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特表2023-541518植物の窒素利用率と収量を調節するタンパク質、及びその使用
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  • 特表-植物の窒素利用率と収量を調節するタンパク質、及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-03
(54)【発明の名称】植物の窒素利用率と収量を調節するタンパク質、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20230926BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20230926BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20230926BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230926BHJP
   C07K 14/415 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
A01H6/46
C12N15/29
C12N15/09 110
C07K14/415
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507424
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 CN2021118140
(87)【国際公開番号】W WO2022057780
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】202010965332.9
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517264214
【氏名又は名称】中国科学院遺▲伝▼与▲発▼育生物学研究所
【氏名又は名称原語表記】Institute of Genetics and Developmental Biology, Chinese Academy of Sciences
【住所又は居所原語表記】No. 1 West Beichen Road, Chaoyang District, Beijing 100101, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】儲成才
(72)【発明者】
【氏名】劉永強
(72)【発明者】
【氏名】胡斌
(72)【発明者】
【氏名】汪鴻儒
【テーマコード(参考)】
2B030
4H045
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD07
2B030AD20
2B030CA17
2B030CA24
2B030CB02
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA31
4H045EA05
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、植物の窒素利用率と収量を調節するタンパク質、及びその使用を提供するものである。トランスジェニック技術及びCRISPR-Cas9技術により、それぞれtrans-OsTCP19イネ及びイネのOsTCP19突然変異体を得る。結果から判明したように、trans-OsTCP19イネは、野生型イネと比べて、分蘖数が減少し、窒素応答性が低下したが、イネのOsTCP19突然変異体は、野生型イネと比べて、分蘖数が増加した。このことから分かるように、OsTCP19タンパク質が植物の収量及び窒素利用率を調節する機能を担っている。これにより、高収量・高窒素利用率の品種の育成の基礎となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OsTCP19タンパク質の、植物の分蘖及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に対する調節における使用であって、
前記OsTCP19タンパク質は、以下のA1)又はA2)又はA3)又はA4)のいずれか一つで示されるタンパク質:
A1)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
A2)配列表における配列3に示されるタンパク質のN末端又は/及びC末端にタグを結合して得られた融合タンパク質、
A3)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列が1つ又は複数のアミノ酸残基で置換及び/又は欠失及び/又は付加されるとともに、同一の機能を有するタンパク質、
A4)A1)~A3)のいずれか一つに規定されるアミノ酸配列と99%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の相同性を有するとともに、同一の機能を有するタンパク質
である、使用。
【請求項2】
前記植物は、
M1)単子葉植物又は双子葉植物、又は
M2)イネ科の植物、又は
M3)イネ
であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
OsTCP19タンパク質に関連する生体材料の、下記B1)~B4)のいずれか一つ:
B1)植物の分蘖及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性を調節すること、
B2)分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成すること、
B3)分蘖数の減少及び/又は収量の減少及び/又は品質の低下及び/又は窒素利用率の低下及び/又は窒素反応性の低下を示すトランスジェニック植物を育成すること、
B4)植物育種、
における使用であって、
OsTCP19タンパク質に関連する前記生体材料は、以下のC1)~C8)のいずれか一つ:
C1) OsTCP19タンパク質をコードする核酸分子、
C2) C1)に係る核酸分子を含む発現カセット、
C3) C1)に係る核酸分子を含む組換えベクター、
C4) C2)に係る発現カセットを含む組換えベクター、
C5) C1)に係る核酸分子を含む組換え微生物、
C6) C2)に係る発現カセットを含む組換え微生物、
C7) C3)に係る組換えベクターを含む組換え微生物、
C8) C4)に係る組換えベクターを含む組換え微生物
であり、
前記OsTCP19タンパク質は、以下のA1)又はA2)又はA3)又はA4)のいずれか一つで示されるタンパク質:
A1)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
A2)配列表における配列3に示されるタンパク質のN末端又は/及びC末端にタグを結合して得られた融合タンパク質、
A3)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列が1つ又は複数のアミノ酸残基で置換及び/又は欠失及び/又は付加されるとともに、同一の機能を有するタンパク質、
