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特表2023-541241ヒドロキシクロロキンを含む医薬組成物およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ヒドロキシクロロキンを含む医薬組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4706 20060101AFI20230922BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230922BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230922BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61K31/4706
A61P31/14
A61P31/12 171
A61P31/12
A61K9/72
A61K9/12
A61K47/10
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023515315
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(85)【翻訳文提出日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2021075136
(87)【国際公開番号】W WO2022053694
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】20196088.7
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596060424
【氏名又は名称】フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】カルヴィーノ フロリアン アレクシス
(72)【発明者】
【氏名】ギュイ フィリップ アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ホエング ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】コリ アディティア レディ
(72)【発明者】
【氏名】クチャイ アルカディウシュ
(72)【発明者】
【氏名】マジ-ド ショアイブ
(72)【発明者】
【氏名】マズロフ アナトリー
(72)【発明者】
【氏名】パイチュ マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】セムレン タニヤ ジヴコヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル トールン マルコ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB27
4C076BB36
4C076BB38
4C076CC35
4C076DD38
4C076FF34
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA52
4C086MA57
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA11
4C086ZB33
(57)【要約】
ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩、および溶媒を含む医薬組成物であって、医薬組成物が、1mg/mL~400mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、溶媒が、プロピレングリコール、グリセリン、プロパン-1,3-ジオール、および水、またはそれらの組み合わせから選択され、また医薬組成物が熱エアロゾル化用である医薬組成物。ウイルス性肺感染症の治療または予防における使用のための、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物であって、経口吸入によって投与される、医薬組成物
【選択図】図13A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩、および溶媒を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物が、1mg/mL~400mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、前記溶媒が、プロピレングリコール、グリセリン、プロパン-1,3-ジオール、および水、またはそれらの組み合わせから選択され、また前記医薬組成物が熱エアロゾル化用である、医薬組成物。
【請求項2】
1mg/mL~110mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
20mg/mL~105mg/mL、好ましくは40mg/mL~100mg/mL、より好ましくは60mg/mL~90mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が熱的にエアロゾル化される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ウイルス性肺感染症の治療または予防における使用のための、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物であって、経口吸入によって投与される、医薬組成物。
【請求項6】
前記ウイルス性肺感染症が、ベータコロナウイルス、例えば2019-nCoV(コロナウイルス)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV)、によって引き起こされる、請求項5に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が一日用量として投与される、請求項5~6に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記一日用量が、0.01mg~50mg、好ましくは0.05mg~40mg、好ましくは0.1mg~30mg、好ましくは0.5mg~20mg、好ましくは1~10mg、または好ましくは1.5mg~5mgのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項7に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記一日用量が、負荷用量、維持用量、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項7または8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記負荷用量が、5mg~50mg、6mg~45mg、7mg~40mg、8mg~35mg、9mg~30mg、10mg~25mgのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項9に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記維持用量が、0.01mg~15mg、0.05mg~12mg、0.01mg~10mg、0.5mg~8mg、1~6mg、1.5mg~5mgのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項9に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
少なくとも一つの負荷用量に、少なくとも一つの維持用量が続く、請求項9~11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
前記一日用量が少なくとも一回のセッションで投与される、請求項7~12のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
前記一日用量が、十二時間、十時間、八時間、七時間、または六時間の間隔によって分離された少なくとも二回のセッションで投与される、請求項7~13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
前記セッションが少なくとも一回の固定用量を含む、請求項13~14に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
前記固定用量が定量用量である、請求項15に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物が液体エアロゾルとして投与される、請求項5~16のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【請求項18】
前記液体エアロゾルの空気動力学的中央粒子径(MMAD)が1~5μmである、請求項17に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物が熱的にエアロゾル化される、請求項5または18に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項20】
前記治療または予防が、哺乳類または鳥類対象においてである、請求項5~19に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項21】
前記哺乳類対象がヒトである、請求項20に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項22】
前記対象がCOVID-19を有するリスクを負っている、請求項20~21のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【請求項23】
前記対象がCOVID-19の症状を示す、請求項20~21のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【請求項24】
前記対象が、例えばPCR検査によって確認されたCOVID-19陽性である、請求項20~21のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシクロロキンを含む医薬組成物およびその使用に関する。より具体的には、本発明は、好ましくは、2019-nCoV(コロナウイルス)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV)を含むがこれに限定されない、ベータコロナウイルスによって引き起こされる、ウイルス性肺感染症の治療または予防における使用のためのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物に関し、医薬組成物は吸入により投与される。
【背景技術】
【0002】
