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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-28
(54)【発明の名称】超分子流体
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20230921BHJP
【FI】
H01M10/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516619
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 ES2021070659
(87)【国際公開番号】W WO2022053735
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P202030929
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512135919
【氏名又は名称】ウニベルシダーデ デ サンティアゴ デ コンポステラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE SANTIAGO DE COMPOSTELA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】マリア デル カルメン ギメネス ロペス
(72)【発明者】
【氏名】ホセ フランシスコ リバドゥーラ フェルナンデス
(72)【発明者】
【氏名】カルロス ヘレーロス ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】カルロス ロペス ブエノ
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ13
5H029AK06
5H029AK11
5H029AL06
5H029AL11
5H029BJ03
5H029HJ01
5H029HJ10
(57)【要約】
本発明は、酸化還元反応において使用するための超分子流体に関する。より具体的には、本発明の流体は第4級アンモニウム塩を含む。本発明はまた、第4級アンモニウム塩の組成物およびその使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式X(AlqN)のハロゲン化第4級アンモニウムまたは式X(AlqP)のハロゲン化第4級ホスホニウムの組成物を0.6m以上の濃度で含む電解質であって、
式中、Xは塩素、臭素およびヨウ素から選択され、Alqは直鎖状または分枝状C~Cアルキルである、電解質。
【請求項2】
請求項1に記載の電解質において、Alqはブチルである、電解質。
【請求項3】
請求項1に記載の電解質において、Xは臭素である、電解質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質と、少なくとも1つの電極と、を備える電池。
【請求項5】
請求項4に記載の電池において、電気活性無機塩をさらに含む、電池。
【請求項6】
請求項5に記載の電池において、前記電気活性無機塩は、前記電解質の重量に対して少なくとも5重量%である、電池。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電池において、前記電気活性無機塩は、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウム、およびアルミニウムの塩から選択される、電池。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の電池において、前記電池はボタン型のものである、電池。
【請求項9】
電気化学反応またはエネルギー用途における、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質の使用。
【請求項10】
物質を封入するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質の使用。
【請求項11】
請求項10に記載の使用において、封入された前記物質は極性分子である、使用。
【請求項12】
電極の劣化を抑制するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質の使用。
【請求項13】
請求項12に記載の使用において、電極の劣化は酸化または腐食によるものである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超分子流体に関する。より具体的には、本発明の流体は、第4級アンモニウム塩または第4級ホスホニウム塩を含む。本発明はまた、第4級アンモニウム塩または第4級ホスホニウム塩の組成物、およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に使用される電解質の中で、臭化物アニオンにはいくつかの利点があり、安価であり、水溶性が高く、また拡散係数が高い。ただし、臭化物アニオンは、酸化プロセスで形成される臭素と反応し、黄色の固体として沈殿する三臭化物イオン(Br )を生成するという、望ましくない副反応を引き起こす(非特許文献1:Energy Environ. Sci, 2014, 7, 1990; Nat. Commun. 6:7818 (2015))。
【0003】
このように、臭化物のすべての利点を備え、かつ三臭化物種が形成されてしまう上記副反応をも回避する電解質を見出す必要性がある。
【0004】
使用される金属電極の中で、銅などの遷移金属に基づくものは、貴金属と比較して低コストかつ入手しやすいため、電気化学プロセスの実装に重要な利点を示す。しかし、電極表面に塩化銅(CuCl)の望ましくない固体膜が形成され、より多くの塩化物イオンと反応して可溶性陰イオン種(CuCl )を生成するため、水性電解質、また特に塩化物イオンを含むものでは安定性が制限される(非特許文献2:Nature Communications 2018, 9, 1; Corrosion Science 2018, 140, 111)。
