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特表2023-541852急性呼吸窮迫症候群の治療に使用するための組換えアルカリホスファターゼ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(54)【発明の名称】急性呼吸窮迫症候群の治療に使用するための組換えアルカリホスファターゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/16 20060101AFI20230927BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20230927BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230927BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230927BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230927BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
C12N9/16 B ZNA
A61K38/46
A61P11/00
A61P31/04
A61P31/12
C12N15/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515657
(86)(22)【出願日】2021-09-09
(85)【翻訳文提出日】2023-05-08
(86)【国際出願番号】 NL2021050547
(87)【国際公開番号】W WO2022055350
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】20195269.4
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21178892.2
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509296052
【氏名又は名称】アーエム-ファルマ ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】AM-Pharma B.V.
【住所又は居所原語表記】Stadsplateau 6 Utrecht The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エラッサイス-シャープ,イェルン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン ベルヒ,エリック ヤン
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084DC22
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB33
4C084ZB35
(57)【要約】
本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の症状の予防、治療、治癒、又は改善のための、アルカリホスファターゼ、特にRecAPなどの改良されたアルカリホスファターゼの使用に関する。本明細書はまた、肺機能を維持し、機械的換気療法の期間を短縮し、P/F比を増加させる方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とする対象においてARDSを治療する方法における使用のためのアルカリホスファターゼ(AP)であって、前記対象が中等症又は重症のARDSを有する、使用のためのAP。
【請求項2】
前記対象が、5cmHOの最小呼気終末陽圧(PEEP)を使用して測定した場合のP/F比が≦200mmHgである中等症又は重症のARDSを有する、請求項1に記載の使用のためのAP。
【請求項3】
前記対象が、前記APによる治療の前に、P/F比が≦100mmHgである重症ARDSを有する、請求項2に記載の使用のためのAP。
【請求項4】
前記対象が、前記APによる治療の前に、P/F比が>100mmHgかつ≦200mmHgである中等症ARDSを有する、請求項2に記載の使用のためのAP。
【請求項5】
前記APが、少なくとも1回の500U/kg~2,000U/kg用量で投与される、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項6】
前記ARDSが敗血症に関連するか、又は敗血症に起因する、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項7】
前記ARDSがウイルス感染に関連するか、又はウイルス感染によるものである、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項8】
前記APがヒトAPである、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項9】
前記APが組換えAPであり、好ましくは前記組換えAPがキメラである、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項10】
前記APが、RecAPのアミノ酸配列(配列番号1)に対して、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%の配列同一性を有する、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項11】
前記APの投与が呼吸機能の増加をもたらし、好ましくは、前記呼吸機能の増加は、前記APによる治療を行っていない場合の前記対象のP/F比と比べての前記対象のP/F比の増加を含む、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項12】
前記AP治療が、ARDSの検出後48時間以内に開始される、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項13】
前記APの少なくとも1回用量の投与が、機械的換気療法を受けている対象における機械的換気療法の期間の短縮又は中止をもたらす、請求項1~請求項12のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項14】
APが1日1回投与される、請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項15】
APが静脈内投与される、請求項1~請求項14のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項16】
APが1日3回用量で投与される、請求項1~請求項15のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項17】
前記APの用量が0.8mg/kg又は1.6mg/kgのRecAPである、請求項1~請求項16のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項18】
前記APの用量が500U/kg又は1000U/kgのRecAPである、請求項1~請求項17のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項19】
前記APの少なくとも1回用量の投与が、前記対象におけるP/F比の維持又は増加をもたらす、請求項1~請求項18のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項20】
前記APの少なくとも1回用量の投与が、前記対象の死亡リスクの減少をもたらす、請求項1~請求項19のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【請求項21】
前記APの少なくとも1回用量の投与が、前記対象を含む対象群の死亡率の低下をもたらす、請求項1~請求項19のいずれか一項に記載の使用のためのAP。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野に関する。特に、本発明は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の症状の予防、治療、治癒、又は改善のための、アルカリホスファターゼ、特にRecAPなどの改良されたアルカリホスファターゼの使用に関する。本発明はまた、肺機能を維持し、機械的換気療法の期間を短縮し、P/F比を増加させる方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺の広範な炎症を特徴とする、肺の呼吸機能の機能不全である。症状としては、息切れ、呼吸促拍、皮膚の蒼白化などが挙げられる(Fan, E; Brodie, D; Slutsky, AS (20 February 2018). "Acute Respiratory Distress Syndrome: Advances in Diagnosis and Treatment". JAMA. 319 (7): 698-710)。ARDSの全体的な予後は不良であり、死亡率は約40%である(Lewis, Sharon R.; Pritchard, Michael W.; Thomas, Carmel M.; Smith, Andrew F. (July 23, 2019). "Pharmacological agents for adults with acute respiratory distress syndrome". The Cochrane Database of Systematic Reviews. 7: CD004477)。ARDSを生き延びた人にとって、生活の質の低下はよくあることである(Matthay, MA; Zemans, RL; Zimmerman, GA; Arabi, YM; Beitler, JR; Mercat, A; Herridge, M; Randolph, AG; Calfee, CS (14 March 2019). "Acute respiratory distress syndrome". Nature Reviews. Disease Primers. 5 (1): 18)。
【0003】
世界中で、年間300万人以上がARDSに罹患している(Fan E et al (2018))。「成人呼吸窮迫症候群」という用語は、ARDSを新生児の「乳児呼吸窮迫症候群」と区別するために使用されることがあるが、国際的なコンセンサスでは、ARDSは全年齢の人々が罹患し得るため、「急性呼吸窮迫症候群」が最適な用語である(Bernard G, Artigas A, Brigham K, Carlet J, Falke K, Hudson L, Lamy M, Legall J, Morris A, Spragg R (1994). "The American-European Consensus Conference on ARDS. Definitions, mechanisms, relevant outcomes, and clinical trial coordination". Am J Respir Crit Care Med. 149 (3 Pt 1): 818-24)。小児及び資源に乏しい地域の人々には、別々の診断基準がある(Matthay MA et al (2019))。
【0004】
ARDSの年間発生率は、通常、一般集団10万人当たり13~23人である。ARDSは、急性肺損傷で機械的換気を受けている人によく見られる(Lewandowski K, Lewandowski M (2006). "Epidemiology of ARDS". Minerva Anestesiol. 72 (6): 473-7)。COVID-19により、2020年にARDS発生率が上昇した(Guo, YR; Cao, QD; Hong, ZS; Tan, YY; Chen, SD; Jin, HJ; Tan, KS; Wang, DY; Yan, Y (13 March 2020). "The origin, transmission and clinical therapies on coronavirus disease 2019 (COVID-19) outbreak - an update on the status". Military Medical Research. 7 (1): 11; Solaimanzadeh, I (20 March 2020). "Acetazolamide, Nifedipine and Phosphodiesterase Inhibitors: Rationale for Their Utilization as Adjunctive Countermeasures in the Treatment of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)". Cureus. 12 (3): e7343)。
【0005】
世界中で、COVID-19などのウイルスパンデミックがない場合、重度の敗血症が、ARDSを引き起こす最も一般的な要因である(Goldman, Lee (2011). Goldman's Cecil Medicine (24th ed.). Philadelphia: Elsevier Saunders. p. 635. ISBN 978-1437727883)。その他の要因としては、機械的換気、肺炎、ギルクリスト病、溺死、循環ショック、誤嚥、外傷(特に肺挫傷)、大手術、大量輸血(Laar, Alexander P. J.; Binnekade, Jan M.; Prins, David; van Stein, Danielle; Hofstra, Jorrit J.; Schultz, Marcus J.; Juffermans, Nicole P. (March 2010). "Risk factors and outcome of transfusion-related acute lung injury in the critically ill: A nested case-control study*". Critical Care Medicine. 38 (3): 771-778)、煙の吸入、薬物反応又は過剰摂取、肺移植又は肺塞栓切除後の脂肪塞栓及び再灌流肺水腫などが挙げられる。
【0006】
抗生物質、抗ウイルス薬、抗炎症薬などの根本原因の治療に続いて、ARDSは通常、集中治療室(ICU)で機械的換気により治療される。機械的換気は、通常、口腔から挿入され気道に固定された硬いチューブ(気管内挿管)を通して、又は長期間の換気(2週間以上)が必要な場合は気管切開によって行われる。非侵襲的換気の役割は、疾患の非常に初期の段階、又はARDSを発症するリスクのある非定型肺炎、肺挫傷、若しくは大手術患者の呼吸困難の悪化を防ぐ目的に限定される。35%~50%の間であるARDSの死亡率(Fan E et al (2018))を改善する公知の特定の機械的換気モードは知られていない。したがって、ARDSの治療法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、有効量のアルカリホスファターゼ(AP)を対象に投与することを含む、アルカリホスファターゼの投与を必要とする対象において急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療する方法を提供する。好ましい実施形態では、APは、少なくとも1回の500U/kg~2,000U/kg用量で投与される。
【0008】
ARDSの重症度は通常、「軽症」ARDS、「中等症」ARDS、及び「重症」ARDSに分類される。軽症ARDS、中等症ARDS、及び重症ARDSは、以下の基準によって定義される:
PaO/FiO比(PaO/FiO比は、動脈酸素分圧(mmHg単位のPaO)と吸入酸素分圧(FiOは割合ではなく分数として表される)との比であり、P/F比とも称される)の減少:
>200mmHgかつ≦300mmHg(>26.66kPaかつ≦40.00kPa):軽症ARDS;
>100mmHgかつ≦200mmHg(>13.33kPaかつ≦26.66kPa):中等症ARDS;
≦100mmHg(≦13.33kPa):重症ARDS;
ここで、P/F比は、5cmHOの最小呼気終末陽圧(PEEP)を使用して測定される。
【0009】
いくつかの態様では、対象は、APによる治療の前に、上記の定義に従って重症又は中等症ARDSを有する(すなわち、5cmHOの最小PEEPを用いたP/F比が≦200mmHg)。いくつかの態様では、対象は、APによる治療の前に、重症ARDSを有する(すなわち、5cmHOの最小PEEPを用いたP/F比が≦100mmHg)。いくつかの態様では、対象は、APによる治療の前に、中等症ARDSを有する(すなわち、5cmHOの最小PEEPを用いたP/F比が100~200mmHg)。いくつかの態様では、ARDSは、敗血症に関連している及び/又は敗血症が原因である。他の態様では、ARDSは、ウイルス感染、好ましくはコロナウイルスによる感染、より好ましくは重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルスによる感染に関連する及び/又はそれらが原因である。いくつかの態様では、APは、ヒトAPである。いくつかの態様では、APは、組換えAPである。いくつかの態様では、組換えAPは、キメラである。いくつかの態様では、キメラAPが、RecAP(配列番号1)に対して、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%の配列同一性を有する。
【0010】
