(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-02
(54)【発明の名称】コロナウイルス スパイク タンパク質の脂肪酸複合体とその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/50 20060101AFI20230925BHJP
C07K 14/165 20060101ALI20230925BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230925BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230925BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230925BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230925BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20230925BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20230925BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20230925BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230925BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230925BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20230925BHJP
A61K 31/201 20060101ALI20230925BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20230925BHJP
A61K 31/20 20060101ALI20230925BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230925BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230925BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230925BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230925BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230925BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20230925BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230925BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230925BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230925BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20230925BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
C12N15/50
C07K14/165 ZNA
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C07K17/00
C12N15/115 Z
C40B40/08
C12P21/08
A61P31/14
A61P11/00
A61K47/62
A61K31/201
A61K31/202
A61K31/20
A61K9/72
A61K9/12
A61K9/14
A61K47/40
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/14
A61K47/06
G01N33/68
G01N33/53 N
C12N15/13
C07K16/10
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578712
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2021066723
(87)【国際公開番号】W WO2021255291
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】300002942
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ブリストル
(71)【出願人】
【識別番号】323010205
【氏名又は名称】ハロ セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィッツジェラルド、ダニエル ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー、イムレ
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー-シャフィッツェル、クリスチアーネ
(72)【発明者】
【氏名】テルツァー、クリスティーネ
(72)【発明者】
【氏名】グプタ、カピル
【テーマコード(参考)】
2G045
4B064
4B065
4C076
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
2G045DA36
4B064AG27
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
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4H045AA30
4H045BA09
4H045CA01
4H045EA20
4H045EA31
(57)【要約】
本発明は、コロナウイルス スパイク タンパク質ならびにそのフラグメントまたは変異体と、リノール酸、その誘導体または塩または模倣物、との複合体に関し、前記フラグメントまたは変異体は前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも一つ含む。本発明のさらなる主題は、本発明の複合体を生成するための方法に関する。本発明のさらなる態様は、リノール酸、その誘導体または塩または模倣物を、それを必要とする対象に投与することによって、コロナウイルス感染を治療するための治療法、および、コロナウイルス感染を検出するための診断、である。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された複合体であって、
前記複合体は、コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体と、リノール酸、その誘導体,塩または模倣物、との複合体であり、
前記フラグメントまたは変異体は前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも一つ含む、
ことを特徴とする単離された複合体。
【請求項2】
前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体の、1、2または3のコピーを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体の、2または3、好ましくは3個のコピーを含む、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
1、2または3個のリノール酸分子またはその誘導体またはその塩またはその模倣物を含む、請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
1または3、好ましくは3個のリノール酸分子またはその誘導体またはその塩またはその模倣物を含む、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
リノール酸の誘導体または模倣物は、以下の一般式(I)によって特徴付けられる化合物であり、
【化1】
ここで、
Q は、O、SおよびNHから選ばれ;
R1 は、OH、NH
2およびSHから選ばれ;および
R2 は、13から21個のC原子を有する直鎖ヒドロカルビル基であり、好ましくは17個のC原子を有し、任意で検出可能な標識に連結又は結合する、
ことを特徴とする、請求項1から5の何れか一つに記載の複合体。
【請求項7】
前記R2は、少なくとも一つの不飽和C-C結合を有する、ことを特徴とする、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記R2は、二つの不飽和結合を有する、ことを特徴とする、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
前記不飽和C-C結合は、式(I)のC=Q基に結合した炭素から数えて、ヒドロカルビル基のC?8とC?9の間とC?11とC?12の間にある、ことを特徴とする、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
前記化合物は、オレイン酸、アラキドン酸、エライジン酸、エイコサペンタエン酸、ステアリン酸、γ-リノール酸、カレンジン酸、アラキジン酸、ジホモ-ガンマ-リノール酸、ドコサジエン酸、アドレン酸、パルミチン酸、およびベヘン酸からなる群から選ばれる、ことを特徴とする、請求項6に記載の複合体。
【請求項11】
前記化合物は、オレイン酸である、ことを特徴とする、請求項10に記載の複合体。
【請求項12】
前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体は、好ましくはヒトにおいて、呼吸器疾患を引き起こすコロナウイルスのスパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体である、ことを特徴とする、請求項1から請求項11の何れか一つに記載の複合体。
【請求項13】
前記コロナウイルスが肺炎を引き起こす、ことを特徴とする、請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントは、SARS-CoV、MERS-CoV、およびSARS-CoV-2からなる群から選ばれるコロナウイルスのスパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体である、ことを特徴とする、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体は、SARS-CoV-2由来である、ことを特徴とする、請求項14に記載の複合体。
【請求項16】
前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントは、配列番号1から15によるアミノ酸配列からなる群から選ばれる、好ましくは配列番号1、2、3、4、9、10および11から選ばれる、ことを特徴とする、請求項1から請求項15の何れか一つに記載の複合体。
【請求項17】
前記変異体は、野生型コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントと、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、さらにより好ましくは少なくとも97%、なおさらに好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%、の配列相同性を有する、ことを特徴とする、請求項1から請求項16の何れか一つに記載の複合体。
【請求項18】
前記フラグメントまたは変異体は、コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを含むが、コロナウイルス スパイク タンパク質の膜貫通ドメインを欠く、ことを特徴とする、請求項1から請求項17の何れか一つに記載の複合体。
【請求項19】
前記フラグメントまたは変異体は、受容体結合ドメインを含むが、コロナウイルス スパイク タンパク質の三量体化ドメインを欠く、ことを特徴とする、請求項18に記載の複合体。
【請求項20】
前記フラグメントは配列を含み、または、前記変異体は少なくとも一つの変異を含み、
前記配列または変異は、それぞれ、変異体の三量体化をもたらす、ことを特徴とする、請求項18または19に記載の複合体。
【請求項21】
前記リノール酸の誘導体または模倣物は、検出可能な標識を含む、ことを特徴とする、請求項1から請求項20の何れか一つに記載の複合体。
【請求項22】
前記複合体は固定される、ことを特徴とする、請求項1から請求項21の何れか一つに記載の複合体。
【請求項23】
前記複合体は、試験装置の表面に固定される、ことを特徴とする、請求項22に記載の複合体。
【請求項24】
前記複合体は、コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体への受容体に結合する、ことを特徴とする、請求項1から請求項23の何れか一つに記載の複合体。
【請求項25】
前記複合体は、コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体への受容体に結合し、
前記受容体は、固定される、
ことを特徴とする、請求項1から請求項23の何れか一つに記載の複合体。
【請求項26】
前記受容体は、試験装置の表面に固定される、ことを特徴とする、請求項25に記載の複合体。
【請求項27】
前記受容体は、ACE2である、ことを特徴とする、請求項24から請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体を、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物存在下で、組み換え宿主細胞において、発現する工程を含み、
ここで、前記フラグメントまたは変異体は少なくとも前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを含み、
任意で宿主細胞から複合体を精製する工程も含む、
ことを特徴とする、請求項1から請求項23に記載の複合体を作成する方法。
【請求項29】
(i)前記コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体をコードするヘテロな核酸を宿主細胞に導入する工程、ここで、前記フラグメントまたは変異体は少なくとも前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを含む;
(ii)リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物存在下で、前記宿主細胞を培養する工程;および任意で、
(iii)宿主細胞および/または培養培地から複合体を精製する工程、
を含む、ことを特徴とする、請求項1から請求項23に記載の複合体を作成する方法。
【請求項30】
単離されたコロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物とインキュベートする工程を含み、
ここで、前記フラグメントまたは変異体は少なくとも前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを含む、
ことを特徴とする、請求項1から請求項22の何れか一つに記載の複合体を作成する方法。
【請求項31】
(1)組み換え宿主細胞において、好ましくはリノール酸を含まない宿主細胞および培地において、コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を発現する工程、ここで、前記フラグメントまたは変異体は少なくとも前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを含む;
(2)発現したコロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を単離する;および
(3)単離したコロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物とインキュベートする工程;
を含む、ことを特徴とする、請求項1から請求項23の何れか一つに記載の複合体を作成する方法。
【請求項32】
前記単離したコロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を、工程(3)の前に検出装置の表面に固定する、
ことを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記リノール酸、またはその誘導体または模倣物は、検出可能な標識を含む、ことを特徴とする、請求項30から請求項32の何れか一つに記載の方法。
【請求項34】
請求項1から20の何れか一つに記載の複合体の、請求項1、12、13、14、15、16、17、18、19または20の何れか一つに規定のコロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への受容体タンパク質への結合、を阻害する候補分子かどうかを検出するためのin vitro(インビトロ)アッセイであって、
(a)請求項1から請求項23の何れか一つに記載の複合体と請求項1、12、13、14、15、16、17、18、19または20の何れか一つに規定のコロナウイルス スパイク タンパク質への受容体タンパク質を接触させる工程;
(b)(a)の複合体と受容体、に前記候補分子を接触させる工程;および
(c)結合しなかった受容体および/または結合しなかったコロナウイルス スパイク タンパク質またはその変異体またはフラグメントを検出する工程、
を含み、
ここで、任意で工程(a)および工程(b)を同時に行う、または任意で工程(b)を工程(a)の前に行う、
ことを特徴とする、in vitroアッセイ。
【請求項35】
リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物のコロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への結合、を阻害する候補分子かどうかを検出するためのin vitro(インビトロ)アッセイであって、
前記フラグメントまたは変異体は少なくとも前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを含み、
(A)請求項1、12、13、14、15、16、17、18、19または20の何れか一つに規定のコロナウイルス スパイク タンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体と、候補分子とリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物、を接触させる工程;および
(B)下記(B1)および/または(B2)の量を測定する工程、
(B1)コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体に結合した候補分子;
(B2)コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体に結合していないリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物、
を含む、ことを特徴とする、in vitroアッセイ。
【請求項36】
前記方法を、コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体の濃度に比較して、モル量的に過剰の候補とともに実施する、
ことを特徴とする、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体に対する前記候補分子のKd値を決定する工程を含む、
ことを特徴とする、請求項34から請求項36の何れか一つに記載の方法。
【請求項38】
(I)複数の異なる候補分子を用いて前記方法を実施する工程であって、ここで前記方法は単一の反応において各候補分子について実施される工程;
(II)各候補分子のKd値を決定する工程;および
(III)コロナウイルス スパイク タンパク質またはその変異体またはフラグメントに対して所定の閾値Kd値を有する候補分子を選択する工程、
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記閾値Kd値が100nM未満である、ことを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
コロナウイルス感染の治療および/または予防において使用するためのリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用であって、
前記誘導体または塩または模倣物は、前記コロナウイルスのコロナウイルス スパイク タンパク質に結合し、
リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、非小胞形態で使用される、
ことを特徴とする、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項41】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、単相溶液または乾燥粉末に含まれる、
ことを特徴とする、請求項40に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項42】
前記単相溶液は単相水溶液である、ことを特徴とする、請求項41に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項43】
前記溶液は、脂肪酸可溶化剤を含む、ことを特徴とする、請求項41または請求項42に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項44】
前記脂肪酸可溶化剤は、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコールおよびポリプロピレングリコール、およびそれらの二つ以上の混合物からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項43に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項45】
前記シクロデキストリンは、β-シクロデキストリンである、ことを特徴とする、請求項44に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項46】
前記シクロデキストリンは、O-メチル化β-シクロデキストリン、アセチル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシエチル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシイソブチル化β-シクロデキストリン、グルコシル化β-シクロデキストリン、マルトシル化β-シクロデキストリンおよびスルホアルキルエーテル-β-シクロデキストリン、およびそれらの二つ以上の混合物からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項45に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項47】
前記シクロデキストリンと前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の間のモル比は、少なくとも10:1である、
ことを特徴とする、請求項44から請求項46に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項48】
前記シクロデキストリンと前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の間のモル比は、10:1から60:1である、
ことを特徴とする、請求項47に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項49】
前記コロナウイルスは、好ましくはヒトにおいて、呼吸器疾患を引き起こす、
ことを特徴とする、請求項40から請求項48に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項50】
前記呼吸器疾患は、肺炎である、ことを特徴とする、請求項49に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項51】
前記コロナウイルスは、SARS-CoV、MERS-CoV、およびSARS-CoV-2からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項48に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項52】
前記コロナウイルスは、SARS-CoV-2である、
ことを特徴とする、請求項51に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項53】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、全身的に又は局所的に対象に投与される、
ことを特徴とする、請求項40から請求項52の何れか一つに記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項54】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、対象の気道に投与される、ことを特徴とする、請求項53に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項55】
