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特表2023-541387新規なブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-02
(54)【発明の名称】新規なブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230925BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230925BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230925BHJP
   A61K 38/14 20060101ALI20230925BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230925BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230925BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230925BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230925BHJP
   A61K 39/085 20060101ALI20230925BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20230925BHJP
   C07K 14/31 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P31/04 ZNA
A61K48/00
A61K38/14
A61K39/395 D
A61P9/10
A61P7/02
A61P43/00 121
A61K39/085
C07K16/12
C07K14/31
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515623
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 KR2021012222
(87)【国際公開番号】W WO2022055252
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0114435
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523082772
【氏名又は名称】クリップスビーエヌシー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CLIPSBNC CO.,LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】513281404
【氏名又は名称】プサン ナショナル ユニバーシティ インダストリー-ユニバーシティ コーポレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イ,ボクリュル
(72)【発明者】
【氏名】アン,ドンホ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084CA04
4C084DA33
4C084DA44
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA541
4C084ZA542
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
4C085AA12
4C085AA13
4C085BA14
4C085BB11
4C085CC07
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA11
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物およびブドウ状球菌感染による血栓性疾患の予防または治療用組成物に関する。本発明は、ブドウ状球菌毒素に対する抗体の交差反応性を活用して、最小限の抗原の組み合わせだけでもブドウ状球菌の11個の毒素による細胞溶解を万遍なく抑制できる。本発明はまた、オプソニン食作用を誘導し、同時に被感染体における血液凝固を効果的に制御することにより、ブドウ状球菌感染による個別的症状の断片的改善から抜け出して、感染で引き起こされた総合的な病的状態を包括的に除去または軽減させることができる効率的な治療組成物として有用に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Hla(alpha-hemolysin)、LukS(Leukocidal toxin S)、LukAB(Leukocidal toxin AB)およびHlgA(gamma-hemolysin)からなる群より選択される3つ以上のブドウ状球菌由来毒素;前記毒素を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記毒素をコードするヌクレオチドを有効成分として含むブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物。
【請求項2】
前記Hlaは、35番目のアミノ酸残基が置換されたことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記35番目のアミノ酸残基は、Leuに置換されたことを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記LukABは、323番目のアミノ酸残基が置換されたことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記323番目のアミノ酸残基は、Alaに置換されたことを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ブドウ状球菌は、メチシリン抵抗性ブドウ状球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus、MRSA)であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ClfA(Clumping factor A)、FnbpA(fibrinectin-binding protein A)、FnbpB(fibrinectin-binding protein B)およびこれらの機能的一部からなる群より選択される1つ以上のタンパク質;前記タンパク質を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記タンパク質をコードするヌクレオチドを有効成分として含むブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物。
【請求項8】
前記機能的一部は、前記タンパク質のN2-N3ドメインを含むことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、ClfAのN2-N3ドメインを含む一部の切片およびFnbpBのN2-N3ドメインを含む一部の切片;前記切片を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記切片をコードするヌクレオチドを有効成分として含むことを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ブドウ状球菌は、メチシリン抵抗性ブドウ状球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus、MRSA)であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
Coa(Coagulase)、vWbp(von Willebrand factor binding protein)およびこれらの機能的一部からなる群より選択される1つ以上のタンパク質;前記タンパク質を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記タンパク質をコードするヌクレオチドを有効成分として含むブドウ状球菌感染による血栓性疾患(thrombotic disorder)の予防または治療用組成物。
【請求項12】
前記Coaの機能的一部は、Coaタンパク質のN-末端から連続した284個のアミノ酸残基を含む切片であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記vWbpの機能的一部は、vWbpタンパク質のN-末端から連続した253個のアミノ酸残基を含む切片であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記ブドウ状球菌は、メチシリン抵抗性ブドウ状球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus、MRSA)であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記ブドウ状球菌感染による血栓性疾患は、ブドウ状球菌感染による脳卒中、脳梗塞、脳血栓症、脳塞栓症、ラクナ梗塞、急性冠動脈症候群、狭心症、大動脈狭窄症、心筋梗塞症、脚ブロック、脳虚血、急性虚血性心血管疾患(acute ischemic arteriovascular event)、血栓性静脈炎、静脈血栓塞栓症、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis)、肺塞栓症(pulmonary embolism)、末梢血管疾患、アテローム性動脈硬化症、血管痙攣および再狭窄症からなる群より選択される1つ以上の疾患であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は、グリコペプチド(glycopeptide)系抗生剤を追加的に含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記グリコペプチド系抗生剤は、バンコマイシン、テイコプラニンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
グリコペプチド系抗生剤を有効成分として含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物との併用投与用組成物。
【請求項19】
前記グリコペプチド系抗生剤は、バンコマイシン、テイコプラニンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ状球菌由来トキシンの特定の組み合わせを有効成分として含むブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ状球菌(Staphylococcus aureus)は、人間の皮膚、軟組織および血流で重症感染を引き起こすグラム陽性菌であって、多様な経路を通してベータ-ラクタム系の抗生剤であるメチシリンに対して耐性を有するメチシリン-耐性菌株(methicillin-resistant S.aureus;MRSA)に変形されうる。このようなMRSA感染は治療が難しく、予後が良くなくて、多大な社会的費用を誘発している。
【0003】
S.aureusの二成分ロイコシジン(bi-component leukocidin、BCL)は、ポア形成トキシン(pore-forming toxin、PFT)ファミリーに属する重要な毒性因子である。BCLは、宿主細胞をターゲッティングするS-成分(クロマトグラフィーカラムで遅く移動するLukS-PV、LukE、HlgA、HlgCおよびLukA)と重合化F-成分(クロマトグラフィーカラムで迅速に移動するLukF-PV、LukD、HlgBおよびLukB)という2つのサブユニットを有する。これに対し、LukABは、すでに結合した可溶性ヘテロダイマー形態で分泌され、S.aureus α-トキシン(Hla)は、β-バレルPFTを形成する単一成分である。
【0004】
S.aureus BCLトキシンとHlaは、宿主細胞表面で特異的に発現する受容体と結合することで、好中球、単核球/大食細胞および赤血球(RBC)のような宿主細胞の溶解を誘導する。LukSF-PVおよびHlgCBはC5aR1とC5aR2を用い、LukEDはCCR5、CXCR1およびCXCR2を用い、HlgABおよびLukEDはCXCR1およびCXCR2を受容体として共に用いるが、CCR2とDARC(Duffy antigen receptor for chemokines)受容体を用いてもよく、一方、LukABはCD11bと結合する。Hlaは、RBC、上皮細胞、内皮細胞および好中球、単核球/大食細胞、T細胞などの免疫細胞の細胞膜で発現するADAM10タンパク質を認識する。
【0005】
現在までS.aureusの侵襲性感染を予防する目的で開発されたワクチンのヒト臨床試験はすべて失敗していた。大部分のワクチンがS.aureusの表面抗原に対する高い力価のオプソニン抗体を生成したにもかかわらず、終局的には有効ワクチンに完成できなかったが、これは宿主免疫機序とS.aureusの感染メカニズムに対する不完全な理解およびヒトにおけるS.aureusに対する持続可能な長期間の免疫誘導を可能にする手段の不在による。
【0006】
最近、S.aureusワクチン開発のための2つの新たなアプローチがなされている。1つは、免疫化で生成された抗体を介したオプソニン食作用(opsonophagocytosis)を誘導するためにS.aureusの表面抗原を用いることである。生成された抗体は、バクテリア表面に結合してこれを死滅させることが期待されたが、これらのオプソニン抗体ベースのワクチン候補は臨床試験で効果を発揮できず、いくつかは実際にS.aureus感染が発生した時に有害な結果を示した(Fowler VG,et al.,2013,Jama309:1368-78)。他の1つは、S.aureusトキソイドをワクチン候補物質として使用することであり、このような戦略は多重トキソイド抗原の免疫化により中和抗体を誘導するためである。
【0007】
5つのS.aureus BCLとHla(α-トキシン)を含む計11個の成分が、宿主細胞およびRBCでそれぞれ発現する5つの異なる受容体ファミリーであるケモカイン受容体、補体受容体、CD11b受容体、DARC受容体およびADAM10受容体を特異的に認識するという事実が報告された(Wilke GA et al.,2010,Proc Natl Acad Sci USA107:13473-8)。活性を有するトキシン成分を用いた免疫化はこれらの毒性によってワクチンとしての使用が困難であり、11個のトキソイドタンパク質をすべて免疫化する上でも製造上の困難が伴う。
【0008】
そこで、本発明者らは、免疫化により生成された抗体で11個のトキシン-媒介細胞毒性を広範囲に遮断するための、トキシン候補物質の最も効率的な組み合わせを発掘しようとした。これとともに、本発明者らは、オプソニン食作用を最もよく誘導し、被感染体における血液凝固を最も効果的に制御できるタンパク質の切片およびこれらの組み合わせを探索することにより、ブドウ状球菌感染による個別的症状の断片的改善から抜け出して、感染で引き起こされた総合的な病的状態を包括的に除去または軽減させることができる実質的な予防ワクチンまたは治療剤を開発しようとした。
【0009】
本明細書全体にわたって多数の論文および特許文献が参照され、その引用が表されている。引用された論文および特許文献の開示内容は全体として本明細書に参照により組み込まれ、本発明の属する技術分野の水準および本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、ブドウ状球菌感染による細胞毒性を著しく中和させて宿主細胞の溶解を効率的に遮断できるブドウ状球菌感染疾患の予防または治療剤組成物を開発すべく、鋭意研究努力した。このために、本発明者らは、ブドウ状球菌由来の各毒素に対する抗体の交差反応性を調べ、これに基づいて最も広範囲な中和活性を発揮する最適な組み合わせを探索した結果、Hla、LukS、LukABおよびHlgAの単一毒素の3つ以上の毒素を組み合わせる場合、より具体的には、4つの毒素をすべて組み合わせる場合、これらを接種して対象体で生成された各抗体によってすべてのブドウ状球菌毒素-媒介細胞溶解活性が万遍なく遮断され、血液溶血作用が著しく抑制できることを見出すことにより、本発明を完成するに至った。
【0011】
したがって、本発明の目的は、ブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物を提供することである。本発明の他の目的は、ブドウ状球菌感染による血栓性疾患(thrombotic disorder)の予防または治療用組成物を提供することである。本発明の他の目的および利点は下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲および図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、本発明は、Hla(alpha-hemolysin)、LukS(Leukocidal toxin S)、LukAB(Leukocidal toxin AB)およびHlgA(gamma-hemolysin)からなる群より選択される3つ以上のブドウ状球菌由来毒素;前記毒素を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記毒素をコードするヌクレオチドを有効成分として含むブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物を提供する。
【0013】
本発明者らは、ブドウ状球菌感染による細胞毒性を著しく中和させて宿主細胞の溶解を効率的に遮断できるブドウ状球菌感染疾患の予防または治療剤組成物を開発すべく、鋭意研究努力した。このために、本発明者らは、ブドウ状球菌由来の各毒素に対する抗体の交差反応性を調べ、これに基づいて最も広範囲な中和活性を発揮する最適な組み合わせを探索した結果、Hla、LukS、LukABおよびHlgの3つ以上の毒素を組み合わせる場合、より具体的には、4つの毒素をすべて組み合わせる場合、これらを接種して対象体で生成された各抗体によってブドウ状球菌の11個の毒素-媒介細胞溶解活性が万遍なく遮断され、血液溶血作用が著しく抑制できることを見出した。
【0014】
本発明は、各毒素タンパク質、またはこれをエンコードするヌクレオチドを対象体に投与して対象体内で各毒素に対する抗体を形成させるワクチンの形態になってもよく、各毒素に対する分離・精製された抗体を薬理成分とする抗体治療剤の形態で用いられてもよい。このため、前者の場合、用語「ブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物」は、「ブドウ状球菌ワクチン組成物」と同じ意味を有する。
【0015】
本明細書において、用語「抗体」は、哺乳類の免疫体系によって生成された、抗原のエピトープに結合する1つ以上の可変ドメインを含むことで、当該抗原を特異的に認識する免疫グロブリンタンパク質を意味する。本発明で用いられる各ブドウ状球菌毒素を特異的に認識する抗体としては、多クローンまたは単クローン抗体がすべて使用可能であり、具体的には、交差反応性を有する多クローン抗体を使用することができる。
【0016】
本発明の抗体は、当業界にて通常実施される方法、例えば、融合方法(Kohler and Milstein,European Journal of Immunology,6:511-519(1976))、組換えDNA方法(米国特許第4,816,567号)またはファージ抗体ライブラリー方法(Clackson et al,Nature,352:624-628(1991)およびMarks et al,J.Mol.Biol.,222:58,1-597(1991))で報告された方法により製造できる。抗体の製造に対する一般的な過程は、Harlow,E.and Lane,D.,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,New York,1999;およびZola,H.,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,CRC Press,Inc.,Boca Raton,Florida,1984に詳しく記載されている。
【0017】
本明細書において、用語「抗原結合断片(antigen binding fragment)」は、免疫グロブリン全体構造のうち抗原が結合できるポリペプチドの一部を意味し、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、FvおよびscFvを含むが、これに限定されるものではない。
【0018】
本明細書において、用語、「特異的に結合(specifically binding)」は、「特異的に認識(specifically recognizing)」と同じ意味であって、抗原と抗体(またはその断片)が免疫学的反応により特異的に相互作用することを意味する。
