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特表2023-542096バニリンの高収率生成のための培養組成物及びその使用方法
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  • 特表-バニリンの高収率生成のための培養組成物及びその使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】バニリンの高収率生成のための培養組成物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20230928BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230928BHJP
   C12P 7/22 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C12P19/02
C12N1/19
C12P7/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516163
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(85)【翻訳文提出日】2023-05-09
(86)【国際出願番号】 US2021050506
(87)【国際公開番号】W WO2022060867
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】63/078,841
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511289736
【氏名又は名称】アミリス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ズナメロスキ,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】タイ,イ-シュ
(72)【発明者】
【氏名】レェツ,ローレン
(72)【発明者】
【氏名】ムラルカ,アビシェーク
(72)【発明者】
【氏名】フリードリクソン,ブランドン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AB07
4B064AF02
4B064BA02
4B064BC01
4B064BE01
4B064BE10
4B064BE11
4B064BG01
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC03
4B064CD12
4B064DA20
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BD27
4B065BD32
4B065CA05
4B065CA19
4B065CA51
(57)【要約】
本明細書には、パラアミノ安息香酸(PABA、4-アミノ安息香酸)の存在下におけるバニリン及び/又はグルコバニリンの生成改善のための発酵組成物及び方法が提供される。本明細書に記載される組成物及び方法は、バニリン及び/又はグルコバニリン並びにいずれか一方又は両方から合成又は生合成することのできる任意の化合物の生成に効率的な経路を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)バニリン又はグルコバニリンを生成する能力を有する1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株であって、1つ以上の異種遺伝子及び/又は1つ以上の遺伝子の過剰発現を含む1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株;及び
(b)少なくとも約1mg/L p-アミノ安息香酸
を含む、発酵組成物。
【請求項2】
約1mg/L~約50mg/L p-アミノ安息香酸を含む、請求項1に記載の発酵組成物。
【請求項3】
約1mg/L~約50mg/L、約1mg/L~約45mg/L、約1mg/L~約40mg/L、約1mg/L~約35mg/L、約1mg/L~約30mg/L、約1mg/L~約25mg/L、約2mg/L~約30mg/L、約3mg/L~約30mg/L、約4mg/L~約30mg/L、又は約5mg/L~約30mg/L p-アミノ安息香酸を含む、請求項1に記載の発酵組成物。
【請求項4】
前記1つ以上の酵母株によって生成されたバニリンを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項5】
前記1つ以上の酵母株によって生成されたグルコバニリンを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項6】
約1%酵母エキス、約2%ペプトン、及び約2%デキストロースを更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項7】
リン酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化マグネシウム、塩化コバルト、モリブデン酸ナトリウム、硫酸鉄、塩化カルシウム、ビオチン、ニコチン酸、ミオイノシトール、ピリドジン(pyridozine)、チアミン、パントテン酸カルシウム、及び/又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を前記1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株の増殖及び前記バニリン又はグルコバニリンの生成に好適な量で更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項8】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は1つ以上の遺伝子の過剰発現が、AroB、AroD、AroF、及びAroZを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項9】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は1つ以上の遺伝子の過剰発現が、OMTを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項10】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は1つ以上の遺伝子の過剰発現が、PPTアーゼ及びACARを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項11】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は1つ以上の遺伝子の過剰発現が、EAOを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項12】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は1つ以上の遺伝子の過剰発現が、UDP-グリコシルトランスフェラーゼ(UGT)を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項13】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は1つ以上の遺伝子の過剰発現が、AroB、AroD、AroF、AroZ、OMT、PPTアーゼ、ACAR、EAO、及びUGTを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項14】
前記1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株が、AroZ及びUGTの染色体に組み込まれたコピーを2つ含む、請求項13に記載の発酵組成物。
【請求項15】
前記1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株が、OMTの染色体に組み込まれたコピーを4つ含む、請求項13又は14に記載の発酵組成物。
【請求項16】
前記1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株が、HFD1の欠失を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項17】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は前記1つ以上の過剰発現遺伝子が、誘導性プロモーターから発現する、請求項1~16のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項18】
前記誘導性プロモーターが、GALプロモーターである、請求項17に記載の発酵組成物。
【請求項19】
前記1つ以上の異種遺伝子及び/又は前記1つ以上の過剰発現遺伝子がGALプロモーターから発現し、及びGAL80遺伝子がMALプロモーターから発現する、請求項17に記載の発酵組成物。
【請求項20】
前記1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)(サッカロマイセス・ラクチス(Saccharomyces lactis))、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluveromyces marxianus)、アルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)(ピキア・アングスタ(Pichia angusta))、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ギリエルモンディ(Candida guilliermondii)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・プソイドトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、及びカンジダ・ウチリス(Candida utilis)からなる群から選択される1つ以上を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項21】
前記1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株のうちの少なくとも1つが、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項1~19のいずれか一項に記載の発酵組成物。
【請求項22】
バニリン又は1つ以上のグルコバニリンの生成方法であって、
(a)バニリン又は1つ以上のグルコバニリンが作られるのに好適な条件下で請求項1~21のいずれか一項に記載の発酵組成物を培養するステップであって、それにより培養ブロスを得るステップ;及び
(b)前記培養ブロスから前記バニリン又は1つ以上のグルコバニリンを回収するステップ、
を含む方法。
【請求項23】
前記1つ以上の遺伝子組換えされた酵母株のうちの少なくとも1つが、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項22又は23に記載の方法によって生成されるバニリン又はグルコバニリン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本願は、2020年9月15日に出願された米国仮特許出願第63/078,841号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は本明細書によって全体として参照により援用される。
【0002】
発明の分野
[0002] 本開示は、バニリン及び/又はグルコバニリン並びにいずれか一方又は両方から合成又は生合成することのできる任意の化合物の生成のための発酵組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
[0003] バニリンは、世界で最も多量の香料原料である。バニラ香料原料の供給量のうち、バニラ蘭からのバニラ抽出物に由来するのは僅か約1%に過ぎない。「天然」バニリンについては、強い需要、供給不足、及び高価格がある。「天然」バニリンの代わりとなる低価格の大量供給源があれば、香料市場に有利に貢献することになるであろう。酵母によって糖の発酵を通じてデノボ生成されるバニリンは、現在市場にある選択肢よりも低価格の「天然」バニリンを作り出せる可能性がある。
【0004】
[0004] グルコース以外の前駆体を含め、天然前駆体からのバイオコンバージョン(bioconversion)により「天然」バニリンを作り出すために用いられている手法は幾つかある。1つの経路は、特定の植物の特定の部位に豊富に見られるフェルラ酸のバイオコンバージョンである。バニリンを中間体として作り出す経路によってフェルラ酸を異化する微生物が同定されている。バニリン生産を最適化するため、こうした微生物を操作して、バニリンが望ましくない副生成物へと更に異化されるのを低減することができる。Gallage et al., Molecular Plant, 8: 40-57 (2015)。同様の手法では、より費用対効果の高い基質オイゲノールを微生物に異化させてフェルラ酸にし、更にバニリンにすることができる。Gallage et al.。
【0005】
[0005] 天然でグルコースをバニリンに変換することのできる公知の微生物はいない。Gallage et al.。1998年、グルコースからバニリンへの酵素的経路が開発され、これは天然で生成される代謝物3-デヒドロシキミ酸を3つの追加的な酵素ステップ:1)脱水によるプロトカテク酸(3,4-ジヒドロキシ安息香酸)の生成、2)3-ヒドロキシル基のO-メチル化、及び3)カルボン酸からアルデヒドへの還元でバニリンに変換するものである。Li and Frost, J. Am. Chem. Soc., 120: 10545-10546 (1998)。この方法は、3-DHSデヒドラターゼ(AroZ)及びカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)を触媒する異種酵素を大腸菌(E. coli)で発現させることによるバニリン酸の生成(ステップ1及び2)により実証された。真菌から精製した芳香族カルボン酸レダクターゼ(ACAR)を使用する酵素的変換を用いて、インビトロでバニリン酸がバニリンに変換された。
【0006】
[0006] Hansen et al.は、単一の組換え生物、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)において上記の酵素を異種PPTアーゼ(この生物におけるACAR酵素の活性化に必要であると同定された)と組み合わせて発現させることによる、グルコースからのバニリンのデノボ生合成を実証した。Hansen et al., Appl. Environ. Microbiol. 75:2765-2774 (2009)。加えて、この著者らは、UDP-グルコシルトランスフェラーゼの発現により、毒性のバニリン生成物を、毒性がはるかに低いグルコバニリンへと変換した。
【0007】
[0007] 幾つもの他の修飾が、酵母におけるバニリン生合成の効率を改善することが報告されている。Hansen et al.は、グルコバニリンの力価を改善するためには、内因性レダクターゼ活性を天然レダクターゼ(即ちADH6)の欠失を通じて低減してバニリンからバニリルアルコールへの変換を低減すること、及びEXG1の欠失によって天然β-グルコシダーゼ活性を消失させて発酵中のグルコース部分の加水分解を低減することが重要であると実証した。続く出願では、バニリンからバニリルアルコールへの還元による炭素の損失を更に軽減するためのバニリルアルコールオキシダーゼの使用が報告された。米国特許出願公開第2014/0245496 A1号;国際公開第2015 121379 A2号。望ましくない異性体、イソバニリン(3-OHでなく、代わりに4-OHのメチル化によって生成される)への炭素の損失を軽減するため、酵素進化の出発点としてヒト変異体Hs.COMTが使用された。正しいバニリン異性体に高度に特異的な突然変異体が入手された。プロトカテク酸(PCA)へのフラックスを増加させて、且つシキミ酸経路代謝物へのフラックスを低減するため、3-DHSを基質として使用するシキミ酸反応の活性の低減を付与する突然変異をEドメインに有する突然変異体バージョンのAro1(別名AROM)が作り出された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[0008] 従って、遺伝子組換えにより、低コストで大量の「天然」バニリンの供給源を提供できるようになれば、香料市場に大きく貢献することになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
[0009] 本明細書には、バニリン及び/又はグルコバニリンの生成改善のための組成物及び方法が提供される。これらの組成物及び方法は、一部には、特定の細胞株からのバニリン及び/又はグルコバニリン生成を促進する能力を有する栄養素p-アミノ安息香酸の発見に基づく。いかなる特定の動作理論によっても拘束されることは意図しないが、本明細書における例は、培養液中のp-アミノ安息香酸を増加させると、バニリン又はグルコバニリン生成の収率及び生成能が改善されることを実証する。
