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特表2023-540973新規プロバイオティックストレプトコッカス・サリバリウス株とその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】新規プロバイオティックストレプトコッカス・サリバリウス株とその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230920BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230920BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20230920BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20230920BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230920BHJP
   A23L 5/41 20160101ALI20230920BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61P31/00
A61P29/00
A61K35/74 A
A61K35/74 G
A61P27/16
A61P37/02
A61P37/04
A61K39/39
A61Q11/00
A61K8/97
A61K35/74 E
C12N1/20 E
A23L33/135
A23L5/41
A61L9/01 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514875
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2021074362
(87)【国際公開番号】W WO2022049244
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】20194562.3
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】307020198
【氏名又は名称】ユニバーシタット アントウェルペン
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ルベール,サラ
(72)【発明者】
【氏名】デ ベック,イルケ
(72)【発明者】
【氏名】ジェリセン,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】スパコバ,イリーナ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C085
4C087
4C180
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018ME02
4B018ME14
4B018MF06
4B065AA49X
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA54
4C083AA031
4C083CC41
4C083EE31
4C083FF01
4C085AA38
4C085CC07
4C085DD84
4C085EE06
4C085FF19
4C085GG08
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC61
4C087CA09
4C087CA10
4C087MA13
4C087MA23
4C087MA43
4C087MA44
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA34
4C087ZB07
4C087ZB09
4C087ZB11
4C087ZB32
4C180AA07
4C180EC03
(57)【要約】
本発明は、新規に単離されたストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius) 種の細菌株に関する。より具体的には、該S. salivarius 種の株はアクセッション番号LMG P-31813でBCCM に寄託された。さらに、本発明はS. salivarius種の単離された細菌株を含む組成物に関する。別の態様において、本発明は免疫調節および/または感染症もしくは疾患の治療および/または予防に使用するための本発明の単離された細菌株または本発明の組成物にさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius) 種の単離された細菌株であって、前記細菌株は、アクセッション番号LMG P-31813でBCCM に寄託されたものである、単離された細菌株。
【請求項2】
細菌は、死んだ状態でなければ、活性化されたまたは不活性化された形態で、懸濁状態、凍結乾燥状態、噴霧乾燥状態である、請求項1に記載の単離された細菌株。
【請求項3】
請求項1または2に記載の単離された細菌株によって産生される1つまたは複数の二次代謝産物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の単離された細菌株、および/または請求項3に記載の二次代謝産物を含む組成物。
【請求項5】
1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤、芳香剤または担体を含む請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ヒトまたは獣医学の医薬品として使用するための、請求項1または2に記載の単離された細菌株、請求項3に記載の二次代謝産物、または請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
感染症および/または炎症性疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項6に記載の単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物。
【請求項8】
感染症および炎症性疾患が、上気道感染症;耳、鼻および喉 (ENT) 感染症;口腔感染症;咽喉感染症、う蝕;副鼻腔炎;鼻ポリポーシス;急性中耳炎;再発性の急性中耳炎;滲出性中耳炎;慢性化膿性中耳炎;乳様突起炎;口臭;嚢胞性線維症に関連する呼吸器感染症から選択される、請求項7に記載の単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物。
【請求項9】
滲出性中耳炎の治療に使用するための請求項8に記載の単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物。
【請求項10】
免疫調節剤として使用するための、請求項6に記載の単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物。
【請求項11】
単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物がワクチン接種中の免疫応答を促進するためのアジュバントとして使用するための、請求項10に記載の単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物。
【請求項12】
個人衛生産業、クリーニング産業、空気浄化における、または、パーソナルケア/コンシューマー製品の製造における、好ましくは個人の口腔衛生産業における、請求項1または2に記載の単離された細菌株、請求項3に記載の二次代謝産物、または請求項4または5に記載の組成物の使用。
【請求項13】
請求項1または2に記載の単離された細菌株、請求項3に記載の二次代謝産物、または請求項4または5に記載の組成物のプロバイオティクスとしての使用。
【請求項14】
食品産業における、特に、乳製品および非乳製品の発酵製品、栄養補助食品、栄養食品添加物、機能性食品の製造における、請求項12に記載の単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物の使用。
【請求項15】
単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物が、局所、経口または気道を介して投与するのに適した任意の形態である、請求項1~11のいずれか1項に記載の単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物、または、請求項12~14のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規に単離されたストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius、S. salivarius) 種の細菌株であって、前記細菌株は、アクセッション番号LMGP-31813でBCCM に寄託されたものに関する。さらに、本発明は、単離された細菌株によって産生される二次代謝産物、および本発明の単離された細菌株および/または二次代謝産物を含む組成物に関する。さらに、本発明は、本明細書に記載の単離された細菌株、二次代謝産物または組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
耳、鼻および喉 (ENT) の状態または疾患は、通常、呼吸器系の上部管における真菌、細菌、またはウイルス感染に起因する;そのような感染症の例は、ある種の中耳炎、副鼻腔炎、および/または鼻ポリポーシスである:通常、このような形態の治療は、局所または経口の抗生物質または抗炎症剤を使用して行われる。ENTの状態には、気道、声、聴覚、発話、および/または副鼻腔に影響を与える衰弱状態が含まれる。
【0003】
さまざまなENTの状態および疾患の中には、中耳炎(OM)がある。OM は、ウイルスまたは細菌感染によって引き起こされる中耳の炎症性疾患のグループを指す。特に滲出性中耳炎 (OME) は、急性炎症(例えば、痛みまたは発熱)の他の徴候や症状がなくても、無傷の鼓膜の背後に中耳滲出液 (MEE) が存在することを特徴とする(非特許文献1)。3か月以上続く慢性 OME は、通常、麻酔下で鼓膜に換気チューブを外科的に挿入することによって治療される。しかしながら、すべての手術にはリスクが伴い、この外科手術を支持する証拠と否定する証拠の両方がある(非特許文献2、非特許文献3)。したがって、換気チューブの使用は依然として論争の的となっている問題であり、代替の必要性が強調される。
【0004】
中耳の健康は、上気道 (URT) の健康と密接に関連する。莢膜非保有の(nontypeable)インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)およびカタル球菌(Moraxellacatarrhalis)など(典型的な耳病原体(非特許文献4))、通常は上咽頭(nasopharynx)に常在する細菌は、OME 患者の中耳でバイオフィルムを形成することがわかっている。これらのバイオ フィルムは、非炎症・非感染の中耳にアクセスできる重要な対照群である、人工内耳手術を受けている患者の健康な中耳粘膜には見られなかった。これらの古典的な耳病原体は、健康な個人の URT にも存在する。したがって、これらは、免疫適格宿主において病原性の可能性を有する病原性共生生物(pathobiont)または共生細菌(commensalbacteria)と呼ばれる。最近のマイクロバイオームデータは、アロイオコッカス・オタイティス(Alloiococcusotitis) やコリネバクテリウム・オティティディス(Corynebacterium otitidis)(以前は Turicella otitidis として知られていた)など、OME に関与する可能性のある他の病原体も指摘する。
【0005】
免疫系の制御に加えて、病原体は、同じ生息環境に存在する有益な細菌によって、直接的な相互作用または免疫調節のいずれかを介して制御される。その結果、これらの有益な細菌が失われたりまたは減少したりすることにより、病原菌が過剰に成長し、近隣の部位に移動し、病原性特性を発現する可能性がある。細菌叢(microbiota)の長期的な乱れは、いくつかの慢性炎症性疾患に関連しており(非特許文献5)、慢性OMEの原因であるとの仮説も立てられている。
【0006】
有益な細菌を添加してこのような乱れを防止したり乱れた細菌叢を回復したりすることは、OME予防の貴重な方法であり、外科的介入の必要性を減らすことができる。このようなプロバイオティックアプローチ(非特許文献6)は、消化管に広く使用されているが、呼吸器の健康や中耳炎の予防と治療については十分に研究されていない(非特許文献7)。気道の感染症の治療に使用するために、これまでにいくつかの細菌種が記載されている。例えば、EP2555785には、気道の、より詳細には上気道の慢性感染症の治療におけるアクセス番号DSM 23307 のストレプトコッカス・サリバリウス株の使用が記載されている。DSM 23307 は、HEp-2 細胞に接着し、S. pneumoniae および S. pyogenes の増殖を阻害できるバクテリオシンを産生することが記載されている。これらの特徴により、現在市販されているRinogermina(登録商標)プロバイオティクス鼻スプレーに含まれる菌株は、上気道の細菌および/または真菌感染症の治療に適している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Schilder AGM, Chonmaitree T, Cripps AW,Rosenfeld RM, Casselbrant ML, Haggard MP, Venekamp RP. 2016. Otitis media. NatRev Dis Primer 2:16063.