【0019】
本発明はまた、上述した4つのトキシンのアミノ酸をコードするヌクレオチドを有効成分として含むDNAワクチンまたはmRNAワクチンの形態で用いられてもよい。
【0020】
本明細書において、用語「ヌクレオチド」は、一本鎖または二本鎖の形態で存在するデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドであり、他に特に言及されていない限り、天然のヌクレオチドの類似体を含む(Scheit,Nucleotide Analogs,John Wiley,New York(1980);UhlmanおよびPeyman,Chemical Reviews,90:543-584(1990))。本発明がDNAワクチンまたはmRNAワクチンの形態で用いられる場合、本発明の3つまたは4つのトキシン遺伝子をそれぞれの遺伝子伝達体(gene delivery system)に含めてもよく、複数のトキシン抗原遺伝子を1つの遺伝子伝達体に同時に挿入して対象体で発現させてもよい。
【0021】
本明細書において、用語「発現させる」は、対象体が外来(exogenous)遺伝子を発現させたり、または内因性(endogenous)遺伝子の自然的発現量を増加させるために、遺伝子伝達体を用いて人為的にこれを導入することにより、遺伝子が対象体細胞内で染色体外因子としてまたは染色体の統合完成によって複製可能になることを意味する。したがって、用語「発現」は、「形質転換(transformation)」、「形質感染(transfection)」または「形質導入(transduction)」と同じ意味である。
【0022】
本明細書において、用語「遺伝子伝達体」は、所望するターゲット遺伝子を対象細胞に導入して発現させるための媒介体を意味する。理想的な遺伝子伝達体は、人体に無害で、大量生産が容易であり、効率的に遺伝子を伝達できなければならない。
【0023】
本明細書において、用語「遺伝子伝達」は、遺伝子が細胞内に運ばれることを意味し、遺伝子の細胞内浸透(transduction)と同じ意味を有する。組織レベルで、前記用語の遺伝子伝達は、遺伝子の拡散(spread)と同じ意味を有する。したがって、本発明の遺伝子伝達体は、遺伝子浸透システムおよび遺伝子拡散システムと記載されてもよい。
【0024】
本発明の遺伝子伝達体を製造するために、本発明のヌクレオチド配列は、好適な発現コンストラクト(expression construct)内に存在し、発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、転写調節因子結合位置のアレイ)に作動的に連結されることが好ましい。本明細書において、用語「作動的に結合した」は、核酸発現調節配列と他の核酸配列との間の機能的な結合を意味し、これによって、前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写および/または解読を調節する。
【0025】
本発明の遺伝子伝達体は多様な形態で作製することができるが、これは、(i)ネイキッド(naked)組換えDNA分子、(ii)プラスミド、(iii)ウイルスベクター、(iv)前記ネイキッド組換えDNA分子またはプラスミドを内包するリポソームまたはニオソームの形態、または(v)mRNAを内包するリポソームの形態で作製することができる。
【0026】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記Hlaは、Hla(alpha-hemolysin)タンパク質のアミノ酸配列のうち35番目のアミノ酸残基が置換された変異体である。より具体的には、前記35番目のアミノ酸His残基は、Leuに置換される。
【0027】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記LukABは、LukAB(Leukocidin AB)タンパク質のアミノ酸配列のうち323番目のGluアミノ酸残基が置換された変異体である。より具体的には、前記323番目のアミノ酸Glu残基は、Alaに置換される。
【0028】
本明細書において、用語「予防」は、疾患または疾病を保有していると診断されたことはないが、このような疾患または疾病にかかる可能性がある対象体において疾患または疾病の発生を抑制することを意味する。
【0029】
本明細書において、用語「治療」は、(a)疾患、疾病または症状の発展の抑制;(b)疾患、疾病または症状の軽減;または(c)疾患、疾病または症状を除去することを意味する。本発明の組成物を対象体に投与すれば、ブドウ状球菌由来の11個の毒素で媒介される広範囲な細胞溶解活性が効率的に抑制されることにより、ブドウ状球菌感染による症状の発展を抑制したり、これを除去したり、または軽減させる役割を果たす。したがって、本発明の組成物は、それ自体でこれらの疾患治療の組成物になってもよく、あるいは他の薬理成分と共に投与されて前記疾患に対する治療補助剤として適用されてもよい。このため、本明細書において、用語「治療」または「治療剤」は、「治療補助」または「治療補助剤」の意味を含む。
【0030】
本明細書において、用語「投与」または「投与する」は、本発明の組成物の治療的有効量を対象体に直接的に投与することにより、対象体の体内で同一の量が形成されるようにすることをいう。
【0031】
本発明において、用語「治療的有効量」は、本発明の薬剤学的組成物を投与しようとする個体に組成物中の薬理成分が治療的または予防的効果を提供するのに十分な程度に含有された組成物の含有量を意味し、よって、「予防的有効量」を含む意味である。
【0032】
本明細書において、用語「対象体」は、制限なくヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、チンパンジー、ヒヒまたはアカゲザルを含む。具体的には、本発明の対象体は、ヒトである。
【0033】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記ブドウ状球菌は、メチシリン抵抗性ブドウ状球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus、MRSA)、メチシリン感受性ブドウ状球菌(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus、MSSA)または病原性ブドウ状球菌であってもよいし、より具体的には、メチシリン抵抗性ブドウ状球菌である。
【0034】
ブドウ状球菌感染疾患の例は、軟部組織感染、化膿性関節炎、化膿性骨髄炎、中耳炎、肺炎、敗血症、急性呼吸器感染(acute respiratory tract infection)、カテーテルの使用による感染、術後創傷感染、菌血症、心内膜炎および食中毒を含むが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明の組成物は、有効成分として、前述したブドウ状球菌由来毒素に加えて、グリコペプチド(glycopeptide)系抗生剤を追加的に含むことができる。
【0036】
本明細書において、用語「グリコペプチド系抗生剤」は、単糖類が結合した融合環構造であるグリコペプチドコア(glycopeptide core)を有する分子量約1,400Da以上の親水性抗生剤を意味する。グリコペプチド系抗生剤は、バクテリアのペプチドグリカン合成を抑制し、例えば、ラモプラニン(Ramoplanin)、ダルババンシン(dalbavancin)、オリタバンシン(oritavancin)、テラバンシン(telavancin)、バンコマイシン(vancomycin)およびテイコプラニン(teicoplanin)を含むが、これに限定されず、当業界にて知られたグリコペプチド系抗生剤であればすべて使用可能である。
【0037】
具体的には、本発明で使用されるグリコペプチド系抗生剤は、バンコマイシン、テイコプラニンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0038】
後述する実施例に示すように、本発明において発掘された毒素の組み合わせまたはこれらの毒素に対する分離・精製された抗体とバンコマイシンまたはテイコプラニンなどのグリコペプチド系抗生剤を併用投与する場合、腎臓内残留バクテリアまで完全除去し、感染個体の生存率もより改善されて、患者に対する多面的かつ相乗的な保護効果が発揮できることを確認した。
【0039】
併用投与は、1つの剤形に、本発明の毒素とグリコペプチド系抗生剤がすべて含まれたまま行われるか、または毒素およびグリコペプチド系抗生剤がそれぞれ含まれた別個の剤形が同時に投与されるか、または任意の順序で適切な時間差をおいて順次に投与されることにより行われる。順次に投与される場合、例えば、本発明の毒素またはこれに対する分離・精製された抗体を先に投与後、グリコペプチド系抗生剤が投与される。
【0040】
本発明の他の態様によれば、本発明は、前述した本発明の組成物を対象体に投与するステップを含むブドウ状球菌感染疾患の予防または治療方法を提供する。
【0041】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、ClfA(Clumping factor A)、FnbpA(fibrinectin-binding protein A)、FnbpB(fibrinectin-binding protein B)およびこれらの機能的一部(functional portion)からなる群より選択される1つ以上のタンパク質;前記タンパク質を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記タンパク質をコードするヌクレオチドを有効成分として含むブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物を提供する。
【0042】
本発明で使用される抗体またはその抗原結合断片、ヌクレオチドおよび本発明の組成物で予防または治療しようとするブドウ状球菌感染疾患についてはすでに上述したので、過度の重複を避けるためにその記載を省略する。
【0043】
本発明者らはまた、ブドウ状球菌特有の宿主免疫体系回避システムを無力化することにより、ブドウ状球菌感染疾患を予防または治療するか、またはワクチンをはじめとするブドウ状球菌治療組成物の治療感受性を向上させる組成物を探索するために、鋭意研究努力した。その結果、MSCRAMM(microbial surface components recognizing adhesive matrix molecules)に属するClfA、FnbpA、FnbpBおよびこれらの各タンパク質の機能的一部からなる群より選択される1つ以上の組み合わせを対象体に投与する場合、当該タンパク質がバクテリア生菌表面のMSCRAMMの代わりに宿主血清のFactor H(ヒト補体因子H、FH)と競争的に結合することで補体C3bがiC3bに加水分解されることを遮断し、活性が維持されたC3bによってバクテリアに対するオプソニン食作用が促進されるという事実を見出した。
【0044】
本明細書において、用語「機能的一部(functional portion)」は、ClfA、FnbpA、FnbpBタンパク質の生物学的活性を維持するいかなる長さの一部の切片をすべて包括する意味である。したがって、ClfA、FnbpA、FnbpBタンパク質の機能的一部とは、血清のFHと特異的に相互作用できるか、バクテリア生菌表面のMSCRAMMに特異的に結合可能な抗体の生成を誘導する抗原として機能できる各タンパク質の一部の切片を意味する。
【0045】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記機能的一部は、前記タンパク質のN2-N3ドメインを含む切片であり、より具体的には、前記タンパク質のN2-N3ドメイン(ClfAN2N3、FnbpAN2N3およびFnbpBN2N3)である。ClfAN2N3、FnbpAN2N3およびFnbpBN2N3とFHとの間の相互作用は知られており、本発明者らは、これらの切片がFHに競争的結合をしたり、これらに対する抗体がバクテリア生菌表面のMSCRAMMと競争的結合をすることで、宿主血清のFHとバクテリア表面のMSCRAMMとの間の相互作用が効率的に遮断できることを初めて究明した。
【0046】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明の組成物は、ClfAのN2-N3ドメインを含む一部の切片およびFnbpBのN2-N3ドメインを含む一部の切片;前記切片を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記切片をコードするヌクレオチドを有効成分として含む。
【0047】
本発明の組成物が薬剤学的組成物に製造される場合、本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体を含む。
【0048】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分のほか、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを追加的に含むことができる。好適な薬剤学的に許容される担体および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳しく記載されている。
【0049】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口投与可能であり、具体的には、静脈、皮下または腹腔投与されてもよい。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に処方可能である。本発明の薬剤学的組成物の好ましい投与量は、成人ベースで0.001-100mg/kgの範囲内である。
【0051】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬剤学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することで単位用量形態に製造されるか、または多用量容器内に入れて製造されてもよい。この時、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよいし、分散剤または安定化剤を追加的に含むことができる。
【0052】
本発明の薬剤学的組成物がワクチン組成物に製造される場合、本発明の複数の抗原と多様な形態の適したアジュバントが選択的に組み合わされた1つのバイアル(vial)または注射器(prefilled syringe)などに包装されるか、またはそれぞれの抗原とアジュバントが別個のバイアルに包装されて、使用直前にこれを混合して(用時調製、bed side mixing)使用することができる。
【0053】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前述した本発明の組成物を対象体に投与するステップを含むブドウ状球菌感染疾患の予防または治療方法を提供する。
【0054】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、Coa(coagulase)、vWbp(von Willebrand factor binding protein)およびこれらの機能的一部(functional portion)からなる群より選択される1つ以上のタンパク質;前記タンパク質を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片;または前記タンパク質をコードするヌクレオチドを有効成分として含むブドウ状球菌感染による血栓性疾患(thrombotic disorder)の予防または治療用組成物を提供する。
【0055】
本発明者らは、宿主血管においてフィブリン凝固を誘発するブドウ状球菌特有の宿主免疫システム回避メカニズムを効率的に遮断することにより、感染時の血液凝固による患者の全身的損傷を最小化し、生存性をさらに向上させる方法を開発すべく、鋭意研究努力した。その結果、ブドウ状球菌の主要毒性因子として知られたコアグラーゼ(Coa)およびvWF-結合ドメインタンパク質(vWbp)、具体的には、これらの特定の機能的切片を用いる場合、その接種により生成された抗体によって血液凝固が有意に抑制されることを確認した。
【0056】
本明細書において、CoaまたはvWbpタンパク質を言及して使われる用語「機能的一部(functional portion)」は、Coa、vWbpタンパク質の生物学的活性を維持するいかなる長さの一部の切片をすべて包括する意味である。したがって、ブドウ状球菌表面タンパク質(例えば、Fnbp)によって認識されるか、またはブドウ状球菌感染による血液凝固を有意に抑制する抗体の生成を誘導する抗原として機能できる各タンパク質の一部の切片を意味する。
【0057】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記Coaの機能的一部は、Coaタンパク質のN-末端切片であり、より具体的には、N-末端から連続した284個のアミノ酸残基を含む切片である。
【0058】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記vWbpの機能的一部は、vWbpタンパク質のN-末端切片であり、より具体的には、vWbpタンパク質のN-末端から連続した253個のアミノ酸残基を含む切片である。
【0059】
本明細書において、用語「血栓性疾患」は、血管の微細循環系に血小板やフィブリンタンパク質が凝集されながら生成された血栓によって血流が減少または遮断され、これによって腎臓、心臓、脳などの各器官に虚血性損傷が誘発される全身疾患を意味する。
【0060】
具体的には、本発明の組成物で予防または治療しようとするブドウ状球菌感染による血栓性疾患は、ブドウ状球菌感染による脳卒中、脳梗塞、脳血栓症、脳塞栓症、ラクナ梗塞、急性冠動脈症候群、狭心症、大動脈狭窄症、心筋梗塞症、脚ブロック、脳虚血、急性虚血性心血管疾患(acute ischemic arteriovascular event)、血栓性静脈炎、静脈血栓塞栓症、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis)、肺塞栓症(pulmonary embolism)、末梢血管疾患、アテローム性動脈硬化症、血管痙攣および再狭窄症からなる群より選択される1つ以上の疾患である。
【0061】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前述した本発明の組成物を対象体に投与するステップを含むブドウ状球菌感染による血栓性疾患(thrombotic disorder)の予防または治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0062】
本発明の特徴および利点をまとめると、次の通りである:
(a)本発明は、ブドウ状球菌感染疾患の予防または治療用組成物およびブドウ状球菌感染による血栓性疾患の予防または治療用組成物を提供する。
(b)本発明は、ブドウ状球菌毒素に対する抗体の交差反応性を活用して、最小限の毒素抗原の組み合わせだけでもブドウ状球菌の11個の毒素による細胞溶解を万遍なく抑制することができる。
(c)本発明はまた、オプソニン食作用を誘導し、同時に被感染体における血液凝固を効果的に制御することにより、ブドウ状球菌感染による個別的症状の断片的改善から抜け出して、感染で引き起こされた総合的な病的状態を包括的に除去または軽減させることができる効率的な治療組成物として有用に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1図1は、クローニングされたBCL、Hlaおよび3つのトキソイド遺伝子産物のアガロース電気泳動パターンを示す図で予想される遺伝子産物を得た。(A)はクローニングされた7つの単一成分遺伝子を、(B)はLukABダイマー遺伝子を含むクローニングされた遺伝子を;(C)はHla遺伝子を;(D)はHlaH35Lを;(E)はLukST244Aを;(F)はLukAE323ABをそれぞれ示す。
【0064】
図2図2は、本発明で構築された組換え野生型S.aureusおよびトキソイドBCLトキシンの模式図である。
【0065】
図3図3は、組換えBCL、トキソイド、トキシンの精製結果およびこれらの細胞溶媒および溶血活性の測定結果を示す図である。図3Aは、各タンパク質5μgを還元条件下で15%SDS-PAGEにローディングした結果である。図3Bは、トキソイドタンパク質5μgのSDS-PAGEパターンを示す。図3Cは、ヒトPMN(2×106細胞)を0.125μgの精製されたBCLおよびトキソイドと1時間共培養した結果を示す。カラム1、トキシンなし;2、LukST244A-PV+LukF-PV;3、LukAE323AB;4、LukS-PV+LukF-PV;5、LukE+LukD;6、HlgC+HlgB;7、HlgA+HlgB;8、LukAB。図3Dは、2%ラビットRBCをHlaWT(0.25μg)およびHlaH35L(0.25μg)トキソイドと37℃で1時間共培養した結果を示す。カラム:1、PBS;2、HlaWT;3、HlaH35L
