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特表2023-542067触媒、有機-PGM-錯体を使用するそれらの合成、それらを含有するシステム、及び排気ガス処理のためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】触媒、有機-PGM-錯体を使用するそれらの合成、それらを含有するシステム、及び排気ガス処理のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/232 20060101AFI20230928BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230928BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230928BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20230928BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20230928BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230928BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B01J27/232 A
B01J37/02 301C
B01J35/02 H
B01J27/053 A
B01J37/03 Z
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503490
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(85)【翻訳文提出日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 GB2021052369
(87)【国際公開番号】W WO2022058717
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】62/706,943
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/201,411
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/260,450
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】林 大次郎
(72)【発明者】
【氏名】藏重 亘
(72)【発明者】
【氏名】ムレサン、ニコレタ
(72)【発明者】
【氏名】長岡 修平
(72)【発明者】
【氏名】チャン、シアオルイ
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA17
3G091AB03
3G091BA14
3G091BA15
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4G169BC43B
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4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
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4G169EC28
4G169FA06
4G169FB08
4G169FB15
4G169FB16
4G169FB19
4G169FC02
(57)【要約】
三元触媒物品、及び内燃機関のための排気システムにおけるその使用が開示される。排気ガスを処理するための触媒物品であって、軸方向長さLを有する入口端部及び出口端部を含む、基材と、第1のパラジウム(Pd)成分及び第1のPd担体材料を含む、第1の触媒領域と、を含み、基材が、第1のPd成分を実質的に含まない、触媒物品。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスを処理するための触媒物品であって、
軸方向長さLを有する入口端部及び出口端部を含む、基材と、
第1のパラジウム(Pd)成分及び第1のPd担体材料を含む、第1の触媒領域と、を含み、前記基材が、前記第1のPd成分を実質的に含まない、触媒物品。
【請求項2】
前記第1の触媒領域が、第1の白金(Pt)成分を更に含み、前記第1のPt成分が、前記第1のPd担体材料上に少なくとも部分的に担持されており、前記基材が、前記第1のPt成分を実質的に含まない、請求項1に記載の触媒物品。
【請求項3】
前記第1のPd担体材料が、第1の酸素吸蔵能(OSC)材料、第1の無機酸化物、又はこれらの組み合わせである、請求項1又は2に記載の触媒物品。
【請求項4】
前記第1のOSC材料が、酸化セリウム、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせである、請求項3に記載の触媒物品。
【請求項5】
前記第1の無機酸化物が、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、ランタン、ネオジム、プラセオジム、酸化イットリウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物からなる群から選択される、請求項2又は3に記載の触媒物品。
【請求項6】
前記基材が、前記第1のPd成分を本質的に含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項7】
前記基材が、前記第1のPt成分を本質的に含まない、請求項2~6のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項8】
前記第1の触媒領域が、第1のアルカリ土類金属を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項9】
前記第1のアルカリ土類金属が、バリウム、又はストロンチウム、及びこれらの混合酸化物若しくは複合酸化物である、請求項8に記載の触媒物品。
【請求項10】
前記第1のアルカリ土類金属が、カーボネート又はスルフェートとして存在する、請求項8又は9に記載の触媒物品。
【請求項11】
前記第1のアルカリ金属が、スルフェートとして存在する、請求項8~10のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項12】
前記第1のアルカリ金属が、バリウムである、請求項8~11のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項13】
第2の触媒領域を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項14】
前記第2の触媒領域が、第2の白金族金属(PGM)成分を含む、請求項13に記載の触媒物品。
【請求項15】
前記第2のPGM成分が、白金、パラジウム、ロジウム、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項14に記載の触媒物品。
【請求項16】
前記第2の触媒領域が、第2のOSC材料及び/又は第2の無機酸化物を更に含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項17】
前記第1の触媒領域が、前記基材上に直接に担持/堆積されている、請求項1~16のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項18】
前記第2の触媒領域が、前記基材上に直接に担持/堆積されている、請求項13~16のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の触媒物品は、三元触媒(TWC)である。
【請求項20】
排気ガスを処理するための触媒物品を作製する方法であって、
a)白金族金属(PGM)イオンに配位した配位子を有するPGM錯体を溶解することと、
b)PGM錯体担体スラリーを作製することと、
c)a)の前記溶解されたPGM錯体を、b)の前記スラリーと混合することと、
d)c)の前記混合物を基材上にコーティングして、前記基材上に第1の触媒領域を形成することと、を含み、
前記配位子が、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、方法。
【請求項21】
前記PGMイオンが、Pd及び/又はPtである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記配位子が、グリオキシム又はグリオキシム誘導体である、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記配位子が、式(HO)N=C(R)-C(R)=N(OH)を有し、式中、R及びRが、各々独立して、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ若しくは任意選択的に置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であるか、又はR及びRが、一緒になって、環状アルキルを形成する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
c1)[c)の後、d)の前に]pHを調整して、c)からの前記混合物中の前記PGM錯体を沈殿させることを更に含む、請求項20~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項21~24のいずれか一項に記載の方法によって得られる、請求項1~19のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項26】
触媒物品を製造する方法であって、
少なくとも1つの白金族金属(PGM)のイオンと、担体材料と、前記少なくとも1つのPGMのイオンに配位するための配位子と、を含む、スラリーを提供することと、
前記スラリーを基材上に配置することと、
前記スラリーを加熱して、前記担体材料上に前記PGMのナノ粒子を形成することと、を含み、
前記配位子が、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、方法。
【請求項27】
前記PGMが、パラジウム(Pd)及び/又は白金(Pt)を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
スラリーを提供することが、
a)前記少なくとも1つのPGMのイオンと、前記担体材料と、を含む、第1のスラリーを提供することと、
b)前記スラリーに前記配位子を添加することと、を含む、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記スラリーを基材上に配置する前に、前記スラリーのpHを調整して、前記PGMと前記配位子との錯体を沈殿させるステップを更に含む、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記スラリーのpHが、約4~約6の値に調整される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
pH調整前の前記スラリーのpHが、少なくとも8である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ステップb)が、前記配位子を前記スラリーに、前記配位子の粉末の形態で添加することを含む、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記配位子が、グリオキシム又はグリオキシム誘導体である、請求項26~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記配位子が、式(HO)N=C(R)-C(R)=N(OH)を有し、式中、R及びRが、各々独立して、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ若しくは任意選択的に置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であるか、又はR及びRが、一緒になって、環状アルキルを形成する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記配位子が、ジメチルグリオキシムである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記担体材料が、酸素吸蔵能(OSC)材料、無機酸化物、又はこれらの組み合わせを含む、請求項26~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記OSC材料が、酸化セリウム、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記無機酸化物が、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、ランタン、ネオジム、プラセオジム、酸化イットリウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物のうちの1つ以上からなる群から選択される無機酸化物を含む、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
前記スラリーが、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、ランタン、ネオジム、プラセオジム、酸化イットリウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物からなる群から選択される更なる無機酸化物を含む、請求項26~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記更なる無機酸化物が、アルミナを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記OSC材料及び/又は無機酸化物が、ドープされる、請求項36~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記OSC材料及び/又は無機酸化物が、ランタン、ネオジム、イットリウム、ニオブ、プラセオジム、ハフニウム、モリブデン、チタン、バナジウム、亜鉛、カドミウム、マンガン、鉄、銅、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、セシウム、マグネシウム、カリウム、及びナトリウムのうちの1つ以上の酸化物、好ましくはランタン、ネオジム、プラセオジム、及びイットリウムのうちの1つ以上の酸化物、より好ましくはランタンの酸化物でドープされる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記ドーパントが、0.001重量%~20重量%、好ましくは0.5重量%~10重量%の量で、前記OSC材料及び/又は無機酸化物中に存在する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記スラリーが、アルカリ土類金属を更に含む、請求項26~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記アルカリ性土類金属が、バリウム、又はストロンチウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記アルカリ土類金属が、カーボネート又はスルフェートとして存在する、請求項44又は45に記載の方法。
【請求項47】
前記アルカリ土類金属が、スルフェートとして存在する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記アルカリ土類金属が、バリウムである、請求項44~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
