランスフェクトされた。48時間後、AAVを、150 mMのNaCl、50 mMのTris-HCl(pH 8.5)に再懸濁させたHEK293細胞ペレットから単離し、凍結-解凍を数回実施し、37℃でベンゾナーゼ(50 U/ml)を用いて30分間処理した。細胞残屑を遠心分離によって除去し、上清をイオジキサノール勾配のためさらに処理した。あるいはAAVは、8%ポリエチレングリコール(PEG)8000を用いて4℃で沈降させた後に細胞培養物上清から単離した。次いでPEG-AAV沈降物を37℃でベンゾナーゼ(50 U/ml)を用いて30分間処理した後、イオジキサノール勾配のためさらに処理した。イオジキサノール勾配超遠心分離を、記載されているようにして18℃にて70,000 rpmで1時間45分実施した(Zolotukhin et al. (1999)「新規な方法を利用した組み換えアデノ随伴ウイルス精製は感染力価と収率を改善する」Gene Ther. 6: 973-985)。その後、ビリオンを40%イオジキサノール相から回収し、repプローブを用いたDNAドット-ブロットハイブリダイゼーションによって滴定した(Girod et al. (1999)「遺伝子カプシド改変によりアデノ随伴ウイルス2型を効率的に変更標的に向かわせることが可能になる」Nat. Med. 5: 1052-1056)。
【0116】
上記のアプローチに加え、別のアプローチを利用してrAAVを作製することができる。例えば従来のプラスミドの代わりに細菌プラスミド骨格を欠くミニ環状DNAまたは閉じた直線状DNA(例えばdoggyboneDNA)を用いる別の一過性同時トランスフェクション法を利用することができよう。あるいはrep遺伝子およびcap遺伝子と、場合によりAAV ITRが隣接した導入遺伝子をコードするプラスミドを用いて形質転換した安定な哺乳類産生細胞系(例えばHeLa)を使用することができよう。このような細胞に野生型アデノウイルス(例えばAd 5型)を、またはAAV ITRが隣接したゲノムを含有するアデノウイルス/AAVハイブリッドウイルスを感染させ、本発明に従って改変されたrAAVカプシドの中にパッケージされた導入遺伝子を含有する、選択されるrAAV粒子を生成させることができよう。AAVLPは基本的に本発明によるAAVと同じ方法に従って作製されるが、哺乳類細胞を、ITRが隣接したゲノムを完全に欠くプラスミドで形質転換するか、哺乳類細胞に、AAV ITRが隣接したゲノムを含有するアデノウイルス/AAVハイブリッドウイルスの代わりに野生型アデノウイルスを感染させる点が異なる。別の適切なアプローチは、感染させるのに2~3つの別々のウイルス(Repバキュロウイルス、VPバキュロウイルス、および場合により、AAV ITRが隣接した導入遺伝子バキュロウイルス)を用いるバキュロウイルス/Sf8系を使用する。得られるrAAVベクターは、本発明に従って改変されたrAAVカプシドの中にパッケージされた導入遺伝子を含有する。AAVLPは基本的に本発明によるAAVと同じ方法に従って作製されるが、哺乳類細胞に、ITRが隣接したゲノムを含有するプラスミドなしでトランスフェクトするか、哺乳類細胞に、AAV ITRが隣接したゲノムバキュロウイルスなしで感染させる点が異なる。あるいは哺乳類細胞(例えばハムスターBHK21細胞、HEK293細胞、または誘導体)に、AAVのrep遺伝子と改変されたcap遺伝子、および場合によりAAV ITRが隣接した導入遺伝子を発現する1つまたは2つの組み換え単純ヘルペスウイルス(rHSV)を感染させることができる。任意の追加ヘルパー機能がrHSV遺伝子によって提供される。得られるrAAVベクターは、本発明に従って改変されたrAAVカプシドの中にパッケージされた導入遺伝子を含有する。AAVLPは基本的に本発明によるAAVと同じ方法に従って作製されるが、哺乳類細胞に、AAVのrep遺伝子と改変されたcap遺伝子を発現するrHSVだけを感染させ、AAV ITRが隣接した導入遺伝子を持つrHSVは感染させない点が異なる。
【0117】
ITRが隣接したゲノムは、さらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子をさらに含むことができる。別のある実施形態では、AAVまたはAAVLPは、ITRが隣接したゲノムを含まないAAVLPである。カプシドを形成するAAV VPとして、1:1:10の比になったVP1、VP2、およびVP3が可能である。カプシドは、VP1とVP3だけ、またはVPによって形成することもできる。したがってカプシドを形成するAAV VPとして、VP1とVP3、またはVP3が可能である。あらゆるバリアントにおいて、AAVまたはAAVLPは約60個のVPからなるカプシドを持つことが好ましい。免疫原性タンパク質またはその一部と挿入部位は、本発明によるAAVまたはAAVLPに関して上に開示されているものが可能である。本発明の方法の文脈では、免疫原性タンパク質または一部、挿入部位のほか、ゲノムは、本発明のAAVまたはAAVLPに関して上に記載したように定義することができる。
【0118】
上記のことに鑑み、本発明には以下の項目も包含されることが理解されよう。
1.カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、そのインサートは免疫原性タンパク質または一部であり、場合によりそのインサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)。
2.(a)VR-VIIIの頂部が、それぞれ配列番号1、2、3、6、7、8、9、または10のアミノ酸配列を持つAAV 1、2、3、6、7、8、9、または10のVP1のアミノ酸585~592(I-585~I-592)に、配列番号4のアミノ酸配列を持つAAV 4のVP1のアミノ酸583~589に、または配列番号5のアミノ酸配列を持つAAV 5のVP1のアミノ酸574~580に対応する、および/または(b)VR-IVの頂部が、それぞれ配列番号1、2、3、6、7、8、9、または10のアミノ酸配列のAAV 1、2、3、6、7、8、9、または10のVP1のアミノ酸450~460(I-450~I-460)に、配列番号4のアミノ酸配列を持つAAV 4のVP1のアミノ酸445~455(I-445~I-455)に、または配列番号5のアミノ酸配列を持つAAV 5のVP1のアミノ酸439~449(I-439~I-449)に対応する、項1に記載のAAVまたはAAVLP。
3.AAV血清型1(AAV1)、2(AAV2)、8(AAV8)、または9(AAV9)に由来し、好ましくは、