【0010】
[0010] 一態様において、本明細書には、バニリン又はグルコバニリンを生成する能力を有する1つ以上の酵母株と、従来の酵母発酵組成物と比較して増加した量のp-アミノ安息香酸とを含む発酵組成物が提供される。p-アミノ安息香酸の有用な量については、本明細書に記載する。詳細な実施形態において、本発酵組成物は、酵母株の増殖に好適な、且つバニリン又はグルコバニリンの生成に好適な栄養素、ミネラル、ビタミン、及び炭素源を更に含む。
【0011】
[0011] 別の態様において、本明細書には、バニリン又はグルコバニリンの生成方法であって、バニリン又はグルコバニリンが作られるのに好適な条件下において増加した量のp-アミノ安息香酸を含む培地で本明細書に記載される細胞株の集団を培養することにより培養ブロスを得ること;及び培養ブロスからバニリン又はグルコバニリンを回収すること、を含む方法が提供される。
【0012】
[0012] 更なる態様において、本明細書には、本明細書に提供される方法によって生成されるバニリン又はグルコバニリンが提供される。
【0013】
[0013] 本組成物及び方法は、香料及び食品原料を含め、いかなる目的のバニリン及び/又はグルコバニリンの生成にも有用である。本組成物及び方法はまた、バニリン及び/又はグルコバニリンから合成又は生合成することのできる任意の化合物の生成にも有用である。本化合物は、下流酵素又は経路、又はそれらの組み合わせで合成的に、又は生合成的に生成することができる。かかる化合物としては、バニリン酸、バニリルアルコール、フェルラ酸、オイゲノール、及びヘリオトロピンが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面の簡単な説明
図1】グルコースからバニリン及びグルコバニリンまでの酵素経路を示す概略図である。
図2】標準pABAを含有する培地を、標準量の50分の1のpABAを含有する培地と比較した、培養液中のバニリン生成株を使用する96ウェルプレート実験についてのg/Lバニリンの相対力価を提供するグラフである。株はn=4として実行したもので、標準濃度のpABAについての最も高いデータ点を1の値に設定することによって値を正規化しており、他の全てのデータ点は、そのデータ点で正規化した相対的な増加又は減少倍数である。エラーバーは平均値からの1標準偏差を表す。
図3】4.8mg/L又は24mg/L p-アミノ安息香酸を含む培養液中のバニリン生成株を使用した7日間の発酵にわたる相対累積収率(重量%;バニリン+バニリルアルコール)及び相対累積生成能(g/L/h;バニリン+バニリルアルコール)を提供するグラフである。累積とは、時点ゼロから指示される時点までの間隔にわたる値を指す。株はn=2として実行したもので、値は平均化しており、エラーバーは平均値からの1標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態の詳細な説明
用語
[0017] 本明細書で使用されるとき、用語「約」は、当業者が決定するとおりの、ある値から上下に妥当な範囲を指す。特定の実施形態において、約という用語は、±1、2、又は3標準偏差を指す。特定の実施形態において、約という用語は、±5%、10%、20%、又は25%を指す。特定の実施形態において、約という用語は、±0.1、0.2、又は0.3対数単位、例えばpH単位を指す。
【0016】
[0018] 本明細書で使用されるとき、用語「異種」は、通常は自然界に見出されないものを指す。用語「異種ヌクレオチド配列」は、通常は自然界の所与の細胞に見出されないヌクレオチド配列を指す。このように、異種ヌクレオチド配列は、(a)その細胞株にとって外来性であり得る(即ち、その細胞にとって「外因性」である);(b)自然界で細胞株に見出されるが(即ち「内因性」)、自然界にない分量で細胞に存在し得る(即ち、細胞株に自然界で見出されるよりも多い又は少ない分量);又は(c)自然界で細胞株に見出されるが、その自然界での遺伝子座の外側に位置し得る。異種ヌクレオチド配列及び発現したタンパク質は、「組換え」と称され得る。
【0017】
[0019] 他方で、用語「天然」又は「内因性」は、本明細書で分子、詳細には酵素及び核酸に言及して使用されるとき、その起源である、又は自然界でそれが見出される生物において発現する分子を指し示す。天然酵素又はポリヌクレオチドの発現は、組換え微生物では修飾され得ることが理解される。詳細な実施形態において、コドン最適化された遺伝子が、天然酵素を発現する。
【0018】
[0020] 本明細書で使用されるとき、用語「異種核酸発現カセット」は、細胞株でコード配列を発現するのに十分な1つ以上の調節エレメントに作動可能に連結されたコード配列を含む核酸配列を指す。調節エレメントの非限定的な例としては、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、ターミネーター、及びポリAシグナルが挙げられる。
【0019】
[0021] 本明細書で使用されるとき、遺伝子名は、例えばHFD1など、典型的には全て大文字の斜体で提示する。タンパク質名は、例えばHfd1又はHfd1pなど、典型的には最初(先頭の文字)を大文字とし、斜体にはしない。しかしながら、タンパク質という用語が指示される場合、タンパク質が意図される。例えば、当業者は、「HFD1タンパク質」が、Hfd1pを指すことを意図していると認識するであろう。
【0020】
[0022] 本明細書で使用されるとき、用語「脂肪アルデヒドデヒドロゲナーゼの相同体」及び「HFD1」又は「Hfd1」は、コード核酸及びユビキノン同化のため4-ヒドロキシベンズアルデヒドを4-ヒドロキシ安息香酸に変換する能力及び/又はスフィンゴシン1-リン酸異化においてヘキサデセナールをヘキサデセン酸に変換する能力を有するユビキノン及びスフィンゴ脂質代謝に関与するデヒドロゲナーゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は1.2.1.3である。特定の実施形態において、その配列は、NCBI参照配列NP_013828又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YMR110Cに係るものである。
【0021】
[0023] 本明細書で使用されるとき、用語「S-アデノシルメチオニンシンテターゼ」及び「SAM1」又は「Sam1」は、コード核酸及びメチオニンの硫黄原子へのATPのアデノシル基の転移を触媒するS-アデノシルメチオニンシンテターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は2.5.1.6である。特定の実施形態において、その配列は、GenBank遺伝子座AAB67461又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YLR180Wに係るものである。
【0022】
[0024] 本明細書で使用されるとき、用語「S-アデノシルメチオニンシンテターゼ」及び「SAM2」又は「Sam2」又は「ETH2」又は「Eth2」は、コード核酸及びメチオニンの硫黄原子へのATPのアデノシル基の転移を触媒するS-アデノシルメチオニンシンテターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は2.5.1.6である。特定の実施形態において、その配列は、NCBI参照配列AAT93205.1又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YDR502Cに係るものである。Sam1及びSam2はパラログであり、本明細書ではその略語によって識別される。
【0023】
[0025] 本明細書で使用されるとき、用語「S-アデノシル-L-ホモシステインヒドロラーゼ」及び「SAH1」又は「Sah1」は、コード核酸及びS-アデノシル-L-ホモシステインを触媒するアクセプターへのS-アデノシル-L-メチオニン(AdoMet)の活性化したメチル基の供与後に形成されるS-アデノシル-L-ホモシステインヒドロラーゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は3.3.1.1である。特定の実施形態において、その配列は、GenBank遺伝子座X07238又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YER043Cに係るものである。
【0024】
[0026] 本明細書で使用されるとき、用語「コバラミン非依存性メチオニンシンターゼ」及び「MET6」又は「Met6」は、コード核酸及びメチオニン生合成及び再生に関与する、メチルテトラヒドロ葉酸基質上に最低でも2つのグルタミン酸を必要とするコバラミン非依存性メチオニンシンターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は2.1.1.14である。特定の実施形態において、その配列は、GenBank遺伝子座AY692801又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YER091Cに係るものである。
【0025】
[0027] 本明細書で使用されるとき、用語「細胞質セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ」及び「SHM2」又は「Shm2」は、コード核酸及びセリンをグリシン+5,10メチレンテトラヒドロ葉酸に変換する細胞質セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は2.1.2.1である。特定の実施形態において、その配列は、GenBank遺伝子座AAB68164又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YLR058Cに係るものである。
【0026】
[0028] 本明細書で使用されるとき、用語「MET12」又は「Met12」は、コード核酸及びメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)のアイソザイムを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は1.5.1.20である。特定の実施形態において、その配列は、NCBI参照配列NP_013159又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YPL023Cに係るものである。
【0027】
[0029] 本明細書で使用されるとき、用語「MET13」又は「Met13」は、コード核酸及びメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)のアイソザイムを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は1.5.1.20である。特定の実施形態において、その配列は、GenBank遺伝子座Z72647又はS.セレビシエ(S. cerevisiae)YGL125Wに係るものである。
【0028】
[0030] 本明細書で使用されるとき、用語「ジヒドロ葉酸レダクターゼ」及び「DHFR」は、コード核酸及びジヒドロ葉酸レダクターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は1.5.1.3である。特定の実施形態において、DHFRは、ハツカネズミ(Mus musculus)由来である。特定の実施形態において、DHFR配列は、NCBI参照配列NP_034179に係るものである。
【0029】
[0031] 本明細書で使用されるとき、用語「3-デヒドロキナ酸シンターゼ」及び「AroB」は、コード核酸及び3-デヒドロキナ酸シンターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は4.2.3.4である。特定の実施形態において、AroBは、大腸菌(E. coli)由来である。特定の実施形態において、AroB配列は、UniProtKB P07639に係るものである。
【0030】
[0032] 本明細書で使用されるとき、用語「3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ」及び「AroD」は、コード核酸及び3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は4.2.1.10である。特定の実施形態において、AroDは、大腸菌(E. coli)由来である。特定の実施形態において、AroD配列は、UniProtKB P05194に係るものである。
【0031】
[0033] 本明細書で使用されるとき、用語「ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ、Tyr感受性」及び「AroF」は、コード核酸及びホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は2.5.1.54である。特定の実施形態において、AroFは、大腸菌(E. coli)由来である。特定の実施形態において、AroF配列は、UniProtKB P00888に係るものである。特定の実施形態において、AroFは、フィードバック抵抗性である(J. Bacterial. November 1990 172:6581-6584)。
【0032】
[0034] 本明細書で使用されるとき、用語「3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ」及び「AroZ」は、コード核酸及び3-デヒドロシキミ酸(3-DHS)デヒドラターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は4.2.1.118である。特定の実施形態において、AroZは、ポドスポラ・パウキセタ(Podospora pauciseta)由来である。特定の実施形態において、AroZ配列は、Hansen et al., Appl Environ Microbiol. 2009 (May) 75(9):2765-74に係るものである。
【0033】
[0035] 本明細書で使用されるとき、用語「ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ」及び「PPTアーゼ」は、コード核酸及びホスホパンテテイニルトランスフェラーゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は2.7.8.7である。特定の実施形態において、PPTアーゼは、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)由来である。特定の実施形態において、PPTアーゼ配列は、UniProtKB Q8NP45に係るものである。
【0034】
[0036] 本明細書で使用されるとき、用語「芳香族カルボン酸レダクターゼ」及び「ACAR」は、コード核酸及び芳香族カルボン酸レダクターゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は1.2.1.30である。
【0035】
[0037] 本明細書で使用されるとき、用語「O-メチルトランスフェラーゼ」及び「OMT」は、コード核酸及びO-メチルトランスフェラーゼを指す。
【0036】
[0038] 本明細書で使用されるとき、用語「オイゲノールアルコールオキシダーゼ」及び「EAO」は、コード核酸及びオイゲノールアルコールオキシダーゼを指す。特定の実施形態において、EAOは、ロドコッカス・ジョスティイ(Rhodococcus jostii)由来である。特定の実施形態において、EAO配列は、UniProtKB Q0SBK1に係るものである。
【0037】
[0039] 本明細書で使用されるとき、用語「UDP-グリコシルトランスフェラーゼ」及び「UGT」は、コード核酸及びUDP-グリコシルトランスフェラーゼを指す。特定の実施形態において、そのEC番号は2.4.1.126である。特定の実施形態において、UGTは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来である。特定の実施形態において、UGTは、シロイヌナズナ(A. thaliana)UGT72E2である。特定の実施形態において、UGT配列は、UniProtKB Q9LVR1に係るものである。
【0038】
[0040] 本明細書で使用されるとき、用語「親細胞」は、修飾細胞株に操作された1つ以上の特定の遺伝子組換えを含まないことを除いては、本明細書に開示される遺伝子組換えされた細胞株と同一の遺伝的背景を有する細胞を指す。一部の実施形態において、1つ以上の特定の遺伝子組換えは、バニリン経路の酵素の異種発現、グルコバニリン経路の酵素の異種発現;又はSAM1、SAM2、SAH1、MET6、SHM2、MET12、MET13、MET13キメラ、AroB、AroD、AroF、AroZ、PPTアーゼ、ACAR、OMT、EAO、若しくはUGTの異種発現からなる群から選択される。
【0039】
