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特表2023-541734車両タイヤ用インナーライナー用のゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(54)【発明の名称】車両タイヤ用インナーライナー用のゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/28 20060101AFI20230927BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230927BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 23/22 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230927BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08L23/28
C08K3/04
C08K3/013
C08L21/00
C08L7/00
C08L23/22
C08L9/06
C08K3/34
C08L91/00
C08K5/10
C08L101/00
C08K5/00
C08K3/22
B60C5/14 A
B60C5/14 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538273
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021076086
(87)【国際公開番号】W WO2022063841
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】20197864.0
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244562
【氏名又は名称】サンコール・インダストリーズ・ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】522244573
【氏名又は名称】ケーラー・イノベーション・アンド・テクノロジー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト・シュヴァイガー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ヴィットマン
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコプ・ポチュン
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA08
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA18
3D131BA20
3D131BC09
3D131BC25
3D131BC31
3D131BC35
3D131BC51
4J002AC012
4J002AC082
4J002AE003
4J002AE043
4J002AE053
4J002BA014
4J002BB033
4J002BB182
4J002BB241
4J002CC034
4J002CC074
4J002DA016
4J002DA037
4J002DA049
4J002DE077
4J002DE109
4J002DE237
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DJ047
4J002EC069
4J002EG049
4J002EH098
4J002EV079
4J002EV149
4J002EV169
4J002EV279
4J002EV329
4J002EV349
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD023
4J002FD028
4J002FD149
4J002FD159
4J002FD204
4J002GN01
(57)【要約】
本発明は、ゴム組成物であって、ブロモブチルゴム及びクロロブチルゴムからなる群から選択される少なくとも1種のハロブチルゴムを有する、ゴム成分と、少なくとも1種の充填剤F1を有する充填剤成分であり、充填剤F1が、0.20~0.45Bq/g炭素の範囲の14C含有量、無灰無水の充填剤に対して60質量%~85質量%の範囲の炭素含有量、10m2/g充填剤~50m2/g充填剤の範囲のSTSA表面積、及び表面上の酸性ヒドロキシル基を有する、充填剤成分とを含み、ゴム組成物中のハロブチルゴムの割合が70~100phrである、ゴム組成物に関する。本発明はまた、上記ゴム組成物をベースとする加硫性及び加硫ゴム組成物、加硫性ゴム組成物を製造するためのキットオブパーツ、並びにゴム組成物及び加硫性ゴム組成物を製造するための方法に関する。更に、本発明は、定寸切断される際に、空気入りタイヤを製造するための方法におけるインナーライナーとして好適な長さが形成される、加硫性ゴム組成物を更に加工するための方法に関する。更に、本発明は、インナーライナー用のゴム組成物を製造するための上記水熱炭化リグニンの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物であって、
ブロモブチルゴム及びクロロブチルゴムからなる群から選択される少なくとも1種のハロブチルゴムを含む、ゴム成分と、
少なくとも1種の充填剤F1を含む充填剤成分であり、充填剤F1が、
0.20~0.45Bq/g炭素の範囲の14C含有量;
無灰無水の充填剤に対して60質量%~85質量%の範囲の炭素含有量;
10m2/g充填剤~50m2/g充填剤の範囲のSTSA表面積; 及び
表面上の酸性ヒドロキシル基
を有する、充填剤成分と
を含み、ゴム組成物中のハロブチルゴムの割合が70~100phrである、
ゴム組成物。
【請求項2】
前記充填剤成分が50~90phrの充填剤F1を含むことを特徴とする、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
i. ハロブチルゴムとは異なるゴム、
ii. 充填剤F1とは異なる充填剤F2、
iii. 軟化剤、
iv. 接着強化樹脂、及び
v. 加硫を促進する添加剤
からなる群から選択される1種又は複数のさらなる構成成分を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
i. 前記ハロブチルゴムとは異なるゴムが天然ゴム、ブチルゴム、及びスチレン-ブタジエンゴムからなる群から選択されること、並びに/又は
ii. 前記充填剤F1とは異なる充填剤F2がカーボンブラック及び層状ケイ酸塩の群から選択されること、並びに/又は
iii. 前記軟化剤が脂肪族ジカルボン酸エステル、パラフィン油、及びナフテン油からなる群から選択されること、並びに/又は
iv. 前記接着強化樹脂が脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、及びフェノールアセチレン樹脂の群から選択されること、並びに/又は
v. 前記加硫を促進する添加剤が12~24個の炭素原子を有する飽和脂肪酸、及びチアゾールの群から選択されること
を特徴とする、請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
i. 前記ハロブチルゴムとは異なるゴムがゴム組成物に0~30phrの量で含まれること、並びに/又は
ii. 前記充填剤F1とは異なる充填剤F2がゴム組成物に0~40phrの量で含まれること、並びに/又は
iii 前記軟化剤がゴム組成物に0~15phrの量で含まれること、並びに/又は
iv. 前記接着強化樹脂がゴム組成物に0~15phrの量で含まれること;並びに/又は
v. 前記加硫を促進する添加剤がゴム組成物に0~5phrの量で含まれること
を特徴とする、請求項3又は4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記充填剤F1がリグニン系充填剤である、請求項1から5のいずれか一項又は複数に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記充填剤F1が水熱炭化リグニンである、請求項1から6のいずれか一項又は複数に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記充填剤F1が、
無灰無水の充填剤に対して15質量%~30質量%の範囲の酸素含有量を有し; 且つ/又は
Sipponenに準拠する表面上の利用可能な酸性ヒドロキシル基の量が0.05mmol/g~40mmol/gの範囲である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項又は複数に記載のゴム組成物と、酸化亜鉛及び/又は硫黄を含む加硫系と
を含む、加硫性ゴム組成物。
【請求項10】
前記加硫系が、酸化亜鉛を含み、並びに
a. 12~24個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和脂肪酸を含み;
b. 少なくとも1種のチウラム及び/又はジチオカルバメートを含み、好ましくは硫黄を含まず;
c. 少なくとも1種のアルキルフェノールジスルフィドを含み;
d. 少なくともポリメチロールフェノール樹脂又はハロゲン化ポリメチロールフェノール樹脂を含み、好ましくは硫黄及び硫黄含有化合物を含まず;
e. 硫黄並びに少なくとも1種のチアゾール及び/又はスルフェンアミドを含み;
f. 硫黄、少なくとも1種のチアゾール及び/又はスルフェンアミド、並びに12~24個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和脂肪酸を含む、
加硫系の群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の加硫性ゴム組成物。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載のゴム組成物(A)と、請求項9又は10に規定の加硫系(B)とを、空間的に分離された形態で含む、キットオブパーツ。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一項に記載のゴム組成物を調製するための方法であって、ゴム成分を用意し、充填剤成分、並びに場合によっては軟化剤、接着強化樹脂、及び加硫を促進する添加剤がその中に組み込まれることを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項9又は10のいずれか一項に記載の加硫性ゴム組成物を調製するための方法であって、第1の段階で、請求項12に記載の方法によりゴム組成物を調製し、続いて、第2の段階で、加硫系の構成成分の混和を行うことを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項9及び10に記載の本発明に係る加硫性ゴム組成物を更に加工するための方法であって、加硫性ゴム組成物をカレンダー加工、押出、又はローラーヘッドプロセスによってウェブに成形することを特徴とする、方法。
【請求項15】
前記ウェブが0.3~5mmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
空気入りタイヤを製造するための方法であって、請求項14又は15に記載の方法とそれに続く、ウェブを空気入りタイヤのインナーライナーに定寸切断する工程を含み、こうして得られたインナーライナーを空気入りタイヤのカーカスと共に加硫する、それに続く工程を含む、方法。
【請求項17】
