(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ガラス物品を強化するための塩浴システムおよび溶融塩を再生する方法
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517312
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(85)【翻訳文提出日】2023-05-12
(86)【国際出願番号】 US2021048982
(87)【国際公開番号】W WO2022060584
(87)【国際公開日】2022-03-24
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス-モウアー,シニュー
(72)【発明者】
【氏名】ハルディナ,ケネス エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ジャロッシュ,カイ トッド ポール
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ユィホイ
(72)【発明者】
【氏名】ルッチ,タイラー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】スゥン,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ティンドル,マディソン キャサリーン
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB09
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB23
(57)【要約】
本開示の実施の形態は、ガラス物品を強化するための塩浴システムであって、少なくとも1つの側壁により囲まれた第1の内部容積を画成する塩浴槽;第1の内部容積内に配置されたアルカリ金属塩を含む塩浴組成物;少なくとも1つの側壁により囲まれた第2の内部容積を画成し、その第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む格納装置;および格納装置の入口に近接して配置された循環装置であって、格納装置に塩浴組成物を循環させるように作動する循環装置を備えた塩浴システムに関する。溶融塩を再生する方法も、開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス物品を強化するための塩浴システムにおいて、
少なくとも1つの側壁により囲まれた第1の内部容積を画成する塩浴槽、
前記第1の内部容積内に配置されたアルカリ金属塩を含む塩浴組成物、
前記第1の内部容積内に配置された格納装置であって、少なくとも1つの側壁により囲まれた第2の内部容積を画成し、該第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む格納装置、および
前記格納装置の入口に近接して配置された循環装置であって、該格納装置に前記塩浴組成物を循環させるように作動する循環装置、
を備えた塩浴システム。
【請求項2】
前記再生媒体が、ケイ酸凝集体、アルカリ金属リン酸塩、多孔質金属酸化物、またはその組合せを含む、請求項1記載の塩浴システム。
【請求項3】
前記再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、請求項1記載の塩浴システム。
【請求項4】
前記再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、請求項1記載の塩浴システム。
【請求項5】
前記第1の内部容積内に配置された前記塩浴組成物が、前記再生媒体を実質的に含まない、請求項1記載の塩浴システム。
【請求項6】
前記格納装置の入口が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、
前記格納装置の出口が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、または
前記格納装置の入口と該格納装置の出口の両方が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、
請求項1記載の塩浴システム。
【請求項7】
前記第2の内部容積が、前記第1の再生区域および該第1の再生区域の下流に位置する第2の再生区域を含む、請求項1記載の塩浴システム。
【請求項8】
前記第1の再生区域が第1の再生媒体を含み、
前記第2の再生区域が、前記第1の再生媒体と異なる第2の再生媒体を含む、請求項7記載の塩浴システム。
【請求項9】
前記格納装置が、前記第1の再生区域と前記第2の再生区域との間に配置された篩を含み、該篩が、前記第1の再生媒体および前記第2の再生媒体の少なくとも一方の平均粒径より小さい直径を有する開口を含む、請求項8記載の塩浴システム。
【請求項10】
溶融塩を再生する方法において、
塩浴槽の第1の内部容積内に配置された格納装置に前記溶融塩を循環させる工程であって、該溶融塩は、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物を含み、前記格納装置は、該格納装置により画成された第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む、工程、および
前記溶融塩を前記格納装置内の前記再生媒体と接触させる工程であって、その接触により、該溶融塩中の前記1種類以上の不純物の濃度が低下する、工程、
を含む方法。
【請求項11】
前記1種類以上の不純物が、硝酸リチウム、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記再生媒体が、ケイ酸、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、多孔質金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記第1の内部容積内に配置された前記塩浴組成物が、前記再生媒体を実質的に含まない、請求項10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2020年9月15日に出願された米国仮特許出願第63/078488号の米国法典第35編第119条の下で優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ガラス物品を化学的に強化するためのシステムおよび方法に関し、より詳しくは、ガラス物品を強化するための塩浴システムおよび溶融塩を再生する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
様々な用途にテンパーガラスまたは強化ガラスが使用されることがある。例えば、強化ガラス物品が、物理的耐久性と耐破損性のために、スマートフォンやタブレットなどの家庭用電子機器、および医薬品包装に使用されることがある。従来のイオン交換過程などの従来の強化過程では、多くの場合、強化過程の効率を高めるために、バッチ式で1つの塩浴中に多数のガラス物品を浸漬している。しかしながら、強化ガラス物品のバッチ式製造が同じ塩浴中で続けられるにつれて、イオン交換過程では、必然的に、塩浴の有効性が低下することになる。塩浴の有効性の低下を抑える、および/または防ぐための数多くの方法を利用することができるが、これらの方法では、イオン交換過程に様々な複雑な要素が加わることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、ガラス物品を強化するための代わりの塩浴システムおよび溶融塩を再生する代わりの方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の態様によれば、ガラス物品を強化するための塩浴システムは、少なくとも1つの側壁により囲まれた第1の内部容積を画成する塩浴槽;第1の内部容積内に配置されたアルカリ金属塩を含む塩浴組成物;第1の内部容積内に配置された格納装置であって、少なくとも1つの側壁により囲まれた第2の内部容積を画成し、その第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む格納装置;および格納装置の入口に近接して配置された循環装置であって、格納装置に塩浴組成物を循環させるように作動する循環装置を備えることがある。
【0006】
本開示の第2の態様によれば、ガラス物品を強化するための塩浴システムは、少なくとも1つの側壁により囲まれた第1の内部容積を画成する塩浴槽;第1の内部容積内に配置されたアルカリ金属塩を含む塩浴組成物;第1の内部容積の外側に配置され、第1の内部容積に流体連結された格納装置であって、少なくとも1つの側壁により囲まれた第2の内部容積を画成し、その第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む格納装置;および第1の内部容積内に、格納装置の入口に近接して配置された循環装置であって、格納装置に塩浴組成物を循環させるように作動する循環装置を備えることがある。
【0007】
本開示の第3の態様は、第2の内部容積の温度が、第1の内部容積の温度より3℃以上低い、第2の態様を含むことがある。
【0008】
本開示の第4の態様は、再生媒体が、ケイ酸凝集体、アルカリ金属リン酸塩、多孔質金属酸化物、またはその組合せを含む、第1から第3の態様のいずれかを含むことがある。
【0009】
本開示の第5の態様は、再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、第1から第4の態様のいずれかを含むことがある。
【0010】
本開示の第6の態様は、再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、第1から第5の態様のいずれかを含むことがある。
【0011】
本開示の第7の態様は、再生媒体が、粒子、リング、サドル、球体、人工モノリス、ハニカム、繊維、フェルト、不活性担体上に被覆されたかその中に含浸された活性層、またはこれらの組合せを含む、第1から第6の態様のいずれかを含むことがある。
【0012】
本開示の第8の態様は、第1の内部容積内に配置された塩浴組成物が、再生媒体を実質的に含まない、第1から第7の態様のいずれかを含むことがある。
【0013】
本開示の第9の態様は、循環装置が、羽根車、ポンプ、気体噴射システム、またはその組合せを含む、第1から第8の態様のいずれかを含むことがある。
【0014】
本開示の第10の態様は、循環装置が、0.001体積毎時から10体積毎時の流速で格納装置に塩浴組成物を循環させるように作動する、第1から第9の態様のいずれかを含むことがある。
【0015】
本開示の第11の態様は、格納装置の入口が、再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている;格納装置の出口が、再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている;または格納装置の入口と格納装置の出口の両方が、再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、第1から第10の態様のいずれかを含むことがある。
【0016】
本開示の第12の態様は、第2の内部容積が、第1の再生区域およびその第1の再生区域の下流に位置する第2の再生区域を含む、第1から第11の態様のいずれかを含むことがある。
【0017】
本開示の第13の態様は、第1の再生区域が第1の再生媒体を含み、第2の再生区域が、第1の再生媒体と異なる第2の再生媒体を含む、第12の態様を含むことがある。
【0018】
本開示の第14の態様は、格納装置が、第1の再生区域と第2の再生区域との間に配置された篩を含み、その篩が、第1の再生媒体および第2の再生媒体の少なくとも一方の平均粒径より小さい直径を有する開口を含む、第13の態様を含むことがある。
