IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ フローリー インスティテュート オブ ニューロサイエンス アンド メンタル ヘルスの特許一覧

<>
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図1
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図2
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図3
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図4
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図5
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図6
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図7
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図8
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図9
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図10
  • 特表-ペプチド及びタンパク質の誘導体化 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-28
(54)【発明の名称】ペプチド及びタンパク質の誘導体化
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/62 20060101AFI20230921BHJP
   C07K 14/605 20060101ALI20230921BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230921BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20230921BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20230921BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C07K14/62 ZNA
C07K14/605
A61P3/10
A61K38/26
A61K38/28
A61P3/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515211
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 AU2020050934
(87)【国際公開番号】W WO2022047517
(87)【国際公開日】2022-03-10
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】516365921
【氏名又は名称】ザ フローリー インスティテュート オブ ニューロサイエンス アンド メンタル ヘルス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】モハメド アクター ホッサイン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ウェイド
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA06
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA23
4C084BA26
4C084BA34
4C084CA59
4C084DB34
4C084DB35
4C084NA03
4C084NA07
4C084ZC351
4C084ZC352
4H045AA20
4H045BA53
4H045CA40
4H045DA30
4H045DA37
4H045EA20
4H045FA33
4H045FA50
4H045GA25
(57)【要約】
本開示は、シアリルグリコシル化ペプチド及びタンパク質を調製することを含む、ペプチド及びタンパク質の誘導体を調製する方法、そして得られるペプチド及びタンパク質の誘導体、並びにそれらの使用に関する。本開示はさらに、ペプチド又はタンパク質のフィブリル化を低減する方法であって、前記ペプチド又はタンパク質の誘導体を調製することによる方法に関する。本開示はさらに、ペプチド及びタンパク質の安定した類似体、特に前記ペプチド及びタンパク質の誘導体を調製する方法で使用される安定したインスリン類似体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法であって、以下の工程:a) 非保護求核基を含むアミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質を提供する工程、およびb) 該求核基を、脱離基で置換されたグリコシル部分と反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供する工程、を含む方法。
【請求項2】
前記ペプチド又はタンパク質が、インスリン及びグルカゴン、並びにその誘導体、変異体及び断片から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、酵素の使用を伴わない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記グリコシル部分が、シアリルグリコシル部分である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記脱離基で置換されたグリコシル部分が、ブロモ-アセトアミジルオリゴ糖である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記グリコシル部分が、グルコースを含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記非保護求核基を含むアミノ酸残基が、システイン残基又はリジン残基である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記非保護求核基を含むアミノ酸残基が、システイン残基である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程a)に使用するためのペプチド又はタンパク質が、追加残基として非保護求核基を含むアミノ酸残基の導入又はアミノ酸置換によって天然ペプチド又はタンパク質から修飾される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記グリコシル化されるペプチドがインスリン又はその類似体であり、かつ、非保護求核基を含むアミノ酸残基が、B鎖のN末端に組み込まれる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記グリコシル化されるペプチドがグルカゴン又はその類似体であり、かつ、非保護求核基を含むアミノ酸残基が、天然グルカゴンの25位のトリプトファン残基の置換で組み込まれる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチド又はタンパク質の修飾バージョンが、固相ペプチド合成によって調製される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程a)が、以下の工程:
a1) 保護基でアミノ酸残基の求核基を保護する工程;
a2) アミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質の修飾バージョンを調製する工程、ここで、該アミノ酸残基の求核基は保護されている;次いで
a3) 求核基を脱保護する工程、
を含む。、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記製造したグリコシル化ペプチド又はタンパク質の少なくとも95%が、該ペプチド又はタンパク質上の一つの位置でグリコシル化される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるグリコシル化ペプチド又はタンパク質。
【請求項16】
ペプチド又はタンパク質のフィブリル化を阻害する方法であって、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法によって該ペプチド又はタンパク質をグリコシル化することを含む方法。
【請求項17】
鎖間及び鎖内ジスルフィド架橋及び少なくとも1つのシステイン残基を含むインスリン類似体。
【請求項18】
前記システイン残基が、インスリンB鎖のN末端に位置している、請求項17に記載のインスリン類似体。
【請求項19】
前記システイン残基のチオール基が、保護基によって保護される、請求項17又は請求項18に記載のインスリン類似体。
【請求項20】
前記システイン残基が、非保護システイン残基である、請求項17又は請求項18に記載のインスリン類似体。
【請求項21】
インスリン誘導体を調製する方法における、請求項16~19のいずれか一項に記載のインスリン類似体の使用。
【請求項22】
前記インスリン誘導体が、グリコインスリンである、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
脱離基で置換されたグリコシル部分と、請求項17、18又は20に記載のインスリン類似体とを反応させることを含む、グリコインスリンを調製する方法。
【請求項24】
天然アミノ酸残基の置換においてシステイン残基を含む、グルカゴン類似体。
【請求項25】
前記システイン残基が、天然グルカゴンの25位にてトリプトファン残基に代わって置換される、請求項24に記載のグルカゴン類似体。
【請求項26】
前記システイン残基のチオール基が、保護基によって保護される、請求項24又は請求項25に記載のグルカゴン類似体。
【請求項27】
前記システイン残基が、非保護システイン残基である、請求項24又は請求項25に記載のグルカゴン類似体。
【請求項28】
グルカゴン誘導体を調製する方法における、請求項24~27のいずれか一項に記載のグルカゴン類似体の使用。
【請求項29】
前記グルカゴン誘導体が、グリコグルカゴンである、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
脱離基で置換されたグリコシル部分と、請求項24、25又は27に記載のグルカゴン類似体とを反応させることを含む、グリコグルカゴンを調製する方法。
【請求項31】
糖尿病及び/又は高血糖を治療する方法であって、それを必要としている対象に、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるグリコシル化インスリンの治療的有効量を投与することを含む、方法。
【請求項32】
血糖レベルを下げる方法であって、それを必要としている対象に、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるグリコシル化インスリンの治療的有効量を投与することを含む方法。
【請求項33】
糖尿病及び/又は高血糖の治療のための薬剤の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるグリコシル化インスリンの使用。
【請求項34】
低血糖を治療する方法であって、それを必要としている対象に、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるグリコシル化グルカゴンの治療的有効量を投与することを含む方法。
【請求項35】
血糖レベルを上げる方法であって、それを必要としている対象に、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるグリコシル化グルカゴンの治療的有効量を投与することを含む、方法。
【請求項36】
低血糖の治療のための薬剤の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるグリコシル化グルカゴンの使用。
【請求項37】
天然インスリンと比べてフィブリル化傾向が低い、シアリルグリコシル化インスリン、又はその類似体、変異体若しくは誘導体。
【請求項38】
天然グルカゴンと比べてフィブリル化傾向が低い、シアリルグリコシル化グルカゴン、又はその類似体、変異体若しくは誘導体。
【請求項39】
グリコインスリンを調製する方法であって:a) インスリンのB鎖のN末端に見られる追加システイン残基を含む修飾インスリン類似体を提供し;そして、b) 脱離基で置換されたグリコシル部分と、システイン残基のチオール基を反応させて、グリコインスリンを提供すること含む、方法。
【請求項40】
前記グリコシル部分が、シアリルグリコシル部分である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記工程a)が、以下の工程:
a1) 保護基でシステイン残基のチオール基を保護する工程;