前記投与は、経鼻投与、咽頭投与、喉頭内投与、経口投与、下気道への投与からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項54に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項56】
前記下気道への投与は、対象の気管への投与、一次気管支への投与、肺への投与、からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項55に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項57】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、エアロゾル製剤または乾燥粉末製剤として投与される、
ことを特徴とする、請求項54から請求項56に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項58】
前記エアロゾル製剤または乾燥粉末製剤は、呼吸器送達デバイスの使用によって投与される、
ことを特徴とする、請求項57に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項59】
前記呼吸器送達デバイスは、ネブライザー、気化器、蒸気吸入器、スクイーズ ボトル、定量スプレー ポンプ、Bi-dirマルチドーズ スプレー ポンプ、ガス駆動スプレー システム/アトマイザー、電動ネブライザー/アトマイザー、機械式粉末噴霧器、呼吸作動式吸入器、注入器、計量吸入器およびドライパウダー吸入器、からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項58に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項60】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、対象に経口投与される、
ことを特徴とする、請求項53に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項61】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、対象に静脈内注射によって投与される、
ことを特徴とする、請求項53に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項62】
複数の候補結合分子のライブラリーから請求項1から請求項23の何れか一つに記載の複合体に結合する結合分子を選別する方法であって、
(α)請求項1から請求項23の何れか一つに記載の複合体と複数の候補結合分子のライブラリーを接触させる工程;および
(β)複数の候補結合分子のうちいずれの候補結合分子が前記複合体に結合したかを検出する工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項63】
前記結合分子は、抗体、抗体断片、抗体ミメティック、ペプチド、アプタマー、ダーピン、DNA、RNA、ペプチド核酸、複素環および複合糖質からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記方法は、前記抗体、抗体断片、抗体ミメティック、ペプチドまたはダーピンをコードする核酸のライブラリーを用いる、
ことを特徴とする、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記抗体断片または抗体ミメティックは、scFv、スルフィド結合安定化scFv(ds-scFv)、Fab、シングルドメイン抗体(sdAb)、ラクダ科の重鎖抗体のVHH/VH、単鎖Fab(scFab)、ジアボディ、トリアボディ、テトラボディを含む、ジ-またはマルチメリック抗体形態およびオリゴマー化ドメインに結合するscFvからなる異なる形態を含むミニボディ(miniAb)からからなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
抗体の作成のための請求項1から請求項23の複合体の使用であって、ヒトでない動物が前記複合体で免疫される、ことを特徴とする使用。
【請求項67】
前記動物は、哺乳類または軟骨魚類である、ことを特徴とする請求項66に記載の使用。
【請求項68】
前記哺乳類は、霊長類、齧歯類、ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマおよびアルパカからなる群から選ばれる、
ことを特徴とする請求項67に記載の使用。
【請求項69】
前記動物は、サメである、ことを特徴とする請求項67に記載の使用。
【請求項70】
請求項1から請求項23の何れかに記載の複合体に結合する抗体を作成するための方法であって、
ヒトではない動物に前記複合体を免疫する工程、および
前記動物から前記複合体に結合する抗体を単離する工程、
を含む、ことを特徴とする、方法。
【請求項71】
前記動物は、哺乳類または軟骨魚類である、ことを特徴とする請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記哺乳類は、霊長類、齧歯類、ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマおよびアルパカからなる群から選ばれる、
ことを特徴とする請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記軟骨魚類は、サメである、ことを特徴とする請求項71に記載の方法。
【請求項74】
非小胞形態中のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物と脂肪酸可溶化剤を含む組成物であって、
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、コロナウイルスのスパイク タンパク質に結合する、
ことを特徴とする、組成物。
【請求項75】
前記脂肪酸可溶化剤は、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコールおよびポリプロピレングリコール、およびそれらの二つ以上の混合物からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項74に記載の組成物。
【請求項76】
前記シクロデキストリンは、β-シクロデキストリンである、
ことを特徴とする、請求項75に記載の組成物。
【請求項77】
前記シクロデキストリンは、O-メチル化β-シクロデキストリン、アセチル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシエチル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシイソブチル化β-シクロデキストリン、グルコシル化β-シクロデキストリン、マルトシル化β-シクロデキストリンおよびスルホアルキルエーテル-β-シクロデキストリンおよびそれらの二つ以上の混合物からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項76に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の使用。
【請求項78】
前記シクロデキストリンと前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の間のモル比は、少なくとも10:1である、
ことを特徴とする、請求項74から請求項77に記載の組成物。
【請求項79】
前記シクロデキストリンと前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の間のモル比は、10:1から30:1である、
ことを特徴とする、請求項78に記載の組成物。
【請求項80】
前記組成物は、さらに粘膜付着剤を含む、ことを特徴とする、請求項74から請求項79に記載の組成物。
【請求項81】
前記粘膜付着剤は、セルロースおよびその誘導体、より好ましくはメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項80に記載の組成物。
【請求項82】
前記組成物は、さらに少なくとも一つの抗酸化剤を含む、ことを特徴とする、請求項74から請求項81に記載の組成物。
【請求項83】
前記抗酸化剤は、アスコルビン酸、トコフェロール、EDTA、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、アスコルビン脂肪酸エステル、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項82に記載の組成物。
【請求項84】
前記組成物は、さらに少なくとも一つの噴霧剤を含む、ことを特徴とする、請求項74から請求項83に記載の組成物。
【請求項85】
前記噴霧剤は、ハイドロフルオロアルカンである、ことを特徴とする、請求項84に記載の組成物。
【請求項86】
前記ハイドロフルオロアルカンは、HFA227、HFA134aまたはそれらの混合物からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項85に記載の組成物。
【請求項87】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物、と
シクロデキストリン、
EDTA、
ヒプロメロース、
を含む、
ことを特徴とする、請求項75から請求項79の何れか一つに記載の組成物。
【請求項88】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物、と
シクロデキストリン、
エタノール、
EDTA、
アルコルビン酸
を含む、
ことを特徴とする、請求項75から請求項79の何れか一つに記載の組成物。
【請求項89】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物、と
プロピレングリコールまたはポリプロピレングリコール、
EDTA、
BHAおよび/またはBHT、
ヒプロメロース、および任意で
シクロデキストリン、
を含む、
ことを特徴とする、請求項75に記載の組成物。
【請求項90】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物、と
プロピレングリコールまたはポリプロピレングリコール、
BHTおよび/またはBHA、
噴霧剤
を含む、
ことを特徴とする、請求項75に記載の組成物。
【請求項91】
前記シクロデキストリンは、請求項76または請求項77にて規定のシクロデキストリンである、
ことを特徴とする、請求項87から請求項89の何れか一つに記載の組成物。
【請求項92】
前記リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物と前記シクロデキストリンとの間のモル比は、請求項78または請求項79にて規定のモル比である、
ことを特徴とする、請求項87から請求項89の何れか一つに記載の組成物。
【請求項93】
前記リノール酸の誘導体または模倣物は、請求項6から請求項11の何れかにて規定の誘導体または模倣物である、
ことを特徴とする、請求項74から請求項92の何れか一つに記載の組成物。
【請求項94】
請求項74から請求項93の何れか一つに記載の組成物を含む、薬学的送達デバイス。
【請求項95】
呼吸器系送達デバイスである、請求項94の送達デバイス。
【請求項96】
ネブライザー、気化器、蒸気吸入器、スクイーズ ボトル、定量スプレー ポンプ、Bi-dirマルチドーズ スプレー ポンプ(OptiNose)、ガス駆動スプレー システム/アトマイザー、電動ネブライザー/アトマイザー、機械式粉末噴霧器、呼吸作動式吸入器、注入器、計量吸入器そしてドライパウダー吸入器、からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項95に記載の送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス スパイク タンパク質ならびにそのフラグメントまたは変異体と、リノール酸、その誘導体または塩または模倣物、との複合体に関し、前記フラグメントまたは変異体は前記コロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも一つ含む。本発明のさらなる主題は、本発明の複合体を作成するための方法に関する。本発明のさらなる態様は、コロナウイルスによる病気に治療可能性を有する分子を検出するためのin vitro(インビトロ)方法である。本発明のさらなる態様は、リノール酸、その誘導体または塩または模倣物を、それを必要とする対象に投与することによって、コロナウイルス感染を治療するための治療法、および、コロナウイルス感染を検出するための診断、である。
【背景技術】
【0002】
本発明は、少なくとも部分的に、以下の背景に基づく。
【0003】
SARS-CoV-2および他のヒトコロナウイルス
SARS-CoV-2治療開発の鍵は、その高い感染性、異常に広い組織親和性、および重度の病状を引き起こすメカニズムをよりよく理解することである(非特許文献1、2、3)。現時点で、ヒトに感染することが知られている7つのコロナウイルスがある。4つのエンデミック(感染症が、一定の地域に一定の罹患率で、または一定の季節に繰り返し発生すること)ヒトコロナウイルス、OC43、229E、HKU1およびNL63は、軽度の自然治癒性上気道感染症を引き起こすが、パンデミックウイルス SARS-CoV-2、およびそれ以前のSARS-CoVおよびMERS-CoVは、急性呼吸窮迫症候群、多臓器不全および死亡を伴う重度の肺炎を引き起こすことが可能である(非特許文献3、5)。効果的な治療介入の開発を可能にするために、COVID-19パンデミックに関する現在進行中の研究の中心的な目標は、以前のコロナウイルスからCOVID-19を区別する特徴および、高い感染性と高い病原性の致死的組み合わせをCOVID-19に提供する特徴を特定することである。
【0004】
SARS-CoV-2病理
COVID-19患者は、血餅、ストローク、「COVID toes」(コロナのつま先、凍瘡に類似した手足の皮疹)および心臓発作を含む、いずれの以前のヒトコロナウイルスにも見られなかった症状の奇妙な集まりを呈する(非特許文献6、7、8)。SARS-CoVは肺を越えて大きく広がることはなかった一方、最近の研究では、SARS-CoV-2患者の心臓、腎臓、肝臓、および腸の内皮細胞の損傷または重度の炎症が報告されており、呼吸器疾患ではなく血管感染症が示唆されている(非特許文献1)。この著しく拡張された組織向性は、より広範で効果的なスパイク糖タンパク質プロセシングシステムによって部分的に説明されるかもしれないが、付随する重度の免疫調節不全、炎症、および肺の内側と外側の両方の組織病理については、まだ理解が乏しいままである。
【0005】
SARS-CoV-2による受容体認識および細胞侵入
コロナウイルスによる受容体認識は、ウイルスの感染性と病原性の重要な決定要因であり、抗ウイルス治療法開発の主要な標的を代表する(非特許文献12)。SARS-CoV-2の宿主細胞への付着は、スパイク(S)糖タンパク質とその同族受容体アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)の間の相互作用によって開始し、これは、以前の近縁のSARS-CoVおよび他のヒトコロナウイルスより高い親和性である(非特許文献9、13、14)。SARS-CoV-2による受容体ドッキングの後、膜融合の前に、形質膜関連プロテアーゼ TMPRSS2 によって、S糖タンパク質はプロセシングされ、これはウイルスの構成要素を宿主細胞の細胞質におろす(細胞質内に侵入させる)のを助ける(非特許文献9、10)。いったん宿主細胞内に入ると、軽度のエンデミック種を含むヒトコロナウイルスは、自然免疫系を回避するためのシステムを発達させ(非特許文献15、16)、ウイルスの複製を容易にするためにその脂肪代謝を再構築する(非特許文献4)。SARS-CoV-2は、その残酷な疾患の表現型を特徴付ける追加の新しい機能を獲得している。他のヒトコロナウイルスと比較して、SARS-CoV-2は、より効果的なプロテアーゼプロセシング(非特許文献10、11)および多様な組織へのウイルスの迅速な侵入を引き起こす広範な細胞向性(非特許文献1、17)を示す。新規S1/S2多塩基性furin(フリンまたはフーリン)プロテアーゼ切断部位は、細胞間融合と宿主細胞への侵入を刺激する(非特許文献11)。
【0006】
SARS-CoV-2感染により引き起こされる調節不全の免疫応答と炎症
SARS-CoV-2による感染は、異常に障害され不全な免疫応答(非特許文献18)と亢進した炎症反応(非特許文献2)をもまた引き起こす。SARS-CoV-2への宿主の過剰免疫と炎症反応は、ACE2をアップレギュレートしさらに感染をエスカレートするフィード フォワード ループを引き起こすために、感染した細胞の近方でのインターフェロン産生と相乗的に働く(非特許文献19)。
【0007】
クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)により可視化されたSARS-CoV-2 S糖タンパク質の構造
観察された感染の極めて厳しい病理をもたらす、追加の新規機能のための研究において、我々は、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)によりSARS-CoV-2 S糖タンパク質の構造を特定し、われわれの特定した構造において、三量体の各Sがリノール酸の一つのコピーにすきまなくきつく結合していることを発見した。これは、コロナウイルスSタンパク質の、いずれの結晶構造またはcryo-EM構造においても、以前に開示されていないことである。リノール酸(以下「LA」と称す)は、多価不飽和脂肪酸のオメガ6脂肪酸であり、人間が食事から摂取しなければならない2つの必須脂肪酸のうちの1つである。LAは、水にほとんど溶けない無色または白色の油である。
【0008】
利用可能な結晶構造とcryo-EM構造の分析を通して、我々は、SARS-CoV-2、SARS-CoVおよびMERS-CoVのSタンパク質へのLA結合を媒介する4つの分子特徴:i)保存された疎水性ポケット、ii)ゲーティングヘリックス、iii)LAのカルボキシ ヘッドグループ(頭部)と相互作用するようにあらかじめ配置されたアミノ酸残基、および、iv)「アポ」型において緩く包まれたRBD(「アポ」とは,LA結合なしのSタンパク質を意味する)、を見出した。一方、4つの一般的なエンデミック ヒト コロナウイルスのそれぞれにおいて、LA結合を媒介する、これら4つの構造的な必須事項は、Sタンパク質構造において欠けている。さらに、我々は、cryo-EMを介して、LA結合によって引き起こされるRBD三量体におけるコンフォメーション(立体構造)の変化がACE2ドッキングに影響を与え、したがっておそらく感染性に影響を与えることを実証した。Sタンパク質のLAへの高度に選択的な結合は、LA結合ポケットによって与えられる非常に規定されたサイズと形状の相補性に由来し、これは我々の解析において、何百もの異なる遊離脂肪酸(FFA)が培養培地中と培養細胞中に存在するにもかかわらず、我々がLAのみを検出し、他の脂肪酸を検出しなかったという観察によって支持される。したがって、LA結合ポケットは、低分子または生物製剤の将来の開発のための有望な標的を提示し、低分子または生物製剤は、たとえば、閉じたコンフォメーションにおいて不可逆的にSをロックすることができ、これにより、例えば感染性を低下させる、標的受容体とのLAを含むコロナウイルスの結合を妨げることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開 第94/16061 号
【特許文献2】米国公開 第2015/0065458号
【特許文献3】国際公開 第2005/085156 号
【特許文献4】米国特許 第5760017号
【特許文献5】国際公開 第94/46061 号
【特許文献6】国際公開 第94/46061 号
【特許文献7】国際公開 第94/46061 号
【特許文献8】国際公開 第94/46061 号
【特許文献9】国際公開 第94/46061 号
【特許文献10】国際公開 第94/46061 号
【特許文献11】国際公開 第94/46061 号
【特許文献12】国際公開 第94/46061 号
【特許文献13】国際公開 第94/46061 号
【0010】
【非特許文献1】Varga, Z. et al. Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. Lancet 395, 1417-1418, doi:10.1016/S0140-6736(20)30937-5 (2020).
【非特許文献2】Tay, M. Z., Poh, C. M., Renia, L., MacAry, P. A. & Ng, L. F. P. The trinity of COVID-19: immunity, inflammation and intervention. Nat Rev Immunol 20, 363-374, doi:10.1038/s41577-020-0311-8 (2020).
【非特許文献3】Zhou, P. et al. A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature 579, 270-273, doi:10.1038/s41586-020-2012-7 (2020).
【非特許文献4】Yan, B. et al. Characterization of the Lipidomic Profile of Human Coronavirus-Infected Cells: Implications for Lipid Metabolism Remodeling upon Coronavirus Replication. Viruses 11, doi:10.3390/v11010073 (2019)
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【非特許文献32】Smith (1985) Science 228, 1315-1317
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【非特許文献35】Georgiu et al. (1993) Trends Biotechnol. 11, 6-10
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【非特許文献37】M. Fairhead, M. Howarth, Site-specific biotinylation of purified proteins using BirA. Methods Mol. Biol. 1266, 171-184 (2015). doi:10.1007/978-1-4939-2272-7_12 Medline
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の一つの課題は、コロナウイルス スパイク タンパク質(以下「コロナウイルスSタンパク質」または単に「Sタンパク質」と称す)へのLAの結合を阻害する、LA結合ポケットを標的にする低分子または生物学的薬剤候補の発見、すなわち同定、を可能にする材料組成物および方法を提供することである。本発明の第二の課題は、コロナウイルスとその標的受容体の結合を阻害する、LA結合ポケットを標的にする低分子または生物学的薬剤候補の発見、すなわち同定、を可能にする材料組成物および方法を提供することである。
【0012】
SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の生物学的意味
最近のプロテオミクスおよびメタボロミクス研究により、COVID-19患者の血清では、LAを含むFFAが継続的に減少していることが証明された(非特許文献20)。脂質メタボロームのリモデリング(再構築)は、Sタンパク質を発現するために本明細書で使用されたバキュロウイルス(非特許文献23)を含む、ウイルス感染の共通事項である(非特許文献21,22)。コロナウイルスについては、LAからアラキドン酸(AA)への代謝軸(流れ、経路)が、脂質再構築のエピセンター(もっとも重要なことが起こり重要な決定がなされる場所)として特定された(非特許文献4)。
【0013】
したがって、本発明の第3の課題は、コロナウイルス感染によって引き起こされる脂質メタボロームリモデリングを阻害する、コロナウイルスSタンパク質によるLA結合に関連する低分子または生物学的薬剤候補の発見、すなわち同定、を可能にする材料組成物および方法を提供することである。興味深いことに、LAまたはAAを外から補充することにより、ウイルスの複製は抑制された(非特許文献4)。これに関して、SARS-CoV-2のS三量体がLAに驚くべき特異性で結合し、Sにスカベンジャー機能を付与し、脂質リモデリングに影響を与えSARS-CoV-2病理を助長する準備をする、ということは注目に値する。脂質メタボロームリモデリングは、細胞において3つの個別のプロセス:(i)異化および同化の前駆体平衡の変化を介してのエネルギー恒常性;(ii)例えば、リン脂質における飽和/不飽和 脂肪酸割合の、変化を介しての、生体膜の流動性および弾性;および(iii)脂質ベースの細胞シグナル伝達前駆体のレベルの変化を介した細胞シグナル伝達、を変える(非特許文献4、21、22)。LA軸(代謝経路)リモデリングが生体膜の流動性と弾性に及ぼす潜在的な影響に関して、我々は、リン脂質二重層のFFA組成は肺の表面張力を維持する上で重要な要素であり、どちらもSARS-CoV-2感染の鍵となる症状である急性呼吸窮迫症候群および重度の肺炎で、LA軸(代謝経路)脂質組成の変化が観察されることを言及する。
【0014】
本発明の第4の課題は、コロナウイルスに感染した細胞での生体膜の流動性および弾性を調節または安定化させる、コロナウイルスSタンパク質によるLA結合に関連する低分子または生物学的薬剤候補の発見、すなわち同定、を可能にする材料組成物および方法を提供することである。
【0015】