ステップa)が、前記少なくとも1つのPGMのイオンと、前記担体材料と、アルカリ土類金属のカーボネート又はスルフェートと、を含む、第1のスラリーを提供することを含む、請求項28~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記スラリーのpHを調整して、前記PGMと前記配位子との錯体を沈殿させるステップの前に、塩基、好ましくは水酸化バリウムが、前記スラリーに添加される、請求項29に記載の方法。
【請求項51】
ステップa)が、少なくとも1つのPGMのイオンを含む水溶液を担体材料と接触させること、及び/又は前記少なくとも1つのPGMの塩を前記担体材料を含む第2のスラリーと接触させることを含み、好ましくは、前記第2のスラリーが、水性スラリーである、請求項28~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記少なくとも1つのPGMの前記塩が、硝酸PGMを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記スラリーが、結合剤及び増粘剤のうちの1つ以上を更に含む、請求項26~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記スラリーが、10~40%、好ましくは15~35%の固形分を有する、請求項26~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記スラリーを基材上に配置することが、前記スラリーを前記基材と接触させること、並びに任意選択的に、
前記基材に真空を適用すること、及び/又は
前記基材上の前記スラリーを乾燥させることを含む、請求項26~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記乾燥が、
60℃~200℃、好ましくは70℃~130℃の温度で、及び/又は
10~360分間、好ましくは15~60分間行われる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記基材が、コーディエライトを含む、請求項26~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記基材が、ハニカムモノリス、ウォールフローフィルタ、又はフロースルーフィルタの形態である、請求項26~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記加熱が、
400℃~700℃、好ましくは400℃~600℃、より好ましくは450℃~600℃の温度で、及び/又は
10~360分間、好ましくは35~120分間行われる、請求項26~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記加熱が、焼成を含む、請求項26~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記ナノ粒子が、0.1nm~25nm、好ましくは5~20nmの平均粒径を有する、請求項26~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
請求項26~61のいずれか一項に記載の方法によって得られた又は得ることができる触媒物品であって、排出物処理システムにおいて使用するためのものである、触媒物品。
【請求項63】
前記触媒物品が、請求項1~19のいずれか一項に記載のものである、請求項62に記載の触媒物品。
【請求項64】
三元触媒作用のための、請求項62又は63に記載の触媒物品。
【請求項65】
請求項1~19及び62~64のいずれか一項に記載の触媒物品を含む、排出物処理システム。
【請求項66】
ガソリンエンジンのための、請求項65に記載の排出物処理システム。
【請求項67】
前記ガソリンエンジンが、化学量論的条件下で作動する、請求項66に記載の排出物処理システム。
【請求項68】
排気ガスを処理するための方法であって、
請求項1~19及び62~64のいずれか一項に記載の触媒物品を提供することと、
前記触媒物品を排気ガスと接触させることと、を含む、方法。
【請求項69】
前記排気ガスが、ガソリンエンジンからのものである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記ガソリンエンジンが、化学量論的条件下で作動する、請求項69に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンエンジンからの排気ガス排出物を処理するのに有用な触媒物品に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、炭化水素(hydrocarbon、HC)、一酸化炭素(carbon monoxide、CO)、及び窒素酸化物(nitrogen oxide、NO)を含む、様々な汚染物質を含有する排気ガスが生成される。排気ガス触媒的転化触媒を含む排出量制御システムは、大気に排出されるこれらの汚染物質の量を低減するために広く利用されている。ガソリンエンジンの排気処理に通常使用される触媒は、TWC(three way catalyst)(三元触媒)である。TWCにより、次の3つの主な役割:(1)COの酸化、(2)未燃HCの酸化、及び(3)NOの還元を行う。
【0003】
TWC技術の進歩にもかかわらず、特に、ビークルの運転中に殆どの排出物が発生するコールドスタート段階での性能を改善する、特定のエンジンプラットフォームのための改善された触媒コンバータに対するニーズが残っている。本発明は、Pd分散の向上及びTWC生成物中のPdの適切な位置の制御を通じてその問題を解決する。
【発明の概要】
【0004】
本開示の1つの態様は、排気ガスを処理するための触媒物品であって、軸方向長さLを有する、入口端部と出口端部とを含む、基材と、第1のパラジウム(palladium、Pd)成分及び第1のPd担体材料を含む第1の触媒領域であって、基材が第1のPd成分を実質的に含まない、第1の触媒領域と、を含む、触媒物品に関する。
【0005】
本開示の別の態様は、排気ガスを処理するための触媒物品を作製する方法であって、a)白金族金属(platinum group metal、PGM)イオンに配位した配位子を有するPGM錯体を溶解することと、b)PGM錯体担体スラリーを作製することと、c)a)の溶解されたPGM錯体を、b)中のスラリーと混合することと、d)c)の混合物を基材上にコーティングして、基材上に第1の触媒領域を形成することと、を含み、配位子が、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、方法に関する。
【0006】
本開示の別の態様は、触媒物品を製造する方法であって、少なくとも1つの白金族金属(PGM)のイオンと、担体材料と、少なくとも1つのPGMのイオンに配位するための配位子と、を含む、スラリーを提供することと、スラリーを基材上に配置することと、スラリーを加熱して担体材料上にPGMのナノ粒子を形成することと、を含み、配位子が、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、方法に関する。本発明はまた、本発明の三元触媒成分を含む、内燃機関のための排気システムも包含する。
【0007】
本発明はまた、内燃機関からの排気ガスの処理、特にガソリンエンジンからの排気ガスの処理も包含する。本方法は、排気ガスを本発明の三元触媒成分と接触させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】基材の軸方向長さLに対して100%の長さを有する第1の触媒領域を上層として含有し、第2の触媒領域が軸方向長さLの100%にわたって底層として延在している、本発明による一実施形態を示している。
図2】基材の軸方向長さLに対して100%の長さを有する第1の触媒領域を底層として含有し、第2の触媒領域が軸方向長さLの100%にわたって上層として延在している、本発明による一実施形態を示している。
図3】電子プローブ微量分析法(electron probe micro-analysis、EPMA)によって推定された、比較触媒A及び触媒B中の底層、上層、及び基材におけるPdの分布比を示している。
図4】電子プローブ微量分析法(EPMA)によって推定された、比較触媒E及び触媒F中の底層、上層、及び基材におけるPdの分布比を示している。
図5】電子プローブ微量分析法(EPMA)によって推定された、触媒I及び触媒J中の底層、上層、及び基材におけるPdの分布比を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ガソリンエンジン及び他のエンジンによって生成されるものなどの燃焼排気ガスの触媒処理、並びに関連する触媒組成物、触媒物品、及びシステムに関する。より具体的には、本発明は、車両排気システムにおけるNO、CO、及びHCの同時処理に関する。Pdは、TWC反応を促進するための重要な活性部位であるが、TWC生成物の製造のために、水溶性Pd及び/又はPtイオンは、ウォッシュコートのスラリー(すなわち、酸化物成分の混合物)中にPd及び/又はPtイオンを分散させるために、通常、使用されてきた。このプロセスは、ウォッシュコート中のPd及び/又はPtの位置を制御不能にして、他の触媒層への移動及び基材へのウィッキングを発生させる。本発明者らは、好適な有機配位子を使用してPd及び/又はPtイオンの活性沈殿が、Pdの移動及びウィッキングを効果的に抑制することができ、結果として排出制御性能が劇的に改善されることを発見した。本発明は、TWC生成物中で使用されるPGM量の低減のような、Pd及び/又はPtの有効利用を通して、将来予想されるより厳しい排出規制を満たす可能性を有する。
【0010】
本開示の1つの態様は、排気ガスを処理するための触媒物品であって、軸方向長さLを有する、入口端部と出口端部とを含む、基材と、第1のパラジウム(Pd)成分及び第1のPd担体材料を含む第1の触媒領域であって、基材が第1のPd成分を実質的に含まない、第1の触媒領域と、を含む、触媒物品に関する。
【0011】
第1の触媒領域は、好ましくは、第1の白金(platinum、Pt)成分を更に含み、第1のPt成分は、第1のPd担体材料上に少なくとも部分的に担持されており、基材は、第1のPt成分を実質的に含まない。特に、存在する場合、第1のPt成分及び第1のPd成分は、好ましくは、第1のPd担体材料上に一緒に少なくとも部分的に担持される。言い換えれば、第1のPt成分及び第1のPd成分の両方は、好ましくは、同じ担体材料上に少なくとも部分的に担持され、すなわち、両方が一緒に第1のPd担体材料の粒子の各々の上に担持される。
【0012】
第1の触媒領域
第1のPd担体材料は、第1の酸素吸蔵能(oxygen storage capacity、OSC)材料、第1の無機酸化物、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0013】
第1のOSC材料は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、第1のOSC材料は、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせを含む。セリア-ジルコニア混合酸化物は、ランタン、ネオジム、プラセオジム、酸化イットリウムなどのドーパントを、更に含むことができる。第1のOSC材料は、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分のための担体材料として(例えば、第1のPd及び/又はPt担体材料として)機能し得る。第1のPd担体材料は、存在する場合、Pd及びPtの両方を担持し得る。いくつかの実施形態では、第1のOSC材料は、セリア-ジルコニア混合酸化物及びアルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物を含む。
【0014】
第1の無機酸化物は、好ましくは、第2族、第3族、第4族、第5族、第13族、及び第14族の元素の酸化物である。第1の無機酸化物は、好ましくは、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、バリウム酸化物、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物からなる群から選択される。特に好ましくは、第1の無機酸化物は、アルミナ、ランタン-アルミナ、ジルコニア、又はマグネシア/アルミナ複合酸化物である。1つの特に好ましい第1の無機酸化物は、アルミナ又はランタン-アルミナである。
【0015】
第1のOSC材料及び第1の無機酸化物は、10:1以下、好ましくは、8:1又は5:1以下、より好ましくは、4:1又は3:1以下、最も好ましくは、2:1以下の重量比を有することができる。
【0016】
代替的に、第1のOSC材料と第1の無機酸化物とは、10:1~1:10、好ましくは、8:1~1:8又は5:1~1:5、より好ましくは4:1~1:4又は3:1~1:3、最も好ましくは2:1~1:2の重量比を有することができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、第1のOSC材料及び第1の無機酸化物は、2:1以下の重量比を有することができる。更なる実施形態では、第1のOSC材料及び第1の無機酸化物は、10:1以下の重量比を有することができる。別の更なる実施形態では、第1のOSC材料及び第1の無機酸化物は、20:1以上又は30:1以上の重量比を有することができる。更に別の更なる実施形態では、第1のOSC材料及び第1の無機酸化物は、40:1以上又は50:1以上の重量比を有することができる。
【0018】
第1の触媒領域は、第1のアルカリ又はアルカリ性土類金属を更に含み得る。
【0019】
第1のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、好ましくはバリウム又はストロンチウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物である。好ましくは、バリウム又はストロンチウムは、存在する場合、第1の触媒領域の総重量に基づいて、0.1~15重量%、好ましくは1~13重量%、より好ましくは2~12重量%のバリウム又はストロンチウム(BaO又はSrOとして計算)の量で充填される。
【0020】
好ましくは、バリウム又はストロンチウムは、炭酸塩(すなわち、BaCO又はSrCO)又は硫酸塩(すなわち、BaSO又はSrSO)として存在する。いくつかの実施形態では、バリウム又はストロンチウムは、BaSO又はSrSOとして存在する。ある特定の実施形態では、第1のアルカリ土類金属は、スルフェートとしてのBaである。他の実施形態では、第1のアルカリ土類金属は、スルフェートとしてのSrである。このような材料は、当該技術分野において既知の任意の方法、例えば、初期湿潤含浸又は噴霧乾燥によって実施することができる。より好ましくは、バリウム又はストロンチウムはスルフェートとして存在する。
【0021】
基材中の第1のPd成分及び/又は第1のPt成分に関して本明細書で使用される「実質的に含まない」という表現は、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分が、半量未満(例えば、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分全体の≦15重量%、好ましくは≦10重量%、より好ましくは≦6重量%、又は代替的に、基材中のPd及び/又はPtと、第1の触媒領域中の第1のPd成分及び/又は第1のPt成分との比が、≦1:6、好ましくは≦1:9、より好ましくは≦1:15である)で、第1の触媒領域から基材中へ移動した、ことを意味している。
【0022】
本出願を通して、異なる領域及び/又は基材中のPd及び/又はPt量は、電子プローブ微量分析法(EPMA)によって測定することができる。
【0023】