[0041] 本明細書で使用されるとき、用語「天然に存在する」は、自然界に見出されるものを指す。例えば、ある生物に存在する遺伝子産物であって、自然界の供給源から単離することのできる、且つヒトによって実験室で意図的に組換えされたのでないものは、天然に存在する遺伝子産物である。逆に、本明細書で使用されるとき、用語「天然に存在しない」は、自然界には見出されない、ヒトの介入によって作り出されたものを指す。特定の実施形態では、天然に存在するゲノム配列が、本明細書に提供される生物での使用のための組換え、例えばコドン最適化され、その結果として生じる、組換えられた(組換え(recombinant)又は異種)配列を発現する組換えられた生物は、天然に存在しない(異種)生物であり、組換えられた配列は、天然に存在しない(組換え(recombinant)又は異種)配列(例えば核酸)である。
【0040】
[0042] 用語「培地」は、培養培地及び/又は発酵培地を指す。
【0041】
[0043] 用語「発酵組成物」は、1つ以上の遺伝子組換えされた細胞株及びその遺伝子組換えされた細胞株によって生成される生成物又は代謝物を含む組成物を指す。発酵組成物の例は全細胞ブロスであり、これは、細胞、水相、及び遺伝子組換えされた細胞株から生成される化合物を含め、容器(例えば、フラスコ、プレート、又は発酵槽)の内容物全体であり得る。発酵組成物は、細胞ブロス(即ち、培養培地)、1つ又は複数の培養細胞株(例えば、1つ以上の酵母株)、及び1つ又は複数の細胞株を培養する間の任意の時点でブロス培地中にある任意の化合物又は分子を含む。発酵組成物は、全細胞ブロスの内容物全体又は内容物の一部であり得る。
【0042】
[0044] 本明細書で使用されるとき、用語「生成量」は、概して、本明細書に提供される遺伝子組換えされた細胞株によって生成されるバニリン又はその誘導体の量を指す。誘導体には、グルコバニリン、バニリルアルコール、及び/又はバニリン酸が含まれ得る。一部の実施形態において、生成量は、細胞株によるバニリン又はグルコバニリンの収率として表される。他の実施形態において、生成量は、バニリン又はグルコバニリンの生成における細胞株の生成能として表される。
【0043】
[0045] 本明細書で使用されるとき、用語「生成能」は、時間の経過に伴う(毎時の)細胞株が培養されている発酵ブロスの量(容積基準)当たりに生成されるバニリン又はグルコバニリンの量(重量基準)として表した、細胞株によるバニリン又はその誘導体の生成量を指す。誘導体には、グルコバニリン、バニリルアルコール、及び/又はバニリン酸が含まれ得る。
【0044】
[0046] 本明細書で使用されるとき、用語「収率」は、重量基準で、細胞株が消費する炭素源の量当たりに生成されるバニリン又はグルコバニリンの量として表した、細胞株によるバニリン又はその誘導体の生成量を指す。誘導体には、グルコバニリン、バニリルアルコール、及び/又はバニリン酸が含まれ得る。
【0045】
[0047] 本明細書で使用されるとき、用語「力価」は、培地容積当たりに生成されるバニリン又はグルコバニリン又は他の誘導体の量として表した、細胞株によるバニリン又はその誘導体の生成量を指す。誘導体には、グルコバニリン、バニリルアルコール、及び/又はバニリン酸が含まれ得る。
【0046】
[0048] 本明細書で使用されるとき、化合物(例えば、バニリン酸、又は他の化合物)の「検出不能なレベル」という用語は、その化合物の標準的な測定技法によっては低過ぎて測定及び/又は分析できないような化合物のレベルを意味する。例えば、この用語には、当該技術分野において公知の典型的な分析方法によっては検出不能な化合物のレベルが含まれる。
【0047】
[0049] 用語「バニリン」は、バニリンの任意の立体異性体を含め、化合物バニリンを指す。バニリンの化学名は、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒドである。詳細な実施形態において、この用語は、以下の構造に係る化合物を指す:
【化1】
【0048】
[0050] 用語「バニリルアルコール」は、バニリルアルコールの任意の立体異性体を含め、化合物バニリルアルコールを指す。バニリルアルコールの化学名は、4-(ヒドロキシメチル)-2-メトキシフェノールである。詳細な実施形態において、この用語は、以下の構造に係る化合物を指す:
【化2】
【0049】
[0051] 用語「バニリン酸」は、バニリン酸の任意の立体異性体を含め、化合物バニリン酸を指す。バニリン酸の化学名は、4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸である。詳細な実施形態において、この用語は、以下の構造に係る化合物を指す:
【化3】
【0050】
[0052] 用語「グルコバニリン」は、グルコバニリンの任意の立体異性体を含め、化合物グルコバニリンを指す。グルコバニリンの化学名は、3-メトキシ-4-[(2S,3R,4S,5S,6R)-3,4,5-トリヒドロキシ-6-(ヒドロキシメチル)オキサン-2-イル]オキシベンズアルデヒドである。詳細な実施形態において、この用語は、以下の構造に係る化合物を指す:
【化4】
【0051】
[0053] 用語「プロトカテク酸(protecatechuic acid)」は、プロトカテク酸(protecatechuic acid)の任意の立体異性体を含め、化合物プロトカテク酸(protecatechuic acid)を指す。プロトカテク酸(protecatechuic acid)の化学名は、3,4-ジヒドロキシ安息香酸である。詳細な実施形態において、この用語は、以下の構造に係る化合物を指す:
【化5】
【0052】
[0054] 本明細書で使用されるとき、用語「変異体」は、具体的に記載されている「参照」ポリペプチド(例えば、野生型配列)と比べてアミノ酸挿入、欠失、突然変異、及び/又は置換が異なるが、参照ポリペプチドと実質的に同様の活性を保持しているポリペプチドを指す。一部の実施形態において、変異体は、組換えDNA技法によるか、又は突然変異誘発によって作成される。一部の実施形態において、変異ポリペプチドは、その参照ポリペプチドと比べて、1つの塩基性残基を別のものに代えた(即ちArgをLysに代えた)置換、1つの疎水性残基を別のものに代えた(即ちLeuをIleに代えた)置換、又は1つの芳香族残基を別のものに代えた(即ちPheをTyrに代えた)置換等が異なる。一部の実施形態において、変異体には、参照配列の実質的な構造類似性をもたらす保存的置換が達成されるような類似体が含まれる。かかる保存的置換の例としては、限定なしに、グルタミン酸をアスパラギン酸に代えるもの及びその逆;グルタミンをアスパラギンに代えるもの及びその逆;セリンをトレオニンに代えるもの及びその逆;リジンをアルギニンに代える及びその逆;又はイソロイシン、バリン又はロイシンのいずれかを互いに代えるものが挙げられる。
【0053】
[0055] 本明細書で使用されるとき、用語「配列同一性」又は「パーセント同一性」は、2つ以上の核酸若しくはタンパク質配列の文脈では、2つ以上の配列又は部分配列が同じであるか、又は同じであるアミノ酸残基若しくはヌクレオチドを指定される割合だけ有することを指す。例えば、配列は、配列比較アルゴリズムを用いた測定又は手動のアラインメント及び目視検査による測定によれば、比較ウィンドウ、即ち指示された領域にわたって最大限の対応が得られるように比較及びアラインメントしたとき、指定の領域にわたって参照配列と少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91% 少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又はそれ以上の同一性のパーセント同一性を有し得る。例えば、同一性のパーセントは、全ヌクレオチド(又はアミノ酸残基)の長さから任意のギャップの長さを減じたもので配列中の同一のヌクレオチド(又はアミノ酸残基)の数を除した比を計算することによって決定される。
【0054】
[0056] 便宜上、2つの配列間の同一性の程度は、当該技術分野において公知のコンピュータプログラム及び数学的アルゴリズムを用いて確かめることができる。パーセント配列同一性を計算するかかるアルゴリズムは、概して、比較領域にわたって配列ギャップ及びミスマッチを考慮する。Clustal W(Thompson et al., (1994) Nucleic Acids Res., 22: 4673-4680)、ALIGN(Myers et al., (1988) CABIOS, 4: 11-17)、FASTA(Pearson et al., (1988) PNAS, 85:2444-2448;Pearson (1990), Methods Enzymol., 183: 63-98)及びギャップ付きBLAST(Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402)などの、配列を比較し、アラインメントするプログラムが、この目的上、有用である。BLAST又はBLAST 2.0(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990)は、米国国立生物情報センター(National Center for Biological Information:NCBI)を含め、幾つかの供給者から、及びインターネット上で、配列解析プログラムBLASTP、BLASTN、BLASTX、TBLASTN、及びTBLASTXに関連した使用に利用可能である。追加情報については、NCBIのウェブサイトを参照することができる。
【0055】
[0057] 特定の実施形態において、配列アラインメント及びパーセント同一性計算は、その標準的なデフォルトパラメータを使用したBLASTプログラムを用いて決定することができる。ヌクレオチド配列アラインメント及び配列同一性計算には、BLASTNプログラムをそのデフォルトパラメータ(ギャップ開始ペナルティ=5、ギャップ伸長ペナルティ=2、核マッチ=2、核ミスマッチ=-3、期待値=10.0、ワードサイズ=11、クエリ範囲の最大マッチ=0)で使用する。ポリペプチド配列アラインメント及び配列同一性計算には、BLASTPプログラムをそのデフォルトパラメータ(アラインメント行列=BLOSUM62;ギャップコスト:存在=11、伸長=1;組成調整=条件付き組成スコア、行列調整;期待値=10.0;ワードサイズ=6;クエリ範囲の最大マッチ=0)で使用する。或いは、以下のプログラム及びパラメータを使用してもよい:Clone Manager SuiteのAlign Plusソフトウェア、バージョン5(Sci-Ed Software);DNA比較:大域比較、標準線形スコアリング行列、ミスマッチペナルティ=2、開始ギャップペナルティ=4、伸長ギャップペナルティ=1。アミノ酸比較:大域比較、BLOSUM 62スコアリング行列。本明細書に記載される実施形態において、配列同一性は、BLASTN又はBLASTPプログラムを使用して、そのデフォルトパラメータを使用して計算される。本明細書に記載される実施形態において、2つ以上の配列の配列アラインメントは、Clustal Wを使用して、提案されるデフォルトパラメータ(デアライン入力配列:なし;Mbed様クラスタリングガイドツリー:あり;Mbed様クラスタリング反復:あり;組み合わせる反復の数:デフォルト(0);最大ガイドツリー反復:デフォルト;最大HMM反復:デフォルト;順序:入力)を使用して実施される。
【0056】
発酵組成物
[0058] 一態様において、本明細書には、バニリン及び/又はグルコバニリンを生成する能力を有する1つ以上の細胞株と共に、増加した量のp-アミノ安息香酸を含む発酵組成物が提供される。本明細書の実施例に示されるとおり、p-アミノ安息香酸の量の増加により、生成株からのバニリン又はグルコバニリンの収率及び/又は生成能の増加をもたらすことができる。有用な細胞株については、以下の節に記載する。
【0057】
[0059] p-アミノ安息香酸は、標準的な技法によって調製することができ、又は商業的供給業者から入手することができる。p-アミノ安息香酸の量は、当業者により好適と見なされる、バニリン又はグルコバニリンの収率又は生成能、又は両方を増加させるのに好適と見なされる任意の量であってよい。特定の実施形態において、発酵組成物は、約1mg/L~約50mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約1mg/L~約45mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約1mg/L~約40mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約1mg/L~約35mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約1mg/L~約30mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約1mg/L~約25mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約2mg/L~約30mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約3mg/L~約30mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約4mg/L~約30mg/L p-アミノ安息香酸を含む。特定の実施形態において、発酵組成物は、約5mg/L~約30mg/L p-アミノ安息香酸を含む。
【0058】
[0060] 発酵組成物は、培地を更に含み得る。有用な培地及び条件については、以下の節に記載する。特定の実施形態において、発酵組成物は、バニリン又はグルコバニリンを更に含む。特定の実施形態において、本明細書に提供される発酵組成物は、遺伝子組換えされた細胞株から生成されるバニリン及び/又はグルコバニリンの主要な構成成分として、バニリンを含む。特定の実施形態において、本明細書に提供される発酵組成物は、遺伝子組換えされた細胞株から生成されるバニリン及び/又はグルコバニリンの主要な構成成分として、グルコバニリンを含む。
【0059】
培養培地及び条件
[0061] 微生物培養物を維持し及び増殖させるための材料及び方法は、微生物学又は発酵科学の当業者に周知である(例えば、Bailey et al., Biochemical Engineering Fundamentals, second edition, McGraw Hill, New York, 1986を参照のこと)。細胞株、発酵、及びプロセスの具体的な要求に応じて、適切な培養培地、pH、温度、及び好気性、微好気性、又は嫌気性条件の要求について考慮しなければならない。
【0060】
[0062] 本明細書に提供されるバニリン及び/又はグルコバニリンを生成する方法は、限定はされないが、細胞培養プレート、マイクロタイタープレート、フラスコ、又は発酵槽を含めた、好適な容器内の好適な培養培地で実施し得る。更に、本方法は、当該技術分野において微生物生成物の工業生産を支持することが公知の任意の発酵規模で実施することができる。撹拌タンク発酵槽、エアリフト発酵槽、バブル発酵槽、又はこれらの任意の組み合わせを含め、任意の好適な発酵槽を使用し得る。細胞株としてサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を利用する詳細な実施形態では、Kosaric, et al, in Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Sixth Edition, Volume 12, pages 398-473, Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KDaA, Weinheim, Germanyによって詳細に記載されるとおり、株を発酵槽で増殖させることができる。
【0061】
[0063] 一部の実施形態において、培養培地は、バニリン又はグルコバニリンを生成する能力を有する細胞株が生存することのできる、即ち、増殖及び生存能を維持することのできる任意の培養培地である。一部の実施形態において、培養培地は、同化可能な炭素源、窒素源、及びリン酸塩源を含む水性媒体である。かかる培地はまた、適切な塩、ミネラル、金属、及び他の栄養素も含み得る。一部の実施形態において、炭素源及び必須細胞栄養素の一部又は全ては、発酵培地に徐々に又は連続的に加えられる。特定の実施形態において、一部の必須栄養素は過剰量で維持され、一方、数種の要求栄養素、例えば1つ又は2つは、例えば、炭素源をバイオマスに変換する細胞の代謝又は呼吸機能に基づく予め決定された細胞増殖曲線従った、増殖中の細胞による効率的な同化に必要とされる最小限のレベルに概ね維持される。
【0062】
[0064] 微生物の培養に好適な条件及び好適な培地は、当該技術分野において周知である。一部の実施形態において、好適な培地には、1つ以上の追加的な薬剤、例えば、インデューサー(例えば、遺伝子産物をコードする1つ以上のヌクレオチド配列が誘導性プロモーターの制御下にあるとき)、リプレッサー(例えば、遺伝子産物をコードする1つ以上のヌクレオチド配列が抑制性プロモーターの制御下にあるとき)、又は選択薬剤(例えば、遺伝子組換えを含む微生物を選択するための抗生物質)などが補足される。
【0063】
[0065] 一部の実施形態において、炭素源は、モノサッカライド(単糖)、ジサッカライド、ポリサッカライド、非発酵性炭素源、又はこれらの1つ以上の組み合わせである。好適なモノサッカライド類の非限定的な例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、リボース、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好適なジサッカライド類の非限定的な例としては、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好適なポリサッカライド類の非限定的な例としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好適な非発酵性炭素源の非限定的な例としては、酢酸塩、エタノール、及びグリセロールが挙げられる。
