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特表2023-541822微生物の迅速なハイスループット識別のためのマイクロ流体デバイスおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(54)【発明の名称】微生物の迅速なハイスループット識別のためのマイクロ流体デバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230927BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515106
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 US2021050600
(87)【国際公開番号】W WO2022060937
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】63/079,929
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521502872
【氏名又は名称】シトロジーン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100088029
【弁理士】
【氏名又は名称】保科 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】ホースエイニ,エス.,アッバース
(72)【発明者】
【氏名】カルバラシ,マーサ
(72)【発明者】
【氏名】トルク,アミア
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA01
4B029GB06
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QS12
4B063QS24
4B063QS40
4B063QX01
(57)【要約】

【課題】サンプリングデバイス内の微生物を迅速に検出するための装置および方法を提供する。
【解決手段】
サンプリングデバイスには複数の反応室があり、それらの各反応室には反応剤がある。反応剤は、微生物との反応により、その反応室に微生物が存在することを示す。グラバーがサンプリングデバイスを保持し、そのグラバーには作動ステージが連結され、サンプリングデバイスを平面内で動かすようになっている。検出器は、複数の反応室のそれぞれを検出し、反応室の中に微生物が存在するかを検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリングデバイス内の微生物を検出するための装置であって、前記サンプリングデバイスは、複数の反応室をもち、各反応室には反応剤があり、その反応剤は前記微生物と反応し、前記反応室内に微生物が存在することを示す、装置において、
次の各構成を備える、検出装置。
・前記サンプリングデバイスを保持するグラバー
・前記グラバーに連結され、前記サンプリングデバイスを平面に動かす作動ステージ
・複数の前記反応室のそれぞれを検出し、前記反応室内に微生物が存在するかを検出する検出器
【請求項2】
前記サンプリングデバイスは、中央孔をもつ回転ディスクであり、そして、前記グラバーは、その中央孔にかみ合い、前記回転ディスクを保持し、かつ回転する構成である、サンプリングデバイス内の微生物を検出するための請求項1の装置。
【請求項3】
前記検出器は、前記反応室内の微生物の存在を検出する分光計である、サンプリングデバイス内の微生物を検出するための請求項1の装置。
【請求項4】
前記検出器は、前記サンプリングデバイスの一側に光源、そして、前記サンプリングデバイスの他側に分光計をそれぞれ備え、それにより、前記反応室内に微生物が存在するかを検出する、サンプリングデバイス内の微生物を検出するための請求項1の装置。
【請求項5】
前記検出器は、前記反応室を照射し、反応剤と微生物との間の反応を指示する光源と、前記反応室内の微生物の存在を示す蛍光放射を検出する分光計とを備える、サンプリングデバイス内の微生物を検出するための請求項1の装置。
【請求項6】
前記サンプリングデバイスに反応剤を導入するための複数の容器をもつカートリッジを備える、サンプリングデバイス内の微生物を検出するための請求項1の装置。
【請求項7】
前記サンプリングデバイスにサンプルを導入するための複数の容器をもつカートリッジを備える、サンプリングデバイス内の微生物を検出するための請求項1の装置。
【請求項8】
患者サンプルから微生物の存在を検出するためのマイクロ流路サンプリングデバイスであって、次の各構成を備えるマイクロ流路サンプリングデバイス。
・前記患者サンプルおよび反応剤を受け入れる入り口をもつサンプル本体
・前記入り口から前記患者サンプルおよび反応剤を入れるレザーバ
・前記レザーバから反応室へと前記患者サンプルおよび前記反応剤を移すマイクロ流路
・前記マイクロ流路は、前記患者サンプルおよび前記反応剤を、前記反応室に入れる前に混合する通路をもつこと
・前記反応室は、前記反応室内の微生物の存在を検出可能にするために透明であること
【請求項9】
前記サンプル本体が回転ディスクである、請求項8のマイクロ流路サンプリングデバイス。
【請求項10】
前記マイクロ流路は、前記サンプル本体の回転に応じて、患者サンプルおよび前記反応剤を前記レザーバから前記反応室へ移動する、請求項8のマイクロ流路サンプリングデバイス。
【請求項11】
前記マイクロ流路は、患者サンプルおよび前記反応剤に対し特別な抵抗を与え、患者サンプルと前記反応剤とを混合する制限的な通路をもつ、請求項8のマイクロ流路サンプリングデバイス。
【請求項12】