インナーライナー用ゴム組成物の調製のための、請求項1、6、7及び8のいずれか一項に規定の充填剤F1の使用。
【請求項18】
請求項9又は10に記載の加硫性ゴム組成物を加硫することで得られる、加硫ゴム組成物。
【請求項19】
(a) 50超~70未満の範囲のISO 7619-1に準拠するショアA硬度; 及び/又は
(b) 3.8MPa~10MPaのISO 37に準拠する弾性率300; 及び/又は
(c) 0.950g/cm3~1.120g/cm3のDIN EN ISO 1183-1: 2018-04に準拠する23℃での密度; 及び/又は
(d) 3.9×10-17m2/Pas未満のISO 15105に準拠する空気に対する70℃でのガス透過性
を有することを特徴とする、請求項18に記載の加硫ゴム組成物。
【請求項20】
空気入りタイヤのインナーライナーである、請求項18又は19に記載の加硫ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物、より特別には、空気入り車両タイヤのインナーライナー用の加硫性及び加硫ゴム組成物に関する。本発明は更に、その製造のためのキットオブパーツ、並びにその製造及びさらなる加工のための方法、並びに、空気入りタイヤの製造のための方法に関する。本発明は更に、特にインナーライナー用のゴム組成物の調製のための、再生原料でできた特定の充填剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入り車両タイヤは複雑な構造を有する。したがって、それらに対する要望も様々である。一方では、乾燥路及び湿潤路上での短いブレーキング距離を確保しなければならず、他方では、良好な摩耗特性及び低い転がり抵抗を示さなければならない。更に、車両タイヤは立法機関による要件にも適合しなければならない。
【0003】
このような多様な性能プロファイルを確保するために、個々のタイヤコンポーネントは特殊化されており、複数の異なる材料、例えば金属、ポリマー繊維材料、及び様々なゴム系成分からなる。
【0004】
空気入りタイヤの設計に応じて、ラジアルタイヤ、クロスプライタイヤ、及びバイアスプライタイヤ又はバイアスベルテッドタイヤの間で区別がなされている。ラジアルプライベルテッドタイヤの一例としての典型的な空気入りタイヤはベルト、ベルトカバー、トレッド、補強ストリップ、サイドウォール、ビードフィラー、ビードワイヤー、インナーライナー、及びカーカスを少なくとも含む。
【0005】
通常、ベルトは、ゴムでコーティングされて角度を付けて配置されるストランデッドスチールワイヤーの層からなる。その主な目的は、空気で満たされた状態のタイヤに構造強度を付与することである。更に、ベルトは加速、ブレーキング、及びコーナリング中の運転安全性を付与する。ベルトは転がり抵抗に影響し、タイヤの走行距離に著しく関与する。
【0006】
トレッドと上部ベルトとの間に位置するベルトオーバーレイは、高速度性能を改善する役割を果たし、高速度でのタイヤ径を制限する。
【0007】
トレッドは運転特性に本質的に関与する。トレッドのゴムコンパウンドは、異なる天候条件での(湿潤路及び乾燥路での、寒い天候及び暖かい天候での、氷上及び雪上での)摩耗特性及び動的な運転特性を確定する。一方、トレッドパターンの設計は、アクアプレーニング及び湿潤条件の場合の、並びに雪上でのタイヤの挙動に大きく関与するものであり、また、その騒音挙動も確定する。
【0008】
補強ストリップは、タイヤの強度及び運転特性を更に改善するために、ビードフィラーの領域において場合によっては使用される。
【0009】
サイドウォールはカーカスを横方向の損傷及び大気の影響に対して保護する。サイドウォール用のゴムコンパウンドは可撓性及び耐摩耗性があり、老化及びオゾンに対する保護用の相対的に大量の凝集体を含む。
【0010】
ビードフィラーはビードワイヤー/ビードコアに乗っている。その形態及び構成は、運転安定性をもたらすものであり、ステアリングの精度及びサスペンションの快適性に影響する。通常、ビードフィラー用のゴムコンパウンドは非常に強力で相対的に硬く、このことは高用量の加硫系を使用する高度の架橋、及び充填剤の選択によって特に確保される。
【0011】
ビードワイヤーは、タイヤビードの内側部分であり、環状に巻き付けられていてタイヤをリム上に安定して保持する、ゴムでコーティングされたストランデッドスチールワイヤーからなる。一般的なチューブレス構成では、タイヤビード(タイヤベース又はフットとも呼ばれる)はリムフランジに押し当てられ、タイヤを気密的に閉鎖する。フルスチールタイヤのビードコア、トレッド、又はカーカス中のスチールコード及びスチールワイヤーは、複合材として働くために周囲のゴムコンパウンドと堅く接続されなければならない。その目的で、多くの場合、スチールワイヤーは黄銅又は青銅でコーティングされる。その後にのみ、スチールワイヤーはワイヤーボンディングコンパウンドを使用してタイヤビルディングパーツに成形され、次にそれらは組み立てられてタイヤブランクが形成される。ワイヤーボンディングコンパウンドは、天然ゴムの割合が高いことから相対的に強力で、耐引裂性が高く、例えば特定の樹脂添加剤及び高い硫黄含有量による黄銅又は青銅コーティングに対する強力な接続を実現する。加硫中に恒久的な接続が形成される。
【0012】
カーカスは、タイヤの基礎構造を形成するものであり、ゴムに埋め込まれる1つ又は複数の織布層(レーヨン、ナイロン、ポリエステル、アラミド)又はスチールコード層(トラック用)からなる。カーカスは、タイヤ空気圧によって緊張下に置かれ、したがってリムとトレッド/路面との間での力の伝達に実質的に関与する。それはタイヤベース中のタイヤビードに接続され、これによりタイヤをひとまとめに保持する。カーカスは、強度、及び力の伝達を保証するコード層と、並列するコードを取り囲むゴムコンパウンドとの間の複合材として働く。タイヤの変形が一定であることから、コードコンパウンドは耐疲労性でなければならず、このことは、ほとんど場合、天然ゴムと合成ゴムとのブレンドにより実現されるが、コードとの堅い接続も形成しなければならない。この目的で、コードは撚合/加撚後にゴムコンパウンドでコーティングされる。その上塗を有するコードは非加硫ゴムコンパウンドでコーティングされる。次に、特定のコンパウンド中の樹脂系が加硫中にコード上塗と反応することで、耐久性のある複合材が形成される。
【0013】
上記のように、現代のタイヤは通常チューブレスである。いわゆるインナーライナーは、ゴムコンパウンドの半径方向内側に配置される層であり、可能な限り空気不透過性である。それはインナーコア又はインナープレートとも呼ばれており、空気圧がタイヤの運転特性及び耐久性に著しく影響することから、タイヤにポンプ注入される空気が長期間にわたって漏出しないことを確実にするために使用される。更に、内圧もタイヤの転がり抵抗に影響を及ぼす。空気圧が減少することでタイヤの動的変形が大きくなり、これにより運動エネルギーの一部から熱エネルギーへの望ましくない変換が引き起こされる。このことは、車両の燃料消費量に、したがって関連する二酸化炭素の排出量に悪影響を及ぼす。
【0014】
更に、インナーライナーは空気及びその中の湿気の拡散に対してカーカスを保護し、カーカス及び/又はベルトの強度付与エレメントの任意の損傷を防止する。また、インナーライナーが可能な限り気密性を示すには、気密性に影響を与えるであろう運転中の引裂を発生させない良好な耐引裂性及び耐疲労性を有するべきである。
【0015】
この特定の要件プロファイルが理由で、インナーライナー用のゴムコンパウンドは、使用されるゴム及び充填剤、並びに構成成分間の質量割合に関して、他のタイヤパーツ用のゴムコンパウンドとは完全に異なる組成を有しているが、なお、隣接するタイヤパーツに対する相容性がある必要があり、特に、それらに対する良好な接着性を有する必要がある。ゴムの種類以外に、ゴムコンパウンド中の異なるゴムの最小量も役割を果たし、使用可能な充填剤の様々な特定のパラメータ及び特性も役割を果たす。
【0016】
特に、クロロブチルゴム又はブロモブチルゴム等のハロブチルゴムが、場合によっては他のゴムとブレンドされて、インナーライナー用ゴムとして使用される。ブチルゴム及びハロブチルゴムは低いガス透過性を有する。ハロブチルゴムと例えば天然ゴム等の他のゴムとのブレンドは、組立中の粘着性を増加させ、コストを減少させ、機械特性を調整するという理由で行われる。
【0017】
低活性又は無活性の大量の充填剤を更に添加することで、インナーライナーのゴムコンパウンドの気密性を更に増加させることができる。これまで使用されている充填剤としてはファーネスカーボンブラックが特に挙げられる。
【0018】
動荷重下での亀裂の形成を防止するために、インナーライナーはバランスの取れた弾性率及び調和の取れた硬度を有さなければならないが、このことは通常、非活性充填剤の割合が高いことと矛盾する。したがって、多くの場合、鉱物油系軟化剤がゴム組成物に加えられ、これにより、組成物の弾性率及び硬度が減少するが、同時にガス透過性が再度増加し、このことで、使用される鉱物油系軟化剤及び充填剤の量の最適範囲が相対的に狭くなる。
【0019】
更に、多くの充填剤、例えばN 660型のカーボンブラックは約1.8g/cm3以上という相対的に高い密度を有する。したがって、これらの充填剤が配合されたゴム組成物は、やはり高い密度を有しており、したがって同じ容積でより大きな質量を有する。しかし、充填剤の密度が大きくなることで、インナーライナーの質量、最終的には空気入りタイヤの質量も大きくなり、したがって燃料消費量も多くなる。
【0020】
更に、工業用カーボンブラックは、炭化水素の不完全な燃焼又は熱分解によって石油化学的に生産される。しかし、環境的見地からは、充填剤の生産のための化石エネルギー源の使用を回避するか又は最小限に減少させなければならない。代わりに、目的は、バイオマスをベースとし、且つインナーライナーに関する多様な要件に適合する、配合用充填剤を提供することであるべきである。
【0021】
特に、一般的なタイヤにおける使用のためのゴム組成物の調製の分野において、WO 2017/085278 A1では、工業用カーボンブラックの代替となる充填剤としての、水熱炭化により変換されるリグニンであるいわゆるHTCリグニンの使用が開示されている。
【0022】
リグニンは、植物細胞壁に取り込まれることで植物細胞の木化を引き起こす、固体バイオポリマーである。したがって、それらは生物学的に再生する原料に含まれるものであり、水熱炭化形態で、ゴム組成物中の工業用カーボンブラックに対する環境に優しい代替品としての潜在的可能性を示す。
【0023】
しかし、インナーライナーに見られる組成物等の特定のゴム組成物中でのこれらの充填剤の使用は明確には記載されていない。このことは特に、反応性原子をしばしば有するインナーライナーゴムとHTCリグニンの反応性表面基とのありうる相互作用について知見がなく、また、それにより得られる加硫ゴムの特性がまったく研究されていないことが理由である。
【0024】
WO 2017/194346 A1では、空気入りタイヤコンポーネント用のゴムコンパウンドにおける、空気入りタイヤの硬化ゴム成分の剛性を増加させ、且つ特にフェノール樹脂を代替するための、HTCリグニンと例えばヘキサ(メトキシメチル)メラミン等のメチレンドナー化合物との併用、及び/又は、HTCリグニンとシラン系カップリング剤との併用も記載されている。WO 2017/194346において対処される目的の1つは、タイヤの転がり抵抗の減少である。天然ゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、及びポリイソプレンゴムが好適なゴム材料として挙げられている。WO 2017/194346 A1では、当該明細書に記載のゴムコンパウンドが空気入りタイヤのトレッド区域、サイドウォール、及びタイヤビードに好適であることが開示されている。インナーライナーの要件に適合するゴムコンパウンドは記載されていない。