【非特許文献2】Lous J, Burton MJ, Felding J, Ovesen T,Rovers M, Williamson I. 2005. Grommets (ventilation tubes) for hearing lossassociated with otitis media with effusion in children, p. CD001801.pub2. InThe Cochrane Collaboration (ed.), Cochrane Database of Systematic Reviews. JohnWiley & Sons, Ltd, Chichester, UK.
【非特許文献3】Schilder AGM, Manen JG, Zielhuis GA, GrievinkEH, Peters SAF, Broek P. 2007. Long-term effects of otitis media with effusionon language, reading and spelling. Clin Otolaryngol Allied Sci 18:234-241.
【非特許文献4】Ngo CC, Massa HM, Thornton RB, Cripps AW.2016. Predominant Bacteria Detected from the Middle Ear Fluid of ChildrenExperiencing Otitis Media: A Systematic Review. PLoS ONE 11:e0150949.
【非特許文献5】Kim D, Zeng MY, N??ez G. 2017. The interplaybetween host immune cells and gut microbiota in chronic inflammatory diseases.Exp Mol Med 49:e339.
【非特許文献6】Hill C, Guarner F, Reid G, Gibson GR,Merenstein DJ, Pot B, Morelli L, Canani RB, Flint HJ, Salminen S, Calder PC,Sanders ME. 2014. The International Scientific Association for Probiotics and Prebioticsconsensus statement on the scope and appropriate use of the term probiotic. NatRev Gastroenterol Hepatol 11:506-514.
【非特許文献7】van den Broek MFL, De Boeck I, Kiekens F,Boudewyns A, Vanderveken OM, Lebeer S. 2019. Translating Recent Microbiome Insightsin Otitis Media into Probiotic Strategies. Clin Microbiol Rev 32:e00010-18.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のすべてに照らして、 OMEの原因となる微生物とOMEを防御する微生物を理解することは、抗生物質や外科手術に代わる治療法の開発に役立つ可能性があると考えられる。さらに、例えば、滲出性中耳炎などの呼吸器感染症の治療においてプロバイオティクス活性を示す新しい非病原性菌株を単離する必要性が強くある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において、新規ストレプトコッカス・サリバリウス株は、呼吸器感染症、特に滲出性中耳炎に対する保護効果があることが明らかにされた。
【0010】
本発明はストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius)種の新規単離株の同定に基づくものである。前記株は、2020年5月28日にアクセッション番号LMG P-31813でベルギー微生物共同収集(the BelgianCo-ordinated Collection of Micro-organisms (BCCM))に寄託されている。本株は本明細書においてさらにAMBR158としても示される。
【0011】
第1の態様において、本発明は、ストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius) 種の単離された細菌株であって、前記細菌株は、アクセッション番号LMG P-31813でBCCM に寄託されたものである、細菌株に関する。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、単離された細菌株の細菌は、活性成分が破壊されていなければ、懸濁状態、凍結乾燥状態、噴霧乾燥状態、生きた状態または無生物/ポストバイオティック(postbiotic)状態にある。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、本発明のストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius) 種の単離された細菌株によって産生される、バクテリオシンとして本明細書に示される二次代謝産物に関する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、本発明のストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius) 種の単離された細菌株、または本発明のストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius) 株の二次代謝産物を含む組成物に関する。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤、芳香剤(aromatizing agent)または担体を含む。
【0016】
本発明の1つの実施形態において、組成物は、組成物1グラム当たり103から1011CFUの範囲の細菌量を含む。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、ヒトにおけるまたは獣医学における医薬品として使用するための、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物に関する。
【0018】
さらなる態様において、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、感染症および/または炎症性疾患の治療および/または予防に使用するためのものである。さらなる態様において、感染症および/または炎症性疾患は上気道感染症;耳、鼻および喉 (ENT) 感染症;口腔感染症;う蝕; 副鼻腔炎; 鼻ポリポーシス; 急性中耳炎; 再発性の急性中耳炎; 滲出性中耳炎;慢性化膿性中耳炎; 乳様突起炎; 口臭; 嚢胞性線維症に関連する呼吸器感染症から選択されるが、これらに限定されない。さらにより好ましい実施形態では、本発明の単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、滲出性中耳炎の治療に使用するためのものである。
【0019】
別の態様において、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、免疫調節に使用するためのものであって、特に、該単離された細菌株、該二次代謝産物または該組成物は、ワクチン接種中の免疫応答を促進するためのアジュバントとして、またはアレルギーを予防するかアレルギー症状を軽減するための免疫調節剤として使用される。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、個人衛生産業、クリーニング産業、空気浄化における、またはパーソナルケア/コンシューマー/コスメティック製品の製造における、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物の使用に関する。本発明のさらに別の実施形態では、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物の使用は、口腔衛生産業で、特に、口腔衛生パーソナルケア製品の製造において提供される。
【0021】
別の態様において、本発明は、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物のプロバイオティクスとしての使用を提供する。さらなる態様において、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物の使用は、食品産業、特に、乳製品および非乳製品の発酵製品、栄養補助食品(dietary supplement)、栄養食品添加物(dietary food additive)および/または機能性食品(nutraceutical)の製造においてにおいて提供される。
【0022】