(a)前記挿入部位が、配列番号2のアミノ酸配列を持つAAV2 VP1のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV2 I-587)、または588と589の間(AAV2 I-588)、および/または453と454の間(AAV2 I-453)、好ましくはAAV2 I-587 、またはAAV2 I-588、またはAAV2 I-453、より好ましくはAAV2 I-587またはAAV2 I-588にある;
(b)前記挿入部位が、配列番号1のアミノ酸配列を持つアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV1 I-587)、588と589の間(AAV1 I-588)、または589と590の間(AAV1 I-589)および/または454と455の間(AAV1 I-454)、455と456の間(AAV1 I-455)、または456と457の間(AAV1 I-456)にある;
(c)前記挿入部位が、配列番号8のアミノ酸配列を持つAAV8 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV8 I-588)、または589と590の間(AAV8 I-589)、および/または455と456の間(I-455)、456と457の間(I-456)、または457と458の間(I-457)にある、または
(d)前記挿入部位が、配列番号9のアミノ酸配列を持つAAV9 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV9 I-588)、または589と590の間(AAV9 I-589)、および/または454と455の間(I-454)、455と456の間(I-455)、または456と457の間(I-456)にある、項1~2のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
4.(a)前記AAVが、ITRが隣接したゲノムを含み、感染性であり、場合により、ITRが隣接した前記ゲノムが、さらなる免疫原性タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子を含む;
(b)免疫原性タンパク質またはその一部がVR-VIIIの頂部とVR-IVの頂部の位置に挿入され、VR-VIIIの頂部の位置に挿入された前記免疫原性タンパク質またはその一部と、VR-IVの頂部の位置に挿入された前記免疫原性タンパク質またはその一部は、同じであるか異なっており;および/または
(c)前記AAVまたはAAVLPが、少なくとも約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成され、前記異なるインサートは、それぞれが免疫原性タンパク質またはその一部であり、異なるタンパク質からの免疫原性タンパク質または免疫原性部分であるか、同じタンパク質からの異なる免疫原性部分であるかのいずれかである、項1~3のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
5.約60個のVPからなるカプシドを持ち、前記VPが、
(a)VP3;
(b)VP1とVP3;または
(c)比が1:1:10であることが好ましいVP1、VP2、およびVP3タンパク質である、項1~4のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
6.前記免疫原性タンパク質またはその一部が、ウイルス、細菌、または寄生虫のタンパク質またはその一部である、項1~5のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
7.前記免疫原性タンパク質またはその一部が、
(a)コロナウイルススパイク(S)タンパク質の一部である;
(b)SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部であり、好ましくはSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の前記一部が、SARS-CoV-2 Sタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)またはその一部を含む;および/または
(c)配列番号11、12、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、または69、好ましくは11、12、34、35、36、37、38、42、または69のアミノ酸配列を含むSARS-CoV-2 Sタンパク質の一部である、項6に記載のAAVまたはAAVLP。
8.前記免疫原性タンパク質またはその一部が腫瘍抗原である、項1~5のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
9.項1~8のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLPを含み、医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤をさらに含む医薬組成物。
10.ワクチンとして利用するための、項1~8のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP、または請求項9の医薬組成物。
11.ウイルス、細菌、または寄生虫によって誘導される疾患の治療または予防に利用され、前記免疫原性タンパク質またはその前記一部が、前記ウイルス、細菌、または寄生虫それぞれの免疫原性タンパク質である、項1~7のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
12.前記疾患がコロナウイルス呼吸器症候群であり、前記免疫原性タンパク質またはその一部がコロナウイルススパイク(S)タンパク質の前記一部である、項11に従って利用するためのAAVまたはAAVLP、好ましくは前記疾患がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)であり、前記免疫原性タンパク質またはその一部がSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質の一部である、項11に従って利用するためのAAVまたはAAVLP。
13.がんの治療に利用され、前記免疫原性タンパク質または前記その一部が腫瘍抗原またはその一部である、項8に記載のAAVまたはAAVLP。
14.鼻腔内粘膜、舌下、経口、口腔、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下の経路を通じて投与され、好ましくは鼻腔内、経口、および/または粘膜の経路を通じた吸入によって投与される、項10~13のいずれか1項に記載の利用のためのAAVまたはAAVLP。
15.AAVまたはAAVLPを作製する方法であって、