いくつかの態様では、呼吸機能の増加は、治療を行っていない場合の対象のP/F比と比べての対象のP/F比の増加を含む。いくつかの態様では、対象の敗血症は、APの投与前96時間以内に検出される。いくつかの態様では、敗血症は、ARDSの検出前72時間以内に検出される。
【0011】
いくつかの態様では、本発明に係る治療は、対象の敗血症の検出後24時間以内に開始される。いくつかの態様では、本発明に係る治療は、対象のARDSの検出後24時間以内に開始される。いくつかの態様では、APは、1日1回投与される。いくつかの態様では、APは、静脈内投与される。いくつかの態様では、APは、1日3回用量で投与される。いくつかの態様では、AP用量は、0.8mg/kg又は1.6mg/kgのRecAP、例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAPである。いくつかの態様では、AP用量は、500U/kg又は1000U/kgのRecAP、例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAPである。
【0012】
いくつかの態様では、APの少なくとも1回用量の投与が、機械的換気療法を受けている対象における機械的換気療法の期間の短縮又は中止をもたらす。いくつかの態様では、APの少なくとも1回用量の投与が、対象におけるP/F比の維持又は増加をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】提案されるRecAP用量群を示す表を示した図である。
図2】RecAPアミノ酸配列(配列番号1)を示した図である。
図3】AUC1-7、RRT発生率、並びに死亡率及びMAKEを決定するための投薬計画及び時間枠を含む、STOP-AKI研究のタイムラインを示した図である。
図4】治験における患者の登録、無作為化、及び追跡調査を示すフローチャートを示した図である。略語:AKI(急性腎障害)、AUC(時間補正曲線下面積)、ECC(内因性クレアチニンクリアランス)、ICF(インフォームドコンセントフォーム)、ITT(治療意図)、IV(静脈内)、MAKE(主要な腎有害事象)、NS(明記せず)、RecAP(配列番号1の配列を有するヒト組換えアルカリホスファターゼ)、RRT(腎代替療法)、SA-AKI(敗血症関連急性腎障害)、SCr(血清クレアチニン)。
図5】治験における全ての群の人口統計学的特性及びベースライン特性を示す表を示した図であり、いずれのベースライン特性においても、群間に有意差はなかったことを示している。欠損データのある変数の場合、要約データは調整された数値に基づいている。体格指数(BMI)は、体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったものである。Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)のスコアは、0~71の範囲内でスコアが高いほど疾患の重症度が高いことを示す。Scores on the Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)のスコアは、0~24の範囲内でスコアが高いほど機能障害がより重症であることを示す。Simplified Acute Physiology Score(SAPS)のスコアは、0~163の範囲内でスコアが高いほど疾患の重症度が高いことを示す。推定糸球体濾過率(eGFR)は、CKD-EPI(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration)の式に従って計算した:141*min(Scr/κ,1)α*max(Scr/κ,1)-1.209*0.993年齢*1.018[女性の場合] *1.159 [黒人の場合]。Scrは血清クレアチニン(mg/dL)、κは女性の場合は0.7、男性の場合は0.9、αは女性の場合は-0.329、男性の場合は-0.411、minはScr/κの最小値又は1、及びmaxはScr/κの最大値又は1を指す。(www.kidney.org/content/ckd-epi-creatinine-equation-2009)。急性腎障害(AKI)のステージは、AKI-Network(www.akinet.org/akinstudies.php)の定義に従って層別化した。中央値及び四分位値、又は数及び割合が示されている。
図6】RecAP濃度の線形増加を示すAUC対用量グラフを示した図である。STOP-AKI臨床試験における患者の暴露は、健康な対象と比較してわずかに高くなっている。用量範囲(0.4~1.6mg/kg)にわたって用量直線性及び比例性が観察された。
図7】主要評価項目及び副次的評価項目を示す表(プラセボ群及び0.6mg/kgのRecAP群)を示した図である。AUC1-7は、1日目~7日目までのECC曲線下の面積を7で割って提供される、時間補正されたクリアランス(mL/分)を示す。略称:CI(信頼区間)、CKD-EPI(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration)、ECC(内因性クレアチニンクリアランス)、eGFR(推定糸球体濾過率)、ICU(集中治療室)、IQR(四分位範囲)、MAKE(主要な腎有害事象)、RRT(腎代替療法)、SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)。§ RRT発生率は、無作為化後にRRTを必要とした患者の割合を示す。|| 最後の観察を進めた。* MAKE28:28日目より前又は28日目にRRTを受けたか、28日目より前又は28日目に死亡した。基準のうちの少なくとも1つを満たした割合。† MAKE60:60日目より前又は60日目の血清クレアチニン又は必要な慢性RRTに基づくCKD-EPI式によって推定された60日目のeGFRが60mL/分未満、又は60日目より前若しくは60日目に死亡した。基準の少なくとも1つを満たした割合。‡ MAKE90:90日目RRT前又は90日目の血清クレアチニン又は必要な慢性RRTに基づくCKD-EPI式によって推定された90日目のeGFRが60mL/分未満、90日目より前若しくは90日目に新しいAKIエピソードによる入院、又は90日目より前若しくは90日目に死亡した。基準の少なくとも1つを満たした割合。§§ 絶対差を表す(連続変数の場合)。†† オッズ比を示す(カテゴリ変数の場合)。‡‡ ハザード比を表す(事象の場合)。
図8】全ての治療群の主要評価項目及び副次的評価項目(0.4mg/kg、0.8mg/kg、又は1.6mg/kgのRecAP用量又はプラセボ)を示した図である。
図9A】ICU(左図)及び90日目(右図)のEuroQoL(EQ5D)スコアで測定した生活の質(QoL)評価を示した図である。
図9B】1.6mg/kgのRecAP用量群及びプラセボ群について、肺機能パラメータ(P/F比、1回換気量、及びPEEP)を中央値として示した図である。グラフの下に数値が表示されている。
図9C】1.6mg/kgのRecAP用量群及びプラセボ群について、肝機能パラメータ(アラニンアミノトランスフェラーゼ活性及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性)を中央値として示した図である。グラフの下に数値が表示されている。
図10】事後多変量解析の結果を示した図である。
図11】STOP-AKI試験中に観察された治療緊急性のある有害事象を示した図である。
図12】(29日目を含む)29日目までにプラセボ又は高用量recAPのいずれかに無作為化された、測定可能なスクリーニング又は1日目の値を有する対象集団でのSTOP-AKIにおけるP/F比値を示した図である。数字は、治療アームごとの特定の時点での患者数を示す。平均値は、ブートストラップされた95%信頼区間(CL)と共に表示されている。CLの識別力を高めるために、治療群ごとに時間をわずかにずらした。
図13】(29日目を含む)29日目までにプラセボ又は高用量recAPのいずれかに無作為化された、測定可能なスクリーニング又は1日目の値を有する対象集団でのSTOP-AKIにおけるP/F比値の倍率変化を示した図である。数字は、治療アームごとの特定の時点での患者数を示す。平均値は、ブートストラップされた95%信頼区間と共に表示されている。CLの識別力を高めるために、治療群ごとに時間をわずかにずらした。
図14】(29日目を含む)29日目までにプラセボ又は高用量recAPのいずれかに無作為化された、測定可能なスクリーニング又は1日目の値を有する対象集団でのSTOP-AKIにおけるP/F比値の倍率変化を示した図である。数字は、治療アームごとの特定の時点での患者数を示す。平均値は、ブートストラップされた95%信頼区間と共に表示されている。CLの識別力を高めるために、治療群ごとに時間をわずかにずらした。グループ分けしたARDS基準に従ってMeanBase値のデータが異なるパネルに表示されている。
図15】(29日目を含む)29日目までにプラセボ又は高用量recAPのいずれかに無作為化されたSTOP-AKIにおける患者の生存率を示した図である。ベースラインで重症から中等症のARDSを有する患者のプラセボ群又は高用量AP群について、0日目と比較して生存していた患者の割合が示されている。0日目の患者数は、プラセボ群で40人、高用量recAP群で42人であった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の目的は、特に対象が急性呼吸器症候群(ARDS)に罹患しているか又はそのリスクがある場合に、対象の呼吸機能を維持又は改善する方法を提供することである。本開示の別の目的は、機械的換気療法を防ぐ若しくはその期間短縮し、対象のP/F比を維持若しくは増加させ、及び/又は生存率を増加させることである。
【0015】
したがって、本開示は、ARDSを有する対象又はARDSのリスクがある対象における呼吸機能を維持又は改善するためのアルカリホスファターゼ(AP)、例えばRecAPの使用に関する。本開示は、例えば、対象にRecAPなどのAPを投与することを含む、重症から中等症のARDSを有する対象を治療するための方法を提供する。いくつかの態様では、対象に投与されるAPの各用量は500U/kg(使用される臨床グレードのRecAPの場合0.8mg/kg)以上を含む。いくつかの特定の態様において、各AP用量は、1,000U/g(使用される臨床グレードのRecAPの場合1.6mg/kg)以上である。いくつかの態様において、ARDSは敗血症関連ARDSである。他の態様では、ARDSはウイルス感染、好ましくはコロナウイルス又はオルソミクソウイルス感染、より好ましくは重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルス感染(例えば、2020年のCOVID-19パンデミックの原因となった呼吸器疾患である2019年型コロナウイルス病(COVID-19)を引き起こすコロナウイルス株である、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)など)によって引き起こされるか又は悪化する。オルソミクソウイルス感染の場合、感染は、好ましくは、A型、B型、C型、又はD型インフルエンザ、より好ましくはA型又はB型インフルエンザなどのインフルエンザウイルスによって引き起こされる。
【0016】
RecAPは、小腸型AP及び胎盤型APの2つのヒトアイソザイムの特性を組み合わせたキメラAPである(Kiffer-Moreira et al. PLoS One 2014;9:e89374)。(2つの中で最も生物学的に活性なアイソザイムである)小腸型APのクラウンドメインを(半減期が最も長い)胎盤型APのクラウンドメインで置換すると、非常に安定した生物学的に活性な酵素が生成される(Kiffer-Moreira et al. PLoS One 2014;9:e89374)。例えば、それらの開示が参照により全体が本明細書に援用される米国特許出願公開第20170009216号及び同第20160250299号を参照。
【0017】
いくつかの態様では、ARDSが認められ、ARDSが中等症又は重症であると判断された場合、AP(例えば、RecAP)が対象に投与される。したがって、本開示のいくつかの態様では、本明細書に開示される方法は、対象が中等症ARDS又は重症ARDSに罹患しているかどうかを判断するために、APによる治療の前に、例えば、P/F比を決定することによって、ARDSの重症度を測定することを含む。
【0018】
病態生理学の理解が進むにつれて、ARDSの診断基準は経時的に変化してきた。ARDSの国際コンセンサス基準は2012年に更新され、「2012年ベルリン定義(2012 Berlin definition)」として公知である(Ranieri VM, Rubenfeld GD, Thompson BT, Ferguson ND, Caldwell E, Fan E, Camporota L, Slutsky AS (Jun 2012). "Acute respiratory distress syndrome: the Berlin Definition. ARDS Definition Task Force". JAMA. 307 (23): 2526-33; Ferguson ND, Fan E, Camporota L, Antonelli M, Anzueto A, Beale R, Brochard L, Brower R, Esteban A, et al. (Oct 2012). "The Berlin definition of ARDS: an expanded rationale, justification, and supplementary material". Intensive Care Med. 38 (10): 1573-82)。概して、診断閾値を広げることに加えて、先立つ1994年のコンセンサス基準(1994 consensus criteria)からのその他の注目すべき変更(Bernard G, Artigas A, Brigham K, Carlet J, Falke K, Hudson L, Lamy M, Legall J, Morris A, Spragg R (1994). "The American-European Consensus Conference on ARDS. Definitions, mechanisms, relevant outcomes, and clinical trial coordination". Am J Respir Crit Care Med. 149 (3 Pt 1): 818-24)には、「急性肺損傷」という用語の使用を控えること、及び血液中の酸素含有量の減少の程度に応じてARDS重症度のグレードを定義することが含まれる。
【0019】
2012年ベルリン定義によれば、成人ARDSは以下を特徴とする:
・明らかな臨床的発作から1週間以内であり呼吸器症状の進行を伴う急性発症の肺損傷
・他の肺の病理学によって説明されない(例えば、胸水、葉/肺虚脱、又は結節)胸部画像(胸部X線写真又はCT)での両側性陰影
・心不全又は体液量過剰過負荷によって説明されない呼吸不全
・PaO/FiO比の減少(PaO/FiO比の減少は、利用可能な吸入ガスからの動脈酸素供給の減少を示す):
・軽症ARDS:>200mmHgかつ≦300mmHg(>26.66kPaかつ≦40.00kPa);
・中等症ARDS:>100mmHgかつ≦200mmHg(>13.33kPaかつ≦26.66kPa);
・重症ARDS:≦100mmHg(≦13.33kPa)。
ベルリン定義では、PaO/FiO比を考慮するために、最小呼気終末陽圧(PEEP)が5cmHOである必要がある。この程度のPEEPは、軽症ARDSを診断するために、持続気道陽圧法(CPAP)を使用して非侵襲的に提供されてもよい。
【0020】
この点に関して、本明細書で使用されるARDS及び急性肺損傷(ALI)は、当技術分野で公知(Hernu, R., Wallet, F., Thiolliere, F. et al. An attempt to validate the modification of the American-European consensus definition of acute lung injury/acute respiratory distress syndrome by the Berlin definition in a university hospital. Intensive Care Med 39, 2161-2170 (2013))であるように、上記の定義の境界内で交換可能に使用可能である、すなわち、P/F境界及び2012年ベルリン定義のさらなる基準を使用して軽症疾患、中等症疾患、及び重症疾患を区別することに留意されたい。
【0021】
本開示のいくつかの態様では、ベースラインP/F比が≦100mmHgである場合、ARDSは重症であると分類される。いくつかの態様では、ベースラインのP/F比が>100mmHgかつ≦200mmHgの場合、ARDSは中等症に分類される。他の態様では、ARDSの重症度を決定するために他の診断測定を使用することができる。本開示のいくつかの態様では、ARDSが軽症又は存在しないと判断される場合(例えば、ベースラインP/F比が>200mmHgである場合)、APは対象に投与されない。
【0022】
いくつかの態様では、AP、例えばRecAPは、予防的に投与される。いくつかの態様では、本明細書に開示される方法は、少なくとも1回用量のAP、例えばRecAPを対象に投与することを含み、各用量は、少なくとも500U/kg(使用される臨床グレードのRecAPの場合は0.8mg/kg)又は1000U/kg(使用した臨床グレードのRecAPの場合は1.6mg/kg)である。いくつかの特定の態様では、投薬計画は、0.5mg/kg~2mg/kgのAP、例えばRecAPを、静脈内注入により、1日用量で、少なくとも3日間投与することを含む。いくつかの特定の態様では、投薬計画は、0.5mg/kg~2mg/kgのAP、例えばRecAPを、静脈内注入により、1日用量で、少なくとも3日間投与することを含む。