【0019】
本開示の第15の態様によれば、溶融塩を再生する方法は、塩浴槽の第1の内部容積内に配置された格納装置に溶融塩を循環させる工程であって、溶融塩は、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物を含み、格納装置は、この格納装置により画成された第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む、工程;および溶融塩を格納装置内の再生媒体と接触させる工程であって、その接触により、溶融塩中の1種類以上の不純物の濃度が低下する、工程を含むことがある。
【0020】
本開示の第16の態様によれば、溶融塩を再生する方法は、塩浴槽により画成された第1の内部容積の外部に配置された格納装置に溶融塩を循環させる工程であって、溶融塩は、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物を含み、格納装置は、この格納装置により画成された第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む、工程;および溶融塩を格納装置内の再生媒体と接触させる工程であって、その接触により、溶融塩中の1種類以上の不純物の濃度が低下する、工程を含むことがある。
【0021】
本開示の第17の態様は、第2の内部容積の温度が、第1の内部容積の温度より3℃以上低い、第16の態様を含むことがある。
【0022】
本開示の第18の態様は、1種類以上の不純物が、硝酸リチウム、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、第15から第17の態様のいずれかを含むことがある。
【0023】
本開示の第19の態様は、再生媒体が、ケイ酸、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、多孔質金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、第15から第18の態様のいずれかを含むことがある。
【0024】
本開示の第20の態様は、再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、第15から第19の態様のいずれかを含むことがある。
【0025】
本開示の第21の態様は、再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、第15から第20の態様のいずれかを含むことがある。
【0026】
本開示の第22の態様は、再生媒体が、粒子、リング、サドル、球体、人工モノリス、ハニカム、繊維、フェルト、不活性担体上に被覆されたかその中に含浸された活性層、またはこれらの組合せを含む、第15から第21の態様のいずれかを含むことがある。
【0027】
本開示の第23の態様は、第1の内部容積内に配置された塩浴組成物が、再生媒体を実質的に含まない、第15から第22の態様のいずれかを含むことがある。
【0028】
本開示の第24の態様は、溶融塩が、0.001体積毎時から10体積毎時の流速で格納装置に循環される、第15から第23の態様のいずれかを含むことがある。
【0029】
本開示の第25の態様は、アルカリ金属塩を含む塩浴組成物をイオン交換温度に加熱して、溶融塩を形成する工程;および溶融塩とガラス物品との間にイオン交換が行われるように、ガラス物品を溶融塩中に浸す工程であって、溶融塩とガラス物品との間のイオン交換により、溶融塩内に1種類以上の不純物が形成される、工程をさらに含む、第15から第24の態様のいずれかを含むことがある。
【0030】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、様々な実施の形態を記載しており、請求項の主題の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図があることを理解すべきである。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、ここに記載された様々な実施の形態を示しており、説明と共に、請求項の主題の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本開示の以下の詳細な説明は、添付図面と共に読まれたときに、よりよく理解されるであろう。
【
図1A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
【
図1B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
【
図2A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
【
図2B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
【
図3A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
【
図3B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、イオン交換過程の一部を示す概略図
【
図4A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、ガラス物品を強化するための塩浴システムの一般化された流れ図
【
図4B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、ガラス物品を強化するための塩浴システムの一般化された流れ図
【
図4C】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、
図4Aおよび4Cに示されたガラス物品を強化するための塩浴システムの格納装置の概略図
【
図5A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、様々な量の再生媒体を使用した、ガラス物品を強化するための塩浴システムに関する時間(日数;X軸)の関数として表面加水分解抵抗滴定剤体積(mL;Y軸)をプロットしたグラフ
【
図5B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、様々な量の再生媒体を使用した、ガラス物品を強化するための塩浴システムに関する強化したガラス物品の数(アルカリ金属塩のキログラム当たりのバイアル数;X軸)の関数として表面加水分解抵抗滴定剤体積(mL;Y軸)をプロットしたグラフ
【
図6A】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、ガラス物品を強化するための塩浴システムに関する時間(日数;X軸)の関数として表面圧縮応力(MPa;左側のY軸)および圧縮深さ(μm;右側のY軸)をプロットしたグラフ
【
図6B】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、ガラス物品を強化するための塩浴システムに関する強化したガラス物品の数(アルカリ金属塩のキログラム当たりのバイアル数;X軸)の関数として表面圧縮応力(MPa;左側のY軸)および圧縮深さ(μm;右側のY軸)をプロットしたグラフ
図4A~4Cの簡単化概略図を記述する場合、使用されることがあり、当業者に周知の多数の弁、温度センサ、電子制御装置などは、含まれていない。しかしながら、当業者には、これらの構成要素は本開示の範囲に含まれることが理解されるであろう。
【0032】
それに加え、
図4A~4Cの簡単化概略図における矢印は、材料の移動または流れを示す。しかしながら、それらの矢印は、2つ以上のシステムの構成要素間のそのような材料を移動させられる、導管などの移送ラインを同等に示すことがある。1つ以上のシステムの構成要素につながる矢印は、所定のシステムの構成要素における入口または出口を表し、1つだけのシステムの構成要素につながる矢印は、図示されたシステムから出るシステム出口または図示されたシステムに入るシステム入口を表す。矢印の方向は、概して、前記材料または矢印で表された物理的移送ライン内に格納された材料の主な移動方向と一致する。
【0033】
図4A~4Cの簡単化概略図における矢印は、あるシステムの構成要素から別のシステムの構成要素に材料を移送する工程段階を示すこともある。例えば、第1のシステムの構成要素から第2のシステムの構成要素を指し示す矢印は、第1のシステムの構成要素から第2のシステムの構成要素へと「通過する」材料を表し、この通過する材料は、第1のシステムの構成要素から「出る」または「除去され」る材料、および第2のシステムの構成要素に「導入される」材料を含むことがある。
【0034】
これから、そのいくつかが添付図面に示されている、本開示の様々な実施の形態をより詳しく参照する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
ここに記載された実施の形態は、ガラス物品を強化するための塩浴システムおよび溶融塩を再生する方法に関する。本開示によるガラス物品を強化するための塩浴システムは、概して、少なくとも1つの側壁により囲まれた第1の内部容積を画成する塩浴槽、第1の内部容積内に配置された塩浴組成物、第1の内部容積内に配置された格納装置、および格納装置の入口に近接して配置された循環装置を備えることがある。その塩浴組成物は、アルカリ金属塩を含むことがある。その格納装置は、少なくとも1つの側壁により囲まれた第2の内部容積を画成することがあり、その第2の内部容積内に配置された再生媒体を含むことがある。その循環装置は、格納装置に塩浴組成物を循環させるように作動することができる。本開示による溶融塩を再生する方法は、塩浴槽の第1の内部容積内に配置された格納装置に溶融塩を循環させる工程、および溶融塩を格納装置内の再生媒体と接触させる工程を含むことがある。その溶融塩は、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物を含むことがある。その格納装置は、この格納装置により画成された第2の内部容積内に配置された再生媒体を含むことがある。その接触により、溶融塩中の1種類以上の不純物の濃度を低下させることができる。本開示のシステムおよび方法の様々な実施の形態が、添付図面を具体的に参照して、ここに記載される。
【0036】
ここに用いられている方向を示す用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部-は、描かれた図面に関してのみ使用され、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0037】
ここに用いられているように、不定冠詞「a」および「an」は、本開示の要素を称する場合、これらの要素の少なくとも1つが存在することを意味する。これらの不定冠詞は、修飾された名詞が単数名詞であることを示すために従来使用されるが、特に明記のない限り、不定冠詞「a」および「an」は、本開示において複数も含む。同様に、定冠詞「the」も、特に明記のない限り、修飾された名詞が、本開示において単数または複数であってよいことを示す。
【0038】
ここに用いられているように、「または」という用語は、包括的であり、特に、「AまたはB」という用語は、「A、B、またはAとB」を称する。あるいは、「または」という用語は、「AまたはBのいずれか」または「AまたはBの一方」という用語などによって、本開示において明確に示される場合にだけ、排他的な意味に使用されることがある。
【0039】