A4)A1)~A3)のいずれか一つに規定されるアミノ酸配列と99%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の相同性を有するとともに、同一の機能を有するタンパク質
である、使用。
【請求項4】
C1)に係る核酸分子が、以下の1)又は2)又は3)又は4)又は5)に係るDNA分子:
1) 配列表における配列1に示されるゲノムDNA分子、
2) 配列表における配列2に示されるcDNA分子、
3) 1)又は2)で規定されたDNA配列と98%以上の相同性を有するとともに、植物の分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に関連するタンパク質をコードする、イネ由来のDNA分子、
4) ストリンジェントな条件下で1)又は2)で規定されたDNA配列とハイブリダイズするとともに、植物の分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に関連するタンパク質をコードするDNA分子、
5) 1)又は2)で規定されたDNA配列と90%以上の相同性を有するとともに、植物の分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に関連するタンパク質をコードするDNA分子
であることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記植物は、
M1)単子葉植物又は双子葉植物、又は
M2)イネ科の植物、又は
M3)イネ
であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
N1) OsTCP19タンパク質活性を阻害する物質の、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成することにおける使用、又は
N2) OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害する物質、又はOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトする物質の、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成することにおける使用
であって、
前記OsTCP19タンパク質は、以下のA1)又はA2)又はA3)又はA4)のいずれか一つで示されるタンパク質:
A1)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
A2)配列表における配列3に示されるタンパク質のN末端又は/及びC末端にタグを結合して得られた融合タンパク質、
A3)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列が1つ又は複数のアミノ酸残基で置換及び/又は欠失及び/又は付加されるとともに、同一の機能を有するタンパク質、
A4)A1)~A3)のいずれか一つに規定されるアミノ酸配列と99%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の相同性を有するとともに、同一の機能を有するタンパク質
である、使用。
【請求項7】
前記物質は、CRISPR-Cas9システムであり、前記CRISPR-Cas9システムは、Cas9タンパク質とsgRNAを含み、前記sgRNAは、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の配列又はその上流プロモーター配列又はその非コード領域の配列又はその下流調節領域の配列を標的とすることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記sgRNAの標的配列は、配列4に示されるDNA分子及び配列5に示されるDNA分子であることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記植物は、
M1)単子葉植物又は双子葉植物、又は
M2)イネ科の植物、又は
M3)イネ
であることを特徴とする、請求項6から8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
以下のD1)又はD2)に係る、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成する方法:
D1)目的植物におけるOsTCP19タンパク質の活性を阻害して、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を得るステップを、含む方法、又は
D2)目的植物におけるOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害するか、目的植物におけるOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトすることにより、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を得るステップを、含む方法
であって、
前記OsTCP19タンパク質は、以下のA1)又はA2)又はA3)又はA4)のいずれか一つで示されるタンパク質:
A1)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
A2)配列表における配列3に示されるタンパク質のN末端又は/及びC末端にタグを結合して得られた融合タンパク質、
A3)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列が1つ又は複数のアミノ酸残基で置換及び/又は欠失及び/又は付加されるとともに、同一の機能を有するタンパク質、
A4)A1)~A3)のいずれか一つに規定されるアミノ酸配列と99%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の相同性を有するとともに、同一の機能を有するタンパク質
である、方法。
【請求項11】
目的植物におけるOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトする方法は、目的植物にCRISPR-Cas9システムを導入するステップを含み、前記CRISPR-Cas9システムは、Cas9タンパク質及びsgRNAを含み、前記sgRNAは、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の配列又はその上流プロモーター配列又はその非コード領域の配列又はその下流調節領域の配列を標的とすることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記sgRNAの標的配列は、配列4に示されるDNA分子及び配列5に示されるDNA分子であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記植物は、
M1)単子葉植物又は双子葉植物、又は