基材は、第1のPd成分を本質的に含まない場合がある。基材は、第1のPt成分を本質的に含まない場合がある。
【0024】
基材中の第1のPd成分及び/又は第1のPt成分に関して本明細書で使用される「本質的に含まない」という表現は、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分が、半量未満(例えば、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分全体の≦7重量%、好ましくは≦5重量%、より好ましくは≦2重量%、又は代替的に、基材中のPd及び/又はPtと、第1の触媒領域中の第1のPd成分及び/又は第1のPt成分との比が、≦1:10、好ましくは≦1:20、より好ましくは≦1:30である)で、第1の触媒領域から基材中へ移動した、ことを意味している。
【0025】
以下の実施例に明示されるように、この態様における触媒物品は、ガソリンエンジンによって生成された排気ガスを処理するためのTWC触媒として適用することができる。
【0026】
第1の触媒領域の総ウォッシュコート担持量は、3.5g/in未満、好ましくは、3.0g/in又は2.5g/in未満であり得る。代替的に、第1の触媒領域の総ウォッシュコート担持量は、0.5~3.5g/in、好ましくは、0.6~3g/in又は0.7~2.5g/inであり得る。
【0027】
第2の触媒領域
触媒物品は、第2の触媒領域を更に含み得る。
【0028】
第2の触媒領域は、第2のPGM成分、第2の酸素吸蔵能(OSC)材料、第2のアルカリ若しくはアルカリ性土類金属成分、及び/又は第2の無機酸化物を更に含むことができる。
【0029】
第2のPGM成分は、白金、パラジウム、ロジウム、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、第2のPGM成分は、Pd、Rh、又はこれらの混合物であり得る。いくつかの実施形態では、第2のPGM成分は、Rh、Pt、又はこれらの混合物であり得る。更なる実施形態では、第2のPGM成分は、Rhであり得る。
【0030】
第2のOSC材料は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、第2のOSC材料は、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせを含む。加えて、第2のOSC材料は、ランタン、ネオジム、プラセオジム、イットリウムなどのようなドーパントのうちの1つ以上を更に含み得る。更に、第2のOSC材料は、第2のPGM成分に対する担体材料としての機能を有し得る。いくつかの実施形態では、第2のOSC材料は、セリア-ジルコニア混合酸化物及びアルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物を含む。
【0031】
セリア-ジルコニア混合酸化物は、少なくとも50:50、好ましくは、60:40超、より好ましくは、70:30超のジルコニア対セリアの重量比を有することができる。代替的に、セリア-ジルコニア混合酸化物はまた、50:50未満、好ましくは、40:60未満、より好ましくは、30:70未満のセリア対ジルコニアの重量比を有することができる。
【0032】
第2のOSC材料(例えば、セリア-ジルコニア混合酸化物)は、第2の触媒領域の総ウォッシュコート担持量に基づいて、10~90重量%、好ましくは、25~75重量%、より好ましくは、30~60重量%であり得る。
【0033】
第2の触媒領域における第2のOSC材料担持量は、2g/in未満であり得る。いくつかの実施形態では、第2の触媒領域における第2のOSC材料担持量は、1.5g/in、1.2g/in、1g/in、0.8g/in、又は0.7g/in以下である。
【0034】
第2のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、好ましくはバリウム、ストロンチウム、これらの混合酸化物又は複合酸化物である。好ましくは、バリウム又はストロンチウムは、存在する場合、第2の触媒領域の総重量に基づいて、0.1~15重量%、より好ましくは3~10重量%のバリウム又はストロンチウムの量である。
【0035】
第2のアルカリ金属又はアルカリ土類金属はストロンチウムであることが更により好ましい。ストロンチウムは、存在する場合、第2の触媒領域の総重量に基づいて、好ましくは0.1~15重量%、より好ましくは3~10重量%の量で存在する。
【0036】
また、第2のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、バリウム及びストロンチウムの混合酸化物又は複合酸化物であることが好ましい。好ましくは、バリウム及びストロンチウムの混合酸化物又は複合酸化物は、第2の触媒領域の総重量に基づいて、0.1~15重量%、より好ましくは3~10重量%の量で存在する。第2のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、バリウム及びストロンチウムの複合酸化物であることがより好ましい。
【0037】
好ましくは、バリウム又はストロンチウムはBaCO又はSrCOとして存在する。このような材料は、当該技術分野において既知の任意の方法、例えば、初期湿潤含浸又は噴霧乾燥によって実施することができる。
【0038】
第2の無機酸化物は、好ましくは、第2族、第3族、第4族、第5族、第13族、及び第14族の元素の酸化物である。第2の無機酸化物は、好ましくは、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、バリウム酸化物、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物からなる群から選択される。特に好ましくは、第2の無機酸化物は、アルミナ、ランタン-アルミナ、ジルコニア、又はマグネシア/アルミナ複合酸化物である。1つの特に好ましい第2の無機酸化物は、アルミナ又はランタン-アルミナである。
【0039】
第2のOSC材料と第2の無機酸化物とは、10:1以下、好ましくは、8:1又は5:1以下、より好ましくは、4:1又は3:1以下、最も好ましくは、2:1以下の重量比を有することができる。
【0040】
代替的に、第2のOSC材料と第2の無機酸化物とは、10:1~1:10、好ましくは、8:1~1:8又は5:1~1:5、より好ましくは4:1~1:4又は3:1~1:3、最も好ましくは2:1~1:2の重量比を有することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、第2のOSC材料及び第2の無機酸化物は、2:1以上の重量比を有することができる。更なる実施形態では、第2のOSC材料及び第2の無機酸化物は、10:1以上の重量比を有することができる。別の更なる実施形態では、第2のOSC材料及び第2の無機酸化物は、20:1以上又は30:1以上の重量比を有することができる。更に別の更なる実施形態では、第2のOSC材料及び第2の無機酸化物は、40:1以上又は50:1以上の重量比を有することができる。
【0042】
第2の触媒領域の総ウォッシュコート担持量は、3.5g/in未満、好ましくは、3.0g/in又は2.5g/in未満であり得る。代替的に、第1の触媒領域の総ウォッシュコート担持量は、0.5~3.5g/in、好ましくは、0.6~3g/in又は0.7~2.5g/inであり得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、第1の触媒領域は、基材上に直接担持/堆積され得る。
【0044】
特定の実施形態では、第2の触媒領域は、基材上に直接担持/堆積され得る。第2の触媒領域は、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分を実質的に含まない場合がある。第2の触媒領域中の第1のPd成分及び/又は第1のPt成分に関して本明細書で使用される「実質的に含まない」という表現は、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分が、半量未満(例えば、第1のPd成分及び/又は第1のPt成分全体の≦20重量%、好ましくは≦10重量%、より好ましくは≦7重量%、又は代替的に、第2の触媒領域中のPd及び/又はPtと、第1の触媒領域中の第1のPd成分及び/又は第1のPt成分との比が≦1:4、好ましくは≦1:9、より好ましくは≦1:10、≦1:12、又は更に≦1:15)で、第1の触媒領域から第2の触媒領域に移動した、ことを意味している。
【0045】
基材
好ましくは、基材は、フロースルーモノリスである。代替的に、基材は、ウォールフローフィルタであり得る。
【0046】
フロースルーモノリス基材は、第1の面と、第2の面と、を有し、それらの間に長手方向を画定する。フロースルーモノリス基材は、第1の面と第2の面との間に延在する、複数のチャネルを有する。複数のチャネルは、長手方向に延在し、複数の内側表面(例えば、各チャネルを画定するウォールの表面)を提供する。複数のチャネルの各々は、第1の面にある開口部と、第2の面にある開口部と、を有する。誤解を回避するために、フロースルーモノリス基材はウォールフローフィルタではない。
【0047】
第1の面は、典型的には基材の入口端部にあり、第2の面は基材の出口端部にある。
【0048】
チャネルは、一定の幅のものであり得、各複数のチャネルは、均一なチャネル幅を有し得る。
【0049】
好ましくは、長手方向に直交する平面内で、モノリス基材は、1平方インチ当たり300~900のチャネル、好ましくは400~800のチャネルを有する。例えば、第1の面上において、開いている第1のチャネルと閉じている第2のチャネルとの密度は、1平方インチ当たり600~700チャネルである。チャネルは、矩形、正方形、円形、楕円形、三角形、六角形、又は他の多角形形状である断面を有することができる。
【0050】
モノリス基材は、触媒材料を保持するための担体として作用する。モノリス基材を形成するのに好適な材料としては、コーディエライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ムライト、スポジュメン、アルミナ-シリカマグネシア若しくはケイ酸ジルコニウムなどのセラミック様材料、又は多孔質の耐火金属が挙げられる。多孔質モノリス基材の製造におけるそのような材料及びそれらの使用は、当該技術分野において周知である。
【0051】
本明細書に記載のフロースルーモノリス基材は、単一構成要素(すなわち、単一のれんが状塊)であることに留意されたい。それにもかかわらず、排出物処理システムを形成する場合、使用される基材は、複数のチャネルを一緒に接着することによって、又は本明細書に記載のように複数のより小さい基材を一緒に接着することによって、形成され得る。このような技術は、排出物処理システムの好適なケーシング及び構成とともに、当該技術分野において周知である。
【0052】
本発明の触媒物品がセラミック基材を含む実施形態では、セラミック基材は、任意の好適な耐火材料、例えば、アルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア、マグネシア、ゼオライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、アルミノケイ酸塩及びメタロアルミノケイ酸塩(コーディエライト及びスポジュメンなど)、又はこれらのいずれか2つ以上の混合物若しくは混合酸化物で作製され得る。コーディエライト、マグネシウムアルミノケイ酸塩、及び炭化ケイ素が、特に好ましい。
【0053】
本発明の触媒物品が金属基材を含む実施形態では、金属基材は、任意の好適な金属、特にチタン及びステンレス鋼などの耐熱性金属及び金属合金、並びに鉄、ニッケル、クロム、及び/又はアルミニウムを他の微量金属に加えて含有するフェライト合金で作製され得る。
【0054】
本開示の別の態様は、本明細書に記載の触媒物品を使用する、NO、CO、及びHCを含有する、車両排気ガスの処理方法を対象とする。この方法に従って作製されたTWCを備えた触媒コンバータは、従来のTWC(同じPGM担持量を有する)と比較して改善された触媒特性を示し、またコールドスタート段階で特に改善された性能、及びより良好なTHCライトオフ性能も示す(例えば、実施例2~4、及び表3~6を参照されたい)。
【0055】
本開示の別の態様は、システムを通じて排気ガスを移送するための導管とともに本明細書に記載される触媒物品を含む、車両排気ガス処理用システムを対象とする。
【0056】
本開示の別の態様は、排気ガスを処理するための触媒物品を作製する方法であって、a)白金族金属(PGM)イオンに配位した配位子を有するPGM錯体を溶解することと、b)PGM錯体担体スラリーを作製することと、c)a)の溶解されたPGM錯体を、b)中のスラリーと混合することと、d)c)の混合物を基材上にコーティングして、基材上に第1の触媒領域を形成することと、を含み、配位子が、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、方法に関する。好ましくは、PGMイオンは、Pd及び/又はPtである。
【0057】
PGM錯体
「鎖状」配列を形成することができる錯体は、文献に記載されており、例えばDay(Chimica Acta Reviews,1969,81),Thomas and Underhill(Chem.Soc.Rev.1,99 1972);Kamata et al.(Mol.Cryst.Liq.Cryst.,1995,267,117)を参照されたい。
【0058】
これらの参考文献では、2つの主要な種類の化合物がそのような配列を形成することができることを記載している。これらは、金属グリオキシム、金属サリチルアルジミン、及びこれらの各々の誘導体である。これらの種類の化合物は、本発明での使用に特に好適であると予想される。これらの種類の化合物の各々は、二座配位子として機能し得る。グリオキシム系配位子は、2つのN原子によって中心金属原子に配位し、サリチルアルジミン系配位子は、1つのN原子及び1つのO原子を介して配位することができる。
【0059】
次に、金属グリオキシム、金属サリチルアルジミン、及びこれらのそれぞれの誘導体のより詳細な説明が、以下に続く。
【0060】
金属グリオキシム及びその誘導体
金属グリオキシム系化合物は、金属原子と、金属原子を囲む適切な数のグリオキシム又はグリオキシム誘導体とを含む。本発明では、金属は遷移金属であり、遷移金属イオンを囲むグリオキシム又はグリオキシム誘導体が(通常は2つ)存在する。このような化合物は、概して、実質的に正方形平面配列を形成する。
【0061】
本発明は、好ましくは、金属イオン含有化合物として金属グリオキシム又は金属グリオキシム誘導体、最も好ましくは金属グリオキシム誘導体を用いる。
【0062】
グリオキシムは、式Cを有する。これは、以下の構造を有する(1つの構造のみが示される):
【0063】
【化1】
【0064】
各グリオキシム分子の2個のN原子は、概して、得られる錯体中の中心金属イオンに配位する。
【0065】
本明細書で使用するとき、グリオキシム誘導体は、2つのC-H基の少なくとも1つの水素が、任意選択的に置換されたR基に置換されているグリオキシムである。したがって、グリオキシム誘導体は、式(HO)N=C(R)-C(R)=N(OH)によって記載することができる。
本発明において、R及びRの各々は、独立して、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ、又は任意選択的に置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基である。したがって、R及びRの各々がHである場合、グリオキシムとなる。R及びRのうちの1つがHではない場合は、グリオキシム誘導体となる。
好ましくは、R=R、すなわち、好ましくは、グリオキシム又はその誘導体は対称である。いくつかの好ましい実施形態では、R及びRは両方ともHではない。
【0066】