【0005】
したがって、可溶性荷電種(CuCl )が形成される高濃度の塩化物イオン(海水の場合)を含む水系媒体において、銅の腐食を抑制する電解質媒体を特定がすることが依然として必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Energy Environ. Sci, 2014, 7, 1990; Nat. Commun. 6:7818 (2015)
【非特許文献2】Nature Communications 2018, 9, 1; Corrosion Science 2018, 140, 111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電池(battery)(または蓄電池(storage cell))における電解質として有用な新たな流体を提供する。さらに、創作者らは、この流体が電極の劣化、例えば電極の酸化または電極の腐食を抑制または防止することを示した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、水溶液中で0.6m(0.6molal(質量モル濃度))以上の濃度でハロゲン化第4級アンモニウムまたはハロゲン化第4級ホスホニウムを含むことを特徴とする、大気条件下で安定な電解質に関する。
【0009】
さらに、本発明の創作者らは、本発明の電解質はまた、三臭化物の形成を防止し、および電解質として臭化物を使用する電気化学反応を可逆的にすることも可能であることを見出した。特に、創作者らは、ハロゲン化第4級アンモニウムまたはハロゲン化第4級ホスホニウムが特定の濃度範囲で、三臭化物イオンの形成を完全に防止することを見出した。
【0010】
第2の態様では、本発明は、本発明の電解質を備える電池(または蓄電池)に関する。
【0011】
本発明の第3の態様は、電解質の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】水中の臭化テトラブチルアンモニウムのさまざまな水溶液について示差走査熱量測定の加熱および冷却曲線を表している。アンモニウム塩の濃度が増加すると、2mで完全に消失するまで氷の融解ピーク(摂氏0度)が徐々に消失する様子が観察できる。この濃度およびそれ以上の濃度では、クラスレート融解(clathrate melting)の特徴的な二重ピークのみが表示され、システム内に自由水(free water)がないことを示している。
図2】(a)は、温度に対するさまざまな濃度での水中における臭化テトラブチルアンモニウムの圧縮率の変化を表しており、(b)は、温度に対するさまざまな濃度での水中における臭化テトラブチルアンモニウムの熱容量を表しており、(c)は、室温での水中における臭化テトラブチルアンモニウムの濃度(質量モル濃度:molal)に対する圧縮率および熱拡散率を表している。白い四角は圧縮率を表し、黒い丸は熱拡散率を表している。室温での圧縮率および熱拡散率の最小値は、2~4mの濃度範囲で観察される。
図3】濃度2mの臭化テトラブチルアンモニウムを電解質として使用した場合のサイクリックボルタモグラムを表し、臭化カリウム2mを使用した場合における同様の酸化還元反応との比較を示している。
図4】水中におけるさまざまな臭化テトラブチルアンモニウム濃度でのサイクリックボルタモグラムを表している。明確に定義された陽極(アノード)ピーク(ia)および陰極(カソード)ピーク(ic)の存在に基づいて、比率が1に近いところで、0.6mよりも高い濃度でのみ臭化物酸化還元プロセスが可逆的であることが観察できる。電流は臭素アニオンの濃度とともに増加する。
図5】電解質としてさまざまな濃度の臭化テトラブチルアンモニウムを使用した酸化還元反応後の電極のラマンスペクトルを表している。三臭化物アニオン(160cm-1のバンド)は、プロセスの可逆性が低い結果として、0.6m未満の濃度にさらされた電極上にのみ形成されることが示されている。
図6】さまざまな臭化第4級アンモニウムのサイクリックボルタモグラムを表している。
図7】50mV/sでの2mのKBrおよび2mのTtBABrの水素飽和溶液中におけるPt/Cのサイクリックボルタモグラムを表している。およそ-0.6~0Vの領域は、白金ナノ粒子の表面での水素の吸脱着に対応し、一方、およそ0.2~0.6Vの領域はPtの表面酸化/還元に関連している。図表(右側のパネル)は、これらのプロセスを示しており、2mのTtBAでは、超分子流体中の水分子の反応性が低いため、水中のPtの表面酸化/還元が抑制される。図に示すように、0.38Vのカソードピークは、電気化学的に酸化されたPt表面の還元に対応する。興味深いことに、HO中のPtの酸化は、TtBABr(2m)水溶液では完全に抑制され、これは、正の電位で測定可能ないかなるファラデー電流もまったく存在しないことから明らかである。Ptが水素の吸着/脱離が生じる負の電位においても電気化学的に活性であるという事実によって実証されているように、TtBA塩が電極表面をブロックしていないことに注意されたい。したがって、水分子の反応性は、超分子流体構造におけるそれらの強い相互作用によって制限される。
図8】作用電極として使用される銅電極(ワイヤー)のサイクリックボルタモグラムを表し、塩化テトラブチルアンモニウム(2m)電解質の腐食抑制効果と塩化カリウム溶液の腐食効果とを比較しており、両溶液は、窒素雰囲気中、および速度50mV/sで塩化物イオン(2m)の同じ水溶液濃度を有している。
図9】電解質(無色溶液)として塩化テトラブチルアンモニウム(2m)を使用したクロノアンペロメトリー試験(0.3V)後の電気化学セルの写真を表している。クロノアンペロメトリー試験が終わり、0.3Vを300秒間印加した後、電解液の色の変化は観察されない。ただし、塩化テトラブチルアンモニウムの代わりに塩化カリウム(2m)を電解質として使用すると、最初は無色のカリウム溶液が銅の腐食により茶色に変化し、これは、同じものの紫外可視スペクトルに300nm未満のバンドが存在することと一致している。
