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特表2023-542007推定された二次経路を適応させるためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(54)【発明の名称】推定された二次経路を適応させるためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20230927BHJP
   H04R 3/02 20060101ALI20230927BHJP
   H04R 3/04 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
G10K11/178 100
H04R3/02
H04R3/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517983
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 US2021071489
(87)【国際公開番号】W WO2022061359
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】17/025,382
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンキタ・ディー・ジャイン
【テーマコード(参考)】
5D061
5D220
【Fターム(参考)】
5D061FF02
5D220AB01
5D220CC03
(57)【要約】
二次経路適応を有するノイズ消去システムは、事前定義された容積部内のノイズ源を表す基準信号を受信するように構成され、基準信号に少なくとも部分的に基づいて、スピーカによって変換されるとき、事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成するノイズ消去信号を発生させるノイズ消去フィルタと、入力信号を受信し、二次経路伝達関数の推定値を実装するように構成された二次経路推定フィルタであって、二次経路伝達関数が、スピーカと消去ゾーンとの間の伝達関数であり、二次経路推定フィルタが、二次経路伝達関数の推定値及び入力信号に少なくとも部分的に基づいて出力信号を出力する、二次経路推定フィルタと、推定された出力信号に少なくとも部分的に基づいて、第1の適応アルゴリズムに従ってノイズ消去フィルタの係数を調整するように構成された適応モジュールと、第2の適応アルゴリズムに従って二次経路推定フィルタの係数を調整するように構成された二次経路適応モジュールであって、第2の適応アルゴリズムの適応レートが、基準信号と消去ゾーン内の残留ノイズを表すエラー信号との間のコヒーレンスに少なくとも部分的に基づく、二次経路適応モジュールと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次経路適応を有するノイズ消去システムであって、
事前定義された容積部内のノイズ源を表す基準信号を受信するように構成され、前記基準信号に少なくとも部分的に基づいて、スピーカによって変換されるとき、前記事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成するノイズ消去信号を発生させるノイズ消去フィルタと、
入力信号を受信し、二次経路伝達関数の推定値を実装するように構成された二次経路推定フィルタであって、前記二次経路伝達関数が、前記スピーカと消去ゾーンとの間の伝達関数であり、前記二次経路推定フィルタが、前記二次経路伝達関数の前記推定値及び前記入力信号に少なくとも部分的に基づいて出力信号を出力する、二次経路推定フィルタと、
前記推定された出力信号に少なくとも部分的に基づいて、第1の適応アルゴリズムに従って前記ノイズ消去フィルタの係数を調整するように構成された適応モジュールと、
第2の適応アルゴリズムに従って前記二次経路推定フィルタの係数を調整するように構成された二次経路適応モジュールであって、前記第2の適応アルゴリズムの適応レートが、前記基準信号と前記消去ゾーン内の残留ノイズを表すエラー信号との間のコヒーレンスに少なくとも部分的に基づく、二次経路適応モジュールと、を備える、ノイズ消去システム。
【請求項2】
前記入力信号が、前記エラー信号であり、前記出力信号が、前記スピーカと前記消去ゾーンとの間の遅延を除去するように前記エラー信号に対して位相シフトされている推定されたエラーであり、前記遅延が、前記二次経路伝達関数の前記推定値に従って決定される、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項3】
前記入力信号が、前記基準信号であり、前記出力信号が、前記スピーカと前記消去ゾーンとの間に遅延を導入するように前記エラー信号に対して位相シフトされている推定された基準信号であり、前記遅延が、前記二次経路伝達関数の前記推定値に従って推定される、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項4】
前記適応レートが、前記基準信号と前記エラー信号との間の前記コヒーレンスに単調に関連する、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項5】
前記基準信号と前記エラー信号との間の前記コヒーレンスが、前記ノイズ消去信号と前記エラー信号との間のコヒーレンスによって、又は前記エラー信号と前記消去ゾーンにおける前記ノイズ消去信号の推定値との間のコヒーレンスによって決定され、前記消去ゾーンにおける前記ノイズ消去信号の前記推定値が、前記二次経路伝達関数の前記推定値に従って決定される、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項6】
前記エラー信号が、前記消去ゾーンの外側の位置に配置され、前記消去ゾーン内の前記残留ノイズを推定するように構成されたエラーセンサからの入力を受信する投影フィルタの出力を含む、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項7】
前記第1の適応アルゴリズム及び前記第2の適応アルゴリズムが各々、最小平均二乗アルゴリズムである、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項8】
前記エラー信号が、エラーセンサからの入力を受信し、前記事前定義された容積部内の前記スピーカ又は少なくとも第2のスピーカの出力に起因する前記入力の成分を消去するエコーキャンセラの出力を含む、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項9】
