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特表2023-541028細胞内の標的部位を遺伝子編集する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-27
(54)【発明の名称】細胞内の標的部位を遺伝子編集する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230920BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230920BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230920BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230920BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N1/15 ZNA
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C12N15/86 Z
A61P35/00
A61P37/02
A61K35/12
A61K48/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515399
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(85)【翻訳文提出日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 CN2021116531
(87)【国際公開番号】W WO2022052877
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】202010949701.5
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522021985
【氏名又は名称】上海邦耀生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】BRL Medicine Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チーチン
(72)【発明者】
【氏名】トゥー、ピン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ミンヤオ
(72)【発明者】
【氏名】シー、ツァイシー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB26
(57)【要約】
細胞内の標的部位を遺伝子編集する方法であって、具体的に、(a)遺伝子編集しようとする細胞を提供し;(b)(i)遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編集酵素を発見する第一発現ベクター;と(ii)gRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクターを前記細胞に導入し、前記細胞ゲノムの標的部位の遺伝子を編集し、前記gRNAは遺伝子編集酵素を誘導して、標的部位の特異的切断を実行し;ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれ、細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集する方法である。当該方法は、標的部位を効率的に編集することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)遺伝子編集しようとする細胞を提供するステップ;
(b)(i)遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編群酵素を発見する第一発現ベクター;と(ii)gRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクターを前記細胞に導入して、前記細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集し、前記gRNAは遺伝子編集酵素を誘導して、標的部位を特異的切断するステップ;を含み、
ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれることを特徴とする、細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集する方法。
【請求項2】
前記遺伝子編集には、遺伝子ノックアウトと遺伝子標的統合が含まれることを特徴とする、請求項1に記載方法。
【請求項3】
前記遺伝子編集酵素は、CRISPR関連タンパク質(Cas)ポリペプチド、TALEN酵素、ZFN酵素、又はそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載方法。
【請求項4】
前記標的部位が、AAVS1、PD1、TRAC、B2M、又はそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載方法。
【請求項5】
前記遺伝子編集には、部位特異的ノックインドナーDNAが含まれることを特徴とする、請求項1に記載方法。
【請求項6】
ターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれることを特徴とする、細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集するgRNA。
【請求項7】
(a)二本鎖DNAであるドナーDNA;
(b)遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編集酵素を発現する第一発現ベクター;
(c)gRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクター;
を含み、
ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれることを特徴とする、細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集する反応系。
【請求項8】
i)第一容器と第一容器内に位置する二本鎖DNAであるドナーDNA、
ii)第二容器と第二容器内に位置する遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編集酵素を発現する第一発現ベクター、と
iii)第三容器と第三容器内に位置するgRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクターを含み、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれることを特徴とする、遺伝子編集用キット。
【請求項9】
請求項1に記載の方法で製造される遺伝子編集された細胞。
【請求項10】
腫瘍免疫治療又は癌免疫治療製品の製造における、請求項9に記載の細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関し、具体的に、細胞内の標的部位を遺伝子編集する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR/Cas9系は、プラスミド、ファージなどの外因性DNA断片の侵入に抵抗する、古細菌や細菌に由来する獲得免疫メカニズムである。当該系は主にCRISPR配列とCasタンパク質をコードする遺伝子座によって機能し、現在、最も一般的に使用されているのはタイプIIファミリーのCas9ヌクレアーゼであり、当該系は、単一のエフェクタータンパク質のみで機能する。外因性DNAが細菌に侵入すると、II型CRISPR系は最初に侵入したDNAをCRISPR重複配列間に統合する。続いて、侵入したDNA配列を含むCRISPR RNA(crRNA)が転写され、処理される。その後、トランス活性化型crRNA(transactivating CRISPR RNA、tracrRNA)がcrRNAと結合し、最終的にCas9タンパク質と複合体を形成する。最後に、Cas9タンパク質は、そのHNH及びRuvC様構造ドメインを介してエンドヌクレアーゼとして機能し、DNA二本鎖切断を誘導する。DNAの二本鎖の切断は損傷修復メカニズムを引き起こし、相同性テンプレートが存在する場合、細胞に正確な相同組換え修復が発生し、外因性配列の挿入又は置換を実現する。これまでのところ、CRISPR/Cas9技術は多くの分野で成功的に使用されており、幅広い展望を示している。しかし、相同組換えを用いた正確な遺伝子治療は依然として多くの困難に直面しており、主な制限要因の1つは相同組換えの効率が非常に低いことである。多くの研究で相同組換え率を高めるさまざまな方法が報告されているが、これらの方法がすべての種類の細胞に適用できるわけではなく、効果も一貫していないことを示す証拠がますます増えている。従って、特定の細胞における相同組換えを効果的に強化するためのパーソナライズされたアプローチを見つけることは、細胞型ベースの細胞療法にとって特に重要である。
【0003】
キメラ抗原受容体T細胞技術(Chimeric Antigen Receptor T-Cell、CAR-T)は、近年登場した新規な養子免疫療法である。それはインビトロで患者のT細胞の遺伝子を改変し、ある程度増幅後に患者の体内に再注入して、腫瘍の標的殺傷を達成する。現在、3つのCAR-T製品が米国食品医薬品局によって血液腫瘍の臨床治療に承認されており、CAR-T技術の大きな成功を示している。しかし、新興技術として、CAR-T技術は依然としてあらゆる面で多くの挑戦に直面しており、大きいな改善の余地がある。まず、現在最も一般的に使用されている方法は、ウイルス系を使用して外因性配列を導入することである。しかし、ウイルス系の使用には、高い製造コスト、ランダムな挿入による潜在的な安全上の問題などの問題がある。次に、ウイルス製造を含む従来の技術は、ゲノムへの外因性配列の正確な挿入を実現できないため、細胞の均一性が低下し、治療効果に影響を与え、T細胞に対してさらに多くの改変を実行することが不可能である。また、現在のCAR-T療法は全部個別化治療であり、製造コストが高く、サイクルが長く、効果が限定的であるなどの問題がある。従って、CRISPR/Cas9などの技術を使用して、CARなどの人為的に改変された要素を部位特異的にT細胞に統合することは、既存のT細胞療法の発展を促進する上で非常に重要である。一つの方面で、外因性配列のランダムな挿入によって引き起こされる不確実性を回避でき、細胞製品の均一性と安定性を向上させることができる。もう一つの方面で、T細胞の多様な改変を実現することができ、一般的なCAR-T細胞をワンステップで構築でき、内因性遺伝子を調節することで強化された細胞製品を構築できるだけではなく、人工的なコンポーネントの動的な表現を実現でき、既存の技術のアプリケーションを拡張するのに大いに役立つ。しかし、T細胞自体の細胞型の特殊性により、相同組換えによる外因性配列の部位特異的統合の効率は常に低い。従って、当技術分野では、T細胞における相同組換えの効率を改善する方法を開発することが緊急となっている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的の1つは、細胞(特にT細胞)における外因性配列の相同組換えの効率を改善するための新規な方法を提供することである。