【0064】
[0066] 培養培地中におけるグルコースなどの炭素源の濃度は、細胞増殖を促進するのに十分であるが、使用される微生物の増殖を抑制するほど高くはない。典型的には、培養は、所望のレベルの増殖及びバイオマスが実現するレベルでグルコースなどの炭素源を加えながら行われる。他の実施形態において、培養培地中におけるグルコースなどの炭素源の濃度は、約1g/L超、好ましくは約2g/L超、及びより好ましくは約5g/L超である。加えて、培養培地中におけるグルコースなどの炭素源の濃度は、典型的には約100g/L未満、好ましくは約50g/L未満、及びより好ましくは約20g/L未満である。培養液成分濃度への言及は、初期及び/又は進行中の両方の成分濃度を指し得ることに留意しなければならない。場合によっては、培養中に培養培地を炭素源が枯渇した状態にさせることが望ましいものとなり得る。
【0065】
[0067] 好適な培養培地に使用することのできる同化可能な窒素源としては、限定はされないが、単純窒素源、有機窒素源及び複合窒素源が挙げられる。かかる窒素源には、無水アンモニア、アンモニウム塩、及び動物、植物及び/又は微生物起源の物質が含まれる。好適な窒素源としては、限定はされないが、タンパク質加水分解物、微生物バイオマス加水分解物、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、尿素、及びアミノ酸が挙げられる。典型的には、窒素源の濃度は、培養培地中において、約0.1g/L超、好ましくは約0.25g/L超、及びより好ましくは約1.0g/L超である。しかしながら、特定の濃度を超えると、培養培地に窒素源を加えても微生物の増殖に有利とならない。結果として、窒素源の濃度は、培養培地中において、約20g/L未満、好ましくは約10g/L未満及びより好ましくは約5g/L未満である。更に、一部の例では、培養中に培養培地を窒素源が枯渇した状態にさせることが望ましいものとなり得る。
【0066】
[0068] 有効な培養培地は、無機塩類、ビタミン、微量金属、又は増殖促進物質など、他の化合物を含有し得る。かかる他の化合物はまた、有効な培地中の炭素源、窒素源、若しくはミネラル源に存在してもよく、又は培地に特別に添加してもよい。
【0067】
[0069] 培養培地はまた、好適なリン酸塩源も含有し得る。かかるリン酸塩源には、無機及び有機の両方のリン酸塩源が含まれる。好ましいリン酸塩源としては、限定はされないが、一塩基性又は二塩基性リン酸ナトリウム及びカリウム、リン酸アンモニウム並びにこれらの混合物などのリン酸塩が挙げられる。典型的には、培養培地中におけるリン酸塩の濃度は、約1.0g/L超、好ましくは約2.0g/L及びより好ましくは約5.0g/L超である。しかしながら、特定の濃度を超えると、培養培地にリン酸塩を加えても微生物の増殖に有利とならない。従って、培養培地中におけるリン酸塩の濃度は、典型的には約20g/L未満、好ましくは約15g/L未満及びより好ましくは約10g/L未満である。
【0068】
[0070] 培養培地はまた、好適な硫黄源も含有し得る。好ましい硫黄源としては、限定はされないが、硫酸アンモニウム((NHSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸カリウム(KSO)、及び硫酸ナトリウム(NaSO)並びにこれらの混合物などの硫酸塩が挙げられる。典型的には、培養培地中における硫酸塩の濃度は、約1.0g/L超、好ましくは約3.0g/L超及びより好ましくは約10.0g/L超である。しかしながら、特定の濃度を超えると、培養培地に硫酸塩を加えても微生物の増殖に有利とならない。従って、培養培地中における硫酸塩の濃度は、典型的には約50g/L未満、好ましくは約30g/L未満及びより好ましくは約20g/L未満である。
【0069】
[0071] 好適な培養培地はまた、マグネシウム源、好ましくは、硫酸マグネシウム七水和物など、生理学的に許容可能な塩の形態のマグネシウム源を含んでもよく、しかし同程度の量のマグネシウムに寄与する濃度の他のマグネシウム源も使用することができる。典型的には、培養培地中におけるマグネシウムの濃度は、約0.5g/L超、好ましくは約1.0g/L超、及びより好ましくは約2.0g/L超である。しかしながら、特定の濃度を超えると、培養培地にマグネシウムを加えても微生物の増殖に有利とならない。従って、培養培地中におけるマグネシウムの濃度は、典型的には約10g/L未満、好ましくは約5g/L未満、及びより好ましくは約3g/L未満である。更に、一部の例では、培養中に培養培地をマグネシウム源が枯渇した状態にさせることが望ましいものとなり得る。
【0070】
[0072] 一部の実施形態において、培養培地はまた、クエン酸三ナトリウム二水和物など、生物学的に許容可能なキレート剤も含み得る。かかる場合に、培養培地中におけるキレート剤の濃度は、約0.2g/L超、好ましくは約0.5g/L超、及びより好ましくは約1g/L超である。しかしながら、特定の濃度を超えると、培養培地にキレート剤を加えても微生物の増殖に有利とならない。従って、培養培地中におけるキレート剤の濃度は、典型的には約10g/L未満、好ましくは約5g/L未満、及びより好ましくは約2g/L未満である。
【0071】
[0073] 培養培地はまた、最初は、培養培地の所望のpHを維持するため、生物学的に許容可能な酸又は塩基も含み得る。生物学的に許容可能な酸としては、限定はされないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、及びこれらの混合物が挙げられる。生物学的に許容可能な塩基としては、限定はされないが、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びこれらの混合物が挙げられる。一部の実施形態において、使用される塩基は、水酸化アンモニウムである。
【0072】
[0074] 培養培地はまた、限定はされないが、塩化カルシウムを含め、生物学的に許容可能なカルシウム源も含み得る。典型的には、培養培地中における塩化カルシウム二水和物などのカルシウム源の濃度は、約5mg/L~約2000mg/Lの範囲内、好ましくは約20mg/L~約1000mg/Lの範囲内、及びより好ましくは約50mg/L~約500mg/Lの範囲内である。
【0073】
[0075] 培養培地はまた、塩化ナトリウムも含み得る。典型的には、培養培地中における塩化ナトリウムの濃度は、約0.1g/L~約5g/Lの範囲内、好ましくは約1g/L~約4g/Lの範囲内、及びより好ましくは約2g/L~約4g/Lの範囲内である。
【0074】
[0076] 一部の実施形態において、培養培地はまた、微量金属も含み得る。かかる微量金属は、便利なことに、残りの培養培地と別に調製できるストック溶液として培養培地に加えることができる。典型的には、培養培地に加えるかかる微量金属溶液の量は、約1ml/L超、好ましくは約5mL/L超、及びより好ましくは約10mL/L超である。しかしながら、特定の濃度を超えると、培養培地に微量金属を加えても微生物の増殖に有利とならない。従って、培養培地に加えるかかる微量金属溶液の量は、典型的には約100mL/L未満、好ましくは約50mL/L未満、及びより好ましくは約30mL/L未満である。ストック溶液中の微量金属を加えることに加えて、個々の成分を、各々、微量金属溶液の上記の範囲によって決まる成分の量に独立に対応する範囲内で、個別に加えてもよいことに留意しなければならない。
【0075】
[0077] 培養培地は、パントテン酸塩、ビオチン、カルシウム、パントテン酸塩、イノシトール、ピリドキシン-HCl、及びチアミン-HClなど、他のビタミン類を含み得る。かかるビタミン類は、便利なことに、残りの培養培地と別に調製できるストック溶液として培養培地に加えることができる。しかしながら、特定の濃度を超えると、培養培地にビタミン類を加えても微生物の増殖に有利とならない。
【0076】
[0078] 本明細書に記載される発酵方法は、従来の培養方式で実施することができ、培養方式としては、限定はされないが、バッチ、フェドバッチ、細胞再循環、連続及び半連続が挙げられる。一部の実施形態において、発酵はフェドバッチ方式で行われる。その場合、培養中、発酵の生成段階にあるとき、培地の成分の一部が枯渇する。一部の実施形態において、例えば生成段階の初めに培養液に比較的高濃度のかかる成分を補足してもよく、追加が必要となるまでのある期間にわたって増殖及び/又はバニリン又はグルコバニリン生成が支持されることになる。こうした成分は、培養によって枯渇するだけのレベルの追加を行うことにより、培養全体を通して好ましい範囲に維持される。培養培地中における成分のレベルは、例えば、培養培地を定期的に抜き取り、濃度に関してアッセイすることによりモニタし得る。或いは、一たび標準的な培養手順が開発された後には、培養全体を通して特定の時点における既知のレベルに対応する設定した時間間隔で追加を行うことができる。当業者によれば認識されるであろうとおり、培養中、栄養素の消費速度は、培地の細胞密度の増加に伴い増加する。更に、培養培地中への外来微生物の導入を回避するため、追加は、当該技術分野において公知のとおりの、無菌的な追加方法を用いて実施される。加えて、培養中、少量の消泡剤を加えてもよい。
【0077】
[0079] 培養培地の温度は、遺伝子組換えされた細胞の増殖及び/又はバニリン若しくはグルコバニリンの生成に好適な任意の温度であってよい。例えば、培養培地に接種材料を接種する前に、培養培地を約20℃~約45℃の範囲の温度、好ましくは約25℃~約40℃の範囲の温度に至らせ、維持することができる。特定の実施形態において、細胞は真核細胞、例えば酵母であり、温度は約28℃~約34℃の範囲である。特定の実施形態において、細胞は原核細胞、例えば細菌であり、温度は約35℃~約40℃の範囲、例えば37℃である。
【0078】
[0080] 培養培地のpHは、培養培地に酸又は塩基を加えることによって制御し得る。その場合に、pHの制御にアンモニアが使用されるとき、それはまた、好都合には、培養培地中の窒素源としても働く。好ましくは、pHは、約3.0~約8.0、より好ましくは約3.5~約7.0に維持される。特定の実施形態において、細胞は真核細胞、例えば酵母であり、pHは好ましくは約4.0~約6.5である。特定の実施形態において、細胞は原核細胞、例えば細菌であり、pHは約6.5~約7.5、例えば約7.0である。
【0079】
[0081] 一部の実施形態において、培養中、培養培地のグルコース、フルクトース又はスクロース濃度など、炭素源濃度がモニタされる。培養培地の炭素源濃度は、例えば、グルコースオキシダーゼ酵素検査又は高圧液体クロマトグラフィーの使用など、公知の技法を用いてモニタすることができ、それを用いて、上清中、例えば培養培地の無細胞成分中のグルコース濃度をモニタすることができる。炭素源濃度は、典型的には、細胞増殖阻害が起こるレベルを下回るように維持される。かかる濃度は生物によって異なり得るが、炭素源としてのグルコースについては、細胞増殖阻害は約60g/Lより高いグルコース濃度で起こり、試行して容易に決定することができる。従って、グルコース、フルクトース、又はスクロースが炭素源として使用されるとき、そのグルコース、フルクトース、又はスクロースは、好ましくは発酵槽に供給され、検出限界未満に維持される。或いは、培養培地中のグルコース濃度は、約1g/L~約100g/Lの範囲、より好ましくは約2g/L~約50g/Lの範囲、及び更により好ましくは約5g/L~約20g/Lの範囲に維持される。炭素源濃度は、例えば炭素源溶液を加えることによって所望のレベルの範囲内に維持できるが、元の培養培地のアリコートを加えることによって培養培地の炭素源濃度を維持することが許容され、及びそれが好ましいこともある。元の培養培地のアリコートの使用は、同時に培地中の他の栄養素(例えば窒素源及びリン酸塩源)の濃度を維持することができるため、望ましいこともある。同様に、培養培地中の微量金属濃度も、微量金属溶液のアリコートを加えることによって維持し得る。
【0080】
[0082] 他の好適な発酵培地及び方法が、例えば、国際公開第2016/196321号に記載されている。
【0081】
バニリン及び/又はグルコバニリンの回収
[0083] 一たびバニリン又はグルコバニリンが細胞株によって生成されれば、続く使用のため、当該技術分野において公知の任意の好適な分離及び精製方法を用いてそれを回収し、又は単離し得る。一部の実施形態において、バニリン又はグルコバニリンを含む清澄化した水相が発酵液から遠心又はろ過によって分離される。特定の実施形態において、清澄化した水相に、例えば、清澄化した水相に凝集剤及び凝固剤が加えられる。
【0082】
[0084] これらの細胞において生成されるバニリン又はグルコバニリンは、培養上清中に存在していてもよく、及び/又は細胞株と会合していてもよい。バニリン又はグルコバニリンの一部が細胞株と会合している実施形態において、バニリン又はグルコバニリンの回収は、細胞からのバニリン及び/又はグルコバニリンの放出を改善する方法を含み得る。一部の実施形態において、これは、界面活性剤あり又はなしで、及び緩衝液又は塩を加えて又は加えずに、細胞を熱水で洗浄すること又は緩衝液処理の形態を取る可能性がある。一部の実施形態において、温度は、バニリン及び/又はグルコバニリンの放出に好適と見なされる任意の温度である。一部の実施形態において、温度は、40~95℃;又は60~90℃;又は75~85℃の範囲である。一部の実施形態において、温度は、40、45、50、55、65、70、75、80、85、90、又は95℃である。一部の実施形態において、細胞株からのバニリン及び/又はグルコバニリンの放出を亢進させるため、物理的又は化学的細胞破壊が用いられる。或いは、及び/又は続いて、培養培地中のバニリン又はグルコバニリンは、限定はされないが、溶媒抽出、膜清澄化、膜濃縮、吸着、クロマトグラフィー、蒸発、化学的誘導体化、結晶化、及び乾燥を含め、単離単位操作を用いて回収することができる。
【0083】
バニリン又はグルコバニリンを生成する方法
[0085] 別の態様において、本明細書には、バニリン又はグルコバニリンの生成方法であって、(a)バニリン又はグルコバニリン化合物を作るのに好適な本明細書に記載される発酵組成物中で、バニリン又はグルコバニリンを生成する能力を有する本明細書に記載される細胞株細胞のいずれかの集団を培養するステップ;及び(b)培地から前記バニリン又はグルコバニリン化合物を回収するステップを含む方法が提供される。当業者は、生成される化合物の量は、化合物それ自体の量、又はより好ましくは化合物及び化合物の誘導体の量を測定することによって評価し得ることを認識するであろう。例えば、バニリンの生成量は、バニリン、バニリルアルコール、グルコバニリン、及びグルコバニリルアルコールの総生成量から評価することができる。
【0084】
[0086] 一部の実施形態において、発酵組成物は、p-アミノ安息香酸を追加しない従来の発酵組成物と比較して増加した量のバニリン若しくはグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部の実施形態において、増加した量は、例えば、1リットルの細胞培養液当たりのグラム数で、1グラムの乾燥細胞重量当たりのミリグラム数で、細胞培養液の単位体積当たりを基準として、単位乾燥細胞重量当たりを基準として、単位時間当たりの細胞培養液の単位体積当たりを基準として、又は単位時間当たりの単位乾燥細胞重量当たりを基準として収率、生成量、及び/又は生成能を測定したとき、少なくとも1%、5%、10%、15%、20%、又は25%、又は25%超である。
【0085】
[0087] 一部の実施形態において、細胞株は、1リットルの発酵培地当たり約0.25グラムを超える上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部の実施形態において、細胞株は、1リットルの発酵培地当たり約0.5グラムを超える上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部の実施形態において、細胞株は、1リットルの発酵培地当たり約0.75グラムを超える上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部の実施形態において、細胞株は、1リットルの発酵培地当たり約1グラムを超える上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部の実施形態において、細胞株は、1リットルの発酵培地当たり約5グラムを超える上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部の実施形態において、細胞株は、1リットルの発酵培地当たり約10グラムを超える上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部の実施形態において、バニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなど、その1つ以上の誘導体は、1リットルの細胞培養液当たり約10~約50グラム、約10~約15グラム、約15グラム超、約20グラム超、約25グラム超、又は約30グラム超の量で生成される。
【0086】