前記マイクロ流路は、患者サンプルおよび前記反応剤に対し特別な抵抗を与え、患者サンプルと前記反応剤とを混合する、サイホン弁を含む制限的な通路をもつ、請求項8のマイクロ流路サンプリングデバイス。
【請求項13】
前記マイクロ流路は、サイホン弁を経由して反応室に接続し、それにより、逆流を防止する、請求項8のマイクロ流路サンプリングデバイス。
【請求項14】
前記マイクロ流路は、前記反応室から通気流路を通してエアが抜ける、請求項8のマイクロ流路サンプリングデバイス。
【請求項15】
患者サンプルから新型コロナウイルスの存在を検出するためのマイクロ流路サンプリングデバイスであって、次の各構成を備えるマイクロ流路サンプリングデバイス。
・複数の入り口と内部領域とがあり、前記患者サンプルを入れる回転ディスク
・前記複数の入り口から前記臨床サンプルおよび前記反応剤を入れる、複数のレザーバ
・前記回転ディスクの外周にある複数の反応室
・下部およびカバー層上にあり、反応室の全てを同時に部分的に加熱する、透明でパターン化された特定の電極
・前記複数のレザーバのそれぞれから前記複数の反応室へと前記患者サンプルおよび前記反応剤を移す混合流路
・前記マイクロ流路のそれぞれが、前記患者サンプルのそれぞれを、前記反応室に入れる前に前記反応剤と混合する制限的な通路をもつこと
・前記反応室は、前記反応室内の新型コロナウイルスの存在を検出可能にするために透明であること
【請求項16】
前記回転本体は、ガラスあるいは熱可塑性樹脂製である、請求項15の新型コロナウイルスの存在を検出するためのマイクロ流路サンプリングデバイス。
【請求項17】
次の各工程を備える、患者サンプルから新型コロナウイルスの存在を検出するための迅速な検出方法。
・プリロードしたレザーバに反応剤を入れる工程
・そのレザーバに患者サンプルを入れる工程
・前後回転の動きで前記患者サンプルおよび前記反応剤を揺動する工程
・マイクロ流路を通して混合した前記患者サンプルおよび反応剤を反応室に移す工程
・前記反応室内の前記患者サンプルおよび反応剤を加熱する工程
・前記反応室内の新型コロナウイルスの存在を検出する工程
【請求項18】
前記患者サンプルおよび反応剤を移す工程は、前記レザーバを回転し、遠心力を作り出すことを含む、請求項17の新型コロナウイルスの存在を検出するための方法。
【請求項19】
次の各工程を備える、患者サンプルから微生物の存在を検出するための迅速な検出方法。
・レザーバに患者サンプルを入れる工程
・そのレザーバに反応剤を入れる工程
・前後回転の動きで前記患者サンプルおよび前記反応剤を揺動し、前記患者サンプルと前記反応剤とを混合する工程
・前記患者サンプルおよび前記反応剤を反応室に移す工程
・ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のために、前記反応室内の前記患者サンプルおよび前記反応剤を熱サイクル処理する工程
・前記反応室内の感染性微生物の存在を検出する工程
【請求項20】
前記患者サンプルおよび反応剤を移す工程は、前記レザーバを回転し、遠心力を作り出すことを含む、請求項19の微生物の存在を検出するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医学診断の分野の技術に関し、より詳しくは、すべての実験ステップを管理し、単一のサンプル本体中の微生物、たとえば新型コロナウイルス(Covid-19)や他の感染性の病原体を検出するためのマイクロ流体デバイスの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスの世界的な流行に伴って、信頼性が高く、安価で使用しやすい診断デバイスが求められる。現在、主要な出入国港では新型コロナウイルスの検査を行う試みがなされ、また、ヨーロッパやアメリカの会社の中には、従業員に対し、職場に入る前に検査を行っている。数か国では、主要な感染地域で検査を行うように指導している。一般的に、それらの検査は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法であり、非常に有効で正確な診断方法である。しかし、PCR装置は高価であり、臨床検査をするに対し、検査を実行する上で充分に訓練された専門家が必要であるし、しかも、各検査を完了するために約2時間の時間がかかる。
【0003】
現在、新型コロナウイルスの世界的な流行に伴って、多くの地域において、旅行者に対し、到着後2週間の間、自宅待機を求めている。イギリスやカナダもまた、同様の自宅待機を制定している。ドイツでは、到着する各旅行者に対し、検査を義務付けており、到着する72-96時間以内に新型コロナウイルス陰性の旅行者だけに入国を認めている。到着する旅行者に対し、検査は無料であるが、出立者には検査費用を求め、到着国での隔離の制約を避けている。目下のところ、12時間以内に検査結果を得る場合には59ドルほどであり、6時間以内に検査結果を得る場合には165ドルとなる。それらに検査に際し、鼻咽頭ぬぐい液による旅客の粘膜サンプルを採り、PCR検査のために医院に発送する。
【0004】
現在では、全空港のほとんどに質量分析検査システムが配置されている。それらのシステムは、旅行者が爆発物や放射性物質を所持しているかを見つけ、公衆を守るためのものである。それらのシステムは、旅行者が爆発物や放射性物質に密に接している場合には、非常に少量のものを検知することができる。今現在、それらの質量分析は、最小限の訓練で安全対策員が作動している。
【0005】