P.Colson et.al.,Chloroquine for the 2019 novel coronavirus SARS-CoV-2 Int.J.Antimicrob.Agents(2020);J.Gao,et.al.,Breakthrough: chloroquine phosphate has shown apparent efficacy in treatment of COVID-19 associated pneumonia in clinical studies Biosci.Trends(2020);およびLiu,J.et.al.,Hydroxychloroquine,a less toxic derivative of chloroquine,is effective in inhibiting SARS-CoV-2 infection in vitro.Cell Discov 6、16(2020)、を含む最近の刊行物は、新たに出現したコロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した患者への治療において、広く使用されている抗マラリア薬であるクロロキン(CQ)の潜在的な利益に注目している。M.Wang et al.,Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus(2019-nCoV)in vitro.Cell Res.2020,30(3):269-271は、50%有効濃度(EC50)が1.13μMの低マイクロモル濃度で、クロロキンがCOVID-19感染を遮断することを見出したインビトロ研究を提供した。 Yao,X.et.al.,In vitro antiviral activity and projection of optimized dosing design of hydroxychloroquine for the treatment of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2).Clin.Infect.Dis.2020では、治療的および予防的使用のためのヒドロキシクロロキンの抗ウイルス活性を、SARS-CoV-2臨床分離株に感染したVero細胞上で試験した。ヒドロキシクロロキンのEC50値は、24および48時間でそれぞれ6.14および0.72μMであった。
【0003】
COVID-19に対する作用の推定機構を、以下のように要約することができる。クロロキン化合物は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のグリコシル化に干渉し、宿主細胞上のACE2とコロナウイルスの表面上のスパイクタンパク質との間の結合効率を低下させることができる。また、エンドソームおよびリソソームのpHを増加させることもでき、それによって、ウイルスと宿主細胞の融合プロセスおよびその後の複製が防止される。ヒドロキシクロロキンが抗原提示細胞に入ると、T細胞への抗原プロセシングおよび主要組織適合複合体クラスII媒介性自己抗原提示が阻害される。T細胞のその後の活性化、およびCD154および他のサイトカインの発現が抑制される。さらに、クロロキンは、DNA/RNAとToll様受容体および核酸センサーサイクリックGMP-AMP合成酵素との相互作用を破壊するため、炎症誘発性遺伝子の転写を刺激することはできない。結果として、ヒドロキシクロロキンの投与は、コロナウイルスの侵入および複製を遮断するだけでなく、Noel Fa et.al.,Pharmacological aspects and clues for the rational use of Chloroquine/Hydroxychloroquine facing the therapeutic challenges of COVID-19 pandemic;Lat Am J Clin Sci Med Technol.2020 Apr;2: 28-34 および Zhou D,et.al.,COVID-19: a recommendation to examine the effect of hydroxychloroquine in preventing infection and progression;J Antimicrob Chemother.2020に示されるように、サイトカインストームの可能性も減弱させる。Xue J,et.al.,Chloroquine Is a Zinc Ionophore.PLoS ONE 9(10),2014に開示されるように、クロロキン化合物はまたA2780細胞において亜鉛イオノフォアで、亜鉛をリソソームに向け、またBaric RS,et al.,Zn(2+)inhibits coronavirus and arterivirus RNA polymerase activity in vitro and zinc ionophores block the replication of these viruses in cell culture.PLoS Pathog.2010;6(11)から、亜鉛は、抗ウイルス特性を有し、細胞内のコロナウイルスの複製を阻害することができることが知られていた。
【0004】
ヒドロキシクロロキンは、ヒトにおける長い終末相消失半減期を有する二酸塩基である。リン酸クロロキンの生理学的薬物速度論モデルを使用することによって、COVID-19の臨床回復期までの250mgの経口一日用量が既に臨床試験の対象となっている(R.Stahlmann,et al.,Medication for COVID-19-an overview of approaches currently under study,Arztebl.117(13)(2020)213-219)。しかしながら、治療用量と毒性用量との間のマージンは狭く、クロロキン中毒は、M.Frisk-Holmberg,et al.,Chloroquine intoxication [letter]Br.J.Clin.Pharmacol.,15(1983),pp.502-503で文書化されているように、生命を脅かす心血管障害をもたらした。クロロキン化合物の使用はまた、重篤な皮膚有害反応(Murphy M,et al.,Fatal toxic epidermal necrolysis associated with hydroxychloroquine,Clin Exp Dermatol 2001;26:457-8);劇症肝不全(Makin AJ,et al.,Fulminant hepatic failure secondary to hydroxychloroquine,Gut 1994;35:569-70);および心室性不整脈(特にアジスロマイシンを処方された場合)(Chorin E,Dai M,Shulman E,et al.The QT interval in patients with SARS-CoV-2 infection treated with hydroxychloroquine/azithromycin,medRxiv 2020.04.02)を含む、稀ではあるが潜在的に致命的な事象にもつながった。したがって、より高い総非結合肺濃度(total unbound lung concentration)に到達するためにクロロキン化合物の高経口用量が必要である場合、重度の副作用および毒性が生じる可能性がある。Fan et al.(Connecting hydroxychloroquine in vitro antiviral activity to in vivo concentration for prediction of antiviral effect: a critical step in treating COVID-19 patients,Clin.Infect.Diseases,May 2020)の、COVID-19の治療のための治療濃度をインビトロからインビボに外挿する予備的な分析は、肺間質液濃度が文献のインビトロ EC50/EC90値をはるかに下回り、安全な経口投与レジメンではSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果はおそらく達成不可能であろうと示唆した。さらに、気道を覆っている細胞へのウイルスの取り込みは、上皮内層液で覆われた気道の頂端膜側から起こることが示されているが、(Sungnak et al.SARS-CoV-2 entry factors are highly expressed in nasal epithelial cells together with innate immune genes;Nature,26,681-687(2020)気道の上皮内層液および上皮細胞における経口投与されたクロロキンの濃度は知られていない。
【0005】
ヒドロキシクロロキンを投与できる様々な経路がある。ヒドロキシクロロキンによる経口治療は、重度の副作用および毒性と関連している。標的部位、すなわち肺の表面で治療濃度に到達するために、比較的高用量の薬剤を投与しなければならず、結果的に投与用量のかなりの部分が他の器官に蓄積されることが見出されている。組織曝露の増加により、治療用量と毒性用量との間のマージンは狭い。Klimke et al.(Hydroxychloroquine as an aerosol might markedly reduce and even prevent severe clinical symptoms after SARS-CoV-2 infection,Medical Hypotheses 142(2020))は、エアロゾルとしてのヒドロキシクロロキンおよびクロロキンは、重度の有害反応につながり得るヒドロキシクロロキンの全身濃度を最小化する効果的な方法であり得ると仮説する。しかしながら、本論文は純粋に仮説的なものであり、ヒドロキシクロロキンがどのように製剤化され、エアロゾルとして投与され得るか、またはヒドロキシクロロキンが製剤化されエアロゾルとして投与され得るか否かについては言及せず、またエアロゾル化された製剤が、薬剤の全身濃度を最小化しつつ有効な濃度のヒドロキシクロロキンを肺に送達するかどうかも評価していない。
【0006】
したがって、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を、安全かつ効果的に対象に送達することができる改善された医薬組成物に対する明確な必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を溶解するための溶媒を含む。ヒドロキシクロロキンの薬学的に許容可能な塩は、リン酸塩、硫酸塩、および/または塩酸塩であってもよい。例えば、薬学的に許容可能な塩は、ヒドロキシクロロキン二リン酸塩(C1826ClN3O・2H3PO4)であってもよい。ヒドロキシクロロキンは、遊離塩基の形態であることが好ましい。医薬組成物は、1mg/mL~110mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む液体であることが好ましい。
【0008】
有利なことに、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、最小全身曝露で対象の肺へ送達するための有効な製剤を提供し得る。より具体的には、医薬組成物は、他の器官、例えば、血液、肝臓、心臓および腎臓において、クロロキンまたはヒドロキシクロロキン濃度を著しく増加させることなく、EC50と同等またはそれ以上の肺におけるヒドロキシクロロキンの肺非結合トラフ濃度を達成し得る。これは有利には、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を、最小全身曝露を維持しながら、治療的肺濃度に到達させることを可能にする。さらに、本発明の医薬組成物は、有利なことに、より高い用量の送達、またはヒドロキシクロロキンもしくはその薬学的に許容可能な塩の長期使用を可能にして、治療的肺濃度を増加または維持することができる。
