(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-29
(54)【発明の名称】送電システムにおける故障位置決定
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20230922BHJP
H02H 3/00 20060101ALI20230922BHJP
H02H 3/40 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01R31/08
H02H3/00 Q
H02H3/40 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517739
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021075449
(87)【国際公開番号】W WO2022058410
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】202041040309
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナイドゥ,オーディ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ,ニィートゥ
(72)【発明者】
【氏名】ヤッラー,プリーサム・ベンカット
(72)【発明者】
【氏名】マツル,スレーシュ
【テーマコード(参考)】
2G033
5G142
【Fターム(参考)】
2G033AA02
2G033AB01
2G033AD14
2G033AF03
2G033AG14
5G142AB02
5G142AC06
(57)【要約】
送電システムにおける故障位置決定について記載されている。測定される電圧および電流のサンプルは、端子の各相について取得される。電圧および電流のサンプルに基づく第1の等価リアクタンス値が計算される。さらに、計算された等価リアクタンス値に基づいて、第1の故障位置が決定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電システムにおける故障位置の方法であって、前記方法が、
故障中に送電線の端子で測定された電圧および電流のサンプルを取得するステップと、
前記電圧および電流のサンプルに基づいて、第1の等価リアクタンス値を計算するステップと、
前記計算された等価リアクタンス値に基づいて、第1の故障位置を決定するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
後続の電圧および電流のサンプルに基づいて、少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値を計算するステップと、
前記計算された少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値のそれぞれに基づいて、少なくとも1つの後続の故障位置を決定するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の故障位置と前記少なくとも1つの後続の故障位置との間の収束の検出に基づく精緻化された故障位置を決定するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記収束が、前記第1の故障位置および前記少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つの間の差がしきい値より小さい場合に検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記精緻化された故障位置が、前記第1の故障位置および前記少なくとも1つの後続の故障位置の少なくとも1つの部分集合の平均である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が電力動揺中に実行される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記等価リアクタンス値のそれぞれが、ステップ時間と等価な角度の正弦ならびに電圧および電流のサンプルの関数として計算される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電圧および電流のサンプルの平均値が、前記等価リアクタンス値を計算するために使用される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電圧および電流のサンプルの平均値は、前記電圧および電流のサンプルに第1の移動窓平均フィルタを適用するによって形成されることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
それぞれの故障位置を決定することが、対応する等価リアクタンス値を前記送電線の単位当たりのリアクタンスで除算することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の故障位置および前記少なくとも1つの後続の故障位置の平均を形成することが、前記故障位置推定値に第2の移動窓平均フィルタを適用することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記故障位置に基づいて距離保護のためのゾーン1インピーダンスを計算することを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記電圧および電流の測定値が、シングルエンド式時間領域ベースの測定値である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
送電システムの故障位置を決定するためのデバイスであって、前記デバイスが、
プロセッサと、
故障中に前記送電線の端子で測定された電圧および電流のサンプルを取得し、
前記電圧および電流のサンプルに基づいて、第1の等価リアクタンス値を計算し、
前記計算された等価リアクタンス値に基づいて、第1の故障位置を決定する
ために前記プロセッサによって実行可能な故障位置決定モジュールと
を備える、デバイス。
【請求項15】
前記故障位置決定モジュールが、
後続の電圧および電流のサンプルに基づいて、少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値を計算し、
前記計算された少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値のそれぞれに基づいて、少なくとも1つの後続の故障位置を決定する、