(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただし前記cap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードしており、前記インサートは免疫原性タンパク質または一部であり、場合により前記インサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している);
(ii)前記AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程;および
(iii)前記AAVまたはAAVLPを精製する工程を含む方法。
16.AAVまたはAAVLPを含む医薬組成物を製造する方法であって、
(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただし前記cap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードしており、前記インサートは免疫原性タンパク質または一部であり、場合により前記インサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している);
(ii)前記AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程;
(iii)前記AAVまたはAAVLPを精製する工程;および
(iv)医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤を添加して前記AAVまたはAAVLPを製剤化して医薬組成物にする工程を含む方法。
17.カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含み、場合によりそのインサートの片側または両側に、1個以上のアミノ酸、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはアデノ随伴ウイルス様粒子(AAVLP)。
18.前記インサートが、(a)免疫原性タンパク質またはその一部、および/または(b)結合ドメインを含むタンパク質である、項17に記載のAAVまたはAAVLP。
19.前記インサートが、結合ドメイン、好ましくは抗原結合ドメインを含むタンパク質である、項17に記載のAAVまたはAAVLP。
20.前記AAVが、ITRが隣接したゲノムを含み、感染性であり、好ましくはITRが隣接した前記ゲノムが導入遺伝子を含む、項17~19のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
21.(a)VR-VIIIの頂部が、それぞれ配列番号1、2、3、6、7、8、9、または10のアミノ酸配列を持つAAV 1、2、3、6、7、8、9、または10のVP1のアミノ酸585~592(I-585~I-592)に、配列番号4のアミノ酸配列を持つAAV 4のVP1のアミノ酸583~589に、または配列番号5のアミノ酸配列を持つAAV 5のVP1のアミノ酸574~580に対応する、および/または(b)VR-IVの頂部が、それぞれ配列番号1、2、3、6、7、8、9、または10のアミノ酸配列のAAV 1、2、3、6、7、8、9、または10のVP1のアミノ酸450~460(I-450~I-460)に、配列番号4のアミノ酸配列を持つAAV 4のVP1のアミノ酸445~455(I-445~I-455)に、または配列番号5のアミノ酸配列を持つAAV 5のVP1のアミノ酸439~449(I-439~I-449)に対応する、項17~20のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
22.AAV血清型1(AAV1)、2(AAV2)、8(AAV8)、または9(AAV9)に由来し、好ましくは、
(a)前記挿入部位が、配列番号2のアミノ酸配列を持つAAV2 VP1のアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV2 I-587)、または588と589の間(AAV2 I-588)、および/または453と454の間(AAV2 I-453)、好ましくはAAV2 I-587 、またはAAV2 I-588、またはAAV2 I-453、より好ましくはAAV2 I-587またはAAV2 I-588にある;
(b)前記挿入部位が、配列番号1のアミノ酸配列を持つアミノ酸位置587と588に対応する2個のアミノ酸の間(AAV1 I-587)、588と589の間(AAV1 I-588)、または589と590の間(AAV1 I-589)、および/または454と455の間(AAV1 I-454)、455と456の間(AAV1 I-455)、または456と457の間(AAV1 I-456)にある;
(c)前記挿入部位が、配列番号8のアミノ酸配列を持つAAV8 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV8 I-588)、または589と590の間(AAV8 I-589)、および/または455と456の間(I-455)、456と457の間(I-456)、または457と458の間(I-457)にある、または
(d)前記挿入部位が、配列番号9のアミノ酸配列を持つAAV9 VP1のアミノ酸位置588と589に対応する2個のアミノ酸の間(AAV9 I-588)、または589と590の間(AAV9 I-589)、および/または454と455の間(I-454)、455と456の間(I-455)、または456と457の間(I-456)にある、項17~21のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
23.約60個のVPからなるカプシドを持ち、前記VPが、
(a)VP3;
(b)VP1とVP3;または
(c)比が1:1:10であることが好ましいVP1、VP2、およびVP3タンパク質である、項17~22のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
24.前記インサートが、結合ドメインを含むタンパク質であり、前記AAVが、ITRが隣接したゲノムを含み、感染性であり、好ましくはITRが隣接した前記ゲノムが導入遺伝子を含む、項17~23のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
25.前記インサートが、結合標的に対して特異的な結合ドメインを含むタンパク質であり、結合ドメインを含むそのタンパク質が、前記結合標的を表面に発現している標的細胞に対する前記AAVまたはAAVLPの指向性を決定する、項17~24のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
26.変更標的に向けられる、項17~25のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