a2) 追加システイン残基を含む修飾インスリン類似体を調製する工程、ここで、該システイン残基のチオール基が、保護されている;次いで
a3) 該チオール基を脱保護する工程、
を含む、請求項39又は請求項40に記載の方法。
【請求項42】
グリコグルカゴンを調製する方法であって:
a) グルカゴンペプチド配列の25位にて置換された追加システイン残基を含む修飾グルカゴン類似体を提供する工程;および、
b) 脱離基で置換されたグリコシル部分と、システイン残基のチオール基を反応させて、グリコグルカゴンを提供する工程、
を含む方法。
【請求項43】
前記グリコシル部分が、シアリルグリコシル部分である、請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、大まかに、ペプチド及びタンパク質を誘導体化する方法、並びにグリコシル化によってペプチド及びタンパク質のフィブリル化を阻害する方法に関する。例示的な実施形態は、フィブリル化の対象とならないグリコシル化インスリンとグルカゴン類似体及び誘導体、並びに、斯かる類似体及び誘導体の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
過去20年間で、糖尿病の管理のためにインスリン類似体の開発が著しく進展した。しかしながら、インスリン類似体は、インビトロとインビボの両方において、医薬製剤の保存期限を短縮するオリゴマー及びアミロイドタイプフィブリルを形成する。これは、フィブリルがインスリン送達カテーテルを塞ぐ可能性があり、用量不足につながりかねない、外部インスリンポンプを使用する患者にとって特に問題が多い。インスリンのフィブリル化に関する問題の大きさは、「失効」薬物の廃棄の観点において甚大である。例えば、米国では、インスリンポンプ使用者だけをとっても、インスリン有効期限がきっかり2日間から6日間まで延長された場合、年間10億USドル超の節約が実現することもあり得る。
【0003】
フィブリル化はまた、ペプチドホルモンであるグルカゴンの使用に存在する障害でもある。グルカゴンは、糖尿病の患者における低血糖を治療するのに使用される。ヒトインスリンのようなグルカゴンはまた、溶解性に必要である酸性pHにてアミロイド様フィブリル構造を形成することも知られているので、そのため、典型的には、凍結乾燥粉末として処方される。グルカゴンはまた、生理的pHにて、薬物としてのその有効性に対して有害効果を有するフィブリルも形成する。
【0004】
ペプチド及びタンパク質によって形成されたフィブリルは、典型的に、不溶性であるので、潜在的に毒性である。特定のペプチド及びタンパク質薬物のフィブリル化は、特に、高濃度、及び/又は高温にて起こりやすい。安定した冷蔵の利用が制限され得る貧しい熱帯地方における使用のために、高温でのフィブリル化を予防することが特に望ましい。
【0005】
これにより、インスリン、グルカゴン、他のペプチド及びタンパク質薬物の非フィブリル性類似体の開発は、高い重要性がある。とりわけ、効果的かつ再現性の高い方法によって製造され得る、非フィブリル性ペプチド及びタンパク質薬物、特にインスリン及びグルカゴン類似体を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
開示の概要
本開示は、ペプチド及びタンパク質が、該ペプチド又はタンパク質にシステイン残基の導入と、それに続く、脱離基を伴ったシステインのチオール基とグリコシル部分との間のS2反応を介したグリコシル化によって、グリコシル化部位の高特異性で、効率的に誘導体化され得る、特にグリコシル化され得る、発明者らの思わぬ発見に基づいている。さらに、本開示は、鎖間及び鎖内ジスルフィド架橋、並びに単一の非保護システインを含むインスリン類似体が安定しており、グリコシル化又は他の誘導体化のための有用な前駆体であるという発見に基づいている。同様に、非保護求核基、特にシステイン残基、を有する置換アミノ酸を含む安定したグルカゴン類似体が、調製され、そして、グリコシル化反応又は他の誘導体化のための有用な前駆体であった。
【0007】
第一の態様によると、本開示は、ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法であって、以下の工程:a) 非保護求核基を含むアミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質を提供し、そして、b) 該求核基を、脱離基で置換されたグリコシル部分と反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供すること、を含む方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、ペプチド又はタンパク質は、インスリン及びグルカゴン、並びにその誘導体、変異体及び断片から成る群から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態において、その方法は、酵素の使用を伴わない。
【0010】
いくつかの実施形態において、グリコシル部分は、シアリルグリコシル部分である。いくつかの実施形態において、脱離基で置換されたグリコシル部分は、ブロモ-アセトアミジルオリゴ糖である。いくつかの実施形態において、グリコシル部分は、グルコースを含まない。
【0011】
いくつかの実施形態において、非保護求核基を含むアミノ酸残基は、システイン又はリジン残基、特にシステイン残基である。いくつかの実施形態において、工程a)に使用するためのペプチド又はタンパク質は、追加残基として非保護求核基を含むアミノ酸残基の導入又はアミノ酸置換によって天然ペプチド又はタンパク質から修飾される。
【0012】
グリコシル化されるペプチドがインスリン又はその類似体である実施形態において、非保護求核基を含むアミノ酸残基、任意選択でシステイン残基は、B鎖のN末端に組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、グリコシル化されるペプチドは、グルカゴン又はその類似体であり、かつ、非保護求核基を含むアミノ酸残基は、天然グルカゴンの25位のトリプトファン残基の置換で組み込まれる。
【0013】
いくつかの実施形態において、ペプチド又はタンパク質の修飾バージョンは、固相ペプチド合成によって調製される。
【0014】
いくつかの実施形態において、工程a)は、以下の工程:
a1) 保護基を用いてアミノ酸残基の求核基を保護し;
a2) アミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質の修飾バージョンを調製し、ここで、該アミノ酸残基の求核基は保護され;次いで
a3) 求核基を脱保護すること、
を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、製造したグリコシル化ペプチド又はタンパク質の少なくとも95%は、該ペプチド又はタンパク質上の一つの位置でグリコシル化される。
【0016】
第二の態様によると、本開示は、第一の態様の方法によって得られるグリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供する。
【0017】
第三の態様によると、本開示は、ペプチド又はタンパク質のフィブリル化を阻害する方法であって、第一の態様による方法によって該ペプチド又はタンパク質をグリコシル化することを含む方法を提供する。
【0018】
第四の態様によると、本開示は、鎖間及び鎖内ジスルフィド架橋及び少なくとも1つのシステイン残基を含むインスリン類似体を提供する。いくつかの実施形態において、システイン残基は、インスリンB鎖のN末端に位置している。いくつかの実施形態において、システイン残基のチオール基は、保護基によって保護される。いくつかの代替の実施形態において、システイン残基は、非保護システイン残基である。
【0019】
第五の態様によると、本開示は、インスリン誘導体を調製する方法における第四の態様によるインスリン類似体の使用を提供する。いくつかの実施形態において、インスリン誘導体は、グリコインスリンである。
【0020】
第六の態様によると、本開示は、脱離基で置換されたグリコシル部分と、第四の態様のインスリン類似体とを反応させることを含む、グリコインスリンを調製する方法を提供する。
【0021】
第七の態様によると、本開示は、天然アミノ酸残基の置換においてシステイン残基を含む、グルカゴン類似体を提供する。いくつかの実施形態において、システイン残基は、天然グルカゴンの25位にてトリプトファン残基に代わって置換される。いくつかの実施形態において、システイン残基のチオール基は、保護基によって保護される。いくつかの代替の実施形態において、システイン残基は、非保護システイン残基である。
【0022】
第八の態様によると、本開示は、グルカゴン誘導体を調製する方法における第七の態様によるグルカゴン類似体の使用を提供する。いくつかの実施形態において、グルカゴン誘導体は、グリコグルカゴンである。
【0023】
第九の態様によると、本開示は、脱離基で置換されたグリコシル部分と、第七の態様のグルカゴン類似体とを反応させることを含む、グリコグルカゴンを調製する方法を提供する。
【0024】
第十の態様によると、本開示は、糖尿病及び/又は高血糖を治療する方法であって、それを必要としている対象に、第一の態様の方法によって得られるグリコシル化インスリンの治療的有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0025】
第十一の態様によると、本開示は、血糖レベルを下げる方法であって、それを必要としている対象に、第一の態様の方法によって得られるグリコシル化インスリンの治療的有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0026】
第十二の態様によると、本開示は、糖尿病及び/又は高血糖の治療のための薬剤の製造における第一の態様の方法によって得られるグリコシル化インスリンの使用を提供する。
【0027】
第十三の態様によると、本開示は、低血糖を治療する方法であって、それを必要としている対象に、第一の態様による方法によって得られるグリコシル化グルカゴンの治療的有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0028】
第十四の態様によると、本開示は、血糖レベルを上げる方法であって、それを必要としている対象に、第一の態様の方法によって得られるグリコシル化グルカゴンの治療的有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0029】
第十五の態様によると、本開示は、低血糖の治療のための薬剤の製造における第一の態様による方法によって得られるグリコシル化グルカゴンの使用を提供する。
【0030】
第十六の態様によると、本開示は、シアリルグリコシル化インスリン、又はその類似体、変異体若しくは誘導体を提供し、ここで、該シアリルグリコシル化インスリンは、天然インスリンと比べてフィブリル化傾向が低い。
【0031】
第十七の態様によると、本開示は、シアリルグリコシル化グルカゴン、又はその類似体、変異体若しくは誘導体を提供し、ここで、該シアリルグリコシル化グルカゴンは、天然グルカゴンと比べてフィブリル化傾向が低い。
【0032】
第十八の態様によると、本開示は、グリコインスリンを調製する方法であって:a) インスリンのB鎖のN末端に見られる追加システイン残基を含む修飾インスリン類似体を提供し;そして、b) 脱離基で置換されたグリコシル部分と、システイン残基のチオール基を反応させて、グリコインスリンを提供すること、含む方法を提供する。該グリコシル部分は、任意選択で、シアリルグリコシル部分であってもよい。工程a)は、任意選択で、a1) 保護基を用いてシステイン残基のチオール基を保護し;a2) 追加システイン残基を含む修飾インスリン類似体を調製し、ここで、該システイン残基のチオール基は、保護され;次に、a3) 該チオール基を脱保護すること、を含んでもよい。
【0033】
第十九の態様によると、本開示は、グリコグルカゴンを調製する方法であって:a) グルカゴンペプチド配列の25位にて置換された追加システイン残基を含む修飾グルカゴン類似体を提供し;そして、b) 脱離基で置換されたグリコシル部分と、システイン残基のチオール基を反応させて、グリコグルカゴンを提供すること、を含む方法を提供する。該グリコシル部分は、任意選択で、シアリルグリコシル部分であってもよい。
【0034】
本開示の例示的な実施形態は、以下の図面に関して非限定的な例のみによって、本明細書中に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】グリコシル化されていないインスリン誘導体である、非グリコインスリンを調製するためのプロセスを示すスキーム。
【0036】
図2図1のスキームによって調製された非グリコインスリンをグリコシル化するためのプロセスを示すスキーム。
【0037】
図3】(A) (i) 2時間、(ii) 8時間、(iii) 24時間における図2のグリコシル化反応の逆相高速液体クロマトグラフィーモニタリング、及び(iv) 精製グリコインスリンのRP-HPLC、並びに(B) (i) チオールインスリン、(ii)グリコインスリン、及び(iii) インスリン二量体のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF MS)。
