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特表2023-540980ニコチンアミドリボシドクロリドからのジヒドロニコチンアミドリボシドの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ニコチンアミドリボシドクロリドからのジヒドロニコチンアミドリボシドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/04 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
C07H19/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514915
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2021075245
(87)【国際公開番号】W WO2022058312
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】63/078,526
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(71)【出願人】
【識別番号】508065732
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ザレイ, アミン
(72)【発明者】
【氏名】カズドゥーズ, レイラ
(72)【発明者】
【氏名】エナヤティヌーク, モジタバ
(72)【発明者】
【氏名】マダルシャヒアン, サラ
(72)【発明者】
【氏名】アッバスプーラド, アリレザ
(72)【発明者】
【氏名】ウハイル, ゲルハルト
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA19
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057LL03
4C057LL18
(57)【要約】
1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の製造方法が開示される。この方法は、ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)の溶液を準備する工程と、金属ジチオナイトを第1の温度下で溶液に添加する工程と、第2の温度下、溶液中で金属ジチオナイトをニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)と反応させて混合物を形成する工程と、を含み、混合物の少なくとも一部分は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の製造方法であって、
ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)の溶液を準備する工程と、
金属ジチオナイトを第1の温度下で前記溶液に添加する工程と、
第2の温度下、前記溶液中で前記金属ジチオナイトを前記ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)と反応させて混合物を形成する工程と、
を含み、前記混合物の少なくとも一部分は、前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を含む、方法。
【請求項2】
前記ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)が、β-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液が、塩基性溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基性溶液が、NaHCOを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基性溶液のpH値を8.0~8.5に維持する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基性溶液が、1.0M~1.5MのNaHCO濃度を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性溶液が、約1.2MのNaHCO濃度を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属ジチオナイトが、亜ジチオン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の温度が、約0℃である、請求項1に記載の方法°。
【請求項10】
前記第2の温度が、室温である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液から酸素をパージする工程、及び前記溶液を不活性ガス下に保持する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記不活性ガスが、窒素ガスを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物を凍結乾燥して黄色固体粉末を得る工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
塩基性アルミナとシリカとの混合物を用いるカラムクロマトグラフィーによって前記黄色固体粉末を精製する工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記塩基性アルミナ及び前記シリカが、約2:3の重量比を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)が、少なくとも90%の純度を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の前記純度が、少なくとも93%である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の前記純度が、少なくとも95%である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の前記純度が、少なくとも96%である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の収率が、少なくとも40%である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の前記収率が、少なくとも45%である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の前記収率が、少なくとも50%である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の前記収率が、少なくとも55%である、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景技術]
[0001]本開示は、概して、ニコチンアミドリボシドクロリドからのジヒドロニコチンアミドリボシドの製造方法、並びに関連する精製及び安定化の方法に関する。
【0002】
[0002]ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びその還元型1,4-ジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)は、電子伝達によるエネルギー代謝及びミトコンドリア機能において重要な分子である。さらに、NADは、アデノシン二リン酸リボース(ADP-リボース)に、2種類の必須タンパク質ファミリー、サーチュイン(SIRT)及びポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)の機能を酵素触媒させることから、数多くの非酸化還元反応における重要な補因子である。サーチュインは、核、ミトコンドリア、細胞質又は代謝の恒常性を維持するいくつかの重要な役割を有する。PARPの最も重要な役割は、DNAの修復、並びにクロマチンの構造及び機能の維持である。老化、及び急性傷害又は慢性の代謝若しくは炎症状態などのいくつかの破壊的な因子は、NADのレベルを重度に低下させ得る。
【0003】
[0003]NADの低下は、エネルギー産生の減少につながり、その後、細胞機能、細胞恒常性及び免疫細胞機能を悪化させる。損傷を修復するには大量のNADが必要であるため、この現象は、細胞が通常の環境因子によって損傷を受けた場合、さらにより重要になる。損傷が重度である場合、損傷が生じた細胞は、恒常性維持に必要なNADを提供するのに十分な貯蔵エネルギーを有しなくなるため、損傷は不可逆的なものになる。不可欠な器官である脳、心臓、肝臓、腎臓及び骨格筋は、多数のミトコンドリアを有する器官であり、したがってNAD枯渇に対してより感受性が高い。したがって、組織に損傷を受けた細胞のエネルギーを正常レベルに保つためには、エネルギーに富んだNAD前駆体が必要とされる。ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸(ナイアシン)及びニコチンアミドは、市販されている天然化合物であり、NADの濃度を増加させるための栄養補助食品として用いられている。
【0004】
[0004]NRは、哺乳動物細胞においてより少ないステップでNADに代謝されることから、ナイアシン及びニコチンアミドと比較して、より効率的なNAD前駆体である(スキーム1)。研究によって、栄養補助食品としてNRを摂取することが、NADの代謝を刺激するのに有効であり、NADのレベルを60パーセント上昇させることができることが示されている。
【0005】
【化1】
【0006】
[0005]NRは、細胞のNADレベルを増加させ、細胞の健康状態を改善することができるが、効果を発揮させるためには、NRを大量に摂取しなければならない。最近、Sauve et al.は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を合成し、この化合物がインビトロ条件及びインビボ条件の両方において強力なNAD濃度増強剤であることを実証した。彼らは、NRHの哺乳動物細胞への投与後に、この投与がNAD濃度を僅か1時間で対照値よりも2.5~10倍増加させることを見出した。彼らの発見は、NRHの使用がNR又はNMNのいずれよりも有効であることを示している。さらに、NRHは、細胞におけるアポトーシスマーカーを誘導せずに又は乳酸レベルを実質的に上昇させずに、培養細胞のNAD/NADH比を大きく高める。さらに最近になって、Canto et al.は、NRHが、NR経路とは対照的に、異なるステップ及び酵素を用いてNADを合成していることを見出した。このことは、哺乳動物細胞において、NRHがNRと比較してより有効であり、かつより効き目の速いNAD前駆体である理由を説明するものである。同研究者らはまた、マウスを用いた実験において、NRHが、経口投与によりNAD前駆体として生体利用可能であり、シスプラチン誘導性の急性腎傷害を予防することも実証した。NADレベルを増加させることに加えて、NRHはまた、過酸化水素及びメチルメタンスルホネートなどのいくつかの遺伝毒性物質を枯渇させることもできる。結果として、NRHで処理されたマウス細胞は、細胞死に対して耐性を有する。
【0007】