M2)イネ科の植物、又は
M3)イネ
であることを特徴とする、請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
目的植物におけるOsTCP19タンパク質の活性及び/又は含量を増加させて、分蘖数の減少及び/又は収量の減少及び/又は品質の低下及び/又は窒素利用率の低下及び/又は窒素反応性の低下を示すトランスジェニック植物を得るステップを含む、分蘖数の減少及び/又は収量の減少及び/又は品質の低下及び/又は窒素利用率の低下及び/又は窒素反応性の低下を示すトランスジェニック植物を育成する方法であって、
前記OsTCP19タンパク質は、以下のA1)又はA2)又はA3)又はA4)のいずれか一つで示されるタンパク質:
A1)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
A2)配列表における配列3に示されるタンパク質のN末端又は/及びC末端にタグを結合して得られた融合タンパク質、
A3)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列が1つ又は複数のアミノ酸残基で置換及び/又は欠失及び/又は付加されるとともに、同一の機能を有するタンパク質、
A4)A1)~A3)のいずれか一つに規定されるアミノ酸配列と99%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の相同性を有するとともに、同一の機能を有するタンパク質
である、方法。
【請求項15】
前記植物は、
M1)単子葉植物又は双子葉植物、又は
M2)イネ科の植物、又は
M3)イネ
であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項10から13のいずれか1項に記載の方法により調製されたトランスジェニック植物。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の方法により調製されたトランスジェニック植物。
【請求項18】
Cas9タンパク質とsgRNAとを含む、CRISPR-Cas9システムであって、前記sgRNAの標的配列は、配列4に示されるDNA分子及び配列5に示されるDNA分子であることを特徴とする、CRISPR-Cas9システム。
【請求項19】
請求項18に記載のCRISPR-Cas9システムの、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成すること、又は植物育種における使用。
【請求項20】
前記植物は、
M1)単子葉植物又は双子葉植物、又は
M2)イネ科の植物、又は
M3)イネ
であることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に属し、具体的には、植物の窒素の利用率と収量を調節するタンパク質及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素は、植物が最も必要とする無機栄養素である。農業生産では、窒素肥料を主とする化学肥料の継続的な投入により、食糧生産量の大幅な増加がもたらされた。しかし、窒素肥料の過剰な施用により、作物が吸収・利用しなかった大量の窒素肥料が大気や水域に流入したり、土壌に残留したりすることで、大気汚染や地表水の富栄養化、土壌の酸性化などを引き起こし、深刻な環境破壊を引き起こした。また、世界人口の継続的な増加に伴い、食糧に対する需要は今後も増加し続けるので、農業を持続的に発展させるために、「肥料の減少及び効率の増加」という育種目標を達成し、農作物の窒素利用率(nitrogen-use efficiency、NUE)を向上させることが重要である。イネは、世界で広く栽培されている主食作物であり、その窒素肥料の施用量は、他の作物を大きく上回っているため、イネのNUE関連遺伝子を同定し利用することは農業生産にとって非常に重要である。
【0003】
NUEは、多種多様な遺伝的要因と環境要因の組み合わせによって影響を受け、窒素の吸収、転流、同化、再利用、後続の成長発育の過程などに関する複雑な農業形質であり、単一の指標を用いてその表現型を同定することが困難である。このことから、伝統的な遺伝学的手法では関連する機能遺伝子のクローニングや同定が困難であり、窒素利用効率の高い育種の発展には大きな制約があった。
【0004】
NUEは一定量の窒素を施用した作物の単位面積あたりの収量と定義することができ、イネの収量は分蘖数、穂粒数及び千粒重という三つの要因により決まることから、これらの収量要因の窒素応答性(低窒素(LN)から高窒素(HN)までの増加比率、即ち、(HN-LN)/LNと解釈できる)をNUEの相対的表現型値として用い、NUEに関連する遺伝子サイトのクローニングを行うことは、より実用的な価値を具備していると考えられる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の目的は、OsTCP19タンパク質の新規用途を提供することである。
【0006】
本発明は、OsTCP19タンパク質の、植物の分蘖及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に対する調節における使用を提供する。
【0007】
前記OsTCP19タンパク質は、以下のA1)又はA2)又はA3)又はA4)のいずれか一つで示されるタンパク質:
A1)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
A2)配列表における配列3に示されるタンパク質のN末端又は/及びC末端にタグを結合して得られた融合タンパク質、
A3)配列表における配列3に示されるアミノ酸配列が1つ又は複数のアミノ酸残基で置換及び/又は欠失及び/又は付加されるとともに、同一の機能を有するタンパク質、
A4)A1)~A3)のいずれか一つに規定されるアミノ酸配列と99%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の相同性を有するとともに、同一の機能を有するタンパク質
である。
【0008】
ここで、配列表における配列3は、387個のアミノ酸残基からなる。
【0009】
前記タグは、具体的に表1に示す。
【0010】
【0011】
上記A1)~A4)のいずれか一つに示されるタンパク質は、人工的に合成することもできるし、それらをコードする遺伝子をまず合成し、さらに、生物学的に発現させることにより得ることもできる。
【0012】
本発明の第2の目的は、OsTCP19タンパク質に関連する生体材料の新規用途を提供することである。
【0013】
本発明は、OsTCP19タンパク質に関連する生体材料の、下記B1)~B4)のいずれか一つ:
B1)植物の分蘖及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性を調節すること、
B2)分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成すること、
B3)分蘖数の減少及び/又は収量の減少及び/又は品質の低下及び/又は窒素利用率の低下及び/又は窒素反応性の低下を示すトランスジェニック植物を育成すること、
