(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】試料調製のための自律型マイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20230928BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230928BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N37/00 101
G01N35/08 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023514110
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 US2021047085
(87)【国際公開番号】W WO2022060537
(87)【国際公開日】2022-03-24
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507339869
【氏名又は名称】インテリジェント ヴァイルス イメージング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100192924
【氏名又は名称】石井 裕充
(72)【発明者】
【氏名】ヤノッシュ ハウザー
(72)【発明者】
【氏名】グスタフ カルベグ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーラン ステンメ
(72)【発明者】
【氏名】イダ-マリア シントーン
(72)【発明者】
【氏名】ニクラス ロクスヒアド
【テーマコード(参考)】
2G052
2G058
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052AB16
2G052CA39
2G052DA08
2G052DA09
2G052DA21
2G052EA02
2G052FA08
2G052FD09
2G052GA09
2G052GA34
2G052GA35
2G052JA06
2G052JA08
2G052JA16
2G058BA07
2G058BA08
2G058BA10
2G058GA20
(57)【要約】
本方法は、マイクロ流体デバイス(100、200)において試料を調製するための方法である。排出ユニット(106、206)内に配置された第1の吸収部材(158、218)を有する排出ユニット(106、206)と流体連通して、隣接している第2のリザーバ(104、204)と流体連通している第1のリザーバ(102、202)を有するマイクロ流体デバイス(100、200)は、提供される。第1のリザーバ(102、202)は、第1及び第2のリザーバを接続する毛細管ストップバルブ(228、230)によって第1のリザーバ(102、202)に保持される第1の液体(108、208)を含む。第2のリザーバ(104、204)は、第2のリザーバ(104、204)内に配置された試料支持体(116、216)を有する。物質(114、214)を含む、第2の液体(110、210)は、第2のリザーバ(104、204)に添加される。第2の液体(110、210)は、第1の液体(108、208)及び第1の吸収部材(158、218)に接触する。第1の吸収部材(158、218)は、第2の液体(110、210)及び第1の液体(108、208)を吸収する。物質(114、214)は、試料支持体(116、216)に付着する。
【選択図】
図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイス(100、200)において試料を調製する方法であって、
排出ユニット(106、206)内に配置された第1の吸収部材(158、218、858)を有する前記排出ユニット(106、206)と流体連通して、隣接している第2のリザーバ(104、204)と流体連通している第1のリザーバ(102、202)を有するマイクロ流体デバイス(100、200)を提供するステップであって、前記第1のリザーバ(102、202)は、第1の液体(108、208)を含み、前記第1の液体(108、208)は、前記第1及び第2のリザーバを接続する毛細管ストップバルブ(228、230)によって前記第1のリザーバ(102、202)に保持されており、前記第2のリザーバ(104、204)は、前記第2のリザーバ(104、204)内に配置された試料支持体(116、216)を有する、前記提供するステップと、
物質(114、214)を含む、第2の液体(110、210)を前記第2のリザーバ(104、204)に添加するステップと、
前記第2の液体(110、210)が、前記第1の液体(108、208)及び前記第1の吸収部材(158、218、858)に接触するステップと、
前記第1の吸収部材(158、218、858)が、前記第2の液体(110、210)及び前記第1の液体(108、208)を吸収するステップと、
前記物質(114、214)が、前記試料支持体(116、216)に付着するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記排出ユニット(106、206)に、前記第1の吸収部材(858)の上流に溶解性膜(862)を設けるステップであって、前記第2の液体(104、204)は、前記第1の吸収部材(858)が前記第1及び第2の液体を吸収する前に、前記溶解性膜(862)を溶解する、前記設けるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物質(114、214)が、前記第2の液体(104、204)が溶解性膜(162、220)を溶解する間に、前記試料支持体(116、216)に付着するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の液体(108、208)を前記第1のリザーバ(102、202)に保持する前記毛細管ストップバルブ(228、230)が、前記第2の液体(110、210)を前記第2のリザーバ(104、204)に添加する前に、前記第1の液体(108、208)が前記第2のリザーバ(104、204)に流入することを防止するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の液体(108、208)の一部分が、前記試料支持体(116、216)に付着された前記物質(114、214)を埋め込むステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記毛細管ストップバルブ(228、230)に、前記第1のリザーバ(102、202)を前記第2のリザーバ(104、204)から分離するエッジ(228)を設けるステップであって、前記エッジ(228)は、前記第1の液体(108、208)を前記第1のリザーバ(102、202)に保持する、前記設けるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の吸収部材(158、218)の下流に溶解性膜(162、220)を設け、前記溶解性膜(162、220)の下流に第2の吸収部材(160、222)を設けるステップであって、前記第1の吸収部材(158、218)は、前記第2の液体(110、210)を吸収し、前記第2の液体(110、210)が、前記溶解性膜(162、220)と接触することを許容する、前記設けるステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の吸収部材(160、222)が、前記溶解性膜(162、220)が溶解された後、前記第2の液体(110、210)及び前記第1の液体(108、208)を吸収するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の液体(110、210)が、前記毛細管ストップバルブ(228、230)に保持された前記第1の液体(108、208)との接触時に、前記第1の液体(108、208)の表面張力を破壊するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
溶解性膜(162、220)を溶解するのに必要とされる時間が、前記物質(114、214)が前記試料支持体(116、216)に付着する許容時間を制御するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の液体(110、210)が、前記第1の液体(108、208)の前に前記吸収部材(158、218)に接触するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の液体(108、208)の第1の部分が、前記試料支持体(116、216)上で乾燥するステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の液体の一部分が、前記試料支持体(116、216)上に液体フィルム(224)を形成するステップであって、前記液体フィルム(224)は、1mm未満のフィルムの厚さを有する、前記形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記試料支持体(116、216)は、周囲温度及び50%の相対湿度で、3分以内に乾燥される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の液体(108、208)は、0.1-50μlの間の体積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の液体(110、210)は、0.1-50μlの間の体積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
マイクロ流体デバイスにおいて試料を調製する方法であって、
排出ユニット(106、206)内に配置された第1の吸収部材(158、218、858)を有する前記排出ユニット(106、206)と流体連通して、隣接している第2のリザーバ(104、204)と流体連通している第1のリザーバ(102、202)を有するマイクロ流体デバイス(100、200)を提供するステップであって、前記第1のリザーバ(102、202)は、第1の液体(108、208)を含み、前記第1の液体(108、208)は、前記第1及び第2のリザーバを接続する毛細管ストップバルブ(228、230)によって前記第1のリザーバ(102、202)に保持されている、前記提供するステップと、
前記マイクロ流体デバイス(100、200)のユーザが、試料支持体(116、216)を前記第2のリザーバ(104、204)に添加するステップと、
前記ユーザが、物質(114、214)を含む、第2の液体(110、210)を前記第2のリザーバ(104、204)に添加するステップと、
前記ユーザが、前記試料支持体(116、216)を前記第2のリザーバ(104、204)から除去する前に、少なくとも20秒の待機時間を待つステップと、
前記待機時間中、前記第2の液体(110、210)が、前記第1の液体(108、208)及び前記第1の吸収部材(158、218、858)に接触するステップと、
前記待機時間中、前記第1の吸収部材(158、218、858)が、前記第2の液体(110、210)及び前記第1の液体(108、208)を吸収するステップと、
前記待機時間中、前記物質(114、214)が、前記試料支持体(116、216)に付着するステップと、
前記待機時間の終了時に、前記ユーザが、前記試料支持体(116、216)を前記第2のリザーバ(104、204)から除去するステップと、