[0088] 一部の実施形態において、細胞株は、1グラムの乾燥細胞重量当たり約50ミリグラムを超える上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体を生成する。一部のかかる実施形態において、バニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなど、その1つ以上の誘導体は、1グラムの乾燥細胞重量当たり約50~約1500ミリグラム、約100ミリグラム超、約150ミリグラム超、約200ミリグラム超、約250ミリグラム超、約500ミリグラム超、約750ミリグラム超、又は約1000ミリグラム超の量で生成される。
【0087】
[0089] 一部の実施形態において、細胞株は、従来の発酵組成物中で同じ細胞株によって生成されるバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体のレベルと比べて、細胞培養液の単位体積当たりを基準として少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、又は少なくとも約25%高い上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなど、その1つ以上の誘導体を生成する。
【0088】
[0090] 一部の実施形態において、細胞株は、従来の発酵組成物中で同じ細胞株によって生成されるバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体のレベルと比べて、単位乾燥細胞重量当たりを基準として少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、又は少なくとも約25%高い上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなど、その1つ以上の誘導体を生成する。
【0089】
[0091] 一部の実施形態において、細胞株は、従来の発酵組成物中で同じ細胞株によって生成されるバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体のレベルと比べて、単位時間当たりの細胞培養液の単位体積当たりを基準として少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、又は少なくとも約25%高い上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなど、その1つ以上の誘導体を生成する。
【0090】
[0092] 一部の実施形態において、細胞株は、従来の発酵組成物中で同じ細胞株によって生成されるバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなどのその誘導体のレベルと比べて、単位時間当たりの単位乾燥細胞重量当たりを基準として少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、又は少なくとも約25%高い上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリン、又はバニリルアルコール若しくはグルコバニリルアルコールなど、その1つ以上の誘導体を生成する。
【0091】
[0093] 多くの実施形態において、細胞株によるバニリン又はグルコバニリンの生成は、誘導型化合物の存在又は抑制型化合物の非存在によって誘導可能である。かかる細胞株は、誘導型化合物の非存在下又は抑制型化合物の存在下で容易に操作することができる。次に誘導型化合物を加えるか、又は抑制型化合物を減量することにより、細胞株による上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリンの生成が誘導される。他の実施形態において、細胞株による上昇したレベルのバニリン又はグルコバニリンの生成は、例えば、増殖温度、培地構成成分など、培養条件を変更することによって誘導可能である。特定の実施形態では、細胞の増殖期の間はバニリン生成酵素をマルトースによって抑制し、発酵の発現期の間にバニリン生成酵素を発現させる。有用な促進物質及び技法については、米国特許出願公開第2018/0171341 A1号(全体として参照により援用される)に記載されている。
【0092】
細胞株
[0094] 本明細書に提供される組成物及び方法に有用な細胞株には、古細菌細胞、原核細胞、又は真核細胞が含まれる。
【0093】
[0095] 好適な原核細胞としては、限定されないが、種々のグラム陽性細菌、グラム陰性細菌、又はグラム不定細菌のいずれかが挙げられる。例としては、限定はされないが、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、アリシクロバチルス属(Alicyclobacillus)、アナベナ属(Anabaena)、アナキスティス属(Anacystis)、アルスロバクター属(Arthrobacter)、アゾトバクター属(Azobacter)、バチルス属(Bacillus)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、クロマチウム属(Chromatium)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、大腸菌属(Escherichia)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、メソリゾビウム属(Mesorhizobium)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、ミクロバクテリウム属(Microbacterium)、フォルミジウム属(Phormidium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ロドバクター属(Rhodobacter)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)、ロドスピリルム属(Rhodospirillum)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、サルモネラ属(Salmonella)、セネデスムス属(Scenedesmun)、セラチア属(Serratia)、赤痢菌属(Shigella)、ブドウ球菌属(Staphlococcus)、ストレプトマイセス属(Strepromyces)、シネココッカス属(Synnecoccus)、及びザイモモナス属(Zymomonas)に属する細胞が挙げられる。原核細胞株の例としては、限定はされないが、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefacines)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・イマリオフィルム(Brevibacterium immariophilum)、クロストリジウム・ベイジェリンキイ(Clostridium beigerinckii)、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)、大腸菌(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・メバロニイ(Pseudomonas mevalonii)、シュードモナス・プディカ(Pseudomonas pudica)、ロドバクター・カプスラータス(Rhodobacter capsulatus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドスピリルム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)、及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が挙げられる。詳細な実施形態において、細胞株は、大腸菌(Escherichia coli)細胞である。
【0094】
[0096] 好適な古細菌細胞としては、限定はされないが、アエロピルム属(Aeropyrum)、アーケオグロブス属(Archaeglobus)、ハロバクテリウム属(Halobacterium)、メタノコッカス属(Methanococcus)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、パイロコッカス属(Pyrococcus)、スルホロブス属(Sulfolobus)、及びサーモプラズマ属(Thermoplasma)に属する細胞が挙げられる。古細菌株の例としては、限定はされないが、アーケオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)、ハロバクテリウム属種(Halobacterium sp.)、メタノコックス・ヤンナスキイ(Methanococcus jannaschii)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、サーモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、サーモプラズマ・ボルカニウム(Thermoplasma volcanium)、パイロコッカス・ホリコシイ(Pyrococcus horikoshii)、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)、及びアエロピルム・ペルニクス(Aeropyrum pernix)が挙げられる。
【0095】
[0097] 好適な真核細胞としては、限定はされないが、真菌細胞、藻類細胞、昆虫細胞、及び植物細胞が挙げられる。一部の実施形態において、本方法において有用な酵母には、微生物寄託機関(例えば、IFO、ATCC等)に寄託されていて、且つ、とりわけ、アシクロコニディウム属(Aciculoconidium)、アンブロシオザイマ属(Ambrosiozyma)、アルスロアスクス属(Arthroascus)、アルキシオザイマ属(Arxiozyma)、アシュビア属(Ashbya)、バブジェビア属(Babjevia)、ベンシングトニア属(Bensingtonia)、ボトリオアスカス属(Botryoascus)、ボトリオザイマ属(Botryozyma)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)、ブレラ属(Bullera)、ブレロマイセス属(Bulleromyces)、カンジダ属(Candida)、シテロマイセス属(Citeromyces)、クラビスポラ属(Clavispora)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、シストフィロバシディウム属(Cystofilobasidium)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、デッケラ属(Dekkara)、ディポダスコプシス属(Dipodascopsis)、ディポダスカス属(Dipodascus)、エニエラ属(Eeniella)、エンドマイコプセラ属(Endomycopsella)、エレムアスクス属(Eremascus)、エレモテシウム属(Eremothecium)、エリスロバシジウム属(Erythrobasidium)、フェロマイセス属(Fellomyces)、フィロバシジウム属(Filobasidium)、ガラクトマイセス属(Galactomyces)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、グイリエルモンデラ属(Guilliermondella)、ハンセニアスポラ属(Hanseniaspora)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、ハセガワエア属(Hasegawaea)、ニカワツノタケ属(Holtermannia)、ホルモアスカス属(Hormoascus)、ヒフォピキア属(Hyphopichia)、イサチェンキア属(Issatchenkia)、クロエケラ属(Kloeckera)、クロエケラスポラ属(Kloeckeraspora)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、コンドア属(Kondoa)、クライシア属(Kuraishia)、クルツマノマイセス属(Kurtzmanomyces)、ロイコスポリジウム属(Leucosporidium)、リポマイセス属(Lipomyces)、ロデロマイセス属(Lodderomyces)、マラセジア属(Malassezia)、メチニコウイア属(Metschnikowia)、ムラキア属(Mrakia)、ミクソザイマ属(Myxozyma)、ナドソニア属(Nadsonia)、ナカザワエア属(Nakazawaea)、ネマトスポラ属(Nematospora)、オガタエア属(Ogataea)、オオスポリジウム属(Oosporidium)、パキソレン属(Pachysolen)、ファキチコスポラ属(Phachytichospora)、ファフィア属(Phaffia)、ピキア属(Pichia)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、サッカロマイコデス属(Saccharomycodes)、サッカロミコプシス属(Saccharomycopsis)、サイトエラ属(Saitoella)、サカグチア属(Sakaguchia)、サトゥルノスポラ属種(Saturnospora)、分裂酵母胞子菌属(Schizoblastosporion)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、シュワンニオマイセス属(Schwanniomyces)、スポリジオボラス属(Sporidiobolus)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)、スポロパキデルミア属(Sporopachydermia)、ステファノアスカス属(Stephanoascus)、ステリグマトマイセス属(Sterigmatomyces)、ステリグマトスポリジウム属(Sterigmatosporidium)、シンビオタフリナ属(Symbiotaphrina)、シンポジオマイセス属(Sympodiomyces)、シンポジオマイコプシス属(Sympodiomycopsis)、トルラスポラ属(Torulaspora)、トリコスポリエラ属(Trichosporiella)、トリコスポロン属(Trichosporon)、トリゴノプシス属(Trigonopsis)、ツチヤエア属(Tsuchiyaea)、ウデニオマイセス属(Udeniomyces)、ワルトマイセス属(Waltomyces)、ウィッケルハミア属(Wickerhamia)、ウィッケルハミエラ属(Wickerhamiella)、ウィリオプシス属(Williopsis)、ヤマダザイマ属(Yamadazyma)、ヤロウイア属(Yarrowia)、ジゴアスカス属(Zygoascus)、ザイゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、ザイゴウィリオプシス属(Zygowilliopsis)、及びジゴザイマ属(Zygozyma)に属する酵母が含まれる。
【0096】
[0098] 一部の実施形態において、細胞株は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、デッケラ・ブルクセレンシス(Dekkera bruxellensis)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)(旧称サッカロマイセス・ラクチス(Saccharomyces lactis))、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluveromyces marxianus)、アルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、又はハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)(現行名ピキア・アングスタ(Pichia angusta))である。一部の実施形態において、細胞株は、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ギリエルモンディ(Candida guilliermondii)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・プソイドトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、又はカンジダ・ウチリス(Candida utilis)など、カンジダ属(Candida)のものである。
【0097】