【0038】
図4】(A) インスリン受容体A及び(B) インスリン受容体Bへのインスリン、非グリコインスリン、及びグリコインスリンの結合。
【0039】
図5】(A) 腹腔内注射によるインスリン、非グリコインスリン、グリコインスリン、及びグラルギン、並びに(B) 皮下注射によるインスリン、非グリコインスリン、及びグリコインスリンの投与後の血漿グルコースにおける変化を示すインスリン耐性試験結果。
【0040】
図6】6時間及び8時間後の(A) 50μMのインスリン溶液、(B)200μMのインスリン溶液及び(C) 200μMのグリコインスリン溶液の原子間力顕微鏡像。
【0041】
図7】25℃におけるリン酸緩衝液(pH7.5)中のインスリン及びグリコインスリンの円偏光二色性(CD)スペクトル。
【0042】
図8】37℃におけるインスリン及びグリコインスリンの血清安定性アッセイ結果。
【0043】
図9】(A) 天然グルカゴン及び(B) グリコシル化グルカゴンの構造。
【0044】
図10】pcDNA3-hGCGRを用いて一過性に形質移入されたHEK293AWT細胞におけるグルカゴン及びグリコグルカゴンのcAMP活性分析。データは、FSK(10μM)対照の最大応答に対して正規化される。
【0045】
図11】4日目における37℃にてインキュベートされた(A)グルカゴン(1mg/mL=287mM)及び(B)グリコグルカゴン(287mM)溶液の代表的な原子間力顕微鏡の高さ画像。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の詳細な説明
この明細書を通じて、その文脈が別段必要とする場合を除き、「含む」という単語又は「含む(複数形)」若しくは「含むこと」などのその変化形は、明示された工程、要素若しくは整数、又は工程群、要素群若しくは整数群を含むことを意味するが、その他の工程、要素若しくは整数、又は工程群、要素群若しくは整数群を除外するものではないことは理解される。よって、この明細書の文脈において、「含む」という用語は、「主として含むが、必ずしもそれだけを含むわけではない」。
【0047】
この明細書との関連において、「約」という用語は、同じ機能又は結果が得られるという文脈において、列挙された値と同等であると当業者が考える数値範囲を指すものと理解される。
【0048】
この明細書との関連において、「a」及び「an」という用語は、1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つの)文法上の物品対象を指す。例として、「要素(an element)」とは1つの要素又は2つ以上の要素を意味する。
【0049】
「対象」という用語は、本明細書中で使用される場合、哺乳類を指し、それには、ヒト、霊長類、家畜類(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット)、演技及び興行用動物(例えば、ウマ、家畜、イヌ、ネコ)、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ)、及び捕獲野生動物が挙げられる。特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0050】
「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって一つに連結されたアミノ酸で構成されたポリマーを意味する。「ポリペプチド」又は「タンパク質」という用語はまた、斯かるポリマーを指すのに使用されてもよいが、場合によっては、ポリペプチド又はタンパク質は、ペプチドより長くてもよい(すなわち、より多くのアミノ酸残基で構成される)。典型的に、ペプチドという用語は、最大約70個のアミノ酸から成るアミノ酸の配列を定義するのに使用される。「タンパク質」という用語は、典型的には、約70個超のアミノ酸から成るアミノ酸の配列を定義するのに使用されてもよい。それにもかかわらず、当業者によく知られるように、その用語は、本明細書中で互換的に使用され得、かつ、それらの使用の文脈から容易に理解され得る。
【0051】
本開示の態様は、ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法であって、以下の工程:a) 非保護求核基を含むアミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質を提供し;そして、b) 脱離基で置換されたグリコシル部分と、求核基とを反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供すること、を含む方法を提供する。
【0052】
その方法が適用されるペプチド又はタンパク質は、グリコシル化することが望ましく、かつ、グリコシル化に適している任意のペプチド又はタンパク質であってもよい。特に、そのペプチド又はタンパク質は、フィブリル化を受けるものである。本明細書中に記載される例示的な実施形態において、そのペプチド又はタンパク質は、インスリンであっても、又はグルカゴンであってもよい。インスリンペプチドのA鎖は、配列番号4に規定されるアミノ酸配列、又はその変異体を含み得る。インスリンペプチドのB鎖は、配列番号2に規定されるアミノ酸配列、又はその変異体を含み得る。そのグルカゴンは、配列番号5に規定されるアミノ酸配列、又はその変異体を含み得る。
【0053】
インスリンは、3つのジスルフィド架橋の安定したネットワークを形成する6つのシステイン残基を有するヘテロ二量体ペプチド(A鎖とB鎖)である。本明細書中に例示されるように、そして、本開示の実施形態によると、インスリンは、B鎖のN末端における追加システイン残基の導入によって修飾されて、修飾チオールインスリンを提供する。そのチオールインスリンを、S2化学反応を介して卵黄から単離されたヒト型シアリルオリゴ糖から得られるブロモ-アセトアミジル十一糖と反応させて、高い生成物均質性を有する高収率で、単標識ジシアロ-インスリン(本明細書では「グリコインスリン」と呼ばれる)を提供する。インスリンのB鎖のN末端は、以下の2つの理由:(i) それが顕著な活性喪失なしに修飾を許容する;及び(ii) 遺伝子組み換えプロインスリン(成熟インスリン類似体に対する単鎖前駆体)のN末端機能化がスケールアップに適している、によってグリコシル化部位として選択された。
【0054】
得られるグリコインスリンは、インビトロにおけるインスリン受容体A及びBに対して天然に近い結合親和力、並びに投与経路に無関係の(皮下対腹腔)、インビトロにおける高いグルコース低下効果を示した。そのグリコインスリンは、インスリン様螺旋構造を保持し、ヒト血清中で安定性の向上を示した。重要なことには、グリコインスリンは、高濃度及び高温の両方でフィブリルを形成しなかった。製造されたグリコインスリンは、天然インスリンに代わって様々な適用において、かつ、インスリンポンプにおける特定の利点のために、使用されてもよく、そしてそれは、特に、インスリンのフィブリル化によって引き起こされる問題の影響を受けやすい。
【0055】
さらに本明細書中に例示されるとおり、そして、本開示の実施形態によると、グルカゴンは、システイン残基を用いたトリプトファン25残基の置換によって修飾されて、修飾グルカゴンを提供する。修飾グルカゴンを、S2化学反応を介して卵黄から単離されたヒト型シアリルオリゴ糖から得られるブロモ-アセトアミジル十一糖と反応させて、高収率かつ高い生成物均質性で、単標識ジシアロ-グルカゴン(本明細書では「グリコグルカゴン」と呼ばれる)を提供する。調製したグリコグルカゴンは、天然グルカゴンと比較して、グルカゴン受容体における生物学的活性を保有し、かつ、有意に低いフィブリル化特性を示した。
【0056】
従って、本開示の特定の実施形態は、誘導体部分を含む、ペプチド又はタンパク質の誘導体を調製する方法であって、以下の工程:a) 非保護求核基を含むアミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質を提供し、そして、b) 該求核基を、脱離基で置換された誘導体部分と反応させて、ペプチド又はタンパク質の誘導体を提供すること、を含む方法を提供する。誘導体部分を含むペプチド又はタンパク質の誘導体は、「誘導体化」ペプチド又はタンパク質と本明細書で言及され得る。特に好ましい実施形態において、その方法は酵素の使用を伴わない。
【0057】
本願の実施例によると、本開示の特定の実施形態は、ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法であって、以下の工程:a) 非保護求核基を含むアミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質を提供し;そして、b) 脱離基で置換されたグリコシル部分と、求核基とを反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供すること、を含む方法を提供する。特に好ましい実施形態において、その方法は酵素の使用を伴わない。
【0058】
いくつかの実施形態において、工程a)における使用のためのペプチド又はタンパク質は、追加残基としての非保護求核基又はアミノ酸置換を含むアミノ酸残基の導入によって天然ペプチド又はタンパク質から修飾される。従って、本開示は、誘導体部分を含むペプチド又はタンパク質の誘導体を調製する方法であって、以下の工程:a) 付加又は置換アミノ酸残基を含むようにペプチド又はタンパク質を修飾し、ここで、該アミノ酸残基は非保護求核基を含み;そして、b) 該求核基を、脱離基で置換された誘導体部分と反応させて、ペプチド又はタンパク質の誘導体を提供すること、を含む方法をさらに提供する。特定の実施形態によると、本開示は、ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法であって、以下の工程:a) 付加又は置換アミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質を修飾し、ここで、該アミノ酸残基は非保護求核基を含み;そして、b) 求核基を、脱離基で置換されたグリコシル部分と反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供すること、を含む方法をさらに提供する。本開示は、誘導体部分を含むペプチド又はタンパク質の誘導体を調製する方法であって、以下の工程:a) 天然ペプチド又はタンパク質と比べて付加又は置換アミノ酸残基を含む修飾ペプチド又はタンパク質を提供し、ここで、該アミノ酸残基は非保護求核基を含み;そして、b) 該求核基を、脱離基で置換された誘導体部分と反応させて、ペプチド又はタンパク質の誘導体を提供すること、を含む方法をさらに提供する。本開示は、ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法であって、以下の工程:a) 天然ペプチド又はタンパク質と比べて付加又は置換アミノ酸残基を含む修飾ペプチド又はタンパク質を提供し、ここで、該アミノ酸残基は非保護求核基を含み;そして、b) 求核基を、脱離基で置換されたグリコシル部分と反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供すること、を含む方法をさらに提供する。
【0059】
本発明者らは、驚いたことに、誘導体化、特にグリコシル化、のそうした方法が、所望の生成物に関して高収率を有し、及びグリコシル化部位に関して高い均質性を有する、効果的かつ再現性の高い様式で、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を調製するのに使用できることがわかった。これは、典型的に、様々な部位におけるグリコシル化の不均一生成物につながる既存の酵素的グリコシル化方法とは対照的に有利である。本開示の実施形態による方法から得られるグリコシル化タンパク質は、望ましい生物学的活性を維持することがわかり、それと同時に、フィブリル形成が低減されているか又はフィブリル形成がないことが実証された。そのタンパク質又はペプチドがインスリンである特定の実施形態において、グリコシル化インスリンが、その天然の構造的な折り畳みと所望の生物学的活性を維持し、それと同時に、高温及び高濃度におけるフィブリルの形成に耐性であり、かつ、インビトロにおいてヒト血清中で高い安定性を有することがわかった。同様に、タンパク質又はペプチドがグルカゴンである特定の実施形態において、グリコシル化グルカゴンが、所望の生物学的活性を維持し、それと同時に、著しく低減されたフィブリル化を示すか又はフィブリル化がなかったこともわかった。
【0060】
ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法が、本明細書中に開示されている。グリコシル化とは、ペプチド又はタンパク質に共有結合されたグリコシル(糖)部分の導入を指す。グリコシル化は、有利なことに、高温及び高濃度においてペプチド又はタンパク質のフィブリル化を阻害すると同時に、望ましい生物学的活性を維持することが示された。
【0061】