を含む、方法。
【請求項18】
前記排出ユニット(106、206)に、前記第1の吸収部材(858)の上流に溶解性膜(862)を設け、前記第2の液体(110、210)が、前記待機時間中、前記溶解性膜(862)を溶解するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の液体(108、208)が、前記試料支持体(116、216)上にフィルム(224)を形成し、前記試料支持体(116、216)に付着された物質(114、214)を埋め込むステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記フィルム(224)が、前記試料支持体(116、216)上で乾燥するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、顕微鏡学又は他の検査技術を使用したその後の解析のために、マイクロ粒子、ナノ粒子及び/又はマイクロ/ナノサイズの繊維などの、粒子状或いは細長い繊維状の試料の、一貫性のある、ユーザに依存しない調製のためのデバイス及び方法に関する。特に、これは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)における用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
一貫性があり、ユーザに依存しない、再現性のある試料調製方法は、ウイルス粒子、ウイルス様粒子、タンパク質、タンパク質複合体、繊維、デリバリーベシクル、医薬品、及び無機粒子などの、マイクロ及びナノサイズの粒子の液体試料の客観的な解析のために必要である。
【0003】
例えば、一般的に、改変ウイルスベクターは、遺伝子治療用途において使用される。試料中の感染性粒子と、非感染性粒子及び破片/その他の材料との比率を決定することは、最終的な遺伝子治療製品の品質及び有効性と、上流開発プロセスとについての貴重な情報を提供する。
【0004】
SEM(Scanning Electron Microscopy)及びnsTEM(Negative Stain Transmission Electron Microscopy)用途は、臨床診断デバイスであり、SEM及びnsTEMは、診断目的のために、ウイルスなどの感染因子を検出し、解析するために使用される。さらに、SEM及びnsTEMは、ワクチン、医薬品及び材料の研究、開発、品質管理における、生物学的粒子及び無機粒子及び材料の特性評価において広く使用される。化学的或いは生化学的特性評価の技術に対するSEM/nsTEMの主な利点は、対象の試料を直接可視化する可能性である。これは、例えば、細胞の形態を決定し、或いは病原体のウイルス科を特定することを可能にする。nsTEMでは、画像のコントラストは、対象の粒子を埋め込み、保存する、重金属染色溶液(酢酸ウラニル、リンタングステン酸など)によって得られる。
【0005】
感染症におけるウイルス病原体を特定する最初のスクリーニングツールとしてのTEMの価値は、診断用TEMが、原因ウイルスがコロナウイルス科の属であったことを最初に示した、2003年のSARS流行中に実証された。グローバル化された貿易及び旅行の結果として、大陸間レベルで急速に拡散する、エボラ出血熱、ジカ熱、又はSARS-COV2などの、新興感染因子の能力と、世界的な政治情勢の不安定さに起因したバイオテロ攻撃のリスクとを考慮すると、効率的なTEM解析へのアクセスが、緊急時の準備、管理、民間防衛の不可欠な部分であることは明らかである。これは、TEMの日常的な臨床使用と、医薬品の開発及び製造のプロセス設計及び品質管理における使用とに加えてである。
【0006】
TEMを使用して撮像されるとき、染色剤は、試料中の粒子よりも多くの電子を散乱する。これは、数ナノメートルの分解能で、粒子が暗い背景上に明るく見える画像をもたらす。従来、TEMグリッドは、手動調製プロトコルにしたがうことによって調製される。これは、3-5μlの試料液をTEMグリッド上にピペッティングし、次いで、試料に依存して約10-60秒間試料液を吸着させることを含む。次いで、余分な試料は、吸い取り紙を使用することによって、グリッドから手動で吸い取られる。試料を吸い取った直後に、3-5μlの水性染色溶液は、グリッドに添加される。
【0007】
次いで、余分な染色剤は、吸着された試料を覆う染色液の均一な薄層又は薄いフィルムを残して理想的に吸い取られる。この薄いフィルムは、乾燥させる。フィルムは、TEMイメージングのための試料を埋め込み、試料を脱水から保護する。染色剤はまた、コントラストを高める。1つの問題は、この手動手順がオペレータのスキルに大きく依存し、調製の一貫性に影響を与え、信頼性のない結果につながることである。手動ステップと最終的な吸い取りとの一貫性のないタイミングはしばしば、不良のTEMグリッド調製の原因である。
【0008】
一貫性のあるnsTEM試料調製を取得しようとするための代替的な方法は、ピペッティングロボットがTEMグリッド上に液体を自動的に分注するコンタクトピンプリント(contact pin-printing)技術を採用する。これらのアプローチは、液量の削減及び自動化の可能性などの、手動調製に対していくつかの利点を有する。しかしながら、それらは、特別な機器を必要とし、手動調製プロトコルよりもかなり複雑であり、時間がかかる。
【0009】
また、nsTEMグリッド調製のためのマイクロ流体デバイスは、説明されている。TEMグリッドは、マイクロ流体チャネルに閉じ込められ、試料調製のためのリキッドハンドリングは、外圧ポンプによって制御される。これは、手動調製に対する調製の一貫性を向上させるが、アプローチは、手動手順よりもかなり多くの液量を必要とする。それはまた、特別な器具を必要とし、ユーザが、調製方法を信頼性がなく、一貫性のないものにさせる全ての調製ステップのタイミングを制御することを含む。
【0010】
医薬品の製造における開発及び品質管理と、材料合成と、日常的な臨床診断となどの、時間及び資源が限られた状況において電子顕微鏡を使用する実現可能性に達するために、克服されなければならないいくつかのハードルが存在する。上述されたように、解析のための試料を調製する専門的な作業は、極度の複雑性と関連付けられている。これは、TEM技術の使用を、少数の専門家に限られた職人技にさせる。試料調製方法は、基礎的な実験技術を有する人に関して1ヶ月で習得され得るが、それをマスターするには、約10年かかり、しかも著しい専門家のばらつきを生む。これは、分野の専門家でさえも、望ましくないばらつきなしに一貫性のある結果をもたらすことができないことを意味する。
【0011】
通常、試料調製は、標準化された手順にしたがって実行される。最初に、試料は、試料支持体(TEMのケースでは、直径約3mmである金属製グリッドである)上に供給され、試料支持体に付着したままにさせる。次のステップでは、余分な試料溶液は、除去され、粒子を保護し、且つ/或いはコントラストを高めるための染色剤は、瞬時に添加される。ネガティブ染色によるTEMのケースでは、この染色剤は、重金属塩溶液である。次いで、余分な染色剤は、除去される。余分な液体/染色剤の除去は、ろ紙で吸い取ることによって行われる。余分な液体の除去の後の追加の洗浄ステップは時々、試料添加後と、染色剤を添加する前とに行われる。代替的に、液体の添加は、グリッドを液滴に浸すことによって行われ得る。典型的に、これらのステップは、機器のオペレータによって手動で実行され、したがって、結果は、一貫して正しい手順を実行するオペレータの能力に強く依存する。
【0012】
また、オペレータがどんなに一貫性があり、熟練しているかにかかわらず、異なる調製ステップが粒子に与える力を一貫して制御することは可能でない。これは、調製された試料の品質に影響を与え、その後の解析結果の信頼性を制限する。
【0013】
上述されたように、いくつかの自動又は半自動調製方法は、過去に提案されている。それらは、ロボットディスペンサ、特別な器具を使用したマイクロ流体力学、又はピペッティングデバイスに接続されている特別な試料ホルダに依存する。ロボットディスペンサは、微量の試料量のみを必要とするが、代わりに高度な専用器具に依存する。マイクロ流体ベースの試料調製アプローチは、より一貫性のある調製をもたらすが、やはり、特別な器具(特別なグリッドホルダ及び外圧ポンプ)に依存し、手動調製と比較して約10倍多い試料量を必要とする。グリッドを保持するポケット/スリットを有する特別なピペットチップを使用する方法はまた、提案されている。このmprepベースのアプローチはまた、より多くの試料量を必要とし、手動タイミングステップを含む。さらに、液体は、低品質の調製のリスクを高めるグリッドの両側に流される。
【発明の概要】
【0014】
したがって、より信頼性があり、一貫性のあるnsTEM試料調製方法が必要である。本発明は、手動調製と関連付けられたユーザバイアス及び一貫性の問題を有することなく、また、従来の自動化アプローチと関連付けられた品質、多くの試料量、高価で特別な器具という欠点なしに、上述された問題への解決策を提供する。
【0015】
より具体的には、本発明のデバイス及び方法は、その後のイメージング及び解析のために、亜可視(sub-visible)粒子の試料の一貫性のある目的(ユーザに依存しない)及び再現性のある調製を提供する。本発明の方法は、遅延バルブとして機能する溶解性フィルムと吸収膜とを組み合わせたマイクロ流体技術に基づいている。それは全て、使い捨ての試料調製デバイス又はカードに組み込まれており、したがって、特別な器具又は多くの試料量を必要としない。異なる液体は、溶解性フィルムと吸収膜(フィルタ)の設計とによって規定される一定の遅延及び速度で、グリッド上を順次流れる。
【0016】
この組み合わせは、異なる試料調製液が、制御されて十分に規定された方法で試料グリッド上に自動的に流される、高度な自動化手順を可能にする。ユーザが試料液を添加すると、毛細管力及び他の表面張力効果に依存することによって、追加の入力を必要とすることなく、様々な液体が本発明のデバイスを通して自動的に駆動されるので、グリッド調製プロセス全体は、自己駆動、自己完結或いは自動である。染色液及び試料液の使用は、本発明のデバイスにおいて使用される適切な液体の単なる例示であることを理解されたい。必要に応じて、多種多様な他の液体は、使用されてもよい。ユーザとのインタラクションは、時間的制限のない方法で、染色剤をデバイスの特定の位置にプリロードした後、試料液を添加するだけになる。試料の添加は、カード/デバイスにあらかじめ添加されているか、或いはあらかじめ保存されているかのいずれかである液体(染色剤など)を用いて試料グリッド上で一連の流水ステップを引き起こす。自動調製が完了するとき、オペレータは、正しく調製された試料グリッドをTEM又はSEM顕微鏡に単に移し、或いはカード自体をSEM又は光学顕微鏡に移すだけである。
【0017】
好ましくは、本発明のデバイスは、液体及び吸収膜を添加するための容器からなる、使い捨ての紙ベースのキットとして構成され、或いは実現され、試料がロードされるグリッドは、あらかじめ作り付けられているか、或いはユーザによって追加されるかのいずれかである。あらかじめ作り付けられたグリッドのケースでは、ユーザ入力は、染色剤(染色剤がプリロードされている場合を除く)と、次いで試料液とをデバイス内の異なる容器にピペッティングすることのみからなる。最後の液体の添加は、自律型調製プロセスの開始を引き起こし、マイクロ流体力が、グリッド上の2つの液体(すなわち、染色剤及び試料液)の流れを駆動し、溶解性バルブが、プロセスのタイミングを制御する。以下に詳細に説明されるように、グリッドは、薄いカーボン層でコーティングされ、或いは覆われてもよく、その上に試料液中の粒子が、排出又はユニットの溶解性膜が溶解されるまで、吸着し、或いは付着することを許容されるので、粒子は、グリッド上に残り、その後、染色液によって埋め込まれる。
