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特表2023-541473抗4-1BB-抗PD-L1二重特異性抗体、ならびにその医薬組成物および使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-02
(54)【発明の名称】抗4-1BB-抗PD-L1二重特異性抗体、ならびにその医薬組成物および使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20230925BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230925BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230925BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230925BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230925BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230925BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230925BHJP
【FI】
C07K16/46
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 T
A61P35/00
A61K45/00
A61K47/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517741
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-12
(86)【国際出願番号】 CN2021118908
(87)【国際公開番号】W WO2022057871
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】202010983606.7
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521530738
【氏名又は名称】普米斯生物技術(珠海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】BIOTHEUS INC.
【住所又は居所原語表記】10B, BUILDING 4, NO 1 KEJI 7TH ROAD, TANGJIAWAN TOWN, XIANGZHOU DISTRICT, ZHUHAI, GUANGDONG 519080, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲ヂャイ▼ 天 航
(72)【発明者】
【氏名】▲ミアオ▼ 小 牛
(72)【発明者】
【氏名】許 英 達
(72)【発明者】
【氏名】王 涛
(72)【発明者】
【氏名】ツン,アンディ
(72)【発明者】
【氏名】黄 威 峰
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB36
4C085DD61
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、抗4-1BB-抗PD-L1二重特異性抗体、ならびにその医薬組成物および使用に関する。具体的には、本発明は、4-1BBを標的とする第1のタンパク質機能性領域およびPD-L1またはPD-1を標的とする第2のタンパク質機能性領域を含む二重特異性抗体であって、第1のタンパク質機能性領域が4-1BBに対するシングルドメイン抗体であり;第2のタンパク質機能性領域が、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体、もしくは抗HER-2抗体、またはその抗原結合性断片である、二重特異性抗体に関する。二重特異性抗体は、PD-L1の受容体PD-1への結合を遮断する機能を有し、免疫細胞上の4-1BBに結合し、その結果、腫瘍微小環境における免疫細胞活性が活性化され、腫瘍の発生および発達を阻害する効果がより効果的に改善される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-1BBを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
PD-L1またはPD-1を標的とする第2のタンパク質機能性領域
を含む二重特異性抗体であって;
前記第1のタンパク質機能性領域が、抗4-1BBシングルドメイン抗体であり;
前記第2のタンパク質機能性領域が、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体、もしくは抗HER-2抗体、またはその抗原結合性断片である、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記抗4-1BBシングルドメイン抗体が重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み;
好ましくは、前記抗4-1BBシングルドメイン抗体が、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第2のタンパク質機能性領域が、抗PD-L1シングルドメイン抗体、抗PD-1シングルドメイン抗体、抗CTLA-4シングルドメイン抗体または抗HER-2シングルドメイン抗体であり;
好ましくは、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体が重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、配列番号19に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み;
好ましくは、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体が、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1~2のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記二重特異性抗体が、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4のFc断片等の1つもしくは複数(例えば、2つもしくは3つ)のIgGのFc断片をさらに含むか;
または、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4の重鎖定常領域等の1つもしくは複数の(例えば、2つもしくは3つ)のIgGの定常領域をさらに含み;
好ましくは、前記IgGのFc断片または前記IgGの定常領域が、前記第1のタンパク質機能性領域と前記第2のタンパク質機能性領域との間にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記IgGのFc断片または前記IgGの重鎖定常領域が、前記第1のタンパク質機能性領域のC末端にライゲーションされ、および/または前記第2のタンパク質機能性領域のC末端にライゲーションされ;
前記IgGのFc断片または前記IgGの重鎖定常領域が、直接的にまたはリンカーを介して前記第1のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;前記IgGのFc断片または前記IgGの重鎖定常領域が、直接的にまたはリンカーを介して前記第2のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;
好ましくは、前記リンカーが、配列番号5および配列番号22から独立して選択されるアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
EU番号付けシステムに従って、前記IgGのFc断片または前記IgGの重鎖定常領域が、L234A変異およびL235A変異を含み;任意に、前記IgGのFc断片が、G237A変異をさらに含み;
好ましくは、前記IgGのFc断片が、L234A変異およびL235A変異を含むIgG1のFc断片であり;好ましくは、前記IgG1のFc断片が、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し;
好ましくは、前記IgGのFc断片が、ノブ-イン-ホール変異をさらに含み;
好ましくは、前記IgG1のFc断片が、ノブ-イン-ホール変異をさらに含み;好ましくは、前記IgG1のFc断片が、配列番号8または配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する、請求項4~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記二重特異性抗体が、以下の第1のペプチド鎖:
前記第1のタンパク質機能性領域、前記IgGのFc断片もしくは前記IgGの重鎖定常領域、リンカー、および前記第2のタンパク質機能性領域をN末端からC末端まで順番に含むか;または前記第2のタンパク質機能性領域、前記IgGのFc断片もしくは前記IgGの重鎖定常領域、リンカーおよび前記第1のタンパク質機能性領域を含む第1のペプチド鎖を含み;
好ましくは、前記第1のペプチド鎖が、配列番号1または配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記二重特異性抗体が2つの第1のペプチド鎖、好ましくは、配列番号1および/または配列番号6に記載の前記第1のペプチド鎖によって形成される二量体であり;
好ましくは、前記2つの第1のペプチド鎖が、2または3対のジスルフィド結合によって連結され;
任意に、前記2つの第1のペプチド鎖が、ノブ-イン-ホール変異をさらに含む、請求項7に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記二重特異性抗体が、以下の第2のペプチド鎖:
前記IgGのFc断片または前記IgGの重鎖定常領域を含む第2のペプチド鎖をさらに含み;好ましくは、前記第2のペプチド鎖のN末端および/またはC末端が、直接的にまたはリンカーを介して前記第1のタンパク質機能性領域および/または前記第2のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;
好ましくは、前記第2のペプチド鎖が、配列番号9または配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する、請求項7に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記第1のペプチド鎖および前記第2のペプチド鎖が二量体を形成し;
好ましくは、前記第1のペプチド鎖および前記第2のペプチド鎖が、2または3対のジスルフィド結合によって連結され;
好ましくは、前記第1のペプチド鎖および前記第2のペプチド鎖が、ノブ-イン-ホール変異をさらに含み;
好ましくは、前記第1のペプチド鎖が、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有し、前記第2のペプチド鎖が、配列番号9または配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードする、単離された核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の単離された核酸分子を含むベクター。
【請求項13】
請求項11に記載の単離された核酸分子、または請求項12に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を調製する方法であって、請求項13に記載の宿主細胞を適切な条件下で培養するステップ、および細胞培養物から前記二重特異性抗体を回収するステップを含む、方法。
【請求項15】
二重特異性抗体およびカップリング部分を含むコンジュゲートであって、前記二重特異性抗体が、請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であり、前記カップリング部分が検出可能な標識であり、好ましくは、前記カップリング部分が放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質または酵素である、コンジュゲート。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体、または請求項15に記載のコンジュゲートを含む、キットであって;
好ましくは、前記キットが、前記二重特異性抗体に特異的に結合することができる第2の抗体をさらに含み、任意に、前記第2の抗体が、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質または酵素等の検出可能な標識をさらに含む、キット。
【請求項17】
試料中の4-1BBおよび/またはPD-L1の存在またはレベルを検出するためのキットの製造における、請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項15に記載のコンジュゲートを含み、任意に、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項19】
悪性腫瘍の予防および/または治療のための医薬の製造における、請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項15に記載のコンジュゲートの使用であって;好ましくは、前記悪性腫瘍が、直腸がん、結腸がん、肺がん、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される、使用。
【請求項20】
悪性腫瘍を治療および/または予防する方法であって、有効量の請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項15に記載のコンジュゲートを、それを必要とする対象に投与するステップを含み;好ましくは、前記悪性腫瘍が、直腸がん、結腸がん、肺がん、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される、方法。
【請求項21】
悪性腫瘍の治療および/または予防に使用される、請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項15に記載のコンジュゲートであって;好ましくは、前記悪性腫瘍が、直腸がん、結腸がん、肺がん、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、食道がんおよび頭頸部がんからなる群から選択される、二重特異性抗体またはコンジュゲート。
【請求項22】
(a)抗PD-L1シングルドメイン抗体;および
(b)抗4-1BBシングルドメイン抗体
を含むことを特徴とする、二重特異性抗体。
【請求項23】
請求項22に記載の二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項24】
請求項23に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項25】
請求項24に記載のベクターを含むか、または請求項23に記載のポリヌクレオチドがそのゲノムに組み込まれている;
または、請求項22に記載の二重特異性抗体を発現する
ことを特徴とする、宿主細胞。
【請求項26】
請求項22に記載の二重特異性抗体を産生する方法であって:
(a)請求項25に記載の宿主細胞を適切な条件下で培養し、それにより前記二重特異性抗体を含む培養物を得るステップ;ならびに
(b)ステップ(a)で得られた前記培養物を精製および/または分離して、前記二重特異性抗体を得るステップ
を含む、方法。
【請求項27】
(a)請求項22に記載の二重特異性抗体;ならびに
(b)検出可能な標識、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁性粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、またはその組合せからなる群から選択されるカップリング部分
を含むことを特徴とする、免疫コンジュゲート。
【請求項28】
医薬、試薬、検出プレートまたはキットの製造における、請求項22に記載の二重特異性抗体、または請求項27に記載の免疫コンジュゲートの使用であって、前記試薬、検出プレートまたはキットが:試料中のPD-L1および/または4-1BBを検出するために用いられ;前記医薬が、PD-L1を発現する腫瘍(すなわち、PD-L1陽性)を治療または予防するために使用される、使用。
【請求項29】
(i)請求項22に記載の二重特異性抗体、または請求項27に記載の免疫コンジュゲート;および
(ii)薬学的に許容される担体
を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項30】