【0005】
本発明は、AAVS1、PD1、TRAC、B2M遺伝子それぞれに対する遺伝子編集方法を提供する。
【0006】
本発明の第一方面は、下記のステップの含む、細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集する方法を提供する。
(a)遺伝子編集しようとする細胞を提供するステップ;
(b)(i)遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編群酵素を発見する第一発現ベクター;と(ii)gRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクターを前記細胞に導入して、前記細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集し、前記gRNAは遺伝子編集酵素を誘導して、標的部位を特異的切断するステップ;
ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0007】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集には、遺伝子ノックアウトと遺伝子標的統合が含まれる。
【0008】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAがターゲットとする標的配列に、配列番号1~6に示される配列の1つ又は複数が含まれる時、前記遺伝子編集は遺伝子標的統合である。
【0009】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAがターゲットとする標的配列に、配列番号7~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる時、前記遺伝子編集は遺伝子ノックアウトである。
【0010】
もう一つの好ましい実施形態において、遺伝子編集酵素は、CRISPR関連タンパク質(Cas)ポリペプチド、TALEN酵素、ZFN酵素、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0011】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集酵素は微生物由来であり、好ましくは細菌由来である。
【0012】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集酵素は化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、カニス連鎖球菌(Streptococcus canis)、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0013】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集酵素には、野生型又は突然変異型の遺伝子編集酵素が含まれる。
【0014】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集酵素はCas9、Cas12、Cas13、Cms1、MAD7、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Fok1、Cpf1、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0015】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAにはcrRNA、tracrRNA、sgRNAが含まれる。
【0016】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAはゲノムの標的部位にターゲットとして結合する。
【0017】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAには未修飾及び修飾されたgRNAが含まれる。
【0018】
もう一つの好ましい実施形態において、前記修飾されたgRNAには、塩基の化学修飾が含まる。
【0019】
もう一つの好ましい実施形態において、前記化学修飾には、メチル化修飾、メトキシ修飾、フッ素化修飾又はチオール修飾が含まる。
【0020】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集には、インビボ遺伝子編集、インビトロ遺伝子編集が含まれる。
【0021】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集にはCRISPRベースの遺伝子編集が含まれる。
【0022】
もう一つの好ましい実施形態において、前記標的部位は、AAVS1、PD1、TRAC、B2M、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0023】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのAAVS1をターゲットとする標的配列には、配列番号3に示される配列が含まれる。
【0024】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのPD1をターゲットとする標的配列には、配列番号1及び/又は配列番号2に示される配列が含まれる。
【0025】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのTRACをターゲットとする標的配列には、配列番号4及び/又は配列番号5に示される配列が含まれる。
【0026】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのB2Mをターゲットとする標的配列には、配列番号6に示される配列が含まれる。
【0027】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集には、ドナーDNAに部位特異的ノックインすることが含まれる。
【0028】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAは二本鎖DNAである。
【0029】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAには、第一相同性アームと第二相同性アームが含まれ、ここで、前記第一相同性アームと第二相同性アームは前記細胞ゲノムの標的部位でドナーDNAの細胞媒介性相同性組換えを開始させることができ、前記第一相同性アームと第二相同性アームの配列長さはそれぞれ独立して200~2000bpであり、好ましくは、400~1000bpであり、より好ましくは、700~900bpである。
【0030】
もう一つの好ましい実施形態において、前記第一相同性アームは前記ゲノムの標的部位の切断部位上流側(又は左側)の配列と相同性があり、前記第二相同性アームは前記ゲノムの標的部位の切断部位下流側(又は右側)の配列と相同性がある。
【0031】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAには更に標的遺伝子が含まれる。
【0032】
もう一つの好ましい実施形態において、前記標的遺伝子にはキメラ抗原受容体又はTCRのコード配列が含まれる。
【0033】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAの配列長さは50bp~5000bpであり、好ましくは、80bp~4000bpである。
【0034】
もう一つの好ましい実施形態において、前記標的遺伝子の配列長さは50bp~3000bpであり、好ましくは、1000bp~2000bpである。
【0035】
もう一つの好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体又はTCRのコード配列の長さは50bp~3000bpであり、好ましくは、1000bp~2000bpである。
【0036】
もう一つの好ましい実施形態において、前記第一相同性アームの配列長さD1と第二相同性アームの配列長さD2の比(D1/D2)は(0.8~1.2):(0.5~1.5)であり、好ましくは、(0.9~1.1):(0.7~1.3)であり、より好ましくは、1:1である。
【0037】
もう一つの好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体には、腫瘍細胞マーカーを標的とする抗原結合構造ドメインが含まれる。
【0038】
もう一つの好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体には、腫瘍細胞マーカーを標的とする抗原結合構造ドメイン、任意のヒンジ領域、膜貫通構造ドメイン及び細胞内シグナル伝達結合ドメインが含まれる。
【0039】