[0099] 詳細な実施形態において、細胞株は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。一部の実施形態において、細胞株は、パン酵母、CEN.PK、CBS 7959、CBS 7960、CBS 7961、CBS 7962、CBS 7963、CBS 7964、IZ-1904、TA、BG-1、CR-1、SA-1、M-26、Y-904、PE-2、PE-5、VR-1、BR-1、BR-2、ME-2、VR-2、MA-3、MA-4、CAT-1、CB-1、NR-1、BT-1、及びAL-1からなる群から選択されるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。一部の実施形態において、細胞株は、PE-2、CAT-1、VR-1、BG-1、CR-1、及びSA-1からなる群から選択されるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。詳細な実施形態において、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の株は、PE-2である。別の詳細な実施形態において、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の株は、CAT-1である。別の詳細な実施形態において、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の株は、BG-1である。
【0098】
[00100] 一部の実施形態において、宿主微生物は、工業発酵に好適な微生物である。詳細な実施形態において、微生物は、工業発酵環境のストレス条件と認識されている、高溶媒濃度、高温、高圧、基質の拡大利用、栄養制限、糖及び塩に起因する浸透圧ストレス、酸性、亜硫酸塩及び細菌汚染、又はこれらの組み合わせの下で生存するように条件付けられる。
【0099】
遺伝子組換えされた細胞株
[0100] 細胞株は、当業者によって好適と見なされる、バニリン又はグルコバニリンを生成する任意の細胞株であり得る。特定の実施形態において、本明細書には、バニリン及び/又はグルコバニリンの生成に有用な1つ以上の酵素を含む細胞株が提供される。特定の実施形態において、本明細書には、遺伝子に1つ以上の欠失を含む細胞株が提供され、ここで1つ以上の欠失は、バニリン及び/又はグルコバニリンの生成に有用である。更なる態様において、本明細書には、欠失の1つ以上を含み、更に、酵素の1つ以上を含む細胞株が提供される。酵素及び欠失については、本明細書に詳細に記載される。特定の実施形態において、細胞株は、培養培地中の炭素源からバニリン及び/又はグルコバニリンを生成することができる。特定の実施形態において、細胞株は、親株と比較して収率及び/又は生成能の改善をもたらす。特定の実施形態において、細胞株は、親株と比較して、副産物、中間体、及び/又は副生成物、例えばバニリン酸をもたらす。例示的副産物、中間体、及び/又は副生成物には、バニリン酸、バニリルアルコール、グルコバニリン酸、グルコバニリルアルコール、及びプロトカテク酸アルデヒドが含まれる。
【0100】
[0101] 有利な実施形態において、細胞株は、バニリン及び/又はグルコバニリンを作る能力を有する1つ以上の酵素経路を含み、前記経路は、個別に扱われるか、又は一緒に扱われる。
【0101】
[0102] 別の態様において、本明細書には、1つ以上の異種O-メチルトランスフェラーゼ(OMT)を発現する細胞株が提供される。図1に示されるとおり、OMTは、プロトカテク酸(PCA)からバニリン酸への変換及びPCアルデヒドからバニリンへの変換(conversin)を触媒する。OMTは、当業者によって有用と見なされる任意のOMTであってよい。有利な実施形態において、OMTは、プロトカテク酸の正しい-OH基に対する特異性を有する。換言すれば、有利な実施形態において、OMTはこの反応でより多くのバニリン酸を形成し、副生成物をあまり形成しない。本明細書に記載されるとおり、これらのOMTは、正しい-OH基に対する優れた特異性を提供し、副生成物の形成を最小限に抑える。特定の実施形態において、細胞株は、以下の生物供給源:ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、アオウミガメ(Chelonia mydas)、ヒヨコマメ(Cicer arietinum)、カタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)、コクシジオイデス・ポサダシ(Coccidioides posadasii)、キュウリ(Cucumis sativus)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、ヨーロッパスズキ(Dicentrarchus labrax)、ノーザンパイク(Esox lucius)、オオムギ(Hordeum vulgare)、アメリカナマズ(Ictalurus punctatus)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、メダカ(Oryzias latipes)、キュウリウオ(Osmerus mordax)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、アワ(Setaria italica)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、モロコシ(Sorghum bicolor)、ストレプトマイセス属種(Streptomyces sp.)Root431、及び黒トリュフ(Tuber melanosporum)からのOMTからなる群から選択される1つ以上のOMTを発現する。
【0102】
[0103] 更なる実施形態において、上記の細胞株は、バニリン及び/又はグルコバニリンの生成に有用な1つ以上の欠失及び/又は1つ以上の発現遺伝子を更に含む。
【0103】
[0104] 詳細な実施形態において、細胞株は、バニリン又はグルコバニリンの生成に有用な経路の酵素を更に含む。かかる経路酵素については、Hansen et al., Appl. Environ. Microbiol. (2009) 75(9):2765-2774;米国特許第6,372,461 B1号;米国特許第10,066,252 B1号;米国特許第10,208,293 B2号(これらの各々は、全体として参照により援用される)に記載されるものを含め、以前に記載されている。
【0104】
[0105] 特定の実施形態において、細胞株は、3-デヒドロキナ酸シンターゼ、即ちAroBを更に含む。有用なAroB遺伝子及び酵素は公知である。有用なAroBポリペプチドもまた公知である。有用なAroB遺伝子及び酵素には、大腸菌(E. coli)のものが含まれる。UniProtKB P07639で例を参照することができる。好ましい実施形態において、細胞株は、大腸菌(E. coli)AroBを更に発現し、又は過剰発現する。
【0105】
[0106] 特定の実施形態において、細胞株は、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、即ちAroDを更に含む。有用なAroD遺伝子及び酵素は公知である。有用なAroDポリペプチドもまた公知である。有用なAroD遺伝子及び酵素には、大腸菌(E. coli)のものが含まれる。UniProtKB P05194で例を参照することができる。好ましい実施形態において、細胞株は、大腸菌(E. coli)AroDを更に発現し、又は過剰発現する。
【0106】
[0107] 特定の実施形態において、細胞株は、ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ、Tyr感受性、即ちAroFを更に含む。有用なAroF遺伝子及び酵素は公知である。有用なAroFポリペプチドもまた公知である。有用なAroF遺伝子及び酵素には、大腸菌(E. coli)のものが含まれる。UniProtKB P00888で例を参照することができる。好ましい実施形態において、細胞株は、大腸菌(E. coli)AroFを更に発現し、又は過剰発現する。特定の実施形態において、AroFは、フィードバック抵抗性である(J. Bacterial. November 1990 172:6581-6584、全体として参照により援用される)。
【0107】
[0108] 特定の実施形態において、細胞株は、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ、即ちAroZを更に含む。有用なAroZ遺伝子及び酵素は公知である。有用な3DSDポリペプチドもまた公知である。有用なAroZ遺伝子及び酵素には、ポドスポラ・パウキセタ(Podospora pauciseta)、ウスチラゴ・マイディス(Ustilago maydis)、ロドコッカス・ジョスティイ(Rhodoicoccus jostii)、アシネトバクター属種(Acinetobacter sp.)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)及びアカパンカビ(Neurospora crassa)のものが含まれる。GenBankアクセッション番号CAD60599、XP_001905369.1、XP_761560.1、ABG93191.1、AAC37159.1、及びXM_001392464で例を参照することができる。好ましい実施形態において、細胞株は、ポドスポラ・パウキセタ(Podospora pauciseta)AroZを更に発現し、又は過剰発現する。
【0108】
[0109] 特定の実施形態において、細胞株は、ACARを更に含む。有用なACAR遺伝子及び酵素は公知である。有用なACARポリペプチドもまた公知である。特定の実施形態において、細胞株は、以下の生物供給源:アクチノキネオスポラ・スフェキオスポンギアエ(Actinokineospora spheciospongiae)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、コッコミクサ・スベリプソイデア(Coccomyxa subellipsoidea)、ゴードニア・エフュサ(Gordonia effusa)、ヒポクレア・ジェコリナ(Hypocrea jecorina)、キブデロスポランジウム属種(Kibdelosporangium sp.)MJ126-NF4、リクテイミア・コリムビフェラ(Lichtheimia corymbifera)、メタリジウム・ブルンネウム(Metarhizium brunneum)、マイコバクテリウム・アブセサス(Mycobacterium abscessus)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)、マイコバクテリウム・コスメチクム(Mycobacterium cosmeticum)、マイコバクテリウム・レプロマトシス(Mycobacterium lepromatosis)、マイコバクテリウム・ネブラスケンス(Mycobacterium nebraskense)、マイコバクテリウム・オブエンス(Mycobacterium obuense)、マイコバクテリウム属種(Mycobacterium sp.)MOTT36Y、マイコバクテリウム属種(Mycobacterium sp.)URHB0044、マイコバクテリウム・バッカエ(Mycobacterium vaccae)、マイコバクテリウム・ゼノピ(Mycobacterium xenopi)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、ノカルジア・ブラジリエンシス(Nocardia brasiliensis)、ノカルジア・ガンケンシス(Nocardia gamkensis)、ノカルジア・イオウェンシス(Nocardia iowensis)、ノカルジア・オチチディスカビアルム(Nocardia otitidiscaviarum)、ノカルジア・セリオレ(Nocardia seriolae)、ノカルジア・テルペニカ(Nocardia terpenica)、ノカルジア・ブルネリス(Nocardia vulneris)、プルプレオシルリウム・リラシヌム(Purpureocillium lilacinum)、ロドコッカス属種(Rhodococcus sp.)Leaf258、ストレプトマイセス属種(Streptomyces sp.)NRRL S-31、タラロマイセス・マルネッフェイ(Talaromyces marneffei)のうちの1つ以上からの1つ以上のACAR酵素を発現する。
【0109】
[0110] 特定の実施形態において、細胞株は、PPTアーゼを更に含む。有用なPPTアーゼ遺伝子及び酵素は公知である。有用なPPTアーゼポリペプチドもまた公知である。有用なPPTアーゼ遺伝子及び酵素には、大腸菌(E. coli)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、及びノカルジア・ファルシニカ(Nocardia farcinica)のものが含まれる。GenBankアクセッション番号NP_601186、BAA35224、及びYP_120266で例を参照することができる。好ましい実施形態において、細胞株は、コリネバクテリウム・グルタミクム(Cornybacterium glutamicum)PPTアーゼを更に発現し、又は過剰発現する。
【0110】
[0111] 特定の実施形態において、細胞株は、バニリルアルコールをバニリンに変換する能力を有する。これにより、副生成物バニリルアルコールの量が減少し、バニリンの量が増加する。有用なオキシダーゼ遺伝子及び酵素は公知である。好適なオキシダーゼポリペプチドは公知である。有用なオキシダーゼ遺伝子及び酵素には、ペニシリウム・シンプリシッシムム(Penicillium simplicissimum)及びロドコッカス・ジョスティイ(Rhodococcus jostii)のものが含まれる。好ましい実施形態において、細胞株は、ロドコッカス・ジョスティイ(Rhodococcus jostii)オイゲノール(eugenal)アルコールオキシダーゼ(EAO)を更に発現し、又は過剰発現する。
【0111】
[0112] 特定の実施形態において、細胞株は、バニリンをグルコシル化してグルコバニリンを形成する能力を有する。グルコバニリンは、バニラの鞘に見られる貯蔵形態のバニリンである。これは、酵母を含め、ほとんどの生物にとって非毒性であり、バニリンと比較して水に対する溶解度が高い。加えて、バニリン-β-D-グルコシドの形成は、生合成がバニリン生成へと導かれる可能性が最も高い。この変換に有用なUGT遺伝子及び酵素は公知である。本発明に係る有用なUGT酵素は、EC2.4.1に分類される。好適なUGTポリペプチドとしては、UGT71C2、UGT72B1、UGT72E2、UGT84A2、UGT89B1、UGT85B1、及びアルブチンシンターゼポリペプチドが挙げられ、例えば、GenBankアクセッション番号AC0005496、NM_116337、及びNM_126067にある。特定の実施形態において、細胞株は、UGT71C2、UGT72B1、UGT72E2、UGT84A2、UGT89B1、UGT85B1、及びアルブチンシンターゼのうちの1つ以上を更に発現し、又は過剰発現する。好ましい実施形態において、細胞株は、シロイヌナズナ(A. thaliana)UGT72E2を更に発現し、又は過剰発現する。
【0112】
[0113] 一態様において、本明細書には、HFD1の欠失を含む細胞株が提供される。以下の例に記載するとおり、HFD1は、バニリンをバニリン酸に変換する能力を有する酵素Hfd1をコードする。バニリン酸は細胞株にとって潜在的に毒性であり、最終生成物中には望ましくない不純物であるため、これは望ましくない発酵副生成物である。更に、バニリン酸が蓄積すると、精製が一層困難になり得る。加えて、バニリンからバニリン酸への逆反応により、バニリン酸とバニリンとの間での空転サイクルが導入され得る。バニリン酸からバニリンへの正反応毎に、価値ある細胞性ATP及びNADPHが代価として払われ、ひいてはそれが続くバニリンからバニリン酸へと戻る変換によって無駄に使われることになり得る。特定の実施形態において、細胞株は、S.セレビシエ(S. cerevisiae)である。以下の例に記載するとおり、Hfd1は、S.セレビシエ(S. cerevisiae)においてバニリンからバニリン酸への変換に関与する一次的な公知の酵素である。S.セレビシエ(S. cerevisiae)以外の細胞株では、HFD1のホモログを欠失させる。好ましくは、HFD1の全てのコピーを欠失させる。例えば、HFD1を1コピー有する一倍体細胞では、そのコピーを欠失させる。HFD1を2コピー有する二倍体細胞では、両方のコピーを欠失させる。HFD1の複数のコピーを有する任意の細胞において、好ましくは各コピーを欠失させる。1つ又は複数のHFD1遺伝子は、当業者に明らかな任意の技法によって欠失させることができる。有用な技法としては、相同組換え及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づくものが挙げられる。
【0113】
[0114] 過剰発現は、当業者に明らかな任意の技法によることができる。特定の実施形態において、遺伝子は、その細胞株において有用なプロモーターから過剰発現させる。特定の実施形態において、遺伝子は、S.セレビシエ(S. cerevisiae)プロモーターから過剰発現させる。特定の実施形態において、プロモーターは、pPGK1、pTDH3、pENO2、pADH1、pTPI1、pTEF1、pTEF2、pTEF3、pGAL1、pGAL2、pGAL7、pGAL10、GAL1、pRPL3、pRPL15A、pRPL4、pRPL8B、pSSA1、pSSB1、pCUP1、pTPS1、pHXT7、pADH2、pCYC1、及びpPDA1からなる群から選択される。特定の実施形態において、遺伝子は、GALプロモーターから過剰発現させる。特定の実施形態において、遺伝子は、pGAL1、pGAL2、pGAL7、pGAL10、及びその変異体からなる群から選択されるプロモーターから過剰発現させる。