(i)ヒトPD-L1分子および/または4-1BB分子を検出するための使用:(ii)フロー検出のための使用:(iii)細胞免疫蛍光検出のための使用:(iv)腫瘍を治療するための使用:(v)腫瘍の診断のための使用:(vi)PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断するための使用:ならびに(vii)4-1BBに結合して免疫細胞を活性化するための使用
からなる群から選択される、請求項22に記載の二重特異性抗体の1つまたは複数の使用。
【請求項31】
(i)請求項22に記載の二重特異性抗体:ならびに(ii)発現および/または精製を助けるための任意のタグ配列を含むことを特徴とする、組換えタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、生物医学の分野に属し、抗4-1BB-抗PD-L1二重特異性抗体、ならびにその医薬組成物および使用に関する。
【0002】
背景技術
腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー4-1BBは、CD137またはTNFRF9としても知られ、TNF受容体ファミリーのメンバーである。4-1BBは、255アミノ酸(NCBI:NP_001552)を有するI型膜貫通タンパク質であり、17アミノ酸を含むN末端シグナルペプチド、169アミノ酸の細胞外領域、27アミノ酸の膜貫通領域、および42アミノ酸のC末端細胞内領域からなる。4-1BBは主に、活性化T細胞、NK細胞、制御性T細胞、樹状細胞、単球、好中球および好酸球に発現し、腫瘍血管の内皮細胞も4-1BBを発現することが報告されている。したがって、腫瘍および一部の自己免疫疾患の治療において、4-1BBはまた、潜在的な標的である。具体的には、直腸結腸がん、肺がん、乳がんおよび黒色腫等の前臨床動物モデルにおいて、4-1BBを標的とするアゴニスト分子は、単剤で、または抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4、抗HER-2等の追加抗体と組み合わせて有意な抗腫瘍活性を示す(Etxeberria Iら、ESMO Open 2020;4:e000733)。
【0003】
プログラム死1リガンド1(PD-L1)は、CD274としても知られ、B7ファミリーの一員であり、PD-1のリガンドである。PD-L1は、IgV様領域、IgC様領域、膜貫通疎水性領域、および30アミノ酸からなる細胞内領域を含む総アミノ酸数290のI型膜貫通タンパク質である。他のB7ファミリー分子とは異なり、PD-L1は免疫応答を負に制御する。研究により、PD-L1は主に活性化T細胞、B細胞、マクロファージ、および樹状細胞で発現していることが明らかになっている。PD-L1は、リンパ球に加えて胸腺、心臓、胎盤等の多くの組織の他の内皮細胞、および黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、頭頸部がん等の様々な非リンパ系で発現している(Akintunde Akinleye & Zoaib Rasool,Journal of Hematology & Oncology 12巻、記事番号:92(2019))。PD-L1は、自己応答性T細胞およびB細胞ならびに免疫寛容を制御する一定の汎用性を持ち、末梢組織のT細胞およびB細胞の応答に関与している。腫瘍細胞におけるPD-L1の高発現は、がん患者の予後不良と関連している。
【0004】
現在販売されている抗体医薬のほとんどはモノクローナル抗体である。治療用モノクローナル抗体は、がん、自己免疫疾患、炎症、および他の疾患の治療に使用されており、そのほとんどは1つの標的に特異的である。しかし、患者はモノクローナル抗体療法に抵抗性または無反応になる可能性がある。また、一部の疾患は、異なるシグナル伝達経路、サイトカインおよび受容体の異なる調節機構等を含む、体内の複数の要因の影響を受けており、単一標的免疫療法は、がん細胞を破壊するのに十分ではないと考えられる。そのため、異なる薬剤の組合せ、または多特異性抗体を用いた多重標的戦略を使用して達成する必要がある。
【0005】
二機能性抗体は、抗体医薬の開発における一つの方向性であるが、前臨床評価モデル、低発現、安定性の低さ、工程の複雑さ、および品質管理の大きな差等、多くの課題に直面している。そのため、二機能性抗体の開発は常に困難とされてきた。
【0006】
そこで、PD-L1と4-1BBを標的とする二重特異性抗体であって、特異性が高く、治癒効果が高く、かつ調製が容易な二重特異性抗体を開発することが必要である。
【0007】
本発明の内容
本発明者らは、綿密な研究および創造的な研究を経て、抗4-1BB-抗PD-L1二重特異性抗体(以下、抗PD-L1/4-1BB二重特異性抗体または抗4-IBB/PD-L1二重特異性抗体とも表す)を得た。本発明者らは、驚くべきことに、本発明の二重特異性抗体は、PD-L1の受容体PD-1への結合を遮断する機能を有すること;同時に二重特異性抗体は免疫細胞上の4-1BBにも結合し、腫瘍微小環境における免疫細胞を活性化させることによって、腫瘍の発生および発達を阻害する効果をより効果的に改善し、そのため優れた抗腫瘍活性および良好な安全性を示すことを見出した。したがって、以下の発明が提供される:
【0008】
本発明の一態様は、
4-1BBを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
PD-L1またはPD-1を標的とする第2のタンパク質機能性領域を含む二重特異性抗体であって;
第1のタンパク質機能性領域が、抗4-1BBシングルドメイン抗体であり;
第2のタンパク質機能性領域が、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体もしくは抗HER-2抗体、またはその抗原結合性断片である、二重特異性抗体に関する。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、抗4-1BBシングルドメイン抗体は重鎖可変領域を含み、重鎖可変領域は、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み;
好ましくは、抗4-1BBシングルドメイン抗体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第2のタンパク質機能性領域は、抗PD-L1モノクローナル抗体、抗PD-1モノクローナル抗体、抗CTLA-4モノクローナル抗体、または抗HER-2モノクローナル抗体である。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第2のタンパク質機能性領域は、抗PD-L1一本鎖抗体、抗PD-1一本鎖抗体、抗CTLA-4一本鎖抗体、または抗HER-2一本鎖抗体である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第2のタンパク質機能性領域は、抗PD-L1シングルドメイン抗体、抗PD-1シングルドメイン抗体、抗CTLA-4シングルドメイン抗体または抗HER-2シングルドメイン抗体であり;
好ましくは、抗PD-L1シングルドメイン抗体は重鎖可変領域を含み、重鎖可変領域は、配列番号19に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み;
好ましくは、抗PD-L1シングルドメイン抗体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する。
【0013】
本発明において、抗4-1BBシングルドメイン抗体および抗PD-L1シングルドメイン抗体のCDRは、IMGT番号付けシステムで定義されており、Ehrenmann F,Kaas Q,Lefranc M P,IMGT/3Dstructure-DB and IMGT/DomainGapAlign:a database and a tool for immunoglobulins or antibodies,T cell receptors,MHC,IgSF and MhcSF[J],Nucleic acids research,2009;38 (suppl_1):D301-D307を参照されたい。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗4-1BBシングルドメイン抗体は重鎖可変領域を含み、重鎖可変領域は、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、
抗PD-L1シングルドメイン抗体は重鎖可変領域を含み、重鎖可変領域は配列番号19に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、および配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、
抗4-1BBシングルドメイン抗体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有し、および
抗PD-L1シングルドメイン抗体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、二重特異性抗体は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のFc断片等のIgGの1つまたは複数(例えば、2つまたは3つ)のFc断片をさらに含むか;
または、二重特異性抗体は、1つまたは複数(例えば、2つまたは3つ)のIgGの定常領域、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4の重鎖定常領域等をさらに含み;
好ましくは、IgGのFc断片またはIgGの定常領域は、第1のタンパク質機能性領域と第2タンパク質機能性領域の間に位置する。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1のタンパク質機能性領域、第2のタンパク質機能性領域、IgGのFc断片、および任意のリンカーからなる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1のタンパク質機能性領域、第2のタンパク質機能性領域、IgG1のFc断片、および任意のリンカーからなる。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、IgG1の1つのFc断片を含み、IgG1のFc断片は、第1のタンパク質機能性領域と、第2のタンパク質機能性領域との間に位置する。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、IgGのFc断片またはIgGの重鎖定常領域は、第1のタンパク質機能性領域のC末端にライゲーションされる、および/または第2のタンパク質機能性領域のC末端にライゲーションされ;
IgGのFc断片またはIgGの重鎖定常領域は、直接的にまたはリンカーを介して第1のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;IgGのFc断片またはIgGの重鎖定常領域は、直接的にまたはリンカーを介して第2のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;
好ましくは、リンカーは、配列番号5および配列番号22から独立して選択されるアミノ酸配列を有する。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、IgG1のFc断片は、第1のタンパク質機能性領域のC末端にライゲーションされ、および/または第2のタンパク質機能性領域のC末端にライゲーションされ;
IgG1のFc断片は、直接的にまたはリンカーを介して第1のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;IgG1のFc断片は、直接的にまたはリンカーを介して第2のタンパク質機能性領域にライゲーションされ;
好ましくは、接続断片のアミノ酸配列は、配列番号5および配列番号22から独立して選択される。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、EU番号付けシステムに従って、IgGのFc断片またはIgGの重鎖定常領域は、L234A変異およびL235A変異を含み;任意に、IgGのFc断片は、また、G237A変異を含み;
好ましくは、IgGのFc断片は、L234A変異およびL235A変異を含むIgG1のFc断片であり:任意に、IgG1のFc断片は、G237A変異をさらに含み;
好ましくは、IgG1のFc断片は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し;
好ましくは、IgGのFc断片は、ノブ-イン-ホール変異をさらに含み;
好ましくは、IgG1のFc断片は、ノブ-イン-ホール変異をさらに含み;好ましくは、IgG1のFc断片は、配列番号8または配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、二重特異性抗体は、以下の第1のペプチド鎖:
第1のタンパク質機能性領域、IgGのFc断片もしくはIgGの重鎖定常領域、任意のリンカー、および第2タンパク質機能性領域をN末端からC末端まで順番に含むか;または第2のタンパク質機能性領域;IgGのFc断片もしくはIgGの重鎖定常領域、任意のリンカー、および第1のタンパク質機能性領域を含む第1のペプチド鎖を含む。好ましくは、リンカーは、配列番号5および配列番号22から独立して選択されるアミノ酸配列を有する。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、二重特異性抗体は、以下の第1のペプチド鎖:
第1のタンパク質機能性領域、IgG1のFc断片もしくはIgG1の重鎖定常領域、任意のリンカー、および第2のタンパク質機能性領域をN末端からC末端まで順番に含むか;または第2のタンパク質機能性領域、IgG1のFc断片、もしくはIgG1の重鎖定常領域、任意のリンカー、および第1のタンパク質機能性領域を含む第1のペプチド鎖を含む。好ましくは、リンカーは、配列番号5および配列番号22から独立して選択されるアミノ酸配列を有する。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、IgG1のFc断片は、L234A変異およびL235A変異を含むIgG1のFc断片(略して「LaLa変異」と称する)であり;任意に、IgG1のFc断片は、G237A変異をさらに含み;好ましくは、IgG1のFc断片は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、IgG1のFc断片は、ノブ-イン-ホール変異を含み;好ましくは、EU番号付けシステムに従って、「ノブ」は、FcがS354CおよびT366Wの変異を受けることを意味し、「ホール」は、FcがY349C、T366S、L368A、およびY407Vの変異を受けることを意味する。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、IgG1のFc断片は、L234A変異、L235A変異およびノブ-イン-ホール変異を含み;好ましくは、IgG1のFc断片は、配列番号8または配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第1のペプチド鎖は、配列番号1または配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は2つの第1のペプチド鎖で形成された二量体、好ましくは配列番号1および/または配列番号6に記載の第1のペプチド鎖で形成された二量体であり;
好ましくは、2つの第1のペプチド鎖は、2または3対のジスルフィド結合によって連結され;
任意に、2つの第1のペプチド鎖はまた、ノブ-イン-ホール変異を含む。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、2つのうちの1つの第1のペプチド鎖はノブ変異を含み、他のペプチド鎖はホール変異を含む。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、配列番号1に記載の2つの第1のペプチド鎖で形成された二量体である。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、配列番号6に記載の2つの第1のペプチド鎖で形成された二量体である。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、配列番号1に記載の1つの第1のペプチド鎖および、配列番号6に記載の1つの第1のペプチド鎖で形成された二量体である。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、以下の第2のペプチド鎖:
IgGのFc断片またはIgGの重鎖定常領域を含む第2のペプチド鎖をさらに含み;好ましくは、第2のペプチド鎖のN末端および/またはC末端は、直接的にまたはリンカーを介して第1のタンパク質機能性領域および/または第2のタンパク質機能性領域にライゲーションされている。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、以下の第2のペプチド鎖:
IgG1のFc断片またはIgG1の重鎖定常領域を含む第2のペプチド鎖をさらに含み;好ましくは、第2のペプチド鎖のN末端および/またはC末端は、直接的にまたはリンカーを介して第1のタンパク質機能性領域および/または第2のタンパク質機能性領域にライゲーションされている。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第2のペプチド鎖は、配列番号9または配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第1のペプチド鎖および第2のペプチド鎖は二量体を形成し;
好ましくは、第1のペプチド鎖および第2のペプチド鎖は、2対または3対のジスルフィド結合によって連結され;
好ましくは、第1のペプチド鎖および第2のペプチド鎖は、ノブ-イン-ホール変異をさらに含み;
好ましくは、第1のペプチド鎖は、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有し、第2のペプチド鎖は、配列番号9または配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第1のペプチド鎖はノブ変異を含み、第2のペプチド鎖はホール変異を含む。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体において、第1のペプチド鎖はホール変異を含み、第2のペプチド鎖はノブ変異を含む。
【0040】
本発明の他の態様は、単離された核酸分子に関し、これは、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体をコードする。
【0041】
本発明はさらに、ベクターに関し、これは、本発明による単離された核酸分子を含む。
【0042】
本発明はまた、宿主細胞に関し、これは、本発明による単離された核酸分子、または本発明によるベクターを含む。
【0043】
本発明の他の態様は、本発明による宿主細胞を適切な条件下で培養する工程、および細胞培養物から二重特異性抗体を回収する工程を含む、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体を調製する方法に関する。
【0044】
本発明の他の態様は、二重特異性抗体およびカップリング部分を含むコンジュゲートに関し、ここで、二重特異性抗体は、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体であり、かつカップリング部分は検出可能な標識であり;好ましくは、カップリング部分は、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質、または酵素である。
【0045】
本発明の他の態様は、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体を含むか、または本発明に記載のコンジュゲートを含むキットに関し;
好ましくは、キットは、二重特異性抗体に特異的に結合することができる第2の抗体をさらに含み;任意に、第2の抗体は、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色物質、または酵素等の検出可能な標識をさらに含む。
【0046】
本発明の他の態様は、試料中の4-1BBおよび/またはPD-L1の存在またはレベルを検出するためのキットの製造における本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体の使用に関する。
【0047】
本発明の他の態様は、医薬組成物であって、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体、または本発明によるコンジュゲートを含む医薬組成物に関し;任意に、医薬組成物は薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0048】
本発明の他の態様は、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体、または本発明によるコンジュゲートの、悪性腫瘍の予防および/または治療のための医薬の製造における使用に関し;好ましくは、悪性腫瘍は、直腸がん、結腸がん、肺がん、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される。
【0049】
本発明の他の態様は、悪性腫瘍の治療および/または予防のための方法であって、有効量の本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体または本発明によるコンジュゲートを、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法に関し;好ましくは、悪性腫瘍は、直腸がん、結腸がんからなる群から選択される。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態において、方法において、本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体の有効量を、それを必要とする対象へ投与する工程は、外科的治療の前または後に実施され、および/または放射線療法の前または後に実施される。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態において、方法において、
本発明の二重特異性抗体は、体重1kgあたり0.1~100mg、好ましくは4.8~24mgまたは1~10mgの単回用量で投与されるか;または、本発明の二重特異性抗体は10~l000mg、好ましくは50~500mg、100~400mg、150~300mg、150~250mgまたは200mgの単回用量で投与され;
好ましくは、投与は、3日間、4日間、5日間、6日間、10日間、1週間、2週間または3週間ごとに1回行われ;
好ましくは、投与は、静脈内滴下または静脈内注射により行われる。
【0052】
本発明の項目のいずれか1つに記載の二重特異性抗体またはコンジュゲートは、悪性腫瘍の治療および/または予防のために使用されるものであり、好ましくは、悪性腫瘍は、直腸がん、結腸がん、肺がん、黒色腫、肝臓がん、胃がん、腎細胞がん、卵巣がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される。
【0053】
本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、一般的に2対のポリペプチド鎖から構成される免疫グロブリン分子を指し、各対は1つの「軽」(L)鎖と1つの「重」(H)鎖とを有する。抗体軽鎖は、κ軽鎖とλ軽鎖に分類し得る。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類されてもよく、抗体のアイソタイプはそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEと定義される。軽鎖および重鎖内では、可変領域および定常領域は、約12以上のアミノ酸の「J」領域によって連結され、重鎖はさらに約3以上のアミノ酸の「D」領域を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)によって構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCLからなる。抗体定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典補体系の第1の構成要素(Clq)を含む、宿主の組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介する。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる可変性の高い領域に細分化することができ、その中でフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存性の高い領域が散在している。VHとVLは、それぞれ3つのCDRと4つのFRからなり、これらは以下の順序:アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4で配置されている。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VHおよびVL)は、それぞれ抗体結合部位を形成している。領域またはドメインへのアミノ酸の割り当ては、Bethesda M.d.,Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health,(1987 and 1991))、またはChothia & Lesk J.Mol.Biol.1987;196:901-917;Chothiaら、Nature 1989;342:878-883の定義、またはIMGT番号付けシステムに従う、Ehrenmann F,Kaas Q,Lefranc M P.IMGT/3Dstructure-DB and IMGT/DomainGapAlign:a database and a tool for immunoglobulins or antibodies,T cell receptors,MHC,IgSF and MhcSF[J].Nucleic acids research,2009;38(suppl_1):D301-D307の定義を参照のこと。
【0054】
「抗体」という用語は、特定の抗体産生方法に限定されるものではない。例えば、組換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体が挙げられる。抗体は、異なるアイソタイプの抗体、例えば、IgG(例えば、IgGl、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)、IgAl、IgA2、IgD、IgE、またはIgM抗体であってもよい。
【0055】
本明細書で使用する場合、「mAb」および「モノクローナル抗体」という用語は、高度に相同性の抗体分子群、すなわち、自発的に起こり得る天然の変異を除いて、同一の抗体分子群に由来する抗体または抗体断片を指す。mAbは、抗原上の単一のエピトープに対して高度に特異的である。モノクローナル抗体と比較して、ポリクローナル抗体は通常、少なくとも2つ以上の異なる抗体を含み、これらの異なる抗体は通常、抗原上の異なるエピトープを認識する。モノクローナル抗体は、通常、Kohlerらによって最初に報告されたハイブリドーマ技術(Kohler G,Milstein C.Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity [J],nature,1975;256(5517):495)を用いて得ることができ、組換えDNA技術(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)により得ることもできる。
【0056】
本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)のCDR領域の全部または一部を非ヒト抗体(ドナー抗体)のCDR領域で置換することによって得られる抗体または抗体断片を指し、ここで、ドナー抗体は、所望の特異性、親和性および反応性を有する非ヒト(例えばマウス、ラット、またはウサギ)抗体であり得る。さらに、レシピエント抗体のフレームワーク領域(FR)の一部のアミノ酸残基は、抗体の性能をさらに改善または最適化するように、非ヒト抗体の対応するアミノ酸残基、または他の抗体のアミノ酸残基で置換してもよい。ヒト化抗体の詳細については、例えば、Jonesら、Nature 1986;321:522 525;Reichmannら、Nature,1988;332:323329;Presta,Curr.Op.Struct.Biol.1992;2:593-596;およびClark,Immunol.Today 2000;21:397-402を参照されたい。場合によっては、抗体の抗原結合性断片はダイアボディであり、この場合、VおよびVドメインは単一ポリペプチド鎖上に発現するが、使用されるリンカーは短すぎるために同一鎖の2つのドメイン間の対合が可能にならず、それによりドメインは他の鎖の相補的ドメインと対合することになり、2つの抗原結合部位を形成する(例えば、Holliger P.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993;90:6444 6448およびPoljak R.J.ら、Structure 1994;2:1121-1123を参照のこと)。
【0057】
本明細書に記載の融合タンパク質は、DNA組換えにより2つの遺伝子によって共発現されるタンパク質産物である。抗体および抗原結合性断片を産生および精製する方法は、当技術分野において周知である(例えば、Cold Spring Harbor’s Antibody Laboratory Technique Guide、第5章~第8章および第15章)。
【0058】
本明細書で使用する場合、「単離」または「単離された」という用語は、人工的な手段による天然状態からの取得を意味する。「単離された」物質または構成要素が天然で生じる場合、それは、存在する自然環境が変化しているか、物質が自然環境から単離されているか、またはその両方が起こっている。例えば、生体動物に天然で存在する単離されていないポリヌクレオチドまたはポリペプチドについて、天然状態から単離された高純度の同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されたと呼ばれる。「単離」または「単離された」という用語は、人工または合成物質の混合、および物質活性に影響を与えない他の不純物の存在を排除するものではない。
【0059】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入することができる核酸送達ビヒクルを指す。ベクターが挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現を達成することができる場合、ベクターは、発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、形質転換、形質導入、またはトランスフェクションによって宿主細胞に導入されてよく、それが有する遺伝物質要素を宿主細胞で発現させることができる。ベクターは当技術分野の当業者に周知であり、プラスミド;ファージミド;コスミド;酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)またはP1由来人工染色体(PAC)等の人工染色体;λファージまたはM13ファージ等のファージ、および動物ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターとして使用できる動物ウイルスとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(例えば、SV40)等が挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、およびレポーター遺伝子を含むがこれらに限定されない、発現を制御する種々のエレメントを含むことができる。さらに、ベクターは、複製起点を含むこともできる。
【0060】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、ベクターの導入に使用できる細胞を指し、大腸菌(エシェリキア・コリ(Escherichia coli))または枯草菌(バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis))等の原核細胞、酵母細胞またはアスペルギルス(Aspergillus)等の真菌細胞、S2ショウジョウバエ(Drosophila)細胞またはSf9等の昆虫細胞、または線維芽細胞、CHO細胞、GS細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞もしくはヒト細胞等の動物細胞等があるがこれに限定されない。
【0061】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、対象および活性成分と薬学的および/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤を指し、これらは当技術分野で周知であり(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences.Gennaro AR編、19版.Pennsylvania.Mack Publishing Company,1995を参照)、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤を含むがこれらに限定されない。例えば、pH調整剤は、リン酸緩衝剤を含むが、これに限定されず;界面活性剤は、Tween-80等のカチオン性、アニオン性または非イオン性界面活性剤を含むが、これに限定されず;イオン強度増強剤は、塩化ナトリウムを含むが、これに限定されない。