B4)植物育種;
における使用を提供し、
ここで、前記OsTCP19タンパク質に関連する前記生体材料は、以下のC1)~C8)のいずれか一つ:
C1) OsTCP19タンパク質をコードする核酸分子、
C2) C1)に係る核酸分子を含む発現カセット、
C3) C1)に係る核酸分子を含む組換えベクター、
C4) C2)に係る発現カセットを含む組換えベクター、
C5) C1)に係る核酸分子を含む組換え微生物、
C6) C2)に係る発現カセットを含む組換え微生物、
C7) C3)に係る組換えベクターを含む組換え微生物、
C8) C4)に係る組換えベクターを含む組換え微生物
である。
【0014】
前記使用において、C1)に係る核酸分子が、以下の1)又は2)又は3)又は4)又は5)に係るDNA分子:
1) 配列表における配列1に示されるゲノムDNA分子、
2) 配列表における配列2に示されるcDNA分子、
3) 1)又は2)で規定されたDNA配列と98%以上の相同性を有するとともに、植物の分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に関連するタンパク質をコードする、イネ由来のDNA分子、
4) ストリンジェントな条件下で、1)又は2)で規定されたDNA配列とハイブリダイズするとともに、植物の分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に関連するタンパク質をコードするDNA分子、
5) 1)又は2)で規定されたDNA配列と90%以上の相同性を有するとともに、植物の分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性に関連するタンパク質をコードするDNA分子
である。
【0015】
当業者であれば、定向進化及び点突然変異などの公知の方法によって、本発明に係るOsTCP19タンパク質をコードするヌクレオチド配列を容易に突然変異させることが可能である。OsTCP19タンパク質をコードするヌクレオチド配列と75%以上の相同性を有している、人工的に修飾されたヌクレオチドは、OsTCP19タンパク質をコードし、且つ同一の機能を有するヌクレオチドであれば、いずれも、本発明に係るヌクレオチド配列から誘導されるとともに本発明と同等である配列である。
【0016】
ここで使用される「相同性」という用語は、天然の核酸配列との配列類似性を意味する。「相同性」には、本発明の、配列3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列と75%以上、又は85%以上、又は90%以上、又は95%以上の相同性を有するヌクレオチド配列が含まれる。相同性の評価は、肉眼又はコンピュータソフトウェアで行うことができる。コンピュータソフトウェアを用いる場合、2つ以上の配列間の相同性をパーセンテージ(%)で表示することができ、関連配列間の相同性を評価するのに利用できる。
【0017】
前記90%以上の相同性は、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の相同性であってもよい。
【0018】
前記使用において、ストリンジェントな条件では、2xSSC、0.1%SDSの溶液中で、68℃でハイブリダイゼーションと膜の洗浄を2回、毎回5分間ずつ行い、さらに、0.5xSSC、0.1%SDSの溶液中で、68℃でハイブリダイゼーションと膜の洗浄を2回、毎回15分間ずつ行い;又は、0.1xSSPE(又は0.1xSSC)、0.1%SDSの溶液中で、65℃でハイブリダイゼーションと膜の洗浄を行う。
【0019】
上記使用において、前記ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージ、又はウイルスベクターであってもよい。
【0020】
前記組換えベクターは、前記核酸分子を発現ベクターに挿入することにより、前記タンパク質を発現する組換えベクターが得られる。前記核酸分子を用いて組換えベクターを構築する場合は、それが開始ヌクレオチドを転写する前に、増強型、組成型、組織特異型又は誘導型プロモーターのいずれかを付加してもよく、これらは単独で用いてもよく、又は、他の植物プロモーターと組み合わせて用いてもよい。さらに、前記核酸分子を用いて組換え発現ベクターを構築する場合は、翻訳エンハンサー又は転写エンハンサーなどのエンハンサーを用いてよく、これらのエンハンサー領域は、ATG開始コドン、又は隣接領域開始コドンなどであってもよいが、配列全体を正しく翻訳するように、コード配列の読み枠と同一であることが必要となる。前記翻訳制御シグナル及び開始コドンのソースは幅広く、天然であってもよく、合成であってもよい。翻訳開始領域は、転写開始領域又は構造遺伝子に由来することができる。トランスジェニック植物の細胞又は植物の同定及びスクリーニングを容易にするために、使用される植物発現ベクターを加工することができる。例えば、前記植物発現ベクターに、植物内で発現できる、色の変化を生じる酵素又は発光化合物をコードする遺伝子(GUS遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子など)、薬剤耐性を有する抗生物質マーカー(ゲンタマイシンマーカー、カナマイシンマーカーなど)、又は化学試薬耐性マーカー遺伝子(除草剤耐性遺伝子など)などを添加してもよい。トランスジェニック植物の安全性のために、いかなる選択的マーカー遺伝子を付加することなく、そのまま、逆境で植株をスクリーニングして形質転換させることができる。本発明の具体的な実施形態において、前記組換えベクターは、gOsTCP19である。前記gOsTCP19は、ベクターpCAMBIA2300-ocsのBamHI酵素切断部位及びHindIII酵素切断部位の間に、配列1に示されるDNAフラグメントを挿入して得られた組換えベクターである。
【0021】
前記使用における前記微生物は、酵母、細菌、藻類又は真菌であってよく、例えば、アグロバクテリウムであってもよい。前記組換え微生物は、上記組換えベクターを含む微生物である。本発明の具体的な実施形態において、前記組換え微生物は、上記組換えベクターを含むアグロバクテリウムAGL1である。
【0022】
上記使用において、前記植物収量の調節は、植物分蘖数の調節に具現化されており、前記植物窒素利用率の調節は、植物窒素応答性の調節に具現化されている。前記植物分蘖及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性の調節は、植物中のOsTCP19タンパク質の含量及び/又は活性が減少した時に前記植物分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性が増加したり、向上したりしたこと;前記植物中のOsTCP19タンパク質の含量及び/又は活性が向上した時に前記植物分蘖数及び/又は収量及び/又は品質及び/又は窒素利用率及び/又は窒素応答性が減少したり、低下したりしたことに、具現化されている。
【0023】