【0023】
本開示をより容易に理解できるようにするために、特定の用語を最初に定義する。追加の定義は、「発明を実施するための形態」全体に記載されている。
【0024】
I.定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲において、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、及び「前記(the)」は、文脈が明確に別の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。「1つ(a)」(又は「1つ(an)」)という用語、並びに「1又は複数」及び「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では交換可能に使用することができる。
【0025】
さらに、本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、2つの指定された特徴又は構成要素の一方を含む又は含まない各々の特定の開示とみなされるべきである。したがって、本明細書で「A及び/又はB」などの語句で使用される「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」(単独)、及び「B」(単独)を含むことを意図している。同様に、「A、B、及び/又はC」などの語句で使用される「及び/又は」という用語は、以下の態様:A、B、及びC;A、B、又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);及びC(単独)のそれぞれを包含することを意図している。
【0026】
本明細書で態様が「含む」という言葉で記載されている場合は常に、「からなる」及び/又は「から本質的になる」に関して記載される類似の態様も提供される。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて数値に関連して使用される「約」という用語は、当業者によく知られており、許容できる精度の範囲を示す。概して、このような精度の間隔は±15%である。
【0028】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が関連する当業者によって通常に理解されるものと同じ意味を有する。
【0029】
単位、接頭辞、及び記号は、国際単位系(SI)で承認された形式で示されている。
【0030】
数値範囲には、範囲を定義する数値が含まれる。値の範囲が記載されている場合、その範囲の記載された上限と下限との間の介在する各整数値及びその各分数も、そのような値の間の各部分範囲とともに具体的に開示されていることを理解されたい。任意の範囲の上限及び下限は、独立して範囲に含まれるか、範囲から除外され、いずれか又は両方の限界が含まれない各範囲も本発明に包含される。下限の値の前に「>」が付いている場合、範囲の下限は範囲から除外される。上限の値の前に「<」が付いている場合、範囲の上限は範囲から除外される。下限の値の前に「≧」が付いている場合、範囲の下限は範囲に含まれる。上限値の前に「≦」が付いている場合、範囲の上限は範囲に含まれる。値が明示的に記載されている場合、記載された値とほぼ同じ数量又は量である値も本発明の範囲内にあることを理解されたい。組み合わせ(コンビネーション)が開示されている場合、その組み合わせの要素の各副次的組み合せ(サブコンビネーション)も具体的に開示されており、本発明の範囲内である。逆に、異なる要素又は要素群が個別に開示されている場合、それらの組み合わせも開示されている。発明のいずれかの要素が複数の代替案を有するものとして開示されている場合、各代替案が単独で、又は他の代替案との任意の組み合わせで除外されている発明の例も本明細書に開示されており、発明の2つ以上の要素がそのような除外を有することができ、そのような除外を有する要素の全ての組み合わせが本明細書に開示される。
【0031】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」、又は「~の治療」という用語は、(i)疾患又は障害、例えばARDSの可能性又はリスクを低減すること、(ii)疾患又は障害、例えばARDSの発生を低減すること、(iii)疾患又は障害、例えばARDSの重症度の軽減(例えば、症状の改善)、又は(iv)それらの組み合わせを意味する。
【0032】
例えば、治療することは、対象に投与された場合に、ARDSに起因又は関連する肺損傷のリスクを予防又は軽減する、及び/又は肺損傷、例えばARDSの症状、徴候、若しくは原因を治癒又は緩和する治療の能力を意味し得る。治療することは、未治療(又はプラセボ治療)群と比較した場合に、少なくとも1つの臨床症状を軽減若しくは減少させること、及び/又は症状の進行を抑制若しくは遅延させること、及び/又は疾患若しくは病気の発症を予防若しくは遅延させることも意味する。したがって、「治療する」、「治療すること」、又は「~の治療」という用語(又は文法的に同等の用語)は、ARDSによって引き起こされるか又はARDSに関連する肺損傷を(さらに)予防し得るARDSの治療処置計画を意味する。呼吸器疾患の場合、対象は、本明細書に開示される方法によりAPで治療された後、APで治療されていない対象と比較して、呼吸機能が改善する又は呼吸機能の低下が少ないことが好ましい。
【0033】
本明細書で使用する用語「維持する」は、肺機能の低下を防止する、低下を遅くする、低下を停止する、及び/又は肺機能の低下を少なくとも部分的に元に戻すことを含む。「増加する」という用語は、呼吸機能を、治療が行われる前の値と同等又はそれ以上の値まで増加させることに必ずしも限定されない。これには、呼吸機能の部分的な回復が含まれる。
【0034】
本明細書で使用される「対象」又は「患者」という用語は、肺損傷(例えば、ARDS)の治療又は予後が望まれる任意の対象、特に哺乳動物対象を意味する。本明細書で使用される用語「対象」又は「患者」としては、任意のヒト又はヒト以外の動物が挙げられる。本明細書で使用される場合、「ARDSを有する患者」又は「敗血症を有する患者」などの語句は、本明細書に開示されるように、APを用いた治療の実施から恩恵を受ける哺乳動物対象などの対象を含む。
【0035】
本開示のいくつかの態様では、対象は未処置の対象である。未処置の対象は、治療、例えば治療剤を投与されていない対象である。いくつかの態様では、未処置の対象は、ARDSなどの肺損傷又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば、敗血症)と診断される前に、治療剤による治療を受けていない。
【0036】
別の態様では、対象は、肺損傷(例えば、ARDS)、又は肺損傷及び/又はARDSに至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば、敗血症)を有すると診断される前に、治療及び/又は1又は複数の用量の治療剤を受けている。
【0037】
いくつかの態様では、対象のベースラインP/F比が所定のP/F比閾値レベル未満である場合、又はベースラインP/F比が所定の範囲内にある場合、対象は少なくとも1回の治療有効用量のAP(例えば、RecAP)を投与され得る。
【0038】
本明細書で使用される用語「治療剤」及び「薬物」はまた、疾患若しくは障害、例えば肺損傷(例えば、ARDS)、又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば敗血症)を有する対象に投与され、望ましい、通常は有益な効果をもたらす任意の治療活性物質を意味する。治療剤はまた、対象に投与された場合に望ましい治療活性物質に代謝するプロドラッグであり得る。いくつかの態様では、治療剤は予防薬である。また、治療剤は薬学的に処方されてもよい。治療剤はまた、光若しくは超音波エネルギーなどの他の形態のエネルギーによって、又は全身投与可能な他の循環分子によって活性化される放射性同位体又は薬剤を含み得る。
【0039】
本開示のいくつかの態様では、肺損傷(例えば、ARDS)の症状、又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば、敗血症)の治療、予防、又は改善のための治療剤は、肺損傷(例えば、ARDS)の症状、又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば、敗血症)の治療に通常使用される、AP(例えば、RecAP)単独又は1又は複数の標準的な治療剤と組み合わせたものを含み得る。
【0040】
本明細書で使用される「治療上有効」量は、疾患若しくは障害、例えば肺損傷(例えば、ARDS)、又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば敗血症)を有する対象にいくらかの改善又は利益をもたらす治療剤の量である。したがって、「治療上有効」量は、疾患若しくは障害、例えば肺損傷(例えば、ARDS)、又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば敗血症)の少なくとも1つの臨床症状をいくらか緩和、軽減、及び/又は減少させる量である。
【0041】
本開示の特定の投薬計画としての組成物や方法によって治療することができる肺損傷(例えば、ARDS)、又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば、敗血症)に関連する臨床症状は、当業者に周知である。さらに、当業者は、何らかの利益が対象に提供される限り、治療効果が完全又は治癒的である必要がないことを理解するであろう。いくつかの態様では、「治療上有効」という用語は、必要とする患者においてP/F比などのバイオマーカーレベルを変更できる治療剤の量を意味する。
【0042】
本明細書で使用される場合、疾患若しくは障害、例えば肺損傷(例えば、ARDS)、又は肺損傷に至る可能性のある疾患若しくは症状(例えば敗血症)を有する患者において特定の結果を達成するのに「十分な量」又は「~するのに十分な量」とは、治療効果(すなわち、治療有効量の投与による)であってもよい望ましい効果を生み出すのに有効な治療剤(例えば、RecAPなどのAP)の量を意味する。いくつかの態様では、そのような特定の結果は、肺機能の改善である。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「医療提供者」は、生存対象(例えば、ヒト患者)に直接関わって投与を行う個人又は機関を意味する。医療提供者の非限定的な例としては、一般医療、専門医療、外科、及び/又はその他の種類の治療、評価、維持、療法、投薬、及び/又はアドバイスを含むがこれらに限定されない、患者の健康状態の全部又は任意の部分に関連する一般的及び/又は専門的な治療、評価、維持、療法、投薬、及び/又はアドバイスを提供する医師、看護師、技術者、セラピスト、薬剤師、カウンセラー、代替医療従事者、医療施設、診療所、病院、緊急治療室、診療所、緊急治療センター、代替医療クリニック/施設、並びに任意のその他の組織が挙げられる。
【0044】
本明細書で使用される「臨床検査室」という用語は、生存対象(例えば、ヒト)に由来する物質を検査又は処理するための施設を指す。処理の非限定的な例としては、生存対象(例えば、ヒト)の任意の疾患若しくは障害の、例えば、診断、予防、治療、又は健康状態の評価のための情報提供を目的とした、人体由来物質の生物学的、生化学的、血清学的、化学的、免疫血液学的、血液学的、生物物理学的、細胞学的、病理学的、遺伝学的、又はその他の検査が挙げられる。これらの検査には、試料を採取又はその他の方法で得る手順、生存対象(例えば、ヒト)の体内における様々な物質又は生存対象(例えば、ヒト)から得られた試料を準備する手順、決定する手順、測定する手順、又はその他の方法で存在又は非存在を記述する手順も含まれ得る。
【0045】
本明細書で使用される場合、「医療給付提供者」という用語は、全部又は一部を提供すること、提示すること、提案すること、支払うこと、あるいは1又は複数の医療給付、給付計画、健康保険、及び/又は医療費勘定プログラムへのアクセスを患者に与えることに関連している、個々の当事者、組織、又はグループを包含する。
【0046】
いくつかの態様では、医療提供者は、疾患又は障害、例えば肺損傷(例えば、ARDS)、又は肺損傷に至る可能性がある疾患又は症状(例えば、敗血症)の症状を予防、治療、又は改善するための治療を実施すること、又は実施することを別の医療提供者に指示することができる。医療提供者は、以下の対応、すなわち、試料を取得する、試料を処理する、試料を提出する、試料を受け取る、試料移動させる、試料を分析又は測定する、試料を定量する、試料を分析/測定/定量した後に得られた結果を提供する、試料を分析/測定/定量化した後に得られた結果を受け取る、1又は複数の試料を分析/測定/定量化した後に得られた結果を比較/スコア化する、1又は複数の試料から比較/スコアを提供する、1又は複数の試料から比較/スコアを取得する、治療(例えば、RecAPなどのAP)を実施する、治療の実施を開始する、治療の実施を中止する、治療の実施を継続する、治療の実施を一時的に中断する、投与される治療剤の量を増やす、投与される治療剤の量を減らす、ある量の治療剤の投与を継続する、治療剤の投与回数を増やす、治療剤の投与回数を減らす、治療剤の投与回数を同じに維持する、治療又は治療剤を少なくとも別の治療又は治療剤に置き換える、治療又は治療剤を少なくとも別の治療又は追加の治療剤と組み合わせることを実施すること又は別の医療提供者若しくは患者に実施するように指示することができる。
【0047】
いくつかの態様では、医療給付提供者は、例えば、試料の収集、試料の処理、試料の提出、試料の受け取り、試料の移動、試料の分析又は測定、試料の定量化、試料を分析/測定/定量した後に得られた結果の提供、試料を分析/測定/定量した後に得られた結果の転送、1又は複数の試料を分析/測定/定量した後に得られた結果の比較/スコア化、1又は複数の試料からの比較/スコアの転送、治療又は治療剤の実施/投与、治療又は治療剤の実施/投与の開始、治療又は治療剤の実施/投与の中止、治療又は治療剤の実施/投与の継続、治療又は治療剤の実施/投与の一時的な中断、治療剤の投与量の増加、治療剤の投与量の減少、ある量の治療剤の投与の継続、治療剤の投与回数の増加、治療剤の投与回数の減少、治療剤の同じ投与回数の維持、治療又は治療剤の少なくとも別の治療又は治療剤への置換、又は治療若しくは治療剤の少なくとも別の治療若しくは追加の治療剤との組み合わせを、許可又は拒否することができる。
【0048】
さらに、医療給付提供者は、例えば、治療の処方を許可又は拒否すること、治療の保険適用を許可又は拒否すること、治療費の払い戻しを許可又は拒否すること、治療の適格性を判断又は拒否することなどができる。
【0049】
いくつかの態様では、臨床検査室は、例えば、試料を採取又は取得する、試料を処理する、試料を提出する、試料を受け取る、試料を移動させる、試料を分析又は測定する、試料を定量する、試料を分析/測定/定量した後に得られた結果を提供する、試料を分析/測定/定量化した後に得られた結果を受け取る、1又は複数の試料を分析/測定/定量化した後に得られた結果を比較/スコア化する、1又は複数の試料から比較/スコアを提供する、1又は複数の試料から比較/スコアを取得する、又は他の関連の行動を行うことができる。
【0050】
II.APによるARDSの治療
特定の態様では、本開示は、APによる治療に特に良好に反応することが決定された対象集団、特にARDS患者の肺機能を維持又は改善するための方法に関する。
【0051】
Pickkers et al(Pickkers P, Mehta RL, Murray PT, et al. Effect of Human Recombinant Alkaline Phosphatase on 7-Day Creatinine Clearance in Patients With Sepsis-Associated Acute Kidney Injury: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018;320(19):1998-2009)に広く記述されているSTOP-AKI研究からのデータの最近の分析では、ARDSの重症度に対応する閾値と肺機能の改善との間に統計的に有意な相関関係があることが確認されている(プラセボに対するP/F比の改善によって証明されている)。肺機能のマーカー、特にP/F比に従ってSTOP-AKI臨床試験で患者を層別化すると、驚くべきことに、特定のサブグループに対するAP投与の特定の効果が特定された。これらのサブグループのそれぞれを定義するパラメータ又は複数のパラメータ(例えば、P/F比閾値などの一連の閾値)を使用して、例えば、AP療法を特定のサブグループ、治療のために選択された患者に合わせて個別化し、AP治療について決定する(例えば、投薬又は投薬スケジュールを変更する)、又は陽性転帰の可能性を評価することができる。
【0052】
したがって、いくつかの態様では、本明細書に開示される方法は、対象にRecAPなどのAPを投与することを含む、中等症又は重症のARDSのいずれかを有すると判断された対象へのAP(例えば、RecAP)の投与に関する。対象のARDS重症度を中等症又は重症に分類する方法は、当業者に周知である。上記のとおり、2012年ベルリン定義では、P/Fが>100mmHgかつ≦200mmHgを中等症ARDS、P/Fが≦100mmHg(≦13.33kPa)を重症ARDSと分類している。したがって、中等症又は重症のARDS有する人のP/F比は≦200mmHgである。ベルリン定義では、P/F比を考慮するために、5cmHOの最小呼気終末陽圧(PEEP)がさらに必要である。したがって、好ましい実施形態では、本発明により、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とする対象においてARDSを治療する方法における使用のためのアルカリホスファターゼ(AP)が提供され、ここで、5cmHOの最小呼気終末陽圧(PEEP)を使用してP/F比が測定された場合に、対象は、P/F比が≦200mmHgである中等症又は重症のARDSを有する。APの投与は、中等症から重症のARDSを有する対象に500U/kg以上の用量で投与される場合に特に効果的である。APは、1,000U/kg以上の用量で投与すると特に効果的である。