図10】作用電極として使用される銅電極(ワイヤー)の表面のラマンスペクトルを表しており、塩化テトラブチルアンモニウム(2m)電解質の腐食抑制効果と、同じ濃度(2m)の塩化カリウム溶液の腐食効果とを比較している。電極表面は、TtBACl(TtBAカチオンの存在に関連するバンドのみが観察される、*)の存在下でクロノアンペロメトリー試験(0.3V)後に完全に無傷であり、一方、塩化カリウム(2m)では、腐食の結果として酸化銅および塩化銅の存在が観察される。右側の画像は、分析された領域を示している(スケール:30μm)。
図11】電気活性無機塩(ZnSO)およびテトラメチルオルトシリケートでドープされた電解質としての超分子流体、ならびにカソードとしての修飾カーボンクロスを使用したZn-Brボタン蓄電池を概略的に表している。
図12】実施例7.3に示された構成においてZnSOでドープされた超分子流体の電気化学的挙動を示している。(a)は、プロセス(Br/Br)の可逆性を示すさまざまなスキャン速度でのサイクリックボルタモグラムである。(b)は、陽極(アノード)ピークのlog(電流(A))およびlog(スキャン速度(mV/s))の変化のプロットである。方程式 log i = b・log u + log a を使用して得られたb = 0.8876 の値は、電気化学反応速度が表面酸化還元プロセスによって制御され、インターカレーションがないことを示している(V. Augustyn et al. Nature Materials 2013, 12, 518) 。
図13】実施例7.3に示された構成においてZnSOおよびオルトケイ酸テトラメチルでドープされた超分子流体の電気化学的挙動を示している。(a)は、さまざまな電流密度(5.3、2.65および1.32 mA/cm)での充放電サイクルである。臭化物の臭素イオンへの可逆的な酸化/還元は、それぞれ1.9および1.1Vで発生する。比静電容量(specific capacitances)は、酸化されたBrの質量に関して正規化された。(b)は、300サイクル後の静電容量保持率(%)の変化である。挿入された画像は、2サイクル、100サイクル、200サイクル、および300サイクルに対して2.65mA/cmでの充電/放電サイクルのプロファイルを示している。
図14】(a)実施例7.3の構成においてZnSOでドープされた超分子流体、および(b)ZnSO水溶液(超分子流体なし)、の数サイクル後のサイクリックボルタンメトリーを示しており、両方とも実施例7.3の同じ構成で測定された。グラフに挿入された画像は、安定性試験後の膜セパレーターの写真である。超分子流体を使用しない実験(d)では、該セパレーターの表面に黄色の領域が観察され(三臭化物Br の存在の指標)、一方、超分子流体(c)を使用した実験では、該セパレーターにはこの着色が無い。
図15】実施例7.3の図による、超分子流体の非存在下(a)およびZnSOでドープされた超分子流体の存在下(b)で組み立てられたボタン電池の写真であり、10mV/sで3Vまで電位を上げた後、封止されたケース内で生成された体積変化を強調している(電位ウィンドウ:+0.7V/+3V)(c、d)。それぞれ、超分子流体の非存在下および存在下において、正電位ウィンドウを10mV/sで0.7Vから3Vに増加させた後の、分解されたボタン蓄電池の亜鉛アノード(e、h)、膜セパレーター(f、i)、および修飾カーボンクロス(カソード)(g、j)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、本明細書に詳述され、また流体を特徴付ける物理化学的特性を有する超分子流体によって形成される新しい電解質を提供する。
【0014】
本発明の第1の態様は、水溶液中で0.6m以上の濃度でハロゲン化第4級アンモニウムまたはハロゲン化第4級ホスホニウムを含むことを特徴とする、大気条件下で安定な電解質に関する。特定の実施形態では、ハロゲン化第4級アンモニウムまたはハロゲン化第4級ホスホニウムの濃度は、2m以上である。別の特定の実施形態では、ハロゲン化第4級アンモニウムまたはハロゲン化第4級ホスホニウムの濃度は、0.6m~30mの間に含まれる。
【0015】
このように、2m以上の濃度では、この流体の各巨大分子は、ハロゲン化第4級アンモニウムまたはハロゲン化第4級ホスホニウム、および30~38個の水分子で構成されているため、すべての水分子はこれらの構造の一部であり、自由水は残存しない。したがって、流体全体が超分子である。
【0016】
本発明において、「超分子流体(supramolecular fluid)」とは、すべての水分子がその構造の一部であり、それらの物理化学的および輸送特性に関して集合的に振る舞うように、安定した構造を有する水分子の会合から構成される流体を意味する。
【0017】
本発明の流体は、大気条件下で安定である。大気条件は、周囲の温度および圧力が変化しない実験室規格の作業条件と考えられ、一般に、大気条件は15℃~30℃で、圧力は約1気圧である。本発明の流体は、これらの条件下で安定であり、実際、結晶構造を形成するために低温および高圧を必要とするクラスレートとは異なり、流体を形成するために温度や圧力を変化させる必要なく、大気条件で流体を得ることが可能である。本発明の流体は、一度形成されると安定であり、このため、その特性は変化せず、経時的に分解することもなく、本発明の創作者によって実施された研究では、それが6ヶ月以上安定であることが示されている。
【0018】
本発明の流体の形成は、水溶液中のハロゲン化アンモニウムまたはハロゲン化ホスホニウムの濃度に依存する。特定の実施形態では、水溶液は水である。したがって、2m未満の濃度では、溶液中の水の一部が遊離しており、アンモニウム塩の濃度が低いほど自由水の量が多いことが観察できる。2m以上の濃度では、自由水は存在せず、すべての水分子が流体の構造部分を形成する(図1、実施例1)。
【0019】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、第4級アンモニウム塩または第4級ホスホニウム塩の濃度は、2m~30mの間、好ましくは2m~10mの間、より好ましくは2m~4mの間、好ましくは2.3m~10mの間、好ましくは2.3m~3.6mの間、好ましくは2m~3.6mの間である。
【0020】
