(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-02
(54)【発明の名称】歯科用コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/20 20200101AFI20230925BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/871 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/76 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/79 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/35 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20230925BHJP
A61K 6/54 20200101ALI20230925BHJP
【FI】
A61K6/20
A61K6/62
A61K6/887
A61K6/871
A61K6/71
A61K6/76
A61K6/79
A61K6/30
A61K6/35
A61K6/15
A61K6/60
A61K6/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517904
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(85)【翻訳文提出日】2023-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021033914
(87)【国際公開番号】W WO2022059702
(87)【国際公開日】2022-03-24
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508324950
【氏名又は名称】エスデイシー テクノロジーズ、インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】517275117
【氏名又は名称】クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kulzer GmbH
【住所又は居所原語表記】Leipziger Strasse 2, D-63450 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】小杉 洋子
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ジェームス ミョンスク
(72)【発明者】
【氏名】ジン, レン-ツィー
(72)【発明者】
【氏名】ブラックバーン, サプナ
(72)【発明者】
【氏名】ルパート, クラウス
(72)【発明者】
【氏名】グルンドラ, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ハンバッハ, アンドレア
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089AA02
4C089AA03
4C089AA06
4C089AA09
4C089BA13
4C089BC03
4C089BD04
4C089BE10
(57)【要約】
プラーク耐性、微生物プラーク耐性、強い接着力、優れた硬度、高い耐摩耗性、及び高い変色耐性を含む優れた特性のうちの1つ以上を備えた歯科用コーティング組成物を提供する。この歯科用コーティング組成物によって被覆された歯科用器具又は天然歯、及びこの歯科用コーティング組成物の製造方法も提供する。このコーティング組成物は、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーのうちの1つ以上と、無機充填剤と、光開始剤と、有機溶剤とを含む。このコーティング組成物は、抗菌化学添加物を実質的に含まない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用器具又は天然歯と、
前記歯科用器具又は前記天然歯の少なくとも一部に付着したコーティング組成物と、を備え、
前記コーティング組成物は、
少なくとも1つの3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと、
無機充填剤と、
少なくとも1つのフリーラジカル光開始剤と、
有機溶剤と、
を含有するコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項2】
前記コーティング組成物は、少なくとも1つの多官能(メタ)アクリレートオリゴマーを含有する、請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項3】
前記多官能(メタ)アクリレートオリゴマーは、6官能芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである、請求項2に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項4】
前記無機充填剤は、非晶質ナノシリカである、請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項5】
前記3官能以上の官能性(メタ)アクリレートモノマーは、トリメチロールプロパントリアクリレートである、請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項6】
前記コーティング組成物は、2官能(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマーである、請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項7】
前記コーティング組成物中、1~30重量部の非晶質ナノシリカを含有する、請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項8】
前記コーティング組成物中、5~25重量部の非晶質ナノシリカを含有する、請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項9】
前記コーティング組成物は、少なくとも10重量%の有機非反応性溶剤を含有する、請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項10】
請求項1に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法であって、
前記歯科用器具又は前記天然歯の表面上に前記コーティング組成物を塗布する工程と、
前記歯科用器具又は前記天然歯の前記表面上に塗布された前記コーティング組成物を乾燥する工程と、
前記歯科用器具又は前記天然歯の前記表面上に塗布された前記コーティング組成物を硬化する工程と、
を備えるコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項11】
前記歯科用器具は、総義歯、部分義歯、義歯床、人工歯、歯科用補綴物、スプリント、歯科用アライナー、クラウン、又はブリッジである、請求項10に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項12】
前記コーティング組成物は、前記歯科用器具又は前記天然歯上に前記コーティング組成物をブラッシングすることによって塗布される、請求項10に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項13】
前記コーティング組成物は、当該コーティング組成物中に前記歯科用器具を浸漬することによって塗布される、請求項10に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項14】
前記コーティング組成物は、前記歯科用器具又は前記天然歯上に前記コーティング組成物をスプレーすることによって塗布される、請求項10に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項15】
前記乾燥する工程は、少なくとも2分間、室温で空気乾燥する工程を含む、請求項10に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項16】
前記コーティング組成物は、300nm~500nmの波長範囲の光で硬化される、請求項10に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項17】
前記コーティング組成物は、当該コーティング組成物の一部である、又は当該コーティング組成物の前に塗布される、接着促進剤又は結合剤を用いることなく、前記歯科用器具又は前記天然歯の前記表面に塗布される、請求項10に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法。
【請求項18】
請求項10に記載の方法によって製造される、コーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項19】
前記コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、対応するコーティングされていない歯科用器具又は天然歯と比較した場合において、23時間のインキュベーション後、その表面へのプラークの付着を50%超減少させる、請求項18に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項20】
前記コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、対応するコーティンされていない歯科用器具又は天然歯と比較した場合において、23時間のインキュベーション後、その表面へのプラークの付着を70%超減少させる、請求項19に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項21】