本発明の1つの実施形態において、本発明は、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物またはそれらの使用に関するものであって、該細菌株、該二次代謝産物または該組成物は、局所、経口、または気道を介して投与するのに適した任意の形態である。
【0023】
さらに、本発明は、本発明による細菌株、二次代謝産物もしくは組成物またはそれらの使用に関するものであって、該細菌株、該二次代謝産物または該組成物は、スプレー、クリーム、ローション、ジェル、軟膏、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、ドロップ剤、吸入剤、歯磨き粉、口腔洗浄薬から選択されるがこれらに限定されない薬学的形態である。
【0024】
さらに、本発明は、本発明による細菌株、二次代謝産物または組成物または本発明による使用に関するものであって、該細菌株、該二次代謝産物または該組成は、噴射剤の有無にかかわらず、ネブライザーによって気道を通じて投与されるように処方される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
ここで具体的に図を参照して示される説明は、例示であり、本発明の異なる実施形態の例示的議論のみを目的としていることが強調される。これらは、本発明の原理および概念的側面の最も有用で容易な説明であると考えられるものを提供する目的で提示される。この点に関して、本発明の基本的な理解に必要な以上に、本発明の構造上の詳細を示す試みは行われていない。図面を用いた説明は、本発明のいくつかの形態が実際にどのように具体化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0026】
図1】アンプリコンシーケンスバリアント (ASV) は、慢性 OME (D) と対照 (H) の鼻咽頭に有意差のある豊富さであり、複数の試験の厳密な補正を伴う ANCOM 分析による。ストレプトコッカス 5 は、すべてストレプトコッカス・サリバリウスグループのメンバーである、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(Streptococcus vestibularis)またはストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)として分類できる。
図2】健康な子供の上気道から単離されたストレプトコッカス種の、古典的な中耳病原体を阻害する能力。スポットアッセイ法で測定した(A) インフルエンザ菌、(B)カタル球菌、および (C) 肺炎連鎖球菌の平均阻害。各ポイントは、異なる単離株の平均値を表す。
図3】学内で単離された7つの S. salivarius 株(AMBR番号で示される)による、上気道および古典的および疑わしい中耳病原体(インフルエンザ菌、肺炎連鎖球菌、カタル球菌、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus)、アロイオコッカス・オタイティス(A. otitis)およびコリネバクテリウム・オティティディス(Corynebacterium otitidis))の阻害。単離株を S.salivarius 24SMB および Rinogermina(登録商標)プロバイオティック点鼻薬で単離された Streptococcus oralis 89a と比較し、Hextril口腔洗浄薬(0.1%ヘキセチジン) を陽性対照として使用した。各病原体について、試験された単離株は、最小 (左) から最大 (右) 平均阻害ゾーン直径に分類される。0.1% ヘキセチジンを基準として阻害ゾーンの統計的比較を行った。
図4】PBS 中の 0.03% H2O2の存在下での生存率 (開始接種 (100%) に対する酸化ストレス条件をシミュレートする)。
図5】学内の S. salivarius 単離株(AMBR番号で示される) の呼吸上皮細胞 (Calu-3) への接着。接着率は、Rinogermina(登録商標)プロバイオティクス点鼻薬の S. oralis 89a の接着率と統計的に比較された。 Rinogermina(登録商標)S. salivarius 24SMBもこのアッセイに含まれていた。単離株は、接着率の中央値が最も低いものから最も高いものへと分類される。**:p < 0.01, ****:p < 0.0001。p 値はホルム法によって調整された。
図6】他の S. salivarius 分離株およびモデル プロバイオティック Lacticaseibacillus rhamnosus GG (LGG) と比較したS.salivarius AMBR158 の免疫刺激能力。(A)活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)の誘導、(B)THP1-Dual(商標)単球におけるインターフェロン調節因子(IRF)経路の誘導、 (C) 細菌と共培養されたHEK-Blue(商標)hTLR2-TLR6 レポーター細胞におけるTLR2/6 受容体活性化の誘導が示される。条件ごとの結果は、平均±標準偏差として表示される。統計分析は、レポーター細胞そのものを表す培地条件に対するダネットの多重比較検定を使用した一元配置分散分析で実行され、Poly(I:C) および Pam2CSK4対照を使用して免疫刺激を誘導した; *: p<0.05; **: p<0.01; ***: p<0.001; ****: p<0.0001。
図7】S. salivarius 株の系統樹。薄灰色の点および点線四角は本研究由来の単離株を示し、黒い点はプロバイオティクスとして既に商品化されている S. salivarius 株 K12 と M18 を示す。 S. salivarius 24SMB のゲノムは公開されてなかった。AMBR158 はアスタリスクで強調表示される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ここで、本発明をさらに説明する。以下の節では、本発明の異なる態様がより詳細に定義される。このように定義された各態様は、これに反することが明確に示されない限り、任意の他の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示された特徴は、好ましいまたは有利であると示された他の特徴と組み合わせることができる。
【0028】
本発明の化合物を説明するとき、使用される用語は、文脈が別段の指示をしない限り、以下の定義に従って解釈されるべきである。
【0029】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。例として、「化合物」は、1つの化合物または2つ以上の化合物を意味する。
【0030】
パラメータ、量、持続時間などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される「約」または「およそ」という用語は、開示された発明を実施するのにそのような変動が適切である限り、指定された値の±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを意味する。「約」または「およそ」という修飾語が指す値自体も、具体的かつ好ましくは開示されていることが理解されるべきである。
【0031】
本発明は、ストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius)種の新規単離株の同定に基づく。前記株は、2020年5月28日にアクセッション番号LMG P-31813でベルギー微生物共同収集(the BelgianCo-ordinated Collection of Micro-organisms (BCCM))に寄託されている。本明細書の一部において、本株はAMBR158としても示される。
【0032】
実施例でもさらに詳しく説明されているように、本願の発明者らは、LMG P-31813株が、インフルエンザ菌、カタル球菌、肺炎連鎖球菌、化膿連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、アロイオコッカス・オタイティスおよびコリネバクテリウム・オティティディスを含むいくつかの呼吸器感染症関連微生物の増殖を阻害する優れた能力を示すことを発見した。このような細菌株は、中耳炎などの呼吸器感染症の予防および/または治療のためのプロバイオティクスとしての可能性を示す。
【0033】
本発明の実施形態において、単離された細菌株の細菌は、活性成分が不活性でなければ、懸濁形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、生きた形態またはポストバイオティック形態で提供され得る。本発明の文脈において、「生きた形態」という用語は、細菌が生きている形態を意味する。本発明の文脈において、「ポストバイオティック形態」という用語は、細菌の無生物適用またはチンダライズ(tyndalize)バージョンの場合のように、細菌が生きていない形態を指す。
【0034】
本発明はまた、単離された細菌株LMG P-31813の二次代謝産物を提供する。S. salivarius種は、他のさまざまな細菌種に対して静菌または殺菌活性を持つ二次代謝産物の生産者としてよく知られるが(参考文献8)、単離された細菌株 LMG P-31813 は、2つのバクテリオシン遺伝子座と1つのラソペプチド(lassopeptide)遺伝子座を持つという独特の特徴を示した。