[0006]NRHの製造方法はごく少ない。この化合物は、アルカリホスファターゼの存在下での5’-リン酸エステルの加水分解によって、ジヒドロニコチンアミドモノヌクレオチド(NMNH)から製造することができる。NMNHを前駆体とする場合、NADHから酵素作用により加水分解しなければならないことから、NMNHからの方法は、時間がかかり、費用対効果が低い。NRHの別の合成方法は、還元剤としての亜ジチオン酸ナトリウム(Na)の存在下でのNRの還元である。この方法では、ニコチンアミドリボシドトリフレートが、亜ジチオン酸ナトリウム及びリン酸水素カリウムの水溶液中でNRHに還元される(スキーム2)。Naの水溶液は、周囲条件で非常に不安定であることから、この反応は、低温で、嫌気性アルカリ条件下で行わなければならない。さらに、実施例の結果及び考察に示されるように、NRHは周囲条件で加水分解及び酸化の両方に感受性が高いことから、粗生成物は、C18樹脂を用いたHPLCで直ちに精製しなければならない。
【0008】
【化2】
【0009】
[0007]この方法は少量のNRH合成には適しているものの、この方法をNRHの商業生産にスケールアップすることを妨げるいくつかの欠点がある。前駆体であるニコチンアミドリボシドトリフレートは、非常に高価であり、非常に吸湿性の材料であり、不活性雰囲気下の-20℃で保存しなければならない。さらに、この化合物は、ニコチンアミドリボシドトリフレートの構造中にトリフレートアニオンが存在するため、食品用ではない。したがって、還元後に、残存するNR(トリフレート)からNRHを完全に精製することが必要である。
【0010】
[0008]NRHの別の合成方法は、ニコチンアミドリボシドトリフレートの代わりにトリアセチル化ニコチンアミドリボシドトリフレートを使用することである(スキーム3)。この間接的手法の第1の工程では、トリアセチル化NRが、Naによりトリアセチル化NRHに変換される。次の工程では、ボールミリングしながらのトリアセチル化NRHのメタノリシスによって、NRHが形成される。この方法は、良好な収率が得られることから、NRHのスケールアップ可能な合成に適している可能性がある。しかしながら、高価で食品用ではない物質であるトリアセチル化ニコチンアミドリボシドトリフレートの使用は、この手法を制限し得る。
【0011】
【化3】

[0009]NRHの合成に用いられてきたニコチンアミドリボシドのほとんどは、α体及びβ体の2種類のアノマーの混合物であることには留意されたい。しかしながら、NRのβ-アノマーのみが、生物活性及び医薬特性を示す。NR誘導体の中で、ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)のみが、ダイエタリー・サプリメントとして市販されている。
【0012】
[発明の概要]
[0010]本開示は、NRHを合成するための前駆体としてβ-NRClを使用することが、所望される有用な生成物であるNRHの商業化のためのブレークスルーとなるという認識を含む。実際、本明細書に開示されるNRHの製造方法は、市販のNR又はβ-NRClなどのその誘導体からの収率が有利に高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示によって提供される実施形態による、ニコチンアミドリボシドクロリドからのジヒドロニコチンアミドリボシドの例示的な製造方法を示す図である。
図2A】本開示によって提供される実施形態による、pH8.1で合成したNRHの精製後のTLCを、NR及びNAと比較して示す写真のセット(FIG.2A)、並びに精製後のNRH及び元のNRのFT-IRを示すグラフのセットである。
図2B】本開示によって提供される実施形態による、pH8.1で合成したNRHの精製後のTLCを、NR及びNAと比較して示す写真のセット(FIG.2A)、並びに精製後のNRH及び元のNRのFT-IRを示すグラフのセットである。
図3-1】本開示によって提供される実施形態による、DO中の精製NRHのH NMRを示すグラフのセットである。
図3-2】本開示によって提供される実施形態による、DO中の精製NRHのH NMRを示すグラフのセットである。
図4AC】本開示によって提供される実施形態による、DO中のNRCl(図4a)、NRH(FIG.4B)及びNA(FIG.4C)のH NMRスペクトルを示すグラフのセットである。
図5A】本開示によって提供される実施形態による、pH8.5で合成したNRHの精製後のTLCを、NRCl及びNAと比較して示す写真のセット(FIG.5A)、並びにpH8.5で合成したNRHの精製後のH NMRを示すグラフのセット(FIG.5B)である。
図5B】本開示によって提供される実施形態による、pH8.5で合成したNRHの精製後のTLCを、NRCl及びNAと比較して示す写真のセット(FIG.5A)、並びにpH8.5で合成したNRHの精製後のH NMRを示すグラフのセット(FIG.5B)である。
図6A】N雰囲気下、25~900℃の範囲における、NRClと比較したNRHのTGAサーモグラムを示すグラフのセットである。本開示によって提供される実施形態による、重量減少対温度(FIG.6A)、微分重量減少対温度(FIG.6B)。
図6B】N雰囲気下、25~900℃の範囲における、NRClと比較したNRHのTGAサーモグラムを示すグラフのセットである。本開示によって提供される実施形態による、重量減少対温度(FIG.6A)、微分重量減少対温度(FIG.6B)。
図7A】NRHの分解動態試験を示すグラフのセットである。本開示によって提供される実施形態による、暗所/明所及び空気中/N下での60日間の保存の過程における水溶液試料中のNRH回収率(%)(FIG.7A)、空気中/N下での60日間の保存の過程において、4℃及び25℃で保持されている水溶液中のNRHの回収率(FIG.7B)、空気中及びN下、25℃での60日間の保存の過程におけるNRHの安定性に対するpH5、7、及び9の緩衝剤の影響(FIG.7C)、4℃及び25℃での30日間及び60日間の保存の過程における水溶液試料中のNR及びNRHの回収率(%)(FIG.7D)。
図7B】NRHの分解動態試験を示すグラフのセットである。本開示によって提供される実施形態による、暗所/明所及び空気中/N下での60日間の保存の過程における水溶液試料中のNRH回収率(%)(FIG.7A)、空気中/N下での60日間の保存の過程において、4℃及び25℃で保持されている水溶液中のNRHの回収率(FIG.7B)、空気中及びN下、25℃での60日間の保存の過程におけるNRHの安定性に対するpH5、7、及び9の緩衝剤の影響(FIG.7C)、4℃及び25℃での30日間及び60日間の保存の過程における水溶液試料中のNR及びNRHの回収率(%)(FIG.7D)。
図7C】NRHの分解動態試験を示すグラフのセットである。本開示によって提供される実施形態による、暗所/明所及び空気中/N下での60日間の保存の過程における水溶液試料中のNRH回収率(%)(FIG.7A)、空気中/N下での60日間の保存の過程において、4℃及び25℃で保持されている水溶液中のNRHの回収率(FIG.7B)、空気中及びN下、25℃での60日間の保存の過程におけるNRHの安定性に対するpH5、7、及び9の緩衝剤の影響(FIG.7C)、4℃及び25℃での30日間及び60日間の保存の過程における水溶液試料中のNR及びNRHの回収率(%)(FIG.7D)。
図7D】NRHの分解動態試験を示すグラフのセットである。本開示によって提供される実施形態による、暗所/明所及び空気中/N下での60日間の保存の過程における水溶液試料中のNRH回収率(%)(FIG.7A)、空気中/N下での60日間の保存の過程において、4℃及び25℃で保持されている水溶液中のNRHの回収率(FIG.7B)、空気中及びN下、25℃での60日間の保存の過程におけるNRHの安定性に対するpH5、7、及び9の緩衝剤の影響(FIG.7C)、4℃及び25℃での30日間及び60日間の保存の過程における水溶液試料中のNR及びNRHの回収率(%)(FIG.7D)。
図8】DO中のNRHのH NMRスペクトルを示すグラフである。
図9】DO中のNRHのH NMRスペクトルを示すグラフのセットである(5.00~7.20ppmを拡大)。
図10】DO中のNRHのH NMRスペクトルを示すグラフのセットである(4.11~4.95ppmを拡大)。
図11】DO中のNRHのH NMRスペクトルを示すグラフのセットである(3.09~4.03ppmを拡大)。
図12】DO中のNRHの13C NMRスペクトルを示すグラフである。
図13】CDOD中のNRHのH NMRスペクトルを示すグラフである。
図14】CDOD中のNRHのH NMRスペクトルを示すグラフのセットである(4.76~7.22ppmを拡大)。
図15】CDOD中のNRHのH NMRスペクトルを示すグラフのセットである(3.06~4.12ppmを拡大)。
図16】CDOD中のNRHの13C NMRスペクトルを示すグラフである。
図17】NRHのMSを示すグラフである。
図18】NRHの選択反応モニタリング(SRM)を示すグラフである。
図19】HO中のNRHのUV-VISスペクトルを示すグラフである。
図20A】FIG.20A)220nmでのUV検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。FIG.20B)340nmでのUV検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。FIG.20C)蛍光検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。
図20B】FIG.20A)220nmでのUV検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。FIG.20B)340nmでのUV検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。FIG.20C)蛍光検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。
図20C】FIG.20A)220nmでのUV検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。FIG.20B)340nmでのUV検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。FIG.20C)蛍光検出器による、精製NRHのHPLCクロマトグラム。
図21A】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.21A)4℃でN2及び暗所下。FIG.21B)4℃で空気及び暗所下。FIG.21C)25℃でN2及び暗所下。FIG.21D)25℃で空気及び暗所下。FIG.21E)25℃でN2及び明所下。FIG.21F)25℃で空気及び明所下。
図21B】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.21A)4℃でN2及び暗所下。FIG.21B)4℃で空気及び暗所下。FIG.21C)25℃でN2及び暗所下。FIG.21D)25℃で空気及び暗所下。FIG.21E)25℃でN2及び明所下。FIG.21F)25℃で空気及び明所下。
図21C】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.21A)4℃でN2及び暗所下。FIG.21B)4℃で空気及び暗所下。FIG.21C)25℃でN2及び暗所下。FIG.21D)25℃で空気及び暗所下。FIG.21E)25℃でN2及び明所下。FIG.21F)25℃で空気及び明所下。
図21D】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.21A)4℃でN2及び暗所下。FIG.21B)4℃で空気及び暗所下。FIG.21C)25℃でN2及び暗所下。FIG.21D)25℃で空気及び暗所下。FIG.21E)25℃でN2及び明所下。FIG.21F)25℃で空気及び明所下。
図21E】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.21A)4℃でN2及び暗所下。FIG.21B)4℃で空気及び暗所下。FIG.21C)25℃でN2及び暗所下。FIG.21D)25℃で空気及び暗所下。FIG.21E)25℃でN2及び明所下。FIG.21F)25℃で空気及び明所下。