27.少なくとも約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成され、第1のインサートは、結合ドメインを含む第1のタンパク質を含み、少なくとも1つのさらなるインサートは、結合ドメインを含むさらなるタンパク質、および/または免疫原性タンパク質またはその一部を含む、項17~26のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
28.前記インサートが、抗原結合ドメインを含むタンパク質である、項17~27のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
29.前記インサートが、標的抗原に対して特異的な抗原結合ドメインを含むタンパク質であり、前記抗原結合ドメインが、標的抗原を表面に発現している標的細胞に対する前記AAVまたはAAVLPの指向性を決定する、項28に記載のAAVまたはAAVLP。
30.少なくとも約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなる異なるインサートを含む2つ以上のウイルスタンパク質によって形成され、第1のインサートは、第1の標的抗原に対して特異的な抗原結合ドメインを含むタンパク質であり、少なくとも1つのさらなるインサートは、さらなる標的抗原に対して特異的な抗原結合ドメインを含むタンパク質である、項25~27のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
31.抗原結合ドメインを含む前記タンパク質が、単一ドメイン抗体(sdAb)一本鎖可変フラグメント(scFv)、または抗体模倣体(例えばアンチカリン、アフィボディ、アドネクチン、モノボディ、DARPin、アフィマー、またはアフィチン)である、項28~30のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
32.医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤をさらに含む、項17~31のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLPを含む医薬組成物。
33.治療で利用するための、項17~31のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
34.遺伝子療法で利用するための、項17~31のいずれか1項に記載のAAVまたはAAVLP。
35.治療、好ましくは遺伝子療法で利用するための、項32に記載の医薬組成物。
36.前記AAVまたはAAVLP、または前記医薬組成物が、鼻腔内粘膜、舌下、経口、口腔、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下の経路を通じて投与され、好ましくは前記AAVまたはAAVLPが、鼻腔内、経口、および/または粘膜の経路を通じた吸入によって投与される、項33または34に記載のAAVまたはAAVLP、または項35に記載の利用のための医薬組成物。
37.AAVまたはAAVLPを作製する方法であって、
(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただし前記cap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードしており、場合により前記インサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している);
(ii)前記AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程;
(iii)前記AAVまたはAAVLPを精製する工程;および
場合により、医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤を添加して前記AAVまたはAAVLPを製剤化して医薬組成物にする工程を含む方法。
38.AAVまたはAAVLPを含む医薬組成物を製造する方法であって、
(i)cap遺伝子とrep遺伝子を含む少なくとも1つのDNA配列、アデノウイルスヘルパー配列を含む少なくとも1つのDNA配列を含み、場合により、ITRが隣接したゲノムを含む少なくとも1つのDNA配列を含む細胞を調製する工程(ただし前記cap遺伝子は、カプシドを形成するウイルスタンパク質(VP)の中の約75~400個のアミノ酸、好ましくは約75~300個のアミノ酸からなるインサートを、そのVPの可変領域VIIIおよび/または可変領域IV(VR-VIIIおよび/またはVR-IV)の頂部にある挿入部位(I)の位置に含むタンパク質をコードしており、場合により前記インサートの片側または両側に、A(Ala)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、L(Leu)、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択されることが好ましい1個以上のアミノ酸を含むリンカーが隣接している);
(ii)前記AAVまたはAAVLPの作製を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程;
(iii)前記AAVまたはAAVLPを精製する工程;および
(iv)医薬として許容可能な少なくとも1つの賦形剤を添加して前記AAVまたはAAVLPを製剤化して医薬組成物にする工程を含む方法。
39.前記インサートが、結合ドメインを含むタンパク質であり、好ましくは抗原結合ドメインを含むタンパク質である、項37または38に記載の方法。
【実施例】
【0119】
実施例1:AAVカプシドとAAVウイルスタンパク質(VP)の構造モデル
大きなタンパク質(SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質など)をAAVのVP1に導入できるかどうかを分析するため、AAV2のVP3(配列番号2)と、SARS-CoV-2のSタンパク質のスパイク受容体結合ドメインを含むAAV2(HtW2_S1.1)の得られたAAVカプシド(インサート:配列番号11、インサートを有するAAV2 VP1:配列番号13)の構造をモデル化した。Robettaタンパク質構造予測サービス(https://robetta.bakerlab.org/)を利用した比較構造モデリングを、HtW2_S1.1 VP3(
図1B)について、AAV2 WT(PDB 6ih9)(