【0025】
また、EP 3 470 457 A1では、車両タイヤ用の加硫性硫黄含有ゴムコンパウンドが開示されている。試験された溶媒重合スチレン-ブタジエンゴム(SSBR)に使用された充填剤は、様々な供給原料から得られ、金属ハロゲン化物の添加により生産され、最大で180m2/g超のBET表面積を示した、HTC石炭であった。これらのうち、90~140m2/gのBET表面積を有するHTC石炭が、表面粗さの向上及び表面機能性の最適化を示すと言われたことから、特に好ましいことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】WO 2017/085278 A1
【特許文献2】WO 2017/194346 A1
【特許文献3】EP 3 470 457 A1
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】「Determination of surface-accessible acidic hydroxyls and surface area of lignin by cation dye adsorption」(Bioresource Technology 169 (2014年) 80~87頁)
【非特許文献2】Rothemeyer and Sommer、「Kautschuk Technologie - Werkstoffe Verarbeitung Produkte」(第3改訂拡大版、2013年、1196~1197頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
したがって、技術の現状を概観したとき、空気入りタイヤのインナーライナーに好適であり、再生原料をベースとするカーボンブラックに代わる環境に優しい材料を充填剤として含み、且つ、特に気密性及び耐亀裂性に関する空気入りタイヤのインナーライナーの要件を満たして、カーボンブラック含有ゴム組成物よりも低い密度、並びに良好な耐引裂性及び耐引裂伝播性を好ましくは有する、加硫ゴム組成物を実現する、ゴム組成物又はゴムコンパウンドが特に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の基礎にある問題は、ゴム組成物であって、
ブロモブチルゴム及びクロロブチルゴムからなる群から選択される少なくとも1種のハロブチルゴムを含む、ゴム成分と、
少なくとも1種の充填剤F1を含む充填剤成分であり、充填剤F1が、
0.20~0.45Bq/g炭素の範囲の14C含有量;
無灰無水の充填剤に対して60質量%~85質量%の範囲の炭素含有量;
10m2/g充填剤~50m2/g充填剤の範囲のSTSA表面積; 及び
表面上の酸性ヒドロキシル基
を有する、充填剤成分と
を含み、ゴム組成物中のハロブチルゴムの割合が70~100phrである、ゴム組成物を提供することで解決することができた。
【0030】
本発明において使用されるphr(ゴム100質量部に対する質量部)の規格は、コンパウンドの調合に関してゴム業界において一般的に使用される量の規格である。個々の構成成分の質量部での添加量は、常に、コンパウンドに存在するすべてのゴムの総質量100質量部に対するものである。
【0031】
以下、このゴム組成物を本発明(the invention)に係るゴム組成物、又は本発明(the present invention)に係るゴム組成物とも呼ぶ。
【0032】
本発明は更に、本発明に係るゴム組成物と、酸化亜鉛及び/若しくは硫黄を含む加硫系とを含むか、又はそれらからなる、加硫性ゴム組成物に関する。
【0033】
以下、この加硫性ゴム組成物を本発明(the invention)に係る加硫性ゴム組成物、又は本発明(the present invention)に係る加硫性ゴム組成物とも呼ぶ。
【0034】
本発明のさらなる目的は、本発明に係るゴム組成物と、酸化亜鉛及び/又は硫黄を含む加硫系とを、空間的に分離された形態で含む、キットオブパーツである。
【0035】
以下、このキットオブパーツを本発明(the invention)に係るキットオブパーツ、又は本発明(the present invention)に係るキットオブパーツとも呼ぶ。
【0036】
本発明の別の目的は、本発明に係るゴム組成物及び本発明に係る加硫性ゴム組成物を調製するための方法であり、後者は、第1の段階において本発明に係るゴム組成物の構成成分を配合することでゴム組成物をベースコンパウンド(マスターバッチ)として調製し、第2の段階において加硫系の構成成分の混和を行うことによって得られる。
【0037】
これらの方法を、本発明に係るゴム組成物又は本発明に係る加硫性ゴム組成物を調製するための本発明に係る方法とも呼ぶ。
【0038】
本発明の別の目的は、本発明に係る加硫性ゴム組成物のさらなる加工のための方法であって、加硫性ゴム組成物をカレンダー加工、押出、又はいわゆるローラーヘッドプロセスによってウェブに成形する、方法である。
【0039】
この方法を、本発明(the invention)に係るさらなる加工のための方法、又は本発明(the present invention)に係るさらなる加工のための方法とも呼ぶ。
【0040】
本発明の別の目的は、空気入りタイヤを製造するための方法であって、本発明に係るさらなる加工方法とそれに続く、得られたウェブを空気入りタイヤのインナーライナーに定寸切断する工程を含み、こうして得られたインナーライナーを好ましくは空気入りタイヤのカーカスと共に加硫する、それに続く工程を含む、方法である。
【0041】
この方法を、空気入りタイヤを製造するための本発明(the invention)に係る方法、又は空気入りタイヤを製造するための本発明(the present invention)に係る方法とも呼ぶ。
【0042】
本発明の別の目的は、インナーライナー用ゴム組成物を調製するための本発明の文脈で好適な、上記で特徴付けられた充填剤の使用である。
【0043】
この使用を本発明(the invention)に係る使用、又は本発明(the present invention)に係る使用とも呼ぶ。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、ゴム組成物中でそれぞれ使用されるゴム組成物の構成成分、上記で言及した方法及び使用、並びに特に好適な方法順序を詳細に説明する。
【0045】
ゴム組成物
ゴム
本発明の文脈では、クロロブチルゴム(CIIR; クロロ-イソブテン-イソプレンゴム)及びブロモブチルゴム(BIIR; ブロモ-イソブテン-イソプレンゴム)からなる群から選択される1種又は複数のハロブチルゴムが使用される。
【0046】
ハロブチルゴムとはハロゲン化イソブテン-イソプレンゴムのことである。それらはブチルゴムのハロゲン化、特に臭素化及び/又は塩素化により得ることが可能である。
【0047】
一方、ブチルゴムはイソブテン単位で主に構成され、残りの部分はイソプレン単位である。特に好ましくは、イソブテン単位の割合は95~99.5mol%であり、イソプレン単位の割合は0.5~5mol%であり、いっそう特に好ましくは、イソブテン単位の割合は97~99.2mol%であり、イソプレン単位の割合は0.8~3mol%であり、イソブテン単位及びイソプレン単位の割合の合計は、好ましくは、ポリマーに含まれポリマーに重合されるモノマーの100mol%である。一般に、ブチルゴムは低いガス透過性及び水分透過性を有する。
【0048】
ブチルゴムは、イソプレン単位が重合されていることから、炭素-炭素二重結合を有しており、このことは加硫、並びにハロゲン、例えば特に塩素及び臭素での修飾の両方に役立つ。
【0049】
ハロゲンでの修飾(ハロゲン化)により得ることが可能なハロブチルゴムは、ブチルゴムよりも高い反応性を有し、したがってより広範な加硫の可能性、例えば特に天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR; イソブテンイソプレンゴム)、及びスチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の他のゴムとの同時加硫の可能性を有する。
【0050】
ハロブチルゴムのなかでも、炭素-塩素結合を有するクロロブチルゴムに比べて、ブロモブチルゴムの方が、炭素-臭素結合が弱いことから反応性が高く、これによりブロモブチルゴム用の加硫系の範囲がいっそう広くなる。ブロモブチルゴムはより速やかに加硫し、通常はより良好なジエンゴムに対する接着性を有する。
【0051】
本発明の文脈では、ハロブチルゴムのなかでもブロモブチルゴムが特に好ましい。
【0052】
しかし、ハロブチルゴム成分として1種又は複数のブロモブチルゴムと1種又は複数のクロロブチルゴムとのコンパウンドを使用することも可能である。ここで、ブロモブチルゴムは加硫速度を増加させる。
【0053】
本発明の文脈において好適なクロロブチルゴム(CIIR)は、好ましくは1.1~1.3質量%の塩素を含み、ブロモブチルゴム(BIIR)は、好ましくは1.9~2.1質量%の臭素を含む。これは約2mol%という反応性位置の割合に対応する。
【0054】
ハロブチルゴムの粘度は好ましくは35~55ムーニー単位(ML(1+8)、125℃)である。ブチルゴムとまったく同様に、製品は二次構成成分をほとんど含まない(ゴム割合>98.5)。ハロブチルゴムは好ましくは安定剤、特に安定剤としての立体障害フェノールを含む。
【0055】
本発明に係るゴム組成物は、ハロブチルゴム以外に、ハロブチルゴムとは異なる1種又は複数のさらなるゴムを含みうる。
【0056】
存在する場合、ハロブチルゴムとは異なるさらなるゴムとしては、天然ゴム、ブチルゴム、及びスチレン-ブタジエンゴムが特に好ましい。
【0057】
したがって、例えば、天然ゴムをハロブチルゴムに混和することで、他のゴム系タイヤコンポーネントに対する接着性を特に汎用ゴムに比べて増加させることができる。異なるゴムを架橋することで、個々のゴムの引張強度を超えうるように引張強度に関する相乗効果を作り出すことが可能になる。これは特に、酸化亜鉛、硫黄、及びチアゾール、例えばメルカプトベンゾチアゾールジスルフィド(MBTS)を含む加硫系の使用に関して当てはまる。他方で、加硫最終製品のガス透過性及び水分透過性は通常、天然ゴムの混和によって増加する。
【0058】
ハロブチルゴムに対するスチレン-ブタジエンゴムの混和は、天然ゴムの混和と同じようにして行われうるが、通常は後者に対する特別な利点を示さず、したがって通常は天然ゴムの使用がスチレン-ブタジエンゴムの使用よりも好ましい。
【0059】
ハロブチルゴムに最大30phr、好ましくは最大20phrのブチルゴムを混和することは、通常、加硫最終製品のガス透過性及び水分透過性に対してわずかな効果しか示さないか、効果を示さないが、所望である場合は、それにより加硫速度を減少させ、耐熱性を増加させることができる。
【0060】
ハロブチルゴムの総量は70~100phr、好ましくは80~100phr、特に好ましくは90~100phr、最も好ましくは100phrである。
【0061】
ゴムコンパウンドが100phr未満のハロブチルゴムを含む場合、含まれるゴムの総量が100phrになるように、少なくとも1種の他のゴム、好ましくは上記で言及した1種のゴムがゴム組成物に含まれる。
【0062】
このことは、ハロブチルゴムとは異なる他のゴムの量が0~30phr、好ましくは0~20phr、特に好ましくは0~10phr、いっそう特に好ましくは0phrであることを意味する。
【0063】
充填剤F1
0.20~0.45Bq/g炭素、好ましくは0.23~0.42Bq/g炭素の範囲の14C含有量;
