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特表2023-542064逐次ポリメラーゼ連鎖反応用組成物及びそれを用いた遺伝子増幅方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】逐次ポリメラーゼ連鎖反応用組成物及びそれを用いた遺伝子増幅方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20230928BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580308
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 KR2021007920
(87)【国際公開番号】W WO2021261928
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0076683
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0081843
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518135191
【氏名又は名称】ハイムバイオテック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】イ ジェ フン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、逐次ポリメラーゼ連鎖反応用組成物及びそれを用いた遺伝子増幅方法に関し、前記逐次ポリメラーゼ連鎖反応用組成物は、鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含み、1つの容器で逐次ポリメラーゼ連鎖反応を引き起こすことができる。本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応は、従来のネステッド(nested)PCRとは異なり、反応物添加段階が省略されるため、外部から汚染物質の流入が少なく、遺伝子ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の収率を高めることができ、非常に低い遺伝子が存在する場合でも再現性の高いポリメラーゼ連鎖反応結果が得られる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む組成物を1つの容器に準備する段階、第1のポリメラーゼ連鎖反応段階、及び第2のポリメラーゼ連鎖反応段階を含む逐次ポリメラーゼ連鎖反応において、
前記第1のポリメラーゼ連鎖反応段階は、
a)鋳型遺伝子の二重らせんが解かれる第1の変性段階、
b)前記a)段階による鋳型遺伝子に第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーが結合する第1のアニーリング段階、及び
c)前記b)段階で結合された第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーによって鋳型遺伝子が複製され、第1の産物が合成される段階を含み、
前記第2のポリメラーゼ連鎖反応段階は、
d)前記第1の産物の二重らせんが解かれる第2の変性段階、
e)前記d)段階による第1の産物に第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーが結合する第2のアニーリング段階、
f)前記e)段階で結合された第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーによって第1の産物が複製されて第2の産物が合成される段階、及び
g)前記第2の産物に第1のフォワードプライマーが結合して第3の産物が合成され、第3の産物に第3のリバースプライマーが結合して最終産物を合成する段階を含む、逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項2】
前記e)段階は、前記b)段階より高い温度で行われ、
前記第2のリバースプライマーは、前記第1のリバースプライマーよりも高い温度で活性化するように設計されるものである、請求項1に記載の逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項3】
前記e)段階は、前記b)段階より5℃~30℃高い温度で行われる、請求項1に記載の逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項4】
前記第1のポリメラーゼ連鎖反応及び第2のポリメラーゼ連鎖反応は、温度に応じて調節されるものである、請求項1に記載の逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項5】
前記第2のリバースプライマーは、鋳型遺伝子と相補的な配列の他に任意の遺伝子配列をさらに含むものである、請求項1に記載の逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項6】
前記任意の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列は、第2の産物に含まれ、
前記第3のリバースプライマーは、前記第2の産物に含まれる任意の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列に結合して最終産物を合成するものである、請求項5に記載の逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項7】
前記組成物は、前記第3の産物に結合するプローブをさらに含み、
前記プローブが結合する第3の産物の遺伝子配列は、第2のリバースプライマーに含まれる任意の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列である、請求項1に記載の逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項8】
前記プローブは、第3のリバースプライマーによる遺伝子合成によって分解されて発光するものである、請求項7に記載の逐次ポリメラーゼ連鎖反応を行う方法。
【請求項9】