【0009】
本発明の医薬組成物は、少なくとも約1mg/mL、少なくとも約5mg/mL、少なくとも約10mg/mL、少なくとも約15mg/mL、少なくとも約20mg/mL、少なくとも約25mg/mL、少なくとも約30mg/mL、少なくとも約35mg/mL、少なくとも約40mg/mL、少なくとも約45mg/mL、少なくとも約50mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含み得る。
【0010】
本発明の医薬組成物は、約400mg/mL以下、約375mg/mL以下、約350mg/mL以下、約325mg/mL以下、約300mg/mL以下、約275mg/mL以下、約250mg/mL以下、約225mg/mL以下、約200mg/mL以下、約175mg/mL以下、約150mg/mL以下のヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含み得る。
【0011】
本発明の医薬組成物は、約1mg/mL~約400mg/mLを含み、約5mg/mL~約375mg/mL、約10mg/mL~約350mg/mL、約15mg/mL~約325mg/mL、約20mg/mL~約300mg/mL、約25mg/mL~約275mg/mL、約30mg/mL~約250mg/mL、約35mg/mL~約225mg/mL、約40mg/mL~約200mg/mL、約45mg/mL~約175mg/mL、約50mg/mL~約150mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含み得る。
【0012】
あるいは、本発明の医薬組成物は、1mg/mL~110mg/mL、20mg/mL~105mg/mL、好ましくは40mg/mL~100mg/mL、より好ましくは60mg/mL~90mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含み得る。医薬組成物は、所与の終点からの任意の範囲、例えば、10mg/mL~40mg/mL、20mg/mL~30mg/mL、および/または30mg/mL~50mg/mLを含み得るが、これらに限定されない。有利なことに、この濃度範囲は、既知の組成物と比較してより少ないヒドロキシクロロキンが要求される肺への送達のための治療有効量を提供し得る。
【0013】
好ましくは、医薬組成物は、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩、ならびに溶媒を含んでもよく、医薬組成物は、1mg/mL~110mg/mLのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む。
【0014】
好ましくは、医薬組成物は、プロピレングリコール、グリセリン、および水、またはそれらの組み合わせから選択される溶媒を含み得る。プロピレングリコールおよびそのIUPAC名プロパン-1,2-ジオールは、互換的に使用され得る。溶媒はまた、プロパン-1,3-ジオールであってもよい。他の薬学的に許容可能な溶媒は、クロロキンを40°Cおよび大気圧(約100kPa)で溶解し、約150~約300°Cの温度で安定であれば、使用され得る。
【0015】
溶媒は、20%、25%、30%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%のプロピレングリコール、0%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%のグリセリン、および/または0%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%の水、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0016】
溶媒がプロピレングリコールと水の組み合わせを含む場合、溶媒は、約85%、約90%、約95%のプロピレングリコール、および約5%、約10%、約15%の水を含み得る。溶媒は、約15%の水および約85%のプロピレングリコールを含み得ることが好ましい。より好ましくは、溶媒は、約5%の水および約95%のプロピレングリコールを含み得る。最も好ましくは、溶媒は、約10%の水および約90%のプロピレングリコールを含み得る。
【0017】
溶媒は、約90%のプロピレングリコールおよび約10%のグリセリンを含み得る。
【0018】
溶媒がプロピレングリコール、グリセリン、および水の組み合わせを含む場合、溶媒は、少なくとも約45%のプロピレングリコール、少なくとも約15%のグリセリン、および少なくとも約5%の水を含み得る。
【0019】
溶媒がプロピレングリコール、グリセリン、および水の組み合わせを含む場合、溶媒は、約75%以下のプロピレングリコール、約45%以下のグリセリン、および約10%以下の水を含み得る。
【0020】
溶媒がプロピレングリコール、グリセリン、および水の組み合わせを含む場合、溶媒は、約45%~約75%のプロピレングリコール、約15%~約45%のグリセリン、および約5%~約10%の水を含み得る。好ましくは、溶媒は、約10%の水、約45%のプロピレングリコール、および約45%のグリセリンを含み得る。より好ましくは、溶媒は、約10%の水、約75%のプロピレングリコール、および約15%のグリセリンを含み得る。最も好ましくは、溶媒は、約5%の水、約75%のプロピレングリコール、および約20%のグリセリンを含み得る。
【0021】
溶媒の比率を変化させることによって有利に、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の溶解性および/または安定性が改善され得る。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「グリセリン」および「グリセロール」は、互いの同義語であり、したがって、互換的に使用され得る。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、噴霧剤を含まない。噴射剤は、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ヘキサフルオロエタン、ヘプタフルオロエタン、ヘプタフルオロプロパンのうちの一つ以上を含み得るが、これらに限定されない。
【0024】
好ましくは、医薬組成物は、熱的にエアロゾル化されてもよい。驚くべきことに、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩は、熱蒸発によって液体エアロゾルに転移する。したがって、熱的にエアロゾル化された医薬組成物を使用して、最小全身曝露で、有効量のヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を肺に供給することができる。熱蒸発は、例えば、100° C~300°C、好ましくは150°C~250°C、より好ましくは200°C~220°Cの高温で行われてもよい。有利には熱蒸発は、非熱液体エアロゾル化(例えば、噴霧化)と比較して、肺への送達のためのより適切な粒子サイズを提供し得、従って、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を分解することなく、改善された肺へのヒドロキシクロロキンの送達という追加の利益を提供する。さらに、熱蒸発は、医薬組成物から熱的にエアロゾル化された医薬組成物への高い転移効率を提供し得る。転移効率は、60~100%、70~100%、80~100%、または90~100%であり得る。有利なことに、高い転移効率は、吸入のための高負荷エアロゾル化用量を提供し、それにより、肺にヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の有効量を送達するために必要な吸入数を減少させることができる。本発明による医薬組成物は、熱エアロゾル化用であってもよい。あるいは、本発明による医薬組成物は、熱的にエアロゾル化される。
【0025】
本発明はまた、ウイルス性肺感染症の治療または予防に使用するためのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を提供する。処置は、予防的および/または治療的処置を含み得る。例えば、処置は、ウイルス性肺感染症に罹患する対象の状態を改善し、および/または治癒させることを含み得る。処置はまた、例えば、ウイルス性肺感染症の進行を止めるか、またはウイルス性肺感染症の発症を止めるなど、ウイルス性肺感染症の予防を含み得る。ウイルス性肺感染症は、肺炎またはウイルス感染によって引き起こされる炎症であり得る。ウイルス性肺感染症は、一方または両方の肺に影響を及ぼす可能性がある。
【0026】
ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、ウイルス性肺感染症の治療または予防に使用し得る。ウイルス性肺感染症の治療または予防に使用するための医薬組成物は、吸入、好ましくは経口吸入によって投与されてもよい。本明細書で使用される場合、用語「吸入」は、対象の肺内へと吸い込む動作を表す。経口吸入が好ましいが、吸入には、経鼻吸入または気管挿管による吸入、例えば、気管チューブを口から挿入することによって、または気管切開を介しての吸入が含まれ得る。有利なことに、本発明による医薬組成物の吸入による投与は、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を対象の肺に直接送達することを可能にし、したがって全身曝露を制限する。固形経口投与とは対照的に、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を直接肺に送達することは、同等の治療効果を達成するためにより少ないヒドロキシクロロキンの投与を必要とするという追加の利点を提供し得る。さらに、吸入による投与は、有利なことに、例えば、心臓、肝臓、腎臓などの肺以外の器官におけるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の望ましくない蓄積を増加させることなく、必要とされる総肺非結合濃度を提供することができる。これは、吸入されたヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の用量が、最小全身曝露でヒドロキシクロロキンの治療的肺濃度に到達し得るためである。次いで、ウイルス性肺感染症の治療または予防におけるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物の使用は、肺濃度をさらに増加させるための高用量を送達する能力または長期使用に限定されない場合がある。追加の利益として、吸入による投与は、投与レジメンを対象に個別化することを可能にすることによって、より大きな柔軟性を提供する。
【0027】