【0062】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、所望の効果を達成する、または少なくとも部分的に達成するのに十分な量を指す。例えば、疾患(例えば、腫瘍)を予防するための有効量は、疾患(例えば、腫瘍)の発症を予防、阻止、または遅延するのに十分な量を指し、疾患を治療するための有効量は、疾患を有する患者において疾患およびその合併症を治癒または少なくとも部分的に予防するのに十分な量を指す。このような有効量を決定することは、十分に当技術分野の当業者の能力の範囲内である。例えば、治療的使用のための有効量は、治療すべき疾患の重症度、患者自身の免疫系の一般的状態、年齢、体重、および性別等の患者の一般的状態、薬剤の投与様式、併用して投与される他の治療等に依存するであろう。
【0063】
本発明において、特に記載がない場合、「第1」(例えば、第1のタンパク質機能性領域)および「第2」(例えば、第2のタンパク質機能性領域)は、参照上の区別または表現の明確化の目的で使用され、典型的な順序の意味を有するものではない。
【0064】
また、本発明は、以下の項目1~10のいずれか1つに関する:
1.二重特異性抗体であって:
(a)抗PD-L1シングルドメイン抗体:および
(b)抗4-1BBシングルドメイン抗体
を含むことを特徴とする、二重特異性抗体。
2.項目1に記載の二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、単離されたポリヌクレオチド。
3.項目2に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
4.項目3に記載のベクターを含むか、または項目2に記載のポリヌクレオチドが、宿主細胞のゲノムに組み込まれているか;
または、項目1に記載の二重特異性抗体を発現することを特徴とする、宿主細胞。
5.項目1に記載の二重特異性抗体を産生する方法であって:
(a)適切な条件下で、項目4に記載の宿主細胞を培養し、それにより二重特異性抗体を含む培養物を得るステップ;および
(b)ステップ(a)で得られた培養物の精製および/または分離して、二重特異性抗体を得るステップを含む、方法。
6.(a)項目1に記載の二重特異性抗体;ならびに
(b)検出可能な標識、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁性粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、またはその組合せからなる群から選択されるカップリング部分を含むことを特徴とする、免疫コンジュゲート。
7.医薬、試薬、検出プレートまたはキットの製造における、項目1に記載の二重特異性抗体、または項目6に記載の免疫コンジュゲートの使用であって;試薬、検出プレートまたはキットが:試料中のPD-L1および/または4-1BBを検出するために用いられ;医薬が、PD-L1を発現する腫瘍(すなわち、PD-L1陽性)を治療または予防するために使用される、使用。
8.(i)項目1に記載の二重特異性抗体、または項目6に記載の免疫コンジュゲート;および
(ii)薬学的に許容される担体
を含むことを特徴とする、医薬組成物。
9.以下:
(i)ヒトPD-L1分子および/または4-1BB分子を検出するための使用;(ii)フロー検出のための使用;(iii)細胞免疫蛍光検出のための使用;(iv)腫瘍を治療するための使用;(v)腫瘍の診断のための使用;(vi)PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断するための使用;ならびに(vii)4-1BBに結合して免疫細胞を活性化させるための使用
を含む群から選択される、項目1に記載の二重特異性抗体の1つまたは複数の使用。
10.(i)項目1に記載の二重特異性抗体;ならびに(ii)発現および/または精製を補助する任意のタグ配列を含むことを特徴とする、組換えタンパク質。
【0065】
本発明はさらに、以下の第1から第14の態様のいずれか1つに関する;
本発明の第1の態様において、二重特異性抗体が提供され、二重特異性抗体は;
(a)抗PD-L1シングルドメイン抗体;および
(b)抗4-1BBシングルドメイン抗体
を含む。
【0066】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、1~3つの抗PD-L1シングルドメイン抗体を含み、好ましくは1つ、または2つ抗PD-L1シングルドメイン抗体を含む。
【0067】
他の好ましい実施形態において、PD-L1シングルドメイン抗体は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断し得る。
【0068】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、1~3つの抗4-1BBシングルドメイン抗体を含み、好ましくは、1つ、または2つの抗4-1BBシングルドメイン抗体を含む。
【0069】
他の好ましい実施形態において、4-1BBシングルドメイン抗体は、免疫細胞を活性化し得る。
【0070】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、ヒト免疫グロブリン由来のFc領域をさらに含む。
【0071】
他の好ましい実施形態において、ヒト免疫グロブリンは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはその組合せからなる群から選択され;好ましくはIgG1である。
【0072】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体のFc領域は、CH1+CL1ドメイン、ヒトIgGドメインまたはその組合せからなる群から選択される。
【0073】
他の好ましい実施形態において、Fc領域は、操作された変異体、好ましくはLALA変異体であり、ノブ-イン-ホール変異体を含む。
【0074】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、ペプチド鎖iおよびペプチド鎖iiから構成される二量体であり、ペプチド鎖iおよびペプチド鎖iiは、
それぞれ、式I、式II、
A-L1-Fc1-L2-B(式I)
A-L3-Fc2-L4-B(式II)
に示される構造を有し、式中、
AおよびBは、独立して、存在しない、抗PD-L1シングルドメイン抗体または抗4-1BBシングルドメイン抗体であり;
L1、L2およびL3は、それぞれ独立して、存在しない、または連結エレメントであり;
L4は、連結エレメントであり;
Fc1およびFc2は、それぞれ独立して、ヒト免疫グロブリンのFc領域(好ましくはLALA変異体)であり;および
「-」は、ペプチド結合を表し;
ここで、二重特異性抗体は、少なくとも1つの抗PD-L1シングルドメイン抗体、および少なくとも1つの抗4-1BBシングルドメイン抗体を含み;
式Iによって表されるポリペプチドおよび式IIによって表されるポリペプチドは、ジスルフィド結合の相互作用およびノブ-イン-ホール構造によりヘテロ二量体を形成する。
【0075】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、ホモ二量体またはヘテロ二量体である。
【0076】
他の好ましい実施形態において、Fc領域は、LALA変異体Fcである、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する、または配列番号3に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0077】
他の好ましい実施形態において、Fc1およびFc2は、それぞれノブ変異およびホール変異を有する。
【0078】
他の好ましい実施形態において、Fc1のアミノ酸配列において、配列番号3に記載のアミノ酸配列に基づいて、132番目の位置はS132C変異を有し、144番目の位置はT144W変異を有する。
【0079】
他の好ましい実施形態において、Fc2のアミノ酸配列において、配列番号3に記載のアミノ酸配列に基づいて、127番目の位置はY127C変異を有し、144番目の位置はT144S変異を有し、146番目の位置はL146A変異を有する。
【0080】
他の好ましい実施形態において、Fc1は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する、または配列番号8に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0081】
他の好ましい実施形態において、Fc2は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する、または配列番号9に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0082】
他の好ましい実施形態において、抗4-1BBシングルドメイン抗体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、または配列番号2に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0083】
他の好ましい実施形態において、抗PD-L1シングルドメイン抗体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する、または配列番号4に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0084】
他の好ましい実施形態において、リンカーの配列は(GS)であり、nは正の整数(例えば、1、2、3、4、5または6)であり、好ましくは、nは2または4である。
【0085】
他の好ましい実施形態において、リンカーは、配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する、または配列番号5に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0086】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体はホモ二量体であり、これは、ジスルフィド結合を介して2本の同一のペプチド鎖によって形成され、ペプチド鎖は、配列番号1(すなわち、Bi-400)に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号1に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、さらに好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0087】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体は、ホモ二量体であり、これは、ジスルフィド結合を介して2本の同一のペプチド鎖によって形成され、ペプチド鎖は、配列番号6(すなわち、Bi-088)に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号6に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、さらに好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0088】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体はヘテロ二量体であり、これはノブ-イン-ホール相互作用(ノブ-イン-ホール)を介して、ペプチド鎖iおよびペプチド鎖iiによって形成され;ここで、ペプチド鎖iは、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号7に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有し;およびペプチド鎖iiは、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号9に記載の配列(すなわち、Bi-401-091)に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0089】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体はヘテロ二量体であり、これは、ノブ-イン-ホール相互作用(ノブ-イン-ホール)を介してペプチド鎖iおよびペプチド鎖iiによって形成され;ここで、ペプチド鎖iは、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号7に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有し;およびペプチド鎖iiは、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号10(すなわち、Bi-061-091)に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0090】
本発明の第2の態様において、単離されたポリヌクレオチドが提供され、単離されたポリヌクレオチドは、本発明の第1の態様による二重特異性抗体をコードする。
【0091】
他の好ましい実施形態において、二重特異性抗体がヘテロ二量体である場合、ポリヌクレオチド中で、ペプチド鎖iをコードするポリヌクレオチド配列、およびペプチド鎖iiをコードするポリヌクレオチド配列は、1:1の比率である。
【0092】
本発明の第3の態様において、ベクターが提供され、ベクターは、本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドを含む。
【0093】
他の好ましい実施形態において、ベクターは:DNA、RNA、ウイルスベクター、プラスミド、トランスポゾン、他の遺伝子導入系、またはその組合せからなる群から選択され;好ましくは、発現ベクターは、レンチウイルス、アデノウイルス、AAVウイルス、レトロウイルス、またはその組合せ等のウイルスベクターを含む。
【0094】
本発明の第4の態様において、宿主細胞が提供され、宿主細胞は、本発明の第3の態様によるベクターを含む、または本発明の第2の態様によるポリヌクレオチドがそのゲノムに組み込まれているか:または
宿主細胞は、本発明の第1の態様による二重特異性抗体を発現する。
【0095】
他の好ましい実施形態において、宿主細胞は、原核細胞または真核細胞を含む。
【0096】
他の好ましい実施形態において、宿主細胞は、大腸菌、酵母細胞、および哺乳動物細胞からなる群から選択される。
【0097】
本発明の第5の態様において、本発明の第1の態様による二重特異性抗体を産生する方法であって:
(a)二重特異性抗体を含む培養物を得るように、本発明の第4の態様による宿主細胞を適切な条件下で培養するステップ;および
(b)ステップ(a)で得られた培養物を精製および/または分離して、二重特異性抗体を得るステップを含む、方法が提供される。
【0098】
他の好ましい実施形態において、精製は、プロテインAアフィニティーカラム精製および分離により標的抗体に対して行うことができる。
【0099】
他の好ましい実施形態において、精製された標的抗体は、95%超、96%超、97%超、98%超、99%超、好ましくは100%の純度を有する。
【0100】
本発明の第6の態様において、免疫コンジュゲートが提供され、これは:
(a)本発明の第1の態様による二重特異性抗体;ならびに
(b)検出可能な標識、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、ナノ磁性粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、またはその組合せからなる群から選択されるカップリング部分を含む。
【0101】
他の好ましい実施形態において、放射性核種は:
(i)診断用同位体であって:Tc-99m、Ga-68、F-18、I-123、I-125、I-131、In-111、Ga-67、Cu-64、Zr-89、C-11、Lu-177、Re-188、またはその組合せからなる群から選択される診断用同位体;および/または
(ii)治療用同位体であって:Lu-177、Y-90、Ac-225、As-211、Bi-212、Bi-213、Cs-137、Cr-51、Co-60、Dy-165、Er-169、Fm-255、Au-198、Ho-166、I-125、I-131、Ir-192、Fe-59、Pb-212、Mo-99、Pd-103、P-32、K-42、Re-186、Re-188、Sm-153、Ra223、Ru-106、Na24、Sr89、Tb-149、Th-227、Xe-133、 Yb-169、Yb-177、またはその組合せからなる群から選択される治療用同位体を含む。
【0102】
他の好ましい実施形態において、カップリング部分は、薬剤または毒素である。
【0103】
他の好ましい実施形態において、薬剤は、細胞毒性薬剤である。