請求項1に記載の鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む、逐次ポリメラーゼ連鎖反応用組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む、逐次ポリメラーゼ連鎖反応用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逐次ポリメラーゼ連鎖反応用組成物及びそれを用いた遺伝子増幅方法に関し、より詳細には、鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む組成物を1つの容器に準備し、ポリメラーゼ連鎖反応を連続的に行うことができる方法で、温度に応じてそれぞれのポリメラーゼ連鎖反応の調節が可能であり、一つの容器で順次行うことができるため、遺伝子増幅時に外部から汚染物質の流入が少なく、遺伝子ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の収率を高めることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子診断は、遺伝子を分析して疾患を診断する分野で、現在、体外診断分野の中で最も高い成長傾向を見せているのが実状である。実際、急速な環境汚染と気候変動によるものと推定される新種ウイルスが大きく拡散しながら、体外診断分野の中で最も高い診断の精度が確保され、新種ウイルスが出現する場合、迅速に感染の有無を確認できるという利点がある分子診断に対する多くの研究が続いている。
【0003】
塩基配列または塩基の変異を分析するために様々な方法があるが、これらすべての方法を使用する前に基本的に大量の遺伝子試料を得なければならない。現在、研究者が遺伝子試料を得るために最も一般的に使用する方法は、DNAポリメラーゼを用いたポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」という)である。前記方法は、鋳型と結合できるプライマーを設計し、遺伝子の所望の部位のみを増幅させることができる。遺伝子から増幅しようとする領域を決定し、決定した部位の3’末端の塩基配列と相補的に結合できる塩基配列を決定してプライマーを設計する。
【0004】
PCRの応用技法のうち、ネステッド(nested)PCRは、PCR増幅の特異性と敏感度を増加させることができる技法として、通常、純度の低いDNAやRNAを増幅するために用いられる。この方法は、2種のプライマー(primer)により連続的なPCRとして目的遺伝子のプライマー(primer)を用いて第1のポリメラーゼ連鎖反応を行い、最初の第1のPCR産物と結合する2次プライマー(primer)を用いて第2のポリメラーゼ連鎖反応を行う。特に、ネステッド(nested)PCR法は、最初の増幅プライマー(primer)で増幅した後、再び2次プライマーを添加して増幅する方法で敏感度を高めるか、または特殊な目的の増幅が必要な場合に多く使われる方法である。しかし、ネステッド(nested)PCRは、通常、2回異なるチューブを使用しなければならないため、実験者の手間が多くかかり不便であり、増幅産物を扱う途中で汚染を引き起こすことがあるという問題点がある。従来のPCRと比較して外部からの汚染は減らすが、鋳型遺伝子の増幅時間を減らし、増幅量を増やすことができ、点突然変異を検出するために用いられる通常のポリメラーゼ連鎖反応における収率(PCR YIELD)問題点(一般に、点突然変異を検出するためのPCR進行時にプライマーの量を低濃度で使用し、一般的なアニーリング段階の温度よりも少し高い温度でアニーリング段階を行うことにより、PCR YIELDが減少するという問題点がある。)を解消できるPCR法が求められるのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分子診断は、遺伝子を分析して疾患を診断する分野で、現在、体外診断分野の中で最も高い成長傾向を見せているのが実状である。実際、急速な環境汚染と気候変動によるものと推定される新種ウイルスが大きく拡散しながら、体外診断分野の中で最も高い診断の精度が確保され、新種ウイルスが出現する場合、迅速に感染の有無を確認できるという利点がある分子診断に対する多くの研究が続いている。
【0006】
塩基配列または塩基の変異を分析するために様々な方法があるが、これらすべての方法を使用する前に基本的に大量の遺伝子試料を得なければならない。現在、研究者が遺伝子試料を得るために最も一般的に使用する方法は、DNAポリメラーゼを用いたポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」という)である。前記方法は、鋳型と結合できるプライマーを設計し、遺伝子の所望の部位のみを増幅させることができる。遺伝子から増幅しようとする領域を決定し、決定した部位の3’末端の塩基配列と相補的に結合できる塩基配列を決定してプライマーを設計する。
【0007】
PCRの応用技法のうち、ネステッド(nested)PCRは、PCR増幅の特異性と敏感度を増加させることができる技法として、通常、純度の低いDNAやRNAを増幅するために用いられる。この方法は、2種のプライマー(primer)により連続的なPCRとして目的遺伝子のプライマー(primer)を用いて第1のポリメラーゼ連鎖反応を行い、最初の第1のPCR産物と結合する2次プライマー(primer)を用いて第2のポリメラーゼ連鎖反応を行う。特に、ネステッド(nested)PCR法は、最初の増幅プライマー(primer)で増幅した後、再び2次プライマーを添加して増幅する方法で敏感度を高めるか、または特殊な目的の増幅が必要な場合に多く使われる方法である。しかし、ネステッド(nested)PCRは、通常、2回異なるチューブを使用しなければならないため、実験者の手間が多くかかり不便であり、増幅産物を扱う途中で汚染を引き起こすことがあるという問題点がある。従来のPCRと比較して外部からの汚染は減らすが、鋳型遺伝子の増幅時間を減らし、増幅量を増やすことができ、点突然変異を検出するために用いられる通常のポリメラーゼ連鎖反応における収率(PCR YIELD)問題点(一般に、点突然変異を検出するためのPCR進行時にプライマーの量を低濃度で使用し、一般的なアニーリング段階の温度よりも少し高い温度でアニーリング段階を行うことにより、PCR YIELDが減少するという問題点がある。)を解消できるPCR法が求められるのが実状である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本願発明は、鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む組成物を1つの容器に準備する段階、第1のポリメラーゼ連鎖反応、及び第2のポリメラーゼ連鎖反応を含む逐次ポリメラーゼ連鎖反応の遂行方法を提供する。
【0009】
本発明の一実施例によれば、前記第1のポリメラーゼ連鎖反応は、a)鋳型遺伝子の二重らせんが解かれる第1の変性段階、b)前記a)段階による鋳型遺伝子に第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーが結合する第1のアニーリング段階、及びc)前記b)段階で結合された第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーによって鋳型遺伝子が複製され、第1の産物が合成される段階を含んでもよい。前記第2のポリメラーゼ連鎖反応は、d)前記第1の産物の二重らせんが解かれる第2の変性段階、e)前記d)段階による第1の産物に第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーが結合する第2のアニーリング段階、f)前記e)段階で結合された第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーによって第1の産物が複製されて第2の産物が合成される段階、及びg)前記第2の産物に第1のフォワードプライマーが結合して第3の産物が合成され、第3の産物に第3のリバースプライマーが結合して最終産物を合成する段階を含んでもよい。