図1でも観察できるように、本発明の流体(すなわち2mを超える濃度)の融点温度は9~12℃であり、したがって氷の融点よりも高く、構造安定性がより高いことを示している。
【0021】
本発明の流体の熱伝導率はまた、アンモニウムまたはホスホニウムの濃度が重要であることを示し、濃度が増加するにつれて熱拡散率が減少することが観察できる(図2)。さらに、圧縮率、音速伝播速度、または熱容量など、流体の他の物理化学的特性は、2m以上の濃度で異常を示し、これらの組成における流体の独自性を示している。
【0022】
本明細書の実施例1および2において、本発明の流体は、その特徴的な特性を有する超分子流体であり、水およびアンモニウム塩が一緒になって独特の構造を形成し、それが固体状態の結晶クラスレートの構造に類似し得ることが実証されており、我々の流体はそのような結晶構造を有さず、また固体でもないことによって、例えば酸化還元プロセスの電解質など、クラスレートでは使用できない用途に使用できるという利点がある。
【0023】
実施例3Aでは、本発明の流体がBr/Br酸化還元プロセスにおける電解質としてどのように有用であるかが示されている。この例では、濃度2mの臭化第4級アンモニウムの有効性が、電解質として使用される臭化カリウムと比較されており、臭化カリウムを使用すると、三臭化物種(Br )が形成され、酸化還元反応の効率が低下するかもしくは終結するが、臭化第4アンモニウムを2mの濃度で使用すると、この副生成物は形成されない(実施例3Cおよび図5)。これは、濃度2mの臭化第4級アンモニウム液がBrを捕捉することによって、三臭化物の形成を防止できるためである。本発明の流体のさらなる利点は、その中に閉じ込められたBrを臭化物に還元することを可能にし、可逆的な電解プロセスを有利にすることである。したがって、臭化第4級アンモニウム流体が2mの濃度で使用される場合、酸化還元プロセスは可逆的である。
【0024】
実施例3Bで示されるように、流体の異なる濃度、例えば2m以上の濃度で、同じ結果が得られ、酸化還元プロセスを可逆にし、三臭化物の形成を回避する。しかし、低濃度であっても、プロセスは可逆的である。したがって、低濃度の水中の臭化テトラブチルアンモニウムの混合物では、すべての水が流体内で発生するように一種のクラスレートを形成しているわけではないが、あるパーセンテージの自由水が観察され(実施例1および図1を参照)、また、酸化還元プロセスを実行し、さらに、このBr/Br酸化還元プロセスを可逆にするのにも有用である。
【0025】
臭化アンモニウムを0.5m未満の濃度で使用すると、濃度0.2mの図4に示すように、酸化還元プロセスは可逆的ではなくなる。
【0026】
好ましい実施形態では、本発明の流体のハロゲン化第4級アンモニウムの式はX(AlqN)であり、式中、Xは塩素、臭素およびヨウ素から選択され、Alqは直鎖状または分枝状C~Cアルキルである。別の好ましい実施形態では、本発明の流体のハロゲン化第4級ホスホニウムの式はX(AlqP)であり、式中、Xは塩素、臭素およびヨウ素から選択され、Alqは直鎖状または分枝状C~Cアルキルである。特定の実施形態において、Alqは、メチル、エチル、プロピル、ブチルから選択される。特定の実施形態では、本発明で使用されるハロゲン化第4級アンモニウムは、次の式、[C2n+1Brを有し、式中、nは1、2、3または4である。
【0027】
アルキル鎖がブチルの場合、Br/Br酸化還元反応の可逆性においてより高い効率性が観察された(実施例4および図6を参照)。したがって、より好ましい実施形態では、アルキル鎖はブチルである。特定の実施形態では、本発明の流体に採用されるアンモニウムは、30~38分子の水で水和された臭化テトラブチルアンモニウムである。
【0028】
特定の実施形態では、電解質は、上述の流体からなる。
【0029】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の電極と、少なくとも1つの電極と、を備える電池(または蓄電池)に関する。
【0030】
電極は、当業者が必要に応じて、当業者の一般的な知識に基づいて選択することができる。例えば、これらは、銅電極もしくは白金電極などの金属電極、または修飾グラッシーカーボンもしくはカーボンクロスなどの炭素電極であり得る。
【0031】
電気活性無機塩、例えば陽イオンが亜鉛である無機塩でドープされた本発明の流体を使用することが可能であり、さらには、耐久性を改善するテトラメチルオルトシリケートなどの他の物質を添加することも可能である。特定の実施形態において、本発明の電解質は、電気活性無機塩でドープされる。
【0032】
本発明において、「ドーピングまたはドープされた(doping or doped)」という用語は、ある量の別の物質またはいくつかの物質を含有する流体を指し、より具体的には、流体の重量に対して少なくとも5重量%、好ましくは流体の重量に対して5重量%~50重量%の間の物質の総量を含有する。
【0033】
本発明における「電気活性無機塩(electroactive inorganic salt)」という用語は、電解プロセスを可能にし、促進し、または関与する無機塩、例えば、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはアルミニウムのカチオンを有する塩を指し、アノードの表面で還元および酸化される(例えば、アノードは、それぞれ亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびアルミニウムのプレートであり得る)。
【0034】
本発明の電解質を電気活性無機塩でドープすることは、例えば実施例7に示されたような臭化亜鉛蓄電池といった、市販の炭素で作られた低コストのカソード(正極)を使用して、新しい可逆的で安定した耐久性のある蓄電池の開発および構築を可能にするという利点を有する。実施例7の蓄電池は、本発明の電解質のいくつかの利点をさらに示している。1つの特定の場合では、既存のZnイオン蓄電池とは対照的に、本発明の蓄電池では、臭化物イオンは、合成的に複雑でかつ高価なカソードへのインターカレーションを必要としない。さらに、本発明の蓄電池は、水性亜鉛蓄電池の開発における2つの重要な制限、すなわち、アノードでの亜鉛デンドライトの形成(テトラブチルアンモニウムの阻害効果)、および水の電気分解(クラスレート構造が水分子の反応性を低下させる)を同時に解決する。本発明の電解質の使用における柔軟性はさらに、ボタン型蓄電池の構築を可能にする。