【0018】
より具体的には、好ましくは、本発明の自律型マイクロ流体デバイスは、顕微鏡試料調製のためのものである。デバイスにおける積層体の使用は、単なる例示であり、本発明のデバイスは、積層体を使用することに限定されないことを理解されたい。成形などの任意の他の製作方法は、使用され得る。
【0019】
好ましくは、本発明のマイクロ流体デバイスは、第1の液体を含み、或いは第1の液体が添加される第1のリザーバを有する。第1の液体は、第1のリザーバの毛細管ストップバルブによって保持されている。第2のリザーバは、第1のリザーバと流体連通している。第2のリザーバは、第2の液体と、第2のリザーバ内に配置された試料支持体とを有する。第2のリザーバは、第2のリザーバ内に規定された入口開口部を有する。排出ユニットは、第2のリザーバに隣接している。排出ユニットは、第2のリザーバと流体連通している。排出ユニットは、排出ユニット内に配置された第1の吸収部材を有する。
【0020】
本発明の代替的な一実施形態では、マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイス内に規定されたチャネルを有し、第1のリザーバは、チャネルを介して第2のリザーバと流体連通している。
【0021】
本発明のさらに代替的な一実施形態では、チャネルは、第2のリザーバでのエッジに延在する。
【0022】
本発明の別の代替的な実施形態では、試料支持体は、第1の幅を有し、開口部は、第1の幅と実質的に類似する幅を有する。
【0023】
本発明の代替的な一実施形態では、排出又は吸い取りユニットは、第1の吸収部材の下方に、排出又は吸い取りユニット内に配置された溶解性膜を有する。
【0024】
本発明の別の実施形態では、排出ユニットは、溶解性膜が第1の吸収部材と第2の吸収部材との間に配置されるように、溶解性膜の下方に位置する第2の吸収部材を有する。
【0025】
本発明のさらに別の実施形態では、第1のリザーバは、染色液を含むプリロードされた染色剤リザーバである。
【0026】
本発明の代替的な一実施形態では、毛細管ストップバルブの第1の液体は、チャネルのエッジと別の表面エッジとの間に延在する。
【0027】
本発明の別の実施形態では、第1の吸収部材は、第1のフィルタ又は紙であり、第2の吸収部材は、第2のフィルタ又は紙である。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態では、溶解性膜は、ポリビニルアルコール(PVA)に基づくフィルムである。
【0029】
本発明の別の実施形態では、試料支持体は、ネガティブ染色による透過型電子顕微鏡調製のためのグリッドである。
【0030】
本発明のデバイスの代替的な一実施形態では、第1の液体は、染色剤である。
【0031】
さらに別の実施形態では、デバイスは、第1のリザーバの上流に追加のリザーバを有する。
【0032】
本発明のデバイスの別の実施形態では、排出ユニットは、第2の吸収部材の下方に第2の溶解性部材と、第2の溶解性部材の下方に第3の吸収部材とを有する。
【0033】
代替的な一実施形態では、排出ユニットは、排出ユニット内に規定されたベント開口部を有する。
【0034】
さらに代替的な一実施形態では、排出ユニットは、第2の溶解性部材と、第1の溶解性部材の下方に配置された第3の吸収部材とを有する。
【0035】
本発明の方法は、マイクロ流体デバイスにおいて試料を調製するための方法である。排出ユニット内に配置された第1の吸収部材を有する排出ユニットと流体連通して、隣接している第2のリザーバと流体連通している第1のリザーバを有するマイクロ流体デバイスは、提供される。第1のリザーバは、第1及び第2のリザーバを接続する毛細管ストップバルブによって第1のリザーバに保持されている第1の液体を含む。第2のリザーバは、第2のリザーバ内に配置された試料支持体を有する。物質を含む、第2の液体は、第2のリザーバに添加される。第2の液体は、第1の液体及び第1の吸収部材に接触する。第1の吸収部材は、第2の液体及び第1の液体を吸収する。物質は、試料支持体に付着する。
【0036】
代替的な一方法では、排出ユニットは、第1の吸収部材の上流に溶解性膜を設ける。第2の液体又は第1の液体は、第1の吸収部材が第1及び第2の液体を吸収する前に、溶解膜を溶解する。
【0037】
別の方法では、物質は、第2の液体又は第1の液体が溶解性膜を溶解する間に、試料支持体に付着する。
【0038】
さらに別の方法では、第1の液体を第1のリザーバに保持する毛細管ストップバルブは、第2の液体を第2のリザーバに添加する前に、第1の液体が第2のリザーバに流入することを防止する。
【0039】
別の方法では、物質を埋め込む第1の液体は、試料支持体に付着される。
【0040】
さらに別の方法では、毛細管ストップバルブは、第1のリザーバを第2のリザーバから分離するエッジを設け、エッジは、第1の液体を第1のリザーバに保持する。
【0041】
別の方法では、溶解性膜は、第1の吸収部材の下流に設けられ、第2の吸収部材は、溶解性膜の下流に設けられ、第1の吸収部材は、第2の液体を吸収し、第2の液体が溶解性膜と接触することを許容する。
【0042】
さらに別の方法では、第2の吸収部材は、溶解性膜が溶解された後、第2の液体及び第1の液体を吸収する。
【0043】
別の方法では、第2の液体は、毛細管ストップバルブに保持された第1の液体との接触時に、第1の液体の表面張力を破壊する。
【0044】
さらに別の方法では、溶解性膜を溶解するのに必要とされる時間は、物質が試料支持体に付着する許容時間を制御する。
【0045】
別の方法では、第2の液体は、第1の液体の前に吸収部材に接触する。
【0046】
別の方法では、第1の液体の第1の部分は、試料支持体上で乾燥する。
【0047】
代替的な一方法では、第1の液体の一部分は、試料支持体上に液体フィルムを形成し、液体フィルムは、1mm未満だが10nmよりも大きいフィルムの厚さを有する。
【0048】
さらに別の方法では、試料支持体は、周囲温度及び50%の相対湿度で、3分以内に乾燥される。
【0049】
別の方法では、第1の液体は、0.1-50μlの間の体積を有する。
【0050】
さらに別の方法では、第2の液体は、0.1-50μlの間の体積を有する。
【0051】
本発明の代替的な一方法では、本方法は、マイクロ流体デバイスにおいて試料を調製するための方法である。排出ユニット内に配置された第1の吸収部材を有する排出ユニットと流体連通して、隣接している第2のリザーバと流体連通している第1のリザーバを有するマイクロ流体デバイスは、提供される。第1のリザーバは、第1の液体を含む。第1の液体は、第1及び第2のリザーバを接続する毛細管ストップバルブによって第1のリザーバに保持されている。マイクロ流体デバイスのユーザは、試料支持体を第2のリザーバに添加する。ユーザは、物質を含む、第2の液体を第2のリザーバに添加する。ユーザは、試料支持体を第2のリザーバから除去する前に、少なくとも20秒の待機時間を待つ。待機時間中、第2の液体は、第1の液体及び第1の吸収部材に接触する。待機時間中、第1の吸収部材は、第2の液体及び第1の液体を吸収する。待機時間中、物質は、試料支持体に付着する。待機時間の終了時に、ユーザは、試料支持体を第2のリザーバから除去する。
【0052】
別の方法では、排出ユニットは、第1の吸収部材の上流に溶解性膜を設け、第2の液体は、待機時間中、溶解性膜を溶解する。
【0053】
さらに別の方法では、第1の液体は、試料支持体上にフィルムを形成し、試料支持体に付着された物質を埋め込む。
【0054】
別の方法では、フィルムは、試料支持体上で乾燥する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
ここで、本発明は、添付の図面を参照しながら、例として説明される。
【
図1】
図1Aは、試料添加を示す、本発明のデバイスの立面断面側面図である。
図1Bは、時間制御された試料吸着を示す、本発明のデバイスの立面断面側面図である。
図1Cは、余分な試料及び染色剤の自動排出を示す、本発明のデバイスの立面断面側面図である。
図1Dは、グリッド除去前のフィルム乾燥を示す、本発明のデバイスの立面断面側面図である。
【
図3】
図3は、本発明のデバイスの模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示されたデバイスの模式的な上面図である。
【
図6】
図6は、本発明の5台の異なるデバイスのマイクロ流体タイミング結果を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本発明のコンポーネントの平均溶解時間を示す測定を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、5枚のグリッドと、グリッド毎に5つのグリッドスクエアと、グリッドスクエア毎に9枚の画像とが、本発明の225枚の画像をもたらすことを説明する模式図である。
【
図9A】
図9Aは、本発明のデバイスを使用することによって調製されたTEMグリッドの拡大図である。
【
図10A】
図10Aは、本発明のデバイスを使用することによって調製された第1のグリッドからの画像の一例である。
【
図10B】
図10Bは、本発明のデバイスを使用することによって調製された第2のグリッドからの画像の一例である。
【
図10C】
図10Cは、本発明のデバイスを使用することによって調製された第3のグリッドからの画像の一例である。
【
図10D】
図10Dは、本発明のデバイスを使用することによって調製された第4のグリッドからの画像の一例である。
【
図10E】
図10Eは、本発明のデバイスを使用することによって調製された第5のグリッドからの画像の一例である。
【
図11】
図11は、本発明の各グリッド上の粒子の平均直径及び粒子数を示す模式図である。
【
図12】
図12は、グリッド毎に5枚の画像を用いた手動サブセット試験の結果、及び、真陽性と偽陽性との比率を示す表である。
【
図13】
図13は、本発明のデバイスの模式的な断面図である。
【
図15】
図15は、本発明のデバイスの第1の代替的な実施形態の断面側面図である。
【
図16】
図16は、本発明のデバイスの第2の代替的な実施形態の断面側面図である。
【
図17A】
図17Aは、第1の倍率でのプロテアソームの画像である(200nmの長さは、示されている)。
【
図17B】
図17Bは、第2の倍率での、
図17Aに示されたプロテアソームの画像である(100nmの長さは、示されている)。
【
図17C】
図17Cは、第1の倍率でのタンパク質(WPI)繊維の画像である(1μmの長さは、示されている)。
【
図17D】
図17Dは、第2の倍率でのWPI繊維の画像である(200nmの長さは、示されている)。
【
図18】
図18は、本発明のデバイスの第4の代替的な実施形態の立面概略断面図である。
【
図19】
図19は、本発明のデバイスの第5の代替的な実施形態の立面概略断面図である。
【
図20】