もう一つの好ましい実施形態において、前記腫瘍細胞マーカーは、α葉酸受容体、5T4、αvβ6インテグリン、BCMA、B7-H3、B7-H6、CAIX、CD16、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD79a、CD79b、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、EGFR、ErbB2(HER2)を含むEGFRファミリー、EGFRvIII、EGP2、EGP40、EPCAM、EphA2、EpCAM、FAP、胎児AchR、FRα、GD2、GD3、グリピカン-3(GPC3)、HLA-A1+MAGE1、HLA-A2+MAGE1、HLA-A3+MAGE1、HLA-A1+NY-ESO-1、HLA-A2+NY-ESO-1、HLA-A3+NY-ESO-1、IL-11Rα、IL-13Rα2、Lambda、Lewis-Y、Kappa、メソテリン、Muc1、Muc16、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSCA、PSMA、ROR1、SSX、サバイビン、TAG72、TEM、VEGFR2、WT-1、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0040】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ヒンジ領域は、CD8、Ig(免疫グロブリン)ヒンジ、CD28、又はそれらの組み合わせからなる群より選択されるタンパク質ヒンジ領域である。
【0041】
もう一つの好ましい実施形態において、前記膜貫通ドメインは、CD8α、CD8β、CD28、CD33、CD37、CD5、CD16、ICOS、CD9、CD22、CD134、CD137、CD154、CD19、CD45、CD4、CD3ε、CD3γ、CD3ζ、又はそれらの組み合わせからなる群より選択されるタンパク質膜貫通ドメインである。
【0042】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞内シグナル伝達結合ドメインには、共刺激シグナル伝達分子及び/又は一次シグナル伝達ドメインが含まれる。
【0043】
もう一つの好ましい実施形態において、前記共刺激シグナル伝達分子は、OX40、CD28、CD30、CD40、CD70、CD134、4-1BB(CD137)、LIGHT、DAP10、CDS、ICAM-1、CD278(ICOS)、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD54(ICAM)、CD83、LAT、NKD2C、SLP76、TRIM、ZAP70、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0044】
もう一つの好ましい実施形態において、前記一次シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、CD66d、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0045】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAの配列は、配列番号12~38のいずれか一つに示される通りである。
【0046】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞には、初代細胞及び継代細胞が含まれる。
【0047】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞には、T細胞が含まれる。
【0048】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞には、CD3+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD4+制御性T細胞、CD8+T細胞、メモリーT細胞が含まれる。
【0049】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ベクターには、ウイルスベクターが含まれる。
【0050】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0051】
もう一つの好ましい実施形態において、前記導入方法には、エレクトロポレーション、ベクター形質転換、トランスフェクション、ヒートショック、電気穿孔法、形質導入、遺伝子銃、マイクロインジェクション、リポソームトランスフェクション、レンチウイルス感染などが含まれる。
【0052】
もう一つの好ましい実施形態において、前記方法はインビトロ法である。
【0053】
もう一つの好ましい実施形態において、前記方法は非診断的かつ非治療的である。
【0054】
本発明の第二方面は、細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集するgRNAを提供し、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0055】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~6に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0056】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号7~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0057】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAには、未修飾及び修飾されたgRNAが含まれる。
【0058】
もう一つの好ましい実施形態において、前記修飾されたgRNAには、塩基の化学修飾が含まれる。
【0059】
もう一つの好ましい実施形態において、前記化学修飾には、メチル化修飾、メトキシ修飾、フッ素化修飾又はチオール修飾が含まれる。
【0060】
本発明の第三方面は、細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集する反応系を提供し、前記反応系には、
(a)二本鎖DNAであるドナーDNA;
(b)遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編集酵素を発現する第一発現ベクター;
(c)gRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクター;
が含まれる。
【0061】
ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0062】
もう一つの好ましい実施形態において、前記遺伝子編集には、遺伝子ノックアウトと遺伝子標的統合が含まれる。
【0063】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAがターゲットとする標的配列に、配列番号1~6に示される配列の1つ又は複数が含まれる時、前記遺伝子編集は遺伝子標的統合である。
【0064】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAがターゲットとする標的配列に、配列番号7~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる時、前記遺伝子編集は遺伝子ノックアウトである。
【0065】
もう一つの好ましい実施形態において、前記標的部位は、AAVS1、PD1、TRAC、B2M、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0066】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのAAVS1をターゲットとする標的配列には、配列番号3に示される配列が含まれる。
【0067】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのPD1をターゲットとする標的配列には、配列番号1及び/又は配列番号2に示される配列が含まれる。
【0068】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのTRACをターゲットとする標的配列には、配列番号4及び/又は配列番号5に示される配列が含まれる。
【0069】
もう一つの好ましい実施形態において、前記gRNAのB2Mをターゲットとする標的配列には、配列番号6に示される配列が含まれる。
【0070】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAには、第一相同性アームと第二相同性アームが含まれ、ここで、前記第一相同性アームと第二相同性アームは細胞ゲノムの標的部位でドナーDNAの細胞媒介性相同組換えを開始させることができ、前記第一相同性アームと第二相同性アームの配列長さはそれぞれ独立して200~2000bpであり、好ましくは、400~1000bpであり、より好ましくは、700~900bpである。
【0071】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAには更に標的遺伝子が含まれる。
【0072】
もう一つの好ましい実施形態において、前記標的遺伝子にはキメラ抗原受容体又はTCRのコード配列が含まれる。
【0073】
もう一つの好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体には、腫瘍細胞マーカーを標的とする抗原結合構造ドメインが含まれる。
【0074】
もう一つの好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体には、腫瘍細胞マーカーを標的とする抗原結合構造ドメイン、任意のヒンジ領域、膜貫通構造ドメイン及び細胞内シグナル伝達結合ドメインが含まれる。
【0075】
もう一つの好ましい実施形態において、前記腫瘍細胞マーカーは、α葉酸受容体、5T4、αvβ6インテグリン、BCMA、B7-H3、B7-H6、CAIX、CD16、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD79a、CD79b、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、EGFR、ErbB2(HER2)を含むEGFRファミリー、EGFRvIII、EGP2、EGP40、EPCAM、EphA2、EpCAM、FAP、胎児AchR、FRα、GD2、GD3、グリピカン-3(GPC3)、HLA-A1+MAGE1、HLA-A2+MAGE1、HLA-A3+MAGE1、HLA-A1+NY-ESO-1、HLA-A2+NY-ESO-1、HLA-A3+NY-ESO-1、IL-11Rα、IL-13Rα2、Lambda、Lewis-Y、Kappa、メソテリン、Muc1、Muc16、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSCA、PSMA、ROR1、SSX、サバイビン、TAG72、TEM、VEGFR2、WT-1、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0076】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ヒンジ領域は、CD8、Ig(免疫グロブリン)ヒンジ、CD28、又はそれらの組み合わせからなる群より選択されるタンパク質ヒンジ領域である。