前記コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、対応するコーティンされていない歯科用器具又は天然歯と比較した場合において、23時間のインキュベーション後、その表面へのプラークの付着を80%超減少させる、請求項19に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項22】
前記コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、エリクセン鉛筆硬度試験によって測定された表面硬度が少なくとも9Nである、請求項18に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項23】
前記歯科用器具又は前記天然歯上で硬化された前記コーティング組成物は、1~100μmの層厚を有する、請求項18に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項24】
前記歯科用器具又は前記天然歯上で硬化された前記コーティング組成物は、3~60μmの層厚を有する、請求項18に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項25】
硬化された前記コーティング組成物は光学的に透明且つ無色である、請求項18に記載のコーティングされた歯科用器具又は天然歯。
【請求項26】
3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーを含む(メタ)アクリレート成分と、
無機充填剤と、
光開始剤と、
有機溶剤と、を含有する歯科用器具又は天然歯のためのコーティング組成物。
【請求項27】
前記コーティング組成物の硬化されたコーティングの水接触角は、75度以上90度未満である、請求項26に記載のコーティング組成物。
【請求項28】
前記コーティング組成物の硬化されたコーティングの水接触角は、81度以上である、請求項26に記載のコーティング組成物。
【請求項29】
10,000サイクルの歯磨き後の前記コーティング組成物の硬化されたコーティングの表面粗さは、0.100μm以下である、請求項26に記載のコーティング組成物。
【請求項30】
前記コーティング組成物の硬化されたコーティングのコーヒー変色耐性は、3.0△E*ab以下である、請求項26に記載のコーティング組成物。
【請求項31】
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンとをさらに含む、請求項26に記載のコーティング組成物。
【請求項32】
前記(メタ)アクリレート成分は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーをさらに含み、
前記(メタ)アクリレート成分は、前記(メタ)アクリレート成分の総重量に対して、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを80重量%以上100重量%以下の量で含む請求項26に記載のコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、歯科用器具又は天然歯のためのコーティング組成物に関する。歯科用コーティング組成物は、歯科用器具又は天然歯の表面上に提供することができる。
【背景技術】
【0002】
口腔環境内の人工義歯、人工歯、歯科用補綴物、歯科用アライナーなどの歯科用器具は、歯垢、歯石、物理的ストレス、変色を含む局所的要因の影響を受ける。銀などの抗菌成分は、歯科用補綴物の表面をコーティングするために使用されてきた。歯科的な審美性や機械的特性の維持の観点から、歯科用器具又は天然歯に使用される抗菌成分の量を減らしたいという要望がある。
【発明の概要】
【0003】
以下の概要は、本明細書中に検討するデバイスのいくつかの態様の基本的理解を提供するために簡略化した概要を示している。本概要は、本明細書中に検討するデバイスの広範な概要ではない。重要な要素を特定すること、又はこのようなデバイスの範囲を定義することを意図したものでない。その唯一の目的は、後述のさらに詳細な説明の前書きとして、簡略化した形でいくつかの概念を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一態様によると、歯科用器具又は天然歯と、歯科用器具又は天然歯の少なくとも一部に付着されたコーティング組成物と、を備えたコーティングされた歯科用器具又は天然歯を提供する。コーティング組成物は、少なくとも1つの3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと、無機充填剤と、少なくとも1つのフリーラジカル光開始剤と、有機溶剤と、を含む。
【0005】
本開示の一態様によると、歯科用器具又は天然歯のためのコーティング組成物を提供する。コーティング組成物は、少なくとも多官能(メタ)アクリレートオリゴマーを含む。多官能(メタ)アクリレートオリゴマーは、6官能芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。無機充填剤は、非晶質ナノシリカである。3官能以上の官能性(メタ)アクリレートモノマーは、トリメチロールプロパントリアクリレートである。コーティング組成物は、2官能(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマーを含む。コーティング組成物は、コーティング組成物中、1~30重量部の非晶質ナノシリカを含む。コーティング組成物は、当該コーティング組成物中、5~25重量部の非晶質ナノシリカを含む。コーティング組成物は、少なくとも10重量%の有機非反応性溶剤を含む。
【0006】
本開示の一態様によると、歯科用器具又は天然歯の表面上にコーティング組成物を塗布する工程と、歯科用器具又は天然歯の表面上に塗布されたコーティング組成物を乾燥する工程と、歯科用器具又は天然歯の表面上に塗布されたコーティング組成物を硬化する工程と、を備えるコーティングされた歯科用器具又は天然歯の製造方法を提供する。歯科用器具は、総義歯、部分義歯、義歯床、人工歯、歯科用補綴物、スプリント、歯科用アライナー、クラウン、又はブリッジである。コーティング組成物は、歯科用器具又は天然歯上にコーティング組成物をブラッシングすることによって塗布される。コーティング組成物は、当該コーティング組成物中に歯科用器具を浸漬することによって塗布される。コーティング組成物は、歯科用器具又は天然歯上にコーティング組成物をスプレーすることによって塗布される。乾燥工程は、少なくとも2分間、室温で空気乾燥する工程を含む。コーティング組成物は、300nm~500nmの波長範囲の光で硬化される。コーティング組成物は、いずれの接着促進剤又は結合剤もコーティング組成物の一部となるか、又はコーティング組成物に先立って塗布されることなく、歯科用器具又は天然歯の表面に塗布される。
【0007】
本開示の一態様によると、本開示の方法によって製造される、コーティングされた歯科用器具又は天然歯を提供する。コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、対応するコーティンされていない歯科用器具又は天然歯と比較した場合において、23時間のインキュベーション後、その表面へのプラークの付着を50%超減少させる。コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、対応するコーティンされていない歯科用器具又は天然歯と比較した場合において、23時間のインキュベーション後、その表面へのプラークの付着を70%超減少させる。コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、対応するコーティンされていない歯科用器具又は天然歯と比較した場合において、23時間のインキュベーション後、その表面へのプラークの付着を80%超減少させる。コーティングされた歯科用器具又は天然歯は、エリクセン鉛筆硬度試験によって測定された表面硬度が少なくとも9Nである。歯科用器具又は天然歯上で硬化されたコーティング組成物は、1~100μmの層厚を有する。歯科用器具又は天然歯上で硬化されたコーティング組成物は、3~60μmの層厚を有する。硬化されたコーティング組成物は、光学的に透明且つ無色である。
【0008】
本開示の一態様によると、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーを含む(メタ)アクリレート成分、無機充填剤、光開始剤、及び有機溶剤を含む、歯科用器具又は天然歯のためのコーティング組成物を提供する。コーティング組成物の硬化されたコーティングの水接触角は、75度以上90度未満である。コーティング組成物の硬化されたコーティングの水接触角は、81度以上である。10,000サイクルの歯磨き後のコーティング組成物の硬化されたコーティングの表面粗さは、0.100μm以下である。コーティング組成物の硬化されたコーティングのコーヒー変色耐性は、3.00△E*ab以下である。コーティング組成物は、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンとをさらに含む。(メタ)アクリレート成分は、多官能性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーをさらに含む。(メタ)アクリレート成分は、(メタ)アクリレート成分の総重量に対して、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを80重量%以上100重量%以下の量で含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、歯科用器具又は天然歯のためのプラーク防止且つ耐摩耗性コーティングである歯科用コーティング組成物を提供する。本開示の歯科用コーティング組成物は、微生物耐性、強い接着力、優れた硬度、高い耐摩耗性、及び高い変色耐性を含む、優れた特性のうちの1つ以上を備える。本開示はさらに、この歯科用コーティング組成物によって被覆された歯科用器具又は天然歯と、この歯科用コーティング組成物の製造方法とを提供する。
【0010】
本開示の実施形態によると、コーティング組成物は、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと、無機充填剤と、光開始剤と、有機溶剤と、を含む。
【0011】