【0104】
他の好ましい実施形態において、細胞毒性薬剤は、抗チューブリン薬剤、DNAマイナーグルーブ結合剤、DNA複製阻害剤、アルキル化剤、抗生物質、葉酸アンタゴニスト、代謝拮抗剤、化学療法感作剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイド、またはその組合せからなる群から選択される。
【0105】
特に有用なクラスの細胞毒性薬剤の例としては、例えば、DNAマイナーグルーブ結合剤、DNAアルキル化剤、およびチューブリン阻害剤が挙げられる。典型的な細胞毒性薬剤としては、例えば、オーリスタチン、カンプトテシン、デュオカルマイシン、エトポシド、メイタンシンおよびメイタンシノイド(例えば、DM1およびDM4)、タキサン、ベンゾジアゼピン、またはベンゾジアゼピン含有薬剤(例えば、ピロロ[1,4]ベンゾジアゼピン(PBD)、インドリノベンゾジアゼピン、およびオキサゾリジノベンゾジアゼピン)、ビンカアルカロイドまたはその組合せが挙げられる。
【0106】
他の好ましい実施形態において、毒素は、以下:
アウリスタチン(例えば、アウリスタチンE、アウリスタチンF、MMAE、およびMMAF)、アウレオマイシン、メイタンシノイド、リシン、リシンA鎖、コンブレタスタチン、デュオカルマイシン、ドラスタチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、パクリタキセル、シスプラチン、cc1065、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシン、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α-サーチナ、ゲロニン、ミトジェリン、レトストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、クリシン、クロチン、カリケアマイシン、サポナリア オフィシナリス(Sapaonaria officinalis)阻害剤、グルココルチコイドまたはその組合せからなる群から選択される。
【0107】
他の好ましい実施形態において、カップリング部分は、検出可能な標識である。
【0108】
他の好ましい実施形態において、コンジュゲートは、以下:蛍光または発光標識、放射性標識、MRI(磁気共鳴イメージング)またはCT(コンピュータX線断層撮影)造影剤、または検出可能な生成物を生成することができる酵素、放射性核種、生体毒素、サイトカイン(例えば、IL-2)、抗体、抗体Fc断片、抗体scFv断片、金ナノ粒子/ナノロッド、ウイルス粒子、リポソーム、ナノ磁性粒子、プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT-ダイアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様タンパク質(BPHL))、化学療法剤(例えば、シスプラチン)からなる群から選択される。
【0109】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートは:本発明の第1の態様に記載の多価(例えば、2価)二重特異性抗体を含む。
【0110】
他の好ましい実施形態において、多価とは、免疫コンジュゲートが本発明の第1の態様による二重特異性抗体の複数の反復を含むアミノ酸配列を有することを指す。
【0111】
本発明の第7の態様において、医薬、試薬、検出プレートまたはキットの製造における、本発明の第1の態様に記載の二重特異性抗体、または本発明の第6の態様に記載の免疫コンジュゲートの使用が提供され;ここで、試薬、検出プレートまたはキットは:試料中のPD-L1および/または4-1BBを検出するために用いられ;ここで、医薬は、PD-L1を発現する腫瘍(すなわち、PD-L1陽性)を治療または予防するために使用される。
【0112】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートのカップリング部分は、診断用の同位体である。
【0113】
他の好ましい実施形態において、試薬は、同位体トレーサー、造影剤、フロー検出試薬、細胞免疫蛍光検出試薬、磁性ナノ粒子およびイメージング剤からなる群から選択される1つまたは複数の試薬である。
【0114】
他の好ましい実施形態において、試料中のPD-L1および/または4-1BBを検出するための試薬は、PD-L1および/または4-1BB分子を(in vivo)検出するための造影剤である。
【0115】
他の好ましい実施形態において、検出は、in vivo検出またはin vitro検出である。
【0116】
他の好ましい実施形態において、検出は、フロー検出および細胞免疫蛍光検出を含む。
【0117】
他の好ましい実施形態において、薬剤は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断し、同時に4-1BBの結合によって免疫細胞を活性化するために使用される。
【0118】
他の好ましい実施形態において、腫瘍は、以下:急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄症、非ホジキンリンパ腫、結腸直腸がん、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、肝臓がん、白血病、腎臓腫瘍、肺がん、小腸がん、骨がん、前立腺がん、前立腺がん、子宮頸がん、リンパ腫、副腎腫瘍、膀胱腫瘍またはその組合せを含むが、これらに限定されない。
【0119】
本発明の第8の態様において、医薬組成物が提供され、これは:
(i)本発明の第1の態様に記載の二重特異性抗体、または本発明の第6の態様に記載の免疫コンジュゲート;および
(ii)薬学的に許容される担体を含む。
【0120】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートのカップリング部分は、薬剤、毒素、および/または治療用同位体である。
【0121】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、腫瘍を治療するための、細胞毒性薬剤等の追加の薬剤をさらに含む。
【0122】
他の好ましい実施形態において、腫瘍を治療するための追加の薬剤は、パクリタキセル、ドキソルビシン、シクロホスファミド、アキシチニブ、レンバチニブ、およびペムブロリズマブを含む。
【0123】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、PD-L1タンパク質を発現する(すなわち、PD-L1陽性)腫瘍を治療するために使用される。
【0124】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、注射剤の形態である。
【0125】
他の好ましい実施形態において、医薬組成物は、腫瘍を予防および治療するための医薬の製造において使用される。
【0126】
本発明の第9の態様において、以下:
(i)ヒトPD-L1分子および/または4-1BB分子を検出するための使用;(ii)フロー検出のための使用;(iii)細胞免疫蛍光検出のための使用;(iv)腫瘍を治療するための使用;(v)腫瘍の診断のための使用;(vi)PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断するための使用;ならびに(vii)4-1BBに結合して免疫細胞を活性化させるための使用
を含む群から選択される本発明の第1の態様による二重特異性抗体の1つまたは複数の使用が提供される。
【0127】
他の好ましい実施形態において、腫瘍は、PD-L1タンパク質を発現する(すなわち、PD-L1陽性)腫瘍である。
【0128】
他の好ましい実施形態において、使用は、非診断用および非治療用である。
【0129】
本発明の第10の態様において、組換えタンパク質が提供され、この組換えタンパク質は:(i)本発明の第1の態様による二重特異性抗体;ならびに(ii)任意に、発現および/または精製を補助するためのタグ配列を有する。
【0130】
他の好ましい実施形態において、タグ配列は、6Hisタグ、HAタグおよびFcタグを含む。
【0131】
他の好ましい実施形態において、組換えタンパク質は、PD-L1および/または4-1BBに特異的に結合する。
【0132】
本発明の第11の態様において、試料中のPD-L1および/または4-1BBを検出する方法が提供され、この方法は:(1)試料を本発明の第1の態様に記載の二重特異性抗体と接触させるステップ;(2)抗原抗体複合体が形成されるかどうかを検出し、ここで、複合体の形成が、試料中のPD-L1および/または4-1BBの存在を示すステップを含む。
【0133】
本発明の第12の態様において、疾患を治療するための方法が提供され、この方法は:本発明の第1の態様に記載の二重特異性抗体、または本発明の第6の態様に記載の免疫コンジュゲート、または本発明の第8の態様に記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0134】
他の好ましい実施形態において、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトを含む。
【0135】
本発明の第13の態様において、PD-L1および/または4-1BB検出試薬が提供され、検出試薬は、本発明の第6の態様に記載の免疫コンジュゲートおよび検出許容可能な担体を含むことを特徴とする。
【0136】
他の好ましい実施形態において、免疫コンジュゲートのカップリング部分は、診断用の同位体である。
【0137】
他の好ましい実施形態において、検出許容可能な担体は、非毒性で不活性な水性担体媒体である。
【0138】
他の好ましい実施形態において、検出試薬は、同位体トレーサー、造影剤、フロー検出試薬、細胞免疫蛍光検出試薬、磁性ナノ粒子およびイメージング剤からなる群から選択される1つまたは複数の試薬である。
【0139】
他の好ましい実施形態において、検出試薬は、in vivo検出のために使用される。
【0140】
他の好ましい実施形態において、検出試薬の剤形は、液体または粉末(例えば、水性液剤、注射、凍結乾燥散剤、錠剤、頬剤、エアロゾル)である。
【0141】
本発明の第14の態様において、PD-L1および/または4-1BBを検出するためのキットが提供され、このキットは、本発明の第6の態様に記載の免疫コンジュゲートまたは本発明の第13の態様に記載の検出試薬、ならびに指示書を含むことを特徴とする。
【0142】
他の好ましい実施形態において、指示書は、キットが、対象におけるPD-L1および/または4-1BBの発現の非侵襲的検出に使用されることを記載する。
【0143】
他の好ましい実施形態において、キットは、PD-L1タンパク質(すなわち、PD-L1陽性)を発現する腫瘍の検出に使用される。
【0144】
用語
本開示をより容易に理解できるようにするために、まず、特定の用語を最初に定義する。本出願で使用する場合、本明細書で明示的に別段の記載がない限り、以下の各用語は、以下に示す意味を有するものとする。他の定義は、本出願を通じて記載される。
【0145】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、当技術分野の当業者が判断する特定の値または組成についての許容誤差範囲内の値または組成物を指していてもよく、これはその値または組成がどのように測定または決定されるかに部分的に依存する。
【0146】
本明細書で使用する場合、用語「与える」および「投与する」は、互換的に使用され、
本発明の生成物が、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髄、その他の非経口投与経路、
例えば、注射または点滴を含む、当技術分野の当業者に公知の種々の方法および送達系のいずれかを使用して対象に物理的に導入することを指す。
【0147】
二重特異性抗体
本明細書において、「本発明の二重特異性抗体」、「本発明の二重抗体」、および「抗PD-L1/4-1BB二重特異性抗体」という用語は同じ意味を持ち、これらは全てPD-L1および4-1BBを特異的に認識し結合できる二重特異性抗体を指す。
【0148】
本発明は、抗PD-L1/4-1BB二重特異性抗体を提供し、これは、抗PD-L1シングルドメイン抗体および抗4-1BBシングルドメイン抗体を含む。
【0149】
好ましくは、二重特異性抗体は、ペプチド鎖iおよびペプチド鎖iiから構成される二量体であり、ペプチド鎖iおよびペプチド鎖iiの構造は、それぞれ式Iおよび式II
A-L1-Fc1-L2-B(式I)
A-L3-Fc2-L4-B(式II)
に示され、
式中、
AおよびBは、独立して、存在しないか、抗PD-L1シングルドメイン抗体または抗4-1BBシングルドメイン抗体であり;
L1、L2およびL3は、それぞれ独立して、存在しないか、またはリンカーであり;
L4はリンカーであり;
Fc1およびFc2は、それぞれ独立してヒト免疫グロブリンのFc領域(好ましくは、LALA変異体)であり;および
「-」は、ペプチド結合を表し;
二重特異性抗体は、少なくとも1つの抗PD-L1シングルドメイン抗体および少なくとも1つの抗4-1BBシングルドメイン抗体を含み、
式Iによって表されるポリペプチドおよび式IIによって表されるポリペプチドは、ジスルフィド結合相互作用およびノブインホール構造(ノブ-イン-ホール)を介してヘテロ二量体を形成する。
【0150】
本発明の一実施形態において、二重特異性抗体は、ホモ二量体またはヘテロ二量体である。
【0151】
一実施形態において、Fc領域は、LALA変異体Fcであり、配列番号3に記載のアミノ酸配列、または配列番号3に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0152】
他の実施形態において、Fc1およびFc2は、それぞれノブ変異およびホール変異を有する。ここで、ノブ変異とは、配列番号3に記載のアミノ酸配列に基づいて、132番目の位置にS132C変異があり、144番目の位置にT144W変異があることを指す。ホール変異は、配列番号3に記載のアミノ酸配列に基づいて、127番目の位置にY127C変異、144番目の位置にT144S変異があり、146番目の位置にL146A変異があることを指す。
【0153】
好ましくは、Fc1は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号8に記載の配列に対して、85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有し:Fc2は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するか、または配列番号9に記載の配列に対して85%(好ましくは90%、より好ましくは95%)以上の配列同一性を有する。
【0154】
本明細書で使用する場合、「シングルドメイン抗体」、「ナノボディVHH」、および「ナノボディ」という用語は同じ意味を有し、完全な機能を有する最小の抗原結合性断片である抗体重鎖可変領域をクローニングすることによって構築された、1つの重鎖可変領域のみからなるナノボディ(VHH)を指す。通常、軽鎖と重鎖の定常領域1(CH1)を天然に欠く抗体を得た後、抗体重鎖可変領域をクローニングし、1つの重鎖可変領域のみからなるナノボディ(VHH)を構築する。
【0155】
本明細書において、「可変」という用語は、抗体可変領域の特定の部分が配列において異なり、これが各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合性および特異性に寄与することを意味する。しかし、可変性は抗体可変ドメイン全体に均一に分布しているわけではない。それは、軽鎖および重鎖の可変領域の相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。ネイティブの重鎖と軽鎖の可変領域はそれぞれ、4つのFR領域を含み、これらは大まかにフォールド構成であり、結合ループを形成する3つのCDRによって接続されているが、場合によっては部分的にフォールド構造を形成することもある。各鎖のCDRはFR領域によって近接し、他の鎖のCDRと共に抗体の抗原結合部位を形成する(Kabatら、NIH Publ.No.91-3242,I巻、pp.647-669(1991)を参照)。定常領域は、抗体の抗原への結合には直接関与しないが、例えば抗体の抗体依存性細胞傷害に関与する等の、異なるエフェクター機能を示す。
【0156】
本明細書で使用する場合、「フレームワーク領域」(FR)という用語は、CDR間に挿入されたアミノ酸配列、すなわち、単一種の異なる免疫グロブリン間で比較的保存的である免疫グロブリン軽鎖および重鎖可変領域の一部を指す。免疫グロブリン軽鎖および重鎖の各々は、それぞれFR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-LおよびFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hと称される4つのFRを有する。したがって、軽鎖可変ドメインは、(FR1-L)-(CDR1-L)-(FR2-L)-(CDR2-L)-(FR3-L)-(CDR3-L)-(FR4-L)と称してよく、重鎖可変ドメインは、(FR1-H)-(CDR1-H)-(FR2-H)-(CDR2-H)-(FR3-H)-(CDR3-H)-(FR4-H)と表してもよい。好ましくは、本発明のFRはヒト抗体FRまたはその誘導体であり、ヒト抗体FR誘導体は天然に存在するヒト抗体FRと実質的に同一であり、すなわち、配列同一性は85%、90%、95%、または96%、97%、98%、または99%に達する。