【0035】
単離された細菌株またはその二次代謝産物を含む組成物も提供される。本発明の組成物の調製は、細菌培養物またはそれらの二次代謝産物を凍結乾燥または噴霧乾燥し、乾燥した細菌または二次代謝産物の両方を水との懸濁液で、もしくはさらなる適切な賦形剤と、任意にさらなる有効成分の添加と混合することで実施することができる。
【0036】
本明細書で使用される「組成物」とは、2つ以上の産物または化合物の任意の混合物を指す(例えば、薬剤、調整剤、調節剤など)。それは、溶液、懸濁液、液体、粉末またはペースト、水性または非水性製剤、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。本発明の文脈において、組成物は、好ましくは、適切な糖、コポリマーPEG/PPG、または凍結保護剤などの1つまたは複数の薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤を含む薬学的組成物である。
【0037】
1つの実施形態において、前記組成物は1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤、芳香剤または担体を含む。このような組成物で選択できる賦形剤の例は、ゴム、キサンタン、カルボキシメチルセルロース、シリコーン、ワセリン、白色軟質パラフィン、ステアリン酸マグネシウム、マルトデキストリン、マンニトール、デンプン、ブドウ糖、トレハロース、グリセリン、プロピレングリコール、乳糖などである。
【0038】
組成物は、タイム(thyme)またはその抽出物などの芳香剤も含み得る。
【0039】
本発明の実施形態において、担体は、微生物のバイオアベイラビリティ、安定性および/または耐久性の改善を提供する。
【0040】
組成物は、微生物またはその二次代謝産物のバイオアベイラビリティ、安定性および耐久性を改善するために、1つまたは複数の担体をさらに含んでもよい。担体はまた、細菌株またはその二次代謝産物、例えば、S. salivariusまたはラクトバチルス(lactobacilli)によって産生されるエキソポリサッカライドなどの粘膜表面への接着を改善することもできる。さらに、担体は、温度を上げることによって粘性を高め、したがって接着性を高めることができる感熱性ポリマー、または例えばGantrexであってもよい。別の実施形態において、担体はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)であり得る。
【0041】
本発明の実施形態において、組成物は、好ましくは組成物1グラム当たり103 から1011 CFUの範囲である量の細菌を含む。
【0042】
別の態様において、本発明は、ヒトまたは獣医学における医薬品として使用するための、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物に関する。特に、本発明による単離細菌株、二次代謝産物または組成物は、感染症および/または炎症性疾患の治療および/または予防に使用するためのものである。前記感染症および/または炎症性疾患は、これに限定されるものではないが、上気道感染症;耳、鼻および喉 (ENT) 感染症;口腔感染症;う蝕;副鼻腔炎;鼻ポリポーシス;急性中耳炎;再発性の急性中耳炎;滲出性中耳炎;慢性化膿性中耳炎;乳様突起炎;口臭;嚢胞性線維症に関連する呼吸器感染症、Covid-19から選択され得る。さらにより好ましい実施形態において、本発明の単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、滲出性中耳炎の治療に使用するためのものである。
【0043】
別の実施形態において、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、喘息、Covid-19などの免疫関連疾患の治療および/または予防に使用するためのものである。
【0044】
別の実施形態において、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、免疫調節に使用されるものであって、特に、単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、ワクチン接種中の免疫応答を促進するためのアジュバントとして使用される。例えば、本発明者らは、単離された細菌株 AMBR158 を共培養すると、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)およびTHP1-Dual(商標)単球におけるインターフェロン調節因子(IRF)経路、さらに、HEK-Blue(商標)hTLR2-TLR6 レポーター細胞におけるTLR2/6 受容体活性化が誘導されることを示した。さらに好ましい態様では、ワクチン接種は、例えばコロナウイルス、例えばSARS-CoVウイルスまたはSARS-CoV-2ウイルスによる呼吸器感染症などの呼吸器感染症に対するワクチン接種から選択される。
【0045】
「処置」、「治療」、「治療する」などの用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。その効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に予防するという点で予防的であってよく、および/または疾患および/または疾患に起因する悪影響の部分的または完全な安定化もしくは治癒に関して治療的であり得る。「治療」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のあらゆる治療を含み、以下を含む:(a)疾患または症状の素因となる可能性があるが、まだそれを有すると診断されていない対象に疾患または症状が発生するのを防ぐこと、(b)病気の症状を抑制する、すなわち、その発症を阻止すること、または(c)病気の症状を緩和する、すなわち、病気や症状の退行を引き起こすこと。本発明の文脈において、「予防」などの用語は、病気または状態が起こるのを防ぐことを指す。本発明の文脈において、「免疫調節」という用語は、免疫応答を所望のレベルおよび/または方向に変更するプロセスを指す。
【0046】
さらなる態様において、本発明は、個人衛生産業、クリーニング産業、空気浄化における、またはパーソナルケア/コンシューマー製品の製造における、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物、または組成物の使用に関する。個人衛生産業には、個人衛生のためのパーソナルケア/コンシューマー製品、例えば、ティッシュ、保護マスクまたはスプレーの製造が含まれ;特に、呼吸器感染症の治療および/または予防のためのティッシュ、保護マスク、またはスプレーの製造が含まれる。特定の実施形態において、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物の使用は、口腔衛生産業において提供され、特に、歯磨き粉、歯ブラシ、または口腔洗浄薬などの口腔衛生パーソナルケア製品の製造において提供される。
【0047】
別の態様において、 本発明は提供する。プロバイオティクスとしての、特に食品産業のプロバイオティクスとしての、さらに好ましくは、乳製品および非乳製品の発酵製品、栄養補助食品、栄養食品添加物および/または機能性食品の生産におけるプロバイオティクスとしての、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物の使用を提供する。したがって、前記食品産業は、発酵食品(乳製品ベース、価値のある(worth)、大豆)を包含することができる。前記食品産業には、食品の生産に使用されるバイオリアクターおよび加工環境も含まれ、本発明の細菌株、二次代謝産物または組成物は、製造中に食品に添加することができる。
【0048】
本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、局所、経口または気道を通して投与するのに適した任意の形態であり得る。さらに、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は医薬品の形態であってよく、これらに限定されないが、スプレー、クリーム、ローション、ジェル、軟膏、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、ドロップ剤、吸入剤、歯磨き粉、口腔洗浄薬から選択され得る。
最後に、本発明による単離された細菌株、二次代謝産物または組成物は、噴射剤の有無にかかわらず、ネブライザーによって気道を通して投与できるような方法で処方することができる。
【0049】
