(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-29
(54)【発明の名称】減摩コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230922BHJP
C09D 177/00 20060101ALI20230922BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20230922BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230922BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D177/00
C09D179/08 A
C09D179/08 B
C09D7/61
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513526
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 US2021047110
(87)【国際公開番号】W WO2022046617
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523064620
【氏名又は名称】ディディピー スペシャルティ エレクトロニック マテリアルズ ユーエス 9 エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】DDP Specialty Electronic Materials US 9,LLC
(71)【出願人】
【識別番号】519393129
【氏名又は名称】デュポン ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】ムシュルシュ、メリッサ
(72)【発明者】
【氏名】フォックス、ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー、ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ベイル、ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】チョウドリー、ビシュワジット
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB022
4J038CD122
4J038DH001
4J038DJ021
4J038HA026
4J038HA376
4J038KA06
4J038KA10
4J038MA14
4J038NA11
4J038PB05
4J038PB07
(57)【要約】
(a)可溶性樹脂と、(b)不溶性ポリマーと、(c)任意選択的に固体潤滑剤と(d)溶媒とを含む減摩コーティング処方組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減摩コーティング処方組成物であって、
(e)可溶性樹脂と、
(f)不溶性ポリマーと、
(g)任意選択的に固体潤滑剤と、
(h)溶媒と
を含む、減摩コーティング処方組成物。
【請求項2】
前記不溶性ポリマーは、ポリアミドイミド、ポリアミド、又はポリイミドポリマーである、請求項1に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項3】
前記不溶性ポリマーはポリイミドポリマーである、請求項2に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項4】
前記減摩コーティング組成物は前記固体潤滑剤を含み、及び前記固体潤滑剤は、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、又はモリブデン及びコバルトを含む金属硫化物の1つ以上を含む、請求項1に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項5】
前記可溶性樹脂は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニルスルホネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、ポリ-ブチルチタネート、ポリアクリル-アルキド樹脂、ポリエーテルケトンケトン、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、又はフルオロポリマーから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項6】