プログラムコンテンツ信号を受信するエコーキャンセラを更に備え、前記プログラムコンテンツ信号が、前記スピーカによってプログラムコンテンツ音響信号に変換され、前記エコーキャンセラが、前記二次経路伝達関数の前記推定値を実装するエコーキャンセラフィルタを備え、そのため、前記エコーキャンセラフィルタが、前記消去ゾーンにおける前記プログラムコンテンツ信号音響信号を推定する推定されたプログラムコンテンツ信号を出力し、前記推定されたプログラムコンテンツ信号が、エラーセンサから受信した入力から減算されて、前記プログラムコンテンツ音響信号に起因する前記入力の成分を消去する、請求項1に記載のノイズ消去システム。
【請求項10】
プログラムコードを含む非一時的記憶媒体であって、前記プログラムコードが、プロセッサによって実行されるときに、
事前定義された容積部内のノイズ源を表す基準信号を受信し、前記基準信号に少なくとも部分的に基づいて、スピーカによって変換されるとき、前記事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成するノイズ消去信号を、ノイズ消去フィルタを用いて発生させるステップと、
二次経路推定フィルタを用いて、二次経路伝達関数の推定値であって、前記二次経路伝達関数が、前記スピーカと消去ゾーンとの間の伝達関数である、推定値と、入力信号と、に従って、推定された出力を出力するステップと、
前記推定された出力信号に少なくとも部分的に基づいて、第1の適応アルゴリズムに従って前記ノイズ消去フィルタの係数を調整するステップと、
第2の適応アルゴリズムであって、前記第2の適応アルゴリズムの適応レートが、前記基準信号と前記消去ゾーン内の残留ノイズを表すエラー信号との間のコヒーレンスに少なくとも部分的に基づく、第2の適応アルゴリズムに従って前記二次経路推定フィルタの係数を調整するステップと、を実装する、非一時的記憶媒体。
【請求項11】
前記入力信号が、前記エラー信号であり、前記出力信号が、前記スピーカと前記消去ゾーンとの間の遅延を除去するように前記エラー信号に対して位相シフトされている推定されたエラーであり、前記遅延が、前記二次経路伝達関数の前記推定値に従って決定される、請求項10に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項12】
前記入力信号が、前記基準信号であり、前記出力信号が、前記スピーカと前記消去ゾーンとの間に遅延を導入するように前記エラー信号に対して位相シフトされている推定された基準信号であり、前記遅延が、前記二次経路伝達関数の前記推定値に従って推定される、請求項10に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項13】
前記適応レートが、前記基準信号と前記エラー信号との間の前記コヒーレンスに単調に関連する、請求項10に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項14】
前記基準信号と前記エラー信号との間の前記コヒーレンスが、前記ノイズ消去信号と前記エラー信号との間のコヒーレンスによって、又は前記エラー信号と前記消去ゾーンにおける前記ノイズ消去信号の推定値との間のコヒーレンスによって決定され、前記消去ゾーンにおける前記ノイズ消去信号の前記推定値が、前記二次経路伝達関数の前記推定値に従って決定される、請求項10に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項15】
前記エラー信号が、前記消去ゾーンの外側の位置に配置され、前記消去ゾーン内の前記残留ノイズを推定するように構成されたエラーセンサからの入力を受信する投影フィルタの出力を含む、請求項10に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項16】
前記第1の適応アルゴリズム及び前記第2の適応アルゴリズムが、最小平均二乗アルゴリズムである、請求項10に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項17】
二次経路適応を有するノイズ消去システムであって、
事前定義された容積部内のノイズ源を表す基準信号を受信するように構成され、前記基準信号に少なくとも部分的に基づいて、スピーカによって変換されるとき、前記事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成するノイズ消去信号を発生させるノイズ消去フィルタと、
二次経路伝達関数の推定値を計算するように構成された二次経路推定フィルタであって、前記二次経路伝達関数が、前記スピーカと消去ゾーンとの間の伝達関数である、二次経路推定フィルタと、
第2の適応アルゴリズムに従って前記二次経路推定フィルタの係数を調整するように構成された二次経路適応モジュールであって、前記第2の適応アルゴリズムの適応レートが、前記基準信号と前記消去ゾーン内の残留ノイズを表すエラー信号との間のコヒーレンスに少なくとも部分的に基づく、二次経路適応モジュールと、
プログラムコンテンツ信号を受信するエコーキャンセラであって、前記プログラムコンテンツ信号が、前記スピーカによってプログラムコンテンツ音響信号に変換され、前記エコーキャンセラが、前記二次経路伝達関数の前記推定値を実装するエコーキャンセラフィルタを備え、そのため、前記エコーキャンセラフィルタが、前記消去ゾーンにおける前記プログラムコンテンツ信号音響信号を推定する推定されたプログラムコンテンツ信号を出力し、前記推定されたプログラムコンテンツ信号が、前記エラー信号から減算されて、前記プログラムコンテンツ音響信号に起因する前記入力の成分を消去する、エコーキャンセラと、を備える、ノイズ消去システム。
【請求項18】
前記適応レートが、前記基準信号と前記エラー信号との間の前記コヒーレンスに単調に関連する、請求項17に記載のノイズ消去システム。
【請求項19】
前記基準信号と前記エラー信号との間の前記コヒーレンスが、前記ノイズ消去信号と前記エラー信号との間のコヒーレンスによって、又は前記エラー信号と前記消去ゾーンにおける前記ノイズ消去信号の推定値との間のコヒーレンスによって決定され、前記消去ゾーンにおける前記ノイズ消去信号の前記推定値が、前記二次経路伝達関数の前記推定値に従って決定される、請求項17に記載のノイズ消去システム。
【請求項20】