したがって、グリオキシム誘導体は、グリオキシム分子の炭素骨格に結合した水素の少なくとも1つ、好ましくは両方の代わりに、-R’OH、-R’COOH、又は任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアリール、若しくは任意選択的に置換されたヘテロアリール置換基を有することができる。本明細書において、「任意選択的に置換されたアルキル、アリール、又はヘテロアリール」という表現は、アルキルアリール又はヘテロアリール基の各々が任意選択的に置換され得ることを意味する。R’基は、以下に定義されるような単結合又はアルキル基を表す。
【0067】
好ましくは、グリオキシム誘導体は、任意選択的に置換されたアルキル、アリール、又はヘテロアリール基を有する。
【0068】
及び/又はRがアルキル基である場合、アルキルは、直鎖、分枝鎖、又は環状であり得る。環状アルキルは、R及び/又はRが独立して環状アルキル基である状況、並びにR及びRが互いに結合して、環状アルキルを形成する状況を包含する。直鎖又は分枝鎖アルキルは、C1~10アルキル、好ましくはC1~7アルキル、より好ましくはC1~3アルキルであり得る。特定の好ましい実施形態では、R及び/又はRは、Cアルキル(すなわちメチル)である。環状アルキル(シクロアルキルとも呼ばれる)は、C3~10シクロアルキル、好ましくはC5~7シクロアルキル、及びより好ましくはCシクロアルキルであり得る。
【0069】
最も好ましい実施形態では、R=R=Cアルキル。
【0070】
及び/又はRがアリールである場合、これは芳香族炭化水素を意味する。好適には、アリールは、C6~9芳香族基、例えば、フェニル基又はナフチル基を意味する。特に好ましいのは、フェニル(C)系アリール基である。
【0071】
及び/又はRがヘテロアリールである場合、これは、環原子のうちの1つ以上、好ましくは1つが、窒素、酸素、又は硫黄基である、芳香族炭化水素を意味する。好ましくは、環原子のうちの1つは、窒素又は酸素であり、特に好ましくは酸素である。ヘテロアリール基は、通常、ヘテロ原子を含む5~7個の環原子を含有する。好適なヘテロアリール基の例としては、ピリジン、ピラジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チオフェン及びフランが挙げられる。好ましい実施形態では、ヘテロアリール基は、フランである。ヘテロ原子は、任意の配向で配置することができるが、好ましくは、アルファ位に配置される。
【0072】
/R基の任意選択的な置換基は、独立して、典型的には、-R’OH、-R’COOH、又は非置換の直鎖若しくは分枝鎖のC1~10アルキル、C5~7アリール、若しくはC5~7ヘテロアリールである。R’は、上記で定義されたとおりである。好ましくは、任意選択的な置換基は、C1~10アルキルであり、最も好ましくはC1~5アルキルである。好ましくは、存在する場合、任意選択的な置換基のうちの1つのみが存在する。
【0073】
上記による好適なグリオキシム誘導体の例は、イソプロピルニオキシム、4-t-アミルニオキシム、ニオキシム、4-メチルニオキシム、ジメチルグリオキシム、エチルメチルグリオキシム、フリル-α-ジオキシム、3-メチルニオキシム、ベンジル-α-ジオキシム、ヘプトキシムである。
本明細書に記載される方法において特に好ましいのは、金属ジメチルグリオキシム(金属-DMG)(metal dimethylglyoximeである。ジメチルグリオキシムは、以下の構造を有する:
【0074】
【化2】
【0075】
典型的には、上記によれば、正方形平面構成で各金属中心を囲む2つのDMG分子が存在する。例えば、Pdが中心イオンであり、グリオキシム誘導体がDMGである場合、ビス(ジメチルグリオキシマト)パラジウム(II)は、金属グリオキシム誘導体の前駆体であり、
【0076】
【化3】
【0077】
異なる種類のグリオキシム又は誘導体を使用して、同じ金属を提供することができる。例えば、Pd源は、Pd-DMG及びPd-ニオキシムであり得る。典型的には、1種類のグリオキシム又はその誘導体のみを使用して、単一の種類の金属が提供される。異なる種類のグリオキシム又はその誘導体は、同じ錯体、例えば、Pd-DMG-ニオキシム中に存在することができるが、これは典型的なものではない。
【0078】
2つ以上の金属イオン含有化合物が存在し、2種類以上の金属イオン含有化合物がグリオキシム又はその誘導体である実施形態では、グリオキシム又はその誘導体は、各々の異なる種類の金属中心に関して同じである必要はない。例えば、Pd含有化合物は、Pd-DMGであり得るが、Pt含有化合物は、Pt-ニオキシムであり得る。しかしながら、典型的には、1つの金属グリオキシム又はその前駆体のみが、各種類の金属イオン、例えば、Pd-DMG及びPt-DMGに対して提供される。
【0079】
サリチルアルジミン及びその誘導体
サリチルアルジミン系化合物は、金属原子と、金属原子を囲む適切な数のサリチルアルジミン又はサリチルアルジミン誘導体と、を含む。本発明において、金属は遷移金属であり、遷移金属イオンを囲む2つのサリチルアルジミン又はサリチルアルジミン誘導体が存在する。好適な化合物は、実質的に正方形平面配列を有する。サリチルアルジミン含有錯体は、サリチルアルジミネート又はサリチルアルジミナート錯体として既知である場合があることに留意されたい。
【0080】
サリチルアルジミンは、式CNOを有する。これは、以下の構造を有する(1つの構造のみが示される):
【0081】
【化4】
【0082】
各サリチルアルジミン分子のN原子及びO原子の各々は、得られる錯体中の中心金属イオンに配位する。N原子は、通常、金属中心に配位したときに正電荷のものとして示される。
【0083】
本明細書で使用するとき、金属サリチルアルジミン誘導体は、これらのN原子及びO原子を介して中心金属イオンに配位された2つのサリチルアルジミン誘導体を有する錯体を意味する。本明細書で使用する場合、サリチルアルジミン誘導体は、N-H基の水素が任意選択的に置換された基Rに置換されているサリチルアルジミンであり、すなわち、それらは、N-メチル誘導体である。したがって、サリチルアルジミン誘導体は、式(R)N=CH-Ph-OHによって記載することができ、式中、Phは、フェニルを表し、OH基は、(R)N=CH基に対してオルト位に位置している。
【0084】
本発明において、Rは、H、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシ、又は任意選択的に置換されたアルキル、アリール、又はヘテロアリール基である。したがって、RがHの場合、サリチルアルジミンとなる。RがHでない場合、サリチルアルジミン誘導体となる。
【0085】
したがって、サリチルアルジミン誘導体は、N原子に結合したHの代わりに、-R’OH、-R’COOH、又は任意選択的に置換されたアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基を有することができる。R’基は、以下に定義されるような単結合又はアルキル基を表す。
【0086】
がアルキル基である場合、アルキルは、直鎖、分枝鎖、又は環状であり得る。直鎖又は分枝鎖アルキルは、C1~10アルキル、好ましくはC1~7アルキル、及びより好ましくはC1~3アルキルであり得る。特定の実施形態では、Rは、Cアルキル(すなわち、メチル)である。環状アルキル(シクロアルキルとも呼ばれる)は、C3~10シクロアルキル、好ましくはC5~7シクロアルキル、及びより好ましくはCシクロアルキルであり得る。
【0087】
がアリールである場合、これは芳香族炭化水素を意味する。好適には、アリールは、C6~9芳香族基、例えば、フェニル基又はナフチル基、好ましくはフェニル(C)系アリール基を意味する。
【0088】
がヘテロアリールである場合、これは、環原子のうちの1つ以上、好ましくは1つが、窒素、酸素、又は硫黄の基である、芳香族炭化水素を意味する。好ましくは、環原子のうちの1つは、窒素又は酸素であり、特に好ましくは酸素である。ヘテロアリール基は、通常、ヘテロ原子を含む5~7個の環原子を含有する。好適なヘテロアリール基の例としては、ピリジン、ピラジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チオフェン、及びフランが挙げられる。好ましい実施形態では、ヘテロアリール基は、フランである。ヘテロ原子は、任意の配向で配置することができるが、好ましくは、アルファ位に配置される。
【0089】
基の任意選択的な置換基は、典型的には-R’OH、-R’COOH、又は非置換の直鎖若しくは分枝鎖のC1~10アルキル、C5~7アリール、若しくはC5~7ヘテロアリールである。R’は、上記で定義されたとおりである。好ましくは、任意選択的な置換基は、C1~10アルキルであり、最も好ましくはC1~5アルキルである。好ましくは、存在する場合、任意選択的な置換基のうちの1つのみが存在する。
【0090】
最も好ましくは、サリチルアルジミン誘導体において、Rは、非置換アルキル又はアリールであり、及び最も好ましくは非置換アルキルである。最も好ましい実施形態では、Rは、Cアルキルである。
【0091】
上記による特に好適なサリチルアルジミン誘導体は、N-メチルサリチルアルジミンである。
【0092】
グリオキシム系金属イオン含有化合物と同様に、異なる種類のサリチルアルジミン又は誘導体を使用して、同じ金属を提供することができる。典型的には、1種類のサリチルアルジミン又はその誘導体のみを使用して、単一の種類の金属が提供される。
【0093】
グリオキシム系金属イオン含有化合物のように、2種類以上の金属イオン含有化合物が、サリチルアルジミン又はその誘導体である場合、サリチルアルジミン又はその誘導体は、各々の異なる種類の金属中心に対して同じである必要も、単一の錯体中で同じである必要もない。しかしながら、典型的には、1種類の金属サリチルアルジミン又はその前駆体のみが、各種類の金属イオンに対して、単一の錯体で提供される。
【0094】
また、少なくとも1つの金属が金属サリチルアルジミン系化合物によって提供され、少なくとも1つの金属が金属グリオキシム系化合物によって提供される実施形態も想定される。
【0095】
PGM金属中心
PGMは、白金、パラジウム、ロジウム、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、PGMは、Pd、Rh、又はこれらの混合物であり得る。いくつかの実施形態では、PGMは、Rh、Pt、又はこれらの混合物であり得る。いくつかの実施形態では、PGMは、Pd、Pt、又はこれらの混合物であり得る。いくつかの実施形態では、PGMは、Rhであり得る。いくつかの実施形態では、PGMは、Ptであり得る。いくつかの実施形態では、PGMは、Pdであり得る。
【0096】
PGM錯体の提供
PGM錯体は、直接購入することができる。代替的に、それらは、当業者に既知の方法を用いて前駆体から合成され得る。
【0097】
グリオキシム又はその誘導体の例として、前駆体からの合成は、概ね、ジメチルグリオキシム(dimethylglyoxime、DMG)などのグリオキシム系配位子を金属塩と組み合わせること、及び溶液、典型的には水溶液を形成することを伴う。金属グリオキシム又はその誘導体の沈殿物が結果として得られる。
【0098】
典型的には、約1:2の金属対配位子比が使用される。範囲は、1:10~1:2、例えば、1:5~1:2であり得る。金属の割合が高くなることは、コストがかかるため、あまり好ましくない。
【0099】
一例として、ビス(ジメチルグリオキシマト)パラジウム(II)を調製するための例示的なアプローチは、以下のとおりである:
【0100】
【化5】
【0101】
沈殿する金属グリオキシム又はその誘導体は、適切な方法、例えば濾過及び/又は洗浄及び/又は乾燥によって、精製することができる(すなわち、溶液の他の成分から分離することができる)。当業者は、好適な精製ステップを認識しているであろう。
【0102】
好適なPGM金属塩は、当業者には既知であるが、非限定的な例としては、金属ハロゲン化物、金属硝酸塩、及び金属酢酸塩から選択される1つ以上のものが挙げられ得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、グリオキシム含有溶液は、撹拌及び/又は加熱される前に酸性化される。当業者は、選好に応じて弱く又は強くあり得る、好適な酸の中から選択することができる。典型的には、酸は、有機物である。非限定的な例としては、ギ酸又は酢酸などのカルボン酸が挙げられ得る。
【0104】
好ましくは、本明細書に記載の方法では、1つ以上のPGM錯体の粉末を溶媒に添加して、溶解したPGM錯体を含有する溶液を形成することができる。2種類以上のPGM錯体が使用される場合、それらは別個の溶液として(かつ、必要とされる場合、異なる溶媒を使用して)提供することができ、別個の溶液が後に組み合わされるか、又はそれらが単一の溶液中に一緒に溶解され得るようにする。好適な溶媒としては、水(及び水溶液)、並びに極性有機溶媒が挙げられる。好適な極性有機溶媒の例としては、DMF及びDMSOが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。好適な溶媒の混合物が使用され得る。好ましくは、溶媒は、水性である。水溶液の形成は、安全性及び製造の観点から有利であり得る。
【0105】
いくつかの好ましい実施形態では、PGM錯体(特に金属グリオキシム又はその誘導体)は、塩基を添加することによって水溶液を形成するように溶解され得る。好適には、金属イオン含有化合物を含有する溶液は、アルカリ性である。pHは、好ましくは8超、例えば9である。好適な塩基は、当業者には既知であるが、例えば、アンモニウムヒドロキシド及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどのアンモニウム派生物、又はナトリウムヒドロキシド及びカリウムヒドロキシドが挙げられる。
【0106】
全般的に、上記のように調製されたPGM錯体の溶液は、PGM錯体担体と組み合わせることができる。PGM錯体担体は、必要とされる場合、別の相溶性の液体中に存在することができる。したがって、それは、好適には、液体中において、懸濁液又は分散液であり得る。したがって、この更なる液体は、好ましくは極性であり、最も好ましくは水性である。水性又は極性の液体は、PGM錯体の溶解を助けることが予想される。
【0107】
PGM錯体担体材料は、酸素吸蔵能(OSC)材料、無機酸化物、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0108】
OSC材料は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせであり得る。より好ましくは、OSC材料は、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせを含む。セリア-ジルコニア混合酸化物は、ランタン、ネオジム、プラセオジム、酸化イットリウムなどのドーパントを更に含むことができる。いくつかの実施形態では、OSC材料は、セリア-ジルコニア混合酸化物及びアルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物を含む。
【0109】
無機酸化物は、好ましくは、第2族、第3族、第4族、第5族、第13族、及び第14族の元素の酸化物である。無機酸化物は、好ましくは、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、バリウム酸化物、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物からなる群から選択される。特に好ましくは、無機酸化物は、アルミナ、ランタン-アルミナ、ジルコニア、又はマグネシア/アルミナ複合酸化物である。1つの特に好ましい無機酸化物は、アルミナ又はランタン-アルミナである。
【0110】