【0077】
もう一つの好ましい実施形態において、前記膜貫通構造ドメインは、CD8α、CD8β、CD28、CD33、CD37、CD5、CD16、ICOS、CD9、CD22、CD134、CD137、CD154、CD19、CD45、CD4、CD3ε、CD3γ、CD3ζ、又はそれらの組み合わせからなる群より選択されるタンパク質膜貫通ドメインである。
【0078】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞内シグナル伝達結合ドメインには、共刺激シグナル伝達分子及び/又は一次シグナル伝達構造ドメインが含まれる。
【0079】
もう一つの好ましい実施形態において、前記共刺激シグナル伝達分子は、OX40、CD28、CD30、CD40、CD70、CD134、4-1BB(CD137)、LIGHT、DAP10、CDS、ICAM-1、CD278(ICOS)、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD54(ICAM)、CD83、LAT、NKD2C、SLP76、TRIM、ZAP70、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0080】
もう一つの好ましい実施形態において、前記一次シグナル伝達構造ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、CD66d、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0081】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞には、初代細胞及び継代細胞が含まれる。
【0082】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞には、T細胞が含まれる。
【0083】
もう一つの好ましい実施形態において、前記細胞には、CD3+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD4+制御性T細胞、CD8+T細胞、メモリーT細胞が含まれる。
【0084】
もう一つの好ましい実施形態において、前記第一相同性アームは前記ゲノムの標的部位の切断部位上流側(又は左側)の配列と相同性があり、前記第二相同性アームは前記ゲノムの標的部位の切断部位下流側(又は右側)の配列と相同性がある。
【0085】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAの配列長さは50bp~5000bpであり、好ましくは、80bp~4000bpである。
【0086】
もう一つの好ましい実施形態において、前記標的遺伝子の配列長さは50bp~3000bpであり、好ましくは、1000bp~2000bpである。
【0087】
もう一つの好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体又はTCRのコード配列の長さは50bp~3000bpであり、好ましくは、1000bp~2000bpである。
【0088】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAの配列は、配列番号12~38のいずれか一つに示される通りである。
【0089】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ベクターには、ウイルスベクターが含まれる。
【0090】
もう一つの好ましい実施形態において、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0091】
本発明の第四方面は、遺伝子編集用キットを提供し、前記キットには、
i)第一容器と第一容器内に位置する二本鎖DNAであるドナーDNA;
ii)第二容器と第二容器内に位置する遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編集酵素を発現する第一発現ベクター;と
iii)第三容器と第三容器内に位置するgRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクターが含まれ、
ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0092】
もう一つの好ましい実施形態において、前記第一容器、第二容器、第三容器は同じ容器であるか、又は異なる容器である。
【0093】
本発明の第五方面は、本発明の第一方面に記載の方法により製造された遺伝子編集された細胞を提供する。
【0094】
本発明の第六方面は、腫瘍免疫治療又は癌免疫治療製品の製造における本発明の第5方面に記載の方法細胞の使用を提供する。
【0095】
本発明の範囲内で、本発明の上記の各技術的特徴及び以下(例えば、実施例)に具体的に説明される各技術的特徴(実施形態など)を互いに組み合わせて、新しい又は好ましい技術的解決策を形成できることを理解されたい。スペースの都合上、ここでは一一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
本出願の図面において、「Untreated T」は未処理のT細胞を示し、「対照」は相同テンプレートとCas9のみをエレクトロポレーションしたT細胞を示し、「LV-19bbz」はレンチウイルスで製造されたCD19-CART細胞を示し、「AAVS1-19bbz」は非ウイルス性AAVS1部位特異的統合CD19-CART細胞を示し、「PD1-19bbz」は非ウイルス性PD1部位特異的統合CD19-CART細胞を示す。
図1】非ウイルス部位特異的統合CAR-T細胞の構築原理の模式図である。「TRAC-19bbz」は非ウイルス性TRAC部位特異的統合CD19-CART細胞を示し、「B2M-19bbz」は非ウイルス性B2M部位特異的統合CD19-CART細胞を示す。
図2】プラスミド又は線状二本鎖DNAのエレクトロポレーション後のT細胞生存率を示す。対照群では、プラスミド又は線状二本鎖DNAのみをエレクトロポレーションし、試料群では、テンプレート、Cas9及びsgRNAを同時にエレクトロポレーションする。
図3】異なるテンプレートを使用したエレクトロポレーション後のmTurquoise2陽性率である。対照群はHDRテンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションであり、試料群は直鎖二本鎖DNAテンプレート、Cas9及びsgRNAのエレクトロポレーションであり、pbは両側に保護塩基を付加することを示す。
図4】長さが異なる相同性アームのテンプレートのエレクトロポレーション後のmTurquoise2陽性率と細胞生存率を示す。対照群は800bp相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションであり、試料群は異なる長さの相同性アームテンプレート、Cas9及びsgRNAのエレクトロポレーションであり;図AはmTurquoise2の陽性率であり、図Bは生細胞の相対数であり、図CはmTurquoise2陽性生細胞の相対数である。
図5】AAVS1部位のsgRNAスクリーニングを示す。図AはT7E1によって検出されたAAVS1部位のノックアウト率であり、図BはAAVS1位置での蛍光タンパク質mTurquioise2配列の組換え率を示す。図において、「sgRNA-1」は本出願のAAVS1-sgRNA1を示し、「sgRNA-2」は本出願のAAVS1-sgRNA2を示し、「sgRNA-3」は本出願のAAVS1-sgRNA3を示し、「sgRNA-4」は本出願のAAVS1-sgRNA3を示す。
図6】PD1部位での蛍光タンパク質mTurquioise2配列の組換え率であるPD1部位でのsgRNAのスクリーニングを示す。図において、「sgRNA-1」は本出願のPD1-sgRNA1を示し、「sgRNA-2」は本出願のPD1-sgRNA2を示す。
図7】TRAC部位でのsgRNAスクリーニングを示す。図AはCD3発現により検出されたTRAC部位のノックアウト率であり、図BはTRAC部位での蛍光タンパク質mTurquioise2配列の組換え率である。図において、「sgRNA-1」は本出願のTRAC-sgRNA1を示し、「sgRNA-2」は本出願のTRAC-sgRNA2を示し、「sgRNA-3」は本出願のTRAC-sgRNA3を示す。
図8】B2M部位でのsgRNAスクリーニングを示す。図AはB2M発現により検出されたB2M部位のノックアウト率であり、図BはB2M部位での蛍光タンパク質mTurquioise2配列の組換え率である。図において、「sgRNA-1」は本出願のB2M-sgRNA1を示し、「sgRNA-2」は本出願のB2M-sgRNA2を示す。
図9】異なる長さの相同性アームテンプレートのエレクトロポレーション後のCAR陽性率と細胞生存率である。対照群は800bp相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションであり、試料群は異なる長さの相同性アームテンプレート、Cas9及びsgRNAのエレクトロポレーションであり;図AはCARの陽性率であり、図Bは生細胞の相対数であり、図CはCAR陽性生細胞の相対数である。
図10】CD3、CD4及びCD8T細胞におけるAAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞の陽性率を示す。