好ましくは、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、2019-nCoV(コロナウイルス)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV)を含むがこれに限定されない、ベータコロナウイルスによって引き起こされる、ウイルス性肺感染症の治療における使用のためであり得る。好ましくは、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、COVID-19の治療または予防における使用のためであり得る。COVID-19は、コロナウイルス、例えば、SARS-CoV-2によって引き起こされ得る。より具体的には、COVID-19は、新型コロナウイルス(2019-nCoV)によって引き起こされる可能性があり、これは重篤な急性呼吸器症候群CoV(SARS-CoV)と密接に関連している。
【0028】
好ましくは、ウイルス性肺感染症の治療または予防における使用のためのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、一日用量として投与され得る。本明細書で使用される場合、用語「一日」は、毎日、例えば24時間以内を意味すると理解される。一日用量は、24時間以内に対象に投与されるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の総量に関する。
【0029】
「一日用量」は、「負荷用量」、「維持用量」、またはそれらの組み合わせであってもよい。本明細書で使用される場合、用語「負荷用量」は、対象におけるヒドロキシクロロキンの有効な肺濃度、例えば、EC50またはEC90に急速に達する用量に関する。用語「維持用量」は、対象におけるヒドロキシクロロキンの有効な肺濃度、例えばEC50またはEC90を、例えば3日超など、長期間にわたって維持することができる用量に関する。維持期間は、対象がウイルス性肺感染症から実質的に回復するために必要な任意の期間であってもよく、1週間から複数年であってもよい。例えば、維持期間は、1、2、3、または4週間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12か月、または1もしくは2年から選択され得る。例外的な状況では、維持期間は2年を超えることがあり得る。
【0030】
好ましくは、一日用量は、200mg未満、150mg未満、または100mg未満であってもよい。より好ましくは、一日用量は、0.01mg~50mg、好ましくは0.05mg~40mg、好ましくは0.1mg~30mg、好ましくは0.5mg~20mg、好ましくは1~10mg、または好ましくは1.5mg~5mgのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含み得る。一日用量は、所与の終点からの任意の範囲、例えば、限定されないが、0.05mg~20mg、0.05mg~10mg、1mg~50mgを含んでもよい。有利なことに、これらの一日用量は、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の治療的肺濃度を、最小全身曝露で提供し得る。
【0031】
好ましくは、負荷用量は、5mg~50mg、6mg~45mg、7mg~40mg、8mg~35mg、9mg~30mg、10mg~25mgのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含んでもよい。負荷用量は、所与の終点からの任意の範囲を含み得る。有利なことに、負荷用量は、ウイルス性肺感染症の治療に必要なクロロキンの有効な肺濃度、例えばEC50またはEC90を迅速に達成するために最初に必要な治療濃度を提供し得る。
【0032】
好ましくは、維持用量は、0.01mg~15mg、0.05mg~12mg、0.01mg~10mg、0.5mg~8mg、1~6mg、1.5mg~5mgのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含んでもよい。維持用量は、所与の終点からの任意の範囲を含み得る。有利なことに、維持用量は、ウイルス性肺感染症の治療または予防に必要な長期間にわたって、ヒドロキシクロロキンの有効な肺濃度、例えば、EC50またはEC90を維持し得る。
【0033】
好ましくは、少なくとも一回の負荷用量の後に、少なくとも一回の維持用量が続く。より好ましくは、負荷用量は、一日の維持用量よりも多い。
【0034】
好ましくは、一日用量は、少なくとも一回のセッションで投与されてもよい。一日用量が少なくとも二回のセッションを含む場合、セッションは、十二時間、十時間、八時間、七時間、または六時間の間隔によって区切られ得る。有利なことに、少なくとも二つのセッションにわたる投与は、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩のより制御された投与を提供する。好ましくは、一日用量は、六時間の間隔によって分離された三回のセッションを含む。
【0035】
セッションは、少なくとも一つの固定用量の投与を含み得る。本明細書で使用される場合、用語「固定用量」は、一回の吸入でエアロゾル生成装置から投与されるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の特定の用量を定義する。一つのセッションは、1~20、2~19、3~18、4~17、5~16、6~15、7~14、8~13、9~12、10~11の固定用量を含み得る。セッションは、所与の終点からの任意の範囲の固定用量を含み得る。
【0036】
好ましくは、固定用量は、定量用量であってもよい。用語「定量用量」は、一回の吸入でエアロゾル生成装置から投与されるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の固定用量を定義し、固定用量はエアロゾル生成装置によって調節される。有利なことに、これは、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量が、制御された一貫した様式で投与されることを保証し得る。
【0037】
好ましくは、医薬組成物は、液体エアロゾルとして投与されてもよい。好ましくは、医薬組成物は、熱的にエアロゾル化されてもよい。液体エアロゾルは、例えば、100°C~300°C、好ましくは150°C~250°C、より好ましくは200°C~220°Cなどの高温で医薬組成物を熱蒸発させることによって提供され得る。有利なことに、液体エアロゾルは適切な粒子サイズに、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を分解することなく肺に高い有効薬物濃度を提供するという追加的な利益を提供し得る。さらに、液体エアロゾルは、医薬組成物からの高い転移効率の結果として、高濃度のヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含有してもよい。有利なことにこれは、吸入のための高負荷エアロゾル化用量を提供し、それにより、肺にヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の有効量を送達するために必要な吸入数を減少させることができる。
【0038】
好ましくは、液体エアロゾルの空気動力学的中央粒子径(MMAD)は、1~10μm、好ましくは1~5μm、より好ましくは1~3μm、例えば1μm、2μm、および/もしくは3μm、または間の任意の分数であってもよい。さらに、幾何標準偏差(GSD)は、1~3、好ましくは1~1.5であってもよい。有利なことに、これは、ヒドロキシクロロキンまたは薬学的に許容可能な塩が、肺におけるヒドロキシクロロキンの有効濃度を提供するように、対象の肺胞に達して沈着するための適切な粒子サイズおよび/または分布を提供し得る。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「沈着用量」は、肺に沈着したヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の量を定義する。好ましくは、本発明の医薬組成物の沈着用量は、固定用量の20~70%であり得る。より好ましくは、沈着用量は、固定用量の25~60%、30~50%、35~40%であってもよい。有利なことに、これは、ヒドロキシクロロキンの肺への直接のより効率的な送達を可能にし、それによって対象によって必要とされる吸入数を減少させ、吸入中の液体エアロゾルの意図しない摂取がもたらす全身曝露のリスクを低減し得る。
【0040】
好ましくは、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、哺乳類または鳥類対象のウイルス性肺感染症の治療または予防における使用のためであり得る。哺乳類対象は、ヒト対象、霊長類、げっ歯類、コウモリ、肉食獣、例えばイヌ、またはネコ科の動物、例えばイエネコであってもよい。
【0041】
本発明によれば、対象は、COVID-19を有するリスクを負い得る。例えば、対象はまた、移動、特に高リスク地域からの移動、COVID-19の検査で陽性であった対象との直接接触、および/または公共もしくは共有空間を訪問することに起因して、COVID-19を有するリスクを負う場合がある。対象は、癌、慢性腎臓病COPD(慢性閉塞性肺疾患)、臓器移植からの免疫不全状態(免疫系が弱まること)、肥満(肥満度指数[BMI]が30以上)、心不全、冠動脈疾患、または心筋症などの重篤な心臓状態、鎌状赤血球症、および/または2型糖尿病などの身体的併存疾患によりリスクを負っている可能性がある。対象はまた、喘息(中等度~重度)、脳血管疾患(血管および脳への血液供給に影響を及ぼす)、嚢胞性繊維症、高血圧症または血圧上昇、血液または骨髄移植からの免疫不全状態(免疫系が弱まること)、免疫不全、HIV、コルチコステロイドの使用、または免疫力を低下させる他の薬剤の使用、認知症などの神経学的状態、肝疾患、妊娠、肺線維症(損傷または瘢痕化した肺組織を有する)、喫煙、サラセミア(血液障害の一種)、および/または1型糖尿病によりリスクを負っている可能性がある。さらに、対象は、50歳超、60歳超、70歳超、80歳超、および/または90歳超であるため、リスクを負っている可能性もある。
【0042】
対象は、COVID-19の症状、例えば、発熱、乾燥咳、味覚の喪失および/もしくは疲労、ならびに/またはあまり一般的ではない症状、例えば、痛みおよび疼痛、喉の痛み、下痢、結膜炎、頭痛、味覚または嗅覚の喪失、および/もしくは皮膚の発疹、または手指もしくは足指の変色を示す場合がある。
【0043】
対象は、例えばPCR検査によって確認されるように、COVID-19陽性であり得る。
【0044】
有利なことに、潜在的に毒性である全身的レベルのヒドロキシクロロキンに不必要に対象を曝露させることなく、治療または予防に適するように用量を滴定することが可能であるので、対象のウイルス性肺感染症の治療または予防における使用のために吸入により投与されるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、特に、COVID-19である、ならびに/またはCOVID-19であるおよび/もしくはCOVID-19検査陽性である症状を示すリスクのある対象に利益をもたらし得る。
【0045】
好ましくは、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、ウイルス性肺感染症の治療または予防に使用するためのものであってもよく、医薬組成物は吸入によって投与され、対象におけるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の総肺非結合濃度は100ng/mL~3000ng/mLである。