本発明の第3の目的は、OsTCP19タンパク質活性を阻害する物質、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害する物質、又はOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトする物質の新規使用を提供することである。
【0024】
本発明は、OsTCP19タンパク質活性を阻害する物質、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害する物質、又はOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトする物質の、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成することにおける使用を提供することである。
【0025】
さらに、前記物質がCRISPR-Cas9システムであり、前記CRISPR-Cas9システムは、Cas9タンパク質とsgRNAを含み、前記sgRNAは、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の配列又はその上流プロモーター配列又はその非コード領域の配列又はその下流調節領域の配列を標的とする。
【0026】
さらに、前記sgRNAの標的配列は、配列4に示されるDNA分子及び配列5に示されるDNA分子である。前記CRISPR-Cas9システムは、OsTCP19 CRISPR/Cas9ノックアウトベクターである。前記OsTCP19 CRISPR/Cas9ノックアウトベクターは、それぞれ、sgRNA1とsgRNA2と表記される2つのsgRNAを含む。前記sgRNA1の標的配列は、配列4に示すDNA分子であり、前記sgRNA2の標的配列は、配列5に示されるDNA分子である。
【0027】
本発明の第4の目的は、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成する方法を提供することである。
【0028】
本発明により提供される分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成する方法は、下記のD1)又はD2)である:
D1)目的植物におけるOsTCP19タンパク質の活性を阻害して、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を有するトランスジェニック植物を得るステップを含む方法、又は
D2)目的植物におけるOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害するか、目的植物におけるOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトすることにより、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を得るステップを含む方法。
【0029】
さらに、前記目的植物におけるOsTCP19タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトする方法は、目的植物に前記CRISPR-Cas9システムを導入するステップを含む。
【0030】
よりさらに、前記CRISPR-Cas9システムは、前記OsTCP19 CRISPR/Cas9ノックアウトベクターである。
【0031】
本発明の第5の目的は、分蘖数の減少及び/又は収量の減少及び/又は品質の低下及び/又は窒素利用率の低下及び/又は窒素反応性の低下を示すトランスジェニック植物を育成する方法を提供することである。
【0032】
本発明により提供される分蘖数の減少及び/又は収量の減少及び/又は品質の低下及び/又は窒素利用率の低下及び/又は窒素反応性の低下を示すトランスジェニック植物を育成する方法は、目的植物におけるOsTCP19タンパク質の活性及び/又は含量を増加させて、分蘖数の減少及び/又は収量の減少及び/又は品質の低下及び/又は窒素利用率の低下及び/又は窒素反応性の低下を示すトランスジェニック植物を得るステップを含む。
【0033】
さらに、前記窒素応答性の低下は、前記トランスジェニック植物の分蘖の窒素応答性が前記目的植物よりも低いことに、具体的に具現化されている。前記分蘖の窒素応答性の計算公式は、(高窒素処理群の分蘖数-低窒素処理群の分蘖数)/低窒素処理群の分蘖数の通りである。前記高窒素処理群は、100mあたり、尿素1.5kgを施肥し、前記低窒素処理群は、100mあたり、尿素0.5kgを施肥する。
【0034】
目的植物におけるOsTCP19タンパク質の活性及び/又は含量を増加させる前記方法は、目的植物においてOsTCP19タンパク質を過剰発現させることである。前記過剰発現の方法は、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子を目的植物に導入する方法である。
【0035】
よりさらに、前記OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子は、配列1に示されるDNA分子である。前記OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子は、前記組換えベクターgOsTCP19により目的植物に導入される。
【0036】
いずれか一つの前記方法により調製して得られたトランスジェニック植物も、本発明の権利範囲に含まれる。
【0037】
本発明の最後の目的は、前記CRISPR-Cas9システムを提供することである。
【0038】
前記CRISPR-Cas9システムの、分蘖数の増加及び/又は収量の増加及び/又は品質の向上及び/又は窒素利用率の向上及び/又は窒素反応性の向上を示すトランスジェニック植物を育成すること、又は植物育種における使用も、本発明の権利範囲に含まれる。
【0039】
いずれか一つの前記使用又は方法においても、前記植物は、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。さらに、前記単子葉植物は、イネ科の植物であってもよい。よりさらに、前記イネ科の植物は、具体的に、イネである(例えば、イネ品種である中花11)である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】trans-OsTCP19イネと野生型イネの分蘖数である。aは、trans-OsTCP19イネと野生型イネの表現型である。bは、trans-OsTCP19イネと野生型イネの中でのOsTCP19発現量の検出結果である。cは、trans-OsTCP19イネと野生型イネの分蘖数である。
図2】trans-OsTCP19イネと野生型イネの窒素応答性アッセイである。aは、低窒素処理下におけるtrans-OsTCP19イネと野生型イネの分蘖数である。bは、高窒素処理下におけるtrans-OsTCP19イネと野生型イネの分蘖数である。cは、trans-OsTCP19イネと野生型イネの分蘖の窒素応答値である。