目下の新型コロナウイルスの世界的な流行、および今後起こりうる可能性のある感染症に伴って、感染症に対する最小限の訓練をした安全対策員が作動することができる機械が、急ぎ求められる。検査には、素早さ、正確さ、および何よりも費用効果があることが必要である。そしてまた、大人数の旅行者ゆえに、多数の旅行者や従業員を一度に検査することができるハイスループットな検査システムが必要であり、遅れにより費用が高くなることを避けるためにバッチ処理が大切である。さらに、この検査システムは、学校やカレッジで活用し、クラスルームに入るに先立って生徒や学生を検査することができる。上に述べたどの場合においても、旅行者、従業員、生徒や学生に病気の兆候がある者については、隔離することによって、他の旅行者、従業員、生徒や学生、あるいは家族にウイルスの広がりを最小限にする。目下の新型コロナウイルスの世界的な流行は、大きな経済的な悪影響を及ぼすと同様、若者の教育に不利益をもたらし、公衆のメンタルヘルスに大きな打撃を与える。
【0006】
もう一つの問題は、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症とが類似していることであり、私たちの医療健康管理システムにおいて、それらの病気を区別し、社会的なパニックおよび追加の医療費を避けるようにしなければならない。この出願人は、2019年の早い時期から、コンパクトな感染症診断デバイスであり、分析生化学システム用であり、ラボオンチップのマイクロ流体サンプリングデバイスを備えたデバイスに取り組み続けている。最初の考えは、柑橘類についてカンキツグリーニング病(HLBあるいは黄竜病)を検査するためのデバイスを作ることであった。HLBに冒された樹木は、成長が妨げられ、多数の季節外れの花(それらのほとんどは落下)を咲かせ、厚い青白い皮の、不規則な形の小さな実を結ぶ。実の下部は緑色で、非常に苦く、それにより、樹木の収益性に影響を与える。樹木がひとたび感染すると、その木の周辺の10本と同様に伐採しなければならない。それは、農家に莫大な費用がかかる。対応技術は、検出のために、HLBバクテリアの属指紋を用いることであった。農家の人たちが、最小限の訓練をもって、耕地におけるHLBを正確に検査するための機械は、開発中である。
【0007】
新型コロナウイルスが始まり世界的な問題になった後、この出願人は、マイクロ流体サンプリングデバイスの一般的な考え方を用いることにより、新型コロナウイルスや他の新しい微生物を迅速かつ高信頼性で検出することを決心した。そのサンプリングデバイスの考え方は一般的であり、マラリア、エボラ出血熱、ジカ熱、炭疽病(生物兵器)など、エピデミックあるいはパンデミックに流行する他の感染症の診断に用いることができる。
【0008】
この発明のマイクロ流体ディスクは、たとえば鎖置換反応を利用した遺伝子増幅法(LAMP)、逆転写LAMP(RT-LAMP)、CRISPR-Cas診断、PCR、RT-PCRなどのいろいろな分子生物学を基礎にした方法によって、感染症のハイスループットな診断のためのプラットフォームとして用いることができる。
【0009】
以上には、この発明に関連する目的のいくつかのあらましを述べた。それらの目的については、この発明に関連する特徴や応用を示す実例を通して理解することができる。この発明の考え方の範囲でこの発明を変形することにより、その他の多くの利点を得ることができる。したがって、この発明のさらなる目的については、添付の図面とともにクレームで定まる発明の考え方に加えて、以下に述べる発明の概要および好ましい実施例を含む詳しい説明を参照することにより、より深く理解することができるであろう。
【発明の概要】
【0010】
この発明は、付属の図面に示す具体的な実施例とともに、添付のクレームによって定まる。この発明のあらましを述べるとすれば、この発明は、マイクロ流体サンプリングデバイスにおける、微生物(ここで、特には、新型コロナウイルス)の迅速な識別のための装置および方法に関する。マイクロ流体サンプリングデバイスには複数の反応室があり、それらの各反応室には、微生物と反応する反応剤がある。その反応剤は、微生物との反応により、その反応室の中に微生物の存在を示す。
【0011】
この発明の一つの実施例において、この発明は、サンプリングデバイスにおける微生物を識別する装置に関する。サンプリングデバイスには複数の反応室があり、それらの各反応室には、微生物と反応する反応剤がある。その反応剤は、微生物との反応により、その反応室の中に微生物の存在を示す。装置は、サンプリングデバイスを保持するグラバーを備える。グラバーには作動ステージが連結され、サンプリングデバイスを平面内で動かすようになっている。検出器が、複数の各反応室を検出し、反応室の中に微生物が存在するかを検出する。
【0012】
この発明の他の実施例において、この発明は、サンプリングデバイスの内部の新型コロナウイルスを検出する装置に関する。サンプリングデバイスには複数の反応室があり、それらの各反応室には、新型コロナウイルスと反応する反応剤がある。その反応剤は、新型コロナウイルスとの反応により、その反応室の中に新型コロナウイルスの存在を示す。装置は、サンプリングデバイスを保持するグラバーを備える。グラバーには作動ステージが連結され、サンプリングデバイスを平面内で動かすようになっている。検出器が、複数の各反応室を検出し、反応室の中に新型コロナウイルスが存在するかを検出する。
【0013】
この発明のさらに他の実施例において、この発明は、可能性のある患者のサンプルから新型コロナウイルスの存在を識別する、マイクロ流体サンプリングデバイスに関する。マイクロ流体サンプリングデバイスは、入り口をもつサンプル本体を備える。サンプル本体は、反応剤および患者のサンプルを受け入れるためのものである。レザーバは、入り口から臨床サンプルおよび反応剤を受け入れる。その患者サンプルおよび反応剤は、流路を通して、レザーバから反応室に移動する。混合流路には、拷問のような通路があり、患者のサンプルおよび反応剤を反応室に入れる前に混合する。その代わりに、患者のサンプルおよび反応剤を反応室に入れる前に揺さぶることにより互いに混合することができる。反応室は透明であるため、反応室の中の新型コロナウイルスの存在を検出することができる。反応室の上部および下部の層は、透明電極で被覆され、混合物を特定の制御温度に加熱する。