【0010】
本発明の前記第1のポリメラーゼ連鎖反応及び第2のポリメラーゼ連鎖反応は、温度に応じて調節されてもよく、前記e)段階の遂行温度はb)段階の遂行温度より高くてもよい。本発明の一実施例によれば、前記e)段階は、前記b)段階より5℃~30℃高い温度で行われてもよい。本発明の他の実施例によれば、前記b)段階が40℃以上50℃未満の温度で行われる場合、前記e)段階は、50℃以上72℃以下の温度で行われ、前記b)段階が40℃以上60℃未満の温度で行われる場合、前記e)段階は、60℃以上72℃以下の温度で行われてもよい。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記第2のリバースプライマーは、鋳型遺伝子と結合する配列の他に任意の遺伝子(アダプター遺伝子)配列をさらに含んでもよい。前記第2のリバースプライマーは、任意の遺伝子配列をさらに含み、第2の産物または第3の産物に前記任意の遺伝子配列またはその相補的な配列が含まれてもよい。
【0012】
本発明の前記第2のリバースプライマーに含まれる任意の遺伝子配列は、特に制限されるものではないが、第1の産物の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列を含まず、第1の産物とは結合しないことが好ましい。
【0013】
本発明の一実施例によれば、前記組成物は、前記第3の産物に結合するプローブをさらに含んでもよい。本発明において前記プローブが結合する第3の産物の遺伝子配列は、第2のリバースプライマーに含まれた任意の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列またはその一部配列であってもよい。本発明において、前記プローブは、前記任意の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列に結合することにより、第2の産物の存在の有無、すなわち、第2のポリメラーゼ連鎖反応の進行の有無を確認しうる。
【0014】
本発明の一実施例によれば、鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む逐次ポリメラーゼ連鎖反応用組成物を提供する。
【0015】
本発明は、さらに鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNTP、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む逐次ポリメラーゼ連鎖反応用キットを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応用キット及びそれを用いた遺伝子増幅方法は、従来のネステッド(nested)PCRとは異なり、反応物添加段階が省略されるため、外部から汚染物質の流入が少なく、増幅時間を短縮させることができる。
【0017】
本発明の逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)は、低濃度のターゲット遺伝子(該当PCRで複製対象となる遺伝子)が存在する場合でも高い再現性を有する特徴がある。
【0018】
例えば、一般的な10copyRT-PCRの場合、10copyのターゲット遺伝子(target template)が存在するとき、初めて再現性のあるPCR結果を示す。一方、本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応は、第2のポリメラーゼ連鎖反応、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを用いてターゲット遺伝子の濃度が低い場合でも高い再現性を持つ。
【0019】
本発明の逐次ポリメラーゼ連鎖反応方法によれば、第2のリバースプライマーの濃度は下げるが、第3のリバースプライマーの濃度は高めて早い時間内により多くの産物を合成することができるため、点突然変異を検出するために用いられる通常のポリメラーゼ連鎖反応における収率(PCR YIELD)という問題点を解消できる利点がある。
【0020】
また、本発明によるポリメラーゼ連鎖反応用キットは、少量(低濃度)の遺伝子(template)を容易に増幅させて敏感度が高いという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施例による第1のポリメラーゼ連鎖反応の模式図である。
図3図3は、本発明の一実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応のフローチャートである。
図4図4は、本発明の他の実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応のフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応のT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
図6図6は、一実施例による通常のポリメラーゼ連鎖反応を用いてT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
図7図7は、本発明の他の実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応段階の模式図である。
図8図8は、他の実施例によって通常のポリメラーゼ連鎖反応を用いてT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
図9図9は、本発明のさらに他の実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応段階の模式図である。
図10図10は、本発明のさらに他の実施例により通常のポリメラーゼ連鎖反応を用いてT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
図11図11は、本発明の一実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応産物の電気泳動画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。本発明の利点及び特徴、それらを達成する後述の実施例を参照すれば明確になるだろう。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる形態で具現されてもよく、単に本実施例は、本発明が完全になるようにし、本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義されるだけである。明細書の全体にわたって同じ参照符号は、同じ構成要素を指す。
【0023】