【0066】
図4図4は、BCL-免疫化されたラビット血清で精製されたラビット抗-BCL認識IgGの溶出パターンを示す図である。まず、ラビット血清(120mg)をタンパク質-Aセファロースカラム(Sigma-Aldrich)にローディングし結合した全IgGを0.15Mグリシン緩衝液(pH2.2)で溶出した(データ未記載)。濃縮後、収集したIgGを各トキシンおよびトキソイド-接合セファロースカラムにローディングし、0.15Mグリシン溶液(pH2.2)で溶出した。
【0067】
図5図5は、ドットブロット免疫アッセイ上で抗-BCL IgGがラビット単一BCLを認識するパターンを示す図である。各精製された単一BCL成分(1μg)をPVDFストリップにつけて、各同系抗-BCL-IgGと共に1時間常温で培養した。洗浄後、各ストリップはHRP-接合ゴート抗-ラビット-IgGと共に培養した。
【0068】
図6図6は、PMN(2×106細胞)とBCLの同系S-成分(0.25μg/ml)およびF-成分(0.25μg/ml)の混合物を共培養時の、ヒトPMNの生存率を示す図であって、精製された抗-LukS-PV-IgG(A)、抗-HlgA-IgG(B)、抗-HlgC-IgG(C)および抗-LukE-IgG(D)の存在下で実験した結果をそれぞれ示す。カラム1、トキシンなし(緑色);カラム2、HlgA+HlgB(褐色);カラム3、LukE+LukD(薄緑色);カラム4、LukS-PV+LukF-PV(青色);カラム5、HlgC+HlgB(黄色);カラム6、LukAB(橙色)。
【0069】
図7図7は、PMN(2×106細胞)とBCLの同系(cognate)S-成分(0.25μg/ml)およびF-成分(0.25μg/ml)の混合物を共培養時の、ヒトPMNの生存率を示す図であって、精製された抗-LukF-PV-IgG(A)、抗-HlgB-IgG(B)および抗-LukD-IgG(C)の存在下で実験した結果をそれぞれ示す。カラム1、トキシンなし(緑色);カラム2、HlgA+HlgB(褐色);カラム3、LukE+LukD(薄緑色);カラム4、LukS-PV+LukF-PV(青色);カラム5、HlgC+HlgB(黄色);カラム6、LukAB(橙色)。
【0070】
図8図8は、PMN(2×106細胞)とBCLの同系S-成分(0.25μg/ml)およびF-成分(0.25μg/ml)の混合物を共培養時の、ヒトPMNの生存率を示す図であって、精製された抗-LukE+LukD-IgG(A)、抗-HlgA+HlgB-IgG(B)、抗-HlgC+HlgB-IgG(C)、抗-LukS+LukF-IgG(D)および抗-LukAB-IgG(E)の存在下で実験した結果をそれぞれ示す。カラム1、トキシンなし(緑色);カラム2、HlgA+HlgB(褐色);カラム3、LukE+LukD(薄緑色);カラム4、LukS-PV+LukF-PV(青色);カラム5、HlgC+HlgB(黄色);カラム6、LukAB(橙色)。
【0071】
図9図9は、PMN(2×106細胞)とBCLの同系S-成分(0.25μg/ml)およびF-成分(0.25μg/ml)の混合物を共培養時の、ヒトPMNの生存率を示す図であって、精製された抗-LukS-PV+HlgC-IgG(A)、抗-LukS-PV+HlgA-IgG(B)、抗-LukS-PV+LukE-IgG(C)、抗-HlgA+LukE-IgG(D)、抗-HlgA+HlgC-IgG(E)および抗-HlgC+LukE-IgG(F)の存在下で実験した結果をそれぞれ示す。カラム1、トキシンなし(緑色);カラム2、HlgA+HlgB(褐色);カラム3、LukE+LukD(薄緑色);カラム4、LukS-PV+LukF-PV(青色);カラム5、HlgC+HlgB(黄色);カラム6、LukAB(橙色)。
【0072】
図10図10は、PMN(2×106細胞)とBCLの同系S-成分(0.25μg/ml)およびF-成分(0.25μg/ml)の混合物を共培養時の、ヒトPMNの生存率を示す図であって、精製された抗-LukF-PV+HlgB-IgG(A)、抗-LukD+HlgB-IgG(B)、抗-LukF-PV+LukD-IgG(C)および抗-LukF-PV+LukD+HlgB-IgG(D)の存在下で実験した結果をそれぞれ示す。カラム1、トキシンなし(緑色);カラム2、HlgA+HlgB(褐色);カラム3、LukE+LukD(薄緑色);カラム4、LukS-PV+LukF-PV(青色);カラム5、HlgC+HlgB(黄色);カラム6、LukAB(橙色)。
【0073】
図11図11は、PMN(2×106細胞)とBCLの同系S-成分(0.25μg/ml)およびF-成分(0.25μg/ml)の混合物を共培養時の、ヒトPMNの生存率を示す図であって、精製された抗-LukS-PV+HlgA+LukABE323A-IgG(A)、抗-LukE+LukABE323A-IgG(B)および抗-LukF-PV+HlgB+LukD+LukABE323A-IgG(C)の存在下で実験した結果をそれぞれ示す。カラム1、トキシンなし(緑色);カラム2、HlgA+HlgB(褐色);カラム3、LukE+LukD(薄緑色);カラム4、LukS-PV+LukF-PV(青色);カラム5、HlgC+HlgB(黄色);カラム6、LukAB(橙色)。
【0074】
図12図12は、同系BCLおよびHlaの各時点別の発現パターンを示す図である。レーン1で、精製された組換え単一S-成分(0.2μg)およびF-成分(0.2μg)の混合物をゲルにローディングし、0時間(レーン2)、1.5時間(レーン3)、4時間(レーン4)、5時間(レーン6)および9時間(レーン6)目にS.aureus USA300 LAC細胞培養液から得た培養培地(タンパク質量60μg)を精製し、15%SDS-PAGEゲルにローディングした。以後、親和度精製された抗-単一S-およびF-成分-IgGの混合物(各6μg)を用いてウェスタンブロット分析を行った。
【0075】
図13図13は、選定された4つのIgGが6つのトキシン-媒介ヒトPMNの細胞溶解活性に及ぼす影響(A)、生存したPMN細胞数の計測結果(B)、6つのトキシン処理されたラビットRBCの写真(C)および405nmにおけるこれらの吸光度の測定結果(D)をそれぞれ示す。
【0076】
図14図14は、USA300培養培地を処理した場合(図14A)および培養培地と選定された4つのトキシンおよびトキソイドIgGを処理した場合(図14B)のヒトPMNの生存率を測定した結果を示す図である。
【0077】
図15図15は、ヒト全血、PBS、ラビット血清または4つの選定されたトキシンおよびトキソイドIgGと共培養した後、S.aureus USA300 LAC細胞のCFUの測定結果を示す図である。カラム1はヒト全血(2ml)をPBS(20μl)と共にバクテリア(2×106細胞)と3時間37℃で共培養した結果であり;カラム2はPBSの代わりにラビット血清(タンパク質40μg)を添加し;カラム3は選定された4つのトキシンとトキソイドIgGを添加した結果である。
【0078】
図16図16Aは、S.aureus CWAPタンパク質のドメイン構造(図16A)、本発明においてクローニングされたCWAPN2N3ドメイン(図16B)および精製された7つのCWAPN2N3ドメインに対するSDS-PAGE分析の結果(図16C)をそれぞれ示す図である。S.aureus CWAPタンパク質の一次翻訳産物はN-末端にシグナル配列(S)を有しかつ、3つの独立してフォールディングされたドメインであるN1、N2およびN3が存在する。C末端にはwall-spanning領域(W)と分類シグナル(sorting signal、SS)を有する。
【0079】
図17図17は、CWAPN2N3の免疫ドットブロット分析の結果およびCWAPN2N3/FH/FIの存在下でC3bのiC3bへの転換を示す図である。図17Aは、7つのCWAPN2N3ドメイン(ClfAN2N3、ClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrDN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3)およびBSAをPVDF膜の5つのストリップにスポッティングしたドットブロット免疫アッセイの結果を示す。図17Bは、固定プレートでヒトFH/FI/CWAPN2N3ドメインによりC3bがiC3bに切断されることを示す図である。
【0080】
図18図18は、CWAPN2N3タンパク質がFHを捕集し、C3からiC3bへの転換を抑制することを示す図である。図18Aは、5μのCWAPN2N3ドメインタンパク質と0.5μのFHを100μlのPBSに浮遊されたS.aureus USA300 LAC細胞(1×105CFU)に添加したSDS-PAGEゲル電気泳動の結果を示す図である。図18Bは、10μのCWAPN2N3ドメインと0.1μのヒトFHをS.aureus USA300 LAC細胞(1×105CFU)を含有する100μlのGVB++に添加したSDS-PAGEゲル電気泳動の結果を示す図である。
【0081】
図19図19は、FHとS.aureus USA300生菌の結合が抗-FH-結合CWAP-Fab’2切片を処理することで抑制されることをフローサイトメトリー分析で示し(図19A)、このような抑制効果をバクテリア表面のFH蓄積量により定量化した結果(図19B)を示す図である。*、p≦0.05;**、p≦0.01;***、p≦0.001;NS:統計的有意性なし。
【0082】
図20図20は、7つのCWAPN2N3ドメイン(ClFAN2N3、ClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrDN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3およびFnbpBN2N3)に対する精製されたラビット(図20A)およびヒト(図20B)抗-CWAP-IgGの結合特異性を示したウェスタンブロットの結果を示す図である。
【0083】
図21図21は、CWAPN2N3ドメインと精製されたヒトまたはラビットCWAPN2N3認識IgGによるS.aureusの死滅活性を示す図である。図21Aは、100μlのS.aureus USA300 LAC細胞(1×105細胞/ウェル)に5μgのそれぞれの精製されたCWAPN2N3ドメインを添加し、CFUを測定した結果を示す。統計的分析は独立スチューデントt-検定で行った。*、p≦0.05;NS:統計的有意性なし。100μlのS.aureus USA300 LAC細胞(1×105細胞/ウェル)に精製されたヒト(図21B)およびラビット(図21C)IgGを添加し、CFUを測定した結果を示す。統計的分析は独立スチューデントt-検定を用いて行った。*、p≦0.05;**、p≦0.01;***、p≦0.001;***、p≦0.0001;NS:統計的有意性なし。
【0084】
図22図22は、本発明の組成物の作用機序に対する模式図を示す図である。大部分のS.aureus菌株は表面でCWAPを発現するが、バクテリアが宿主に侵入すれば、血清補体であるFHがDLLメカニズムによってCWAPN2N3ドメインに結合する(14、15)。同時に、バクテリアを認識するやいなや、ヒト補体の活性化によってC3bが表面に蓄積されるはずであり、続いてFHがFIを引き寄せて蓄積されたC3bをiC3bに転換することにより、宿主の好中球によるC3b-媒介オプソニン食作用を減少させる(中間図)。抗-CWAPN2N3-IgGがバクテリア表面タンパク質と結合すれば、FHはこれらのCWAPN2N3ドメインと結合できない。FHがバクテリアに移動することを抑制することにより、FI-媒介C3bの不活性化も減少し、増加した量のC3bがC3b-媒介オプソニン食作用をより良く起こすようになる(左図)。CWAPN2N3ドメインをS.aureus感染部位に投与すれば、これらのタンパク質は血清FHを捕集し、バクテリア表面にC3bがより良く蓄積されるようにして、C3b-媒介オプソニン食作用を強化する(右図)。
【0085】
図23図23は、クローニングされたS.aureus CWAPN2N3ドメイン遺伝子を確認した結果を示す図である。
【0086】
図24図24Aは、還元(左)および非還元(右)条件下で精製された抗-FH-IgGおよび抗-FH-Fab’2のSDS-APGEパターンを示す図である。レーン1、ゴート抗-ヒト因子H IgG;レーン2、ペプシン処理ゴート抗-ヒト因子H IgG;レーン3、タンパク質Aカラムの通過(pass-through)分画;レーン4、タンパク質Aカラム上のペプシン処理ゴート抗-ヒト因子Hの分画。図24Bは、6つのタンパク質に対する抗-FH-IgGおよび抗-FH-F(ab’)2切片の結合特異性を示す図である。図24Cは、5つの抗-CWAP-Fab’2切片の7つの異なるCWAPN2N3ドメインに対する結合特異性を示す図である。
【0087】
図25図25は、4つのヒト(図25A)およびラビット(図25B)抗-CWAP-IgGの溶出パターンを示す図である。
【0088】
図26図26は、精製されたヒト(図26A)およびラビット(図26B)抗-CWAP-IgGのSDS-PAGE分析の結果を示す図である。SH(+)およびSH(-)はそれぞれ還元および非還元条件を示す。レーン1から5にはClfA-IgG、SdrC-IgG、SdrE-IgG、FnbpA-IgGおよびFnbpB-IgGがそれぞれ3μgずつローディングされた。
【0089】
図27図27は、S.aureusコアグラーゼ(Coa)およびvWF-結合ドメインタンパク質(vWbp)のドメイン構造を示す図であって、作製された組換えCoa(図27A)およびvWbp(図27B)の模式図をそれぞれ示し、数字はS.aureus USA300 LAC菌株のゲノム配列に基づいたアミノ酸位置を示す。
【0090】
図28図28は、精製された組換えCoaおよびvWbpドメインタンパク質に対するSDS-PAGE分析(15%)結果を示す図である。レーン1、Coawhole;レーン2、CoaN;レーン3、CoaC;レーン4、vWbpwhole;レーン5、vWbpN;レーン6、vWbpC。
【0091】
図29図29は、Coa(図29A)およびvWbp(図29B)の異なるドメインタンパク質に対する抗体-特異性をドットブロット分析により調べた結果を示す図である。レーン1、BSA(3μg);レーン2、Coawhole(3μg);レーン3、CoaN(3μg);レーン4、CoaC(3μg);レーン5、BSA(3μg);レーン6、vWbpwhole(3μg);レーン7、vWbpN(3μg);レーン8、vWbpC(3μg)。
【0092】
図30図30は、S.aureus USA300培養中のCoa(図30A)およびvWbp(図30B)タンパク質の発現パターンをそれぞれ示す図であって、抗-Coawhole-IgG(図30A)および抗-vWbpwhole-IgG(図30B)をそれぞれ用いたウェスタンブロット分析の結果である。左のゲルは精製されたCoawholeおよびvWbpwholeのSDS-PAGEパターンである。
【0093】
図31図31は、S.aureus細胞表面で発現するCoa(図31A)およびvWbp(図31B)-認識タンパク質をドットブロット分析により同定した結果を示す図である。細胞壁-関連タンパク質(CWAP)の7つのN2-N3ドメイン(3μg)を7つのPVDF膜ストリップにスポッティングした。レーン1、BSA;レーン2.ClfAN2N3;レーン3、ClfBN2N3;レーン4、SdrCN2N3;レーン5、SdrDN2N3;レーン6、SdrEN2N3;レーン7、FnbpAN2N;レーン8、FnbpBN2N
【0094】
図32図32は、抗-Fnbp-F(ab’)2切片を用いてCoaおよびFnbpタンパク質の間の結合特異性を確認した結果を示す図である。S.aureus USA300 LAC細胞(1×105細胞)をCoaCと共に1時間培養し、バクテリアペレットを得てCoaタンパク質がバクテリア表面に移動したことを確認した(レーン1)。対照群としてバクテリアをCoaCおよび抗-SdrC-F(ab’)2切片と共に培養しても、CoaCはバクテリア表面に移動した(レーン2)。しかし、バクテリアをCoaCおよび抗-FnBp-F(ab’)2切片と共に培養する場合、添加されたCoaCの量はバクテリア表面で大きく減少した(レーン3および4)。これにより、FnBpは分泌されるCoaCと選択的な結合能力があることが分かる。
【0095】
図33図33は、多様な用量の精製されたCoawholeまたはvWbpwholeによる血液凝固誘導(図33A)および多様な用量の抗-Coawhole-IgGおよびvWbpwhole-IgGsによる血液凝固抑制効果(図33B)をそれぞれ示す図である。
【0096】
図34図34は、分泌されたCoaおよびvWbp-媒介血液凝固が抗-Coawhole IgGまたは抗-vWbpwhole IgGによって抑制されることを示す図である。チューブ1、RPMI(100μl)+ヒト血液(200μl)を1.5時間培養;チューブ2、1μgのCoawholeを血液(200μl)と共に1.5時間培養。チューブ3、5μgのvWbpを200μlの血液に添加;チューブ5、USA300培養培地(100μl)+血液;チューブ6、抗-Coawhole IgG(80μg)をUSA300培養培地(100μl)+血液に添加;チューブ7、抗-vWbpwhole IgG(80μg)+培養培地および血液;チューブ8、USA300培養培地(100μl)+抗-コアグラーゼwhole IgG(40μg)および抗-vWbpwhole IgG(40μg);チューブ9、USA300培養培地(100μl)+抗-Coawhole IgG(80μg)+抗-vWbpwhole IgG(80μg)+血液。
【0097】
図35図35は、CoaNおよびvWbpNのみがヒト血液凝固を誘導し、CoaCおよびvWbpCはそうではないことを示す図である。チューブ1、血液200μl+RPMI培地(100μl)を常温で1.5時間培養;チューブ2、USA300培養培地(100μl)+ヒト血液;チューブ3、血液+vWbpN(5μg);チューブ4、血液+vWbpC(5μg);チューブ5、血液+CoaN(1μg);チューブ6、血液+CoaC(1μg)
【0098】
図36図36は、USA300菌培養液中に含まれたCoaまたはvWbpによる血液凝固(図36A)と、CoaNおよびvWbpN-媒介凝固(図36B)が抗-CoaN-IgGおよび抗-vWbpN-IgGによって抑制されるが、抗-CoaCおよび抗-vWbpC IgGによって抑制されないことを示す図である。図36Aのチューブ1、血液200μl+RPMI培地(100μl)を常温で2.5時間培養;チューブ2、血液+培養培地(100μl);チューブ3、血液+培養培地+CoaN-Ab(60μg);チューブ4、血液+培養培地+vWbpN-Ab(60μg);チューブ5、血液+培養培地+CoaC-Ab;チューブ6、血液+培養培地+vWbpC-Ab(60μg);図36Bのチューブ1、血液(200μl)+RPMT(100μl);チューブ2、血液+CoaN(5μg);チューブ3、血液+vWbpN(5μg);チューブ4、血液+CoaN(5μg)+抗-CoaN-Ab(80μg);チューブ5、血液+vWbpN(5μg)+抗-vWbpN-Ab(80μg)。
【0099】
図37図37は、抗-Coawhole-IgGおよびvWbpwhole-IgGの血液凝固効果をインビボ上で確認するためのウサギ接種実験の模式図である。
【0100】
図38図38は、PBS投与対照群と抗-Coawhole-IgGおよびvWbpwhole-IgG投与群に属する各ウサギの最大167時間の間の体重変化を測定した結果を示すグラフである。
【0101】
図39図39は、PBS投与対照群と抗-Coawhole-IgGおよびvWbpwhole-IgG投与群の生存率を時間別(図39A)および日別(図39B)に計算した結果を示す図である。
【0102】
図40図40は、本発明において発掘された4つの抗原に対する抗体を精製して静脈注射で前処理した群(第2群、G2)とG2群に再度バンコマイシンを前処理したウサギのUSA300 MRSA菌感染に対する防御効果を示す図であって、各群の生存率(図40A)、第2群および第4群ウサギの腎臓の観察結果(図40B)をそれぞれ示す。
【0103】
図41図41は、4つの抗原を3回接種したウサギにUSA300 MRSA菌を感染させた群(第2群、G2)とG2群にUSA300 MRSA感染3時間後にテイコプラニンを筋肉注射した群(第4群、G4)、テイコプラニンのみ処理した群(第3群、G3)、食塩水のみ処理した群(第1群、G1)においてそれぞれUSA300 MRSA感染に対する防御効果を示す図である。接種後、各抗原に対する抗体の履歴を測定したELISAの結果(図41A)、各群の生存率(図41B)、各腎臓の残留バクテリアの定量結果(CFU)(図41C)および、各群ウサギの腎臓の観察結果(図41D)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0104】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【実施例