前記エラー信号が、前記消去ゾーンの外側の位置に配置され、前記消去ゾーン内の前記残留ノイズを推定するように構成されたエラーセンサからの入力を受信する投影フィルタの出力を含む、請求項17に記載のノイズ消去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年9月18日に出願され、「Systems and Methods for Adapting Estimated Secondary Path」と題された米国特許出願公開第17/025,382号の優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本開示は、概して、適応システムにおいて二次経路伝達関数の推定値を適応させるためのシステム及び方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
下記で言及される全ての実施例及び特徴は、任意の技術的に可能な方式で組み合わせることができる。
【0004】
一態様によれば、二次経路適応を有するノイズ消去システムは、事前定義された容積部内のノイズ源を表す基準信号を受信するように構成され、基準信号に少なくとも部分的に基づいて、スピーカによって変換されるとき、事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成するノイズ消去信号を発生させるノイズ消去フィルタと、入力信号を受信し、二次経路伝達関数の推定値を実装するように構成された二次経路推定フィルタであって、二次経路伝達関数が、スピーカと消去ゾーンとの間の伝達関数であり、二次経路推定フィルタが、二次経路伝達関数の推定値及び入力信号に少なくとも部分的に基づいて出力信号を出力する、二次経路推定フィルタと、推定された出力信号に少なくとも部分的に基づいて、第1の適応アルゴリズムに従ってノイズ消去フィルタの係数を調整するように構成された適応モジュールと、第2の適応アルゴリズムに従って二次経路推定フィルタの係数を調整するように構成された二次経路適応モジュールであって、第2の適応アルゴリズムの適応レートが、基準信号と消去ゾーン内の残留ノイズを表すエラー信号との間のコヒーレンスに少なくとも部分的に基づく、二次経路適応モジュールと、を含む。
【0005】
一実施例では、入力信号は、エラー信号であり、出力信号は、スピーカと消去ゾーンとの間の遅延を除去するようにエラー信号に対して位相シフトされている推定されたエラーであり、遅延が、二次経路伝達関数の推定値に従って決定される。
【0006】
一実施例では、入力信号は、基準信号であり、出力信号は、スピーカと消去ゾーンとの間に遅延を導入するようにエラー信号に対して位相シフトされている推定された基準信号であり、遅延が、二次経路伝達関数の推定値に従って推定される。
【0007】
一実施例では、適応レートは、基準信号とエラー信号との間のコヒーレンスに単調に関連する。
【0008】
一実施例では、基準信号とエラー信号との間のコヒーレンスは、ノイズ消去信号とエラー信号との間のコヒーレンスによって、又はエラー信号と消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値との間のコヒーレンスによって決定され、消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値は、二次経路伝達関数の推定値に従って決定される。
【0009】
一実施例では、エラー信号は、消去ゾーンの外側の位置に配置され、消去ゾーン内の残留ノイズを推定するように構成されたエラーセンサからの入力を受信する投影フィルタの出力を含む。
【0010】
一実施例では、第1の適応アルゴリズム及び第2の適応アルゴリズムは各々、最小平均二乗アルゴリズムである。
【0011】
一実施例では、エラー信号は、エラーセンサから入力を受信し、事前定義された容積部内のスピーカ又は少なくとも第2のスピーカの出力に起因する入力の成分を消去するエコーキャンセラの出力を含む。
【0012】
一実施例では、ノイズ消去システムは、プログラムコンテンツ信号を受信するエコーキャンセラを更に含み、プログラムコンテンツ信号は、スピーカによってプログラムコンテンツ音響信号に変換され、エコーキャンセラは、二次経路伝達関数の推定値を実装するエコーキャンセラフィルタを備え、そのため、エコーキャンセラフィルタは、消去ゾーンにおけるプログラムコンテンツ信号音響信号を推定する推定されたプログラムコンテンツ信号を出力し、推定されたプログラムコンテンツ信号は、エラーセンサから受信した入力から減算されて、プログラムコンテンツ音響信号に起因する入力の成分を消去する。
【0013】
別の態様によれば、非一時的記憶媒体は、プログラムコードを含み、プログラムコードは、プロセッサによって実行されるときに、事前定義された容積部内のノイズ源を表す基準信号を受信し、基準信号に少なくとも部分的に基づいて、スピーカによって変換されるとき、事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成するノイズ消去信号を、ノイズ消去フィルタを用いて発生させるステップと、二次経路推定フィルタを用いて、二次経路伝達関数の推定値であって、二次経路伝達関数が、スピーカと消去ゾーンとの間の伝達関数である、推定値と、入力信号と、に従って、推定された出力を出力するステップと、推定された出力信号に少なくとも部分的に基づいて、第1の適応アルゴリズムに従ってノイズ消去フィルタの係数を調整するステップと、第2の適応アルゴリズムであって、第2の適応アルゴリズムの適応レートが、基準信号と消去ゾーン内の残留ノイズを表すエラー信号との間のコヒーレンスに少なくとも部分的に基づく、第2の適応アルゴリズムに従って二次経路推定フィルタの係数を調整するステップと、を実装する。
【0014】
一実施例では、入力信号は、エラー信号であり、出力信号は、スピーカと消去ゾーンとの間の遅延を除去するようにエラー信号に対して位相シフトされている推定されたエラーであり、遅延が、二次経路伝達関数の推定値に従って決定される。
【0015】
一実施例では、入力信号は、基準信号であり、出力信号は、スピーカと消去ゾーンとの間に遅延を導入するようにエラー信号に対して位相シフトされている推定された基準信号であり、遅延が、二次経路伝達関数の推定値に従って推定される。
【0016】
一実施例では、適応レートは、基準信号とエラー信号との間のコヒーレンスに単調に関連する。
【0017】
一実施例では、基準信号とエラー信号との間のコヒーレンスは、ノイズ消去信号とエラー信号との間のコヒーレンスによって、又はエラー信号と消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値との間のコヒーレンスによって決定され、消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値は、二次経路伝達関数の推定値に従って決定される。