前記可溶性樹脂は、アミド対イミドの比が100:0~10:90である、ポリアミドイミドである、請求項1~5のいずれか一項に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項7】
前記減摩コーティング処方組成物は、前記減摩コーティング処方組成物中の前記可溶性樹脂及び不溶性ポリマーの重量を基準として、10~30%(w/w)の前記可溶性樹脂と、前記減摩コーティング調合物中の可溶性樹脂及び不溶性ポリマーの前記重量を基準として、5~90%(w/w)の不溶性樹脂とを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項8】
減摩コーティングを備えた部品を形成する方法であって、請求項1に記載の減摩コーティングを前記部品に塗布する工程を含む方法。
【請求項9】
請求項1に記載の減摩コーティング調合物から形成される減摩コーティングを含む、部品。
【請求項10】
前記コーティングは、5~50ミクロンの厚さを有する、請求項9又は10に記載の部品。
【請求項11】
前記部品は摺動部材である、請求項8~10のいずれか一項に記載の部品。
【請求項12】
前記摺動部材は、コンプレッサの斜板、エンジンタペット、カムシャフト、クランクシャフト、エンジンメタル、エンジンピストン、ピストンリング、ギヤ、ドアロック、ブレーキシム又はブレーキクリップである、請求項11に記載の部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
なし
【0002】
本発明は、概して、減摩コーティング組成物、その組成物から形成される減摩コーティング、及びその減摩コーティングを有する摺動部材に関する。
【背景技術】
【0003】
減摩コーティング(AFC)は、当技術分野において、産業機械、建設機械及び自動車用に使用される構成部品の摺動特性を改善することで知られている。典型的な減摩コーティング組成物は、樹脂バインダーと、固体潤滑剤と溶媒とを含む。固体潤滑剤は、相対運動における接触面の摩擦及び摩耗を低減し、損傷からの保護を提供するために働く。周知の固体潤滑剤には、二硫化モリブデン(MoS2)、黒鉛及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が含まれる。樹脂バインダーは、固体潤滑剤を結び付け、AFCに強度を提供するために働く。2つの周知の樹脂バインダーには、ポリアミド及びポリアミドイミドが含まれる。
【0004】
国際公開第2016/073341A号パンフレットは、耐摩耗性コーティングを含むコネクティングロッドを開示している。その耐摩耗性コーティングは、ポリマーマトリクスと、固体潤滑剤と硬質粒子とを含み、ここで、固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、黒鉛、硫化タングステン、六方晶系窒化ホウ素、ポリテトラフルオロエチレン及び金属硫化物から選択される。それは、1つ以上の固体潤滑剤を含有することができる。米国特許第7,368,182B号明細書は、耐摩耗性を改善するための更なるコーティングを開示している。
【0005】
AFCは、様々な方法によって構成部品に塗布され得る。例えば、液体コーティングは、浸漬コーティング、スピンコーティング、はけ塗り、及び吹付けコーティングによって塗布され得る。これらの方法は、液体AFC組成物及びAFCとしてのその性能にいくつかの固有の制限を課す。例えば、ベース樹脂バインダーは、溶媒へのいくらかの溶解性を持たなければならない。溶解性は、類似の構造の樹脂バインダーの分子量の増加と共に低下するので、十分に低い分子量の樹脂バインダーが、流動性及び/又は噴霧性を維持するため必要とされる。しかしながら、分子量の低下には、AFCの強度の同様な低下が同伴し得る。同様に、液体AFC組成物中の樹脂バインダー及び固体潤滑剤の含有量を増加させると、液体AFC組成物の流動性及び噴霧性に悪影響を与えるが、それぞれ、AFCの強度及び摺動特性を改善し得る。
【0006】
樹脂及び固体潤滑剤を含むいくつかのAFCは、優れた摺動特性を示すけれども、改善された強度及び/又は摺動特性を有するAFCを提供する及び吹付けコーティングなどの公知の方法を用いて塗布される液体AFC組成物の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a)可溶性樹脂と、(b)不溶性ポリマーと、(c)任意選択的に固体潤滑剤と、(d)溶媒とを含む減摩コーティング組成物を指向する。