【0105】
実施例1:ブドウ状球菌トキシンの選定
実験方法
実験倫理
ヒト血液は4人の健康な志願者から得ており、韓国の釜山(プサン)大学IRBの承認下ですべての実験が行われた(PNU IRB/2019_59_BR)。すべての研究参加者から書面による同意書を受け取った。
【0106】
バクテリア
S.aureus USA300 LAC菌株はTSB(tryptic soy broth)で中間対数期(mid-logarithmic phase)(OD600 0.8-1.5)まで37℃で撹拌しながら培養した。E.coli DH5α菌株は37℃で撹拌しながら10μg/mlカナマイシン(Km)が補充されたLB(Luria Broth)で培養した。
【0107】
組換えBCLトキシンの精製およびトキソイドの生産
ポリヒスチジン-タギングされた組換えトキシンをクローニングしてE.coli発現システムにより発現させた。USA300ゲノム配列から、ターゲット遺伝子であるLukS-PV、LukF-PV、LukE、LukD、HlgA、HlgB、HlgC、LukAB、Hla、HlaH35L、LukST244A-PV、LukAE323ABをQ5 High Fidelity DNA重合酵素(Thermo Fisher Scientific)を用いてPCRで増幅した。PCR産物をpET28a-ベクターにクローニングしてN-末端またはC-末端に6x His-タギングされたタンパク質を得た。LukABおよびLukAE323ABを精製するために、6x His-タグをN-およびC-末端の両側に挿入し、得られたクローンをシーケンシングして構造を確認した。組換えタンパク質は0.2mMイソプロピル-lβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG、0.2mMの濃度)を用いてBL21 pLysS E.coliで発現した。発現したタンパク質はNi-セファロース6高速レジン(GE healthcare、17-5318-01、5ml)とローディング緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、0.1%triton X-100、150mM NaCl、5mMイミダゾール、pH7.4)、洗浄緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、5mMイミダゾール、pH7.4)および溶出緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、500mMイミダゾール、pH7.4)を用いて精製した。実施例1で使用されたプライマー配列は下記表1に示した。
【表1】
【0108】
トキシン抗体を得るためのラビットの免疫化
500μlのPBSに溶解した6つのS.aureusトキシンおよびこれらのトキソイドタンパク質の精製された単一成分500μgをフロイント完全アジュバント(Sigma-Aldrich)500μlと混合してエマルジョンを製造した。ラビットに各エマルジョンを皮下注射後、2週後に同量の抗原を500μlのフロイント不完全アジュバント(Sigma-Aldrich)と混合して皮下注射した。2週後にラビット耳静脈から採取した血液500μlから各抗原のIgG形成の有無をウェスタンブロットにより確認した。抗体が形成された場合、ラビット全血を採取して血清を得ており、これを使用前まで-80℃に保管した。
【0109】
CNBr-活性化されたセファロースビーズに精製されたタンパク質のカップリング
組換え単一成分トキシンとCNBr-活性化されたセファロースビーズとの間のカップリングを製造会社のマニュアル(GE HealthCare)に従って行った。要するに、CNBr-活性化されたセファロースビーズ1gをカップリング緩衝液(3ml/1回、0.1M NaHCO3、pH8.5)で3回洗浄した。1mlのカップリング緩衝液に溶解した組換えタンパク質5mgをCNBr-活性化されたビーズに添加し、4mlのカップリング緩衝液に浮遊させた。常温で2時間培養した後、ビーズをカップリング緩衝液で3回洗浄した。以後、ビーズを1Mにメタノールアミン(pH8.0)4mlと共に常温で4時間培養した。培養後、ビーズを280nmでUV吸光度が現れないまで0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.4)で洗浄し、使用前まで4℃に保管した。
【0110】
ラビット血清由来IgGを認識するラビット抗-単一成分の精製
抗原-カップリングされたセファロースカラムを洗浄緩衝液(0.1M NaCl含有0.1Mリン酸ナトリウム、pH7.4)で平衡化した後、抗原-免疫化されたラビット血清(1ml、タンパク質60mg)をカラムにローディングし、カラムを洗浄緩衝液で強く洗浄した後、結合したIgGを溶出緩衝液(0.15Mグリシン/HCl、pH2.2)で溶出した。収集されたIgGを中和緩衝液(1M Tris/HCl buffer、pH9.0)で中和させた後、緩衝液をPBSに入れ替え、収集されたIgGを還元および非還元条件下でSDS-PAGEで分析した。
【0111】
ドットブロット免疫アッセイ
PVDF-膜ストリップ(Immobilon P、ポアサイズ0.22μm、Millipore)をメタノールで30秒間活性化させた。以後、ストリップを緩やかに撹拌しながらH2Oで5分間洗浄した。洗浄後、1μgの組換え単一成分トキシン(LukS-PV、LukF-PV、HlgA、HlgB、HlgC、LukE、LukDおよびLukAB)をストリップにローディングした。各単一成分およびLukABタンパク質(各1μg)と、陰性対照群としてS.aureus FnbpAN2N3(フィブロネクチン結合タンパク質のN2-N3ドメイン)をスポッティングした。ストリップを常温で2時間乾燥させた後、タンパク質を15秒間メタノールで固定し、H2Oで3回、1X TBS(50mM Tris-HCl、pH7.5、150mM NaCl)で3回洗浄した。ストリップを5%脱脂乳で2時間ブロッキングし、単一成分-トキシンで免疫化されたIgG(5%脱脂乳で1:1600希釈)と1時間4℃で培養した。培養後、膜を1X TBST(50mM Tris-HCl、pH7.5、150mM NaCl、0.2%Tween20)で3回洗浄した。マウス抗-ラビットIgG-HRP(1:3000希釈、Santacruz)を膜に添加し、4℃で1時間培養した。以後、膜を1X TBSTで3回洗浄し、Pico EPDウェスタンブロッティング検出キット[ELPIS-Biotech]に適用した。
【0112】
ヒトPMNの分離
収集された全血(2ml)およびPolymorphprepTM(2ml、Axis-shield)を用いて、常温で丸底チューブに多形核細胞(PMN)を分離した。試料を20℃で450xgで30分間遠心分離した。上澄液の除去後、単核細胞(上バンド)とPMN(下バンド)を含む2つの白血球バンドを得た。以後、収集されたPMNをRPMI(Gibco)で2回洗浄し、400xgで20℃で10分間遠心分離後に収集した。収集された細胞を2ml RPMI+0.02%HSA緩衝液で緩やかに再浮遊させ、血球計算器(EKDS、Tokyo)で細胞数を計算した。
【0113】
ラビットRBCの分離
ラビット血液1mlをヒルジン-コーティングされた真空チューブ(BD、Becton Drive)に収集して、耳静脈を通した凝集を遮断した。以後、チューブを4℃で9,100xgで10分間遠心分離して赤血球(RBC)を得た。RBCをPBS含有0.02%BSAで2回洗浄し、500xgで4℃で5分間遠心分離して収集した。PBS含有0.02%BSAでRBCを2%に希釈して保存液を作製した。
【0114】
細胞溶解および溶血アッセイ
S.aureus BCLまたはHlaの存在の有無による一次ヒトPMNのインビトロ生存性を評価するために、PMNを48ウェルプレート(SPL)にウェルあたり2×106細胞でシーディングし、同量のS-およびF-成分(各65ng)と共に混合した(LukABは130ng)。この混合物を37℃で5%CO2条件で1時間培養し、生存した細胞数を血球計算器で測定した。
【0115】
トキシン-媒介RBC溶血アッセイ
インビトロでHlaWTトキシンの存在の有無によるラビットRBCの溶血アッセイを行うために、2%RBCを96ウェルプレートにウェルあたり100μlでシーディングした。以後、0.25μgの精製された組換えHlaWTトキシンを96ウェルプレートに添加し、37℃で5%CO2条件で1時間培養した。以後、5分間500xgで遠心分離して上澄液を収集し、分光光度計(Eppendorf BioPhotomter)を用いて405nmにおける吸光度を測定した。
【0116】
ウェスタンブロット分析
精製されたBCLトキシン、Hlaおよびトキソイドを15%SDS-PAGEゲル電気泳動に適用し、トランスファーバッファー(192mM Glycin、25mM Tris、0.02%SDS、20%MtOH)を用いて100V、400mAで4℃で75分間0.45μmのPVDF膜に移した。以後、膜を5%脱脂乳で1時間ブロッキングした。膜を免疫化されたラビット血清(1:6000)と培養した後、5%脱脂乳で4℃で1時間ブロッキングした。培養後、膜を1X TBST(50mM Tris-HCl、pH7.5,150mM NaCl、0.2%Tween20)で3回洗浄した。マウス抗-ラビットIgG-HRP(Santacruz)を添加し、4℃で1時間培養した。以後、膜を1X TBSTで3回洗浄し、Pico EPDウェスタンブロッティング検出キット[ELPIS-Biotech]で分析を行った。
【0117】
実験結果
精製された5つの組換えS.aureusの二成分ロイコシジン(BCL)とHlaはヒトPMNおよびRBCをそれぞれ加水分解したが、トキソイドは分解しなかった。
S.aureusトキシンおよびトキシン-媒介された宿主細胞の細胞毒性の間の関係を調べるために、本発明者らは、まず、5つのBCLおよびHlaをクローニングした(図1のA-C)。発現した6つの組換えトキシンの精製のために、His x 6-tagをターゲットトキシンのN-末端またはC-末端部位に挿入した(図2)。図3に示すように、S.aureus BCLの4つのS-成分および3つのF-成分の組換えタンパク質を精製して均質化したが、LukABの単量体は遅く発現するため、LukABWTは二量体の形態で精製された(図3A)。また、組換えHlaWTおよびHlaH35L、LukST244AおよびLukAE323ABトキソイドも均一に精製された(図3B)。単一活性アミノ酸置換を有するHlaトキソイド(HlaH35L)はHis-35残基がLeuに置換されたため、細胞溶解ポア(cytolytic pore)を形成できないが、宿主細胞上の受容体と結合する能力は維持することが知られた(Menzies BE et al.,1994.Infect Immun62:1843-7;Menzies BE et al.,1996.Infect Immun64:1839-41)。LukS-PVのThr-244残基がAlaに置換される場合(LukST244A-PV)、ヒト白血球およびC5a受容体-発現未分化U937細胞全部との結合親和度が大きく減少するため(Laventie BJ et al.,2014.PLoS One9:e92094)、本発明では、LukST244A突然変異を精製した。また、LukAのGlu-323残基がLukAB細胞毒性に重要であり、LukABおよびそのターゲットであるCD11bとの相互作用に必須であると報告されたので(DuMont AL et al.,2014.Infect Immun82:1268-76)、LukAE323ABを作製して使用した。野生型ロイコシジンとトキソイドがヒトPMNに対する細胞溶解活性を示すかを確認するために、同量のS-成分およびF-成分を混合して、LukSF-PV、LukED、HlgAB、HlgCB、LukABのような野生型ロイコシジンとLukST244A-PVおよびLukAE323ABのような不活性ロイコシジンを作製した。
【0118】
BCLのS-、F-成分、Hlaおよびこれらのトキソイドタンパク質を個別的に発現および精製した後、ヒトPMNおよびRBCを用いてこれらの毒性を試験した。同量のS-およびF-成分(各0.25μg/ml)を混合し、LukABは0.5μg/mlで混合すると、5つの同系BCL(LukSF-PV、LukED、LukAB、HlgAB、HlgCB)はすべてヒト多形核白血球(PMN、2×106細胞)を30分内に完全に分解したが、LukST244A-PVトキソイド(0.25μg/ml)およびLukF-PV(0.25μg/ml)の混合物はヒトPMNに対して毒性を示さなかった(図3C)。また、LukAE323ABダイマートキソイド(0.5μg/ml)もヒトPMNに細胞毒性を示さなかった(図3C)。これとともに、精製されたHlaWT(2.5μg/ml)は2%ラビットRBCを30分内に溶血させたが、その不活性トキソイドであるHlaH35LはラビットRBCに対する溶血活性を示すことができなかった(図3D)。これをまとめると、精製されたS.aureus BCLおよびこれらのトキソイドタンパク質がうまくクローニングされ、均一に精製されたことが分かる。
【0119】
単一S-またはF-成分の抗-ラビットIgGは他のBCL成分に対する交差反応性を有する。
S.aureus BCLはS-SまたはF-F単一成分間の高い配列相同性を有するため、単一成分-免疫化されたラビット抗体はS.aureus BCLトキシンの他の単一成分と結合することが期待された。しかし、単一成分-IgGによるこれらの認識パターンが5つのBCL-媒介細胞毒性を包括的に中和するBCL-抗体を探索するのに重要であるので、本発明者らは、単一成分-接合セファロースカラムを用いた親和度精製により8つの異なる単一成分に対するラビット多クローン抗体を得た(図4)。また、本発明の組換えトキシンとトキソイドはN-またはC-末端に6x His-tagを有するので、6x His-タギングされたS.aureusフィブロネクチン結合タンパク質A(FnbpAN2-N3)-接合セファロースカラムを用いてHis-tag-由来IgGを除去した(データ未記載)。これらの精製されたラビット単一成分-認識IgGを用いて、本発明者らは、ドットブロット免疫アッセイによりBCL単一成分および精製されたBCL-認識IgGの間の交差反応性を調べた(図5)。使用されたすべてのIgGは陰性対照群タンパク質であるFnbpAN2-N3と結合しなかった。抗-LukS-PV-IgGは4つのS-成分(LukS-PV>HlgC>HlgA>LukE)全部を認識したが、3つのF成分とLukABは認識できなかった(図5のカラムa、濃色と薄色のボックスはそれぞれ同系および非-同系抗原を示す)。抗-LukE-IgGも4つのS-成分(LukE>LukS>HlgC>HlgA)を認識した(図5のカラムf)。抗-HlgA-IgGはHlg>HlgC>LukFを認識した(カラムc)。抗-HlgC-IgGはHlgC≧LukS>HlgAを認識した(図5のカラムe)。F-成分-IgGの場合、抗-LukF-PV-IgGはLukF>LukDに対する陽性シグナルを示した(図5のカラムb)。抗-HlgB-IgGはLukF-PV>HlgB>LukDの3つのF成分を認識した(図5のカラムd)。抗-LukD-IgGはLukD>LukF-PVに対する結合親和度を示した(図5のカラムg)。予想どおり、LukAB-IgGはその同系抗原であるLukAB抗原に対してのみ結合特異性を示した(図5のカラムh)。これをまとめると、LukS-PVおよびLukE-IgGは4つのBCL S-成分に対して最も広範囲な結合能力を有することが分かる。しかし、興味深いことに、抗-HlgA-IgGがIgGを認識するS-成分であるにもかかわらず、これはLukF-PV F-成分も認識した(図5のカラムcおよびg)。抗-HlgB-IgGの場合、3つのF-成分(HlgB、LukD、LukF)を認識するが、他の2つのF-成分(LukF-PVおよびLukD)はこれらの同系F-成分と1つの非-同系F-成分だけを認識した。まとめると、BCL S-およびF-成分は同系および非-同系抗原に対する異なる認識パターンを有することが分かる。
【0120】
4つの抗-S-成分-IgGは4つのBCL-媒介PMNの細胞溶解活性に対する部分的な中和効果を示す。
本発明者らは、どのようにインビトロでBCL-媒介好中球の細胞溶解活性が抗-S-またはF-成分-IgGの添加によって中和されるかを調べようとした。ヒトPMNを各BCLおよび抗-LukS-PV-IgGと共に共培養すれば(図6A)、抗-LukS-PV-IgGはLukSF-PV-(98.5±0.5%)、LukED-(74±1%)およびHlgCB-(68.1±1%)-媒介PMNの細胞溶解活性を抑制するが、HlgAB-およびLukABによるPMNの細胞溶解活性は抗-LukS-PV-IgGによって完全に中和できない。これに対し、抗-HlgA-IgGはHlgAB-誘発(90.3±3%)およびLukED-媒介PMN溶解(27.5±4%)だけを中和し、LukSF-PV、HlgCBおよびLukAB-媒介PMNの細胞毒性はほとんど遮断できなかった(図6B)。抗-HlgC-IgGはHlgAB-(43.9±0.5%)、LukED-(58.5±1%)およびLukSF-PV-(73.2±0.5%)、HlgCB-(85.4±1%)およびLukAB-(0%)-媒介PMN溶解を抑制した(図6C)。予想どおり、抗-LukE-IgGは4つのBCL-媒介PMN溶解を70%以上抑制したが、LukAB-誘発された溶解(図6D)は完全に抑制できなかった。ドットブロット実験において(図5)、抗-LukE-IgGはLukE>LukS-PVを強く認識したが、HlgC>HlgAは弱く認識した。しかし、4つのBCL-媒介PMN溶解が抗-LukE-IgGによって75±3%以上遮断されて、BCL-媒介ヒトPMNの細胞溶解活性においてドットブロット免疫アッセイと単一S-成分IgGの中和能力間の差が存在することが分かった。
【0121】
3つの抗-F-成分-IgGはHlgCB-媒介PMNの細胞溶解活性を中和した
図7に示すように、抗-F-成分-IgGとヒトPMNおよびBCLを共培養すれば、抗-LukF-PV IgGはLukSF-PV-媒介PMNの溶解活性およびHlgCB-誘発されたPMNの溶解活性をそれぞれ85±0.5%および74±1%で遮断するが、HlgAB、LukEDおよびLukAB-媒介PMNの細胞溶解活性は抗-LukF-IgGによってほとんど中和できない(図7A)。また、抗-HlgB-IgGはHlgAB-およびHlgCB-媒介されたPMNの溶解活性をそれぞれ85.8±1%および65±0.5%で抑制するが、LukED-(10±0.5%)、LukSF-PV-(10±1%)、およびLukAB-(2±1%)媒介された溶解活性の抑制率は低い(図7B)。抗-LukD-IgGの場合、LukED-(84±4%)およびHlgCB(77±1%)-媒介PMNの溶解活性も抑制するが、HlgAB-(18.4±3%)、LukSF-(20.8±0.2%)およびLukAB(3±0.1%)-媒介溶解活性はうまく中和させることができない(図7C)。これをまとめると,ドットブロット免疫アッセイにおいて抗-LukF-IgGおよび抗-LukD-IgGの2つのF-成分-IgGがHlgBを認識できなかったが(図5)、これら2つのF-成分IgGは一般的にHlgCB-媒介PMNの溶解活性を中和して、これらが非-同系HlgBの特定配列を認識することにより、HlgCB BCLの重合体化を抑制することが分かった。
【0122】
抗-BCL-成分-IgGの異なる組み合わせはBCL-媒介細胞毒性に対する中和能力の差を引き起こす
本発明者らは、5つのBCL-媒介細胞毒性を包括的に中和させることができるBCL抗-S-または抗-F-成分IgGの最小限の組み合わせをスクリーニングすれば、S.aureus感染に対する新規治療剤を設計するのに重要な情報になると仮定した。LukSF-PVおよびHlgCBは、一般的に宿主細胞上で発現するC5aR1およびC5aR2受容体を認識すると報告された(Spaan AN et al.,2013.Cell Host Microbe13:584-594)。しかし、LukEDはCCR5、CXCR1およびCXCR2を認識し(Alonzo F,et al.,2013.Nature493:51-5)、HlgABおよびLukEDともCXCR1およびCXCR2を受容体として有しながらCCR2も認識するのに対し(Spaan AN et al.,2017.Nat Rev Microbiol15:435-447)、LukABはCD11bに結合する(DuMont AL et al.,2014.Infect Immun82:1268-76)。図6および図7の実験結果に基づいて、本発明者らは、抗-単一成分-IgGまたは抗-トキソイド-IgGのどの組み合わせが、5つのBCLで誘発された細胞毒性を効率的に中和させるかを調べた。図8に示すように、抗-LukE-IgG(5μg)および抗-LukD-IgG(5μg)をヒトPMNおよび5つのBCLと60分間共培養する場合、LukABを除いた4つのBCL-媒介PMNの細胞毒性がこれら2つのIgGによって70%以上中和された(図8A)。しかし、抗-HlgA-および抗-HlgB-IgGの混合物はHlgAB-(79.8±5%)およびHlgCB-(60±1%)-媒介細胞毒性だけを中和し(図8B)、LukED、LukSF-PVおよびLukABに対しては抑制効果が現れなかった。これらの結果から、HlgABおよびLukEDがCXCR1、CXCR2およびCCR2と結合すると報告されたが、HlgAおよびHlgBのIgG混合物はLukED-媒介細胞毒性をほとんど中和させることができないことが分かる。予想とは違って、抗-HlgA-IgGおよび抗-HlgB-IgGの混合物はC5aR-認識HlgCBの細胞溶解活性を抑制した。
