(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-03
(54)【発明の名称】視覚または任意の他の脳機能を回復するための超音波をベースとするデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20230926BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230926BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230926BHJP
C12N 5/0793 20100101ALN20230926BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12Q1/02
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12N5/0793
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539209
(86)(22)【出願日】2021-09-09
(85)【翻訳文提出日】2023-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2021074868
(87)【国際公開番号】W WO2022053587
(87)【国際公開日】2022-03-17
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518170446
【氏名又は名称】ソルボンヌ ウニベルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】523083735
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィケ
(71)【出願人】
【識別番号】523084558
【氏名又は名称】エコール スュペリユール デ フィジク エ デ シミ アンドゥストゥリエーレ デ ラ ヴィレ デ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】514203362
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ピコー,サージ
(72)【発明者】
【氏名】カドーニ,サラ
(72)【発明者】
【氏名】サヘル,ホセ-アラン
(72)【発明者】
【氏名】タンター,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】デメネ,チャーリー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ13
4B063QS39
4B063QS40
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC50
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、対象において神経細胞を可逆的に刺激するためのデバイスおよび方法に関する。本発明のデバイスは、4MHz以上で超音波を発生させて、この超音波で機械受容チャネルを発現する神経細胞を刺激するためのモジュールを備える。本発明の方法は、機械受容チャネルを神経細胞に発現させることと、この細胞を超音波に4MHz以上で曝露することと、を含む。本発明はまた、対象における視覚回復のための方法またはデバイスの使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の神経細胞を形質導入する際に使用し、それにより、それを必要とする前記対象における感覚欠損を回復させるための機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むベクターであって、ここで、前記対象は、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の少なくとも1つの超音波刺激にさらに曝露される、ベクター。
【請求項2】
対象において神経細胞を可逆的に刺激するための方法であって、
(i)機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むベクターを神経細胞に形質導入し、それによって前記神経細胞による外因性機械受容チャネルの発現を誘導することと、
(ii)外因性機械受容チャネルを発現する前記神経細胞を、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の少なくとも1つの超音波刺激に曝露することと、を含む、方法。
【請求項3】
前記超音波刺激が、約15MHzの中心周波数である、請求項1に記載の使用のためのベクターまたは請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの超音波刺激が、約0.01~約2MPaに含まれるピーク音圧、および約0.1~約200msに含まれる超音波処理持続時間を有し、前記超音波刺激は、約0.001~約10秒の刺激間間隔(ISI)で繰り返され、好ましくは、前記少なくとも1つの超音波刺激は、超音波信号のバーストである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの超音波刺激が、マルチ周波超音波刺激である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの超音波刺激が非集束であり、好ましくは、前記少なくとも1つの超音波刺激が、複数の場所で同時に集束されるか、前記少なくとも1つの超音波刺激が、前記超音波刺激の全持続時間内に異なる場所に連続的に集束されるいくつかの超音波ビームから構成されるか、または前記少なくとも1つの超音波刺激が、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項7】
前記神経細胞またはその伸長が皮質領域内、または脳幹などの皮質下領域;または脊髄内にある、または前記神経細胞が、網膜内、前庭内または蝸牛内にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項8】
前記神経細胞が、視覚皮質の皮質ニューロン 、外側膝状体核のニューロン 、または網膜神経節細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項9】
好ましくは前記対象が視覚機能障害を有し、より好ましくは前記視覚機能障害が糖尿病性網膜症、視神経症、緑内障または外傷に起因する、前記対象において画像の視覚を誘導するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの超音波刺激が、画像情報の符号化から得られる複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンである、請求項9に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項11】
前記機械受容チャネルが、Piezoチャネル、MscL(大コンダクタンス機械受容チャネル) およびCFTR(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子)チャネル を含むかまたはこれらからなる群から選択され、好ましくは、前記機械受容チャネルは、MscL-G22sであり、任意により、前記機械受容チャネルは、レポータータンパク質に融合される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項12】
前記ベクターが、細胞型特異的プロモーターを含み、好ましくは前記プロモーターが、CAGプロモーター、CAMKIIプロモーター、SNCGプロモーター、CMVプロモーター、シナプシンIプロモーター、およびEF-1aプロモーターからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項13】
前記ベクターが、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルスおよび単純ヘルペスウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターである、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項14】
前記ベクターが、AAV、好ましくはAAV1、AAV2、AAV5およびAAV9血清型を含む群から選択されるAAVであり、より好ましくは前記ベクターが、AAV9またはAAV2である、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項15】
前記ベクターが、AAV1-7m8、AAV2-7m8、AAV5-7m8およびAAV9-7m8血清型を含む群から選択され、好ましくは、前記ベクターは、AAV2-7m8またはAAV9-7m8である、請求項14に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項16】
前記ベクターが、tdTomatoおよびCamKIIプロモーターに融合されたMscL-G22sをコードする核酸配列を含むAAV9-7m8である、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のためのベクターまたは方法。
【請求項17】
任意によりレポータータンパク質、プロモーター、および任意により小胞体輸出シグナルに融合された機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むAAVベクターであって、好ましくは前記AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV5およびAAV9血清型を含む群から選択され、より好ましくは、前記ベクターは、AAV9またはAAV2である、AAVベクター。
【請求項18】
前記ベクターが、AAV1-7m8、AAV2-7m8、AAV5-7m8およびAAV9-7m8血清型を含む群から選択され、好ましくは、前記ベクターは、AAV9-7m8またはAAV2-7m8である請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項19】
前記プロモーターが、細胞型特異的プロモーターであり、好ましくは、前記プロモーターが、CAGプロモーター、CAMKIIプロモーター、SNCGプロモーター、CMVプロモーター、シナプシンIプロモーターおよびEF-1aプロモーターを含む群から選択される、請求項17または請求項18に記載のAAVベクター。
【請求項20】
tdTomatoおよびCamKIIプロモーターに融合されたMscL-G22sをコードする核酸配列を含むAAV9-7m8である、請求項17~19のいずれか一項に記載のAAVベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を使用して特定の神経細胞を刺激するためのデバイスおよび方法に関する。特に、本発明は、対象における視覚回復のためのデバイスまたは方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロモデュレーションは、中枢神経系、末梢神経系、または自律神経系中でのニューロン活動を刺激するプロセスとして定義できる。ニューロモデュレーションは、障害を有する神経機能に置き換わる神経補綴物の開発、新しい治療形態、ニューロンおよび神経機能を調査するための新しい研究ツールなど、幅広い潜在的用途を有する。特に、皮質および皮質下の非侵襲的ニューロン刺激の開発は、広範囲の神経疾患および視力喪失などの知覚障害にとって興味深いものである。それにより、視覚の回復のために様々なアプローチが試験されてきたが、それらの有効性を制限するいくつかの制限に遭遇した。
【0003】
視覚の形成をもたらす皮質表面電極は、そのサイズ(0.5mm)が大きいことおよび間隔が2~4mm2と広いことによって制限される。それらの長期使用は、経時的な有効性の喪失が報告されていることにより、揺れ動いている。光遺伝学的療法は、網膜上で実証されているとおり、潜在的により高い分解能で、離れているニューロンを刺激する代替手段をもたらしている。しかし、脳の用途では、光刺激は、硬膜および組織の回折および吸収によって妨げられる。超音(US)波は、非侵襲的に皮質および皮質下の脳領域を刺激するための光波のこれらの制限を克服する。
【0004】
今日まで、超音波刺激を使用するいくつかの方法およびデバイスが当技術分野において報告されている。
【0005】
国際公開公報第2013/059833号は、脳の活動を調節するための方法およびシステムを開示しており、ここでは、音響信号は、脳内の標的領域に経頭蓋的に向けられる。音響信号は、100kHz~10MHzの範囲の周波数を有する。
【0006】
米国特許出願公開第2013/0245505号は、音響周波数が20MHz~100MHzの範囲である集束超音波信号を放出する網膜刺激および補綴デバイスを開示している。
【0007】
米国特許出願公開第2014/0249454号は、脳に放出する200kHz~10MHzの周波数範囲の超音波を用いて、強度難聴者などの感覚能力を治療するためのデバイスおよび方法を開示している。
【0008】
米国特許出願公開第2013/0079621号は、音響波源を動作させる方法およびシステムを開示しており、より具体的には診断、刺激および/または阻害のための音響波源の音響エネルギーの使用に関する。音響波は、1~20MHzの周波数範囲を有する。
【0009】
しかし、低周波数刺激の使用では、空間分解能が低下し、応答が長く継続し、視覚回復などの一部の用途に適合しない一方で、高周波数刺激の使用では、高音響エネルギーの蓄積が生じ、これは、熱加熱および超音波による組織損傷リスクを伴う。
【0010】
したがって、皮質および皮質下領域を刺激するための新しい安全で効率的な方法を開発する必要があり、特に対象における視覚を回復させるための安全で効率的な方法を開発する必要がある。
【0011】
超音波刺激とニューロンにおける機械受容チャネルの外因性発現との組み合わせは、米国特許出願公開第2019/0217129号および米国特許出願公開第2019/0308035号にも記載されている。しかし、これらの方法では低周波数刺激(すなわち、それぞれ、20~1000kHzおよび500kHz)を使用するため、本明細書の上記と同じ制限を受ける(すなわち、例えば、低空間分解能は、視覚回復に適合しない)。
【0012】
ここで、本発明者らは、高周波数刺激と組み合わせた大コンダクタンス細菌機械受容イオンチャネル(MscL)によるニューロンの感作に基づいて、視覚回復に適合する音響遺伝学的アプローチを開発した。実際に、本発明者らは、15MHz超音波刺激によるMscLを発現する皮質ニューロンおよび網膜ニューロンの刺激が、ex vivoおよびin vivoにおいて、ビデオレート刺激を必要とする視覚回復に適合する、ニューロンの高度な時空間活性化を誘導することを実証した。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、第一に、対象において機械受容チャネルを発現する神経細胞を可逆的に刺激するための入力として電気信号を受信するように構成されている超音波システムに関し、
ここで、超音波システムは、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の少なくとも1つの超音波刺激、好ましくは約15MHzの中心周波数の少なくとも1つの超音波刺激を放出するための、少なくとも1つの超音波素子を有する超音波アレイを含むモジュール(A)を備え、
少なくとも1つの超音波刺激は、集束されていない。
【0014】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約0.01~約2MPaに含まれるピーク音圧、および約0.1~約200ミリ秒(ms)に含まれる超音波処理持続時間を有し、約0.001~約10秒の刺激間間隔(ISI)で繰り返され、好ましくは、少なくとも1つの超音波刺激は、超音波信号のバーストである。
【0015】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、マルチ周波超音波刺激である。
【0016】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激が、複数の場所で同時に集束されるか、少なくとも1つの超音波刺激が、超音波刺激の全持続時間内において異なる場所で連続的に集束されるいくつかの超音波ビームから構成されるか、または少なくとも1つの超音波刺激が、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンである。
【0017】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波素子は、約4MHz~約20MHzの範囲、好ましくは約15MHzの中心周波数を有する超音波刺激トランスデューサーである。
【0018】
一実施形態では、神経細胞またはその伸長は、視覚皮質、前前頭皮質、知覚皮質、運動皮質、聴覚皮質、ブローカ野、ウェルニッケ野および連合野などの皮質領域;または大脳基底核、視床、視床下部、脳幹、海馬、扁桃体を含む皮質下領域;または脊髄内にあるか、または神経細胞が網膜、前庭、または蝸牛内にある。一実施形態では、神経細胞は、視覚皮質の皮質ニューロン、外側膝状体核のニューロン、または網膜神経節細胞である。
【0019】
一実施形態では、本システムは、対象において画像の視覚を誘導するためのものであり、好ましくは、対象は視覚機能障害を有し、より好ましくは、視覚機能障害は、糖尿病性網膜症、視神経症、緑内障または外傷に起因する。
【0020】
一実施形態では、システムは、
-画像または視覚情報を取得するための取得モジュール(B)と、
-画像または視覚情報を出力として電気信号に変換するように構成された処理モジュール(C)と、をさらに備え、電気信号は、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンを放出するためにモジュール(A)に送信される。