【0035】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、本発明の流体および電気活性無機塩を含む電池または蓄電池に関する。特定の実施形態では、本発明の電解質は、上記のように、流体の重量に対して少なくとも5%の電気活性無機塩を有する。特定の実施形態では、電気活性無機塩は、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウム、およびアルミニウムの塩から選択される。
【0036】
特定の実施形態では、本発明は、電池または蓄電池であって、電気活性無機塩が亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびアルミニウムから選択される陽イオンを有し、かつ、アノードがそれぞれ亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびアルミニウムから選択される、電池または蓄電池に関する。
【0037】
別の特定の実施形態では、本発明はボタン型蓄電池に関する。
【0038】
第3の態様において、本発明は、電気化学反応またはエネルギー用途における本発明の第1の態様の電解質の使用に関する。
【0039】
実施例3で示されるように、本発明の流体は臭素を封入する(encapsulating)ことができ、したがって可逆プロセスを達成することができる。したがって、本発明は、物質を封入するための本発明の第1の態様の電解質の使用にも関する。好ましくは、該物質は極性物質である。
【0040】
実施例5に示されるように、本発明の流体は水と強く相互作用し、したがって白金電極の酸化を防止する。実施例6では、本発明の流体が、塩化物イオンの存在下で、水中での銅電極の腐食を抑制する電気化学的媒体として付加的に作用できることが示されている。この新しい流体は、水分子および塩化物イオンの両方の移動を制限し、可溶性荷電種(CuCl )の形成を防ぐため、銅表面の酸化およびその後の溶解を防止する。したがって、この新しい流体は、銅電極および合金電極の安定性が不可欠である電気化学電池におけるカソード(還元)プロセスの活用を可能にする。
【0041】
したがって、特定の実施形態において、本発明は、特に電気化学電池における電極の劣化を抑制するための本発明の電解質の使用に関する。より特定の実施形態では、電極の劣化は酸化または腐食によるものである。
【0042】
本発明はまた、第4級アンモニウム塩または第4級ホスホニウム塩を、0.6m以上の濃度範囲となる量で水と混合するステップを含む、本発明の流体の調製プロセスに関する。
【0043】
混合物を調製するには、攪拌が必要となり得る。当業者は、調製される量に応じて、このプロセスで使用できるさまざまな攪拌方法、例えば磁気攪拌または機械攪拌を理解している。
【0044】
以下の実施例は、本発明を説明するのに役立ち、決して本発明を限定するものではない。
【実施例
【0045】
[材料および方法]
臭化カリウム(KBr)、塩化カリウム(KCl)、臭化テトラメチルアンモニウム(TMABr、98%)、臭化テトラエチルアンモニウム(TEABr、98%)、臭化テトラプロピルアンモニウム(TPABr、99%)、塩化テトラブチルアンモニウム(TBACl、98%)、ポリ二フッ化ビニル、硫酸亜鉛、オルトシリケートテトラメチル、およびN‐メチルピロリドン(NMP)はSigmaから購入した。臭化テトラブチルアンモニウム(TtBABr、>98%)はTCIから購入した。グラファイトナノプレートレット(2299 GNP)はAsburyから購入した。炭素に吸着したPtナノ粒子(Pt/C)(20%)は、Johson Mattheyから購入した。さまざまなアンモニウム塩およびカリウム塩の溶液は、Mili-Qグレードの水に特定の塩を溶解することによって調製した。カーボンブラック Super Pは、Alfa Aesarから購入した。Znプレート(厚さ0.1mm、99.95%)はGoodfellowから購入し、無地のカーボンクロスはFuelCellStoreから、Whatmanガラス濾紙はSigmaから購入した。
【0046】
電気化学的実験は、実験に応じて、窒素飽和または水素飽和させた水溶液を含む従来の3電極電池を使用して、室温でコンピューター制御のポテンショスタット(Autolab 201A)で実行した。Ptワイヤーを対電極として使用し、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極を参照電極として使用した。グラファイトナノプレートレットまたはPt/C(20%)(Pt含有量14μgcm-2)で修飾されたグラッシーカーボン電極(GCE、直径3mm)を作用電極として使用した。使用前に、グラッシーカーボン電極をアルミナ粉末(0.05μm)の水性懸濁液で機械的に研磨し、Mill-Q水およびアセトンですすぎ、窒素下で乾燥させた。超分子流体の防食特性を実証する実験では、銅ワイヤーを作用電極として使用した。サイクリックボルタモグラムは、4級アンモニウム塩またはカリウム塩のいずれかの溶液中において、室温で50mV/sのスキャン速度および、0.3Vを印加する銅電極を備えたクロノアンペロメトリーで実行した。
【0047】
DSC測定を、TA Instruments Q200システムを使用して実行した。断熱圧縮率のデータは、水および乾燥空気で較正されたアントンパール DSA 5000により記録された密度および超音波速度の測定値(~3MHz)から得た。比熱は、やはり水で較正されたSetaram Micro DSC-IIIで測定した。熱伝導率測定は、[C. Lopez-Bueno, D. Bugallo, V. Leboran, F. Rivadulla, Phys. Chem. Chem. Phys. 2018, 20, 7277.]に記載されている構成で、3-オメガ法を使用して、大気圧下、室温で実施した。対流の影響を避けるために、各測定について少量の溶液(1μl)を使用した。再現性のために、すべての測定を少なくとも3回繰り返した。ラマンスペクトルは、514nmのレーザー波長を使用して、Renishaw Raman分光計モデルInVia Reflexによって周囲条件で固体状態において測定した。測定のためにサンプルを電極からガラス基板に移した。UV-visスペクトルは、Perkin Elmer Lambda 25 UV/Vis分光計を用いて周囲条件で石英キュベット中にて実施した。