【0014】
この発明のさらに他の実施例において、この発明は、患者のサンプルから新型コロナウイルスの存在を識別する、マイクロ流体サンプリングデバイスに関する。マイクロ流体サンプリングデバイスは、複数の入り口を設けた回転ディスクを備える。その回転ディスクの内部領域に、可能性のある患者のサンプルを受け入れる。複数のレザーバは、複数の入り口から臨床サンプルおよび反応剤を受け入れる。複数の反応室が、回転ディスクの外側表面に置かれている。患者サンプルおよび反応剤は、流路を通して、複数のレザーバのそれぞれから複数の反応室のそれぞれに移動する。流路のそれぞれには、拷問のような通路があり、患者のサンプルのそれぞれと反応剤とを反応室のそれぞれに入れる前に混合する。その代わりに、患者のサンプルおよび反応剤を反応室に入れる前に揺さぶることにより互いに混合することができる。反応室は透明であるため、反応室の中の新型コロナウイルスの存在を検出することができる。
【0015】
この発明は、また、可能性のある患者のサンプルから新型コロナウイルスの存在を識別するための方法を組み込んでいる。その方法は、複数の工程を備える。一つの工程は、患者のサンプルをレザーバに導入する工程である。そのレザーバに反応剤を導入する。患者のサンプルと反応剤とをマイクロ流路を通過させて、患者のサンプルを反応剤に混合する。混合した患者のサンプルおよび反応剤を反応室に移動する。その患者のサンプルおよび反応剤を反応室の中で加熱する。その反応室の中で、新型コロナウイルスの存在を検出する。好ましくは、患者のサンプルと反応剤とを移動する工程は、遠心力により移動する工程である。
【0016】
この発明は、さらにまた、可能性のある患者のサンプルから感染性の微生物の存在を迅速に識別するための方法を組み込んでいる。その方法は、複数の工程を備える。一つの工程は、患者のサンプルをレザーバに導入する工程である。そのレザーバに反応剤を導入する。患者のサンプルと反応剤とをマイクロ流路を通過させて、患者のサンプルを反応剤に混合する。混合した患者のサンプルおよび反応剤をマイクロ流路を通して反応室に移動する。マイクロ流路は、さらなる混合を助ける。その患者のサンプルおよび反応剤を反応室の中で加熱する。その反応室の中で、感染性の微生物の存在を検出する。
【0017】
この発明のさらに他の実施例において、マイクロ流体サンプリングデバイスは、反応剤およびサンプルを受け入れるための入り口を備える。レザーバは、注入された物質を保持する。サンプルおよび反応剤は、毛細管マイクロ流路を移動するが、反応室に移動するに先立ち、その流路が混合機として働く。反応剤と微生物との反応が、反応室の中の微生物の存在を示す。好ましくは、サンプル本体は透明であり、ガラスあるいは熱可塑性樹脂製とする。複数の反応室のそれぞれは順次照射され、それにより、反応室の中に微生物が存在するかを検出する。3つの反応室を、テスト制御のために作動する。この発明は、血液、尿、唾液、粘膜などの異なる体液の診断に適用するため、異なるプラットフォームを提供する。
【0018】
鼻咽頭サンプルの中の新型コロナウイルスを検出するための、特定設計のプラットフォームについて、以下に述べる。ある実施例において、マイクロ流体サンプリングデバイスを回転ディスク形状に形作る。しかし、マイクロ流体サンプリングデバイスの具体的な設計については、なすべき検査に応じていろいろな形状および形態にすることができる。
【0019】
第1に、マイクロ流体回転ディスクを機械に差し込み、アッセイの初期化を行う。カートリッジに用意し装填した特定の反応剤を、回転ディスク上の割り当てた入り口に注入する。鼻腔用の綿棒で採取した鼻咽頭サンプルを、バッファチューブに入れ、界面活性剤溶液を含むセルと混合する。サンプルは、ディスク中に注入する。
【0020】
一例では、30の患者サンプルを一時に各ディスク中に注入することができる。回転ディスクは63の反応室を備え、それらの中の3つを関連のテスト制御に用い、異なるレベルでのテストの精度を調べる。他の60の流路については、各サンプルに対し2つの反応室をあてがう30の未知の個々のケースに用いることになろう。
【0021】
一つの反応室は、ヒトrアクチンのようなヒトハウスキーピング遺伝子の一つの検出のために割り当てる。それは、臨床サンプルからの遺伝物質の抽出の精度をテスト制御のためである。第2の反応室は、病原性の遺伝指紋が存在するか否かの評価のために割り当てる。新型コロナウイルスのケースにおいては、ヌクレオカプシド遺伝子(N-遺伝子)あるいはエンベロープ遺伝子(E-遺伝子)の存在を調べる。その代わりに、N-遺伝子およびORF-遺伝子(オープンリーディングフレームの存在を調べる。プラットフォーム構成は非常に一般的であり、たとえばマラリア、エボラ出血熱、ジカ熱、炭疽症などの他のタイプの感染症に対するカートリッジなど、広範囲に適用することができる。
【0022】
提案のプラットフォームの一例としてLAMPアッセイを行うため、ウイルスあるいは細菌の特定のプライマー(4-6フォワードプライマーおよびリバースプライマーのセット)を含む生体材料反応を、ディスクの入り口に最初に注入し、その後に、同じ入り口に抽出遺伝物質を注入する。遺伝物質と反応試薬の混合物は、振り動かすことによってさらに混合し、それからマイクロ流路に向かい、回転に伴う制御遠心力によって最終的なレザーバに移る。マイクロ流路を通過することにより、複数の注入材料は活発に混合される。反応混合物が最終的なレザーバに到達するとき、そのレザーバは、マイクロ流体サンプリングデバイスの上下部にパターン化された透明電極を用いて65℃の一定温度に加熱されている。その温度により、20-30分間の増幅プロセスをスタートさせる。サンプルの加熱は、同様にデバイスの内部の小オーブンを用いて行う。増幅プロセスは、簡単な分光検出器によって検出可能なシグナルを生み出す。