図21F】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.21A)4℃でN2及び暗所下。FIG.21B)4℃で空気及び暗所下。FIG.21C)25℃でN2及び暗所下。FIG.21D)25℃で空気及び暗所下。FIG.21E)25℃でN2及び明所下。FIG.21F)25℃で空気及び明所下。
図22A】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.22A)pH=7.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22B)pH=7.0、4℃で空気及び暗所下。FIG.22C)pH=9.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22D)pH=9.0、25℃で空気及び暗所下。
図22B】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.22A)pH=7.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22B)pH=7.0、4℃で空気及び暗所下。FIG.22C)pH=9.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22D)pH=9.0、25℃で空気及び暗所下。
図22C】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.22A)pH=7.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22B)pH=7.0、4℃で空気及び暗所下。FIG.22C)pH=9.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22D)pH=9.0、25℃で空気及び暗所下。。
図22D】異なる条件で60日間保存したNRH水溶液のHPLCクロマトグラムを示すグラフのセットである。FIG.22A)pH=7.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22B)pH=7.0、4℃で空気及び暗所下。FIG.22C)pH=9.0、25℃でN2及び暗所下。FIG.22D)pH=9.0、25℃で空気及び暗所下。
図23A】NRH試料の一部についての動態グラフ及び一次分解速度を示すグラフのセットである。FIG.23A)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23B)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23C、FIG.23D)pH=9.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23E)DI水、25℃でN2及び空気下。FIG.23F)DI水、25℃でN2及び空気下。
図23B】NRH試料の一部についての動態グラフ及び一次分解速度を示すグラフのセットである。FIG.23A)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23B)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23C、FIG.23D)pH=9.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23E)DI水、25℃でN2及び空気下。FIG.23F)DI水、25℃でN2及び空気下。
図23C】NRH試料の一部についての動態グラフ及び一次分解速度を示すグラフのセットである。FIG.23A)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23B)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23C、FIG.23D)pH=9.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23E)DI水、25℃でN2及び空気下。FIG.23F)DI水、25℃でN2及び空気下。
図23D】NRH試料の一部についての動態グラフ及び一次分解速度を示すグラフのセットである。FIG.23A)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23B)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23C、FIG.23D)pH=9.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23E)DI水、25℃でN2及び空気下。FIG.23F)DI水、25℃でN2及び空気下。
図23E】NRH試料の一部についての動態グラフ及び一次分解速度を示すグラフのセットである。FIG.23A)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23B)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23C、FIG.23D)pH=9.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23E)DI水、25℃でN2及び空気下。FIG.23F)DI水、25℃でN2及び空気下。
図23F】NRH試料の一部についての動態グラフ及び一次分解速度を示すグラフのセットである。FIG.23A)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23B)pH=7.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23C、FIG.23D)pH=9.0、25℃でN2及び空気下。FIG.23E)DI水、25℃でN2及び空気下。FIG.23F)DI水、25℃でN2及び空気下。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0011]定義
[0012]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0015】
[0013]本明細書に記載する全ての百分率は、別途記載のない限り、組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値のある範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは参照数字の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0016】
[0014]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「1つの構成要素(a component)」又は「その構成要素(the component)」についての言及は、2つ以上の構成成分を含む。
【0017】
[0015]用語「含む/備える(comprise)」、「含む/備える(comprises)」、及び「含んでいる/備えている(comprising)」は、排他的なものではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈されるべきである。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成要素「を本質的に含む(consisting essentially of)」実施形態、及び特定されている構成要素「を含む(consisting of)」実施形態の開示を含む。
【0018】
[0016]「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈するものとする。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈するものとする。例えば、「少なくとも1つのジチオナイト又は機能的に同等の還元剤」は、「ジチオナイト」若しくは「機能的に同等の還元剤」又は「ジチオナイトと機能的に同等の還元剤との両方」と解釈するものとする。
【0019】
[0017]本明細書において使用する場合、用語「例」及び「例えば~など(such as)」は、その後に用語の列挙が続くときは特に、単に例示的かつ説明的なものにすぎず、排他的又は包括的なものとみなされるべきではない。本明細書で使用するとき、別の状態「に関連する/伴う(associated with)」又は「と関連付けられる(linked with)」状態は、これらの状態が同時に起こることを意味し、好ましくは、これらの状態が同じ基礎症状によって引き起こされることを意味し、最も好ましくは、特定されている状態のうちの一方が他方の特定されている状態によって引き起こされることを意味する。
【0020】
[0018]本明細書で使用するとき、「塩基性溶液」という用語は、7.0を超えるpHを有する溶液を指す。例えば、塩基性溶液は、約7.5~約10.0、約7.8~約9.0、約7.9~約8.8、又は好ましくは約8.0~約8.5の範囲のpHを有し得る。本明細書においてpHについて言及されるとき、値は、標準的な装置を使用して25℃で測定したpHに相当する。
【0021】
[0019]本明細書で使用されるとき、「中性pH」という用語は、約7.0のpHを指す。本明細書においてpHについて言及されるとき、値は、標準的な装置を使用して25℃で測定したpHに相当する。
【0022】
[0020]本明細書で使用されるとき、「室温」という用語は、物理学及び化学で一般的に使用される温度、すなわち本質的に約293K(又は約20℃)の温度を指す。
【0023】
[0021]本明細書で使用されるとき、「嫌気性条件」という用語は、遊離酸素が存在しない条件を指す。
【0024】
[0022]本明細書で使用されるとき、「好気性条件」という用語は、遊離酸素が存在する条件を指す。
【0025】
[0023]本明細書で使用されるとき、「ジチオナイト」という用語は、S 2-のアニオンを指す。
【0026】
[0024]本明細書で使用されるとき、「ニコチンアミドリボシド」又は「NR」という用語は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又はNADへの前駆体として機能するビタミンB3のピリジン-ヌクレオシドの形態を指す。ニコチンアミドリボシド又はNRは、α体又はβ体のいずれかを有する。例えば、ニコチンアミドリボシド又はNRのβ体は、以下の化学構造式Iを有する。
【0027】
【化4】
【0028】
[0025]本明細書で使用されるとき、「アルカリ塩」又は「塩基性塩」という用語は、強塩基と弱酸との中和生成物である塩を指す。アルカリ塩又は塩基性塩は、加水分解されると、塩基性溶液を形成し得る。アルカリ塩又は塩基性塩の例としては、金属炭酸塩、金属重炭酸塩、金属酢酸塩、及び金属リン酸塩誘導体などが挙げられ得る。
【0029】
[0026]用語「高収率」は、本明細書で使用されるとき、合成の合計収率が少なくとも40%、少なくとも41%、少なくとも42%、少なくとも43%、少なくとも44%、少なくとも45%、少なくとも46%、少なくとも47%、少なくとも48%、少なくとも49%、少なくとも50%、少なくとも51%、少なくとも52%、少なくとも52%、少なくとも53%、少なくとも54%、少なくとも55%、少なくとも56%、少なくとも57%、少なくとも58%、少なくとも59%、少なくとも60%、少なくとも61%、少なくとも62%、少なくとも63%、少なくとも64%、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%であることを指す。好ましくは、本開示の高収率は、少なくとも50%、少なくとも51%、少なくとも52%、少なくとも52%、少なくとも53%、少なくとも54%、少なくとも55%、少なくとも56%、少なくとも57%、少なくとも58%、少なくとも59%、少なくとも60%、少なくとも61%、少なくとも62%、少なくとも63%、少なくとも64%、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。