【0053】
いくつかの態様では、AP(例えば、RecAP)は、投与量当たり約500U/kg以上、約600U/kg以上、約700U/kg以上、約800U/kg以上、約900U/kg以上、約1000U/kg以上、約1100U/kg以上、約1200U/kg以上、約1300U/kg以上、約1400U/kg以上、約1500U/kg以上、約1600U/kg以上、約1700U/kg以上、約1800U/kg以上、約1900U/kg以上、又は約2000U/kg以上の用量で投与される。いくつかの態様では、AP(例えば、RecAP)は、投与量当たり2000U/kgを超える用量で投与される。いくつかの態様では、AP(例えば、RecAP)は、投与量当たり500U/kg未満の用量で投与される。
【0054】
いくつかの態様では、AP(例えば、RecAP)は、約500U/kg~約1500U/kg、約600U/kg~約1400U/kg、約700U/kg~約1300U/kg、約800U/kg~約1200U/kg、又は約900U/kg~約1100U/kgの用量で投与される。いくつかの特定の態様では、APは約1000U/kgの用量で投与される。
【0055】
いくつかの態様では、APは、ヒトAPである。いくつかの態様では、APは、組換えAPである。いくつかの態様では、APは、キメラAPである。特定の態様では、キメラAPは、RecAP(配列番号1)である。いくつかの態様では、本明細書に開示されるAPは、配列番号1のアミノ酸配列に対して約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、又は約99%以上の配列同一性を有する。いくつかの態様では、APは、機能的断片(すなわち、APの断片、例えば対応する全長APのAP活性の約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、70%以上、約80%以上、又は約90%以上を維持するAP)である。いくつかの態様では、APは、本明細書に開示されるAPのバリアント又は誘導体である。本明細書で開示されるように使用され得る他のAPについては、以下で詳細に論じる。
【0056】
いくつかの態様では、APは、RecAP(例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAP)であり、投与量当たり約0.1mg/kg以上、約0.2mg/kg以上、約0.3mg/kg、約0.4mg/kg以上、約0.5mg/kg以上、約0.6mg/kg以上、約0.7mg/kg以上、約0.8mg/kg以上、約0.9mg/kg以上、約1mg/kg以上、約1.1mg/kg以上、約1.3mg/kg以上、約1.4mg/kg以上、約1.5mg/kg以上、約1.6mg/kg以上、約1.7mg/kg以上、約1.8mg/kg以上、約1.9mg/kg以上、約2mg/kg以上、約2.1mg/kg以上、約2.2mg/kg以上、約2.3mg/kg以上、又は約2.4/kg以上の用量で投与される。いくつかの態様では、APは、投与量当たり2.4mg/kgを超える用量で投与される。いくつかの態様では、APは、RecAP(例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAP)であり、約100U/kg以上、約200U/kg以上、約300U/kg以上、約400U/kg以上、約500U/kg以上、約600U/kg以上、約700U/kg以上、約800U/kg以上、約900U/kg以上、約1000U/kg以上、約1100U/kg以上、約1200U/kg以上、約1300U/kg以上、約1400U/kg以上、約1500U/kg以上、約1600U/kg以上、約1700U/kg以上、約1800U/kg以上、約1900U/kg以上、又は約2000U/kg以上の用量で投与される。APはRecAPであり、100U/kg未満の用量で投与される。APはRecAPであり、2000U/kgを超える用量で投与される。
【0057】
いくつかの態様では、APは、RecAP(例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAP)であり、約0.8mg/kg~約2.4mg/kg、約0.9mg/kg~約2.3mg/kg、約1mg/kg~約2.2mg/kg、約1.1mg/kg~約2.1mg/kg、約1.2mg/kg~約2mg/kg、約1.3mg/kg~約1.9mg/kg、約1.4mg/kg~約1.8mg/kg、又は約1.5mg/kg~約1.7mg/kgの用量で投与される。いくつかの特定の態様では、APは約1.6mg/kgの用量で投与される。
【0058】
いくつかの態様では、APは、RecAP(例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAP)であり、約100U/mg以上、約200U/mg以上、約300U/mg以上、約400U/mg以上、約500U/mg以上、約600U/mg以上、約700U/mg以上、約800U/mg以上、約900U/mg以上、約1000U/mg以上、約1100U/mg以上、約1200U/mg以上、約1300U/mg以上、約1400U/mg以上、約1500U/mg以上、約1600U/mg以上、約1700U/mg以上、約1800U/mg以上、約1900U/mg以上、又は約2000U/mg以上の比活性度を有する。
【0059】
いくつかの態様では、APは、RecAP(例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAP)であり、約1000U:1.6mgの比活性度を有する。いくつかの態様では、APは、RecAPであり、約600U/mg~約700U/mg、約500U/mg~約800U/mg、約400U/mg~約900U/mg、約300U/mg~約1000U/mg、約200U/mg~約1100U/mg、又は100U/mg~約1200U/mgの比活性度を有する。いくつかの態様では、APは、RecAPであり、100U/mg未満の比活性度を有する。いくつかの態様では、APは、RecAPであり、1200U/mgを超える比活性度を有する。
【0060】
いくつかの態様では、AP(例えば、RecAP)は1回の治療につき1回の用量のみ投与される(例えば、1日1回の用量で1~7日間)。他の態様では、APの2回以上の用量が投与される。いくつかの態様では、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回、又は21回のAPの用量が投与される(例えば、少なくとも1日2回用量で1~7日間)。
【0061】
いくつかの態様では、AP用量は毎日投与される。他の態様では、AP用量は、2日、3日、4日、5日、6日、又は7日ごとに投与される。
【0062】
いくつかの態様では、単回用量が毎日投与される。いくつかの態様では、2回、3回、又はそれ以上の用量が毎日投与される。
【0063】
いくつかの態様では、APによる治療は約4日未満である。いくつかの態様では、APによる治療は3日未満、2日未満、又は1日未満である。
【0064】
特定の態様では、APは、3日間連続して投与される約1000U/kgの1日用量として投与される。いくつかの特定の態様では、APがRecAPである場合、APは、3日間連続して投与される1.6mg/kgの1日用量として投与される。いくつかの態様では、各AP、例えばRecAP(例えば、本開示で使用される臨床グレードのRecAP)の用量は、約0.10mg/kg~約3mg/kg、約0.20mg/kg~約2.9mg/kg、約0.3mg/kg~約2.8mg/kg、約0.4mg/kg~約2.7mg/kg、約0.5mg/kg~約2.6mg/kg、約0.6mg/kg~約2.5mg/kg、約0.7mg/kg~約2.4mg/kg、約0.8mg/kg~約2.3mg/kg、約0.9mg/kg~約2.2mg/kg、約1mg~約2.1mg/kg、約1.1mg/kg~約2mg/kg、約1.2mg/kg~約1.9mg/kg、約1.3mg/kg~約1.8mg/kg、又は約1.4mg/kg~約1.7mg/kgである。いくつかの態様では、各AP、例えば、RecAPの用量は、約0.1mg以上のAP/kg、約0.2mg以上のAP/kg、約0.3mg以上のAP/kg、約0.4mg以上のAP/kg、約0.5mg以上のAP/kg、約0.6以上mgのAP/kg、約0.7mg以上のAP/kg、約0.8mg以上のAP/kg、約0.9mg以上のAP/kg、約1mg以上のAP/kg、約1.1mg以上のAP/kg、約1.2mg以上のAP/kg、約1.3mg以上のAP/kg、約1.4mg以上のAP/kg、約1.5mg以上のAP/kg、約1.6mg以上のAP/kg、約1.7mg以上のAP/kg、約1.8mg以上のAP/kg、約1.9mg以上のAP/kg、約2mg以上のAP/kg、約2.1mg以上のAP/kg、約2.2mg以上のAP/kg、約2.3mg以上のAP/kg、約2.4mg以上のAP/kg、約2.5mg以上のAP/kg、約2.6mg以上のAP/kg、約2.6mg以上のAP/kg、約2.7mg以上のAP/kg、約2.8mg以上のAP/kg、約2.9mg以上のAP/kg、又は約3mg以上のAP/kgを含む。
【0065】
APは、例えば静脈内、直腸内、気管支内、又は経口などの異なる経路を介して投与され得る。いくつかの特定の態様において、APは、例えば静脈内注入を介して静脈内に投与される。いくつかの態様では、APは持続注入により静脈内投与される。
【0066】
肺機能の短期間の維持は、即時の救命結果をもたらし得るが、肺機能に対するAPの効果は長期間持続することが好ましい。
【0067】
P/F比は、当技術分野で公知の方法によって決定することができる。動脈血液ガス(ABG)によって測定される動脈pOは、P/F比を計算するための好ましい方法である。ただし、ABGが利用できないためにpOが不明な場合は、以下の表に示すように、パルスオキシメトリーで測定されたSpOを使用してpOを概算できる。SpOが98%~100%の場合は、SpOからpOの推定が信頼できなくなることに注意しなくてはならない。
【表1】

例:40%酸素を使用している患者のパルスオキシメトリーSpOが95%であると仮定する。上記の表を参照すると、SpOの95%は、pOの80mmHgに相当する。P/F比=80÷0.40=200。患者は、40%酸素の供給で安定する場合もあるが、依然として急性呼吸不全を有する。患者を室内空気下で酸素を中断した場合、pOはわずか40mmHgとなる(室内空気下での急性呼吸不全のカットオフ値60mmHgよりはるかに低い)。
【0068】
酸素補給は、マスク又は鼻カニューレ(「NC」)のいずれかによって投与され得る。ベンチュリー(Venturi)マスク(ベンチマスク)は、24%、28%、31%、35%、40%、又は50%の特定の固定濃度(FIO)の酸素の制御流を供給する。ノンリブリーザー(「NRB」)マスクは、約100%の酸素を供給するように設計されている。40%以上の酸素補給を提供することは、急性呼吸不全の患者だけがそれだけの量の酸素を必要とすることから、医師が急性呼吸不全を治療していることを意味する。鼻カニューレは、1分当たりの酸素のリットル(L/分又は「LPM」)で調整可能な流量で酸素を提供する。鼻カニューレによって供給される実際のFIO(パーセント酸素)は、マスクを使用した場合よりも多少変動し、信頼性が低くなるが、以下の表に示すように推定できる。鼻カニューレの流量から得られたFIOを使用して、P/F比を計算することができる。
【表2】

例:患者は、5L/分の酸素を受けるとABGで85mmHgのpOを有する。5L/分は40%酸素(0.40のFIO)であるため、P/F比=85÷0.40=212.5となる。
【0069】
いくつかの態様では、本明細書に開示される対象へのAPの投与は、対象におけるP/F比、動脈血酸素飽和度(pO)、脈拍酸素飽和度(SpO)、酸素化指数、及び/又は呼吸指数などの多くの呼吸機能関連パラメータを改善することができる。
【0070】
いくつかの態様では、対象へのAP(例えば、RecAP)の投与は、治療を行っていない対象のP/F比と比べてのP/F比の増加をもたらす。いくつかの態様では、P/F比の増加は、治療を行っていない対象のP/F比に対して、5mmHg以上、10mmHg以上、20mmHg以上、30mmHg以上、40mmHg以上、50mmHg以上、60mmHg以上、70mmHg以上、80mmHg以上、90mmHg以上、100mmHg以上、110mmHg以上、120mmHg以上、130mmHg以上、140mmHg以上、150mmHg以上、160mmHg以上、170mmHg以上、180mmHg以上、190mmHg以上、又は200mmHg以上である。
【0071】
いくつかの態様では、AP(例えば、RecAP)を対象に投与すると、ベースラインP/F比と比べての対象P/F比が増加する。いくつかの態様では、対象のP/F比の増加は、ベースラインP/F比に対して、5mmHg以上、10mmHg以上、20mmHg以上、30mmHg以上、40mmHg以上、50mmHg以上、60mmHg以上、70mmHg以上、80mmHg以上、90mmHg以上、100mmHg以上、110mmHg以上、120mmHg以上、130mmHg以上、140mmHg以上、150mmHg以上、160mmHg以上、170mmHg以上、180mmHg以上、190mmHg以上、又は200mmHg以上である。いくつかの態様では、AP(例えば、RecAP)をARDS患者に投与すると、ARDSの重症度が、「重症」から「中等症」、「中等症」から「軽度」、「重症」から「軽症」、又は「中等症」若しくは「重症」から「ARDSなし」(すなわちP/Fが>300mmHg)に緩和される。
【0072】
この文脈内で、ベースラインP/F比は、治療開始前又は開始前後のP/F比として定義される。ベースラインP/F比は、好ましくは-2日目、-1日目、0日目、又は1日目に、すなわち、好ましくはAPによる治療の開始前48時間以内及びAPによる治療の開始後24時間以内に決定される。より好ましくは、ベースラインP/F比は、APによる治療の開始前24時間以内及びAPによる治療の開始後12時間以内に、より好ましくは、APによる治療開始の12時間前からAPによる治療開始後6時間までの間に、より好ましくは、APによる治療の開始の12時間前からAPによる治療の開始までの間に、最も好ましくは、APによる治療開始の6時間前からAPによる治療の開始までの間に決定される。AP治療は、好ましくはP/F比が少なくとも200以上になるまで、より好ましくは300以上になるまで、最も好ましくは対象がもはやARDSを有していないと考えられるまで継続される。
【0073】
いくつかの態様では、肺機能の増加、例えばP/F比の増加が、AP投与後1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、15日目、16日目、17日目、18日目、19日目、20日目、21日目、22日目、23日目、24日目、25日目、26日目、27日目、又は28日目に観察される。
【0074】
本開示のいくつかの態様では、対象のARDSは、敗血症若しくはウイルス感染を伴うか、又はそれらによるものである。いくつかの態様では、対象のARDSが敗血症若しくはウイルス感染を伴うか、又はそれらによるものであり、敗血症又はウイルス感染が治療開始の決定前96時間以内に判定された場合にのみ、AP(例えば、RecAP)が対象に投与される。他の態様では、対象のARDSが敗血症若しくはウイルス感染を伴うか、又はそれらによるものであり、敗血症又はウイルス感染がARDS検出の72時間以内に判定された場合にのみ、AP(例えば、RecAP)が対象に投与される。
【0075】
本開示のいくつかの態様では、対象のARDSは、敗血症若しくはウイルス感染を伴うか、又はそれらによるものであり、AP(例えば、RecAP)による対象の治療は、敗血症又はウイルス感染の判定後24時間以内に開始される。敗血症の存在は、例えば、SIRS又はSOFAなどの敗血症を判定するために開発された基準を使用することによって検出され得る。「敗血症」の定義は、1992年に最初に定義されて以来、感染に対する宿主の全身性炎症反応症候群(SIRS)が敗血症の原因であるという当時広まっていいた見解に焦点を当てて、何回か再評価されてきた(Bone RC, Balk RA, Cerra FB, et al. American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 1992;20(6):864-874)。2001年に、診断基準のリストが拡張されたが、代替基準は提供されなかった(Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al. International Sepsis Definitions Conference. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Intensive Care Med. 2003;29(4):530-538)。2016年には、現在広く使用されている「SEPSIS-3」基準が推奨され、SIRS基準は使用されなくなった。代わりに、Sequential[Sepsis-related] Organ Failure Assessment(SOFA)が敗血症の診断に使用されている(Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810. doi:10.1001/jama.2016.0287)。実施例に記載されているSTOP-AKI研究は、2014年~2017年に実施され、敗血症患者を特定及び/又は階層化するためにSIRS及びSOFAスコアの両方を利用した。本明細書で使用される「敗血症」の定義及び判断について、SOFAスコアに基づき、Singer et al(Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810. doi:10.1001/jama.2016.0287)に詳しく説明されているSEPSIS-3基準を使用することが好ましい。