【0008】
本発明は、更に、減摩コーティング組成物から形成された減摩コーティングを指向する。
【0009】
減摩コーティング組成物は、液体AFC組成物を塗布する伝統的な方法で部品に塗布され得、結果として生じたAFCは、低下した摩擦係数及び増加した耐久性などの改善された特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】ボールオンプレート摩耗試験の試験セットアップの幾何学的配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」又はそれらの任意の他の変形は、非排他的な包含を含むことが意図される。例えば、特徴のリストを含む方法、物品、若しくは装置は、それらの特徴にのみ必ずしも限定されず、明確にリストアップされない又はそのような方法、物品、若しくは装置に固有の他の特徴を包含し得る。更に、その逆を明記しない限り、「又は」は、包括的な「又は」を意味し、排他的な「又は」を意味しない。例えば、条件A又はBは、以下のいずれか1つによって満たされる:Aは、真であり(又は存在し)、及びBは、偽である(又は存在しない)、Aは、偽であり(又は存在せず)、及びBは、真である(又は存在する)、並びにA及びBは、両方とも真である(又は存在する)。
【0012】
また、「1つの(a)」又は「1つの(an)」の使用は、本明細書に記載された要素及び成分を記載するために用いられる。これは、便宜上及び本発明の範囲の一般的な意味を与えるために行われるにすぎない。この記載は、1つ、少なくとも1つを含むと読まれるべきであり、又はそうでないことを意味することが明らかでない限り、単数形はまた複数形を包含する、又は逆もまた同様であると読まれるべきである。例えば、ただ1つの実施形態が本明細書で記載される場合、1つ超の実施形態が、ただ1つの実施形態の代わりに用いられ得る。同様に、1つ超の実施形態が本明細書で記載される場合、ただ1つの実施形態が、その1つ超の実施形態に代替され得る。
【0013】
減摩コーティング組成物であって、
(a)可溶性樹脂と、
(b)不溶性ポリマーと、
(c)任意選択的に固体潤滑剤と、
(d)溶媒と
を含む、組成物。
【0014】
減摩コーティング組成物の可溶性樹脂(a)は、後で記載される減摩コーティングのマトリックスポリマーとして働く。樹脂の例としては、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニルスルホネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、ポリ-ブチルチタネート、ポリアクリル-アルキド樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、フルオロポリマー、及びそれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、可溶性樹脂(a)には、ポリアミドイミド、(ポリイミド)及び(ポリアミド)、或いはポリアミドイミドが含まれる。一実施形態では、可溶性樹脂(a)は、ポリアミドイミドが、60:40~86:14、或いは60:40~70:30のイミド対アミドポリマー単位の比でアミド及びイミドポリマー単位を含む、ポリアミドイミドである。
【0015】
可溶性樹脂は、後で記載される濃度で液体AFC組成物の溶媒に可溶性である。可溶性樹脂の分子量は、溶媒への溶解性に影響を及ぼす。例えば、いくつかのより低い分子量のポリイミド樹脂は、可溶性であり得るが、同じモノマー及びモノマー比のより高い分子量の変形は可溶性ではない可能性がある。可溶性ポリマーに関して、「可溶性」は、樹脂が溶媒に溶けて均質な溶液を形成するであろうことを意味し、溶媒に溶けて溶液を形成する分子量の樹脂材料を含む。
【0016】
減摩コーティング処方組成物中に存在する可溶性樹脂は、減摩コーティング処方組成物の固形分の100重量部に対して10~90重量部の範囲である。より好ましくは、樹脂含有量は、減摩コーティング処方組成物の固形分の100重量部に対して、20~80重量部、更により好ましくは30~70重量部である。この明細書において、減摩コーティング処方組成物の固形分の重量は、AFC処方組成物の固形分(すなわち、可溶性樹脂、不溶性樹脂、固体潤滑剤及び固体形態の追加成分)の総重量を意味する。
【0017】