【0030】
[0027]用語「高純度」は、本明細書で使用されるとき、化合物又は物質の純度が少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%であることを指す。好ましくは、本開示の高純度は、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。
【0031】
[0028]用語「有効量」は、本明細書で使用されるとき、還元生成物の収率を(直接又は間接的に)増加させることができる、又は1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)に対する選択性を増加させることができる物質の量を指す。所与の物質の最適量は、反応条件に基づいて異なり得るものであるが、それでも他の成分の識別は、所与の適用の別個の状況に照らして、容易に決定され得る。
【0032】
[0029]本明細書で使用されるとき、「クロマトグラフィー」という用語は、例えば、固体の基材と、溶液、緩衝液又は溶媒を含むがこれらに限定されない移動相との間の分配の違いによって、混合物中の他の分子から目的の化合物を分離し、目的の化合物の単離を可能とする任意の種類の精製技術を指す。
【0033】
[0030]本明細書で使用されるとき、「溶離液」という用語は、固定支持体材料から1つ以上の物質を移動又は溶離させるためにクロマトグラフィープロセスで用いられる溶媒又は2種類以上の溶媒の混合物を指す。一実施形態では、メタノールなどの極性溶媒を溶離液として使用して、クロマトグラフィープロセスの過程で固定相からNRHを洗い流すことができる。
【0034】
[0031]本明細書で使用されるとき、「吸着剤」又は「固定相」という用語は、クロマトグラフィープロセスにおいて固体状態で流体流中に存在する材料を指す。一実施形態では、塩基性アルミナとシリカとの混合物が、クロマトグラフィープロセスにおける吸着剤として使用され得る。
【0035】
[0032]本明細書で使用されるとき、「溶媒」という用語は、別の物質(溶質)を溶解することができる物質を指す。
【0036】
[0033]実施形態
[0034]本開示の一態様は、ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)などの市販の化学物質からの1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の製造方法である。ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)は、唯一市販されているNR誘導体である(例えば、ダイエタリー・サプリメントとして)。したがって、本発明の方法は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の製造及び商業化のための新しい経路である。
【0037】
[0035]本出願者は、驚くべきことに、溶液中のジチオナイトなどの還元剤による市販のニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)の還元が、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の効果的な形成及び製造をもたらし得ることを見出した。本出願者は、さらに驚くべきことに、得られた1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)が、カラムクロマトグラフィーを使用することによって高収率で単離、精製され得ることも見出した。
【0038】
[0036]一態様において、本開示は、ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)からの1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の製造方法に関する。
【0039】
[0037]図1は、本開示によって提供される実施形態による、ニコチンアミドリボシドクロリドからの1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドの例示的な製造方法(100)を示す。
【0040】
[0038]図1に示されるように、方法100は、ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)の溶液を準備すること(102)を含む。
【0041】
[0039]ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)は、市販されており、例えばNiagen(商標)としてChromaDexから購入することが可能である。
【0042】
[0001]ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)は、α体NRCl(α-NRCl)又はβ体NRCl(β-NRCl)のいずれかを含む。一実施形態では、本開示のニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)は、β-NRClを含む。一実施形態では、本開示のニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)は、β-NRClである。
【0043】
[0041]一実施形態では、NRのβ-アノマーのみが生物活性及び医薬特性を示すことから、本開示は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を製造するための例示的な出発物質としてβ-NRClを用いる。1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を製造する本発明の方法はまた、出発物質としてα-NRClを用いることにも適用され得る。
【0044】
[0042]化学的有効量のニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)が、固体(例えば、粉末)の形態として提供される。一実施形態では、ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)の固体形態は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を製造するための固相反応で用いられ得る。例示的な固相反応を実施例に記載した。
【0045】
[0043]別の実施形態では、β-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)の固体形態は、水などの溶媒に溶解されて、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を製造するための溶液を形成する。
【0046】
[0044]好ましい実施形態では、化学的有効量のβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)が、まず水などの溶液に溶解されて、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の液体ベースでの製造のための溶液を形成する。
【0047】
[0045]図1に示されるように、化学的有効量のβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)が溶液中に提供された後、方法100は、金属ジチオナイトを第1の温度下で溶液中に添加すること(104)を含み得る。このように、金属ジチオナイトなどの還元剤が、溶液に添加され得る。
【0048】
[0046]一実施形態では、還元剤は、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)などの金属ジチオナイトを含み得る。一実施形態では、唯一の還元剤が、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)などの金属ジチオナイトであってもよい。スキーム4は、溶液中での亜ジチオン酸ナトリウム(Na)によるβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)の例示的な還元反応を示す。
【0049】
【化5】
【0050】
[0047]スキーム5は、還元剤としてNaを用いることによる、NRからのNRH合成の反応機構を示す。スキーム5に示されるように、Naを用いることによるNRの還元反応は、最初に、塩基性条件で安定であるスルフィネート中間体を形成する。
【0051】
[0048]プロトン化後、スルフィネート中間体は、そのスルフィン酸誘導体を形成する。このスルフィン酸中間体は、周囲条件で不安定であり、SOの脱離を介してNRHに変換される。
【0052】
[0049]このため、特に好ましい実施形態が、Naを安定化させるだけでなく、スルホネート中間体をプロトン化してNRHを生成することにもなるpHを用いることに、本出願者は注目する。さらに、NRHは、その構造中にN-グリコシド結合を有するため、加水分解を受けやすい。したがって、特に好ましい実施形態は、NRHが加水分解されないように、反応の全過程にわたってpHを調節し、pHを正確に維持する。
【0053】
[0050]したがって、本発明の方法は、NRHの効果的な製造のために、関連する溶液のpHを調節する工程、及びそれを特定の範囲内に(例えば、8.0~8.5、好ましくは8.1に)正確に維持する工程を含む。
【0054】
【化6】
【0055】
[0051]本開示を通して、Naを例示的な還元剤として用いた。機能が類似する他の還元剤が用いられてもよい。好ましくは、還元剤は、Naである。
【0056】
[0052]β-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)とNaなどの還元剤とのモル比は、好ましくは約1:1~約1:5、約1:1.5~約1:4、又は約1:2~約1:3、好ましくは約1:2~約1:3、より好ましくは約1:2.7である。
【0057】
[0053]Naの水溶液は、中性pH(例えば、pH=7)の好気性条件下では不安定であることから、Naを用いてβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)を還元反応させるための溶液は、嫌気及び塩基性の条件下で維持されることが好ましい。
【0058】
[0054]例えば、溶液中の遊離酸素を除去するために、溶液は不活性ガスでパージされ得る。不活性ガスは、窒素(N)、又はアルゴン(Ar)などを含み得る。一実施形態では、窒素又はアルゴンのいずれかが、不活性ガスとして用いられる。還元反応全体を通して、溶液が不活性ガスでパージされてもよい。
【0059】
[0055]一実施形態では、不活性ガスは、窒素ガスを含む。一実施形態では、唯一の不活性ガスが、窒素ガスである。
【0060】
[0056]一実施形態では、溶液は、塩基性溶液を含む。一実施形態では、溶液は、塩基性溶液である。
【0061】
[0057]一実施形態では、塩基性溶液は、重炭酸ナトリウム(NaHCO)を含む。例えば、溶液は、塩基性溶液を形成するために、重炭酸ナトリウム(NaHCO)などの少なくとも1つのアルカリ塩又は塩基性塩を含み得る。一実施形態では、唯一のアルカリ塩又は塩基性塩が、重炭酸ナトリウム(NaHCO)である。しかしながら、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム及び類似の化合物などの他のアルカリ塩又は塩基性塩が、任意選択で用いられてもよい。