ここに用いられているように、「塩浴組成物」、「塩浴」、「溶融塩」などの用語は、特に明記のない限り、同義語であり、ガラス(またはガラスセラミック)物品にイオン交換過程を行うために使用される溶液または媒体を称し、その場合、ガラス物品の表面内の陽イオンが、塩浴中に存在する陽イオンで置換、すなわち交換される。塩浴は、硝酸カリウム(KNO3)および/または硝酸ナトリウム(NaNO3)などの少なくとも1種類のアルカリ金属塩を含むことがあり、そのアルカリ金属塩は、実質的に液相に熱により液化されるまたは他のやり方で加熱されることがあるのが理解されよう。
【0040】
ここに用いられているように、「化学的耐久性」という用語は、特定の化学的条件に曝露された際の劣化に抵抗するガラス組成物の能力を称する。詳しくは、ここに記載されたガラス物品の化学的耐久性は、USP<600>「容器-ガラス」(2017年)の「表面ガラス試験」にしたがって、水中で評価された。
【0041】
材料の流れは、その材料の流れの中の成分について命名されることがあり、材料の流れが命名される成分は、材料の流れの主成分(材料の流れの50質量%から、70質量%から90質量%から、95質量%から、99質量%から、99.5質量%から、または99.9質量%から、材料の流れの100質量%までを構成するような)であることがあるのを理解すべきである。例えば、塩浴槽から格納装置までであることがある、塩浴組成物の流れは、塩浴組成物の50質量%から100質量%を構成することがあり、その結果、材料の流れは、「塩浴組成物」と命名されることもある。成分は、その成分を含む材料の流れが、あるシステムの構成要素から別のシステムの構成要素に通過すると開示されている場合、あるシステムの構成要素から別のシステムの構成要素に通過すると開示されることも理解すべきである。例えば、第1のシステムの構成要素から第2のシステムの構成要素への塩浴組成物の開示された流れは、その第1のシステムの構成要素からその第2のシステムの構成要素に通過する塩浴組成物を同等に開示すると理解すべきである。
【0042】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が、特定の順序で行われることが要求されていることも、またはどの装置に関しても、特定の向きが要求されていることも決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に列挙していない場合、または装置の請求項が、個々の構成要素に対する順序または向きを実際に列挙していない場合、もしくは工程が特定の順序に限定されるべきことが請求項または説明に他に具体的に述べられていない場合、または装置の構成要素に対する特定の順序または向きが列挙されていない場合、いずれに関しても、順序も向きも暗示されることは決して意図されていない。このことは、工程の配列、操作の流れ、構成要素の順序、または構成要素の向き;文法構成または句読法に由来する明白な意味;および明細書に記載された実施の形態の数またはタイプに関する論理事項を含む、解釈に関するどの可能性のある非表現基準にも適用される。
【0043】
始めに
図1Aおよび1Bを参照すると、従来のイオン交換過程が概略示されている。このイオン交換過程は、ガラス物品105を塩浴100内に浸漬する工程を含む。ガラス物品105は、相対的に小さい陽イオン130、例えば、Li
+および/またはNa
+陽イオンなどのアルカリ金属陽イオンを含有することがある。塩浴100は、相対的に大きい陽イオン120(すなわち、ガラス物品の陽イオン130に対して)を含有する溶融塩101を含むことがある。すなわち、陽イオン120は、陽イオン130の原子半径より大きい原子半径を有することができる。陽イオン120の例としては、カリウム(K
+)陽イオンなどのアルカリ金属陽イオンが挙げられるであろう。大きい方の陽イオン120は、溶融塩101を生成するために高温に加熱されたときに、塩浴100中に存在する、アルカリ金属硝酸塩などの塩から解離していることがある。ガラス物品105が塩浴100内に浸漬されると、ガラス物品105内の陽イオン130が、ガラス物品105から溶融塩101中に拡散することがある。ここで
図1Bを参照すると、溶融塩101からの陽イオン120が、そのような拡散後にガラス物品105内の陽イオン130を置換することがある。ガラス物品105中の小さい方の陽イオンが溶融塩101からの大きい方の陽イオンでこのように置換されると、ガラス物品105の表面に、圧縮深さ(DOC)まで延在する表面圧縮応力(CS)が生じ、これにより、ガラス物品105の機械的強度が増し、ガラス物品105の耐破損性が改善されるであろう。
【0044】
一般に、イオン交換過程の効率を増すために、バッチ方式で1つの塩浴中に多数のガラス物品が浸漬されることがある。しかしながら、強化ガラス物品のバッチ方式の製造が同じ塩浴中で続けられるにつれて、イオン交換過程では、必然的に、塩浴の有効性が低下することになる。塩浴の有効性がこのように低下する理由の1つは、塩浴内に望ましくない種が形成されることによるものであろう。具体的に、イオン交換過程中に、塩浴中に存在するアルカリ金属硝酸塩が、塩浴中でアルカリ金属亜硝酸塩および/またはアルカリ金属酸化物に分解することがある。例えば、アルカリ金属硝酸塩のアルカリ金属亜硝酸塩への分解が、以下の式:
MNO3←→MNO2+1/2O2 [M:IUPAC第1族金属]
に示されている。アルカリ金属硝酸塩およびアルカリ金属亜硝酸塩の両方とも、以下の式:
MNO2←→M2O+NOx [M:IUPAC第1族金属]
に示されるように、アルカリ金属酸化物にさらに分解することがある。例えば、硝酸カリウム(KNO3)が塩浴中に存在する場合、KNO3は、約400℃より高い温度で2種類の主要な分解生成物:亜硝酸カリウム(KNO2)および酸化カリウム(K2O)に分解する。硝酸ナトリウムおよび硝酸リチウムなどの他のアルカリ金属硝酸塩は、KNO3よりもさらに低い温度(すなわち、400℃以下の温度)で対応するアルカリ金属亜硝酸塩およびアルカリ金属酸化物に分解することがある。
【0045】
溶融塩中のK2Oなどのアルカリ金属酸化物の存在により、その中で処理されるガラス物品の性質が低下することがある。具体的に、溶融塩中のアルカリ金属酸化物が、イオン交換中にガラス物品の表面を非調和的にエッチングすることがある。このエッチングによりガラス物品の表面が劣化し、これにより、転じて、ガラス物品の多くの性質が悪影響を受けることがある。例えば、0.5質量%以上の濃度でK2Oを含む溶融塩中でイオン交換を経たガラス物品は、ガラス物品上に目に見えるエッチングおよび表面損傷を形成することがある。ガラス物品が、0.5質量%より著しく低い(すなわち、0.05質量%またさらには0.005質量%)の濃度でK2Oを含む溶融塩中でイオン交換を経る場合でさえ、K2Oの存在により、ガラス物品の機械的強度が相当低下することがある。
【0046】
イオン交換中のガラス物品の表面の劣化は、塩浴の中和によって、低下させるか、防ぐことができる。すなわち、イオン交換中のガラス物品の表面の劣化は、塩浴内に存在するアルカリ金属酸化物を減少させるか、またはなくすことによって、低下させるか、防ぐことができる。このことは、少なくとも一部には、塩浴内にケイ酸などの再生媒体を含ませることによって、達成することができる。ここに用いられているように、「ケイ酸」という用語は、オルトケイ酸(Si(OH)4)などのケイ酸、並びに対応するケイ酸塩(ケイ酸の共役塩基である)を称する。ケイ酸は、一般に、以下の式:
M2O+SiO2→M2SiO3 [M:IUPAC第1族金属]
に示されるように、アルカリ金属酸化物と反応して、非反応性生成物を形成する。ケイ酸は、カルシウム陽イオン(Ca2+)およびマグネシウム陽イオン(Mg2+)などの溶融塩中の一般的な汚染物質(ガラス物品の表面に付着し、イオン交換過程を妨害し得る)と反応することもある。
【0047】
塩浴の有効性がこのように低下する別の理由は、ガラス物品中に最初に存在する望ましくない陽イオンによる溶融塩の「汚染(poisoning)」によるものであろう。例えば、リチウム含有ガラス物品は、より速く、より効率的なイオン交換過程など、多数の利点を提供することがあるが、溶融塩浴中の1質量%ほど少ないリチウム陽イオン(すなわち、イオン交換中にガラス物品から出て、塩浴中に入るように交換されるリチウム陽イオン)により、ガラス物品において達成できる表面圧縮応力および圧縮深さが低下することがある。溶融塩中のリチウム陽イオンの濃度が1質量%未満である場合でさえ、リチウム陽イオンはイオン交換過程を妨害することがあり、溶融塩中のリチウム陽イオンの濃度がイオン交換過程中に必然的に増加するにつれて、バッチ毎に圧縮応力と圧縮深さが劇的に異なる強化ガラス物品がもたらされる。
【0048】
リチウム陽イオンなどの望ましくない陽イオンで汚染された塩浴は、リン酸塩などの再生媒体の添加によって再生することができる。例えば、ここで
図2Aおよび2Bを参照すると、汚染された溶融塩202を収容する塩浴200が示されている。汚染された溶融塩202は、リチウム陽イオン230および例えば、ナトリウムおよび/またはカリウム陽イオンなどの相対的に大きい陽イオン220(すなわち、ガラス物品のリチウム陽イオン230に対して)を含有する。汚染された溶融塩202は、リン酸塩240を添加によって再生することができる。リン酸塩240は、汚染された溶融塩202に導入されると、解離して、陽イオンとリン酸(PO
4
-3)陰イオンを形成することができる。汚染された溶融塩202中に存在するリン酸陰イオンは、リチウム陽イオン230と反応し、それを選択的に沈殿させることができる。選択的な沈殿反応により、例えば、リン酸三リチウム(Li
3PO
4)、リン酸二リチウムナトリウム(Li
2NaPO
4)、および/またはリン酸リチウム二ナトリウム(LiNa
2PO
4)などの不溶性リチウムリン酸塩250、およびさらなるイオン交換過程に使用するのに適した再生された溶融塩211が生成される。言い換えると、リン酸塩の存在により、沈殿によって、塩浴からリチウム陽イオンが除去されるのに好ましい状況が作られる。
【0049】
詳しくは、汚染された溶融塩は、
図2Aおよび2Bに示されるように、塩浴にリン酸塩を「添加(spiking)」する(すなわち、バッチ間でリン酸塩を導入する)ことによって、再生することができる、またはリン酸塩は、
図3Aおよび3Bに示されるように、イオン交換過程中に存在してもよい。例えば、リチウム陽イオン330を含有するガラス物品305を、例えば、ナトリウムおよび/またはカリウム陽イオンなどの相対的に大きい陽イオン320(すなわち、ガラス物品のリチウム陽イオン330に対して)、およびリン酸塩340を含有する塩浴300中に浸漬することができる。リチウム陽イオン330がガラス物品305から拡散するにつれて、リン酸塩340から解離したリン酸陰イオンが、溶解したリチウム陽イオン330と反応し、それを選択的に沈殿させて、不溶性リチウムリン酸塩350および再生された溶融塩311を生成することができる。
【0050】
上述したように、塩浴の有効性の低下を抑える、および/または防ぐ数多くの方法を使用することができる。しかしながら、ケイ酸および/またはリン酸塩などの再生媒体の導入により、イオン交換過程からもたらされる塩浴の有効性の低下を抑える、および/または防ぐことができるが、これらの再生媒体により、イオン交換過程に新たな困難な事態が生じることがある。
【0051】
例えば、大きすぎるケイ酸粒子が塩浴に加えられた場合、ケイ酸は、溶融塩を効果的に中和し損なうことがある。具体的には、ケイ酸粒子の平均サイズが大きすぎる場合、ケイ酸粒子は、溶融塩の底により迅速に沈むことがあり、その結果、ケイ酸とアルカリ金属酸化物との間の相互作用と反応の可能性が低下することがある。大きいケイ酸粒子は、システムを停止しなければならなくなるまで、また塩浴を交換しなければならなくなるまで、時間の経過とともに、塩浴の底にスラッジとして蓄積することもある。反対に、ケイ酸粒子の平均粒径が小さすぎる場合、ケイ酸粒子は、溶融塩中でイオン交換されるガラス物品の表面に付着することがある。ガラス物品の表面にケイ酸粒子がこのように付着すると、そのガラス物品が商業用途に不適になる、または少なくとも、製造費を増し、効率を低下させる追加の処理が必要になるという結果が生じることがある。