請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記故障位置決定モジュールが、
前記第1の故障位置と前記少なくとも1つの後続の故障位置との間の収束の検出に基づく精緻化された故障位置を決定し、前記収束が、前記第1の故障位置および前記少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つのものの間の差がしきい値よりも小さい場合に検出され、
前記精緻化された故障位置が、前記第1の故障位置および前記少なくとも1つの後続の故障位置の少なくとも1つの部分集合の平均である、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
前記電圧および電流のサンプルの平均値が、前記等価リアクタンス値を計算するために使用され、
前記故障位置決定モジュールが、前記電圧および電流のサンプルに第1の移動窓平均フィルタを適用して、前記電圧および電流のサンプルの平均値を形成し、
前記故障位置推定値に第2の移動窓平均フィルタを適用して、前記第1の故障位置および前記少なくとも1つの後続の故障位置の平均を形成する、請求項14~16のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記故障位置決定モジュールが、それぞれの前記故障位置を決定するために、対応する等価リアクタンス値を前記送電線の単位当たりのリアクタンスで除算する、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記故障位置決定モジュールが、前記故障位置に基づいて距離保護のためのゾーン1インピーダンスを計算し、
前記電圧および電流の測定値が、シングルエンド式時間領域ベースの測定値である、請求項14~18のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項20】
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を実行させる命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本主題は、概して、送電線における故障位置決定に関する。具体的には、本主題は、送電システムにおける電力動揺中の故障位置決定に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
送電システムは、発電機、変圧器、分路リアクトルなどの多数の電気コンポーネントを有する送電線を備える、大規模かつ複雑なネットワークである。電力システムは、送電線故障、発電ユニットの損失、高負荷送電線におけるスイッチング動作、負荷の大きさおよび方向の変化など、システム外乱を被ることが多い。概して、故障は、電気システムにおける、電流の通常の流れに乱れを引き起こす異常状態として定義され得る。電流のこの偏向された流れは、電圧および/または電流の流れの変化を引き起こし、これにより送電が遮断される。送電システムにおいて発生するシステム外乱は、電力動揺を引き起こす可能性がある。
【0003】
電力動揺は、発電機グループのロータ角度が互いに対して加速または減速する結果、3相電力潮流に変動が生じる現象である。電力動揺、特にエリア間動揺は、連系線で接続される電力システムの2つのエリア間に大きい電力変動をもたらす場合がある。
【0004】
図面の簡単な説明
本主題の特徴、態様および利点は、以下の説明および添付の図面に関連してよりよく理解されるであろう。異なる図における同一の参照番号の使用は、類似する、または同一の特徴およびコンポーネントを示す。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1(a)】第1の例における、当技術分野で公知の方法を基礎とする、故障位置を決定するための、送電線における通常システム中のA-g故障に関する3相RMS電圧の監視を示す。
【
図1(b)】第1の例における、当技術分野で公知の方法を基礎とする、故障位置を決定するための、送電線における通常システム中のA-g故障に関する3相RMS電圧の監視を示す。
【
図2(a)】第2の例における、当技術分野で公知の方法を基礎とする、故障位置を決定するための、送電線における電力動揺中のA-g故障に関する3相RMS電圧の監視を示す。
【
図2(b)】第2の例における、当技術分野で公知の方法を基礎とする、故障位置を決定するための、送電線における電力動揺中のA-g故障に関する3相RMS電圧の監視を示す。
【
図3】本主題の一実施形態による2源等価電気回路網を示すブロック図である。
【
図4】本主題の一実施形態による、送電システムにおける故障位置を決定するための方法を示す。
【
図5】本主題の一実施形態による、前処理時に得られた平滑化された電圧および電流波形を示す。
【
図6】本主題の一実施形態による、後処理あり、および後処理なしの故障位置推定値を描いたものである。
【
図7】本主題の別の実装例による、3相電圧および電流入力信号測定値を示す。
【
図8】本主題の別の実装例による、前処理後の3相電圧および電流信号測定を描いたものである。
【
図9】本主題の別の実装例による、故障相A電流の小セグメントを描いたものである。
【
図10】本主題の別の実装例による、前処理された電流および電圧の瞬時値を用いて計算された故障位置推定値を示すプロットである。
【
図11】本主題の別の実装例による、後処理前後の故障位置推定値を示すプロットである。
【
図12】本主題の別の実装例による、故障インピーダンスが計算された後のゾーン1トリップ信号の発生を描いたものである。
【
図13】(a)線接地故障、および(b)線間故障に関する、様々な故障位置での本提案方法と当技術分野で公知の方法との性能比較を示したものである。
【
図14】本主題の別の実装例によるトリップのヒストグラムを描いたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
概要
本発明の実施形態は、送電システムにおける電力動揺中に故障位置を決定すること、故障位置決定のためのデバイス、および故障位置決定のためのコンピュータ可読記憶媒体を提供する。本発明による実施形態の目的は、提案する方法およびデバイスが、距離保護の動作時間を50%、平均で約5msにまで減らすことであり得る。さらに、提案する、時間-領域ベースの故障位置解決策は、通常の故障のシングルエンド式位置決定用に使用可能である。本主題は、ローカル端子からの電圧および電流測定値を利用し、よって、通信の間のデータ損失を回避する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に従って、送電システムにおける故障位置を決定するための方法を提供する。本方法は、故障中に、送電線の端子で測定された電圧および電流のサンプルを取得することを含む。電圧および電流のサンプルに基づいて、第1の等価リアクタンス値が計算される。計算された等価リアクタンス値に基づいて、第1の故障位置が決定される。