【0023】
もし感染症がRNAウイルス(たとえば、レトロウイルス)に起因しているなら、LAMP反応アッセイをリバーストランスクリプターゼに結び付ける。これにより、LAMP反応に先立ってcDNA分子を生み出す。言い換えると、このディスク上でRNA分子の一工程増幅を行うことができる。
【0024】
LAMPにより生み出す二本鎖DNAの量は、PCRに基づく増幅方法よりもかなり高い。LAMPプロセスは、高精度な熱サイクル、ゲル電気泳動機器およびトランスイルミネータを備える高価なPCR機械の必要性をなくす。LAMPプロセスは、低リソースの看護の面で、より好ましい検出法である。
【0025】
分光検出器については、反応の終わりにおける最後のシグナルを読み込むようにするか、あるいは、シグナルの同時読み込みをするために複数のインターバルでシグナルを読み込むようにするかのいずれかにプログラムを組むことができる。もし患者サンプルのウイルスあるいは細菌の量が高いとすれば、シグナルが早期に生み出されるので、シグナルを同時検出する選択によって、診断時間を30分未満にすることができる。
【0026】
シグナルを同時検出することによって、それらの回転ディスク上でqPCR反応を行わせる可能性がある。それには温度制御装置が必要であり、その装置によりサーマルサイクラーのように異なる温度に調節し、蛍光シグナルを間隔をもって読みことができる。
【0027】
この発明の回転ディスクおよびそのバイオプロセッサは、また、複数の工程での個々の反応材料よりも多いものと動かす診断アッセイと互換性がある。たとえば、CRISPR-Cas 12/13a診断方法について、この回転ディスク上で用いることができる。そのプロセスにおいて、増幅反応混合物および遺伝物質は、両方を回転ディスクの入り口に注入する。その材料は、それから遠心力によって第1のレザーバに移り、そこで調整時間の間特定の温度(61-65℃)に維持して遺伝物質を増幅される。この工程の終わりに、回転ディスクの入り口を通して第2の反応材料(CRISPR-Cas タンパク質およびランダムレポーター分子)が加えられ、それから両方の混合物はマイクロ流路に導かれ、第2のレザーバに到達する前に混合される。その後、第2のレザーバ中の反応剤は、37℃で10-30分間加熱され、蛍光シグナルは、それを監視するため、設定時点で検出および測定される。そして、システムは、非転写制御で生成したシグナルに対してシグナルを自動的に正規化し、それらの結果を自動的に供給する。
【0028】
この発明は、新しいガラス系のマイクロ流体デバイスの発達に基礎を置く。望ましい形状にガラスを切り、それを2つの他のガラス層で上下に結合することにより、一日でデザインを変えて次の日の機能に適合するサンプリングデバイスを得ることができる。すべての生化学の工程は、異なる材料の注入、局所的な混合、遠心法、液の圧縮および弁操作、ガス抜き、熱化、ならびに最終の同時検出を含むが、それらの工程を単一のマイクロ流体ディスク内で行うことができる。
【0029】
もう一つの大きな利点は、最小で最適な量の生化学材料およびサンプルを用いることにより、多くの検査を同時に行うことができることである。この発明では、20μLの生化学材料および5μLの臨床サンプルを用いるだろうが、その割合に限定されるわけではない。読出しは、20-25分後に正確な結果を伴って行われる。すべてのデバイスは、小型軽量で、低消費量である。マイクロ流体サンプリングデバイスは、輸送担体(cartage carrier)、インジェクター、温度コントローラー、光源および分光計を備えつつ、その大きさはコンパクトディスク(CD)と同様である。
【0030】
この発明のマイクロ流体サンプリングデバイスは、それぞれのランで複数の分析を行うことから、コスト効果がある。ディスクはCDサイズの構成であるが、中空であり、保管に対し冷凍あるいは特定の場所を必要とせずに、-70℃から+70℃で保管することができる。したがって、ディスクは、冷凍が不要な室温で保管することができる。この場合、-20℃に維持し、貯蔵期間内に用いることができる。デバイスディスクは、リサイクル可能であり、コスト効果があり、環境に無害である。この発明は、取扱いが簡単であり、最小の技術訓練を要するだけであり、看護、病院、空港(領域)、学校、仕事環境、エンターテイメントセンターなどで用いることができる。
【0031】
以上には、この発明に関連する大事な特徴についてむしろ広く述べた。これに続く詳しい説明によって、さらに理解を深め、技術分野におけるこの発明の貢献をより充分に理解することができるだろう。この発明の追加の特徴について、以下に説明するが、それは、クレームに述べるこの発明の考え方を形作る。いわゆる当業者であれば、ここに示す考え方および具体的な実施例に基づいて、変形あるいは他の構成に設計することにより、この発明と同じ目的を達成することができる。また、当業者は、そのような同等の構成がクレーム記載の発明の精神および考え方から逸脱しないことを理解する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
この発明をより完全に理解するために、以下の説明および添付の図面を参照されたい。各図面の内容は、次のとおりである。
図1】この発明における微生物の迅速な識別装置の側面図である。
図2A】回転ディスクとしての、マイクロ流体サンプリングデバイスのベース層を示す。
図2B】そこで反応が生じる回転ディスクの、パターン化されたメイン層の主要部を示す。
図2C図2Bを拡大した図である。
図2D】回転ディスクのカバー層を示す。
図3A】カートリッジを上から見た図である。
図3B】カートリッジの斜視図である。
図4A】分子生物学を基礎にした方法の第1の部分を示す図である。
図4B】分子生物学を基礎にした方法の第1の部分を示す図である。