【0157】
CDRのアミノ酸配列を知れば、当技術分野の当業者はフレームワーク領域FR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-Lおよび/またはFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hを容易に決定できる。
【0158】
本明細書で使用する場合、「ヒトフレームワーク領域」という用語は、天然に存在するヒト抗体フレームワーク領域と実質的に(約85%以上、具体的には90%、95%、97%、99%または100%)同一であるフレームワーク領域である。
【0159】
本明細書で使用する場合、「親和性」という用語は、インタクトな抗体と抗原との間の平衡会合によって理論的に定義される。本発明の二重特異性抗体の親和性は、K値(解離定数)または他の測定方法によって評価または決定、例えば、FortebioRed96装置を用いた生体層干渉法(BLI)によって決定し得る。
【0160】
本明細書で使用する場合、「リンカー」という用語は、軽鎖および重鎖のドメインが交換された二重可変領域を有する免疫グロブリンに折り畳まれるのに十分な移動度を提供するように免疫グロブリンドメインに挿入される1つまたは複数のアミノ酸残基を指す。
【0161】
当技術分野の当業者に知られているように、免疫コンジュゲートおよび融合発現産物は、薬剤、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素および他の診断用または治療用分子を本発明の抗体またはその断片に結合させることによって形成されるコンジュゲートを含む。本発明はまた、PD-L1/4-1BB二重特異性抗体、またはその断片に結合する細胞表面マーカーまたは抗原を含む。
【0162】
本明細書で使用する場合、「可変領域」および「相補性決定領域(CDR)」という用語は、互換的に使用される。
【0163】
本発明の好ましい実施形態において、抗体の重鎖可変領域は、3つの相補性決定領域、CDR1、CDR2およびCDR3を含む。
【0164】
本発明の好ましい実施形態において、抗体の重鎖は、上記の重鎖可変領域および重鎖定常領域を含む。
【0165】
本発明において、「本発明の抗体」、「本発明のタンパク質」、または「本発明のポリペプチド」という用語は、互換的に使用され、これらは全て、PD-L1および/または4-1BBタンパク質に特異的に結合するポリペプチド、例えば、重鎖可変領域を有するタンパク質またはポリペプチドを指す。これらは、開始メチオニンを含んでいても含んでいなくてもよい。
【0166】
本発明はさらに、本発明の抗体を有する他のタンパク質または融合発現産物を提供する。具体的には、本発明は、可変領域が本発明の抗体の重鎖可変領域と同一または少なくとも90%相同、好ましくは少なくとも95%相同である限り、可変領域を含む重鎖を有する任意のタンパク質またはタンパク質コンジュゲートおよび融合発現産物(すなわち、免疫コンジュゲートおよび融合発現産物)を含む。
【0167】
一般的に、抗体の抗原結合特性は、重鎖可変領域に位置する3つの特定の領域によって説明することができ、これらはCDRと称され、セグメントを4つのフレームワーク領域(FR)に分離し、4つのFRのアミノ酸配列は比較的保存的であり、結合反応に直接関与していない。これらのCDRは環構造を形成し、その間のFRが形成するβフォールドは空間構造上互いに近接しており、重鎖上のCDRと対応する軽鎖上のCDRは抗体の抗原結合部位を構成する。同種の抗体のアミノ酸配列を比較することによって、どのアミノ酸がFR領域またはCDR領域を構成するかを判断することが可能である。
【0168】
本発明の抗体の重鎖の可変領域は、その少なくとも一部が抗原との結合に関与しているため、特に注目される。したがって、本発明は、CDRが本明細書で同定したCDRと90%超(好ましくは95%超、最も好ましくは98%超)相同である限り、CDRを有する抗体重鎖可変領域を有するこれらの分子を含む。
【0169】
本発明は、インタクトな抗体だけでなく、免疫学的活性を有する抗体断片、または抗体と他の配列とで形成される融合タンパク質をも含む。したがって、本発明は、抗体の断片、誘導体およびアナログをさらに含む。
【0170】
本明細書で使用する場合、「断片」、「誘導体」および「アナログ」という用語は、本発明の抗体の同じ生物学的機能もしくは活性を実質的に保持するポリペプチドを指す。本発明のポリペプチド断片、誘導体またはアナログは、(i)1つまたは複数の置換された保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)を有するポリペプチドであってよく、そのような置換アミノ酸残基は遺伝コードによってコードされていてもいなくてもよい、または(ii)1つまたは複数のアミノ酸残基に置換基を有するポリペプチド、または(iii)成熟ポリペプチドを他の化合物(例えば、ポリペプチドの半減期を延長する化合物、例えば、ポリエチレングリコール)、または(iv)追加のアミノ酸配列をポリペプチド配列に融合することによって形成されるポリペプチド(例えば、リーダー配列もしくは分泌配列、またはポリペプチドを精製するための配列もしくはプロタンパク質配列、または6Hisタグによって形成される融合タンパク質)であってもよい。本明細書の教示に照らして、このような断片、誘導体およびアナログは、当技術分野の当業者の範囲内である。
【0171】
本発明の抗体は、PD-L1および/または4-1BBタンパク質に結合する活性を有する二重抗体を指す。本用語は、本発明の抗体と同じCDR領域を含み、同じ機能を有するポリペプチドバリアントも指す。このようなバリアント形態には、(これらに限定されないが):C末端および/またはN末端の1つまたは複数(通常1~50、好ましくは1~30、より好ましくは1~20、最も好ましくは1~10)のアミノ酸の欠失、挿入および/または置換、ならびに1つまたはいくつか(通常20以内、好ましくは10以内、より好ましくは5以内)のアミノ酸の付加が含まれる。例えば、当技術分野では、より近いまたは類似の特性を有するアミノ酸の置換は、一般的に、タンパク質の機能を変化させない。他の例として、C末端および/またはN末端における1つまたはいくつかのアミノ酸の付加は、通常、タンパク質の機能を変化させない。本用語は、本発明の抗体の活性断片および活性誘導体をさらに指す。
【0172】
ポリペプチドのバリアントとしては、相同配列、保存的バリアント、対立遺伝子バリアント、天然変異体、誘導変異体、本発明の抗体のDNAと高度または低度にストリンジェントな条件でハイブリダイズできるDNAがコードするタンパク質、または本発明の抗体に対する抗血清を使用することによって得られるポリペプチドまたはタンパク質が挙げられる。
【0173】
本発明は、さらに他のポリペプチド、例えば、シングルドメイン抗体またはその断片を含む融合タンパク質を提供する。実質的に全長のポリペプチドに加えて、本発明はさらに、本発明のシングルドメイン抗体の断片を含む。典型的には、断片は、本発明の抗体の少なくとも約50の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも約50個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約80の連続したアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約100の連続したアミノ酸を有する。
【0174】
本発明において、「本発明の抗体の保存的バリアント」は、本発明の抗体のアミノ酸配列と比較して、類似または近い特性を有するアミノ酸で、多くとも10、好ましくは多くとも8、より好ましくは多くとも5、および最も好ましくは多くとも3のアミノ酸配列を置換することにより形成されるポリペプチドを指す。これらの保存的バリアントポリペプチドは、好ましくは、表Aに記載のアミノ酸置換によって産生される。
【0175】
【表1】
【0176】
本発明は、さらに、上記の抗体もしくはその断片またはその融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAの形態であってもよい。DNAの形態は、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAを含む。DNAは、一本鎖または二本鎖であり得る。DNAは、コード化鎖または非コード化鎖のいずれかであり得る。
【0177】
本発明の成熟ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、成熟ポリペプチドのみをコードするコード配列;成熟ポリペプチドのコード配列および種々の追加コード配列;成熟ポリペプチドのコード配列(および任意の追加コード配列)および非コード配列を含む。
【0178】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」という用語は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいても、または追加のコード配列および/もしくは非コード配列を含んでいてもよい。
【0179】
本発明はさらに、上記の配列にハイブリダイズし、2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の同一性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は特に、本発明のポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能であるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「ストリンジェントな条件」は:(1)例えば、0.2×SSC、0.1%SDS、60℃の低いイオン強度および高温でのハイブリダイゼーションおよび溶出、または(2)例えば、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清/0.1%Ficoll、42℃等の変性剤存在下でのハイブリダイゼーション;または(3)2つの配列間の同一性が少なくとも90%、好ましくは95%超となる場合にのみ起こるハイブリダイゼーションを指す。さらに、ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を有する。
【0180】
本発明の抗体の全長ヌクレオチド配列またはその断片は、通常、PCR増幅、組換えまたは人工合成により得ることができる。実現可能な方法は、特に断片の長さが短い場合に、人工合成を用いて関連配列を合成することである。通常、非常に長い配列を有する断片は、複数の小さな断片を合成し、それらをライゲーションすることによって得られる。さらに、重鎖のコード配列を発現タグ(例えば、6His)と融合させて融合タンパク質を形成することもできる。
【0181】
関連配列が得られると、組換え法を用いて大量に関連配列を得ることができる。通常、ベクターにクローニングした後、細胞を形質転換し、増殖した宿主細胞から従来法により関連配列を単離する。本発明に関わる生体分子(核酸、タンパク質等)には、単離された形態の生体分子が含まれる。
【0182】
現時点では、本発明のタンパク質をコードするDNA配列(またはその断片、もしくはその誘導体)は、化学合成により完全に得ることができる。その後、このDNA配列は、当技術分野で知られている様々な既存のDNA分子(例えば、ベクター)および細胞に導入することができる。また、化学合成により、本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
【0183】
本発明はまた、上記の適切なDNA配列と適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように適切な宿主細胞を形質転換するために使用することができる。
【0184】
宿主細胞は、細菌細胞等の原核細胞;または酵母細胞等の下等真核細胞;または哺乳動物細胞等の高等真核細胞であってもよい。代表的な例としては大腸菌、ストレプトマイセス(Streptomyces);サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)等の細菌細胞;酵母等の真菌細胞;ショウジョウバエS2またはSf9等の昆虫細胞;CHO、COS7、293細胞等の動物細胞等が挙げられる。
【0185】
組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当技術分野の当業者に周知の従来技術により行うことができる。宿主が大腸菌のような原核生物である場合、DNAを取り込むことができるコンピテントセルは、指数関数的成長期後に採取し、当技術分野の当業者に周知の手順を用いてCaClで処理することができる。他の方法は、MgClを使用することである。また、所望により、エレクトロポレーションにより形質転換を行うことができる。宿主が真核生物である場合、以下のDNAトランスフェクション法:リン酸カルシウム共沈法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームパッケージング等の従来の機械的方法等を用いることができる。
【0186】
得られた形質転換体は、従来法により培養し、本発明の遺伝子にコードされるポリペプチドを発現させることができる。培養に用いる培地は、使用する宿主細胞に応じて、従来の種々の培地から選択することができる。培養は、宿主細胞の増殖に適した条件下で行われる。宿主細胞が適当な細胞密度まで増殖した後、選択したプロモーターを適当な方法(例えば、温度シフトまたは化学的誘導)によって誘導し、細胞をさらに一定期間培養する。
【0187】
上記方法において組換えポリペプチドは、細胞内、または細胞膜上で発現させることができ、または細胞外に分泌させることができる。組換えタンパク質は、所望により、その物理的、化学的およびその他の特性を利用して、種々の分離方法によって単離および精製することができる。これらの方法は、当技術分野の当業者にはよく知られている。これらの方法の例としては、従来の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧破壊、上清処理、超遠心分離、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および他の液体クロマトグラフィー技術およびこれらの方法の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0188】
本発明の抗体は、単独で、または検出可能な標識(診断目的)、治療剤、PK(プロテインキナーゼ)改変部分、またはこれらの物質いずれかの組合せで結合またはコンジュゲートして用いることができる。
【0189】
診断目的の検出可能な標識としては、蛍光または発光標識、放射性標識、MRI(磁気共鳴イメージング)またはCT(コンピュータ断層撮影)造影剤、または検出可能な生成物を産生することができる酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0190】
本発明の抗体と組み合わせるまたはコンジュゲートすることができる治療剤としては、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:1.放射性核種;2.生物学的毒性;3.IL-2等のサイトカイン;4.金ナノ粒子/ナノロッド;5.ウイルス;6.リポソーム;7.ナノ磁性粒子;8.プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT-ダイアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様タンパク質(BPHL));10.化学療法剤(例えばシスプラチン)または任意の形式のナノ粒子等。
【0191】
医薬組成物
本発明は、組成物も提供する。好ましくは、組成物は医薬組成物であり、これは、上記抗体もしくはその活性断片もしくはその融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む。一般的に、これらの物質は、非毒性で不活性かつ薬学的に許容される水性担体媒体中で製剤化することができ、そのpHは、通常、約5~8、好ましくは約6~8であるが、製剤化する物質の性質および治療する状態に応じてpH値を変化させてもよい。調製された医薬組成物は、腫瘍内投与、腹腔内投与、静脈内投与、または局所的投与を含む従来の経路で投与することができる(これらに限定されない)。
【0192】
本発明の医薬組成物は、PD-L1および/または4-1BBタンパク質分子の結合に直接使用することができ、したがって、腫瘍を治療するために使用することができる。さらに、追加の治療剤を併用することもできる。
【0193】