LA生合成経路は、炎症過程に関与する目立つシグナル伝達分子であるエイコサノイド(非特許文献24)につながるため、LAからAAへのメタボローム軸リモデリングにより、細胞シグナル伝達での顕著な変化が予想される。本発明は、SARS-CoV-2がLAに特異的に付着するFFA結合ポケットを含むことを明らかにし、これがSARS-CoVとMERS-CoVで共有される特徴であろうことを示唆する。我々の結果によって伝えられる、高親和性、高特異性のLAスカベンジャー機能は、組織に依存しないメカニズムを与えることができ、これにより病原性コロナウイルス感染が免疫調節不全と炎症を引き起こす。我々の発見は、マルチノードLAシグナル伝達軸が、特に、糖尿病や脂質異常症などの代謝性基礎疾患による高リスクを伴う患者群において、コロナウイルス感染に対する優れた治療的介入ポイントを表すことも示唆している。本発明の第5の課題は、コロナウイルスに感染した細胞でのLAからAAへのメタボローム軸に沿った細胞シグナル伝達を調節または安定化させる、コロナウイルスSタンパク質によるLA結合に関連する低分子または生物学的薬剤候補(ともに「候補分子」)の発見、すなわち同定、を可能にする材料組成物および方法を提供することである。
【0016】
脂肪酸は、エンベロープウイルスによる感染症の治療のために従来技術で示唆されてきた。特許文献1は、エンベロープウイルスと融合した後にウイルス核酸が変性する、好ましくは非リン脂質でできた微量のラメラ脂質小胞を用いることにより、エンベロープウイルスを不活性化する方法を開示する。同様の方向で、特許文献2は、コロナウイルスを含むエンベロープウイルスによって引き起こされる疾患の予防のために、ベシクルの形態の組成物中に存在する様々な非リン脂質の使用を開示し、ウイルスに感染した細胞とシクロデキストリンをともにインキュベーションすることにより大幅に改善される非リン脂質の効果をさらに報告する。
【0017】
第6の課題は、特にSARS-CoV、MERSおよび/またはSARS-CoV-2によって引き起こされる、コロナウイルス感染、ならびにCOVID-19のようなそのようなコロナウイルス感染、に関連する病状、の治療および/または予防のための改善された組成物、送達デバイスおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、第1の態様において、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体とLA(リノール酸、18:2(n-6))、その誘導体、塩または模倣物との単離された複合体であって、前記フラグメントまたは変異体は少なくとも前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを含む。
【0019】
LAの「誘導体」または「模倣物」は、一般に、本明細書に開示されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体、特に本明細書に開示されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体の結合ポケット、に結合するための必要要件を有する構造で、少なくとも以下の構造的特徴:少なくとも二つ、好ましくは正確に二つ、の塩基性アミノ酸残基、典型的には本明細書に開示される前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体のアミノ酸配列において互いに直接続いている塩基性アミノ酸残基、と本明細書に開示される前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体に脂肪酸残基によって形成されたチューブ様の空洞を組み合わせる構造である。好ましくは、結合部位はまた、前記親水性チューブを開閉するアルファヘリックスによって構成される。LAの典型的な誘導体または模倣物は、極性頭部および無極性延長尾部を有し、極性頭部は、前記少なくとも2つ、または正確に2つの塩基性アミノ酸残基によって配位され、前記無極性尾部は、前記親水性チューブに収まる。
【0020】
より好ましくは、LAの誘導体または模倣体は、以下の一般式(I)によって特徴付けられる:
【化1】
ここで、
Q は、O、SおよびNHから選ばれ、最も好ましくはOであり、
R1 は、OR、NHR3およびSHから選ばれ、ここでR3はHまたは短鎖アルキルまたは1から3個の炭素原子を有する置換アルキル基であり、好ましくはNH
2またはOH、最も好ましくはOHであり、
R2 は、13から21個のC原子を有する直鎖非置換または置換ヒドロカルビル基であり、好ましくは17個のC原子であり、任意で検出可能な標識に連結又は結合する。
【0021】
本開示から、当業者は、本発明による「LAの誘導体または模倣体」という表現が、LA自体のほかに、他の脂肪酸も含むことを認識する。
【0022】
好ましくは、R2基は、少なくとも1つの不飽和C?C結合、より好ましくは2つの不飽和C?C結合を有する。好ましくは、R2基は、1、2、3、4または5個の不飽和C?C結合を有する。より好ましくは、少なくとも1つの不飽和C?C結合はC?8とC?9の間にある。他の好ましい態様では、少なくとも1つの不飽和C?C結合はヒドロカルビル基のC?11とC?12の間にある。最も好ましくは、R2は、C?8とC?9の間に不飽和C?C結合を有し、C?11とC?12の間に不飽和C?C結合を有する。ヒドロカルビル基の上記のCの番号付けは、式(I)のC=Q基に結合した炭素から数えられると理解される。好ましくは、ヒドロカルビル基中の1つ以上の不飽和C?C結合はC?C二重結合である。
【0023】
式(I)の化合物(特に脂肪酸)の好ましい態様は、以下のように概説される(慣用名によって示され、脂質数およびオメガ-X命名法による):
【0024】
特に好ましい化合物(式(I)の脂肪酸)はオレイン酸(18:1 シス-9)である。
【0025】
別の好ましい化合物(式(I)の脂肪酸)は、アラキドン酸(20:4(n-6);「AA」または「ARA」とも称される)である。
【0026】
化合物(式(I)の脂肪酸)の他の好ましい態様には、エライジン酸(18:1 トランス-9)、エイコサペンタエン酸(20:5(n-3)、ステアリン酸(18:0)、γ-リノール酸(「GLA」とも称される;18:3(n-6))、カレンジン酸(18:3(n-6))、アラキジン酸 (同義語: エイコサン酸;20:0)、およびジホモ-ガンマ-リノール酸 (20:3(n-6))が含まれる。
【0027】
化合物(式(I)の脂肪酸)のさらに他の好ましい態様には、ドコサジエン酸(22:2(n-6))、アドレン酸(22:4(n-6))、パルミチン酸(16:0)、およびベヘン酸(同義語:ドコサン酸;22:0)が含まれる。
【0028】
本発明の好ましい態様では、式(I)による化合物は遊離脂肪酸であり、脂肪酸の上記態様は、それぞれ、本発明による、または本発明による使用に好ましい脂肪酸である。
【0029】
本発明によれば、上で概説した好ましい化合物などの式(I)の化合物には、本明細書で規定したそのような化合物(または脂肪酸、それぞれ)の塩、アニオンおよび複合体が含まれる。
【0030】
LAの「塩」または一般に式(I)の化合物の「塩」は、それぞれ、典型的には、周期系のアルカリ金属およびアルカリ土類金属から選ばれる、LA塩または一般に式(I)の化合物の塩のそれぞれである。LAの好ましいアルカリ塩または式(I)の化合物の一般的に好ましい塩はそれぞれ、ナトリウム、カリウムおよびリチウムのものである。LAの好ましいアルカリ土類塩または式(I)の化合物の一般的に好ましいアルカリ土類塩は、それぞれ、カルシウムおよびバリウムのものである。式(I)の化合物の「塩」は、好ましくは、上で概説した好ましい脂肪酸化合物の塩であると理解される。
【0031】
本発明によるLAの「塩」は、好ましくは上記概説した好ましい態様の、LAまたはその模倣物または誘導体、特に、式(I)の化合物(特に脂肪酸)、の陰イオン形態を指す本発明によってさらに、または代わりに、使用されてもよい。
【0032】
本発明はまた、本明細書で規定される複合体の組成物に関する。ここで、複合体は、コロナウイルスSタンパク質またはその変異体のフラグメントと、2つ以上の異なる脂肪酸、特にLAと、式(I)の1つ以上の化合物、好ましくは式(I)の化合物の好ましい態様の1つ以上、より好ましくはLAおよびオレイン酸、さらに好ましいオレイン酸およびアラキドン酸、なおさらに好ましいLAおよびアラキドン酸、まださらに好ましいLA、オレイン酸およびアラキドン酸、からなり、それぞれは任意で、コロナウイルスSタンパク質またはその変異体のフラグメントと式(I)の他の化合物、好ましくは上記で概説した式(I)の他の好ましい化合物との複合体をさらに含む。
【0033】
本発明の複合体は、前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の1、2または3コピーを含むか、またはそれらから構成されてもよく、それにより、2コピーは前記コロナウイルスSタンパク質またはフラグメントまたはそのフラグメントの二量体を表し、3つのコピーは、前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の三量体を表す、と理解される。好ましくは、複合体は、前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の二量体または三量体からなる。同様に、本発明の複合体は、1、2または3個のLA分子(またはその誘導体、塩または模倣物)を含んでよい。特に好ましい態様では、複合体は、Sタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の3つのコピーを含むか、またはそれらから構成される。さらに好ましい態様では、複合体は、2または3個、好ましくは3個のLA分子(またはその誘導体、塩または模倣物)を含む。より好ましくは、複合体は、3コピーのSタンパク質またはそのフラグメントもしくは突然変異体および3個のLA分子(またはその誘導体、塩または模倣物)を含むか、またはそれらから構成される。本発明のさらに好ましい態様では、複合体は、前記二量体を含むか、または前記二量体からなり、1または2個、好ましくは2個のLA分子(またはその誘導体、塩または模倣体)を含む。前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の2または3のような2個以上のコピーを含むか、またはそれらから構成される、本発明のそのような複合体は、LAと式(I)の他の化合物の組み合わせ、および/または、2個以上の式(I)の化合物の組み合わせを含むことができ、そのような複数のコピーの複合体は、2個以上、好ましくは2または3個の異なる脂肪酸、特にLA、と、1または2個の式(I)の化合物、好ましくは1または2個の式(I)の化合物の好ましい態様、より好ましくはLAとオレイン酸、更に好ましくはオレイン酸とアラキドン酸、よりさらに好ましいLAとアラキドン酸、まださらに好ましいLA、オレイン酸とアラキドン酸、を伴う複合体において、2以上、より好ましくは2または3,コピーのコロナウイルスSタンパク質またはフラグメントまたはそのフラグメントのコピーを含むことができる、または、それらから構成される、と理解される。
【0034】
本発明による複合体の好ましい態様において、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体は、呼吸器疾患、より好ましくは肺炎を引き起こすコロナウイルスのSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体から選択される。好ましい態様では、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体は、ヒトに感染するコロナウイルスに由来する。
【0035】
好ましくは、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントは、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2からなる群から選択されるコロナウイルスのSタンパク質またはそのフラグメントまたはは変異体であり、SARS-CoV-2が特に好ましい。
【0036】
コロナウイルスSタンパク質の特に好ましい例は、配列番号1から配列番号15のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有し、ここで、配列番号1は、コロナウイルスSタンパク質のエクトドメインを表すフラグメントの好ましい例である。そのような場合、エクトドメインはC末端にHisタグを有する。配列番号2から8は、全長コロナウイルスSタンパク質を表し、配列番号9から15は、コロナウイルスSタンパク質の好ましい受容体結合ドメイン(RBD)を表す。前述のコンストラクト(構築物)のアミノ酸配列およびそれらがどのコロナウイルスに由来するかについての情報は、以下にさらに挙げられる。本発明での使用に非常に好ましいコロナウイルスSタンパク質は、配列番号1、2、3、および4から選択され、配列番号1および2が最も好ましい。本発明で使用するためのコロナウイルスSタンパク質の特に好ましいフラグメント、すなわち受容体結合ドメインは、配列番号9、10、および11から選択され、配列番号9が最も好ましい。コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体のさらに好ましい例は、配列番号16または配列番号17または配列番号18で規定されるアミノ酸配列を含む。
【0037】
LAまたはその塩または誘導体または模倣物を結合するための構造を保持するフラグメントを含むコロナウイルスSタンパク質、好ましくは前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメイン、は、タンパク質またはそのフラグメントの野生型配列に比較して一つ以上の変異を含むことができる。結果として得られる変異体がLA(またはLAの塩または誘導体または模倣物)を結合するために必要な構造を保持する、好ましくはその変異体はコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントの受容体結合ドメインを少なくとも含む、という条件付きで、そのような変異体は、自然に発生するもの、すなわち野生型、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18、好ましくは配列番号2、3、または4、より好ましくは配列番号9、10、11による配列から選ばれるアミノ酸配列のようなコロナウイルスSタンパク質、から、一つ以上のアミノ酸欠失、追加、および/または置換によって区別できる。本発明で使用する変異体は、典型的には、野生型コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントのアミノ酸配列と、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、さらにより好ましくは少なくとも97%、なおさらに好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列相同性を有する。
【0038】
本発明の複合体に含まれるコロナウイルスSタンパク質の突然変異体およびフラグメントは、好ましくは受容体結合ドメインを含むが、膜貫通ドメイン、より好ましくはコロナウイルスSタンパク質の三量体化ドメインを欠く。好ましくは膜貫通部分を欠くが、好ましくは三量体化部分を保持する、本発明の複合体のためのコロナウイルスSタンパク質由来コンストラクトは、LAまたはその塩または誘導体もしくは模倣物との複合体内である場合を含み、水溶液内でコンストラクトを使用するのに特に有用であり、好ましくはさらに以下で開示し述べるアッセイ法に有用である。他の態様では、コロナウイルスSタンパク質のフラグメントまたは突然変異体はそれぞれ、その膜貫通ドメインも、その野生型三量体化ドメインまたは部分のそれぞれも含まない。コロナウイルスSタンパク質の変異体のフラグメントが野生型三量体化ドメインを含まない場合、三量体化機能を取り戻す変異またはリンカーが提供されることが好ましい。本発明の複合体がコロナウイルスSタンパク質のフラグメントまたは変異体の3つのコピーを含む、本発明の好ましい態様では、三量体化のための天然配列を欠く変異体は、変異体またはフラグメントの三量体化を可能にする少なくとも1つの変異を有することが好ましい。これは、例えば、特に可溶性すなわち水または水溶液に可溶性、の非膜貫通型三量体化ドメインを変異体またはフラグメント コンストラクトに連結することによって達成される。変異体またはフラグメントを提供するための他の手段には、アミノ酸変異の導入が含まれ、これは野生型配列のアミノ酸への追加、または、好ましくは置換であってよい。別の可能性は、例えば、T4ファージからの親水性三量体化ドメイン、またはαヘリックス的にコイル化したコイル構造を形成する7組の繰り返し配列のような、非野生型の三量体化ドメインを含めることである。対応する7組の繰り返し配列は当業者に知られている。
【0039】
本発明のより一般的な態様では、好ましくは、SARS-CoVまたはSARS-CoV-2、好ましくはSARS-CoV-2由来の本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはその変異体のフラグメントを含む、または、SARS-CoVまたはSARS-CoV-2、好ましくはSARS-CoV-2由来の本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはその変異体のフラグメントから構成される、複合体に基づく態様では、本発明の複合体は、分子、好ましくは本明細書で開示されるLAまたはその誘導体または模倣物または塩への結合部位が、以下のコンセンサス配列(N末端からC末端へ)を含むアミノ酸配列によって少なくとも提供される、または、以下のコンセンサス配列を含むアミノ酸配列を含む、または以下のコンセンサス配列からなる、ことを特徴とする。
[配16]
ここで、
X
1からX
59は、それぞれ独立して任意のアミノ酸であり、
Z
1からZ
15は、疎水性側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくは、C、F、V、I、AおよびLから選択される。
上記配列番号16においてXでもZでもないアミノ酸は、アミノ酸の一文字表記で表されるアミノ酸である。
【0040】
上記配列番号16による本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質、そのフラグメントまたは変異体によって規定される本発明のこの複合体において、複合体は、少なくとも部分的に上記配列番号16によって形成された結合部位内に結合する構造を有する分子で形成されることができ、好ましくは、脂肪酸または脂肪酸誘導体または脂肪酸塩または脂肪酸アニオンまたは脂肪酸模倣物、より好ましくは、上記で規定されたLAまたはその塩または誘導体または模倣物である。
【0041】
本発明の特に好ましい態様では、コロナウイルスSタンパク質またはその変異体またはそのフラグメントは、配列番号17または18から選択されるアミノ酸配列を含む、脂肪酸結合部位、好ましくはLA結合部位(本明細書では「結合ポケット」とも称する)を含む。
[配17]
[配18]
【0042】
LA(またはその誘導体もしくは模倣物または塩)のコロナウイルスSタンパク質(または本明細書で規定されるそのフラグメントまたは変異体)への結合を検出するために、LAまたはその塩または誘導体もしくは模倣体が、特に本発明の複合体に存在するとき、検出可能な標識を含む。そのLAまたはその塩または誘導体もしくは模倣体は特に以下にてさらに述べる本発明の複合体を作成する方法において有用である。同様に、本明細書に開示されるコロナウイルス変異体またはそのフラグメントは、検出可能な標識を含むことができる。
【0043】
本発明で使用する標識には、物理的または化学的手段によって検出できる任意の化学基または原子が含まれる。本発明で使用する検出可能な標識には、放射性標識、染料、フルオロフォア、酵素反応などの化学反応によって検出可能な標識、が含まれるが、これらに限定されない。本発明による検出のための化学基は、当業者に一般的に知られている方法によって導入することができる。
【0044】
アッセイ法、好ましくは本明細書で開示する方法、での本発明の複合体の利用のために、複合体は固定され、より好ましくは試験装置の表面に固定される。
【0045】
本発明の好ましい態様において、複合体は、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたはその変異体への(に対する)受容体に結合する。特に分析用途では、受容体は好ましくは固定され、より好ましくは試験装置の表面に固定される。コロナウイルスSタンパク質への受容体は、種、特にヒト、への感染時にコロナウイルスSタンパク質が結合する、それぞれのコロナウイルスへの天然受容体であることが好ましい。本発明での使用に好ましい受容体は、アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)である。
【0046】
複合体または受容体を固定するためのカップリング技術は、当技術分野で一般的に知られており、ビオチン/ストレプトアビジンまたは同様の結合パートナーを介したカップリングのような、天然の結合パートナーを介した固定を含むことが好ましい。そのような場合、複合体、好ましくは本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはその変異体またはフラグメント、または受容体は、それぞれの結合パートナーの1つ、例えばビオチン、に結合している。
【0047】
特に固定するための表面を提供するための、本発明による試験装置は、試験管、例えばELISAプレートが挙げられるマイクロプレートのような分析プレート、ポリマー材料のビーズ等、の表面を含む。
【0048】
本発明のさらなる課題は、本発明の複合体を作成するための様々な方法である。
【0049】
一つの態様では、本明細書で規定される複合体を作成する方法は、好ましくは水溶液、より好ましくは緩衝水溶液中で、本明細書で開示される単離されたコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体を、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物とインキュベートする工程を含む。
【0050】
本発明の複合体を作成するためのさらなる方法は、好ましくは組換え技術に基づく。
【0051】
一つの態様では、本発明の複合体を作成する方法は、リノール酸またはその塩または誘導体または模倣物の存在下で、組み換え宿主細胞にて、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を発現する工程を含み、任意で宿主細胞から複合体を精製することも含む。
【0052】
さらなる組換えの態様は、本発明の複合体を作成するための方法であり、前記方法は:
(i)コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体をコードするヘテロな核酸を宿主細胞に導入する工程、ここで前記フラグメントまたは変異体は前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む;
(ii)リノール酸の存在下で宿主細胞を培養する工程;および、任意で
(iii)宿主細胞および/または培養培地から複合体を精製する工程、
を含む。
【0053】
別の態様では、本発明の複合体を製造する組換え法は:
(1)組み換え宿主細胞にて、好ましくはリノール酸を含まない宿主細胞および培地にて、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を発現する工程、ここでフラグメントまたは変異体は前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む;
(2)発現したコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を宿主細胞から単離する工程;および
(3)単離したコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体を、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物とインキュベートする工程、
を含む。
【0054】
単離したコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体は、好ましくは、工程(3)の前に、例えば、上記した試験装置の表面上といった、検出装置の表面上に固定される。
【0055】
本発明で使用するための宿主細胞は、原核生物または真核生物であってよい。真核宿主細胞は、例えば哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞であってもよい。ヒト宿主細胞の例には、HeLa、Huh7、HEK293、HepG2、KATO-III、IMR32、MT-2、膵臓β細胞、ケラチノサイト、骨髄線維芽細胞、CHP212、初代神経細胞、W12、SK-N-MC、Saos-2、WI38、初代肝細胞、FLC4、143TK、DLD-1、胚性肺線維芽細胞、初代包皮線維芽細胞、MRC5、およびMG63細胞が含まれるが、これらに限定されない。本発明のさらに好ましい宿主細胞は、ブタ細胞、好ましくはCPK、FS-13、PK-15細胞、ウシ細胞、好ましくはMDB、BT細胞、ヒツジ細胞、例えばFLL-YFT細胞である。本発明の文脈において有用な他の真核細胞は、C.elegans細胞である。さらなる真核細胞には、酵母細胞、例えばS.cerevisiae、S.pombe、C.albicansおよびP.pastorisが含まれる。さらに、本発明は、宿主細胞としての昆虫細胞に関し、S.flugiperda(フルギペルダ)由来の細胞、より好ましくはSf9、Sf21、Express Sf+、High Five H5細胞、およびD.melanogaster(キイロショウジョウバエ)由来の細胞、特にS2シュナイダー細胞、が含まれる。さらなる宿主細胞には、Dictyostelium discoideum(細胞性粘菌)細胞およびLeishmania(リーシュマニア)種などの寄生虫由来の細胞が含まれる。
【0056】