【0052】
同様に、塩浴にリン酸塩を加えると、塩浴から除去しなければならない不溶性スラッジおよび/またはガラス物品に付着するかもしれないリン酸塩結晶が形成されることがある。例えば、リチウム陽イオンは、ナトリウムおよびカリウム陽イオンなどの塩浴中に存在する他のアルカリ金属陽イオンよりも、優先してリン酸塩と結合するが、リチウム陽イオンの濃度が低下するにつれて、リン酸塩は、他のアルカリ金属陽イオンと反応し始めて、アルカリ金属リン酸塩を形成することがあり、その塩が解離して、リン酸塩結晶を形成することがある。そのリン酸塩結晶は、溶融塩中でイオン交換されるガラス物品の表面に付着することがある。ガラス物品の表面にリン酸塩結晶が存在すると、イオン交換過程が妨害され、達成される圧縮応力および圧縮深さが低下することがあり、また除去の際に、ガラス物品の表面に窪みおよび/または突起が形成されることがある。リン酸塩結晶の形成が最小である場合でさえ、不溶性のリン酸リチウムが、時間の経過とともに塩浴中に増加し、これにより、スラッジを除去し、塩浴を元の組成に戻すために、その過程を定期的に停止させる必要が生じる。
【0053】
本開示は、溶融塩を効果的に再生しつつ、溶融塩中のこれらの再生媒体の存在に関連する望ましくない影響を減少させるまたは防ぐために、ケイ酸および/またはリン酸塩などの再生媒体を利用する、溶融塩を再生する方法およびガラス物品を強化するための塩浴システムに関する。
【0054】
ここで
図4Aおよび4Bを参照すると、塩浴システム400が概略示されている。塩浴システム400は、塩浴槽402を含むことがある。塩浴槽402は、少なくとも1つの側壁406により囲まれた第1の内部容積404を画成することがあり、この第1の内部容積404内に塩浴組成物408が配置されることがある。塩浴システム400は、第1の内部容積404内に配置された格納装置410をさらに含むことがある。格納装置410は、少なくとも1つの側壁414により囲まれた第2の内部容積412を画成することがある。この第2の内部容積412内に、1種類以上の再生媒体が配置されることがある。この塩浴システムは、格納装置410の入口418に近接して配置された循環装置416をさらに含むことがある。
【0055】
実施の形態において、塩浴組成物408は、アルカリ金属塩を含むことがある。例えば、塩浴組成物408は、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸リチウム(LiNO3)、またはその組合せなどのアルカリ金属硝酸塩を含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物408は、その塩浴組成物408の総質量に基づいて、90質量%以上の1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。例えば、塩浴組成物408は、その塩浴組成物408の総質量に基づいて、90質量%から99.9質量%、90質量%から99.5質量%、90質量%から99質量%、90質量%から97質量%、90質量%から95質量%、90質量%から93質量%、93質量%から99.9質量%、93質量%から99.5質量%、93質量%から99質量%、93質量%から97質量%、93質量%から95質量%、95質量%から99.9質量%、95質量%から99.5質量%、95質量%から99質量%、95質量%から97質量%、97質量%から99.9質量%、97質量%から99.5質量%、97質量%から99質量%、99質量%から99.9質量%、99質量%から99.5質量%、または99.5質量%から99.9質量%の1種類以上のアルカリ金属塩を含むことがある。
【0056】
実施の形態において、塩浴組成物408中のアルカリ金属塩の濃度は、イオン交換過程後のガラス物品の表面での表面圧縮応力、並びに圧縮深さの両方を増加させるイオン交換過程を提供するために、ガラス物品の組成に基づいて、釣り合わされることがある。例えば、塩浴組成物408は、その塩浴組成物408の総濃度に基づいて、硝酸ナトリウムより大きい濃度で硝酸カリウムを含むことがある、または塩浴組成物408は、その塩浴組成物408の総質量に基づいて、硝酸カリウムより大きい濃度で硝酸ナトリウムを含むことがある。塩浴組成物中の硝酸カリウムよりも大きい濃度の硝酸ナトリウムは、溶融塩浴中のより長い滞留時間と併せて、ガラス物品中により深い圧縮深さをもたらすであろう。
【0057】
実施の形態において、塩浴組成物408は、必要に応じて、塩浴組成物408の総質量に基づいて1質量%以下の量で硝酸リチウムを含むことがある。例えば、塩浴組成物408は、塩浴100の総質量に基づいて、0.01質量%から1質量%、0.01質量%から0.8質量%、0.01質量%から0.6質量%、0.01質量%から0.3質量%、0.01質量%から0.2質量%、0.01質量%から0.1質量%、0.1質量%から1質量%、0.1質量%から0.8質量%、0.1質量%から0.6質量%、0.1質量%から0.3質量%、0.1質量%から0.2質量%、0.2質量%から1質量%、0.2質量%から0.8質量%、0.2質量%から0.6質量%、0.2質量%から0.3質量%、0.3質量%から1質量%、0.3質量%から0.8質量%、0.3質量%から0.6質量%、0.6質量%から1質量%、0.6質量%から0.8質量%、または0.8質量%から1質量%の量で硝酸リチウムを含むことがある。塩浴組成物中に硝酸リチウムを含ませること、および/またはガラス物品からのリチウム陽イオンの拡散のいずれかにより、硝酸リチウムの濃度が高すぎる(すなわち、1質量%より多い)と、溶融塩が汚染されたと考えられることがあり、これにより、イオン交換過程が悪影響を受ける。汚染された溶融塩は、汚染されていない溶融塩中でイオン交換過程が施されたガラス物品と比べて、ガラス物品の圧縮応力および圧縮深さが低下するであろう。反対に、硝酸リチウムの濃度が低すぎる(すなわち、0.01質量%未満)と、溶融塩浴は、ガラスセラミック物品などのある種の物品の強化には適さないことがある。詳しくは、過剰なリチウム陽イオンは、1つ以上の結晶相の形成を促進する核形成剤の機能を果たすことがあり、イオン交換過程中にガラスセラミック物品から拡散し、達成される結晶化の低下およびガラスセラミック物品中のナトリウムの豊富な領域の増加をもたらすことがある。ガラスセラミック物品中のナトリウムの豊富な領域は、ガラスセラミック物品の腐食および/または亀裂形成の原因となることがある。
【0058】
イオン交換過程を実施するために、塩浴組成物408が使用されることがあり、このイオン交換過程により、ガラス物品の金属陽イオンが、塩浴組成物408のアルカリ金属塩のアルカリ金属陽イオンと交換される。塩浴組成物408が第1の内部容積404内で一旦汚染されたら、塩浴組成物408は、溶融塩を作り、それによって、イオン交換過程を促進するのに十分な高温(イオン交換温度とも称される)に加熱されることがある。実施の形態において、塩浴組成物408は、350℃から500℃の温度に加熱されることがある。例えば、塩浴組成物は、350℃から475℃、350℃から450℃、350℃から425℃、350℃から400℃、350℃から375℃、375℃から500℃、375℃から475℃、375℃から450℃、375℃から425℃、375℃から400℃、400℃から500℃、400℃から475℃、400℃から450℃、400℃から425℃、425℃から500℃、425℃から475℃、425℃から450℃、450℃から500℃、450℃から475℃、または475℃から500℃の温度に加熱されることがある。しかしながら、イオン交換温度が高すぎると、イオン交換過程を適切に制御することが難しくなることがあり、例えば、塩浴組成物408中のアルカリ金属塩の劣化速度が増してしまうであろう。
【0059】
さらに
図4Aを参照すると、塩浴システム400は、第1の内部容積404内に配置された格納装置410を含むことがある。格納装置410は、少なくとも1つの側壁414により囲まれた第2の内部容積412を画成することがある。第2の内部容積412内に1種類以上の再生媒体が配置されることがある。格納装置410は、塩浴組成物408と再生媒体との間の接触を可能にし、その結果、塩浴組成物408の有効性の低下を抑える、および/または防ぐことができる。さらに、塩浴システム400中に使用される再生媒体の全ておよび/または相当な部分が格納装置410内に配置されているので、1種類以上の再生媒体のどのような望ましくない副生成物も、格納装置410内に残る。
【0060】
その結果、ガラス物品の表面に付着するケイ酸および/または塩浴槽402中で増加する不溶性のリン酸リチウムのスラッジなど、再生媒体の使用に関連する困難な事態が、低下する、および/または完全に防がれるであろう。次に、格納装置410は、塩浴組成物408の寿命および強化過程の全体の処理量を著しく増加させることができ、これにより、運転費を著しく減少させることができる。さらに、再生媒体は、塩浴組成物408とは別なままであるので、塩浴組成物408を交換せずに、再生媒体は、除去したり、補給したり、および/または使い果たされた場合には交換したりすることができる。これにより、塩浴組成物に再生媒体を直接導入する従来の塩浴システムと比べて、塩浴システム400の有効性をさらに増すことができる。
【0061】
実施の形態において、格納装置410は、内面と外面の両方で溶融塩(すなわち、350℃から500℃の温度に加熱された塩浴組成物408)との接触に適した任意の容器を含むことができる。例えば、いくつかの実施の形態において、格納装置410は、サイズ8、スケジュール10、ソサエティー・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ(SAE)304ステンレス鋼パイプの1つ以上のセクションを含むことがある。他の実施の形態において(図示せず)、格納装置410は、塩浴組成物408を格納装置410に流すことができるが、再生媒体の移動を防ぐステンレス鋼メッシュからなる、バスケットおよび/またはパウチなどの1つ以上の容器を含むことがある。
【0062】
上述したように、格納装置410の第2の内部容積412内に1種類以上の再生媒体を配置することができる。ここに用いられているように、「再生媒体」という用語は、イオン交換過程中に形成される、および/またはガラス物品のイオン交換に悪影響を与えるか、そうではなく塩浴組成物中で望ましくないと考えられる1種類以上の物質(不純物および/または汚染物質とも称される)を沈殿させる、濾過する、結合する、その濃度を減少させる、または溶融塩浴から除去するのに効果的な任意の材料を称する。例えば、再生媒体は、ケイ酸を含むことがあり、ケイ酸は、上述したように、塩浴組成物408からのアルカリ金属塩の分解生成物と反応し、それを除去する。同様に、再生媒体は、リン酸塩を含むことがあり、リン酸塩は、上述したように、塩浴組成物408から過剰なリチウム陽イオンを沈殿させることができる。再生媒体は、ナトリウム洗浄(すなわち、硝酸ナトリウムを適切な濃度まで減少させる)に適しているであろう、炭酸カリウム(K2CO3)などのアルカリ金属炭酸塩、および塩浴組成物408からデブリおよび汚染物質を除去するのに適しているであろう濾過媒体も含むことがある。
【0063】
再生媒体は、格納装置410内に充填するのに適しており、また塩浴組成物408を格納装置410に適切な流すことのできるどの形態であってもよい。例えば、再生媒体は、粒子、リング、サドル、球体、人工モノリス、ハニカム、繊維、フェルト、不活性担体上に被覆されたかその中に含浸された活性層、またはこれらの組合せを含む。ここに詳しく記載されているように、1種類以上の再生媒体は、側壁414並びに格納装置410の入口と出口の両方に配置された1つ以上のバリアによって、格納装置410内に収容されることがある。そのバリアは、1つ以上のメッシュ層であることがあり、塩浴組成物408が再生媒体と接触するが、再生媒体が格納装置410から塩浴槽402の第1の内部容積404中に移動するのを防ぐことができるように、塩浴組成物408を格納装置410に流すことができる。