本発明の医薬組成物は、安全かつ有効な量(例えば、0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明の上記のシングルドメイン抗体(またはそのコンジュゲート)と薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。このような担体としては、生理食塩水、緩衝液、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびその組合せが挙げられるが、これらに限定されない。医薬製剤は、投与様式に適合させるべきである。本発明の医薬組成物は、例えば、生理的食塩水またはグルコースおよび他のアジュバントを含む水溶液を用いて従来法により、注射剤の形態で調製することができる。注射剤または液剤等の医薬組成物は、好ましくは無菌条件下で製造される。有効成分は、治療上有効量、例えば1日あたり約10μg/kg体重~約50mg/kg体重で投与される。さらに、本発明のポリペプチドは、追加の治療剤と共に使用することもできる。
【0194】
医薬組成物を使用する場合、安全かつ有効な量の免疫コンジュゲートが哺乳動物に投与されるが、その安全かつ有効な量は、通常少なくとも約10μg/kg体重、多くの場合約50mg/kg体重以下であり、好ましくは、投与量は約10μg/kg体重~約10mg/kg体重である。それにもかかわらず、具体的な投与量については、投与経路および患者の健康状態等の要因も考慮する必要があり、これらは当業者の医師の技量の範囲内である。
【0195】
標識化抗体
本発明の好ましい実施形態において、抗体は検出可能な標識を有する。より好ましくは、標識は、同位体、コロイド状金標識、有色標識または蛍光標識からなる群から選択される。
【0196】
コロイド状金標識は、当技術分野の当業者に公知の方法を用いて実施することができる。本発明の好ましい実施形態において、PD-L1/4-1BB二重特異性抗体をコロイド状金で標識し、コロイド状金標識化抗体を得ることができる。
【0197】
検出方法
本発明はまた、PD-L1および/または4-1BBタンパク質を検出する方法に関する。本方法は、大別すると、以下:細胞および/または組織の試料を得るステップ;試料を媒体に溶解するステップ;溶解した試料中のPD-L1および/または4-1BBタンパク質のレベルを検出するステップを含む。
【0198】
本発明の検出方法において、使用する試料は特に限定されず、代表例は、細胞保存溶液中に存在する細胞含有試料である。
【0199】
キット
また、本発明は、本発明の抗体(またはその断片)または検出プレートを含むキットを提供する。本発明の好ましい実施態様において、キットは、容器、使用指示書、緩衝剤等をさらに含む。
【0200】
また、本発明は、PD-L1および/または4-1BBのレベルを検出するための検出キットを提供し、このキットは、PD-L1および/または4-1BBタンパク質を認識する抗体、試料を溶解するための溶解媒体、および各種緩衝剤、検出標識、検出基質等の一般的な検出試薬および緩衝剤を含む。なお、検出キットはin vitro診断用デバイス中にあってもよい。
【0201】
使用
以上のように、本発明のシングルドメイン抗体は、生物学的および臨床的応用価値が広く、その使用は、PD-L1および/または4-1BBに関連する疾患の診断および治療、基礎医学研究、生物学研究等の多くの分野に関連する。その好ましい使用は、臨床診断、および腫瘍治療等のPD-L1および/または4-1BBに対する標的治療のためのものである。
【0202】
本発明による有益な効果
本発明は、以下の技術的効果のうち1つまたは複数を達成する:
1)本発明のナノボディは、正しい空間構造のヒトPD-L1タンパク質および4-1BBタンパク質に対して高度に特異的である。
2)本発明の二重特異性抗体は強い親和性を有する。
3)本発明の二重特異性抗体の産生は、簡単かつ簡便である。
4)本発明の二重特異性抗体は、PD-L1の受容体PD-1への結合を遮断する機能を有する。同時に、二重特異性抗体は、免疫細胞上の4-1BBにも結合し、腫瘍微小環境における免疫細胞の活性を活性化させ、腫瘍の発生および発達を阻害する効果をより効果的に改善することができる。
5)二重特異性抗体は、安定性が高く、半減期が長い。
6)肝毒性が少なく、安全性が良好である。
7)本発明の二重特異性抗体の第1のタンパク質機能性領域と第2のタンパク質機能性領域の間に相乗効果がある可能性が非常に高く;例えば、PD-L1のPD-1への結合を遮断する能力が、対照抗体よりもさらに優れており;ヒト4-1BBおよびヒトPD-L1タンパク質への結合レベルは、対照抗体よりもさらに優れており;混合リンパ球にIL-2の分泌を誘導する上でも対照抗体より優れていること等が示され、これは、本発明の二重特異性抗体が、T細胞をよりよく活性化することができること等を示している。
【図面の簡単な説明】
【0203】
図1図1A図1Dは、それぞれ二重特異性抗体Bi-400、Bi-088、Bi-401-091、Bi-061-091の構造の模式図を示す。各モジュールの意味は以下の通りである。
【化1】

図2A図2Aは、CHO-S細胞の表面に過剰発現されたヒトPD-L1タンパク質に対する本発明の二重特異性抗体の結合の検出結果を示す。
図2B図2Bは、CHO-S細胞の表面に過剰発現されたカニクイザルPD-L1タンパク質に対する本発明の二重特異性抗体の結合の検出結果を示す。
図2C図2Cは、CHO-S細胞の表面に過剰発現されたヒト4-1BBタンパク質に対する本発明の二重特異性抗体との結合の検出結果を示す。
図2D図2Dは、CHO-S細胞の表面に過剰発現されたカニクイザル4-1BBタンパク質に対する本発明の二重特異性抗体の結合の検出結果を示す。
図2E図2Eは、CHO-S細胞に対する本発明の二重特異性抗体の結合の検出結果を示す。
図3図3は、CHO-S細胞の表面に過剰発現されたヒトPD-1タンパク質に対するPD-L1タンパク質の結合を遮断する本発明の二重特異性抗体の検出結果を示す。である。
図4A図4Aは、ヒト4-1BBを過剰発現しているCHO-S細胞と、ヒトPD-L1を過剰発現しているCHO-S細胞に同時に結合している本発明の二重特異性抗体の検出結果を示す。
図4B図4Bは、ヒト4-1BBおよびヒトPD-L1タンパク質に同時に結合する、本発明の二重特異性抗体の検出結果を示す。
図5A図5Aは、CHO-S細胞とヒト4-1BB Jurkat NF-ATルシフェラーゼレポーター遺伝子を過剰発現している細胞の共インキュベート系における本発明の二重特異性抗体の蛍光シグナル活性化活性の検出結果を示す。
図5B図5Bは、ヒトPD-L1を過剰発現しているCHO-S細胞とヒト4-1BB Jurkat NF-ATルシフェラーゼレポーター遺伝子を過剰発現している細胞の共インキュベート系における本発明の二重特異性抗体の蛍光シグナル活性化の検出結果を示す。
図5C図5Cは、ヒトPD-L1を過剰発現しているCT-26細胞とヒト4-1BB Jurkat NF-ATルシフェラーゼレポーター遺伝子を過剰発現している細胞の共インキュベート系における本発明の二重特異性抗体の蛍光シグナル活性化の検出結果を示す。
図6A図6Aは、CHO-S細胞とヒト初代T細胞の共インキュベート系における本発明の二重特異性抗体のT細胞活性化の検出結果を示す。
図6B図6Bは、本発明の二重特異性抗体によるPD-L1 CHO-S細胞およびヒト初代T細胞の共インキュベート系における、T細胞の活性化によるIL-2分泌の検出結果を示す。
図7図7は、本発明の二重特異性抗体による、混合リンパ球反応系においてT細胞の活性化の検出結果を示す。
図8図8は、マウスにおける本発明の二重特異性抗体の半減期の検出結果を示す。
図9図9は、ヒトPD-L1 CT-26細胞を接種したPD-L1/PD-1/4-1BBトリプルトランスジェニックマウスのモデルにおける、本発明の二重特異性抗体の医薬効果の検出結果を示す。
図10図10は、ヒトPD-L1 MC38細胞を接種したヒトPD-L1/4-1BBダブルトランスジェニックマウスのモデルにおける、本発明の二重特異性抗体の医薬効果の検出結果を示す。
図11図11は、ヒト4-1BBマウス毒性試験における本発明の二重特異性抗体の肝臓組織HE染色結果を示す。水平方向の各群は、それぞれ4匹のマウスの結果を示す。
図12図12は、ヒト4-1BBマウス毒性試験における本発明の二重特異性抗体の肝臓組織CD8 IHC染色結果を示す。 本発明に関わるいくつかの配列を以下の表Bに示す:
【0204】
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】

【表2-5】

【表2-6】

【表2-7】
【実施例
【0205】
本発明を実施するための具体的なモデル
以下、本発明は特定の実施例と組み合わせてさらに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するために使用されるに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図していないことは理解されるべきである。以下の実施例において具体的な条件を示さない実験方法は、通常、従来の条件に従って、例えば、Sambrookら、Molecular cloning:Laboratory Manual (New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載されている条件に従って、または製造業者が推奨する条件に従って実施される。パーセンテージおよび部は、特に指示しない限り、重量によるものである。
【0206】
特定しない場合、実施例2~12で使用したHZ-L-Yr-13&14-16-01およびC-Ye-18-5のC末端を、IgG1 Fc(LALA変異)に直接ライゲーションした。
【0207】
実施例1:二重特異性抗体のクローニングおよび発現
1.1 抗体コンストラクトの構造
本実施例では、4つの抗4-1BB/PD-L1二重特異性抗体を構築した、すなわち:
Bi-400:2の同一のポリペプチド鎖から構成されており(2つのペプチド鎖は2対のジスルフィド結合によって連結されていた)、その構造図を図1Aに示す。ペプチド鎖は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有していたが、これは、抗4-1BBナノボディHZ-L-Yr-13&14-16-01のアミノ酸配列を含み(配列番号2)、抗4-1BBナノボディアミノ酸配列のC末端はヒトIgG1 Fcのアミノ酸配列(LALA変異で導入、配列番号3、IgG1 Fc(LALA)と命名)に直接ライゲーションされ、抗PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(公開番号:中国特許出願公開第112480253A号)(配列番号4)のN末端は、21アミノ酸残基(GS)(配列番号5)のリンカーを介してIgG1 Fc(LALA)のC末端にライゲーションされた。
Bi-088:2本の同一のポリペプチド鎖から構成されており、その構造模式図は、図1Bに示され、ペプチド鎖は、配列番号6に記載のアミノ酸配列を有し、これは抗PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(公開番号:中国特許出願公開第112480253A号)(配列番号4)を含み、ナノボディアミノ酸配列のC末端はヒトIgG1 Fcのアミノ酸配列(LALA変異を導入、配列番号3)に直接ライゲーションされ、および抗4-1BBナノボディHZ-L-Yr-13&14-16-01アミノ酸配列(配列番号2)のN末端は、21アミノ酸残基(GS)(配列番号5)のリンカーを介してIgG1 Fc(LALA)のC末端にライゲーションされた。
【0208】
Bi-401-091:2本のポリペプチド鎖から構成されており、その構造図は図1に示され、ペプチド鎖#1は、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有し、これは抗PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(公開番号:中国特許出願公開第112480253A号)(配列番号4)を含み、ナノボディアミノ酸配列のC末端はヒトIgG1 Fcアミノ酸配列に直接ライゲーションされ(LALA変異を導入、ノブ-イン-ホール変異を導入、配列番号8)、抗4-1BBナノボディHZ-L-Yr-13&14-16-01(配列番号2)のN末端は、21アミノ酸残基(GS)(配列番号5)のリンカーを介して、FcのC末端にライゲーションされ;ペプチド鎖#2は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有し、これは、ヒトIgG1 Fcアミノ酸配列(LALA変異を導入、ノブ-イン-ホール変異を導入、配列番号9)であった。
【0209】
Bi-061-091:2本のポリペプチド鎖から構成されており、その構造図は図1Dに示され、ペプチド鎖#1は、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有し;ペプチド鎖#2は、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有しており、これは抗PD-L1ナノボディC-Ye-18-5(公開番号:中国特許出願公開第112480253A号)(配列番号4)を含み、ナノボディアミノ酸配列のC末端は、ヒトIgG1 Fcアミノ酸配列(Fc機能を低下させるためにLALA変異を導入、ノブ-イン-ホール変異を導入してヘテロ二量体を形成、配列番号9)に直接ライゲーションされた。
【0210】
1.2 遺伝子クローニングおよびタンパク質の調製
表Bの配列を参照し、対応するアミノ酸配列をコードする遺伝子断片をpCDNA3.1ベクターに構築した。Bi-401-091およびBi-061-091のペプチド鎖#1およびペプチド鎖#2については、これら2つの配列は一過性のトランスフェクション間に2つの異なるプラスミドで発現させ、細胞発現プロセス中に自動的にジスルフィド結合が形成された。
【0211】
ExpiCHO(商標)Expression System Kit(Thermoより購入)を用いて、プラスミドをExpi-CHO細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション方法は製造者の指示に従って実施した。細胞を5日間培養した後、上清を回収し、プロテインA磁気ビーズ(GenScriptより購入)を用いた分離法に供し、標的タンパク質を精製した。磁気ビーズを適当な体積の結合緩衝剤(PBS+0.1% Tween 20、pH7.4)で再懸濁し(磁気ビーズの1~4倍の体積)、次いで精製する試料に添加し、室温で穏やかに振とうしながら1時間インキュベートした。試料を磁気スタンド(Beaverより購入)に置き、上清を廃棄し、磁気ビーズを結合緩衝剤で3回洗浄した。溶出緩衝剤(0.1Mクエン酸ナトリウム、pH3.2)を磁気ビーズの3~5倍の体積になるように添加し、室温で5~10分間振とうした後、磁気スタンド上に置き、溶出緩衝剤を回収し、中和緩衝液(1M Tris、pH8.54)を加えた回収管に移し、よく混合した。調製した二重特異性抗体試料は、以降の実験に使用した。
【0212】
実施例2:二重特異性抗体の細胞ベースの結合
ヒトまたはカニクイザル4-1BB(PD-L1)を過剰発現するCHO細胞は、MCS(Multiple Cloning Site)にクローニングしたヒトまたはカニクイザル4-1BB(PD-L1)のcDNAをコードするpCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)をトランスフェクションすることにより生成した(理論的には、この方法は、トランスフェクションおよびストレススクリーニングにより、過剰発現細胞を得ることができ、後にフローサイトメトリーで確認する)。過剰発現細胞を拡大培養に供し、細胞密度が2×l0細胞/mlになるように調整した後、96ウェルフロープレートに、100μl/ウェルで添加し、後で使用するために遠心分離した。精製した4-1BB抗体をPBSで400nMから3倍希釈し、合計12点を得た。上記希釈した試料を、上記の細胞を含む96ウェルフロープレートに100μl/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートした後、PBSで2回洗浄した。PBSで100倍希釈したヤギF(ab’)抗ヒトIgG-Fc(PE)(Abcamより購入)を100μl/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートした後、PBSで2回洗浄を行った。PBSを100μl/ウェルで添加して細胞を再懸濁し、検出はCytoFlex(Bechman)フローサイトメーターで行い、対応するMFIを算出した。INBRX-105-1B(ペプチド鎖は1本のみで、アミノ酸配列は配列番号11に記載。国際公開第2017123650A2号参照)を、二重特異性抗体陽性対照(Inhibrxの抗PD-L1/4-1BB二重特異性抗体)として使用し;ナノボディHZ-L-Yr-13&14-16-01は抗4-1BB陽性対照として、ヒトIgG1 Fc(LALA変異)(配列番号3)にライゲーションされ;ナノボディC-Ye-18-5(配列番号5)は抗PD-L1陽性対照としてヒトIgG1 Fc(LALA変異)(配列番号3)にライゲーションされた。さらに、2つの抗4-1BBモノクローナル抗体ウトミルマブ(特許番号:米国特許出願公開第20120237498号)(その重鎖および軽鎖の配列は、それぞれ配列番号12および配列番号13に記載)およびウレルマブ(医薬品の国際非専有名称:104、その重鎖および軽鎖の配列は、それぞれ配列番号14および配列番号15に記載)は、抗4-1BB陽性対照として使用された。