【0046】
好ましくは、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、ウイルス性肺感染症の治療または予防に使用するためのものであってもよく、対象におけるヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の血中濃度は、375.15ng/mL未満であり、心臓濃度は7760.42ng/mL未満である。
【0047】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を含むエアロゾル生成装置も提供する。好ましくは、エアロゾル生成装置は、医薬組成物を含むカートリッジ、医薬組成物を加熱するための発熱体、発熱体に電力を供給するための電源、およびマウスピースを備える。エアロゾル生成装置は、液体エアロゾルの対象への送達に適合された経口送達装置であってもよい。エアロゾル生成装置は、発熱体、電源、およびマウスピースを備えてもよい。エアロゾル生成装置は、本発明の医薬組成物を含むカートリッジを備えてもよい。有利には、エアロゾル生成装置は、本発明の医薬組成物の便利な送達手段を提供し得る。
【0048】
エアロゾル生成装置は、独立型装置であってもよく、または人工呼吸器などの別の装置の一部を形成してもよい。
【0049】
好ましくは、エアロゾル生成装置は、医薬組成物の固定用量を測定するための要素を備え得る。有利なことに、固定用量を測定するための要素は、クロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量が、制御された一貫した様式で投与されることを保証し得る。さらに、測定要素は、より大きな柔軟性と信頼性とを提供し、投与レジメンを対象に個別化することを可能にし得る。
【0050】
本発明はまた、エアロゾル生成装置で使用するためのカートリッジを提供し、カートリッジは本発明による医薬組成物を含む。好ましくは、カートリッジは、医薬組成物からエアロゾルを生成するように構成されたアトマイザーを備え得る。好ましくはカートリッジは、交換可能であり得る。
【0051】
本発明はまた、エアロゾルを形成する方法を提供し、エアロゾルは本発明による医薬組成物を含み、方法は、医薬組成物を蒸発させてエアロゾルを形成する工程を含む。好ましくは、本発明による医薬組成物を熱蒸発させる工程は、100°C~300°C、好ましくは150°C~250°C、より好ましくは200°C~220°Cの間で発生する。
【0052】
本発明はまた、ヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を吸入により投与することを含む、好ましくは例えば2019-nCoV(コロナウイルス)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV)などのベータコロナウイルスによって引き起こされる、ウイルス性肺感染症の治療する方法を提供する。
【0053】
本方法はまた、好ましくは例えば2019-nCoV(コロナウイルス)、SARS-CoV、および中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV)などのベータコロナウイルスによって引き起こされる、ウイルス性肺感染症の治療のための医薬品の製造のためのヒドロキシクロロキンまたはその薬学的に許容可能な塩の使用も提供し、医薬品は吸入、好ましくは経口吸入によって投与される。
【0054】
本発明はさらに、本発明による医薬組成物と、医薬組成物からエアロゾルを生成するように構成されたアトマイザーとを含む、エアロゾル生成システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は、曝露、疾患の発症、およびCOVID-19治療のためのクロロキンの肺送達の範囲の段階を示す。
図2A図2は、(A)最終濃度40mg/mLでプロピレングリコール(PG)中でヒドロキシクロロキン(HCQ)が可溶化されているメッシュシステムを使用して、HCQのエアロゾル化を試験するために使用される手順、(B)Q Exactive HF高分解能精密質量分析装置と連動されたSUPER SESIに接続されたPDSPポンプに結合されたWO2018153608(A1)に記載されるエアロゾル生成装置を使用した、HCQのエアロゾル化を測定するためにセットアップされた機器、および(C)転移速度評価に対するアプローチを提供する。
図2B】同上。
図2C】同上。
図3図3は、エアロゾル粒子直径を測定するためのAerodynamic Particle Sizerに接続されたエアロゾル生成装置の概略的配置図を示す。
図4図4は、(A)粒子サイズ測定値、および(B)装置から一回の吸煙当たりで転移されたクロロキン(CQ)およびヒドロキシクロロキン(HCQ)の量を含む、熱エアロゾル化からのCQおよびHCQエアロゾルの生成および特徴付けを示す。
図5図5は、空試料およびケンブリッジパッドフィルターに捕捉されたHCQのエアロゾル試料のLC-HR-MS分析を提供する。(A)カラムに由来するいくつかのピークを示す空試料(バックグラウンド汚染)、(B)2.69分の保持時間で明らかなピークを示すHCQ試料の総イオン電流、(C)HCQ試料からのヒドロキシクロロキンの正確な質量抽出(m/z 336.18372)(5ppmの質量許容差)。
図6図6は、インビトロエアロゾル生成および曝露システムを表す概略図を提供する。生成されたエアロゾルは、希釈することなく(A)希釈チャンバを通り、(C)トランペットのような出口を有する(B)曝露チャンバに入り、多孔質膜上の空気-液体界面で3D器官型ヒト気管支気道培養物と底部で培養培地とを含有する細胞培養インサートに通される。
図7A図7は、機能的活性および細胞生存率のインビトロ評価を示す: 異なる濃度のクロロキンへの曝露の前(淡灰色のバー)および後(濃い灰色のバー)の細胞培養物中の3Dの、(A)繊毛拍動頻度(CBF)、(B)繊毛拍動活性化領域、(C)細胞ATPレベル、および(D)経上皮電気抵抗(TEER)。データは、3つの技術的反復(ドット)±95%の信頼区間の平均(バー)として表される。
図7B】同上。
図7C】同上。
図7D】同上。
図8図8は、(A)ヒドロキシクロロキンエアロゾルの25、50、および100回吸煙に曝露されたALIにおけるヒト気管支上皮培養(HBEC)中のヒドロキシクロロキン(シミュレーションライン、実験平均-ドットおよびエラーバーは95%の信頼区間を表す)、ならびに(B)P-gp排出トランスポーターを有する単離灌流マウス肺におけるクロロキン(三角形-実験データ、破線-シミュレーションデータ)、およびP-gp排出トランスポーターノックアウト肺(ドット-実験データ、実線 - シミュレーションデータ)の模擬移送動態(simulated transport kinetics)を示す。クロロキンの実験データは、Price et al.(The Differential Absorption of a Series of P-Glycoprotein Substrates in Isolated Perfused Lungs from Mdr1a/1b Genetic Knockout Mice can be Attributed to Distinct Physico-Chemical Properties: an Insight into Predicting Transporter-Mediated,Pulmonary Specific Disposition.Pharm Res.2017;34(12):2498-2516.)から入手した。
図9A図9は、(B)詳細な気道区画と共に(A)クロロキンおよびヒドロキシクロロキンの吸入PBPKモデルの概略図を提供する。GIは消化管である。
図9B】同上。
図10図10は、(A)20mg/kgの腹腔内、(B)80mg/kgの腹腔内、および(C)5mg/kgの静脈内投与後のマウスにおけるヒドロキシクロロキンの薬物動態プロファイルを示す。ドットは、Collins et.al.(Hydroxychloroquine: A Physiologically-Based Pharmacokinetic Model in the Context of Cancer-Related Autophagy Modulation.J Pharmacol Exp Ther 2018;365(3): 447-59;Ishizaki J,Yokogawa K,Ichimura F,Ohkuma S.Uptake of imipramine in rat liver lysosomes in vitro and its inhibition by basic drugs.J Pharmacol Exp Ther 2000;294(3): 1088-98)から入手したデータポイントである。
図11図11は、(A)155mgの静脈内のヒドロキシクロロキン(HCQ)、(B)155mgの経口のHCQの模擬ヒト薬物動態プロファイルを示しており、ここで、ドットは、Tett et al.(Brith Journal of Clinical Pharmacology,1988;26(3):303-313.)およびTett et al.(Bioavailability of hydroxychloroquine tablets in healthy volunteers.Br J Clin Pharmacol.1989;27(6):771-779)から入手した実験データを表す。
図12A図12および図14は、ヒドロキシクロロキン(HCQ)の複数の経口および経口吸入投与レジメンについての異なる組織における模擬薬物動態プロファイルを示し、水平の破線はYao et al.のインビトロEC50(242 ng/mL)値とEC90(1680 ng/mL)値とを表す。
図12B】同上。
図13A図13は、ヒト肺を表した異なる区画における、模擬ヒドロキシクロロキン(HCQ)濃度を示す。「APAmucus」は、粘液中の活性物質濃度を表す。「Lung_Interstitial_Free」は、図9Bに示すように、肺間質腔における非結合濃度を表し、「Lung_Cellular_Free」は、肺における非結合細胞内サイトゾル濃度を表し、「Lung_Free」は、非結合総肺濃度を表す。
図13B】同上。
図14A図12および図14は、ヒドロキシクロロキン(HCQ)の複数の経口および経口吸入投与レジメンについての異なる組織における模擬薬物動態プロファイルを示し、水平の破線はYao et al.のインビトロEC50(242 ng/mL)値とEC90(1680 ng/mL)値とを表す。
図14B】同上。
図15図15は、異なるエアロゾル粒子サイズを有する単分散エアロゾルおよび多分散エアロゾルに対する、血液中のm odel予測ヒドロキシクロロキン濃度、肺中の総非結合濃度(Lung_Free)および非結合肺胞領域濃度(PA_Free)を示す。MMAD、空気動力学的中央粒子径、およびGSD、幾何標準偏差。
【発明を実施するための形態】
【0056】