【0062】
[0058]一実施形態では、溶液のpH値は、溶液中の少なくとも1つのアルカリ塩又は塩基性塩の濃度によって制御することができる。例えば、1~1.5M、好ましくは1.1~1.4M、より好ましくは1.2MのNaHCOを用いることによって、溶液のpH値を、約8.0~約8.5、約8.05~約8.45、約8.07~約8.35、約8.08~約8.29、約8.09~約8.19の範囲内に、好ましくは約8.1に制御することができる。
【0063】
[0059]一実施形態では、方法100は、NaHCO溶液のpH値を8.0~8.5に維持する工程を含む。一実施形態では、方法100は、NaHCO溶液のpH値を約8.0~約8.5に維持する工程を含む。一実施形態では、方法100は、NaHCO溶液のpH値を約8.1に維持する工程を含む。
【0064】
[0060]一実施形態では、NaHCO溶液は、約1.0~約1.5Mの濃度を有する。一実施形態では、NaHCO溶液は、約1.2Mの濃度を有する。
【0065】
[0061]一実施形態では、Naなどの還元剤は、不活性ガス雰囲気下、第1の温度で、β-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)の溶液に徐々に添加され得る。一実施形態では、Naなどの還元剤は、水などの溶媒に予め溶解されてもよく、Naなどの還元剤のこの溶液は、不活性ガス雰囲気下、第1の温度で、β-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)の溶液に滴下され得る。
【0066】
[0062]一実施形態では、第1の温度は、Naなどの還元剤の添加中に還元反応を制御することができるように、約0℃などの低温である(例えば、氷水を用いて制御することによる)。
【0067】
[0063]図1に戻ると、Naなどの還元剤の添加後、方法100は、第2の温度下、溶液中で金属ジチオナイトをニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)と反応させて混合物を形成する工程を含んでよく、混合物の一部分は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)である(106)。
【0068】
[0064]このように、溶液の温度は、好ましくは、第1の温度から第2の温度に上昇される。第2の温度下では、溶液中のニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)は、Naなどの還元剤と完全かつ効果的に反応して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を形成することができる。一実施形態では、第2の温度は室温である。
【0069】
[0065]室温下では、Naなどの還元剤及びβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)は、連続的かつ完全に反応して混合物を形成することができ、混合物の少なくとも一部分は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)である。
【0070】
[0066]一実施形態では、Naなどの還元剤とβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)との間の還元反応の進行は、クロマトグラフィー技術を使用することによってモニタリングすることができる。例えば、図2Aに示されるように、β-NRCl、NRH及びニコチンアミド(NA:NRHからの分解生成物;スキーム6を参照)の全ての化合物が、254nmの波長で視認可能であった。しかし、365nmの波長では、NRHのみが視認可能であった。出発物質β-NRCl及び得られた生成物NRHに対応するピークの強度及び位置をモニタリングすることによって、Naなどの還元剤とβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)との間の還元反応の進行を判断することができる。
【0071】
[0067]Naなどの還元剤とβ-ニコチンアミドリボシドクロリド(β-NRCl)との間の還元反応が完了した後、得られた混合物を乾燥して、混合物の固体を得ることができる。一実施形態では、得られた混合物を凍結乾燥して、混合物の黄色固体を得ることができる。
【0072】
[0068]本開示の別の態様では、生成されるNRHを高純度で得るための精製方法が開示される。本出願者は、驚くべきことに、得られた1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)は、カラムクロマトグラフィーを使用することによって高収率で単離、精製することができることを見出した。以下の実施例は、カラムクロマトグラフィーを使用することによる詳細な例示的精製方法を提供する(例えば、吸着剤として塩基性アルミナとシリカとの混合物を用いる)。
【0073】
[0069]一実施形態では、得られたNRHは、クロマトグラフィー法を使用して混合物から単離することができる。例えば、カラムクロマトグラフィーを使用して、吸着剤への化合物の示差的吸着に基づいてβ-NRCl又は他の不純物質からNRHを分離することができ、化合物はカラムを異なる速度で通って移動して、複数の画分に分離され得る。
【0074】
[0070]一実施形態では、カラムクロマトグラフ法は、その溶離液としてアルコールを用いる。一実施形態では、溶離液はメタノールを含む。一実施形態では、唯一の溶離液がメタノールである。しかしながら、任意選択で、メタノールとエタノールとの混合物などの他の溶媒が、追加的に又は代替的に溶離液として用いられてもよい。
【0075】
[0071]一実施形態では、カラムクロマトグラフの吸着剤は、少なくとも塩基性アルミナ及びシリカを含む。一実施形態では、塩基性アルミナ及びシリカが、カラムクロマトグラフの唯一の吸着剤である。
【0076】
[0072]塩基性アルミナ及びシリカは、約1:10~約10:1、約1:9~約9:1、約1:8~約8:1、約1:7~約7:1、約1:6~約6:1、約1:5~約5:1、約1:4~約4:1、約1:3~約3:1、又は約1:2~約2:1、好ましくは約2:3の重量比を有し得る。
【0077】
[0073]一実施形態では、カラムクロマトグラフ精製法は、少なくとも70%、少なくとも72%、少なくとも75%、少なくとも77%、少なくとも80%、少なくとも83%、少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも96%、又は少なくとも98%、好ましくは少なくとも96%の純度を有するNRHを単離するために、例えば約2:3の重量比で塩基性アルミナをシリカと共に用い得る。
【0078】
[0074]一実施形態では、塩基性アルミナをシリカと共に用いることによるカラムクロマトグラフ精製法は、混合物中の未反応NRClの少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも99.9%、又は少なくとも99.999%を除去し得る。好ましい実施形態では、塩基性アルミナをシリカと共に用いることによるカラムクロマトグラフ精製法は、混合物中の未反応のNRClからNRH生成物を完全に精製し得る。
【0079】
[0075]一実施形態では、実施例において実証されるように、本出願者の結果は、シリカ又は塩基性アルミナのいずれか単独でのカラムクロマトグラフィーが、NRHからNRを分離するのに有効でなかったことを示す。したがって、塩基性アルミナとシリカとの混合物が、カラムクロマトグラフに必須の吸着剤であり得る。
【0080】
[0076]塩基性アルミナは、その上に多くのヒドロキシル基を有する極性表面として、NRHからNRを中程度に(それらの極性の差によって)物理的に分離し得るものと考えられる。さらに、塩基性アルミナはその表面上に負電荷を有し、NRは正電荷を有することから、塩基性アルミナは、塩基性アルミナの表面上にNRを固定するためのカチオン交換樹脂として作用する可能性もある。
【0081】
[0077]このことが、シリカと比較してアルミナがNRHの精製のためのより良好な固定相である主な理由であると考えられ得る。しかし、本出願者は、カラムクロマトグラフィーでのNRHの精製中に、塩基性アルミナが目詰まりし、NRHの分解につながる非常に遅い流速をもたらすことを発見した。
【0082】
[0078]一実施形態では、本方法におけるNRHの合計収率は、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも90%、好ましくは少なくとも55%であり得る。
【0083】
[0079]一実施形態では、本発明の溶液中でのNRHの製造方法は、固相法の収率よりも著しく高い収率をもたらす。例えば、本発明の溶液中でのNRHの製造方法は、固相法の収率よりも少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%、少なくとも200%、少なくとも220%、少なくとも240%、少なくとも260%、少なくとも280%、少なくとも300%、少なくとも320%、少なくとも340%、少なくとも360%、少なくとも380%、少なくとも400%、少なくとも420%、少なくとも440%、少なくとも460%、少なくとも480%、少なくとも500%、又は少なくとも600%高い収率をもたらす。
【0084】
[0080]以下の実施例は、約15%~約17%の収率であるNRHの詳細な例示的固相製造方法を提供する。
【0085】
[0081]実施例に示されるように、本開示の特定の実施形態による、NRHを製造及び精製する例示的な溶液ベースの方法は、約42%~約55%の範囲内の収率を示す。
【0086】
[0082]したがって、本発明の溶液中でのNRHの製造方法は、例示的な固相法の収率よりも少なくとも267%高い収率をもたらし得る。
【0087】
[0083]別の態様では、本開示は、本明細書で論じられる方法から製造されるNRHの安定性に関する。
【0088】
[0084]一実施形態では、製造された状態のNRHのある特定の割合が加水分解して、1,4-ジヒドロニコチンアミド(DHNA)を形成する。FIG.5Aのスキームに示されるように、1,4-ジヒドロニコチンアミド(DHNA)は、反応過程で(例えば、pH=8.5)、NRHの加水分解によって形成された可能性が高い。
【0089】
[0085]FIG.2に示されるように、pH=8.1の場合、精製NRHのH NMRにおいて、NAに対応するピークは、微量しか存在しなかった。このことは、反応過程で加水分解してNAを形成するNRが(スキーム6参照)、ほんの微量であることを意味する。
【0090】
[0086]一実施形態では、NRHの製造方法の溶液のpH値を操作して、方法の反応速度、並びに出発物質のNRCl及び生成物のNRHの両方の加水分解を制御することができる。
【0091】
[0087]例えば、pHを8.1から8.5に増加させることによって、反応速度は明らかに低下し、続いて、NR及びNRHの両方の加水分解などの副反応の可能性が増加する。
【0092】
[0088]一実施形態では、NR及びNRHの両方の加水分解などの副反応の可能性を減少させながら還元の反応速度を上昇させるためには約8.1のpH値が好ましいものであり得る。
【0093】
[0089]一実施形態では、NRH製造のための反応物のpHは、NA及びDHNAの形成を最小限に抑えて反応時間を短縮するように必然的に調節され得る。例えば、これらの副生成物NA及びDHNAの遅延因子(Rf)値は、NRHのR値に近い。したがって、NA及びDHNAは、一般的なカラムクロマトグラフィーによって生成物NRHから分離することができない(FIG.5A参照)。好ましい実施形態では、NRHを製造するための反応物のpHは、約8.1に調節され得る。
【0094】