【0008】
第2の態様によれば、これは、送電システムにおける故障位置を決定するためのデバイスを提供する。デバイスは、プロセッサと、プロセッサにより実行可能な故障位置決定モジュールとを備える。故障位置決定モジュールは、故障中に、送電線の端子で測定された電圧および電流のサンプルを取得するように構成される。故障位置決定モジュールは、電圧および電流のサンプルに基づいて第1の等価リアクタンス値を計算するように構成される。計算された等価リアクタンス値に基づいて、第1の故障位置が決定される。
【0009】
第3の態様に従って、実行されるとデバイスに送電システム内の故障位置を決定させるプログラム命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体を提供する。
【0010】
ある実装によれば、電圧測定値および電流測定値は、分路キャパシタバンクの端子において各相で取得される。
【0011】
別の実装によれば、後続の電圧および電流のサンプルに基づく少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値が計算され、かつ計算された少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値のそれぞれに基づいて、少なくとも1つの後続の故障位置が決定される。
【0012】
別の実装によれば、第1の故障位置と少なくとも1つの後続の故障位置との間の収束の検出に基づく精緻化された故障位置が決定される。
【0013】
別の実装によれば、収束は、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つのものの間の差がしきい値より小さい場合に検出される。
【0014】
別の実装によれば、精緻化された故障位置は、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置の少なくとも1つの部分集合の平均である。
【0015】
別の実装によれば、本方法は、電力動揺中に実行される。
別の実装によれば、それぞれの等価リアクタンス値は、ステップ時間と等価な角度の正弦ならびに電圧および電流のサンプルの関数として計算される。
【0016】
別の実装によれば、電圧および電流のサンプルの平均値が、等価リアクタンス値を計算するために使用される。
【0017】
別の実装によれば、電圧および電流のサンプルの平均値は、電圧および電流のサンプルに第1の移動窓平均フィルタを適用することによって形成される。
【0018】
別の実装によれば、それぞれの故障位置は、対応する等価リアクタンス値を送電線の単位当たりのリアクタンスで除算することによって決定される。
【0019】
別の実装によれば、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置の平均は、故障位置推定値に第2の移動窓平均フィルタを適用することによって形成される。
【0020】
別の実装によれば、距離保護のためのゾーン1インピーダンスは、故障位置に基づいて計算される。
【0021】
別の実装によれば、電圧および電流測定値は、シングルエンド式時間領域ベースの測定値である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本主題は、送電システムにおける故障位置決定に関する。以下、電力動揺に関連する故障位置決定について説明する。しかしながら、本主題は、電力動揺中の故障位置決定に限定されない。
【0023】
電力動揺期間の間、距離継電器は、概して、誤動作を防止するために動作を阻止される。距離継電器は、そのブロック期間中に故障が発生したとしても、故障を検出しかつ除去することができるはずのものである。最新の継電器は、電力動揺中に故障を検出しかつ除去することができる。恒久的な故障後の電力供給の回復は、故障により引き起こされた損傷を保全チームが修復した後にのみ行われることが可能である。正確な故障点を特定するために数百キロメートルにも及ぶ高電送電線を検査することは、面倒でありかつ時間がかかる。したがって、正確な故障点を見つけるために送電線全体を検査することを回避するには、正確な故障位置を知ることが望ましい。
【0024】
故障位置の決定には、従来、基本的なフェーザが使用されている。電圧および電流測定信号からフェーザを推定するためのアルゴリズムは、様々なものが知られている。最も一般的に使用される方法は、フルサイクル離散フーリエ変換(DFT)法または最小二乗法である。しかしながら、電力動揺中の電圧および電流信号の変調は、DFTまたは当技術分野で公知の従来の任意のフェーザ推定技術を用いるフェーザ推定にかなりの誤差をもたらす。誤ったフェーザ推定は、故障位置の計算に誤差をもたらす。したがって、このような電力システム状態の間、故障位置は、確実に計算されない場合がある。
【0025】
故障位置を決定するためのある従来技術では、故障ロケータが、継電器が配置される端子に記録される相電流および相電圧を用いる。次には、故障までの距離が、電圧信号および電流信号から計算される基本成分フェーザを用いて計算される。この解決策は、故障前の負荷電流効果に対する補償を含む。しかしながら、この技術は、最終解を計算するために使用されるべきループ電圧およびループ電流を識別するための故障タイプ情報を必要とする。また、これは、送電線の両端に接続されるネットワークのインピーダンスの予め設定された値または計算された値をも必要とし、すなわち、送電線のローカル端子およびリモート端子における等価ソースインピーダンスが入力として使用される。
【0026】
上述の従来技術を、一例を用いて示し、かつ通常のシステム動作中の故障、および電力動揺中の故障に対するそのシステム性能を解析する。400kV、50Hz、長さ200kmの単一回路送電線をモデル化し、試験する。同一のシステムパラメータおよび故障事例パラメータを用いて、2つの故障シナリオをシミュレートし、研究する。考察される第1の故障シナリオは、システム周波数50Hzでの通常のシステム動作の間である。考察される第2の故障シナリオは、すべり周波数が1Hzである電力動揺の間である。いずれの場合も、考察される故障は、耐故障性が5オームである、端子Aからの距離が送電線の10%に相当する20kmにおける線接地A-g故障である。両方の故障シナリオで、電圧および電流信号からの基本的な成分フェーザを、最小二乗法を用いて計算する。