無灰無水の充填剤に対して60質量%~85質量%、好ましくは63質量%~80質量%、特に好ましくは65質量%~75質量%、いっそう特に好ましくは68質量%~73質量%の範囲の炭素含有量;
10m2/g充填剤~50m2/g充填剤、好ましくは15m2/g充填剤~45m2/g充填剤、特に好ましくは20m2/g充填剤~40m2/g充填剤の範囲のSTSA表面積; 及び
表面上の酸性ヒドロキシル基
を有する、充填剤F1が、充填剤成分中で必ず使用される。
【0064】
以下、これらの充填剤F1を「本発明に従って使用する充填剤」又は「本発明に従って使用可能な充填剤」又は「本発明に従って使用される充填剤」と呼ぶ。
【0065】
上記で言及した所要の14C含有量は、バイオマスから得られる充填剤によって、さらなる処理又は反応、好ましくは分解によって実現され、分解は熱的、化学的、及び/又は生物学的に行うことができ、好ましくは熱的及び化学的に行われる。したがって、化石材料、例えば特に化石燃料から得られる充填剤は、対応する14C含有量を有さないことから、本発明に従って使用する充填剤の本発明による定義に該当しない。
【0066】
本発明において、バイオマスは原則として任意のバイオマスとして定義され、本発明における用語「バイオマス」はいわゆるフィトマス、すなわち植物に由来するバイオマス、ズーマス、すなわち動物に由来するバイオマス、及び微生物バイオマス、すなわち真菌を含む微生物に由来するバイオマスを含み、バイオマスは乾燥バイオマス又は新鮮バイオマスであり、死んだ生物又は生きている生物に由来する。
【0067】
充填剤の調製のために本発明において特に好ましいバイオマスはフィトマス、特に死んだフィトマスである。特に死んだフィトマスは死んだ植物、拒絶された植物、又は切り離された植物、及びそれらの一部分を含む。これらは例えば、砕けた葉及び裂けた葉、側枝、小枝及び大枝、落葉、倒木又は剪定木、並びに種子及び果実、並びにそれらに由来する部分を含むだけでなく、おがくず、木材くず/木材チップ、及び木材加工に由来する他の製品も含む。
【0068】
上記で言及した炭素含有量は、通常は充填剤によってバイオマスの分解に基づいて実現され、DIN 51732: 2014-7に準拠する元素分析によって確定可能である。
【0069】
好ましくは、充填剤は、無灰無水の充填剤に対して15質量%~30質量%、好ましくは17質量%~28質量%、特に好ましくは20質量%~25質量%の範囲の酸素含有量を有する。酸素含有量は、EuroVector S.p.A.社のEuroEA3000 CHNS-O分析計を例えば使用する高温熱分解によって確定可能である。
【0070】
更に、上記定義の種類の充填剤は表面に酸性ヒドロキシル基(いわゆる表面利用可能な酸性ヒドロキシル基)を有する。表面利用可能な酸性ヒドロキシル基の確定は、Sipponenに準拠する比色法によって定性的及び定量的に行うことができる。Sipponenに準拠する方法は、充填剤表面上の利用可能な酸性ヒドロキシル基に対するアルカリ性染料Azure Bの吸着に基づく。以下で言及される論文の項目2.9(82頁)において言及される条件下で対応する吸着が存在する場合、本発明の意味での表面利用可能な酸性ヒドロキシル基が存在する。さらなる詳細は論文「Determination of surface-accessible acidic hydroxyls and surface area of lignin by cation dye adsorption」(Bioresource Technology 169 (2014年) 80~87頁)から得ることができる。定量的確定においては、表面利用可能な酸性ヒドロキシル基の量はmmol/g充填剤で示される。好ましくは、表面利用可能な酸性ヒドロキシル基の量は0.05mmol/g~40mmol/g、特に好ましくは0.1mmol/g~30mmol/g、いっそう特に好ましくは0.15~30mmol/gの範囲である。好ましい表面利用可能な酸性ヒドロキシル基はフェノール性ヒドロキシル基である。
【0071】
バイオマス系充填剤の間の明らかな差はBET表面(Brunauer、Emmett、及びTellerに準拠する全比表面積)並びに外表面(STSA表面積; 統計的厚さ比表面積)にも存在する。
【0072】
例えば、WO 2017/085278 A1では、水熱炭化リグニン、すなわち、水熱処理により得られるリグニンを含む死んだフィトマスをベースとする充填剤における、5~200m2/gの範囲のSTSA表面積が記載されている。当該公開の実験の部では、わずか2.6m2/gのSTSA表面積しか有さない充填剤でさえ言及されている。
【0073】
14C含有量、炭素含有量及び酸素含有量、STSA表面積、並びに表面利用可能な酸性基に関して充填剤F1を特徴付けるすべての上記範囲は、本発明に従って使用するすべての充填剤F1、好ましくは、本発明においてはフィトマスから生産可能な好ましいクラスの充填剤となるリグニン系充填剤にも同等に当てはまる。
【0074】
Rothemeyer及びSommerは、教科書「Kautschuk Technologie - Werkstoffe Verarbeitung Produkte」(第3改訂拡大版、2013年、1196~1197頁)において、様々なゴムを3つの群、すなわち低い極性及び高い油中膨潤度を有するゴム、中程度の極性及び中程度の油中膨潤度を有するゴム、並びに高い極性及び低い油中膨潤度を有するゴムに分類している。ハロブチルゴムは、反応性があるにもかかわらず、低い極性を有する。
【0075】
したがって、本発明に従って使用する充填剤、特にリグニン系充填剤と、低い極性しか有さないハロブチルゴムとの相溶性が高いことは特に驚くべきことである。というのも、本発明に従って使用する充填剤が、表面利用可能な酸性ヒドロキシル基の含有量を特に理由として、通常の工業用カーボンブラックに比べて高い極性を有するからである。しかし、このことには、工業用カーボンブラックに比べて酸素含有量が高いことも寄与している。
【0076】
一方、リグニン系充填剤としては、水熱処理されるリグニン含有フィトマスが特に好ましい。好ましい処理は、液体水の存在下、150℃~250℃の温度での水熱処理である。当初のリグニンに比べて、通常、炭素含有量は増加し、酸素含有量は減少する。処理に好適な方法は例えばWO 2017/085278 A1に記載されている。以下、水熱処理で得られるリグニン系充填剤をHTCリグニンとも呼ぶ。以下、液体水の存在下、150℃~250℃の温度での水熱処理を水熱炭化とも呼ぶ。以下に記載のHTCリグニンは、本発明の文脈で使用される好ましい充填剤である。
【0077】
好ましくは、本発明に係るゴム組成物は、50~100phr、特に好ましくは55~85phr、いっそう特に好ましくは60~80phr、例えば65~75phrの上記で定義される本発明に従って使用する充填剤を含む。比較的高い特許請求される範囲のSTSA表面積を有する充填剤を使用する場合、充填剤の添加量を減少させることができ、これにより、STSA表面積に起因する質量低下及び補強特性を伴うインナーライナーが得られる。比較的低い特許請求される範囲のSTSA表面積を有する充填剤を使用する場合、充填剤の添加量を著しく増加させることができ、これによりガス透過性が減少し、耐引裂性が改善される。このとき、補強特性は、比較的大きいSTSA表面積を有する充填剤で補強されるゴム組成物のレベルには到達しない。
【0078】
HTCリグニン
HTCリグニンは、リグニン含有原料の水熱炭化によって得られるものであり、本発明に従って使用可能な特に好ましい充填剤F1となる。HTCリグニンの特性は広範囲にわたって変動しうる。例えば、異なるHTCリグニンはBET表面積及びSTSA表面積、灰分、pH、及び熱損失、並びに、密度及び粒径並びに表面利用可能な酸性ヒドロキシル基の量が異なる。
【0079】
本発明の文脈では、本発明に従って使用する充填剤としての特定のHTCリグニンは、インナーライナー用ゴム組成物に通常含まれるカーボンブラックの代替材料の役割を果たす。本発明に従って使用可能なHTCリグニンの調製は、例えばWO 2017/085278A1に記載されている。
【0080】
上記の文献WO 2017/085278 A1及びWO 2017/194346 A1では、タイヤにおけるカーボンブラックの可能な代替材料としてのHTCリグニンの使用が一般的に言及されているが、普通のゴム組成物中でのHTCリグニンの挙動が、より反応性の高いハロブチルゴムを含む本発明の特定のゴム組成物に容易に移行可能であると結論づけるべきではない。このことは、ハロブチルゴムをベースとするゴム組成物中でのそれらの使用について特に当てはまる。というのも、これらが普通のゴム組成物とは完全に異なる特性を有しており、また、ハロゲン原子、特に塩素原子及び特に臭素原子の反応性が高いことから、工業用カーボンブラックに比べて化学的に異なる表面及び組成を有する、本発明に従って使用可能な充填剤、特にHTCリグニンとの相互作用、更には反応が予想されなければならないからである。特に、表面利用可能な酸性ヒドロキシル基、好ましくはフェノール性ヒドロキシル基の存在に関する、工業用カーボンブラックと本発明において使用される充填剤との間の上記で既に言及した差によって、本発明に係るゴム組成物中で、相溶化剤の使用なしであっても、特にシラン化合物の使用なしであっても、驚くべきほどに良好な充填剤の取り込み性及び充填剤とゴム成分との相溶性が得られる。得られる加硫製品は驚くべきほどに良好な性能を有しており、インナーライナーに必要である極端に低いガス透過性等の決定的に重要な特性さえも改善されている。
【0081】
したがって、特定の充填剤を目的をもって選択することが、本発明に必要であった。これらのうち、HTCリグニンが、ゴム組成物の他の構成成分との優れた相溶性、及び以下に記載される特定の加硫系との相溶性を併せ持ち、また特に、所望のガスバリア性を可能にし、引裂の形成及び引裂の伝播を防止することから、特に好適であることがわかった。
【0082】
本発明に従って使用する充填剤、特に本発明において使用されるHTCリグニンは、インナーライナー中での使用に関する異なる特性の良好なバランスの調節を可能にする。したがって、それらは、応力値及び引裂強度によって表される良好な補強特性、高い破断点伸びを有し、また、ゴム中での充填剤粒子の良好な分散性を促進する。
【0083】
これを実現するには、本発明の文脈で使用される充填剤、特にHTCリグニンが、上記に示したSTSA表面積に加えて、15~50g/m2の範囲、好ましくは18~45g/m2の範囲、特に好ましくは20~40g/m2の範囲のBET表面積を有することが有利である。
【0084】
好ましくは、本発明に従って使用される充填剤、好ましくはHTCリグニンは、7超9未満のpH、特に好ましくは7.5超8.5未満のpHを有する。
【0085】
また、灰分及び熱損失は、これらの値が高すぎず、活性成分の内容量を減少させすぎない限りにおいて、わずかな影響しか示さないことがわかった。
【0086】
本出願の実験の部に示すように、本発明において使用される充填剤、特にHTCリグニンは、ゴム組成物、特にインナーライナーの製造用のゴム組成物の調製においてカーボンブラックを完全に代用する潜在的可能性を有している。このことは、本発明に係る好ましいゴム組成物が化石起源の材料に由来するカーボンブラックを含む必要がないことを意味する。
【0087】
これにより、カーボンブラックを使用して得られる同じ寸法の同等のインナーライナーに対して著しく低い質量、改善された空気保持能力、及び改善された耐亀裂性を有する、空気入りタイヤ用インナーライナーを製造することが特に可能になる。特に、空気保持能力の改善によって、タイヤの転がり抵抗を長期間にわたって最適レベルにすることが確実になり、したがって、タイヤを備え付けた車両のいっそう経済的な運転が可能になる。