【0018】
一実施例では、エラー信号は、消去ゾーンの外側の位置に配置され、消去ゾーン内の残留ノイズを推定するように構成されたエラーセンサからの入力を受信する投影フィルタの出力を含む。
【0019】
一実施例では、第1の適応アルゴリズム及び第2の適応アルゴリズムは、最小平均二乗アルゴリズムである。
【0020】
別の態様によれば、二次経路適応を有するノイズ消去システムは、事前定義された容積部内のノイズ源を表す基準信号を受信するように構成され、基準信号に少なくとも部分的に基づいて、スピーカによって変換されるとき、事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成するノイズ消去信号を発生させるノイズ消去フィルタと、二次経路伝達関数の推定値を計算するように構成された二次経路推定フィルタであって、二次経路伝達関数が、スピーカと消去ゾーンとの間の伝達関数である、二次経路推定フィルタと、第2の適応アルゴリズムに従って二次経路推定フィルタの係数を調整するように構成された二次経路適応モジュールであって、第2の適応アルゴリズムの適応レートが、基準信号と消去ゾーン内の残留ノイズを表すエラー信号との間のコヒーレンスに少なくとも部分的に基づく、二次経路適応モジュールと、プログラムコンテンツ信号を受信するエコーキャンセラであって、プログラムコンテンツ信号が、スピーカによってプログラムコンテンツ音響信号に変換され、エコーキャンセラが、二次経路伝達関数の推定値を実装するエコーキャンセラフィルタを備え、そのため、エコーキャンセラフィルタが、消去ゾーンにおけるプログラムコンテンツ信号音響信号を推定する推定されたプログラムコンテンツ信号を出力し、推定されたプログラムコンテンツ信号が、エラー信号から減算されて、プログラムコンテンツ音響信号に起因する入力の成分を消去する、エコーキャンセラと、を含む。
【0021】
一実施例では、適応レートは、基準信号とエラー信号との間のコヒーレンスに単調に関連する。
【0022】
一実施例では、基準信号とエラー信号との間のコヒーレンスは、ノイズ消去信号とエラー信号との間のコヒーレンスによって、又はエラー信号と消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値との間のコヒーレンスによって決定され、消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値は、二次経路伝達関数の推定値に従って決定される。
【0023】
一実施例では、エラー信号は、消去ゾーンの外側の位置に配置され、消去ゾーン内の残留ノイズを推定するように構成されたエラーセンサからの入力を受信する投影フィルタの出力を含む。
【0024】
1つ以上の実装形態の詳細が、添付図面及び以下の説明において記載される。他の特徴、目的、及び利点は、本明細書及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0025】
図面では、同じ参照符号は、一般に、異なる図を通して同じ部分を指す。また、図面は、必ずしも縮尺通りではなく、むしろ、一般に、様々な態様の原理を例解することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態による、車両に実装されたノイズ消去システムの概略図を示す。
図2A】一実施例による、ノイズ消去システムのブロック図を示す。
図2B】一実施例による、適応二次経路推定モジュールのブロック図を示す。
図3A】一実施例による、ノイズ消去システムのブロック図を示す。
図3B】一実施例による、適応二次経路推定モジュールのブロック図を示す。
図4】一実施例による、エコーキャンセラを有するノイズ消去システムのブロック図を示す。
図5】一実施例による、二次経路推定適応を用いたノイズ消去の方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
事前定義された容積部内(車両車室内など)のノイズを消去する適応ノイズ消去システムは、典型的には、二次経路伝達関数(すなわち、スピーカから消去ゾーンまでの経路)の推定値を用いる。しかしながら、物理的二次経路伝達関数は、車両の音響特徴の変化(例えば、経年変化するスピーカ)並びに事前定義された容積部内での変化(座席位置の変化、車両車室へのスーツケースの導入など)の結果として、経時的に変化し得る。適応ノイズ消去システムが二次伝達関数の変化に適応しない場合、適応ノイズ消去システムの性能は低下する。したがって、推定された二次経路伝達関数を経時的に適応させる必要がある。
【0028】
図1は、例示的ノイズ消去システム100の概略図である。ノイズ消去システム100は、車両車室内などの事前定義された容積部104内の少なくとも1つの消去ゾーン102における所望されない音と弱め合い干渉するように、構成され得る。高いレベルで、ノイズ消去システム100の一実施例は、基準センサ106と、エラーセンサ108と、スピーカ110と、コントローラ112と、を含み得る。
【0029】
一実施例では、基準センサ106は、事前定義された容積部104内の所望されない音又は所望されない音源を表す基準信号114を発生させるように構成されている。例えば、図1に示すように、基準センサ106は、車両構造116を通して伝達される振動を検出するように搭載及び構成された、1つ又は複数の加速度計であり得る。車両構造116を通して伝達される振動は、構造によって車両車室内の所望されない音(走行ノイズとして知覚される)に変換され、したがって、構造に搭載された加速度計は、所望されない音を表す信号を提供する。
【0030】
スピーカ110は、例えば、事前定義された容積部の周辺部周囲の別個の場所に分配されたスピーカであり得る。一実施例では、4つ以上のスピーカを車両車室内に配置することができ、4つのスピーカの各々が、車両のそれぞれのドア内に設置され、音を車両車室内に伝えるように構成されている。代替的な実施例では、スピーカは、ヘッドレスト内に、又は車両車室内の他の場所に位置することができる。
【0031】
ノイズ消去信号118は、コントローラ112によって発生し、事前定義された容積部内の1つ以上のスピーカ110(アクチュエータとも呼ばれ、スピーカは、電気信号を受信し、それを音響信号に変換するように構成された任意のデバイスである)に提供され得、それは、ノイズ消去信号118を音響エネルギー(すなわち、音波)に変換する。ノイズ消去信号118の結果として生成される音響エネルギーは、消去ゾーン102内の所望されない音と約180°位相が異なり、したがって、所望されない音と弱め合い干渉する。ノイズ消去信号118から発生した音波と事前定義された容積部内の所望されない音との組み合わせは、消去ゾーン内の聴取者によって知覚されるような所望されないノイズの消去をもたらす。