他の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術及び科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に共通して理解される意味で使用されてもよい。また、一般的に使用される予め定義されている用語は、特に明確に定義されていない限り、理想的または過度に解釈されない。本明細書において使用される用語は、実施例を説明するためのものであり、本発明が制限されるものではない。本明細書において、単数形は、文句で特に言及しない限り、複数形も含む。
【0024】
本明細書において、「PCR(polymerase chain reaction)」は、検出を望む特定の鋳型遺伝子を増幅する方法であり、ポリメラーゼ連鎖反応の変形方法としてRNAを対象として逆転写酵素を用いてcomplementary DNAを合成し、これを鋳型として用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcriptase polymerase chain reaction,RT-PCR)と蛍光物質を使用してDNAを増幅させながら増幅産物を同時に検出するリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応などを含む。
【0025】
本明細書で特に言及しない限り、本発明の逐次ポリメラーゼ連鎖反応は、当業界で一般的に用いられる方法で行う過程を含む。
【0026】
例えば、本発明の逐次ポリメラーゼ連鎖反応に用いられる酵素には、核酸外部加水分解酵素(exonuclease)活性を有するDNA Taq-polymeraseが含まれてもよく、これは第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応において同様に使用されてもよい。
【0027】
本発明において、「プライマー」は、複製しようとする短い遊離3’末端水酸化基(free 3’ hydroxyl group)を有する核酸配列で相補的な鋳型(template)と塩基対を形成することができ、鋳型遺伝子コピーのための開始点として機能する短い核酸配列を意味する。前記プライマーの長さ及び配列は、伸長産物の合成を開始することを可能にしなければならない。プライマーの具体的な長さ及び配列は、要求されるDNAまたはRNA標的の複雑性(complexity)だけでなく、温度及びイオン強度などのプライマー利用条件に依存する。
【0028】
本明細書において、「鋳型遺伝子」は、二本鎖であるDNA、一本鎖であるRNA、cDNA、miRNAを含んでもよく、最も好ましくは、鋳型遺伝子は、DNA形態である。
【0029】
本明細書において「産物」とは、ポリメラーゼ連鎖反応によって合成された遺伝子を意味する。
【0030】
本明細書においてプローブまたはプライマーの「分解」とは、プローブまたはプライマーの構造が物理的または化学的に変形または破壊されることを意味する。
【0031】
一般的に知られているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術と同様に、1つのPCR段階は、3段階からなる。熱を用いて遺伝子を分離する熱変性過程(denaturation変性段階)を経た後、温度を下げてプライマー(primer)が増幅を望む配列末端に結合(annealing、アニーリング段階)させ、再び熱を少し上げて遺伝子を合成する重合反応(polymerization or extension、遺伝子合成段階)が行われる。前記熱変性段階、アニーリング段階及び遺伝子合成段階は、順次行われ、各段階が一度ずつ行われたことを一つのcycleが行われたと言える。例えば、本発明の第1のポリメラーゼ連鎖反応の場合、95℃で15秒間変性段階、65℃で30秒間アニーリング段階、72℃で30秒間遺伝子合成段階を経た場合、このときに第1のポリメラーゼ連鎖反応が1cycle(回)行われたと言える。
【0032】
本発明の「逐次ポリメラーゼ連鎖反応」は、鋳型遺伝子、DNAポリメラーゼ、dNT、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを含む組成物を1つの容器に準備する段階、第1のポリメラーゼ連鎖反応段階、及び第2のポリメラーゼ連鎖反応段階を含んでもよい。
【0033】
本発明の前記第1のポリメラーゼ連鎖反応段階は、a)鋳型遺伝子の二重らせんが解かれる第1の変性段階、b)前記a)段階による鋳型遺伝子に第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーが結合する第1のアニーリング段階、及びc)前記b)段階で結合された第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーによって鋳型遺伝子が複製され、第1の産物が合成される段階を含んでもよい。前記第2のポリメラーゼ連鎖反応段階は、d)前記第1の産物の二重らせんが解かれる第2の変性段階、e)前記d)段階による第1の産物に第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーが結合する第2のアニーリング段階、f)前記e)段階で結合された第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーによって第1の産物が複製されて第2の産物が合成される段階、及びg)前記第2の産物に第1のフォワードプライマーが結合して第3の産物が合成され、第3の産物に第3のリバースプライマーが結合して最終産物を合成する段階を含んでもよい。
【0034】
本明細書において「容器」とは、ポリメラーゼ連鎖反応を引き起こすことができるあらゆる形態の実験ツールを含む。本発明は、1つの容器内で互いに異なるポリメラーゼ連鎖反応が連続的かつ独立的に行われることを特徴とする。
【0035】
本明細書において「逐次ポリメラーゼ連鎖反応(以下、「スイッチング(switching)PCR」)」とは、鋳型遺伝子を増幅する第1のポリメラーゼ連鎖反応及び第1のポリメラーゼ連鎖反応の産物を増幅する第2のポリメラーゼ連鎖反応が連続的かつ順次的に起こる反応を意味し、それぞれのポリメラーゼ連鎖反応の開始可否は、温度で調節されてもよい。本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応は、第3、第4のポリメラーゼ連鎖反応またはその後の段階までさらに行われてもよい。
【0036】
本発明の逐次ポリメラーゼ連鎖反応は、第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応との間で別途の反応物添加段階が除外され、一つの容器で第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応が連続的かつ独立的に行われてもよい。従来のネステッド(nested PCR)反応とは異なり、本発明による「逐次ポリメラーゼ連鎖反応」は、反応物を添加する中間段階が省略されるため、遺伝子増幅時間を短縮することができ、外部物質から汚染を防止しうる。
【0037】