一実施形態において、コーティング組成物は、抗菌化学添加物を実質的に含まない。換言すると、本開示のコーティング組成物には、抗菌化学添加物が添加されない。一実施形態において、コーティング組成物は、10重量%未満の抗菌化学添加物を含み、1重量%未満の抗菌化学添加物を含むことが好ましく、0.1重量%未満の抗菌化学添加物を含むことがより好ましい。抗菌化学添加物の例として、銀、亜鉛、銅、クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、抗生物質が挙げられる。
[多官能(メタ)アクリレート成分]
【0012】
本明細書中に開示のコーティング組成物は、1つ以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーを含む(メタ)アクリレート成分を含む。コーティング組成物は、1つ以上の多官能(メタ)アクリレートオリゴマーを含む(メタ)アクリレート成分も含み得る。オリゴマーは、いくつかのモノマーが共有結合を介してともに結合されたときに形成される。本明細書中に開示のコーティング組成物の特定の実施形態によると、本開示の多官能(メタ)アクリレートオリゴマーの例として、2~100の数の多官能(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0013】
多官能(メタ)アクリレートモノマーは、少なくとも2以上のアクリレート官能性を有する。(メタ)アクリレート官能性は、本明細書中、式CH2=CRC=OOで表される官能基の数で規定され、式中、Rは、水素又はメチル基であり、1モルの成分中、すなわち、1モルの多官能(メタ)アクリレートモノマー成分中、又は1モルの多官能(メタ)アクリレートオリゴマー成分中に存在する。(メタ)アクリレート官能性の例として、トリメチロールプロパントリアクリレートモノマーは、式(CH2=CHC=OOCH2)3CC2H5で表される。同式に示される通り、トリメチロールプロパントリアクリレートは、1モルのモノマー毎に式CH2=CRC=OOによって表される3つの官能基を含有し、式中、Rは、水素(H)である。したがって、本明細書中に規定の通り、トリメチロールプロパントリアクリレートモノマーは、(メタ)アクリレート官能性が3である(メタ)アクリレートモノマーである。他の例において、ネオペンチルグリコールジメタクリレートモノマーは、式[CH2=C(CH3)C=OOCH2]2C(CH3)2で表される。同式に示される通り、ネオペンチルグリコールジメタクリレートは、1モルのモノマー毎に式CH2=CRC=OOで表される2つの官能基を含有し、式中、Rは、メチル基(CH3)である。したがって、本明細書中に規定の通り、ネオペンチルグリコールジメタクリレートモノマーは、(メタ)アクリレート官能性が2である(メタ)アクリレートモノマーである。
【0014】
したがって、本明細書中に開示のコーティング組成物の特定の実施形態によると、単一種別の(メタ)アクリレートモノマーが多官能(メタ)アクリレートモノマー成分中に存在する場合、その存在する単一種別の(メタ)アクリレートモノマーは、約2以上の(メタ)アクリレート官能性を有する。プラーク耐性を高める観点から、本明細書中に開示のコーティング組成物は、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーを含む。多官能(メタ)アクリレートモノマー成分中に単独で使用可能な好適な種別の(メタ)アクリレートモノマーの例として、トリアクリレート、テトラアクリレート、ペンタアクリレート、ヘキサアクリレート等が挙げられるが、これに限定されるものでない。本明細書中に開示のコーティング組成物の特定の実施形態によると、コーティング組成物は、ジアクリレートも含み得る。
【0015】
本実施形態に係る多官能(メタ)アクリレートモノマー成分として使用されるのに好適なジアクリレートモノマーの例として、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート;エチレングリコールジアクリレート;エチレングリコールジメタクリレート;ジエチレングリコールジアクリレート;トリエチレングリコールジアクリレート;トリエチレングリコールジメタクリレート;テトラエチレングリコールジアクリレート;テトラエチレングリコールジメタクリレート;ポリエチレングリコールジアクリレート;トリプロピレングリコールジアクリレート;トリイソプロピレングリコールジアクリレート;ポリプロピレングリコールジメタクリレート;1,4-ブタンジオールジアクリレート;1,4-ブタンジオールジメタクリレート;ポリ(ブタンジオール)ジアクリレート;ネオペンチルグリコールジアクリレート;ネオペンチルグリコールジメタクリレート;1,3-ブチレングリコールジアクリレート;1,3-ブチレングリコールジメタクリレート;1,12-ドデカンジオールジメタクリレート;アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレートや、例えば、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート等のアルコキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート等のアルコキシル化脂肪族ジアクリレート;シクロヘキサンジメタノールジアクリレート及びトリシクロデカンジメタノールジアクリレート等の環式又は多環式ジアクリレート;ビスフェノール-Aジアクリレート;ビスフェノール-A-ジメタクリレート;エトキシル化ビスフェノール-Aジアクリレート等のアルコキシル化ビスフェノール-Aジアクリレート;エトキシル化ビスフェノール-Aジメタクリレート等のアルコキシル化ビスフェノール-Aジメタクリレート;及びポリエステルジアクリレートが挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0016】
本実施形態に係る多官能(メタ)アクリレートモノマー成分として使用される好適なトリアクリレートモノマーの例として、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化グリセリルトリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートが挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0017】
本実施形態に係る多官能(メタ)アクリレートモノマー成分として使用される好適なテトラアクリレートモノマーの例として、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジトリメチロールプロパンテトラアクリレートが挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0018】
本実施形態に係る多官能(メタ)アクリレートモノマー成分として使用される好適なペンタアクリレートモノマーの例として、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート及びソルビトールペンタアクリレートが挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0019】
本実施形態に係る多官能(メタ)アクリレートモノマー成分として使用される好適なヘキサアクリレートモノマーの例として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0020】
他の実施形態において、多官能(メタ)アクリレートモノマー成分は、複数種の(メタ)アクリレートモノマーを含む。本実施形態によると、多官能(メタ)アクリレートモノマー成分は、(メタ)アクリレート官能性が少なくとも2以上である(メタ)アクリレートモノマーを複数種含み得る。
【0021】
本実施形態、すなわち、多官能(メタ)アクリレートモノマー成分中に複数種の(メタ)アクリレートモノマーを有する実施形態において使用され得る好適な種別の(メタ)アクリレートモノマーの例として、モノアクリレート、ジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレート、ペンタアクリレート、ヘキサアクリレート等が挙げられるが、これに限定されるものでない。以上に開示のジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレート、ペンタアクリレート、及びヘキサアクリレートの例は、本実施形態に係る多官能(メタ)アクリレートモノマー成分中の(メタ)アクリレートモノマーの一部又は全部としての使用に好適である。
【0022】
他の実施形態において、好ましい多官能(メタ)アクリレートモノマー成分は、脂肪族の3官能以上の官能性(メタ)アクリレート成分であり、トリメチロールプロパントリアクリレートがより好ましい。
【0023】
本明細書中に記載のコーティング組成物のすべての実施形態によると、多官能(メタ)アクリレートモノマー成分は、2以上約10までの範囲、好ましくは約2~約6までの範囲の(メタ)アクリレート官能性を有する。
【0024】
コーティング組成物中の(メタ)アクリレート成分の含有量は、コーティング組成物の総量に対して、1質量%~30質量%であることが好ましく、3質量%~20質量%であることがより好ましく、5質量%~15質量%であることがさらに好ましい。コーティング組成物中の多官能(メタ)アクリレートモノマー成分の含有量(2種類以上が含まれる場合は、総含有量)は、コーティング組成物の総量に対して、1質量%~30質量%であることが好ましく、3質量%~20質量%であることが好ましく、5質量%~15質量%であることがさらに好ましい。特に、3官能以上の官能性(メタ)アクリレート成分の含有量は、コーティング組成物の総量に対して、1質量%~20質量%であることが好ましく、3質量%~15質量%であることがより好ましく、5質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