【0048】
[実施例1]
0.2m~18mまでのさまざまな濃度のTtBABrを含む一連の溶液を脱イオン水中で調製した。これらの溶液の熱量測定(DSC)は、およそ0.6mまでの挙動が純水の挙動に似ていることを示しており、氷形成温度での発熱ピークおよび0℃の融解温度での吸熱ピークがある。[TtBABr]≧0.6mでは、1.8mでほぼ完全に消えるまで、氷のピークは次第に抑制される。この濃度では、クラスレート水和物結晶格子の形成/融解に特徴的な発熱/吸熱ピークが現れる。形成温度は‐8度(265K)、融解温度は9℃~12℃(282K~286K)、融解エンタルピーはΔH融解=202J/gである。0℃での吸熱ピークの面積を純水の面積と比較することにより、各溶液中の自由水の割合(氷を形成するために利用可能)を抽出する。1.8mでは、水分子の1%未満が氷を形成するのに利用可能であったが、2mの溶液またはこれより高い濃度では自由水は検出されない(図1を参照)。したがって、熱量測定実験により、2m以上の濃度の臭化テトラブチルアンモニウムと水との混合物は、すべての水分子が遊離しておらず、また低温で固体クラスレート水和物と同様または同等の構造に関与している液体状態にあることが確認されている。
【0049】
氷を形成する自由水の不在に関して同様の挙動、また熱伝導率、圧縮率、熱容量、および熱拡散率の同様の変化が、1~3mの濃度範囲のテトラブチルアンモニウムホスホニウム溶液で観察された。
【0050】
[実施例2]
0.2m~18mまでのさまざまな濃度のTtBABrを含む一連の溶液を脱イオン水で調製し、それらの断熱圧縮率(K)を調べ、純水のそれと比較した(図2aを参照)。
【0051】
熱収縮により、ほとんどの液体は温度が下がるにつれて圧縮しにくくなる。ただし、水はおよそ330Kで最小の圧縮率を示し、この温度を下回ると水素架橋の形成により急速に上昇する(L. B. Skinner, C. J. Benmore, J. C. Neuefeind, J. B. Parise, J. Chem. Phys 2014, 141, 214507)。この水素架橋格子を介して水のエネルギーが最小化され得ることを考慮すると、断熱圧縮率(K)の温度への依存性は、温度および構造変動、それぞれ最小値の上下によって支配される(D. Schlesinger、K. T. Wikfeldt、L. B. Skinner、C. J. Benmore、A. Nilsson、L. G. M. M. Pettersson、The Journal of Chemical Physics 2016、145、084503)。水の熱容量(Cp)では、水素結合がかなりの量のエネルギーを保存できるため、およそ330Kで最小値が観察される。その結果、疎水性溶媒和による液体水の水素結合格子の長距離修飾(long-range modification)は、KおよびCpの大きさおよび温度依存性に反映されるはずである。
【0052】
研究によると、TtBABrが水に溶解すると、実際にKおよび熱容量Cpが急速に減少し(図2bを参照)、両者の量の温度依存性における最小値が抑制される。特に、低温でのKの減少は、[TtBABr]が増加するにつれて、水中のK優勢な構造変動(T<Tmin)が徐々に温度変動に置き換わっていることを示唆している。Cpもまた、[TtBABr]の増加とともに減少し、これは、低温エネルギー貯蔵への水素架橋の寄与の抑制を反映している。ただし、最大およそ3mまでの負のdCp/dT係数は、これらTtBABr濃度(少なくとも340Kまで)では並進モードおよび回転モード(液体水中の室温を超えるCpへの主な要因)が大幅に抑制されることを示している。一方、〔TtBABr〕の増加とともにKは再び増加し、分子液体のdK/dT>0およびdCp/dT>0の特性変化が回復する(T. S. Banipal、S. K. Garg、J. C. Ahluwalia、The Journal of Chemical Thermodynamics 1991、23、923)。我々の研究は、K(293K)およびdCp/dT(293K)の両方が、[TtBABr]およそ1.4~2.2mで最小値を表すことを示している(図2cを参照)。熱拡散率α=κ/(ρCp)もまた、Kと同じ領域で最小値を示す。水素架橋の程度および強度が、いくつかのHO分子の-OH励起のカップリングを介して、液体水中のエネルギー移動の決定要因となる。αの減少は、純粋に局所的な配位に基づいて予想されるよりもはるかに大きく、また、TtBAの疎水性溶媒和が、直近の分子環境を超えて、格子内の水の水素架橋の構造を修正するという事実をさらに裏付けている。1.8m溶液を固体クラスレートTtBABr・32HOの形成温度以下に冷却しても、結晶氷のように高い値の熱伝導率は回復しない。これは、超分子集合体間の配向変化、もしくはウォーターボックス内のTtBA鎖の移動(または両方の組み合わせ)を伴う、長距離秩序(long-range order)の貧弱さを示唆している。この状況は、無秩序な液体から新しくより強力な長距離結合が形成される真の結晶化(例えば、純粋な氷の場合のような)よりも、液体ガラス転移に類似している。
【0053】
[実施例3]
A)TtBABrおよびKBrを電解質として使用して得られたサイクリックボルタモグラム(+1.0Vと+1.4Vとの間の電位ウィンドウ)を、両方とも室温で同じ濃度(2m)および50mV/sのスキャン速度で、グラファイトナノプレートレットで修飾されたグラッシーカーボン電極(GCE、直径3mm)を作用電極として使用して、比較を行った。KBrにおいては、BrからBrへの酸化は完全に不可逆的であり、Br のカリウム塩(黄色の固体)が形成され、電極から電気化学電池の底部に落ちていく一方、TtBABrにおいては、酸化は完全に可逆的であり(i/i~1、iはアノード電流、iはカソード電流)、黄色の固体(KBr)の形成がない場合、電位ウィンドウを1.4Vまで拡張させることが可能である(図3を参照)。酸化還元プロセスは完全に可逆的であるため、電解質として臭化テトラブチルアンモニウムを使用すると、電位ウィンドウを0.7Vから1.4Vに拡張できる。