前記第1のポリメラーゼ連鎖反応または第2のポリメラーゼ連鎖反応は、いくつかのcycleが行われてもよく、本発明の逐次ポリメラーゼ連鎖反応は、一部としてネステッド(nested)PCR技術が用いられてもよい。本発明は、多数のPCR段階を経ることによって、鋳型遺伝子(template)が低濃度で存在しても早い時間内に遺伝子を増幅しうる。
【0038】
通常のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のように、本発明は、鋳型遺伝子の量を増幅させることを主目的とし、本発明による「逐次ポリメラーゼ連鎖反応」の第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応は、数回行って多量の最終遺伝子(最終産物)を合成しうる。上述したように、本発明の各段階で合成された遺伝子は、その後、反応に用いられるか、または残存することになる。
【0039】
本発明において、プライマーの合成開始方向を示す「正方向」または「逆方向」とは、各プライマー間の合成方向が異なるか、または同一であることを意味するものであり、複製対象遺伝子(例えば、鋳型遺伝子)による5’->3’または3’->5’の遺伝子合成の方向を特定するものではない。すなわち、複製対象遺伝子によるプライマーの遺伝子合成方向は異なりうるが、リバースプライマー間の合成方向は同一であり、フォワードプライマーとは反対である。
【0040】
例えば、鋳型遺伝子が二本鎖の場合、第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーは、それぞれ相補的な鋳型遺伝子鎖を複製しうる(第1のポリメラーゼ連鎖反応)。その後、第1のフォワードプライマーは、第1のリバースプライマーによって合成された第2の産物に結合し、第2のリバースプライマーは、第1のフォワードプライマーによって合成された第2の産物に結合して遺伝子鎖を複製しうる(第2のポリメラーゼ連鎖反応)。前記第1のフォワードプライマーは、第2のリバースプライマーによって合成された第2の産物に結合し、第3の産物の合成を開始することができ、このとき、第2のリバースプライマーに任意の遺伝子配列がさらに含まれた場合、第3の産物には任意の遺伝子配列に相補的な遺伝子配列がさらに合成されてもよい。第3のリバースプライマーは、第1のフォワードプライマーによって合成された第3の産物に結合し、最終産物の合成を開始しうる。このとき、第3の産物に含まれた「任意の遺伝子配列と相補的な配列」にプローブ及び第3のリバースプライマーが結合すれば、第3のリバースプライマーの遺伝子合成開始により前記プローブは、第3の産物から離れて発光することになる。この場合、第3の産物が合成されるとプローブによる発光が確認されるので、第2のポリメラーゼ連鎖反応が行われたことが分かる。
【0041】
前記内容から分かるように、本発明の第1の産物または第2の産物は、二本鎖から構成されてもよく、本発明の各プライマーは、それぞれの遺伝子と相補的な遺伝子配列に結合し、その後の反応を行う。
【0042】
本明細書において「第1のフォワードプライマー」及び「第1のリバースプライマーー」とは、鋳型遺伝子に結合して鋳型遺伝子の複製を開始するプライマーを意味する。第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーの鋳型遺伝子複製の開始によって第1の産物が合成される。本発明において、「第1のリバースプライマー」は、鋳型遺伝子にのみ結合するように設計するが、「第1のフォワードプライマー」は、鋳型遺伝子だけでなく、第1の産物、第2の産物または第3の産物にも結合して複製を開始してもよい。
【0043】
本明細書において「第2のリバースプライマー」とは、前記第1の産物に結合するプライマーを意味し、第2のリバースプライマーは、鋳型鎖にも結合できるが、活性温度及び第1のアニーリング段階の温度を調節して第1のポリメラーゼ連鎖反応には関与しないように設計する。鋳型遺伝子がDNAの場合、第1の産物も二本鎖であるため、第1のフォワードプライマーは、第2のリバースプライマーが結合する第1の産物遺伝子鎖の相補的鎖に結合して第1の産物遺伝子の複製を開始する。このとき、第2のリバースプライマーは、第1の産物または鋳型遺伝子に含まれない任意の遺伝子(アダプター遺伝子)配列をさらに含んでもよく、前記任意の遺伝子は、第2のリバースプライマーの5’末端に位置してもよい。したがって、第2のリバースプライマーによって合成された第2の産物には、鋳型遺伝子に含まれていない前記任意の遺伝子配列が含まれてもよい。
【0044】
前記第2のリバースプライマーにより合成された第2の産物には、第1のフォワードプライマーが結合して第3の産物の合成を開始してもよい。
【0045】
本明細書において「第3のリバースプライマー」とは、前記第3の産物に結合するプライマーを意味する。前記第3のリバースプライマーは、「第3の産物」に存在する「前記任意の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列」に結合してもよい。本発明によれば、第3のリバースプライマーは、前記「任意の遺伝子配列と相補的な遺伝子配列」に結合するものであるため、第1のポリメラーゼ連鎖反応に関与しない。
【0046】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)時、鋳型遺伝子の点突然変異(point mutation)を検出するため、用いられるプライマーの濃度を減少させることが一般的であるが、この場合、最終生成される産物の量(収率)が減少するという問題点がある。この問題点を解消するため、本発明は、任意の遺伝子を含む第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーを用いる。本発明において、第2のリバースプライマーは、(好ましくは、5’末端に)任意の遺伝子(アダプター遺伝子)を含んでもよく、第1の産物を鋳型として第2のポリメラーゼ連鎖反応を開始する。本発明によれば、前記第2のリバースプライマーによって合成された第2の産物には、第1のフォワードプライマーが結合することができ、これにより前記「任意の遺伝子(アダプター遺伝子)と相補的な遺伝子」を含む第3の産物が合成される。第3のリバースプライマーは、前記第3の産物に含まれた「任意の遺伝子(アダプター遺伝子)と相補的な遺伝子」に結合して最終産物の合成を開始するため、第3のリバースプライマーの濃度は、点突然変異にかかわらず高い濃度で用いることができるため、より多くの産物を生成できる。すなわち、点突然変異を検出するために用いられる通常のポリメラーゼ連鎖反応における収率(PCR YIELD)の問題点(一般的に、点突然変異を検出するためのPCR進行時にプライマーの量を低濃度で使用し、一般的なアニーリング段階の温度よりも少し高い温度でアニーリング段階を行うことにより、PCR YIELDが減少するという問題点がある。)を解消するために用いられる第2のリバースプライマーの濃度は下げるが、第3のリバースプライマーの濃度は、高めることができるので、早い時間内により多くの量の産物を合成しうる。
【0047】