一実施形態において、(メタ)アクリレート成分は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーをさらに含む。(メタ)アクリレート成分は、(メタ)アクリレート成分の総重量に対して、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを80重量%以上100重量%以下の量で含む。一実施形態において、(メタ)アクリレート成分は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーをさらに含む。(メタ)アクリレート成分は、(メタ)アクリレート成分の総重量に対して、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを85重量%以上100重量%以下の量で含む。一実施形態において、(メタ)アクリレート成分は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーをさらに含む。(メタ)アクリレート成分は、(メタ)アクリレート成分の総重量に対して、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを90重量%以上100重量%以下の量で含む。一実施形態において、(メタ)アクリレート成分は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーをさらに含む。(メタ)アクリレート成分は、(メタ)アクリレート成分の総重量に対して、95重量%以上100重量%以下の3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーと多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを含む。
【0026】
1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物中の多官能(メタ)アクリレートモノマーの重量平均分子量(Mw)は、150~1000であることが好ましく、200~500であることがより好ましい。
[多官能(メタ)アクリレートオリゴマー成分]
【0027】
本明細書中に開示のコーティング組成物は、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー成分を含み得る。多官能アクリレートオリゴマー成分は、本明細書において先に開示した(メタ)アクリレート官能基の定義によると、合計で少なくとも2以上のアクリレート官能性を有する1つ以上の(メタ)アクリレートオリゴマーを含む。
【0028】
本明細書中に開示のコーティング組成物の好ましい実施形態によると、本明細書中に開示の多官能(メタ)アクリレートオリゴマー成分は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分を含む。多官能ウレタンアクリレートオリゴマー成分は、本明細書において先に開示の(メタ)アクリレート官能基の定義によると、合計で少なくとも2以上のアクリレート官能性を有する1つ以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む。総じて多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分を形成する1つ以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、それぞれ、式NHC=OOで表される1つ以上のウレタン基の発生によって特徴付けられる。このようなウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、多官能イソシアネートをポリオールと反応させて1つ以上のウレタン基を有するモノマーを形成することで調製される。次に、1つ以上のウレタン基を有するモノマーは、1つ以上のウレタン基を有するモノマーをヒドロキシル官能性(メタ)アクリレートモノマーと反応させることにより、(メタ)アクリレートモノマーでエンドキャップされ、これによって結果としてウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを生じる。当業者は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分に好適な多官能オリゴマーを形成するには、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの(メタ)アクリレート官能性をいかに制御するかを理解するであろう。
【0029】
本明細書中に開示のコーティング組成物の特定の実施形態によると、単一種別のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分中に存在する場合、その存在する単一種別のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、(メタ)アクリレート官能性が約2以上である。多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分中に単独で使用し得る好適な種別のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの例として、ウレタンジアクリレート、ウレタントリアクリレート、ウレタンテトラアクリレート、ウレタンペンタアクリレート、ウレタンヘキサアクリレート等が挙げられるが、これに限定されるものでない。好ましくは、本実施形態及び他の実施形態によると、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分中に単独で使用されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。
【0030】
他の実施形態において、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分は、1つを超える数の種別のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含み得る。本実施形態によると、多官能(メタ)アクリレートモノマー成分は、少なくとも2以上の(メタ)アクリレート官能性を有する個々のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含み得る。
【0031】
本実施形態、すなわち多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分中に1つを超える数の種別のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを有する実施形態において使用可能な好適なウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの例として、ウレタンジアクリレート、ウレタントリアクリレート、ウレタンテトラアクリレート、ウレタンペンタアクリレート、ウレタンヘキサアクリレート等が挙げられるが、これに限定されるものでない。好ましくは、本実施形態及び他の実施形態によると、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分中の他のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと組み合わせて使用されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。特定の実施形態によると、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、本明細書中に開示のコーティング組成物中の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分としての脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと組み合わせて使用される。
【0032】
本明細書中に記載のコーティング組成物のすべての実施形態によると、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分は、1を超え~約10の範囲、好ましくは約2~約6の範囲、より好ましくは約4~約6の範囲の平均(メタ)アクリレート官能性を有する。
【0033】
本開示の一実施形態において使用され得る好適なウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの例として、6官能芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含むか、又は6官能脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと6官能芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを含む。
【0034】
コーティング組成物中の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分の含有量(2つ以上の種別が含まれる場合は、総含有量)は、コーティング組成物の総量に対して、5質量%~65質量%であることが好ましく、10質量%~55質量%であることがより好ましく、20質量%~50質量%であることがさらに好ましい。特に、6官能芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの含有量は、コーティング組成物の総量に対して、5質量%~65質量%であることが好ましく、10質量%~55質量%であることがより好ましく、20質量%~50質量%であることがさらに好ましい。
[無機充填剤]
【0035】