図1C)に基づき実施し、Chimeraソフトウエア(https://www.cgl.ucsf.edu/chimera/)を利用して処理した。I-587の位置にインサートとしてSARS-CoV-2のSタンパク質のスパイク受容体結合ドメインを含むAAV2(HtW2_S1.1)のVP3のタンパク質構造の新規な予測に基づき、RoseTTAFold (https://robetta.bakerlab.org/)を用いて同じタンパク質をさらにモデル化した(
図1D)。AAV2 WT (PDB 6ih9)に基づく公開されている構造が、同じ向きで
図1Eに示されている。
図1Fと1Eに示されているように、HtW2_S1.1(リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクの一部を含む202個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.1)の対応する予測された60量体カプシド構造を2つの異なる角度から分析した。
図1B、D、E、およびGからわかるように、大きな200個超のアミノ酸インサートは主要な巨大VP1またはカプシド構造を損なわなかった。
実施例2:pHtW2_S1.1とpHtW9_S1.1というAAV Rep/Capプラスミドのクローニングと、HtW2_S1.1充満粒子とHtW2_S1.1空粒子の調製
【0120】
プライマーpHtW2_S1.1_fwとpHtW2_S1.1_rvを用いて配列番号11を持つRBD-スパイク-配列をPCRで増幅した(表3参照)。PCR産物のアガロースゲル電気泳動を実施し、567 bpのアンプリコンを切除して精製し(QiaQuickゲル抽出キット、Qiagen)、MluI/SgsIで二重消化させてアガロースゲルで精製した7590 bpのpRC’99プラスミド(AAV2のRep配列とCap配列を含有)とのギブソン・アセンブリ反応で使用した。ギブソン・アセンブリが成功し、
図13に示されている8198 bpのAAV2 Rep / HtW2_S1.1 Cap pHtW2_S1.1ヘルパープラスミドが得られた。
【0121】
pHtW9_S1.1バージョンをクローニングするため、pAAV2/9 Capプラスミド(7390bp)を、プライマーpHtW9_S1.1_BB_fwとpHtW9_S1.1_BB_rv(表3参照)を用いるPCR反応のための鋳型として使用した、7390 bpのアンプリコンをアガロースゲルで精製し、ギブソン・アセンブリ反応のための直線状骨格として使用した。
【0122】
プライマーpHtW9_S1.1_fwとpHtW9_S1.1_rvを用いて配列番号11を持つRBD-スパイク-配列をPCRで増幅した(表3参照)。得られた654 bpのアンプリコンをアガロースゲルで精製し(QiaQuickゲル抽出キット、Qiagen)、ギブソン・アセンブリ反応で使用すると、
図15に示されている7993 bpのAAV2 Rep/HtW9_S1.1 Cap pHtW9_S1.1プラスミドが得られた。プラスミドが正しく組み立てられたことをサンガーシークエンシングで確認した。
【0123】
プライマーHtW2_Var_S1.2_fwとHtW2_Var_S1.2_rvを用いて配列番号69をコードするRBD-スパイク-配列をPCRで増幅した(表3参照)。PCR産物のアガロースゲル電気泳動を実施し、685 bpのアンプリコンを切除して精製し(QiaQuickゲル抽出キット、Qiagen)、MluI/SgsIで二重消化させてアガロースゲルで精製した7590 bpのpRC’99プラスミド(AAV2のRep配列とCap配列を含有)とのギブソン・アセンブリ反応で使用した。ギブソン・アセンブリが成功し、
図14に示されている8222 bpのAAV2 Rep/HtW2_S1.2 CapヘルパープラスミドpHtW2_S1.2が得られた。
【表3】
【0124】
プラスミドpHtW2_S1.1またはpHtW9_S1.1を用い、配列番号11のアミノ酸配列を持つRBD-スパイク-配列を含む新規なAAVカプシドバリアントを有するAAV粒子を作製した。得られた新規なHtW2_S1.1 capタンパク質は配列番号13のアミノ酸配列を持つ。pHtW2_S1.2プラスミドを用い、配列番号69のアミノ酸配列を持つスパイク配列(N末端に結合ドメインと追加のT細胞エピトープを含む)を含む新規なAAVカプシドバリアントを有するAAV粒子を作製した。得られた新規なHtW2_S1.2 capタンパク質は配列番号70のアミノ酸配列を持つ。AAVの作製は、Michalakisら(Mol. Ther. (2010); 18(12): 2057-2063)が記載している標準的な技術によって実施した。簡単に述べると、pHtW2_S1.1、pHtW2_1.2、またはpHtW9_S1.1、場合によりCMV-eGFP発現カセット(AAV-sc-CMV-eGFP)を含有する自己相補的(sc)AAVシスプラスミド(pTransgeneプラスミド)(Hacker et al. (2005)「アデノ随伴ウイルス血清型1~5を媒介とした、腫瘍細胞に向かう遺伝子導入と形質導入効率の改善」J Gene Med 7(11):1429-38)と、パッケージングのためのアデノウイルスヘルパープラスミド(例えばJ. Samulski, Chapel Hill, NC; Xiao, Li and Samulski (1998)「ヘルパーアデノウイルスの不在下での高力価組み換えアデノ随伴ウイルスベクターの作製」J. Virol. 72: 2224-2232からのpXX6)を同じモル量で同時にトランスフェクトするHEK293T細胞へのトランスフェクションにより、AAVを作製した。(ITRが隣接したsc-CMV-eGFP発現カセットを有する)pTransgeneプラスミドの不在下でHtW2_S1.1空粒子を作製した。AAVを作製するため、HEK293T細胞を80%の集密度にした15枚の150-mmのペトリ皿に、ペトリ皿1枚につき20 μgのDNAを同時にトランスフェクトした。そうすることにより、pHtW2_S1.1、pHtW2_S1.2、またはpHtW9_S1.1というAAV Rep/Capプラスミドが、アデノウイルスヘルパープラスミド(例えばJ. Samulski, Chapel Hill, NC; Xiao, Li and Samulski (1998)「ヘルパーアデノウイルスの不在下での高力価組み換えアデノ随伴ウイルスベクターの作製」J. Virol. 72: 2224-2232からのpXX6)と同じモル比で、そして充満カプシドの作製の場合には、ITRが隣接したCMV-eGFPカセットを含有するpTransgeneプラスミドと同じモル量で同時にトランスフェクトされた。48時間後、AAVを、150 mMのNaCl、50 mMのTris-HCl(pH 8.5)に再懸濁させたHEK293細胞ペレットから単離し、凍結-解凍を数回実施し、37℃でベンゾナーゼ(50 U/ml)を用いて30分間処理した。