図20は、本発明のデバイスの第6の代替的な実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の毛細管駆動マイクロ流体デバイスは、従来の手動手順が行うのと同じ小さい液量を必要とし、最小限のユーザとのインタラクションを必要とする試料調製のために、本明細書に提示される。より具体的には、好ましくは、試料支持体は、TEMグリッドなどの、グリッドである。ユーザは、単に自律型試料調製プロセスを開始し、約1分間待ち、次いで、TEM又はSEM顕微鏡におけるイメージングの準備ができているTEMグリッドを抽出する。典型的に、本発明の自律型プロセスは、試料吸着と余分な液体の排出との時間を自動的に制御する、水性試料液のためのPVA(ポリビニルアルコール)フィルムなどの、試料液によって溶解するフィルムを必要とする。以下に、5台のマイクロ流体デバイスに対するマイクロ流体の一貫性は、マイクロ流体TEMグリッド調製イベントのタイミングと時間とを比較することによって実証される。さらに、時間遅延の調整可能性は、3種類の水溶性フィルムの厚さ(12μm、24μm、36μm)を使用した15台のデバイスに関して説明される。試料調製の一貫性は、試料としてAAV(アデノ随伴ウイルス)粒子と、染色剤としてメチルアミンバナデートとを用いて、5枚の自律的に調製されたTEMグリッドを撮像することによって検証される。
【0057】
平均粒子サイズなどの形態情報を抽出する、粒子検出スクリプトは、グリッド毎に45枚の顕微鏡画像上で実行され、画像が自動画像解析に適しているか否かを調査した。本発明のデバイスはまた、TEM調査のためのタンパク質試料及び繊維を調製するために使用されてもよく、他の染色剤は、使用されてもよい。
【0058】
本発明のデバイスは、手動手順の試料調製ステップを適応させ、ユーザとのインタラクションを、自動化されて毛細管駆動のマイクロ流体イベントに置き換える。好ましくは、しかしながら必ずしもそうではないが、デバイスは、シングルユースのために設計され、特別な機器を必要としない。
【0059】
図1A-
図1Dは、本発明のデバイスにおける自律型TEMグリッド調製イベントの概念的なシーケンスを説明する。
図1Aは、試料を添加するステップが、どのように自律型調製プロセスを引き起こすかを示す。
【0060】
より具体的には、デバイス200は、試料リザーバ又はグリッドチャンバ204に隣接している染色剤リザーバ202を有する。試料リザーバは、排出又は吸い取りユニット206に隣接している。染色剤リザーバ202は、染色液208を保持し、或いは含む。好ましくは、染色液208は、使用する前にプリロードされる。試料リザーバ204は、解析される、オブジェクト、分子又は粒子などの、物質214を含む試料液210を含む。粒子は、ウイルス又はウイルス様粒子又は任意の他のタイプの繊維状或いは粒子状の生物学的或いは無機的なオブジェクトであり得る。
【0061】
試料液210が試料リザーバ204内に適用されるとき、液体210は、TEMグリッドなどの試料支持体216を覆い、試料支持体又はグリッド216の上流で、プリロードされた染色剤208に接続し、グリッド216の下流に位置する排出又は吸い取りユニット206の吸い取り紙又はフィルタ218に接続する。(
図1Bに示されるように)試料液210と排出ユニット206の吸収ユニットとの間の接触は、時間制御された試料吸着ステップを開始する。試料液210が試料リザーバ204に堆積され、或いは添加されるとき、試料液210は、排出ユニット206の第1の吸収ユニット218(第1の吸い取り紙/ろ紙など)と接触する。排出ユニット206は、第1の吸収ユニット218の下方に位置する溶解性バルブ又は膜220を有する。試料液210は、第1の吸い取り紙218を、第2の吸い取り紙/ろ紙222などの第2の吸収ユニットから分離する、溶解性バルブ220が閉じられている間、TEMグリッド216を覆う。バルブ220は、第1の吸収部材218によって吸収された液体によって溶解されるまで閉じられている。溶解性バルブ又は膜220を溶解するのにかかる時間は、この間、試料液210中の粒子214がグリッド216に付着し、或いはグリッド216によって吸着されることを許容されるので、本発明のクリティカルなステップである。
【0062】
図1Cに示されるように、バルブ220が溶解されると、試料液210と染色液208との両方の余分な量は、2つの吸収ユニット、吸い取り紙/ろ紙218及び222によって自律的に排出され、或いは吸い取られる。(
図1Dに示されるように)粒子214は、グリッド216に付着し、或いはグリッド216によって吸着される。残りの薄い染色剤フィルム224は、グリッド216上の粒子214を覆い、或いは埋め込み、フィルム224が試料粒子214を埋め込む間に乾燥する。次いで、グリッド216は、イメージングの準備ができ、フラップ226を剥がすことによって、例えば、一対のピンセットを用いてグリッド216を抽出することによって、容易に取り出され得る。
【0063】
図2A-
図2Dは、対応するフレームを示すデバイスの上面図である。
【0064】
デバイス200の重要なコンポーネントは、
図3に示される断面図と、
図4に示される上面図とに描写されている。
図5は、本発明の製作されたデバイスの上面図を示す。
【0065】
上述されたように、本発明のマイクロ流体デバイス200は、液体(染色剤)リザーバ202と、第2の液体(試料)リザーバ又はグリッドチャンバ204と、排出ユニット206とからなる。以下に詳細に説明されるように、染色剤リザーバ202の重要な機能は、ユーザが、最終的に染色液208と接触する粒子214を含む試料液210(
図1A-
図1Dに最も良く示されている)を添加するまで、染色液208を含むことである。
【0066】
重要な有効な特徴は、染色剤リザーバ202をグリッドチャンバ204から分離する、
図3に示されるように、毛細管ストップバルブ又はピニングエッジ228などの液体ピン止め機構である。毛細管ストップバルブ又は機構は、疎水性表面領域及び/又は幾何学的構造であることがあり、表面張力は、液体が疎水性領域及び/又は幾何学的構造を超えることを防止する。好ましくは、幾何学的なストップバルブは、チャネル又はチャネルの一部の流れ方向におけるチャネル断面の突発的な分岐(例えば、エッジ)である。好ましい実施形態では、毛細管ストップバルブは、チャネルのエッジに位置し、第2のリザーバが開始するところで終了する。第1の液体が第2のリザーバに流入することを阻止する第2のリザーバでエッジが存在する限り、チャネルを有する必要はない。エッジが第2のリザーバから離れて位置している場合、2つの液体間の接触が確立されることができないように、気泡が第1の液体と第2の液体との間に形成されるリスクが存在する。2つの液体が接続することができ、第1の液体の表面張力が破壊されるように、第1の液体が第2の液体に容易にアクセスできることが非常に重要である。
【0067】
本発明の液体ピン止め機構の1つの目的は、第2のリザーバと接続されている(流体連通している)1つのリザーバに液体を閉じ込めることである。染色液208は、ピニングエッジ228でピン止めされ、或いはピニングエッジ228によって保持され、染色液208と裏面230との間の表面張力に起因して、第1の積層体部分232の親水性の裏面230に保持される。
【0068】
好ましくは、ピン止め機構228は、水平な底面231と、積層体253に向かって延在し、グリッド216を所定の位置に保持する接着テープ254の下方に延在する、積層体252の垂直な側壁233との間に形成された、エッジ、より具体的には、90度のエッジなどの、鋭利なエッジである。ピニングエッジ228と裏面230との間に延在する表面234での表面張力は、染色液208を染色剤リザーバ202の所定の位置に保持し、表面234及び第1の積層体部分232は、ピニングエッジ228上に延在する。表面張力は、表面フィルムの見かけ上の存在と、表面上の毛細管現象とにつながる表面付近の分子間力によって引き起こされる。液体の表面は、収縮する傾向があり、延伸された弾性膜の特性に類似する特性を有する。したがって、ピニングエッジ228と、親水性の裏面230と、表面234における表面張力との組み合わせは、自律型試料調製プロセスが、試料液210の添加によって開始されることを可能にする。
【0069】
グリッドチャンバ204は、フラップ積層体240の前方エッジ238と、積層体部分232の後方エッジ242との間に規定された試料入口開口部236を有する。染色剤リザーバ202は、第2の積層体部分246の後方エッジ244と、第1の積層体部分232の前方エッジ248との間に規定される入口開口部203を有する。好ましくは、第1及び第2の積層体部分232、246と、フラップ積層体240とは、同じ積層体の一部であり、デバイス200の製作をより容易にする。
【0070】
グリッドチャンバ204は、TEMグリッドなどの、グリッド216を含み、グリッド216の上流で染色剤リザーバ202に接続されて、流体連通している。グリッドチャンバ204はまた、グリッド216の下流で排出ユニット206に接続されて、流体連通している。好ましくは、毛細管力は、排出ユニット206に向かって、且つ、排出ユニット206内に、液体を横方向に駆動する。より具体的には、グリッドチャンバ204は、染色剤リザーバ202の積層体232と底部積層体252との間に規定されたチャネル250を介して染色剤リザーバ202と流体連通している。
【0071】
グリッド216は、グリッド216が積層体254に取り外し可能に保持されるように、裏側のグリッドの周囲で低タックの接着積層体254によって固定される。空間256は、グリッド216の下方に形成され、そうでなければ、液体が、TEMイメージングアーチファクトにつながり得るグリッド216の裏側又は下側に達しないようにする。
【0072】
グリッドチャンバ204の上部又は開口部は、試料入口236として機能し、余分な液体の排出(吸い取り)後の薄い染色剤フィルムの高速乾燥を保証する。開口部236は、第1の積層体部分232及びその後方エッジ242がグリッド216上に延在するので、TEMグリッド216の長さよりもわずかに小さい。同様に、フラップ部分240及びその前方エッジ238は、グリッド216上に延在する。これは、最上層の親水性層又は積層体部分232、240と、グリッド216との間にオーバラップを残す。オーバラップは、試料液210が、プリロードされた染色液208及び排出ユニット206と確実に接続することを保証する。
【0073】
好ましくは、排出ユニット206は、2つの吸収ユニット又はろ紙ユニット218及び222の紙ユニットのスタックと、2つの吸収ユニット又は部材218、222を互いに分離するPVAフィルム220などの水溶性バルブ/膜とによって形成されている。第1及び第2の吸収部材は、紙、すなわち、セルロースだけでなく、綿繊維、ニトロセルロース及びガラス繊維などの液体の良好な吸収を提供する任意の適切な多孔質マトリクスであり得る。第1又は上部の吸収部材218の1つの機能は、排出ユニットと第2のリザーバの第2の液体との間の良好な接触を保証することである。第2の吸収部材222の1つの機能は、溶解性膜220が溶解したときに、第1及び第2のリザーバからの液体の適切な流れと、第2の吸収部材への液体の適切な流れとを保証することである。好ましくは、2つの液体は、最初に試料液210が試料支持体上を流れるように、試料支持体又はTEMグリッド216上で順次流れ、2つの液体は、染色液208の一部分が試料支持体上に残り、試料液210の物質又はオブジェクトを埋め込むように、第1の吸収部材218に続いて染色液208と接触する。この原理は、デバイスが1つの吸収部材しか有していない場合、或いは吸収部材がPVAフィルムなどの溶解性膜の下流に位置する場合でも、本発明の全ての実施形態に適用される。典型的に、生体試料は、水溶液で調製されるので、PVAは、本発明の範囲に特に適している。上部の紙ユニット218は、グリッドチャンバ204とPVA層220との間に安定した接続を提供する。紙ユニット218は、試料リザーバ又はグリッドチャンバ204と流体連通している。上部の紙ユニット218の上方に位置する、ベント264は、排出プロセスを妨げ得る空気が閉じ込められないことを保証する。ベントは、気密性膜を使用するとき、重要な特徴である。