本明細書中に開示のコーティング組成物は、無機充填剤を含む。本開示の例としての無機充填剤として、例えば、コロイド状ナノシリカ等のコロイド状シリカ成分が挙げられる。コロイド状シリカ成分は、1つ以上の種別のコロイド状シリカを含む。本明細書において使用されるコロイド状シリカとは、液相におけるシリカの微細な非晶質粒子、すなわちSiO2の分散液をいう。コロイド状シリカ成分に好適な液相には、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤との組み合わせが含まれる。通常、コロイド状分散物中のシリカ粒子は、本質的に球状である。本明細書中に開示の実施形態によると、コロイド状シリカ成分として使用される1つ以上のコロイド状シリカは、約20重量%~約70重量%の範囲、好ましくは約30重量%~約60重量%の範囲の固形分を有し、約200nmまで、好ましくは約100nm未満、より好ましくは約50nm未満の平均粒子径サイズを有する。コロイド状シリカは、通常、酸性又は塩基性の形で入手可能であり、いずれも本明細書中に開示のコーティング組成物中に使用される。一実施形態において、本明細書中に開示のコーティング組成物とともに使用されるコロイド状シリカは、例えば、1-メトキシル-2-プロパノール中の40%コロイド状ナノシリカ、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール中の60%コロイド状ナノシリカ、例えば、2-プロポキシエタノール中の30%コロイド状ナノシリカ、例えば、水中の30%コロイド状ナノシリカである。
【0036】
コロイド状シリカは、本明細書中に開示のコーティング組成物への添加時において、反応性物質とみなされる。これは、少なくとも部分的に、コロイド状シリカ粒子の表面に存在するヒドロキシル官能基によるものである。これらの表面結合ヒドロキシルは、コーティング組成物中の他の成分と反応し得る。したがって、コロイド状シリカが本明細書中に開示のコーティング組成物の調製中に添加される順番は、コロイド状シリカが、調製中の異なる時点で異なる成分と異なって反応し、それにより硬化されたコーティングに異なる特性を与えるため、硬化されたコーティング組成物の最終的な特性を決定し得る。コロイド状シリカ成分は、本明細書中に開示のコーティング組成物の調製中、酸の添加後、且つ、多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分の添加前に添加可能である。1つ以上の実施形態によると、コロイド状シリカは、本明細書中に開示のコーティング組成物の調製中、激しくかき混ぜながら添加可能であり、多官能性ウレタン(メタ)アクリレート成分が添加するのに先立って、約0.50時間~約1.50時間の間、攪拌し続けることが可能である。
【0037】
コーティング組成物へのコロイド状シリカの添加により、硬化されたコーティングの耐摩耗性が向上する。しかしながら、コロイド状シリカを過剰に添加すると、硬化されたコーティングの成膜に悪影響を及ぼす。本明細書中に開示の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物は、コーティング組成物の固形重量の約35重量%までコロイド状シリカを含む。
【0038】
コーティング組成物中の無機充填剤の含有量(2つ以上の種別を含む場合の総含有量、好ましくはコロイド状シリカの含有量)は、コーティング組成物の総量に対して、1質量%~30質量%であることが好ましく、5質量%~28質量%であることがより好ましく、10質量%~25質量%であることがさらに好ましい。
[光開始剤]
【0039】
1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物は、光開始剤(例えば、フリーラジカル光開始剤)を含む。コーティング組成物中に存在する光開始剤は、コーティング組成物が300~500nmの波長範囲の任意の好適な光に曝露されるとき、コーティング組成物の架橋、すなわち硬化を開始及び進行させる。例としての光源には、タングステンハロゲン、発光ダイオード(LED)、プラズマアーク、レーザが挙げられる。光開始剤は、光への曝露時にラジカルを生成することによってこれをなす。次いで、ラジカルは、硬化中のコーティング組成物の重合、すなわち、架橋を開始及び進行させる。光開始剤は、コーティング組成物の調製プロセス中の任意の時点で添加可能である。
【0040】
本明細書中に開示のコーティング組成物において使用される好適な感光性光開始剤又は開始剤ブレンドの例として、ベンゾイン;ベンゾインエーテルのブチル異性体等の置換ベンゾイン類;ベンゾフェノン;ヒドロキシベンゾフェノン等の置換ベンゾフェノン類;2-ヒドロキシエチル-N-マレイミド;2-[2-ヒドロキシエチル(メチル)アミノ]エタノールアントラキノン;チオキサントン;α,α-ジエトキシアセトンフェノン;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン;2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン;ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド;フェニルグリオキシル酸メチルエステル;1-ヒドロキシルシクロヘキシルフェニルケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1;2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン;1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン;及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンが挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0041】
他の実施形態において、コーティング組成物の十分な硬化を達成するために、光開始剤は、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンとの両方とも含むことが好ましい。
【0042】
1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物は、任意で、電子ビーム(EB)照射を使用して硬化される。本実施形態に係るコーティング組成物は、光開始剤を必要としない。しかしながら、EB照射は、300~500nmとは異なる波長を有するため、EB照射を使用して硬化されたコーティングは、300~500の波長の光を使用して硬化されたコーティングと比較して、他のすべての条件は等しいものの、架橋密度が異なり得る。当業者は、このことを認識し、EB照射を使用して得られる抗菌及び耐摩耗性コーティングを得るように硬化パラメータを調整するであろう。
【0043】
コーティング組成物中の光開始剤の含有量(2つ以上の種別が含まれる場合、総含有量)は、コーティング組成物の総量に対して、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~8質量%であることがより好ましく、1質量%~5質量%であることがさらに好ましい。
[有機溶剤成分]
【0044】
本明細書中に開示のコーティング組成物は、有機溶剤成分を含む。有機溶剤成分は、コーティング組成物の調製中に添加される1つ以上の有機溶剤を含む。これらの1つ以上の有機溶剤は、コーティング組成物の調製中の異なる時点で添加されてもよい。これら1つ以上の有機溶剤は、個々の溶剤成分として添加されるか、又は他の成分の一部として添加される。例えば、コロイド状シリカ成分又は多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分等、本明細書中に開示のコーティング組成物において使用される他の成分は、溶液、懸濁液、分散液の形であってもよく、その結果、それら各成分(例えば、コロイド状シリカ又は多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー)とともにコーティング組成物に添加される量の有機溶剤を含有してもよい。このような実施形態において、コーティング組成物において使用される他の成分とともに存在する任意の残りの有機溶剤は、総じてコーティング組成物の有機溶剤成分を形成する有機溶剤のうちの1つ以上の一部と見なされる。
【0045】
本明細書中に開示のコーティング組成物の1つ以上の実施形態によると、コーティング組成物の調製プロセス中、コーティング組成物の任意の1つの成分が、第1の有機溶剤を含む有機溶剤成分と混合されて、溶液を形成することができる。第1の有機溶剤と同一又は異なってもよい、例えば、第2の有機溶剤、第3の有機溶剤等、1つ以上の追加の有機溶剤が、コーティング組成物の調製プロセス中、異なる時点で添加可能である。以上に検討した通り、異なる時点で添加される1つ以上の追加の有機溶剤は、他の成分、例えば、コロイド状シリカ成分、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー成分等の一部を構成することができる。
【0046】
本明細書中に開示のコーティング組成物中で有機溶剤成分として使用される好適な有機溶剤の例として、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、3,3-ジメチル-2-ブタノン、ペンタンジオン等のケトン類;n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル類;本明細書中に開示のグリコールエーテル類;1-メトキシ-2-プロパノール、2-プロポキシエタノール等のプロパンジオール、本明細書中に開示の第1級及び第2級アルコール類等のアルコール類(例えば、イソプロピルアルコール)と本明細書中に開示のエーテルアルコール類が挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0047】
コーティング組成物中の有機溶剤成分の含有量(2つ以上の種別が含まれる場合、総含有量)は、コーティング組成物の総量に対して、5質量%~90質量%であることが好ましく、7質量%~80質量%であることがより好ましく、10質量%~70質量%であることがさらに好ましい。
[アミノ有機官能性シラン]
【0048】
本明細書中に開示のコーティング組成物は、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分とアミノ有機官能性シランとの付加物を含み得る。付加物は、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマーを好適なアミノ有機官能性シランで処理することによって形成される。付加物の形成に使用されるのに好適なアミノ有機官能性シランは、以下の式で表される。
XaSi[Q1(NHQ2)bNZH]4-a (I)
式中、Xは、炭素数1~6のアルコキシ基であり、Q1及びQ2は、同一又は異なる二価の炭化水素基であり、Zは、水素又は一価の炭化水素基であり、aは、1~3の整数であり、bは、0~6の整数である。