【0114】
[0115] 特定の実施形態において、細胞株中にある異種プロモーターの1つ、一部、又は全てが誘導性である。誘導性プロモーターシステムは、当業者によって認識されている任意のものであってよい。詳細な実施形態において、プロモーターはマルトースによって誘導可能である。有利な実施形態において、細胞株は、マルトースによって誘導可能なGALレギュロンを含む。マルトースによって更に抑制又は誘導されるGalレギュロンの例が、国際公開第2015/020649号、同第2016/210343号、及び同第2016210350号(これらの各々は、全体として参照により援用される)に記載されている。特定の実施形態において、スイッチング可能でない株の上に、pMAL32などのマルトース反応性プロモーターの制御下でGAL80のコピーを染色体に組み込むことにより、スイッチング可能なマルトース株が構築される。特定の実施形態において、例えば更なる制御を促進するため、GAL80遺伝子産物を温度感受性となるように突然変異させる。特定の実施形態において、GAL80遺伝子産物を温度感受性ポリペプチドと融合させる。特定の実施形態において、GAL80遺伝子産物を温度感受性DHFRポリペプチド又は断片と融合させる。スイッチング可能なファルネセン生成スイッチング可能株の更なる説明は、米国特許出願公開第2016/0177341号及び国際公開第2016/210350号(これらの各々は、本明細書において全体として参照により援用される)に記載されている。
【0115】
[0116] 上記に記載されるポリペプチド及び核酸の各々について、細胞株は、その変異体を含むことができる。特定の実施形態において、変異体は、関連性のあるポリペプチドと比べて最大15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1個のアミノ酸置換を含むことができる。特定の実施形態において、変異体は、参照ポリペプチドと比べて最大15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1個の保存的アミノ酸置換を含むことができる。特定の実施形態において、本明細書に記載される核酸の任意のものを細胞株に合わせて最適化、例えばコドン最適化することができる。変異体及び最適化については以下に更に詳細に記載する。
【0116】
[0117] 特定の実施形態において、追加の酵素は、上記に特に指定のない限り、天然である。天然酵素は、コドン最適化した核酸から発現させることができる。有利な実施形態において、追加の酵素は異種である。特定の実施形態において、2つ以上の酵素を1つのポリペプチドに組み合わせることができる。
【0117】
遺伝子組換えされた細胞の作成方法
[0118] 細胞株は、標準的な技法によって入手し、又は生成することができる。細胞株は、上記に記載される修飾のうちの1つ以上、例えばバニリン又はグルコバニリン化合物用の、例えば、1つ以上の核異種核酸及び/又は生合成経路酵素を含むように遺伝子操作することができる。細胞株における異種酵素の発現は、細胞株における発現を可能にする調節エレメントの制御下で、酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を細胞株に導入することによって達成し得る。一部の実施形態において、核酸は、染色体外プラスミドである。他の実施形態において、核酸は、細胞株の染色体にヌクレオチド配列を組み込むことのできる染色体組込みベクターである。他の実施形態において、核酸は、相同性によって細胞株の染色体にヌクレオチド配列を組み込むことのできる二本鎖DNAの線状片である。
【0118】
[0119] これらのタンパク質をコードする核酸は、限定なしに当業者に公知の任意の方法によって細胞株に導入することができる(例えば、Hinnen et al. (1978) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:1292-3;Cregg et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5:3376-3385;Goeddel et al. eds, 1990, Methods in Enzymology, vol. 185, Academic Press, Inc. , CA;Krieger, 1990, Gene Transfer and Expression -- A Laboratory Manual, Stockton Press, NY;Sambrook et al. , 1989, Molecular Cloning -- A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, NY;及びAusubel et al. , eds. , Current Edition, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience, NYを参照のこと)。例示的技法としては、限定はされないが、スフェロプラスト化、電気穿孔、PEG 1000媒介性形質転換、及び酢酸リチウム又は塩化リチウム媒介性形質転換が挙げられる。
【0119】
[0120] 細胞株中の酵素の量は、酵素をコードする遺伝子の転写を修飾することによって改変し得る。これは、例えば、酵素をコードするヌクレオチド配列のコピー数を修飾することによるか(例えば、ヌクレオチド配列を含む発現ベクターのより多い又はより少ないコピー数を使用することによるか、又は細胞株のゲノムにヌクレオチド配列の追加のコピーを導入する、又は細胞株のゲノムにあるヌクレオチド配列を欠失させる若しくは破壊することによる)、オペロンのポリシストロニックmRNA上でのコード配列の順序を変更する、又は各々がその独自の制御エレメントを有する個々の遺伝子へとオペロンを分割することによるか、又はヌクレオチド配列が作動可能に連結されるプロモーター又はオペレーターの強度を増加させることにより実現し得る。或いは、又は加えて、酵素をコードするmRNAの翻訳レベルを修飾することによって細胞株中の酵素のコピー数を改変してもよい。これは、例えば、mRNAの安定性を修飾すること、リボソーム結合部位の配列を修飾すること、リボソーム結合部位と酵素コード配列の開始コドンとの間の距離又は配列を修飾すること、酵素コード領域の開始コドンの「上流」、即ちその5’側に隣接して位置するシストロン間領域全体を修飾すること、ヘアピン及び特殊化した配列を用いてmRNA転写物の3’末端を安定化させること、酵素のコドン使用を修飾すること、酵素の生合成に使用されるまれなコドンtRNAの発現を改変すること、及び/又は酵素の安定性を、例えば、そのコード配列の突然変異によるとおり増加させることにより実現し得る。
【0120】
[0121] 細胞株中の酵素の活性は、幾つもの方法で改変することができる。それらとしては、限定はされないが、細胞株において溶解度の上昇又は低下を呈する修飾された形態の酵素を発現させること、酵素の活性が阻害されるようにドメインを欠く改変された形態の酵素を発現させること、基質に対するKcatが高い若しくは低い又はKmが低い若しくは高い修飾された形態の酵素を発現させること、又は経路中の別の分子によるフィードバック又はフィードフォワード調節の影響が大きい又は小さい改変された形態の酵素を発現させることが挙げられる。
【0121】
[0122] 一部の実施形態において、細胞株の遺伝子組換えに使用される核酸は、形質転換細胞株の選択及び外来性DNAを維持するように細胞株に選択圧をかけることに有用な1つ以上の選択マーカーを含む。
【0122】
[0123] 一部の実施形態において、選択マーカーは、抗生物質耐性マーカーである。抗生物質耐性マーカーの例示的な例としては、限定はされないが、BLA、NAT1、PAT、AUR1-C、PDR4、SMR1、CAT、マウスdhfr、HPH、DSDA、KAN、及びSH BLE遺伝子産物が挙げられる。大腸菌(E. coli)からのBLA遺伝子産物は、β-ラクタム系抗生物質(例えば、狭域セファロスポリン系薬、セファマイシン系薬、及びカルバペネム系薬(エルタペネム)、セファマンドール、及びセフォペラゾン)及びテモシリンを除くあらゆる抗グラム陰性細菌ペニシリンに対する耐性を付与する。S.ノウルセイ(S. noursei)からのNAT1遺伝子産物は、ノールセオスリシンに対する耐性を付与する。S.ビリドクロモゲネス(S. viridochromogenes)Tu94からのPAT遺伝子産物は、ビアラホス(bialophos)に対する耐性を付与する。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からのAUR1-C遺伝子産物は、オーレオバシジンA(Auerobasidin A)(AbA)に対する耐性を付与する。PDR4遺伝子産物は、セルレニンに対する耐性を付与する。SMR1遺伝子産物は、スルホメツロンメチルに対する耐性を付与する。Tn9トランスポゾンからのCAT遺伝子産物は、クロラムフェニコールに対する耐性を付与する。マウスdhfr遺伝子産物は、メトトレキサートに対する耐性を付与する。肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)のHPH遺伝子産物は、ハイグロマイシンBに対する耐性を付与する。大腸菌(E. coli)のDSDA遺伝子産物は、単一窒素源としてD-セリンを含有するプレート上での細胞の増殖を可能にする。Tn903トランスポゾンのKAN遺伝子は、G418に対する耐性を付与する。ストレプトアロテイクス・ヒンダスタヌス(Streptoalloteichus hindustanus)からのSH BLE遺伝子産物は、ゼオシン(ブレオマイシン)に対する耐性を付与する。一部の実施形態において、抗生物質耐性マーカーは、本明細書に開示される遺伝子組換えされた細胞株を単離した後に欠失させる。
【0123】
[0124] 一部の実施形態において、選択マーカーは、遺伝子組換えされた微生物において栄養要求性(例えば、栄養素の栄養要求性)をレスキューする。かかる実施形態において、親微生物は、あるアミノ酸又はヌクレオチド生合成経路で機能する1つ以上の遺伝子産物であって、非機能性のとき親細胞を1つ以上の栄養素の補給のない培地では増殖できないものにする遺伝子産物に機能的破壊を含む。かかる遺伝子産物としては、限定はされないが、酵母におけるHIS3、LEU2、LYS1、LYS2、MET15、TRP1、ADE2、及びURA3遺伝子産物が挙げられる。次に、破壊された遺伝子産物の機能性コピーをコードする発現ベクター又は染色体組み込みコンストラクトで親細胞を形質転換することによって栄養要求性表現型をレスキューすることができ、作り出される遺伝子組換え細胞株を親細胞の栄養要求性表現型の喪失に基づき選択することができる。選択マーカーとしてのURA3、TRP1、及びLYS2遺伝子の利用は、ポジティブ選択及びネガティブ選択の両方が可能であるため、著しく有利である。ポジティブ選択は、URA3、TRP1、及びLYS2突然変異の栄養要求性の補完によって行われ、一方、ネガティブ選択は、原栄養株の増殖を妨げるが、それぞれ、URA3、TRP1、及びLYS2突然変異体の増殖は許容する特異的阻害薬、即ち、それぞれ、5-フルオロオロチン酸(FOA)、5-フルオロアントラニル酸、及びアミノアジピン酸(aAA)に基づく。他の実施形態において、選択マーカーは、公知の選択方法によって同定することのできる他の非致死的欠損又は表現型をレスキューする。
【0124】
[0125] 本明細書には、本開示の方法及び組成物において有用な具体的な遺伝子及びタンパク質が記載される;しかしながら、かかる遺伝子との絶対的な同一性は必ずしも必要ないことは認識されるであろう。例えば、ポリペプチド又は酵素をコードする配列を含む特定の遺伝子又はポリヌクレオチドの変更を実施して、活性に関してスクリーニングすることができる。典型的には、かかる変更は、保存的突然変異及びサイレント突然変異を含む。かかる修飾された、又は突然変異したポリヌクレオチド及びポリペプチドは、当該技術分野において公知の方法を用いて機能性酵素の発現に関してスクリーニングすることができる。
【0125】
[0126] 遺伝子コードの固有の縮重に起因して、実質的に同じ又は機能的に同等のポリペプチドをコードする他のポリヌクレオチドを使用して、かかる酵素をコードするポリヌクレオチドをクローニングし、及び発現させることもできる。
【0126】
[0127] 当業者は理解するであろうとおり、特定の宿主における発現を亢進させるには、コード配列を修飾することが有利であり得る。遺伝子コードは64個の可能なコドンに冗長性があり、しかしほとんどの生物は、典型的にはそれらのコドンのうちの一部を使用する。ある種においてほとんどの場合に利用されるコドンは最適コドンと呼ばれ、それほど利用されないコドンはまれな又は使用頻度の低いコドンに分類される。コドンは、宿主の好ましいコドン使用を反映させるため、時に「コドン最適化」又は「種コドンバイアスの制御」とも呼ばれる過程で置換することができる。他の細胞株へのコドン最適化は、コドン使用頻度表を用いて容易に決定することができ、又はIntegrated DNA TechnologiesからのCodonOp(www.idtdna.com/CodonOptfrom)などの市販のソフトウェアを用いて実施することができる。
【0127】
[0128] 特定の原核生物又は真核生物宿主に好まれるコドンを含む最適化されたコード配列(Murray et al., 1989, Nucl Acids Res. 17: 477-508)は、例えば、最適化されていない配列から産生される転写物と比較したとき、翻訳速度を増加させるため、又はより長い半減期など、望ましい特性を有する組換えRNA転写物を産生させるために調製することができる。翻訳終止コドンもまた、宿主の好みを反映するように修飾することができる。例えば、S.セレビシエ(S. cerevisiae)及び哺乳類の典型的な終止コドンは、それぞれUAA及びUGAである。単子葉植物の典型的な終止コドンはUGAであり、一方、昆虫及び大腸菌(E. coli)はUAAを終止コドンとして使用することが多い(Dalphin et al., 1996, Nucl Acids Res. 24: 216-8)。
【0128】
[0129] 当業者は、遺伝子コードの縮重という性質により、そのヌクレオチド配列が異なる種々のDNA分子を使用して本開示の所与の酵素をコードし得ることを認識するであろう。上記に記載される生合成酵素をコードする天然のDNA配列は、本明細書では単に本開示の実施形態を例示するために参照されるに過ぎず、本開示は、本開示の方法において利用される酵素のポリペプチド及びタンパク質のアミノ酸配列をコードする任意の配列のDNA分子を包含する。同じように、ポリペプチドは、典型的には、所望の活性を喪失することなく、又は大きく喪失することなく、そのアミノ酸配列中に1つ以上のアミノ酸置換、欠失、及び挿入を許容することができる。本開示は、修飾された又は変異型のポリペプチドが参照ポリペプチドの酵素的同化又は異化活性を有する限りにおいて、本明細書に記載される具体的なタンパク質と異なるアミノ酸配列のかかるポリペプチドを包含する。更に、本明細書に示されるDNA配列によってコードされるアミノ酸配列は、単に本開示の実施形態を例示しているに過ぎない。
【0129】
[0130] 加えて、本明細書に提供される組成物及び方法に有用な酵素の相同体が、本開示に包含される。一部の実施形態において、2つのタンパク質(又はタンパク質の一領域)は、アミノ酸配列が少なくとも約30%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するとき、実質的に相同である。2つのアミノ酸配列、又は2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するためには、それらの配列を最適比較を目的としてアラインメントする(例えば、最適アラインメントのため、第1及び第2のアミノ酸又は核酸配列の一方又は両方にギャップを導入することができ、及び比較目的では、非相同配列を無視することができる)。一実施形態において、比較目的でアラインメントされる参照配列の長さは、その参照配列の長さの少なくとも30%、典型的には少なくとも40%、より典型的には少なくとも50%、更により典型的には少なくとも60%、及び更により典型的には少なくとも70%、80%、90%、100%である。次に、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第1の配列中の位置が第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドによって占められているとき、ひいてはそれらの分子はその位置において同一である(本明細書で使用されるとき、アミノ酸又は核酸「同一性」は、アミノ酸又は核酸「相同性」と等価である)。2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列の最適アラインメントのために導入する必要のあるギャップの数、及び各ギャップの長さを考慮に入れた、それらの配列によって共有される同一の位置の数の関数である。
【0130】