本明細書中に記載した方法のある実施形態によりペプチド又はタンパク質をグリコシル化するなど、ペプチド又はタンパク質の誘導体を調製するために、典型的には、付加又は置換アミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質の修飾バージョンが最初に提供される。「修飾」という用語は、本明細書中で使用される場合、ペプチド又はタンパク質の修飾バージョン(修飾ペプチド又はタンパク質とも呼ばれる)との関連において、斯かる未変更ペプチド又はタンパク質の1若しくは複数のアミノ酸位置において誘導体化(すなわち、誘導体部分の導入)、例えば、グリコシル化、することが所望されるなど、その未変更状態のペプチド又はタンパク質と異なるペプチド又はタンパク質を意味する。その未変更状態のペプチド又はタンパク質は、天然に生じる又は天然のペプチド又はタンパク質であってもよいし、或いはその誘導体、変異体又は断片であってもよい。
【0062】
「追加」アミノ酸残基は、ペプチド又はタンパク質の未変更アミノ酸配列、例えば、ペプチド又はタンパク質の天然アミノ酸配列、に加えて存在するアミノ酸残基である。追加アミノ酸残基は、ペプチド又はタンパク質の末端、すなわち、N末端又はC末端、に位置しても、或いはタンパク質又はペプチドのアミノ酸配列上のいくつか他の地点に位置してもよい。特定の実施形態において、追加アミノ酸残基は、ペプチド配列のN末端に存在する。ペプチドがインスリン又はその類似体である、いくつかの実施形態において、追加アミノ酸残基は、A鎖のN末端など、インスリンのA鎖に見られる。ペプチドがインスリン又はその類似体である、代替の実施形態において、追加アミノ酸残基は、B鎖に見られる。いくつかの好ましい実施形態において、追加アミノ酸残基は、本明細書中に例示されるように、B鎖のN末端に位置し;斯かる実施形態は有利である、なぜなら、B鎖のN末端におけるアミノ酸の付加が修飾B鎖又はインスリン全体の合成のスケールアップを容易にするためであり、特に、B鎖のN末端におけるアミノ酸の付加が、B鎖のC末端においてB鎖から、及びA鎖のN末端においてA鎖から、プロインスリンのCペプチドを切断する酵素による切断によって影響を受けず、これにより、合成手段としてCys-B鎖-Cペプチド-A鎖プロホルモンの組み換えDNA製造/発現のプログラミングを可能にするためである。「置換」アミノ酸は、天然の、又は未変更ペプチド配列に存在するアミノ酸残基に代わって存在する。ペプチド又はタンパク質がグルカゴンである特定の実施形態において、置換アミノ酸は、天然ヒトグルカゴンの25位においてトリプトファン残基を置換し得る。
【0063】
ペプチド又はタンパク質の修飾バージョンは、本開示との関連において、未変更の、例えば、天然に存在する又は天然の配列から物理的に構築される、又は作り出される必要はないが、該配列が未変更配列から「誘導される」ように、すなわち、それが配列相同性や機能を天然に存在する又は天然の配列と共有するように、化学的に合成されてもよい。すなわち、未変更ペプチド又はタンパク質から始めるよりむしろ、タンパク質又はペプチドの修飾バージョンは、最初から付加又は置換アミノ酸を含むように合成されてもよい。「天然に存在する」又は「天然の」という用語は、生物体のゲノムにコードされている又はそこから産生されるペプチドやタンパク質を指す。
【0064】
本開示との関連において、タンパク質又はペプチドの修飾バージョンはまた、適切である場合、ペプチド又はタンパク質の類似体と呼ばれてもよい。当業者は、ペプチド又はタンパク質の類似体が付加又は置換アミノ酸を有し、それと同時に、「出発」ペプチド又はタンパク質の機能性を実質的に維持するペプチド配列を指すことを理解する。
【0065】
本開示では、指名されたペプチド又はタンパク質の参照は、別の方法で指定されるか又は文脈によって別の方法で示唆されない限り、その誘導体、変異体、及び/又は機能的な断片を含むものとして理解され得る。
【0066】
本明細書中に使用される場合、「誘導体」という用語は、例えば、チロシン残基のニトロ基若しくはチロシン残基のヨウ素など、ペプチドの1若しくは複数の位置において側鎖内に基を導入することによる、遊離カルボキシル基のエステル基又はアミド基への転換による、アシル化によるアミノ基のアミドへの変換による、エステルを生じさせるヒドロキシ基のアシル化による、第二級アミンを生じさせる第一級アミンのアルキル化による、或いはアミノ酸側鎖への親水性部分の連結による、インビトロにおける化学修飾を含めた、ペプチド又はタンパク質、或いはペプチド又はタンパク質のより多くのアミノ酸残基に対する化学修飾を包含することを意図する。他の誘導体は、ペプチド内のアミノ酸残基の側鎖の酸化又は還元によって得られてもよい。アミノ酸の修飾はまた、アミノ酸への化学基の付加、及び/又はアミノ酸からの化学基の除去によるアミノ酸の誘導を含んでも、或いはアミノ酸類似体(ホスホリル化アミノ酸など)又はN-アルキル化アミノ酸(例えば、N-メチルアミノ酸)、D-アミノ酸性、β-アミノ酸若しくはγ-アミノ酸などの天然に存在しないアミノ酸によるアミノ酸の置換を含んでもよい。本開示との関係で記載した特定の誘導体は、ペプチド又はタンパク質への誘導体部分、すなわち、置換基、の付加によって得られる誘導体を指す。
【0067】
本明細書との関連において、天然に存在するペプチド又はタンパク質などのペプチドの変異体は、そのペプチド配列の1若しくは複数のアミノ酸が異なったアミノ酸に置換された、ペプチド又はタンパク質である。いくつかの実施形態において、グリコシル化されたタンパク質又はペプチドは、天然に存在するか又は天然のペプチド又はタンパク質の保存的変異体であり、ペプチド又はタンパク質が1若しくは複数の保存的なアミノ酸置換を含むことを意味する。「保存的なアミノ酸置換」は、アミノ酸残基が化学的に類似した、又は誘導体化された側鎖を有する別の残基に置換されたものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、例えば、当該技術分野で定義された。これらのファミリーとしては、例えば、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。例えば、同様に中性アミノ酸トレオニン(T)の中性アミノ酸セリン(S)での置換は、保存的なアミノ酸置換であるだろう。当業者は、本開示との関連において必要であるペプチド配列の機能的特性を排除しない好適な保存的なアミノ酸置換を決定することができる。特定の実施形態において、その変異体は、変異体になる配列に対して少なくとも約80%の同一性を有する。その配列は、変異体になる配列に対して約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であってもよい。例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool, Altschul et al., 1993, J. Mol. Biol. 215:403-410)などのアルゴリズムを用いるコンピュータプログラムである、配列同一性を測定するために当業者には、多数の手段が入手可能であり、かつ、知られる。
【0068】
ペプチド及びタンパク質に関する技術分野の当業者に明らかになり、かつ、容易に理解されるように、「類似体」、「バリアント」、及び「誘導体」という用語は、側鎖置換を伴った他のアミノ酸を含め、アミノ酸置換を受けたペプチド配列を指すときなどに、いくらか互換的に使用されてもよい。その用語の意味とそれらが言及するペプチドは、本明細書の文脈から容易に理解される。
【0069】
本開示の実施形態はまた、ペプチド及びタンパク質の機能的な断片の修飾にも関する。本明細書中に使用される場合、「機能的な断片」という用語は、該断片がそれに由来するペプチド又はタンパク質配列と類似した機能を果たし、かつ、実質的に同じ活性を保有するペプチドの部分配列である、ペプチド又はタンパク質の断片を指す。
【0070】
本開示の実施形態における使用のための、ペプチド又はタンパク質、或いはペプチド又はタンパク質の修飾バージョンは、合成的なものを含めた、当該技術分野で知られているどんな方法を使用して、或いは該ペプチド又はタンパク質をコードする核酸構築物の発現などの遺伝子組み換え技術によって、製造され得る。例えば、ペプチドは、固相ペプチド合成、例えば、固相ペプチド合成のFmoc-ポリアミドモード、例えば、連続流動Fmoc固相ペプチド合成を使用して合成されてもよい。他の合成法としては、固相t-Boc合成や液相合成が挙げられる。精製は、再結晶、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、並びに、例えば、アセトニトリル/水勾配分離を使用した逆相高速液体クロマトグラフィーなどの技術のいずれか1つ、又はそれらの組み合わせによって実施され得る。
【0071】
タンパク質や又はペプチドは、グリコシル化されるのが望ましい任意のペプチド又はタンパク質であってもよい。いくつかの実施形態において、タンパク質又はペプチドは、インスリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP1)、アミロイドβ、α-シヌクレイン、アタキシン、F-ボックスタンパク質7(FBOXO7)、プリオンタンパク質(PrPsc)、タウ(高リン酸化)、トランスアクティブ応答DNA結合タンパク質43(TDP43)、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)、及びハンチンチン(polyQ管を有する>33残基)、或いはその断片、誘導体又は変異体から選択される。特定の実施形態において、ペプチド又はタンパク質は、インスリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP1)、及びアミロイドβ、或いはその断片、誘導体又は変異体、特に、インスリン及びグルカゴン、或いはその断片、誘導体又は変異体、特に、インスリン及びグルカゴンから成る群から選択される。いくつかの実施形態において、ペプチド又はタンパク質は、インスリンのA鎖又はB鎖単体である;A又はB鎖の誘導体、例えば、グリコシル化A又はB鎖、はそれに続いて任意選択で、他の鎖と組み合わせられてもよい。関連する場合、インスリンと関連して本明細書中に開示された特徴はまた、インスリンのA鎖又はB鎖単体に適用されてもよい。
【0072】
いくつかの実施形態において、ペプチドは、インスリン、或いはその断片、誘導体又は変異体であってもよい。インスリンは、フィブリル化傾向があるので、本発明の実施形態における特定の使用に気付き、そしてそれは、ポンプシステムを通した、使用者へのインスリン流の準備を妨げることによって、インスリンポンプの使用者における特定の問題を引き起こす可能性がある。これにより、インスリンは、本開示のグリコシル化法から大いに恩恵を受ける、なぜなら、以下の本明細書中の実施例によって実証されるように、グリコシル化が高濃度かつ高温にてフィブリル化を低減する手段であり、それと同時に、インスリン受容体A及びBに対する有用な結合親和力を維持し、グルコース低下効果を維持し、グリコシル化後にも螺旋構造を保有し、及びヒト血清中で改善された安定性を示すからである。本開示の方法のある実施形態によってグリコシル化されたペプチド又はタンパク質に対するこれらの恩恵のうちの1若しくは複数を提供することは、有利である。本明細書を通じて、本明細書中に記載されたようにグリコシル化されたインスリンは、代替的に「グリコインスリン」と呼ばれてもよい。
【0073】
ペプチドがインスリンであるいくつかの実施形態において、インスリンのA鎖がグリコシル化される。ペプチドがインスリンであるいくつかの実施形態において、インスリンのB鎖がグリコシル化される。特定の実施形態において、A又はB鎖のN末端がグリコシル化される。そのA又はB鎖は、本明細書中に記載したように、システイン残基などの追加アミノ基の導入によって、任意選択でグリコシル化されてもよい。いくつかの実施形態において、インスリンのB鎖は、K29位においてグリコシル化される。
【0074】
いくつかの代替の実施形態において、ペプチド又はタンパク質は、グルカゴン、或いはその断片、誘導体又は変異体である。グルカゴンはまた、溶解性のために必要とされる酸性pHにてアミロイド様フィブリル構造を形成する傾向があり、そのため典型的には、凍結乾燥粉末として処方される。グルカゴンもまた、生理的pHでフィブリルを形成し、そしてそれは、低血糖の治療などの薬物としてのその有効性に対する有害効果を有し、かつ、限定された水溶解度から悪い影響を受ける。これにより、グルカゴンもまた、本開示のグリコシル化法から大いに恩恵を得るが、なぜなら、本明細書の以下の実施例によって実証されるように、グリコシル化は、天然ヒトグルカゴンに比べてグルカゴンのフィブリル化を低減する手段であり、それと同時に、有用な生物学的活性を維持する。或いは又は加えて、誘導体化は、グルカゴン及び他のペプチドの溶解性を高めるのに使用されてもよい。本明細書を通じて、本明細書中に記載したグリコシル化されたグルカゴンは、代替的に「グリコグルカゴン」と呼ばれてもよい。
【0075】
インスリンとグルカゴンの両方はまた、本明細書中に記載したグリコシル部分以外の誘導体部分を用いた誘導体化の方法での使用も発見される。
【0076】