図11】AAVS1部位特異的統合のCD19-dCART細胞の陽性率とノックアウト率である。図Aは、異なるヒトドナー細胞から調製されたAAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞の陽性率であり;図Bは、代表的な5つの異なるヒトドナー細胞から調製されたAAVS1部位特異的統合CD19-CART細胞の陽性率及びノックアウト率であり;図Cは、フローサイトメトリー解析によるAAVS1部位特異的統合CD19-CART細胞の陽性率を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図12】AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞のDNA配列決定の結果である。HAは相同性アームを示す。
図13】AAVS1部位特異的統合のT細胞生存率を示す。
図14】AAVS1部位特異的統合のT細胞のインビトロ増殖を示す。
図15】AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞及び標的細胞を共培養したインビトロ拡大を示す。
図16】標識法によって検出されたAAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞と標的細胞を共培養したインビトロ増殖である。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図17】AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞表面マーカーの発現を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図18】AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞サブタイプの比率を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図19】AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞分泌因子の検出を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図20】AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞のインビトロ死滅を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図21】AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞のインビボ死滅を示す。腫瘍標的細胞はRaji細胞である。
図22】PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞の陽性率とノックアウト率を示す。図Aは、異なるヒトドナー細胞から調製されたPD1部位特異的統合のCD19-CART細胞の陽性率であり、図Bは、代表的な5つの異なるヒトドナー細胞から調製されたPD1部位特異的統合のCD19-CART細胞の陽性率及びノックアウト率であり;図Cは、フローサイトメトリー解析によるPD1部位特異的統合のCD19-CART細胞の陽性率であり;図Dは、PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞とレンチウイルスで調製されたCD19-CART細胞とのPD1発現の比較である。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図23】PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞のDNA配列決定結果である。HAは相同性アームである。
図24】PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞と標的細胞を共培養したインビトロ増殖を示す。
図25】PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞表面マーカーの発現を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図26】PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞分泌因子の検出を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図27】PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞のインビトロ死滅を示す。対照群は相同性テンプレートとCas9のみのエレクトロポレーションである。
図28】PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞のインビボ死滅を示す。腫瘍標的細胞は、PDL1を過剰発現するRaji細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
広範かつ綿密な研究の後、多数のスクリーニングを通じて、発明者らは標的部位(例えば、AAVS1、PD1、TRAC、B2M)を効率的に編集できるgRNAを予想外にスクリーニングした。さらに、異なる長さの第一相同性アームと第二相同性アームを比較することにより、本発明者らはまた、T細胞の外因性核酸細胞ゲノムへの効率的な統合条件(例えば、特定の長さの第一相同性アームと第二相同性アームがゲノム標的部位で効率的な統合を行うことができる条件)を確認できた。本発明は、これに基づいて完成されたものである。
【0098】
(用語)
CRISPR/Cas9によって媒介される遺伝子編集法
CRISPR/Cas9は、細菌や古細菌の長期的な進化の過程で形成された適応免疫防御であり、侵入するウイルスや外因性DNAと戦うために使用できる。CRISPR/Cas9系は、侵入するファージとプラスミドDNAのフラグメントをCRISPRに統合し、対応するCRISPR RNA(例えば、gRNA)を使用して相同配列の分解を誘導することにより、免疫を提供する。
【0099】
前記系の動作原理は、crRNA(CRISPR-derived RNA)が塩基対を介してtracrRNA(trans-activating RNA)と結合して、tracrRNA/crRNA複合体を形成し、当該複合体は、ヌクレアーゼCas9タンパク質を誘導してcrRNAと対になった配列標的部位で二本鎖DNAを切断する。これら2つのRNAを人工的に設計することにより、Cas9を特定の部位でDNAを切断するように誘導するのに十分なガイド機能を備えたgRNA(シングルガイドRNA)を設計できる。
【0100】
RNA誘導dsDNA結合タンパク質として、Cas9エフェクターヌクレアーゼは、最初に知られた統一因子(unifying factor)であり、RNA、DNA及びタンパク質を共に定位させることができる。タンパク質をヌクレアーゼフリーのCas9(nuclease-null Cas9)と融合させ、適切なgRNAを発現させることにより、任意のdsDNA配列をターゲットとすることができ、gRNAの末端はターゲットDNAに接続でき、Cas9の結合に影響を与えるない。従って、Cas9は任意のdsDNA配列で任意の融合タンパク質とRNAをもたらすことができる。このような技術は、CRISPR/Cas9遺伝子編集システムと呼ばれる。
【0101】
標的統合メカニズム
本発明の標的統合戦略では、特定の長さの相同性アームを含む線形化されたドナー(即ち、ドナーDNA又は外因性核酸)を提供し、このようなドナーは、PCR増幅又は正確な酵素消化によって得られた特定の長さ(例えば、700~900bp)を含む相同性アームのトランスジェニックドナーであり;ドナーDNA又は外因性核酸をCas9 mRNA及びguide RNAと一緒に細胞にエレクトロトランスファーする。既存の遺伝子ターゲティング戦略と比較して、本発明によって提供される標的統合戦略は、より高い統合効率を有する。
【0102】
本発明において、CRISPRによって媒介されるゲノムの編集においてトランスジーンフラグメント及び両側の700~900bpの相同性アームからなる線形化されたdsDNAドナー(即ち、ドナーDNA又は外因性核酸)は、効率的な標的化統合を達成するための鍵である。MMEJ(マイクロ相同性アームによって媒介される末端結合)又はHITI(非相同性配列の末端結合)によって媒介される方法と比較して、本発明の標的統合技術は最高の組換え率を有する。
【0103】
細胞ゲノムの標的部位に対して遺伝子編集する方法
本発明は下記のステップを含む細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集する方法を提供する。
(a)遺伝子編集しようとする細胞を提供するステップ;
(b)(i)遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編群酵素を発見する第一発現ベクター;と(ii)gRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクターを前記細胞に導入して、前記細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集し、前記gRNAが遺伝子編集酵素を誘導して、標的部位を特異的切断するステップ;
ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0104】
本発明の方法は、標的部位(例えば、AAVS1、PD1、TRAC、B2Mなど)に対して高効率の遺伝子ノックアウト又は遺伝子標的統合を実行することができる。
【0105】
反応系
本発明は、下記を含む細胞ゲノムの標的部位を遺伝子編集するための反応系を提供する。
(a)二本鎖DNAであるドナーDNA;
(b)遺伝子編集酵素又はそれをコードする核酸、又は前記遺伝子編集酵素を発現する第一発現ベクター;
(c)gRNA又は前記gRNAを発現する第二発現ベクター;
ここで、前記gRNAがターゲットとする標的配列には、配列番号1~9に示される配列の1つ又は複数が含まれる。
【0106】
一つの好ましい実施形態において、前記ドナーDNAには第一相同性アームと第二相同性アームが含まれ、ここで、前記第一相同性アームと前記第二相同性アームは前記免疫細胞ゲノムの標的部位でドナーDNAの免疫細胞によって媒介される相同組換えを開始させることができ、前記第一相同性アームと第二相同性アームの配列長さはそれぞれ独立して200~2000bpであり、好ましくは、400~1000bpであり、より好ましくは、700~900bpである。
【0107】