【0049】
本明細書中に開示のコーティング組成物の一実施形態によると、式(I)中のQ1及びQ2は、式(CH2)nで表される同一又は異なる二価の炭化水素基であり、式中、nは、1~10整数、好ましくは1~6の整数である。本実施形態又は他の実施形態によると、式(I)中のZは、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6のアルキルラジカルを含む一価の炭化水素基である。
【0050】
以上の式(I)で表されるアミノ有機官能性シラン類の例として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(ガンマ-アミノプロピルトリエトキシシラン)、n-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-(フェニルアミノ)プロピルトリメトキシシランが挙げられる。
[付加物]
【0051】
本明細書中に開示のコーティング組成物中に使用することのできる付加物は、本明細書中に開示の多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分と、本明細書中に開示のアミノ有機官能性シランでとの反応生成物である。1つ以上の実施形態によると、コーティング組成物中に使用される付加物は、アミノ有機官能性シランのアミノ官能性がマイケルドナーであり、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分の(メタ)アクリレート官能性(特に、α,β不飽和カルボニル)がマイケルアクセプターであるマイケル反応の反応生成物である。本明細書中に開示のコーティング組成物において、反応してこの付加物を形成するアミノ有機官能性シランのアミノ官能性に対する多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分の平均(メタ)アクリレート官能性のモル比は、1を超え、好ましくは約2以上である。
【0052】
マイケル反応は、純粋な形態の反応物、すなわち、純粋な形態の多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分と純粋な形態のアミノ有機官能性シランとを使用して生じる。本明細書中で使用される「純粋な形態(neat form)」という用語は、特定の反応物が100重量%の純度であることをいう。或いは、マイケル反応は、溶液中で生じる。特定の実施形態において、一方の反応物、すなわち多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分又はアミノ有機官能性シランが純粋な形態であり、他方の反応物が溶液中に存在する。溶液型マイケル反応又は純粋な形態と溶液型反応との組み合わせについて、好適な溶剤は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等、第1級又は第2級アルコール類を含む極性有機溶剤からなる。好適な極性有機溶剤の他の例として、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール等のエーテルアルコール類が挙げられる。他の好適な溶剤の例として、プロピレングリコールメチルエーテル(PMグリコールエーテル)、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールn-ブチルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。1つ以上の実施形態によると、付加物の調製に使用される好ましい溶剤は、イソプロパノール又は1-メトキシ-2-プロパノールのいずれかである。
【0053】
付加物の形成に必要な時間は、温度及び反応溶剤等、種々の要因によって決まる。本明細書中に開示のコーティング組成物における使用に好適な付加物を調製するためには、溶液中か、純粋な形態か、又は溶液と純粋な形態の組み合わせにおいて反応させるかを問わず、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分とアミノ有機官能性シランを十分に反応させるのに約2時間~約72時間所要し得る。
【0054】
本開示の一実施形態において、本明細書中に開示のコーティング組成物は、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分とアミノ有機官能性シランとの付加物を含まない。一実施形態において、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分は、シランによって処理されない。
【0055】
多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分がシランで処理される場合、組成物の安定性が低下すると考えられる。コーティング組成物が、シランで処理されていない多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分(例えば、ガンマ-アミノプロピルトリエトキシシラン)を含む場合、コーティング組成物は、より高い安定性とより長い貯蔵寿命とを示す。
[レベリング剤]
【0056】
1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物は、レベリング剤を含む。流動制御剤としても既知であり得るレベリング剤は、本明細書中に記載のコーティング組成物内に組み込まれ、組成物を歯科用器具又は天然歯の表面上でより平ら又は水平に広げ、歯科用器具又は天然歯に対して実質的に均一に密着する。レベリング剤の量は、大きく変動し得るが、コーティング組成物中、約0.01重量%~約10重量%の範囲の量で使用されることが好ましい。コーティング組成物と相溶性があり、歯科用器具又は天然歯上でコーティング組成物を平坦にすることができ、コーティング組成物と歯科用器具又は天然歯との間の濡れ性が向上する、任意の従来の市販のレベリング剤を採用する。このようなレベリング剤の非限定的な例として、ポリエーテル、シリコーン、フルオロ界面活性剤、ポリアクリレート、シリコンヘキサアクリレート等のシリコーンポリアクリレート、フルオロ変性ポリアクリレートが挙げられる。
[添加物]
【0057】
本開示のコーティング組成物は、他の添加物を含み得る。他の添加物の例として、Calbo,Leonard J.、「コーティング添加物ハンドブック」第2編(Marcel Dekker社、2004年)、159~234頁に記載のUV光安定化剤が挙げられるが、この内容を参照として本明細書中に援用する。UV照射を使用して硬化される本明細書中に開示のコーティング組成物の実施形態において、当業者は、本開示のコーティング組成物の耐候性を増加させるのに使用され得るUV光安定化剤の種別及び量を認識するであろう。
[プラーク付着の低減]
【0058】
1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティングされた歯科用器具又は天然歯は、対応するコーティンされていない歯科用器具又は天然歯と比較した場合において、23時間のインキュベーション後、その表面へのプラークの付着を、好ましくは50%を超えて減少させることができ、より好ましくは70%を超えて減少させることができ、さらに好ましくは80%を超えて減少させることができる。本開示におけるコーティングされた歯科用器具又は天然歯のプラーク付着の低減を測定する方法は、「コーティングされた材料へのプラーク付着」の項目に詳細に説明する。
[水接触角]
【0059】
1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物の硬化されたコーティングの水接触角は、硬化されたコーティングの微生物耐性を高める観点より、75度以上であることが好ましく、81度以上であることがより好ましい。安定性を高める観点より、本明細書中に開示のコーティング組成物の硬化されたコーティングの水接触角は、90度以下であることが好ましく、88度以下であることがより好ましい。コーティング組成物への光照射によって得られる硬化されたコーティングの水接触角は、水接触角計を使用して測定する。
[歯ブラシ摩耗後の表面粗さ]
【0060】
1つ以上の実施形態によると、10,000サイクルの歯磨き後の本明細書中に開示のコーティング組成物の硬化されたコーティングの表面粗さは、0.500μm以下であることが好ましく、0.100μm以下であることがより好ましい。1つ以上の実施形態によると、10,000サイクルの歯磨き後の本明細書中に開示のコーティング組成物の硬化されたコーティングの表面粗さは、0.050μm以上であってもよい。本開示において、10,000サイクルの歯磨き後のコーティング組成物の硬化されたコーティングの表面粗さを測定する方法は、「歯ブラシ摩耗試験」の項目で詳細に説明する。
[コーヒーの変色耐性]
【0061】
1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物の硬化されたコーティングのコーヒー変色耐性は、3.00△E*ab以下であることが好ましく、1.50△E*ab以下であることがより好ましく、1.00△E*ab以下であることがより好ましく、0.50△E*ab以下であることがより好ましい。1つ以上の実施形態によると、本明細書中に開示のコーティング組成物の硬化されたコーティングのコーヒー変色耐性は、0.30△E*ab以上であってもよい。硬化されたコーティングのコーヒー変色は、37℃のコーヒー溶液中に4週間浸漬及び維持した後、積分球分光光度計を使用して測定する。本開示のコーティングの硬化されたコーティングのコーヒー変色を測定する方法は、「コーティングされた材料の変色耐性」の項目に詳細に記載する。
【0062】
本明細書中に開示のコーティング組成物は、歯科用器具又は天然歯、又は強固な歯科用器具表面又は天然歯表面に、コーティングとして塗布される。歯科用器具の例として、総義歯、部分義歯、義歯床、人工歯、歯科用補綴物、スプリント、歯科用アライナー、クラウン、又はブリッジが挙げられる。歯科用器具の例としての材料には、セラミックス、チタン及びその合金、ジルコニアが挙げられる。
【0063】