本明細書で使用されるように、「生物学的サンプル」という用語、または最終的には単に「サンプル」という用語は、診断アッセイまたはモニタリングアッセイで使用することができる生物から得られた、生物学的起源の血液および他の液体サンプル、または組織サンプル、または混合流体-細胞または混合流体-組織サンプルを含む、さまざまな流体サンプルを包含することができる。この用語は、臨床流体または組織サンプルを特に含み、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、尿、羊水、生体液、組織生検、洗浄液、吸引液、痰または粘液をさらに含む。この用語には、試薬による処理、可溶化、特定の成分の濃縮など、調達後に何らかの方法で操作されたサンプルも含まれる。
【実施例
【0050】
小児における慢性滲出性中耳炎 (OME) の症例対照マイクロバイオーム研究は、病原体阻害種としてストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)を指摘
【0051】
材料と方法
【0052】
健康および OME に関連する細菌を特定するための症例対照マイクロバイオーム研究
【0053】
研究計画
NPcarriage研究(B300201526558)のために、およびそのサンプルのサブセットの16S シーケンス(B300201940224)のために、OMEおよび人工内耳患者(B300201731724;clinicaltrials.gov 識別子 NCT03109496)を含めるために、アントワープ大学病院の倫理委員会から倫理的承認を得た、そして、サンプリングの前に、親または法定後見人からインフォームドコンセントを得た。OME 患者は1歳から10歳の子供のグループから募集され、持続性 (≧3 ヶ月) OME の症状を緩和するために同時アデノイド切除術の有無にかかわらず、片側または両側の鼓膜切開チューブを受け取った。1つ目の対照群は微生物学的に健康な1から45歳の人工内耳インプラントレシピエントで構成され、2つ目の対照群はデイケアに通うのに十分健康な6から30か月の年齢の子供で構成された (元は NPcarriage研究用にサンプリングされた)。除外基準は、URTの解剖学的構造、免疫系または粘膜線毛系、急性または慢性のURT感染症および手術の1週間前までの抗生物質またはステロイドの使用に影響を与える併存疾患だった。前鼻孔、鼻咽頭、外耳道のスワブ、中耳滲出液吸引液、および同時アデノイド切除術の場合は、アデノイドの組織とスワブの両方が OME 患者から採取された。人工内耳対照は前鼻孔と鼻咽頭のスワブと中耳洗浄液を提供し、デイケアの子供は鼻咽頭のスワブを提供した。
【0054】
16S rRNA 遺伝子 V4 MiSeq 配列決定
【0055】
人工内耳および OME 患者からのサンプルの DNA を QIAamp PowerFecal DNA Kit で抽出し、Qubit 3.0Fluorometer (Thermo Fisher Scientific) で定量化した。NPcarriage 研究サンプルは 、NucliSENS(登録商標) easyMAG(登録商標) (BIOMERIEUX)抽出DNAとして受け取った。すべてのサンプルについて、バクテリアの 16S rRNA 遺伝子の V4 領域をバーコード プライマー515F(5′‐TATGGTAATTGTGTGCCAGCMGCCGCGGTAA‐3′; SEQ ID No: 1)および806R (5′‐AGTCAGTCAGCCGGACTACHVGGGTWTCTAAT‐3′; SEQ ID No: 2)を使用して増幅し、実行中の各サンプルは、フォワードおよびリバースプライマーバーコードの固有の組み合わせ(参考文献9)でインデックス付けされた。PCR混合物は、200 μM デオキシリボースヌクレオシド三リン酸 (dNTP)、3%ジメチルスルホキシド(DMSO)、1x Phusion HF バッファー、0.4ユニットのPhusion(商標) High-Fidelity DNA ポリメラーゼ (Thermo Fisher Scientific)、フォワードおよびリバース プライマーそれぞれ 0.5 μM、および最大 50 ng または 5 μL の DNA 抽出物から構成された。この混合物に PCR グレードの水を追加して、最終容量を20μLにした。増幅条件は、95℃で20秒の変性、続いて55℃で20秒のアニーリングおよび72℃で1分の伸長の30サイクルであった。サイクリングの前に、2 分間の最初の変性工程があり、10 分間の最後の伸長工程で終了した。アンプリコン(増幅産物)はプロトコルに従ってAgentcourt AMPure XP (Beckman Coulter, A63881)を使用し40 μLのPCRグレードの水で溶出して精製した。これに続いて、2μLアンプリコンでの Qubit Fluorometer 3.0 による DNA 定量化と、同日の等モルプーリングが行われた。次に、プールされたアンプリコン(~282bp)をゲル電気泳動(0.8% アガロースで 60Vで 50 分)によって他のDNAフラグメントから分離し、NucleoSpin(登録商標) ゲルおよび PCR クリーンアップキット (Macherey-Nagel)を使用して、最終容量15μL で溶出するプロトコルに従ってゲルから抽出された。ライブラリーを定量化し、2nMに希釈し、そのうち5μLをMiSeqデスクトップ型シーケンサー(Illumina) にロードした。
【0056】
データ解析
16S rRNA遺伝子のV4領域の配列決定後、19.01.2018の EzBioCloud 16S データベースバージョンに対するペアの読み取りのトリミング、エラー修正、キメラの削除、および分類はすべて、DADA2バージョン1.6.0 で実行された。このワークフローにより、単一のヌクレオチドの違いが解決されたASV (アンプリコンシーケンスバリアント) 表が作成された。シーケンス抽出と PCR対照は、バックグラウンドコンタミネーションの指標として機能した。混入物のフィルタリングとデータの視覚化には、tidyverse 1.2.1 に含まれるパッケージと tidyamplicons パッケージ(https://github.com/SWittouck/tidyamplicons)が使用された。関心のある ASV は、オンラインの EzBioCloud 16S ベースの ID Web アプリ(アップデート2020.05.13)を使用してさらに分類された。
【0057】
マイクロバイオームの構成の分析) R ツール (バージョン1.1.2) を使用して、OME 患者の鼻咽頭と対照の鼻咽頭の間のASVの存在量の差を計算した。PERMANOVA (ビーガンバージョン2.2.5) を使用して、マイクロバイオーム組成に対するメタデータの影響を判断し、症例と対照の間で同じ解剖学的位置を比較した。スチューデントの t 検定(ggpubr バージョン0.2.5)を使用して、症例と対照の平均年齢を比較した。この研究のために生成された16S rRNA遺伝子配列決定データは、アクセッション番号PRJEB33591としてEuropean Nucleotide Archiveに寄託された。
【0058】
健康なURTからの単離株の特徴付け
【0059】
乳酸菌の単離
人工内耳の対照からのサンプルは、3つの異なる寒天培地にプレーティングされた(表1)。各プレートから、形態ごとに 1つのコロニーが選択された。細菌は、16S rRNA 遺伝子のサンガー配列決定によって同定された(プライマー27F(5'-AGAGTTTGATCMTGGCTCAG-3'; SEQ ID No: 3)および1492R(5'-GGTTACCTTGTTACGACTT-3'; SEQ ID No: 4)。
【0060】
表1:培養条件
【表1】
【0061】
抗菌スクリーニングアッセイ
URTおよび中耳病原体の増殖を阻害する単離株の能力を(1)単離株の48時間2μLスポットを病原体含有軟寒天に重ねること(スポットアッセイ)、および(2)30μLの使用済みフィルター滅菌培養上清を、病原体を含む寒天に穴を開けたウェルに接種すること(放射拡散アッセイ)[17]により試験した。0.1% ヘキセチジン (Hextril(登録商標)、Johnson & Johnson) および Todd Hewitt (TH) ブロスは、それぞれ陽性対照および陰性対照として機能した。いくつかの繰り返しでは、THブロスのpHを5に下げた。増殖条件を表1にまとめている。
【0062】
抗生物質感受性アッセイ
最小限の阻害濃度の抗生物質 (アンピシリン、バンコマイシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、テトラサイクリン、およびクロラムフェニコール)は、24時間のインキュベーション後の増殖の有無の評価とともに、0.5μg/mLと128μg/mLの間の2倍連続希釈によるブロス微量希釈アッセイを使用して決定された。ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)のカットオフ値は、欧州食品安全機関(EFSA) のガイドラインに基づいて使用された。
【0063】
気道上皮細胞への接着アッセイ
ヒト気道上皮細胞株Calu-3 ATCC(登録商標)HTB-55TM (ATCC, Molsheim Cedex, Franceから購入) は、熱不活化ウシ胎児血清(Thermo Fischer, Asse, Belgium)およびペニシリン-ストレプトマイシン (100 U/mL) (Life Technologies)を添加した20 mL の最小必須培地 (MEM) (Life Technologies, Erembodegem, Belgium) を含む 75 cm2 フラスコで培養し、37℃の加湿5%CO2インキュベーターで維持された。培地は3~4日ごとに交換し、細胞は0.25%トリプシン-EDTA溶液(Life Technologies)を用いて1:2の分割比で毎週継代した。