PGM錯体担体スラリーは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を更に含むことができる。アルカリ又はアルカリ性土類金属は、好ましくはバリウム、又はストロンチウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物である。好ましくは、バリウム又はストロンチウムは、存在する場合、第1の触媒領域の総重量に基づいて、0.1~15重量%、より好ましくは3~10重量%のバリウム又はストロンチウムの量で充填されている。好ましくはバリウム又はストロンチウムは、BaCO又はSrCOとして存在する。このような材料は、当該技術分野において既知の任意の方法、例えば、初期湿潤含浸又は噴霧乾燥によって実施することができる。
【0111】
PGM錯体は、担体と好適に混合される。好適な方法は当業者には既知であるが、例えば、適切な量の各所望のPGM錯体を担体と一緒に組み合わせて、PGM錯体の混合物、好ましくは金属グリオキシム又はその誘導体の混合物を形成することが可能である。
【0112】
d)における好適なコーティング方法は、当業者に周知である。(例えば、米国特許第6,599,570号によるJohnson Matthey’s「Precision Coating」technology)c)で得られた混合物は、好適なウォッシュコートとして好適な基材に適用することができる。
【0113】
本方法は、c1)[c)の後、d)の前]pHを調整して、c)からの混合物中のPGM錯体を沈殿させることを更に含むことができる。好適な沈殿方法は、pHを酸性から塩基性に調整することを含む。
【0114】
本方法は、e)基材上の第1の触媒領域を焼成することを更に含むことができる。好適な焼成方法はまた、当業者に周知である(例えば、500℃)。
【0115】
本開示の第1の態様に記載される触媒物品は、この態様において記載される方法によって、得る/作製することができる。
【0116】
更なる態様では、本発明は、触媒物品を製造する方法を提供し、方法は、
少なくとも1つの白金族金属(PGM)のイオンと、担体材料と、少なくとも1つのPGMのイオンに配位するための配位子と、を含む、スラリーを提供することと、
スラリーを基材上に配置することと、
スラリーを加熱して、担体材料上にPGMのナノ粒子を形成することと、を含み、
配位子は、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される。
【0117】
本明細書において定義される各態様又は実施形態は、別途明確に示されていない限り、任意の他の態様又は実施形態と組み合わされ得る。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の特徴と組み合わせ得る。
【0118】
本発明者らは、好適な有機配位子を使用してPd及び/又はPtイオンの活性沈殿が、Pdの移動及びウィッキングを効果的に抑制することができ、結果として排出制御性能が劇的に改善され得ることを発見した。本発明は、TWC生成物中で使用されるPGM量の低減のような、Pd及び/又はPtの有効利用を通して、将来予想されるより厳しい排出規制を満たす可能性を有する。
【0119】
特に、驚くべきことに、排出物処理システムにおいて使用される場合、本態様の方法によって製造された触媒物品は、例えば、硝酸パラジウム前駆体を使用する従来の方法と比較して、PGMの移動及びウィッキングを効果的に抑制し得る。その結果として、排出制御性能を劇的に改善することができる。理論に束縛されるものではないが、これは、本明細書に記載される配位子の使用に起因する可能性があり、配位子は、PGMナイトレートの使用又は他の従来の方法と比較して、担体材料とPGM種との間の相互作用の強度を増加させ得る、と仮定される。例えば、スラリーは、本明細書に記載されるように、1つ以上のPGMと、配位子のうちの1つ以上との錯体を含み得る。そのような錯体は、in situで形成され得るか、又は、例えば、すなわちPGM前駆体として、予め形成されたスラリーに添加され得る/含まれ得る。そのような錯体は、例えば、担体材料と、静電力、水素結合、配位結合、共有結合、及び/又はイオン結合などの吸引相互作用を形成し得る。
【0120】
更に、驚くべきことに、(独立して、又は上記の利点の結果としてのいずれかで)排出物処理システムにおいて使用される場合、本態様の方法によって製造された触媒物品は、同等又は改善されたCO、HC、及びNOの変換、並びにまた同等又は改善されたライトオフ性能を示し得ることも見出された。
【0121】
本明細書で使用される「触媒物品」という用語は、触媒がその上又はその中に担持されている物品を包含し得る。物品は、好ましくは、例えば、ハニカムモノリス、又はフィルタ、例えば、好ましくはウォールフローフィルタ又はフロースルーフィルタの形態を採り得る。触媒物品は、排出物処理システム、特にガソリンエンジン、好ましくは化学量論的ガソリンエンジンのための排出物処理システムにおいて使用するためのものであり得る。触媒物品は、三元触媒作用において使用するためのものであり得る。言い換えれば、触媒物品はTWC物品であり得る。
【0122】
本明細書で使用される「スラリー」という用語は、不溶性材料、例えば、不溶性粒子を含む液体を包含し得る。スラリーは、(1)溶媒と、(2)可溶分、例えば、遊離PGMイオン(すなわち、担体の外側)と、(3)不溶分、例えば、担持粒子と、を含み得る。スラリーは、基材上に材料を配置する際に、特にガスの拡散を最大化し、触媒変換中の圧力降下を最小化するために、特に有効である。スラリーは、典型的には撹拌され、より典型的には少なくとも10分間、より典型的には少なくとも30分間、更により典型的には少なくとも1時間、撹拌される。スラリーの撹拌は、例えば、基材上にスラリーを配置する前に行われ得る。スラリーは、配位子の添加の前及び/又は後に撹拌され得る。配位子の添加後に行う撹拌は、例えば、PGMと配位子との錯体が確実に形成される十分な機会を与えるのに役立ち得る。したがって、スラリーは、典型的には、担持された担体材料を含む(すなわち、担体材料は、好ましくは担持された担体材料である)。本明細書で使用される「担持された担体材料(loaded support material)」という用語は、その上に(例えば、高表面積金属酸化物担体材料の表面上に)担持された、及び/又はその中に(例えば、ゼオライト担体材料の細孔内に)担持されたPGMイオンを有する担体材料を包含し得る。PGMイオンは、典型的には、例えば、静電力、水素結合、配位結合、共有結合、及び/又はイオン結合によって担体に固定される。担体材料は、好ましくは、他の態様に関する本明細書に記載の第1のPd担体材料である。
【0123】
配位子は、少なくとも1つのPGMのイオンに配位するためのものであり、すなわち、それに好適な配位子である。本明細書で使用される「配位子」という用語は、例えば、スラリーに添加することができ、1つ以上のPGMイオンと錯体を形成し得る中性状態の化合物(すなわち、スラリー中で形成し得る錯体における配位子の形態への前駆体)と、スラリー中で形成し得る錯体内に含有される配位子それ自体(例えば、配位子化合物の陰イオン又は共役塩基)との両方を包含するように互換的に使用される。言い換えれば、本明細書で使用される「配位子」という用語は、少なくとも1つのPGMのイオンに配位するための化合物の任意の形態、例えば、文脈に応じて、配位子への中性前駆体、又はその共役塩基を包含する。当業者は、文脈から、この用語のいずれの使用を暗示しているかについて容易に理解するであろう。例えば、配位子の固体粉末は、配位子の中性形態、すなわち、配位子前駆体を指している場合であり、スラリー内に含まれる配位子は、その共役塩基の形態であり得る。スラリー中で形成され得る錯体及びその中の配位子の形態は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0124】
スラリーを基材上に配置することは、当該技術分野で既知の技術を使用して行うことができる。典型的には、スラリーは、所定の量で特定の成形ツールを使用して基材の入口に注入され、それによって、担持される担体材料を基材上に配置することができる。以下でより詳細に考察されるように、後続の真空及び/又はエアナイフ及び/又は乾燥ステップが、配置ステップ中に用いられ得る。担体がフィルタブロックである場合、担持された担体材料は、フィルタ壁上、フィルタ壁内(多孔性の場合)、又はその両方に配置され得る。
【0125】
スラリーの加熱は、典型的にはオーブン又は炉、より典型的にはベルト又は静的オーブン(static oven)又は炉において、典型的には一方向からの特定の流れの熱風中で行われる。加熱は、焼成を含み得る。加熱は、乾燥も含み得る。乾燥及び焼成ステップは、連続的又は逐次的であり得る。例えば、基材が既にウォッシュコーティングされ、前のウォッシュコーティングと一緒に乾燥させた後に、別個のウォッシュコーティングが適用され得る。ウォッシュコーティングされた基材はまた、コーティングが完了したら、1つの連続的な加熱プログラムを使用して乾燥及び焼成され得る。加熱中に、溶液中で形成され得る任意の錯体は、少なくとも部分的に、実質的に、又は完全に分解し得る。言い換えれば、そのような錯体の配位子、例えば有機化合物の配位子は、PGMイオンから少なくとも部分的に、実質的に、又は完全に除去又は分離され得、最終触媒物品から除去され得る。次いで、そのように分離されたパラジウムの粒子は、金属-金属結合及び金属-酸化物結合を形成し始めることができる。加熱(焼成)の結果として、基材は、典型的には有機化合物を実質的に含まず、より典型的には有機化合物を完全に含まない。
【0126】
本明細書で使用される「ナノ粒子」という用語は、TEMによって測定される0.01nm~100nmの直径を有する粒子を包含し得る。ナノ粒子は、任意の形状、例えば、球形、プレート、立方体、円筒形、六角形、又はロッドであってよいが、典型的には球形である。
【0127】
加熱ステップの後、基材は、典型的には冷却され、より典型的には室温まで冷却される。冷却は、典型的には、冷却剤/冷却媒体を用いて又は用いずに、典型的には冷却剤を用いずに、空気中で行う。
【0128】
PGMは、好ましくはパラジウム(Pd)及び/又は白金(Pt)、より好ましくはPd、又はPd及びPtを含む。PGMは、好ましくは、Pd及び/若しくはPt、より好ましくはPd、若しくはPd及びPtから本質的になるか、又は更にそれらからなる。言い換えれば、少なくとも1つのPGMのイオンは、Pd及び/若しくはPtのイオン、より好ましくはPd、若しくはPd及びPtのイオンを、含むか、から本質的になるか、又は更にそれらからなる。
【0129】
PGMがPd及びPtを、含むか、から本質的になるか、又はそれらからなる場合、Pt対Pdモル比は、好ましくは約5:95~約50:50である。言い換えれば、PGMは、Pt及びPdの総モル数に基づいて、好ましくは約5~約50mol.%のPtを有する。したがって、PGMがPt及びPdからなる場合、PGMは、PGMの総モル数に基づいて、好ましくは約5~約50mol.%のPtを含む。
【0130】
PGMがPd及びPtを、含むか、から本質的になるか、又はそれらからなる場合、Pt対Pdのモル比は、好ましくは約5:95~約25:75、より好ましくは約7:93~約20:80、更により好ましくは約9:91~約15:85、なお更により好ましくは約9:91~約12:88、及び最も好ましくは約10:90、例えば、好ましくは、約7:93~約15:85、約7:93~約14:86、約7:93~約13:87、約7:93~約12:88、約7:93~約11:89、約8:92~約15:85、約8:92~約14:86、約8:92~約13:87、約8:92~約12:88、約8:92~約11:89、約9:91~約14:86、又は約9:91~約13:87のいずれかである。いくつかの好ましい実施形態では、Pt対Pdのモル比は、約9:91~約11:89であり得る。
【0131】
本発明者らはまた、驚くべきことに、置換が約10mol.%に近いことを見出した。TWC触媒などのPd含有触媒中のPtを有するPdは、本明細書に記載の改善された触媒性能を提供し得る一方で、PtとPdとの間の現在の価格差に起因して、より低コストの触媒組成物も提供する。
【0132】
驚くべきことに、排出物処理システムにおいて使用される場合、本態様の方法によって製造された触媒物品はまた、担体材料上の粒子の広がりに関して、かつPGMナノ粒子のより均一な粒径分布に関して、担体材料上により均一に、すなわちより均質に分布したPGMを提供し得る。理論に束縛されることを望むものではないが、そのような特性は、触媒物品全体にわたってより均一なレベルの触媒活性を提供することによって有利であり得、また、例えば、オストワルド熟成を制限することに起因して、老化時の失活を制限するのにも役立ち得ると仮定される。更に、2つ以上のPGMが使用される場合、例えば、そのような方法は、異なるPGMナノ粒子の相関(すなわち、例えば、異なるPGMの隣接するナノ粒子間の密接な相互作用の数)を有利に改善し得る。これは、2つ以上のPGMの合金のナノ粒子が担体材料上に形成され得る可能性を増加させ得る。
【0133】
PGMが、Pd及びPtの混合物を含むか、から本質的になるか、又はそれからなる場合、触媒物品中のPt及びPdは、好ましくは少なくとも部分的に合金化され、より好ましくは実質的に合金化され、更により好ましくは完全に合金化される。本明細書で使用される「合金」又は「合金化された」という用語は、当該技術分野における通常の意味を有する。当業者に公知の技術を使用して、Pt-Pd合金が形成されたか否かを決定するのを助けるために、TEM及びXRD特性決定技術を使用し得る。理論に束縛されることを望むものではないが、そのような合金の形成は、本明細書で記載及び実証される、同等又は改善された触媒活性、より低いライトオフ温度及び耐エージング性などの有利な特性の達成に寄与し得ると仮定される。PtとPdとのそのような合金は、触媒組成物の製造中、例えば、実施され得る焼成及び/又は加熱ステップ中に形成され得る。代替的に、そのような合金は、触媒組成物の使用(例えば、エージング)中に、例えば、排気システムにおいて経験される高温に起因して形成し得る。すなわち、担体材料上に密接に近接し得るPtナノ粒子とPdナノ粒子との混合物は、例えば、そのような温度において、合体し合金を形成し得る。そのような潜在的に有益な合金化が起こる可能性は、例えば、硝酸PGM前駆体を使用する従来の方法と比較して、本態様の方法を使用することによって増加され得る。
【0134】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのPGMのイオンと配位子との予め形成された錯体が、使用され得る。例えば、スラリーを提供することは、本明細書に記載の予め形成されたPGM-配位子錯体を、担体材料を含むスラリーと接触させることを含み得る。
【0135】
しかしながら、スラリーを提供することは、好ましくは
少なくとも1つのPGMのイオンと、担体材料とを含む第1のスラリーを提供することと、
配位子をスラリーに添加することと、を含む。
【0136】
言い換えれば、PGMイオンと配位子との間で形成し得る任意の錯体は、好ましくは、PGMイオンと担体材料とを含む第1のスラリーが形成された後に、in situで形成される。そのような方法を使用することは、工業において及び大きな規模において非常に実用的に有利であり得る。これは、例えば、硝酸PGMなどの従来のPGM前駆体材料を使用することができ、その後に、配位子を単純に添加して錯体をin situで形成することができるためであり、これは、本明細書に記載の利益を得るために、従来の製造方法に対する(例えば、従来の又は現在使用されている製造生産ラインにおけるステップに対する)変更が殆ど必要ないことを意味している。すなわち、配位子を添加する1つの更なるステップは、例えば、製造プロセスにおける他のステップを実質的に何も変更することなく、生産ラインに加えることができる。実用的な観点及びコストの観点から、そのような最小限の変更は、本実施形態の方法を使用することに適応するためには有利であり得る。更に、例えば、より一般的な硝酸PGM前駆体とは対照的に、本明細書に記載のPGMイオン及び配位子を含む本明細書に記載のより高価で希少なPGM錯体を購入及び/又は調製する際のコストを節約することもできる。有利に、そのような方法はまた、事前に「社内で」購入又は製造されたかどうかにかかわらず、予め形成された錯体中に存在する可能性のある不純物をスラリー中に導入するリスクも低減し得る。