本発明による原核宿主には、細菌、特に、TOP10、DH5α、HB101などの購入可能な株の大腸菌、が含まれる。
【0057】
コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を発現させるために、本明細書に記載のコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体をコードするヘテロ核酸が、典型的には、前記宿主細胞に導入される(例えば、好ましくは、本発明の作成方法の一つの態様の上記工程(i)で規定されるように)。コロナウイルスSタンパク質またはその変異体のフラグメントを発現させるために、ヘテロ核酸は、典型的には、コロナウイルスSタンパク質またはその変異体のフラグメントをコードするヌクレオチド配列を、好ましくは発現カセット内に、含むベクターである。
【0058】
当業者は、本発明による製造方法で使用するためのヘテロ核酸の適切な増殖および/または適切な宿主細胞に移すための、適切なベクターコンストラクト/宿主細胞のペアを容易に選択することができる。適切なベクターエレメントおよびベクターを適切な宿主細胞に導入するための特定の方法は、同様に当技術分野で知られており、その方法は最新版のAusubel et al. (ed.) Current Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, USA(非特許文献27)に見つけることができる。
【0059】
本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の発現のための好ましい系は、バキュロウイルス発現系である。特に好ましいバキュロウイルス発現系はMultiBac(商標)であり(特許文献3)、Geneva Biotech、ジュネーブ、スイス連邦、から購入可能である。
【0060】
本発明のさらなる課題は、本明細書に開示されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体をアポ(Apo)型(アポ状態とも呼ばれる)からホロ(Holo)型(ホロ状態とも呼ばれる)に転換する方法、およびその逆方向に転換する方法である。
【0061】
一つの態様は、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体、好ましくは本明細書で規定される前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の三量体、のアポ型からホロ型に変換するための方法であり、本明細書で規定される前記コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体、好ましくは以前に概説した三量体、をリノール酸、その誘導体、塩、またはその模倣物に接触する工程を含む。
【0062】
ホロ型からアポ型に変換するための変換方法の代表的な一態様は、一般的に
図7(上のパネル)に示され、
図7の説明において以下でさらに概説される。
図7は特定の例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質を言及しているが、
図7に示され、以下にさらに説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図7の「LA」にも当てはまり、LA自体およびその塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0063】
本発明の複合体を作成する方法、ならびにコロナウイルスSタンパク質をアポ型からホロ型に変換する変換方法、および本明細書に開示されるアッセイ方法を実施するために、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、前記LAまたはその誘導体またはその塩またはその模倣物を含む組成物に存在する。そのような組成物の一つの好ましい例は、タラ肝油である。
【0064】
本明細書に開示されるような脂肪酸および関連分子、特にLA、その塩、誘導体および模倣物などの疎水性物質は、低い水溶解度(LAの場合、約100mg/L)を示すので、物質を本発明の方法で用いるための組成物にふくめて、特に水溶液中の、LA(またはその誘導体、塩、または模倣物)の溶解度を増加させることが好ましい。
【0065】
そのような物質の好ましい例は、脂肪酸、特にLA(またはその誘導体または塩または模倣物)に結合できるタンパク質である。このタイプのより好ましいタンパク質は脂肪酸結合タンパク質(FABP)であり、前記組成物は好ましくはLAまたはその誘導体または塩または模倣物と共に少なくとも1つのFABPを含む。本発明で使用するためのFABPには、FABP1、FABP2、FABP3、FABP4、FABP5、FABP6、FABP7、FABP8、FABP9、FABP10、FABP11およびFABP12が含まれる。他の好ましい溶解度向上剤は、ウシ血清アルブミン(BSA)またはヒト血清アルブミン(HSA)のようなアルブミン タンパク質である。したがって、組成物は、任意で少なくとも一つのFABPに加えて、一つ以上のそのような血清アルブミン タンパク質を含むことができる。
【0066】
本発明によるさらなる変換方法は、単離されたコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体をホロ型からアポ型に変換するための方法であり、コロナウイルス スパイク タンパク質、そのフラグメントまたは変異体から結合したリノール酸、その誘導体、塩または模倣物を除く工程を含み、ここで前記コロナウイルス スパイク タンパク質の変異体またはフラグメントはコロナウイルス スパイク タンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む。
【0067】
アポ型からホロ型に変換する変換方法の代表的かつ好ましい態様は、
図7に概略的に示され(1つの実施形態は中央のパネルに示され、さらなる実施形態は下のパネルに示される)、
図7の説明において以下でさらに概説される。
図7は特定の例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質を言及しているが、
図7に示され、以下にさらに説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図7の「LA」にも当てはまり、LA自体およびその塩、誘導体、ならびに模倣物を含む。
【0068】
本発明はまた、インビトロアッセイ、すなわち検出方法、特にa)本明細書で開示される複合体の、前記複合体に存在するコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体への(に対する)受容体への結合の阻害剤、および/または、b)LAまたはその塩、誘導体または模倣物の本明細書で開示されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への結合の阻害剤、を検出するための方法に関する。
【0069】
したがって、一態様では、本発明は、候補分子が、本発明による複合体の、本明細書に開示されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への(に対する)受容体タンパク質への結合、を阻害するかどうか検出するためのin vitro(インビトロ)アッセイを提供し、前記in vitroアッセイは、
(a)本発明による複合体を、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質への受容体タンパク質と接触させる工程;
(b)(a)の複合体と受容体を候補物質に接触させる工程; および
(c)結合していない受容体および/または結合していないコロナウイルスSタンパク質またはその変異体またはフラグメントを検出する工程、
を含む。
【0070】
この方法では、工程(a)および(b)を同時に行ってもよいし、工程(a)を工程(b)の前に行ってもよいし、工程(b)を工程(a)の前に行ってもよい。
【0071】
本発明によれば、この方法は、すべてのさらなる検出方法と同様に、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体のそれらの受容体への相互作用、具体的には結合、の阻害剤もまた検出する、と理解される。
【0072】
工程(a)、(b)および(c)を含む、上記のin vitroアッセイまたは検出方法それぞれの好ましい態様は、以下の通りである。
【0073】
候補分子が、本発明の複合体の、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への(に対する)受容体への結合を阻害するかどうかを検出するための、上記検出方法またはin vitroアッセイそれぞれの好ましい態様は、
図12に概略的に示され、
図12および実施例11の説明において以下でさらに概説される。
図12および実施例11は、例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)を言及しているが、
図12に示されさらに以下の
図12の説明および実施例11で説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図12の「LA」にも当てはまり、LA自体およびその塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0074】
候補分子が、本発明の複合体(したがって、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体)の、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への受容体、への結合を阻害するかどうかを検出するための、上記検出方法またはin vitroアッセイそれぞれの好ましい態様は、
図13に概略的に示され、
図13および実施例12の説明において以下でさらに概説される。
図13および実施例12は、例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントもしくは変異体)を言及しているが、
図13に示されさらに以下の
図13の説明および実施例12で説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図13の「LA」にも当てはまり、LA自体およびその塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0075】
候補分子が、本発明の複合体(したがって、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体)の、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への受容体、への結合を阻害するかどうかを検出するための、上記in vitroアッセイまたは検出方法それぞれの他の好ましい態様は、コロナウイルスSタンパク質のフラグメントまたは変異体、好ましくは、受容体結合ドメイン(RBD)およびその変異体からなる、または受容体結合ドメイン(RBD)およびその変異体を含むフラグメント、のそれぞれを使用する。そのようなフラグメントまたは変異体の例は、
図14に示され、
図14および実施例13の説明において以下でさらに開示される。
図14および実施例13は、特定の例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントもしくは変異体)を言及しているが、
図14に示されさらに以下の
図14の説明および実施例13に概説される同一の原理が、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体にも適用できることを理解されたい。
【0076】
そのようなフラグメントまたは変異体は、下記に概説する結晶型に適用できる。
【0077】
候補分子が、本発明の複合体(したがって、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体)の、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体への受容体、への結合を阻害するかどうかを検出するための、上記in vitroアッセイまたは検出方法のこのタイプの好ましい態様は、
図15に概略的に示され、
図15および実施例14の説明において以下でさらに概説される。
図15および実施例14は、例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントもしくは変異体)を言及しているが、
図15に示されさらに以下の
図14の説明および実施例12で説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図15の「LA」にも当てはまり、LA自体およびその塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0078】
候補分子が、本発明の複合体(したがって、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体)の、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体への受容体、への結合を阻害するかどうかを検出するための、上記in vitroアッセイまたは検出方法のこのタイプの好ましい態様は、
図16に概略的に示され、
図16および実施例15の説明においてさらに概説される。
図16ならびに
図16および実施例15により以下に示される原理は、SARS-CoV-2 コロナウイルスSタンパク質およびそのフラグメントもしくは変異体を言及しており、同一原理が本明細書で開示されるいずれのコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体に適用できることを理解されたい。
【0079】
候補分子が、本明細書に開示されるリノール酸またはその誘導体、または塩、または模倣物の、本明細書で開示されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントもしくは変異体への結合、を阻害するかどうかを検出するin vitroアッセイの一態様は、
i)本発明の複合体が候補分子に接触する工程;および
ii)放出されたリノール酸またはその誘導体、または塩、または模倣物、および/またはコロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体に結合した候補分子、を検出する工程、
を含む。
【0080】
この検出方法またはin vitroアッセイの好ましい態様は、それぞれ、
図8に概略的に示され、
図8および実施例7の説明においてさらに概説される。
図8および実施例7は、例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)を言及しているが、
図8に示されさらに
図8の説明および実施例7で以下に説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図8の「LA」および「LA
*」にも当てはまり、LA、標識されたLAそれぞれ、およびそれらの塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0081】
上記検出方法またはin vitroアッセイのさらに好ましい態様は、それぞれ、
図9に概略的に示され、
図9および実施例8の説明においてさらに概説される。
図9および実施例8は、例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)を言及しているが、
図9に示されさらに
図9の説明および実施例8で以下に説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図9の「LA」および「LA
*」にも当てはまり、LA、標識されたLAそれぞれ、およびそれらの塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0082】
上記検出方法またはin vitroアッセイの一つの態様は、それぞれ、初めに本発明による複合体からリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物を除き、その後上記工程i)およびii)を実行する、ことができる。このタイプの好ましい一態様は、
図10に概略的に示され、
図10および実施例9の説明においてさらに概説される。
図10および実施例9は、例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントもしくは変異体)を言及しているが、
図10に示されさらに
図10の説明および実施例9で以下に説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図10の「LA」および「LA
*」にも当てはまり、LA、または標識されたLAそれぞれ、およびそれらの塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0083】
本発明は、候補分子が、リノール酸またはその誘導体または塩もしくは模倣物の、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への結合、を阻害するかどうかを検出するための、さらなるin vitroアッセイを提供し、ここで、そのフラグメントまたは変異体は、前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含み、前記in vitroアッセイは、
(A)本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体を、候補分子およびリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物と接触させる工程;と
(B)下記(B1)および/または(B2)の量を測定する工程、
(B1)本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体に結合した候補分子、
(B2)コロナウイルス スパイク タンパク質またはそのフラグメントまたは変異体に結合していないLAまたは誘導体または塩または模倣物、
を含む。
【0084】
本発明による、この検出方法またはin vitroアッセイの好ましい態様は、それぞれ、
図11に概略的に示され、
図11および実施例10の説明においてさらに概説される。
図11および実施例10は、例としてSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)を言及しているが、
図11に示されさらに
図11の説明および実施例10で以下に説明される原理は、一般に、本明細書で規定されるコロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体も指すことを理解されたい。同じことが
図11の「LA」にも当てはまり、LA自体およびその塩、誘導体、ならびにその模倣物を含む。
【0085】
好ましくは、本発明のアッセイ方法は、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体への(に対する)候補分子のKd値を測定するさらなる工程を含む。
【0086】
さらに、本発明の検出方法は、好ましくは、コロナウイルスSタンパク質またはそのフラグメントまたは変異体の濃度に対してモル的に過剰の候補を用いて実施される。
【0087】
本発明のアッセイまたは検出方法は、好ましくは、複数の異なる候補をスクリーニングするために使用される。そのような好ましいスクリーニング方法は、好ましくは、
(I)複数の異なる候補分子を用いて上記で概説した方法を実施する工程、ここで前記方法が単一の反応において各候補分子について実施される;
(II)各候補分子のKd値を決定する工程;および
(III)コロナウイルスSタンパク質またはその変異体またはフラグメントへの(に対しての)所定の閾値Kd値を有する候補分子を選択する工程、
を含む。
【0088】
好ましくは、閾値Kd値は、約5から約99または約100nMのような約100nMに等しいまたは未満であり、より好ましくは約1から約9または約10nMのような約10nMに等しいまたは未満であり、さらにより好ましくは、約1から約4.9または約5nMなど、約5nMに等しいまたは未満である。
【0089】
本発明のさらなる課題は、リノール酸への(に対する)コロナウイルスSタンパク質の結合部位と相互作用する化合物を同定するためのin silico(インシリコ)方法であって、
-コンピューター上の記憶媒体中で、リノール酸へのコロナウイルスSタンパク質の前記結合部位の原子座標を提供する工程;と
-前記コンピューターを使用して、分子モデリング技術を前記座標に適用する工程、
を含む。
【0090】
本発明のin silico方法は、好ましくは、市販の化合物ライブラリーおよび/またはソフトウェアの助けを借りて実行される。
【0091】
本発明で使用するためのライブラリーデータベースは理論上の化合物を含み、特に下記のURL(2020年6月18日現在)をもとに、Enamin社から入手可能である:
https://enamine.net/library-synthesis/real-compounds/real-database
https://enamine.net/library-synthesis/real-compounds/real-compound-libraries
【0092】
本発明で使用するための物理的化合物ライブラリーは、フラグメントおよび完全な薬物様化合物を含み、Enamin社からも市販されている。
フラグメントについては、Enamin社、例えばhttps://enamine.net/library-synthesis/real-compounds/real-databaseを参照する。
スクリーニングについては、例えばhttps://enamine.net/hit-finding/compound-collections/screening-collectionを参照する。
【0093】
本発明において使用するためのin silicoソフトフェアは市販されており、例えば、Schrodinger社(アメリカ合衆国、ニューヨーク州、ニューヨーク)およびBiovia社(アメリカ合衆国、カリフォルニア州、サンディエゴ)から市販されており、下記のURLを参照する。
https://www.schrodinger.com/glide
https://www.schrodinger.com/qm-polarized-ligand-docking
https://www.schrodinger.com/desmond
【0094】
本明細書で参照するすべてのURLは、2020年6月18日現在のものであることを理解されたい。
【0095】
典型的には、in silico方法は、1つ以上、典型的には多数の候補分子をもたらし、次いで、本発明の上記アッセイ法でさらに検証される。
【0096】
本明細書に記載のリノール酸(LA)、またはその塩または誘導体または模倣物は、コロナウイルス感染の治療および/または予防に使用することができ、ここでその誘導体、塩または模倣物は、前記コロナウイルスのコロナウイルスSタンパク質に結合する。本発明はまた、有効量のLAまたはその塩または誘導体または模倣物を、それを必要とする対象、好ましくはヒト対象、に投与する工程を含む、コロナウイルス感染の予防および/または治療方法に関し、ここで誘導体、塩または模倣物は、前記コロナウイルスのコロナウイルスSタンパク質に結合する。本発明はまた、コロナウイルス感染の治療および/または予防のための薬剤の調製のための、本明細書に記載の、LA、またはその塩または誘導体または模倣物の使用に関する。
【0097】
本発明の文脈において、「治療」は、対象、好ましくはヒト、の状態が、さらに進行することを防ぐ結果を少なくとも意図することを意味し、特に、SARSまたはMERS感染の場合、最も好ましくはSARS-CoV-2感染の場合に、咳および/または味覚の喪失および/または嗅覚の喪失および/または38℃以下、より好ましくは38.5℃以下の軽度の発熱などの初期症状を患っている患者の状態が、患者が高熱および/または呼吸困難を患う状態に進行しない、というようなことを意味する。本発明の好ましい態様では、治療により、患者がコロナウイルス、好ましくはSARS-CoV-2ウイルスを他の対象にさらに感染させることができない状態になる。このような感染不能な状態は、通常、患者の鼻および/または喉の粘膜から採取した材料のコロナウイルスPCRテスト、好ましくはSARS-CoV-2 PCRテストで、少なくとも約33、34、35PCRサイクル後、閾値を超えるシグナルが検出されないときに、典型的には到達される。
【0098】
同じ条件が、本発明で使用される「予防」という用語に適用される。すなわち、予防は、典型的には、対象、好ましくはヒト対象の予防的治療に関する。好ましくは、予防とは、対象がコロナウイルス感染、好ましくはSARSまたはMERS、より好ましくはSARS-CoV-2感染の徴候を示さないこと、好ましくは咳および/または味覚の喪失および/または嗅覚の能力の喪失の徴候を示さないことを意味する。他の態様では、予防とは、患者が治療期間にわたって、および好ましくはその後少なくとも約1週間から約8週間、コロナウイルスPCRテスト、好ましくはSARS-CoV-2PCRテストでの陰性によって証明されるような、コロナウイルス感染を示さないことを意味する。所定の他の態様では、予防的治療は、患者の鼻および/または喉の粘膜から採取した材料の、少なくとも約33、34、35PCRサイクル後、閾値を超えるシグナルが検出されないコロナウイルスPCRテスト、好ましくはSARS-CoV-2PCRテストによって証明される、治療を受けた患者によるコロナウイルス感染、好ましくはSARSまたはMERS、より好ましくはSARS-CoV-2感染の伝染の予防を含む。
【0099】