[0090]一実施形態では、NRHは、窒素雰囲気下において、NRClよりも熱的に安定である。FIG.6A及びFIG.6Bは、NRH及びNRがいずれも、それぞれ約218℃及び910℃で最大の重量減少を示す一方で、NRHは、この温度で約50%の重量減少しか示さないのに対し、NRClは、この温度で約65%の重量減少を示すことを示したものである。NRHは、30%の重量減少に寄与する、800℃付近にピークを有する別の特徴的な重量減少を示す。
【0095】
[0091]一実施形態では、FIG.7に示されるように、NRHは、空気の存在下で酸化されやすい可能性があり、NRHは、空気の存在下よりもN雰囲気下でより安定であり得る。さらに、純粋なNRH(粉末として)は、冷蔵庫中、密封管内で、まったく劣化することなく数ヶ月間安定であり得る。
【0096】
[0092]一実施形態では、FIG.7C及びFIG.22に示されるように、生成物NRHは、pH5では、1日未満で完全に分解され得るが、一方pH7の酢酸アンモニウム緩衝液中で調製された生成物NRHは、1日目の約70%から30日目の約2%までのNRH濃度の線形減少を示し得る。
【0097】
[0093]さらに、pH9の炭酸塩緩衝液中で調製された生成物NRHは、空気中(例えば、60日後に測定して約45%の分解)及びN下(例えば、60日後に測定して約42%の分解)の両方で、空気安定性を有し得る。
【0098】
[0094]一実施形態では、水溶液中のNRは、60日後に検出可能な分解を示さず非常に安定であり得るが、一方空気中で保存された水溶液中のNRHは、30日後及び60日後に、それぞれ9%及び10%の分解を示し得る。
【0099】
[0095]一実施形態では、Nブランケット下で保存された水溶液中のNRHは、60日間の保存後に検出可能な分解を示さず、かなり安定であり得る。
【実施例
【0100】
[0096]以下の非限定的な実施例は、ニコチンアミドリボシドクロリドから1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドを製造するための方法及びプロセス並びに関連する精製及び安定性実験の概念を発展させ、支持する科学的データを提示する。
【0101】
[0097]本研究において、本発明者らは、市販のニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)から、還元剤としての亜ジチオン酸ナトリウムの存在下で、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を合成し、精製するための効率的な方法を記載する。この方法は、スケールアップ可能である可能性がある。NRHは、最も有効な合成NAD前駆体として工業的な価値を有する。
【0102】
[0098]本発明者らは、固相合成が高収率でのNRClのNRHへの還元に用いることができない一方で、嫌気性条件下、室温で水中での還元反応は非常に有効であり、55%の単離収率に達することを実証した。一般的なカラムクロマトグラフィーを使用することによって、本発明者らは初めて、この感受性の高い生体化合物を良好な収率で高度に精製することができた。HPLC、NMR、LC-MS、FTIR及びUV-可視分光法を含む一連の同定及び分析を、精製された試料に対して行い、NRHの構造、さらにはその純度が96%であることを確認した。NRHの熱分析から、NRClと比較して熱安定性がより高いこと、及び1つは218℃、もう1つは805℃で2つの主要な重量減少を伴うことが示された。本発明者らはまた、水溶液中のNRHに対する温度、pH、光、及び酸素(空気として)の長期安定性の影響についても調べた。本発明者らの結果から、NRHが酸素の存在下で酸化され得ること、及び酸性条件下で迅速に加水分解されたことが示される。本発明者らはまた、N雰囲気下、より低い温度、及び塩基性pHにおいて、分解速度が低下することも見出した。
【0103】
[0099]実験項
[0100]材料:NRクロリド(ベータ体)は、ChromaDex Companyから贈与された。亜ジチオン酸ナトリウムはVWRから購入し、炭酸水素ナトリウムはAldrichから購入し、シリカゲル(P60、40~63μm、60Å)はSiliCycleから購入し、塩基性アルミナ(50~200μm、60Å、pH8)はAcrosから購入した。メタノール(99.9%、ACS認証、Fisher)、アセトン(99.8%、ACS認証、Fisher)、水酸化ナトリウム(ACS認証、Fisher Chemical)、ヘキサン(≧98.5%、GR ACS)、酢酸エチル(EtOAc、>99.9%、ACS認証)及びSilica Gel 60 F254 Coated Aluminum-Backed TLC Sheetは、EMD Millipore(Billerica,MA,USA)から購入した。重水及びジメチルスルホキシド(DMSO-d6,D,99.9%)は、Cambridge Isotope Laboratories,Inc.から購入した。
【0104】
[0101]特性評価.500NMR(Bruker INOVA)分光計を使用し、重水中でH-NMR及び13C-NMRスペクトルを得た。フーリエ変換赤外スペクトル(FTIR)は、Shimadzu IRAffinity-1S分光光度計により、8cm-1の分解能で128スキャンを収集することによって記録した。NR溶液及びNRH溶液のUV-可視スペクトルは、Shimadzu UV-2600分光光度計で記録した。熱重量分析(TGA)サーモグラムは、TA Q100機器を使用し、N2流下、10℃/分の温度速度で20~900℃の範囲で得た。Binary SL Pump&Diode Array Detector及びShodex RI-501 Refractive Index Detector(単一チャネル)を備えたAgilent 1200 LC Systemを使用して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定を行った。逆相HPLCは、Discovery C18カラム、180Å(細孔径)、直径5μm、寸法250×4.6mmで行った。酢酸アンモニウム(20mM)を移動相として用い、25℃で30分間又は45分間にわたる1.0mL/分の流速とした。測定前に、全ての試料を、0.22μmの細孔径を有する13mmのナイロンシリンジフィルターを使用して濾過した。LC-MS分析には、本発明者らは、質量分析計と連結したLC(Agilent 1100シリーズ)を使用した。逆相クロマトグラフィーを、100×4.6mm、3μm、極性C18、細孔径100Åの仕様であるPhenomenex Luna Omega(Phenomenex)LCカラムにより、0.3mL/分の流速で使用した。LC溶離液は、20mM酢酸アンモニウム(溶液A)及びアセトニトリル(溶液B)を含み、勾配溶離を使用する(溶液A:B組成の経時変化:0分 95:5、3分 95:5、15分 85:15、17分 90:10、20分 95:5)。質量分析計(Finnigan LTQ質量分析計)は、NRHを分析するためのポジティブエレクトロスプレーイオン化モードに設定したエレクトロスプレーインターフェース(ESI)を備えていた。最適化されたパラメータは、20任意単位のシースガス流量、4.00kVに設定したスプレー電圧、350℃のキャピラリー温度、41.0Vのキャピラリー電圧、及び125.0Vに設定したチューブレンズであった。
【0105】
[0102]β-ニコチンアミドリボシドクロリドからの1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドの合成
[0103]0.5gのNRCl(1.72mmol)及び20mLのNaHCO溶液(1.2M)を、マグネティックスターラーバーを入れた丸底フラスコに加えた。この系を氷浴中に置き、酸素をパージし、窒素ガス下に保持した。次いで、0.80gの亜ジチオン酸ナトリウム(4.60mmol)を、反応混合物に少しずつ添加した。Naを添加した後、フラスコを氷浴から取り出し、続いて室温でさらに3時間反応を行った。反応混合物を凍結乾燥して、黄色固体を得た。最後に、溶離液としてメタノールを用い、それぞれ2:3の重量比の塩基性アルミナとシリカとの混合物を用いたカラムクロマトグラフィーにより、残渣を精製した。余分なメタノールをロータリーエバポレーターによって室温で除去することで、淡黄色の粘着性固体が得られ、次にこれを、酢酸エチルを添加することによって黄色粉末(沈殿物)に変換した。最後に、単離された生成物をn-ヘキサンで洗浄し、室温で減圧乾燥して、純粋なNRHを収率55%(0.24g)で得た。H NMR(500MHz,DO),δppm:7.19(s,1H),6.14(dd,J=8.2Hz,J=1.5Hz,1H),5.05-5.02(m,1H),4.92(d,J=7Hz,1H),4.24(t,J=5.5Hz,1H),4.18-4.16(m,1H),4.03-3.99(m,1H),3.79(dd,J=12.5Hz,J=3.5Hz,1H),3.73(dd,J=12.5Hz,J=5.0Hz,1H),3.11(s,2H)(FIG.8~11)。13C NMR(125MHz,DO),δppm:173.03,137.92,125.32,105.30,101.05,95.01,83.62,71.06,70.24,61.64,22.09(FIG.12)。加えて、CDOD中の精製NRHのH NMR及び13C NMRスペクトルの画像は、支持情報セクションにある(FIG.13~16)。MS:実測値m/z=257.18(M+1)。C1117(M+1)に対する計算値:257.11(FIG.17及び18)。UV(HO中のλmax):338nm(FIG.19)。
【0106】
[0104]NRClからのNRHの固相合成
[0105]第1段階として、反応過程でのNRHの加水分解を低減するために、本発明者らは、無溶媒環境での還元反応を設定した。本発明者らは、反応が起こる表面を増加させるために、固体支持体としてSiOを用いた。この手順では、SiO(0.25g)、NRCl(0.1g、0.34mmol)、Na(0.2g、1.15mmol)、及びNaHCO(0.25g)を乳鉢に入れ、5分間粉砕して均質な粉末を得た。次に、1mLのDI水を反応混合物に滴下し、反応物を室温で10分間粉砕した(表1、エントリー1)。固体支持体を用いないと、反応混合物は粘着性になり、粉砕が容易ではなくなることには留意されたい。粉砕後、生成物をMeOHで抽出し、反応の進行をTLC(薄層クロマトグラフィー)で追跡した。結果は、さらなる同定のための単離及び精製を行うことができない1つの生成物が微量のNRHであることを示した。本発明者らは、十分な水が存在しない状況下では、スルフィネート中間体をプロトン化してスルフィン酸中間体を生成し、続いて生成物としてのNRHを生成することができないという仮説を立てた(スキーム5)。この仮説を試験するために、本発明者らは、別の最終工程を用いてこの手順を繰り返した。最後に、反応混合物を、マグネティックスターラーバーを備えた丸底フラスコに移し、8mLのNaHCO溶液(1M)を添加し、反応を室温で30分間継続させた。次に、反応混合物を凍結乾燥し、溶離液としてメタノールを用いた塩基性アルミナとシリカとの混合物でのカラムクロマトグラフィーにより、残渣を精製した。単離したNRHは、15%の収率で得られた(表1、エントリー3)。固体支持体を変更することによっては(SiOの代わりにAl)、生成物の収率において顕著な改善は観察されなかった(表1、エントリー2、エントリー4)。
【0107】
[0106]周囲条件下で操作可能であることはこの手順の利点ではあるが、生成物の低収率は重大な欠点である。したがって、高収率を得るための手段を求めて、本発明者らは、嫌気性条件下の水溶液中での反応に進めることを決断した(表1、エントリー5~9)。
【0108】
【表1】
【0109】
[0107]結果及び考察