【0021】
一実施形態では、機械受容チャネルは、Piezoチャネル、MscL(大コンダクタンス機械受容チャネル)、およびCFTR(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子)チャネルを含むかまたはこれらからなる群から選択され、好ましくは機械受容チャネルは、MscLであり、より好ましくはMscL-G22sであり、かつ任意により、機械受容チャネルは、レポータータンパク質、好ましくは細胞質可溶性タンパク質、より好ましくはtdTomatoタンパク質に融合される。
【0022】
本発明はまた、対象における画像の視覚を誘導するための少なくとも1つの超音波刺激の使用にも関し、
ここで、対象は、機械受容チャネルを発現する神経細胞を含み、
超音波刺激は、約4MHz~約20MHzの中心周波数、好ましくは約15MHzの中心周波数の範囲であり、
神経細胞は、視覚皮質の皮質ニューロン、外側膝状体核のニューロン、または網膜神経節細胞である。
【0023】
一実施形態では、対象は、好ましくは糖尿病性網膜症、視神経症、緑内障または外傷に起因する視覚機能障害を呈する。
【0024】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約0.01~約2MPaに含まれるピーク音圧、および約0.1~約200msに含まれる超音波処理持続時間を有し、約0.001~約10秒の刺激間間隔(ISI)で繰り返され、好ましくは、少なくとも1つの超音波刺激は、超音波信号のバーストである。
【0025】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、マルチ周波超音波刺激である、および/または少なくとも1つの超音波刺激は、集束されておらず、好ましくは、少なくとも1つの超音波刺激は、複数の場所で同時に集束され、超音波刺激の全持続時間内において異なる場所で連続的に集束されるいくつかの超音波ビームで構成されているか、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンである。
【0026】
一実施形態では、機械受容チャネルは、Piezoチャネル、MscL(大コンダクタンス機械受容チャネル)、およびCFTR(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子)チャネルを含むかまたはこれらからなる群から選択され、好ましくは機械受容チャネルは、MscLであり、より好ましくはMscL-G22sであり、かつ任意により、機械受容チャネルは、レポータータンパク質、好ましくは細胞質可溶性タンパク質、より好ましくはtdTomatoタンパク質に融合される。
【0027】
本発明はさらに、対象の神経細胞を形質導入する際に使用し、それにより、それを必要とする対象における感覚欠損を回復させるための機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むベクターに関し、ここで、対象は、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の少なくとも1つの超音波刺激にさらに曝露されるか、または治療される。
【0028】
本発明はさらに、対象において神経細胞を可逆的に刺激するための方法に関し、方法は、
(i)神経細胞中で外因性機械受容チャネルを発現させることと、
(ii)外因性機械受容チャネルを発現する神経細胞を、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の少なくとも1つの超音波刺激、好ましくは約15MHzの中心周波数の少なくとも1つの超音波刺激に曝露することと、を含む。
【0029】
一実施形態では、ステップ(i)は、機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むベクターを神経細胞に形質導入し、それによって神経細胞による外因性機械受容チャネルの発現を誘導するステップを含む。
【0030】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約0.01~約2MPaに含まれるピーク音圧、および約0.1~約200msの超音波処理持続時間(SD)を有し、約0.001~約10秒の刺激間間隔(ISI)で繰り返される。
【0031】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、超音波信号のバーストである。
【0032】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、マルチ周波超音波刺激である。
【0033】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、異なる空間場所に集束する異なる周波数を有するマルチ周波超音波刺激である。
【0034】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、集束されていない。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、複数の場所で同時に集束される。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、超音波刺激の全持続時間内で異なる場所に連続的に集束させるいくつかの超音波ビームから構成される。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンである。
【0035】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、少なくとも1つの超音波素子を有する超音波アレイを含むモジュール(A)によって放出される。
【0036】
一実施形態では、神経細胞またはその伸長は、視覚皮質、前前頭皮質、知覚皮質、運動皮質、聴覚皮質、ブローカ野、ウェルニッケ野および連合野などの皮質領域;または大脳基底核、視床、視床下部、脳幹、海馬、扁桃体を含む皮質下領域;または脊髄内にあるか、または神経細胞が網膜、蝸牛、または前庭内にある。一実施形態では、神経細胞は、視覚皮質の皮質ニューロン、外側膝状体核のニューロン、または網膜神経節細胞である。
【0037】
一実施形態では、方法は、対象における画像の視覚を誘導するためのものである。一実施形態では、本方法は、視覚機能障害を有する対象において画像の視覚を誘導するためのものである。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、画像情報の符号化から得られる複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンである。一実施形態では、視覚障害は、糖尿病性網膜症、緑内障、視神経症または外傷に起因する。
【0038】
一実施形態では、機械受容チャネルは、Piezoチャネル、MscL(大コンダクタンス機械受容チャネル)およびCFTR(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子)チャネルを含むかまたはこれらからなる群から選択される。一実施形態では、機械受容チャネルは、MscL、好ましくはMscL-G22sである。一実施形態では、例えばMscL-G22sなどの機械受容チャネルは、例えば細胞質可溶性タンパク質などのレポータータンパク質に、優先的にtdTomatoタンパク質に融合される。
【0039】
一実施形態では、外因性機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、神経細胞に導入されるか、または導入された。
【0040】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードするベクターまたは組換え核酸は、細胞型特異的プロモーター、好ましくはニューロン特異的プロモーターを含み、より好ましくは、プロモーターは、CAGプロモーター、CAMKIIプロモーター、SNCGプロモーター、CMVプロモーター、シナプシンIプロモーター、およびEF-1aプロモーターを含むかまたはこれらからなる群から選択される。一実施形態では、機械受容チャネルをコードするベクターまたは組換え核酸は、原形質膜、より好ましくはKir2.1への発現を駆動するER輸出シグナルを含む。
【0041】
一実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターであり、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルスおよび単純ヘルペスウイルスからなる群から選択される。一実施形態では、ベクターは、AAV、好ましくはAAV1、AAV2、AAV5およびAAV9血清型を含むかまたはこれらからなる群から選択されるAAVであり、より好ましくはベクターは、AAV9またはAAV2である。一実施形態では、ベクターは、AAV1-7m8、AAV2-7m8、AAV5-7m8およびAAV9-7m8血清型を含むかまたはこれらからなる群から選択され、好ましくはベクターは、AAV9-7m8またはAAV2-7m8である。一実施形態では、ベクターは、tdTomatoおよびCamKIIプロモーターに融合されたMscL-G22sをコードする核酸配列を含むAAV9-7m8である。
【0042】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルスを含むかまたはこれらからなる群から選択されるウイルスによる感染によって、細胞に導入されるか、または導入されたものであり、好ましくは、ウイルスは、AAVである。
【0043】
本発明はさらに、任意によりレポータータンパク質、プロモーター、および任意により小胞体輸出シグナルに融合された、機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むベクター、好ましくはウイルスベクター、より好ましくはAAVベクターに関する。一実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV5およびAAV9血清型を含むかまたはこれらからなる群から選択されるAAVベクターであり、より好ましくは、ベクターは、AAV9またはAAV2である。一実施形態では、ベクターは、AAV1-7m8、AAV2-7m8、AAV5-7m8およびAAV9-7m8血清型を含むかまたはこれらからなる群から選択され、好ましくはベクターは、AAV9-7m8またはAAV2-7m8である。一実施形態では、AAVベクターは、tdTomatoおよびCamKIIプロモーターに融合されたMscL-G22sをコードする核酸配列を含むAAV9-7m8である。
【0044】
定義
数字の前の「約」は、その数字の値のプラスマイナス10%を意味する。
【0045】
「チャープ」とは、周波数が時間とともに増加(「アップチャープ」)または減少(「ダウンチャープ」)する信号を指す。
【0046】
「嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子」(CFTR)は、嚢胞性線維症に関連する陰イオンおよび細胞内リガンド依存性チャネルを指す。CFTRは、膜の引張によって活性化する。
【0047】
「皮質領域」とは、大脳の灰白質の入り組んだ表層内にある大脳皮質の空間的に限定された構成単位を指す。皮質領域には、これらに限定されないが、前前頭皮質、視覚皮質、知覚皮質、運動皮質、聴覚皮質、ブローカ野、ウェルニッケ野および連合野が含まれる。
【0048】
「欠損」とは、精神的または身体的機能の欠如または障害を指す。「感覚欠損」という用語は、視覚、聴覚、触覚、味覚などの主要な感覚のうちの1つの問題、または複数の感覚の問題を含み得る、幅広い症状の組み合わせ(arrange)を含む。
【0049】
「イベント」とは、ある状況の変化を指す。
【0050】
「機能的磁気共鳴画像法」または「fMRI」とは、磁気共鳴(MR)技術を使用して、神経血管結合の結果から局所的な脳神経細胞の活性化を画像化する技術を指す。
【0051】
「機能的超音波イメージング法」または「fUSイメージング法」は、超音波技術を使用して、神経血管結合の結果から局所的な脳神経細胞の活性化を画像化する技術を指す。
【0052】
「機能的近赤外顕微鏡法」または「fNIRS」は、近赤外分光法技術を使用して、神経血管結合の結果から局所的な脳神経細胞の活性化を画像化する技術を指す。
【0053】
「同一性」または「同一である」は、2つ以上のアミノ酸配列の配列間の関係で使用する場合、2つ以上のアミノ酸残基のストリング間の一致数によって決定される、アミノ酸配列間の配列関連性の程度を指す。「同一性」は、特定の数学的モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち、「アルゴリズム」)によって指定されたギャップアラインメント(存在する場合)を有する2つ以上の配列のうちの小さい方の間の同一の一致の割合(パーセント)を測定する。関連するアミノ酸配列の同一性は、既知の方法によって容易に計算することができる。このような方法としては、これらに限定されないが、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M.Stockton Press,New York,1991;およびCarillo et al.,SIAM J.Applied Math.48,1073(1988)に記載のものが挙げられる。同一性を決定するための好ましい方法は、試験対象の配列間で最大の一致が得られるように設計されている。同一性を決定する方法は、公開されているコンピュータプログラムに記述されている。2つの配列間の同一性を決定するための好ましいコンピュータプログラム方法としては、GCGプログラムパッケージ、例えば、GAP(Devereux et al.,Nucl.Acid.Res.\2,387(1984);Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.)、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215,403-410(1990))などが挙げられる。BLASTXプログラムは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)および他の供給源(BLAST Manual,Altschul et al.NCB/NLM/NIH Bethesda,Md.20894;Altschul et al.,上記)から公的に入手可能である。周知のSmith Watermanアルゴリズムを使用して、同一性を決定することもできる。
【0054】
「機械受容チャネル」とは、脂質二重層内の触覚、聴覚、鶏鳴(crowing)、引張、および細胞容積などの機械的刺激に応答するイオンチャネルのクラスを指す。
【0055】
「大コンダクタンス機械受容チャネル」(MscL)は、膜の引張に応答して開く、細菌中で同定された膜貫通チャネルタンパク質のファミリーを指す。MscLは、陰イオンおよび陽イオンの両方に対して非選択的であり、大きいユニタリーコンダクタンス(約3nS)を有する大きい非選択的チャネル(直径30~40A(オングストローム))を形成する。チャネル構造に関して、大腸菌由来のMscLは、5つの同一のサブユニットのそれぞれ中に136のアミノ酸を含む。
【0056】
タンパク質の「ネイティブ形態」、「オリジナル形態」または「野生型形態」は、その天然の、未変異(未変化)形態のタンパク質を指す。したがって、「ネイティブ」、「オリジナル」または「野生型」タンパク質は、天然由来(例えば、任意の種由来)のタンパク質と同じアミノ酸配列を有するものである。そのようなネイティブタンパク質は、天然から単離することができるか、または組換えもしくは合成手段によって産生することができる。本明細書で使用されるタンパク質バリアントという用語は、典型的には、1つ以上の置換、欠失、付加および/または挿入において、本明細書で具体的に開示されるタンパク質(例えば、機械受容チャネル)とは異なるタンパク質である。そのようなバリアントは、天然に存在し得るか、または、例えば、本発明の配列のうちの1つ以上を修飾することによって、および本明細書に記載のタンパク質の1つ以上の生物学的活性を評価することによって、および/または当技術分野において周知である複数の技術のうちのいずれかを使用することによって合成により生成され得る。本発明のタンパク質の構造に改変を加えても、望ましい特性を有するバリアントまたは誘導体タンパク質をコードする機能分子を得ることができる。タンパク質のアミノ酸配列を改変して、本発明のタンパク質の同等の、またはさらに改善されたバリアントまたは領域を作製することが望まれる場合、当業者は、典型的には、コードするDNA配列のコドンのうちの1つ以上を変更する。例えば、特定のアミノ酸は、その生物学的機能活性を感知できるほど喪失することなく、タンパク質構造内の他のアミノ酸に置換されてもよい。特定のアミノ酸配列置換は、タンパク質配列、および当然のことながらその基礎となるDNAコード配列中で行われ得、それにもかかわらず、同様の性質を有するタンパク質を得ることができる。したがって、それらの生物学的有用性または活性を感知できるほど喪失することなく、本開示の組成物のアミノ酸配列、または上記タンパク質をコードする対応するDNA配列に様々な変更を加え得ることが企図される。多くの場合、タンパク質バリアントは、1つ以上の保存的置換を含むであろう。「保存的置換」は、アミノ酸が同様の性質を有する別のアミノ酸に置換される置換であり、これは、ペプチド化学の当業者であれば、タンパク質の二次構造およびハイドロパシー特性が実質的に変化しないことが予想されるであろう。このため、上記のとおり、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づく。前述の特徴のいくつかを考慮に入れた例示的な置換は、当業者に周知であり、アルギニンとリジン、グルタメートとアスパラギン酸、セリンとスレオニン、グルタミンとアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。アミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の性質の類似性に基づいてさらに行うことができる。例えば、負に荷電したアミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正に荷電したアミノ酸としては、リジンおよびアルギニンが挙げられ、同様の親水性値を有する非電荷極性ヘッド基を有するアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、およびバリン;グリシンとアラニン;アスパラギンとグルタミン;セリン、スレオニン、フェニルアラニン、チロシンが挙げられる。保存的変更を表す可能性のあるアミノ酸の他の基としては、以下が挙げられる:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、tyr、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。またあるいは代替的にはバリアントには、非保存的変更が含まれてもよい。好ましい実施形態では、バリアントタンパク質は、5個以下のアミノ酸の置換、欠失、または付加によってネイティブ配列と異なる。バリアントはまた(または代替的に)、例えば、タンパク質の二次構造およびハイドロパシー特性に最小の影響を有するアミノ酸の欠失または付加によって修飾され得る。