【0076】
本開示のいくつかの態様では、APは、肺機能の低下を防ぐために、敗血症のリスクのある対象に投与される。
【0077】
いくつかの態様では、ARDSの検出後48時間以内に、対象のAP治療が開始される。好ましい実施形態では、対象のAP治療は、中等症又は重症のARDSの検出後48時間以内、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、最も好ましくは6時間以内に開始される。
【0078】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、APの少なくとも1回用量の投与が、機械的換気療法を受けている対象における機械的換気療法の期間の短縮又は中止をもたらす。
【0079】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、APの投与は、肺機能の増加をもたらすか、又は臨界閾値未満への肺機能の低下を防止する。したがって、いくつかの態様において、AP投与は、臨界閾値未満の肺機能の低下を防止することができる。よって、いくつかの態様では、対象の肺機能が特定の閾値レベル未満に低下するリスクを判定するために、肺機能を維持するためにAPを投与する前に、肺機能の指標(例えば、P/F比)が決定される。
【0080】
いくつかの態様では、本明細書に開示される方法は、肺機能のマーカー(例えば、P/F比)の変化を単独で、又は1つ、2つ、3つ、又はそれ以上のバイオマーカーのレベルの変化の検出と組み合わせて検出することを含む。
【0081】
いくつかの態様では、本明細書に開示される方法は、検出された肺機能パラメータ(例えば、ベースラインP/F比)に基づいて、AP(例えば、RecAP)による療法に対する臨床反応の増加を予測することを含む。いくつかの態様では、本開示の方法は、肺機能パラメータ(例えば、ベースラインP/F比)が特定の範囲内にあるかどうか、又はそれが特定の閾値(例えば、ARDSの重症度に対するP/F比閾値)を超えるか又は下回るかを評価することを含む。よって、例えば、肺機能パラメータ(例えば、ベースラインP/F比)が、単独で、又は他のバイオマーカーと組み合わせて、患者がAPによる療法から恩恵を受けることを示している場合は、療法を開始するか、維持するか、又は変更すること(例えば、投与量を増やす若しくは減らすこと、又は投与回数を増やす若しくは減らすこと)ができる。
【0082】
逆に、例えば、肺機能パラメータ(例えば、ベースラインP/F比)が、単独で、又は他のバイオマーカーと組み合わせて、患者がAPによる療法から恩恵を受けないことを示している場合は、療法を中止するか、一旦中断するか、又は変更すること(例えば、投与量を増やす若しくは減らすこと、又は投与回数を増やす若しくは減らすこと)などができる。
【0083】
換言すれば、肺機能パラメータ(例えば、ベースラインのP/F比)の特定のレベルは、単独で、又は他の分子若しくは臨床バイオマーカーと組み合わせて、AP療法の臨床効果と相関し、敗血症及び/又はARDSに罹患した患者の特定の集団における臨床転帰を予測するのに役立つ。
【0084】
一部の法域では、本発明は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とする対象においてARDSを治療する方法における使用のためのアルカリホスファターゼ(AP)が提供され、前記対象は≦200mmHgのP/F比を有する。さらに、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とする対象においてARDSを治療するための薬剤を製造するためのアルカリホスファターゼ(AP)の使用が提供され、前記対象は≦200mmHgのP/F比を有する。
【0085】
本発明はまた、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とする対象においてARDSを治療する方法における使用のためのアルカリホスファターゼ(AP)が提供され、ここで、前記方法は有効量のアルカリホスファターゼ(AP)を前記対象に投与することを含み、
(i)前記対象がAPによる治療の前に中等症又は重症のARDSを有しており、及び
(ii)前記APは少なくとも1回の300U/kg~2,000U/kg用量で投与される。
【0086】
中等症又は重症のARDSでは、2012年ベルリン定義によると、5cmHOの最小呼気終末陽圧(PEEP)を使用して測定した場合、P/F比は≦200mmHgである。
【0087】
好ましい実施形態では、対象が、APによる治療の前にP/F比が>100mmHgかつ≦200mmHgである中等症ARDSを有する。他の好ましい実施形態では、対象が、APによる治療前にP/F比が<100mmHgである重症ARDSを有する。
【0088】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAP又は本発明に係る使用が提供され、ここで、前記APはヒトAPである。
【0089】
いくつかの好ましい実施形態では、APは組換えAPであり、好ましくはキメラAPであり、より好ましくはRecAPのアミノ酸配列(配列番号1)に対して、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%の配列同一性を有するAPである。いくつかの好ましい実施形態では、前記APは、RecAPのアミノ酸配列(配列番号1)に対して、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%の配列同一性を有する組換えAPであり、但し、279位のアミノ酸はロイシン(L)、328位のアミノ酸はバリン(V)、478位のアミノ酸はロイシン(L)である。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明に係る使用又は本発明に係る使用のためのAPが提供され、ここで、前記APの投与は対象の肺機能の増加をもたらす。前記肺機能の増加は、好ましくは、治療を行っていない場合の対象のP/F比と比べての前記対象のP/F比の増加を含む。
【0091】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAP又は本発明に係る使用が提供され、ARDSは敗血症に関連するか又は敗血症によるものである。好ましくは、敗血症はAPの投与前96時間以内に検出される。
【0092】
より好ましい実施形態では、本発明に係る使用又は本発明に係る使用のためのAPが提供され、ここで、ARDSは敗血症に関連するか又は敗血症によるものであり、及びARDSの検出前72時間以内に敗血症が検出される。好ましくは、AP治療は、敗血症が検出された後、及び/又はARDSが検出された後、24時間以内に開始される。
【0093】
他の好ましい実施形態では、本発明に係る使用又は本発明に係る使用のためのAPが提供され、ここで、ARDSはウイルス感染に関連するか又はウイルス感染によるものである。ウイルス感染は、好ましくはコロナウイルスウイルス感染、より好ましくは重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルスによる感染を含む。いくつかの好ましい実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2である。
【0094】
好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAP又は本発明に係る使用が提供され、ここで、APは1日1回投与される。好ましい実施形態では、APは静脈内投与される。好ましい実施形態では、APは1日3回用量で投与される。
【0095】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAP又は本発明に係る使用が提供され、ここで、前記APはRecAPであり、RecAPの用量は0.6mg/kg(又は375U/kg)~3.2mg/kg(又は2,000U/kg)であり、好ましくは0.8mg/kg(又は500U/kg)~2.0mg/kg(又は1250U/kg)、より好ましくは約1.6mg/kg(又は1000U/kg)である。
【0096】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAP又は本発明に係る使用が提供され、ここで、前記APは、少なくとも1回の500U/kg~2,000U/kg用量で投与される。好ましくは、AP用量は、500U/kg又は1000U/kgのRecAPである。いくつかの好ましい実施形態では、AP用量は、0.8mg/kg又は1.6mg/kgのRecAPである。
【0097】
好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAP又は本発明に係る使用が提供され、ここで、APの少なくとも1回用量の投与は、対象におけるP/F比の維持又は増加をもたらす。好ましくは、APの少なくとも1回用量の投与が、機械的換気療法を受けている対象における機械的換気療法の期間の短縮又は中止をもたらす。
【0098】
本明細書で使用される「バイオマーカー」という用語は、生物学的プロセス、生物学的事象、及び/又は病理学的状態の特徴的な指標である因子、例えば、AP(例えば、RecAP)による治療に対する臨床反応の予測因子を指す。本明細書において、バイオマーカーという用語は、臨床マーカー及び分子バイオマーカー(生物学的マーカー)の両方を包含する。したがって、本開示の文脈において、「バイオマーカー」という用語は、例えば、「生物学的バイオマーカー」又は「分子バイオマーカー」を包含する。いくつかの態様では、肺機能を評価するために使用される生物学的又は分子バイオマーカーには、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)、又はインターロイキン8(IL-8)などの炎症のマーカーが含まれる。ARDSの診断及び転帰に関連するより具体的なバイオマーカーは、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、並びに3-メチルヘプタンである。概して、これらは上皮又は内皮の損傷に対して細胞特異的であるか、炎症又は感染反応に関与している(Garcia-Laorden MI, Lorente JA, Flores C, Slutsky AS, Villar J. Biomarkers for the acute respiratory distress syndrome: how to make the diagnosis more precise.Ann Transl Med. 2017;5 (14):283)。
【0099】
上記で開示したように、「バイオマーカー」という用語は、生物学的療法に対する反応、例えば、性別、年齢、併用薬、喫煙状態、体格指数(BMI)などを予測することができる「臨床状態マーカー」とも称される、「臨床バイオマーカー」も包含する。
【0100】
上記のように、ベースラインP/F値に基づくカットオフアプローチを適用して、ARDSを「重症ARDS」又は「中等症ARDS」に分類する。例えば、「重症ARDS」、「中等症から重症のARDS」、又は「軽症ARDS」の対象で観察されたP/Fレベルの差は、患者がAP(例えば、RecAP)で治療された場合の臨床転帰の予測に適用できる。したがって、対象のP/F比が特定の閾値(例えば、200mmHg)を下回る場合、その対象は特定のAP療法(例えば、RecAPの1又は複数回用量の投与を含む特定のAPレジメンによる療法)の候補となる。
【0101】
いくつかの態様では、P/F比が所定の閾値レベル未満であるという単なる判定は、対象を特定のAP療法(例えば、RecAPによる療法による治療)の候補として識別するのに十分である。したがって、本明細書で開示される方法のいくつかの態様では、P/F比率を単独で使用することができる。しかしながら、他の態様では、P/F比率は、肺機能の他の測定(例えば、スパイロメトリーを使用すること)及び/又は、例えば、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)若しくはインターロイキン8(IL-8)、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8(inteleukin-8)、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、並びに3-メチルヘプタンからなる群から選択されるマーカーなど、分子バイオマーカー若しくは臨床バイオマーカーと組み合わせることができる。
【0102】
これらの知見は、例えば、(例えば、患者を特定のAP療法の候補として選択することによって)新たな治療法を決定する方法、肺機能の低下を治療する、肺機能の低下を予防する、肺機能を高める、若しくは(例えば、ARDSを治療するために)肺機能を維持する方法、AP治療の有効性をモニタリングする方法、又は製剤、投薬計画、若しくは投与経路を調整する方法に適用することができる。
【0103】
本明細書に開示される方法は、上述のように対象のP/F比のみに基づいて、又は1若しくは複数の追加のバイオマーカーと組み合わせて通常は分類される、ARDSの重症度に基づいて、予防及び/又は治療を処方、開始、及び/又は変更することを含む
【0104】
本開示では、APの投与を含む治療レジメンでARDSを有する患者を治療するかどうかを決定する方法が提供され、ここで、前記方法は、(a)P/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、及び所望により患者から採取した試料において、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)若しくはインターロイキン8(IL-8)、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、及び/又は3-メチルヘプタンなどの追加のバイオマーカーのレベルを測定すること又は臨床検査室に測定を指示すること、並びに(b)患者が、所定の閾値レベルと比較して、及び/又は対照におけるP/F比若しくは別の肺機能パラメータと比較して、より高い又はより低いP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を有し、並びに所望により、各バイオマーカーの所定の閾値レベルと比較して、あるいは1又は複数の対照における各バイオマーカーレベルと比較して、試料において、より高いレベル又はより低いレベルの追加のバイオマーカー(例えば、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)若しくはインターロイキン8(IL-8)、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、及び/又は3-メチルヘプタンなど)を有すると判定された場合に、AP(例えば、RecAP)の投与を含む治療レジメンによって患者を治療すること若しくは医療提供者に患者の治療を指示すること、治療を中断すること、治療を開始しないこと、治療を拒否すること、あるいは医療提供者に治療を中断する、開始しない、又は拒否するように指示することを含む。
【0105】
ある態様では、本開示により、APの投与を含む治療レジメンでARDSを有する患者を治療するかどうかを決定する方法が提供され、ここで、前記方法は、(a)P/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、及び所望により患者から採取した試料において、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)若しくはインターロイキン8(IL-8)、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8(inteleukin-8)、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、及び/又は3-メチルヘプタンなどの追加のバイオマーカーのレベルを測定すること又は臨床検査室に測定を指示すること、並びに(b)患者が、所定の閾値レベルと比較して、及び/又は対照におけるP/F比若しくは別の肺機能パラメータと比較して、より高い又は減少しているP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を有する、並びに所望により、所定のバイオマーカー閾値レベルと比較して、あるいは1又は複数の対照におけるバイオマーカーレベルと比較して、試料において、より高い又はより低いレベルの任意の追加のバイオマーカーのうちの少なくとも1つを有すると判定された場合に、APの投与を含む治療レジメンによって患者を治療すること又は医療提供者に治療を指示することを含む。
【0106】