誘導体化、例えば、本明細書中に記載したグリコシル化、の方法による使用のためのペプチド又はタンパク質は、付加又は置換アミノ酸残基としてペプチド又はタンパク質内に任意選択で組み込まれた、非保護求核基を含むアミノ酸残基を含む。好ましい非保護求核基は、S2反応において有効な求核試薬であり、より好ましくは、ペプチド又はタンパク質内に存在する他の求核性基に比べてS2反応においてより求核性である。本発明における使用のために特に好適な例示的な求核基はチオール基である。チオール基は、システイン残基の使用によって提供されてもよい。本開示に従って利用され得る他の非保護求核基としては、イミダゾール基(例えば、ヒスチジン残基中に存在)、アミン基(例えば、リジン残基中に存在)、アミド基(例えば、アスパラギン残基中に存在)、及びアルコール基(例えば、セリン残基中に存在)が挙げられる。いくつかの特定の実施形態において、求核基は、例えば、インスリンのB鎖のK19位に、例えば、リジン残基中に存在する、アミン基である。システインなどの天然のアミノ酸残基は、それらがペプチド合成のスケールアップのために遺伝コード内に容易に遺伝子改変できるので、有利である。非保護求核基は、アミノ酸残基がペプチド又はタンパク質内に組み込まれる前に存在してもよいか、或いはアミノ酸がペプチド又はタンパク質に組み込まれた後に導入されてもよい。いくつかの実施形態において、求核基は、アミノ酸がペプチド又はタンパク質内に組み込まれるときに保護された形態で存在し、それに続いて脱保護され得る。
【0077】
アミノ酸の非保護求核基を、脱離基で置換されたグリコシル部分などの、脱離基で置換された誘導体部分と反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質などの、誘導体部分を含むペプチド又はタンパク質の誘導体を提供する。特定の実施形態において、この反応は、S2化学反応を介して実施される。典型的には、この反応は、求核基による脱離基の求核置換を伴う。
【0078】
グリコシル基は、サッカリド、すなわち、糖、置換基である。グリコシル部分は、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供するためにペプチド又はタンパク質に取り付けることが望ましい任意のグリコシル基であり得る。グリコシル部分は、単糖置換基であっても、或いは複数の単糖ユニットを作り出すオリゴ糖又は多糖置換基であってもよい。オリゴ糖又は多糖置換基の糖ユニットは、直鎖であっても、又は分岐であってもよい。「オリゴ糖」及び「多糖」という用語は、単純~複雑なオリゴ糖及び多糖質のすべてを包含する。
【0079】
いくつかの好ましい実施形態において、グリコシル部分はグルコースを含まない;斯かる実施形態は有利である、なぜなら、グリコシル化ペプチド又はタンパク質の分解により、グリコシル化タンパク質又はペプチドが投与される対象の血糖レベルを上げかねないグルコースの放出がないからである。ペプチド又はタンパク質がインスリン、或いはその誘導体、類似体、変異体又は機能的な断片であるときに、グリコシル部分がグルコースを含まないことが特に望ましい、なぜなら、高い血糖値を経験している糖尿病患者へのグリコインスリンの投与により、グリコインスリンの分解と、グルコースの放出によるいずれかの血糖値増大が、状況をさらに悪化させるだろうからである。
【0080】
いくつかの好ましい実施形態において、グリコシル部分は、シアリルグリコシル部分である。「シアリルグリコシル」部分は、シアル酸ユニットを含むグリコシル基である。シアリルグリコシル部分のあらゆる単糖ユニットがシアル基ユニットである必要はない。シアリルグリコシル部分は、例えば、シアリルオリゴ糖部分であってもよい。例えば、シアリルグリコシル部分は、シアル十一糖部分であってもよい。シアリルグリコシル部分は、有利なことに、インビボにおいてペプチド又はタンパク質の半減期を延長し、例えば、投与の頻度の削減することを可能にし得る。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、シアリルグリコシル部分の使用は、タンパク質又はペプチドの肝臓媒介性分解を阻害することによって、グリコシル化タンパク質又はペプチドの半減期を延長すると考えられる。この明細書を通じて、「シアロ」という用語は「シアル」に代わって使用されてもよい。
【0081】
本開示の方法で使用され得る代替の誘導体部分としては、脂肪酸又はポリエチレングリコール基、或いは糖尿病のより良好及び効果的な治療のためにインスリンや類似体のインビボにおける半減期を改善するなどのために、ジスルフィド、チオール-マレイミド又はチオエーテル化学反応を通してタンパク質又はペプチドに取り付けられ得る同じペプチドの更なるユニットが挙げられる。
【0082】
本開示の方法によってタンパク質又はペプチドに取り付けられ得る、更なる可能性のある誘導体部分としては、フェニルボロン酸(「PBA」)などのグルコース感知ユニットが挙げられる。グルコース感知ユニットを組み込んだインスリンの誘導体は、それらがPBAなど(ここで、PBA結合グルコースなどのグルコース感知ユニット)や遊離インスリンなどのグルコース感知ユニットの放出を引き起こすような閾値に達するグルコースレベルにより活性になるだけであるインスリンの不活性型を提供するので、特に有利である。
【0083】
本開示の方法によってタンパク質又はペプチドに取り付けられ得る、更なる可能性のある誘導体部分としては、アパミンペプチドやTAT(「転写のトランスアクチベータ」、HIVタンパク質由来のペプチド(GRKKRRQRRRPQ(配列番号1))などの血液-脳関門輸送体ユニット(血液-脳関門シャトルとしても知られている)が挙げられる。
【0084】
いくつかの実施形態において、タンパク質又はペプチドは、誘導体部分としてのペプチドの更なるタンパク質、例えば、二量体、三量体、並びに他のオリゴマー及びポリマーを調製するための、同じタンパク質又はペプチドの更なるユニット、の取り付けによって本開示の方法で誘導体化されてもよい。特定の例示的な実施形態において、インスリンは、例えば、インスリンの二量体、三量体、六量体、或いはインスリンの他のオリゴマー又はポリマーを作り出す、更なるインスリンユニットの取り付けによって誘導体化されてもよい。類似のオリゴマー又はポリマーは、タンパク質又はペプチドとしてグルカゴンを使用することで得てもよい。
【0085】
当業者は、他のファーマコフォアを含めた他の誘導体部分もまた使用され得ることを容易に理解する。脱離基で置換された誘導体部分を有するペプチド又はタンパク質の求核基の反応の生成物が、所望された正確な誘導体に到達するための更なる反応又は処理を受けなければならないような、脱離基で置換された所望の誘導体部分の前駆体もまた使用され得る。
【0086】
いくつかの代替の態様と実施形態において、非保護求核基と誘導体部分との間の反応は、S2以外の機構によって実施される。ペプチド又はタンパク質に誘導体部分を導入するために非保護求核基と反応する、任意の好適な誘導体部分が使用されてもよい。
【0087】
いくつかの実施形態において、誘導体部分は、先に触れたようにシステイン残基のチオール基とのジスルフィド、チオールマレイミド又はチオエーテル化学反応を通して導入される。
【0088】
脱離基は、置換反応におけるグリコシル部分の参加を容易にする任意の置換基、すなわち、ペプチド又はタンパク質の修飾バージョンの求核試薬によって容易に置換される脱離基、であってもよい。好適な脱離基は、合成化学の当業者によって容易に決定され、かつ、当業者の理解の十分な範囲内にある。好適な脱離基としては、ヨウ素、臭素、塩素、トシル、メシル、及びハロアセトアミジル基、例えば、ブロモ-アセトアミジルが挙げられる。例えば、グリコシル部分がオリゴ糖であり、及び脱離基がブロモアセトアミジル群である実施形態において、脱離基に取り付けられたグリコシル部分は、ブロモ-アセトアミジルオリゴ糖である。例えば、脱離基に取り付けられたグリコシル部分は、以下に示されている式(I)などのブロモ-アセトアミジルシアル十一糖などのブロモ-アセトアミジル十一糖であってもよい:
【化1】
【0089】
式(I)で示されたグリコシル部分が使用され、かつ、ペプチドがインスリンであるいくつかの特定の実施形態において、生じるグリコシル化インスリンは、以下の式(II)の構造を有する:
【化2】
【0090】
式(I)で示されたグリコシル部分が使用され、かつ、ペプチドがグルカゴンであるいくつかの特定の実施形態において、生じるグリコシル化グルカゴンは、以下の式(III)の構造を有する:
【化3】
【0091】
いくつかの実施形態において、グリコシル部分は、脱離基がアルコールの共役塩基であるようにエステル化される。
【0092】
特定の実施形態において、求核基は、システイン残基によって提供されるような、チオール基であり、及び脱離基は臭素である。いくつかの代替の実施形態において、求核基は、インスリンのB鎖のK29残基などのリジン残基によって提供されるような、アミン基であり、かつ、グリコシル基は、脱離基がアルコールの共役塩基であるようにエステル化される。
【0093】
付加又は置換アミノ酸残基として非保護求核基を含むアミノ酸残基を導入することによってペプチド又はタンパク質を修飾する工程は、以下の工程:
a1) 保護基を用いてアミノ酸の求核基を保護し;
a2) アミノ酸を含むタンパク質又はペプチドの修飾バージョンを調製し、ここで、非天然アミノ酸残基の求核基は保護され;次に、
a3) 求核基を脱保護すること、
を含んでもよい。
【0094】
保護基は、例えば、ペプチド配列、又はペプチド若しくはタンパク質のペプチド配列の一部内へのアミノ酸の取り込み前に、求核基に適用されても、ペプチド又はタンパク質のペプチド配列の一部へのアミノ酸の取り込み後であるが、完全な配列が調製される前に、求核基に適用されても、或いはペプチド配列の調製後であるが、タンパク質の更なる構造が樹立される前、例えば、タンパク質構造の鎖間のジスルフィド結合の作成前に、求核基に適用されてもよい。
【0095】
例として、チオール求核基の場合に、tert-ブチル保護基が使用されてもよい。他の適切な保護基及び方法は、当業者にとって容易に明らかになる。
【0096】
例えば、固相ペプチド合成と、それに続く、求核基の脱保護による、タンパク質又はペプチドの修飾バージョンの調製前に求核基を保護する工程は特に有利である、ここで、求核基とペプチド又はタンパク質の性質は、該求核基がタンパク質又はペプチドの折り畳みなどのタンパク質又はペプチドの集合体に別の形で干渉し得るようなものである。例えば、特に、システイン残基が求核基を有する付加又は置換アミノ酸として使用されるとき、インスリンの場合、チオール基の保護及び脱保護基は、タンパク質の集合体及びジスルフィド結合の形成中にインスリン構造内に存在するシステイン基と2つのシステイン基の間の好ましくないジスルフィドシャッフリングのリスクなしに、インスリンの集合を容易にする。タンパク質の構造が調製された時点で、保護基を求核基から取り除き、そして、得られる修飾インスリンは安定しているので、ジスルフィド結合が乱されない。非天然アミノ酸残基の求核基が保護されるインスリンの修飾バージョンは、以下の式(IV)の構造を有し得る:
【化4】
【0097】
本明細書に開示される方法の実施形態による利点は、誘導体化の部位に関して高収率、かつ、高特異性(すなわち、誘導体化、例えば、グリコシル化部位の均質性、したがって、得られる誘導体化生成物の均質性)で、グリコシル化ペプチド又はタンパク質などの誘導体化ペプチド又はタンパク質を得ることができることである。従って、本開示は、製造された誘導体化ペプチド又はタンパク質の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、約100%などが、ペプチド又はタンパク質の同じ位置で誘導体化、例えば、グリコシル化、される方法が提供される。特定の実施形態において、製造された誘導体化ペプチド又はタンパク質のほとんどすべて、すなわち、約100%が、そのペプチド又はタンパク質上の一カ所で誘導体化、例えば、グリコシル化される。
【0098】
本明細書中に記載のグリコシル化方法のいずれか、並びに斯かる方法によって得られる
グリコシル化ペプチド又はタンパク質を含めた、ペプチド又はタンパク質のフィブリル化を阻害する方法もまた、本明細書中に提供される。フィブリル化の阻害は、例えば、(例えば、高い温度又は濃度を含めた)様々な条件下でのペプチド又はタンパク質のフィブリル化を画像化するための原子顕微鏡(AFM)の使用によって評価される。本開示のある実施形態の方法によるインスリンのグリコシル化後のフィブリル化の低減を画像化するためのAFMの斯かる使用は、実施例5、及び図6の結果で例示される。本開示のある実施形態の方法によるグルカゴンのグリコシル化後のフィブリル化の低減を画像化するためのAFMの使用は、実施例11、及び図11の結果で例示される。
【0099】
本明細書中に記載の、誘導体化、例えば、グリコシル化の方法を含めた、ペプチド又はタンパク質の溶解性を高める方法もまた、本明細書中に提供される。
【0100】
本開示は、本明細書中に記載した方法によって得られるか又は得ることができるグリコシル化ペプチド又はタンパク質などの、誘導体化ペプチド又はタンパク質をさらに提供する。本開示は、天然ペプチド又はタンパク質に比べてフィブリルを形成する傾向が低い、本明細書中に記載した方法によって得られるか又は得ることができるグリコシル化インスリン又はグルカゴンなどのグリコシル化ペプチド又はタンパク質をさらに提供する。
【0101】
本開示はさらに、シアリルグリコシル化インスリン、その類似体、誘導体、変異体又は機能的な断片、並びに特に、該シアリルグリコシル化インスリンが、天然インスリンと比べてフィブリル化傾向が低い実施形態に関する。