【0088】
しかし、化石起源の材料に由来するカーボンブラックの一部のみを、本発明に従って使用可能な1種又は複数の充填剤、好ましくはHTCリグニンで置き換えることも可能である。利点はなお著しいが、その程度は低くなる。
【0089】
ゴム組成物の他の構成成分
他の充填剤F2
本発明に従って使用する上記の充填剤F1、好ましくはHTCリグニンF1以外にも、ゴム組成物は、F1とは異なる他の充填剤F2を含んでもよい。
【0090】
本発明に従って使用する充填剤F1、好ましくはHTCリグニンF1が、一般的な工業用カーボンブラックの部分的代替品の役割しか果たさない場合、本発明に係るゴム組成物は工業用カーボンブラック、特にASTMコードN660に基づいて汎用カーボンブラックとして分類されるファーネスカーボンブラックを含んでもよい。
【0091】
可能な充填剤F2としては、特に、粒径、粒子表面積、及び化学的性質が異なり、且つ加硫挙動に影響する潜在的可能性が様々である、無機充填剤がある。さらなる充填剤が含まれる場合、好ましくは、特にpH値に関して、本発明に係るゴム組成物中で使用される充填剤F1、特にHTCリグニンとできる限り同様の特性を有するべきである。
【0092】
他の充填剤F2が使用される場合、好ましくは層状ケイ酸塩、例えば粘土鉱物、例えばタルク; 炭酸塩、例えば炭酸カルシウム; ケイ酸塩、例えばケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、及びケイ酸アルミニウム; 並びに酸化物、例えば酸化マグネシウム及びシリカである。但し、本発明の文脈では、ここでの酸化亜鉛は加硫剤の役割を果たすことから、酸化亜鉛は充填剤に該当しない。しかし、酸化マグネシウムの量が多くなれば、例えば隣接するタイヤ層に対する接着性に悪影響が生じるおそれがあり、また、シリカが、いくつかの加硫系において使用されるチアゾール等の有機分子をその表面に結合させ、したがって有機分子の作用を阻害する傾向にあることから、追加の充填剤は慎重に選択されなければならない。
【0093】
無機充填剤、特に好ましくはSi-OH基を表面に有するシリカ及び他の充填剤は、表面処理されていてもよい。特に、オルガノシラン、例えばアルキルアルコキシシラン又はアミノアルキルアルコキシシラン又はメルカプトアルキルアルコキシシランによるシラン化が有利でありうる。アルコキシシラン基は、例えばケイ酸塩若しくはシリカの表面に、又は他の好適な基に加水分解縮合によって結合することができ、一方、例えばアミノ基及びチオール基は、ハロブチルゴムのハロゲン化イソプレン単位、特に臭素化イソプレン単位と反応しうる。これにより、本発明の加硫ゴム組成物の機械的補強を引き起こすことができる。
【0094】
シラン化充填剤の利用によって、最終加硫状態の実現を促進し、縁部の耐引裂性を増加させることができる。
【0095】
充填剤は個々に使用しても組み合わせで使用してもよい。
【0096】
好ましくは、本発明に従って使用される充填剤F1、特にHTCリグニンF1以外に、他の充填剤F2を使用しない。他の充填剤F2を使用する場合、好ましくは工業用カーボンブラック、特にファーネスカーボンブラックである。しかし、他の充填剤F2のなかでも特に層状ケイ酸塩、例えば粘土鉱物、例えばタルクが好ましい。
【0097】
他の充填剤F2を使用する場合、それらの割合は好ましくは40phr未満、特に好ましくは20~40phr、特に好ましくは25~35phrである。
【0098】
軟化剤
軟化剤の使用によって、非加硫ゴム組成物の特性、例えば特に加工性だけでなく、加硫ゴム組成物の特性、例えばとりわけ低温での可撓性にも影響を与えることが可能になる。
【0099】
本発明の文脈で特に好適な軟化剤は、パラフィン油(実質的に飽和した鎖状炭化水素)及びナフテン油(実質的に飽和した環状炭化水素)の群からの鉱物油である。芳香族炭化水素油の使用は可能だが、ハロブチルゴムに対する比較的劣った溶解挙動を示すことから、それほど有利ではない。しかし、タイヤ中の他のゴム含有コンポーネント、例えばカーカスに対するゴム組成物の接着性に関して、パラフィン油及び/又はナフテン油の混合物が軟化剤として有利でありうる。
【0100】
他の軟化剤としては、例えば脂肪族ジカルボン酸、例えばアジピン酸又はセバシン酸のエステル、パラフィンワックス、及びポリエチレンワックスがある。
【0101】
本発明の文脈では、軟化剤のなかでもパラフィン油及びナフテン油が特に好適である。
【0102】
好ましくは、軟化剤、なかでもいっそう特に好ましくはパラフィン油及び/又はナフテン油は0~15phr、好ましくは5~15phr、特に好ましくは7~13phrの量で使用される。
【0103】
接着強化樹脂(「粘着性付与樹脂」)
いわゆる接着強化樹脂を使用することで、他の隣接するタイヤコンポーネントに対する本発明の加硫ゴムコンパウンドの接着性を改善することができる。
【0104】
特に好ましい樹脂は、好ましくはフェノール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、及びフェノール-アセチレン樹脂からなる群からのフェノール系の樹脂である。
【0105】
フェノール系の樹脂以外にも、脂肪族炭化水素樹脂、例えばExxonMobil社のEscorez(商標)1102 RM、及び芳香族炭化水素樹脂を使用してもよい。脂肪族炭化水素樹脂はタイヤの他のゴム成分に対する接着性を特に改善する。それらは一般にフェノール系の樹脂よりも低い接着性を有しており、単独で、又はフェノール系の樹脂との混合物として使用可能である。
【0106】
接着強化樹脂を少しでも使用する場合は、フェノール系の樹脂、芳香族炭化水素樹脂、及び脂肪族炭化水素樹脂からなる群から選択される樹脂が好ましい。好ましくは、それらの割合は0~15phr又は1~15phr、特に好ましくは2~10phr、いっそう特に好ましくは3~8phrである。
【0107】
加硫を促進する添加剤
本発明に係るゴム組成物は、加硫を促進はするが、自ら加硫を開始することはできない、添加剤を含んでもよい。これらの添加剤としては、例えば加硫促進剤、例えば12~24個、好ましくは14~20個、特に好ましくは16~18個の炭素原子を有する飽和脂肪酸、例えばステアリン酸、及び上記脂肪酸の亜鉛塩が挙げられる。チアゾールもこれらの添加剤に属しうる。しかし、以下に記載の加硫系中でのみ加硫促進添加剤を使用することも可能である。
【0108】
加硫促進添加剤、特に上記脂肪酸及び/又はそれらの亜鉛塩、好ましくはステアリン酸及び/又はステアリン酸亜鉛を本発明に係るゴム組成物中で使用する場合、それらの割合は好ましくは0~5phr、特に好ましくは0.5~3phr、特に好ましくは1~2phrである。
【0109】
したがって、好ましくは、本発明に係るゴム組成物は、必須構成成分以外に
i. ハロブチルゴムとは異なるゴム、
ii. 本発明に従って使用する充填剤F1とは異なる充填剤F2、
iii. 軟化剤、
iv. 接着強化樹脂、及び
v. 加硫を促進する添加剤
からなる群から選択される1種又は複数の構成成分を含む。
【0110】
上記項目i.~v.に基づいて言及される1種又は複数の構成成分が含まれる場合、
i. 好ましくは、天然ゴム、ブチルゴム、及びスチレン-ブタジエンゴムからなる群から選択されるゴムであり、
ii. 好ましくは、カーボンブラック及び層状ケイ酸塩の群から選択される充填剤F2であり、
iii. 好ましくは脂肪族ジカルボン酸エステル、パラフィン油、及び/又はナフテン油であり、
iv. 脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、フェノール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、及びフェノール-アセチレン樹脂の群から選択される樹脂であり、
v. 12~24個の炭素原子を有する飽和脂肪酸、及びチアゾールの群から選択される添加剤である。
【0111】
成分i.~v.が含まれる場合は以下の量で含まれることが好ましい:
i. 0~30phr、特に好ましくは0~20phr、いっそう特に好ましくは0~10phr、又は0phr;
ii. 0~40phr、特に好ましくは20~40phr、いっそう特に好ましくは25~35phr;
iii. 0~15phr、特に好ましくは5~15phr、いっそう特に好ましくは7~13phr;
iv. 0~15phr、特に好ましくは2~10phr、いっそう特に好ましくは3~8phr;
v. 0~5phr、特に好ましくは0.5~3phr、いっそう特に好ましくは1~2phr。
【0112】
i.~v.に列挙される構成成分のうち、特に好ましくは構成成分iii.、iv.、及びv.のみ、又はiii.及びv.のみが、さらなる構成成分として、好ましくは上記の特に好ましい量及び/又はいっそう特に好ましい量で存在する。
【0113】
加硫性ゴム組成物
本発明の加硫性ゴム組成物は、本発明に係るゴム組成物と、その加硫に役立つ加硫系とを含む。
【0114】
加硫系
加硫系は、本発明のゴム組成物には含まれないが、それらの架橋を調節する追加の系として処理される。本発明に係るゴム組成物に加硫系を加えることで、やはり本発明に係る加硫性ゴム組成物が得られる。
【0115】
ハロブチルゴムをベースとする本発明のゴム組成物は、多種多様な異なる加硫系の使用を可能にする。塩素-炭素結合は炭素-炭素結合に比べて弱いが、特に臭素-炭素結合は、より速やかな加硫、及び汎用ゴムとのより良好な同時加硫を可能にする。
【0116】
本発明のゴム組成物の加硫は、好ましくは酸化亜鉛及び/又は硫黄を使用して行われる。
【0117】
以下に記載の好ましい変形において、加硫のために酸化亜鉛と異なる有機化合物との組み合わせが好ましく使用される。異なる添加剤によって、加硫挙動、及びこうして得られた加硫ゴムの特性が影響されうる。
【0118】
酸化亜鉛をベースとする加硫の第1の変形では、少量の12~24個、好ましくは14~20個、特に好ましくは16~18個の炭素原子を有する飽和脂肪酸、例えばステアリン酸及び/又はステアリン酸亜鉛が、加硫促進剤として酸化亜鉛に好ましく加えられる。これにより加硫速度が増加する。しかし、ほとんどの場合、加硫の最終グレードは上記脂肪酸の使用によって減少する。
【0119】
酸化亜鉛をベースとする加硫の第2の変形では、スコーチ時間を短縮するために、また、特別に安定した網目構造を形成することで加硫効率を改善するために、チウラムモノスルフィド及びチウラムジスルフィド等のいわゆるチウラム、並びに/又はジチオカルバメートが硫黄の非存在下で酸化亜鉛に加えられる。
【0120】
酸化亜鉛をベースとする加硫の第3の変形では、スコーチ時間を改変するために、特に加速するために、アルキルフェノールジスルフィドが酸化亜鉛に加えられる。
【0121】
酸化亜鉛をベースとする加硫の別の変形、すなわち第4の変形では、酸化亜鉛とポリメチロールフェノール樹脂及びそれらのハロゲン化誘導体との組み合わせが使用され、硫黄も硫黄含有化合物も使用されない。
【0122】