【0064】
再生媒体が粒状である実施の形態において、粒状再生媒体の平均粒径は、5μmから5,000μmであることがある。例えば、再生媒体が粒状である実施の形態において、粒状再生媒体の平均粒径は、5μmから2,000μm、5μmから1,000μm、5μmから500μm、5μmから100μm、5μmから50μm、50μmから5,000μm、50μmから2,000μm、50μmから1,000μm、50μmから500μm、50μmから100μm、100μmから5,000μm、100μmから2,000μm、100μmから1,000μm、100μmから500μm、500μmから5,000μm、500μmから2,000μm、500μmから1,000μm、1,000μmから5,000μm、1,000μmから2,000μm、または2,000μmから5,000μmであることがある。実施の形態において、再生媒体の90%以上が、5μm超の粒径を有することがある。例えば、再生媒体の92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、99%以上、または99.5%以上が、5μm超の粒径を有することがある。粒状再生媒体の平均粒径がそれより小さい(すなわち、5μm未満)と、再生媒体が緻密に充填され過ぎることがあり、格納装置410に亘る圧力降下が、塩浴システム400の効率的な作動にとって大きすぎることがある。逆に、粒状再生媒体の平均粒径がそれより大きい(すなわち、5μm超)と、不溶性のリン酸リチウムなどのいくつかの種が、大きい粒子の表面に都合良く沈殿することがある。これにより、格納装置410から出て、塩浴組成物408を汚染することがある比較的小さい種の量が減少する。
【0065】
実施の形態において、再生媒体は、ケイ酸凝集体を含むことがある。ここに用いられているように、「ケイ酸凝集体」という用語は、ケイ酸ナノ粒子の単一塊への収集により形成されるクラスターまたはユニットを称するものとする。先に記載されたように、ケイ酸凝集体は、塩浴組成物408中の1種類以上のアルカリ金属塩の分解生成物と反応して、非反応性(例えば、ガラス物品の表面をエッチングも、腐食もしない)ケイ酸塩と水を形成することができる。したがって、ケイ酸凝集体は、塩浴組成物408内のアルカリ金属塩の分解生成物の濃度を低下させ、塩浴組成物408を中和することができる。
【0066】
実施の形態において、ケイ酸凝集体は、レーザ回折粒径分析で測定して、5μmから400μmの平均粒径を有することがある。例えば、ケイ酸凝集体は、レーザ回折粒径分析で測定して、5μmから350μm、5μmから300μm、5μmから250μm、5μmから200μm、5μmから50μm、50μmから400μm、50μmから350μm、50μmから300μm、50μmから250μm、50μmから200μm、200μmから400μm、200μmから350μm、200μmから300μm、200μmから250μm、250μmから400μm、250μmから350μm、250μmから300μm、300μmから400μm、300μmから350μm、または350μmから400μmの平均粒径を有することがある。ケイ酸凝集体がそれより小さい平均粒径(例えば、5μm未満)を有する場合、いずれかの状況に起因して、格納装置410から移動させられたどのケイ酸凝集体も、ガラス物品の表面に容易に付着し、ガラス物品を商業用途に適さなくする結果をもたらすことがある。
【0067】
実施の形態において、ケイ酸凝集体の比表面積は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法で測定して、200m2/g以上であることがある。例えば、ケイ酸凝集体の比表面積は、200m2/gから600m2/g、200m2/gから550m2/g、200m2/gから500m2/g、200m2/gから450m2/g、200m2/gから400m2/g、200m2/gから350m2/g、200m2/gから300m2/g、200m2/gから250m2/g、250m2/gから600m2/g、250m2/gから550m2/g、250m2/gから500m2/g、250m2/gから450m2/g、250m2/gから400m2/g、250m2/gから350m2/g、250m2/gから300m2/g、300m2/gから600m2/g、300m2/gから550m2/g、300m2/gから500m2/g、300m2/gから450m2/g、300m2/gから400m2/g、300m2/gから350m2/g、350m2/gから600m2/g、350m2/gから550m2/g、350m2/gから500m2/g、350m2/gから450m2/g、350m2/gから400m2/g、400m2/gから600m2/g、400m2/gから550m2/g、400m2/gから500m2/g、400m2/gから450m2/g、450m2/gから600m2/g、450m2/gから550m2/g、450m2/gから500m2/g、500m2/gから600m2/g、500m2/gから550m2/g、または550m2/gから600m2/gであることがある。ケイ酸凝集体の比表面積は、ここに記載されたように、ケイ酸凝集体と、アルカリ金属塩の分解生成物との間の反応の反応速度定数(k)と直接的に相関があるであろうと考えられる。すなわち、ケイ酸凝集体の比表面積が大きいほど、溶融塩浴内に存在する分解生成物と反応する可能性が大きくなる。これにより、より少ないケイ酸凝集体を使用しつつ、塩浴組成物408の性質をより制御でき、ガラス物品の化学的耐久性を増加させられるであろう。
【0068】
実施の形態において、再生媒体は、塩浴組成物408を効果的に中和するのに十分な量でケイ酸凝集体を含むことがある。溶融塩浴中でイオン交換されたガラス物品の表面加水分解抵抗(SHR)は、塩浴組成物408が中和される程度を決定するための最も信頼性のある識別力のある測定基準であろう。ガラス物品の表面加水分解抵抗は、USP<660>に詳述されているような、Surface Glass Testによって測定することができる。Surface Glass Testでガラス物品の表面加水分解抵抗を測定する場合、そのガラス物品からなるガラスバイアルまたは容器に、二酸化炭素を含まない水または純水を充填する。次に、充填されたバイアルまたは容器に、約1時間に亘り約121℃でのオートクレーブサイクルを施す。次に、このバイアルまたは容器内の結果として得られた浸出液を、メチルレッドの存在下で弱塩化水素酸(例えば、0.01MのHCl)によって中和するように滴定する。浸出液100mL当たりの滴定剤の体積を使用して、ガラス物品の表面加水分解抵抗を決定する。一般に、滴定剤の体積が大きいほど、化学的耐久性が劣る(すなわち、浸出液は、ガラスが放出したガラス成分をより多く含み、それゆえ、ガラス成分の存在によるpHの変化を相殺するためにより多くの滴定剤が必要になる)。次に、劣った化学的耐久性は、一般に、ガラス物品の表面のより多くの劣化およびイオン交換に使用された塩浴内のアルカリ金属酸化物のより大きい濃度に相当する。
【0069】
強化されたガラス物品、特に、医薬品包装として使用するための強化されたガラス物品において、小さい滴定剤の体積および/または高い化学的耐久性が望ましいであろう。一般に、タイプIガラスには、1.5mL未満の滴定剤の体積が望ましい。しかしながら、上述したように、イオン交換に使用される溶融塩浴内の、アルカリ水酸化物またはアルカリ金属酸化物などの分解生成物の存在により、ガラス物品の表面が腐食するおよび/またはエッチングされることがある。このエッチングにより、滴定剤の体積が増加することがあり、その増加は、化学的耐久性の低下に相当する。典型的に、強化されたガラス物品の滴定剤の体積は、受けているイオン交換の経過時間の関数として増加する。すなわち、ガラス物品が溶融塩浴と接触する時間が長いほど、滴定剤の体積が大きくなる。例えば、約3時間に亘りイオン交換を受けているガラス物品は、滴定剤の体積が約0.9mLになることがあり、一方で、約10時間に亘りイオン交換を受けているガラス物品は、滴定剤の体積が約1.1mLになることがある。その結果、中和された溶融塩中でイオン交換過程が施された強化ガラス物品の化学的耐久性は、従来の溶融塩(すなわち、ケイ酸凝集体により中和されておらず、その結果、アルカリ水酸化物および/またはアルカリ酸化物を含む溶融塩)中でイオン交換過程が施されたものと比べて、増加しているであろう。
【0070】
実施の形態において、特に、医薬品包装として使用するためのガラス物品を強化するために塩浴システムが使用される実施の形態において、再生媒体は、塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%の量のケイ酸凝集体を含むことがある。例えば、再生媒体は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、約0.1質量%から7質量%、約0.1質量%から5質量%、約0.1質量%から3質量%、約0.1質量%から1質量%、約0.1質量%から0.5質量%、約0.5質量%から約10質量%、約0.5質量%から7質量%、約0.5質量%から5質量%、約0.5質量%から3質量%、約0.5質量%から1質量%、約1質量%から約10質量%、約1質量%から7質量%、約1質量%から5質量%、約1質量%から3質量%、約3質量%から約10質量%、約3質量%から7質量%、約3質量%から5質量%、約5質量%から約10質量%、約5質量%から7質量%、または約7質量%から約10質量%のケイ酸凝集体を含むことがある。再生媒体がそれより少なくケイ酸凝集体(すなわち、0.1質量%未満)を含む場合、溶融塩が効果的に中和される前に、ケイ酸の全量が未反応のケイ酸塩および水と反応するであろう。
【0071】
実施の形態において、再生媒体は、塩浴組成物408から過剰なリチウム陽イオンを沈殿させることのできる1種類以上のリン酸塩を含むことがある。実施の形態において、リン酸塩としては、リン酸三ナトリウム(Na3PO4)、リン酸三カリウム(K3PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、三リン酸ナトリウム(Na5P3O10)、三リン酸カリウム(K5P3O10)、二リン酸二ナトリウム(Na2H2P2O7)、ピロリン酸四ナトリウム(Na4P2O7)、ピロリン酸カリウム(K4P2O7)、三メタリン酸ナトリウム(Na3P3O9)、三メタリン酸カリウム(K3P3O9)、またはその組合せなどのアルカリ金属リン酸塩が挙げられるであろう。実施の形態において、リン酸塩は、10パーセント(%)以下の水を含むことがあり、少なくとも97%の化学的純度を有することがある、無水リン酸三ナトリウムなどの無水リン酸塩を含むことがある。先に記載されたように、リン酸塩は、ナトリウムおよび/またはカリウム陽イオンなどの陽イオンと、リン酸陰イオンに解離することがあり、これにより、リチウム陽イオンが選択的に沈殿して、不溶性リン酸リチウムを生成し、塩浴組成物408中に適切な硝酸リチウム濃度を維持することができる。
【0072】
実施の形態において、リン酸塩は、レーザ回折粒径分析で測定して、5μmから400μmの平均粒径を有することがある。例えば、リン酸塩は、レーザ回折粒径分析で測定して、5μmから350μm、5μmから300μm、5μmから250μm、5μmから200μm、5μmから50μm、50μmから400μm、50μmから350μm、50μmから300μm、50μmから250μm、50μmから200μm、200μmから400μm、200μmから350μm、200μmから300μm、200μmから250μm、250μmから400μm、250μmから350μm、250μmから300μm、300μmから400μm、300μmから350μm、または350μmから400μmの平均粒径を有することがある。リン酸塩がそれより小さい平均粒径(例えば、5μm未満)を有する場合、いずれかの状況に起因して、格納装置から移動させられたどのリン酸塩も、ガラス物品の表面に容易に付着し、ガラス物品を商業用途に適さなくする結果をもたらすことがある。さらに、それより大きい平均粒径(例えば、5μm以上)では、イオン交換温度での塩浴組成物408中のリン酸塩の溶解度が低下し、転じて、溶融塩浴中の過剰なリン酸陰イオンの量が低下し、これにより、先に述べたように、ガラス物品の表面にリン酸結晶が形成されることがある。