【0057】
「Piezoファミリー」は、機械的力によって直接ゲート制御される興奮性イオンチャネルのファミリーを指す。これらのイオンチャネルは、細胞のメカノトランスダクションに関与しており、すなわち、機械力を生体信号に変換する。ほとんどの脊椎動物は、次の2つのチャネルアイソフォーム:Piezo1およびPiezo2を有する。
【0058】
「プロモーター」は、DNA(デオキシリボ核酸)分子内の部位を指し、ここでは、RNA(リボ核酸)ポリメラーゼと転写因子が結合して、メッセンジャーRNA(mRNA)の転写を開始する。プロモーター配列は、典型的には、転写開始部位のすぐ上流または5’末端にある。プロモーター配列は、転写の方向を定義し、どのDNA鎖が転写されるかを示し、この鎖はセンス鎖として知られている。細胞型特異的プロモーターは、特定の細胞型中でのみ活性を有するプロモーターである。ニューロン特異的プロモーターは、ニューロン中でのみ、または特定の種類のニューロン中でのみ活性を有するプロモーターである。ベクター中の細胞型特異的またはニューロン特異的プロモーターの使用は、望ましくない導入遺伝子の発現を制限するのみでなく、永続的な導入遺伝子の発現を容易にすることができる。
【0059】
「タンパク質」は、1つ以上のペプチドまたはポリペプチド、および任意により非ポリペプチド補因子から形成される機能実体を指す。
【0060】
「ランダムコーダ」とは、瞬時周波数が時間に対してランダムに変化する信号を指す。
【0061】
「組換え核酸」とは、核酸分子(DNAまたはRNAなど)を結合することによって構築され、生きている細胞内で複製できる分子を指す。
【0062】
「レポータータンパク質」は、通常はプロモーターによって駆動される、レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。レポーター遺伝子は、容易にアッセイされるタンパク質をコードする核酸配列である。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光レポーター遺伝子を目的のタンパク質に融合させることにより、生細胞および組織中でのタンパク質の場所およびトラフィキングを観察することができる。
【0063】
「回復」とは、正常または健康な状態に戻す行為を指す。回復は、部分的(すなわち、対象が正常または健康な状態には至らない状態に戻った場合)または全体的(すなわち、対象が正常または健康な状態と同一またはほぼ同一の状態に戻った場合)であり得る。
【0064】
「網膜」とは、眼の裏側を覆い、光を感知し、視神経を通って脳に伝わるインパルスを生成する神経層を指す。
【0065】
「網膜神経節細胞」とは、網膜の内側表面(神経節細胞層)付近にある神経細胞の一種である。双極細胞、水平細胞、およびアマクリン細胞の3つの主要な中間ニューロンタイプを介して光受容体から視覚情報を受け取る。
【0066】
「センサー」とは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、および味覚の五感のいずれかによって一般的に検出される刺激を受信するデバイスを指す。
【0067】
「感覚能力」とは、感覚器官(例えば、眼、耳、舌、鼻、および皮膚)からの入力を正確に受け取る感覚器官の能力を指す。
【0068】
「皮質下領域」とは、大脳皮質の下の構造を指す。皮質下構造は、脳の表面を見たときに見えず、これらに限定されないが、大脳基底核(線条体、淡蒼球、腹側淡蒼球、黒質および視床下核)、視床、視床下部、脳幹、海馬および扁桃体が挙げられる。
【0069】
「対象」とは、温血動物、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくはヒトを指す。目的の非ヒト哺乳動物の対象として、非限定的に、ペット、例えば、イヌ、ネコ、モルモット;経済的に重要な動物、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、サルを挙げることができる。一実施形態では、対象は、「患者」、すなわち、対象は、医療が施されるのを待機している、または医療を受けている、または医療行為の対象である/対象となる、または疾患、障害または状態の発症について監視される。別の実施形態では、対象は、健康な個体である。
【0070】
「トランスジェニック法」とは、外来(組換え)核酸を宿主生物のゲノムに導入する方法を指す。レシピエントに移入される外来核酸または「導入遺伝子」は、同種の他の個体から、または無関係の種からのものでさえあり得る。
【0071】
「非集束」超音波刺激、好ましくは超音波信号のバーストに言及する場合、1つの焦点のみに集束されていない超音波刺激を指す(集束超音波刺激は、刺激、好ましくは超音波信号のバーストの全持続時間において1つの焦点のみを有する超音波刺激である)。本発明の意味の範囲内で、非集束超音波刺激、好ましくは超音波信号の非集束バーストは、これらに限定されないが、以下の構成を含む:超音波刺激は、複数の場所で同時に集束させ得(すなわち、多集束刺激)、超音波刺激は、超音波刺激の全持続時間内に異なる場所に連続的に集束したいくつかの超音波ビームからなる、または超音波刺激は、任意の種類の複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンであり得る。
【0072】
「血管超音波」とは、高周波数の音波を用いて画像を作成し、血管を通る血流の速度を検出する技術を指す。超音波画像は、全身での血栓および狭窄血管を検出するために使用できる。
【0073】
「ウイルスベクター」は、遺伝子送達ビヒクルとして機能し、ウイルス(例えば、AAV)キャプシド内にパッケージングされた組換えウイルスゲノムを含む非野生型組換えウイルス粒子を指すことを意図している。特定のタイプのウイルスベクターは、「組換えアデノ随伴ウイルスベクター」または「AAVベクター」であり得る。
【0074】
「ウイルス」とは、動物、植物、または細菌の生きている細胞中でのみ増殖できる、サイズが小さく単純な組成の感染性病原体を指す。ウイルス粒子は、タンパク質シェルまたはキャプシド内に収容されたゲノムを含む。ウイルスのゲノムは、一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAからなり得、線状または環状の形態であり得る。レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、および単純ヘルペスウイルスなどのウイルスは、ニューロンなどの細胞に遺伝子を導入するために使用される。
【0075】
「超音波刺激」とは、音圧波の形態での刺激を指す。本発明では、超音波刺激がニューロンに送達され、少なくとも1つのエレメントのセットから構成されるトランスデューサーアレイで生成される。
【発明を実施するための形態】
【0076】
本発明は、対象において神経細胞を可逆的に刺激するための方法に関し、本方法は、機械受容チャネル(好ましくは外因性機械受容チャネル)を発現する神経細胞を、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の少なくとも1つの超音波刺激に曝露することを含む。
【0077】
一実施形態では、対象において神経細胞を可逆的に刺激するための方法は、
(i)神経細胞中で外因性機械受容チャネルを発現させることと、
(ii)機械受容チャネルを発現する神経細胞を、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の少なくとも1つの超音波刺激に曝露することと、を含む。
【0078】
一実施形態では、ステップ(i)は、機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むベクターを神経細胞に形質導入し、それによって神経細胞による外因性機械受容チャネルの発現を誘導するステップを含む。
【0079】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約5~約18MHzの中心周波数の範囲、例えば、約12~約16MHzの中心周波数である。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約4MHz、または約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20MHzの中心周波数のものである。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約15MHzの中心周波数のものである。
【0080】
一実施形態では、神経細胞またはそれらの伸長(シナプス終末)は、皮質領域内にある。
【0081】
皮質領域の例としては、これらに限定されないが、視覚皮質、前前頭皮質、知覚皮質、運動皮質、聴覚皮質、ブローカ野、ウェルニッケ野および連合野が挙げられる。したがって、一実施形態では、神経細胞またはそれらの伸長は、視覚皮質、前前頭皮質、知覚皮質、運動皮質、聴覚皮質、ブローカ野、ウェルニッケ野および連合野内にある。
【0082】
一実施形態では、神経細胞またはそれらの伸長(シナプス終末)は、皮質下領域内にある。
【0083】
皮質下領域の例としては、これらに限定されないが、大脳基底核、視床、視床下部、脳幹、海馬、および扁桃体が挙げられる。したがって、一実施形態では、神経細胞またはそれらの伸長は、大脳基底核、視床、視床下部、脳幹、海馬および扁桃体中にある。一実施形態では、神経細胞またはその伸長は、脳幹内にある。
【0084】
一実施形態では、神経細胞は、網膜内にある。
【0085】
一実施形態では、神経細胞は、蝸牛内にある。一実施形態では、神経細胞は、前庭内にある。
【0086】
一実施形態では、神経細胞またはその伸長(シナプス終末)は脊髄内にある。
【0087】
一実施形態では、神経細胞またはその伸長(シナプス終末)は、視覚皮質内にある。一実施形態では、神経細胞は、視覚皮質の皮質ニューロンである。
【0088】
一実施形態では、神経細胞またはそれらの伸長(シナプス終末)は、外側膝状体核内にある。一実施形態では、神経細胞は、外側膝状体核のニューロンである。
【0089】
一実施形態では、神経細胞は、網膜神経節細胞である。
【0090】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約0.01~約2MPa、好ましくは約0.5~約2MPa、より好ましくは約0.1~2MPaに含まれるピーク音圧を有する。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約0.11~約1.6MPa、より好ましくは約0.2~約1.4MPaに含まれるピーク音圧を有する。
【0091】
一実施形態では、少なくとも1回の超音波刺激は、約0.1~約200ms、好ましくは約1~約100ms、より好ましくは約5~約50msに含まれる超音波処理持続時間(SD)を有する。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約10~約200msに含まれる超音波処理持続時間を有する。
【0092】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激が繰り返される。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約0.001~約10秒、好ましくは0.01~約5秒、より好ましくは約0.01~約2秒の刺激間間隔(ISI)で繰り返される。
【0093】
一実施形態では、少なくとも1回の超音波刺激は、約0.01~約2MPaに含まれるピーク音圧、および約0.1~約200msに含まれる超音波処理持続時間を有し、ここで、超音波刺激は、約0.001~約10秒の刺激間間隔(ISI)で繰り返される。
【0094】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約1kHzのパルス繰り返し周波数(PRF)を有する。
【0095】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約50%のデューティサイクル(DC)を有する。
【0096】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、超音波信号のバーストである。
【0097】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、マルチ周波超音波刺激、すなわち、多様な超音波周波数によって構成される超音波刺激である。一実施形態では、マルチ周波超音波刺激は、異なる空間場所において集束する異なる周波数を有する。
【0098】
一実施形態では、マルチ周波超音波刺激により、短パルス信号、チャープ、またはランダムコーダの高速繰り返しが可能になる。
【0099】
一実施形態では、マルチ周波超音波刺激により、例えば、より高い周波数で皮質の上層内の脳表面近くに集束させる、およびより低い周波数で皮質または皮質下領域のより深い層内の脳のより深い場所で集束させるなど、異なる場所で異なる周波数の空間的集束が可能になる。
【0100】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、集束されていない。
【0101】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、複数の場所で同時に集束させる。本発明の意味の範囲内で、「複数の場所」という用語は、少なくとも2つの場所(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100または100を超える場所)を指す。したがって、一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、多集束超音波刺激である。
【0102】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、超音波刺激の全持続時間内で異なる場所に連続的に集束させるいくつかの超音波ビームから構成され、好ましくは、超音波信号のバーストである。
【0103】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンである。一実施形態では、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンは、寸法が超音波波長よりも大きい、目的である大きい領域に超音波を照射する。
【0104】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、例えば、視覚、聴覚、嗅覚、平衡感覚、触覚または味覚情報などの感覚情報の符号化から得られる。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、視覚情報の符号化から得られ、それによって、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンを生成する。
【0105】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、本明細書に記載のモジュール(A)で放出される。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、少なくとも1つの超音波素子を有する超音波アレイを含むモジュール(A)によって放出される。
【0106】
一実施形態では、刺激を受ける神経細胞は、外因性機械受容チャネルを発現する。
【0107】
一実施形態では、刺激を受ける神経細胞は、細胞体(cell body)(または細胞体(soma))、伸長(またはシナプス終末)、または両方の領域で機械受容チャネルを発現する。したがって、一実施形態では、刺激を受ける神経細胞は、細胞体レベル、シナプス終末レベル、またはその両方のレベルで刺激を受ける。
【0108】
一実施形態では、機械受容チャネルは、神経細胞に対して非毒性であり、すなわち、神経細胞によるその発現は、細胞の生存に影響を及ぼさない。
【0109】
一実施形態では、機械受容チャネルは、例えば、Piezo1などのPiezoファミリーに由来する哺乳動物の機械受容チャネルである。
【0110】
一実施形態では、機械受容チャネルは、CFTR(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子)チャネルである。
【0111】
一実施形態では、機械受容チャネルは、MscL(大コンダクタンス細菌機械受容イオンチャネル)ファミリーからのチャネルである。
【0112】
一実施形態では、機械受容チャネルは、Piezoチャネル、MscL(大コンダクタンス機械受容チャネル)およびCFTR(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子)チャネルを含むかまたはこれらからなる群から選択される。