[0108]本実験において、本発明者らは、市販のβ-NRClを用いることによるNRHのスケールアップ可能な合成のための直接的な手順を導入する。反応は、窒素雰囲気下、NaHCO及びNaの水溶液中で行った(スキーム4)。本発明者らは、反応混合物からNRHを精製するための高速カラムクロマトグラフィー法を開発した。該方法では、96%の純度が得られる。NRHの主な用途の1つは、栄養補助飲料であることから、本発明者らはまた、水溶液中のNRHの安定性に対する温度、光、pH、及び酸素の影響も調べ、これらの結果を同様の条件でのNRの安定性と比較した。
【0110】
[0109]最も重要なパラメータの1つであり、NRH合成反応及び生成物NRHに直接影響を及ぼすものは、pHである。一定のpHに調節し、維持することは、反応過程において重要である。この問題は、反応の機構を検討することによって、より良く理解することができる(スキーム5)。Naの水溶液は、pH=7の好気性条件下で不安定である。したがって、この反応は、嫌気性及びアルカリ性の条件下で行わなければならない。まず、NRとS 2-との反応は、塩基性条件で安定であるスルフィネート中間体の形成をもたらす。この化合物をプロトン化することにより、そのスルフィン酸誘導体が形成される。このスルフィン酸中間体は、周囲条件で不安定であり、SOの脱離を介してNRHに変換される。したがって、Naを安定化させるだけでなく、スルホネート中間体をプロトン化してNRHを生成することにもなるpHを見出し、確立することが重要である。さらに、NRHは、その構造中にN-グリコシド結合を有するため、加水分解を受けやすい。したがって、NRHが加水分解されないように、反応の全過程にわたってpHを調節し、正確に維持することが必要である。
【0111】
[0110]還元剤としての活性を低下させることなくNaの水溶液を安定化させるための最小pHは、8.0~8.5である。最初に、NaHCO(1.2M)の溶液を用いることによって、反応をpH8.1に設定した。次に、NRClをこの溶液に溶解し、Naを窒素雰囲気下、0℃で反応混合物に少しずつ添加した。Naを溶液に添加することによって、その酸化を通して、pHは低下した。しかし、1.2Mの濃度を有する重炭酸ナトリウム溶液は、反応過程にわたってpHを一定に保つのに十分であった。Naを添加した後、室温で3時間反応させた。次に、混合物を凍結乾燥して、黄色固体を得た。最後に、残渣を、塩基性アルミナとシリカとの混合物(溶離液としてメタノール)を用いた短カラムクロマトグラフィーによって精製して、純粋なNRH生成物を収率55%で得た(表1、エントリー7)。NRCl及びNaの最適化されたモル比は、1対2.7であり、亜ジチオン酸ナトリウムの量を増加させても、生成物収率は改善されなかった(表1、エントリー8)。粗生成物の精製後、本発明者らは、溶媒としてメタノールを用いて、精製NRHで薄層クロマトグラフィー(TLC)を行い、元のNRCl及びニコチンアミド(NA)と比較した(FIG.1A)。全ての化合物は、254nmの波長で活性であった。しかし、波長を365nmに切り替えることによって、本発明者らは、NRHのみが蛍光を発することを見出した。NRHは、340nm付近で強い蛍光を発することが報告されている。NRH及びNAのR値はほとんど同じであったことから、NRHの蛍光特性は、TLCの過程でこの化合物の正確な位置を識別するのに役立った。FIG.1Aに示されるように、精製NRHは、TLCプレート上で高い純度を示す。
【0112】
[0111]合成及び精製したNRHのFT-IRスペクトルを調べ、元のNRClのスペクトルと比較した(FIG.2B)。NRHのFT-IRスペクトルにおいて、1643cm-1に存在する特異的なピークは、C=Cバンドの伸縮振動に帰属させることができ、NRピリジニウム環の還元が確認される。3340cm-1及び3209cm-1の2つのピークは、NRH構造中のNH基の非対称及び対称伸縮バンドを指し、これは、アミド基が反応過程で無傷であることを示唆している。1685cm-1のシャープなピークは、アミド基の伸縮C=Oバンドを示す。2920cm-1及び2840cm-1の2つのピークから、NRH構造のリボース環及びジヒドロニコチンアミド環の両方における脂肪族C-Hの伸縮振動が確認される。NRHの構造中にヒドロキシル基が存在することは、3500cm-1~3000cm-1の範囲に現れるブロードなピークによって確認される。
【0113】
[0112]NRH合成の成功及びその純度をさらに確認するために、本発明者らは、重水中での精製NRHのH NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルも取った。DOと交換可能ではない11個のプロトンの存在から、合成されたNRHの構造が完全に確認される(FIG.3)。各プロトンの化学シフト及び対応するカップリング定数は、科学文献にこれまでに報告されたものと一致している。13C NMR及びさらなる詳細をFIG.12に示す。
【0114】
[0113]NRHの精製に使用したカラムの効率を調べるために、本発明者らは、精製されたNRHのH NMRを、純粋なNRCl及びNAのH NMRと比較した(FIG.4)。反応混合物中の主な不純物は、未反応のNRであり、精製後、精製されたNRHのH NMRスペクトル中に特異的なNRピークは観察されなかった。NRHのスペクトルをNAのスペクトルと比較することによって、本発明者らは、精製NRHのH NMR中に、そのようにNAを示すピークが微量しか存在しないことを見出した。このことは、反応過程で加水分解してNAを形成するNRが、ほんの微量であることを意味する。本発明者らはまた、逆相クロマトグラフィーHPLCを使用して、NRH試料の純度をさらに確認した(FIG.20)。HPLCの結果は、H NMRデータと一致し、NRHの純度が96%であったこと、及び不純物のNAが4%であったことの両方を示した。興味深いことに、H NMRではNRは存在したが、HPLCではNRは検出されなかった。これは、塩基性アルミナとシリカとの混合物上でのカラムクロマトグラフィーが非常に効率的であり、残留NRClからNRH生成物を完全に精製することができることを意味する。
【0115】
[0114]次に、本発明者らは、溶離液としてメタノールを用い、シリカ上でのカラムクロマトグラフィーを使用し、粗NRHを精製するよう試みた。結果から、シリカ単独でのカラムクロマトグラフィーが、NRHからNRを分離するのに有効でないことが示された。塩基性アルミナは、その上に多くのヒドロキシル基を有する極性表面として、中程度に、NRHからNRを(それらの極性の差によって)物理的に分離し得る。さらに、塩基性アルミナはその表面上に負電荷を有し、NRは正電荷を有することから、塩基性アルミナは、その表面上にNRを固定するためのカチオン交換樹脂として作用し得る。本発明者らは、このことが、シリカと比較してアルミナがNRHの精製のためのより良好な固定相である主な理由であると考えている。しかしながら、本発明者らは、カラムクロマトグラフィーでのNRHの精製中に、塩基性アルミナが目詰まりし、NRHの分解につながる非常に遅い流速をもたらすことを発見した。本発明者らは、塩基性アルミナをシリカと、それぞれ2:3の重量比で混合することによって、この問題を容易に解決するための手段を講じた。したがって、本発明者らは初めて、塩基性アルミナとシリカとの混合物上での一般的なカラムクロマトグラフィー法を使用して、メタノールを溶離液として用いながら、分取モードで(HPLCを使用することなく)NRHを定量的に精製することができた。
【0116】
[0115]次に、本発明者らは、NaHCO及びNaCOの溶液を用いることによって、pH8.5でのNRClの還元反応を設定した(表1、エントリー9)。NRClをこの溶液に溶解し、次にNaを、窒素雰囲気下、0℃で反応混合物に少しずつ添加した。Naを添加した後、室温で15時間反応させた。反応の完了後(TLCで追跡)、混合物を凍結乾燥して黄色固体を得た。最後に、溶離液としてメタノールを用いて、塩基性アルミナ上での短カラムクロマトグラフィーにより、残渣を精製した。定性試験として、本発明者らは、この精製NRHからTLCを行い、溶媒としてメタノールを用いてNR及びNAと比較した(FIG.5A)。結果は、得られたNRHが、カラムクロマトグラフィー後に純粋ではないことを示した。この時点で、本発明者らの観察によると、TLC上で新たな不純物がNRHのほんの僅か上に位置していた。本発明者らの観察は、この汚染物を一般的なカラムクロマトグラフィーによってNRHから分離することができない理由を説明する手助けとなった。興味深いことに、この新たな不純物の蛍光特性はNRHと類似しており、それらの両方が、TLC上、365nmで蛍光発光している。文献を調べることによって、本発明者らは、それが反応過程でNRHの加水分解によって形成される1,4-ジヒドロニコチンアミド(DHNA)である可能性が高いことを見出した。
【0117】
[0116]さらなる証拠のために、本発明者らは、DO中でのこの試料のH NMRを取った(FIG.5B)。得られた結果は、この試料中に残留NRClが存在しないことを示した。しかしながら、7.5ppm~9ppmの低強度の4つのピークの存在は、精製されたNRH中に微量のNAが存在することを確認するものであった。FIG.5Bに示されるように、7.19ppm、6.14ppm、5.03ppm及び3.11ppmにおける4つの主ピークは、NRHの構造中にある1,4-ジヒドロニコチンアミド環を強く確認するものである。各主ピークの右側には、強度の低いピークが存在し、形状は対応する主ピークと類似している。これらのピークの化学シフトは、それぞれ7.12ppm、6.05ppm及び4.98ppmである。各ピークの積分値は約0.12であり、各主ピークの積分値は0.89である。
【0118】
[0117]これらの結果は、精製NRH中に約12%のDHNAが存在することを示している。言い換えると、これは、pHを上昇させることによって反応速度が低下し、NRHが、この反応条件下で15時間以内に加水分解されることを意味する。NRHの加水分解により、D-リボース及びDHNAが同時に形成されることは明らかである。FIG.5Bに示されるように、5.19ppm及び5.10ppmにおける対応する不純物ピークは、それぞれ、D-リボースのα及びβアノマープロトンに帰属される。リボースの他の不純物ピークは、3.65ppm~4.65ppmに現れる。
【0119】
[0118]pHを8.1から8.5に上昇させることによって、反応速度は明らかに低下し、その後、NR及びNRHの両方の加水分解などの副反応の可能性が増加する。
【0120】
[0119]これらの観察結果は、スキーム5に見られるように、NRのNRHへの還元の反応機構と一致する。この機構において、反応には、アルカリ条件下で安定であるスルフィネート中間体が関与しており、その結果、プロトン化によりNRHを生成することは容易ではない。NRH合成のプロセスにおいて、チオサルフェートアニオン及びバイサルファイトアニオンが、ジチオナイトの加水分解及び酸化の生成物として形成される。高い求核性を有するこれらのアニオンは、NRHの構造中の炭素1’を攻撃して、DHNAに代わって置換し得る。これは、NRHの加水分解速度を間接的に増加させる。pHを上昇させることによって、NRH加水分解の可能性は減少するが、同時に、求核剤として作用するいくつかのアニオンの存在は、NRH加水分解を増加させる可能性がある。これらのアニオンによるNRHの加水分解は、より激しく、NRH合成の反応時間を増加させる。したがって、最も重要なパラメータとして、NA及びDHNAの形成を最小限に抑えて反応時間を短縮するように、反応物のpHを調整しなければならない。これは、これらの副生成物のR値がNRHのR値に近く、したがって、これらの副生成物を、一般的なカラムクロマトグラフィーによって生成物NRHから分離することができないことから(FIG.4A参照)、非常に重要な因子である。本研究において、本発明者らは、NRからNRHを合成するための最適pHが8.1であることを見出し、このpH(8.1)では、DHNAは全く観察されず、NAの量は無視できる程度であった。