可溶性ポリマーの製造方法は、当技術分野において公知である。多くの可溶性ポリマー材料は市販されている。
【0018】
AFCは、不溶性ポリマーを含む。不溶性ポリマーは、液体AFC組成物に溶けない。「不溶性」は、材料が均質な液体を形成するために液体AFC組成物の溶媒に溶けないであろうし、したがってAFC組成物中に分散させられなければならないことを意味する。
【0019】
不溶性ポリマーは、不溶性ポリマーが液体AFC組成物に不溶性であるように十分に高い分子量、或いは20,000ダルトン超、或いは50,000ダルトン超、或いは50,000~70,000ダルトン超、或いは50,000~100,000ダルトンである分子量(Mw)を有する。
【0020】
不溶性ポリマーは、ポリアミドイミド、ポリアミド、又はポリイミドポリマー、或いはアミド対イミドの比が0:100~90:10、或いは0:100~50:50、或いは0:100~10:90であるポリアミドイミドポリマーであるか、或いは不溶性ポリマーは、1%(w/w)未満、或いは実質的にゼロのアミドモノマー単位、或いはゼロのアミドモノマー単位を含むポリイミドホモポリマーである。
【0021】
不溶性ポリマーの粒径は、液体AFC組成物から形成されるAFCの所望の厚さに依存する。液体AFC組成物によって形成されるコーティングは、5~20、或いは10~15ミクロンの所望の平均厚さを典型的には有する。当業者は、AFCの平均厚さを測定する方法を知っているであろう。例えば、コーティング厚さは、表面形状測定又は光学的方法を用いる測定によって決定され得る。不溶性ポリマーの平均粒径は、15未満、或いは0.1~10、或いは1~6ミクロン(すなわち、マイクロメートル)である。当業者は、不溶性ポリマーの平均粒径を測定する方法を知っているであろう。一実施形態では、不溶性ポリマーの粒径は、Malvern Particle Size Analyzer Mastersizer 3000を用いてレーザー光散乱によって測定される。
【0022】
当業者は、不溶性ポリマーを製造する方法を知っているであろう。ポリアミドイミド及びポリイミドポリマーの製造方法は、よく知られている。例えば、ポリイミドは、アミン及び酸無水物化合物などの、適切なモノマーを重合させて、不溶性ポリイミドポリマーを形成するか、又は他の適切なモノマーと組み合わせて不溶性ポリアミドイミドポリマーのポリアミド部分をまた形成することによって製造される。不溶性ポリマーとして有用な多くのポリマーが市販されている。
【0023】
液体AFC組成物中の不溶性ポリマーの量は、減摩コーティング処方組成物の固体樹脂含有量(すなわち、可溶性樹脂及び不溶性ポリマー)の100重量部に対して、1~89重量部、好ましくは5~50重量部、より好ましくは10~30重量部の範囲である。
【0024】
固体潤滑剤(c)は、液体AFC組成物から製造されたAFCに潤滑を提供する固体材料である。液体AFC組成物用の多くの固体潤滑剤が当技術分野において公知である。液体AFC組成物に使用される固体潤滑剤(c)は、典型的には、これらの「シート」が互いに比較的容易に滑る状態で、プレートレット様構造を有する。材料は、減摩コーティングの調製及び混合中に、より小さな粒子へ容易に分解されるより大きな凝集体へ自然にクラスター化する。固体潤滑剤の平均一次粒径は、好ましくは0.1~10マイクロメートル、より好ましくは1~6マイクロメートルである。
【0025】
固体潤滑剤の例としては、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、金属モリブデン硫化物(MxMo(1-x)S2)(ここで、Mは、コバルト、タングステン、タンタル又はニッケル、及びそれらの混合物である)が挙げられるが、それらに限定されない。一実施形態では、固体潤滑剤(c)は、黒鉛、或いは上に記載されたようなコバルトモリブデン硫化物である。
【0026】
液体AFC組成物中の固体潤滑剤の量は、減摩コーティング処方組成物の全固形分の100重量部に対して、1~89重量部、好ましくは5~50重量部、より好ましくは10~30重量部の範囲である。
【0027】