【0074】
本発明の重要な一態様は、PVA層220の溶解時間が、TEMグリッド216上に堆積された試料液210の吸着時間を制御することである。排出又は吸い取りステップは、PVA層220が試料液210によって溶解され、液体が第2の吸収(紙)ユニット222に達するときに引き起こされる。第2の吸収(紙)ユニット222の高い毛細管(排出)力は、デバイス200に含まれる液量210及び208の高速吸収につながる。試料調製が完了した後、フラップ部分240は、剥がされ、グリッド216を収集し得る。グリッドの収集に加えて、フラップ部分240は、調製手順の前に、ユーザが選択したグリッドを導入することを可能にし得る。
【0075】
図5は、本発明のデバイス200の製作されたバージョンの上面図である。
【0076】
図6は、本発明の5種類のデバイス(デバイス番号1-5)の試験結果を示す模式
図400である。図は、粒子を含む試料液の添加に対する異なる時間での染色剤のプリローディングを示す。より具体的には、それは、5種類のデバイスのマイクロ流体タイミング結果、及び、染色剤がプリロードされた時間を示し、すなわち、各デバイスの、染色剤添加と試料添加との間の時間、吸着時間、排出/吸い取り時間、及び乾燥時間を示す。上で詳細に説明されたように、自律型TEMグリッド調製は、時間0に試料添加で開始し、試料添加によって引き起こされる。染色剤は、デバイス番号1において試料添加(試料液210など)の約40秒前に添加される。染色剤は、デバイス番号2において試料添加の約20秒前に、デバイス番号3において約60秒前に、デバイス番号4において約40秒前に、デバイス番号5において試料液の添加の約50秒前に添加される。試料液の添加までの染色剤をプリロードするための時間402、404、406、408、410は、20秒から60秒の間で変化するが、吸着、排出、及び乾燥ステップを完了する時間412は、5台のデバイス全てに関してほぼ同じである。プリローディングステップに続くステップは全て、合計で20秒よりもわずかに長い。したがって、吸着時間は、第1の吸収媒体(紙など)に吸収された試料液が溶解膜(PVAフィルム)を溶解するのにかかる時間と同じである。これは、染色剤が添加され、或いはプリロードされた時間に対して、試料液が添加されるときはタイムクリティカルではなく、試料液を添加するユーザにとってプロセスをより容易にすることを意味する。
【0077】
図7は、それぞれ、厚さ12μm、24μm及び36μmを有する3種類の溶解性膜220a、220b、220cを溶解するのに必要とされる時間を示す模式
図420である。膜220aは、溶解するのに約15秒、膜220bは、約90秒、膜220cは、溶解するのに180秒超えを必要とした。
【0078】
図8は、合計225枚の画像446をもたらす、グリッド毎に5つのグリッドスクエア442と、グリッドスクエア442毎に9枚の画像444とを有する5枚のグリッド432、434、438及び440を有するイメージングスキームを示す模式
図430である。
【0079】
【0080】
図10Aは、本発明のデバイス及び方法を使用することによって調製された第1のグリッド432、612からの画像610の一例である。画像610は、ウイルス粒子などの粒子614を含み、或いは描写している。
図10Aと同様に、
図10Bは、本発明のデバイス及び方法を使用することによって調製された第2のグリッド434、618からの画像616の一例である。画像616は、ウイルス粒子などの粒子620を含む。
図10Cは、本発明のデバイス及び方法を使用することによって調製された第3のグリッド436、624からの画像622の一例である。画像622は、ウイルス粒子などの粒子626を含む。
図10Dは、本発明のデバイス及び方法を使用することによって調製された第4のグリッド438、630からの画像628の一例である。画像628は、粒子632を含み、或いは描写している。
図10Eは、本発明のデバイス及び方法を使用することによって調製された第5のグリッド440、636からの画像634の一例である。画像634は、ウイルス粒子又は任意の他の適切な粒子などの粒子638を含み、或いは描写している。
【0081】
図11は、本発明のデバイス及び方法を使用することによって調製された各グリッド上の粒子の平均直径及び粒子数のグラフ640である。
【0082】
図12は、グリッド毎に5枚の画像を用いた手動サブセット試験の結果、及び、真陽性と偽陽性との比率を示す表642である。
【0083】
図13は、本発明のマイクロ流体デバイス100の断面図である。デバイス100は、積層体から製作されていないことに留意されたい。デバイス100は、デバイス200と実質的に類似しており、デバイス100に適用する全てはまた、デバイス200に適用し、逆も同様である。デバイス100は、流体連通している液体リザーバを有するマイクロ流体プラットフォームと、遅延バルブを有する時間制御された液体排出として機能する吸収ユニット及び溶解性フィルムとを有する。ここでは、TEMグリッドとして説明される、試料支持体116は、試料リザーバ104の底部に配置される。染色剤リザーバ102は、デバイスの後方セクション141の前端と、デバイスの中間セクション132の後端との間に規定された入口開口部143を有する。好ましくは、デバイスが積層体技術を使用して構築される場合、セクション140、132及び141は、同じ積層体の一部であり、デバイス100を製作することを、より容易にする。
【0084】
試料リザーバ104は、積層体又はセクション132と、積層体又はセクション140との間に規定された入口開口部145を有する。試料リザーバ104は、試料リザーバ104と上流の染色剤リザーバ102との間に延在するマイクロ流体チャネル150を介して、上流(片側)で染色剤リザーバ102に接続されて、流体連通している。チャネル150は、例えば、側壁がエッジを有さないように、チャネル150の端部の一部分のみにピニングエッジ又は不連続性を有してもよいことを理解されたい。また、チャネルの端部に2つの対向するエッジが存在するように、内表面の上側にチャネルのエッジが存在してもよい。
【0085】
好ましくは、チャネル150は、第1の積層体部分又はセクション132の親水性の裏面130と、染色剤リザーバ102の底面131との間に規定される。底面131は、ピニングエッジ128に延在する。液体108と裏面130との間の毛細管力及び表面134の表面張力は、液体108を染色剤リザーバ102に保持し、液体108が試料リザーバ104に流入することを防止する。言い換えれば、ピニングエッジ128は、染色剤リザーバ102に添加された染色液などの、液体108が、試料リザーバ104に流入することを防止する。
【0086】
試料リザーバ104は、溶解性フィルム、膜又はバルブ162によって、第2のフィルタ又は吸収媒体160から分離されている第1のフィルタ又は吸収媒体158に接続されて、流体連通している、下流(染色剤リザーバ102への上流の接続に対して反対側)にある。第1のフィルタ158はまた、ベント164に接続されている。ベント164は、潜在的に閉じ込められた空気及びガスのための非常口として機能し、そうでなければ、第1及び第2のフィルタ158、160への液体108、110の流れを妨げ、第1及び第2のフィルタ158、160によって吸収される液体108、110の流れを妨げる。
【0087】
図14を参照すると、取り外し可能なフラップ126は、グリッド調製の完了時に、試料グリッド116を試料リザーバ102から除去する前に、デバイス100から除去される。
【0088】
図15は、
図13に示されるデバイス100と実質的に類似しているが、追加のリザーバ302と、追加の溶解性フィルム又は膜又はバルブ320と、追加の吸収ユニット322とを含むデバイス300を示す。ここでは、デバイス100とデバイス300との間の主な差異のみが説明される。デバイス300は、追加の液体が、順次、時間制御された方法で、グリッド116上に流されるべきであるときに使用される。追加の液体リザーバ302は、染色剤又は第2のリザーバ102の上流に配置され、リザーバ302の底面306と、積層体部分又はセクション310の親水性の裏面308との間に規定されるチャネル304を介して流体連通して、接続されている。リザーバ302と102との間に、上流リザーバ302の液体314が染色剤リザーバ102、303に流入することを防止する第2のピニングエッジ312が存在する。液体314は、リザーバ102の液体108と同じ方法で、すなわち、親水性の裏面308への毛細管力及び表面316における表面張力によって、リザーバ302の所定の位置に保持される。
【0089】
リザーバの順序は、液体がグリッド116上を流れる順序に対応する。すなわち、液体が試料、洗浄液、染色剤である場合、染色液は、上流リザーバ302に添加されるべきである。洗浄液は、中間又は第2のリザーバ102に添加されるべきであり、添加時に上流リザーバ302の液体に接続される。試料液は、グリッド116上の第1のリザーバ104に添加されるべきであり、添加時に洗浄液305及び染色剤314の上流液列に接続し、下流で排出ユニット318に接続する。
【0090】
排出ユニット318は、吸収部材(ろ紙)158、160と、溶解性フィルム162とを有し、試料リザーバ104の下流に位置する。排出ユニット318は、追加の溶解性フィルム320と、別のフィルタ又は吸収部材322とを有し、追加の液体のタイミングがどのように制御され得るかを説明する。第1の溶解性フィルム158の厚さは、試料リザーバ104に添加された第1の液体110が、どのくらいの時間グリッド116の上に存在し、或いは留まるか、すなわち、試料液110及び粒子114が、どのくらいの時間グリッド116に付着することを許容されるかを決定する。第2のフィルタ160は、試料液110の体積に対応する液量を吸収し、保存するほど、十分に大きいべきである。液体110が第2の溶解性フィルム又は膜320に達すると、グリッド116上の液体の流れは、フィルム320が溶解するまで停止し、3つの液体を有するこのセットアップにおける最後のフィルタ322は、3つの液体110、108/305及び314全ての体積全てを吸収することによって、グリッド116上の第2の液体108、305及び第3の液体314を引き寄せる。
【0091】
図16は、
図13及び
図15に示されたデバイスの変更を含むデバイス380を示し、排出ユニット384のろ紙382の形状が、液体の流速を変えるためにどのように変更され得るかを説明する。デバイス380の他の全ては、デバイス100及び300のコンポーネントと同一である。幅が狭く、薄いろ紙又はネック386を有するろ紙382は、グリッド116上の流速を遅くし、幅が広く、厚いフィルタは、流速を増加させる。
【0092】
図18-
図19は、排出又は吸い取りユニット706、806が、それぞれ、排出又は吸い取りユニット106と異なることを除いて、
図13に示されるデバイス100と実質的に同一であるデバイス700、800、それぞれの代替的な実施形態を示す。好ましくは、
図13に示されるように、排出ユニット706は、1つの第1の吸収部材758のみを有するが、溶解性膜又は第2の吸収部材を有さない。デバイス100、200を参照して詳細に説明されたように、デバイス700の動作は、試料液中の粒子がグリッド116に付着するのに十分な時間があるように、第1及び第2のリザーバの液体が、適切な時間中に吸収部材758によって吸収されるという点で、デバイス100の動作と実質的に類似している。
【0093】