【0102】
本開示はさらに、シアリルグリコシル化グルカゴン、その類似体、誘導体、変異体又は機能的な断片、並びに特に、該シアリルグリコシル化グルカゴンが、天然グルカゴンと比べてフィブリル化傾向が低い実施形態に関する。
【0103】
本発明者の発見の更なる態様は、3つのジスルフィド架橋と、(保護基の存在を伴わない)単独の、追加システイン残基などの非保護求核基を有する非天然のアミノ酸残基とを含むインスリン変異体は、安定であるか、又は実質的に安定であるということである、すなわち、あらゆる実質的なジスルフィドシャッフリングやその生物的性質に別の形で影響を与える他の立体配座変化を受けない。特に、このインスリン類似体は、水中で、特に約6のpHにて安定している。この安定したインスリン類似体は、本開示の方法で容易に調製され、かつ、グリコシル化などの更なる誘導体化に使用される。従って、本開示はまた、ジスルフィド架橋と、非保護求核基を有する非天然のアミノ酸残基、好ましくは非保護求核基を有する追加の非天然のアミノ酸残基とを含むインスリン類似体にも関する。特に、本開示は、ジスルフィド架橋と、少なくとも単独のシステイン残基とを含むインスリン類似体に関する。いくつかの実施形態において、単独のシステイン残基は、インスリンのA鎖、例えば、A鎖のN末端、に見られる。いくつかの実施形態において、単独のシステイン残基、又は非保護求核基を有する他のアミノ酸残基は、インスリンのB鎖に見られる。特に実施形態において、システイン、又は非保護求核基を有する他のアミノ酸残基は、以下の式(V)に示されているように、インスリンのB鎖のN末端に見られる:
【化5】
【0104】
インスリン類似体は、好ましくは、天然インスリンと同じ三次元の立体構造又は実質的に同じ三次元の立体構造を維持し、例えば、天然インスリンの折り畳み構造を維持し、及び/又は天然インスリンと同じ生物学的活性又は実質的に同じ生物学的活性を維持する。
【0105】
本開示は、さらに、例えば、天然ヒトグルカゴンの25位におけるトリプトファンの置換として、非保護求核基、例えば、システイン残基を有する付加又は置換アミノ酸残基を含有するグルカゴン類似体に関する。
【0106】
上記インスリン及びグルカゴン類似体は、それらが、本明細書中に記載した遺伝子組み換えDNA法及び化学的に方向性があるグリコシル化を介して、低減されたフィブリル化特性を有するグリコインスリン及びグリコグルカゴンの大規模な製造における潜在的利用を満たす点で、有利である。
【0107】
上記のインスリン及びグルカゴン類似体の発見もまた、それらが、先に考察した誘導体部分の取り込みによるなど、他の誘導体の製造における使用を満たす点で、有利である。
【0108】
従って、本開示は、斯かるインスリン誘導体、及び斯かる対応するグルカゴン誘導体を提供する。
【0109】
本開示はさらに、任意選択で、本明細書中に開示される方法、及び上記のインスリン類似体又はグルカゴン類似体を、脱離基で置換されたグリコシル部分などの脱離基で置換された誘導体部分と反応させることを含む、インスリン誘導体又はグルカゴン誘導体を調製する方法による、それぞれグリコインスリン若しくは別のインスリン誘導体、又はグリコグルカゴン若しくは他のグルカゴン誘導体を調製する方法における上記のインスリン及びグルカゴン類似体の使用に関する。いくつかの実施形態において、脱離基で置換された誘導体部分は、脱離基で置換された脂肪酸、脱離基で置換されたポリエチレングリコール、脱離基で置換されたグルコース感知ユニット、又は脱離基で置換された血液-脳関門輸送ユニットであってもよい。脱離基で置換された誘導体部分は、例えば、ハロゲン置換基(例えば、臭素又はフッ素脱離基を有する)又はマレイミド置換基を有する前述の誘導体部分のいずれでもあってもよい。誘導体部分が血液-脳関門輸送ユニットである実施形態は、特に、神経変性障害の治療又は予防を満たす;脳のインスリンシグナル伝達における欠陥は、斯かる誘導体によって対処され得る神経変性障害に影響すると考えられる。
【0110】
本開示はさらに、グリコシル化ペプチド又はタンパク質などのペプチド又はタンパク質誘導体を提供し、ここで、グリコシル部分などの誘導体部分は、天然ペプチド又はタンパク質に比べて、付加又は置換アミノ酸残基を介してペプチド又はタンパク質に接続される。いくつかの実施形態において、付加又は置換アミノ酸は、システインである。いくつかの実施形態において、グリコシル化タンパク質又はペプチドなどの誘導体は、天然ペプチド又はタンパク質と同じ三次元の立体構造、又は実質的に同じ三次元の立体構造を有し、及び/又は天然ペプチド又はタンパク質と同じ生物学的活性、又は実質的に同じ生物学的活性を維持する。いくつかの実施形態において、グリコシル部分は、シアリルグリコシル部分である。代替の実施形態において、誘導体部分は、先に述べたグリコシル部分に対する代替基であってもよい。
【0111】
本明細書中に記載した、及び/又は本明細書中に記載した方法によって得られるグリコシル化ペプチド又はタンパク質などのペプチドである又はタンパク質誘導体を、それを必要としている患者に投与することを含む、状態を治療、管理又は予防する方法もまた本明細書中に提供する。その方法は、糖尿病を治療又は管理する方法、血糖値を管理又は下げる方法、血糖値を管理又は上げる方法、高血糖を治療又は予防する方法、低血糖を治療又は予防する方法、神経変性障害を治療又は予防する方法、ベータ遮断薬又はカルシウムチャネル遮断薬の過量を治療又は管理する方法、低血圧を治療する方法、例えば、放射線学的検査法を補助するための、消化管運動を阻害する方法、及び/又はインシュリノーマを診断する方法であってもよい。ペプチド誘導体がインスリン誘導体である特定の実施形態において、方法は、糖尿病を治療又は管理する方法、血糖値を管理又は下げる方法、高血糖を治療又は予防する方法、及び/又は神経変性障害を治療又は予防する方法であってもよい。ペプチド誘導体がグルカゴン誘導体である特定の実施形態において、方法は、低血糖を治療する方法、血糖値を管理又は上げる方法、ベータ遮断薬又はカルシウムチャネル遮断薬の過量を治療又は管理する方法、例えば放射線学的検査法を補助するための、消化管運動を阻害する方法、及び/又はインシュリノーマを診断する方法であってもよい。斯かる状態の治療のための薬剤の製造における、本開示によるか又は本開示の方法によって得られるグリコシル化ペプチド又はタンパク質などのペプチド又はタンパク質誘導体の使用もまた提供される。
【0112】
本開示の一態様と関連して本明細書中に記載された特徴は、本開示の別の態様に容易に適用され得るか又は適用のために修飾され得ることが理解される。一態様と関連した特徴の開示は、他の態様と関連したその開示を含む。
【0113】
幅広く記載された本発明の要旨又は範囲から逸脱することなく、多数のバリエーション及び/又は修飾が本発明に対してなされることは、当業者によって理解される。そのため、本実施形態は、あらゆる点で制限でなく、説明に役立つものとみなされる。
【0114】
あらゆる先行刊行物(若しくはそれから得られる情報)、又は公知であるあらゆる事柄に対する本明細書における参照は、その先行刊行物(若しくはそれから得られる情報)又は公知の事柄が、本明細書が関係する努力分野における共通の一般知識の一部を形成するということの同意又は承認、或いはいずれかの形態の示唆と解釈されず、そして解釈されてはならない。
【0115】
本発明はここで、以下の具体例を参照することによってより詳細にさらに記載されるが、それはいかなる形であっても本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【実施例
【0116】
実施例1-追加システイン残基を含む修飾インスリンの合成
【0117】
インスリンは、3つのジスルフィド架橋(3つのシステイン)から成る安定したネットワークを形成する6つのシステイン残基を有するヘテロ二量体ペプチド(A鎖及びB鎖)である。インスリンのB鎖のN末端は、以下の2つの理由:(i) それが顕著な活性喪失なしに修飾を許容する;及び(ii) 遺伝子組み換えプロインスリン(成熟インスリン類似体に対する単鎖前駆体)のN末端機能化がスケールアップに適している、によってグリコシル化部位として選択された。
【0118】
段階的な折り畳み中の好ましくないジスルフィドシャッフリングを避けるために、追加システイン残基を、システイン残基の一時的なtert-ブチル(tBu)側鎖保護と共にヒトインスリン(配列番号2)のB鎖のN末端に組み込んだ。機能化のための追加的な天然アミノ酸(システイン残基)の使用には、修飾インスリンペプチドの合成が、必要であれば、遺伝子組み換えDNA法によって、スケールアップし得るという利点があった。得られる修飾インスリンB鎖は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。
【0119】
Fmoc保護L-α-アミノ酸とHCTUを、GL Biochem(Shanghai, China)から購入した。TentaGel R PHB Thr(t-Bu)Fmoc(B鎖の合成用)をRapp Polymere(Tubingen, Germany)から購入し、及びRink Amide MBHA LL樹脂(A鎖の合成用)をNovaBiochem(Merckの子会社、Melbourne, Australia)から購入した。TFAをAuspep(Melbourne, Australia)から入手した。アセトニトリル、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、DMF、及びメタノールは、Merck(Melbourne, Australia)製である。2-ピリジルジスルフィド(DPDS)をFluka(Buchs, Switzerland)から購入した。ヒト血清(Sigma Lot No SLBX6020がない)及び他のすべての試薬をSigma-Aldrich(Sydney, Australia)から購入した。
【0120】
a) ペプチド合成
A鎖(配列番号4)と、追加的なシステイン残基を有する修飾B鎖(配列番号3)を、連続流動Fmoc(N-(9-フルオレニル)メトキシカルボニル)固相ペプチド合成によって調製した。その2つのペプチド鎖(A及びB、構造I及びIIとして図1に示された配列)を、マイクロ波支援リバティーペプチドシンセサイザー(CEM Liberty, Mathew, USA)によるFmoc固相合成法を使用して事前に加えた樹脂(B鎖)又はRinkアミド(A鎖)樹脂上で組み立てた。
【0121】
A鎖(I)を、先に記載した固相ペプチド合成(SPPS)法を使用して合成した。Fmoc-Asp-OtBuを、0.1mmolスケールの側鎖を介してRinkアミド樹脂(0.36mmol/gを加えた)に連結した。Cys(tBu)及びCys(Acm)を、それぞれA7位及びA20位にて組み込んだ(図1の工程1を参照のこと)。
【0122】
追加的なアミノ酸であるCys(tBu)を、B鎖のN末端に組み込んだ。修飾ヒトインスリンのB鎖(II)を、B19位に組み込まれた事前に加えたFmocThr TentaGel-(tBu)樹脂(0.18mmol/gを加えた)とCys(Acm)を使用した、0.1mmolスケールのマイクロ波支援SPPSを介して組み立てた(図1の工程2を参照のこと)。
【0123】
Fmocアミノ酸の側鎖保護基は、A鎖のtBu保護及びAcm保護システイン(Cys)(それぞれA7及びA20)、並びにB鎖(B19)のCys(Acm)を除いて、TFA不安定であった。そのペプチドを、過剰量のDIEAの存在下で3.8倍過剰量のHCTUを使用することによって活性化した4倍モル過剰のFmoc保護アミノ酸(0.4mmol)を用いて、装置のデフォルトプロトコールを使用した0.1スケールにて合成した。Nα-Fmoc保護基を、ピペリジン/DMF(20%v/v)を用いて取り除いた。シンセサイザーにおけるカップリングと脱保護基工程を、75℃にてそれぞれ5分間にわたる25Wマイクロ波電力及び5分又は3分間にわたる60Wマイクロ波電力を使用して実施した。
【0124】
精製する化合物の分析用RP-HPLC分析法を、2つのWaters RP-HPLCシステム:Waters(商標)2487検出器を備えたAnalytical HPLC Waters(商標)600及びWaters (商標)996検出器を備えた部分調製用HPLC Waters(商標)600、を用いて実施した。RP-HPLCプロファイルを、アミド結合に独特である214nmの波長で観察する、バッファーA、0.1%のaq. TFAとバッファーB、アセトニトリル中の0.1%のTFAを用いたグラジエントモードによる、1.5mL/分の一定流速におけるPhenomenex Gemini C18分析カラム(4.6×250mm、細孔サイズ300A、粒度5μm)を使用して得た。すべてのRP-HPLC精製を、溶出液A、0.1%のaq. TFA、及び溶出液B、アセトニトリル中の0.1%のTFAを用いたグラジエントモードによるPhenomenex C18調製用カラム(22×250mm)を使用して実施した。
【0125】
MALDI TOF MSを、Bruker Ultraflex II装置(Bruker Daltonics, Bremen, Germany)により実施し、そしてマトリックスとしてシナピン酸(3,5-ジメトキシ-4ヒドロキシケイ皮酸)を使用した、各中間工程においてペプチドを特徴づけするのに使用した。そのマトリックスを、0.1%のTFAを含有した75%のアセトニトリルで調整した。