【0113】
一実施形態では、機械受容チャネルは、MscLの野生型形態(オリジナル形態またはネイティブ形態とも呼ばれ得る)である。一実施形態では、機械受容チャネルは、大腸菌由来の野生型形態のMscL(配列番号1)である。
配列番号:1
MASIIKEFREFAMRGNVVDLAVGVIIGAAFGKIVSSLVADIIMPPLGLLIGGIDFKQFAVTLRDAQGDIPAVVMHYGVFIQNVFDFLIVAFAIFMAIKLINKLNRKKEEPAAAPAPTKEEVLLTEIRDLLKEQNNRSASLVP
【0114】
一実施形態では、機械受容チャネルは、MscLの変異形態である。一実施形態では、機械受容チャネルは、大腸菌由来のMscLの変異形態である。一実施形態では、機械受容チャネルは、MscL-G22s(配列番号2)である。本発明の意味の範囲内で、MscL-G22sは、22位の残基グリシン(配列番号1中の残基23に対応する)がセリン残基に置換されている、MscLの変異形態である。
配列番号:2
MASIIKEFREFAMRGNVVDLAVSVIIGAAFGKIVSSLVADIIMPPLGLLIGGIDFKQFAVTLRDAQGDIPAVVMHYGVFIQNVFDFLIVAFAIFMAIKLINKLNRKKEEPAAAPAPTKEEVLLTEIRDLLKEQNNRSASLVP
【0115】
MscLの野生型または変異形態のタンパク質バリアントも本発明に含まれる。
【0116】
一実施形態では、MscLの野生型形態のタンパク質バリアントは、MscLのアミノ酸配列(配列番号1)と少なくとも70%、75%、80%;85%、90%、95%、96%、97%、98%、または少なくとも約99%の同一性を共有するアミノ酸配列を有する。
【0117】
一実施形態では、MscLの変異形態のタンパク質バリアントは、MscL-G22sのアミノ酸配列(配列番号2)と少なくとも70%、75%、80%;85%、90%、95%、96%、97%、98%、または少なくとも約99%の同一性を共有するアミノ酸配列を有する。
【0118】
一実施形態では、例えばMscL-G22sなどの機械受容チャネルは、細胞質可溶性タンパク質などのレポータータンパク質に融合される。レポータータンパク質の例としては、タンデム二量体トマト(tdTomato)、イソギンチャク(Discosoma sp.)赤色蛍光タンパク質(DsRed)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増強型GFP(EGFP)、増強型黄色蛍光タンパク質(EYFP)が挙げられる。
【0119】
一実施形態では、例えばMscL-G22sなどの機械受容チャネルは、tdTomato(配列番号3)に融合されている。
配列番号:3
MVSKGEEVIKEFMRFKVRMEGSMNGHEFEIEGEGEGRPYEGTQTAKLKVTKGGPLPFAWDILSPQFMYGSKAYVKHPADIPDYKKLSFPEGFKWERVMNFEDGGLVTVTQDSSLQDGTLIYKVKMRGTNFPPDGPVMQKKTMGWEASTERLYPRDGVLKGEIHQALKLKDGGRYLVEFKTIYMAKKPVQLPGYYYVDTKLDITSHNEDYTIVEQYERSEGRHHLFLGHGTGSTGSGSSGTASSEDNNMAVIKEFMRFKVRMEGSMNGHEFEIEGEGEGRPYEGTQTAKLKVTKGGPLPFAWDILSPQFMYGSKAYVKHPADIPDYKKLSFPEGFKWERVMNFEDGGLVTVTQDSSLQDGTLIYKVKMRGTNFPPDGPVMQKKTMGWEASTERLYPRDGVLKGEIHQALKLKDGGHYLVEFKTIYMAKKPVQLPGYYYVDTKLDITSHNEDYTIVEQYERSEGRHHLFLYGMDELYK
【0120】
一実施形態では、外因性機械受容チャネルの発現を誘導するために、機械受容チャネルをコードする組換え核酸が神経細胞に導入されるか、または導入されている。一実施形態では、組換え核酸を神経細胞に導入するステップは、本発明の方法の一部ではない。
【0121】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、細胞型特異的プロモーター、好ましくはニューロン特異的プロモーターを含む。
【0122】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、皮質ニューロンに特異的なプロモーターを含む。
【0123】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、網膜神経節細胞に特異的なプロモーターを含む。
【0124】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、外側膝状体核のニューロンに特異的なプロモーターを含む。
【0125】
本発明で使用できるプロモーターの例としては、限定されないが、CAG(CMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン)プロモーター、CAMKII(カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII)プロモーター、SNCGプロモーター、CMVプロモーター、シナプシンIプロモーター、およびEF-1aプロモーターが挙げられる。
【0126】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、CamKIIプロモーター、CAGプロモーター、およびSNCGプロモーターを含むかまたはこれらからなる群から選択されるプロモーターを含む。
【0127】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、小胞体(ER)輸出シグナルを含む。一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、Kir2.1 ER輸出シグナルを含む。
【0128】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、トランスジェニック法によって神経細胞に導入されるか、または以前に導入されている。
【0129】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、ウイルスによる感染によって神経細胞に導入されるか、または以前に導入されている。
【0130】
本発明に好適であるウイルスの例としては、限定されないが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルスが挙げられる。
【0131】
一実施形態では、ウイルスは、AAVである。一実施形態では、ウイルスは、AAV1、AAV2、AAV5およびAAV9血清型を含むか、またはこれらからなる群から選択されるAAVである。一実施形態では、ウイルスは、例えばAAV9血清型またはAAV2血清型などのAAVである。
【0132】
一実施形態では、ウイルスは、7m8変異を含む。したがって、一実施形態では、ウイルスは、AAV1-7m8、AAV2-7m8、AAV5-7m8およびAAV9-7m8血清型を含むかまたはこれらからなる群から選択されるAAVであり、好ましくは、AAVは、AAV2-7m8またはAAV9-7m8である。
【0133】
一実施形態では、前述のウイルスは、例えば頭蓋手術(定位固定)などによって対象の脳内に導入されるか、または以前に導入されている。一実施形態では、ウイルスは、対象の脳の特定の領域内に導入されるか、または以前に導入されている。一実施形態では、ウイルスは、血液脳関門(BBB)を局所的に透過性にし、血管新生にウイルスを注入するために、この領域内に超音波ビームを集束させることによって、対象の脳の特定の領域内に導入されるか、または以前に導入されている。したがって、一実施形態では、ウイルスは、血管新生内への注入によって特定の領域に導入されるか、または以前に導入されている。
【0134】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸は、トランスフェクションによって神経細胞に導入されるか、または以前に導入されている。
【0135】
トランスフェクションのために本発明で使用できる試薬の例としては、これらに限定されないが、in vivo-jet PEI(例えば、cGMP in vivo-jet PEI)(ポリプラストランスフェクション)が挙げられる。
【0136】
一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸およびトランスフェクションに必要な試薬(複数可)は、頭蓋手術(定位固定)によって対象の脳に導入されるか、または以前に導入されている。一実施形態では、機械受容チャネルをコードする組換え核酸およびトランスフェクションに必要な試薬(複数可)は、対象の脳の特定の領域内に導入されるか、または以前に導入されている。
【0137】
したがって、本発明は、組織の加温および出血を誘導することなく、神経細胞を特異的に刺激するという利点を提示する。
【0138】
本発明はまた、視覚回復に適合する時空間分解能で神経細胞を刺激するという利点を提示する。
【0139】
特に、本発明の方法では、制限領域内で神経細胞を刺激することが可能になる。一実施形態では、本発明の方法では、約0.01~約1mm2、好ましくは約0.01~約0.1mm2の制限領域内で神経細胞を刺激することが可能になる。
【0140】
一実施形態では、本発明の方法では、約1mm2未満、好ましくは約0.50mm2未満、好ましくは約0.20mm2未満、好ましくは約0.10mm2未満の領域内での神経細胞の刺激が可能になる。
【0141】
一実施形態では、本発明の方法では、約1mm2、約0.90mm2、約0.80mm2、約0.70mm2、約0.60mm2、約0.50mm2、約0.40mm2、約0.30mm2、約0.20mm2、約0.10mm2、または約0.05mm2の領域内での神経細胞の刺激が可能になる。
【0142】
一実施形態では、本発明の方法では、約0.16mm2の領域内での神経細胞の刺激が可能になる。一実施形態では、本発明の方法では、約0.35mm2の領域内での神経細胞の刺激が可能になる。一実施形態では、本発明の方法では、約0.58mm2の領域内での神経細胞の刺激が可能になる。
【0143】
一実施形態では、本発明の方法では、約10ms程度で神経細胞の刺激が可能になる。一実施形態では、本発明の方法で、約1~50ms程度、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10ms、または約20、30、40または50msの時間分解能で神経細胞を刺激することが可能になる。
【0144】
さらに、例えば、パターン化された超音波刺激(例えば、超音波アレイを使用する)などの非集束超音波刺激を使用する場合には、高い時空間分解能が得られ得る。
【0145】
特に、例えば、多集束超音波刺激、超音波刺激の全持続時間内に異なる場所に連続的に集束させたいくつかの超音波ビームを含む超音波刺激、または複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターン(例えば、超音波アレイを使用して)などの非集束超音波刺激を使用する場合、本発明の方法では、視覚回復に適合する時空間分解能で神経細胞を刺激することができる(
図6、
図7A~C)。
【0146】
一実施形態では、本発明の方法は、神経障害を治療するためのものであり、この治療には、正確な皮質および/または皮質下刺激が必要である。
【0147】
治療のために正確な皮質および皮質下刺激を必要とする神経障害の例としては、これらに限定されないが、パーキンソン病、アルツハイマー病、糖尿病、重度のうつ病、本態性振戦、てんかん、統合失調症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知症、神経痛、筋ジストロフィー、神経筋疾患、強迫性障害、発作、慢性疲労症候群、脳卒中、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症、失語症、疼痛が挙げられる。
【0148】
一実施形態では、本発明の方法は、対象における感覚能力、例えば、視覚、聴覚、平衡感覚、嗅覚、触覚および/または味覚の能力を増強するためのものである。
【0149】
一実施形態では、本発明の方法は、対象における感覚欠損を回復するためのものである。
【0150】
一実施形態では、本発明の方法は、対象における視覚、聴覚、嗅覚、平衡感覚、触覚および/または味覚の欠損を回復させるためのものであり、好ましくは対象における視覚欠損を回復するためのものである。
【0151】
一実施形態では、本発明の方法は、対象における画像の視覚を誘導するためのものである。一実施形態では、対象は、視覚機能障害を有する。本明細書で使用される場合、視覚機能の障害は、スネレン検査など、当業者に周知の検査または方法によって評価することができる。
【0152】
一実施形態では、本発明の方法は、視覚機能障害を有する対象において画像の視覚を回復するためのものである。
【0153】
したがって、一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、画像またはイベントベースの視覚情報の符号化から得るかまたは導出され、それによって、好ましくは、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンを生成する。
【0154】
一実施形態では、画像、画像の輪郭、またはイベントベースの視覚情報が抽出され、符号化されて、複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンが生成される。
【0155】
一実施形態では、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。一実施形態では、対象は、雄である。別の実施形態では、対象は、雌である。
【0156】
一実施形態では、対象は、小児(例えば、18歳未満の対象)である。
【0157】
一実施形態では、対象は、成人(例えば、18歳を超える対象)である。
【0158】
一実施形態では、対象は、視覚、聴覚、嗅覚、平衡感覚、触覚および/または味覚の欠損などの感覚能力における障害を有する。
【0159】
一実施形態では、対象は、視覚機能障害を有する。一実施形態では、視覚機能の障害は、対象における眼と脳との接続、すなわち光路の喪失によって生じる。したがって、一実施形態では、対象は、眼と脳との接続を喪失している。一実施形態では、視覚機能の障害は、眼または光路の機能不全(例えば、眼の奇形、感染症、変性疾患(例えば、加齢黄斑変性など)、腫瘍、および/または血管イベント(例えば、脳卒中など))により生じる。
【0160】
一実施形態では、対象における視覚機能の障害は、糖尿病性網膜症、視神経症(遺伝性または後天性)、緑内障または外傷により生じる。
【0161】
一実施形態では、本発明の方法は、刺激領域における神経細胞の活性化を可視化および/または監視するステップをさらに含む。
【0162】
一実施形態では、神経細胞の活性化の可視化および/または監視は、非侵襲機能イメージングをベースとする。非侵襲機能イメージング法の例としては、これらに限定されないが、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、機能的超音波(fUS)イメージング、機能的近赤外分光法(fNIRS)、EEGまたはMEG記録が挙げられる。
【0163】
一実施形態では、本発明の方法は、fMRIを用いて神経細胞の活性化を可視化および/または監視するステップをさらに含む。一実施形態では、本発明の方法は、fNIRSを用いて神経細胞の活性化を可視化および/または監視するステップをさらに含む。一実施形態では、本発明の方法は、機能的超音波を用いて神経細胞の活性化を可視化および/または監視するステップをさらに含む。一実施形態では、本発明の方法は、EEGを用いて神経細胞の活性化を可視化および/または監視するステップをさらに含む。一実施形態では、本発明の方法は、MEGを用いて神経細胞の活性化を可視化および/または監視するステップをさらに含む。
【0164】
一実施形態では、神経細胞の活性化の可視化および/または監視は、蛍光カルシウムセンサー(またはカルシウムインジケーター)を用いたカルシウムイメージングをベースとする。本発明で使用できるカルシウムセンサー(またはインジケーター)の例としては、これらに限定されないが、GCAMP、Fura-2、Indo-1、Fluo3、Fluo4、カルシウムグリーン-1およびオレゴングリーン488BAPTA-1が挙げられる。
【0165】
したがって、一実施形態では、本発明の方法は、
-蛍光カルシウムセンサーまたはカルシウムセンサーをコードする核酸配列を神経細胞に導入するステップと、
-神経細胞の活性化を可視化および/または監視するために、蛍光カルシウムセンサーからの蛍光発光を可視化するステップと、をさらに含む。
【0166】
一実施形態では、蛍光カルシウムセンサーまたはセンサーをコードする核酸配列を脳に導入するステップは、本発明の方法の一部ではない。
【0167】
一実施形態では、神経細胞の活性化の可視化および/または監視は、電極記録に基づく。一実施形態では、電極を脳に導入するステップは、本発明の方法の一部ではない。
【0168】
したがって、一実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの電極を用いてニューロン活動を記録するステップをさらに含む。
【0169】
一実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの多電極アレイを用いてニューロン活動を記録するステップをさらに含む。
【0170】
一実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つのμEcoG(マイクロ皮質電図検査法)電極アレイを用いて、ニューロン活動を記録するステップをさらに含む。
【0171】