ある態様では、本開示により、APの投与を含む治療レジメンでARDSを有する患者を治療するかどうかを決定する方法が提供され、ここで、前記方法は、(a)P/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、及び所望により患者から採取した試料において、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)若しくはインターロイキン8(IL-8)、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8(inteleukin-8)、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、及び/又は3-メチルヘプタンなどの追加のバイオマーカーのレベルを測定すること又は臨床検査室に測定を指示すること、並びに(b)患者が、所定の閾値レベルと比較して、及び/又は対照におけるP/F比若しくは別の肺機能パラメータと比較して、より高い又は増加しているP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を有する、並びに所望により、所定のバイオマーカー閾値レベルと比較して、あるいは1又は複数の対照におけるバイオマーカーレベルと比較して、試料において、より高い又はより低いレベルの任意の追加のバイオマーカーのうちの少なくとも1つを有すると判定された場合に、AP(例えば、RecAP)の患者への投与を含む治療レジメンによる治療を中断すること、治療を開始しないこと、治療を拒否すること、あるいは医療提供者に治療を中断する、開始しない、又は拒否するように指示することを含む。
【0107】
ARDSと診断された患者をAPによる治療の候補として選択する方法もまた提供され、ここで、前記方法は、(a)P/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、及び所望により患者から採取した試料において、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)若しくはインターロイキン8(IL-8)、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8(inteleukin-8)、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、及び/又は3-メチルヘプタンなどの追加のバイオマーカーのレベルを測定すること又は臨床検査室に測定を指示すること、並びに(b)患者が、所定の閾値レベルと比較して、及び/又は対照におけるP/F比若しくは別の肺機能パラメータと比較して、より高い又は減少しているP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を有する、並びに所望により、所定の閾値レベルと比較して、あるいは1又は複数の対照におけるバイオマーカーレベルと比較して、試料において、より高い又はより低いレベルの任意の追加のバイオマーカーのうちの少なくとも1つを有すると判定された場合に、APによって患者を治療すること又は医療提供者に治療を指示することを含む。
【0108】
ARDSと診断された患者をAPによる治療の候補として選択する方法もまた提供され、ここで、前記方法は、(a)P/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、及び所望により患者から採取した試料において、C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノーゲン、インターロイキン6(IL-6)若しくはインターロイキン8(IL-8)、終末糖化産物受容体(RAGE)、アンギオポエチン-2(Ang-2)、界面活性タンパク質D(SP-D)、インターロイキン-8(inteleukin-8)、Fas及びFasリガンド、プロコラーゲンペプチド(PCP)I及びIII、オクタン、アセトアルデヒド、及び/又は3-メチルヘプタンなどの追加のバイオマーカーのレベルを測定すること又は臨床検査室に測定を指示すること、並びに(b)患者が、所定の閾値レベルと比較して、及び/又は対照におけるP/F比若しくは別の肺機能パラメータと比較して、より高い又は増加しているP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を有する、並びに所望により、所定の閾値レベルと比較して、あるいは1又は複数の対照におけるバイオマーカーレベルと比較して、試料において、より低い又は減少しているレベルの任意の追加バイオマーカーのうちの少なくとも1つを有すると判定された場合に、AP(例えば、RecAP)による患者の治療を中断すること、治療を開始しないこと、治療を拒否すること、あるいは医療提供者に治療を中断する、開始しない、又は拒否するように指示することを含む。
【0109】
いくつかの態様では、開示された方法は、1又は複数の追加のアッセイを指示すること及び/又は実施すること伴い得る。例えば、P/F比(又は別の肺機能パラメータ)決定アッセイは、偽陰性の結果を除外するために繰り返される場合があり、及び/又は対象の状態をモニタリングするために、1又は複数の追加のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)決定アッセイを実施してもよい。一方で、偽陽性の結果を除外するために、P/F比(又は別の肺機能パラメータ)決定アッセイを繰り返すことが望ましい場合もある。
【0110】
いくつかの態様では、ARDSを有する患者において所定の閾値レベルを超えるか又は下回るP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の存在を、敗血症に特異的であるか、又は敗血症を伴うか若しくは敗血症が原因であるARDSに罹患した患者において敗血症に至る特定の感染症に特異的な1又は複数の臨床バイオマーカー若しくは分子バイオマーカーと組み合わせて使用することができる。
【0111】
当業者は、治療、診断、及びモニタリング方法を含むがこれらに限定されない本明細書に開示される方法に従って、P/F比(又は別の肺機能パラメータ)がポジティブセレクター(positive selector)として使用され得ること、すなわち、患者におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルを下回るか上回る場合、又はP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が1又は複数の対照におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)に対して増加又は減少している場合に、特定の措置(例えば、患者を治療すること)が取られることを理解するであろう。
【0112】
当業者は、治療、診断、及びモニタリング方法を含むがこれらに限定されない本明細書に開示される方法に従って、P/F比(又は別の肺機能パラメータ)がネガティブセレクター(negative selector)として使用され得ること、すなわち、患者におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルを下回るか上回る場合、又はP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が1又は複数の対照におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)に対して増加又は減少している場合に、特定の措置(例えば、患者を治療すること)が取られないことを理解するであろう。
【0113】
ある態様では、本開示は、患者がAPによる治療から恩恵を受けるかどうかに関して、医療提供者、医療給付提供者、又は臨床検査室による決定を容易にする方法を含む。
【0114】
ある態様では、本明細書に開示される方法は、患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)に少なくとも部分的に基づいて、鑑別診断であり得る診断を行うことを含む。いくつかの態様では、本明細書に開示される方法は、P/F比(又は別の肺機能パラメータ)決定アッセイの結果及び/又はP/F比(又は別の肺機能パラメータ)に少なくとも部分的に基づく診断の結果を対象に通知することを含む。患者は、口頭で、書面で、及び/又は電子的に通知を受けることができる。この診断は、患者の医療記録にも記録され得る。
【0115】
「医療記録」又は「患者の医療記録」という用語は、患者の検査及び/又は治療の説明を指し、通常は、患者の病歴及び病状、医師による身体所見、診断検査及び処置の結果、並びに患者の投薬及び治療処置のうちの1又は複数が含まれる。医療記録は、通常、1又は複数の医師及び/又は医師の助手によって作成され、医療を必要とする様々な病気又は傷害、及び/又は予防接種、及び/又はアレルギー、及び/又は治療、及び/又は予後、及び/又はしばしば両親、兄弟姉妹、及び/又は職業に関する健康情報についての書面、転写、又はその他の方法で記録された記録及び/又は履歴である。記録は、状態を診断する際に医師によって再検討され得る。
【0116】
医療記録は、紙媒体であってもよく、及び/又はコンピュータ可読媒体で維持されてもよい。医療記録は、検査室、診療所、病院、医療維持組織、保険会社、及び/又は個人の医療記録ウェブサイトによって維持され得る。いくつかの態様では、決定されたP/F比に少なくとも部分的に基づく診断は、カード、着用物品、及び/又は無線周波数識別(RFID)タグなどの医療警告物品上又は医療警告物品中に記録される。本明細書で使用される「着用物品」という用語は、タグ、ブレスレット、ネックレス、アームバンド、又はヘッドバンドを含むがこれらに限定されない、対象者の身体に着用できる任意の物品を指す。
【0117】
本明細書で使用される「診断」という用語は、疾患を検出すること、又は疾患の病期若しくは程度を決定することを意味する。通常、疾患の診断は、疾患を示す1又は複数の要因及び/又は症状の評価に基づいて行われる。すなわち、診断は、疾患又は障害の存在又は非存在を示す因子の存在、非存在、又は量に基づいてを行うことができる。特定の疾患の診断の指標であると考えられる各要因又は症状は、特定の疾患にのみ関連している必要はなく、例えば、診断要因又は症状から推測できる鑑別診断がある場合がある。同様に、特定の疾患を示す要因又は症状が、特定の疾患を有さない個人に存在する場合もある。
【0118】
「診断」という用語はまた、薬物療法(例えば、AP療法)の治療効果を決定すること、又は薬物療法に対する反応のパターンを予測することを包含する。診断方法は、独立して、又は特定の疾患について医学分野で公知である他の診断及び/又は病期分類方法と組み合わせて使用されてもよい。
【0119】
本明細書で使用される「鑑別診断」という用語は、臨床データの分析に基づいて、同様の症状を有する2以上の疾患のどれが対象の症状の原因である可能性が高いかを決定することを指す。この用語は、決定された患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が、所定の閾値レベルを上回っているか下回っているか、あるいは1又は複数の対照のレベルと比較して上昇しているか低下しているかに応じて、患者がAPによる治療の影響を受けやすいかどうかの決定を指すためにも使用される。
【0120】
本明細書で使用される「予後」という用語は、臨床症状又は疾患(例えば、敗血症又はARDS)の起こり得る経過及び転帰の予測を指す。予後は、通常、疾患の経過又は転帰が好ましいか好ましくないかの指標である疾患の要因又は症状を評価することによって決定されてもよい。本明細書で使用される「予後を決定する」という語句は、当業者が患者の症状の経過又は転帰を予測できるプロセスを指す。「予後」という用語は、100%の精度で症状の経過又は転帰を予測する能力を指すものではない。代わりに、当業者は、「予後」という用語が、特定の経過又は転帰が生じ得る確率の増加を指すことを理解する。すなわち、特定の症状を示す患者では、その症状を示さない個人と比較して、経過又は転帰が生じる可能性が高くなる。
【0121】
本明細書で使用される用語「良好予後」及び「陽性予後」、又は「予後不良」及び「陰性予後」は、症状又は疾患(例えば、敗血症又はARDS)の可能性のある経過及び/又は起こりそうな転帰の予測に関する相対的な用語である。良好予後及び陽性予後は、不良予後及び陰性予後よりも症状のより良い転帰を予測する。一般的な意味では、「良好予後」とは、特定の症状に関連し得る他の多くの可能性のある予後よりも比較的良好な転帰であるのに対し、不良予後とは、特定の症状に関連し得る他の多くの可能性のある予後よりも比較的悪い転帰を予測するものである。良好予後及び陽性予後の典型的な例としては、肺機能の増加、肺機能の維持、及びP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の増加などが挙げられる。
【0122】
本開示は、P/F比(又は別の肺機能パラメータ)の発現の変化に基づいて、対象においてARDSを治療する方法、又は対象においてARDSを治療する方法における使用のためのAPを含む。本開示により、ARDSを有する患者を治療する方法、又は患者のARDSを治療する方法における使用のためのAPが提供され、ここで、前記方法は、所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、又は1又は複数の対照におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)と比較して、前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が低いか又は減少していると判断された場合に、APを前記患者に投与することを含む。
【0123】
本開示により、ARDSを有する患者を治療する方法、又は患者のARDSを治療する方法における使用のためのAPが提供され、ここで、前記方法は、(a)pO及びFiOを測定して(又は別の測定可能な肺機能パラメータからpO及びFiOを導き出して)P/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、並びに(b)所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、又は1若しくは複数の対照におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)と比較して、前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が低いか又は減少している場合に、APを前記患者に投与することを含む。
【0124】
またARDSを有する患者を治療する方法、又は患者のARDSを治療する方法における使用のためのAPが提供され、ここで、前記方法は、(a)前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、並びに(b)所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、又は1若しくは複数のコントロールのP/F比(又は別の肺機能パラメータ)のレベルと比較して、前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が高いか又は増加している場合に、前記患者へのAP(例えば、RecAP)の投与を中断するか又は開始しないことを含む。
【0125】
また、本開示により、ARDSを有する患者の治療方法又は患者のARDSを治療する方法における使用のためのAPが提供され、ここで、前記方法は、(a)患者のpO及びFiOを測定して(又は別の測定可能な肺機能パラメータからpO及びFiOを導き出して)患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、並びに(b)所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、P/F比(又は別の肺機能パラメータ)が高いか増加しているか、又は低いか減少しているかを判断することを含む。いくつかの態様では、前記方法は、所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、又は1若しくは複数の対照のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)レベルと比較して、患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が低いか又は減少していると判断された場合に、AP(例えば、RecAP)を患者に投与すること又は投与することを医療提供者に助言すること、あるいは所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、又は1若しくは複数の対照のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)レベルと比較して、患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が高いか又は増加していると判断された場合に、APの投与を中断又は拒否することを行うこと又は中断又は拒否することを医療提供者に助言することをさらに含む。
【0126】
また、ARDSを有する患者の治療方法又は患者のARDSを治療する方法における使用のためのAPが提供され、ここで、前記方法は、(a)患者のpO及びFiOを測定して(又は別の測定可能な肺機能パラメータからpO及びFiOを導き出して)患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)を決定すること、並びに(b)所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、又は1若しくは複数の対照のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)レベルと比較して、患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が低いか又は減少していると判断された場合に、APを患者に投与すること、あるいは所定のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の閾値レベルと比較して、又は1若しくは複数の対照のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)レベルと比較して、患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)が高いか又は増加していると判断された場合に、APの患者への投与を中断すること、開始しないこと、又は拒否することを含む。