【0073】
実施の形態において、再生媒体は、塩浴組成物の総質量に基づいて1質量%以下の量に塩浴組成物中の硝酸リチウムの濃度を効果的に維持するのに十分な量のリン酸塩を含むことがある。再生媒体は、塩浴組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%の量のリン酸塩を含むことがある。例えば、再生媒体は、その塩浴組成物の総質量に基づいて、約0.1質量%から7質量%、約0.1質量%から5質量%、約0.1質量%から3質量%、約0.1質量%から1質量%、約0.1質量%から0.5質量%、約0.5質量%から約10質量%、約0.5質量%から7質量%、約0.5質量%から5質量%、約0.5質量%から3質量%、約0.5質量%から1質量%、約1質量%から約10質量%、約1質量%から7質量%、約1質量%から5質量%、約1質量%から3質量%、約3質量%から約10質量%、約3質量%から7質量%、約3質量%から5質量%、約5質量%から約10質量%、約5質量%から7質量%、または約7質量%から約10質量%のリン酸塩を含むことがある。再生媒体が0.1質量%未満の量のリン酸塩を含む場合、そのリン酸塩から解離したリン酸陰イオンの全てまたは相当な部分が、イオン交換過程が完了する前に沈殿し、溶融塩中のリチウム陽イオンの濃度が増加し。したがって、塩浴組成物408中の硝酸リチウムの量が、1質量%超の量に増加することができる。反対に、再生媒体が10質量%超の量のリン酸塩を含む場合、塩浴組成物408中の硝酸リチウムの濃度が0.01質量%未満の量まで低下し、ガラス物品から過剰なリチウム陽イオンが拡散し、ガラス物品にナトリウムの豊富な領域が増すことがある。
【0074】
実施の形態において、再生媒体は、塩浴組成物408から1種類以上の汚染物質を濾過することのできる1種類以上の材料(濾過媒体とも称される)を含むことがある。ここに用いられているように、「汚染物質」という用語は、塩浴システムの通常作動中に塩浴組成物408に導入されるデブリを称する。すなわち、汚染物質は、一般に望ましくないと考えられる、および/またはイオン交換過程に悪影響を及ぼすことのある、塩浴組成物中の任意の材料または化合物である。汚染物質としては、埃/デブリ、割れたガラス片、塩浴槽などの塩浴システムの構成要素の腐食または磨耗から作られた粒子、窒素酸化物種、過剰な水、またはその組合せが挙げられるであろう。実施の形態において、濾過媒体は、例えば、多孔質金属酸化物、ステンレス鋼粉末成形体またはスクリーン、多孔質アルミナフィルタ、多孔質シリカフィルタ、またはその組合せなどの、多孔質膜および/またはマトリクスを含むことがある。濾過媒体は、塩浴組成物408を比較的自由に流しながら、汚染物質と結合しおよび/または汚染物質を捕捉し、塩浴組成物408から汚染物質の全てまたは一部を効果的に濾過することができる。
【0075】
実施の形態において、濾過媒体は、水銀圧入法(MIP)で測定して、20μm以下の平均細孔径を有することがある。例えば、濾過媒体は、MIPで測定して、0.2μmから20μm、0.2μmから16μm、0.2μmから12μm、0.2μmから8μm、0.2μmから4μm、0.2μmから2μm、2μmから20μm、2μmから20μm、2μmから16μm、2μmから12μm、2μmから8μm、2μmから4μm、4μmから20μm、4μmから16μm、4μmから12μm、4μmから8μm、8μmから20μm、8μmから16μm、8μmから12μm、12μmから20μm、12μmから16μm、または16μmから20μmの平均細孔径を有することがある。濾過媒体がそれより小さい平均細孔径(例えば、0.2μm未満)を有すると、濾過媒体に亘る圧力降下が大きすぎるであろう。反対に、濾過媒体がそれより大きい平均細孔径(例えば、20μm超)を有すると、相当な量の汚染物質が、塩浴組成物408から濾過されずに、濾過媒体を通過するであろう。
【0076】
ここで
図4Cを参照すると、格納装置410の拡大図が示されている。
図4Cに示されるように、格納装置は、各々が1種類以上の再生媒体を含む、第2の内部容積412内に配置された1つ以上の「再生区域」を含むことがある。ここに用いられているように、「再生区域」という用語は、仕切板および/またはバリアにより内部容積の他の部分から少なくとも部分的に隔てられた内部容積の一部を称する。例えば、
図4Cに示された格納装置410は、第1の再生区域420、第2の再生区域422、および第3の再生区域424を含む。
図4Cに示された格納装置410は、それらの再生区域間に配置され、格納装置410の入口418と出口428を囲む篩426a~426dを含む。篩426a~426dは、塩浴組成物408の流れを可能にしつつ、篩を通じた再生媒体の移動を防ぐこともできる。実施の形態において、篩426a~426dは、再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含むことがある。例えば、篩426a~426dは、再生媒体の平均粒径の10%以下、5%以下、または2.5%以下の有効径を有する開口を含むことがある。いくつかの実施の形態において、篩426a~426dは、第2の内部容積412内に配置された再生媒体の平均粒径より小さい平均開口サイズを有するメッシュから作られることがある。したがって、1つ以上の篩は、70以上のメッシュ数を有することがある。実施の形態において、篩は、工業用織金網の米国標準規格(米国規格ASTM-E11)に基づく、70、80、100、120、140、170、200、230、270、325、400、450、500、または635のメッシュ数を有することがある。他の実施の形態において、篩426a~426dは、第2の内部容積412内に配置された再生媒体の平均粒径より小さい平均開口サイズを有する、焼結多孔質金属、セラミック、またはガラスなどの多孔質濾過装置から作られることがある。
【0077】
実施の形態において、各再生区域は、1つの再生媒体の大半を含むことがある。例えば、実施の形態において、第1の再生区域420は、第1の再生区域420中の再生媒体の総質量に基づいて50質量%超の量のリン酸塩を含むことがあり、第2の再生区域422は、第2の再生区域422中の再生媒体の総質量に基づいて50質量%超の量のケイ酸凝集体を含むことがある。実施の形態において、各再生区域は、1種類のみの再生媒体を含むことがある。例えば、第1の再生区域420は、第1の再生区域420中の再生媒体の総質量に基づいて99質量%超の量のリン酸塩を含むことがある。他の実施の形態において、各再生区域は、2種類以上の再生媒体のブレンドおよび/または勾配であることがある。
【0078】
再び
図4A~4Cを参照すると、再生媒体は再生区域から出られないので、格納装置410は、塩浴組成物408の再生(例えば、そこからの過剰なリチウム陽イオンの沈殿および/またはその中和)を可能にしつつ、再生の望ましくない副生成物が第1の内部容積404に入るのを防ぐこともできる。したがって、実施の形態において、第1の内部容積404内に配置され、第2の内部容積412の外部の塩浴組成物408の部分は、再生媒体を実質的に含まないであろう。ここに用いられているように、ある化合物を「実質的に含まない」という用語は、その化合物を0.1質量%未満しか含まない混合物を称することがある。例えば、再生媒体を実質的に含まないであろう、塩浴組成物は、塩浴組成物408の総質量に基づいて、0.1質量%未満、0.08質量%未満、0.06質量%未満、0.04質量%未満、0.02質量%未満、または0.01質量%未満の量しか再生媒体を含まないことがある。
【0079】
再び
図4Aを参照すると、格納装置410は、第1の内部容積404内に配置されることがある。しかしながら、他の実施の形態も考えられ、可能であることを理解すべきである。一例として
図4Bを参照すると、それに代えて、および/またはそれに加え、塩浴システム400は、第1の内部容積404の外部に配置された格納装置410を含むことがある。第1の内部容積404の外部に格納装置410を配置することにより、塩浴組成物408のイオン交換温度より低い温度で塩浴組成物408を再生することが可能になる。どの特定の理論で束縛されるものでもないが、塩浴組成物408のイオン交換温度より低い温度で塩浴組成物408を再生すると、1種類以上の再生媒体の効率が増すであろうと考えられる。例えば、ここに述べられたように、リン酸塩から解離したリン酸陰イオンは、過剰なリチウム陽イオンを選択的に沈殿させて、リチウムリン酸塩を生成することができる。しかしながら、塩浴組成物408の温度が上昇するにつれて、リチウムリン酸塩の溶解度と解離も増加し、リチウム陽イオンを沈殿させるリン酸陰イオンの能力が低下する。したがって、1種類以上の再生媒体の効率は、格納装置410が第1の内部容積404の外部に配置されている実施の形態において、最大となるであろう。しかしながら、塩浴組成物408は、再生過程中ずっと液体(すなわち、溶融塩)のままであるべきであり、そうでなければ、塩浴システム400は、塩浴組成物408が格納装置410を流れることができないために、作動不可能になるであろうことを理解すべきである。実際に、塩浴組成物408が、かなりの粘度を有するにもかかわらず、液体のままでいる場合でさえ、格納装置410を通る塩浴組成物408の流量の減少が、1種類以上の再生媒体の効率の増加に勝るであろう。
【0080】
まだ
図4A~4Cを参照すると、塩浴システム400は、格納装置410の入口418に近接した循環装置416を含むことがある。
図4A~4Cに示された格納装置410の入口418は、塩浴槽402の底に近接しているが、他の実施の形態において、格納装置410の入口418は、塩浴槽402の上部に近接していてもよいことを理解すべきである。循環装置416は、塩浴組成物408を格納装置410に循環させるように作動することができる。作動において、循環装置は、塩浴組成物408を入口418に導入し、第1の再生区域420に通し、第1の再生区域420の下流に配置された第2の再生区域422に通し、第2の再生区域422の下流に配置された第3の再生区域424に通して、出口428を通じて格納装置410から排出するように作動することができる。ここに用いられているように、「下流」という用語は、材料がシステムを流れる流動方向に対するシステムの構成要素の位置付けを称する。例えば、システムの第2の構成要素は、そのシステムを流れる材料が、第2の構成要素に遭遇する前に、第1の構成要素に遭遇する場合、システムの第1の構成要素の「下流」にあると考えることができる。格納装置410を通る塩浴組成物408の循環とは関係なく、第1の内部容積404内の塩浴組成物408の循環は、第1の内部容積404全体の所望の種の均一性および利用可能性を改善し、その結果、塩浴システム400により製造された強化ガラス物品の均一性を改善するであろうと考えられる。
【0081】