【0032】
ノイズ消去は、事前定義された容積部の全体にわたって等しくなり得ないので、ノイズ消去システム100は、事前定義された容積部を有する1つ以上の事前定義された消去ゾーン102内で最大のノイズ消去を生じさせるように構成されている。消去ゾーン内のノイズ消去は、約3dB以上の所望されない音の低減を達成することができる(ただし、様々な実施例では、異なる量のノイズ消去が生じ得る)。更に、ノイズ消去は、約350Hz未満の周波数などの周波数範囲の音を消去し得る(ただし、他の範囲が可能である)。
【0033】
事前定義された容積部内に配置されたエラーセンサ108は、ノイズ消去信号118から発生した音波と消去ゾーン内の所望されない音との組み合わせから生じる残留ノイズの検出に基づいて、エラー信号120を生成する。エラー信号120は、フィードバックとしてコントローラ112に提供され、エラー信号120は、ノイズ消去信号によって消去されなかった残留ノイズを表す。エラーセンサ108は、例えば、車両車室内(例えば、天井、ヘッドレスト、ピラー又は車室内の他の場所)に搭載された少なくとも1つのマイクロフォンであり得る。
【0034】
消去ゾーンは、エラーセンサ108から遠隔に位置付けられ得ることに留意されたい。この場合、エラー信号120は、消去ゾーン内の残留ノイズの推定値を表すようにフィルタリングされ得る。いずれの場合も、エラー信号は、消去ゾーン内の所望されない残留ノイズを表すと理解される。
【0035】
一実施例では、コントローラ112は、非一時的記憶媒体122と、プロセッサ124と、を備えることができる。一実施例では、非一時的記憶媒体122は、プログラムコードを記憶し得るが、当該プログラムコードは、プロセッサ124によって実行された場合に、下で説明する種々のフィルタ及びアルゴリズムを実施する。コントローラ112は、ハードウェア及び/又はソフトウェアに実装され得る。例えば、コントローラは、SHARC浮動小数点DSPプロセッサによって実装され得るが、コントローラは、任意の他のプロセッサ、FPGA、ASIC、又は他の好適なハードウェアによって実装され得ることを理解されたい。
【0036】
図2Aを参照すると、コントローラ112によって実装された複数のフィルタを含む、ノイズ消去システム100の一実施例であるブロック図が示されている。図示のように、コントローラは、Wadaptフィルタ126及び適応処理モジュール128を含む制御システムを定義し得る。
【0037】
adaptフィルタ126は、基準センサ106の基準信号114を受信し、かつノイズ消去信号118を発生させるように構成されている。ノイズ消去信号118は、上記のように、スピーカ110に入力され、事前定義された消去ゾーン102内の所望されない音と弱め合い干渉するノイズ消去音声信号に変換される。Wadaptフィルタ126は、多入力多出力(multi-input multi-output、MIMO)有限インパルス応答(finite impulse response、FIR)フィルタなどの、任意の好適な線形フィルタとして実装され得る。Wadaptフィルタ126は、ノイズ消去信号118を定義し、かつ走行入力(又は非車両のノイズ消去の状況では、他の入力)に対する車両応答性の挙動の変化に適応するように調節され得る、一組の係数を用いる。
【0038】
係数に対する調整は、適応処理モジュール128によって実行することができ、適応処理モジュール128は、入力としてエラー信号120(以下で説明するように、適応二次経路推定モジュール132によって作用される)及び基準信号114を受信し、それらの入力を使用して、フィルタ更新信号130を発生させる。フィルタ更新信号130は、Wadaptフィルタ126に実装されたフィルタ係数に対する更新である。更新されたWadaptフィルタ126によって生成されるノイズ除去信号118は、エラー信号120を最小化し、その結果、除去ゾーン内の望ましくないノイズを最小化する。
【0039】
時間工程nでのWadaptフィルタ126の係数は、以下の式に従って更新され得る。
【0040】
【数1】
ここで、
【数2】
は、スピーカ110とノイズ消去ゾーン102(代替的に二次経路と呼ばれる)との間の物理伝達関数Tdcの推定値であり、
【数3】
は、
【数4】
の共役転置であり、eは、エラー信号120であり、xは、基準信号114である。更新式では、基準信号xは、xのノルムで除算され、
【数5】
として表され、μは、ステップサイズである(それは、適応レートを決定する)。この式では、エラー信号eの
【数6】
の共役転置との畳み込みは、結果的に、実際には、二次経路によって引き起こされる時間領域における遅延(すなわち、位相シフト)をバックアウトすることをもたらし、したがって、基準信号x(二次経路を同様に通過していない)とエラー信号eとを時間的に整列させる。二次経路伝達関数
【数7】
の推定値の初期値(及び、その結果として、共役転置
【数8】
の値)は、例えば、チューニングフェーズ中に車両車室内に配置されたテストマイクロフォンから受信された信号に従って、アプリオリに決定することができ、しかしながら、この値は、以下に説明するようにランタイム中に適応される。
【0041】
本出願では、フィルタの総数は、基準センサ(M)の数にスピーカ(N)の数を乗算したものにほぼ等しい。各基準センサ信号は、N回フィルタリングされ、次に、各スピーカ信号が、合計M個の信号として取得される(各センサ信号は、対応するフィルタによってフィルタリングされる)。
【0042】
上述したように、時間の経過とともに、二次経路伝達関数Tdcは、車室の音響特徴及び構成物の変化の結果として変化し得る。したがって、二次経路伝達関数
【数9】
の推定値を適応させる必要があり、このため、共役転置
【数10】
の推定値は、物理的二次経路伝達関数の変化を考慮する。これは、図2Aにおいて、推定された二次経路伝達関数
【数11】
を適応的に計算する適応二次経路推定モジュール132によって達成される。この実施例では、適応二次経路推定モジュール132は、エラー信号120を受信し、推定された二次経路伝達関数
【数12】
の位相シフトが除去された推定されたエラー信号
【数13】
を出力する。式(1)に関して述べると、適応二次経路推定モジュール132は、エラー信号eを受信し、
【数14】
を出力し、それは、時間領域において、エラー信号eから