本発明はまた、対象において神経細胞を可逆的に刺激するための、本明細書に記載の少なくとも1つの超音波刺激の使用に関し、ここで、神経細胞は、機械受容チャネルを発現し、超音波刺激は、少なくとも約4MHzの中心周波数、好ましくは、少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20MHzの中心周波数を有する。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約4MHz~約20MHzの中心周波数、好ましくは約5~約18MHzの中心周波数、例えば、約12~約16MHzの中心周波数の範囲である。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約4MHz、好ましくは約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20MHzの中心周波数のものである。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約15MHzの中心周波数のものである。
【0172】
本発明はまた、対象において画像の視覚を誘導するための少なくとも1つの超音波刺激の使用に関し、ここで、対象は、機械受容チャネルを発現する神経細胞を含み、超音波刺激は、少なくとも約4MHz、好ましくは少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20MHzの中心周波数を有し、神経細胞は、視覚皮質の皮質ニューロン、外側膝状体核のニューロン、または網膜神経節細胞である。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約4MHz~約20MHzの中心周波数、好ましくは約5~約18MHzの中心周波数、例えば、約12~約16MHzの中心周波数の範囲である。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約4MHz、好ましくは約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20MHzの中心周波数のものである。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約15MHzの中心周波数のものである。
【0173】
本発明はさらに、本明細書に記載の方法を実施するための手段を備える超音波システムに関する。
【0174】
したがって、本発明のシステムは、入力として電気信号を受信して、対象において機械受容チャネルを発現する神経細胞を可逆的に刺激するように構成された超音波システムであり、超音波システムは、少なくとも約4MHz、好ましくは少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20MHzの中心周波数の少なくとも1つの超音波刺激を放出するために、少なくとも1つの超音波素子を有する超音波アレイを含むモジュール(A)を備える。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約4MHz~約20MHzの中心周波数、好ましくは約5~約18MHzの中心周波数、例えば、約12~約16MHzの中心周波数の範囲の中心周波数を有する。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約4MHz、好ましくは約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20MHzの中心周波数の中心周波数を有する。一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、約15MHzの中心周波数の中心周波数を有する。
【0175】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波刺激は、集束されていない。
【0176】
一実施形態では、モジュール(A)は、超音波信号のバーストを放出するように構成される。
【0177】
一実施形態では、モジュール(A)は、マルチ周波超音波刺激を放出するように構成される。一実施形態では、マルチ周波超音波刺激により、短パルス信号、チャープまたはランダムコーダの高速繰り返しが可能になる。
【0178】
一実施形態では、モジュール(A)は、非集束超音波刺激を放出するように構成される。
【0179】
一実施形態では、モジュール(A)は、複数の場所に同時に集束させる超音波刺激を放出するように構成される。
【0180】
一実施形態では、モジュール(A)は、超音波刺激の全持続時間内で異なる場所に連続的に集束させるいくつかの超音波ビームから構成される超音波刺激を放出するように構成され、好ましくは、超音波信号のバーストである。
【0181】
一実施形態では、モジュール(A)は、複雑に構造化された空間的および時間的パターンを放出するように構成される。一実施形態では、複雑に構造化された空間的および時間的パターンは、寸法が超音波波長よりも大きい、目的である大きい領域に超音波を照射する。
【0182】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波素子を含む超音波アレイは、超音波マトリックス、スパースアレイおよび/または行-列アドレス指定(RCA)アレイである。
【0183】
本発明で使用できる超音波マトリックスの一例を
図8(A~C)に示す。
【0184】
一実施形態では、少なくとも1つの超音波素子は、少なくとも約4MHz、好ましくは少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20MHzの中心周波数の中心周波数を有する超音波刺激トランスデューサーである。一実施形態では、少なくとも1つの超音波素子は、約4MHz~約20MHz中心周波数、好ましくは約5~約18MHz中心周波数、例えば、約12~約16MHzの中心周波数の範囲の中心周波数を有する超音波刺激トランスデューサーである。一実施形態では、少なくとも1つの超音波素子は、約4MHz、好ましくは約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20MHzの中心周波数の中心周波数を有する超音波刺激トランスデューサーである。一実施形態では、少なくとも1つの超音波素子は、約15MHzの中心周波数の中心周波数を有する超音波刺激トランスデューサーである。
【0185】
一実施形態では、本発明で使用されるトランスデューサーは、ピエゾコンポジット素子、ピエゾセラミック素子、容量性微細加工超音波トランスデューサー、液浸トランスデューサー、ポリフッ化ビニリデン素子、または超音波刺激の放出に好適である他の素子から選択される。
【0186】
一実施形態では、モジュール(A)は、超音波アレイに送信される電気信号をプログラムできる波形発生器を備え、好ましくは、電気信号は、超音波アレイの各超音波素子で送信される。一実施形態では、波形発生器は、ケーブルまたは遠隔接続を介して超音波アレイに接続される。一実施形態では、波形発生器は、マルチメータ、オシロスコープ、スペクトルアナライザ、およびトランジェントレコーダの機能を備える。
【0187】
一実施形態では、モジュール(A)は、電力増幅器を含む。
【0188】
一実施形態では、モジュール(A)は、少なくとも1つの超音波刺激を脳内の限定され決定された領域に向けて送信するための手段を備える。少なくとも1つの超音波刺激を限定され決定された領域に向けて送信するための手段の例としては、これらに限定されないが、エミッター間の位相差を変化させること、またはフィルター、レンズ、コンデンサーを追加すること、またはこれらの手段の組み合わせが挙げられる。
【0189】
一実施形態では、モジュール(A)は、対象の頭蓋骨内に移植される(開頭術)支持体に含まれる。一実施形態では、支持体は、対象の頭蓋骨に皮下移植される。一実施形態では、支持体は、硬膜上に移植される。
【0190】
一実施形態では、支持体は、生体適合性材料で作製される。一実施形態では、支持体は、スキャナー、fMRI、fUSイメージング、fNIRSイメージング、EEGまたはMEGイメージングに適合する材料で作製される。
【0191】
一実施形態では、超音波システムは、電気エネルギーをシステムに供給するための電源をさらに備える。一実施形態では、電源は、再充電式電池からなる。
【0192】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、対象における感覚能力、例えば、視覚、聴覚、平衡感覚、嗅覚、触覚および/または味覚の能力を増強するためのものである。
【0193】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、視覚、聴覚、平衡感覚、嗅覚、触覚および/または味覚の欠損など、対象における感覚欠損を回復させるためのものである。
【0194】
したがって、一実施形態では、本発明の超音波システムは、電子変換器をさらに備える。この電子変換器は、対象によって検出される感覚信号を電気信号に変換し、この電気信号は、少なくとも1つの超音波刺激を放出するためにモジュール(A)(またはモジュール(A)に含まれる波形発生器)に送信され、神経細胞の刺激を通じて脳に感覚情報を生成する。
【0195】
一実施形態では、感覚信号は、センサーなどの遠隔器具によって放出される。したがって、一実施形態では、電子変換器は、センサーによって感知された感覚信号を電気信号に変換するために、少なくとも1つのセンサーに接続される。センサーは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚および/または味覚情報を感知することができる。
【0196】
感覚情報を検出できるセンサーの例としては、これらに限定されないが、カメラまたはニューロモーフィックビジョンセンサー(視覚)、マイク(聴覚)、加速度計またはフォースバランスセンサー(平衡感覚)、電子ノーズ(嗅覚)、タッチセンサー(触覚)、および味覚センサー(味覚)が挙げられる。
【0197】
一実施形態では、感覚信号は、コンピュータなどのデバイスによって生成されるコンピュータ化された感覚情報である。したがって、一実施形態では、電子変換器は、コンピュータ化された感覚情報を送達するデバイスに接続される。
【0198】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、対象における視覚欠損を回復するためのものである。
【0199】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、対象における画像の視覚を回復するためのものであり、以下に説明する特徴のうちの1つ以上を備える。
【0200】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、対象による画像の視覚を誘導するためのものであり、以下に説明する特徴のうちの1つ以上を備える。
【0201】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、画像または視覚情報を取得するための取得モジュール(B)を備える。
【0202】
一実施形態では、取得モジュール(B)は、カメラなど、画像を取得できるセンサーである。したがって、一実施形態では、本発明のシステムは、画像を取得するために少なくとも1つのカメラを備える。一実施形態では、少なくとも1つのカメラは、視覚状況をリアルタイムで画像化することができる。
【0203】
一実施形態では、取得モジュール(B)は、ニューロモーフィック視覚センサーまたはイベントベースのカメラなど、視覚情報を取得できるセンサーである。したがって、一実施形態では、本発明のシステムは、視覚情報を取得するための少なくとも1つの視覚センサーを備える。
【0204】
一実施形態では、取得モジュール(B)、好ましくはカメラは、画像の輪郭を抽出する、または連続する画像間の移動物体および構造の輪郭を抽出するシステムをさらに備える。
【0205】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、画像または視覚情報を電気信号に変換するように構成された処理モジュール(C)を備え、電気信号は、出力として、モジュール(A)(またはモジュール(A)に含まれる波形発生器)に送信され、これにより、少なくとも1つの超音波刺激、好ましくは複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンを放出するようにする。一実施形態では、画像または視覚情報処理モジュール(C)は、有線または無線接続によって取得モジュール(B)に接続される。
【0206】
一実施形態では、処理モジュール(C)は、電子システム、ソフトウェア、およびアルゴリズムを含む。一実施形態では、モジュール(C)は、取得モジュール(B)で得られた視覚信号を、モジュール(A)(またはモジュール(A)に含まれる波形発生器)に送信される電気信号に変換する電子変換器を備え、これにより、少なくとも1つの超音波刺激、好ましくは複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンを放出するようになる。
【0207】
したがって、一実施形態では、パターン化された超音波刺激は、取得モジュール(B)によって取り込まれた視覚情報の画像である。
【0208】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、刺激領域内の神経細胞の活性化を可視化および/または監視するための手段をさらに含む。
【0209】
一実施形態では、神経細胞の活性化の可視化および/または監視は、電極記録に基づく。
【0210】
したがって、一実施形態では、本発明の超音波システムは、神経細胞の活性化を監視するために、ニューロン活動を記録するための少なくとも1つの電極をさらに備える。一実施形態では、少なくとも1つの電極は、対象の頭蓋骨内に移植される支持体に組み込まれる。
【0211】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、少なくとも1つの多電極アレイを備える。一実施形態では、少なくとも1つの多電極アレイは、少なくとも2つの電極を含む。一実施形態では、少なくとも1つの多電極アレイは、対象の頭蓋骨内に移植される支持体内に含まれる。
【0212】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、少なくとも1つのμEcoG電極アレイを備える。一実施形態では、少なくとも1つのμEcoG電極アレイは、少なくとも2つの電極を含む。一実施形態では、少なくとも1つのμEcoG電極アレイは、対象の頭蓋骨内に移植される支持体内に含まれる。
【0213】
一実施形態では、超音波システムは、目的の脳領域における集束超音波によってニューロン活性化を画像化できるイメージングシステムをさらに備える。
【0214】
一実施形態では、神経細胞の活性化の可視化および/または監視は、非侵襲的血管機能イメージングに基づく。
【0215】
一実施形態では、本発明の超音波システムは、機能的超音波技術を用いて神経細胞の活性化を可視化するための手段を備える。
【0216】
したがって、一実施形態では、本発明の超音波システムは、神経細胞の活性化を可視化および/または監視するために、血管機能応答を評価するためのプローブ(または超音波トランスデューサー)をさらに備える。一実施形態では、プローブは、対象の頭蓋骨内に移植される支持体に組み込まれる。
【0217】
一実施形態では、神経細胞の活性化を可視化および/または監視するために、血管機能応答を評価するためのイメージングプローブ(または超音波トランスデューサー)は、神経刺激に使用されるものと同じプローブである。
【0218】
一実施形態では、超音波システムは、機能イメージング情報に基づいて超音波活性化パターンを補正する手段をさらに備える。一例として、目的の領域におけるCBV(脳血液量)変化の振幅または空間範囲は、超音波活性化パターンを漸進的に変化させることによって最適化することができる機能イメージングによって測定される。
【0219】
一実施形態では、神経細胞の活性化の可視化および/または監視は、蛍光カルシウムセンサー(またはカルシウムインジケーター)を用いたカルシウムイメージングをベースとする。
【0220】
したがって、一実施形態では、本発明の超音波システムは、蛍光カルシウムセンサーによって放出された蛍光を可視化するための手段をさらに備える。一実施形態では、本発明の超音波システムは、蛍光イメージングシステムをさらに備える。
【0221】
したがって、本発明はさらに、機械受容チャネルをコードする核酸配列を含むベクター、好ましくはウイルスベクターに関する。
【0222】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、発現する核酸配列に操作可能に連結されている発現制御配列を含む遺伝子構築物を指す。
【0223】
一実施形態では、ベクターは、例えば、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、または単純ヘルペスウイルスベクターなどのウイルスベクターである。
【0224】
一実施形態では、ベクターは、AAVである。一実施形態では、ベクターは、AAV1、AAV2、AAV5およびAAV9血清型を含むかまたはこれらからなる群から選択されるAAVである。一実施形態では、ベクターは、AAV、好ましくはAAV血清型9(AAV9)またはAAV血清型2(AAV2)である。
【0225】
一実施形態では、ベクターは、7m8変異を含む。したがって、一実施形態では、ベクターは、AAV1-7m8、AAV2-7m8、AAV5-7m8およびAAV9-7m8血清型を含むかまたはこれらからなる群から選択されるAAVであり、より好ましくはベクターは、AAV9-7m8またはAAV2-7m8である。
【0226】
一実施形態では、ベクターは、MscLをコードする核酸配列を含む。別の実施形態では、ベクターは、MscL-G22sをコードする核酸配列を含む。
【0227】