同様に、デバイス800は、排出ユニット806が溶解性膜862及び第1の吸収部材858を有することを除いて、デバイス100のそれと実質的に類似している。排出ユニット806は、溶解性膜862を溶解することを開始するために溶解性部材と接触する前に、第2の液体が吸収部材を通過する必要なく、溶解性膜862が第2の液体と直接接触するように、溶解性膜862と第2のリザーバ104との間に吸収部材を有しない。排出ユニット106と比較した排出ユニット706、806の差異を除いて、デバイス700、800の全ての他の特徴及び方法ステップは、上で詳細に説明されたデバイス100、200と同じである。
【0094】
図20は、第1の吸収部材158の代わりに、排出又は吸い取りユニット906において毛細管チャネル958を有することを除いて、
図13に示されるデバイス100と実質的に類似しているデバイス900のさらに別の実施形態である。デバイス100及び200に関連して詳細に説明されたように、チャネル958内の毛細管力は、液体110が溶解性膜162と接触し、膜を溶解するように、第2の液体110を第2のリザーバ104からチャネル958へ促す。
【0095】
動作では、本発明の方法は、あらかじめ取り付けられたグリッド216を有するグリッドチャンバ又は試料液リザーバ204に接続されて、流体連通している染色剤リザーバ202を提供するステップを含む。リザーバ204は、排出ユニット206に接続されて、流体連通している。染色液208は、染色剤リザーバ202に添加され、ユーザが粒子214を含む試料液210を試料液リザーバ204に添加するまで、リザーバ202に含まれる。
【0096】
この重要な特徴は、毛細管ストップバルブ又はピン留め機構、ここでは、染色剤リザーバ202をグリッドチャンバ204から分離するチャネル250の端部に位置するエッジ228の形態によって可能になる。染色液208は、液体208が裏面230に付着し、ピニングエッジ228上に延在するように、毛細管力に起因してピニングエッジ228でピン止めされ、チャネル250を介して、染色剤リザーバ202と、試料リザーバ又はグリッドチャンバ204との間に流体連通が存在するものの、表面234での表面張力は、液体208がグリッドチャンバ204に流入することを防止する。このようにして、染色液208が染色剤リザーバ202の内部に保持されるという事実は、試料調製プロセスが、粒子214を含む試料液210を試料リザーバ204に添加することによって開始されることを可能にする。液体210は、液体210が表面234と接触し、ピニングエッジ228と裏面230との間の液体208の表面張力を破壊するような量で添加される。表面234の表面張力が破壊されるとき、2つの液体210、208は、界面で液体のわずかな混合のみと接続される。粒子214を含む試料液210がデバイス200の上方から開口部236を介してグリッドチャンバ204に添加されるとき、液体210はまた、試料リザーバ204の下流にある排出ユニット206に流入し、接続する。試料液210及び粒子214が添加される開口部236は、試料液210が染色液208及び吸い取りユニット206と確実に接続するように、グリッド216の幅よりもわずかに小さい。グリッド216の下方に位置する空間256は、液体が、グリッド216の間違った側に流れて、付着し、調製の品質を妨げないようにする。
【0097】
排出ユニット206は、2つの吸収ユニット(ろ紙など)218及び222と、2つのフィルタ218、222の間に位置する溶解性PVAフィルム220とを有する。上部のフィルタ218は、液体が、フィルタ218の上部から、溶解性フィルム220と接触しているフィルタ218の底部に移動するように、試料液210が、試料液210を吸収することによって、PVAフィルム220に確実に接続するようにする。
【0098】
上部のフィルタの上方のベント264は、試料液210と排出ユニット206との間の接続を妨げ得る、潜在的に閉じ込められた空気の非常口として機能する。試料液210は、液体がフィルタ218の下方に位置するフィルタ222に流入し得るように、上部のフィルタ218を通って流れ、PVAフィルム又は層220との接触時に、PVA層220を溶解する。試料液210がPVA層220を溶解するのにかかる時間は、試料液210中の粒子214がグリッド216に付着し、吸着することを許容される時間を制御するので、クリティカルである。PVA層220が溶解されると、液体210に続いて、デバイス200の全ての液体210、208を吸収する底部のフィルタ222に流入し、接続する。フィルタ又は吸収部材222は、最初に試料液210、次いで染色液208を吸収する。したがって、底部のフィルタ222は、手動吸い取りステップに対応する。ここで、試料液210及び粒子214が添加されたグリッド216上の開口部236は、2つの吸収部材又はフィルタ218、222による排出/吸い取りが全ての余分な液体210、208を吸収した後に残される薄い染色剤フィルム224の高速乾燥を保証する。最後に、フラップ226は、デバイス200から剥がされ、例えば、ns-TEMデバイスにおけるその後のイメージングのためにデバイス200から容易に抽出されるグリッド216に容易なアクセスを提供し得る。
【0099】
図15に関連して示され、説明されるように、例えば、染色液314が試料液110に添加される前の洗浄ステップにおける洗浄液305といった、より多くの液体が順次添加される必要がある場合、チャネル304を介して中間リザーバ303に接続されて、流体連通しており、ピニングエッジ312によって分離されている別の液体リザーバ302は、追加され得る。次いで、染色液314が最も上流のリザーバ302に添加された後、洗浄液305は、中間リザーバ303に添加されるべきである。追加の液体(ここでは、洗浄液305)のインキュベーション時間が制御される必要がある場合、溶解性フィルム320及びろ紙322の追加の層は、排出ユニット318に追加され得る。
【0100】
グリッド116上の流れの速度は、排出ユニットのろ紙の形状及び厚さによって制御され得る。より少ない量の利用可能な吸収媒体(すなわち、フィルタ/紙)、又は、より低いフィルタの毛細管現象(ウィッキング率としても知られている)は、より遅い流れ/排出をもたらし、逆も同様である。例えば、溶解性フィルムの後の薄く、幅が狭く、長いフィルタは、より遅い液体の流れ及び排出ペースをもたらす。
【0101】
あらかじめ混合された染色溶液の液滴を添加する代わりに、染色剤を構成する塩は、染色剤リザーバ102の底部で乾燥され、次いで、染色剤リザーバ及びグリッドを調製するとき、水又は別の溶解剤/緩衝剤のみが、リザーバ102に添加され得る。次いで、溶解剤が添加されるとき、染色剤の塩は、溶解され、染色液208を生成する。
【0102】
調製アセンブリキットに親水化グリッドを追加する代わりに、アルシアンブルーなどの親水化液は、試料液が添加される前に、グリッド上に流され得る。このようにして、染色液及び試料液は、マイクロ流体チャネル304及び150を介して接続されるが、ピニングエッジ128及び312を介して分離状態に保たれた(
図15に最も良く示されている)、グリッドチャンバ102及び302の上流の2つの分離したリザーバにロードされる。次いで、グリッド親水化液は、グリッドチャンバ104のグリッド116上に直接添加され、グリッド116上を流れる液体のシーケンスを開始する、すなわち、グリッド調製プロセスを開始する。
【0103】
本発明の方法の代替的な一使用は、グリッド116の上にマトリクスの制御された堆積のために使用することである。1つの液体のみ、すなわち、基質が使用され、それがグリッドチャンバ104に添加されるということを除いて、上述されたのと同じ方法は、適用される。例えば、スパイダーシルクなどの、繊維は、グリッド116上に添加された試料(基質)の液滴上の気液界面において重合することを許容されてもよい。溶解性層162が溶解されるとき、ろ紙160がデバイスを排出する間、スパイダーシルクは、EMグリッド上に静かに落下する。次いで、グリッドの上に配置された繊維網(このケースでは、スパイダーシルク)は、(クライオ又はネガティブ染色による)TEMにおけるその後の単粒子の再構築の前に、後に添加されるタンパク質をグリッド上でランダムな方向に配置させるマトリクスとして機能する。グリッド116に直接タンパク質を添加することはしばしば、タンパク質がそれ自体を好ましい方向(すなわち、細長い且つ/或いは平らなときに横になる)に配向することをもたらし、再構築において実現され得る解像度を制限する。
【0104】
(実験)
上述されたように、本発明のマイクロ流体デバイスは、例えば、
図3に特に示されるように、異なる材料のいくつかの層からなる。それは、親水性シート(タイプCのレーザー印刷透明体、ゼロックス、エルムストック、英国)と、接着テープ1(64620、Tesa、ノルダーシュテッド、ドイツ)と、接着テープ2(300LSE、3M、VWR、スポーンガ、スウェーデン)とから製作された。低タックの接着剤(Scotch(登録商標) 928、3M、Amazon、コブレンツ、ドイツ)は、連続カーボンフィルムを有するフォルムバールコーティングされた銅グリッドである、400メッシュTEMグリッド(01754-F、Ted Pella Inc.、レディング、カリフォルニア州)を固定するために使用された。Ahlstrom grade238及び222(Ahlstrom Filtration LLC、マウント・ホーリー・スプリングス、ペンシルバニア州)は、それぞれ、排出又は吸い取りユニットにおける吸水紙1及び吸水紙2として使用された。溶解性フィルム又は膜/バルブは、粒状PVA(360627、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)から製作された。1×10
13gc/mLのストック濃度で、緑色蛍光タンパク質のサイトメガロウイルス(CMV)プロモータ駆動の発現で封入されたAAV(アデノ随伴ウイルス)粒子、セロタイプ2(AAV2)(CV10004-50UL、AMS Biotechnology Ltd.、アビンドン、英国)は、試料として使用された。
【0105】
AAV試料は、リン酸緩衝生理食塩水(DPBS(-/-) 14190-094、Thermo-Fisher、ウプサラ、スウェーデン)を用いて、1×1012gc/mLの濃度に希釈された。26Sプロテアソーム(#:E-350、BostonBiochem、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)は、大きい球状タンパク質複合体を表す試験試料として使用された。40mg/mlの初期濃度で、ホエイタンパク質分離物(WPI)16からのタンパク質繊維を有する試料は、スウェーデン、ストックホルムの王立工科大学の応用物理化学学科からの寄贈であった。
【0106】
NanoVan(登録商標)、2%のメチルアミンバナデート溶液(#2011-5ML、Nanoprobes、ヤップハンク、ニューヨーク州)と、2%の酢酸ウラニル溶液(#2240-2、Electron Microscopy Sciences、ハットフィールド、ペンシルバニア州)とは、染色剤として使用された。食用色素の水溶液(EANコード:5701073064665及び5701073064672、Dr.Oetker、Coop、ソルナ、スウェーデン)は、試料及び染色剤のモデルとして使用された。
【0107】
前述されたように、各デバイスは、デバイスが異なる材料のいくつかの層を積み重ねることによって形成された積層技術を使用して製作された。
図3の断面図は、異なる層を示す。これらの層の名称、ブランド名及び厚さは、以下であった。
【0108】
【0109】