図5A】ポジティブ、ネガティブコントロールと水についての検出スペクトルを示す。
図5B】ポジティブ、ネガティブコントロールと水についての検出スペクトルを示す。
図5C】ポジティブ、ネガティブコントロールと水についての検出スペクトルを示す。
図6】ディスクサンプルを局部的に加熱するための、パターン化された透明電極を示す図である。
図7】サンプルチューブホルダーの斜視図である。
【詳細な説明】
【0033】
図1は、バクテリア、菌類およびウイルスなどの微生物を迅速に識別するための装置を示す。その装置は、LAMP、RT-LAMP、CRISPR-Cas 12/13診断、PCR、およびRT-PCRなどと一緒に用いるのに適する。装置は、マイクロ流体サンプリングデバイス1.0を収容する。以下により詳しく述べるが、マイクロ流体サンプリングデバイス1.0は、分析のためのサンプルを受け入れる。マイクロ流体サンプリングデバイス1.0は、微生物の迅速な識別のために交換可能かつ処分可能である。マイクロ流体サンプリングデバイス1.0は、たとえば血液、粘膜、唾液、精液、尿のようなサンプル中の感染症を診断することができる。しかし、マイクロ流体サンプリングデバイス1.0は、ウイルス、細菌あるいは菌類の検出にも立案することができる。検出中には、いつでも病原体の遺伝指紋を探し求める。
【0034】
この例では、マイクロ流体サンプリングデバイス1.0は、コンパクトディスク(CD)と近似した大きさのディスク1.0として示す。しかし、マイクロ流体サンプリングデバイスの具体的な設計については、行うべき狙いとする検査に応じて、いろいろな形状および形態にすることができる。その装置は、回転ディスク1.0を保持するグラバー1.1を備える。グラバー1.1は、ベース1.2上に据えたモーター1.11を含み、それにより回転ディスク1.0を回転する。
【0035】
以下により詳しく述べるように、光源1.4が、回転ディスク1.0の下方に配置され、ディスク1.0中の反応室2.7と位置が合うようになっている。分光検出器1.6は、回転ディスク1.0の選択的な反応室2.9を通過するおよび/または発する光を測定する。カートリッジ1.7がディスク1.0の上に配置され、針1.75で生化学材料および臨床サンプルをディスク1.0に対し注入するようになっている。カートリッジ1.7は、直線状のレール1.8上に挿入され、それにより、そのカートリッジはディスクの真ん中に向かうよう、あるいは逆方向に動くことができる。この動きおよびディスク1.0の回転の組合せによって、カートリッジの6つの全ての針を入り口2.4(図2C)にアクセスすることができる。別の実施例においては、ディスクに生化学材料を予め処置し、患者のサンプルだけをディスクに挿入する。さらに、サンプルチューブ1.9が回転ステージ1.85(断面を示す)上に配置され、針1.95がディスク1.0の入り口2.4とよく整合している。ステージ1.85の回転により、30のサンプルチューブが60の入り口に注入する。患者のサンプルのそれぞれを2つの入り口に注入する。それは、インターナルコントロールと病原体の目的遺伝子(新型コロナウイルスのNおよびE遺伝子)のためである。加熱システム1.3があり、ディスクを65℃にまで加熱することができる。この加熱は、一定の温度にセットすることができるし、サーマルサイクラーにように作動することもできる。
【0036】
図2A-2Dは、回転ディスク1.0に組み込んだマイクロ流体サンプリングデバイス1.0の拡大図である。回転ディスク1.0は、ガラスあるいは他の材料などの透明な材料で形作ったベース層2.1を備える。ベース層2.1は、回転ディスク1.0の構造的なベースとして好ましい厚さが100-1100μmである。ベース層2.1は、回転ディスク1.0のより薄い残りの層を安定に固定させる。回転ディスク1.0には一つの孔2.2があり、それにより、グラバー1.1を保持し、回転ディスク1.0を回転可能にする。
【0037】
図2Bは、回転ディスク1.0のメイン層を示す。メイン層には、同心の中央孔があり、その孔は回転ディスク1.0の孔2.02の部分を形作る。メイン層2.2は、ガラスあるいは他の材料などの透明材料から形作られる。すべての回転ディスク1.0には、特有の識別番号が割り当てられる。その識別番号は、たとえばバーコードであり、メイン層2.2上に印刷される。
【0038】
図2Cは、ディスク1.0の拡大図であり、リーフと称する3つのレベルのマイクロ流路を示している。それらの3つのリーフ設計はすべて同じ機能を生じる。反応剤およびサンプルを注入するため、入り口2.4がメイン層2.2に区画されている。反応剤は、レザーバ2.5に注入される。このレザーバの容積は、注入材料の全量よりもほんの僅かだけ大きくなるよう意識的に設計する。
【0039】
サンプルを入り口2.4から注入すると、そのサンプルは、レザーバ2.5の中の反応剤の真ん中に押し出される。ここで、固有の液拡散および揺動によって、サンプルと反応剤の混合が始まる。材料(反応剤およびサンプル)を入れた後、回転ディスク1.0は、数秒の間揺動し始め、それから2000rpmで10秒間回転する。回転の間、固有の遠心力が混合の動きを正しく整える。マイクロ流路2.6は、抵抗性の通路を定め、そこを通る液の流れに対し特別な抵抗を提供する。マイクロ流路2.6は、反応室2.7に向かうよう混合液を外側に運ぶ。この特別な抵抗によって、サンプルと反応剤の混合が促進する。マイクロ流路2.6から反応室2.7へのフルアクセスはない。サイホン弁2.65が間に配置されている。ディスクが回転を止めるとき、その弁によって、液体は反応室2.7内にトラップされ、マイクロ流路2.6側に戻ることがない。回転あるいは生化学反応の間にトラップされたエアは、出口孔2.9に通じる出口マイクロ流路2.8によって、すべて抜くことができるようになっている。同様に、別のサイホン弁2.85が反応室2.7の通路内に配置され、そして、液体が反応室からスキップしないように抜け流路2.8がある。