【数15】
の位相シフトを除去する。
【0043】
図3Aは、ノイズ消去システム100の代替の実施例を示す。この実施例では、ノイズ消去システム100は、二次経路伝達関数Tdcによって引き起こされる位相シフトの推定値をエラー信号eから除去する代わりに、以下のように、二次経路伝達関数Tdcの位相シフトの推定値が基準信号xに加算されるフィルタリングされたxアルゴリズムを用いる。
【0044】
【数16】
したがって、この実施例では、適応二次経路推定モジュール132は、二次経路伝達関数
【数17】
を計算し、この関数の遅延(位相シフト)を基準信号xに加算して、基準信号xをエラー信号eと時間合わせするために、推定された基準信号
【数18】
を出力する(実際には
【数19】
に等しい)。
【0045】
図2Bは、例示的な二次経路伝達モジュール132を示す。この実施例では、適応二次経路推定モジュール132は、二次経路推定フィルタ134と二次経路適応処理モジュール136とを備える。二次経路推定フィルタ134は、推定された二次経路
【数20】
伝達関数を実装し、したがって、入力信号に作用して、二次経路Tdcを通って進んだ入力信号の推定値を表す出力を生成する。
【0046】
二次経路適応処理モジュール136は、二次経路推定フィルタ134の係数を調整して、以下の更新式に従ってエラー信号120を最小化する。
【0047】
【数21】
これは次のように書き直すことができ、
【数22】
ここでdは、Wadaptフィルタ126によって出力されるノイズ消去信号118である。
【0048】
更新式(1)及び(4)は、エラー信号eを最小化するために一緒に動作する。しかしながら、n変数問題では、正しいステップ方向のセットは、移動すべき象限の正しいセットを指すだけであり、正確な方向ではなく、これは、代わりにステップサイズによって決定される。式(4)のステップサイズμTdcは、図2Aの実施例では、以下のように、消去ゾーン(yとして示される)におけるノイズ消去信号d(代わりにノイズ消去信号118とも呼ばれる)とエラー信号eとの間のコヒーレンスに従って、適応レート計算器138によって決定される。
【0049】
【数23】
この計算を実行するために、適応レート計算器138は、入力としてエラー信号e及び二次経路推定フィルタ134の出力からの消去ゾーンyにおけるノイズ消去信号を受信する。二次経路推定フィルタ134自体が、ノイズ消去信号dを受信し、したがって、消去ゾーンyにおいてノイズ消去信号を出力する。
【0050】
一般的に言えば、適応処理モジュール128及び二次経路適応処理モジュール136の適応アルゴリズムが収束した場合、エラー信号eと消去ゾーンyにおけるノイズ消去信号との間のコヒーレンスは、ゼロ又はそれに近いはずであり、これに対して、適応アルゴリズムが収束していない場合、エラー信号eと消去ゾーンyにおけるノイズ消去信号との間のコヒーレンスは、1に向かってある値まで成長する(これは、エラーeと消去ゾーンyにおけるノイズ消去信号との間の総コヒーレンスを表す)。一実施例では、周波数領域において、ステップサイズμTdcは、以下のように、コヒーレンスCyeに比例する。
【0051】
【数24】
ここで、μは、コヒーレンスCyeをステップサイズμTdcに関連付ける比例定数である。式(6)は、コヒーレンスが周波数にわたって決定されるので、周波数領域において生じる。したがって、これは、各更新の計算が周波数領域で行われ、時間領域に変換して戻される前に、周波数ビンごとに、μTde(f)の周波数領域値によって、乗算されることを必要とする。
【0052】
ステップサイズμTdcの値は、コヒーレンスCyeに正比例する必要はないことを理解されたい。むしろ、ステップサイズの値は、コヒーレンスCyeに単調に関連付けられ得、-すなわち、コヒーレンスμTdcは、一般に、ステップサイズが増加するか減少するかに従って、ステップサイズのサイズを規定する。したがって、一実施例では、周波数領域ステップサイズμTdcは、以下の式によって決定することができる。
【0053】
【数25】
ここで、対象の例示的な周波数範囲[40、450Hz]では、周波数領域ステップサイズμTdcは、コヒーレンスCye及び周波数にわたる平均コヒーレンスCye,avgの和に比例する。コヒーレンスCyeを平均コヒーレンスCye,avgと加算をすることは、そうでなければしばしば存在するリンギングの影響を排除するのに役立つ。
【0054】
adaptフィルタ126及び物理伝達関数Tdcは、両方とも線形プロセスであるため、消去ゾーンyにおけるノイズ消去信号と推定されたエラー信号eとの間のコヒーレンスCyeは、ノイズ消去信号dエラー信号e間のコヒーレンス又はマルチコヒーレンスCdeと同じであり、かつ、基準信号xとエラー信号eとの間のコヒーレンス又はマルチコヒーレンスCxeと同じある。したがって、コヒーレンスCyeは、コヒーレンスCde及びCxeの値を計算する方法として考えることができる。一般に、Cyeを計算することは、実用性の問題として、典型的には、ある数N個の基準信号x及びある数M個のノイズキャンセル信号dがあるため、Cde又はCxeを計算するよりも好ましい。Cde又はCxeの計算は、入力(すなわち、基準信号又はノイズ消去信号)の数と同じランクである逆PSD行列の計算を必要とする。このような計算は、処理集約的であり、リアルタイムアプリケーションにおいて実行することが困難である。対照的に、消去ゾーンyには、単一の計算されたノイズ消去信号のみが存在し、そのため、コヒーレンスCyeを計算することは、マルチコヒーレンスを必要とせず、むしろ、消去ゾーンyにおけるノイズ消去信号の計算、例えば、二次経路推定フィルタ134による
【数26】
の計算、のみを必要とし、これは、行列反転よりも計算がはるかに速い畳み込み又は行列乗算を伴う。
【0055】
ステップサイズμTdcの計算は、Wadaptがその最適解に収束しており、そのため事実上一定であると仮定する。ステップサイズμは、一般に、ステップサイズμTdcよりもはるかに高速であるため、これは妥当な仮定であるしたがって、まだ収束していないWadaptフィルタ126に起因する任意の非ゼロコヒーレンス値Cye(又はCde若しくはCxe)は、推定された二次経路推定フィルタ134が適応される前に解決される可能性が高い(すなわち、Wadaptフィルタ126は、収束している)。別の言い方をすれば、Wadaptフィルタ126の急速な収束に続く任意の残留コヒーレンスCyeは、推定された二次経路推定フィルタ134が二次経路Tdeを誤って推定したことに起因し、したがって、ステップサイズμTdcを調整することに依存することができる。
【0056】