溶媒(d)は、可溶性樹脂を溶かす又は可溶化するが、不溶性ポリマーを溶かさない又は可溶化しない。それ故、選択される溶媒は、AFC組成物中の可溶性樹脂及び不溶性ポリマーに依存する。使用可能な溶媒には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル及び酢酸エチルなどのエステル類;トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素類;エタノール、2-プロパノール、ジアセトンアルコール(DAA)などのアルコール類;1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン及びトリクロロトリフルオロエタンなどの有機ハロゲン化合物;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、メチルイソピロリドン(MIP)、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)、ジメチルアセトアルデヒド(DMAC)、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)、並びにそれらの混合物が含まれるが、それらに限定されない。好ましい溶媒は、DMI、NEP及びキシレンである。
【0028】
本明細書に記載される減摩コーティング処方組成物は、本発明の目的が損なわれない限り、UV吸収剤、安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、顔料、染料、又は分散剤などの追加成分を任意選択的に含み得る。存在する場合、追加成分の量は、好ましくは、減摩コーティング処方組成物の固形分の100重量部に対して、0.1~5重量部の範囲である。
【0029】
本明細書に記載される減摩コーティング処方組成物は、当業者に公知の方法を用いて、例えば、任意の好適な順序で従来の装置を使用して記載される成分を混合して調製され得る。例えば、樹脂を溶かす及び不溶性ポリマーと固体潤滑剤と存在する場合他の成分とを導入すること。一実施形態では、固体潤滑剤は、ポリマー/黒鉛複合材として減摩コーティングに添加される。追加の固体潤滑剤及び/又は不溶性ポリマーはまた、ポリマー/黒鉛複合材とは別々に添加され得る。ポリマー/黒鉛複合材の形成方法は、当技術分野において公知である。例えば、黒鉛をポリイミドに封入する方法は、米国特許第5,886,129号明細書に教示されており、その特許は、黒鉛をポリイミドに封入する方法のその記載に関して参照により本明細書によって援用される。
【0030】
部品をコートする方法であって、液体減摩コーティング組成物を部品に塗布する工程を含む方法。
【0031】
減摩コーティングは、液体AFC組成物を部品に塗布するための当技術分野において公知の方法を用いて部品に塗布される。例えば、液体AFC組成物は、吹付けコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り、又はスピンコーティングによって部品に塗布され得るか、或いは液体AFC組成物は、吹付けコーティングによって部品に塗布される。当業者は、吹付けコーティング、浸漬コーティング、又はスピンコーティングを用いて液体AFC組成物を部品に塗布する方法を知っているであろう。
【0032】
部品をコートする方法における液体AFC組成物は、上に記載された液体AFC組成物である。液体AFC組成物が塗布される部品は、当業者が減摩コーティング組成物を塗布するであろう任意の部品であることができる。部品の例は、コンプレッサの斜板、エンジンタペット、カムシャフト、クランクシャフト、エンジンメタル、エンジンピストン、エンジン締結具、滑り軸受、ピストンリング、ギヤ、ドアロック、ブレーキシム又はブレーキクリップから選択される摺動部材であろう。金属に加えて、部品は、プラスチック、木材、エラストマー、複合材等であることができる。部品はまた、基材とも言われ得る。
【0033】
一実施形態では、部品をコートする方法は、そのような方法で当技術分野において公知の追加工程を更に含む。例えば、本方法は、液体AFC組成物を乾燥させてAFCを形成する追加工程を含み得る。乾燥は、例えば、部品の風乾又は加熱を含み得る。本明細書で用いるところでは、「乾燥」は、液体AFC組成物から溶媒を除去して固体AFC膜を形成することを意味する。加熱はまた、液体AFC組成物を硬化させてAFCを形成するというタスクを行い得る。
【0034】
AFCでコートされた部品であって、部品が、上に記載された部品をコートする方法によってコートされ、及びAFCが上に記載されたとおりである部品。
【0035】
AFCでコートされた部品であって、コーティングが5~50ミクロンの厚さ、或いは10~15ミクロンの厚さを有し、及び部品をコートする方法が上に記載され、AFCが上に記載されたとおりである部品。
【0036】