本発明において、統合しようとするドナーDNAの配列長さは、50bp~5000bpであってもよい。本発明のドナーDNAにおける標的遺伝子(又は標的遺伝子と呼ぶ)の長さは、50bp~3000bpであってもよい。
【0108】
本発明において、標的部位は特に限定されないが、好ましい標的部位には、AAVS1、PD1、TRAC、B2Mが含まれる。
【0109】
本発明の好ましい実施形態において、前記第一相同性アームの配列長さD1と第二相同性アームの配列長さD2の比(D1/D2)は、(0.8~1.2):(0.5~1.5)であり、好ましくは(0.9~1.1):(0.7~1.3)であり、より好ましくは1:1である。
【0110】
本発明の反応系において、2つの相同性アームの配列長さは完全に一致する必要はなく、両者の間にはある程度の長さ差が許容される。
【0111】
本発明の主な利点は下記を含む。
1)本発明の方法の遺伝子編集(例えば、部位特異的統合)効率は、他の既存の遺伝子編集技術よりも有意に高い。
2)導入方法は簡便で、エレクトロポレーションなどの方法で導入できる。
3)本発明は、T細胞における外因性核酸の部位特異的統合効率を改善することができる。
4)本発明の方法を用いると、部位特異的統合T細胞製品を調製することが可能になる。
5)本発明の方法は、AAVS1、PD1、TRAC、B2M等の部位の非ウイルス性部位特異的統合CAR-T細胞を調製でき、ウイルス調製の多くの欠点を回避でき、CAR-T製品の均一性と安定性を向上させることができる。さらに、強化型、誘導可能型などのCAR-T製品の調製に技術サポートを提供する。
【0112】
以下では、具体的な実施例に結合して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定することを意図していないことを理解されたい。下記の実施例で具体的な条件を示していない実験方法は、通常、Sambrookらなどの、分子クローニング:実験室ハンドブック(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載されている条件、又は「微生物:実験マニュアル」(James CappuccinoとNatalie Sherman編集、Pearson Education出版社)に記載された条件、又は製造業者の提案条件のような従来の条件に従う。本特許に関連する実験で使用されたヒトドナー細胞はすべて、Shanghai Saili Biotechnology Co.,Ltd.から入手したものである。
【0113】
特に説明しない限り、実施例で使用された材料と試薬は、市販品として入手できる。
【0114】
通常の方法
I.T細胞のエレクトロポレーション
T細胞のエレクトロポレーションは、T細胞の遺伝子編集を実現する技術的な方法であり、手順はLonza社のP3 Primary Cell 4D-Nucleofector(登録商標)Xキットを参照する。
【0115】
機器と材料:
(i)Lonza 4D-Nucleofector(登録商標) System核移植装置
(ii)キットはP3 Primary Cell 4D-Nucleofector(登録商標)TMXキット(Lonza、V4XP-3024)である。
(iii)CD3/CD28磁気ビーズ刺激の2~4日後のT細胞
(iv)市販のspCas9タンパク質(5ug/ul)(TrueCut(登録商標)Cas9タンパク質v2、Thermofisher)
(v)合成されたsgRNA(合成されたsgRNAをTE緩衝液に溶解させ、最終濃度10ug/uLに希釈)
(vi)相同テンプレートを含む線形化された二本鎖DNA
【0116】
具体的な操作手順:
100μlのエレクトロポレーションカップに適している。
(1)82μlのSolution+18μlのサプリメント/各エレクトロポレーションカップに従って、エレクトロポレーションの総数に応じて、エレクトロポレーション溶液混合物を調製し、均一に混合して、室温に放置する。
(2)Cas9タンパク質とsgRNA9を共培養し、室温で10分間放置してRNPを形成させる。
(3)線形化された相同性テンプレート二本鎖DNA(PD1の2つの部位に相同性アームを含む蛍光タンパク質mTurquoise2配列を含み、AAVS1、PD1、TRAC及びB2Mの相同性アームのCD19-CART配列が含まれる)をRNPに加え、室温で2分間培養する。
前記CD19-CARTには、CD19をターゲットとする細胞外構造ドメイン、CD8αから選択される膜貫通領域、及びCD3ζとCD137から選択される細胞内シグナル伝達構造ドメインが含まれる。
(4)活性化された状態のT細胞を収集し、5×10まで計数してエレクトロポレーション反応を実行する。
(5)細胞と「RNP+相同性テンプレート」を十分に混合・再懸濁して、エレクトロポレーションカップに加える。
(6)エレクトロポレーション装置の電源を入れ、エレクトロポレーションカップをスロットに入れ、対応するプログラムEO115を選択してエレクトロポレーションを実行する。
(7)細胞を予熱した細胞培地に加え、細胞培養インキュベーターで培養する。
【0117】
II.外因性配列組換え率の検出
1)滅菌した1.5mlの遠心分離チューブに1×10個の細胞を取り、遠心分離した後上清を捨てる。
2)フローバッファー(2%の血清を含むPBS)を細胞沈殿に加え、細胞を洗浄する。
3)室温で遠心分離機に置き、遠心分離した後、上清を可能な限り吸引する。
4)検出抗体又はタンパク質と共培養し、氷上で30分間培養する。
5)細胞をフローバッファーで2回洗浄し、遠心分離した後、上清を可能な限り吸引する。
6)適切な体積のフローバッファーで細胞を再懸濁させ、機器でストリーミング分析を実行する。
【0118】
III.生細胞数の検出
生存細胞の数は、Promega社のCelltiter One Solution Cell Proliferation Assayキットを使用して検出され、操作手順は説明書を参照する。
1)MTS試薬を室温に平衡化させる。
2)3つの複製ウェルを設定し、100μlの細胞懸濁液を96ウェルプレートに取り、20μlのMTS試薬を加える。
3)37℃の5%COを含むインキュベーターで4時間培養する。
4)マイクロプレートリーダー490nmで検出し、データを統計・分析する。
【0119】
例えば、本発明の方法を使用し、CRISPR/Cas9技術と結合して、非ウイルス性部位特異的統合のCD19-CART細胞(AAVS1安全部位統合のCAR-T細胞、免疫チェックポイントPD1部位統合のCD19-CART細胞、TRAC部位統合のCD19-CART細胞、B2M部位統合のCD19-CART細胞が含まれる)を1ステップで構築することができる。
【0120】
1.標的配列の情報:
AAVS1-sgRNA1:CCGGAGAGGACCCAGACACG(配列番号7)
AAVS1-sgRNA2:AGAGCTAGCACAGACTAGAG(配列番号3)
AAVS1-sgRNA3:AAAGCAAGAGGATGGAGAGG(配列番号8)
AAVS1-sgRNA4:GAGAGGACCCAGACACGGGG(配列番号9)
PD1-sgRNA1:CGACTGGCCAGGGCGCCTGT(配列番号1)
PD1-sgRNA2:GGGCGGTGCTACAACTGGGC(配列番号2)
TRAC-sgRNA1:ACAAAACTGTGCTAGACATG(配列番号4)
TRAC-sgRNA2:AGAGCAACAGTGCTGTGGCC(配列番号5)
TRAC-sgRNA3:AGAGTCTCTCAGCTGGTACA(配列番号10)
B2M-sgRNA1:ACTCACGCTGGATAGCCTCC(配列番号11)
B2M-sgRNA2:GAGTAGCGCGAGCACAGCTA(配列番号6)
2、sgRNAは会社で合成され、TE緩衝液に溶解させ、最終濃度10ug/uLに希釈する。
3、エレクトロポレーションで非ウイルス性部位特異的統合のCD19-CARTを調製する。
【0121】
機器と材料:(i)Lonza 4D-Nucleofector(登録商標) System核移植装置
(ii)キットはP3 Primary Cell 4D-Nucleofector(登録商標)Xキット(Lonza、V4XP-3024)である。
(iii)CD3/CD28磁気ビーズ刺激の2~3日後のT細胞
(iv)市販のspCas9タンパク質(5ug/ul)(TrueCut(登録商標) Cas9タンパク質v2、Thermofisher)
(v)会社で合成れたsgRNA
(vi)相同性テンプレートを含む線形化された二本鎖D
【0122】
具体的な操作手順:
100μlのエレクトロポレーションカップに適している。
(1)82μlのSolution+18μlのサプリメント/各エレクトロポレーションカップに従って、エレクトロポレーションの総数に応じて、エレクトロポレーション溶液混合物を調製し、均一に混合し、室温に放置する。
(2)Cas9タンパク質をそれぞれAAVS1-sgRNA、PD1-sgRNA1、PD1-sgRNA2、TRAC-sgRNA及びB2M-sgRNAと共培養し、室温で10分間放置してRNPを形成させる。
(3)各部位に相同性アームを含む線形化された二本鎖DNAをRNPに加え、室温で2分間培養する。
(4)活性化状態のT細胞を収集し、5×10まで計数してエレクトロポレーション反応を実行する。
(5)細胞と「RNP+相同テンプレート」を十分に混合・再懸濁して、エレクトロポレーションカップに加える。
(6)エレクトロポレーション装置の電源を入れ、エレクトロポレーションカップをスロットに入れ、対応するプログラムEO115を選択してエレクトロポレーションを実行する。
(7)細胞を予熱した細胞培地に入れ、細胞インキュベーターで培養する。
【0123】
4、AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞に対して評価する
(1)本発明を使用すると、ウイルスを使用せずにAAVS1部位特異的統合のCAR-T細胞を構築でき、CARの陽性率は約10%~20%であり(図11)、ノックアウト率は約65%~90%であり(図11)、前記方法はCD3+、CD4+、D8+T細胞のいずれでもCAR要素の部位特異的統合を実現できる(図10)。
(2)本発明によって構築されたAAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞の使用は、比較的に高い生存率を有する(図13)。エレクトロポレーションのステップ自体はある程度の細胞死を引き起こすが、AAVS1部位特異的統合CD19-CART細胞の効果的な増殖には影響しない(図14~16)。