コロナウイルス感染の予防および/または治療の方法ならびに対応する使用に関する本発明の好ましい態様において、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、好ましくは非小胞形態で使用される。本発明によれば、「非小胞形態で存在する」という用語は、従来技術のアプローチとは反対に、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物それぞれが、それぞれの使用または方法においてリポソームのような小胞構造を形成しないことを意味する。典型的には、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、組成物中で使用され、それが小層膜であろうと多層膜であろうと、小胞には存在せず、組成物は単相であり、水性単相組成物または溶液が特に好ましい。本発明による、または本発明で使用するための水性組成物は、典型的には、水、または、生理的NaCl溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液または乳酸リンゲル液のような電解質水溶液または緩衝液を含む。本発明の他の好ましい態様では、小胞でない脂質(すなわち、本明細書に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物)組成物は、乾燥粉末の形態である。本発明の好ましい粉末の態様において、粉末は、本明細書に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物を非小胞形態に含む、液体組成物を凍結乾燥するような乾燥によって調製される。最も好ましくは、乾燥粉末は、本明細書に記載のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の単相溶液、より好ましくは単相水溶液を凍結乾燥するなどの乾燥によって調製される。所望の用途に必要な場合、最初に調製した乾燥製品を適切な粉末(平均)粒子サイズに粉砕することができる。好ましくは、本発明の組成物または本発明で使用する組成物は滅菌される。
【0100】
本発明による非小胞組成物の調製は、典型的には、所望の量のリノール酸またはその誘導体または塩または模倣物を、好ましくは攪拌した、可溶化剤の組成物、好ましくは可溶化剤の溶液(以下「脂肪酸可溶化剤」とも称する)、に加える工程を含み、可溶化剤は好ましくはさらに下記に概説するような可溶化剤または可溶化剤の混合物、最も好ましくは1以上のシクロデキストリン、任意でさらに下記に概説する成分を含み、それによって、リノール酸またはその誘導体または塩もしくは模倣物自体が、潜在的に小胞形態で、それを含む事前に調製された組成物中に存在する。直接使用する場合、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物は、可溶化剤組成物に添加する前に、リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物の融点以上の温度に予熱される。リノール酸またはその誘導体または塩または模倣物を可溶化剤に添加した後、合わせたものを超音波処理し、および/または、約30分から約48時間のような適切な時間攪拌する。超音波処理とその後の攪拌の組み合わせが好ましく、例えば、約15分から約2時間、好ましくは約30分から約1時間の超音波処理と、それに続く約1時間から約48時間、好ましくは約1時間から約24時間の攪拌の組み合わせが好ましい。
【0101】
本明細書に開示される本発明の治療または予防それぞれの使用および方法において使用するための有効物質、好ましくは本明細書で規定されるLAまたはその塩または誘導体または模倣物、または本明細書に開示される阻害剤の「有効量」は、具体的には本明細書に開示されるコロナウイルス感染症、特にCOVID-19の状態を少なくとも改善するのに適した効果を発揮する有効物質の量、好ましくは前記状態を実質的に改善し、前記状態を最適に治癒する量である。
【0102】
本明細書で規定されるLAまたはその塩または誘導体または模倣物、最も好ましくはLAに関して、有効量は、好ましくは、1回または複数回の単位用量で投与することができる1日用量で、約1mg/kg体重から約1400mg/kg体重、より好ましくは約50mg/kg体重から約500mg/kg体重であり、ここで、体重は治療対象の体重を意味する。
【0103】
本発明の阻害剤に関して、好ましい有効量は、例えば、1回以上の単位用量で投与されることができる、約1mg/kg体重から約100mg/kg体重の、1mg/kg体重から約10mg/kg体重の、1日用量であり、ここで、体重は治療対象の体重を意味する。
【0104】
さらに、上記の検出方法は、コロナウイルスSタンパク質とその受容体との相互作用、好ましくは結合、の阻害剤を提供し、これは、阻害剤がコロナウイルスSタンパク質とその受容体との相互作用を妨げることを意味する。好ましくは、阻害剤は、上記で概説したKd値により選択された候補分子である。
【0105】
本明細書で規定される阻害剤は、コロナウイルス感染の治療および/または予防に有用である。本発明はまた、コロナウイルス感染の予防および/または治療のための方法であって、本明細書で規定される少なくとも1つの阻害剤を有効量で、それを必要とする対象、好ましくはヒト対象に投与する工程を含む方法に関する。
【0106】
LA(またはその塩または誘導体または模倣物)は、本明細書に開示される治療および/または予防の使用および方法において1つ以上の阻害剤と組み合わされることも企図される。
【0107】
好ましくは、コロナウイルス感染は、好ましくはヒトにおいて呼吸器疾患、特に肺炎を引き起こすコロナウイルスによる感染である。より好ましくは、コロナウイルス感染は、SARS-CoV、MERS-CoV、および/またはSARS-CoV-2による感染であり、SARS-CoV-2による感染が最も好ましい。
【0108】
LAまたはその誘導体または塩または模倣物、および/または、少なくとも1つの阻害剤は、対象に全身および/または局所的に投与されてよい。
【0109】
「局所投与」に関して、本発明によれば、この用語は投与経路であると考えられ、投与は局所的に行われるが全身的な薬理学的効果を有する投与を含むものと理解されるべきである。
【0110】
有効物質(すなわち、本明細書で規定されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物、および/または阻害剤)の好ましい局所投与は、患者の、鼻および/または咽頭および/または喉頭投与のような上気道系への投与、および/または、口、および/または、気管および/または一次気管支および/または肺のような下気道系、への投与を含み、好ましくは有効化合物のエアロゾル製剤として、より好ましくはスプレー製剤、としての投与を含む。
【0111】
本発明の好ましい態様では、一つ以上の有効物質(すなわち、本明細書で規定されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物、および/または阻害剤)は、より好ましくはエアロゾル製剤として、上気道に投与され、、より好ましくは経鼻投与により投与される。本発明によれば同義的に「鼻腔内」投与とも呼ばれる、経鼻投与は、一般に、鼻腔への投与を含み、好ましくは、一方または両方、好ましくは両方の鼻孔への投与を含む。
【0112】
有効物質(すなわち、本明細書で規定されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物、および/または阻害剤)の全身投与は、好ましくは有効物質を経口および/または静脈内注射によって対象に投与することによって実施されることが好ましい。
【0113】
経口投与は、有効物質を食物と混合する態様でもよい。
【0114】
好ましくは、LAまたはその誘導体または塩または模倣物、または阻害剤は、LAまたはその誘導体または塩または模倣物および/または少なくとも1つの阻害剤と、親油性物質のための少なくとも1つの担体、任意で薬学的に許容可能な担体、との組み合わせの形態で投与される。
【0115】
本発明によれば、親油性物質のための担体は、本明細書で規定されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物および/または阻害剤への1つ以上の結合部位を有する成分であることができる。本発明によれば、本明細書で規定されるLAまたはその誘導体またはその塩または模倣物および/または阻害剤のための担体は、本明細書で規定されるLAまたはその誘導体またはその塩または模倣物のような親油性物質、および/または阻害剤、のための可溶化剤、でもあることができる。
【0116】
親油性物質のための好ましい適切な担体には、本明細書で規定されるLAまたはその誘導体または塩への結合部位、および/または、阻害剤への結合部位、を有する、タンパク質、リポタンパク質、合成ナノ粒子、炭水化物マトリックスなどが含まれ、好ましくは、タンパク質、リポタンパク質、合成ナノ粒子などが含まれるが、これらに限定されない。本発明における使用のための適切な担体は、例えば、非特許文献28に開示されている。
【0117】
このタイプの好ましいタンパク質は、例えばアルブミン タンパク質、好ましくはヒト血清アルブミン、および脂肪酸結合タンパク質、好ましくはFABP1、FABP2、FABP3、FABP4、FABP5、FABP6、FABP7、FABP8、FABP9、FABP10、FABP11およびFABP12から選択される1つ以上である。
【0118】
本明細書に開示される治療および/または予防方法、使用および組成物において、本明細書に規定されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物、および/または本明細書に規定される少なくとも1つの阻害剤は、担体、好ましくは親油性物質への1つ以上の結合部位を有する担体および/または親油性物質への可溶化剤を有する担体、と、ex vivo(エクスビボ)にて対象に投与される前に混合される場合が特に好ましい。
【0119】
本明細書に開示される治療および/または予防方法および使用のための上記成分に加えて、上記有効成分を、好ましくは親油性担体、好ましくは、親油性物質への1つ以上の結合部位を有する担体、および/または、親油性物質への可溶化剤、との混合物中に含む本発明の使用のための組成物が、さらに、気道への投与、好ましくは経鼻投与、のような局所適用、または経口、または静脈内注射のような全身適用、にて様々なパラメーターを提供するおよび/または改善する用量の形態で典型的には存在する成分を含んでもよい。本発明で使用するための典型的な追加成分には、賦形剤、他の担体、充填剤、滑剤、分散剤、可塑剤、湿潤剤、粘着防止剤、中和剤、着色剤、顔料、乳白剤、香料、甘味料などの味改善剤、緩衝剤、注射補助剤などが含まれる。本明細書に開示される予防および/または治療の使用および方法のための組成物を作成する当業者は、上記および他のタイプの特定の化合物および物質、ならびにそれらの組み合わせおよび使用量を容易に特定することができる。さらなるガイダンスを非特許文献29にて見つけることができる。
【0120】
本発明の文脈における好ましい組成物、特に、本明細書で規定および記載されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物の気道、より好ましくは上気道への投与、最も好ましくは経鼻投与のための組成物は、少なくとも1つの本明細書で規定および記載される前記LAまたはその誘導体または塩または模倣物、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸、のための可溶化剤を含む。
【0121】
本発明の文脈における親油性物質のための好ましい可溶化剤は、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコールおよびポリプロピレングリコールであり、そのような可溶化剤の2つ以上の混合物もこれに含む。
【0122】
可溶化剤、およびそれらの量、特に、本明細書で規定および記載されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸、に対するそれらの分子比、は、特に水性組成物中で定期的に形成される脂質小胞の形成を実質的に防止するように選択される。好ましい可溶化剤は、個々の活性物質(すなわち、本明細書で規定および記載されるLAまたはその誘導体または塩または模倣物、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸)間の疎水性相互作用を、それらが極性環境、特に水溶液から遮蔽されるような形態で、脂質分子を複合体化することによって防止する。
【0123】
本発明での使用に特に好ましい可溶化剤は、シクロデキストリン(CD)である。好ましくは、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、δ-シクロデキストリン、またはそれらの2つ以上の混合物である。
【0124】
他の好ましい態様において、シクロデキストリン、好ましくはα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、δ-シクロデキストリン、またはそれらの2つ以上の混合物、は、O-メチル化、アセチル化、ヒドロキシプロピル化、ヒドロキシエチル化、ヒドロキシイソブチル化、グルコシル化、マルトシル化およびスルホアルキルエーテル シクロデキストリンから選ばれるシクロデキストリン誘導体である。シクロデキストリン誘導体は、例えば特許文献4および5に開示される。最も好ましくは、シクロデキストリンは、β-シクロデキストリンおよび/またはその誘導体、好ましくは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンおよび/または3-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンおよび/または2,3-ジヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンのようなヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、トリメチル-β-シクロデキストリン、ランダムにメチル化されたβ-シクロデキストリン、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシイソブチル-β-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリンおよびマルトシル-β-シクロデキストリンである。本発明での使用に非常に好ましいシクロデキストリンは、スルホアルキルエーテル修飾シクロデキストリン、好ましくはそのようなスルホアルキルエーテルシクロデキストリンの混合物、より好ましいスルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリン、最も好ましくはスルホブチルエーテル-ss-シクロデキストリンである。好ましいアルキル化およびスルホアルキルエーテル デキストリンは、特許文献6から13に開示されている。本発明で使用するための、好ましいスルホアルキルエーテルシクロデキストリン、特にそのようなスルホアルキルエーテルシクロデキストリンの混合物、は、Captisol(登録商標)の商標のもと入手可能である。
【0125】
本発明の好ましい態様では、本発明の組成物(組成物の使用および治療および/また予防の方法を含む)、好ましくは単相組成物、最も好ましくは単相水性組成物の形態、における、シクロデキストリン、好ましくは上記好ましい態様の一つ以上から選ばれるシクロデキストリン、の、LAまたはその誘導体または塩または模倣物、最も好ましくはLAおよび/またはOA、に対するモル比は、少なくとも約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1または約10:1であり、より好ましくは約10:1から約60:1、まだより好ましくは約10:1から約50:1、さらにより好ましくは約10:1から約40:1、最も好ましくは約10:1から約30:1である。このタイプの好ましい組成物は、約0.5mMから約3mMの脂質および約5mMまたは10mMから30mMのシクロデキストリンを含む。
【0126】
本発明の好ましい態様では、経鼻投与のための組成物の単位用量は、非小胞形態で、好ましくは25から300μlの好ましくは水性組成物、より好ましくは本明細書でさらに詳述する水溶液、の単位用量体積で、本明細書に記載のようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体、最も好ましくはLAおよび/またはOA、約1~84μg、より好ましくは約20μg含む。経鼻投与は、好ましくは単位用量、より好ましくは前述の単位用量、を1日1回から約5回、より好ましくは1日3回適用することを含む。本発明の好ましい態様では、下気道への投与用、好ましくは肺投与用の組成物の単位用量は、非小胞形態で、本明細書で述べたようなリノール酸またはその誘導体または塩または模倣体、最も好ましくはLAおよび/またはOA、約1~500μg、より好ましくは約20μg含む。液体、好ましくは水性組成物、より好ましくは本明細書で詳述する水性溶液、として投与する場合、単位用量は体積で25から300μlである。下気道への投与の他の形態では、上記好ましい単位用量は乾燥粉末組成物の形態である。下気道、好ましくは肺への投与は、好ましくは単位用量、より好ましくは前述の単位用量を1日1回から約5回、より好ましくは1日3回適用することを含む。
【0127】
本発明の所定の態様において、特に上気道への投与、好ましくは経鼻投与、および/または下気道への投与、好ましくは肺投与、の文脈において、オレイン酸が最も好ましくAPIとして使用される。
【0128】
本発明の所定の態様において、可溶化剤はエタノールである、または、少なくとも一つの可溶化剤はエタノールである。
【0129】
所定の態様において、本発明の組成物、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のための組成物は、少なくとも一つの担体、より好ましくは少なくとも一つの可溶化剤、に加え、少なくとも一つの抗酸化剤を含む。
【0130】
本発明の文脈における有用な抗酸化剤の好ましい例には、アスコルビン酸、トコフェロール、EDTA、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、アスコルビン脂肪酸エステル、およびそれらの2つ以上の混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
さらに好ましい態様では、本発明の組成物、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のため、の組成物は、少なくとも一つの担体、より好ましくは少なくとも一つの可溶化剤、に加え、少なくとも一つの粘膜接着剤をさらに含む。
【0132】
本発明の文脈における有用な粘膜接着剤の好ましい例には、セルロースおよびその誘導体、より好ましくはメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「ヒプロメロース」とも呼ばれる)、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはそれらの2つ以上の混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0133】
さらに好ましい態様において、本発明の組成物、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のため、の組成物は、少なくとも一つの担体、より好ましくは少なくとも一つの可溶化剤、任意で少なくとも一つの粘膜接着剤に加え、少なくとも一つの噴霧剤を含む。
【0134】
本発明の文脈における有用な噴霧剤の好ましい例は、ハイドロフルオロアルカン、より好ましくはHFA227、HFA134aまたはそれらの混合物である。
【0135】
本発明の組成物の好ましい態様、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のための態様は、前記本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸、と
シクロデキストリン、
EDTA、
ヒプロメロース、
を含む。
【0136】
本発明の組成物のさらに好ましい態様、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のため、の態様は、前記本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸、と
プロピレングリコールまたはポリプロピレングリコール、
EDTA、
BHAおよび/またはBHT、
ヒプロメロース、および任意で
シクロデキストリン、
を含む。
【0137】
本発明の組成物の他の好ましい態様、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のため、の態様は、前記本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸、と
プロピレングリコールまたはポリプロピレングリコール、
BHTおよび/またはBHA、
噴霧剤
を含む。
【0138】
本発明の組成物のさらに他の好ましい態様、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のため、の態様は、前記本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸、と
シクロデキストリン、
エタノール、
EDTA、
アルコルビン酸
を含む。
【0139】
本発明の組成物のまだ他の好ましい態様、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の、気道、より好ましくは上気道に投与するため、最も好ましくは経鼻投与のため、の態様は、前記本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体、より好ましくは式(I)の化合物、最も好ましくはLAおよび/またはオレイン酸、および少なくとも一つの抗酸化剤、と
エタノール
噴霧剤、および任意で
トコフェロール
を含む。
【0140】
本発明のさらなる課題は、本発明の組成物、特に本明細書で規定し記載したようなLAまたはその誘導体または塩または模倣体の気道への投与のための組成物を含む、医薬送達デバイス、好ましくは呼吸器系送達デバイス、であり、より好ましくは前記組成物の鼻腔内および/または肺への送達に適合した送達デバイスである。医薬送達デバイスは、好ましくはネブライザーまたは噴霧器であり、吸入器またはポンプスプレーデバイスの形態を好ましくはとってもよい。送達デバイスの好ましい例、特に呼吸器系送達のためのデバイスは、ネブライザー、気化器、蒸気吸入器、スクイーズ ボトル、定量スプレー ポンプ、Bi-dirマルチドーズ スプレー ポンプ、ガス駆動スプレー システム/アトマイザー、電動ネブライザー/アトマイザー、機械式粉末噴霧器、呼吸作動式吸入器、吸入器、計量吸入器そしてドライパウダー吸入器を含むが、これらに限らない。本発明の呼吸器系送達デバイスまたは本発明にて使用するための呼吸器系送達デバイスの好ましい例の概要は、非特許文献30にて見つけることができる。
【0141】
本発明のデバイスは、ウイルス感染、好ましくはウイルス性呼吸器感染、より好ましくはコロナウイルスにより引き起こされるウイルス性呼吸器感染、最も好ましくはSARS-CoVおよび/またはMERSおよび/またはSARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染、の予防および/または治療に特に有用であり、SARS-CoV-2は本発明の医薬デバイスの使用のための特に好ましい標的である。
【0142】
本発明のさらなる課題は、複数の候補結合分子のライブラリーから、本発明による複合体に結合する結合分子を選別する方法であり、
(α)本発明の複合体を複数の候補結合分子のライブラリーに接触させる工程、および
(β)複数の候補結合分子のどれが複合体に結合したか検出する工程、
を含む。
【0143】
上記セレクション(選別)方法の文脈において好ましい結合分子は、抗体、抗体断片、抗体ミメティック、ペプチド、アプタマー、DARPins(ダーピン)、DNA、RNA、ペプチド核酸、複素環および複合糖質である。
【0144】
抗体、抗体断片、抗体ミメティック、ペプチド、アプタマーおよびダーピンから選択される結合分子を同定する本発明の選択方法が、本発明の複合体を抗原として利用することは、当業者には明らかである。
【0145】
セレクション方法における使用のための好ましい抗体断片または抗体ミメティックは、scFvスルフィド結合安定化scFv(ds-scFv)、Fab、シングルドメイン抗体(sdAb)、ラクダ科の重鎖抗体のVHH/VH、単鎖Fab(scFab)、ジアボディ、トリアボディ、テトラボディを含む、ジ-またはマルチメリック抗体形態およびオリゴマー化ドメインに結合するscFvからなる異なる形態を含むミニボディから選択されるが、これらに限らない。
【0146】
「抗体断片」という用語は、一般に、完全な抗体が抗原に特異的に結合する能力を保持している抗体の一部を指す。すでに上述したように、抗体フラグメントの例には、Fabフラグメント、Fab´フラグメント、F(ab´)2フラグメント、重鎖抗体、シングルドメイン抗体(sdAb)、scFvフラグメント、フラグメント変数(Fv)、VHドメイン、VLドメイン、ナノボディ、IgNAR (免疫グロブリン新規抗原受容体)、di-scFv、バイスペシフィックT細胞エンゲージャー (BITE)、デュアルアフィニティリターゲティング(DART) 分子、トリプルボディ、ジアボディ、シングルチェインジアボディなどが含まれるが、これらに限らない。
【0147】
「ジアボディ(diabody)」は、異なる抗原に結合することができる融合タンパク質または二価抗体である。ジアボディは二つの単鎖タンパク質(典型的には二つのscFvフラグメント)からなり、それぞれは抗体の可変断片を含む。ジアボディはしたがって二つの抗原結合部位を含み、したがって同一(単一特異性ジアボディ)または異なる抗原(二重特異性ジアボディ)を標的にできる。
【0148】