一実施形態では、ベクターは、例えば細胞質可溶性タンパク質などのレポータータンパク質をコードする核酸配列を含む(任意により、レポータータンパク質は、機械受容チャネルに融合されている)。レポータータンパク質の例としては、タンデム二量体トマト(tdTomato)、イソギンチャク(Discosoma sp.)赤色蛍光タンパク質(DsRed)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増強型GFP(EGFP)、増強型黄色蛍光タンパク質(EYFP)が挙げられる。一実施形態では、ベクターは、tdTomatoをコードする核酸配列を含む。
【0228】
一実施形態では、ベクターは、プロモーターの核酸配列をさらに含む。一実施形態では、プロモーターは、細胞型特異的プロモーター、好ましくはニューロン特異的プロモーターである。プロモーターの例としては、これらに限定されないが、CAGプロモーター、CAMKIIプロモーター、SNCGプロモーター、CMVプロモーター、シナプシンIプロモーターおよびEF-1aプロモーターが挙げられる。
【0229】
一実施形態では、ベクターは、CamKIIプロモーター、CAGプロモーター、およびSNCGプロモーターを含むかまたはこれらからなる群から選択されるプロモーターを含む。一実施形態では、ベクターは、CAMKIIプロモーターを含む。
【0230】
一実施形態では、ベクターは、例えば、Kir2.1 ER輸出シグナルなどの小胞体(ER)輸出シグナルをさらに含む。
【0231】
一実施形態では、本発明のベクターは、CamKIIプロモーターの制御下で赤色蛍光タンパク質tdTomatoに融合されたMscL-G22sチャネルをコードする核酸配列を含むAAV9-7m8ベクターである(AAV9.7m8-CamKII-MscL-G22s-tdTomatoと呼ばれることもある)。
【0232】
本発明はさらに、上記のベクターを含む組成物に関する。
【0233】
本発明はさらに、上記のベクターおよび少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0234】
「薬学的に許容される賦形剤」または「薬学的に許容される担体」という用語は、動物、好ましくはヒトに投与されたときに有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応を生じない賦形剤を指す。賦形剤としては、任意のあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが挙げられる。ヒト投与の場合、調製物は、例えば、FDA OfficeまたはEMAなどの規制当局が要求する滅菌性、発熱性、一般的な安全性および純度の基準を満たす必要がある。
【0235】
本発明はさらに、医薬品として使用するための上記のベクターに関する。
【0236】
本発明はさらに、神経細胞において機械受容チャネルの発現を誘導するための、上記の機械受容チャネルをコードする核酸配列(例えば、AAV9.7m8-CamKII-MscL-G22s-tdTomato)を含むベクターに関する。
【0237】
一実施形態では、神経細胞またはその伸長は、視覚皮質、前前頭皮質、知覚皮質、運動皮質、聴覚皮質、ブローカ野、ウェルニッケ野および連合野などの皮質領域;または大脳基底核、視床、視床下部、脳幹、海馬、扁桃体を含む皮質下領域;または脊髄内にあるか、または神経細胞が網膜、蝸牛、または前庭内にある。一実施形態では、神経細胞は、視覚皮質の皮質ニューロン、外側膝状体核のニューロン、または網膜神経節細胞である。
【0238】
本発明はさらに、それを必要とする対象において、感覚欠損、特に視覚欠損の治療または回復に使用するための、上記の機械受容チャネルをコードする核酸配列(例えば、AAV9.7m8-CamKII-MscL-G22s-tdTomato)を含むベクターに関する。一実施形態では、対象は、上記のように、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の超音波刺激にさらに曝露されるか、またはこの範囲の超音波刺激で治療される。一実施形態では、ベクターは、対象の神経細胞に形質導入するためのものである。
【0239】
本発明はさらに、対象において画像の視覚を誘導するために使用するための、上記の機械受容チャネルをコードする核酸配列(例えば、AAV9.7m8-CamKII-MscL-G22s-tdTomato)を含むベクターに関する。一実施形態では、対象は、上記のように、約4MHz~約20MHzの中心周波数の範囲の超音波刺激にさらに曝露されるか、またはこの範囲の超音波刺激で治療される。
【図面の簡単な説明】
【0240】
【
図1】MscL(大コンダクタンス機械受容チャネル)が網膜神経節細胞の機能的応答を誘発したことを示すヒストグラムとグラフとを組み合わせたものを示す。
図1A:5つのMscLG22sおよび5つのMscL WT(野生型)網膜のRBPMS陽性、MscL陽性、および二重標識細胞の細胞密度を示す。
図1B:MscLを発現する3つのRGCの代表的な周辺刺激時間ヒストグラムは、15MHz US(超音波)刺激開始後の潜時が短いことおよび応答が持続することを示している。スケールバーは、10スパイク/ビンを表す。灰色のボックスは、200msの刺激を表す。
図1C:長いまたは短い潜時応答のいずれかによるMscL(MscLWTおよびG22s)(n=9)およびWT(n=4)網膜の15MHz US(超音波)刺激に応答する網膜あたりの最大細胞数の平均を示す。
図1D:MscL(MscL WTおよびG22s)発現網膜(n=8)および非トランスフェクト網膜(n=4)について、US圧力を増加させたUS刺激に対する応答RGC率を示す。*、p=.0382、**、p=.0065、*、p=.0218、対応のないt検定。
図1E:MscL WT(n=3)およびMscLG22s(n=5)網膜に対する圧力を増加させたUS刺激に対する短潜時RGC細胞の応答を示す。**、p=.006、**、p=.0035、対応のないt検定。すべてのパネルのエラーバーは、SEMを表す。
【
図2】音響遺伝学的網膜応答の時空間特性を示すヒストグラムとグラフの組み合わせを示す。
図2A~
図2B:刺激持続時間(A)の延長および刺激繰り返し周波数(B)の上昇ためのMscL G22s発現網膜の2つの代表的なRGCのスパイク密度関数であり、スケールバーは、それぞれ100Hzおよび50Hzである。
図2C:すべての細胞の異なる刺激持続時間の平均最大発火率、および平均ファノ因子値(10、20ms刺激持続時間n=8を除くn=9の網膜)を示す。
図2D:応答持続時間と刺激持続時間との相関は、線形回帰直線によって確認された(n=9網膜)。
図2E:すべての細胞の異なる刺激繰り返し周波数の平均最大発火率、および平均ファノ因子値(5および10Hzの刺激周波数n=8を除くn=9網膜)を示す。
図2F~
図2G:最大発火率(F)に重み付けした活性化細胞間の平均ユークリッド距離、および3つのUS周波数のMEAチップ上の刺激領域に対する活性化細胞数(G)の比率を示す。****、p<.0001、***、p=.0008、p=.0169、対応のないt検定。0.5MHzではn=12網膜、2.25MHzではn=5網膜、15MHzではn=9網膜。
図2H:15MHz USトランスデューサーの変位後の応答中心の相対的変位を示す。****、p<.0001、**、p=.0018、対応のないt検定。それぞれ0、0.4、および0.8mmの変位の4、4、および2つの網膜n=9、9、6の位置。US圧力:1.1MPa。すべてのパネルのエラーバーは、SEMを表す。
【
図3】MscL-G22sタンパク質を発現するV1ニューロンのin vivo音響遺伝学的活性化を示すグラフ、スキーマ、およびヒストグラムの組み合わせである。
図3A:in vivo電気生理学的記録およびUS刺激に使用されるセットアップの模式図を示す。
図3B:左。(上)典型的なP0、N1、およびP1のたわみが見られる100msのフラッシュに対する代表的な視覚誘発皮質電位を示す。(下)MscL-G22sタンパク質を発現する皮質ニューロンを有するWTラットの100ms15MHzUS刺激に対する代表的な応答を示す。右。持続時間を延長させ、15MHzのUS刺激に対する代表的な音響遺伝学的誘発電位を示す。黒のトレースは、100回の試行における平均誘発電位を表す。各灰色のトレースは、1回の試行を表す。黒い矢印は、刺激の開始を示す。スケールバーは、50μV/50msである。
図3C:10、20、および50ms刺激に対する音響遺伝学的μEcog応答持続時間(n=58、6匹の動物でそれぞれ32回および56回の試行)を示す。
図3D~
図3F:USの圧力の増加(D)、持続時間の延長(E)および周波数の増加(F)に対するN1ピーク振幅(刺激持続時間:10ms)(n=6動物)を示す。
図3G~
図3H:USの圧力を増加させた刺激(G)およびUSトランスデューサーの0.8mmの変位(H)のグレイコード化させた活性化マップ(矢印は変位の方向を示す)を示す。各白い点は、電極アレイの電極を表す。グレイバーは、N1ピーク振幅を表す(μV)。
図3I:US圧力値を増加させた、活性化領域(n=6動物)を示す。
図3J:USトランスデューサーを0.4mm移動させたときの活性化中心の以前の位置への変位を示す。p<.0001、1サンプルt検定、6匹の動物においてn=37の位置。
図3K:皮質ニューロン内でのMscL-G22sタンパク質を発現するWTラットの視覚刺激およびUS刺激に対する応答の代表的なスパイク密度関数(SDF)を示し、スケールバーは、50Hzを表す。
図3L:異なる刺激持続時間(上)および周波数(下)の刺激に対する58および27ニューロンの応答のSDFを示す。上行は、50~10ms(刺激周波数1Hz)の刺激持続時間、および1Hz~13Hz(刺激持続時間10ms)に変化させた周波数に対する応答の発火率を示す。下行は、刺激パターンを示す。US圧力:1MPa。
図3M:50msおよび10msの長さのUS刺激後の平均応答潜時(50ms n=58細胞、7匹の動物;10ms、n=27細胞、5匹の動物)を示す。
図3N:MscL-G22s発現ラット(n=7)におけるUS応答細胞(n=58)の深さを示す。すべてのパネルのエラーバーは、SEMを表す。
【
図4】異なる周波数のUS刺激に対する網膜音響遺伝学的応答特性を示すグラフおよびヒストグラムの組み合わせを示す図である。
図4A:光刺激に対する応答による、15MHz刺激に対するSLとLLの応答の分類を示す。ns:p=0.3、0.6、0.5(ON、ON-OFFおよびOFF細胞)、対応のないt検定、n=9網膜。
図4B:0.5および2.25MHzのUS刺激に対するSL細胞の平均応答潜時を示す。n=9、網膜8個、US圧:0.5および2.25MHzでそれぞれ0.43、1.54MPa。
図4C~
図4E:テストされた3つのUS周波数について、音圧を増加させたUS刺激に対する応答細胞率(実験での応答細胞の最大数に正規化)を示す:0.5MHz(C,ns,p=.1661;*,p=.0292;*,p=.0260;ns,p=.8628;ns,p=.1316;ns,p=.7731;対応のないt検定)、2.25MHz(D,ns,p=.1474;ns,p=.0522;*,p=.0140;***,p=.0005;****,p<.0001;ns,p=.5000;対応のないt検定)、15MHz(E,*,p=.0382;**,p=.0065;*,p=.0218;ns,p=.8628;ns,p=.5859;ns,p=.4223;対応のないt検定)。下のx軸は、対応する音響強度(Ispta)を表す。すべてのパネルのエラーバーは、SEMを表す。
【
図5】0.5MHz、2.25MHzおよび15MHzトランスデューサーのUS圧力場を示す圧力マップの組み合わせである。
図5A、
図5B、
図5C:0.5MHz(A)、2.25MHz(B)、および15MHz(C)のxyおよびxz平面でのグレイコード化した圧力マップを示す。白線は、-3dBの圧力場を示す。スケールバーは、2mmを表す。
【
図6】視覚回復に適用される本発明の方法の原理を示す図である。例えば、超音波マトリックス、スパースアレイ、またはRCA(行列アレイ)などの超音波アレイは、非集束超音波刺激を放出して神経細胞を刺激し、対象の視覚皮質内で画像を再現する。
【
図7】対象における画像の視覚を回復するには、妥当な時間内で神経細胞を活性化するために、非集束超音波刺激が必要であることを示す図を組み合わせたものである。
図7A:集束超音波刺激の原理のスキームを示す。超音波刺激(すなわち、超音波信号のバースト)は、完全な画像を再構築するために、対象の脳上の固有の焦点で順次放出させる。このプロトコールは長過ぎるため、対象の画像を回復できない。
図7B:多集束超音波刺激の原理のスキームを示す。超音波刺激は、完全な画像が再構築されるまで、いくつかの焦点で同時に放出させる。このプロトコールは、対象における画像の回復に適合する。
図7C:複雑に構造化された空間的および時間的超音波パターンによる刺激(すなわち、超高速ホログラフィック刺激)の原理のスキームを示す。画像の視覚情報の符号化から得た超音波パターンを対象の脳上に放出させて、画像を再構築する。このプロトコールは、対象における画像の回復に適合する。
【
図8】非集束超音波刺激を放出するための超音波マトリックスアレイの例を示す図を組み合わせたものである。
図8A:長い超音波バーストで3つの焦点に到達するように構成された32x32マトリックスアレイ(構成例:0.2mmピッチ、15MHz中心周波数)の図である。2つの焦点は、同じ振幅を有するが、1つの焦点は、より小さい振幅を有する(4分の1の振幅)。標的の横断面(右下)で特定のエネルギーパターンに到達するように、各素子に対して特定の波形パターンの放射を設計する(これらの波形の32個が列10に示され、これらの波形の別の32個が行7に示される)。
図8B~
図8C:超音波マトリックスアレイによって生成された超音波パターンの例の図である。投影する画像(例えば、チェッカーボードを表す画像(B)またはより複雑な画像(C))は、生成される画像と同じパターンを表示する超音波パターン刺激に変換される。
【
図9】関連付け視覚トレーニング後のマウスのV1皮質の音響遺伝学的活性化によって誘導される行動応答を示すグラフ、ヒストグラム、およびスキーマの組み合わせを示す図である。
図9A:マウスが行う行動タスクの模式図を示す。水報酬を有する光刺激のための関連付け学習パラダイムでトレーニングされた水制限動物は、V1の15MHzのUS刺激により刺激される。動物が水報酬前に500msの時間枠内で少なくとも1つの予期リックを行った場合、試験は奏功したと見なす。
図9B:光刺激(50ms)と水報酬(LS濃灰)およびその後のUS刺激(US薄灰)の間の関連付け学習中の4日間のトレーニングの試行の平均奏功率(50ms1.2MPa、ns、p=.4311、対応のないt検定)を示す。
図9C:光(50ms)およびUS刺激(50ms、1.2MPa)後の最初の予測的リックの潜時を示す(****、p<.0001、対応のないt検定)。
図9D:US圧力を増加させた50msのUS刺激後の、非トランスフェクト(NT)およびMscL-G22Sトランスフェクトマウスに対する4日間のUS刺激の試行の平均奏功率を示す(ns、p=.0751、*、p=.0114、***、p=.0006、対応のないt検定、それぞれ0.2、0.7、1.2MPaの場合)。
図9E:US圧力を増加させたNTおよびMscL-G22Sトランスフェクトマウスの予測的リック率を示す(*、p=.0424、*、p=.0150、**、p=.0031、対応のないt検定それぞれ、0.2、0.7、および1.2MPaの場合)。
【
図10】無傷の硬膜を通る視覚回復に対する超音波送信周波数の影響を示すスキーマおよびグラフの組み合わせを示す図である。
図10A:ヒトにおける一次視覚皮質内での局所化したUSニューロモデュレーションのために頭蓋枠に移植させたUSマトリックスアレイを使用した視覚回復の想定される概念を示す。USビームは、無傷の硬膜、硬膜下腔、くも膜下腔を通過させながら、V1皮質内の様々な場所に適応的に集束させることができる。
図10B:開頭したマウスに高周波集束トランスデューサーを使用する、げっ歯動物のV1音響遺伝学的活性化に使用する一連の概念実証を示す。
図10C:本試験で使用された0.5MHzトランスデューサーの放射場の特徴を示す。(上)25.4mmO(スラッシュ付きO)、31.75mm集束トランスデューサーによって0.5MHzで放射した単色音場の最大圧力の縦方向の図である。25.9mmで圧力の最大値に達し、これは、報告されている効果である幾何学的焦点よりもトランスデューサーにわずかに近い63。(中央)深さz=25.9mmでの最大圧力場の横断面である。(下)焦点スポットのFWHM(0.5MHzで4.36mm)であるこの横断面の一次元プロファイルを示す。
図10D:2.25MHz 12.7mmO(スラッシュ付きO) 25.4mm集束ストランスデューサーの同じ特性を示す。
図10E:15MHz 12.7mmO(スラッシュ付きO) 25.4mm集束ストランスデューサーの同じ特性を示す。この構成では、最大圧力が幾何学的集束の非常に近くに達していることに留意のこと(幾何学的集束の25.4mmと比較して25.21mm)。焦点スポットのFWHMは、0.276mmである。
【
図11】シミュレートした音場および温度上昇を示すグラフの組み合わせを示す図である。
図11A:2.25MHzトランスデューサーで取得され、-1.11MPaのピーク負圧に到達する較正させた水中聴音器(黒)を使用した集束での水タンク測定値と、同じ負圧に到達する集束(灰色)でのシミュレートした波形との比較を示す。2つの波形は、非常によく一致しており(誤差0.42%)、シミュレーションのセットアップおよび物理パラメーターが妥当であることが保証される。
図11B:測定された波形(黒)とシミュレートした波形(灰色)のパワースペクトル密度であり、シミュレーションによって非線形伝播の重要性を推定できることを示す。基本波より20dB低い二次高調波は、エネルギーに関して100倍であることを示し、これは、吸収を線形近似で計算できることを意味する。
図11C~
図11F:熱シミュレーションは、最悪のシナリオ(方法を参照)に対応する2つのプロセス:水媒体での伝播、および脳を模倣した媒体での熱吸収を使用して実施する。
図11C:200msの刺激(15MHzおよび1.27MPa)終了時の3D温度マップを示す。
図11D:圧力の7つの値(0.26、0.39、0.54、0.74、0.96、1.15、1.27MPa)での15MHz 200ms刺激の焦束での温度上昇を示す。増加している曲線を拡大すると、1kHzのオン/オフサイクルによる変動が明らかになる。