【0064】
細菌単離株がヒトの気道上皮に接着する能力を試験するために、2x10コロニー形成単位(CFU)の細菌を、3x10細胞/cmの密度で播種した完全に増殖したCalu-3培養物に添加した。37℃、5%CO2で 1時間インキュベーションした後、細胞を PBSで1回洗浄することにより、接着していない細菌を除去した。これに続いて、37℃、5%CO2で15分間トリプシン処理して、Calu-3 細胞と接着細菌を分離した。残りの細胞懸濁液(前)および接着細胞のPBS中の3通りの10倍連続希釈(10-2から10-7)をTH寒天上にプレーティングし、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。インキュベーション後にコロニーを数え、Calu-3細胞に添加されたCFUの数を接着実験後に回収されたCFUの数と比較することにより、接着率を計算した。
【0065】
酸化ストレス耐性試験
【0066】
過酸化水素アッセイ
一晩培養した2x108 CFUを1400gで10分間ペレット化し、同じ遠心分離設定を使用してPBSで2回洗浄し、2mL PBSに溶解した。200マイクロリットルを使用して PBSで10倍連続希釈液を3回作成し、そのうちの10μL を適切な寒天培地にスポットした。次に、1350μLを0.3% (0.979 M)の過酸化水素 (CFinal=0.03%w/w=0.0979 M)と混合し、振盪しながら37℃でインキュベートした。20、40、および 60 分後に一定分量を取り出し、段階希釈し、適切な寒天にスポットした。翌朝(Streptococci)または1.5日後(Lactobacilli)に、コロニーを数えた。L. casei AMBR2およびS. salivarius 24SMB およびS. oralis 89a(プロバイオティック鼻スプレーRinogermina(登録商標), DMG Italiaから単離)を対照として使用した。
【0067】
ヒト単球におけるNF-κBおよびIRF経路の誘導
THP1-Dual (商標)NF-κB-SEAP および IRF-Lucia ルシフェラーゼヒトレポーター単球は、製造元 (InvivoGen)の指示に従って培養した。 NF-κB および IRF 経路の誘導評価のために、THP1-Dual(商標)細胞を 105細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに播種し、106CFU/ウェルのUV不活化細菌と組み合わせた。25μg/mL のリポフェクタミン2000を含むPoly(I:C) 対照を使用して、IRF を誘導した。37℃、5% CO2で24時間共培養した後、NF-κB誘導は、96ウェルプレートの各ウェルで405 nmでの光学密度を測定することにより、p-ニトロフェニルリン酸(pNPP)溶液の添加後にSEAP活性をモニタリングすることにより評価した。IRF 誘導は、96ウェルプレートの各ウェルでルシフェラーゼ活性をモニタリングすることによって評価した。両者の読み取りは、Synergy(商標)HTXマルチモードマイクロプレートリーダーを使用して実行した。
【0068】
ヒト細胞におけるTLR2/6の誘導 The HEK-Blue(商標)
The HEK-Blue(商標) hTLR2-TLR6レポーター細胞は、製造元 (InvivoGen) の指示に従って培養した。TLR2/6活性化評価については、HEK-Blue(商標) hTLR2-TLR6細胞を 2x105 細胞/ウェルの濃度で 96 ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2で24 時間インキュベートした。続いて、106CFU/ウェルのUV不活化細菌をHEK-Blue(商標) hTLR2-TLR6細胞に添加した。25ng/mLのPam2CSK4 対照を使用して、TLR2/6 を誘導した。37℃、5%CO2で24時間共培養した後、Synergy(商標) HTXマルチモードマイクロプレートリーダーを使用して96ウェルプレートの各ウェルの405 nmでの光学密度を測定することにより、p-ニトロフェニルリン酸 (pNPP) 溶液の添加後にSEAP活性をモニタリングすることにより、TLR2/6活性化を評価した。
【0069】
ファージ誘導アッセイ
一晩培養したS. salivariusはTHブロスで50分の1に希釈し、37℃で30分間インキュベートした後、マイトマイシンCを最終濃度0、0.1、または0.2μg/ mLのいずれかになるよう添加した。培養密度を600 nm (OD600) で15 時間、1 時間ごとに測定した。次に、細胞を1400 g、4℃で10 分間ペレット化し、上清を0.1MNaOHを使用して pH7~7.2 に中和し、続いてろ過滅菌した。300μLのS. salivarius一晩培養液を含む45mLのベースTH寒天と15mLのトップTH軟寒天(0.65%)を入れた角型シャーレを用意し、表面に10μLのファージ誘導上清をスポットした。乾燥後、プレートを37℃でインキュベートし、続いてファージ溶解によるクリアリングゾーンを評価した。
【0070】
細菌の全ゲノム配列決定:DNA 抽出とデータ解析
以下のように、全ゲノム配列決定(WGS)のために細菌DNAを抽出した: 2 x 1.5 mL細菌の一晩培養物を、それぞれ1.5μl (100 mg/ml) アンピシリンの存在下で、37℃ で1時間インキュベートした。次に、細菌をペレット化し (12000 x g で 3 分間)、1 mL の NaCl-EDTA で3回洗浄した後、100μl のリゾチーム (NaCl-EDTA中で10 mg/mL) および 1μl の RNAse (20 mg/mL) を続けて添加した。振とうしながら37℃で1時間インキュベートした後、229μlのNaCl-EDTA、50μlのSDS(10%)および20μlのプロテイナーゼK(20mg/mL)を加え、続いて55℃で1時間インキュベートした。次に、タンパク質は、6mlの5M酢酸カリウム、1.15mlの氷酢酸、および2.85mlの蒸留水からなる200μlの冷蔵庫で冷やしたタンパク質沈殿溶液で沈殿させ、続いて氷上で5分間インキュベートし、12000 x gおよび4℃で3 分間、遠心分離ステップの後上清を移しながら2回遠心分離した。次に、DNAを600μlの氷冷イソプロパノールで沈殿させ、12000 x g、4℃で3分間ペレット化し、70%エタノールで1回洗浄した。最後に、上清を捨て、DNA ペレットを風乾し、55℃で 5 分間インキュベーションして100μl H2O に溶解した。
【0071】
DNAはIllumina MiSeqプラットフォームで配列決定され、得られた読み取りは SPAdes ベースの Shovill(https://github.com/tseemann/shovill)で de novo で組み立てられ、続いて checkM で品質管理され、Prokka で注釈が付けられた。組み立てられたコンティグは、ResFinder 3.2 データベースに対して伝達可能な抗生物質耐性遺伝子の存在についてスクリーニングされ、ABRicate (https://github.com/tseemann/abricate)を使用して病原性因子データベース (Virulence Factor Database、VFDB) に対して病原性因子についてスクリーニングされた。二次代謝産物は、antiSMASH 5.0 およびBAGEL4によって同定された。 関心のある遺伝子は、NCBI-BLAST を使用してさらに特徴付けられた。
【0072】
S. salivariusの系統樹
Streptococcus salivarius またはStreptococcus sp001556435 として分類されるゲノムの NCBI アセンブリアクセッション番号のうち、最大汚染率5%および最小完全率98%のものが、ゲノム分類データベース(Genome Taxonomy Database、GTDB)から取得された。組み立てられたゲノムがダウンロードされ、Prodigal で遺伝子が予測および翻訳された。次に、プロゲノミクス(progenomics)を使用してゲノムのサブセットに基づいて単一コピーのコア遺伝子が特定され、続いて全ゲノムにわたる遺伝子の出現率が計算され、ゲノムの99%以上で単一コピーに存在する 1100 を超える遺伝子が選択された。これらの遺伝子をアラインし、アラインメントを連結し、配列の2%を超えるギャップがあったカラムを破棄した。最後に、系統樹は、GTR+G置換モデルを備えたIQ-TREEを使用して構築され、phytoolsパッケージを使用してRで中間点ルート化し視覚化した。
【0073】
結果
【0074】
母集団とサンプルの特徴の研究
サンプルは、70 人のOME患者、12人の人工内耳インプラントのレシピエント、および 41 人のデイケアの子供から収集されました。配列決定された523のサンプルのうち、443が品質フィルタリング後に保持され、ライブラリーのサイズは2500から 784460の範囲で、読み取り数は36332±49509 (平均±標準偏差)だった。