本明細書においてプライマーの「設計」とは、プライマーが特定の条件(例えば、温度)で活性化されるか、またはブロッキング(blocking)されるようにプライマーを製造することを意味し、当業界で一般的に使用されるプライマー設計方法が用いられてもよい。前記設計方法には、プライマーの長さ(mer)または配列を調節する方法が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0048】
本明細書において、「ブロッキング(blocking)」とは、ターゲット遺伝子(当該PCRで複製対象となる遺伝子(template))にプライマーがアニーリングされないことを意味しうる。
【0049】
図1は、本発明の一実施例による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)の模式図である。図1を参照すると、第1のプライマーは、鋳型遺伝子に、誘導プライマーは、第1の産物に結合して第2の産物を合成しうる。図1は、第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応段階を一つの模式図で表すだけで、第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応が同時に行われるものではない。
【0050】
本発明において、第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応の各アニーリング段階は、温度を異にすることができ、好ましくは、第2のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング段階の温度が第1のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング温度より高い。例えば、前記第2のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング段階は、前記第1のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング段階より5℃~30℃高い温度で行われてもよい。本発明によれば、各プライマーが活性化される温度は互いに異なってもよい。このとき、第1のフォワードプライマーの活性化温度は、最も広い範囲で設計されることが好ましく、第2のリバースプライマー及び第3のリバースプライマーの活性化温度は、第1のリバースプライマーの活性化温度より高く設計されることが好ましい。例えば、第2のリバースプライマーまたは第3のリバースプライマーの活性化温度は、第1のリバースプライマーの活性化温度よりも5℃~30℃高く設計されてもよい。
【0051】
本発明による第1のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング段階は、第2のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング段階よりも5℃~30℃低い温度で行われてもよく、第1のリバースプライマーの遺伝子合成開始により核酸外部加水分解酵素が活性化される。すなわち、第1のポリメラーゼ連鎖反応では、第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーによる第1の産物のみを合成しうる。第2のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング段階は、第1のポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング段階よりも5℃~30℃高い温度で行われてもよく、相対的に高い温度により第1のリバースプライマーによる反応は行われず、一方、第2のリバースプライマーは、第1の産物に結合することができ、第2のポリメラーゼ連鎖反応のみが行われる。
【0052】
具体的に、図3及び図4は、本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応の模式図を示す。
【0053】
図3によれば、第1のポリメラーゼ連鎖反応では、鋳型遺伝子鎖10に第1のフォワードプライマー20及び第1のリバースプライマー30が結合して遺伝子合成を開始する。第1のポリメラーゼ連鎖反応により第1の産物21が合成され、第1の産物に再び第1のフォワードプライマー20及び第2のリバースプライマー40が結合して第2のポリメラーゼ連鎖反応が行われる。図3を参照すると、第1のリバースプライマー30は、第1のポリメラーゼ連鎖反応では活性化されるが、第2のポリメラーゼ連鎖反応では活性化されない。
【0054】
図4を参照すると、第2のポリメラーゼ連鎖反応による第1の産物に第1のフォワードプライマー20及び第2のリバースプライマー40とが結合して遺伝子を合成してもよい。このとき、第2のリバースプライマー40は、第1の産物に結合する遺伝子配列(または鋳型遺伝子に結合する遺伝子配列)の他に任意の遺伝子配列をさらに含んでもよい。第2のリバースプライマーによって合成される第2の産物は、鋳型遺伝子の他に任意の遺伝子配列をさらに含む。本発明のプローブは、第2の産物に合成された任意の遺伝子に結合してもよい。第3のリバースプライマー50が第2の産物に結合して遺伝子の合成を開始する場合、前記プローブは、第2の産物から離れて特定のシグナルを示すことができ、当該シグナルを把握して第2のポリメラーゼ連鎖反応が行われることが分かる。
【0055】
本発明の一実施例によれば、第1のフォワードプライマー、第1のリバースプライマー、第2のリバースプライマー、第3のリバースプライマー及びプローブは、下記表1のような配列から構成されてもよい。
【0056】
【表1】
【0057】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0058】
[実施例1]
<1-1>基準濃度のtemplateを用いたswitching PCR反応
PCRチューブにqPCR Master mix 10μlを入れる。その後、Template DNA(T790M)1μlを入れ、10uM濃度の第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーをそれぞれ1μlずつ、10μM濃度の第2のリバースプライマー1ul、第3のリバースプライマー1ul、プローブ0.5ulを入れる。前記チューブに蒸留水7μlをさらに入れた後、ピペッティング(pipetting)する(このときに製造されたキットを実験群1という)。その後、PCR machine(Bio-Rad CFX96TM)のwellにチューブを入れ、下記表2のように温度を調節して第1のポリメラーゼ連鎖反応を20回、第2のポリメラーゼ連鎖反応を40回行った。
【0059】
【表2】
【0060】
<1-2>希釈濃度のtemplateを用いたswitching PCR反応
Template DNA(T790M)を1/2μl(実験群2)、1/4μl(実験群3)、1/6μl(実験群4)、1/8μl(実験群5)、1/10μl(実験群6)濃度として実験群を製造し、残りの条件は、実験例1-1と同様に実験した。
【0061】