【0137】
本方法は、好ましくは、スラリーを基材上に配置する前に、スラリーのpHを調整してPGMと配位子との錯体を沈殿させるステップを更に含む。スラリーのpHは、好ましくは約4~約6、好ましくは約4.5~約5.5、より好ましくは約5の値に調整される。方法は、そのようなpH調整ステップを用いずに機能し得るが、方法は、本明細書に記載のステップで実質的に改善され得る。特に、そのようなPGM-配位子錯体のin situでの製造は、反応の不良な反応速度に起因して、実際には工業規模では実現可能ではない可能性があると以前は考えられていた。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、pHが、好ましくは本明細書に記載されるように調整される(すなわち、好ましくは約4を超えるpHに維持する)場合、実質的により好ましい反応速度を達成することができ、したがって、一般にそのようなpH調整を用いなくても方法が依然として機能し得るとしても、工業規模での使用のために方法をはるかに有利にし得る、ことを見出した。また、驚くべきことに、そのようなpHは、すなわち、同じpH範囲内において、Pd及びPtの両方にとって特に有効であり得ることが見出されており、これは、Pd及びPtの両方が存在する実施形態において、Pt及びPdの両方の均一な又は均質な分布が得られ得ることを意味している。すなわち、Pt-配位子錯体及びPd-配位子錯体の両方が、同様のpHで沈殿することができ、これは、方法が、Pd若しくはPtのいずれか、又は両方を一緒に使用する場合に実質的に等しく有効であり得ることを意味している。これはまた、担体材料上に形成し得るPdナノ粒子及びPtナノ粒子の両方の狭い同等の粒径分布も可能にし得る。これは、本明細書に記載の有益な利点を達成するのに、特に、例えば、焼成後の良好に制御された合金を達成するのに、役立ち得る。
【0138】
pH調整前のスラリーのpHは、好ましくは少なくとも8、より好ましくは少なくとも9である。これは、本明細書に記載のPGM-配位子錯体がそのようなpHで水により可溶性であり得るためである。例えば、典型的には、本明細書に記載のPGM-配位子錯体は、中性(すなわち、約7)又は酸性pHにおいて水に実質的に不溶性であり得る。したがって、pHを低下させるなど、pHが調整されるまで、PGM-配位子錯体は溶解され得る。pHが本明細書に記載のように調整されると、錯体は沈殿し得る。次いで、そのような沈殿した錯体は、例えば、担体材料上にそれら自体を位置付け及び/又は蓄積することができる。
【0139】
本方法は、沈殿/pH調整ステップなしでも機能し得ることに留意すべきである。言い換えれば、例えば、硝酸PGM及び配位子が酸性pHスラリー中で単に混合された場合、より遅い反応速度ではあるが、所望の反応(例えば、錯化)が依然として起こり得る。例えば、部分的に溶解した配位子(例えば、ジメチルグリオキシム、それは、低いpHで水溶性が低い可能性がある)は、硝酸PGMと反応して、PGM-配位子錯体を形成することができ、それは次いで、酸性条件下で沈殿し得る。しかしながら、大規模での製造目的には、反応速度が最適化され得るように、本明細書に記載の沈殿ステップを含むことが好ましい。
【0140】
スラリーのpHは、好ましくは、所望のpHを得るために、硝酸及び任意選択的に塩基、例えば、アンモニア又は水酸化バリウムを使用して調整される。塩基の使用は、pHが低すぎるpHに調整されないようにするのに有用であり得る。
【0141】
ステップb)は、好ましくは、粉末の形態で配位子をスラリーに添加することを含む。言い換えれば、配位子の固体形態を、予め形成させたスラリーと好ましくは接触させると、硝酸PGMなどの従来のPGM前駆体によってPGMが提供された。
【0142】
本態様での使用に好ましい配位子は、他の態様に関して本明細書に記載したものである。特に好ましい実施形態では、配位子は、ジメチルグリオキシムである。そのような配位子は、本発明での使用に特に好適であり得る。しかしながら、本発明によって必要とされるもの以外の他の配位子が存在し得ることが理解されよう。特に、いくつかの好ましい代替的な実施形態では、配位子は、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体のうちの1つ以上を含む。配位子は、好ましくは、これらの混合物を含み得る。好ましくは、配位子は、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体のうちの1つ以上から本質的になるか、又はこれらからなる。
【0143】
担体材料は、好ましくは、酸素吸蔵能(OSC)材料、無機酸化物、又はこれらの組み合わせを含む。OSC材料は、好ましくは、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、セリア-ジルコニア混合酸化物、アルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物、又はこれらの組み合わせを含む。無機酸化物は、好ましくは、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、ランタン、ネオジム、プラセオジム、酸化イットリウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物のうちの1つ以上からなる群から選択される無機酸化物、好ましくはアルミナ、より好ましくはガンマ-アルミナを含む。スラリーは、好ましくは、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、ランタン、ネオジム、プラセオジム、酸化イットリウム、及びこれらの混合酸化物又は複合酸化物からなる群から選択される更なる無機酸化物を含む。更なる無機酸化物は、好ましくは、アルミナ、より好ましくはガンマ-アルミナを含む。
【0144】
OSC材料及び/又は(更なる)無機酸化物は、好ましくはドープされる。OSC材料及び/又は(更なる)無機酸化物は、好ましくは、ランタン、ネオジム、イットリウム、ニオブ、プラセオジム、ハフニウム、モリブデン、チタン、バナジウム、亜鉛、カドミウム、マンガン、鉄、銅、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、セシウム、マグネシウム、カリウム、及びナトリウムのうちの1つ以上の酸化物、より好ましくはランタン、ネオジム、プラセオジム、及びイットリウムのうちの1つ以上の酸化物、更により好ましくはランタンの酸化物でドープされる。ランタンをドープしたアルミナは、更なる無機酸化物として特に好ましい。
【0145】
ドーパントは、好ましくは、OSC材料及び/又は(更なる)無機酸化物中に、0.001重量%~20重量%、好ましくは0.5重量%~10重量%の量で存在する。
【0146】
スラリーは、好ましくは、アルカリ土類金属を更に含む。アルカリ土類金属は、例えば、促進剤として含まれ得る。アルカリ土類金属は、好ましくは、バリウム、又はストロンチウム、及びこれらの混合酸化物若しくは複合酸化物である。アルカリ土類金属は、好ましくは、カーボネート又はスルフェートとして存在する。言い換えれば、アルカリ土類金属のカーボネート又はスルフェートが、好ましくは、スラリーに添加される。アルカリ土類金属は、好ましくは、スルフェートとして存在する。アルカリ土類金属は、好ましくは、バリウムである。他の促進剤としては、例えば、非PGM遷移金属元素、希土類元素、アルカリ若しくはアルカリ土類族元素、及び/又は周期表の同じ若しくは異なる族内の上記元素のうちの2つ以上の組み合わせが挙げられ得る。促進剤は、そのような元素の塩であり得る。特に好ましい促進剤は、バリウムであり、その特に好ましい塩は、酢酸バリウム、クエン酸バリウム、及び硫酸バリウム、又はこれらの組み合わせであり、より好ましくはクエン酸バリウムである。
【0147】
言い換えれば、in situでの実施形態のために、ステップa)は、好ましくは、少なくとも1つのPGMのイオンと、担体材料と、アルカリ土類金属のカーボネート又はスルフェートとを含む第1のスラリーを提供することを含む。
【0148】
スラリーのpHを調整してPGMと配位子とを含む錯体を沈殿させるステップの前に、存在する場合、塩基、好ましくは水酸化バリウムが、スラリーに好ましくは添加される。そのような塩基の添加は、形成された可能性がある任意のPGM-配位子錯体がスラリー内に十分に溶解されることを保証するのに役立ち得る。これは、スラリー内の、したがって、結果として得られる担持された担体材料の中及び/又は上の、PGM-配位子錯体の均一又は均質な分布を達成するのに役立ち得る。塩基は、in situでの実施形態において、配位子の添加の前又は添加後に加えられ得る。
【0149】
ステップa)は、好ましくは、少なくとも1つのPGMのイオンを含む水溶液を担体材料と接触させること、及び/又は少なくとも1つのPGMの塩を、担体材料を含む第2のスラリーと接触させることを含み、好ましくは第2のスラリーは水性スラリーである。言い換えれば、スラリーの溶媒は、好ましくは水である。少なくとも1つのPGMの塩は、好ましくは硝酸PGMを含む。
【0150】
スラリーは、好ましくは、結合剤及び増粘剤のうちの1つ以上を更に含む。結合剤は、例えば、ウォッシュコートスラリー中において個々の不溶性粒子を一緒に結合するための小さな粒径を有する酸化物材料を含み得る。ウォッシュコートにおける結合剤の使用は、当該技術分野で周知である。増粘剤は、例えば、ウォッシュコートスラリー中の不溶性粒子と相互作用する、官能性ヒドロキシル基を有する天然ポリマーを含み得る。それは、基材上へのウォッシュコートコーティング中のコーティングプロファイルの改善のためにウォッシュコートスラリーを増粘する目的に役立つ。増粘剤は、通常は、ウォッシュコート焼成中に焼き取られる。ウォッシュコートのための特定の増粘剤/レオロジー調整剤の例としては、グラクトマナガム(glactomanna gum)、グアーガム、キサンタンガム、カードランシゾフィラン、スクレログルカン、ジウタンゴム、ホイーランゴム、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、及びエチルヒドロキシセルロースが挙げられる。
【0151】
スラリーは、好ましくは10~40%、好ましくは15~35%の固形分を有する。そのような固形分は、担持された担体材料を基材上に配置するのに好適なスラリーレオロジーを可能にし得る。例えば、基材がハニカムモノリスである場合、そのような固体内容物は、基材の内壁上へのウォッシュコートの薄層の堆積を可能にし得る。基材がウォールフローフィルタである場合、そのような固形分は、スラリーがウォールフローフィルタのチャネルに入ることを可能にすることができ、スラリーがウォールフローフィルタの壁に入ることを可能にすることができる。
【0152】
スラリーを基材上に配置することは、好ましくは、スラリーを基材と接触させることと、任意選択的に、基材に真空を適用すること、及び/又は基材上のスラリーを乾燥させることと、を含む。これは、基材上のスラリー中に含有され得る担持された担体材料の好ましい分布をもたらし得る。乾燥は、好ましくは、60℃~200℃、より好ましくは70℃~130℃の温度で、及び/又は10~360分間、好ましくは15~60分間行われる。
【0153】
基材は、好ましくはコーディエライトを含む。基材は、ハニカムモノリス、ウォールフローフィルタ又はフロースルーフィルタの形態であり得る。基材は、「ブランク」、すなわち、ウォッシュコーティングされていない基材であり得る。代替的に、基材は、既にその上に担持された1つ又はウォッシュコートを有し得る。そのような状況では、最終触媒物品は、異なるウォッシュコートの複数の層を含み得る。
【0154】
加熱は、好ましくは、400℃~700℃、好ましくは400℃~600℃、より好ましくは450℃~600℃の温度で、及び/又は10~360分間、好ましくは35~120分間行われる。加熱は、好ましくは焼成を含む。
【0155】
パラジウムナノ粒子は、好ましくは、0.1nm~25nm、好ましくは5~20nmの平均粒径を有する。平均粒径は、TEMによって測定され得る。本明細書に別段の記載がない限り、本明細書に記載の任意の平均粒径は、TEMによって測定され得る。そのような粒径は、有利に、高い活性及びエージング時の失活に対する耐性などの上で考察される好ましい特性を可能にし得る。
【0156】
更なる態様では、本発明は、本明細書に記載の任意の態様の方法によって得られた又は得ることができる触媒物品を提供し、触媒物品は、排出物処理システムにおいて使用するためのものである。触媒物品は、好ましくは、本明細書に記載の触媒物品態様によるものである。触媒物品は、好ましくは、三元触媒作用のためのものである。
【0157】
更なる態様では、本発明は、本明細書に記載の触媒物品を含む排出物処理システムを提供する。
【0158】
排出物処理システムは、好ましくは、ガソリンエンジンのためのものである。
【0159】
ガソリンエンジンは、好ましくは、化学量論的条件下で作動する。
【0160】
更なる態様では、本発明は、排気ガスを処理する方法を提供し、方法は、本明細書に記載される触媒物品を提供することと、触媒物品を排気ガスと接触させることと、を含む。
【0161】
排気ガスは、好ましくは、ガソリンエンジンからのものである。触媒物品は、そのような排気ガスを処理するのに特に好適である。更に、ガソリンエンジンからの排気は、典型的には、ディーゼルエンジンからの排気よりも過酷であり、例えば、より高温である。したがって、本明細書に記載の触媒物品の有利なエージング特性は、そのために特に有益である。ガソリンエンジンは、好ましくは、化学量論的条件下で作動する。
【0162】
定義
本明細書で使用される場合、「領域」という用語は、典型的にはウォッシュコートを乾燥及び/又は焼成することによって得られる基材上のエリアを指す。「領域」は、例えば、「層」又は「ゾーン」として基材上に配置又は担持され得る。基材上のエリア又は配列は、概して、基材にウォッシュコートを適用するプロセス中に制御される。「領域」は、典型的には、明確な境界又は縁部を有する(すなわち、従来の分析技術を使用して、一方の領域を別の領域から区別することが可能である)。
【0163】
典型的には、「領域」は、実質的に均一な長さを有する。この文脈における「実質的に均一な長さ」への言及は、その平均値から10%を超えて逸脱(例えば、最大長と最小長との間の差)しない長さ、好ましくはその平均値から5%を超えて逸脱しない長さ、より好ましくはその平均値から1%を超えて逸脱しない長さを指す。
【0164】
各「領域」は、実質的に均一な組成を有する(すなわち、領域のある部分とその領域の別の部分とを比較する場合、ウォッシュコートの組成に実質的な差がない)ことが好ましい。この文脈における実質的に均一な組成物とは、領域のある部分を領域の別の部分と比較する場合に、組成の差が、5%以下、通常は2.5%以下、最も一般的には1%以下である材料(例えば、領域)を指す。
【0165】
本明細書で使用される場合、「ゾーン」という用語は、基材の全長の75%以下の長さなど、基材の全長未満の長さを有する領域を指す。「ゾーン」は、典型的には、基材の全長の少なくとも5%(例えば、5%以上)の長さ(すなわち、実質的に均一な長さ)を有する。
【0166】
基材の全長は、その入口端部とその出口端部と(例えば、基材の両端部)の間の距離である。
【0167】
本明細書で使用される「基材の入口端部に配置されているゾーン」へのいかなる言及も、基材上に配置又は担持されているゾーンであって、基材の入口端部までの方が、基材の出口端部までよりも近い、ゾーンを指す。したがって、ゾーンの中点(すなわち、その長さの半分での点)は、基材の入口端部までの方が、基材の出口端部までよりも近い。同様に、本明細書で使用される「基材の出口端部に配置されているゾーン」へのいかなる言及も、基材上に配置又は担持されているゾーンであって、基材の出口端部までの方が、基材の入口端部までよりも近い、ゾーンを指す。したがって、ゾーンの中点(すなわち、その長さの半分での点)は、基材の出口端部までの方が、基材の入口端部までよりも近い。
【0168】