OMEグループと複合対照グループの間に有意な年齢差はなかった (4.38±2.42 歳 vs 4.56±7.21 歳、p=0.12)。人工内耳グループでは、参加者の42%が女性で、OME患者とデイケア対照の両方の41%と同程度だった。66人のOME 患者が両耳に鼓膜切開チューブを挿入され、28人の患者がアデノイド切除術を受けた。性別はマイクロバイオームの組成に有意な影響を与えず、年齢は前鼻孔のマイクロバイオームにのみ影響を与えた(OMEグループではp=0.002、人工内耳グループではp=0.043)。側方性(片側性と両側性のOME)もアデノイド切除術も、サンプリングされた場所のマイクロバイオーム組成に大きな影響を与えなかった。
【0075】
OME中の中耳の病的特徴
97個のOME滲出液サンプルのうち、80%が単一のASVによって支配されていた(50%以上の相対存在量)(表2)。滲出液のわずか33%で、優位な(dominant)ASVは古典的な耳病原菌のヘモフィルス属(Haemophilus)、モラクセラ属(Moraxella)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)の1つに属していたが、これらの属は高い有病率を示し、それぞれ中耳サンプルの75%、53%、および56%で検出された。その他の優位なASV は、アロイオコッカス属(Alloiococcus) 1 (39%)、ツリセラ属(Turicella)1 (4%)、ブドウ球菌属(Staphylococcus) 1 (3%)、およびコリネバクテリウム属(Corynebacterium) 1 (1%) だった。身体部位の連続性を調べるために、中耳滲出液と鼻咽頭マイクロバイオームの間の類似性 (1-Bray Curtis 非類似性) を、中耳滲出液と側面が一致した外耳道マイクロバイオームの間の類似性に対してプロットした。アロイオコッカス属、ツリセラ属、ブドウ球菌属、またはコリネバクテリウム属が優位なすべてのサンプルは、鼻咽頭 (類似性スコア≦0.254) よりも外耳道 (類似性スコア≧0.574) に類似していた。これらの分類群は、すべての患者の外耳道でもしばしば支配的であり(データは示さず)、これらの分類群がおそらく外耳道に由来することを示す。
【0076】
表2:少なくとも1つの中耳滲出液におけるASVの優位な有病率(相対存在量50%以上)
【表2】
【0077】
健康な中耳腔のマイクロバイオーム
中耳の健康に関連する細菌を特定するために、微生物学的に健康な人工内耳のレシピエントから収集された12の中耳洗浄液の配列が決定された。しかしながら、明らかな混入物(データは示さず)を除去した後、最大の陰性対照と比較して、少なくとも2倍の読み取り数を持っており、品質フィルタリング後に保持されたのはこれらのうち4つだけだった。さらに、残りの4つのサンプルで検出された107種類のASVのうち、複数のサンプルに存在したのは7種類だけで、これらのうち、ブドウ球菌属(Staphylococcus) 1 と コリネバクテリウム属(Corynebacterium) 1のみが陰性対照に存在しなかった。陰性対照で検出されたが、気道と耳の環境で見つかると予想されるASVは、データセットから削除されなかった。バイオマスの多いサンプルではその影響はわずかだが、健康な中耳などのバイオマスが非常に少ないサンプルでの存在の解釈には注意が必要である。したがって、健康な中耳のマイクロバイオームを配列決定する試みは失敗したと考えられ、細菌はほとんど、あるいはまったく存在していなかったことが示され、このことは、健康な条件下でこの身体部位で検出された細菌シグナルはコンタミネーションによる可能性が高いと主張した最近の研究にしたがっている。
【0078】
健康状態と慢性OME中の鼻咽頭マイクロバイオームの比較
OME患者のURTマイクロバイオームを健康な対照と比較し、健康に関連する細菌を特定できるようにするために、中耳ではなく鼻咽頭に注目することにした。鼻咽頭は、古典的な中耳病原体の自然な生息地であり、中耳の健康をターゲットとするプロバイオティクスに適したアクセス可能な場所になっている。鼻咽頭マイクロバイオームは、患者と対照との間で有意に異なり (p=0.014)、2つの対照グループ間で観察された差よりも顕著だった(p=0.049)。対照グループとOMEグループの両方で、合計134の分類群が共有された(データは示さず)。複合対照データセットを使用した多重検定の厳格な補正を伴う存在量変動解析(ANCOM) により、アシネトバクター属(Acinetobacter)1 (A. lwoffii または A. pseudolwoffi)およびストレプトコッカス属(Streptococcus)5 (S.salivarius、S. thermophilusまたはS.vestibularis)が健康に関連していると特定された(図1)。後者は、S.thermophilus に関連する分類群が、慢性 OME患者よりも健康な対照の前鼻孔に有意に多いことを検出した最近の研究結果を拡張する(参考文献10)。
【0079】
URT病原菌に対するS. salivariusの抗菌活性
次に、健康な対照から単離された細菌の潜在的な有益な特性、特に中耳の病原体を制御する可能性をより詳細に特徴付けることを目的とした。カルチャロミクス(culturomics)のアプローチは、11 の異なる属に属する142の細菌単離株の単離から始まった(データは示さず)。ストレプトコッカス菌属は、特に鼻咽頭から最も頻繁に単離された (n=66) が、A. llwoffii または A. pseudolwoffii 単離株は、おそらく人工内耳対照での相対存在量が低い(0.1%) ため、得られなかった。健康な子供から単離されたストレプトコッカスはすべて、ミチス(mitis)群 (n=28)、サリバリウス(salivarius)群 (n=32)、またはサンギニス(sanguinis)群 (n=5) のいずれかに属していた。
【0080】
78 種類の連鎖球菌(streptococci) (この研究から53種類、健康な成人から単離された 25 種類) の抗菌活性をスクリーニングした。試験されたすべての種は、インフルエンザ菌の増殖を阻害でき、S. anginosus、S. pseudopneumoniae、および S. salivarius が最大の阻害ゾーンを示した(図2A)。S.anginosusとS. salivariusはカタル球菌(M.catarrhalis)も阻害できるが、この効果は菌株に依存していた(図2B)。S. salivariusと S. vestibularisは、S. pneumoniae に対して最も効果的であり、S. anginosus が 3 位だった(図2C)。
【0081】
7つのS. salivarius単離株(AMBR024、AMBR037、AMBR047、AMBR055、AMBR074、AMBR075およびAMBR158)は、健康関連、有病率、および古典的な中耳病原体の成長を阻害する優れた能力に基づいて、WGS およびより詳細な in vitro 特性評価のために選択された。インフルエンザ菌(H.influenzae)、カタル球菌(M. catarrhalis)、肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae)に対する試験に加えて、これらの単離株は、この研究中にOME中耳滲出液から単離されたURT病原体である 化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、および疑わしい中耳病原体であるアロイオコッカス・オタイティス(A. otitis)とコリネバクテリウム・オティディス(Corynebacteriumotitidis) (以前の Turicellaotitidis) に対してもテストされた。S. salivarius 24SMBおよびRinogermina(登録商標)(DMG ITALIA)プロバイオティクス点鼻薬から単離のS. oralis 89aは参照として使用された。これらの単離株は、スポットアッセイで試験されたすべての病原体を阻害することができ(図3)、AMBR158は古典的な耳病原体(otopathogen)に対して最も効果的な単離株だった。
【0082】
抗菌活性を有する二次代謝産物の予測
選択された S. salivarius単離株のゲノムは、その後、潜在的に静菌性または殺菌性の二次代謝産物をコードする遺伝子座についてスクリーニングされた。すべての単離株は、異なる予測バクテリオシン、ABC トランスポーター、および免疫タンパク質を含むクラス IIc バクテリオシン様ペプチド (blp) カセットを保有していた。 AMBR074、AMBR075およびAMBR037は、ABCトランスポーターと免疫機構を含む、クラス IId Lactococcin 972 ファミリーのバクテリオシンをさらにコードしていた。AMBR074 のゲノムには、Streptococcin A M49 (13) および Macedocin (14) に関連するランチペプチド遺伝子座が見つかった。ラソペプチド (バクテリオシン クラス If) は、AMBR024(未決定) および AMBR158 (ストレプトモノマイシン(Streptomonomicin)に関連) で検出された。バクテリオシンに加えて、antiSMASH (15) は、AMBR024 のグラミシン(Gramidicin) NRPS (非リボソームペプチド合成酵素) 遺伝子座も予測した(表3)。AMBR158 のバクテリオシン遺伝子座1および2とラソペプチド遺伝子座の特定のアミノ酸配列を表4に示す。