【0127】
本開示はまた、(a)前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の1回目の判定を行うこと、(b)AP(例えば、RecAP)を投与すること、並びに(c)前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の2回目の判定を行うことを含み、1回目の判定における患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)と比較した2回目の判定におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の増加は、患者がAP(例えば、RecAP)による治療に反応していることを示す、ARDSと診断された患者におけるAPの有効性又は薬力学を測定する方法を提供する。
【0128】
本開示はまた、(a)前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の1回目の判定を行うこと、(b)AP(例えば、RecAP)を投与すること、並びに(c)前記患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の2回目の判定を行うことを含み、1回目の判定における患者のP/F比(又は別の肺機能パラメータ)と比較した2回目の判定におけるP/F比(又は別の肺機能パラメータ)の減少は、患者がAP(例えば、RecAP)による治療に反応していることを示す、ARDSと診断された患者におけるAPの有効性又は薬力学を測定する方法を提供する。
【0129】
いくつかの態様では、2回目の判定は、AP(例えば、RecAP)の投与後1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、15日目、16日目、17日目、18日目、19日目、20日目、21日目、22日目、23日目、24日目、25日目、26日目、27日目、若しくは28日目、1週目、2週目、3週目、4週目、5週目、6週目、7週目、8週目、9週目、10週目、11週目、12週目、13週目、14週目、15週目、若しくは16週目、又はその間の時点において行われる。
【0130】
特定の態様では、本明細書に開示される全ての治療方法において、APの「負荷」用量を投与して、患者の肺機能の望ましいレベルを達成する。AP負荷用量が患者の肺機能に大きな影響を与えない場合は、(例えば、代替療法に切り替えるために)治療を中止する決定を下すことができる。
【0131】
負荷用量が患者の肺機能の増加をもたらす場合、AP用量サイズ又は投与回数を「維持」用量に減らす決定を下すことができる。本明細書で提供される方法は、医療提供者が治療を実施するためのガイドラインであり、最終的な治療決定は医療提供者の健全な判断に基づくことに留意することが重要である。
【0132】
AP(例えば、RecAP)の処方、投薬計画、及び投与経路は、本明細書に開示される方法に従って最適な治療応答のための有効量を提供するように調整され得る。APの投与に関して、APは、当技術分野で公知の任意の適切な手段、組成物、及び経路を介して投与されてもよい。投薬計画に関しては、治療状況の緊急性によって示されるように、単回ボーラスを投与するか、数回に分けて投与するか、又は用量を比例的に減少又は増加させることができる。
【0133】
III.アルカリホスファターゼ(AP)
アルカリホスファターゼ(AP;IUBMB酵素命名法によるEC 3.1.3.1)は、ホスファターゼモノエステル及びHOからアルコール及びリン酸塩への反応を触媒する酵素である。APの別名は、アルカリホスホモノエステラーゼ、ホスホモノエステラーゼ、グリセロホスファターゼ、アルカリホスホヒドロラーゼ、アルカリフェニルホスファターゼ、オルトリン酸モノエステルホスホヒドロラーゼ(アルカリ最適)である。APの系統名はリン酸モノエステルホスホヒドロラーゼ(アルカリ最適)である。
【0134】
APは広い特異性を有する酵素であり、トランスリン酸化も触媒する。ヒト及び他の哺乳動物では、少なくとも4種類の、異なるが関連するAPが公知である。それらは、腸型、胎盤型、胎盤様、及び肝臓/骨/腎臓型(又は組織非特異的)APである。最初の3種類は2番染色体に一緒に位置し、組織の非特異的な形態は1番染色体に位置する。
【0135】
「本開示のAP」という用語は、そのスプライスバリアント、アイソフォーム、及び多形体を含む、単離されたアルカリホスファターゼを指す。組換えAP及びキメラAPも含まれる。特定の態様において、APはRecAPである。RecAPのアミノ酸配列を図2に示す。いくつかの態様では、本明細書で用いられるAPは、配列番号1のアミノ酸配列に対して、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上、又は100%の配列同一性を有する。いくつかの態様では、APは、機能的断片(すなわち、前記APの断片、例えば対応する全長APのAP活性の約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、70%以上、約80%以上、又は約90%以上を維持しているAP)である。いくつかの態様では、前記APは、本明細書に開示されるAPのバリアント又は誘導体である。
【0136】
本開示に係る使用のためのAPは、市販のAP酵素、又はAP酵素を含む任意の組成物、及び本発明の文脈において機能的AP酵素を産生することができる任意の手段、例えば、APタンパク質をコードするDNA又はRNA核酸などであり得る。
【0137】
APをコードする核酸は、プラスミド、ファージミド、ファージ、(レトロ)ウイルス、トランスポゾン、遺伝子治療ベクター、及びAPの産生を誘導又は付与することができる他のベクターなどの適切なベクターに埋め込まれてもよい。また、細菌、真菌、原生動物、及び酵母などの天然又は組換え微生物も、本開示の文脈においてAPの供給源として適用され得る。
【0138】
本開示に係る使用のためのAP含有組成物は、真核生物AP(例えば、哺乳動物AP)を含むことができ、これは、肝臓/骨又は腎臓型などの組織非特異的AP、又は胎盤型AP、腸型AP、及び胎盤様APなどの組織特異的APのタイプであり得る。生殖細胞APとしても公知である後者は、精巣、胸腺、及び特定の胚細胞腫瘍に局在し、APの胎盤型及び腸型の両方に密接に関連している。
【0139】
いくつかの態様では、哺乳動物APは、ヒトAP又はウシAPである。ヒトAP配列の非限定的な例としては、NCBI(Genpept)コレクションに見ることができ、NP_001622(腸型AP)、NP_001623(胎盤型AP)、NP_112603(胎盤様AP)、又はNP_000469(組織非特異的AP)が挙げられる。いくつかの態様では、APは多型を含む。いくつかの態様では、APは、胎盤型AP、胎盤様AP、腸型AP、肝臓/骨/腎臓型AP、又はそれらの組み合わせである。いくつかの態様では、APは組換えAPである。
【0140】
立体構造の観点から、APは大まかにクラウンドメイン及び活性部位ドメインの2つのドメインからなる。活性部位ドメインは、触媒残基及び3つの金属イオン部位(Zn1、Zn2、Mg3)のように別々の部分に分けることができる。一次構造の観点から、クラウンドメインは、活性部位ドメインを形成するアミノ酸に隣接している。APのアミノ酸配列並びに触媒ドメイン及びクラウンドメインの相対位置は、当業者に公知である。
【0141】
本開示のいくつかの態様では、APは、クラウンドメイン及び触媒ドメインを含む単離AP又は組換えAPであり、クラウンドメイン及び触媒ドメインは異なるAPから得られ、異なるホスファターゼの少なくとも1つはヒトホスファターゼである。いくつかの態様では、前記APは、例えば、ECAP(大腸菌AP)、又は7種類の公知BIAP(ウシ腸AP)のうちの1種類である。
【0142】
いくつかの態様では、APは、クラウンドメイン及び触媒ドメインを含む単離AP又は組換えAPであり、クラウンドメイン及び触媒ドメインは異なるAPから得られ、異なるAPはヒトAPである。これは、改変ホスファターゼがその後ヒトの療法に使用される場合に特に有用である。開示された方法における使用のためのAPは、免疫原性がない又は免疫原性が弱いヒト起源の改変(例えば、遺伝子改変)APであってもよい。
【0143】
本明細書に開示される改変APは、例えば、「インビトロ」又は「エクスビボ」の診断又は治療において使用することができる。そのような改変ホスファターゼは、例えば、ヒトAP及び大腸菌APを含むことができ、又はウシAP及び大腸菌APから構成されてもよい。
【0144】
本開示のいくつかの態様では、APは、クラウンドメイン及び触媒ドメインを含む単離AP又は組換えAPであり、クラウンドメイン及び触媒ドメインは異なるAPから得られ、クラウンドメインは胎盤型APのクラウンドメイン(ALPP)であり、触媒ドメインは腸型APの触媒ドメイン(ALPI)である。いくつかの態様では、異なるAPのうちの少なくとも1つはヒトホスファターゼである。他の態様では、異なるAPは両方ともヒトホスファターゼである。
【0145】
ヒトAPに基づく、本明細書に開示される方法に適したドメイン交換変異体を表1に列挙する。
【0146】
【表3】
【0147】
いくつかの態様では、APは、ECAPの触媒ドメイン又はヒト型(ALPI、ALPP、GCAP、又はTNAP)のいずれかの触媒ドメインとBIAPのクラウンドメインとの組み合わせである。さらに、BIAPの触媒ドメインとヒト型のいずれかのクラウンドメインとの組み合わせも生成され得る。
【0148】
いくつかの態様では、改変APは、自然条件下ではグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを介して細胞膜に結合しているが、細胞膜に結合しないように改変されたAPである。全てのアイソザイムは細胞膜で機能的に活性であり、GPIアンカー欠損型は検出可能なレベルで自然には存在しない。血清AP活性が実証されているが、酵素は分離された膜画分又は膜小胞に依然として存在することが一般に認められている。乳中のAP活性は、膜小胞を含む画分にも存在する。GPIアンカーは前駆体分子として細胞内に保存され、そこでトランスアミダーゼを介して結合部位に結合する。GPIアンカーの骨格は哺乳動物と同じであるが、細胞型に依存した改変が知られている。
【0149】
いくつかの態様では、ヒト対象の治療の場合、APはヒトである。これは、他の種から得られたAP型がヒト対象において免疫原性である可能性があり、治療が免疫学的反応及び病理学的副作用を誘発し得るという事実のために好ましい。一部の対象では、致死的な副作用(すなわち、アナフィラキシーショック)が発生する可能性があり、したがって免疫学的副作用のリスクは、ヒトAP型の使用によって最小限に抑えることが好ましい。
【0150】
ヒト由来APの単離は実用的ではないため、APタンパク質のヒト組換え型は、様々な組換え発現プラットフォームで日常的に生成され得る。しかし、GPI改変タンパク質及び膜アンカー型タンパク質の発現及び精製は非常に困難である。GPIタンパク質は、膜からの分離が難しく、単離及び精製が困難である。よって、いくつかの態様では、組換えAPは、GPIシグナル配列に改変を含み、この改変は、分泌型APをもたらす、すなわち、前記APは細胞膜に結合していない。
【0151】
GPIアンカーの結合に関与する一般的な配列はないが、以下のいくつかの特定のコンセンサス特性がある。
(i)C末端のアミノ酸の疎水性ストレッチ(少なくとも11個のアミノ酸、好ましくは11個以上のアミノ酸);
(ii)疎水性領域の上流、親水性アミノ酸(5~12アミノ酸)のスペーサー;
(iii)GPIは小さなアミノ酸であるグリシン、アスパラギン酸、アスパラギン、アラニン、セリン、又はシステインに結合する;及び
(iv)GPI結合部位の下流にある2つの後続のアミノ酸は小さなアミノ酸である必要があり、ほとんどの場合、それらはグリシン、アスパラギン酸、アスパラギン、アラニン、セリン、又はシステインから選択される。
【0152】
いくつかの態様では、組換えAPは、GPIシグナル配列に改変を含み、この改変は、生物学的に活性な分泌型APをもたらす、すなわち、生物学的に関連する基質に対して活性を示す。いくつかの態様では、分泌型APはヒトAPである。いくつかの態様では、分泌型ヒトAPは、ヒト肝臓/腎臓/骨型ホスファターゼ、ヒト腸型AP、又はヒト胎盤様アルカリホスファターゼである。
【0153】
上記のコンセンサス特性に基づいて、当業者は、例えば、コンセンサスの一部を破壊して、GPIアンカーを結合できないAPをもたらす1又は複数のアミノ酸を挿入することにより、改変を導入することができる。したがって、いくつかの態様では、組換えAPは、分泌型APをもたらすGPIシグナル配列の改変を含み、この改変は、コンセンサスGPIシグナル配列を包含する配列中の少なくとも1つのアミノ酸の変異又は欠失を含む。
【0154】
いくつかの態様では、APは、米国特許第8,557,545号に記載のAPである。いくつかの態様では、APは、キメラAP又はキメラAP様タンパク質であり、例えば、米国特許出願公開第2017/0009216号及び同第2014/0193388号に記載されている。好ましくは、APは、ALPI(腸型アルカリホスファターゼ)の触媒ドメイン及びALPP(胎盤型アルカリホスファターゼ)のクラウンドメインを含む組換えアルカリホスファターゼである。より好ましくは、APは、RecAP(配列番号1に対応し、米国特許出願公開第2017/0009216号に記載)である。
【0155】
いくつかの態様では、本開示のAPは、(i)ヒトALPPのクラウンドメインに対して約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する配列、及び(ii)ヒトALPIの触媒ドメインに対して約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0156】
いくつかの態様では、ALPPのクラウンドメインと配列同一性を有する前記配列は、本発明に係るタンパク質において、天然のALPPタンパク質におけるALPPのクラウンドメインとほぼ同じ位置に位置する。
【0157】
アミノ酸配列又は核酸配列の同一性の割合、すなわち、用語「配列同一性(%)」は、最大パーセントの同一性を達成するために、必要に応じて2つの配列をアラインメントさせてギャップを導入した後の、参照配列中の残基と同一である候補アミノ酸配列又は候補核酸配列中の残基の割合として本明細書で定義される。好ましい実施形態では、前記配列同一性の割合の計算は、ギャップを導入することなく行われる。アラインメントのための方法及びコンピュータプログラムは、当技術分野で周知であり、例えば、「Align 2」又は国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBLASTサービスである。
【0158】
いくつかの実施形態では、本発明は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とする対象においてARDSを治療する方法における使用のためのアルカリホスファターゼ(AP)が提供され、ここで、前記方法は有効量のアルカリホスファターゼ(AP)を前記対象に投与することを含み、前記対象はAPによる治療の前に中等症又は重症のARDSを有しており、前記APの投与は呼吸機能の増加をもたらす。好ましい実施形態では、前記対象は、APによる治療の前に重症のARDSを有する。別の好ましい実施形態では、前記対象は、APによる治療の前に中等症ARDSを有する。
【0159】
いくつかの好ましい実施形態では、APは、少なくとも1回の500U/kg~2,000U/kg用量で投与される。好ましくは、ARDSは敗血症に関連する若しくは敗血症によるものである、又はARDSはウイルス感染に関連する若しくはウイルス感染によるものである。ARDSが敗血症に関連する若しくは敗血症によるものである場合、APの投与前96時間以内、より好ましくはARDSの検出前72時間以内に敗血症が検出されることが好ましい。敗血症の検出後24時間以内に治療を開始することが好ましい。
【0160】
いくつかの好ましい実施形態では、APはヒトAPである、及び/又はAPは組換えAPである。APが組換え体である場合、キメラAPであることが好ましい。好ましくは、キメラAPが、RecAPのアミノ酸配列(配列番号1)に対して、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%の配列同一性を有する。
【0161】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAPが提供され、ここで、呼吸機能の増加は、APによる治療を行っていない場合のP/F比と比べてのP/F比の増加を含む。
【0162】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAPが提供され、ここで、ARDSの検出後24時間以内に治療が開始される。
【0163】
いくつかの好ましい実施形態では、APは、1日1回投与され、及び/又は静脈内投与される。好ましくは、APは、1日3回用量で投与される。好ましくは、各AP用量は約0.8mg/kg又は約1.6mg/kgのRecAPであり、及び/又はAP用量は約500U/kg又は約1000U/kgのRecAPである。この文脈における「約」は、示された用量の±20%、好ましくは±10%、最も好ましくは±5%を意味する。平均的な人(体重60~80kg程度の人など)の場合、各用量は、約30,000U~約160,000U、好ましくは約30,000U~約80,000U、より好ましくは約60,000U~約80,000Uである。「mg」単位での用量は、約48mg~約256mg、好ましくは48mg~約128mg、より好ましくは96~128mgになる。さらに、本発明に係る使用のためのAPが提供され、前記用量は、約30,000U~約160,000U、好ましくは約30,000U~約80,000U、より好ましくは約60,000U~約80,000Uである。前記用量が約48mg~約256mg、好ましくは48mg~約128mg、より好ましくは96~128mgである、本発明に係る使用のためのAPもまた提供される。