B)さまざまな濃度(0.2m~3.5m)で電解質としての水中のTtBABr溶液のサイクリックボルタモグラム(+1.0V~+1.4Vの間の電位ウィンドウ)を、グラファイトナノプレートレットで修飾されたグラッシーカーボン電極(GCE、直径3mm)を作用電極として使用して、室温でおよび50mV/sのスキャン速度で、実施した。得られた値を図4に示す。この実験は、BrからBrへの酸化が0.6m以上の濃度で非常に可逆的であり、この場合、アノード値およびカソード値は濃度とともに増加し、それらの比率(i/i)は実質的に1であることを示している。
C)ラマン分光法測定(514nmの波長で100~800cm-1の間)を、実施例3Bに記載のボルタンメトリー研究で使用した後、さまざまな濃度(0.2m~3.5m)での電解質としてTtBABrを使用して、作用電極のそれぞれの表面で実施した。スペクトルは、低濃度(0.2m)のTtBABrでのみ三臭化物(Br )のピーク(160cm-1)の存在を示している。この実験では、濃度が0.6mを超えると、Br ピークはもはや観察されない。これは、高濃度のTtBABrでは、Br/Br酸化還元プロセスが可逆的になり、三臭化物(Br )の形成が阻害されるためである(図5を参照)。テトラブチルアンモニウムカチオンは、電気化学的に形成されたBrに対するBrイオンの攻撃によって形成される三臭化物イオンの形成を高濃度(すなわち0.6m)で阻害することができる。
【0054】
[実施例4]
サイクリックボルタモグラム(+1.0V~+1.4Vの間の電位ウィンドウ)を、室温でおよび50mV/sのスキャン速度で、同じ濃度(2m)で、水中において異なる鎖(メチル(n=1)、エチル(n=2)、プロピル(n=3)、およびブチル(n=4))を有するさまざまな臭化第4級アンモニウム溶液を電解質として使用し、グラファイトナノプレートレットで修飾されたグラッシーカーボン電極(GCE、直径3mm)を作用電極として使用して実施した。Br の形成に関連する正電位(>1.2V)での陽極(アノード)ファラデー電流は、アルキル鎖の炭素数が減少するにつれて増加することが観察される(図6を参照)。したがって、これらのボルタモグラムの比較から、BrからBrへの酸化の可逆性はアルキル鎖のサイズに依存し、ブチル(n=4)について最大(i/i~1、iはアノード電流、iはカソード電流)であることが示された。また、テトラブチルアンモニウムカチオンのみが、最高の可逆性(i/i~1)を示しながら、高電位(つまり、>1.2、陰影部分)でBr の形成を阻害できる。
【0055】
[実施例5]
正電位での水中におけるPt(0)の酸化、すなわち Pt+HO → Pt‐OH+H+e(およびその逆の還元反応)は、よく知られたプロセスである[S. Gilman, Electrochimica Acta 1964, 9, 1025]。超分子液体構造が、Pt表面で発生する酸化還元プロセスへの水分子の関与を制限するかどうかをテストするために、電解質としてTtBABrの水溶液(2m)を使用した、グラッシーカーボン電極(GCE、直径3mm)に担持された炭素(Pt/C、20%)上のPtナノ粒子のサイクリックボルタモグラム(-6.6V~+0.6Vの電位ウィンドウ)を室温にて50mV/sのスキャン速度で実行し、同じ条件下でKBrを電解質として使用して得られたものと比較した(図7を参照)。Ptナノ粒子は、KBrの水素飽和溶液(2m)で期待される電気化学的活性を示し、つまり、H分子は、負の電位(およそ-0.6V~0V)でPt表面に可逆的な吸着/脱着を示すが、HO分子は~0.4Vを超える電位でPt表面を酸化させる。KBr溶液の0.38Vでの陰極ピークは、電気化学的に酸化されたPt表面の還元に対応する。対照的に、HOによるPtの酸化は、正の電位で測定可能なファラデー電流が存在しないことによって反映されるように、TtBABr水溶液(2m)では完全に阻害される。TtBAが電極表面をブロックしていないことに注意することが重要であり、これは、Ptが水素の吸着/脱着が行われる負の電位で電気化学的に活性のままであるという事実によって証明されている。したがって、その反応性を制限するのは、この超分子流体のコンパクトな構造におけるHO分子間の強い相互作用なのである。
【0056】
[実施例6]
A)Cuなどのいくつかの非貴金属の電気化学的適用は、水性環境、特に塩化物(Cl)イオンの存在下における腐食に起因して、それらの安定性により厳しく制限される[Y. Wang, B. Liu, X. Zhao, X. Zhang, Y. Miao, N. Yang, B. Yang, L. Zhang, W. Kuang, J. Li, E. Ma, Z. Shan, Nature Communications 2018, 9, 1、およびY. Qiang, S. Fu, S. Zhang, S. Chen, X. Zou, Corrosion Science 2018, 140, 111]。我々の超分子流体([TtBACl]≧2m)が電解質として作用する場合、そのような金属の腐食を低減されることができるかどうかを調査するために、参照電極としてAg/AgClを使用し、対電極としてPtワイヤーを使用した3電極構成の銅ワイヤー(作用電極)の電気化学的特性を調査し、また同じ濃度および条件(窒素雰囲気、室温、およびスキャン速度50mV/s)のKCl水溶液で得られたものと比較した。Cuの腐食は化学的に複雑であり、酸化銅(CuO)への酸化以外に、Clの存在下での追加の2段階プロセスが知られている。この場合、[A. R. Langley, M. Carta, R. Malpass-Evans, N. B. McKeown, J. H. P. Dawes, E. Murphy, F. Marken, Electrochimica Acta 2018, 260, 348]によると、電極表面にCuCl膜が成長する。
【数1】