【0083】
酸化ストレス耐性
URT で生き残るためには、細菌は酸化ストレスに適応する必要がある。過酸化水素 (H2O2) は、好中球、マクロファージ、および一部の細菌によって生成され、宿主と微生物および微生物と微生物の相互作用において役割を果たす。
【0084】
肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae)などの一部の呼吸器細菌は、活発に高レベルの H2O2を生成し、同じニッチに存在する他の細菌の増殖を阻害することができる。カタラーゼがないにもかかわらずH2O2で生き残る単離株の能力を表現型的に特徴付けるために、単離株を PBS 中の0.03% H2O2に曝露し、曝露前と 20、40、および 60 分後にプレートアウトした(図4)。試験されたすべての単離株は、時間の経過とともに生存率が低下したが、H2O2に対してある程度の耐性を示した。S.salivarius単離株は、60 分後にコロニーが成長しなかったS.oralis 89a (RGT) よりも耐性があった。以前の実験では、0.1% H2O2に 90 分間曝露すると、すべての単離株が死滅した。
【0085】
安全性評価
潜在的なプロバイオティクスは、抗生物質耐性マーカーを運ぶべきではなく、特に可動要素では、病原体に感染して治療を複雑にする可能性があるためである。したがって、抗生物質耐性マーカーについて単離株のゲノムをスクリーニングし、in vitro で主要な抗生物質クラスに対する感受性を試験した。S.salivarius AMBR055とAMBR047 は、マクロライドクラスの抗生物質の排出ポンプをコードする隣接遺伝子 mefA (96% の同一性で100%のカバレッジ) およびmel (100%の同一性で100%のカバレッジ) を保有すると予測された。表現型試験では、マクロライド系エリスロマイシン(MIC 4~16 mg/L、カットオフ値2 mg/L) およびクロラムフェニコール(MIC 8 mg/L、カットオフ値が4 mg/Lの場合)に対する AMBR047 の耐性のみが示された。AMBR055 と AMBR047は、この発見に基づいてさらなる分析から除外された。
【0086】
追加の安全性チェックとして、潜在的なプロバイオティクスが病原性因子をコードする遺伝子を持っていないことも確認した。懸念される病原性遺伝子は観察されなかったが、2つの遺伝子がすべての単離株の病原性因子データベース (VFDB) でヒットした:推定アドヘシンをコードする psaA(肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae) TIGR4 の肺炎球菌表面接着遺伝子の87.85%~88.92%のカバレッジと76.24%~76.96%の同一性を持つ)およびUDP-グルコースピロホスホリラーゼをコードする hasC (化膿連鎖球菌(S. pyogenes) M1 GAS の遺伝子の91.26%~91.85%のカバレッジと76.94~77.67%の同一性を持つ) おそらく莢膜多糖生合成に関与している。これらの遺伝子は、実際の病原性因子ではなく、病原性ではないS. salivariusのURTへの適応を反映する適応因子と考えられた。宿主組織への十分な接着は、プロバイオティクスがその宿主と相互作用する機会を増やし、すでに接着した細菌の置換と同じ受容体に結合する病原体の競合的排除を媒介するため、一般にほとんどのプロバイオティクス用途にとって望ましい特性と考えられる。莢膜多糖類については、分子組成を確認することが重要である:S. salivariusは、ヒトの結合組織を模倣する病原性化膿連鎖球菌(S.pyogenes)に見られる既知の病原因子ヒアルロン酸カプセルの代わりに、レバンまたはデキストランカプセルを産生する。したがって、hasC遺伝子は気にする必要がない。
【0087】
S. salivarius の気道上皮への接着能力
宿主の粘膜や上皮細胞への十分な接着は、プロバイオティクスが宿主と相互作用する機会を増加させることが知られており、すでに接着していた細菌から置き換わり、同じ受容体に結合する病原体を競合的に排除することを媒介する(参考文献11、参考文献12)。したがって、これらの S. salivarius 単離株と呼吸器上皮細胞 Calu-3 との相互作用を表現型的に特徴付けた。すべての単離株は細胞に接着でき、接着因子を発現するという事実と一致して、接着値の中央値は 1.8% (AMBR024) から 8.1% (AMBR158) の間だった(図5)。
【0088】
S.salivariusの免疫賦活能力
S. salivarius AMBR158 の免疫刺激能力を、他の S. salivarius 単離株およびモデルプロバイオティックLacticaseibacillus rhamnosus GG (LGG) と比較した(図6)。THP1-Dual(商標)単球における活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)およびインターフェロン制御因子(IRF) 経路の の誘導(それぞれパネルAおよびB)、および細菌と共培養されたHEK-Blue(商標) hTLR2-TLR6レポーター細胞におけるTLR2/6 受容体の活性化(パネルC)が示される。
【0089】
S.サリバリウスの系統発生
特徴付けられた7つの S. salivarius 単離株は、わずか3人の子供と1人の成人に由来する。したがって、それらの相互の関連性だけでなく、市販されているプロバイオティクス株 K12 および M18 を含む他の公に寄託された S. salivarius ゲノムとの関連性も調査した。株 24SMB は分析に利用できなかった。系統樹が図7に示される。対象 1 と対象 6 からそれぞれ 2 株と 3 株が得られた。対象 6 から単離された AMBR075 とAMBR037 はクローン性であると思われ、これは、それらのゲノム間の ANI (平均ヌクレオチド同一性) 値が 99.95 であること、およびそれらが同じバクテリオシン遺伝子座と同じ不完全なプロファージ(Streptococcus virus O2105)を持っているという事実によって裏付けられている。S. salivarius ゲノムは 2 つのクレードに分岐されているように見えた:一方のクレードには、対象 1 (AMBR074、AMBR075、AMBR037)と対象 6 (AMBR024、AMBR055) からの単離株と、プロバイオティクス株 M18 が含まれていた。2 つ目のクレードには、AMBR047 と AMBR158 がプロバイオティック株 K12 と共に含まれていた。
【0090】
表3:BAGEL4とAntiSMASHによる二次代謝産物を産生する遺伝子座。名称は、最も近縁なバクテリオシンの種類を示した。
【表3】
【0091】
表4: AMBR158株のバクテリオシン遺伝子座1、2およびラソペプチド遺伝子座のアミノ酸配列。
【表4】
【0092】
参考文献
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【0093】
図面の用語
Log of Abundance 豊富さのログ
Grouping Factor グループ化係数
Acinetobacter アシネトバクター属
Streptococcus ストレプトコッカス属
Inhibition Zone Diameter 阻害ゾーンの直径
Haemophilus influenzae インフルエンザ菌
Moraxella catarrhalis カタル球菌
Streptcoccus pneumoniae 肺炎連鎖球菌
Alloiococcus otitidis アロイオコッカス・オティティディス
Staphylococcus aureus 黄色ブドウ球菌
Streptcoccus pyogenes 化膿連鎖球菌
Turicella otitidis ツリセラ・オティティディス
Survival 生存
Time 時間
Isolate 単離
Percent Adhesion 接着率
NF-κB induction in THP1-Dual monocytes THP1-Dual単球におけるNF-κB誘導
IRF induction in THP-1 Dual monocytes THP1-Dual単球におけるIRF誘導
luminescence 発光
TLR2/6-mediated SEAP activity in HEK-Blue hTLR2-TLR6 reporter cells HEK-Blue hTLR2-TLR6 レポーター細胞における TLR2/6媒介 SEAP 活性
Medium 培地
【0094】
寄託書
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2023540973000001.app
【国際調査報告】