実施例1-1、1-2による結果値は、下記表3及び表4の通りである。図5は、本発明の実施例1-1、1-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)のT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
<1-3>基準濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
PCRチューブにqPCR Master mix 10μlを入れる。その後、Template DNA(T790M)1μlを入れ、10uM濃度の第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーをそれぞれ0.5μlずつ入れる。前記チューブに蒸留水7μlをさらに入れた後、ピペッティング(pipetting)する(このときに製造されたキットを対照群1とする)。その後、PCR machine(Bio-Rad CFX96TM)のwellにチューブを入れ、下記表5のように温度を調節してPCRを60回行った。
【0065】
【表5】
【0066】
<1-4>希釈濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
Template DNA(T790M)を1/2μl(実験群2)、1/4μl(実験群3)、1/6μl(実験群4)、1/8μl(実験群5)、1/10μl(実験群6)濃度として実験群を製造し、残りの条件は、実験例2-1と同様に実験した。
【0067】
実施例1-3、1-4による結果値は、下記表6及び7の通りである。図6は、本発明の実施例1-3、1-4によるT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
図5を参照すると、実施例1-1、1-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)の結果T790M遺伝子は、18~24cycleのCqまたはCt値を示し、図6を参照すると、実施例1-3、1-4による標準PCR法によってT790M遺伝子を増幅させたとき、48~50cycleで増幅される。これは表3、4、6及び7の内容と同じである。本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)は、第2のポリメラーゼ連鎖反応で増幅されることを勘案すれば、実施例1-1、1-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)の結果T790M遺伝子は、38~44cycle(最初のポリメラーゼ連鎖反応が20cycle発生)でCqまたはCt値を持つことが分かる。実施例1-1~1-4は、すべてtemplateであるT790M遺伝子濃度が低いほどCq又はCt値が増加し、濃度にかかわらず実施例1-1及び1-2の増幅cycle値が実施例1-3及び1-4の値より低かった。したがって、本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)方法は、1つの実験器具において第1のポリメラーゼ連鎖反応と第2のポリメラーゼ連鎖反応を独立して行うことができることが分かる。
【0071】
[実施例2]
<2-1>基準濃度のtemplateを用いたswitching PCR反応
実施例1-1と同じ条件でPCRを行った。
【0072】
<2-2>希釈濃度のtemplateを用いたswitching PCR反応
実施例1-2と同じ条件でPCRを行った。
実施例2-1、2-2による結果値は、下記表8及び表9の通りである。図7は、本発明の実施例2-1、2-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)のT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
【0073】
【表8】
【0074】
【表9】
【0075】
<2-3>基準濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
実施例1-3と同じ条件でPCRを行った。
【0076】
<2-4>希釈濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
実施例1-4と同じ条件でPCRを行った。
【0077】
実施例2-3、2-4による結果値は、下記表10及び表11の通りである。図8は、本発明の実施例2-3、2-4によるT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
【0078】
【表10】
【0079】
【表11】
【0080】
図7を参照すると、実施例2-1、2-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)の結果T790M遺伝子は、18~24cycleのCqまたはCt値を示し、図8を参照すると、実施例2-3、2-4による標準PCR法によってT790M遺伝子を増幅させたとき、48~60cycleでCqまたはCt値を示す。これは表8、9、10及び11の内容と同じである。本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)は、第2のポリメラーゼ連鎖反応で増幅されることを勘案すれば、実施例2-1、2-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)の結果T790M遺伝子は、38~44cycle(第1のポリメラーゼ連鎖反応が20cycle発生)でCqまたはCt値を示すことが分かる。実施例2-1~2-4は、すべてtemplateであるT790M遺伝子濃度が低いほどCqまたはCt値が増加し、濃度にかかわらず実施例2-1及び2-2のCqまたはCt値が実施例2-3及び2~4の値より低かった。したがって、本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)方法は、遺伝子ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の収率を高めることができ、非常に低い遺伝子が存在する場合でも再現性の高いポリメラーゼ連鎖反応結果が得られることが分かる。
【0081】
[実施例3]
<3-1>基準濃度のtemplateを用いたswitching PCR反応
実施例1-1と同じ条件でPCRを行った。
【0082】
<3-2>希釈濃度のtemplateを用いたswitching PCR反応
実施例1-2と同じ条件でPCRを行った。
【0083】
実施例3-1、3-2による結果値は、下記表12の通りである。図9は、本発明の実施例3-1、3-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)のT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
【0084】
【表12】
【0085】
<3-3>基準濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