【0027】
図1(a)および
図1(b)は、第1の例における、当技術分野で公知の方法を基礎とする、故障位置を決定するための、送電線における通常のシステム動作中のA-g故障に関する3相RMS電圧の監視を示す。
図1(a)は、通常のシステム動作中のA-g故障に関する3相RMS電圧の大きさプロットを示し、
図1(b)は、通常のシステム動作中のA-g故障に関する、ある端子における3相RMS電圧の位相プロットを示す。故障は、1.94秒において始まり、2.14秒において除去されている。大きさプロットから分かるように、相Aの故障前電圧の大きさは、231kVで一定していて、故障が発生すると、電圧の大きさは、徐々に減って205kVの一定値に落ち着く。故障が除去された時点で、電圧の大きさは、再び上昇して故障前の一定値231kVに落ち着く。
【0028】
図2(a)および
図2(b)は、第2の例における、当技術分野で公知の方法を基礎とする、故障位置を決定するための、送電線における電力動揺中のA-g故障に関する3相RMS電圧の監視を示す。この例において、3相電圧波形は、考察を目的として示されている。しかしながら、電流波形および電流フェーザの計算値も類似結果をもたらすと思われる。
図2(a)は、電力動揺中のA-g故障に関する3相RMS電圧の大きさプロットを示し、
図2(b)は、電力動揺中のA-g故障に関する、ある端子における3相RMS電圧フェーザの位相プロットを示す。故障は、1.94秒において始まり、2.14秒において除去されている。
図3(a)から分かるように、相Aの故障前電圧の大きさは、予測通り、ピーク値231kVで振動する。しかしながら、故障が発生すると、電圧の大きさは、徐々に減るものの、一定値には達しない。このことは、
図2(a)において円201により示されている。すなわち、故障中の電圧の大きさは、時間と共に変わり、よって、フェーザ推定アルゴリズムは、異なるデータ窓で異なる推定値を与えている。これにより、故障位置推定値は、故障後、異なるデータ窓で異なるものになる。
【0029】
上述の技術によって計算された、通常動作下と電力動揺中の故障位置決定の比較を、表1に示す。故障位置の精度は、通常動作中の故障に関しては許容可能なものであることが分かる。しかしながら、電力動揺中の故障に関して言えば、故障位置の計算誤差が15%と高いことが観察され、これは、200kmの送電線で30kmに相当し、これにより、正確な故障位置を特定するために多くの時間およびリソースが必要とされる。
【0030】
【0031】
したがって、故障位置を、電力動揺に起因して変調された電圧および電流信号から計算される基本的な成分フェーザに基づいて計算すれば、フェーザ推定値にかなりの誤差が生まれる、と結論付けることができる。これは、通常のフェーザ推定方法が、電力動揺中に正確なフェーザを与えないことに起因する。したがって、電力動揺中の故障に対して正確に機能するシングルエンド式故障位置決定が必要とされている。
【0032】
本主題は、送電システムにおける電力動揺中のシングルエンド式故障位置決定を提供する。故障位置の決定は、継電器が配置されたローカル端子において測定される3相電圧および電流の瞬時値を基礎とする。ある例示的な方法は、送電線の一端子において電圧および電流のサンプルを測定することを含む。電圧および電流のサンプル値を取得するために、設定されたサンプリング周波数に従って信号がサンプリングされる。サンプル値は、測定サイクルのあらゆる瞬時について取得されることが可能である。例えば、測定サイクルは、20ミリ秒(周波数50Hz)であることが可能であって、サンプルは、1kHzのサンプリング周波数でミリ秒毎に入手可能であり得る。電流および電圧のサンプルの平均値が計算される。電圧および電流のサンプルに基づいて、基になる第1の等価リアクタンス値が計算される。計算された等価リアクタンス値に基づいて、第1の故障位置推定値が決定される。
【0033】
提案する方法およびデバイスは、距離保護の動作時間を50%、かつ平均約5msにまで減らす。さらに、提案する、時間-領域ベースの故障位置解決策は、通常の故障のシングルエンド式位置決定用に使用可能である。本主題は、ローカル端子からの電圧および電流測定値を利用し、よって、通信の間のデータ損失を回避する。さらに、システムは、他の如何なる端子からのソースインピーダンス情報も必要としない。また、本提案の解決策は、GPSの追加設置が回避され得ることから、費用効果が高い。
【0034】
本主題の上述の、および他の特徴、態様および利点は、以下の説明および添付の図面に関連してよりよく説明されるであろう。可能な限り、諸図および以下の説明において、同一の参照数字は、同一の、または類似のパーツを指して使用される。説明は、幾つかの例に関して行うが、変更、適合化および他の実装も可能である。
【0035】
図3は、本主題の一実施形態による2源等価電気回路網を示すブロック図である。2源等価電気回路網300は、2つの端子バスM301およびバスN302の間に接続される送電線312を備える。2電源、すなわち電源303および電源304は、それぞれバスM301およびバスN302へ電力を供給する。ある例において、電源303および電源304は、同期発電機などの発電機であってもよい。電気回路網300は、電力を、キロボルト級の範囲内などの高電圧で、かつ数十または数百キロメートルなどの長距離に渡って伝送してもよい。
【0036】
故障位置決定のための2端子試験システム300が、送電線に関連付けられ得る様々なパラメータを監視し、検出しかつ制御するための複数の追加的コンポーネントまたはデバイスを含み得ること、ただし簡潔さのために図示されていないことは、理解されるであろう。例えば、回路遮断器、センサ、変流器、変圧器、送電線に接続された負荷、分路リアクトル、インテリジェント電子装置IED、保護リレーなどのコンポーネントが送電線に接続されてもよい。
【0037】
本主題の技術は、送電線に関連付けられた1つまたは複数のデバイスを用いて実施することができる。デバイスは、変流器、変圧器、回路遮断器、および故障位置を決定するためのデバイスを含み得る。