非全身経路を介して低用量のヒドロキシクロロキンを送達することによって、有害な薬物反応は、肺における有効な治療濃度に到達しながらも、経口経路による投与と比較して顕著に低減され得る。この忍容性の増加は、特に感染した人との接触後の予防および治療のためのより広範な使用を可能にし、これは特に高リスクの、しばしば複数の疾患を有するおよび高齢の患者に有利であり得る。さらに、肺送達経路は、治療レベルに到達するためのヒドロキシクロロキンのより高い肺内層液/上皮内層液(ELF)濃度を促進する。これは、気道からのウイルス取り込みの仮定機序が気道表面液(ASL)のpHを変更することによって干渉され、それによってウイルス複製のためのエンドソーム取り込み機序および細胞間リソソーム放出を阻害する可能性があるため、経口投与と比較して有益である。また、ELF中のpHの増加は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のグリコシル化にも干渉し、宿主細胞上のACE2とコロナウイルスの表面上のスパイクタンパク質との間の結合効率を低下させる。
【0057】
ヒドロフルオロアルカン推進剤(例えば、HFA134aおよび227)、ネブライザー、およびレスピマット(登録商標)吸入器などの機械的に誘発された圧力勾配を利用する技術の使用を含む、液体医薬製剤からエアロゾルを生成するための様々な方法が知られている。本明細書に記載のエアロゾルは、液体医薬組成物が、効果的な(分解生成物なしの大きな薬物濃度)蒸発のために加熱され、その後、過飽和蒸気からエアロゾル粒子を核化し、凝縮するために冷却される、熱エアロゾル化プロセスを使用して生成される。このアプローチは、制御された熱条件下で、簡単に吸入可能であり、肺の奥深くに浸透することができるマイクロメートル、さらにはサブマイクロメートルのエアロゾルサイズの粒子の生成を可能にする。任意の適切なエアロゾル生成器を使用して、1~5μmの空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有する液体エアロゾル粒子サイズを生成してもよい。例えば、一実施形態では、WO2018153608A1に記載されるようなエアロゾル生成器を使用してもよい。その中で記載される熱エアロゾル生成器を使用して、1.5の幾何標準偏差を有する、1.3μmのMMADのエアロゾルを生成することができる。さらに、本発明の熱エアロゾル化プロセスは、0.33mgの固定用量を送達する場合、100mg/mLのヒドロキシクロロキン(HCQ)を含有する液体医薬組成物を使用した液体組成物から液体エアロゾルへのヒドロキシクロロキンの転移効率が、約100%であることが見出された。
【0058】
以下に、本発明を評価および特徴付けるために実施された試験および測定値を説明する。
【0059】
化合物合成およびエアロゾル製剤
クロロキンおよびヒドロキシクロロキンは、WuXi AppTec(中国、武漢市)で公開された手順に従って合成された。合成されたクロロキン(CQ)およびヒドロキシクロロキン(HCQ)は、98.3%および99.7%の純度を有した。プロピレングリコール(PG)中のHCQの溶解性を、様々な濃度で製剤を調製することによって評価し、液体クロマトグラフィ高分解能質量分析(LC-HR-MS)を実施することによってそれらの溶解性を評価した。PG中のHCQの溶解性を、40oCおよび大気圧(約100kPa)で測定した-表1a。
【0060】
【表1】
【0061】
プロピレングリコール(PG)、グリセロールおよび/または水を含む異なる溶媒混合物におけるHCQの溶解性は、表1bに示すように、製剤を調製し、液体クロマトグラフィ高分解能質量分析(LC-HR-MS)を実施してHCQの溶解性を評価することによって評価された。
【0062】
【表2】
【0063】
エアロゾルの生成と特徴付け
100mg/mLの濃度のプロピレングリコール中のヒドロキシクロロキンの溶液を含有する液体製剤を調製し、消耗品カートリッジに充填した。
【0064】
液体製剤を、WO2018153608(A1)に記載されるメッシュ発熱体を含む装置を使用して噴霧した。液体製剤からのエアロゾルは、熱エアロゾル化によって生成された。ヒーターの温度を200~220°Cに維持した。3秒の吸煙持続時間および30秒の間隔で55mL送達する模擬吸入レジメン(ピストンダウンストローク中のポンプからのその後の放出を含む)で、プログラム可能な二重シリンジポンプ(PDSP)を使用して、エアロゾルを移送した。PDSPポンプは、図2に示すように、Q Exactive HFシステム(Thermo Fisher Scientific社、米国、マサチューセッツ州ウォルサム)と連動されたSUPER SESI(Fossilion Technologies社、スペイン、マドリード)に取り付けられた。
【0065】
エアロゾルの粒子サイズ分布を、TSI 3321 Aerodynamic Particle Sizer(APS、TSI Incorporated、米国、ミネソタ州ショアビュー)を使用して測定した。実験で得られた大きな粒子数密度に関する検出限界内に留まり、5L/分の運転可能流量に到達するため、単一のプログラム可能なシリンジポンプを、1cmの内径を有する30cmの導電性チューブを使用して、APSの上流にある3302Aエアロゾル希釈器(TSI Incorporated)に接続した(図3)。Yピースの接続における陰圧の蓄積を避けるために、Yピースを周囲に向かって開いて、シリンジポンプとAPSとの間に取り付けた。この構成では、シリンジポンプによって供給される体積流量とAPSによって要求される体積流量との間の差は、システムへの周囲空気の流入によって補償される。粒子サイズ測定および化学的特徴付けのための適切な流れを維持するために、APSの上流の3302Aエアロゾル希釈器(TSI Incorporated)を使用して、試料を100倍希釈した。シリンジポンプからの排出期間は、APSについての3秒(平均1.1L/分)~インビトロエアロゾル送達についての8秒(平均0.41L/分)の間で変化した。エアロゾルの粒子サイズは、中央空気力学的直径1.3μm、幾何標準偏差(GSD)1.5であった(図4A)。
【0066】
エアロゾル特性の評価
転移効率/エアロゾル溶解性
記載したエアロゾル生成および特徴付けセットアップを使用して、装置から生成されたエアロゾルを、5mLのエタノールで充填されたインピンジャーに接続されたケンブリッジフィルターパッドを通してプッシュし、液体からエアロゾルへのヒドロキシクロロキンの転移量を評価した。ケンブリッジフィルターパッドからの化合物抽出は、インピンジャーからの5mLのエタノールと、別の5mLの新鮮なエタノールとをフィルターパッドに添加することによって行われた。二つの画分を、定量化のために合わせた(10mLの総体積)。薬物溶解性および転移速度評価のための化学分析を、高分解能精密質量分析(Vanquish Duo-Q Exactive HF system、LC-HR-MS、Thermo Fisher Scientific社、米国、マサチューセッツ州ウォルサム)に結合されたHILIC BEHアミドカラム(50×3mm、1.7μm、Waters、英国、マンチェスター州)を備えた液体クロマトグラフィによって行った。移動相は、0.1%のギ酸と10mMのギ酸アンモニウムを含有するアセトニトリルから構成された。試料は、9つの較正レベル(calibrant level)(5~100ng/mL)から構築された較正曲線に適合するように希釈された。体積5μLの希釈液を注入した。質量分析検出は、m/z50~350からフルスキャン質量をスキャンすることによって、60,000の質量分解能を有する陽エレクトロスプレーイオン化で実現された。
【0067】
転移速度評価は、液体製剤を含有する装置から送達されたエアロゾル中のクロロキンおよびヒドロキシクロロキンの量を測定して実施された。40mg/mLのクロロキンおよび100mg/mLのヒドロキシクロロキン液体製剤からの合計30回の吸煙をケンブリッジパッドフィルター上で収集し、一回の吸煙当たりの量をそれぞれ149.69および330.32μgと測定した(図4B)。
【0068】
熱分解
熱エアロゾル化中は分解の可能性があるが、LC-HR-MSスペクトルでは、ヒドキシクロロキン(hydoxychloroquine)を表すピークのみが観察され、分解がないことが示された(図5)。
【0069】
細胞培養
ヒト3D器官型気管支培養物を、単一ドナーからの一次気管支上皮細胞(Lonza、スイスバーゼル)から再構成した。細胞を、コラーゲンIコーティング済みTranswell(登録商標)インサート(Corning(登録商標)、米国、ニューヨーク州コーニング)上に播種した。インサートの頂端側および基底側の両方をPneumaCult(商標)-EX PLUS培地(STEMCELL Technologies、カナダ、バンクーバー)で充填し、三日間維持した。その後、頂端側培地を除去することによって培養物をエアリフトし、基底側培地をPneumaCult(商標)-ALI培地(STEMCELL Technologies)で置き換えた。完全に分化した培養物を、曝露前にインキュベーター内で馴化させた。
【0070】
Vitrocellエアロゾル曝露
Vitrocell(登録商標)24暴露システム(Vitrocell Systems GmbH、ドイツ、ヴァルトキルヒ)およびPDSPポンプ(プログラム可能な二重シリンジポンプ)を、細胞培養インサートの曝露のために化学フード内に設置した(図6)。25mg/mLの濃度のプロパン-1,2-ジオール中のヒドロキシクロロキンの溶液を含有する製剤を調製した。新たに生成されたエアロゾルを希釈し、55mLの吸煙体積、3秒の吸煙持続時間、および30秒の吸煙間隔で、PDSPポンプを介して曝露トップに移し、陰圧下でポートイジェクタ(トランペット)を介して培養ベースモジュールに分配した。3D器官型ヒト気管支培養物のセットを培養ベースモジュールに配置し、その頂端側でヒドロキシクロロキンエアロゾルに曝露させた。細胞培養物を、25、50および100回吸煙のクロロキンまたはヒドロキシクロロキンエアロゾルに曝露させ、対照として、100回吸煙の空気、および100回吸煙のプロピレングリコールに曝露させた。曝露チャンバに沈着した化合物を、超純水を含有するインサートを使用して捕捉した。すべての曝露実験で、110マイクロリットルの超純水を含有するインサートを、Vitrocell(登録商標)24暴露システムのベースモジュールに入れ、3D器官型細胞培養物と共に曝露した。沈着したクロロキンおよびヒドロキシクロロキンの濃度を、液体クロマトグラフィタンデム質量分析法を使用して測定した。細胞を含まない対照に沈着したエアロゾル化ヒドロキシクロロキンの量は、25、50および100回の吸煙に対して、それぞれ7.99、15.92および28.31μgであった(表2)。
【0071】
【表3】
【0072】
3Dヒト気管支気道培養物
ヒドロキシクロロキンエアロゾルの潜在的有害作用は、25mg/mLの濃度のプロパン-1,2-ジオール中のヒドロキシクロロキンの溶液を含有する製剤から生成されたエアロゾルの25、50および100回の吸煙に、3Dヒト気管支気道培養物を曝露することによって評価された。3D気管支培養物の機能性は、曝露前と曝露後24時間に、繊毛拍動頻度(CBF)、繊毛拍動活性化領域、経上皮電気抵抗(TEER)を測定することによって評価された。
【0073】
細胞生存率
CellTiter-Glo(登録商標)3D細胞生存率アッセイ(Promega、米国、ウィスコンシン州マディソン)を使用して、ATP含量を測定することによって、曝露後24時間に3D器官型培養物の生存率を評価した。CellTiter-Glo(登録商標)試薬(150μL)を、頂端膜側に添加した。30分後、組織の頂端膜側から、50μLのCellTiter-Glo(登録商標)試薬を不透明壁の96ウェルプレートに移し、FLUOstar Omegaプレートリーダー(BMG Labtech、ドイツ、オルテンベルク)を使用して、相対発光量(RLU)での発光を測定した。