細胞残屑を遠心分離によって除去し、上清をイオジキサノール勾配のためさらに処理した。あるいはAAVは、8%ポリエチレングリコール(PEG)8000を用いて4℃で沈降させた後に細胞培養物上清から単離した。次いでPEG-AAV沈降物を37℃でベンゾナーゼ(50 U/ml)を用いて30分間処理した後、イオジキサノール勾配のためさらに処理した。イオジキサノール勾配超遠心分離を、記載されているようにして18℃にて70,000 rpmで1時間45分実施した(Zolotukhin et al. (1999)「新規な方法を利用した組み換えアデノ随伴ウイルス精製は感染力価と収率を改善する」Gene Ther. 6: 973-985)。その後、ビリオンを40%イオジキサノール相から回収し、リアルタイムPCRによって滴定した。リアルタイムPCRは、D'Costa et al., (2016) 組み換えAAVベクター参照基準の実践的な利用:無ITR qPCRによるベクターゲノム滴定に焦点を絞る、5:16019に記載されているAAV2無ITR qPCRアッセイを利用し、Step one Plus(Thermo Fisher scientific、ドイツ国)を用いて実施した。
実施例3:AAVベクターのAAVxアフィニティ精製クロマトグラフィ
【0125】
AAV2 WT粒子、HtW2_S1.1充満粒子(すなわち充満AAV粒子(sc-CMV-eGFPゲノムをロードされたHtW2_S1.1粒子))、およびHtW2_S1.1空粒子(すなわち空のAAV粒子(ITRが隣接したsc-CMV-eGFP発現カセットを有する)pTransgeneプラスミドの不在下で作製されたHtW2_S1.1粒子)を、(Thermo Fisher Scientificから取得した)Poros Capture Select AAVxアフィニティ精製カラムを製造者の指示に従って用いて精製した。
図2のクロマトグラムは、AAV2 WT粒子(
図2A)、HtW2_S1.1充満粒子(
図2B)、およびHtW2_S1.1空粒子(
図2C)の溶離を示す。AAVxアフィニティ精製カラムに結合したHtW2_S1.1充満粒子とHtW2_S1.1空粒子およびが、溶離プロセスの開始後、似ているがわずかに遅れて溶離した(x軸に溶離バッファのml値によって示されている)。したがって200個超のアミノ酸という大きな挿入にもかかわらず、HtW2_S1.1充満粒子とHtW2_S1.1空粒子の両方とも、AAVxアフィニティ精製カラムに結合する能力を相変わらず保持していた。HtW2_S1.2とHtW9_S1.1は同様に精製された。
実施例4:ヒーラ細胞におけるAAVベクターの形質導入アッセイ
【0126】
天然のヒーラ細胞に、AAV2 WTでパッケージされるか、リンカーアミノ酸が隣接した配列番号11のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2 S1スパイクRBDの部分を含む202個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.1でパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPを異なる感染多重度((MOI):250 MOI、500 MOI、および1000 MOI)で用い、形質導入した。24時間後と48時間後に細胞の画像を取得し、明視野・落射蛍光顕微鏡法(Evos FL、Thermo Fisher Scientific)を利用して分析した。48時間の時点で画像を取得した後、細胞を回収し、eGPF陽性細胞の割合をCountess II FL自動化細胞カウンタ(Thermo Fisher Scientific)を用いて分析した。
【0127】
驚くべきことに、
図3からわかるように、200個超のアミノ酸という大きな挿入にもかかわらず、HtW2_S1.1は、非常に低いMOI 250でさえ、ヒト細胞に感染する能力と形質導入する能力を相変わらず保持していた。
【0128】
ヒーラ細胞の中でACE2受容体を過剰発現させるため、天然のヒーラ細胞に、CMVプロモータの制御下にある配列番号30のアミノ酸配列を含むプラスミドを一過性にトランスフェクトした。48時間後、ヒーラ細胞に、リンカーアミノ酸が隣接した配列番号11のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2 SスパイクRBDの部分を含む202個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.1でパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPを2つの異なるMOI(250 MOIと500 MOI)で用い、形質導入した。24時間後と48時間後に落射蛍光顕微鏡法(Evos FL、Thermo Fisher Scientific)を利用して細胞の画像を取得した(
図4A)。48時間の時点で画像を取得した後、細胞を回収し、eGPF陽性細胞の割合をCountess II FL自動化細胞カウンタ(Thermo Fisher Scientific)を用いて分析した(
図4B)。
【0129】
興味深いことに、
図4からわかるように、配列番号11のアミノ酸配列を持つSARS-CoV-2 SスパイクRBDの部分を含む202個のアミノ酸の挿入により、粒子には、より高い感染性と、ACE2をトランスフェクトされたヒーラ細胞へのより高い形質導入効率が与えられた。このことから、AAVは別用途化が成功して細胞指向性に関してSARS-CoV-2のように振る舞うことが確認される。これは、組み込まれたSARS-CoV-2由来のタンパク質配列が正しく折り畳まれ、SARS-CoV-2の免疫原性特性をAAV粒子に与えることを意味する。したがってこれらのデータは、HtW2_S1.1がSARS-CoV-2様の指向性を持ち、ACE2を過剰発現しているヒト細胞に対してより大きい感染性を示すことを示唆する。
実施例5:ACE2を安定にトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるAAVベクターの形質導入アッセイ
【0130】
HEK293T細胞にACE2を安定にトランスフェクトした後、HtW2_S1.2ベクターを用いてそのHEK293T細胞に形質導入した。SARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質の一部を含む206個のアミノ酸(配列番号69)の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.2でパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 250(上の行)、MOI 500(中央の行)、またはMOI 1000(下の行)で用いて形質導入してから48時間後(右図)の天然の(左列、-ACE2)HEK293T細胞培養物、または安定なACE2を過剰発現している(右列、+ACE2)HEK293T細胞培養物からの代表的な落射蛍光画像が