図3】イネOsTCP19突然変異体及び野生型イネの分蘖数の検測である。aは、イネOsTCP19突然変異体及び野生型イネの表現型である。bは、イネOsTCP19突然変異体及び野生型イネの分蘖数である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の実施例は、本発明をより良く理解するためのものであるが、本発明を限定するものではない。以下の実施例における実験方法は、特に指定がない限り、一般的なものである。以下の実施例で使用する試験材料は、特に指定がない限り、いずれも、一般的な生化学試薬店から購入するものである。以下の実施例における定量試験では、いずれも3回の繰り返し実験を設置し、結果を平均化した。
【0042】
Zhonghua 11は、下記文献:Ma Y, Liu L, Zhu C, Sun C, Xu B, Fang F, Tang J, Luo A, Cao S, Li G, Qian Q, Xue Y, Chu C (2009) Molecular analysis of rice plants harboring a multi-functional T-DNA tagging system, J. Genet. Genomics 36(5):267-276に記載されている。公衆は、中国科学院遺伝と発育生物学研究所から入手可能であり、当該生体材料は、ただ本発明に関連する実験を繰り返すために用いられており、他の用途に用いられるべきではない。
【0043】
pCAMBIA2300-ocsは、下記文献:Wang W, Hu B, Yuan D, Liu Y, Che R, Hu Y, Ou S, Zhang Z, Wang H, Li H, Jiang Z, Zhang Z, Gao X, Qiu Y, Meng X, Liu Y, Bai Y, Liang Y, Wang Y, Zhang L. , Li L, Mergen S, Jing H, Li J, and Chu C (2018) Expression of nitrate transporter OsNRT1.1A/OsNPF6.3 confers high yield and early maturation in rice. Plant Cell, 30(3): 638-651に記載されている。公衆は、中国科学院遺伝と発育生物学研究所から入手可能であり、当該ベクターは、ただ本発明に関連する実験を繰り返すために用いられており、他の用途に用いられるべきではない。
【0044】
pYLsgRNA-U3、pYLsgRNA-U6a及びpYLCRISPR/Cas9Pubi-Hベクターは、いずれも、下記文献:Ma X, Zhang Q, Zhu Q, et al. A Robust CRISPR/Cas9 System for Convenient, High-Efficiency Multiplex Genome Editing in Monocot and Dicot Plants.Mol.Plant.2015;8(8):1274-1284に記載されている。公衆は、中国科学院遺伝と発育生物学研究所から入手可能であり、当該ベクターは、ただ本発明に関連する実験を繰り返すために用いられており、他の用途に用いられるべきではない。
【0045】
アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens) AGL1 strainは、下記文献:Wang W, Hu B, Yuan D, Liu Y, Che R, Hu Y, Ou S, Zhang Z, Wang H, Li H, Jiang Z, Zhang Z, Gao X, Qiu Y, Meng X, Liu Y, Bai Y, Liang Y, Wang Y, Zhang L, Li L, Mergen S, Jing H, Li J, and Chu C (2018) Expression of the nitrate transporter OsNRT1.1A/OsNPF6.3 confers high yield and early maturation in rice. Plant Cell, 30(3): 638-651に記載されている。公衆は、中国科学院遺伝と発育生物学研究所から入手可能であり、当該ベクターは、ただ本発明に関連する実験を繰り返すために用いられており、他の用途に用いられるべきではない。
【0046】
実施例1 trans-OsTCP19イネの獲得及びその分蘖の検測
I.trans-OsTCP19イネの獲得
1.組換え発現ベクターの構築
(1)遺伝子のクローニング
中花11(Zhonghua 11、ZH11)のゲノムDNAをテンプレートとし、gOsTCP19-F/gOsTCP19-Rプライマーの組み合わせ(当該gOsTCP19-F/gOsTCP19-Rプライマーの組み合わせは、BamHIとHindIIIとの二つの制限酵素切断部位の接合部、及びその後の相同組換えに用いられるベクター配列を含む)を用いてPCR増幅を行い、大きさが3844bpであるDNAフラグメントが得られ、そのヌクレオチド配列を配列表の配列1に示す。ここで、配列1における1-1944位は、OsTCP19遺伝子のプロモーターであり、1945-2240位は、OsTCP19遺伝子の5’UTR配列であり、2241-3404位は、OsTCP19遺伝子のコード領域の配列であり、3405-3654位は、OsTCP19遺伝子の3’UTR配列であり、3655-3844位は、OsTCP19遺伝子の下流配列である。プライマー配列は、詳しくは以下の通りである。
gOsTCP19-F:5’-CGGTACCCGGGGATCCATCTATGTCGAGAGGTGCGG-3’;
gOsTCP19-R:5’-GGCCAGTGCCAAGCTTAGAGTGGCAGATCGAATGGA-3’。
【0047】
gOsTCP19-Fプライマー配列の5’末端にはBamHI制限酵素切断部位が付加されており、gOsTCP19-Rプライマー配列の5’末端にはHindIII制限酵素切断部位(下線で示される)が付加されている。gOsTCP19-F/gOsTCP19-Rプライマー配列における太字の配列は、ベクターにおける配列であり、その後の相同組換えに用いられてベクターを構築する。gOsTCP19-Fプライマー配列における斜体の配列は、配列1における1-20位のヌクレオチド配列であり、gOsTCP19-Rプライマー配列における斜体の配列は、配列1における3825-3844位のヌクレオチド配列と逆相補的な配列である。
【0048】
(2)発現ベクターの構築
ステップ(1)で得られた、OsTCP19遺伝子を含み且つ全長の大きさが3844bpであるDNAフラグメントを、ベクターpCAMBIA2300-ocsのBamHI酵素切断部位とHindIII酵素切断部位との間に挿入し、組換え発現ベクターgOsTCP19が得られた。
【0049】
2.トランスジェニックイネの獲得
ステップ1で得られた組換え発現ベクターgOsTCP19を、ヒートショック法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens) AGL1株に形質転換し、スクリーングしてgOsTCP19を含む組換えアグロバクテリウム菌株を得た。gOsTCP19を含む組換えアグロバクテリウム菌株を用いて中花11のカルス(callus)を浸染させており、具体的な形質転換及びスクリーニング法は、「易自力、曹守雲、王力、何シ(注:金編に「思」)潔、儲成才、唐祚舜、周朴華、田文忠、アグロバクテリウムによるイネ形質転換の頻度増加に関する検討、Journal of Genetics, 2001, 28(4):352-358」を参照し、最終的にトランスジェニックイネを得た。得られたトランスジェニックイネは、T0世代のトランスジェニックイネである。T0世代株の種子を収穫し、T1世代のトランスジェニックイネを得た。