基材がウォールフローフィルタである場合、概して、「基材の入口端部に配置されているゾーン」へのいかなる言及も、基材上に配置又は担持されているゾーンであって、
(a)基材の入口チャネルの入口端部(例えば、開いている端部)までの方が、入口チャネルの閉じた端部(例えば、遮断された端部若しくは塞がれた端部)までよりも近い、ゾーン、及び/又は
(b)基材の出口チャネルの閉じた端部(例えば、遮断された端部若しくは塞がれた端部)までの方が、出口チャネルの出口端部(例えば、開いている端部)までよりも近い、ゾーンを指す。
【0169】
したがって、ゾーンの中点(すなわちその半分の長さでの点)は、(a)基材の入口チャネルの入口端部までの方が、入口チャネルの閉じた端部までよりも近く、及び/又は(b)基材の出口チャネルの閉じた端部までの方が、出口チャネルの出口端部までよりも近い。
【0170】
同様に、基材がウォールフローフィルタである場合、「基材の出口端部に配置されているゾーン」へのいかなる言及も、基材上に配置又は担持されているゾーンであって、
(a)基材の出口チャネルの出口端部(例えば、開いている端部)までの方が、出口チャネルの閉じた端部(例えば、遮断された端部若しくは塞がれた端部)までよりも近い、ゾーン、及び/又は
(b)基材の入口チャネルの閉じた端部(例えば、遮断された端部若しくは塞がれた端部)までの方が、入口チャネルの入口端部(例えば、開いている端部)までよりも近い、ゾーンを指す。
【0171】
したがって、ゾーンの中点(すなわちその半分の長さでの点)は、(a)基材の出口チャネルの出口端部までの方が、出口チャネルの閉じた端部までよりも近い、及び/又は(b)基材の入口チャネルの閉じた端部までの方が、入口チャネルの入口端部までよりも近い。
【0172】
ウォッシュコートがウォールフローフィルタのウォールに存在する(すなわち、ゾーンがウォール内のものである)場合、ゾーンは、(a)と(b)との両方を満たし得る。
【0173】
「ウォッシュコート」という用語は、当該技術分野において周知であり、通常、触媒の製造中の基材に適用される接着性コーティングを指す。
【0174】
本明細書で使用される場合、頭字語「PGM」は、「白金族金属(platinum group metal)」を指す。「白金族金属」という用語は、概して、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、及びPtからなる群から選択される金属、好ましくはRu、Rh、Pd、Ir、及びPtからなる群から選択される金属を指す。概して、「PGM」という用語は、好ましくは、Rh、Pt、及びPdからなる群から選択される金属を指す。
【0175】
本明細書で使用される場合、「混合酸化物」という用語は、概して、当該技術分野において従来的に既知であるように、単相における酸化物の混合物を指す。本明細書で使用される場合、「複合酸化物」という用語は、概して、当該技術分野において従来的に既知であるように、2つ以上の相を有する酸化物の組成物を指す。
【0176】
本明細書で使用される場合、「本質的になる」という表現は、特定の材料又はステップ、及び、例えば、微量不純物などの、その特徴の基本特性に実質的に影響を及ぼさない、任意の他の材料又はステップを含むように、特徴の範囲を制限する。「から本質的になる」という表現は、「からなる」という表現を包含する。
【0177】
「スラリー」とは、不溶性物質、例えば、不溶性粒子を含む液体を意味する。
【0178】
本明細書で使用される場合、重量%として表されるドーパントの量、特に総量に対するいかなる言及も、担体材料又はその耐火金属酸化物の重量を指す。
【0179】
本明細書で使用する場合、「担持量」という用語は、金属重量基準でのg/ftの単位の測定値を指す。
【0180】
本明細書において「a」又は「an」に言及する場合、これは、単数形及び複数形を包含する。
【0181】
以下の実施例は、単に本発明を例示するものである。当業者は、本発明の趣旨及び特許請求の範囲の範囲内にある多くの変形例を認識するであろう。
【実施例
【0182】
Pd PGM前駆体を含有するウォッシュコートを作製するための一般的合成手順
Pd DMG水溶液(塩基性pH)をウォッシュコートスラリー(CeZr混合酸化物及びアルミナ成分と水との混合物)に添加し、次いで、pHを塩基性から酸性に調整して、スラリー中のPd DMGを沈殿させた。次いで、Ba促進剤をスラリーに添加した。ウォッシュコートスラリーを、米国特許第6,599,570号によるJohnson Matthey’s「Precision Coating」technologyを使用して、500℃で焼成された裸基材又は触媒コーティングされた基材上にコーティングした。そのコーティングされた触媒を120℃で乾燥させ、次いで、大気条件下の静的オーブン内で500℃で焼成した。
【0183】
実施例1:PD分散及び位置の特性決定
比較触媒A:
比較触媒Aは、セラミック基材(600cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0184】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、硝酸Pd前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、86g/ftのPd担持量及び5.8重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0185】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、Rh担持量は、14g/ftであった。
【0186】
触媒B:
触媒Bは、セラミック基材(600cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0187】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、86g/ftのPd担持量及び5.8重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0188】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、Rh担持量は、14g/ftであった。
【0189】
触媒B及び比較触媒Aの基材、第1の触媒領域(底層)、及び第2の触媒領域(上層)におけるPd分布を、電子プローブ微量分析器(Electron Probe Micro Analyzer、EPMA)によって別々に評価した。図3に示されているように、上層から底層及び基材へのPdの移動は、水溶性硝酸Pd前駆体を有する比較触媒Aに比べて、Pd DMG前駆体を有する触媒Bでは有意に抑制される。
【0190】
触媒B及び比較触媒AのPd分散度を、50℃でのCOパルス化学吸着測定によって、別々に試験した。触媒を、COパルスの前に、300℃で10分間、Hガスで前処理した。1:1のCO:Pd比を使用して、分散度を推定した。COパルス化学吸着試験の前に、触媒B及び比較触媒Aを、1050℃で表1に列挙したガスを用いて、5L/分の流量の繰り返し還元/酸化サイクルにおけるレドックス条件下で、4時間、水熱エージングした。
【0191】
【表1】
【0192】
Pd分散度の結果を表2に示す。データは、水熱エージング後に、比較触媒Aに対して、触媒BのPd分散度は30%超改善されたことを実証している。
【0193】
【表2】
【0194】
実施例2:合成触媒活性試験におけるライトオフ性能
触媒B及び比較触媒Aを、合成触媒活性試験(Synthetic Catalyst Activity Test、SCAT)デバイスで、別々に試験した。ライトオフ性能は、10体積%のHO+14体積%のCO+1260ppmのC+0.6体積%のCO+0.6体積%のO+1000ppmのNO、残部はN(空間速度は60000h-1)のガスフローで試験した。温度勾配は30℃/分である。THC、CO、及びNOの変換は、供給ガスの濃度と、触媒の出口でのガスの濃度とを比較することから計算された。比較触媒A及び触媒Bを、表1のレドックス条件下、1050℃で4時間、水熱エージングした。
【0195】
エージングした触媒B及び比較触媒AのHC、CO、及びNOのT50ライトオフ温度を、表3に示す。データは、驚くべきことに、本発明の未使用の触媒Bが、比較触媒Aと比較して、CO、HC、及びNOについて、それぞれ約17℃、17℃、及び5℃低いT50(T50は、変換率が50%に達したときの温度である)という、著しく改善されたライトオフ性能をもたらすことを示している。
【0196】
【表3】
【0197】
実施例3:ガソリンパッセンジャービークル(GASOLINE PASSENGER VEHICLE)における排出制御性能
比較触媒C:
比較触媒Cは、セラミック基材(750cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0198】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、硝酸Pd前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.5g/inであり、100g/ftのPd担持量及び8.2重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0199】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.5g/inであり、Rh担持量は、16g/ftであった。
【0200】
触媒D:
触媒Dは、セラミック基材(750cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0201】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.5g/inであり、100g/ftのPd担持量及び8.2重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0202】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.5g/inであり、Rh担持量は、16g/ftであった。
【0203】
触媒D及び比較触媒Cを、燃料カットエージングサイクルにより、960℃のピーク温度で、200時間ベンチエージングし、2.5リットルのエンジンを有する商用ビークルについてビークル排出(vehicle emission)を行った。触媒の前後で排出量を測定した。
【0204】
【表4】
【0205】
表4に示されているように、触媒Dは、比較触媒Cと比較して、HC、CO、及びNOの排出量の有意な減少を示した(それぞれ58%、16%、及び20%の減少)。
【0206】
実施例4:ガソリンパッセンジャービークルにおけるライトオフ及び排出量の制御性能
比較触媒E
比較触媒Eは、セラミック基材(600cpsi、壁厚3.5ミル)上にコーティングされた、底層中に第1の触媒領域及び上層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図2を参照されたい)。
【0207】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、硝酸Pd前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Srとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.5g/inであり、90g/ftのPd担持量及び6.4重量%のSr(SrOとして計算した)であった。
【0208】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.0g/inであり、Rh担持量は、8g/ftであった。
【0209】
触媒F
触媒Fは、セラミック基材(600cpsi、壁厚3.5ミル)上にコーティングされた、底層中に第1の触媒領域及び上層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図2を参照されたい)。
【0210】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Srとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.5g/inであり、90g/ftのPd担持量及び6.4重量%のSr(SrOとして計算した)であった。
【0211】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.0g/inであり、Rh担持量は、8g/ftであった。
【0212】
触媒F及び比較触媒Eの基材、第1の触媒領域(底層)、及び第2の触媒領域(上層)におけるPd分布を、電子プローブ微量分析器(EPMA)によって別々に評価した。図4に示されているように、底層から上層及び基材へのPdの移動は、水溶性硝酸Pd前駆体を有する比較触媒Eに比べて、Pd DMG前駆体を有する触媒Fでは有意に抑制される。
【0213】
触媒F及び比較触媒Eを、燃料カットエージングサイクルで50時間、950℃のピーク温度で、ベンチエージングした。エージングした触媒のライトオフ性能を、ガソリンエンジンベンチを用いて試験し、HC、CO、及びNO50のライトオフ温度を表5に示す。本発明の触媒Fは、比較触媒Eと比較した場合に、CO、HC、及びNOについてそれぞれT50が約9℃、7℃、及び7℃低い、有意に改善されたライトオフ性能を示した。
【0214】
【表5】
【0215】
1.5リットルエンジンを有する商用ビークルについてビークル排出を更に行った。触媒の前後で排出量を測定した。
【0216】
【表6】
【0217】
表6に示されているように、触媒Fは、比較触媒Eと比較して、HC、CO、及びNOxの排出量の減少を示した(それぞれ7%、3%、及び13%の減少)。
【0218】
実施例5:ガソリンパッセンジャービークルにおけるライトオフ及び排出量の制御性能
比較触媒G
比較触媒Gは、セラミック基材(750cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0219】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、硝酸Pd前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、硫酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.6g/inであり、28g/ftのPd担持量及び6.2重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0220】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.4g/inであり、Rh担持量は、6g/ftであった。
【0221】
触媒H
触媒Hは、セラミック基材(750cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0222】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、硫酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.6g/inであり、28g/ftのPd担持量及び6.2重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0223】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.4g/inであり、Rh担持量は、6g/ftであった。
【0224】
触媒H及び比較触媒Gを、燃料カットエージングサイクルで200時間、960℃のピーク温度で、ベンチエージングした。エージングした触媒のライトオフ性能を、ガソリンエンジンベンチを用いて試験し、CO、HC、及びNO50のライトオフ温度を表7に示す。本発明の触媒Hは、比較触媒Gと比較した場合に、CO、HC、及びNOについてそれぞれT50が約21℃、20℃、及び22℃低い有意に改善されたライトオフ性能を示した。