図11E:圧力の同じ7つの値での15MHz 50ms刺激の焦束での温度上昇を示す。
図11F:0.96MPaおよび0.54MPaの集束圧力に対する、8Hzおよび13Hzの繰り返し率での15MHz 10ms刺激(1kHz変調)に対する集束での温度上昇を示す。 実施例
【0241】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明する。
【0242】
材料および方法
動物
すべての実験は、National Institutes of Health Guide for Care and Use of Laboratory Animalsに従って実施した。実験プロトコールは、各国の動物倫理委員会によって承認され、欧州議会の指令2010/63/EUに従って行った。この研究に含まれるすべてのラットは、Janvier LaboratoriesのLong Evansラットであった。
【0243】
プラスミドのクローニングおよびAAVの産生
WT(野生型)形態中の大腸菌MscL配列を含み、G22S変異を有するプラスミドは、Addgeneプラスミド#107454および#107455に対応する(これらのプラスミドはFrancesco Difatoから贈呈された(Addgeneプラスミド#107454;http://n2t.net/addgene:107454;RRID:Addgene_107454;Addgene plasmid#107455;http://n2t.net/addgene:107455;RRID:Addgene_107455;Soloperto A et al.,J Cell Sci.2018 Jan 29.pii:jcs.210393.doi:10.1242/jcs.210393)。網膜神経節細胞を標的にするために、SNCGプロモーターを、tdTomatoと融合したMscL配列および原形質膜への発現を駆動するKir2.1 ER輸出シグナルを含むAAV2-7m8骨格プラスミドにクローニングした。皮質層のニューロンを標的とするために、SNCGプロモーターをCAGおよびCamKIIプロモーターに置き換えた。使用したすべての組換えAAVは、プラスミド共トランスフェクション法を使用して産生され、得られたライセートを精製して、高力価の組換えAAVウイルスを得た。
【0244】
US刺激
3つの異なる中心周波数を有する3つのトランスデューサー:0.5MHzトランスデューサー(V301-SU,Olympus)、2.25MHzトランスデューサー(V306-SU,Olympus)および15MHzトランスデューサー(V319-SU,Olympus)を使用して、異なるサイズの焦点スポットを作製した。TiePie Handyscope(HS3,TiePie engineering)を使用して刺激波形を生成し、トランスデューサーに接続させた80dB RF電力増幅器(VBA 230-80,Vectawave)を通過させた。USトランスデューサーの音響場分布は、水浴内でレーザー干渉計を使用して測定した。0.5、2.25、および15MHzのトランスデューサーでは、xy平面での焦点スポット直径の推定半値全幅(FWHM)は、それぞれ、6.50、1.74、および0.48mmとし、xz平面の長軸は、43.45、18.22、および4.9mmとした(
図5)。Ex vivoおよびin vivo刺激に使用するUS刺激は、次の特徴を有するものであった:50%デューティサイクル(DC)の1kHzパルス繰り返し周波数(PRF)、超音波処理持続時間(SD)10~200msにおいて変動、および刺激間間隔(ISI)0.01~2秒。ピーク音圧、0.5MHz、2.25、および15MHzトランスデューサーで、それぞれ、0.11~0.88MPa、0.3~1.6MPa、0.2~1.4MPaにおいて変動。対応する推定Ispta値は、0.06~2.28W/cm2、0.29~10.84W/cm2および1.13~26.88W/cm2で変動させた。
【0245】
Ex vivo
硝子体内遺伝子送達および網膜イメージング
ラットをイソフルラン(誘導用に5%、維持用に3%)で麻酔し、ニードルの先端を直接観察しながら、8~14×1010のウイルス粒子を含むAAV溶液2μlを硝子体腔の中心に注射した。注射の1ヶ月後、Micron IV網膜イメージング顕微鏡(Phoenix Research Labs)を使用して、注射された眼の蛍光イメージングを実施し、蛍光tdTomatoタグを介してMscLの発現を観察した。電気生理学的記録は、注射の少なくとも1ヶ月後に実施した。
【0246】
MEA記録
網膜は、室温で95%O2および5%CO2でバブリングさせたエイムス培地(A1420,Sigma-Aldrich)中、暗赤色光下で単離させた。網膜片をフィルター膜(Whatman,GE Healthcare Life Sciences)上で平らにし、ポリ-L-リジン(0.1%,Sigma)でコーティングした多電極アレイ(MEA)(電極直径30μm、間隔200μm、MEA256200/30iR-ITO,Multichannel systems,Germany)に入れ、電極は、網膜神経節細胞に面している。網膜は、実験中、34℃で2mL/分の速度でバブリングさせたエイムス培地で連続的に灌流させた。
【0247】
実体顕微鏡(SMZ25,Nikon,Germany)を使用して、TdTomatoの蛍光を確認して、記録し、記録された領域での導入遺伝子の発現を観察した。いくつかの実験では、AMPA/カイニン酸グルタミン酸受容体アンタゴニスト、6-シアノ-7-ニトロキノキサリン-2,3-ジオン(CNQX,25μM,Sigma-Aldrich)、NMDAグルタミン酸受容体アンタゴニスト、[3H]3-(2-カルボキシピペラジン-4-イル)プロピル-1-ホスホン酸(CPP,10μM,Sigma-Aldrich)および選択的グループIII代謝型グルタミン酸受容体アゴニスト、L-(+)-2-アミノ-4-ホスホノ酪酸(L-AP4,50μM,Tocris Bioscience,Bristol,UK)を新たに希釈し、記録する10分前に灌流システムを介して浸浴させた。
【0248】
全視野光刺激は、光受容体面に集束させ白色光LED光源(MNWHL4,Thorlabs,Inc.)と組み合わせたデジタルマイクロミラーディスプレイ(DMD,Vialux,解像度1024x768)を使用して送達させた。光放射照度値は、1μW/cm2である。USトランスデューサーは、脱気水で満たした特注のカップリングコーンに連結させ、電動ステージ(PT3/M-Z8、Thorlabs)に取り付け、網膜の上の記録チャンバーに直交させて置いた。
【0249】
USトランスデューサーを網膜上に位置付けるために、MEAチップおよび網膜の反射シグナルをUS-keyデバイス(Lecoeur Eletronique)を使用して検出した。網膜とトランスデューサーとの間の距離は、トランスデューサーの焦点距離に等しく、反射シグナルの飛行時間を使用して検証した。
【0250】
RGC記録は、252チャネルのプリ増幅器(MultiChannel Systems,Germany)を使用してデジタル化した。個々のニューロンからのスパイクは、SpykingCircusソフトウェアを使用して分類した。次に、Matlab(MathWorks、Natick、MA、USA)で記述されたカスタムスクリプトを使用して、RGC応答を分析した。それらは、応答支配指数を使用して、閃光に対する応答に従ってON、ON-OFF、またはOFFに分類した。刺激の開始またはオフセットまでの各細胞の潜時は、スパイク密度関数の導関数の最大値として計算した。US刺激に応答する細胞について、USに対する自然応答の潜時分布の最小値(45ms)に等しい閾値を固定することにより、それらの潜時(短潜時および長潜時)に従って、2つのクラスを識別させた。応答持続時間を計算するために、スパイク密度関数のピーク値Aを決定した。応答持続時間は、SDFがA/e(e:オイラー数)に等しい2つの時点間の時間間隔として定義する。US圧力を増加させた、US刺激に対する応答細胞率は、活性化された細胞の数と考慮されたすべてのUS圧力に対する応答細胞の最大数との比率として計算した。スパイク数のばらつきを定量化するファノ因子は、平均値に対するスパイク数の分散の比率として計算した。1未満の値は、情報内容量の増加を示す。2つの活性化細胞間のユークリッド距離は、細胞の最大発火率に重み付けした。活性化細胞数とMEAチップ上の刺激領域のサイズとの比率は、焦点スポットがMEAよりも大きいため、2.25MHzおよび15MHzのUS焦点スポットサイズおよび0.5MHzのMEAのサイズを考慮して計算した。応答の中心は、各細胞の発火率の最大値を他の応答細胞からの距離に重み付けすることによって推定し、応答の変位は、2つの位置間のユークリッド距離として計算した。
【0251】
In vivo
頭蓋内注射
ラットは、ケタミン/メデトミジン(40mg/kg/0.14mg/kg)混合物で麻酔した。手術部位を剃毛し、頭蓋骨を露出させるために正中切開を行った。動物を定位固定フレームに入れた後、注射部位に2つの穿頭孔を開けた。AAV溶液は、右半球の2つの異なる場所に注射した(ブレグマからの座標:2.6mm ML、6.8mm APおよび3.1mm ML、7.2mm AP)。各場所について、200nlのウイルスベクター(0.2~8x1015のウイルス粒子を含む)を、マイクロシリンジポンプコントローラー(Micro4、World Precision Instruments,Inc.)を使用して、速度50nl/分および10μlハミルトンシリンジを用いて、3つの異なる深さ(1100、1350、および1500μm DV)で注射した。電気生理学的記録は、少なくとも注射1ヶ月後に実施した。
【0252】
In vivo細胞外記録
ラットは、ケタミン/メデトミジン(40mg/kg/0.14mg/kg)の混合物で麻酔した。瞳孔は、トロピカミド(Mydriaticum, Dispersa)を使用して、拡張させた。小開頭(5x5mm四方)は、右半球のV1上にドリルで行った。記録前に、Micron IV網膜イメージング顕微鏡(Phoenix Research Labs)を使用して、tdTomatoの蛍光を確認した。
【0253】
32部位Ecog電極アレイ(電極直径30μm、電極間隔300μm、FlexMEA36、MultiChannel Systems)を、MscLを発現するラットのトランスフェクトされた脳領域上、または対照ラットの同じゾーンに位置付けた。Ecogの記録後、16部位シリコンマイクロプローブ(電極直径30μm、間隔50μm、A1x16-5mm-50-703、NeuroNexus Technologies)を使用して、多電極(MEA)記録を実施した。MEAプローブは、3軸マイクロマニピュレーター(Sutter Instruments,Novato,CA)を使用して、皮質内に垂直に1100μm前進させた。USトランスデューサーは、脱気水およびUSゲルで満たした特注のカップリングコーンを使用して脳に連結させ、電動ステージを使用して目的の領域上に位置付けた。プローブおよびUSトランスデューサーは、μEcog記録では、垂直に、皮質内記録では、45°傾斜させた。皮質内の標的とトランスデューサーとの間の距離は、トランスデューサーの焦点距離に等しく、US-key(Lecoeur Eletronique)により反射シグナルを使用して検証した。
【0254】
視覚刺激は、眼から15cm離して配置した白色光コリメートLED(MNWHL4、Thorlabs,Inc.)によって生じさせた。角膜レベルでの光放射照度は、4.5mW/cm2であった。
【0255】
μEcogおよび細胞外シグナルは、それぞれ32チャネル増幅器および16チャネル増幅器(モデルME32/16-FAI-μPA-System,MultiChannel Systems)を使用してデジタル化した。μEcogの記録は、カスタムMatlabスクリプトを使用してさらに分析した。SpykingCircusソフトウェアを使用してMEA記録をさらに分析し、カスタムMatlabスクリプトを使用して単一チャネルイベントを分析した。μEcog記録の場合、応答持続時間は、皮質誘発電位がA/eに等しい2つの時点間の時間間隔として計算した(式中、Aはピーク脱分極であり、e:オイラー数である)。各チャネルのピーク脱分極を直線的に補間して、疑似カラー活性化マップを作成する。活性化領域は、ピーク脱分極が30μVを超えた疑似カラー活性化マップの領域として画定した。応答の中心は、各電極のピーク脱分極を他の電極からの距離に重み付けすることによって推定した。皮質内記録では、細胞潜時は、スパイク密度関数の導関数の最大値として推定した。
【0256】
In vivo行動試験のための手術
ケタミン/キシラジン(80mg/kg/8mg/kg)の混合物を使用してマウスを麻酔し、頭を定位固定フレームに固定した。小開頭(約3mmx3mm)は、右半球のV1上にドリルで行った。皮質は、TPXプラスチックシートを使用してカバーし、歯科用アクリルセメント(Tetric Evoflow)を使用して密封した。行動実験では、頭部固定用の金属製ヘッドバー(Phenosys)を歯科用セメント(FUJUCEM II)を使用して左半球の頭蓋骨に接着させた。マウスの行動トレーニングは、外科手術の少なくとも10日後に行った。
【0257】
マウス行動試験
C57BL6Jマウスを水制限スケジュールに置き、自由体重の約80~85%に達するまで、約0.5~1mL/日の水を毎日与えた。最初の5日間は、マウスをシリンジから飲むように徐々に慣れさせ、頭を固定し、円筒形の本体チューブに封入した。次に、マウスは、左眼の白色光全視野刺激(長さ200msおよび50ms)に応答して、ウォータースパウト(鈍い18Gニードル、口から約5mm)をリックすることによって自発的な検出タスクを行うことにより、光刺激に応答するようにトレーニングした(トロピカミド、Mydriaticum Dispersaを使用して拡張)。水(約4μL)は、較正させた水システムを介して、光の開始から500ms後に自動的に分配させた。行動プロトコールおよびリックの検出は、特注のシステムによって制御した。可視光トレーニングは、光刺激のために4日間継続した。典型的なトレーニングセッションを約30分間継続させ、その間にマウスは75~100回試行した。光刺激トレーニング後、4日間(1日目と2日目は、週末に2日間の休憩を入れた)右半球内のV1のUS刺激を行った。これらの4日間は、3つの異なる圧力値(0.2、0.7、および1.2MPa)での長さ50msのUS刺激を挿入したが、刺激の順序は毎日変更した。光とUS刺激の試行間隔は、ランダムに変更し、10秒から30秒の範囲であった。15 MHz USトランスデューサーは、水およびUSゲルで満たした特注のカップリングコーンを使用して脳に連結させ、電動ステージにより目的の領域上に位置付けた。マウスの行動に対する光およびUS刺激の影響を評価するために、奏功率は、マウスが予測的リック、すなわち刺激の開始と水弁の開口との間に起こったリックを行ったときの試行回数を数えることによって評価した。予測的リック率は、自発的リック率(刺激開始前に1秒の時間枠で計算)を差し引き、その後奏功率を乗算して、計算した。リック潜時時間は、刺激開始後の最初の予測的リックの潜時時間を決定することによって計算した。
【0258】
免疫組織化学および共焦点イメージング
形質導入させた網膜および脳は、4%パラホルムアルデヒド(100496、Sigma-Aldrich)中で固定した(網膜は30分間、脳は一晩)。脳を30%スクロース(84097、Sigma-Aldrich)で凍結保護し、ミクロトーム(HM450、Microm)を使用して、厚さ50μmの矢状スライスを切り出した。各脳の最もtdTomato蛍光スライスを、さらなる免疫組織化学およびイメージングのために選択した。網膜および矢状脳凍結切片を、0.5%TritonX-100を含むPBSで、室温で1時間透過処理後、ブロッキングバッファー(PBS+1%BSA+0.1%Tween20)で、室温で1時間インキュベートした。サンプルを、半希釈ブロッキングバッファー+0.5%TritonX-10中、網膜の場合はモノクローナル抗RBPMS抗体(1:500、ウサギ、ABN1362、Merck Millipore)で、脳切片の場合はモノクローナル抗NeuN抗体(1:500、マウス、MAB377、Merck Millipore)で、4℃で一晩インキュベートした。Alexa Fluor(1:500;Molecular Probes)およびDAPI(1:1000、D9542、Merck Millipore)とコンジュゲートさせた二次抗体を室温で1時間適用した。オリンパスFV1000レーザー走査型共焦点顕微鏡、対物レンズ20倍(UPLSAPO 20XO、NA:0.85)を使用して、フラットマウントさせた網膜および脳切片の画像を取得した。
【0259】
形質転換効率の計算
共焦点画像は、形質転換効率を評価するためにFIJI(ImageJ)で処理した。RBPMSおよびNeuN陽性細胞は、分析粒子FIJIプラグインを使用して、自動的にカウントした。MscL-tdTomatoおよびMscL-tdTomato-RBPMS/NeuN陽性細胞は、CellCounter FIJIプラグインを使用して2名の異なるユーザーによって手動でカウントした。網膜については、各網膜内のトランスフェクトされた領域を特定し、ランダムに選択された0.4mm2の8つの領域内で共焦点スタックを取得する定量化を行った。
【0260】
V1ニューロンの場合、最大のMscL発現ゾーンを有する矢状脳スライスを各動物において選択した。一部のスライスでは、tdTomatoがV1の外側にも拡散したため、V1内のROIを手動で画定し、ランダムに選択した0.4mm2の8つの領域で定量化を実施した。
【0261】
US誘導組織加熱シミュレーション
USのニューロモデュレーションの文献で通常説明されているよりも高いUS周波数(15MHz)での細胞刺激を考慮する場合、熱効果が重要になる可能性があるため、この影響を推定することが必須である。この推定は、次の3つのプロセスを通じて行った:1)現実的な音響パラメーターを使用した研究で使用した3つのトランスデューサーによって生成された音場のシミュレーション、2)非線形音響は、熱伝達において重要な役割を果たしていないという判定、および3)この研究で使用されたパラメーターの線形領域で、USによる集束によって誘導された熱伝達および温度上昇の現実的なシミュレーション。