上に記載された方法を用いて上に記載されたようなAFCでコートされた部品であって、摺動部材である部品。摺動部材の例としては、コンプレッサの斜板、エンジンタペット、カムシャフト、クランクシャフト、エンジンメタル、エンジンピストン、ピストンリング、ギヤ、ドアロック、ブレーキシム又はブレーキクリップが挙げられるが、それらに限定されない。
【0037】
上述の減摩コーティング組成物から形成された塗膜。膜は、上に記載された組成物を基材の表面上へ塗布し、次いでそれを加熱して塗布された組成物を硬化させることによって形成される。基材は、金属、プラスチック、木材、エラストマー、複合材等であり得る。コーティングは、任意の従来の方法、例えばスピンコーティング、はけ塗り、浸漬及び吹付けによって表面に塗布することができる。コーティング厚さは、膜の要求される特性及び寿命から決定されるが、典型的には5~20マイクロメートル、或いは10~15マイクロメートルである。減摩コーティング処方組成物が基材の表面上に塗布されるとすぐに、それは、溶媒(該当する場合)を蒸発させるために乾燥させられ、塗膜を形成するために硬化させられる。硬化プロセスは、基材の性質及び樹脂の種類に依存する。例えば、硬化は、オーブン中で100~280℃の温度で30~90分間行うことができる。用語「硬化」の意味は、本明細書で用いるところでは、そのプロセスに関与する化学反応が存在する技術における狭い定義よりも広く、及び、起こる反応がゼロであるか、又は非常に少ないかもしれないが、熱硬化性材料で起こるなどの物理的特性の変化を伴うプロセスを包含することをまた意図する。
【0038】
液体AFC組成物は、部品、例えば自動車並びに他の産業に使用される部品をコートするために使用することができ、或いは部品は、自動車並びに他の産業に使用される摺動部材である。液体AFC組成物は、エンジン、代わりの部品、或いは摺動部材、及び摩擦が部品破損につながり得る他の部品の寿命を延ばすのに役立つAFCを形成する。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は、本発明の方法をより良く例示するために提示されるが、それらは、添付の特許請求の範囲に正確に記述される、本発明を限定すると考えるべきではない。特に記載しない限り、本実施例において報告される全ての部及び百分率は重量による。次の表は、本実施例で用いられる略語を説明する。
【0040】
【0041】
背景:試験方法
ボールオンプレート摩耗試験:
ボールオンプレート摩耗試験は、ASTM G-133に従って行った。
図2に関連して、直径1/2インチの鋼球(11)を、鋼(又は他の材料)クーポンに塗布されている、減摩コーティング(21)と10Nの力で接触させた。試験試料を4mmのストローク長で前後に合計10,000回通過(つまり、5000サイクル)の間往復させる際に、荷重を試験の全体にわたって維持した。ASTM G-133からの試験セットアップ(1)の幾何学的配置を、参考のために
図2に示す。
【0042】
試験後に、摩耗傷痕を深さに関して評価し、%摩耗を傷痕の平均深さ/膜の深さとして報告する。平均摩擦係数をまた、全体5000サイクル試験に関してか、又はその試験のサブセット(例えば、最初の1000又は2000サイクル)に関してかのどちらかで報告する。
【0043】
ブロックオンリング試験
用いられる第2のトライボロジー試験は、LFW-1、つまりブロックオンリング試験(ASTM-D 2714)である。(
図1を参照されたい)。これは、72rpmで比較的高い荷重(2,860N)下に行われるドライテストであり、その試験では、上方のブロックがコートされたリングと印加荷重下で接触させられ、摩耗表面が(上方のブロックの幅の)リングの外面積であるように、リングがブロックの下で回転させられる。この試験は、最初の10分にわたって荷重を増加させ、コーティングが破損し、そして摩擦係数が劇的に増加するまで最大2,860Nを保持する。この試験のための基本的な幾何学的配置を
図1に示す。LFW-1は、コーティングの破損まで行われるので、性能は、破損(すなわち、CoFの劇的な増加によって示される)までの最大荷重下でのサイクルの数によって報告される。
【0044】
本実施例で使用される原材料
Hitachi HPC-9300D:日立化成株式会社から購入される市販のポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)。DMI(1,3-ジメチル-2イミダゾリジノン)溶媒中の20%の非揮発性物質含有量で供給される。