b) インスリン類似体(非グリコインスリン)の合成
【0126】
次に、先に合成したA鎖及びB鎖ペプチドを、TFA/アニソール/DODT/TIPS(94/2.5/1.5/1%)を含有する切断カクテルを用いてRTにて2時間処理することによって固体支持体から取り外した。樹脂を濾別し、そしてTFAで洗浄した。濾液を、N2流下での留去によって濃縮し、次に、氷冷ジエチルエーテルを用いて沈殿させて、粉末としてペプチドを得た。沈降物を、4000rpmにて5分間遠心分離し、氷冷ジエチルエーテルによって5回洗浄した。次に、ペプチド[Cys6、11(SH)、Cys7(tBu)、Cys20(Acm)]A鎖(I)と[Cys0(tBu)、Cys7(SH)、Cys19(Acm)]B鎖(II)を凍結乾燥した。ペプチド純度を、分析用RP-HPLC及びMALDI TOF MSによって確認した(A鎖還元形態I m/z 2509.616;計算値2512.701;B鎖(II) m/z 3663.326;計算値3662.085)。
【0127】
次に、A鎖の分子内ジスルフィド結合を形成した(図1の工程3を参照のこと)。未精製の[Cys6、11(SH)、Cys7(tBu)、Cys20(Acm)]A鎖(I)(120mg、47.8μmol)を水中20%のアセトニトリル(合計120mL)で溶解した。DPDS溶液(10.51mgを8mLのメタノールで溶解した)を、磁気撹拌したペプチド溶液に加えた。この反応は、分析用RP-HPLCで観察した場合に、RTにて30分で完了した。溶液を、精製のためにCラインを通して調製用RP-HPLCカラムに積み込み、そして、凍結乾燥して、純粋なCys6-Cys11分子内ジスルフィド結合インスリンA鎖、[Cys7(tBu)、Cys20(Acm)](III)を得た(34.2mg、13.62μmol、収率28.5%)。MALDI-TOF MSでは、m/z 2508.88、計算値2510.70にて[Cys7(tBu)、Cys20(Acm)](III)の単独ピークを示した。
【0128】
次に、A鎖のCys7(tBu)をCys7(Pyr)に変換した(図1の工程4を参照のこと)。精製[Cys7(tBu)、Cys20(Acm]A鎖(III)(30.0mg、11.94μmol)と4等量のDPDS(11.52mg、47.76μmol)を、氷浴中で0.78mLのTFAとアニソール(9:1 v/v)で溶解した。次に、0.78mLのTFMSA/TFA(1:4 v/v)を、磁気撹拌した混合物に加え、そして、撹拌を0℃にて45分間続けた。そのペプチドを、氷冷ジエチルエーテルを用いた沈殿と、それに続く、遠心分離によって回収し、そして、調製用RP-HPLCを使用して精製した。純粋なA鎖[Cys7(Pyr)、Cys20(Acm)](IV)(12.3mg、4.79μmol、収率40%)を、凍結乾燥後に入手し、そして、MALDI-TOF MSによって同定した(m/z 2564.23、計算値2563.85)。
【0129】
次に、A鎖を、修飾B鎖に組み合わせた(図1の工程5を参照のこと)。精製A鎖[Cys7(Pyr)、Cys20(Acm)](IV)(10mg、3.9μmol)を、1mLの6M GnHCl(0.1MのGly/NaOH)バッファー(pH8.5)で溶解した。[Cys0(tBu)、Cys7(SH)、Cys19(Acm)]B鎖(II)(17mg、4.64μmol)を、1mLの脱イオン水で溶解し、そして、ゆっくり磁気撹拌したA鎖溶液に追加した。この反応はRTにて20分間で完了した。得られるペプチドである[Cys20(Acm)-B Cys19(Acm)](V)を、調製用RP-HPLCを使用することによって精製し、そして、凍結乾燥して、14mg(2.29μmol、B鎖から計算して収率49%)を得た。ペプチド(V)を、MALDI-TOF MSによって同定した(m/z 6113.97、計算値6112.94)。
【0130】
最後に、ヨウ素酸化を使用して、非グリコインスリンを製造した(図1の(VI)、図1の工程6)。A-Bペプチド[Cys20(Acm)-B Cys19(Acm)](V)(11mg、1.8μmol)を、5.6mLの氷酢酸、0.27mLの60mM HClから成る溶媒混合物で溶解した。次に、溶解したペプチド溶液を、ヨウ素/酢酸(20mM、7.5mL)で処理して、Acm基を取り除いた。このヨウ素酸化を、45分後にRTにて氷冷ジエチルエーテルを加えることによって停止させた。次に、そのペプチドを、調製用RP-HPLCで精製し、そして、凍結乾燥して、2.1mg(0.351μmol、収率19.5%)のCys0(tBu)インスリン類似体、非グリコインスリン(VI)を得た。B鎖から計算した非グリコインスリン(VI)の全収率は~7%であった。ペプチドの純度を分析用RP-HPLCによって確認し、及び質量をMALDI-TOF MSによって確認した(VI、m/z 5969.34、計算値5970.94)。
【0131】
実施例2-グリコシル化
実施例1で調製したCys0(tBu)インスリン類似体のグリコシル化を図2に示す。記載したグリコシル化の生成物は、以下で「グリコインスリン」と呼ばれる。
a) チオールインスリン、グリコシル化のための出発物質、の調製(図2の工程7を参照のこと)
【0132】
精製Cys0(tBu)インスリン類似体(非グリコインスリン;図1のVI)(1.8mg、0.3μmol)を、氷浴中で0.2mLのTFA及びアニソール(9:1 v/v)で溶解した。次に、0.2mLのTFMSA/TFA(1:4 v/v)をペプチド溶液(0℃にて30分間)に加えた。氷冷エーテルを、30分後に加えて、ペプチドを沈殿させた。得られるチオールインスリン(図2のVII)を調製用RP-HPLCによって精製した。反応時間は、小規模の反応が実施されたとき、30分間の代わりに3分間まで短縮できた(5μLのTFA/アニソール(9:1)及び5μLのTFMSA/TFA(1:4)中に0.4mg)。この小規模高濃縮反応において、3分間は、同じような収率で所望の生成物を得るのに十分であった。反応を観察して、副反応を回避した。チオールインスリン(VII)の純度を分析用RP-HPLCで確認し、及び質量をMALDI-TOF MSによって確認して、図3に示した(m/z 5910.06、計算値5914.94)。この反応の収率が~68%であることがわかった(VIIに関して1.2mg;0.203μmol)。
【0133】
b) 卵黄からの糖の抽出とBr誘導体への変換(図2の工程8を参照のこと)
ヒト型複合体ジシアロ-オリゴ糖を、(Kajihara, Y.; Suzuki, Y.; Yamamoto, N.; Sasaki, K.; Sakakibara, T.; Juneja, L. R., Prompt chemoenzymatic synthesis of diverse complex-type oligosaccharides and its application to the solid-phase synthesis of a glycopeptide with Asn-linked sialyl-undeca- and asialo-nonasaccharides. Chemistry 2004, 10 (4), 971-85記載のとおり)卵黄から単離し、そして、Murase, T et al., 「Efficient and systematic synthesis of a small glycoconjugate library having human complex type oligosaccharides」, Carbohydr Res 2009, 344 (6), 762-70に報告された方法によって誘導体化して、ブロモ-アセトアミジルが十一糖(VIII、図2の工程8)を形成した。
【0134】
c) インスリンのグリコシル化
この反応を、ペプチドと糖類の両方をその中に溶かすことができるMilli-Q水(pH5~6)中で実施した。非グリコインスリンペプチド(VII)(1mg、0.17μmol)を1.5mLのMilli-Q水で溶解した。別々に、3等量のBr-ジシアロ-オリゴ糖(VIII、一晩乾燥)を0.5mLのMilli-Q水で溶解した(1.2mg;0.5μmol)。次に、ペプチドをこの糖溶液に滴下して加えた(2mLの全量)。RP-HPLCとMALDI TOF MS分析を図3に示す。その反応は非常に遅かったが、主要ピークが、所望の生成物であるグリコインスリン(図2の構造IX)であることがわかり、そして、インスリンの二量体(図2の構造X)である少量の生成物を伴っていた。そのペプチドを、24時間後に、調製用HPLCへの単回注入を用いて精製した。遊離チオールを伴ったが、チオールインスリンは混ぜ合わせになることはなかった(1μg/μl;-4~25℃の間で試験)。しかしながら、高濃度にて二量体を形成する傾向があり、そして、チオールインスリン(1μg/μL水にて)がRTにて24時間にわたりBr-グリカンなしで放置された場合、定量的二量体の生成が観察された。糖タンパク質の純度を分析用RP-HPLC(図3A)によって確認し、及び質量をMALDI-TOF MSによって確認した(m/z 8177.13、計算値8178.89、図3B)。グリコシル化反応の収率が、57.64%(~60%)であることがわかった(IXに関して0.8mg;0.098μmol)。
【0135】
実施例3-ペプチド含量の定量化
グリコインスリンの実際のペプチド含量を、Direct Detectアッセイ-無償サンプルカードとDirect Detectスペクトロメーター(MerckMillipore)を使用して測定した。各カードは、簡便なサンプル適用と分析のために赤外線ビーム内に分析サンプルを保持するための疎水性の環に囲まれた親水性のスポットを含んでいる。すべての計測を、2μLのサンプル溶液を使用して実施した。グリコインスリンが、20%のペプチド含量を有することがわかった。次に、同じ濃度のグリコインスリンと天然インスリンをHPLCに注入して、同じ曲線下ピーク面積を確認し、そして、両方のペプチドに関して100%のペプチド含量に調整した。次に、調整した正味ペプチド含量を、以下の検定方法:インスリン受容体結合アッセイ、インスリン耐性試験、原子間力顕微鏡フィブリル化アッセイ、円二色性分光法、及び血清安定性の調査(以下で考察)、のためのサンプルを調製するのに使用した。
【0136】
実施例4-インスリン受容体結合アッセイ
受容体結合を、Denley et al., 「Structural determinants for high-affinity binding of insulin-like growth factor II to insulin receptor (IR)-A, the exon 11 minus isoform of the IR」, Mol Endocrinol 2004, 18(10), 2502-12に記載のとおり計測した。簡単に言えば、インスリン受容体Bを過剰発現するIGF-1R陰性細胞(IR-B)を作出した。細胞を、溶解前に4時間にわたり血清飢餓状態にした。溶解物を、事前に抗IR抗体で被覆した96ウェルプレート内に捕獲した。約500,000蛍光カウントのユーロピウム標識インスリンを、高濃度の非標識競合物質と共に各ウェルに加え、そして、4℃にて16時間インキュベートした。洗浄後に、時間分解蛍光分光を、BMG Lab technologies Polarstar蛍光光度計(Mornington, Australia)を用いて340nmの励起及び612nmの発光フィルタを使用して計測した。結合曲線を図4に示す;インスリン及び合成類似体曲線は、三連で実施した各点を有する4つの別々の実験からのものである。結果を、競合リガンドの不在下での結合パーセンテージとして表し(%B/Bo)、そして、データ点は平均+/-SEMである。エラーバーを、シンボルのサイズより大きいときに示す。IC50値を以下の表1に示す。
【表1】
【0137】
図3に示した競合結合アッセイは、インスリン受容体アイソフォームA(図3A)とアイソフォームB(図3B)(IR-AとIR-B)に対する非グリコインスリン(VI)の結合親和力が天然インスリン(Actrapid)のものと等しいことを明らかにした。そのデータでは、B鎖のN末端における修飾が許容できることを確認する。グリコインスリンは、インスリン受容体(IR)異性体に対する強い結合を示す。グリコインスリン(IX)には、インスリンと比較した両方の受容体に対して2倍弱い親和性あり、ジシアロ修飾がIRとの相互作用において僅かな程度しか干渉しないこと示す(図4)。
【0138】
結果を、競合リガンドの不在下での結合パーセンテージとして表し(%B/Bo)、そして、データ点は平均+/-SEMである。IC50値を表1に示す。非グリコインスリン及びグリコインスリン曲線を、三連で実施した各点を有する4つの別々の実験からのものである。エラーバーを、シンボルのサイズより大きいときに示す。
【0139】
実施例5-インスリン耐性試験