【0050】
T1世代のトランスジェニックイネを得る方法に従って、空ベクターpCAMBIA2300-ocsを中花11に形質転換し、空ベクターの対照植株を得た。
【0051】
3.トランスジェニックイネの同定
1)PCRによる同定
ステップ2で得られたT1世代のトランスジェニックイネのゲノムDNAを抽出した。NptII遺伝子に対するプライマーF1及びR1を用いてPCR同定を行ったところ、NptII遺伝子を含む植株(PCR産物の大きさは約500bpである)、即ち、陽性のトランスジェニックイネであると判明し、trans-OSTCP19イネと命名された。プライマー配列は、具体的に以下の通りである。
F1:5’-TCCGGCCGCTTGGGTGGAGAG-3’;
R1:5’-CTGGCGCGAGCCCCTGATGCT-3’。
【0052】
2)転写レベルの解析(RNA発現量)
実験材料としては、ステップ(1)で得られた全てのT1世代の陽性トランスジェニックイネ株、及び野生型イネ品種中花11を使用した。各材料からトータルRNAを抽出し、逆転写させてcDNAを得た。さらに、得られたcDNAをテンプレートとし、OsTCP19遺伝子に対するリアルタイム定量蛍光PCRを行い、各材料におけるOsTCP19遺伝子の転写レベルでの発現量を検出した。実験は3回繰り返し、結果を平均化した。内部標準遺伝子としてOsActin1を使用した。OsTCP19遺伝子とOsActin1遺伝子の検出に用いられたプライマー配列は、以下の通りである:
OsTCP19-qF:5’-GACAGTGTACCGTGGCGT-3’;
OsTCP19-qR:5’-CGCCGGGAAGTTCATGAAAT-3’;
OsActin1-F:5’-ACCATTGGTGCTGAGCGTTT-3’;
OsActin1-R:5’-CGCAGCTTCCATTCCTATGAA-3’。
【0053】
OsTCP19-qFは、配列2における864-881位のヌクレオチド配列であり、OsTCP19-qRは、配列2における896-915位のヌクレオチド配列と逆相補的な配列である。
【0054】
各実験材料におけるOsTCP19遺伝子の発現量に対するリアルタイム定量蛍光PCR検出の結果に基づいて、それぞれTO1及びTO2と命名された、中発現及び高表現の合計2つのT1世代株がその後の検討に選ばれ、TO1及びTO2の発現量の検出結果が図1bに示された(空ベクター対照は、中花11の対照表現型と一致しているため、図1bでは省略)。トランスジェニックではない野生型イネ品種の中花11と比較して、T1世代のtrans-OsTCP19イネ株のTO1及びTO2では、OsTCP19遺伝子の発現量が転写レベルで有意に向上した。
【0055】
II.trans-OsTCP19イネの分蘖検出
1.trans-OsTCP19イネの分蘖数検出
正常の条件で、生殖成長期に、T1世代のtrans-OsTCP19イネ株TO1及びTO2、中花11の対照植株及び空ベクターの対照植株の分蘖数について、各材料16個の単株ずつ計数した。
【0056】
その結果を図1a及び図1cに示した(空ベクター対照は、中花11の対照表現型と一致しているため、図1a及び図1cでは省略)。中花11の対照植株及び空ベクターの対照と比べて、T1世代のtrans-OsTCP19イネ株TO1及びTO2の分蘖数は、有意に低下した。ここで、TO1は、中花11の対照植株と比べて、平均の分蘖数は、6.3個から4.2個に減少した。TO2は、中花11の対照植株と比べて、平均の分蘖数は、6.3個から3.3個に減少した。
【0057】
2.trans-OsTCP19イネの分蘖の窒素応答性に対する検出
さらに、高窒素及び低窒素の条件(低窒素:50kg ha-1、高窒素:150kg ha-1)で、T1世代のtrans-OsTCP19イネ株TO1及びTO2、中花11の対照植株及び空ベクターの対照植株の分蘖数について統計し、分蘖の窒素応答値を計算した。具体的な処理手順:圃場試験では、2つの窒素肥料勾配(高窒素と低窒素)を設置した。ここで、高窒素処理群は、100mあたり、尿素1.5kgを施肥し、前記低窒素処理群は、100mあたり、尿素0.5kgを施肥する。分蘖の窒素応答値=(高窒素処理群の分蘖数-低窒素処理群の分蘖数)/低窒素処理群の分蘖数であり、各材料について、二つの条件で、いずれも16個の単株を統計した。
【0058】
その結果を図2に示す。T1世代のtrans-OsTCP19イネ株TO1及びTO2は、低窒素条件及び高窒素条件で、中花11の対照植株及び空ベクターの対照と比べて、分蘖数がいずれも有意に低下した(図2a及び2b)。ここで、低窒素条件で、中花11の対照植株と比較して、TO1の平均分蘖数は5.1個から3.4個に減少したが、TO2の平均分蘖数は5.1個から2個に減少した。高窒素条件下で、中花11の対照植株と比較して、TO1の平均分蘖数は9.5個から5.5個に減少したが、TO2の平均分蘖数は9.5個から2.5個に減少した。さらに、中花11の対照植株及び空ベクターの対照と比べて、T1世代のtrans-OsTCP19イネ株TO1及びTO2の窒素応答性は、有意に低下した。ここで、中花11の対照植株と比較して、TO1の平均の分蘖の窒素応答値は0.8から0.4に減少したが、TO2の平均の分蘖の窒素応答値は0.8本から0.3に減少した(図2c)。
【0059】
実施例2:イネのOsTCP19突然変異体の獲得及びその分蘖の検測
I.イネのOsTCP19突然変異体の獲得
1.sgRNAの設計
参照配列として配列1を使用し、OsTCP19コード領域において、OsTCP19-U3F/OsTCP19-U3RとOsTCP19-U6aF/OsTCP19-U6aRとの2対のsgRNAプライマー配列をそれぞれ設計した。プライマー配列は以下の通りである:
OsTCP19-U3F:5’-ggcAGAGTAGCCATGGATGTCAC-3’;
OsTCP19-U3R:5’-aaacGTGACATCCATGGCTACTCT-3’;
OsTCP19-U6aF:5’-gccGAGCTCGGGCACAAGACCGA-3’;
OsTCP19-U6aR:5’-aaacTCGGTCTTGCCCGAGCT-3’。
【0060】
その後の結合を容易にするため、OsTCP19-U3Fプライマー配列の5’末端にggcコネクターを付加させ、OsTCP19-U3Rプライマー配列の5’末端にaaacコネクターを付加させ、OsTCP19-U6aFプライマー配列の5’末端にgccコネクターを付加させ、OsTCP19-U6aRのプライマー配列の5’末端にaaacコネクターを付加させた。
【0061】
OsTCP19-U3Fは、配列1における2232-2251位のヌクレオチド配列であり、OsTCP19-U3Rは、配列1における2232-2251位のヌクレオチド配列と逆相補的な配列である。OsTCP19-U6aFは、配列1における2505-2524位のヌクレオチド配列であり、OsTCP19-U3Rは配列1における2505-2524位のヌクレオチド配列と逆相補的な配列である。