図3に示すように、デバイス308は、第1の端子とも呼ばれるバスM301に関連する電圧および電流測定値を受信することができる。各端子の変圧器はVTとして示され、各端子の変流器はCTとして示されている。デバイス308は、当技術分野で公知の技術を使用して送電線の電力動揺を検出し、続いて電力動揺中の故障を検出するように構成することができる。デバイス308が送電線の電力動揺における故障を検出したことに応答して、デバイス308は、トリップ信号を送信するように構成され得る。一例では、デバイス308は、インテリジェント電子装置(IED)であり得る。他の例では、デバイス308は、IEDから測定値を受信することができるサーバ、デスクトップデバイス、ラップトップなどの任意のコンピューティングデバイスであってもよい。
【0038】
一例では、本主題は、1つまたは複数のモジュールによって実行されてもよい。モジュールは、1つまたは複数のプロセッサによって実行可能な命令として実装されてもよい。例えば、デバイス308が方法を実行する例では、モジュールは、デバイス308のプロセッサで実行される。本方法が部分的にデバイス308によって実施され、部分的にサーバによって実施される場合、モジュール(ステップに応じて)は、それに応じてデバイス308およびサーバに分散される。
【0039】
一例では、デバイス308は、変流器、計器用変圧器、ロゴスキーコイル、または他の測定センサなど、送電線312に接続された様々な測定機器から入力測定信号を受信するように構成することができる。デバイス308は、プロセッサ320の助けを借りて得られた測定値を処理してもよい。プロセッサ320は、専用プロセッサ、共有プロセッサ、または複数の個別プロセッサとして実装されてもよく、そのうちのいくつかは共有されてもよい。デバイス308は、プロセッサ320に通信可能に接続することができるメモリ326を備えることができる。とりわけ、プロセッサ320は、メモリ326に記憶されたコンピュータ可読命令をフェッチして実行することができる。一例では、メモリ326は、故障位置決定モジュール322を格納することができる。他の例では、故障位置決定モジュール322は、メモリ326の外部にあってもよい。メモリ326は、例えば、RAMなどの揮発性メモリ、またはEPROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含む任意の非一時的コンピュータ可読媒体を含むことができる。
【0040】
一例では、送電線の電力動揺中の故障を検出する際に、故障位置を決定するための方法がデバイス308によって実行され得る。説明のために、故障位置を決定するための方法は、端子M301で実施されるデバイス308を参照して説明される。しかしながら、理解され得るように、同様の方法を端子N302のデバイスによって実行することができる。
【0041】
電力動揺中に故障を検出する際の故障位置を決定するために、デバイス308のプロセッサ320は、故障位置決定モジュール322を実行するための命令をフェッチして、故障中に送電線の端子で測定された電圧および電流のサンプルを取得することができる。一例では、測定された電圧および電流のサンプルは、故障中に測定された、送電線の端子における各相の瞬時電圧測定値および電流測定値であってもよい。電圧測定値および電流測定値は、端子に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得される。測定変圧器から得られた電圧および電流測定値は、解決策の精度に影響を及ぼし得る過渡現象およびノイズ信号を含む可能性がある。したがって、電圧および電流測定値の前処理が望ましい。一例では、端子301で測定された電圧および電流のサンプルの前処理は、端子301で測定された電圧および電流のサンプルの平均値を計算することを含むことができる。
【0042】
一例では、電圧および電流のサンプルの平均値を計算することは、電圧および電流測定値のサンプルに第1の移動窓平均フィルタを適用することを含むことができる。第1の移動ウィンドウ平均を適用して、測定された電圧波形および電流波形を平滑化することができる。適用される第1の移動窓のサイズは、2~「n」個のサンプルの任意の正の整数値をとることができ、「n」は正の整数値である。一例では、考慮される第1の移動窓のサイズは、波形を平滑化するために5個のサンプルであってもよい。
【0043】
電圧および電流のサンプルに基づいて、プロセッサ320は、第1の等価リアクタンス値を計算する。第1の等価リアクタンスは、電圧および電流のサンプルの平均値に基づいて計算することができる。同様に、後続の電圧および電流のサンプルに基づく少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値を計算することができる。一例では、等価リアクタンスは、以下に説明するように計算することができる。Vaは、端子M301で測定されたサンプル電圧とみなすことができ、Iaは、端子M301で測定されたサンプル電流とみなすことができる。
【0044】
【0045】
同様に、式(4)~(6)は、例「n-2」、「n-1」および「n」における送電線の端子M301における各相の瞬時電圧測定値を示す。
【0046】
【0047】
式中、
さらに、式(2)に式(6)を乗算し、式(3)に式(5)を乗算し、得られた乗算式を減算すると、以下に示すように式(7)が得られる。
【0048】
【0049】
同様に、式(4)に式(6)および二乗式(5)を乗算し、得られた乗算および二乗式を減算すると、以下に示すように式(9)が得られる。
【0050】
【0051】
式(8)を式(12)で割ると、次式が得られる。
【0052】
【0053】
当業者には知られているように、端子Aから見た見かけのリアクタンスXfは、以下に示す式(16)のように書くことができる。
【0054】
【0055】
したがって、式(15)および式(16)から、式(17)に示すように、端子M301から見た等価リアクタンスが得られる。
【0056】
【0057】
後続の電圧および電流のサンプルに基づく少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値を計算することができる。それぞれの等価リアクタンス値に基づいて、故障位置決定モジュール322によって故障位置を決定することができる。式(17)は、ある時点における電圧および電流の3つのサンプルを使用して推定される、端子M301から見た等価リアクタンスを与える。式(17)を送電線のラインリアクタンスで割ると、式(18)に示すような故障位置が決定され得る。
【0058】
【0059】
式中、
Xはラインリアクタンスであり、Xの値は式(19)に示すように計算される。
【0060】
X=2πωL(19)
式中、
ωは測定されたシステム周波数(ラジアン/秒)であり、
Lは送電線のインダクタンスである。
【0061】