実施例1-3と同じ条件でPCRを行った。
【0086】
<3-4>希釈濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
実施例1-4と同じ条件でPCRを行った。
【0087】
実施例3-3、3-4による結果値は、下記表13の通りである。図10は、本発明の実施例3-3、3-4による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)のT790M遺伝子の増幅結果を示すグラフである。
【0088】
【表13】
【0089】
図9を参照すると、実施例3-1、3-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)の結果T790M遺伝子は、18~24cycleでCqまたはCt値を示し、図10を参照すると、実施例3-3、3-4による標準PCR法によってT790M遺伝子を増幅させたとき、48~60cycleでCqまたはCt値を有する。これは表12及び13の内容と同じである。本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)は、第2のポリメラーゼ連鎖反応においても増幅されることを勘案すれば、実施例3-1、3-2による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)の結果T790M遺伝子は、38~44cycle(第1のポリメラーゼ連鎖反応が20cycle発生)でCqまたはCt値を示すことが分かる。実施例3-1~3-4は、すべてtemplateであるT790M遺伝子濃度が低いほどCqまたはCt値が増加し、濃度にかかわらず実施例3-1及び3-2のCqまたはCt値が実施例3-3及び3~4の値より低かった。したがって、本発明によるスイッチングPCR法は、遺伝子増幅時間を短縮させることができ、遺伝子ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の収率を高めることができ、非常に低い遺伝子が存在する場合でも再現性の高いポリメラーゼ連鎖反応結果が得られることが分かる。
【0090】
また、本発明の実施例3-2において、逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)は、1/8%(実験群5)、1/10%(実験群6)の両方の濃度で100%detection rateを示し、実施例3-4の標準PCRの場合、1/8%の濃度では75%のdetection rateを示し、1/10%の濃度では80%のdetection rateを示し、両方の濃度ですべて95%未満のdetection rateを示すことが分かる。すなわち、本発明による逐次ポリメラーゼ連鎖反応(Switching PCR)は、鋳型遺伝子(template)の濃度が低い場合でも増幅が容易に発生するので、本発明によるキットを用いた逐次ポリメラーゼ連鎖反応(スイッチングPCR)は、敏感度がより高いことが分かる。
【0091】
[実施例4]
<4-1>基準濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
PCRチューブにqPCR Master mix 10μlを入れる。その後、Template DNA(T790M)100fg/μlを入れ、10uM濃度の第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーをそれぞれ0.5μlずつ、10μM濃度の第2のリバースプライマー1ul、10uM濃度の第3のリバースプライマー1ul及びプローブ0.5ulを入れる。前記チューブに蒸留水7μlをさらに入れた後、ピペッティング(pipetting)する。その後、PCR machine(Bio-Rad CFX96TM)のwellにチューブを入れ、下記表14のように温度を調節してPCRを40cycle行った。
【0092】
【表14】
【0093】
<4-2>基準濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
温度を下記表15のようにし、他の実験条件は、実施例4-1と同じ条件でPCRを行った。
【0094】
【表15】
【0095】
<4-3>基準濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
温度を下記表16のようにして第1のポリメラーゼ連鎖反応及び第2のポリメラーゼ連鎖反応を行い、他の実験条件は、実施例4-1と同じ条件でPCRを行った。
【0096】
【表16】
【0097】
<4-4>基準濃度のtemplateを用いた標準PCR反応
Template DNA(T790M)の濃度を0とし、他の実験条件は、実施例4-1と同じ条件でPCRを行った。
【0098】
図11は、本発明の一実施例によるPCR産物の電気泳動画像である。図11の(1)は実施例4-1による結果であり、(2)は実施例4-2による結果を、(3)は実施例4-3による結果を、(4)は実施例4-4による結果を示す。図11を参照すると、(1)では110bpで蛍光を示し、(2)では131bp付近でbandが現れ、(4)ではbandが現れなかった。これに基づいて(3)を判断すると、110bpで弱く、131bp付近で強くbandが現れ、110bp、131bpサイズの産物をすべて生成したことが分かる。すなわち、(1)及び(2)ではそれぞれ一つの産物のみ合成できることが、(3)では(1)、(2)の産物がすべて合成されることが分かる。
【0099】
図11の前記(1)では第1のポリメラーゼ連鎖反応で第2のリバースプライマーが活性化されず、第1の産物110bpのみが形成されるものであり、(2)では第1のリバースプライマーが高い温度のため非活性化されて第2の産物131bpのみが合成される。一方、図11の(3)では、第1のポリメラーゼ連鎖反応が10cycle、第2のポリメラーゼ連鎖反応が30cycleの間行われたため、行われたcycleに比例した遺伝子のbandが共存することが確認できる(110bp、131bp)。本発明の実施例である4-3によれば、各ポリメラーゼ連鎖反応のアニーリング温度で活性化できるプライマーを設計し、第1のポリメラーゼ連鎖反応では第1のフォワードプライマー及び第1のリバースプライマーが、第2のポリメラーゼ連鎖反応では第1のフォワードプライマー及び第2のリバースプライマーが活性化され、それによって第1の産物及び第2の産物の両方が形成されたことが分かる。
【0100】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることが理解できるだろう。したがって、以上で述べた実施例は、すべての点で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0101】
10:鋳型遺伝子
20:第1のフォワードプライマー
21:第1の産物
30:第1のリバースプライマー
40:第2のリバースプライマー
50:第3のリバースプライマー
60:プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】