【0262】
非線形シミュレーションでは、MatlabのツールボックスkWaveを使用して、トランスデューサーのジオメトリを3Dで定義し、伝播媒体(水)に次のパラメーターを使用した:音速c=1500ms
-1、体積質量p=1000kgm
-3、非直線係数B/A=5、減衰係数α=2.2 10
-3dBcm
-1MHz
-y、および減衰係数の周波数べき乗則y=2。準単色3D波動場は、50サイクルの長いバーストを使用してシミュレートした。これにより、3Dでの最大圧力場および集束での波形の両方が得られた。シミュレーションは、実際のトランスデューサーを使用して水タンク中で測定した集束での圧力に到達するように、入力圧力(シミュレートされたトランスデューサーの励起)を調整することによって較正した。0.5、2.25、および15MHzトランスデューサーについて、xy平面のFWHM焦点スポット径は、4.36、1.61、および0.276mmであり、xz平面の主軸は、長さ、それぞれ32.3、20.6、および3.75mmであった。非線形効果は、集束での波形の相対的な高調波成分を推定することによって評価した。15MHz集束トランスデューサーの例では、焦点スポットでの実験信号とシミュレートされた信号とを比較し、非常によく一致していることがわかった(
図11A)。さらに、二次高調波の振幅は、基本波よりも19.8dB低く(シミュレートされた症例では20.9dB)、基本波エネルギーがEの場合、二次高調波のエネルギーはE/95であることを意味する(
図11B)。したがって、非線形効果は、関与するエネルギーの約1%を占めるため、熱効果の計算では無視することができる。結論は、0.5MHzおよび15MHzで同じであった。線形波動伝播近似を使用すると、シミュレーションの計算コストが大幅に軽減される。線形伝播シミュレーションは、3D最大圧力場を取得するために、kWave(水)を使用する場合と同じ媒体特性を有する単色モードでMatlabのField IIツールボックスを使用して実施した。これらの最大圧力場は、熱源項
【数1】
を構築するために使用され、式中、α
npは、検討されている周波数での脳の吸収係数(15MHzで59.04Npm
-1であり、α
brain=0.21dBcm
-1MHz
-yおよびy=1.18から算出)であり、p
brainは、脳の体積質量=1046kgm
-3であり、C
brainは、脳の音速=1546ms
-1であり、P
maxは、3Dの最大圧力場である。この熱源項は、ペンネのバイオ熱方程式の解法kWave中での
【数2】
を使用した。ここで、C
brainは、血液の比熱容量(3630J.kg
-1℃
-1)であり、K
tは、脳の熱伝導率(0.51Wm
-1℃
-1)であり、p
bloodは、血液密度1050kgm
-3であり、C
bloodは、血液の比熱容量(3617J.kg
-1℃
-1)であり、P
bloodは、血液灌流係数(9.710
-3s
-1)であり、T
αは、動脈温度(37℃)であり、および
【数3】
であり、γ
brainは、脳組織の発熱(11.37Wkg
-1)
61,62である。脳温の初期条件はT
0=37℃に設定した。
【0263】
このシミュレーションは、以下に示す温度上昇に関する最悪のシナリオに対応する。1)伝播の一部が脳中で発生したとしても、音響伝播は脳(0.59dBcmMHz
-1.27)よりも低い減衰係数(2.210
-3dBcmMHz
-2)で水においてのみシミュレートする。したがってp
maxマップは、過大に推定される。2)熱吸収は、脳組織内のみでシミュレートし、最大圧力場の一部が実際に音響カップリングコーンの水中にある場合でも、水と比較して高い吸収係数(0.21dBcmMHz
-1.18)を示す。したがって、ここでもQ
USは、わずかに過大に推定される。温度は、3Dおよび時間でマッピングし、最大温度上昇のポイントを探した(
図11C~F)。
【0264】
データ分析
Prismソフトウェア(Prism 7、GraphPadソフトウェア、バージョン7.0)を使用して、統計分析を実施した。すべての値は、平均±標準誤差平均として表す。実施した統計検定は、図の例中に詳細に示す。
【0265】
結果
実施例1:3つの集束超音波トランスデューサーの特性評価
音響遺伝学的脳活性化の概念を実証する好適なアプローチを調べるために、3つの集束超音波トランスデューサーの特徴を最初に明らかにした。それらの寸法および幾何学的集束は、ヒトでの適用において今後移植するマトリックスアレイの関連モデルを提供し、かつげっ歯類における概念の実証実験に適するように選択した(
図10A~B)。トランスデューサーは、異なる周波数範囲(それぞれ波長3.0、0.7、および0.1mmに対応するf=0.5MHz、f=2.25MHz、およびf=15MHz)で、集束ビームを送信する同様の集束距離(低周波数ではF=31.7mm、2つの高周波数ではF=25.4mm)で設計した(
図10C~E)。超音波刺激の周波数を0.5MHz(典型的なニューロモデュレーション)(
図10C)から15MHz(
図10E)に増加させると、達成可能な分解能が劇的に変化し、波長を約30で割ると、焦点スポットのサイズが小さくなり、このため、刺激される体積が27,000分の1になる。したがって、ほとんどの実験は、15MHzで行い、効率および空間分解能の点で比較するために、2つの低い周波数を最初に使用した。
【0266】
実施例2:Ex vivoでの網膜神経節細胞の刺激
哺乳動物の神経回路における音響遺伝学療法を調査するために、大コンダクタンス機械受容イオンチャネル(MscL)は、in vivoでの眼の硝子体へのアデノ随伴ベクター(AAV)送達を使用して、ラット網膜神経節細胞(RGC)で発現させた。ベクターは、大腸菌由来のMscL遺伝子をそのオリジナル形態(WT)で、アミノ酸置換G22sを使用して産生し、培養ニューロンの機械的刺激に対する感受性が増大した。アデノ随伴ウイルスベクター、血清型AAV2.7m8である音響遺伝学的ベクターは、SNCG特異的RGCプロモーター下で赤色蛍光タンパク質tdTomatoに融合したこれらのMscLチャネルをコードしていた。In vivoにおいて、両方のAAVベクターの硝子体内注射後、td-Tomatoの発現が眼底で検出された。フラットマウントした網膜の検査では、神経節細胞層および光線維束に限定されたtdTomato発現が示された。発現がRGCに限定されていることをさらに実証するために、これらの細胞をRPBMS抗体で標識した。染色は、トランスフェクトされた領域において、RPBMS陽性細胞の33.73%および45.83%が、それぞれMscL-WTおよびMscL-G22sタンパク質のtdTomatoを発現したことを示した(
図1A)。MscL遺伝子の発現は、細胞体および軸索上の細胞膜に集中しているように見えた。
【0267】
超音波に対するRGCの感受性を測定するために、ex vivoにおいて、多電極アレイ上で網膜を記録した。MscLチャネルを発現する網膜の場合、多くのRGCは、非常に短い潜時(SL)(12.2±2.5ms)で強力かつ持続的なON応答を示した(
図1B)。これらのSL ON US(超音波)応答の生成は、光に対するONおよび/またはOFF応答のいずれかを生成する細胞中で測定したため、特定のRGC細胞型とは関連がなかった(
図4A)。MscLの発現は、潜時を短縮したが、US応答細胞の数も増加した(
図1C)。さらに、US圧力値を低下させるRGC感受性を大幅に向上させた(
図1D)。
【0268】
異なるUS周波数で刺激した場合のUSの応答も比較した。応答の特徴は、0.5MHzおよび2.25MHzの両方のUS刺激で類似していた(
図4A~E)。さらに、G22s変異は、RGCのUS圧力を低下させるUS感受性をさらに向上させることが観察された(
図1E)。
【0269】
US応答の時間的動力学は、様々なUS刺激持続時間および様々な繰り返し率で調査した。ニューロンは、非常に短い刺激持続時間(10ms)にも応答し、刺激のオフセット後も応答が持続した(
図2A)。100msを超える長い刺激では、応答は一過性となり、この形態の慣れにより、応答が解消されることはないが、最大発火率は低下した(
図2C)。US応答持続時間は、刺激持続時間と相関していた(
図2D)。15MHzのUS刺激(刺激間間隔の10%に等しい刺激持続時間)の異なる繰り返し率を使用すると、RGCは10Hzまでリズムを追従可能であった(
図2B~
図2E)。以前の実験におけるファノ因子は、応答の高い再現性および高い内容を示した(
図2C~
図2E)。
【0270】
次に、異なる超音波周波数(0.5、2.25、および15MHz)が、高いUS周波数において小さくなる測定されたUS圧力場と一致して、空間分解能に影響を与え得るかを調査した(
図5A~C)。US応答細胞は、0.5および2.5MHzにおいて、記録された網膜全体に広く分布しているが、15MHzではスポット内により限定されているように見える。次に、刺激を受けた網膜ごとに、US応答細胞間の重み付けした平均距離を異なるUS周波数で計算した。対応する平均値は、それぞれ0.5MHzおよび2.25MHzにおいて、1.48±0.12mm(n=12網膜)および1.30±0.18mm(n=5網膜)から、15MHzにおいて0.59±0.03mm(n=9網膜)に減少した(
図2F)(MEAチップ上の2つのランダムに選択された電極間の平均距離は1.73mmであった)。MEAチップ上の刺激領域のサイズにスケーリングさせた活性化細胞の数は、US周波数を上昇させたときに大幅に増加し(
図2G)、これは、高い周波数のUS刺激がより効果的であることを示唆している。実際に、2.25MHzおよび15MHzでの単位面積あたりの音響強度は非常に類似しており(それぞれIsptp=40.3W/cm2およびIsptp=56.3W/cm2)、その結果、15MHzでもたらされる音響パワーは2.25MHzよりも低かった。活性化細胞間の平均距離は、測定された超音波圧力場のサイズと十分に一致していた(
図5A~C)。興味深いことに、15MHzでは、記録領域が十分に大きかったため、刺激プローブを網膜上に移動させることができ、それによって応答細胞のシフトの引き金となった。応答細胞のこのシフトは、網膜上へのプローブの動きと同じ方向およびペースに追従した。応答の中心は、各細胞の発火率の最大値を他の応答細胞からの距離に重み付けすることによって推定した。応答の中心は、USトランスデューサーの変位に応じて移動することが判明した(
図2H)。これらの結果により、本明細書で提示された音響遺伝学療法が、視覚回復に必要なパターン化された刺激に適合する空間分解能を提供できることが実証された。
【0271】
実施例3:in vivoでの視覚皮質における皮質ニューロンの刺激
15MHzの刺激が高い時間的および空間分解能でRGCを確実に活性化できることがex vivoで確立されると、in vivoにおいて、この音響遺伝学療法を脳にも適用できるかを調べた。赤色蛍光タンパク質tdTomatoに融合したMscL-G22sチャネルをコードするAAVベクター血清型AAV9-7m8 CamKII(AAV9.7m8-CamKII-MscL-G22s-tdTomato)をラットV1視覚皮質に注射した。TdTomato蛍光は、脳レベルおよび皮質スライスで既に検出された。皮質V1細胞は、特に、層4でtdTomatoを発現していた。NeuN抗体により検出された皮質ニューロンの33.4±14.4%(n=3ラット)が、CamKIIプロモーターのトランスフェクトされた領域内でtdTomatoを発現していた。
【0272】
V1ニューロンを活性化する短い15MHz刺激の能力を調査するために、μEcoG電極アレイをV1のトランスフェクトされた領域に置いた(
図3A)。AAV注射でない場合、US誘発シグナルは記録されなかったが(
図3B)、MscL-G22s-tdTを発現するV1では、皮質表面のUS刺激によって大きな負のμEcoG電位が生じた(
図3B)。音響遺伝学的応答は、視覚誘発電位について観察されたように、負の偏向を示した(
図3B)。これらのUS応答は、上記の網膜で観察されたとおり、US刺激オフセットの数ミリ秒後、持続していたため(
図3B)、MscL活性化と一致していた。US応答持続時間は、US刺激持続時間と明らかに関連していた(
図3C)。US誘発電位の振幅は、US圧力値の増加とともに増加し(
図3D)、US刺激持続時間とも関連していた(
図3E)。網膜でも同様に、V1も最大8Hzの繰り返し率に追従できた(
図3F)。
【0273】
次に、US誘発神経活動の空間分布を調べた。各チャネルのピーク脱分極を測定し、直線的に補間してグレイコード化させた活性化マップを作成した(
図3G)。US応答皮質領域のサイズは、0.26および1.27MPaでそれぞれ、0.58±0.17mm2(n=6ラット)~1.41±0.23mm2(n=5ラット)であった(
図3I)。パターン化されたUS刺激を得る可能性を調べるために、USトランスデューサーは、記録された領域で0.4mmずつ移動させた。超音波プローブを横方向に動かしたときに、生成されたニューロン活動の源は、同様の方向に移動した(
図3H)。誘発電位の空間場所は、前の場所から0.29±0.09mm(n=6ラット)大幅に移動した(
図3J)。これらの測定値は、μEcoG電極の300μm離散空間ピッチ分布および回路内の活動の横方向の広がりによっておそらく調整される。これらの結果は、音響遺伝学療法のこのアプローチが15MHz刺激で少なくとも400μmの空間分解能を提供できるという結論と一致しており、この周波数での焦点スポットは、276μmである。圧力レベルに応じて、非常に小さい領域(0.26MPaで0.58mm2以下)を標的にする可能性が開かれる。これらの非常に局所化されたUS誘発応答およびそれらのUSプローブ位置への依存性により、それらがMscL-G22s発現V1ニューロンの局所的活性化によるものであることが確認された。
【0274】
次に、15MHzのUS刺激が異なるV1深さでニューロンを活性化できるかを調べた。V1ニューロンは、多電極アレイを貫通する16部位で記録した。MscL-G22s-tdTを発現するV1では、15MHzのUS刺激により、10msの長さのUS刺激に対してさえもSL持続応答が生じた(
図3K)。これらの応答の潜時は短く(10msおよび50msの刺激で、それぞれ、5.10±0.62ms、n=27細胞および7.51±1.00ms、n=58細胞、
図3M)、これは、記録された皮質ニューロンの直接的なUS活性化と一致する。応答するニューロンは、100μmから1mmの範囲の様々な皮質深さで記録した(
図3N)。これは、xz平面で3.75mmのUSプローブの焦点スポット直径である。深部ニューロンは、50msから10msに持続時間を短縮させた刺激に対して、異なる刺激持続時間に対する同様の発火率で確実に応答したが、長く刺激することにより、より広いニューロン集団において応答を誘導できた(
図3L)。
【0275】
したがって、この音響遺伝学療法は、ビデオレートの広い脳パターン刺激に必要な高速応答時間、高い空間分解能、および高い細胞選択性と感受性の独自の組み合わせを提供する。
【0276】
実施例4:マウスでは、音響遺伝学的刺激により、光知覚を誘導する
音響遺伝学的刺激が光知覚も誘導できるかを判断するために、MscL G22Sトランスフェクト動物(n=9)および非トランスフェクト動物(n=7)において、V1の15MHzUS刺激後のマウスの行動を評価した。水制限マウスは、片眼の可視光刺激を水報酬と関連付けるようにトレーニングした(
図9A)。23.57%から76.09%に変化したこの期間中の奏功率の上昇によって示されるとおり、マウスは、このタスクを4日以内で学習した(
図9B)。奏功率は、光刺激のオンセットおよび500ms後に放出された水報酬との間に発生する予期的リックの発生によって測定した(
図9A)。
【0277】
この関連付け学習段階後、5日目にマウスをV1のUS刺激に曝露した(
図9B)。最大圧力でのUS刺激により、MscL-G22Sトランスフェクトマウスは、4日目の光刺激の奏功率(66.98%)と同様の奏功率(66.98%)を達成し(
図9B)、この差は、統計的に有意でなかった。その後、週末(6日目から7日目)にかけて一時停止後、動物は、音響遺伝学的刺激を水報酬に関連付けるタスクを一部忘却していた(
図9B)。しかし、10日目に効率的な関連付けをすぐに回復させた(
図9B)。これらの結果を考慮すると、最初の予測的リックの潜時は、閃光によって誘発されたもの(285.3±12.4ms、n=15)よりも音響遺伝学的刺激(193.2±12.8ms、n=9)の方が短いことが観察された(
図9C)。US応答に対して潜時が短いことは、眼の光刺激に対するものよりも音響遺伝学的刺激に対する皮質ニューロンのニューロン活性化がより短いことと完全に一致している。したがって、これは、眼からV1への視覚情報の伝達の遅延が短縮することによって説明できる。非トランスフェクト動物は、皮質のUS刺激を水報酬に関連付けることができず(
図9D)、それによって、皮質ニューロンの音響遺伝学的活性化が真にトリガー因子であることが実証された。トランスフェクトマウスの視覚皮質に異なるUS圧力を印加したとき、奏功率は、圧力と共に増加した(
図9D)。興味深いことに、水報酬前の500msの間のリック頻度も、US圧力と共に増加していた(
図9E)。これらの結果は、視覚皮質の音響遺伝学的刺激がマウスにおける光知覚を生じさせることを示している。
【0278】
実施例5:脳組織内でのUS誘導加熱シミュレーション
脳組織内でのUS誘導加熱シミュレーションでは、典型的なUSパラメーター(すなわち20ms1.27MPa)(
図3B~E)では、局所温度を0.12℃上昇させると推定され(方法を参照)、それらの高い繰り返し率(最大13Hz)でさえ、中程度の温度上昇(<0.3℃)につながる(
図11C~F)ことが明らかになった。FDAの制限に準拠しているこれらの低温変動および刺激手順により、このアプローチが、いかなる毒性の副作用も引き起こすことなく、US誘発応答が温度駆動型ではなく、USによるMscLチャネルの機械的活性化によって媒介される可能性が非常に高いことを証明する傾向にある。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】