【0225】
【表7】
【0226】
2.5リットルエンジンを有する商用ビークルについてビークル排出を更に行った。触媒の前後で排出量を測定した。
【0227】
【表8】
【0228】
表8に示されているように、触媒Hは、比較触媒Gと比較して、HC、CO、及びNOの排出量の有意な減少を示した(それぞれ4%、14%、及び6%の減少)。
【0229】
実施例6:ガソリンパッセンジャービークルにおける排出制御性能
触媒I
触媒Iは、セラミック基材(750cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0230】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.6g/inであり、154g/ftのPd担持量及び6.0重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0231】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.4g/inであり、Rh担持量は、15g/ftであった。
【0232】
触媒J
触媒Jは、セラミック基材(750cpsi、壁厚3.0ミル)上にコーティングされた、上層中に第1の触媒領域及び底層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図1を参照されたい)。
【0233】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、硫酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.6g/inであり、28g/ftのPd担持量及び5.9重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0234】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約1.4g/inであり、Rh担持量は、6g/ftであった。
【0235】
触媒I及び触媒Jの第1の触媒領域(上層)及び第2の触媒領域(底層)におけるBa分布を、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によって別々に評価した。図5に示されているように、上層から底層へのBaの移動は、水溶性Ba(OH)を有する触媒Iに比べて、BaSOを有する触媒Jについては有意に抑制される。
【0236】
触媒I及び触媒Jを、燃料カットエージングサイクルにより、960℃のピーク温度で、200時間ベンチエージングし、2.5リットルのエンジンを有する商用ビークルについてビークル排出を行った。触媒の前後で排出量を測定した。
【0237】
【表9】
【0238】
表9に示されているように、触媒Jは、触媒Iと比較して、NMHC、CO、及びNOの排出量の有意な減少を示した(それぞれ8%、9%、及び15%の減少)。
【0239】
実施例7:ガソリンパッセンジャービークルにおける排出制御性能
触媒K(100g/ftのPd担持量を有する底層中のPd DMG)
触媒Kは、セラミック基材(600cpsi、壁厚4.3ミル)上にコーティングされた、底層中に第1の触媒領域及び上層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図2を参照されたい)。
【0240】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、100g/ftのPd担持量及び8.6重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0241】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、Rh担持量は、4g/ftであった。
【0242】
触媒L(100g/ftのPd担持量を有する底層中のin situでのPd DMG)
触媒Lは、セラミック基材(600cpsi、壁厚4.3ミル)上にコーティングされた、底層中に第1の触媒領域及び上層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図2を参照されたい)。
【0243】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、硝酸PdとDMG分子との間の直接反応を介して以下のように合成されたPd DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPdからなる。硝酸Pd溶液(Pdとして100g/ft)を、混合酸化物とアルミナとの混合スラリーに添加し、次いで、そのスラリーにDMG粉末(220g/ft)を添加した。Pd DMGの形成を赤外分光法によって同定した(すなわち、元のPd DMGと比較した同じIR吸収シグナル)。続いて、Ba(OH)をスラリーに添加し、硝酸を使用してpHを約5に調整した。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、100g/ftのPd担持量及び8.6重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0244】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、Rh担持量は、4g/ftであった。
【0245】
触媒K及び触媒Lを、燃料カットエージングサイクルで50時間、950℃のピーク温度で、ベンチエージングした。1.5リットルエンジンを有する商用ビークルについてビークル排出を更に行った。触媒の前後で排出量を測定した。
【0246】
【表10】
【0247】
表10に示されているように、触媒Lは、触媒Kと比較して、THC、CO、及びNOxの排出量の減少を示した(それぞれ3%、16%、及び23%の減少)。ウォッシュコートスラリー中のPd DMGのin-situでの合成は、TWC性能の更なる改善を提供する。
【0248】
実施例8:ガソリンパッセンジャービークルにおける排出制御性能
比較触媒M(50g/ftのPd及び50g/ftのPtを有する底層中のPd-Ptナイトレート)。
比較触媒Mは、セラミック基材(600cpsi、壁厚4.3ミル)上にコーティングされた、底層中に第1の触媒領域及び上層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図2を参照されたい)。
【0249】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、硝酸Pd及び硝酸Pt前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPd及びPtからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、50g/ftのPd担持量、50g/ftのPt担持量、及び8.6重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0250】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、Rh担持量は、4g/ftであった。
【0251】
触媒N(50g/ftのPd及び50g/ftのPtを有する底層中のPd-Pt DMG)。
触媒Nは、セラミック基材(600cpsi、壁厚4.3ミル)上にコーティングされた、底層中に第1の触媒領域及び上層中に第2の触媒領域を含む二重層TWCである(例えば、図2を参照されたい)。
【0252】
第1の触媒領域:
第1の触媒領域は、Pd DMG及びPt DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPd及びPtからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、50g/ftのPd担持量、50g/ftのPt担持量、及び8.6重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0253】
第2の触媒領域:
第2の触媒領域は、CeZr混合酸化物及びLa安定化アルミナのウォッシュコート上に担持されたRhからなる。第2の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、Rh担持量は、4g/ftであった。
【0254】
比較触媒M及び触媒Nを、燃料カットエージングサイクルで50時間、950℃のピーク温度で、ベンチエージングした。1.5リットルエンジンを有する商用ビークルについてビークル排出を更に行った。触媒の前後で排出量を測定した。
【0255】
【表11】
【0256】
表11に示されているように、触媒Nは、比較触媒Mと比較して、THC、CO、及びNOの排出量の減少を示した(それぞれ3%、11%、及び32%の減少)。
【0257】
実施例9:合成触媒活性試験におけるライトオフ性能
触媒O(単層TWC中のPd-Pt DMG)
触媒Oは、セラミック基材(400cpsi、壁厚4ミル)上にコーティングされた単層TWCである。触媒は、Pd DMG及びPt DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPd及びPtからなる。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、50g/ftのPd担持量、50g/ftのPt担持量、及び8.6重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0258】
触媒P(単層TWC中のin situでのPd-Pt DMG)
触媒Pは、セラミック基材(400cpsi、壁厚4ミル)上にコーティングされた単層TWCである。触媒は、硝酸Pd/PtとDMG分子との直接反応を介してウォッシュコートスラリー中で合成された、Pd及びPt DMG前駆体を使用して、CeZr混合酸化物と、La安定化アルミナと、炭酸Baとのウォッシュコート上に担持されたPd及びPtからなる。硝酸Pd(Pdとして50g/ft)と硝酸Pt(Ptとして50g/ft)の混合溶液を、混合酸化物とアルミナとの混合スラリーに添加した。次いで、pHが6より大きくなるように、Ba(OH)をスラリーに添加した。続いて、DMG粉末(220g/ft)をスラリーに添加し、pHを、最終的に硝酸によって約5に調整した。Pd/Pt DMGの形成を、赤外分光法によって同定した(すなわち、元のPd/Pt DMGと比較した同じIR吸収シグナル)。第1の触媒領域のウォッシュコート担持量は、約2.0g/inであり、50g/ftのPd担持量、50g/ftのPt担持量、及び8.6重量%のBa(BaOとして計算した)であった。
【0259】
触媒O及び触媒PをSCATデバイス上で別々に試験した。ライトオフ性能は、10体積%のHO+14体積%のCO+1260ppmのC+0.6体積%のCO+0.6体積%のO+1000ppmのNO、残部はN(空間速度は60000h-1)のガスフローで試験した。温度勾配は30℃/分である。THC、CO、及びNOの変換は、供給ガスの濃度と、触媒の出口でのガスの濃度とを比較することから計算された。表12に示されているように、触媒O及び触媒Pを、それぞれリーン条件及び化学量論的条件下、1050℃で、4時間、水熱エージングした。
【0260】
【表12】
【0261】
エージングした触媒O及び触媒PのHC、CO及びNOのT50ライトオフ温度(T50は、変換率が50%に達するときの温度である)を、表13に示す。データは、TWC性能が、触媒調製のためのウォッシュコートスラリーにおいて、予備形成されたPd/Pt DMGの使用と、in-situで合成されたPd/Pt DMGの使用との間で殆ど変化しなかった、ことを示している。したがって、TWCの性能上の利点は、従来の硝酸Pd/Pt前駆体の使用と比較して、in-situで合成されたPd/Pt DMGプロセスで見られるはずである。
【0262】
【表13】
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-03-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスを処理するための触媒物品であって、
軸方向長さLを有する入口端部及び出口端部を含む、基材と、
第1のパラジウム(Pd)成分及び第1のPd担体材料を含む、第1の触媒領域と、を含み、前記基材が、前記第1のPd成分を実質的に含まない、触媒物品。
【請求項2】
前記第1の触媒領域が、第1の白金(Pt)成分を更に含み、前記第1のPt成分が、前記第1のPd担体材料上に少なくとも部分的に担持されており、前記基材が、前記第1のPt成分を実質的に含まない、請求項1に記載の触媒物品。
【請求項3】
前記第1のPd担体材料が、第1の酸素吸蔵能(OSC)材料、第1の無機酸化物、又はこれらの組み合わせである、請求項1又は2に記載の触媒物品。
【請求項4】
前記基材が、前記第1のPd成分を本質的に含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項5】
前記基材が、前記第1のPt成分を本質的に含まない、請求項2~6のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項6】
前記第1の触媒領域が、第1のアルカリ土類金属を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項7】
前記第1のアルカリ土類金属が、バリウム、又はストロンチウム、及びこれらの混合酸化物若しくは複合酸化物である、請求項6に記載の触媒物品。
【請求項8】
前記第1のアルカリ土類金属が、カーボネート又はスルフェートとして存在する、請求項6又は7に記載の触媒物品。
【請求項9】
排気ガスを処理するための触媒物品を作製する方法であって、
a)白金族金属(PGM)イオンに配位した配位子を有するPGM錯体を溶解することと、
b)PGM錯体担体スラリーを作製することと、
c)a)の前記溶解されたPGM錯体を、b)の前記スラリーと混合することと、
d)c)の前記混合物を基材上にコーティングして、前記基材上に第1の触媒領域を形成することと、を含み、
前記配位子が、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、方法。
【請求項10】
前記PGMイオンが、Pd及び/又はPtである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記配位子が、グリオキシム又はグリオキシム誘導体である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
触媒物品を製造する方法であって、
少なくとも1つの白金族金属(PGM)のイオンと、担体材料と、前記少なくとも1つのPGMのイオンに配位するための配位子と、を含む、スラリーを提供することと、
前記スラリーを基材上に配置することと、
前記スラリーを加熱して、前記担体材料上に前記PGMのナノ粒子を形成することと、を含み、
前記配位子が、グリオキシム、グリオキシム誘導体、サリチルアルジミン、及びサリチルアルジミン誘導体からなる群から選択される、方法。
【請求項13】
前記PGMが、パラジウム(Pd)及び/又は白金(Pt)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
スラリーを提供することが、
a)前記少なくとも1つのPGMのイオンと、前記担体材料と、を含む、第1のスラリーを提供することと、
b)前記スラリーに前記配位子を添加することと、を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記スラリーを基材上に配置する前に、前記スラリーのpHを調整して、前記PGMと前記配位子との錯体を沈殿させるステップを更に含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。

【国際調査報告】