図5Aに示されている。
図5Bは、リンカーアミノ酸が隣接したSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質の結合ドメインを含む206個のアミノ酸の挿入を有する新規なAAVバリアントHtW2_S1.2でパッケージされたAAV-sc-CMV-eGFPをMOI 250、500、および1000で用いて形質導入してから48時間後の時点の天然のHEK293T細胞培養物、または安定なACE2を過剰発現しているHEK293T細胞培養物においてCountess II FL自動化細胞カウンタで測定したeGFP陽性細胞の割合を示す。データは、一元配置分散分析、シダック多重比較検定を利用して分析した。
図5に示されているデータから、HtW2_S1.2もSARS-CoV-2様の指向性を持ち、ACE2を過剰発現しているヒト細胞に対してより高い感染性を示すことが確認される。
実施例6:インサートとしてSARS-CoV-2スパイクタンパク質の一部を含むAAVベクターのウサギにおける免疫原性
【0131】
HtWに対する液性応答をウサギで評価した。ウサギ(Zika、12週齢、雌)に、野生型AAV空カプシド(AAV2 WT、AAV9 WT)またはHtW空カプシド(HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、またはHtW9_S1.1)を約7.5×10
8個のカプシド粒子(cp)/μlで15 μl皮下注射した。すべての動物実験が、動物実験に関する欧州と国内の規制(欧州指令2010/63/EU;ドイツにおける動物福祉法)に準拠して取り扱われ、私的なサービス提供者によって実施された。一次免疫化のため、上清をフロイント完全アジュバント(Sigma-Aldrich、# 344289)の中で乳化し、ブースター注射は、フロイントの不完全アジュバント(Sigma-Aldrich、# F5506)を用いて4週間間隔(30日目、60日目、90日目、および120日目、皮下)であった。各ブースター注射から10日後(すなわち最初の注射後、40日目、70日目、100日目、および130日目)に採血し、最後の採血は最初の注射から150日後に実施した(
図6A)。
【0132】
HtW カプシドの免疫原性を、野生型AAV空カプシド(AAV2 WT、AAV9 WT)またはHtW空カプシド(HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、またはHtW9_S1.1)で免疫化したウサギにおいて、第2のブースター注射の10日後に採取した血液からELISAによって評価した。1,200 gで20分間遠心分離することにより血清を分離し、SARS-CoV-2特異的IgG力価を、抗原として組み換えRBD(Acro Biosystems、# SPD-C52H2)を用いてELISAによって求めた。抗血清力価を、Frey A et al., J Immunol Methods, 1998, 221(1-2):35-41に記載されているようにして求めた。SARS-CoV-2野生型RBDに対するIgGエンドポイント力価が
図6Bに示されている。銀染色の検出限界未満の最少量のHtW空カプシドがウサギで強い免疫応答を誘導する。AAV2 WTとAAV9 WTによってSARS-CoV-2 RBD特異的IgGシグナルが発生することはなかった(
図6B)。
さらに、空AAVベクターを用いた第1(採血1)、第2(採血2)、および第3(採血3)のブースター注射から10日後に回収したウサギ血清をエンドポイント抗体力価に関して分析した。力価は、抗原としてSARS-CoV-2 RBD(Acro Biosystems、# SPD-C52H2)を用いてELISAによって求めた。抗体応答は、ペルオキシダーゼで標識した抗IgG(Abcam、# ab6721)と抗IgM二次抗体(Abcam、# 97195)を用いて調べた。SARS-CoV-2 RBD特異的なIgG抗体とIgM抗体のエンドポイント力価が
図6Cに示されている。HtW2 S1.2を発現したSARS-CoV-2野生型RBDは、第1のブースター注射の後にすでに強力かつ持続する液性IgG応答を誘導する。IgM力価はより弱いが、ブースター注射で上昇する。
【0133】
HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、およびHtW9_S1.1の免疫原性をさらに評価するため、ポリフッ化(PVDF)膜の表面にスポットを形成して市販の抗体とウサギ血清で染色したさまざまな力価のAAVベクターのドットブロットアッセイ(最終採血)を実施した。方法が
図7Aに模式的に示されている。PVDF膜を100%MeOHで活性化し、TBS-Tバッファの中でインキュベートした。AAVベクターのスポットを3×10
7~3×10
5個の全ベクターゲノム/ドット(
図7B)でPVDF膜の表面に形成し、空気乾燥させた。その後、膜をTBSTの中で5%粉乳を用いてブロックし、洗浄した後、1%粉乳を含むTBSTの中で対応する血清希釈液とともに室温(RT)で1時間インキュベートした。TBSTの中で洗浄した後、膜をHRP標識二次抗体とともに室温でさらに1時間インキュベートし、その後、洗浄、標準的なルミネセンス反応、および検出を実施した。具体的には、ドットブロットを、1:500の希釈度のSino Biologicalからのウサギモノクローナル抗SARS-CoV-2スパイクS1抗体(αSARS-CoV-2スパイクS1、カタログ番号:40150-R007)(
図7C)で、または10,000の希釈度の抗HtW2_S1.1血清、抗HtW2_S1.2血清、または抗HtW9_S1.1血清(αHtW2_S1.1、αHtW2_S1.2、またはαHtW9_S1.1)(
図7D~E)で標識した。
【0134】
市販の対照抗体を用いると、AAV2野生型(WT)とAAV9 WTではシグナルが得られなかったのに対し、HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、およびHtW9_S1.1はすべて、PVDF膜の表面にスポット状にした2番目に少ないベクター量(例えば1.5×10
6個の全ベクターゲノム(1.5E6)であるドット5)まで、強い免疫シグナルを発生させた(
図7C)。HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、またはHtW9_S1.1を用いた免疫化後のすべてのウサギ血清を高い希釈度で用いることができた。HtW2_S1.1空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW2_S1.1)の1:10000希釈液で標識したドットブロットからの結果が