Hitachi HPC-5000E-37:市販のポリアミドイミド樹脂。NEP(N-エチル-2-ピロリドン)溶媒中の36%の非揮発性物質含有量で供給される。
SCP5000樹脂:ポリイミド樹脂(不溶性ポリマー);Vespel(登録商標)でDu Pontによって供給される、引張PSI 24230、伸び7%。
黒鉛CSSP:約1ミクロンの平均粒径で日本黒鉛工業から購入される黒鉛。
黒鉛UF-2:AMG Graphiteから購入される黒鉛、平均粒径1.8ミクロン。
MoS2:Climax Molybdenumから購入される。工業細粒度銘柄は、6ミクロンの中央粒径を有した。工業銘柄は、約30ミクロンの中央粒径を有した。
Cefral Lube:セントラル硝子株式会社から購入されるテトラフルオロエチレンオリゴマー。分子量は、1,500~20,000ダルトンであった。
標準減摩コーティング組成物及びAFC。
【0045】
実施例1-液体AFC組成物の製造方法、及び液体AFC組成物からのAFC
下の表中の減摩コーティング組成物(実施例2及び4)は、固体潤滑剤及び不溶性ポリマー成分を可溶性ポリマー樹脂の溶液に添加することによって調製した。この混合物を、次いで、およそ2mmスチール媒体を使って10~20分間Gyromixerで粉砕し、濾過して媒体を除去した。最終調合物を、次いで、好適な粘度に希釈し、膜を試験部品上へ吹き付けた。膜を吹き付けた後、部品を、約15ミクロンの標的膜厚さを目指して80℃で10分間、次いで180~230℃で1時間加熱した。
【0046】
実施例2~5
2つの液体AFC組成物(実施例2及び実施例4)並びに液体AFC組成物から形成された乾燥膜の組成を次の表に示す。個々の材料の量を、具体的な実施例に記載されるように変えた。乾燥膜中の不溶性樹脂と可溶性ポリマーとの総量(すなわち、合計)が同じものにとどまる、及び顔料(すなわち、固体潤滑剤)対バインダー(可溶性樹脂及び不溶性ポリマー)比が同じものにとどまるような、その結果試料を性能特性に関して直接比較することができるような重量パーセントで可溶性樹脂及び不溶性ポリマーを添加した。
【0047】
【0048】
実施例2及び4は、液体AFC組成物を表し、実施例3及び5は、それぞれ、実施例1及び3の液体AFC組成物から形成された膜中の各材料の固体重量百分率を表す。
【0049】
比較例1~2
【0050】
【0051】
実施例6-乾燥AFC組成物の性能
黒鉛(固体潤滑剤)あり及びなしで可溶性ポリマーと不溶性ポリマーとを含む並びに可溶性樹脂と不溶性ポリマーとの合計を同じものに保つ液体減摩コーティング組成物から形成された膜を、対照調合物(すなわち、不溶性ポリマーを含有しない)と共に摩擦係数に関して試験した。以下のプロットにおいて、摩擦係数を、実施例2の処方変化についての標準ボールオンプレート摩耗試験(上で記載された)に関して試験時間の関数として様々なコーティングについて示す。変化をグラフ及び表において書き留める。不溶性ポリマーを持たない(すなわち、バインダーとして100%可溶性ポリマーを有する)比較例(「対照」と表示された及び黒色実線でグラフに描かれた)を試験に含めた。灰色線でプロットされる調合物は、ポリイミド固体の高いローディング(すなわち、乾燥膜中の全バインダーの30%(w/w))を持っており、試験にわたって改善された摩擦係数を与え、所望のプラトーを示す。点線及び破線で表される試料は、摩擦係数に関して更にもっと改善され、全体黒鉛用量を一定に保ちながら混合ポリイミド-黒鉛組成物の一部としてポリイミドを添加することによって調製された。すなわち、混合ポリイミド-黒鉛組成物とは別に組み合わせられる任意の追加の黒鉛は、一定の顔料:バインダー比を保つためにポリイミドと一緒に添加される黒鉛の量により減少した。実施例は、不溶性ポリマーの添加が、摩擦係数を下げることを実証している。
【化1】
【0052】
摩擦係数(CoF)を、ボールオンプレート摩耗試験において様々な段階で測定した。下の表は、実施例2処方に基づく上のプロットでの同じ試料を示し、試験開始、1000、2000、及び5000サイクル(試験終了)でのCoF値を比較する。
【0053】
【0054】
結果は、不溶性PIポリマー入り試料が5000サイクル後により低いCoFを維持したことを示す。不溶性PIポリマー/黒鉛が添加された試料は、試験中の全ての時点でより低いCoFを有した。
【0055】