接着剤及び親水性シートは、カッティングプロッタ(CE6000、Graphtec America Inc.、アーバイン、カリフォルニア州)を使用して構築された。
【0110】
PVAフィルム又は膜は、20wt%の粒状PVAの水溶液から製作された。薄いフィルムのアプリケータ(4340、Elcometer、マンチェスター、英国)を使用して、PVAフィルムは、ラミネートパウチ(3385694、Office Depot、LA Venlo、オランダ)に均一に移され、室温で乾燥された。最終的なPVAフィルムの厚さは、1μm目盛りの厚さ計(2109L Metric Dial Gauge、Mitutoyo、ウプランズ・ヴェスビー、スウェーデン)を使用して測定された。
【0111】
PVAフィルムは、ラミネータ(Heat Seal Pro H600、GBC、ノースブルック、イリノイ州)を使用して、85℃で吸水紙2に積層された。紙-PVA積層体は、使用30分前まで80%の相対湿度で湿度チャンバに保管された。
【0112】
紙-PVA積層体を含む、紙材料は、レーザーカッタ(VLS 2.30、Universal Laser Systems、ウィーン、オーストリア)によって切断された。構築した後、層は、アライメントピンを使用することによってアセンブルされ、室温で積層された。向上された粒子接着性に関して、本発明のマイクロ流体デバイスを完全にアセンブルする前に、TEMグリッドは、PELCO easiGlow(商品商標)(91000S-230、Ted Pella Inc.、レディング、カリフォルニア州)を用いて、酸素プラズマ中でグロー放電された。完全にアセンブルされた、製作されたデバイスは、
図5に示される。デバイスの寸法は、6×12mm
2である。デバイスは、TEMグリッドをグロー放電した後、1時間以内に使用された。
【0113】
本発明のマイクロ流体デバイスの1つの重要な特徴は、ユーザとのインタラクションを最小限にするように設計されることである。自律型デバイスの動作及びマイクロ流体の一貫性を実証するために、6台のデバイスは、評価された。5台のデバイスは、試料としてAAV粒子と、染色剤としてNanoVanとを用いて使用された。これらの5台のデバイスからのグリッドは、合計225枚の画像上で自動画像解析のためのTEM画像を収集するために使用された。自律型デバイスの個々の調製ステップをより良く可視化するために、1台のデバイスは、着色色素溶液を用いて使用された。青色色素溶液及び黄色色素溶液は、それぞれ、試料及び染色剤のモデルとして使用された。最初に、5μlの染色液は、染色剤入口を介して染色剤リザーバに添加された。次いで、自律型TEMグリッド調製機構は、試料リザーバ又はグリッドチャンバの試料入口に5μlの試料を添加することによって引き起こされた。
【0114】
全てのデバイスのTEMグリッド調製シーケンスは、1秒あたり50フレームのフレームレートを有するカメラで記録された。デバイスの性能と自律型調製ステップの一貫性とを解析するために、各ステップの時間間隔は、手動で取得された。染色剤の添加と試料液(粒子を含む)の添加との間の時間は、染色剤のプリローディング時間として規定された。
【0115】
染色剤リザーバのロバスト性、すなわち、漏れのない染色剤の閉じ込めを実証するために、染色剤添加と試料添加との間の時間は、20-60秒の間で変化され、染色液は、ピニングエッジと親水性表面の裏面との間に延在する表面、すなわち、毛細管力及び表面張力によって所定の位置に保持された。
図1A-
図1Dに説明されるように、試料添加後のマイクロ流体TEMグリッド調製ステップは、試料吸着、排出/吸い取り及び薄いフィルム乾燥を含む。本発明の方法のクリティカルな態様としては、TEMグリッド上の試料の吸着時間が、PVAフィルムの溶解時間に対応し、その溶解時間と同じであることである。それは、紙1の濡れと吸い取りイベントの開始との間の時間として規定された。PVA層の厚さは、10μmであった。吸い取り時間は、排出/吸い取りイベントの開始と終了との間の間隔である。吸い取りイベントの開始は、液体が排出ユニットに最初に移動する瞬間として規定される。吸い取りイベントの終了は、液体の大部分が、TEMグリッド上に薄い染色剤フィルムを残したまま、排出ユニットによって排出される瞬間として規定される。この後、乾燥間隔は、開始し、グリッド上の残りの染色剤の薄いフィルムが視覚的に乾燥するまで続く。
【0116】
概して、TEMイメージングは、様々なタイプの試料に関して強力な可視化技術である。しかしながら、必要とされる試料吸着時間は、異なる試料間で変化する。これの主な理由は、試料吸着が、試料とTEMグリッドのカーボン表面との間の相互作用に依存することである。したがって、異なる試料要件を構成する異なる吸着時間を有するデバイスは、望まれることとなる。
【0117】
本発明のマイクロ流体デバイスの別の重要な要素は、デバイスのタイミングを自律的に制御する水溶性PVAフィルムの溶解時間が、グリッド上の試料(すなわち、染色剤に埋め込まれた粒子のフィルム又は層)の試料吸着時間に対応することである。
【0118】
グリッド上の試料の吸着時間の調整可能性を実証するために、3種類の厚さの水溶性フィルム(12μm、24μm及び36μm)を有するマイクロ流体デバイスは、製作され、調査された。溶解時間に影響を与えるパラメータ(例えば、温度、相対湿度)の中で、溶解性フィルムの厚さは、最も調整(tune and adjust)しやすいパラメータのうちの1つである。24μm及び36μmのPVAの厚さは、12μmのPVAシートの複数の層を積み重ね、ラミネータを用いて85℃で、それらをPVAシートの下方の紙2に積層することによって得られた。紙-PVA積層体は、使用30分前まで80%の相対湿度の湿度チャンバに保管された。試料及び染色剤のモデルとして、5μlの青色色素溶液及び5μlの黄色色素溶液、それぞれを使用して、フィルムの厚さ毎に5台、15台のデバイスの吸着時間は、評価された。
【0119】
試料調製の品質を評価するために、TEMイメージングは、試料としてAAV粒子と、染色剤としてNanoVanとを用いて、5枚の自律的に調製されたTEMグリッド上で実行された。NanoVanは、一般的に使用されている酢酸ウラニルとは異なり、放射性ではないので選択され、通常のラボラトリにおいて取り扱われ得る。5枚のグリッド全てに関して、AAVが、TEMグリッドに成功裏に吸着され、染色剤に十分に埋め込まれたか否かが調査された。異なる倍率レベルのAAV粒子は、16μmから500nmの間の視野(FOV)で、検査された。イメージングは、25kVの動作電圧で、MiniTEM(商品商標)顕微鏡(Vironova AB、ストックホルム、スウェーデン)上で実行された。
【0120】
取得されたTEM画像が自動画像解析に有用であったか否かを調査するために、粒子検出スクリプトは、5枚の自律的に調製されたグリッドのTEM画像に適用された。合計225枚の画像は、
図8に示されるイメージングスキームにしたがって収集された。低い倍率では、ユーザは、5つの隣接していないグリッドスクエアを手動で選択した。次いで、9枚の高い倍率の画像は、2μmのFOVで、グリッドスクエア毎に取得され、グリッド毎に45枚の画像をもたらした。この倍率では、1画素は、約1nmを表し、通常、画像毎に多数の粒子は、見られ、典型的に、AAVの形態は、可視的である。グリッド1、グリッド4及びグリッド5は、同じ顕微鏡上で撮像され、グリッド2及びグリッド3は、第2の顕微鏡上で撮像された。粒子検出スクリプトは、225枚の画像全てに適用された。AAVは、丸く見える正20面体のキャプシドを有し、20-25nmの予想される直径を有する。しかしながら、スクリプトは、粒子が実際のウイルスサイズよりも大きく見えるように、AAV粒子の周りの染色エンベロープを検出するように設計された。したがって、粒子検出スクリプトは、24nmから32nmの直径範囲内で丸いオブジェクトを検出するように設定された。自動画像解析から、グリッド毎に検出された粒子数は、取得され、各検出された粒子は、その位置及びサイズによって特徴付けられる。
【0121】
粒子検出の結果を定量化するために、手動粒子検出は、TEMグリッド毎に5枚のランダムに選択された画像と共に、25枚の画像のサブセットに対して実行された。粒子数は、手動でカウントされ、検出スクリプトからの結果と比較された。これは、真陽性と偽陽性との比率を求めるために行われ、両方は、検出スクリプトの性能の重要な尺度である。
【0122】
nsTEMは、構造生物学のための生体試料、例えば、タンパク質複合体の調製中に品質管理として日常的に使用される。より広い用途のための、異なる染色剤を用いたマイクロ流体デバイスの使用の可能性を調査するために、プロテアソームは、より大きい球状タンパク質複合体として、調製され、撮像され、WPIからのタンパク質繊維は、糸状タンパク質として、調製され、撮像された。使用されたマイクロ流体デバイスにおけるPVAフィルムは、15μmの厚さを有し、約35秒の溶解時間に相当する。プロテアソーム及び繊維に関して、酢酸ウラニルの原液及びNanoVanは、それぞれ使用された。
【0123】
上で詳細に説明されたように、TEMグリッド調製シーケンスは、
図2A-
図2Dに示される。可視性に関して、着色された色素溶液は、試料溶液及び染色溶液の代わりに使用された。第1のステップは、どのように、プリロードされた染色剤208(黄色色素溶液)が染色剤リザーバ202に含まれ、試料210、214(青色色素溶液)が添加されるかを示す(
図2Aに最も良く示されている)。第2のステップでは、PVAフィルム又はバルブが閉じられている限り、粒子、214を含む試料210は、TEMグリッドを覆う(
図2Bに最も良く示されている)。PVAフィルム又はバルブが溶解したとき、染色液及び試料液は、吸い取られる(
図2Cに最も良く示されている)。最後に、液体の大部分は、排出媒体(吸い取りフィルタ/紙)に含まれ、そこに埋め込まれた粒子を含む、染色剤フィルムは、乾燥する(
図2Dに最も良く示されている)。従来報告されているマイクロ流体TEMグリッド調製と比較して、ユーザとのインタラクションは、水溶性PVAフィルムによって制御される自律型マイクロ流体の動作を提供することによって低減された。さらに、かなり低い液体消費は、手動調製プロトコルと同じ液量で実証された。
【0124】
マイクロ流体の一貫性を実証するために、ビデオ録画は、試料としてAAVと、染色剤としてNanoVanとを用いて使用された5台のデバイス上のマイクロ流体イベントのタイミングと時間とに関して解析された。
図6は、4つの試料調製ステップの各々の時間間隔の棒グラフを提示する。結果は、染色剤のプリローディング時間の長さに関わらず、吸着、排出/吸い取り及び乾燥を含む以下のステップ全ては、5台のデバイスで同一に近いことを示す。これは、染色剤のプリローディング時間に関係なく、試料が添加されるまで、染色剤リザーバが染色剤を確実に含むことを実証する。5台のデバイスの平均吸着時間は、10.6±0.3秒であり、3%のCVに相当する。これは、本発明のマイクロ流体デバイスの非常に一貫性のある、自律的な時間制御を示す。平均排出/吸い取り時間は、0.8±0.1秒であり、12.5%のCVに相当する。CVは、高いように見えるが、絶対偏差は、低く、本発明のデバイスのマイクロ流体の一貫性を確証する。乾燥ステップは、突然終了しなく、ビデオを見ることによって正確な乾燥間隔を測定することを困難にする。しかしながら、全てのTEMグリッドは、1分以内に視覚的に乾燥したことが観察された。信頼性のある、高速乾燥は、グリッドチャンバのグリッド領域サイズの上部の開口部によって可能になる。
【0125】