代替の実施例では、コヒーレンスCyeに依存するのではなく、エラー信号eの大きさが、ステップサイズμTdcのサイズを決定することができる。例えば、適応レート計算器138は、ステップサイズμTdcを、エラー信号eの大きさに比例するように、又はそうでなければ単調に関連するように設定することができる。しかしながら、コヒーレンスCyeは、それが常に正で、有界であるため、概してより望ましい。
【0057】
いったん推定された二次経路
【数27】
が、適応レート計算器138から決定されたステップサイズμTdcを使用して式(4)に従って調整されると、結果は、時間反転されて、時間反転された二次経路推定フィルタ140をもたらす。したがって、時間反転された二次経路推定フィルタ140は、二次経路伝達関数
【数28】
の時間反転された推定値を入力エラー信号eに適用する。(時間反転された二次経路推定フィルタ140の出力は、二次経路伝達関数
【数29】
の推定値に基づいているので、時間反転された二次経路推定フィルタ140は、二次経路推定フィルタ134の変形と考えることができる)。時間反転された二次経路推定フィルタ140の出力は、推定された二次経路伝達関数
【数30】
の遅延(位相シフト)が除去された推定されたエラー信号eである。
【0058】
簡単に図3Bを参照すると、基準信号xが、二次経路推定フィルタ134で受信され、その出力が、推定された二次伝達関数
【数31】
の位相シフトが加算された基準信号xであることを除いて、プロセスは同じである。このようにして、適応二次経路推定モジュール132及び132’は両方とも、推定された二次経路伝達関数及び
【数32】
を計算し、入力信号(エラー信号e又は基準信号x)及び二次経路伝達関数
【数33】
の推定値に少なくとも基づく出力信号(推定されたエラー信号
【数34】
又は推定された基準信号
【数35】
のいずれか)を発生させる。
【0059】
図4を参照すると、二次経路推定フィルタ134を使用するエコーキャンセラ142の例が示されている。より具体的には、エコーキャンセラ142は、スピーカ110によって音響信号に変換されるプログラムコンテンツ信号144(例えば、音楽、ナビゲーション、等)を二次経路推定フィルタ134に入力して、消去ゾーンにおけるプログラムコンテンツ信号の推定値を出力し、この推定値は、次に、プログラムコンテンツ信号144の変換に起因するエコーをキャンセルするために、エラー信号120から減算される。二次経路推定フィルタ134は、二次経路適応処理モジュール136によって更新されると、変化する物理伝達関数Tdcにも適応する。
【0060】
この場合も、図1図4のノイズ消去システム100は、単にそのようなシステムの一実施例として提供されている。本システム、本システムの変形例、及び他の好適なノイズ消去システムを、本開示の範囲内で使用することができる。例えば、図1図2のシステムは、最小二乗平均(least mean squares、LMS/NLMS)フィルタに関連して説明してきたが、他の実施例では、再帰最小二乗(recursive lease square、RLS)フィルタを実装したものなど、異なるタイプのフィルタを実装することができる。同様に、フィードバックを伴うノイズ消去システムについて説明したが、代替例では、そのようなシステムは、フィードフォワードトポロジを採用することができる。更に、ロードノイズを消去するための、車両に実装したノイズ消去システムを説明してきたが、二次経路適応がある程度必要な任意の好適なノイズ消去システムを使用することができる。
【0061】
図5は、二次経路伝達関数を推定し、それに応じてノイズ消去システムを適応させるための方法500のフロー図を示す。上で説明されるように、この方法は、コントローラ112などのコンピューティングデバイスによって実装することができる。概して、コンピュータ実装方法のステップは、非一時的記憶媒体に記憶され、コンピューティングデバイスのプロセッサによって実行される。しかしながら、ステップのうちの少なくともいくつかは、ソフトウェアによってではなく、ハードウェアにおいて実行することができる。
【0062】
ステップ502において、ノイズ消去信号がノイズ消去フィルタによって発生し、ノイズ消去フィルタは、スピーカによって変換されるとき、事前定義された容積部内の消去ゾーン内のノイズを低減するノイズ消去音響信号を生成する。そのようなノイズ消去フィルタの実施例は、Wadaptフィルタ126であり得るが、RLSフィルタなどの他の好適な適応フィルタが使用され得る。信号は、少なくとも1つのスピーカに供給されて、事前定義された容積部内でノイズ消去音響信号を生成する。
【0063】
ステップ504において、推定された出力信号は、入力信号(例えば、エラー信号120又は基準信号114)及び二次経路推定フィルタによって実装される二次経路伝達関数の推定値に従って、二次経路推定フィルタ(例えば、二次経路推定フィルタ134又は時間反転された二次経路推定フィルタ140)から出力される。別の言い方をすれば、二次経路推定フィルタは、入力信号を受信し、その入力信号に作用して、推定された二次経路に従った位相シフトを有する入力信号の推定値である推定された出力信号を出力する。
【0064】
エラー信号は、消去ゾーン内に配置されたマイクロフォンなどのエラーセンサの出力であり得ることを理解されたい。代替的に、エラー信号は、消去ゾーン内のエラー信号を推定する、消去ゾーンの外側に配置されたマイクロフォンのフィルタリングされた出力であり得る。そのようなフィルタリングされたエラー信号は、例えば、「Systems and methods for noise-cancellation using microphone projection」と題された米国特許第10,629,183号に説明されており、その全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
エラー信号はまた、プログラムコンテンツ信号(例えば、音楽、ナビゲーション、等)を再生するスピーカからのエコーを除去していてもよい。エコーは、消去ゾーン内のプログラムコンテンツ信号を表す推定されたプログラムコンテンツを決定するために、プログラムコンテンツ信号を二次経路推定フィルタに入力することによって決定され得る。この推定されたプログラムコンテンツ信号は、エラー信号(例えば、マイクロフォンの出力又はフィルタリングされた出力)から除去され得る。
【0066】