ラインリアクタンスの値が計算され、デバイス308のメモリ326に記憶され得る。計算された少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値のそれぞれに基づく少なくとも1つの後続の故障位置を決定することができる。故障位置は、それぞれの等価リアクタンス値に対して計算することができる。さらに、洗練された故障位置は、複数の故障位置推定値の後処理に基づいて決定することができる。
【0062】
後処理の一例では、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置の平均は、故障位置推定値に第2の移動窓平均フィルタを適用することによって形成され得る。適用される第2の移動窓のサイズは、2~「n」個のサンプルの任意の正の整数値をとることができ、「n」は正の整数値である。一例では、考慮される第2の移動窓のサイズは、故障位置推定値を平滑化するために5個のサンプルであってもよい。
【0063】
第2の移動窓平均フィルタは、故障位置推定における振動の影響を低減および除去するために適用され得る。さらに、第2の移動窓平均フィルタはまた、測定中のライン内の過渡現象または発生する可能性がある他の同様の原因によって引き起こされ得る、精度が低い故障位置推定値の影響を低減するために適用されてもよい。
【0064】
故障位置決定モジュール322は、第1の故障位置と少なくとも1つの後続の故障位置との間の収束の検出に基づく精緻化された故障位置を決定してもよい。一例では、精緻化された故障位置は、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障の少なくとも1つの部分集合の平均である。収束は、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つのものの間の差がしきい値より小さい場合に検出される。したがって、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つのものの間の差の収束に基づいて、故障位置を決定することができる。一例では、しきい値は、送電線の長さの0.5%に設定されてもよい。一例では、精緻化された故障位置を決定するときに、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つのものの間の差が、反復計算回数のしきい値よりも大きい場合、しきい値を小さい割合、例えば0.1%だけ増加させることができ、故障位置を決定する工程を繰り返すことができる。
【0065】
一例では、デバイス308は、送電線の通常動作中に発生する故障の故障位置を決定するように構成されてもよい。さらに、別の例では、デバイス308は、距離保護のための時間領域ベースのゾーン1インピーダンスを計算するように構成され得る。一例では、ゾーン1の到達は、ライン長の80~90%に設定され得る。距離保護機能は、当技術分野で公知の技術を使用して実行することができる。
【0066】
さらに、デバイス308は、故障位置決定モジュール322から得られた結果を例えばサーバに通信するために、出力インターフェース324を備えることができる。一例では、本方法がサーバで実施される場合、デバイス308は、出力インターフェース324を介してサーバに電圧および電流測定値を通信することができる。出力インターフェース324は、ネットワークエンティティ、ウェブサーバ、データベース、外部リポジトリ、および周辺機器などの他の通信、ストレージ、およびコンピューティングデバイスとの対話を可能にする様々なコンピュータ可読命令ベースのインターフェースおよびハードウェアインターフェースを含むことができる。一例では、故障位置決定パラメータ、電圧および電流測定値などは、出力インターフェース324に接続されたディスプレイ上で見ることができ、またはデバイス308と統合することができる。
【0067】
したがって、本主題は、特に電力動揺中に測定された電圧および電流の瞬時値に基づく効率的な故障位置決定技術を提供する。本提案の故障決定技術は、通常動作中に発生する故障中に実施することができる。
【0068】
図4は、本主題の一実施形態による、送電システムにおける故障位置を決定するための方法を示す。一例では、方法400は、電力動揺中に実行することができる。方法400が記載された順序は、限定として解釈されることを意図するものではなく、記載された方法ブロックのいくつかは、方法400または代替方法を実施するために異なる順序で実行されてもよい。さらに、方法400は、任意の適切なハードウェア、コンピュータ可読命令、ファームウェア、またはそれらの組み合わせで実施することができる。説明のために、方法400は、
図3に示す実装形態を参照して説明される。
【0069】
方法400のブロック402において、故障中に送電線の端子で測定された電圧および電流のサンプルが取得される。一例では、測定された電圧および電流のサンプルは、故障中に測定された、送電線の端子における各相の瞬時電流測定値および電圧測定値であってもよい。電圧測定値および電流測定値は、送電システムの端子に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得され得る。一例では、送電システムの端子における各相の電圧測定値は、変圧器または計器用変圧器によって取得されてもよく、送電システムの端子における各相の電流測定値は、変流器によって取得されてもよい。一例では、変流器および変圧器は、端子Mでデバイスに動作可能に接続されてもよい。
【0070】
ブロック404において、電圧および電流のサンプルに基づく第1の等価リアクタンス値が計算される。等価リアクタンスは、電圧および電流のサンプルの平均値に基づいて計算することができる。一例では、電圧および電流のサンプルの平均値は、電圧および電流のサンプルの第1の所定数に基づいて形成されてもよい。一例では、電圧および電流のサンプルの平均値は、電圧および電流のサンプルに第1の移動窓平均フィルタを適用することによって形成され得る。一例では、第1の移動窓のサイズは5個のサンプルである。第1の移動窓のサイズの値は、2からnまで変化してもよく、nは正の整数値である。電圧および電流のサンプルの平均値に基づいて、端子Mから見て等価リアクタンスを計算することができる。一例では、3つの平均化されたサンプリング電圧および3つの平均化されたサンプリング電流を使用して、等価リアクタンスを計算することができる。さらに、後続の電圧および電流のサンプルに基づく少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値を計算することができる。一例では、それぞれの等価リアクタンス値は、ステップ時間と等価な角度の正弦ならびに電圧および電流のサンプルの関数として計算されてもよく、ステップ時間はサンプリング周波数を指す。