【0213】
実験結果は、図2A図2Eに示した。
【0214】
図2Aに示すように、異なる構造を有する二重特異性抗体は、ヒトPD-L1-過剰発現CHO細胞に対して異なる結合活性を示し、いくつかの二重特異性抗体の結合活性は、対照抗体と同程度であり;図2Bに示すように、異なる構造を有する二重特異性抗体は、カニクイザルPD-L1過剰発現CHO細胞に対して異なる結合活性を示し、いくつかの二重特異性抗体の結合活性は、対照抗体と同程度であり;図2Cに示すように、異なる構造を有する二重特異性抗体は、ヒト4-1BB過剰発現CHO細胞に対して異なる結合活性を示し、いくつかの二重特異性抗体の結合活性は対照抗体と同程度であり;図2Dに示すように、異なる構造を有する二重特異性抗体は、カニクイザル4-1BB過剰発現CHO細胞に対して異なる結合活性を示し、いくつかの二重特異性抗体の結合活性は、対照抗体と同程度であり;図2Eに示すように、異なる構造を有する二重特異性抗体はCHO-S細胞に対して明らかな非特異的結合を示さなかった。
【0215】
実施例3:PD-L1のPD-1 CHO細胞への結合を遮断する二重特異性抗体
本実施例において、拡大培養したCHO-hPD-1細胞(ヒトPD-1を過剰発現)を、細胞密度2×10細胞/mlに調整し、96ウェルフロープレートに100μl/ウェルで添加し、後の使用のために遠心分離した。精製した二重特異性抗体を、400nMからPBSで3倍に希釈し、合計12点を得、希釈した試料を、96ウェル試料希釈プレートに、60μl/ウェルで添加した。ビオチン標識したヒトPD-L1タンパク質(AcroBiosystemsから購入)を60μl/ウェルで同時に添加し、最終濃度500ng/mlを達成し、4℃で30分間インキュベートした。共インキュベート試料を、100μl/ウェルで、細胞を含む上記の96ウェルフロープレートに添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSで100倍希釈したAPCヤギ抗マウスIgG抗体(Biolegendより購入)を100μl/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSを100μl/ウェルで添加し、細胞を再懸濁し、検出はCytoFlex(Bechman)フローサイトメーターで行い、対応するMFIを算出した。
【0216】
結果を図3に示した。本発明の異なる構造を有する二重特異性抗体は、全てPD-L1とPD-1の結合を遮断することができ、その遮断レベルは構造によって異なり、Bi-088分子の遮断活性は対照抗体と同等かそれよりも優れていた。
【0217】
実施例4:二重特異性抗体細胞ベースの共結合の検出
本実施例では、ヒト4-1BBを過剰発現するCHO細胞をCFSE(Thermoより購入)を用いて標識し、ヒトPD-L1を過剰発現するCHO細胞をCTV(Thermoより購入)を用いて標識した。細胞をPBSに再懸濁し、細胞密度を4×10細胞/mlにそれぞれ調製し、2つの細胞懸濁液を等しい割合で混合して、50μl/ウェルで96ウェルU底プレート(Thermoより購入)に添加し、同時にPBSで最終濃度l00nMから3倍に勾配希釈し、合計12点を得た二重特異性抗体または対照抗体を50μl/ウェルで添加し、37℃で2時間インキュベートし、検出はCytoFlex(Bechman)フローサイトメーターで行い、二重陽性細胞の比率を算出した。
【0218】
その結果を図4Aに示した。二重特異性抗体は、同時にヒト4-1BB過剰発現CHO細胞およびヒトPD-L1過剰発現CHO細胞に結合することができ、結合活性は二重特異性抗体の構造によって変化し、Bi-088、Bi-400、およびBi-401-091分子の結合活性は、対照抗体と同等かそれ以上であった。
【0219】
実施例5:二重特異性抗体タンパク質ベースの共結合アッセイ
ヒト4-1BBタンパク質(ACROより購入)を説明書に従って溶解し、ELISAコーティング溶液(Shanghai Sangonより購入)で1μg/mlに希釈し、ELISAプレート上を100μl/ウェルでコーティングし、4℃で一晩静置し、PBSTで3回洗浄し、5%BSA(Shanghai,Sangonより購入)を200μl/ウェルで添加し、室温で1時間ブロッキングを行った。ブロッキング溶液を廃棄し、二重特異性抗体または対照抗体を、1%BSAで最終濃度100nMから3倍に連続希釈して合計12点を得、100μl/ウェルで添加し、室温で2時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄し、1%BSAで希釈したビオチン標識したPD-L1タンパク質(Kactusより購入)を100μl/ウェルで添加し、希釈したタンパク質試料は1μg/mlの濃度であり、インキュベートは室温で1時間行った。洗浄はPBSTで3回行い、1%BSAで希釈した(1:10000)SA-HRP(abcamより購入)を100μl/ウェルで添加し、室温で0.5時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄を行い、ELISA発色溶液(Solarbioより購入)を100μl/ウェルで添加し、室温で3分間反応させ、ELISA停止溶液(Solarbioより購入)を50μl/ウェルで添加し、450nmの吸光値を読み取った。
【0220】
その結果を図4Bに示した。二重特異性抗体は、ヒト4-1BBおよびヒトPD-L1タンパク質に同時に結合でき、結合活性は、分子構造に応じて変化した。中でも、Bi-088分子の結合活性は、対照抗体と同等かそれ以上であった。
【0221】
実施例6:二重特異性抗体活性の検出(ルシフェラーゼレポーター細胞ベースアッセイ)
ヒト4-1BBをコードするプラスミドとNF-κBルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードするプラスミド(Promegaより購入)をJurkat細胞に共トランスフェクションし、hu4-1BB Jurkat-NF-κB細胞を得た。hu4-1BB Jurkat-NF-κB細胞を拡大培養に供し、その細胞を1640完全培地に再懸濁し、4×10細胞/mlとした。ヒトPD-L1過剰発現CHO-S細胞、CHO-S細胞、およびヒトPD-L1過剰発現CT-26細胞を1640完全培地で4×10細胞/mlに希釈した。上記3種類の細胞懸濁液を個別にhu4-1BB Jurkat-NF-κB細胞と1:1の比率で混合し、50μl/ウェルで滅菌96ウェル白色底プレート(Nuncより購入)に添加し、最終的な試料濃度200nMから1640完全培地で3倍に連続希釈し、合計12点を得た二重特異性抗体試料を添加した。インキュベートは、37℃、5%COで16時間行い、ルシフェラーゼのシグナルを検出した。
【0222】
結果を図5A図5B、および図5Cに示す。明らかなシグナルの活性化は、hu4-1BB Jurkat-NF-κB細胞およびCHO-S細胞の共インキュベート系の二重特異性抗体試料では観察されなかった。hu4-1BB Jurkat-NF-κB細胞とヒトPD-L1過剰発現CHO-S細胞またはヒトPD-L1過剰発現させたCT-26細胞との共インキュベート系において有意なシグナル活性化活性が観察された。これは、PD-L1によって引き起こされる架橋効果によるものであり、これによりJurkat細胞上の4-1BBが共にクラスター化した抗体の他端に結合し、それによって下流のNF-κB経路が活性化された。このことから二重特異性抗体は、ヒト体内で、PD-L1架橋効果下でヒトT細胞のNF-κB経路を活性化し、T細胞をさらに活性化し、腫瘍を死滅させることができることが示されている。中でも、Bi-088、Bi-400、およびBi-401-091の活性化活性は対照抗体と同等かそれ以上であった。
【0223】
実施例7:二重特異性抗体活性の検出(初代T細胞活性化アッセイ)
ヒトPD-L1過剰発現CHO-SまたはCHO細胞をマイトマイシンにより4時間処理し、X-VIVO15培地で細胞密度が2×10細胞/mlとなるように調整した。OKT-3抗体(Biolegendより購入)を滅菌PBSで1μg/mlに希釈し(Hycloneより購入)、96ウェル細胞培養平底プレート(Thermoより購入)に100μl/ウェルでコーティングし、37℃で2時間インキュベートした。凍結ヒトPBMC(Shanghai Sailiより購入)を蘇生させ、ヒトT細胞単離精製キット(Stemcellより購入)により単離してT細胞を得、T細胞をX-VIVO15培地(LONZAより購入)を用いて再懸濁し、細胞密度を2×10細胞/mlになるように調整し、マイトマイシン処理したCHO-S細胞またはヒトPD-L1過剰発現CHO細胞と等しい割合で混合した。抗体のコーティングが完了した後、コーティング溶液を廃棄し、洗浄をPBSで2回行い、PBSを廃棄し、上記細胞混合溶液を、100μl/ウェルで添加し、同時にX-VIVO15で連続希釈した二重特異性抗体試料を100μl/ウェルで添加し、試料最終濃度または組合せ群にHZ-L-Yr-13&14-16-1-IgG1Fc(LALA)+C-Ye-18-5-IgG1Fc(LALA)を添加し、最終濃度は50、10、2nMであった。インキュベートは37℃、5%COで3日間行い、上清を回収し、IL-2含有量を検出した。
【0224】
実験結果は図6Aおよび図6Bに示した。T細胞とCHO-S細胞の共インキュベート系における二重特異性抗体試料については、明らかなシグナル活性化はなかったが、T細胞とヒトPD-L1過剰発現CHO-S細胞との共インキュベート系では、有意なT細胞の活性化およびIL-2放出が見られ、ここで、Bi-088、Bi-400、およびBi-401-091分子の活性は、対照抗体と同等かそれ以上であった。
【0225】
実施例8:混合リンパ球反応アッセイにおける二重特異性抗体の活性
PBMC(SAILY BIOより購入、SLB-HPB)を蘇生させ、遠心分離し、PBMCを、10mlのX-VIVO-15培地(LONZAより購入)で再懸濁し、37℃の細胞培養インキュベーターで2時間培養し、接着細胞を吸引により除去した。DC培地10mlを添加し:10ng/ml GM-CSF(R&Dより購入)および20ng/ml IL-4(R&Dより購入)をX-VIVO-15培地に添加し、3日間培養し、DC培地5mlを補充し、6日目まで培養を続け、DC成熟培地を添加し、2日間培養し、ここで、DC成熟培地を1000U/ml TNF-α(R&Dより購入)、10ng/ml IL-6(R&Dより購入)、5ng/ml IL-1β(R&Dより購入)、および1μM PGE2(Tocrisより購入)をX-VIVO-15培地に添加することにより調製した。成熟DC細胞を回収し、X-VIVO-15培地を用いて、細胞密度が2×10細胞/mlになるように調整した。
【0226】
他のドナー由来のPBMC(SAILY BIOより購入、SLB-HPB)を蘇生させ、遠心分離し、PBMCをX-VIVO-15培地10mlで再懸濁した。T細胞をT細胞ソーティングキット(Stemcellより購入)で濃縮し、T細胞をX-VIVO-15で再懸濁し、細胞密度が2×l0細胞/mlになるように調整し、上記で回収した成熟DC細胞と1:1の比率で混合し、96ウェルU底プレートに100μl/ウェルで添加した。同時に、X-VIVO-15培地で希釈した二重特異性抗体試料を100μl/ウェルで添加し、これは10、2、0.4、0.08、0.016nMの最終濃度を有し、培養を3日間行い、上清を回収し、IL-2発現レベルをELISA(eBioscienceより購入)によって検出した。
【0227】
実験結果を図7に示す。二重特異性抗体試料は、混合リンパ球反応系でT細胞を活性化させてIL-2を放出させることができ、Bi-088およびBi-400の活性化レベルは対照抗体と同程度であった。
【0228】
実施例9:マウスにおける二重特異性抗体の半減期
実験にはBalb/cマウスを、雄と雌が半々、各採血点で6匹ずつを、12/12時間明暗調整、温度24±2℃、湿度40%~70%、水と食事に自由にアクセスできる状態で使用した。実験当日は、二重特異性抗体分子Bi-088をBalb/cマウスの尾静脈に1回注射し、その注射用量は10mg/kgであった。
【0229】
採血時点:投与後5分、0.5時間、2時間、6時間、24時間、48時間、96時間、168時間、336時間、および504時間であり、血液はマウス眼窩から採取した。全血試料を2~8℃で30分静置し、12,000rpm、5分間遠心分離して血清を回収し、その後、血清を2~8℃、12,000rpm、5分間で遠心分離し、-80℃で保存し、血清中の二重特異性抗体分子の含有量をELISAによって検出し、その平均値を算出した。結果は図8に示し、マウスにおける本発明の二重特異性抗体分子の半減期は、約174時間であった。
【0230】
実施例10:マウスにおける二重特異性抗体の医薬効果
本実験では、ヒトPD-L1発現マウス結腸直腸がんCT-26細胞(h-PD-L1 KI CT-26)を、ヒト4-1BB/PD-L1/PD-1トランスジェニックマウス(GemPharmatechより購入)に移植し、二重特異性抗体の抗腫瘍効果を決定した。まず、h-PD-L1 KI CT-26腫瘍保有マウスモデルを皮下接種により確立し、各マウスに0.6×10個の細胞を接種し、グループ分けを、平均腫瘍体積が100~200mmに達した時に、マウスを各群6匹になるように行った。処理は、異なる用量の異なる抗体を腹腔内注射することによって実施し、各群のマウスの腫瘍体積および体重の変化を2~3日に1回の頻度でモニターし、2~3週間モニタリングを継続した。投与用量およびモデルは表1に示す通りである。
【0231】
【表3】
【0232】
結果を図9に示した。
結果から、二重特異性抗体はh-PD-L1 KI CT-26細胞の増殖を有意に阻害でき、阻害活性は、組合せ薬剤群よりも優れており、Bi-088の阻害活性は対照抗体INBRX-105-1Bと同等かそれ以上であったことが示された。
【0233】
実施例11:huPD-L1 MC-38細胞を移植したヒトPD-L1/4-1BBダブルトランスジェニックマウスの薬理学的モデル
本実験では、ヒトPD-L1を発現するMC-38細胞(huPD-L1 MC-38)を使用し、ヒトPD-L1/4-1BBトランスジェニックマウス(Biocytogen Biotechnology Co.,Ltd.より購入)におけるBi-088の抗腫瘍効果を決定した。まず、huPD-L1 MC-38腫瘍保有マウスモデルは皮下接種によって確立し、各マウスは1×10個の細胞を接種され、グループ分けは、平均腫瘍体積が80~120mmに達した時点で行った。各群6匹のマウスを異なる用量の異なる抗体で腹腔内注射によって処理し、用量および投与方法は下記表2に示した。マウス腫瘍が完全に退縮した後、新たにhuPD-L1 MC-38細胞をマウスの反対側に接種し、各群のマウスの腫瘍体積および体重の変化をモニターした。モニタリング頻度は2~3日に1回、計8週間であった。
【0234】
【表4】
【0235】
結果は表3および図10に示した。
【表5】
【0236】
その結果、huPD-L1 MC-38細胞を接種した後、陰性対照群の腫瘍体積は増加し続け、Bi-088群の6匹のマウスの腫瘍は処理後に完全に退縮し、最終投与から31日後には、huPD-L1 MC-38細胞を反対側で再度接種しても、腫瘍細胞はあまり増殖しなかった。
【0237】
実施例12:ヒト4-1BBトランスジェニックマウスにおける肝毒性試験
本実験では、Bi-088の肝毒性を、ヒト4-1BBトランスジェニックマウス(Biocytogen Biotechnology Co.,Ltd.より購入)、各群4匹において決定した。Bi-088分子および対照分子を以下、表4に示す方法で腹腔内投与した。初回投与から20日目に、マウスを安楽死させて肝臓組織を採取し、包埋および固定、切片化、HE染色、およびCD8陽性細胞染色を行った。
【0238】
【表6】
【0239】
結果を図11および図12に示した。
結果から、ウレルマブ群のマウスでは、肝臓において明らかな単核細胞の浸潤およびCD8陽性染色細胞が見られ、INBRX-105-1B群では一部のマウスにおいて、肝臓における明らかな単核細胞の浸潤およびCD8陽性染色細胞が見られ、Bi-088群のマウスはマウスの肝臓において明らかな単核細胞の浸潤、およびCD8陽性染色細胞を示さなかった。
【0240】
本発明の特定の実施形態について詳細に説明したが、当技術分野の当業者であれば、開示された全ての教示に基づいて、様々な改変および置換がそれらの詳細について可能であり、その変更は全て、本発明の範囲内であることは理解するであろう。本発明の全範囲は、添付の特許請求の範囲およびその等価物によって示される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2023541473000001.app
【国際調査報告】