【0062】
2.ノックアウトベクターの構築
1)OsTCP19-U3F/OsTCP19-U3Rのプライマー対を変性させ、アニールしてOsTCP19-U3F/Rの二量体生成物を得た。OsTCP19-U6aF/OsTCP19-U6aRプライマー対を変性させ、アニールしてOsTCP19-U6aF/Rの二量体生成物を得た。
2)OsTCP19-U3F/Rの二量体生成物をpYLsgRNA-U3ベクターに結合したとともに、OsTCP19-U6aF/Rの二量体生成物をpYLsgRNA-U6aベクターに結合させて、それぞれ中間ベクターを2個得た。その後、参考文献:Ma X, Zhang Q, Zhu Q, et al. A Robust CRISPR/Cas9 System for Convenient, High-Efficiency Multiplex Genome Editing in Monocot and Dicot Plants. Mol Plant. 2015;8(8):1274-1284.におけるステップに従って、カットアンドジョイン法により、2つの中間ベクターをいずれもpYLCRISPR/Cas9Pubi-Hエンドベクターに結合させて、デュアルターゲットOsTCP19 CRISPR/Cas9ノックアウトベクターを得た。デュアルターゲットOsTCP19 CRISPR/Cas9ノックアウトベクターは、sgRNA 1とsgRNA 2と表記した2つのsgRNAを含んでいる。sgRNA 1の標的配列はAGAGTAGCCATGGATGTCAC(配列4)であり、sgRNA 2の標的配列はGAGCTCGCGACAAGACCGA(配列5)である。
【0063】
3.イネのOsTCP19突然変異体の獲得
ステップ2で得られたノックアウトベクターOsTCP19-CRISPRをヒートショック法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens) AGL1株に形質転換し、スクリーングしてOsTCP19-CRISPRを含む組換えアグロバクテリウム菌株を得た。OsTCP19-CRISPRを含む組換えアグロバクテリウム菌株を用いて中花11のカルス(callus)を浸染させており、具体的な形質転換及びスクリーニング法は、「易自力、曹守雲、王力、何シ(注:金編に「思」)潔、儲成才、唐祚舜、周朴華、田文忠、アグロバクテリウムによるイネ形質転換の頻度増加に関する検討、Journal of Genetics, 2001, 28(4):352-358」を参照し、最終的にT0世代のトランスジェニックイネを得た。
【0064】
4.イネのOsTCP19突然変異体の同定
ステップ3で得られたT0世代のトランスジェニックイネは、PCR及びシークエンスにより検出された。具体的なステップは、以下の通りである。ステップ3で得られたT0世代のトランスジェニックイネのゲノムDNAを抽出し、OsTCP19遺伝子に対するプライマーOsTCP19-CRF及びOsTCP19-CRRにより、PCR同定を行ったとともに、PCR産物をシークエンスしてOsTCP19遺伝子を突然変異させたトランスジェニック株を得た。プライマー配列は、以下の通りである:
OsTCP19-CRF:5’-TCTTTCTAGCTCTACCGGCG-3’;
OsTCP19-CRR:5’-CGCCGGGAAGTTCATGAAAT-3’。
【0065】
ここで、OsTCP19-CRFは、配列1における2052-2071位のヌクレオチド配列であり、OsTCP19-CRRは、配列1における3136-3155位のヌクレオチド配列と逆相補的な配列である。
【0066】
シークエンスにより同定したところ、T0世代のトランスジェニックイネにおいて合計で2つのOsTCP19遺伝子の突然変異体純粋株が得られ、それぞれイネのOsTCP19突然変異株T-cr1及びイネのOsTCP19突然変異株T-cr2と命名された。
【0067】
T0世代のイネのOsTCP19突然変異株T-cr1は、野生型イネ中花11のゲノムDNAと比較すると、それらの差異は、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子において、2本の染色体がすべて一つの塩基欠失の突然変異を生じており、当該欠失の突然変異が、配列1における2521位に位置したことにより、OsTCP19の機能が失われたり、低下したりしている点にある。
【0068】
T0世代のイネのOsTCP19突然変異株T-cr2は、野生型イネ中花11のゲノムDNAと比較すると、それらの差異は、OsTCP19タンパク質をコードする遺伝子において、2本の染色体がすべて一つの塩基挿入の突然変異及び204個の塩基欠失の突然変異を生じており、当該挿入の突然変異の、塩基の挿入位置が配列1における2521位と2249位との間に位置し、当該欠失の突然変異が、配列1における2319-2522位に位置したことにより、OsTCP19の機能が失われたり、低下したりしている点にある。
【0069】
T0世代のイネのOsTCP19突然変異株T-cr1及びT-cr2の種子を得て、T1世代のイネのOsTCP19突然変異株T-cr1及びT-cr2を得て、下記の分蘖検出に用いた。
【0070】
II.イネのOsTCP19突然変異体の分蘖検出
正常の条件で、生殖成長期に、T1世代のイネのOsTCP19突然変異株T-cr1、T-cr2及び中花11対照植株の分蘖数について、各材料を24個の単株でそれぞれ統計した。
【0071】
その結果を図3に示した。中花の対照植株と比べて、イネのOsTCP19突然変異株T-cr1及びT-cr2の分蘖数は、いずれも有意に増加した。ここで、イネのOsTCP19突然変異株T-cr1の平均分蘖数は、6.8個から8.8個に増加し、T-cr2は、6.8から9.2に増加した。
【0072】
上述したものは、本発明の好ましい実施形態に過ぎず、当業者にとっては、本発明の技術原理から逸脱することなく、OsTCP19プロモーター調節配列又はOsTCP19遺伝子自体に対する遺伝子編集最適化などのいくつかの改良及び修正を行うことができ、これらの改良及び修正も本発明の権利範囲とみなされるべきであることに注意すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、植物の収量及び窒素利用率に関連するOsTCP19タンパク質を提供し、トランスジェニック技術及びCRISPR-Cas9技術により、それぞれtrans-OsTCP19イネ及びイネのOsTCP19突然変異体を得るものである。実験から、trans-OsTCP19イネは、野生型イネと比べて、分蘖数が減少し、窒素応答性が低下したが、イネのOsTCP19突然変異体は、野生型イネと比べて、分蘖数が増加したことが判明した。このことから分かるように、OsTCP19タンパク質が植物の収量及び窒素利用率を調節する機能を担っている。これにより、高収量・高窒素利用率の品種の育成の基礎となる。
図1
図2
図3
【配列表】
2023541518000001.app
【国際調査報告】