循環装置416は、塩浴組成物408を格納装置410に循環させるのに適したどの装置を含んでもよい。例えば、循環装置416は、電磁ポンプなどのポンプ、羽根車、酸素バブラーなどの気体噴射システム、またはその組合せを含むことがある。循環装置416は、塩浴組成物408の組成、格納装置410の位置(塩浴槽402の第1の内部容積404の内部および/または外部)、および/または格納装置410の入口418の位置(例えば、格納装置410の入口418が塩浴槽402の表面に近接している場合、羽根車が使用により適しているであろう)など、様々な要因に基づいて選択してよい。実施の形態において、塩浴組成物408は、ポンプや羽根車などの機械的攪拌機を必要とせずに、循環されることがある。例えば、入口418に近接した塩浴組成物408の局所区域は、選択的に加熱することができ、これにより、塩浴の選択的に加熱された部分の浮力差により、塩浴組成物408の循環が熱的に誘発される。実施の形態において、格納装置410を循環装置416に直接連結することができる。例えば、1つ以上のバスケットおよび/またはパウチがステンレス鋼メッシュからなる実施の形態などの実施の形態において、格納装置410は、塩浴槽402の第1の内部容積404の中で格納装置410を回転させ、塩浴組成物408を格納装置410に循環させる羽根車に直接連結することができる。
【0082】
実施の形態において、塩浴組成物408は、溶融塩を効果的に再生するのに十分な流速で格納装置410に循環させることができる。したがって、塩浴組成物408は、0.001体積/時から10体積/時の流速で格納装置410に循環させることができる。もっと簡単に言えば、塩浴組成物408の全体積の0.1%から20000%を、1時間毎に格納装置410に循環させることができる。実施の形態において、塩浴組成物408は、0.001体積/時から1体積/時、0.001体積/時から0.1体積/時、0.001体積/時から0.01体積/時、0.01体積/時から10体積/時、0.01体積/時から1体積/時、0.01体積/時から0.1体積/時、0.1体積/時から10体積/時、0.1体積/時から1体積/時、またさらには1体積/時から10体積/時の流速で格納装置410に循環させることができる。格納装置410を通る塩浴組成物408の流速が速すぎる(すなわち、10体積/時を上回る)と、溶融塩中でイオン交換を経るガラス物品は、撹乱されることがあり、これにより、ガラスが破損され得る。反対に、格納装置410を通る塩浴組成物408の流速が遅すぎる(すなわち、0.001体積/時を下回る)と、溶融塩は、溶融塩の有効性の低下を防ぐのに十分に速く再生されないであろう。
【0083】
実施の形態において、循環装置416は、塩浴槽402の底部に近接して配置されることがある。どの特定の理論で束縛されるものでもないが、汚染物質および/または格納装置から移動させられた再生媒体は、概して、溶融塩よりも緻密になり、その結果、時間の経過とともに、塩浴槽402の底部に沈むと考えられる。それゆえ、循環装置416は、塩浴槽402の底部に近接して配置された場合、汚染物質を含有しそうな溶融塩の部分および解き放たれた再生媒体が、格納装置410に優先的に循環させられることになる。これにより、溶融塩が再生される前に、格納装置を通じた塩浴交換の数が減るであろう。
【0084】
先に述べたように、塩浴システムの塩浴組成物408は、イオン交換温度に加熱されて、溶融塩を形成することがあり、溶融塩とガラス物品との間でイオン交換を実施するために、1つ以上のガラス物品が溶融塩浴内に浸漬されることがある。例えば、
図1Aおよび1Bは、塩浴100内に完全に浸漬されたガラス物品105を示しているが、実施の形態において、ガラス物品105の一部のみが塩浴100と接触させられてもよいことを理解すべきである。ガラス物品105は、塩浴100内の浸漬により、もしくは噴霧、浸し塗り、またはガラス物品105を塩浴100と接触させる他の類似の手段により、溶融塩と接触させることができる。ガラス物品105は、以下に限られないが、ガラス物品105を塩浴100中に浸すことを含み、複数回、塩浴100と接触させてもよい。
【0085】
ガラス物品は、ガラス物品の表面に圧縮深さまで延在する表面圧縮応力を生じるのに十分な処理時間に亘り溶融塩と接触させられることがある。実施の形態において、ガラス物品は、約20分から約20時間の処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。例えば、ガラス物品は、約20分から約15時間、約20分から約10時間、約20分から約5時間、約20分から約1時間、約1時間から約20時間、約1時間から約15時間、約1時間から約10時間、約1時間から約5時間、約5時間から約20時間、約5時間から約15時間、約5時間から約10時間、約10時間から約20時間、約10時間から約15時間、または約15時間から約20時間の処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。
【0086】
イオン交換過程が進行するときに、塩浴組成物408は、上述したように、連続して再生されることがある。例えば、イオン交換過程が進行するときに、塩浴組成物408は、循環装置416により、塩浴槽402の第1の内部容積404内、および/またはその外部に配置された格納装置410に循環させることができる。所定の内部容積内に1種類以上の再生媒体を含むことがある、格納装置410に塩浴組成物408を循環させることにより、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物を塩浴組成物408から除去することができる。もっと簡単に言えば、塩浴組成物408を格納装置410に循環させると、塩浴組成物408が1種類以上の再生媒体と接触することができ、これにより、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物の濃度が低下し、塩浴組成物408が連続的に再生されるであろう。
【0087】
実施の形態において、ガラス物品は、イオン交換過程後に溶融塩との接触から取り除かれる。イオン交換を経た、結果として得られたガラス物品は、その表面に圧縮深さまで延在する圧縮応力を有することができる。この圧縮応力および圧縮深さは、機械的傷害後の破壊に対するガラス物品の抵抗を増加させ、その結果、ガラス物品は、イオン交換過程後に強化されたガラス物品となることができる。
【実施例】
【0088】
以下の実施例は、本開示の1つ維持用の特徴を説明する。これらの実施例は、本開示の範囲または付随の特許請求の範囲を限定する意図はないことを理解すべきである。
【0089】
実施例1
実施例1において、本開示の概念を10キログラムのはかりで評価した。ステンレス鋼羽根車(モータに取り付けられている)に取り付けられた、各々が5グラムのケイ酸凝集体を収容する、SAE 304ステンレス鋼から作られた2つのメッシュバスケットを含む格納/循環複合装置を準備した。次いで、メッシュバスケットを工業用硝酸カリウム(すなわち、98.5質量%超の硝酸カリウム)からなる10キログラムの溶融塩中に降下させ、メッシュバスケットを通じて対流を生じさせるのに十分な速度で回転させた。次に、バッチ当たり45個のタイプIのガラスバイアル(米国特許第8551898号明細書に記載されているような)を含む20のバッチの各々に、1日当たり約1回のイオン交換過程のペースで、29日の期間で、溶融塩中に5.5時間に亘り470℃でイオン交換過程を行った。メッシュバスケットは、各イオン交換過程の前に溶融塩から取り出し、イオン交換過程を完了した毎に、交換した。イオン交換過程が完了した後、各ガラスバイアルのSHRを、USP<660>に詳述されたように、Surface Glass Testによって測定した。この過程を、メッシュバスケットにケイ酸が含まれていなかったものを除いて、約13日の期間で10のバッチに繰り返した。その結果が、時間の関数として、また溶融塩1キログラム当たりのガラスバイアルの数の関数として、プロットした。この結果が、
図5Aおよび5Bにグラフで示されている。
【0090】
図5Aおよび5Bに示されるように、メッシュバスケットがケイ酸を含有しなかった場合、7日が経過する前に、タイプIのガラスの所望の滴定剤体積(約1.3mL)を超えた。すなわち、メッシュバスケットがケイ酸を含まなかった場合、溶融塩1キログラム当たり25個未満のガラスバイアルしか、効果的に強化できなかった。反対に、合計で10グラムのケイ酸が含まれた場合、約20日が経過するまで、タイプIのガラスの所望の滴定剤体積を超えなかった。すなわち、メッシュバスケットが10グラムのケイ酸を含んだ場合、溶融塩1キログラム当たり70個近くのガラスバイアルを効果的に強化できた。このことは、ケイ酸を含む再生媒体は、溶融塩の1つの区域に限定されている場合でさえ、溶融塩を効果的に中和できることを示している。実際に、ケイ酸が存在すると、溶融塩の寿命が三倍近くになり、これにより、イオン交換過程の効率が大幅に増加する。
【0091】
実施例2
実施例2において、合計10グラムのケイ酸の存在下でイオン交換過程を行った、実施例1のガラスバイアルの圧縮応力および圧縮深さを測定した。詳しくは、各バッチのガラスバイアルの圧縮応力および圧縮深さを測定し、次いで、時間の関数として、また溶融塩1キログラム当たりのガラスバイアルの数の関数として、プロットした。圧縮応力は、有限会社 折原製作所(日本国)から市販されているFSM-6000などの市販の機器を使用して、表面応力計(FSM)によって測定した。圧縮深さは、596nmの波長で同じ市販の機器によって測定した。実施例2の結果が、
図6Aおよび6Bにグラフで示されている。
【0092】
図6Aおよび6Bに示されるように、ガラスバイアルの圧縮応力および圧縮深さは、塩浴の30日の使用期間に亘り比較的一定であり、その期間に、85を超えるガラスバイアルにイオン交換過程を施した。圧縮深さはわずかに減少したが、25日後に達成された圧縮応力は、初日に達成されたものとほぼ同じであった。これにより、ケイ酸を含む再生媒体は、溶融塩の1つの区域に限定されている場合でさえ、溶融塩を効果的に中和できることがさらに確認される。
【0093】
性質に割り当てられたどの2つの定量値もその性質の範囲を構成でき、所定の性質の全ての表示された定量値から形成される範囲の全ての組合せが、本開示に考えられことに留意のこと。
【0094】
以下の請求項の1つ以上に、移行句として「ここで」という用語が使用されることに留意のこと。本技術を定義する目的のために、この用語は、構造の一連の特徴の記述を導入するために使用される制約のない移行句として請求項に導入されており、より一般に使用される制限のない前提語「含む」と同様に解釈されるべきであることに留意のこと。
【0095】
本開示の主題を、具体的な態様を参照して、詳しく説明してきたが、そのような態様の様々な詳細は、これらの詳細がその態様の不可欠な要素であると示唆するように解釈されるべきではないことに留意のこと。そうではなく、付随の特許請求の範囲は、本開示の範囲および本開示に記載された様々な態様の対応する範囲の単独の表現と解釈されるべきである。さらに、付随の特許請求の範囲から逸脱せずに、改変および変更が可能であることが明白であろう。
【0096】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0097】
実施形態1
ガラス物品を強化するための塩浴システムにおいて、
少なくとも1つの側壁により囲まれた第1の内部容積を画成する塩浴槽、
前記第1の内部容積内に配置されたアルカリ金属塩を含む塩浴組成物、
前記第1の内部容積内に配置された格納装置であって、少なくとも1つの側壁により囲まれた第2の内部容積を画成し、該第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む格納装置、および
前記格納装置の入口に近接して配置された循環装置であって、該格納装置に前記塩浴組成物を循環させるように作動する循環装置、
を備えた塩浴システム。
【0098】
実施形態2
前記再生媒体が、ケイ酸凝集体、アルカリ金属リン酸塩、多孔質金属酸化物、またはその組合せを含む、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0099】
実施形態3
前記再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0100】
実施形態4