【0074】
次いで、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンエアロゾルへの曝露の24時間後に組織中に存在するATP含量を測定することによって、生存率を評価した。試験された薬物およびすべての用量の両方について、薬物(任意の用量)に曝露された組織中のATP含量は、空気またはビヒクルに曝露された組織で測定されたATP含量と類似していた(図7C)。
【0075】
繊毛拍動頻度(CBF)
4倍の対物レンズと37°Cのチャンバを備え、高速カメラ(Basler AG、ドイツ、アーレンスブルク)に接続された倒立顕微鏡(Zeiss、ドイツ、オーバーコッヘン)を使用して、3D器官型培養物においてCBFおよび繊毛拍動活性化領域の測定を実施した。120画像/秒で記録された512フレームから構成されるショートムービーを、SAVA分析ソフトウェア(Ammons Engineering、米国、ミシガン州クリオ)を使用して分析した。非曝露組織のCBFは、空気およびビヒクル対照について6~8Hzの範囲であった。曝露前と曝露後24時間のCBFに対するクロロキンおよびヒドロキシクロロキンの効果を、図7Aに示す結果と比較した。
【0076】
繊毛拍動活性化領域
繊毛拍動活性化領域は、繊毛拍動が検出された組織表面の割合に対応する。曝露前と曝露後24時間の繊毛拍動活性化領域のクロロキンおよびヒドロキシクロロキンの効果を、図7Bに示す結果と比較した。
【0077】
経上皮電気抵抗(TEER)
TEERは、製造業者の指示に従って、EVOM(商標)上皮ボルトオームメータ(WPI)に接続されたEndOhm-6チャンバ(WPI、米国、フロリダ州サラソタ)を使用して、曝露前および曝露後24時間の3D器官型培養物で測定された。ボルトオームメータによって表示された値をインサートの表面(0.33cm2)で乗じて、総面積の抵抗値を得た(Ω×cm2)。ヒト気管支上皮の緊張(tightness)を評価するために実施されたTEER測定は、電気抵抗が、試験されたすべての条件下で、曝露の前後で350~500Ω*cm2の範囲であったことを示した(図7D)。
【0078】
インビトロおよび単離灌流マウス肺動態のモデリング
インビトロモデルは、頂端粘液、繊毛周囲層、サイトゾル、リソソームおよび基底区画から構成された。リソソーム区画は、サイトゾル区画内にネストされた。粘液にわたる沈着化合物の拡散は、Lai SK,et al.,Micro- and macrorheology of mucus.Adv Drug Deliv Rev 2009;61(2):86-100に記載される気道粘液の粘度を組み込むことによって、Hayduk-Laudie法(Gulliver JS.Introduction to Chemical Transport in the Environment.Cambridge: Cambridge University Press,2007)を使用して計算された。繊毛周囲層とサイトゾルの、サイトゾルとリソソームの、およびサイトゾルと基底区画の間の二酸塩基の拡散流量は、Trapp et al.(Quantitative modelling of selective lysosomal targeting for drug design.Eur Biophys J 2008;37(8): 1317-28)により開発されたモデルに基づいて実施された。区画にわたる薬物移送は、式1に示す、Fickの最初の法則によって計算された中性種と、Nernst Planck方程式によって計算されたイオン種との拡散流量の総和であった。
【0079】
【数1】
式中、J、P、C、およびNは、総拡散流量、浸透性、濃度、およびN=zEF/(RT)であり、zは、電荷(中性の場合は0、イオン種の場合は+1および+2)であり、Fはファラデー定数であり、Eは膜電位であり、Rは実際の気体定数であり、Tは温度である。下付き文字n、d、oおよびIは、種の画分、中性、イオン性、外および内の種、を表す。拡散にfn利用可能な薬物の中性画分を式2から計算し、これは水画分(W)、脂質結合(L)、収着係数(K)、および区画のイオン活性係数(γ)を考慮する。
【0080】
【数2】
【0081】
所与の荷電状態(z)における化合物の中性およびイオン性画分の比率(Ddz)を、Henderson-Hasselbalch方程式、式3および4、を使用して計算した。
【0082】
【数3】
【0083】
さらに、中性種およびイオン種に対するイオン活性係数(γ)および収着係数(KnおよびKdz)を、親油性、有機化合物特異的拡散係数の相対的変化を捕捉する相対拡散係数(s)、およびサイトゾルイオン強度(Io)に基づいて決定した。所与の種の浸透性(Pdz)を計算する方程式は、式5、6、7、8および9である。
【0084】
【数4】
【0085】
Ohkuma S,et al.の以前の研究(Fluorescence probe measurement of the intralysosomal pH in living cells and the perturbation of pH by various agents.Proc Natl Acad Sci U S A 1978;75(7): 3327-31)は、二酸弱塩基の蓄積が、リソソーム緩衝の存在下であってもリソソームpHの影響を有することを示唆している。リソソームpHの変化は、一次方程式10を使用して動的区画(dynamic compartment)として含まれる。
【0086】
【数5】
式中、pHlys,t=0は、リソソームの初期pHであり、Clysは、リソソーム中の薬物の濃度であり、βは、Collins KP et al.(Hydroxychloroquine:A Physiologically-Based Pharmacokinetic Model in the Context of Cancer-Related Autophagy Modulation.J Pharmacol Exp Ther 2018;365(3): 447-59)、およびIshizaki J.et al.(Uptake of imipramine in rat liver lysosomes in vitro and its inhibition by basic drugs.J Pharmacol Exp Ther 2000;294(3): 1088-98)によるリソソーム緩衝能である。モデルはまた、P-gp排出トランスポーターを介したサイトゾルから繊毛周囲層への化合物の活性移送も組み込んでおり、Price et.al.(The Differential Absorption of a Series of P-Glycoprotein Substrates in Isolated Perfused Lungs from Mdr1a/1b Genetic Knockout Mice can be Attributed to Distinct Physico-Chemical Properties: an Insight into Predicting Transporter-Mediated,Pulmonary Specific Disposition.Pharm Res 2017;34(12):2498-516)から入手したパラメータを使用してモデル化された。ALIにおけるヒト気管支上皮を表す区画の濃度の変化を記述する微分方程式は、式11、12、13、14および15である。
【0087】
【数6】
式中C、D、SA、T、およびは、区画の濃度、拡散係数、表面レア、厚さおよび体積である。下付き文字muc、pcl、tissue、lys、およびbasは、粘液、繊毛周囲層、サイトゾル、リソソーム、および基底外側の区画を表す。
【0088】
同様に、単離灌流マウス肺(IPML)の肺胞領域を表すインシリコモデルを、6つの区画を用いて開発した。移送動態は、インビトロモデルと類似した形式主義を有し、区画、すなわち、界面活性物質、サイトゾル、リソソーム、間質、血管、および灌流液の濃度変化を説明した。灌流液の流れ中、非結合薬物濃度について、血管区画と間質区画との間の瞬時平衡を仮定した。
【0089】
気道上皮にわたるクロロキンおよびヒドロキシクロロキンの移送動態を、気液界面における3D器官型ヒト気管支上皮培養物(HBEC)におけるヒドロキシクロロキン、および単離灌流マウス肺におけるクロロキンについてモデル化した。ヒト気管支上皮細胞中のインビトロ気道表面液は酸性であると測定されていたため、pH6.8を頂端粘液および繊毛周囲層区画に設定した(Saint-Criq V,et al.,Real-Time,Semi-Automated Fluorescent Measurement of the Airway Surface Liquid pH of Primary Human Airway Epithelial Cells.J Vis Exp.2019(148)。
【0090】
頂端に沈着したヒドロキシクロロキンは、異なる区画にわたって平衡に達したが、それぞれ25、50、および100回吸煙について、曝露後6時間で54.72%、75.65%、および84.28%の沈着用量が基底区画に移されたのに対し、沈着用量の40.65%、19.75%、および11.19%が、頂端区画に残った(図8A)。異なる曝露の吸煙についての頂端区画および基底区画における化合物の画分の差は、ヒドロキシクロロキンのpH依存性リソソーム捕捉によるものである。
【0091】
IPMLにおけるエアロゾル化CQの移送動態をモデル化するために使用された実験データおよびパラメータは、Price et.al(The Differential Absorption of a Series of P-Glycoprotein Substrates in Isolated Perfused Lungs from Mdr1a/1b Genetic Knockout Mice can be Attributed to Distinct Physico-Chemical Properties: an Insight into Predicting Transporter-Mediated,Pulmonary Specific Disposition.Pharm Res.2017;34(12):2498-2516)から入手した。報告されたIMPLのエアロゾル沈着画分は、送達用量の80%であった。マウスでは、気道表面液およびサイトゾルの生理学的に関連のあるpHを、それぞれ7.1および6.8に設定した(Brown RP,et al.,Physiological parameter values for physiologically based pharmacokinetic models,Toxicol Ind Health 1997;13(4): 407-84 、およびSarangapani R,et al.,Physiologically based pharmacokinetic modeling of styrene and styrene oxide respiratory-tract dosimetry in rodents and humans,Inhal Toxicol 2002;14(8): 789-834)。モデルは、クロロキンの報告値を使用して、P-gp排出トランスポーターを用いて、およびP-gp排出トランスポーターなしでシミュレーションした(Price et al.)。P-gpノックアウトIPMLでは、沈着用量の61.68%が、13.36分で肺バリアを越えて移送された(図8B)。一方活性P-gp排出IPMLでは、灌流培地中の化合物の割合は、P-gpノックアウトIPMLのそれよりも、11.97%低かった。IMPL実験系は、灌流液を再循環させた閉ループ系であるため、肺気道上皮と灌流液との間の平衡が得られた。