[0131] タンパク質又はペプチドに言及して「相同」が使用されるとき、同一でない残基位置は、多くの場合に保存的アミノ酸置換によって異なることが認識される。「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸残基が、同様の化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)の側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換によってタンパク質の機能特性が実質的に変化することはないであろう。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、パーセント配列同一性又は相同性の程度は、その置換の保存的性質を補正するため上方に調整し得る。この調整を行う手段は、当業者に周知である(例えば、Pearson W. R., 1994, Methods in Mol Biol 25: 365-89を参照のこと)。
【0131】
[0132] 以下の6つのグループが、各々、互いに保存的置換となるアミノ酸を含む:1)セリン(S)、トレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、アラニン(A)、バリン(V)、及び6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0132】
[0133] パーセント配列同一性とも称される、ポリペプチドの配列相同性は、典型的には配列解析ソフトウェアを用いて測定される。種々の生物からの多数の配列を含むデータベースとの分子配列の比較に使用される典型的なアルゴリズムは、コンピュータプログラムBLASTである。多数の異なる生物からの配列を含むデータベースを検索するとき、アミノ酸配列を比較することが典型的である。
【0133】
[0134] 更に、前述の酵素(又は本明細書に挙げられる任意の他のもの(又はその発現を制御し又は調節する調節エレメントのいずれか))をコードする遺伝子のいずれも、定向進化又は合理的突然変異誘発など、当業者に公知の遺伝学的/プロテインエンジニアリング技法によって最適化し得る。かかる作業により、当業者は、酵素を酵母における発現及び活性に最適化することが可能となる。
【0134】
[0135] 加えて、これらの酵素をコードする遺伝子を他の真菌及び細菌種から同定することができ、この経路の調節のために発現させることができる。種々の生物が、限定はされないが、S.セレビシエ(S. cerevisiae)及びS.ウバルム(S. uvarum)を含めたサッカロマイセス属種(Saccharomyces spp.)、K.サーモトレランス(K. thermotolerans)、K.ラクチス(K. lactis)、及びK.マルクシアヌス(K. marxianus)を含めたクルイベロマイセス属種(Kluyveromyces spp.)、ピキア属種(Pichia spp.)、H.ポリモルファ(H. polymorpha)を含めたハンゼヌラ属種(Hansenula spp.)、カンジダ属種(Candida spp.)、トリコスポロン属種(Trichosporon spp.)、Y.種スティピティス(Y. spp. stipitis)を含めたヤマダザイマ属種(Yamadazyma spp.)、トルラスポラ・プレトリエンシス(Torulaspora pretoriensis)、イサチェンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)、S.ポンベ(S. pombe)を含めたシゾサッカロマイセス属種(Schizosaccharomyces spp.)、クリプトコッカス属種(Cryptococcus spp.)、アスペルギルス属種(Aspergillus spp.)、アカパンカビ属種(Neurospora spp.)、又はウスチラゴ属種(Ustilago spp.)を含め、これらの酵素の供給源となり得る。嫌気性真菌類からの遺伝子の供給源としては、限定はされないが、ピロマイセス属種(Piromyces spp.)、オルピノマイセス属種(Orpinomyces spp.)、又はネオカリマスティクス属種(Neocallimastix spp.)が挙げられる。有用な原核生物酵素の供給源としては、限定はされないが、大腸菌(Escherichia coli)、ザイモモナス・モビリス(Zym hvomonas mobilis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、バチルス属種(Bacillus spp.)、クロストリジウム属種(Clostridium spp.)、コリネバクテリウム属種(Corynebacterium spp.)、シュードモナス属種(Pseudomonas spp.)、ラクトコッカス属種(Lactococcus spp.)、エンテロバクター属種(Enterobacter spp.)、及びサルモネラ属種(Salmonella spp.)が挙げられる。
【0135】
[0136] 更なる相同な遺伝子及び相同な酵素の同定には、当業者に公知の技法が好適であり得る。概して、類縁の遺伝子及び/又は類縁の酵素は、機能解析により同定することができ、機能的類似性を有することになる。類縁の遺伝子及び類縁の酵素の同定には、当業者に公知の技法が好適であり得る。例えば、相同な又は類似のUDPグリコシルトランスフェラーゼ、又は任意の生合成経路遺伝子、タンパク質、又は酵素を同定するため。技法としては、限定はされないが、目的の遺伝子/酵素の公開されている配列に基づくプライマーを使用したPCRによるか、又は目的の遺伝子間の保存領域を増幅するように設計された縮重プライマーを使用した縮重PCRによる遺伝子のクローニングを挙げることができる。更に、当業者は、機能的相同性又は類似性を持つ相同な又は類縁の遺伝子、タンパク質、又は酵素を同定する技法を用いることができる。技法としては、酵素の触媒活性に関して、前記活性についてのインビトロ酵素アッセイ(例えば、本明細書又はKiritani, K., Branched-Chain Amino Acids Methods Enzymology, 1970に記載されるとおりの)によって細胞又は細胞培養物を調べること、次に前記活性を持つ酵素を精製によって単離すること、エドマン分解などの技法によって酵素のタンパク質配列を決定すること、可能性がある核酸配列に対するPCRプライマーの設計、前記DNA配列のPCRによる増幅、及び前記核酸配列のクローニングが挙げられる。相同な又は類似の遺伝子及び/又は相同な又は類似の酵素、類縁の遺伝子及び/又は類縁の酵素若しくはタンパク質を同定するための技法としてはまた、候補遺伝子又は酵素に関するデータと、BRENDA、KEGG、又はMetaCYCなどのデータベースの比較も挙げられる。候補遺伝子又は酵素は、本明細書の教示によれば、上述のデータベースの範囲内で同定されてもよい。
【実施例
【0136】
実施例
実施例1.酵母形質転換方法
[0137] 最適化した酢酸リチウム(LiAc)形質転換で標準的な分子生物学的技術によって各DNAコンストラクトをサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(CEN.PK2)に組み込む。簡潔に言えば、細胞を30℃の酵母エキスペプトンマルトース(YPD、蒸留水中1%酵母エキス、2%ペプトン、2%マルトース)培地で振盪(200rpm)しながら一晩増殖させて、100mL YPD中に0.1のOD600となるように希釈し、0.6~0.8のOD600まで増殖させる。形質転換毎に、5mLの培養液を遠心により回収し、5mLの滅菌水で洗浄し、再びスピンダウンし、1mLの100mM LiAcに再懸濁し、微量遠心管に移し替える。細胞を30秒間スピンダウンし(13,000×g)、上清を除去し、240μL 50%PEG、36μL 1M LiAc、10μL煮沸サケ精子DNA、及び74μLのドナーDNAの形質転換混合液に細胞を再懸濁する。42℃で40分間の熱ショック後、細胞をYPD培地中で一晩回復させた後、選択培地に播く。組み込みに特異的なプライマーでのコロニーPCRによってDNAの組み込みを確認する。
【0137】
実施例2.グルコバニリンへのフラックスが高い株の作成
[0138] 図1は、中心炭素代謝物エリトロース-4-リン酸(E4P)及びホスホエニルピルビン酸(PEP)からグルコバニリンが生成される例示的生合成経路を示す。グルコバニリン生成株は、野生型サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株(CEN.PK)から、天然GALプロモーターによる異種遺伝子の発現によって作出した。この株は、以下の染色体に組み込まれた異種遺伝子を含んでいた:AroF、AroB、AroD、AroZ、OMT、ACAR、PPTアーゼ、UGT、及びEAO。これらの遺伝子のうち以下の一部は、染色体に組み込まれたコピーを2つ含む:AroZ及びUGT。これらの遺伝子のうちの以下の一部は、染色体に組み込まれたコピーを4つ含む:OMT。
【0138】
実施例3.96ウェルプレートにおける酵母培養条件
[0139] 1.9%マルトース及び0.1%グルコース含有のバードシード培地(BSM)100ml/Lバードバッチ(リン酸カリウム80g/L、硫酸アンモニウム150g/L、及び硫酸マグネシウム61.5g/L)、5ml/L微量金属溶液(0.5M EDTA 160mL/L、硫酸亜鉛七水和物11.5g/L、硫酸銅0.64g/L、塩化マンガン(II)0.64g/L、塩化コバルト(II)六水和物0.94g/L、モリブデン酸ナトリウム0.96g/L、硫酸鉄(II)5.6g/L、及び塩化カルシウム二水和物5.8g/L)、12mL/Lバードビタミン2.0(ビオチン0.05g/L、p-アミノ安息香酸0.2g/L、D-パントテン酸1g/L、ニコチン酸1g/L、ミオイノシトール25g/L、チアミンHCl 1g/L、ピリドキシンHCl 1g/L、コハク酸6g/L、及び1g/Lリジン)が入った96ウェルマイクロタイタープレートに、酵母コロニーをピッキングした。細胞を30℃で大容量マイクロタイタープレートインキュベーターにおいて1000rpm及び80%湿度で振盪しながら3日間、培養液が炭素枯渇に達するまで培養した。増殖が飽和した培養液を、4%スクロース及び1g/Lリジンを含有するBSMが入った新鮮なプレートへと、飽和培養液から14.4μLを取り、360μLの新鮮培地に希釈することにより継代培養した。低下した濃度の栄養素が入ったウェルを基本培地と比較して50分の1の濃度で調製した。生成培地中の細胞を30℃で大容量マイクロタイタープレート振盪機において1000rpm及び80%湿度で更に3日間培養した後、抽出及び分析した。バイオマス密度は600nmの光学濃度により測定した。
【0139】
実施例4.バニリンY57481/Y57482の定量化
[0140] 生成されたバニリンの量を定量化するため、初めに分析用に試料を市販のβ-グルコシダーゼで処理してグルコバニリンをバニリンに変換した。次に、ダイオードアレイ検出器を備えたAgilent Vanquish(商標)Flex Binary UHPLCシステムにおいて試料を以下のプログラムで分析した:
移動相(A):水中1.4%硫酸v/v
移動相(B):100%アセトニトリル。
グラジエントは以下のとおりである(グラジエント時間、(分)移動相A、(%)):((0.00、88)、(0.05、88)、(1.25、85)、(2.25、83)、(3.0、82)、(3.5、88)、(4.0、88))。流速は1であった。
【0140】
実施例5.酵母増殖培地中の律速成分の同定
[0141] 発酵増殖培地は、糖源に加えて、酵母が独立には生成できない、又は培養物の増殖及び生成を亢進させる栄養素、ビタミン及び微量金属を含む。本発明者らの株ではグルコバニリンの生成量が多いため、一次代謝経路の要求が野生型酵母培養物と異なる。従って、野生型酵母に最適化した栄養素組成はグルコバニリン生成培養物に理想的でない恐れがあると考えるのが妥当である。上記に記載したとおりのグルコバニリン生成酵母株は非生成株と比較して微量培地成分の要求量が多いかどうかを決定するため、微量培地溶液成分のうちの1つの濃度を標準濃度の50分の1に低下させた培地を調製し、96ウェルプレートにおいてグルコバニリン生成株と比較した非生成株について試料間で培養物の増殖を比較した。結果は、パラアミノ安息香酸(pABA)の濃度を低下させると、培地中のこの栄養素の濃度が標準培地と比較して50分の1に低下したときグルコバニリン生成量が最も大幅に減少したことを示した(図2)。
【0141】
実施例6.発酵培地及び条件
[0142] 所望の遺伝子組換えを持つ酵母株の凍結細胞懸濁液0.5mlを解凍し、2%スクロース、4%マルトース、及び5g/Lリジンを含有する0.5Mコハク酸塩緩衝液と共に100mlのBSM 3.5(8g/L KHPO、7g/L(NHSO、6.15g/L MgSO・7HO、3mL/L 1×バードビタミン3.5(0.05g/Lビオチン、0.2g/L p-アミノ安息香酸、1g/Lニコチン酸、2.5g/Lミオイノシトール、1g/LピリドジンHCl(pyridozine HCl)、1g/LチアミンHCl、1g/Lパントテン酸カルシウム)、5mL/L 1×バードTM(5.75g/L ZnSO・7HO、0.32g/L CuSO、0.32MnCl・4HO、0.47g/L CoCl・6HO、0.48g/L NaMoO・2HO、2.8g/L FeSO・7HO、2.9 CaCl・2HO、0.0585 EDTA)が入った500mlバッフル付きフラスコに移し替えた。細胞を振盪機において28℃、200RPMで21時間増殖させた。
【0142】
[0143] 次にこの培養液の0.25mLアリコートを、2%スクロース、4%マルトース、及び5g/Lリジンを含有する100mlのBSM 3.5が入った第2のフラスコに移し替え、振盪機において28℃、200RPMで21時間増殖させた。
【0143】
[0144] 次に、この培養液の0.6mLアリコートを、299.4mLのIF培地(8g/L KHPO、7g/L(NHSO、6.15g/L MgSO・7HO、6mL/L 4×バードビタミン3.5(0.2g/Lビオチン、0.8g/L p-アミノ安息香酸、4g/Lニコチン酸、10g/Lミオイノシトール、4g/LピリドキシンHCl、4g/LチアミンHCl 4g/Lパントテン酸カルシウム)、10mL/L 2×バードTM(1.5g/L ZnSO・7H2O、0.64g/L CuSO、0.64 MnCl・4HO、0.94g/L CoCl・6HO、0.96g/L NaMoO・2HO、5.6g/L FeSO・7HO、5.8 CaCl・2HO、0.117 EDTA)、40g/Lマルトース、及び5g/Lリジン)が入った0.5L初期発酵槽(IFA)に接種した。IFAに供給する栄養素は、20g TRS/L糖当量の初期パルスで送達した濃縮純スクロースであった。IFAは28℃で24時間動作させた。
【0144】
[0145] 次に60mLのIFA培養液を、240mLのMF培地(8g/L KHPO、7g/L(NH)2SO、6.15g/L MgSO・7HO、6mL/L 4×バードビタミン3.5、10mL/L 2×バードTM)が入った0.5L製造用発酵槽(MFA)に接種した。p-アミノ安息香酸(pABA)を増量した条件を試験するため、pABAの濃度をIF及びMF発酵培地中4.8mg/Lの初期濃度からIF及びMF発酵培地中24mg/Lへと5倍に増加させた。
【0145】
[0146] 発酵槽に供給する栄養素は、1g/L/hで送達した10g TRS/L(1リットル当たりの総還元糖量)糖の初期パルスで送達した限定スクロース供給材料であった。次に、溶存酸素の上昇によって指示されるとおりの培養液炭素要求量に基づき発酵槽供給速度を調整した。発酵は30℃の一定温度及び5.0の一定pH(水酸化アンモニウムを加えることによって制御する)で、溶存酸素が0%に達するまで好気的に実行した。次に、発酵の残りについて酸素利用率が110mmol O/L/hに維持されるように撹拌を制御した。試料採取のため、及び溢れないように、毎日培養液を取り出した。塩、微量金属、及びビタミンもまた毎日加えた。発酵培地には開始時に0.1mL L-61消泡剤を加え、その後必要に応じて加えた。グルコ-バニリン生成量及び細胞が消費する総糖量を毎日モニタし、これらの2つの値の比(即ち、投入した糖に対する生成物収率)を24時間毎に決定した。発酵槽は7日間運転した。
【0146】
実施例7.発酵培地中のp-アミノ安息香酸濃度を増加させるとグルコバニリン生成が改善する
[0147] 高細胞密度連続発酵プロセスで実現した細胞密度は、96ウェルプレートバッチ培養で実現したものよりも大幅に高い。従って、96ウェルプレート培養でpABAの濃度を下げることによって生成量が低下したグルコバニリン株を、高細胞密度発酵でpABAの濃度を増加させることによって改善し得るかどうかを試験するため、IF及びMF発酵培地中のpABAの濃度を5倍に増加させて、成績を標準的な発酵培地と比較した。高pABA条件では、各条件のn=2につき7日間の発酵の収率が14%増加し、生成能が13%増加した。データは図3に示す。
【0147】
[0148] 本明細書に引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、各個別の刊行物又は特許出願が参照によって援用されることが具体的且つ個別的に示されたものとして本明細書において参照により援用される。前述の発明は、理解を明確にするため例証及び実例としていくらか詳細に記載されているが、当業者には、本発明の教示に照らせば、それらに対して添付の特許請求の範囲の趣旨又は範囲から逸脱することなく特定の変更及び修正が行われ得ることは容易に明らかであろう。
図1
図2
図3
【国際調査報告】