前記再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0101】
実施形態5
前記再生媒体が、粒子、リング、サドル、球体、人工モノリス、ハニカム、繊維、フェルト、不活性担体上に被覆されたかその中に含浸された活性層、またはこれらの組合せを含む、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0102】
実施形態6
前記第1の内部容積内に配置された前記塩浴組成物が、前記再生媒体を実質的に含まない、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0103】
実施形態7
前記循環装置が、羽根車、ポンプ、気体噴射システム、またはその組合せを含む、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0104】
実施形態8
前記循環装置が、0.001体積毎時から10体積毎時の流速で前記格納装置に前記塩浴組成物を循環させるように作動する、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0105】
実施形態9
前記格納装置の入口が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、
前記格納装置の出口が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、または
前記格納装置の入口と該格納装置の出口の両方が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、
実施形態1に記載の塩浴システム。
【0106】
実施形態10
前記第2の内部容積が、前記第1の再生区域および該第1の再生区域の下流に位置する第2の再生区域を含む、実施形態1に記載の塩浴システム。
【0107】
実施形態11
前記第1の再生区域が第1の再生媒体を含み、
前記第2の再生区域が、前記第1の再生媒体と異なる第2の再生媒体を含む、実施形態10に記載の塩浴システム。
【0108】
実施形態12
前記格納装置が、前記第1の再生区域と前記第2の再生区域との間に配置された篩を含み、該篩が、前記第1の再生媒体および前記第2の再生媒体の少なくとも一方の平均粒径より小さい直径を有する開口を含む、実施形態11に記載の塩浴システム。
【0109】
実施形態13
ガラス物品を強化するための塩浴システムにおいて、
前記少なくとも1つの側壁により囲まれた第1の内部容積を画成する塩浴槽、
前記第1の内部容積内に配置されたアルカリ金属塩を含む塩浴組成物、
前記第1の内部容積の外側に配置され、該第1の内部容積に流体連結された格納装置であって、少なくとも1つの側壁により囲まれた第2の内部容積を画成し、該第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む格納装置、および
前記第1の内部容積内に、前記格納装置の入口に近接して配置された循環装置であって、該格納装置に前記塩浴組成物を循環させるように作動する循環装置、
を備えた塩浴システム。
【0110】
実施形態14
前記第2の内部容積の温度が、前記第1の内部容積の温度より3℃以上低い、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0111】
実施形態15
前記再生媒体が、ケイ酸、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、多孔質金属酸化物、またはその組合せを含む、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0112】
実施形態16
前記再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0113】
実施形態17
前記再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0114】
実施形態18
前記再生媒体が、粒子、リング、サドル、球体、人工モノリス、ハニカム、繊維、フェルト、不活性担体上に被覆されたかその中に含浸された活性層、またはこれらの組合せを含む、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0115】
実施形態19
前記第1の内部容積内に配置された前記塩浴組成物が、前記再生媒体を実質的に含まない、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0116】
実施形態20
前記循環装置が、羽根車、ポンプ、気体噴射システム、またはその組合せを含む、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0117】
実施形態21
前記循環装置が、0.001体積毎時から10体積毎時の流速で前記格納装置に前記塩浴組成物を循環させるように作動する、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0118】
実施形態22
前記格納装置の入口が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、
前記格納装置の出口が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、または
前記格納装置の入口と該格納装置の出口の両方が、前記再生媒体の平均粒径の15%以下の有効径を有する開口を含む篩により囲まれている、
実施形態13に記載の塩浴システム。
【0119】
実施形態23
前記第2の内部容積が、前記第1の再生区域および該第1の再生区域の下流に位置する第2の再生区域を含む、実施形態13に記載の塩浴システム。
【0120】
実施形態24
前記第1の再生区域が第1の再生媒体を含み、
前記第2の再生区域が、前記第1の再生媒体と異なる第2の再生媒体を含む、実施形態23に記載の塩浴システム。
【0121】
実施形態25
前記格納装置が、前記第1の再生区域と前記第2の再生区域との間に配置された篩を含み、該篩が、前記第1の再生媒体および前記第2の再生媒体の少なくとも一方の平均粒径より小さい直径を有する開口を含む、実施形態24に記載の塩浴システム。
【0122】
実施形態26
溶融塩を再生する方法において、
塩浴槽の第1の内部容積内に配置された格納装置に前記溶融塩を循環させる工程であって、該溶融塩は、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物を含み、前記格納装置は、該格納装置により画成された第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む、工程、および
前記溶融塩を前記格納装置内の前記再生媒体と接触させる工程であって、その接触により、該溶融塩中の前記1種類以上の不純物の濃度が低下する、工程、
を含む方法。
【0123】
実施形態27
前記1種類以上の不純物が、硝酸リチウム、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、実施形態26に記載の方法。
【0124】
実施形態28
前記再生媒体が、ケイ酸、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、多孔質金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、実施形態26に記載の方法。
【0125】
実施形態29
前記再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、実施形態26に記載の方法。
【0126】
実施形態30
前記再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、実施形態26に記載の方法。
【0127】
実施形態31
前記再生媒体が、粒子、リング、サドル、球体、人工モノリス、ハニカム、繊維、フェルト、不活性担体上に被覆されたかその中に含浸された活性層、またはこれらの組合せを含む、実施形態26に記載の方法。
【0128】
実施形態32
前記第1の内部容積内に配置された前記塩浴組成物が、前記再生媒体を実質的に含まない、実施形態26に記載の方法。
【0129】
実施形態33
前記溶融塩が、0.001体積毎時から10体積毎時の流速で前記格納装置に循環される、実施形態26に記載の方法。
【0130】
実施形態34
アルカリ金属塩を含む塩浴組成物をイオン交換温度に加熱して、前記溶融塩を形成する工程、および
前記溶融塩とガラス物品との間にイオン交換が行われるように、該ガラス物品を該溶融塩中に浸す工程であって、該溶融塩と該ガラス物品との間のイオン交換により、前記溶融塩中に前記1種類以上の不純物が形成される、工程、
をさらに含む、実施形態26に記載の方法。
【0131】
実施形態35
溶融塩を再生する方法において、
塩浴槽により画成された第1の内部容積の外部に配置された格納装置に前記溶融塩を循環させる工程であって、該溶融塩は、イオン交換過程中に形成された1種類以上の不純物を含み、前記格納装置は、該格納装置により画成された第2の内部容積内に配置された再生媒体を含む、工程、および
前記溶融塩を前記格納装置内の前記再生媒体と接触させる工程であって、その接触により、該溶融塩中の前記1種類以上の不純物の濃度が低下する、工程、
を含む方法。
【0132】
実施形態36
前記第2の内部容積の温度が、第1の内部容積の温度より3℃以上低い、実施形態35に記載の方法。
【0133】
実施形態37
前記1種類以上の不純物が、硝酸リチウム、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、実施形態35に記載の方法。
【0134】
実施形態38
前記再生媒体が、ケイ酸、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、多孔質金属酸化物、またはこれらの組合せを含む、実施形態35に記載の方法。
【0135】
実施形態39
前記再生媒体の平均粒径が5μmから5,000μmである、実施形態35に記載の方法。
【0136】
実施形態40
前記再生媒体の90%以上が5μm超の粒径を有する、実施形態35に記載の方法。
【0137】
実施形態41
前記再生媒体が、粒子、リング、サドル、球体、人工モノリス、ハニカム、繊維、フェルト、不活性担体上に被覆されたかその中に含浸された活性層、またはこれらの組合せを含む、実施形態35に記載の方法。
【0138】
実施形態42
前記第1の内部容積内に配置された前記塩浴組成物が、前記再生媒体を実質的に含まない、実施形態35に記載の方法。
【0139】
実施形態43
前記溶融塩が、0.001体積毎時から10体積毎時の流速で前記格納装置に循環される、実施形態35に記載の方法。
【0140】
実施形態44
アルカリ金属塩を含む塩浴組成物をイオン交換温度に加熱して、前記溶融塩を形成する工程、および
前記溶融塩とガラス物品との間にイオン交換が行われるように、該ガラス物品を該溶融塩中に浸す工程であって、該溶融塩と該ガラス物品との間のイオン交換により、前記溶融塩中に前記1種類以上の不純物が形成される、工程、
をさらに含む、実施形態35に記載の方法。
【符号の説明】
【0141】
100、200、300 塩浴
101、202、311 溶融塩
105、305 ガラス物品
120、220、320 相対的に大きい陽イオン
130 相対的に小さい陽イオン
230、330 リチウム陽イオン
240、340 リン酸塩
250、350 不溶性リチウムリン酸塩
311 溶融塩
400 塩浴システム
402 塩浴槽
404 第1の内部容積
406、414 側壁
408 塩浴組成物
410 格納装置
412 第2の内部容積
416 循環装置
418 入口
420、422、424 再生区域
426a~426d 篩
428 出口
【国際調査報告】