酸化亜鉛をベースとする加硫のさらなる第5の変形では、酸化亜鉛とチアゾール並びに/又はスルフェンアミド及び好ましくは硫黄との組み合わせによって加硫が行われる。チアゾール及びスルフェンアミドは、好ましくは2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、メルカプトベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、2-モルホリノ-チオベンゾチアゾール(MBS)、及びN-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)からなる群から選択される。これらの系に対する硫黄の添加は、加硫速度及び加硫の程度の両方を増加させるものであり、加硫プロセス中のゴム組成物の加工性に寄与する。ハロブチルゴムとは異なるゴム、特に上記で言及したゴムとの同時加硫も好ましい。好ましくは、この加硫系の使用によって、加硫状態であっても車両タイヤの他のコンポーネントに対する、特にカーカスのゴム組成物に対する良好な接着性を示す、耐熱性及び耐疲労性の加硫材料が得られる。特に有利な加硫系は、酸化亜鉛、チアゾール、例えば好ましくはメルカプトベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、及び硫黄を含む。第1の変形と第5の変形との組み合わせ、すなわち、酸化亜鉛、チアゾール、例えば好ましくはメルカプトベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、硫黄、並びにステアリン酸及び/又は場合によってはステアリン酸亜鉛を含む加硫系を使用することが特に好ましい。
【0123】
純硫黄加硫又は過酸化物加硫をベースとする加硫系はそれほど望ましくなく、後者は、特にブチルゴム又は他のゴムも使用する場合に分子の切断による分子量の望ましくない減少をもたらすおそれがある。
【0124】
本発明の文脈では、本発明に係るゴム組成物の加硫は特定の充填剤F1、好ましくは特定のHTCリグニンの存在下で行われる。本発明に係る加硫ゴム組成物の優れた特性、特にインナーライナーとしての適合性は、実質的に、好適なゴム成分と、特定の充填剤F1、とりわけ、好ましいHTCリグニン、及び酸化亜鉛をベースとする加硫系、好ましくは上記で第5の変形と呼ばれる変形の加硫系、いっそう好ましくは第1の変形と第5の変形との組み合わせの加硫系との組み合わせに基づいている。
【0125】
それ自体で加硫を開始することができない加硫系の成分が、本発明のゴム組成物に、「ゴム組成物の他の構成成分」として含まれてもよい。したがって、特にステアリン酸及び/若しくは場合によってはステアリン酸亜鉛並びに/又はチアゾール化合物が既にゴム組成物に存在し、完全な加硫系が酸化亜鉛及び硫黄を加えることでその場で形成されるということがありうる。
【0126】
キットオブパーツ
本発明に係るゴム組成物とそれらの加硫のために選択される架橋系との間に関係があることから、本発明はまた、本発明に係るゴム組成物と、加硫系、好ましくは酸化亜鉛及び/又は硫黄をベースとする加硫系とを含む、キットオブパーツに関する。キットオブパーツでは、本発明に係るゴム組成物と加硫系とは空間的に互いに分離されており、そのようにして保管可能である。キットオブパーツは加硫性ゴム組成物の調製に役立つ。例えば、キットオブパーツの1つの部分を構成する本発明に係るゴム組成物を、加硫性ゴム組成物を調製するための以下に記載の方法の工程1における部分(A)として使用することができ、キットオブパーツの第2の部分、すなわち加硫系を、該方法の工程2における部分(B)として使用することができる。
【0127】
好ましくは、キットオブパーツは、
部分(A)として、本発明に係るゴム組成物を含み、
部分(B)として、酸化亜鉛及び/又は硫黄を含む加硫系を含む。
【0128】
特に好ましくは、キットオブパーツは、
部分(A)として、本発明に係るゴム組成物を含み、
部分(B)として、酸化亜鉛、硫黄、及びチアゾールを含む加硫系を含み; 或いは、
部分(A)として、チアゾールを含む本発明に係るゴム組成物を含み、
部分(B)として、酸化亜鉛及び/又は硫黄を含む加硫系を含む。
【0129】
いっそう特に好ましくは、キットオブパーツは、
部分(A)として、本発明に係るゴム組成物を含み、
部分(B)として、酸化亜鉛、硫黄、チアゾール、並びにステアリン酸及び場合によってはステアリン酸亜鉛を含む加硫系を含み; 或いは、
部分(A)として、ステアリン酸及び場合によってはステアリン酸亜鉛を含む本発明に係るゴム組成物を含み、
部分(B)として、酸化亜鉛、硫黄、及びチアゾールを含む加硫系を含む。
【0130】
上記キットオブパーツ中の好ましいチアゾールはMBTSである。
【0131】
加硫性ゴム組成物が直接加硫可能になるように、本発明に係るゴム組成物の構成要素及び関連する加硫系の構成要素の両方を均一混合物中に既に含む加硫性ゴム組成物とは対照的に、キットオブパーツ中では、本発明に係るゴム組成物と加硫系とが空間的に分離されている。
【0132】
本発明において、キットオブパーツから得ることが可能な加硫性ゴム組成物を「環境に優しいコンパウンド」とも呼ぶ。それは以下の節で説明する2段階方法で得ることができる。
【0133】
本発明に係るゴム組成物及びそれに由来する加硫性ゴム組成物を調製するための方法
加硫性ゴムコンパウンドの調製は、好ましくは2段階で行われる。
【0134】
第1の段階では、本発明に係るゴム組成物の構成成分を配合することでゴム組成物をベースコンパウンド(マスターバッチ)として最初に調製する。第2の段階では、加硫系の構成成分を混和する。
【0135】
段階1
好ましくは、ハロブチルゴム及び場合によって使用される任意の追加のゴム、並びに場合によって使用される任意の接着強化樹脂を用意する。しかし、後者は他の添加剤と共に加えてもよい。好ましくは、ゴムは少なくとも室温(23℃)を有するか、又は50℃以下、好ましくは45℃以下、特に好ましくは40℃以下の温度に予め加熱した後に使用する。特に好ましくは、ゴムを短時間予め素練りした後、他の構成成分を加える。酸化マグネシウム等の阻害剤を引き続く加硫制御に使用する場合は、やはりこの時点で加えることが好ましい。
【0136】
続いて、本発明に従って使用する充填剤F1、好ましくはHTCリグニン、及び場合によっては他の充填剤を加えるが、好ましくは酸化亜鉛を例外とする。というのも、これは本発明に係るゴム組成物中の加硫系の構成成分として使用されるものであり、したがって本発明においては充填剤とは見なされないからである。本発明に従って使用する充填剤F1、好ましくはHTCリグニン、及び場合によっては他の充填剤の添加は、好ましくは徐々に行われる。
【0137】
有利には、しかし必ずしもそうではないが、軟化剤並びに他の構成成分、例えばステアリン酸及び/又はステアリン酸亜鉛は、使用する場合は、本発明に従って使用する充填剤F1、好ましくはHTCリグニン、又は他の充填剤の添加後にのみ加える。これにより、本発明に従って使用する充填剤F1、好ましくはHTCリグニン、及び存在する場合は他の充填剤の取り込みが容易になる。しかし、本発明に従って使用する充填剤F1、好ましくはHTCリグニン、又は存在する場合は他の充填剤の一部分を、場合によって使用される軟化剤及び任意の他の構成成分と共に組み込むことが有利でありうる。
【0138】
第1の段階におけるゴム組成物の調製中に得られる最高温度(「ダンプ温度」)は140℃を超えるべきではない。というのも、これらの温度を超えると反応性ハロブチルゴムの部分的分解の危険性があるからである。好ましくは、第1の段階のゴム組成物の調製中の最高温度は100℃~130℃、特に好ましくは105℃~120℃である。
【0139】
通常、本発明に係るゴム組成物の構成成分の混合は接線ローター又はメッシュ(すなわち、インターメッシュ)ローターを備えたインターナルミキサーによって行われる。通常、後者はより良好な温度制御を可能にする。しかし、混合は例えばダブルロールミキサーを使用して行ってもよい。
【0140】
ゴム組成物の調製後、第2の段階を行う前に冷却することが好ましい。この種のプロセスを熟成とも呼ぶ。通常の熟成期間は6~24時間、好ましくは12~24時間である。
【0141】
段階2
第2の段階では、加硫系の構成成分を第1の段階のゴム組成物に組み込み、それにより本発明に係る加硫性ゴム組成物を得る。
【0142】
酸化亜鉛をベースとする加硫系を加硫系として使用する場合、酸化亜鉛、及び他の構成成分、例えば特に硫黄、特に好ましくはチアゾールを段階2において加える。
【0143】
第2の段階におけるゴム組成物への加硫系の混和物の調製中に得られる最高温度(「ダンプ温度」)は好ましくは110℃を超えるべきではなく、特に好ましくは105℃を超えるべきではない。好ましい温度範囲は90℃~110℃、特に好ましくは95℃~105℃である。105~110℃を超える温度では早すぎる加硫が生じるおそれがある。
【0144】
段階2において加硫系を混和した後、組成物を冷却することが好ましい。
【0145】
したがって、上記の2段階方法では、第1の段階で本発明に係るゴム組成物を最初に得て、第2の段階で補充することで加硫性ゴム組成物、特にインナーライナー用加硫性ゴム組成物を形成する。
【0146】
本発明に係る加硫性ゴム組成物を更に加工するための方法
上記の2段階方法で得られる加硫性ゴム組成物をカレンダー加工、押出、又はローラーヘッドプロセスで更に加工することが好ましい。
【0147】
カレンダー加工
本発明の加硫性ゴム組成物を、第1の工程(a)において、例えば予熱ローリングミル及び下流供給ローリングミルを使用して、又は押出機を使用する押出プロセスで、カレンダーに供給することが好ましい。いずれの場合でも、加硫性ゴム組成物はカレンダーに供給される前に好ましくは65℃~85℃、特に好ましくは70℃~80℃の温度を有するべきである。
【0148】
第2の工程(b)では、カレンダー加工を行い、ここではカレンダーの好ましくは3つ又は4つのローラーの異なるローラー位置が可能である。好ましくは、カレンダー加工は4ロールZ形カレンダー(「傾斜Z形カレンダー」)又は4ロールL形カレンダー(「逆L形カレンダー」)によって行われる。ここで、冷却ピックアップロールは好ましくは75℃~85℃の温度を有し、一方、熱入れロール(warmer roll)は好ましくは85℃~95℃の温度を有する。
【0149】
カレンダー加工の後、カレンダー加工された加硫性ゴム組成物は第3の工程(c)においてカレンダー加工ウェブとしてカレンダーを出て、次の加工の前に好ましくは35℃未満の温度に冷却される。カレンダー加工ウェブがカレンダーを出るときに、いくつかのカレンダー加工ウェブを多層に統合することも可能である。統合プロセス中に望ましくない空気混入が生じないことを確実にするように注意を払わなければならない。
【0150】
3つの工程の後、第4の工程(d)においてカレンダー加工ウェブ、又は多層に統合されたカレンダー加工ウェブを少なくとも3時間、更に良好には少なくとも4時間、好ましくは少なくとも12~24時間保管することが有利である。この保管は、カレンダー加工ウェブの完全な冷却に役立ち、応力緩和を可能にする。
【0151】
カレンダー加工は20~35m/分、特に好ましくは25~30m/分の範囲のカレンダー加工速度で行われることが好ましい。
【0152】
押出
カレンダー加工以外に、押出によってインナーライナーを得ることも可能である。
【0153】
本発明の加硫性ゴム組成物を押出機に供給することを、第1の工程(a)において、例えばダブルロールミキサー又は他の好適な供給装置によって行うことが好ましい。ここで、加硫性ゴム組成物はカレンダーに供給される前に好ましくは65℃~85℃、特に好ましくは70℃~80℃の温度を有するべきである。
【0154】
押出の第2の段階(b)においては100℃の温度が得られることがある。したがって、スコーチングが起こらないことを確実にするように特別な注意を払わなければならない。
【0155】
押出の後、押出された加硫性ゴム組成物は第3の工程(c)においてウェブとして押出機を出て、次の加工の前に好ましくは35℃未満の温度に冷却される。ウェブが押出機を出る際に、複数のウェブを多層に統合してもよい。統合プロセス中に望ましくない空気混入が生じないことを確実にするように注意を払わなければならない。
【0156】
3つの工程の後、第4の工程(d)においてウェブ、又は多層に統合されたウェブを少なくとも3時間、更に良好には少なくとも4時間、好ましくは少なくとも12~24時間保管することが有利である。この保管は、ウェブの完全な冷却に役立ち、応力緩和を可能にする。