【0040】
回転ディスク1.0が回転を止めると、反応室2.5および2.7だけでなくマイクロ流路2.6および2.8内の余分なエアは、液を入り口2.4に向かって押し戻す。出口マイクロ流路2.8は、サイホン弁2.85でトラップしたエアを排出する。しかし、出口マイクロ流路2.8の出口の位置は、非常に大切である。回転ディスク1.0中に起こるコリオリの力によって、5時の一に向かって動こうとする。出口マイクロ流路2.8が12時の位置に置かれていたなら、液が出口マイクロ流路2.8を通り抜け、エアは反応室2.7の内部にトラップされて気泡を生じるだろう。このことは、液の一部を失って低信号をもたらすことを意味する。出口マイクロ流路2.8については、ディスクの中心に向かうようにして、回転の際に、液自体が回転ディスク1.0から排出されないようにする。回転ディスク1.0が止まると、そのときサンプルおよび反応剤が混合され、反応室2.7の中に置かれる。
【0041】
反応室2.7の入り口にあるサイホン弁構成2.65および反応室2.7の出口にあるサイホン弁2.85によって、反応室2.7の液に対し、毛細管作用およびトラップへの抵抗を引き起こす。このタイプのバルブ操作は、サイホン弁作用と称される。サイホン弁作用は、非常に有効かつシンプルであり、追加のバルブ費用をかけずに実行することができる。
【0042】
図2Dは、カバー層2.3を示す。カバー層2.3には、グラバー1.1に対して同心の中央孔2.03がある。それにはまた、メイン層2.2の入り口2.4に整合した入り口孔2.45がある。入り口孔2.45は、メイン層2.2のエア出口孔2.9がエアを撤退させると同様、液を注入する。
【0043】
図3Aは、この発明におけるカートリッジ3.0を上から見た図である。この例においては、図1に示すカートリッジ1.7あるいは図3Aに示すカートリッジ3.0の中身を、新型コロナウイルスに特定して説明するが、カートリッジ3.0の中身は、他のタイプの検査にも適用することができると理解されたい。
【0044】
好ましくは、カートリッジ3.0は、6つの異なる容器をもつ成型プラスチックである。容器3.1には再蒸留水を入れる。容器3.2には、酵素などの一般的な生化学材料を入れる。容器3.3は、ハウスキーピング遺伝子のためのプライマーを運ぶ。たとえば、rアクチンプライマーは、インターナルコントロールとして用いる。容器3.4は、新型コロナウイルスのNおよびE遺伝子のためのプライマーを保持し、そして、容器3.5は、新型コロナウイルスのO遺伝子を保持する。容器3.6は、合成新型コロナウイルスRNAを保持する。
【0045】
カートリッジ3.0は、大きさを異ならせることができる。たとえば、3000検査のランをする100のディスクの積載には、45mLの一般的な生化学材料、4.25mLのN遺伝子プライマー、4.25mLのE遺伝子プライマー、ハウスキーピング遺伝子のための4.25mLのプライマー、300μLの合成新型コロナウイルスRNA、最後に32.5mLの再蒸留水が必要である。図3Bは、カートリッジの斜視図を示す。そこには、注入のために、6つの針3.01から3.06までが示されている。この発明の別の実施例では、カートリッジについて述べたすべての材料をディスクにプリロードし、患者のサンプルだけを準備し処置する。
【0046】
等温増幅を行うLAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法は、DNA分子[1-4]の鎖置換反応を利用した遺伝子増幅法である。そのアッセイは、2-3のプライマー対(4-6のプライマー)を用いることに基づき、それらのプライマーはターゲットDNAの6-8の異なる領域を特に認識する。鎖置換DNAポリメラーゼは、一定の温度で高効率に合成を開始する。また、増幅プロセスの改善を図るため、鎖構造を作り出す特別なプライマーがある。LAMPアッセイのDNA産物は、一本鎖ループ配列で連なった、ショートターゲット配列のいくつかの繰り返しを含む。LAMP産物をさらなる組換えに適用することはできないが、LAMP産物は、増幅が広範であるゆえに、病原体の検出に大変適している。
【0047】
次の出版物は、核酸の増幅プロセスを研究したものである。K Nagamine, T.H., T Notomi, 一本鎖核酸の合成方法、2000年、Eiken Chemical Co Ltd、Notomi, T. 他、DNAのLAMP法、Nucleic Acids Res、2000年28(12): p. E63、TSUGUNORI, H.T.N., 核酸の合成方法、EIKEN CHEMICAL、Tsugunori Notomi, K.N., 二重鎖核酸を鋳型に用いる核酸増幅方法、2003年、Eiken Chemical Co Ltd。
プライマー:
【0048】
図4Aおよび4Bは、鋳型のF2c領域に対して相補的なF2と、F1cターゲット配列と同一のF1cの2つの領域をもつFIPプライマーを示す。同様に、BIPプライマーは、B2c領域に相補的なB2と、B1cターゲット配列と同一のB1cとから構成される。FOP(F3としても知られている)およびBOP(B3としても知られている)は、鋳型DNAのF3cおよびB3cの領域に対して相補的である。
【0049】