図7Dに示されている。HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、またはHtW9_S1.1のスポット状ドットでシグナルが得られた。AAV9 WTではシグナルがまったく得られず、AAV2 WTでは弱いシグナルだけが見られた。HtW2_S1.2空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW2_S1.2)の1:10,000希釈液で標識したドットブロットからの結果が
図7Eに示されている。非常に強いシグナルがHtW2_S1.1とHtW2_S1.2の両方で得られた。HtW9_S1.1では、より弱いがより高い希釈度でシグナルが見られた。AAV2 WTとAAV9 WTではシグナルがまったく得られなかった。HtW9_S1.1空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW9_S1.1)の1:10,000希釈液で標識したドットブロットからの結果が
図7Fに示されている。非常に強いシグナルが、HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、およびHtW9_S1.1の両方で得られた。AAV9 WTではシグナルがまったく得られず、AAV2では弱いシグナルだけが見られた。これらの結果は、新規なHtWカプシド上にSARS-CoV-2スパイクS1配列が存在することの確認であり、すべてのHtWバリアントが強いSARS-CoV-2特異的液性免疫応答を誘導することを示す。バリアントの間で明確な交差反応性が観察されたため、免疫応答がAAVカプシド骨格に対してではなく、挿入された配列に対して向けられたことが確認される。
実施例7:Comirnatyで免疫化したHtW操作カプシドからの血清の評価
【0135】
図8Aに示されているように3×10
7~3×10
5個に加えて1×10
8個の全ベクターゲノムにしてPVDF膜の表面にスポットを形成したAAVベクターを、ドットブロットの中で、Cormirnatyを接種された患者の血清で染色した。ドットブロットを、Comirnaty(BNT162b2、Biontech/Pfizer)を用いた2回目のワクチン接種の1週間後に患者から回収した血清の1:500希釈液で標識した。HtW2_S1.1、HtW2_S1.2、またはHtW9_S1.1でスポットを形成したドットで特別なシグナルが得られた。シグナルはHtW9_S1.1で最大であった。AAV9 WTではシグナルがまったく得られず、AAV2 WTでは非常に弱いシグナルだけが見られた。全人口の80%までがAAV2に関して血清陽性であるため、これは驚くことではない。(C)剥がした後、空カプシドで免疫化したウサギからの血清(αHtW9_S1.1)の1:10000希釈液で再標識した同じドットブロット。強い~非常に強いシグナルが3つのHtWバリアントのすべてで得られた(HtW2_S1.2とHtW9_S1.1、そしてより弱いHtW2_S1.1)。AAV9 WTでは信号がまったく得られず、AAV2 WTでは弱いシグナルだけが見られた。これらの結果から、認可されたmRNAワクチンComirnaty(BNT162b2)に応答してヒトで誘導された抗体は、3つのHtW操作カプシドすべてと交差反応することが確認される。
【0136】
独立な実験において、HtWで刺激したヒトPBMCは、活性化マーカーCD69のほか、活性化された状態を示す亜型の細胞数増加によって示されるように、さまざまな免疫細胞(T細胞(CD3+、CD4+、およびCD8+)B細胞(CD19+)、およびNK細胞(CD56+)が含まれる)を活性化させることが実証された。このことからさらに、HtWは免疫原性が大きく、SARS-CoV-2感染症を予防または治療するためのワクチン(初回および/またはブースター)として使用できる可能性があることが確認される。
実施例8:ACE2を安定に発現しているHEK293T細胞(HEK293T+ACE2)においてHtW9_S1.1で免疫化したウサギの血清を用いた中和アッセイ。
【0137】
sc-CMV-eGFPゲノムを有するHtW2_S1.1ベクターとHtW2_S1.2ベクターを、HtW9_S1.1空カプシドでウサギを免疫化することによって得られた血清の異なる希釈液(1:1000、1:5000、1:10000)とともに37℃であらかじめインキュベートした。次いで、これらのあらかじめインキュベートされたHtWベクター/血清希釈液をMOI 250で用い、ACE2を安定に発現しているHEK293T(+ACE2細胞)に形質導入した。48時間後に細胞の画像を取得し、明視野・落射蛍光顕微鏡法(EvosFL、Thermo Fisher Scientific)を利用して分析した(
図9A)。48時間の時点で画像を取得した後、細胞を回収し、Countess II FL自動化細胞カウンタ(Thermo Fisher Scientific)を用いてeGFP陽性細胞の割合を分析した。1:1000の希釈度の血清では、eGFPシグナルの欠如から明らかなように、HtW_S1.1ベクターとHtW_S1.2ベクターそれぞれの強力な、または完全な中和が得られた。中和は、HtW_S1.2ベクターに対してより強かった。
実施例9:scFvを含むAAVカプシドとAAVウイルスタンパク質(VP1)の構造モデル
【0138】
免疫原性タンパク質として機能するとともに結合ドメインを含むタンパク質として機能するSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の一部に加え、抗GFP scFv抗体フラグメント(配列番号73)を、AAVのVP1にI-587の位置でクローニングした。AAV2のVP3(配列番号2)と、抗GFP scFv抗体フラグメントを含むAAV2の得られたAAVカプシド(AAV2_αGFP scFv)(インサート:配列番号73、インサートを有するAAV2 VP1:配列番号74)の構造を、タンパク質構造の新たな予測に基づきRoseTTAFold(https://robetta.bakerlab.org/)を利用してモデル化した(
図16A)。AAV2-aGFPの対応する予測された60量体カプシド構造が
図16Bに示されている。このモデルからわかるように、大きい200個超のアミノ酸抗GFP scFvが主要な巨大カプシド構造を損なうことはなかった。これは、ウイルス受容体SARS-CoV-2スパイクタンパク質の結合部分に加え、抗原結合ドメインを含むタンパク質(scFvなど)も、AAVのカプシドに導入されてベクターを特異的に変更標的に向かわせることを示す。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【配列表】
【国際調査報告】