【0123】
抗-HlgC-IgGおよび抗-HlgB-IgGの混合物はHlgCB(93.4±0.5%)>LukSF-PV(70±1%)>HlgAB(57.8±1%)の溶解活性を中和させることにより、C5aR-認識BCL-ラビット多クローンIgG混合物もケモカイン-受容体-認識HlgABの細胞毒性を抑制することを確認した(図8C)。しかし、抗-LukS-PV-IgGおよび抗-LukF-PV-IgGの混合物はLukSF-PV-(93.5±1%)およびHlgCB-(78.7±1%)媒介された溶解活性を中和させ、LukED(68±0.5%)-誘発されたPMNの溶解活性も抑制した(図8D)。まとめると、予想どおり、抗-LukAB-IgGはLukABの細胞毒性だけを中和し、他の4つのBCL-媒介毒性は抑制できないことを確認した(図8E)。これにより、抗-BCL-IgGの異なる組み合わせはBCL-媒介細胞毒性に対する中和能力の差で現れ、LukABの毒性には全く影響を及ぼさないことが分かった。
【0124】
抗-S-成分-IgGの組み合わせのうち、抗-LukS-PV-および抗-HlgA-IgGの混合物がBCL-媒介細胞毒性に対する最も高い中和活性を示した。
次に、同系BCL S-IgGの組み合わせによる5つのBCL-媒介PMNの細胞溶解活性に対する中和能力を調べた。このために、6つの互いに異なる抗-S-成分-IgGの組み合わせによる5つのBCL-媒介細胞溶解活性の中和能力を測定した(図9)。抗-S-成分-IgGの可能な6つの組み合わせとヒトPMNを5つの異なるBCLと共培養して各PMNの生存率を計算した。各生存率はLukS-PV+HlgC、平均生存率59.7%(図9A);LukS-PV+HlgA、85.8%(図9B);LukS-PV+LukE、45.2%(図9C);HlgA+LukE、45.9%(図9D);HlgA+HlgC、31.3%(図9E);HlgC+LukE、36.8%(図9F)である。このうち、抗-LukS-PVおよび抗-HlgA-IgGの混合物が残りの5つの組み合わせに比べて4つのBCL-媒介細胞溶解活性を最も効率的に抑制した(図9B)。これにより、前記組み合わせが4つのBCL-毒性を抑制できることを確認し、ただし、LukABの毒性には依然として影響を及ぼさなかった。
【0125】
抗-F-成分-IgGの組み合わせのうち、抗-LukF-および抗-LukD-IgGの混合物が4つのBCL-媒介細胞毒性に対する最も高い中和活性を示した。
さらに、本発明者らは、同系BCL F-IgGの組み合わせによる5つのBCL-媒介PMNの細胞溶解活性に対する中和能力を調べた。このために、4つの互いに異なる抗-F-成分-IgGの組み合わせによるBCL-媒介細胞溶解活性に対する中和能力を測定した(図10)。各混合物の処理によるPMNの平均生存率は次の通りである:抗-LukF-PV-および抗-HlgB-IgG、52.9%(図10A);抗-LukDおよび抗-HlgB-IgG、42.6%(図10B);抗-LukF-PV-および抗-LukD-IgG、68.6%(図10C);抗-LukF-PV-、抗-LukDおよび抗-HlgB-IgG、69.0%(図10D)。これらのうち、抗-LukF-PV-および抗-HlgB-IgGの組み合わせが他の3つの組み合わせに比べて最も高いPMNの生存率を示した。これにより、3つの抗-F-成分-IgGが4つのBCL-毒性に対して良好な中和活性を示すことが分かり、ただし、LukABの毒性には依然として影響を及ぼさなかった。
【0126】
抗-LukS-PV-、HlgA-およびLukAE323AB-IgGsの混合物は5つのBCL-媒介PMNの細胞溶解活性を中和させる
図6図10に示すように、どのようなBCL-成分-IgGおよびどのようなIgGの組み合わせもLukAB-誘発された細胞溶解活性を抑制できなかった。そこで、本発明者らは、抗-BCL-成分-IgGを用いて5つのBCL-誘発された毒性をすべて中和させるためには、抗-LukABトキソイド-IgGと他の選定された抗-BCL-成分-IgGを共に使用しなければならない。このため、精製された組換えLukAE323ABトキソイドおよびそのラビット抗-LukAE323AB IgGを精製した(図4)。抗-LukS-PV-およびHlgA-IgGの混合物が4つのBCL-媒介細胞溶解活性を高い効率で中和させることを確認したので(図9B)、抗-LukS-PV-、抗-HlgAおよび抗-LukAE323ABトキソイド-IgGの3つのIgG混合物が5つのBCL-媒介細胞溶解活性を中和させると仮定した。また、3つの抗-F-成分IgGと抗-LukAE323ABトキソイド-IgGの混合物も有望な候補になり得る(図10D)。
【0127】
このような可能性を検証するために、ヒトPMNを5つのBCLおよび2つの異なるIgG組み合わせと共に培養した(図11)。PMNの平均生存率の測定結果、抗-LukS-PV-、抗-HlgAおよび抗-LukAE323ABトキソイド-IgGの組み合わせ(図11A)と、抗-LukF-PV、抗-HlgB-および抗-LukAE323ABトキソイド-IgGの組み合わせ(図11B)を用いた場合にそれぞれ94.7%および68.0%を示して、2つのS-成分IgGと1つのLukABトキソイドIgGを混合する場合、5つのS.aureus BCL-媒介PMNの細胞溶解活性が著しく中和されることが分かった。
【0128】
抗-LukS-PV-、HlgA-、HlaH35LおよびLukAE323AB-IgGの混合物は固有のS.aureusトキシン-媒介ヒトPMNの細胞溶解および溶血活性のすべてを抑制する
これまで、5つの組換えBCLを用いて、インビトロでヒトPMNの細胞溶解活性を調べた。そこで、本発明者らは、精製された抗-BCL IgGが病原性S.aureus USA300から分泌された固有のBCLに対しても作用できるかを確認しようとした。このために、まず、USA300培養時点別にBCLの量を測定した。図12に示すように、5つのBCLとも培養1.5~3時間目に多量分泌されていることを確認した(図12A)。同一の条件でHlaは1.5~9時間の間に高く分泌された。このような結果に基づいて、5つのBCLおよびHlaトキシンは一般的に培養3時間目に蓄積されることが分かった。したがって、S.aureus USA3000培養培地で3時間目に培養した上澄液を収集し、タンパク質の濃度が1mg/mlとなるように濃縮して保存液として使用した。ドットブロット分析で保存液中の分泌されたBCLおよびHlaを定量すると、LukSF-PV、HlgAB、LukED、HlgCB、LukABおよびHlaの平均タンパク質量はそれぞれ0.13,0.26、0.32、0.37、0.24および1.50μg/mlとなった(表2)。
【表2】
【0129】
次に、ヒトPMNが抗-LukS-PV-、HlgA、HlaH35LおよびLukAE323ABトキソイド-IgGの4つの抗体の混合物によってインビトロで保護できるかを調べた(図13)。ヒト全血からPolymorphprepTM溶液を用いてヒトPMNを作製すると、PMNバンドが何ら損傷もなく明確に現れたが(図13Aの左)、6つの組換えトキシン(Hla、LukSF-PV、HlgAB、LukED、HlgCB、LukAB4μg)をヒト全血に添加すると、遠心分離後、白色のPMNバンドが回復できなかった(図13A、中間)。6つのトキシンと4つのIgG混合物(抗-HlaH35L、LukS-PV-、HlgAおよびLukAE323AB-IgGの計64μg)をヒト全血に添加すると、遠心分離後にPMNバンドが再度現れた(図13Aの右)。さらに、回復したPMNの細胞数を血球計数器で測定した結果(図13B)、6つのトキシン処理された全血(カラム2)から対照群(カラム1)対比20%PMNのみが回復した。しかし、4つのIgG処理ヒト全血(カラム3)から95%PMNが回復した。これにより、本発明において選定された4つのIgGがインビトロで6つのトキシン-媒介PMNの細胞溶解活性を効率的に遮断できることを確認した。
【0130】
また、S,aureus HlaおよびBCLは感染時に溶血活性を誘導することが知られた(Seilie ES,et al.,2017.Semin Cell Dev Biol72:101-116)。6つのトキシンをラビット全血と培養すると、PBS処理血液に比べて高い溶血活性が観察されたが(図13C、第2チューブ)、本発明において選定された4つのIgGおよび6つのトキシンをラビット全血に投与すると、溶血活性を対照群対比50%まで抑制された(図13Cおよび13D)。これにより、本発明の4つのトキシン抗体がS.aureusトキシン-媒介ヒト血液の溶血作用を抑制できることを確認した。
【0131】
最後に、本発明者らは、選定された4つのIgGがS.aureus培養培地-媒介PMNの細胞溶解作用を抑制する保護効果を調べようとした。まず、ヒトPMN(2×106細胞)に対する毒性を示すために、S.aureus培養培地内にどの程度のタンパク質量が必要なのかを調べるために、多様な用量の培養培地をPMNと培養した(図14A)。16μg/mlの培養培地を添加する時、PMNは大部分加水分解された。これに基づいてヒトPMN(2×106細胞)を37℃で250μlのRPMIで1時間培養すると、100%PMNが生存し(図14B、カラム1)、PMNをUSA300培養培地(16μg/ml最終濃度)および抗-LukS-PV-、HlgA-、LukAE323ABおよびHlaH35L-IgGの混合物(最終濃度計160μg/ml)と共培養した場合、約90%のPMNが生存した(カラム2)。予想どおり、USA300培養培地(16μg/ml最終濃度)とのみ培養した場合、5%のPMNのみが生存した(カラム3)。これにより、6つのトキシン-媒介PMNの細胞溶解による損傷は、インビトロで本発明において選定された4つのトキシンおよびトキソイド-IgGを添加することにより保護できることが分かる。
【0132】
4つのラビット抗-トキシン-IgGはヒト全血およびS.aureus USA300と共培養時にバクテリアの死滅効果を示す
抗原の免疫化で形成された血清抗体は宿主-食細胞-媒介オプソニン食作用を誘導して、感染した病原菌を除去することが知られた(Miller LS et al.,2020.FEMS Microbiol Rev44:123-153)。本発明において選定された4つの抗-ラビットトキシンIgGがS.aureus BCLおよびHlaトキシン-媒介PMNの細胞溶解とRBCの溶血活性に対する抑制効果を有することが確認されたので、これら4つの抗体がS.aureus USA300細胞およびヒト全血と共培養時にバクテリアの死滅効果を有するかを調べようとした。このために、USA300細胞(2×106細胞)を固有の精製されたIgG(40μg)またはmixture of 4つのトキシン-由来IgG(計40μg)の混合物とヒト全血(100μl)を3時間共培養し、残りのCFU(colony forming unit)を測定した(図15)。対照群試料が2×106CFUに達した時点で、IgG-および4つのトキシン-IgG混合物を処理した試料はそれぞれ対照群の25%および6%CFUを示すことにより、4つの抗-トキシン-IgG混合物がヒト全血においてバクテリアの死滅効果を有することが分かった。
【0133】
実施例2:ヒト補体因子H(FH)と結合するCWAPタンパク質の探索
実験方法
clfA、clfB、sdrC、sdrD、sdrE、fnbpAおよびfnbpB N2-N3ドメインを含むpET28aベクターの精製
クローニングはGibson assembly master mix(New England Biolabs、USA)を用いて、製造会社のプロトコルに従って行った。6ヒスチジン-含有モチーフ(6-his-tag)を有するpET28aプラスミド(Novagen、Germany)をベクターとして用いた。CWAPN2N3ドメインを発現させるために、S.aureus USA300 LAC菌株のN2およびN3ドメインを含むclfA(215-575)、clfB(200-555)、sdrC(166-507)、sdrD(224-570)、sdrE(261-610)、fnbpA(180-559)およびfnbpB(140-500)の各遺伝子の約1kbpを用いた。コード領域をQ5 high-fidelity重合酵素を用いてPCRで増幅した(プライマー配列は表3にまとめた)。クローニングされたpET28a-clfA、clfB、sdrC、sdrD、sdrE、fnbpAおよびfnbpBをE.coli DH5α(Enzynomics、Korea)に形質転換し、10μg/mlカナマイシン(Km)(Sigma-Aldrich、USA)を含むLB寒天プレートに塗抹した後、37℃で一晩培養した。
【表3】
【0134】
pET28a-CWAPプラスミドDNAのE.coli BL21(DE3)pLySsへの形質転換
pET28a-clfA、clfB、sdrC、sdrD、sdrE、fnbpAおよびfnbpBのDNA 100ng DNAを、E.coli BL21(DE3)pLySs細胞に熱衝撃方法を用いて形質転換し、10μg/mlカナマイシン(Km)および50μg/mlのクロラムフェニコール(Cm)を含むLB寒天プレートに塗抹した後、37℃で一晩培養した。
【0135】
CWAPN2N3ドメインの発現および精製
pET28a-clfA、clfB、sdrC、sdrD、sdrE、fnbpAおよびfnbpBが挿入されたE.coli BL21(DE3)pLySsを、LBで10μg/ml Kmおよび50μg/ml Cmと共に37℃で一晩培養した。10mlの培養試料を10μg/mlのKmと50μg/mlのCmを含む1LのLBに接種し、37℃で1時間半~2時間培養した。OD600値が0.3~0.5に達した時、200μlの1M IPTGを1Lの試料に参加し、試料を37℃で3時間培養した。ClfAN2N3、ClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrDN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3ドメインを精製するために、培養溶液を4℃で7,000xgで20分間遠心分離した。-80℃で30分間ペレットを凍結させた後、ペレットを150mM NaCl、5mMイミダゾール、0.1%triton X-100、および5mgリゾチーム(Bioshop、Canada)を含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)40mlとcompleteTM EDTA-freeプロテアーゼ抑制剤カクテル(Merck、USA)に浮遊させ、常温で15分間培養した。バクテリア細胞壁を壊すために、試料を氷上で30分間超音波処理した。混合物を4℃で20分間20,400xgで遠心分離した後、上澄液を収集して、0.45μmのシリンジ膜フィルタで濾過した。発現した組換えタンパク質をNi-セファロース6高速カラム(GELifeScience、USA)で精製した。要するに、試料に適用する前に、Ni-セファロースカラムを150mM NaClおよび5mMイミダゾールを含有する20mMリン酸ナトリウム(pH7.4)(緩衝液A)で平衡化した。濾過した溶液をカラムにローディングし、カラムを緩衝液Aで洗浄後、タンパク質を段階的勾配で150mM NaClおよび500mMイミダゾール含有20mMリン酸ナトリウム(pH7.4)でそれぞれ溶出した。溶出された分画を収集して、還元条件下でSDS-PAGE分析を行った。
【0136】
CWAPN2N3ドメイン-カップリングされたセファロース親和度カラムの作製
組換えCWAPN2N3ドメインとCNBr-活性化されたセファロースビーズ(GE Health Care)との間のカップリングは製造会社のプロトコルに従って行った。要するに、CNBr-活性化されたセファロースビーズ1gをカップリング緩衝液(0.1M NaHCO3、pH8.5)で3回洗浄し、1mlのカップリング緩衝液に溶解した5mgのCWAPN2N3タンパク質を添加した後、カップリング緩衝液4mlに浮遊させた。2時間常温で培養後、ビーズをカップリング緩衝液で3回洗浄した。以後、ビーズを1Mエタノールアミン(pH8.0)4mlと共に4時間常温で培養した後、280nmでUV吸光度が現れないまで0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.2)で洗浄し、4℃で保管した。
【0137】
ラビットにおけるCWAPN2N3ドメイン認識抗体の生産
500μlのPBSに溶解した500μgの精製されたCWAPN2N3ドメインを完全フロイント補助剤(CFA、Sigma-Aldrich)500μlと混合してエマルジョンを得た。エマルジョンをラビットに皮下注射した後、同量の抗原を混合し、7日後に500μlの不完全フロイント補助剤(IFA、Sigma-Aldrich)と共に注射した。1週間後、ラビット耳静脈から血液500μlを採取し、ウェスタンブロットでIgGの生成を調べた。IgGの形成が確認されると、ラビット血清を取って-80℃に保管した。
【0138】
ラビット血清から抗-CWAPN2N3認識IgGの精製
S.aureusタンパク質がカップリングされたセファロースカラム(Sigma-Aldrich)を溶出緩衝液(0.15Mグリシン/HCl、pH2.2)で洗浄した後、カラムを洗浄緩衝液(0.1M NaClを含む0.1Mリン酸ナトリウム、pH7.4)で平衡化した。抗原-免疫化されたラビット血清(2ml、タンパク質約100mg)をカラムにローディングした後、カラムを洗浄緩衝液で洗浄し、IgGを溶出緩衝液で溶出した。収集されたIgGを中和緩衝液(1M Tris/HCl緩衝液、pH9.0)で迅速に中和させた。以後、CWAPN2N3ドメイン-カップリングされたセファロースカラムに入れ替え、カラムを溶出緩衝液(0.15Mグリシン/HCl、pH2.2)で洗浄した後、洗浄緩衝液(0.1M NaClを含む0.1Mリン酸ナトリウム、pH7.4)で平衡化した。タンパク質Aカラムに収集されたIgG(タンパク質約6mg)をカラムにローディングし、カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、IgGを溶出緩衝液で溶出した。収集されたIgGを中和緩衝液(1M Tris/HCl緩衝液、pH9.0)で迅速に中和させた。緩衝液をPBSに入れ替えた後、収集されたIgGを還元および非還元条件下でSDS-PAGEで分析した。
【0139】
ラビットIgGからF(ab’)2切片の作製
本発明で用いられるF(ab’)2切片は従来報告された方法で製造された(Hymes AJ et al.,1979.J Biol Chem254:3148-51)。抗-ヒトFH-IgG F(ab’)2切片の製造方法は、他のF(ab’)2切片の製造にも典型的に適用される。まず、S.aureusタンパク質-カップリングされたセファロースカラム(Sigma-Aldrich)を用いてゴート抗-ヒトFH-IgGを精製した。要するに、500μl(タンパク質40mg)のゴート-抗-ヒトFH(Complement Technology,Inc.)を緩衝液A(0.1M NaClを含む0.1Mリン酸ナトリウム、pH7.4)で平衡化させたタンパク質カラム(1.5×8cm、10ml)にローディングし、カラムを緩衝液Aで洗浄後、280nmでUV吸光度をモニタリングしながら、結合したIgGを緩衝液B(0.15Mグリシン/HCl、pH2.2)で溶出した。収集されたIgGを1M Tris/HCl(pH9.0)でpH7.5になるまで直ちに中和させ、収集されたIgGをCentricon(Merck Millipore Ltd.)上で濃縮した後、2.5mgのゴートFH IgGおよび50μgのペプシン(Sigma-Aldrich)を0.1Mアセテート緩衝液(pH4.2)500μlと混合した後、37℃で18時間培養した。100mM NaClを含む冷たいリン酸緩衝液(pH7.4)100mMで緩衝液交換をしながら反応を終了した後、還元および非還元条件下でIgGが適切に切断されたかを確認した。反応進行時に消化溶液を濃縮して緩衝液Aと交換し、F(ab’)2切片を含むタンパク質カラムの流体分画を収集した。
【0140】
ヒトIVIgからヒトCWAPN2N3認識IgGの精製
商業的に購入可能な静脈注射用IgG(IVIg、タンパク質500mg)5mlをCWAPN2N3カップリングされたセファロースカラム(SdrE、FnbpA:1mlのビーズ;ClfA、FnbpB:3mlのビーズ)にローディングし、上述した方法で洗浄した。ヒト抗-CWAPN2N3認識IgGを溶出し、上述した方法で中和した。得られたヒトIgGを還元および非還元条件下でSDS-PAGEで分析した。