【0071】
ブロック406において、計算された等価リアクタンス値に基づいて第1の故障位置が決定される。計算された少なくとも1つの後続の等価リアクタンス値のそれぞれに基づいて、少なくとも1つの後続の故障位置を決定することができる。それぞれの故障位置は、それぞれ等価リアクタンス値に基づくことができ、対応する等価リアクタンス値は、送電線の単位当たりのリアクタンスで除算される。送電の単位当たりリアクタンスは、ラジアン/秒で測定されたシステム周波数と送電線のインダクタンスの関数である。
【0072】
第1の故障位置と少なくとも1つの後続の故障位置との間の収束の検出に基づく精緻化された故障位置が決定され得る。一例では、収束は、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つのものの間の差がしきい値より小さい場合に検出され得る。一例では、しきい値は、送電線の長さの0.5%に設定されてもよい。
【0073】
一例では、精緻化された故障位置は、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置の少なくとも1つの部分集合の平均であってもよい。第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置の平均は、故障位置推定値に第2の移動窓平均フィルタを適用することによって形成され得る。適用される第2の移動窓のサイズは、1から「n」までの任意の正の整数値をとることができ、「n」は正の整数値である。一例では、考慮される第2の移動窓のサイズは、故障位置推定値を平滑化するために5個のサンプルであってもよい。
【0074】
一例では、精緻化された故障位置を選択するときに、第1の故障位置および少なくとも1つの後続の故障位置のうちの連続する2つのものの間の差が、反復計算回数のしきい値よりも大きい場合、しきい値を小さい割合、例えば0.1%だけ増加させることができ、故障位置を決定する工程を繰り返すことができる。
【0075】
例えば電力動揺中に故障を検出すると、デバイス508の故障位置決定モジュール322は、正確な故障位置を決定するように構成され得る。さらに、故障位置は、通常動作下で故障中であっても決定され得る。一例では、電圧および電流測定値は、シングルエンド式時間領域ベースの測定値である。さらに、デバイス508の故障位置決定モジュール322は、故障位置に基づいて距離保護のためのゾーン1インピーダンスを計算するように構成することができる。
【0076】
実施例
本提案の故障位置方法の性能を決定するために、様々な故障シナリオ、様々なタイプの故障、様々な値の故障抵抗、ソース対ラインインピーダンス比、故障位置、電力動揺期間中のすべり周波数、および通常動作中の故障を作成し、試験した。
【0077】
第1のシナリオでは、長さ200キロメートルの400kV、50Hzの送電線について故障位置決定の技術を試験した。電圧および電流のサンプルは、両端子から1kHzのサンプリング周波数で収集される。端子Aから5kmの距離に線接地故障A-g故障がある第1の試験事例を検討した。故障抵抗は5オームとみなし、故障の開始時間は1.25秒であった。
【0078】
第1の場合については、瞬時電圧および電流測定値を端子Mから得た。得られたこれらの生信号を、第1の移動窓平均フィルタを適用することによって前処理した。考慮した第1の移動窓のサイズは5個のサンプルであった。測定された電圧信号および電流信号は、信号に存在し得るノイズまたは望ましくない成分に起因する誤った推定を回避するために前処理される。
図5は、本主題の一実施形態による、前処理時に得られた平滑化された電圧および電流波形を示す。グラフ501は、秒単位の時間に対してプロットされた端子Mにおいてキロボルト単位で測定された相Aの電圧を示し、グラフ502は、秒単位の時間に対してプロットされた端子Mにおいてキロアンペア単位で測定された相Aの電流を示す。
【0079】
電圧信号および電流信号を前処理した後、各サンプルに対応して故障位置が計算される。各サンプルの推定値は、そのサンプルおよび前の4つのサンプルにおける電圧および電流の瞬時値を使用する。
図6は、本主題の一実施形態による、後処理あり、および後処理なしの故障位置推定値を描いたものである。キロメートル単位で測定された故障位置推定値は、秒単位の時間に対してプロットされている。線601は、推定された故障位置を後処理することなく決定された元の故障位置を表す。推定された元の故障位置に第2の移動平均フィルタが適用される。使用される第2の移動平均フィルタのサイズは5個のサンプルである。線602は、時間と共に第2の移動平均フィルタを適用した後に推定された故障位置を表す。グラフ605は、グラフ603の部分Sをより詳細に示す。グラフ605から、移動平均を使用した故障位置推定の後処理が、正確な故障位置を決定するための解のより速い収束をもたらすことを明確に観察することができる。故障位置推定値は、500メートルの設定しきい値内および故障後の1.25電力サイクル内に収束することが観察される。さらに、5つの故障位置推定値の平均値を、より高い精度のための精緻化された故障位置として計算してもよい。
【0080】
上述したものと同じ試験事例シナリオを使用して、本主題に関する故障位置決定方法の性能に対するすべり周波数増加の影響を研究した。試験事例は、50Hzで400kV送電線の端子Mから5kmの距離にある線対接地A-g故障に対するものであった。考慮した送電線の長さは200kmであり、故障抵抗は5オームであった。故障の始まりは、動揺の頂点にあるとみなした。下記の表2は、分析の試験結果を示す。表から、すべり周波数の影響は無視できることが分かる。故障位置を推定する際の誤差は、すべり周波数の増加と共に増加するパターンを有するが、本主題に従って故障位置を決定する際の精度は、十分に所望の範囲内にある。故障位置を決定するためのしきい値は、送電線の長さの0.5%に設定した。
【0081】
【0082】
第2のシナリオでは、距離保護のための時間領域ベースのゾーン1インピーダンス計算を計算するために、本主題による故障位置決定の技術を試験した。長さ200km、400kV、50Hzの送電線の20%において、線対接地A-g故障のサンプル試験事例を検討した。すなわち、送電線の端子Mから40kmでの故障を検討した。故障抵抗は0.1オームであり、考慮されるローカルソースおよびリモートソースのソース対ラインインピーダンス比は、それぞれ0.1および0.5であった。また、故障は210度の角度で始まっていると考え、故障の発生時間は0.5116秒であった。