(3)AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、レンチウイルスで調製されたCD19-CART細胞と比較して、若干の違いはあるが、全体的に見ると、細胞表面マーカーの発現、細胞サブタイプの変化、サイトカインの分泌などの方面において類似的な特性を示している(図17~19)。
(4)レンチウイルスによって調製されたCD19-CART細胞と同様に、本発明によって構築されたAAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、インビトロ及びインビボのいいずれにおいても腫瘍細胞を効果的に殺すことができる(図20、21)。
【0124】
5、PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞に対して評価する
(1)本発明を使用すると、ウイルスを使用せずPD1部位特異的統合のCAR-T細胞を構築することができ、CARの陽性率は約10%~30%であり(図22)、ノックアウト率は約80%~95%である(図22)。
(2)本発明によって構築されたPD1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、レンチウイルスによって調製されたCD19-CART細胞よりも強い増殖能力を有している(図24)。
(3)レンチウイルスによって調製されたCD19-CART細胞と同様に、PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、腫瘍細胞の刺激に応答して表面マーカーの発現を活性化することができ、その中で、CD137の発現レベルの増加はより有意である(図25)。
(4)レンチウイルスによって調製されたCD19-CART細胞と同様に、PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、腫瘍細胞の刺激に応答してサイトカインを分泌することができ、その中で、IFN-γ分泌レベルの増加はより有意である(図26)。
(5)レンチウイルスにより調製されたCD19-CART細胞と比較して、本発明を使用して構築されたPD1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、インビボ及びインビトロの両方でより優れた殺腫瘍能を示している(図27、28)。
【0125】
なお、本出願では、下記の線型二本鎖DNA(ドナーDNA)を例として実験を実行していることを説明する。
【0126】
ここで、プラスミド配列に対して下記のように説明する。
(1)PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAプラスミドドナー配列を例としてベクターとドナーDNAの状況を説明する。
ベクターは環状構造であり、ベクターのバックボーンは、Lonza社から購入したプラスミドpmaxGFP(登録商標)からのものである。
ドナーDNA配列は線状二本鎖DNA配列における「PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)」と同じであり、即ち、配列番号12に示される通りである。
【0127】
(2)PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAプラスミドドナー配列を例としてベクターとドナーDNAの状況を説明する。
ベクターは環状構造であり、ベクターのバックボーンは、Lonza社から購入したプラスミドpmaxGFP(登録商標)からのものである。
ドナーDNA配列は線状二本鎖DNA配列の「PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)」と同じであり、即ち、配列番号13に示される通りである。
【0128】
線状二本鎖DNA(ドナーDNA)は配列番号12~38のいずれか一つに示される通りである。
【0129】
ここで、PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は、配列番号12に示される通りであり、PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAのドナー配列(HDR)は配列番号13に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの200bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号14に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの400bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号15に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの1600bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号16に示される通りであり、PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの200bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号17に示される通りであり、PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの400bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号18に示される通りであり、PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの1600bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号19に示される通りであり、AAVS1サイト1/4特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号20に示される通りであり、AAVS1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)配列番号21に示される通りであり、AAVS1サイト3特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号22に示される通りであり、TRACサイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号23に示される通りであり、TRACサイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号24に示される通りであり、TRACサイト3特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号25に示される通りであり、B2Mサイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号26に示される通りであり、AAVS1サイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの200bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号27に示される通りであり、AAVS1サイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの400bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号28に示される通りであり、AAVS1サイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号29に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のCD19-CARの相同性アームの200bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号30に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のCD19-CARの相同性アームの400bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号31に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のCD19-CARの相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号32に示される通りであり、TRACサイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの200bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号33に示される通りであり、TRACサイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの400bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号34に示される通りであり、TRACサイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号35に示される通りであり、B2Mサイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの200bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号36に示される通りであり、B2Mサイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの400bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号37に示される通りであり、B2Mサイト2特異的統合のCD19-CARの相同性アームの800bpDNAドナー配列(HDR)は配列番号38に示される通りである。
【0130】
比較例としての線状二本鎖DNA(ドナーDNA)の配列は配列番号39~44のいずれか一つに示される通りである。
【0131】