【0141】
ドットブロット免疫アッセイ
CWAPN2N3(ClfAN2N3、ClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrDN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3)のN2-N3ドメイン3μgおよび陰性対照群であるBSAをPVDF膜(Immobilon-PSQ Transfer Membrane、Merck、USA)にスポッティングして乾燥させた。膜をTBS中の5%脱脂乳で常温で2時間ブロッキングし、5%脱脂乳700μlに溶解した精製されたヒトフィブリノーゲン(Sigma-Aldrich、USA)、精製されたヒトフィブロネクチン(Sigma-aldrich、USA)、ヒトFH(Complement Technology、USA)およびヒトFI(Complement Technology、USA)各7μgと共に培養した。以後、膜をTBSTで10分間3回洗浄し、6000倍希釈された一次抗体[ラビット-抗-ヒトフィブリノーゲン-IgG(Sigma-Aldrich、USA)、ラビット-抗-ヒトフィブロネクチン-IgG(Sigma-Aldrich、USA)、ゴート抗-ヒトFH-IgG(Complement Technology、USA)およびゴート抗-ヒトfactor I-IgG(cat.No.A238、Complement Technology、USA)]と共に常温で1時間培養した。膜をTBSTで10分間3回洗浄し、3000倍希釈された二次抗体(マウス抗-ラビットIgG HRPまたはドンキー抗-ゴート-IgG-HRP、Santacruz、USA)と共に1時間常温で培養した。以後、膜を10分間3回洗浄し、増強化学発光(ECL)試薬(pico EPD、Elpis-Biotec、Korea)と共に1分間培養した。
【0142】
フローサイトメトリー分析
FHとS.aureusとの結合を定量するためにFACS分析を行った。バクテリアを血液プレート上で一晩培養し、PBSに浮遊させた。バクテリアをPBSで2回洗浄後、600nmにおける吸光度の測定によりバクテリア数を計測した。ClfAN2N3、SdrCN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3ラビットF(ab’)2切片のCWAPN2N3ドメイン20μgをUSA300(2×107細胞)と共に4℃で1時間培養した。以後、試料を4℃で3分間1,500xgで遠心分離後、バクテリアペレットを200μlのPBSで2回洗浄した後、バクテリアをPBSに浮遊させ、30μgのFHを添加して4℃で1時間培養した。以後、試料を4℃で3分間1,500xgで遠心分離し、バクテリアペレットを200μlのPBSで2回洗浄した。以後、バクテリアを多クローンゴート抗-ヒトFH Fab’2-FITC接合体と共に20μlのPBSに再浮遊し、氷上で1時間培養した。S.aureus細胞を30秒間超音波処理してフローサイトメトリー分析を行い、10000回の測定結果を記録した。
【0143】
CWAPN2N3ドメインの存在下でヒトFH/FI複合体によるC3bのiC3bへの切断
3μgのCWAPN2N3ドメイン、BSAおよびゴート抗-ヒトFH-IgG(1000:1希釈)を含む、25mM炭酸ナトリウムと25mM重炭酸ナトリウム(pH9.6)からなるコーティング緩衝液20μlを微細力価プレートにコーティングした。PBSTで3回洗浄後、ウェルをPBS中の0.2%BSA100μlと共に常温で2時間培養し、PBS中のTween20(pH7.4)0.05%を含むPBSTで3回洗浄した。以後、精製されたヒトFH0.37μgを添加した。陰性対照群としてヒトFHの代わりにPBSを添加した。30分間培養した後、ウェルをPBSTで3回洗浄し、精製されたC3b1μgおよび精製されたヒトFI1μgを含む混合物75μlを各ウェルに添加し、37℃で3時間培養した。培養後、上澄液を抽出し、6000:1に希釈されたゴート抗-ヒトC3-IgG(Complement Technology、USA)を一次抗体として用いたウェスタンブロットにより生成されたiC3bの量を測定した。以後、膜をTBSTで3回洗浄し、二次抗体であるドンキー抗-ゴート-IgG-HRP(Santacruz、USA)と共に培養した。ECL試薬を1分間処理後、上述した方法でイメージを得た。
【0144】
S.aureus USA300 LAC生菌上でのヒトFHの検出
100μlのPBSにバクテリア(1×105CFU)を用意し、5μgのCWAPN2N3ドメインと0.5μgのFHを添加して4℃で1時間培養した。以後、試料を4℃で3分間1,500xgで遠心分離し、上澄液90μlを収集した後、バクテリアペレットを200μlのPBSで2回洗浄した。最後に、バクテリアペレットを90μlのPBSに浮遊させた。各浮遊されたバクテリアペレットと収集した上澄液を6-15%勾配SDS-PAGEゲルにローディングした。ゲル電気泳動後、4℃で0.45μmのPVDF膜(Immobilon-P Transfer Membrane、Merck、USA)に移し、膜をTBST中の5%脱脂乳で常温で1時間ブロッキングした。以後、膜を一次抗体であるゴート抗-ヒトFH-IgGと共に培養し、TBSTで3回洗浄した後、二次抗体であるドンキー抗-ゴート-IgG-HRP(Santacruz、USA)と共に培養した。ECL試薬を1分間処理した後、上述した方法でイメージを得た。
【0145】
CWAPN2N3ドメインの存在下のiC3b量の測定
S.aureus USA300 LAC菌株(1×105CFU)をGVB++100μlに作製した。10μgのCWAPN2N3および0.1μgのヒトFHを添加後、4℃で1時間培養した後、試料を4℃で3分間1,500xgで遠心分離し、90μlの上澄液を収集した。バクテリアペレットを200μlのPBSで2回洗浄し、GVB++中の1.5μgの精製されたC3b、0.25μgの精製されたヒトFIを上澄液およびペレットに添加した後、37℃で3時間培養した。各ペレットと収集された上澄液を6-15%勾配SDS-PAGEゲルにローディングした。ゲル電気泳動後、バンドを4℃でPVDF膜に移した。膜をTBST中の5%脱脂乳で1時間常温でブロッキングした後、一次抗体であるゴート抗-ヒトC3-IgGと共に培養した。以後、膜をTBSTで3回洗浄し、二次抗体であるドンキー抗-ゴート-IgG-HRP(Santacruz、USA)と共に培養した。ECL試薬を1分間処理した後、上述した方法でイメージを得た。
【0146】
他のCWAPN2N3ドメインに対するラビット抗-CWAP-F(ab’)2の結合特異性の調査
1μgのCWAPN2N3ドメイン(ClfAN2N3、ClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrDN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3)をPVDF膜にスポッティングして乾燥させた。膜をTBS中の5%脱脂乳で2時間常温でブロッキングし、6,000:1希釈された一次抗体(抗-CWAPN2N3ドメイン認識ラビットFab’2)と共に5%脱脂乳で1時間常温で培養した。膜をTBSTで10分間3回洗浄し、3000:1希釈された二次抗体(マウス抗-ラビットIgG HRP、Santacruz、USA)と共に5%脱脂乳で1時間常温で培養した。以後、膜をTBSTで10分間3回洗浄し、ECL試薬(pico EPD、Elpis-Biotec、Korea)と共に1分間培養した後、上述した方法でイメージを得た。
【0147】
他のCWAPN2N3ドメインに対するラビットおよびヒト抗-CWAP-IgGの結合特異性の調査
200ngのCWAPN2N3ドメイン(ClfAN2N3、ClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrDN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3)をSDS-PAGEゲルにローディングした。ゲル電気泳動後、バンドを4℃でPVDF膜に移した後、TBS中の5%脱脂乳で常温で1時間ブロッキングし、6,000:1希釈された一次抗体(抗-CWAPN2N3ドメイン認識ラビットおよびヒトIgG)と共に1時間常温で培養した。膜をTBSTで10分間3回洗浄し、3000:1希釈された二次抗体(マウス抗-ラビットIgG HRP、ゴート抗-ヒトIgG HRP、Santacruz、USA)と共に5%脱脂乳で1時間常温で培養した。以後、膜をTBSTで10分間3回洗浄し、ECL試薬(pico EPD、Elpis-Biotec、Korea)と共に1分間培養した後、上述した方法でイメージを得た。
【0148】
ヒト全血におけるCWAPN2N3ドメインおよび精製されたヒトまたはラビットCWAPN2N3認識IgGのS.aureusの死滅活性
ヒト全血を用いたオプソニン食作用によるバクテリア死滅アッセイを従来報告された方法により行った(van der Maten E et al.,2017.Sci Rep7:42137)。要するに、精製されたCWAPN2N3タンパク質、ヒトおよびラビット抗-CWAPN2N3-IgGをPBSで0.5mg/mlに希釈し、100μlの新鮮な全血を1.5mlのチューブに添加した後、10μlのタンパク質またはIgG(5μg)の混合物を同一のチューブに添加し、ボルテックスした。最後に、100μlのUSA300細胞(1×105細胞/ウェル)を添加後に10回浮遊させ、10~20秒間ボルテックスした。混合物を37℃で3時間培養後、バクテリアを順次希釈し、TSB寒天プレートまたは羊血(sheep blood)プレートに塗抹してCFUを測定した。
【0149】
データプロセッシングおよび統計的分析
他に記載されない限り、各実験は最小3回独立して行われ、実験結果は平均±標準偏差で表した。他の実験結果は類似の結果値を有する最小3回の独立的実験の代表値である。統計的有意性は独立スチューデントt-検定またはGraphPad Prismソフトウェアを用いたログ順位法により測定した。P値が0.05以下の場合、統計的有意性があると見なした。
【0150】
実験結果
細胞壁関連タンパク質(CWAP)の3つのN2-N3ドメインはヒト補体因子H(FH)と結合する。
ブドウ状球菌CWAPのN2-N3ドメイン(「CWAPN2N3」と称する)がヒト血清内の新規なリガンド分子を認識するかを調べるために、7つのCWAPN2N3のコード領域(6x Hisでタギングされた約350-370アミノ酸、図16Aおよび16B)をPCRで増幅し、PCR産物(図のS1)をpET28aベクターにクローニングして発現コンストラクト(pET28a-CWAPN2N3)を製造した。His-タギングされた組換えCWAPN2N3を過剰生産するために、pET28a-CWAPN2N3を有するE.coli BL21(DE3)細胞を0.2mM IPTGで37℃で3時間刺激した。ニッケル-親和度カラムで精製されたタンパク質は予想分子量の35~45kDaに一致するようにSDS-PAGE上を移動した(図16C)。精製されたCWAPN2N3の収率は培養培地1Lあたり15-20mgと計算された。
【0151】
CWAPN2N3は類似の3次元構造を有するので(Arora S,et al.,2016.Front Microbiol7:540)、本発明者らは、フィブリノーゲン(Fg)、フィブロネクチン(Fn)、補体因子H(FH)および補体因子I(FI)の4つのヒトタンパク質が7つのCWAPN2N3をインビトロで認識するかを調べようとした。Ponceau S染色で同量のタンパク質がPVDF膜にブロッティングされたことを確認した後、各PVDF膜ストリップを各7μgのヒトFg、Fn、FHおよびFIタンパク質と共に培養してドットブロット免疫アッセイを行った。未結合タンパク質を洗浄した後、膜上の結合タンパク質を抗-Fg-、Fn-、FH-およびFI-IgGを用いて試験した(図17A)。前記条件で、ヒトFgは、従来報告されたように、FnbpAN2N3と高い特異的結合力を示したのに対し(Deivanayagam CC et al.,2002.Embo j21:6660-72.)、FnはFnbpBN2N3と特異的に結合して(Broker BM et al,2014.Int J Med Microbiol304:204-14)、2つのFnbpN2N3タンパク質がヒトFgおよびFnタンパク質と高い結合力を有することが分かった。また、ヒトFHはClfAN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3およびFnbpBN2N3の4つのCWAPN2N3によって認識される。同一の条件で、ClfAN2N3、SdrCN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3およびFnbpBN2N3の5つのCWAPN2N3タンパク質はFIに対する結合能力を示した。興味深いことに、ClfBN2N3およびSdrDN2N3はこれら4つのヒトタンパク質に対する結合能を示さなかった。FnbpAおよびFg、FnbpBN2N3およびFn、そしてSdrEN2N3およびFHまたはFIの間の相互作用は報告されているが(Sharp JA,et al.,2012.PLoS One7:e38407;Bingham RJ et al.,2008.Proc Natl Acad Sci USA105:12254-8;Burke FM e al.,2011.FEBS J278:2359-71;Zhang Y et al.,2017.Biochem J474:1619-163130)、ClfAN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3およびFH、FIの間の相互作用は知られていない。
【0152】
もし、これらのCWAPN2N3ドメインがヒトFHと結合できれば、FH-結合CWAPN2N3ドメインはFIの存在下で補体であるC3bがiC3bに転換されるように誘導することができる。このような可能性を立証するために、SdrEN2N3および抗-FH-IgGタンパク質をすべて陽性対照群として用いたが、これはSdrEN2N3がヒトFHと結合することが知られており(Sharp JA et al.,2012.PLoS One7:e38407;Zhang Y et al.,2017.Biochem J474:1619-1631)、抗-FH-IgGはFHに結合するからである。図17Bに示すように、7つのCWAPN2N3タンパク質を陽性対照群タンパク質と共にマイクロプレートにコーティングし、陰性対照群としてBSAもコーティングした。FHと共に培養した後、未結合FHを洗い流した。C3bおよびFIを添加した後、プレートを37℃で3時間培養した。形成されたiC3bを抗-C3-mAbを用いたウェスタンブロットで検出した(図17B)。予想どおり、BSA-コーティングされた分画はFH/C3b/FIを添加してもiC3bの42kDa切片をほとんど形成できず(レーン1)、BSAがFHを誘引できないことが分かった。しかし、SdrEN2N3-および抗-FH-IgG-コーティングされた分画はFH/C3b/FIの存在下で42kDa切片を明確に形成したが(レーン11および17)、FI/C3bのみ添加する時はそうではなく(レーン12および18)、これにより、SdrEN2N3および抗-FH-IgGがFHを引き寄せてFIによってC3bをiC3bに変換させることが分かった。同一の条件で、ClfAN2N3、FnbpAN2N3およびFnbpBN2N3-コーティングされた分画はFH、C3bおよびFIを添加することで42kDa切片を生成したが(それぞれレーン3、13および15)、FHが存在しない場合、そうではなかった(レーン4、14および16)。このような結果を通して、ClfAN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3およびSdrEN2N3ドメインがヒトFHと結合することができ、FHはFIを引き寄せることにより、インビトロで補体C3bがiC3bに加水分解されるようにすることを改めて確認できた。
【0153】
FH-結合CWAPN2N3タンパク質の添加によってFHがS.aureus細胞表面に集まることができず、これによってC3bのC3bへの変換が減少する。
4つのS.aureus CWAPがFHに結合できることを確認したので、FHがCWAPを発現する、生きているS.aureus細胞に移動することが、FH-結合CWAPN2N3タンパク質を添加することで抑制できるかを調べようとした。このために、S.aureus USA300 LAC生菌細胞をFHおよび5つの異なるタンパク質(ClfAN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3およびSdrC)と共に培養した(図18A)。PBS下で、添加されたすべてのFHタンパク質はバクテリア表面(ペレット)に移動し(レーン2)、上澄液(レーン1)には存在しなかった。ClfAN2N3、SdrEN2N3およびFnbpAN2N3の場合、添加されたFHのほぼ半分が上澄液(レーン3、5および7)に、残りの半分がペレット(レーン4、6および8)に存在した。予想どおり、FnbpBN2N3を添加すると、バクテリア表面のFHの増加が完全に抑制されて(レーン10)、添加されたFHの大部分が上澄液に蓄積された(レーン9)。逆に、FHとの結合能がないことが明らかになったSdrCN2N3の場合(図17A)、添加されたすべてのFHが上澄液でないバクテリア表面に移動することにより(レーン12)、SdrCN2N3タンパク質はFHとS.aureusの結合に抑制効果がないことが確認された(レーン11)。まとめると、このような結果は、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3、SdrEN2N3およびClfAN2N3の4つのFH-結合タンパク質がFHと結合することで、バクテリア表面で発現するCWAPタンパク質の競争的抑制剤として機能することを表す。4つのタンパク質のうち、FnbpBN2N3はS.aureus表面へのFHの移動を著しく抑制した。
【0154】
このような観察結果を追加的に検証するために、本発明者らは、FH-認識CWAPN2N3タンパク質がS.aureus USA300細胞表面でFH-媒介iC3bの形成を遮断するかを調べようとした。FH-結合CWAPN2N3タンパク質がない条件下でS.aureus細胞をFH/C3b/FIと共に培養する場合、バクテリア表面に移動したFHが100kDaのC3bからより多量の43kDa iC3b切片を生成すると予想され、FH-結合CWAPN2N3タンパク質を添加する場合、CWAPsN2N3タンパク質がFHを捕集するため、少量のFHのみがバクテリア表面に移動してより少量の43kDa iC3bがバクテリア表面に蓄積されると予想された。このような可能性を確認するために、S.aureus USA300細胞をFH/C3b/FIおよび各5つのタンパク質と共に培養すると(図18B)、PBSおよびSdrC添加分画で生成されたiC3bの量は4つのFH-結合CWAPN2N3タンパク質においてより高かった(それぞれレーン1および3vsレーン2、4-6)。このような結果は、FH-結合CWAPN2N3タンパク質がFHを捕集することでC3bからiC3bに転換されることを抑制し、これにより、バクテリア表面でFI-媒介されたC3bからiC3bへの転換を遮断することを示す。
【0155】
ラビット抗-CWAPN2N3 F(ab’)2切片はFHのS.aureus表面への移動を抑制する。
次に、ラビット抗-FH-結合CWAPN2N3-IgGも同じくS.aureus USA300生菌細胞表面にFHが移動することを抑制できるかを調べようとした。このために、ラビット抗-ヒトFH-IgGまたはラビット抗-CWAPN2N3-IgGを使用するにはS.aureusタンパク質がIgGのFcドメインに結合することで非特異的にIgGを捕集するという点で難点があった。これを解決するために、固有のFH-IgGにペプシンを処理して6つの異なるF(ab’)2切片を作製した(図23)。図24Aに示すように、精製された抗-FH-Fab’2および5つの抗-CWAPN2N3 F(ab’)2切片は非還元条件で100kDa、還元条件下で25kDaの大きさを示して、すべての抗-F(ab’)2切片が適切に作製されたことを確認した。同系抗原に対する6つの精製された抗-F(ab’)2切片の結合特異性を調べた結果、ClfAN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3およびFHの4つのF(ab’)2切片がこれらの同系抗原を特異的に認識したが(図24Bおよび24C)、SdrCN2N3およびSdrEN2N3の2つのF(ab’)2切片はSdrDN2N3およびFnbpBN2N3をそれぞれ弱く認識して(図24C)、作製された6つのF(ab’)2切片が所望する特性を整えたことを確認した。
【0156】