本発明の文脈で使用される「シングルドメイン抗体」という用語は、抗体の単一の単量体可変ドメインからなる抗体断片を指す。簡単に言えば、それらはラクダや軟骨魚によって産生される重鎖抗体の重鎖可変領域の単量体のみを含む。起源が異なるため、VHHフラグメントまたはVNARフラグメント(variable new antigen receptor,新規抗原受容体の可変断片)とも呼ばれる。あるいは、従来のマウスまたはヒト抗体の可変ドメインを遺伝子工学により単量体化することにより、シングルドメイン抗体を得ることができる。それらは約12から15kDaの分子量を示し、したがって、抗原認識が可能な最小の抗体断片である。さらなる例には、ナノボディやナノ抗体が含まれる。
【0149】
本発明の文脈において有用な抗原結合物質はまた、「抗体ミメティック」を含み、本明細書で用いられるその表現は、抗体と同様に抗原に特異的に結合する化合物であるが、抗体に構造的に無関係な化合物を指す。通常抗体ミメティックは抗原に特異的に結合する1つ、2つ、またはそれ以上の露出ドメインを含む、約3~20kDaのモル質量を有する人工ペプチドまたはタンパク質である。例には、とりわけ、LACI-D1(リポタンパク質関連凝固阻害剤);例えばヒト-γBクリスタリン、ヒトユビキチンが挙げられるアフィリン;シスタチン;Sulfolobus acidocaldarius由来のSac7D;リポカリンおよびリポカリン由来のアンチカリン;DARPins(Designed ankyrin repeat domains); FynのSH3ドメイン;プロテアーゼ阻害剤のKunitsドメイン;例えばフィブロネクチンの10番目のIII型ドメインが挙げられるモノボディ、アドネクチン;ノッチン(システイン架橋によって安定した結び目構造を持つタンパク質ファミリー);アトリマー;例えばCTLA4を基にした結合剤が挙げられるエビボディ;例えばブドウ球菌由来のタンパク質AのZドメイン由来の3ヘリックスバンドルが挙げられるアフィボディ;例えばヒトトランスフェリンが挙げられるトランスボディ;例えば単量体型または三量体型ヒトC型レクチンドメインが挙げられるテトラネクチン;例えばトリプシンインヒビターIIが挙げられるマイクロボディ;アフィリン;アルマジロリピートタンパク質が含まれる。核酸や低分子も抗体ミメティック(アプタマー)と見なされることがあるが、人工抗体、抗体断片、およびこれらから構成される融合タンパク質はみなされない。抗体に対する一般的な利点は、よりよい溶解性、組織浸透性、熱および酵素に対する安定性、および比較的低い製造コストである。
【0150】
好ましい態様では、セレクション方法は、前記抗体、抗体断片、抗体ミメティック、ペプチドまたはDARPinsをコードする核酸のライブラリーを用いる。
【0151】
特に、好ましくはセレクション方法のための抗原として本発明の複合体を使用する、本発明のセレクション方法に関して、また、好ましくは上記で開示したコロナウイルスSタンパク質とその受容体との間の相互作用を妨害する、本明細書で開示する候補阻害剤を同定するための検出方法に関しても、それに対する改善された免疫応答を発揮するための、最適化された抗原などの標的結合に最適化された配列を提供するためのセレクションおよび/または進化プロセスを含む。一つの好ましいプロセスは、非特許文献31に詳細が概説されているリボソームディスプレイ法である。リボソームディスプレイ法には、セレクションプロセスの全ての工程を完全にin vitroで行うことができるという利点がある。当該分野にて知られるさらなるセレクションプロセスには、ファージディスプレイ法(非特許文献32、33)、イースト ツー ハイブリッド法(非特許文献34、35)、および細胞表面ディスプレイ法(非特許文献36、37)が含まれる。さらなるセレクションプロセスには、mRNAディスプレイ、バキュロディスプレイ、イーストディスプレイおよび他の細胞表面ディスプレイ技術が含まれる。
【0152】
ファージディスプレイに基づく本発明による代表的なセレクション方法を
図17に示し、その説明および以下に概説する実施例16でさらに詳しく説明する。
図17、その下の説明および実施例16はSARS-CoV-2およびLAを参照するが、代表的態様は本明細書で開示し規定するいずれのコロナウイルスSタンパク質複合体にも同様に適用できると解される。
【0153】
さらなる例として、リボソームディスプレイプロセスは、基本的に、本発明の複合体への結合分子の選択および最適化のために2つの方法で使用することができる。いずれにおいても、潜在的結合分子配列は、1014個の個々の配列、より典型的には109から1010個の配列程の大きさのポリペプチド配列の初期ライブラリーから最初に選択することができ、任意で、上記非特許文献31に詳細が述べられている進化プロセスを行うことができる。最適化された抗原結合配列、すなわち複合体結合配列、のセレクション後、それをコードするヌクレオチド配列は、ポリペプチドが発現するように適切なベクターにクローニングされる。
【0154】
本発明のこの態様の別の実施形態によれば、潜在的な抗原結合(すなわち、複合体結合)ポリペプチドをコードする配列のライブラリーは、各配列が本発明の複合体に結合する可能性のあるポリペプチドをコードするように、核酸に直接クローニングされる。次に、抗原結合配列の最初のライブラリーを含むポリペプチドをin vitroで発現させ、最適化された抗原結合配列のセレクション(選別)を、上記非特許文献31に詳細が述べられているリボソームディスプレイ法に従って実施する。
【0155】
本発明の複合体は、本発明の複合体に結合する抗体の産生のためにさらに使用することができ、好ましくはヒトではない動物が本発明の複合体で免疫される。
【0156】
上述の抗体の産生のために本発明の複合体を利用する本発明の課題は、本発明による複合体に結合する抗体を産生する方法であり、
ヒトではない動物に前記複合体を免疫する工程、および
前記動物から前記複合体に結合する抗体を単離する工程、
を含む。
【0157】
好ましくは、(ヒトでない)動物は哺乳類または軟骨魚類である。本明細書に開示される抗体の産生に使用される好ましい哺乳動物は、例えば、霊長類、齧歯類、ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマおよびアルパカである。本明細書に開示される抗体産生に使用するための好ましい軟骨魚類はサメである。
【0158】
本発明によるセレクション法によって選別された結合分子、ならびに本発明による抗体産生方法によって産生された抗体は、コロナウイルス感染の治療および/または予防において使用することができ、ここで結合分子または抗体はそれぞれ前記コロナウイルスのコロナウイルス スパイク タンパク質に結合する。本発明はまた、それを必要とする対象、特にコロナウイルス感染を有する対象に、本発明に従ってそれぞれ選別または産生された有効量の結合分子および/または抗体を投与するステップを含む治療方法に関する。
【0159】
本発明によるセレクション法によって選択された結合分子および/または本発明に従って産生された抗体は、好ましくは、コロナウイルス感染の検出のためのin vitro(インビトロ)診断システムで使用することができ、選別された結合分子または産生された抗体はそれぞれ、前記コロナウイルスのコロナウイルス スパイク タンパク質に結合する。
【0160】
さらに、本発明は、コロナウイルス感染を検出するためのin vitro診断システムにおける本発明による複合体の使用を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【
図1】LA結合SARS-COV-2 Sタンパク質のACE2との相互作用。 A)では、ACE2を伴うLA結合SARS-COV-2 Sタンパク質を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析し、精製されたタンパク質間の複合体の形成を証明した。A)左:SECプロファイルを示す。ACE2に対応するピークフラクションをIII、LA結合スパイクに対応するピークフラクションをII、1:1混合物に対応するピークフラクションをIとラベルした。A)右:ピークフラクションI、IIおよびIIIを、クマシーブリリアントブルーにて染色した変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって解析した。対応するSDS-PAGEゲルのセクションを示す。タンパク質標準の分子量をキロダルトン(kDa)表示の数字で示す。スパイク タンパク質およびACE2タンパク質に対応するSDS-PAGEゲルのセクションのバンドを記した。B)LAの化学構造及び計算された分子量を示す。C)高度に精製されたSタンパク質サンプルのLC-MS解析。C4カラム溶出プロファイル(中央)およびC4ピーク溶出フラクション(下)のESI-TOFスペクトルを示す。ESI-TOFでのピークに対応する分子量を示す。
【
図2】LA結合SARS-COV-2 Sタンパク質のクライオ電子顕微鏡(cryo-EM、低温電子顕微鏡)イメージプロセッシング ワークフロー。 ブレ補正されたcryo-EM顕微鏡写真(スケールバー20nm)を示し、リファレンスフリー2Dクラスアベレージ(基準なしでの二次元クラス分け)(スケールバー10nm)、3Dクラシフィケーションおよびリファインメント(三次元クラス分けおよび精密化)により、開いたコンフォメーションと閉じたコンフォメーション(symmetry処理なし、C3 symmetry処理あり)に対応するcryo-EMマップに結果としてなる。
【
図3】細胞侵入の標的受容体であるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)と相互作用する、結合したリノール酸(LA)を含むSARS-CoV-2 Sタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)を示すリボン図。 ACE2と直接相互作用するスパイクRBDの部分、いわゆるアキレスヒールは、濃い灰色で色付けされ、(AH)とラベルされている。RBDとACE2(グレーで表示)は、絵で示されており、LAは球として表示されている。
【
図4】拡大視でのSARS-CoV-2 Sタンパク質LA結合ポケットの構造。 LAに結合したSARS-CoV-2スパイクから2つの隣接するRBDの一部が示され(ライトグレーで色付け)、RBD1およびRBD2とラベル付けされている。LAはスティック表示で示されている。RBD1は、LAを含まないRBDの「アポ」型(ダークグレーで色付け)に重ねられている。LAとの立体的な衝突を避けるためのゲーティングヘリックス(GH)の横方向の動きが証明された。
【
図5】リガンドを含まない「アポ」SARS-CoV-2 Sタンパク質の構造における3つのRBDの構造。 LAを含まない「アポ」SARS-CoV-2 Sタンパク質(ライトグレーで色付け)を示す模式図が示され、スパイクを上から下に見下ろし、LAに結合したSARS-CoV-2 Sタンパク質(ダークグレーで色付け)の構造に重ねられている。下のRBDにおけるLAは球体として示されている(より明確に示すため、他の二つのRBDではLA結合スパイクからLAは除かれている)。矢印は、LA結合(「ホロ」) 型の凝縮されたRBD三量体に結果としてなる、コンフォメーションの切り替えに伴う分子の動きを示している。アポ型の三量体を形成する3つのRBDは、それぞれRBD1アポ、RBD2アポおよびRBD3アポと示される。LA結合型の3つのRBDは、それぞれRBD1、RBD2、およびRBD3と表示される。下で示されているRBDとRBD1アポは、アポとSARS-CoV-2 Sタンパク質のLA結合型を並べるために用いられた。
【
図6】LA結合SARS-CoV-2 Sタンパク質が固定されたACE2受容体に結合することを証明するin vitro酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)。 450nmでの吸光度 (ノーマライズユニット)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)でのSタンパク質の段階希釈の濃度に対してプロットした。エラーバーは3つの独立した複製実験からの標準偏差を示す。ACE2結合について,Sタンパク質は、精製されたRBD-ホースラディッシュ ペルオキシダーゼ (HRP) 融合タンパク質と拮抗する。(挿入図を参照。)
【
図7】SARS-CoV-2 Sタンパク質のホロおよびアポ型の作成方法。 示されているのは、結合したLAを含むSARS-CoV-2 Sタンパク質(ホロ)および結合したLAを含まないSARS-CoV-2 Sタンパク質(アポ)を作成する方法を説明する模式図である。上:模式的に示されているように、SARS-CoV-2 Sタンパク質を、例えばタラ肝油を介するLA添加を伴う発現システムにて作成し、結果としてSARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ型を作成する。黒い長方形で示されているのは、LAによって占められた(占拠された、埋められた)LA結合ポケットである。中央:模式的に示されているように、SARS-CoV-2 Sタンパク質を、模式的に示されているように、SARS-CoV-2 Sタンパク質を、LA添加を伴う発現システムにて作成し、結果としてSARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ型を作成する。黒い長方形で示されているのは、LAによって占められたLA結合ポケットである。例えば界面活性剤での洗浄などを介して、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポ型の製造のために結合したLAをはがすことを行うことができる。界面活性剤ではがすことは、タンパク質サンプルから永久にLAを除くためにサイズ排除カラム上で行ってもよい。下:模式的に示されているように、SARS-CoV-2 Sタンパク質を、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポ型の作成のために、LA添加を伴わない発現システム、例えば血清無し培地での哺乳類トランジエントトランスフェクション発現システム(非特許文献24)にて作成する。
【
図8】実施例7. SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法。 示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。左:模式的に示しているのは、BSAや脂肪酸結合タンパク質(FABP)のようなLAへのキャリアータンパク質を任意で含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質である。黒い長方形で示されているのは、LAによって占められた(占拠された、埋められた)LA結合ポケットである。中央の黒い矢印: モル過剰の低分子または生物学的薬剤候補を、結合したLAを有する固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質の溶液に加える。右:LA結合ポケットにおいて、薬剤候補によってLAが移され、置き換えられる。そして、移されたあとの溶液中のLAを、例えばELISA反応を介して、または脂肪酸と結合するときに蛍光を変化させる蛍光FABPプローブ(非特許文献25)を介して検出する。薬物候補は、LA結合ポケットからLAを移すことができるものである。この例における固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質は、三量体Sタンパク質、またはそのフラグメント(断片)または変異体を含むことができ、ここで、前記フラグメントまたは変異体は、前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む。
【
図9】実施例8. SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法。 示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するための工程を説明する模式図である。左:模式的に示しているのは、BSAやFABPのようなLAへのキャリアータンパク質を任意で含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質である。黒い長方形で示されているのは、LA結合ポケットであり、この態様では、LA
*で示される標識されたLAによって占められて(占拠されて、埋められて)いる。標識されたLAは、例えば、LAの蛍光複合誘導体であってよい。中央:低分子または生物学的薬剤候補を、固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質の溶液に加える。右:LA結合ポケットにおいて、LA
*が薬剤候補によって移され置き換えられる。そして、移されたあとの溶液中のLA
*を、その標識した基を介して直接検出する。この例における固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質は、三量体Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体を含むことができ、ここで、前記フラグメントまたは変異体は、前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む。
【
図10】実施例9. SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法。 示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。左:模式的に示すが、SARS-CoV-2 Sタンパク質は、BSAやFABPのようなLAへのキャリアータンパク質を任意で含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定される。黒い長方形で示されているのは、LAによって占めれた(占拠された、埋められた)LA結合ポケットである。中央:LAはSARS-CoV-2 Sタンパク質からはがされ、モル過剰の低分子または生物学的薬剤候補を、LA
*として示される標識されたLAとともに、固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質の溶液に加える。SARS-CoV-2 Sタンパク質からLAをはがす代わりに、LA非存在下で作成されたタンパク質のサンプルを、タンパク質のアポ型を作成するために使用することができる。右:LA
*と薬剤候補はLA結合ポケットをめぐって競合する。そして、結合しなかったLA
*に対する結合したLA
*の比率は、LA
*の標識基を介して溶液中で検出される。この例における固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質は、三量体Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体を含むことができ、ここで、前記フラグメントまたは変異体は、前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む。
【
図11】実施例10. SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法。 示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。左:模式的に示すのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質は、BSAやFABPのようなLAへのキャリアータンパク質を任意で含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定される。黒い長方形で示されているのは、LAによって埋められたLA結合ポケットである。右:LAと薬剤候補はLA結合ポケットをめぐって競合する。そして、例えばELISA反応、または脂肪酸と結合するときに蛍光を変化させる蛍光FABPプローブ(非特許文献25)を介して、溶液中でLAを検出する。この例における固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質は、三量体Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体を含むことができ、ここで、前記フラグメントまたは変異体は、前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む。
【
図12】実施例11. ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質-ACE2相互作用の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法。 示されているのは、ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質-ACE2相互作用の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのミディアム/ハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。左:模式的に示すのは、
図6からのELISAアッセイである。ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質と標識したRBD-HRP
*を、固定したACE2受容体結合ELISAアッセイにおいてシグナルがおよそEC30となるような濃度で、ともにインキュベートする。中央:低分子または生物学的薬剤候補を、左からのEC30成分混合物に加える。右:
図6に記載したように、ELISA反応を、不活性薬剤候補の推定EC30での一点読み出しで行う。A450の増加は、薬剤候補がSARS-CoV-2 Sタンパク質のACE2への結合の阻害剤であることを示す。この方法は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のLA結合ポケットの外側でSARS-CoV-2 Sタンパク質に結合する治療薬候補阻害剤を検出できると予想される。この例におけるSARS-CoV-2 Sタンパク質は、三量体Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体を含むことができ、ここで、前記フラグメントまたは変異体は、前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む。
【
図13】実施例12. ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質-ACE2相互作用の、ホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法。 示されているのは、アポ型のSARS-CoV-2 Sタンパク質またはホロ体のSARS-CoV-2 Sタンパク質の何れかに選択的である、SARS-CoV-2 Sタンパク質-ACE2相互作用の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのミディアム/ハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。左:模式的に示すのは、
図6からのELISAアッセイである。ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質(上)またはアポ SARS-CoV-2 Sタンパク質(下)のいずれかと標識したRBD-HRP
*を、固定したACE2受容体結合ELISAアッセイにおけるシグナルがおよそEC30となるような濃度で、ともにインキュベートする。中央:低分子または生物学的薬剤候補を、左からのEC30成分混合物、ホロ混合物(上)、またはアポ混合物、に加える。ここで、前記反応は、マイクロプレートの個別のウェルで行われる。右:
図6に記載したように、ELISA反応を、不活性薬剤候補の推定EC30での一点読み出しで行い、ホロ(上)からの読み出しまたはアポ(下)からの読み出しを各推定候補について比較する。A450の増加は、薬剤候補がSARS-CoV-2 Sタンパク質のACE2への結合の阻害剤であることを示す。この方法は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のLA結合ポケットの外側でSARS-CoV-2 Sタンパク質に結合する治療薬候補阻害剤を検出でき、SARS-CoV-2 Sタンパク質のホロまたはアポ型に特異性を持つ可能性のある阻害剤を識別すると予想される。この例における固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質は、三量体Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体を含むことができ、ここで、前記フラグメントまたは変異体は、前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを少なくとも含む。
【
図14】SARS-CoV-2スパイク受容体結合ドメイン(RBD)またはひとつまたはいくつかの変異を含むRBDの変異体を用いる、ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定のためのスクリーニング方法。 描かれているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質の受容体結合ドメイン内のLA結合「脂っぽい」チューブ入口の拡大図である。RBDは絵で示されている。結合したLAは球で表されている。個別に拡大視されている、LAのカルボキシ ヘッドグループ(頭部)の近くにあるアミノ酸残基は、球で表され、拡大図の上に記載されているアミノ酸配列セグメントにおいて太字と拡大で記されている。実施例1~6のいずれかのスクリーニング方法は、特徴的なアミノ酸のいずれかまたはそれらの組み合わせ、それらの全て、の何れかが、親水性アミノ酸、例えばLys(リシン)(K)、Arg(アルギニン)(R)、Asn(アスパラギン)(N)またはGln(グルタミン)(Q)、または非天然アミノ酸を含む他の親水性アミノ酸に変化した、一つ以上の変異を有するSARS-CoV-2 S RBDタンパク質を任意で用いることができる。そして、前記RBD変異体は、記載されたRBDタンパク質と高い親和性および高い特異性で相互作用する潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するために、ミディアム/ハイスループット適合プロセスにおいてこの実施例で使用される。これらの低分子または生物学的薬剤候補は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポ型またはホロ体の何れかに選択的である。