ステップ506において、適応フィルタの係数は、例えば、式(1)又は(2)、及びステップ504で決定された推定された出力信号に基づいて更新される。推定された出力信号は、フィルタリングされたエラーの例(例えば、図2Bに示されるような)では、推定された二次経路の位相シフトが除去されたエラー信号(ここで、二次経路推定フィルタは時間反転される)であり得る。代替的に、推定された出力信号は、フィルタリングされた基準の例(例えば、図3Bに示されるような)では、推定された二次経路の位相シフトが加えられた基準であり得る。代替の実施例では、適応フィルタの係数は、異なる更新式(例えば、RLS)を使用して更新され得る。
【0067】
ステップ508において、二次経路推定フィルタの係数は、例えば、式(4)を使用して更新される。適応レート、例えば、ステップサイズは、エラー信号と消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値との間のコヒーレンスに従って決定され得る。消去ゾーンにおけるノイズ消去信号の推定値は、例えば、ノイズ消去信号を二次経路推定フィルタに入力することによって決定され得る。代替的に、適応レートは、エラー信号とノイズ消去信号との間、又はエラー信号と基準信号との間のコヒーレンスに従って決定され得る。一実施例では、適応レートは、エラー信号と消去ゾーン内のノイズ消去信号(又はノイズ消去信号若しくは基準信号)との間のコヒーレンスに比例するか、又はそうでなければ単調に関連する。代替の実施例では、適応レートは、エラー信号と別の信号との間のコヒーレンスに従ってではなく、エラー信号の大きさに従って決定され得る。
【0068】
本明細書における記号の使用に関して、大文字、例えば、Hは、一般に、周波数領域又はスペクトル領域における項、信号、又は量を表し、小文字、例えば、hは、一般に、時間領域における項、信号、又は量を表す。時間領域と周波数領域との間の関係は、一般によく知られており、少なくともフーリエ数学又はフーリエ解析の分野で説明されており、したがって、本明細書では提示されていない。更に、本明細書で記号によって表される信号、伝達関数、又は他の用語若しくは量は、アナログ又は離散形式で演算、考慮、又は分析され得る。時間領域の用語又は量の場合、アナログ時間インデックス、例えば、t、及び/又は離散サンプルインデックス、例えば、nは、様々な場合に交換又は省略され得る。同様に、周波数領域では、アナログ周波数インデックス、例えば、f、及び離散周波数インデックス、例えば、kは、ほとんどの場合省略される。更に、本明細書で開示される関係及び計算は、一般に、当業者によって理解されるように、時間領域又は周波数領域のいずれか、及びアナログ領域又は離散領域のいずれかにおいて存在し得るか、又は実行され得る。したがって、時間領域又は周波数領域、及びアナログ領域又は離散領域における全ての可能な変動を例解するための様々な例は、本明細書では提示されていない。
【0069】
本明細書に説明される機能又はその部分、及びその様々な修正(以下「機能」)は、少なくとも部分的に、コンピュータプログラム製品(例えば、1つ以上のデータ処理装置、例えば、プログラム可能プロセッサ、コンピュータ、複数のコンピュータ、及び/若しくはプログラム可能論理構成要素による実行のための、又はその動作を制御するための、1つ以上の非一時的機械可読媒体又は記憶デバイスなどの情報キャリアにおいて有形に具現化されたコンピュータプログラム)を介して実装され得る。
【0070】
コンピュータプログラムは、コンパイル型言語又はインタプリタ型言語を含む任意の形態のプログラム言語で書き得るが、それは、独立型プログラムとして、又はコンピューティング環境での使用に好適なモジュール、構成要素、サブルーチン若しくは他のユニットとして含む任意の形態で配設され得る。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、若しくは1つの設置先における複数のコンピュータ上で実行されるように配設され得るか、又は複数の設置先にわたって配信されて、ネットワークによって相互接続され得る。
【0071】
機能の全部又は一部を実装することと関連した動作は、較正プロセスの機能を実施するために1つ以上のコンピュータプログラムを実行する1つ以上のプログラム可能なプロセッサによって、実施され得る。機能の全部又は一部は、特殊目的論理回路、例えば、FPGA及び/又はASIC(特定用途向け集積回路)として実装され得る。
【0072】
コンピュータプログラムの実行に好適なプロセッサとしては、例として、汎用マイクロプロセッサ及び特殊目的マイクロプロセッサの両方並びに任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つ以上のプロセッサが挙げられる。一般的に、プロセッサは、読取り専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、又はその両方から命令及びデータを受信することになる。コンピュータの構成要素は、命令を実行するためのプロセッサ並びに命令及びデータを記憶するための1つ以上のメモリデバイスを含む。
【0073】
本明細書において、いくつかの本発明の実施形態について説明及び例解してきたが、当業者であれば、様々な他の手段及び/若しくは機能の実行及び/若しくは結果を得るための構造、並びに/又は本明細書に説明される1つ以上の利点を容易に想起し、こうした変更形態及び/又は修正の各々は、本明細書に説明される本発明の実施形態の範囲内にあるとみなされる。より一般的には、当業者であれば、本明細書に説明されるパラメータ、寸法、材料及び構成の全てが例示的であること、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、具体的な用途又は本発明の教示が使用される用途に依存するであろうことを、容易に理解するであろう。当業者であれば、本明細書に説明される具体的な本発明の実施形態に対する多くの同等物を、通常の実験のみを使用して認識するか、又は確認することができるであろう。したがって、前述の実施形態は、単なる例として提示されたものであり、添付の特許請求の範囲及びその等価物の範囲内で、具体的に記載及び特許請求されるものとは別様に本発明の実施形態を実践することができるということを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書に説明される各個々の特徴、システム、物品、材料、及び/又は方法に関する。更に、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料及び/又は方法のいかなる組む合わせも、こうした特徴、システム、物品、材料及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
【国際調査報告】