ここで、PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HITI-pb又は「HITI(pb)」と書く)は配列番号39に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HITI)は配列番号40に示される通りであり、PD1サイト1特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(MMEJ)は配列番号41に示される通りであり、PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HITI-pb又は「HITI(pb)」と書く)は配列番号42に示される通りであり、PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(HITI)は配列番号43に示される通りであり、PD1サイト2特異的統合のmTurquoise2の相同性アームの800bpDNAドナー配列(MMEJ)は配列番号44に示される通りである。
【0132】
本出願の図面において、「Untreated T」は未処理のT細胞を示し、「対照」は相同性テンプレートとCas9のみをエレクトロポレーションしたT細胞を示し、「LV-19bbz」はレンチウイルスで製造されたCD19-CART細胞を示し、「AAVS1-19bbz」は非ウイルス性AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞を示し、「PD1-19bbz」は非ウイルス性PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞を示す。
【0133】
実施例1 線状二本鎖DNAを相同性テンプレートとする方法は、プラスミドより優れており、相同性テンプレートの相同性アームの長さを800bpに設定する時、最高の組換え率を有し、最も多い陽性細胞を得ることができ、最適条件である。
【0134】
最初に、T細胞に対するプラスミドと線状二本鎖DNAの形でテンプレートを送達する効果を比較した。その結果、テンプレートが線状二本鎖DNAの形で送達された場合、細胞の生存率がプラスミドよりも有意に高いことが示された(図2)。次に、組換え率に対する異なるテンプレート設計の効果を比較し、その中で、HDRは800bpの相同性アームを含むテンプレートであり、MMEJは20bpのマイクロ相同性アームを含むテンプレートであり、HITIは両側にsgRNA標的を含むが相同性アームがないテンプレートであり、HITI(pb)は、HITIに基づいて両端に50bpの保護塩基を付加し、PD1サイト1のHITI、HITI(pb)、MMEJのドナー配列はそれぞれ配列番号39~41に示される通りであり、PD1サイト2のHITI、HITI(pb)、MMEJのドナー配列は、それぞれ配列番号42~44に示される通りであった。その結果、HDRテンプレートが最も高い組換え率を有していることが分かった(図3)。上記の結果に基づいて、相同性アームを含む線状二本鎖DNAをテンプレートとして使用して、非ウイルス性部位特異的統合のCAR-T細胞を構築することが最適方法であることが分かった(図1)。
【0135】
その後、相同性アームの長さに対する影響を比較した。先ずは、蛍光タンパク質mTurquoise2配列を外因性配列として使用し、2つのPD1サイトで組換え実験を実行した(図4)。その結果、相同性アームの長さが200bp、400bp、800bp、1600bpである時、いずれも良好な統合効果を示し、相同性アームの長さが長くなるにつれてmTurquoise2の統合率は増加したが、1600bpは800bpと比較して統合率の有意な増加を示さなかった。一方、細胞の生存率は、相同性アームの長さと有意に負の関係を示した。組換え率と細胞の生存率を考慮して、mTurquoise2陽性の生存細胞の数を分析した。その結果、相同性アームの長さが800bpである時、最も多くの陽性細胞が得られることが示された。これに基づいて、PD1の高効率統合サイトに対して再度検証を実行し、AAVS1、TRAC、B2Mの高効率統合サイトに対してスクリーニングを実行した。ノックアウト率とmTurquoise2組換え率を比較することで、最終的にPD1-sgRNA1、AAVS1-sgRNA2、TRAC-sgRNA2、B2M-sgRNA2が好ましい配列であることを確定した(図5~8)。最後に、外因性配列としてCAR要素を使用して、AAVS1、PD1、TRAC、B2M部位特異的統合のCD19-CART細胞をそれぞれ構築し、異なる長さの相同性アームの効果を比較した。mTurquoise2組換えの結果と一致して、相同性アームが800bpである時、最大数の陽性細胞を調製することができた(図9)。従って、800bpの相同性アームを含むHDRテンプレートが、部位特異的統合のT細胞を構築するための最適条件であることを確認した。
【0136】
この前の実験では、主にCD3T細胞の部位特異的統合条件を調査及び最適化した。これに基づいて、同じ方法を使用してCD4及びCD8T細胞を編集する試みをした。結果は、この方法がCD3、CD4、及びCD8T細胞において近似した部位特異的統合率を有していることを示した(図10)。
【0137】
実施例2 本発明の方法を使用して、非ウイルス性AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞を構築し、その機能を検出する
本発明の方法を使用して、異なるドナー細胞でAAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞を成功的に構築し、配列決定の検証を実行し、総陽性率は約10%~20%であり、ノックアウト率は約65%~90%であり、より優れた調製安定性を示した(図11、12)。これに基づいて、AAVS1部位特異的統合のD19-CARTの生物学的機能をテストした。実験結果は、AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞が高い生存率を有していることを示した(図13)。エレクトロポレーションステップ自体はある程度の細胞死を引き起こしたが、T細胞のインビトロ増殖能力は有意な影響を受けなかった(図14)。腫瘍標的細胞との接触後も、AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞は十分に増殖した(図15、16)。その後、細胞表面マーカーの発現、細胞サブタイプの変化、サイトカインの分泌等を検出した。全体として、レンチウイルスによって調製されたCD19-CART細胞と同様に、AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、腫瘍細胞に対して有意な応答を生み出すことができた(図17~19)。しかし、いくつかの点で、両者には所定の違いがあった。最後に、AAVS1部位特異的統合のCD19-CART細胞の殺腫瘍能力を評価した。インビボ及びインビトロの結果は、レンチウイルスで調製されたCD19-CART細胞と同様に、腫瘍細胞に対して良好な殺傷効果を有していることを証明した(図20、21)。
【0138】
実施例3 本発明の方法を使用して、非ウイルス性PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞を構築し、その機能を検出する
本発明の方法を使用して、異なるドナー細胞でPD1部位特異的統合CD19-CART細胞を成功的に構築し、配列決定の検証を実行し、総陽性率は約10%~30%であり、ノックアウト率は約80%~95%であり、より優れた調製安定性を示した(図22、23)。これに基づいて、PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞の生物学的機能をテストした。実験結果は、腫瘍標的細胞と接触した後、PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞が、レンチウイルスによって調製されたCAR-T細胞よりも強い増殖能を有していることを示した(図24)。レンチウイルスによって調製されたCD19-CART細胞と同様に、PD1部位特異的統合のCD19-CART細胞は、腫瘍細胞の刺激に応答して表面マーカーの発現を活性化し、サイトカインを分泌し、その中で、CD137の発現レベルの増加はより明らかであり(図25)、IFN-γ分泌レベルの増加はより有意であった(図26)。最後に、インビボ及びインビトロ実験により、レンチウイルスによって調製されたCD19-CART細胞と比較して、本発明によって構築されたPD1部位特異的統合のCD19-CART細胞がより強い腫瘍殺傷能力を有していることを証明した(図27、28)。
【0139】
要約すると、本発明の方法を使用して、サイトスクリーニングを組み合わせて、AAVS1、PD1、TRAC、B2M部位特異的統合のCAR-T細胞を、CRISPR/Cas9遺伝子編集ツールを使用して成功的に構築することができる。本発明は、先行技術と比較して、本発明の方法によって調製された部位特異的統合のCAR-T細胞がより高い陽性率を有し、有効に機能できることが証明された。従来のレンチウイルス調製法と比較して、この技術的方法は、CAR-Tの調製プロセスでウイルスを使用する高コストを削減し、無作為なウイルスの挿入によって引き起こされる安全上の問題を軽減し、CAR-T製品の均一性を向上させることができる。さらに、この方法は、CAR-T細胞の多様な変換を実現し、CAR-T細胞の抗腫瘍能力を高めることもできる。この実施例は、本発明によって保護されたT細胞における外因性配列の部位特異的統合を提供する方法の重要性及び価値を証明したが、AAVS1、PD1、TRAC、B2Mの部位特異的統合のCAR-T細胞の調製に限定されず、他の部位の外因性配列の部位特異的統合及び他のT細胞免疫療法の開発にまで拡張することができる。
【0140】

本出願で言及されるすべての文献は、あたかもそれぞれの文献が参照により個別に組み込まれるかのように、参照により本出願に組み込まれる。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に対して様々な変更又は修正を加えることができ、これらの均等な形態も添付の特許請求の範囲によって定義される範囲内に落ちることを理解されたい。
図1
図2
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図10
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【配列表】
2023541028000001.app
【国際調査報告】