【
図15】SARS-CoV-2スパイクRBDまたはRBDの変異体の結晶化を用いる、ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定。 この実施例におけるスクリーニング方法は、記載したRBDタンパク質に高い親和性と高い特異性で相互作用する潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するために、SARS-CoV-2 Sタンパク質RBDおよび/または実施例13(
図14)に記載の変異体を、結晶化実験にひとつまたはいくつかの低分子または生物学的薬剤候補を加えることを含む、ロー/ミディアム/ハイスループット適合結晶化およびX線回折実験において用いる。これらの低分子または生物学的薬剤候補は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポ型(上)またはホロ型(下)の何れかに選択的である。
【
図16】SARS-CoV-2スパイクRBDまたはRBDの変異体の結晶化を用いる、ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定。 描かれているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアルギニンR408とグルタミンQ409の拡大図である。R408とQ409は、スパイクRBDのLA結合ポケットの一部である。スパイクRBDは絵で示されている。結合したLAはスティックで示されている。R408とQ409は、記されている。この態様におけるスクリーニング方法は、R408、またはQ409、またはその両方が、異なるアミノ酸残基、優先的にはアラニンまたはグリシン、または極性ではないおよび/または正に帯電していない他のアミノ酸、の何れかに変異したSARS-CoV-2 Sタンパク質を利用する。そして、前記SARS-CoV-2 Sタンパク質変異体は、記載したSARS-CoV-2 Sタンパク質に高い親和性と高い特異性で相互作用する潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するために、実施例14に記載のミディアム/ハイスループット適合結晶化プロセスにおけるこの実施例にて用いられる。これらの低分子または生物学的薬剤候補は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポ型またはホロ型の何れかに選択的である。
【
図17】ファージディスプレイスクリーニング法。 示されているのは、ホロ(LA結合)SARS-CoV-2スパイク タンパク質に結合する抗体を発見するために適用されるファージディスプレイを説明する模式図である。左:模式的に示されているSARS-CoV-2スパイク タンパク質は、水溶液中で、マイクロプレートの表面に固定されている。黒い長方形で示されているのは、LAによって占められた(占拠された、埋められた)LA結合ポケットである。左矢印:Y字型の絵によって示され、ファージディスプレイライブラリーを、SARS-CoV-2スパイク タンパク質に結合するいくつかの抗体と固定されたSARS-CoV-2スパイク タンパク質とともにインキュベートする。中央:相互作用しなかったファージディスプレイライブラリー種を洗い流し、これにより好ましい抗体結合パートナーを持つSARS-CoV-2スパイク タンパク質の濃縮サンプルを得る。右:表示されていない:標準的および反復的なファージ ディスプレイ洗浄/パニング サイクルおよび核酸同定法を(LA結合)SARS-CoV-2スパイク タンパク質への高親和性結合剤の発見および同定のために用いる。
【
図18】表面プラズモン共鳴(SPR)によって定量化された、固定されたSARS-CoV-2スパイク タンパク質受容体結合ドメイン(RBD)へのリノール酸(LA)の高親和結合。 LAを4μMから10μMの濃度に希釈し、ストレプトアビジンでコーティングされたセンサーチップ上に固定された3,800RUのビオチン化されリピデックス処理されたRBDの上に流した(ライトグレーのトレース)。ダークグレーの線は1:1結合モデルを用いるデータのグローバルフィットに対応する。核実験を独立して3回繰り返した。すべてのLA濃度をK
D値、K
on値、K
off値の計算に用いた。
【
図19】表面プラズモン共鳴(SPR)によって定量化された、固定されたSARS-CoV-2スパイク タンパク質受容体結合ドメイン(RBD)へのオレイン酸(OA)の高親和結合。 OAを1μMから3μMの濃度に希釈し、ストレプトアビジンでコーティングされたセンサーチップに固定された3,800RUのビオチン化されリピデックス処理されたRBDの上に流した(ライトグレーのトレース)。ダークグレーの線は1:1結合モデルを用いるデータのグローバルフィットに対応する。核実験を独立して3回繰り返した。すべてのOA濃度をK
D値、K
on値、K
off値の計算に用いた。
【
図20】SARS-CoV-2スパイク タンパク質、オレイン酸複合体のCryo-EM(クライオ電子顕微鏡)構造。(A)スパイク三量体のCryo-EM密度は、側面図(左)と上面図(右)から示されている。結合したオレイン酸は、球として上面図に示されている。(B)隣接する受容体結合ドメイン(RBD)によって形成された合成オレイン酸結合ポケット。チューブ形電子顕微鏡密度が示されている。
【
図21】SARS-CoV-2スパイク タンパク質を表面上に提示するミニウイルスは、リノール酸によりそのACE2受容体結合からブロックされる。 (A)表面にSARS-CoV-2スパイク タンパク質を有し、Hisタグを介して固定されたミニウイルスの模式図。(B)ミニウイルスと10分間インキュベートしたMCF7ヒト上皮細胞の代表的な共焦点顕微鏡画像。細胞表面へのミニウイルスの付着を示す。ミニウイルスは、小さな点として個別に視覚化されている。挿入図は、付着の拡大領域を示している。(C)ミニウイルスは、遊離脂肪酸(FFA)占有の機能としてSARS-CoV-2スパイク タンパク質介在細胞相互作用における変化のシステム的評価を可能にした。組み換えネイティブSARS-CoV-2スパイク タンパク質が、ヘテロなタンパク質発現および精製の間に、遊離脂肪酸、リノール酸およびオレイン酸に結合するので、初めにFFA枯渇スパイク タンパク質(アポS)を、実施例17で記載したようにリピデックスカラムで精製したSARS-CoV-2スパイク タンパクの処理により、作成した。ネイティブ スパイク タンパク質と比較して、アポSで修飾されたミニウイルスは、ヒト上皮細胞への結合の増加を示した(チャートの左側の最初の2つのバー)。これは、FFAが閉じたスパイク タンパク質コンフォメーションをロックし(固定し、または、動かなくし)、その受容体、ACE2への結合を阻害するモデルに一致する。異なる長さと飽和のFFA(すなわち、パルミチン酸(PA)、オレイン酸(OA)、LAおよびアラキドン酸(AA))とともにアポSミニウイルスをインキュベートすることによる、アポSミニウイルスの制御された負荷。SARS-CoV-2スパイク タンパク質における、PAではなく、OAおよびLAの結合は、複数の反応モニタリングLC-MS/MSによって成功的に証明された。注目すべきは、飽和PAの添加は、アポSと比較してミニウイルス-ACE2細胞結合を有意に減少させなかったことだ。しかし、(ポリ)-不飽和FFA、OA、LAおよびAAは、アポSミニウイルスと比較してミニウイルスの結合を減少させることができることがわかった。
【
図22】リノール酸の存在下または非存在下で、生きたSARS-CoV-2ウイルスに感染した培養哺乳類細胞の電子線トモグラフィー。 ACE2を発現するヒト腸上皮細胞株Caco2(Caco-2-ACE2)をSARS-CoV-2レポーターウイルスで感染させた(詳細については実施例21を参照)。トモグラフを、50μMリノール酸の非存在下(A)または存在下(B)で得た。未処理の細胞(A)にてはっきりと見えるのは、多数のSARS-CoV-2ビリオンを含む、エンベロープに包まれた「複製工場」の存在である。(A、左の画像)の破線の四角形は、(A、右の画像)にてより高い倍率で示されているそのような複製工場を表している。(B)においては、同じSARS-CoV-2感染細胞を50μMリノール酸とともにインキュベートした。(B)の破線の四角形は、以前のSARS-CoV-2複製工場の場所である。B)の破線の四角形は、リノール酸が細胞を貫通し、細胞内に脂肪滴を形成することを明らかにし、これに細胞は十分耐えることができる(顕著な細胞死は見られなかった)。(B、右の画像)のより高い倍率では、以前の「複製工場」のエンベロープが崩壊し、ウイルス粒子そのものが目に見える変形と破壊を受けていることを明らかにした。
【実施例】
【0162】
本発明は、以下の非限定的な例によってさらに説明される。
【0163】
実施例1
【0164】
結合したLAを有するSARS-CoV-2 Sタンパク質の作成。
昆虫細胞で発現させるためのSARS-CoV-2 SエクトドメインのpFastBac Dual プラスミドは、Florian Krammer氏(マウントサイナイ医科大学、米国)から提供された。このコンストラクトでは、Sはアミノ酸1から1213個を含み、C末端トロンビン切断部位に融合され、その後にT4フォールドン(T4ファージフィブリチン由来の三量体形成タンパク質ドメイン)三量体化ドメインとヘキサヒスチジン アフィニティ精製タグが続く。このコンストラクトでは、多塩基性切断部位が欠失している(RRARからAへ)。タンパク質は、ESF921(商標)培地(Expression Systems社)を使用して、Hi5細胞においてMultiBac(商標)バキュロウイルス発現システム(Geneva Biotech社、ジュネーブ、スイス連邦)で作成された。トランスフェクトされた細胞からの上清を、培養物を1,000gで10分間遠心分離してトランスフェクションの3日後に回収し、続いて上清を5,000gで30分間さらに遠心分離した。最終的な上清を、培養物3リットルあたり7mlのHisPur(商標) Ni-NTA-Super flow Agarose (Thermo Fisher Scientific社)とともに4℃で1時間インキュベートした。その後、重力流カラムを使用して、SARS-CoV-2 Sタンパク質に結合した樹脂を収集し、樹脂を洗浄バッファー(65mM NaH
2PO
4、300mM NaCl、20mM イミダゾール、pH7.5)で十分に洗浄し、タンパク質を溶出バッファー (65mM NaH
2PO
4、300mM NaCl、235mM イミダゾール、pH7.5)の段階的勾配を使用して溶出した。溶出画分を還元SDS-PAGEで分析し、SARS-CoV-2 Sタンパク質を含む画分をプールし、50kDa MWCO Amicon(登録商標)遠心フィルターユニット(EMD Millipore社)を使用して濃縮し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) pH7.5でバッファー交換した。濃縮されたSARS-CoV-2 Sを、PBS pH7.5で、Superdex 200 increase 10/300(商標)カラム(GE Healthcare社)を使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)にかけた。還元SDS-PAGEにより、SECからのピーク画分を解析した(
図1参照)。
【0165】
SARS-CoV-2 Sタンパク質作成の質量分析解析、結合したLAを示す。
質量分析には、Shimadzu Nexera(商標) HPLCに接続されたエレクトロスプレーイオン化 (ESI)を備えたBruker maXis II(商標)ETD 四重極飛行時間型質量分析計を使用した。タンパク質サンプルから脂肪酸を抽出するために、クロロホルム抽出を行った。これには、100μlのタンパク質サンプルを 400μlのクロロホルムと2時間、テフロンで密封されたガラスバイアル内で25℃の水平シェーカーで混合した。次いで、有機相を新しいガラスバイアルに移し、クロロホルムをデシケーター内で30分間蒸発させた。続いて、50μlの20%(v/v)アセトニトリル溶液を添加して脂肪酸を溶解した。この溶液から、20%(v/v)アセトニトリルで1:100希釈液を調製し、20μlをLC-MS分析のために注入した。サンプルを、5分間で20% Aから98% Bへの勾配 (溶媒A:H
2O + 0.1%ギ酸;溶媒B:ACN + 0.1%ギ酸)を用い、50℃に熱したPhenomenex社C4 Aeris(商標)カラム (100×2.1mm、3.6μ、200Å)に通した。システムはBruker社のO-TOF Control (V4.1)およびHystar(V4.1)ソフトウェアで操作され、データ分析とデータの後処理はBrukerのData Analysisソフトウェア(V4.4、SR1、
図1参照)で行った。
【0166】
実施例2
【0167】
ACE2タンパク質の作成
ACE2エクトドメイン(アミノ酸1から597)をコードする遺伝子を、昆虫細胞発現用にコドン最適化し、合成し(GenScript社、ニュージャージー、アメリカ合衆国)、pACEBac1(商標)プラスミド(Geneva Biotech社、ジュネーブ、スイス連邦)に挿入した。コンストラクトには、分泌用のN末端メリチンシグナル配列とC末端オクタヒスチジン アフィニティ精製タグが含まれている。ACE2タンパク質を、Sタンパク質と同じプロトコルに従って作成および精製した(
図1参照)。
【0168】
実施例3
【0169】
SARS-CoV-2スパイクとACE2相互作用解析。
精製したSARS-CoV-2スパイク タンパク質とACE2タンパク質を、PBS pH7.5中で、スパイク三量体とACE2単量体の比が1:1.5であるように混合した。混合物を氷上で2時間インキュベートし、PBS pH7.5で平衡化したSuperdex 200 Increase 10/300(商標)カラム(GE Healthcare社)を使用したSECにかけた。精製したSARS-CoV-2 Sタンパク質とACE2タンパク質を、別々に、同一バッファーをコントロールとして、同一カラムにかけた。ピーク画分の成分を、還元SDS-PAGEにより解析した(
図1参照)。
【0170】
実施例4
【0171】
cryo-EM(クライオ電子顕微鏡)画像生成
【0172】
サンプル調製およびデータ収集
4μlの1.25mg/ml SARS-CoV-2 Sタンパク質を、新たにグロー放電したQuantifoil(登録商標)R1.2/1.3カーボングリッド(Agar Scientific社)にロードし、Vitrobot Mark IV(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、湿度100%、4℃、2秒間ブロットし、急速凍結した。データを、Gatan K2(登録商標)Summit 直接検出器とGatan Quantum(登録商標) GIF エネルギーフィルターを装備した、FEI Talos Arctica 走査透過型電子顕微鏡を200kVで操作し、EPUソフトウェアを用いて20eVのスリット幅、ゼロ ロス モードで操作して得た。データを、0.525Åのバーチャルピクセルサイズ、130,000倍のnominal magnification(名目拡大倍率)でsuper-resolution(超解像度)にて収集した。Dose rate(線量率)は6.1counts/physical pixel/s(カウント/フィジカルピクセル/秒)に調整された。各動画(ムービー)を200msの55フレームに分割した。3289枚の顕微鏡写真を、-0.8から-2μmの間のデフォーカス範囲で1回のセッションにて収集した。
【0173】
データ処理。
ドーズフラクション(線量分割)された動画(ムービー)を、MotionCor2を用いて、ゲイン正規化し、位置合わせを行い、ドーズウェイト(照射電子線量に依存して重みをつける)した。CTFFIND4を使用してデフォーカス(焦点はずし)値を推定し、補正した。Relion 3.0ソフトウェアを用いて、611,879個の粒子を自動的に拾った。十分に鮮明な粒子を選択するために、リファレンスなしの二次元分類(クラス分け)を行った。4回の二次元分類のあと、合計386,510個の良好な粒子を選択し、更に三次元分類(クラス分け)に用いた。初期モデルを、Relion 3.0にて50,000粒子を用いて作成し、二次元分類から選ばれた粒子を8個のクラス(部分集合)を用いて三次元分類(クラス分け)にかけた。合計202,082個の粒子を表す顕著な特徴を示すクラス4および6(
図2参照)を組み合わせ、三次元精密化に用いた。そして、三次元精密化された粒子を、5個のクラスを用いる2回の三次元分類にかけた。クラス4と5を閉じたコンフォメーションマップのために組み合わせ、これは、136,405粒子を含む。クラス3は開いたコンフォメーションを表し、57,990粒子を含む。それぞれの三次元モデルで、symmetry(対称性)を適用せずに、選択したマップを三次元精密化にかけた。その後、Relion 3.0にて、マップをlocal defocus correction(ローカル デフォーカス コレクション、局所焦点はずし補正)とBayesian polishing(ベイジアンポリッシング))にかけた。gold standard Fourier shell correlation(ゴールドスタンダード フーリエシェル相関(FSC))=0.143基準を用いて、その後、マップのGlobal resolution(グローバルレゾリューション)とB factor(Bファクター)(閉マップ:-89Å
2、開マップ:-116Å
2)を、タンパク質密度の周りにソフトマスクを適用することにより推定し、それぞれ3.03Åおよび3.7Åのオーバーオールレゾリューション(分解能)になった。Relion 3.0を用いて、閉じたコンフォメーションマップにC3 symmetryを適用し、その後、3個のクラスを用いて三次元分類した。217,815粒子を有するクラス3をCTF精密化とBayesian polishingのために選択し、2.85Å(Bファクター:-86.8)の最終レゾリューションを得た。Relion 3.0を用いてローカル レゾリューション (局所分解能)マップを作成した。
【0174】
cryo-EM(クライオ電子顕微鏡)モデル構築および解析。
UCSF ChimeraとCootを、原子モデル(PDB ID 6VXX)をcryo-EMマップに合わせるために用いた。その後、Cootと閉じたコンフォメーションマップを用いてモデルを手作業で再構築した。この閉じたコンフォメーションモデルを、開いたコンフォメーションマップの特異的特徴を構築するためと、C3 symmetryしたマップを用いることによるモデルのさらなる改良のため、に用いた。モデル構築をガイドするため、Sharpen処理したマップとSharpen処理していないマップを、プロセスの異なる工程で用いた。N結合グリカンを、見える密度内に手作業で構築し、標準でないリガンドへの抑制をeLBOWで作成した。閉じたコンフォメーションのためのモデルを、Phenix で、実空間で精密化し、MOlProbityとEMRingerを用いて品質を解析し、成分の立体化学を検証した。開いたコンフォメーションの準原子モデルは、UCSF Chimeraを用いる開いたクライオ電子顕微鏡マップに、閉じたコンフォメーションの原子モデルを初めに合わせることによって作成した。我々はその後、CootとUCSF Chimeraを用いて、公開されているSARS-CoV-2 S(PDB ID 6VSB)の開いた形態の原子モデルにこのRBDを位置合わせすることにより、開いたコンフォメーション内に一つのRBDを動かした。最後に、この開いたモデルを、CootとUCSF Chimeraでcryo-EMオープンマップに合わせた。図はUCSF ChimeraとPyMOL(Schrodinger社)を用いて作成した。結果得られたcryo-EMモデルにより、我々はSARS-CoV-2 Sタンパク質にLAの結合サイトを確認し、LA結合の際のコンフォメーション変化を特定し、SARS-CoV-2 Sタンパク質-ACE2受容体相互作用をモデル化することができた(
図3、4,および5)。
【0175】
実施例5
【0176】
ELISA活性解析、
図6に図示。
ELISA活性解析のために、SARS-CoV-2 sVNTキットをGenScript社(ニュージャージー、アメリカ合衆国)から得た。PBS pH7.5にて、精製したSARS-CoV-2Sタンパク質の段階希釈系列(0から4096nM)を調製した。この希釈系列を同量のHRP-RBDと混合し、37℃で30分間インキュベートした。次に、各希釈SARS-CoV-2 Sタンパク質とHRP-RBDの混合物を、ACE2でコーティングされたELISAプレートのウェルに加えた。各サンプル、3連でウェルに加えた。次に、ELISAプレートを37℃で15分間インキュベートし、続いて洗浄バッファーで4回洗浄した。次いで、TMB溶液を各ウェルに添加し、暗所で15分間インキュベートしてシグナルを現像し、続いて停止溶液を添加した。450nmでの吸光度を即座に記録した。データを、マイクロソフト エクセルを用いてプロットした。3連の標準偏差をエラーバーで表示した。この実施例は、薬剤の発見、すなわち同定、に適用可能な機能的生化学アッセイにおける、われわれのSARS-CoV-2 Sタンパク質の機能性を示している。
【0177】
実施例6
【0178】
図7は、精製されたSARS-CoV-2 Sタンパク質の作成方法を示している。示されているのは、ホロ(LAを含むことを意味する)SARS-CoV-2 Sタンパク質、またはアポ(LAを含まないことを意味する)SARS-CoV-2 Sタンパク質のいずれかをそれぞれ作成するための3つの一般的な戦略を示す模式図である。これらのプロセスにより、以下の実施例にてSARS-CoV-2 Sタンパク質を標的にする薬剤の発見、すなわち同定、工程にて、対照比較するための、アポおよびホロを作成することができる。
【0179】
実施例7
【0180】
図8は、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。この方法では、SARS-CoV-2 Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体、ここで前記フラグメントまたは変異体が少なくとも前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを含む、を、任意でBSAや脂肪酸結合タンパク質(FABP)のようなLAへのキャリアータンパク質を含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定する。この実施例では、SARS-CoV-2 Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体がLAによって結合される。モル過剰の低分子または生物学的薬剤候補を、結合したLAを有する固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)の溶液に添加する。真の阻害剤候補の場合、LA結合ポケットにおいて、LAは、薬剤候補によって移され置換される。LAの水への溶解度は非常に低く、BSAは、LAや他の脂肪酸の水溶性バイオアベイラビリティを提供するキャリアータンパク質としてよく使用される。BSAやFABPのようなLAへのキャリアータンパク質を含む、実施例7の実験設定では、薬剤候補によってSARS-CoV-2 Sタンパク質から移動したLAは、、BSAやFABPキャリアータンパク質によって提供される、新しい結合部位を溶液中で有する。LAは、例えば、LAを直接検出するELISA反応、または、LA結合によって誘導されるFABP蛍光のコンフォメーション変化による変化(非特許文献25)、を介して、移動後の溶液中で検出できる。
【0181】
実施例8
【0182】
図9は、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。この方法では、SARS-CoV-2 Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体、ここで前記フラグメントまたは変異体が少なくとも前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを含む、を、任意でBSAや脂肪酸結合タンパク質(FABP)のようなLAへのキャリアータンパク質を含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定する。この実施例では、SARS-CoV-2 Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体が、LA
*と示されるLAの標識された類似体に結合している。モル過剰の低分子または生物学的薬剤候補を、結合したLA
*を有する固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)の溶液に添加する。真の阻害剤候補の場合、LA結合ポケットにおいて、LA
*は薬剤候補によって場所を移され、置換される。BSAやFABPのようなLAへのキャリアータンパク質を含む、実施例8の実験設定では、薬剤候補によってSARS-CoV-2 Sタンパク質から移動されたLA
*は、BSAやFABPキャリアータンパク質によって提供される、新しい結合部位を溶液中で有する。LA
*は、例えば、蛍光標識である、その標識を介して、場所移動後の溶液中で検出できる。
【0183】
実施例9
【0184】