【0121】
[0120]食品での使用の可能性を有する薬物及び栄養補助食品の場合、工業的加工において高温が必要とされることが多いことから、熱安定性は非常に重要である。NRHの熱安定性を調べるために、本発明者らは、純粋なNRHに対するTGAを25~900℃で行い、結果を元のNRClと比較した。FIG.6は、NRH及びNRClに対する25~900℃の範囲でのTGAサーモグラムを示す。FIG.6A及びFIG.6Bから分かるように、NRHは明らかにNRClよりも熱的に安定である。NRH及びNRがいずれも、それぞれ約218℃及び910℃で最大の重量減少を示す一方で、NRHは、この温度で約50%の重量減少しか示さないのに対し、NRClは、この温度で約65%の重量減少を示す。NRHは、30%の重量減少に寄与する、800℃付近にピークを有する別の特徴的な重量減少を示す。これらの結果から、NRHが、窒素雰囲気下において、NRClと比較して熱的により安定であることが確認される。これは、NRClの構造中に存在する塩化物イオンが、温度が上昇したときにHClの形態で脱離し得ることに起因する可能性がある。
【0122】
[0121]NRH水溶液及びNR水溶液の安定性試験
[0122]新たに合成し、精製したNRH(10,000ppm)のストック溶液を、脱酸素DI水で調製した。このストック溶液を、安定性測定のための1000ppmのNRH溶液の調製に使用した。光、pH(緩衝液)、温度及び酸素(空気として)の影響を、60日間の保存期間中に調べた。HPLCを用いて残留NRH濃度を測定した。この手順を、NR安定性測定にも使用し、結果を同じ条件でNRH試料と比較した。
【0123】
[0123]異なる条件におけるNRHの安定性試験
[0124]NRHは、そのN-グリコシド結合のために不安定で感受性の高い分子であり、高温、求核試薬及び酸素への曝露中に分解、加水分解及び酸化を受ける可能性がある。NRHの場合のこれらの分解反応の主要生成物のいくつかをスキーム6に示す。異なるバリエーションの条件下でのNRHの分解を調べることは、新規の栄養補助食品又は将来的な飲料製品の開発において重要である。ここでは、本発明者らは、新たに合成及び精製したNRHの水溶液中における分解速度に対する、60日間にわたる光、温度、酸素及びpHの影響について調べる。
【0124】
【化7】
【0125】
[0125]酸素及び光の影響
[0126]ジヒドロニコチンアミド誘導体としてのNRHの酸化感受性はよく知られている。NRの還元型として、NRHは高い酸化電位を有する。水溶液中のNRHの安定性に対する空気、さらには周囲光の影響を調べるために、本発明者らは、空気中及びNブランケット下、さらには暗所及び周囲光中で、新たに精製したNRH(カラムクロマトグラフィーによる)のDI水溶液を調製した。本発明者らは、HPLCにより、60日間にわたってNRH濃度をモニタリングした。FIG.7Aは、暗所/明所及び空気中/N下での試料の両方についてのHPLC結果に基づく、60日間の保存中のNRH回収率(%)を示す。
【0126】
[0127]FIG.7Aに示される結果から、暗所に保持された試料と比較して、NRHの安定性に対する光の影響は無視できる程度であるが、酸素(空気として)は、NRHの安定性に対して劇的な影響を有することは明らかである。暗所でDI水中に25℃で保持された試料は、空気下、60日間で50%に達する、より速い分解を示す。対照的に、Nブランケット下で保持された同じ条件の試料では、観察された分解は約27%である。これらの結果は、NRHが空気の存在下で酸化されやすいことを示している。
【0127】
[0128]温度の影響
[0129]温度は、N-グリコシド結合を有する分子の安定性に対して重大な影響を及ぼし得る。NR分子の分解は、一次反応速度則に従う温度依存性のものである。この分解は、ニコチンアミド(NA)が良好な脱離基であるために、N-グリコシド結合の解離を起こし易いことに起因する可能性が最も高い。しかし、NRHの脱離基はジヒドロニコチンアミド(DHNA)であり、NRHはイオン性ではない(環中の窒素は正電荷を有しない)。したがって、NRHは、温度に起因するN-グリコシド結合の自発的解離に関して、NR分子と比較してより安定であるはずであると予想される可能性がある。しかしながら、上記セクションで示したように、NRHの酸化分解も、その安定性に関して重要な役割を担っている。
【0128】
[0130]本発明者らは、空気中及びNブランケット下の両方で、2つの異なる温度におけるNRHの安定性について調べる。FIG.7Bは、60日間の保存中に4℃及び25℃で保持された水溶液中のNRH回収の結果を示す。FIG.21は、60日間の保存での、試料の一部の対応するHPLCクロマトグラムを示す。これらの結果から、NRHの、4℃と比較してより速い分解が25℃で確認され、及び25℃でのNRHの酸化分解が空気により加速されたことによる影響も示される。Nブランケット下で4℃で保持された試料は、60日間の保存後に検出可能な分解を示さないが、空気中で4℃の試料は、60日間で約10%の分解を呈している。25℃での試料の場合、60日間の保存後の分解は、N雰囲気下で約27%、空気中で約50%である。純粋なNRH(粉末として)は、冷蔵庫中、密封管内で、まったく劣化することなく数ヶ月間安定であった。
【0129】
[0131]pH(緩衝液)の影響
[0132]NR分子の解離分解は、pHに依存しない。NRH分子は、10時間のモニタリング期間中、塩基性媒体中では比較的良好な安定性を示し(本発明者らが結果と考察においても強調するように)、酸性条件下では急速な分解を示した。本発明者らは、それぞれクエン酸緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液及び炭酸緩衝液を用いて調製したpH5、pH7及びpH9が、空気中及びN下の両方で、さらには暗所で60日間にわたって25℃で保持された水溶液中のNRHの安定性に対して及ぼす影響を調べた(FIG.7C及びFIG.22)。FIG.7Cの本発明者らの結果から、pH5では、NRHの1日未満での完全な分解が確認されるが、一方pH7の酢酸アンモニウム緩衝液中で調製した試料は、1日目の約70%から30日目の約2%までのNRH濃度の線形減少を示した。しかし、pH9の炭酸緩衝液中で調製した試料は、空気中(60日後に約45%の分解を測定)及びN下(60日後に約42%の分解を測定)の両方でかなりの安定性を示し、これは他からの短期データと一致する。
【0130】
[0133]FIG.7C(25℃、pH7、空気及びN)をFIG.7B(25℃、DI水)と比較すると、pH7でのNRHの急速な分解が、緩衝液の調製に用いた酢酸アンモニウム塩に起因することは明らかである。塩化物イオン及び酢酸イオンなどのいくつかのアニオンの存在は、NRHのNRへの酸化を加速する。なぜなら、この酸化プロセスでは、NRの対イオンとしてのアニオンの存在が必要だからである。さらに、酢酸イオンは、求核試薬として作用し得、NRHの加水分解を促進し得る。酢酸アニオンを消費することによって、酢酸イオンに対するアンモニウムの比が増加し、この余分な量のアンモニウムの加水分解によって、溶液は徐々に酸性となり、NRHの加水分解速度が上昇する。したがって、酢酸アンモニウムを用いて調製された緩衝液を使用したpH7.0の場合、NRHの分解に対する相乗効果があると言える。
【0131】
[0134]NRHの分解速度の動態グラフは、かなり速い分解速度の試料に関して60日間の保存中に収集されたHPLCデータに基づく。FIG.23は、pH7.0、25℃、N及び空気下で保存されたNRH試料(FIG.23A及びFIG.23B)、pH9.0、25℃、N及び空気下で保存された試料(FIG.23C及びFIG.23D)、並びにDI水中、25℃、N及び空気下で保存されたNRH試料(FIG.23E及びFIG.23F)に対する動態グラフ及び一次分解速度を示す。空気下、DI水中、25℃で保持された試料の分解速度は、1.27×10-7-1であり、これは63日の半減期に相当する。比較として、N下、DI水中、25℃で保持されたNRH試料の場合は、分解速度は5.90×10-8-1であり、これは136日の半減期に相当する(FIG.23)。
【0132】
[0135]水溶液中でのNRH対NRの安定性の比較
[0136]NRHはNRの還元された形態であり、非常により高い生物学的活性を有する。しかし、NRの安定性をNRHと比較することは不可欠である。NRHがNRほど安定でない場合、後者はより多くの用途に有用であろう。ここで、本発明者らは、水溶液中のNR及びNRHの両方の安定性を比較する。水溶液中のNRの安定性はpHに依存しないことから、本発明者らは、60日間にわたる4℃及び25℃のDI水中でのNR及びNRHの安定性について調べた。FIG.6Dは、30日間及び60日間にわたるこの実験の結果を比較するものである。
【0133】
[0137]FIG.7Dの結果から、4℃において、水溶液中のNRは非常に安定であり、60日後に検出可能な分解がないことは明らかである。しかしながら、空気中で保存された水溶液中のNRHは、30日及び60日後にそれぞれ9%及び10%の分解を示す一方で、Nブランケット下で保存された水溶液中のNRHは、60日間の保存後に検出可能な分解がなく、かなり安定である。一方、25℃(周囲温度を表す)で保持されたNR溶液は、30及び60日間の保存後に48%及び68%の分解を示すが、この分解は、それぞれ、30及び60日後の空気下で保持されたNRH溶液の場合は36%及び50%であり、30及び60日後のN下で保持されたNRH溶液の場合は13%及び27%である。このことは、水溶液中において、熱分解がNRHよりもNRに対してより深刻であること、及び空気を避けてNRHを保存することがその安定性を改善することを明らかに示す。
【0134】
[0138]結論
市販のNRClからNRHを合成し、精製するための便利で、効率的であり、スケールアップ可能な手順が開発された。本発明の方法では、亜ジチオン酸ナトリウムを、異なる条件下で還元剤として用いた。好気性固相合成からは、高収率を得ることができなかったが、pH=8.1の重炭酸ナトリウム溶液(1.2M)中での嫌気性合成では、3時間の反応時間後に約55%の収率に達した。塩基性アルミナを用いた一般的な短カラムクロマトグラフィーを使用することによる精製プロセスを初めて行った。本発明者らは、反応のpHの影響が非常に重要であり、8.1で最適化されることを見出した。このpHを維持することは、反応全体を通して不可欠である。本発明者らは、pH=8.1からpH=8.5への上昇が、反応時間の増加並びにNRHのリボース及びジヒドロニコチンアミドへの加水分解を含むいくつかの有意な副反応をもたらすことを示した。NMR、FTIR、LC-MS、UV-可視及びHPLCから、この方法によって合成されたNRHの構造、さらには高い純度が確認された。水溶液中のNRHの分解に対する温度、pH、光及び酸素(空気)の影響を調べるために、本発明者らは、長期安定性試験を行った。結果は、NRHが酸素の存在下で酸化され、酸性条件下で急速に加水分解されることを示した。分解速度は、N雰囲気下、より低い温度及び塩基性pHにおいて低下した。
【0135】
[0139]本明細書に記載される実施例に対する様々な変更及び改変が、当業者には明らかであることは理解されるべきである。そのような変更及び修正は、本主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、なされ得る。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
図1
図2A
図2B
図3-1】
図3-2】
図4A-4C】
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図21A
図21B
図21C
図21D
図21E
図21F
図22A
図22B
図22C
図22D
図23A
図23B
図23C
図23D
図23E
図23F
【国際調査報告】