図19Aに示すように、USA300細胞をFHと共培養する場合、FITC-接合抗-FH-Fab’2切片はバクテリア表面に移動したFHをうまく認識して、FHがUSA300生菌細胞のCWAPタンパク質に結合することが分かった。さらに、生バクテリアの4つのCWAPN2-N3タンパク質とFHの結合特異性を調べるために、S.aureus USA300細胞(2×107細胞)を先に5つの異なる抗-CWAP F(ab’)2切片(タンパク質量各20μg)と培養し、バクテリア細胞を洗浄して未結合抗-CWAP F(ab’)2切片を除去した。以後、S.aureus USA300細胞を精製されたFH(タンパク質量各30μg)と培養した後、バクテリア細胞を洗浄して未結合FHを除去した。以後、各抗-CWAP F(ab’)2切片処理されたバクテリア細胞表面に移動したFHの量をFITC-接合抗-FH-Fab’2切片を用いたFACS分析で調べた(図19A)。3つの抗-CWAPN2N3-F(ab’)2切片(SdrE、FnbpAおよびFnbpB)を処理したバクテリア細胞は、抗-F(ab’)2切片-未処理細胞に比べてFHの結合が特異的に抑制されたが(図19Aのc-e vs a)、抗-ClfA F(ab’)2切片の処理は低いレベルの抑制効果だけを示した(図19Aのb)。予想どおり、20μgの抗-SdrC-F(ab’)2切片を処理してもFHとUSA300細胞の結合に影響を及ぼさなかった(図19Aのf)。まとめると、このような結果は、精製された4つの抗-CWAPN2N3抗体が生バクテリア表面で発現するCWAPタンパク質とFHとの結合を遮断できることを改めて確認するものである。
【0157】
FACSデータに基づいて、バクテリア表面に移動したFHの量を定量した(図19B)。予想どおり、抗-FnbpB-F(ab’)2切片はFHのS.aureus細胞表面への結合を対照群対比60%抑制した(カラム6vs1)。抑制能は抗-SdrE(50%、カラム4)>FnbpA(40%、カラム5)>ClfA-Fab’2(30%、カラム6)の順に次第に減少した。抗-SdrC-F(ab’)2切片はほとんど抑制効果を示すことができず(10%、カラム3)、このような結果は図2Aの結果と一致するものである。
【0158】
精製されたラビットFH-結合CWAPN2N3タンパク質およびこれらの抗体はS.aureus USA300細胞に対するヒト全血-媒介バクテリアの死滅活性を強化する
本発明者らは、ヒト静脈注射IgG(IVIg)およびラビット血清からそれぞれIgGを認識するヒトおよびラビット抗-CWAPN2N3ドメインを得るならば、これらの抗-FH-結合CWAPN2N3-認識IgGがS.aureus CWAPタンパク質に結合するはずであり、このような結合によりS.aureus表面にFHが移動することを遮断し、窮極的に宿主食細胞によるC3b-媒介オプソニン食作用を強化できると仮定した。これを立証すべく、抗-ClfAN2N3、抗-SdrEN2N3、抗-FnbpAN2N3および抗-FnbpBN2N3-IgGのような精製されたヒトおよびラビット抗-CWAPN2N3認識IgGを精製した。これら4つのIgGの精製はこれらの特異的タンパク質-接合セファロースカラムを用いて行われた。健康なヒト血清は抗-S.aureus CWAP-特異的-抗体を含むことが知られたので(Dryla A et al.,2005.Clin Diagn Lab Immunol12:387-98)、ヒト血清源として商業的に購入可能なヒトIVIgを使用した。ラビット血清はCWAPN2N3ドメインをラビットに3回接種して得た。ヒトIVIgまたは抗-CWAPN2N3ドメイン-接種されたラビット血清をCWAPN2N3-接合カラムにローディングした後、ラビット抗-CWAPN2N3ドメイン認識-IgG(図24)およびヒト抗-CWAPN2N3ドメイン認識-IgG(図25)を溶出した。その結果、ヒトIVIgは約0.1%の抗-CWAPsN2N3ドメイン-認識IgGを、ラビット血清は約1%の抗-CWAPN2N3ドメイン-認識IgGをそれぞれ含有した。これら4つのIgGの純度をSDS-PAGEで還元および非還元条件で調べた結果(図26)、精製されたIgGは非還元条件で四量体(tetramer)を形成することが分かった。
【0159】
次に、精製されたラビットおよびヒトIgGの各抗原(FnbpAN2N3、FnbpBN2N3、ClfAN2N3およびSdrEN2N3ドメイン)に対する特異性をウェスタンブロットまたはドットブロットでそれぞれ調べた。図20Aに示すように、4つのラビット抗-CWAPN2N3-認識IgGは7つのCWAPN2N3ドメインに対するこれらの同系抗原を特異的に認識するが、精製されたヒト抗-CWAP-IgGはClfAを除いた広範囲な認識パターンを示した(図20B)。例えば、抗-SdrEN2N3-IgGはClfAおよび3つのSdrファミリーの4つの抗原を認識した。また、抗-FnbpAN2N3ドメインは3つのSdrおよび2つのFNBPファミリーの5つの抗原を認識した。抗-FnbpBN2N3-IgGもClfBN2N3、SdrEN2N3および2つのFnbpN2N3タンパク質の4つの抗原を認識した(図20B)。このような結果は、ヒト抗-CWAPN2N3-IgGがラビット抗-CWAPN2N3-IgGに比べてより広範囲な認識パターンを有することを表す。
【0160】
最後に、本発明者らは、CWAPN2N3ドメインまたはこれらの精製された抗体のオプソニン食作用-媒介バクテリアの死滅活性を調べようとした。S.aureus USA300細胞(1×105細胞)を100μlのヒト全血中のCWAPN2N3ドメインタンパク質(5μg)と共に37℃で3時間培養した後、S.aureus USA300 LAC細胞のCFU(colony-forming unit)を測定した。各CWAPN2N3ドメインを添加すると、CFUは対照群に比べて有意に減少した(図21A)。このような結果は、CWAPN2N3ドメインがS.aureus細胞表面にFHが移動することを抑制してC3bの蓄積を増加させ、宿主食細胞によるC3b-媒介オプソニン食作用を誘導できることを裏付ける。同じく、ヒト全血を用いてS.aureus USA300 LAC細胞に対するヒトおよびラビット抗-CWAPN2N3-IgG-媒介バクテリアの死滅効果を調べた(図21Bおよび21C)。ヒト抗-CWAPN2N3-IgG(5μg)を100μlのヒト全血においてS.aureus USA300 LAC細胞(1×105細胞)と3時間37℃で培養すると、CFUはPBS、ヒトIVIgおよび純粋ラビット血清のような対照群に比べて2-4倍減少した(図21Bおよび21C)。さらに、抗-ClfAN2N3およびFnbpBN2N3 IgGの混合物をバクテリアおよび全血の混合物に添加すると、同じくCFUが対照群に比べて減少した(図21B)。また、5μgのラビット抗-ClfA、抗-FnbpBおよび抗-FNBPAN2N3-IgGの混合物をバクテリアおよび全血の混合物に添加すると、CFUが純粋ラビットIgGより2倍減少した(図21C)。ラビットIgGの場合、4つのIgG混合物が1つのIgGよりも高いバクテリアの死滅活性を示した。まとめると、このような結果は、抗-CWAPN2N3ドメインIgGがヒト全血と培養時にS.aureus USA300 LAC菌株に対する特異的バクテリアの死滅活性を有することを表す。
【0161】
実施例3:血液凝固抑制因子の選定
実験方法
組換えCoaおよびvWbpタンパク質の精製
ポリヒスチジン-タギングされた6つの組換えタンパク質(Coawhole、CoaN、CoaC、vWbpwhole、vWbpNおよびvWbpC)をクローニングし、E.coli発現システムを用いて発現させた。これらの遺伝子はUSA300ゲノム配列からQ5 High Fidelity DNA重合酵素(Thermo Fisher Scientific)を用いたPCRにより増幅した。PCR産物をpET28a-ベクターにクローニングしてN-末端またはC-末端に6x His-タギングされたタンパク質を発現させた。クローニングされた組換えタンパク質を精製するために、6x His-タグをN-およびC-末端の両側に挿入し、得られたクローンをシーケンシングして構造を確認した。組換えタンパク質は0.2mMイソプロピル-lβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG、0.2mMの濃度)を用いてBL21 pLysS E.coliで発現した。発現したタンパク質はNi-セファロース6高速レジン(GE healthcare、17-5318-01、5ml)とローディング緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、0.1%triton X-100、150mM NaCl、5mMイミダゾール、pH7.4)、洗浄緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、5mMイミダゾール、pH7.4)および溶出緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、500mMイミダゾール、pH7.4)を用いて精製した。
【0162】
精製された組換えCoaおよびvWbpドメインタンパク質のSDS-PAGE分析
3μgの各ドメインタンパク質(Coawhole、CoaN、CoaC、vWbpwhole、vWbpN、vWbpC)を4Xローディングサンプリング緩衝液(LSB、SH+)と混合し、15%SDS-PAGEゲルに1時間ローディングした(35mA、600V、100W)。
【0163】
CoaおよびvWbpタンパク質抗体を得るためのラビット接種
500μlのPBSに溶解したS.aureus CoaおよびvWbpタンパク質の精製された単一成分500μgを500μlの完全フロイント補助剤(Sigma-Aldrich)と混合してエマルジョンを作製した。各エマルジョンをラビットに皮下注射後、2週後に同量の抗原を500μlの不完全フロイント補助剤(Sigma-Aldrich)と混合して皮下注射した。2週後、ラビット耳静脈から血液500μlを取り、各抗原のIgG形成の有無をウェスタンブロットで調べた。抗体が形成された場合、ラビット全血を収集して血清を得ており、使用前まで-80℃で保管した。
【0164】
CoaおよびvWbpの異なるドメインタンパク質に対する抗体-特異性の調査
3μgの各ドメインタンパク質(Coawhole、CoaN、CoaC、vWbpwhole、vWbpN、vWbpC)および陰性対照群タンパク質(BSA)をPVDF膜(0.22μm、Immobilon-PSQ Transfer Membrane、Merck、USA)にスポッティングして乾燥させた。膜をTBS中の5%脱脂乳で2時間常温でブロッキングし、5%脱脂乳で3,000:1に希釈された一次抗体(抗-Coawhole、CoaN、-vWbpwhole、-vWbpN)と共に1時間常温で培養した。膜をTBSTで10分間3回洗浄し、5%脱脂乳で6000:1に希釈された二次抗体(マウス抗-ラビットIgG HRP、Santacruz、USA)と共に1時間常温で培養した。以後、膜をTBSTで10分間3回洗浄し、ECL試薬(pico EPD、Elpis-Biotec、Korea)と共に1分間培養した。
【0165】
S.aureus USA300培養中のCoaおよびvWbpタンパク質の発現パターン
USA300を10ml RPMIで37℃、180rpmで一晩培養した。以後、1mlのバクテリアシード(seed)培養溶液を50mlのRPMIに添加し、37℃、180rpmで培養しながら、各時間(0h、1.5h、3h、6h、9h、12h)別にバクテリア培養溶液1mlを取った。以後、採取したバクテリア培養溶液の吸光度(OD600)を測定し、常温で3分間4,400xgで遠心分離した。20μlのバクテリア上澄液を15%SDS-PAGEゲルにローディングし、電気泳動後にバンドを4℃でPVDF膜に移した。膜をTBST中の5%脱脂乳で1時間常温でブロッキングした。以後、膜を一次抗体である抗-ラビット-Coawhole-および抗-ラビット-rvWbpwhole-IgGと共に培養した。膜をTBSTで3回洗浄し、二次抗体であるマウス抗-ラビット-IgG-HRP(Santacruz、USA)と共に培養した。ECL試薬を1分間処理した後、イメージを得た。
【0166】
S.aureus細胞表面で発現するCoaおよびvWbp-認識タンパク質の同定
7つの組換えMSCRAMM(ClfAN2N3、ClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrDN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3、FnbpBN2N3)のN2-N3ドメイン3μgと陰性対照群であるBSAをPVDF膜(Immobilon-PSQ Transfer Membrane、Merck、USA)にスポッティングして乾燥させた。膜をTBS中の5%脱脂乳で2時間常温でブロッキングし、700μlの5%脱脂乳に溶解した精製された各組換えタンパク質であるCoawhole、CoaN、CoaC、vWbpwhole、vWbpN、vWbpC各7μgと共に培養した。以後、膜をTBSTで10分間3回洗浄し、3,000:1に希釈された一次抗体(抗-ラビット-Coawhole-IgG、抗-ラビット-CoaN-IgG、抗-ラビット-CoaC-IgG、抗-ラビット-vWbpwhole-IgG、抗-ラビット-vWbpN-IgG、抗-ラビット-vWbpC-IgG)と共に1時間常温で培養した。膜をTBSTで10分間3回洗浄し、6000:1希釈された二次抗体(マウス抗-ラビットIgG HRP、Santacruz、USA)と共に5%脱脂乳で1時間常温で培養した。以後、膜をTBSTで10分間3回洗浄し、増強化学発光(ECL)試薬(pico EPD、Elpis-Biotec、Korea)と共に1分間培養した。
【0167】
抗-Fnbp-F(ab’)2切片を用いたCoaおよびFnbpタンパク質の間の結合特異性の確認
3μgのCoaCタンパク質または20μgの抗-FnBp-F(ab’)2および陰性対照群である抗-SdrC-F(ab’)2切片と共にバクテリア(USA300、1×105CFU)を4℃で1時間培養した。以後、試料を4℃で3分間4,400xgで遠心分離し、バクテリアペレットを500μlのPBSで2回洗浄した。各浮遊されたバクテリアペレットを15%勾配SDS-PAGEゲルにローディングし、電気泳動後にバンドを4℃で0.45μmのPVDF膜(Immobilon-P Transfer Membrane、Merck、USA)に移した。膜をTBST中の5%脱脂乳で常温で1時間ブロッキングし、一次抗体である抗-ラビット-CoaC-IgGと共に培養した。以後、TBSTで3回洗浄し、二次抗体であるマウス抗-ラビットIgG HRP(Santacruz、USA)と共に培養した。ECL試薬を1分間処理した後、イメージを得た。
【0168】
精製されたCoawholeまたはvWbpwholeの各用量による血液凝固の誘導
ヒルジン処理されたヒト血液200μlを5mlの丸底チューブに入れて、多様な用量のCoawholeおよびvWbpwhole(1μg、5μg、10μg、20μg、40μg、50μg)またはPBSを添加した。試料を常温で培養し、チューブを1.5時間間隔で45゜の角度に傾斜しながら血液凝固を確認した。
【0169】
各用量の精製された抗-Coawhole-IgGまたは抗-vWbpwhole-IgGによる血液凝固遮断の測定
ヒルジン処理されたヒト血液200μlを5mlの丸底チューブに入れて、多様な用量の抗-Coawhole-IgGおよび抗-vWbpwhole-IgG(10μg、20μg、40μg、80μg、100μg)を添加した。以後、5μgのCoawholeおよびvWbpwholeまたはPBSを添加した。試料を常温で培養し、チューブを1.5時間間隔で45゜の角度に傾斜しながら血液凝固を確認した。
【0170】
抗-Coawhole IgGまたは抗-vWbpwhole IgGによるCoaおよびvWbp-媒介血液凝固の抑制効果
S.aureus USA300 LAC細胞を50mlのRPMIで2時間37℃、180rpmで培養し、バクテリアを4,400xgで4℃で3分間遠心分離した後、バクテリア上澄液100μlをヒルジン処理ヒト血液200μlに添加した。5μgのvWbpwholeおよび1μgのCoawholeをヒルジン処理ヒト血液200μlに添加して陽性対照群として用いた。抗-Coawhole-IgG80μgおよび抗-vWbpwhole-IgG80μgまたは抗-Coawhole-IgGと抗-vWbpwhole-IgG各40μgの混合物を先にヒルジン処理ヒト血液200μlに添加し、以後、100μlのバクテリア上澄液を添加した。試料を常温で培養し、チューブを1.5時間間隔で45゜の角度に傾斜しながら血液凝固を確認した。
【0171】
インビボにおける抗-Coawhole-IgGまたはvWbpwhole-IgGによる血液凝固の抑制効果
CoawholeおよびvWbpwholeのインビボ効果を検証するために、これらをウサギに注射して得た抗体でインビボ受動免疫(passive immunity)実験を行った。まず、4匹のウサギを2匹ずつ2グループに分けた(図37)。第1グループは、PBSを注射した後、S.aureus USA300菌を1.6×108CFUを耳静脈に注射し、第2グループは、coawholeタンパク質-接合セファロースカラムで精製した1mgの抗-coawhole-IgGとvWbpwholeタンパク質-接合セファロースカラムで精製した1mgの抗-vWbpwhole-IgGとを混合して左耳静脈に注射した後、1時間後にUSA300菌1.6×108CFUを右耳静脈に注射した。以後、各ウサギの体重変化および生存率を調べた。
【0172】
実験結果
組換えS.aureusコアグラーゼおよびvWF(vonWillebrand Factor)-結合ドメインタンパク質(vWbp)のクローニングと精製
S.aureus CoaおよびvWbpタンパク質がS.aureusの主要毒性因子として作用すると提案されたため、本発明者らは、これらの因子が感染過程で単純分泌されるよりは、血管でフィブリン凝固を形成することにより、宿主免疫体系を回避するために、特定の受容体を経由してバクテリア表面に結合すると仮定した。これはいくつかの明らかにされていない受容体タンパク質がバクテリア表面に存在することを示唆するが、もしバクテリア表面のこのような受容体を発見できれば、これに対する抗体を用いてCoaまたはvWbpと前記受容体との間の結合を遮断してS.aureus感染過程でのフィブリン凝固形成を防止できるであろう。バクテリア表面で発現するこれらの受容体を同定するために、CoaおよびvWbpドメインを含む組換えタンパク質とこれらに対する抗体を製造しようとした。
【0173】
ドットブロットを用いたCoaおよびvWbpの異なるドメインタンパク質に対する抗体-特異性の調査
図27に示すように、S.aureus USA300 LAC菌株のゲノム配列に基づいてCoaおよびvWbp全長タンパク質、CoaおよびvWbpのN-末端のD1-D2ドメインおよびCoaおよびvWbpのC-末端の反復ドメインの計6つのタンパク質を作製した。CoaおよびvWbp全長タンパク質はそれぞれ607および508アミノ酸(aa)からなり、CoaおよびvWbpのN-末端ドメインは284および253aa、C-末端の反復ドメインは297および233からそれぞれ構成された。これらの遺伝子をクローニングした後、6つの異なる組換えタンパク質(Coa-whole、Coa-N、Coa-C、vWbp-whole、vWbp-NおよびvWbp-C)を発現させた後、図28に示すように均一に精製した。これらのタンパク質は2回の皮下接種によりラビット多クローン抗-CoaおよびvWbp-認識IgGを生成させるのに使用された。精製された各タンパク質のIgGの抗原認識特異性を調べた結果、抗-Coawhole-IgGはCoawhole、CoaNおよびCoaCを認識したのに対し、抗-CoaN-IgGはCoawholeおよびCoaNだけを認識し、CoaCを認識できなかった(図29A)。また、抗-vWbp-IgGもこれらの抗原に対する特異的結合を示した(図29B)。このような結果は、生成された4つのCoaおよびvWbp-IgGがこれらの抗原に対する適切な特異性を有することを表す。
【0174】
S.aureus USA300培養中のCoaおよびvWbpタンパク質の発現パターン
6つのタンパク質とこれらのラビット多クローン抗体をすべて得たので、これら2つの分泌酵素の発現パターンを各時点別にS.aureus USA300菌株を培養したRPMI培地を用いてウェスタンブロットで調べた。図30Aに示すように、Coawholeタンパク質(60kDa)は1.5時間の培養時点で分泌され、培養3時間目に最大量が検出された後、次第に減少しながら9時間目まで検出された。予想どおり、S.aureusタンパク質A(45kDa)は培養3時間目まで培養上澄液に蓄積された(赤い矢印)。しかし、vWbp(50kDa)は培養1.5時間目に最大量が検出された後、次第に減少しながら12時間目まで検出された(図30B)。タンパク質の分泌はCoaと類似のパターンを示した(図30B)。これからCoawholeおよびvWbpwholeタンパク質が1.5時間から3時間の間に最大量が分泌されることが分かる。
【0175】
S.aureus細胞表面で発現するCoaおよびvWbp-認識タンパク質の同定