結果は、ユーザ入力が最小限であったが、本発明のマイクロ流体デバイスが意図されたように動作することを示す。染色剤のプリローディング時間に関係なく、試料添加後の自律型デバイスの動作は、高いマイクロ流体の一貫性を実証する、5台のデバイスで同一に近い。
【0126】
PVAの溶解時間に相当する、試料吸着時間の調整可能性を実証するために、水溶性PVAフィルムの3種類の厚さ(12μm、24μm及び36μm)は、本発明のマイクロ流体デバイスにおいて試験された。
図7は、吸着時間の測定結果を示す。PVAフィルムの溶解時間は、PVAフィルムの厚さと共に増加する。PVAフィルムの12μm、24μm及び36μmの厚さに関して、平均溶解時間は、それぞれ、14.4±0.9秒(n=5)、89.9±12.0秒(n=5)、191.6±20.3秒(n=5)である。結果は、PVAフィルムの厚さを変化することによって、吸着時間を容易に調整することが可能であることを示す。溶解時間のばらつきは、増大されたPVAフィルムの厚さと共に増加する。これは、異なるデバイス間のPVAフィルムの厚さの小さな差異に起因し得る。しかしながら、ばらつきは、吸着時間が本発明のPVA層の設計によって制御され得ると結論付けるほど、十分に小さい。
【0127】
5枚の自律的に調製されたTEMグリッドのTEMイメージングは、試料調製の品質を評価することを可能にした。
図9A-
図9Cは、16μm、2μm及び500nmの3つのFOVでの倍率系列を示す。最大のFOV(16μm)では、AAV粒子は、暗いスポットとして見える。中間のFOV(2μm)は、より高いレベルの詳細を示す。粒子は、放射状に薄くなる染色勾配を有する暗いリングによって囲まれた、明るく、丸いオブジェクトとして可視的である。この系列での最小のFOV(500nm)は、最も高いレベルの詳細を有し、AAV粒子のクローズアップ図を提供する。
【0128】
図10A-
図10Eは、5枚のグリッド(FOV 2μm)の各々からの1つの例示的な画像を示す。5枚のTEMグリッド全ては、グリッド上の染色剤フィルムに十分に埋め込まれた粒子を含み、暗い染色エンベロープによって囲まれた明るいスポットとして可視的であることを発見した。染色エンベロープの外観のばらつきは、染色剤の厚さの局所的なばらつきに起因し得る。また、例えば、カーボンフィルムの局所的な不均一性によって引き起こされる、TEMグリッドの厚さのばらつきは、画像の暗さのばらつきをもたらし得る。全体として、5台のマイクロ流体デバイスからの結果は、十分に埋め込まれたAAV粒子を有するTEMグリッドの一貫性のある調製を示した。
【0129】
試料調製の一貫性をさらに実証するために、225枚のTEM画像は、収集され、自動粒子検出は、実行された。粒子検出スクリプトは、225枚の画像全てにおいて5171個の粒子を検出した。45枚の画像を有する、グリッド全ては、平均1034±65個の粒子を含み、6%のCVに相当する。これは、5枚の、独立して調製されたTEMグリッド上で、再現性があり、一貫性のあるAAV粒子の広がりを示す。自動粒子検出の結果を使用して、検出された粒子のサイズは、抽出された。
【0130】
図11は、各グリッドにおいて、検出された粒子の平均粒子直径を示すグラフ640である。2種類の顕微鏡は、使用され、キャリブレーションがわずかに異なり得るものの、各グリッドの平均粒子サイズは、他の試料のエラーバー内に十分に収まっている。全ての検出された粒子の平均サイズは、28±2nm(n=5171)であり、7%のCVに相当する。この小さいばらつきは、グリッドに関係なく、全ての検出された粒子が同様の検出されたサイズを有することを意味する。AAV粒子の実際のサイズは、20-25nmであるが、nsTEMにおいて撮像されるとき、染色エンベロープに起因して、より大きく見える。検出スクリプトは、染色剤層、すなわち、実際の粒子の外側で粒子の輪郭を描き、測定するように設計される。したがって、検出された粒子サイズは、予想されるサイズウィンドウ内に十分に収まっている。
【0131】
25枚の画像のサブセットにおける手動粒子検出の結果は、自動検出の結果を定量化することを可能にした。
図12は、サブセット試験の結果をまとめている。手動カウントは、サブセットにおいて605個の粒子をもたらした。自動粒子スクリプトは、これらの粒子のうちの557個を正しく発見し(真陽性)、92%の成功率に相当する。スクリプトは、正しくなかった29個のオブジェクトを発見し(偽陽性)、4.9%に相当する。90%を上回る真陽性及び約5%の偽陽性と共に、画像及び自律型試料調製は、簡単な自動画像解析に十分な品質を有すると結論付けられ得る。
【0132】
用途範囲を広げるために、プロテアソーム及びWPIからのタンパク質繊維は、調製され、撮像された。
図17A-
図17Dに提示される、これらの2つの試料500、502の結果は、TEM調査に適した十分に埋め込まれた領域を有するTEMグリッド上のタンパク質の一様な広がりを明らかにする。
図17A-
図17Bは、2つの異なる倍率での265個のプロテアソームの画像500を示す。プロテアソームの上面
図504及び側面
図506は、観察され得る。
図17C-
図17Dは、2つの異なる倍率でのWPI繊維508の画像を示す。プロテアソーム試料(
図17A-
図17Bに最も良く示されている)の解析は、個々のプロテアソームが明確に識別され、サブユニットの詳細などの構造的特徴が区別され得ることを示す。異なる投影は、画像上で観察され、上面図が円形の粒子として見え、側面図が長方形として見え得る。WPI繊維(
図17C-
図17Dに最も良く示されている)の解析は、様々な長さの十分に規定された個々の繊維の観察及び特性評価を可能にする。全体として、形態観察は、従来の手動nsTEMで調製された同様の試料の報告データと一致する。これらの2つのタンパク質試料の調製は、マイクロ流体デバイスのさらなる調整を必要としなかったので、本方法の汎用性及びロバスト性を実証した。
【0133】
以下は、変更されたデバイスを必要とし得る、本発明の方法のための分野のさらに別の可能性のある用途である。可能性のあるnsTEM試料調製の用途例は、イムノゴールドラベリングであり、4つの液体は、試料上に流される必要がある。調製ステップのシーケンスは、以下となる。
1)試料が既に付着された、グリッドは、デバイスに追加される。
2)1次抗体は、グリッドに付着することを許容される(上の説明では、試料液としてグリッドに直接添加される)。
3)結合が起こると、ブロッキング液は、グリッド上に流される(例えば、BSA=ウシ血清アルブミン、又は粉ミルク)。
4)次いで、金粒子に結合された2次抗体は、流され、1次抗体の位置に結合し、したがってマークする。
5)最後に、結合されていない金粒子は、最後の洗浄ステップで洗い落とされる。
【0134】
要約すると、自律型TEM試料調製のための本発明の毛細管駆動シングルユースデバイスが提示された。オペレータのバイアス及びエラーを起こしやすい手動ステップを回避するために、本発明のデバイスは、ユーザとのインタラクションを最小限にするように設計される。重要な設計要素は、水溶性バルブ又はPVAフィルムと吸収膜とを組み合わせた染色剤リザーバ及び試料リザーバである。これらの重要な要素は、一度のみのクリティカルでないユーザとのインタラクションで、自律型TEMグリッド調製の開始を可能にする。マイクロ流体の性能と試料調製の品質との両方のデバイスの一貫性は、実証されている。マイクロ流体の性能の一貫性は、同一に近いTEMグリッド調製シーケンスを有する5台のマイクロ流体デバイスによって示された。試料調製の一貫性は、全てが十分に埋め込まれたAAV粒子を示す5枚のTEMグリッドによって実証された。この調製の一貫性は、自動粒子検出の結果によってさらに強調された。90%を上回る真陽性及び約5%の偽陽性のサブセット試験から、画像及び自律型試料調製は、画像解析に十分な品質を保持すると結論付けられた。2つのタンパク質試料の追加の調製は、より広い用途範囲のためのマイクロ流体デバイスの汎用性を実証した。さらに、マイクロ流体イベントのタイミングの調整可能性は、水溶性バルブ又はPVAフィルムの厚さを変化することによって実証された。これは、異なる試料吸着要件を構成することが可能である。異なる染色時間を必要とするTEM試料調製を構成するために、本発明のデバイスは、第2の排出ユニットによって拡張され得る。結論として、実証された本発明のマイクロ流体デバイスは、手動TEMグリッド調製における人間の不整合と関連付けられた問題を軽減するために、有望で、効果的であり、信頼性のある解決策を提示する。
【0135】
本発明の蒸発配置は、重要であり、試料支持体は、適切な蒸発のために空気にさらされることである。別の態様は、開口部の幅と試料支持体の幅とが、ほぼ同じであるべきであることである。試料支持体の真上の湿度条件は、開口部の外側、すなわち、デバイスの上方の湿度よりも高い。試料支持体上の液体試料の液体境界では、湿度は、100%であり、デバイスの外側の周囲空気の相対湿度は、より低く、開口部を通して染色剤層の液体の蒸発を促進する。第1の液体は、エッジを使用せずに、第1のリザーバに保持され得ることを理解されたい。2つの液体は、エッジの使用なしに、しかしながら、例えば、液滴のうちの1つに圧力をかけて接続し得る。しかしながら、エッジは、第1の液体が第2のリザーバに流入することを防止する。これは、エッジが2つのリザーバ間のチャネルにおいて不連続であり、チャネルの壁に沿った毛細管力の移動が停止されるからである。染色液などの、第1の液体は、エッジを使用せずに、第1のリザーバ、すなわち、染色剤リザーバに保持され得る。ピニングエッジは、液体を試料リザーバに添加する間、染色液を所定の位置に保持する、すなわち、染色液が試料リザーバに流入することを防止する。エッジと親水性の上面との間の第1の液体の膨張(膨出)は、有益であるが、必要ではない。それは、デバイスを、よりロバストにする。
【0136】
また、第1の液体を第1のリザーバに保持するために毛細管力を使用する必要はないことを理解されたい。好ましくは、しかしながら必ずしもそうではないが、デバイスは、第1のリザーバから第2のリザーバに向かうチャネルを有する。好ましくは、2つのリザーバは、流体連通しているべきであり、第1の液体は、第1のリザーバに保持されるべきである。好ましくは、しかしながら必ずしもそうではないが、第1のリザーバの第1の液体のこの閉じ込めは、第2の液体が、添加され、第1の液体に接続するときに容易に破壊される毛細管力及び/又は表面張力に基づいている。第1のリザーバが、第2のリザーバ及び吸い取りユニットと比較して、より高い高さにあることは必要ではない。3つのユニット全ては、同じ高さで共通の表面上に位置し得る。
【0137】
好ましくは、溶解性部材が試料支持体上の試料粒子の吸着のタイミングを決定するが、これはまた、異なる速度で液体を吸収する異なるフィルタを使用することによって調整され得る。例えば、小さい、幅の狭いフィルタは、吸着速度を落とす。マイクロチャネルにおける排出はまた、遅延機構及び排出速度の制御として機能する。また、試料粒子が試料支持体又はグリッドに付着するのに十分な時間を与えるために、最低速度又は一定の遅延時間を有することが必要であり得る。また、染色剤層を残すために、第1の液体(染色剤)を排出するとき、高速であることが必要であり得る。第1の液体の排出が遅すぎる場合、余分な染色剤は、粒子が保護されないまま排出されることとなる。これは、低品質の調製をもたらす。溶解性膜又はフィルムは、液体の流れを遅らせるが、膜が溶解されると、流量は、非常に遅い一定の流量とは対照的に、かなり速いことに留意されたい。
【0138】
本発明は、好ましい組成及び実施形態にしたがって説明されてきたが、特定の置換及び変更は、以下の請求項の趣旨及び範囲から逸脱することなく、行われ得ることを理解されたい。
【国際調査報告】