【0157】
ローラーヘッドプロセス
ローラーヘッドプロセスでは、先に記載した複数のローラーによるカレンダー加工とは対照的に、プリフォームヘッド付きの押出機から2ロール又は3ロールカレンダーのカレンダーニップにゴムコンパウンドを供給する。押出機それ自体に温かい又は冷たい供給原料を供給することができる。例えば、冷間供給ピン押出機を使用することができる。供給されるコンパウンドが、厚さ及び幅に関して、カレンダーされるウェブと合致する場合に、ローラーニップ(カレンダーニップ)に最適に供給することができ、これはプリフォームヘッド、及びその端部に装着される交換可能な成形ダイの選択により実現することができる。
【0158】
運転挙動に関しては、ローラーヘッドラインが押出機とカレンダーとの間にあり、ここで、比較的厚いウェブの製造における品質及び寸法には押出機ダイ中での均一な流動が決定的に重要であり、一方、比較的薄いウェブのためにはカレンダー加工挙動がより重要である。
【0159】
運転温度はこれらのプロセスに関して先に記載のカレンダー加工及び押出の範囲内である。
【0160】
カレンダー加工に関して既に記載のように、完成ウェブは、上記工程(c)に従ってカレンダーを出た後に冷却されなければならず、その後に上記工程(d)が続くことが好ましい。
【0161】
カレンダー加工されたか、押出されたか、又はローラーヘッドプロセスにより得られた加硫性ウェブは0.3~5mm、特に好ましくは0.4~4mm、いっそう特に好ましくは0.5~3mmの層厚を有する。これらの層厚の範囲はインナーライナーに典型的である。
【0162】
加硫ゴム組成物
上記の加硫性ゴム組成物から例えばやはりキットオブパーツを使用して得ることができる、加硫ゴム組成物も、本発明の目的である。
【0163】
加硫条件は、使用される加硫系に依存する。好適な加硫温度は、好ましくは140℃~200℃、特に好ましくは150℃~180℃である。
【0164】
好ましくは、加硫ゴム組成物は空気入りタイヤのインナーライナーである。
【0165】
加硫ゴム組成物の特性
本発明に係る加硫性ゴム組成物から得られる加硫ゴム組成物は、
(a) 50超~70未満、特に好ましくは52~65、いっそう特に好ましくは54~62の範囲のショアA硬度; 及び/又は
(b) 3.8MPa~10MPa、特に好ましくは4.5MPa~9MPa、いっそう特に好ましくは5.5MPa~8.5MPaの弾性率300; 及び/又は
(c) 0.950g/cm3~1.120g/cm3、特に好ましくは0.980g/cm3~1.110g/cm3、いっそう特に好ましくは1.050g/cm3~1.100g/cm3の密度; 及び/又は
(d) 3.9x10-17m2/Pas未満のガス透過性、特に好ましくは3.0x10-17m2/Pas~3.8x10-17m2/Pas、いっそう特に好ましくは3.2x10-17m2/Pas~3.7x10-17m2/Pas、例えば3.2x10-17m2/Pas~3.5x10-17m2/Pasのガス透過性を有することが好ましい。
【0166】
一般に、本発明に従って使用可能な充填剤F1、特にHTCリグニン、及び場合によっては他の充填剤の含有量が多くなるほど、通常はガス透過性が更に減少するが、コンパウンドの引裂強度及び引裂点伸びが犠牲になる。
【0167】
本発明に係る加硫性ゴム組成物でできたインナーライナーを含む空気入りタイヤを製造するための方法
上記方法により得ることができる加硫性ウェブは、使用まで好ましくはロールの形態で保管され、空気入りタイヤの製造におけるインナーライナー用材料の役割を果たす。この目的で、ウェブをドラム外周に沿って切断する必要があり、これは超音波ナイフ又は加熱可能な回転式円形ナイフを使用して可能であり、後者は好ましくはいわゆるロールオンアンドカット(roll-on-and-cut)プロセスで行われる。
【0168】
通常、インナーライナーは圧力下及び/又は加熱下でタイヤカーカス及び/又は他のタイヤコンポーネントと共に加硫される。
【0169】
好適な加硫温度は、好ましくは140℃~200℃、特に好ましくは150℃~180℃である。
【0170】
このプロセスは、例えば、プレスを閉じることでタイヤブランクが閉鎖鋳型に成形されるようにして行うことができる。この目的で、内側ベローズ(加熱ベローズ)もタイヤブランクに嵌合するように、ベローズを低圧(0.2bar未満)で加圧することができる。その後にプレス、そして鋳型が完全に閉じられる。ベローズ内の圧力が増加する(成形圧、通常は約1.8barに)。それにより輪郭、及びサイドウォールのラベリングがトレッドに刻み込まれる。次の加工工程において、プレスをロックし、型締力を印加する。型締力はプレスの種類及びタイヤのサイズに応じて変動するものであり、油圧シリンダーを使用して最大2500kNに到達しうる。閉鎖力を印加した後に、実際の加硫プロセスが開始する。ここで、鋳型が外からの蒸気で連続的に加熱され、温度は通常150℃~180℃に設定される。インナーミディアムでは、タイヤの種類に応じて広範に異なる変形が存在する。例えば、加熱ベローズの内側で蒸気又は熱水が使用される。内圧は乗用車タイヤ又はトラックタイヤ等のタイヤの種類に応じて変動し且つ異なりうる。
【0171】
本発明に関して本明細書で言及されるすべての測定される量は、実験の部で言及される手順に従って確定される。
【0172】
本発明に従って使用する充填剤F1、特にHTCリグニンの使用
本出願の別の目的は、インナーライナー、特に空気入りタイヤ用インナーライナー、特に車両向け空気入りタイヤ用インナーライナー用のゴム組成物の調製のための充填剤としての、本発明に係るゴム組成物に関連して上記で定義される充填剤F1、好ましくはHTCリグニンの使用である。
【0173】
以下、本発明をいくつかの実施例を参照して例示する。
【実施例
【0174】
ゴム組成物、非加硫ゴム組成物、及び加硫ゴム組成物の構成成分を、以下で更に詳細に説明する様々な試験手順に供した。
【0175】
充填剤(HTCリグニン又はカーボンブラック)の特性評価
質量に関連する表面(BET表面及びSTSA表面)
HTCリグニンの比表面積を、工業用カーボンブラックについて適用されるASTM D 6556(2019-01-01)規格に準拠する窒素吸着により確定した。この規格に従ってBET表面積(Brunauer、Emmett、及びTellerに準拠する全比表面積)並びに外表面積(STSA表面積; 統計的厚さ比表面積)を以下のように確定した。
【0176】
測定前に、分析される試料を105℃で乾燥物含有量97.5質量%以上に乾燥させた。更に、測定用セルを乾燥オーブン中、105℃で数時間乾燥させた後、試料を量り取った。次に漏斗を使用して試料を測定用セルに充填した。充填中に測定用セルの上部軸が汚染する場合、好適なブラシ又はパイプクリーナーを使用して洗浄した。強力に飛散する材料(静電材料)の場合、グラスウールを更に試料に量り入れた。グラスウールは、ベークアウトプロセス中に飛散して装置を汚染するおそれがある任意の材料を保持するために使用された。
【0177】
分析される試料を150℃で2時間ベークアウトし、Al2O3標準物質を350℃で1時間ベークアウトした。
【0178】
圧力範囲に応じて、以下のN2添加量を確定に使用した:
p/p0 = 0~0.01: N2添加量: 5ml/g
p/p0 = 0.01~0.5: N2添加量: 4ml/g
【0179】
BETを確定するために、外挿を少なくとも6つの測定点によってp/p0 = 0.05~0.3の範囲で行った。STSAを確定するために、外挿を少なくとも7つの測定点によってt = 0.4~0.63nmの吸着N2の層厚(p/p0 = 0.2~0.5に対応)の範囲で行った。
【0180】
灰分の確定
試料の無水灰分をDIN 51719規格に準拠する熱重量分析によって以下のように確定した。量り取る前に、試料を粉砕又は乳鉢粉砕した。灰分確定の前に、量り入れた材料の乾燥物含有量を確定する。試料材料をるつぼに0.1mg単位まで正確に量り入れた。試料を含む炉を加熱速度9°K/分で目標温度815℃に加熱した後、この温度に2時間保持した。次に炉を300℃に冷却した後、試料を取り出した。試料をデシケーター中で周囲温度に冷却し、再度量り入れた。残留する灰を初期質量に相関させ、そこで灰の質量パーセントを確定した。各試料について三つ組の確定を行い、平均値を報告した。
【0181】
pH値の確定
以下に記載のASTM D 1512規格に従ってpHを確定した。乾燥試料を、まだ粉末形態でない場合、粉末に乳鉢粉砕又は粉砕した。いずれの場合でも、試料5g及び完全脱イオン水50gをガラスビーカーに量り入れた。懸濁液を、加熱機能及び撹拌ノミを備えたマグネチックスターラーを使用して一定に撹拌しながら60℃の温度に加熱し、温度を60℃に30分間維持した。続いて、混合物を撹拌しながら冷却することができるように、撹拌機の加熱機能を無効にした。冷却後、完全脱イオン水を再度加えることで蒸発水を補い、5分間再度撹拌した。懸濁液のpH値を較正済みの測定機器によって確定した。懸濁液の温度は23℃(±0.5℃)とすべきである。各試料について二つ組の確定を行い、平均値を報告した。
【0182】
熱損失の確定
以下に記載のASTM D 1509に従って試料の熱損失を確定した。この目的で、Sartorius社のMA100水分天秤を乾燥温度125℃に加熱した。乾燥試料を、まだ粉末形態でない場合、粉末に乳鉢粉砕又は粉砕した。測定される約2gの試料を水分天秤内の好適なアルミニウムパンに量り取って載せた後、測定を開始した。試料の質量が1mgを超えて30秒間変化しなくなると直ちに、この質量が一定であると見なして測定を終了した。ここで、熱損失は、質量%で示される試料の含水量に対応している。各試料について少なくとも1回の二つ組確定を行った。加重平均値を報告した。
【0183】
かさ密度の確定
以下に記載のISO 697に従って試料のかさ密度を確定した。かさ密度の確定用のDIN ISO 60に準拠する標準的ビーカー(容量100ml)を、溢れ出たものを集める皿の中に置いた。漏斗及びショベルを使用してビーカーが溢れるまで満たした。余りをビーカーの輪郭に沿ってショベルのまっすぐな縁で掻き落とした。ビーカーの外側を乾いた布で拭いた後、0.1gの精度で量り取った。
【0184】
表面上の利用可能な酸性ヒドロキシル基(OH基密度)の確定
表面上の利用可能な酸性ヒドロキシル基の確定を、Sipponenに準拠する比色法によって定性的及び定量的に行った。Sipponenに準拠する方法は、充填剤表面上の利用可能な酸性ヒドロキシル基に対するアルカリ性染料Azure Bの吸着に基づくものであり、論文「Determination of surface-accessible acidic hydroxyls and surface area of lignin by cation dye adsorption」(Bioresource Technology 169 (2014年) 80~87頁)に詳述されている。表面利用可能な酸性ヒドロキシル基の量はmmol/g充填剤で示される。充填剤がどのようにして得られたかにかかわらず、プロセスはリグニン系充填剤だけでなく、例えば比較用のカーボンブラックN660にも適用された。
【0185】
14C含有量の確定
14C含有量(生物ベースの炭素の含有量)の確定は、DIN EN 16640:2017-08に準拠する放射性炭素法によって行うことができる。
【0186】
炭素含有量の確定
炭素含有量は、DIN 51732:2014-7に準拠する元素分析によって確定することができる。
【0187】
酸素含有量の確定
酸素含有量は、EuroVector S.p.A.社のEuroEA3000 CHNS-O分析計を使用する高温熱分解によって確定可能である。
【0188】