本明細書中に記載のコーティング組成物は、任意の好適なやり方で歯科用器具に塗布される。例えば、本開示の組成物は、ブラッシング、スプレーコーティング、浸漬コーティング等、従来の方法で固形の歯科用器具に塗布されて、歯科用器具上に連続表面フィルムを形成する。一実施形態において、コーティング組成物は、その後、空気乾燥され、コーティングされた歯科用器具を300~500nmの波長範囲の光に曝露することによって硬化される。例としての光源には、タングステンハロゲン、発光ダイオード(LED)、プラズマアーク、レーザーが挙げられる。
【0064】
1つ以上の実施形態によると、コーティング組成物は、いずれの接着促進剤又は結合剤もコーティング組成物の一部となることなく、又はコーティング組成物に先立って塗布されることなく、歯科用器具又は天然歯の表面に塗布されることが好ましい。
【0065】
被覆された歯科用器具は、歯科用器具の表面上で硬化されたコーティング組成物の層を有する。一実施形態において、この層の厚さは、1~100μmである。他の実施形態において、この層の厚さは、3~60μmである。さらに他の実施形態において、硬化されたコーティング層は、光学的に透明且つ無色である。
【実施例】
【0066】
本開示の説明及び添付の請求項において使用される単数形の不定冠詞及び定冠詞は、文脈上でそうでない旨の明示のない限り、複数形も含むことが意図される。本明細書中に参照として援用したすべての参照は、そうでない旨の指摘のない限り、それら全体を援用する。以下の例は、例示のみを目的とするものであり、添付の請求項の範囲を限定することを意図するものでない。
[使用材料]
【0067】
本開示は、表1に示される通り、材料の名称の略語を使用する。材料の詳細も表1に示す。
【0068】
【表1】
[比較例1]
10.0gのEB5129、27.2gのM003、及び28.3gのPMの混合物をプラスチックビーカー内で室温にて0.5時間攪拌した。次いで、32gのEB9113をこの混合物に添加し、さらに0.5時間攪拌した後、0.9gのIRGA1173、1.5gのIRGA184、0.1gのEB1360を添加した。結果として得られた混合物を、4時間、室温で攪拌した後、1.2μmのフィルタで濾過した。
[実施例1]
【0069】
5.0gのSR351、2.0gのSR238、27.3gのM003、及び16.4gのPMの混合物をプラスチックビーカー内で室温にて0.5時間攪拌した。次いで、46.8gのEB9113をこの混合物に添加し、さらに0.5時間攪拌した後、0.9gのIRGA1173、1.5gのIRGA184、0.1gのEB1360を添加した。結果として得られた混合物を、4時間、室温で攪拌した後、1.2μmのフィルタで濾過した。
[実施例2]
【0070】
9.2gのSR351、3.5gのSR238、及び1.7gのA1100の混合物をプラスチックビーカー内で室温にて3時間攪拌した。次いで、0.6gのアクリル酸をこの混合物に添加し、さらに0.5時間攪拌した後、19.2gのST30、7.7gの1034Aを添加し、その後、この混合物を一晩攪拌した。次いで、24.0gのPM及び31.6gのEB9113をこの混合物に添加して1時間攪拌した後、0.9gのIRGA1173、1.5gのIRGA184、及び0.1gのEB1360を添加した。結果として得られた混合物を室温で1時間攪拌した後、1.2μmフィルタで濾過した。
【0071】
3.0gのSR238、及び1.9gのA1100の比較例2A混合物をプラスチックビーカー内で室温にて2時間攪拌した。次いで、5.6gのPM、20.9gのIPA、0.3gのアクリル酸をこの混合物に添加してさらに0.5時間攪拌した後、16.5gのST30、6.8gの1034Aを添加し、その後、この混合物を1時間攪拌した。次いで、0.8gのIRGA1173、1.4gのIRGA184及び0.1gのEB1360を混合物に添加し、混合物を一晩攪拌した。次いで、42.7gのEB9113を混合物に添加し、結果として得られた混合物を室温で1時間攪拌した後、1.2μmフィルタで濾過した。
<コーティング塗布プロセス>
[浸漬プロセス]
【0072】
コーティング組成物は、室温で毎分5.0インチ(ipm)の引き出し速度で浸漬コーティングにより、ポリメチルメタクリレート(PMMA)クーポン(32mm×28mm×3mmのサイズ)に塗布した。
[ブラシプロセス]
【0073】
ドイツKulzer GmbHのHera Ceramブラシを使用して、コーティング組成物をPMMAクーポン(32mm×28mm×3mmのサイズ)上にブラッシングした。ブラシを、コーティング組成物中に約2~5秒間浸漬した。コーティング容器の壁に優しくブラッシングを行うことで、余分なコーティングを除去した。次いで、コーティングは、基板(例えば、歯科用器具)表面全体を被覆するように、連続するブラシストロークの間に僅かに重なるようにして、単一の水平運動で清浄なPMMAクーポン上にブラッシングして行った。硬化前の約5分間、周辺空気中で、コーティングされた基板を乾燥させた。コーティングされた基板を、ドイツKulzer GmbHのHiLite Power 3DTMユニットを用い、硬化ユニットのチャンバ内に入れ、硬化時間を15分に設定し、サンプルに照射硬化を行ってコーティングされた基板を硬化することで、3.0~6.0μmの厚さを有する硬化されたコーティングを得た。
[液状コーティングの物性と硬化膜の性能]
【0074】
【0075】
25℃でBrookfield粘度計モデルDV2T LV(Ametek Brookfield、マサチューセッツ州ボストン)を使用して、液状コーティング組成物の粘度を測定し、センチポアズ(cP)単位で記録した。16mLの液状コーティング組成物を粘度計のULA-31EYチャンバ内に入れ、粘度測定にはULA-Eスピンドルを使用した。スピンドルを45%~95%のトルク読取範囲で5分間、スピンドルを回転した後、粘度を記録した。試験結果を表2に示す。
[コーティング膜厚]
【0076】
Filmetrics F20薄膜分析器(Filmetrics、カリフォルニア州サンディエゴ)で硬化されたコーティング組成物の膜厚を測定し、μmの単位で記録した。試験結果を表2に示す。
[接着力]
【0077】
3MブランドのSCOTCH600感圧テープを使用して接着力を測定した。試験は以下のように実施した。
1)カミソリ刃により、硬化されたコーティング中に、約2mmの格子間隔を有した6×6クロスハッチ格子を作成した。
2)クロスハッチ領域を完全に被覆するのに十分な幅で、クロスハッチ領域より長い矩形テープ片を切り取り、舌圧子を使用してクロスハッチ領域に亘って接着側をしっかりと押し付けた。
3)90秒後、テープの長い端部を片手で掴み、他方の手で試験片をしっかりと押さえつけながら、訳180度の角度でクロスハッチ領域に亘って迅速に引いた。
4)コーティング除去の確認は、適切な視覚的制御を使用して、コーティングされた基板(例えば、歯科用器具)の検査を行った。
5)同一のクロスハッチ領域内でステップ2、3及び4を、毎回、新たなテープ片を使用してさらに2回繰り返した。
6)対象領域を顕微鏡で調べた。
7)影響を受けていない領域の実際の数を接着率として記録した。試験結果を表2に示す。
[エリクセン鉛筆硬度]
【0078】
エリクセン鉛筆硬度試験機モデル318S(Erichsen GmbH&Co、ドイツ)を使用して、コーティングされた試験片の鉛筆硬度を評価した。エリクセン鉛筆上のスライダを使用して、バネ張力を5Nに事前設定した。鉛筆を直立に保持しつつ、試験片表面上にスタイラスを置き、約10mm/sの速度で表面上に5~10mmの長い引っ掻き傷を作った。表面を肉眼で調べ、生じた引っ掻き傷を観察した。引っ掻き傷が見えない場合は、バネ張力を1Nずつ増やし、引っ掻き傷が肉眼で見えるようになるまでこのプロセスを繰り返した。対応するバネ張力値は、ニュートン(N)の単位のエリクセン鉛筆硬度として記録した。試験結果を表2に示す。
[70℃安定性試験]
【0079】
100gの液状コーティング組成物をキャップのない125mL琥珀色HDPEボトル(VWR、ペンシルベニア州ランドール)に添加した。HDPEボトルをステンレス鋼容器(モデル:STB-250)内に入れ、クランプを使用してキャップ(モデル:ENDCAP-205)で密閉した(容器及びキャップはともにEagle Stainless、ペンシルベニア州ワーミンスターから入手)。ステンレス容器を従来式のオーブン内に入れた。オーブンを70℃に加熱し、オーブンの温度を、安定性試験全体を通じて70℃に維持した。試験の1週間後、ステンレス鋼容器をオーブンから取り出した。室温まで冷却した後、ステンレス鋼容器を開け、粘度測定のため、約20gのコーティングをHDPEボトルから取り出した。粘度測定の完了後、液状コーティングをHDPEボトルに注ぎ戻し、ステンレス鋼容器を密閉して、さらに1週間の安定性研究のため、70℃のオーブンに再び入れた。同一の手順を8週間まで毎週繰り返した。
[40℃安定性試験]
【0080】
100gの液状コーティング組成物を、125mL琥珀色HDPEボトル(VWR、ペンシルベニア州ランドール)に加え、キャップで密閉した。HDPEボトルを従来式のオーブン内に入れた。オーブンを40℃に加熱し、オーブンの温度を、安定性試験全体を通じて40℃に維持した。試験の1カ月後、HDPEボトルをオーブンから取り出した。室温まで冷却した後、HDPEボトルを開け、粘度測定のため、約20gのコーティングをHDPEボトルから取り出した。粘度測定の完了後、液状コーティングをHDPEボトルに注ぎ戻し、キャップで密閉して、さらに1か月の安定性研究のため、40℃のオーブンに再び入れた。同一の手順を6か月まで毎月繰り返した。
[7日後変色(△E*ab)]
【0081】
インスタントコーヒー(UCC上島珈琲株式会社、日本)を使用して、コーティングされた試験片の変色を評価した。20mm×70mm×1~1.5mmのサイズの試験片を準備した。6gのインスタントコーヒーを140mlの熱湯に溶かした。コーヒー溶液を37℃まで自然冷却した。試験片を37℃のコーヒー溶液中に7日間浸漬して維持した。試験片を流水ですすぎ、乾燥させた。乾燥させた試験片を、積分球分光光度計(サカタインクス株式会社、日本)を使用して、浸漬前後の色の違い(△E*ab)に関し、評価した。
試験結果を表2に示す。
【0082】
本開示のいくつかの実施例では、優れた接着力を示すことができる。例えば、実施例1及び2、比較例1及び2の接着力は100%である。
【0083】