手短にいえば、FIPプライマーのF2配列は、鋳型のF2c配列と交雑して、増幅プロセスを起こす。そのうえ、F3プライマーは、鋳型のF3c配列と交雑して、伸長プロセスを始める。同時に、F3は連鎖FIPの鎖に取って代わり、伸長の5’端にシングル鎖ループを作り出す。このループ末端の一本鎖DNA分子は、BIPプライマーに対するターゲット配列として働く。この時点で、B2領域がターゲットDNAのB2c配列に連結し、DNA分子の伸長を起こす。そして、この鋳型分子の末端のループは、末端で開く。続いて、B3プライマーが分子のB3c領域と交雑し、連鎖BIP分子と置換し、末端に2つの一本鎖ループをもつダンベル型のDNAを作る。この時点で、DNAポリメラーゼがF1の3’端でDNAを伸長し、5’端を開いてDNAのステムループ構造を形作る。この構造は、LAMPにおける別の鋳型の役を果たす。FIPプライマーは、ステムループDNA構造のループと再び交雑し、DNAの伸長を起こし、F1に取って代わり、3’端に新しいループを形作るように導く。DNAポリメラーゼは、さらにB1の3’端にヌクレオチドを加え、FIP鎖に取って代わり、ダンベル型の別のDNA分子を形作るように導く。この時点で、ステムループDNAおよびギャップ修復ステムループがあり、それらの両方が、次のサイクルにおける鎖置換および伸長における鋳型として働く。それによって、異なるステム長および数個のループをもつ、ステムループDNAの混合物を作り出す。
操作方法:
【0050】
この例において、回転ディスク1.0には、63の反応室があり、単一の回転ディスク1.0を同時にランさせることにより、63の異なる検査が可能である。30分の問題において、サンプルは、30の個々のサンプルを検査する。しかし、当業者であれば、回転ディスク1.0の設計を変えることにより、より大きいあるいはより小さい数の検査室に適応させることができることを理解するであろう。
【0051】
装置の操作方法の一例について、次に述べる。各室に対して1~63の番号を付けた流路があるディスク設計である。室1~3は、ネガティブおよびポジティブコントロールの検査に用いる。室5および6は、第1の患者に用い、室7および8は次の患者というように用いる。それぞれのサンプルについて、2つの室を用いるが、室の一つは新型コロナウイルスDNAの検出に、そして、室のもう一つをハウスキーピング遺伝子の検出に用いる。後者の検出は、新型コロナウイルス遺伝子材料がない場合に検査に先立つDNA/RNA抽出精度の試験として行う。
【0052】
ここからが、注入プロトコルの限定されない一例である。最初に、カートリッジ3.1から1から9μLの再蒸留水を63のすべての入り口に注入する。それから、12.5μLの一般的な生化学材料をカートリッジ3.2から63のすべての入り口に注入する。続いて、カートリッジ3.3から2.5μLのハウスキーピングプライマー混合物を、室2,5,7,9,・・・,63の入り口に注入する。その後、カートリッジ3.4から2.5μLの新型コロナウイルスのNおよびE遺伝子のためのプライマー混合物を、室3,6,8,10,・・・,62の入り口に注入する。最後の工程では、カートリッジ3.6から1μLの新型コロナウイルスRNAを室1および2に注入する。この工程は、初期化であり、今ディスクは、臨床サンプルの受入れ態勢にある。
【0053】
サンプル1を室4および5の両方に注入する。上に述べたように、室4には、ヒトハウスキーピング遺伝子プライマー、再蒸留水、一般的な材料が入っており、それに対し、室5には、一般的な材料、再蒸留水、NおよびE遺伝子のためのプライマーが入っている。デバイスをCRISPERあるいはPCRを行うように調整すると、蛍光発光材料が、EおよびN遺伝子の両方に対し、スペクトルをシフトするようにすることができる。
【0054】
PCRプロセスは、サーマルサイクラーによって行う。それは、実験装置であり、保持ブロック内のサンプルを複数サイクルで加熱および冷却することができ、それにより、DNAポリメラーゼによるDNA分子の試験管内での複製に必要な状況を作り出すことができる。PCRに対する熱サイクルには、次のような3つの主要な段階がある。1)変性(94℃から98℃)、そこでは二重鎖DNA鋳型を加熱し、DNA鎖を分離する。2)アニーリング(48℃から72℃)、そこではプライマーがターゲットDNAの特定の領域に結び付く。3)伸長(68℃から72℃)、そこではDNAポリメラーゼが鋳型鎖に基づく各プライマーの3’端を伸長する。これらの工程は、周期的に繰り返し、ターゲットDNAのコピーを指数関数的に複製する。
【0055】
図5A-5Cは、室からの放射光の吸収スペクトルを示す。サンプルを光源で照らし、分光計によって、吸収スペクトルから増幅DNAの存在を検出する。そして、原サンプル中の新型コロナウイルスの存在を指し示す。図5Aは、サンプルの吸収スペクトルであり、黄色を示す。
【0056】
図5Bは、ネガティブコントロールの吸収スペクトルを示す。それは、当初バイオレットパープルであり、そのバイオレットパープルの色のままである。
【0057】
図5Cは、自らの吸収スペクトルであり、参照シグナルとして示すものである。
【0058】
図6は、サンプリングディスク1.0を加熱する他の方法を示す。その方法では、ベースガラス層2.1を酸化インジウムスズ(ITO)のような透明電極でパターン化している。被覆2.05を反応室の位置内にだけする。電極2.06および2.07に電圧を加えることにより、すべての反応室を30分で65℃に到達させる。この種の部分的な加熱は、熱サイクルが必要な場合に特に良好に制御することができる。
【0059】
図7は、サンプルカートリッジホルダーの斜視図である。図1には、断面だけを示している。サンプルは、チューブ7.1に入れる。それぞれのチューブがバーコードをもち、個々のサンプルのそれぞれを指定する。チューブは、1本の針7.2をもつ。満タンにした後、ホルダー7.4の全体を分析のために機械に押し入れる。
【0060】
この発明の内容には、以上の説明のほか、添付したクレームの記載事項も含む。また、この発明の好ましい形態についてある程度詳しく説明したが、好ましい形態の説明は、あくまで例証である。具体的な構成、組合せおよび配置について、この発明の考え方および範囲から離れることなく、多くの変形をすることができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
【国際調査報告】