本発明者らは、バクテリアが生長する間にバクテリア表面で発現する、CoaおよびvWbpを認識するタンパク質を同定しようとした。まず、これら2つの分泌タンパク質が認識する可能性がある分子としてS.aureus細胞壁関連タンパク質(CWAP)を注目した。本発明者らは、ドットブロット免疫アッセイを用いて7つの組換えCWAPタンパク質をCoa-およびvWbp-認識タンパク質のスクリーニングに適用した(図31)。これら7つのCWAPタンパク質と対照群であるBSAをPVDF膜ストリップにスポッティングした後、各ストリップを6つの精製された組換えCoaおよびvWbpドメインタンパク質と共培養し、ストリップを各ドメイン-特異的IgGと培養してCoa-またはvWbpのどのようなドメインがCWAPN2N3タンパク質と結合するかを調べた。図31Aに示すように、Coawhole、CoaNおよびCoaCタンパク質はFnbpAN2N3とFnbpBN2N3ドメインを特異的に認識した。同一の条件で、vWbpwholeタンパク質は5つの異なるN2-N3ドメインであるClfBN2N3、SdrCN2N3、SdrEN2N3、FnbpAN2N3およびFnbpBN2N3ドメインに対する結合能力を示し、vWbpNドメインはFnbpAN2N3と強く結合し、残りの3つのCWAPタンパク質とは弱く結合した(図31B)。しかし、vWbp-Cタンパク質はClfAN2N3およびSdrDN2N3を除いた残りのN2-N3ドメインに対してより広範囲な結合力を示した。このような結果は、Coaタンパク質がバクテリア表面で発現するFnbpタンパク質を認識し、このため、2つのS.aureus Fnbp CWAPタンパク質がCoa-認識タンパク質として機能できることを示唆する。しかし、vWbpタンパク質はいくつかのS.aureus CWAPによって広範囲に認識される。
【0176】
抗-Fnbp F(ab’)2切片を用いたCoaとFnbpタンパク質との間の結合特異性の確認
Coaタンパク質と2つのFnbpN2N3タンパク質との間の特異的結合が観察されたので、S.aureus USA300生菌バクテリア、Coawholeおよび抗-Fnbp-F(ab’)2切片を用いてこれを再度確認しようとした。抗-Fnbp-F(ab’)2切片を作製した理由は、S.aureusタンパク質AがIgG Fcドメインに結合することで添加されたIgGを消耗させることが知られたため、抗-Fnbp-IgGがCoawholeおよびUSA300細胞のFnbpタンパク質の間の相互作用をうまく抑制できないと予想されたからである。抗-Fnbp-F(ab’)2切片を用いることにより、Coaおよび2つのFnbpN2N3タンパク質の間の結合が特異的か否かを確認できるであろうと仮定した。図32に示すように、S.aureus細胞をCoaCタンパク質またはCoaCと抗-SdrC-F(ab’)2切片の混合物と共に培養すれば、CoaC-タンパク質がバクテリアペレットに移動する(レーン1および2)。しかし、バクテリア細胞をCoaCおよび抗-FnbpAN2N3-F(ab’)2切片または抗-FnbpBN2N3-F(ab’)2切片と共に培養すれば、添加されたCoaCはバクテリアペレットに移動しないが(レーン3および4)、これによりバクテリア表面で発現するFnbpとCoaCタンパク質との間の相互作用は抗-Fnbp-F(ab’)2切片によって特異的に抑制されることが分かる。このような結果から、Coaタンパク質がバクテリア表面で発現するFnbpタンパク質を認識することを確認した。
【0177】
CoawholeまたはvWbpwholeによる血液凝固誘導および抗-Coawhole-IgGまたはvWbpwhole-IgGによる血液凝固抑制効果
次に、本発明者らは、ヒト全血を用いて組換えCoawholeおよびvWbpwholeの生物学的機能を調べようとした。ヒト血液を多様な用量のCoawholeタンパク質と共に培養すると、1μgのCoawholeタンパク質を添加する場合に血液が凝固し、5μgのvWbpwholeを添加すると血液が凝固したので(図33A)、精製された組換えCoawholeおよびvWbpwholeタンパク質が機能的に活性であるタンパク質であることを確認した。次に、本発明者らは、抗-Coawhole-IgGおよび抗-vWbpwhole-IgGがCoa-およびvWbp-媒介血液凝固に及ぼす効果を調べようとした(図33B)。80μgの抗-Coawhole-IgGまたは80μgの抗-vWbpwhole-IgGをヒト血液と5μgのCoawholeまたはvWbpwholeタンパク質の混合物に添加すると、すべて酵素-媒介血液凝固が抑制された。これにより、生成された抗-Coawhole-およびvWbpwhole-IgGがインビトロでCoawhole-またはvWbpwholeタンパク質-媒介血液凝固反応を抑制することを確認した。
【0178】
抗-Coawhole-IgGおよび抗-vWbpwhole-IgGはUSA300培養培地-媒介ヒト血液凝固を抑制する。
図30に示すように、すでにS.aureus 300 LAC細胞培養時に分泌されたCoaおよびvWbpが検出されたので、分泌されたCoaおよびvWbp-媒介血液凝固が抗-Coawhole-IgGおよび抗-vWbpwhole-IgGによって遮断されるかを調べようとした。200μlのヒト全血を100μlのUSA300培養培地(約0.5μgのCoaおよび0.5μgのvWbpタンパク質含有)と共に培養すると、培養1.5時間後に血液が凝固した(図34のチューブ4)。同一の条件で80μgの精製された抗-Coawhole-IgGまたは抗-vWbpwhole-IgGを添加すると、血液は凝固しなかった(チューブ6および7)。また、各40μgの抗-Coawhole-IgGまたは抗-vWbpwhole-IgGをCoaまたはvWbp-含有血液に添加すると、凝固が誘導された(チューブ8)。このような結果を通して、生菌バクテリアで分泌されたCoaまたはvWbpが添加されたIgGによって抑制されることが分かる。
【0179】
CoaNおよびvWbpNドメインはヒト血液凝固を誘導したが、CoaCおよびvWbpCタンパク質はそうではなかった
CoaおよびvWbpタンパク質のどのようなドメインがヒト血液凝固に関与するかを調べるために、全血をCoaN、vWbpN、CoaCおよびvWbpCの4つのタンパク質と培養した。培養1.5時間後、CoaNおよびvWbpNの2つのN-末端ドメインだけが血液凝固を誘導したが、2つのC-末端ドメインはそうではなかった(図35)。このような結果から、フィブリノーゲン-結合C-末端ドメインではないプロトロンビン-結合N-末端ドメインがヒト血液凝固に必須であることが分かった。
【0180】
CoaNおよびvWbpN-媒介ヒト血液凝固またはUSA300で分泌されたCoaおよびvWbpによる血液凝固は、抗-CoaCおよび抗-vWbpCIgGではない抗-CoaN-IgGおよび抗-vWbpN-IgGによって抑制される
CoaNまたはvWbpNが血液凝固に重要という事実を観察したので、抗-CoaN-またはvWbpN-特異的IgGがこれらのタンパク質-媒介凝固を遮断できるかを調べるために、2つのトリガー(trigger)タンパク質を使用した。1つは、USA300培養培地に含まれたCoaおよびvWbpであり(図36A)、他の1つは、精製された組換えCoaNまたはvWbpNである(図36B)。抗-CoaN-IgGまたは抗-vWbpN-IgGを培養培地と血液の入ったチューブ(チューブ2)に添加すると、凝固が誘導されなかったが(チューブ3および4)、抗-CoaC-IgGまたは抗-vWbpC-IgGを添加する場合、凝固が誘導された(チューブ5および6)。また、CoaNおよびvWbpN-媒介ヒト血液凝固は抗-CoaN-IgGおよび抗-vWbpN-IgGによって抑制された(図36B、チューブ4および5)。このような結果は、抗-CoaN-IgGと抗-vWbpN-IgGがS.aureus感染によるCoaまたはvWbp-媒介血液凝固の防止に重要な分子であることを表す。
【0181】
インビボにおける抗-Coawhole-IgGまたはvWbpwhole-IgGによる血液凝固の抑制効果
本発明者らは、Coawhole、vWbpwhole、CoaNおよびvWbpNドメインがヒト血液の凝固誘導活性があるという事実と、これら4種類のタンパク質をウサギに接種して得た各多クローン抗体がこれらのタンパク質に起因する血液凝固反応を選択的に抑制することを観察したので、CoawholeおよびvWbpwholeタンパク質をウサギに注射して得た抗体でインビボ受動免疫(passive immunity)実験を行った。
【0182】
4匹のウサギのうち、第1グループの2匹にPBSを注射後、S.aureus USA300菌1.6×108CFUを耳静脈に注射し、第2グループの2匹にcoawholeタンパク質-接合セファロースカラムで精製した1mgの抗-coawhole-IgGとvWbpwholeタンパク質-接合セファロースカラムで精製した1mgの抗-vWbpwhole-IgGを混合して左耳静脈に注射した後、1時間後にUSA300菌1.6×108CFUを右耳静脈に注射した。
【表4】
【0183】
ウサギの体重を12時間間隔で測定した結果、第1群の1番ウサギは138時間後に死んだが、第2群のすべてのウサギは167時間まで生存しながら体重減少も最も少なく観察された(図38)。これに基づいて生存率を計算した結果、抗-vWbpwhole-IgGと抗i-vWbpwhole-IgGを1mgずつ注射した第2群ウサギ(2番および3番)は7日間生存しながら体重も最も少なく減少する結果を得た(図39)。以上の結果を通して、インビトロで確認された抗-coa-IgGと抗-vWbp-IgGの血液凝固抑制効果をインビボ上で改めて確認できた。
【0184】
実施例4:抗生剤と併用投与効果の確認
本発明者らは、前記実施例1で発掘されたブドウ状球菌由来毒素4種の組み合わせによるMRSA感染疾患の治療効果を極大化するために、前記毒素との併用投与により感染した個体の腎臓(kidney)内で残りのMRSA菌株を完全に除去できる最適な抗生剤を探索した結果、後述のように、バンコマイシン(vancomycin)およびテイコプラニン(teicoplanin)を本発明のワクチン組成物と併用投与する場合に著しい相乗効果があることを確認した。
【0185】
4-1:バンコマイシン
実験方法
まず、4種類の抗原(HlgA、LukS、HlaH35LおよびLukAE323AB)をそれぞれ20μgずつ計80μgを250μlの食塩水に溶かした後、同一容積のアラム(alum)アジュバントと混合した後、1時間培養させた後、2週間隔で3回筋肉注射した。以後、2週後に接種したウサギ5匹の血清を採取した後、protein Aカラムを用いて血清中の全IgGを分離精製した。精製した全IgGを10mg/kg/rabbitの濃度でウサギにI.V.注射した後、バンコマイシン(7.5mg/kg/rabbit)を筋肉注射した後、S.aureus USA300MRSA菌(1×109cells/rabbit)を感染させて、15日間ウサギの生存率、腎臓の残留バクテリア数および腎臓に生成された膿瘍(abscess)の様相を調べた。
【0186】
計20匹のウサギ(New Zealand White)を1群あたり5匹ずつ4群に分類した:第1群(G1-Alum-IgG注射)はアラムのみを注射したウサギの血清で多クローンIgGをprotein-Aカラムで精製して10mg/kgの濃度で静脈(I.V.)注射した後に、S.aureus USA300菌を1×109CFU/rabbitで感染させた。
【0187】
第2群(G2-anti-4 antigen-IgG-mixture注射)は4つの抗原(HlgA、LukS、HlaH35LおよびLukAE323A)を各抗原あたり20μgずつ計80μgを250μlの食塩水に溶かした後、同一容積のアラムと混合して2週間隔で3回筋肉注射で接種させた5匹のウサギからこれらの抗原に1つのIgGをprotein-Aカラムで精製することにより得た多クローンIgGを10mg/kgの濃度でI.V.注射した後に、S.aureus USA300菌を1×109CFU/rabbitで感染させた。
【0188】
第3群(G3-vancomycinのみ注射)は5匹のウサギにバンコマイシンを7.5mg/kgの濃度で毎日2回ずつ5日間10回筋肉注射した後に、S.aureus USA300菌を1×109CFU/rabbitで感染させた。
【0189】
第4群(G4-anti-4 antigen-IgG-mixture-vancomycin注射)は第2群と同様の方法で抗原を接種した後、得られた血清でIgGをprotein-Aカラムで精製して、多クローンIgGを10mg/kgの濃度でI.V.注射した後に、バンコマイシン7.5mg/kgを毎日2回ずつ5日間10回筋肉注射した後に、S.aureus USA300菌を1×109CFU/rabbitで感染させた。
【0190】
以上の4つの群をS.aureus USA300 MRSA菌で接種させた後、毎日ウサギの体重を測定して体重変化を14日まで観察し、15日目には犠牲させて腎臓を摘出して、生成された膿瘍および残留バクテリアの数字をCFU(colony forming unit)で測定した。
【0191】
実験結果
MRSAを感染させた後、2週間各群ウサギの生存率を調べた結果、図40Aに示すように、第4群(G4-anti-4 antigen-IgG-mixture-vancomycin注射)の5匹のウサギは100%生存したのに対し、第3群(G3-vancomycinのみ注射)は3日目に1匹、5日目に1匹が死亡して60%の生存率を示したのに対し、アラムのみ注射した第1群(G1)は3日目まで5匹が全部死亡して生存率が0%となった。4つの抗原を接種したウサギで精製した抗体のみを注射した第2群(G2-anti-4 antigen-IgG-mixture注射)は3日目に2匹、4日目に2匹が死んで14日目まで20%の生存率を示した。以上の結果をまとめると、本発明において発掘された4つの抗原によって誘導された抗体混合物とバンコマイシンが併用投与される場合、著しく向上した治療効果が発揮されることが分かった。
【0192】
第2群と第4群ウサギの腎臓を採取して観察した結果、第2群の5匹のうち死亡したウサギ4匹の腎臓で膿瘍が観察されたのに対し、第4群の5匹のウサギの腎臓には膿瘍が全く観察されなかった(図40B)。以上の結果から、4つのブドウ状球菌由来毒素抗原に対する抗体はMRSA菌の感染時に分泌される毒素を中和して免疫細胞を保護するが、バンコマイシンの併用投与によってバクテリアをより完璧に除去しながら、宿主を多面的に保護できることを確認した。
【0193】
4-2:テイコプラニン
実験方法
計20匹のウサギ(New Zealand white)を1群あたり5匹ずつ4群に分類した:4種類のワクチンを2週間隔で3回接種した10匹のウサギを2つの群に分けて、第2群の5匹(G2)はUSA300 MRSA菌を接種した後、7日間の生存率、腎臓残留バクテリア数および腎臓[生成された膿瘍の様相を調べ、残りの5匹である第4群(G4)はG2と同一にUSA300 MRSA菌を接種後、3時間後にテイコプラニンを筋肉注射した。残りの10匹のうち5匹は食塩水のみを注射した第1群(G1)とテイコプラニンのみを注射した第3群(G3)とに分類した:
第1群(G1-salineのみを接種)は食塩水のみを2週間隔で3回接種し、S.aureus USA300菌を8.5×107CFU/kgの濃度で感染させた。
第2群(G2-4 antigen-mixtureを3回接種)は4つの抗原[HlgA40μg/rabbit)、LukS(30μg/rabbit)、HlaH35L(25μg/rabbit)およびLukAE323A(40μg/rabbit)]を混合して135μlの食塩水に溶かした後、135μlのアラムと混合した後、2週間隔で3回筋肉注射で接種させた後、7日後に血清IgG力価が十分に増加した7日後に、S.aureus USA300菌を8.5×107CFU/kgの濃度で感染させた。
第3群(G3-teicoplaninのみを注射)は5匹のウサギにS.aureus USA300菌を8.5×107CFU/kgの濃度で筋肉注射し、3時間後にテイコプラニン7.5mg/kgを1回筋肉注射した。
第4群(G4-anti-4 antigen-IgG-mixture-teicoplanin注射)は4つの抗原(HlgA、LukS、HlaH35LおよびLukAE323A)を第2群と同一に2週間隔で3回接種した後、7日後に血清IgG力価が十分に増加すれば、S.aureus USA300菌を8.5×107CFU/kgの濃度でウサギに接種させた後、3時間後にテイコプラニン7.5mg/kgを1回筋肉注射した。
【0194】
第2群と第4群ウサギに抗原を接種させた後には、毎週採血をして4つの抗原に対するIgG力価をELISAで定量し、3回接種後、7日後にS.aureus USA300 MRSA菌を接種させ、毎日ウサギの体重を測定して体重変化を7日まで観察した。7日目にはウサギを犠牲させて腎臓を摘出して、生成された膿瘍および残留バクテリアの数字をCFU(colony forming unit)で測定した。
【0195】
実験結果
4つの抗原混合物を3回接種しながら毎週ウサギの血液を採取して血清中の各抗原に対するIgG力価を測定した(図41A)。第2群の抗体価(図41A(i))および第4群の抗体価(図41A(i))に示すように、各抗原は均一に抗体生成を誘導してIgG力価は一定に維持され、2回の接種後42日目には、抗体価が少し減少したが、3回接種した後、49日目に再度上昇したので、USA300 MRSA菌を感染させた。図2a-iiに示したELISAの結果は第4群の5匹のウサギの血清で生成された抗体価に対して5匹のウサギの平均値を表したものである。第2群とほぼ類似の様相でIgG値が測定され、3回接種後には各抗原に対するIgG値が増加することが分かった。
【0196】
MRSAを感染させた後、7日間各群ウサギの生存率を調べた結果、第3群(G3-テイコプラニンのみ注射)と第4群(G4-4つの抗原混合物を2週間隔で3回注射後、USA300 MRSA感染させた後、テイコプラニン筋肉注射)の10匹のウサギは7日まで100%生存したのに対し、第2群(G2-4つの抗原混合物を3回接種)はUSA300 MRSA感染後に1日目1匹、5日目に1匹が死亡して60%の生存率を示したのに対し、PBSのみ注射した第1群(G1)は1日目1匹、4日目2匹、7日目1匹が死亡して20%の生存率にとどまった。以上の結果をまとめると、効率的な能動免疫を誘導する本発明の4つの抗原混合物に加えてテイコプラニンを併用投与する場合、MRSAに感染した個体の生存率が著しく向上することが分かった。
【0197】
図41Cは、生きているウサギの腎臓を粉砕して残っている残留バクテリアの数字をCFU値で計算した結果である。4つの抗原混合物を2週間隔で3回注射した第2群とテイコプラニンのみを注射した第3群は、PBSのみを注射した第1群に比べて腎臓内の残留バクテリア数が統計的有意性を示しながら減少し、4つの抗原とテイコプラニンを併用投与した第4群(G4)は、第1群に比べておよそ平均約100倍程度に残留バクテリア数が減少した。
【0198】
7日目まで各群で生きているウサギの腎臓を採取して観察した結果を図41Dに示した。類似レベルの生存率を示した第3群と第4群ウサギの腎臓において、第3群の6匹のウサギのうちNo.12ウサギの腎臓で膿瘍が観察され、No.13ウサギの腎臓の色は黒色に変化した状態であった。これに対し、第4群の6匹のウサギの腎臓はNo.6ウサギを除けば膿瘍が全く観察されなかった。一方、PBSのみを注射した第1群においてNo.2ウサギの腎臓は死亡したウサギから採取したものであり、No.3は生存したウサギの腎臓であるが、すべて膿瘍を有することが分かった。
【0199】
以上のように、本発明において発掘された4つの抗原は最小単位の抗原の組み合わせとしてブドウ状球菌の11個の毒素による細胞溶解を万遍なく抑制できるが、本発明者らは、このような抗原の組み合わせによる優れた治療効果に加えて、感染した個体の腎臓内に残留するバクテリアまで完全除去するために、バンコマイシン、テイコプラニン、またはこれらの組み合わせを併用投与する場合、残留バクテリアがほぼ完全に除去されるだけでなく、感染個体の生存率もより改善されることを見出した。
【0200】
以上、本発明の特定部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は単に好ましい実施形態に過ぎず、よって、本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は添付した請求項とその等価物によって定義される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20A
図20B
図21A
図21B
図21C
図22
図23
図24A
図24B
図24C
図25A
図25B
図26
図27A
図27B
図28
図29A
図29B
図30A
図30B
図31A
図31B
図32
図33A
図33B
図34
図35
図36A
図36B
図37
図38
図39A
図39B
図40A
図40B
図41A
図41B
図41C
図41D
【配列表】
2023541387000001.app
【国際調査報告】