図10は、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。この方法では、SARS-CoV-2 Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体、ここで前記フラグメントまたは変異体が少なくとも前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを含む、を、任意でBSAや脂肪酸結合タンパク質(FABP)のようなLAへのキャリアータンパク質を含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定する。この実施例では、最初に、SARS-CoV-2 Sタンパク質の結合したLAがはがされ、または、SARS-CoV-2 Sタンパク質はLAが結合しない方法によって作成される(実施例6参照)。次に、モル過剰の低分子または生物学的薬剤候補を、LA
*と示される標識されたLAとともに固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)の溶液に添加する。LA
*は任意でBSAやFABPのようなLA
*へのキャリアータンパク質と複合体にて提供される。真の阻害剤候補の場合、LA結合ポケットに結合するLA
*の量は減少する。LA
*は、例えば、蛍光標識である、その標識を介して競合反応後の溶液中、またはSARS-CoV-2 Sタンパク質への結合後、検出できる。
【0185】
実施例10
【0186】
図11は、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。示されているのは、SARS-CoV-2 Sタンパク質へのLA結合の阻害剤である、潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するためのハイスループット適合プロセスを説明する模式図である。この方法では、SARS-CoV-2 Sタンパク質、またはそのフラグメントまたは変異体、ここで前記フラグメントまたは変異体が少なくとも前記コロナウイルスSタンパク質の受容体結合ドメインを含む、を、任意でBSAや脂肪酸結合タンパク質(FABP)のようなLAへのキャリアータンパク質を含む、水溶液中にて、マイクロプレートの表面に固定する。この実施例では、最初に、SARS-CoV-2 Sタンパク質の結合したLAがはがされ、または、SARS-CoV-2 Sタンパク質はLAが結合しない方法によって作成される(実施例6参照)。次に、モル過剰の低分子または生物学的薬剤候補を、LAと示される標識されていないLAとともに固定されたSARS-CoV-2 Sタンパク質(またはそのフラグメントまたは変異体)の溶液に添加する。LAは任意でBSAやFABPのようなLAへのキャリアータンパク質と複合体にて提供される。真の阻害剤候補の場合、LA結合ポケットに結合するLAの量は減少する。LAは、例えば、LAを直接検出するELISA反応、または、LA結合によって誘導されるFABP蛍光のコンフォメーション変化による変化(非特許文献25)、を介して、競合反応後の溶液中で検出できる。
【0187】
実施例11
【0188】
図12は、
図6からのELISAアッセイを基にした、ホロSARS-CoV-2 Sタンパク質-ACE2相互作用の阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。ここで、ホロ SARS-CoV-2 Sタンパク質と標識したRBD-HRP
*を、固定したACE2受容体結合ELISAアッセイにおいてシグナルがおよそEC30となるような濃度で、ともにインキュベートする。低分子または生物学的薬剤候補を、EC30成分混合物に加え、
図6に記載したように、ELISA反応を、不活性薬剤候補の推定EC30での一点読み出しで行う。A450の増加は、薬剤候補がSARS-CoV-2 Sタンパク質のACE2への結合の阻害剤であることを示す。この方法は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のLA結合ポケットの内側、または外側の何れかに結合する治療薬候補阻害剤を検出できると予想される。
【0189】
実施例12
【0190】
図13は、
図6からのELISAアッセイを基にした、ホロSARS-CoV-2 Sタンパク質-ACE2相互作用のホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。ここで、アポSARS-CoV-2 Sタンパク質またはホロSARS-CoV-2 Sタンパク質の何れかと標識したRBD-HRP
*を、固定したACE2受容体結合ELISAアッセイにおいてシグナルがおよそEC30となるような濃度で、ともにインキュベートする。低分子または生物学的薬剤候補を、EC30成分混合物に加え、
図6に記載したように、ELISA反応を、不活性薬剤候補の推定EC30での一点読み出しで行う。A450の増加は、薬剤候補がSARS-CoV-2 Sタンパク質のACE2への結合の阻害剤であることを示す。この方法は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のLA結合ポケットの内側、または外側の何れかに結合する治療薬候補阻害剤を検出でき、SARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ型またはアポ型についての特異性を有する阻害剤をみわけることができると予想される。
【0191】
実施例13
【0192】
図14は、SARS-CoV-2スパイクレセプター結合ドメイン(RBD)または一つまたは複数の変異を含むRBDの変異体を用いる、ホロSARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。実施例1~6のいずれかのスクリーニング方法は、特徴的なアミノ酸のいずれかまたはそれらの組み合わせ、それらの全て、の何れかが、親水性アミノ酸、例えばLys(リシン)(K)、Arg(アルギニン)(R)、Asn(アスパラギン)(N)またはGln(グルタミン)(Q)、または非天然アミノ酸を含む他の親水性アミノ酸に変化した、一つ以上の変異を有するSARS-CoV-2 S RBDタンパク質を任意で用いることができる。そして、前記RBD変異体は、記載されたRBDタンパク質と高い親和性および高い特異性で相互作用する潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するために、ミディアム/ハイスループット適合プロセスにおいてこの実施例で使用される。これらの低分子または生物学的薬剤候補は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポ型またはホロ型の何れかに選択的である。
【0193】
実施例14
【0194】
図15は、SARS-CoV-2スパイクRBDまたはRBDの変異体の結晶化を用いる、ホロSARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。この実施例におけるスクリーニング方法は、記載したRBDタンパク質に高い親和性と高い特異性で相互作用する潜在的な低分子または生物学的薬剤候補を発見するために、SARS-CoV-2 Sタンパク質RBDおよび/または実施例13(
図14)に記載の変異体を、結晶化実験にひとつまたはいくつかの低分子または生物学的薬剤候補を加えることを含む、ロー/ミディアム/ハイスループット適合結晶化およびX線回折実験において用いる。Fragment-based screening(FBS)(フラグメントスクリーニング)は薬剤候補の発見、すなわち同定、に広く適用される方法である。スクリーニングと合成に必要な化合物が大幅に少ないため、分子をスクリーニングするための最も一般的な方法としてハイスループットスクリーニング(HTS)を追い越し、従来のスクリーニング方法よりも分子をスクリーニングするためのヒット率が高くなった。ここでは、単一の化合物または複数の化合物混合物を標的タンパク質:SARS-CoV-2 Sタンパク質RBDおよび/または実施例13(
図14)に記載の変異体とインキュベートし、結晶化を使用して結合物質を特定する。この実施例では、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポまたはホロ型のいずれかに対して選択的であるLA結合ポケットを標的とする低分子または生物学的薬剤候補を発見することができる。
【0195】
実施例15
【0196】
図16は、SARS-CoV-2スパイクRBDまたはRBDの変異体の結晶化を用いる、ホロSARS-CoV-2 Sタンパク質のホロ特異的またはアポ特異的阻害剤の発見、すなわち同定、のためのスクリーニング方法を示す。この態様におけるスクリーニング方法は、R408、またはQ409、またはその両方が異なるアミノ酸残基、優先的にはアラニンまたはグリシン、または極性ではないおよび/または正に帯電していない他のアミノ酸の何れかに変異されたSARS-CoV-2 Sタンパク質を利用する。そして、前記SARS-CoV-2 Sタンパク質変異体は、実施例14に記載のミディアム/ハイスループット適合結晶化プロセスにおけるこの実施例にて用いられる。これらの低分子または生物学的薬剤候補は、SARS-CoV-2 Sタンパク質のアポ型またはホロ型の何れかに選択的である。
【0197】
実施例16
【0198】
図17は、本発明の複合体に対する結合分子を同定するための本発明のスクリーニング方法を示し、結合分子としての抗体およびファージディスプレイが、SARS?CoV?2 Sタンパク質およびLAからなる本発明の固定された代表的な複合体に結合するための例として使用される。潜在的結合分子のライブラリー、ここではファージディスプレイ抗体ライブラリーを固定された複合体とインキュベートし、一つ以上の候補結合抗体を複合体に結合させる。ライブラリーの結合しない結合分子を洗浄工程により除去し、これにより結合した結合分子を有する本発明の複合体の結合分子の濃縮サンプルとなる。このプロセスは典型的には反復様式で実施され、最初のサイクルで得られる結合分子の最初の濃縮プールをインキュベーションと洗浄のさらなるサイクルで用い、ここで、洗浄および/またはインキュベーション工程は、最初のサイクルなどに比較して高い親和性を有する最初のサイクルで濃縮された候補結合分子のようなもののみが結合するような状況の下実施される。
【0199】
実施例17
【0200】
実施例17は、リノール酸(LA)のSARS-CoV-2スパイク タンパク質への高親和性結合を示す。
図18に示すのは、リノール酸(LA)のSARS-CoV-2スパイク タンパク質受容体結合ドメイン(RBD)への結合の表面プラズモン共鳴(SPR)解析である。
【0201】
SPR結合解析の実施に用いた方法は以下である。
【0202】
結合アッセイ。
LAを4μMから10μMの間の濃度に希釈し、ストレプトアビジンでコーティングしたセンサーチップ上に固定された3,800RUのビオチン化されリピデックス処理されたRBD上に流した。黒い線は、1:1結合モデルを用いたデータのグローバルフィットに対応する。各実験を、独立して三回繰り返した。すべてのLA濃度は、K
D、K
on、K
off値を計算するために用いた。結果を
図18に示す。
【0203】
受容体結合ドメイン(RBD)とビオチン化RBD発現カセット設計。
N末端でネイティブスパイクシグナル配列(アミノ酸配列MFVFLVLLPLVSSQ)に融合するSARS-CoV-2 RBDをコードする遺伝子(アミノ酸R319からF541)を昆虫細胞発現のためにコドン最適化し、合成し(GenScript社、ニュージャージー、アメリカ合衆国)、pACEBac1(商標)プラスミド(Geneva Biotech社、ジュネーブ、スイス連邦)に挿入した。得られたコンストラクト、pACEBac1-5RBDHIS、は、C末端オクタヒスチジン親和性精製タグを含む。
【0204】
RBDタンパク質発現と精製。
タンパク質は、ESF921(商標)培地(Expression Systems社)を使用して、Hi5細胞においてMultiBac(商標)バキュロウイルス発現システム(Geneva Biotech社、ジュネーブ、スイス連邦)で作成された。トランスフェクトされた細胞からの上清を、トランスフェクションの3日後に、培養物を1,000gで10分間遠心分離して回収し、続いて上清を5,000gで30分間遠心分離した。最終的な上清を、培養物3リットルあたり7mlのHisPur(商標) Ni-NTA-Super flow Agarose (Thermo Fisher Scientific社)とともに4℃で1時間インキュベートした。その後、重力流カラムを使用して、SARS-CoV-2 Sタンパク質に結合した樹脂を収集し、樹脂を洗浄バッファー(65mM NaH2PO4、300mM NaCl、20mM イミダゾール、pH7.5)で十分に洗浄し、タンパク質を溶出バッファー (65mM NaH2PO4、300mM NaCl、235mM イミダゾール、pH7.5)の段階的勾配を使用して溶出した。溶出画分を還元SDS-PAGEで分析し、SARS-CoV-2 RBDタンパク質を含む画分をプールし、50kDa MWCO Amicon(登録商標)遠心フィルターユニット(EMD Millipore社)を使用して濃縮し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) pH7.5でバッファー交換した。濃縮されたSARS-CoV-2 RBDタンパク質を、PBS pH7.5で、Superdex200 increase 10/300(商標)カラム(GE Healthcare社)を使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)にかけた。
【0205】
RBDのビオチン化。
ビオチン化RBDを、非特許文献37に記載のように、BirAを介したビオチン化のためのaviタグを付加することにより作成した。そして、リピデックス処理したビオチン化RBDを、リピデックス処理したS用に上記したように調整した。
【0206】
潜在的に結合した遊離脂肪酸を除去するためのRBDタンパク質のリピデックス処理。
精製したRBDタンパク質を、PBS pH7.5で4℃、一晩、ローラーシェーカー上であらかじめ平衡化したリピデックス‐1000樹脂(Perkin Elmer社、カタログ番号:6008301)で処理した。続いて、リピデックス処理したRBDを、重力流カラムを使用して樹脂から分離した。タンパク質の完全性をS200 increase 10/300カラム(GE Healthcare社)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)およびSDS-PAGEによって確認した。
【0207】
実施例18
【0208】
リノール酸に関連する脂肪酸の結合特性を評価するために、実施例17の実験を繰り返したが、リノール酸(LA)の代わりにオレイン酸(OA)を使用した。OAを1μMから3μMの間の濃度に希釈し、ストレプトアビジンでコーティングしたセンサーチップ上に固定された3,200RUのビオチン化されリピデックス処理されたRBD上に流した。黒い線は、1:1結合モデルを用いたデータのグローバルフィットに対応する。各実験を、独立して三回繰り返した。すべてのOA濃度は、K
D、K
on、K
off値を計算するために用いた。結果を
図19に示す。
【0209】
実施例19
【0210】
実施例19は、オレイン酸とSARS-CoV-2スパイク タンパク質との間の精密な結合様式を明らかにする。SARS-CoV-2スパイク三量体に結合したオレイン酸の構造は、クライオ電子顕微鏡法によって2.6Åの解像度で決定された。結果を
図20に示す。
【0211】
構造決定に用いた方法は以下である。
【0212】
タンパク質発現と精製。
スパイク タンパク質を、脂肪酸の補充(添加)を欠いた最小培地を用いたことを除いて、非特許文献26に記載のように、発現および精製した(Expression System 社)。FFA(OAまたは他)はいずれの工程でも補充(添加)していない。
【0213】
Cryo-EM(クライオ電子顕微鏡)サンプル調製およびデータ収集。
1mg/mlまでの4μlのスパイク タンパク質を、新たにグロー放電した(4mAで2分)C-flat R1.2/1.3カーボングリッド(Agar Scientific社)にロードし、Vitrobot Mark IV(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、湿度100%、4℃、2秒間、ブロットし、急速凍結した。データを、Gatan K2(登録商標)Summit 直接検出器とGatan Quantum(登録商標) GIFエネルギーフィルターを装備し、200kVで操作したFEI Talos Arctica 走査透過型電子顕微鏡で、EPUソフトウェアを用いて20eVのスリット幅、ゼロ ロス モードで操作して得た。データを、0.525Åのバーチャルピクセルサイズで130,000倍のnominal magnification(名目拡大倍率)のsuper-resolution(超解像度)で収集した。Dose rate(線量率)は6.1counts/physical pixel/s(カウント/フィジカルピクセル/秒)に調整された。各動画(ムービー)を200msの55フレームに分割した。8639枚の顕微鏡写真を、-0.8から-2μmの間のデフォーカス範囲で1回のセッションで収集した。
【0214】
Cryo-EMデータプロセッシング。
ドーズフラクションされたムービーを、MotionCor2を用いて、ゲイン正規化し、位置合わせを行い、ドーズウェイトした。Gctfプログラムを使用してデフォーカス値を推定し、補正した。Relion 3.0ソフトウェアを用いて、100万を超える粒子を自動的に拾った。自動的に拾われた粒子をbox size(ボックスサイズ)110px(2×binning)で抽出した。十分に鮮明な粒子を選択するために、リファレンスなしの二次元分類を行った。4回の二次元分類のあと、400,000を超える粒子を、その後続く三次元分類のために選択した。初期3Dモデルを、Relion にて8クラスを用いて三次元分類の間に60Åにフィルターした。box sizeは220px(1.05Å/px, binningせず)を用いた。三次元精密化した粒子を、その後、2回の三次元分類にかけ、約200,000粒子を得た。これらの粒子を、symmetryの適用なしに三次元精密化にかけた。マップをその後、Relion3.1にて、local defocus correction(ローカル デフォーカス コレクション)とBayesian polishing(ベイジアンポリッシング)にかけた。gold standard Fourier shell correlation=0.143基準を用いて、マップのGlobal resolutionとB factor(Bファクター)(-97.66Å2)を、タンパク質密度の周りにソフトマスクを適用することにより推定し、3.0Åのオーバーオールレゾリューションになった。Relion3.1を用いて、C3 symmetryをBayesian polishingしたC1マップに適用し、2.6Å(B factor:-106.7Å2)の最終レゾリューションを得た。
【0215】
クライオ電子顕微鏡法モデル構築および解析。
モデル構築のために、UCSF Chimeraを用いて、SARS-CoV-2スパイクのロックされたコンフォメーション(ロック形)の原子モデル(非特許文献26)をC3 symmetry処理したcryo-EMマップに合わせた。Cootにて、sharpen処理した、または、sharpen処理しなかったマップを用いてモデルを、再構築し、その後C1 cryo-EMマップに合わせた。NamdinatorとCootを合わせの改善のために用い、見ることのできる両方のモデルのための密度に、N結合グリカンを構築した。標準でないリガンドへの抑制をeLBOWで作成した。C1およびC3 symmetry処理した閉じたコンフォメーションのためのモデルをPhenixで、実空間精密化し、MOlProbityとEMRingerを用いて品質を追加解析し、成分の立体化学を検証した。図はUCSF ChimeraとPyMOL(Schrodinger社)を用いて作成した。
【0216】
実施例20
【0217】
SARS-CoV-2スパイク タンパク質を表面に提示するミニウイルスは、リノール酸によりその受容体ACE2結合からブロックされる。
(A)表面にSARS-CoV-2スパイク タンパク質を有し、Hisタグを介して固定されたミニウイルスの模式図。(B)ミニウイルスと10分間インキュベートしたMCF7ヒト上皮細胞の代表的な共焦点顕微鏡画像。細胞表面へのミニウイルスの付着を示す。ミニウイルスは、小さな点として個別に視覚化されている。挿入図は、付着の拡大領域を示している。(C)ミニウイルスは、遊離脂肪酸(FFA)占有の機能としてSARS-CoV-2スパイク タンパク質介在細胞相互作用における変化のシステム的評価を可能にした。ヘテロなタンパク質の発現および精製の間に、組み換えネイティブSARS-CoV-2スパイク タンパク質が、遊離脂肪酸、リノール酸およびオレイン酸に結合するので、実施例17で記載したリピデックスカラムで精製したSARS-CoV-2スパイク タンパクの処理により、初めにFFA枯渇スパイク タンパク質を作成した。ネイティブ スパイク タンパク質と比較して、アポSで修飾されたミニウイルスは、ヒト上皮細胞への結合の増加を示した(チャートの左側の最初の2つのバー)。これは、FFAが閉じたスパイク タンパク質コンフォメーションをロックし(FFAが閉じたスパイク タンパク質コンフォメーションに鍵のようにはまることで、タンパク質の立体構造を固定、または、動かなくし)、その受容体、ACE2への結合を阻害するモデルに一致する。異なる長さと飽和のFFA(すなわち、パルミチン酸(PA)、オレイン酸(OA)、LAおよびアラキドン酸(AA))とともにアポSミニウイルスをインキュベートすることによる、アポSミニウイルスの制御された負荷。SARS-CoV-2スパイク タンパク質における、PAではなく、OAおよびLAの結合は、複数の反応モニタリングLC-MS/MSによって成功的に証明された。注目すべきは、飽和PAの添加は、アポSと比較してミニウイルス-ACE2細胞結合を有意に減少させなかったことだ。しかし、(ポリ)-不飽和FFA、OA、LAおよびAAは、アポSミニウイルスと比較してミニウイルスの結合を減少させることができることがわかった。
【0218】
実施例21
【0219】
実施例21は、生きているSARS-CoV-2ウイルスに感染した培養哺乳類細胞へのリノール酸の効果を、電子トモグラフィーを介して明らかにする。
【0220】
図22は、SARS-CoV-2内部の「複製工場」として知られるステレオタイプのエンベロープにつつまれた細胞小器官がリノール酸の存在によって破壊され、ウイルス粒子自体もリノール酸の存在によって目に見える変形と破壊を受けることを示している。
【0221】
電子トモグラフィーの実施に用いた方法は以下である。
【0222】
細胞とウイルスの増殖。
ACE2を発現するヒト腸上皮細胞株Caco2(Caco-2-ACE2)(ブリストル大学、山内洋平博士からの好意による寄贈)を、0.1mM 非必須アミノ酸(NEAA、SigmaAldrich社)と10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco(商標)、ThermoFisher社)を添加したGlutaMAX(商標)追加ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco(商標)、ThermoFisher社)にて、37℃、5%CO2で培養した。ORF7遺伝子の代わりに蛍光タンパク質TurboGFPをコードする遺伝子を発現するSARS-CoV-2レポーターウイルス(rSARS-CoV-2/Wuhan/ORF7-tGFPと称する)を、酵母ベースTAR(Transformation associated recombination)クローニングによって、SARS-CoV-2(武漢単離)リバースジェネティクスシステムをもちいて作成した。ウイルスを、感染培地(2%ウシ胎児血清とNEAAを添加した、GlutaMAX(商標)追加イーグル最小必須培地)で育てた細胞内で増殖した。細胞変性効果が観察されるまで細胞を37℃、5%CO2でインキュベートし、細胞変性効果が観察された時点で回収し、0.2μmフィルターに通した。
【0223】
蛍光によるウイルス検出。
Caco-2-ACE2細胞を、10%FBSを添加したDMEM入り24ウェルプレートまたはμClear96ウェルプレートで、ポリDリシンでコートしたガラス製カバースリップ上に、カバースリップ上の細胞カバー率が25%に達するまで播いた。2%FBS添加MEMで60分間、室温で、rSARS-CoV-2/Wuhan/ORF7-tGFPをMOI 5で細胞に接種し、培地を除き、50μMリノール酸と0.25%DMSOまたは0.25%DMSOのみを含む感染培地で置換した。コントロールウェルを、感染性接種を受けない以外、同様に処理した。ImageXpress Pico Automated Cell Imaging System(Molecular Devices社)での蛍光イメージングにより、96ウェルプレート中の細胞においてturboGFP発現が検出可能になるまで、細胞を37℃、5%CO2で36時間インキュベートした。サンプルを不活性化し、室温で60分間4%パラホルムアルデヒド(PFA)に浸すことによって固定した。感染性組換えSARS-CoV-2に関するすべての作業は、英国ブリストル大学の封じ込めレベル3施設のクラスIII微生物学的安全キャビネット内で行った。
【0224】
電子トモグラフィー。
Pioloformでコートされたスロットグリッド(Agar Scientific社)上に収集された300nm切片を、15nm金標準マーカーの溶液中で各側面5分間インキュベートした。傾斜像シリーズ (1.5°刻みで-65°から+65°)を、4k×4k FEI Eagleカメラを装備した、200kVで操作されるFEI Tecnai 20透過電子顕微鏡を用いて、倍率19,000倍(0.5261nm/px)で得た。電子断層写真を、IMODでの位置合わせのための基準マーカーを使用して再構築した。
【0225】
配列識別番号のリスト。
【0226】
【0227】
【0228】
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
【0233】
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
【0240】
【配列表】
【国際調査報告】