および、その後に可溶性クロロ銅酸塩(I)種を形成する。
【数2】
KCl溶液(2m)で得られたCuワイヤーのサイクリックボルタモグラムは、Cu腐食が、およそ0Vの電位でのCu(0)からCu(I)への酸化を含む酸化還元プロセスを通じて発生し、陽極(アノード)ピークと陰極(カソード)ピークとの間の距離間隔が約0.216V(ΔE=Ea-Ec)であることを示している(図8を参照)。このプロセスの低いクーロン効率(陽極ピークと陰極ピークとの比率が1よりはるかに高い、(i/i) およそ2.42)は、Cu原子の一部が不可逆的にCuCl (aq)に酸化され、電極表面から失われ、水中で電極上に堆積されるCuOをさらに形成することの確証となる。CuCl (aq)の形成および損失は、0.2Vを超える電位で電流が正のままであるという事実と一致しており、新しいCu原子が電極表面に継続的に現れ、正の電位で酸化していることを示している。TtBACl溶液(2m)中のCuワイヤーのサイクリックボルタモグラムをKCl(2m)中で得られたものと比較すると、KClで発生する腐食プロセスが我々の超分子流体で抑制されていることが観察される。その代わりに、Cu(0)からCu(I)への酸化に対する新しい酸化還元プロセスが、約-0.52V(ΔE=E-Eはおよそ1.162V)の電位で発現し、またより低電流密度では、我々の超分子流体を形成する構造の還元に対してCu(I)が安定化される(図8を参照)。このプロセスでは、0.2Vの電位での電流が負になり、酸化後の電位の低下が伴うため、CuCl (aq)の形成および損失が抑制されることも観察される。
B)クロノアンペロメトリー実験を0.3Vで実行し、電解質として使用される溶液を分析した。0.3Vの電位を300秒間印加した後、TtBACl水溶液(2m)では変化が観察されなかったが、最初は無色であるカリウム溶液では、銅の腐食の結果として、わずか90秒後に溶液が茶色に変色することが観察され、これは銅の紫外可視スペクトルの300nm未満のバンドの存在と一致する(図9を参照)。
C)Cu電極表面のラマン分光測定(514nmの波長で100~1000cm-1の範囲)を、クロノアンペロメトリー実験(0.3V)の後に、同じ濃度(2m)でTtBAClおよびKClを電解質として使用して、実施例6Bに従って、実行した(図10を参照)。分析領域の光学画像も得られた(スケール:30μm)。TtBACl存在下で0.3Vを300秒間印加した後、電極表面は完全に無傷であるが(TtBAカチオンの存在に関連するバンドのみが観察される*)、塩化カリウムでは、わずか90秒後に腐食の結果として酸化銅および塩化銅の存在が観察され、これは、分析された画像に青いコーティングが存在することと一致している。
【0057】
[実施例7]
実施例1の超分子流体を用いたZn-Brボタン蓄電池の作製。
【0058】
[7.1.ZnSOおよびオルトケイ酸テトラメチルでドープされた超分子流体の調製]
ZnSOの水溶液3.4mLおよびオルトシリケートテトラメチル0.1mLを、臭化テトラブチルアンモニウム1.8m水溶液1mLに加えた。混合物を磁気攪拌しながら50℃で6時間加熱した。
【0059】
[7.2.電極の調製]
負極(アノード)にはZnホイルを用い、正極(カソード)には修飾カーボンクロスを用いた。修飾カーボンクロスは、市販のグラファイトナノプレートレット、スーパーPカーボンブラック、ポリフッ化ビニル(質量比 80:10:10)をN‐メチルピロリドンと混合することによって調製した。得られた均一な懸濁液を市販のカーボンクロス上に堆積させ、真空オーブン内において60℃で12時間乾燥させた。
【0060】
[7.3.ボタン電池の組み立て]
電極は、電極ディスク(直径15mmおよび12mm)およびガラス繊維ろ紙(直径19mm)を使用して、標準のCR2032ボタン電池で組み立てた。15mmのZnプレートを負極として用い、12mmの修飾カーボンクロスを正極として用いた(図11)。
【0061】
[7.4.ボタン蓄電池の電気化学試験]
サイクリックボルタンメトリーおよび電気化学インピーダンス分光法(EIS)を、PARSTAT MC 200ポテンシオスタット/ガルバノスタットを使用して実行し、一方、充電および放電サイクルテストを、CT3002AU電気化学ワークステーションを使用して0.5~2Vの電位範囲で実行した。
【0062】
この実施例では、実施例1の流体を1.8mの濃度で使用してボタン型蓄電池を設計する方法を示している(図11および図12)。図13は、Zn-Brボタン蓄電池の耐久性を示している。
【0063】
さらに、電池の可逆性が検証されており(図14)、超分子流体がない場合(図14bおよび図14d)、セパレーターの表面に黄色の領域が観察され(三臭化物、Br の存在を示すもの)、一方、超分子流体を使用した実験(図14aおよび図14c)では、セパレーターにはこの着色はない。電極(カソード)表面でのセミクラスレートの形成は、三臭化物の形成(黄色)の二次反応を抑制し、電気化学的に可逆的なZn-Brボタン蓄電池の開発を可能にする。
【0064】
高電位での超分子流体を含むZn-Brボタン電池の電気化学的安定性も示され、電流ピークおよび水の電気分解を抑制する(図15)。電位の増加の結果としては、超分子流体の非存在下での実験について、はるかに顕著な電流ピークが観察され、安定性が損なわれ、したがって蓄電池の安全性が損なわれる。同じ条件下で、超分子流体を含むZn-Brボタン蓄電池はより安定かつ安全であり、Br/Brプロセスを電気化学的に可逆にするだけでなく、水の電気分解を抑制し、電位ウィンドウを550mV(つまり、2.21~2.76V)以上増加させることが示されている。写真15e)-j)を比較すると、超分子流体の非存在下での実験で起こることとは対照的に、セパレーターに黄色の着色が存在しないことがはっきりと観察できる。
図1
図2
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図5
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図10
図11
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【国際調査報告】