【0092】
PBPKモデリング
局所的気道区画を含む16の組織区画からなるヒドロキシクロロキンの流量制限PBPKモデルが開発された(図9)。さらに、各組織のリソソーム区画をネストさせ、Trapp et al.におけるインビトロモデルに基づいてリソソーム捕捉の動態が実施された。また、インビトロモデルについて記載したように、ネストされたリソソーム区画pHは動的であった。単一の組織区画に対するリソソーム動態と共に一般マスバランス方程式を、式16および17で説明する。
【0093】
【数7】
式中、Cart、Ctissue、Ctissuelys、Q、V、SAtissuelys、およびJは、それぞれ区画の動脈、組織、組織特異的リソソーム濃度、血流速度、体積、リソソームの表面積、および拡散流量である。気道(RT)は、Sarangapani R,et alに記載される解剖学的位置および機能に基づいて4つの領域に分割された。モデルは、上気道(鼻、口、および喉頭)、誘導気道(0~10世代から分岐する気道)、移行気道(11~16世代から分岐する気道)、および肺気道(17~24世代から分岐する気道)から構成された。各気道領域を、粘液、繊毛周囲層、サイトゾル、リソソーム、間質腔および血管腔を表す6つの区画にさらに分割することによって詳細にモデル化した。肺気道は粘液および繊毛周囲層を含有しないため、活性物質層を表す単一の区画が含まれた。さらに、Ashgarian et al.(Mucociliary clearance of insoluble particles from the tracheobronchial airways of the human lung.Journal of Aerosol Science 2001;32(6): 817-32)から入手さいた率を使用して、移行気道、誘導気道、および上気道から消化管までの粘膜繊毛クリアランスをモデル化した。上記のフレームワークを使用して、マウス、ラット、およびヒトのPBPKモデルが開発された。クロロキンの物理化学的パラメータは文献から得て、またそれを使用して、ロジャー法(Rodger’s method)(Rodgers T,Leahy D,Rowland M.Physiologically based pharmacokinetic modeling 1:predicting the tissue distribution of moderate-to-strong bases,Journal of pharmaceutical sciences 2005;94(6): 1259-76)による二酸塩基の分配係数を予測した。生理学的組織体積および血流速度は、Brown et al.からの標準値であったが、気道の説明は、Sarangapani et al.から入手した。PBPKフレームワークを説明するための「mrgsolve」(Baron KT,et al.,Simulation from ODE-based population PK/PD and systems pharmacology models in R with mrgsolve.Omega 2015;2: 1x) 、モデル最適化のためのGenSA(Xiang Y,et al.,Generalized Simulated Annealing for Global Optimization: The GenSA Package.R Journal 2013;5(1))、およびプロットを生成するための「ggplot2」(Wickham H.ggplot2: elegant graphics for data analysis: springer,2016)などのRパッケージを使用して、PBPKモデルをR言語(第3.5.1版)で構築し、シミュレーションした。異なる刊行物からの血漿および組織時間濃度は、WebPlotDigitizer(Rohatgi A.WebPlotDigitizer.Austin,Texas,USA,2017)を使用してグラフをデジタル化することによって得られた。モデル最適化は、残差平方和を最小化することによって実施された。
【0094】
開発されたPBPKモデルの概略図を図9Aに示す。生理学的に関連のある肺濃度を予測するため、気道上皮にわたる移送動態を記述する機構モデルが図9Bに含まれた。マウスにおけるヒドロキシクロロキンの、予測され、観察された血漿および組織濃度を、図10に示す。20mg/kgのヒドロキシクロロキンをマウスに腹腔内(i.p)投与した時、血漿の最高血中濃度Cmaxおよび終末相消失半減期は、それぞれ11.10μg/mLおよび16.85時間であり、肺組織の半減期およびCmaxは、それぞれ17.02時間および22.09μg/mLであった。クロロキンおよびヒドロキシクロロキンの肺組織消失半減期は、物理化学的特性によってだけでなく、種間での肺の生理学的差異によっても有意に異なる。
【0095】
ヒトPBPKモデルでは、気道表面液および細胞内上皮pHは、pH6.6(Bodem CR et al.,Endobronchial pH.Relevance of aminoglycoside activity in gram-negative bacillary pneumonia.Am Rev Respir Dis.1983;127(1):39-41)、およびpH6.8(Paradiso AM et al.,Polarized distribution of HCO3- transport in human normal and cystic fibrosis nasal epithelia.J Physiol.2003;548(Pt 1):203-218)で酸性に設定された。ヒト肺におけるリソソーム内pHは知られていないため、ヒヒから得られたpH値4.5を使用した(Heilmann Pet al.,Intraphagolysosomal pH in canine and rat alveolar macrophages:flow cytometric measurements.Environ Health Perspect.1992;97:115-120)。
【0096】
ヒドロキシクロロキンの薬物動態は、Tett et al.(Tett et al.1988)およびTett et al.(Tett 1989)から入手した、静脈内投与および経口投与のデータに対して検証された。静脈内投与および経口投与されたヒドロキシクロロキンの予測血漿濃度時間プロファイルを図11に示す。ヒドロキシクロロキンの血漿終末相消失半減期は63.56時間であった。
【0097】
検証されたヒトPBPKモデルを使用して、COVID-19の治療に使用されるヒドロキシクロロキンの経口投与レジメンの濃度時間プロファイルをシミュレーションした。
【0098】
1日目に400mgを一日二回(b.i.d)で、2日目から5日目までは200mgを一日一回でという投与レジメンで、ヒドロキシクロロキンについての臨床的に投与された経口投与プロファイルを図12(下段、1番目の列)に示す。経口投与のための総肺非結合濃度は、Yao et alによって報告されたインビトロ EC50値を達成したが、投与レジメンはまた、心臓、肝臓、腎臓などの組織におけるヒドロキシクロロキンの蓄積をも増加させたので、肺濃度をさらに増加させるためのより高い用量を送達する能力または長期使用を限定した。
【0099】
また検証されたヒトPBPKモデルを使用して、COVID-19の治療に使用されるヒドロキシクロロキンの経口吸入投与レジメンの濃度時間プロファイルをシミュレーションした。
【0100】
経口吸入エアロゾルについては、多重経路粒子線量測定モデルは、測定されたエアロゾル物理化学的特性に基づいて一回の吸煙当たり28.97%の沈着および71.03%の呼気分画を予測した。一回の吸煙当たりの局所沈着分画は、上気道、誘導気道、移行気道、および肺気道で、それぞれ1.19、3.05、5.08、および19.64%であった。100mg/mLヒドロキシクロロキン液体製剤の55mLの吸煙体積に基づくシミュレーションでは、吸煙と吸煙とに30秒の間隔を設けつつ3秒の吸気-呼気という吸煙パターンを使用した。0.33mg/吸煙のヒドロキシクロロキンの吸入用量、および複数回の吸煙/セッション/日での複数の吸入投与レジメンをシミュレーションして、吸入PKを予測した(図12)。吸入投与レジメン選択の根拠は、経口用量からの有効な肺濃度に関してYao et al.に定義されるEC50およびEC90 の値以上の非結合肺トラフ濃度を達成することであった。投与シミュレーションは、70kgの対象に基づいた。
【0101】
0.33mg/吸煙のヒドロキシクロロキンの一から三回の吸煙からなる毎日の低吸入用量は、非結合肺濃度を達成して、治療開始から数日以内にインビトロEC50値に達することを可能にする(図12)。
【0102】
あるいは、非結合肺濃度は、1日目に3回投与された10吸煙(0.33mg/吸煙)の負荷用量、続いて2日目から7日目に一日3回投与された1吸煙の維持用量で、インビトロEC90濃度に達することができた。より高い用量の送達を含む他の投与レジメンのシミュレーションは、図12に見出すことができる。肺組織におけるヒドロキシクロロキンの有効性の薬物動態的ドライバーは明確ではないため、肺の異なる区画、すなわち粘液、繊毛周囲層、サイトゾル、リソソーム、間質液および血管腔における、薬物の濃度対時間プロファイルが図13に見られる。吸入されたヒドロキシクロロキンの組織濃度は、経口投与と比較して、血液、心臓、腎臓、および肝臓組織において低いままであった(図14)。
【0103】
エアロゾル粒子サイズは、吸入されたエアロゾルの局所沈着に影響を与えるためAnjilvel S,et al.(A multiple-path model of particle deposition in the rat lung.Fundam Appl Toxicol.1995;28(1):41-50.)およびKolli AR,et al.(Bridging inhaled aerosol dosimetry to physiologically based pharmacokinetic modeling for toxicological assessment: nicotine delivery systems and beyond.Crit Rev Toxicol.2019;49(9):725-741)、単分散エアロゾルおよび多分散エアロゾルについての吸入PKのシミュレーションを実施した(図15)。空気動力学的中央粒子径(MMAD)の増加は、全身濃度の上昇をもたらし、一方で肺胞濃度は、MMAD(1~3μm)および幾何標準偏差(1~1.5)の組み合わせによって影響された。
【0104】
【表4】

図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
【国際調査報告】