加硫性ゴム組成物(「環境に優しいコンパウンド」)の特性評価
反応動態/加硫動態の確定
非加硫ゴムコンパウンド(「環境に優しいコンパウンド」)の反応動態を、レオメーターMDR 3000 Professional(ドイツ・ブーヒェン、MonTech Werkstoffprufmaschinen GmbH社)によって、DIN 53529 Tl 3(捩り剪断ローターなしの加硫試験機)に従ってトルク[dNm]の時間経過を確定することで確定した。レオメーターの上側及び下側ロータープレートを160℃に加熱した。非加硫ゴム組成物5.5g±0.5gをシートの中心からはさみで切り抜いた。ここでは、切り抜きが正方形の区域となること、及び、この区域の対角線がレオメーターのローターの直径に対応することを確実にするように注意を払った。非加硫ゴム組成物をレオメーターのローターに置く前に、切り抜きの上部及び下部をフィルムで覆った。非加硫試料を挿入した直後に測定を開始した。
【0189】
最小トルク及び最大トルク(ML、MH)を160℃で30分の試験段階(0.5°arc、1.67Hz)内の測定曲線から確定し、差Δ(MH-ML)をそこから計算した。
【0190】
更に、各測定曲線について、最小トルクMLを最大トルクMHの0%として規定し、最大トルクMHを100%として正規化した。続いて、最小トルクMLの時点から始まるトルクが最大トルクMHのそれぞれ2%、10%、50%、及び90%に到達するまでの期間を確定した。これらの期間をT2、T10、T50、及びT90と称した。
【0191】
加硫ゴム組成物の特性評価
ショアA硬度の確定
加硫ゴム組成物のショアA硬度の確定を、ISO 7619-1に従って、Sauter GmbH社のデジタルショア硬度試験機を使用して行った。各測定の前に、機器を付属の較正プレートによって較正した。硬度の測定においては、DIN 53504に準拠する引張試験を行うために穴を開けた3つのS2バーを互いの上に置いた。硬度測定をスタック上の5つの異なる位置において行った。加硫ゴム組成物のショアA硬度は5つの測定値の平均値を表す。加硫と試験との間に、試料を実験室中、室温で少なくとも16時間保管した。
【0192】
加硫ゴム組成物の密度の確定
加硫ゴム組成物の密度の確定をDIN EN ISO 1183-1: 2018-04(非発泡プラスチックの密度を確定するための方法)の方法A(浸漬法)に従って行った。エタノールを浸漬媒体として使用した。加硫ゴム組成物の密度は三重確定の平均値を表す。加硫と試験との間に、試料を実験室中、室温で少なくとも16時間保管した。
【0193】
ガス透過性の確定
加硫ゴム組成物のガス透過性の確定をISO 15105に従って行った。測定を70℃で行った。ガス透過性は3つの測定値の平均値を表す。加硫と試験との間に、試料を実験室中、室温で少なくとも16時間保管した。
【0194】
引裂強度、引裂点伸び、及び応力値(弾性率)の確定
引張試験を使用して、予備負荷なしの試験片に関して引裂強度、引裂点伸び、及び応力値を確定する。引張試験では、試験片を一定のひずみ速度下で引裂まで伸長させ、このことに必要な力及び長さ変化を記録する。
【0195】
引裂強度
引裂強度σRは、引裂の瞬間に測定される力FRと、試料本体の初期断面積A0との商である。
【0196】
引張強度
引張強度σmaxは、測定される最大力Fmaxと、試料本体の初期断面積A0との商である。エラストマーでは、引裂時に生じる力FRは一般に最大力Fmaxでもある。
【0197】
引裂点伸び
引裂点伸びεRは、引裂の瞬間に測定される長さ変化LR - L0と、試料本体の当初測定される長さL0との商である。それはパーセントで表される。使用される試料バーにおいて、L0は2つの測定マーク間の指定の距離である。
【0198】
応力値
応力値σiは、初期断面積A0に関して、一定の伸びに到達する時点で存在する引張力Fiである。試料バーにおいては、ひずみは当初測定される長さL0、すなわち測定マーク間の指定の距離に関する。
【0199】
加硫ゴム組成物の引張強度、引裂点伸び、及び応力値の確定を、ISO 37に従って、Gibitre Instruments社のTensor Check型試験機器を使用して行った。加硫と試験との間に、試料を実験室中、室温で少なくとも16時間保管した。弾性率を確定するために、ISO 37(ロッド型S2)に列挙された試験片寸法で加硫ゴム組成物から少なくとも5つのダンベル状試験試料を打ち抜いた。試料本体の厚さを、Kafer Messuhren社の較正済みの厚さ計を使用して確定した。これは架橋部分上の異なる位置で取得された3つの測定値の平均値を表す。引張試験中のクロスヘッド速度は200mm/分とした。引張強度、破断点伸び、及び応力値(弾性率100、200、300)について記載される測定値は5つの測定値の平均値である。
【0200】
調製例
本発明に従って使用可能なHTCリグニンの調製
異なる特性、特に異なるBET表面積及びSTSA表面積並びにOH基密度を有する2種のHTCリグニンを調製した。HTCリグニンA及びBをWO 2017/085278に記載のHCTリグニンと類似的に調製した。
【0201】
HTCリグニンA及びBを表1に示すように特性評価することができた。特性評価の結果を市販のASTM規格による工業用カーボンブラックN660(Lehmann and Voss社から入手可能)と比較した。
【0202】
【表1】
【0203】
異なるゴム組成物の調製(段階1)
ThermoFischer社のBanburyローターを備えたHaake Rheomix 3000 Sミキサー中で、以下のようにゴム組成物(ベースコンパウンド; マスターバッチ)を表2に示す構成成分及び量で調製した。
【0204】
混合を開始する前に、混合室を40℃に加熱した。いずれの場合でも、混合室の充填レベルが70%になるように構成成分の量を計算した。すべての構成成分をKern社のスケール上で予め量り取った。ローター(50rpm)を起動した後、混合室にゴムを添加し、混合室に通じる充填装置を空気圧でロックし、混合を総混合時間1分まで行った。その後、混合室の充填装置を開き、充填量の3分の1を加え、混合室を再度閉鎖し、混合を総混合時間2分まで行った。次に、混合室の充填装置を開き、充填量の6分の1、続いて油量の2分の1、続いて充填量の6分の1を加え、混合室を再度閉鎖し、混合を総混合時間4分まで行った。次に、混合室の充填装置を開き、充填量の6分の1、続いて油量の2分の1、続いて充填量の6分の1及び添加剤を加え、混合室を再度閉鎖し、混合を総混合時間6分まで行った。総混合時間6分及び8分の後にそれぞれ混合室に通気した。速度を調節することで射出温度を制御した。総混合時間10分の後に射出を行い、コンパウンドの温度を測定した。
【0205】
混合プロセスの後、コンパウンドをミキサーから取り出し、冷却し、実験用ローリングミルにて中間ニップ幅で均質化した。この目的で、最初にコンパウンドをローラーニップに1回通し、得られたコンパウンドシートを「人形」状に巻き付け、頭上からローラーニップに6回浸した。次にシートを冷却台に置いて、シートが室温に到達するまで冷却した。
【0206】
【表2】
【0207】
比較例V1は、工業用カーボンブラックN660がこの例で使用されたという点で、本発明に係る実施例B1~B4と異なっている。本発明に係る実施例B1及びB3では、容積に関してカーボンブラックN660と等しい量のHTCリグニンを使用した。実施例B2及びB4では、質量に関してカーボンブラックN660と等しい量のHTCリグニンを使用した。
【0208】
加硫性ゴム組成物の調製(段階2)
本発明に係る実施例B1~B4の加硫性の「環境に優しいコンパウンド」を、各ゴム組成物について、酸化亜鉛5phr、硫黄1.5phr、及びメルカプトベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)1.25phr(phr = ゴム塊100質量部に対する質量部)からなる加硫系を混和することで調製した。比較例V1では、酸化亜鉛は工程1において既に加えられていた。
【0209】
第一に、冷却したコンパウンドシートをストリップに切り出し、加硫用化学物質を量り取った。ローター(50rpm)を混合室温度40℃で起動した後、シートを混合室に供給し、混合室への充填装置を空気圧でロックし、混合を総混合時間2分まで行った。続いて、混合室への充填装置を開放し、加硫用化学物質を加え、混合室への充填装置を空気圧でロックし、混合を総混合時間5分まで行った。速度を調節することで射出温度を制御した。総混合時間5分の後に射出を行い、コンパウンドの温度を測定した。
【0210】
混合プロセスの後、コンパウンドをミキサーから取り出し、冷却し、実験用ローリングミルにて中間ニップ幅で均質化した。この目的で、最初に混合物をローラーニップに1回通し、得られたコンパウンドシートを「人形」状に巻き付け、頭上からローラーニップに6回浸した。次にシートを冷却台に置いて、シートが室温に到達するまで冷却した。
【0211】
これから加硫性組成物V1g及びB1g~B4gを得た。「g」は「環境に優しいコンパウンド」を表し、残りの呼称は比較例V1及び実施例B1~B4に対応する。
【0212】
加硫ゴム組成物の調製
加硫性ゴム組成物V1g及びB1g~B4gから、加硫プロセスにおける160℃での加硫によって、加硫性の環境に優しいコンパウンドV1g及びB1g~B4gに対応する完全に加硫した試験試料V1v及びB1v~B4vを得た。実験用ローラーのニップ幅を連続的に減少させることで、コンパウンドシートをしわ無しで厚さ3mmに圧延した。次に、このシートから寸法250x250mmの正方形をはさみで切り出し、プレス(Gibitre Instruments S.R.L.社の加硫プレス、厚さ2mmの試験プレート用の鋳型が組み込まれる)に移した。設定される加硫時間は、レオメーター試験において確定されるt90時間にプラスしてシートの厚さ1ミリメートル当たり1分(すなわち2mm枠を使用する場合はプラス2分)から得られる。プレス時間が経過した直後に加硫ゴムマットを取り外した。マットを冷却のために冷却台に置いた。冷却後、突出した縁部をはさみで慎重に切り落とした。
【0213】
試験結果
表3では、加硫性ゴム組成物V1g及びB1g~B4gの反応動態/加硫動態に関する試験結果を報告する。
【0214】
【表3】
【0215】
表3からわかるように、コンパウンドB1g~B4gではスコーチングが遅延し、これにより加工性が改善される。完全加硫時間は著しく延長される。このことは、インナーライナーにおいて使用される場合には欠点とはならない。というのも、このコンポーネントが、加熱ベローズが発する温度と直接接触し、それにより完全に加硫するからである。しかし、ステアリン酸亜鉛(1~2phr)を使用することで、反応動態を制御して相応に速くすることが可能である。しかし、そこで酸化亜鉛の添加量を調整しなければならない。
【0216】
表4は、加硫試験試料本体について得られた測定値を示す。
【0217】
【表4】
【0218】
表4からわかるように、HTCリグニンを使用する際に、物理特性の値の良好なレベルを実現することができる。補強特性は、充填の程度(同じ質量添加量又は同じ容積添加量)によっては基準コンパウンドのレベルにある補強指数を示す。弾性率はBET表面積及び添加量に応じて調整可能であり、これにより様々な物理特性を具体的に最適化することができる。これらの調整にもかかわらず、B1v~B4vコンパウンドの密度は著しく低くなる。HTCリグニンの添加量が「等容積」を超えるとすぐに、ガス透過性も改善される。したがって、HTCリグニンによって、低い密度、低い透過性、高い破断点伸び、及び良好な耐亀裂性を調整することが可能になる。ここで、実施例B1v(BET = 20m2/gを有するHTCリグニン)は低い密度、高い破断点伸び、及び減少したガス透過性の組み合わせを示す。
【国際調査報告】