本開示のいくつかの実施例では、優れた硬度を示すことができる。例えば、実施例1及び2、比較例1及び2のエリクセン鉛筆硬度(N)は、10~11Nである。
【0084】
本開示のいくつかの実施例において、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分は、シラン(例えば、ガンマアミノプロピルトリエトキシシラン)で処理する。多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分がシランで処理された場合、組成物の安定性が低下すると考えられる。例えば、多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分をシラン(例えば、ガンマ-アミノプロピルトリエトキシシラン)で処理すると、サンプルの70℃安定性(週)及び/又は40℃安定性(月)が短くなる。
【0085】
多官能(メタ)アクリレートモノマー/オリゴマー成分をシラン(例えば、ガンマ-アミノプロピルトリエトキシシラン)で処理しない場合、サンプルの70℃安定性(週)及び/又は40℃安定性(月)はより長くなる。例えば、シランで処理されていない比較例1の70℃安定性(週)は、6週以上であり、シランで処理されていない実施例1の70℃安定性(週)は、10週以上であるが、シランで処理された実施例2及び比較例2の70℃安定性(週)は、1週間未満である。シランで処理されていない比較例1及び実施例1の40℃安定性(月)は、10月以上であるが、シランで処理された実施例2及び比較例2の40℃安定性(月)は1.5か月である。
【0086】
本開示のいくつかの実施例において、コーティング組成物は、変色を低減及び/又は防止することができる。例えば、比較例1の7日後変色(△E*ab)は、0.09であり、実施例1の7日後変色(△E*ab)は、0.11であるが、コーティンされていないPMMAクーポン、比較例Aの7日後変色(△E*ab)は、0.3である。
[コーティングされた材料へのプラーク付着]
【0087】
コーティング組成物の硬化されたコーティングのプラーク防止特性を以下の方法で評価した。コーティングされたPMMAクーポン(長さ:75mm、幅:25mm、高さ:1~1.5mm、公差:-0.1mmのサイズ)を、サンプルとして上述のブラシプロセスで調製した。コーティンされていないPMMAクーポン(長さ:75mm、幅:25mm、高さ:1~1.5mm、公差:-0.1mm)を参照として調製した。滅菌後(80%エタノールに次いで、滅菌蒸留水で濯いだ)、これらのサンプルを試験のために直ちに使用した。サンプルへの動的インビトロバイオフィルム試験は、滅菌フローチャンバを使用して実施した。フローチャンバを密閉するため、ガラススライドをPMMAクーポン下に置いた。混合した細菌懸濁液の懸濁液クロスフローにこれらのサンプルを横断させた。混合した細菌懸濁液は、5つの典型的な歯科微生物(Streptococcus mutans、Streptococcus sanguinis、Actinomyces viscosus、Fusobacterium nucleatum、Veillonella parvula(各菌株の細菌濃度:1mlあたり約2×106個、細菌総濃度:1mlあたり約1×107個))の混合培養からなる。培養条件は、以下の通りであった。37℃、pH=7.2、微好気性から無酸素条件、0.5g/Lのサッカロースを添加したBM培地、毎分約0.3mlの細菌懸濁液の体積流量、層流、インキュベーション時間:23時間、滅菌条件下で連続培養(ケモスタット)。
【0088】
付着細菌の定量的分析は、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM:Zeiss LSM710、exc:488nm及び543nm、2つの分離検出器チャンネル対物レンズ:LD Plan-Neofluar 20x/0,4 KorrM27)により、23時間のインキュベーションの後に、サンプル表面の3~5箇所において実施した。サンプルは、フローチャンバ内で直接蛍光染色した(LIVE/DEAD BacLigh Bacterial Viability Kit[Life Technologies,Thermo Fisher Scientific Inc.;syto9による生菌=緑、ヨウ化プロピジウムによる死菌=赤])。試験結果を表3に示す。
【0089】
【0090】
本開示のいくつかの実施例において、コーティング組成物は、プラーク付着/被覆を低減及び/又は防止することができる。実施例1におけるプラーク被覆は18%であり、実施例2におけるプラーク被覆は30%であるが、比較例1におけるプラーク被覆率は92%であり、比較例2におけるプラーク被覆率は191%であり、コーティンされていないPMMAは100%である。
【0091】
比較例1の貯蔵寿命は6週間であり、実施例1の貯蔵寿命は10週間超であるが、G-coatTMの貯蔵寿命は1週間であり、ナノコートラボTM及びPalasealTMの貯蔵寿命は、各々、9週間超である。
[コーティングされた材料の水接触角]
【0092】
コーティング組成物の硬化コーティングの水接触角を、実施例の歯科用器具上で測定した。実施例の歯科用器具は、以下の通り調製した。Palapress(登録商標)vario(アクリル樹脂歯科用基材、Kulzer、ドイツ)を粉体:液体=10g/7mlの比率で混合した。混合物をステンレス鋼金型に注ぎ入れた。金型を55℃の熱湯中で加熱しながら、2気圧で30分間加圧して、混合物を重合させた。固化した実施例の歯科用器具の表面を、#400~#4000のサンドペーパーを用いて、表面粗さ(Ra)が0.05μm未満になるまで、湿式研磨により研磨し、表面が平滑な歯科用器具を得た。
【0093】
実施例の歯科用器具の表面に液状コーティング組成物をブラッシングにより塗布した。コーティングした組成物を、5分間空気乾燥した後、HiLiteパワー3DTM(Kulzer、ドイツ)を使用して15分間、光照射で硬化させた。水接触角計、DropMaster DMo-501TM(協和界面科学株式会社、日本)を使用して、実施例の歯科用器具の表面上で硬化したコーティングの水接触角を測定した。
【0094】
各々、同一のやり方で実施例の歯科用器具に、G-coatTM、ナノコートラボTM、及びParasealTMを塗布した。実施例の歯科用器具のコーティングされた表面を、LumirrorTM(ポリエステル膜、東レ株式会社、日本)で被覆した。3分間、Solidilite VTM(株式会社松風、日本)を使用した光照射を行うことにより、コーティングされた表面を、実施例の歯科用器具の表面上に形成した。いずれのコーティングも塗布していない実施例の歯科用器具(非コーティング基材)も、同一のやり方で試験した。試験結果を表4に示す。
【0095】
【0096】
本開示の実施例1は、高い水接触角を示すことができる。例えば、実施例1の水接触角は81度以上であるが、比較例Bとしての非コーティング基材、G-coatTM、ナノコートラボTM、及びPalasealTMの水接触角は、各々、74.2度以下である。
【0097】
本開示のいくつかの実施例では、優れた安定性と高い水接触角との双方を示すことができる。例えば、比較例1は、水接触角が80.1度であり、70℃安定性(週)が6週間以上であり、40℃安定性(月)が10月以上であることを示している。実施例1は、水接触角が83.4度であり、70℃安定性(週)が10週間以上であり、40℃安定性(月)が10月以上であることを示している。
【0098】
水接触角は、材料の撥水性を示す指標である。水接触角が大きいほど、その材料は高い撥水性を有する。より大きな水接触角を提供できるコーティング組成物は、より高い微生物耐性(すなわち、より高い抗菌効果)を有すると考えられる。
[歯ブラシ摩耗試験]
【0099】
SURFCOM 130A(株式会社東京精密、日本)を使用して、硬化したコーティング組成物の耐摩耗性を評価した。SURFCOM 130Aを使用して、実施例の歯科用器具の表面上で硬化されたコーティング組成物の表面の粗さを測定した。20mm×70mm×1~1.5mmの試験片を準備し、6ステーション摩耗試験機(K906-01、株式会社東京技研、日本)のサンプルホルダにセットした。歯磨き粉White and White CaTM(ライオン株式会社、日本)を粉体/溶液=1/2の体積比で含む水溶液中に、試験片を浸漬した。次いで、3cmのストローク長で160rpmの速度、250gのストローク強度で、義歯用歯ブラシで試験片にブラッシングを行った。10,000サイクルのブラッシング後、試験片上でコーティングされた材料の表面粗さを測定した。試験結果を表5に示す。
【0100】
【0101】
本開示のいくつかの実施例では、非コーティング基材において観察される摩耗と比較して、歯ブラシ耐摩耗性の向上を示すことができる。例えば、実施例1及び比較例1の表面粗さ(10,000サイクルのブラッシング後)は、0.064μm以下であり、G-coatTMの表面粗さは、0.192μmであり、ナノコートラボTMの表面粗さは、0.135μmであり、PalasealTMの表面粗さは、0.282μmである。
[コーティングされた材料の変色耐性(コーヒー、37℃、4週間)]
【0102】
インスタントコーヒー(UCC上島珈琲株式会社、日本)を使用して、コーティングされた試験片の変色を評価した。20mm×70mm×1~1.5mmのサイズの試験片を準備した。6gのインスタントコーヒーを140mlの熱湯に溶かした。コーヒー溶液を37℃で自然冷却した。試験片を37℃のコーヒー溶液中に4週間浸して維持した。試験片を流水で濯いで乾燥させた。積分球分光光度計(サカタインクス株式会社、日本)を使用して、浸漬前後の色の違い(△E*ab)により、乾燥させた試験片を評価した。試験結果を表6に示す。
【0103】
【0104】
本開示のいくつかの実施例において、コーティング組成物は、変色を低減及び/又は防止することができる。例えば、比較例1における4週間後の変色(△E*ab)は、0.31△E*abであり、実施例1における4週間後の変色(△E*ab)は、0.38△E*abである。
【0105】
本開示は例示であり、本開示に含まれる教示の公正な範囲を逸脱することなく、詳細を追加、修正、又は削除することにより、種々の変更がなされ得ることは明らかである。したがって、本開示は、以下の請求の範囲が必然的に限定される程度以外に、本開示の特定の詳細に限定されるものでない。
【国際調査報告】