図7は、本主題の別の実装例による、3相電圧および電流入力信号測定値を示す。グラフ701は、端子Mで測定された3相電圧を示し、グラフ702は、端子Mで測定された3相電流を示す。同様に、
図8は、本主題の別の実装例による、前処理後の3相電圧および電流信号測定を描いたものである。前処理は、移動平均フィルタの2回の通過を用いて行った、すなわち、移動平均を2回計算した。グラフ802は、時間に対してプロットされた端子Mにおける3相電圧を示し、グラフ804は、時間に対してプロットされた端子Mにおける3相電流を示す。
図9は、本主題の別の実装例による、故障相A電流の小セグメントを描いたものである。
図9は、故障位置を決定するために電圧信号および電流信号を前処理する利点を示す。線902は、移動平均フィルタを適用しない相Aの電流信号を示し、線904は、前処理後の相Aの電流信号を示す。
図9から明らかなように、移動平均を使用して電圧および電流測定信号を前処理すると、ノイズおよび過渡現象のないより滑らかな波形が得られる。
【0083】
さらに、
図10は、本主題の別の実装例による、前処理された電流および電圧の瞬時値を用いて計算された故障位置推定値のプロットを示す。この場合、故障位置は4分の1サイクル内で正確に計算され、1つの電気サイクルは50Hz周波数システムで20msである。
図11は、本主題の別の実装例による、後処理前後の故障位置推定値のプロットを示す。線1102は、時間に対してプロットされたキロメートル単位の故障距離推定値を示し、線1104は、時間に対してプロットされた移動平均フィルタを適用した後のキロメートル単位の故障距離推定値を示す。
図11から、故障距離推定値が平滑化され、誤った結果につながり得る振動が移動平均フィルタによって除去されていることが分かる。故障距離を決定するこの方法は、特に振動が高くランダムであるシナリオにおいて、正確な結果を提供する。
【0084】
故障距離が計算されると、距離保護に基づくトリップ信号が生成される。トリップ信号は、故障距離がしきい値を下回ると生成される。トリップ信号をトリガするためのしきい値は、一般に、送電線長の80%に設定され、これは適切に調整することができる。
図12は、本主題の別の実装例による、故障インピーダンスが計算された後のゾーン1トリップ信号の発生を描いたものである。線1202は、後処理後に決定された故障距離推定値を示し、線1204は、生成されている距離保護からのゾーン1トリップ信号を示す。トリップ信号は、故障開始後1.5ミリ秒以内に発行された。
【0085】
故障位置決定方法から得られた結果を、当技術分野で公知の技術によって故障位置を決定することと比較する。結果を比較するために用いる技術は、
図1および
図2に関して説明した技術に相当する。試験は、電力動揺中の故障で実施されており、通常動作中の故障の位置について同様の結果が得られるものとする。
【0086】
400kV、50Hz、100kmの送電システムを、PSCADの周波数依存位相モデルを使用してモデル化および試験した。すべり周波数1Hzの電力動揺を作成した。本主題による故障位置決定方法を試験するために、異なる故障タイプ、故障抵抗、ソース-ラインインピーダンス比、故障位置および故障開始角度を含む異なる故障シナリオを作成した。本提案の解決策では平均誤差が1%未満であることが分かったが、従来の故障位置決定方法の解決策では平均誤差が約10%であることが分かったことが観察された。
【0087】
図13は、(a)線接地故障、および(b)線間故障に関する、様々な故障位置での本提案方法と当技術分野で公知の方法との性能比較を示したものである。グラフ1302およびグラフ1304は、それぞれ線接地故障および線間故障について、故障位置に対してキロメートル単位でプロットされた平均故障位置誤差(%)を示す。グラフ1302は、10オームの故障抵抗を有するA-g故障についての故障位置推定値の平均誤差率を示す。線Pは、当技術分野で公知の方法に関するA-g故障の故障位置推定値の平均誤差率を示し、線Qは、本主題に従ってプロットされた線対接地A-g故障の故障位置推定値の平均誤差率を示す。グラフ1302から、平均誤差は本提案の解決策では1%未満であるが、従来の方法によって提供される解決策では15%にもなることが観察され得る。同様に、グラフ1304は、5オームの故障抵抗を有する線間AB故障についての故障位置推定値の平均誤差率を示す。グラフ1304から、プロットは、平均誤差が本提案の解決策では1%未満であるが、従来の方法によって提供される解決策では13%にもなることを示すことが観察され得る。
【0088】
試験結果は、距離保護のためのゾーン1インピーダンス計算に関する本提案の時間領域ベースの故障位置方法を試験した後に提供される。長さ200kmの400kV送電線を有する試験システムを検討した。負荷事例は、前方負荷の80%とみなした。故障位置、故障抵抗、故障開始角度、ソース対ラインインピーダンス比および故障タイプを含む様々な故障パラメータを変更し、試験した。試験結果は、送電線の64%までの保護を考慮すると、本主題によって提供される解決策は100%の信頼性があることを示した。
図14は、本主題の別の実装例によるトリップのヒストグラムを描いたものである。試験事例のほぼ97.3%について、故障開始後5ms以内にトリップ信号が発行されたことを観察することができる。試験事例のほぼ98.5%について、故障開始後7ms以内にトリップ信号が発行された。トリップ時間>7msのすべての事例は、135度の故障開始角度を有する故障である。観察された最大トリップ時間は9.79msであり、平均トリップ時間は3.16msであった。本提案の方法は、異なる故障シナリオで検証され、100km送電線について平均誤差が1%未満であることが達成される。この方法は、ローカル情報および1~4.8kHzの低いサンプリングレートのみを必要とする。これは、電力動揺中ならびに通常動作中の故障の位置特定に使用することができる。この方法は、時間領域ベースの距離保護の用途におけるゾーン1インピーダンス計算に使用される。
【0089】
したがって、本主題は、電力動揺中および通常動作中に発生する故障の故障位置を決定するための正確なシングルエンド式方法を提供する。この方法はまた、時間領域ベースの距離保護の用途におけるゾーン1インピーダンス計算を提供する。したがって、故障位置の決定および故障インピーダンス計算は、本主題の方法およびデバイスを使用して、電力動揺中または正常動作中に発生する故障に対して確実に実行することができる。
【国際調査報告】