組成物をボールオンプレート試験で評価し、その試験では、典型的には、膜がすり減ってしまった及び裸の基材を露出したときである、膜破損まで又は摩擦係数が急速に増加するまで試験を続行した。この試験において、調合物中の固形分として10重量%及び30重量%の添加された不溶性PIポリマー(SCP5000)入り試料は、対照よりも著しく長く耐えた。上に記載されたものと同じ荷重及び速度条件下に試験を行い、破損を、CoFが0.5よりも高い値に増加する時点として書き留める。結果は下の表にある。結果は、不溶性ポリマー(PIポリマー)と黒鉛との組合せの破損までの時間の増加を示す。試料は、試験試料が不溶性PIポリマーを添加されていることを除いて対照と同じものであった。最後の2つの試験試料においては、不溶性PIポリマーをPIポリマー/黒鉛ブレンドとして調合物に添加した。ボールオンプレート試験パラメータは、10ニュートン(N)荷重、1/2インチボール、4mmストローク、2Hz、及び無潤滑であった。
【0056】
実施例7~8
実施例4及び実施例5調合物をベースとする第2の減摩コーティング調合物を、不溶性PIポリマー及びPI/黒鉛又はPI/MoS2固体を使って調製し、ブロックオンリング試験(上に記載された)で上記の比較例2と比較した。下の表で理解することができるように、追加の固体試料入り試料が耐えたサイクルの数は、ほとんど全て、対照よりも著しく良好であった。特に、PI/黒鉛及びPI/MoS2固体入り調合物は、サイクルの最も劇的な増加を与えた。
【0057】
【手続補正書】
【提出日】2023-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減摩コーティング処方組成物であって、
(a)可溶性樹脂と、
(b)不溶性ポリマーと、
(c)任意選択的に固体潤滑剤と、
(d)溶媒と
を含む、減摩コーティング処方組成物。
【請求項2】
前記不溶性ポリマーは、ポリアミドイミド、ポリアミド、又はポリイミドポリマーである、請求項1に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項3】
前記不溶性ポリマーはポリイミドポリマーである、請求項2に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項4】
前記減摩コーティング組成物は前記固体潤滑剤を含み、及び前記固体潤滑剤は、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、又はモリブデン及びコバルトを含む金属硫化物の1つ以上を含む、請求項1に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項5】
前記可溶性樹脂は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニルスルホネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、ポリ-ブチルチタネート、ポリアクリル-アルキド樹脂、ポリエーテルケトンケトン、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、又はフルオロポリマーから選択される、請求項1に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項6】
前記可溶性樹脂は、アミド対イミドの比が100:0~10:90である、ポリアミドイミドである、請求項1に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項7】
前記減摩コーティング処方組成物は、前記減摩コーティング処方組成物中の前記可溶性樹脂及び不溶性ポリマーの重量を基準として、10~30%(w/w)の前記可溶性樹脂と、前記減摩コーティング調合物中の可溶性樹脂及び不溶性ポリマーの前記重量を基準として、5~90%(w/w)の不溶性樹脂とを含む、請求項1に記載の減摩コーティング処方組成物。
【請求項8】
減摩コーティングを備えた部品を形成する方法であって、請求項1に記載の減摩コーティングを前記部品に塗布する工程を含む方法。
【請求項9】
請求項1に記載の減摩コーティング調合物から形成される減摩コーティングを部品上に含む、部品。
【請求項10】
前記コーティングは、5~50ミクロンの厚さを有する、請求項9に記載の部品。
【請求項11】
前記部品は摺動部材である、請求項9に記載の部品。
【請求項12】
前記摺動部材は、コンプレッサの斜板、エンジンタペット、カムシャフト、クランクシャフト、エンジンメタル、エンジンピストン、ピストンリング、ギヤ、ドアロック、ブレーキシム又はブレーキクリップである、請求項11に記載の部品。
【国際調査報告】