インスリン耐性試験を、Won, N. et al., 「Deficiency in interferon-gamma results in reduced body weight and better glucose tolerance in mice」, Endocrinology 2011, 152(10), 3690-9において以前に記載されたとおり実施した。簡単に言えば、飼育8~10週齢雄C57BL/6Jマウスを、ペントバルビタールナトリウム(100mg.kg-1)によって麻痺し、体重1kgあたり0.75ユニットのインスリン(actrapid)、非グリコインスリン、グリコインスリン又はグラルギンを腹腔内(i.p.、図4A)又は皮下(s.c.、図4B)に注射した。血液サンプルを尾静脈から採取し、そして、グルコース濃度を血糖値測定器(Precision Q.I.D., MediSense, MA, USA)を使用して計測した。結果を図5に示す。結果を平均±SEM(n=4~5)として示す。
【0140】
いずれの時点においてもグルコース降下作用に関してペプチド間に有意差はなかった(二元配置ANOVAと、それに続くTukeyの多重比較検定によって分析したデータ(GraphPad Prism8.2.1))。そのデータは、グリコインスリンが、インビボにおいて活性であり、3時間インスリン耐性試験を通じて血糖を下げたことを明確に示す。インビトロにおける結合親和性の結果と一致して、グリコインスリンのグルコース低下効果は、天然インスリン(Actrapid)と比べて、統計的に有意でないが、わずかに低くなるように思える。興味深いことに、グリコインスリンのグルコース低下効果は、i.p.注射データ(図5A)によって実証されるように、長時間作用性インスリン薬物(合成グラルギン、Hossain, M. et al., 「Use of a temporary 'solubilizing' peptide tag for the Fmoc solid-phase synthesis of human insulin glargine via use of regioselective disulphide bond formation」 Bioconjug Chem 2009, 20 (7), 1390-6において調製されるとおり)に匹敵することを示している。
【0141】
実施例6-フィブリル化に関する原子間力顕微鏡試験
原子間力顕微鏡実験のために、200μM及び50μMのインスリン溶液を、緩衝溶液(Milli-Q水中の50mMのKCl/HCl、pH1.6)でヒトインスリン粉末を溶解することによって調製した。インスリン溶液を、ポリプロピレン微小遠心管内で60℃にて最長24時間にわたりインキュベートした。所望の時間間隔後に、10μLのインスリン溶液を、ポリプロピレン微小遠心管に移し、50mMのKCl/HCl緩衝溶液によって様々な濃度に希釈し、0℃にてクエンチして、更なる凝集を急速に阻害した。次に、5μLの希釈インスリン溶液を新たに切断した雲母基板上に乗せた。インスリン凝集体を、5分間にわたり雲母上に吸着させた。余分なインスリン凝集体を、2~3回にわたりMilli-Q水を滴下して洗浄し、次に、ゆるやかな窒素流で乾燥させた。インスリン凝集体のトポグラフィー像をDimension iCon Atomic Force Microscopy(Bruker, Billerica, MA, USA)を用いて採集した。タッピングモードの原子間力顕微鏡法(AFM)画像を、共振周波数~300kHz、名目上の先端半径8nm及び名目上のバネ定数42N/mを用いたシリコンカンチレレバー(モデルRTESPA, Veeco, Santa Barbara CA)を使用して記録した。
【0142】
60℃にて6時間及び8時間インキュベートした(A) 50μMのインスリン(Actrapid)溶液及び(B) 200μMのインスリン溶液、並びに60℃にて6時間及び8時間インキュベートした(C) 200μMのグリコインスリンの代表的なAFMの高さ画像を図6に示す。垂直なカラースケールは10nmである。走査領域:3×3 μm図6のそれぞれの画像は、1~10ミクロンの様々な走査領域を有する様々な位置における3~5スキャンを代表するものである。
【0143】
図6から、インスリンは低濃度及び高濃度(50μM及び200μM、図5A及び図5B)にて試験した全時点でフィブリルを形成するが、同期間にわたりグリコインスリンを用いてフィブリルは検出されなかった(200μMでさえ、図5C)ことがわかった。さらに、グリコインスリンが60℃でさえフィブリルを形成しないことを示している(図5C)。このように、有効な熱安定性インスリン類似体が提供され、そしてそれは、信頼できる冷蔵が広く普及していないことが多い貧しい熱帯地域に住んでいる人々のための特定の利益を有する。
【0144】
実施例7-円偏光二色性の調査
修飾は、プロテアーゼに感受性アミド連鎖を晒す可能性がある、ペプチドに対する立体配座変化を引き起こす。そのため、グリコインスリンの二次構造を、円偏光二色性(CD)分光分析によって分析した。インスリンとグリコインスリンに関するCDスペクトルデータを、25℃にて1mm路長セルを使用したAviv Model410(Piscataway, NJ)分光光度計を使用して記録した。ペプチドを、pH7.5にて10mMのリン酸緩衝液で溶解した。スペクトルを得るために使用したパラメーターは、0.1nmのデータピッチを有する波長190~250nm、1分あたり50nmのスピードにおける連続走査モードであり、そして、ペプチドごとに取得する集積数は3であった。使用されるペプチドの濃度は、インスリンに関して0.1μg/μL及びグリコインスリンに関して0.17μg/μLであった。この濃度は、以下で考察されるように、CDデータを比較するため及びヘリシティを計算するために平均残基重量楕円度を計算するときに、モル濃度に変換した。CDスペクトルを図7に示す。
【0145】
CDスペクトルは、208と222nmに二重下限を有する典型的なα螺旋パターンを示した(図6A)。222nmの平均残基楕円度、[θ]222を、螺旋含量を計算するのに使用した。グリコインスリン及びヒトインスリンの[θ]222値は、それぞれ30%及び31%のα螺旋含量に対応する-10564.677及び-11115.7であることがわかった。明らかに、天然ヒトインスリンと比較して、グリコインスリンの二次構造に観察可能な摂動はなかった。
【0146】
実施例8-血清安定性の調査
最後に、グリコインスリンのインビトロにおける血清安定性を、37℃にて72時間にわたり試験し、そして、天然ヒトインスリンと比較した(図8)。あらゆる時点においてペプチド間に有意差があった(P値=0.0216、t-検定)。一相の指数関数的減衰と対応のあるt-検定分析をGraphPad Prism8.0.2を用いて実施した。予備データは、ジシアロ-グリコシル化が血清安定性を増強することを示し、そしてそれは、グリカンによるか若しくは血清アルブミンへの結合増加によるかのいずれか又はその両方に起因するタンパク質分解酵素からの直接的な遮蔽であり得る。
【0147】
構造及び血清安定性データは、インビトロにおける高親和性IR結合やインビボにおけるグルコース低下効果とよく合致している。結合親和力のわずかな減少は、結合部位の近くに存在するかさばっているグリカンからの立体効果による可能性が高い。
【0148】
上記の実施例によって実証されるように、インビトロ及びインビボにおいて高活性を示す均質のモノグリコシル化インスリン類似体を設計し、かつ、首尾よく合成した。重要なことには、初めて、ジシアロ-グリコインスリン(図1のIX)が高濃度及び高温の両方でフィブリルを形成しないことを示した。ジシアロ-グリコインスリンは、類似のインスリン様折り畳みを有し、かつ、ヒト血清中において改善された安定性を示す。これにより、この類似体は、例えば、インスリンポンプにおける使用のための、並びにより広く、糖尿病の治療のため及び血糖値のメインテナンスのための、魅力的なリード候補物質である。
【0149】
実施例9-グルカゴンとグリコグルカゴンの合成
グリコグルカゴンペプチドを、グリコインスリンの調製に関する実施例1及び2に記載の方法に相似した方法を使用して調製した。調製したグリコグルカゴン、並びに天然グルカゴンの構造を図9に示す。
【0150】
ヒトグルカゴン(配列番号5)及びその修飾バージョン(グルカゴン-W25C:Trp25をCys25で置換した(配列番号6))の直鎖骨格を、標準的なFmoc/tBuベースの固相合成ストラテジーを採用したBiotage(登録商標) Initiator+ Alstraマイクロ波シンセサイザー(Biotage, Sweden)を使用して合成した。Nα-Fmoc脱保護を、40℃にて2×5分間にわたるDMF中の20%のピペリジンによって達成し、そして、アミノ酸カップリング(4当量)を、5分間にわたりHCTU(DMF中4当量)及びDIEA(DMF中1M)を使用して達成した。合成中の凝集を低減するために、4時間にわたりPyClock(2.5当量)及びDIEA(DMF中1M、5ml)の存在下でジペプチドFmoc-Thr(tBu)-Ser(ψMe,Me)-OH(2当量)を用いて手動で処理することによって、Thr残基とSer残基を連結した。完了したペプチジル-樹脂を、3時間にわたりTFA/アニソール/DODt/TIPS(94/3/2/1、20ml)から成る切断混合物を用いて処理することによって切断した。次に、未精製のペプチドを、濾過し、N流を使用して濃縮し、冷エーテル中で沈殿させ、遠心分離し、そして、風乾した。
【0151】
未精製のペプチドを、Waters996 UV検出器を備えたWaters600準調製用RP-HPLCを使用してPhenomenex Gemini(登録商標)C18カラム(5μm、110オングストローム、150×21.2mm)により精製した。検出波長を214nmに設定した。3つの異なる方法を使用した:
【表2】
【0152】
グルカゴン:ヒトグルカゴンペプチド(配列番号5)を、Fmoc-Thr(tBu)-TentaGel樹脂(0.18mmol/g、0.1mmolスケール)上で合成した。精製を、方法1と、それに続く方法3を使用して実施し、次に、凍結乾燥して、白色粉末(7mg)を得た。MW(計算値)=3482.75、MW(MALDI-TOF)=3484.2443。
【0153】
グリコグルカゴン:グルカゴン-W25C(配列番号6)(0.05mmolスケール)の直鎖骨格を、天然ヒトグルカゴンについて記載したのと同じストラテジーを使用して合成した。切断後に、未精製のペプチドを、使用法1を使用して精製して、白色粉末(35.4mg)を得た。精製したペプチド(5mg)及び実施例2で使用したブロモグリカン(3当量、10mg)を、トリエチルアンモニウム酢酸緩衝液(8ml、pH=7.2)で溶解し、そして、37℃にて一晩撹拌した。方法1を使用した精製の結果として白色粉末(2.4mg)を得た。MW(計算値)=5663.66、MW(MALDI-TOF)=5664.8073。
【0154】
実施例10-cAMP活性分析
HEK293AWT細胞をpcDNA3-hGCGRを用いて一過性に形質移入し、形質移入の48時間後に、細胞を、高濃度(-12~-6M)の、実施例9で調製したグルカゴンとグリコグルカゴンのそれぞれで30分間惹起した。cAMP濃度を、LANCEアッセイ(Perkin Elmer)を使用して評価した。結果を図10に示す。データを、FSK(10μM)対照の最大応答に対して正規化する。
【0155】
図10から分かるように、グリコグルカゴンは、グルカゴンと比べて、グルカゴン受容体において生物学的活性を保持する。
【0156】
実施例11-フィブリル化に関する原子間力顕微鏡試験
原子間力顕微鏡実験のために、実施例9で得られるグルカゴン及びグリコグルカゴンのそれぞれをMilli-Q水で溶解し、HClでpH2に調整することによって調製したグルカゴン及びグリコグルカゴンの287mMの溶液)を、37℃にて4日間インキュベートした。グルカゴン凝集体のトポグラフィー像をDimension iCon Atomic Force Microscopy(Bruker, Billerica, MA, USA)を用いて採集した。タッピングモードの原子間力顕微鏡法(AFM)画像を、共振周波数~300kHz、名目上の先端半径8nm及び名目上のバネ定数42N/mを用いたシリコンカンチレレバー(モデルRTESPA, Veeco, Santa Barbara CA)を使用して記録した。
【0157】
37℃にて4日間インキュベートした(A) グルカゴン(287mM)及び(B) グリコグルカゴン(287mM)の代表的なAMFの高さ画像を図11に示す。垂直なカラースケールは(A) 6nm及び(B) 3nmである。走査領域:10×5μm図11のそれぞれの画像は、1~10ミクロンの様々な走査領域を有する様々な位置における3~5スキャンを代表するものである。
【0158】
図11から、天然グルカゴンはフィブリルを形成するが、実施例9の化学的に改変したグリコグルカゴンでは、フィブリルがわずかしか検出されないか又はフィブリルが全く検出されないことが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2023541138000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド又はタンパク質をグリコシル化する方法であって、以下の工程:a) 非保護求核基を含むアミノ酸残基を含むペプチド又はタンパク質を提供する工程、およびb) 該求核基を、脱離基で置換されたグリコシル部分と反応させて、グリコシル化ペプチド又はタンパク質を提供する工程、を含む方法。
【国際調査報告】