【0164】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明に係る使用のためのAPが提供され、ここで、APの少なくとも1回用量の投与が、機械的換気療法を受けている対象における機械的換気療法の期間の短縮又は中止をもたらす。
【0165】
好ましくは、APの少なくとも1回用量の投与が、対象におけるP/F比の維持又は増加をもたらす。より具体的には、本発明に係る使用するためのAPは、対象の死亡リスクの低下をもたらす。中等症又は重症の急性呼吸窮迫症候群に罹患している対象群の一部である1又は複数の対象の治療は、前記対象群の死亡率の低下をもたらす。
【0166】
本出願は、同じ実施形態の一部として、又は別個の実施形態の一部として特徴を説明する場合があるが、本発明の範囲には、本明細書に記載された特徴の全て又は一部の任意の組み合わせを含む実施形態も含まれる。
【0167】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明される。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、単に本発明を明確にするのに役立つものである。
【実施例
【0168】
実施例1
急性呼吸窮迫症候群に対するヒト組換えアルカリホスファターゼ
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、長期の肺転帰及び生存率に悪影響を及ぼす。解毒酵素アルカリホスファターゼの投与は、前臨床研究で肺炎症パラメータを改善した。発明者らは、ARDS患者におけるヒト組換えアルカリホスファターゼ(RecAP)の有効性及び安全性を調べた(図2)。
【0169】
STOP-AKI試験の適応第2a/2b相のパート1では、最適用量を確立するために、0.4mg/kg、0.8mg/kg、若しくは1.6mg/kgのRecAP、又はプラセボを、1日1回、3日間投与する群に患者を無作為に割り付けた。
【0170】
パート2では、この用量をプラセボと比較した。主要評価項目は、1~7日目の内因性クレアチニンクリアランスの時間補正曲線下面積(AUC1-7 ECC)であり、主要な副次的評価項目として腎代替療法(RRT)とした。肺機能も分析した。全体で、301人の患者を登録した。RecAPとプラセボとの間で(重篤な)有害事象の差は、群間で観察されなかった。RecAPは安全かつ忍容性が高いように見えた。
【0171】
方法
STOP-AKI試験のデザイン及び参加者
STOP-AKI試験は、敗血症関連の急性腎障害を有する重篤な成人患者を対象に実施された、国際的な無作為化二重盲検プラセボ対照4群並行群用量設定適応第2a/2b相試験であった。STOP-AKI研究のプロトコル及び主な結果は以前に公開された(Pickkers P, Mehta RL, Murray PT, et al. Effect of Human Recombinant Alkaline Phosphatase on 7-Day Creatinine Clearance in Patients With Sepsis-Associated Acute Kidney Injury: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018;320(19):1998-2009)。
【0172】
敗血症と診断された(Levy et al. Crit Care Med 2003;31:1250-6)及びAKIと最初に診断された(Mehta et al. Crit Care 2007;11:R31)18歳以上のICU患者は、研究参加に適格であった。選択基準及び除外基準並びに主な結果が、Pickkers et al (JAMA 2018)記載されている。
【0173】
結果の測定
この研究の主な目的は、RecAPの最適な治療用量を調査し、腎機能への効果を評価することであった。肺などの他の臓器への効果も調査した。
【0174】
安全性、忍容性、薬物動態(最初の120人の患者)、免疫原性、全身及び尿のバイオマーカー、並びにSA-AKI患者の生活の質に対するRecAPの効果及びその他の腎臓以外のパラメータも調査した。肺機能解析については、以下で詳しく説明する。
・機械的換気患者の動脈血酸素分圧(PaO)/吸気酸素分圧(FiO)(P/F比)、Carrico指数、呼気終末陽圧(PEEP)、及び一回換気量で評価される肺機能。
・人工呼吸器非使用日数:無作為化から28日目までの機械的換気に依存しない生存日数(総数)。人工呼吸器非使用日は、患者が機械的換気(侵襲的又は非侵襲的な機械的換気)を使用していない日と定義した。
・人工呼吸器使用日数:この期間の開始時に人工呼吸器を使用していた患者について、試験薬の初回投与開始から人工呼吸器を離脱するまでの日数(1日目~28日目まで、総数)。
【0175】
統計分析
インフォームドコンセントが得られ、無作為に治療群に割り付けられた患者について、治療意図の原理に従ってデータを分析した。サンプルサイズの計算に関する詳細を以下に記載する。
【0176】
サンプルサイズの計算
サンプルサイズは、パート1の治療群当たりn=30人の患者を計画し、パート2の最適なRecAP用量及びプラセボ治療群に追加のn=85人の患者を採用した(n=290人の患者の合計サンプルサイズ)。SASソフトウェアV.9.2を使用してカスタムプログラムされたシミュレーションを実行し、選択されたサンプルサイズ及びデザインの検出力及びタイプIエラー率を、様々な用量反応シナリオで決定した。各シナリオでは、主要評価項目の標準偏差を49mL/分、プラセボ群の反応を60mL/分、RecAP投与群の反応を60mL/分(治療効果なし)~79mL/分(強力な治療効果)と仮定した。
【0177】
50,000回のシミュレーションを実行し、片側タイプIエラー率が2.4%であることが示された(したがって、片側2.5%の有意水準で充分に制御されている)。検出力は、1又は複数のRecAP投与群が、69.5mL/分の反応として定義される治療効果を有する場合に、帰無仮説(治療群間で差がない)を棄却する確率として定義した。これは、7つのシナリオにわたって調査し、それぞれについて10,000回のシミュレーションを実行した。選択されたデザインは、RecAPの中用量群及び高用量群の強力な治療効果を有するシナリオで79%~86%の検出力を達成した。低用量群の反応は様々であり、高用量群のみが強力な治療効果を示した場合、66%~67%であった。サンプルサイズの決定は、治療意図(ITT)分析に必要な患者数に基づいていたため、無作為に割り当てられた後で研究の完了前に中止された患者を置き換えることはしなかった。
【0178】
プロトコルごとの分析では、統計分析計画に詳述されているように、研究プロトコルに従って試験薬を投与され、1~7日目までのECC値の欠損が2以下であった患者について、介入群及びプラセボ群を比較した。
【0179】
記述統計の場合、連続変数は、分布に応じて、標準偏差の平均又は四分位範囲の中央値として表示される。正規分布変数は、スチューデントのt検定を使用して比較した。マン・ホイットニーのU検定を使用して、非正規分布変数を比較した。カテゴリ(及びバイナリ)変数は、割合付きの数値として表示され、カイ2乗検定を使用して分析される。カプラン・マイヤー曲線による生存分析は、グラフ表示に使用した。コックス比例ハザード回帰分析を使用して、RecAP対プラセボを用いた試験1~28日目における生存率のハザード比、並びにRRT、ショック、及び人工呼吸器非使用日数のハザード比を推定した。
【0180】
主要有効性評価項目の分析は、分散分析によって実施した。副次的評価項目で実施した全ての分析は探索目的のみであったため、多重度の調整は必要なかった。RecAP効果の堅牢性を確立するために、事後多変量解析を実施した。全ての統計検定(SASソフトウェアバージョン9.4、SAS Institute Inc.社、米国ノースカロライナ州ケーリー)は、治療意図集団に対して実施し、5%の有意水準を使用して両側分析を行った。
【0181】
結果
参加者
欧州連合及び北米の11か国の53箇所で、一次スクリーニングに合格した326人の患者のうち、301人の患者が登録された(図4)。患者は、RecAPを0.4mg/kg(n=30)、0.8mg/kg(n=32)、1.6mg/kg(パート1ではn=29、パート2ではn=82)、又はプラセボ(パート1ではn=30、パート2ではn=86)を投与された。無作為化により、群間の腎機能のわずかなベースラインの差異を除いて、バランスの取れた人口統計学的特性及び患者特性が得られた(図5)。
【0182】
安全性
RecAPを1.6mg/kg投与された患者の43%と、プラセボを投与された患者の50%で、治療緊急性のある重篤な有害事象が報告された。図11を参照。有害事象(AE)の発生率及び性質にRecAPの用量依存性は認められなかった。抗薬物抗体価は、RecAPで治療された9人の患者で検出限界をわずかに上回っていた。
【0183】
検討
SA-AKI患者を対象としたこの多国籍二重盲検無作為化比較試験では、標準治療へのRecAPの追加が生存率に大きな影響を与え、腎機能の改善及び持続的な回復、並びに複合MAKE評価項目を含む長期的な臨床転帰に関連していることが観察された。これは用量設定による原理証明の第2相試験であるため、腎機能障害(例えば、短期ECC)及びより患者中心の長期的な臨床転帰(例えば、MAKE60-90日目、生存率)の両方に関連する評価項目を含むようにデザインされた。
【0184】
結論として、RecAP療法は安全で忍容性が高いと考えられた。AKIを伴う敗血症患者では、RecAP治療により、長期的な腎機能、MAKE60-90日目、及び生存率が大幅に改善されることが観察された。
【0185】
実施例2
RecAP酵素活性及びタンパク質濃度の決定
活性アッセイ:
recAP酵素活性の決定は、4-ニトロフェノールリン酸の4-ニトロフェノール(黄色)への変換(加水分解)に基づいていた。単位時間当たりの405nmでの光学密度の変化は、アルカリホスファターゼ活性の尺度である。アッセイバッファーは、2mMのMgCl、0.1mMのZnCl、及び8.5mMの4-ニトロフェノールホスフェートを含む25℃の0.25Mのグリシンバッファー(pH9.6)からなるものとした。
【0186】
U/mLで表されるrecAPの単位(U)の定義は、pH9.6及び25℃で1分当たり1μmolの4-ニトロフェノールホスフェートの加水分解を引き起こす酵素の量である。
【0187】
タンパク質濃度:
RecAPの原薬及び製剤中の総タンパク質濃度の決定は、UV/Vis分析によって行った。RecAP溶液は280nmで分析され、吸光度は下記式を使用してタンパク質含有量(mg/mL)の尺度となる:
濃度(mg/mL)=[A/(a×b)]×DF(A=A280、b=光路長、a=1.01mL mg-1 cm-1の質量吸光係数、DFは希釈係数である)。
***
【0188】
実施例3
P/F比の探索
COVID-19の治療における可能性のある有益な効果に関する研究の準備において、STOP-AKI研究(実施例1及びPickkers et al (JAMA 2018)に記載)で観察されたように、関連するバイオマーカー又は評価項目に対するrecAP(組換えアルカリホスファターゼ)の効果を調査することは興味深い。関連する評価項目の1つは、動脈血酸素分圧及び吸気酸素分圧の比率であるP/F比である。したがって、現在の調査の目的は、STOP-AKI研究で観察されたように、P/F比に対するrecAPの可能性のある影響を調査することである。
【0189】
AM-Pharma社が提供するAnalysis Data Model(ADaM)データセットの関連テーブル、具体的にはAdverse Drug Reaction(ADRe)データセットを統計分析プログラムR(r-project.org; version 3.4.4 (2018-03-15))に読み込んだ。P/F比を決定したプラセボ又は1.6mg/kgのrecAPのいずれかを投与された治療群に無作為に割り付けられた患者集団が含まれた。P/F比測定値が300以下であった全ての患者のでは、PEEPは、2012年ベルリン定義で規定されているように、5cmHO以上であった。サンプルのスクリーニングで決定されたP/F比値のベースラインと、1日目に採取されたサンプルとを平均して値の安定性を高め、欠損値の発生を減らし、MeanBaseとしてラベル付けした。MeanBase値が欠損している患者は分析から除外された。絶対値及び正規化された値は、最初の投与後の時間の関数としてプロットされる。MeanBase値の三分位数にサブセット化した後も、グラフによる探索を繰り返した。平均値は、ブートストラップされた信頼区間と共にプロットした。これらのプロットで観察された傾向は、線形回帰を使用して、ノンパラメトリック検定を使用して関連する時点でチェックした。
【0190】
治療開始後の経時的な動脈血酸素分圧及び吸入酸素分圧の比率であるP/F比の推移を図12図14に示す。完全なデータセットが考慮されている場合、絶対P/F比は経時的に特定の方法で変化することはなく、プラセボと治療との間に明らかな差異はない。図12を参照。患者数は、死亡又は他の理由による研究の中止により、研究の時間と共に減少し、ブートストラップ信頼区間の幅はそれに応じて増加する。しかし、各患者のP/F比がベースライン値に対する「倍率変化」として決定される場合、recAPを投与された患者は、プラセボで治療された患者と比較して、経時的に増加を示す(図13)。
【0191】
図14に見られるように、recAP治療を受けた患者とプラセボ治療を受けた患者との間のこの差異は、ベースラインで200mmHg未満のP/F比を示す患者(すなわち、中等症~重症のARDS患者)に大きく起因する一方で、軽症のARDS群(200mmHg<P/F比<300mmHg)及びベースラインでARDSを示さなかった患者群(P/F比>300mmHg)では、わずかな一過性の差異のみが見られる。結論として、ベースラインで中等症から重症のARDS(P/F比<200mmHg)を示す患者は、recAP治療から最も恩恵を受ける。
【0192】
図15に見られるように、ベースラインで中等症から重症のARDS(P/F比<200mmHG)を有する患者群では、アルカリホスファターゼによる治療は、P/F比<200mmHgを有するプラセボ治療患者と比較して、死亡率の有意な低下をもたらした。したがって、ある実施形態では、本発明に係る使用のためのAPが提供され、ここで、APの少なくとも1回用量の投与は、対象における死亡リスクの減少をもたらす。好ましい実施形態では、この減少は全死因死亡リスクの減少である。好ましくは、対象の死亡リスクは、対象がAPで治療されなかった場合と比較して減少する。また、APの少なくとも1回用量の投与が、前記対象群における死亡率の低下をもたらす、本発明に係る使用のためのAPも提供される。好ましい実施形態では、この低下は全死因死亡率の低下である。好ましくは、APで治療された対象群における死亡率は、APで治療されていない重症から中等症のARDSを有する対象群と比較して低下する。
【0193】
死亡率、死亡リスク、全死因死亡率、及び全死因死亡リスクは、本発明の文脈においてそれらの通常の意味を有する。本明細書の文脈における死亡率又は全死因死亡率は、特定の期間における集団の全ての死因による死亡率を意味する。この文脈での死亡リスク又は全死因死亡リスクは、特定の期間における個人の全死因による死亡のリスクを意味する。
【0194】
発明の概要及び要約のセクションではなく、発明を実施するための形態のセクションが請求項を解釈するために使用されることを意図していることを理解されたい。発明の概要及び要約のセクションは、発明者によって考えられるように、本発明の全てではないが1又は複数の例示的な実施形態を説明し得るものであり、したがって、本発明及び添付の特許請求の範囲を決して限定することを意図するものではない。
【0195】
本発明は、特定の機能及びそれらの関係の実施を示す機能的構成要素を活用して上記で説明されている。これらの機能的構成要素の境界は、説明の便宜上、本明細書において任意に定義されている。特定の機能及びそれらの関係が適切に実行される限り、別の境界を定義することができる。
【0196】
特定の実施形態の前述の説明は、本発明の全般的性質を充分に明らかにするので、当業者は当技術分野の範囲内の知識を適用することによって、過度の実験を行うことなく、本発明の全般的概念から逸脱することなく、特定の実施形態などの様々な用途に容易に変更及び/又は適応させることが可能である。したがって、そのような適応及び変更は、本明細書で提示される教示及びガイダンスに基づいて、開示された実施形態の均等物の意味及び範囲内にあることが意図される。本明細書の表現又は用語は、本明細書の用語又は表現が教示及びガイダンスに照らして当業者によって解釈されるように、限定ではなく説明を目的としていることが理解されるべきである。
【0197】
本発明の広さ及び範囲は、上記の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、特許請求の範囲及びそれらの均等物に従ってのみ定義されるべきである。
【0198】
本出願で引用された全ての刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文書は、個々の刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文書が全ての目的のために参照により援用されることが示された場合と同程度に、全ての目的のためにその全体が参照により援用される。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
2023541852000001.app
【国際調査報告】